伊織「もうバカンスに飽きたわ」(150)

-事務所-

伊織「せっかくこの夏に一週間も休暇が取れたってのに……」

春香「わー見てくださいよこれ! バリ島ですよ、バリ島!」

あずさ「あら~素敵なところねぇ。こんなところで結婚式をあげられたらいいわね」

美希「ねーねー、こっちはプライベートビーチ付きのサンフランシスコなの! お昼寝したら気持ちよさそ~」

真「でもグアムとかハワイも定番だよね! くぅ~、一度行ってみたいなぁ!」

やよい「綺麗ですねぇ~! ここならお魚がいっぱい食べられそうです!」

伊織「……はぁ、そんなところ全部行きつくしたわよ」

あずさ「伊織ちゃんは、やっぱりこういう場所に行ったことがあるのかしら?」

伊織「いったもなにも、バカンスのたびに世界中の観光地に飛び回ってるわよ。もう行くとこがないくらいにね」

真「いいなぁ伊織は。ボクもハワイに行ってフラダンス衣装着てみたいよ」

伊織「ハワイなんて庶民の行く場所だからね。私ぐらいになると、観光用に改造された場所じゃ満足できないのよ」

春香「あーでもそれなんとなくわかるかも! あんまり観光客狙いの装いが多すぎると、ちょっとゲンナリしちゃうよね」

美希「ミキも静かな場所でお昼寝したいな。あんまり人が多いと、ナンパが多くて落ち着かないの」

伊織「どっかにいい場所ないのかしらね~。せっかく休暇がとれたのに行く場所がないんじゃつまらないわ」

やよい「……うちは、旅行なんてしたことないから、伊織ちゃんがうらやましいなーって」

伊織「あ、えっと……」

伊織「りょ、旅行って言っても一人じゃつまんないものよ? やっぱり家族で行かないと、することがないっていうか……」

やよい「そうなんだー。伊織ちゃんの家はみんな忙しいもんね」

真「確かになんだかんだ言っても、旅行にいったらいったで家が恋しくなったりするよね」

春香「私も、二日目くらいでお母さんの料理がふと食べたくなったりすることあるかなー」

あずさ「うふふ。お休みの日はどこにいても、家族でゆっくり過ごすのが一番いいのかもしれないわね」

やよい「えへへ、そうかもですねー」

伊織「ま、家族がそこにいたらだけどね……」

美希「デコちゃんさみしいの?」

伊織「べ、べつにさびしいなんて言ってないでしょ! あとデコちゃん言うな」

やよい「伊織ちゃん、休みの日もずっと一人なの?」

伊織「まぁ……兄様もみんな海外で仕事だからね」

やよい「そっかぁ……さびしいよね」

伊織「だ、だからさびしくなんか……アンタらその生暖かい目をやめなさいよ!」

――その日の夜、水瀬低

伊織「(はぁ、あんなこと言われたら余計にさびしくなるじゃないの……明日から休暇だってのに……)」

prrrrrrr

新堂「はい、水瀬でございます。はい、これはこれは……はい、おつなぎ致します」

新堂「伊織様、高槻家のやよい様からお電話でございます」

伊織「やよいが? ――もしもし」

やよい『あ、伊織ちゃん? ごめんね夜遅くに』

伊織「いいわよ。どうかしたの?」

やよい『うん、あのね。明日から伊織ちゃんはお休みなんだよね?』

伊織「ええ」

やよい『それであの……もしよかったらなんだけど――』

――翌日、高槻家前

ピンポーン

やよい「はーい! ――あ、伊織ちゃんいらっしゃい!」

伊織「こんにちは……ねぇ、本当に一週間もいていいの?」

やよい「うちはみーんな大歓迎だよ! 入って入ってー!」

かすみ「あ、伊織おねーちゃんだ」

浩太郎「こんにちはー」

浩司「ちはー」

浩三「だー」

伊織「はい、こんにちは。あら、長介は?」

やよい「伊織ちゃんが来るからって照れてるんだよ」

長介「ばっ、照れてないよ!」

伊織「こんにちは長介。お久しぶり」

長介「……ひ、ひさしぶり」

やよい「ほらみんな玄関空けないと伊織ちゃんは入れないでしょー!」

やよい「お父さんとお母さんは夜遅くに帰ってくるから、あいさつできなくてごめんね」

伊織「いいのよ、失礼なのはこっちなんだから。おじゃまします」

やよい「長介、伊織ちゃんのお茶入れておいてー!」

長介「わ、わかったよ」

やよい「お客さんの部屋がないから、私たちと同じ部屋に寝てもらわなくちゃダメなんだけど、ごめんね」

伊織「別に気にしないわよ。っていうか、今更そんな他人行儀に扱わなくていいわ」

やよい「えへへ、そうだね。それじゃ荷物はここに置いて……改めまして、高槻家へようこそー! 今日から伊織ちゃんも、この家の家族だからね!」ギュッ

伊織「……ありがと、やよい」

~高槻家で過ごすいおりんのバカンス・一日目~

長介「はい、伊織姉ちゃん」コト

伊織「あら、ありがと長介」ニコッ

長介「……」クルッ サササッ

伊織「?」

やよい「もう、長介ったらー……ごめんね、あのこ恥ずかしがり屋さんだから」

\チ、チガワイ!/

伊織「ふふふ、この家に来るのも結構久しぶりよね。全然変わってないわ」

やよい「この前は響さんが一緒だったよねー」

伊織「あたしは響みたいに子供の相手はできないわよ」

やよい「うちの子はみんな元気だからね。特に浩司なんかいたずら好きの年だから……あーっ!」

浩司「わーい」

やよい「浩司ー! それは洗剤だから食べちゃダメっ!」

かすみ「お姉ちゃーん、浩三がもらした―」

やよい「洗面所におむつあったでしょー? 持ってきて―」

長介「ほい」

やよい「あ、ありがとう長介!」

長介「別に……」

伊織「ふ~ん」ニヤニヤ

長介「……!」サッ

浩三「あう~」
 
やよい「はいはい今替えてあげるからね。ごめんね伊織ちゃん騒がしくって」

伊織「気を使わなくってもいいわよ。それより、これ洗濯物? 畳んでおくわよ」

やよい「え、そんな悪いよ! お客さんに――」

伊織「家族、じゃないの?」

やよい「あ……」

伊織「家族なら、家のこと手伝って当たり前よね? 遠慮なんかしちゃダメじゃないの」

やよい「えへへ……じゃあ、お願いしちゃおっかな!」

伊織「任せときなさい、スーパーアイドル伊織ちゃんにかかれば家事なんてちょちょいのちょいなんだから!」



――三十分後

伊織「お、終わったわ……なんて量の洗濯物なのよ」

やよい「よいしょよいしょ……」

伊織「わ、ちょっとやよい大丈夫? それシーツよね?」

やよい「? うん、いつも日曜日に洗濯してるんだよ?」

伊織「そうじゃなくて、そんないっぺんに持たなくても……」

やよい「そんなに重たくないから平気だよー? うんしょうんしょ」

伊織「(そういえばやよいって意外と力持ちなのよね……)」

やよい「あ、全部畳んでくれたんだ! 伊織ちゃんありがとー」

伊織「い、いえこれくらいいいのよ。おほほ……」

やよい「場所はちょっとバラバラだから私が直しておくね! よいしょ……」

伊織「そ、それも全部持っていくの?」

やよい「うん、こうしたら時間も節約できるし、お得かなーって」

伊織「そ、そうなの……ほ、ほかに手伝うことあるかしら?」

やよい「うーんと……あ、今日はお休みだからみんなで草むしりの日なんだ!」

伊織「(そんなの全部庭師にやらせてたわ……)」

やよい「あと、スーパーに行ってご飯の用意とトイレットペーパーも買わなくちゃ!」

伊織「わ、わかったわ。やってやろうじゃないの」

やよい「うっうー! 伊織ちゃんがいると助かりますー!」

伊織「ふん、当然でしょ!」

――いおりん草むしり中

ミーン ミンミンミン ミーン……

伊織「あ……あづい……」ダラダラ

浩太郎「おねーちゃん、ゴミ袋どこー?」

やよい「台所のゴミ箱の横だよー」ムシリムシリ

長介「ん」

やよい「あ、長介もってきてくれたんだ」

長介「うん……」ムシリムシリ

伊織「なんであんたらこの暑さで平気な顔してるのよ……」ムシリムシリ

やよい「そんなに暑いかなぁ? きっと慣れちゃったんだね」ムシリムシリ

伊織「慣れるもんなのかしら……うぅー」ムシリムシリ

――二時間後

ミーン ミンミンミン ミーン……

伊織「はあああああ!! あづい! 暑すぎるわ!」バタッ

やよい「伊織ちゃんのおかげで早く終わったよ!」

伊織「これを毎週なんてやってられないわ……うちの庭師の給料あげてやらないと」

長介「はい、麦茶いれたよ」カラン

伊織「はああー今なら長介と結婚してもいいわ!」ゴクゴク

長介「ちょ……な、何言って」

やよい「あ、伊織ちゃんそんな勢いよく飲んだら……」

伊織「!」キーン!

伊織「うきーーーー!!」ジタバタ

浩司「あはははは」

かすみ「お兄ちゃん私も麦茶いるー」

長介「あ、ああ」コポコポ

カナカナカナカナカカッカッカ……

伊織「腰が痛いわ……はぁ、やよいたちはすごいわね」

やよい「ごめんね無理に付き合わせちゃって」

伊織「私が勝手にやってるんだからいいの。遠慮はしないでって言ったでしょ」

やよい「そう? でもあんまり無理しないでね?」

伊織「……まぁ善処するわ」

イツモ ゲキヤス! ハナマルスーパーヘ ヨウコソ!

