橘(26)「七咲にプロポーズがしよう」(113)

おでん屋の屋台
七咲(25)「うちの上司、私が帰ろうとすると仕事を投げてくるんです。先輩との待ち合わせがあるのに……」

橘「ははは……」

七咲「しかもですね、何かあるごとに嫌味を!この前も『どうせ結婚する相手もいないんだろ』だとか」

七咲「余計なお世話ですよ。私には先輩がいるんですから」

橘「そうだね……ははは」

七咲「まあ確かにそろそろそういう時期かも知れませんが……」ボソボソ

橘「逢らしいセリフだな」ハハハ

七咲「……」

橘「……笑いごとじゃないか」

七咲「別にいいですよ」

橘「…………なぁ、逢」

アアアアスレタイ誤字とかしにてえ

七咲「はいはい、なんですか?」

橘「あの…逢さえよければ……さ、来年あたり……ぼくと」

橘「けっこ……」

七咲「えっ……」

橘「……」

七咲「ふふっ、先輩、今……何か言いました?」

橘「あはは、ううん、今日はなんでもないや、はは」

七咲「…………はぁ」

橘「……」

七咲「すみません、私、ちくわと卵とこんにゃくをお願いします」

オヤジ「あいよお」

***
七咲「先輩、そろそろ帰りましょうか」

橘「ああ……そうだね」

橘「すみません、代金ここおきますね」

オヤジ「はいまいどお」

***
ガチャ
橘「ふぅ~寒い寒い」

七咲「先輩、私、お風呂にお湯入れてきますので暖房付けてきてください」

橘「分かったよ」

***
橘「ふぅ……冬場は寒くってはやく布団に包まりたくなるけどお風呂はやっぱり快適だよ」

七咲「あーちゃんと髪拭いてくださいよ。タオル貸してください」

橘「あっ、うん」

七咲「……」ワシャワシャ

橘「……」

橘「実は逢に髪を拭いてもらおうとわざと濡らしてたんだ」

七咲「えっ? 私に……ですか?」

橘「ああ、逢は髪拭くのうまいから。気持ちいいんだよ」

七咲「……はぁ、そういうものなんですか?」

橘「(こうしていると七咲は僕の頭を見て、僕は七咲の胸に近づけるしね)」

七咲「はい、できましたよ」

橘「ありがとう、逢」

橘「ビール開けようか」

七咲「はい、今日はお酒我慢しましたからねっ」プシュッ

ごくごくごく・・・

橘「っくはぁあー!」

七咲「っぷはぁあー」

橘「逢もよく飲むようになったよね」

七咲「初めて飲んだ時はなんでこんなものを好き好んで飲むのかわかりませんでしたよ」

橘「はははっ、僕もだよ」

七咲「それじゃあ、電気消しますよ?」

橘「うん」
ぱちっ

七咲「今日も一日お疲れ様でした。おやすみなさい」

橘「おやすみ、逢」

***
橘「(結局今日も言えなかったなあ……結婚)」

橘「(なんせ僕は年収がなあ……?ん?)」

橘「(別にそこまで悪くもないか……じゃあなんでだろう)」

橘「(僕はなんで勇気を出せないんだろうか……)」

橘「(まさか……!?本当は逢のことを愛していないから……!?)」

橘「(いやいや、それはないだろう)」

橘「(……でも一応ためしてみる必要があるな)」ムクムク

橘「……逢、起きてる?」

七咲「……はい」

橘「……」ジッ

七咲「……先輩、明日」

橘「明日?」

七咲「明日は日曜日ですし……その、」

橘「うん」

七咲「……いい、ですよ」カァ

橘「……」チュ

七咲「……ん」チュ

***
ギシギシ アンアン
橘「はっ、はっ、はっ、逢……っ!」パンパン

七咲「あっ、…せんぱ、い……っんあっ!」

橘「うっ、もうイきそ……ううっ」ビュー

七咲「……はい」

橘「……」ジッ

七咲「……先輩、明日」

橘「明日?」

七咲「明日は日曜日ですし……その、」

橘「うん」

七咲「……いい、ですよ」カァ

橘「……」チュ

七咲「……ん」チュ

***
ギシギシ アンアン
橘「はっ、はっ、はっ、逢……っ!」パンパン

七咲「あっ、…せんぱ、い……っんあっ!」

橘「うっ、もうイきそ……ううっ」ビュー

七咲「はぁっ、はぁっ、イっちゃったんですか?」

橘「はは……ごめん……」グッタリ

七咲「私まだイってない……」ボソ

七咲「今夜は寝かせませんから」

橘「うっ、」

七咲「……ぷふっ、冗談ですよ」

橘「……死ぬかと思ったよ」

すまんが七咲およびキャラとのイチャラブは少ない……と思う

***
月曜日
橘「(結局、あの雰囲気じゃますます勇気も出ず、結婚はおろかすぐに寝てしまったぞ……)」

橘「(ま、まさかこのままじゃ結婚できないまま歳をとって……)」

***
橘(75)「すっかり落ち葉も落ち切ってしまったのお……」ヨボヨボ

七咲(74)「先輩、そろそろ結婚、試してみてもいいんじゃないかねぇ…」ヨボヨボ

橘「うぐっ、逢さんや、ちょっと腰が痛くなったわい、揉んでおくれ」

七咲「はいはい、わかりましたよぉ…」
***
橘「なんてことに!!!」ガタッグラグラ

ガシャーン!バサバサーッ!

