円周「アクセラお兄ちゃん」一方通行「……あァ?」(560)



 ~ 道端 ~


一方通行(何だコイツ……? いきなり袖掴まれたと思ったら知らねェ
      お団子頭のガキ……?)ジー

円周「やっぱり本物だー。特徴照合、完全に一致」ピロリーン

一方通行「あン……?」

    (ケータイ端末か……? 何かのグラフみてェな羅列が画面上
      に並ンでやがる……。俺の電極みたいな補助機能でも付けて
      ンのか?)

円周「あれ? アクセラお兄ちゃん? ……どうしてジロジロ見るの?
    私の顔に何かついてるの?」

一方通行「……誰だ? オマエ。何で俺を……っつーか“お兄ちゃン”
      って何だよ? 妹がいた記憶はねェぞ?」



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1334315287(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)



円周「うわあ、こうして間近で見ると本当に白いね。病理おばさんより
    不健康そう」ジロジロ

一方通行「オイ、質問を鮮やかにスルーしてンじゃねェ。何で俺の事を
      知ってるのかって訊いてンだよコッチは。あと、さりげなく
      失礼な発言してンじゃねェぞ」

円周「うーんと……。あなたが有名人、だから?」

一方通行「第三位みてェなのと一緒にすンな。つか何で疑問系だよ? 
      分かってるとは思うがな、俺の素性は探ろォと思って探れる
      様なモンじゃねェンだ。一目見ただけで俺を認識できンのは、
      過去に俺と何らかの関わりを持ったヤツに限られてくる……。
      オマエはどォやって、どォいう経緯で“俺”の素性を知った?」

円周「そのまま人を睨み殺せそうなほどに目つきが恐いね。もしかして
    警戒しているの?」

一方通行「警戒するなってのが無理な状況だろォがよ。オマエみてェな
      ただのガキに、最高機密(第一位の正体)まで行き着くコネ
      があるンだとすりゃあ、……そいつを野放しにしとくワケに
      もいかねェンでな」

円周「それなら大丈夫だよ。私はあなたの敵じゃないし、声を掛けたのも
    偶々。だからそんな狼みたいな目で睨まないで」

一方通行「ハイそォですか、って鵜呑みにすると思うか? オマエの様な
      一見人畜無害のガキを釣り餌にして、何かの目的で俺を利用し
      よォとしている連中の存在を疑うのが自然の成り行きだろ」




円周「うわあ、実際に会話してみて分かったけど、この人って思考がとこ
    とん捻くれてる。数多おじちゃんが言ってた通――」

一方通行「ッ!! オイ、今なンつった!?」

円周「あ、ごめんなさい怒ったの? 会ったばかりで“捻くれ者”呼ばわり
    は流石に失礼だったかな……」

一方通行「そこじゃねェ!! “誰”が言ってた通りなのかをもォいっぺン
      言ってみろ!」


円周「え? あなたの能力を開発した“数多おじちゃん”だけど?」


一方通行「……!!」

円周「どうしたの? 顔がすごく引き攣ってるよ? まるで凶悪犯みたい」

一方通行「…………オマエ、名前は?」


円周「“木原”円周(きはら えんしゅう)」


一方通行「き……!?」

円周「?」

一方通行「イヤ、首傾げてンじゃねェよ。…………で、その木原ちゃンが俺に
      一体何の用だ?」



円周「“数多おじちゃんを殺した”アクセラお兄ちゃんを偶然見かけたから声
    を掛けたんだよ?」

一方通行「――! ……オマエ」

円周「どうしたの?」

一方通行「それで偶然、だァ? おちょくってンのかコラ。……俺に復讐しに
      姿を現したってハッキリ言ったらどォだ?」

円周「復讐? どうして?」キョトン

一方通行「は? どォしてもこォしてもねェだろ。呆けたフリして内心は憎悪
      に満ちてるってパターンだろォが。俺としちゃあ話を聞きてェ所だ
      が、やっぱこの後は問答無用の殺し合いになっちまうかァ?」カチッ

円周「よく分からないけど、私はあなたと戦おうなんて思ってないよ? 復讐
    しようとも思わないし」

一方通行「そンな言葉で俺を油断させられると思ってンのか?」

円周「……疑り深いなあ。いいから聞いてよ捻くれ者。私は数多おじさんの仇
    なんて討つつもりないもん。だって――」





  「――――私、数多おじちゃんの事、嫌いだから」





一方通行「………………は?」

円周「嫌い。顔に変な刺青彫ってるし、笑い方は下品だし、研究者なのにヤクザ
    みたいだし、白衣の下は変な模様の服着てるし、部下に平気で暴力振るう
    し、お酒飲んだら面倒臭いし、頬擦りされた時に変な匂いしたし……」クドクド

一方通行「…………」


円周「従って、私はあのおじちゃんが大嫌い。むしろ生理的に受け付けない」キッパリ

一方通行(あ、これ嘘ついてねェわ。流石にわかる。なンたって全くの同意見だ
      からな……)

円周「だから、私、あなたを攻撃する理由、皆無」アンダースタン?

一方通行「あァ……?」(何で急に片言……。何なンだよマジでこのガキは)

円周「むしろあなたには好感すら抱ける。汚物を消毒してくれてありがとう」

一方通行(木原ァ……。テメェが殺しといて何だが、オマエは死ンで幸せだった
      かもな。身内にボロクソ言われる辛さは人一倍理解できる人間として、
      心から同情してやる)

円周「……?」キョトン

一方通行「……はァ……、まァ良い。敵意がねェンならそれで結構。ンじゃあな」クルッ

円周「あ……」



    (あの野郎の身内になンて関わりたくもねェし、ガキに振り回されるのは生憎
     間に合ってるどころじゃねェし、ここは早いトコ退散するに限る)


円周「……」トコ トコ

一方通行「……」カツン カツン 

円周「…………」トコ トコ

一方通行「…………」カツン カツン


―――


~ ファミリーサイド(黄泉川マンション前) ~



一方通行「…………オイ」




円周「なあに?」

一方通行「なあに? じゃねェよどこまでついて来ンだよオマエ。俺に用事があンなら
      さっさと用件だけ述べて消え失せろ」

円周「……?」キョトン

一方通行「だからそこで不思議そォに首傾げる意味が分からねェンだっつの」

円周「ここがあなたのおうち?」

一方通行「俺の声が耳に入ってねェのか? 耳元で鼓膜破れる程の声量で叫ンでやらな
      きゃ駄目かコラ」

円周「お邪魔しまあす」

一方通行「ゴリ押しか? 雰囲気とかそォいうの全部取っ払ってでもテメェの信じた道を
      突き進もうってか? させるかボケが。っつかオートロックだから勝手に進ンで
      開くわきゃねェだろアホ」

円周「立派なマンションだね。やっぱり超能力者って住んでる所も凄いんだあ」キラキラ

一方通行「期待と羨望の眼差しに水差すよォで悪りィが、別に俺の家ってワケじゃねェぞ。
      っつかオマエは冗談抜きで何がしてェンだよ? 俺をおちょくって、まずは精神
      面から攻撃しようってハラか?」

円周「えっ?」キョトン



一方通行(馬鹿にしてンのか? ……だが演技してるよォにも見えねェな。コイツまさか
      “素”で俺の言葉が理解できてねェのか?)ジー

円周「~~♪」←手遊び中

一方通行「はァ……。真剣に疑ってるコッチが馬鹿みてェだ。オイ、ガキ。いつまでも変
      な歌唄いながら手遊びしてねェで、とっとと家に帰れ」

円周「えぇー」ムスー

一方通行「不満垂れてンじゃねェよ頬膨らませてンじゃねェよ。オマエも“木原”なら俺
      と馴れ合っちゃいけねェって情報くらいは得てンだろ?」

円周「数多おじちゃんの事なら、さっき言ったよ?」

一方通行「そォいう問題(レベル)の話じゃねェンだよ。イイから帰れっつってンだ」シッシッ

円周「いやだ」

一方通行「いやだじゃねェ。どこまで自己中心的なガキだオマエ。わがままにも限度って
      モンがあンだろォがよ」

円周「帰る家がない。これでオーケイ?」

一方通行「何がオーケイだ俺に確認取ってンじゃねェ。許可なンて出すワケねェだろォが。
      っつかよォ……」



円周「入らないの? ……もしかして家の鍵(カードキー)失くしたとか?」

一方通行「俺がどこかのクソガキみてェにアクシデントで閉め出されちまうよォな間抜け
      に見えンのか? そォじゃなくて帰れっつってンだよ!」

円周「だから、帰る、家が、ない」アンダースタン?

一方通行「何で俺の方が言葉通じてねェみたいな流れになってンだよ不愉快極まりねェな
      このクソガキ。……もォイイ。一生そこで突っ立ってろ」ピッ ウィーン… カツン カツン

円周「~♪」トコ トコ

一方通行「ってコラァ!! 何オマエも当然の如く侵入してンだよォ!? あたかも一緒
      に帰って来ました風にオートロック潜ってンじゃねェぞ!!」

円周「え?」キョトン

一方通行「ほォ……あくまでソイツを貫こうってンだな? 相手が誰だか判った上でやっ
      てンだからある意味表彰モンだわ……。で、まさかとは思うが、そのまま本気
      で部屋までついて来る気か?」

円周「あなたは何号室に住んでるの?」

一方通行「空気をぶった切る才能に満ち溢れてるオマエを快く招き入れるつもりはねェよ」




……なンなンだマジでこいつ。これがこの少女に抱いた第一印象だった。

深い因縁のある“木原”を名乗るこの少女。

唐突、と言うよりは一方的すぎる出会い。

これがこれから起こる災難の序章である事になど気づく訳もなく、一方通行はただ頭を抱えた。


  Lesson 1  ~“木原”との再会 ~



~ 黄泉川宅 ~


家主の黄泉川愛穂は学校。
同居人の芳川桔梗は外出先不明。
同じく同居人のガキ二名(打ち止め・番外個体)は病院で定期検査中。

よって、帰宅したところで「おかえりなさい」などという温かい声が聞こえてくるはずもなく、
閑寂とした空間に玄関のドアを閉める音だけが響いた。


「…………」


無言で背後を見る。
先ほどまでの出来事が実は幻想でした。なんてオチはなく、『木原』を名乗る少女は閉めたドア
の真ん前に立っていた。つまりは自分のすぐ真後ろだ。

何度「帰れ」だの「失せろ」だの通告しても結局耳を傾けてはくれず、とうとうここまでついて
来てしまったのだ。

実力行使という手段に何故出なかったのか?

実は一方通行自身にも良く分からなかった。
ただ一つ言えるのは、彼女が放つ独特の雰囲気がどういう訳か“力尽くで追い払う”気を削いで
しまっているという事。
要は“ムキ”になるのも馬鹿らしくなるほどに少女からは敵意が感じられなかったのだ。
自分に危害を及ぼす心配のない人間を貴重な能力使用時間を削ってまで退ける必要はない。



「お邪魔しまあす」

「チッ……、結局こォなンのかよ」


一言ずつ発し、リビングへ足を進める二人。
もちろん警戒を解いてはいない。
が、仮にこの少女が一分後に雰囲気をガラリと変えて敵対する展開を迎えたところで何の脅威に
もならない。伊達に多くの死線を潜ってはいないし、大抵の事態に対処できる自信もある。

それに――――、


「わあ、広いー。とりあえず、この座り心地最高っぽいソファーは私が制圧するね」

「…………」


色々と聞き出したい事もある。
この少女の名は『木原円周』。それだけならただの同姓で済んだだろう。

だが、彼女の口から明確に出された『木原数多』という名。

推測するまでもなく、彼女も“あの一族”の人間だと判断できる。
そんな彼女が“木原”と深い因縁を持つ自分と接触している。本人は偶然だと主張しているが。
そこのところについても話し合いたい。

一方通行は缶コーヒーを一気に飲み干し、座り心地抜群のソファーで寝そべる推定中学一年生
の少女と向かい合った。



一方通行「オイ、他所ン家だっての忘れてゴロゴロしてンじゃねェ。体ァ起こせ」

円周「ずっと歩きっぱなしで疲れた」グデー

一方通行「“失礼”って言葉ァ知らねェのか?」

円周「なんだかんだで招いてくれてありがとう。あなたって、意外と優しい」

一方通行「勝手にオマエがついて来ただけだろォが。……まァ、それはどォでも良い。ンじゃ
      まずは訊――」

円周「あ、私もコーヒー飲みたい」ムクッ

一方通行「…………」

円周「言うまでもないと思うけど、ブラックはやだよー?」

一方通行「オマエの自由奔放さにだけは絶対に慣れてなンかやンねェぞクソが」スクッ



円周「うーん、美味」ズズー

一方通行「はァ、何かもォ色々どォでも良くなってきちまった……」



円周「お腹空いた……」グー

一方通行「……勘弁しろよ。折角クソガキ共の御守りから束の間とはいえ解放されたってのに、
      アレか? 俺には『子守呪縛』の印でも掛けられてンのか?」

円周「昨日からなんにも食べてないの。もう限界。うぅ」グギュー

一方通行「話ィ聞くってだけでどンだけ回り道させる気だよオマエ……」

円周「ごはん……」ジー

一方通行「俺が白米に見えるってか? 白いから? ふざけてンじゃねェぞ」

円周「……」ジュルリ

一方通行「舌なめずりすンな背筋凍っただろボケ。……クソったれが」スクッ 


円周「うーん、美味美味♪」ムシャムシャ(←出前の寿司)

一方通行「毒気抜かれたとか肩のチカラが抜けたとかいうレベルじゃねェなこりゃ……」

円周「あなたは食べないの?」

一方通行「いちいち俺のこと気にする必要ねェから、黙って食え」

円周「断食中? だからそんな体型なの?」ジー モグモグ

一方通行「ところどころ癇に障る野郎だなオマエはよォ……」ピキッ





    (っつーかこいつ、本当に“木原”の血が流れてンのか? まるっきりただの平凡な
      ガキじゃねェか……。変な服装だが奇抜って程でもねェし、いかにも『とりあえず
      着てみました』って感じだし……。ストッキング穴だらけだし……)

    (得体が知れねェ……。それが“敢えて掴ませないよォにしてンのか、又は無自覚の
      元で動いてンのか”。それさえ判別し兼ねるほどに読み取れねェ)


円周「ごちそうさま」フキフキ


一方通行「…………」


    (馬鹿のフリしてるだけならすぐに見抜ける。……だが、こォも悪意とは無縁の振る
      舞い見せつけられると……)

    (イヤ。それでも、目の前のこいつがあの“木原”である事実に変わりはねェンだ。
      下手に隙を見せて首掻かれるなンざ、冗談じゃねェ)

    (とりあえず、こいつの記憶にある情報、こいつ自身のこれまでの経緯、そして今後
      について徹底的に話を……って)






円周「Zzz」グースカピー


一方通行「食い終わって早々無防備に寝ってンじゃねェよ!! ヒトが真面目に考え込ンでる
      最中によォォ!!!」


円周「むにゃ」


一方通行「出会って一時間も経ってねェガキに何でここまで疲れなきゃいけねェンだよ……」ゼェ ゼェ




※新約四巻未読の方のために当スレヒロインの円周ちゃンをここで簡単に紹介


木原 円周(きはら えんしゅう)

・木原一族の一人
・見た目は大人しそうな中学生
・木原一族の中では比較的常識人
・首から提げている携帯電話、小型ワンセグテレビ、携帯端末の補助を受け、五千人の『木原』
 の戦闘、思考パターン、更に上条当麻の善人思考をも受け継いでいる
・カタカナ書けない 掛け算できない 二乗? 何それ美味しいの?
・足が未元物質(ダークマター)
・彼女に足りないのはッ!情熱思想理想思考気品優雅さ勤勉さ!
  そして何より――


      木 原 が 足 り な い ! ! !



という訳でこんばんは
まったりのんびりだらだら進行していきます
時系列は新約三巻と四巻の間くらいです
色々とご都合主義だらけですが、ご了承ください
あらゆる矛盾にも目を瞑っていただけると是幸いです


短くてすいませんが今回はここまでです
大体週一くらいのペースですので気軽に気長にお目汚しください
ではまた


これは今後にも期待
てか足は病理さんじゃなかったっけ?

>>23
その通りですミス
開幕紹介からいきなりやらかした…
今後もミス発見次第謝罪しますごめんなさい

ss慣れした感じだなぁ
もしかして「~屋さン」の人?

>>30
残念ながら違います

温かい支援、ありがとうございます
また微量ですが続きを投下します



黄泉川宅 ~リビング~


円周「Zzz」スピー

一方通行「はァ……。会って間もねェ人間の前で堂々と昼寝とか、
      マジでどォいう神経してンだこのガキ……」

円周「んむぅ……。――!」パチッ

一方通行「……って起きやがったか」

円周「ふぁああ……。もう朝?」ネムイ

一方通行「陽射しが目に入ンねェのか? 真っ昼間だよクソボケが。
      ヒトが無駄に疲弊しきった数分間、良い夢でも見たよォに
      スッキリしやがってこの野郎」

円周「あなたはどうしてずっとご機嫌斜めなの? 何か嫌なことでも
    あったとか……?」

一方通行「元凶が堂々と訊ねてンじゃねェよ。この意味不明な状況で
      能天気に笑ってられる訳ねェだろォが」

円周「あ、そういえば寝起きだった……。ねえ、顔洗いたいんだけど、
    洗面所はどこ?」



一方通行「あァ、それなら廊下出て右……って違ェェ!! その唐突
      に話題変える癖をまずどォにかしやがれこの――」

円周「廊下を出て右だね。ありがとう、アクセラお兄ちゃん」スタスタ

一方通行「…………」

    「何なのアイツ……マジで何なの? あァ……そろそろ本気で
      頭痛くなってきたが、イイ加減にコッチのペースで話進めねェ
      と神経性胃炎とか患っちまいそォだ……。よし、一旦落ち着け。
      あァいうガキの扱いならここ最近でイヤってほど慣れたはずだ。
      気を取り直しやがれ一方通行(俺)」



円周「ふー、さっぱりした♪」テカテカ

一方通行「……オマエのせいでさっきから調子崩れっぱなしだよクソが……。
      とりあえず座れ」

円周「寝転がっていい?」

一方通行「確認取るの遅せェンだよ。イイから大人しく座れコラ」

円周「むぅ、まだ機嫌悪いよこの人……。何かあったなら相談に乗るよ?
    木原としてあるまじき行為かもしれないけど、私はやっぱり悩みを
    抱えた人間を見過ごせないから」

一方通行「だったら俺と真剣に話し合う意志をまず見せろ。妙な局面で
      常識人みてェな発言しやがって……」イライラ



円周「聞きたいことってなあに?」

一方通行「何の意図があって俺の後をついて来た?」

円周「家がないから」

一方通行「誤魔化しの延長戦は望ンでねェンだよ真面目に答えろ」

円周「ム……、私は大真面目だよ?」

一方通行「……家出か何かか?」

円周「ひ・み・つ」キャッ

一方通行「根本的に俺の事ナメてンのかオマエは」

円周「やすやすと自己情報を晒すようじゃ“木原”は務まらないの」

一方通行「マジでベランダから放り投げるぞオマエ……。じゃあ初対面の相手に
      のこのこ家までついて来て、あげく上がり込ンで飯までご馳走になる
      のが“オマエ流の木原”か? それもォただの迷惑一族じゃねェかよ
      ふざけやがって」

木原「“木原”なら例え人間としての品位を捨ててでも生き残る。どんなに狡猾
    で、人道から外れても這い上がるために手段は選ばないんだ……。だから
    “木原”である私もそう生きなきゃいけないの」



一方通行「姓に縛られすぎも良いトコだなァオイ。今時、良家の跡取り息子でも
      そこまでは思い詰めた生き方してねェぞ?」

円周「あっ、コーヒーおかわりー。さっきのちょっと苦かったからもうちょっと
    砂糖とミルク多めにしてね」

一方通行「オマエもォ木原名乗ンのやめちまえよ。俺が見定めるまでもなく素質
      ゼロだよこのアホンだらが。……チッ」スクッ


円周「たしかに、“木原”として私は“及第点”とは言えないかもしれない」


一方通行「あァン?」クルリ


円周「けど、それを補う術も対策も一応は身に付けている。だって、私は“木原”
    なのだから」


一方通行「意味が分からねェンだよ。急に何語り出してンだオマエ」

円周「……けど、行くアテがないの。そんな時に運良くあなたを見かけた。これは
    もうあなたのお世話になるしかないって、私の“木原”としての直感が――」

一方通行「聞けば聞くほど理解に苦しンでる俺の様子を少しは察してくンねェかな?
      っつーか、それ完全にあの“クソ研究者”の意向から逸れてンだろ。俺を
      始末しようってンならまだ分からなくもねェけどよォ……」




円周「あなたはここに一人で住んでいるの? それにしては随分っていうか広すぎる
    気が……」キョロキョロ

一方通行「突拍子もなくテーマを変えるオマエの愉快な思考回路についてはもォ驚い
      てやンねェぞ」

円周「誰かと一緒に同居しているの?」

一方通行「さっき俺ン家じゃねェっつっただろ。……もォ良い。この調子じゃ思った
      よりも遥かに長引きそォだ。場所変えンぞ」

円周「コーヒーは?」

一方通行「外でも飲めンだろォが。無駄に食い下がってねェで早く立てよこの無礼女」イライラ

円周「あ、そうか。同居人が帰って来たら誤解されちゃうもんね」スクッ

一方通行「その常識的な発想をもっと前面に出してくれたら俺も楽なンだがなァ……」ヤレヤレ…







~ 外 ~


意外にも彼女の過去はすんなりと明らかになった。
お出かけ中の他愛無い世間話の内容としては少々重いものこそあったが、特に隠す
理由もなかったらしい。さっきは「秘密だ」とか言って勿体つけてた癖にどういう
神経をしているのか。言及して余計に話を拗らせるのも面倒だと考えた一方通行は
文句を控えて少女の語った事情を簡単に纏めた。



一方通行「――で、オマエはついこないだ脱獄するまでの期間ずっと監禁されてて、
      放浪したは良いが遂に金も尽きて、途方に暮れてた……と」

円周「るんるんるー♪」

一方通行「俺がわざわざ経緯を確認してやってンのにオマエの応対ときたら真横で
      鼻歌か、そォか。もォそのパターンそろそろ止めてくンねェ? 流石の
      俺もイイ加減に心折れるぞ……」ズーン

円周「あ、公園見えたよ? お話ならあそこでしようよ」

一方通行「その『話』を成り立たせる意思が一向に感じられねェンだが……。って、
      待てよ。オマエはずっと監禁生活送ってたンだよな? さっきは『木原』
      にあった事あるみてェな口振りだったじゃねェか」

円周「木原って誰のこと? たくさんいるから特定できないよー」

一方通行「俺の知ってる木原は一人しかいねェンだよ!! 『木原数多』っていう
      マッドサイエンティスト!! 変な端末機使ってまで情報入手しといて
      あっさり忘れてンじゃねェぞコラァ!!」



円周「ああ、“数多おじちゃん”ね。そういえばそんな人もいたっけ」

一方通行「容姿とは裏腹にとことン性根が黒いなオマエ」

円周「会った事はあるけど、うんと小さい頃だったし……思い出としては薄味かな」

一方通行「ふーン。って事は、監禁される以前か……」


    (明らかに“俺の能力開発”に携わってた時期より前だな。別にあの野郎
      の過去なンざ知りたくもねェがよ……。っつか、あいつがガキに頬擦り
      してる光景とか想像しただけで吐き気がするわ)…ブルッ


円周「ふんふんふふーん♪」

一方通行「……無駄に陽気なのは構わねェが、脱走してから実際どォしてたンだ?
      まさか『そこの公園みてェな場所で寒い夜を過ごして逞しく生きてます』
      ってンじゃねェだろォなァ?」

円周「ううん、流石に凍えて死んじゃうからそれは無理。昨日まで個室サロンにい
    たけど、所持金が底を尽きて……」ズーン

一方通行「そこで丁度具合に俺と遭遇、か……。ますます偶然なのか疑っちまう様
      なシチュエーションじゃねェかよオイ……」ハァ

円周「――! ねぇ、あそこにあるクレープ屋、行きたい!」グイ

一方通行「のわっ!? いきなり引っ張ンじゃねェよコケるだろォが。ってェか、
      散々ご馳走してやったのに、オマエの図々しさは底なしか!?」



円周「『甘いものは別腹』って言葉なら私でも知ってるよ?」キョトン

一方通行「どンなおねだりの仕方だそりゃあ!? フリーダムも大概にしとかねェと、
      その団子髪引っ掴ンで宇宙の果てまでブン投げンぞコラァ!!」

円周「あなたは本当にすぐ怒るんだね。短気は損気って言うよ? だから早く行こう?
    でないとクレープがロケットスタートダッシュで逃げちゃうー!」グイ グイ

一方通行「そンなビックリスイーツが存在したら食うどころかコッチもダッシュで
      逃げるっつの。……って、だから引っ張るンじゃねェ!! こォの礼儀
      知らずのタカリ魔がァァ!!!」ズビシ

円周「――ごぶちゃえ!!?」

一方通行「ンだよその奇妙奇天烈な叫び声はァ……???」


~ 公園のベンチ ~


円周「うぅ……まだ痛い。でもクレープは美味しい♪」スリスリ パクパク

一方通行「これで新手のタカリだってンなら容赦なく惨殺してやるトコだが……」

円周「はい、あなたにもお裾分け」スッ

一方通行「あ? ……いらねェよタコ」プイ




円周「もう、またそうやって遠慮してー」ズズッ

一方通行「オマエは逆に遠慮が無さ過ぎだ。ってか、クレープ押し付けてくンな。
      クリームが顔に付くだろォがよ」グググ…

円周「しょうがないなあ。はい、あーん……」アーン

一方通行「ンな要求してねェ!! 誰がンな甘酸っぱいラブコメシーンの体験を
      依頼したってンだよ!? オマエが青春に飢えてンのは理解してやる
      がな、だからと言って応じてやる気はねェぞ!? っつか、オマエは
      まず“恥じらい”って感情を胸に刻みやがれ!!」

円周「好き嫌いはダメ」メッ

一方通行「もっかい頭頂部壊れたテレビみてェに叩かれてェのか? あァ!?」

円周「うっ、暴力もダメ……」

一方通行「だったらまずはオマエの正しい身の振る舞い方ってのを可能な限り最速
      で学べ頼むから」

円周「でもでも、“木原”ならこういう時我慢しちゃいけないんだよ?」

一方通行「あァァ、オマエ一人の所為で俺ン中の“木原”に対するイメージが絶賛
      崩壊中だ……。確かにアイツ(数多)とは違った意味で傲慢だわコイツ」

円周「さて、そんじゃあお腹もいっぱいになったし……」スクッ

一方通行「ン? ……おォ」

    (よし、よォやく今後について話ができ――)



円周「帰ろっか。おうちの人にも『不束者ですが、お世話になります』って挨拶
    しないといけないしね」スタ スタ


一方通行「待てコラ、待て待てオマエの希望は今の発言だけで良ォォく分かった。
      対する俺の返事は『ノー』一択だどンだけオマエが主導権握ってよォ
      ともこれだけは断固として譲らねェぞクソったれがァァあああ!!!!!」ドドドド


~ 帰路 ~


円周「るーんるんるんるーん♪」テク テク

一方通行「人生最悪の日決定だクソ野郎……」グッタリ


    (ダメだこいつ。もォダメだ。あのクソガキが霞ンで見えちまうほど始末
      に負えねェ……。ヒトの話ィ聞かねェわ、言う事言ったら非常識な速度
      で話を転換させるわ、何より肝心な『目的』がさっぱり見えねェわ……)


円周「あーなたーとわーたーしー♪」ルンルン

一方通行(往来で堂々と歌いながら歩きやがって……。周囲の目とかちっとは気に
      しろよこのクソ団子……。さりげなく離れてもホーミング機能並に絡み
      付いてきやがるしよォ)

円周「あのマンションにはあなたの他に誰が住んでいるの?」クルリ

一方通行「ンなこと聞いてどォしようってンだよ? オマエに関係ねェだろォが」



円周「……? でも、着いたら帰って来てるかもしれないよ? 事前情報なしだと
    少し緊張しちゃう」

一方通行「オマエに緊張の概念なンてものが果たして存在すンのかよ……」

円周「ここも私が“木原”として不足している要点に当て嵌まるんだねきっと……。
    そんな訳で、ここはアクセラお兄ちゃんに私の紹介を託すね」

一方通行「そのアクセラお兄ちゃンってのイイ加減やめろ。っつーか、さも当然み
      たく一緒に家まで帰る流れになってンだ?」

円周「?」キョトン

一方通行「ワケ分かンねェ面すンのは俺の方だよボケ。言っとくが、オマエを連れ
      て帰るつもりはねェぞ?」

円周「え? ……じゃあ今どこに向かっているの?」

一方通行「近場の警備員支部」

円周「アンチ……スキル???」

一方通行「あァ」

円周「って、なあに?」キョトン

一方通行「……ンあ?」


     (あァ、そォか。確か小せェ頃から監禁されてたとか抜かしてたっけ……。
       なら知らねェのも頷けるか。っつか、良く今まで保護されなかったよな
       こいつ……)


    「はァ……ちゃンと聞けよ? アンチスキルってのは――」

円周「情報取得、Kiharaカテゴリ外、一般コード名・“アンチ スキル”っと」ピピピ

一方通行(ンだァ? またケータイの画面に変なグラフが……)



円周「――ふむふむ。……うん。つまり、“治安維持団体”さんだね?」

一方通行「お、おォ……」

    (どォいう仕組みで情報収集してンだよこのガキは……)

円周「それで、そんな所に何しに行くの? 落し物でもしたの?」

一方通行「オマエを預けに行くンだよ」

円周「――!?」ガーン

一方通行「……なに凍りついてやがる? 当然の処置だろォがよ。あいつ等は一応
      “正義”の下で活動してる組織団体だ。もしかしたらオマエを監禁して
       奴らを捕まえてくれるかもしンねェぞ?」

円周「いや。私はそんなトコ行かないよ!」プイ

一方通行「あン? ……ンだァ? また我がままか……。骨の髄まで手ェ焼かせる
      気かよオマエ……。とにかく聞けよ。少なくとも俺みたいな人間の隣に
      いるよりかはよっぽど安全なンだよ。オマエを暗い部屋に何年も閉じ込
      めるなンて真似もしねェだろォしな」

円周「信用しない……。あなたの言葉は信じても良いけど、そういう“組織の存在”
    自体は信用できない!」

一方通行「……あのなァ。オマエ、自身の現状しっかり把握してンのか? このまま
      放浪生活なンてしてたら、遅かれ早かれそこに行き着く羽目になるンだよ。
      野垂れ死にしてェンなら無理に止めはしねェがな、せっかく若い内に外へ
      出れたンならまずはそォいう所の世話にでもなって身を落ち着けてから――」




円周「――――いやだっ!!!!!」ダッ



一方通行「あ! オイ!! …………ンだよ。俺は何一つ間違ったこと言ってねェ
      だろォが。何なンだっつの……。ワケ分かンねェよ」


    「行っちまった……か。そンなに嫌だったのか? 監禁してた連中っての
      に比べれば遥かに安全地帯じゃねェか。一体何が気に入らないンだよ……」

     
    「結局、核心も満足に得られないままお別れ、か……」
   

    「チッ、気分……っつか、後味が悪りィな。クソ」


    「……ま、後は精々勝手にすりゃあ良いさ。これ以上面倒見てやる義理も
      ねェし、そもそも俺とあのガキには直接的に何の接点もねェンだ」カツン カツン


    「に、してもよォ……」


    「何の予兆もなく現れて、タカるだけタカって、最後の最後まで自分勝手
      に締め括りやがって……。おかげでとンだ災難だったぜ」



    


    「……………………クソったれが」カツン カツン




~ 黄泉川宅 ~


ガヤ ガヤ


玄関先のドアの前に立った一方通行は、室内から響く甲高いハシャギ声を耳に入れる。


(お、中からうるせェ声が響いてやがる。あのガキどもが調整から帰って
      来たみてェだな)


あの“木原の血筋が流れる少女”と帰路の途中に道を違えたのはやはり正解だったと
安堵の息を漏らしつつ、一方通行は玄関のドアを潜って靴を脱ぐ。

ようやく肩の荷が下りて気が緩んだせいか、少し心も穏やかになっていた。
そんな訳で彼にしては非常に珍しく、偶には『ただいまの挨拶』くらいしてやろうと
考えてから無邪気な子供たちの声が漏れているリビングへの扉を開く。


ガチャ


一方通行「――――よォ、帰ったぞ……ォ?」



打ち止め「あ、ようやく帰ってきたぁ! ってミサカはミサカはおーそーいーって
      不貞腐れてみたり」ブーブー


番外個体「おうおう、迷える子羊ちゃんを見事救い出した善人さんの凱旋だねえ」ニヤニヤ


円周「おかえりなさい。この人たちがあなたの同居人? 楽しい人たちだねー」


一方通行「…………」


番外個体「あれ? 帰って来るなり急に固まっちゃったよこの人。ねぇ最終信号、
      あなた演算止めた?」

打ち止め「ううん、ってミサカはミサカは心当たりがないよ? ねぇ、それより
      向こうでゲームしようよ! ってミサカはミサカは知り合ったばかり
      のお姉さんを誘ってみる!」

円周「うん、いいよー。ええと……」

番外個体「あ、自己紹介まだだったね。ミサカは番外個体(ミサカワースト)。
      そこのおちびはおちびで良いよ」ケタケタ

円周「うん。私は木原円周だよ。今日からよろしくねー。んーと……、ミサカお姉
    ちゃんにおちびちゃん」ペコリ

一方通行「……オイ」



打ち止め「あなたもあの人に助けられたんだねー。ミサカたちと一緒だぁ♪ って
      ミサカはミサカは予期せぬ同士の登場に喜びを隠せなかったり!」

番外個体「まぁーたあの白人さんがやらかしちゃったワケか……。ぷくく、なんだ
      かんだ言って困ってる人を見過ごせないとか、どんな化学変化が起きた
      んだよ」プー クスクス

一方通行「…………ちょっと待てよ」

打ち止め「えんしゅーお姉ちゃん! 早くゲームしようってミサカはミサカは急か
      してみる!」

円周「はあい」ルンルンルー♪

番外個体「おいおい、ミサカも仲間に入れておくれよ。新参者のお手並み拝見させ
      てもらうぜー!」タタタタ…



一方通行「………………だァからちょっと待てっつってンだろォがァァ!!!!!
      ヒトを放置してトントン拍子に話進めてンじゃねェぞゴルァァあああ!!!!!」




ここまでです
円周通行は今日も平常運転です
またある程度書き溜まったら現れます
ではまた

円周「こういう時、『木原』なら1乙するんだよね。続き楽しみにしてるよ」

一方通行「ここから先は『円周教育日記』ってかァ?」

木原女子か
病理おばさんはともかく、唯一お姉さんがもう少し出てくれてたらなー

>>73
まぁ期待せずにご期待ください

支援感謝です。今からまた更新します



~ ミサカたちの部屋 ~


一方通行「……面倒なガキが三人に増えちまったか。まァ二人も三人も大して変わり
      はしねェが、お団子頭のガキだけはちょっとコッチ来いよ。言いてェこと
      が山ほどある」

円周「今一世一代の勝負中だから無理ぃ……っ!」ピコ ピコ

一方通行「何度でも繰り返し楽しめるテレビゲームのどこら辺が一世一代なンだ?
      イイから来いってんだよヌカ喜びさせやがって。よくもまァ何の疑問も
      感じず平然とここに居られるよなァオマエ。イヤァ、何となくそンな気
      がしなかったワケじゃねェが、実際にそォだったらそォだったでやっぱ
      釈然としねェわこれ……」

番外個体「ほほう、やるじゃん。新参者。おねーさん少ぉし本気出そうかにゃん☆」

円周「ぐ、ミサカちゃん……強いね。……けど、“この場合加群おじさんだったら、
    こう返す”!!」ピピッ

一方通行「……?」

番外個体「んな――ッ!!?」

打ち止め「おおおおお!!? 奇跡の逆転KО!! ってミサカはミサカは驚嘆し
      つつえんしゅーお姉ちゃんの勝利に拍手を送ってみたり」パチパチ

一方通行(また端末機が光りやがった……。未だに詳しい原理は聞かされてねェが、
      間違いなく何かズルしたなこいつ。ってか、シカトされるってのがもォ
      デフォ並になってきたな)ハァ…



番外個体「うそ……。片手しか使えないとはいえ、このミサカの最強キャラが……
      完璧に打ち破られ……た……?」ズーン

一方通行「オマエはどンだけ絶望してンだよ。負の感情を全身に纏った様なオーラ
      出してまで敗北噛み締める程に悔しい、ってかァ?」

打ち止め「よーし、次はミサカが相手だ! 末っ子のカタキ、いざ参る!! って
      ミサカはミサカはコントローラーを握り締めて闘志を燃やしてみたり」

円周「ちびっ子相手でも全力で潰すよー。それが“木原”の宿命だからね!」

一方通行「……番外個体。ざまァみやがれって言いたいトコだが……まァ、あンま
      り落ち込むな。たかがゲームだろ」

番外個体「うう、まさかあなたに慰みを受ける日が来るなんて……今日がミサカの
      災厄日かよ、くそぅ」シクシク

一方通行「奇遇じゃねェか。俺にとっても今日はとっておきの厄日だよチクショウ」


打ち止め「」チーン

円周「うむ♪」グッ


一方通行「……で、喋ってる間にクソガキは案の定返り討ちに遭ってやがるし」



打ち止め「……お姉ちゃん、このゲームもしかして相当やり込んでる? って
      ミサカはミサカは熟練者の可能性を疑ってみたり」

円周「ううん。今日初めてプレイした。補足すると、“ゲーム”っていう娯楽
    を嗜んだのもこれが初めてだよ?」

打ち止め「なん……だと?」

番外個体「初心者に妹達のエースと司令塔(トップ)が揃って完敗……だと?」ボーゼン

一方通行(あ、何かヤな予感……)

打ち止め「こーなったら、ミサカチーム最後の切り札を召喚するしかない! って
      ミサカはミサカはアナタに希望を託してみたり!!」

番外個体「頼むぜえ? 学園都市最強の頭脳保持者さん。ミサカたちの仇を取って
      おくれよ」ニヤニヤ

一方通行「やっぱりそォいう展開かよクソがふざけンな! なァにがミサカチーム
      の切り札だ! ヒトを召喚獣扱いしてンじゃねェよこのクソガキィ!!」

打ち止め「大丈夫、アナタが負けるわけない。ってミサカはミサカは信じて――」

一方通行「付き合ってられっか馬鹿が!! 何でガキ共の交流に俺が参加しなきゃ
      なンねェンだよ……。ケッ、冗談じゃねェーっつの」プイ



番外個体「ありゃりゃ? 逃げるの? おいおい男らしくねえなあ第一位」

一方通行「ふン、何とでも吼えてろ。誰がそンな安い挑発に乗るかってンだ馬鹿
      馬鹿しい……」


円周「…………恐いんだ?」


一方通行「……あァン?」ギロッ

円周「そうやって都合の良い理由を並べて自分の黒星を一つでも減らそうとする。
    アクセラお兄ちゃんがそんな生き方で良いなら私は気にしないけどね」

一方通行「なンだと……? オイ、もォいっぺン抜かしてみろよこのガキ」ピキッ

円周「知ってる? そういうのを世間一般で『臆病者』って表現するんだよ?」

一方通行「……」

円周「やーい、アクセラお兄ちゃんの臆病者ー。逃げムシ弱ムシ色白ムシー♪」

番外個体「ほお……」

打ち止め「やだこのお姉ちゃんかっこいい……。ってミサカはミサカは模範的な
      挑発の仕方に感動を覚えてみたり……」キラキラ




番外個体「ふふっ。どうするんだい? こーんな純粋な子供にここまで言われて、
      あなたはそれでも尻尾巻けるの? これじゃあ『学園都市最強』の名
      に(笑)が付属されても文句は言えないよねえ」ニヤニヤ


一方通行「…………オイ、打ち止め(ラストオーダー)」


打ち止め「何かな? ってミサカはミサカは目の色を変えたアナタに期待しつつ
      返事してみたり」


一方通行「コントローラー、よこせ」スッ


打ち止め「はい♪」ポス

番外個体「ぶっひゃー! いっちょ前にムキになってやがるよこの貧弱生命体」アヒャヒャ

円周「ふふふ、そうこなくっちゃ♪」ランラン

一方通行「……後悔しても知らねェからな?」ギラッ

円周「……っ」ギリッ

番外個体「おっ、何やら禍々しいオーラが……」ゾクッ

一方通行「真打ち登場、ってヤツだ。俺が相手してやるなンて滅多にねェンだから、
      精々『勝負の非情さ』ってヤツをその身でキッチリと勉強するンだなァ。
      おそらくねェとは思うが、俺にほンの少しでも本気を出させたら褒めて
      やるよ。きひっ」





番外個体「新参者、気を引き締めた方がいいよ。……この人、多分マジだ」ブルッ

円周「がんばる……!」

打ち止め(うわぁ、負けず嫌いな側面が前面に押し出されてる……。ってミサカは
      ミサカは格闘ゲーム如きで殺気立ってるこの人の純朴ぶりに呆れてみる。
      小物臭が漂ってるのは内緒にしておこう。ってミサカはミサカは空気を
      読んでみたり……)



で、



円周「ふぅ、意外とてこずっちゃったかな……」win


一方通行「ば……かな……」←(負け犬)


番外個体「うぅわぁぁ……。だっっせぇぇ……。あんだけ大物ぶっといて完敗して
      やがるよこの噛ませ犬。しかも初心者相手に。こりゃあ酷えや。最強の
      頭脳(笑)が聞いて呆れるね。ってか、さっきのセリフといい今といい、
      完全に小物じゃん。なにが『勝負の非情さを教えてやる(キリッ)』だよ?
      そんなダメダメなあなたにガッカリだよこの役立たずが」ペッ


一方通行「……」←(言い返す気力もない)



打ち止め「き、きっとこの人のことだから手加減してくれたんだよ! ってミサカは
      ミサカは苦しいと分かっていつつも必死でフォローしてみたり!」アセアセ

番外個体「おちびちゃんよぉ……。そういうのって余計に傷口を抉ってるようなモン
      なんだぜ? 見ろよあの売られていく子牛みたいな目で憔悴しきった哀れ
      な最強さん(笑)の姿を。『絶望に打ちひしがれる絵面』って、まさしく
      アレのことだぜ?」クイッ

一方通行「……」←(アレ)

円周「あなたは立派だったよ? 勇敢に戦ったよ? だから元気出して!」ナデナデ

一方通行「……」←(されるがまま)

打ち止め「頭を撫でられているのに無抵抗……だと? ってミサカはミサカは絶好の
      チャンス到来に決起してみたり! ミサカもナデナデーーー!!」ドドド

番外個体「ま、仕方ないから骨拾いのついでに色素ゼロの毛髪掻き乱してやりますか」ツカ ツカ

円周「おおう、根元まで白い髪の毛だねー」ワシ ワシ



三人の美少女に頭を良い様に撫で回される一方通行。
勝ちしか見えていなかった。寧ろ勝って当然とまで思っていたにも拘わらず彼は負けた。
ショックのあまり群がってくる少女たちに吼えることさえ忘れてただ放心した。

やがて正気に戻った彼は頭を弄る少女たちの手を無言で払う。
そして逃げるように自室へ閉じ篭り、ベッドへと倒れこむ。
精神的に相当疲れていたせいか、数分もしない内にそのまま意識を手放してしまった。



~ 一方通行の部屋 ~


コンコン ガチャ


円周「――アクセラお兄ちゃん。ご飯だって」

一方通行「――ン……? あァ」(寝ちまってたか……)

円周「不貞寝してたの? ……かわいい」クスッ

一方通行「ンなンじゃねェよ……」


    (オマエのせいで無駄に疲れたから、……とまでは言いたくねェな)


円周「夕ご飯出来たって。早くおいでよ」

一方通行「おォ……って、今何時だ!?」ムクッ

円周「夜七時。よく寝たねえ。もうみんな食卓に着いてるから早くー」パタパタ


一方通行「…………マジか」



~ リビング ~


一方通行「……」ツカ ツカ

円周「アクセラお兄ちゃん起こしてきたよー」トテテテ

黄泉川「やーっと起きたかこの寝ボスケ。ご飯冷めちゃうじゃんよー」

芳川「ごめんね円周ちゃん。この子寝起き悪いから……。噛まれなかった?」

円周「うん、大丈夫だよ」

番外個体「ゲームに負けて引き篭もっちゃうとか、どんだけピュアなのあなた
      のハートは?」ニンマリ

打ち止め「もー、その話は蒸し返しちゃダメ! また傷つけちゃうでしょ!?
      ってミサカはミサカはイジメっ子を叱ってみる」モグモグ

一方通行「別に傷ついてねェよ。ただ疲れてただけなンだっつの。って、そォ
      じゃねェだろ! 何でこのガキ(円周)も当然みてェに食卓囲ンで
      ンのか、誰か俺に説明しやがれ!!」

黄泉川「ああ。だってこの子、行くトコないんだろ? だったらしばらくここ
     で面倒見るしかないじゃんよ」

一方通行「イヤ、そンな簡単で良いのかよ!? オマエ仮にも家主だろォが!!」



芳川「番外個体の時もすんなりと入居決定したんだし、良いんじゃないの?」ムシャムシャ

打ち止め「そうだよー。もう円周お姉ちゃんもヨミカワ家の一員なんだから、
      意地悪なこと言わないの! ってミサカはミサカはアナタにメッ!」

一方通行「オォマエは黙ーってろクッソガキィィ!!」キシャー

芳川「あら? じゃあ貴方は外も暗いこの時間にこの子を放り出したいの?」

一方通行「そォは言ってねェ! そォいうことじゃ……!」

黄泉川「一方通行ぁ、あんたそれは幾ら何でもあんまりじゃん」ジロー

番外個体「どこまでも酷えな。このゴミクズ」

打ち止め「アナタ、完全に悪者だね。ってミサカはミサカは同情の余地がない
      事を冷酷に告げてみたり」

一方通行「ぎっ……!!」

円周「~~♪」モグモグ

一方通行「オマエが中心の話題なンだけど? なァに『他は眼中に入りませン』
      的な勢いで幸せそォにがっついてンだこの団子頭はァァ!!?」

番外個体「立場が悪くなったからって新参者に振るなよ」



黄泉川「お、いい食べっぷりじゃん♪ おかわりするか?」

円周「うん、とってもおいしいんだよ!」プハー

一方通行「オイやめろそのタイプのキャラは既出済みなンだよ。今のは確実に
      約一名のアイデンティティを奪っちまってるぞ」


円周「黄泉川おばちゃん、料理上手なんだね♪」


黄泉川「」ツルッ ガシャン


芳川「あ……」

一方通行「げ……」

番外個体「おば……!」

打ち止め「!?」

円周「……ふぇ?」キョトン


黄泉川「……ん、あー。何か幻聴が聞こえるじゃん。最近忙しいから疲れちゃった
     みたいだ。さて、ちょっと雲の数でも数えて来ようかな、じゃん☆」フラフラ



芳川「あ、愛穂!? 落ち着いて!! 足元ふらついてる! 取り繕いきれてない
    から一旦戻ってきなさい!!」

一方通行(“皮肉一切無し”じゃあ堪えきれねェわなそりゃ……)モグモグ

円周「……? 黄泉川おばちゃん、どうしたの? 芳川おばちゃん」

芳川「ちょ、私もかよ!!?? まだ三十路も迎えてねえよ!!!」ガーン

一方通行「ぷ……くくっ」プルプル

芳川「ナァニ笑い堪えてんだテメエ!!?」クワッ

打ち止め「よ、ヨシカワ落ち着いて!! キャラ! キャラ壊れてる!
      ってミサカはミサカは――」



~ とある学生寮 ~


「―――へぇーっくしょい!! ……うーん、何か大切なものを取られてる様
   な気が心なしかするかも……」ズズーッ



~ 夕食後 ~


一方通行「…………」カツン カツン

黄泉川「ん? 一方通行、どうした?」

一方通行「オマエらはあのガキについては何も知らねェのか?」

芳川「円周ちゃんのこと?」

一方通行「それ以外にねェだろ」

黄泉川「まぁ、出生とか詳しい経緯とかは何にも知らないが、それはあんたも
     一緒じゃん」

一方通行「……ホント、オマエらには警戒心ってのが欠片もねェな」

黄泉川「あの円周って子、あんたが拾ってきたんだろ? だったら何の問題も
     ないじゃんよ」

一方通行「勝手に付き纏われただけだ。……何考えてやがるのか、未だに窺い
      知れねェ」

芳川「私たちには悪い子に見えないけど?」

一方通行「……チッ」カツ カツ



黄泉川「お、おい。こんな時間に何処へ行くじゃん?」

一方通行「……コンビニだ」カツン カツン 


バタン


少女たちが入浴中の隙を突き、一方通行は家主たちに適当な理由を告げてから
静かにマンションを離れた。
既に暗部組織はその殆どが解体され、闇を縄張りとしていた住人は表の世界で
自由を満喫する日々が続いている。自分もその中の一人だ。


一方通行は少女に一つだけ嘘を吐いた。
『木原』の姓を持つ者がどんな宿命を背負わされるか、短い期間とはいえ暗部
に身を置いていた彼が知らない筈がなかった。

『木原数多』以外に『木原』の名が付く研究者も、知っていた。
専門(ジャンル)が違うというだけで、直接の関わりこそなかったが。

『木原一族』の狂った記録(データ)は頭に嫌というほどこびり付いていた。


(“木原”、円周……)




確かに、彼女には『木原』として決定的な何かが欠落しているのかもしれない。
『木原』としての資質はゼロかもしれない。

しかし、忘れてはならない。
彼女もまた、『木原』だという事を――――。


  Lesson 2 ~“少女”の居場所 ~ 



一方通行は付近の研究室を訪れていた。
理由は単純。『木原円周』の全てを調べつくすため。

一方的で取り付く島もなかったとはいえ、結果的に彼女を迎え入れてしまった
のは自分だ。
なら、その際に発生した『責任』から目を背ける訳にもいかない。


(……! こいつがそォか)


彼女の肩名が明らかになっているのは大きな利点だった。
木原関連のデータは厳重だが、そこは学園都市が誇る超能力者の頂点に君臨する
一方通行だ。痕跡も残さずにデータバンクから侵入するなど容易い作業である。

しばらく『木原一族』のデータベースを閲覧している内に、あっさりと目的の名
は見つかった。
すかさずクリックし、データの詳細ページへとアクセスする。


(……能力開発歴が空欄って事は、『開発以前から何処かに監禁されてた』って
  あいつ自身が話していた内容にも信憑性を帯びてくる。別のページにそこら辺
  は詳しく載ってねェか?)


