妹「お兄ちゃん。私が作ったお弁当食べなかったでしょ?」(266)

男「えっ?」

妹「でしょ」

男「な、なわけ無いじゃんよー? 急に何だよ妹ぉ~」

妹「気づかないと思った?」ガサリ

男「…ん?」

妹「これ。学校のゴミ箱の中に入ってたよ、ビニール袋に入ってね」

男「…あの…」

妹「このビニール袋の中身はなんだろなーなんだろなー……あ! 私が作った弁当の中身だ!」

妹「うふふっ」

妹「なんで? なんで捨てたの?」

ss速報での投下を改稿、再投下。
宜しくお願いします

男「ご、ごめんなさ…」

妹「え?なんで謝るの? …私謝ってとか言った?」

男「いや、待って、聞いてくれっ! そのな、あのな!」

妹「えいっ」

ダァアンッ!

男「ひっ」

妹「…もう一回だけ聞いてあげるね、お兄ちゃん」

妹「なんで捨てたの?」

男「……」ダラダラ

妹「教えて」

男「…その、ですね、えっと、ですね…ハイ…」

妹「声が小さくて聞こえない」

男「あのっ! ですね! そのぉ~ワケを話すと長いと言いますかぁ…」

妹「……」

男「とりあえず、その包丁は下ろしたほうが良いなって…兄ちゃん思うけど…」

妹「…あ、うん? そっか、ごめんごめん。なんだかお兄ちゃんを脅してるみたいだもんね、これじゃあ」すっ

ストン ──ビィィィィン!

妹「これでいい?」

男「なにやってんの!? もう少しで俺の足の指チョンパだったけど!?」

妹「あ。靴下に穴が開いてるよ?」

男「今お前が開けたんですぅ! …待って、違う! 今のは兄ちゃん反抗したわけじゃない!」

妹「じゃあ前から開いてたんだよね?」

男「…うん」コクリ

妹「よっし。じゃあ聞かせてもらおうか、ばっちこい! なんで捨てたの! はいっ! 言って言って!」

男「…その、えっとだなぁ」ポリポリ

男「──彼女、出来た感じかな?」

男「えへへ」

妹「………」

男「うん、そんな感じなんですけども…」

妹「ふーん」ズッポリ

男「うひっ!」

妹「そーなんだ、お兄ちゃん。彼女ができたんだぁへーぇ」

男「う、うん」

妹「誰? どのクラスの娘?」キンキン

男「えっと…後輩かな。それよか妹さん、ちょっと包丁の切っ先で遊ぶの止めてくんないか…」

妹「後輩?」ズビシ

男「あぶぃっ!?」

妹「後輩って、なにそれ。後輩って、まさか…私と同学年ってコト?」

男「うんうんうんっ!」コクコクコク

妹「…誰だろ、お兄ちゃんの彼女になる物好きなんて」

男(失礼な…!)

妹「それで? なんで彼女が出来たからってお弁当捨てちゃうの? 馬鹿なの?」

男「馬鹿とか言うなよ…だって、彼女さんだぞ? 目の前でお前の弁当なんて食べれないだろ…」

妹「私、妹。お兄ちゃんの妹、おーけー?」

男「おーけー」

妹「じゃあ別にいいじゃん。捨てなくてもいいじゃん」ブンブン!

男「うぉおっ…!」ヒョイヒョイ

妹「理由は他にある! と見ましたよ、妹さんはね」

男「うっ…」

妹「ほら、言ってみ。妹ちゃん怒らないから」

男「…ほんと? 怒らない?」

妹「ほんとほんと。怒らない怒らない」

男「そういって実は聞いたら怒るんじゃない?」

妹「しつこいな。怒るよ」シュッ

男「やめて! ごめん! …わかった、言うからさ」

妹「うん。早く言って」

男「はぁ~、えっとだな。その俺の彼女さんなんだがな」

妹「彼女さんが?」

男「お前の」

妹「うん」

男「…同じ部活の娘」

妹「え? 嘘?」

男「…う、うん」

妹「同じ部活の娘って…それに下級生って…」

男「なんとなく分かるだろ。その娘だ、名前は───後輩ちゃんだな」

妹「後輩ちゃん…」

男「うむ。しかもお前の友達と来たもんだ、こりゃーちょっと気まずいって感じでさ…」

妹「………」

男「あの、妹さん?」

妹「だから捨てたんだ…」

男「へっ?」

妹「後輩ちゃんが彼女、になったから…捨てたんだよね、お兄ちゃん。お弁当を」

妹「──私が作ったお弁当、捨てたんだよね?」

チャキ

男「oh…」

妹「そうなんだよねっ? そうじゃなかったら捨てないもんねっ?」

男「…うん」コクリ

妹「そっか、そっか。そーなんだ、後輩ちゃんがねぇーえ、うふふっ」フラリ

妹「どうしよっか? とりあえず包丁で刺して見る?」

男「さり気なく出した提案が怖いぞッ!」

妹「だって、さ。だってさ! 後輩ちゃんだよ!? すっげー駄目だよ! どうして彼女にしたの!?」

男「お、俺の勝手だろ! す、すきになったから…だよっ」

妹「キモい!」

男「酷い!?」

妹「んなこと言うお兄ちゃんじゃないでしょ! 言わない言わない! 絶対に裏がある!」

男「裏ってお前…」

妹「…そーだ、お兄ちゃんじゃきっと口割らないし。後輩ちゃんに聞こっと、脅して聞こっと」

男「おーいやめろやめろー」

妹「きっと何かがあるんだよ…私が把握できない暗部ってやつがね…」

男「お前、後輩ちゃんとお友達だろ…」

妹「友達だからだよッ!」ブン!

男「うわぁっ!?」ヒョイ

妹「友達だからッ…【友達】だから、脅して聞かなくちゃいけないんだよ!? わかってる!? んにゃーお兄ちゃんじゃわかんないねっ!」

男「お、女の友情に関しては無知なのは認める…! だが脅すのは絶対に違うと言い切れるぞ!」

妹「てりゃー!」シュッ!

男「フンヌッ!」

ぱしぃぃいっ!

姉「んなろーさっきから騒がしいわね。もう夜だぞー」ガララ

妹「ふんっ」ケリ!

