杏子「メリークリスマス。今年はいい報告が出来そうだよ、親父」 (30)

改変後

地の文

スレタイ詐欺

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「ねぇ、キュゥべえ?クリパって何が必要かしらね?」

 思いついたケーキのレシピを作り終えた私は唐突にそう尋ねてみた。

「……。クリパってなんだい?」

 短い沈黙の後に逆に聞き返されてしまった。

「クリスマスパーティよ。ほら、みんなを誘ったじゃない」


『話は聞かせてもらったわ!世界は滅亡する!
じゃなくって、私はクリスマスパーティをしようと思うの!というわけで一緒にどうかしら?』


 思い出して、あまりの意味不明さに自分の顔が朱に染まるのを自覚した。

「どうしたんだい?突然顔を赤くして。もしかして、熱でもあるのかい?」

 キュゥべえの小さな体がテーブルの向かい側からピョン、と跳ねて私の肩へと乗り移る。

「熱は、ないみたいだね。脈拍にも、呼吸にも乱れはなさそうだ」

 額に当たるふわふわの尻尾がくすぐったくも、心地よい。

「心配してくれてありがとう。でも大丈夫よ!」

 そこでいったん言葉を切る。
 そして、力強く拳を握って宣言した!

「だって私は楽しいクリスマスパーティをするって決めたもの!!」


「全く、訳が分からないよ」








 電灯の明かりだけを頼りに、日課の手製爆弾を作り終えた私は深く息を吐きだした。
 現在時刻は二十一時二十四分。就寝するには少し早い、何とも微妙な時間だった。

「思えば、爆弾を作るのも随分と早くなったものね」

 昔はもっと、時間が掛かっていたっけ。それで寝不足になることもしょっちゅうだったわけだし、いい傾向かしらね。
 手を止めて、少しだけ考える。

 爆弾とは別の、作りかけの『物』へと手を伸ばして、私は作業を再開する。

「間に合うのかしら、これ」

 少しだけ不安に駆られながら手を動かす。
 そこで不意に気配を気取る。

「何か用かしら?キュゥべえ」

 部屋の明かりは私の手元の電灯だけ。なれば当然この部屋は薄暗い。
 その薄暗い部屋の隅の隅、影と影が重なり合って形すら分からない空間から、白い体に赤い目を灯した小さな生き物がふらりと出でる。

「用、というほどのことはないね。ただ単純に様子を見に来ただけだよ。もう君の分のグリーフシードは回収させてもらっているしね」

 何の気なく、といった様子なのかキュゥべえがそんなことを言う。
 おかしなものだ。感情がないなどと、のたまうくせにこれで結構気まぐれなところがあるのだから。



「私の、ということは。杏子の方はまだなのね」

 尻尾を振りながらゆっくりとこちらに歩いてくる。

「何とも、彼女には困ったものだよ。君からも言ってくれないかい?溜めこまないでこまめに処理した方がいいって」

 キュゥべえが作業台の端に乗ったのを確認してから、私は作業を再開した。

「お前たちがわらわらと大慌てて大量のグリーフシードを処理する姿が面白いって言ってたわよ」

「そんな理由であんなに溜めこまれると困るんだよね。まぁ、ほむらに言っても仕方がないね。それよりも、それはもしかして?」

 キュゥべえはどうやら私の作っている物に興味を持ったようだった。
 興味、というのも感情の一種じゃないのだろうか。
 そんなことをふと思ったが、どちらかというとそれは好奇心なのかしら。今度、辞書を引いてみましょうか。

「えぇ、そうよ」

「ふうん。なるほどね、そういう姿をしていたんだね」

「かわいいでしょう?」

 脳裏に映るあの子の姿を思い起こしながら、私は問いかける。

「そうだね、ぼくたちのデータに元づいて客観的な判断を下せば、愛らしいになるんじゃないかな」

 へぇ、なかなか分かっているじゃない。こいつらにしては。







 マミもほむらも、随分と変わった。

 近頃のアタシはそんなことをよく思うのだ。
 何が、と言われるとほむらの奴は色々だ。マミはどこがどうとは言えないけど、確かに変わったと思う。

 というか、ほむらは初めてあったころと比べてイメージが変わり過ぎだろ。

 だって、あいつ最初メガネかけて三つ編みしてたもんなぁ。何をするにもおっかなビックリで、おどおどしてたのにな。
 それが今じゃ、なんでもそつなくこなす完璧美少女だもんな。

