兄「俺が死んだらどう思う?」妹「死なないじゃん」(73)

兄「…うん?」

妹「……」

兄「…どうしてそう思った」

妹「なんとなく」

兄「マジで?」

妹「マジで」

兄「……」

妹「なんでそう思うか、理由知りたい感じ?」

兄「…おう」

妹「一つ目、小学校の時に車に跳ねられ二十メートルふっ飛ばされ生きてた」

兄「ふむ」

妹「2つ目、小学校の卒業式で天井から鉄骨が頭上に落下。だけど無傷」

兄「…傷は残ってるよ、ちゃんと」

妹「3つ目、中学校の部活で素振りのバットが頭部に強打。だけどなぜか無傷」

兄「…今でも素振りしてた奴は謝ってくる」

妹「4つ目、海水浴場で波に流され十キロ泳ぎ切る、5つ目、遊園地のアトラクションセーフティ不備で地面落下」

妹「6つ目、土砂崩れに巻き込まれるが生還、7つ目、蛇に噛まれるが奇跡的に助かる」

妹「8つ目、9つ目──ていうか、もう上げてもきりがない」

兄「……」

妹「あたしが知ってるだけで30はあるけど、兄貴の不死身伝説」

兄「……」

兄「敢えて言わせてもらうが」

妹「なによ」

兄「…俺って単純に運が悪くない?」

妹「……」

兄「……」

妹「…かもねー、だけど助かってるからいいじゃない」

兄「なんとかな。なんとなく運が良くて助かってるだけだ」

妹「運だけじゃそうならないんじゃないの?」

兄「…何が言いたいんだ」

妹「言ってもいいの?」

兄「……ダメ」

妹「そう。じゃあ言わない」

ミーンミンミン…

妹「…そろそろ」

兄「ん?」

妹「そろそろ、水泳の補修の時間じゃないの兄貴」

兄「そうだっけ」

妹「嫌なのはわかるけど、出なきゃお母さんに怒られるよ」

兄「……」

妹「高校生にもなったんだからさ、そういったことは諦めないと」

兄「…諦めるって」

妹「いいじゃん魅せつけてやりなよ。どうだーってね」

兄「いやいや、それで済むならいいけどさ、そういったことで済まされないから…」

妹「出なきゃ晩飯抜きだよ、きっと」

兄「……」

妹「兄貴ダメでしょ、食べ物食べないと」

兄「ああ…死ぬな、俺」

妹「うむ」

兄「うがぁー……やりたくねぇ、なんで授業に水泳ってもんがあるんだよ…」ひょい

妹「同感だね」

兄「……」

妹「昼飯は大丈夫。作れるから」

兄「…まだ何も言ってないぞ」

妹「言い訳を考えてる顔だったから」

兄「…行ってきます」

妹「いってらっしゃい」

ミーンミンミン…ミーンミンミン…

チュクチュクバー! チュクチュクバー! ジョォオオオオオオオオオオオ!!


兄(セミがうるせぇ…)

兄「今日も暑いな…だが長袖を俺は着るんだ…」

兄「浮いてるよな…めちゃくちゃ浮いてるよなこれ…」

兄「はぁ~」

とぼとぼ

兄「……」

兄(あ…なんだろ、なんかこう思いつきそうになった…水泳をサボれる妙案というか…)

兄(なんつぅか、車に跳ねられた。とかどうだろうか…そうすれば水泳補修の話じゃないだろ)

兄(…ま、そんなこと自分からやるやつなんて居ないけどな)

ブォオオオオオ

兄「ん?」

ドン!!!

兄「あ」

どっしゃああああ…

兄「………」

兄「……」

兄「…」

兄「痛ェ…」むくり

兄「なんだ、今俺…ああ車に跳ねられたのか…」

兄「って!」

兄「くそっ…服が破けた! なんだよ、これ高かったんだぞオイ…!」

ブロロロロ…

兄「って、おい! ひき逃げか! まてまて!」ダダダッ

兄「──追いつけないとでも思ってんのかッ!」バッ!