上司「だーもう!何やってんだ!仕事中だぞ!」

橘「うわああ、すみません!!」

***
橘「やあ」

梅原「へい、らっしゃい!……ってよお、大将!久々じゃねえか!?」

橘「ああ、たまには顔見にきてやろうと思ってね」

梅原「やっぱ大企業は忙しいのか?」

橘「むしろ逆で週休2日ある時だってあるくらいだよ」

梅原「そいつぁ、うらやましい!……じゃあたまには来いよ!」

橘「ははは、まあ今日来たってことで」

梅原「立ち話もなんだ。座れよ。なんでも好きなの頼みなー、なんとお冷ならおかわり自由!」

橘「奢ってくれるの?」

梅原「バーカ、んなわけねえだろ?こちとら商売でやってるんだぜ?」

橘「おお、このしめ鯖美味しいなあ」

梅原「へへっ、だろ?今は寒鯖が旬だからな」

橘「うんうん」モグモグ

梅原「そんで、どうせなんか話があって来たんだろ?こちらしめ鯖でございます」サッ

橘「はは、ばれちゃったか……ありがとう」

梅原「ったくしめ鯖以外頼まないつもりかよ?まあいいけど、話ってのは?」

橘「ああ……結婚ってどうなのかなあ、って」

梅原「結婚なあ……
あいつと一緒になってはっきり言って大変な時期の方が多かったってのが事実だなあ」

橘「香苗さんね、これまで喧嘩も結構多かったもんね」

梅原「まあな、この寿司屋のホームページを作る時になったときも……」

橘「はいはい、それこの前も聞いたよ。うーん、やっぱうまい」モグモグ

梅原「お前やたらとあいつの話を避けるよな?なんでだ?」

橘「うーん、なんというかむしろ避けられてるのはこっちって言うか……あ、しめ鯖お願いします」

梅原「……なんでだろうな?はいよ、しめ鯖…ってまたか!お前そんなに好きだったっけ!?」

橘「しめ鯖くらいじゃないとあとはサイフ的にちょっと……」

梅原「なんでまた給料日前のこの時期に来たんだ……。
でもよ、大将。俺ぁ、一度だってあいつと結婚したことを後悔したり『しなきゃよかった』って思ったことは無いぞ」

橘「……」

梅原「まずもちろん愛してるし、なにより俺にはもう家族しかねえ。色んなものをあきらめきったからな」

橘「あきらめ?」

梅原「ああ……そういや、言ってなかったっけか。
俺、香苗と付き合うことになる前に先輩にフラれたじゃねえか」

橘「うん、そうだったね。せっかく先輩に買ったイラスト燃やしたんだよな」

梅原「そうそうそれだ。男1人寂しく河原でなぁ……」

橘「で、それと何が関係あるの?」

梅原「まあ最後まで聞けよ」

梅原「あれから少ししてあいつと付き合って、俺は修行であいつは大学行って、そんで同棲するようになって……」

梅原「結婚を考えるって瞬間まで消えてなかったんだ……先輩への想いが」

橘「…………」

梅原「香苗との思い出っつうデカいダンボールが俺の部屋を埋めていって
すっかり先輩との思い出なんて薄いファイルつぶれて無くなってるもんだと思ってたんだがな」

梅原「それで、俺は先輩をどう思ってるのか確かめたくて会いに行ったんだよ。先輩に」

橘「えぇ!?先輩に直接!?」

梅原「俺はそうするつもりだったが……あいにく先輩の連絡先すら知らなくてな」

橘「剣道は幽霊部員だったうえに途中でパソコン部に乗り換えちゃったからね」

梅原「うるせい!……まあその通りだ。そんで俺は学校に行った。へい、しめ鯖お待ち」スッ

橘「輝日東に?ありがとう」

梅原「ああ、正確には学校の通学路……つまりは剣道部のランニングコースだ」

梅原「そこで走ってる高校生を眺めてたら剣道部を指導してる先生らしき人がいてな?」

橘「あの怖い人?」

梅原「ところがどっこい、それが違うんだ。いたのはあの先輩だった」

梅原「あれからあの先輩は大学に行って教員免許とって学校で剣道を教えてたらしい」

橘「すごい偶然だね。ダメ元で行ったランニングコースで出会えるなんて」モグモグ

梅原「話してみたら昔とおんなじでさあ……俺のことなんて全然覚えてなかったんだけどな」

橘「幽霊部員だもんなあ」

梅原「……俺が初めて部に行ったときと同じように優しく接してくれた、高校の時よりきれいになってた」

梅原「……でも、何か違ったんだ。魅力はあるんだが引き込まれないっつうか」

橘「昔とおんなじじゃないのか……?」

梅原「わからない、変わったんだとしたらやっぱりそりゃ俺だろ?」

梅原「それで分かったんだよ」

橘「全然わからないから教えてくれ」

梅原「昔とその時とで先輩への俺の視方が変わってた」

梅原「ようするに『俺は先輩を好きじゃなくなってた』ってこった」

梅原「結局、思い出補正だとか、溺愛してたっていう過去のおかげで轢きずってただけだったんだよな」

梅原「とっとと思い出ファイルは片づけて、プロポーズしたよ」

橘「そうか……」

梅原「おう、どうだ?長い昔話」

橘「とてもためになりました」

梅原「そいつぁ、良かった。お前はどうするんだ?」

橘「逢……七咲と、結婚を考えてはいるんだけどさ」

梅原「勇気が出ないのか?」

橘「お前はなんでもわかるな」

梅原「へへへっ、七咲より付き合いは長いんだぜ?」

橘「はいはい、ホモは帰ってくれ。というか僕が帰る」

梅原「っかーっ!厳しいねぇ!まいどありがとうございましたっ!」

橘「あのさ」

梅原「ん、どうした?マグロでも食うか?いいのが入」

橘「また何かあったら報告するよ」

梅原「……ああ、そうか。頑張れよ、橘!」

ガラララ

梅原「…………」

梅原「……あれを乗り越えたお前なら、なんも怖いもんはないぜ」