様々な角度から捉えたとしても、あの少女自体に実質の害はないだろう。
しかし、ただ一つ厄介なのは『木原』という彼女の“姓”である。



はっきり言うが、あの一族は根元から“狂っている”。

それこそ数え切れない方面と繋がっているし、ありとあらゆる世界の“裏側”に
その名が刻まれている。
現に一方通行が過去に葬った研究者の『木原数多』も相当イカレた人間だった。

『木原の姓を持つ人間を匿っている』

たったこれだけの事実でこの先に何が起きても不思議ではない。
『木原』に憎悪の念を抱く輩、或いは一族に隣接する誰かが行動に打って出ない
とは言い切れない。


「クソッ……!」


苛立ちを露にする一方通行。
どうやらこれといった収穫が得られていないようだ。


(何の記録も残ってねェだと? ……もしかして、あのガキを監禁したってヤツ
 は暗部組織と無関係なのか?)


試行錯誤しながらキーワードを変更しつつ入力を続けるが、適合しそうな組織は
割り出せず仕舞いだった。


「チッ」



舌打ちと共に研究室から去る一方通行。
どうやら『木原』に関するデータをもう一度洗い直す必要がありそうだ。
こんな近場ではなく、もっと大きな研究施設へと足を運ばなければ……。


(とりあえず、それまでは様子見か……)


現段階で最大の不安要素は、木原円周を監禁していたという連中の存在。
暗部ではない以上、その特定はより困難となりそうだ。

単独か? 
複数か?
研究機関か?
個人的私怨か?


不確定事実はまだ山積みだった。




~ 一方通行の部屋 ~


自室に戻ったら何故か可愛い寝巻き姿の円周が居た。


一方通行「……オイ」

円周「こーぐまーのパ~ンツー♪」イソイソ

一方通行「上機嫌でシーツ敷いて就寝準備進めてンじゃねェよ」

円周「アクセラお兄ちゃんは寝る準備しないの? ああ、お昼寝してたから
    眠くないんだね!」ポンッ

一方通行「閃いたよォに手ェ打ってねェで会話しろ。ここが俺の部屋だって
      理解してるよなァ? 何オマエもまるでここで寝るみたいに布団
      敷いてンだよ?」

円周「ちがうよ?」

一方通行「あン……?」


円周「ここは『アクセラお兄ちゃんと私のおへや』、だよ?」キョトン


一方通行「」



円周「るんるーんるるーん♪」ゴロン

一方通行「…………」

円周「……うーむ。やっぱり床だと硬くて若干寝苦しいなあ」ムクリ

一方通行「…………」

円周「お?」チラリ

一方通行「……何で俺のベッドに注目してンの?」

円周「良く見たらあなたのベッド広いねえ。これなら二人でも充分眠れ――」

一方通行「イイ加減にしやがれェェ!!」ズビシッ!!

円周「――あぐチゃこるッ!?」

一方通行「とうとう俺から『安眠』まで奪おうってかオマエはァ!? 俺に
      片時も安らぎの時間を与えねェ気かって訊いてンだよォォ!!!」

円周「うー……痛い、痛い……。あとアクセラお兄ちゃん声大きい」ナミダメ サス サス

一方通行「うるせェ黙れ! 寝るンならあのクソガキ共の部屋で寝ろォ!!
      リビングのソファーだけじゃ飽き足らず俺の部屋まで占領するっ
      てか? 嘗めンなボケが」



円周「ミサカちゃんたちのおへやに私の寝るスペースが無いんだもん……」ウル ウル

一方通行「だからって何で俺の部屋なンだよ!? 黄泉川たちントコ行けば
      良いだろォが!」

円周「黄泉川おばちゃんが、『あんたは一方通行の部屋で寝ると良いじゃん♪』
    って言ってたから」


一方通行「――ヨォォミィィカァァワァァあああああああああ!!!!!」ダダダダ バタン 


円周「?」キョトン



 ヨォォォミィィィカァァァァワァァァァ!!!!!  ヨナカニオオゴエダスナ!! ウルサイ!!



打ち止め「……えんしゅーお姉ちゃん、あの人と一緒に寝られるなんて羨ましい。
      ってミサカはミサカはちょっぴり嫉妬してみたり」

番外個体「……っ、……っっ!!」(←爆笑したいのを必死で堪えている)




その後、結局家主の決定を覆す事はできず、一方通行は渋々この自由気まま
過ぎる少女との相部屋を受諾する羽目になった。

なんだかんだ言って長(おさ)には逆らえないのが世の理である。

当人に「オマエは本当にそれで良いのかよ?」と縋る思いで迫ったが、彼女
は二つ返事であっさりと了承し、一方通行はこれ以上の抵抗が無意味である
現実を悟って床に両手両膝をつけた。

男の人と同部屋という、円周の女の子としての羞恥心に僅かな望みを託した
のも今考えれば愚鈍な選択だった。一般教養に加えて性教育もまともに受け
ていない彼女にそんな感情が芽生えているのかも怪しいことを動揺のせいで
完全に失念していたのだ。

とにかく、円周本人が了承してしまっているのだからもう一方通行に逃げ道
など残されてはいない。
大人しくこの結末を受け入れるしかない。

しかし、円周は「硬い床がイヤだ」と訴える。
挙句に「同じベッドで寝る」とまで主張する。

流石にそれがマズイのはどこかのツンツン頭の無能力者でも分かる。

苦悩の末、一方通行が選んだ答えは――、



「……クソ、寝心地悪りィ……。もォ一枚布団敷いとくンだった」


「ぐー……むにゃ……ぴー……んむんむ…………ぐぅ」


男としての辛さを現在進行形で実感しているようだ。
ちなみに円周が眠るベッドには「いつでもおいで」と言わんばかりに一人分
のスペースが設けられていたが、一方通行はそれを見なかった事にして不慣
れな硬い床の感触に寝苦しさと格闘した。


(しっかし……)


すでに柔らかいスプリングベッド(普段の自分の寝床)で寝息を立てている
少女を軽くチラ見する。
そして、内心で呟く。


(また面倒臭せェ事になっちまったなァ……。思い過ごしであって欲しいが、
 正直言って不吉な予感しかしねェ……)


今の己の境遇を冷静に評価し、天井を見上げる。
やがて、疲れた脳の休息命令に従うように、一方通行もすぐ眠りについた。

ちなみに就寝前に抱いていた“不吉な予感”とやらは、翌朝目覚めてすぐに
的中する。



ここまでです
あと今さらながら訂正

>>49より
一方通行「そのアクセラお兄ちゃンってのイイ加減やめろ。っつーか、さも当然み
      たく一緒に家まで帰る流れになってンだ?」(誤)


一方通行「そのアクセラお兄ちゃンってのイイ加減やめろ。っつーか、何だって
      さも当然みたく一緒に家まで帰る流れになってンだ?」(正)


続きはまた後日
お目汚しありがとうございます
ではまた






夜の特別レッスンはありますか?

>>110
いつか小ネタで全貌を明かせる日がくるかもしれません

週一ペースでダラダラやる予定だったのに……あれ?なんか不思議と手が進むぞおかしいな……
そんな訳で、今日も原作とはもはや別人レベルで自由気ままな円周ちゃんをご堪能ください

以下投下



―――


~ 翌朝 ~


一方通行「Zzz……」スピー

円周「……」ジー

一方通行「Zzz……、――ン……ッ?」パチッ

円周「…………」ジィーー


一方通行「――――うォお!!?」ガバッ


円周「おはよう、アクセラお兄ちゃん♪」

一方通行「お、おはよォじゃねェよヒトの枕元で何してンだオマエ!?」

円周「ねがお見てたの」



一方通行「サラッと答えてくれやがって……! 心臓止まるかと思った
      じゃねェか……!」バク バク

円周「ねがお、可愛かったよ」ニコ

一方通行「感想なンか求めてねェンだよ!!」

円周「朝から元気なんだね、アクセラお兄ちゃん。高血圧?」

一方通行「どンな低血圧で朝に弱い人間でも目ェ覚ました瞬間至近距離
      で見下ろされてりゃ嫌でも飛び起きンだよォ!!」ウガー

円周「もしかして、驚かせちゃった?」

一方通行「遅せェよ! 俺の心情理解するの遅すぎンだよオマエは!!
      クソガキのボディプレスとは違う意味で最低な寝覚めだわ!!」

円周「……? 起こしてないよ?」

一方通行「……オマエ、いつから枕元に屈み込ンで俺の寝顔を観察して
      やがった?」

円周「うーん……、起きてすぐだから……六時半ぐらいからかな?」

一方通行「……」

(現時刻 7:15)



一方通行「約四十五分も俺の寝顔見つめ続けてたのかよ!? 怖ェわ!!
      無防備な姿晒して恥ずかしいとかってよりもオマエの奇行に恐怖
      を感じたわ!!」ゾクッ

円周「アクセラお兄ちゃんって、起こされなくてもちゃんと朝起きれるんだね。
    偉いなあ」

一方通行「むしろもっと早く起きたかったわ! ってか、それならもォいっそ
      のこと起こせよ!! じーっと寝顔を観察されてるとかかなり心の
      ダメージ大きいってのォ!!」

円周「んっふふーん♪ アクセラお兄ちゃんの寝顔、明日も可愛いといいなぁ」ルンルン♪

一方通行「部屋替えだァァ!! オマエ今度からガキ共の部屋か黄泉川たちの
      部屋で寝ろォ!! それがイヤなら速やかに出てけ!!!」

円周「いやだ」プイ

一方通行「……朝っぱらからこのガキはこのガキはこンのガキはァァァ……」プルプル

円周「あなたもベッドに来ればいいのに……」シュン

一方通行「何そこで寂しそォに目ェ俯かせてンだよ? オマエそりゃあ流石に
      無防備すぎンだろォ……。俺が欲望に飢えた狼だったらどォすンだ?」

円周「?」キョトン



一方通行(あァ忘れてたコイツ『性』に関する教育も受けてねェンだった……。
      そォいうのに対する恐怖概念が存在しねェのは流石にマズいな……。
      こりゃ一般常識も兼ねて色々教えてやる必要が……。って馬鹿かよ。
      何で俺がそンな面倒臭せェ役を引き受けなきゃならねェ? コイツ
      とは完全に赤の他人……って表現するには手遅れの段階かこれ?)ウーン

円周「……?」

一方通行「はァ……。とにかく、人様の枕元に擦り寄るなンて、はしたねェ真似
      は今後二度とするンじゃねェぞ? わかったな?」

円周「どうして?」

一方通行「だァから、仮にも男と女が一緒の部屋で寝てる状況で、女の方から男
      に近寄っていくのは良ろしくないっつってンだ。イイから素直に聞き
      入れろ」

円周「ってことは……もうアクセラお兄ちゃんの寝顔、見れないの!?」ガーン

一方通行「驚愕してンじゃねェよ。どンだけ俺の寝顔が新たな生き甲斐だオマエ……。
      別にベッドからでも見えなくはねェだろォが。できるなら見て欲しく
      ねェけどよ」

円周「イヤ!! 私は間近でアクセラお兄ちゃんを見たいのー!!」ヤダヤダァ

一方通行「なァに駄々こねて……。って、オイちょっと待てよ? “間近でなきゃ
      駄目”って……」サー

円周「ベッドから降りないと、ほっぺたプニプニも頭ナデナデもできないよ!!」

一方通行「やっぱ観察してるだけじゃなかったンかァァァ!!!? 俺が寝てる
      隙に何してンだオマエ!!? 何してくれてンだオマエ!!!?」



円周「私のできたばかりの楽しみを奪うなんて……アクセラお兄ちゃん酷いよ」ウルッ

一方通行「泣きてェのは俺の方なンだよこのボンクラがァァあああああ!!!
      俺が無抵抗なのを良いことに玩具扱いするオマエのが数段酷ェわ!!」


バタン!


黄泉川「――――朝っぱらからうるさァァあああい!!!」ガンッ!!


一方通行「――――ごぶェ……ッッ!!?」


円周「あ、黄泉川おばちゃん。おはよう」

一方通行「よ、黄泉川ァァ……! いきなり問答無用でヒトの頭に拳骨たァ
      やってくれンじゃねェかこの野郎ォォ……!!」ヒリ ヒリ

黄泉川「あんたが騒ぐからじゃん。私の安眠を妨げる様な不届き者には天誅
     を与えるのがこの家の為来りだって忘れたか?」

一方通行「ンな為来り初耳だわクソボケナスがァァ!! 大体俺がクソ寒い
      早朝から大声張り上げなきゃならなかったのは全部このガキが――」



黄泉川「責任転嫁してんじゃないじゃんよ!! 男なら女の子の我がままに
     くらい寛大な心で受け止めてやるモンじゃん! 喚き散らすなんて
     みっともない」

一方通行「ぐ……す、好き勝手抜かしやがってこのホルスタインがァァ……!」

黄泉川「お? 何だ、やろうってか? 上等じゃん。その小さい心をひょろ
     っちい身体と一緒に鍛えてやろうか?」フフン

一方通行「……ッ。ぶ、ぶっ殺す……!!」

円周「黄泉川おばちゃん。アクセラお兄ちゃんをイジメないであげて」

一方通行「ッ!?」

黄泉川「……一方通行。何か言うことは?」

一方通行「……チッ。……大声出して、悪かったなァ。クソが」プイッ

黄泉川「ん……。ま、今日のところはそれで勘弁してやろうじゃんよ」

円周「起こしちゃってごめんなさい」

黄泉川「あんたは悪くないじゃんよ。許してやってくれな。この馬鹿、短気
     なモンだからさー。けど、こんなんでも根は悪いヤツじゃないんだ。
     仲良くしてやってくれたら嬉しいじゃん」



円周「うん。私たち、仲良しだよね? アクセラお兄ちゃん♪」

一方通行「あァーそォですねェー仲良しですねェーコンチクショウ」フン

黄泉川「ったく、相変わらず素直じゃないな。あんたは」

一方通行「うるせェ放っときやがれ」プイ

円周「黄泉川おばちゃん。お腹空いたー」グー

黄泉川「いいかい? 円周。これから私のことは『黄泉川お姉ちゃん』って
     呼ぶじゃん。オーケー?」

円周「……? う、うん。わかった、黄泉川お姉ちゃん……」

黄泉川「グーッド! じゃん♪」

一方通行「ケッ……、必死過ぎて見るに堪えねェとは正にこの事――」ボソッ

黄泉川「ッそォォおおおい!!!」ボグッ!!

一方通行「――――ぴぐもッ!!!?」

黄泉川「ふぅ……。さーて、んじゃ朝飯にするから二人ともとっとと顔を洗
     ってくるじゃんよー♪」テク テク バタン



一方通行「ォ……ォお……が」ピク ピク

円周「アクセラお兄ちゃん、大丈夫……?」ツン ツン

一方通行(……ど、どいつもこいつもふざけやがって……こンのクッソ野郎
      がァァァ……ッッ!!)ヒリ ヒリ

円周「あ、タンコブできてる♪」ツン ツン

一方通行「痛ッ!? 痛ェよバカ突っつくなァァ!!!」ギャアアア


    (なンでだ!? なンで朝からこンな目に合わなきゃなンねェンだ!?
      俺が一体何したっつーンだよォォ!!)ジン ジン



―――


昨夜以上に騒がしい食卓の光景に辟易してしまい、このままもう一眠りして
しまいたのをグッと堪えた一方通行が朝ドラマに夢中の円周に声を掛ける。


一方通行「オイ、ガキ」

円周「……なあに?」ボー

一方通行「それ見終わったら出掛ける準備しろ」

円周「ふぇ……?」クルリ



一方通行「呆けてンじゃねェ。オマエ、手荷物らしい物も何にも持ってねェ
      手ぶら状態だったろ? 色々と必要なモン買出しに連れて行って
      やるから、買いてェモン決めとけ」

円周「…………」ジー

一方通行「あン? ……何だよその珍しいものでも見つけたみてェな視線は?」


円周「……デート?」


一方通行「ぶっ……!? 馬鹿か!? 違っげェよ馬鹿か!? 生活必需品
      買いに行くだけだっつーの!! 頭ン中ピンク色に染めてンじゃ
      ねェよ馬鹿が!!」

円周「……デートかぁ……。むふふふ……///」

一方通行「弁解は無駄、ね。ハイハイっと……。勝手に期待感高まらせてる
      トコ悪いがなァ、ガキが約二名いるって事を忘れンじゃねェぞ?」

円周「ええ……っ!?」ガーン

一方通行「地味にショック受けてやがるな。ふン、ざまァみやがれ。俺一人
      でオマエの面倒見切れねェのは昨日で充分学ンだからなァ。資金
      は負担してやるが、ショッピングならあいつらと好きなだけ楽し
      めば良いさ。俺はその間どっかで適当に時間潰してるからよ」



朝食の洗い物を手伝っているであろう番外個体と打ち止めについて来てもらう
ことで、己の負担を減らす算段の一方通行。
だが、騒がしい彼女たちを同行させることにより、余計に収拾がつけられなく
なってしまい、結果的には自身の精神的負担に拍車が掛かるという発想は出て
こないのだろうか。

いや、逆に彼にとっては『アキレス腱』とも言える少女たちが一箇所に固まる
ことによっていざという時に護衛がしやすいという考え方もできる。

『木原』を匿っている以上いつ襲撃を受けてもおかしくない現状況では、常に
彼女たちを目の届く場所に留めておくのが望ましい。



円周「……」ムスー

一方通行「……ってのは冗談だから、ンな脹れっ面すンな。ちゃンと俺も近く
      に居てやるっつの」

円周「……お洋服、欲しい」

一方通行「そォ言うだろォと思ったから、あいつらにも付き合ってもらうン
      だよ。同性が一緒にいた方が服選びに難儀しなくて済むだろォ?」

円周「私にはセンスがない、って言いたいの?」ムッ

一方通行「お世辞にも良いとは言えねェよな」ウン



円周「……」ジー

一方通行「……何だよ? ジロジロ見やがって……」

円周「アクセラお兄ちゃんだけには絶対に言われたくないよ! 心外どころ
    か中傷レベルで」

一方通行「あァ!? それどォいう意味だコラ!!」カチン

円周「鏡、そこにあるから見てくれば?」

一方通行「このガキ……! 散々世話になっておきながら人様の私服に不服
      を訴える気か……!?」

円周「服だけに」

一方通行「やかましィンだよ!! 少し黙ってろ!!」プンスカ

円周「まぁいいや。ミサカちゃんたちも一緒の方が楽しそうだし」

一方通行「拒否しよォが連れてくけどな……。まァ、そォいう訳だから早く
      着替えてこい。打ち止めたちにも伝えとくから」

円周「……」

一方通行「……何だよ?」

円周「覗――」

一方通行「誰が覗くか馬鹿、馬ァァ鹿!!」





~ セブンスミスト ~


打ち止め「うわーい! アナタとお買い物なんて久しぶりかも! ってミサカ
      はミサカは大ハシャギー♪」パタ パタ

一方通行「コラァ、走ンな! 行儀悪りィだろ! ……ックソ、やっぱ連れて
      来ンじゃなかったぜ」

番外個体「そう言いなさんなって。この前ハワイに行った時もずっとお留守番
      だったんだし、あなたと出掛けるのも久々だから浮かれて当然って
      ヤツよ」

一方通行「チッ……。まァちっとは大目に見てやるか」

円周「ねぇねぇ、最初はどこに行くの?」

一方通行「あァ? オマエの買い物なンだからオマエが選べよ。まずは何が欲
      しいンだ?」

番外個体「そうそう、この人にタカる口実とはいえ新参者の生活用品買いに来
      たのが本懐だし、遠慮は無用だよん」

一方通行「何でオマエが得意気なンだよ? 金出すのは誰だと思ってやがる?」

打ち止め「ミサカは新しいお洋服が欲しいーっ! ってミサカはミサカは挙手
      してみる!」ハイハーイ




一方通行「オマエにゃ訊いてねェよ! オマエら揃って話の腰折り役に回って
      ンじゃねェぞ!!」

円周「私もお洋服が欲しいーっ! ってエンシューはエンシューはk」


打ち止め「おい」ギロ…


一方通行「……ッ!?」ゾクッ

番外個体「…………っ」ガクブル

円周「?」キョトン

打ち止め「ん? みんなどうしたの? ってミサカはミサカはチャーミングな
      笑顔を振り撒いてみたり♪」キャハッ


~ お洋服売り場(レディース) ~


一方通行「ンじゃ、俺は外で待ってっからオマエら適当に選ンでこい」

打ち止め「えぇー!? そりゃないぜ! ってミサカはミサカは背中を向ける
      アナタの腰にへばり付いてみたり」ベター

円周「ムッ……」ピクッ



一方通行「離れろォ!! 何処の子泣きジジイだオマエ!? ……ちょ、ヒト
      の背中よじ登ってンじゃねェ!!」ズビシ

打ち止め「あぎゃ」ポトッ

番外個体「あひゃひゃ、はたき落とされてやんの」ケラケラ

打ち止め「いてて……。くそ、『この人制圧計画第一弾』は無念の失敗か……。
      ってミサカはミサカは叩かれた頭を撫でつつ肩を落としてみる」

円周「…………」ウズウズ

一方通行「クッソ……周囲の目が……ン? オイ待てコラ。何で俺を凝視して
      ンだ団子頭。……すげェ嫌な予感しかしねェから先に忠告しといて
      やる。直ちにやめ――!?」

円周「とう!」ピョン

一方通行「――ェてッッ!?」 ドシーン!!

打ち止め「」ボーゼン

番外個体「何が起こったのか良くわからねえと思うが、ありのまま起こった事
      を話すぜ? おちびがこの枯れ木野郎に飛び付いたのを見た新参者
      が全く同じ動作でこの枯れ木に飛び付いたんだ……。だがしかし!
      おちび以上の身体を吸収しきれないヘタレ第一位は無残にも飛び付
      かれた衝撃で傾くどころか吹き飛ばされ、冷たい床に全身を叩きつ
      けるという醜態を……」クス クス



一方通行「ほくそ笑み付きの実況はイイから助けろ!! あとオマエもさっさ
      と退きやがれェ!! いつまでもミンミンゼミみたいにくっついて
      ンじゃねェェ!! 俺は木じゃねェし樹液も出ねェよ!!」

円周「みーんみーんみんみん♪」ベッタリ

一方通行「う・た・っ・て・ン・じゃねェェえええええっっ!!!!!」ベシッ

円周「――あぶドゥる!?」ボトッ

打ち止め(余計に注目浴びちゃってる事に早く気づけ。ってミサカはミサカは
      恥ずかしくて逃げ出したい衝動に駆られてみたり……)


円周「うぅー、ほんの茶目っ気なのに……」スリスリ


一方通行「朝からオマエの茶目っ気フルコースとかどンな拷問だ。もォ腹一杯
      すぎて内臓ごと破裂しそォだわ……」グッタリ



―――



~ 売り場の外 ~


一方通行「はァァ……酷ェ目に遭った。マジで酷ェ目に遭った」ゲッソリ

    「それにしても、何で俺ばっかりがガキ共の面倒押し付けられなきゃ
      なンねェンだよ……。そろそろストレスで過労死しても不思議じゃ
      ねェぞ……」

    「黄泉川も芳川も覚えてろよクソ。ついでに『枯れ木』呼ばわりした
      番外個体も後で覚えてやがれ……」イライラ

    「……っつーか、遅せェ」

    「たかが服選ぶだけに何十分待たせる気だよアイツら……」イライライラ

    「これだから女の買い物に付き合うのは面倒で嫌なンだよ」イライライライラ

    「チィ……ッ!」ガタッ


    (まだ戻って来そォにねェし、どっかの自販機でコーヒーでも買いに
      行くか。……はーァ、ホント、昨日から碌な事ねェわ)ブツブツ カツン カツン




―――



一方通行は何故か屋上に来ていた。
去年の夏頃に爆破事件が起きて一部が半壊したにも拘わらず、人混みは相も変わらず
激しいここセブンスミスト。
言ってしまえば服や日用消耗品などをメインに取り扱う大型デパートだが、一方通行
はこういった施設を殆ど利用しない傾向にある。
単に人の多い場所が嫌いな性格もあるが、そもそも行くきっかけ自体が非常に少ない。

よって、どこに何があるかもイマイチ把握していない。
適当な自販機を探し彷徨っている内にここまで来てしまったのだ。
無意識に人混みを避けていたのも理由の一つ。

デパートの屋上らしいイメージを根底から覆すほどの閑散ぶり。
どちらかと言えば病院の屋上に近い印象である。
連れの買い物が終わるまで、あわよくばここで時間を潰そうかと本気で考えながら、
一方通行は備え付けの自販機で缶コーヒーを買い、飛び降り防止用の柵に寄り掛か
って空を仰ぐ。


(ふー、よォやく落ち着けたか……。後の事を考えるとこの小休止はデケェな)


ふと、周りを眺める。
どうやら自分以外に人はいないらしい。まさにここは自分だけの空間だ。


(賑やかなのも悪いとは思わねェが、やっぱ静かな方が俺に合ってるな)




ここ最近の日常を振り返って薄く笑い、昨日から自分の日常に参戦してきた少女に
ついて考える。


(『木原』、か……。俺の前に現れたのが本当にただの偶然だったとして、問題は
  あのガキに纏う厄をどォ処理するかだ。ここまで進ンじまってる以上、もォ俺と
  は無関係だなンて言い訳は通用しねェ……)


現時点でまだそういった影は見られないが、昨日の今日で『安全』と決められる程
楽観はできない。


(あのガキや俺だけの問題じゃねェ。打ち止めや番外個体、黄泉川や芳川も『木原』
 を匿ってるヤツの共犯として、標的にされない保障は何処にもねェンだ。厄介な事に
 なる前に、未然に防ぐのが理想だが……)


このまま何も起きないに越した事はないが、あの少女が『木原』の時点でその可能性
は無いと言ってもいいだろう。


(チッ、打ち止めや番外個体に何かあってからじゃ遅いってのに……。焦っても仕方
 がねェのは分かるが、かと言って悠長に構えてるのも……。とにかく、ガキ共を家に
 送り届けたらすぐにでも“木原グループ”と関連性の高い研究施設を虱潰しに回ら――)


そこまで考えていた矢先だった。



飛び降り防止用の柵に正面を向けて両手を掛け、遥か真下を走っている車と人の群れ
を眺めていた一方通行の背中に、只事ではない叫び声と車輪音が接近する。




「は・や・ま・っ・て・は・いけませーーーん!!!」




「―――ァあ……?」


思考を寸断され、訝しげに首だけ振り向いた一方通行。
が、その顔はすぐに驚愕と動転に染まる。

一方通行が振り向いてから一秒も経たずして、背中に強烈な衝撃を受けた。


「っぐォ!!?」


突如訪れた自動車にでも跳ねられたかのような衝撃に身体が軋み、歪む。
柵に密着していた一方通行ごと謎の衝撃は柵をブチ破り、そのまま宙に投げ出された
哀れな白い少年は何十メートルもある上空から地面に向かって真っ逆さまに転落した。



「――――っどァァああああああああ!!!!!?」


あまりの不意打ちに心が対応できず、腹の底から叫びながら落下する一方通行。
普通ならここで人生は『転落死』という形で終了を迎えるだろう。

普通の人間、だったなら。


「ッッ……! っく……!!」


コンクリートに激突するまでの僅かな時間で冷静な思考を取り戻し、首筋のチョーカー
型電極に手を伸ばす。そしてスイッチを入れる。
これだけできれば窮地は脱したと言って良い。


「……ッ、野郎ォ……、いきなり嘗めた真似してくれンじゃねェか……!!」


何事も無かったみたいに地に降り立ち、上を睨む。
その目線は今しがたまで自分が佇んでいたセブンスミストの屋上へ向けられていた。

そして、その紅い瞳に殺意と狂気を宿す。


「上等だぜェェ……。こォのクソ野郎がァァ!!!」


場合によっては霊安室送りだ。と、彼を纏う禍々しい空気が語っていた。




たったのひと蹴りで大跳躍した一方通行は落ちるよりも速い勢いで上昇し、セブンス
ミストを見下ろした。
そこに誰かいるのが確認できた。
突然の奇襲犯を視界に捉え、一方通行は口の端を大きく歪める。

突き落としてすぐに逃げなかったのがオマエの運の尽きだ。と言わんばかりに笑いな
がら屋上へと滑空する。
平然と着地した一方通行と向かい合う人物は特に驚いた様子を特に見せず、逆に柔和
な面持ちで一方通行を見つめていた。


「……さァ、どンな死に方が希望だ? 仕掛けてきたからには覚悟……って、オイ。
 何のジョークだそりゃあ?」

「おお、まさかの逆バンジー? それとも所謂カムバック、というヤツで?」

「イヤ、何ワケの分かンねェ事を……っつか待てよ。今の、オマエ……なのか?」


一方通行が怪訝そうに伺うのも無理はなかった。
向かい合う人物は自分より一回りは年上であろう女性で、車椅子に乗っていたからだ。
しかもその服装はまるでパジャマのような……、というか完全にパジャマだ。

一見、とても飛び降り防止用フェンスを突き倒す程のパワーがある様には見えない。

女性は軽くお辞儀をしてから一方通行に話し掛けた。


「あらあら、見たところ大したお怪我もないようで……。とりあえずはひと安心です」

「……は?」



「しかしまた、どうして自殺を決行したのですか? まだ若いその命を散らせるだな
 んて、勿体無いとは思いませんか?」

「イヤイヤ、だから何ほざいてンだオマエ。自殺なンて考えてねェよ」

「それなら、どうして身投げを?」

「オマエがいきなり突き落としたンだろォが!!」

「あらあら、私は貴方の自害を阻止しようとしただけですが?」

「それが結果的に体当たりして柵ブチ壊して自殺の手助けになった、ってか? オイ
 おばさン。冗談にしちゃ笑えなさ過ぎると少しは感じねェか?」

「生きている以上、様々な事を諦めるのは仕方が無いことです。ですがしかぁし!!
 それでも人生だけは諦めてはいけません!! 全てを失うくらいなら死ぬ事を諦める
 のでーす!! それが私の中の、“諦め”の美学ッ!!」

「……はァ???」


会話が全く噛み合わない。
だが、一方通行はこの感覚に不本意ながら憶えがあった。


「私の名前は『木原病理』。『諦め』のプロフェッサーとして、以後お見知りおきを。
 “超能力者(レベル5)第一位、一方通行(アクセラレータ)さん”?」



  Lesson 3 ~“病理”おばさん ~





木原 病理(きはら びょうり)

・菩薩聖母《グランド・マザー》(このスレ内限定)
・車椅子にパジャマ姿
・四段変形面白おばさん
・実はおばさんではなくお姉さん。年は芳川ぐらい?(>>1の推測)
・足が未元物質(こっちが本当ね。円周の方は誤記でした誠にすいません)
・信号を送れば身体に移植済みの未元物質発動可能
・ 『諦め』のプロフェッサー。好きな歌手は華原朋美。何故かって?
 『諦めましょう』でググってみればわかります





実は木原ファミリーで円周の次に好きなのが病理さんなのは内緒
え?頭おかしいって?
否定はしません

今回は以上です
次回目標は最低でも一週間以内! 多分もっと早くに来れるとは
思いますが……一応ね

ではまた


時系列が3巻と4巻ということはこの後病理さん死んでしまうのか……

>>147
スレタイkwsk

>>148
番外個体「ってなワケで、今日からお世話になります!」一方通行「……はァ?」
一方通行「俺が一生オマエの面倒見てやる」番外個体「……うん」

別の人で、同じトリップの人がいるから違ってたらごめん

とか言ってる内に来てるよオイ…

>>149
はい。確かにそれ書いたの自分です
知ってる人が居て内心嬉しいのは内緒です

さて、ではペース的にちょっと速いかなと思いつつも投下します



―――


~ 洋服売り場 ~


番外個体「うーん……、やっぱりバストを強調させるタイプが最低限のボーダーライン
      かなあ」

打ち止め「そのセリフは宣戦布告のつもりかな? ってミサカはミサカは数年経ったら
      覚えてやがれ! って三流悪党みたく吐き捨ててみたり」

番外個体「新参者はどれが良いと思う?」

円周「ミサカちゃんはスタイルいいから、それで問題ないんじゃないかなー?」

打ち止め「無視しないで! ってミサカはミサカは地団駄を踏みつつ抗議してみる!」ダンダン

円周「おちびちゃんは見た目的に胸が出てたら問題だと思う」

番外個体「良心的且つごもっともなフォローだねえ。まぁいいや。こいつはキープ、
      これも、あとこれもキープ、と」バサバサバサ

打ち止め「ちょ!? どうせならもっと吟味した方が……!? ってミサカはミサカ
      はカゴに放り込まれる洋服の山に唖然としてみたり」

円周「そんなに着る機会あるの?」



番外個体「いやあ。これから寒くなるし、こんな民族衣装モドキじゃそろそろ厳しい
      季節だからさ。あなたも折角なんだし手当たり次第にブチ込んでみたら?」ポイ ポイ ポイ

打ち止め「ミサカたちの買う服が入らなくなっちゃうよー!」

番外個体「カゴ、もう一つ取ってくればいいじゃん。あって困るなんて事は無いんだ
      し、好きなだけ入れちゃえ☆」ギャハハ

円周「うん! サイズの合いそうな服を上下問わずカゴにブチ込めばいいんだね!」

番外個体「そうそう! 新参者ぉ~、中々良い味出してんじゃん♪ そのノリの良さ、
      ミサカは嫌いじゃないぜ?」グッ

打ち止め「あの人に怒られても知らないよ~。ってミサカはミサカは呆れつつ忠告し
      てみる」

番外個体「ひゃはっ。気にしないねえ! どうせ金払うのはあの“一反木綿”みたい
      な体した第一位……って待てよ!?」ハッ

円周「どうしたの? ミサカちゃん」

番外個体「ねえ……誰かアイツから金貰った?」

打ち止め「えっ? ミサカは知らないよ? てっきり番外個体が貰ってるんものだと
      ばかり……」

円周「私も貰ってないよー」



番外個体「チッ、しくったな……。ねえ新参者。ちょいとあの人からカネ巻き上げて
      ……じゃなくて、洋服代貰ってきてくんないかなあ?」ニッコリ

円周「うん、いいよ」コクリ

打ち止め(うわぁ、早速新人イビリしてるよこの悪個体……。ってミサカはミサカは
      円周お姉ちゃんの純粋さに付け込んでパシらせようとする番外個体を軽蔑
      視してみたり)

番外個体(とか思ってても、黙って見てるだけならあなたも同罪だよ? 最終信号)ニヤリ

     「悪いねえ。多分あの人、外でボーっとしてるだろうからさ。予算多めに
       よろしくっつっといてね」

円周「うん、りょーかい」パタタタ…


打ち止め「……」

番外個体「なんだよおちびちゃん。何か言いたそうな目だね?」

打ち止め「……悪い子」

番外個体「あっひゃひゃひゃ! そりゃ今さらだよ。だってミサカは番外個体だもん☆
      弱肉強食の世界に忠実なだけなのさ!」ギャハハ

打ち止め(こいつだけは見習って育っちゃダメだ! ってミサカはミサカは改めて肝に
      命じてみたり……!)グッ…




~ 店の外 ~


円周「あれ……?」ポツーン

   「アクセラお兄ちゃん、どこー?」キョロキョロ

   「おかしいなあ」ウーン

   「よしっ――」ポン

   「――さがしに行こう!」

   「るんる~んるんるん♪」テクテク




―――


「『木原』、だと……? オマエ……!」


『木原』を名乗る人物を前にし、眉間にチカラがこもる。
同時に生まれた殺伐とした緊迫感が辺り一帯を覆う。
能力解除を中止し、臨戦態勢を取る一方通行を物柔らかに眺める木原病理。

余裕の表れか、それとも最初から争う意思を持っていないのか。

現れたタイミングを考慮すれば、意図的に接触したのは明白。
そして、その意図に心当たりがあるとすれば――。


「……どォ嗅ぎ付けたのかは知らねェが、堂々と仕掛けてくるとは大胆じゃねェか」

「何のことでしょうか?」

「とぼけてるつもりか? 大方、“あのガキと関係を持った人間の排除命令”でも
 出されてのこのこ出向いたらしいが、俺がそれを予期してねェとでも思ったのかよ?」


一方通行の睨み殺すような眼光にも、木原病理は意に介さない。
その余裕綽々な態度が余計に苛立ちを加速させる。



この女性が木原円周と無関係の線は限りなく薄い。
木原同士に馴れ合う概念がないとは言え、この短期間で二人目である。
どこかの組織が派遣した刺客か。或いは円周を監禁していた人物、又は仲間か。

様々な憶測が頭の中を駆け巡る中、病理は優しげな口調で告げる。


「あぁ、円周ちゃんの事でしたら心配には及びませんよ。回収する気はありませんし、
 そんな命令も受けておりませんし」

「……どォやってそいつを信用しろと?」

「と、言われましてもねえ……。見ての通り“ショッピング中”ですから」


やり合う意思はない、とでも主張するように両手を上げる病理。
その姿にどう見ても脅威は感じられず、張り詰めた気がだんだんと削がれていくのが
意識できた。


「オマエ、あの木原円周の何だ?」

「それについては私が逆に伺いたいものです。貴方と円周ちゃんに、一体どんな接点
 があったのか、考えても思い浮かびませんので」

(“ずっと監視していた”、って訳じゃねェのか……?)