兄「ふんぬおおおおおっ!」ダダダダダダダ

がしっ!

兄「…よし、捕まえた」ざざざざざざざ!

兄(うぉお…なんか勢い任せで動いてる車を掴んでみたけど…予想以上にこええ…)

兄「靴底が減り切る前にっと…」がしっ…がしっ

兄「ひき逃げの顔を拝ませてもらいますか…」がしっ

ぐいぐい

兄「ん? ドアに鍵が掛かってんな。いっちょまえに…」

兄「壊すか」バキッ!

兄(ドアノブがとれた…)

兄(じゃあもういいや、窓ぶち破る? そこまでやったら怒られるよな…いや相手は犯罪者だし、ってうおおっ!?)

ブォンブォン!

兄「めっちゃ揺れる! やべ、気づかれて振り落とそうとしてんのか…っ!」

プップー!!

兄「あれえ?!ちょっまっ

ヴォカァアアン!!

妹「お兄ちゃ

プップー!!

ヴォカァァァァン

兄「おおっ!? だ、だが俺も諦めが悪いもんでねぇ!」ぐっ…

ぐぐぐ! ぐぎゅ! ぎちちち! めきッ!!

兄「──今決めたこと、一つ目」ブン!!

兄「窓をッ…ぶち破る!!」

バチコーン パラパラ

兄「……」フリフリ

兄「さて、後部座席は誰が乗ってる──」

女「……」

兄「ぅえ?」

女「っ…!」

兄(女の子…? しかも小さい、)

女「た、た!」

女「助けて!お願い!」

兄「えっ? ごめん! いや、違うんだよ…こう、若気の至りっていうかさ…!」

兄「別にアンタを傷つけようとか、そういうのじゃなくって…」

女「助けて…!」

兄「いやだからさ…」

カチャ

兄「ん?」

「──もう追手が来やがったか、死ねッ!」

兄「へ? それ、銃?」

パン!

兄「うごぉっ!?」

女「ああっ…! いやぁああ!!」

「大人しくしてろ。おい、早くスピードを出せ」

女「そんな、ひどい…! なんてこと…!」

兄「なんだって?何があったのか話してくれないか?」

女「じつはあれこれあーで…」

兄「あのうトイレ行ってもいいですかね…」

女「ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ」

兄「へぁああ…」

ブッブー
ブリブリブリ
プスッ
ポビビ

「黙れッ」

女「ひぅっ…」

「もう助けなど来ない。これは全て計画通りだ、全ては人狼家の──」

女「ひぃいいっ!?」

「っ!? だから大声を出すなと──」

女「な、なんで…」

「…?」

女「ど、どうして…生きてるのだ…?」

「何をいって──」

兄「……」

「……」

兄「……痛いな、オイ」

「なっ…!」

兄「ああぁくそっ…やっぱ銃ってすごいんだな…」

兄「体験してきた痛みの中でトップスリーに入るよこりゃ…」パッパッ

女「なっ、なっ、なっ!?」

「お前っ! 一体何者だ!? くそ、確かに弾は…!」

兄「当たったけど。それは皮膚で止まってる」

兄「ただただそれだけだし、そういった人間だっているんだよ」

「馬鹿なっ!?」

兄「ん。じゃあ今からちょっと、あんたは賢くなったってことで」

兄「──話は終わりだ、次にそっち」

女「……」

兄「よくわからんが、とにかく助けるぞ。息を止めろ、無事を祈っとけ」

兄「何が起こっても──絶対に引くなよ、お願いだからな」

「し、死ねぇっ!」ギチ

兄「ごめんだっつーの!」

バギバギバギ! ビキィ!

女(ドアが…え? 外れ?)

兄「ほいっと」

がしゃああん!