姉「ゴフッ」ドタリ

男「おねぇ───ちゃ───ん!!!!」

妹「…良いから聞かせてよ、どうして欲しいのお兄ちゃん」

男「はぁっ…はぁっ…えっ…?」

妹「私にどうして欲しいんだよ…だって、だって…捨てちゃうんでしょ…!?」

男「お、おう…捨てなきゃな…うん…」

妹「じゃあ私何をすればいいの…! 次に何を頑張れば────」

妹「──お兄ちゃんの目の前にっ……居られるの……っ!?」

男「お前…」

妹「言ってよ!! お兄ちゃんが教えてよっ!!」

ポロポロ…

妹「わたし…わかんないよ、もう…どうすればいいのか…グス…」

男「……」

妹「いっぱい頑張ってきたよ…なのにさ、お兄ちゃんは直ぐに…別のところを見ちゃうじゃない…っ」

妹「だからだから! 私は何時だって努力してお兄ちゃんの側から離れないように頑張ってた!」

男「…おう」

妹「もう…わかんないよ…っ」

男「妹…」

すっ…

男「良いんだって、頑張らなくても」

妹「え…」

男「別にお前がそんなに頑張る必要なんて無いだろ?」くいっ

カランカラン

男「お前は俺の妹なんだ。それは、俺には忘れられないことなんだ」

妹「…妹」

男「ああ、何も毎日弁当作らなくても。俺はお前を蔑ろにしないさ」

男「ちゃんと見ててやるよ。きちんと、お前を妹として扱ってやる」

妹「……」

男「大丈夫だって。俺は案外、やれる男だぜ?」

妹「お兄ちゃん…」

男「心配するな。平気平気!」

妹「…」すっ

ぽふっ

男「おっと」

妹「ばかっ」ぎゅうっ

男「…馬鹿言うなって」

ぎゅっ

妹「そんなこと言って、すぐに忘れようとする癖に」

男「癖じゃない。これは…うん、癖なんだろうか?」

妹「だから直ぐにいっぱい、女の子と仲良くなっちゃうでしょ!」

男「いやいや…俺がプレイボーイみたいな言い方するなよ…」

妹「ばかっ!」

男「…おう」

妹「ばかばかばか! あほあほあほぉー!」

男「…そりゃすまん」


パチパチパチ

男「うぇ?」

姉「……」パチパチパチ

男「何やってんの?」

姉「アタシは今、凄く感動しています。感動に痺れておりますの」

男「そ、そうですか」

妹「…お兄ちゃん」

男「ん? どうした?」

妹「私、それでも頑張るから」

男「おい頑張るって…」

妹「私は妹だけど、妹だから……お兄ちゃんの側に要られる」

妹「──お兄ちゃんに【妹】って呼ばれるんだよ?」

男「そりゃそうだ」

妹「だから、頑張るの。それが私の生きがいだから、生き方だから」

男「…」

妹「そうやって生きなきゃ私は私で居ることが出来ないから、だから、だから」

妹「──私のことを忘れないでね、お兄ちゃん」

男「…あったりまえだ」

妹「うんっ!」

姉「そーれっ」ぎゅううううううう

男&妹「うわぁっ!!」

姉「二人をまとめてだっこだー! んふふー!」

男「ちょ、ちょっと姉ちゃん! やめろって…!」

妹「きゃー!」

姉「あははー!」

男「…ったく」

~~~~~~~~~~~~~









その三日後、俺の【妹】は死んだ。




世界はどうでも良くならなくなった。





学校 屋上

後輩「それでそれで、結局のところ妹さんを殺したんですか?」

男「どうでもいいこと言うなって。後輩ちゃん」

後輩「これはこれは…なんて冷たい言い方なんでしょうか」

男「冷たくない」

後輩「冷たいですって。妹さんを、いえいえ、私にとっては女ちゃんは──」

後輩「──唯一の友達だったんですよ!」

男「…うむ」ズゴゴゴ

後輩「牛乳飲んでないで答えてくださいよ」ぐいっ

男「むぐっ」

後輩「どうなんです? 先輩さんは女ちゃんを殺したんですか?」

男「…殺してないってば」

後輩「嘘です! 嘘っぱちです!」

男「あのね後輩ちゃん。そんな殺した殺さないって、一般の高校生が使っていいことじゃないよ?」

仮にも【普通】の女子高生なのだから。
いや俺的には、が正しいのだろうか。どうでもいいけど。

後輩「え…?」

男「ん?」

後輩「先輩さん…一般高校生のつもりだったんですか…?」

男「待て。なんだその反応」

後輩「何てたって先輩さんですよ? あの、先輩さんですよ?」

男「あの、ってなんだ。俺を目の前にしてその言い方は酷いじゃないか」

後輩「……先輩さん、もしかして私…なんかやっちゃいました?」

男「……」プイ

後輩「どーしてそっぽ向くですぅ!? めちゃくちゃ不安MAXですぅよこっちは!?」

男「…大丈夫、後輩ちゃんは間接的だから、うん」

男「あのね後輩ちゃん。そんな殺した殺さないって、一般の高校生が使っていいことじゃないよ?」

仮にも【普通】の女子高生なのだから。
いや俺的には、が正しいのだろうか。どうでもいいけど。

後輩「え…?」

男「ん?」

後輩「先輩さん…一般高校生のつもりだったんですか…?」

男「待て。なんだその反応」

後輩「何てたって先輩さんですよ? あの、先輩さんですよ?」

男「あの、ってなんだ。俺を目の前にしてその言い方は酷いじゃないか」

後輩「そうでもないですよ、私的には。えーと、それで、色々と私的に
   考えましたけど…先輩さん、今回のことで私…なんかやっちゃいました?」

男「……」プイ

後輩「どーしてそっぽ向くですぅ!? めちゃくちゃ不安MAXですぅよこっちは!?」

男「…大丈夫、後輩ちゃんは間接的だから、うん」

後輩「間接的ぃ!? こ、こわっ! 直接よりもなお怖いですぅ!」

男「別段気にする必要ないと思うよ。だって、アイツは───」

男「──そんなこと気にするやつじゃないし」

後輩「な、なんてことを言う人です…」

男「おう。それが君の彼氏なのだよ」

後輩「むぅー」

男「…おっと。そういえば良い忘れてたよ、これ」

後輩「?」

男「ありがと。助かったよ、植物図鑑」

後輩「あーそんなの貸してましたね、そういえば」

男「あれ。これって自分のじゃないの? 部活のやつ?」

なんて、どうでもいいことを聞いてみる。

後輩「はい。私の勤めてる部活のやつですよー、あ、ヤバ! そういえば部長に言うの忘れてましたです!」

男「無断だったのか…怒られないといいね」

後輩「…まー怒られないでしょうね」ゴソゴソ

男「ん? なんで?」

後輩「だって今は、ほら、部活中は傷心中……といいますか」

男「あー…妹か」

後輩「ハイです。私と女ちゃんは仲がいいって、部員全員に思われてますし」

後輩「そう簡単に怒ったりはしないです。あーまいっちゃうなぁー」

男「なんで? いいじゃん得したじゃん」

後輩「…よくおいそれと吐けますね、そんなセリフを」

男「…後輩ちゃん、まさかまだ疑ってる?」

後輩「モチのロンです。完全BLACKです」

男「だーかーらー……どうでもいい事言うなって、後輩ちゃん」

男「俺は───」


あの愛しい妹、あの誰よりも美しいと思える存在。


男「──後輩ちゃん的に言えば【女ちゃん】を」


弁当を作るのも上手くて。
俺の好みを凄くわかっていて、何度だって頼んで食べさせもらいたい。
そんな妹を。


男「俺はやってないよ?」
だけど【俺が殺した】。


男「俺は無実だ、なんら証拠もない。もしあるんなら今頃刑務所の中だって」


妹を亡き者した。自分の視界から消し去り、居ないものとさせた。
本当に本当に、どうでもいいことだけど

男「だから安心してね。後輩ちゃん」

後輩「…そうです? 本当です?」

男「そうとも。俺は犯人じゃない、ホントーだぜ!」

後輩「…じゃあ信用、するです」コクリ

男「ああ、めっちゃ信用してくれ」

後輩「……」コク

男「なんならキスしてもいいよ?」

後輩「えっ!」パァァア

男「嘘だけど」

後輩「なぜ嘘ついたですぅ!?」

男「まだ俺らには早いって、うんうん」ズゴゴ

後輩「そういって何時までたってもしてくれないじゃないですかぁーっ!?」

男「あっはっはっは」

無意味に笑いつつ、
今日も世界はどうでもよくならない。

男「さて、今日はどうしようか後輩ちゃん」

後輩「ぐぬぬ。じゃーもうこのまま、授業なんてほっぽり出してイチャイチャしましょうです」

男「なにその、後輩ちゃんらしからぬ提案…なんかドキドキする!」

後輩「えへへ。てーいうか、わたし的には冗談だったんです。まさか先輩さんが乗り気だなんて…軽蔑します」

男「冷た! というか俺の提案じゃないけども!?」

後輩「私的には『いや駄目だよ後輩ちゃん。そして後輩ちゃん大好きぃ!』ってな展開を望んでましたです!」

男「え? なんでそんな当たり前の事言わなくちゃいけないの…?」

後輩「にゃっ!」ピクン

男「ん?」

後輩「じゃ、じゃあ…その…言ってくれるんです? 今言ってほしいと言ったら、先輩さんは…?」

男「うん。当たり前じゃあないか、後輩ちゃんが望めば何時だって、何度だって言ってあげるよ」

後輩「本当です!? 言ってみてください!」

男「いや、駄目だよ後輩ちゃん」

後輩「絶対そっちだと思ってたですぅ────!!!」

後輩「はぁ…はぁ…もういいです、先輩さんなんて知りませんっ」

男「そんな彼氏さんを恨むのだ。さて、後輩ちゃんはこれから授業かな?」

後輩「ええ、そうですよって。先輩さん? まさかサボる気じゃあないですよね?」

男「……」すっ

後輩「何、そっと視線を外してるんです。もう! もうもうもう! そうやっていっつも自由だから!」

男「あははーいいじゃないか、誰も俺なんて気にしないって」

後輩「…私が気にするんですっ」

男「え? こんな男が彼氏なのかって? …まさか世間体を気にする後輩ちゃんなの?」

後輩「私はこれでも【普通】な娘って認知されてるんです!」

男「普通かぁ。確かに後輩ちゃんは『どっからどうみても、普通』だよね」すっ

後輩「……」びくっ

男「この髪の色とか。この整った眉とか、制服のスカートの長さ…靴下の色とかも」ナデナデ

男「──どこからどう見ても、普通だよ」

後輩「……」

男「どうしたの? 普通の後輩ちゃん、俺って今滅茶苦茶セクハラっぽいことしてるけど?」

後輩「…先輩さんは彼氏なので許しますです」

男「おお。じゃあ次はどこを触ろっかな?」

後輩「ここなんてどうです? めちゃキューティクルなおヘソありますですよ?」チラチラ

男「へーどれどれ…」

後輩「先輩さん? そこはおへそじゃなくてお鼻ですよ? フガフガ」

男「ごめんごめん、間違っちゃったよ。あれ、これってはなg…なんでもない」

後輩「出ちゃってます!?」

キーンコーンカーンコーン

男「…おっと、昼休みもおしまいだ。さてさて、後輩ちゃん。今日は一緒に帰ろうか?」

後輩「ちょっと先輩さん!? 色々とお待ちになってくださいです!」

男「放課後は一緒にアイスクリームでも食べよう」ポンポン

後輩「え、本当です!? って、ちっがーう! 先輩さんまずはピーヒョロ出てるかご確認を…!」

~~海岸・砂浜~~

男「よいしょっと」ざくざく

男(…このへんの砂浜。歩きにくいなぁ、革靴なら尚更か、靴の中に砂が入って気持ち悪い)

男「ふぅ、周りも殺風景だ。なんか錆びついた家々が立ち並んでるけど……やってるのかな、あれって」

男「………」


ザッザッ


男「…このへんかな」

男(学校からそう遠くない場所。歩いて数分、自転車だともっと早い──)

男(寂れた海水浴場。まぁこの季節なら尚更か、人なんて全然居ない)

男「こんな場所で…こんな寂しい場所で…」


俺の妹は死んでいた。


男「うん。多分、俺の足元らへんかな」

砂浜と波打ち際。
その境目で、妹の死体は転がっていた。


男「その姿はまるで──」


美しい人魚が顔を出しているように見えた、と。


男「──なんてまぁロマンチックな言い方だろうか、見かけによらないなぁ」


第一発見者は犬の散歩をしていた近所のおっさんだった。
朝方、六時、日の出もまだ住んでない時間にて。
飼い犬が恐ろしく吠え、何事かとおっさんが近寄ってみれば。


男「俺の妹が死んでいた。髪を波に漂わせ、肌は真っ白に染まり上がって」

男「──ここに転がっていた」ザク!

男「…どうでもいいことだけど」

俺も見たかった。
そのように完成された『妹の死体』というものを、俺もみたかった。

男「…なんでだろう、妹の死体だっていうのに」

腰まで伸びた髪を波に漂わせ、
真っ白に染まった四肢を投げ出していたのだろうか?

男「……」

はたして、
妹はどのような妹で発見されたのだろう。

男「まぁ、どうでもいいことだけども…さて、頑張らないとなぁ」


この現実を直視しなければならない。
うやむやにしてはいけないのだ。

男「ちゃんとしなきゃな。ちゃんと、じゃなきゃ妹に申し訳ない」


自分が殺してしまった妹。
きちんと責任をもってやりきろう。全てを謎にしたまま、全てを解決できないままに。

俺はこの事件を、隠しきる。

まぁ結局のところ、妹の死なんて。
後輩ちゃん的に言わせれば、周り一般的に言わせれば。

女ちゃんの事件なんて──どうでもいいのだけれど。

男「さて、帰ろっと。なんか残った証拠も無さそうだし」

男(まぁ警察とかが調べ尽くしているだろうしな。残ってるはずがないけども)

男「んぐぐ! っはぁ~……なんかおなかへったなぁ、ん?」

『蕎麦屋』

男「……。こんなところに定食屋あったんだ、ふーん」

男「これはどうでも、よくないなぁ」ガララ

店員「いらっしゃいませー」

男「……」キョロキョロ

店内を確認。椅子が引かれた2つに、おばちゃん。彼岸花が瓶に。
あとはどうでもいい、と思っておこう。

男「ん…」ストン

男「なに頼もっかなー」ペラリ


「──何を華麗にスルーを決め込んでいるのかな、君は」

男「……」ペラリ

「コラ。聞いてるのかい」

男「あ。このざる蕎麦なんて美味しそうだなぁ」

「お、おい。無視を決め込むな!」

男「すみませーん! このざる蕎麦を一つお願いしまーす!」


「いいから聞けってばぁ───!!!!!!」


男「うぐっ……なんですか、一体」

どうでもいいと思ってたのに。

「君が無視するから悪いんだろう!? ワタシは悪くない!」

男「だからって大声をあげないでください」

「じゃあ君が無視をしなければよかっただろう! だったらワタシも大きな声なんて…!」

男「はぁ~……なんなんですか、もう」

男「副生徒会長さん…」

副会長「おお! やっとワタシを認識してくれたな、うむむ」ふぃー

男「……」じっ

副会長「ふむふむ。よし! これで高まりかけていた動機も鎮まり、平常心が舞い戻ったようだ」ごしごし

男「そうですか。じゃあその調子で腰掛けていた席に舞い戻ってください」

副会長「それは無理だ」

男「無理じゃないです。副生徒会長さんなら出来ます」

副会長「そんな冷たいこというなよーワタシと君の仲じゃないかー」

男「………………」

副会長「うむむ。君ってば面白いぐらいにワタシのことを嫌っているなぁ、いやほんっと」

男「嫌ってませんよ、別に」

どうでもよく思ってるだけです。

副会長「うふふー嘘つけーこの不良生徒めぇーえへへー」グリグリ

男「……」

副会長「よいしょっと」ガタリ

男「いや、待ってください。本当に待ってください、なにナチュラルに隣りに座ってるんですか?」

副会長「ん」

副会長「何を恥ずかしがってる? 君とワタシの仲じゃあないか、そんな態度だと…ワタシまで恥ずかしくなってくるだろう」

男「あっはっはっは」

何言ってんだコイツ。

副会長「うむむ? なんだい君ってば、ちょっと苛ついてるだろう? お腹でも空いてるのかな」

男「…まぁ空いてますけど」

副会長「なるほどなぁ。実はワタシも同じ穴のムジナなんだ」

男「そうなんですか」

副会長「ワッハッハ! 実は副会長なんぞ肩書を背負っているが、君と同じく不良生徒さんなのだ!」

副会長「え? でもそれってどうなの? 規律ある生徒役員さんが授業をサボって外食? わぁー! それは大変だぁー!」

男「………」

副会長「……」チラリ

男「…なんですか?」

副会長「なんて王道的な突っ込みを、優しく尊く、年上として年配者として君に提示させてあげたんだけども?」

男「どうでもいいので…」

副会長「そんなわけがないだろう! なぁ? そうだろう!」

男「……はぁ~」

副会長「んふふ」

男「別に、副会長さんは不良でも俺と同じ穴のムジナでも無いでしょう。どうでもいい程に」

副会長「どうしてそう思う?」

男「──今の時間は、五時間目の半ばです」くいっ

副会長「ふむ。そうだな、君の腕時計にはそう示しているな」

男「これだけで説明つきますよね、俺が言わなくても」

副会長「わからんぞ。まったく、わからん」

男「……。貴女の指先に絵の具ついてますよ、赤色の絵の具が」

副会長「おっ?」チラリ

男「さっき副課長さんがオデコを」

なんともまぁわざとらしく

男「…拭いていた時に見つけました」

副会長「ほうほう。それでなんだって言うのかな?」

副会長「──もしかして、ワタシが課外学習で『写生授業』をやっていたとでも?」

男「ええ、まぁ」

副会長「うむむ。だが違うのだよ君、これは四時間目の美術の授業で汚れたものなのだ」

副会長「それでは君の推理は間違ったことになる。さて、どうする?」

男「…四時間目と五時間目。その間に何があると思いますか」

副会長「昼休みだ」

男「副会長さん。お弁当食べる前に、手を洗いませんか」

副会長「おお! もちろん洗うとも!」

男「じゃあ四時間目の汚れはありえませんよね」

副会長「なるほどなぁ。ワタシの習慣を逆手とっての反論か、すばらしいじゃないか」

副会長「つまりは授業をサボってるのではなく、授業で外にいるのだと…」

副会長「しかし、授業をサボってることには変わりないぞ?」ニヤリ

男「…」

副会長「しかも君が言ってくれたように、ワタシは確かに食事の前に手を洗う。だがな、今はどうなんだ?」

副会長「なぜ食事を行う場所で、ワタシは手が汚れていたのだろうか? 食べようとしている直前なのに、だ」

副会長「なぜ手を洗うことを怠っているのだろうか。そうなると、先ほどの君の推理も破綻していることになる」

男「…さっき手を洗うことは納得していたようですが?」

副会長「ああ、納得したとも。けれど、食べていた場合に限ってだろう?」

副会長「実は今日の昼休み。生徒会の仕事が忙しく、昼食を省いたのだ。なんともまぁ、おなかがすくもので」

副会長「──このように、授業をサボって食事を行っているということなんだよ!」

男「…はぁ」

副会長「うむむ。どうしたかねキミぃ?」ワクワク

男「じゃあハッキリ言いますけど、副会長。貴女は別にここにいる理由が、食べに来たわけじゃないでしょう」

副会長「ほぅ」

男「その指先が汚れているのも、貴女がここにいる理由も、それは──この店の中で写生の授業をしていた」

副会長「……!」

男「食べに来たわけじゃない。だから手を洗う必要もなく、授業をサボっているわけでもない」

副会長「根拠はどこにある?」

男「看板です」

副会長「…看板?」

男「俺がこの海岸へ来た時、周りは殺風景だと思ってました」

男「寂れた家々が立ち並んでるだけだって、けれど、帰るときにはあったんです」

男「──蕎麦屋という看板が。来るときには見えなかったのに」

副会長「うむ?」

男「つまりは、外されていた。自分が来るときには何かしらの理由で──店を営業してなかった」

副会長「……」コクリ

男「その理由として、貴女が頼んだ。授業を行うので、数十分だけ外してもらえないかと」

男「──この店の中で写生授業をしたいから、と」

副会長「………」

男「これが貴女がここにいる理由。そして授業もさぼってなく、食事もしてない理由です」

副会長「………」

男「ご期待に添えましたか」

本当に、どうでもいいことだった。

副会長「うん、うんうんうん! ブラボー! すっばらしい! 全て正解だ!」

副会長「やはりワタシが見込んだ男だ! うむむ、あっぱれなり!」

副会長「うむむ。思うにちっとばかし簡単すぎちゃった?」テレテレ

男「まぁ良かった方じゃないですか、多分」

副会長「そうか! そう言ってくれるか、ありがたいよ後輩くん」ニカッ

副会長「ところで話は変わるが、後輩君。なぜ君はここにいるのかな?」

男「ご飯を食べに来ました」

副会長「見れば分かることは聞かないさ」

副会長「ワタシが言っているのは『学校をサボってまでここに居る理由』なのだよ」

男「そうですね、えっと…」

副会長「おおっと。言い訳をしようとするんじゃあない、分かりやすい間のとり方をするなんて君らしくもないなぁ」

男「はぁ、そう見えましたか。そういば以前、妹にも同じようなことを言われましたよ」

副会長「……は? 妹?」

男「ええ、妹です」

副会長「………」ピクッ

男「どうかしましたか?」

副会長「…いや、君程の妹ならば。たとえ君相手でも臆することもなく言い放ちそうだと予想するな」

男「それはもう出来た妹でしたから」

副会長「君が言うならそうなのだろう。あっはっは、なるほどなぁ───」

副会長「──だから君はここに居るのか」

男「………」

副会長「いや、なに。そうじゃあないのかな? 例えばワタシの母親が…」

男「だとして」

副会長「うむむ?」

男「それが副会長さんに何が関係あるんでしょうか。俺にはちっともわかりません」

副会長「…嫌な言い方をするもんだ」

男「ええ、まぁ、それが俺なんです」

副会長「知っているとも。君との付き合いは誰よりも長いと自負しているからなぁ」

男「…変な意味を含ませるような言い方やめてもらえませんか」

副会長「事実だろうに。君にとっては──そうじゃあ無いのかもしれないがな」

そうですね、どうでもいいほどに。

副会長「はてさて、そんな意地悪な君に、ちょいと副会長さんとしてお返しをしておこうと思うぞ」

男「お返し?」

副会長「そうとも。ワタシこと副生徒会長は───」


副会長「──君が犯人じゃないかと疑っている」


男「へぇー」

副会長「そしてもう一つ言わせてもらおう。この事件の犯人をワタシは見つけようとも考えている」

男「ほーぉ」

副会長「うむ。面白い反応だな、今までそんな君を見たことがないぞ?」

男「……。じゃあやめます」

副会長「くっくっく。なんだいどうした? 恐れているのか? このワタシを?」

男「…副会長さんって、詳しいほどに妹のこと知っているんですか」

副会長「いいや、知らないよ。君の妹なんてね」

男「じゃあ聞き方を変えます。妹じゃなくて、女としては知っているんですか」

副会長「もちろん。彼女ほどの逸材をワタシが放っておくわけがない」

男「逸材?」

副会長「生徒会役員として誘ったのだ。ワタシの『目』は正直すぎるほどに人を看破するからな」

副会長「…まぁその時は体よく断られてしまったが。今となっては強引にでも入れておけばと後悔しているよ」

男「そうだったんですか」

副会長「知らなかったのか? 君の妹だというのに?」

男「ええ、知りませんでした」

別にどうでもいいことだったから。

副会長「ほぅ! それは不思議だな、君の妹だというのに。血の繋がった同じ家族だというのに!」

男「家族だからって全てを話し合うワケじゃないでしょう」

副会長「確かにそうだ。ワタシにも妹は居るが、洗いざらい全てを打ち明けるような仲じゃあないな」

副会長「…さて、そろそろ誤魔化しもやめたらどうだ。後輩くん」

男「どういう意味ですか? よくわかりません、俺には」

副会長「なにやら焦っているように見えるのだがな?」

男「焦っている? ああ、そうですねさっきから『ざるそばまだなかーまだかなー』なんて思ってます」

副会長「このタイミングで面白いことを言うのだな。もしかして、ワタシと出会ったしまったことに後悔しているのかな?」

男「副会長さん一つだけ言わせてください」

副会長「良いとも。一体なんだ?」

男「俺って重度のシスコンなんです」

副会長「…うむ?」

男「シスコン。わかりますか?」

副会長「ん? えっ? あ、うん。分かるって言えばわかるけど……」

男「はい。だから俺って妹のこと大好きすぎてマジやばいんです」

副会長「や、やば?」

男「「例えばですけど、俺の妹が夜中に僕の部屋に訪れて、」

男「『お兄ちゃん。勉強教えてくれない?』なんてドアを半分開けながら言って来ようものならベッドに押し倒します」

副会長「犯罪だなそれは!」

男「おや、早とちりしないでください生徒副会長。俺は押し倒した後は、
  きちんとベットの上で妹に勉強を教えるつもりなんですから。ベッドの上で勉強を、ね」

副会長「あえて言わせてもらうが、なぜベッドの上でを強調するんだ!?」

男「だからただの勉強ですって。副会長さんが考えているようなやらしい、エッチなことじゃありません」

副会長「お、おおっ…?」

男「なのでそんなやらしい事を考えちゃう副会長さんのことを、俺は誰にも言わないので安心してくださいね」

副会長「…ど、どうも? ありがとう?」

男「いえいえお礼なんて。あ、そういえば副会長さんの妹さんって──俺の妹と、女と、同じクラスですよね?」

副会長「そ、そうだな…確かそうだったと思うが?」

男「じゃあ頼まれごとをしたいんですが、
 俺の妹と副会長の妹さんとのツーショットの写真とかあったらください。口が硬いうちに」

副会長「脅してるよな! それって脅してるよな!?」

男「そんなワケないでしょう。心外です」

副会長「ワタシの方こそ心外だよ! 信用したらすぐに裏切られてるからな!」

男「しょうがないですね。わーわーと反論するんだったら、俺にだって考えがありますよ」

副会長「な、なんだっ?」

男「俺ら妹のツーショット写真、俺の妹の方だけ切り取ってからくだされば許します」

副会長「最初からそっち狙いだったろキミィ──!!!」

男「……ずずっ」

副会長「はぁっ…はぁっ…な、何を考えているんだ君は…っ!」

男「だから、大好きなんですよ」コトリ

副会長「えっ?」

男「俺は妹のことを大好きなんです。だから、こうやって妹の──」

妹の死体が転がっていた場所を見に来た。