かなり用心深い筈の一方通行が迷う。
この女性からは嘘や作為的な趣向が感知できない。
暗部で腐りきった人間を目撃し、人を見る目を肥やしてきた一方通行に並の虚言は一切
通用しないのだ。


「……じゃあ何の用があって俺を屋上から突き落としやがった?」

「いや、貴方が飛び降り自殺をしようとしている風に見えたからそれを阻止しようと」

「皮肉とかブラックジョークとかじゃなくてマジだったのかよ!? ってか、どっから
 どォ見て『あ、アイツ自殺する気だ』って判断したンだよォ!!?」

「言い様のない哀愁が漂ってましたし、何よりの理由は貴方の“頭”です」

「は……? ちょっと待て意味が分からねェ」

「そんなに真っ白になってしまって……。余程お辛い経験をされたのでしょうね……。
 だからいっその事、現世と別れを告げて来世の明るい人生に望みを託そうと……うっ」


ハンカチを取り出して目元を拭う木原病理の姿に、一方通行の緊張は一気に解けた。
代わりに何とも表現し難い疲労感が肩にずっしりと圧し掛かってきた。
この女性、あろうことか自身の白髪が過大な精神的病の影響だと断定しているらしい。
おまけに幸薄そうなこの外見も相俟って、端から見たら“飛び降り前の決定的瞬間”に
映ったのかもしれない。



「……、…………」


が、その虚脱感もすぐに“怒り”へと移行され、彼はその白くて白い顔をまるでトマト
みたいに赤く染めながら渾身の大声を張り上げた。


「これは元からだァァああああ!! 能力の弊害ィィ!!! っつーか『木原』なら
 そンぐれェ分かンだろォおおおおおおっっ!!!!!」


地上よりも天に近い位置なせいか、彼の大声量は丁度良い具合に木霊した。



一方通行「ぜェ……ぜェ……」

病理「あらあら……」

一方通行「……要はただの『勘違いでした』ってオチかよ。ふっざけやがってこンの
      ババァァ……!!」ギリギリ

病理「あら、でもストレスを溜め込んでいるのはその絶叫ぶりから見ても事実のよう
    ですね。悩みがあるのなら包み隠さず話してごらんなさい? 多少は気が晴れ
    るかもしれ――」

一方通行「うるせェよババァうるせェンだよ。返せよ、俺の能力使用時間。無駄遣い
      中の無駄遣いじゃねェかよ何だコレ? 何なンだコレ?」



病理「杖つきに車椅子。同じ障害者同士、仲良くしましょう♪」ニコッ

一方通行「オイやめろ。俺に仲間意識持つンじゃねェ。不名誉なタッグなンざ絶対に
      生ませねェぞ」

病理「あらあら、それは残念でーす」チッ

一方通行「舌打ちしやがったよこのおばさン。菩薩の中にある黒い一面を早くも垣間
      見せやがった……」ゴクリ

病理「円周ちゃんは良い子にしてますか?」

一方通行「あァ、オマエが俺のストレスがどォのってほざいてた原因になるくれェにな。
      オマエに返した方が良いンならできれば返却してェトコだが、生憎まだそこ
      までオマエを信用した訳じゃねェ」

病理「おや、手厳しい」フフフッ

一方通行「いきなり背後から突進するヤツを簡単に信用する方が厳しいだろォが。俺じゃ
      なかったらコンクリートの染みになってたンだぞ? ……っつーかよォ」

病理「はい? なんでしょう?」

一方通行「オマエ、障害者ってのは嘘だろ? さっき俺にぶつかってきた時の段階でもォ
      信じるのが無理なンだが……」

病理「火事場の馬鹿じ――」

一方通行「丸め込まれて堪るかボケ真面目に応じてくれホントマジで。会話が成立しねェ
      ヤツの枠はもォ昨日の時点で埋まってンだからさァァ」イラッ



病理「よろしい。では、こうしましょう」ポン
 
一方通行「……?」

病理「咄嗟の事態で思わず限界突破――」

一方通行「もォイイ分かったからそれ以上クチを開かないで下さい敬語なら使いますから」

病理「ところで、円周ちゃんたちは放っておいて良いのですか?」

一方通行「オマエも話の区切りを強引に捻じ曲げるのが好きなクチですかそォですか……。
      っと、いけねェ。そォいやガキ共にカネ渡してねェンだった……」ウッカリ

病理「おやおや、円周ちゃんを万引き犯に仕立てあげるのはあまり許容できませんねえ。
    仮にも『木原』にそんな子供レベルの前科がつくだなんて余りにも嘆かわしい」

一方通行「うン、そォだな。ンじゃそォならねェためにも早く戻ってやンなきゃなァ。
      つー訳で……」

病理「急ぎましょうか」シャコ シャコ

一方通行「……イヤ、勝手に先陣きってンじゃねェよ。っつか、これ同行する流れか?
      おかしいと思ってンのはまたしても俺だけか? ……はァ、心底うンざりだ」

病理「あっ……!」ガシャ

一方通行「……、早速何やってンだオマエ」




病理「くっ、少々厄介な段差が……。すみませんが押してもらえますか?」クルリ

一方通行「はァ……。あくまでも病弱設定を貫き通したいンだなオマエ……。俺の背中
      にタックルかました気合は微塵も残ってねェのかよ」

病理「それで、できるならしばらく押し続けて頂けると実に助かります。なにぶん、腕
    が疲れてしまいましたので」

一方通行「障害者に障害者の世話しろってか? 南米人辺りに聞かせたら腹抱えて爆笑
      しそォだな。そしてやっぱり俺の文句はスルー、と…………。ったく、仕方
      ねェな」ガ…シャン

病理「おお、貴方杖つきの割りには使えますね」

一方通行「素直に『ありがとうございます』で良いだろそこは。何ちょっと癪に触れる
      言い方してンの? その車椅子ごと大気圏まで飛ばされてェの?」イライラ

病理「ワカメの“カ”ぁ~は~蟷螂(カマキリ)の“カ”~♪」シャコ シャコ

一方通行「聞けってンだよこの耄碌ババァが! あと上機嫌で歌うな鬱陶しいから」シャコ シャコ


「――――あ! アクセラお兄ちゃん、やっと見つけ……」


屋上ゲートを潜る直前、一方通行を捜し彷徨っていた木原円周がトテトテと屋上へ駆け
上がって来た。



「あら、円周ちゃん」

「病理おばさん!」


満面の笑顔で再会を喜ぶのは円周。
対する病理は子供を見守る母親のような微笑。


「どうしてアクセラお兄ちゃんと病理おばさんが一緒にいるの?」


至極当然の疑問を投げ掛けられ、病理は苦笑混じりに答える。


「いやー、実はこの御方がさっき自殺未遂――」

「そのふざけた認識、まだ捨ててなかったのかよ……」


病理の背後で車椅子の移動を補助していた一方通行の顔が引き攣る。
どうやら病理の中での彼のイメージはすっかり定着してしまっているらしい。
一度決めた脳内設定を簡単に変更しないのも、『木原』たる所以か……。

深く考えると眩暈を起こしかねないので一時中断。
合流した円周、車椅子に乗る病理と共に一方通行は屋上を離れた。



再び屋内に戻った三人は移動を続けながら無駄な会話を弾ませていた。


「……揃って奇矯な振る舞いなのは『木原』が原因ってだけじゃねェ気がするが……
  そいつは俺の気のせいか?」

「貴方は随分と『木原』がお嫌いな様ですが、それは偏見です。何も全ての『木原』
 が醜悪な世界に関係しているとも限らないのです。たとえばそこの円周ちゃんなんか
 が良い見本では?」

「……なるほど。そりゃ超が付くぐれェに分かりやすい例だわ。端から見たらこいつ
 と『木原』に関連性を見出すヤツはそうそういねェだろォからな」

「?」


勝手に納得し合う両者についていけない円周は首を傾げた。
たまたま『木原』という苗字なだけの一般人。そう言われても何だか信用できる。
ある意味では狂った思考を持っているのかもしれないが、少なくとも『木原一族』特有
の狂気とは全くと言っていいほど繋がりを感じないし、結びつかない。
失礼な所、一方通行はこの少女が『木原』である事自体を忘れている節が時折あった。
まだ木原円周という人間の全てを知っていないにも拘わらず、だ。


「――さて……。では、ぼちぼちここいらで別れましょうか」

「……!」


エスカレーターで番外個体たちがいる階まで戻った際、そう寂しそうに告げる病理。
その方が好都合なため、あっさりと頷いた一方通行とは対照的に円周は目を丸くさせる。



「病理おばさん……行っちゃうの?」

「円周ちゃんの現保護者は私ではありませんし、ね……」


チラリ、と一方通行の顔を見て呟く。


「私が心配するまでもないでしょう。なんといっても『学園都市最強』と謳われる
 御方なのですから」

「『元』、な……。全盛期はもォとっくに終わっちまってるよ」


自身を嘲笑するかのように訂正する一方通行に、病理は口元を意味深に綻ばせる。
そして、改まった姿勢から瞼を閉じ、頭を軽く下げた。


「この子は、円周ちゃんは『木原』として未熟です。故に、その欠点を何時、誰に
 付け込まれるかは分かりません……。一方通行さん。義理など無いのは百も承知で
 す。ですが言わせてください。今後とも、円周ちゃんをよろしくお願いします」

「……オイ、良いのかよ? 『木原』が易々とヒトに頭下げる真似なンかして……」

「最低限の礼儀も知らないようでは、『木原』は名乗れませんよ。うふふ」

「病理おばさん、帰っちゃうの? ……寂しいなあ」



「近い内にまた会えますよ。ですからそれまで、あくせらお兄さんにうーんと甘え
 なさい。勢い余ってうっかり殺してしまっても、『木原』ですから許されます」

「うんっ!」

「イヤ、許さねェよ。何だそれ? オマエ『木原』の名を“悪魔のパスポート”と
 同等に扱ってンじゃねェよ寒気がしたわ。あとオマエも何元気に返事してンだコラ」


冷静で逆に恐怖をそそる指摘と同時、団子状に纏まった二束の髪の間(頭頂部)に
手刀が落ちた。


「ヴぇるッ!!?」


ズビシ! と人の頭が鳴らしたにしては非常に良い音だった。
舌を噛んだような悲鳴と共に蹲って頭の頂上を押さえる円周を一方通行は特に気に
せず、病理に首を向けて答えを述べた。


「オマエに頼まれたところで、どォしよォもねェよ。こいつは見ての通り“これ”
 だし、こっちが幾ら遠ざけよォと四苦八苦してもぜーンぶ無駄骨に終わっちまう。
 ……なら、もォ道は決まったみてェなモンじゃねェか」

「突き放せなかった義理、又は負い目、ですか?」


「イヤ、突き放せなかったンじゃねェ。“突き放さなかった”ンだ。結局、俺の
 意思がこいつを受け入れちまったって事になンだろォな……。よく分かンねェが、
 他に説明の付けようがねェ」


「ううぅー……。なんで私だけ……叩かれる?」


そうこう喋ってる間にダメージを回復させた円周が涙目のまま、おずおずと抗議
してきた。


「そいつを知りたきゃ、まず“自業自得”って言葉を覚えろ」

「病理おばさんは叩かれてないよね……? これって贔屓? 差別?」

「年功序列の定義に沿っただけだ」

「納得できないよ! ムキー」

「うるせェ喚くな。ストッキングだけじゃなく全身穴だらけにされてェか?」

「ムキー! アクセラお兄ちゃんの鬼! 白い鬼! 真っ白雪景色!!」

「この……っ! 減らず口ばかり叩きやがって! どォやら本格的に躾が必要
 みてェだな」

「あ! また暴力ー!」



「ふふふ、まるで仲の良い兄妹のよう……」


そんな感想をぼそりと零しながら、病理は車椅子を半回転させた。



「では、私はこれで失礼します。一方通行さん? 円周ちゃんを悲しませたら許し
 ませんので、そのつもりで」



そう言い残し、車椅子がゆっくりと二人の傍から離れ、やがて人の群れに遮られて
見えなくなった。



「あーあ、病理おばさん行っちゃった……」

「また近い内に会えるっつってただろ? ……だから、ンな似合わねェ面すンな」


あからさまにテンションの落ちた円周を元気づけるみたいに、一方通行が囁く。
そしてすぐにそっぽを向き、「チッ、俺の方が似合わねェセリフ吐いちまってン
じゃねェか……」などと呟き、杖を鳴らしながら打ち止めたちの待つ服売り場へ
歩を進める。心なしか速めの速度で。

円周はそんな彼の後ろをすぐに追いかける。
寂しそうに見えた表情は、その時既に綻んでいた。


「…………」


そんな彼らを監視するように睨む人物がいた。
謎の人物は無線機のようなものを手に持ち、そっと耳に当てて一言だけ囁いた。


「見つけたぞ。“ヤツ”だ」




  Lesson 4 ~“元”の帰る場所 ~




今日は以上でございます
ここでの病理さんは一方通行と円周を微笑ましく見守るポジということで
一つ解釈してください

>>140
このスレではどうなるかわからないとだけ言っておきます

ご一読ありがとうございました
ではまた

番外個体「ってなワケで、今日からお世話になります!」一方通行「……はァ?」
一方通行「俺が一生オマエの面倒見てやる」番外個体「……うん」
の人かこれは期待大だ

酉で書き込みすいません

やっぱりあなたでしたか!
今作はギャグテイストなのかな?
それともシリアス?

なんにせよ超期待してます!

こんばんは
>>177
話のジャンルには特に拘ってません
好き勝手書いてるだけなので軽い感じで読み流すのが一番かと…

では投下



―――


~ セブンスミスト付近のカフェ ~


番外個体「ミサカの持つ荷物が一番重そうに見えるのは気のせいかな?」

打ち止め「た、多分気のせいじゃないかなー。ってミサカはミサカは目を泳がせ
      ながら否定してみたり」

一方通行「現に一番バカ買いしてたのはオマエだろ? なら当然じゃねェか」

番外個体「あぁ? 代金も持たせずに放置プレイかました野郎が、なにまともな
      意見してるのかにゃーん?」ジロッ

一方通行「だから忘れてたっつってンだろしつけェな……」ウンザリ

円周「早く着てみたいなー」ルンルン♪

一方通行「袋の中を覗き込むなみっともねェ。帰ったら好きなだけ着れンだから
      少しは控えろ。嬉しいのも分かるがよォ……」

円周「アクセラお兄ちゃんは結局何も買わなかったね」



一方通行「特に欲しいものなンて無かったし、俺はあくまで付き添いだ」

番外個体「この人はコーヒーがあれば生きていけるようなヤツだから」

一方通行「イヤ死ぬだろ」

打ち止め(ミサカはアナタがいれば……って言わせんな恥ずかしい///)キャー

一方通行「……? こいつは何ひとりで悶々としてやがンだ?」

円周「ねえ、アクセラお兄ちゃん」

一方通行「ン、何だ?」

円周「私、地下街に行ってみたい」

一方通行「地下街? ……今からか?」

円周「うん」

一方通行「……で、俺に付き合えと?」

円周「……ダメかなあ?」

一方通行「……。ったく、仕方ねェな。これ以上荷物増やすのは正直勘弁なン
      だが……」



円周「大丈夫だよ。買い物したい訳じゃないから」

一方通行「……? じゃあ何だよ?」

円周「行ってからのお楽しみー♪」

一方通行「はァ?」

番外個体「……さて、そんじゃミサカたちはそろそろ行きますか」スクッ

打ち止め「あれ? もうそんな時間? ってミサカはミサカは時計を確認して
      みる」

一方通行「あ? オマエらは来ねェのか?」

打ち止め「うん、実はね……」

番外個体「今日、ミサカたちのお姉様(オリジナル)と会う約束してるんだな
      これが」

一方通行「……は? オイ。そンな話聞いてねェぞ?」

円周「オリジナル……???」

番外個体「そりゃそうだよ言ってないもん。だって、どうせあなたは興味ない
      でしょ?」



一方通行「まァ、確かにな。できれば二度と会いたくはねェ……。で、会って
      何すンだよ?」

番外個体「改めて妹達の司令塔、『最終信号』を紹介しようと思ってね。前に
      チラッと見ただけで詳細は知らないみたいだったし」

打ち止め「挨拶らしい挨拶、まだだったから……。ってミサカはミサカは柄に
      もなく緊張してみたり」ソワソワ

一方通行「…………」

円周(どうしよ、話についていけない……)ポツーン

番外個体「……何か言いたげだね? ミサカたちがオリジナルと馴れ合うのは
      やっぱり気分良くなかったりする?」ニヤニヤ

一方通行「……別に。オマエらの交流にクチを出す気はねェさ」

番外個体「その割には表情が暗いねえ。……自分の武勇伝知られるのがそんな
      にイヤなのかにゃーん?」

一方通行「やっぱ、話すつもりかよ……」チッ

番外個体「そりゃあねえ。最終信号の詳細と現状説明には欠かせないだろうし、
      気を遣って省いてやる、なんてのはミサカの性分じゃないし」



打ち止め「ミサカとしては、アナタとも仲良くして欲しいなぁ。ってミサカは
      ミサカは密かに願ってみたり」

一方通行「ハッ、そりゃあ無理な話だろォな……」

打ち止め「でもでも! ハワイで再会して、肩を並べて一緒に戦ったんだよね?
      ってミサカはミサカは番外個体のお土産話を思い出してみる!」

一方通行「あン時は他に色々と立て込ンでたから、それどころじゃなかったン
      だよ。会話らしい会話もまともにした憶えがねェ。それに、第三位
      が俺に蟠りを抱いてよォとも、解消してやるつもりなンかねェしな」

打ち止め「どうして……?」

一方通行「オマエ達(妹達)とオリジナルじゃ、俺の中での立場が違うンだよ。
      あいつはどっちがっつったら“俺と同じ側”のポジションに立って
      いる人間だ。俺が守る“オマエ達側”じゃなく、俺と同様にオマエ
      達を“守る側”に立ってなきゃおかしいはずなンだ」

番外個体「そもそも、全ての引き金を弾いたのはミサカたちのオリジナル……。
      その後でどんなにおねーたま(オリジナル)が悔し涙を呑む羽目に
      なったとしてもそれは全部自業自得。厳しい見方かもしれないけど、
      全て曲げようのない事実なのだよ? 最終信号」

打ち止め「……」



一方通行「あいつ自身が蒔いた種、とまで言うつもりはねェが、被害者面して
      他に責任を放り投げるってンじゃ、俺みてェなクズと何ら変わりは
      しねェ。今後、オマエ達や“オマエ達を守る側に居る俺の存在”を
      あいつがどォ受け止めるか次第だな」

打ち止め「……! っじゃあ、希望が全くないわけじゃないんだね!? って
      ミサカはミサカは表情をパッと明るくさせて身を乗り出してみたり!」

一方通行「……今言ったろ。どォなるかはオリジナルの意識次第だ。俺の方は
      特に何も拘泥するつもりはねェよ」

打ち止め「よーし! アナタの良い所、オリジナル(お姉さま)の耳にタコが
      できるまで聞かせてやるんだから! ってミサカはミサカは目に光
      を燈してみる!」メラメラ

一方通行「……やめろ。碌な事にならねェ気がする」

番外個体「そこは“光”じゃなくて“炎”が適切じゃね?」

一方通行「オマエもオリジナルに会うのは構わねェが、あンまり余計なことを
      吹き込むンじゃねェぞ? 下手に混乱招いて面倒な事態になるのは
      御免だからな?」

番外個体「わざわざ釘を刺すってことは、一応僅かばかりに負い目は感じてる
      って解釈でオーケー?」



一方通行「ふン、別にィ……。ただ、これ以上の厄介事を極力避けてェだけだ。
      それ以外に他意はねェし、オリジナルが俺にどンな印象を抱こォと
      知ったこっちゃねェしな」プイ

番外個体「はいはいツンデレータ(笑)おつおつ」ワロス

一方通行「……」イラッ

打ち止め「番外個体、時間……」

番外個体「ほいほい、っと……。そんじゃ先に失礼するよ?」

一方通行「チッ、さっさと行きやがれ」シッシッ

円周「ばいばい、またあとでね!」フリフリ

打ち止め「うん! 円周お姉ちゃんにも今度紹介するねってミサ――」

一方通行「余計な約束事してねェでさっさと行けっつってンだろォ!!」ガァー


 アリガトウゴザイマシター


一方通行「――ったく、あの馬鹿共ときたら……」

円周「アクセラお兄ちゃん……」

一方通行「……何だ?」



円周「そろそろ私たちも行こう」ガタッ

一方通行「……ケッ」ガタッ


円周「ふっふふ~ん、ふんふんふふん♪」テクテク

一方通行「……なァ」

円周「ん? なあに?」クルッ

一方通行「…………。イヤ、悪い。何でもねェ」

円周「……? 変なアクセラお兄ちゃん」

一方通行「…………」カツン カツン

     (何考えてンだか……。いや、“俺も”か……。何の事情も知らない、
       知る由もない無関係なヤツの前で話して良い内容じゃねェだろォが)

     (俺がどンな人間なのか、そもそもこいつは知ってンのか? 『木原
       数多』のデータを介して取得する情報は、『記憶』とは全くの別物
       なのか……。本人に聞けば即解決だが、どォしてか躊躇っちまう……)

     (安心、したいのか……? 俺がどれ程の事をしてきたクソ野郎かを
       こいつが知ってる。その確証を得るのを内心で拒ンでるってか?)



     (いや、違うな……! “必要”が無いだけだ! このガキには一切
       関係ねェンだ! 仮に教えたところで一体何に期待しろってンだよ?
       部外者からの客観的な呵責でも望ンでいるのか? ……っ、馬鹿げて
       やがるぜ)

     (ホント、何考えてンだか……。っつか、別にこいつが俺をどォ思おう
       と知った事かよ。感情移入するよォな間柄ですらねェってのに……)


円周「ねえ……アクセラお兄ちゃん」テクテク

一方通行「……ン?」カツン カツン

円周「私、何か悪いことしたのかなあ……?」

一方通行「……は? 急に何言い出すンだ?」

円周「だって、すごく怒ってそうな顔してるから……。あと、少し苦しそう」

一方通行「……そォ見えるか?」

円周「うん、昨日とは比較にならないくらい」

一方通行「そォか……。ガキに看破されてンじゃ世話ねェよな」チッ

円周「……私にできること、何かあるかなー?」クルリ



一方通行「大丈夫だ。一々オマエの手を借りるまでもねェよ。……悪かったな。
      くだらねェ心配させちまって」

円周「無理してるのかなあ? ……やっぱり私が迷惑掛けてるから」

一方通行「肯定してやりたいが、残念ながら全くの的外れだ。っつか、今さら
      そこに考えが行き着くのかよ? それもこのタイミングで? なら
      最初からそォ考慮した上で行動しやがれってンだ」

     (おいおい反則じゃねェかよ……。今そンな風に思わせちまったら、
       全力で否定するしかねェじゃねェか)

円周「よかったー。アクセラお兄ちゃんに嫌われちゃったかって思ったら……」

一方通行「馬鹿が……。つくづくオマエは見当違いなクソガキだな」

円周「……」ジー

一方通行「ン……、どォした?」

円周「少しだけ、苦痛が取れたみたいな顔になったね!」

一方通行「ケッ、どっかの手間の掛かるお子様のお陰で、な」

     (このガキに監禁されてた場所を聞くのが一番手っ取り早い……。
       だが……)チラッ



円周「~~♪」


一方通行(そいつも不要なのが良く分かった。俺がこいつの人生を縛り付け
      たヤツを叩き潰してやると伝えても、こいつは多分喜びはしねェ。
      ……イヤ、それ以前にこいつは監禁された事を根に持っちゃいない)

     (正確に言えば“恨めない”……。何故ならこいつの生活環境で
       そいつを学べなかったからだ。憎悪や歓喜といった感情は、他の
       人間や外に関わる事で形成され、成長の糧になるのが条理。物心
       ついた頃からそォいう機会とは無縁の生活を過ごしてきたのなら、
       誰かを憎ンだり心の底から感謝したり……そンな普通に生きれば
       身に付いている“当たり前”がこいつにはねェンだ)

     (例えば“ありがとう”って言葉も、こいつの場合まるで『人に
       何か良い事をされたら取り敢えずそう言っておけ』と命令されて
       言わされているよォな感じだった……。こいつ自身に感謝の概念
       が存在してないなら、それも頷ける。つまり、俺が最低な育ての
       親をどォ始末しようが、こいつは喜びもしねェし悲しみもしねェ
       事になる……。俺の見方に間違いが無ければ、だが……)

     (チッ……。だとしたら、是が非でもこいつに悟られるワケには
       いかねェよな。“何も感じない”くらいなら、“何も知らない”
       方がまだ酷じゃねェはずだ。……一応、最終確認だけ済ませるか)


一方通行「……オイ、ひとつだけ聞かせろ」

円周「んー、なあに?」



一方通行「オマエは今、後悔とかはしてねェのか?」

円周「……どういうこと?」

一方通行「訊き方が悪かったな……。オマエから自由を奪っていたヤツを、
      殺したいほど憎ンでるか?」

円周「うーん、暗い所にずっと居るのは嫌だった。あそこに居る間に考えて
    いたのはそのぐらいかなあ……。誰が私をあそこに閉じ込めたかとか、
    あまり考えたことないかも」

一方通行「その閉じ込めた本人がもしオマエの前に現れたら、どォする?」

円周「…………暗い部屋にまた戻るのはやっぱり嫌だから、逃げるよ多分。
    あ、でもそれじゃ『木原』として失格だから、逃げずに立ち向かう。
    うん、そうするよ」

一方通行「そォか……」

円周「どうして急にそんなこと訊いたの?」

一方通行「深い意味はねェ。気にするな」

     (やっぱり……な)



     (こいつに復讐や惆悵の概念が無い事はこれで確定した……)

     (こいつ自身が望めなくなったとは言え、それは全て作為的な
       ものだ。決して許されるモンじゃねェ。憎ンで当然の境遇を、
       憎めない様にされた……)チラリ


円周「あーくせる~、せ~ろりーた~♪」ルンルン


一方通行(それはこれからこいつ自身が学ンでいけば良い。俺にできる事
      っつったら、せめてマシな環境でこいつがこの先を生きていける
      様、手を貸してやるくらいか……)

円周「ねえ、アクセラお兄ちゃん」

一方通行「……何だ?」

円周「今ね、すごく不思議な感じ」

一方通行「あン? まァた脈絡のねェ事を突拍子もなく……」

円周「あなたが新しいお洋服を私に買ってくれた。……すごく嬉しい。けど」

一方通行「……?」



円周「こういう時、“ありがとう”で良いんだよね? それだけなのに……
    なんか、良く分からない気持ちになるんだ。……嬉しくて、あなたに
    それを伝えたいけど、伝え方が全然分からなくてもどかしいの……」

一方通行「……」

円周「これ、何なのかなあ……?」


一方通行「ハッ、簡単だ。――そいつの正体は“感謝”っつーンだよ」


円周「!」

一方通行「人に助けられたり、自分に対して真摯になってくれたり……状況
      は様々だが、他人に向ける感情の中では最も基本的なモンだ。ただ
      機械みたいに言葉だけ並べれば良いってモンじゃねェ。俺に抱いた
      その感情は絶対に忘れるンじゃねェぞ? 他のヤツにも向けられる
      よォにな……」

円周「……これが、『感謝』……」

一方通行「あァ。その気持ちを隠そォとせず、表に出せ。“教わった言葉”
      と一緒にな」



円周「……うんっ! ありがとうね! アクセラお兄ちゃん!」


一方通行「……ふン、どォいたしまして」


円周「! ……あはっ♪」パァァ


一方通行(そォそォ、やりゃあできンじゃねェか……。ったく、探し物でも
      見つけたみたいな面しやがって……。眩しくて見れたモンじゃねェ。
      幼稚園の先生にでもなった気分だぜ。クソったれが……)フッ


円周「……♪」ギュッ

一方通行「うお!? ……だからオマエ、急に腕にしがみ付くなっつってン
      だろォがよ。一緒に地面を転がりたいのか? オイ」

円周「ふっふふーんふっふふーん♪」

一方通行「あァもォ耳に入ってねェし。俺の声遮断してやがるし。俺の反射
      も真っ青だなァオマエのスルーっぷりは、ったくよォ……」



円周「るーんるんらーるんるんらー♪」ブンブン

一方通行「オマ、俺の腕掴んだままテメェの腕ェ振り回してンじゃねェよ!
      痛ェよ! ちょ、マジで痛ェからァ!! 肩! 肩外れる!!」ミシミシッ

円周「ねえ、アクセラお兄ちゃん」ピタッ

一方通行「ン……?」フー…

円周「私、もっと色んなことを学びたいな。今までこんな気持ち感じた経験
    なんてなかったし、本気で怒ったり泣いたりするのも、まだ良く分から
    ないんだー。……そういうのも、理解できるようになるのかなあ?」

一方通行「……、あァ。これから少しずつ覚えていきゃあ良い。焦らないで、
      ゆっくり進ンでいけば良いンだよ。取り返しが利かねェなンて事は
      ねェンだ。色々な経験を重ねてオマエ自身が成長すれば、いずれは
      自己を確立できる時が必ず来るさ」

円周「うん……。楽しみだな。……けど」

一方通行「そこで少しでも不安を感じてるンなら、まだまだオマエは手遅れ
      なンかじゃねェよ。今までずっと独りだったかどォかは知らねェが、
      少なくとも“今”は独りじゃねェ」

円周「アクセラお兄ちゃんがいる……から?」

一方通行「俺だけじゃない。昨日知り合ったばかりでも快くオマエを受け入
      れたあの物好き共だって、いざとなったらオマエのチカラになって
      くれるはずだ。……そいつは保障してやる」



円周「……」ジー

一方通行「ンな物足りなさそォな目で見なくても、既に俺はオマエのお目付
      け役みてェな流れになっちまってるっつの……。ったく、俺にこォ
      いうのが向いてねェ事ぐらい、普通分かるだろォに……」ブツブツ

円周「えっ?」

一方通行「……何でもねェよ。チッ、柄にもねェこと言っちまったな……。
      オラ、とっとと目的ってのを済ませて帰るぞ」カツン カツン

円周「はーい」トコ トコ


打ち止めの特等席だったそこは今、彼女が独占している。
その少女と出会い、過ごした時間はまだ浅く短い。
だが不思議なことに一方通行は、そこに確かな安らぎと温かさを感じていた。
懊悩していたのが阿呆らしく思える程の衝撃を常に届けてくれるこの少女に。

何の贔屓も偏見も区別もせず、自分の隣を歩いてくれるこの変テコな少女に――。


   


   ――木原円周は『人に対する感謝の気持ち』を習得しました。







今回はここまでです
こんな感じで円周を少しずつ育成し、一方通行の手によって失われた時間を取り戻して
いくというコンセプトとなります
いずれ打ち止めや番外個体とぶつかると思いますが、修羅場が嫌いな方はごめんなさい

ではまた

>>211
この改行があるから見やすいんだろうよ
改行ないとすごい見にくいぞ

俺はこのままがいい

>>212
>一方通行「ンな物足りなさそォな目で見なくても、既に俺はオマエのお目付
>      け役みてェな流れになっちまってるっつの……。ったく、俺にこォ
>     いうのが向いてねェ事ぐらい、普通分かるだろォに……」ブツブツ

これとか

一方通行「ンな物足りなさそォな目で見なくても、既に俺はオマエのお目付け役みてェな流れになっちまってるっつの……。
      ったく、俺にこォいうのが向いてねェ事ぐらい、普通分かるだろォに……」ブツブツ

これでいい気がするんだが

うん、正直すまんかった…
これは書き方が悪かったですね
「被害者面して丸投げするつもりなら俺と同類のクズ野郎」的な意味で解釈してくれたら幸いです
上手い表現ができなくて本当に申し訳ない

>>213
ご意見ありがとうございます
少しでも読みやすくなればと参考にさせていただきます

あ、修羅場にはさほど期待しない方が良いです
完全にギャグなのでw
では続き投下します

台本だったり地の文だったりで安定しませんが、ご容赦くださいp



「るーんるんるんるーんるーん♪」


もう数分も歩けば地下街に続く入り口に差し掛かる。
案内板表示でそれを確認してから更にご機嫌の円周。
こういう一面が最も木原らしくないのだろう。そんな風に思いながら軽やか
な足取りで前を歩く円周を見つめる一方通行。


「ンで、地下街に行って何がしたいンだ? オマエ」

「制覇したい! もう行ってないトコなんて無いってぐらいに」

「……要はツアー感覚か。そこまで浮世離れした所でもねェと思うが?」

「えー? 行った事ない場所に行くのは楽しいよ?」

「あァーそォかい。そりゃさぞ大層な趣味をお持ちで……。やれやれ」


まるで旅行に出発するかのようなハシャギ振りに呆れるところだが、彼女の
境遇からすれば分からなくもない心理である。
そのせいか、一方通行も浮かれている彼女を強い口調で叱る気分にはなれな
かった。

何年も外に出れない生活を強いられてきた少女。多少の我がままも許容して
やるべきだろう。



これから作り、築いていくであろう思い出。
せめて明るく笑えるような将来を彼女が歩んでいけるよう、願ってみるのも
悪くはないかもしれない。

そんな不思議な心境の変化に一方通行はやや戸惑いつつも薄ら笑みを浮かべ、
円周の後にゆったりと続いた。


(こいつも、そォいう意味じゃ『被害者』なのかもな……。打ち止めや番外
  個体、そして他のクローン達とはまた違う。自分の意思だけじゃどォしよォ
  もない、“運命”ってヤツの『被害者』……)


彼は思う。
木原円周を“妹達”、特に打ち止めと何処か重ねた目で見てしまっている事
について。

無意識の内に、初対面の段階で木原円周からそういう“匂い”のようなもの
を察知していたのだろうか。だから彼女の融通無碍を文句を垂れつつも拒み
きれなかったのだろうか。

今思うと、何となくそんな気がしていた。


(チッ……得体の知れねェガキだと思ってたが、実は似たよォなヤツが身近
 に居たンじゃねェか。つまり、そォいう事だろ? 俺は、あのガキを――)




――放っておけなかった。見捨てるのをためらってしまった。

それが、本心。


(今頃自覚するとは……。ハッ、自分の間抜け具合に笑えてくるぜ。ダメだ
 よなァ、こンなンじゃ。鈍感ヒーローだなンて俺の定位置じゃねェってのに)


ふふ、くすっ。

思わず自嘲的な笑みが零れてしまう。

そんな彼の様子をキョトンとした目で振り返った円周。

伏せていた顔を上げ、ふっと瞼を開けて彼女の方を見た――瞬間だった。


「……ッ!?」


明らかに円周を凝視する謎の影が、一方通行の視界に映っていた。
すぐさま不穏な空気を探知した一方通行の対応は早い。


「アクセラお兄ちゃん、どうし――!?」




一方通行と円周の間には十メートル程の距離が開いていた。それこそが最大
の汚点だった。
一方通行が異変に気づいた時、こちらを向いている円周の背後には既に影が
迫り、地獄へ連れ戻す悪魔のような腕が伸ばされていたのだから。


「チィ……ッ!!」


買い物袋を放り、伸縮式杖を畳むより投げ捨て、電極に手を伸ばす。

この動作を全て終える前に、木原円周は相手の手中に収められた。


「――んぐっ……!?」


口に布のような物を当てられ、呻く円周の瞳に飛び込んだのは――、
一方通行の背後に立ち、バットのような金属物を振り被るもう一人の姿。

円周を捕らえた人物によって完全に生まれた隙。


「が……ッ!!」


そこを上手く突かれたと知った時、頭部に激しいショックを受けていた。


「――ッ!!」



襲撃者の仲間に背後から頭を殴られ、地面に倒れる一方通行を瞳に映し、
愕然とする円周。
そして、地に伏したまま動かない一方通行に駆け寄ろうと暴れもがくが、
鼻と口に当てられた布の匂いを吸っている内に意識が混濁し、やがて何
も考えられなくなり、ガクリと脱力した。

薬を嗅がされて意識を失った円周を手際よく担ぎ上げ、一方通行を襲っ
た人物と共に走り去る人物。どうやら一般人の成人男性のようだ。

何の能力も異質なチカラも持たない人間、それもたかが二名。

近場に停めてあった車に円周を放り入れ、速やかに逃走するワゴン。

朦朧とした意識でその光景を眺めている内に、一方通行の胸中で何かが
ゾクリ、とざわめいた。


「……ッ、……っは」


彼らはおそらくプロではない。
故に『裏世界の人間』特有の鼻をつまむような匂いを感じない。
下手をすれば今までに数え切れないほど撃退してきたスキルアウト並の
レベルかもしれない。

それによる些細な油断。
ほんの僅かな気の緩み。




過ぎた後となっては全てただの言い訳で収まってしまう。

しかし、自責に溺れている暇などない。
自身の愚かさ、驕りを嘆いている場合ではない。

今、何をすべきか――。

「…………」

脳から送られる強い叱責と命令に突き動かされるように、明滅していた
意識が覚醒していく。
胸のざわめきが止み、入れ替わるように芽生えるは――、

「……!」

彼女を救い出すという固い決意。

「っ!!」

すでに最強の能力は降臨している。
あとは、そのチカラで――、


「……クソ……ったれ、がァ……ッ!!!」


彼女を奪い返すだけだった。




―――


~ 学び舎の園(常盤台中学付近の洒落たカフェ) ~


番外個体「しっかしまあ……、どこもかしこも“華やかなのが売りです”
      って自己PR欄にでも書いてそうな景色だねえ。ほら見てみろよ。
      あそこのお嬢様なんて扇子とか携帯してるぜ。御伽噺とかでし
      か見たことねーよ」ケラケラ

打ち止め「すごいねえ……。何だかこの敷地内じゃ粗相厳禁な使命感に
      囚われてそう。ってミサカはミサカは変装用の帽子の隙間から
      チラチラと観察してみたり」ソワソワ

番外個体「そわそわしすぎだって。折角良いトコ出のお嬢様気分で優雅
      なひと時を過ごしてるっていうのに、まるで張り込み中の探偵
      みたいじゃん」クイッ

打ち止め「ちょ、番外個体ー! サングラス上げちゃダメだよ! ここ
      はミサカたちのオリジナル(お姉さま)の箱庭(テリトリー)
      なんだから! 堂々と素顔を晒して歩ける場じゃないんだよ!
      ってミサカはミサカは注意してみる」

番外個体「ちょっとぐらいいーじゃん♪ どーせこのミサカやおちびは
      肉体年齢がおねーたまと同一じゃあないんだし。もし関係性を
      指摘されても『身内です』の一言で片付くよん」

打ち止め「お姉さまに怒られるよ?」



番外個体「ぎゃはは☆ 上等上等。こんな不相応な所で待ちぼうけ喰ら
      ってるんだから、ちったぁ反逆の意を示さないとね。あなたも
      良くご存知だろうけど、ミサカは相手の思い通りに事を運ぶの
      が最も嫌いなんだよ」ウケケ

打ち止め「……ハワイじゃ完全に手玉に取ってたもんね。あれで繊細な
      面もあるんだから、あんまりからかっちゃあ可哀相だよ。って
      ミサカはミサカは咎めてみる」

番外個体「繊細、だあ? ぐひゃひゃひゃひゃ!! いい? 最終信号。
      あれは精神も肉体も未成熟なガキ、所謂思春期って言うんだよ。
      第二次成長真っ盛り。反抗期真っ只中。おまけに正式な病名で
      有名な中二だぜ? オリジナルだか何だか知らないけど、ミサカ
      と対等に渡り合うにはあらゆる要素が不足状態ってヤツよ」ギャハハ


??「……」


打ち止め「あ……。ってミサカはミサカはしーらない」

番外個体「おいおい、なあに目線を明後日の方へ……?」クルリ


??「人が居ない間に散々分析してくれてどうもどうも。……まともに
    挨拶もさせない主義かお・ま・え・はぁぁぁ!!」ピキピキ



 御坂美琴――学園都市第三位の超能力者、最高位の『電撃使い』。
         『妹達』のオリジナル。


番外個体「あらん、おねーたま☆ 居たのなら御声を掛けてくだされば
      よろしいのに。本日はお日柄も良く――」

御坂「場所に似合った振り方は結構だけど、あいにく違和感と悪寒しか
    伝達されて来ないわね。っていうか悪意が全然隠しきれてないし」

打ち止め「わあ、お姉さまだ! 久しぶりー! ミサカのこと憶えてる?
      ってミサカはミサカは再会を喜んでみたり!」

御坂「……アンタが妹達のホスト的ポジション、最終信号ね。けどまさか、
    地下街での一件が伏線だなんて考えもしなかったわ。やけに小さい
    私がいたなー、ぐらいにしか意識してなかったし……。妹達にとって
    そんな重要な存在だなんて想像すらできないっつーの」

打ち止め「まともに挨拶もできなかったしね。どこかのしつこくてケチな
      下位個体のせいで。ってミサカはミサカは折角の機会が流れて
      しまった事を悔やんでみたり」

御坂「会ったってよりかは遭遇、それも速やかに退場してっちゃったもん。
    言及しようにもタイミングなんて計り様が無かったからさ、改めて
    よろしくね」スッ

打ち止め「こ、こちらこそ不束者ですが! ってミサカはミサカは緊張し
      つつ握手に応じてみたり……。えへへ♪」ギュッ



番外個体「……ねえ」

御坂「な、何よ?」

番外個体「妹達の首領とオリジナルの正式対面をセッティングした、この
      ミサカとは? まだ気分晴れやかな挨拶とかした憶えないよ?」ジト…

御坂「する前に怒りを仰いで台無しにしたのは何処のどいつよ? んー?」ジー

打ち止め「ちょ、ミサカ同士で喧嘩は……」オロオロ

番外個体「はっはは♪ 心配すんなよおちび。お子様の戯言に付き合って
      やってるだけさね」

御坂「ゼロ歳児が何をのたまってやがるか!!」バチッ

番外個体「おーおー、相変わらず血の気が多いこと。十四年も先に生まれ
      てる割りに、精神的な成長過程でこのミサカの優位に立ててない
      ってのはこれ如何に?」

御坂「アンタはそんな過程をズルして飛び越えたような存在でしょうが!!」ムキー

打ち止め「ま、まぁまぁ。番外個体は“あの人”が絡まないんじゃただの
      憎まれ口レベルなんだから、そう目くじら立てないであげてよ。
      ってミサカはミサカは仲裁に回ってみる」




御坂「あの人、ねぇ……。その辺の詳しい事情は全然知らないんだけど」

番外個体「おや、聞きたい? だが残念。情報を取得するには何かしらの
      代償ってのが必要なのだよ? 基本的すぎて口に出すのも恥ずか
      しいけどね☆」

御坂「……何が望みよ?」

番外個体「んー、とは宣告したものの……おねーたまに有ってミサカには
      無い、尚且つミサカが欲しいって思えるほどの魅惑的な条件は……
      特にねーな。ってなワケで出直してらっしゃい♪」

御坂「しまいにゃ本気でアンタを敵と看做すわよ?」バチバチ

番外個体「ま、そんな冗談も通じないおねーたまに譲歩するとして、そー
      だなあ……。“学園都市に戻った理由”の供述ってことで、手を
      打ちましょーかねえ」

御坂「何よ“理由”って……?」

番外個体「てっきり重くて潰れちゃいそうな恋愛街道を突っ走ってるのか
      と思いきや、案外あっさり振り切られちゃってんじゃん。あの人
      に聞いたけど、あの“実験を一時的に停滞させてくれたヒーロー様”
      は結局帰ってきてないらしいしね」

御坂「…………ッ」ググッ

打ち止め「…………」



番外個体「ミサカたちはそこら辺に一切干渉せずに帰っちゃったから、さー
      っぱりなんだよね。っつー事で、“ヒーロー様”とのエピソードを
      いっちょミサカたちの前で惚気てみてちょーだいな」

御坂「……んなの聞いてどうすんのよ?」

番外個体「冷やかす♪」

御坂「この悪趣味娘が……。マジでアンタの性格矯正できないか、クローン
    の生産に関わってる研究施設に掛け合ってみようかしら……!」

番外個体「面白い話だったら対価として“最終信号の出生秘話”に漏れなく
      “ある悪党のアフターストーリー”もセットで付けちゃうよん?」ニマー

御坂「…………」

打ち止め(大丈夫かな……。番外個体の事だから話を面白おかしく捏造しか
      ねないかも。ってミサカはミサカは危惧してみる。……あ、その時
      はミサカが訂正してあげればいっか)


番外個体「ありゃりゃー? ひょっとして真実を知る事に怖じ気づいちゃったの
      かにゃーん?」ニタニタ


御坂「上等じゃない! 乗ってやるわよ小娘が!!」ガタン!