兄「よし、次に…」

パンパンパン

兄「ッ痛ってぇえええええええ!?」

「はぁ…はぁ…!」

兄「あ、ちょ! 本当にやめてください! マジで痛いんで!」

「なんで! なんで死なない!」

兄「ああ…もうっ…! 手加減なしだから、折れても文句言うなよ!」びゅっ

「ひぎゃああああああああっ!?」

兄(ああ…腕がぽっきりと…)

「いぐぇっ…ああっ…ひぎぃいいっ…」

兄「ご、ごめん…とりあえず…飴あげるからさ…ホントすんません…」

「ひぃいいいい!? なんだお前は!?」

兄「あ、運転手さん。お仲間さんがちょっと、」

「し、しねえええええ!!」

兄「……」

兄「えいっ」びゅっ!

ばきぃいいいい

「ぎゃああああああああああ!?」

兄(ち、違うんだよ…こうやりたかったんじゃなくて、もっとスマートに…)

ブォンブォン!!!

兄「うぉお!? 揺れるッ…!」

兄「早く脱出しないと…ほら、はやく捕まれ!」

女「ひぃいいいいい!?」

兄「アンタまでビビるなよ!? もういいから早く!」

女「きゃあっ!?」ぐいっ!

兄「い、今決めたことふ、2つ目! 」

兄「──抱えた女の子を無傷で着地!」

兄「とりゃ!」

ばっ!

~~~

兄「痛い…」

女「おおっ…うぉッ?」

兄「服が穴だらけだ…ああ、もう…バイトしてまた買わないと…」

女「えっと…あの」

兄「ううっ…」

女「あのっ…!」

兄「って、水泳の補修…ああ! 遅刻だ! まじかよ!」

女「あのって言ってるのだ!!」

兄「…何?」

女「うっ…なんでそんな悲しそうなのだ…」

兄「色々とあるんだよ…ていうかなんだよ、その口調…」

女「く、口調のことはどうでもいいであろう…!」

兄「…まるで漫画みたいな口調だな」

女「お、お前に言われたくないわ! 化け物!」

兄「なんだよ、せっかく助けてあげたのに。そんな態度はひどいだろ」

女「あ…それは…うん、ありがとう…」

兄「口調戻ってるけど。キャラ付けなの?」

女「違うわ!」

兄「まあ、なんだ。それよりも…一緒に逃げてきて良いのか」

女「ッ…当たり前であろう! あそこにいては、他の仲間に連れてかれる!」

兄(他の仲間…?)

女「フフン、その顔は気になってるのか? それはそれは気になるであろう、なぜ私がこうなっているのかとなッ!」

女「それはだなッ!」

兄「……」prrrr

兄「あーもしもし、兄貴兄貴」

女「それは私が高貴なる血族、ヴァンパ──無視するな!」

兄「え? さっき電話が来た? …どこからって、まあ先生だろうな…」

女「オイ! 聞いてるのか!」ぐぅいぐぅい

兄「変な声が聞こえる? いや気にしなくていいよ、俺も気にしてないから」

女「むぃー! きぃー!」がじがじ

兄「先生には後で説明するから──って、やめろ! なに服を噛んでるんだよ!」

女「む、無視をするからであろう! 私は無視は嫌いだ! 化け物!」

『……兄貴、今どこにいるの』

兄「別に無視してるつもりじゃ、へ? いや、それは…」

『教えて、今すぐに。兄貴の側にいる奴の名前と特徴、それと住所を教えてね』

兄「…なんか怒ってない?」

『怒ってない』

女「私は怒ってるぞ!」

兄「アンタは後で相手してあげるから…」

『兄貴。早く教えないとお母さんにチクるよ』

兄「背丈は百五十、髪はウェーブがかかっててワカメみたい、瞳がパッチリで白いワンピースを着てる」

『了解。住所と名前は追々』

兄「…わかった」

『…早く帰ってきなよ、昼飯、作ってあげてるから』

兄「はいよ…」

『じゃあね』

兄「…はぁ~、アンタ生きて家に帰れたらいいな」

女「な、なんでそんな怖いこと言うのだ!?」

兄「怖いからだよ…俺の妹はやべぇからな。
  何しでかすか何十年と兄をやってる俺でもわからないからな…」

女「ひぃいいい!」

兄「冗談だよ。とにかくアンタ」

女「な、なんだ…」

兄「……」じっ

女「…なんなのだ」

兄「…色々と混みあった状況だってのはわかったけど、今は聞かないでおくよ」

女「き、聞かないのか?」

兄「ああ、聞かない。聞いていいことなんてこれっぽっちもない気がするから」

兄「よっこしょ、だけどまぁ、家まで送るぐらいはするけど…それとも警察か?」

女「けいさつ…」

兄「いやなら家に送るけど」

女「………」

兄「なんだよ、どっちだよ。帰りたいんだろ、どうみたって出かけるような服装じゃないし」

女「………」

兄「…どうして黙るんだ」

女「帰りたくない」

兄「はっ?」

女「…帰りたくないのだ、城には」

兄「………城?」

女「帰ってもまた閉じ込められるだけ、外には出られない、ずっとずっと城の中…」

兄(関わりたくないって言ってるのに…なんでしゃべるんだよ…)

女「ううっ…ひっぐ…」

兄「お、おい…泣くなよ…」

女「また酷いことをされるのだ…メイドに、五将に…ううっ…」

兄「…ごしょう?」

女「ひっぐ、うわぁあああああん!!」

兄「………」