 なんていうか、『変われば変わるもんだよな』。

 でも、アタシの中で美少女といえばやっぱりマミなんだよな。
 なんつーか、隙のある美少女?ちょっとチョロイところも含めて、スゴイしっくり来る気がする。

 でも、なんだって最近のアタシはあいつらのことばっかり考えてるんだろーな。
 なんだかんだ、いっつも一緒にいるしそりゃそうなるのは当然っちゃ当然なのかもしんないけど、それにしてもちょいと度が過ぎてるとも思うんだよね。

 不意に見上げた空には煌々と欠けた月が浮いている。
 カラッと、晴れた夜の空は明るい星を少しばかりと堂々とした月が浮かぶだけだ。
 吐き出した息が白く凍る。

 そういや、そろそろモモたちの命日か。今年はいい報告が出来そうだよ、親父。

「ちょうどいいや、いるんだろ?」

 声をかければ案の定、キュゥべえが夜の中からぬっと姿を現した。

「全く、君はいつも意地が悪いよね」

 ったく、どの口が言うんだか。

「お前には敵わないよ」

 アタシは使い終わったグリーフシードをまとめてぶん投げてやった。







 頭に結った赤いリボンを撫でながら、目を細めて太陽を眺める。
 輝きと暖かさがまどかとの記憶に重なる。寒空の下なのに、わたしの心は満ち足りた暖かさを思い起こす。
 感傷的になっていた私は軽い振動と、馴染のある幼い声によって現実へと引き寄せられた。

「ほむねーちゃ!ほむねーちゃ!」

 スカートを下に引っ張るなんて、悪い子ね、まったく。
 振り返り、わきの下を支えて抱え上げる。

「こんにちは、タツヤくん」

「あい!」

 ニコニコと、笑う鹿目タツヤにまどかの影を感じる。
 あなたのすべては消えてしまったけれど、あなたの望んだ世界はこうして平和に満ちている。

 それが、少しだけ嬉しかった。

「絢子さんも、知久さんもこんにちは」

 くるっと、一回りしてからタツヤくんを下ろす。

「こんにちは、ほむらちゃん」

「おーっす、ほむら」

 連れ添って歩いてくる二人になんとなく絵になるな、なんて感想を覚える。



「ほむらアンタさ、携帯の電源切ってる?」

 思わず小首を傾げながら、端末を取り出すと、確かに電源が切れていた。
 そう言えば、昨日の夕方ごろに魔獣狩りに集中するために電源を落としたのだっけ。

「ごめんなさい、切ってました」

「いやいや、謝んないでよ。たださ、最近の子にしては珍しいなと思ってさ」

「それで、私に何か用が?」

 なんだろうか。まさか、引っ越しをすることになったとかだろうか?

「いやさ、大した用じゃないんだけど。あんたは今夜は暇?」

「夜は、えぇ。時間、開いてます」

 最も、魔獣が出ないとも限らないし、完全に自由という訳でもないのだけれど。

「それじゃさ、家で夕食食べてかないかい?」

「良いんですか?」

 せっかくのクリスマスなのに私なんかが一緒でいいのだろうか、そんな思いが先行して、思わずそう聞き返してしまった。


「ほむらちゃん、そういう言い方は良くないよ?僕も絢子さんも君のことは本当の娘くらいに思ってるんだから」

 ちょっと真面目な顔で知久さんがそう言う。けれど、声色はとても穏やかでともすれば軽い冗談を言っているみたいだ。

「そうそう、クリスマスってのは家族と過ごすもんだろう?だから、あたしたちはほむらとも一緒に過ごしたいのさ」

 絢子さんが続く。

「ほむねーちゃ!いっしょ!いっしょ!」

 止めにはタツヤ。

「そういう事なら、是非!」

 本当なら、そこはあの子の居るはずだった場所。暖かくて優しい居場所。

 私は一人で勝手に罪悪感を感じては、振り払う。

 だって、まどかは決してそんなことに嫉妬したりする子じゃなかった。
 優しく微笑んで、幸せになっていいんだよ、と言ってくれる、そんな子だった。



「よしよし、そう言ってくれると思ってたよ。ところでほむら、それは?」

 絢子さんがそれと言って指さしたのは私が抱えていた紙袋だった。

「実はこれから、友達?とクリスマスパーティをする約束をしてて、」

 そこまで口にして、私は腕時計に目を落とす。
 これ以上は、遅れる。遅れると、マミが泣く。例え嘘泣きでも面倒臭い。
 そう結論付けた私は、暫しの沈黙の後に言葉を発した。

