ほむら「悪魔は手段を択ばない」 (529)


諸注意

・非常にハードな場面が多いです。

・このSSは、叛逆後の設定ですが……作者の勝手な解釈が多く含まれています。

・外伝キャラ等も出ます。なお、かなり都合の良いように改変されてます。

・なお、ほむらの性格もかなり変わってます。

・大体、一回の投下は一週間に一度程度なので、更新速度は遅いです。

・作者の趣味で、某ヤクザ漫画のオマージュが、多く含まれてます。

・タイトルは以前書いた物に似せてますが、関連性はありません。


では、お楽しみください。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1387200553


序幕

 昼休みの見滝原中学。生徒達の憩いの時間だが、鹿目まどかはゆっくりと休息……と言う訳でもなかった。

「……暁美さん?」

 屋上に呼び出した張本人、暁美ほむらはグランドをジッと見下ろしていた。

「申し訳なかったわね。わざわざ呼び出して……」

 ゆっくりと振り向き、ほむらとまどかの視線は交錯する。

 真剣な面持ちでまどかは、ほむらをジッと見つめる。


 対してほむらは、うっすらと口元に笑みを見せるが、その眼は笑っていない。爬虫類を想像させるような不気味な瞳が、まどかの印象に強く残された。

「……話って、何ですか?」

「そうね……。
 貴女は、自分の家族や親友が……大切だと思ってる?」

「……?」

「……どうなの?」

 問い詰められ、まどかは大きく息を吸い込んでから、力強く答えた。

「勿論……大切だと思ってるよ。家族も、友達も……皆大好きで、大切な人たちだから」

「……そう」

 ほむらは、右手をまどかの肩に、ポンと乗せた。

「貴女は、今のままで良いの。何も迷う事は無いわ……」

 肩を掴むほむらの右手に、自然と力が入っていく。

「……いたっ」

「……ごめんなさい」

 慌てて手を離す。

「……さっき、貴女自身の言った言葉。決して、忘れないでね」

 そう言い残し、ほむらは屋上から立ち去っていった。

「……何だったんだろう」

 取り残されたまどかは、ポツリと呟いた。

 ただ、掴まれた左肩が、妙に熱を帯びている気がしていた。


 屋上から校舎に入ると、踊り場でほむらを待ち構えて居たのは、美樹さやかと巴マミだった。

 さやかは、ほむらを鋭く睨みつける。

「何のつもりで、まどかを呼び出したの?」

 低く冷たい声で、さやかは問う。

「……別に、人に言う程大した事では無いわ」

 ほむらの舐めたような態度に、さやかは思わず胸倉を掴み取る。

「信用出来る訳無いでしょ? あんたみたいな奴の言う事が……」

 殴り掛からんばかりの勢いで、さやかはほむらに向け捲し立てた。

「……よしなさい」

 静かに、マミは言った。


「……」

 渋々ながら、さやかは手を解いた。

「……通して貰える?」

 ほむらは、淡々としていた。

「……暁美さん。貴女を通す前に、一つだけ聞いて良いかしら?」

「何ですか?」

「最近、魔法少女が徒党を組んで、悪さしてる噂を良く聞くのよ。
 ……貴女、何か知らない?」

 マミも、ほむらに何かしらの疑惑を持っていた。

「……私は何も知りませんよ」

 ほむらは、一貫した態度だった。

「では……失礼します」

 そのまま、目を合わせる事も無く、ほむらは立ち去って行った。


「……アイツは絶対に、何か企んでる」

 さやかは、苛立ちを隠せない。

「ええ……何か裏が有るわね」

 マミも、勘ぐっていた。

 しかし、その真相を掴むのは、まだ先になる。

 暁美ほむらは、その日を境にこつ然と失踪したのだった。



 そして、それから半年の月日が流れた……。

まずは、プロローグです。

恐らく、年内の完結は出来ないでしょうね。ボチボチと書いていきます。

たくばない(えらばない)の人か期待

た…択ばない

たっくん!

オルフェノクが!

一発目の投下です。

1.ニンゲンヤメマスカ?

 静まり返った大都会。
 市営の鉄道が、定刻通りに運行していく。時刻は23時過ぎ。乗客は両手の指で足りる程度しか乗っていない。

 神名あすみは、街から街へと当ても無く彷徨っていた。
 何がしたい訳でも無い。目的が有る訳でも無い。ただ、魔法少女として契約した。

 その先の予定は未定。行く末を考える気すら、更々無かった。

(つまんない……)

 内心でぼやく。窓に写る自分の表情は、憂鬱そのものだった。


 何気なく周囲に目を向ける。椅子で寝そべる酔っぱらいのサラリーマンや、携帯電話から目を離さない大学生。髪の長い少女。
 それに加えて、見た目からして頭の軽そうな若者二人組。

「大体よー。アタマのユルイ女何て、ちょっとモノで釣れば一発だぜ?」

「だけどよー。一回寝ただけで、自分のオトコなんつー勘違いする奴も居るよなー。思い上がり過ぎだっつーの」

「だよなー、ぎゃっはっは!!」

 口から飛び出る会話は、自分自身が馬鹿です、と言ってる様な品性の欠片も無い代物。

 そういう馬鹿な輩は、あすみがもっとも嫌悪するタイプの人間だ。


(……ウゼェな)

 内心で毒を吐く。そのまま、魔法の力で惨めな目に逢わせてやろうか。
 そんな事を考えてる間に、同じ車両に乗り併せている少女が、馬鹿二人組の前に歩み寄った。

 バキィ、と電車内に鈍い音が響き渡った。
 少女は、一人の男の髪を鷲掴み、顔面に膝蹴りを叩き込んだのだ。鼻骨をへし折られ、男は一撃で意識を失っていた。

「……!?」

 突然の出来事に、あすみは目を見開いたまま、呆然と固まってしまう。

「何しやがんだテメー!!」

 もう一人の男は、少女の胸倉を掴み、思いっきり喰ってかかる。

「……」

 しかし、少女はポーカーフェイスを崩さない。


「ブチころ……」

 男は、言葉を途中で止めてしまった。止めるしか無い程、少女には威圧感が備わっていた。

 刺し殺すかと思える程の鋭い視線。体からにじみ出る殺気。男の本能は、危険を感じていた。

「……」

 少女は無言のまま、左手で男の首を掴み取る。

「……あ……ガ……」

 ギリギリと握力を込めて、喉を絞めつけていく。男の顔色は見る見る間に紫に変色し、胸倉を掴み取っていた両手から、力が抜けていく。
 そのまま、男の後頭部を壁に思いっきり打ち付けた。


 ゴン、ともう一度鈍い音が響き渡る。左手を離すと同時に、男は木偶人形の様に横たわっていた。

 ものの数分の出来事に、あすみは息を飲むしかなかった。

(……凄い)

 そして、全身を雷で撃たれた様な衝撃を受けていた。

 電車が停車すると同時に、少女は駅のホームに消えていく。

(追わなきゃ!!)

 あすみは無我夢中で、その足取りを追った。

 ホームに降り立ち周囲を見回すと、階段を上って行く後ろ姿が見えた。

(あっちだ……)

 小走りで階段を駆け上る。
 しかし、少女の姿は消え失せていた。


「……!?」

 あすみの背筋に、ゾクリとした悪寒が走った。

「魔法少女が何の様かしら?」

 耳に聞こえたのは、冷たい声。真後ろに立たれ、尚且つ首筋にはナイフが突き立てられている。

(……何時の間に!?)

 しかし、その少女は考える猶予を与えない。

「このまま消えるなら何もしない。
 まだ追って来るなら、ここで始末する……」

 背筋に感じる強い殺気が、あすみの心臓を急がせる。

「……待って」

 あすみは、小さな声で言った。

「……命乞いのつもり?」

 少女の返答は冷たい。


「違う……貴女に……貴女に着いていきたい!!」

 あすみは強く言った。
 その言葉を聞くと、少女は鋭い眼光であすみを見つめた。

 僅か数秒間。その視線で睨まれる時間は、あすみにとって恐ろしく長く感じた。

 少女は、突き立てていたナイフを折りたたんだ。

「……私に着いてくると、疫病神に憑かれるわ。それでも構わない?」
 
 ポケットにナイフをしまいながら、問いかける。あすみは無言のまま、首は縦に振るった。

「良いわよ……」

 少女の口元は、僅かに笑みを見せた。

「私は神名あすみって言います。……あの……貴女の名前は?」

「暁美ほむらよ……」

 これが、悪魔と恐れられる魔法少女とのファーストコンタクトだった。



 駅を出てから、あすみはほむらに着いて行くだけ。この間の会終は無い。
 そして、さびれた街の廃ビルにまでやって来た。

「……ここは?」

「隠れ家みたいなものよ」

 ほむらはそう言いながら、裏口から入る。そのまま階段を下りて、地下倉庫に辿り着く。

「姐さん、お帰り~……って姐さん、えらい身長縮みましたなぁ」

 出迎えたのは、黒く長い髪を両サイドに縛っている少女だ。ご丁寧に、あすみに視線を併せて、マジマジと凝視している。

「……私はこっちよ」

「も~……ボケたらちゃんと突っ込んで下さいよ」

 ボケを完全にスルーするほむらに、少女はゲンナリとした様子だ。


「んで、この子は?」

「行く所も無さそうだから、拾ってきたわ」

 ほむらは、大して面白くも無さそうに言った。

「ほ~でっか。自分、何て言うん?」

「神名あすみ……」

「あたしは、安藤すずかって言うんや。まぁ、姐さんとはチームを組ませてもらってんねん」

 ツインテールの魔法少女は、そう名乗った。

「チームって事は、この街を縄張りにしてる……?」

 あすみはすずかに聞きただした。

「ん~……あたしらは、他の魔法少女とは、ちょっと違うねん」

 すずかは、腕を組み直しながら、自信有り気にそう言った。


「普通の魔法少女は、一つの街を縄張りにしながら魔獣退治に専念する。
 だけど、私達は縄張りを持って無いの。その代わり、余所の魔法少女から何かしらの仕事を引き受けて活動してるのよ。
 対価はグリーフシードだったり、現金だったりね」

 ほむらは解説を交えながら、ソファーに腰を下ろした。

「まぁ、他にも武器やら道具やら売って生計を立てとるって所や。
 所謂、何でも屋って奴やねん」

 すずかの言葉を聞き、あすみはその実態に惹かれていた。

「ねぇ……私もここに居させて欲しい」

 あすみは、意を決してそう言った。

「姐さんが拾ってきたんや。あたしはかめへんよ」

 すずかは、あっさりと承諾した。


「問題無いわ。ただし……」

「……?」

「死んでも責任は持たない。その条件だけ飲み込みなさい」

 無責任とも取れるほむらの一言だった。

「私達は言うなれば、裏側の魔法少女。自分達の首を狙ってる奴は腐る程存在するわ。
 襲撃されて、泣き叫ぶ暇も無い内に、体を八つ裂きにされる。ちょっと買い物に行ったら、首を切り落とされる。
 私達が生きている世界は、そういう世界なの。

 それを受け入れる覚悟が無いのなら、今すぐに家に帰って、私と出会った事を忘れなさい」


 静かだが、ほむらの放つその言葉には、覚悟が備わっていた。


「だったら……」

 あすみは振り絞るような声で、ほむらに聞き返す。

「どうして……私を連れてきたの?」

「そうね……。
 強いて言えば……同じタイプの匂いがしたからかしらね……」

 そう言われると、あすみは思わず服の袖を鼻に近づけて、臭いを嗅いだ。

「そういう意味じゃ無いわ……」

 ほむらは呆れた様子で突っ込んだ。

「……?」

 キョトンとしながら、あすみは固まった。

「まぁ、ええや無いですか。
 あたしらも人手が増えれば、仕事もまわるんやし」

 すずかは、楽観的に答える。

「……そうね」

 ほむらは、淡々とした様子だった。

「折角やし、明日の取引についてくるとええよ」

 すずかの言葉に、あすみの首は縦に動いた。


 翌日の夕方。

 ほむら達は、ある街の魔法少女と会う事になっていた。すずかが、その街の魔法少女とある取引を進めていたのだ。

 待ち合わせ場所に指定された、山の上の人気の無い殺風景な公園に三人はやってきた。

「ここやな」

 すずかを先頭に、ほむら、あすみの順で足を踏み入れる。

 すると、ベンチに座っている、金髪を両サイドに束ねた少女が目に写った。

「あの子が取引相手?」

「そうでっせ」

 ほむらの問いに、すずかは即答した。

「……そう」

 何か感じる物が有ったのか。ほむらの表情は、険しくなっていた。


 そして、相手の魔法少女もベンチから腰を上げて、ほむら達と視線を合わす。

「暁美ほむらさん……ですね。
 私は、この街で活動している、飛鳥ユウリと言います」

 そう言いながら、少女は会釈する。

「……飛鳥ユウリ、さんね。私達の様な魔法少女と、取引がしたいそうね?」

 ちょっと自分達を下劣する様に、ほむらは言葉を返した。

「ええ……。私達は、近隣一帯の魔法少女達で、チームを組んでいます。表面上は、結構大きいチームだと思ってます。

 ですが、私はそれが気に入らないんですよ」

「……」


「強いか弱いかで優劣が決まるのが魔法少女。ですから、連中を出し抜いて、近隣全ての縄張りを奪いたいのが、私の考えです。
 ですから、私と組みませんか?」

「ほー……」

 ユウリの提案に、すずかはニヤリと笑う。

「近隣一帯の縄張りなら、かなり大きい物になりますし、魔獣の出現もそれなりに多い。
 それに……私なら、他の魔法少女の情報の横流しも可能です。お互いにメリットは有ると思いますけれど……」

 そこまで言い終えたユウリを見て、ほむらは無言でリボルバータイプの拳銃を取り出した。
 そして、シリンダーに弾丸を一発だけ装弾し、回転させたままリロード。

「……!?」

 ユウリは、その光景を凝視したまま固まっていた。


「……そうね。確かにお互いに利益の有る話ね。
 だけど……今のチームから寝返る様な奴が、私達にずっと着くとは考えにくいわよね?」

 口元をニヤリとさせながら、ほむらは拳銃をユウリに差し出す。

「……ロシアンルーレットせいっちゅう事や」

 すずかは、横から槍を入れる。

「……」

 ユウリは、拳銃に手を伸ばすが、震えて拳銃の柄を握れないでいる。

「……出来ない?」

 馬鹿にした様に言い放ったほむらを、ユウリは睨みつける。

「こうすれば良いのよ……」

 得意げに言い放ちながら、ほむらは拳銃を握りしめた。流れる様な動作で、自らのこめかみに銃口を押し付ける。

――カチン……。

 意図も容易く、トリガーを弾いて見せた。


「……!?」

 ユウリは、動揺の余り目を白黒させる。

(……マジ!?)

 ここまで無言のあすみも、思わず硬直していた。

(……ホンマはイカサマやねんけどな。あそこで入れた弾に、火薬は入って無いねん……)

 すずかはニヤニヤしながら、ほむらを見てるだけだ。

「……ね? 簡単でしょ?」

 ほむらは得意気に言い放つ。

「……貴女、正気なの?」

 ユウリは、絞る様な声で聞きただす。

「どうかしらね。とっくの昔に、壊れてしまってるのかもね……」

 口元をニヤつかせて、ほむらは得意気だった。

「……出直します。私では、貴女には下には付けません」

 ユウリは苦々しく表情を曇らせていた。

「そうね。それが賢明よ」

 冷たく言い放ち、ほむらは振り返った。そして、そのまま公園から立ち去って行った。


 一人公園に残されたユウリは、携帯電話を取り出した。

 ある番号に発信すると、ツーコールで相手は受け取った。

「……カンナか? ユウリだ」

 相手はユウリの属するチームの統領だった。

「……ええ。取り入って、スパイする作戦は失敗だ。
 狂っていながらも、用心深い……あの女を野ざらしにするのは危険すぎる。間違いなく私達の脅威になる……」

 電話越しに、統領からの指示が飛ぶ。

「……解った。すぐに戻る」

 通話を終えたユウリも、公園を後にした。



 隠れ家に戻ったほむら達は、買ってきた夕食をテーブルの上に広げた。

「なぁ、姐さん。アイツ、取り入れんでも良かったん?」

 ホカ弁の蓋を外しながら、すずかはほむらに聞きただす。

「……私の眼に狂いが無ければ、あの子は信用出来ないわね。恐らく、取り入った所でスグに寝返るのがオチよ」

 ほむらは、カロリーメイトの蓋を開けつつ、更に言葉を続ける。

「もっとも、寝返るだの裏切るだのは些細な問題でしか無いわ。一番厄介なのは、その寝返った先が何処になるかという事よ。

 こっちの情報を握られたまま大きな組織に寝返られたら、私達は確実に殺されるわね」

「用心深い人やね……」

 すずかは、苦笑いしながらハンバーグ弁当を突っつく。


「……あの人が信用出来ないって、そんな事が解るの?」

 そう聞きながら、あすみは鮭のおにぎりに手を伸ばした。

「…………勘よ」

 少し間を置いてから、ほむらは一言で片づけた。

「それだけ……?」

 あすみは、おにぎりを持ったままキョトンとしてしまう。

「それだけよ。
 人の助言よりも、自分の勘を頼った方が、案外生き残れるのよ」

 ほむらはそう言って、カロリーメイトを一口頬張った。

「姐さんも、よう解らん事言うなぁ……」

 呆れた様に呟いて、すずかはご飯を口に運んだ。


「そういう物よ。
 それはそうと、すずかは明日は単独行動でもいいかしら?」

 ほむらは、すずかにそう告げた。

「問題はありまへんけど、なんでまた?」

「あすみを見極めたいのよ。まだ固有魔法も見てないし、武器も解らないんじゃ、戦術の考えようが無いじゃない。

 少なくとも、一緒に居る内は一人の魔法少女として数えなきゃいけない。戦えません、魔獣を倒せませんでは、話にならないわ」

 ほむらはあすみに視線を向けた。

「……解ったよ」

 あすみの首は、縦に動いた。


 翌日。

 単独行動のすずかは、路地裏をフラフラと徘徊していた。魔獣の反応を探っている。

(……反応があるやん。それなら、魔法少女もおる筈やな)

 しかし、その目的は魔獣を狩る事では無く、魔法少女の姿を探す為にやっているのだ。
 当然、魔法少女を狩るつもりは無い。

 すずかの仕事は、魔法少女相手に商売をする事。武器を売ったり、情報を仕入れたり流したり。魔法少女に取って、役に立つ物を売っている。

 ほむらのチームの財政は、全てすずかが請け負っているのである。

 余談だが、品物の対価は現金かグリーフシードになるのだが、グリーフシードが対価になった事は一度も無い。


 反応の強い路地裏へ向かうと、潰れたパチンコ屋に魔獣が出た形跡が残っている。更に、その中に入っている、魔法少女の影を発見した。

(……どうやら、魔獣を狩り終わった様やな)

 すずかは、パチンコ屋の建物に入って行った。

「毎度、儲かってます?」

 人当りの良さそうな声で、すずかは魔法少女に声をかけた。
 地元の魔法少女は、ゆっくりと振り返る。銀髪のショートカットに、茶色いピエロを彷彿とさせる衣装。先端が得意な形のステッキが、特にすずかの目を惹いた。

「……アンタ、何者? 人の縄張りに何の用事です?」

 相手はすずかを睨みつけて、武器を構えた。


「ちょいとお待ちや、お姉さん。
 あたしは、怪しい魔法少女やけれど、縄張り奪うだとかグリーフシードの強奪何て、一切考えておりません」

 そう言って、すずかは軽い会釈をした。

「……どうですかねぇ。良い面見せて、隙見せた時に、襲撃する奴は何処でも居るんじゃないです?」

「まーまー、話だけでもどうでっか?
 あたしは、魔法少女に取って役に立つ物を売り歩く魔法少女。所謂、商人って所ですわ」

 軽そうなノリで言葉を並べるすずかだが、少女の方は全く信用している様子は無い。

「やっぱ品物見せな、信用は出来んようでんな……」

 警戒心を解こうと、すずかはカバンから有る物を取り出した。


「例えば、これとかどうでっか?」

「……!?」

 取り出した物は、本物の拳銃。一般の人間なら、テレビやゲームでしかお目にかかれない代物だ。

「当然、これは本物の拳銃や。トカレフ言うたら、警察24時とかで名前聞いた事あるやろ? ヤーさん御用達のロシア製のブツや……」

 反応に困っている魔法少女に向け、すずかは尚も言葉を続ける。

「……実際、魔法少女と言うても、魔力は無限に無いねん。
 仮に、魔獣を退治して魔力を消耗した後……よそ者に襲われたら、抵抗は出来へん。
 そんな時、コイツがあれば、戦う事は可能やろ?」

「……」


「ま、何も戦うばかりが武器の使い方でも無いで。
 仮に弾が入っとらんでも、コレを見せれば相当なハッタリも効く筈や。こんなモン見せられて、ビビらん奴はまずおらん……。
 護身する上で、相手に恐怖感を与える武器は欠かせんやろ?」

 すずかは微笑しながら、ポンポンと言葉を出す。

「へぇ……。本当に商売人なんですねぇ……」

 魔法少女は、ニタァとした、いやらしい笑みを見せた。

「他にもあるで? ナイフに爆弾、日本刀……。何かお望みの武器があれば、取り寄せも可能やで」

 すずかの言葉を聞き、少女は思いがけない言葉を口に出した。


「だったら、貴女自身を買いたいですねぇ……。
 貴女、結構有名ですよ……安藤すずかさん?」

「ほうでっか。名前を憶えて貰えるのは光栄ですわ……。
 しかし、あたしを買いたいとは、またまた冗談がキツイですわ」

 すずかはそう言いながら、少女を牽制する。実際、口は笑っていても、目は笑っていないのだ。

「いいえ……貴女の様な人が、私達の組織には必要なのですよ。武器を集める事も出来て、暁美ほむらの情報も握っている……。

 そして、金の為なら何でもやる……裏切りも寝返りもね。そう言う人でしょ……貴女は」

「ほぉ~……」


「ですから……私達と組みませんか?」

「……ナンボで買うてくれます?」

「そっちの言い値で良いんですよ。魔法少女なら、ちょっとした事で百万でも二百万でも用意できますからね」

 少女は、再び口元をニヤリとさせた。

「……へぇ。面白い事考えてますなぁ……」

 すずかも同調するように微笑を浮かべる。そして、こう言い放った。

「一口乗らして貰いましょか……」

 その一言で、魔法少女は右手を差し出した。

「私は、優木紗々と言います」

「ほな、よろしく頼むで……」

 すずかはその手をガッチリと握り返した。

まずは、一話目です。

まぁ、お気づきだと思いますが、あすみとオンラインのキャラです。
とは言っても、すずかは資料が全然ないので、ほぼオリキャラに近いかもしれません。
実際、関西弁ではありませんし(ネタでは関西弁だったかな?)。

腹黒ばっかじゃねえかwwwwww


悪魔は何を思ってこんな遊びじみたことをしているのだろう?


この人だというのはタイトルでもう余裕だった。
また面白いストーリーだなw
完走頑張れ

最初からハードだな

銀髪の沙々さんということは叛逆仕様か何かかな?
茶色……はまあ、うん、だけど


期待してる

なかなか面白そう

>>47
それは、単なる自分の確認ミスです。

4日ぶりの投下……メリークリスマス

2.カクゴノアカシ

 ほむらとあすみは、街を離れて山の方に来ていた。
 現在は使われていない採石場は、それなりに広く日光も当たる。何よりも人が来る事も無い。特訓するには、もってこいの条件だ。

「……精神汚染ねぇ」

 ほむらはあすみを見つめながら、そう呟いた。

「そうだよ。それを使って魔獣の動きを止めて、コイツでボコボコにするの」

 自慢げに見せびらかす、あすみの固有武器はフレイル式のモーニングスター。
 一撃の破壊力は相当に高いだろう。


「使い勝手の良い魔法と、破壊力の高い武器の組み合わせと思う。
 だけど……どんな魔法にも、欠点は存在するわ。少なくとも、あすみの武器は魔法を使う前提でなければ、その威力を発揮する事が出来ない。
 しかも、今の貴女の戦術は欠点だらけよ」

 ほむらの意見は、厳しかった。

「……私の欠点?」

 少し不服な様子のあすみだが、ほむらはポーカーフェイスを保っている。

「論より証拠。
 手を合わせて見ましょうか」

 そう言葉を放ち、ほむらは魔法少女姿に変身した。

「……解った」

 そして、あすみも魔法少女に変身し、秘めた力を解き放つ。


「……殺すつもりでかかってきなさい」

 ほむらは、左手で手招きした。

「……上等だよ」

 そして、あすみはほむらと視線を合わせて、魔力を練り上げる。
 しかし、先手を打ったのはほむら。右手から何かを投げつけた。
「……!?」
 ヒュン、と風切り音を立てながら、ナイフがすっ飛んできた。反射的に避けると、あすみの頬をナイフがかすめた。
 再びほむらの方を見ると、その姿は見えない。

「……え!?」

 首筋に、冷たい金属の感触を覚えた。


「こんな感じよ。これが実戦だったら、私は貴女の首を斬りつけてるわ」

 左の耳に飛び込んでくる、ほむらの冷たい声。

(嘘でしょ……)

 あすみは、愕然とするしかなかった。
 ここまで意図も容易く、首を獲られているのだ。落ち込むな、と言う方が無理だろう。

「……確かに、その魔法の用途は広いわ。
 ただし、発動には結構な集中力が必要なの。その分、発動まで時間がかかるわ。

 それだったら、発動する前に集中力を途切れさせてしまえば問題ないの。最初にナイフを投げたのは、あくまで牽制。
 後は、相手の死角に回り込んで、後ろから首を切り落とすだけよ」

 そう言って、ほむらは突き立てていたナイフを、あすみの首から離した。


「今のって、魔法なの?」

 ぐうの音もでないあすみだが、ほむらにポッと出た疑問を聞きただす。

「魔力で身体能力の強化だけしてるから、一応は魔法ね。でも、それ以外のカラクリは無いのよ」

 得意げに言いはるほむら。

「でも、それって魔法少女だったら皆使ってるんじゃ……?」

「その通り。魔法少女の一番基本的な魔法の一つよ。だけど、この魔法を完璧に使いこなしてる魔法少女は、一握りだけ。
 これが出来るか出来ないかで、戦術は大きく変わってくるわ」

「完璧に使いこなすって、どういう事なの?」


「そうね……。
 例えば、魔力を使って視力を上げたとするわ。そうすれば、物は良く見える様になる」

「うんうん」

「そこから、更に視神経に魔力を使って、神経の反応速度を上げる。
 つまり、動体視力も強化する事も可能なの。判断が一瞬遅れた時に、相手の攻撃を食らい致命傷を受けてしまう。
 そう言う事態を未然に防ぐ為にも、身体の細かい能力の強化は欠かせないわ」

「へぇ……良く解んない……」

「ま……ちょっと難しい理屈にはなるわね……。だけど、覚えておいて損はないわ。
 今の私の場合、そういった基本的な魔法しか使えないの。だからこそ、磨き上げる必要が有るのよ」

 少し自嘲的とも取れる、ほむらの言葉だった。


「そうなんだ……。でも、私よりも強いんだよね?」

「強い訳では無いわ。
 あえて言うなら、相手の弱点は確実に突くし、罠に陥れる事も平気でする。仕留める為には、手段を択ばない。そう言う魔法少女だからこそ、生き残っているのよ」

 その言動に、昨日言われた言葉があすみの脳裏をかすめた。

(……同じタイプの匂い)

 自分と、目前に立つ歴戦の猛者は、何処かに共通点が有る。そう感じずには、居られなかった。

「……私が貴女に出会えた事は、幸運かもしれません。
 ほむらさん、これからも宜しくお願いします」

 あすみは、ペコリと一礼した。

「頭を下げられる様な、立派な魔法少女では無いわ……」

 ほむらは、頑なにクールな反応だった。

(……幸運じゃなくて、運の尽きかもしれないのにね)

 内心は、苦笑いだったに違いない。


 夕方に隠れ家に戻ると、すずかは先に帰ってきていた。手早く夕飯の支度をしている最中だ。支度と言っても、買ってきた牛丼を並べるだけなのだが。

「お帰り~。首尾はどうでっか?」

「良くも悪くも無いわ。重要なのはこれからよ」

 ほむらの態度は、何時も通りに素っ気無い。

「……牛丼だ」

 夕飯のメニューを見て、あすみは若干テンションが上がった様だ。

「そーやで。昨日テレビで見てから、無性に食いたくなったんや」

 ディナーを決めたのは、すずかの独断だった様だ。

「……そう。お腹に溜まれば何でも良いわ」

 終始クールな態度のほむらは、さっさと食事にありついた。


「……いただきます」

 あすみも、箸を持ち牛丼の入ったポリ容器を手に取った。

 十数分と経たない内に食事を終わらせ、ゴミを片付ける。空の容器をビニール袋に突っ込みながら、すずかはあすみに一言こう告げた。

「あすみ。悪いねんけど、少し部屋から外してもらえんか?
 姐さんに取引の話がしたいねん」

「……そう。じゃあ、シャワーでも浴びてくるよ」

 部屋を出て、あすみはシャワー室に向かった。

(……取引の話か。ま、私が入る話じゃないか)

 その時は、あすみは微塵にも思っていなかった。

 この“取引”が、近隣の魔法少女達を巻き込む、大きな抗争への幕開けである事を……。


 汗を流す様に、少し温いシャワーを頭から浴びる。

(……気持ちいい)

 蛇口を捻ってお湯を止め、鏡に映る自分の体をじっくりと見る。
 至る所に、タバコの火を押し当てられた火傷の痕や、殴られた痣が目立つ。
 無意識のまま、ギリっと奥歯を食いしばる。

「……くそっ」

 自然と汚い言葉が飛び出していた。

「そない険しい顔せんと。気持ちよくシャワー浴びてんねんで?」

 癖のある関西弁が、あすみの耳に飛び込んできた。

「……!?」

 慌てた様子で、手で体を隠そうとするあすみ。


「隠す程の大した体でもないやろ。それとも、その傷跡を見せた無いんか?」

 すずかの一言が図星だったのか。あすみは鋭く睨みつける。

「あのなぁ。そないな傷跡くらい、あたしにもあんねんで?」

 そう言いながら、すずかは服の右袖をたくし上げた。
 露わになった腕には、あすみと同様に火傷の痣や、切りつけられたような傷跡が走っていた。

「……」

「一つ言うといたる。
 あたしは、虎児やねん。親の顔も知らんし、知ろうとも思っとらん。ただ、引き取られた施設の園長が、どえらい下衆やったわ。

 幼児虐待なんざ日常茶飯事で、毎日のようにド突かれる。飯もロクに食えん。自分でもよう生きとったと思うで。
 あすみもそのクチやろ?」

 すずかの独白は、あすみの心に深く突き刺さった。


「そんで、そのまま殺されんのも癪やったさかい、去年の冬の事や。そのクソ園長を滅多刺しにして、そのまま施設を飛び出したんや。
 そのまま逃げた先で、キュゥべぇと契約して魔法少女になった訳や……」

「そうなんだ……」

「結局の所、魔法少女っちゅう生き物は、スネに傷のある奴ばかりや。人間らしく、真っ当に生きとる奴はおらん。
 だからあたしは、金の為に生きとる。ごっつい銭があればあたしは満足や。その為に姐さんと組んどんねん」

 そう言いながら、すずかは右袖を肩まで上げる。


「……その刺青は?」

「大黒天。七福神の一つで、商売繁盛の神様や。あたしによう似合っとるやろ?」

 すずかは、誇らしげに言いながら口元をニヤッとさせる。

「へぇ……」

 あすみは、生返事しか出来なかった。

「ま、それはええとしてや。あすみは、これからどないするん?」

「どうって?」

「これからの事や。ずっと、あたしらと行動するか。適当な所で、単独に戻るか……」

 不意に、すずかの目付きが真剣になった。

「……」

 あすみは何も答えられない。


「ま、急いで考える事でもあれへんけどな。
 しゃーけど、姐さんが連れて帰ってくるいう事は、あすみに一目置いたんと違うか?」

「どういう事?」

「少なくとも、修羅の道を生きられる見込みがあるっちゅう事やろうな。
 ああ見えて、用心深い人やさかい。初対面の人間を連れてくる事は、本当に有り得ん事なんや」

「……」

 あすみは、今一つピンと来るものが無かった。

「ま、一緒に居ればその内解る事やで」

 そう言い残して、すずかはシャワー室から出て行った。

「修羅の道……」

 そのワードが、あすみの頭にこびり付いて離れなかった。


「ま、急いで考える事でもあれへんけどな。
 しゃーけど、姐さんが連れて帰ってくるいう事は、あすみに一目置いたんと違うか?」

「どういう事?」

「少なくとも、修羅の道を生きられる見込みがあるっちゅう事やろうな。
 ああ見えて、用心深い人やさかい。初対面の人間を連れてくる事は、本当に有り得ん事なんや」

「……」

 あすみは、今一つピンと来るものが無かった。

「ま、一緒に居ればその内解る事やで」

 そう言い残して、すずかはシャワー室から出て行った。

「修羅の道……」

 そのワードが、あすみの頭にこびり付いて離れなかった。


 あすみとすずかが寝静まった頃になってから、ほむらはシャワーを浴びていた。
 やせ細った裸体。ふくらみの控えめな乳房の間に、右手を当てる。

「……」

 ドクン、ドクン、と心臓が一定の間隔で鼓動を打つ。

(……もう少し。あと少しだから……)

 真っ直ぐに鏡を見つめる。そこに写る自身の姿に、ほむらは何を思うか。

 水滴が滴り落ちる背中には、毘沙門天の刺青が燦然と輝いていた。


 翌日。
 すずかは取引の話を進める為、もう一度沙々のテリトリーを訪れた。

 待ち合わせ場所は、前回会った時と同じパチンコ店。そこには沙々。そして、見知らぬ魔法少女が二人、同席していた。

(おったな。やけど、沙々と……あの二人組は何者や?)

 すずかの存在を見つけた紗々は、大きく手を振った。

「クフフフ、よくぞ来てくれましたねぇ」

 笑みを見せながら、すずかを見つめる紗々は、随分とご機嫌の様子だ。

「えらいハイテンションやな……。そんで、この二人組は?」

「実はですねぇ、幹部の人に貴女のお話をしたのです。
 もし、暁美ほむらの仕留めたら、私と貴女をを幹部に格上げすると約束してくれたんですよ。
 だからこそ、確実に首を獲る為にも、助っ人を雇ったのです」

 沙々は、自慢げに言いながら、二人組を手で指した。


「安藤すずかさん、ね。話は沙々さんから聞いてるよ。
 私はミキって言います」

 ミキと名乗った、ショートカットの魔法少女。一見は、明るそうな表情が印象的だったが。

「アタシの事は、サクラって呼んでくれ」

 長い髪をポニーテールに纏める相方の魔法少女は、サクラと名乗った。不敵な微笑を見せる辺りは、中々のベテランなのかもしれない。

「ご紹介に預かりました、安藤すずかですわ。一時的に手を組むだけですが、よろしゅうたのんます」

 すずかは、自己紹介と共にペコリと一礼した。


「ふふふ……。では、計画の方をお話します。
 西の工場地帯に、取り壊し予定の雑居ビルがあります。そこに取引と言って、暁美ほむらを呼び出すんです。
 後は解りますね……。暁美ほむら程の魔法少女でも、四人も相手に無事に済む訳が有りませんよ……」

 作戦の概要を語る紗々は、ニヤニヤといやらしく笑みを浮かべる。

「ほーかい。で、何時やるんや?」

「今週の土曜日です。週末なら、工場地帯に来る人間はまずいませんからねぇ」


「三日後かいな……。もっと計画を、しっかりさせた方がええんやないか?」

「それを上手くやるのが……貴女の役目でしょう? 報酬は弾みますよ?」

「しゃーないな……。ま、何とかしてみるわ……」

「クフフ……頼みますよ。すずかさん」

 沙々に言われ、すずかはふぅと溜息を吐き出した。

「そう言う訳や。急な話やけど、ミキさんもサクラさんも、準備しといてや」

「任せて。こっちも雇われた身だし」

 ミキは、笑みを見せながら言った。

「問題ねーよ」

 サクラも、自信有り気な微笑を見せるのだった。

 ただ、二人の笑みは、何処かに影が有る。すずかはそう感じていた。

「では、また三日後にお会いしましょう」

 最後に沙々がそう言って、計画の話を締めくくった。


 その日の夜。
 ファミリーレストランで食事を済ませた、サクラとミキは寝床を探している最中だった。

「24時間営業の漫喫か、健康ランドでもあればなぁ……。この街に長く居る訳でも無いし、横になれればいいのに……」

 ぼやき気味に口を動かすミキは、あくびをかみ殺して涙目だ。

「まぁな。だけど、相手はあの暁美ほむらだぞ。
 魔翌力も体調も、キッチリさせとかねーとよ」

 サクラの表情は、険しく歪んだ。

「だよね……。
 きょ……じゃなかった。サクラは、この計画上手く行くと思う?」


「……間違いなく失敗するな。あの沙々って奴は、相手を舐めすぎてる。相当運が良くても、取り逃がすな」

「悪かったら?」

「四人纏めて返り討ちであの世逝き」

「……」

 作戦の単純さ、穴が見え隠れする計画。二人を失策への不安へ掻き立てる。そこから、会話は進まなかった。

寝床を探しながら、薄暗い歩道を歩いていると、唐突に呼び止められた。

「おーい、お二人さん」

「貴女は……?」

 ミキとサクラが同時に振り返ると、その声の主は、安藤すずかだった。


「奇遇ですな。これから食事ですかい?」

 買い物袋を持った、すずかはそう声をかける。

「いや、食事はもう済ませたよ。今は寝床を探してる最中なんだけど……土地勘が無くて寝れそうな場所が見つけられなくてさ……」

 ミキは、憂鬱そうな表情でそう答える。

「それは、大変ですな。それやったら、案内しましょか? この辺の事なら、あたしの方が詳しいですし」

「そうか……じゃあ頼んでも大丈夫か?」

 すずかに言われ、サクラはその助け舟に乗る事にした。

「構いませんわ。付いて来て下さい」

 そう言いながら、すずかは二人を誘導するのだった。


 日は流れ、週末。
 稼働を止めた夜中の工場地帯は、不気味なほど静まり返っていた。

 解体予定と書かれた看板の立つ五階建ての雑居ビル。裏口のドアは壊れている様で、キープアウトと書かれたテープが張ってあるだけ。小さな足跡が何個も有る辺りは、野良猫の住処にでもなっているのだろう。

 ただ、現在侵入しているのは、野良猫では無く魔法少女。
 すずか、ほむら、あすみの順番で、階段を上がって行く。言葉は二人とも出さない。簡単なジェスチャーと首の動きだけで、すずかとほむらは対話していた。

 殿を歩くあすみは、心臓の鼓動が早打ちしていた。

(……ただの取引でも、こんなピリピリしてるの?)