男「──女が倒れていた場所を、見ておきたかった」

大好きだから、愛しているから、心から存分に溺愛していたから。
けれど結局、俺は妹を殺した。どうでも良くないことが起こってしまったのだ。

しかしそれは必然だったのかもしれない。

愛するほどに、妹がどうでもよくなったから。
大好きだと思うほどに、妹がどうでもよくなったから。

男「それが俺がここに居る理由です。別にご飯を食べたくて授業をサボったわけじゃありません」

そして最後に俺が行き着いたのは──妹を殺す、ということ。

男「俺だって悲しんでいるんです。なんで、なんでこんなことになったのかって……」

こうして世界はどうでも良くならなくなった。
いつまでも闇に覆われたままであった世界が、はじけ、世界が広がった。

どうでも良かったものが、どうでも良くないものとなって。

──今はずっと『女』は『妹』のままになる。

男「……悔しい気持ちで、いっぱいなんです」

副会長「後輩君……」

男「…信じてもらえなくてもいいです、けれど、これだけは貴女に伝えたかった」

副会長「うむむ。そうか、君にもそういった一面があるのだな……」

副会長「…てっきりワタシは、君が愛ゆえにうまくいかない現状に」

副会長「気が触れて、思いもよらず、手を出してしまったのかと疑っていたよ……」

男「…………ズズズッ」

副会長「しかしなぁ、それでもワタシは君を疑い続けるぞ。多分だがな」

男「…そうですか」コトリ

副会長「君はね、まるで息を吸って吐くように犯罪に手を染めそうな雰囲気を持っているんだ」

副会長「そして己自身も間違ってないと思っている。だから、そう、ワタシ的に言わせてもらえば──」

副会長「──君が犯人だったらいいな、と思ってしまっているのだ」

副会長「深い意味は無い、と思いたい。だがしかし、この件でワタシはやっと……君という人間に触れられたと思えた」

副会長「長年の付き合いの中で、今やっと、君の世界に入れる気がするんだ」

男「………」

副会長「……。さすがだな、どうしてここまで『どうでもいい』と思える表情を浮かべられるんだろうなぁ」

男「俺には副会長さんが言ってることがわからなくて」

副会長「うむむ。そうか、そうなのであればそうなのだろう。…さて最後に一つ言っておこう」

男「なんですか」

副会長「『女』だ」

男「…それが?」

副会長「ワタシが彼女を、生徒役員に誘うためにある程度調べあげたのだが───」

副会長「──君と彼女が、『兄妹だとはわからなかったぞ』?」

男「……」

副会長「言わずもがな、それは学校での話だ。それでも証拠として十分だろう」

副会長「苗字、人間関係、教師の認識……その他もろもろ。ワタシは君たちが兄妹だとわからなかった」

男「おかしいですね」

副会長「ああ。おかしいな、何より何が一番おかしいか──それは、『ワタシが知らなかったことだ』」


副会長「『ワタシという存在が、君と女くんが兄妹だということを』」

副会長「『この瞬間。この君との会話で、君から打ち明けられるまで知らなかったという事実』」


副会長「──ワタシは絶対に忘れないだろうな、後輩君」

男「……。なんだか副会長さんが言うことは難しくて俺にはちょっと」

副会長「うむむ。大して難しいことでもないのだがなぁ、特にややっこしいことを言っているわけでもない」

副会長「事の真相は単純だとワタシは思っている。ただ──君という人間がいることによって」

副会長「この事件はややっこしくなりそうだ、いや、本当に」

男「……」

副会長「すまんな。長話をさせてしまって」

男「いえ、なかなか面白い話を聞けたので」

副会長「はっはっは。はっ倒すぞこの野郎」

男(──まぁ副会長さんが言わんとすることもわかる)

妹が死んだこと。
それ自体を『解き明かす』のであれば、どうでもいいぐらいに、簡単に違いない。

男(させるわけないけども)

事件自体は俺的にはどうでもいいとして。
けれど解き明かさえる先に待つ、俺が殺したという答えはバレてはダメだ。

男「…」

どうでもいいほどにあたりまえだけど。

副会長「さて、話は変わるが後輩君。食べないのか?」

男「はい?」

副会長「ざる蕎麦だよ。だいぶ前から来ているけれども、一向に手を付けないようだが」

男「…ああ、気づきませんでした」

副会長「気付かなかったって、君。さっき店員さんと応答していたじゃあないか」

男「そうでしたか? まぁいいじゃないですか」

どうでもいいことだから。

男「いただきます」パチリ

男「ズルル…」

男「おお、普通に美味い」

副会長「ふむ」パチリ

男「…ズルル」

副会長「どれどれ」すっ

男「待ってください。何やってんるんですか」

副会長「え? いただこうかなって…」

副会長「まぁそんな意地を張るなって。なぁ?」すっ

男「張ってません。むしろ食い意地を張ってるのは貴女でしょうに」

副会長「女は意地を張ってなんぼだと、ワタシの母親は言っていた」

男「………。他の家庭の常識を押し付けないでください」

副会長「さては恥ずかしいのかな?」

男「ズボボボボボボ!!」

副会長「あーっ!?」

男「もっちゃもっちゃ…」

副会長「ああ…ワタシも食べたかったのに…お、君の頬にネギがついてる」ひょい ぱく

副会長「うん。これはワタシがいただこう」

男「…あの、貴女って人には恥も外聞もないんですか」

副会長「とうに捨てたな」

男(なんて人だ)


「えぇえええええーっ!? な、なんですかこの光景ーぃ!!」

副会長「んおおっ!?」

「ふ、ふく、ふくちゃんが……年下の子とイチャイチャしてるぅー! あーんなんてしてるぅー!!」

男「…ふぅ」

やっときたか。予め店内を見渡した時に、
椅子が2つ引かれていた状態だったのを俺はどうでもいいと思い返す。

男「この人は?」

副会長「お、おお? ああ…ワタシの友人だよ、長いトイレだったな」

「ちょ、トイレとか言わない! 乙女だようちは! ふくちゃんおとめちゃんなんだよ!」

男(…うるさい)

副会長「それはすまない。あと、この子とは別にイチャイチャしてたわけじゃないぞ」

「またまたー! そうやってすぐに嘘つくよねぇ!」スタスタ

男「…」

チラリと、顔を確認する。あと服装も。
ああやっぱりかと、どうでもよくなりつつ認識した。

男「園芸部長さんですか?」

副会長「おっ?」

「ほぇ? ん、んー? ごめんね、君って──」

部長「──うちと会ったとこあるのかぇ?」

男「すみません。不躾に、けれど会ったことありませんよ」

部室「だっよね! …あれ? でもなんでわかっちゃったの?」

副会長「実にワタシも気になるな、聞かせてくれたまえ」

男「いや、特に…ただ部長さんが制服の上から羽織ってるジャージを見て、そうじゃないかなって」

副会長「ほう。見たところ…少し汚れ気味だとも言える」

部長「ちょっと! うちは乙女! そう言わないで!」

副会長「しかし、なぜ園芸部だと思ったのだ? 運動部の可能性もありえるだろうに」

男「確かに。けれど…腹部あたりが異様に擦り切れているじゃないですか」

男「一箇所だけが異様に使い込まれたフシが伺える。ということは」

副会長「なるほどなぁ。するとなんだ、大きなモノを運ぶ部活だと」

男「はい。袖口もささくれが目立ちますし、マネージャーとういう線もありえますけど」

副会長「やらしい君のことだ。彼女の発達した脹脛を見て違うと思ったのだろう?」

男「…変な言い方やめてください。違います、履いているシューズに土汚れがあるなと思っただけです」

副会長「うむむ。するとさっきのことも含め、運動部ではないと」

男「そうですね。乾燥した土汚れにしては色がはっきりしている、グラウンドの土ではなく」

副会長「水分の過多の腐葉土と思ったわけだな」

男「ええ、まぁ。指先の肌の粗さをみても分かる通り」

副会長「運動でもなく、文化部でもなく、マネージャーでもなく」

男「年上という線から『園芸部長』だと判断しました」

どうでもいいほどな、証明終了。

副会長「うむむ。良いじゃないか」

男「…何が良いんですか?」

部長「ねぇねぇ」ずいっ

男「うわっ! …えっとなんですか?」

部長「もうキッスはしてるのっ?」

男「はい?」

部長「ちょーラブラブじゃーん!! きゃー!! もうふくちゃんってば隅に置けないなぁーもぉー!」

副会長「だから違うと言ってるだろう、変な勘違いをするな」

部長「えー? でもでも、そんなに楽しそうなフクちゃん見るの初めてだよっ?」ガタ

副会長「え? そう?」

部長「うんうん。マジでぞっこんラブのイケイケフォーメーションじゃない!?」

副会長「い、イケイケ?」

部長「はぇーもうヤバイって!」

副会長「ほ、ほお……なるほどな! イケイケフォーメーション!」

部長「イケイケフォーメーション!」

男「…あの、帰ってもいいですか?」

部長「駄目だよ! だめだめ! もっと聞かせくれないと! イケイケフォーメーションを!」

男「お会計お願いしまーす」

部長「ぬぁあっ! つ、冷たい! こりゃー凄い子だよふくちゃん!」

副会長「そういった子なんだ。察してやってくれ、ズズ…」

部長「なんていう余裕感…あれですか!? 嫁は焦らないとかそんなんですか!?」

男「もう俺は帰りますんで。副会長さん」ガタリ

副会長「うむむ。そうか、では近いうちにまた会うだろう、その時に」

男「俺的にはそうじゃないほうが嬉しいですけどね」

副会長「くっく。じゃあ──ワタシの母親によろしく、と言っておくよ」

男「…わかりました。それじゃあ」

部長「えー本当に帰っちゃうのー」

男「すみません。これでも学校サボってる不良生徒なので」

部長「あはは。確かにそーだ」

男「…」

部長「ん?どったの?」

男「…女のことですけど」

部長「! えっと、キミは…知り合い?」

副会長「……」

男「…まぁそんな感じです」

部長「そっか……うん、けれど落ち込んでたってしかたないよ」

男「強いんですね」

部長「そうでもないよ? うちの部活内だって、ものすごーく活気が下がっちゃったしさ」

副会長「誰だってそういうものだろう。それほどまで酷い事件なんだ」

部長「…いち早く、犯人みつかるようにって思ってるよ」

少しだけどうでもよく思えてきた。
この園芸部長という人間を。

男「…そうですね、俺もそう思います」

どうでもいい、どうでもよくない。
今俺が見る【どうでもよくない世界】では、非常に希少な存在。言えば副会長さんよりも。

男「良いのが描けるといいですね」

部長「ふぇ?」

男「絵。頑張ってください」

部長「あ。うん」

男「では、また」ガラリ ピシャ

部長「…なんだか不思議な子だったね」

副会長「うむ。また、か」

部長「?」

副会長「…なんでもないさ」



男「………」prrr

『──もしもし、先輩さんです?』

男「どうも後輩ちゃん。今は大丈夫?」

『平気ですです。ちょうど五時間目も終わったところですし、それで? 今はどこにいるです?』

男「今は海。妹の死体が会ったところを見に行ってたよ」

『……。先輩さん』

男「どうしたの?」

『……いえ、なんでもないです。私が言えることは何もないですし』

あれ、こんな反応されるとは。どうでもよくないなぁ。

男「別にそんなことないと思うけど」

『え?』

男「部長さん。園芸部長さんにさっき、会ったよ」

『部長に…? どうして、しかも、海でって……ことです?』

男「そうみたいなんだ。どうやら写生授業で着てたみたいでさ」

『写生授業? …ああ、確かにそんなことを言ってた気がするです』

男「そうなの?」

『はいです。確かーえっとー……妹さんが死なれる前でしょうか』

男「ふーん。でもさ、どういう気分なんだろうか」

『なにがです?』

男「だって仲の良かった部員の子が死んじゃった場所じゃないか」

男「よく絵を描こうって気になるなぁって」

『ああ…そういうことですか、多分、こうじゃあないですか?』

『──部長さんも犯人を探してる、みたいなですよ』

男「……」

しばし部長さんの姿と性格を思い返す。

男「そんな人なの?」

『人は見かけによらないってことです。
 先輩さんは人を見た目ですぐに判断しちゃうからわからないでしょうけども』

ぐうねも出ない。どうでもいいけど。

男「だってほら、初対面の人は見た目で九割決まるって言うじゃないか」

『先輩さんは十割です。むしろ十全ですよね』

男「なるほど」

『納得しないでくださいです』

男「まぁそんな話は置いといて。さてさて、後輩ちゃん」

『…なんです?』

男「放課後待ってるぜ」

『はいですぅ』

男「タラちゃんのモノマネうめぇ!」

『くふふ。これで後輩ちゃんモノマネレパートリーが増えましたですっ』

男(あと幾つあるんだろう…)

『じゃあじゃあ先輩さん? きちんと時間どうりに、校門前で待っててくださいですよ』

男「わかった。それじゃあ、また」

男「…」ピッ

何だか大変なことになりそうだと、どうでもいいことながら思う。
己の周りには事件を暴こうとする人間がいっぱいすぎる。

男「まぁー頑張って隠蔽工作しますかー」

まぁ簡単に見破られることは、俺が、させないけども。
どうでもよくない世界はよく見えるしね。




妹が死んでから良く妹の夢を見るようになった。


妹『はい。お兄ちゃんの大好きな牛乳だよ~』

男『わーい! ありがとゴボガボガハァ!!!』


楽しくて頬がにやけてしまいそうになるぐらいに大切な日々。


妹『これから楽しいピクニックだよ! お兄ちゃん!』

男『わーい! 楽しみだなぁ、あれ? 俺の靴どこ…?』


しかしもう、手放してしまった幸せだ。

何度願っても元には戻せない。全ては現実なのだ。
このやろーちくしょうめがーなんて、怒っても無駄なこと。

妹は死んで世界は変わった。
どうでも良かった世界が、どうでも良くない世界に。

そうやって俺の世界が一変した。

『お兄ちゃん』

遠い残響の様に耳奥で響く妹の声。
それは幻聴で偽物だ。

どうでもよくて、どうでもよくない。

男「…本当に仕方ないことなんだよなぁ」ギシッ

男「今何時…ああ、夜の四時とか…」

男(喉が渇いたな。水でも飲むか)

ガチャ スタスタ

男「……ん」

コップを手にしたところで、ふと、視界に入ったもの。

男「…弁当箱」

男「これって、ああ、そうか……最後に妹が作ってくれた奴か」

妹を殺す前に、いつもどおり健気に作ってくれた弁当。

男「未だに開けてないんだよな。妹が死んでから、殺してから」

男「…もう中身腐っちゃってるだろ、コレ」

男「………」

捨ててしまおうか、なんて、考えてみるものの。

男「…まだとっておくか」

それがなんの躊躇いなのかわからぬまま。
どうでもよく思いたいのに、思えないまま。

男「…薬、は別にいいや」

男「ごくごく…」

男「っぷはー! よし、寝よう」

どうでもよくない、どうでもよく思えない現実は。
回り始める。

~~学校・放課後・園芸部室~~

男「こんにちわー」ガラリ

チラリと確認。図鑑に彼女の驚き方。
どうでも良くなりながらカット。

部長「どぅわっはっ!?」ガタタタ!

男「あ。すみません、突然」

部長「ちょ、えええ!? あれ!? 君って、あれぇー!?」

男「憶えてますか? ほら、昨日海辺近くの蕎麦屋で…」

部長「知ってる知ってるよー! フクちゃんの彼氏!」

男「違いますから」

部長「来たよその冷たい突っ込み! じゃあ本当に昨日の子だー!」

どういう認識をされているんだろうか。

男「えっと、あーなんていうか、年上の人にこんな言い方だと失礼ですよね、すみません」

部長「およ? なはは、いいんよーいいんよー。べっつにウチは気にしないし」

部長「てーいうか、ささ! どうぞどうぞ! あがってくださいまし!」ススス

男「あ、いえ別に長居するつもりはないんで…」

どうでもいいものを、あえて確認しに来たというか。

部長「そーなの?」

男「はい。園芸部に所属してる…後輩ちゃんに用があって」

部長「後輩ちゃんとな?」キラリン

男「そうなんですよ。どこを探しても居なくって、もしかしたらここかなー…なんて」

部長「……」じぃー

男「思ったんです、けど、なんですかそんなに見つめて…?」

部長「ちょっち、お話きかせてもらってーもよかですかな?」

男(九州弁?)

部長「我が可愛い部員さんの、しかも後輩ちゃんの知り合い! しかも男子生徒!」

男「ええ、はい…?」

部長「…この」

男「この?」

部長「スケコマシたらしちゃんめが───ッッッ!!」ガオー

男「…………はい?」



部長「ウチは気になっていたのですよ。あの後輩ちゃんの変わり様をね!」

男「はぁ…」

部長「知ってるかい? あの娘ってば随分と前までは──」

とても素晴らしいほどにどうでもいい長話だったので、
右から左へと聞き流す。

部長「──だったのに! 今じゃーあんな感じなのよ! わっかる?」

男「そうだったんですか」

部長「そうだったんです!」

男「…えっと、それで?」

部長「だっかーら! その原因が、キミキミィ! キミにあるって思ってるんだ!」

男「なんで俺何ですか…」

部長「ぶっちゃけると、キミってば、後輩ちゃんの彼氏だろー!」

今日はここまで
続きは明日に

ではではノシ

男「そうですけど」

部長「そうですけどキタ──!! イケイケフォーメーションだーい!」

男(なんだこの人のノリ。どうでも良かったことだけど)

部長「女って生き物はねぇ……うんうん、男一つで変わっちまうもんなんだぜぇ…」

男「………。そういうもんなんですか?」

部長「そうともさ! 好きな人の為に動きたい! …変わりたい、好みの人間になりたい」

部長「それを本気で! ほんっきで考えちまうのが女なのよ!」

男「はぁ…」

部長「だからキミ」ポン

部長「…よくやってくれたよ、あの後輩ちゃんを可愛くしてくれて、感謝してるよん!」

男「…怒られると思ってました、てっきり」

この流れだと確実に。

部長「怒ってるばぁ───いっ!!」ギリギリギリ

男「ちょっ!?」

部長「ふるしゅー!」

男「ちょ、力強…! 肩潰れる潰れる!」

部長「キミはとんだ女たらしさんだよ……後輩ちゃんとつきあってながら! 付き合ってながら!」

部長「──ふくちゃんも手篭めにして! さいてーだよそれって!」

ギリギリギリギリギリギギチギチギチギチギチギチギチギチ

男「ぐぉっ…ぬぉっ……!?」

部長「聞かせなさい、この部長さんに! 本命はどっちなんだい、こーち! ってな!」

男「ち、違いますって…! だか、だから! 勘違いです!」

部長「証拠は!」

男「しょ、証拠なんて…!」

部長「ないのっ?」

男「ッ…ない、です…!」

部長「なわけあるかーい! 絶対あるって! 
   後輩ちゃんならそういった証? プリクラとかみたいなこと好きそうだもん!」

男「そんなこと言われたって…!」ズササ

迫られ思わずその場から後退、
すると地面に置かれた物や戸棚に置かれたものがゴロゴロと地面に落ちる。
どうでもいいけど

部長「頑固者さんだね…仕方ない、これは使いたくなかったけれど──
   ウチ直伝! イケイケフォーメーションナックルで…」

男「物騒過ぎる名前なんですけど…!?」

「──もうやめなよ、部長」

部長「っ!」

男「…っ…?」チラリ

「そういった心意気は凄いけれど、彼が困ってるって」

部長「ぶ、部員君…!」

部員「久しぶりに部活に出てみれば、なにしてるのさ」

部長「こ、これはその…えーっと…」

部員「ほら離して。大丈夫かい? 怪我はしてない?」

男「だ、大丈夫です」

部員「ごめんね。コイツってばいつもこんな感じなんだ、ほら、お前も謝れって」

部長「ううっ…だってぇ…」

部員「だってもくそもないだろ。今のはどうみたってお前が悪い、謝るんだ」

部長「……ごめん、たらしくん」

部員「たらし?」

男「な、なんでもないです! …別に怒ってもないんで、大丈夫です」

部員「そお? 良かったな許してもらえて、そんなんだといつか警察に捕まるぞ」

部長「……うう…」

男「…あの」

部員「うん? ああ、ごめん。僕のはここの部員だよ。君は…」

部長「…後輩ちゃんの彼氏さんだよ」

部員「へ? 彼氏? …へぇー部長が言ってたこと当たってたんだ」

部長「でしょでしょ! うっふふー!」

部員「調子に乗るな。お前は反省しとけ」コツン

部長「ふにゃ!」

少しだけ疎外に思う空気。なんとなく、どうでもいいと思った。

部員「ったく。えと、それじゃあなんだろ、後輩を探しに来てた感じ?」

男「え? ああ、はい……よくわかりましたね」

部員「まね。君が大事そうに胸ポケットに入れてる携帯電話」

男「!」

部員「入れ慣れてないだろ? 普段はかばんに入れっぱなし、違う?」

男「…そうですけど」

部員「だと思った。携帯の感触に居心地が悪そうだったからね」

男「…。わかるんですか?」

部員「うん。得意なんだ、そういうの」

部員「携帯に連絡が来るかどうか待っている。それに園芸部にも訪れてる」

部員「…あとは彼氏だって言うのなら、探しに来てるって」

部長「わぁー! すっごい! さすがだねー部員君!」

部員「だからお前は声が大きいって」

部長「あははー! ごめんごめん!」

部長さんは心底嬉しそうに笑う。
ああ、なんて分かりやすい人だろうか。なんてどうで──

部員「とりあえず、もう少し待ってれば来ると思うけど」

男「え、本当ですか?」

部員「うん。さっき職員室で見かけたんだ、何か用事だったんじゃないかな」

部長「呼び出しー?」

部員「多分ね」

男「じゃあ待ってくればくるのかな……って、ああっ!」

部員「おお。どうした?」

男「す、すみません…ちょっと部室を散らかしてました俺…っ」

どうでも良かったことを、さも、今気づきましたと言わんばかりに。
慌てて俺は床に転がった、園芸道具を拾い集める。

部長「あわわっ! そういえばそうでしたー! ひぇー!」ヒョイヒョイ

部員「ああ。さっきで…君はいいよ、僕らでやっておくからさ」

男「いえいえ! 俺が散らかしたようなもんですし…」

部長「ごめんねぇ…ごえんえ…っ」

部員「たく。僕も手伝うよ、君にも迷惑かけて本当にごめんね」ヒョイヒョイ

男「…そんな迷惑だなんて」

全く足りとも思っていない。むしろ好都合だった。
すぐさま周囲へと視線を走らせる。

認識、長靴。行儀よく立っていたはずの片方は地面に転がり、

──その靴底を露見させている。

男「……」

年季が伺えるすり減った靴底の溝。
腐葉土らしき水気を含んだ土が詰まっているが、他にも、なんて。

男「よいしょっと」コトリ

実にどうでもよいことになったので、綺麗に立たせる。

男「…」チラリ

長靴の名前を確認。ああ──妹のか。なるほど、更にどうでもよくなった。

部員「……」ジッ

男「えっと、なんです?」

部員「いや。なんでもない…ただ、綺麗に洗っておかなくちゃなって」

俺が持つ長靴を見つめ、彼は悲しそうに目を伏せる。

男「これを、ですか?」

部員「………」

部長「…あ、あのね、部員くん。この子って、実は女ちゃんの知り合いなんだって」

機敏に空気の変化を感じ取った部長さんがフォロー入れてくれる。
どうでもいい助言をありがとうございます。

部員「ええ。そうなのかい?」

男「まぁ、その……後輩ちゃん繋がりで」

それっとどうでもいい嘘を言ってみた。
意味はそれほどない、と思う。

部員「そう。なるほどね、今でも僕は信じられないよ…」

彼は心底悔しそうに、強く握り拳を作る。
肌が白く染まり、今にも血が滲みだすかと思えるぐらいに。

ああ、彼は本当に女のことを──妹のことを
大切に思ってくれていたのだろう。

男(けれど、そんなことはどうでもいい)

部員「…この花は知っているかい、君」

男「え? 花ですか?」

部員先輩が部室に飾られた──一つの花を指さした。

男「えっと、あの、これは何の花何ですか?」

部員「うん。それはね──彼岸花」

部員「彼女が一番大切にしてた花なんだ。毎日毎日、世話をしてたのを…」

部員「…僕は今でも思い出せるよ」ギュッ

男「…」

彼岸花。妹が大切に育てていた、花のひとつ。
見ると近くのゴミ箱の中には、枯れた彼岸花が幾つか捨てられているが見えた。
まるっと全て最初からどうでもいいけど。

部長「えっと、そのね、ウチの部活では各部員ごとに好きな花を育てるんだー…」

男「そうなんですか?」

部長「うん。ウチはアリッサムちゃんにーサルビアちゃんとかー」

部長「部員くんはね、コスモスにカザニアとかだよ」

男「…色々育ててるんですね。皆さん、それとすみません。こんな空気にしてしまって…」

部員「いや。僕が悪いんだ、ちゃんと前向に考えなくちゃってことはわかってるのにさ」

部員「…だから僕の方こそごめんな」

彼は胸の内に湧く感情を抑えて、それでも笑う。

男「……」

心から思えるからこそ、あのような表情を浮かべられるのだろう。
妹のことをどうでもよくないと思えるからこそ、力強くめいいっぱいに悔しがれるのだろう。

男(…人間らしい、人らしい)

醜く、醜悪で、浅ましく、下劣な自分よりも───

──彼は俺よりも妹を、愛して、いた、

愛して、愛して、好きで、好んで、

男(俺よりも)

どうでもいいこと。どうでもいいんだ。
どうでもいいことなんだから。

男(どうでもいい。どうでもいい、コイツはもうどうでもいい)

世界が回る。視界も回る。
ぐるぐると、どうでもいいものが増えていく。
楽しくなくなっていく。世界が薄く断片的に散っていく。

【どうでもいい世界】が【どうでもよくない世界】を染め変え始める。
なんてつまらない終焉だろうか。

こんな思いをするぐらいなら、もっとマシな殺し方をすればよかった。
もっと妹をきちんとした形で殺せたはずなのに。けれど、

男(これじゃあ駄目だなぁ……やっぱり)

しかし、どうでもいいと、なってしまうのは。
やっぱり最後まできちんとやりきってから決めようじゃないか、と。

男「…」