「あっ、」

 若干の苦笑いを浮かべた知久さんが察してくれたようだった。

「あはは、引き止めちゃってすまないね」

「いえ、気にしないでください。と、それじゃまた夕方に伺います。えと何時ごろに?」

「んー、十八時までに来てくれればいつでもいいさ」

 絢子さんはそう笑う。

「それより、早く行ってきな!」

 私は軽くお辞儀をして、歩き出す。
 少し訂正、小走りだ。






 部屋の中をザッと見わたす。うん、完璧ね。

 というか、ちょっと気合いを入れ過ぎたかしらね。私を入れて三人しか人が来ないっていうのに。

 まぁ、やっちゃったものは仕方ないわよね。うん、これは仕方がなかったのよ。だって、久しぶりなんだし!

 私が魔法少女になってからそんなことをしたのは一度きりだし、すごく昔のことみたいに思えるけど、四年ぐらいなのよね。
 もう四年、とも思えるけれど、やっぱりまだ四年、かしらね。
 でも、うん。きっとこの四年ぐらいの間で一番幸せな時間になるんだろうな。

 これから始まるであろう、楽しい時間。私はそれに思いを馳せる。


 突然と、不安になった。

 もしかしたら、暁美さんにドタキャンされる?
 佐倉さんが突然行方をくらませたり?

 いやいや、そんなことないったら。あの子たちがそんなことをするわけがないじゃない。
 なんか、なんか、なんか!
 考え出したら不安が止まらなくなってきたわ。

 どうしましょう、どうしたらいいのかしら!?
 落ち着け、冷静になるのよ、巴マミ。
 頭を落ち着けるためには取りあえず。

「カッコいいポーズの練習しましょ」







 さて、この面白い状況はなんだろうか。

 少し記憶を整理しておこうかな。

 ちょっとした伝手で午前中を丸々ケーキ屋の売り子に費やしたアタシは、
給料の代わりに貰ったレモンチーズタルトを抱えてマミの家まで来たわけさ。

 んで、いつもの通りにマミの家のドアを勝手に開けた。

 そこには、右手を頭上高く掲げ掌は正面を向くように綺麗に指を伸ばして、
少しだけ上向きで相手を見下すような角度の頭、その頭を覆うように左手が置かれる。
 足は大きく開き、グッと、腰は据えられている。

 まぁ、なんだ。ここ一番のカッコいいポーズだった。

「コホン!いらっしゃい佐倉さん。さぁ、あがって?」

 滑らかに、とても滑らかに居住まいを正したマミがアタシに入室を促す。

「んじゃまお邪魔するけど、リンゴみてーな顔になってるぞ?」

 ドアを閉めて中に入ったアタシの顔にクリスマスリースが飛来する。
 なんて見事な回転なのか、つーかこんなとげとげのが顔に当たったらメッチャ痛いんだろうな、なんて呑気な思考をしている自分に驚く。
 そして、

「痛ぇ!!な、何しやがるんだッ!」

 つーか、刺さった、刺さったよ。
 樅の木、マツ科モミ属の常緑針葉樹である。そう針葉樹だ、針葉樹。つまり、トゲトゲしてて人に刺さったりもする。

 それを束ねて輪っか状にまとめたものがクリスマスリースだ。つまり、危険物だ。

「インドにはチャクラムって武器があってな。それって、円状の刃物なんだそうだぜ。しかも投擲して使うときたもんだ」

 アタシの言葉に肩で息をしているマミの頭がゆっくりと持ち上がる。しかし、アタシは構わずに続ける。

「見ろこれ!刺さったじゃねーか!アタシの鼻がトゲトゲになちゃっただろ!!」

 つーか、コレ本当に痛い。
 直後、マミの家のドアが再度開かれた。






 マミの家のドアを開けたら刺々しい鼻をした杏子がいた。

 私は思わず噴き出した。失笑だった。

 直後、杏子の本気の鉄拳がわたしの頬を殴り飛ばしたのだった。

 嗚呼、この世界はなんて残酷で面白いんだろうか。






「二人とも、大丈夫?」

 見事な三連鎖だった。大変見事な三連鎖だった。

 そんなことは置いておいて、鼻にとげが刺さった佐倉さんと、頬が腫れる程の一撃を喰らった暁美さんを治癒の魔法で治療した。
 佐倉さんのとげは結構深くまで刺さっていたらしく、血が出るわ泣きそうになるわで大変だった。