憧れ……

諦め……

もし梅原と僕が今同じ状況なのだとしたらきっと

僕が諦められてない人がいるはずだ

きっとこれは壁なんだろう

これを突破できない僕には

おそらく逢と幸せな家庭を築き上げることはできない

…………

いつかもこんなことが……

***
七咲「おかえりなさい、先輩、お疲れ様です」

橘「ただいま、逢。おつかれ」

七咲「今日は遅かったですね?」

橘「ちょっと梅原と久々に話に言ってたんだ」

七咲「梅原先輩?」

橘「うん、人生相談……とか」

七咲「梅原先輩は私よりずっと長くいたし男の人だから私のわからないこともわかったりしますし……少しうらやましいです」

橘「何言ってるんだよ逢、僕は逢といられるだけで心が安まるし梅原といたって体力使うだけだよ」

七咲「もう、そんなこと言っちゃだめですよ?梅原先輩がかわいそうです」

橘「ははは、そうかな?」

七咲「……あんまり考えなくていいですからね?」

橘「……なんのことだろう」

七咲「電気消しますね」

橘「うん」

ぱちっ

七咲「それでは先輩、おやすみなさい」

橘「おやすみ、逢」


zzz

***
上司「今日は大丈夫か?」

橘「はい、色々悩み事があったんですけど、ある程度はやるべきこともわかり、考えが固まってきたので」

上司「お前は俺より一つ下なのにご立派に悩み事持ってるとはねえ。うらやましい限りだよ」

上司「……まあ足をひっぱらなければなんでもいいけどな。
今日は例の合併した起業の相手さんのとこに行くから。気ぃ引き締めていけよ?」

橘「はい!」



上司「失礼します」

橘「失礼します!!!」

??「どうぞどうぞ、おかけになってください」

橘「……って先輩!」

森島「あ……橘クンじゃない!」

上司「あれ、お前お知り合いか?」

橘「はい、同じ高校だったんですよ」

森島「久しぶりねー……あ、今は仕事だった……コホン」

森島「私が株式会社ワンドッグスの部長兼、他分野開発部門リーダーの森島はるかです」

上司「えー、私が……」
***
森島「そこは譲れませんね……。この分野はまだまだ発展の余地がありますし、我が社の推し進めていることですから」

上司「それは非常によくわかるのですが……」

森島「これほどの会社同士の合併なんていうのはお金だけではない、トラスト……信頼でなりたつものだと思い……」

***
橘「ではここに関しては取締役会の決定にゆだねるという方向でよろしいですか?」

森島「そう……ですね」

上司「ありがとうございました」

森島「本日はお手数とお時間をいただきありがとうございました」

上司「はい、それでは」ガチャン

橘「それでは、森島さん僕もこれで……」

森島「橘くーん、もう仕事終わったんだからあー」

橘「も、森島先輩……?」

森島「ね、今日どっか飲みにいこうよ!いいでしょ?」

橘「え、ええ、えっと今日ですか……」

橘「(なんだろう、当時と雰囲気は似てるけど……少し変わったな)」

橘「(これが梅原の感じた感覚なのかな?)」

森島「わかった、彼女と待ち合わせね!」

橘「待ち合わせとかじゃないんですけどね」

森島「そうなの?じゃあ駅前公園で19時にね」

橘「えっ、ちょっ」

森島「それじゃー!」タタタタッ

橘「うーん、森島先輩ってあんな感じだったよなあ……あまり魅力に感じないよ」

橘「その……めんどくさそうというか……」

***
森島「ごめんごめーん!」

橘「先輩、遅いですよ?」

森島「時間いっぱいあったからペットショップ見て回ってたらこんな時間になっちゃって……」

橘「まあいいですよ、どこに行くんですか?」

森島「そこそこ!そこの居酒屋ー」

橘「(外は寒いんだから居酒屋集合でよかったような気がするぞ)」

橘「じゃあ行きますか」

橘「先輩、大学出てからワンドックスに就職してたんですね」

森島「うーん、なんていうか……親のコネ?」

森島「私、ほんとはアニマルトレーナーになりたかったんだけどパパもママも『一度社会に出なさい!』って聞いてくれなくて」

橘「なるほど……でも仕事っぷりはすごかったですよ!」

森島「ふふ、そう? ありがとう」

橘「はい、高校の時よりも大人っぽくなって……」

橘「(色んなところが……)」ゴクリ

森島「えー、私高校生の時もしっかりしてたでしょ?」

橘「ええっ、先輩僕にくれたタオルの存在忘れたりしっかりっていうより天然というか……」

森島「あれ?そうだっけ?忘れちゃった」ニコニコ

橘「(うーん……やっぱり接しづらい)」

橘「(昔はすごい憧れてたのになあ……)」

橘「(これじゃどこにでもいる面倒な女の人だよ……)」

森島「どうしたの?顔色悪いけど」

橘「(そうか!わかったぞ)」

橘「すみません、体調が悪いみたいで……」

森島「そうなんだ……私も体調悪いかも」

橘「そうなんですか?それじゃ今日はもう」

森島「ねー、どこかで休んでいかない?」グイッ

橘「っっ?!?!」

森島「ホテルとか、さぁ……」

橘「な、何言ってるんですか!?!!」

橘「だ、だめですよー!!失礼します!」ダダダダッ

森島「あーんもう!橘クンのいけずー!」

橘「ふう、今のでわかったよ……高校生の時は森島先輩のことが好きだったんじゃなくて」

橘「高校生なのに大人な雰囲気だったから気になっただけだよきっと……」

橘「でなきゃ包容力もない女性に魅力は……」

橘「やっぱり僕には七咲しかいないもんな」

橘「七咲はもう帰ってるだろうな……」

***
橘「ただいまー」