 空っぽの胃から、何かが逆流してきそうな。そんな重苦しい緊張感で、押しつぶされそうだった。

(……ほむらさんは、只の取引だから何も問題ないって言ってたけど)

 取引内容を知らされていないあすみは、その言葉を信じるしかなかった。


 四階に辿り着く。簡易の仕切りが取り除かれたフロアは、だだっ広い空間を作り出していた。使われていないテーブルや、壊れた椅子が転がっている。
 壁にもたれながら待ち構えて居たのは、取引相手。ほむらを見つけると、沙々は口を動かした。

「こんばんわ……暁美ほむらさん」

 沙々は、一歩ずつほむら達の方へ歩み寄っていく。対峙するほむらと紗々の距離が、三メートル程度まで近づいた時。

「……!?」

 ほむらは咄嗟に、盾の中に右手を突っ込む。そして、別の気配を察知し、右方向に目を向ける。


「……残念でしたねぇ。ここで取引したのは……貴女の命なんですよぉ?」




 沙々はいやらしく言い、手に持つ武器を見せびらかす。同時に、物陰から二人の魔法少女がその姿を見せる。

 さらに、すずかが沙々の右隣に陣を置いた。

「……」

 雇われた魔法少女。ミキとサクラは、ほむらと視線を交錯させる。そして、その姿を視界から離そうとしなかった。

本日はここまで。
明日は仕事が休みなので、明日は投下出来そうです。

あと、このSS腹黒い奴はそんなに多くないですよ。

ただ、極悪なだけです。

虎児やったってそういう・・・

ミキとサクラってどの外伝のキャラ?
まさかとは思うが美樹と佐倉じゃないだろ?


ほむらは魔法少女なのね


基本的な能力しか使えない?
通学路のど真ん中で一杯やっても誰にも気づかれなかった能力(さやかには気づかれた)とか
偽街の子供たちに命令とかはできなくなってるのかな

ホントの事を言ってないだけかも
神の力の一部を持ってるとか時間操作の能力とかは周りに言ったら敵がさらに増えるからとか?

>>1の理解が浅いだけだろ

続き投下します。

3.サクシサクニオボレル

 絶体絶命の局面。四面楚歌の言葉通り、ほむらは周囲を取り囲まれた。

 突然の出来事に、あすみの心臓は破裂してしまうのではと錯覚する程、心拍数が上がっていた。

(問題無いって言ってたのに……まさか!?)

 あすみは、睨む様にしてすずかを見た。
 しかし、すずかはポーカーフェイスのまま、何もじゃべろうとしない。

(すずかは……ほむらさんを売ったのか!?)

 あすみは激昂し、声を荒げそうになっていた。

「……へぇ。面白い事考えるわね……」

 しかし、冷静なほむらの声を聞き、あすみは喉まで出かかっていた言葉を飲み込んでしまった。


(……ほむらさんが笑った?)

 あすみは、銅像の様に固まって、ここからは見ているだけしか出来なくなっていた。


 不敵に微笑を見せたほむらに向け、沙々はニヤニヤとしたまま口を動かす。

「くっふっふ……強がっても意味は有りませんよ? 今、貴女は取り囲まれているんですよ?
 魔法少女四人を相手にして、生きて帰れると思ってるんですかぁ?」

 言葉を耳に挟みながら、ほむらは盾に突っ込んだ右手を動かした。

「動くな!!」

 沙々は叫んだ。それでも、ほむらは手を動かす。


 そして、盾の中から取り出したのは、缶コーヒー。しかも、激甘の生クリーム入りカフェオレだ。

「喉が渇いたのよ。コーヒー飲む位、別に良いでしょ?」

 何食わぬ顔で、そう言った。

(……コイツ本気か!? この状況で、何でこんなに淡々としてるんだよ!?)

 ほむらの放つ空気に、紗々は飲まれかけていた。

 コーヒーを一口飲み、ほむらはゆっくりと口を動かしだした。

「……腹黒いタヌキらしい、セコイ作戦ね。そんなに、私の首を獲りたいの?」

「てめぇ……この状況を解ってんのかよ!? 悪足掻きもいい加減にしやがれ!!」


「大体……貴女如きが、魔法少女の……しかも、敵の数が洒落にならない裏側の世界で、生き延びる事が出来るの?
 精々、グリーフシード目当ての魔法少女に殺されるのがオチなんじゃない?

 その程度の猿知恵で、生き延びれると思ってたら……救いようの無い馬鹿としか言えないわね」

 次々とほむらの口から飛び出る挑発に、沙々の堪忍袋の緒は切れた。

「てめぇだけは許さねぇ!! この場で死体にしてやるよ!!」

 怒声を放つ沙々は、武器を振りかざして一歩足を踏み出した。


 同じタイミングで、紗々の頭に拳銃が向けられていた。

「おい、その武器捨てんかい。ドタマ吹き飛ばすで? この距離なら、外す事はあれへんぞ?」

 普段と打って変わった様な、冷たいすずかの声が響いた。


「……!?
 お前……何してんだよ!? 裏切るつもりか!?」

 沙々の思考は、完全にフリーズしてしまった。

「裏切る言う行為は、仲間になって初めて成立するもんやろ……。姐さんをハメるつもりやったんやろうが……ハメられたのはお前さんやで」

 すずかは、口元をニヤリとさせ、冷たい目付きで沙々を睨んだ。

「て……てめぇ!!
 ミキにサクラ!! 何で突っ立ってるんだよ!! さっさと、こいつらを始末しやがれ!!」

 沙々は、雇った二人の魔法少女を睨みつけた。


 だが、ミキもサクラも微動だにしない。

「おい!! 聞こえてるだろ!!」

 声を荒げても、動く気は微塵も感じられない。

「まだ解ってないの?
 この二人も……こっちに寝返らせて貰ったわ」

「……!?」

 したり顔で言い放つと、ほむらはコーヒーを全て飲み干した。沙々の顔色は、見る見る間に青ざめてしまう。

 そして、サクラの口はゆっくりと開いた。

「悪いな……。ミキとサクラは、暁美ほむらに殺されたんだよ……三日前にな」



―――
――


 三日前。

 すずかに案内されるがまま、ミキとサクラは薄暗い神社の境内にやってきた。

「……おいおい。まさか、この中に忍び込んで寝るとか言わないよな?」

 サクラは、呆れた様子ですずかにそう言った。

「そんな訳ありませんわ。


 寝るんやのうて……永眠でっせ」



 すずかは、ニヤリと笑った。

「……まさか!!」

 ミキは、反射的に声を出してしまった。

 今更気が付いた所で、事態は全て手遅れだった。

「ご苦労様……すずか」

 サクラは、その声の主に背後を獲られた上に、首筋にサバイバルナイフが突きつけられているのだ。
 不意打ち同然の手段を使うのは、当然この魔法少女だ。


「暁美ほむら……」

 後ろに回り込まれてしまえば、サクラは何も出来ない。思いっきり奥歯を噛み締めるが、今はどうする事も出来ない。
 変身するどころか、ソウルジェムを出す事さえも不可能な事態なのだ。

「……さて。ミキとサクラだったわね。それとも、本名で呼んだ方が良いかしら?」

 冷たい声で、ほむらは言い放つ。

「……アンタ」

 ミキは、表情を苦々しく歪めた。
 相方を人質に取られた上に、すずかもミキの頭に狙いを定めて、拳銃を構えているのだ。

「残念だったわね……。影を見つけられても、尻尾は簡単には踏ませないわよ。

 久しぶりね……美樹さやか、佐倉杏子」

 ほむらに名指しされ、ミキは。否、さやかは眉間に筋を立てる。


「こうなれば、選択肢が無い事は百も承知でしょう。
 だけど、私も鬼じゃ無いわ……。私がどんな魔法少女なのかは、良く知っている筈でしょ?」

(……どの口がそれを言う)

 人質のサクラ。もとい、杏子は、内心で突っ込んだ。

「……何のつもり?」

「そうね……貴女達は雇われたんでしょう?
 だったら、その報酬の三倍でこっちに引きずりこむわ。悪い話じゃないでしょ?」

「……」

 杏子もさやかも、無言のまま反応をしない。

「それとも、報酬では動かないのかしら……。
 だったら、取引が終わった後に“私の計画”の話をしても良いわよ」

 ほむらの交渉材料に、さやかはピクリと肩を震わせた。


「……アンタは、何がしたいんだよ!!
 自分した事……解ってんの!!」

 さやかは、怒りを抑えきれない様に、声を張り上げた。

「解ってるわ……十分過ぎる位ね。
 だけど……私にも考えは有るのよ。一つの世界を壊して、良心が痛まない程……下衆では無いわ」

「……」

 その言葉にさやかは、何を思うか。

「もっとも、今拒めば二人とも富士の樹海辺りで、添い寝して貰う事になるでしょうね……」

 ほむらの脅し文句は、決してハッタリでは無い。

(……コイツマジで、アタシの首を落とす気だ)

 さやかとほむらの話の内容は、杏子には解らない。ただ、背筋に感じるほむらの殺気は本物だった。

「……解ったよ。だけど……今回だけは、アンタのいう事を聞いてあげる」

 さやかは、観念した様。それで居て、真剣な眼差しでそう言った。



――
―――


 追い込まれた紗々に向け、杏子は笑みを見せながら告知した。

「暁美ほむらに雇われた、プア・マギ・ホーリー・クンテットの佐倉杏子だ。
 んで、こっちは美樹さやか。まぁ、そういう訳で、よろしくだのむな」

 そう言いきる杏子は、満面の笑みであった。

「……ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテットね」

 自らの属するチーム名の間違いを、さやかは訂正した。

 追い込んだつもりが、逆に追い込まれたのは沙々の方であった。


(じょ……冗談だろ!?
 何者だよコイツは!? 相手の駒を奪い取るとか……汚いにも程があるぞ!?)

 慌てふためき、周りをキョロキョロと見回す。

(あのミキとサクラは論外……あの着いて来たガキは……)

 あすみを視界に捕える。だが、武器を召喚し、何時でも殴り掛かってこられる体制だった。

(……ヤバい……どうする……どうする……)

 もう、沙々に考える余地は無かった。

 すずかは拳銃を構えたまま、紗々の腹部を思いっきり蹴りあげた。

「……うぐっ!?」

 つま先が鳩尾に入り、沙々はうめき声を上げながらうずくまった。

「姐さん……躊躇しとる場合や無いでしょ。コイツは、姐さんを殺そうとしとるんですよ。生かしとく必要有れへんでしょ」

 冷たく言い放ったすずか。


(だったら……)

 沙々は何かを決めた。

「ご……ごめんなさい!! もう、貴女には金輪際近づきません!! 必要なら、組織の情報も横流しします!!
 だから、命だけは……命だけは勘弁してください!!」

 うずくまったまま、沙々はほむらに向かって土下座したのだ。

(……この場だけでも、こうやって乗り切るしかない!!)

 沙々は脳内で、打算した。

 しかし、結果は非情な現実だった。
 沙々は、暁美ほむらを甘く見過ぎていた。

「……舐めてんの?」

 そう言い放ったほむらは、沙々を冷たい視線で見下ろした。


「普通、武器を捨てないで白旗を上げるかしらね?
 そんな戯言聞くと思ってるの?」

 沙々の頬を、冷たい汗が流れ落ちた。

(……コイツ……悪魔かよ!?)

 沙々の眼に映るほむらの姿は、悪魔にしか見えなかった。

 バン、と銃声が室内に響いた。

「うぎゃああああッ!!!!」

 沙々の右腕が撃ち抜かれた。激痛のあまり、沙々は腕を抑えながらのたうちまわる。

「姐さん!! さっさと殺しましょうや!!」

「……そうね。次は、頭でも撃ち抜きなさい」

 その言葉を皮切りに、すずかの持つ拳銃は沙々の頭に突き付けられた。


「待って!! お願い!! 殺さないで!!
 何でもします!! 何でもしますから、命だけは勘弁してください!!」

 泣きべそをかきながら、紗々はほむらの足元に這いつくばった。

「お前の言う事なんか信じられんわ!! くたばれや!!」

 恫喝しながら、なおも狙った拳銃を外さないすずか。

「信じて下さい!! もう逆らいません!! だから殺さないで!! お願いだから殺さないでください!!」

 沙々は言葉を連呼する。

 既に演技の域は超えていた。ただ助かりたい一心で、ほむらに命乞いするしか、出来なかった。

(……計画通りや)

 すずかは、ニヤリとほくそ笑んだ。

「……」

 ほむらは、ポーカーフェイスを保ったまま、沙々を見下ろすだけだ。


―――
――



 前日。隠れ家にて。
 ほむらとすずかは、沙々との取引の為の打ち合わせをしていた。

「……雇った魔法少女も寝返っとる。後は、あの沙々って女を殺すだけです」

「いいえ。あの子は殺さないわ」

 ほむらの言葉に、すずかは目を見開く。

「何故ですか? 生かしとく必要はあれへんでしょ?」

「良い、すずか。
 殺せばゼロだけど、生かしておけば駒位にはなる。曲がりなりにも、私達を狙う側の人間なのよ。ある程度の情報は、必ず持っているわ。
 それを引きずり出すのよ……」


「確かにそれも有りやとは思いますけど……。
 仮に、大した情報を持っとらんかったら、どないするつもりですか?」

「その時はその時よ。
 徹底的に叩きのめして、二度と刃向わない様にすれば良いわ。姑息なセコイタイプは、自分の保身を第一に考えるのよ。

 殺さない程度に痛めつけた後に脅せば、簡単に言う事を聞くでしょうね……」

「そ、そうでっか……」

「ま、私達から寝返る可能性も十分に有るけれど……そうなる前に、防弾チョッキ代わりになるかもしれないわね……」

 そう答えたほむらは、口元の両端が吊り上っていた。

(……ホンマに、恐ろしいお人やで)

 共にチームを組むすずかでさえ、背筋に悪寒を感じていた。

「そういう事よ。当日は、私の言う様にしなさい……」

 すずかの首は、縦に動いた。


――
―――


「……見てるだけで、気分が悪くなる」

 光景を傍観していたさやかは、ポツリと言葉を漏らした。

「ああ……。
 だけど、一番やべえのは、暁美ほむらの考えてる事だ」

「……どういう事?」

 杏子の一言に、さやかは疑問を持った。

「あいつは、まだ内心の全てを見せてねーよ。あのすずかって奴にも、もう一人の子にもな」

「仲間なのに?」

「いいや。多分、仲間と思ってねーだろ。

 恐らく、アイツは他の魔法少女全てを踏み台としか見てねーだろ……アタシ達も含めてな。自分自身の目的さえ達成できれば、後はどうなろうと構わない。例えどれ程非道で残虐でもな。
 そういう考えの持ち主だ」

「…………」

「暁美ほむらは“手段を択ばない魔法少女”だ」


 杏子は、ほむらをそう評した。


 足元に這いつくばる沙々の髪を、ほむらは乱暴に鷲掴みにした。

「そうね。この場では生かしておいてあげるわ……。
 だけど……貴女の知ってる情報全て吐き出させるわ。魔法少女は、拷問にどこまで耐えられるか……貴女の体で試してみるわ。
 もしかしたら……ここで死んでた方が、マシだったかもしれないわね……」

 ほむらは、冷たい笑みを浮かべながら、告知した。沙々にとっては、正に死刑宣告同然だった。

「……そ……そんなの有り!?」

 小動物の様にガタガタと震える紗々。その眼写るほむらは、悪魔の様にしか見えなかった。
 一切容赦の無い冷徹な行動こそ、悪魔と異名を呼ばれる所以。
 紗々は、死ぬほど後悔していたに違いない。


 既に拳銃を下ろしたすずかに向かって、あすみは思わず聞きただした。

「ねぇ、すずか? もしかして、最初からこのつもりだったの?」

「せやで」

 すずかは、ニヤリとしながら答えた。

「だったら、私にも話してくれれば良かったのに……。絶対に裏切ったと思ったもん」

 若干不満げな様子で、あすみはそう言った。

「ええか……敵を欺くには、まず味方からや。
 味方やから言うて、下手に情報を流すと余所に漏れる可能性が高くなるねん。例え、そのつもりが無のうてもな。

 それと……あたしはまだ、あすみを完全に信用しとる訳や無い。だからこそ、欺く必要もあったんや。
 厳しい言い方やけど、自分以外は信用すんな。それが、あたしでも姐さんでもや」

 すずかは、あすみに向けて助言した。


「……そっか」

 あすみは、ちょっとやきもきした気持ちになっていた。

「しゃーけど、姐さんがあすみを連れてきた理由が、よう解ったで。
 普通やったら、こんなエグい光景見たら、正気では居れん。やけど、お前さんは普通に見る事が出来とる。
 結構な強心臓の持ち主やと思うで」

「……なんかさ。誉められてる気がしないんだけど」

 あすみは、呆れ気味にすずかに突っ込みを入れた。


 このまま終わる。後は、隠れ家に沙々を連れ込む。

 その筈であった。


 しかし、そうは問屋が下ろさなかった。

「……!?」

 殺気に近い気配を感じ、ほむらは沙々を思いっきり蹴とばした。

 同時に、ズドン、とコンクリートの壁に何かが突き刺さった。

(魔力で作られた矢……)

 ほむらは僅かな瞬間で、武器の種類を見定めた。

「……!?」

 突然の行動と出来事に訳が解らない沙々は、思わずほむらを見た。
 しかし、ほむらはテーブルの影に身を潜めながら、入口を睨みつけている。


「あすみ!! 隠れろや!!」

 すずかは、怒声に近い声で指示を飛ばす。

「……こりゃ、とんでもねー来客だな」

「……やっぱり、アイツに関わると、ロクな目に合わないわ……」

 さやかと杏子は、既に柱の陰に身を移していた。

 思いがけない展開に、空気が静まり返る。


 皆、第三者の敵襲だと気が付くのに、時間はかからなかった。

本日はここまで。

結構、読み手で鋭い人たちがいるから、意外と困る。


正直すまんかった
ここまで本編のキャラがでてこなかったから外伝のかなと思ってしまったんだ

とにかく乙!

沙々の誤表記治ったようで治ってないな
混ざってるから後から修正して取りこぼした感じがしてすごい気になる

今のところほむらへの評価の割りに全体的にヌルいからこれからに期待



会話の無駄改行が読みにくすぎるし、!?が半角なのも読みにくい。

明けましておめでとうございます。
正月ですが仕事でした。

では、続き投下です。

4.カメンブトウカイ


 物陰に隠れ、全員の視線は入口を向いていた。

 薄暗い中、複数の人影が見える。
 そこには、覆面を付けた六人の魔法少女が立ちはだかっていた。狙った獲物を逃さない、統率の取れたハイエナの様に。

「ありゃ“D・W”やんけ……」

「……ディー・ダブリュー?」

 すずかの口から零れた単語に、あすみは思わず聞き返した。

「ダーク・ウィッチっちゅう、六人組のチームや。
 あたしらと同じ裏側の魔法少女。しかも、殺し専門の集団やで……。
 武器を使った接近戦だけで、魔法少女も魔獣も狩る。奴らに狙われて、生きて帰った魔法少女はおらんゆう話や……」

 そう答えたすずかの額から、大粒の汗が一滴流れ落ちた。


「……どうやら、貴女達のボスは、とんだ食わせ者だったわね。
 この計画が失敗すると見越して、奴らを雇ったのよ」

 ほむらは確信を持って、そう告げた。

「……冗談でしょ!? だったら、私まで始末する対象だって事なの!?」

 沙々は、信じられないと言った表情を見せる。

「それ以外には、考えられないわ……。所詮、貴女も捨て駒だったって事よ」

「勘弁してくれよ!! こんな所でくたばりたくないよ!! さっきだって死ぬ思いだったのに!!」

 ほむらの冷淡な言葉に、沙々は半泣きで叫ぶ。

「ゴチャゴチャ五月蠅いわね……。泣き叫ぶ暇が有ったら、アイツらを仕留める事を考えなさい」

「……ほ、本気!?」

 その言葉に、沙々は硬直した。


「当たり前よ。どの道、この建物から逃げたとしても、連中は私達を殺すまで追いかけてくる……。
 それだったら、最初からこの場でアイツらを迎え撃つわ」

 ほむらは断言した。

「姐さん……どないして、戦います?」

 すずかは、ほむらに指示を仰ぐ。

「単独になれば、確実に餌食になるわ。すずかはあすみと動きなさい。このバカは、私が引き受ける。
 それと、固有魔法はバレないように使いなさい。相手は魔法少女狩りのエキスパートよ。手の内が見抜かれたら、魔法を発動する前に首を刎ねられるわ。
 まずは、ここを離れて身を隠しなさい。アイツらを散り散りにしてからが勝負よ」

 ほむらは、冷静に指示を出していく。


「美樹さやか、佐倉杏子。貴女達の強さも性格も、私は知ってるつもりよ。だけど、時には非情にならなければいけない時はある。
 ……貴女達は出来るかしら?」

「……舐めて貰っちゃ困るね。
 これでも、酸いも甘いも見てきてるんだからよ」

 杏子は、不敵に微笑していた。右手には、既に槍が握りしめられている。

「不本意だけどね……。
 アンタを監視しなきゃいけない以上、ここはやるしかないんでしょ?」

 さやかも憎まれ口を叩きつつ、サーベルを召喚していた。

(こいつ等……正気かよ!? 何でこの状況で冷静で居られるんだよ!?)

 そう思うものの、沙々に選択肢は有る訳が無かった。


 ほむらは、盾の中から拳銃を取り出した。
 物陰から、僅かに身を乗り出して、拳銃を構える。

「私がアイツらを引き付ける間に、この部屋から出なさい……。
 狙われてるのは、私達じゃないわ。私達で、アイツらを仕留めるのよ!!」

 言葉と同時に、銃声が鳴り響いた。


 先に部屋を離れた四人は、四階の通路の一角に来ていた。

「……あそこは使えるで」

 そう言ってすずかが見たのは、トイレだった。

「……どうするの?」

「一人が隠れて、攻撃出来る様にしとくんや。
 仮に外しても、あたしが後ろから首を掻っ切る様にしとく……」

 あすみの質問に、すずかはそう答えた。

「あんたはどうやって隠れるのよ?」

 さやかは咄嗟にそう聞いた。

「三人とも、ちょっと後ろ向いてみい……」

 言われるがまま後ろを向く。

「ええよ」

 そして、元の方向を向くと、すずかの姿は見当たらない。

「……何処に消えた?」

 杏子は、周囲を見渡したが、すずかの影も形も見つけられないが。

「……それが、一歩も動い取らんのや」

 声を聞いて、ようやくすずかの姿を確認した。


「……どうなってんだ?」

「今のがあたしの魔法……ステルスや」

 すずかは、得意げに言った。

「存在だけを確認出来なくする魔法……気配だけを完全に消すって事や。もっとも、姿が消える訳や無いから、正面から戦う時に意味は無いねんけどな」

「便利……なのか?」

 杏子は思わず聞いた。

「そないなもん、使い方一つや」

 すずかは、ニッと笑みを見せる。

「ま、それは良いとして。
 アタシは、単独でやらして貰うよ。相手が武器だけの接近戦だったら……アタシの土俵の上だからよ」

 杏子は、そう言い切った。

「大丈夫かいな?」

「任せとけって。全員固まっても、見つかるだけだろ」

 そう言い放ち、杏子はその場から走り去った。

「全く……本当に協調性が無いんだから」

 さやかは、ふぅと溜息を吐き出した。

「ま……この場は三人で蹴りをつけようや」

 すずかの言い分に、さやかは仕方なしの様子だった。


 静まり返る、ビルの中。五階のフロア。
 暗闇の中で、五感の全てを研ぎ澄ます。

 ほむらは周囲を窺いながら、怯えて縮こまっている沙々にテレパシーを送った。

≪……会話を聞きとられると見つかるわ。テレパシーでやり取りしましょう≫

≪もうヤダ……こんな筈じゃなかったのに……≫

 沙々はテレパシーですら、愚痴る有り様。

≪何時までもウジウジしてるんじゃないわよ!! あいつ等の前に貴女から殺すわよ!!≫

≪解ったよ……。だけど……どうすれば良いのよ……≫

 沙々からのテレパシーを受信すると、ほむらは刹那の間に思考を巡らせた。


≪……貴女の固有魔法を教えて。それ次第で、作戦は幾らでも作れるわ≫

≪私の魔法は、洗脳ですよ……。魔獣とか魔法少女とかを操作できます……≫

≪……何分持続できるの?≫

≪測ったこと無いから、解らない……≫

 曖昧な返答だったが、それだけの情報が有れば、ほむらには十分だった。
 ポケットから、真っ新なグリーフシードを取り出して、沙々に手渡した。

≪……魔力を回復しろと?≫

≪それも有るけど、あえて魔獣を引き出すわ……≫

≪そんな事したら、あいつらに場所がバレるでしょ!!≫

≪解ってないわね……。隠れてやり過ごせる相手じゃないのよ。魔獣を使って、罠を仕掛けるのよ……。すぐに回復させなさい≫

 沙々は、言われるがままグリーフシードを、ソウルジェムに近づけた。


 覆面を付けた魔法少女の、ソウルジェムが反応を見せた。
 極めて近い位置に魔獣が出たサインだ。

 忍び足で通路を進み、一室の前で立ち止まった。

「……」

 音を極力立てない様に、ドアを開く。
 部屋の中には、三体の魔獣が立ちはだかっていた。

 しかし少女は、そんな物に臆する様子は見られない。
 手に持っている自分の武器。日本刀を構え直した。

 振り被った日本刀を、一気に振り落とすと、刃から斬撃が飛び交う。
 空気も壁も纏めて切り裂く魔力の刃は、一撃で魔獣共の体を斬り裂いた。

 床にグリーフシードが転がり落ちると、同じタイミングだった。

 バン、と銃声が鳴り響く。
 魔法少女の体が横たわり、精気が消え失せていく。


 身を潜めていたほむらは、拳銃で敵のソウルジェムを、的確に撃ち抜いていた。

「……まずは一人」

 ほむらは小さく呟いた。

「……ほ、本気で殺した……」

 何の躊躇も無く、同族を殺して涼しい顔のほむら。沙々が怯えるのも、正直無理も無い。

「当たり前よ……。殺さなければ殺される。私達は、そういう世界の住人なのよ」

 その答えに、迷いは一片たりとも無かった。


 身を潜めていたほむらは、拳銃で敵のソウルジェムを、的確に撃ち抜いていた。

「……まずは一人」

 ほむらは小さく呟いた。

「……ほ、本気で殺した……」

 何の躊躇も無く、同族を殺して涼しい顔のほむら。沙々が怯えるのも、正直無理も無い。

「当たり前よ……。殺さなければ殺される。私達は、そういう世界の住人なのよ」

 その答えに、迷いは一片たりとも無かった。


 三階のフロア。
 オフィスが有ったであろう事が想像できる、広い部屋。

 ボロボロのドアから、覆面を付けた魔法少女がゆっくりと忍び込んだ。

「……!!」

 部屋の中で待っていた、赤い衣装を身に纏う魔法少女と視線が交錯した。少女は、自分の固有武器である、薙刀を構える。

「まぁ慌てなさんな」

 そう言葉をかける杏子は、ふてぶてしく仁王立ちであった。

「……」

 相手は何も反応を見せない。

「あんたら、接近戦だけで魔獣も魔法少女も狩るんだって?
 アタシも同じだからさ……一対一(サシ)で相手するなら、邪魔は入らない方が良いだろ?」

「……」

 その言葉を聞き、魔法少女はドアを閉めて鍵を掛ける。杏子の口元が、ニヤリと笑った。

「……地獄逝きの片道切符を渡してやるよ」

 杏子が槍を構えると、相手は薙刀を構え直した。


 両者同時に、地面を蹴る。一気に間合いを縮め、我先にと斬りかかる。
 風切音を立てながら、薙刀が杏子の頬をかすめた。

「うりゃぁ!!」

 雄叫びと共に、槍で切り上げる。
 空発。だが、続け様に相手の体を今度は蹴り飛ばす。

 ドン、と後ろに弾き飛ばされたが、魔法少女の方にダメージは無さそうだった。

「……」

 相手は無言で薙刀を構え直す。

「アンタに恨みは無い……事も無いな。命狙われてるから、恨みは有るか……」

 若干の余裕を見せつつも、杏子は警戒心を解いていない。
 先手を打ったのは、杏子。多節根となった槍を振り回し、変則的な動きで相手を斬りかかる。
 ガキン、と金属音が鳴った。


「……っ!?」

 防がれると同時に、薙刀の切っ先は杏子の首筋を狙いすましていた。
 ブン、と刃は空を斬り裂いた。

 しかし、首筋にはうっすらと傷が走っている。

(……今のはヤバかったな)

 杏子は、背筋に冷たくなる感覚を感じた。

(この状況で……興奮してんのか。我ながら……アレの事言えねーな……)

 同時に、全身がゾクゾクする高揚感も湧き上がっていた。

(リーチも腕もほぼ五分だな……)

 魔力を高め、全身の感覚を研ぎ澄ます。

(……一気に決めてやる)

 獲物を狙う肉食獣の如く、相手を睨みつけた

「……」

 意を決し、杏子は再び標的を目掛けて特攻した。


 迎え撃つ魔法少女も、同じタイミングで薙刀を振るう。

 足払いを狙い、薙刀は地面スレスレに刃が走る。
 ブン、と空を切る。

「……!?」

 一瞬の判断で、杏子は空中に飛びはねた。そのまま天井を蹴って、一気に急降下。
 不意を突かれ、少女に防御出来る時間は無かった。

「終わりだよ!!」

 落雷の様に、槍を一気に突き落とした。
 ズン、と槍の切っ先は、少女の体を斬り付けた。


 四階のフロア。

 覆面を装着した二人の魔法少女が、忍び足で獲物を探している。一人はレイピアを。そして、もう一人はボウガンを。自身の固有武器を、何時でも使える状態だ。

 通路の途中に、トイレが見えた。二人はアイコンタクトを取って、同時に首を縦に動かした。
 レイピアを持つ魔法少女がドアを静かに開く。そこには、誰も居ない。

「……」

 しかし、気配は感じていた。

「……」

 ドアを開けた魔法少女が指で合図を送ると、後ろに控えた少女はコクリと頷く。
 一歩。また一歩と、ゆっくりと忍び込んで行く。一つ目の個室の扉に、手をかけた瞬間だった。

「……!?」

 ドカン、と扉を破壊しながら、モーニングスターが飛んできた。扉諸共、魔法少女を粉砕する狙いだった。
 だが、少女はバックステップで攻撃を回避。壁にめり込んだ鉄球が、少女の眼に写った。


「……生憎やで」

 小さく呟いきが、魔法少女に聞こえた。武器を構える瞬間も与えられなかった。

 次の瞬間には、首筋から多量の鮮血が噴き出していた。

「……!!」

 刹那の隙の暗殺劇。別角度から、すずかが首を斬りつけた。
 ボウガンの魔法少女は、体勢を立て直すべく、トイレの前から走り出そうとした。

 しかし、走り出す間は与えられない。

 ここにはもう一つ罠が仕掛けられていた。

「……残念」

 物陰から斬撃が飛び交うと、魔法少女の体には幾つもの傷が走っていた。

「あんまり、気分の良い物じゃないけどね……」

 壁際に隠れていたさやかは、憂鬱そうに溜息を吐き出す。


「二人共仕留めれたのはラッキーや。しゃーけど、同じ手はもう使えへんな……」

 良い結果だったものの、すずかの表情は険しいままだ。

「音が響いたからね。ここにいたら、多分見つかるよ……」

 さやかも厳しい表情で、追従した。

「……一度、ほむらさんと合流しようよ。あの人なら、殺される訳が無いよ」

 あすみは、そう提案した。

「……せやな。一旦、落ち合うんもええかも解らん」

「仕方ないか。二人は、上の階だったね……」

 二人も、あすみの意見に賛成した。


 五階。

 魔法少女の亡骸を見下ろす、一人の魔法少女。

(……やるねぇ。こっちが、殺られたのは初めてだ……)

 表情は、覆面で見えない。しかし、悲観している様子は無い。

(……クックック……狩り甲斐の有る奴らだ。楽しいパーティーになりそうだな……)

 少女は、自らの固有武器を投げ捨てた。


 三階のフロア。

「……何とかなったか」

 杏子は、横たわる魔法少女を見下ろした。

「……兎に角、さやか達の方に向かおう」

 ドアに手を伸ばして、鍵を開けた時だった。

「……!?」

 背中から感じる、殺気。突き刺さる様な、鋭い視線。
 杏子は、ゆっくりと振り返った。

「……ったく。ネズミがまだ居やがったか」

 ぼやき口調で呟きながら、杏子は魔法少女と視線を交えた。
 見た所、武器を持っている様子は無い。

 杏子が槍を構えると同時に、相手はファインティングポーズを作っていた。

「……素手でやり合うつもりか?」

 素手と槍ならば、杏子の方が圧倒的に射程範囲は広い。杏子は、我先にと相手を斬りにかかる。


「……!?」

 ブン、と槍が空を切る。
 同時に、ズドンと音を立てて、拳が杏子のボディに突き刺さっていた。一瞬だけ、杏子の動きが止まる。

「……うわっ!?」

 スウェーバックで上体を逸らした瞬間には、目前を少女の脚がかすめていく。

 即座にバク転で間合いを広げる。
 一発しか喰らっていないが、 杏子はゴクリと息を飲んだ。

(……コイツ……滅茶苦茶強ぇ……)

 第二ラウンドも、瞬きも出来ない程のシビアな接近戦。
 相手は、D・Wの大将格だ。

 地面を蹴って、再び杏子から攻撃を仕掛ける。
 流れるような連続攻撃。間髪入れず少女を斬りかかるが、易々と避けられていた。

(……クソ!! スピードは向こうの方が上か!?)

 杏子の脳裏を、嫌な予感が過ぎる。


 ブン、と槍を切り上げたが、切り裂いたのは地面と空気だけ。むしろ、杏子の顔面に、大きく隙間を作ってしまった。

 ゴキィ、と顎を掌底で撃ち抜かれる。

「ぐぁっ……」

 杏子の意識が、僅かに飛んだ。そして、今度は体に、思いっきり蹴りが入る。
 一気に吹っ飛ばされ、壁に背中を打ち付ける。

(……ヤバい。このままじゃ……)

 気合だけで立ち上がった。しかし、杏子の膝は笑っている。真っ直ぐ歩く事も、ままならないだろう。

(……でもよ)

 されど、杏子の眼は死んではいない。

(そう易々と……殺されてたまるか!!)

 力の入らない足を、一歩踏み出し、槍を構える。

「まだ戦えるよ……アタシは」

 杏子は闘争本能を剥き出しにして、戦う意志を捨てなかった。


 五階、階段の前のフロア。
 三人はほむら達と合流し、お互いの情報を交換した。

「そっちで二人なら、残りは三人ね……」

 ほむらは、未だに険しい表情を崩さない。

「……このまま、固まりますか? 今なら、相手の連中よりも数では上回ってまっせ」

 すずかは、提案を出した。

「……どっちでも良いよ。ただ、杏子が単独だからね……」

 相棒が単身で行動しているさやかは、気が気では無い様だ。

「……」

 沙々とあすみは何も喋らない。今は意見を出すよりも、従った方が賢いと考えているのだろう。

「確かに、個人の戦闘力なら、佐倉杏子は相当に強いわ。
 ただ、相手も恐ろしく強い。単独のまま、複数で襲われたら命の保証は無いわ……。一度合流して、そこから散るのも良いかも…………!?」

 ほむらの言葉は途中で途切れた。標的の気配を察知したのだ。


「もう一匹おいでなすったか……」

 鋭い表情で、すずかはその魔法少女を睨んだ。

「今なら、五対一……。あっちに勝ち目は薄いで……」

 そう言い放ったすずかだったが、三秒後にはその言葉を訂正せざるおえなくなった。

 たった一人で現れた魔法少女。しかし、持ち出してきた武器は、固有の物では無い。

「……嘘でしょ!?」

 さやかは思わず叫んだ。相手の切り札は、マシンガン。
 現代兵器を持ち出すなど、誰も想像していなかった。

「くそったれ!! 接近戦だけじゃないのかよ!!」

 ここまで黙っていた沙々も、思わず声を荒げる。

 フロア全体に、連射する銃声が響き渡った。


(……南無三!!)

 ほむらは、ガラスをぶち割って、窓から身を投げ出した。

「……やばっ!!」

「あっぶな!!」

 咄嗟に壁へ身を隠す、さやかとすずか。

「……うわっ!?」

 逃げ惑うと同時に、あすみは階段から転がり落ちてしまう。

(もうやだ!! こんな目ばかり合うなんて厄日だ!!)