伊織「にしてもずいぶん遠くのスーパーまで来たわね。今日は何を買うの?」

やよい「えっとね……今日はアジの干物が、一匹20円なんだよ!」

伊織「に、20円て……」

やよい「あとそれから、もやしが一人三つまで一袋3円でしょ。トイレットぺ-パーが12個で120円でしょ……」

伊織「……やよい、今日は私がお金を出すわ」

やよい「ええ!? だめだよ、せっかくお泊りに来てるのに!」

伊織「ちょっとくらい出してもいいでしょ。別に私はお金持ってるんだし」

やよい「ダメ! 伊織ちゃんにお金出してもらうために呼んだんじゃないもん!」

伊織「それでも一応長くお世話になるんだから、お礼位したっていいじゃない!」

やよい「で、でもそんなの悪いよ! 伊織ちゃんには私がごちそうしてあげたいんだもん!」

伊織「……はぁ、わかったわよ。じゃあ、食後のデザートをお土産に買っていくだけ。それくらいはいいでしょ?」

やよい「ううー、でも……」

伊織「あんたに世話になりっぱなしじゃそれこそこっちも申し訳ないわよ。ね?」

やよい「……うん、わかった。ありがとう伊織ちゃん」

伊織「それじゃさっさと買い物しちゃいましょ。早くしないともやしがなくなるんじゃない?」

やよい「はわっ、そうでした!」ダダダッ

伊織「ちょ、待ちなさいよやよい――早っ!!」

――高槻家台所

やよい「よいしょっと!」

伊織「ず、ずいぶん買い込んだわね……ていうか、主にトイレットぺーパーだけど。あー腕が」ビリビリ

やよい「あはは、伊織ちゃんはもう休んでていいよ?」

伊織「でも、料理くらい……」

やよい「もうっ、その腕じゃできないでしょ? 今日は私に任せて!」

伊織「……お願いするわ」



長介「あ、伊織姉ちゃん……」

伊織「あんたの姉はすごいわ……なんであんなに元気なのかしら」

長介「昔っから、みんなの面倒見てくれてるからな」

伊織「ホント、手伝ってあげようにも体が追い付かないわよ……ふぅ」

長介「……お、おれ姉ちゃん手伝ってくるよ」ダッ

伊織「……弟もいい子ねぇ」

伊織「何かテレビでもやってないかしら?」ピッ

TV『今日の特別ゲストは、竜宮小町の水瀬伊織さんでーす!』ワー パチパチ

伊織「あ、これ前に収録した特番だわ。今日だっけ」

浩太郎「あ、伊織おねーちゃんだ!」

浩司「んだー!」

伊織「ふふん、あんたたち光栄に思いなさいよ? スーパーアイドル伊織ちゃんを目の前で見てるんだから」

TV『伊織ちゃんはこういう経験なさったことは?』

TV『伊織はぁ~、こんな怖いところに行ったら悲鳴あげちゃいそうですぅ! てへっ』

浩太郎「この伊織おねーちゃんなんか変だよ」

浩司「だよー」

伊織「て、テレビっていうのは特別なのよ特別!」

――しばらくして

やよい「はーい、晩御飯できたよー! ……あ」

浩三「あぶー」ギギギギ

伊織「いたたたたた前髪引っ張るな前髪ィ!」

長介「こ、コラ浩三ダメだろ!」

浩三「あーあー!」

やよい「だ、大丈夫伊織ちゃん?」

伊織「うう、もう前髪下した方がよさそうだわ……」ゴシゴシ

長介「あ……」

伊織「? どうかしたの長介?」

長介「い、いや別に。前髪下したの初めて見たから」

伊織「そういうばそうね。にひひっ、貴重な伊織ちゃんのプライベートな姿なんだから、今のうちにちゃんと見ときなさい♪」

長介「わ、わかった」

やよい「はい、じゃあみんな食べるよー! せーの」

「「「「「いただきまーす!」」」」」

やよい「そういえば浩太郎は夏休みの宿題あるの?」

浩太郎「あるけどやってなーい」モグモグ

やよい「ちゃんとやらないとダメでしょー。遅くなってから泣きついても知らないよ」

伊織「私たちも一応宿題出てるのよね。やよいはちゃんとやってるの?」

やよい「やってはいるんだけど……うー、数学が難しくて解けないんだよぉ」

伊織「後で見てあげるわよ、私はもう終わらせちゃったしね。長介お醤油とって」

長介「……はい」

伊織「ありがと」

やよい「伊織ちゃんはとっても頭がいいよね。うちは長介も私も全然勉強ができないからなぁ……」

長介「な、なんで今そんなこと言うんだよ」

伊織「なんだったら長介の分も見てあげるわよ」

長介「ほ、ホント?」

かすみ「ごちそうさまー」

浩司「さまー」

やよい「お粗末さまでしたー」

伊織「さて、それじゃデザートにしましょうか」

浩太郎「デザートあるの!?」

やよい「今日はねぇ、伊織ちゃんがお土産にプリン買ってくれたんだよ!」

かすみ「ほんもの!?」

伊織「偽物買ってくるわけないでしょ。はい、ちゃんとみんなの分あるわよ!」

浩太郎「わーい! 伊織おねーちゃんだいすき!」

長介「すっげぇ……プリンなんて何年振りだろ」

伊織「あんたたちね……プリンぐらいいつでも買ってきてあげるわよ」

やよい「みんな、伊織ちゃんに何か言わないの?」

「「「「伊織おねーちゃんありがとー!」」」」

伊織「な、なによもう……プリンくらいで照れくさいじゃないっ」

やよい「それじゃそろそろお風呂沸かして……あ、その前に洗い物しなきゃ」

伊織「洗い物はやっておくわ。やよいはお風呂ね」

やよい「あ……うん。じゃあお願いしまーす!」トテテテ

長介「お、おれも洗い物手伝うよ」カチャカチャ

伊織「そう? 長介も結構頼りになるわね」

長介「へへ、そうかな……」

伊織「それにしても、やっぱりみんなで食事する方がにぎやかでいいわね」

長介「そうかな? うるさいだけだと思うけど」

伊織「まぁあんたたちはこれが普通だもんね。私の家はいっつも私と召使いだけだから、これくらい騒がしい方が安心できるわ」

長介「そうなんだ……」カチャ

伊織「……」ジャブジャブ

長介「……あ、あのさ。いつでもきていいんだぜ。うち何にもないけど、人はいっぱいいるから」

伊織「あらそう? それじゃ、気が向いたらまた来るわ。っていっても今日から一週間はここでお世話になるけどね」

長介「う、うん。ゆっくりしていってね」

やよい「――あと十分くらいでお風呂できるよ! 二人ともありがとー!」

伊織「これくらいいいわよ。ね、長介」

長介「あ、うん」

やよい「えへへ、なんだか伊織ちゃんがきて長介も頑張ってくれるから、助かっちゃうかもー」

長介「へ、変な言い方するなよ!」

伊織「(ホントに仲良しね……うちは兄弟でもあんな風に話さないのに)」

――夜

伊織「――ふぅ、お風呂あがったわよやよい。何してるの?」

やよい「明日のスケジュールと、今月の出費計算してるんだよ」

伊織「出費? 家族全員の家計簿でもつけてるの?」

やよい「ううん、私が管理してるのは兄弟の分だけだよ? うーん……やっぱり給食費が多いなぁ」

伊織「……あんたはホントに偉いわね。兄弟全員のお母さんみたいだわ」

やよい「えへへ、そんなことないよー。お母さんはお仕事しながら私たちの将来の学費を貯めてくれてるし、お父さんはこの家のローンとか、養育費の返済をしてくれてるし……」

やよい「私なんて、おうちの手伝いしながらちょっとだけアイドル活動してるだけだもん。全然お母さんたちにはかなわないよ」

伊織「もう……まるで天使ね」

やよい「う?」

伊織「あんたのことだからまた意地張るんでしょうけど、困ったときはどんな些細なことでもいいから言いなさいよ? お金のことだったら全部どうにかしてあげるわ」

やよい「で、でもそんなの」

伊織「悪いも何もないの。やよいが困ってるのを見たくないから、私がわがまま言ってるだけなんだからね」

やよい「……ありがとう伊織ちゃん」

伊織「まだ何にもしてないのにお礼なんていらないわよ。早くお風呂入っちゃいなさい」

やよい「うん! 今日は疲れたでしょ? 先に寝てていいからね」

伊織「そうするわ。あんたも夜更かししないようにね」

やよい「はーい!」トテテテ

伊織「……お礼を言うのはこっちの方よ」



――翌朝

ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!

伊織「――うっるさーい!」ガバッ ガチャン!

やよい「ふぁ……あ、伊織ちゃんおひゃよーございまふ」

浩太郎「ねむい……」ゴソゴソ

かすみ「Zzz……」

伊織「この目覚ましで起きないってどういう神経してんのよ……ほら、あんたらもさっさとおきなさーい!」シャッ

長介「ぐわああああああ!!!」

~高槻家で過ごすいおりんのバカンス・二日目~

――高槻家、居間

やよい「お父さんお母さんおはよー」

やよい父「おはようやよい」

やよい母「おはよう。あら、あなた……」

伊織「あ、はじめまして。水瀬伊織です! やよいちゃんにお誘いしてもらって昨日からお世話になってますぅ!」ペコリ

やよい父「あ、ああ。話は聞いてるよ。なんにももてなせないけどゆっくりしていってね」

やよい母「とっても礼儀正しくていい子ね。うるさい家だけど、子供とも仲良くしてあげてね」

伊織「はい! ありがとうございまぁす♪」

浩太郎「伊織おねーちゃん変だよー」

長介「バカ、大人の事情があるんだよ」

伊織「そこ! 余計なこと言うんじゃないわよ!」

やよい「あははは……」

ごめん、ご飯食べてくる。アイルビーバックなの

サバの干物ウマー(゜Д゜)