七咲「おかえりなさい先輩」

橘「あーおつかれさま」

七咲「今日は遅かったですね?」

橘「うん、仕事で森島先輩と一緒になってー」

***

七咲「先輩、ちょっと酔っちゃいました……」

橘「布団敷こうか」

七咲「待ってください先輩、このままで……」ナデナデ

橘「ちょっ、七咲どこ触っ」

七咲「いいじゃないですか先輩…酔っぱらってるので仕方ないんです」

橘「でも明日は仕事でしょ?」

七咲「何も問題ありません。私、先輩のことが大好きですから」

***
七咲「んっ、ふぇんぱい、んんっ、ひもひいでふか?」ジュポジュポッ

橘「うっ、くっ、ああ、すごく……」

七咲「いふでも…んっ、だひてくだひゃいね」ジュポジュポ

橘「いつの間にそんなにうまく……くあっ」ビュッ

七咲「・・・・・・・・(ごくん)・・・ぷはぁ」

***
橘「どうもすみません……」ペコペコ

上司「どうしたんだおい……最近またミスが増えたぞ」

橘「はい……」ペコペコ

上司「とりあえず今日はもうこれだけでいいから終わったら帰れ」

橘「申し訳ないです……」ペコペコ

***
橘「ふぅ……やっと終わった」

橘「今日も遅くなっちゃったな。七咲帰ってるかな?」

橘「最近サビ残多くてつらいなあ……」

橘「はやく色んな悩みを払おう。気持ちは決まってるんだから」

**
七咲「どうもすみませんでした」ギロッ

上司「あーもうまたその表情。あなた本当に私が嫌いなのねえ」

七咲「(好きになれるわけないですよ……)」

七咲「そういうつもりではなかったのですが……すみません」

上司「何考えてたのか知らないけど……そんなこと言ってると本当に婚期逃すわよ?」

上司「まああなたがどうなっても構わないけど……それじゃあとこれよろしくね」ドサッ

七咲「はぁ……」
***

七咲「先輩もう帰ってるかなあ……」

七咲「先輩、ゆっくりでいいですからね」ニヤニヤ

七咲「あっ」

七咲「(先輩のこと考えるとついにやけちゃう……)」

***
橘「やっとアパートについたよ……駅から少し遠いから疲れちゃうなあ」

 「先輩は運動しなさすぎなのでこれぐらいでいいんです」

橘「えっ!?」

七咲「おつかれさまです先輩」

橘「はは、逢か。びっくりした。タイミング良いね。おつかれさま」

七咲「とりあえず部屋、入りましょうか」

橘「そうだね、寒いし」

***
prrrrr
橘「あれ、誰だろ……」

橘「はい」

美也『にーに!お久しぶりだね!!』

橘「あれ、美也か?携帯電話買ったのか」

七咲「(美也ちゃん!)」

美也「うん、やっと仕事の方も落ち着いたからねー」

橘「そっかそっか。それで今日はどうしたんだ?」

美也『あのねあのね!お父さんが腰痛めちゃってさ』

橘「それは一応手紙で見たけど……?」

美也『ううん、えっとね、みゃーが出張でお母さんも忙しいみたいでね』

橘「うん、落ち着いてゆっくり話してみろ。深呼吸して」

美也『うん、わかった』

すぅー はぁー すぅー はぁー

美也『それで、おうちが大変だからちょっと戻ってきてほしいの』

橘「えぇっ!そっか、そりゃ大変だな。明日の晩とかで大丈夫か?」

七咲「??」

美也『みゃーが明後日から出張だから明日ならちょうどいいかな』

橘「うん、わかったよ。また連絡する」

美也『にしし、お土産はまんまにくまんでいいのです』

橘「なんのお土産だよ……」

橘「かくかくしかじかで……」

七咲「なるほど……寂しいですけどそれなら仕方ないですね」

橘「出勤時間とか間に合いそうなら一緒に来てくれても……」

七咲「いえ、今は良いです。仕事も大変ですし」

橘「(今は?)」

橘「そっか、ごめんね。何かあったらすぐに連絡してよ」

七咲「ふふっ、わかりました」

橘「帰省の準備して寝ようかな」

七咲「あ、手伝います」

***
橘「さて、今日は実家の方に帰るんだよな」

橘「なんでこういう日だけ残業無いんだろ……七咲といれる日に残業が無ければいいのに」

橘「えっと確かこっちの電車でいいんだよな」

***
橘「ふう、懐かしい景色だなあ」

橘「仕方ない、何か適当に買って行ってやるか」

橘「……お、あんなところににくまん屋さんが」

橘「ごめんくださーい」

「おっ、意気のいい兄さんじゃないか!って」

橘「夕月先輩」

夕月「ああ……あんたか、いらっしゃい」

橘「(なんだか一気に冷たくなったな)」

橘「先輩ここではたらいてらっしゃるんですか?まんまにくまん4つお願いします」

夕月「あいよ、ほらさっさといきな……」ギロッ

橘「(あれれ……嫌われてるのか……?)」

***
橘「ただいまー」

美也「あっ、にぃに!おかえりなさい!」

橘「ほら、これでいいか、っていうかなんでもいいんだろ」ドサッ

美也「やったー!まんまにくまんだ!にししし」

***
翌朝
美也「そんじゃにぃに!ちゃんと戸締りとかしてね!」

橘「分かったよ。仕事で遅くなるかもしれないのは一緒だけど」

美也「それじゃ、行ってきます!」

橘「はいはい、いってらっしゃい」



橘「僕も早く準備しなきゃな。いつもより早く出ないと間に合わなそうだ」

***
橘「……で今日も早く仕事が終わっちゃったな」

橘「せっかくだし七咲に告白した『あの場所』に行ってみようか」

橘「……気持ちの整理もできるかもしれないしな……」

***
丘の上の公園
橘「………………」

橘「…………すっかり変わってるなあ」

橘「家の近くの橋もそうだけどこの町も帰ってくるたびに形を変えてる……」