手をのばす。彼の首に、細い首元にゆっくりと。

男「…」

そして指を絡めて力を込める。
そうすればなんともない、単純に───

部員「…!」ビクッ

男「…首にくっついてましたよ、髪の毛」すっ

部員「え? ああ、ありがとう」

男「いえいえ」

掴みとった髪の毛を、そっと手のひらに握る。

男「…じゃあそろそろ、俺は後輩ちゃんを迎えに行こうと思います」

部員「ええ。待ってればいいじゃないか」

男「…長居するのもあれなんで」

部員「そか。じゃあ後輩によろしく言っておいて」

男「わかりました。あと、部長さん」

部長「ふぇ? なんだい?」

男「この植物図鑑ですけど」ひょい

机上に置きっぱなしであった図鑑を手に取る。
ずっしりと重い図鑑は、それだけで、まるで人も殺せそうだった。どうでもいいけど。

男「実は後輩ちゃんに頼んで俺が借りてたんです。返すのをくれてしまって、すみません」

部長「あ………そなのー? いいよいいよー気にしないから平気よー!」

男「ありがとうございます。じゃあこれで、また機会があれば来ますね」コトリ

部員「うん。何時だって来ていいよ、僕もそろそろ復帰するつもりだから」

男「…」コクリ

ガララ ピシャ

男「…ふぅ」

男「どうでもよくなるか、はたしてどうでもよくならないか…」

男「…まだわからないままだな、うん」

スタスタ

まぁ十分そこそこ、大方のところは、どうでもよくなりつつあるけどね。



歩き出してからちょいと経って、携帯を取り出す。
廊下の真ん中で大胆極まりすぎだが、人気がない北校舎なのでセーフ。

男「…」prrrr

『あーい…貴方の可愛い可愛い彼女さんの、後輩ちゃんですよー……』

男「なんでかローテンションだね、後輩ちゃん」

なんて、今更ながらどうでもいいことを言ってみる。

『えー…? あーごほん、すみませんですねぇ。ええ、ちょいと野暮用があったもんでねぇ』

男「へぇーそれってもしかして、昔の後輩ちゃんがやったことが教師に突然バレてた感じ?」

『……………………………………………………』

無音がお返事だった。どうでもいいけど。

男「どうでもいいことじゃないか。気にしない気にしない」

『………………………………………………はぁ』

男「さて、後輩ちゃん。君が今居る場所は女子トイレだと思ってるけれど」

『…………なんです?』

男「少し余裕が出てきたら、部活に顔を出してくれないかな、
  そして君が今日の昼休みに部室に返したあの、植物図鑑さー」

男「また借りてきて欲しいんだ。うん、出来ればの話だからやらなくてもいいけど」

『…嫌です、なんて言ったらどうしますです?』

男「どうなると思う?」

『…。理由はなんですぅ! もう! なんなんですー!?』

男「乗り気で助かるよ。いやね、実は植物図鑑にもしかしたらゴミを挟んでしまったかもしれないんだ」

『ゴミィ?』

男「そうとも。だとしたら部長さんとかに失礼じゃないか。それを取り除こうかなって」

『…そんなのでしたら、私がちゃちゃっとやりますですよ?』

なんてどうでも良い返事をもらえた。ラッキー。どうでもいいけど。

男「本当に? とても助かるよ、一応説明しておくとね。ゴミっていうのはこう…髪の毛? かな?」

『かみのけー……』

男「うん、髪の毛」

『わかりましたです。じゃあ、先輩さんの超絶意味不明の意地悪を乗り越え復活してから向かいますです』

男「了解。じゃあ頑張って」

『……です』

プツン

男「…どうでもいい検証、一つ目」

男(さて、もう少しだけ時間は稼げるだろうか。数十分、いや後数分か)

男(出来ればもう少しだけ後輩ちゃんにはトイレに篭ってほしいけれど、そんなヤワじゃあないしなぁ)

男(…一応部室に留めておく要因を残しておいてよかったぜ)

それこそが、俺にとっての不確定要素。
どうでもいいと思えない部分。
本来の意味としては既にどうでもいいと思ってるけど。

男「…まだ後輩ちゃんは主人公相手はきついと思うんだよ」

「うむむ? 主人公とは誰かな? それに、君にしては大きな独り言だなぁ」

後方で声が響く。
ああ、来てしまったか。来ると思っていたけれど、本当に彼女は凄い人だ。

男「なんでもないです。副会長さん」

副会長「そんなわけないだろう。犯人」

さて、どうやって彼女を乗り越えようか。
俺の腕の見せどころだろう、と。

どうでもいいことを思ってみる。

~~美術室~~

副会長「確かに君の言うとおり、ここなら人は居ないな」

男「はい」

副会長「さて、後輩君。なにか言い訳はあるだろうか?」

男「言い訳? えーと、何がですか?」

副会長「全てだよ」

男「唐突過ぎて意味がわかりません。もう少し詳細を述べてください」

副会長「女の事件の犯人は君だよな?」

男「違いますけど」

副会長「嘘だな」

男「じゃあ根拠はなんですか」

副会長「隠蔽工作」

男「……………」

副会長「しているだろう? そうだろうと言い給え、言って楽になりたまえよ」

男「もう一度言いますけど、何を根拠に?」

副会長「うむむ。そうだなぁ、では1つずつ上げてみようじゃあないか」ガタタ…

副会長「一つ目。女の事件当日、君は一体どこに居た?」

男「ずっと家に居ましたけど」

副会長「どっちの?」

男「は?」

副会長「どっちの【家】に居たんだ?」

男「………」

副会長「自分の【家】か? それとも──女の【家】だろうか?」

男「…自分の家ですね」

まぁこのへんは数時間でバレると思ってたのでどうでもいい。
副会長さんはその【事実】を簡単に知れる立場だから。

副会長「そうだろうなぁ。だって君は女の家の家族じゃあない」

男「でも兄妹ですけど」

副会長「それは君が言っているだけだろうに」

男「…妹もそう思ってますよ」

副会長「血縁関係ではないことは事実だ」

男「どうでもいいことじゃないですか、俺と妹にとっては」

副会長「うむむ? 確かに、そうだな。君が言うならそうなのかもしれないな」

納得するのかよ。

男「それで何ですか、俺と妹の関係が事件にどう関わってくると?」

副会長「突然だが、君はクイズは大好きかな?」

男「…あの副会長さん」

副会長「ワタシは大好きだよ。出される問題に思考を巡らせる、そして」

副会長「──導き出した答えが合致した時、言いようのない快感が心地良いのだ」

男「…それが?」

副会長「君もそうなのだろう? クイズが大好きな一人の人間」

男「どうでしょうか。そう言われてみれば、そうなのかも知れないですね」

副会長「同意してくれてありがたい。その言葉で救われるだろう、日頃のワタシも」

男「ああ、そうですね。何かと副会長さんは俺に問題出してきますしね」

副会長「普遍的な日常のちょっとしたスパイスだ。勝手にやって来たことだったが、喜んでくれてるようで嬉しいな」

正直、どうでもいいことだと思いかけでしたけどね。

副会長「うむむ、さて本題だ。君はクイズ好き、ワタシもクイズが大好きだ」

副会長「そんな我々にとって──今回の事件は、なんだかとっても刺激的じゃあないか?」

男「どうでしょうか」

副会長「正直な話、ワタシは心躍ったがな」

男「副会長さん。それは人としてどうかと思いますが」

副会長「そうだろうな。しかし、君もそうじゃあないか?」

男「俺は言いましたよね、今回の事件で……凄く傷ついたと」

副会長「言っていたなぁ。けれど君は園芸部で何をしているのかな?」

男「ただ単に、妹が…どういったことをしていたのか気になっただけです」

副会長「傷ついているのに跡を追うのか。それはなんとも、妹思いだなぁ」

男「副会長さん」

副会長「なにかな?」

男「…俺は犯人じゃないですって」

副会長「うむむ。そのことは最後までワタシの話を聞いてから言ってくれ」

副会長「はてさて。君は──周りの人間、もしくはワタシという存在に…」

副会長「…兄妹だという事実を隠蔽していた、この事件が起こる前まではな」

男「……」

副会長「ワタシが言いたいのはな、隠蔽していたことではなく──ワタシに打ち明けたこと」

副会長「隠蔽していたことは関係ない。君がワタシに伝えたことが重要だと思っている」

男「ただの世間話ですって」

副会長「無駄なことはしないのが君だろう。だからワタシは考えた」

副会長「──君は女という人間に関わり合いがあるのだという、事実を作っているのだと」

男「……。まぁ実際関わりあいがあるのことは本当ですからね」

副会長「うむむ。じゃあ何故そのようなことをしたか? …君は望んでいたからだ」

副会長「ワタシがこの事件に興味を持つようにと」

男「仮にもし、俺が犯人だとして。そんな不利益なことをすると思いますか」

副会長「するだろう、君という人間ならしかねない」

なんという真っ黒な信頼度だろうか。

副会長「それ自体が君の狙いだからだよ。君は──出題者だ」

男「……」

副会長「ワタシがその問題の回答者。この事件を解き明かす──言わば探偵」

男「…まるで主人公みたいですね」

どうでもいいけど。

副会長「この推測は言わば邪道だが、邪道を王道のように通り抜ける君のことだ。ワタシもまったく悪気はない」

副会長「さーて悪役君。これからは君は、どういったふうにワタシをかき乱していくのかな?」

男「副会長さん。もしかして俺がクイズをするために妹を──」

副会長「事件現場に何故訪れた?」

男「……。深い意味なんてありませんけど。それにそのことは既に話したはずです」

副会長「なるほどな。では何故、園芸部長に興味を持つ?」

男「たまたま出会ったから。特に興味はありません」

副会長「うむむ、そうなのか。女との関係は?」

男「兄妹です」

副会長「なるほどなぁ。ここ最近は、ちゃんと【病院】には行っているかね?」

男「…それ、今関係あります?」

副会長「2つ目の疑う理由だからな」

男「…行ってませんけど」

副会長「ちゃんと行くべきだ。君は他の人間とは違って──抱えているモノは大きすぎる」

副会長「己がどれ程まで異なっているか、君は………そうだな、多分だが理解しすぎているのが問題なのだが」

男「……」

最初から最後まで副会長さんは副会長さんだった。
顔色を変えず俺を疑い、信じず、犯人だと言い切る。

そして俺が抱える【どうでもいい世界】を──

──その【病気】も証拠として取り入れ吟味する。

男(…やっぱこの人怖い)

流石過ぎる主人公。
王道まっしぐらにして全ての現象を運と実力で切り開いてく。

敵うわけがない。自分のような曖昧でしか世界を見れていない人間に。
本気で人の影を見抜こうとする彼女に太刀打ちできるわけがない。

男(この人がガチなら絶対に見破られるだろうな)

ぎちぎち、と。
表情筋を必死に硬結させポーカーフェイスを彩っているが。
この人前ではいつまで持たせられるかわかったもんじゃない。

男(ああ…なんて、なんて…)

──楽しいのだろう、この【どうでもよくない世界】は。

一体、いつまで堪えられるだろうか?

男(…今にも表情に出てしまいそうになる)

この人の前では何時だってそうだった。
どうでもいいことだらけで、つまらない世界だらけだったのに。

男(今は楽しくって楽しくって、思わず笑みが零れそうになる)

流石主人公。犯人にとってピンポイントで現れ持論を申し立てる。
遠い離島で犯罪を犯そうが、練りに練った計画の上で犯そうが。

──彼女のような探偵は、絶対に現れてしまうのだろう。

男「……」ピク

大丈夫堪えきれる。ポーカーフェイスは自然なままのはず。
笑うな、平気だ、平然としろ。

副会長「…ワタシは心配なんだ。君のことをとても…心配している」

男「犯人だと言っておいて心配ですか」

腰掛けていた椅子から静かに立ち上がる。
彼女はゆっくりと俺に近づいてきた。

副会長「……そう言わないでくれ」ガタリ

スタスタ…

副会長「ワタシはこうであっても、君がそうであっても、ずっと君を心配している」

男「……」

副会長「君と病院で出会ってから今まで、片時も君を忘れたことはないぞ……ワタシはな」

ぎゅっ

男「…」びくっ

前方から腕を回され、腰に抱きつかれる。
副会長さんの頭のてっぺんが視界の下で丸見え状態。

副会長「──疑う理由3つ目だ。君は過去を忘れられていない」

男「…なんですか、過去って」

副会長「惚けるな。いや、見破れなかったワタシが言うのも何だが、君はまだ──己の傷をどうでもよく思えてない」

副会長「いつも君はどうでもいいと言うが、本当は『どうでもいいと思えていないのだろう?』」

男「……」

副会長「…ワタシはやっと気づけた。君は今まで上手く隠していたのだろうが」

副会長「──今回でやっと気づくことが出来た……」

ぎゅっ…

副会長「やっと君の世界に入ることが出来たのだな…ワタシは…」

彼女との、副会長との俺の付き合いは、
両指を揃えて数えれられるぐらいには長かった。

男「…副会長さん」

一本一年。
とてもじゃないが顔見知りだと言える間柄ではない。

けれど、しかし、やっぱりというか。

男「貴女は何を望んでいるんですか」

副会長「…ワタシはワタシだからこそ、君の罪を暴きたい」

副会長「君を知れたきっかけだとしても、ワタシは絶対に──この事件を解決させてみせる」

男「…じゃあ聞かせてください。俺は、どう疑われているのかを」

副会長「……───君は今回の事件の犯人だ」

副会長「女の外傷一つだけ、打撲。前方から鈍器のようなもので殴られ、海辺で放置された」

副会長「争った形跡は無し。身内、または──友好的な関係の犯行であると推測する」

副会長「近頃で不穏な物事は無い。と聴きこみではそうなってるらしいが…怪しい所だ」

副会長「犯行推定時刻は今朝方五時以前。この場合、もっと人間は絞られるだろう?」

男「そうですね」

副会長「……。そこでワタシは君を疑う」

男「…さっきのことを含めて、ですよね」

副会長「ああ、そうだ…そして動機も」

男「動機ですか?」

副会長「君の動機は──女君を使って…」


ガタタタ

副会長「ど、どうした?」

男「……」スタスタ ガララ

男「……」キョロキョロ

今、美術室のドアが震えていた。
足早に駆けつけ廊下を確認すると、遠くの曲がり角でひらりと──舞うスカートの端。
規律のいい、普通な丈の長さのスカート。

男「見られましたね」

副会長「なんだと…? 誰にだ?」

男「顔は確認できませんでした。けれど、この距離なら会話は聞こえなかったでしょうけど」

副会長「くっ…ワタシとしたことが…っ…気配に気づかないとは…!」

男「……」

まぁ誰かはどうでもいいことか、と素直に割り切る。

男「副会長さん。貴女の意見はわかりました」

副会長「……あ、ああ」

男「けれど結局、それってただの副会長さんの妄想じゃないですか」ガララ

副会長「しかし…っ」

男「──俺は違います、とだけ言っておきます」

副会長「……」

彼女は本当に凄い人だ。
俺のような影でしか生きられない人間とは違って、きちんと物事を見通す目を持っている。
本当の真実を見破れる力を持っているのだろう。

男(…けれど)

貴女は──まだまだ、どうでもいい世界の住人だった。
それではこの俺が犯人だとは言い切れない。

男「なんだか副会長さんにいい印象持たれてないみたいなので、今度何かおごりますよ」

副会長「…そうか、ありがたい」

男「はい。じゃあ副会長さんの好きな食べ物って何ですか?」

もうちょっと俺を本気で疑ってもいいものなのになぁって、どうでもいいことを思ってみる。



卵焼きだった。

男「…案外普通なものが好きなんだなぁ」

自分的にはどうでもいいことだったけれども、
改めて今という俺で聞き入れてみると、なんだかとっても不思議な気分だった。

男「……」

しかし卵焼きをどう奢ればいいのだろうか。分からなすぎて困る。

男「…それとも、一緒に卵焼きを箸で突く機会が来るとでも」

どうでもよくなさすぎる未来だ、本当に。

男「はぁー……」

はてさて今回、副会長さんが提示した推理。

男「……やっぱりどうでもよかったでした」

及第点である。

やっぱりというか、あの人は何時までたっても──主人公だ。

男「…邪道は王道とは交わらない、となっと」

今一歩の所までたった数日で見破られているのは、さすがだと思うが。
それでもやっぱり、それは答えではない。

確信をつくことを言えなかった時点で、自分はまだここに居ることができる。

男(未だこの世界を──どうでもよくないと思えているのだよ)

幸運たるや素晴らしきかな。妹殺して万歳三唱ものだった。
しかしながら、時間という猶予はそれほど残ってないだろう。

男「皮の首一枚繋がっているって、こんな感じなんだろうなぁー」

はてさて、なんて、どうでもいいことを思いつつ。

男「どう思う? 後輩ちゃん?」

後輩「………」ブッスー

この娘にどう説明しようか。

男「ねぇってば」ツンツン

後輩「ぷしゅー」

男「お。空気抜けた」

後輩「……」フン

場所は公園。
人影皆無の誰も認知してない影の薄いスポット。
少なくとも通う学校の生徒は誰もしらないだろう。

男「…何時から見てた感じ?」

後輩「…気づかれる数分前…」ボソボソ

男「おお…結構見られてたんだ…」

後輩「くぃぃいーっ」ポカポカポカ

男「ごめんごめん」

後輩「なんなんですーぅ!? あの泥棒猫は誰なんですー!?」

男「うーんと、幼馴染?」

後輩「ぎゃー! めっちゃポイント割高キャラ設定が出ましたーぁ!!」

男「ポイント制なのか…」

後輩「めちゃヤバメじゃないですか! これじゃあ私の立場無し無し麺ハリガネですよーっ!!」

男「後輩ちゃんラーメン好き? しかも豚骨系等とか」

後輩「んなーことどうだっていいですっ! なんでなんで抱き合ってたですぅ!?」

男「幼馴染だから」

後輩「意味が分からん!!」

男「おお、キャラ振れまで」

後輩「こっちゃー怒ってるですよ! 抱き合う!? なぜ抱き合う必要性があったですっ?」

なんでだろうか、まるでどうでもいいとおもっちゃった感じだった。

後輩「雰囲気に乗ってとかだったら、マジで切れますよ私」

男「なんでもないってば。ただ、それとなーく…流れで」

後輩「雰囲気にバリバリ流されてる感じですけども!」

男「そうとも言うかもしれない」

後輩「それしかありえません!」

後輩「なんなんですかっ……私に変な頼み事しておいて……そのためだったんですね…っ」

男「あ、そういえばどうだった? ちゃんと部室で確認してくれた?」

後輩「話を逸らさないでくださいです!」

男「あとでちゃんと謝るから」

後輩「っ…絶対ですよ?」

男「うん」

後輩「はぁ~……あのですね、別に何も挟まってなかったですよ」

男「なにも?」

後輩「そうです、何もです」

男「髪の毛一本も?」

後輩「勿論ですよ。てーいいますか、むしろ当たり前のことですし」

男「それが部員さん持ち物だから?」

後輩「……。知ってたんです?」

男「うん。まぁね」

だって彼女が大事そうに──部長さんが大事そうに読んでいたから。
自分が部室に訪れた際、必要以上に驚いていたから。

男「思うにあの先輩さんは、部員さんは、彼は──」

後輩「はい、とっても綺麗好きです。美形ですし」

美形は関係あるのだろうか。

後輩「あ。心配しなくても大丈夫ですです。先輩さんもめちゃ美形ですし」

男「…後輩ちゃんは面食いだったのか」

まさかのラーメンが伏線だった。侮れない。

後輩「言ってもあれですよ、蛾のような綺麗さというか、部員先輩もちょい似てますけども」

こやつめ、どうでもいいことをぬかしおる。

男「褒め言葉として受け取っておくから」

後輩「あの、それで、私のやったことは先輩さんのお役にたてたのです?」

男「勿論。やばいぐらいに役に立ってくれたよ」

今日はここまで
続きはあしたに

ではではノシ

あの図鑑が部室に置かれたのは、今日の昼休み。
大切な大切な、部長さんにとって愛しい図鑑を見にしたのは、今日の放課後。

男「…まぁ大方どうでもいいけど」

後輩「そうですですか。さて、先輩さん」

男「うん?」

後輩「どーぞどーぞ」ソソ

男「え? なにが?」

後輩「謝罪だこのやろー!」

男「あーそうだった、ゴメンゴメン」

後輩「そうですよもー忘れないでくださいですよー……え? もしかして今のが謝罪です?」

男「うん」コクリ

後輩「舐めてんのか彼女」

男「怖ッ!」

こんなの普通じゃない! 普通の後輩ちゃんじゃない!

けれどどうでもよかった。
ソッチの方が世界としては見慣れすぎてどうでもよかったし。

後輩「あのですね先輩さん。彼女って言うものは、もうちっと可愛がるべき存在なんです」

男「妹よりも?」

後輩「当たり前です。つか、彼女と妹を一緒にするなーですよ」

男「ふーん…」

彼女というものはそういったものなのか。
それが【普通】であって、俺が捉える普通だったりするのか。

男「…でも以前のカノジョは」

どうでも良い世界の頃を、じわりと思い返してみる。
アイツはそういったことを望むやつじゃなかったけどなー。

後輩「え? ちょ、ま! コラー!! なに突然前カノの話を切り込み入りましたです!?」

男「いや、いい参考になるかなって」

後輩「こ、この人……最低すぎるです!! こっちだって未だ謎の幼馴染に悪戦苦闘中ですのに!!」

男「大丈夫だって。後輩ちゃんきっとあの人とは…関わりあいにならない筈だから」

後輩「先輩さん! そんな分かりきったふうに言っても世界はわからないもんなんですよ!!」

後輩「何時の日かドロドロの二股になって…先輩さんがあの人に後ろから刺されることも可能性としては…」

あり得なさすぎる。どうでもいいことに。

男「じゃあそんなこと言うんだったら、ほら、後輩ちゃんも言ってもいいけど」

後輩「え、なにがです?」

男「元カレの話」

後輩「先輩さん…? 貴方って人には感情はあらせられないのです…?」

男「失礼な。少しはある」

後輩「胸を張って言うことじゃねーです! だぁーもう、なんて人なんですかこの人はぁ…もぉう…」

男「それで? あるの元カレの話とか?」

後輩「……。あったとして、先輩さんはどう思われるです?」

別に、どうでもいいけど。

後輩「その顔。そんなに興味ない感じですね」

男「失礼な。全然ない」

後輩「ちっとはあって欲しいもんですけどー!」

男「だって以前の後輩ちゃんなんて、俺にとってはどうでもいいことだからね」

後輩「んぁ? どうでもいいことなんです?」

男「あたりまえだよ。だって今の後輩ちゃんが俺にとっての、後輩ちゃんだから」

後輩「ほぉー…哲学的です」

男「そうでもないと思うけど」

付き合う以前の後輩ちゃんは、どうでもよかった。
しかし今になっては後輩ちゃんは俺の彼女である。

男「それが俺にとっての普通なのだ」

後輩「なるほど。じゃあそう思っておきますです」

【どうでもいい世界】から
【どうでもよくない世界】に引っ越してきた後輩ちゃん。

曖昧と確実には大きな差があることは幼稚園児でもわかる。

男「君は特別な存在だからね。俺にとって」

後輩「あったりまえです。彼女さんなんですから」

そう、彼女は特別な存在。
特殊なケースで俺の世界に入ってきた人間さん。
未だにどうでもよく思えない、普通で普通な彼女。

普通であってどうでもよく思えない、特殊な後輩ちゃん。

男「だから───……………?」

突然、世界がどうでもよく染まる。
水に視界を溶かし込ませたような揺れる世界。

音が死に絶え、無臭が蔓延り、
感触が空を切り、舌が乾燥する。

世界が限りなくどうでもいいものに埋め尽くされていく。

男(あれ。どうした急に)

この世界に来るのは──妹を殺してから無かったはずなのに。

男「後輩ちゃん?」キョロキョロ

彷徨わせる俺の瞳に映らなくなった彼女。
依然として公園である景色は俺の目の前にある。
自分がまだ公園のベンチで座っていることは理解できていた。

男(だーもう、今更どうでもいい反応はやめろよ俺)

気を取り直して、気合を入れて脳をフルブート。
視覚が聴覚が触覚が味覚が嗅覚がエンジン再点火。

男(…どうでもいい世界を)

己の手で無理矢理変革。


「──…ぱい…さん……どう……」


男(ああ、やっと聞こえてきた)

彼方から響く彼女さんの声。
曖昧な世界を通り抜けて、己に届く姿。

男「──……おお、後輩ちゃん探したよ」

後輩「ずっとここに居たですよ。どうしましたです?」

男「そっか。いいや、別に」

ただ【どうでもいい世界】になりかけていただけだ。

後輩「もーびっくりしたですよー…こちらの方々も驚いてますですよ?」

男「こちらの方々?」

後輩「だから目の前の人です。さっき話しかけてきた人です」

男「……」

後輩ちゃんから視線をずらし、
ベンチ前方へと向ける。

男(うわー全然どうでもいい…)

最初に目に入ったものは茶色と金髪。
それが人の頭であることを理解するのに最低でも十秒はかかった。

男(なるほど。突然どうでもいい世界に入った原因はこれか)

俺らと同じ制服を纏った二人組。
男子生徒と女子生徒。どうでもいいぐらいにどうでもよかった。

男「この人達は誰なの?」

後輩「え? だからさっき私が言ったじゃないですか」

男「ああ、そっか。どうでもよかったから記憶が曖昧だったよ」

どうでもいいぐらいに、嘘を言っていない。

「──……だ……く…あの……コイツ…」

男「え? なんですか?」

後輩「だから先輩さん。この人は言ってるんですよ」

後輩ちゃんが『しょうがないなーもー』的な表情をして、
どうでもいいことを敢えて通訳してくれる。

さも当然のように、

後輩「私の元友達さんの、アホ丸出し将来社会のゴミ確定カップルさんがですね」

さもそれが普通のように、

後輩「──何時まで罰ゲーム続けるのか、だそうですよ?」

後輩ちゃんは【普通】に笑った。

男「罰ゲーム? なんのこと?」

後輩「あれ? 言いませんでしたです? …先輩さんに告白したのって、罰ゲームだったんです」

どうでもよいことだった。

男「それがどうしたの?」

後輩「ええ、どーもこの二人は私達の関係が続いていることに、面白みを感じなくなったそうですよ」

