「佐久間まゆという転校生」 (48)

佐久間まゆのSSです
短いのでサクッと読めます

Pの視点として優越感に浸りながらどうぞ←

すでに完結してます

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ある日、学校に転校生がやって来た

名前は佐久間まゆ。事情があって、仙台から来たらしい

詳しい身長はわからないけど、低めなほうだと思う

クラスの女子と比べると整った顔立ちで、少し垂れ目なところ

髪はセミロングで、前髪が切り揃えられている

特徴といえば、あのカチューシャだろうか

最初の自己紹介によると、読者モデルを以前にしていたらしい

なるほど、整った顔立ちなのも頷ける

女子らと同じ制服を着ているはずなのに、着こなしも他よりも少し良く見えた

でも、なぜやめてしまったんだろう?

深く詮索はしなかった。きっと、なにかそれよりも重要なことがあったんだろう

他の話はあまり耳に入ってこなかった

控えめな口調ながら、それでいて堂々とした自己紹介

その時にはもう見惚れていたのかもしれない

ひとしきり紹介が終わるとニコリと微笑む

俺は終始目が離せずにいた

男子の連中は大盛り上がり、女子も休み時間にここぞとばかりに彼女の机を囲った

授業中や休み時間でも、俺も他の男子に混じって彼女を眺めていた

性格は静かなほうで、口調も落ち着いたものだった

まさに、女性とはこうあるべきもの、というのを表したかのような彼女は

同じ女子からは羨望の眼差しを受け、男子の中ではたちまち意中の人となった

成績は優秀、落ち着いた性格とは裏腹に、体育の成績も女子の中では上のほうだった

と、運動は苦手なほうではなさそうなのだが、どこの部活にも入らなかった

家庭の事情というやつだろうか、はたまたもっと別の理由か…

他の男子に混ざって彼女を眺めている俺だったが、もっと、彼女のことが知りたかった

そんな俺は、彼女のあらゆるところに目が行く

黒板に書く可愛らしい字、彼女のしぐさの一つ一つにさえ、興味を持つほどだ

そんな彼女だけど、休み時間や昼休みなど、時間を見つけては携帯を眺めている時があった

昼休み、男友達と昼食を食べている中、女子の集まりの中に彼女はいた

覗きの趣味はないけど、友人と談笑しつつ、チラリと彼女を見る

彼女は画面を見て、一喜一憂しては画面をタップしている

誰かとメールでもしているんだろうか?

女子「まゆちゃんどうしたの?さっきから携帯と睨めっこしてるけど」

まゆ「うーん…いい返事が思いつかなくて…」

女子「返事?誰かとメールしてるの?」

まゆ「えぇ」

女子「だれだれ?誰とメールしてんのー?」

まゆ「それは秘密です♪」

女子「えー、いいじゃん教えてくれたってー。 あ、もしかして好きな人とか?」

まゆ「あぁ…そんなところ、かな…?」

女子「えぇ!ほんとにー!?」

「ぶっ!!」

男「お、おい…大丈夫かよ」

「あ、あぁ…すまん」

なんということだ…。もうすでに好きな人がいるなんて…

口の中に入っている購買で買ったパンの味が途端にしなくなる

あたりを見回す、携帯をいじってる男子はいない

誰だ?他のクラスの人か?

…いや、彼女はあまり消極的なほうではない

メールで細かにやり取りするぐらいなら、そいつのところに行ってるはずだ

となると、この学校の人ではない…? 前の学校の人か…?