―――


「……、止まったか」


第七学区を走るタクシーの後部座席に一方通行はいた。
その目つきは、嘗て暗部組織(グループ)に所属していた頃を思い出させるほど
に鋭く、一切の甘えも感じられない。
それほどに事態は緊迫しているのだ。

遡ること十数分前。木原円周と人気の薄い通りを差し掛かった際、事件は起きた。
前触れもない奇襲。
浮かれた調子で前を走っていた円周を背後から襲う謎の男。
それに注意を奪われ、自分の後ろにも危険が迫っている事に気づかなかった。

今思い返せば何とも彼らしくない失態だ。

不意打ちを受けて意識を手放しかけるが、辛くも能力行使によって深刻なダメージ
は回避できた。
だが、そうこうしている内に円周は連れ去られてしまっていた。

彼女を連れ去った複数の人間。
少なくとも二人以上。
いや、車を予め用意していたのなら車内で待機している仲間もいるはずだ。つまり
三人以上という事になる。
ヒートアップした頭をまずはクールダウンさせ、冷静に状況を整理する。
同時にこの後の動き方も思慮する。



まだ相手側の正体や狙いが明らかとなっていない。
普通なら『“彼女を幼少期から監禁していた”者たち、もしくはその関係者が彼女
を連れ戻すために強引な手段に出た』と考えるのが最も妥当だが、まだその確信は
定かではない。もしかしたら、『木原』の名に付け込もうと策略する別組織部隊の
可能性も捨てきれない。

だから、まずは襲撃者たちの巣窟(アジト)をつきとめるのが先決だ。
わざわざ誘拐した以上、殺される危険性はおそらく無い。そうでなければあの場で
殺しているはずだ。

そのためにはすぐに車を能力全開で追い駆けるわけにもいかない。
もしアジトにも仲間がいるとしたら、襲撃者を潰してもまた新手が来るだろう。
なら一度にまとめて叩いた方が後々楽だ。

問題は、どうやって逃走した奴らに気づかれないようにアジトをつきとめるか。
車のナンバーや特徴も虚ろな視力で断片的にしか収めていないし、似たような車は
街中に腐るほどある。

そこで思い出したのが、円周の所持していた『三つの携帯端末機』だ。
あの三つの中に発信機のようなシステムが組み込まれた機種(タイプ)が一つでも
あれば、車を捜す必要もなくなる。

特定の電波をキャッチするには少々の労力が伴われるが、そこは『第一位』である。
逃走した方角、推定距離、そして移動速度。検索するには充分だった。



やがて、円周が首からぶら提げていた携帯端末から発していると思われる電気信号
をキャッチし、すぐさまタクシーを拾って現在に至るという訳だ。

移動手段がタクシーなのは、自力での移動だと脳の負担が大きいためである。
万一にも電波を見失う事態は避けたい。
移動中も集中し、彼女の足跡を絶えず受信し続け、特定の位置で停滞するまで辛抱
しなければならない。

多大な電波の飛び交う学園都市内で一つの信号だけを観測するというのは、思って
いたよりも神経を使う。第三位みたいな『電気系統の専門家』なら話は別かもしれ
ないが……。


(第十学区か。……あそこには特に有名な研究施設なンて無かったはずだが……)


円周の現在地から推測するに、研究関連の線は薄い。
となると、


(暗部の残党……はないと思うが、それに近い連中があのガキを使って何かを企ンで
 いる……? それとも、やっぱりあいつが脱走したっていう所のヤツか……。居場所
 が割れたのは、多分あの携帯端末……。っつか、発信機が付いていた時点でそれ以外
 ねェだろォな)



能力使用を停止し、通常モードに切り替える。
やはり詳しい事情はこれから直接聞き出す他になさそうだ。


(……! そォだ、あいつらは……?)


ふと、途中で別れた番外個体たちが気に掛かった。


(奴らの調査結果なンざ知る由もねェが、狙われる可能性が無いとは言い切れない……)


指でボタンを操作し、番外個体の携帯電話に発信する。
すぐに彼女は出た。


『なーに? 今取り込み中なんですけどー? 姉妹水入らずのお茶会に干渉するなんて、
 ち-っとデリカシーに欠けるんじゃなーい?』


普段と何ら変わらない調子の番外個体に安堵し、そちらで変わった事は起きていないか
訊ねる。


『んん? 特にないけど、どうして? 何かあった?』



「イヤ、別にそォいう訳じゃねェが……」

『またまた狷介なフリしちゃって☆ 素直に“ミサカたちがそんな会話してるのか気に
 なった”って言えば良いじゃん』


状況が状況なだけに、耳に入るからかい風味の笑い声が耳障りだった。
無事が確認できた以上、無駄話はしないでとっとと切るに限る。


「……まァ、そォ解釈したきゃ勝手にしてろ」

『お? 認めた!? 認めやがったよギャハハ! だよねー。タイミング的にそうじゃ
 なきゃ説明つかないもんねー♪』

「あァー、うるせェ。とにかく、まだ打ち止めやオリジナルと一緒なンだな?」

『まあねん♪ ほんじゃ、いっちょオリジナル(おねーたま)に代わ――』


言い終わる前にピッと通話を切り、携帯電話をポケットにしまう。
円周が何者かに攫われた事を彼女達に知らせる必要はない。


(どォやら杞憂に終わったらしいな……。だがまァ、後から刺客を送られたとしても、
 第三位が一緒ならとりあえず心配ねェか。第二位不在の今となっちゃ、実質あいつが
 俺の次点って事になるワケだし……)


頻繁に鳴る番外個体からの折り返し着信はガン無視で運転手に行き先の指示を続けた。



(に、しても……)

(木原円周……か。昨日知り合ったばかりの他人に、俺は何でここまで世話を焼いて
 ンのか……。未だにその答えが見つからねェ)

(……だが、この感覚や衝動には……やけに憶えがある……)

(そォだ、これは――)


 って、ミサカはミサカは――


(……! なるほどねェ。そォいう事かよ)

(結局俺は、また同じ事を繰り返そォとしてるのかも……しンねェな)

(……学習が足りないのは、結局俺も一緒だったってか。ククッ、これじゃあのガキ
 に偉そォな事言えねェじゃねェか……。笑い話にもなンねェぜ)


(ホント、救いがねェよなァ。俺って奴は……)


自分を見つめ直し、再認識する。
それと同時に気持ちを切り替える。彼女を取り戻す事だけに集中する時間が来た。
連れ去られた少女まであと少し。脳に留めておいたレーダーがそう表示していた。



最初の壁に差し掛かった所で切ります
今週中にもう一回投下できたらします

ではまた

もっともな指摘ありがとうございます
一応答えますね

病理さんは『木原』! 以上!

え? 答えになってない? 気のせiuehdnxlksmk

さて、一方さんが心配との声が上がっておりますが、ここの一方さんは大丈夫! ……なハズ



―――


「今度こそ、逃がす訳にはいかない……!」


覆す意思ゼロの言葉と共に、木原円周は牢獄のような薄暗い部屋へ放り込まれる。
脱走した彼女を反省させるためか、手足には頑丈な拘束具が装着され、“自然の空間
から科学も学べない様”目隠しまでされた。そんな状態のまま外界と隔離されたよう
な一室の中央に投げ捨てられた後、唯一の出口である扉が閉ざされてしまう。

次の瞬間訪れたのは、完全な“無”。
真っ暗闇の世界。出口など見えるはずもない。
仮に見えたとしても、厳重に施錠されていてはどうしようもない。

彼らが円周にここまでするのには、二つほど理由がある。

一つは、彼女の脱走時に食事係だった仲間が殺されたから。
そしてもう一つは――、


「……考えが甘かった。やはり、どう足掻いたところで『木原』は『木原』だった
  わけだ……」

「趣旨は変わるが、この際止むを得ないだろう。死者まで出してしまったのだから、
 どの道もう後戻りはできんさ」



「覚悟は決まっている。このままあの“危険因子”を世に出して放置など……、
 想像しただけで末恐ろしい。そうなってしまっては、俺たちのこれまでの歳月が
 丸々無駄になる……」

「とにかく、二十四時間交代制で監視するしかない。奴も次第に学習するだろう。
 今度逃したら、二度とチャンスは来ないと思え」

「食事を運ぶ際は特に注意が必要だな」

「……そうだな。相手は猛獣と大差ない事を再確認できただけでも収穫か」


木原円周を収監できた安堵感漂う中、スーツや白衣姿の男性計六人が会議室のよう
な部屋で彼女の処遇を検討し合う。
『木原』の危険度を改めて思い知った彼らは、もう二度と彼女を外へ逃がさない為
にあらゆる対策を講じるだろう。

もはやそれは“正義”などではなく、『木原一族』に抱く“怯え”。
このまま身体だけが成長し、様々な応用力を今以上に取得してしまったら……。
最初の犠牲役を蒙るのは間違いなく自分たちである。

『木原』の一部を封じる事で自己満足に浸り、『木原』による犠牲が一つでも減ら
せる将来に僅かばかり抱いていた希望が不安と恐怖に塗り潰されていた。

元々大した計画もなく行っていた故に、引き際や限度なども考えていなかった。
当初は『木原一族』に私怨を抱く者同士の寄せ集め。絆など存在していないし、
頭のキレる人員がいた訳でもなかった。



脱走されるとは夢にも描いていなかったし、できるとも思ってなかった。

故に仲間の亡骸以外全て消えていた収監室に踏み込んだ時の驚きは尋常ではない。
不測の事態に慌てふためき、これまでの時間が全て徒労に終わってしまうという
危機感に見舞われ、円周のスマートフォンには位置特定機能が備わっている事に
気づくまで相当の期間と労力を消費してしまったのだ。

要するに、こいつらは馬鹿の集まりである。
路地裏に蔓延るスキルアウトの方がまだマシなくらいの。
それが逆に学園都市第一位の目を欺けるに至ったのだから、皮肉な話だ。
眼中にも入らない程度の一般人が超能力者である自分を突然襲撃するなど、まず
有り得ない。その心理を結果的に巧く突いたのだった。

無論、意図的にではない。偶然、まぐれ、奇跡である。
そもそも彼らは木原円周と一緒に居たのが『一方通行』である事実にすらも気づ
いていない。調査不足以前に、“一刻も早く木原円周を連れ戻さねば!”という
気持ちだけが率先された彼らに、そこまで注意を払う余裕などなかった。

これがとんでもない誤算である事に未だ気づかないのは、ある意味幸せなのかも
しれない。

しかし、『木原』以上の脅威がすぐ間近にまで迫っている事を知らないのは不幸
と呼ぶに値するだろう。


「――!」



正面入り口で謎の轟音が聞こえた。
全員の顔に緊張が走り、何事かと椅子から立ち上がる。
ロック付きのゲートが破壊されたのか、歪な形に捻じ曲がった金属板が何種類か
の部品と共に通路から飛ばされてきた。

部屋から入り口と繋がっている通路に躍り出た“正義を名乗る”男性たち。
外へは硝煙が立ち込めていて出られそうになかった。

予想外の事態に動揺する中、工作員風の衣装に身を包んだ一人が円周を収容して
いる部屋の様子を見に走る。
残った者全員が不似合いな武器を手に取り、身構える。

何者かの襲撃を受けている現状を理解し、頭を切り替えた。

襲撃の理由はほぼ確定的である。

奥の一室に幽閉した少女、それ以外に考えられない。
同時に襲撃者の可能性も絞れてきた。

このタイミングで我々を訪ねる者がいたとしたら、それはおそらく――、


「――オイオイ、何だってンだ? この無用心な設計はァ……。こンな脆い造り
    の屋敷じゃあ、ロック(鍵)の意味がまるでねェだろォがよォ。っつーか、
    そもそも何だここは? 警備員が昔潰して廃墟同然になった研究所の跡地
    か何かか? 確かに“目立たない”よォに心掛けるには場所的に悪くねェ
    かもしれねェが、逆に“今”みてェな具合で居所を割り出されちまったら
    一発で壊滅だよなァ」



煙が薄れ、薄暗い通路から呆れたような声が聴こえてきた。
そして声が大きくなるに連れて、ぼんやり浮かんでいた白い人影の全貌が視認でき
るようになった。


「な、に……!?」


それは紛れもなく、木原円周の横にいたあの少年だった。
白い頭髪に紅い瞳。特徴的な容姿なので一度見てしまえば忘れる方が難しい。


「――ンで、オマエらが例の“監禁魔”さン御一行って事でオーケー?」


姿を現した白い少年、一方通行が不敵な笑みを浮かべて問い掛けた。
武器を構えた数人構成の監禁魔たちはこの少年が只者ではないと本能で悟る。
鉄の扉を吹き飛ばすにしてはあまりにも華奢な体つき。高位の能力者なのは確定的
に明らかである。

それでも、せっかく取り戻した危険因子をみすみす奪還される訳にはいかない。
男性たちは精一杯の虚勢を振り絞る。幸い相手はたった一人。
数人掛かりで何とかできるだろう、と淡い希望を抱き、一方通行を威圧する。


「……礼儀知らずの小僧が。ここに何の用だ?」

「言わなきゃ分かンねェか? 木原のガキを引き取りに来てやった。ここに居るの
 は知ってンだよ」



「何の事だ? そんな子供など、俺たちは知らない……」

「そンな嘘を通し切れると本気で思ってンのか? ……やっぱりな。思った通りだ」

「……?」

「自分のしでかした事の大きさにすら気づけてねェ、無能者の集まりだったわけだ。
 ハッ、こりゃ拍子抜けどころの騒ぎじゃねェ。幻滅すぎて鼻血も出やしねェな」


嘲笑うような一方通行の言葉にその場に居た彼以外の全員が憤慨する。


「なんだと……!?」

「何様のつもりか知らないが、ここまで来た以上生きて帰れると思うな……!!」

「ほらな。こンな挑発にさえあっさり乗っちまう時点で、オマエらの程度は完全に
 知れてる。……観念してあのガキを渡せば、息の根までは止めねェが、どォする?」


「……馬鹿が!!」


サバイバルナイフを携えた白衣の青年が動く。
切っ先を真っ直ぐ一方通行に向けたまま一気に距離を詰め、刃を腹に突き刺さんと
腕を振るう。



それが合図、とばかりに一方通行の表情が歪んだ。
問答無用で来る敵に遠慮してやるほど優しくはない。

ナイフを持った右腕ごとひしゃげ、悲鳴を上げて転がる白衣の青年を目の当たりに
した残りの面々は“殺らなければ殺られる”という恐怖に駆られ、パニックに陥る。

その結果。
いい大人が子供のように喚き声を撒き散らし、一方通行に真っ向から飛び掛かった。
策も何もない、苦し紛れの愚行。
そんな様にどこか哀れみすら感じる。


「……はァ」


一方通行は笑うのを止め、その代わりに同情でもするかのような視線を送った。


「……何つーかよォ、これほど味気のねェ楽勝ぶりだと、却って興醒めだよな」


ポリポリと頭を掻きながら、無様に転がっている大人数人を見下ろす。
振り下ろされた凶器を『反射』で弾き返しただけで決着がついてしまった。
こんな脆弱者の分際で『木原』に抗おうとしたのか。何とも惨めな話だ。

スーツを着た一人は足が竦んで動き出せなかったのか、手にした金属棒をカランと
床に落とし、更に腰を抜かしててガチガチと歯を鳴らしている。
大人四人を一瞬で行動不能にしたこの少年に、心の底から恐怖を感じている。


「な、な、な……」



声にならない声が滑稽で哀れだった。
一方通行は冷めた視線を向けたまま戦意喪失したスーツ姿の男性に近づく。


「……一応訊くが、何であのガキにそこまで固執する? オマエらが抱く“正義”
  ってヤツのためか?」

「そ、そうだ……」


床に腰を下ろしたまま震える声で答える男。
最後の気力でも振り絞っているのか、強固な目で一方通行を見上げて彼は語る。


「お、お前は知らないんだろう? あの子供が……将来どれほどの脅威となる逸材
 なのかを……」

「あァ?」

「いずれ分かる……。私達のしている事は、芽を摘む行為であると思い知るさ……。
 この街、国……いや、世界全体にとってのな……! 私たちを“正しい”と、世界が
 やがて認める……!!」

「……、……」

「だから、邪魔をしないでくれ……。『木原』を一人抑えただけで、何百人もの命が
 左右されるんだぞ……!? お前はそれでも私達を否定するのか!? 近い未来に散る
 命なんぞどうでも良いというのか!? ……私達を“悪”だと思うのなら、それは絶対
 に間違いだ!!」



一方通行の冷めた表情は変わらない。
だが、彼は気づいていないだろう。

彼が語れば語るほど、一方通行の心中が噴火寸前の火山みたいにドス黒く変色して
いる事に。


「…………もォ、良い。それ以上クチを開くンじゃねェ……」

「あの子供を外に出すのがどういう事なのか、まだ分からないか!? なら納得でき
 るまで何度でも説明してやるぞ!! 『木原』が今までにどれだけの――」


「黙れっつってンだろォが!!!」


「……ッ!?」


抑えていた感情がとうとう限界を超え、外に溢れ出した。
それまで俯きがちだった一方通行が目をカッと見開き、怒号と共に男性を睨む。
凄まじく恐ろしい形相で、今にも人を殺しそうな気配さえ漂わせていた。


「ふざけやがって……。そいつが本心かよ? たった“それだけ”の理由で……!!」


腹の底から湧き上がる激情を必死に噛み締める。
それが強い怒りなのだと分かり、男性は必死に言葉を発する。


「“それだけ”だと!? 君は何も分かってない!! 分かってないから私達の存在を
 否定したがるんだ!! 『木原』の危険性を何も知らないから私達が非人道的だと錯覚
 している!!」



「……知ってンだよ……。『木原』がどれほど腐った奴らの集まりなのかも、『木原』の
 基本思想がどれだけ狂ってンのかも……」

「だったら――!!」

「だから『木原』のガキを監禁した!? 将来危険に育つってオマエらが勝手に予想して、
 その対策のために!? 挙句にそれが“正義”だァ!? ふざけンのも大概にしやがれ!!」


「……ッッ!?」


「あのガキは確かに『木原』の名を背負って生まれたかもしれねェ……。オマエ達が『木原』
 に対する怨みをそいつにぶつけたがる気持ちは分からなくもねェ……。――だがな!!」


「“正義”だの“将来のため”だの、そンな綺麗事で自己欺瞞してあのガキの人生を縛り付
 けといて、行為から目ェ逸らし続けてンじゃねェぞ!! テメェの私怨を正当化するよォな
 野郎にヒトの将来を決める資格なンざ、あるワケがねェだろォが!!!」


「オマエ達はあのガキを知ってるみてェに抜かしてやがったが……じゃあオマエはあいつが
 どンな“人間”なのか把握してンのかよ!? あいつがどンだけヒトの話を聞かねェ我が侭
 なクソガキか知ってンのか!? 『木原』の肩書きに踊らされて、善悪の区別も失くして、
 それでもあいつ自身がどンな人間かをその目でずっと見てきたって断言できンのかよォ!!?」





 ―――― 誰が私をあそこに閉じ込めたかとか、あまり考えたことないかも…… 。



「あいつが……木原円周がオマエ達をどォ思ってンのか、オマエには分かるか? “何とも”
 思ってねェンだとよ!! 本来なら普通に生きる筈だった成長期間を台無しにされちまって、
 “憎しみ”の欠片も抱いちゃいねェンだぞ!? それがどンなに虚しくて悲しいのかも分から
 ねェなら、オマエらは『木原』以上のクソ野郎だ!!! 『木原』が可愛く思えちまうほどに、
 オマエらは狂ってたンだよ!! 心底イカれてたンだよ!!! 何でもっと早くそいつに気づ
 かなかった!?」



 ―――― 私、もっと色んなことを学びたいな。今までこんな気持ち感じた事なんてなかったし、
       本気で怒ったり泣いたりするのも、まだ良く分から ないんだー。……そういうのも、
       これから理解できるようになるのかなあ?



「結局オマエらは……、あのガキの事なンて何一つ理解しちゃいなかった……! 理解しよォと
 すらしなかったンだ!! テメェ勝手な復讐心、私怨、妬みに翻弄されて善と悪の判断すらも見失
 って、先の見えない未来っつーくだらねェモンのために、あいつの大事な人生を理不尽に奪い去り
 やがったンだ!!!」 



 ―――― ありがとうね! アクセラお兄ちゃん!



「俺も人に偉そォな説教できる立場じゃねェのは分かってンだよ……。けどな、一度も罪の意識
 と向き合わずに“正義”なンて言葉を軽々しく振り翳すオマエらを、俺は絶対に“正義”とは認め
 ねェ。本当の“正義”は自身の行為を正当化させるための、都合の良い道具なンかじゃねェンだよ」





「……ッ、……」


鬼の形相からぶつけられる一言一句が胸に突き刺さっているのか、何も言い返せないスーツ男。
そんな彼に一方通行は怒りを静かに鎮め、悲しげな目で見下ろしたまま告げた。


「どンな理由や御託を並べよォと、オマエらがした事は陳腐でみみっちい憂さ晴らしの範疇で
 しかねェ。そして、もォそいつから奪った時間は戻りゃしねェし、取り返しもつかねェ……」


「…………私達を、殺すのか?」


床を眺めたまま弱々しく尋ねるが、一方通行は即答する。


「そンな価値がオマエらにあると思うか? 死ンで楽になる道を軽々しく選ンでンじゃねェぞ」


「…………」


固く握っていた拳を解き、もう口を開こうとしないスーツ男の脇を通り過ぎた。
その足が向かうのは円周が閉じ込められている収監室。

扉に掛かっていたロックなど意も介さずに抉じ開け、暗い室内へ姿を消した白い少年を止める気力
など、とうに喪失していた。



「――ここが……」


木原円周が幼少時代を過ごした唯一の『学び場』。
部屋の中へ足を踏み入れた一方通行が最初に抱いた感想は、


「まるで監獄だ。三日も居りゃあ充分発狂できるなこりゃ……」


こんな所で長い歳月を過ごす羽目になった少女。
一体彼女はこの殺風景な部屋で毎日何を学び、何を思い、生きてきたのだろう。
当事者でない一方通行には想像もつかなかった。

ただ、そんな環境でも彼女は『木原』に縋り、『木原』としての生き方を全うしようと心折らずに
生きてきたのだ。
たとえその素質がなかったとしても、『木原』に生まれた“責任”というものを彼女なりに感じて
いたのかもしれない。
そのために様々な『木原』から助言を貰い、足りない面をどうにかして補おうと躍起になっていた
のではないか。


「ったく、馬鹿面さげて呑気に寝入りやがって……。手間ァ掛けすぎなンだよ、この団子頭が」


無事が確認できたからか、表情が自然と緩む。
一方通行は円周の手と足に絡み付いている拘束具を手早く解き、未だ意識の戻らない彼女の身体を
そっと優しく抱き上げた。



そのまま彼女を拘束していた監禁部屋と別れを告げる。自力で脱走した時とは違い、これでやっと
彼女に纏わり付いていた楔が外れたのだ。もうここに彼女が戻ってくる事は未来永劫ないであろう。

一方通行の心が豹変でもしない限りは。


円周を抱えたまま屋敷の出口へ向かう。
通路には監禁魔たちがさっきと変わらぬまま転がっていた。

だが、一方通行がスーツ男に叫んだ言葉が胸に届いていたのか、倒れたままの彼らは目線だけを下
に向けていた。それはまるで罪の意識に苛まれているようにも見える。
どうやら彼らも全く自覚していなかったわけではないらしい。
最初は鬱憤を晴らす程度の動機から始まった悔し紛れの蛮行でしかないのだ。
これが正義ではない事など百も承知だった。
途中で引き返しが利かなくなった故、“正義のため”とでも銘打っておかなければ罪悪感に押し潰
されそうになっていたのだろう。

憔悴し、項垂れているスーツ男の横を一瞥して、横を通過する際に一方通行は言った。


「勘違いしねェ様に言っておくが、俺は正義の使者でも何でもねェ。これからオマエ達がどォ生き
 るべきかを示唆する気はねェし、ましてや導いてやるつもりもない。……今後の事は全部オマエ達
 で勝手に選びやがれ」

「……、……」


彼は何も答えない。
固く口を閉ざしたまま、床と向き合うように俯いていた。



「すっぱり足を洗って新しい生き甲斐を見つけるか、本格的にこの俺を敵に回してでもこのガキに
 執着し続けるか……オマエ達の自由だ。好きにすりゃあ良い」


だがな、と一方通行は付け加え、最後に恐ろしい殺気を放って通告した。


「この次がもしあったとしたら……、その時は容赦しねェ。今度は全力で叩き潰す。骨の一片すら
 残さず、な……!」


全身に寒気が走りそうなほどの強い眼光は、脅しではないと語っていた。
スーツ男の身体が僅かにビクッと震えた時、既に一方通行は外から射し込む光の中へと消えていた。

残された“自称善人”たちは誰一人声を出さず、床に這い蹲ったまま悪魔のような白い少年の言葉
を脳に焼き付けていた。

“あれ”を敵に回す……?

全員が満場一致で『自殺行為』だと決案した。
言葉など、わざわざ交わすまでもない。
自分の命を顧みず、明らかな危険に身を曝す覚悟など、初めから彼らには無かったのだから。



―――


 ~ 超電番外止め +??? in『学び舎の園』のお洒落なカフェ ~


番外個体「この、こんにゃろ……こいつ、こいつめっっ!!」ピッ ピッ

打ち止め「ねー、もう電話折り返すのやめようよー。あの人はきっと今忙しいんじゃないかな?
      ってミサカはミサカはムキになって履歴開いて通話ボタン押す作業を延々と繰り返し
      てる番外個体に呆れた視線を送ってみる……」

番外個体「このミサカ相手にブッチするとか良い度胸すぎなんだよ!! あの美白小僧め……!
      せっかくこんな絶世の美少女サマがわざわざイタ電してやってるってのに……!!」ギリリ…

御坂「……」←(何となく他人事とは思えないせいか口出しできない)

打ち止め「きっと帰ったら惨い仕打ちが待ってるよぉ……。ってミサカはミサカはこの先に待つ
      壮絶なシーンに畏怖してみたり。巻き添え喰らいたくないから家に帰ったらミサカに
      近づかないでね」ブルブル…

番外個体「はあ!? なーに布団入る前から寝言垂れてんだこのチビミサカちゃんは? むしろ
      巻き添え喰らうとしたら、あなたがあの人に近づいた時だよ!」ビシィ

打ち止め「……もしかして徹底抗戦の構え!? ってミサカはミサカは仰天してみたり!!」

番外個体「とーぜん♪ 大体あの人がこのミサカ含む『クローン』に乱暴な真似なんて、できる
      わけないじゃん。ってか、負ける気がしないね」ヘヘン



打ち止め「あんまり調子に乗るとあの人だってキレるよ? そしたらもう片方の腕も折られちゃ
      うかも……」

番外個体「その前に組み伏せてマウント取ってボコっちまえば良いのさ。純粋な腕っ節勝負なら
      片腕使えなくても充分に釣りが来るぜ」キヒヒ

打ち止め「……そう上手くはいかない気がする。ってミサカはミサカは不安を零してみたり」

番外個体「ただの取っ組み合いで能力使うほどのヘタレ屑なら、罵詈雑言の良い的だよーん☆
      あの人は確かに脳障害残してるけど、演算補助の調整で人並みに動けるだけにした
      ってミサカが圧勝できるね、うん。っつーか、ミサカも右腕使えないんだからその
      まんまでも条件五分じゃね?」

打ち止め「あの人が能力なしだと非力な事ぐらい知ってるでしょー!? そんなの卑怯だよ!
      ってミサカはミサカはあの人のピンチに居ても立ってもいられなくなったり!」ガタン!

番外個体「だいじょぶだいじょぶ♪ このミサカが馬乗り(マウント)になってやるんだから、
      ピンチどころか寧ろご褒美――」


御坂「――って、だからいつまで蚊帳の外に置いとくつもりよアンタら!! 結局何の話もまだ
      聞けてないし、盛り上がってる内容がサッパリなんですけど!?」


打ち止め「!」ビクッ

番外個体「あれ? おねーたま、まだ居たの?」



御坂「」ブチッ

打ち止め「お、お姉さま!? 忘れてないから無言で立ち上がるのヤメテ!? ってミサカは
      ミサカは今にも爆発しそうな顔で番外個体に近寄るお姉さまを背後から羽織い締め
      にしてみたり!」ガシッ

御坂「ええい放せ小さい私!! こいつにゃ一度上下関係ってモンをたっぷり教えてやる!!
    私にはその義務と責任があんのよォォおおおお!!!」ジタバタ

番外個体「ぷぎゃ☆」ケラケラ

御坂「そのヒトを小馬鹿にするような表情を今すぐ苦痛の色に染めてやるわ!!」バタバタ

打ち止め「あわわ……! お、応援求むー!! ってミサカはミサカは緊急信号発信ーー!!
      最寄のミサカは直ちに上位個体の救援に……ちょ、あ、暴れないでお姉さまーー!!」ピピピ…


???「はぁ……まったく、くだらない理由で無闇に緊急信号を飛ばさないでください。
     とミサカは露骨に嫌悪感を剥き出しにしつつ上位個体に嫌々加勢します」ドウドウ オチツケヨ


番外個体「おお、ミサカシリーズも大変だねえ。オリジナルの不始末の尻拭いでプライベート
      削減とか、このミサカには耐えらんないなー♪」

御坂「……って、ちょ!? 何でアンタがこんなトコにいんのよ!? そして放しなさい!!
    アンタもこいつに肩入れする気!?」



???「極めて不本意ですが、上位個体の緊急指令に逆らえるプログラムをミサカは所有して
     いません。とミサカはオリジナル(お姉様)の腰を上位個体と共に押さえつつ心外で
     あると主張します」

打ち止め「10032号ナイス!! ってミサカはミサカはいっちにーのさんで一気に引っ張る!」グイッ

御坂「ちょ……どわぁぁああ!!? ひぎッ!!」ドシン

???「うおおぉ!? ――あいてっ!!」ズデン



 御坂妹(10032号)――ミサカ妹達(クローン)の一人。上条当麻にプレゼントされたネックレス
             を肌身離さず身に付けている。


御坂「あいたたた……」サスサス

打ち止め「うー……強く引っ張りすぎた。ってミサカはミサカは反省してみる」スリスリ

御坂妹「つつ……。何やってるんですか上位個体。とミサカは強打した臀部を摩りながら加減知らず
     のクソチビを涙目で非難します」サスサス

番外個体「ホントだよ。ミサカまで周囲から変な目で見られるからやめてよねー」

御坂「誰のせいよ! ……で、アンタは何でここに来たわけ?」ジロ

御坂妹「『暴れ馬を鎮めろ』と上位個体から指令が来たので……。とミサカは回答します」



御坂「……それって、この打ち止めって子よね? こんな子供がアンタを自由に振り回してるなんて
    どうもしっくりこないんだけど……」

打ち止め「ミサカは全妹達の司令塔なのだ! ってミサカはミサカはどーんと胸を張ってみたり」チンマリ

御坂「……ならせめて私の母親レベルにまで成長させなさいよ。研究者はホント何考えてんだか……」

番外個体「仕方ないじゃん。最終信号が未成熟のまま培養器から出たのは緊急を要してたんだから」

御坂妹「『学習装置』である程度の認識能力は補正されていますが、やはり肉体が不完全な影響から
     多少の齟齬が生じているようです。おかげで学園都市残留組のミサカたちは都合の利く玩具
     のように振り回される始末。良い迷惑です」

打ち止め「なっ!? ふ、振り回してなんかないよー!! ミサカを悪女みたいに言わないで!!
      ってミサカはミサカは事実無根を訴えてみたり!!」

御坂妹「まあ、たまにミサカたちをパシリにしやがるくらいですね。可愛いものです。とミサカは
     あながち根も葉もない訳ではない、と反論します。あと、しつこくてケチで悪かったな。
     とミサカは先ほどの上位個体たちの会話をネットワークから掘り返します」ギロリ

打ち止め「う……憶えてやがった」タジッ

番外個体「ミサカ使いが荒いのはこのミサカが一緒で甘える機会減っちゃったからだよね♪」

打ち止め「……ミサカはミサカはここで黙秘権を行使してみる」←(図星)

御坂妹「ただの気晴らしでミサカたちを縛らないでください。とミサカは自分勝手な子供を叱責
     します。上位個体の権限まで使うなんて、職権濫用も良いトコです」



御坂(薄々感づいてたけど、今の話を聞く限り、やっぱりこの子たちはあいつと……)

打ち止め「だってだって! そうしなきゃ誰もミサカの言うこと聞いてくれないじゃん! って
      ミサカはミサカは寂しい子供の心情を告白してみたり!」バチッ

御坂妹「だからと言って強制的な手段が認められるとは限りません。とミサカは学園都市ミサカ
     の代表を以って抗議します」バチバチッ

打ち止め「あの人も番外個体も海外に行っちゃって、寂しくお留守番していたミサカの気持ちが
      分かるの!? 少しの我が侭くらい大目に見てくれたって良いじゃん!!」

御坂妹「ミサカたちはあなたの暇潰し要因などではありません。とミサカは『自分さえ良ければ
     他のミサカの都合なんて考慮しない』という上位個体の考え方を否定します」

打ち止め「……な、なにおー! ってミサカはミサカは生意気なミサカに制裁を目論んでみる!」キッ

御坂妹「……望むところです。『上位』の肩書きなんて捨てて掛かってきなさい! とミサカは
     古流武術スタイルで威嚇します」ザザッ

打ち止め「じ、上司に逆らうなんて規約違反だー! ってミサカはミサカはマズい流れに冷や汗
      を流しつつも必死に抗ってみる!!」

御坂妹「そんな建前に頼らなければミサカと渡り合う覚悟もない……。ふふ、どうやら下克上も
     目前みたいですね。とミサカは鼻で笑います」フン

番外個体(傍観者の立場って居心地いいなー。下手な三流ドラマ観るより退屈しねーわ)ニヤニヤ



打ち止め「もう勘弁ならん!! いいだろうやってやる!! 権限や立場は一切抜きのガチンコ
      勝負だ!! ってミサカはミサカは器の広さを見せ付けてみたり!!」

御坂妹「上等です。五秒で沈めてやります。とミサカは予告KO宣言をします」

打ち止め「機動力と俊敏さならこのミサカに分がある! ってミサカはミサカは活路を見出して
      みたり!」

御坂妹「身長(タッパ)と手足の長さ(リーチ)で不利なのは否めませんが? とミサカは即座
     に欠点を指摘します」

打ち止め「ええい、うるさい!! さっきから減らず口ばっかり!! もうあったまにきた!!
      久々にキレたんだからー!! ってミサカはミサカは先手必勝の突進攻撃ー!!」ドドドド

御坂妹「馬鹿の一つ覚えですね……。いいでしょう! 返り討ちにしてやります!! とミサカ
     は迎撃態勢を整えます」サッ ←(何故か鶴拳の構え)


御坂「……ちょろーっと良い?」


打ち止め「何ッ!?」クルッ

御坂妹「邪魔をしないでください! とミサカは空気の読めないオリジナルに舌打ちします」チッ


御坂「……ッ」ジワ




番外個体(おお、こりゃ世にも珍しい構図だよ。オリジナルがクローンに気概で圧倒されてやがる。
      二人とも怒ったら恐えーからなあ。疎外感も手伝って思わず涙ぐむおねーたまを不覚にも
      少し可愛いと感じちまったぜ……)キュン


御坂「……あのさ、マジ喧嘩の前に一つ聞きたいんだけど……」

御坂妹「何ですか? とミサカはあからさまに不機嫌な目を向けます」ジロー

御坂「いや、アンタじゃないから」

御坂妹「」

打ち止め「……?」

御坂「打ち止めと番外個体が一緒に住んでるのは何となく想像ついたわ。……で、そこには度々
    出てくる“あの人”も一緒……。もし間違ってたら笑って良いからね? その“人”って
    もしかしなくても……」


番外個体「うん。先日共同戦線張った“第一位”さまだよ♪」


御坂「やっぱり……」

番外個体「おや? あんま驚かないんだね」

御坂「あの後アイツがどうしてたかなんて知らないし興味も無かったから……。けど、アンタと
    やけに馴染んでたのは見逃してないわよ。……後はアンタ達の会話から推論していけば嫌
    でもそう結びついちゃうじゃない」



御坂妹「……」←(オリジナルに軽くいなされて地味に傷心中)

御坂「ねぇ、“打ち止め(愛くるしい姿の私)”。アンタのクチから全部話してくれるわね?」

番外個体「さりげなく幼少期を自画自賛してんじゃねーよ」

打ち止め「うーん……、けどミサカはミサカは……」

御坂「大丈夫よ……。今のアンタら見る限りじゃ、多分私の出る幕なんてないでしょうし……。
    もちろん、何か危険に曝されてるってんなら話は別だけどね」

番外個体「……スルーされた。しかもごく自然に……」ズーン

御坂妹「ささ、こちらへどうぞ番外個体。とミサカはオリジナルに無下に扱われて傷を負った
     あなたを同士だと認定して失意の席へと誘います」オイデオイデ

番外個体「……」フラー


打ち止め「……わかった! ってミサカはミサカは全ミサカの責任者としてオリジナルに真実
      を明かす覚悟を決めてみたり!」


御坂「……」ゴクリ


今回の投下は終了です
ミサカオールスターズはあくまで小ネタみたいなものですので、じっくり読む必要はありません
次回はとうとう『あのお方』が出ます
果たして誰か?

ヒント・『それ以外に無い』

正解は次回で!
ではまた

いつもレス下さっている方々ありがとうございます
黒子さんこのスレに出るのかは今後の展開次第としか言えません

では投下します



―――


そろそろ夕刻だ。
警備員が下校確認の巡回に出ている姿がちらほら視界に入る。

そういえば、もうすぐ年に一度の『一端覧際』が開催される時期だ。
そんな一大イベントが間近に迫っているとなれば、治安維持活動も本腰を据えて当然だろう。

すやすやと眠っている木原円周を背負う形で杖を器用に扱い歩行する一方通行は、そんな事を
思い耽っていた。
“巨大な風呂敷を背負って歩くお年寄り”の心境を味わいつつ、円周を足を地面に引き摺らせ
てしまわないように体勢をこまめに整えてやる。

杖がないと歩けない身体にはかなりの重荷だった。能力の使用制限さえ無ければどんなに楽か。
しかも不運なことにタクシーは拾えず、警邏中の風紀委員に職務質問を喰らったりとあれから
散々な目に遭った。(風紀委員は面倒なので適当にあしらった)


(参ったな、クソ)


内心で溜め息を吐く。


(家まで歩くとなると夜になっちまう。このままタクシーが捕まンねェのはちっと……イヤ、
  かなり拙い)



ついでに足も疲れ、腕も痺れてきた。
片方の手は杖で身体を支えながら歩いているため、満足に円周を背負いきれていないのだ。
無理な姿勢で歩き続ければ疲労もすぐに溜まる。


(気は進まねェが、やっぱりこいつを起こすしかねェか。……チッ、死ななかった分マシとは
 いっても、つくづく不便なモンだな。最低限の身体能力っつーのは……)


適当な場所に円周を降ろし、一休みも兼ねて彼女に起きてもらおう。
そう決めた一方通行が歩く方向を変えた直後、


「……あァ?」


ブロロロ……! というエンジン音。
目の前の路肩に停車した一見普通のセダン車。その助手席の窓には見覚えのある顔。



「おーい! こっちこっち、こっちですー!」



窓から顔を出した木原病理がこちらに向けて手を振っていた。
はっきりと呼ばれたので仕方なく円周を降ろすのを止め、不審と困惑の入り混じったような
表情でセダンに近づく一方通行。



運転席には見知らぬ若い女性。オフィスレディ用のスーツに身を包んだ彼女の脇には会議に
でも持ち込みそうな大き目の封筒が置かれている。
目が合った途端、どう見ても社交辞令な営業スマイルで会釈され、若干気後れする。

とりあえず目線を助手席へ移す。



一方通行「何してンだオマエ……。っつか大声で呼ぶンじゃねェよ、この恥知らずが……。
      ちったァ周りの目を気にしやがれ」

病理「あらあら、こりゃ失敬。端から見てもかなりしんどそうに見えたので思わず叫んで
    しまいました」

一方通行「……で、何の用だ? 目の前でこいつをまンまと拉致された件について咎めに
      来たってンじゃねェだろォな?」

病理「いーえ、逆です。労いの言葉を贈りに来ただけですよ。もちろんこの子をちゃんと
    奪い返してくれた件について、ね……。ご苦労さまです」ペコリ

一方通行「……オマエに労われる謂れはねェよ。ってェか、本当にそれだけのために来た
      のか? 怪しいモンだな」

病理「“それだけ”で済む問題ではありませんからね。円周ちゃんも『木原』の端くれで
    ある以上、いつまでも腑抜けた輩の傍には置いておけません。それに、円周ちゃん
    については貴方に託したのですよ?」

一方通行「託した、ってオマエ……。元々はこいつが勝手に付き纏ってきたンじゃねェか。
      それを俺が渋々容認したってだけで、オマエが介入する隙間なンざ最初っから
      無かっただろ」

円周「Zzz……」グースカピー



一方通行「っつか、そンなにこのガキが心配ならオマエが引き取って面倒見りゃあ良いン
      じゃねェのか? オマエ結構こいつと親しく会話してたし」

病理「『木原』は孤軍奮闘がモットー。一時共闘ならまだしも同居は論の外ですね」キッパリ

一方通行「……何でだよ? 別に厳守しなきゃならねェルールって訳でもねェンだろ?」

病理「だってめんd……あ、いえ。あ、諦めてますから。ほら言ったでしょう? 私は
    物事の『諦め』においてはプロフェッショナルだと!」アセアセ

一方通行「絶対今『面倒臭ェから』って言おうとしただろ……?」ジロリ

病理「ま、まぁ話は移動しながらでもできます。ささ、遠慮しないで乗ってください」

   (後部座席を指差す病理)

一方通行「……どこへ連れていく気だ?」ジトー

病理「えっ? お家まで送ってあげるだけですよ? そんな疑わしい目で見なくても心配
    ありませんって」

一方通行「……」ジトー

病理「容易に他人を信用しないその心は立派ですが、お家はまだ遠いんでしょう? 歩く
    より車で快適に凱旋する方が気分的にも良いのでは?」



一方通行「……ッ、あァその通りだな。全く以って同感だよクソが。……仕方がねェから
      ここは素直に言葉に甘えておく」ガチャ バタン

病理「では、ファミリーサイドまでレッツゴー♪」ワー

一方通行(良い歳こいたババアが浮かれてンじゃねェよ……。ってか、あいつ車椅子は?
      ……と思ったら最後尾の積荷用スペースに乗ってたし。しかも折り畳み式かよ)


ブロロロ…


一方通行「……」チラリ

円周「Zzz」ムニャムニャ スピー

一方通行「起きる気配ゼロか……。薬関係なしでただ爆睡してるだけだったら往復ビンタ
      でもかましてやりてェところだが……」

病理「女性の肌、特に頬といった顔のパーツは神聖な部位です。無闇やたらに触れるのは
    感心しませんねえ」ジィーー

一方通行「いちいち後ろを振り返るな怖ェから。こンな意味不明な状況、ジョークの一つ
      でも飛ばさなきゃ正直ヤッてらンねェよ。……っつーか今気づいたンだが、何で
      オマエ右の頬ちょっと腫れてンだ?」

病理「企業秘密でーす……」ヒリヒリ




??「……」ジーー

一方通行「オイ運転手。オマエまでコッチ向いてンじゃねェよ前見ろ前。危ねェ」

??「失礼、『第一位』の意外な一面を垣間見れると思ってつい」クルッ

一方通行「“つい”じゃねェだろ。運転中に余所見とかのレベルじゃなかったぞ。堂々と
      後ろ向きやがって……。バックミラーで見りゃ良いだろォが。イヤ見て欲しく
      はねェが」

??「法律を軽視しないとは……、人というものは見かけで判断できませんね」

一方通行「違反に躊躇しそォな格好してる分際で良く言いやがる。っつか、オマエはこの
      ひょうきンババアの部下か何かか? 専属の運転士なンて贅沢な身分だなオイ」

病理「いやですねえ。彼女も私と同目的でここに居るんですよ? あとババアはやめろ」

一方通行「オマエが俺を御親切に送ってくれる理由がそもそも不明なンだが……」

病理「特に打算や邪な企みはありませーん。私との約束を守ってくれた褒美、謂わばお礼
    みたいなものです。半分はね♪」キラン

一方通行「もォ半分は?」

病理「貴方たちの末路に興味深々、ってトコでしょうか? ちなみに横のお姉さんはそれ
    だけみたいですけどね」




一方通行「……木原同士の馴れ合いは御法度じゃなかったのか?」

??「一概にそうとは言えませんよ? 確かに思惑の類似を嫌う性質は『木原』の特徴と
    も言えますが、そこに同一の目的が加われば話は別です。利用できる人間は誰でも
    利用しますし、一時的に行動を共にするぐらいなら躊躇もしません。この場合なら、
    『貴方と円周の接触』から始まり、『その動向を観測し続ける』という共通の目的
    が生まれます。……もっとも、私の場合はただの好奇心が勝っていますけどね」

一方通行「…………俺は、隣で鼾掻いてる木原のガキの事を指したンだがなァ」

??「……ふふっ」

一方通行「その言い方……まさかオマエも」

??「ええ、察しの通りです。私も『木原』ですよ。“科学ある所に木原在り”。『木原』
    が関連した事象の後始末を主に請け負っています。言うなれば『嵐の後のゴミ掃除』
    ですね」

一方通行「事後処理担当か……。仮にも『木原』の名を持っていながらそンな雑用染みた事
      を生業としてンのか?」


唯一「いいえ、少し違います。ただの『アフター・ケア』ですよ。“復興や再起を計ろう
    と必死の思いで崖の壁にしがみ付く無様で憐れな敗北者達を谷底まで蹴り落とす”。
    “その人間、組織、国が持つ見苦しい希望や可能性を塵一つ残さず奪い尽くす”。
     ただそれだけがこの私、『木原唯一』の役目です」キラン


一方通行(うわァ、こいつ最悪だ。…………とびっきりに最悪だ)ブルッ…



  Lesson 5 ~“唯一”お姉ちゃん ~




木原 唯一(きはら ゆいいつ)

・就職活動中ですが何か?
・スーツ安物ですが何か?
・機密握ってますが何か?
・子供は嫌いですが何か?
・トドメ好きですが何か?
・コンタクトですが何か?
・実は研究職ですが何か?

・……木原ですが、何か?