 殴られた暁美さんは珍しい佐倉さんが見れたことが思いのほか面白かったらしく、痛そうな頬の割に終始楽しそうな表情を浮かべていた。
 訂正、今も浮かべ続けている。

「誰のせいだ、誰の」

 それはもちろん、私のせいだけども!

「ごめんなさい、ちょっと考えなしだったわ」

「まぁ、いいけどさ。もう治ったし」

 心の傷は治らないけどな、と目で訴えられている気がする。

「マミ、ナイスよ!何があったか知らないけど、あんな面白い杏子はそうそう見れるもんじゃないわ」

 佐倉さんの拳骨が暁美さんの脳天を直撃した。傷を抉るのは止めてあげて。



「佐倉さん、そう言えばそれは?」

 入ってくる前からずっと持っていたであろう四角い箱を私は指さす。

「アタシからアンタたちへのクリスマスプレゼントだよ」

 唇を尖らせ、むくれた様子で答えてくれた。

「あら、ありがとう」

「もしかして、そのために?」

「そうだよ、このために今日は手伝いに行ってたんだよ」

 暁美さんが何かを察したようにたずね、佐倉さんが肯定する。

「開けてもいいかしら?」

「おう」

 私が箱を開けている横で、「おつかれさま」と「別に大したことないし」という二人の会話が聞こえてくる。

 中から出てきたのはチーズタルトだった。
 ほんのりとクリーム色をしているところを見るにもしかしたら柑橘系の果汁が混ざったものかもしれない。

「まぁ、おいしそう!それじゃ、始めましょうか?」


「メリークリスマス!」







 マミの家のテーブルには絢爛な料理がドサリと並べられている。

 ローストチキン、サンドイッチ、ローストビーフ、ポテトサラダ、
 クリームスープ、フライドポテト、リーフサラダにビーンサラダ。
 それと、ブッシュドノエルと杏子のチーズタルト。

 よくもまぁ、これだけの料理を用意したものだ。

「マミ、ちょっと聞くけどこれもしかして全部手作り?」

 まさか、と思いつつ一応聞いておく。

「そうよ?」

 サラリと、返ってきた。

「す、すごい」

 素直に、本当に素直に感嘆の声が漏れる。

「それじゃ、早く食べましょうか」

「そうね、杏子が凄いことになってるもの」

 杏子の目が星になってる。
 確かにこの料理には心が躍る。

「いただきます!」






 テーブルの上に沢山並べられていた料理も残すところケーキとタルトのみとなっている。
 まぁ、アタシが六割ぐらい食べたんだけどさ。

「マミさ、また料理の腕あげたのな。ちょーうまかった!」

「ごちそうさま。本当に、おいしかったわ。流石すぎてぐぅの音も出ないわよ」

 ほむらの奴が素直に褒めるとは、よっぽどだ。
 ん、あいつあれで案外素直なんだっけ?

「んで、パーティってのは飯食った後はなにすんの?」

 当然の疑問をマミに投げつける。
 アタシの視線を受けて、マミの奴が目をそらしやがった。さては、ノープランだったな、この野郎。

「つ、ツイスターゲームとか?」

 いや、ふつーにウノとかトランプとかでいいんじゃねーの?