いろいろと考えを巡らせている俺は、とてもじゃないが普段どおりにはいられない

その日は終始落ち着かないまま一日を終えた

好きな人がいるとわかったその日から、彼女のことがより一層気になるようになった

俺は相当意地が悪いのかもしれない。でも、それでも彼女のことが気になった

もしかしたらあまり入れ込んでほしくない話だったから、

苦し紛れで好きな人がいると言ったのかもしれない

そう思いたい

あまり恋愛をしたことがない俺にはあまり勝手がわからなかった

彼女が転校してきてから一ヶ月

諦めないことがいいことなのか、功を奏したようで

彼女と普通に会話できるところまでいくことができた

名字で呼ぶくらいしかできなかったが…

なんとか話を盛り上げようと、いろいろ無理をしたこともあったかもしれない

家族のこと、趣味のこと、学校のこと……なんでも話し合ったと思う

それに、彼女はあまり出席率はいいほうではなかった

病気がちというわけではないようだが、なにか外せない用事があるとのこと

そんな日は、俺が取ったノートを貸したりもした

すでに他の女子から貸してもらっているだろう

それでも、彼女はお礼をしてノートを受け取ってくれる

次の日にはちゃんと返してくれる

それだけで満たされていた

厚かましい人なのだろうと思われているのだろうか、俺にはわからない

とにかく、彼女との会話ややり取りが今までの誰よりも楽しいものになった

少しの時間を見つけては、メールを打つ彼女の隣の机に座って話を持ちかける

「佐久間って前に読者モデルやってたんだよな?」

まゆ「えぇ、そうですよぉ」

「上手くいってたんだろ?」

まゆ「はい、順調でしたねぇ」

「それなのに、辞めちゃったんだ?」

まゆ「はい…他に、するべきことができたので…」

「仕事辞めてまですることだもんなぁ…どこか、いい大学を目指そう!とか?」

まゆ「うふふ、そんなことじゃないですよぉ」

まゆ「誰かのために、するべきことが見つかったというか…」

「へぇ……誰かのために、ねぇ…」

「それってさ…」

まゆ「はい?」

「……っ」

言葉に詰まる

「いや、なんでもない。 そろそろ次の授業始まるから戻るよ」

まゆ「あ、はい。わかりました」

「……」

彼女と知り合う上で、わからないことも増えた

以前よりは確実に仲良くなっている。大抵のことは知っている…はず

なのに、一定のところまでくると急に彼女のことがわからなくなる

誰かのため…きっと、好きな人のためだろうか

好きな人のこと、休みがちなこと、普段なにをしているのか

好きな人のことに関しては、言えないこともあるだろう

ましてや異性の俺にはもっと話しづらいのかもしれない

そこに目をつぶったとしても、どれも当たり障りないことのはずだ

なのに、それでもわからないことが多かった

よくよく考えれば、少し仲良くなれば誰でも知り得るようなことしか知らないじゃないか

会話はたしかに増えたが、どれもほんとに当たり障りのない日常会話だけ

あまり彼女に入れ込んでいることを周囲に知られたくないという俺のプライドが

他の人への相談や、彼女のことについて聞くという選択肢を無くさせていた

会話が増えてから、彼女のことを考えない日は無くなっていった

友人にも、ボーッとしてると指摘されたことも何度もあった

そんな、モヤモヤとした気持ちのまま、ゆっくりとした平行線のまま数ヶ月がすぎていく

彼女が転校してきてから数ヶ月、彼女はすっかりクラスの一員として溶け込んでいた

他のクラスでも、名前を知らない人はいないほど

俺はというと、未だに晴れない気持ちを抱いたまま過ごしていた

だが、以前よりも彼女と仲良くなれたんじゃないかと思う

それこそ、クラスの男子の中で一番仲がいいと自負できるほどに

相手には好きな人がいるというのになにをやってるんだろう、俺は…

そう思う日も多々あった

…相手が誰だかわからないというのは非常に苦しいものだ

自分よりもきっといい人で、有能なんだろう

そう思わずにはいられなかった

だけど、諦めようとする気持ちよりも、もっと大きなものがあった

それが、俺をここまで突き動かしていたのかもしれない

恋愛が上手な人は、俺よりももっと近づけていたんだろうか

一人で難儀していたにしては、気持ち一つでよくここまでこれたもんだと、自分を褒めてやりたいぐらいだ

だから、もっと彼女のことが知りたかった、誰よりも…