~~~~

女「なんでこれはっ!? うまいな! なんだこれ!」

兄「そうか、それは良かったよ」

女「肉汁ぶわーっ! って! なになにこれこれ!」

兄「………」

兄(とりあえず近くのファミレスに連れてきたけど…どうしよう)

女「んふふ、んふ、この緑色の固い奴なんていうのだ?」

兄「ブロッコリーだけど」

女「ぶ、ぶろっこりー…?」

兄「おう」

女「ぶろっこりー! あはは!」

兄「あはは…」

兄(はぁ~…絶対に後で問題になる、予想がつく、何か嫌な展開になる…くそぅ)

兄「本当についてないな俺…」

女「おいしぃ」

兄「……そういえば」

女「む?」

兄「よいしょっと、ああやっぱり…」コロ…

女「なんなのだ? それは…弾!?」

兄「…みたいだな、本物を見るのは初めてだけど」

女「ど、どこからそれを…!」

兄「皮膚に刺さってた」コロコロ…

女「…全部?」

兄「全部。あーいて…抜けたら抜けたで、痛いんだなコレ」

女「……」

兄「…ん、なんだ。変な目で見て」

女「……化け物なのだな」

兄(失礼な…)

女「だが、オマエみたいな化け物はたくさん知ってる」

兄「…へ?」

女「私の周りも化け物と称される人間がいるということだ」

兄「……」

女「先程も言いかけたが、私は高貴なる血族──ヴァン」

兄「あ、すいません。コーヒーおかわりで」

女「そして私を攫ったのは狼の一族の人」

兄「あ、はい。この子にもジュースおかわりで」

女「って、きけぇえええええい!!」バン!