橘「……七咲への気持ちは変わってないよな?」

橘「…………」


 「あれ……橘君……?」

橘「…………君は……」

橘「(そうだ、信じたくないけど、まだ僕にはひきづっている可能性がある人物がいた……)」

槇原「久しぶりだねー!13年ぶりくらい?」

橘「槇原さん……」

***
槇原「んーなんか優れない顔じゃん?」

橘「(引きずっているとしたら槇原さんの存在じゃないか…?)」

橘「(だとすればあの時の話をちゃんとすれば良いかもしれない)」

槇原「橘君?」

橘「ああ、槇原さん。ひさしぶりだよね。元気にしてた?」

槇原「まあ、かなり良い感じだよー」

橘「そっか、元気そうでなによりだね」


槇原「橘君は今、どこで何してるの?」

橘「エンターブレインって知ってるかな? そこで働いてるんだ」

槇原「え、エンターブレイン!? す、すごいんだね…あのゲーム会社に」

橘「たまたま運が良かっただけだよ」

槇原「へぇ…。私が去年まで4年間付き合ってた彼氏なんて派遣だったよ。年上なのに」

橘「会社はどこであれそこで何が出来たか、が大事なんだ。
どの職場の人も誇りを持って良いはずだけどな」

槇原「いやーでもやっぱ旦那に安定は求めちゃうよねー」

槇原「……ってかさ、橘君。その……」

橘「何?」

槇原「なんでそんな平気な顔してるの?」

橘「え?」

槇原「……あのさ、私との約束破ったよね? 中3のクリスマス」

橘「(ど、どういうことだ?)」

槇原「もっと申し訳無さそうに…とか嫌そうな顔すると思ったんだけど」

橘「うーん、ちょっと待って。僕はむしろ約束を破られたつもりでいたんだけどな……」

橘「10年以上前のことだし良く覚えてないんじゃない?」

槇原「そんなことないと思うけどな…私結構長い間待ってたんだよ?映画館で」

橘「……映画館で?」

槇原「うん、あなたが『移動時間を短縮したいから映画館集合』って言ったんじゃん」

橘「……それはないよ。僕はデートの道順とか色々……」

槇原「色々?」

橘「…………………………………………」

槇原「??」

橘「いや、やっぱりいいや。これを究明することを必要に感じないんだ」

槇原「……? つまりどういう……?」

橘「槇原さんが納得できるように解釈してくれて構わないよ」

槇原「ふうん……」

槇原「………………………………」

橘「………………………………」

槇原「ねえ、橘純一君」

橘「何?」

槇原「(収入結構いいみたいだし落としちゃおっと)」

槇原「(いつもみたいに相手の腕を両手と身体を使って抱き込んで……)」

槇原「私と付き合ってみない?私たち結構良いと思うんだけどな」グイッ

橘「うわっ」

槇原「最近すごく『溜まってる』のよね……」チラチラ

橘「(急に顔近づけて…うわあ、槇原さんって結構スタイルいいんだな…)

橘「(コートの上からでもわかるよ…)」

橘「……」ゴクリ

 「だめっ!橘君!」

橘「うわあっ!?」

槇原「きゃあっ!?」

ドーン!

「駄目だよ…橘君!」

橘「き、君は?」

槇原「あなた誰よ…?」

上崎「わ、私は…上崎…です」

上崎「二人とも覚えてないと思うけど……中学のとき同じクラスだったんだよ……」

橘「ご、ごめん。覚えてなくって」

上崎「ううん、いいの。橘君は本当に優しいね……。私なんか気遣って……」

槇原「それで…いきなり何?」

上崎「た、橘君から離れて!」

上崎「私が守るからね、橘君」ニコッ

橘「え……上崎さんどういう……」

上崎「槇原さん!中3のクリスマス、橘君をだまして、ううんそれだけじゃない!」

上崎「橘君からの手紙をみんなで回し読みしたり、橘君に勘違いさせるようなことをわざとして……!」

槇原「な、なにそれ?中学の時の遊びじゃん!」

上崎「今だって、橘君に嘘ついてを利用しようとしたでしょ!」

槇原「な、なんでそんな……!」

上崎「私、今は新聞記者だからね。有名なあなたの彼氏のこと知ってるよ」

橘「有名?」

上崎「うん、経営していた会社がうまくいかなくてどんどん会社は他企業に吸収合併、
責任とって辞めたワンドックスの元若社長!」

槇原「うっ……」

上崎「お金のために橘君のところに潜り込もうとした、とかそんなところでしょ?」

槇原「な、なに…なによあんた……!」

槇原「彼のこと何も知らない癖にーーーーッ!!」

タタタタタッ

橘「行っちゃった…」


上崎「危なかったね…橘君」

橘「上崎さん……」

上崎「橘君はかっこいいからすぐに悪い虫が寄ってくるの」

橘「え……」

上崎「ごめんなさい、橘君。ずっと言えなかったけど小学校の頃から…その」

上崎「……す、好きでした」

橘「えっ…えぇー!?」

上崎「えへへ、突然ごめんね」

橘「…そ、そうなんだ……ありがとう」

橘「でも」

上崎「え?でも?」

橘「でも僕は結婚を考えてる人がいるんだ」

上崎「結婚……?ああ…やっぱり」

上崎「就職先はもっと近くにするべきだったんだあのときもっと頑張ってたらいやまだ今からでも転職して近くに行くべきかな?いや、そもそも橘君の職場以外で周りにいる人だってなんとかしなきゃいけないわけだしもっと確実なことをしないといっそ一緒にすんじゃうとかえへへさすがにそれはまだだめだよね今は寄ってくる悪い虫を払って払って払い続けなきゃだもんねそのためにはひとまず今の会社じゃだめだからなんでもいいから近くに住むところ探してひとまずお金借りて仕事も探してあとそれから」