上の二つと一番下以外は勝手に作った適当設定です本当に(ry

あ、投下はもうちょい続きます



ブロロロ…


唯一「ふふふ……、『木原』三人に取り囲まれるとは流石に予期していなかったようですね」フフッ

一方通行「だからコッチ向かなくて良いっつのオイ前、前! トラック来てっからァァ!!!」ヒィィィ!!

病理「ちょ、唯一ううううう!!!?」アワアワ

唯一「――――せいっ!!」←(華麗なハンドル捌き)

一方通行「おォう――――!!??」グラッ

病理「だばぁ――――!!??」グラッ


ギュルルル!! ゴゴーーッ!!


唯一「……ふぅ、間一髪といった所でしょうか?」

一方通行「」←(放心中)

病理「唯一さん。カッコつけるのはもう止めて運転に集中しましょうか」バックン バックン

唯一「心配には及びません。たかが前方(メインカメラ)を塞がれた(やられた)だけです。
    暗躍向きの私が目立つ事故を起こすはずがないでしょう?」

一方通行「――ただの前方不注意だろォがァァあああ!!!」フッカツ




円周「――ッ!?」パチッ

病理「あ、アクセラおにーたんの大声で円周ちゃんが開眼しましたね」イェーイ

唯一「やれやれ、やっとですか? こんな能天気な『木原』は彼女以外いないでしょうね……」

一方通行「オイ待てババアこら。悪化、悪化してンぞ。“たン”って何だよ“たン”って。
      今度その呼び方したら本気の本気で怒っちまうぞ温厚な俺でも」

円周「あっ、病理おばさんだー! ……それと、唯一お姉ちゃんも!?」

唯一「お久しぶりですね円周。……と言ってもこうして会うのは十年近く前の『木原パーティ』
    以来ですけど」

一方通行「そのパーティーにどンな打算や裏事情が眠ってたンだよ? 嘘だろ嘘だよな嘘って
      言えよこのリクルート女。普通の親戚同士みたいな関係だったンじゃねェか!!」

円周「あの時は楽しかったなあ……。数多おじさんと乱数おじさんの漫才面白かったし」シミジミ

一方通行「まン……ざい……だと? 乱数ってのは知らねェが、“数多”ってのは数多の木原の
      中でもあの“数多”だよなァァ??」ボーゼン

病理「“数多”ある数多クン……? ちょ、気持ち悪」オエー

唯一「ただの言葉遊び如きで吐き気を催さないでください。木原ともあろうものが……」



一方通行「あいつが……まンざ……ッ、うぷッ! 拒絶反応が尋常じゃねェぞどォしてくれンだ
      これ……」

円周「終わった後はお馬さんごっこしてくれたし……。こうして思い返すと、数多おじさんにも
    少しは良い所あったんだねー」

一方通行「もォやだこの木原……。もォ俺あいつにボコられたのが今ン所ダントツで人生の最大
      汚点だわ……。なにヒトの知らねェ過去で良いオジサンやってンのよ……。頭痛ェよ」ウーン

病理「まあまあ、当の本人は貴方が消し炭にしたんだからもう良いじゃありませんか」

一方通行「お気楽極楽で宥め賺してンじゃねェぞ……。世の中にゃなァ、『知らなくて良い事実』
      ってのが存在すンだよクソったれが」

唯一「まったく……。『木原』の面汚しも同然です。あの馬鹿下種ブタ共……」プンプン

一方通行「やっぱ女の木原から見ても受け入れ難いらしいな。ちょっと『木原族』へのイメージ――」

唯一「自らケツを振って『踏んでくれ!』だなんて……。興醒めも良いトコです。私は強気な男を
    地に芋虫みたいに這わせてから心を百八十度圧し折るのに快感を見出すというのに……」ブツブツ

一方通行「――がアップしたとか一瞬思ったが、どォやらそいつは盛大な勘違いだったみてェだ」

円周「ねえ、どうして病理おばさんと唯一お姉ちゃんがいるの? 途中から記憶が……。うーんと、
    確かアクセラお兄ちゃんと地下街へ……あ! そうだ! 地下街!!」

一方通行「今日はもォ諦めろ。またいつでも行けンだからよ」

円周「うー……」ガックリ



一方通行「ンな落ち込むほどの事かよ……。何か限定イベントでもやってたのか?」


円周「ペア契約……」ポツリ


一方通行「あァ?」ナンダッテ?

円周「なんでもない」

病理「呑気でいいですねえ。危うく元の居場所に引き戻される寸前だったっていうのに」

円周「えっ?」キョトン

唯一「言っても無駄ですよ病理さん。恩赦、憎悪、悲哀、そういった人間ならではの感情を彼女は
    持っていないのですから……。ならば『危機感』に無頓着でも特に不思議ではありません」

一方通行「こォやって第三側から告げられるのを聞く限りだと、まるでただの機械人間だな」

円周「サイボーグかあ……」キラキラ

一方通行「憧れてンじゃねェ。俺が言っておいて何だが条件満たしきれてねェから」

唯一「ツテならありますよ? よければ改造を申請してさしあげましょうか?」




円周「夢のサイボーグになれるの!?」パァァ

一方通行「夢だったのかよ。……瞳ィ輝かせて希望膨らませてるトコ悪りィが、不便な面もある
      らしいぞ? 実は一人心当たりがあンだが、色ンな意味でそいつは残念なヤツだった」

円周「そうなの?」

病理「まあ、長所ばかり揃うなんて有り得ませんからね。例えば『電子系統』の能力者なんかを
    相手にした瞬間、身体の自由を乗っ取られて詰みます」

唯一「金属が内蔵される事になりますから、そればかりはどうしようもありませんね」

円周「…………ッ!!」ゾクッ


~~~


番外個体『ほらほら、ねえ新参者。今どんな気持ち? どんな心境? 悔しい? でも感じちゃう?
      ほーら、愉快に無様にビクンビクンしてみなよギャハハッ♪』ビビビ…


円周『ほぎゃがぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!?』ビクンビクン


~~~


円周「……私、夢を諦めることにするよ。うん、たった今諦めた」キメタ




病理「潔い諦めっぷりですね。『諦め』のプロとして花マルを贈呈しましょう」

一方通行「よほど酷ェ未来を想像したみたいだなァ……」

唯一「あら残念です。けれど、気が変わりましたらいつでも相談してくれて構いませんので」

病理「私の『脚』も唯一さんのツテですから、きっと損はないでしょう。無駄に顔広いですからね
    この皮被り女は」

唯一「何か言いましたか? 足がダークマターの木原病理さん」

病理「ちょ、ヒトの足が臭いみたいに言わないでくれません!? 後ろの二人が勘違いしたらどう
    するんですか!? 違いますからね! 私はこれでも美脚で通ってますからねえええ!!」

一方通行(……何の話してンだコイツら。っつか何でちょっと険悪になってンだよ……)

唯一「見苦しいですよ。高齢者」クスッ

病理「まだそんな年じゃねええええ!!! っていうかアナタも人のこと言えませんよねえ!?
    新卒みたいな格好してますけど、年齢的にちょいと無理があるのではぁぁ!?」

唯一「見た目に違和感がなければ問題ありません」キリッ


円周「そういえば唯一お姉ちゃんって何歳だったっけ?」クルリ

一方通行「なンで俺に訊くンだよ? 知ってるワケねェし知りたくもねェわそンな情報」




病理「いやいや、研究職に就いて何年目でしたっけアナタ? 『ついこの前まで大学行ってました』
    みたいな安物スーツなんてアウトですよアウト。ちょっと若く見られるからって図に乗るモン
    じゃありませーん!」

唯一「貴女こそ、歩くの嫌いだからっていつまでも『身体弱いんですゴホゴホ』みたいな令嬢気取
    って油断させるスタイルは卒業するべきでは? ひと目で仮病だって分かりますし、痛々しい
    なんてレベルではありませんよ?」

病理「こ・れ・は・暴走を抑制させるための手段でーす! それだけでなく機能面でもあの車椅子
    は優れているから重宝しているというだけで、決して疚しい理由だけではないのです!!」

唯一「まあ、オーダーメイドしたのは私ですから知ってるんですけどね(笑)。けれど見た目的に
    アウトと断言されるのは極めて遺憾です。あと私は『若く見える』のではなくて『若い』の
    です。貴女とは違います」

病理「ほう……。よろしい、つまりそういう事ですね? 貴女は生きる事を自ら諦め、転生を体感
    したいと!? ならばお望み通りに――」ペカーーー

一方通行「うォ!? な、なンだそれ!? なに始める気だオマエ!? オイ止めろ!!」ワタワタ

円周「病理おばさん、脚!! 脚光ってる!! うわ眩しっ……!」

唯一「ちょ、こんな所で解放する気ですか? 少しは考えてください。ただの口論で皆揃って爆死
    とか洒落になってませんから」

病理「ふひふふひひひひひ……」ニョキ バサッ

一方通行「白く光った脚から羽生えてきてンぞオイ!? 何だそれ!? メルヘン警報!!?」




病理「はっ! っと、いけないいけない、私ともあろう者がつい……ひっひっふー、ひっひっふー」シュウウウ

一方通行「光が収まってく……。一体どォなって……、ってか何だその抑え方。妊婦か」

病理「ふぅ、いやあ危なかったー。もう少しで変形してしまう所でした」

一方通行「イヤしてただろ。どっかで潰した憶えのある羽が見えてたし」

円周「暴走しかけてたよー……。危ないなあ」

唯一「まったく……。だからあれほど言ったでしょう? 『未元物質』を人体に直接組み込むのは
    前例がなく危険性が高いと。無闇に感情を昂ぶらせるだけで呼応、発現し、やがては制御も
    不能となり無差別な破壊行為へと発展する厄介な爆弾みたいな代物なんですから」

一方通行「……」

病理「確かにそうですね。『無機物性』の何かにでも組み込ませて所持する辺りが妥当でしょうね。
    ですが、それでは『木原』の名が泣いてしまいます。あらゆるリスクも顧みず、誰も踏み込
    めない、踏み込もうとしない領域に足を突っ込んでこその『木原』ですしね☆」

唯一「リスクなら一人だけで冒してください。私を巻き込むなんて言語道断です」

病理「冷たいなあ。施したのは貴女なんですから、ちょびっとぐらい一緒に負いましょうよー」

唯一「お断りします。第一、私は“ツテ”を紹介しただけで、実際に手を掛けた訳ではありません。
    よって、貴女に伴うリスクを私まで背負う必要は一切ないのです。自滅したければお一人で
    どうぞ」

病理「あれえ? 『木原』の癖に、もしかして臆してるんですかー?」ニヤニヤ



唯一「自分が可愛いだけです。それに、私は貴女たちと違う性質の『木原』です。“捨て駒”で
    済まされる貴女たちと違って、私の存在には“世界を揺るがす”ほどの価値が付き纏って
    います。簡単に死んだりできませんのであしからず」

円周「それって、この大きい封筒のこと?」パッ

唯一「触るな手に取るな勝手に中を見ようとするなああああ!!! 世界を滅ぼすつもりですか
    この能天気のアンポンタンがァァああ!!!!! それ一つでどれほどの数の人間の命が
    左右されると思ってんですかああ!!?」

一方通行「そンな大事な物をダッシュボード脇に置いてンじゃねェよ。せめてアタッシュケース
      にでも入れて持ち歩きゃ良いものを、何で車検証よりもぞンざいに扱ってやがンだ?」

唯一「肌身離さずでないと安心できないのです。なにせ三回ぐらい失くしかけましたから」

一方通行「サラッととンでもねェ発言が出たぞ。何やってンの? 何やっちゃってンのオマエ。
      財布とか携帯失くす次元じゃなかったのかよ勘弁しろよマジで。オマエのドジっ子
      属性で世界が滅ぶとか究極の展開望ンでねェから」

唯一「こんなもの早く提出して楽になりたいのですが、次に扱う件の書類も相応の機密レベル
    だったりで……ハァ」

一方通行「今一気に老けて見えたわ。オマエ実は気ィ張ってるだけでそンなメンタル強くねェ
      だろ? 止めちまえよ。オマエに世の中の命運を握らせてる事実に国民として心が
      痛ンだよ。強くなるか楽になってくれ頼むから」

唯一「立場上仕方無いとはいえ、ストレスとの戦いは永遠とテーマですから。『木原』として
    弱音など吐けません」

一方通行「でもオマエが不可抗力でその書類を川とかにポチャンしたら世界終わるンだよな?
      極端な話」



唯一「大丈夫です! そんな何処ぞの不幸少年みたいなヘマはしません! するわけがない!
    っていうか私にそんな属性ありませんからね!? これでも普段は隙無く活動している
    んですから! 一国の首相ですら最終的には跪かせてますから!」

一方通行「その自信が却って不安を煽ってるって何で気づかねェ?」

円周「うううー」ウズウズ

一方通行「我慢しろ。好奇心に打ち勝て。封筒破いて中を見たい気持ちは分かるが、その瞬間に
      冗談の通じねェ世界が来る」

病理「さっき見ようとしたら、おもいきり引っ叩かれました。年上相手にも容赦ないですね唯一
    さんは……」ヒリヒリ

一方通行「あァ、それで頬が赤かったのか……。って、だからオマエは何してくれてンだよ!?
      パンドラの箱を良い大人が率先して開けよォとしてンじゃねェぞ!!!」

病理「誰もできない領域を侵してこそ木原(ry」

一方通行「黙れ。後の事ちったァ考えてください。知らねェ内にまた戦争勃発とか御免なンで」

唯一「やれやれ、こんな『木原』ばかりでは木原全体の質が問われます。直々の執行に関して
    私は専門外だというのに……」ハァ




~ ファミリーサイド ~


ブロロ……キキィ!


一方通行「お、着いたか……」

円周「送ってくれてありがとう! 病理おばさんに唯一お姉ちゃん!」

病理「……円周ちゃん?」

円周「なあに?」

病理「……いいえ、どういたしまし、て……」


   (ただの言葉並べではなく、しっかりと気持ちがこもっている……だと?
     円周ちゃんに一体何が!?)


唯一「私はこの熟女に“アッシー”として利用されただけですのでお気になさらず」

病理「誰が熟女ですか誰が」

円周「“アッシー”ってなあに?」

一方通行「オマエの年代で知る必要はねェ」



病理「っていうかもうそれ完全に死語ですよ。本当に二十代前半ですかアナタ」

唯一「うるさいですね! 別に古い言葉を引用するくらい良いじゃないですか!?」

一方通行(こいつ、きっとこのまま可愛らしい趣味も持たずに老けていくキャリア
      ウーマンの典型的タイプだろォな)

唯一「……なんですか? 第一位」ジロ

一方通行「なンでもねェよ勘を働かせるな鬱陶しい。別に『こンな大人になりたく
      はねェなァ』なンて思ってねェから気にすンじゃねェ」

唯一「」ガーン

円周「ねえ、病理おばさんたちはこれから忙しいの?」

病理「いいえ。特に予定はありませんよ」

唯一「私は早くこの機密書類の入った封筒を家の金庫にしまって安心したいです」

一方通行「だから何でそこまで大事な物を無用心に持ち歩いてンだっつの……」

唯一「家に泥棒でも入ったらどうするんですか!? 結局、肌身離さず持って歩く
    のが一番安全なんです」

一方通行「三回も失くしかけといてどのクチが言うンだか……。さて、じゃ行くか。
      世話になったな。助かっ――」ガチャ





円周「――それじゃおばさんたちも一緒におうちで夕ご飯食べようよー!」キラキラ


一方通行「」







病理「おっ、良いんですか?」

一方通行「イヤ良くねェ」

唯一「何だか申し訳ありませんね」

一方通行「うン、申し訳ねェよ。オラ早く降りろクソガキ。車出せねェだろォが」グイッ

円周「ぷお!」ズルッ

一方通行「よし、ンじゃあな。送ってくれてありがとうよ木原さン方。俺達はこれで――」

唯一「では適当な駐車場に車を停めてきます」ブロロ

病理「はーい、よろしくー」フリフリ

一方通行「」

円周「みんなで晩御飯ー♪」ウキウキ

一方通行「」

     (あ、これもォダメだ。いくら足掻いても無駄な流れだこれ。俺には判る)




 ~ エントランス ~


一方通行(黄泉川、芳川は『飲みに行く』っつってたし、番外個体と打ち止めは当分
      オリジナルと一緒だろォし、今家には誰も居ねェわけだ。――つまり)クルリ


円周「病理おばさーん、久しぶりにゲームやろうよー」

病理「あらあら、そういえば小さい頃よくやりましたねえ。唯一ちゃんもどうです?」

唯一「家庭用ゲームですか。私も久しく触ってな……って! だから人前で“ちゃん”
    付けは止めてくださいってばぁ!!」ムキー


  ワーワー  キャイキャイ


一方通行(……俺一人でこいつら『姦し木原』の相手せにゃならン、と……。嘘だろ。
      木原三名様ご招待とかどンな悪夢だよ。あのガキ、心の底から要らねェ提案
      しやがって……)ハァ


円周「アクセラお兄ちゃーん。早くオートロック開けてよー」

一方通行「ささやかな抵抗すら早くも潮時かよクソ」

唯一「しかし良いのでしょうか? 突然お邪魔しても……」




一方通行(おォ!? この女、『木原』にしてはある程度の良識を持ってるとみた!
      車内でのイメージは……まァこの際置いておくとして、他二名の『木原』に
      比べたらまだ話が通じる! こいつはデケェ……! 『木原の晩餐』なンて
      生き地獄に参加しないための最後の活路が僅かに見えたかもしれねェ……!)グッ


病理「ガッツポーズなんか取ってどうしたんですか?」キョトン

一方通行「そ、そォだよなァ。何つってもアポ無しだから家主が困っちまうかもしン
      ねェし、残念だが今日の所は――」

円周「黄泉川おばちゃんなら芳川おばちゃんや同僚と『飲みに行くから帰りは遅い』
    って言ってたよ? 忘れちゃったの?」

一方通行「余計なことばっか喋ってンじゃねェぞこのクソ団子頭ァァあああああ!!!」ウガァァァ

唯一「あ、そうなんですか。なら問題ありませんね♪ いやあ、何せ手ぶらでお邪魔
    するのもどうかと思っていたので、それを聞いて安心しました」ホッ

一方通行「ちくしょうやっぱり木原なンて大嫌いだちくしょう。どォせ結果が変わらねェ
      なら素直にチカラァ温存しとくのが無難だったンだよ。もォ好きにお邪魔しや
      がれ。抵抗する気力も湧きゃしねェ」ピッ ウィーン

病理「設備がしっかりしてますねー。スロープが付いているのは非常に助かります」シャコ シャコ

円周「玄関も広いから車椅子でも安心だね♪」トコトコ

唯一「第一位さん……。大丈夫ですか? なんていうか、頭髪が“試合後のジョー”
    みたいに真っ白ですが……。辛い事でもあったのでは?」

一方通行「お約束すぎて返す気にもならねェが一応返しとく。元からだよ馬鹿野郎」



本日の投下は終了です
次回はこのまま『姦(かしま)し木原』の訪問から始まります

ではまた次回(多分三~四日後)


こんばんは

早速ですが訂正箇所
>>309の一方通行のセリフですが、日本語としてかなりおかしかった

×『財布とか携帯失くす次元じゃなかったのかよ勘弁しろよマジで』
○『財布とか携帯失くす次元じゃねェっつったよなァ? 勘弁しろよマジで』

ごめんなさいホント日本語下手で
他にも多々見られますが上げるとキリがないので、申し訳ないですが脳内変換で
お願いします
こちらもなるべく投下前に確認しますので、どうかご容赦を

では続き投下

唯一さんにメガネ掛けさせて「セクハラです!」って言わせたい



 ~ 黄泉川宅 ~


円周「ただいまー」ルンルーン♪

病理「おお、流石ファミリーサイドの一角。大学側が何割か負担してくれる住居と
    いうのは無駄に華やかですねえ」シャコシャコ

唯一「ふむ、悪くない造りですね。新しい部屋探しの参考にしましょう」メモメモ

一方通行「コーヒーで良いな?」←(もう割り切っている。或いは一種の現実逃避)

病理「あ、私はエスプレッソでお願いします」

唯一「では私はロイヤルストレートミルクティーで」

円周「私、カプチーノー」

一方通行「見事にバラけてンじゃねェよ贅沢な注文しやがってこの野郎。遠慮も
      礼儀もクソ喰らえだなオマエらホントよォ。俺は喫茶店の店員じゃねェ
      し、ここは喫茶店でもねェ。大体何でこの俺がオマエらに優雅な一時を
      提供してやらなきゃなンねェンだよおかしいだろォが」カツ カツ




病理「とか言いつつも茶葉や砂糖、ミルクを用意しているあなたを……。ええと、
    何て言うんでしたっけ?」

唯一「今の若者風に言うと……“ツン”、“ツン”……」ウーン

円周「“ツンデレ”だよ!」バーン

唯一「そう、それです!」ポン

病理「おおー! さすが円周ちゃん! その無駄知識、一体どうやって学習して
    いるのか興味をそそりますねえ」

円周「えへへー、ミサカちゃんっていうこの家の同居人に教えてもらったんだー。
    主にアクセラお兄ちゃんの事を指すらしいよ」

病理「あー、確かに意味を准えれば“あれ”は正に典型ですからねー」

唯一「本心とは逆の行動、言動ですか……。なるほど、彼なら十二分に当て嵌まり
    そうですね。というか良い見本です」フムフム


一方通行「ハイハイお待たせ。とりあえず頭からぶっかけてやるが、構わねェな?
      あと番外個体は帰ってきたら殺す確実に着実に絶対にブチ殺してやる」ピキピキ




円周「ねー、ところでさあ……」ゴクゴク

一方通行「あン?」ズズー



円周「黄泉川おばちゃんが居ないってことは、今日の晩ご飯誰が作るの?」

一方通行「……そォいやそォだ。すっかり忘れてたわ」

病理「あら? あなたが作るのではないんですか?」ズズー

一方通行「ゲテモノで良けりゃすぐ作ってやる。材料は勿論オマエらな」

唯一「つまり、『料理なんてぜーんぜんからっきし♪』と、いうわけですか。てんで
    使えませんねえこの能力者。最強名乗ってる癖に。あーあ、がっかり」ズズー

一方通行「ンだよその可愛げな物言い。ホント腹立つよなァこいつ。……できねェの
      はまァ事実だが、にしても腹立つよなァァ。オマエを食材にして良いなら
      心から喜ンで包丁振り下ろす自信あるぞ。ちょっとまな板に寝そべれよ」ビキッ

唯一「家主と連絡は取れないのですか?」

一方通行「無駄だ。あいつは多分夕食前に帰る予定だったンだろォが、酒入っちま
      ったらまず不可能だろォよ。日付跨ぐ頃にベロンベロンになって帰宅すン
      のがオチだ」

病理「たしかその方、教職者でしたよねえ?」

一方通行「酔っ払ったアイツを前に介抱した時はとてもそォ思えなかったな……」

円周「もうすぐミサカちゃんたちも帰ってくるし、ご飯ないと駄々こねるよ?」




一方通行「……さァて、どォしたモンかねェ」

唯一「仕方ありませんね。キッチンをお借りしますが、構いませんか?」スクッ

円周「お」

病理「まあ、それ以外ないでしょうね」

一方通行「何だ? オマエが作ってくれンのかよ。リクルート」

唯一「スーツ着てるだけで“リクルート”なイメージを押し付けるのは偏見です!
    別に出版社とかで働いてるわけじゃないんですからね!? それにこう見え
    ても私は研き――ゴホン……失礼、取り乱しました」

一方通行「さっきから散々取り乱しまくっといて何を今更」

病理「まあまあ第一位ちゃん。唯一ちゃんの料理は中々舌鼓を打てますよ。食べた
    事ありませんけど」

一方通行「ちゃン付けすンなよ俺に対して少し気安く接しすぎじゃねェのかオマエ。
      ……なァンかこれもすげェ今更な感じが否めないけどよォ」

病理「またまたー、照れなくても良いのですよ? 諦めて受け入れなさい」

一方通行「誰が誰を? 俺がオマエを? 受け入れる? 世迷言は三途の川ァ渡って
      から囁いてくださいよ」



唯一「さて、と」キュッ

一方通行「で、あっちはもォ既にエプロン身に付けてるよヤル気満々だなァオイ」


円周「へへへ……」ニマー

一方通行「……オマエは一人で何を不気味な笑み浮かべてンだよ?」

円周「こうしてると、私たちって何だか『家族』みたいだよね」ニコニコ

一方通行「はァ?」

病理「なるほど……。円周ちゃんが次女で唯一ちゃんが長女、そして――」

一方通行「よせ馬鹿やめろその先は言うな。最悪の家族構成しか予想できねェから。
      っつーか、百歩譲って家族だとしても歳的に俺は長男だよなァ? イヤ、
      絶対にそォだそォとしか考えられねェ」

病理「はあ!? 何を仰いますやら! 私一人で三人の子持ち家庭とか冗談じゃあ
    ありません! 女手一つで頑張って子育てとかどんな波乱万丈人生ですか?
    考えただけで寒気がします」ブルッ

一方通行「最低最悪だなオマエ。全国の片母に土下座してこい今すぐ」

円周「家族が増えたよ! やったねアク――」

一方通行「おいやめろ。いきなり強引なネタを持ってくンじゃねェよ危ねェなオイ。
      っつか、オマエがそれを言うと何か妙にしっくり来ンだよどォいう訳か。
      あと、何で俺の名を呼ぼォとした? 俺がいつオマエ専用のぬいぐるみ
      になったンだよふざけンなよ」




唯一「家事とか子育てとか、そういう女としての生き方まで諦めるから未だに嫁の
    貰い手がいないんですよ」

病理「はん、そんなもの必要ありませんねえ。『お帰りなさい貴方、ご飯にする?
    お風呂にする? そ・れ・と・も・わ・た・し ?』」

円周「」ウワァ

一方通行「……吐いても良いですか?」ウェ…

病理「なーんて面倒なやりとりを毎晩とか勘弁ですよホント。大体、掃除も洗濯も
    あまり好きではありませんから。というか綺麗なものが好きではありません。
    何で私がそんなこと……。やる前から諦めるに限ります」ブーブー

一方通行「もはやただの面倒臭がりじゃねェか。……俺も人のこと言えねェけどよ」

唯一「はいはい、いつか尽くしてくれる優しい人に出会えると良いですねー。では
    夕食の準備に取り掛かりますので、台所をお借りします」スタスタ

病理「尻に敷いても喜ぶ人なら少しは考えてあげますが……」チラッ

一方通行「何で俺を見るンだよやめろよマジで再起不能にすンぞ」

円周「アクセラお父さんと病理おか――」

一方通行「頭に竿ブッ刺してベランダから吊るし上げるぞクソ団子オマエこら」




病理「……」ジリッ

一方通行「……ちょ、怖ェ怖ェ目が獣みてェになってる!! それ以上近づいたら
      車椅子の下敷きにすンぞコラァ!!」カチッ グアッ

円周「おおー、アクセラお兄ちゃんチカラ持ちー♪」パチパチ

病理「わ、私の車椅子ー!!」

一方通行「……オイ、この車椅子何か変じゃねェか? 車輪部が不自然に歪ンで……。
      ン? ってか何だこのボタン」ポチットナ

病理「あ」
 


ガシャーン ウィン ウィン



一方通行「うおおお!!? なンか脚みたいなのいっぱい生えてきたァァあああ!!!」ナンジャコリャァァァァ!!!

円周「うわー、なんか蜘蛛みたいだねー」

一方通行「何だよこれ何なンだよこれェェええ!!? 気持ち悪いってレベルじゃ
      ねェぞ!! うわ、ウネウネすン……ちょ、やめ、やめて」ウィンウィン





円周「アクセラお兄ちゃんが早くも無数の脚に巻きつかれてる」ウワー

病理「あー、私以外が触ると少々面倒ですねー。というか客観的に見ると随分珍妙
    な絵面ですねえ。これを戦法に取り入れるのは今後検討したいぐらいに」


一方通行「ぎゃははは! オイやめ、あは、ゃは、ぐえひゃひゃははははは!!」コチョコチョ


病理「めっちゃ擽られてますねー」

円周「車椅子(?)早く投げ捨てちゃえばいいのに」

病理「そんなことしたらもっと恐ろしい姿に進化させます。という訳で諦めないで
    くださいね第一位。便利な移動手段が無くなるのは痛いですから」

円周「おばさん鬼だねー。さすが『木原』。私ももっと勉強しないと」


一方通行「ふざ、マジ、ちょ、あひゃひ、ぐけけけ、た、たすけ」ヒィヒィ


円周「……擽られすぎてるせいか、なんか苦しそうだよー? だんだん笑いが笑いに
    ならなくなってきてるような……」

病理「白い顔がみるみる変色して青白くなってますねー。というか、もはや声にすら
    なってませんけど」


一方通行「……れいせ、…ぎゃは、さつ、おあえ、らはひゃ、……ひゃひゃ、ひィィ」
    
    (訳:冷静に観察してねェで早く何とかしろォ! でなきゃマジでこれ投げ
        捨てるぞ! し、死ぬ!! 苦しい……もォ、息が……ッッ!!)





円周「そろそろ本気でヤバそうだよ? 何とかできないの病理おばさん!?」オロオロ

病理「はいはいっと」ポチ


ウィーン ガシャン


一方通行「ッ、はァ……はァ……ッ! こひゅ……」ガクン

円周「遠隔操作できたんなら早く助けてあげれば良いのに……」

病理「機能も把握してないのに迂闊に弄る第一位ちゃんが不躾だったのでーす」

一方通行「」カヒュー カヒュー

円周「……大丈夫? アクセラお兄ちゃん」ツン ツン

病理「返事がない。ただの屍のようですね」

円周「一応息はしてるよ。失った酸素を取り戻そうとしてるのか凄い勢いで」



唯一「……あなた達はさっきから一体何を騒いでいるんですか?」ツカ ツカ



病理「あら? 早いですね。もう夕食できたんですか?」

唯一「いえ、それが……って、彼はどうしたんですか? 何やら痙攣してますけど……。
    顔色がもうなんか死人みたいですよ? 元々血色悪い肌してましたが……」

病理「お、私の車椅子は無事みたいですね。良く耐えました流石第一位」イイコ イイコ

唯一「その代償で今にも息絶えそうですが……」

一方通行「」ビクン ビクン

円周「笑いすぎて酸欠になってるだけだと思うから多分大丈夫だよ。うん」

病理「それより唯一ちゃん。夕飯はどうしたんですか? まさか食材がないとか?」

唯一「ですから“ちゃん”付けは……。いえ、それ以前の問題です。ちょっと台所に来て
    頂けますか?」クイッ

円周・病理「……?」



 ~ キッチン ~


病理「……ちょっと、何ですかこれ何なんですかこれ」ポカーン

唯一「お分かりになられたようですね。こんな炊飯器オンリーの台所で、一体どうやって
    料理しろと? 一体何処の神様が与えた試練なんですか?」




円周「そっかー、鍋もフライパンもないんだね。っていうか炊飯器しかないんだね」

唯一「冷蔵庫を拝見しましたが、材料についての問題は特にありません。……しかしこれ、
    正直戸惑うしかないですよね? まさか『炊飯器で煮物を作る』なんて無茶苦茶な
    生活送ってるんですかここの住人達は……?」

病理「いや……流石にそれは……。どうなんですか? 円周ちゃん」

円周「昨日来たばっかりだからまだキッチンをまともに見たことがないけど、ご飯は凄く
    美味かった。黄泉川おばちゃんの料理は一度食べて損はないよ」フンス

病理「……その黄泉川という女性がここの家主、そしてこの奇想天外なキッチンの使用者
    というわけですか。その方、『炊飯器の達人』とかふざけた異名でも持ってるんで
    しょうか?」

唯一「私にはとてもじゃないですけど使いこなす自信がありません……。というか炊飯器
    って元来白米を炊くのに用いる電化製品では無かったでしたっけ?」

病理「料理得意アピールしておきながら今更何を初歩的な確認してんですか? ……いや、
    しかしながら多い、っていうか多すぎですよね。ひいふうみい…………七台ですか。
    これもしかすると私の車椅子同様に変形する調理器具とかだったりしませんかね?」

円周「……それはないんじゃない? ところで唯一お姉ちゃんは何を作るつもりだったの?」

唯一「無難にオムライスとか……ハンバーグとか……///」

病理「何でちょっと照れてるんです?」

円周「フライパンは…………うん、やっぱり置いてないね」ゴソゴソ




病理「全部炊飯器で作れ、って事ですかねやっぱり」

唯一「…………、イヤ不可能でしょ常識的に考えて」

病理「その常識を覆すのが『木原』です。この場に三人も『木原』が居ながら炊飯ジャー
    の群れ如きにこうしていつまでも途方に暮れているのは……」

円周「絵的に相当シュールだよね。狂人科学者の名が泣くどころじゃないよ」

病理「分野が違うとはいえ、それを言い訳にするのも『木原』的には微妙ですし……」

唯一「もしや、この家の主である黄泉川さんとやらは『木原』を超えるほどの逸材……ッ!?」

円周「底辺高校の体育教師だって言ってたよ。あと警備員なんだって」

唯一「何だ、ただの上層部の狗ですか」チッ

病理「……いくら常識が通じない『未元物質』が体内にある私や『狂人』が売りの『木原』と
    いっても……」ウーン

円周「やっぱりベクトルが違うよねー……。“数多おじさん、こういう時『木原』ならどうす
    ればいいかな”? ……ダメだ答えが出ないどうしよう。お腹空いてきたよー……」グー

病理「……ベクトル……。そういえば、彼(一方通行)は?」ハッ

円周「まだリビングでのびてるんじゃないかなあ?」グーー




唯一「――! そうですよ! この家に住んで長い彼なら打開策を知ってるかもしれません!」

病理「なるほど、この炊飯器置き場(カオスフィールド)を自在に駆け巡れる可能性が……!」

円周「でも、『料理できない』ってさっき言ってたような……」

病理「それでも家主の調理法を記憶してるかもしれませんよ? 手順を教授して貰えば何とか
    なるでしょう。もうこの際拘ってられません。私もお腹ペコペコです」グー

円周「さすが『諦め』のプロ。切り替えが早いね病理おばさんは」

唯一「決まりですね。では早速彼を叩き起こしに行きましょう」ツカ ツカ


~ リビング ~


一方通行「」カヒュー …ハッ

      「――っ……はァ! ……っはー、死ぬかと思ったぜクソォ」ムクリ

      「……あァ? って、あいつら何処行きやがった?」キョロキョロ


  ガチャ


円周「アクセラお兄ちゃーん。……あ、良かった起きてたんだね」トテ トテ




一方通行「……丁度今な」

病理「ありゃ、生きてましたか」シャコ シャコ

唯一「踏み起こす手間が省けましたね……チッ」

一方通行「大人二人は死ねよ。何で残念そォに舌打ちしてンだ? 踏みたかったのか?
      空気読まなくて悪かったな生憎そンなクソ空気読みたくもねェよ酷い目に遭わ
      せてくれやがって……。ミンチにしねェだけ涙流して感謝しろよ」

病理「大人二人? あれー? どうして私まで含まれてるのでしょうか?」ゲセヌ

一方通行「オマエのせいで旅立ちかけたンだよ。何だその車椅子? ワケの分からねェ
      変テコ機能搭載しやがって。何だよさっきの多脚機能は。どォいう局面で活用
      すンだよ今すぐ教えろ取り外してやるから」

病理「笑い死にしかけたのは貴方の自業自得でーす。私知りませーん」プイ

一方通行「確かにあンな怪しいボタン押しちまったのは俺だけどよォ、変形するタイプ
      だなンて普通思わねェだろ。っつか、車輪が分解されてタコみてェな脚生える
      とかどンな車椅子だよもはや車椅子じゃねェよそれ異色型の駆動鎧か何かだろ」

唯一「あなた第一位ですよね? 能力なり知恵なり用いて打破すれば良かったのでは?」

一方通行「あンな苦しみに満ちた爆笑劇に突如襲われて頭働くわけねェだろォが」

唯一「この世で最も苦しい死に方は“笑い死に”と“溺死”らしいですからねえ……」






一方通行「『いっそひと思いに殺して欲しい』なンて本気で思ったの初めてだわ。何で
      あンな無駄なモン仕掛けてンだよ? 敵の油断でも誘うためか?」

病理「奇を狙う、という目的もあながち間違いではありませんね。相手から見てあから
    さまな戦法など、『木原』として論外です」ニヤリ

唯一「こんなパジャマ姿のおばさんが強いだなんて普通は思いませんからね」

病理「……蹴られたいんですか?」ピキ…

一方通行「っつか、リクルート女は何でここに居ンだよ? 夕飯作るンじゃなかった
      のか?」

唯一「あ! そうでした。実は少々トラブルと言いますか想定外の事態が発生したと
    言いますか……」

一方通行「……! あァー、そォいう事ねェ。物の見事に炊飯器一式だったろ? で、
      どォ手をつけるべきか悩ンだ挙句に俺を頼って来たって所か」ヘラヘラ

唯一「流石に話が早いですね。正直言って、あんな台所では自慢の腕が振るえません。
    家主の方はどういった調理法であの台所を支配しているのでしょうか?」


一方通行「知るかよボケ」


病理・円周・唯一「」



一方通行「立った経験のねェ俺が知ってるわきゃねェだろ? ンな事に頭も回らねェ
      ほど切迫するとか、オマエら揃いも揃って何なンだよ?」

円周「……黄泉川おばちゃんって何時に帰ってくるの?」

一方通行「朝の様子からすると深夜になっちまうだろォなァ」

唯一「ぐ……もはやここまで、なのですか」ズズーン

病理「っていうか最後まで使えませんねえこの超能力者。そこいらのカス並に」ペッ

一方通行「あァ!? 何だとコラもォいっぺン言ってみやがれ!!」カチン

円周「アクセラお兄ちゃんって『最強の能力者』なんでしょ? その応用で料理とか
    できないの?」

一方通行「オマエは能力者を何だと思ってやがる? 強い能力が必ずしも万能に結び
      つくとは限らねェンだよ」

病理「とにかく腹へったー。何か食わせろー。でないと暴れますよー?」バタバタ

唯一「手足投げ出してバタつかせないでください子供ですか貴女は」

一方通行「オマエが居るおかげで少しだけ楽ができそォだ。(ツッコミ的な意味で)
      礼を言うぜリクルート」

唯一「勝手に不名誉なアダ名を定着させないでくださいっ!! 私は橋の下に住んで
    いるボンボンじゃありませんし、河童の村長も知りませんっっ!!!」




円周「分かりにくいツッコミだねそれ……」

一方通行「あンま拾ってやるンじゃねェ。他所に怒られる」

病理「と・に・か・くッッ!! 夕飯はどうするんですか!? 第一位さん! 招待
    しておいて食事を出さないとか、貴方には接待の基本知識すらないのですか!?」プンスカ

一方通行「マジでしばき倒すぞオマエ。俺の溜まりに溜まった鬱憤に容赦なく油注ぎ
      やがってこのクソババアがァァ」イライラ

唯一「まあ落ち着いてください両名とも。熱くなっては空腹が活性化されるだけです。
    今から出前を取るのでは待ち時間的に厳しいでしょう。ここは全員掛かりであの
    『炊飯器ッチン』に挑むしかありません」

一方通行「人ン家の台所に変な名称付けンな。しかもセンス無さすぎ」

病理「うへぇ……。気が遠くなってきました。もう一歩も動けませーん……」グデー

唯一「いつまで病弱キャラ気取ってんですか立ちなさい木原の恥さらしが」

円周「病理おばさん頑張って。皆でやれば大量の炊飯器如きどうってことないよ多分」

一方通行「こっちはこっちで典型的なダメ女だな。まさか芳川以上の堕落女に会える
      とは思わなかったぜ……」ゲンナリ




病理「もういっそのこと諦めm」

一方通行「それで世の中何でもかンでも上手くいくと思ってンじゃねェぞ甘えてねェ
      でさっさと立てよオラァ!! シャキっとしやがれブチ殺されてェか!?」グイ

病理「あーん。もっと優しくして欲しいですー」ズルッ

円周「へたり込んでた病理おばさんを片手で掴み上げた……。アクセラお兄ちゃんって
    能力なしの素でも意外と力持ちなんだね」

唯一「俗に言う“火事場”ですね。憤りが極限に達すると普段は出せないようなチカラ
    が無意識の内に出てくる現象を総称します。……それにしても、本当にどこまでも
    我が侭で自己中な熟女ですね。同じ『木原』でも彼女だけは見習っちゃいけません。
    肝に銘じておきなさいね? 円周」

円周「……考えておくよ」

病理「聞こえてますよ唯一ちゃん。あとで『ドライブシュート』の刑です」ギラッ

唯一「チッ、地獄耳ババアが……」



ここまでです
書いといて今更だが、何だこの顔ぶれ?
話進まなすぎて泣けてきたわ

今日もお付き合い頂いて感謝です
ではまた次回

こんばんは
更新します
今回ちょっと修羅場注意
けどそこまでドロドロしないつもり



~ 炊飯器(七台) VS  木原三人衆(+一方通行)


二手に分かれて未曾有の脅威、『炊飯器ッチン』に挑む学園都市のゲテモノ集団。

不慣れな競技に悪戦苦闘する奴らの姿は滑稽で見物だぞ!

『木原』の威信に懸けて、

『最強』の名に懸けて、

今宵、皆様に最高のスペシャルディナーをお届けするぜ!

果たしてコイツらは『炊飯器ッチン』の創造主、『マスター・アイホ・ヨミカワ』の
神域にその歴史を刻むことができるのか?

足を運んだ物好きな君達! 奇跡を目撃したかったら片時も目を離すんじゃないぞ!

さあ、それでは間もなくゴングだ! レディー……!


ゴーーー!!!




カーン! ←(ゴングの音)



煮込みハンバーグ担当『木原病理&一方通行』



一方通行「クソったれが。何で俺まで……」グチグチ

病理「働かざるもの食うべからず、です」ダラダラ

一方通行「チェアの上で寛ぎながらもっともな格言放ってンじゃねェよ。その言葉に
      従うならオマエにも食う権利はねェ事になるぞ?」

病理「私はほら……あれですあれ、監督d」

一方通行「挽肉を生のまま口ン中にブチ込まれたいか? イイから早く手伝え自堕落
      木原が」イライラ

病理「ほいほーいっと……。あー面倒、じゃなかった。諦めたいですねえ。大体何で
    この私が料理なんてとっくの昔に諦めたクソ面白くもないママゴトを……ブツブツ」

一方通行「四の五の抜かしてねェでとっととタマネギ刻めよ怠け者。俺が懸命に挽肉
      こねてる横で不満ばっか垂らしやがって……」コネコネ

病理「もうベクトルでも何でも操ってとっとと仕上げちゃいましょうよー」ネーネー




一方通行「能力は無限じゃねェンだよ。たかが晩飯の仕度如きで一々使ってられっか。
      よしンば惜しみなく使えたとしても絶対オマエのためにならねェから却下」コネコネ ウニッ

病理「あーあ、生じゃツマミ食いもできませーん……」トントン

一方通行「っつーか、意外と手際良いじゃねェかオマエ。……何かムカつくわ。散々
      面倒臭がっといてスキルはあるとか嘗めてンのか?」コネコネ コーネコネ

病理「うっ……! 目が、目がァァあああ!!」シミルーーー

一方通行「……褒めてやった途端にありきたりなボケかましてンじゃねェよ」コネコネ

病理「うわああーん、目が痛いですうううう!!」ゴシゴシ

一方通行「あっ馬鹿、タマネギのエキスが付いた手で目ェ擦ンな! 逆効果だろそれ!」

病理「うう、泣かされました……。これではもうお嫁に……」シクシク

一方通行「……」コネコネ

病理「おい無視すんなよ動揺しろよ女の涙目の前にして平然と肉こねてんじゃねえよ」

一方通行「今までの流れを見て俺が動揺すると何故思った? 一緒に住ンでるガキも
      たまに目薬で似たよォな手使うが、それより圧倒的に酷ェよ蔑むしかねェわ。
      心配? してねェよする訳ねェだろさっきのあれは無効だボケが」コネコネ




病理「チッ、からかい甲斐の欠片もないとは……。こりゃ後で『擽りの刑』ですねー。
    貴方が擽りに弱い事はもう知ってるんですよーん?」ワキワキ

一方通行「手ェワキワキさせて悪戯な笑み浮かべてンじゃねェよ。オイ来ンな止めろ。
      オマエもこの挽肉みてェにコネくり回されてェのかコラ止めろよボケ」ゴネッ ゴネッ…!!