――その日の午後

ミーン ミンミンミンミンミンミン ミーン……

伊織「さーて。やよいとご両親は仕事に行っちゃったし、ヒマね」

長介「そうだね」

浩司「ぶいーんぶいーん」

伊織「っていうか、暑いわね。クーラーは仕方ないとして扇風機か何かないの?」

長介「うちは、うちわしかつかわないから……」

伊織「……今のでちょっと涼しくなったわ」

長介「へ? あ、いや別に今のは駄洒落じゃないって!」

伊織「あーもう、なんでもいいわ。うちわがあるなら煽いでちょうだい」

長介「あ、はい……」パタパタ

伊織「やよいはオフのときいつも何してるの?」

長介「姉ちゃんは……大体家の掃除とか、洗濯とか、浩三たちの世話してるよ」パタパタ

伊織「……オフでも家で休んでないってこと?」

長介「俺も少しくらい休めって言うんだけどさ。姉ちゃんがいない間にいろいろやることが溜まっていくから、休みの日にそれを片付けるしかないんだってさ」パタパタ

伊織「あんたが手伝ったらいいじゃないの」

長介「お、俺もできるときは手伝ってるよ! でもやよい姉ちゃんみたいに手際よくできないっていうか……」

伊織「ふーん。手、止まってるわよ」

長介「あ、はい」パタパタ

浩三「――うあーーーん!」

伊織「!?」

長介「やっべ、浩三もらしたか。かすみー?」

かすみ「大丈夫ー。はいはい、ここが気持ち悪いねー」

伊織「……あんたたちしっかりしてるわねぇ」

長介「やよい姉ちゃんほどじゃないよ。俺たち自分のことで精いっぱいだもん」

伊織「はぁ、姉も姉なら弟も弟ね……まったく」

長介「?」

伊織「アイスクリーム食べたくない?」

浩太郎「アイスー?」ヒョコッ

浩司「あいすー」

長介「お前ら……」

伊織「こんな暑い日はアイスを食べるに限るわよね。さぁみんな、何の味がいい?」

かすみ「私いちご味がいいー!」

浩太郎「チョコ味!」

浩司「あじー」

伊織「いちごにチョコね。あんたは?」

長介「いや、いいよそんなのいきなり」

伊織「私が食べるついでよ。それとも伊織ちゃんの親切な心を無下にする気?」

長介「……じゃ、じゃあバニラ」

伊織「はいはい。やよいとご両親の好みはわかる?」

長介「えっと……たぶん、バニラと小豆と、いちごかな」

伊織「ん……もしもし新堂? ちょっと持ってきてほしいものがあるんだけど」



――数十分後

ブロロロ キキッ……ガチャ

新堂「お待たせしました、お嬢様」

パティシエ「ご注文のアイスクリームをお持ちしましたよ」

伊織「ありがと。さ、みんな注文しなさい」

長介「うわ……」

浩太郎「すげー! おれチョコアイス!」

浩司「ちょこ!」

かすみ「いちごアイスください!」

伊織「こっちにはバニラと、アップルティーのシャーベットね。それからバニラと小豆とストロベリーも保存用においてちょうだい」

パティシエ「かしこまりました」

長介「やっぱ伊織姉ちゃんとこってすごいな……」

伊織「私にはこれが普通だけどね? 家族がいない代わりよ」

長介「あ……うん」

浩太郎「うまー!」

浩司「ウマー」

かすみ「おいしー」

伊織「あんたも早く食べないと溶けるわよ」

長介「……うまいです」

伊織「そ。にひひっ、よかったわね」

――夜

ガラッ

やよい「ただいまー! 遅くなってごめんね、すぐご飯に……」

TV『なんということか! 水瀬伊織のおでこは見事に光を反射したのである!』

浩太郎「きゃははははは!」

浩司「あはははは! おでこー!」

伊織「キィー! その不愉快な番組変えなさいよ! なんで今週に限って私の出てる特番ばっかりなわけ!?」

長介「あ、姉ちゃんおかえり」

やよい「う、うん。なんだか楽しそうだね」

長介「伊織姉ちゃんに宿題見てもらってたんだけどさ……おかげでちっとも進まない」

伊織「あら、お帰りなさいやよい」

やよい「ただいま伊織ちゃん! いまからご飯にするね」

伊織「今日は私も手伝うわよ」

TV『では、もう一度ご覧いただこう』

伊織「の前にチャンネルかえなさいよね!」

やよい「今日はどうだった? みんな迷惑かけなかった?」トントントントン

伊織「騒がしくて気の休まる暇もないわよ……よそでバカンスしてたらこうはならないわね」

やよい「そ、そうだよね。ごめんね……」

伊織「ちょっと、別に嫌だから言ったんじゃないわよ? こんなに退屈しない休暇はないって言ってるの」

やよい「そ、そう? 楽しい?」

伊織「楽しくなかったらこんな話しないわよ」

やよい「そっかー。えへへ、よかった」

伊織「な、なにがよ?」

やよい「事務所で話してた伊織ちゃん、お休みが取れたのにすっごくつまらなそうな顔してたから……せめて私の家でゆっくりしていってもらえたらなーって思ってたんだぁ」

伊織「……そんなにつまんなそうな顔してた?」

やよい「やりたくないお仕事するときみたいな顔だったよ?」

伊織「やぁねぇ、顔に出ちゃう性格って……」

やよい「えへへ、でも今日はとっても楽しそうな顔してたから。私も伊織ちゃんがいてくれたらとっても嬉しいなーって!」

伊織「そ、そう……ありがと」

――数時間後

伊織「――で、この公式をつかったらさっきのXが出てくるでしょ……って、やよい?」

やよい「あうう……」ギュルギュル

伊織「ちょっと、大丈夫? お腹痛いの?」

やよい「うー、お風呂上りにアイスクリーム食べたのがいけなかったのかなぁ……」グルルル

伊織「仕方ないわね、トイレ行ってきなさい。続きは明日にしましょ」

やよい「ごめんなさいー……」フラフラ

伊織「いいからいっておいで。……あら、もう日付変わってたのね」

やよい「……伊織ちゃん?」

伊織「わっ、どうしたの。まだ行ってなかったの?」

やよい「……階段まっ暗で怖いよぅ」

伊織「あんた……はあ、仕方ないわね」

リーリーリー……

やよい「……伊織ちゃん、いる?」

伊織「いるわよ」

やよい「……」

伊織「ふわぁ……あふ」

やよい「伊織ちゃんいる?」

伊織「いるわよー」

やよい「……」

伊織「……」

やよい「……」ジャゴオオオ……ガチャ

伊織「はいおかえり。お腹大丈夫?」

やよい「まだちょっと……」

伊織「胃薬飲んどきなさい」

やよい「あの……台所……」

伊織「ついてってあげるから」

――子供部屋

やよい「遅くまでごめんね」

伊織「いいのよ。私だって怖いもんくらいあるわ」

やよい「伊織ちゃんは何が怖いの?」

伊織「な、なんだっていいじゃないの。ほら、お腹冷やさないようにして寝なさい」

やよい「うん。おやすみ伊織ちゃん。また明日ね」

伊織「……ええ、また明日ね。おやすみやよい」



――翌朝

ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!

伊織「――あーもううるさいわねっ!」ガチャン!!

やよい「んふぁ……いおりひゃんおはよー」

伊織「この音ばっかりは許せないわ……さぁみんな起きるわよ!」シャッ!