橘「……か、上崎さん……!?」

上崎「あ、でも心配しないで橘君!私があなたを守るから!」

橘「き、聞いてくれっ!!」

橘「もう一度言うけど、僕は好きな人がいるんだ。他の人がどうでもいいって思うくらい好きな人が、ね」

上崎「いや……違うよ……それは……そんなのだめだよ…」

橘「さっきの槇原さんとあったこと知ってるみたいだけどね、僕には心底どうでもいいことだったって気付いたんだ」



橘「僕は、もう彼女を過去の思い出の一つとしか思ってないよ」



上崎「………………………………………………………………………違うよ」

上崎「……できるはずないもん」

たったったっ…

橘「え……。……上崎さん?」

橘「あははは、この番組まだやってたんだなあ。しばらくテレビ見てなかったけどひさしぶりに見るとおもしろいな」

橘「それにしてもこれ、作り置きとはいえ懐かしい味だ」モグモグ

『本日、スペシャルゲストをお迎えしております!』

橘「スペシャルゲストかあ、きっと僕は知らないスペシャルな人なんだろな」モグモグ

『伝説のアイドルグループ「KBT108」のセンターも勤め、若くして最優秀女優賞を獲得したこの方!』


『桜井リホさんです!』

橘「」ポロッ

橘「……りほ…こ……!?」

橘「……………………………………………………そういえば僕は…………………」

***
梨穂子「はぁ…今日も大変だったあ……」

梨穂子「でも今日から千葉で仕事だからお家に帰れるんだあ……やったぁ」

梨穂子「……」てくてく

梨穂子「あ、この橋……また工事してるんだ」

梨穂子「10年前も工事して新しくなったよねぇ…」

梨穂子「純一、何してるんだろ」

梨穂子「…………………純一、何してたんだろ……」

梨穂子「毎年、今でもサンタさんにお願いしてるよ……」

梨穂子「       。」
びゅ~!