病理「タマネギに挽肉を合わせーの……」ゴネゴネ グニグニ

一方通行「ブラックペッパー振りかけーの……」サッ サッ


病理「……さて、ここからが壁です。これをどうやって炊飯器で煮ろと?」

一方通行「……それが分かれば最初から苦労はしねェ」

病理「普通に『炊飯』ボタンを押せば自動で完成するのでしょうか……?」

一方通行「米なら多分そォなンだろォが、果たして肉はどォだろォな……」

病理「っていうか私、気づいたのですが……」

一方通行「……言ってみろ」


病理「煮込み系って結構時間掛かりますよね? 出前頼んだ方が時間的に早かったのでは?」




一方通行「何で今頃気づくンだよもォ遅ェよ挽肉こねちゃったよタマネギ混ぜて味付けまで
      しちゃったよ総合的に全てが手遅れの段階入ってンだよ馬っっ鹿野郎がァァ!!」

病理「そもそもどうして『煮込みハンバーグ』をチョイスしたのですか? 敢えて高難度に
    挑戦したい年頃なら、本領発揮させてもらいますよ? とっとと諦めて簡単なのにし
    とけば良かったんだよこの見栄っ張りが」クスクス

一方通行「オマエ『炊飯』途中のジャーの中に頭突っ込ませンぞゴルァ!!! そンなンじゃ
      ねェよカス!! 前にここの家主がここで作ったっていう前例があったから何とか
      なるンじゃねェかと思っただけなンだよォォ!! 見栄張ったンじゃねェンだよォ
      クソ野郎がァァあああ!!!」ウガァァァ!!



オムライス担当『木原円周&木原唯一』



唯一「喧しいですねえ……。料理も静かにできない人種ですか貴女の保護者は」シャカシャカ ←(卵溶き中)

円周「病理おばさんって、料理諦めたとか言ってた割には中々の包丁捌きだよね」サクサク ←(鶏肉切り中)

唯一「そういう円周こそ、初めて包丁を握ったにしては悪くないですね。案外様
    になってますよ」

円周「えへへ、おてては“猫さん”にすれば良いんだよねー?」

唯一「そうそう、指を伸ばしてはいけませんよ。ザックリやっちゃいますからね。
    どこかの『諦めおばさん』みたいに」



病理「だぁぁれが諦めおばさ――ッ!?」

一方通行「良いからコッチ来て時間調整の仕方教えやがれ!!」グイッ 

病理「――ッく……! 唯一ぅ、後で覚えてなさいねーーー!!」ズルズル


円周「……唯一お姉ちゃん」

唯一「放っておきましょう。アッチは意外と彼がしっかりしているようですから、
    心配するだけ野暮というものです」ジュー 

円周「おお! 卵がみるみる焼き上がっていく!?」

唯一「ようやく対処法に気づきましたよ。予め『炊飯』ボタンを押して中の釜を
    温めておけば良いのです。要はガスコンロの代わりに電子熱を利用している
    と考えれば特に難しくありませんね」ジャー ジャー

円周「すごーい、唯一お姉ちゃん!」キラキラ

唯一「フライパンと同じように油さえ撒いておけば張り付く恐れもありませんし、
    少々面積が狭いのはネックですが、ミニサイズだと割り切ればそれほど気に
    なりません」ジューーー

円周「もうすっかり炊飯器調理法をマスターしてるね♪ さすが唯一お姉ちゃん」





唯一「先ほどは未知との遭遇に己を見失っていましたが、よくよく冷静に考えて
    みれば大した問題でもなかったですね。ただ単に『調理器具が一般家庭とは
    少し違う』というだけで、鍋やフライパンの代用として使う分に何ら不便は
    ありません。寧ろ火調整を考慮する必要がない分、寧ろ汎用性に優れている
    かもしれません。いやはや、炊飯器……こうして見ると案外侮れませんね」ベラベラ


病理「……アッチは順調に進行しているみたいですねえ。唯一がいつになく饒舌
    です。自己陶酔してるのでしょうか? 何あのドヤ顔? 腹立つー」ムカムカ

一方通行「だが、一理あるな。要は火の代わりに電熱を使って焼けば良いンだろ?
      なら釜底を熱して油敷いて肉の塊を置けば問題ねェはずだ。“米を炊く
      イメージ”に囚われて見落としていたが、別に蓋を閉める必要はねェン
      だからな」

病理「何だか釈然としないですねえ。まるで唯一が全ての問題を解決したみたいで……」ムスー

一方通行「不味いモン食いたくなかったら小せェ拘りは捨てとけ。コッチも肉焼くぞ」ポトッ ジューー

病理「ありゃ、流石にこの釜では狭いせいか一個か二個が限界のようですね」ポトッ ジューー

一方通行「何のためにこンだけあると思ってンだ? 機動してねェ炊飯器があと
      四台もある。さっさと残りのヤツも全部焼き上げちまおうぜ」ジューーーー

病理「へいへい、なーんか拍子抜けです。一般的な認識を取っ払えば本当に何て
    ことなかったとはねえ……」



一方通行「『表面だけの認識に囚われず、そのものの中身、本質を知り尽くせば
      様々な利用法が新たに生まれる』……か。応用の常套句だが、あながち
      的を射てねェ訳じゃねェ。黄泉川が『炊飯器は万能』とか豪語していた
      理由がほンのちょっとだけ分かったよォな気がするぜ……。分かりたく
      なかったけどよォ」



そんなこんなで――、


 ホカ ホカ…


一方通行「驚くほど普通にできたわけだが……」

病理「どう見ても一般的な家庭の食卓ですねこれ」

唯一「何処かのおばさんの足みたいな奇形物に仕上がるかと懸念しましたが……、
    これはこれで少々つまらない気がします」

病理「こまめに喧嘩売ってきやがりますね貴女ってヤツは」

円周「本当に炊飯器だけで作れるんだー……。精神論とか根性とか一切抜きで」

一方通行「意外とトリビアの種になるかもな。『炊飯器』の限界挑戦的なテーマで」




唯一「普通の御家庭ではまずお目に掛かれないでしょうからねえ……。是非ここの
    家主と謁見、会談したいものです。この他所とは違う発想力、一介の教員で
    置いておくにはあまりにも惜しい……!」

一方通行「勧誘とかやめろよ? あの馬鹿ジャージ女、ちょっと褒めるとすぐ増長
      しやがるから。っつか、あいつに教職すら務まっているのかが甚だ疑問
      なンだがなァ……」

唯一「別にスカウトマンじゃないですから! 服装がそれっぽいのは自覚してます
    けども! ……そういえばこの間道行く人に『あの人芸能プロダクションの
    スカウトマンっぽくね?』とかコソコソ指差されました……。地味にショック
    でした……」ズーン

円周「唯一お姉ちゃんって、一般的に『デキる女』の部類に入りそう……」

唯一「そう思われるのが決して嬉しくないわけではありません。が! 逆に言えば
    それだけ歳を重ねてる風に見えるって事ですよね!? ……複雑な心境とは
    正にこの事です」ハァ

病理「ま、何でも良いから早くいただきましょう。もう空腹が限界です」グギュギューー

一方通行「オマエ、まさか修道女の娘とかいたりしねェよな?」

病理「はい? 修道女……???」

唯一「えっ? 病理さん隠し子がいるんですか? ……おかしいですね。そんな話
    今まで聞いた事……」



円周「っていうか、病理おばさん結婚した事あるの?」

病理「段々失礼な方向に進みつつありますねえ……。私にはまず娘自体いません!
    結婚? 何ですかそれ美味しいんですか? それより目の前にある美味しい
    モノ食べましょう」ジュルリ

一方通行「……すまねェ。ただの勘違いだったらしい。忘れろ」

唯一「では先にいただきましょうか。家の人も遅くなるようですし」

円周「いいの? アクセラお兄ちゃん」

一方通行「別に構わねェだろ。あいつらの分はラップに包ンで保存してあるンだし、
      俺らが作ったモンを俺らで食って何が悪いンだよ?」

病理「ささ、みなさん箸持ちましたかー? いただきますは全員で言わなきゃダメ
    ですからねー?」

一方通行「そォいう所は意外と律儀なのなオマエ」

円周「やっとご飯にありつけると分かった途端、急に活き活きし出したね」

病理「ではよろしいですね? せーの――――」


全員「――――いただきます」




 バクバク ガツガツ モグモグ ブヒャアア ウマイ!!


 ~ 食後 ~


病理「ふー……食った食った。ごちでした。余は満足じゃ♪」チッチッ ゲフェ

一方通行「爪楊枝で歯ァ突きながらくだらねェギャグ撒いてンじゃねェよオヤジか?」

唯一「味も予想通り上手くいきましたね」ゴチソウサマデス

円周「炊飯器で作ったとはとても思えないねー。時間とか熱し具合の調整ちゃんと
    合ってたのか疑問だったけど」ゴチソウサマーー

病理「アクセラさん? ごちそうさまが聞こえませんよ?」

一方通行「酒煽るみてェなニュアンスで促してンじゃねェ。……ったく、わかったよ。
      わかったからデカい黒目引ン剥かせてコッチ見ンな怖ェから……。ハイハイ
      ごっそさンでした、っと……。これで良いだろ満足かコラ?」

病理「うむ、まあ良し」

一方通行「オマエは一体何処の何様だ?」




病理「木原族の病理様です。何か文句でも?」フフン

一方通行「何だ、ただのガキか」

円周「ほふぇ?」クルッ

一方通行「オマエじゃねェよコッチ向くな。……あーもォ、オマエ口の周り汚れすぎ。
      どンだけがっついてンだよみっともねェ……。とっとと拭け、ホラ」つナプキン

円周「ん、ありがとう」フキフキ

唯一「ふふふ」ニヤニヤ

一方通行「なァァに不敵に笑ってンだよ気色悪いなこの社長婦人モドキ」

唯一「だ、誰が社長婦人ですか無礼者!! ……私はただ『仲睦まじくて良いなぁ』と
    思っただけです! にしても貴方、まるで実のお兄さんみたいに円周と打ち解けて
    ますね」

一方通行「誰が誰のお兄さンだ?」

円周「私とアクセラお兄ちゃんは兄妹じゃないよー」ムー

病理「そうですね。血なんて繋がってたら色々と諦めなきゃいけませんから」クスクス

一方通行「オマエまで意味ありげに微笑みやがって。何かそこまで食ってねェのに胃が
      キリキリするのはどォいう訳だ?」



病理「良かったですね♪ 血が繋がってなくて」

一方通行「さっぱり意味が分からねェから取り敢えずブッ飛ばしてイイか?」グググ…

病理「やーん怖ーい、唯一ちゃーん助けてくださーい」キャッ

唯一「年甲斐もなくブリっ子ですか? 目と耳に毒ですから止めてください。ダークマター
    な足の癖に」

病理「語弊のある言い方も大概にしておかないとマジで蹴り入れますよ?」

唯一「物理的に私を痛めつけるというなら、私は社会的な意味で殺しに掛かりますよ?」

一方通行「良い歳こいた大人が食後早々に醜い喧嘩してンなよ面倒臭ェな」


ガチャガチャ…


円周「……、玄関の方から物音がするね」

一方通行「あァ、ガキ共が帰って来たンだろ」ズズー ←(食後のコーヒー)



打ち止め「ただいまーーー!! ってミサカはミサカは美味しそうなご馳走の匂いに
      釣られて颯爽と駆け込んでみたり!!」タッタッタ

番外個体「あー、腹減って死にそう……。ってかこの匂い、確か黄泉川たちは居ない
      んじゃなかったっけ?」トテトテ




ガチャ


打ち止め「――って……」ポカーン

番外個体「――は……?」ポカーン

一方通行「予想通りのリアクションだな。まァ固まってねェで座っとけ。あァ面倒臭ェ」ゴロン

円周「ミサカちゃん達おかえりー! ってアクセラお兄ちゃん! 食べてすぐ横になる
    と牛さんになるんだよー?」

病理「あ、どうも」ヨッ

唯一「こんばんは、お邪魔してます」ハジメマシテ


番外個体「…………誰? ってか何この状況」

打ち止め「とりあえず、ソファーを独占しているあの人を拷問してでも真実を聞き出そう。
      ってミサカはミサカは冷静に対応してみる」

一方通行「」モウドウニデモナーレ

番外個体「おいコラ。人生捨てた目で虚空を眺めてないでちゃんと説明しろよ」




―――


打ち止め「なぁーんだ。円周お姉ちゃんの身内だったんだね。ってミサカはミサカは謎の
      お姉ちゃん達の正体が判明して納得してみる」

一方通行(とりあえず波乱は免れたみたいだな……)

唯一「この子(円周)が厄介になっていると聞き、ご挨拶に参りました所存です」ペコリ

病理「ふむ、私まで『お姉さん枠』に括ってくれるとは、あなた中々見所ありますね」キラリ

一方通行「何か企ンでるらしいがそォはさせねェぞ? ってか丸分かり過ぎなンだよ
      止めろコラ」ギロリ

病理「あははー。な、何の事でしょう?」~♪

円周「一緒にご飯作って食べたんだよー」

番外個体「ふーん、まあ良いけどミサカたちもお腹空いたー。第一位、ご飯食べるから
      配膳してよ。どうせミサカたちの分も作ってあんでしょ?」

一方通行「顎で使おうとしてンじゃねェよ。……あとオマエよくもこのガキに要らない
      知恵を仕込みやがったなァ……!」ガタン

番外個体「えー? 身に覚えのない事で急にキレられても困るんですけどー?」ニヤニヤ




一方通行「その目は心当たりがあるって目だろ!! それにさっきは散々迷惑電話して
      きやがって……! ケータイ開いたら着信履歴五十四件だァ!? どンだけ
      執着心強ェンだよってかしつけェンだよストーカーかオマエはァ!!」

番外個体「はあ!? あなたが先に電話してきた癖にミサカばっか責めないで欲しいね!
      挙句勝手に切りやがったのはあなたじゃん! そりゃ追求したくもなるわ!!」ガタン

一方通行「オマエが『オリジナルに代わる』とか言い出したからだ!! オマエのガキ
      みてェな嫌がらせに最後まで付き合えるかボケ!! ただでさえ心に余念が
      無かったってのにオマエってヤツは空気の欠片も……!!」

番外個体「あん? あなたの心理状態なんて一々汲んでやるわけねーじゃん。なに馬鹿
      こいてんだか。ってかさ、そんなにおねーたまが怖いの? 格下相手に逃げ
      続けてんじゃねえよ腰抜け。知ってる? そういうヤツの事を俗に『小心者』
      って言うの。正にあなたにピッタリの表現だよねあひゃひゃひゃ!」


一方通行「」


  ……ブチッ!!


円周「あ、何かヤバそう……」



  カーン! ←(ゴングの音)

  挿入BGM 『スタン・ハ○センのテーマ曲:サ○ライズ』


一方通行「あァァ!!? ンだとゴラァ八つ裂きにすンぞオマエこの野郎ァァあああ!!!」ドゴン

番外個体「ひゃはっ!! やれるモンならやってみれば!? 物に当たったってちっとも
      恐くねえんだよ! 何!? それで脅してるつもり!? 馬っ鹿じゃねーの!?
      ってかさ、そうやってブチ切れるって事は、自覚してるって認めてるようなモン
      だよね? うわ、うっわ!! ますます馬っっ鹿じゃねえええ!!?」ギャヒャヒャヒャ

一方通行「うっせェンだよ!! 誰が腰抜けだァ!? 何時、何処で、で誰が誰から逃げ
      たって!? あァ!? 確証もねェ事ベラベラ垂れ流してンじゃねェぞゴルァ!!」

番外個体「事実じゃん!! ミサカ間違ったこと何一つ言ってねええし!! 大体あなた
      が急に意味不明な電話してくるからだろーがよ!!」

一方通行「またその話かよイイ加減しつけェンだよ!! オマエ俺の女でも気取ってンの
      かァ!? 『何でもねェから気にするな』っつったのに鬱陶しく何度もコール
      してくるしよォ!! はっきり言って重いンだよオマエ!! 過ぎた事ばっか
      一々突いてくるンじゃねェェ!!!」

番外個体「テメエに言われたくねえんだよ!!! っつか、過ぎた事でグチグチネチネチ
      しつっけえのはテメエじゃん!!? 何勝手にミサカを面倒臭え女扱いしてん
      だよ!? えぇ!? 面倒臭えのはそっちだろーがよォォ!!!」ガシャン

病理「あ、カップが……」ワレタ




一方通行「実際面倒臭ェから面倒臭ェっつってンだよ!! 文句あンのか!? あァン!?」バキン

打ち止め「あ……ミサカの椅子……」オコラレル

番外個体「ふっざけんなよこの白髪天使がァァああ!!!」グイッ ←(胸倉掴む)

一方通行「黙れコッチのセリフだこのクソアマがァァああ!!!」グイッ ←(反抗)


 ギャー ギャー


打ち止め「あーあ、だからミサカは止めたのに……。ってミサカはミサカは君子危うきに
      近寄らず」

円周「二人は本当に仲が良いんだねー。……ちょっと羨ましいな」

唯一「あの……止めなくてよろしいのですか?」

病理「放っておきなさい唯一ちゃん。あれも一種の愛情の形ってヤツですから。まぁ思考
    回路が古い貴女には理解できかねると思いますけど」

唯一「貴女に言われると心外を通り越して反吐が出ます」

病理「ほう、では言葉通り吐かせてあげましょうか? 血反吐で良ければ」ニヤァ



唯一「道化師みたいな顔でコッチ見ないでくれますか? というか瞳デカいんですよ貴女」

打ち止め「何で大人二名も険悪ムードなのー!? ってミサカはミサカはあっちこっちで
      発生する紛争に眩暈を起こしてみたり」クラクラ

円周「アクセラお兄ちゃんとミサカちゃん、結構ヒートアップしてきたよ?」


一方通行「だあァァ!! 今日という今日はもォ我慢ならねェ!! 表出ろォ!!」

番外個体「ハッ、面白れえ!! ボッコボコの腫れ面にしてやんよ!!」


打ち止め「遂にリアルファイト勃発!? ってミサカはミサカは未だかつてない大喧嘩
      の幕開けにオロオロしつつ、ちょっと観戦したい衝動に駆られてみたり……」ドキドキ

病理「あー、この子絶対将来プロレスとか格闘技の観戦が趣味になってるでしょうね」

円周「駆け引きなしのガチンコ勝負かあ……。うん、悪くないかも」

唯一「本当に止めなくて良いんでしょうか……」

打ち止め「ミサカ、もう仲裁役は御免だよ。さっき(vsお姉様)で疲労困憊だもーん。
      ってミサカはミサカはあの人にもお姉様にも容赦なく噛み付く番外個体の
      肝の強さに改めて感心してみたり。……やっぱりミサカ嫉妬してたのかな?
      その感情が無意識の内に番外個体に漏洩して、知らぬ間に蓄積されていた?
      ってミサカはミサカは番外個体が喧嘩っ早くなってる原因について自分なり
      に推理してみる」

唯一(今からこれでは将来がもの凄く不安ですねこの子……)




番外個体「ミサカも最近のあなたの態度は腹に据えかねてたんだ。そんなワケで一丁、
      溜まりに溜まったストレスをここで解消させてもらうとしようかねー☆」コキッ

一方通行「あァ? 俺に非があるってのか!? 思い当たる節が無さすぎて意味不明
      なンだよボケが!! 俺の何が気に入らないってンだコラ言ってみろよ!!」

番外個体「焦んなくても身体で教えてやるよ! 言うよりその方が手っ取り早いし」

一方通行「ンだとォォ……!!」

番外個体「ほら、早く出ようぜ。あなたから吹っ掛けてきたんだから、痛い目に遭っ
      てもミサカを恨むなよ?」クイッ

一方通行「……本気でやるつもりかよオイ。どンな結果になるか計算もできねェほど
      頭のネジがぶっ飛ンでるのか? マジで捻り潰すぞオマエ」

番外個体「なに今更尻ごみしちゃってんの? いくら虚弱でもやっぱり女にボコられ
      るのはプライド的に傷つくから? 悪いけどいくら懇願したってもう許さ
      ないし、手加減もしてやらないよ?」

一方通行「今のは空耳か? 誰が誰にボコられる辺りの件(くだり)が変に聞こえた
      ンだがァ? 『俺がオマエを』の間違いだろどォ考えてもよォ。いつから俺
      の上に立ったンだオマエ。身の程ってヤツを綺麗に忘れてンじゃねェぞ?」ギロッ


番外個体「一応訊いてやるけどさあ、まさかただの喧嘩に、それも女の子相手に能力
      使おうなんて最低なこと考えてないよねえ?」ニヤァ


一方通行「……!」ギクッ



番外個体「もちろん、このミサカは一アンペアも放電しないよ。っつーかそんな必要
      ないし♪ にも拘わらず、あなたは男としての面子も丸投げして卑劣な道を
      突き進むの? 最強のベクトル変換能力をこんな場面で躊躇なく行使するの?
      それってさあ、“子供の喧嘩に大人が割り込む”ようなモンじゃね? 対等
      な条件で向き合おうともしない卑怯なあなたが、どの面下げてミサカたちを
      護るとか豪語するのかにゃーん? ねえ最終信号? 確かに喧嘩にはルール
      なんて無いけど、最低限の節度くらいは守るべきだよね? この人がここで
      何のためらいも無く能力使ってこのミサカを叩き伏せたらどう思っちゃう?」


打ち止め「それはちょっとなぁ……。もしそうしたらアナタのこと少し軽蔑するかも。
      ってミサカはミサカは外野から口を挟んでみたり」


一方通行「ぐ……ッ!」ワナワナ

番外個体「ほら、聞いた? ミサカだって右腕直ってないんだよ? そんな相手とも
      体一つで闘えないの? うわー、あなたがそんな小者だったなんて思わなか
      ったよ。臆病で弱虫で傲慢とか、良いトコ一つもないじゃん」プゲラ

一方通行「じ、上等だコラァ!! どこまでもヒトを嘗め腐りやがってこの……ッ!!
      今更泣いても手遅れだぞ!? 良いンだな!? 今の内に泣いて謝れば痛い
      思いしなくて済むかもしれねェンだぜ!?」プルプル


唯一「あの震えは俗に言う『武者震い』ってヤツでしょうか……?」

病理「いんや、きっと肉弾戦限定に追い込まれて動転しているんですよ。目が泳いで
    ますもん。自分の非力具合はちゃんと把握してるみたいですが、引き返しも利か
    ない状況なので必死に虚勢張ってますね」




番外個体「はっ、誰が! よーし、んじゃとっとと表行こうぜ! ギッタギタに叩き
      伏せてミサカ専属の奴隷にしてやんよ!」ツカ ツカ

一方通行「止めときゃ良いのによォ……。この命知らずの馬鹿クローンが」カツン カツン


     (やべェ……。かなりやべェぞ。……どォする? どォすりゃあ良いンだ?
       バレない様にこっそり能力……、はダメだ。どォせ打ち止めが審判気取り
       で制限するに決まってる。それにあそこまで言われた以上は意地でも使い
       たくねェ……。ってか能力使って終わらせた瞬間それまで俺が築いてきた
       何かが終わってしまう気がする……。けど今更後戻りできる状況じゃねェ。
       考えろ。考えるンだ。純粋な力比べだけであいつに勝つ手段を――)カツン カツン



 ガチャ バタン!!



円周「……二人とも出て行っちゃった」

打ち止め「番外個体があんなに怒る所って意外と見た事なかったかも……。やっぱり
      昨日(円周が来た日)から徐々にストレス溜まってたのかなぁ?」

唯一「“嫉妬”ですか……。なるほど、“それ”のせいというわけですか。ふーん」ジー

円周「ふぇ?」キョトン ←(それ)




病理「ただの口論が思った以上に発展しちゃいましたね。まあ他人同士のイザコザは
    正直大好物なんで大いに結構ですけど」

打ち止め「ハッ!? こうしちゃいられない! ってミサカはミサカは中立の立場を
      以ってあの人の行動制限を調節してみたり」ピピピピ…

唯一「代理演算の中枢がこの子だとは知っていましたが……こうして見るとママゴト
    中の子供にしか見えませんね」

打ち止め「スーツのお姉ちゃん、ミサカのことを知ってるの? ってミサカはミサカ
      は精密作業をしつつも尋ねてみる」ピピーー

唯一「え? まぁ……ちょっとした情報屋なんですよ♪ あは」ハハハ

病理「うわー……何その躱し方? いくら子供相手でもそりゃねえわー。作り笑顔が
    ピカソの抽象絵みたいで泣かれるんじゃないですか?」ジトー

唯一「お願いですから永遠に黙っててください」イラッ


円周「――――ねえねえ!! みんなバルコニーに集合! ミサカちゃんとアクセラ
       お兄ちゃんが下で決闘するっぽいよー!」ハヤクーー


打ち止め「何ですと!? そりゃ観るしかねえ! ってミサカはミサカは高みの見物
      をするためにベランダに向かってダーッシュ!!」パタタタタ



今回の投下はここで終了です
円周と番外止めの修羅場? もうしばしお待ちください
その前に一方通行と決着つけねば
ではまた


こんばんは
番外個体の性格悪過ぎたかな……?

けどもう修正利かないんでこのままいきますサーセン



―――


 ヒュウウウウ


   番外個体 VS 一方通行


~ 観客席(黄泉川宅バルコニー)~


マンション真ん前の大道で対峙する少年と少女を遥か上階から雁首を並べて眺める四人。


円周「本当にお外で喧嘩するんだー……」ワクワク

病理「ある程度の距離を維持しつつ無言で睨み合ってますけど、意外に静かな始まり
    ですね。てっきりエントランスとかエレベーター前で既におっ始めてるのかと
    思いましたが……」

円周「他の住民に迷惑だよねそれ。……うーん、ここからだとやっぱり高すぎて二人
    が小さく見えるなあ」

病理「豆粒とまではいかないだけ良しとしましょう」




打ち止め「何か西部劇の決闘シーンみたい。ってミサカはミサカは変な重圧に生唾を
      ゴクリと飲み込んでみたり」ゴクリ

唯一「あれは互いの出方を探っているんです。その証拠にジリジリと距離が狭まって
    いるでしょう? ……おそらく、その僅かな距離も一気に縮みますよ」

打ち止め「すごーい! お姉ちゃん解説者みたい! ってミサカはミサカは感心して
      みたり」

唯一「え? いや、そんな……///」

病理「ですから一々子供に褒められたぐらいで照れるんじゃありませんって。――お?」


  バッ!


円周「ミサカちゃんが動いた!?」

病理「開戦ですね」


  ビクッ!? ササッ


唯一「第一位さん、若干反応が出遅れてますね」




円周「一瞬ビクついてから慌てて手を出してるけど、気概の面でやや不利に見えるね」


  グググ…


病理「あ。早くも第一位ちゃんが完全に捕まりました。……って、どう見てもパワー
    負けしてますねあれ」

打ち止め「互角の取っ組み合いもほんの数秒で終いかー。ってミサカはミサカはあの人
      のオッズ率の低さに納得してみたり……」

円周「がんばれアクセラお兄ちゃん! そこ、そこっ! いけっ! ……あ、あー、あー
    ……。組み倒されちゃった」シュン

唯一「不利な方を応援したくなる気持ちは分かりますよ、円周。……しかし、片手しか
    使えない少女にすら満足に捻じ伏せられないとは……。第一位の基礎戦力の低さ
    は致命的欠陥ですね」

打ち止め「み、番外個体は元々軍用だから、体技に優れてるのは当然なんだよ! って
      ミサカはミサカは苦し紛れのフォローを入れてみたり!」アセアセ

病理「もはやただの負け惜しみにしか聞こえませんねえ」

円周「病理おばさんを引き起こした時の馬鹿力は一体何処へ行ったんだろう……」

唯一「あ。第一位さんが遂にマウントを取られました」

円周「ミサカちゃん、すごい笑ってる……。ここからでも表情が良く読み取れるよ」




打ち止め「ちょっとー! 折角まともに動けるくらいにまで調整してやってるんだから
      少しは良いトコ見せろよーー!! だらしないぞーー!!? ってミサカは
      ミサカは野次を飛ばしてみる!」ブーブー

唯一「多分無駄でしょう。元々のポテンシャルが低いのですから。主に肉体的な意味で」

病理「第一位ちゃん、もう無様に彼女の股下でもがいてるだけですね……。抵抗が抵抗
    ですら無くなってきていますよ?」

唯一「完全にマウント取られてますからねえ……。奇跡なのか人が全く通ってませんし、
    これはもう勝負ありでしょう」

病理「やはり諦める他ないですか……。あ、めっちゃボコボコにされとる」

唯一「必死に両手で顔を覆ってガードしている姿が酷く憐れみを誘っていますね……。
    しかも、ガードの隙間を縫って的確な左が次々と顔面に刺さっています。端から
    見ると酔っ払い同士の喧嘩にしか見えませんね」

円周「ミサカちゃん強ーい! ……アクセラお兄ちゃん弱ぇ」

打ち止め「立て! 立つんだー!! ってミサカはミサカは届かないと分かっていつつ
      も必死に声を振り絞って叫んでみるーー!!」


  ガッシ ボッカ




病理「うわあ、ボコボコや……。めっちゃボコボコにされとるでぇ……。何かもういい
    加減助けてあげたくなってきました。っていうかそこのお嬢さん、少しで良いから
    能力復旧してあげなさいよ。流石に可哀相になってきたよ。何か居たたまれないよ」

打ち止め「……ダメ、それじゃフェアじゃない! ってミサカはミサカは心を鬼にして
      中立の立場を全うしてみる!! ……ううう」グググ…

円周「おちびちゃん、本当はすぐにでもアクセラお兄ちゃんを助けたいはずなのに……」

唯一「そんなに震えて……。相当我慢しているんですね。その若さで大した精神力です。
    子供は嫌いですが、これには感心せざるを得ませんね」

病理「あ。番外個体ちゃんが第一位ちゃんを殴るのを止めましたよ」

円周「殴り疲れたみたいだね。アクセラお兄ちゃんの反撃チャンス到来かな?」

病理「劣勢に変わりないですが、どうやらまだ戦意は失ってないようですね。すごい必死
    に手足をバタつかせてますよ? 何とか体勢を逆転しようと懸命にもがいてますね」

唯一「片手、それも利き腕ではない方の連打ですから、決定打としてはやや不足なんでしょう。
    打たれ弱そうな第一位さんがまだ元気に暴れているのがその証拠です」

円周「けど……戦況は変わらないねー。じたばたしてるだけでミサカちゃんの体ちっとも返せ
    てないよ」

唯一「彼の腹に乗せている尻に全体重を掛けているのであれば、あの細腕や割れ目ゼロの腹筋
    ではどうにもならないでしょう。――あ、番外個体が攻めを再開しました」




円周「一瞬でアクセラお兄ちゃんの体をうつ伏せにした!?」

病理「何と目を見張るような早業」

唯一「おっ? どうやら決め技に移るみたいですね! 処刑用BGM来ましたこれ!」ワクテカ


 ギュウウウウ… ギリギリギリ…!!


病理「……負傷中の右腕を第一位ちゃんの首に巻き当てて……。いや、腕のギプスで圧迫して
    いるのでしょうか?」

唯一「なるほど。いくら叩いてもキャンキャン吼えるのを止めなくてウザったいから、シメて
    落とそうと言うわけですか……。ギプスの硬さを有効活用した強かな攻め方ですね」フムフム

円周「プロレスとかでありそうな技だねー。見た事ないけど」

病理「ここからでも第一位ちゃんの顔色が真っ青になっていくのが、何となく窺えますねー。
    おお、すごいエビ反りになってます。ありゃかなり効いてますよ」


  ジタバタ!!


円周「苦しんでるね。アクセラお兄ちゃん。滅茶苦茶暴れてるよ。けど体勢的に虚しさしか
    漂ってない感じが何とも言えないねー」

病理「うわー、あれポッキリ逝ってしまいそう。観てるコッチまで痛くなりそうです」ブルッ




唯一「まるで押し返せてませんねえ。根本的に腕力、筋力等で太刀打ち出来てませんし」

打ち止め「やっぱり単純な運動能力じゃ無理なの? ってミサカはミサカはどんでん返しが
      起きる一パーセントの確率に期待していたのに……! それでもあの人なら……
      あの人ならきっと……ッ!!」

病理「そんな奇跡起こるわけないでしょう? 諦めろ。あれもう無理だよ。段々抵抗が弱ま
    ってきてるし、もう虫の息でしょあれ」

   
   ―― バン バン バン!!


円周「あ、アクセラお兄ちゃんが本気でタップしてる」

病理「遂にプライドを捨てて本能的にギブアップしやがったか……」

唯一「きっと相当ヤバいんでしょう。もう意識も明滅してるのでは?」

円周「ミサカちゃん、それでも首絞めるのを止めないねー。オチるまで止めない気かな?」

唯一「最後まで気を緩めない辺り、腐っても戦闘用クローンってわけですね」


 ……ガクリ


円周「あ、アクセラお兄ちゃんがとうとう動かなくなった」





病理「まるで糸が切れた人形みたいに事切れましたね。っていうか完全にオチましたね」

唯一「死んでないですよ多分……。まぁどちらにせよ、勝負あったようですが……」

打ち止め「うううーー……」ポロポロ

円周「ミサカちゃんがピクリとも動かないアクセラお兄ちゃんから静かに離れた……」

病理「あ、コッチに戻って来るっぽいですよ。倒れたままの第一位ちゃんは無論放置で」

円周「……ミサカちゃん、振り返らないね」

打ち止め「敗者に掛ける言葉なし。ってミサカはミサカは非情な現実に涙が止まらない」ポロポロ



カン カン カン!! ←(ゴングの音)


 ○番外個体 ―― ×一方通行

 (1R 2:35 秒 KO  決め技・『ドラゴンクラッチ』)




~ 勝者・番外個体凱旋 ~


番外個体「――ういーす。片付けてきたぜ」ガチャ

打ち止め「おかえりー! ってミサカはミサカは帰還した勝者に駆け寄ってみる!」パタタタ

番外個体「ふん、他愛も無い。これでこのミサカに楯突くのが如何に愚行か学んだでしょ」スッキリ

病理「あなた強いですねえ。仮にも第一位をKOするなんて……。どうです? 『木原組』
    に入りませんか? 貴女なら素質充分ですよ」

番外個体「んー、ヤクザに興味はないかなあ」ゴメンネ

唯一「ちょっと病理さん! そんな『外道なら誰でもオーケー』的な考えでスカウトしな
    いでください! 木原が木原を安売りしてどうするんですか!? あと木原はヤクザ
    の集まりとかじゃないですから!!」

病理「ヤクザだったらまだ可愛いモンでしょう?」

唯一「いや、そりゃそーですけど……なんていうかその、イメージ的に……」


打ち止め「相手は杖つきでしたが、反撃の隙も与えず一方的にフルボッコした感想は如何
      でしたか? ってミサカはミサカはオモチャのマイクを近づけて質問してみる」




番外個体「随分トゲのある勝利者インタビューだね。感想? すっきりしたに決まってん
      じゃん! 右腕直ったらもっと発散できそう! 新たな生き甲斐を見つけた気分
      だよ」

唯一「まるで近所の悪ガキですね」

番外個体「そりゃあこの中で一番人生経験少ないからね。けど、これでも結構丸くなった
      つもりだよ? 以前はバリバリ致死量の電撃放ったり即死確実な電磁釘乱射して
      たんだから。そん時に比べたら素手同士のぶつかり合いなんて可愛らしいお遊戯
      みたいなモンじゃね? ってか、純粋に殴ったり蹴ったり関節技キメたりするの
      って楽しいんだね。ミサカ何だか癖になっちゃいそう☆」

打ち止め「うわあ負の感情が積もり積もって一層暴力的だよこの子。どうしてこうなった?
      ってミサカはミサカは遠い過去を振り返ってみたり」

番外個体「最終信号が新参者とあの人に嫉妬なんかするからだよ。隠してるつもりだった
      んだろうけど、めっちゃ妬みの感情ミサカに流れてたから。正直抑えるので頭が
      一杯になるくらいに」

打ち止め「……、何の事でしょー? ってミサカはミサカは謗らぬ顔で口笛吹いてみる」フーフー

番外個体「吹けてないし」

病理「軍用クローンの性能は伊達じゃありませんねー。……さて、円周ちゃん。ゲームの
    時間と洒落込みますか?」

円周「うっしゃ」コキコキ

番外個体「おばはん、自信ありげだけど強いの? ミサカ、この新参者にまるで歯が立た
      なかったんだけど」



病理「ふふふ、まあ見ていてごらんなさい。『木原』の戦い方を存分に披露してさしあげ
    ましょう」キラッ

打ち止め「……このお姉さん、できる。ってミサカはミサカは第六感を鋭く光らせてみる」

円周「“うん、うん、分かっているよ。テレスティーナおばさん。病理おばさんに有効な
     戦法はやっぱり『あれ』だよね”」ブツブツ

病理「ふん、あんな顔芸しかできない駆動女の入れ知恵が果たして何処まで役立つのやら」

唯一(早く戻って来てください第一位。この自由な面々の歯止め役を請負い切れる自信が
    正直ありませんから……)

番外個体「置いてきぼり食らってないであなたもやろーよー☆」グイッ

唯一「え? ちょっ……あぁ!?」



 ~ 一時間後 ~


病理「――さて、そろそろお暇しましょうか? 唯一さん」

唯一「そうですね。すっかり長居してしまいましたし……」



打ち止め「えー!? お姉ちゃんたち帰っちゃうのー!? やだやだー! ってミサカ
      はミサカは駄々をこねてみる」

円周「やだやだー! ってエンシューはエンs」

打ち止め「おいこらテメェ」ギロッ

唯一(寒気……? 『木原』であるこの私がこんなチンチクリンに!?)ゾクッ

病理(同上)

番外個体「我が侭言っちゃダメだよ最終信号。……けど寂しいなー。おばはんたち泊ま
      ってけば?」

唯一「お気持ちは大変ありがたいのですが、今日はこの辺で失礼させていただきます」

病理「ええ。円周ちゃんがここに居る以上、また来る機会もあるでしょうから……」

打ち止め「……本当にまた来る? ってミサカはミサカはスーツのお姉ちゃんに縋り
      ついて見上げてみたり」

唯一「ええ。また来ますからそんな寂しそうな目で見ないでください。あと私、子供
    は嫌いなので以後抱きつくなら病理さんにしてくださいね」ナデナデ

病理「ちょ、コッチに盥回ししないでもらえます!? 私もガキは好きませんっつの」

番外個体「おい、パジャマおばさん。次は負けないから。覚えときなよ?」←(格ゲーで病理に完封された)

病理「ふふ、たかがクローン風情が一丁前に吼えますね。いつでも揉んであげますよ」クスッ




唯一「ほら、行きますよ病理さん。では私達はこれで。家主の方にも今度改めてご挨拶
    に伺います。円周、良い子にしてるんですよ?」

円周「はあい」

病理「唯一う~、車椅子押してくださ~い。移動ダルイです~」

唯一「ハイハイまったく面倒な……、それではお邪魔しましたー」


 シャコシャコ…  ガチャ バタン


打ち止め「……行っちゃった。ってミサカはミサカは急に静かになっちゃって言いよう
      のない寂寥感に苛まれてみたり」

番外個体「まあ良いじゃん。また来るっつってたんだし。しかしアレだねー。新参者の
      家族って“アク”が強いってか、濃いってか……ちょっと頭飛んでる所ある
      けど基本良い人たちだね」

円周「そうかなあ? えへへ」テレテレ

番外個体「っていうかあのパジャマおばさん格ゲー強すぎ! あなたでも勝てないとか
      どんだけやり込んでんだよ!? あれで触ったことないとか言われても絶対
      信じないんだからね!!」

円周「病理おばさん意外と小手先器用だし頭の回転速いからねえ……」



打ち止め「うーん……」

円周「どうしたの? おちびちゃん」

打ち止め「さっきから何か忘れてるような……。ってミサカはミサカはそれが何なのか
      思い出せなくてヤキモキしてみる」


―――


~ 黄泉川マンション前 ~


唯一「……何とまあ、惨い姿で……」

病理「あー、やっぱり完全にオチてますねこりゃ」


一方通行「」チーン


唯一「これ本当に『科学の最強人間兵器』とさえ謳われていた第一位なんでしょうか?
    何て不憫な……」サメザメ

病理「『木原』も思わず同情しちゃいますわ」プゲラ




唯一「一部始終を見物した上でムカつく笑顔を保てるとは血も涙もないですね貴女」

病理「まぁ、いつまでも路上で倒れたままじゃ通行人にも迷惑でしょーし、とっとと
    起こしますか」シャコシャコ

唯一「あ、ちょっと――!?」


  グニュ


一方通行「――痛ッッてェェェええええええええ!!!??」ガバッ


唯一「いきなり車輪で手を轢くとは……。涼しい顔でホントやってくれますね貴女と
    いう腐れ外道は……」

病理「いつまでアスファルトの上に横たわってるつもりですか?」ニコッ

一方通行「うォォ、手が……手がァァ……ッッ!! オマエ穏やかな笑顔で何したか
      分かってンのかァ!? 手の甲から鈍い音したぞ今ァァ!!」ナミダメ

唯一「凶悪面で涙ぐむのは止めてください気持ちが悪いですから」ウッ…

一方通行「オマエら揃って人の風上にも置けねェよ! 優しく介抱しろとは言わねェが、
      もっとマシなやり方は幾らでもあンだろォがよ!! 車輪で轢き起こすとか
      馬鹿じゃねェの!? マジでオマエら莫迦なンじゃねェェの!!?」プンスカ




病理「いやー、つい魔が差して……、反省してまーす」ペッ

一方通行「犯して殺して解体して燃やしてからゴミ処理場に放り捨てンぞ?」

唯一「残念ですが、第一位さん……」

一方通行「あ? ンだよコラ? オマエもついでに処理されてェのか?」ギロリ

唯一「不肖ながら、貴方の無様で惨めで間抜けなヤラれ様を一同で観賞させてもらい
    ました。したがって、幾ら凄んでも“あれ”を見た後の我々には効果が薄いと
    言いますか……その……」

病理「ぶっちゃけ全然恐くないってか、あんな見事な負けっぷりを披露した直後で
    よくも堂々と殺気を放てますね? 貴方は恥も外聞も気にしない性格ですか?」

一方通行「…………、見てたのか?」

唯一「ええ、最初から最後まで。っていうかここからなら見えると思わなかったん
    ですか?」

一方通行「……そりゃあ、まァ……な」

     (言えねェ……。そンなことを気に掛ける余裕も無かった、なンて絶対
       にクチが裂けても言えねェ……。ってか、見られちまってたンならもォ
       拘る必要ねェかも……。いや、だがわざわざ墓穴掘る意味もねェよな?
       ……にしても首痛ェ……。番外個体の野郎、手加減ってのを知らねェの
       かよ……。コッチが本気でやれねェの良い事に好きなだけ痛めつけやがって……)コキコキ




唯一「これから大変そうですね。貴方……」ジー

一方通行「やめろ哀れむよォな目で俺を見るな。茨の道を突き進む覚悟なンざなァ、
      あいつらと関わった時点で既に決まってるっつの」

病理「おや、思ったより意気消沈してないようで……」

一方通行「悟ってる、とも言うンかねェ? この場合」

唯一「開き直り、とも言いますね」

一方通行「うるせェな何でも良いだろ、ったく。……ンで? オマエらはもォ帰ン
      のか? っつかあれからどのくらい経ったンだ?」

唯一「約一時間弱でしょうか? 風邪を引いててもおかしくありませんから、今夜
    は暖かくしてお休みになられる事をお勧めします」

一方通行「そりゃどォも。くすぐってェな畜生……」チッ

病理「まぁもう帰りますが、その前に、貴方に少しお話があります」

一方通行「話……?」

唯一「帰る際に貴方だけを連れ出す予定だったのですが、手間が省けて幸いです」

一方通行「随分と意味深だなオイ。ガキ共には聞かれたくねェ話ってか? ふーン、
      つまり最初からその目的で来たわけだ」

唯一「理解が早くて助かります。……ではこちらへ。立ち話では傍聴の危険が伴い
    ます故」

一方通行「……」(急に雰囲気変わりやがったなこの女……。どォやらふざけてる
          場合じゃねェらしい)



                ,  ' ´  ‐' ヾ` ̄ 'ヽ、
    、   、 }  /  /  ,x- / / // ̄ヽ、
ミ、 \、\\ヽ }' //'"  '"´/ / /'´ /.//, 斗ヾ,、

{ 、ヾ、   ヽ、//'"     /'//// ィ' //    /、/!
.{、l ! !    /  /   /  .// //! / //  / }/ }、
ヾ } {/    / _.//   /./  .// / //| //  /.// ! }
ヽゞ}{  /::|/ }   / /  ,イi / // .! /  //! /! |
 ヽ  {:::::/{  / ! {  {.   ||./ /´ ,| / // ///! }
  ヾ {:::::::/|.//| ! ∨  /  l/ ///_|.|/'" /' ///! !'|
  \ヽ:::::::/|//'i ! | ヽ | ./ { /'/./~>x、,イ'/ ! .///! i i   「……ってかさ、何か最近俺の扱い悪過ぎじゃねェ?」  
     \::// | |/! ,イ i | 斗'"/l弋 ィッ ;`ヾ/'///'/ l/!
`     \:|''"|'::::| //! l | |/ .{ |'   ̄ /゙r::'"/|/// i!
       ヾ}、::::/// !! i i ! /        {:!'//'!// i'
>-  \、   ヽ::/'"|ヽ| i ,| |       、_,, ゝ.!.! |/
- ,z__ _ヽ    メ:::/'::::∨ l | ~''三'"/,ィ/.{ |'
'" ''" /-/ ,ィ‐ ミ、:::::: ヽl |`゙'' --'´//'| |