 沙々は、壁の陰で縮こまるばかりだった。

「おい!! 姐さんは大丈夫かいな!? 五階から飛び出してったで!!
 あすみもあすみで、階段から落っこちとるし!!」

 すずかは拳銃を出しながら、さやか向けて声を張り上げた。

「人の事より、自分の心配をしな!! このままじゃ、纏めて蜂の巣になるよ!!」

 さやかも怒声で、答え返すしか出来ない。


 隙を窺いながら、すずかは拳銃で相手を狙う。しかし、飛び交う銃弾の数は、マシンガンの足元にも及ばない。
 すずかは、一度壁に身を戻し、拳銃のマガジンを装弾済みの物に交換する。

(……このままじゃ弾切れを待っとるだけやで)

 冷たい汗が、背筋を伝い落ちた。


 遠距離の攻撃方法が限られるさやかにとって、マシンガンが相手では成す術が無い。

(流石に、あれで撃たれたら、回復が追い付かないよね……)

 身を隠しながら、壁に背中を預けた。そして、ふぅと息を吐き、心の中で呟いた。

(……この状況を変えて見せなさいよ……バカほむら……。アンタだって、曲がりなりにも修羅場潜り抜けてきたんでしょ……)

 悪態をついても、ほむらの実力はよく解っている。

 だからこそ、さやかは密かな期待を込めていた。


 だだっ広い四階のフロアに、あすみは転がり落ちていた。
 耳を飛び込む、銃声。鼻に付く、火薬の匂い。

(……誰か居る)

 そんな中でも、殺気を放つ魔法少女が、立ちはだかっている事が解った。
 トンファーを構える、覆面姿の魔法少女。
 表情は見えなくとも、殺気だっているのは明白だった。

(……この状況だったら……)

 ゆっくりと体を起こし、あすみは相手を睨みつけた。

(やるしかない……戦うしかないんだ!!)

 己を奮い立たせる様に、自分自身に言い聞かせ、モーニングスターの柄を強く握りしめた。


 外のアスファルトに思いっきり身を打ち付けたが、ほむらは何とか起き上がった。
 両手に力を込めて、グーとパーを交互に作る。

(……骨は無事な様ね)

 体はまだ動く。視線を鋭く尖らせて、飛び降りたビルをジッと見つめた。

「……」

 何も言葉を発さないまま、再びビルの中へ向かって駆け出した。



 杏子は、完全に苦戦していた。

(……何て強さだ)

 接近戦の手数も、テクニックも。完全に負けていた。再三攻撃を仕掛けるが、全てかわされた上に、正確無比なカウンターパンチを浴びせられる。
 しかし、止めを刺すような一撃は、仕掛けてこない。

(……なぶり殺すつもりか? じっくり痛めつけてくるなんて、嫌らしい性格だな……)

 嫌な汗が、血液に混じって額を流れ落ちる。

(……このままじゃ、魔力切れを待つしかねー……どうする? どうすれば良い?)

 瞬時に思考が巡るが、打開する糸口は見つからない。

「クックック……」

 覆面の魔法少女は、不意に杏子を嘲笑った。

「……何が可笑しい?」

 肩で息をしながらも、杏子はかすれた声で問う。


「……簡単だ。貴様、固有魔法が使えないんだろ?」

「……!?」

 杏子は、何も答えられなかった。

「自力にここまで差が有れば、魔法を使わない馬鹿は居ない……。
 残念だが、私は魔法も武器も……まだ使っていないだけだからな」

「……くそ。バケモノが……」

 悪態を吐くが、杏子にとってこの状況は、完全に詰みだった。
 惨めな敗北感と、後味の悪い屈辱感だけが、心を支配していく。

「一つ選ばせてやる……。
 じっくりとなぶり殺るか。一撃で殺されるか……」

 少女の出した選択肢。

「……」

 杏子は、無言で槍を壁に投げつけた。ドスン、と切っ先が突き刺さる。


「……命乞いはしねぇ。殺すなら、さっさと殺せ」

 少女は一歩ずつ歩み寄る。杏子は逃げる素振りも、抵抗する様子も見せない。

「……武士の情けだ。一撃で終わらせてやる」

 少女は、杏子の胸倉を掴み取った。
 思いっきり力を込めた握り拳を、大きく振りかざす。

(……くそったれ。こんなもんかよ……アタシの人生は……)

 杏子はそっと目を閉じた。
 次から次へ、沢山の人の顔が。そして、仲間の顔が脳裏をかすめた。

(……ここで終わりか)

 自然と、頬に雫が滴り落ちていた。

「……!?」

 同時に、生暖かい液体の感触が、杏子の顔に降り注いだ。
 ゆっくりと目を開く。


 胸倉を掴み取っていた魔法少女は、拳を振りかざして立ったまま。

 只違うのは、首から上が斬りおとされている事。
 首を刎ねられた少女は、ゆっくりと倒れて行く。

 噴水の様に、上がる鮮血の向こうに見えたのは。

「……喋り過ぎよ」

 サバイバルナイフを握りしめた、暁美ほむらの姿だった。
 おまけに、切り落とされた生首を、ソウルジェム諸共踏み潰す。グシャリと、気色の悪い音が杏子の耳に纏わりついた。

「……お前……何でここに?」

 杏子は信じられないとばかりの表情で、ほむらを見つめる。

「……ちょっと野暮用よ。また戻るけれどね」

 ほむらは、殺した後とは思えないほど、冷淡な態度のままだ。


「……さやか達は無事なのか?」

「解らないわ。ただ、このままだったら、助からない」

「……アタシも向かう」

 杏子は、体を引きずりながら、歩き出そうとした。

「……貴女は外で待ってなさい。その体じゃ足手まといよ」

 ほむらは、突っぱねた。

「でもよ……」

「……自分の仲間を信じなさい。それとも、貴女が居なければ、簡単に死ぬと思ってるの?」

 ほむらの言葉に、杏子は何も答えられなかった。

「……すぐに戻るわ」

 そして、ほむらは三階のフロアから飛び出して行った。

「悪魔って言われる訳だわ……あれは」

 取り残された杏子は、天井を仰ぎながら呟いた。

本日はここまで。

ここまで投下してきて、ほむらに対して何で?って思うポイントが沢山あると思います。

その部分を>>1の理解が無いだけと思うのか。それとも、何か意味が有ると思うのか。

そこはまだ読み手の想像にお任せします。

乙です
続きが気になるね

正月から仕事だったんか……まあなんだ、乙!

おつ!
前作のタイトル教えろください

>>149
択ばないでスレタイ検索

>>150
サンクスコ

一週間ぶりの投下になります。

今のペースだと、何時完結するのやら……。

5.ハイビルノタタカイ

 標的を狙いすまし、モーニングスターを振り回す。
 だが、かすり傷一つ負わせる事も出来ない。

「あぐっ……!!」

 トンファーで腹部を思いっきり撃ちつけられ、あすみは地面に片膝を付いてしまう。
 その隙を、百戦錬磨の魔法少女が、見逃す訳が無い。膝で顔面を蹴り上げられ、小さな体は吹っ飛ばされた。

(……ちくしょう)

 あすみは歯を食いしばる。力を込めても、体に意志が伝わらない。上体しか起こせないまま、魔法少女を見上げる事しか出来ない。完全に経験の差を露呈していた。

(ほむらさんの言ってた通りだ……魔法を使う暇も無い……)

 相手に翻弄され、あすみの打つ手はことごとく跳ね返される。

(せめて……せめて一撃でも当てれば……)


 悔しがっても、状況は何も変わってくれない。
 しかし、だ。千載一遇のチャンスは訪れた。

「ミャー!!」

「ニャー!!」

 耳に聞こえたのは、何匹もの野良猫の鳴き声。盛りが付いた様に、興奮している鳴き声だ。

「……!?」

 十数匹の野良猫の大群は、魔法少女に向かって襲い掛かる。
 猫を手で払いのけても、別の猫が飛び掛かってくる。魔法少女の意識は、反射的に猫に向かっていた。

「今ですよ!!」

 不意に沙々の声が聞こえた。

「……いけぇ!!」

 渾身の力を振り絞り、モーニングスターを投げつけた。
 ドン、と鉄球が魔法少女の体に突き刺さる。衝撃を受け止めれないまま、少女は後ろに弾き飛ばされた。



「……アンタ」

 あすみは、思わず沙々をジッと見つめた。

「か、勘違いしないで下さい!! 私は、自分の逃げる方法を使っただけですから!!」

 沙々はアタフタしながら、言葉を出す。洗脳の魔法を、猫に使って襲わせたのだ。

「……何だって良い。助かったよ……」

 口元に笑みを見せつつ、あすみはそう述べた。


 冷淡な声が、二人の耳に飛び込む。

「やってくれるね……クソガキ共が。楽には殺さねー……」

 相手の魔法少女もしぶとい。一撃では、止めは刺せなかった。
 ゆらりと立ち上がると、あすみと紗々をじっくりと睨みつけた。

(……ヤバい。こっちはもうどうしようも無いのに……)

(め、めっちゃ怒ってるー!?)

 二人には、これ以上の手札は残っていない。


 ただ、一瞬の隙さえあれば、彼女にとっては十分過ぎた。

 バン。

 突如銃声が轟く。同時に、魔法少女から精気が消え失せ、その体はドサリと倒れた。

「中々良い判断よ……貴女達」

 壁の向こうから、ほむらの声が聞こえた。

「ほむらさん!! 無事だったんですね!!」

 あすみは、歓喜の声を上げた。

「無事って訳でも無いけれどね。……兎に角、後は上の一人だけよ」

 物陰から姿を見せるほむらの右手には、しっかりと拳銃が握りしめられていた。

「……」

 沙々は、ビクビクしながらほむらと目を合わせる。

「貴女達に、一つ頼みが有るわ。上の二人を連れて、外で待ってて欲しいの。佐倉杏子は、外に向かっているわ」

 ほむらは、真剣な眼差しで言った。


「……ほむらさんは、どうするんですか?」

「最後の一人は、私が仕留めるわ。あの二人も、もう限界に近い筈よ……」

「でも……」

 尚も食い下がるあすみを、ほむらはジッと睨みつけた。
 抜身の刀を突きつけられている様な鋭い視線に、あすみは言葉を出せなくなった。

「銃火器の相手なら、私が一番慣れてるわ……。今から、私の言う通りにしなさい」

 ほむらは、そう言いながら銃をポケットに仕舞う。そして、おもむろに盾の中から、お手製の爆弾を取り出した。


 五階の銃撃戦は、ほむらの予想した通りの展開だった。

 すずかの銃弾は、未だに届いていない。

「……!?」

 カチン、と拳銃のハンマーの打撃音だけが鳴る。

(ここで弾切れかい!!)

 銃に意識を取られた一瞬だった。
 連射するマシンガンの凶弾が、すずかの右手を撃ち抜いた。

「ぐっ……!?」

 拳銃を落として、左手で撃たれた部位を抑える。何とか体だけは隠した物の、もはやすずかに攻撃出来る余裕は無い。

「ちょっと大丈夫なの!?」

「こんなもんかすり傷や……。しゃーけど、これじゃあたしは攻撃出来へんで……」

 気丈に振る舞うが、すずかの表情は焦りを見せていた。

(こうなったら……痛覚遮断と自動の回復すれば、ギリギリ行けるかな……。イチかバチかで特攻するしかない……)

 覚悟を決めて、さやかはサーベルの柄を握りしめた。


 ヒュン、と階段の下から、何かが飛んできた。

 コロリと転がった何かを、三人とも反射的に凝視してしまった。

(……何あれ!?)

 バン、と爆ぜると同時に、それは強烈な光を放った。

 すずかとさやかは、完全に視界を失っていた。
 何発かの銃声が聞こえた。何も見えない中で、腕を急に引っ張られる。

「……何!?」

「な……なんやねん!?」

 焦った様子でそう叫んだ。

「すずか!! 後はほむらさんに、任せよう!!」

 あすみの声を聞き、すずかはピンと来るものがあった。

(……姐さん、閃光爆弾を使ったんやな……)

「兎に角、この場から逃げます!! サクラは、まだ生きてますよ!!」

 沙々はさやかにそう告げて、急ぎ足で階段を下る。

 さやかの視界は、まだ何も見えない。それでも、手を引っ張ればどうなるか。

「ちょっと、引っ張らないで!! ……あっ!?」

 沙々とさやかは、階段から転がり落ちていくのだった。



 これで、五階に残っているのは、ほむら。そして、D・W最後の魔法少女。

(……咄嗟に身を隠した様ね)

 壁に隠れながら、ほむらは様子を見極める。

(恐らく視力は回復している筈……。ここで踏み込んでも、マシンガンの餌食になるだけね。
 マガジンは、残り三つ……。何発か撃ってるから……残りは50発有るか無いか……。
 かなり分が悪いわね……。向こうを引き付けて、マシンガンを弾切れさせるのが、一番有効ね……)

 ほむらの視線は、鋭く研ぎ澄まされた。

 僅かに身を乗り出して、牽制する様にトリガーを引く。

 三回引いた所で、ハンマーの叩く音だけになってしまう。

「……くっ」

 即座に身を隠し、手早くマガジンを交換する。

 同時に、連射されるマシンガンの音が、フロア中に木霊した。


 最初に入ってきた出入り口に、ほむらを除いた面子が集結した。
 傷を受けて、血を流している者。魔力を多量に使い、疲れ切っている者。皆、ボロボロの状態だが、まだ生き残っている。

 ビルの中から聞こえる銃声だけが響いている。

「ほむらさん……」

 あすみはポツリと漏らした。

「……大丈夫や。あの人は殺したって、死なへんで」

 すずかは、そう声をかけた。しかし、その表情は強張ったままだ。

(……逃げたい……でも、何故か逃げづらい……。
 って言うか……ここで逃げても、絶対に地獄の果てまで追って来るよ……)

 沙々の本音はそうだった。どさくさに紛れて、逃げると言う選択が選べなかった。


 さやかと杏子は、ビルを見上げながら、ある疑問を払拭出来ないでいた。

「……ねぇ。気が付いてる?」

 さやかは、杏子に問いかけた。

「ああ……。今になってみれば、どう考えてもおかしすぎる」

 その問いには、杏子も同調していた。

「アイツさ……固有魔法を一度も使って無い」

「……だよな。アタシらを狙った時も、あの殺し屋を仕留めた時も、不意打ちで仕留めてる……」

「さっきだって、そうだよ。マシンガン何て持ち出されたら、時間停止した方が絶対に有利になる筈なのに……アイツは使わなかった」

「……何を考えてるんだ?」

 それ以上、二人の会話は進まなかった。


 魔法に頼らない銃撃戦。故に、お互い消耗戦の様相だった。

(これが最後のマガジンね……)

 ほむらの表情は、俄かに焦りを見せ始めていた。

 隙を見ながら、拳銃を撃つ。
 しかし、マシンガンの連射には遠く及ばない。一発。また一発。
 ジリジリと、ほむらは追い詰められていく。

(……予定通りにはいかないわね)

 ほむらは、思わず苦笑いを浮かべてしまう。

(でも……私はまだ死ぬ訳にはいかない。
 例え、悪魔と呼ばれても……どれ程闇の中に身を堕としても……)

 祈る思いで狙いすまし、拳銃のトリガーを引く。

(全ての魔法少女に嫌われたって構うものか……。
 私達の理想を築く為なら……手段は択ばない!!)

 ほむらは、残り僅かな銃弾に、全てを賭ける。



 カチン。


 拳銃の弾薬は、ここに来て底をついた。

「……!?」

 再び、壁に身を潜めた。

 ガチャ……ガチャ……。

 しかし、相手のマシンガンも、ついに銃弾を切らせていた。

(……チャンスね)

 ほむらはニヤリとほくそ笑んだ。


 壁から身を現して、左手にサバイバルナイフを握りしめる。

「クックック……ナイフなら勝てると思ってるのか?」

 覆面の魔法少女は、嘲笑しながら弾の尽きたマシンガンを捨てる。
 そして、固有武器をを構えた。
 その手に握りしめているのは、短刀。接近戦では、一番取り回しの効く武器だ。


 対峙する両者は、同時に地面を蹴った。

 先にナイフを振るったのはほむら。
 ヒュン、と音を立て刃が空を切る。覆面の魔法少女は紙一重でかわしていた。

「……!?」

 更に横に一回転し、もう一度相手を斬り付ける。ほむらの動きは、相手に取って予想外だった。
 斬り付けた手応えは、十分な感触を得る。

(……血が流れて無い!?)

 目を見開いて、ほむらは相手を睨む。切り裂かれた服からは、肌が露わになっている。確実に斬り付けた筈なのだが、体は傷ついて居ないのだ。

(……回復魔法を使うタイプか!?)

 一瞬怯んだ隙に、相手の切っ先が、ほむらの目前に迫りくる。


「……っ!!」

 辛うじてかわせたものの、額が僅かに斬りつけられていた。
 一旦、バックステップで間合いを広げようと試みたが、接近戦の動きは相手の方が格段に速い。

「……!?」

 振り下ろした刃が、ほむらの右肩を斬りつけた。
 更に、ドンと体を蹴りつけられ、大きく弾き飛ばされた。

「……ぐっ」

 倒されるには至らなかったが、固有魔法と経験を含めて、ほむらは明らかに接近戦で劣っていた。

(格闘は、明らかに私が不利ね……。ナイフさばきでも勝ち目は無い……。
 アイツのソウルジェムは……喉元に有る。だったら……)

 ほむらは、瞬時に状況を見極め、次の一手を模索する。


 覆面の魔法少女は低い嘲笑で、言葉を並べ始めた。

「少しは出来る様だな……悪魔とやら。
 こっちの連中を仕留められるだけの腕は有る。どうだ? こっちの下に就かないか?」

 その言葉を聞き、ほむらはフッと微笑して見せた。
 そのままナイフをポケットに仕舞い、今度は盾の中からゴルフグラブを取り出した。

(……この女、馬鹿か? 回復魔法持つ私に、打撃で対抗出来ると思ってるのか?
 それとも、あの武器でリーチを確保するつもりか?)

 覆面の少女は、呆れた様にほむらを見る。

 しかし、ほむらは微笑を崩さないまま、ゴルフグラブを構えた。

「そっちが私の下に就くなら、考えてあげるわ……」

 そして、大胆不敵な啖呵を切った。

「……ならば、ここで死ね!!」

 少女は、一気に地面を蹴る。


 突っ込んでくる標的に向けて、ほむらはゴルフグラブを思いっきり振るう。

(……小賢しい!!)

 少女に向けて、振り落とされるゴルフグラブ。
 しかし、思いっきり短刀を振り抜かれると、ゴルフグラブのヘッドは、意図も容易く斬り飛ばされていた。

「……かかったわね」

 ほむらは、小さく呟く。
 同時に、右手に握りしめたゴルフグラブだった物を、逆手で握り返した。

(……コイツ!?)

 ヘッドを切り落とされたゴルフグラブは、鋭利に尖った鉄の槍に変わっていたのだ。
 少女は、突っ込む勢いを止める事が出来ない。

 逆手で握った鉄の槍を、ほむらは思いっきり突き出した。

(……終わりよ!!)

 ドン、と鉄の槍が首筋を貫いた。



 パリン、とソウルジェムが砕け散り、その欠片は流血の中に混ざり合っていく。
 その体から精気が消え失せ、蝋人形の様に硬直してしまう。

 ドサリ……。

 覆面の魔法少女は、ゆっくりと後ろに倒れ込んでいった。

「……」

 その亡骸を、ほむらは見下ろした。

「……さてと」

 そして、徐にソウルジェムとグリーフシードを取り出した。



 ギィ、と音を立てて、ドアが開いた。
 全員は、降りてきたほむらの姿を見て、安堵の息を漏らすのだった。

「姐さん!!」

「……ほむらさん!!」

 すずかとあすみは、我先に声を張り上げた。

「……そんなに騒ぐ事でも無いわ」

 出迎えられても、一貫してクールな反応だった。

 さやかと杏子は、そのやり取りを見つめる。

「……大した魔法少女だわ」

 皮肉とも賞賛とも取れそうな、さやかの一言だった。

「……だな」

 杏子は、固い面持ちで呟く。

「どうしたのよ?」

 その表情に、さやかは疑問を抱かずにはいられなかった。

「……アイツの目的はまだ解らん。ただ、このやり方はリスクが大きすぎないか?
 殺し屋に狙われる様な真似をするって事は、それだけアイツの悪名は広まってるって事だろ。現に、悪魔なんて異名が纏わりついてるんだぞ。
 そこまでして、その目的を達成する必要が有るのか?」

「……」

 杏子の言葉に、さやかは何も言えなかった。


 沙々は、ほむらが戻って来た事を見て、心臓がバクバクと鼓動を早めていた。

(……どうしよう!? 次殺されるのは私か!?)

 そんな杞憂をしていると、ほむらは全員に向けて、言い放った。

「兎に角、皆一度隠れ家に戻りましょう。恐らく、この近辺から立ち去る準備をした方が良いわ」

「……どういう事?」

 あすみは、ほむらに聞き返す。

「アイツらは私達を始末する為に雇われたの。
 それが失敗に終わったとなれば、私達は生き残ってるという事。つまり、今度はあっちの組織が直々に、殺しに来る可能性が高いわ。
 正直、この戦いで皆武器も魔力もかなり消耗してる。一旦隠れてから、色々と補充するべきだわ」

 ほむらの返答は、至極当然の事だった。


「……で、私はどうすれば?」

 沙々は、キョトンとしながら、自分自身を指差す。

「貴女も来なさい。
 言ったわよね? 何でもしますって」

「……!?」

 沙々の顔は、思いっきり引きつった。

「仮に着いてこなかったとしても、貴女は確実に殺されるわよ?
 そもそも、全員纏めて始末する対象だったのよ。一人でいれば、間違いなく狙われるわね……」

 ほむらの、脅し文句とも取れる言葉を聞き、沙々は観念するしかなかった。


 無事に隠れ家に戻った所で、ほむらは盾の中から戦利品の数々をテーブルの上に広げた。

「グリーフシードがこれだけと……あとはナイフ位ね」

「姐さん……何時の間に持ってきたんですか?」

「連中の死体のポケットに入ってたから、貰って来たのよ。
 それと、死体もちゃんと魔獣に食わせて処理したから、警察の事は平気よ」

「さいですか……」

 抜け目が無いと言うか、強欲と言うべきか。ほむらの行動には、流石に全員引いていた。

「……何よ」

 ほむらは不満げに声を出した。


「……本気で引くわ」

 そう突っ込んださやかは、咳払いしてから言葉を出す。

「でさ、アンタの言ってた“計画”は、あたし達には、聞く権利がある」

 さやかは、ほむらに向けて言い放った。

「そうね……。そういう約束だったわね。
 良いわよ。別室に移りましょう」

 ほむらとさやか、そして杏子は椅子から立ち上がった。

「姐さん、これどないしますの?」

 すずかは、戦利品を指差しながらそう聞いた。

「分け前は、すずかに任せるわ。それと、その馬鹿も見張っておいてね」

 ほむらはそう言い残して、二人と共に部屋から出て行った。


 別室に移り、ほむらは椅子に腰を据えた。
 そして、自分自身の魂、ソウルジェムをテーブルの上に置いた。

「……」

 杏子も、さやかも、無言でそれに倣い、ソウルジェムを据えた。

「……まず、私から先に質問しても良いかしら?」

 先に口を開いたのは、ほむらの方だった。

「ああ。構わねーよ」

 杏子はそう言って頷いた。

 ほむら達の表情が、ぐっと引き締まった。

「貴女達は、何故私を狙う側の魔法少女に就いて居たのかしら?」

「簡単だよ。アンタの尻尾を掴みたかったからさ。

 最近、悪魔とまで呼ばれる魔法少女の噂を耳にしてたんだわ。
 そんでだ。その悪魔の噂が立ち始めた頃と、お前が失踪した時期が殆ど同じだった。その悪魔の正体は、恐らく暁美ほむらだって勘付いたら、案の定って事」


「……後は、狙う側について行けば、尻尾は踏めるという計算ね」

 ほむらの反応に、杏子は釈然としない様子だった。

「どうだろうな……。
 アタシは兎も角、コイツは本気でお前の首を狙ってる」

 そう言いながら、杏子はさやかを指差した。

「……そう。私の事をそこまで憎んでる?」

「正直ね。
 今回は仕方なく手を組んだよ。だけど、本音を言えば……隙を見て首を刎ねてもあたしは構わなかった……」

 積み重なった恨みは、声にまで現れていた。
 さやかは、本気でほむらを憎悪している。

「アンタの作り上げた“偽りの世界”のせいで……あの子も……魔法少女達も……大切な場所を失ったんだよ?」

「……」

 さやかの言葉に、ほむらは何も反応を見せない。


「アンタの身勝手な行動が“円環の理”を壊滅させたんじゃない。
 あの子の願いも……覚悟も……。魔法少女達の想いも……アンタが踏みにじった」

 声を荒げる事も無く、冷静に。それで居て、さやかは静かに憎悪を露わにしていた。

 ほむらは、ふっと息を吐きだし、盾の中から拳銃を取り出した。

「……もし、今から私のいう事に、少しでも納得がいかないなら……私の体と魂を撃ち抜けばいいわ」

 そう言い放ち、さやかに拳銃を手渡した。
 ずっしりとした鉄の塊の感触が、さやかの手になじんで行く。

 グリップをしっかりと握りしめ、ほむらの目前に銃口を向けた。

「……本気で殺すよ?」

「……最初から覚悟の上よ」

 さやかはほむらを睨みつけて、視線を外さない。
 そしてまた、ほむらもさやかと視線を合わせたままだった。

本日はここまで。

次回、色々明らか(>>1の勝手な解釈)になります。

突っ込みどころが満載すぎるんだけど、>>1は叛逆を本当に見たの?

それと、殺し屋は6人組だったんじゃないの?

1 日本刀
2 薙刀
3 レイピア
4 ボウガン
5 素手
6 トンファー
7 短刀(マシンガン)

どうみても7人居るんだけど

はっきりしてない所多くて解釈の余地は色々あるから別にいいんじゃねえの?


まぁさやかが普通に覚えてるのはなぜ?って疑問はあるけどそれは置いといて
円環さやかが、悪魔に対して宇宙を壊すつもり?って言ってたにしては
魔法少女とお遊びとか、随分とスケールの小さいことしてんなって疑問はあるな
次回明らかになるのかね

楽しみ

>>180

それは完璧ミスってましたね、恥ずかしい……。
では、続き投下します。

今回は、個人的な解釈は当然ありますが……。
もし、こういう設定だったら面白いんじゃないか、的な考えも含まれています。

6.シンジツハイツモカコク

 ほむらの口から、一番最初に飛び出た言葉。
 それは、今の世界で魔法少女の誰もが知る事だった。

「ソウルジェムが穢れを溜めきると、どうなるか解る?」

「今更何言ってんだよ。
 ソウルジェムが穢れきると“ソウルジェムが砕けて魔法少女は死ぬ”んだろ?」

 ほむらの質問に、杏子は即答した。

「そう。ただ、その砕けるには、理由が有るのよ……」

 その一言に、さやかの表情は険しくなる。

「正直、全て説明するには時間がかかるの。だから、一度見て貰った方が早いでしょうね。
 貴女達は、どんな実情を見せられても構わない?」

 ほむらの言葉に、杏子はピンと来ていない様だ。


「どの道、それ見なきゃ解らねーんだろ?」

 杏子はそう断言した。

「……」

 さやかは無言で頷くだけだ。

「……解ったわ」

 そう言って、ほむらは自身のソウルジェムを指で撫でた。


―――――


 ソウルジェムが紫の光を見せると、真っ黒な影が部屋中を侵食していく。
 曇り一つ無い漆黒の空間。
 視界が少しづつ明るみを見せていく。
 見えた風景は、さびれた街。どこか遠くで子供の笑い声が聞こえる。

「……ようこそ。魔法少女の果ての世界へ」

 ほむらの言葉が、耳に届く。
 ただ、その声を発したのは、二人の目の前に居るほむらでは無い。


 コツ、コツ、と床を踏み鳴らす足音が近づいてくる。
 そして、現れたのは。

「おい……何でお前が二人も居るんだよ……」

 杏子は、新たに現れた、ほむらを凝視した。
 風貌も背格好も、紛れも無く暁美ほむら。
 ただ、真っ黒な翼が生え、瞳は血の様に紅い。

(……悪魔?)

 不意に、杏子の脳裏にその単語が過ぎった。

「私は暁美ほむらだった、元魔法少女よ」

 そのほむらはそう告げた。

「……アンタと、このほむらは別なの?」

 さやかは、そう聞きただす。

「いいえ。元は一緒だったわ。
 私の元々あった分の因果を引き裂いたのが、そっちの暁美ほむらよ。そして、私は神の力を得た……悪魔と言う名の概念って所かしら」

 回答は、二人の想像の斜め上を行く代物だった。



「じゃあ……ここは円環の理なの?」

「元々はね。私が乗っ取った円環の理だった物は、言うなれば魔法少女の慣れ果ての地。
 言わば地獄の様な存在かしらね」

「……」

 その言葉に、さやかは押し黙り、表情をムッとさせた。

「なー。さっきから言ってる、円環の理ってなんだよ?」

 杏子は、その正体を言葉の聞いた。彼女に関しては、記憶を持ち合わせていないので、知らないのも無理は無い。

「そうね。ちょっと長くなるけれど、順序を追って説明していくわ」

 ワンテンポ置いてから、悪魔は再び口を開いた。


「全ての魔法少女は、キュゥべぇによって生み出される。ただ、魔法少女の世界に、二度の大きな改変を施された。二回目は、私が改変したのだけれどね。

 まず、世界の改変される前、魔法少女の敵は魔女であった。魔女を倒す事でグリーフシードを手に入れて魔力を回復させる。ただ、このシステムには大きな落とし穴があった。

 魔法少女が魔力を使い果たすなり、絶望するなり、ソウルジェムが穢れきると魔女になるという落とし穴がね。

 インキュベーター……キュゥべぇに言わせると、希望から絶望への感情の相転移は、極めてエネルギーを採取できる。それこそが、魔法少女システムを生み出した目的だった。

 しかし、魔法少女の願った希望を、絶望と言う呪いで終わらせる事を、悲しんだ一人の少女が居た。

 その少女は、ある事を切っ掛けに、莫大な才能を持ち合わせていた。そして、全ての魔女を消し去ると言う願いによって、彼女は円環の理と言う概念となった……」

「へぇ……。奇特のな奴も居るんだな……」

 壮大な話の内容に、杏子は生返事しか出ない。




「……まどかだよ。あの子が、その概念だったの」

 と、さやかから横槍が入ると、杏子は唖然とした表情に変わった。

「まどかって……あのまどか?」

 杏子の言葉に、さやかはコクリと頷いた。

「…………」

 杏子は言葉も出ない。

「鹿目まどか。彼女が一度目の改変を引き起こした。
 ただ、その改変が起きる原因は……全て私が悪かったのよ。彼女の因果、つまり才能が破格だった原因は、私の願いのせいだった……」

 悪魔は、悪魔らしくない自嘲的な笑みを見せ、ゆっくりと語り出した。



―――
――


 貴女達、SFの小説って興味あるかしら? 無いの? そう……。

 パラレルワールドって解るかしら? ここと同じ世界だけど、別の世界。時間軸とか平行世界とか言われる物。

 私は、その世界を横断してきたのよ。


 私は生まれつき心臓が弱くて、入退院を繰り返していたわ。見滝原に住んでいたのも、元々見滝原の病院で入院していた事も有るのよ。ほら? あの病院は、心臓の治療が最先端なのよ。

 契約する前の私は気が弱くて、自信が無い。自分に自慢できる事が、何一つ無かったわ。勉強も運動も、何も出来ない。そんな自分が嫌いで仕方なかった。

 そして、ある日私は魔女の結界に取り込まれた。当然、魔法少女の事を知る訳が無い私には、悪い夢としか思えなかった。


 きっとここで死ぬ。まさか、病気で死ぬんじゃ無くて、化け物に殺されるとか、何の笑い話かと思った……。


 その時、颯爽と私を助けた人物が二人居た。

 一人は鹿目まどか。もう一人は巴マミ。


 この二人に出会えた事で、私は自信の無い自分を変えられる気がした。魔法少女になれば、あんな風になれるのか。私は彼女達に憧れたわ。

 特にクラスメイトだった鹿目まどかは、何かと私に優しくしてくれた。彼女は、私を掛け替えの無い親友と言ってくれた。

 正義のヒーローって本当に居るんだ、と思わせてくれた。


 だけど、それから二週間後。

 彼女達は、ワルプルギスの夜と呼ばれた魔女と戦い、落命し、私は愕然としたわ……。

 崩壊した街と瓦礫の山の中で、鹿目まどかの亡骸を見つめていると、私はキュゥべぇに声を掛けられたわ。叶えたい願いは有るか……と。


 二つ返事で契約したわ。

 鹿目まどかとの出会いをやり直したい、鹿目まどかを守れる自分になりたい。これが、私の願った契約の内容なのよ。

 この契約で得られた魔法は二つ。一つは、時間停止。

 もう一つは、時間遡行ね。ただ、時間遡行と言っても、別の時間軸の一か月前に移動する。つまり、平行世界を横断出来る物だったわ。

 ちなみに、この能力を把握してるのは、最初の時間軸のキュゥべぇだけなのよ。他の時間軸のキュゥべぇは、私の事を知らなかった位だし。


 だけど、私が彼女達と共に戦ったのは、最初に着いた時間軸だけだったわ。

 この時は、ギリギリでワルプルギスの夜を撃破する事が出来たわ。だけど、巴マミは犠牲になってしまったし、鹿目まどかも魔力を使い果たし魔女になった……。


 次の時間軸では、美樹さやかも魔法少女として契約していたし、佐倉杏子とも接触したわ。ただ、共闘する事は出来なかった。

 皆に魔法少女が魔女になる事も伝えたけど、信じて貰えなかった。それどころか、私が疑われてしまい、チームワークはガタガタだったわ。何が起きたかは伏せるけれど、ワルプルギスの夜と戦うよりも先に、私とまどか意外の三人は死んでしまった……。

 この時も、ワルプルギスの夜を倒せたわ。だけど、鹿目まどかは、魔力を使い果たした後に自決してしまう。


 キュゥべぇに騙される前の、馬鹿な私を救ってあげて、と。そう、遺言を残してね。



 ここからは、思い出したくも無いわね……。本当に地獄だったわ。

 最初は、鹿目まどかだけじゃ無く、皆を救いたい。そう考えてた。だけど、実際には上手く行いかなかった。

 ある時は、ワルプルギスの夜を倒す為に、鹿目まどかは契約した。

 ある時は、死んでしまった巴マミを生き返らせる為に、鹿目まどかが契約した。

 ある時は、契約しなかったにも関わらず、鹿目まどかは殺される。

 美樹さやかを生き返らせる為に、契約した事も有ったわ。

 上手く行かない時間軸ばかりで、何時しか私はこんな事を考えていたわ。


 駄目なら、もう一度戻せばいい。もう一度、最初からやり直せば良い……そう思ってた。そう思う事で……自我を保ってたわ。


 何度も時間を繰り返す中で、我ながら魔女にならなかったと思うわ。


 ……ここからが、本題。

 鹿目まどかが、どうして破格の素質を備えていたか……。普通の家庭に生まれた中学生が、世界を壊滅させられるレベルの才能を持っているのか……。


 私が何度も時間軸をやり直す事で、次の時間軸に歪が生じる。加えて、私が時間遡行をする要因は、鹿目まどかの安否。

 つまり、全ての歪が、鹿目まどかの因果へと繋がっていたのよ。


 繰り返すと、その分の因果が絡みつく。つまり、繰り返せば繰り返す程、鹿目まどかの素質は高くなる。イコール、最悪の魔女が生まれる……。

 これを聞いた時は、本当に絶望したわ。私がやって来た事は、何の意味も無かった。それどころか、鹿目まどかを苦しめていたのは、自分自身だった……。

 そんな心境のまま、私は一人でワルプルギスの夜と戦ったわ。

 だけど、そんな精神状況で真面に戦える訳が無い……。

 兵器も武器も、山ほど用意した。それでも、私は簡単に追い詰められたわ……。


 そして、まどかは私の前に現れたの。

 そのまま、彼女は願ったわ。


“過去、未来、全ての時間軸の魔女を、生まれる前に消し去りたい”


 そして、彼女自身が円環の理という概念へと生まれ変わった……。


――
―――


「これが一度目の改変が起きるまでの原因よ。
 円環の理に魔法少女が導かれる事により、魔法少女の呪い……つまり魔女が生まれる要因を無くせる事が出来る」

 悪魔の独白に、さやかと杏子は何を思うか。

「……だったら、どうして円環の理を壊す必要があったんだよ!!
 アンタの都合の良いように世界を書き換えただけじゃない!!」

 さやかは、凄まじい剣幕で声を荒げた。

「……確かに、導かれた魔法少女には悪い事をしているわ。
 だけど……円環の理には、大きな問題があったわ」

「何よ、その問題って……」

「円環の理は、魔法少女に取って、計り知れない程のメリットがある。
 ただし……インキュベーター側には、デメリットが大きすぎたのよ。感情を媒体にしたエネルギー採取の効率が、極端に悪くなるという弊害がね」

「……なにそれ? アンタ、キュゥべぇの肩を持つの?」



 納得の出来ないさやかの声は、怒りの感情が混ざっている。それを聞き、ワンテンポ置いてから、悪魔は口を開く。

「先に言っておくわ。
 円環の理は、あのまま存続しても意味は無くなってた。
 恐らく、遅かれ早かれインキュベーター達の手で、円環の理の現象は突きとめられてたでしょうね」

「……どういう事よ?」

「ソウルジェムに遮断シールドを張り巡らせる事で、円環の理からソウルジェムを隔離する実験があったのよ。
 それによって、ソウルジェムが円環の理に導かれるという現象を観察できる。下手すれば、円環の理に導かれないまま、魔女が再び生まれる様になる。

 結果だけで言えばインキュベーターの失敗で終わったけれど、万が一その実験が成功していたら……最悪のシナリオが二つ出来上がる事になるわ」

 悪魔の顔付きが、険しく引き締まった。


「まず一つ目は、魔女が生まれる状況を作れるという事は……インキュベーター達のさじ加減一つで、魔法少女を魔女に作り替える事が出来る。
 言い換えれば、それこそ私達はインキュベーターの思う壺にはまり、奴隷同然となってしまう。これが一つ目」