長介「ぐわあああああああ! 目があああああああ!」

~高槻家で過ごすいおりんのバカンス・三日目~

伊織「さーて今日はなにをしようかしら」

長介「……」ガサゴソ

浩太郎「にいちゃーん持ってきた」

長介「それじゃないよ。もっと箱みたいなのあったろ」

かすみ「はいお兄ちゃん」

長介「あ、さんきゅ」

伊織「何してんの?」

長介「あ……伊織姉ちゃんは見ない方がいいと思うよ」

伊織「? なにこれ、何かの箱?」ヒョイ

長介「あっ、待った!」

伊織「なによ、いかがわしいもんでも入って……」



G「うおおおおネバネバがとれねえええええ」

\ギエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!/

長介「だから言ったのに……」

伊織「ひ、ひ、ななななななんてもん持ってくるのよぉ!」

長介「姉ちゃんが作ったゴキブリホイホイだよ。結構つかまるんだぜ」

伊織「やめて! こないで! どっかやって!」

長介「んなこと言っても……今日点検の日なんだから仕方ないじゃん」

浩太郎「いっぱいとれたー!」

浩司「わーい」

伊織「やめなさいよ! 見せないでよ!」

長介「でもこれだけとっても全然減らないんだよなぁ。どうしたらいいんだろ」

伊織「はーはー……だ、だったらこの伊織ちゃんがそいつらに目にモノ見せてやるわよ」

長介「え?」

伊織「新堂! 最強の家庭用広範囲殺虫剤を持ってきて頂戴! いますぐに!」

――高槻家前

ボシュウウウウウウ……モクモクモクモク

長介「うわ……家が煙だらけだ」

伊織「これでひとまず家の中の連中をあぶりだすだけよ……本命はここから」パチン

機動隊「とつげきぃぃ!!」ドドドドド

浩太郎「かっこいー!」

伊織「逃げ惑う連中は一匹残らず駆除して、そのあとは高槻家全域に虫除けをばらまくわ。ちなみに人体に影響はないから大丈夫よ」

長介「ゴキブリだけのためにここまでやるんだ……」

伊織「うるさいうるさーい!! アイツだけは絶対許さないんだから!!」

長介「(目がマジだ……侵略者の目だよ)」

伊織「おほほほほほ!! 一匹たりとも逃しはしないわよ!!」

――その夜

やよい「よいしょ、ただいまー」

長介「お、おかえり……」

伊織「はぁはぁ……」

浩司「ぶーんぶーん」

浩三「あぶー」

やよい「……えーっと、ご飯の用意するね?」

伊織「やよい……」

やよい「う?」

伊織「この家の敵は……すべてヤっといたわ」グッ

やよい「??」

長介「まさか最後の一匹にあんなに手間取るなんてね」

伊織「やめなさいよ、あんたの頭にとまったの思い出すじゃない」

――深夜

かすみ「Zzz……」

浩司「がー……」

伊織「……や、やよい起きてる?」ゴソゴソ

やよい「むにゃ……んー、伊織ちゃんどうしたのー?」ゴシゴシ

伊織「いや、その……大したことじゃないのよ」

やよい「うー?」

伊織「……ちょっとだけついてきてくれない?」

やよい「んー……おトイレ?」

伊織「う……い、いいから! すぐすむから、お願い!」

やよい「はぁい……ふぁ」

リーリーリーリーリーリー……

伊織「……やよい、いるわよね?」

やよい「ふぁい」

伊織「……ふぅ」ジャゴオオオ……ガチャ

やよい「……」コックリコックリ

伊織「お、お待たせ。早くもd……」

その瞬間……伊織に電撃走る……!
眠気など一瞬にして吹き飛ぶ悪寒……! 血走る眼球……!
常人ならばまったく気づかずに見過ごすであろう不吉な影……!
しかし伊織の目はたとえ暗闇の中でもその対象を一瞬にして判別していた……!
伊織の異様なまでの恐怖心がそうさせた……意志とは関係なく気づかせてしまったのであるっ……!



G「はぁはぁ……こんなところで死ぬわけがないざんすよっ……!」

伊織「~~~!!」ゾゾゾゾゾ

G「これを逃げられれば勝ち……! 必勝ざんす……! 必勝っ……!」カサカサ……

伊織「や、やややややよいやよいやよいやよい!!!」

やよい「むにゃ?」

伊織「で、出たのよ! あれが! 助けて!」

やよい「もやしですかぁ……?」

伊織「違うの! ゴキブリ! ゴキブリっ!」

やよい「ふえ? どこですかー……?」

G「くくく……! 逃げ切れるざんす……! 逃げ切れるざんすよ……!」カサカサ

伊織「あれ! あそこあそこぉ!」

やよい「……」

ヒュッ ガシッ

G「え?」

伊織「え?」

ガラッ ポイッ

シーン……

やよい「ふぁぁ……もーねましょー……」フラフラ

伊織「」ポカーン



――翌朝

ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!! ガチャン!