男「へぇーそれで俺達に話しかけてきたと、どうでもいいね」

後輩「ですです。どうでもいいです」

あっはっは。二人して笑う。どうでもいいので笑う。

「──…コイツ等……怒る……」

男(お、微妙に聞き取れてきた)

曖昧な感覚でどうでもいい人間の言葉が聞き取れてきた
やはり妹を殺してから多少【病状】も良くなってるみたいだった。

ちょい休憩
今日中に終わらせます

男「だからこそ、どうでもいいのだけれど」

シャットダウン。
どうでもいい世界でどうでもよかったものを。
どうでも良くない世界に持ってくる必要はない。

男「ていうか後輩ちゃん」

ここで一つ気になったことがあった。
何気なく普通に流してるけれど。

後輩「いえいえ、アンタらはもう友達でもなんでも──…なんです?」

男「俺がこの人達の声が聞こえないって、知ってたの?」

さり気なく通訳してくれたけれど、
彼女はまだ付き合って一月も立っていないのに。

はるかに副会長さんよりどうでも良くない事柄だった。

後輩「あーいえいえ、なんか深い事情ってのは知りませんけども」

後輩「──それが先輩さんの【普通】なんだなって、気づきましたのです」

男「………」

普通ってなんだっけ。

どうやら俺の普通は彼女の普通だったようだ。
普通に付き合って、普通に彼氏のことを理解する。

それが普通の後輩ちゃん。

男「まぁどうでもいいけど」

後輩「そーですです」

この子がそういった特別で特殊で、異常な人間だっていうことは。
以前からどうでもよかったことだ。

男(後輩ちゃんが妹の友だちになれたってのも、頷けるぜ)

後輩「はてさて。ちょい先輩さん」

男「どうした?」

後輩「そこそこうるせーですので、もう帰りましょうです」

男「え、もう帰るの?」

まだまだ話し足りないというのに。
そうやって後輩ちゃんの顔を見て、気づいた。

男「おや。いつの間にかどうして頬が赤いのかい?」

後輩「え? ああ、さっき叩かれました。おもいっきりやり返しましたけども」

どうでもいい世界でいつの間に。

男「なんだと。では彼氏らしく制裁をしなければ…!」

後輩「あはは。いま二人して立ち去りましたですよ? 気味悪そうに、です」

男「あ。そうなんだ」

どうでもいいけど。

男「派手にやられたね。もみじ饅頭じゃないか」スッ

後輩「どーってことねーです。こんなの慣れっこですし」

男「普通な後輩ちゃんらしからぬ発言だ」

後輩「そうですね。先輩さんからみて私はそうなのですけども、以外に慣れっこです」

その要因はどうでもいいけど。

男「…君は本当に普通だねぇ」ナデナデ

後輩「ですです。これでやっと、ガチの普通な娘になっちゃいましたですよん」

男「やったね」

どうでもいいことだけれども、
あの二人は彼女が高校生活が始まって以来、
──永遠の友情を誓い合った仲なのだった。

男(永遠の友情。なんともまぁ、やっすぽい言葉だろうか)

あのような人間は、至ってシンプルに関係図を作り上げる。
の、割には本気で友情を信じてしまう安易さ。

男「ねぇ後輩ちゃん。ひとつ聞いてもいいかな」

一瞬一瞬を真面目に捉えようとする俺にとっては、
未来永劫わかりあえぬ人種なのだろうと、どうでもいいことを思ってみる。


男「今の後輩ちゃんは、なにも後悔してないの?」

後輩「ハイです。今はこれがフツーなのですから」


ああ、この子は本当にどうでも良くない人間だ。
俺にとって普通すぎて、なんら矛盾なく会話が行える。

どうでもよくない世界で、どうでもいいと思いそうになる普通さを保持したまま。
その異常さに、まるで惚れてしまいそうになる。


男「よし。じゃーかえろっかー後輩ちゃーん」

後輩「はいでーす」

ぎゅっと手をつないで帰宅時間。
あれ、手を握ったこと今まであったっけ。
いつのまにか普通に握ってしまった。まぁ、そんなのどうでもいいけど。



帰りに部員先輩さんと出会ったがどうでもよい会話しか無かったのでカット。

男「ふんふーん」ガチャ

男「ただいま──あれ?」

チカチカッ

男「…留守電」ピッ

『留守電一件です。午後六時三十分──』

男(…俺が寄り道しなければ帰宅していた時間、ぴったり)

『ピー』『──久しぶりに……』

男(ああ、なんだこの人か)

出始めの声で、誰かを【認識】する。
視覚、触覚、記憶、主に聴覚がシャットダウン。

どうでもいい情報が右から左へと流れ───


『と、ここまで言ったが【男】君よい』

脳が強制ブート。
混乱、視界が散乱、聴覚異常。

男「…くっ……」

急速に修正を試みるが無意味に散れ渡る。
乱雑な日記を斜め読みするかのような、
呼吸を意識して生きる無意味さと同意義の。

待て。思考を乱すな。
この矛盾点を知っているのは一人しか居ない。

『んなろーガキんちょ。今、苦しがってるだろ? なぁ?』

『ここんところ診察にこねーからだぞ。ばーか、ばかばーか』

男「……ふぅ…っ…」

鼓動のたびに脳が突き刺す痛みを発する。
なんて、どうでもいい現象だろうか。

『お前さんが色々と大変なのは知ってるよ。けどもよ』

『きちんと自分のビョーキと向き合ってからやることやれってば』

『…それとも、ビョーキだからそうなのかもな。ばー『留守電はここまでです』

男「……。締まらなすぎる」ピッ

男「はぁ~……あーびっくりした…」

普段はそれとなく、どうでもいいことだからと、
なんら苦労することなく聞き逃すことが出来たのに。

男「…やっぱ妹殺したからか」

世界と世界の境界線が微妙になって来ている。
嬉しいと思う反面、不安もあった。らしくなく、どうでもよくなく。

男「……」チラリ

カレンダーを確認。日付は明日を休日だと指していた。

男「…行かないとあっちが来そうだ」

それは大いに困るので、行くしか無いのだろう。
どうでもいいことに。

男「あー薬飲んでないこと怒られるだろうなーいやだなー」

仕方ないと、明日は早めに出ることを予測して、
今日はとっととご就寝だーいぇーい。

夢を見た。どうでもいい夢を見た。

妹「ねぇお兄ちゃん」

男「なんだいなんだい、妹よ」

妹「いい加減私の部屋から出て行ってくれない?」

男「…………」

妹「何時まで居る気なの? そろそろ私的なことやりたいんだけど?」

男「え、まさかそれってオナ」

妹「見たいの?」

男「ごめん。調子に乗りすぎた」

妹「ヘタレ」

男「へ、ヘタレっていうなよ! …いいの?みても?」

妹「うんうん。たーんとじっくり、見ていっていいよ」

男「えぇーどうしよっかなぁー……うんうん、ごめん、二度目はないよな」

妹「さーておかずはどこに」ガサゴソ

男「待ってください! いやほんっと、嘘ですから!」

妹「クイズです。私のおかずは、さーてどーこだ?」

男「お兄ちゃんやだ! そんな問題解きたくない!」

妹「我儘言うなー!」

男「我儘じゃないけど…兄としてもっともな意見言ったつもりだけど…!」

妹「ヒント。ベッドの下です」

男「答えだそれ! もうピンポイントで探せばみつかるやつだ!」ガサゴソ

妹「そう言いつつ探すよねお兄ちゃん。どう? あった?」

男「…なにこれ」コトリ

妹「オカズだけど」

男「多分これ晩御飯のオカズだなッ…思いっきりハンバーグお皿に載ってる!」

妹「え? だからオカズじゃん」

男「ホコリまみれだよ! 衛生面トップクラスで最下位だなコレ!」

妹「イケルイケルーお兄ちゃんならすぐに忘れからイケルイケルー」

男「待て…ッ! お兄ちゃんそこまで万能じゃない! 気がついて! 万能じゃない!」

妹「てーいうかさ、お兄ちゃん。勘違いしないでよ、これ私のオカズだよ?」

男「え? あ、うん。そう言ってたけども…」

妹「お兄ちゃんにこんな汚れたもの食べさせるわけないよ。だから言ったとおりに、」ひょい

妹「私のオカズだから…あーん」

男「うん、凄い待って。めちゃくちゃ待って! んな無茶な展開に持って行かないで!」バシッ

ポトリ ペシャ

男「あ…」

妹「ひっぐ…だって…ぐすっ…お兄ちゃん絶対食べろって目では語ってるんだもん…っ」

男「突然泣くのは卑怯だろ…色々と、つか語ってない語ってない」ナデナデ

妹「ホント…? じゃあ食べなくても大丈夫…?」

男「う、うん。元から思ってないから」

妹「じゃあ愛しの妹が作った…ご飯っ…食べてくれる…っ?」

男「え?」

目が覚めた。

男「…あーあ」

なんてことをしてしまったのだ。
素晴らしい最高の夢だったのに。思わず涙が出てきてしまうぐらいに。

男「ハンバーグの味をまた、味わえなかった」

妹が作ってれたハンバーグ。
どんなものよりも美味しく、スウィートで、繊細。

男「あー…駄目だ全然頭が働かない……ふわぁー」スタスタ

どうでもいいことだけど。
妹殺してしまって死んでるし。

男「……ん」

取り出した薬を握りしめ、台所でふと見つける、弁当箱。

男「ご褒美だったな、そういえば」

どうでもいいことを思い返してみる。
妹が丹精込めて作る料理、その延長線上で、

妹が作る弁当は俺にとっての最上のご褒美だった。

男「……」

だが、今はそれも──どうでもいいことだった。

男「もうご褒美いらないし。必要ないしなー…ゴクッ…さて、行くか」

今日はどうでもいい夢を見れて元気になって。
今からまた元気にならなくなるために、出かけるのだ。

今日もまだどうでもよくない世界のままだ。



男「失礼します」ガララ

訪れた近所の総合病院。まぁどうでもいいと言えばどうでもいい所だ。

男「……」ストン

昔から、だいぶ昔から。
最低でも十年以上お世話になり申している病院。

男「今日も診察に来ましたよ。先生」

本当に、どうでもいいことだけど。


「やー今日もよく来たねぇ。て、つかちっげーだろばか」ギィ…


男「え? そうですか?」

「そうだよ当たり前にちげーよ。なに素知らぬ顔で診察来たの? つか来れたの?」

男「だって先生が…」

「だってもくそもないのー。ばか、もー本当に心配してたんだからねー」

男「…じゃあ先生、こっち向いてく言ってくださいよ。なんか真剣味が感じられません」

先生「んなろー先生に指図するなよ」ギギ

男「おはようございます、先生」

先生「うむ、おはよう。さて元気?」

男「フランクですね。元気です」

先生「はい、嘘ですねーお薬沢山溜まってますからちゃんと飲むようにー」

男「先生」

先生「こっちは嘘じゃねーからな。マジで溜まってんかんな」

男「先生」

先生「はいよ、なーに?」

男「妹が死にました」

先生「……。あーそっち? そっちの話に持って行きたい感じ?」

腰掛けている椅子を古臭く鳴らしながら、
面倒臭そうに眼鏡を指先で上げる。

男「はい。どうでもいいことですけど」

先生「はい来ましたどうでもいいー。それやめろって言ってるけど、先生ずっと」

男「だって、そんなの」

どうで 先生「どうでもいいです、なんて思ってる顔だなそりゃ」

男「………」

心情内部に割り込まられた。

先生「その様子だとビョーキも酷くなってそーだ。ハイこれ見て」ペラ

男「えっと…」

先生「はいお終い。なにが写ってた?」

男「おっぱいですか?」

先生「違うわマセガキ。下ネタで誤魔化そうとするな」

男「すみません。じゃあ肌色の山が2つ並んでたとか?」

先生「どのみちおっぱいじゃねーか」

男「ごめんなさい。わかりませんでした」

先生「はーい正解はコレ。おっぱいでしたー」ペラ

差し出された写真には【かわいい犬】の写真が乗っていた。

男「違うじゃないですか。怒りますよ」

先生「当たり前だろ。つか一瞬で君ならわかっただろーが」ガサゴソ

男「せめて犬のおっぱいの写真ぐらい…」

先生「君の性癖は先生しりませーん。じゃあ次コレ見て」ペラリ

男「……」

視界がボヤける。

先生「………。ハイ終わり、何が写ってた?」

男「……人参?」

先生「違うわ」ペラリ

差し出された写真には【かわいい犬】の写真が乗っていた。
どうでもいいぐらいに、まったく先ほどと同じ写真。

男「…意地悪ですね、先生って」

先生「医者だばーか。やっぱ酷くなってるじゃねーのよ」

男「…今のは違いますって。ただちょっと気を抜いてただけであって」

以前とは変わっているはずなのだ。
妹を殺して【どうでもいい世界】は【どうでもよくない世界】に変わったのだから。

先生「どこからそんな自信湧いてくんのよ。ばーか」

男「湧くものは湧くんです」

先生「調子に乗るな、男君」

男「ッ……!!」

脳が痺れる。視界がぼやける。


「──おいおい………」


永遠に伸びる遠くの場所で、小さな声が響く。
影が蠢き世界が消える。

触ったものは二度と触れない。
嗅いだものは二度と嗅げない。
見えたものは二度と見れない。

記憶は定着せず、全ては──どうでもいいと思わなければ、


先生「どうでもよくないぞ」

男「はぁっ! はぁっ…はぁっ…!」

視界が戻る。聴覚が触覚が脳が再点火。

先生「……こりゃまいった、ここまで酷くなってたとわ」すっ

男「すみ、ません…っ…ちょっと気を抜いてたせいで……」

先生「黙ってて」

男「っ……」

先生「熱はない、隈もないようだし、睡眠不足はない。はい舌出して」

男「…」ンベ

先生「ん。食事も摂ってる。じゃあ何故進行しとるー!」ばしっ

男「…先生、いつもはこうじゃないです。ちゃんと平気なんです」

先生「けど今はそうじゃないだろー?」

男「…違います」

先生「違わない」

取り付く暇もない。
どうでもいいこ 先生「思うなっての」

男「…いちいち俺の心を読まないでください」

先生「読ませるなっての。はぁーあ、なんだなんだー……あれかー?」

先生「君的に言えば、そうだなー…お兄ちゃん的に言えば?」

先生「──妹が死んじゃったからそうなった?」

男「……」

妹。もしくは女。
けれどこの人は妹を女だと言ってくれる。

違った意味でも、どうでもいいことだけど、
それでも俺と女を兄妹として認めてくれる。


いや、そうさせるようにしたのは──この人だ。


男「大事な妹ですよ。そりゃ…酷くもなります」

先生「先生がいうのも何だけど、悲観しすぎ、捉えすぎ、ビョーキで困りすぎ」

男「無理ですよ。悲しみます」

先生「そうだろーけどもさ。違うって、君が【認識】する現実ってのは──」

どうでもいい。
どうでもいい。どうでも、いい。

先生「──ばーか」

男「何がですか?」

先生「お。やっと戻ってきたか、ずっと数分間ぐらいばーか言ってたけど」

男「……」

先生「こりゃ新しい薬ださなきゃな。新しいやつ、飲んだらめちゃ眠たくなるから」ギィ

男「…先生」

先生「言い訳なんて考えるなー。はっきり言って以前よりも酷くなってるの見え見え」カリカリ…

男「……」

先生「君のビョーキ、わかる?」カタリ

男「…はい」

先生「君はね、なんていうか、ホントーにマジで一般生活レベル送れてるの奇跡だから」

男「…」コクリ

先生「何かと上手く立ちまわってる見たいだけど、君は大きな【障害】を抱えてんの」ギギギ

先生「──異常なレベルの認知情報処理速度だ」

先生「見たもの聞いたもの、あとは味わったり触ったりしたものを、通常より数倍のスピードで認知すんの」

先生「そこから起こってしまうもの。いわゆる【ゲシュタルト崩壊】ってやつよね。ホント便利な言葉だわコレ」

先生「君はモノを瞬時に把握して処理をする。そんでもって、それをバラバラ~っとぐちゃぐちゃーっと」

先生「──わかっていたものを曖昧にする」

既知なものを、即座にどうでもよくする。

男「……」

先生「そこまではいいのよ、けどね、君はそっから多重の失認障害が発生する」

先生「視覚失認、聴覚失認、触覚失認のほかにも、半側空間無視は…ギリギリセーフと見て、あと他誌的障害」

先生「まーこれほどまで多種多様患うもんだよ。ホントに」

男「……」

先生「非常に稀な病気だし、失認自体も難しいビョーキ」

先生「君が見る世界ってのは、どーしようもなく『どうでもいい』もので溢れかえっているのでしょ?」

先生「見たもの聞いたもの、あとは味わったり触ったりしたものを、通常より数倍のスピードで認知すんの」

先生「そこから起こってしまうもの。いわゆる【ゲシュタルト崩壊】ってやつよね。ホント便利な言葉だわコレ」

先生「君はモノを瞬時に把握して処理をする。そんでもって、それをバラバラ~っとぐちゃぐちゃーっと」

先生「──わかっていたものを曖昧にする」

既知なものを、即座にどうでもよくする。

男「……」

先生「そこまではいいのよ、けどね、君はそっから多重の失認障害が発生する」

先生「視覚失認、聴覚失認、触覚失認のほかにも、半側空間無視は…ギリギリセーフと見て、あと他誌的障害」

先生「まーこれほどまで多種多様患うもんだよ。ホントに」

男「……」

先生「非常に稀なビョーキだし、失認自体も難しい病気」

先生「君が見る世界ってのは、どーしようもなく『どうでもいい』もので溢れかえっているのでしょ?」

先生の【どうでもいい話】を聞き入れながら、
チラリと先ほどみた写真を確認する。

それが何かは理解できる。けれど、見えることはない。
直に写真に写っていたものがわからなくなって、

最後には写真自体がどうでもよくなってくる。
けれど、

男「…今はそこまで酷くはありませんよ」

先生「そりゃーね。君が十年前の時は滅茶苦茶だったけども、今はだいぶ良くなってる」

先生「君が新しい対処法を編み出したからだ。さーて君の大好きな問題だー」

男「なんですか」

先生「このビョーキで一番最初にどうでもよくなるの、なーんだ」

男「……」

先生「正解は自分でしたー。わかってるくせに、とぼけんじゃーねーよ」

男「…すみませんでした」ペコリ

先生「うむむ。謝る子供は好きだぜ。んでもって、その対処法だけども」

先生「君はそのビョーキを──ビョーキ自体にも適用させた」

先生「どうでもいいと思ってしまうビョーキ。その障害を、どうでもいいと思うようにした」

男「…」コクリ

先生「君は自分自身をビョーキで更に『どうでもいい』と思うことによって───」

先生「──無理矢理に処理速度へと邪魔を入れることが出来た」

男(…まぁ先生がコツを教えてくれたからだけども)

意図してかはわからない。どうでもいいことに。

先生「ここで起こるのが何だと思う? さて答えろ少年!」

男「…自己矛盾ですよね」

先生「正解。ビョーキのせいではなく、自分からどうでもいいと思うことは、」

先生「君自体の存在を否定していることになる。すると起こるのは──矛盾」

先生「生きる意味をどうでもよく思う。なのに、息を吸って吐いて食べて嗅いで触る自分を」

先生「──ありありと現してくる【名前】に、君の脳は異常を覚える」

言わば【世界】の切り替えが突然起こってしまう。
【どうでもいい世界】に、降って湧いた現実をすぐさま処理出来無い。

先生「先生としては非常に難しいと思いますの。ホントーに、手の出しようがないのよね」

先生「後天的で発症自体も……君に罪ねーこと知ってるから、先生も突っ込まない」

先生「けれど。抱えて生きるんなら頑張ってくれないと」

男「…頑張ってますよ」

先生「知ってるってば。君が頑張ってるの、だってお兄ちゃんじゃん」

男「はい…」

先生「あの妹を、あの──ヤバイ【女】を【妹】と呼べるんだから」

先生「先生は言ってやろう。うん、先生ってーいうかさ」

先生「君たちの【姉】として言ってやろうじゃん」

男「…姉ですか」

先生「うん。君が存在を曖昧にしている姉だな姉」

姉。どうでもいい姉。
妹の姉、俺の姉。

どうでもいいこととしていた、どうでもいいとしきってしまった。
姉。

先生「ちょっと待ち。今は先生だし」

男「あ…すみません。なりかけでした」

先生「今は診察中。妹の家じゃない、女の家じゃない、アタシは姉じゃない」

どうでもよくはならない。

男「…大丈夫です。話を続けてください」

先生「うむむ。気をつけろよーホント、妹居ないんだし、
   家では出来た一緒に居たウチを含めて認識させるー…なんての出来ないんだから」

男「何時だって先生だと言い出してくれれば、どうで、ゴホン。認識できるじゃないですか」

先生「意味ねーだろーそれじゃあ。医者として居るのと、姉としているの。ぜんぜん違うの」

男「そういうもんなんですか?」

先生「薬も与えすぎれば毒だよ。毒であれば、身体が慣れすぎて駄目だけど」

男「…難しいですね」

先生「そういうもんだって。治療ってものは」

男「…あの」

先生「なーに?」

ここまでボロクソと病状を説き伏せられ、
まぁ正直聞き慣れすぎてどうでもよく思いつつあったのだが。

男「妹は…死ぬ前に、どうだったんですか?」

まず聞いておきたかったことを振出しに戻す。

先生「……。どうだったというと?」

またスルーされると思ったが、
先生はまた少し眉を潜めつつ、話を聞いてくれた。

男「…アイツの病気はどれぐらい進行してたのかなって」

先生「病気ねぇ……そういえば、あの事件前日はウチには泊まらなかったっけかー」ギィィ

男「はい。その日の夜、また色々と発作が出てたのかなって」

先生「うんにゃ。出てなかったよ、てーいうかすっげー安定してた」

男「…そうですか」

どうでもよかったことだけど。一応、聞いておくことにした。

先生「今さら言うのも何だけど、あの妹の病気は君より酷いからなぁ」

妹の病気は──クラスターB【演劇性人格障害】。
常に何かの演技をし、それを自己の性格だと思い込む。

他人に強く影響を受け、アイデンティティを確立させるが苦手である妹は、

───俺という人間を強く認識した。

───俺もまたそんな妹を強く認識した。

先生「なんてーいうかさ、先生も思い切ったことしたと常々思ってるよ」

男「なにがですか?」

先生「君と女君をよ。出会わせて、なにか良いこと起こらないかなーなんて、馬鹿げた発想だったなぁって」

先生「それがびっくり、ちょっとずつ良くなってる!」

男「…思いつきだったんですか」

先生「んなろー治療ってのは少しの思いつきと、多大な努力だばーか」

男「まぁ、そうですね」

血のつながりのない俺らを、
そして血のつながってない先生が面倒見てくれていた。

男「…先生はとてもすごい人です」

先生「稼いでるからまー余裕余裕。娘が三人に増えたもんだと思えばヨユーだわ」

男「じゃあ自分も面倒見て下さいよ」

先生「貯金あるだろーばーか。つか思ってもないこというなばーか」

男「あはは。すみません」

先生「うむむ。ようやっと笑いおったな、お主」

男「え? …ああ、そうですね確かに」

先生「気を張りすぎ。頑張りすぎ。なにやってるかしらねーけども、もっと君もヨユー持って」

男「…はい、余裕を持って頑張ります」

どうでもいいことだけど。

先生「……」じっ

男「…。なんですか?」

先生「世界は全然【わかりきる】ことなんて出来ないんだよ」

男「…わかってます」

先生「君が癖にしてしまった──どうでもいいと思う対処法は、確かに効果的だけど」

先生「先生は本当に…何も出来ない先生だからさ」

先生「君にこんなことしか言えないし、医者だから言わなくちゃいけない」


先生「どうでもいいこと──わかりきったこと──なんて、常日頃から思わないようにしなさい」


どうでもいいこと。
それは俺の認識が出来無い理由として、大きく根本的なものがある。

わかりきってしまうこと。

どうでもいい。どうでもいいと思った。
分かりきった。わかりきったと思った。

分かりきる。解りきる。理解し切る。

人間にしろ、風景にしろ、味にしろ、言葉にしろ。
五感で感じる全てを──どうでもいいと、理解しきってしまった時。

どうでもいいと、最大的に思い切った時。

全ては【どうでもいい世界】に消えていく。


男「…けれど希望は見えたんです」

だって殺したから。どうでもいいけど。

先生「そうなの?」

男「はい。分かりきったものも、
  どうでもいいと思い切れた時でも…以前と変わって見えるようになりました」

先生「もしかしたら、それは今後も続くとは限らんよ?」

男「はい、わかってます。けれど……」

先生「…妹が居なくても平気ってことかね」

男「はい、そういったことになります」

彼女は、妹は───どうでも良くない人間過ぎる奴だった。

ロシアン牛乳も仕掛けてきた。ピクニックで靴も隠してきた。

唐突な性格変化で困らせて、ハンバーグを仕込んだり、
包丁を突き出し、急に嫉妬したり、怒ったり、泣いたり、毎日違う弁当を作って。

一瞬でも【どうでもいい世界】に仲間入りすることはなかった。

男「…あれが妹にとっての重大な病気だったとしても」

俺という人間には、全てをどうでもよく思ってしまう俺にとっては。

あの存在自体が問題で、出題者で、
問答無用にクイズを出し続ける妹が、とても、とても大好きだった。

だから妹が居るだけで、ただ、側にいるだけで。

ただ、それだけで───良かったのだろうけど。


男(…まぁどうでもいいけども。そんな感情も、今になっては)

先生「うむむ、どうした?」

男「…いえ、だからこそ俺はもうちょっと頑張るんです」

男「妹がいない世界で、もう少しだけ、この病気と共に」

全てを隠蔽し、頑張って努力して謎にするからこそ、
俺は【どうでもよくない世界】に居られるのだから。

先生「…何考えってか知らないけどさー」

先生「程々に、と言っておく。いい? ほどほどに、だ!」ぐいっ

男「むにゃっ!」

先生「うなずけ! はい、はどうしたー!」

男「ふぁい」

ああ、本当にどうでもよくないなこの人は。
けれど、やっぱりどうして。

男(どうでもいいのだった)

診察からの帰り道は全てどうでもよかったのでカット。

しちゃおっか、な、って考え、

先生「待て待てーい」がしっ

男「……。なんですか?」

先生「最近ウチの馬鹿娘、ああ、姉のほうだけど──やけに元気でさ、理由知ってる?」

男「本人に聞いてくださいよ。娘じゃないですか」

先生「家なんてほとんど帰ってないわ。ずっとあそこ、女と住んでたところだもん」