「私いいもの持ってるわよ」

 そう言って、ほむらはゴソゴソと紙袋の中から玩具の拳銃を取り出した。

「いわゆるロシアンルーレットってやつよね」

 シリンダーを回しながらそう言って、銃をマミに手渡す。

「もちろん、煙と音が出るだけなんだけど」

「室内で煙はちょっと……」

 確かに、火薬のにおいはいい匂いとは言い難いよな。



「てか、フツーにポーカーとかやろうぜ。いや、ポーカーだとほむらが強すぎるんだよなぁ」

「まぁ、普通にイカサマするわね」

 おいおい、そんな当たり前みたいに言わないでくれよ。

「あっ、そう言えば!暁美さんはちゃんと持ってきた?」

「えぇ、抜かりないわ」

「佐倉さんは?」

 ん?何のことだ。
 アタシが首を傾げていると、マミが答えを教えてくれた。

「プレゼントよ、プレゼント」

 あぁ、なるほど。プレゼントか。
 アタシは無言でレモンチーズタルトを指さした。

「杏子、こういう場でプレゼント持って来いって言われたらプレゼント交換用の奴持って来いってことなのよ」

 ポンッ、とほむらが肩に手を置く。

 なんだかちょっとだけ優しげな表情をしているのが地味に腹立つな。

「そう言うのは先に言ってくれよな」


「二人で、交換するのもあれよね」

「そうね、言っちゃなんだけれど面白くないわ」

「じゃあ、やっぱりツイスターゲームを」

 マミの奴がツイスターゲームをごり押しし始めた瞬間、ほむらはまたも紙袋に手を突っ込んだ。

「その流れさっきやったぞ?」

 一応くぎを刺して置く。

「そんな天丼みたいなことするわけないじゃない、今度はこっち」


 ほむらは玩具の拳銃を取り出している。


「やってるじゃねーか!」




「間違えたわ。本命はこっち」

 紙袋から取り出したものを一つずつテーブルの上に並べていく。

「これは、手作り?」

「えぇ、なかなかうまくできてると思うのだけれど……」

 アタシ、マミ、さやか、ほむらの形をしたぬいぐるみがテーブルの上に輪を描いていた。

「せっかくだから、二人に二つづつ貰ってほしいわ」

「うーん、佐倉さん先に選んでいいわよ?」

 なかなかよくできたぬいぐるみを無言で眺めていたら、マミに気を使われた。

「あー、取りあえずお互い自分のぬいぐるみは選ばないとして、」

「そうよねぇ。一つは確定として、」

 あたしたちが二人で悩んでいるとほむらの手がぬっと伸びてきて、ぬいぐるみを掴む。

「しょうがないわね。私が勝手に決めるわよ。そんな遠慮されるとは思わなかったわよ」

 ん?ん?ん?ん?

「違うぞほむら純粋によくできてるから迷ってただけで、」

「杏子はマミとさやか人形。マミは杏子とほむら人形よ」

 押し付けられた。まぁ、今はあたしはあいつと一緒に住んでるんだ。穏当だろう。

「さて、じゃあやりましょうか。ツイスターゲーム」

 結局それかよ!






 ほんの一人前づつ残ったブッシュドノエルとチーズタルトをお茶請けに、一人でのんびりと紅茶をすする。

 楽しかったな。本当に楽しかった。

 ずっとは無理だけど、出来るだけ長く二人と一緒に居たいな。

 騒がしいとは言い難いけれど、賑やかではあった先ほどと、静寂と隣り合わせの穏やかな今。

 一人の気楽さと、寂しさ。集まることの楽しさと面倒臭さ。

 どっちも選びたいと思うのは私のわがままかな。

 暁美さんの手作り人形がなんだか私に語りかけてきた気がする。


『一人で無理をしないで』







 マミの家で散々遊んで、飾りの片づけまで終ったのが二十五分前。

 そこから慌てて鹿目家に足を運んで、気がつけば十八時五分前。

 少し息を切らしながらインターフォンを軽く押した。

「いらっしゃい、待ってたよ」

「こんばんは」

 ちゃんと、笑えているよね。

「なんだか、素敵な表情になったね。入って入って」

 知久さんに促されて私は家の中へとお邪魔する。

「やっと来たかー。ほむら!」

「ほむねーちゃ!」

「こんばんは」

 マミや杏子と一緒の時とは違った暖かさみたいなものを感じる。
 それが、形となって、押し出されてしまった。

「ほむらなんかあった?」

「いえ、嬉しくって」

 そこで私は紙袋の中に残してあった最後の一つを取り出して、タツヤに手渡す。

「まどかだよね?」

「まろかー!!」

 涙を拭きながら、私は笑う。すごくちゃんと笑えてる。

「それじゃ、始めるよ?」 




「メリークリスマス!」


 その時、ここにはいない筈の聞こえない声が聞こえた気がした。

 メリークリスマス、まどか。

終わり

間に合ってよかったよかった

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