長介「うーん……今日はやらせないぞ……」バタ

伊織「うう……ぜんっぜん寝れなかったわ……」

やよい「おはよーございまーすー」

伊織「やよい、手を洗いに行きましょう」

やよい「うー?」

伊織「いいから。手を洗いに行きなさい。今すぐ。命令よ」

やよい「あい」

~高槻家で過ごすいおりんのバカンス・四日目~

伊織「ねむ……」ウツラウツラ

長介「伊織姉ちゃん、今日はお昼どうするの? もうおかずなんにも残ってないよ」

伊織「うーん……素麺でも食べればぁ……?」

長介「素麺? そんなのうちにないよ」

伊織「むにゃむにゃ……ならこれで買ってきなさいよね……」ピラ

長介「なにこれ? 千円もくれるの?」

伊織「一万円よ……ついでにおやつでも買ってきなさいよ……」コクリコクリ

長介「うっえ……ゼロが一つ多い……こんなの初めて見た……」

――スーパーにて

長介「やばいよやばいよ……なんで俺こんな大金持ってるんだよ……」ドキドキ

店員「はいはい、激安ハナマルスーパー本日のご奉仕はなんと和牛ステーキ!」

長介「!!」

店員「本日限りの大特価! 150gの国産牛肉がなんと一枚500円!! 500円でのご奉仕です!!」

長介「や、安いのかなあれって……えっと、一人500円が八人だから……よ、四千円……!」

店員「品切れ次第終了ですよ! さぁさぁお買い得! タイムサービスですよー!」

長介「う……おいしそうだなぁ。でもアレを買いに来たんじゃないし……」

長介「……」ギュ

長介「……バカだな、なに迷ってんだよ俺……」スタスタ

シワシワシワシワシワシワ……

伊織「Zzz……んぁ」パチ

伊織「うわ、すっかり寝ちゃってたわね……あ、そういえば長介……」

長介「あ、起きた? 素麺買ってきて湯がいたから食べようよ」

伊織「……ああ、そうだったわね。あんたが自分で作ったの?」

長介「ほかにだれが作るのさ……」

伊織「他になにか買ったの?」

長介「……うん、まぁ」

伊織「なに?」

長介「そこのビニールにあるだろ。浩太郎たちと姉ちゃんたちにおやつ買ってきた。これおつり」

伊織「なによ、全然使ってないじゃない」

長介「使い道ないんだよ」

伊織「ふーん。まぁいいけどね。んじゃいただきまーす」

長介「うん」

――夜

やよい「ただいまー!」

伊織「おかえりなさい」

やよい「うん、伊織ちゃ……ん」

伊織「? どうしたの?」

浩太郎「~~!!」ジタバタ

長介「っくくくく……!!」ブルブル

浩司「あはははは!」

かすみ「あ、あの、やよいお姉ちゃん……」オロオロ

伊織「なんかさっき寝て起きたらみんなの様子が変なのよね。どうかしたのかしら?」

やよい「っくく……ごほんごほん! あ、あのね伊織ちゃん……」

伊織「なぁに?」

やよい「か、鏡見てきて……! くくっ……!」サッ

\イヤアアアアアアアアァァァァァァァ!!!!/

長介「あはははははは! だ、ダメだもうがまんできない!!」

浩太郎「あははははははは!! おでこに肉ついてるー!」

伊織「誰よぉ!! この伊織ちゃんのキュートな顔に『肉』って書いた不届きものはぁ!!」

かすみ「あの、シワもできてるよ」

伊織「知ってるわよぉ! しかも水で落ちないじゃないのコレ!! アイドルの顔になんてことしてくれんのよ!」

やよい「もう……浩司と浩太郎の仕業でしょ。二人とも今日は晩御飯抜きだからね!」

浩太郎「えー! やれって言ったの長介兄ちゃんだもん!」

長介「ば、バカいうなよ! 俺は肉の字を教えてやっただけで……」

伊織「あんたも共犯よ!!」

やよい「三人とも晩御飯抜きですっ!」

「「「ええ~っ!!」」」

――深夜、子供部屋

伊織「はぁ、ひどい目に会ったわ」

やよい「ごめんね、私からちゃんと言っておくから」

伊織「あんたの手を煩わせるまでもないわよ。この伊織ちゃんが直々に引導渡してやるわ……ひひひ」

やよい「……」ニコニコ

伊織「……な、なによにこにこして。突っ込みくらい入れなさいよね」

やよい「ううん。伊織ちゃん、最近毎日楽しそうだから」

伊織「ま、まぁ退屈はしてないけどね。あいつらのおかげで」

やよい「よかったぁ。伊織ちゃんが笑ってくれてたら私も嬉しいんだぁ~♪」

伊織「……ありがとね、やよい」

やよい「う?」

伊織「ううん。さ、寝ましょ。今日は久しぶりにゆっくり寝られそうだわ」

やよい「うん!」

~高槻家で過ごすいおりんのバカンス・五日目~

伊織「う~、何日経ってもあの目覚ましだけは慣れないわね……さてと」

長介「……」

浩太郎「伊織おねーちゃん怖い」

浩司「こあい」

浩三「だー」

かすみ「浩三はこっちにいようねー」

伊織「昨日はよくもやってくれたわね。罰として今日は私の言うことを聴いて貰うわよ」

長介「はい……」

浩太郎「×?」

浩司「ばっつー」

伊織「そうねぇ……じゃあまずは――」

シワシワシワシワシワシワ
ミーン ミンミンミン ミーン……

伊織「今日もあっついわねぇ……ちょっと長介、もっとしっかり煽ぎなさい」

長介「あい」パタパタ

浩太郎「んとねぇ、ここがみんなで遊んでた川だよー」

伊織「やよいも小さい頃ここで遊んでたの?」