だもん、て。どうでもよかったけど。

男「なにがあったかはわかりませんけど、早く仲直りしてください」

先生「何年も会ってないのに無理に決まってら~…それで? なんか知ってる?
    電話が凄いの。やばいぐらいに、出てないけども」

男「出ましょうよ」

先生「やだ。めんどくさい匂いがする」

実にビンゴだった。どうでもいいけど。

男「…言っちゃえばあれですよ、俺と女の関係とか」

先生「あー…それね、患者のことなんて言わないしさ。秘密保護とかでまぁー言っちゃ駄目だし」

やはり言ってなかったのか。どうでもいいけど。
ていうか見破られて、というか娘さんの実力でバレてましたけども。

男「理由は知りません。けど何時だって元気ですよ───」

男「──副会長さんは」

先生「ん。そっか、じゃあ言ってといて馬鹿娘にさー」

ゴキリ、と背骨を鳴らして伸びをする先生。
ああ、なんだろう、なんとなく予想がついてどうでもよくなる。

先生「あんま自分を過剰評価すんなって。アンタは何時までたっても…」

男「夢見る主人公」

先生「…当たり」ビシッ

男「伝えておきます。それでは先生……じゃなくて、お姉ちゃん」

先生「……」ポロリ

先生が驚き目ん玉で、持っていたペンを取り落とす。

男「また次の診察で」ガララ

先生「……はっ、何時までたってもわからねーよ、君はさ」

ピシャ

先生「…こりゃアタシの娘も大変だな」



今度こそカット、ぎゅるぎゅるぎゅる。
さーて、お次は暇を持て余してるからどうでもいいことするぞー。

男「こんにちわー」

ガラリと開けたのは休日学校のとある部室。
言わずもがな園芸部だったとさ。

部員「(カット)」

部長「わーたらしくんじゃん! 今日も来たのかーい!」

男「今日もきたのだーい」

部員「(カット)」

部長「めちくちゃノリがいい! なにそれ確変!?」

部員「(カット)」

男「(カット)。実は今日も見学したいんですけど…大丈夫ですか?」

部員「(カット)」

男「(カット)」

部長「じゃあこっちに来て! ほらほら、後輩ちゃーん!」

男「お?」

部室の窓から見えるのは、小さい普通の黒髪。
愛しい後輩ちゃんだった。

後輩「ぬぁー!? なんですぅ!? 幽霊でも見てるんですぅ!?」

男「今日は見学に来たんだ。よろしく頼むね」

痛々しそうな頬にはられた湿布をどうでもよく見つつ言葉を返す。

後輩「け、見学…?」

男「なにその完全に疑ってる目は…」

後輩「狙いは…なんですか? 他にあるですよね?」

部長「コラコラ。確かに彼はたらしさんのサイテーボーイだけどさ~」

部員「(カット)」

男「ちょっと本気でやめてください…! (カット)、(カット)。後輩ちゃん、違うからね?」

後輩「うぅ~っ」

男「まだ怒ってるのか。昨日はあれだけ抱いてあげたのに…」

後輩「ピャー!」

部長「抱いて!? 抱いてってなんですのーぉ!?」

後輩「へ、へへへなへなへんな言い方やめてくださいですぅ! 違いますぅ!」

部長「後輩ちゃん。良いから聞かせてくれたまえ…」ススス…

後輩「ぴぃっ!」ビクン

部員「(カット)」

部長「だーいじょうびだよー……少しずつ聞くだけだから、いっぱいっぱい聞くだけだから!」

男「あはは…」

部員「(カット)」

男「(カット)」

部員「(カット)」

男「(カット)」

部員「(カット)」

男「(カット)」

部員「(カット)」

男「(カット)」

あれ、俺って何を喋ってるんだっけ。
どうでも良すぎて喋る内容もどうでもよくなっていた。まるでカットされてるみたい。

部員「(カット)」

男「(カット)」

部員「(カット)」

男「(カット)」

部員「(カット)」

男「(カット)」

部員「(カット)」

男「(カット)」

部員「(カット)」

男「(カット)」

部員「(カット)」

男「(カット)」

部員「(カット)」

男「(カット)」

部員「(カット)」

男「(カット)」

部員「(カット)」

男「(カット)」

部員「(カット)」

男「(カット)」

部員「(カット)」

男「(カット)」

部員「(カット)」

男「(カット)」

部員「(カット)」

男「(カット)」

部員「(カット)」

男「(カット)」

部員「(カット)」

男「(カット)」

部員「(カット)」

男「(カット)」

部員「(カット)」

男「(カット)」

部員「(カット)」

男「(カット)」

隙をみて植物図鑑を確認、どうでもいいことになった。

置かれていた長靴を確認、どうでもよくなる。

部室のドアに立てかけられていた──部長さんのらしき一枚絵。確認。どうでもよくなりました。

男「部長さん。さっき(カット)聞いたんですけど、花を他人に届けるのが趣味って本当ですか?」

部長「ぎゃー! なに乙女チックメモリー話しちゃってくれてんのー!?」

後輩「続けてますですよ? ねぇ部長さん…?」

部長「ぎょあー! 後輩ちゃんが敵に回ったーぁ!」

男「へぇーじゃあ……」

どうでもいいことを言ったので、カット。

部長「そうだよー。だから一番元気な花の子を贈ろうかなって」

男「…喜ぶと思いますよ」

どうでもいいけど。

後輩「…先輩さん」

男「うん? なに?」

後輩「(カット)は見えてますか?」

男「ごめんよく聞こえなかった。なんだって?」

後輩「(カット)はちゃんと認識して会話してるです?」

男「うん。してるけど?」

後輩「そうですか。ならいいですよーん」

彼女は普通に笑う。至って普通に。

男「そうとも。あ、こういったトンカチもあるんですね」

部長「え? そうだよー花壇の手入れとかで結構重要なんだよー」

男「へぇーなるほど、よく見ると何だかいっぱいありますね。道具」

どうでもいいものが増えまくる。

男「この台車とか大きいなぁ。あ、自転車で運べるんですね」

どうでもいい。

男「ふーん、なるほどなるほど…」

あら方どうでもよくなったかな。
隠蔽工作としての準備は。

部長「ねぇたらしくん。ちょっといいかな」

男「? どうしました急に?」

部長「後輩ちゃん。ちょいと彼氏借りちゃうぜ?」

後輩「え、はいです。返してくれれば大丈夫ですー」

部長「ありがとー! じゃ、ちょっといいかな?」クイクイ

男「あ。はい」

呼ばれるままに、部長さんの後を追っていく。
彼女は部室の裏で止まって、くるりと振り返った。

男「どうしたんですか」

部長「…その、ね」

男「はい?」

部長「あそこじゃ言えないことでさ…うん、実は前に頼まれたことがあってね」

男「頼まれたこと? それはえっと、どういうことなんですか…?」

部長「うん。これ…なんだけどさ」スッ

後ろ手から取り出したのは──彼岸花。

男「…それがどうかしたんですか」

部長「この花を誰が育ててたか言ったの覚えてる?」

男「ええ、まぁ…女ですよね」

部長「そうそう。それでね、前に女ちゃんが言ってたんだ──」

部長「──この花はいつか大切な人に渡したいってね」

男「大切な人…」

実にどうでもよくない事だった。

部長「けどさ、その時に不思議なことを言っててさ」

男「不思議なこと?」

部長「そうなのさ。なんかね、けれど渡せない事情があった時は…」

部長「…部長さんに頼みますって、そういってて、これって、もしかしてあれかなって」

男「ああなるほど…まるで、事件を予想していたと?」

部長「あ、うん。でも! もしかして~だよっ? 違うかもしんないし!」

そんなことはないと、一瞬でどうでもよくなった。
妹はきっとそうやって【証拠】を残していく。

まるで問題のヒントのように。

男「…それで何故俺に伝えたんですか?」

部長「えっ!? あ、えとね……大切な人ってのはもしかしてキミかなって」

部長「女ちゃんは凄く友達多かったけど、それでも、なにかキミには違う雰囲気を感じて……ただの勘だけどね!」

はたして、
ただの勘でここまで言い切ることができるだろうか。

男「…ええ、まぁ実はですね」

しかし今更そんなことはどうだっていい。
自分は自分でやることを、最後まで、やりきるだけだ。

男「俺って女と兄妹なんです」

部長「きょ、兄妹ーぃ!? え、ホントに!? でもでも苗字が…」

男「…色々と事情があって、周りには秘密にしてて」

部長「あ、なるほどね…うんうん…家庭の事情なんて色々あるよね…うん」

何やら簡単に信じてもらえたが、ここは後押しするつもりで。

──予めどうでもよく用意していたことを言う。

男「はい。副会長さんに確認してくだされ分かると思います」

部長「あ、それでふくちゃんもすっごく事件のことを気にしてたんだ…」

男「…みたいですね」

部長「そうだったんだー……じゃあ彼岸花はもしかして…」

男「俺に、だったのかもしれないですね」

部長「…うん、きっとそうだよ! 何が会ったのかはわからないけど、そうだっておもう! これも勘だけど!」

勘。
実に使い勝手のいい言葉だと思った。どうでもいいけど。

男「…すみません、勝手なお願いですけど、それは貰ってもいいですか?」

部長「勿論だよ! …絶対にキミのだって、ウチは思ってるからさ!」

そっと渡された彼岸花。
多分これは妹が育てていた最後の一輪と、どうでもよく思う。

男(…これで)

これでやっと【世界】が変わるだろう。
この花を手にするからこそ、なんら後悔もなく自分はどうでもよく思えるのだ。

無茶をして、それでもなお園芸部にいた理由。
それが目の前に、やっとあるのだから。

男「あと、それと。この事は誰にも言わないでくれますか、兄妹ってことを」

部長「え、あうん! だいじょーぶ言わないよ、絶対にいわないから!」ウンウン

男「ありがとうございます」

頭を下げて、彼女をどうでもよく思った。
やっときちんと最後までどうでもよく思えた。

後は、実行するだけだ。
世界の変換は──多分、明日に。


男「なにかお礼をさせてください。駅前のアイスクリームとか」

部長「いえいえ、んなーことはさせません。けど食べたいなぁ…」

男「どっちなんですか…」

部長「うんにゃ! 今月はとんでもなく金欠ピンチビンビンなのさ! …だから無理なのさ…」

どうでもいいけど。

男「じゃあいつか、奢らせてください」

部長「あははー気にしなくたっていいんだよー」

まぁ、そんな日がくればの話だが。
どうでもいいけど。



時折、世界は永遠に真っ暗になる。

瞳には何も映らず、手には何も触れず。
耳は何を拾わず、鼻は何も嗅ぎ取らない。

時期にそれは当たり前となって、
俺の中で普通となった。

普通。当たり前。
それをどうでもいいと、わかりきったことなんだと。

それが俺の障害。
俺が抱える問題。

「お兄ちゃん」

しかし彼女のお陰で俺は【世界】をみることが出来た。
少なくとも、あの家の中では。

自分を【兄】と言ってくれる愛しい【妹】。
永久に曖昧な世界で生きるだけの自分を引き上げてくれた妹。

しかし彼女もまた問題を抱えていた。

己を己として確立できない。
常に『仮面』をつけ生きる障害。

本当の自分は居ないのだと。どうであれ不安が身を焦がすのだと。
様々な仮面をつけてみるけれど、それはやっぱり自分ではなくて。

違う人間なのだと。

「妹」

俺はそんな彼女に感謝した。
永久に自己の波に誘われ続ける彼女に、俺は光を見た。

闇の中でぽつんと光る、その小さな光を。
弱々しくてコロコロと色が変わってしまう。

希望の光を。

彼女もまた俺に対して光を見てくれたのだろうか。
感情と抑制の海に漂いながら、遠く暗い宇宙の上に。

偽りながら輝く光。
自ら発することもなく、闇に身を投じながら。
何かを暴き続けないと、輝け無い光を。

自己を形成する上で妹にとって希望で要られたのだろうか。

男(…どうでもいいけど)

そんなのはきっと──本当にどうでもよかったのだ。
妹にとって俺という存在は、どうでもいいものだった。

それを知って今だからこそ思えるのだが、
今だからこそこんなことを言えるのだろうが。

──きっとだから俺は妹を殺したのだろう。


男「……」

後輩「先輩さん。もう帰りましょう」

男「え? ああ、もう夕方か」

見渡す。夕闇に染まる空。
それでもってまだ学校だった。

男「そうだね。帰ろうか後輩ちゃん」

後輩「はいです」

普通に手を取り合って、普通に仲良さそうに歩き出す。
だって俺らはカップルさんなのだから。

後輩「先輩さん」

歩き出して数分ぐらいで、後輩ちゃんがポロリと言葉を零す。

後輩「もうやめましょうよ。妹さんの跡をたどるのは」

男「え、やめる?」

後輩「はいです」

にこりと微笑む彼女は、今日も普通だった。

後輩「もうやめませんです? 妹を殺したとか、今やっていることも全部です」

男「…。なんだよ後輩ちゃん、もしかしてまだ俺のこと」

後輩「だってそうですよね。自分が殺したって」

男「なんでそう思うの?」

後輩「彼女さんだからです。なので普通にわかりました」

男「…キミは超能力者なのか」

後輩「どっちかっていうと、先輩さんがちょこちょこ私に気を許しすぎってのが原因ですけどね」

どうも読まれていたらしい。
なんていうか、この子は普通が凄い。

後輩「そろそろかなーって思いまして、今日は打ち明けさせてもらおうかと思いますです」

男「えっと、一体何を?」

後輩「お弁当です」

男「……」

後輩「先輩さんって、基本昼休みは──妹さんのお弁当を食べますよね」

男「…そうだけど、今は」

後輩「はいです。私が居るから食べなくなった、が正しいです?」

男「……」

この事は彼女自体には言ってないはずなのだけれど。

後輩「理由としては妹さんに『彼女ができたんだーしかもお前と同じ部活の娘だぜーぐへへ』」

後輩「なんて言ったと思われますですが」

男「…そんな下品な言い方はしてないよ」

後輩「言ったんですね?」

男「う、うん」

後輩「はぁーやっぱりですよ。じゃあ先輩さんは気づいてたんですねー」

後輩「…何時からか弁当箱に【毒】らしきものを入れられていたと」

男「……」

ああ、うん。どうでもいいことだけど。

後輩「先輩さんは色々と既にどーでもいいと思ってらっしゃるかもしれませんですが」

わお。どうでもいいの意味までバレてるわ。

後輩「けれども私はそこまで頭良くないですので、ひとつひとつ上げていきますですよ」

男「あ、うん」

後輩「じゃあ一つ目です。先輩さんは何かしらで、妹さんが弁当に毒を入れることをしったです」

後輩「次にその出元を調べるために、妹の人間関係図を調べた結果──そこで私に近づいた」

男「…」

後輩「なんともですよ、知ったんですね。罰ゲームが行われることも」

どうでもいいことだから。

後輩「まぁその罰ゲームを逆手とって、私と妹さんが務める園芸部の事情を把握した先輩さんは…」

妹が──彼岸花を育ててることを知った。

後輩「…彼岸花、ヒガンバナ科ヒガンバナ属の多年草」

後輩「女ちゃんは頑張って、この花を幾つか育ててましたです」

男「…それで? それがどう関係してくるの?」

後輩「先輩さんは知っているです。私から借りた──言えば妹さんが死んだ直後に借りた」

後輩「【植物図鑑】で、彼岸花には毒を保有していることを」

全草有毒。多年生の球根性植物。
アルカロイド、リコリン、ガランタミン、セキサニン、ホモリコリンなどを多く含み、

摂取した場合
吐き気や下痢を起こし、ひどい場合には中枢神経の麻痺を起こして死に至ることもあり。

上記、図鑑参照知識。
無論、後輩ちゃんの言うとおり図鑑で調べたものだった

男「でもさ後輩ちゃん。それはただの妄想だよ、なんの証拠もないしさ」

後輩「妄想でいいんです。勿論、証拠もありませんし」

後輩「けれど、そういったことをしそうなのが──」

後輩「貴方が殺した妹さんなんじゃないですか?」

男「……」

妹はいつ何時だって、自分を騙る。
それに惑わされる俺は、何時だって騙される。

嘘つき、見破り、豹変し、宥めさせ。
隠し、暴き。暴力をふるい、身に受ける。

妹は出題者
俺は回答者。

そうしなければ俺は妹を認識できない。
そうしなければ妹は俺に認識されない。

まるでクイズ番組だ。
ああ、誰かが俺のことをクイズ好きだと言ってたっけ。

どうでもいいけど。

後輩「突然ですけど、先輩さんってどうでもよく思った人間は」

男「…うん?」

後輩「殺してもいいなんて、当然のように思えたりするんです?」

男「…いいや、思えないよ。どうでもよくても、やっぱりそれなりに理由がないと」

後輩「やっぱりです。じゃあ毒が含まれた弁当箱、大した理由になりますですね」

どうも決めてかかっているようだ。
ここはどうにか誤魔化さないと。

男「あのね後輩ちゃん」

後輩「誤魔化されませんよ。先輩さん」

男「……うん」

後輩「私は女ちゃんと友達でした。彼女がどういった人間で何処までのことをしそうなのか…」

後輩「…普通にわかりましたです。フツーに」

男「なんだか、妹に裏がありそうな言い方だね」

後輩「ええ、あるですよ。先輩さんが【妹】と呼ぶ限りは、絶対に」

男「……」

後輩「貴方のような、どーでもいいと人間を思う人が…家族だと認識する」

後輩「それってどうでもよくないことですよね? なぜ女ちゃんだけが特別になれたのかですよ」

それはきっと、妹がやばかったから。

いつもどおりのクイズ問題。
けれど今回は毒入り弁当箱。

ああ、そんなの、どうでもよくなかった。
あと一歩で死んじゃうところだった。

どうでもいいけど。

男「……」

後輩「なんてここまで言いましたですけど、んーん、先輩さん別に信じなくても良いですよ」

所詮は私の妄想ですし、と続ける。

男「そりゃ勿論」

後輩「いひひ。けどですね、先輩さんがこーんなにも園芸部に執着するのは見逃せません」

後輩「──先輩さん、何か良からぬこと考えてるですよね?」

良からぬことはなんだろうか。どうでもいいけど。

男「例えば?」

後輩「普通に考えて、誰かに罪を背負わせようとか」

男「なるほどね。例えば誰に?」

後輩「園芸部長」

どうでもいいことを言ってくれた。

男「まさか。あんな可愛い人にそんな酷いことを…」

後輩「台車に自転車、それに長靴」

男「あーあー聞こえなーい」

後輩「トンカチに、動機としては部員先輩さんを入れればどうです?」

男「なんのことかな」

後輩「なんのことでしょう?」

どうでもいいことを言ってくれよって。

男「違うよ後輩ちゃん。なかなか面白い洞察けどさ、ちょっと違ってるよ」

なんだかこの子は普通に俺のことを疑いすぎてて、困る。
ある程度、副会長さんに分け与えてあげたい。

男「何度も言うけど、俺はやってないって」

後輩「そうですです?」

男「うん。本当に」

後輩「そうですか、なら信じますですよん」

男「…うん」

けれど俺が違うと言えば普通に認めるのだろう。
それが彼女の普通さだ。

しかし、

後輩「けれど、そう言ってくれてもですよ、先輩さん」

後輩「もうやめましょう。妹さんを追いかけるのは」


──このことを言う彼女は【普通じゃない】。



男「……」

後輩「私って妹さんの代わりになりませんです?」

男「……………ッ……はい?」

妹を殺してから一番びっくりしたかもしれない。
今この子はなんていった。

後輩「私はいつだって、いつ何時だって、先輩さんの欲求に答えられる自身があります」

男「代わりって後輩ちゃん…」

後輩「めちゃエロい欲求だって受けちゃうですよ? いっぱいっぱい…沢山してあげるです!」

男「……」

後輩「……先輩さん。私は妹さんで貴方が振り回されてる姿を、見たくないんです」

振り回されている、のだろうか。
俺は確かに問題を欲していた。

妹を殺し、
そこから生まれる【世界】を身に受けて、感謝している。
けれどそれは──俺が求める【世界】じゃないのだろうか。

後輩「今だけなんですよ、今だけがチャンスなんです。先輩さんがまだ私をどうでもよく思えてない…」

後輩「私は奇跡的にずっと、認識されているです」

後輩「貴方の前にいられるです。だから、だから、先輩さん」

男「……」

後輩「女ちゃんだけじゃなく──妹さんとしても、どうでもよく思いましょう?」

すっ… ぎゅっ

男「……」

後輩ちゃんは必死のようだった。
なんとしても俺を妹の固執から引き離そうとしているのだろう。

彼女は普通に知っているのだ。
女が妹であって、妹が女である。当然のように普通に知っているのだ。

男「……うん」

その【世界】の区別も普通にわかっている。

後輩ちゃんは心底願っている。
自分が俺の病気によって消える前に。

なんて、なんて、健気な娘なのだろう。どうしてと思う。
好きだから? 彼女彼氏の関係だから?

男「あのね、後輩ちゃん」

言わせてもらおう、あえて、そんなのは──

男「──どうでもいいんだ、君の意見なんて」

後輩「……」

男「後輩ちゃん。君に一つ言ってあげようか」

後輩「……。なんです?」

男「今の後輩ちゃんは、俺にとって普通じゃないよ」

後輩「……」ビクン

男「もう一度いう。今の君は普通じゃない、君が望む──俺の普通じゃない」

普通とはなんだろうか。
黒髪なら普通なのだろうか。スカートの丈が規律良ければ普通なのだろうか。

理由はなんだ。
普通という基準は一体誰が決めた?

答えは──対する相手。

男「君はすごい子だ。なんだって普通になれる、俺にみたいな奴にでも普通だと思わせる」

基準の変化は著しく均等ではない。
けれど、彼女はそれをやりきるのだろう。

男「君の普通はどんな相手にだって普通だと思わせる。そうするように、君が変われるし察する事もできる」

後輩「……はい、そうです」

男「後輩ちゃん。髪は何時染めたの? あと髪で隠してるけど、ピアスの穴あいてるよね」

後輩「……染めたのは告白する前、罰ゲームを成功させるためです。両耳に開いてますです」

男「なるほどね。全部の昔の友だちとはもう縁を切ったの?」

後輩「……きりましたです」

男「元カレは? 君の連絡先には沢山の男性の名前が並んでるんだろう?」

後輩「……全部消しましたですよ」

男「だろうね。どうでもいいけど」

後輩「先輩さん」

男「だからね、お別れだ後輩ちゃん」

ついぞ言い切るどうでもいいことば。
ここまで何やかんやと先延ばしになったけれど、ああ、やっとどうでも良くなるみたいだ。

男「これでカップルは終わりだ。俺にとって普通じゃない、特別じゃない後輩ちゃんは…」

…どうでもいいと思い切ってしまうから。

俺にとっての普通をやりきれていた彼女は、
【どうでもいい世界】の人間のようなふつうのコトを言う。

それはもはや異常ではない。だから、どうでもいいのだ。

後輩「あーあ。やっちまったですなーですよ、今なら行ける! なんて思ったんですが、駄目ですか」

男「……」

ゆっくりと認識を解いていく。

後輩「…そうですか、やっぱ私じゃ駄目ですか」

まずは感触。次に嗅覚。

後輩「…やだなー先輩さんに見られなくなるのやだなーもっと先輩さんとイチャイチャしたかったなぁー」

ポトリと腕に落ちた気がするが、どうでもよかった。

後輩「……こんな醜い私を、初めてわかってくれた人──」

聴覚。

後輩「──」ポロポロ…

視覚。

彼女に対する認識が全て溶かされた。
五感から直に記憶へと繋がり、最後には後輩ちゃんの全てをどうでもよく思い切るだろう。

男「さて、帰ろっと」

なにか制服の端を引かれたような、
誰かが泣き叫んでるような、
俺のことを呼び止めてるような

気がしたけれど。

男(どうでもいい)

なので家に帰ることにした。
さようなら、また学校で。



男「……明日はどうするか」

色々と準備を済ませて数時間。
もうやることはない、全ては明日に頑張るだけだった。

男「まーどうでもいいけど」

全ては明日決まってしまう。
これにて【世界】は安定したものへと進化するだろう。

男「……ん」

そんな中で、ここ最近とやはり目につく。

男(最後の弁当箱…)

妹を殺す前に作った弁当。
どうでもいい世界で唯一、確実に味がわかる弁当だった。

男「…味すらもどうでもよく思っちゃうからなぁ」

つまりはこの弁当というものは。
俺にとってご褒美だった。

男「あの妹と付き合っていれば、食べられるからね」

それも妹はわかっていたのだろう。
だから丹精込めて毎日違う中身を作っていた。

問題を解ければご褒美。
単純明快だった。

男「…けれど、もう必要はない」

妹を殺し、もはや世界は見えるようになった。
舌で感じる味覚も、以前よりもマシになっている。

殺してよかったと思った。

男「さて、もう寝るか」

今日もまた妹の夢を見よう。
なんというか、それが唯一の贖罪のような気がした。

どうでもいいけど。



妹「ッ~~~~~~!!! あぁああああああああああああああ!!」

男「大丈夫だって、落ち着いて」

妹「ぎぁっ! いやぁああ!! 来ないで来るな糞がッ!!」

男「何もしないって。ほら、兄ちゃんだって」

妹「おまえがおにいちゃんとかふざけるなころすぞ」

男「だーもう、ほら」ギュウ

妹「ッ───ッ~~~~~!!!」ゴスゴスゴス

男「ふッ……くっ……ちょ、痛い痛い…」ナデナデ

妹「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ」

男「何が嫌なんだ。言ってみ」

妹「もういやだこんなわたしいやだ」


俺が知っている妹はいつもこうだった。


男「そっか。辛いな」

妹「ねえなんで私はこうなのねえなんでなんで」


学校ではどうなのかは知らない。
だってそれは妹ではないから。


男「さぁ。でもいいんじゃないか、こうやって悩むお前もお前だし」

妹「私じゃないふざけるな死ねころすぞやだやだやだやだやだ」


妹が妹でいるのは、この家に居る時だけだ。
もしこの家をでて、それでも妹を妹と呼ぶときは。

余程のことがない限りありえないだろう。

そして同じように、外で会う妹を──

──女として呼ぶことはないだろう。


男「ふざけてないって。兄ちゃん本気だぞ」

