ユミル「たったひとつの贈り物」 (ユミクリ)(79)

ユミル×クリスタ、ユミルメイン、ユミル視点の地の文あり
52話までネタバレあり

現在公開されている情報から色々想像で補完してます



よろしくお願いします



「我らを恨むでない。全ては運命のままに-」


ここへ連れてこられた時、そう言われたのを覚えている。
それがいつの事だったかははっきりしない。
寝台に横たわりまどろむ私の顔に、高窓から入り込んだ光が差し掛かってきていた。


「…おい起きろ、いつまで寝てるつもりだ!」

(もう、朝か…)


乱暴に扉を開けて入ってきた憲兵の声に、私の意識は繋がっていく。
今日もまた変わり映えの無い一日が始まった。


「ぐずぐずしていないで早く仕事の準備をしろ」



憲兵は私の足鎖から錘を外し、こう続ける。


「今日の水汲みはいつもの倍にしておけ。馬屋の掃除も忘れるなよ」

(相変わらず人使いが荒いな…)


足鎖を引きずり井戸へ向かう途中、ふと顔を上げる。
砦を再利用した憲兵の駐屯所は、砦としては小さい方だが数人が住まうには十分な広さだった。
周囲は高い壁に囲まれており、侵入も脱出も困難だ。子供一人を軟禁するには十分と言える。

この砦で、憲兵のために洗濯をし、馬の世話をし、薪を割り、冬になれば雪をかく。それが私の生活だった。


(…そろそろ憲兵が入れ替わる頃か)



ここに連れられてもうどれだけの日々を過ごしただろうか。
気候の変動で大体の季節はわかるが、今は何日かも判然としない。

最初は木に刻みをつけて日にちを数えていたが、しばらくしてそれもやめた。
そんな事をしても私がここを出る日は来ない。

汲み上げた水を運んでいると、憲兵の声が聞こえてくる。


「おい…あいつはいつまで生かしておくつもりなんだ?」

「12歳の誕生日までだ。言っただろう、その歳にならなければ法で裁けない」

親切設計なスレタイ評価



この国の法では12に満たない子供に罪を問うことはできない。

ここに連れて来られる前に私の周りにいた者達は全て殺されたが、
幼かった私はここでしかるべき時を待つことになった。


『ユミルに連なるもの』

『ユミルの民』

『ユミルを継ぎし者』


私を取り巻く環境が変わってしまったのは、ユミルとして生まれた意味をきちんと理解する前のことだった。
代わりに理解したのは、連中にとって私の存在は殺したいほど邪魔だということ。



「こうやって食わせてるのも税金の無駄遣いじゃねえか…」

「だからこうして働かせているんだろう」

「その金で村から雑用係を雇った方がマシだ。見張る必要もないしな」

「あいつが生まれてきてなけりゃ話は簡単だったのによ」


(わからねえな…何のために生まれてきたのかも、生きてることに何の意味があるのかも)


12歳を迎えたら私は処刑される。今はただ、死ぬために生きている。



一日の仕事を終え、体を拭いた私の足鎖に錘が繋がれた。
敷地の片隅にある石造りの小屋に入ると、外から鍵がかけられる。

憲兵の居館では夕食の準備が始まっているようだった。


小規模の砦に専属の料理人を配置する余裕はないらしく、日に三度、村から食事が運ばれる。
調理場でスープが温めなおされ、憲兵が食事を始めた頃に私にも食事が運ばれてくる。


「…こんばんは」



小柄な少女が入口の床に食事を置き、静かに扉を閉める。
以前隙間から伺ったことがあるが、私が食事をとっている間はいつも長椅子に腰かけて物書きをしていた。

固いパンをスープに浸して口にする。質素ではあるが、味付けは悪くない。


(死ぬまでに、あと何回これを口にするんだろうな)


食事を終え、食器を入口に戻すと寝台に体を横たえる。
朝まではやることもないし、錘のせいで動くことも存分にできない。ならば寝てしまうに限る。

しばらくして扉が開かれ、食器を片づける気配がしたが気にも留めなかった。



一つ季節が巡る。

新しい憲兵がやってきた。


「特別死刑囚13号、ここでの規則を伝える」

「我々はお前に話しかけるが、お前の話に我々は答えない。何かあるのなら紙に書いて机の上に置いておけ」

「我々はお前の事は何も知らないし、聞くことも無い。お前に我々の何を伝えることも無い」

「これは我々の穢れになるだけでなく、お前がこの世に未練を残すと刑の執行に際して不要に苦しむからでもある。それをよく理解しろ」

「…以上だ。速やかに今日の仕事にうつれ」


季節ごとに憲兵が入れ替わる度に聞かされるこの有難い訓示はすっかり頭に入っている。
分かりましたという答えすら奴らは無視を決め込むので、最近は答えるのをやめた。



(去年の夏頃に来た奴らは最悪だった。今度のも大人しめだと助かるんだが)

『…知ってるか?俺達の仕事はな、要するにお前に生きたいです、って言わせない事だからな!』

『死んだ方がマシって思う方が、気分よく死んでいけるだろ?俺達は優しいからな、たっぷり教えてやるよ!』

(…そんなに殴らなくたって、素直に死んでやるよ。生きていたいとも思わないしな)


昔の事を思い出していた私の目に、長椅子の上に置かれた一冊の手帳が飛び込んでくる。

手にとって頁をめくると最初に粗筋があった。
どうやらあの少女が毎日書き綴っていたのはこの小説らしい。
本文は推敲を重ねているらしく、何度も消しては書きなおした跡が残っている。



(あいつが忘れていったのか…)


見上げれば今にも泣き出しそうに空が曇っている。


(仕方ない…預かっておこう)

「何をぼんやりしている!仕事にかかれ!」


飛んできた怒号に、私は慌てて手帳をポケットに突っ込んだ。



日が傾き、世話係の母娘がやってくる。
朝昼は母親だけだが、夜は酒や頼まれた物資などの運搬があるため娘が付き添う。

いつもどおり小屋の扉を開け食事を置いた少女が、私の手にある物を見て目を見開いた。


「…それ!どこで…」


私は無言で手帳を差し出す。


「あなたが、拾ってくれたの?」


一つ頷く。少女の瞳が手帳と私の顔を見比べる。


「ひょっとして、中、読んだ…?」



もう一つ頷く。まずかっただろうか。


「あ…そう、なんだ…」


少女は顔を真っ赤にすると、何かを思いついたように手帳を押し返してきた。


「これ、最後まで読んで!それで感想を聞かせてほしいの!」


扉を閉めると、走り去る足音だけが聞こえてくる。


パンとスープと、手帳だけが小屋に残された。



幾日かかけて手帳に記された物語に目を通す。
空から墜ちて傷つき誇りを失った竜を助けに旅に出る話らしい。
難しいことはわからないが、純粋に感じた事を全て紙に記して手帳に挟んだ。

夕食を運びにやってきた少女に差し出す。


「読んでくれたの?」


一つ頷く。少女は恥ずかしそうに笑った。


「ありがとう。この紙に感想が書いてあるのね」


もう一つ頷く。


「…ひょっとして、お話できないの?」

「…話せるよ。でも、必要以上に私の事を知ったり、私に自分のことを知らせるのは、あんたの穢れになる」



「名前を聞くのも?」


さらに頷くと、少女は少し驚いた顔をした後一呼吸おき、青い瞳に強い光を宿してこう言った。


「つまらない迷信ね」

「…憲兵は信じてる」


それ以外の意味もある。


「…わたしの小説、読んでくれてありがとう。感想は参考にするね」


それだけ言い残すと、少女は静かに扉を閉めた。



次の日の夜。
食事を運びに来た少女が、今度は本と別の手帳を持ち込んできた。


「ねえ、よかったらこれを読んでくれる?」


驚く私に構うことなく続ける。


「これはね…有名な詩集なんだけど、これに載ってる幾つかの詩を、わたしなりのイメージで物語にしてみたの」


この詩集から読めということらしい。呆気にとられて顔を上げると恥ずかしそうに自分の髪をいじっている。


「ダメかな…?」

「…わかったよ」

「ありがとう!あ、わたしの小説、あなた以外には誰にも見せてないから…他の人に見られないようにしてね」


どうせ夜はやることも無い。暇つぶしに戯れに付き合うのも悪くないだろう。それに度胸も気に入った。
私は一つため息をつくと、椅子に座りパンをかじりながら詩集の頁をめくった。



変わり映えの無い単調な日々に、少女の紡ぐ物語によって色が挿される。

死ぬために生きていた私は、小さな小説家のたった一人の読者となった。
仕事の合間を縫っては頁をめくっていく。



異世界へと繋がる本に吸い込まれたいじめられっ子の物語。

両親の反対に合い、身分も財産も捨てて駆け落ちする恋人たちの物語。

伝説の魔女の力を継いだものの、その力に翻弄される少女の物語。



物語を通じて私の中に、見たことのない世界が広がっていく。

一つ一つに丁寧に目を通し、その全てに感じたことを添えた。
彼女が望むように、全体の感想だけでなく思った事や受けた印象を全て書き記しその都度手渡す。
新しい話の粗筋を渡されたり、書き直された物を読み直すこともあった。



「…ねえ、今までの中だったら、どれが良いと思う?」


いつの間にか、私の食事中も小屋に居座るようになった少女が問いかけてくる。


「…全部良かったよ。どれも私には新鮮だ」

「その中で一番を教えてよ」

「そうだなあ…じゃあ、老婆の姿にされた姫と猫の姿にされた王子の話かな」

「本当?それ、わたしが一番最初に書き上げたものなの。一番のお気に入りなんだ!」

「こんなに面白いのに、誰にも見せないなんて勿体ないな」

「でも、恥ずかしいし…もしつまらないって言われたら…」

「そんなことねえよ。少なくとも一人は、面白いって思う奴がいるんだからさ」

「うん…でも、勇気が出なくて…」


いつもの堂々巡りのやり取りに、青い瞳の少女は恥ずかしそうに笑った。



一つ季節が巡る。

ある日の夜のこと、いつもより騒々しく扉が開かれると、少女が目を輝かせて話し始めた。


「…ねえ聞いて!この間一番面白いって言ってくれたやつを神父様にお見せしたの!
 そうしたらね、すごく面白いから、村の皆に見せたらどうかって。
 それで今、綺麗に清書してるの!」

「ほらな、私の目に狂いはなかったろ」

「うん、ありがとう。あなたのおかげで勇気が持てた」


髪をくしゃくしゃと撫でてやると、少し頬を膨らませる。


「わたしの方が年上なのに…」

「そりゃ悪かったな」



「ねえ、笑わないで聞いてくれる?…わたしね、いつか自分の小説を本にするのが夢なの」


私は年下らしく静かに話に耳を傾けた。


「大人も子供も楽しんで読めるようなお話をたくさん書いて、皆に喜んでもらいたいの。
 でも…ただの村娘が本を出すなんて、無理だよね」


そんなことはないと言いかけたが、無責任な励ましだと気づいて口を閉ざす。


(もし私が、生きる事は素晴らしいから希望を持てって言われて、はいそうですかと思えるか?)

「ごめんね、変な事言って。でも夢を見るのは自由だよね?」


私は何も言わず、ただ微笑んでもう一度髪を撫でた。

この先死刑が確定してるってことを思うと切ないな



また一つ季節が巡る。


いつものように部屋で夕食を待っていた私の耳に、がちゃがちゃと慌ただしく鍵を開ける音が飛びこんでくる。
慌てているせいか、かえって時間がかかっているようだ。ようやく扉が開く。

少女は食事を床に置くと、いきなり私の体に抱きついてきた。今日の興奮ぶりは只事ではない。


「あのね、あのね、わたしの小説を、神父様がここの領主様にお見せしたんだって!
 そうしたらね、是非この物語を書いた女性に会いたいって仰ってるそうなの!」

「…本当か?すごいじゃないか!?」

「それでね、ちょうど今領主様がこの辺りの村々を回っていて、明日はうちの村にお見えになる日だから、
 神父様に付き添ってもらってお父さんとお母さんと一緒にご挨拶するの!」

「…やったな。本を出版するのも、夢じゃないんじゃないのか?」

「うん、あなたのおかげだよ」

「…私は何もしてないさ」



少しだけ興奮を冷ました少女が、私の目を見て問うた。


「ねえ…名前を教えてよ」

「…言ったろ。私は13号だって」

「本当の名前よ」

「穢れになる」


そうでなくとも、私はこの少女の事を知りすぎた。


「意外と迷信深いのね…ねえ、どうしてここに囚われているの?
 わたしには、あなたがそんな悪人には見えないわ」

(…どうして、だって?)


-ただ存在するだけで、世界から憎まれるからさ-



「いいだろ…そんなことよりさ、こないだ話してた新しい話の構想を教えてくれよ」

「…まだなんとなくしか決めてないんだけど…お姫様をさらった騎士の物語を書こうと思ってるの」


でも、と彼女は続ける。


「どうして騎士がお姫様をさらうのか、お姫様がお城の暮らしを捨てて騎士について行くのは何故か、
 上手くお話に組み込めなくて。それに、名前もなかなか決まらないの」

「名前か…」


天井を見上げて思案する。しばらくして思いついた名前が口をついて出てきた。



「ロキ」

「騎士の名前?…不思議な響きね。お姫様の方は?」

「イズン」

「素敵ね…ロキと、イズン」

「イカした名前だろ?」

「うん、その名前でイメージを膨らませてみる。ありがとう」


少女が手帳に名前を書き記し、何やら推敲を始めたのを見て、私もスープに口をつけた。



翌朝。


「…おい起きろ、いつまで寝てるつもりだ」


扉を開けて入ってきた憲兵が部屋の中に整列する。
いつもは一番下っ端が錘を外しにくるのだが、今日は様子が違っていた。


「特別死刑囚13号。この地を治める主の名の元に通達する」

「貴様はあと3つ日を数えたのちに12の歳を迎える。よって、その日より正式に死刑囚として扱われる」

「刑の執行はそれから7つ日を数えた後、すなわち今日から10日後になる」

「遺言の類は一切認めない。貴様に課せられた運命を謹んで受け入れろ。以上だ」


読み上げられる通達状の内容を茫然としながら聞いていた私は、次の瞬間には憲兵に掴みかかっていた。



「わあああああああ!!!!」

「おい、暴れるな!」

「放せ!放せよ!ここから出してくれ!!」

「大人しくしろ!!」


銃床で思い切り殴られ、床に突っ伏す。すぐに扉が閉められ、鍵がかけられた。
両手で扉を叩き叫び続ける。どんどんと重い音を立てる扉はびくともしない。


「お願いだ!ここから出たいんだ!!出してくれ!!」



錘を引きずって椅子のところまで歩くと、それを掴み上げ扉へ力一杯叩きつけた。


「うああああああ!!」


自分でも訳のわからない事を叫びながら椅子で扉を殴り続ける。
木製の椅子はあっさり壊れ、形をなさなくなった。


-死ぬ-

-シヌ-

-コロサレル-


ねっとりとした汗が全身から噴き出してきた。荒い息を吐き出す。震えが止まらない。胃から酸が戻ってくる。
どうせ捨てるものだからとあいつが持ってきた、欠けた花瓶に逆流したものを吐き出した。



(嫌だ…)


まだ、あいつの本を読んでいない。もしも出版されたら、その時は一番に私に見せてくれると言った。


―嫌だ―


今度は机を掴み上げる。


-死にたくない-


「出せ!ここから出せぇ!!うああああああああああああ!!!!」


幾度もの衝撃に耐えられなくなった机が、私の精神と一緒にただの木片へと姿を変えていった。



夜の帳が落ちてくる。
気力も体力も使い果たした私は、ぐったりと寝台に寝転んでいた。
昨日のやり取りが思い出される。


『領主様が、是非この物語を書いた女性に会いたいって-』

『お父さんとお母さんと一緒にご挨拶するの-』


あいつは領主に認められて、その才能を羽ばたかせていく。私が死んだことも知らずに。


『お前がこの世に未練を残すと刑の執行に際して不要に苦しむからでもある。それをよく理解しろ』

(あいつに会わなければ、話さなければ、手帳なんて拾わなければ、こんなに苦しまなくて済んだ)


なのにあいつは一人だけ幸せになって、そのうちに私の事なんて忘れてしまうだろう。なんと不公平なことか。



ぼんやりと天井を見上げていると、扉が開かれる音がした。


「!…これ、どうしたの?」


寝台に近寄ってくる気配がする。


「…ねえ、憲兵さんが言ってたの。今日は何も食べてないんでしょう?…持ってきたから、食べて?」

「…いらないんだ」

「食べなくちゃ死んじゃうよ!」


-食べたって、死ぬ。


「いらねえって言ってるだろ!!」



起き上がりトレイをひっくり返す。パンが転がり、スープの中身が床にぶちまけられた。
次の瞬間、私の頬に平手が飛んでくる。
顔を上げると、真っ赤に目を腫らしたあいつが涙を浮かべていた。


「バカ!!」


それだけ言うとばたばたと部屋を横切って出ていく。乱暴に扉が閉められる音が響いた。


(…あいつ、泣いてた)


大きく息を吐き出すと、もう一度寝台に体を横たえる。考えても仕方がないのだ。

あいつの涙の理由を知ったところで、私にしてやれることなど何もないのだから。



3日が過ぎ、12の歳を迎えた私は砦の地下にある牢へと移されることになった。

あの日から、あいつは食事を運びに来ることは無くなった。
代わりにやってくる憲兵が酒臭ければ今は夜。日の光の刺さないここではそのくらいしか時間を知る術が無い。

寝台に横たわり、ただ時が過ぎるのを待つ。
日に3回、手つかずの食事が差し替えられる。僅かに水を口にするだけで、何も食べる気が起きない。


(酒の匂いは、ここに来てから確か7度目だ)


数え間違っていなければ、明日刑が執行される。

いや、ひょっとしてもう死んでしまっているのではないか。
それで刑が執行されるのを待つ悪夢を永遠に見続けているのではないのか。
単調な時の流れの中で、ぼんやりとそんなことを考える。


その時、ひたひたと階段を下る足音が聞こえてきた。



「…ねえ、眠っているの?」

(お前…どうしてここに…)


久しぶりに出した声は掠れて音にならなかった。水を一口含み喉を潤す。


「待っててね、今、出してあげるから」


懐から取り出した鍵束のうち一本を取り出し、がちゃがちゃと音をたてて錠前と格闘する。


「その鍵、どうしたんだ…憲兵は」


少女は次の鍵を錠前に突っ込みながら答える。


「憲兵さんは、皆つぶれて眠ってる。うんと強いお酒を持ってきて、いつもの瓶に入れ替えたの。
今日はお祭りだから、沢山お酒を勧めたの」



「祭り…?」

「そう、お祭り。明日結婚するから、そのお祝い」

「結婚って、誰がだよ」

「…わたしよ」


食事をとっていないせいだろうか。ぐらぐらと頭が揺れた。


「わたしが、明日結婚するから、村でお祭りをしているの」

「お前…なんだよそれ」


少女はうつむいて答える。


「領主様とお会いした日、お父さんとお母さんが別に呼ばれたの。
わたしは神父様に連れていかれて、領主様のお嫁さんになりなさいって言われたの」



瞳が光を失っていく。


「領主様はね、子供がいないの。10年前に奥様を亡くされて、似た人を探しては何度も結婚してるんだって。
だけど、なかなか子供ができなくて…そのうちに新しい奥さんは皆病死しちゃうの」


少女は続ける。


「病死って事にされてるけど、子供ができないから殺されてるんだろうって、皆言ってる。
領主様は奥様が亡くなって、おかしくなったんだって。わたしは奥様に一番雰囲気が似てるって言われた。
弟も妹もいてお母さんが多産なのもいいって。お嫁に来たら、小説を出版社に売り込んでやってもいいって…」


青い瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。


「わたしは嫌だよ。お父さんより年上の人と結婚するのも、殺されちゃうのも嫌だ…
わたし、ここから逃げ出したい。ねえ、わたしと一緒に逃げてよ!」



(ここから出られる-)

「ここから逃げ出して、誰もわたし達を知らない土地に行こうよ…!
 それで、普通の暮らしをするの。野菜を作ったり、狩りをしたりして」

(夜はお前が書いた小説を読んで、語り合って。そうやって穏やかに暮らせばいい。それ以外には、何もいらない-)


一瞬、脳裏に浮かんだ自分の想像にすこしだけ口元が緩んだ。


(それで…その後はどうする。追手が来たら?)


連中は血眼になって捜しに来るだろう。私を逃がしたことが知れたら、こいつもこいつの家族は極刑を免れない。
下手をすれば村全体にも迷惑がかかる。



「駄目だ…私はここから出られない」

「どうして!?ずっとこんなところで暮らすのがいいの!?」

「違うんだ…逃げ出したら、連中がどこまでも追って来る」

「あなたが一体何をしたっていうの?子供を牢屋に閉じ込める憲兵さん達の方が、
よっぽどひどい事をしてるじゃない!ねえお願い、何があったのか教えてよ!」


何も言う事が出来ない。唇をかんで俯く。


「…言えないの?」

「ああ」

「分かった…それでもいいから、一緒にここを出よう?ね?
…事情があって、話せないことがあっても、何があっても、…わたしはあなたの味方だから!」

「…!」


私は鉄格子から両手を伸ばし、小さな肩を抱いた。
少女の手のひらをすり抜けた鍵束が、がちゃりと音を立てる。



-ここから、逃げる-


この砦を出て、あちらこちらへ旅をする。

物語に出てきたような賑やかな街の雑踏に紛れ込んで、露店で買い食いをする。
船に乗って別の街へ。見つかりそうになったら、人里離れた山奥に逃げ込もう。
雲一つない空。眼下に広がる景色。
山を降りて馬に乗って草原を駆け抜ける。沈んでいく夕日に向かって、どこまでも、どこまでも。


こいつの家族でもなんでも、犠牲にすればいい。
こいつが自分で言いだしたんだ。何も遠慮することはない。


いずれ追手がやってきて、捕まったとしてもその時は仕方ない。もともと死ぬ予定だったんだ。
それを先延ばしにできて、世界を見て回れるなら儲けもんじゃないか。


(…でも、もし捕まったら、こいつは私と一緒に殺される)



両腕に力を込める。
天秤にかけなくてはならない。自分の僅かな命と、こいつの未来とを。
きつく目を閉じて、歯を食いしばる。


-死んでやろう-


そうだ。死んでやろう。憲兵達のためじゃない。こいつの幸せのために。


「駄目だ」

「…」

「私は明日遠くへ、ずっと遠くへ行くことになってる。
もし逃げ出したら、お前にも、お前の家族にも迷惑がかかる」



「どうしても…?」

「どうしてもだ」


少女は俯く。


「…子供が生まれればお前は一生大事にしてもらえる。
 辛いだろうけど…きっとお前に似たかわいい子供だ。生まれればきっと情もわく。
 それにお前、本を出すのが夢なんだろう?夢をかなえることができると思えばいい」

「…分かってる。逃げたら、お父さんにも、お母さんにも、村の人にも皆に迷惑をかけるの。分かってるんだ…」


何も言わず、もう一度少女を抱きしめる。
二人を隔てる鉄格子は固く冷たい。


「わたしね…お屋敷に行ったら、亡くなった奥様の名前で呼ばれるんだって。
 酷いよね…わたしにはお父さんとお母さんがくれた名前があるのに、もう誰も呼んでくれなくなるんだ…」



少女は顔を上げ私の顔を見ると、悲しそうに微笑んだ。


「ねえ、こんなお話はどうかな。…あるところに、何も持たない村娘と、そばかすの女の子がいました。
 二人はとっても仲良しで、どこに行くのも一緒。
 村の学校に行くときは、いつも隣の席に座って一緒に勉強しています。
 時々、先生の目を盗んでおしゃべりもします」

「…休みの日には街に遊びに行きます。村娘はお店に入って、お小遣いでそばかすの少女のために…
 そうね、バレッタを買いました」


手を伸ばし、伸びっぱなしの私の髪にそっと触れてくる。


「…そうして、二人はいつまでも、ずっとずっと仲良く暮らしました-」



思わず涙が滲んでくるのを必死でこらえた。


「ごめんね。わたしには、こんなお話くらいしか、贈り物ができないの」

「何言ってる…お前は私に沢山の贈り物をくれた。お前が見せてくれた物語は、かけがえのない宝物だ」

「ねえ、遠くってどのくらい遠いの?また会える?」

「…難しいと思う。でも、もし赦されたら」


-生まれ変われたら-


「きっとお前に会いに行くよ」

「…うん」




「私もお前に何か餞別をやりたいが、見ての通り何もないんだ…だから」


天井を見上げて少し思案する。


「生まれてくる、子供の名前をやるよ…もらってくれるか」

「…うん、ありがとう。子供が生まれたら、領主様にお願いするね」

「ああ、そうしてくれ」

「ねえ、もういいでしょう。名前を教えて?あなたの事を思い出すのに、13号さんじゃいやだもの」

「ユミル」

「…不思議な響きね」

「お前の本当の名前も教えてくれ。誰も呼んでくれなくなっても、私はきっと覚えておくから」

「ユミル…わたし…、わたしの名前-」




おんぼろの馬車が、目隠しをされた私を運んでいく。今日は風一つないようだ。

不思議なほど気分は穏やかだった。手枷が無ければ大きく伸びをしたいものだ。
見張りの憲兵がいなければ口笛の一つも吹いていたかもしれない。

幾時か揺れ続けていた馬車がゆっくりと速度を落とし、止まった。下りるように促される。


「…遺言は認められないが、言いたい事があれば聞いてやる」

「最後に、空を見たい」

「…いいだろう」


目隠しを外されると、見知らぬ小屋の入り口に立っていることが分かった。
見上げればあいつの青い瞳と同じくらいに青い空が高く広がっている。



しばらくして、再び目隠しをしようとする憲兵を制して私は言った。


「このままでいい」


憲兵達が顔を見合わせ戸惑っていると、白い頭巾の男が一歩前に出た。表情は布に覆われて見えない。


「では、このままで」


小屋の中には一脚の椅子が置かれていた。そこに座らされ、肘掛に両手を縛り付けられる。

準備を終えると、白い頭巾の一人を残して憲兵は部屋を出ていく。



「我らを恨むでない。全ては運命のままに-」


男が、鍵のついた木箱から小瓶を取り出す。


(もし、生まれ変わる事ができたなら)


小瓶から液体が注射器に吸い上げられていく。


(今度は、自分のためだけに生きたい)


上腕がきつく縛られると帰る道を失った血液が充満し、血管が浮かび上がる。


(そうしたら、きっとお前に会いに行く-)


血管に針が刺され、そこから液体が体内に流し込まれていく。

その光景を最後に、私の意識は途切れた-



「ユミル…ユミルの民-」

物心ついた頃、そう呼ばれたのを覚えている。それがいつの事だったかははっきりしない。
寝台に横たわりまどろむ私の顔に、高窓から入り込んだ光が差し掛かってきていた。


「ユミル…ユミルってば!」

(その声は…)


枕元で呼ぶ少女の声に、私の意識は繋がっていく。
今日もまた変わり映えの無い一日が始まった。


「起きてユミル!ぐずぐずしてるとサシャに朝ご飯取られちゃうよ!」



クリスタは私をゆすりながら続ける。


「今日はお休みだから街に行くって、昨日の夜約束したでしょう?」

(そういや、そんなことも言ったかな…)


半分寝ながら生返事をしていたが、クリスタの方はしっかり覚えていたようだ。

重い体を持ち上げて、返事代わりに髪をくしゃくしゃと撫でてやる。

訂正する。今日は退屈しない一日になりそうだ。



朝食を終え身支度を済ませた私達はトロスト区の商店街へと足を運んだ。
休日に身も心も解放されているのか、クリスタの表情は明るい。
馴染みの店を一通り回ったところで広場の近くに見慣れない店を見つけ、クリスタが私に声をかける。


「ユミル!あんなところに雑貨屋さんがある!」

「本当だ。気付かなかったな」

「ねえ、ちょっと覗いて行こ?」

「んー、私は疲れちまった。休憩してるから行って来いよ。荷物持っててやるから」



クリスタを見送った私は広場の長椅子に腰を下ろした。
露店で買ったよく冷えた二人分のライム・エードの一つを手元に置き、一つに口をつける。


(久しぶりに、昔の夢を見たな…)


おもむろに買ったばかりの本を取り出し、頁をめくる。

ほどなくして笑顔を浮かべたクリスタが帰ってきた。手には新しい袋包みが増えている。


「お待たせ、ユミル」

「ん、これ飲んで休憩しとけ」

クリスタを長椅子の隣に座らせると、手を付けていない方のライム・エードを渡す。



「ありがと。喉乾いてたんだ」

「何かいいもんは見つかったのか?」

「うん。帰ったら見せてあげる。…ユミルは何を読んでるの?」

「これか?昔の本だよ。ウォール・マリアが落ちた時に出版社がやられて絶版になったんだが、
 最近再販されたんだ」

「どんな本?」

「無実の罪でとらわれた騎士が、政略結婚させられそうになった姫様の手引きで脱出して一緒に冒険する話」

「ふーん…ユミルが読み終わったら、わたしも借りていい?」

「ああ。…さ、飲んだらぼちぼち帰ろうぜ。私のお姫様」


美しいブロンドをくしゃくしゃと撫でると、青い瞳の少女は恥ずかしそうに笑った。



夕暮れの街を通り抜け、兵舎までの道を行く。
寮では訓練兵がそれぞれの部屋で思い思いの時間を過ごしていた。

部屋に戻ってきたクリスタは荷物を置くとさっそく先程の袋包みを見せてくる。
開くと中からバレッタが姿をあらわした。


「これ、似合うと思って。ユミル髪が伸びてきたでしょう?」


一瞬驚いて口ごもると、それを勘違いしたクリスタが不安そうな顔をした。


「ひょっとして、こういうのは嫌いだった?」

「いや…さすが私のクリスタ。ちょうどバレッタが欲しいと思っていたところなんだ。
 お前は私の気持ちが分かるんだな」

「本当?良かった…喜んでもらえてうれしいな…!」

「ありがとな、クリスタ」



「ねえ、ユミルの好きなものを教えてよ。わたし、もっとユミルに贈り物をしたいの。
 高いものは無理だけど…ユミルに喜んでもらいたいの」


私は腕の中にクリスタを抱いて答える。


「お前は私に沢山の贈り物をくれた。
 お前が生まれてきてくれたことも、こうやって一緒に過ごす日々も、かけがえのない宝物だ」

「お、大袈裟だよユミル…」

「あー、あったかくて柔らけえな」


両腕の力を強め、クリスタのブロンドに顎をぐりぐりと押しつける。直に抱きしめられる幸せをかみしめて。


「ユ、ユミル、くるしい」

「また始まっちゃいましたよ…ユミルの全力直球の愛情表現が」

「ええ、とても参考になる」





巨人に喰いつくされた体が、形を保てずに蒸気となって消えていく。
周りを覆う肉が霧散し、瓦礫の上に取り残された私の体が外気に晒された。今日は風一つないようだ。

不思議なほど気分は穏やかだった。手足がちぎれていなければ大きく伸びをしたいものだ。
内臓がやられてなければ鼻歌の一つも歌っていたかもしれない。

「ユミル!」

私を呼ぶ声がする。声の主は近くにいるはずなのに、壁一つ隔てた向こうから話しかけてくるかのようだ。

「ユミル…わたしの名前…」

クリスタは私の上体に抱き付いて言葉を続ける。

「わたしの名前…ヒストリアって言うの…」

(ヒストリア)

その形に口を動かすも、声は掠れて音にならなかった。もう一度その名前を心に呟く。

(ヒストリア)




『そうだな…男ならロッド、女ならヒストリアってのはどうだ?』

『ロッド、ヒストリア…男の子なら、ロッド・レイス、女の子ならヒストリア・レイスね』

『イカした名前だろ?私にできる、たったひとつの贈り物だ。もらってくれるか』

『うん、ありがとう。子供が生まれたら、領主様にお願いするね-』


男子が一人、生まれたと聞いた。

女の名前はお蔵入りになったのだと、そう思っていた。




『ごめんね。わたしには、こんなお話くらいしか、贈り物ができないの-』

(何言ってる…)

-お前は私に沢山の贈り物をくれた。お前が残してくれたものは、かけがえのない宝物だ-

-お前が呼んでくれたから、私はこの名前を名乗って堂々と生きようと思えたんだ-


千切れていない方の手を動かし、ヒストリアの顔に触れる。


(泣き顔まで、そっくりなんだな…)


ぽろぽろと涙を流す青い瞳の向こうで、同じくらいに青い空が高く広がっている。

その光景を最後に、私の意識は途切れた-





~おわり~


ありがとうございました


ユミクリ=ロキ・イズン説が気になってます

最新話の黒髪の女性がヒストリアのばあちゃんだったら
ユミルとこんなやりとりもあったのかも
おもしろかった!乙!

ヒストリアがユミルのヒストリアで本当に良かった
領主様がこの本を書いた人に会いたい云々…のところで悲しい予感がしてそこから目汗全開で読んでた
すごく良い話をありがとう
乙乙!

レスありがとうございました

上手くまとまったらちょっとだけおまけを書かせてください
エレミカメインとアルミン視点のユミクリが少し入るかも


~少しだけおまけ~

エレミカ+アルミン中心、台本形式
※キャラ崩壊注意

ユミル「たったひとつの贈り物」の続きというかおまけになりますが
ユミクリ成分はアルミン視点から少しだけ(クリスタ出番なし)



サシャ「ユミル!大変です!」

ユミル「どうした芋女」

サシャ「ミカサがユミルを参考にしたせいで、エレンが入院しました!」

ユミル「知るか」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~

アルミン「芋とパァンとエレンとミカサ」


~病院~

エレン「…ったく、本当にいい迷惑だよ」

アルミン「まあまあ、相手がミカサな事を考えると、数日の入院で済んでよかったと思うよ」

エレン「良くねえよ!あいつ、突然抱きついてきてなんて言ったと思う!?」

エレン「『エレンが生まれてきてくれて良かった。エレンと過ごす日々は私の宝物』だぞ?意味がわからねぇ」

アルミン「それは…日頃の感謝を言葉にしたというか、なんというか」

エレン「お前は俺の母親かっつーの。しかも全力で締めてくるから肋骨にヒビ入っちまった」

アルミン「ミカサのパワーもエレンの回復力も驚異的だって医者は言ってたね」

エレン「それに毎日来るもんだから、思わず言っちまったよ。『もう来なくていい』って」

アルミン「それで、僕がお見舞いを頼まれたのか…明日の退院の付き添いも」

エレン「いい加減にしてほしいよな。オレは子供じゃないんだ。いちいち付きまとわれても迷惑なんだよ」



アルミン「…」

エレン「…アルミン?」

アルミン「…」

エレン「お、おいアルミン、どうした」

アルミン「エレンはさ」

エレン「え?」

アルミン「ちょっとだけ、贅沢だよね」

エレン「お、オレが贅沢?」

アルミン「うん、それに、甘えてる」

エレン「ば、馬鹿言うなよ。オレのどこが甘えてるって言うんだ」

アルミン「ミカサに対して強く出られるのは甘えだよね。どんな事を言っても、ミカサは許してくれるっていう」



アルミン「例えばキース教官が毎日やってきても、エレンは追い返したりしないだろう?」

エレン「そ、そりゃあ、お前、教官とミカサは違うだろうが」

アルミン「教官に酷い態度をしたら評価が下がるけど、ミカサは絶対に自分を見捨てたりしないってこと?」

エレン「そ、そんなんじゃねえよ!」

アルミン「ねえエレン、どうしてミカサがエレンに付きまとうのか考えたことがある?」

エレン「…いや」

アルミン「ミカサはさ、不安なんだよ。いつかエレンが自分から離れてしまうんじゃないかって」

エレン「…」

アルミン「もし、本当にエレンが顔も見たくないほどミカサが嫌いなら」

アルミン「中途半端な対応をするんじゃなくて、はっきり言った方がいい。勿論言葉は選んでね」

アルミン「その方が、ミカサも早く楽になれると思うよ」



エレン「…あいつは家族だし、嫌いなわけじゃねえよ。ただ、少し放っておいてほしいこともあるんだ」

アルミン「それならそうと伝えてあげればいい。あとは、少し安心させてあげればいいと思うよ」

エレン「安心させる?」

アルミン「ミカサを見捨てたりしないってことを示してあげればいいんだよ。少し甘えさせてあげるとか」

エレン「き、気持ち悪い事いうなよ。甘えさせるってなんだよ」

アルミン「僕らはさ、訓練兵だけど兵団の一員で、立派な男だよね?」

アルミン「それならさ、女の子を守って、安心させてあげるのは普通だよ。ミカサだって女の子なんだから」

エレン「…あいつにそんな必要無いだろ。ぶっちぎりの主席なんだからさ、不安の一つもねえよ」

アルミン「そうでもないよ。成績は関係ない」

エレン「んな事ねえだろ。あいつは涼しい顔して一人で何でもできちまう」

エレン「…立体起動も、格闘術も馬術もあいつの方が優秀なのに、オレが守るなんて言えねえよ…」



アルミン「う~ん、そうだなあ…じゃあ、クリスタとユミルだったら、どっちがどっちを守ってると思う?」

エレン「そりゃあユミルがクリスタを守ってるに決まってんだろ」

エレン「クリスタもまあ優秀だけど、ユミルは今期のトップ10入り確実って言われてるぞ」

エレン「悪い男もクリスタにだけは手を出さないのは、ユミルが傍にいるからだっていう奴もいるくらいだ」

アルミン「だと思うでしょ?でもさ…今度あの二人をよく見てみるといいよ」

エレン「どういう事だよ」

アルミン「いつもしかめっ面で憎まれ口叩いてるユミルだけど、クリスタと二人の時だけは表情が和らいでる」

エレン「…そうなのか?」

アルミン「それを見てこう思ったんだ」

アルミン「ユミルはクリスタを守ってるだろうけど、クリスタもユミルの事をを守ってるんだろうなって」

アルミン「自分の方が弱くても、守ってあげたいって思うのはおかしなことじゃないと思う」

エレン「……」



アルミン「この場合ユミルは男じゃないんだけどね」

エレン「男より男らしいところがあったりするけどな」

アルミン「まあ、とにかく僕が言いたいのは、強い弱い関係なく、男なら女を守ってみせろってこと」

アルミン「カルラおばさんもよく言ってたでしょ?」

エレン「ああ…確かに母さんにはよく言われた」

アルミン「…そういう考えでいくと、僕はエレンよりも『男』をやってるってことになるのかな」

エレン「ミカサはお前の所に甘えに行くのかよ?」

アルミン「ほとんどエレン関係の相談だけどね。エレンを怒らせたとか、エレンに嫌われたかも、とか」

エレン「マジかよ…座学と技巧以外でお前に負けるのはなんか悔しいな…」

アルミン「ひどいなあ…ぼくは座学と技巧しか取り柄がないってこと?」



エレン「そ、そんなこと言ってねえよ、俺はただ…」

アルミン「あはは、冗談だよ。…もうそろそろ面会終了の時間だ。僕もう行くよ、おやすみ」

エレン「あ、ああ、すまなかったアルミン」

アルミン「あ、そうだエレン」

エレン「え?」

アルミン「明日は僕用事があるんだ。だから退院の付き添いはミカサに頼んでもいいよね?」

エレン「しょーがねえな…いいよ」

アルミン「じゃあ、今度こそおやすみエレン」

エレン「ああ、おやすみアルミン」

エレン「……」



~翌日~

ミカサ「エレン、大丈夫?」

エレン「ああ、もう大丈夫だ。…心配かけたな」

ミカサ「悪かった。私が色々とやり過ぎてしまった」

エレン「いいよ別に…オレの鍛え方が足りなかったんだ」

ミカサ「…」

エレン「なあミカサ」

ミカサ「?」

エレン「ええと、その、お前が、オレの事を色々心配してくれるのはありがたいんだが」

エレン「その、周りに人がいるときにあからさまに世話を焼かれると、恥ずかしいというか」

エレン「そっとしておいてくれた方が助かることもあるんだよ。…それだけだ。寮に帰ろうぜ」

ミカサ「わかった…。これからは少し控える」



エレン「…(これでいいかな…あとは安心させてやればいいんだが、どうすればいいんだ?)」

ミカサ「…」

エレン「…(こいつが本当に安心した表情を見せたのは…マフラーをやった時だったな)」

ミカサ「…」

エレン「…(マフラーを常備しておけばいいのか?でもこいつやったマフラー全部巻きとかしそうだな)」

ミカサ「…」

エレン「(う~ん、どうすれば…そうだ!)おいミカサ、手出せ」

ミカサ「手?」

エレン「そうだよ。初めて会った時も繋いで帰ったろ」

ミカサ「…エレン」

エレン「恥ずかしいから兵舎につくまでだぞ!」

ミカサ「分かった」


~~~

ミカサ「…(エレンが自分から手を繋いでくれた…)」

エレン「休んでた分を取り返さないとな。座学はアルミンに教えてもらおう」

ミカサ「…(これはもうそういうことと理解していいだろう)」

エレン「なるべく早く勘を取り戻すために、立体起動が苦手な奴の補習補佐にも積極的に名乗りを上げて…」

ミカサ「…(ミカサ・イェーガーを名乗る日も近い)」

エレン「対人格闘は…ライナーあたりに訓練が終わった後に練習に付き合ってもらうかな」

ミカサ「…(付き合う。エレンと恋人として付き合って、そして、家庭を作る)」



エレン「このままじゃまたアニ辺りに子供扱いされちまうからな」

ミカサ「…(子供…そう、家庭を作るなら子供がいる。私はエレン似の男の子が欲しい)」

エレン「見返りは…水汲み当番の交代…だけじゃやっぱり足りないかな」

ミカサ「…(一人じゃ足りないなら、もっと作ればいい…)」

エレン「追加でパン1個、だと少ないかな…ライナーはでかいからな…何個渡せば納得するかな…」

ミカサ「…(そう、エレンが納得するまで、私が頑張る)」

エレン「なあミカサ、どのくらいがいいと思う?」

ミカサ「エレンが望むなら、分隊1個分でも…」

エレン「は!?」




おわり


ありがとうございました

みんな幸せになってほしい

乙でした!
オマケはガラッと雰囲気変わっても可愛い話だ~
本編の切ないシリアスに小気味良いデザート
すごく面白かった!次回作も楽しみにしてます

気持ち悪いなこれ

続き来てた!乙!

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