「……もう一つは?」

「円環の理の現象を突きとめる事で、神の存在。つまり、概念となった鹿目まどかの力を支配する事が可能となる……。
 もし、神の力が支配されれば、破格のエネルギーを作り出す事が出来る。そして……誰にも倒せない、最悪の魔女が生まれてた」

「そんなに強力なのか? その魔女ってのは?」

 杏子はついつい聞きてしまう。

「少なくとも、あの子の魔女になった姿は特別よ。少なくとも、この星を一日で全て野原にする位造作も無いわ」

 悪魔の回答に、杏子は言葉を失った。



「……だったら、何で今の魔法少女は魔女にならないのよ。
 円環の理は、もう機能していないんじゃないの?」

「円環の理が機能していないなんて、一言も言って無いわ。
 さっき言ったでしょ。ここは、魔法少女の慣れ果ての地……。魔女となった魔法少女達の魂が、ここに導かれる……」

 その一言に、さやかと杏子の表情はハッとなった。

「彼女の願いは、魔女を生まれる前に消し去る事。
 ただ、魔女自体が生まれない訳では無いのよ。呪いによって魔女が生まれる寸前で、魂と体が導かれる。これがかつての円環の理」

「ソウルジェムは魔法少女の魂……。
 絶望から生み出される呪いだけが、ここに導かれるって訳ね……」

 さやかは、そう言いながら、周囲の空間を見渡した。

「だから、今の魔法少女は体だけが残って、ソウルジェムが壊れるって事か」

 杏子も、同じく辺り一帯をグルリと見回す。

「その通り。
 これが私の施した、二回目の世界の改変よ」

 悪魔はそう言い放った。



「……それはそうとして。
 この改変と、キュゥべぇ側の利点に、何の関係があるのよ?」

「インキュベーターの目的は、感情を媒体としたエネルギーを生み出す事。要するに、エネルギーさえ手に入れば、魔法少女がどうなろうと、この星がどうなろうと、関係無いのよ。

 今の世界は、エネルギーを生み出してから、魔女となった魂だけが導かれる。ある程度効率良くエネルギーが作れるのなら、わざわざ向こう側から手を加える必要が無いわ。
 あえて言えば、魔法少女側、インキュベーター側、双方の妥協案って感じかしらね」

「……」

 妥協案と言われ、二人の魔法少女は煮え切らない様子だ。

「確かに、魔法少女側としては納得できない部分もあるでしょうね。
 ただ、今でこそ私がインキュベーターを使途出来てはいるけれど、何時までも使途出来るとは限らないわ。向こうも馬鹿じゃないのよ。

 そもそも、魔法少女を作り出すのはインキュベーター。そう簡単に出し抜ける様だったら、魔法少女のシステムはとっくに廃れてた筈でしょう。
 それ位なら、最初から納得の出来る分まで、お互いが妥協する。アメが必要なら、必要な分だけ妥協する……」



 悪魔は、再び一言だけ尋ねた。

「……納得できない?」

 その言葉に、先に答えたのは、杏子だった。

「微妙な線だな……。強いて言えば、どっちにとってもまだマシって事だろ?」

 そう言われ、悪魔はコクリと頷いた。

「……貴女はどうなの? 美樹さやか」

「……もう一つだけ、聞かせて。
 まどかは……どうなったの?」

「……概念のまどかは、この世界の奥で眠りについて貰っているわ。
 彼女は、強い因果を持つ事には変わりが無いのよ。下手にインキュベーターに嗅ぎ付けられたくないわ」

「……普段の方のまどかは?」

「あの子は、もう何の変哲も無い普通の中学生よ。
 切り裂いた因果もほんの一部だけだし、魔法少女に必要な因果も、そっちのほむらに巻き付けて貰ったわ。
 もうあの子が魔法少女になる事は無いわ……」


「……そこまで大がかりな事までして、まどかを魔法少女にさせたくなかったの?」

 さやかは、反射的に聞いていた。

「そうよ。
 遠い昔に交した約束を、どうしても守りたかった……。
 私は……まどかに普通の人として、生きていて欲しい。ただ、それだけなのよ……」

 悪魔は、何処か遠くを見つめながら、そう呟いた。

「……解ったよ。あんたが世界を変えた理由は。
 確かに、納得も出来ない所もある。円環の理を壊した事には、違いは無い」

 さやかの言葉に、悪魔は何を思うか。

「……ええ」

 悪魔は静かに、そう答えた。


 ここまで、黙り込んでいたほむらが、初めて声をだした。

「これが、今までの経緯よ。
 これからの計画に関しては私から話すわ。だから、元の世界に戻りましょうか」

 そう言われ、さやかと杏子は首を縦に動かした。

「お願いね」

「ええ……すぐに送るわ」

 ほむらに言われると、悪魔は三人の方へ向けて手をかざした。

 黒い影が、再び三人を包む込んだ。そして、影が消え失せると同時に、三人の姿は綺麗に無くなっていた。


 誰も居なくなった中、悪魔はポツリと呟いた。

「大丈夫よ。貴女達の魂は、無駄にならないから……」

 悪魔の周囲に、わらわらと集まる子供たちは、奇妙な笑い声を挙げている。

「まだだめよ……」

 悪魔は、恍惚な笑みを見せながら、天を仰ぐ。


(魔法少女が魔女になる一瞬の感情……絶望のエントロピー……。

 確かに、インキュベーターが欲しがるのも無理は無いわ……。少しずつだけ。こっちで因果を抜き取っているのに、溜まるペースは予想を遥かに上回る早さだわ。

 今の奴らは、餌に喰らい付く単純な魚も同然。こうもあっさり引っかかってくれるとは思わなかったわ……。


 そして、魔法少女達。

 概念の存在が無くなり、平穏など程遠い。今や群雄割拠の戦国時代。争いの中で、多くの魔法少女が魔力を使い果たし導かれる……)



(この因果が目標にまで溜まった時。改めて神の力を解放する……。

 無限に存在する時間軸を全て破戒するには、例え神の因果を全て使っても足りない。

 ならば、インキュベーターの欲するエネルギーも利用する。

 全ての時間軸を一つに作り替え、改めてまどかを迎えに行く。そうすれば、誰にも邪魔される事の無い、私達の理想郷を作る事が出来る……。

 精々、頑張って頂戴。インキュベーター……そして、魔法少女……。

 この世界は、遅かれ早かれ、私の手で壊してあげるから……)


 一言だけ、口から言葉が出ていた。

「……悪魔は手段を択ばない」

 全てが、悪魔の掌の上で踊る世界。

「……まだだめよ」

 悪魔は、嘲笑っていた。




―――――

 影の中から、視界が次第に明るくなると、三人に見える光景は元の部屋になっていた。

「……解って貰えたかしら。今の円環の理の実情を」

 ほむらは、そう言って二人に視線を合わせる。

「これ、返すよ」

 さやかは、受け取った拳銃をほむらに差し出した。

「……」

 ほむらは、無言でそれを受け取る。

「……まぁ正直に言えば、理解しきれない所もあるけどな。
 だけど、これから先の計画と、あの世界の事で何か関係があるのか?
 それに、お前も今は魔法少女の能力を失ってるんだろ?」

 杏子は新たに沸いてきた疑問を投げかけた。



「そうね。あの世界の私から受け継いだ因果は、私本来の持ってた分だけ。元々、時間停止の魔法は、最初の一か月しか使えない魔法なのよ。
 それに、私自身も悪魔の模造品のような物。
 所詮は劣化品だから、大した魔力を持ち合わせていないわ。勿論、基本魔法だけでも、戦い方次第で何とでもなるわ。貴女も同じでしょう」

「その結果が……不意打ち闇討ち何でもアリって訳か」

 杏子の一言に、ほむらは頷いた。

「……じゃあ、これからアンタはどうするのよ。
 見滝原から出て、敵ばかり増える様な行動を取ってる。それが、あの世界の悪魔の考えと関係あるの?」

 さやかの口から出た言葉に、ほむらはニヤリとほくそ笑む。



「大有りよ。円環の理が無い事には、もう一つだけ魔法少女の問題が出来てしまった。
 概念という絶対的な存在が無い事よ」

「それが、アンタの行動とどう結びつく訳?」

「概念が無ければ、魔法少女には呪いと死が付き纏う。そうなれば、死ぬ位なら奪ってでも生き残る。そう言った考えの魔法少女が、確実に増える。

 そして、そういう輩が増えていけば、魔法少女の秩序が乱れる。そうなれば、街を護るとかの、立派な志を持った魔法少女は限りなく少なくなるわ。

 今の世界の現状ならば、私欲の為に魔法を使う魔法少女が数多く存在する。私達を狙っている組織や、今回襲撃してきたD・W何て連中もそう言うタイプでしょうね。

 貴女達も、徒党を組んで悪巧みをする魔法少女の噂を、良く聞くでしょ?」

(……お前が言うな)

 内心で、さやかと杏子は同時に突っ込んだ。


「そんな連中が増えれば、魔法少女同士の抗争が起きるのは明らか。実質、起こそうとしているんでしょうね……。
 だからこそ、魔法少女の黙らせる必要が有るのよ」

「黙らせる……って、どうやってやるんだよ?」

「私の考える方法は、口先だけの平和条約じゃ無いわ。そんな物、私に言わせれば、破って下さいって言ってる事と全く同じよ。
 私の考える方法は“武力の均衡”と“必要悪”よ」

「……武力の均衡と必要悪?」

「そう。目には目を。毒を持って毒を制す。それこそが、善と悪のバランスを作る最短の方法よ」

「……善と悪のバランスを作る?」

 さやかは、呆れ気味にそう言った。


「例えば、強力な悪の組織が有ったとしましょう。
 それによって、悪巧みする魔法少女達には邪魔な存在となる。ただし、強すぎて迂闊に手は出せない。場合によっては、下に就かせて戦力を確保する。これが武力の均衡。

 そして、街を護る事を考える魔法少女達にとっては、敵として非常に妬ましい存在になる。しかし、敵の存在が有れば、その魔法少女達の結束力は極めて高くなるわ。
 これこそが、必要悪と言う物よ」

 ほむらの狙いと計画を聞き、さやかと杏子は出す言葉を見つけられない。

 それを構う事無く、ほむらは言葉を続ける。

「世界の歴史は、戦争から作られてきたの。
 私のやろうとしてる事が、正しいとは思わないわ。だけど、最短の方法なのよ。例え、全ての魔法少女に嫌われたとしても、私は構わない」


「……今一緒に行動している二人は、それを知ってるの?」

 さやかは問う。

「あの子達は、私の計画も正体も知らないわ。
 いずれは話すかも知れないし、伏せたままかもしれない……」

「仲間なのに……?」

「仲間とは少し違うわ。強いて言えば、ビジネスパートナーよ。仮に寝返る時が有れば……その時は容赦しないわ」

「無茶苦茶だな……」

 杏子は、生返事で言葉を出すしかない。

「解ってもらうつもりもないわ。これが私の覚悟の証よ」

 そう言って、ほむらはゆっくりとソファーから立ち上がった。
 そして、服を脱ぎ上半身を露わにし、振り返って背中を二人に向ける。

「それ……刺青じゃねーか」

 杏子は、呆然とその背中に入った、刺青を見るしか出来なかった。


「これは毘沙門天よ。
 七福神の一つで、武の神と称えられているわ。勝負ごとにも、御利益があるとも伝えられる神よ」

 そう解説を入れて、ほむらは再び服を羽織った。

「アンタ……本気なの?
 そんなバカげた真似すれば、全ての魔法少女を敵に回す事になるよ?
 それこそ、いくつ命が有っても足りないよ?」

 さやかは、立て続けに言葉を出した。

「そんな簡単に死ぬつもりは無いわ……。
 例え、非道でも残酷でも、私達の理想を築く為なら、何だってしてやる……」

 そして、狂気に満ちた様に。研ぎ澄ました冷たい視線で、口元に笑みを作りながら、ほむらは言い放った。

「悪魔は手段を択ばない」

 その一言に、背筋が凍るかと思う程、二人は悪寒を感じた。

 狂ってる。そうとしか思えない程、ほむらは冷酷な微笑を見せていたのだ。



「……先に部屋に戻るよ。アンタが何処まで本気なのかは解らない。でも……私達の前に敵として現れるなら……その時は容赦しないよ」

 さやかはそう言いつけ、先に席を立った。

「アタシも同じ意見だわ。
 たた、一個だけ言わせて貰う。そんな真似して……お前が護ろうとしていた存在は、喜ぶのか?」

 杏子の言葉に、ほむらは何を思うか。

「……あの子は、もう魔法少女じゃない。魔法少女になる事も無い。
 だからこそ、魔法少女に関わるべきでは無いのよ。
 まして、私が隣に居たとしても……あの子が幸せだとは限らない。そうでしょ?」

「そうか……」

 そして、杏子も部屋を出て行った。

 一人残されたほむら。

「これで良いのよ……。今は待つ時……。
 神の力を解放する時が訪れた時こそ……唯一のチャンス。

 ただ……アレをまどかに返したのは、失敗だったかもしれないわね……」

 ポツリと、言葉を漏らした。



 ほむらは、全員の居る部屋に戻った。
 ドアを開けた瞬間に、大変に奇妙な光景が目前に広がった。

 縛り付けられた上に、アイマスクで目隠しされた沙々。そして、その両サイドをすずかとあすみで囲う。少し離れた位置に、さやかと杏子は立ち尽くしていた。

「……何なのこれ?」

 呆れた様にほむらは呟いて、沙々を指差す。

「もう……お嫁にいけましぇん……」

 沙々はか細い声でそう言った。なお、顔色は朱色に染まって、息は酷く荒かった。

「何って……尋問ですやん」

 すずかは、さも当然の様に答えた。

「私の精神汚染を使ったの。
 すずかが、この本に載ってるみたいにやれって」

 あすみは、そう言いながら、ほむらにその本を手渡した。

「……エロ本ね……」

 ほむらは、アホ臭い尋問の内容を、一目で把握した。そして、エロ本をポイッと投げ捨てた。


「尋問の中身は不問にするとして……。
 首尾はどうなの?」

 ほむらに聞かれると、すずかの眼つきは鋭く尖った。

「それに関してですが……コイツを見て貰えますか?」

 そう言って見せたのは、地図だった。

「……これは」

「ええ。丸で囲った地域は、沙々の属しとった組織の末端が居るんですわ。
 ほんで、息のかかった地域を見ると……見滝原市、風見野町、あすなろ市。この三つの街を取り囲んどる訳になるんです……。
 これは、相当な数の魔法少女を配下に収めとる事になりますわ」

「……魔法少女の数は兎も角としても、この三つの街を狙ってるのは明らかね」


「間違いないと思いますわ。

 そんで、その組織の名前は“ヒュアデス”。
 ただ、沙々は組織のボスを一度も見た事が無いし、名前も解らないと言い張りました。これはあすみの魔法で聞きだした事やし、確実やと思います。

 ただ、幹部の一人の顔は何度も見たと言うてます。

 そいつの名前は、飛鳥ユウリですわ……」

「……その子、前に取引を持ちかけてきた魔法少女ね……」

「ええ。姐さんの直感が的中しとりました……」

「……他に何か情報は有るかしら」

「尋問した中で、あたしが一番妙に思ったのが、配下の魔法少女にグリーフシードを与えるって行為ですわ……」

 すずかの言葉に、ほむらの目付きが変わった。


「……聞かせて」

「沙々が言うには、そのユウリが真っ新なグリーフシードを持ってくる。そんで、真っ新なグリーフシードを渡して、その場でソウルジェムの濁りを浄化させる。

 そのまま、穢れを吸ったグリーフシードを持って帰る。他にも、使用済みのグリーフシードを、回収するとかもしとったらしいです。
 どう考えても、妙だと思いませんか?」

「……おかしいわね。
 仮に、配下の連中の魔力を回復させるなら、グリーフシードを渡せばいい。わざわざ、魔獣の生まれるかもしれないグリーフシードを、回収する意味が解らない……」

「姐さん……どう考えてます?」

「敵のボスは、相当な切れ者ね……。
 アメ与えて、多くの魔法少女を自分側に引きずり込む。その上で、姿を現すことなく、たった一人で魔法少女の集団を押さえつける……。

 統率力も有り、頭脳も明晰。それでいて、そんな豪快な真似出来る度胸も有る。相手は、この上なく厄介な存在ね。
 気になるのは、グリーフシードの使い方と、あの三つの街を取り囲んでる……いいえ。狙ってる理由ね……」

 かつて住んでいた街の名を聞いて、ほむらの内心は気が気では無かった。


 そしてそれは、杏子もさやかも同じだった。

「……あたし達の縄張りを狙ってるんでしょ。そのヒュアデスって連中は」

 静かにさやかはそう告げた。

「チームを組んでるからかしら?」

「きっとね……。今、その三つの街には、二つのチームが有るんだ。
 一つは、私達の見滝原と風見野の、ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテット。

 もう一つは、あすなろ市の“プレイアデス聖団”。和紗ミチルを中心にした、7人の魔法少女のチームだよ。
 活動の方向はどっちも似てるし、情報の共有もしてる。相互協力って感じだしね。
 きっと、ヒュアデスって奴らにとって、あたし達が邪魔なんだよ」

 ほむらの質問に、さやかはそう答えた。

「上等さ……。
 しょぼい魔獣を相手にしてばっかだったからな……。アタシらを狙った事を、後悔させてやろうじゃねーか」

 杏子は、自信を漲らせる。



 さやかと杏子。そして、ほむらは視線を混じりあわせる。

「……二人とも不本意でしょうし、私はムシの良い事を言ってるかもしれない。
 だけど……ここは手を組みましょう」

 真剣な眼差しで、ほむらは問う。

「アタシは縄張りを荒らされたくねー。ほむらは、自分の首を狙ってる奴らを返り討ちにする。
 利害の一致がこれだけ揃ってりゃ、充分だろ」

 杏子の答えは決まっていた。

「……少なくとも、アンタの加勢があるなら、あたし達は心強いよ。よろしく頼むよ……ほむら」

 それは、さやかも同じだった。

 ほむらが、無言で右手の握り拳を突きだすと、杏子とさやかも握り拳を突きだした。
 ゴツン、と三つの拳がぶつかり合った。

 一時的では有るものの、ほむら達とピュエラ・マギ・ホーリー・クインテットの共同戦線が確立したのだ。



「そういう訳よ。……明日にでも、見滝原に行きましょう」

 ほむらは、凛と表情を張りつめて、そう言った。

「……姐さん。本気ですか?」

 すずかは、目を見開いた。

「本気よ……。危険な目に会いに行く事は、百も承知よ。
 だけど、こっちを狙ってるなら、あえてこっちから飛び込んでやるわ」

 ほむらの言葉は、力強く部屋に響いた。

「……良いよ。どの道、見滝原は一回行きたかったから」

 あすみは、同意した。

「ま、しゃーないな。姐さんは言い出したら、絶対に止めんし。やると言ったら、必ずやるお人なのも、あたしは知っとるしな」

 すずかの口元は、ニヤリとした。



「わ……私だって行きますよ!!」

 ここまで黙っていた沙々が、突然復活した。体の拘束は解けていないが、アイマスクだけずり落ちている。

「利用されるだけ利用されたまま、終わる訳にはいきませんよ!!
 私にだって意地が有りますから!!」

 今一つ締まらない格好だが、沙々はそう断言した。

(……本当は、一人で逃げ回るよりも……この人たちと居た方が、死ぬ確率は少ない気がするんだよね……。この人たち、メチャメチャ強いし……)

 と、本音はそんな物だった。


 理由は個々に別々だが、この一路で見滝原を目指す事となった。


 某所。
 薄暗い部屋の中に、五人の魔法少女が居た。
 しかし、仲良く談笑と言う雰囲気では無い。ピリピリと張りつめた空気が、部屋の中に漂っている。

「最初に言った筈ですよ?
 雇った殺し屋で、暁美ほむらを仕留めるのは無理と……」

 白い魔法少女は、呆れた様子でそう言った。

「……フン。アンタの予知魔法が本物って事か」

 金髪ツインテールの魔法少女は、吐き捨てる様に言った。
 その魔法少女は、ほむら達に取引を持ちかけた魔法少女、飛鳥ユウリ。

「……織莉子の事を馬鹿にしてるのかい? 君は?」

 白い魔法少女の隣に立つ、黒い魔法少女はいきり立ち、ユウリを睨みつける。

「私は何でも構いませんよ……。綺麗なジェムが手に入れる事が出来るなら、何だってね……」

 壁にもたれる、サイドテールの魔法少女は、薄気味悪く微笑を浮かべていた。


「クックックック……」

 椅子に座る統領は、低い嘲笑を見せていた。

「聖カンナ……何が可笑しいんだ?」

 黒い魔法少女は、そう言葉を投げた。

「……やってくれるよ。楽しませてくれそうだ……」

 ヒュアデスの統領、聖カンナは笑みを作りながらそう言った。

「……何が楽しいのですか?」

 白い魔法少女は、引き吊った表情で言葉をかける。

「……簡単さ。
 この世界制する力を手に入れるのが……簡単じゃつまらないからね……。
 面白い……実に面白い……」

 カンナはそう言った。周囲がドン引きする程、狂気じみた笑顔で。

「そうなれば、こっちも直接手を下そうじゃないか……。
 決戦は、あの街だ……」

 カンナの言葉に、四人の魔法少女達は、表情をギュッと引き締めた。


 そして、カンナは、幹部の一人一人の名を呼びつけていく。

「美国織莉子……」

 白い魔法少女は、カンナを見つめる。

「呉キリカ……」

 黒い魔法少女は、反応を見せない。

「双樹あやせ……」

 サイドテールの魔法少女は、もたれたまま顔だけをカンナの方へ向ける。

「飛鳥ユウリ……」

 ユウリは、カンナを見る目を細めた。

「……我らヒュアデス。世界を我が手に……」

 カンナの言葉が、静かな部屋の中に響き渡った。


本日は、ここまで。

ここで、話の一区切りって感じです。


なお、>>1の解釈が良く解らないって人が居れば、まとめた物を書きこんでおきます。


よく分からんな。ほむらがまどかを引き裂くときに
欲望?執念?いや、違うってさやかが言ってたけど、悪魔本体からは「欲望しか」感じないのはどういうこっちゃ
こりゃ分身が本体悪魔翌裏切って終わりか

誰が喋ってるのかわからないわ
ユウリも綺麗なジェム集めてんの?

悪魔ほむの考え方がテンプレートな悪魔っぽくなってるのは気になるな、少なくとも愛じゃなさそうだけど
魔法少女のほむらはほむらじゃなくて、このssオリジナルの偽ほむらってこと?

おりキリはなんか腹に一物もってそうww

裂かれたほうのほむらも元の悪魔ほむの思惑からずれてきてそうな感じだな


思惑は違えど登場人物が前向きなのが良い

ヘタレ悪魔ほむが多いSSばかりだから逆に悪魔らしくて新鮮だわ

>>225 >>227
愛ってそんなに綺麗な物ですかね?
自分はそうは思いませんよ。

>>226
読みにくかったですかね?
集めてるのはあやせだけです。

あんまり答えるとネタバレになるので、あしからず。

では、一週間ぶりに続き投下します。

7.ウタゲノマクアケ


 見滝原と風見野の魔法少女五人組。ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテット。通称、ホーリークインテット。

 各地の魔法少女達の中でも一目置かれるそのチームである。ただ、口上をするには、非常に覚えにくいチーム名に難が有る。

 本日の魔獣退治は、巴マミの無双状態。百江なぎさも、千歳ゆまも、今日だけは只の傍観に等しい。

「ティロ……フィナーレ!!」

 大砲から魔弾を撃ち出す大技で、魔獣数匹纏めて葬り去る。
 と言うか、そこまでやる必要も無い。普通に戦っても軽く討伐できるのだが、今日の巴マミは、気合が入りまくっていた。


「……今日のマミお姉ちゃん凄いね」

 ゆまは、呆然と言葉を出すしかなかった。

「……受験勉強のストレスらしいのです。あと、さやかと杏子がどっかに行ってるのも、原因かもしれないです……」

 なぎさは、それとなく解説を入れた。

「全く……美樹さんも佐倉さんも、どこに行ったんだか……」

 なぎさの言葉通り、マミは妙にイライラしていた。

 要するに、今日の魔獣退治は、ストレス発散も含まれていたかもしれない。

「二人とも、先週ヒッチハイクで沖縄を目指すと言う置手紙をしてたそうです」

 なぎさの言葉を聞くと、マミは深々と溜息を吐き出した。

「……あの二人は、帰ってきたらお説教ね」

 マミの眉間にしわが寄った。


「マミお姉ちゃん……そこまで怒らなくても」

 ゆまの言葉に対して、マミは首を横に振るった。

「いいえ。
 私達ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテットは、日夜魔獣を倒すべく、チームワークに磨きをかけないといけないわ。
 魔獣との戦いは、常に命懸け。だけど、そう簡単に死んでしまう訳にも行かないでしょう。街を護る為にも、この世から呪いを消し去る為にも。希望を何時までも残す為に。
それこそが、魔法少女の宿命だと、私は考えているわ。
 だからこそ、あまり身勝手な行動を取られるのは…………」

(また始まってしまったのです……)

 なぎさは、無意識の間に小さく溜息を吐いていた。

 巴マミは、戦闘力も高く、器量も有る。その信念も素晴らしい。正に、正義の魔法少女。

 ただ、何かスイッチが入ると、話が多少長いのが玉に傷だった。


「……という事なのよ」

「はいです……」

「うん……」

 丸で校長先生の様なありがたい話の内容に、なぎさとゆまは生返事を返すしかなかった。

「じゃあ、私の家でケーキでも食べましょうか」

 その一言で、なぎさとゆまの表情が、パッと明るくなった。

「やったのです!!」

「わーい!!」

 手放しで喜ぶ、幼い二人だった。


 ただ、今日はそのケーキに辿り着く事が出来ない。
 
 そして、魔法少女の恐ろしさ。
 なぎさとゆまは、心底思い知る事になるのだった。



 このまま帰路に向かう筈だったが、マミの表情は、途端に険しい物に変わる。

「お姉ちゃん?」

「どうかしたのですか?」

「……静かにして」

 マミは、そう促した。

 その刹那。ズバン、と斬撃が飛び交った。周囲の地面が抉られている。

「……な!?」

 なぎさは目を見開き、辺りを見回す。

「落ち着いて……。今のは牽制よ」

 静かに、マミは言葉を出した。



 カツン、と地面を鳴らす足音が、三人の耳に飛び込んだ。

「……フフ」

 黒と白。モノクロの衣装の魔法少女が降り立つ。

「素敵だね……君の戦い方は……とーってもカッコイイね……」

 微笑を見せながら、その魔法少女はマジマジとマミ達を見る。狂気に溢れる眼で、品定めをする様に。

「……華麗だね。……さぞ、狩るのが楽しいだろうね……」

 ボソボソと聞き取りにくい言葉が聴こえる。

 ただ、これだけははっきりと解る。

(この魔法少女は……危険すぎるわ)

 マミの背筋に、汗が一滴流れた。


 長年の勘が、マミの脳内に危険信号を発令させる。

「なぎさ……ゆまちゃん。今から、全力で逃げなさい……」

 二人を庇いながら戦うのは、間違いなく不可能だと察知していた。

「でも……」

「良いから早く!! 殺されるわよ!!」

 マミが声を荒げる。
 なぎさもゆまも、今まで見た事の無いマミの形相に、背筋がゾッとする。

「わ、解ったのです……」

「お姉ちゃん……ちゃんと帰ってきてね」

 短く言葉を伝え、二人はその場から走り出した。

「……フフフフッ」

 薄気味悪く笑い続ける魔法少女。両手の袖から、三本の鉤爪が生えた。

「……遊ぼ?」

(……ちゃんと帰れるかしらね)

 召喚したマスケット銃に、マミは手をかけた。


 全力で走るなぎさとゆま。逃げ惑った先は、人気の無い路地裏の通り。
 肩で息をしながら、どうにか呼吸を整える。

「マミのあんな顔……初めてです」

 なぎさは、未だに背筋が冷える思いだった。

「お姉ちゃんもだけど……あの黒い人も怖かった」

 体を押さえて、震えるゆま。

 しかし、しかしである。


 カツ、カツと地面を踏み鳴らす音に、二人の背筋が再び震える。

 二人に見えたのは、真っ白なドレスを身に纏う魔法少女だった。

「うふ……とっても可愛いおチビさん達ね……」

 おどけた様な、甘ったるい声だった。

(……さっきの黒い人じゃないです)

 ただ、その声に混じる狂気は、隠せるものでは無い。

(でも……この人も怖い人だ……)

 狂気じみた笑みは、さっきの魔法少女と同種だと、本能で感じとれる。


「ソウルジェムって……とっても綺麗よねぇ……。
 綺麗な宝石……好きくない?」

 幾つ物ソウルジェムを見せびらかし、尚且つ己の魂を舌でペロリとなめずった。

「……悪趣味なのです」

 嫌悪感を見せながら、なぎさは反論した。

「へぇ~……。
 おチビさん達の綺麗な宝石……欲しいのよねぇ」

 無い物をねだる子供の用に。それで居て、理性が壊れている。初見で解る位に、その魔法少女は狂っていた。

「私、双樹あやせ……貴女達のお名前は?」

 あやせは、自らの名を名乗ったが。

「……貴女が嫌いです。だから、名前も言わないし、ソウルジェムも渡さないのです!!」

「ゆまも……嫌だ!!」

 反して、武器を構えたなぎさとゆま。

 対峙するあやせは、狂気じみた笑みを崩さないまま。

「……渡してくれないならぁ……奪えばいいのよね!!」

 そして、握りしめた剣を振りかざした。


「……私達だって戦えるんです!!」

 なぎさは、ラッパを吹いてシャボン玉を幾つも作り出す。
 ふわふわと漂うシャボン玉が、あやせの周囲を取り囲んだ。

「……目くらましのつもりかしら?」

 あやせは、漂うそれをマジマジと見渡すだけ。

「……行くよ!!」

 今度はゆまが地面をハンマーで叩き、衝撃波を生み出した。

 空気の振動が、シャボン玉を震えさせる。

「合体技……インパクト・ボムです!!」

 マミに命名された必殺技の名を、なぎさは高らかに叫んだ。
 同時に、シャボン玉が一気に爆ぜる。十数の連続爆破が、あやせの体を包み込み、たちまち周囲に砂埃が舞い上がる。

「……痛い目に合って、後悔するのです」

 この爆発なら、魔法少女でも無事では済まない。なぎさはそう思っていた。

「ゆまもなぎさお姉ちゃんも、強いんだよ!!」

 同調する様に、ゆまも自信たっぷりにそう言ったのだが。


「……後悔するのはどっちかなぁ?」

「……え?」

 なぎさは目を見開く。
 何の事は無い。あやせは、その場に無傷で立ってるのだ。

「どうして!? 何で!?」

 ゆまは思わず狼狽えた。

「あんな遅い爆発じゃ、余裕で防御結界を作れるのよ……」

 あやせは、微笑を見せて解説した。

 なぎさとゆまは、魔獣と戦った経験は有るが、魔法少女と戦った経験は皆無。魔獣と違って、魔法少女は防御をするのだ。

 二人と、あやせとの決定的な違い。それは、対魔法少女の戦術が無い事だった。

「……では、本番よ」

 あやせは上唇を、ペロリとなめずった。


 激しい動きをしているにも関わらず、マミの体に流れるのは冷たい汗だった。
 マスケット銃で魔弾を撃ち出すが、飛び交う高速の斬撃の数の足元にも及ばない。

(あの戦い方だと……相性が悪いわね)

 マミの戦闘スタイルの欠点は、マスケット銃を召喚してからでなければ、攻撃が出来ない。イコール、手数が少ない。

「……この!!」

 リボンを放出して、拘束する事を狙うが。

「甘い……甘いよ!!」

 鉤爪で切り裂かれてしまえば、成す術は無い。
 次から次へと、攻撃の手は緩まない。

(……あの子……ずっと笑ってる)

 その不気味さに、マミの頭に嫌な類の予感がかすめていく。

 何とかかわしながら、突破口を探すが、その糸口すら見つからない。


「アハハハ……凄いね……ここまで逃げ切れるなんてさ!! 君凄いね!!」

 大きく振りかざした両手の鉤爪が迫りくる。

(……ここよ!!)

 僅かな隙を見逃す訳が無い。一瞬の間を突いて、マスケット銃のトリガーを引く。
 バン。銃声が響くと、魔法少女の右肩に魔弾が撃ち込まれた。

「……!?」

 ただ、その少女は、一発撃った所で止まらない。
 勢いの全てを鉤爪に乗せ、ズバン、とマミの体を抉った。

「くっ……」

 咄嗟にバックステップを取り、戦闘不能だけは避けた。しかし、マミの傷口は深い。

「……ハハハ。やってくれるね……」

 それは、相手も同じだった。
 右腕はブラリと垂れ下がり、力が全く入っていない様。完全に骨が折れている筈だが……。

「いいよいいよ……楽しいよ……」


 少女の笑いは、未だ止まらない。左手一本だけでも爪を構え、戦闘続行の意思を示す。

(……私はこれっぽっちも楽しく無いわよ)

 心の中で文句を吐きだし、マミは相手を睨みつけた。

「さぁ……続けようか」

 左手一本でも、彼女は構わない。

(……片腕だけなら。タイミングは……一度っきり)

 マミは冷静に相手の動きを見定めていた。

「さぁ……散ね!!」

 マミを目掛けて、特攻を仕掛けた。
 一気に間合いを縮め、爪を振り落とす。

(……ここよ!!)

 一気に縮まった間合いの中、マミはそこから足を踏み出した。

「……なっ!?」

 鉤爪の更に内側に潜り込み、斬撃を回避。更に、体当たりで動きを止める。

「……残念だったわね!!」

 僅かに怯んだ間に、マミは一気にリボンが放出。
 コンマ五秒の間にリボンが巻きつき、魔法少女の体を一気に拘束した。


「くっ……」

 ここに来て、少女の笑みは初めて消え失せた。


 マミは、動けなくなった魔法少女の眉間に、マスケット銃を押し当てる。

「答えなさい。どうしてこんなふざけた真似をするのかしら?」

「……」

 少女は何も答えない。

「答えなさい!!」

 マミの声が荒ぶる。だが、少女は何を思ったか。

「……フフフ。ここで撃たなきゃ……もうチャンスは無いよ?」

 再び顔には、狂気じみた笑みが作られていた。

「……貴女、正気?」

 マミは思わず呆れてしまう。

「その銃を突き付けてるのは殺すためかい? それとも只のハッタリかい? 君は……魔法少女を殺す事も出来ないのかい?」

 追い込まれてるにも関わらず、少女はマミにそう聞きただす始末。

(この子……壊れてる)

 そう思わずにはいられなかった。


 マミのここでの躊躇は、完全なミスだった。

 ドン、と何かがマミの背中に撃ち込まれた。

「……っ!?」

 たまらず、地面に膝を落とし、後ろを振り向く。

 後方から狙撃してきたのは、真っ白な衣装を纏う、魔法少女。

「……貴女はこの子の仲間かしら?」

 マミは、白い魔法少女に視線を向ける

「いいえ……違います。
 その子は……私の大切な人よ」

 白い魔法少女は、冷たい眼つきでマミを睨みつける。

 しかし、マミも怯まないで睨み返す。

「……一つ聞かせなさい。そうで無ければ……この子の頭を撃ち抜くわよ」

 再びマスケット銃を、黒い少女に突き付けた。
 しかし魔法少女は、フッと息を吐き出した。

「……本当にその度胸は有るのですか?」


 思いがけない返答に、マミは戸惑いを隠せない。

「……どういう意味かしら?」

「仮に彼女の体を撃ち抜くなら、その百倍の痛みと苦しみを貴女に与えます。楽には殺しません。徹底的に痛めつけて、心を破壊し、絶望のどん底に叩き落としてから、死に追いやります。
 この距離なら……貴女の体を撃ち抜くのは容易い事ですから……」

 強気の言葉でマミを牽制する。

「その覚悟が有るなら、どうぞその引き金を引きなさい……」

 少女から放たれるプレッシャーが、マミの心臓を急がせる。


 同時に、ある事に気が付いた。

「ここに貴女達が二人も来ているという事は……今襲撃しているのは複数の魔法少女!?」

 そう口走ると、白い魔法少女の口から、最悪の回答が出ていた。

「……ご名答」

「……!?」

 その一言は、最悪の状況に陥っている事の知らせだった。


「もう一つお知らせしましょう。
 あの小さな二人を狙ってる魔法少女は……大変に凶暴な魔法少女です。あのおチビさん達は大丈夫でしょうか?」

 ここに来て、その少女は初めて笑みを見せた。

「……」

 マミの背筋に、冷たい汗が流れた。同時に、怒りの感情が沸き上がる。

「あの子達に何かあったら許さないわ……。
 貴女達の様な人が、魔法少女だなんて思いたくも無い……」

「簡単に……行かせると思いますか?」

「……黙りなさい!!」

 白い魔法少女に向け、マミはマスケット銃をぶっ放した。

 ガキン、と金属の鳴る音が響いた。

「……弾かれた!?」

 思わず目を疑うが、紛れも無い現実だった。

「さあ……第二ラウンド開始です」

 そして、少女の周囲には、小さな水晶玉が幾つも浮遊していた。


「……この!!」

 次々にマスケット銃を召喚し、魔弾を連射。
 しかし、その魔弾の全てを、水晶玉で撃ち落とされる。

「そこを……どきなさい!!」

 再度、マスケット銃で相手を狙う。だが、結果は同じ。

 マミの攻撃は、焦りの余りにワンパターンとなっていた。

 そして、前に立つ魔法少女にばかり、意識が向いていた。


 ズバン、と後方からの斬撃が、マミの背中を斬り付けた。

「ハハハ……残念だったね」

 マミは、両膝を地面に落とし、ゆっくりと振り返る。

「な……何で?」

 黒い魔法少女が立ちはだかっていた。

「……残念だったね。拘束が甘かったんだよ」

 足元に転がるリボンの切れ端を、少女は踏みつけた。

「……そんな」

 マミの表情は、次第に青ざめていく。
 相手が一度でも、怖気づいた時。その瞬間、その敵は只の的に成り下がる。

「チェックメイトさ……」

 黒い魔法少女は左手の鉤爪を振り上げた。


 路地裏の戦いは、既に決着の間近であった。

「……はぁ……はぁ」

 なぎさは肩で息を切らせ、体のアチコチに傷が走っている。

「うぅ……」

 ゆまも膝を落としたまま立ち上がれない。

 あやせとの地力の差は、圧倒的だった。魔力も体力も、完全に底をついている。

「うふふ……。最初から大人しくしていれば、痛い目に合わなくて済んだのにねぇ……お馬鹿さん」

 なぎさの元にゆっくりと近づき、左手一本でなぎさの首を締め上げる。

「……あぅっ」

 あやせは、左手に握力を次第に強めていく。
 目は徐々に虚ろとなり、なぎさの意識が遠のいて行く。

「今楽にしてあげますよ!!」

 あやせは、残った右手をなぎさの胸に押し当てた。

「……ぁ」

 その瞬間、なぎさの意識は切れていた。


 ゆまは、呆然とその光景を見ている事しか出来なかった。

(ゆまは……やっぱり役に立たないの?)

 声も出せない。

(ゆまは……ゆまはやっぱり……何の役にも……)

 なぎさを助けられない悔しさだけが、ゆまの心に重く伸し掛かる。
 幼い魔法少女には、余りにも荷が重すぎた。


「ゆま……しょぼくれてんじゃねーぞ!!」

 凛とした声が、ビルの谷間に反響した。
 赤い影が瞬く間に現れ、あやせの顔面を思いっきり殴り飛ばした。

「……ぐっ!?」

 両腕で、捕らわれていたなぎさの体を抱きかかえ、その声の主はあやせの前に立ちはだかった。



「……キョーコ!!」

 ゆまの表情が、パッと明るみを見せた。

「悪いな……ちょっとばかり遊んできたが、もう大丈夫だ」

 杏子は、なぎさの体を地面に据えると、即座に二人の周囲に結界を張り巡らせた。

「……ゆま。なぎさを治してやってくれ。
 アタシは……このクソバカたれを張り倒すからよ!!」

 杏子は、槍を構え、あやせを睨みつけた。

「くっ……邪魔をするのですね……」

 対峙するあやせの表情から、笑みが消えた。

「……邪魔もクソもあるかよ。
 てめぇは……ヒュアデスの幹部か?」

「……!?
 貴女……その情報を何時の間に……」

 杏子の一言に、あやせは表情を一変させた。


「……喋る義理はねーよ!!」

「……仕方がないわねぇ。
 貴女から仕留めてあげる!!」

 ガキン、と切っ先がぶつかり合い、火花を散らす。

「……くっ」

 が、力付くで押し切ったのは、杏子の槍。

 あやせはたまらず姿勢を崩した。

「うらぁ!!」

 更に、思いっきりあやせの体を蹴っ飛ばした。


 大きく弾き飛ばされたが、あやせにダメージは無い。
 手の甲で口元に流れた血を拭い、再び剣を構え直す。

「良くもやってくれたわね!!」

 激昂するあやせは、今にも飛び掛からんばかりの剣幕だ。

「残念だったな……。
 アタシは一人で来てる訳じゃないんだよ!!」

 杏子は高らかに叫んだ。

「……!?」

 あやせは、一瞬だけ何かを感じた。
 背筋に感じるのは嫌な類の空気。

「……少し寝てなよ。お姉さん?」

 あやせが振り返った瞬間。そこに立っていた魔法少女は、ニヤリと笑っていた。


 ドクン、とあやせの心臓が鳴る。

「な……何これ!?」
 目の前の少女が、突然真っ白な蛇に姿を変えていた。チロチロと舌をなめずり、あやせをマジマジと物色する。
 獲物はお前だと言わんばかりに、あやせを見つめていた。

「……えっ!?」

 足元に、粘着質が張り付くヌルりとした感覚に、あやせの背筋が震えた。
 視線を落とすと、何十、何百のナメクジが、這い上がってくる。

「い、いやぁ……!!」

 振り払おうとしても、手も足も動かない。大量のナメクジは、ついに腰まで這い上がってきた。
 そして、蛇が大口を開けて、あやせに喰らい付いた。


 あすみと視線を合わせたあやせは、突如としてこと切れた様に地面にへたり込んだ。

「……ふぅ」

 大きく息を吐き出したあすみ。

「おい……お前何したんだよ?」

 杏子は思わず聞きただした。

「私の魔法だよ。精神汚染って奴で、悪夢を見せてあげたの」

 素っ気なく答えるが、見せた悪夢の内容はかなりえげつない代物だ。

「……ま、何でも良いわ。後は、コイツを捕まえて、色々聞きただすだけだな」
 杏子はあやせを拘束する様に、槍を多節根化させる。


「……カーゾ・フレッド」

 ドン、と光線があすみの体を吹っ飛ばした。


「うそ……」

 壁際まで弾き飛ばされ、あすみは再び立ち上がったあやせを呆然と見上げる。

「あやせの痛みは私の痛み……。ただでは済ませませんよ?」

 再び立ち上がったあやせだが、衣装は深紅のドレスとなり、その姿はあやせを鏡で写したように反転していた。

「どうなってんだ……?」

 杏子は相当に戸惑っていた。

「私は双樹ルカ……」

 あやせだった魔法少女は、ルカと名乗った。

「……カラクリは良く解んねーが、やるしかねーみたいだな」

 杏子は再度槍を構え、ルカを睨みつけた。

本日はここまで。


ホントの事言うと、ここからが本番。

文法の間違いや誤字脱字が目立つな……
投下前に推敲した方がいいんじゃないか?

おもしろい


>>260
そりゃしたいけど……ここから言い訳。
仕事(トラックの運転手なのよ)で家に帰るのは3~4日に一回なので、書いてすぐ投下になってしまうんです。


では、続き投下します。

8.モノマネノタツジン

 迫りくる鉤爪に、マミは反射的に目を閉じてしまった。

(やられる……!!)

 マミに成す術は無かった。


 ガキン、と鉤爪が砕け散った。

 死角から飛んできたサーベルが、少女の鉤爪を砕いていたのだ。

「……誰だ!!」

 少女は声を張り上げる。

「あんたが殺そうとしてる人の弟子だよ」

 そして、サーベルを投げつけた張本人は、少女に向け憎悪を浮かべる。

「……美樹さん!!」

 マミは、さやかの名を思わず叫んでしまった。

「すいません。事情は後で全て説明しますから……。多分、なぎさとゆまちゃんの所に、杏子が行ってる筈です」

 さやかは、サーベルを構え、臨戦態勢に入る。


「……まだ行けますか?」

「……ええ」

 心を奮い立たせ、ふら付く足元を気合で立ち上がらせた。


「……良いでしょう。ならば、二人纏めて始末してあげます」

 白い魔法少女は、再び多量の水晶玉を召喚。彼女の体の周囲を浮遊する。

「この爪を壊す何て、やるじゃあないか……」

 黒い魔法少女も、再び左手の爪を召喚し直す。


 真っ先に攻撃を仕掛けたのは、さやか。我先にと黒い魔法少女に斬りかかった。

 爪でサーベルを弾くが、右側の防御は全く出来ない。

「こっちだよ!!」

 再びさやかはサーベルを召喚し、二刀流に変化。

 ここは手数で押し切る考えだ。

「悪いけど、大人しくしてな!!」

 二刀流のサーベルを振り回し、黒い魔法少女を力付くで押し切る。

「……くっ」

 片手の鉤爪だけでは、流石に防ぎきれる訳が無い。黒い魔法少女はジリジリと追い詰められていく。

「まだまだ!!」

 連続の剣技で、黒い魔法少女を圧倒する。相手が手負いと言え、師匠を殺そうとしたのだ。さやかは躊躇する事無く、攻撃の手を緩めない。


 気を持ち直したマミは、再びマスケット銃で白い魔法少女を狙い撃つ。

(ワンパターンね……)

 しかし、白い魔法少女の放つ水晶玉で弾かれる。

「……くっ」

 攻撃を阻まれ、マミの表情は苦々しく歪む。

≪マミさん……そこを動かないで下さい!!≫

 突然、さやかからのテレパシーが飛んできた。

 マミは、何の為の忠告は解らない。

その二秒後。
 
「……!?」

 白い魔法少女の周囲を、三体の魔獣が取り囲む。
 しかも、魔獣は完全に白い魔法少女に狙いを絞っている。

「……どうなってるの?」

 マミは、ポツリと言葉を出した。



「小賢しい……」

 少女の周囲には、十、二十、四十、と水晶玉が倍々に増えていく。

「……散りなさい!!」

 360度全域に向けて、散弾銃の様に弾丸が放たれる。

 三体の魔獣程度では、彼女の足止めにはならない。
 そして、白い魔法少女は、物陰に隠れる魔法少女を見つける。

「……末端の雑魚が、私達に刃向うおつもりですか?」

 ギロリと睨みつけた先に居たのは、沙々だ。

「う、うるさい……。人を利用するだけ利用して、後は捨てるだけの癖に!!」

 紗々は、ちょっとビビりながらも、反骨の意志を見せる。

「そうですか……ならば纏めて、葬るだけですよ」

 白い少女は、再び水晶玉を召喚。狙う的は、沙々とマミ。

「……っ!?」

 白い魔法少女は、咄嗟に身を伏せた。


 直後に、ナイフが帽子だけを斬り付けた。地面に落下した帽子は、真っ二つに斬り裂かれていた。

「ちっ……勘のいいやっちゃ!!」

 後ろから不意打ちで、首を狙ったのはすずかだ。
 魔法で気配を消していたが、白い魔法少女には勘付かれていた。

「……悪魔の腰ぎんちゃくが、何のつもりかしら?」

 白い魔法少女は、すずかと視線を合わせた。

「こっちを狙っとるんなら、殺られる前に殺る。魔法少女の常識やろ」

 臆する事は無い。すずかも、白い魔法少女を睨み返した。

「……邪魔をするなら、容赦はしません」

 水晶玉の標的をすずかに切り替え、照準を合わせた。


 しかし、幕切れはあっけない物だった。

「……そこまでだ。帰るぞ、美国織莉子、呉キリカ」

 突然現れた一人の魔法少女が、水を差す様に言い放った。全員の動きが止まり、その少女に視線を向けた。

「……聖カンナ」

「……」

 織莉子とキリカと呼ばれた二人の魔法少女は、苦々しく表情を歪める。

 カンナと呼ばれた少女の右手からリボンが放出され、さやか、マミ、そしてすずかと沙々を容易く縛り上げた。

「……何やねん!?」

 すずかは、思わず叫んだ。

「嘘でしょ……」

 マミは、驚きのあまり目を見開く。

(これ……マミさんの魔法じゃん!!)

 さやかも、同じくだった。マミの魔法を、他人が使っているのだから、驚かない方が無理だろう。


 しかし、すずかはいきり立ち咬みつく。

「お前が、ヒュアデスのボスか?」

 カンナの答えは。

「オフコース……。あの殺し屋を仕留める辺りは、中々だね」

 ニヤニヤと嘲笑を見せながら、余裕を垣間見せた。

 しかも、だ。

「……オマケだ。味わえ」

 カンナは右手をすずかに向ける。
 リボンが渦を巻いていくと同時に、大砲を形成していた。その銃口には、黄色い光が溜めこまれている。

「ティロ・フィナーレ……」

 魔弾は、拘束されたすずかに向けて放たれた。

「……!?」

 ドン、と砂埃を立ち上げ、すずかの体は吹き飛ばされた。

「……何がどうなってるのよ」

 マミもさやかも、呆然とその光景を見ている事しか出来なかった。

「……諸君、また会おう」

 そう伝え、カンナ、織莉子、キリカは、その場から去って行くのだった。


 カンナ達が居なくなると同時に、リボンの拘束が解ける。
 さやかは、真っ先にすずかの元へ駆け寄る。

「……ちょっと!! しっかりして!!」

 しかし、すずかの反応は無い。辛うじて息はしているが、傷口は深く出血は夥しい。

「すぐに治すよ!!」

 さやかは両手に魔力を込める。自らの固有魔法で、すずかの傷を癒す。

「私も手伝うわ!!」

 マミも、リボンを放出し、傷口に包帯の代用に当てた。

 二人分の回復魔法のお蔭で、傷はあっという間に消えていく。

「……いったぁ」

 すずかは、意識を取り戻した。

「……危うく死ぬところやったわ。助かったで」

 上体だけ起こしながら、そう礼を述べた。


「あれが、ボスなんだ……」

 沙々は、カンナの強さを目の当たりにし、表情を強張らせた。

「大した技やで……」

 思いっきり喰らった張本人も、苦々しく顔をしかめる。

「……」

 ただ、マミもさやかも、無言で押し黙ったまま。何よりも、確実に焦りの色が濃く浮き出ていた。

「どないしたん……そないな深刻な顔して?」

 すずかは、思わず聞いた。

「……さっきの技だけど、この人の魔法なんだよ」

 さやかはポツリと伝えた。

「どういう事です?」

 沙々は、さやかに視線を向ける。

「……魔法を真似したっちゅう事か?」

 すずかの言葉に、さやかはコクリと頷いた。

「ティロ・フィナーレは一朝一夕で出来る様な物じゃ無いわ……。真似するだけじゃ無くて、破壊力も同等よ……」

 マミのその一言は、カンナの恐ろしさを物語るに十分だった。


 僅かな沈黙の後、マミは思い出した様に口を開いた。

「所で……美樹さん。この子達は、何者なの?」

 まだ、何も聞かされてないマミは、すずかと沙々を交互に見つめる。

「彼女達は……暁美ほむらってくされ外道の仲間です」

「暁美さんの……?」

 突然出てきたほむらの名前に、マミは驚きを隠せなかった。


 路地裏の戦いは、一層激しさを増していた。
 杏子とルカ。双方の実力は、極めて拮抗している。

「……くそ!!」

 変幻自在な槍の動きでルカの体を斬りにかかるが、かわされる。

「砕けなさい!!」

 光線を放ち、杏子を狙い撃つ。

 ドン、と風穴が空いたのは、壁だけ。杏子も、素早い動きを見せながら、ルカを翻弄。

(確かに強いが……)

 一気に間合いを詰めて、槍で突く。

「……っ!?」

 ブン、と空発。しかし、接近戦の技量は、杏子に分があった。

(昨日の覆面の奴よりは、全然だな!!)

 追撃の手は緩まない。続けて、槍の柄で殴り掛かった。


「くそ……」

 ルカは一気にバックステップを取り、間合いを広げて回避。

「……カーゾ・フレッド!!」

 再度光線を撃ち出し、杏子を攻撃。

「危ねーんだよ、それ!!」

 しかし、当たらない。軌道とタイミングを見計らって、易々とかわした。

 ただ、遠距離の攻撃方法が有る分、離れた距離ならルカに分があった。

 どちらも、一長一短。このままであれば、戦いは長引く。ただし、邪魔さえなければの話だが。


 お互いが睨み合い、次の一手を模索する。

 その時。
 両雄の間合いを割る様に、ドン、と魔弾が撃ち込まれた。

「……なんだ!?」

 杏子は、魔弾の飛んできた方向に視線を向けた。

「……」

 ルカも同様。ただ、この魔弾を撃った張本人を、良く知っている。


「……今日はお開きだ。帰るぞ」

 そう告げたのは、ヒュアデスの統領、聖カンナ。

「……でも」

 食い下がろうとするルカだが、カンナはギロリと睨みつけた。

「お前……私の指示に従えないのか?」

 静かながら、その言葉は威圧する程の迫力を備えていた。

「……解かりました」

 渋々ながら、ルカは剣を鞘に納めた。

「ちょっと待てよ。てめぇがヒュアデスの統領か?」

 いきなり現れて、帰ると言われては、納得も出来ない。杏子は、カンナを睨みつけて槍を構える。

「ザッツライト……。今日の所は、私に戦う意志は無いね」

 カンナはニヤリと笑みを見せる。明らかに、杏子を相手にしていない様子だ。

「ふざけんなよ……舐めんのも大概にしやがれ!!」

 怒りに身を任せ、カンナに特攻。
 槍を振り上げ、全ての勢いを乗せて、カンナの体を貫いた。


「……な、何だ!?」

 槍で突き抜いたその瞬間。カンナの体は、消えていた。

「こっちだよ」

 杏子の真後ろに、カンナは立っていた。

(……この魔法は!!)

 瞬間的に、何の魔法なのか理解出来た。何故なら、杏子に取って、一番馴染みの有る魔法だったからだ。

「……アディオス、セニョリータ」

 ドン、と背中から魔弾で吹っ飛ばされた。
 後ろから強烈な一撃を浴びれば、杏子ほどの実力者でも、一溜りも無い。

 薄れていく意識の中で、杏子の頭の中は、カンナの使った魔法だけがグルグルと駆け巡っていた。

(あれは……ロッソ・ファンタズマじゃねーか……)

 杏子の意識は、その時点で途切れていた。


 見滝原を展望台。

 街を見下ろしているのは、聖カンナの姿。
 そして、別の聖カンナに連れてこられた、ルカ、織莉子、キリカも終結した。
 何故か、三人もカンナが存在している。

「……遊び過ぎだ、お前達」

 そう言いながら、カンナはパチンと指を鳴らす。すると、他の二人のカンナは、煙を撒いて消え失せた。
 分身を作りだし、本人は高みの見物を決めていたのだ。

「しかし、見滝原の魔法少女は便利な魔法を持っているね……」

 そして、今度は癒しの光を放ち、傷ついた三人の体を癒したのだ。

「……どういうおつもりですか?」

 真っ先に口を開いたのは、織莉子だった。


「奴らは、思ってた以上に強いね。特に、巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか。この三人は、倒せなくはないが、かなり苦戦するだろう。
 しかしだ……戦争で、わざわざ真正面からぶつかる必要は無いだろう」

 カンナはただ見ていた訳では無い。
 じっくりと戦力見極め、戦術を練っていたのだ。

「……何をお考えで?」

「戦力が無ければ、作ればいいだけだ。

 ただ、配下の魔法少女共を使った所で、戦力にはならないだろうね。所詮、怯えて逃げ出すのが目に見えるのさ」

「……貴女、アレを使うのですか?」

 織莉子の表情は、途端に青ざめた。

「オフコース……。出し惜しんでては意味が無いからね」

 カンナは意味深に微笑を浮かべた。

「……」

 キリカもルカも、言葉を出せない。
 その、カンナの切り札の正体を知っているから。

「……百獣の王が目覚めるときさ」

 カンナの言葉の意味は、何を示すか。


 ヒュアデスの幹部が立ち去ってから、さやかはマミに一連の出来事の説明をした。
 内容が内容なので、流石のマミも唖然とした様子だった。ただし、円環の理や魔女の存在はある程度伏せてだが。

 沙々とすずかは、その側で突っ立っているだけだ。まだ、会話に加わる余地は無い。

「暁美さんが、この街を去った理由って、そんな理由だったのね……」

「はい。正直、勝手な行動をしたのは悪いと思ってます。ただ、どうしてもほむらと話を付けなきゃいけなかったんです」

 さやかは真剣な眼差しで、そう訴えた。

「……今回は、色々な収穫もあるから、よしとしましょう。
 所で、暁美さんの姿が見当たらないんだけど?」

 そう言いながら、マミはすずかに目を向ける。


「姐さんは、あすなろ市に用事が有る言うてましたよ。詳しくは聞いとらんけど……」

 すずかは、そう答えた。

「ほむらには、会って貰わなきゃいけない人が、もう一人居るんです。
 プレイアデスのミチルに」

 さやかの口から、思いがけない人物の言葉が出ていた。

「……どうしてまた?」

 マミは思わず首を傾けた。

「……今はまだ言えません。
 だけど……私を信じて下さい」

 さやかは、凛とした声ではっきりとそう言った。

「……解ったわ」

 マミは、腑に落ちないながらも、仲間の言葉を信じた。


 その時。

≪さやか……聞こえるか≫

 さやかにテレパシーで、呼びかけるのは杏子だ。

≪杏子……。無事なの?≫

≪ギリギリだな……。なぎさもゆまも、このちっこいのも無事だけど、あの魔法少女は取り逃がした……≫

≪取り逃がしたのはこっちもだよ……。今何処に居るの?≫

≪街の路地裏だ。今から向かうから、そこに居ててくれ≫

≪オッケー≫

 杏子から生存報告を受け、ひとまずは安心だった。


 数分も経過しない内に、杏子達はさやか達の元にやって来た。無事と言える程ではないものの、全員が生存している事には、一安心だった。
 ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテットの五人。そして、ほむらと行動を共にする三人が集結。

 現状では、ヒュアデスの幹部は、非常に危険な存在なのは言うまでもない。即座に、情報を交換する事となった。

「……一番気になるのは、リーダーのカンナって魔法少女だ。
 多分、こっちにも来てた筈だ」

 杏子は、我先にそう伝えた。

「確かに来てたけど、何で知ってるの?」

 さやかは、頭にクエスチョンマークを浮かべる。

「マミしか知らねーからな。アタシの固有魔法は……。
 ロッソ・ファンタズマって奴さ。幻覚を作り出す魔法で、分身とかも作れる奴さ……。今は封印されてるけどな」

 杏子の口ぶりは重い。



「……あの子は、私の魔法。命を繋ぐリボンと、ティロ・フィナーレも使いこなしてたの。
 どんな魔法の持ち主か解らないけれど……そんな芸当の出来る魔法少女なんて、見た事も聞いた事も無いわ……」

 一番のベテランのマミでさえ、その魔法の正体を掴めない。

「……アタシも、思いっきり喰らったよ。ま、ゆまに怪我は治してもらったから良かったけどよ……」

 杏子は、落胆した様子だ。

「……一つだけ、良いです?」

 ここで疑問を投げかけたのは、なぎさだった。

「何故、あの人たちは、帰って行ったのですか?
 もし、このままだったら……なぎさ達は確実に危なかったと思うのです……」

 なぎさの疑問は、極当然の事だった。あのまま、カンナが加勢に入ったとすれば、全員まとめてやられている筈だが。

 その疑問を聞いて、すずかにはピンと来るものが有った。


「……恐らく、あのカンナと言う女の魔法の正体は、他人の魔法をコピーする魔法や。だからこそ、そこのクルクルのねーさんの魔法やら、サクラはんの魔法を使いこなしてんや」

「それと、撤退する事に、何の関係があるんですか?」

 沙々は、すずかにそう聞いた。

「……お前さんの魔法は、洗脳やろ。魔獣をコントロールできるのは、お前さん位やで。
 その魔法をコピーしてれば……魔獣を使って、襲撃する事が可能になる訳や。
 まして、使用済みのグリーフシードを、大量に回収しとるんやで。推測の域は出んにしても、線としては結構有り得そうな気もするで……」

 すずかの推測に、沙々を除いた一同の表情はハッとなる。


「……それは、絶対に不可能ですよ。
 私が魔獣をコントロールしても、精々五体が限界なんですよ。それに、洗脳するのって、結構魔力を使いますし。
 そんな大量の魔獣を洗脳しても、一分も経たない内に魔力切れで動けなくなるだけです」

 沙々は、作戦には無理があると言い切る。

「だったら、大量の魔獣を街中にばら撒くって事か?」

 一つ目の案が却下され、次に杏子はそう推測する。

「……解らないわ。ただ、その魔獣を集めて何かをしようとはしてるんでしょうけど」

 マミも、妙案が出てこない。

「……兎に角、今は迎え撃つ事を考えるしかないかもね」

 さやかは、考える事を諦め、そう言った。
 決定的な打開策が出ない。ただ、ヒュアデスの切り札が、気味悪く見え隠れするだけだった。


 あすなろ市。
 見滝原市と風見野町の境目から、丁度東側に位置する。
 このあすなろ市を縄張りとするプレイアデス聖団は、和紗ミチルを中心とした7人の魔法少女で構成される。

 活動の方向は、自警団の色合いが濃く出る辺り、ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテットとも良く似ている。

 今日も魔獣から街を護る様、パトロールに勤しむが。

「……あれ? ミチルは?」

 カオルは、キョロキョロと周りを見渡したが、中心人物であるミチルの姿が見当たらない。

「今日は、お婆さんの月命日だからお墓参りに行ってるわ」

 海香は、カオルに不在の理由を伝えた。


「まあ良いじゃない。ミチルの大切な行事だし。それに、ボク達だけでも魔獣程度に苦戦しないって」

「みらい……あんまり調子に乗らない方が良いぞ」

 楽観視するみらいに、サキはそう釘を刺す。

「そうよ。最近、魔法少女の事で物騒な話も多いし……。ね、トト?」

「……ニャーン」

 里美は抱いている黒猫に喋りけると、猫も首を縦に振りながら鳴き声を発する。

「……ふーむ。今日の所は、余り魔獣も居ないようだね」

 タブレットを構いながら、ニコはそう呟いた。


 確かに、今日は魔獣の出る気配は無かった。故に、プレイアデス聖団の面々は、油断していた。


 ドン、と地面に何発もの銃弾が撃ち込まれた。
 お前達を狙い撃つなど簡単だと、言わんばかりの牽制。

「……何だ!?」

 サキの声に釣られ、全員の視線は一点を見つめる。
 ビルの上に立つのは、注射器を模したガトリングガンを持つ魔法少女。

 嘲笑を見せながら、少女はハスキーなボイスで叫んだ。

「よう!! プレイアデス!! この、ユウリ様の事が気になるご様子で!!」

 小ばかにしているかの様に、自身の名を様付けで名乗る。

「何なんだお前は!!」

 怒声を上げつつ、みらいは我先に食ってかかったが。

「……しゃらくさいんだよ!!」

 今度は、ハンドガンでみらいの胸部を魔弾で撃ち抜く。
 否、みらいだけでは無い。次々に魔弾を連射し、プレイアデスの魔法少女達を次々と血祭りに上げていく。


 思わぬ奇襲攻撃と、的確に標的を撃ち抜く技量。狙われた聖団から、阿鼻叫喚の悲鳴が上がる。

「……悲鳴合唱団最高」

 うっとりとした様子で、泣き叫ぶ同族を見下ろす。

「お前……なんのつもりだ!!」

 怒りの面持ちで睨みつけるカオルだが、ユウリは微笑を崩さない。

「ま、お前達に直接恨みは無いよ……。ただ、和紗ミチルに、ちょっとした因縁が有るのさ……。
 お前達は、和紗ミチルの大切な仲間。
 和紗ミチルを絶望のどん底に叩き落とす為に……お前達を血祭りに上げるのさ!!」

 ユウリの微笑が、見る見る間に狂喜を帯びていく。

「狂ってるわ……」

 海香がそう漏らすのも当然だろう。

「恨むなら……和紗ミチルを恨むんだな。

 怨念を溜めこんだ悪霊の如き魔法少女は、再び魔力を溜めこんだ。



「……お喋り女は嫌いだね」

 攻撃に移る僅かな隙をついて、ニコはユウリの後ろに回り込んでいた。

「……ほう」

 しかしユウリは、微笑を崩さない。
 余裕が有るのか。それともハッタリか。

「大人しくしろ……プロルン・ガーレ!!」

 ゼロ距離で放たれる、指ミサイルは、全てユウリの体に撃ち込まれる。
 体中から爆炎が立ち上った。
 あれでは、一溜りも無い。普通なら、そこで終わると、全員は思うが。

「……もっかい言うね……しゃらくさいんだよ」

 傷を負いながらも、ユウリは爆炎の中から姿を現した。

「うぐぅ……」

 ニコの首をガッチリと右手で締め上げながら、血の流れる口元をニヤリと歪ませる。


「……良い身分だな」

 流血に染まる衣装で笑うユウリは、ニコに向けて怒りをぶつける。

「お前だけは、あの中でも特別だからな……この場で殺してやるよ!!」

 右手に握力を込めて、首を締め上げる。そして、左手のハンドガンをニコの額に押し当てた。

「……ぐぅ」

 ニコは虚ろな目で、ハンドガンの銃口を見つめる。

「……ニコ!!」

「ニコちゃん!!」

 プレイアデスの面々から、悲鳴が上がる。ニコの死を、誰もが覚悟した。

 その瞬間。


「……それには及ばないわ」


 バン、と銃弾が放たれる。
 ライフルから撃ち出された銃弾は、ユウリの左手を的確に撃ち抜いた。

「……っ!?」

 ハンドガンを地面に落とすと、ユウリの意識は僅かにニコから逸れてしまう。


「これもオマケよ」

 今度飛んできたものは、三本の発煙爆弾。ユウリの足元に転がった瞬間、二人は瞬く間に煙に包まれた。

「な、何だ!?」

 一瞬の内に現れ、即座に戦況を変えていく。
 敵か。それとも味方か。それは、プレイアデス聖団には解らなかった。


 煙で視界が閉ざされた中。
 バキィ、とユウリは鈍器で殴り飛ばされた。

「……だ、誰だ!!」

 煙の中で吹っ飛ばされ、ユウリは殴り突けた張本人を睨みつける。

 その魔法少女は、ニコを担ぎ上げて、プレイアデス聖団の面々の元に降り立った。

「……この子はまだ生きているわ」

 そう言いつけて、ニコを地面に寝かしつける。
 ニコの意識は無いが、息はしている様だ。

「君は……?」

 カオルは、呆然とその人物を見上げた。

「あそこの危険人物の敵よ……」

 そう言い切った。


「不意打ちとはやってくれるね……暁美ほむら!!」

 ユウリは、襲撃してきた魔法少女の名を呼びつけた。

「貴女も大概でしょ?
 もう裏は取れてるのよ……飛鳥ユウリ」

 ほむらの視線は、既にユウリから離れない。狩るべき獲物に、その牙を向ける。

「お前は同族を殺しても、何も思わないんだよな……ゴキブリ女が」

 ユウリは、右手で落ちたハンドガンを拾い上げた。

「世の中には殺した方が良い魔法少女も居るのよ……例えば貴女とかね」

 そして、ほむらも今度はハンドガンに持ち替え、ユウリを狙いすましていた。


「不意打ちとはやってくれるね……暁美ほむら!!」

 ユウリは、襲撃してきた魔法少女の名を呼びつけた。

「貴女も大概でしょ?
 もう裏は取れてるのよ……飛鳥ユウリ」

 ほむらの視線は、既にユウリから離れない。狩るべき獲物に、その牙を向ける。

「お前は同族を殺しても、何も思わないんだよな……ゴキブリ女が」

 ユウリは、右手で落ちたハンドガンを拾い上げた。

「世の中には殺した方が良い魔法少女も居るのよ……例えば貴女とかね」

 そして、ほむらも今度はハンドガンに持ち替え、ユウリを狙いすましていた。

本日はここまで。

色々勘付いても、言わないでくださいね。
読み手も結構鋭い人多いから。

乙!
読めれば文法なんて気にしない
勢いが大事だよな


お身体を大事に


頑張れ

勢いは大事ですね。
勢い余って、倒れないように心がけます。

では、続き投下します。

9・コロシタホウガイイタグイ


 睨み合うほむらとユウリ。一触即発の空気が漂う中、先に手を打ったのはユウリ。

 ハンドガンからガトリングガンに武器をチェンジし、ほむらを狙う。

「死ね!!」

 ガトリングガンから、魔弾が乱発。

(……迂闊には近づけないわね)

 咄嗟に回避し、物陰に身を隠す。

(連射は効くけれど、狙い撃ちが出来ない上に、発射までにタイムラグが生じるのが、ガトリングガンの特徴よ……)

 そして、盾の中から三つの火炎瓶を取り出した。


 ユウリは、ビルの陰に視線を向けるが、その場に居るとは限らない。

「……ゴキブリだけあって逃げ足だけはすばしっこいな」

 周囲を見回し、ほむらの影を探す。
 右、居ない。左、居ない。

読むぞ!


 何かが頭上を飛んでいく。

(……あっちか!!)

 投げつけてきた方向へ、反射的にガトリングガンを向けた。


 同時に、バン、と銃声が鳴り響く。
 弾丸の軌道は、ユウリ……では無い。

 ドン、とユウリの頭上で爆発が起こった。

「……て、てめぇ!!」

 頭上から降り注がれるのは、炎。
 宙を飛ぶ火炎瓶を拳銃で撃ち抜き、頭上から炎を浴びせる。

「まだ有るのよ!!」

 続けて投げつけられた二本の火炎瓶が、ドン、と今度は足元から炎が立ち上る。

「……ちぃ!!」

 火だるまは避けるべく、僅かに火の勢いの少ない位置へ。ユウリはサイドステップを取って右に動いた。


「狙い通りね!!」

 わざわざ逃げ道を用意していた所までが、ほむらの戦略だった。

「……!?」

 ほむらの両腕がユウリの右腕を掴み取り、肩の関節を逆方向に捻じ曲げる。拳銃を持つ人間が、肉弾戦に持ち込む等、普通は考えない。
 相手の心理の裏を突く、ほむらの巧みな戦術に、ユウリは嵌められた。



「……ぐぅっ」

 魔法少女と言っても、魔法で痛覚を遮断しない限り、体に痛みは走る。
 速攻で関節を極められてしまえば、遮断する余裕さえも作れないのだ。

「頭を撃ち抜いても良いけれど、それだとヒュアデスの事を聞けないのよ……。
 大人しく、貴女の組織の事を吐きなさい!!」

 ほむらは、腕をへし折らんばかりに、一層力を込める。

「……誰が言うかよ!!」

 苦悶の形相を浮かべながらも、ユウリは強気の言葉を吐き出す。

「あ、そう」

 素っ気なく、ほむらは言った。
 そして、ユウリの右腕を、一気に捻じ曲げた。


「ぐあぁぁっ……」

 ユウリの右腕から、ブチン、と耳障りな音が鳴る。
 筋がねじ切られ、ユウリは耐えきれず悲鳴を上げてしまうと、成すすべなく地面に膝を落とすしかなかった。

 拳銃を頭に突き付け、ほむらはユウリを冷たく見下ろした。

「……チェックメイトよ。両腕が使えなければ、貴女に戦う手段は無いわ」

 空気が一気に張りつめる。



 言うか、死ぬか。ほむらは、二つの選択肢しか与えていない、つもりだが。

(ここで死ぬだと……冗談じゃない)

 ユウリの脳裏を、ある人物の笑顔がかすめた。

―――
――


「……あたし、あんたを治す為に……魔法少女になったの」

「……どうして? だったら……何でそれを私に、言ってくれなかったの!?」

「だってさ……恥ずかしいじゃん。だけど……魔法少女になった事は……後悔してないからさ……」

「そんなの……そんなのって……」

「ただ……バケツパフェ……あいりと一緒に食べたかったかな……。
 約束……守れなくてゴメンね……」

 パリン……。

「ユウリ……ユウリ!!
 何でよ……どうしてユウリが死ななきゃいけないの!!」


 コツ……コツ……コツ……。


「あなたは……?」

「この子と同じ……魔法少女さ。君も……この運命を変えたくは無いかい?
 この世界を……手に入れて見たくは無いかい?」


「……世界を手に?」

「そうさ。自分の望む様に、世界を変えるのさ」

「……ユウリを。……ユウリを生き返らせる事が出来るの?」

「そうだね……君が私に力を貸してくれるならね……」

「……する。ユウリを生き返らせる事が出来るなら……何だってするよ!!」

「オーケー……交渉は成立だ……杏里あいり」

「……貴女の名前は?」

「……聖カンナさ」


――
―――

(ここで……死ぬ位なら……幾らでも足掻く。見苦しくても、みっともなくても……生き残る……。
 そうでしょ……ユウリ!!)

 ユウリの心臓が、ドクン、と高鳴った。

「……ぁぁぁぁああああ!!」

 その叫びは、断末魔の悲鳴か。或いは執念の雄叫びか。
 ユウリは、筋の切れた右手でほむらの顔を殴りかかった。

「……!?」

 ほむらは、想定外の事態に、我が目を疑った。


 更に、傷ついた左手でハンドガンを握りしめて、ほむらに向けて魔弾を連射する。

「くっ……」

 咄嗟に回避を試みたが、至近距離で連射されれば、避けきれる訳が無い。数発の魔弾が、ほむらの体をかすめた。

「死ねぇ!!」

 一心不乱に拳銃を乱射する、ユウリ。
 乱れ撃ちの餌食になるまいと、距離を空け壁に身を隠すほむら。

(向こうの情報を引きずり出したかったけど、仕方ないわね……)

 拳銃でユウリを狙い撃ち、応戦。接近戦から一転し、銃撃戦の様相となった。


 ほむら自身、拳銃の扱いはお手の物である。しかし、普通の拳銃と、固有武器の拳銃では決定的な違いが有る。

(固有武器の銃は、弾切れの心配が必要ないのよね……)

 弾薬に限りがあるほむらの拳銃と、魔力の持つ限り弾薬に制限の無い、ユウリの拳銃。
 持久戦に持ち込まれれば、ほむらの方が圧倒的に分が悪い。


 ユウリは、ハンドガンからガトリングガンに、武器をスイッチ。

「……くたばりな!!」

 連射する魔弾で、壁諸共ほむらを撃ち抜く狙いだ。

「……まずい!!」

 瞬間的に壁沿いに身を移し、ほむらは回避行動に出る。同時に、連射した魔弾が壁に次々と風穴を空けていく。このまま壁全体が撃ち抜かれるのも、時間の問題だ。

(……危ないわね全く)

 苦々しく表情をしかめ、ほむらは拳銃を握りしめる。

(……この壁意外に身を隠せそうな所が無いわ。一発で仕留めなきゃ、こっちは蜂の巣……)

 危険な賭けに出るしか、策は無い。グリップを握る右手に、自然と力が籠った。

「もう逃げ場は無いぞ!!」

 ユウリは銃口を、僅かな影に隠れるほむらに向けた。


「チャオ!! 死にたがりのみんなたち!!」

 その言葉が響くと同時だった。
 ユウリとほむらの合間を、ドン、光線が地面に穴をあけた。

「……誰?」

 ほむらは、光線の飛んできた方向を凝視する。

「……お前は」

 ユウリも、同じくだ。


 視線の先に立ちはだかるのは、黒いマントと黒い三角帽子を身に纏う。ハロウィンの仮装を思わせる、小柄な魔法少女だ。

「……今の状態なら、君達を仕留める事は簡単だよ?」

 その魔法少女は、そう言い放ちユウリとほむらを牽制する。

「……君達の選択肢は……デッドオアアライブ?」

 少女から出された選択肢。
 ユウリは、手に持っていた武器を仕舞う。

「……今日はここまでだ。借りはすぐに返しに来る!!」

 そう吐き捨て、ユウリはその場から離脱した。


 ほむらと少女が視線を交錯させる。

「……貴女も私の首を狙ってるのかしら?」

「ん~……秘密だよ」

 ほむらは意図的に強気の言葉を出すが、少女に敵意は無い様だった。

「でもね。さやかから、色々話は聞いてるよ……悪魔さん?」

 少女の口元がニヤリと笑みを作る。

「もしかして……貴女が、和紗ミチル?」

「その通り」

 ミチルの首は、縦に動いた。


 ミチルの自宅に、プレイアデス聖団のメンバーと共に、ほむらは招き入れられた。
 なお、プレイアデスの面々は命に別状は無い物の、個々の傷はかなり深い様だ。特に、ニコに関しては、まだ気を失っている。

 寝室に全員を休ませると、ミチルとほむらはリビングで向かい合うように座った。

「悪いね。皆を助けて貰った上に、手当まで手伝って貰って」

 ミチルは、ほむらに礼を述べる。

「……たまたま居合わせただけよ」

 ほむらの反応は、毎度の通り薄い。

「そうだ。新しい紅茶の葉っぱ買ったんだ。君は紅茶は好き?」

「……お構いなく。そんな事よりも、貴女に聞きたいわ」

 マイペースなミチルに、淡々とした様子でほむらは聞きただす。

「さやかに聞いたわ。
 貴女も、円環の理に導かれた魔法少女だった……。そして、その記憶を持ちこしている、とね」

 ほむらの目付きが、一層真剣な物に変わる。

「そうだよ」

 ミチルは、あっさりと答えた。


「……随分と軽いノリで答えるわね。さやかは、私を殺す気だったわよ?」

 思わず呆れた様子で、ほむらはそう突っ込む。

「人それぞれ考え方が有るのさ。
 特にさやかちゃんの場合は、神の側近みたいな感じだったしね」

「そう……。貴女は、円環の理を壊した張本人を目の前にしてる。その割には、恨みとかは無いのかしら?」

 ほむらは、改まった様子でそう聞く。

「全く恨んでないと言えば、嘘になるよ。
 だけど……円環から現世に戻った時、私にはやるべき事が有ったんだ」

「やるべき事?」

 一度咳払いをして、ミチルは引き締まった表情で答えた。

「……私は、他に13人居るの」

「どういう意味かしら?」

「マレフィカ・ファルス……日本語にすれば魔女の肉詰め」

 ミチルの回答に、ほむらは目を大きく見開いた。


「まさか……貴女は一度目の改変の前の記憶まで有るの!?」

「……厳密に言えば、この世界に戻った時に……記憶が蘇ったって言えば良いのかな。
 かつての世界……魔女が居た世界で、私は魔女になった。だけど……あの子達は、その現実を認めたくなかった。
 その結果……あの子達は、かずみと言う名の私の複製を作りだした。魔法少女システムを否定する為にね」

「……」

 ほむらは、何も答えられない。

「正直、悩んだよ。
 だけど、皆は禁断の呪怨に手を出してまで、私の死を否定したかった。もう一度、和紗ミチルを蘇らそうとした。
 だからこそ、私は皆の気持ちに答えなければいけない。今度は、私があの子達を護る番なの……」

 さっきまでの表情が嘘のように、ミチルの目付きは研ぎ澄まされていた。

「……記憶を持ち合わせているのは、単なる偶然じゃない。
 13人のかずみ達の因果が、私に巻き付いているからだと思う。だから、その運命を私は背負うよ」

 ミチルは力強く答えた。


「……貴女は強い人ね」

 ほむらは、素直にミチルをそう評した。
 自分以外に改変前の記憶を持っている魔法少女など、存在するとは思わなかった。まして、記憶がある状態で正気を保っていると言う事は、相当にタフなメンタルでなければ耐え切れない筈だ。

「君は、物を食べる時にどうして“いただきます”って言うか知ってる?」

 唐突に、ミチルは聞いた。

「……?」

 突然の質問に、ほむらは首を傾げるしかない。

「ヒトは生きる為にご飯を食べる。お肉、魚、野菜、色んな命を食べて生きてる。だから、その分まで生きる意義が有る。
 そして、人が生きる為に、命を頂く。だから“いただきます”って言うんだ」

 ミチルは、そう伝えた。その言葉には、生きる為の強い意志が備わっている。ほむらはそう感じた。

「……貴女なりの哲学かしら?」

「とか言いながら、グランマの受け売りだけどね」

 ほむらの返答に対し、ミチルはちょっと照れくさそうに笑っていた。


「貴女の事は、良く解ったわ。
 確実に言える事は……間違いなく、私と貴女は対極に位置する存在よ」

 ほむらの目付きが、不意に鋭利に尖る。

「……そう?」

 ミチルは、ほむらと視線を交えて、放そうとしない。

「私は、自分の目的が達成するのなら、例えどんな手を使ってでも達成する。利用価値のある物は全て使い切る。邪魔をする者が居るなら、なぎ倒す。
 今は貴女とこうしてお喋りしているけれど、明日貴女を殺さなければいけないのなら……私は貴女を殺せるわ」

 殺気とも思える殺伐とした空気が、ほむらから滲み出る。

「……やっぱり、君はさやかの言っていた通りなのかな?
 冷酷で非情な悪魔……」

 ミチルは、さやかに聞いていたほむらの評を告げる。

「……自覚は有るわよ?」

 しかし、ほむらは言われた所でお構いなしだ。

「だけど……私には解んないんだよ。君の本心がね……」

「どういう意味かしら?」

 ミチルは、ワンテンポ置いてから、ほむらと対峙した率直な感想を述べ始めた。


「……どんな人も、嘘を言う時は何かの癖が出てくる。真実の中に偽りを混ぜて、信憑性を高める方法も有るけれど……。
 だけど……君の言葉からは“偽り”しか感じないんだ。
 本音が、何処にも見えない。君は……何を狙っているんだい?」

 ミチルは、ほむらは嘘を吐き続けていると言い切る。

「……仮にその言葉が本当だとしたら、今ここで言う言葉を信用する?」

 ほむらは、ニヤリと笑みを見せる。

「……出来ないね」

 ミチルは言った。

「……そういう事よ。
 でもね。嘘と言うのは、相手に解らなければ真実のまま……そうでしょ?」

 ほむらは、微笑を崩さない。

「……」

 ミチルは押し黙ってしまう。


「……話題を変えましょう。
 貴女は、飛鳥ユウリの事を知っていた様だけれど……あの子も記憶を持ち合わせているのかしら?」

 今度は、ほむらから質問が飛び出した。
 ミチルは、仕方なしの様子で答える。

「ユウリがその記憶を持っている訳じゃ無いんだ。
 ヒュアデスの統領……聖カンナが、記憶を持ち合わせてる……」

「……聖カンナ、ね。
 だけど、わざわざ見滝原、風見野、あすなろの三つの街を襲撃する狙いが、良く解らないわね。貴女達に恨みでも有るのかしらね……」

 ほむらは、統領の指示に今一つピンとくる物が無い様だ。

「……実はね。私の所にも、カンナは来たんだ……手を組まないかってね。
 だけど、私は拒んだよ。プレイアデス聖団の事も有るしね……」

「……」

 ミチルの言葉に、ほむらの目の色が変わった。

「カンナが本当に狙っているのは、この三つの街じゃ無いんだ。……君なんだよ」


「……もともと、首は狙われてた筈よ?」

 ほむらは、そう返事を出す。

「違うんだよ。君の首が欲しいんじゃ無い。君の繋がっている先の力だよ」

 ミチルは、なおも言葉を続ける。

「君は、円環の理だった物に繋がっているんでしょ?
 カンナは、その力で世界を改変する事を狙っているんだ。
 元々、あの子はこの三つの街を潰す事を目論んでた。その上で、かつて住んでいた街が狙われているんなら……君も現れると推測していたよ」

 ミチルは、カンナに計画の概要を聞いていたのだ。

「……随分と大がかりな作戦ね。
 元々、私の首を狙っていたとは思ってたけれど……全てが私に繋がっていると言う訳ね……」

 ほむらは、ふぅ、と息を吐き出して、ミチルに聞きただす。

「……貴女は、どうするの?
 このまま黙って見ているのか……それとも?」

「……あすなろ市を守りたいのは、私達の意志。
 それに……友達を傷つけられたまま黙ってたら、何の為のチームなのか解らないでしょ?」

 ミチルの意志は決まっていた。


「……ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテットとは、もう手を組んでいるわ。一時的な共闘に過ぎないけれどね」

 ほむらは、ニヤリと口を緩ませる。

「……君は、カンナ達を殺すの?」

 ミチルは思わずそう聞く。

「どうかしらね……。場合によっては殺すわね。
 だけど、死ねばゼロ。生きて駒に出来るなら、きっちりと使い切るわ……」

「……」

 ミチルは、無言でほむらを見る。

「今だけは、貴女の力に手を貸してもらうわ。
 大丈夫よ。私は協力者をわざわざ殺す真似なんてしないから……」

 ほむらの言葉と挙動を、ミチルは隙間なく見続けた。

「……さて。この辺りで、私はお暇させてもらうわ。見滝原の魔法少女達にも、色々情報を聞きたいしね……」

 そう言うと、ほむらは椅子から立ち上がった。



「最後に一つだけ聞かせて。さやかが言ってた事だけど……。
 君は、本当にこの世界を壊そうとしているの?」

 ミチルは、ほむらに聞きただした。

「ある意味、壊そうとしているわ。私達の理想の為にね……」

 そう断言する。
 何処かでお茶を濁す様な言い回しに、ミチルは引っ掛かりを覚えた。

(……解んない。これが本音だとしても、ごまかす必要が有るのかな……)

 部屋を出て行くほむらの後ろ姿を見つめながら、大きな違和感だけが頭の中を駆け巡っていた。



 ミチルの自宅を後にし、ほむらは見滝原行きのバス停を目指した。

(……さやか、和紗ミチル、そして聖カンナ……。
 気になっては居たけれど、何故記憶を持ち合わせてるのかしらね……。さやかに至っては、一度は忘れる様に仕向けた筈なのに……。
 神の采配か……悪魔の悪戯か。それとも……)

 一つの疑念が沸いていた。
 その真相を確かめる手段は、まだ無い。


 気を取り直し、ミチルは七人分の夕飯の支度を始めた。

「さてと……今日はパスタにしようかな」


 棚から材料を取り出し、下準備に取りかかっていると、キッチンにニコが入って来た。

「ニコ? 駄目だよ、まだ寝てなきゃ。一番怪我が酷いんだからさ」

 そう促すが、ニコはその場に膝を落として、ミチルに向かって深く頭を下げた。

「ちょ、ちょっと!?」

 突拍子も無い行動に、ミチルは思わず狼狽えてしまう。

「……ミチル。すまない」

 そう言ったニコの声は震えていた。

「……私が悪いんだ。私の願った祈りで……皆を傷つける原因を作ったんだ。
 今から誤った所で済む事じゃ無いかもしれないけれど……今の私には謝る事しか出来ない……」

「違うよ!!」

 ニコの言葉を、ミチルは強く否定した。


「どうして……?」

 思わずニコが頭を上げると、ミチルはその体を抱きしめた。

「君は何も悪く無いよ。
 君は……彼女を作って観察したかった訳じゃ無いんでしょ?
 笑顔も涙も、家族も友達も。自分の名前だって……カンナに託したかったんでしょ?」

「……」

 ミチルの言葉を聞き、ニコの瞳からは光る雫が頬を滴った。

「約束する。
 私の力が続く限り、皆の笑顔を守るよ。だから……もう泣かないで」

「君の言葉は、何時も心にくるね……ありがとうミチル」

 そう答えたニコの顔には、笑顔が戻っていた。


 そして、壁一枚隔てた廊下では。

「……ニコの願いは良く解らないけど、思い詰めてたみたいだしね」

 小声でカオルは、そう言った。

「解決したみたいで、何よりよ」

 海香は、そう答える。

「それにしても……私達も趣味が悪いな」

 笑いながらサキは呟いた。

「皆揃って覗いてるんだもんね」

 ニヤニヤしながら、みらいは相槌を打った。

「フフ……見つかる前に、部屋に戻った方が良いかしらね」

 里美の言葉に、全員の首は縦に動いた。


 同じ頃。

 鹿目まどかは、自宅でゆっくりとくつろいでいた。

「さやかちゃんも、杏子ちゃんも、帰って来たんだ……。
 本当にヒッチハイクで行けたのかな……?」

 さやかからのメールで、帰ってきた一報を受けたのだが。
 まどかは、ヒッチハイクで沖縄を目指した事を本当に信じていた。


 その時だ。

「……っ!!」

 ズキン、と頭が痛む。
 一瞬だけ強い痛みが走ると、すぐに収まる。

(また偏頭痛だ……)

 時折走る偏頭痛。
 そして、見覚えの無い景色が、一瞬だけフラッシュバックする。
 そこに見える、長い髪の少女の影。

「何なんだろう……?」

 それは、本人に確かめる方法は無い。

 ただ無意識の内に、髪を縛る赤いリボンを、指先で撫でていた。



 そして、外からまどかの部屋を見つめる、一匹の白い生物。

「……やっぱり変だね」

 インキュベーターは、奇妙な現象を目の当たりにしていた。

「あの少女の近くから、強い因果を感じるのだけれど……だけど彼女自身に素質は全く無い……。
 有り得ない現象だよ……。あの強い因果は、何処から沸いているんだ?」

 その瞳には、鹿目まどかの姿がしっかりと写っていた。

「訳が解らないよ……」

 イレギュラーな事態に、インキュベーターは戸惑うばかりだった。

本日はここまで。
多分、ミチルが出るSSって殆ど無いと思います。

乙!
投下中にレス挟んでしまってスマン


ミチルとか顔と名前がつながらない

外伝魔法少女が出るのは大いに結構だけどミチルやかずみって誰かを呼ぶ時は基本あなただったと思うんだが

>>328
まんまかずみだよ

寒いです。
続き投下します。

10.マホウショウジョノナガイヨル


 ほむらが見滝原に辿り着く頃には、すっかり日は暮れていた。

「見滝原二丁目になります。御降りの際は、足元にご注意ください」

 アナウンスが流れると同時に、ほむらは座席から立ち上がった。
 目的のバス停で降車し、久々に見滝原の地に舞い戻った事を噛み締める。


「……待っていたわよ。ディアブロの化身の異名を持つ、魔法少女……」

 停留所でほむらを待ち構えて居たのは、見滝原の魔法少女の総大将、巴マミ。

「……私の口から、そんな異名を名乗った覚えは無いわよ」

 ちょっと憐れんだ目付きで、ほむらはマミを見つめた。

「釣れないわね……。単なる悪魔って言われるより、カッコ良いじゃない」

 マミは、薄い反応にため息交じりで答えた。
 無関心なのか、リアクションが面倒なのか。ほむらは、淡々とした様子で口を開く。

「お久しぶりね……巴マミ」

「暁美さんも、相変わらずね……」

 軽い挨拶をかわし、ほむらとマミはピュエラ・マギ・ホーリー・クインテットの根城。もとい、マミの自宅へ向かった。



 マミの部屋に全員は集合しており、作戦会議がすぐにでも開ける状態だった。

「今日はここで寝ていくんでしょ?」

 マミはそう聞くが、ほむらの首は横に振られる。

「間違いなく、寝る暇なんて無いわよ」

 ほむらの目付きが鋭く尖った。

「どういう事?」

 さやかは間髪入れず、そう聞く。

「私の勘では、今日中にでも攻め入ってくるわね。
 こっちが不利な状態で向こうが手を引くという事は、確実に仕留められる切り札を持っているんでしょうね……」

 ほむらの言葉が、重苦しい空気を冗長させる。

「姐さんは、例のグリーフシード件は、どう考えてます?」

 すずかは、助言を求める。

「解らないわね。ただ、厄介な切り札で有る事には変わりないわ」

 そう言いながら、ほむらは手荷物の中から、袋に大量に入ったグリーフシードを取り出した。


「これだけ有れば、全員分の魔力を回復出来るでしょう?」

 山積みのグリーフシードは、個々の手に行き渡る。

「全員回復しても、まだ余裕あるでしょ……」

 さやかはそう突っ込むが。

「これから死ぬほど魔力を使う事になるのよ。
 向こうの手口が読めない限り、用心しておく事に越した事は無いわ。何時襲撃されても良い様にね」

 ほむらはそう伝えて、釘を刺す。相当に警戒している様で、険しい表情が全く崩れない。

「……切り札も気になるけど、アタシはカンナって奴の魔法が引っかかってる。
 封印されたアタシの魔法や、マミの魔法をコピーしてたんだ……」

 杏子は、ほむらにそれとなく伝えた。

「……今は迎え撃つ事が最優先ね」

 ほむらはそう言い放つと、席を立った。

「何処に行くのよ?」

 さやかは、即座に聞きただす。

「外の空気を吸ってくるわ……」

 ほむらは、そっぽを向いたまま告げる。
 そのまま、部屋の扉から出て行った。


 ここまで無言だったあすみは、ほむらを追う様に席を立った。

「……あすみは何処行くん?」

「……別に」

 すずかに聞かれるが、あすみの返事は一言だった。

「ほーか……」

 すずかは、特に追求しなかった。


「ちょっと、アタシも……」

 今度は杏子が立ち上がった。

「アンタまで何なのよ?」

「……うんこしてくる」

 さやかに向けて、花も恥じらう中学生はそう言いのけた。

「もっとオブラートに包みなさいよ……トイレとかさぁ」

 さやかは、眉間に皺を寄せた。

「しょうがねーだろ。誰だって食ったら出るんだからよ」

 杏子は平然と言いのけて、そそくさと部屋から退出した。



 部屋の中は、重苦しい空気に包まれる。
 残った魔法少女達は、何を思うか。

「……ま、なる様にしかならんやろうなぁ」

 すずかは、空気を読む気が更々無い様だ。
 そして、カバンの中に入る武器を整頓し始めた。ナイフ、拳銃、爆弾等。物騒な品々が次々と出てくる。

 周囲は呆れた様にすずかを見るが、本人はお構いなしだ。

「ホント、色々持ち歩いてますね……」

 並ぶ武器の数々を見ながら、沙々は皮肉っぽく言い付けた。

「ホンモノなの?」

 ゆまは、ちょっと興味が有る様だった。

「当たり前やろ。お前さんも使うか?」

 そう言いながら、すずかは拳銃を見せびらかす。

「……」

 ゆまは無言で首を横に振るう。流石に気が引ける様だ。


「そんな物、どうやって手に入れたのよ……」

 マミは興味本位で問う。

「それは企業秘密や。
 大体あたし自身、魔法少女としては、メチャメチャ弱いんや。魔法も戦闘向けや無いし、固有武器もナイフやから、恵まれとる訳でも無い。
 それで魔獣を狩ろうとするなら、物量に物を言わせるしかないんや。魔法少女やから言うて、魔法に拘る必要は無いやろ」

 すずかは、そう言って空のマガジンを取り出す。

「……貴女が、暁美さんと行動を共にする理由って何かしら?」

 マミに聞かれ、すずかはこう答えた。

「単に儲かるからや。一つの縄張りでチマチマ活動するより、流浪の方が色々都合が良いんやで」

「家族は心配してるんじゃないんですか?」

 今度はなぎさからそう聞かれたが。

「おらんよ。元々居った施設自体も、飛び出しとるし。それでどうって訳でも無いで」

 すずかに即答されると、なぎさは気まずい事を聞いたと、顔付きが険しくなった。


「そない辛気臭い面すんなや。今更どうにかなるもんやないし、それを後悔した所で何も変わらんやろ」

 淡々とした様子で、空のマガジンに弾丸を詰めて行く。

「……貴女と暁美さんが行動を共にする理由が、何となく解ったわ」

 マミは、そう言葉を漏らした。

「絶望っちゅうのは、望みが有ってから初めて絶たれるんや。
 ハナッから望みが無いんなら、絶望さえも無いねん。それが、あたしの中の結論や」

 すずかは、独特の考えの持ち主だった。真面な人生を歩んでいないが故の、達観した観点を持ち合わせる。

「……だから、ああいう殺し屋連中も相手に出来るのね」

 さやかは、呆れながらも、ちょっと感心した。

「そーやで。
 喰うか喰われる。どっちかしか無いんやったら、どっちを選ぶか……そういう事や」

 拳銃を整備するすずかは、目を細めていた。


 部屋を出たほむらは、マンションの屋上へ向かった。
 ビルの立ち並ぶ、見滝原のオフィス街をジッと見下ろす。煌びやかなネオンとは対照的に、ほむらの心はどんよりと曇っている。

(……聖カンナ。彼女の欲するのは、私と繋がる先の力……。
 穢れを吸ったグリーフシードを大量に用意する。大多数の魔獣で、私達を襲撃するにしても、リスクは高すぎる。

 他人の魔法をコピーする能力を持っているようだけど。洗脳の魔法をコピーしても、大量の魔獣を全てコントロールするのは間違いなく不可能……。
 大した切れ者ね……敵ながら賞賛したいレベルだわ。ここまで手の内を隠し通すなんてね……)

 打開策が見つからず、ほむらは大きく溜息を吐き出した。


 一人たたずむほむらの元に、杏子が現れた。

「……黄昏てるのか?」

 杏子は、そう声をかける。

「そんなカッコイイ物じゃ無いわ。貴女は何の用なの?」

 ほむらは、振り返りながら杏子に聞き返す。


「一個だけ聞かせてくれ。お前、今は普通の魔法しか使って無いんだろ?
 だったら……“あれ”が使えるのか?」

 杏子の目付きは、真剣になっていた。

「……やっぱり、貴女も発見していたのね。
 究極の基礎魔法……。身体能力を極限まで跳ね上げる秘密技……」

 ほむらはそう言った。

「魔法少女は、魔力で痛みを消せる……痛覚を麻痺させてな。

 その理屈なら、その逆も出来る訳だ……。魔力で限界まで五感を研ぎ澄ませる。
 魔法少女だったら誰でも出来る。ただし、誰もやりたがらない裏技……」

 杏子の言葉に、ほむらはニヤリと笑みを浮かべた。

「例えて言えば、アスリートが極限まで集中した状態。ゾーンと言われる現象を魔力で作り出す代物よね……」

 ほむらは笑みを作って追従するが、杏子の面持ちは厳しいまま。


「……ただ、魔力で感覚を研ぎ澄ますのは、普通に集中してるとは訳が違う。
 感覚を限界まで研ぎ澄ますって事は、動体視力や反射神経、聴力なんかも桁違いに上がる。そうでなきゃ隙を突いて一撃で仕留めたり、確実にソウルジェムを砕く様な事は出来ねーだろ。

 その変わり……痛覚も普段よりも格段に強くなる。指先の小さな切り傷が、骨折してるかと思う位の痛みに変わる……」

「……解ってるじゃない。わざわざ、知っている事を話に来たのかしら?」

 ほむらは、そう言い放つが、杏子は言葉を続けた。

「そんな状態で戦って、骨でも折れて見ろ。ショックで気絶するレベルの痛みが、体を襲うんだ。
 お前、そんな状態で戦ってるんだろ?」

「何が言いたいのかしら?」

 杏子は意を決して、ほむらに問いただす。

「……アタシにも出来るのか?」

「……」

 ほむらは、何も答えない。


「正直な気持ちだ……。アタシの今の戦い方は、もう限界なんだよ。固有魔法使えないハンデを、戦い方でカバーしてきた。
 だけど、今じゃさやかの方が全然強いし、このままだとなぎさやゆまに抜かれるのも、時間の問題だ。
 魔法が封印されてるのは、自業自得だから仕方ないとしても……」

「貴女は、周りに置いて行かれるのが嫌なの? それとも、チームの足手まといになるのが嫌なの?」

 杏子の言葉を遮る様に、ほむらはそう聞いた。

「…………」

 杏子は、何も答えられない。

「元々考えてたのかしら? それとも、特に例の覆面の魔法少女と戦ったからかしら?
 貴女があそこまで追い込まれた事を、私は見た事が無いもの」

 杏子の反応は無いが、ほむらは言葉を続ける。



「例えば、何かを護る事って、そんなに綺麗な物でも無いわよ。
 言い換えれば、護るべき物さえ無事だったら、後はどうなろうと構わない。悪魔の方の私も言ってたでしょ。

 結局、何事も考え方一つなのよ。
 固有魔法も基礎魔法も、使い方一つで状況は変わるわ。局面に応じて、使い所を見極めるだけ。
 その上で、私は相手を仕留める為なら、どんな手段も択ばない。相手の弱点だけを徹底的に攻めるなり、不意打ち闇討ちを使うなりね。これも、一つの答えよ」

 ほむらは、そう言って再びネオンの明かりを見つめた。

「そうか……」

 そう言って、杏子は屋上から立ち去って行った。


 杏子と入れ違う形で、今度はあすみがやって来た。

「……ほむらさん」

 声をかけられ、あすみに視線を合わせる。

「今度は、あすみなのね。
 そう言えば、貴女は一度見滝原に行きたいって言ってたわね……」

 ほむらに言われ、あすみは首を縦に動かした。

「……この街に昔住んでいたんです。お母さんと二人で。
 だけど……お母さんは、病気で死んじゃった。

 その後は親戚に引き取られた……。でも、おじさんもおばさんも、何時も私にきつく当たってきた……。
 何もかもが嫌だった……学校に行く事も、家に帰る事も。
 そんな時、私はキュゥべぇと契約したの……私の知る全ての人物の不幸を望んで……」

「そう……」

 ほむらはあすみの独白に、何かを感じた。



 そして、ほむらはこう言葉を添えた。

「貴女を最初に連れてきた時、私はあすみに言ったわよね。同じ匂いがした、と。
 その意味を貴女は理解していない様だけど、その答えの一つは……例え何があっても生き残る。そういう執念を感じたからよ」

「……執念ですか」

 あすみは、今一つピンと来ていない。

「私にはやる事が多いの。だから、簡単にくたばる気は無いわ」

 ほむらは、そう言い切った。

「……やる事ですか」

「そうよ。私には目的が有る。すずかも、何かの目的が有るから、私と行動を共にする。良くも悪くも、私達の関係はその程度なのよ」

 あすみは、ほむらに聞き返した。

「……ほむらさんの目的って何ですか?」

「……この世界を壊す事よ」

 一切の躊躇を見せないで、ほむらはそう言い切った。


 あすみは壮大過ぎる内容に、返事を返す事も出来ない。

「最初から、こんな世界なければ良かった。そう思った事は有るんじゃない?」

 その一言に、あすみは頷いた。

「……もし、この世界が無くなった時。そこに有るのは……何なのかしらね」

 ほむらは、何処か遠くを見つめながらそう言った。

 あすみも釣られて、空を見上げる。雲一つ無い漆黒の空に、星も月も見えない。

(この騒動が片付いたら……お母さんのお墓参りに行こう)

 そう決めた。
 過去に決別する為に。


 そんな時だ。
 ほむらの鼻に、嫌な類の匂いが付く。

「……魔獣の気配ね」

 暗い闇に紛れ、濃くどす黒い瘴気が漂い始めた。

「これ……普通じゃないよ」

 あすみでも、はっきりと解った。ソウルジェムの反応を見るまでも無い程、大量の魔獣が沸き始めていた。

≪……姐さん、魔獣が出てますわ。しかも……これは相当な数になりまっせ……≫

 すずかから、ほむらに向けてテレパシーが飛ぶ。

≪……解ってるわ。そっちの皆は?≫

≪何時でも出れますわ≫

≪オッケー……どうやら、切り札を持ち出してきたようね≫

 ほむらの予想道理、ヒュアデスは見滝原に攻め入って来た。


 見滝原展望台のふもとに、わらわらと魔獣が無数に沸いている。その中心に、ヒュアデスの面々は勢揃いしていた。
 五人の魔法少女は、今か今かと待ち受ける。

「……来たか」

 ユウリは、ボソリとそう言った。


「魔獣まで使って、私達を仕留めるつもりかしら?」

 先陣を切っていきり立つほむら。
 後ろに立つ皆も、武器を構え何時でも攻撃を仕掛けられる体制を作る。

 カンナは、ニヤニヤと笑みを見せながら、何を思ったか。

「かわした約束忘れないよ~……目を閉じ確かめる~……押し寄せた闇振り払って進むよ~」

 音程の外れた歌を歌った。

「バカにしやがって……」

 杏子は、一歩前に足を踏み出す。

「この歌……コネクト?」

 さやかは、その歌の題名をふと思い出したように呟いた。



「いでよ……百獣の王」

 カンナの言葉と同時に、数え切れない程居た魔獣が、ペタリペタリとくっ付き始めた。

「なにこれ……?」

 あすみは、次々と重なり合っていく魔獣を呆然と見つめていた。

 地鳴りと共に魔獣は変異し、巨大化していく。
 そびえ立つタワーと併設する様に、特大の魔獣が作られた。

「百体の魔獣の王……座布団一枚くらいは貰えるだろう?」

 カンナは笑みを見せながら言い放った。
 魔獣の集合体で作り上げた、強大な魔獣。これこそが、ヒュアデスの切り札だ。

「何なの……これは」

 マミは見た事も無い巨大な魔獣に、我が目を疑う。

「穢れを吸った、大量のグリーフシードを用意しとったのは、この為やったのか……」

 すずかは、ヒュアデスの狙いをここで初めて理解した。


「……こ、こんなのおかしいです」

 なぎさは戦々恐々し、足がすくみそうな気持ちに駆られる。

「あんなおっきな魔獣……どうしよう」

 ゆまも、その桁外れのサイズを目にし、逃げ出したいくらいの気分だ。

「反則だろあれは……」

 沙々は、青ざめた顔で毒づいた。

「……さやか。コネクトってどういう意味だったかしら?」

 ほむらは、突然そう聞いた。

「……へ?」

 さやかは、唐突に聞かれても、即座には答えられない。

「コネクトって“繋がる”って意味で良かったわよね?」

 ほむらは、間髪入れずそう言った。

「知ってるなら、一々聞かないでよ……」

 さやかは、ムスッとしつつそう返す。

「……」

 しかし、ほむらの鋭い視線の先は、既に巨大な魔獣しか見ていなかった。



――オオオオオ!!


 魔獣は遠吠えを上げ、その体から幾つ物触手を生えさせる。しかも、その一本一本は、胴体位の太さが有る。
 そして、鉄柱の如き触手は魔法少女達に向けられ、振り落とされた。

「避けろ!!」

 杏子は、可能な限り大声で叫んだ。
 同時に、ズトン、と触手が振り落とされると、コンクリートの地面は簡単に削り取られる。

 しかし、触手は一本だけでは無い。
 一つが落ちると、続け様に何十本もの触手が地面へと撃ち下ろされた。

「……ヤバい!!」

 反射的に、さやかの口から言葉が飛び出た。
 皆、避ける事で精一杯。太い上に素早く動く触手よって、固まっていた体制は、あっという間に分断されてしまう。
 想像を遥かに超える怪物は、正真正銘の切り札だった。


 ほむらは黙って瞬時に、戦況を把握する。

(……参ったわね。ワルプルギスの夜以来だわ……こんなデカブツを相手にするのは……)

 辺りは触手で仕切られ、牢屋を形成していた。

 ほむらの後ろに控えるのは、ゆま、なぎさ、沙々、すずか。

(おまけに、巴マミ、佐倉杏子、美樹さやかは分断された……。
 あの三人の戦力を割くということは……あっちの幹部と一対一で仕留める狙いかしら……。あすみは、その戦術に見事に巻き込まれたようね……)

 ほむらは、苦々しく表情を歪めた。


 暁美ほむらの魔法少女としての最大の武器。それは、固有魔法や単なる精神力ばかりでは無い。また、基礎魔法の使い方が、非常に上手いだけでも無い。
 瞬間的に状況を把握できる、情報収集力の高さだ。相手の一手先を読む事は、戦闘に置いて非常に重要なファクターである。

 どれほど強力な魔法が有っても、使い方を誤れば何の意味も無くなる。
 無数の時間軸で生き残ってきた理由はそれであり、過去の時間軸で他の魔法少女が死んでしまったのもそれである。そして、固有魔法が無くなっているにも関わらず、生き残っている理由もそれなのだ。

(……あの魔獣を仕留めるのは、まず不可能……だけど)


 ほむらは、怒声混じりで叫んだ。

「……沙々!! あの魔獣を洗脳しなさい!!」

「で、出来る訳が……」

 狼狽える沙々だが、ほむらは強い口調で次々と指示を飛ばす。

「動きを止めるだけでも良いわ!! 残った三人で、あの魔獣を総攻撃すれば、進撃は止められる筈よ!!
 すずかは、これを使いなさい!!」
 ほむらは、盾の中から次々と銃火器を出していく。

 マシンガンや拳銃は勿論。ショットガンにグレネードランチャー。バズーカー砲にロケットランチャー。ハリウッド映画で使うような兵器を、次々と出していく。

「そんなもん、持ち歩い取ったんですか……」

 すずかは、呆然と銃火器の山を見つめた。

「良いから使いなさい!!
 作られた巨大な魔獣だったら、作った張本人を叩いた方が早いのよ!!」

 ほむらは、右手にハンドガンを掴み、左手にサバイバルナイフを握りしめる。

「三十分……いえ、十五分だけ持たせて……」

 そう言い放ち、ほむらは僅かに開いた隙間から、触手の牢獄を抜け出して行く。



「……もう、どうにでもなりやがれ!!」

 半ばやけくそで、沙々は魔力を一気に放出。
 強大な魔獣に視線を向けて、洗脳を試みた。

――オオオオ……。

 魔法がかかり出すと、魔獣の遠吠えが僅かに小さくなった。

(……止まれ!! 止まれ!! 止まれぇぇぇぇ!!)

 全力で洗脳魔法をかける。全部の魔力と集中力を、特大魔獣に向ける。

 そして、魔獣の遠吠えは止み、動き回っていた触手は、ピタリと停止した。

「……ホンマに止まったで」

 すずかは、驚いた面持ちだった。正直、止められるとは思っていなかったのだろう。

「早くして……そんなに持たない……」

 沙々は、かすれた声でそう言った。

 洗脳の魔法の最大の武器は、生き物であれば何でもコントロールできる幅の広さだ。動物や人間、魔獣ですら使途出来る順応性は、使い方一つで戦況を変えられる。
 ただ、強大な魔獣を相手すれば、魔力の消費は限りなく早い。

 戦闘の一番の鍵は、沙々の魔法次第となる。


「私達も、やりますよ!!」

 なぎさは、大きく息を吸い込み、ラッパからシャボン玉を生み出す。
 小さなシャボン玉が、ふわふわと魔獣の胴体に近づいていく。

「あのシャボン玉を撃つのです!!」

 なぎさはすずか向け、声を張り上げた。

「……なんでやねん」

「いいから撃つのです!!」

 訳の分からない指示にすずかは呆れつつも、なぎさの言う通りにショットガンをぶっ放した。
 ドン、と拡散した弾丸が広範囲のシャボン玉を撃ち抜いた。

 その瞬間、小さく無数の飛ぶシャボン玉が一斉に爆ぜる。小さな連続爆破で、魔獣の胴体を攻撃。

「まだまだです!!」

 今度は、さっきより数は少ないが、サイズは大きめのシャボン玉を生み出す。
 ふわふわと漂いながら、複数のシャボン玉は魔獣の胴体に張り付く。

「ゆまちゃん!! インパクトボムです!!」

「任せて!!」

 今度は、ゆまがハンマーで地面を叩き、衝撃波を作り出す。
 あやせには通じなかった技だが、今度の相手は馬鹿でかい魔獣である。
 動きを止める魔獣の胴体は、ドン、爆炎に包み込まれる。



「ファンシーな割に、ごっつい物騒やな……」

 すずかは、ポツリと言葉を漏らした。

 しかし、すずかも黙っている暇も無い。
 今度は、バズーカーを担いで、魔獣の胴体を狙いすました。

「一回、撃ってみたかったんや」

 ニヤリと笑みを作りながら、トリガーを引く。
 バン、と音が響くと同時に、辺りには火薬の焼ける匂いが充満する。
 煙の上る中に砲弾は吸い込まれていき、再びドン、と新しい硝煙が立ち上る。

(命中やな……しゃーけど、そこまで持つか?)