妹「やだやだやだやだやだやだ、え? ほんとに? わーいやったー!」


それが俺ら兄妹の真実。


男「うんうん」ナデナデ

妹「でもちょっと馴れ馴れしすぎ、やめてよね、んーんでもちょっとうれしいかも…」


可愛い可愛い妹。
こんな妹がもし、この家から、自分の前から消えてしまった時。

俺は、妹が死んだも当然だった。
だから大切にするのだ。

この妹を、妹を、妹を、ずっとずっと永遠に大切にし続ける。

男「…どうでもいいけど」

そんな分かりきったこというもんじゃないね。
本当にさ。



場所は病院。とある病室のドアを抜けて見慣れた人物が入った。

男「……」

走りだす。ドアが閉まる前に身体をいれこみ、
先ほど入っていった人物が驚き振り向き、

男「静かに」

問答無用に押し倒す。
腕の関節を決めることも忘れずに。

「ぎゃあっ!」

男「だから静かに」

もっていた布切れを押し倒した奴の口に入れ込む。

「むごぉっ!?」

男「よしオッケー」

案外スムーズにことは進んだ。
どうでもいいことだったから当然だろう。

男「ふむ」

聞き耳を立てる。誰かが聞きつけた様子はないようだ。

男「どうでもいいか、そんなこと」

今の状況がもっとも大事なことだし。

男「はてさて。そんなに睨まないでくださいよ、あれ?」

「ッ……!」

男「ああ、そういえば花を届けるのが趣味って言ってましたね」

どうでもいいけど。
昨日に聞いておいたことだし、知っててとうぜんどうでもいい。

男「やっぱり今日来たんですね」

「むぐっ…むぃいっ…!」

男「騒がないのなら取りますよ。どうします?」

「…むぐ…」

コクリと頷く相手。

どうでもいいぐらいに、
わかりきったことに、騒ぐ気まんまんだろこの人。

男「嘘です。外しません、というか外す気ありませんし元から」

「……っ…むぐぅー!? ぐぐぐー!!」

男「うおおおっ!」

危うく関節技を外されそうになる。
なんて力だ、マジでどうでもよくない。

男「びっくりした。どうでもよくないぐらい驚いた…」

「…っ…!」

男「そうやって妹も殺したんですか」

「っ…!」

男「そこんところ、どうなんです──」

チラリと顔を確認。
側には投げ出された花束。お手製だろう。
来ている服はすすきれたジャージ、見覚えがある。

男「──園芸部長さん」

部長「………っ…」

男「いやはや本当にすみません。もっと乙女を扱うように押し倒したかったんですが」

流石に殺人犯相手には無理があるかなって。

男「まーそんなに怒らないで。リラックスリラックス」

部長「ッ…!? ッ…!!!!」

男「よいしょっと」

関節を極めるところまでいれこむ。
声にならない悲鳴が聞こえた気がした。どうでもいいけど。

男「さて園芸部長さん。1つずつ言ってみましょうか」

じゃあ頑張って思い返して、
どうでもいいことを言ってみようか。

男「貴方は今回の犯人だ。妹を殺し、そして海に放置した」

男「動機はまるわかりですよね。妹はあの部員さんに好かれていた」

どうでもいいことだけど。

男「え? それだけかって? …それだけで十分でしょう、貴方にとっては」

男「だって十分と計画を練られていたようですからねぇ。わかればわかるほど」

どうでもいいものが増えれば増えるほど。

男「貴方が多大な殺意を持っていたことがわかりましたし」

部長「…ッ…!」

男「部長さん。貴女はまず現場を考えた、効率のよい殺人現場を」

男「──そこで思いついたのが海岸付近、あそこは人通りも薄く、犯行自体リスキーなく行える」

見れば簡単なほどに人通りが少なかったし。
どうでもいいことに。

男「それに貴女は何度か視察にも着ているはずだ。あの蕎麦屋で気づきましたよ」

男「以前から訪れてますよね、蕎麦屋に。店内では──彼岸花も飾られていた」

男「花を送る趣味の貴女だ。何度目のかで送ったのでしょう、我が部活で育てている大切な花だとかいって」

そうすることによって、どうでもよいことに、

男「──写生の授業を行える準備を行っていた」

男「写生の授業は少なくとも妹が死ぬ以前から行われている」

なんか彼女だったっぽい人がそう言っていた。

男「だから気になったんですよ。貴女の絵って、他の人よりも断然早く出来上がってませんか?」

副会長さんと美術室に訪れた際、
室内の後方の壁には、未完成の絵が大量に保管されていた。
どうでもよいことを思い返す。

男「失礼な決め付けですけど、貴女はそこまで器用じゃない」

男「実際のところ花を育てるのも上手くはない。個人で育ている花をみてそう判断しました」

確認した花はどれも微妙に枯れていた。
他の部員たちの花はどれも綺麗に咲いているにも関わらず。

男「部長さん。そんな貴女がこのような短時間で、あそこまでの絵を完成させるのは無理ではないでしょうか」

昨日確認した、部室に立てられた絵。
美術室に保管されていた同学年の作品とは時間を掛けた差が激しく見て取れた。

男「そうでしょうね当たり前なんですよ。貴女は他の生徒とは始まりの差があったからだ」

男「写生授業が始まる以前から、蕎麦屋で貴女は描いていたから。絵を掻き始めていたから早いんだ」

部長「……っ…」

男「何故早めに描き始めていたのか。それは現場の下見のためだと俺は予想します」

人気の無い海辺。
何度も訪れていれば、人の目に付いた時、顔を憶えられる可能性がある。

男「貴女は授業を逆手とった。店主に顔をあえて憶えさえ、更に妹と仲が良いことを露骨にアピールした」

男「飾られた花が貴女の花ではなく、彼岸花ですからね。そういった話も含めて、店主に同情を買うように仕向けたのでしょうけども」

いざ事件が起こった時。
第一に警察の聞き込みが入るのは蕎麦屋で間違いない。

男「良いですね人の優しさに漬け込むその根性。俺は尊敬しますよ、本気で」

部長「………」

男「さて次に凶器ですが──まぁ貴女の大好きな人の持ち物である、あれです」

男「植物図鑑。あの大きさは力強く振るうだけで簡単に人を殺せるでしょう」

部長「…むぐっ…」

男「なわけないですって? いやいや、貴女はきちんと証拠隠滅したじゃないですか」

男「とりあえずは事件当日。貴女は下見によって計画を練り、今朝方妹を海辺に呼び出した」

男「大事な話がある。とでも言えば妹はすぐに行くでしょうからね」

男「そして、そこで貴女は持っていた植物図鑑で殴った。ではなぜ、植物図鑑なのか」

男「…長靴を履いて、園芸部としての格好だったら」

男「万が一逃走の際、姿を見られた時。露骨に凶器を持っていたら怪しまれる」

そこで植物図鑑を使用した。
不自然さをなるべくなくすために。

男「まぁさほど程度でしょうけどね。そしてその後、そのまま家へと戻り」

男「登校時間となって、部室に植物図鑑を置いた」

男「部室に置いた理由は持ち主が自分ではなく部員先輩だからです」

男「…部室に来た時、図鑑がないと怪しまれる。そしてもう一つが」

男「貴女がまったく同じ図鑑を、新しく所持していたから」

男「…最近金欠らしいですね。部長さん、お高い買い物でもしたんですか?」

部長「………」

男「貴方はその次の日でも凶器に使った図鑑と新しい図鑑を交換するつもりだった」

男「…取り寄せ日が間に合わなかったのでしょうね。そうやって」

男「貴女は無事に証拠隠滅を謀ろうとした。しかし、次の日部室へと訪れると…図鑑がなかった」

そう、図鑑は俺が借りていた。
彼女だったらしい人に頼んで、まったく別の都合で使用されていた。

男「その時の貴女は息も凍る気分だったでしょう。
  あるはずのものがそこにはない。しかも凶器として使った図鑑なのにと」

意図せずして介入してしまった自分。
なんともまぁどうだっていいことだが。

男「なんとか探しだそうと、気を張っていると──ある日、部室に図鑑が戻されていた」

男「貴女は慌てて図鑑を確認し、新しいものと交換しようとした」

男「しかし、そこでちょうど俺が現れた」

あの日の放課後。
急に訪れた俺に部長さんは驚きまくっていた。
タイミングピッタシだったのだろうなっと。

男「…まぁ俺が現れたことはさほど問題にはなりませんけど、少し、イタズラを仕掛けておいたんですよ実は」

限界なので今日はここまで
続きは明日に

ノシ

さほどどうでもいい悪戯だった。
どうでもいいことを更にどうでもよくする作業。

男「髪の毛を一本。挟んでおいたんですよ、憶えていますか部長さん」

俺がどうでもいい人をから取った髪の毛を。

男「しかしおかしなことに…その髪の毛はすぐに確認したところ、既に無くなっていた」

どうでもいいちゃんから聞いた話である。
彼女は見た目よりタフなので、すぐさま部室に向かったに違いない。

男「おかしいですねぇ? 何故挟んだ髪の毛が瞬時に消えているのでしょうか」

男「──それは貴女が新品の物と交換したから、じゃないですか」

部長「……」

男「一刻も早く証拠を隠滅したい貴女は、すぐさますきを見て取り替えた」

男「あれほどの分厚い図鑑だ。余程のお金と神経をすり減らしたことでしょう」

部長「…!」

男「おっと、ここまで言い切りましたけどまだ証拠を言えてませんでしたね」

どうでもいいものをピックアップ。

男「妹が使用していた長靴。あれは妹が死んでから使われていないようですが」

部員先輩さんの様子から見てどうでもいいけど。

男「何故かあの長靴の底に詰まってましたよ。普段園芸部で使われる土以外の…」

男「…砂のようなものが」

まるで、砂浜の砂のようなものが。

男「貴女は使ったんだ。妹を殺害した後、長靴を履いて妹を海まで運んだ」

砂浜は足を取られて運びにくい。
訪れた際に思ったどうでもいい感想。

男「なんともまぁ洗い流しておきましょうよ。おバカさんですね、本当に」

洗い流していないのであれば。
靴底にも少量の砂を見つけられるに違いない。
どうでもいいこと、終了。

男「さて、ここまでどーでもいいことを言い切りましたけど部長さん。貴女って」

部長「……」

男「女って生き物は男一つで変わっちまうもん、と言ってましたけれど」

男「──実に貴女が見せてくれた通り、男一つで変わってしまうんですね」

部長「…っ…」

男「貴女は妹を殺した。理由は大好きで大好きで仕方ない、あの人を取られると思ったから」

男「俺も直に耳にした通り、あの人は妹のことを大切に思っていた……それは愛情に近い感情」

男「一方貴女には友情、幼馴染、親しみ、どれも愛情とは程遠い感情を向けられていた」

どうでもいいことだけど。

男「…貴女は妹に嫉妬した。そして殺人を犯すために計画を練り、準備を整え、実行したんだ」

男「──なので貴女は妹を殺した犯人です。違いますか?」

口内が乾く。
舌が不慣れな活動に疲労を訴えていた。
だが、直にそれもどうでも良くなっていく。

男「えいっ」

ずっぽしと部長さんの口に挟まった布切れを抜き取る。
デロデロと涎の橋が出来上がった。

部長「ッ~~~~~~~!!! あああああああああああああああああああ!!!」

男「無駄ですよ。あと三十分はこの病室付近は誰も通らない」

部長「はぁっ…はぁっ……」

男「どうでもいいことですけどね」

十数年間。
どうでもいい場所だと思い続けたのだから。

人気少ない階、患者看護婦出回る時間。
解りきらなくてどうする。どうでもいいと思わなくてどうする。

部長「……離してよ…っ…離して離して離して離して!!」

男「答えてください。殺したかどうか」

部長「意味わっかんないし! 何言ってるか全然わかんないし…!」

男「分からなくないでしょう」

こんなにも分かりやすく
問題を提示して上げたのだから。

どうでもいいぐらいに簡単な事件。
分かりやすくて、簡単すぎて、まるで主人公なら欠伸をして解けれそうなレベル。

それを今まで、
どうでもよくないレベルに引き上げていたのは俺なのだから。
隠蔽工作も楽じゃあない。どうでもいいけど。

男「貴女は殺したんですね?」

部長「ッ……してない…!」

男「なんですか?」

部長「ウチはっ…ウチはッ…女ちゃんを殺してなんかいない!!」

男「そんなどうでもいいこと言うなよ」

力を込める。
あと一歩で骨は折れないだろうが関節は外れるに違いない。

部長「ギァッ…う…!!」

男「はぁーあ。今更なんでどうでもいいことを言うんですか、知ってますよ殺してないなんて」

だって俺が殺したんだから。
俺が女──違う──妹を殺したんだ。

男「俺は単に容認して欲しいんです。そんな過去があった【可能性】を」

するとどうなるだろうか。
それは俺の罪ではなく、彼女の罪になる。

男「今までは大変だったんですよ、どうでもいい事件を、さも大事に変えて、時間を稼ぎ──」

男「──貴女になすりつける【証拠】をつくり上げるのって」

今己が上げた部長さんが犯人だという発言。
それは全てどうでもいいぐらいな証拠だった。

どうでもいいゆえに、わかりきってるゆえに、
その証拠が大して現実味を帯びてないことがありありとわかる。

男「だって、さっき貴女に言ったことも全部こじつけですから。
  単に貴女をスムーズに犯人だとさせるための、俺の…所謂問題づくり?」

クイズ作り。おれのだーいすきなクイズ。

男「貴女がその問題を認めてくれえれば、物事は万事よく進みます」

部長「ふざけるなふざけるなふざけるな」

男「えいっ」

ガコン。という外れる音が聞こえた。
どうでもいいけど。

部長「ッ~~~~~!!?」

男「さて無事にどうでもよく肩が外れた所で、部長さん」グリッ

部長「くはぁッ…かはッ…!」

男「認めましょうよ。貴女が妹を殺したと」

部長「ころ、してないっ……うちは…ッ…いぎぃッ!? やだ、やめてッ!! いだいいだいだいだい!!」

男「妹を殺した。はいどーぞー」

部長「ああああああああああああああ!!!」

男「はぁ」

殺してたってことを頑なに認めようとしない部長さん。
まぁそうだろう、突然こんなことを言われたって認められるわけがない。


【殺した】なんて、【どうでもいい世界】の貴女には理解できないだろうし。


男「…どうでもいいことですけど、部長さん。じゃあわかりやすく言ってあげますよ」


男「──この病室にベッドの上に居る【女】さん、今から殺してくれません?」

五感が曖昧にしていた景色を、どうでも良くなくなっていく。


『ピー…ピー…ピー…』


とある病室。一人部屋。
聞き取れるのは一定のリズムで鳴り響く電子音。

真っ白なベッドに横たわるのは、

女であり妹。

妹であり女。

一人の少女が深い眠りに付いている。


男「そうですね、貴女は女を殺してなんか居ない。俺の妹を殺していない」

男「ただ【殺しかけた】だけですもんね。どうでもいいことに」


そう、これは酷い事件だった。
誰もが悲しんで犯人を恨んで、例えば探偵さんが出向いたりもする。

ただの傷害事件。

そんなことはどうでもいいのだ。わかっている、どうでもいい。
妹と呼ばれる女が死んでいないことは初めからどうでもいいのだ。

男(…けれど妹は死んだ)

【どうでもいい世界】の住人は事件だと思うのだろう。

けれど、
俺にとっては【あの家に居ない妹】は死んだも同然だった。


妹、妹、愛しい妹。
側にいるだけで永遠にどうでもよくない世界を作り続けた、妹。

女、女、どうでもいい女。
側にいることすら分からず、そんな人間がいたこともどうでもいい、女。


男(どちらも同じ人間だ。けれど俺にとっては違う)


妹は死んだのだ。
【世界】はそうやって出来上がってしまった。

妹が死んだことによって、俺の前からいなくなったことで、
【どうでもいい世界】は【どうでも良くない世界】に変わった。

男(…素晴らしい日々だった、正直な話)

妹が死んだことによって世界はどうでも良くなくなった。

妹が死んだ理由は? 女が殴られた理由は?
妹は何を考えてた? 女は何を思っていた?

考えれば考える程、世界はどうでも良くならない。

五感は何時迄も世界を感じ取り、
自分はビョーキでどうでもよくならない。

世界を綺麗に見ることができていた。
死んだ妹を中心にして、どうでもよくない世界はいつまでも俺の傍にあった。

男「…だから俺が殺したようなもんなんですよ」

部長「はぁっ…はぁっ……」

男「俺が妹を殺したんです。貴女は殺してない、けれど俺が殺したから──」

男「──…貴女に女を殺して欲しいんです」

妹は死んだのだ。
では何故死んだ。

男「妹はクイズを作るのが得意でした」

男「…それに俺は何度も騙されて、傷つけられ、大変だったけれど、それでも俺はそれが嬉しかった」

部長「っ…?」

だからこそ
あの家では世界を見れたのだから。

男「けどですよ部長さん。死んじゃったんです、あの家から妹は居なくなったんです」

男「何故だと思いますか? なんで妹は──あの家から出ることになったんだと思いますか?」

どうでもいいことだけど。それは、

男「貴女がもし気づいていないのであれば教えてあげます。妹はね──」

男「──俺に問題を作るために死んだんです、俺に解かせるために、クイズを出すために」

自分の命を引き換えに。

男「貴女は妹にとって都合のいい『犯人』なんですよ。自分を殺させるために用意した、どうでもいい人間」

チラリと思い返す、どうでも良い記憶。
妹が家から居なくなって、俺にとって死んじゃう前。


「…お兄ちゃん」

「私、それでも頑張るから」

「私は妹だけど、妹だから……お兄ちゃんの側に要られる」

「──お兄ちゃんに【妹】って呼ばれるんだよ?」

「だから、頑張るの。それが私の生きがいだから、生き方だから」

「そうやって生きなきゃ私は私で居ることが出来ないから、だから、だから」

「──私のことを忘れないでね、お兄ちゃん」


男「妹は全て予想通りだった。貴女が嫉妬し、自分を殺すことも」

男「問題づくりのために部員先輩へとアピールもしつつ」

男「あの日。貴女が妹を殺そうとした時も、妹は計画通りだった」

全ては俺のために。

男「妹が育てていた彼岸花があるじゃないですか」スッ

部長「うぐゥッ!?」

男「あれって妹がよく残すヒントみたいなもんで…よいしょっと」

強制的に関節をはめ込む。
どうでもいい感じに治したから、多分、平気だろう。

男「解く側の俺に対して、答えはここにあるよー的なのを残すんです」

部長「ッ…っ…!」

男「まぁ俺はどうでもいいんですけど、貴女が話してくれたことと含めてああ、やっぱりなって」

妹は俺のために死んだんだなって。

男「分かったから、最初からどうでもよかったけど、そこで決心がつきました」

妹は俺が殺したのだと。
妹は俺の為に死んだのだと。

男「どう思います部長さん。俺的にはどうでもいい関係なんですけど…やっぱり壊れてますか」

部長「……」

男「けれど自分たちはそうやって行かないと生きていけないんです。
  抱えている問題に潰されて、押し負けて、いつかはボロボロになって死ぬんですよ」

それは誤魔化しだ、どうでもいいことだけど。

男「だから俺ら兄妹は、他人に迷惑をかけて生き続けるんです」

だってどうでもいいのだから。

男「軽蔑しましたか? 妹や俺を、殺してやりたいと思えましたか?」

どうだっていいことをまくし立てる。
目の前の、作り上げられた犯人がやる気を出すように。


本当の犯人へと昇華させる為に。


男「俺は……この世界に残った最後の、どうでもいいものを壊したい」

男「この、どうでも良くない世界に唯一ある──【女】を」

妹が残してくれた世界。
けれど妹は失敗したのだ。

完全に殺されなかった。妹は土壇場でミスを犯した。
当初の予定ではきっと──女としても死んでから始まる事件だったはずなのに。

男「妹は残っている。女として世界に残っているんだ」

どうでもいいと思える存在が残っていて、
どうでもよくないと思える存在も残っている。

ああ、まるで自分の対処法のようだ。
なんてどうでもいいことを思ってみる。

【男】という名前にエラーを憶える自分。

【妹】は死んでいるのに【女】は居てエラーを憶える自分。


男「世界がゴチャゴチャなんですよ…綺麗に見えるはずなのに、全然見えてたりなんて」

どうでもいいものと思ったのが、
いきなりどうでも良くなくなる。

そんなんだから、後輩ちゃんなんかと付き合っちまうんだ。
あれ? 後輩ちゃんって誰だっけ? どうでもいいや。

男「だからやり直しです。部長さん」

男「俺が妹のやりきれなかったことを、リピートさせます」

はたして、俺が言ったことを部長さんは全て理解しただろうか。
きっとそんなことはどうでもいいけれど。

男「きちんと証拠や動機を見つけ出して、俺が再構成させました」

男「貴女が躊躇いなく女を殺せるよう、問題を作り上げました」

男「だから貴女が殺した、じゃなくて、どうでもいいけども」

男「──貴女が殺しましょう、女を」

彼女にかけた重圧を解いていく。
大丈夫。きっと上手くいく。

男「平気ですよ。ちゃんとアフターケアもバッチリですから」

貴女がもし逃げ出しても自殺しようとしても壊れようとも隠そうとも。

男「あの元気な副会長さんが、貴女が犯人だとガツンと言い当ててくれますから」

俺が作った問題を説いて、どうでもいい正解の答えを言い当てます。
どうでもよくない正解を見つけられないままに。

それが副会長さんの弱点。主人公しすぎて問題を見通せない。
俺を本気で最後まで疑わない彼女は、ひたすらどうでもいい空回りをする。

出題者が俺だということを見破れるのに、
出題自体がどうでもいいと見破れない。

差し出された謎に飛びつき、食付き、解きたがる。
夢見る主人公さんのだ。

男(そんな純粋さがどうでもいいのだけれど)

どうでもよかった、副会長さんに対する煽り理由はお終い。
はてさて、どーなるかなー。

男「じゃあコレをどうぞ」

部長さんを押し倒した時、床に放り投げたカバンを引き寄せて、
中身を取り出す。どうでもいいほどに見覚えがあるもの。

男「持ってきて置きましたよ。植物図鑑」

ゴトリ。と床に落とす。
地に伏せる部長さんの顔の元へ。

男「部長さん。もう一度言います、貴女は俺達に利用されていた」

男「妹はワザと貴女の大切な人に近づいたんです、貴女を怒らせるために」

男「嫉妬させ、己を殺そうと思うまで。最大限の演技を行っていたんです」

男「その理由が俺です。わかりますか? 妹は俺のために、貴女を煽ったんですよ」

男「妹は俺のために、貴女に人殺しに仕立てあげた、いや、しようとしていた」

男「──貴女は許せますか、妹を、女のことを」

部長「…………」

彼女の腕が動く。一
旦関節を外された方ではない手が、ゆっくりと、拾った。

男「……」

部長「ウチは……キミが言ってることが全然、わからないよ」

男「どうでもいいです」

部長「けどさ。今日は……女ちゃんに花を届けに来たんだよ、ただ、それだけなんだよ」

どうでもいいです。知ってましたから。
彼岸花を渡された時、その大切な相手が俺だと貴女はわかったでしょう。

それで貴女は思った。
もしや妹が想う相手は違ったのかもしれないと。

貴女の中で微細な疑問が生じた。
だから今日、この病室へ訪れることを俺は予測した。

どうでもいいけど。

男「…なぜ花を拾うんですか」

彼女は図鑑ではなく、
先程まで持っていた花束を拾った

部長「ウチはね、痛ッ……キミが言ってるほどに…部員くんのこと好きじゃないよ…」

男「……」

部長「だから女ちゃんを…こ、殺す…なんて思わないし…」ズリズリ

部長「みんなみんな……大切な仲間なんだもん……」

どうでもいい。

男「どうでもいいですよ、そんなの」

部長「あはは、やっぱりきみって……めっちゃ冷たい……んしょっと」

彼女は片腕を辛そうに揺らして、
ゆっくりと立ち上がる。

部長「……」ニコ

片手に大きな花束を持ち、それから、もう片方へと持ち帰る。

男「……」



腕が外され

た、


ほう、  


へ、    それは、   何故、か



部長「───あははははははははははははははははははははははは!!!!」


視界がボヤける。
頭痛。外傷。瞬時に脳が認知する。

部長「くひひっ! あーあ、なにそれなにそれぇー?」

男「…ッ…」

己のビョーキが通常値を遥かに超えて把握。
殴られた、なにに、花束の中にあった。

トンカチだ。

部長「なんなのかなぁーもうなんなのかなぁー」

彼女の手に、握られたトンカチが、

振り上げられる、視認。
振り下ろされる、触認。

振り上げられ、振り下ろされ。
振り上げられ、振り下ろされ。
振り上げられ、振り下ろされ。
振り上げられ、振り下ろされ。
振り上げられ、振り下ろされ。
振り上げられ、振り下ろされ。
振り上げられ、振り下ろされ。
振り上げられ、振り下ろされ。
振り上げられ、振り下ろされ。
振り上げられ、振り下ろされ。

男(…どうでもよくなる)

振り上げられ、振り下ろされ。振り上げられ、振り下ろされ。
振り上げられ、振り下ろされ。振り上げられ、振り下ろされ。
振り上げられ、振り下ろされ。振り上げられ、振り下ろされ。
振り上げられ、振り下ろされ。振り上げられ、振り下ろされ。
振り上げられ、振り下ろされ。振り上げられ、振り下ろされ。
振り上げられ、振り下ろされ。振り上げられ、振り下ろされ。
振り上げられ、振り下ろされ。振り上げられ、振り下ろされ。
振り上げられ、振り下ろされ。振り上げられ、振り下ろされ。
振り上げられ、振り下ろされ。振り上げられ、振り下ろされ。
振り上げられ、振り下ろされ。振り上げられ、振り下ろされ。


男(痛みもどうでもよく、なる)

無事にゲシュタルト崩壊。

部長「はぁっ…はぁ……あはははは!あはははは!」

部長「はぁーあ、ホントになんなのこれ……意味分かんないし…」

部長「腕がチョー痛いし…糞っ! ざけんじゃねーよボケェ!!」

蹴られる認識。
どうでもよくなる。

部長「ズビビ! あー痛かった、鼻水でちゃったし、マジ最悪なんだけどもー」

擦り切れが多いジャージの袖で鼻水を拭き取り、
彼女は、部長さんは笑う。

部長「あっはは! あのねーキミ、ウチは別にもうあーんな馬鹿すきじゃねーっつの」

男「……ぅ……」