長介「うん。ふたりでカニとかメダカとか探してたよ」

伊織「手ェ」

長介「あい」パタパタ

かすみ「わたしたちもたまに遊びにくるんだよ。浩司はまだ危ないからダメだけど」

浩司「んー!」

伊織「へー。でも気持ちよさそうねちょっと川岸まで降りてみましょうか」

浩太郎「つめてーつめてー!」ジャブジャブ

浩司「うきゃー!」

長介「あーあーまたクツ濡らしたな……まいっか」

伊織「……手ェ!」

長介「あい」パタパタ

伊織「ちがうわよ! 手ぇ持ってて!」

長介「え!? わ、わかったよ」

伊織「ちゃんとレディーを掴んでなさいよ?」

長介「う、うん」

伊織「よいしょ……ひぃ、なかなか冷たいわね。でも気持ちいいじゃない! にひひ」

長介「気を付けてよ。岩とか結構滑るから」

伊織「わかってるわよ。ここってホントにカニとかいるの?」

長介「いるはずだよ。ちっちゃいけど」

伊織「ふーん。あ、これがメダカ?」

長介「ん? うん、そう」

伊織「へぇー、ちっちゃいわね」

長介「……こんなんでいいの? 『どこかへ遊びにつれていけ』って」

伊織「いいじゃないの。ちゃんと遊べるわよ」

長介「伊織姉ちゃんはこんな場所つまらないって言うかと思った」

伊織「なんでよ。むしろこういう場所にこそ行きたいわよ。華やかな観光地なんか行き飽きたしね」

長介「そんなもんなんだ」

伊織「そんなもんよ。あ、あれもしかしてカニじゃない?」

――夜

やよい「うっうー! ただいまぁ!」

伊織「おかえりやよい! 準備はできてるわよ!」

やよい「ほぇ?」

長介「おかえり姉ちゃん。お米ももう炊いてるから、あとはアレだけだよ」

やよい「あ、もしかして伊織ちゃん知ってたの?」

伊織「あったりまえじゃないの。木曜は週に一度の……」

「「「もやし祭りだもんげ!」」」



やよい「いえーい! それではみなさんお待ちかね、もやし祭りを開催しまーす!」

「「「「「わーい!!」」」」」

伊織「ホント、これだけは舌の肥えた私でも待ち遠しいのよね!」

やよい「えへへ、高槻家の名物ですからねー!」

伊織「あー、食べたわぁ」

やよい「伊織ちゃん、食べてすぐ寝たらお行儀悪いよー?」

伊織「家では縛られてるんだからたまにはいいじゃない」

浩太郎「食べてすぐ寝たら牛になるんだよ」

浩司「うしー」

伊織「ほー、言うに事欠いてこの伊織ちゃんが牛になるですって? そんなの天地がひっくり返ってもあるわけないじゃないの」

やよい「ホントに牛さんになっちゃうんだよー? みんなは伊織ちゃんのマネしちゃダメですからねー」

長介「あーい」

かすみ「はーい」

伊織「ぐぬぬ……はいはい、わかったわよ! やよい、これこのままそっち持っていくわよ!」カチャカチャ

やよい「えへへ、ありがとー」

伊織「はぁ、いつまでたってもやよいには敵わないわ……」

――夜

伊織「さーて、そろそろ私もお風呂入ろうかしら」

長介「あ、伊織姉ちゃん」

伊織「あら長介。なに、お風呂覗くつもり?」

長介「ち、ちがわい! 宿題見てほしいんだよ!」

伊織「ああ、そういえばあれから全然進んでなかったわね。自分で進めたの?」

長介「ま、まぁちょっとは……」

伊織「仕方ないわねぇ姉弟そろって……」

長介「う、うるさいなぁ」

伊織「――で、どこ?」ファサッ……

長介「っ……!」

伊織「? どこがわかんないのよ」

長介「あ、え、えええっと、このページの三問目……」

伊織「ああ、これね。一見難しいけど式さえわかれば簡単よ。こっちの例題とおんなじようにね……」

長介「(伊織姉ちゃんいい匂いだなぁ……)」

伊織「で、あとはこの答えをそのまま……ちょっと、あんた聞いてんの?」

長介「うえ? き、聞いてるよ」

伊織「ホントでしょうね。ならこれでできるはずよ」

長介「う、うん。あの、それから……」

やよい「――伊織ちゃんいるー?」

伊織「やよい? まだお風呂入ってなかったの?」

やよい「うん……明日お休みだから、宿題しようと思って」

伊織「わからないから聞きに来たと」

やよい「えへへ……」

伊織「どこまで似てんのよあんたたち……んじゃ長介の分はこれで終わりね。後は自分で頑張りなさい」

長介「ちぇ……わかったよ」

やよい「長介、先にお風呂入ってていいからね」

長介「はーい……」

長介「(もうちょっと勉強したかったなぁ……)」

チッ……チッ……

伊織「――すると最後の式と前の式をくっつけられるようになるわけ。ここまではい……」

やよい「zz……」カクンカクン

伊織「……はぁ。仕事終わってからも頑張りすぎなのよあんたは。よい、しょっと……」

伊織「……軽いわね。この体になんであれだけの元気が詰まってるのかしら」

やよい「んにゃ……長介……浩司みたげて……」

伊織「家族の力、ってやつかしらね。よいしょ……」ソーッ

やよい「んむゆ……」

伊織「……おやすみやよい。ちゃんと休んでね。体壊したら承知しないんだから」



――翌朝

ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!

伊織「あああああいっ!!」ガチャン!