、x‐== /´//彡//!ヽ:::::::/| .i::::::::::l -‐/ |.i

.}} |::     {´〈 /|// ∨:/:::|/:::::/ ==-. レ
..}} i:       ∧ ' ∨ ∨::::::::/  ミ、-、"
. }} i:       ∧  /! 〉::;x彡ヘ |ミ ヾヽ`
. ト、         ∨ //:/   /   }、
/ヽ 、        {//:/  ./     / }
  \、       |:/ x、"      /::  {、
    ヽ 、    /ィ‐/   `ヽ \     //、
    //  /'" / |      ∨     //  \
    //  '     |      `ヽ    /     \



今日はここまでです
また次回
ようやく話が進みそうな予感

乱数「俺の出番がもしあったら頼むから数多のおっさんと一緒にすんなよ?唯一の常識人くらい真面目にしてくれよ?」

>>423
ごめんなさいい乱数さん
このスレの登場人物に 常 識 人 は い な い ん で す
強いて挙げて唯一さんです。出番はありますのでもうしばし待機していてください

円周ちゃん元々が地味ですからねぇ……。他のキャラと一緒だとどうしても影薄くなりますが、
こればっかはしょうがないですね
ですがメインヒロインはあくまで彼女なので、そんな印象も直にブチ壊してやります

さて、では投下します



―――

~ 黄泉川宅 ~


円周「おちびちゃん、お風呂上がったよー」ガチャ

打ち止め「ん、じゃあ次はミサカ入ってくるね。ってミサカはミサカは浴室にゴー!
      おっふろ、おっふろ~」タタタ バタン


番外個体(邪魔になりそうな最終信号がいない。……そろそろ頃合いかな)


円周「ふっふふふふーん」ゴー ←(ドライヤーの音)


番外個体「……、ねえ」

円周「……ん? なあに? ミサカちゃん」

番外個体「天然装う必要はないよ。そろそろ話してくれても良いんじゃないかなあ?
      あなたが何者で、一体何を企んであの人に近づいたのか……いい加減話せ
      っつってんの」

円周「ミサカちゃん? ……急にどうしたの?」キョトン



番外個体「そういう自分が被害受けてます風な反応も癇に障るからやめてくんない?」

円周「……ごめんね。何を言ってるのか分からない」

番外個体「じゃあもっと分かりやすく言ってやろうか? “何の目的で第一位の傍に
      擦り寄ったのか”って訊いてんだよ」ピリッ…

円周「……!」

番外個体「あなた、『木原』なんでしょ? まさかこのミサカが何も知らないとか、
      本気で思ってたわけじゃないよねえ?」

円周「ミサカ……ちゃん……?」

番外個体「『学習装置(テスタメント)』っていう便利な装置のおかげで、あの人
      に関する資料は脳にインプットされてるんだよ。つっても、このミサカ
      の初期設定じゃなくて後から調整を施され、既存している『妹達』から
      植え付けられた情報だけどね」

     「“『木原』を名乗る研究者が最終信号を狙って第一位と衝突した”」

     「そして、短い期間でまた『木原』が第一位と接触……。いくら何でも
       不自然だと思わない? 『木原』がどんな存在かぐらいは学園都市の
       裏から生まれたミサカでも知ってる。問題はその『木原』がミサカ達
       の生活に介入してきた事。……何か言い逃れでもしてみる?」

円周「……」




番外個体「上手く第一位を懐柔して、何に利用するつもりなの? 差し支えなけれ
      ばミサカにも聞かせて欲しいなーん☆ ……はっきり言っちゃうけどさ、
      何かムカつくんだよねあなた。どこからともなくポッと現れた他人の癖に
      あの人は満更でもなさそうな感じであなたを迎え入れてる。……ミサカや
      最終信号みたいな何の義理も成り立たないはずのあなたが、どうしてかな?」


円周「…………」


番外個体「いつまで涼しい態度保ってんの? 黙ってないで何か言えば? あんな
      他人を寄せ付けないような人種代表格をどうやって誑かしたのか、って
      ミサカは訊いてるんだけど? さっさと話せよ。参考にしてやるからさあ」


円周「……ミサカちゃん、苦しいの?」


番外個体「は?」

円周「アクセラお兄ちゃんと私が仲良くしてるのが、そんなにイヤなんだ?」

番外個体「……どーも話が噛み合ってないみたいだねえ。ミサカはただあの人に
      近づく不確定因子に尋問してるだけなんだけどなー。なんでそういう
      方向に進んじゃうの?」

円周「わかるよ。ミサカちゃんの目……大切なものを取られて焦っている人間の
    目だもん。私、アクセラお兄ちゃんをミサカちゃんから取ろうなんて思っ
    てないよ?」




番外個体「……本気で言ってる? 何? あの人があなたに取られるのを恐れて
      二人きりになるタイミングまで見計らって、こんな問い詰めるような
      真似までしてるって? ……ミサカを笑わせたいの?」ビリッ

円周「怒りを隠しきれない。それでも笑おうとする。……それってもう認めてる
    ようなものだよね?」

番外個体「ッ!」

円周「私には男女間の複雑な感情がよく分からない……。だから、ミサカちゃん
    の言葉を否定するべきかどうかも分からない。……けど――」


   「――私はアクセラお兄ちゃんが好きだから今ここに居る。それだけは胸
       を張って言えるよ? ミサカちゃんみたいな胸は無いけど……」ショボーン


番外個体「……なんで……あの人を……」ポツリ


円周「……?」


番外個体「なんであの人に好意なんか持ってるの!? あの人があなたに何かした
      の!? だったら教えてよ!! ワケ分かんないんだよおお!! 一体
      あなたは何処のどいつで、どういう経緯であの人に好意を抱いたの!?
      ミサカにも分かるように説明してよ!!」


円周「…………ミサカちゃん達と、多分同じだよ?」




番外個体「え……?」

円周「私もあの人に助けられた……。アクセラお兄ちゃんのおかげで、私は自由に
    なれたんだよ」

番外個体「…………あなた、どこまで知って……っ!」ゾク…

円周「アクセラお兄ちゃんの事なら、なあんでも知ってる。知らない事があったと
    しても調べる。どんな手を使ってでも。“そうだよね? 数多おじさん?”」ピピピ カタカタ…


番外個体「――ッ!?」ゾクゾクッ


円周「だから、ミサカちゃんが私とアクセラお兄ちゃんを引き剥がしたいって言う
    なら……、私はミサカちゃんを……」ピロピロピロピロピロ…


番外個体「な、何……? あなた、何してるの……? 何なの? その目に映って
      るグラフみたいな……ッ!?」


円周「…………」ピピーーーー


番外個体「あなた……い、一体……!!?」



円周「“うん、うん。分かっているよ。アクセラお兄ちゃん」







   「こういう時、アクセラお兄ちゃんなら、――きっと、こォするンだよね?”」








  ザワッ  ザワザワザワ…




番外個体「――――――ッッッ!?!?!?」






    ――木原円周は『一方通行の人間性』を習得しました。



―――


「……わざわざ車まで戻る必要があったのか?」


時を同じくしてファミリーサイドの公共駐車場。
その一角に駐車してある一般乗用車。
運転席に木原唯一。
助手席に木原病理。

そして、後部座席に座るは最強の超能力者(レベル五)一方通行。


「最も手近な安全スペースですから。この車は私の自家用ですので、万が一にも
 盗聴器が付けられている可能性はありません」


確信めいた口調で一方通行の素朴な質問に答える唯一。
この事からも分かる通り、今から話される内容は間違っても外部に漏れてはなら
ないようだ。
木原円周がこの場に居ないというのも若干引っ掛かる。

一方通行は挙げるとキリがない疑問の言葉を喉の奥に収め、彼女たちの切り出し
を待った。




「さて、これでようやく本題に移れますね。ではまず、貴方にこれを」


そう言われて手渡されたのは一枚の通達書。
唯一が大切に所持していたあの封筒から出された書類である。


「……何だこりゃあ?」


その内容にザッと目を通した一方通行。
彼の反応は口から思わず出た言葉通りで、いまいち意図が掴めていないようだ。

続けざまに渡された複数の書類に目を走らせ、みるみる内に神妙な顔つきへと
変貌していく一方通行。ひと通り読み終えた様子を窺った唯一が、首を此方に
向ける。


唯一「私が貴方の前に現れた真の目的、これでご理解頂けましたか?」

一方通行「……ッ」

唯一「その様子だと、やはりご存知でしたか……」

一方通行「知ってるも何も、ついこの間現地のニュースで見たばかりだ……」




唯一「でしたら、“発足”についての説明は不要ですね」

一方通行「オマエ……!」

唯一「どうしたんですか? 顔が強張ってますが?」

一方通行「何がこの車椅子パジャマ女の付き添いだよ……。真顔で堂々とホラ
      吹きやがって。オマエ、どれだけブッ飛ンだヤマに関与してるのか
      本当に自覚できてンのか?」

唯一「ふふ、私の“素顔”を目の当たりにし、現実が直視できませんか?」クスッ

一方通行「……チッ。失業したら舞台女優にでも転向しろよ」

唯一「褒め言葉として受け取らせていただきます」

一方通行「……ガキ共の前じゃとンだ猫被りか。俺だけを呼び出して、真相を
      明かした後に何を期待してやがる? あのガキ(円周)には何一つ
      概要を知らせないまま実践投入させるから、俺に全力でフォローしろ
      ってか?」

唯一「そこまで非道に扱うつもりはありませんよ。彼女にも後日正式な発令書
    が行き渡る手筈となっています」

一方通行「……なら、俺に事前通達する意味は何だ?」

病理「帳尻合わせですよ第一位ちゃん。円周ちゃんの耳に入れる前に、まずは
    保護観に当たる貴方から知らせておこうかと」




唯一「貴方(第一位)と彼女(円周)に接点が生じるなど、とんだ誤算も良い
    所でしたがね。結果的に貴方が彼女を晴れて自由の身に導いたのです」

一方通行「……この内容通りに事を運ばせるよう、俺の許可を求めに来たって
      わけか?」

唯一「厳密に言うと違います。貴方が容認しようと反対しようと、何ら影響は
    ありません。これらは『学園都市全体』の意思です。貴方如きが反抗の
    意を示したところで止まるわけもありませんし、既にもう動きは始まって
    います」

病理「こうやって事前に通達しただけでも感謝してください。もっとも、通達
    したのは別の下心が隠れているからに他なりませんが……」フフッ

一方通行「下心だと?」

唯一「病理さん……。ですからもう少し言葉を選んでくださいと、いつも注意
    しているでしょう? 上層部や『木原』の沽券に係わる言い方は謹んで
    もらえますか?」ハァ

病理「おや、こりゃ失敬」テヘ

一方通行「……」イラッ

唯一「で、話を戻しますが……まぁ病理さんの発言に大凡間違いはありません。
    貴方という強大な戦力が『木原』との間に接点を修復させた。これは我々
    や『木原推進派』にとって大きな利点となります」




一方通行「さっき“とンだ誤算”っつってたよな? オマエ」

病理「“最終的にはオイシイ誤算”ってヤツでーす」

一方通行「……オマエは最初から仕掛け人だったのか? セブンスミストの屋上
      で会った時も、俺達の間で生まれた接点を上手く生かす算段をしてた
      ってのかよ?」

病理「恐い恐い。睨むことないじゃないですかー。私はただの興味本位で動いて
    いただけですよ。事務的な役目は唯一ちゃんが全権を握っていますからね。
    どう利用すべきかも彼女の一存に全て委ねてましたから、私を責めても埃
    は出ませーん」

一方通行「……、まァ良い。話を進めろ」

唯一「ええ。まず――」


   「――我々(学園都市)は『反学園都市・サイエンスガーディアン』からの
       “宣戦布告”を受理し、徹底抗戦も厭わない方針です」


一方通行「……だろォな。この書類通りに世界が動いてンだとしたら、学園都市が
      このまま指を銜えてるのなンざ有り得ねェ」




唯一「納得して頂けたようで……」


一方通行「――だがな!」バンッ!


唯一「?」

一方通行「俺は『学園都市』の手駒に成り下がるつもりはねェ! 『反学園都市』
      の抵抗運動が看過できねェ事態になってンのも、全部オマエらが蒔いた
      種だろォがよ!」

病理「……まあ否定はしませんね」

一方通行「俺個人から言わせりゃ、“どォなろォと知った事じゃねェ”話だ……。
      反学園都市の思想になンざ興味すら湧かねェし、そいつに加担してやる
      気もねェ。“オマエらで勝手にやってろ”って、この紙切れを今すぐ破り
      捨ててやりたいトコだが……!」ギリッ

唯一「ですが、貴方は逆らえない。今の貴方に反逆の道は選べない。違いますか?」

一方通行「…………クソが」

唯一「“子供の我が侭”に付き合う気などありませんので、あしからず」

一方通行「だったら、軽々しく『納得した』なンて言うンじゃねェよ。納得なンざ
      できるわけねェだろォが……!」

唯一「貴方が『学園都市』に並々ならぬ不信感を募らせているのは重々に承知して
    おります。ですが今も言った通り、“貴方個人の我が侭”を聞いている場合
    ではないのです。納得できなくてもご理解頂けますよう」




一方通行「…………ッ」

唯一「続けても?」

一方通行「……チッ」コクリ

唯一「今回、現地に送られる人員構成ですが、三人の『木原』を当初の予定として
    いました」

一方通行「は? オイ、たった三人だけか?」

唯一「そこいらの雑兵一人と木原一人を貴方は同枠で括るおつもりで?」

一方通行「……だとしてもだ。人件費のコストにはなるだろォが、もォちっと広い
      分野から派遣した方が確実性は増すンじゃねェのか?」

唯一「必要ありません。寧ろ弊害にさえ成り得ます。貴方ほどの頭脳をお持ちなら
    すぐに見当はつくでしょう?」

一方通行「…………ま、確かにそれもそォだが」

唯一「で、その三人ですが、まずそこで長話に退屈したのか呑気に爆睡してやがる
    『木原病理』さん……」イラッ


病理「Zzz」グオー グガー


一方通行「やけに大人しいと思ったら寝てやがったか……。こいつの緊張感の無さ
      にはもはやコメントのしようがねェな」




唯一「……まあ、彼女は実戦要員ですから別に問題ありません。ありませんが……
    不快です。ただひたすらに不快です。人が面倒な役割全うしてる最中鼾掻い
    てんじゃねえよこの“ノーテン木原”が……!!」イライラ

一方通行「落ち着け壊れてる口調壊れてる。激しく同意だが一旦放置して続けンぞ」

唯一「……コホン、失礼致しました。三人の内の一人は病理さんで、二人目は……
    “貴方と接触していない木原”です」

一方通行「そいつの個人情報は……やっぱり秘匿か?」

唯一「はい。理由は特にありませんが、強いて言うなら“知っても無駄”だからです。
    誤解を生まないよう宣告しておきますが、今現在の『木原』は仲良し集団など
    ではなく、各々が勝手に木原らしい思考を携えて生きています。私と病理さん、
    そして円周も含んだ“さっきまでの時間”は極めて特殊なケースである事を常々
    お忘れなく」

一方通行「……ただの茶番だから忘れろ、と? 無理だろ馬鹿が。インパクトを強く
      残しすぎだ。オマエらはそこら辺の加減が全く利かねェのかよ?」

唯一「そこのところは『人間としての感情が働いた』とでも自己解釈してください」

一方通行「“非人道”の代名詞共が何ほざいてンだか……。ンで、最後の三人目だが、
      今までの流れを鑑みるに……」


唯一「ええ。お察しの通り、三人目は本日正式に鳥かごから脱した『木原円周』です」




一方通行「……至極当然の疑問をぶつけても良いか?」

唯一「どうぞ」

一方通行「あの青臭ェガキがそンな一癖も二癖もあるヤツしか来ねェよォな巣窟で、
      一体何ができる?」

唯一「……そうですか。どうやら貴方はまだ“彼女の『木原』としての恐ろしさ”を
    その目で垣間見てはいないんでしたね」

一方通行「『木原』としての恐ろしさだと……? あいつがどンな恐ろしさを秘めて
      るってンだ? オマエもあの監禁野郎共と同じよォな事抜かしやがって……」


唯一「残念ですが、彼らの意見は充分に的を射てます。木原円周は確かに義務教育の
    工程を剥奪され、成長と同時に身に付いていて当然の基礎知識等に著しい欠陥が
    生じています。しかし、だからこそ『木原としての本質』に最も近い存在である
    のもまた一つの結論です。“誰にも教われないからこそ、本来ヒトから学ぶべき
    定義を自ら学ぶしかなかった環境”こそが、通常の教育方針とは異なる道を進み、
    新たな発想力や思考力を生み出す秘訣と一部の研究学者の間で称されています」


一方通行「“自己学習能力を急速に発達、補整させる事で今の木原円周が成り立って
      いる”……。それは本人から聞いた。問題は、“自分一人だけで得た知識の
      応用に限界がある”点だ。今のあいつには圧倒的に『経験』が不足している。
      土壇場にどれだけ頭が回るかはそれまでに潜り抜けてきた死線の数と濃度が
      モノを言うンだ。どンな逸材だろォと、訓練も碌に受けてねェ人間を前線に
      送り込む軍が存在すると思うか?」




唯一「ええ、仰る通りです。現に木原円周は“現地で失っても特に障りない”程度の
    人材でした。要するに、“取り巻きや雑魚兵駆除”以外の面では期待を煽られて
    いなかった事になります」

一方通行「……ただの捨て駒、って言いたいのかよ?」

唯一「はい。少なくとも計画書作成の段階では……。ですが、今では状況が一変して
    います。『木原勢』に貴方という『最凶のイレギュラー』が混合すれば、円周を
    含む『木原勢』に対する期待度も大きく変動するでしょう」

一方通行「…………」

唯一「最悪、送り込まれた『木原』がもし全滅したとしても、それで全てが終了した
    訳ではありません。……とは言え、学園都市から“三人も”『木原』を解き放つ
    のですから、ある程度の成果も期待するなと言うのは正直酷な話です……」

一方通行「『木原』よりも上に持つ“隠し玉”については?」

唯一「現時点でお答えできる内容ではありません」

一方通行「……そォかよ」チッ

唯一「話を進めます」

一方通行「……」コクリ



唯一「舞台となる場所は東欧に位置する地方都市、『バゲージシティ』。……貴方も
    名称くらいは聞いた憶えがあるかと」

一方通行「確か第三次世界大戦で多大な物資の供給拠点として注目されてたな……。
      つっても短期終戦しちまったわけだから結局用無しだったっつー話だが」

唯一「つい先日その都市を『サイエンスガーディアン』が買収、占拠しました。目的
    はその書類に提示されている概要通りです」

一方通行「『ナチュラル・セレクター(自然淘汰するもの)』、ねェ……」

唯一「『学園都市の超能力を凌駕する“異能”の確立』。正に反旗を翻すとはこの事
    でしょうね」

一方通行「……ハッ、如何にも裏が隠れてそォな理由じゃねェか」

唯一「はい?」

一方通行「たかが名誉やら証明やらのためだけに街一つ丸ごと買い取る必要がどこに
      あンだよ? 規模を無駄に広げてンのは、裏の世界と関連がある参加側から
      絞るだけ絞り取って、少しでも学園都市に対抗するための力を得たいからだろ?」

唯一「……ふふっ、やはり貴方もそう思いますか」

一方通行「他にどォ思えってンだよ……。俺も『ハワイの一件』に関わってた事実を
      忘れてンじゃねェだろォな?」




唯一「学園都市が危険視された“切欠”ですものね。『グレムリン』に関して貴方は
    どの程度深く介入していますか?」

一方通行「それはコッチの内情だ。知りたけりゃ自分で勝手に調べろ」

唯一「……失礼。無駄な質問でしたね」

一方通行(まさかとは思うが、この件に“あの無能力者”が絡ンでたりしねェよな……?
      『グレムリン』が関連しているとなると、その疑惑が掛かっている“金髪のガキ”
       も何かしら動きを見せているはずだ。……って事は、学園都市に戻ってないあの
       “お人好し馬鹿”が行き着く先は……)

唯一「……どうかなさいましたか?」

一方通行(……あいつの“右手”がこの企画の何処で役に立つかは見当もつかねェが、
      既に“アッチの方で”活動が行われてるンだとしたら……!)

唯一「第一位さん? 先ほどから難しい顔をしていますが、何か気になる点でも?」

一方通行「……いや、別にオマエが気にするよォな事じゃねェ」

唯一「……? なら結構ですが……念のため、当日はこの“発信機”を携帯してください」

一方通行「俺の行動を制限すンのか? ケッ……。まァ、そォ警戒すンなと自信持って
      言えねェ身分なのは自負してるがよォ……」




唯一「貴方が『木原』とバゲージシティへ同行するための最低条件です。くれぐれも紛失
    などなさらぬよう、管理に注意を払ってくださいね?」

一方通行「ガキと同等に扱ってンじゃねェぞ?」

唯一「……さて、私からの説明は以上ですかね。後の詳細はこの書類のコピーを閲覧して
    ください。決して誰の目にも入れてはなりませんよ? 全ての内容を頭に入れたら
    用紙は焼却処分でお願いします」

一方通行「クドクドとうざってェなオマエ。一々言われなくてもそンぐれェ分かってる」


病理「まぁそういう訳ですので、よろしくお願いしますね。第一位ちゃん」ムクリ


一方通行「……そしてオマエは狸寝入りかよ」

唯一「いえ、おそらく素で寝てましたよこの人は」

病理「だって長ったらしい前置きとか眠くなるだけじゃないですか~。一々耳を傾けるの
    も面倒ですし」

一方通行「『諦め』はどォしたコラ普通に面倒とか言いやがってもォ隠す気ゼロかオマエ」

唯一「……とにかく、此方からは以上です。円周に届く通達書に大まかな段取りを記載し
    ておきますので、それに従う形で動いて頂きます。学園都市の尊厳や存続にも非常
    に大きく関わる一件ですので、発令の時まで勝手な行動は謹んでくださいね」




一方通行「オマエは同行しねェのか?」

唯一「終結の確認が取れ次第、私も現地へ赴きます。見通しとしては凡そ二~三日後辺り
    が順当でしょう」

一方通行「そりゃあ随分早ェな。資料を見る限りじゃ長期開催予定らしいぜ?」

唯一「それだけ学園都市側が大会を短期閉幕に追い込むために尽力を注いでいる、と解釈
    して頂ければ宜しいかと。でなければ、“一人で厄災レベル”の『木原』を三人も
    投じるなんて強攻策には打って出ませんよ」

一方通行「……つまり、どォあっても成立はさせたくないって訳か。なら首謀者を叩くの
      が一番の最短ルートじゃねェか?」

病理「首謀者ですか……。果たして大会の主催者が“それ”に該当しますかねえ?」

一方通行「どォいう意味だ?」

唯一「『反学園都市・サイエンスガーディアン二十七社』は、大きく三つのグループに
    分けられています。……今大会の主催者を務める人物はその内の一つを束ねている
    だけに過ぎません。つまり、主催者を上手く潰して大会を中止に追いやるにしても、
    本懐を成し遂げたとは言えないのです。『学園都市』は『反勢力』を完全に鎮圧させ
    るまで予断を許さないでしょうから」

一方通行「……仮に『ナチュラルセレクター』を潰せても、他の二つの勢力が現存して
      いる限りは同じ事の繰り返しが保障されているも同然、ってヤツか」

唯一「ええ。……しかし、かと言って看過はできませんから、どちらにせよ叩く以外の
    選択肢は無いでしょうね」



一方通行「簡単に潰されてくれるヤツらなら『反学園都市』だなンて如何にもライバル
      関係にありそォな呼称は付けらンねェだろォからな」

病理「地道に一つずつ、確実に芽を摘んでいくしかないって事ですよ。まずは明らかに
    学園都市に喧嘩を売ってるとしか思えないこの『ナチュラルセレクター』からです」

一方通行「……、俺はあのガキに付いていれば良いのか?」

唯一「出発までにもう一度連絡をさせて頂きます。詳しい概要と最終確認はその時でも
    遅くありません」

一方通行「わかった」


唯一「では、私達はそろそろ……。お時間を取らせて申し訳ございませんでした」

一方通行「……おォ」ガチャ

病理「じゃ、おやすみー☆」フリフリ

唯一「おやすみなさい」フリフリ

一方通行「最後の最後で気さくな雰囲気に戻してンじゃねェよホント締まらねェな
      それまで張り詰めてた肩のチカラ全力で抜けちまっただろォがよ……。
      ハイハイわかったおやすみさっさと行きやがれクソが……」フリフリ





 ブロロロ…



「…………」


去っていく車を見送った後、一方通行は手元の資料の束が入った封筒に視線を移して
瞳を強張らせる。

つい先日、魔術結社『明け色の陽射し』のボス、『レイヴィニア=バードウェイ』の
先導で訪れたハワイ。そこで遭遇した別の魔術結社『グレムリン』。

“あの日”。

バードウェイの背信疑念以降姿を見ていないツンツン頭の無能力者。

何の因果か、再び目の前に現れた『木原』。

そして、『木原』を主戦力とした反学園都市への対抗。

更に、反学園都市側は『グレムリン』の影も見え隠れしている。



(どォやら、のンびりと平穏に浸かってはいられねェ方向にまた話が進ンじまって
 いるらしいな……。やれやれ、これじゃ暗部にいた時よりも悪化してンじゃねェか。
 ま、自業自得なンだろォけどよ……)


帰って来ない少年が今どこで何をしているのかは知らない。
これ以上の戦争を望んではいないし、科学サイドを恨み、妬む魔術サイドがどんな
行動を今後起こしてくるかなんて知る術もない。

だが、ひとつだけ。たったひとつだけ確かで揺るぎないものが一方通行の心の中に
ずっと大切に保管されていた。それはいわば“動力源”。

“失いたくない者を失わないためなら、得体のしれない敵も事情もクソ喰らえだ”。

今回は“それ”が誰に該当するのかは、言うまでもない。


今回はここまでです
なんか真面目な話っぽくなっちゃってますが、それは気のせいです
シリアス要素に期待した方がもし居たらお詫び致します

また三日後くらいに続き投下します
いつも感想&意見&乙くれる方、ありがとうございます。唯一の励みです
それではまた

あ、一個訂正箇所発見

>>440
一方通行「……だとしてもだ。人件費のコストにはなるだろォが、もォちっと広い
      分野から派遣した方が確実性は増すンじゃねェのか?」

人件費のコスト“削減”が抜けてました
すみません

シリアス路線混ぜるなら乱数君常識人なわけねえなと思った直後に気のせいですってもう理解が追いつかないよ。漫才してる時点で気付くべきだったけども

>>458
好き勝手書いてるだけなのであまり理解しようとする必要はないですよ
ただ前回の気のせいです発言は余計でした。混乱を招いてしまってすみませんでした

投下します



―――


~ 黄泉川宅 ~ 一方通行帰宅


一方通行「……」ガチャ

打ち止め「あ! もーう今まで何処行ってたのーっ!? ってミサカはミサカは
      遅すぎるアナタの帰宅に胸を撫でつつ頭を抱えてみたり」ドタドタ

一方通行「……あァ? 何慌てふためいてンだよクソガキ」

打ち止め「いいからコッチ来て! 大変なの! ってミサカはミサカは説明より
      見せた方が早いと判断してアナタの腕を引っ張ってみる!」グイ

一方通行「ちょ! だから何なンだよ? 何があったのかまず説明s」

打ち止め「いいから早く早くー!! ってミサカはミサカはアナタの腕を掴んだ
      ままミサカたちのお部屋へダッシュしてみる!」タタタタ

一方通行「ば、よせ危ねェ! 引っ張ンなやめろ! おい――!?」



一方通行「………………!!」



~ 番外止め部屋 ~


番外個体「ねえねえーん☆ このままミサカの部屋で一緒に寝ようよー」ゴロゴロ

円周「うーん、ごめんねワーストちゃん。私、やっぱりアクセラお兄ちゃんと
    一緒の部屋がいいの」

番外個体「ぶー、つまんなーい。折角仲良くなれたのにい……」プクー

円周「けど……たまにだったらいいよ」ニコッ

番外個体「ホント! やった☆」キャハッ

円周「あ、ワーストちゃん。頭にゴミ付いてる」ヒョイ

番外個体「っと、ありがと。ところでさ、円周ちゃん。このミサカともアドレス
      と番号交換しよ? 一緒に美味しい物食べたり買い物したり、ね?」スッ

円周「うん! ワーストちゃんスタイル良くて羨ましいなー」セキガイセン ソーシン

番外個体「お、来た来た。じゃあミサカも送るねー。円周ちゃんだって、ミサカ
      ぐらいの肉体年齢期には化けてるかもよ? きっとあの人も悩殺確定
      だね。ミサカじゃいくら仕掛けても顔色一つ変えてくんないし、こう
      なったらあなたに希望を託すっきゃないかなーん」




円周「ううん、ワーストちゃんは充分魅力的だよー。アクセラお兄ちゃんは少し
    鈍感だから、ワーストちゃんの良さに気づいてないんだよきっと」

番外個体「“少し”どころじゃないっしょあれは……。つっても、ミサカは円周
      ちゃんみたく素直に接するなんてできっこないしなー」ハァ

円周「思ってる事を口にするのって、簡単じゃないもんねえ」

番外個体「わかってくれる!?」パァ

円周「わかるよ! 女の子って好きな人の前じゃ照れ臭くなっちゃうんだよね!
    私もアクセラお兄ちゃんが好きだからすごくわかる!」ウンウン

番外個体「ううー、円周大好きぃ~!」ギュッ

円周「うわっぷ……ワーストちゃん苦しいよ。……ふふっ」クスクス


 キャイ キャイ


一方通行「…………どォなってやがる?」←(ドアの隙間から覗き中)

打ち止め「ミサカがお風呂から上がった時にはこの有り様……。居辛くなった
      からお部屋の外でアナタをずっと待ってたの。ってミサカはミサカは
      あの二人に何が起きたのか再度頭を働かせてみるけどやっぱり見当も
      付かなかったり」←(同上)




一方通行「……」ジー

     (あいつら、あンなに仲良かったか? この際トーク内容は置いて
       おくにしても、ちっと……イヤかなり異様な光景だな。まるで長い
       付き合いの親友同士じゃねェか。っつか、団子のガキはまだ平常に
       見える。番外個体の方が明らかにおかしい。何あの歳相応の明るく
       て眩しい顔? 目元の闇を象徴するよォな隈は何処行った? あれ
       じゃあ完全に青春真っ盛りの生活送ってる何処にでもいそォな女子
       高生じゃねェかよ……。それに互いの呼び方まで何か進展してるし)ゾー

打ち止め「番外個体、すごく嬉しそう……」ジー

一方通行「……」ジー

     (あンな面してるンじゃ、さっきの件で怒る気にも報復する気にも
       なれねェじゃねェか。……クソ、駄目だ。これ以上は直視できねェ。
       清潔感しかないガールズトークの風景とか俺には合わなすぎる!)サッ


番外個体と木原円周。
自分の不在時に彼女達の間に何があったというのか。
直接聞こうにもあの空間には何となく踏み込めない。
さっき喧嘩したばかり(一方的にボコられた)の番外個体とは顔を合わせ辛いのも
重なって余計に立ち入るのを躊躇してしまう。

いや、ためらう理由は他にもあった。

思えば打ち止めにも当て嵌まる事だが、彼女達は特殊な環境で生み出され、お世辞
にも平坦な人生を送ってきたわけではない。というか、誕生したのがそもそも最近
の話だ。




そんな彼女にとって、自分が結果的に迎え入れた円周という少女は貴重な他人同士
の友好関係が成り立つ存在と言える。
一方通行の立場からしてみれば決して悪い方向に進んでいるとは思わない。むしろ
生み出される切欠となった立場としては喜ばしい話である。

となれば、下手に自分が彼女達の間柄に干渉するのは極力避けた方が良いだろう。
彼女達のためにも。そして自身のためにも。

元々他人同士の人間関係にあれこれ言うようなタイプではない一方通行だからこそ
すぐに出せた結論だった。

物陰からこっそり覗くような体勢からゆっくりと扉を離れた一方通行は、未だ不安
そうな顔で自室を見つめる打ち止めに優しい口調で促す。


一方通行「……今日だけ特別だ。オマエ、俺の部屋で寝ても良いぞ」

打ち止め「い、いいの!? ってミサカはミサカは信じられない言葉にこれは夢か
      と疑ってみたり!」

一方通行「邪魔できるよォな雰囲気じゃねェだろォが。……もっともオマエが気に
      しねェなら別にアッチ戻っても構わねェけど?」

打ち止め「ううん! 是が非でもお言葉に甘えさせてもらっちゃう! ってミサカ
      はミサカは滅多にないアナタからのお誘いを絶対に手放すものかと喰らい
      付いてみる!」

一方通行「誘いじゃねェ。気遣いだ。そこを履き違えンな」




打ち止め「どっちにしろアナタらしくないね」

一方通行「冷たい床で寝るか?」

打ち止め「ごめんなさいってミサカはミサカは素直に謝る」

一方通行「ハァ……もォ寝る。疲れすぎて今すぐにでも冬眠してェくれェだ」

打ち止め「円周お姉ちゃんはいいの?」

一方通行「適当にキリ付けて戻ってくンだろ。そォでなきゃあのまま一緒に朝を
      迎えるか……、どっちにしろ俺はすぐに寝るからオマエも気にしないで
      寝ちまえ。ベッド使って構わねェからよ。円周が戻ってきたらスペース
      空けてやれ」

打ち止め「アナタはどこで寝るの? ってミサカはミサカは訊いてみる」

一方通行「床に布団敷く」

打ち止め「ミサカも一緒にn」

一方通行「却下」

打ち止め「出たよ最短否定。つれないなぁ」ブー





一方通行「言ったろ。今日は色々ありすぎて疲れた。っつーか、昨日から色々と
      起こりすぎだ。堕天した大天使の呪いとかじゃねェだろォなこれ」ブツブツ

打ち止め「……?」キョトン


それから打ち止めをベッドに寝かしつけた後の記憶は残っていない。
自身も公言していた通り心身ともに昨日同様疲弊しきっていた一方通行の寝つき
は予想だに早く、深かった。

そんな彼が“布団に潜り込まれた程度”で目を覚ます筈もなく、結局翌朝の昼前
まで抱き枕にされているとも気づく事なく熟睡し続けたのだった。

その結果、同居人のクローン少女約二名と二日酔いで不機嫌な家主及び無職の元
研究者のせいで快適な寝覚めをまたも逃してしまう一方通行だったが、その辺り
については割愛させて頂こう。


そして何日かの時が過ぎ――。



◆ ◆ ◆


「すごい人だねー。黄色人以外は初めて見たなあ。あなたみたいな白い人種も
 ここでは珍しくないんだねえ」

「そりゃそォだろ。外国から来たヤツも帰るヤツも皆ここに集うンだし」

「あ! あっちの人達は黒くてゴツイよ? 缶コーヒーみたいな色してるから
 あなたも本来あんな体色であるべきじゃないかなあ?」

「余計な意見述べてンじゃねェよ上京したての田舎モンかオマエ。いつまでも
 キョロキョロと人間観察してねェで早く行くぞ。搭乗時間ってのが決まってン
 だからよ。それも電車みてェにこまめじゃあねェンだ。一度でも乗り遅れたら
 取り返し付けンのも手間だってさっきも言ったよなァコラ?」

「うん、わかってるよ。けど私、飛行機って乗ったことないから楽しみ! ね、
 アクセラお兄ちゃん! 早く乗りたいねー!」

「期待するほどの物とは思えねェがな……。っつか、その旅行感覚をまずどォ
 にかしろ。既に何度も言ったが観光目的じゃねェンだぞ? 初めての遠足みてェ
 に胸躍らせてンじゃねェ!」


この日、第二十三学区の空港施設に異色のコンビが訪れていた。





Lesson 6  ~“三人”の『木原』 ~







~ 空港のロビー ~


 ワイワイ ガヤガヤ


一方通行「手続きは終わったし、後は時間まで待つだけか……」

円周「るんるんるんるーん」ワクワク

一方通行「昨日からホント落ち着きねェなオマエ。そンなに“初の海外”が
      楽しみかよ?」

円周「ねえねえ、ハリウッドスターとかに会えたらどうしよう? 私の英語
    ちゃんと理解してくれるかなあ?」ワクワク

一方通行「行き先が違ェよボケ。っつか仮に米国行くにしても簡単に会えや
      しねェから。……そォいうの出国前に期待するヤツ多いよな」

円周「む、アクセラお兄ちゃんには夢が足りない!」プンスカ

一方通行「木原が足りないオマエにだけは言われたくねェ」

円周「ワーストちゃん達に買うお土産、何にしようかなー。向こうの名産品
   ってどんなのがメジャーなんだろう?」

一方通行「知るか。知ってて堪るかクソ野郎」




円周「あーあ、ワーストちゃんやおちびちゃんも一緒が良かったなあ……。
    みんなで旅行も楽しそうだったのに」

一方通行「だ・か・ら・旅行じゃねェの!! 何度言わせる気だオマエ!?
      『サイトシーン』じゃねェから! 『ビジネス』だから!!」キシャァァ

円周「そうだね。危険な場所に行くんだもんね……!」ブルッ

一方通行(お? よォやく聞き入れて――)


円周「せめて決定的瞬間をいつでも写真に収められるよう、カメラ(スマホ)
    を構えておかないと! 蛇でも虎でも絶対に撮ってみせるっ!!」バーン


一方通行(――なかったよ……。しかもまァた行き先勘違いしてるよコイツ。
      変な方向に気合入りまくりだしどォすンだこれ? ある意味無敵
      な気がしなくもねェけど)ズーン


円周「シャッターチャンス、逃したらどうしよう……?」ゴクリ

一方通行「俺はどォやらオマエに今回の外出の重大さを教える機会を逃した
      らしい。上層部からの通達書、『全部読ンだ』っつったよな?」ギロ



円周「えっ?」キョトン

一方通行「イヤ首傾げンなよ冗談抜きでかなり困るから。あとその仕草何か
      懐かしいなオイ」

円周「あぁ、あの紙ね。漢字だらけで何書いてるのか良く分からなかった」テヘ

一方通行「……ッ!」ブン

円周「――えヴぁっ!?」ズビシャ

一方通行「結局! 俺が! 全部! 一から! 説明! しなきゃならねェ
      のかよ面倒臭ェなオマエ本当に面倒臭ェなブッ壊すぞ? なァオイ」シュッ シュッ シュッ

円周「――あゥ! ぎゃば! ごめぶ! なさ! いびィ!?」ビシ ビシ ビシ

一方通行「……つまり、オマエの頭にあるのは『バカンス気分』だけって事か。
      俺が付き添う羽目になったのも今思うと仕組まれた感が否めねェな」ハァ

円周「うぅ、頭のてっぺんが狂おしいほどに凹む。そして軋む……」ジンジン

一方通行「まァ、移動中に俺が説明してやりゃ円満解決だろォが……にしても
      かったりィ。コイツ用に全平仮名表記の通達書送るなり、上層部は
      もっと気を配りやがれってンだ畜生が」ブツブツ

円周「……?」ジンジン



“怪物”が集いし大型イベント前日。
学園都市最強の超能力者、『一方通行』と一族の中でも卵に等しい『木原円周』。
彼らはこの日、『学園都市が送り込んだ刺客』という建前の元で海を越え、敵側の
陣地へと潜入する。

そこに待ち受ける強大な影。
ただでは済みそうにない騒乱、そして波乱。
『グレムリン』とハワイでつかなかった決着に、今度こそ終止符が打たれるのか?

様々な思惑がおそらく敵地では飛び交っているに違いない。それこそ判断を一歩
でも間違えれば即この世とお別れしても何ら不思議ではないほどの。
そんな中で観光気分の木原円周と一緒では、否が応にも危険を意識してしまう。

そういった要素の除去がまず最初の仕事だと一方通行は決断した。
行きの機内で彼はその仕事に全力で取り組んだのだが、途中で寝息を立て始めた
円周を目の当たりにした時、自身の行動と決意の馬鹿さ加減にようやく気づいた
のだった……。

幸先悪し。

匙を投げ、到着までただひたすら不貞寝に移った一方通行の様は『諦め』のプロ
である何処かの木原も思わず感嘆してしまうほどだった。



―――


同時刻・学園都市某所


高層ビルから封筒片手に現れたスーツ姿の若い女性。
彼女もまた、『木原一族』である。
上層部と第一位の仲介に追われ、この日ようやく全ての業務を終えた所だった。
正規の刺客動員である『木原』の一人と共に一方通行の出国を無事確認し、木原
唯一は背中の重い荷物を下ろしたような安心した表情を浮かべた。

そして付近に停めていた自家用車に乗り込み、どこかへ電話をかける。

彼女は電話先の相手にまずこう告げた。


「お久しぶり。ええ、私です。あなたが中々首を縦に振らないせいで、此方も
 少し情勢を変えさせて頂きました。急がなくても直に理解できるでしょう」

「……いえ。其方で直接、実際に体感して頂いた方が私共としては覿面である
  と断定します。よって、詳細は明かせません」




「最後に、一つだけ忠告させて頂きます。あなたが死を迎えるまでの間に上手
 く生かせれば、私としても幸いです――」


「――くだらない理想はできるだけ早めに捨てた方が賢明ですよ? 学園都市
  の恐ろしさをその身に植え付けない内に」


そう残して電話を切り、凝った肩を片手で揉みつつ一息吐く。
何しろこの後も重要な仕事が控えているのだ。いや、むしろここからが苛烈を
きわめる戦いの始まりと言っていい。

とりあえず、明日の“彼ら”の動き具合で今後が左右される。
被害総数や建造器物等の損害、それらの数字に送り込んだ『学園都市勢力』が
直接関与した分だけ形勢的に工面が利かなくなってくる。彼女が想定している
通りの被害数になれば、精々“痛み分け”といったところか。


(さて、これで後は“コチラ側”の損失に備えた補填作業に専念するだけです。
 ……ですが“彼の能力に新たな可能性”を見出し、最終的にはその技術に依って
 失った体細胞を再形成まで結びつけなければなりません。……まだまだ課題は山
 積みですが、向こうからのデータが転送されるまで今は辛抱といった所でしょうか)


基本的に神経質で先の不安や懸念を無視できない性格の木原唯一は、ぼんやり
外を眺めて微笑と同時に呟く。


「ここは“最強の保護者さん”のお手並み拝見といった所ですね……。ふふっ、
 明日が楽しみです。もし明日の内に結果が出てしまえば、“儲け物”として承る
 としましょうか」


ちょっと短めですみませんがここまでです
これは一応シリアスまじりのギャグぼの……なのか?

続きはまた近い内に
ではまた

乙乙

サイトシーイングだよ一方さん!

乙っす

俺得の話きたーー!
新約4巻に一方さんが出ないのにがっかりしてたところだったしwwwwww
これは楽しみすぎる~

おまっとさんです
>>480
はは…ははは……そうとも言いますね
>>482
正に書き始めた動機の一つがそれです
『この場に一方通行がいたら』的なif書いてみたかったんです

さて今日も短めですが投下



―――


東欧 地方都市・『バゲージシティ』

11月12日の夕刻、都内の一角に聳える高層ホテルのロビーに杖つきの白い
少年とお団子頭の一見地味な少女がチェックインに訪れた。


一方通行「ここか」カツン カツン

円周「待ってよアクセラお兄ちゃーん。杖人間のくせにどうしてそんな歩くの
    早いのー?」トテ トテ

一方通行「ヒトを植物人間みたいに言ってンじゃねェ。杖人間ってそれ完全に
      人外ってか妖怪じゃねェか。オマエが浮かれてあっちこっち目まぐ
      るしく観察してばっかいるから自然と歩みが遅くなってるだけだろ」

円周「見慣れない風景に少しも目を奪われたりしないあなたがすごく不思議」

一方通行「残念だったな。ここ最近のおかげで海外の風景は嫌になる程見慣れ
      ちまってンだよ。あンま胸張って言いたくはねェがな」



円周「到着時からやけにリアクションが薄いのはそのせいだったんだね」ナットク

一方通行「元々旅行如きで騒ぐガラでもねェが、まァそォいうこった」クケケ

円周「うわムカつくその笑い方。ムカついたから殴ってもいい? いいよね?」グッ

一方通行「オイやめろよ女の暴力とかもォうンざりだわ。ってェかオマエ段々
      性格がアイツ(番外個体)寄りになってねェか? オマエら最近仲が
      良すぎて怖ェンだけど。そろそろ何があったのか教えてくれても良い
      ンじゃねェの?」

円周「だーめ。私とワーストちゃんのひみつだもん」

一方通行「仲良くすンのは大いに結構だがな、俺に害を及ぼすってンなら話は
      別だ。オマエは精神年齢だけならあいつ等よりも上なンだから、本来
      なら見本になってやらなくちゃいけねェンだぞ? にも拘わらず一緒
      になって餌に群がる鯉の如くタカってきやがって……」

円周「むう、まーた始まったよ。アクセラお兄ちゃんのお説教……」

一方通行「あァ!? 何ヒトを話が長くて煩そォな頑固ジジイみたいに言って
      やがる!? 『教育』のためだって何度も言ってンだろォが!」カチン

円周「話が長くて煩くて頑固なのは適合してるよ? あ、そうだ! 髪の色も
    おじいちゃんっぽい!」ピコーン



一方通行「まず痛い思い出から作りてェのか? それとも痛みを感じられなく
      してやろォか? どっちがイイか二秒で選択しろよオラ、オラァ!」ギュウウウ

円周「ひてててててて……!! ほっぺはふはははいへー!!」ビローーン


 オラオラ ナマイキイウノハコノクチカー?  ヒテテテ ホ ホヘンハサーイ!!