放課後、人がまばらになった教室で彼女は教科書をまとめていた

この機を待っていたのかもしれない

彼女のもとへと足を向ける

「よっ、もう帰りか?」

まゆ「はい、そうですよぉ。 あなたは…?」

「あぁ、俺はこれから部活。キャプテンが変わってから、開始時間早まっちゃって…まいっちゃうよなぁ」

まゆ「うふふ…それは大変ですねぇ」

「まったくだよ…」

「そういや、佐久間って部活入ってないみたいだけど、学校が終わったらなにしてるんだ?」

まゆ「え…えーっと……」

しまった、心の中でそう思った

すぐに訂正を入れる

「あ、言いづらかったら言わなくてもいいけど…」

明らかに困った顔をしている

困らせたことは一度もなかったから、余計に申し訳ない気持ちになる

彼女は、辺りを見回していた

まゆ「……誰にも、言いませんか?」

ドキリと心臓がはねる

時間が止まったような気がした

俺に秘密を打ち明けようとしているのである

……誰にも、言いませんか?

言葉が頭の中で反芻され、息が止まりそうになる

「も、もちろん!」

思わずどもってしまう

次の言葉に、必死に耳を傾ける



まゆ「実は……私、アイドルをしているんです」

「……え?」

アイドル…? アイドルって、あの…

「あの…アイドル…?」

まゆ「はい…」

まゆ「誰にも、言わないでくださいねぇ…あまり言いふらされると、困るというか…」

「あ、あぁ!言わない、絶対言わない!」

まゆ「うふふ…ありがとうございます♪」

まゆ「あ、そろそろ時間…。 それじゃあ、また明日♪」

そう言うと彼女は、鞄を肩にかけ足早に教室を出ていく

「あぁ…また、明日…」

呆然と立ち尽くす

アイドル……アイドル……

頭の中で言葉の意味を探す

わかってるはずなのに、理解が追い付こうとしていない

彼女が…アイドル……


「…って!ちょっと待って!」

我に返った俺は急いで彼女の後を追う

必死で階段を駆け下り、下駄箱で靴を乱暴に履き替え、玄関を飛び出す

彼女は校庭を迂回して校門前に向かっていた

向かう先にあったのは黒い車と、その傍に立つ紺のスーツを着た人

なにやら電話で話してるようだ

P「はい……えぇ、わかりました。まだ、まゆのレッスンまでには時間がありますので、一度事務所に寄りますね」

その人から、彼女の名前が出る

まゆ「Pさん♪」

P「あ、今来ましたんで30分後にはそちらに着くと思います。はい、ではそちらに向かいますね」ピッ

携帯をポケットにしまうスーツの人に、彼女が腕を絡める

P「っと、早かったな?」

まゆ「今日は出迎えだったので、早く準備しちゃいました」

P「それはいいけど、あまり外では腕組まないようにしろよー?」

まゆ「むぅ…じゃあ、事務所では好きに甘えさせてもらいますねぇ?」

P「あはは…ほどほどにな」

まゆ「はぁい♪」

彼女が後部座席のドアを開け、車へと乗る

P「おや…君は……?」

すでに息を切らした俺と目が合う

「あっ…」

慌てて目を逸らす

P「……?」

少しキョトンとした様子のその人は、しばらくして運転席に回り込み、車に乗り込んだ

車にエンジンがかかる

後部座席の窓ガラスは暗転していてよく見えないが、シルエットが前の座席に乗り出しているのがわかる

スーツの人は顔だけ振り向いて、談笑している

しばらく話し合ったのち、車は徐々に加速し、その場から離れていく

彼女を乗せた黒い車が目の前からどんどん遠くなっていき、

やがてある程度小さくなったところで、角へと消えた

今まで見たこともないような笑顔だった

おおよそ、学校では見たことのないような笑顔

きっと、あの人が彼女の言っていた人だろう


あの人のことを、俺は何も知らない

「……あ」

今、気付いた



「俺、一度も名前…呼ばれたことなかった……」



最初から分かりきってたことなのに

それでも、もしかしたらって思ってたのに

次の日から、俺から彼女に話しかけることはなくなった

彼女は今日も変わらないまま

携帯を眺め、小さく微笑んでいる

彼女の目には、あの人しか映っていないんだろう

やるせないこの気持ちも、時間が解決してくれるだろうか

もう、忘れたいことの一つだ

今俺は、一枚のライブチケットを握って、会場に立っている。




おわり

これにて終了です

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