部長「糞猫かぶり女を好きになってる時点で? は? って感じですので~」ゴスッ

部長「つか言われなくても知ってたし、気づいてたし、女が嘘くせえって知ってたし」ゴスッ

部長「はじめ顔見た時からどーでもいいぐらいに? 邪魔で仕方なかったし?」

ゴスゴス!

部長「いっちょまえに語ってんじゃねーよボケ」

男「……」

部長「あーつかれた。さて、女殺そっと」スタスタ

男「……き…」

部長「はい?」

男「……ぁ…うそ…つき…」

部長「は? なに? うそつき? なにが? どうしてウチが嘘つき? なにそれ?」

男「かみ……のけ……」

部長「……………………………………」

男「はさ、んだっ…ゲホ……やつ…は、どこに……しまった……んだ…っ」

部長「……………………………………」


敢えてここで、どうでもいいことを言ってみる。
あの図鑑に挟んでおいた髪の毛。
なぜか無くなっていることは既にどうだっていい。

しかし、敢えてあの人の髪の毛を使った。なぜかはどうでもいい。


部長「…は、髪の毛がなんだって…」

男「……あん、たって…あれ、だろ…?」

いわゆるそういったキャラ。

男「……ヤンデレさん…」

初めて出会った時から気づいていた。

つまりは、俺のどうでもいいと思える速度。

妹の問題によって世界は一旦、作りなおされた。
どうでも良くないものが溢れる世界にて。

そこで出会った部長さん相手に、
俺のビョーキは少しだけ異常な速度で認知した。

この部長さんはどうでもいいと思い始めた。

男(アンタはそっくりなんだよ)

数々の【仮面】を張り替え続け、
問題と称して人格すらも豹変させる、あの妹の仮面の一枚に。

男(…本来の自分を押し殺し、常に、貼り付けたようなキャラ設定)

そりゃすぐにどうでもよくなるわ。
ついでに言うとあの部員さんも仮面かぶってるわ。

今回ではまったく関係なくて、くっそどうでもいいけど。

男「…かみの…けを…大事に…もってるん、だろう…」

痛みがどうでも良くなってきた。
直に喋れるようになるだろう、どうでもいいことに。

男「アンタは……そういった人間だから、人間だからこそ、妹に見破られた…」

男「犯人してもいいやつだって、思われた」

部長「死ね」

男「ッ……かはッ! はぁっ…アンタは忘れられてない、あの影の薄いキモ男を……」

部長「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

どうでもいい。

男「だから、恨んでる…妹を殺したがる…立派な理由じゃないか…」

部長「っ……しねええええええええ!!!」

視界が右から左、地面へとだいぶ。

男(ああ、死ぬのか俺)

なんともまぁ、これでやっとどうでも良くなるわけだ。

どうでも良かった世界が、やっとどうでも良くなっていく。

男(…本当にありがとう、俺の為に死んでくれて)

妹は作ってくれた世界。
ここ数日という少ない期間だったが、俺にとって、それは奇跡だ。

男(あの家以外で…ご飯も食べれた…彼女だって出来て…)

男(沢山の人と会話して…触って…嗅いで…先生を、お姉ちゃんと呼べた…)

どうでも良い世界を、一度でもどうでも良くならなくなる。

男(そしていっぱいお前の…妹のこと知れたしな)

家以外の、女としてのお前を知ることが出来た。

男(ありがとう。本当に殺してよかったよ、お前のことを)

俺のために死んでくれて、死のうとしてくれて有難う。
だから兄ちゃん。お詫びと言ったら何だけど、

男(…ちゃんと最後まで付いてってやるよ)

お前をひとりぼっちにさせない。
大切な大切な、俺の妹なんだ。一人で行かせたりするもんか。

男「……」

頑張って部長さん煽ったら殺された。
うん、どうでもいい、予想通りの結果だもんよ。

お前だって何時の日か殺されることは決まってたんだ。
なら、その最後に──俺を含めてしまってもいいだろう?

男「……」

お前が死ぬ予定だった世界に、俺も行きたいんだ。
お前がやろうとしたことを、俺だって一緒にやりたいんだ。

男「…ぁ…」

お前は俺の妹なんだ。それは、俺には忘れられないことなんだ。
何も毎日弁当を作らなくてもいい。俺はお前を蔑ろにしないさ。

ちゃんと見ててやるよ、きちんとお前を妹として扱ってやる。

大丈夫。俺は案外、やれた男だったろ?


男(…うん。オッケ、これでお終い)

あとはもう、自分をどうでもよく思い切ればいいだけだ。

曖昧に染まる景色。
揺れ動く人影、振り上げ荒れる細い腕。
握られたのは凶器。振り下ろされる先は女。

男「……」

加速する。脳が世界を認知する。
通常の数十倍の速さを有して、世界はどうでもよくなっていく。


病室内の音が消え、匂いが消えて、直に視界が消える。
壁や人物や窓や床やベッド。

男(…さようなら)

全てが全部消え去って、世界がどうでもよくなって、

男「……────」

なぜか、


男「───」


なんで、世界に【女】が残るんだ。

男(え、なんで、どうして)

認識は全部溶けたはずなのに。
どうでも良い世界に全て持っていったはずなの、に。

男「……ぁ……」

世界で一番どうでもいい女が、なぜ、消えない。

男(どうでもよく、ないとか…?)

そんなわけがない。
今までありえないこと、どうでもよくないこと。

男「…ゃ…ぉ…」

どうでもよくないこと?
ああ、そっか、俺。

やっと妹のこと、今回で知れたんだっけ。
妹のお陰で気になったんだっけ。

男「っ……やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

身体を跳ね上げる。何かが折れた気がした、どうでもいい、どうでもいい!

男「殺すな! やめてくれっ…殺すんじゃない! やめろ!!」

視界は既にどうでも良くなっている。
何も見えない、誰がそこにいるのか、誰が俺を殴っているのか。
己の五感は何も伝えてこない。

男「やめっ…やめてくれぇえっ! 殺さないでくれ! 俺の大切なっ…大切な…っ」

俺は誰に願っているんだ。どうでも良すぎて、わからない。
けれど叫ばないと殺される。大切な妹が、女が、殺されてしまう。

男「妹なんだよ…っ! 兄妹だっ!! 俺は死んでもいいけど、そいつは駄目だ…!!」

男「違うんだよ! 妹は勘違いされやすいけどッ…ぐすッ…とってもいい子なんだ!」

男「俺のために何だってしてくれて、俺の為だった弁当に毒だって入れる!! けどさ!!」

男「めちゃくちゃ可愛いんだよ!! 愛してるんだよ!!」

声量に喉が血を帯びた気がした、どうでもいい。

男「俺はっ……ただ側に居てくれるだけで、それだけで、よかったんだ…!」

そう、ただそばに居てくれるだけで良かった。

男「まさかそこまでやるなんて、思わなかった…っ…自分を殺す計画なんて…予想もつかなかった…!」

妹が居るだけで俺は救われていた。

男「ごめ、ごめんなさい…! 謝っても許してもらえないのはわかってるッ…けど、妹だけは許してやってくれ…!」

男「俺は殺していいから…っ…女だけは、違うんだ、そいつは何も悪くないんだよ………」

それがどんな我儘で傲慢な願いかは、自分がよくわかっている。
どうでもいいと思ってしまうぐらいに理解している。

けれど、本気で思ってしまったのだ。
女を殺しては駄目だと。それじゃああんまりだと、どうでもよくないと。

そんな世界は嫌なんだと。

男「ごめんなさいっ…ごめんなさいっ……俺は嫌なんだ…女が居ない世界を…想像することも嫌だ…っ」

女が居ない世界は嫌なんだと。

男「…だから、許してください…女を…許してください…」

ただひたすら願った。どうでもよくなった世界で、一人、女の安否を願った。


「──知ってますですよ、んなーことは」

世界が突然晴れ渡った。

男「え…?」

涙と鼻水と血の向こうに、一人の少女がいた。
どうでもいい黒髪の女の子がいた。

「ありゃまー酷いありさまですです。なんです? ちょいと不死身すぎじゃないです?」

その娘は普通に俺の前に立って、
普通に俺を抱きしめて、支えてくれた。

「大丈夫です。先輩さん、貴方は元から優しい人です」

男「…ぁ…」

「妹さんの件で貴方は、自分の罪をどうでもいいと思ってらっしゃったようですけど──」

後輩「──それは先輩さんの中では普通じゃないんですよ、きっと」

男「後輩…ちゃん…?」

後輩「はいですぅ」

男「なんで…ここに…」

「──うむむ、感動の対面のところ悪いが手伝ってもらえないだろうか」

聞き覚えのある声。
ある程度どうでもよく思っていたはずの、その姿。

副会長「こう見えて案外……非力でな。早く人を呼びに行ってもらえないか」

男「副会長さん…?」

副会長「うむむ。気づくのが遅いぞ! 愛しの幼馴染だというのに!」

男「……」

副会長さんの足元では、
獰猛な野獣のように暴れる部長さんの姿があった。

副会長「はてさて。なんともまぁ醜い形相だ部長、とんだ恥さらしだぞ」

部長「ッ~~~~!!!ッッ!!」

副会長「すまんな。ワタシは人の言葉でしか会話は出来ないんだ」

男「……なんで」

後輩「先輩さん」

男「後輩ちゃん…どうして…それに副会長さんも…」

どうでもよくない世界すぎて、脳が混乱、どうでもよくない。

後輩「なんでって、当たり前です。ここまでが問題じゃないですか」

男「問題…って…?」

後輩「そりゃ勿論。貴方の大切な妹さんが作った問題です」

何を言っているんだこの子は。

後輩「先輩さん。取り敢えずは今は、眠りましょうです」

男「えっ? いや、だ…! 待ってくれ、まだ女が──」

視界が暗転する。
その暗闇はどうでもよくない。

後輩「あーもうらしくなく、どうでもよくないことするからですよ」

頭をなでられる感触。
未だ世界はどうでもよくならない。

後輩「正解は、場面転換のあとで! です」

何を言っているんだ、後輩ちゃん。
どうでも、よく、ないけど。



副会長「シャーロキアンという言葉は知っているかな」シャリシャリ

男「シャーロック・ホームズのオタクですよね」

副会長「うむむ。そうだ、そのシャーロキアンの人たちにとって当然の知識なのだが…」

副会長「…なんとホームズはコカイン中毒者だったりするのだ」

男「へぇーどうでもよくないですね、それ」

副会長「? 変な言い方をするな、君」

男「どうでもいいじゃないですか」

副会長「確かにそうだな。話を続けよう、そのコカインのこと、シャーロキアンの間では当然の知識なのだが」

副会長「何故かあの娘は知っているんだ。不思議な話だ」

男「あの娘って誰です?」

副会長「君の彼女に決まってるじゃあないか」

男「ああ、後輩ちゃんですか。彼女もシャーロキアンだったんですね」

副会長「いいや違う。彼女はひとつも作品を読んでいないだろう」

男「……」

副会長「けれどワタシがあの娘と先ほど、待合室で凄く大変ながら気まずくなって…うむむ」

副会長「ほ、ホームズの話を振ったのだが、しかし当然のように言われたよ」

男「ああ、まるで普通のように?」

副会長「そう、普通のように。ああ、知ってますです。と」

男「なんで嘘だとわかったんですか?」

副会長「ワタシは目が良いからな。大概のことは分かる、大概のことはだ」

副会長「官女はどうやら知ったかぶりが非常に上手いようだ。ワタシもここに来るまで騙されていた」

男「ここに来るまで?」

副会長「…。さっき言われたのだ、待合室で。君は診察で今日は会えないとな」

男「ああ、そういう…」

副会長「彼女は息を吸って吐くようにウソを付くぞ。気をつけるんだ」コトリ

男「まぁどうでいいことでしたけど。食べていいですか?」

副会長「どうぞ」

男「頂きます。シャクシャク」

副会長「どうだ? 美味しいか?」

男「え? ええ、まぁりんごですし…」

副会長「そ、そうかっ? 美味しいかそうなのか~むふふっ」

男「あの、もしかして、俺のビョーキのこと…」

副会長「当然だ。とっくの昔に知っているぞ!」

男「どうでもいい嘘を付かないでください」

副会長「う、嘘ではない! ちゃんとしっていたぞ…? う、うむむ」

男「それだから、あんまり副会長ってどうでもいいと思いやすいんですよ」

副会長「な、なんだと…? さらっと衝撃なことをいわないでくれたまえ!」

男「美味しかったですリンゴ。ありがとうございました」

副会長「おっ? そうかっ? むふふ、そうか、くふふ」

男(嬉しそうだ)

副会長「ぐふふ。はてさて、そろそろワタシも帰ろう」ガタ

男「あ。はい、わざわざ見舞いありがとうございました」

副会長「気にするな。というか、全治八ヶ月だろう、毎日来るぞワタシは」

男「え、毎日?」

副会長「負けられんからな。あの娘には、うむ! ではさらば!」


ガララ ピシャ


男「……はぁ」


世界は未だどうでも良くないままだった。

あれから一ヶ月が経って、
つまりは妹が死んで一ヶ月ちょいというわけだ。

男「…どうでもいいけど」

世界は都合よく回り続けて、
どうでもいいことが沢山流されていく。

今の俺にとってはどうでもいいことなので、
さらっと言えば部長さんは無事に逮捕。傷害事件で告訴されている。
裁判がどうなっていくかはどうだっていいので直に忘れるだろう。

男「…どうでもいいけど」

そして自分の怪我。
当時、緊急オペが終わり無事だとわかった瞬間、
同じく総合病にいた先生が問答無用なかかと落としを俺に食らわせ、
今は三ヶ月の謹慎中である。当たり前だ。

まぁそれぐらいは元気だということだ。
どうでもいいけど。

男「…どうでもいいのか? これって」

いつか歩けるようになったら謝罪しに行こう。

男「……」

そして最後に──女はまだ目をさますことはなかった。
はるかに俺の怪我とは比べ物にならないほどのものなのに。

彼女はまるで自らの意志で、
起き上がることを拒んでるような気がした。

男「…どうでもよく、ない」

ああ、女の状態は俺にとってのどうでも良くないことだ。
だから未だに世界はそのまま、どうでもよくないまま。

男「だって女は妹ちゃんだからねーっと」

そうやって2つの世界はくっつきつつあった。
トントン拍子に世界はまあるく収まりつつある。

男「うん。さて、そろそろ出てきていいよ後輩ちゃん」

「はいですぅーですっと」

ベッドの下から這い寄る後輩、

後輩「可愛い可愛い後輩ちゃんでーす!」

男「いぇーい」

後輩「いぇーい! さて、食べたリンゴ吐きましょうです?」

男「怖ッ!」

後輩「ガチですよこっちは。副会長さんとなーにリンゴ美味しいですデュフフ、ですか!」

男「言ってない言ってない」

後輩「先輩さんは私の彼女なんですです! しっかり認識してください!」

男「え? いいの?」

後輩「良いですよ? いつまでも【あのコト】を秘密にするまでですから」

男「うっ…あのさ後輩ちゃん、そろそろネタバレしてもいいじゃないのかな」

後輩「フンフーン♪」

男「なんであの時…俺が女の病室にきてたこと知ってたの?」

後輩「リンゴ剥くのは楽しいですぅ~」

男「…あと、どうして副会長さんが君と一緒に居たのかな…?」

どうでもよく無いことを隠して一ヶ月も黙ってやがった後輩ちゃん。

男「副会長さんも教えてくれないしさ…ほら、いいじゃんさ、教えてよ」

後輩「じゃあキスするです」

男「は?」

後輩「なんでそこでガチギレっぽいです…?」

男「こっちは真面目なんだよ後輩ちゃん」

後輩「こっちぃーも本気です! もうもう! そんなんだか先輩さんは…!」

男「…先輩さんは?」

後輩「ぐふふ。だーいすきなんですよっ」

チュッ

男「今俺の頬にキスしても包帯の味しかしないと思うけど…」

後輩「もう慣れましたです。ここ一ヶ月で何回してると思ってるですか」

どうでもよくなってるな、確かに。

男「はぁーもういいや。じゃあ言ってたもの持ってきてくれた?」

後輩「はいです。パンツに着替え、バッチシですです!」

男「ん。ありがとう」

後輩「あーとそれと、これです。ついでに持ってきてましたです」

コトリ、と置かれたのは既視感のある形。
あれっ? これって──

男「ぎゃああー! 妹が最後に作ってくれた弁当箱ぉー! 一ヶ月前のー!」

後輩「良いツッコミですねぇ~」

男「な、なんて爆弾を持ってきたんだ後輩ちゃん…2つの意味で…!」

後輩「先輩さん、若干妹さん関連の話題トラウマ気味ですもんね、いひひっ」

わざとか、どうでもいいけど。

後輩「さて。じゃあかわいそうなので、ここでバラしちゃいましょうです」

男「え?」

後輩「先輩さんが気になってること、ですよ」

男「バラすって、いいの? 今でも?」

後輩「はいです。先輩さん、先輩さんって──私と副会長さんは出会うことはないって言ってましたですよね?」

男「まぁ…うん」

どうでもいいけど。

後輩「ええ、ですが私は出会ってしまった。それに副会長さんと私が会うことは必然だったんですよ」

男「……」

後輩「先輩さんはすぐにどうでもいいと、決め付けにかかるから気づけなかったんです」

後輩「私と副会長さんの恐ろしさを。そして出会ってしまった時、何が起こっていますかを…ですですぅ~」

どうでもよくなる。

後輩「ちょ、まーっ! なに一瞬で理解するです!? こっちのもったいぶりを捨て切らないでくださいです!」

男「…つまり、後輩ちゃんは俺の病気を把握できていた」

男「副会長さんは、病気以外の事件の謎を把握できていた、どうでもいいけど」

この二人が合わさった時、互いの失念していた部分を保管しあう。

副会長さんが性質上分からない部分を、後輩ちゃんが補い。
後輩ちゃんが性質上求めない先を、副会長さんが補う。

解決する人間。ヒントを出す人間。
あれ、なんかこんなコンビが出てくる小説、どっかで読んだぞ。

まぁつまりは、あの場所にこれたのも一緒に居た理由も。

男「つまりは偶然だってことじゃねーかーい」

後輩「えへへ~そうとも言いますです~」

男「はぁーなんだなんだ…期待して損したよ…」

後輩「ん~? 何を期待してたんです?」

男「え? いや、なんかさ。ここ最近っていうか──」

──まるで予定通りに進んでいるような、まるで、

男「どうでもいいことばっかりなのに。それが…どこか心地良っていうか」

後輩「……」

男「だからそのね、なんだかちょっと女神様的存在が…こう、奇跡っていうの? 起こし続けてるんじゃないかなって」

この二人が合わさった時、互いの失念していた部分を保管しあう。
副会長さんが性質上分からない部分を、後輩ちゃんが補い。
後輩ちゃんが性質上求めない先を、副会長さんが補う。

解決する人間。ヒントを出す人間。
あれ、なんかこんなコンビが出てくる小説、どっかで読んだぞ。
まぁつまりは、あの場所にこれたのも一緒に居た理由も。

男「つまりは俺の作った問題即座に見破られたっことかーい」

あんだけ頑張ったのに! 一発かよ!

後輩「えへへ~そうとも言いますです~」

男「はぁーなんだなんだ…期待して損したよ…」

後輩「ん~? 何を期待してたんです?」

男「え? いや、なんかさ。ここ最近っていうか──」

──まるで予定通りに進んでいるような、まるで、

男「どうでもいいことばっかりなのに。それが…どこか心地良っていうか」

後輩「……」

男「だからそのね、なんだかちょっと女神様的存在が…こう、奇跡っていうの? 起こし続けてるんじゃないかなって」

後輩「ぷひゅひゅ、くひひっ、あははっ! 女神様って!」

男「わ、笑うなってば」

後輩「いえいえ…確かにその通りなんですよ先輩さん。女神はいらっしゃいますよ」

男「いやいや、女神なんて居ないね」

後輩「私と副会長さんが出会ったのは奇跡ですよ?」

男「それも単純な推理だろ。後輩ちゃんが俺からの認識をワザと外させて」

男「自由になった所で、君は副会長さんに近づいた」

後輩「んーん。違います、あの時の告白──はホンキでそう思ってましたですよ」

男「え?」

後輩「私は本気で妹さんをどうでもよく思って欲しかったです。
    全てをどうでもよく思って、私だけを見つめ続けて欲しかったです」

後輩「けれど今は結果オーライですね。
    ああやって分かれられたからこそ、先輩さんは心置きなく実行したですし」


後輩「──私も自由に動き回れることが出来たです」

男「じゃあ…あれは狙ってやったことじゃないの…か…」

後輩「ですので、先輩さんには女神様が居るですよ」

男「…俺に?」

後輩「ハイです。貴方が頑張った一ヶ月前の出来事──」


そこで生まれた人間関係。
そこで発生した事故や事件。
そこで気づいた貴方のホントの意思。


後輩「──これら全てが最初から決められいた奇跡だったらどうです?」

男「決められた奇跡ぃ? ははっ、冗談はよしてくれよー後輩ちゃん」

後輩「……」

男「…本気で言ってるの?」

後輩「勿論です。じゃあ証明するです?」

男「…できるものなら」

後輩「じゃあこれを見てくださいです」

そっと渡されたのは、お弁当箱

男「……」

後輩「思い出してみてください。先輩さんにとって、妹さんのお弁当はなんだったでしょうか?」

男「俺にとって…?」

後輩「なんとなく分かるですよ。私には。だから自信をもって普通に言えるです」

後輩「──貴女には女神様が付いている、です」




誰も居なくなった病室。
豪華にも一人部屋な夜の空間で、俺はそっと手を伸ばす。

男「……」

夕方に後輩ちゃんが持ってきてくれた弁当箱。
妹が、女が事件に巻き込まれる前に作ってくれた弁当箱。


男「普通に開けるのが怖い…腐ってんだろうな…」

そんな弁当を開けてしまっていいのだろか。
変なガスなんて出てこないだろうか。

男「…う、うん」

打ち出される脈を身体で聞きながら、
そっと弁当のバンドを外し、片手で支え、もう片手で蓋を持つ。

男「ふぅ-はぁーよし、えいっ」

勢い良く開け放つ。
そこには

驚愕の

異臭を、放つ…………


男「え?」

ぶるりと身体が震えた。
何かが分からず、心が怯えていていた。

自分は一体何を見ている? 

男「このオカズって…」

ゆっくりと確認。
永遠と続く一秒の狭間で、認知の速度が速まる。

どうでもいいものだと思い、切れない。
どうでもいいものだと思えるには──情報量が多すぎる。

なんて、言ったって、これは


男「ラーメン…?」


それに


男「卵焼き…」


そして、


男「ハンバーグ…」

たったそれだけが入っていた。
既に乾燥しきり、見るも無残な姿へと変貌している。

けれど確かにそのどうでもいいものは卵焼きとラーメンとハンバーグ。

ラーメンは小さなタッパーのようなもので個別にされており、
卵焼きは綺麗に均等に添え荒れていたのだろう。
ハンバーグは大きさをドンと主張していて、

男「ま…待て待て待て…ッ…そうじゃない、そうじゃないだろ…これって…」

なぜこの3つのオカズなんだ。
妹が最後に作ったお弁当が、なぜ、なぜ


男「俺と後輩ちゃん…それに副会長さんの…好物…なんだ…?」


それに俺にとっての妹の弁当とは、


男「ご褒美──だった、問題を解ければ食べられる…ご褒美…」


三人の好物。
お弁当とは解決後のご褒美。


男「はっ──はは……嘘だろ女……お前、予想通りだったとでもいうのか……?」

ここまでの全てを含めて問題だったとでも?

男「っ……確かにお前は、三人全員に関わりあいがあったけどさ…っ…」

まるっきり把握して、俺のために、問題を残していったと?

男「じゃあお前は、ミスをして……死ねなかったんじゃない…」

男「本当に死ぬ気は無かったんだ……それすらも計算に入れいて……」


男「お前はこの三人で解決するんだって、わかってた…?」


分からない。あの妹が分からなすぎて、どうでもよくない。
怖すぎる。どうしてそこまで予想だてられる。お前は一体、何者なんだ。


男「……妹……」


女神は本当に居たようだった。
全ては俺の大切な人によって、仕組まれていた問題だったらしい。

男「俺が…お前の跡を追うことも…」

男「…その後二人が助けに来ることも、全部全部…」

その真実がありありとわかる。
彼女がどういった心意気で挑んでいたのか、気になって、気になって、

男「…妹…本当にお前ってやつは…」


──世界は未だにどうでもよくない。

それは妹が起こした問題によって、
言えば女起きるまで永遠に続くだろう。

何時の日か、

彼女が起き上がって、目を開いて。
いつもどおりに俺がアイツを妹と呼ぶ。

そして、さもいつもどおりのように言うに違いない


『──お兄ちゃん。私が作ったお弁当食べなかったでしょ』

男「…馬鹿野郎、兄ちゃん気づくわけ無いじゃん。もう食べれねぇよ」

兄貴はそこまで万能じゃないんだぜ。
どうでもいいことにさ。

男「だから待っててやるよ、女」

どうでもいいと、勝手な認識で曖昧に捉えるんじゃなく。
いつまでもこの世界で生きて、頑張って、お前が残してくれたものを信じて。

男「…ちゃんと待っててやる。だからその時、食べてやろう、みんなでさ」

だからすぐに起き上がってこい。
この弁当が食べれないレベルに腐る前にさ。

男「…ん?」

何かに気づいて俺はタッパーを開ける。
異臭を発する汁と麺の中に、見覚えのなる──花のようなもの。

男「……」

気になって卵焼きもほじくり返す。
おい、彼岸花入ってんぞ。

男「嫉妬深いな、相変わらず、ははっ」

どうでもいいけどさ。

これにて終了
待ってくれてた方ありがとうでした。

質問あれば聞きます故に、
なければこれにてノシ

小さな手紙が届いた。
女の子が如何にもやりそうな入り組んだ構造の畳み方。

男「……」

無事に八ヶ月の入院を終え、
無事に一浪を済ませた久しぶりの登校。

男「……」

去年と変わらず同じ下駄箱を開いて、
見つけたその手紙。

男「なになに?」


『お前の妹を今週中に殺す』


男「……うん」

あ。この手紙出したの俺の元カノだ。

すっげーどうでもいいけど。

後輩「それで明日には妹さん殺されるんです?」

何時の日か始まります。

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