女「あぅ…手いたい…」

兄「急に暴れるなよ。すんません、気にしないでください」

女「ううっ…」

兄「さっきから何を言ってるのかさっぱりだけど」

兄「改めて言わせてもらうが、俺は別にバケモノじゃない」

女「ウソツクな! お前はきっと私と同じような──」

兄「違うわ」

女「な、なぜそこまで頑なに…!」

兄「よくわからないことを押し付けるなよ。第一、俺はお化けとか妖怪は信じてない」

女「…じゃあお前は何者なのだ」

兄「…うーん、俺はちょっとばかし、周りの人間より…頑丈にできてるだけななんだよ」

兄「生まれつきっていうか、まあ小学生あたりからなんだけど」

兄「何をされても壊れない」

兄「車に跳ねられても、高層ビルから落ちても、窓ガラスが割れ頭上に落ちても」

兄「基本無傷か命に関わる怪我はしないんだ」

女「…拳で車の窓を叩き割ってたではないか、あとドアも壊してた」

兄「あーそれは、なんていうか副産物っていうか」

兄「身体が頑丈のプラス要素みたいなもん。生まれつきじゃなく、鍛えたから」

女「…鍛えただけで、車を壊せるレベルに達せられるのか?」

兄「できてるからしょうがないだろ」

女「やっぱり化け物ではないか」

兄「違う、他の人よりちょっと凄かっただけだ」

女「銃弾を食らっても死なない奴が何を言う」

兄「…痛かったぞ、ちょっとは」

女「感想がまんま化け物のセリフではないか、あれだな、私の見立てだとお前は──」

女「──ゾンビかマッドマン、しいていえばフランケンシュタインだろう」

兄「うわぁ…」

女「うわぁとはなんだ! うわぁとは!」

兄「そうやって何かのキャラに例えられと…うわぁ…」

女「な、なにか悪いのか!? お前は失礼なやつだな! 本当のゾンビ一族やらゴーレム一族に失礼だぞ!」

兄「…やめてよ、そういうキャラ付け」

女「むっはぁー! 本当にお前は!」

兄「ああ、ほら。こぼれてるぞ…」ふきふき

女「むきぃー!!」

兄「……」ふきふき

兄(なんか変な子と出会っちゃったな…そろそろすきを見て警察に電話しよう)

兄(それが一番だろ。このまま会話してたって解決するわけじゃないしな)

兄「ふぅ、じゃあちょっと俺はトイレに行ってくる──」


メイド「はい。行かれてどうぞ」


兄「……え?」

メイド「……」

兄「うぇ? は、はいっ?」

女「はわわわ…!」

メイド「ご機嫌麗しゅう。お嬢様」

兄(いつの間に──気が付かなかった、目の前に座ってる)

メイド「探しましたですよ。人狼家一族に攫われた後、作戦ポイントに車が到達せず」

メイド「──まさかこのような下賎な場所にて食事を取られているとは思いもよらず」

メイド「一生の不覚であります」ぺこり

女「な、なぜここにっ!」

メイド「わたくしの情報網です」

女「ううっ!?」

兄「……」

メイド「御仁、お嬢様を救出していただき誠に感謝を申し上げます」

メイド「あとはわたくし達にお任せください。お嬢様は無事に城へとお連れします」

兄「…その失礼だと想いますが」

メイド「なんでしょうか」

兄「その、女さんとは…どのような御関係で?」

メイド「見ての通り、主従関係であります」

メイド「お嬢様に仕えさせていただいおります──名前は『マミー』」

メイド「ですが気軽にメイド、とお呼びください」

兄(どこがどう気軽なんだよ)

メイド「さてお嬢様」

女「…なんなのだ」

メイド「お遊びはここまでです。さあ、帰りましょう」

女「………」

メイド「帰ってからは幾つかの儀式を行わければ。清めは大切な日課ですよ」

女「…いやだ」

メイド「?」

メイド「えっ? すみません、もしや──『いや』と言いましたか?」

女「………」

メイド「まさか。そのようなことはないでしょう、ではもう一度」

メイド「帰りますよお嬢──」

女「い、嫌だといってるのだ!!」ばんっ

女「わ、わたしはっ…絶対にかえらん、あの城には絶対に…!」ぷるぷる

兄(ああ、机を叩いて手が痛いんだろうな)

女「私はまだ、なにも見ていない! 空には雲が張られっ…私はただ…それだけのを…っ!」

兄「?」

メイド「………」

メイド「各捕獲部隊、展開」

ザザザ!!