伊織「さぁおきなさいあんたたちーっ!!」シャッ

長介「うぎょえええええ!!」

~高槻家で過ごすいおりんのバカンス・六日目~

やよい「うっうー! 今日は私もお休みですよー!」

伊織「あらそうなの。久しぶりにのんびりできるじゃない」

やよい「ところがそうもいかないんですー」

伊織「?」

やよい「しばらくおうちを掃除してなかったから、今日はお掃除しなくちゃ! 晩御飯までに終わらせなくちゃいけないから急がないと―」

伊織「どうして晩御飯までに片付けなきゃならないの?」

やよい「だって、今日で伊織ちゃんのお泊りは最後でしょー? せっかくだから、みんなでゆっくりご飯にしたいなーって……」

伊織「やよい……そうね。それじゃあ私も今日は張り切って手伝うわよ!」

やよい「うっうー! それじゃ伊織ちゃん、せーの、はいたーっち!」

「「いぇい!!」」

ウイイイィィィィィーン

浩太郎「うひゃー掃除機だ!」

浩司「ひゃー!」

伊織「はいはい危ないからどきなさい」

かすみ「伊織お姉ちゃん、こっちにある洗濯物テーブルに置いとくね」

伊織「ありがとかすみ」ガガガガ……

やよい「長介ー? 二階のお布団干せたー?」

長介「干したー」

やよい「じゃあバケツに水汲んで二階の窓拭いてくれるー?」

長介「はーい」

伊織「この家はみんな働き者ね……うちの使用人たちも毎日こんなにがんばってるのかしら」

やよい「伊織ちゃん、下が終わったら二階もお願いしまーす」

伊織「はいはーい」ガガガガ……

――数時間後

伊織「っくあ~、やっと終わったわね!」

やよい「ふう。家中掃除するのは一苦労なんだけど、伊織ちゃんがいてくれたら早く終わるね」

伊織「みんなもちゃんと頑張ってたじゃないの」

浩太郎「頑張った!」

浩司「た!」

浩三「たー」

かすみ「がんばりました!」

長介「つかれたぁ……」

やよい「私もちょっと疲れちゃったかなぁ……肩が痛いかもー」トントン

伊織「……それじゃ、今日は外に食べに行きましょうか」

やよい「ええ? どうして?」

伊織「だって今から買い物行ってたら遅くなっちゃうし、やよいもそんなんじゃ遅くなっちゃうでしょ?」

やよい「うー、でもお金……」

伊織「んなもん私が出すわよ。一週間お世話になったお礼にね。ちなみにこれはもう決定事項だから、異論は認めないわよ? にひひっ」

長介「え、ご飯食べに行くの?」

浩太郎「牛丼?」

伊織「そんなケチ臭いことしないわよ。まぁあんまり高いところだとみんな気を遣うでしょうから、庶民的なファミリーレストランってとこね」

やよい「ほ、ほんとにいいの?」

伊織「たまには私にごちそうさせてよ。これでもあんたたちには感謝してるんだからね」

かすみ「ありがとう伊織お姉ちゃん!」

伊織「これくらいどうってことないわよ」

やよい「えへへ……ちょっと、楽しみかも」

――某ファミレス

カランカラン……

店員「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

伊織「えっと、七人で子供が四人でお願い。空いてるかしら?」

店員「は、はい。ではあちら窓側のお席へどうぞ」

浩太郎「うわ~レストランだぁ!」

浩司「わーい!」

かすみ「ふたりともあんまり騒いじゃダメだよ。いっぱい人がいるんだからね」

浩三「だー」

長介「浩三もな」

伊織「さ、今日はみんな遠慮せずに好きなもの食べていいわよ。どうせファミレスだしね」

やよい「うわー……なんだかこういうところすっごく久しぶりかも~」

伊織「やよいもこういうところへ来たことないの?」

やよい「うん……ちっちゃいころに、一回だけお父さんとお母さんと来たことあるんだぁ」キョロキョロ

伊織「(やよいまで反応が初々しいわね……)」

伊織「ま、今日はやよいも遠慮しないで好きなもの頼みなさい。たまには羽目外したって罰は当たらないわよ」

やよい「う、うん。そうだよね……えへへ」ワクワク

浩太郎「ボクお子様ランチー!」

浩司「らんちー!」

かすみ「私オムライス!」

長介「えっと……じゃ、じゃあ俺はこの……いや、うーんでもなぁ……」

伊織「値段で悩むことないわよ。食べたいもの食べなさい」

長介「い、いいの? ……じゃ……ス、ステーキセット」

伊織「いいチョイスじゃない。やよいは?」

やよい「うん……私はこれにしようかなーって」

伊織「……チキンライス? なによ、一番安いヤツじゃない。遠慮しないでいいのよ?」

やよい「ううん、これが食べたいの。私が初めてレストランに連れてってもらった時に食べたのがこれだから……懐かしいなーって」

長介「……」

伊織「そう……ま、それがいいなら構わないけどね。んじゃ注文するわよー?」



――十数分後

店員「お待たせしましたー、サーロインステーキセットでございます」

長介「うおお……いい匂い」

店員「ご注文は以上ですべてお揃いですか?」

伊織「ええ、ありがと」

浩司「うきゃー♪」

浩太郎「おいしそー! いただきまーす!」

かすみ「わーい!」

伊織「もう、みんなものすごい勢いなんだから」クス

長介「う……うまい……! これが肉なんだ……」モグモグ

やよい「よかったね長介ー!」

伊織「やよいのそれ、おいしいの?」

