上条「ニセ彼女」 (38)

ポルノグラフィティの曲をテーマに上琴です。

書き溜め少ないので更新遅れるかもしれませんが、暇潰しに見て頂けると幸いです。

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そうだ。この美琴は『妹達』の一人だ!
きっとすり替わって俺を惑わせているに違いない!
目の前で肩を震わせ啜り泣く少女に、上条は偽物のレッテルを貼りつけた。
大体、自分の知っている御坂美琴は幼いながらも気丈な奴だ。
まさか、部屋の真ん中で三角座りで泣くような性格ではない。
つまり、ここにいる御坂美琴はクローンであり、今頃本物はベッドの下にでも隠れているのだろう。
尤もらしい理由をつけて彼女を見るが、見たところゴーグルも付けていないし、特別幼いという訳でもない。
ならば、彼女は本当に本物か?

こんがらがる思考回路を振り解き、とりあえず彼女に触れて確かめようとする。

「なあ、俺が悪かったよ。だからもう止めてくれないか?」

不用意に出した左手は、美琴の体から微かに迸る電流に襲われ接触を拒まれた。

「アンタが悪いのよ……バカぁ……!」

彼女の口からは、さっきから罵りの言葉しか出て来ない。
昨日、一方通行の家で泊まりがけでゲームをして、丸一日連絡せずにひょっこり帰ってきた上条を待ち受けていたのが、部屋にうずくまって泣いていた彼女だったのだ。

「どうしたもんかねぇ…………」

溜め息をつき、上条は部屋を出る。
愛想を尽かした訳ではない。美琴の機嫌を直す為に、その足はコンビニに向かっていた。

「ほら、買ってきたぞ。欲しがってたやつ」

数分後、手に持ったレジ袋から取り出したのは、美琴の大好きなキャラクター、ゲコ太をかたどったチョコレート。
一昨日テレビで紹介されていたのを、食い入るように彼女が見ていたのを思い出したのだ。
白昼堂々コンビニのレジでこれを買うのは男としてのプライドが少々傷ついたが、そうも言っていられない。
とにかくこれで機嫌が直れば万々歳だ。
さぁ偽物め、本物の彼女を返してくれ!

「……………いらない」

「………えっ?」

「あたしが欲しいのは、それじゃない」

プライドをかなぐり捨てて掴んだ栄光への兆しは、数秒と経たずに踏みにじられた。

やはり、彼女は偽物ではないか?

本物ならば、どんなに意地を張っていてもゲコ太の響き一つでたちまち嬉しそうな笑みを自分に見せてくれる。
それに、そんな小さく、触れただけで壊れそうな背中は持っていない筈だ。
美琴と付き合って結構経ち、彼女についてはスペシャリストを自負する彼だが、こんな一面は今まで見たことがない。

心の内で、部屋のどこかに潜んで『ドッキリ大成功!』と書いた看板を掲げて満足げに現れる彼女を望んでいる。

しかし、目の前の彼女は未だ膝を抱えたまま、笑顔どころか顔すら見せてくれはしない。

「…………はぁ」

もう一度溜め息をつき、覚悟を決める。
かなり恥ずかしいが、やるしかない。

「美琴」

優しい声音で呟く。

「あっ………………」

丸くなっている美琴を包むように抱き締め、耳元で上条は囁いた。
「話しもせずに、一方通行の家に泊まったりしてごめんなさい。
今度からちゃんと連絡するし、今日は一日中……離れないからさ」

上条は確信した。
鏡は無いが、きっと今自分の顔は赤く染まっているだろう。

数秒の静寂の後、抱かれた美琴が呟いた。

「…………本当でしょうね?」

「本当本当!今日はずっと一緒にいるから!」

再び沈黙する。さっきより小さい声で、密着した彼にしか聞こえない声で、

「……………離したりしたら、本当に許さないから」

離れないことを条件に、彼を許した。

自分を包む腕を、愛おしそうに撫でる美琴。
それを見た上条は、さらに両腕に力を込めた。

「えへへ…………」

振り向いてはくれなかったが、どうやら笑ってくれたようだ。

美琴についてのことなら上条はスペシャリストだ。

(まさかここまで悪くなるとは…………)

一人にさせると怒ることも、知っている。

『ニセ彼女』完。

基の曲はタイトルそのままです。

また明日別作投下します。

乙!!
ポルノの曲だったらリクエストとかOK?

>>12

何かあれば是非お願いします

『グラヴィティ』

「……ここにいたのか」

街灯に照らされた夜の公園のブランコに揺れる美琴を見つけた上条が、白い息と共に漏らした言葉だ。

「ほら、帰るぞ」

右手を差し出す。しかし、美琴の手はブランコを繋ぐ鎖から離れはしない。
風に揺られる度、上条の姿が近づいては離れていく。

本当は抱いて欲しい。こんな自分を受け止めてくれる人は、彼しかいないから。
その思いとは裏腹に、体はまだ揺れている。
何故?心と体が別々の力で引っ張られる。

「美琴」

また彼が呼ぶ。心を惹きつける力は、その体すらも引っ張ろうとしている。
この力は、決して地面からの重力などではない。

立ち上がり、息を呑む。

そうだ。これは彼の力だ。ならば、導かれるままにいってしまおう。

目を閉じ、飛び込んでいく。

そこに彼がいる事を、疑いはしない。

(アンタがいるから、迷わない)