兄「うぉおお!? な、なんだ!? 客が全員…!?」

女「……!」

メイド「お嬢様、我儘はいけません。それは重大な違反でありますよ」

メイド「──『太陽』をみることは決して許されてはおりません」

メイド「先代のお父様の遺言ではありませんか」

女「ぐっ…そんな、そんなものは知ったことではない! 私は見たいのだ!」

女「太陽をっ…この目で、確かに見たいのだ…!!」

メイド「……」

メイド「捕獲」

ばっ!!

女「ううっ…!」

女「助けて……───」

めきぃい!!

うんこいってくる

メイド「!」

女「、えっ?」

「──あ、すいません」

兄「勢いでその、机を割っちゃいました」

メイド「……」

兄「あはは。普通はここ、皿とかカップなんでしょうけどね…よいしょっと」パラパラ

メイド「…貴方は」

兄「待った!」

メイド「…」

兄「なにか勘違いされてるようですけど、違うんです」

兄「別にそこのお嬢様を助けたいとか、そういうことを目論んでるわけじゃなく」

兄「…ただちょっと、一言言いたいなぁと」

メイド「なんでしょうか」

兄「ありがとうございます。えっと、あのー…そいつってただ太陽を見たいだけ、なんですよね」

女「っ…っ…!」こくこくこく!

兄「どのような過程でダメなのか、ていうのはさっぱりですけど」

兄「それぐらい良いんじゃないですか?」

メイド「……貴方は」

メイド「お嬢様から話を聞かれたのですか」

兄「いやぁ得には。別段なにも聞かされてるわけじゃないです」

兄「あ、敷いてあげればヴァンパイアの───」

兄「──」シュ!

ビュゴォ!

兄「ッ…何するんですか。いきなり殴ろうとするなんて」

メイド「い、今……なんと言ったのですか」ぷるぷる

兄「えっ」

メイド「今、今、今! 貴方はっ…ああ、なんてことを…!」

兄(あー…なにかヤバイ感じがする…)

メイド「──黒服達! まずはこの男を捕まえなさい!!」

黒服「御意」

ザザザザザ

兄「……」キョロキョロ

兄「…はぁ、あのさ。お前なに俺に言ったんだよ」

女「うっ…すまん…」

兄「そのせいで墓穴掘ったみたいだろ…
  とりあえずアンタの手助けぐらいはーなんて思ってれば」

黒服「…大人しく来てもらおうか」

兄「嫌だ」

兄「家で妹が飯を作ってるんだよ、帰らせてもらう」

メイド「構いません。やりなさい」

黒服「…」すっ

兄(身体ゴツイなぁ、格闘やってるよなどう見ても──)

兄「──じゃあ手加減はナシだな」くんっ

黒服「えっ」

兄「とぅ」ぐるん!

黒服「ぐぇっ!?」

ドシーン!