 すずかの最大の懸念は、沙々だ。チラリと、沙々の方に目を向けた。

「……」

 無言で洗脳魔法をかけ続ける沙々だが、顔には既に大量の汗を掻いていた。

(……火力は申し分無い。ただ、それ以上にあのデカブツは頑丈やで……)

 すずかも、この巨大魔獣を短時間で倒す事は、不可能と解っている。

(時間稼ぎって事やな。……姐さん、頼んますよ)

 すずかはバズーカーを捨て、再びショットガンを拾い上げ、グリップを握りしめた。


 分断されたマミ、杏子、さやか、あすみは、個々で牢獄に入れられた格好になっていた。

 そして、そこに立ちはだかる看守も一人づつ。
 一人一殺。強大な魔獣で戦力を分散し、尚且つ強力な魔法少女を個々にぶつける。確実に潰す為の、えげつない戦術だ。
 ヒュアデスは、全身全霊で彼女達を潰しにかかる。


 マミと対峙するのは、美国織莉子。

「……随分と汚い手を使うのね」

 マミの瞳は、睨む様に織莉子を見ていた。

「名の知れた魔法少女も、結構お馬鹿さんですね……。これは、戦争なんですよ?
 綺麗事等、必要無いのですよ」

 織莉子は、気にも留めない。

「……一つだけ言わせて聞かせなさい。何故、私達の縄張りを狙っているのかしら?」

 そう問いただすマミ。


「世界を救う為ですよ」

「……意味が解らないわ」

 織莉子の回答に、マミはそう言葉を返した。

「暁美ほむら……あの女だけは殺さなければ始末しなければならない。
 あの女は危険すぎるのよ」

 織莉子の口から飛び出た、ほむらの名前。

「……暁美さんは確かに危険な思想の持ち主かもしれないわ。だからと言って、殺して良い理屈に繋がるのかしら?
 それに、彼女は一度見滝原を去っていたのよ?」

「説明した所で、無駄でしょうけどね……。
 まずは、貴女からです!!」

 織莉子の周囲に、多数の水晶玉が浮遊する。

「前回と同じだと思わない事ね……」

 マミも、スカートの中から、何本ものマスケット銃を召喚した。



 杏子と睨み合うのは、呉キリカ。

「……君は、愛を知っているかい?」

 キリカは、ニヤニヤと笑みを見せながら、言葉を投げた。

「あのな……アタシは演説を聞きに来てるんじゃねーぞ?」

 杏子はため息交じりに言葉を返す。

「愛情……友愛……親愛……愛護……愛の形は様々さ。
 私には、愛するべき人が居る。その為なら、この命など安い物さ……」

 キリカの表情は笑っていた。ただ、その濁った瞳には狂気が宿っている。

(……コイツ、マジでイカれてんな)

 杏子は内心呆れつつ、槍を構えて迎撃の姿勢を作る。

「愛は無限に有限……。
 君を殺すのも、有限の中の一つに過ぎないのさ」

 キリカの両手から、大きな鉤爪が生える。左右六本の爪を杏子に向けた。

「死んでくれたまえ……」

「死ねって言う奴が死ぬんだよ!!」

 低次元な罵りで、杏子は言葉を投げ返す。死ぬ気も殺される気も、毛頭無い。

 互い、同時に、地面を蹴りつけた。



 さやかと対峙するのは、双樹あやせ。

「あんた、なぎさとゆまちゃんをコテンパンにしたんだよね?
 弱い者いじめする様な魔法少女は、痛い目にあって反省してもらうよ」

 サーベルを握りしめる、さやかの鼻息は荒い。

「うふふ……何を寝ぼけてるの?
 弱い者は強い者に喰われる運命……弱肉強食って言葉を知らないの?」

 あやせも、ブレードを握りしめ、臨戦態勢は整っていた。

「……あのバカも大概外道だけど、あんたも大した外道だよ!!」

 吐き捨てる様に答えて、さやかは我先に地面を蹴った。
 一気に間合いを詰めて、サーベルを振り落とす。

 ガキン、と金属同士がぶつかり、鈍い音を奏でる。

「……」

 つばぜり合いの中、あやせはこう答える。

「……貴女、好きくない」

「あたしも、あんたが嫌いだね……」

 さやかも、同系の言葉で返す。

 同時にバックステップで、間合いを広げた。
 そして、双方同時に、特攻を仕掛けた。


 あすみと対峙するのは、飛鳥ユウリ。

「……私の相手は、あの下衆のオマケか」

 ユウリは、物理的にも立場的にも、あすみを見下していた。

「うぜぇな、お前……」

 あすみは嫌悪感を露わにして、ユウリを見る。

「ま、いいさ……。さっさと片付けて、次の連中を血祭りに上げるだけ」

 ユウリはハンドガンの銃口を、あすみに向ける。

(……多分、正面から戦っても勝ち目は無い)

 あすみは、経験値が違う事を本能で感じ取っていた。
 だからと言って、簡単に引き下がる事も出来ない。

(……チャンスは一度っきり)

 ユウリを睨みつける。ただ、モーニングスターの柄を握りしめる掌は、ジトッと汗を掻いていた。


 牢獄を抜け出し、ほむらは触手の上に立つ。
 魔獣の足元に立つのは、聖カンナ。

「やはり来たか……」

 カンナは、ニヤリとほくそ笑んだ。

「……私が狙いだそうね。和紗ミチルから聞いたわ」

 ほむらの表情に笑みは無い。鋭い目付きで、カンナから目を背けない。

「正確には……君の持っている“神の力”さ。
 この世界を制する事の出来る、唯一無二の力。是非とも手に入れたいね……」

「貴女は、円環の理に満足いかなかったのかしら?
 それとも、記憶を持ち合わせていた反動で、野心が生まれたのかしらね?」

「……それを話す義理はない」

「簡単に手に入れられると思ったら、大間違いよ」

 ほむらは、拳銃では無く、あえてナイフを構えた。

「今夜はナイトパーティー……無礼講だ!!」

 カンナは、右手のステッキを振りかざした。


 同時刻、あすなろ市。

「……来たね」

 ミチルは、自室の窓から外を見つめる。その方角は、直線距離で約二十キロ先の見滝原市。

「……」

 ミチルは、無言で変身。窓から、身を乗り出そうとする。


 同じタイミングで、ドアが開いた。

「……見滝原に向かうんだろ?」

 サキは、そう声をかけた。

「水臭いぞ。一人で向かわせる訳が無いって」

 カオルは、笑みを作っている。

「そうだよ。カッコ良い所は、独り占めはさせないぞ」

 みらいは、何をしようといたか察していた。

「魔獣。しかも、とても強力なのが現れてるんでしょ? 私達にも解るのよ」

 里美は、抱いていた黒猫を、床にそっと下ろした。

「私達はチーム。勝手は許されないわ……それが貴女でもね」

 海香は、眼鏡をクイッと持ち上げた。

「ここで行かなきゃ、魔法少女じゃ無い。そう思うのは君だけじゃないのさ、ミチル」

 ニコは、右手に持っていたスマートフォンを、ポケットに突っ込んだ。


 回復系統の固有魔法を持つ魔法少女は、プレイアデス聖団に居ない。あくまで補助や基本レベルの治癒しか出来ず、面々の怪我は完全には治っていない。

 それでも、チームとして。正義の魔法少女として。
 プレイアデス聖団は、立ち上がった。

「……やっぱり、皆と仲間で良かったよ。行こう!!」

 ミチルの一言に、全員は頷いた。

 留守番を黒猫のトトに任せ、プレイアデス聖団は出撃した。


本日はここまで。

次回は、タイマン+α。


続き投下します。

関東の雪に思いっきり巻き込まれ、帰れなかったです、はい。


11.メザメタココロハハシリダシタ

 見滝原展望台で激闘が始まりを告げたのと、同じ時刻の鹿目家。

 まどかは、宿題を片付ければ、後は寝るだけだ。パジャマ姿で眠い目を擦りながら、勉強机に広げたノートに向けて、シャーペンを走らせる。
 ただいま、世界史の宿題に頭を抱えている。

「……えっと。フランス革命の時……少女で有りながら、兵士として戦った少女……。
 これは…………うっ!?」

 その問題を読んでいると、再び原因不明の頭痛が走る。

「……ジャンヌ・ダルク……違う。
 タルト……」

 自然と、口から飛び出した。
 普段だったら、すぐに収まる頭痛は、今日に限って全く収まらない。

(……なんなの!?)

 激しく走る頭痛。まどかの視界が、グニャリと歪んだ。


 ポトリ、とベッドの上に並ぶぬいぐるみが床に落ちた。
 落っこちたぬいぐるみの方向に目を向ける。

 そこには、真っ白で狸と猫を狐を混ぜて三に割った様な、珍妙な生き物がそこに居た。

「……キュゥ……べぇ」

 まどかは、何故かそう口走った。

「君は……何者なんだい?
 素質は全く感じないのに……何故僕を見る事が出来るんだ?」

 珍妙な生き物から、そんな声が聞こえた。


 ドクン。


 心臓が跳ね上がるかと思う程、まどかの鼓動は高鳴った。
 頭がい骨を万力で挟まれる様に、どんどん酷くなる頭痛。同時に、脳裏を駆け巡る見た事の無い場所、聞いた事の無い声。

「わ……私は。
 私は…………」

 まどかの中で、ピン、と何かが外れた。


(……ほむらちゃん)


 その瞬間、頭痛は嘘のように収まった。


 まどかの表情は、眠そうだった表情が嘘の様に、凛々しく引き締まっていた。

「……思い出したよ」

 そう呟き、まどかはクローゼットに入っている、真っ赤なリボンを引っ張り出す。
 そのまま、キュゥべぇを真っ直ぐに見つめた。

「キュゥべぇが感じていた因果は、これなんじゃないかな?」

 まどかの手に握りしめられた真っ赤なリボンを、キュゥべぇは凝視する。

「……有り得ないよ。そんな無機物に……何故これ程の因果が絡みついているんだ……?
 訳が解らないよ……」

 ぼやくキュゥべぇを余所に、まどかはパジャマの上にコートを羽織った。

「……ねぇキュゥべぇ。案内してよ。
 皆……戦ってるんでしょ?」

 見透かしたように、まどかは伝えた。

「確かに、彼女達は今戦ってるよ。
 だけど……只の人間が何をしに行くんだい?」

 キュゥべぇに聞かれると、まどかは真剣な表情で告げた。

「……持ち主の所に返さないといけないの」

 そう言い切った。


 リビングに降りると、知久お手製のつまみを肴に、洋酒を飲む詢子の姿が見えた。
 キッチンで食器を洗う知久は、まどかの姿に気が付いた。

「まどか? こんな時間に出かけるのかい?」

 引き止める様に、知久はそう声をかける。

「何処に行こうってんだい。ここは日本だからって、こんな時間から出歩けるほど治安は良くないよ」

 詢子は、まどかの進路を塞ぐ様に、立ちはだかった。

「…………」

 まどかは言葉を発する事無く、詢子をジッと見つめた。

「言えねーのか……」

「……友達を助ける為に、私は行かないといけないの
 私じゃ無いとダメなの」

 まどかは、真剣な目つきで訴えた。
 バシン、と詢子はまどかの横っ面を叩いた。

「何時からそんな不良になっちまったんだ?
 そういう勝手やらかして、周りがどれだけ心配するか解ってんのか?
 テメェ独りの……」

「解ってる!!」

「……っ!?」

 詢子の言葉を遮る様に、まどかは強い言葉をだした。


「自分を粗末にしちゃいけない事も、どれだけママやパパが大切にして貰っているかも良く解ってる。
 だから、違うの。
 私も皆が大切で絶対に護らなきゃいけないから……私にしか出来ない事をやらなくちゃいけないの……」

「…………」

「ママは私が良い子に育ったって言ってくれたよね?
 今でもそう信じてくれる?
 私を正しいと思ってくれる?」

 透き通る様に。それで居て、真っ直ぐな芯の通った言葉だった。

「絶対に下手打ったりしねえな?
 ……誰かの嘘に踊らされてねぇな?」

「うん」

 詢子は、真っ直ぐにまどかを見つめた。
 そして、トン、と肩を押した。

「……行ってこい。不良娘」


 その光景を見つめ、知久は外に向かうまどかに向けて、こう聞いた。

「まどか……。明日の朝御飯は、何が食べたい?」

「……パパのココアが飲みたい」

 急いでスニーカーに足を突っ込みながら、まどかはそう答えた。

「解った。準備しておくよ」

 知久は、まどかにそう言った。

「大丈夫……今度は絶対に帰ってくるから!!」

 そして、まどかは玄関から飛び出して行った。


「……まどか。お前、何時からそんなに強くなったんだ?」

 詢子は呟くと同時に、ふぅと溜息を吐き出した。

「血は争えないね。詢子さんの若い時とそっくりだよ」

 知久は、妻の昔の姿と娘の姿を被らせていた。

「……何処が?」

「無鉄砲。だけど、信念は貫く。そんな所」

 知久の言葉に対し、詢子は自然と口先を尖らせていた。



 触手の牢獄に、銃声が響き渡る。
 激しく動いているにも関わらず、マミの放つ魔弾は正確に、織莉子へ向かっていく。
 ガキン、と水晶玉で撃ち落とされた。
 織莉子はその場を一歩たりとも動かず、確実に魔弾を弾き落としている。

「……っ」

 マミは、悔しさの余り奥歯を噛み締めた。
 数えるのが解らなくなる程、撃ち込んでいるにも関わらず、一発たりともかすらない。

「……フフフ。この程度ですか?」

 織莉子は、余裕が有るのか。口元はほくそ笑んでいる。

(……どうなってるのよ。一発も当たらない何て……丸で、こっちの手口が見透かされてるみたい)

 マミの心に、焦りが生まれていた。

「私も、攻撃をしない訳では有りませんよ!!」

 今度は織莉子が、浮遊する水晶玉を撃ち出す。
 三発の水晶玉がマミを狙い撃つ。

(……これ位なら、避けるのは簡単)

 軌道を見極め、マミは左へと回避。


「……!?」

 しかし、ドン、と体に水晶玉が撃ち込まれた。

(何故……? 遠隔操作している……?)

 マミは、耐え切れず片膝を地面に落とした。

 一方的な展開に、マミは追い詰められていく。

(……どうして、通じないの?)

 マミは良くも悪くも、メンタルのコンディションが戦闘に直結するタイプである。所謂ムラッ気と呼ばれるもの。
 ツボにハマれば手が付けられないほど強い反面、気が逸れば自滅したり、状況を悪化させたりする事にもなりうる。
 現状の精神状態は、極めて悪い。

 冷たい眼つきでマミを睨みつけながら、織莉子は言葉を発した。

「……近い未来。あの女は、この世界を滅ぼすでしょう。あの女の秘めた力は……とても強大です。
 そして、その力を狙う聖カンナも、もう一つの危険人物です。あの女達を葬る事で、世界は救われるのですよ。
 その邪魔をするのなら……貴女も葬り去る」

 織莉子は、水晶玉を再び召喚。


「……貴女は、大義名分の為なら、仲間さえ殺すのかしら?」

 マミは、真っ直ぐに織莉子を見つめた。

「仲間では有りません。単なる共闘ですよ。
 聖カンナと暁美ほむらがぶつかり合えば……どちらも無事では済まない。そうなった時こそが、最大のチャンス。
 漁夫の利という物ですよ」

 織莉子は口元をニヤリと歪めた。

「……」

 マミは何も答えない。
 ただ、無言でふら付く下半身に力を入れて、再び立ち上がった。

「……諦めが悪い様ですね」

 織莉子は、再度水晶玉を撃ち出し、マミの体を狙い撃つ。
 マミは右方向にステップを使い、回避を試みる。

「……!!」

 しかし、水晶玉は的確に命中した。

 ただ、マミは受け止めたまま倒れない。気合と根性を見せて、ここは踏ん張る。

(……目付きが変わったわね)

 織莉子は、何かを感じた。

 マミは、真っ直ぐに織莉子を見つめる。
 そのまま、召喚したマスケット銃を構え直す。

「……ちょっとおしゃべりが過ぎた様ね」

 そう呟いた。


 高速の剣技。牢屋の中に、金属のぶつかる音が響き続ける。

「……この!!」

 さやかのサーベルが、触手で出来た柱を抉った。

「うざいのよ!!」

 ギリギリで回避したあやせも、ブレードを振るってさやかに応戦。
 刃がさやかの胸部を斬り付けた。

「……っ!?」

 しかし、さやかは一歩たりとも引かない。

「大人しくしてな!!」

 流血も受けた傷も、関係無い。ダメージを受けたら、魔法で回復させるだけ。
 半ば狂戦士と化したさやかは、もう一度サーベルを振り落とし、あやせの体に一撃をお見舞いした。

「うぐっ……」

 あやせの動きが固まると同時に、更に追撃。

「アンタの負けだよ!!」

 渾身の一振りが、あやせを斬り付けた上に、後ろへ弾き飛ばす。
 ブレードを落とし、地面に転がりこむあやせを、さやかは睨み下ろす。

「……アンタじゃあたしに勝てないよ」

 さやかは、一歩づつあやせに歩み寄って行く。


 あやせとさやかには、固有魔法に決定的に違いが有る。
 回復魔法を持つさやかにとって、接近戦はもっとも有効な戦術と言える。何故なら、回避が出来ず傷を受けても、即座に回復出来るのだ。
 特に、今のさやかは完全にキレている。元々単純な一面は有るが、その面がある意味良い方向に動いたとも言えよう。
 魔力の消費は多くなるにせよ、短時間で蹴りを付ける為に、少々無理な戦法を使ったのだ。

「大人しく捕まって貰うよ」

 さやかの言葉に、あやせはピクリと反応を見せる。

「……これで勝ったと思うなよ」

 見上げるあやせの表情は一変して、般若の如き怒りの形相を作っていた。


「……お前はやっぱり好きくない。お前のソウルジェム何て、もういらない」

 あやせの左右それぞれの手には、しっかりとソウルジェムが握られていた。

(何のつもり?)

 さやかは、奇怪な行動に目を疑う。


 二つのソウルジェムは、紅白の光を生み出した。
 あやせの体が光に包まれる。

「私達の本気を見せてやる……!!」

 再び立ち上がったあやせだが、衣装は紅白のドレスに変貌を遂げ、右手にブレード、左手に刀剣を。左右の手で握りしめていた。

(……どうなってるのよ)

 さやかは、理解に苦しむが、あやせだった少女の体を見て、ある事に気が付いた。

(ソウルジェムが……二つ付いてる!?)

 その事実に気が付くと、思わず言葉を口走った。

「あんた……一つの体に二つの魂があるって事!?」

 さやかの言葉を聞くなり、あやせだった魔法少女はニヤリと笑った。

「その通り……。双樹……名は体を表すってね」

 双樹姉妹は、二本の剣を構えた。



―――
――


 少女は、幼い頃からとても恵まれていた。
 父はやり手の弁護士。母はデイトレーダー。自宅は高級マンションで、家の車はメルセデスベンツの最上級モデル。美味しい物は何時でも食べられた。欲しい物は何時だって手に入った。
 端から見れば、幸せで何不自由の無い生活を送る、悠々自適なお嬢様だった。

 本当にそうなのか?


 答えはノー。
 双樹あやせは、何時も孤独だった。

 学校に行ったとしても、周りに居るのは友達では無く、取り巻き。家での会話は、東大生の家庭教師か、雇われの家政婦。

 心を許せる人物は、何処にも居なかった。


 幾ら恵まれていても、本当に欲する物は手に入れられないジレンマが、あやせの心を絞めつけていった。

 何時からか、あやせは心の中にもう一人の自分を作り出していた。
 そのもう一人の人物の名は、ルカ。そう名乗った。

「何時でも、何時まででも、私達は一緒ですよ」

 ルカは、あやせにそう言った。



――
―――


「ピッチ・ジェネラーティ!!」

 双剣から撃ち出された光球は、渦を巻きながらさやかに向かって飛ぶ。

(……真っ直ぐ飛ぶだけなら、避ければ)

 さやかは、軌道から逃れる様に、左に回避をした。

「飛ぶだけだと思ったら……甘いんだよ!!」

 双樹姉妹の声が轟くと同時に、ドン、と爆発を起こした。
 広範囲の爆撃により、さやかは避けきれなかった。

「……何でこうも、魔“砲”少女ばっかりなんだよ……」

 文句をたれながらも、さやかは爆風で負った火傷を、即座に回復させる。

「まだまだだ!!」

 しかし、回復させる合間にも、双樹姉妹から光球が放たれる。

(ちっくしょ……飛び道具ばっかりつかいやがってさぁ!!)

 さやかの飛び道具は、精々サーベルをぶん投げる程度。爆発する光球が相手では、明らかに役不足だ。


 双樹姉妹は次々と光球を乱発させる。
 しかも、ピッチ・ジェネラーティは、広範囲を爆破する特徴がある。例え命中しなくとも、連続爆破で標的を攻撃すればいいのだ。

 さやかは、飛び交う光球を避け続ける。
 ただ、今のステージは、金網デスマッチさながらの牢獄内。

(……後ろに行けない!?)

 避け続けるには、ここは狭かった。

 ついに追い詰められた。

「砕け散れ!!」

 ここぞとばかり、双樹姉妹は必殺技を連射する。

 多数の光球が飛び交い、数回の連続爆破。さやかの体は、爆炎に包まれた。

「……これなら木っ端微塵だろう」

 双樹姉妹は、ほくそ笑む。
 立ち込める煙が、ゆらゆらと揺れながら、徐々に薄まっていく。

 煙の中から、人影がくっきりと現れる。

「……なんだと!?」

 そこには、美樹さやかが立ちはだかっていた。

「…………」

 さやかは、何も言葉を言わない。

 無言で双樹姉妹と視線を交錯させると、薄気味悪く微笑んでいた。


 双方の攻撃が飛び交う。杏子もキリカも、接近戦を得意とする魔法少女だ。

「……んのやろ!!」

 槍で一撃撃ち込む。
 しかし、キリカは止まらない。鉤爪を振るって、杏子の体を斬り付ける。


 ほぼ、相撃ち。しかし、だ。

「フフフ……やるねぇ」

 血染めのキリカは、笑っている。痛覚を遮断しているのか。それとも、単に麻痺してるのか。

(……イカれてんな)

 杏子は、自然と舌打ちをしていた。

(おまけに、こいつのスピードと手数は桁違いだわ……)

 キリカの素早さに翻弄され、杏子は隙を突いて攻撃するしか手立てが無い。
 杏子は、明らかに劣性だった。

 口元の流血をなめずり、キリカは杏子に言い放った。

「ここで君に死んでもらうのは、織莉子の意向だからね……。
 遊びは終りさ……」

 キリカはまだ本気では無かったのだ。

(これで遊びとかふざけんなっての……。こっちはハナっから本気だっつーの……)

 杏子の表情に、余裕はもう無い。


 キリカは、己の魔法を解き放つ。
 地面を蹴り、一気に間合いを詰める。

「……!?」

 その初速は、杏子の予想を遥かに上回る速度だった。

 ガキン、と槍で左手の爪だけは辛うじて防御出来たが。

「……こっちがお留守だよ!!」

 キリカの右手の爪は、杏子の腹部を思い切り抉った。

「……ッ~!!」

 三本の爪痕から、鮮血が飛び散る。
 声を上げれない程の痛みが、頭の天辺からつま先まで走った。

 杏子の動きが止まり、自然と隙が出来る。

「……終りだ!!」

 キリカは渾身の蹴りで、杏子の体を弾き飛ばした。
 杏子の体は、糸の切れたマリオネットの様に、地面に倒れ込んでしまう。

「弱いね……。少しは出来る様だけど、君では私に勝てないよ」

 キリカは、倒れ込んだ杏子を見下ろす。
 そして、弱いと。キリカは言い切った。


「……抜かしやがれ」

 杏子は、僅かに反応を見せた。
 ゆっくりと動き出す。
 力の入らない足を、根性で動かす。槍を杖代わりにし、気合で立ち上がった。

「ほー……」

 キリカは杏子の挙動を、品定めする様に見つめる。

「凄い根性だね。だけど、君はもう虫の息だろう?」

「うっせーな……」

 杏子はかすれた声で答えた。


 再度、槍を構えた。

(もう手は出尽くしてるんだ……考え方を変えろ。槍と爪……。アイツは防御と回避が下手くそ……。
 一か八かだ……)

 構えた槍を、大型の槍に変化させる。馬鹿でかい刃と、電柱並みに太く長い柄。
 ガス欠寸前の魔力を絞り出し、杏子は一撃必殺に賭ける。

「だったら、私も全力で斬らせてもらおう」

 キリカの構える鉤爪が、片側五本に増加。左右十本。手数は今までの倍近い。

「一手で……十手」

 更に、キリカは固有魔法を、杏子へ向ける。

 睨み合う両雄。瞬きの暇さえも無い。
 コンマ一秒の隙が、生死を決める。


 飛び交う魔弾を、あすみはギリギリで避ける。

「意外とやるね、チビ助。流石は、ゴキブリ女の弟子か」

 ネズミを見下す猫の様に、ユウリは嘲笑う。

「……うぜぇんだよ!!」

 心の底から湧き出る嫌悪感は、あすみの言葉となって飛び出てくる。
 しかし、焦る気持ちと裏腹に、モーニングスターの鉄球は地面しか捕えない。

「そんなトロい武器で仕留めれると思う?」

 余裕を垣間見せ、ユウリは再びハンドガンのトリガーを引く。

「……っ!!」

 バン、と魔弾があすみの肩口を撃ち抜いた。

 一発喰らってしまい、あすみは膝を地面に落とす。

「……くたばりな!!」

 ユウリは、ここぞとばかりにあすみを狙う。
 お互いの視線が重なり合った。

(……今しかない!!)

 あすみは、持てる魔力をフルに引き出して、ユウリを睨みつけた。


―――

 ユウリの視界は、闇一色に染まる。暗い影の中で、あすみが直立不動で立ちはだかっている事だけは見えた。

「……な、なんだ!?」

 ユウリは、手足を動かそうとするが、意に反して動こうとしない。

「……お前の精神を乗っ取らせて貰ったよ」

 あすみは、ニヤリと笑った。

「なんだと……?」

 あすみの固有魔法である精神汚染。
 沙々の洗脳魔法と良く似た性質の魔法だが、その特性はほぼ真逆である。
 精神汚染は、複数の相手に向けてかける事は出来ない。反面、かかった人間には強い効果を発揮する。
 今、ユウリにかけた魔法は、精神汚染の最上級の技。

 自分自身が、相手の精神内に潜り込み、そのまま心を破壊する。俗に邪眼と言われる、悪夢を見せる必殺技だ。

「動けない間……コイツでボコボコにされる。お前はどこまで、耐えられるのかな?」

 いやらしい笑みを作り、あすみはユウリを見つめる。


「……!! ……!! ……!?」

 ユウリは反論する様に、口をパクパクと動かす。だが、肝心の声は出てこない。
 精神を乗っ取られては、ユウリはあすみのおもちゃ同然だった。

「……良い夢見せたげるよ!!」

 標的に向けて、あすみはモーニングスターの鉄球を顔面にぶち込んだ。

 グシャリ、と潰れる音が響く。
 一発では終わらせない。
 何度も何度も、鉄球をユウリの体に撃ち下ろす。肉の潰れる音と、骨の砕ける音だけが空間に響き渡る。
 声の出せないユウリは、悲鳴も出す事が出来ない。

 血液と体液で、鉄球は染まっていた。人だった物を、タンパク質とカルシウムと鉄分の残骸に変えていく。

 返り血を浴び、衣装は鮮血で、赤い水玉模様に変わっている。

「アハハ……アハハハハ……」

 あすみは、無意識の間に笑い声を挙げていた。

「サヨナラ勝ちだよ……」

 渾身の一振りで、モーニングスターを柄を振り抜いた。

―――


「……これなら動けない筈」

 ユウリの精神内から、あすみは離脱した。
 すぐさまユウリの顔を睨みつけ、モーニングスターの柄を強く握りしめた。
 先に精神を破壊し、今度は体を粉砕するつもりだが。

「アホが……」

 バン、と銃声が鳴り響く。

 ユウリのハンドガンから放たれた魔弾は、あすみの体を撃ち抜いていた。

「な……何で?」

 あすみは目を見開き、見上げた。
 ハンドガンを向ける、ユウリがそこに立っていた。

「簡単に心が破壊できると思ったら、大間違いなんだよ……」

 ユウリの太腿から、多量の血が流れ出している。
 自ら足を撃ち抜いて、痛みで悪夢から正気を取り戻していたのだ。

「そ、そんな……」

 信じられないとばかりに、あすみの動きはフリーズした。

「ここで死ね……」

 ユウリは、ハンドガンのトリガーに掛ける人差し指に、力を込めた。

本日はここまで。
ユウリやあやせの回想は、自分の想像した物です。


来週も天気が悪いので、多分ペースは落ちます。

保守

保守

お久しぶりの投下です。

何故遅れたかと言うと……転勤でもうすぐ引っ越し。
私生活がドタバタしてるからです。

12.ノウアルタカハツメカクス


 プレイアデス星団の七人は、ビルからビルへ飛び移り、一直線に見滝原展望台へ突っ走る。

「見えたね……」

 先頭を走るカオルは、タワーの影を二本見つけた。ただし、片方のタワーは魔獣だ。

「何よあの魔獣は……」

 後ろに着く海香も影を見つける。特大サイズの魔獣に、思わず目を疑った。


 その中、殿を走っていたミチルは、路上をひた走る少女を見つけた。
 雑居ビルの屋上で急ブレーキ。ミチルが足を止めると、周りも合わせてストップした。

「どうしたの?」

 里美は、ミチルに思わず聞く。

「……皆、ゴメン。悪いけど、用事が出来たから、先に行ってて!!」

 ミチルは、そう言ってビルの屋上から地面に飛び降りた。


「何だよ……。あの大きな魔獣に怖がったとかじゃないよね?」

 みらいは憮然としつつ、口を尖らせた。

「ミチルに限って、それは無いと思うけど……」

 サキはそう言って宥めるが、ミチルの行動が今一つ腑に落ちない様だ。

「……ミチルを信じるだけさ。私達は、あの魔獣をどうにかする事だけ考えよう」

 ニコは、そう促した。

「……そうね。今は、それを優先しましょう」

 海香の言葉を皮切りに、六人は再度現場に急行した。


 ビルから飛び降りたミチルは、少女の前で華麗に着地する……予定だったが。

(げっ……思ったより高い!!)

 魔法少女と言っても、9階建てのビルから飛び降りるのは無理があった様だ。
 アスファルトに降り立ったは良いが、両足だけで衝撃を吸収しきれない。ミチルの体はつんのめりになり、顔面から地面にダイブした。

「いったぁ~……」

 ミチルは目に涙を溜めて、鼻はトナカイの様に真っ赤に腫れていた。


 目の前に突然飛び降りてきたミチルを見て、少女は驚きの余り思わず足を止める。

「……あの……大丈夫ですか?」

 恐る恐る少女は、ミチルにそう声を掛ける。

「……大丈夫だよ。ここで会うのは、初めてだね」

 そう言って、ミチルは起き上がる。少女は、ミチルを見つめなら、ニッコリとほほ笑んだ。

「久しぶりだね……ミチルちゃん」

 太陽の様に眩しい笑顔で、ミチルの名を呼んだ。

「今、あの現場に向かっているという事は……記憶を取り戻したんですね。
 ……お久しぶりです、まどか様」

 ミチルは、少女を崇める様に、深々と頭を下げる。


「違うよ……。
 今は、普通の中学生……鹿目まどかだよ。だから……普通にまどかって呼んで欲しいな」

 まどかは、そう言った。現状で、あまり崇められても、気分は良く無いらしい。

「じゃあ……まどか。そう呼ぶよ」

「うん……よろしくねミチルちゃん」

 円環の理から、現世へ。
 再会を祝すように、二人はガッチリと握手を交わした。

「ところで……ミチルちゃん。鼻血出てるよ?」

「……うげっ!?」

 慌てて手の甲で、鼻血を拭うミチル。これでは、感動の再開も形無しだ。

「大丈夫なの?」

 心配そうにまどかは見つめる。

「平気だよ……これからが本番なんだからさ。
 行こう、まどっち」

 ミチルは、力強く言い、右手を差し出した。

「……うん」

 まどかの表情は、キリッと引き締まった。そして、ミチルの差し出した手を取った。


 不安定な触手の足場を飛び越え、ほむらはカンナの元へ降り立つ。
 すぐさま、間合いを詰め、カンナの首元を目掛けてナイフを振るう。
 ガキン、と刃はステッキで防がれた。しかし、ほむらは簡単には怯まない。

 再度、ナイフでカンナの顔面を狙う。
 ブン、と切っ先は空気を切り裂いただけ。

(……コイツ)

 しかし、カンナはある事を感じた。
 それは、ほむらの思惑と一致していた。

 もう一度、ナイフとステッキがぶつかり合う。
 鍔迫り合いの中でにらみ合い、ほむらは口を動かした。

「接近戦は得意じゃないけど……今の貴女は動けないんでしょ?」

 ほむらは、カンナに向け得意気に言い放った。

「……大した洞察力だね。何時気が付いた?」

「あの下手くそな歌よ……。
 貴女の魔法は誰かと“繋がる”事で、魔法をコピーするのでしょう。だから、他の魔法少女の魔法を使う事が出来た……」

「……」


「今、この魔獣は繋ぎ合わせて作られている。
 つまり……繋ぐ魔法をかけ続けない限り、この魔獣はこの姿を持続しない。
 だったら、魔獣を倒すよりも貴女が魔法をかけれなくすれば良いだけの事!!」

 ほむらは、確信を持って告げた。

「簡単に出来ると思ってる?」
 カンナは、未だに余裕が有るのか、ニヤリとした。

 そして、ステッキを振るってほむらに応戦。

(……今よ!!)

 ブン、と空振りに終わる。

 この一瞬のタイミングで、ほむらは全魔力を体中に走らせる。
 神経、骨、筋肉。全ての細胞の感覚を、限界まで研ぎ澄ませる。杏子との会話に出ていた、最上級の身体強化魔法をここで使ったのだ。

 突然のスピードアップに、カンナの反応は追い付かない。

「……!?」

 ナイフの刃が、カンナの頬をかすめる。
 ほむらの攻撃は止まらない。ドン、とカンナを蹴りつけ、バランスを崩れさせる。


「これで止めよ!!」

 同時に、左手で拳銃を構え、武器をスイッチ。

 バン。

 放たれる銃弾は、カンナの額に付くソウルジェムだけを、的確に撃ち抜いた。
 パリン、と破片が飛び散る。

 しかしだ。

「……!?」

 魔獣は、その巨体のままの姿。
 そして、カンナも立ったまま、踏み止まっている。

(……罠か!?)

 ほむらが気が付いた時には、既に手遅れだった。

 ズドン、とカンナのステッキが、ほむらの腹部を突いた。

「……っ!!!!」

 右の肋骨がくしゃけると、ほむらの全身が硬直した。
 声すら上げられない痛みが、体中を貫く。限界まで研ぎ澄ませた感覚の代償が、ほむらを襲う。

「……残念だったね。
 これは、デコライン。簡単に弱点を見せびらかすと思うか?」

 カンナは、右手でほむらの首を掴み取った。

「……っ」

 ほむらは、奥歯を食いしばった。


「魔法少女の弱点を徹底的に狙う。それは戦闘としては最良の選択だが……最良の戦術とは限らない。狙いすぎだね……」

 カンナは得意気に言い放つ。

「……」

 ほむらは、動けない。しかも、抵抗する素振りさえも見せないで、ジッとカンナを睨んだ。

「この魔獣を操る限りは、離れたままコネクトは出来ない。だが、直接触れれば、コネクトは出来る……」

 首を絞めるカンナの右手は、魔力を溜めこんだ。

「チェックメイトだ……」

 コネクト。それは相手と接続する魔法。
 魔力の有る限り、あらゆる魔法をコピー出来る。封印された魔法さえも、心の奥底から引きずり出して我が物に出来る、最強の魔法の一つ。
 相手の特性も分析でき、その汎用性は恐ろしく高い。
 しいて難が有るとすれば、オリジナルの技が一切無い程度か。

 カンナ自慢の魔法を、ほむらに掛ける。ソウルジェムの中に隠れた力を、我が物にすべく。

 しかしだ……。



「……貴様ァ!!」

 接続した瞬間、カンナの形相は鬼の様に、悪意を見せていた。
 対照的に、ほむらはニヤリと微笑する。

「何故、お前の固有魔法は……何も無いんだ!!
 因果は何処へやった!! 神の力を奪ったんじゃないのか!! 時間停止の魔法はどうした!!
 どういう事だ!! 何処に隠したんだ!!」

 カンナは声を荒げて、ほむらを恫喝する。
 しかも、基本の魔法以外は使えないと言い切る。

「……さあね。
 釣り餌に引っ掛かるバカが悪いのよ……」

 ほむらは、舐めきった態度を見せて挑発する。

「テメェ……」

 カンナは怒りの余り、冷静さを欠いていた。

 その一瞬の隙を、ほむらは見逃す訳が無い。
 ガン、とカンナの頭部を、左手の盾で思いっきりぶん殴った。

「ぐぁっ……」

 カンナが僅かに怯んだ。
 ほむらは、続けてもう一度殴りつける。最高の強度を誇る防具は、最硬の鈍器となり得るのだ。

 カンナは、首を絞めていた右手を離してしまい、膝を地面に落とす。ほむらは、更にもう一発盾でぶん殴った。
 カンナの額から血が流れ落ちる。


「……このクソ女。楽には殺さんぞ……。
 悪魔らしく、無様な散り様にしてやる!!」

 カンナの怒りは、最高潮に達していた。

 ほむらはヨロヨロしながら、二、三歩だけ後ろに下がる。折れた肋骨の痛みからか、右のわき腹を手で押さえる。
 だが、まだその眼は死んでいない。

「悪魔ねぇ……。多分その通りよ。
 私は性格も悪いし、顔も悪い。おまけにスタイルだって悪いわ。
 だけどね……諦め“も”悪いのよ」

 ほむらは、左手でナイフを構える。

 カンナも、ステッキを構えて、魔力を練り上げる。

 その時だ。

 特大の魔獣に向けて、特大の光線が飛び交った。
 ドン、と連続の爆発で、粉塵が舞う。

「……何だ」

 発射位置は、展望台の上から。今戦いに参加している魔法少女の使った魔法では無い。
 カンナもほむらも、光線が飛んできた方角を確認した。

「……プレイアデス聖団か!!」

 カンナは叫んだ。

「……ラッキーね。
 この勝負……貰ったわ!!」

 ほむらも、叫んだ。


 タワーの上から、六人の魔法少女が戦況を見つめる。

「……フィリ・デル・トアノでも、貫通は無理か……」

 サキはステッキから鞭へ、武器の形状を変化させる。

「相当な数の魔獣が重なり合ってるわね……。
 ただ、ここまで硬いのなら、僅かな亀裂さえ入れば、確実に行けるでしょうね」

 海香が魔獣の特性を素早く分析する。

「オーケー。私が鞭で拘束する間に、全員で総攻撃だ!!」

 参謀のサキが、指示を飛ばした。

「よしきた!!」

 カオルは気合を入れる。

「任せな!!」

 みらいは、大剣に武器をチェンジ。

「行くわよ!!」

 里美は、ステッキを構え直す。

「よござんすよ……」

 ニコは、魔力を溜めこみ攻撃態勢に入る。

「……相変わらず、まとまりが無いわね」

 ちょっとぼやきながら、海香は槍を構えた。


 プレイアデス聖団の参戦は、この上ない援護になったに違いない。

「……何者やねん、あの連中は?」

 増援の正体を知らないすずかは、六人の魔法少女を見つめた。

「プレイアデス聖団だよ!!」

 ゆまは、すずかに向けて誇らしげに言った。

「あすなろ市の、魔法少女チームなのです。しかも、とても強いのです」

 なぎさも、解説を入れる。

(あすなろ市……?
 姐さんは、この事を見越して、援軍の要請をしとったんか?)