美琴の信じた通りに、上条は両腕を広げて愛する人を全身で迎え入れた。

「ったく!散々探したんだぞ!」

「あぁ……当麻ぁ……当麻………」

彼の匂いが、呼吸が、温もりが伝わる。
感情の爆発に影響され、涙が溢れ出した。
嗚咽混じりの彼女を抱く上条の力は強く、そこから逃がさないという意志を明確に伝えていた。

ほんの少しだけワンクッション。

ここからちょっとエロ入ります。

枕元の電気を消して、ぎゅっと上条は美琴の肩を抱いた。
暗闇を怖れる彼女が、自分を残して堕ちてしまわないように。
覆い被さって口づける。二人を繋ぐ何かが、解けてしまわないように。

腕に抱かれている間、美琴はその音をずっと聞いていた。

「ふっ………はぁ……はっ………」

上条の低い吐息でも、

「やっ………あっ!ふぁっ!あっ!」

自分の高い嬌声でもない。

自らを強く引き寄せる、上条の力の源。
強く脈打つ心臓の鼓動を、何にも隔てられずに肌で感じていた。

暗闇は二人を優しく包むカーテンになる。

もう彼女の心の中に、怖れは無い。

「もっと………もっとしたいの」

時は過ぎても、心に刻まれたものは変わらない。

二人が互いを愛し合った時間は、命尽き、何時か消えてしまうとしても、二人はその一瞬すら愛すことができるだろう。

耳元の手を叩く音で、美琴は眠りから覚めた。
疲労感から、昨夜の事を思い出してくすりと笑う。

目を開けると、不思議そうにこちらを覗き込む上条がぼんやり見えた。
例の不可視の力によって、無意識に腰へ抱きつく美琴を、上条が慌てて止める。

「ち、ちょっと待て。とりあえず服着ろ!」

「もう…もう夢中よ……大好きぃ………」

寝惚け眼で呟いた。どうやら力は言葉にも通じるらしい。

時は過ぎても、心に刻まれたものは変わらない。

時間は、二人の間では遂に意味を持たなくなった。

『グラヴィティ』完。

リクエストありがとうございました。

明日は少し厳しいけど頑張ります。

『Hard Days,Holy Night』

12月24日、学園都市のとある大学。
冬休みの筈の上条当麻は、度重なる課題に追われていた。
いつもならば頬杖でも付いて隣のサングラスや青髪と悠々にノートでも取っているのだが、今日ばかりは違う。
文字通り、彼女が待っているからだ。
間違っても、そのまま

「彼女が待っているので帰らせて下さい」

などとは決して言ってはいけない。
たちまちゼミの教授の顔はサンタよろしく真っ赤に変化し、クリスマスはおろか大晦日まで潰されてしまうだろう。

一年前は朝からツリーを飾り付け、携帯の電話帳の人を誰彼構わず呼んで朝までパーティーしていたのだが、今や立派な大学生。
高校よりも自由と思われるが、上条の成績では遊ぶ余裕もない。

それでも彼女との時間を作るために、課題を後回し、後回しにとしておいた結果がこの聖夜の惨劇だ。

教室に掛かった時計が、5時を指した。

「やべぇ急がないと!」

上条が何とか課題を切り上げ、大学から出たのが午後6時半。
空は暗く、立ち並ぶ店や電灯の灯りが自分を応援してくれていると信じ、アスファルトで舗装された道をひた走る。

駅に辿り着き、券売機の前で失った酸素を回復するため大きく呼吸を繰り返した。

大丈夫、もう間に合った。

終電が近い事もあり人影はまばらだが、これに乗ればあと20分程で美琴の待つ家に帰れる。
ポケットから携帯を取り出して、電話帳から彼女の名前を探し出した。

「もしもし美琴か?今……」

『アンタどこにいんのよ!こんな特別な日なのに!』

予想通りの怒りぶりだ。

「それは知ってるって。だって教授が……」

『早く帰ってきて!』

ブツリ、と電話が切られた。駅までのランニングで砕けた心にこの怒声はキツい。

犯罪者でもあるまいし、美琴がこんなにクリスマスイブを大事にしている事も聞いていない。

神様。いくら課題を内緒にしていたからってこの仕打ちは余りに非道いじゃないでしょうか?

沈痛な面持ちで携帯を閉じると、駅内に音楽が流れているのが分かった。

紛れもない、終電のベルだ。

くくく、と口角を吊り上げて上条は笑う。

「あああ不幸だぁーーーー!」

神様、やっぱりあんたはこの右手が気に入らないのか?

『彼は希望する術もなかった時、なおも望みを抱いて信じた。』

まだ間に合うと。

タクシーを拾って行き先を告げる。
最初からこうしていれば良かったのでは?と考える自分を無理矢理封じ込めて、大きく息を吐いた。
ラジオから流れる曲によれば、雨は夜更け過ぎに雪に変わるらしいが、そもそも雨すら降っていない。
ホワイトクリスマスは期待しない方が良いだろう。

あのシスターはイギリスで、皆と楽しくやっているだろうか。

白髪の少年は『家族』と、幸せな時を過ごしているだろうか?

サンタクロースが世界中に幸せを運ぶなら、上条は今たった一人に幸せを届ける為に走っていた。
タクシーを降りて素早く寮のエレベーターに滑り込み、ゴールの階へのボタンを押す。

今年は一人。雪は降らない。プレゼントもない。明日も忙しい。

けれど、

「メリークリスマス!………ごめん。遅くなりました」

怒っているはずの君に

「遅いわよ…………ばか。メリークリスマス」

特別な口づけをしよう。

『Hard Days,Holy Night』 完。

クリスマスイブなので急いで書きました。

次はラビュー・ラビューできたらいいな。

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