??「――おや、あれは……?」



円周「ほっぺたが痛いよー」ヒリヒリ

一方通行「ふン、身の程を忘れて調子に乗り腐るからそォなンだよ」

円周「うー、ほっぺたが落ちそう……」ヒリヒリ スリスリ

一方通行「落とさなかっただけ感謝しろ」

円周「そう言えばお腹空いたねー」グー

一方通行「どォ言えば空くンだよ? ほっぺたが落ちそォだから? 喧しいわ。
      っつかそれ、食った直後の感想だろォーがよ」

円周「流石にアクセラお兄ちゃんのほっぺた抓りじゃ腹の足しにならないよー。
    という訳でこれからグルメツアーへと繰り出そう!」イェーイ

一方通行「観光気分は捨てろっつったろォ……。それに飯なら機内食で済ませた
      だろォが。オマエはいつから大食い属性に目覚めたンだよ?」

円周「きっとどこかの白いシスターならこう言うかも! “ご飯食べさせてくれ
    たら嬉s”」

一方通行「オイ馬鹿やめろ何だそのご都合主義すぎる補正は? たったの一度も
      エンカウントしてねェヤツの思考パターンまで勝手に拾ってくれてン
      じゃねェよっつか拾ってねェだろそれもォ二度とすンな。オマエもォ
      何でもアリか? 認めねェ! 俺は断じて認めねェェぞォォ!!」



円周「何となくそんな電波を拾っただけでそんな凄い剣幕しなくても……」

一方通行「イヤ圏外だろどォ考えても。ここ日本からどンだけ離れてると思って
      ンだよ? ンな言い訳が通用して堪るかドアホめ」





??「――おーい! そこのご両人ー!」シャコシャコ





一方通行「……ッ!? この耳に障る不快極まりない車輪の音と声はまさか……!」ゾクッ

円周「あ、病理おばさーんっ!」フリフリ

一方通行「ンがあッ!?」ズルッ 


病理「いやー、そちらも到着してましたか。……んん? 第一位さんはどうして
    盛大にズッコケてるんでしょう? もしかして漫才中でしたか?」キョトン


円周「ううん。バナナの皮なんて落ちてないし、不思議だねー。それかアクセラ
    お兄ちゃんに宿っている“ドジっ子属性”が急に開花s」

一方通行「もォ黙れオマエらァァ!! 頼むから一旦黙ってろォォおおお!!!」ウガァァァ





 ナンダナンダ? ナンノサワギダ? アノハクジンガトウヨウジンノオンナニカランデルゾ 

 ザワザワ… ザワザワ…


一方通行(しまった! 人目につく行動はタブーって決めた側から何やらかして
      ンだ俺はァァ!?)

円周「すごい周りから見られてるね、私たち。アクセラお兄ちゃん急に大声出す
    なんて旅のマナーがなってないよー」プンプン

病理「とりあえず移動しましょう。居心地悪すぎですよもう何やってんですか
    第一位ちゃん」プンプン

一方通行「オマエらにも原因があンだよクソ……。ってかオイそこのパジャマ。
      なァァに気兼ねなく俺らと合流してンだよ? あと団子。オマエも
      にこやかスマイルで手なンか振ってアピールしてンじゃねェ。そォ
      いうトコが木原らしくねェ理由だって何度言わせりゃ気が済むンだ
      マジでよォ……」ハーァ カツンカツン


という訳で、一同は一旦フロント付近の談話スペースへ。
今の時間、そこは幸い無人だったので好都合だ。



病理「――で、あなた達は今着いたばかりですか?」

円周「うん。さっきチェックイン済ませたとこー」

一方通行「オマエは結構前に来てたのか?」

病理「いえ。実は私もついさっき到着した所でーす。もしかしたら乗っていた
    飛行機、同じだったのかもしれませんねえ」

一方通行「そこで鉢合わせなかっただけラッキーってことにしとくか……」

病理「それはどういう意味でしょう?」ギョロ

一方通行「黒いデカい恐い近い悪かった謝るからそれやめろホント魘されたら
      どォしてくれンだよ……」ゾクッ

円周「アクセラお兄ちゃん、顔が白いよ?」

一方通行「“蒼白い”だ。日本語は正しく使え」

病理「しかもそれじゃそのまんまですよ円周ちゃん。もっとも顔だけじゃなく
    て全体ですが」

一方通行「オマエも何気に誹謗してンじゃねェぞコラ。大体なンでここに来て
      までパジャマ姿なンだよ? まさかここでも仮病戦法で行くつもり
      なンじゃねェだろォな?」



病理「このゆったりした生地が最も落ち着くんですよ。着心地七割、戦法三割
    ってな具合でしょうか?」

一方通行「だから外に出掛けるよォな格好じゃねェだろっての」

病理「そのためのこれ(車椅子)です! どうです? 違和感ないでしょう?」シャコシャコ

一方通行「違和感しかねェよ」

円周「けど、病理おばさんがパジャマ以外の服着てるの見たことないかも……」

一方通行「確かにその姿が印象強くなっちまってるから、それ以外の服装だと
      逆に違和感覚えちまいそォだな。“慣れ”って怖ェわ」

病理「ナチュラルに失礼な発言しやがりますねえあなた方は……」ピキッ

一方通行「ここで『解放』するのだけは止めとけ。敵地のど真ン中だって事を
      忘れてンじゃねェぞ?」

病理「そのぐらいの分別は弁えてますので御心配なく」

一方通行「どのクチが言うンだか……」

円周「敵地のど真ん中で目立つくらい騒ぐあなたが言っても説得力ないなあ」

一方通行「るせェ黙れ張っ倒すぞこのガキ」





??「――何だ何だぁ? 随分とまぁ和気藹々じゃねえかよ? 同じ『木原』
     としてこいつはどう評価すりゃ良いんですかぁ? とりあえず嘆いて
     みますか? んん?」





病理「そうだそうだー。場を弁えてないのは第一位ちゃんだー」

一方通行「一緒になってンじゃねェよ! 何このおばさン!? 精神年齢幾つ
      設定だよ!?」

円周「二対一だね!」フフン

一方通行「勝ち誇ってンじゃねェ! 馬鹿木原!」ムキー


??「あるぇー……? ちょっと声小さかったか? コホン、……おいおい!
    俺以外に派遣された『木原』が果たしてどんなヤツなのかって僅かながら
    も期待したのはどうやら間違いだったみてえだな! なーに仲良しこよし
    やっちゃてんのよ!? あーあ、こりゃあ自分以外は一切アテにならねえ
    って証明されてるようなモンじゃね? ぎゃはは!」


一方通行「ったく、オマエらが揃うとやっぱ碌な事になりゃしねェ……」ハァ

円周「もー、負けるとすぐ落ち込むんだから。あなたの悪い癖だよ?」

一方通行「そりゃ悪かったなァ。勝手に敗者にしやがってこの野郎オマエら
      後で蜂に刺されたみてェな面にしてやっから覚悟しとけ」ギロ

病理「相変わらず目つき悪いですねえ貴方」

一方通行「黙れよデカ瞳。オマエだけには言われたくねェから」




??「――ッうおおーい!! 今のは流石に聞こえてんだろボケナス共!!
     堂々とスルー決め込んでんじゃねえぞぉ!? ああん!!?」ガタン


一方通行「……チッ」

??「今舌打ちしやがったかこのクソガキ!?」

円周「チッ」

??「ちょ!? お、お前も!!?」ウソォ!?

病理「…………チッ、うぜえ」

??「おォォおおい!!? 何だこれ!? 何その連帯感!? そして何
    この疎外感!? っつーか病理!! お前言うに事掻いて『うぜえ』
    っつったな!?」

病理「うざいし煩いし喧しいんですよ貴方は……」

??「テメエらが総勢で俺の登場を無かった事にしようとするからだろ!!
    最初から素直に対応してりゃ俺も大声張らずに済んだんだよ!!」

円周「乱数おじさん、だからうるさい」メッ

一方通行「っつーか消えろよさっきから鬱陶しいなオマエ。三下臭が脇の
      下から滲み出てるって自覚はねェのか?」



乱数「いよォォォし分かった。テメェら全員、この木原乱数ちゃんに喧嘩
    売ってやがるわけか。そうかそうか、ははっ、なら先に教えてくれ
    りゃいいのによぉ。遠回りな自殺を選ぶんじゃあ次の人生もきっと
    苦労するぜ? ようし乗った。まずはそこの目つきの悪い真っ白な
    小僧、テメェからだ。テメェは外の吹雪と一体化しながらの凍死が
    お望みらしいな? ん?」ジロリ



一方通行(まァた面倒臭ェ、それも今までで一番生理的に受け付けねェの
      が現れやがった……。っつか、詳細不明だった『三人目』って
      こいつかよ。これならずっと詳細不明のままで良かったわ)




木原 乱数(きはら らんすう)

・ぱっと見サーファー
・幻覚厨(ヤク中ではない)
・『体験』(第五位のファイブオーバー派生研究で生み出された化学物質が種)
・数多のコンパチ(灰村いわく)
・粗暴な面は数多と大差なし
・数多とは舎弟のような間柄(円周が監禁されるより以前の話)
・「娯楽を初めとした共通条件下による世界平和」がモットー

・かませ




・かませ(大事な事なのでry)




乱数「…………って、お前よく見たら一方通行じゃねえかァァあああ!!!??」ウソォ!?


一方通行「今頃かよ遅すぎンだよオマエもォ帰れよマジで目障りだから」ハァァ




で、


乱数「いやー、びっくりしたわ。学園都市の放った刺客に『超能力者』
    まで含まれてたなんて初耳だぜオイ! 上層部も粋な計らいすん
    じゃねえのよ! 新手のサプライズにしたってこんなの予想つく
    わきゃねえよなぁ!? マジでこんな異国で会うとは思ってなか
    ったからよ、悪いが気の利いたコメント一つも出てきやしねえわ!
    ごっめんなぁぁ!?」ヒャハハハ

一方通行(うぜェ……そしてうるせェ。ってか普通に居座ってやがる。
      誰か何とかしろよ。また白髪増えるだろ。精神安定剤でも
      持ってくるンだったぜチクショウ)

円周(勝手に仕掛けて勝手に驚いてる……。そして何故か自我崩壊)

病理(さすが『木原』の中でも中の下……。こりゃソッコーで明日死に
    ますね間違いなく)

乱数「なーんで数多のペットがこんなトコ来てんのよ? しかも両手に
    『木原』侍らせちゃってさぁ。何? そういう関係? 数多経由
     で『木原女』制覇とか狙っちゃってるワケ~?」ニヤニヤ

一方通行「オイ、うざさが三倍近く増したぞ? コイツ殺しちまったら
      駄目か? 良いよなァ? っつか殺すわ。殺して地元の人肉
      加工売り場にでも引き取ってもらうわ。世のため人のため。そして
      何よりこの俺のために」ピリピリ



病理「…………、抑えてください。そんなのでも一応『木原』ですから」

円周「すごい葛藤があったんだね病理おばさん。わかるよ」ウン

乱数「円周ちゃーん? 君ちょーっと見ない内にだいぶ性格変わっちま
    ったなあ? 純粋だった頃が懐かしいねえオイ」カカカ

円周「久しぶりだね乱数おじさん。数多おじさん同様あんまり会いたく
    なかったけど」ペコリ

乱数「正直に生きるのは結構だが、時と場合によっちゃあ命取りになり
    かねないから注意しろよ? 大人ってのは些細な一言で軽く一線
    越えちゃうんだからな?」アンダースタン?

円周「うん。参考にしたくないけど参考にするね!」

一方通行「笑顔に癒し効果の欠片も入っちゃいねェな。模範的作り笑顔
      の参考書にでも載れよオマエ」

円周「えへへー///」テレテレ

一方通行「貶したつもりなのに、皮肉だったのに。クソッ!」

病理「乱数ちゃんは相変わらずオンとオフの切り替えが激しいですね。
    だから任務外で貴方とご一緒したくないんですよ」




乱数「まーそう言うなよ病理ばあちゃん。こう見えても内心胸が高鳴
    ってんだぜ? 謂わば俺らは学園都市代表として不届き者共を
    成敗できるって事なんだからな」

一方通行「“俺ら”って……。オマエも掟や暗黙のルールってヤツを
      眼中に入れねェクチかよ?」

乱数「ちっげーよ馬鹿が。俺ら(木原)は単純に自己主張が普通より
    もちっとばかし強えだけなんだってーの。『テメェ一人で充分。
    他は知らねぇ。どうぞ勝手にやってください』ってトコだな」

一方通行「なるほど、これっぽっちも分からねェわ」

乱数「テメェ……数多も『手の掛かるガキ』っつってたが、どうやら
    まんまその通りに成長しちまったみてえだな」ピキッ

一方通行「ふン、だったらどォしようってンだ? 今すぐお亡くなり
      になった数多くンの仇でも討ってみるか?」

乱数「ほ―ぉ、そういや忘れてたわ。テメェが数多ブッ殺した張本人
    だったっけ? まぁーでもぶっちゃけどうでもいいんだけどな。
    あいつが浮かばれようが浮かばれまいが。重要なのはそこじゃ
    ねーのよ」

一方通行「あァ……?」

乱数「数多の形見とも言える第一位サマがこうして目の前にいるって
    事ぁさ、次の俺の行動はもう決まったようなモンじゃね?」



一方通行「何だと? そりゃどォいう……」

乱数「よぉ一方通行。お前、俺の新しい研究材料(オモチャ)になっ
    てみる気はねえか?」

一方通行「帰れ」

乱数「わお予想通りの即答でした。いやー残念残念こいつは参った」

病理「っていうか、貴方の専攻している分野と第一位ちゃんでは一本
    の糸さえ通ってませんが?」

乱数「いやさ、数多が開発したチカラってのがどんなモンかをデータ
    にすりゃあ新たな発見が生まれるかもしれねえと思ったんだよ。
    たとえば『ファイブオーバー』の第一位版とか、な?」

円周「だめ! アクセラお兄ちゃんは私のなんだから乱数おじちゃん
    には渡さないもん!」ギュッ

一方通行「腕にチカラ込めるな痛ェ、っつか俺がいつオマエの所有物
      になった? 聞き逃すと思ったか? 甘ェンだよハゲ」

円周「ハゲてないよ!」プンスカ

一方通行「今はな。この場で髪の毛の成長止めた後に毟り取られたく
      なかったら、絡めた腕をまず放しやがれ」



円周「う、かつてないほど恐ろしい脅し文句だけど、それでもこの手
    は放さない! 放したくない!!」ヤー

一方通行「その執念はどっから来てンだ? 俺から離れるよりハゲ頭
      のがマシってか? もォ色々と最高潮だなオマエ」

病理「うーん、モテますねえ。アクセラお兄ちゃん」ヒューヒュー

一方通行「黙れ煽ってンじゃねェよコラ捻り殺すぞババア」イラッ

乱数「え? お前らってやっぱりそういう……」マジデ?

一方通行「もォいいわ!! ったくどいつもこいつも……ッ!!」イライラ


乱数「けどリアルな話どうよ? テメェが俺のトコに来りゃあ数多に
    開発されたその能力を存分に生かせる場を提供してやらなくも
    ないぜ? 悪い話じゃねえと思うんだがなぁ」

一方通行「しつけェよ誰が乗るかそンな話。もォ一度言うぞ? 帰れ」

乱数「ちぇ、つれねーの。……いや、いっそ力尽くで……」

円周「おっと、そこから先は私も黙らないよ?」ジー

乱数「あぁ? んだよ落第生が。誰に向かって対等に喋りかけてんだ?
    っつか、よりによって俺の他が“これ”たぁな……。学園都市も
    だいぶ切羽詰っちゃってんのね」




病理「おっと、聞き捨てならない言葉が鼓膜に届きましたよ乱数ちゃん?
    “これ”という単語に私まで含んでらっしゃるのなら、貴方の明日
    は来世の誕生日になるでしょう。嘘だと思うなら試しに死んでみます?」

乱数「おばさんはすっこんでろよ。っつか、お前らみてえなのははっきり
    言って邪魔にしかならねえんだよなぁ。別に居ても居なくても良い
    けど、居ても意味ねえんなら居ない方がどう考えてもマシじゃね?」

円周「む」カチン

病理「よろしい。貴方の『木原乱数』としての人生はどうやら終幕みたい
    ですね。今度は蟻にでも生まれ変わって、精々人に踏まれないよう
    怯えながら生きてください。そして踏み潰されてあっさり死ねよ」ペカーー

円周「“うん、うん、分かってるよ唯一お姉ちゃん。こういう時木原なら――”」ピピピピ

乱数「お? 戦闘態勢ってヤツですかこれ? ひょっとして俺の命取る気
    になっちゃってんの? ひゃは! こいつぁ即展示レベルの傑作品
    だなぁオイ! いいぜ、そんなら纏めて“こいつ”の味見係にでも
    なってもらおうじゃねーのよ!」シャリッ


一方通行「やめろっつってンだろこの馬鹿タレ共ォおお!!! イイ加減
      にしねェと全員仲良く雪ダルマにして外に並べてホテルの看板
      代わりにしちまうぞゴルァァあああ!!!!!」ブチッ




乱数病理円周「」 ピタッ…


一方通行「これ以上目立つよォな真似してみろ。全員氷像確定だと思え」ガルルル…

乱数「あー……ちょっと悪ふざけが過ぎただけだろ。んなムキになること
    でもねーでしょっての」ヤレヤレ

病理「今は周囲に人がいないからって、あんまり騒ぐとまた野次馬が集る
    かもしれませんよ?」オーコワ

円周「ごめんね、アクセラお兄ちゃん……。私、大人気なかったね……。
    ちゃんと子供っぽいあなたに釣り合うように私が大人にならなきゃ
    ならないのに……」シュン


一方通行「よし、オマエら全員床に正座しろ。今すぐだ」(怒)



というわけで乱数クンがログインしました
非常識人とはいえ比較的まともキャラなはず!

今日はここまで
ではまた

原作の垣根復活説は自分もワクテカってます
一巻だけにするには勿体無いくらいss出まくってますもんねw
番外個体と打ち止めだいぶウザキャラになっちまいましたが、嫌いなわけではない寧ろ好き(ry

では投下します



~三十分後~



病理「レディを二人も長時間硬い床の上に正座させるとか貴方どんだけ
    鬼畜なんです?」ジンジン

円周「あ、足が痺れて……上手く立てない」オットット

乱数「なーんだってこの俺までもがまだ成人式も迎えてねえ青瓢箪風情
    に説教されにゃなんねーのよ? 納得いかねえし足が痛いんです
    ケドー? 大人をナメてんじゃねえぞモルモット如きが……」ジンジン

一方通行「収拾つけるための最善策だ。オマエら学園都市の恥晒しにで
      もなりに来たのか? ちったァ住人の迷惑ってモンを考えろ。
      オマエら『木原』のせいで学園都市に変なイメージ持たれちゃ
      在住者側は堪ったモンじゃねェンだよ」

円周「アクセラお兄ちゃんすっかり引率者だねー。将来の夢は保母さん?」

一方通行「残念ながらガキとのお遊戯にはやりがいの欠片も感じねェよ。
      どォせなら保育士って言えよ保母さンとかオマエ何処まで俺
      の血管浮き出させりゃ気が済むワケよ? 浮きすぎてそろそろ
      キレちまいそォだわ」ピキピキッ



病理「保母さんかー……。ガキの世話とか面倒臭いから私はパス」

一方通行「オマエほど中身が残念なヤツも珍しいわ。ちっとは見た目に
      合った生き方を心がける気にはなンねェのかよ?」

病理「おや? それって暗に私の容姿を褒めてたりしますー?」ニタリ

一方通行「手術して両方の瞼縫い付けてもらえ。残念箇所もォ一個見落
      としてたわ危ねェ危ねェ。ついでにそのイカれた頭も診てもらえ」

乱数「んで、そろそろ纏めてもいいのかこれ?」

一方通行「急に場を仕切ってンじゃねェよ三下木原が……。もォ好きに
      しろ何か色々疲れちまったよこの数分のやりとりだけで」

病理「自暴自棄はダメですよ? アクセラお兄ちゃん」

一方通行「その名で呼ぶな年上のくせに。精神的に俺がどンだけ堪えて
      るか少しは考慮した上で呼び名を決めろ」

円周「そんなに拗ねないでよアクセラお兄ちゃん。撫でてあげようか?」スッ

一方通行「悪気がねェのは承知してるがなァ、オマエからの施しが地味
      に一番クるンだよ察してくれ頼む」パシン

円周「はたかれた……」ズーン



乱数「ま、ガキの職務放棄なんざ振れてやる義理もねえが……おめーら
    は明日、具体的にどうするつもりよ?」

病理「えっ?」

一方通行「あァ、特に決めてなかったなそォいや……。っつかこいつら
      に計画性とか求める意味あンのかねェそもそも……」

病理「ちょいとー、その言い方では私たちが常に毎日無計画のダラダラ
    人生送ってるみたいに聞こえますが?」

一方通行「あン? 違うのかよ?」

円周「私は考えてるよ? 『明日はこれをやろう』『今日はこうしよう』
    ってキチンと計画立てて生きてるよー」

一方通行「……たとえば?」

円周「うんと、確か一昨日は『アクセラお兄ちゃんの秘蔵コレクション
    の探索最終日』ってことで、せめて一冊は入手するのが最終目標
    だったけど……達成できなかった」シュン

一方通行「そりゃ達成できねェよできるわけがねェよ無いものは掘り出
      せねェンだからよォ。だからやけにベッドの下やらタンスの
      中やら物色してやがったのか。くっだらねェ目標掲げて過ご
      してンじゃねェぞまだ無計画人生のがマシだクソったれめ」グリグリ

円周「あんぎゃあああ……!! こめかみ、こめかみグリグリはらめぇ!
    地味に、地味に効くうううう……!!!」




一方通行「ったく、尋ねたら『探し物』とか言うから何だと思えば……」(怒)

円周「ぐうう……。でもあなたって男の子なのに、そういうのには興味
    がないの? 雑誌一冊もないってのはちょっと異常じゃないかな?」

一方通行「別にイイだろォが興味ねェモンはねェンだよボケ。っつーか
      また話が脱線すンだろ。とりあえず、明日開催される格闘技の
      大会について話し合いだ。大まかな目的は頭に入っちゃいるが、
      予定自体はまだノープランなンだよなァ」

病理「たまに強引な軌道修正しますよね貴方」

一方通行「イイ加減誰かが戻さなきゃ延々と続いちまうだろォが。そォ
      なったらここに墓立てる自信あるわ」

円周「死因は過労死だよねやっぱり」ウンウン

一方通行「自覚あったンなら速やかに直せよこの腹黒団子」イラッ

病理「っていうか、明日の事本当に何も決めてなかったんですか?」

乱数「おいおい何だよ。他人に『計画性が無い』っつっといて、テメー
    だってそうなんじゃねえか」

一方通行「計画のメインはあくまでオマエら(木原)だろォがよ。俺は
      ただの付き添いっつか、オマケみたいなモンだ」



円周「確かに正規で元々派遣される予定だったのはアクセラお兄ちゃん
    を除いた私たちだけなんだよねー」

乱数「まー、オマケにしとくには勿体無いくらいの大物だけどな」

一方通行「意外じゃねェか。他人をアゲる物言いなンざらしくねェぞ?」ニヤニヤ

病理「露骨に気分良くしてますけど、貴方は学園都市の最高戦力として
    各国の首脳陣から認知されているんですからね? 正直、反学園
    都市側からしたら、そんなビッグゲストがこのバゲージシティに
    侵入しているなんて眉唾物ですよ」

乱数「過大評価でも過小評価でもなく、世間一般的に見た上での意見だ。
    テメーみてえな褒め殺す価値もねえ小便垂れの小僧が、一丁前に
    高飛車になってんじゃねえぞー?」

一方通行「なってねェし。俺別にそンな増長するタイプとかじゃねェし」ニヤニヤ

円周「顔がニヤけてるよ?」

病理「実に気持ちが悪いですねえ」

円周「病理おばさん。たとえ本当のことでもクチに出したら駄目だよ?
    アクセラお兄ちゃんこう見えても繊細で傷つきやすいんだから」

一方通行「せめて俺に聞こえない様に少しは配慮して喋ってくンねェ?」ピキッ



病理「よっ! 反学園都市にとって最悪のサプライズゲスト!」ヨイショ

円周「顔が白くて頭も白くてお腹も白くて尾も白くて面白くて全部白い
    アクセラお兄ちゃん! 私プリン食べたい!」ヨイショ

一方通行「それで持ち上げてるとか抜かしたら電極ブッ刺すぞガキこら。
      この土地にピッタリなギャグ混ぜてるしヨイショじゃなくて
      ただのおねだりになってるし、オマエそろそろ五感のどれか
      一つを真面目に失ってみるか?」(激怒)

乱数「だーもう! 話がちっとも進まねえだろうが! 結局テメーらは
    明日どうすんだよ!? いや別に知りたくもねえけど、折角遭遇
    しちまった以上は俺の邪魔になんねえ為に予め聞いておくのも悪く
    ねーだろうし?」プイッ

一方通行「何だその無駄な予防線みてェなのは?」

円周「乱数おじさん、キモイ」

病理「照れくさそうに頭掻いてんじゃないですよブチ殺したいなこいつ。
    需要ゼロのツンデレとか腹立たしくて見苦しいだけですよ?」

乱数「……ここで俺がノっちまったらまた脱線しそうだし、冷静に努め
    させてもらうわ。毒撒くのも大概にしとかねーとコッチもそろそろ
    ヤベーの撒くぜ?」スー ハー




病理「っていうか私たち、敵地の中心で何ゾロゾロ固まって談笑なんか
    してるんでしょうね?」

一方通行「そこでやっと原点回帰かよ……。先に寄って来たのは自分の
      クセして……。もォ今更気にしたって手遅れの段階だよカス。
      平気だろ多分。まだ前日なンだし、当日以上の厳戒態勢って
      事ァまずねェよ。一応スペース内に盗聴や監視システムの類
      は設置されてねェみてェだしな」

円周「おお、さすがアクセラお兄ちゃん。ちゃんと警戒してたとは私も
    思わなかった。あなたって地味に隙が無いんだよね」

一方通行「オマエらはもっと警戒心を持て。どこに魔術師が潜ンで俺ら
      の会話に聞き耳立ててるか、分かったモンじゃねェンだから。
      っつか俺に隙が無いンじゃなくてオマエが隙だらけなだけだ」

乱数「その辺は抜かりねーよ。っつか、テメーで精一杯なガキが他所に
    忠告とかしてんじゃねえよ生意気だなぁオイ」

一方通行「だったら聞かなくて良い。オマエが勝手に襲撃されてくたば
      った所で、コッチには何の責任もねェンだからな」

乱数「うわー、何コイツ本当かわいくねえわすぐにでも殺したいわー。
    どうして数多はこんな捻くれ坊主をさっさと始末してなかった
    んでしょうねー? これ永遠の謎ですわ」




病理「聞こうにも数多クンもういませんしね。死人にクチ無しです」

円周「“うん、うん、大丈夫。数多おじさん。ちゃんと分かってるよ。
    アクセラお兄ちゃんは何てったって生粋のマゾヒ――”」

一方通行「ぶるァァあああああ!!! 勝手に交信してくれてンじゃ
      ねェェぞォおおお!!? 次また同じセリフ吐こォとした
      ら奴隷商人に売り飛ばすからなァ!? よォォく憶えとけ
      よォ!? わかったなァァ!!?」ガルルル…

円周「イエス、マム」ブルブル…

乱数「おーおー、今まででダントツトップの凶相が出たなぁ」

病理「ホント、いつになく凄い迫力。まさかあの円周ちゃんが慄く
    ほどとは……」

一方通行「オマエもォ木原数多の精神性取り込もォとすンな。碌な
      知恵が身に付かねェと改めて再認識した」

円周「やだ」

一方通行「……じゃあ、そいつの思考パターンで俺を分析しよォと
      するな。それならイイだろ?」

円周「やだ」



一方通行「……だったらこォしよう。俺を木原数多目線で観測する
      までは泣く泣く我慢してやる。ただそれを無闇やたらに
      口外しよォとしなきゃ良い。オマエだけの心に留めとけ。
      どォだ? それだったら何も文句ねェよなァ?」

円周「やだ」

一方通行「――ィイイ加減にしろよこンのクッソガキィィィ!!!
      ヒト様が低い腰で頼ンでやってるってのに悉く一刀両断
      しやがってェェ!!! オマエの頭ン中には妥協の“だ”
      の字もねェのかァァあああ!!!?」プッツン

円周「やだもん」プイ

一方通行「…………、もォイイ勝手にしやがれ。よし、話の続きだ。
      要は明日の大会の進行を阻害し、最終的に成立させなきゃ
      イイって事だろ?」

乱数「んま、そーなるわな。ってか表情の切り替え早えなオイ」

病理「あらあら、何か良い策でも思いついたような顔ですね。一応
    貴方の提案に耳を傾けておきましょうか」


一方通行「策ってほどでもねェよ。ふと思いついたンだが、方法に
      際限がねェってンなら単純な話、参加者の連中に出場を
      辞退してもらうのが手っ取り早ェンじゃねェか?」



円周病理乱数「――!?」


一方通行「そいつらはどォせテメェ個人か、又は所属している組織
      団体の事情ってヤツで出向いてる訳だ。つまり主催側の
      裏に隠れてる悪巧みなンざ知る由もねェ。……違うか?」

病理「そりゃ、まあ……」

一方通行「その裏目的が出場者側に利益を齎す方に繋がるとは、俺
      にはとても思えない。……いや、寧ろそれどころか最悪、
      優勝した選手自身の安全すら保障が利かなくなる可能性も
      考慮できる。『オマエ達は漁船からバラ撒かれた餌に群が
      っているだけ』だと上手く伝えられれば、或いは……」

円周「おぉー!」キラキラ

病理「確かに、『公表されている趣旨が実はただの釣り餌で、本命
    はあなたの裏に潜んでいる利用価値です』ってんじゃ、優勝
    目指す前に辞退するでしょうねえ」

乱数「そーだなぁ。得無し損有りってクソ待遇に自ら上ろうなんて、
    よっぽどのマゾ太ちゃんでもねえ限りはまずいねえだろうな」

一方通行「出場選手の意志がどれだけ固いかは知らねェが、大会に
      出て優勝したとしても、その後で人生がフイになっても
      良いとは絶対に思わねェ筈だ」




乱数「……説得しようって事か?」

一方通行「説得じゃねェ。交渉だ。要するに出場するのは何らかの
      理由で『学園都市の存在意義を根底から崩したい』連中
      ばかりなンだろ? だったら『学園都市』が送った俺達
      の言葉が耳に届かない筈はねェ。何せ、交渉材料なンざ
      掃いて捨てるほど握ってンだからな。それも外に漏らす
      事を厳禁としているよォな機密情報ばかりだ」

病理「あぁ、そういえば貴方、上層部直属の暗部出身でしたっけ?
    で、その中から選手にとって少しでも有益な情報を選び出し、
    交渉に持っていくと?」

一方通行「まァ、そォいうこったな。暗部に身を置いていた期間は
      短いが、それなりの機密には何度か触れてる」

円周「アクセラお兄ちゃんすごい! 天才! それなら誰も傷つか
    なくて済むよ! やったね!」パチパチ

一方通行「天才は言いすぎだ。っつか一々大袈裟なンだよオマエは。
      過程を問わない状況ならこンな程度、誰でも簡単に思い
      つくやり方じゃねェか」フン

病理「――と言いつつ頬を赤らめてソッポを向く照れ屋なアクセラ
    お兄ちゃんなのでした」

一方通行「死ぬか? 今から本気で臨死体験してみるか?」ビキッ



乱数「落ーちー着ーけーって。……うん、一方通行の意見も確かに
    一理あるかもしれねぇ。大会を辞退すりゃ学園都市の弱みを
    握れるってんなら、乗ってみるだけの価値は充分だろうな」

病理「そうですね。闘って勝ち取る称号に拘りさえ無ければこれ程
    おいしい話は無いでしょう」

一方通行「よし、そォと決まったら早速行動だ。まずは付近にいる
      出場者風な外見の人物に片っ端から接触して、直接交渉
      を持ち掛けるぞ。全員とまでは言えねェが、このホテル
      内だけでも相当の数の出場者が跋扈している筈だ。不審
      に思われないためにもここは二手ぐらいに分かれて――」


病理乱数「――だが断る!!」


一方通行「…………は?」キョトン

円周「ひふへほ?」キョトン

乱数「甘い! 甘ぇ! てんで甘ぇよ!! あまりにも甘っちょろ
    過ぎてしばらく糖分摂れねえわこれ! どうしてくれんの?」ペッペッ

病理「本気で言ってるんですか? だとしたら鯖折りクラスですよ?
    何なら背骨折れた後も抱き締めててあげましょうか?」




一方通行「……何がいけねェンだよ? 趣旨が問われねェなら問題
      ねェンじゃねェのか?」

乱数「あらやだー。聞きましたか奥さん? この子ったらまぁーだ
    そんな奇麗事並べちゃってくれてますよ」クスクス

病理「こんな凶相で平和主義者とか世も末ですよねー。恐い恐い」クスクス

円周「えぇ!? 恐い顔なのに動物とかが好きな男の人って、寧ろ
    そのギャップに惹かれるのが定義なんじゃないのー!?」(驚)

一方通行「オマエは黙ってろ。ソースはまた番外個体だろ聞かなく
      ても分かる。これでヤツへの土産はゲテモノ決定だな」

病理「まあ本音で答えさせてもらいますが、貴方の案は『木原』が
    最も嫌悪する方法なんですよ。平和的解決? 正攻法? ハッ、
    乱数ちゃんの言う通り、甘っちょろい童の戯言としか表現でき
    ませんね。大体見ず知らずの他人に対し、心変わりを期待して
    いる時点でもう『木原』として有り得ません。っていうか善人
    思考とかぶっちゃけ虫唾が走りますし」

乱数「そーそー、そんな相手の器や狭量次第で是か非を決める手段
    なんて、何の確実性もないただの博打じゃねえか。俺達(一族)
    をギャンブラーか何かと勘違いしてんのかい? 求められんの
    はあくまで効率性と確証なんだよ青二才が」

一方通行「やり方に拘りとか持ってる方が効率性下げる要員になる
      ンじゃねェのか? っつーか、オマエらにも一応“美学”
      ってモンが存在していた事にまず驚きだわ」




乱数「アホが。テメーの案に効率性なんざねえっつーの。そもそも
    テメーは他人に夢と希望を抱きすぎだ。ここに来ている連中が
    どんだけ心の荒んだゲテモノかぐらいは把握できてるんだろ?
    その上でそんなナメた意見を出せるんだから、ある意味度肝を
    抜かされたわ」

円周「……私はアクセラお兄ちゃんに賛成なんだけどなー」ムスー

病理「はいはい、木原が足りない円周ちゃんは黙ってましょうねー」

一方通行「ゲテモノだろォが獣だろォが、餌さえチラつかせりゃあ
      寄って来ても不思議じゃねェ。それに何も出場者側に希望
      を託してるわけじゃねェよ。ただ無駄な被害も出さずに事
      無きを得るンならそいつに越した事ァ――」

乱数「はいストップ。『無駄な被害も出さずに事無きを得る』だぁ?
    そういう考えが既にもうダメ、ダメダメだわ。おたく分かってる?
    ウチラは戦争しに来たのよ? なーに相手側を気遣うような発言
    ナチュラルにかましちゃってんのさ? 誰も怪我せずにハッピー
    エンドとか正気の沙汰ですか? それって何処から引っ張り出した
    御伽噺(おとぎばなし)ですかぁ?」

一方通行「だから、そォは言ってねェだろ? 別に平和主義に乗っ
      取るつもりはねェ。だがコッチのリスクも最小限に抑えら
      れる手段なのは紛れもない事実だろォが。ならやってみる
      価値がねェと一概には言えねェだろ。違うか?」




乱数「あぁ違うねぇ。……ってか、さっきからウチラが蒙るリスク
    だの話し合いだけの解決を望むだの……テメェ嘗めてんの?
    自分で何主張してるかホントに理解できてらっしゃいますー?
    ならはっきり教えてやるよ。テメーがうだうだ並べてんのはな、
    ただの臆病策っつーんだよ」

一方通行「あァン?」ギロ

乱数「んな凶悪な面構えで平和的解決希望とか、何? もしかして
    笑いでも誘ってるワケ?」

一方通行「……何だと?」ギリッ…

乱数「なーんかガッカリっつか、シラケちまったわ。学園都市最強
    兵器が聞いて呆れるねえ。まさかテメェの保身を考慮する様な
    臆病者さんだったとは、さぁ。……はーぁ、こりゃあダメだわ。
    とても期待するに値しねえわこりゃ」ハァ


一方通行「――ッ!!!」ガッ


 ――グイッ ←(胸倉を掴み上げる)


円周「っ! あ、アクセラお兄ちゃん……!? 暴力は……」オロオロ




乱数「お、何だ? ついに沸点越えちまったかぁ? わりいわりい。
    ガキ相手にちょーっと大人気なかったかなぁ?」ギャハハ

一方通行「この野郎ッ……!!」ギリギリ

乱数「イタイんですけどー? 首絞まってる締まってる。やだねぇ、
    短気なガキはこれだから……。ちょっと自分の価値観を否定
    されるとすぐ物理的行動に出るんだからさぁ。最高位の頭脳
    誇るんだったらもっと知性的になれって」グググ…

一方通行「……ッ、ぎ……!! ……ッッ」


 ……スッ ←(手を放す)


乱数「あーあ、皺が寄っちゃったじゃねーのよ。勘弁して欲しいねぇ。
    数多が可愛がってたよしみで受け入れてやろうと思ったのによぉ、
    出てくるセリフは屁みてえな戯言ばっかりじゃねえか」パッパッ

一方通行「……」ググッ ←(拳を堅く握って堪えている)

乱数「興醒めだ。テメーと一緒じゃ上手くいくモンも上手くいかねえ。
    精々邪魔にならねえ様、当日は会場の隅で小動物みたく縮こま
    ってる事を勧めるぜ。ほんじゃあなー」フリフリ




 ツカ ツカ ツカ


一方通行「…………」

円周「乱数おじさん、行っちゃったね」

病理「まぁ、当然と言えば当然でしょうね。一族の中で特に秀逸だった
    数多クンの影響を誰よりも受けていたのが彼なんですから……。
    話し合いのみで戦場をやり過ごすなんて奇麗事に耳を貸すとは思え
    ないでしょうよ」

円周「……乱数おじさんはどうするのかな?」

病理「彼には彼のやり方が在ります。彼なりの“木原としての”やり方
    が確立している以上、私ら外野の言葉なんて右から左ですよきっと」

円周「……意地っ張りだなあ」

病理「乱数クンが、ですか?」

円周「二人ともだよ」

病理「?」




一方通行「……」

円周「アクセラお兄ちゃん、いいの? 追いかけなくて」

一方通行「あァ? 知るかよあンなヤツ……何で追いかけてやらなきゃ
      なンねェンだよ。去る者追わずだボケ。勝手にくたばりやがれ
      ってンだよクソが」プンスカ

円周「……ね?」クルリ

病理「うん、納得です」

一方通行「チッ……。とにかく、俺も勝手にさせてもらうぞ。やっぱり
      俺が『木原一族』と相容れるなンて、最初から無理でおかしな
      話だったンだ。そンな事柄も忘れて少しでも協力しよォと考え
      てた俺が甘かったらしい。正論だよクソったれが」カツン カツン


円周「あ、待ってよー!」タッタッタッ


一方通行「……オマエも、俺を甘いと思ってンなら無理しなくて良いン
      だぞ? オマエは『木原』なンだ。俺の考え方を理解しろとは
      言わねェし、何もかも俺に合わせろと命令するつもりもねェ。
      オマエの事は全部オマエが決めろ。義理とかで俺に付き合う気
      なら今すぐに乱数のトコに行け。その方がオマエのためになる」


円周「義理ってなあに!? 同じ家に住んでるから!? それとも私の
    保護者だから!? 私はそんな形式に縛られてるなんて思ったこと
    一度だってないのに、酷いよアクセラお兄ちゃん!」トテ トテ




一方通行「……」カツン カツン

円周「私の考えは変わらない! アクセラお兄ちゃんとずっと一緒って
    決めてるんだから! とっくの昔に!」トテ トテ

一方通行「そォかよ……。なら好きにしろ」ケッ

病理「うんうん、妬けますねえ」シャコ シャコ

一方通行「……何でオマエも当然みたくついて来てるわけ?」クルリ

病理「はひふへ?」キョトン

円周「ほ?」キョトン

一方通行「それもォイイから! 真面目に!! やっぱオマエらと一緒
      だと俺の調子狂いまくりだよクソったれがァァ!!!」ウガァァァ

病理「ああ、また大声を……」

円周「私たちすっごく注目浴びてる」イェーイ

病理「ピースしてる場合じゃないでしょ」メッ

一方通行「ゼェ……ゼェ……」



病理「もう第一位ちゃんったら。はしゃぎたい年頃なのは分かりますが、
    時と場所をもう少し考慮してもらえません? 私たちは侵入者の
    立場なんですから」

円周「そうだよー。まったくアクセラお兄ちゃんったら」

一方通行「…………殴ってイイ? イヤ返答は要らねェか」スッ


 ズビシ ズビシ


一方通行「そこのガキはともかく、オマエはあの野郎と同意見だったン
      じゃねェのかよ? 何で俺の後について来た?」

円周「病理おばさーん。私の頭割れてないよね?」シクシク

病理「歳の離れた女性に問答無用でチョップとは……貴方碌な目に遭い
    ませんよ?」ヒリヒリ

一方通行「これ以上ないくらい遭ってるから心配無用だ。ってンな事ァ
      どォでもイイ。オマエは俺のやり方に反対なンだろ? なら
      あのクソ木原同様好きにすりゃ良いじゃねェか」

病理「いやまあそうなんですけどね。実の所、私的にはどっちでも良い
    んですよ。貴方がどこで何をしようと咎めるつもりもありません
    し、別に拍車を掛ける気もありません」



一方通行「……つまり、さっきアイツに便乗したのは完全なノリだった。
      そォ言いてェわけか」

病理「イエース、オフコース」ニャハ

一方通行「で? 俺に協力すンのか?」

病理「ノンノン。言ったでしょ? 私はどっちつかずが好きなんだと。
    ただ貴方が交渉に失敗する無惨な様子を見物したいだけでーす。
    知っているとは思いますが、私の行動理念は貴方たちが起こす事
    への興味一色なんですから。見逃すには惜しいと判断したネタに
    はどこまでも喰らいつく。それが『木原』とs」

一方通行「よし決めた。オマエはもォ一度殴る。あわよくば殺す」カツン カツン

病理「ちょ!? え、円周ちゃん! 最愛のおばさんのピンチですよ!?
    ヘルプ! ヘルプですー!」

円周「あ、また雪が降ってきたみたい」タッタッタ ←(外の景色を見に走る)

病理「う、裏切り者ーー!! 木原の面汚しーー!!」キーー


一方通行「さァて――」ユラリ





    「――雪合戦の時間だぜェェェ!! ぎゃはあははぎゃはァァ!!!」カチッ ブアッ
 


病理「そ、その顔は数多クンを殺った時の顔と同じ!? って、ちょ!?
    外から雪を集めてどうしようってんですかここは屋内――――ッッ!!?」




ドタバタ  ズズ…ン




円周「雪って綺麗ー」ウットリ


というわけで乱数クンがログアウトしました
まぁ、多分またすぐ出てくると思います

ではまた

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