梨穂子「ひゃー…寒い」

***
橘「そうだ…そうじゃないか……」

橘「僕はあの日、梨穂子を裏切った……」

橘「僕がずっと抱いていた錘はこれだったんだ……」

橘「心のどこかで梨穂子へ贖罪の意志が……」

橘「…………………………」

橘「……梨穂子と話さなくちゃいけない……」

橘「梨穂子は会ってくれるかすらわからないけど……」

橘「七咲に告白してから梨穂子に謝ろうって思ってたのに……10年もかかるなんて」

橘「今更連絡取ったら変だよな……相手はアイドルだし」

橘「でも言わなきゃならない。ようやく自分の罪に気付いたんだ」




***
橘「もしもし、橘です。お久しぶりです」

橘「え?今家に?」

橘「……梨穂子に代わって貰えますか?」

梨穂子「ただいまー」

桜井母「おかえりー。お疲れ様!親戚の方から頑張れって色々届いてるわよ」

梨穂子「ほんとだー!おいしそう!」

桜井母「あなたは本当に食いしん坊ねえ」

prrrrr
梨穂子「あ、電話だよ~」

桜井母「はいはい」ガチャ

桜井母「はい、もしもし。桜井でございます」

桜井母「あら、ひさしぶりねえ!」

桜井母「タイミング良いわ。今梨穂子がこっちに帰ってきてるのよ!」

梨穂子「?」

桜井母「ええ。ちょっと待ってねー」

梨穂子「だれ?」

桜井母「純一君」

梨穂子「え……えぇぇええ!?」

桜井母「どうしたの?」

梨穂子「(どうしよう…? なんで今…?)」

梨穂子「(出た方がいいのかな…んんんんん…!)」

桜井母「ほら、はやく」

梨穂子「う、うん……」

梨穂子「はい」

橘「あ、梨穂子、あのさ……えっとひさしぶり」

梨穂子「あはは、ひさしぶりだねー……」

橘「え……っと」

梨穂子「…………」

橘「話があるんだ」

梨穂子「……そっか」

橘「……あの、あの橋に来てくれないかな」

梨穂子「ちょっと待って……いきなりすぎだよ純一」

橘「ああ!そうだよな……ごめん」

橘「10年前のあの日……本当にごめん」

梨穂子「それで……橋だっけ?」

橘「うん、忙しいのはわかるんだけどさ……どうしても直接謝りたいんだ」

梨穂子「うん……分かった」

橘「絶対行くから、待ってるよ」

梨穂子「……それじゃあね」ガチャ

橘「あっ……」

橘「…………」

***
橘「……」

橘「……………………ふう」

橘「来ないな」

橘「……そろそろ2時間か」

橘「(もし来ないのなら、それでも待ち続けるのが僕がやらなければいけないことだよな)」

橘「…………」


ぱらぱら・・・

橘「雪だ……」

橘「10年前も……その2年前も降ってた」

橘「梨穂子はどんな気持ちで待ってたんだろうか……」

橘「…………」



梨穂子「ごめん、純一」


橘「……!り、梨穂子っ!」

梨穂子「途中、新聞の人に捕まっちゃって……」

橘「そっか・・・すっかり有名になっちゃったな」

梨穂子「……うん」

梨穂子「だから、ここに留まってられないから歩いてもいいかな?」

橘「それじゃ、歩こうか」

梨穂子「うん、ごめんね」

橘「ううん」

梨穂子「……」

橘「……」

橘「10年前、約束の場所に行かなくてごめん」



橘「正直に言うよ……、梨穂子のこと……忘れてた」

梨穂子「……っ」

橘「……中3の時に慰めてくれたのは梨穂子だったのにな」

梨穂子「………………」

橘「…………」

橘「許さなくていい、僕の言葉を聞いてほしかったんだ」

橘「来てくれて……本当にありがとう」

梨穂子「……遅すぎるよ」

橘「……うん」

梨穂子「私のこの気持ち、ずっと10年前から変わってないの」

梨穂子「ずっと純一のことを想ってた。あんなことがあってもそれでもこの気持ちが捨てきれなかったから……」

梨穂子「今はこんな仕事してるけど一度だってあなた以外の人に気持ちが移ったこと、ないんだよ」

橘「梨穂子……」

橘「ごめん……」

梨穂子「ううん、知ってるから」

梨穂子「七咲さん、だっけ……そりゃ知ってるよ……」

橘「…………」

梨穂子「覚えてる?私の家のクリスマスの話」

橘「プレゼントの代わりにお願いをしてたって言うあれ?」

梨穂子「うん」

梨穂子「……毎年、あなたとまたあの頃みたいになりたいってお願いしてたよ」

橘「…………そ、か」

梨穂子「…………」

橘「…………」

橘「ほんとにごめん」

梨穂子「……ふふ、何やってるんだろ」

梨穂子「あなたのこと絶対責めないつもりだったのにな」

橘「いや、いいんだ。言いたいことは全部言ってほしい」

梨穂子「それじゃあ一つだけ、ね」


梨穂子「私と今夜中ずっといてくれたら許そっかな」

梨穂子「それできっぱりあなたのことは諦めるよ」

橘「え、それって……」

梨穂子「……純一、女の子に言わせるの?」



[SELECT]
⇒●ごめん、僕にはやっぱり好きな人がいるから……
 ●わかったよ。それで梨穂子が満足するのなら……

***
橘「ごめん……」

梨穂子「……ふふ、そうだよね」

梨穂子「ううん、むしろ私がごめん」




梨穂子「さよならだね」

橘「…………」

梨穂子「ありがとう、今まで」

梨穂子「すごくつらかったけど、あなたのことが好きで幸せだった」

梨穂子「……」グイッ

橘「!」


チュ


梨穂子「……」ニコッ

たたたたたたっ

橘「……梨穂子」

橘「(笑ってたけど……)」

橘「(すごく寂しそうだった……)」

橘「(……本当にこれでよかったんだろうか)」


橘「…………それでも」

橘「僕は七咲が好きだ……」


***
翌朝
橘「今日で美也が帰ってくるからアパートに戻るんだよな」

橘「……よし、帰ったら七咲に」

橘「…………いってきます!!!」


***
会社
橘「あれ?なんか会社の前に人だかりができてるぞ?」

橘「まあいいや裏口から入ろう」

***

橘「おはようございまーす!」

ざわざわざわ

橘「あれ?みなさんどうしたんです?」

同僚「橘……お前、本人なのに知らないのか?」

橘「え?」

遅くなってごめんなさい
また支援よろしくお願いします

上司「おうおう、有名人の出勤かー?」

橘「ど、どういうことですか?」

上司「これ見てみろ、今朝の朝刊」

橘「新聞……」ペラ


『桜井リホ 街の真ん中で堂々キス!』

橘「なぁっ?!」

上司「こりゃどうみても橘ですねえ、たまげたなあ」

橘「どどどどういうことだ……」

『昨夜21時頃、桜井リホが自宅近辺で男性と会っていたことがわかった。
桜井リホと言えばKBT108のセンターとして……』

『男性とホテル街の近くまで行くとそこで猛烈なキス!激しいキスを数秒かわした後、二人はホテルへと……』

橘「そ、そんな……こんなのデタラメですよ!」

上司「つってもこれお前じゃねーか」

橘「そ、そうですけど……」

同僚「で、これどうすんだよ?」

橘「すみません、今日は体調が悪いので有給をいただいてもよろしいでしょうか」

上司「それ有給じゃねえじゃん」

橘「そ、そこをなんとか……」

上司「まあいいんだけど、さっさと前の報道の人をなんとかしてこい」

橘「あはは……」

橘「(梨穂子も心配だけどもし記者の人が七咲のことまで掴んでいたとしたらまずいな……)」

橘「(ひとまず七咲のところへ!この時間なら走って向かえばまだギリギリ七咲はアパートを出ていないはず!)」

***
橘「はぁっはぁっ、はぁっはぁっ!」

橘「………………もう出ちゃってたか」

橘「くそっ、七咲の職場に電話を……」

prrrrrr
橘「あ、もしもし橘と申しますが七咲を……え?」

七咲『先輩』

橘「ああ、七咲だったのかごめんごめん」

七咲『なんだかよくわかりませんが、職場にはお互い電話はかけないという約束だったと思うんですが……』

橘「そ、それが緊急というか…いや、変な話なんだけど……というか七咲は」

七咲『と に か く !』

七咲『帰ってから話しましょう。それでは失礼します』ガチャ

橘「あ……」

橘「切れてしまった……」

橘「…………」

橘「というか七咲になんて言えば……」

橘「ある意味良かった、のだろうか……」

橘「…………」

橘「梨穂子に話を聞きにいくべき……か?」

橘「たしかおばさんの話では昨日と今日は千葉で仕事だって言ってたな……」

橘「梨穂子の家にもかけてみよう」

prrrrrrr
橘「…………くっそ、繋がらない!」

橘「くそっ、テレビ局に僕がいっても格好の的だし……」

橘「梨穂子は何やってるんだ……!」

橘「梨穂子の家がバレてるらしいことは記事から分かったし直接家に行っても意味ないんだろうな……」

橘「くそっ、とりあえずなんとか梨穂子に会わなければ!」

橘「テレビを回してよう……」


***
橘「どれも聴いた情報ばっかりだ……」

橘「どうすれば」ピロリンピロリンピロリン

『緊急速報です!』

『スキャンダルで報じられていた桜井リホさんが……』

橘「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」




『自宅で亡くなっていたことがわかりました』

***

橘「…………」






橘「…………」










橘「……………」






橘「…………」

***
七咲「先輩」

橘「…………」

七咲「ニュース、見ましたよ」

橘「…………ああ、七咲……か」

七咲「……先輩」

橘「…………」

七咲「ごめんなさい、先輩」

橘「…………」

七咲「桜井先輩が先輩のことを好きだって知ってました」

七咲「私がはっきりと桜井先輩に言うべきでした……」

七咲「だから、こんなことになったのも私に責任があります」

橘「…………」






七咲「先輩、別れましょう」








橘「…………」

橘「………………え」

七咲「私達が彼女にしてあげられる慰めはきっとそれだけですから……」

七咲「ごめんなさい、先輩」


橘「……な」

***
上崎「(これで、これで……七咲さんからも桜井先輩からも橘君を守れる!)」

上崎「(待っててねー、橘君♪)」

上崎「(一緒に色んな思い出作ろうねっ)」





***

気が付いたら誰もいなくなっていた

少し物が減っているのがわかる

ああ、そうか……

七咲が……

…………何がいけなかったんだろうか?

とはいってもいけないことばかりだったんだけどさ……

僕はもともと一人で生きていくべきだった、ってことかな……

七咲、ごめん……もっと早くプロポーズの決断をしていたら……

梨穂子、ごめん……あの日、ちゃんと断っていたら……


















                BAD END


[SELECT]
 ・ ごめん、僕にはやっぱり好きな人がいるから……
⇒●わかったよ。それで梨穂子が満足するのなら……

梨穂子「えへへ……ありがとう」

橘「(これは10年前の自分と決別するためだ……仕方ないよな)」

梨穂子「純一、ちょっと走るよ」

橘「え?」

梨穂子「早く!」タタタタッ

橘「待ってくれよっ!」タタタタッ

***
梨穂子「はぁっ、はぁっ、」

橘「ひいっ、つかれた…ひぃい」

梨穂子「なんか見られてるような気がして」

橘「梨穂子は有名人だもんな」

梨穂子「おかげさまでねー」

梨穂子「私の家、行こうか」

橘「ああ……そうだね」

梨穂子「じゃあこっち」

橘「うん」

***

橘「この道、小学校の時よく通ったよな」

梨穂子「うんうん~、あっちの公園に行くときは決まってこっちとおったよね~」

橘「懐かしいなあ……」

梨穂子「うん……」

橘「……」

梨穂子「……」

梨穂子「ねぇ、純一」

橘「なんだ?」

梨穂子「ありがとう、もういいよ」

橘「え?」

梨穂子「私、あなたと特別なことがしたいとか、そういう気持ちは……」

梨穂子「無い、って言ったらウソになるけど、七咲さんから奪ってまでしたいことでもないって言うか」

梨穂子「あなたと仲直りできて、それだけで十分なの」

橘「梨穂子……」

梨穂子「ありがとう、七咲さんのこと大事にしてあげてね」

橘「わかった、本当にすまな」

梨穂子「謝らないで……仲直りしたんだから」

橘「そ、っか……じゃあ、ありがとう」

梨穂子「うん、ありがとう」

梨穂子「それじゃ、ここで」

橘「おう、またな」

梨穂子「(『またな』、か……これだけで私は……十分)」

梨穂子「うん、またね!」


***
翌日夜
七咲「先輩、おかえりなさい」

橘「ああ、七咲ただいま」

七咲「電話で言ってたより遅かったですね」

橘「ああ、うん。ちょっとね」

橘「話があるんだ」

七咲「…………」

七咲「……はい」

橘「実は森島先輩のほかに同級生の上崎さん、槇原さん、あと幼馴染の桜井にあってきたんだ」

七咲「っ!」


***
七咲「先輩、中学生の頃にそんなことが……」

橘「うん」

橘「梨穂子に会いに行ったのは……えっと」

七咲「いいんです。先輩」

橘「え?」

七咲「私、気付いてました。高校生の時から」

橘「気付いてたって……」

七咲「先輩のことを桜井先輩が好きだってことに」

橘「…………七咲」

七咲「……それでは、先輩の言い分を聞きましょう」

橘「梨穂子に謝って、それで約束したんだ」

七咲「約束…ですか?なんて約束したんですか?」




橘「『七咲を大事にする』って約束だよ」

七咲「先輩……」





橘「七咲、良かったら僕とずっと一緒にいてくれないかな?」


七咲「……そんなの、決まってるじゃないですかっ」

七咲「ちょっとえっちで…」

七咲「かっこわるくて…」

七咲「優柔不断……」

七咲「良いところなんて全然無さそうなもんですけど……」

七咲「先輩の良いところ、私だけは知ってますよ」

七咲「だから……」





七咲「私も先輩とずっと一緒にいたいです……」







        七咲逢編 スキGOOD END

***

逢「こらー!先にご飯食べちゃいなさいって言ってるでしょ!」

子供「だってお父さんがー!」

純一「って僕に責任を押し付けるなよ!」

逢「もう!あなたも15年経っても子供なんですからっ!」

純一「うぐっ……」

子供「やーい!子供子供ー!」

逢「もう、あなたも怒られてるのよ?」

子供「はあい……」

逢「もうそんなんじゃ美也おばさんのお家には行けないわね」

子供「そんなー!」


先輩と結婚してから数年が経った。

私は仕事をやめ、今は専業主婦をしている。

桜井先輩とは今でも家族ぐるみで付き合いをしていて、
有名人の知り合いの家として、息子の保育園での地位も高い、らしい。


あんなことがあってから、先輩は私だけを見てくれていて驚くほど順風満帆と言った感じだった。

良いことだけではないけれど、私はあなたが……先輩がいるだけできっと最後は幸せだと思う。

それが先輩も同じであれば……もっとうれしい。


橘(26)「七咲にプロポーズしよう」完

支援ありがとうございました

こっちはバッドエンドやで(ニッコリ)
七咲「先輩……いつまでここで寝てるつもりですか?」
七咲「先輩……いつまでここで寝てるつもりですか?」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/internet/14562/storage/1388149600.html)

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