兄「ザ・一本背負い──案外軽いなぁ、肉食べろよ肉を」

兄「さて、あんまり暴力ってのは好きじゃあない。鍛えてるけど、それは別に喧嘩のためじゃあないんでね」

兄「俺は俺でやりたいことをやらせてもらう。別に止めてもいいけど……ま、それなりの」

兄「覚悟、決めろよ」

prrrr

妹「はい、もしもし」

『あー俺俺、いま何やってる?』

妹「昼ドラ見てるけど」

『そうか、なんにも無いならそれでいいや。お、やるなぁアンタ』

妹「…ちょっと、なにやってるの?」

『ん? 喧嘩喧嘩…うわぁ!? 刃物はナシでお願いします!』

妹「………」

『おい、呆れるなよ。俺だってやりたくてやってるわけじゃあないから』

妹「…逃げればいいじゃない」

『逃げたいよ、だけどなかなかやるもんだからさ…ふむ、こんなもんか』

妹「嘘つき」

『嘘じゃあない。喧嘩は好きじゃないって知ってるだろ、ただ巻き込まれるだけって話で』

妹「…ま、そうだよね。いっつも周りに巻き込まれてるだけだもんね」

『怒るなって、いの一番に早く家に帰ろうと思ってるんだからさ』

妹「早くしないとご飯冷めちゃうよ」

『…了解。数分で戻る』

ぴっ

妹「……」

妹「なにやってるのよバカ兄貴…」

~~~~

兄「ふぅ…」

兄「こんなもんか」パッパッ

黒服「ううっ…」

女「おおっ! 流石だな化け物!」

兄「なんていうか素晴らしく連携とれてたけど、個々がダメだな」

兄「なんてカッコつけてみる」

女「いいや、かっこよかったぞ! 惚れてしまうところだった!」

兄「はっはっは、だろだろ」

兄「さて…」パンパン

兄「もう帰るんであとは宜しく」

女「ええぇー!?」

兄「…なんだよ、いいか? 勘違いするな、別に俺はお前のために喧嘩したわけじゃない」

女「ついでに助けてくれてもよかろー!」

兄「やだよ。なんで面倒事背負い込まなきゃけないんだ」

女「いいではないかー! いいではないかー!」だきっ

兄「あーもうひっつくなよ…服がどんどんボロくなって、い──」

ヒュン!

ずばぁ!

兄「んっ?!」バッ!

メイド「……」

兄「…アンタどうやって今、っ!?」

ヒュンヒュン!

兄「なっ…!?」タラリ

兄(血が出て、頬に傷? いつの間に)

メイド「気にすることはありません」

兄「っ…どういうことだ」

メイド「それすらも気にする必要ないでしょう」

メイド「──後悔やら苦悩、全ては関係無く散っていくもの」

ヒュン

兄「痛ぁ!?」ズキ!

兄(わ、わからん! なにされてるんだ俺! …とにかく切られてるってことは、なんとなく理解したけど…!)

メイド「……」

兄「痛ぇ…」

メイド「何をどうやっているのでしょうか」

兄「はぁっ?」

メイド「…無意識ですか、驚異的な反射能力ですね」

兄「だから何を言って、うぉおお!?」ひょい

兄「っ…なんだよ意味がわからない! なんで怪我してるんだ俺!」

メイド「……殺しはしません」

メイド「ですが、瀕死状態にはします。ご覚悟を」

兄「こええ!」

女「おい! 化け物!」

兄「化け物言うな! なんだよ、こっちは今立て込んでて──」

女「えいっ」ぽいっ

兄「うおっ!? な、なんだこれ…ケチャップ…?」

女「今だ! 目の前に投げるのだ!」

再投稿中
無事に終わえれたら嬉しいなって

兄「はぁ? ま、いいけど」

兄「えいっ」

ぱしゃああああああああ!!

兄「うわぁ!? なになに!? はじけ飛んだ!?」

メイド「っ…!」

兄「って、え? これなんだ…空中に模様っていうか…線…?」

女「ピアノ線だ化け物! それを高速に撓らせ、皮膚を裂き血を流させる!」

兄「お、おお?」

女「そのメイドはお前の死角から何十本ものの薄い糸で攻撃しているのだ!」

女「得意は暗器! 糸使いのマミーなのだ! 気をつけろ! 次が来るぞ!!」

メイド「…っ」ぐいっ

シュババババ!!

兄「うぉおおお!!」ずさぁ!

兄(周りのものが次々に真っ二つに…!)

メイド「…先ほどのわたくしの登場に、驚いていらっしゃったようですね」

兄「あ、ああ。それがどうした」

メイド「わたくしは訓練により、『人の視界』というものを読むとることが出来るのです」

メイド「仕草、眼球の動き、対話する人間、性格性、性別、体格」

メイド「それらを踏まえた上で稼働できる視界を判別し、把握することが出来る」

兄「……!」ひゅん!

兄(いつの間に…っ!)たらり

メイド「──このように、貴方は今その程度の視界でしか物事を捉えきれていない」

メイド「今はその驚異的な反射と勘で避けているようですが、それもここまでです」

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