やよい「うん、おいしいよ! すっごく懐かしい味がするんだよ~」モソモソ

伊織「ふーん……そんなものなのかしら」

長介「……これ、やよい姉ちゃんも一口食べなよ」

やよい「え? いいよ、せっかくなんだから長介が食べなよ!」

長介「いいから、美味いから食べてみろって」グイ

やよい「あもむ……むぐむぐ」

長介「な? 美味いだろ?」

やよい「……う、うん。おいしいね」ポロポロ

伊織「!? ちょ、やよいそんなに泣くほど?」

やよい「ううん……おいしいけど……こんなにおいしいものを分けてくれる長介がね、すっごくやさしいなーって……うう~」ボロボロ

長介「ば、バカ泣くなよ! 美味いなら喜んどけばいいじゃんか!」

やよい「うん……そうだね。ありがと長介」

かすみ「お姉ちゃん、私のも食べるー?」

浩太郎「ウインナーあげるー!」

浩司「あげる!」

伊織「あらまぁ。もう、そんなに言ったらやよいのチキンライスがしょっぱくなっちゃうじゃないの」

やよい「ううー……みんなありがと~」ボロボロ

伊織「(まったく……ホントにいい家族だわ。掛け値なしに)」

――夜

伊織「……みんな帰ってくるなり寝ちゃったわね。よっぽどお腹いっぱい食べたのかしら」

やよい「みたいだね。今日はホントにありがとう伊織ちゃん」

伊織「こっちこそ、お金で買えないものいっぱいもらったわよ。やよいが塩辛いチキンライスしか食べられなかったのは残念だけど」

やよい「う~、だって仕方ないんだもん~」

伊織「泣き方がやよいらしいわよね。にひひっ」

やよい「……明日で伊織ちゃんも帰っちゃうんだねー」

伊織「別に金輪際のお別れってわけじゃないでしょうに。いつでも事務所で会えるじゃない」

やよい「うー、そういうことじゃなくって……」

伊織「あんたの言いたいことぐらいわかってるわよ……この一週間、すっごく楽しかったわ。世界中のどんなところに行っても、ここより素敵な場所はないくらいにね」

やよい「伊織ちゃんが楽しんでくれて本当によかったなぁ。私もとーっても楽しかったよ!」

伊織「ま、いつまでもお邪魔してるわけにもいかないしね。離れてたって、私はやよいの……家族なんだから。これは本当」

やよい「うん……そうだね」

伊織「……またきてもいい?」

やよい「えへへ、毎週来てくれたっていいんだよ?」

伊織「それなら木曜日ね」

やよい「もやし祭りだね」

伊織「やよいと一緒に食べなきゃ意味ないもの。絶対行くわ」

やよい「待ってるからね。いつでも」

伊織「ええ」

やよい「……おやすみ伊織ちゃん」ギュウ

伊織「うん。おやすみ」

――翌朝

ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!

伊織「最後の一投ォ!!」ガチャン!

伊織「さっさと起きなさいあんたらー!!」シャッ

長介「ウボアアアアアアアアア!!」ゴロゴロ

伊織「……あら、やよいは?」

\イオリチャーン アサゴハン デキテルヨー/

伊織「は、早いわね……」



伊織「それじゃ、長い間お世話になりました」ペコリ

やよい父「全然顔もあわせられなくてごめんね。またおいで」

やよい母「家の子達もすっかり世話になったみたいで。うるさかったでしょう」

伊織「そんなとんでもない! とっても……楽しかったです」

~高槻家で過ごすいおりんのバカンス・最終日~

伊織「それじゃ、帰る途中でやよいを事務所まで送っていくから」

かすみ「ばいばい伊織お姉ちゃん!」

浩三「だいあーい」

浩太郎「またきてねー!」

浩司「ねー!」

長介「……また、来てくれるよね?」

伊織「心配しなくても、またすぐに会えるわよ」

長介「え?」

伊織「それじゃ、あんたたち風邪ひかないで伊織ちゃんを応援してなさいよ! にひひっ」

やよい「それじゃいってきまーす!」

ブロロロロロ……

長介「……はぁ、いつ会えるのかなぁ。早く会いたいなぁ」

浩太郎「兄ちゃんゆーうつだね」

長介「うっせー!」

――リムジン車内

やよい「ねぇ伊織ちゃん、長介にもすぐ会えるって言ってたけど……」

伊織「ええ、すぐに会えるわよ。やよいの家族みんなまとめてね」

やよい「どーいうこと??」

伊織「あんた、確か明後日から三日間休暇でしょ?」

やよい「う、うん。そうだけど」

伊織「にひひっ。今度はあんたたちを水瀬家に招待してあげるわ。楽しみにしてなさい」

やよい「ええっ! そんなのいいの?」

伊織「あったりまえじゃない。だって――」

やよい「あ――」

伊織「私たち、みんなもう家族なんですから!」

やよい「……えへへっ、そーでした! それじゃ、伊織ちゃん!」



やよいお「「はいっ、たーっち! いぇい!!」」パァン


おしり

途中からやよいおか長いおかわからなくなってたけど、家族ってそんな感じ
保守ありがとう読んでくれてありがとう

よかった。よかったら過去に書いたアイマスSS教えて欲しい。

>>142

P「事務所にヤツが出た」

美希「ふーん、新しいプロデューサー?」

千早「甘えんぼプロジェクト……?」

貴音「ほぅ、くじ引きですか」

春香「千早ちゃん、みかんー」千早「もうないわよ」

とか書いてました

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom