P「愛ちゃん、君をプロデュースする」日高愛「はい!」 (88)

 
……ドクン

オレには、ずっと

ずっとずっと、怖いものがあった

怖くて怖くてたまらなくて

逃げ出したかった


誰かに相談すればいいって?

……ダメなんだよ、それは

もし『それ』を、口に出して怖いと認めてしまったら

もう、オレは、プロデューサーを続けられなくなってしまうから

ずっと、誰にも言えなかった。隠し続けてきた。誰に対しても

そして、今も――――――

……ドクン


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キキ―――――――――――ッ!!

ドガッ!!

ベキ!メキ!メシャメシャ……

………

……


――病院

P「うっ……はぁっ……ぐう……ッ!」

小鳥「プロデューサーさん!?大丈夫ですか!?」

P「お、音無さん……痛っ……」

小鳥「待っててください!今、看護師さん呼んできますから……!」

P「う……ぐ……」

P「(……みんな……)」


目が覚めたとき、オレは病院のベッドにいた

窓からさす日の光がまぶしいのにカーテンを閉められない

全身に大ケガを負い、まったく動けない状態だったからだ

身体を少しでも動かすと身体中に激痛が走り、吐き気がした

なぜこんなことに?

事態が把握できずにいるオレに、音無さんが教えてくれた

テレビ番組の打ち合わせから事務所に帰る途中、車で山の崖の壁に激突する事故を起こしたのだという

車は当然の如く大破

奇跡的に助けられ、命に別状はないそうだ

アイドルが同乗していなかったことがなによりも救いだった

P「そ、そんなにですか……?」

医者「少なくとも、その期間、入院していただきます」

冗談じゃない

P「そ、そんな、もっと早く退院できないんですか!?」

自分で勝手に事故を起こしてケガをして

医者「無茶言わないでください。医者としては大事をとって、もっと入院してもらってもいいくらいなんです」

あげく、みんなに迷惑をかけている?

P「おねがいします!なんとかしてくださいよ!」

なんだそれは

医者「気持ちはわかりますが、落ち着いてください」

ふざけるな

P「オレは冷静です!」

頭に血が上っているオレをよそに、医者は静かに、そして諭すように告げた

体のいたるところに、最近の働きすぎる人に多くみられる特徴に酷似していて

いつ体調を崩してもおかしくない状態だったと

今回の事故も、疲れから出る不注意が原因だと

あなたは少し働きすぎだと

もっと自分の体を大切にしなさい、と



今のオレの耳には、どの言葉もただ通り抜けていくだけだった

765プロの現状を聞いた

オレのいなくなって開いた穴を埋めるため、律子や社長が頑張ってくれているそうだ

アイドルたちも、互いに負担を掛けまいとし、自ら動いてくれている

こういう時、オレがいなかった頃の昔に紡いだ経験が役に立ってくれているようだ

ギリギリとはいえ、なんとかやっていけているそうだ






そう、疲れ気味な顔を必死に笑顔を作って消しながら、音無さんは教えてくれた

ケガの治療に専念できるように、オレを心配させないために気を使って無理をしていることは、誰の目にも明らかだった

アイドルたちは今ようやく人気の波に乗って大ブレイク中だ

長い下積みの時代をコツコツと積み上げて乗り越えて

長い長い努力の末、ようやく実を結ぼうとしている

とても重要で、最も忙しいこの時に

今のオレはなんの力にもなってやれない

そのことが、どうしようもなくオレを焦らせた

オレが事故を起こして病院に運びこまれたとき、アイドルたちはすぐさま駆けつけて、
お見舞いに来てくれていたらしい

その間、意識が戻らなかったので顔を見ることはできなかった

アイドルたちはまたお見舞いをしに来たいと言ってくれたらしい

忙しい仕事の合間をぬってまで、そんなことをさせるわけにはいかない

オレに構わず仕事に専念するよう伝えてもらった

その言葉を聞いて、みんなはお見舞いに来ることはなかった

そのかわり、プロデューサーの分も頑張ろうと、気合を入れて仕事に励むと

そう、言ったらしい

オレは、自分に対する怒りで、どうにかなってしまいそうだった

憤りを感じたところで何かが変わるわけじゃない

せめてこれ以上心配をかけないための努力に努めた





ごめん、みんな

身体を動かそうにも身体が言うことを聞かない

それでも無理に動かそうとして……

結果、音無さんと看護師さんを心配させる以外の効果はなかった


一日が酷く長く感じる

静寂の中、点滴の音だけが聞こえる

音無さんや看護師さんにお願いし、テレビをつけてもらってみた

初めは765プロのアイドルたちが映るたび、ちゃんと仕事ができていることに安堵したが

次第にテレビをつける頻度は減っていった

765プロのアイドルがテレビに映るのを見るたび

今の自分の無力さを痛感して焦りを感じるだけで

とても見ていられなくなっていったからだ

今のオレには身体の痛みよりもはるかに耐えられない苦痛だった

気をまぎらわせようにもすることがない

食事ができないからすべて点滴ですませるため、食事に楽しみを求めることはできない

かといって身体が動かないからほかに何かができるわけじゃない

唯一の楽しみと言ったら忙しい合間を縫って見舞いに来てくださる音無さんとの会話だった

だが

せっかく少しでもオレを励まそうと、気持ちを和らげようと
気をつかって話してくださっているのに

オレが765プロのことばかり気にするものだから

小鳥「プロデューサーさん」

P「はい」

小鳥「事務所のことはなるべく心配しないで、自分のお体を治すことだけ考えてくださいね」

P「……」

小鳥「大丈夫です!765プロのみんなはたくましいですから!」

バカだ、オレは。また気を遣わせて

P「……そうですね」

これ以上、心配をかけさせるわけにはいかない

今すぐにだってアイドルたちのもとへ駆けつけに行きたいのに、できなくて

それが歯がゆくて

すべてを忘れて治療に専念するため、眠りにつこうとした



ただただ不安の海に沈んでいくのみだった


オレは……どうしたらいい





だれか、教えてくれ

そうして数日の時が流れた


なにも変わらない。無力を痛感する日々

だが

この永遠に続くかと思われた耐え難い静寂の日々は

コンコン!コンコン!

P「ん……?」

ある日突然、一人の台風のような訪問者によって

P「音無さんかな……?いつもより早いけど……」

終わりを迎えた

ノックの呼びかけに答えると、ドアが開いた

???「おはようございまーす!!」

そこにいたのは


???「お久しぶりです!プロデューサーさん!!」


P「き、キミは……」



P「日高……愛ちゃん?」

愛「はい!日高愛です!!」

というわけで876愛ちゃんSS

今日はここで終わりです

P「なぜ、キミがここに?」

愛「もちろん、お怪我をしているプロデューサーさんのお見舞いに来ました!」

P「それはそうかもしれないけど……」

愛「プロデューサーさんのことは、雪歩先輩に聞きました!」

P「雪歩が?」

愛「はい!私、よく雪歩先輩と連絡とってるんです!」

愛「最近は雪歩先輩、忙しいからなかなかお話できないんですけど、
  昨日メールしてみたらプロデューサーさんが入院してるって言うじゃないですか!」

愛「だから、お見舞いに行こうと思って、来ちゃいました!」

P「そ、そうだったんだ……」

彼女は日高愛

アイドル事務所、876プロに所属するアイドルである

765プロと876プロはうちの高木社長と、876プロの石川社長と知り合いらしく、昔は事務所絡みで交流していたこともあるらしい

オレが初めて765プロにきた時期から、どちらも仕事が忙しくなってきたので

レッスン場が同じのときや仕事でときどき一緒になることもあるが、それ以外は個々人の付き合いで交流する程度になった

そのため、オレはあまり876プロの事情に詳しくない

愛ちゃんは765プロのみんなより後にこの世界に入ってきたので、みんなの後輩にあたる

愛「……あ……!」

P「? どうしたの?」

愛「ご、ごめんなさい!私、来ることにばっかり意識がいってて、なんにも買ってきてませんでした!」

P「え、あ、いや……」

愛「私、ちょっとお花買ってきまーす!」

P「あ、ちょ、ちょっと!……いつッ!……」

気を遣わなくていい、と言う前に、彼女は行ってしまった

本当に、台風みたいな子だ

「今日はきてくれてありがとう。まさか君がきてくれるとは思わなかったよ」

愛「えへへ、先輩たちはもちろん、プロデューサーさんにも前にお仕事が一緒になったときはお世話になりましたから
  これくらいは当然ですよ」

愛「それに……」

P「?」

愛「雪歩先輩、プロデューサーさんのこと、とっても心配してましたから……」

P「……」

愛「でも、思ったより元気そうで安心しました!これなら、雪歩先輩、元気づけてあげられそうです!」

前に偶然テレビに映った時の雪歩の様子は、そのことを微塵も感じさせなかった

強くなったな、雪歩

P「すまない……本来、オレがしなければならないことなのに。頼めるかな」

愛「もちろんです!雪歩先輩には、早く元気になってもらいたいですから!」

P「ありがとう」

愛「そうだ!なら、先輩たちの代わりに、毎日お見舞いにきましょうか?」

P「あはは、お見舞いに来てくれることはうれしいけど……でも、キミにだって仕事があるだろ?」

愛「それは大丈夫です!私、先輩たちに比べたら、仕事も人気も全然ありませんから!」

それはぜんぜん大丈夫じゃないんじゃないのだろうか……?

P「そっか……でも、気持ちだけ受け取っておくよ
  みんなの心配もしてくれてありがとう」

P「……退院したら、なにかお見舞いに来てくれたお礼をするよ」

愛「そんな、お礼なんて……」

愛「……」

P「愛ちゃん?」

愛「じゃ、じゃあ!」





愛「一つだけ……お願いしてもいいですか?」

あまりにかしこまって聞いてくるので、少し不安になった

P「あ、ああ……オレに出来る範囲なら……」

愛「えー、と……その、ですね……」

いつもの元気な彼女らしくなく、どうにも歯切れが悪い
いったい何をお願いするつもりなのだろうか?

愛「その……」



愛「その、プロデューサーさんに、プロデュースのコツ、みたいなのを教えてもらえたらなー、なんて……」



P「プロデュースのコツ?」

愛「は、はい!その……私、まだまだ未熟だから、先輩たちみたいには、うまくいかないことも多くて……」

愛「先輩たちのプロデューサーさんに教えてもらえたら、心強いなー、なんて……」

P「え、でも、キミにだってプロデューサーが……」

P「あ、そうか、876プロは基本的にはセルフプロデュースなんだっけ」

876プロは765プロのようにアイドルとプロデューサーの二人三脚でやっていくスタイルとは違い、

アイドルの自由意志を尊重という名のもと、アイドル自身が自分をプロデュースをするという

セルフプロデューススタイルを取り入れている

愛「そうです!一応、手伝ったり教えてくれる人もいるんですけど、最終的にはなんでも、私一人でやらなくちゃいけないから大変で……」

愛「だ、だから、765プロの先輩たちをプロデュースしてるプロデューサーさんに教えてもらえたら、とても勉強になると思ったんです!」

愛「も、もちろん、ご迷惑でなければ、ですけど……」

P「……」


……いいのだろうか。876プロとは親交があるとはいえ、
勝手に別事務所のアイドルにオレが教えても……

愛「だ……ダメ……ですか?」

……いや、彼女の場合はセルフプロデュース……プロデューサーがいるわけではないし

彼女が望むのなら問題ないか……

……せっかく来てくれたんだ。それに、自分の力不足を認めて人に話すなんて、勇気のいることだ

その心の内をオレを頼って話してくれたんだ

……なら

P「……迷惑じゃないさ。わかったよ」

P「よし……じゃあ、お見舞いに来てくれたお礼に、オレにできることならしてあげるよ」

愛「ほ、本当ですか?やったあ!ありがとうございます!!」

愛「春香さんのプロデューサーさんに教えてもらえたら、100人力ですよー!」

今にも飛び上がりそうな勢いで、彼女は喜んでくれた

彼女の底なしの元気な笑顔には、つい口元が緩んでしまう

愛「さっそく、いろいろ質問してもいいですか!?」

P「ああ、できる限り、協力する」

愛「じゃあ、一つ目の質問です!」

P「あ、ああ」

顔を近づけて、あんまり力強く聞いてくるので、身構えてしまった


愛「一つ目の質問は……ズバリ!」

P「……」

ゴクリ。ツバを飲み込む。そして








愛「どうしたら、星井美希先輩みたいなナイスバディになれるんですか!?」



彼女のこんしんの質問が炸裂した

P「……プッ!……くく、あ、ちょっと、ごめ……くく」

P「あはははは!!」

思わず吹き出してしまった

P「あ!?いいいいいッぐう……ああ!あはは!いいッ!!」

愛「ぷ、プロデューサーさん!?大丈夫ですか!?」

あんまり真剣な表情で聞いてくるものだから、どんな質問かと思ったら……

P「あは、あははは、あうううう、はは……ゲホ、ゴホ……」

愛「しっかりしてくださーい!」

笑うたびに身体中に響いて痛くて苦しい。正直かなり辛かったけど……

なんだか、久しぶりに笑ったような気がした

P「だ、大丈夫、大丈夫だよ……プフ、あはは……」

愛「ご、ごめんなさい、笑わせるつもりはなかったんですけど……」

愛「前に美希先輩とお仕事をご一緒した時、先輩の姿に一瞬、見惚れちゃったことがあって……」

愛「私、ルックスに自信がなくて……少しでも美希先輩みたいになれたらって思いまして……」

愛「だから、美希先輩みたいになるにはどうしたらいいのか、なにか秘訣があったら教えてください!」

P「秘訣って……」

愛「例えば、おにぎりをたくさん食べるとか、実は美希先輩の食べているおにぎりの中身にはなにか特別なものが入っているとか!」

P「お、おにぎりにそんなすごい効果があるのかな……?」

愛「でしたら、他のことでもいいんです!」

愛「すごい食事制限とか!765プロ直伝の秘密のトレーニングをしているとか!そういうのを教えてほしいんです!」

P「……」

これは……この感じを、オレは知っている

『ちょっと!このままじゃ、いつまでたっても無名のままじゃない!
 はやくあの人たちに追い付かなくちゃならないのに……!』

『兄ちゃーん、こんなんで、本当に有名になれるの?』


P「愛ちゃん」

愛「は、はい!」

P「焦っちゃだめだ」

愛「え?」

P「残念だけど、アイドルに近道なんてないよ」

P「今の君は焦りすぎだ」

P「たとえば君は今、食事制限といったけど、確かにアイドルにとって容姿は大事だ
  美希の容姿は魅力的だし、彼女のアイドルとしての武器でもある」

P「だけど、そのために無理なダイエットは体に毒だ。今のオレが言うのもなんだけど、
 体調管理もきちんとできなければ、一人前のアイドルとはいえないよ」

P「君の歳から言って、まだまだ成長段階なんだ。無理なことをして、その妨げになるようなことはしちゃいけない」

P「焦って、すべてを台無しにするようなことはしちゃダメだ」

愛「あ、っと……」

愛「ご、ごめんなさい!私、少しでも早くアイドルとして成長したいって気持ちばっかり先走ってて、それで……」

……そして、この感じもオレは知っている

『す、すみません、焦らず、ゆっくり、ですよね。わかっているんですけど、どうにも不安で……』

『悔しいです。自分の力が不足しているのを痛感します。もっと、努力しなければ……』

真剣だからこそ、必死になって、何にでも手をだし、すがろうとすることも

だからこそ、はっきりと教えてあげなければならない。強気に言ったために、愛ちゃんが少し怖がってしまった

ごめんよ、でも、君のためなんだ

P「焦る気持ちはわかる。だけど、どんなことにも積み重ねは大事だ」

P「そしてそれは容姿だけの話じゃない。どんなことも過程がなければ結果もない。土台がなければ、あっという間に求めたものは崩れてしまう。
  この業界では特にね」

P「それにキミはまだまだ歳もアイドルとしても成長段階だ。自分の価値を、そうそうに決める必要はないさ」

P「アイドルを、長く続けていきたいんだろう?」

愛「は、はい!」

P「なら、長い目でみていくことも必要だよ
  焦らず、じっくり、そして確実に、やっていこう。そうすれば、結果は必ず後からついてくる」

P「君の尊敬する先輩たちも、そうやって来たのだから」

愛「はい!」

P「うん、よろしい」

思った通り、素直でとてもいい子だ

こちらの言葉にも真剣に耳を傾けているのが分かる

焦ってしまうのも、その真剣さゆえだ

自分で考え、行動し、ここまで来たんだ。努力もできる子なんだとわかる

その姿勢さえあれば、絶対に伸びる。そのことを確信させてくれる子だ

だが……

P「それにしても、キミは元気だね」

愛「はい!それが私の取り柄ですから!!」

P「はは、春香も昔、同じことを言ってたよ。自分も元気が取り柄だって」

愛「そうなんですか!えへへ、うれしいな!」

P「でも、ここは病院だから……少し……ね?」

看護師「……」

少しだけ開いていた病室の扉の隙間から、看護師さんがこちらをにらんでいた……

愛「あ、ご、ごめんなさーい!!」

P「あ、あはは……」

それから彼女はオレのところへ通うようになった

平日は仕事や学校があるから夕方から、

アイドルが日曜日などの決まった休日を休日というのもおかしいが、彼女は仕事も学校もない休日も熱心にオレの元へ通いだした


愛「へえー!そうなんですか!あのディレクターさんが、そんなこと……」

P「うん、一見、怖そうに見える人だけど、すごくユニークな人でね
気を許した人たちには、会話によく冗談を混ぜることで有名なんだ」

愛「じゃあ、まだまだ私、信用されていないんですね……」

P「……でも、期待していない相手には、きつく言わないことでも有名なんだ」

愛「え?」

P「あの人にいろいろ言われたんだろう?でも、どれも間違っていなかった」

愛「はい……どれも本当のことですし、私の力不足だってことも本当でしたから……
  まったく否定できないことが悔しくって……」

P「努力したことを否定されるのは悔しいよね
  だけど、あの人もそうとう苦労と努力と忍耐を重ねてあの地位まで来た人なんだ」

P「自分の意見をすべて捨てる必要はない。自分で考えて、選び出した答えはとってもいいことだよ。そのことを気にする必要はない」

P「大事なのはいろんな意見に耳を傾けて、いろんな考えがあることを知ることさ
経験者からの言葉ならなおさらだ」

P「せっかく自分の世界を広げてくれるかもしれないんだ
  利用しないのはもったいないってもんだろ?」

愛「あ……えへへ、その通りですね!私、頭が固くなってたかもしれません!」

P「うん、いろんなことに目を向けたり耳を傾けて、成長の糧にして行こう」

愛「はい!」

――別の日

愛「雪歩先輩には、いつもとってもよくしてもらってます!」

愛「仕事で一緒になると、応援してくれたり、レッスンに付き合ってくれたり……」

愛「それに、雪歩先輩とはよく遊んだりするんですよ!」

愛「前に二人で一緒に遊園地に遊びに行ったこともあるんです!」

P「へえ、雪歩と仲がいいんだね?」

愛「はい!雪歩先輩、とっても優しくって、私、大好きです!」

P「へえ、春香よりも?」

愛「え……ええ!?」

愛「ゆ、雪歩先輩は一緒にいてすごく和むし、癒されるし……」

愛「で、でも、春香さんだってもちろん優しいし、
  作ってもらったお菓子もおいしかったし、一緒にいて楽しいし、
  そ、それに尊敬してるし……」

愛「あ、でもでも、雪歩先輩だってもちろん尊敬してるし……」

P「……ふふ」

愛「……うう、プロデューサーさん、イジワルですよぉ!」

愛「春香さんと雪歩先輩、どっちか一人なんて選べませーん!」

P「あははは」

――別の日

愛「それで、それでですね、プロデューサーさん!」

P「そんなに急いでしゃべらなくても大丈夫だよ、愛ちゃん、ちゃんと聞いてるから……」

愛「あ、ご、ごめんなさい……」

P「それと、ここは病院だからもう少し声を……」

看護師「ちょっとあなた」

愛「は、はい?なんですか?」

う、この前、愛ちゃんを睨みつけていた看護師さん……

看護師「もう少し静かになさい。ここは個室と言えど、ここは病院ですから、他の患者さんもいるのよ」

愛「ご、ごめんなさい……」

看護師「なに?なんて言ったの?」

愛「ご、ごめんなさい」

看護師「もっとはっきり!」



愛「ごめんなさーい!!」



看護師「だーかーらァ!うるさいって言ってんでしょうがァ!!!」



医者「というより、キミが一番うるさいよ!!」

看護師「先生もうるさいですよ!!」

P「みんなうるさいです……」

――別の日

愛「そうだ、プロデューサーさん、今日は演技力を見てください」

P「どれどれ……?」

愛「ワンワン!」

P「……?今のは?」

愛「犬の鳴き真似です」

P「ただ愛ちゃんがワンワンといってるようにしか見えなかったよ」

P「それに、アイドルに犬の真似をするときなんてあるのかな」

愛「そ、それはそうかもしれません」

愛「あ、そうだ!なら、先輩たちを真似てみるのはどうでしょう?」

P「え?」

愛「うっうー!ハイ、ターッチ、イェイ!」

P「やよいの真似だね」

愛「わかったってことは、うまかったですか?どうですか?」

P「ううーん、ただの元気な愛ちゃんだね」

愛「よーし、なら、私のとっておき!」

P「ほう」

愛「行きます!……」




愛「プロデューサーさん!ドームですよ、ドーム!」



P「……」

愛「……」

P「もう少し練習が必要だね」

愛「そんな~……」

P「ふふふ」

愛ちゃんは毎日いろんな仕事で感じた事、起きた出来事、それらいろんな経験したことを話し、そしてそれに対するオレの言葉を熱心にきき、自分の中にドンドン吸収していった

そして、オレ自身、明るく元気な愛ちゃんの姿には、本当に元気を分けてもらったような気持ちになれた

彼女のアイドルとしての最大の武器だろう、効果は身をもって知ることができた

この前までの後ろ向きな気持ちは、どこかへ飛んでいた

彼女と付き合えば付き合うほど、彼女のアイドルとしての魅力が開間見えた気がした

新人のころの765プロのみんなから見えたワクワクするような可能性を、久しぶりに見たような気がして、とても楽しい気持ちになった

小鳥「プロデューサーさん、最近、顔色がよくなってきましたね」

P「そうですか?」

小鳥「ええ、この間とは見違えるようです」

小鳥「本当に良かったです。一時はどうなることかと」

P「すみません、心配をおかけして……」

小鳥「いいんですよ、こういう時は、お互い様です」

P「ありがとうございます……」

よかった。音無さんにもさんざん心配をかけてきたから、少しでも安心させてあげられたのなら

はやくみんなも、安心させてあげたい

そうして、日々は流れるように過ぎて行った

愛「じゃあ、今日はこれで帰ります」

P「うん、お疲れ様」

愛「はい、お疲れ様……って、あ―――――――!!」

P「し―――――――っ!」

愛「あ、ご、ごめんなさい……」

P「きゅ、急にどうしたの?」

愛「す、すっかり忘れてました。わ、私としたことが……!」

愛「テレビつけてもいいですか?」

P「テレビ?」

愛「今日、春香さんがでる番組があるんですよ!
  今から家に帰ったらもう間に合わないし……プロデューサーさんも一緒に見ましょうよ!」

P「わ、わかったよ……」

みんなに気が引けたために、しばらくテレビをつけていなかったのだが……
久しぶりに様子をみるのもいいだろう

テレビ「……ありがとうございました、竜宮小町でした!」

愛「ああ!竜宮小町のみなさんの出番、終わっちゃった……」

P「残念だな」

テレビ「次のコーナーは、このお二人!」

愛「あ、ホラ、見てください。春香さんですよ!響さんも!」

よかった。みんな、元気にやっているようだ。さすがというか、プロが板についてきたな

愛「あ、響さん、今日の服装とってもかわいい!」

P「そういえば愛ちゃんは響とグラビア撮影と取材で一緒になったことがあったよね」

愛「はい!あの時は響さんにとってもよくしていただきました!
  ごちそうしてもらったサーターアンダギーもとってもおいしかったです」

愛「私の今のダンスは、響さん直伝の技術も取り込んでいるんですよ!」

P「ほお、それはなかなか見どころがありそうだな」

愛「えへへ、ダンスのレッスンコーチにも褒められた、私のちょっとした自慢です!」

響「自分にまかせておけば、なんくるないさー!春香、どんどん自分を頼ってきていいぞ!」

春香「うん!お願いするね、響ちゃん
ならもちろん、これとこれはこうした方がいいって知ってるよね?」

響「え、も、もちろん知ってたさー!自分完璧だからな!」

春香「ホントかなー?」

スタッフ「あはははははは」


――そして

春香「よぉーし!あとはこれで完成だね!じゃあ、次に私はこっちを……ってきゃあ!」

P・愛「あ!転んだ!」

響「あ、危なかった~!大丈夫?春香?」

春香「う、うん、大丈夫、でも、ちょっと水が服にかかっちゃった」

響「よ、よかったー。……でも、気をつけてよね!
もう少しで台無しになるところだったじゃないか!」

春香「これぞまさしく、水も滴るいい女?」

響「自分で言うな――――!」

スタッフ「あはははは!」

P「あはは、春香のヤツ、相変わらずだな」

愛「……」

P「愛ちゃん?」

愛「……やっぱりすごいなぁ……春香さんは」

P「え?」

愛「どんなときでも明るくて……失敗したのに、もう周りを笑顔にしてる……」

愛「私が失敗なんてしたら、ただワタワタ慌てるだけで、さらに状況を悪化させて周りに迷惑かけるだけなのに……」

P「……キミは、本当に春香のことを尊敬してるんだな」

愛「え?」

P「ふつう、人が失敗してるところをみたら、失敗したという結果だけに目が行きがちだろ?」

P「でも、キミは過程をふまえて、きちんと今の春香の本質を評価した」

P「評価する相手のことをちゃんと見ていないと、なかなかできないよ」

愛「えへへ……はい!私、春香さんをとっても尊敬してます!」

愛「今の私があるのも、春香さんのおかげですから!」

P「でも」

愛「?」

P「でも、愛ちゃん、キミはさっき自分のことを卑下したけど、自分を過小評価しなくてもいいさ」

P「今のは春香の持ち前の明るさや元気も確かにあるけど、経験を積んでいけば、失敗した時、どういう対応をすればいいか、わかるようになるよ」

P「春香だって、いろんな努力や経験を積んだんだ。そして、ここまで来ることができたんだ」

P「だから、キミだって大丈夫さ。焦らず、じっくりやっていけばいい」


愛「……」

P「……」

P「……?」

愛「でも……それじゃあダメなんです……私は……」

P「え?」

愛「私は、いつまでじっくりやっていなくちゃいけないんでしょうか……」

愛「もっと早く、私は、一人でなんでもできるようにならなくちゃ……」

P「愛ちゃん……?」

愛「……」

愛「……あ、ご、ごめんなさい!そ、そうだ!これを見てほしいんですけど!」

P「……? あ、ああ……」


愛ちゃんはその時、なんだか一瞬だけ様子がおかしかった
いつもの元気で明るい姿とは違う、とても悲しい顔

その顔が、しばらくの間オレの中でしこりとして残った

その後、日々はどんどん過ぎて行った

オレのケガも良くなっていき、食事ができるようにまでなった

そして、歩くためのリハビリができるという話まで出た

身体は順調に回復していった

すべてが順調に運んでいた











そう思っていた

小鳥「だいぶ良くなってきましたね、プロデューサーさん」

P「はい、おかげさまで」

小鳥「気持ちだけは、いつ退院しても大丈夫そうですね」

P「はい、そのつも……」

……ドクン




……

……え?

P「……」

小鳥「……?プロデューサーさん?」

P「あ、いえ、なんですか?」

……なんだ?今のは

小鳥「大丈夫ですか?気分でも……」

P「い、いえ、大丈夫ですよ!体もだいぶ良くなってきましたし」

P「ほ、ほら……って、あだだだだ!」

小鳥「ぷ、プロデューサーさん、だめですよ、無理をなさっては」

P「も、もうしわけありません……」

ホント、音無さんには迷惑をかけてばかりだ

小鳥「ふふ、それに、元気になれたのは、愛ちゃんのおかげなんじゃないですか?」

P「え?な、なぜそれを?」

小鳥「病院からでてくるのを、何度も見てますから……」

P「そうですか……彼女、うちのアイドルが来られない代わりにって、見舞いに来てくれてるんですよ」

小鳥「そうなんですか……今度、お礼をしなくてはいけませんね」

P「はい……」

小鳥「でも、それならプロデューサーさんが元気になるわけですね
   すごく元気でかわいい子ですし」

P「あはは、なにをおっしゃいますか。音無さんにだって、とっても元気を貰っています」

小鳥「ふふ、お上手ですね、プロデューサーさん」

P「いえいえ、本当ですって」

小鳥「みんな、プロデューサーさんが帰ってくるのを待ち遠しくて仕方がないと思ってますよ」

……ドクン

P「そうですか……」

……ドクン

P「オレもはやくみんなに会いたいな」




……ドクン

しかし、愛ちゃんの様子がおかしかったあの日から、オレは

愛ちゃんの、一瞬だけみせた悲しそうな顔が頭から離れなくなった


そして

……ドクン

なぜだろう

おかしい

まただ

また、あの感じがする

なぜだろう、最近まで、忘れていたのに

また

怖いものが

くる

そんな

感覚

それが

再発

した

……ドクン

今日はここで終わりです



愛ちゃんをよく知らない人は意外に思うかもしれないが
愛ちゃんは雪歩とも仲がいいのだぜ
ゲームで一緒にレッスンして仲良くなった後の「雪歩先輩大好き!」は雪歩ファンも
それ以外のアイマスファンも必見じゃ

この感覚が再び戻ってきたことを、再確認する出来事がおきた

?「失礼するよ」

そこにいたのは、社長だった

P「しゃ、社長……どうなさったんです?」

社長「はっはっは、プロデューサーくん、病院にきてすることと言ったら、限られてくるんじゃあないのかい」

P「そ、それはそうかもしれないですけど……」

社長「体調は、どうかね」

P「体調は大丈夫です。気持ちだけは、いつ退院しても平気だと思っています」

高木「そうか……」

高木「プロデューサーくん」

P「はい」

高木「本当に、申し訳ない!」

P「しゃ、社長?」



……ドクン

高木「キミに仕事を任せすぎてしまっていたこと、本当にすまなかった」

高木「私がもっとしっかり管理できていれば、こんなことにはならなかっただろう」

高木「今回の事故には、私にも責任がある」

高木「もっとはやくここに来るべきだったのに、くるのが遅れてしまったことも、本当に申し訳ない」

P「そ、そんな、頭を上げてください、社長」

なぜ、社長がオレに謝らなければならない?

謝られることなんてなにもない。オレが勝手に事故を起こしたのだから

謝らなければならないのは、オレの方なのに

……ドクン

オレは社長に心から感謝していた

オレを拾って、プロデューサーのいろはを教えていただいた

今のオレがあるのも、社長のおかげなんだ

社長のバックアップがあるからこそ、オレはプロデューサー業に専念できた


やっと皆を有名にできて、これから恩返しをできると思っていた

その矢先のこの事故

謝らなければならないのは、オレの方なのに


オレは、いったい、何を

やっているんだ?

……ドクン

P「大丈夫です、社長」

……ドクン

P「どんどん体調も良くなっておりますし、」

……ドクン

P「もう少しで、765プロに、戻れます」




……ドクン……

――そして

小鳥「プロデューサーさん、おはようござ……」

ガシャン!

P「あ……ぐ……」

小鳥「ぷ、プロデューサーさん!?どうなさったんですか!?」

急激な体の痛みに襲われて、オレは食器を床に落としてしまった

P「い……ぐぐ……あ……」

小鳥「か、看護師さん!」

それからのオレは体調がおかしくなった

急な体の痛みに襲われたり

吐き気がひどくて食事もろくに取れなくなったり

事故で負ったケガとはあまり関係のない

原因不明の異常な体調不良を起こした


医者には

原因がわかるまで退院の日程が延びると言われてしまった……

P「……」

小鳥「プロデューサーさん元気出してください……」

P「すみません、音無さん……」

P「迷惑かけっぱなしで……本当に、すみません……」

他に見つかる言葉がなかった

小鳥「私のことはいいですから、自分のお体の心配だけをなさってください」

申し訳ない気持ちでいっぱいだった

まだ、オレはみんなに迷惑をかけ続ける気なのか……

小鳥「では、私、今日は帰りますから、お体のほう大切になさってくださいね」

P「はい……」

小鳥「765プロのほうは大丈夫ですから、みんなちゃんとやれていますから、心配しないでくださいね」

P「……はい」


音無さんが病室から出ていく姿を見送った

小鳥「……」

愛「あ!小鳥さん!」

小鳥「愛ちゃん」

愛「プロデューサーさん、体調、どうですか……?」

小鳥「まだ、よくならないみたい……」

愛「そうですか……」

小鳥「……ねえ、愛ちゃん、プロデューサーさんを元気づけてあげてくれないかしら?」

愛「え?」

小鳥「プロデューサーさん、愛ちゃんがきてから見違えるように元気になったの
   それまでは、ずっと暗い顔してたのに……」

愛「私が……ですか」

小鳥「ええ。私じゃ、何の力にもなれそうにないから……」

愛「そ、そんなことないですよ!
  小鳥さんだって、プロデューサーさんを元気づけてあげられます!」

愛「そうだ!見てください!私の宝物!……じゃじゃーん!」

愛「『超限定版はるかさんストラップ』!」

愛「限定版ですよ、限定版!」

愛「よくママにバーゲンセールに付き合わされるんですけど、
対象商品をたくさん買って、応募しなきゃいけないうえ、
超数量限定のレアものなんです!

愛「ネットでも信じられないくらい高いプレミア価格がついてる超レアものだって、
  絵理さんが教えてくれました!」

愛「……こ、これでも見せて、プロデューサーさんを元気づけてあげようかなー、
  なんて……」

小鳥「ふふ、確かにすごいわ」

小鳥「それなら、プロデューサーさんを、元気づけてあげられるわね」

愛「はい!そう思いますよね!」

愛(よかった。小鳥さん、少しだけ、いつもの明るい顔になってくれた!)

愛「プロデューサーさん!こんにちは!」

P「愛ちゃん……」

愛「大丈夫ですか?」

P「大丈夫……と言いたいところだけど、すまない……
  今日も、君に教えてあげられそうに、ない……来てくれたのに、すまない……」

愛「そんな、お気になさらないでください!」

愛「そ、そうだ!この前、久しぶりに春香さんや先輩たちと話せたんですよ!そのとき……」

愛ちゃんは……

オレを元気づけようと、必死に楽しそうな話や言葉を選んで、夢中になって話してくれた

オレを心配し気遣ってることを肌で感じるようだった

オレは、自分に対する情けなさでいっぱいだった

愛「それでみなさん、すっごく輝いてました!」

愛「さすがプロデューサーさんがプロデュースたから、あんなに輝けるのかなあって!」

愛「だから、みなさんはだいじょうぶですから、心配しないでも……」

P「……大丈夫、心配ない、か……」

愛「……え?」

入院中に何度も言われた


765プロは大丈夫

みんなきちんとできている

だから……心配ない


P「オレ、どれだけみんなに迷惑かければ気が済むんだろうな……」

愛「プロデューサーさん?」

おい

P「そう、みんなもうだいじょうぶなんだ」

やめろ

P「心配ないんだ」

口に出すんじゃない

P「オレがいなくても」

ずっとこらえてきたんだろ

P「みんなきちんと仕事ができてて」

やめろ

P「オレ、もう」

これ以上

P「みんなにとって」

惨めになるようなことは

P「必要ないのかもしれないな……はは」

するんじゃない……

窓の外を見ながら、呟き、そして自嘲ぎみに笑った

P「……」

愛「……」

しばらく沈黙が続いた……

P「……愛ちゃん?」

いつもなら、彼女との会話が途切れたことはなかった

流れるように次々と言葉が出てきて、ポンポンと弾むような会話をする彼女が

黙ったままなことをおかしく思い

振り返って顔を見ると


彼女は顔を赤くして震えていた……


愛「……どうして」

P「え?」



愛「どうしてそんなこというんですか!!?」

P「あ、愛ちゃ……」

愛「春香さんだって、雪歩先輩だって!他の先輩たちだって!!」

愛「プロデューサーさんが順調に回復してるって話したら、本当に喜んでいたんですよ!?」

愛「それなのに……!!」

P「……」

愛「……」

愛「……ごめんなさい」

P「いや……」

愛「私の……せいですか?」

P「え?」

愛「私が……プロデューサーさんに迷惑かけてるから、プロデューサーさんの体調が悪くなったのかもって……」

P「ち、違うよっ!君のせいじゃ、まったく、ないんだ。本当だよ」

愛「……私だって……」

愛「私だって、プロデューサーさんとお話できてよかったなって思ってるんです……」

愛「プロデューサーさんに出会えて、良かったって思ってるんですよ!!」

P「そんな……オレは何もしていないよ」

愛「そんなことありません!ずいぶん勇気づけてもらいました!」

愛「プロデュースのこととか、アイドルとしてどうしていくべきかとか、いろいろ教えていただきましたし……!それに……!」



愛「一緒にお話しするだけで……、一緒にいてくれるだけで、救われることだってあるんです!!」



P「愛ちゃん……?」

愛「プロデューサーさん……」

愛「私は……」

愛「……私には……」

P「……?」



愛「私には……大事な人がいました」


P「大事な……人?」

愛「春香さんにとっての、プロデューサーさんみたいな人です……!」

P「……」

春香にとっての……オレ

愛「その人は……いつも私のそばにいてくれました……」


愛「私のこと、すごく考えてくれてて……
その人の応援が、とっても支えになって……」

愛「暴走しがちな私を、いつも必死に制してくれて……」

愛「迷惑かけっぱなしなのに、あきれもせず私のこと、ずうっと大切に思っていてくれていたんです!」

愛「私、その人のことが大好きでした!」

愛「……今だって……」

P「……」


愛「でも……その人とお別れしなくちゃいけなくなったんです……」

愛「それは、別れがその人にとって、大切な事だったから……
だから、私、もう私のことで心配しないで、気持ちよく旅立って欲しかったから……」

愛「だから私、一人で何でもできるようにって、がんばりました!」

愛「がんばって……その人とは安心してお別れできました」

愛「でも……」


愛「その人にも、もう誰にも心配かけないようにって」

愛「これからは、誰にも頼らず一人立ちしなくちゃって!
自分一人でやって行かなきゃいけないんだって!
そう思ったんです!」

愛「……そう思ったら、不安で、寂しくて」

愛「やっぱり、私一人じゃあダメだって……」

愛「くじけそうになって……」

P「……」

愛ちゃんは、俯いていた。歯を食いしばり、拳を握り、ひどく悲しい顔をしながら

今にも泣き出しそうな、のどから絞り出すような声で、自分の胸の内を話した

だけど彼女は絶対に泣かなかった

涙を一粒も流さなかった

それは、彼女の意地に違いがなかった

愛「そのときだったんです。プロデューサーさんの話を聞いたのは」

愛「春香さんのプロデューサーさんに教えてもらえば、自信がつくと思ったんです」

愛「そうすれば、一人前になれるって……」

愛「誰にも心配させずに一人でもやっていけるって!そう思ったんです!」

P「……」

愛「でも……やっぱりダメでした、私、けっきょく、プロデューサーさんの優しさに甘えて、すがるばかりで……」

愛「でも……やっぱりこれからは誰にも頼らず一人でやって行こうって
  決心がつきました」

愛「このままじゃ、プロデューサーさんに迷惑かけたままだから」

愛「そうじゃなくちゃ、また誰かに頼って、私、弱いままだから」

愛「そうじゃなくちゃ、あの人やみなさんに心配をかけるだけだから」

愛「だから……!」

愛「今まで、ありがとうございました、プロデューサーさん!!」

愛「本当にごめんなさい」

P「愛ちゃん……!」

愛「プロデューサーさんは、しっかり療養に励んでください!」

愛「そして、一日でもはやく先輩たちのもとへ行ってあげてください!」

愛「みなさんだって、プロデューサーさんの帰りを本当に心待ちにしています!」

愛「今まで教えてくださって、ありがとうございました!私、あとは平気です!」

愛「え、へへへ……話したら、少しすっきりしました」

愛「それじゃあ、その……さようならっ」

P「愛ちゃん!」

愛ちゃんは、病室から飛び出していった

追いかけなければ、と思った

しかし、まだ治りきっていない体を無理に動かしたせいで、身体にズキリと稲妻のように痛みが走った

オレは、彼女のあとを追わなければならないのに、追うことができない

彼女の笑顔を奪ってしまったのに

くそ……どうして……どうしていつもこうなんだ、オレは……

肝心な時にいつも役立たずで……オレは!

動けよ足、動いてくれ

P「この……足ッ!!」

怒りに任せて足を叩いても、足が治るわけでも、動くわけもなかった

自分の愚かさに、自分の無力さに

絶望した

今日はここまでです


明日には終わらせたいなあと思いますが、無理かもなあ

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