 すずかは、そう推測した。
 厳密に言えば、偶々こうなっただけなのだが、結果だけ見ればオールオーケーだ。

(た、助かった……)

 増援で一番救われたのは、間違いなく沙々だ。ここまで、洗脳魔法が持たせなければ、戦況は確実に悪かったに違いない。

「お前さんは、暫く休んどけ。ここまでくれば、後はどうにかなるわ!!」

 そう伝えると、すずかはロケットランチャーを担ぎ上げる。

「……」

 沙々は、無言で首を縦に動かすだけ。もはや、喋る気力さえ無い。

「ほな……やりますか!!」

 すずかは、ロケットランチャーに装備されるスコープで、魔獣の頭部を狙いすました。


 触手の牢獄の中では、増援の知らせは無い。
 睨み合う両者は、触手がモゾモゾと動き出した事も気が付かない。それ程、標的を狙う事に集中していた。

 マミは、何故確実に攻撃を避けられるのか。その上で、確実にカウンターで攻撃を当てられるのか。
 織莉子のカラクリに、ある確信を持っていた。

(……スピードの勝負よ)

 その対応も、どうすべきか。マミの逆襲が始まる。

「……覚悟しなさい。種明かしの時間よ!!」

 次々に、マスケット銃を召喚し、大量の魔弾を一斉射撃。

「ティロ・ボレー!!」

 黄色い魔弾は、広範囲を一気に撃ち抜く。

(攻撃手段を変えたわね……)

 しかし織莉子は、魔弾を軽々と避ける。
 大量の砲撃だが、一発たりともかすりはしない。

「……っ!?」

 だが、織莉子はマミの狙いに気が付いた。僅かに先の未来の光景が、頭に流れ込む。


「もし、見えたとしても……避けれなければ、意味は無いわよね!!」

 マミの声を皮切りに、魔弾の銃痕から大量の黄色い糸が放出された。一瞬で蜘蛛の巣の様に、四方八方、縦横無尽に黄色い糸が張り巡らされる。
 牢屋中全てに糸が張られてしまえば、避けるスペースなど有りはしない。

(……迂闊だったわ)

 罠に引っ掛かった白い蝶々の様に、織莉子は身動きを封じられた。
 歯を食いしばり、眉間に皺が寄る。表情には、はっきりと悔しさがにじみ出ていた。

 形勢逆転。
 マミは織莉子に近寄り、眉間にマスケット銃を突きつけた。

「……貴女の魔法は、予知魔法でしょ?」

「……」

 織莉子は何も答えない。

「無言は肯定でしょ?
 数秒先が見えるのなら、弾丸の軌道や、私の動きが手に取る様に解るのも当然。一番決定的だったのは、暁美さんの事で一言だけ言ったわよね?
 近い未来、と。
 墓穴を掘ったわね……」

 マミの言葉を、どう受け止めたのか。織莉子の反応は何も無い。


「……暁美さんが世界を滅ぼすと言っていたわね。それはどういう意味なのかしら?」

 マミは、織莉子に問いただす。

「あの女は……神の力へ繋がる存在だからよ。
 神の力は……この世界を好きな形に書き換えられる。悲惨な過去も未来も、無かった事に出来る。破戒も創造も思いのままになる……」

 織莉子の回答に、マミは今一つピンと来る物が無い。

「暁美ほむらを今殺さなければ……近い未来、私達の身は亡びるでしょう」

 織莉子は断言した。

「……暁美さんが、何をしようとしているかは、私には解らない
 だけどね。暁美さんは、そこまで非情な人では無い筈よ……」

「……この期に及んで、何を言うのですか。あの女は……悪魔同然よ」

 織莉子は食い下がった。


「……この出来事を話すのは、貴女が初めてよ。
 私は、一度だけ暁美さんのご両親にお会いしたのよ。つい、半月前だけれどね」

 マミの言葉に、織莉子は不思議と耳を傾けた。

「暁美さんのご両親は、こんな事を言っていたのよ。
 娘が行方不明になって、一か月程度過ぎてから。多額のお金が、毎月口座に振り込まれていると。
 警察や銀行に問い合わせても、振り込んできた口座は存在しない。その上、履歴にも残らず、何時振り込まれたのか解らない。だけど、お金は存在する……。

 そんな事が可能なのは、魔法少女位でしょう。
 だから、私はまだ暁美さんには良心が残っている。そう思っているわ……」

「……たかがそれだけの理由で?」

「されど、それだけの理由よ。
 悪魔と言われる魔法少女も、人の子だった。そういう事じゃ無いかしらね」

 織莉子は、押し黙ったまま、何も答えない。


「さっきより、触手の間隔が広がってる……。この程度の隙間なら、外に出れるわね。
 私は、貴女を殺める気は無いわ。例え貴女が非道な人間性だとしても、それで殺めて良いと言う理屈にはならないのよ」

 そう言い残し、マミは牢獄から外に出て行った。

「……甘いわね。お互い」

 取り残された織莉子は、ポツリと呟いた。


 あすみは、地面に仰向けに転がった。
 魔弾で胸を撃ち抜かれ、止めども無く血が溢れ出る。

「……ざまあみろ、クソガキ」

 ユウリは、見下ろしながら罵る。

(畜生……ここで終わるのか?
 嫌だ……私はまだ……死にたくない)

 あすみは、悔しさと情けなさで、胸が押しつぶされそうだった。

「恨むなら、あのゴキブリ女に着いた事を恨むんだな!!」

 ユウリがあすみの目前に、銃口を押し当てた。

 ズドン、と、触手の牢に風穴が空く。

「……何だ!?」

(……誰!?)

 ユウリもあすみも、ぽっかりと空いた大穴を凝視した。


「……チャオ。ユウリに……えっと、悪魔のお連れさん?」

 戸惑いつつ、二人を呼びつけたのは、和紗ミチル。
 プレイアデス聖団の大将は、個人戦に乱入してきたのだ。

「……和紗ミチル。貴様、何のつもりだ?」

 ユウリは、ミチルを睨みつける。

「何って……まぁ、色々さ。
 少なくとも、ユウリには借りを一つ返さないといけないしね……。仲間を傷つけられて黙ってられないんだよ……」

 飄々としゃべりながらも、ミチルの目付きは鋭く研ぎ澄まされていた。

「……フン。この死にぞこないのクソガキは、ほっといても殺せる。
 お前から先に片付けてやるよ!!」

 ユウリの標的は、ミチルに切り替わった。


「いいけど……。その前に」

 ミチルはあすみの首根っこを掴みとる。

「……?」

「さがっててね!!」

 そのまま壁際に腕ずくでぶん投げた。慣性の法則に従い、あすみは壁に頭をぶつけるが、ミチルは何も気にかけていない。

(……もっと丁寧に扱えよ)

 あすみは内心で文句を言うが、ミチルの反応は何も無い。今は、ユウリから視線を離さないだけだ。

「一つ聞かせて。
 君は……あいり? それとも、ユウリ?」

「……ユウリ様だ!!」

 叫ぶように答え、ユウリは立て続けに魔弾を乱射。

「甘いよ!!」

 一瞬の間にステッキで防御結界を張り、魔弾を防ぐ。

「クソが!!」

 ユウリは、ハンドガンでは役不足と感じ、ガトリングガンに武器をスイッチ。


 しかしだ。

「……手負いで私に勝てると思う?」

 スイッチする瞬間を見極め、ミチルはユウリの後ろに回り込んでいた。

「……この!!」

 咄嗟に身を反転させようとするが、傷を負った右足に力が入らない。
 ミチルと向き合った瞬間、ユウリは胸倉を思いっきり掴まれていた。

「……いい加減に目を覚ましなよ」

 ミチルは静かにそう言いつけると同時に、ジッとユウリを睨みつけていた。
 その言葉に含まれるのは、憐みと怒り。

「目を覚ませだと……?」

 ユウリは、一瞬動きが止まった。


「……彼女が逝ってしまった事を認めもしないで、拗ねていじけてさ。
 その場に立ち止まったままで、何を出来るって言うのさ……」

 静かに、ミチルは言葉を告げる。

「お前に何が解る!!
 私の命程度で、ユウリは死んだんだぞ!!
 私のせいで……あいつは魔法少女になってしまったんだ!!」

 ユウリは、立て続けに捲し立てる。その瞳には、涙が微かに浮かび始めていた。

「……あなたを命懸けで救いたかった事が、どうしてわかんないんだよ!!
 ユウリは、それで魔法少女になった事を後悔していると、一度でも言ったの? 言って無いでしょう!!

 その気持ちに、どうして答えようとしないんだよ!! 後ろばっかり見て、前に進める訳がないんだよ!!

 ユウリの気持ちを一番理解してないのはあなたなんだよ……あいり!!」

 ミチルは、あいりと。ユウリ様の本当の名を呼び付けた。

「……」


 無言のままユウリの体が光に包まれ、その姿は魔法少女から、元の格好へ戻って行く。

 その容姿は、元のユウリとは全く別の人物が立っていた。
 ユウリは。否、あいりは。ミチルと視線を交錯させたまま、押し黙った。

「……カンナも、暁美ほむらも。
 彼女達が、何をしようとしてるか私には解らない。
 だけどね。もしも、本当に彼女達がこの世界を壊すのだったら……私は何が何でも食い止めるよ。

 この世界に生きている者としてね」

 そう言い切り、ミチルはあいりを掴み取っていた手を離した。


 横たわるあすみに向けて、ミチルは声をかける。

「次はバケモノ退治だね」

 ミチルは、近くで横たわるあすみを担ぎ上げた。

「……ほむらさんと知り合いなの?」

 あすみは、真っ先にそう聞いた。

「ん~……知り合いと言えば知り合いだし。知らないと言えば、知らないかな」

「……訳わかんない」

 ミチルの支離滅裂な回答に、あすみはそう返事を出すしかなかった。

 そのまま、二人は大穴から魔獣の元へと向かった。


 一人残されたあいり。

(……ユウリ。ゴメンね
 だけど……私はユウリの死んだ事を認めたくなかったんだ……)

 一人ぼっちの牢獄の中、あいりは静かに泣き崩れていた。


 魔獣本体の動きが抑制されてるとは言え、無数の触手はうごめいている。
 気色の悪い魔獣と向かい合うのは、鹿目まどか。

 全ての記憶が蘇った元女神は、滅多に出さない大きな声で名前を呼びつけた。

「……ほむらちゃん!!
 そこに居るのは解ってるんだよ!!
 返事してー!!」

 ほむらにまで聞こえる程大きな声で叫べば、当然対峙するカンナの耳にも聴こえる筈。

「……誰だ、あの人間は」

 カンナの視界に、触手の合間からある人物が写った。

 ほむらは、丸でカンナの事が見えて居ないかの様に後ろに振り返った。

「ま、まどか……」


 そして、ほむらは慌てて大きな声で叫んでしまう。

「まどか!! 来ないで!! ここは貴女が来る様な場所じゃないのよ!!」

 その声は、確かにまどかの耳に届いた。

(良かった……。ほむらちゃんは無事だったんだ)

 一先ずは、安堵の息を漏らした。

「そうか……。あの女が、神から引き裂いた人間……。
 あれが、お前の弱点だったんだな!!」

 カンナは、ニヤリと笑みを見せる。

「……しまった!!」

 ほむらが我に返った時、カンナは既に魔力を溜めこんでいた。
 そして、カンナは右手から魔弾を撃ち放った。

「……散れ!!」

 魔弾は、真っ直ぐにまどかを目掛けて飛んでいく。

(だめ……間に合わない!!)

 慌てて駆け寄ろうとしたところで、魔弾はまどかの目前にまで迫ったいた。


 バシュン。

 撃ち出された魔弾は、まどかに当たる事無く消滅していた。

「……どういう事だ!?」

 理解出来ない現象に、カンナは目を疑った。

「……」

 ほむらは、無言でまどかをジッと見つめた。

 直立不動を崩さないまま、まどかは徐にポケットから赤いリボンを取り出した。

「貴女の探してた力は、これなんじゃないかな?」

 まどかが握りしめた真っ赤なリボンを、カンナは凝視する。

「……お前は……まだ神なのか?」

 カンナはまどかに問う。

「今は違うよ。
 ただの平凡な中学生。鹿目まどかだよ」

 そう言うと、まどかは右手に握ったリボンを離した。

 赤いリボンは、ふわりと風に煽られる。
 ヒラリと舞い落ちて、ほむらの右手にクルンと巻き付く。

「……ほむらちゃん。そのリボンは……ほむらちゃんが持つべきなんだよ」

 まどかは、笑顔でそう言い付けた。


(……何時も貴女には助けられてばかりね。
 この因果の巻き付いたリボンがあれば、神の加護は働いて人間の貴女は確実に護られるのに……。わざわざ、こんな危険な所にまで渡しにくるなんてね……。
 それにしても……加護がこんなに強い何て思いもしなかったわ……)

 ほむらの体は真っ白な光に包まれる。
 太陽の様に眩しく、五光を放つほむらの体。

(これが……神の力か!!)

 眩しさに目を細めながらも、カンナはほむらから目を離さない。

 光の中から現れた魔法少女は、暁美ほむら。
 時間に干渉し、神の力を作ったその能力は、神の力を授かった。
 紫の弓と翼を装備し、神から受け継いだその因果が解き放たれる。

「……こんな力を隠し持っているとはね……。
 その力……是が非でも手に入れたい物だな!!」

 カンナは不敵に微笑を作る。

「生憎だけど、この力を渡す事は出来ないわ。
 ……反撃開始よ!!」

 ほむらの表情も、凛と引き締まっていた。


本日はここまで。
次回は……何時になるか解らないです。

一か月ルール以内と言っておきます。

つまんね

どうでもいい。ゴミクズ以下ほむらと頭逝かれたまどかさっさと死 ねば…それでいい

乙乙

おつ

まってるよ

>>423なら見んなや

さわったらダメよ

ガンバッテ

ギリギリ間に合った……。

久しぶりの投下です。

13.アカツキノボル

 粉塵のカーテンが開けていくと、さやかは確かにそこに居た。
薄気味悪く微笑みながら、さやかは双樹姉妹をジッと見つめる。

(……どういう事だ!? あの爆発なら、木っ端微塵のはずだ……)

 双樹姉妹は、動揺を隠せない。


 ジャキンと左手にサーベルを構え、さやかは双樹姉妹に真正面から斬りかかる。

「……この!!」
 再び、ピッチ・ジェネラーティを撃ち出した。

 渦を巻く魔弾は、さやかの右肩に命中。更に、爆発。

 さやかの右の二の腕は、爆発で吹っ飛ぶ。引き千切れた肩口から、噴水の如く鮮血が湧き出る。
 しかしだ。

「な……なんだと!?」

 千切れた腕は、青い光を放ちながら、再び肩口に引っ付いた。
 丸で、ホラー映画のゾンビの様に、さやかは双樹姉妹に立ちはだかる。

「……ふ、ふざけるな!!」


 双樹姉妹は、明らかに動揺した。
 再び、光線を放つ。しかし、魔弾は爆発を引き起こさない。

(……しまった!!)

 ピッチ・ジェネラーティは、あやせの低温とルカの高温。収縮と膨張という、相反する性質を同時に放つ事で、反作用エネルギーを生み出し爆発を起こさせる。
 しかし、この爆発を生み出す為には、ゼロコンマ一秒のズレも許さない確実なシンクロを必要とする。

 さやかの無茶な戦法に動揺し、完璧であったシンクロに支障をきたしたのだ。
 そして、動揺は更に焦りを生み、双樹姉妹は精神的に追い詰められていく。

「……」

 無言で微笑するさやかは、振りかざしたサーベルで双樹姉妹を斬り付けようとする。
 ガキン、と二つの剣で一太刀目は防がれた。

「……つかまえた♪」

 競り合いの中、ボソリとさやかは言った。


「……!?」

 双樹姉妹の背筋に、凍えた様に震え上がる。

「……アハッ♪」

 今度は空いた右手にサーベルを握り、双樹姉妹の体に一太刀ぶち込んだ。
 ズドン、と横っ腹に刃が突き刺さる。

「……ぐっ!?」

 双樹姉妹が姿勢を乱した。

 ガン、と二太刀目のサーベルが胸元を斬り付ける。
 満面の笑みで、サーベルを握りしめたさやかが、双樹姉妹の視界一杯に写る。

(……こ……怖いよ)

 双樹姉妹は、狂気を纏ったさやかに、怯えていた。

 一度怖がった双樹姉妹は、もはや成す術が無い。完全にさやかのペースに呑み込まれ、目前に迫る攻撃に逃げるしか出来ない。
 それでも、強張った体は思う様に動いてくれない。

 三太刀目を撃ち込まれると、双樹姉妹は仰向けに倒されていた。


 さやかは、何の迷いも無く、双樹姉妹の体へ馬乗りになった。

(た……助けて……誰か助けて!!)

 双樹姉妹は、声が出せないほど、さやかに恐怖を覚えていた。

「……アハハハ……あーっはっはっはっは」

 高笑いしながら、怯えた双樹姉妹を滅多打ちにする。
 何発も何発も。刃こぼれをし、切れないサーベルを叩きつける。
 剣だった鉄の塊で、双樹姉妹をボロ雑巾の様にしていく。

 顔も体も。これでもかとボコボコにされた双樹姉妹は、すでに意識を失っていた。ソウルジェムも、四分の三は黒く濁っている。

「……悪いね。
 アンタみたいな奴は、一回位こういう思いをして貰わないとね……」

 さやかは、大きく息を吐き出した。

(……ソウルジェムさえ守れば、腕が飛んでも体が半分になっても元に戻れるのさ。
 流石に、痛覚消しと自動回復まで使うと、魔力切れ寸前だけどね……)



 実の所、さやかは狂っていた訳では無い。狂った振りをしていただけなのだ。
 双樹姉妹を怯えさせるために。そして、心理面でも有利に立つ為に。意図的に、ハッタリをかましたに過ぎない。

 行き過ぎた行動を控えさせるためにも、さやかは双樹姉妹に恐怖心を埋め込ませる荒治療を処方したのである。

「……ま、ちょっとやり過ぎた気もするけど。体の方は治してあげるから、勘弁してね」

 そう呟き、さやかは双樹姉妹のボロボロだった体に治療魔法をかけた。

「あ~……やっぱ、しんどいわ」

 しかし、無茶な魔法の使い方と滅茶苦茶な戦法で、さやかの疲労は限界だった。
 自然とへたり込んでしまうと、さやかはドサリと横倒しになり、そのまま意識は遠のいていた。


 特大の槍を構えた杏子を、キリカはジッと睨みつける。

(……大型の武器で一撃必殺狙いだろうね。だけど……私にそれは通用しないね……)

 十本の鉤爪を構え、キリカは杏子へ向けて、自身の固有魔法をかける。

(私の魔法は速度低下なのさ……。
 あの大きな槍であれば、一撃は強いが速度は無い……。私との魔法の相性は最悪さ)

 そして、キリカは杏子へ向かい、我先に斬りかかった。

(……ここしかねぇ!!)

 杏子はキリカを迎え撃つべく、構えた槍を撃ち出す。

 同時に、ほむらと同じく、身体能力の限界強化をかけた。
 体中を痛みが貫く。何処が痛いか解らない位、体が痛い。それでも、杏子はキリカを目掛けて、特攻する。


 突然のスピードアップに、キリカは我が目を疑う。

(……この速度低下じゃ避けきれない!!)

 キリカは、咄嗟に十本の爪で、杏子の槍に真正面から応戦。

「……当たれぇっ!!」

 反射的に杏子はそう叫んでいた。

 ガキン、と二つの刃がぶつかり合った。

 双方の刃が粉々に砕け、零れた破片が宙に舞う。しかし、杏子は怯まない。それどころか、待ってましたと言わんばかりに突っ込んで行く。

「……!?」

 キリカの武器は鉤爪。砕けた瞬間、その武器は効果を失うが。

「……砕けろ!!」

 杏子の武器は、槍。しかも、大型の物。
 例え、刃が無くなってもだ。電柱並みの大きさの柄が残っているのである。

 そのまま、杏子は、騎兵隊の如く、残った柄でキリカの体を突き抜いた。


 ドン、とキリカの体に柄が突き刺さる。ゴキンとアバラが砕け、ぐしゃりと内臓を押しつぶす。

「……ッ~!?」

 そこまでで、杏子は終わらせない。牢獄の壁際まで力で押し切り、キリカの体は、ドスン、とプレスされたのだ。

「…………」

 渾身の一撃により、キリカの意識はこと切れていた。

(……テメェが本気を出した時、異常に速かったからな。
 魔法の正体は、そっちが速くなるか、こっちが遅くなるかのどっちかだ。だったら、こっちが更に速く動けば、どうにか対処できるんだよ……)

 杏子は、動けなくなったキリカを見下ろした。

 その瞬間、杏子の膝はガクガクと揺れだし、全身が震えに襲われた。

(……っち……ちょっとばかり無茶しすぎたか……)

 地面に両膝を落とし、そのまま前のめりに倒れ込んでしまう。

 うつ伏せのままピクリとも動かない杏子。眠りについたその表情は、誰にも見えない。


 漆黒の翼が羽ばたくと、ほむらは自由自在に宙を舞う。

(……空に逃げる魂胆では無さそうだな)

 空を見上げるカンナ。

 対してほむらが見下ろしているのは、カンナでは無い。

(先にあの魔獣を片付けないとね……)

 魔力を練り上げ、紫に光る弓矢を射る。

 バシュン、と大きな矢が放たれた瞬間、紫の光は花火の様に炸裂した。

「……散りなさい!!」

 降り注ぐ、弓矢の雨が魔獣に次々と突き刺さる。

――グオォォォォォォ……

 地響きの様に低い、魔獣の叫び声が響き渡った。



「何や!? あのデカいのが苦しみだしたで!?」

 状況が解らないすずかは、素っ頓狂な声を張り上げる。

「……あそこに誰か飛でるよ!!」

 ゆまは、空に羽ばたく魔法少女を見つけ、その方向を指差した。

「誰なんですか? 空飛ぶ魔法少女何て、見た事無いです……」

 なぎさも目視で見つけたが、その正体がさっきまで一緒に居たほむらだとは思っていないようだ。

「……」

 沙々も釣られて、その魔法少女を見上げていた。


「……皆!!」

 四人の元に、戦いを終えたマミが合流した。

「……マミ!! 無事だったのですね!!」

 なぎさは、そう声を出すと、真っ先にマミの元へ駆け寄った。

「お姉ちゃん!!」

 そして、ゆまもマミを見つけると、がっしりと抱き着いた。

「なぎさもゆまちゃんも……良く頑張ったわね!!」

 マミも、二人を抱きしめ、無事だった喜びをかみしめる。


「……アンタらなぁ。
 無事を喜ぶのはええけど……まだ終わってへんぞ」

 呆れた様子で、すずかはそう突っ込んだ。

「そうだったわね……ごめんなさい」

 若干陳謝しつつ、マミはそう答える。

「しゃーけど……あの飛んどる魔法少女のお蔭で何とかなりそうや。
 あの怪物を押しとるで……」

 すずかは、空を飛ぶ魔法少女をほむらとも思わず、マジマジと見つめていた。



 かずみとあすみは、空を飛ぶほむらの姿が、しっかりと見える位置に居た。

「ほむらさんが……飛んでる?」

 あすみは、その姿に目を疑う。しかし、その姿は間違いなくほむらだ。

「……やっぱり、君は特別な存在なんだね……暁美ほむら」

 かずみは、確信めいたように呟いた。
 その言葉は、確かにあすみにも聴こえていた。


「……大した威力だ……。
 この百獣の王さえ寄せ付けないとは……」

 カンナは、苦々しく表情を歪める。

(……だがな……魔獣だけが切り札と思うなよ!!)

 しかし、まだカンナは諦めていない。


 連射する魔力の弓矢が、魔獣の胴体を貫いていく。

 百体の魔獣を繋ぎ合わせた、規格外の怪物さえ寄せ付けない。

「……これで止めよ!!」

 最後の一投が放たれた。
 ズドンと、魔獣の胴に紫の光が突き刺さった。

――オォォォォ……

 怪物のうめき声が上がると同時に、バン、と特大の魔獣と大量の触手ががひび割れていく。
 バリン、と魔獣の体が砕け散った。

 同時に、大量のグリーフシードが、雨の如く降り注いだ。


 プレアデス聖団の面々は、魔獣の消滅に安堵の息を漏らす。

「やったわ!!」

 海香は、崩れ去る魔獣を見て、そう声を張り上げた。

「これで一安心ね……」

 里美の表情に、安心の色が見える。

「オマケに、グリーフシードの雨のお蔭で、魔力の回復まで出来るね」

 開けた空を仰ぎながら、カオルは言った。

「ボク達の援護が効いたね!!」

 自信満々にみらいはそう言うが。

「それ以上に、あの空を舞う魔法少女のお蔭だろう……」

 サキはやんわりと突っ込んだ。

(これで終わった……のか?)

 ニコの見つめる方向は他の皆と違い、魔獣の足元があった場所。
 つまり、カンナの居る位置だ。

 まどかは、何も言わずただ見つめていた。
 ほむらを。そして、カンナを。


(……切り札が破られれば、あっちも打つ手は無い筈)

 ほむらは、天空からカンナを睨み下ろす。


 しかしだ。
 降り注がれるグリーフシードは、この場の魔法少女達全員の魔力を、フルに回復させている。

 それに加え、諦めが悪いのは、ほむらだけでは無い。

「……クックック。
 神の力さえも……私の魔法でねじ伏せてみせよう……」

 カンナもまた、神の力を手に入れる事を諦めていない。

(……まだ何かする気!?)

 ほむらは、その異常なカンナの素振りに、何かを察知した。

「……コネクト・フィナーレ!!」

 右手を天にかざしながら、カンナは叫んだ。
 その瞬間だ。

「……これは!?」

 ほむらは、カンナの最後の切り札に勘付いた。

 カンナの右手を軸とし、魔力の渦巻きが湧き出てくる。

「な、何!?」

「うっ……」

 丸で力を吸われていく様に、次々と魔法少女達は、地面にへたり込んでしまう。


 カンナの最後の一手は、自慢の魔法を利用した荒業。

「全員接続……。魔力だけを接合するなら、容易い事だ!!」

 高らかにカンナは叫ぶ。
 コネクトを使い、魔力のみを抽出すると言う、一発逆転狙いの最終手段。

 同時に、カンナは右手に魔弾を作り上げていた。
 魔弾は雷鳴を轟かせ、肥大化していく。

「二十人……。貴様を除いた魔法少女全員分の魔力を、この魔弾につぎ込んだ……。
 しかも、完全に標的を捕えるまで追尾し続ける……。貴様に逃げ道は無い!!」

 直径一メートルを超える特大の魔弾は、空気との摩擦で火花を散らしている。

(……凄まじい魔力だわ……。
 あんな魔弾を受けたら、一溜りも無いわね……)

 ほむらは、カンナの最後の大技を見て、背筋が凍える思いだ。

(……この破壊力なら、山一つは軽く吹き飛ばせるレベルだ!!)

 カンナはしたりと、笑みを作る。


 狙う的は、宙に浮かぶほむら。

(……二十人分の魔力を押し固めた魔弾……。
 どの道逃げ道が無いなら……こっちも一か八かでやるしかないわね!!)

 覚悟は完了。ほむらに、逃げる気は毛頭無い。


 カンナは、渾身の一撃を放つ。

「喰らえ……」

 最後に繰り出したのは、魔力を全て注ぎ込んだ究極の力技。
 カンナはこの技に全て賭ける。

「……アルティマ・シュート!!」

 轟音と共に魔弾は放たれた。

(……絶対に貫く!!)

 ほむらも、己の持つ魔力を全てを注ぎ込んだ、紫の矢を投じる。

 バシュン。

 一際甲高い音を立て、一本の矢が射られた。
 特大の魔弾に向かい、紫の矢は真っ直ぐに飛び交う。


 二つの魔力の塊がぶつかり合ったその瞬間。ドン、と轟音を響かせ、衝撃の波が押し寄せる。
 凄まじい衝撃は、地震の震源地さながらの揺れを生み、その振動は全身に押し寄せる。
 そして、魔弾と弓矢は爆ぜた。

 見ている誰もが姿勢を乱し、爆ぜた光に視界を奪われる。聴覚を遮断する轟音が、鼓膜に重い痛みを植え付ける。

「……どうなったの?」

 マミは、うっすらと晴れていく光の中に、二人の魔法少女を見つけた。

「片方は倒れとるな……」

 一人は立ちはだかる。もう一人は這いつくばる。すずかは、その姿を目視した。



「……どういう事だ!?」

 前のめりに這いつくばるのは、聖カンナ。胸には、一本の弓矢が突き刺さっている。
 立ちはだかるほむらを、睨みつけながら見上げる。

「何故だ!? あの魔弾なら、当たった瞬間に木っ端微塵の筈だ!! 何故、貴様は生きている!?」

 カンナは、声を荒げて捲し立てた。

「……貴女がヒントを与えたんじゃない。
 二十人分を注ぎ込んだってね」

 淡々と言い放つほむら。服はあちこち焼け焦げ、体の各部は火傷や傷跡が残っている。

「……」

 カンナは納得がいかないのか、無言でほむらを睨み続ける。

「単に魔力だけ注ぎ込んでも、破壊力は上がるかもしれない。だけど、混ざり合う訳では無いでしょ?
 だからこそ、一点突破で貫通させたのよ……弓矢でね。
 一発だけ貫通させれば、押し固められた魔弾は、内側から離散する……」

「……」


「そうなれば、多少は被弾するけれど、致命傷になる程、魔弾を受ける事だけは避けられるのよ……。
 自身の魔法を、良く理解してる様だけど……私の方が一枚上手だった様ね」

 そう言い放ちながら、ほむらは拳銃を構えた。そして、銃口をカンナの眉間に押し付ける。

「……殺せ。こうなった以上、生き恥を晒す気は無い……」

 カンナはそう言い付けた。逃げる気も、命乞いする気も無い。
 観念した様に、微動だにしない。

「……そう」

 そして、ほむらは何の迷いも無く、拳銃のトリガーを引いた。

 カチン。

 拳銃から、弾丸が飛び出す事は無かった。

「……何の真似だ」

 カンナは、ほむらに問う。

「死ねばゼロ。ただし、生きているなら、駒にはなる。
 貴女のその力は、大いに役に立つわ。だからこそ、利用させて貰うわよ……聖カンナ」

 ほむらはそう言った。


「……簡単に屈すると思っているのか?」

 カンナはそう言い、反骨の意を見せる。

「別に手下にする気は無いわ。
 時が来れば、貴女にも協力して貰う……」

 カンナに反応は、まだ無い。
 そして、ほむらは、カンナの耳元でささやいた。

「何故なら、私は……」

 ポツリと一言告げる。


 その瞬間、カンナの目の色は変わっていた。

「貴様……何をするつもりだ!? 何を狙っているんだ!?」

 カンナは、急ぎ口調で捲し立てる。

「……この世界を壊すわ。
 この歪んだ世界をね」

 ほむらは、カンナを見下ろしながら言い付ける。

「壊す……だと?」

「その通り。
 どんな形であれ、今の世界が書き換えられれば、この世界は壊れる事に変わりは無いのよ。
 だったら……最初からそんな物が無ければ良いんじゃないかしら?」

「……」

「いらないのよ……そんなもの。
 だけど……まだだめよ」

 そう言い付けるほむらは、不気味な微笑であった。
 その恍惚とした笑みに、カンナは背筋が震える程の、底知れぬ気味悪さを覚えていた。

 そして、何時しか太陽は東の空から昇り始めていた。


 激闘から数時間後。正午を少し回った頃。

 一晩徹夜で戦っていた魔法少女達は、皆疲れ果て深く眠りに落ちていた。


 ただし、ほむらだけはさっさと支度を済ませて、見滝原の駅へと向かっている。

「……」

 一瞬だけ立ち止まり、歩いて来た道を振り返る。

 再び、足を進める。

「何の挨拶も無しに何処に行くのかしら?」

 呼び止められたほむらは、その足を止める。

「……巴マミ。何の用かしら?」

 素っ気なくほむらはそう言った。振り向きもせず、マミの顔を見ないまま。

「仲間を置いていくなんて、随分と冷たい扱いね。それに、もう一日くらいゆっくり休んだ方が良いんじゃない?」

 マミは、ジッとほむらの横顔を見つめる。

「別に置いていく訳じゃ無いわ。先に次の目的地に行く。それだけよ」

 ほむらは、そう回答を出す。



「……本音は違うんでしょ?」

 見透かしたように、マミは言い切った。

「……何が言いたいの?」

 ほむらはそう言い付けながら、目を細めた。

「つい最近の話よ。偶々だけど、貴女のご両親にお会いしたわ。
 その時に、奇妙な話をしてくれたわ。
 貴女が行方をくらましてから、毎月多額の現金が口座に振り込まれている、とね。
 警察や銀行に問い合わせても、その振込んだ人間は誰だか解らない。履歴にも残らないのに、現金だけが手元に有る……。
 そんな摩訶不思議な事を出来るのは、魔法少女くらいでしょうね」

「……」

「多額の現金を振り込んだ張本人は、暁美さんでしょ?」

 マミは、ほむらをジッと見つめる。

「答える義務はないわ」

 ほむらは、あしらう様にそう返答した。


「暁美さん……貴女の本音は解らない。だけど……今の貴女は間違いなく、危険な道に進んでいる事。自覚してるんでしょ?
 だから……自分の親にさえ顔を見せる事が出来ない。自分の心を殺してまでもね」

「……貴女には関係の無い話よ。私は先を急ぐわ」

「私には特に止める理由は無いわ。
 でもね……貴女をどうしても引き留めようとしている人が、一人だけ居るのよ」

 マミの言葉と同時に、まどかはその姿を見せたのだ。

「ほむらちゃん……」

 真剣な眼差しで、まどかはほむらを見つめる。

「……」

 ほむらもまた、まどかを真っ直ぐに見つめていた。


今回はここまで。
次回で、中盤戦は終わりです。

乙。
次は…いつ頃?

>>456
……頑張るとしか言えません。

ガンバッテ!


一気に読んだ、続き待ってる

乙!
まだ中盤か
長く楽しめるな!

中盤戦最後です。
一応話の一区切りです。

14.サヨナラハイワセナイ

 まどかは、開口一番にほむら向けてこう言った。

「ほむらちゃん……行かないで!!」

「……」

 ほむらは、まどかをジッと見つめたまま微動だにしない。

「私は全部思い出したの……。ほむらちゃんの事も、魔法少女の事も、皆の事も。
 ……このままほむらちゃんを行かせたら、絶対にダメだって思う。ほむらちゃんが危険な目に合うのは……私は見たくない。
 私は、魔法少女にならない!! ほむらちゃんとずっと友達でいるって約束する!!
 だから……行かないで!!」

 悲痛なまでに訴えるまどかの瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。

「……私自身、もう貴女の隣に立つ資格なんて無いわ。
 今の私には、敵が増えすぎているのよ。貴女を危険な事に巻き込みたくないわ。

 もしそれでも、私を引きとめると言うのなら……貴女を撃つわ」

 ほむらは、懐から一丁の拳銃を取り出す。


 そして、まどかの眉間に銃口を向けたのだ。

「……」

 張りつめた空気の中、マミは動く事も出来ないまま、二人のやり取りを見つめ続けるしかなかった。
 これは、私達の話だから。そう訴えてると感じられる位、ほむらとまどかの狭間は緊迫していた。

(止めなきゃいけない……。だけど……どうして動けないの!?)

 物言わぬ二人の威圧は、マミの体を硬直させていた。

「……ほむらちゃんは……私を撃てないよ。
 私は……ほむらちゃんを信じてるから!!」

 まどか視線は、ほむらの瞳を真っ直ぐに射ぬく。

「……本当にそう思ってる?」

 また、それはほむらも同じだった。
 二人の譲れない想いが交錯する。

「……仕方ないわね」

 そう呟くと、ほむらは拳銃のトリガーにかかる人差し指に、力を込めた。


(ダメ……!!)

 マミは、反射的に目を瞑っていた。

 カチッ……。

(……え!?)

 拍子が抜ける様な、情けないノック音が、マミに聴こえた。

 おまけに、銃口からは火が灯っている。

「……何なのそれ?」

 マミは、ほむらの持つ拳銃を凝視した。

「……見ての通り、拳銃型のライターよ。本物そっくりに作ってあるわ」

 ほむらは、淡々とした様子でそう言いのける。

「……やっぱり、まどかは強い人ね」

 何かを見透かしたように、ほむらは呟く。

「強い訳じゃ無いよ……。
 だけど、友達が危険な目に会いに行くのを止める事は、普通なんじゃないかな」

 まどかは、少し照れたように笑みを見せていた。



 ほむらは、ふっと溜息を吐き出し、ゆっくりと口を動かし始めた。

「貴女達は、勘違いしてる様だけど……。
 私は自分自身で望んで、修羅の道を進んでいるのよ。今更戻る気も無いし、戻れるとも思っていないわ。
 例え、悪魔と呼ばれ妬み嫌われても、目的の為ならどんな非情な手段も択ばない。昨日見せたあの姿が、今の暁美ほむらなのよ」

「……」

 まどかも。マミも。
 ほむらの言葉に、何も返答が出来なかった。

「だけどね……。
 もう一度貴女達に会えた事は、とても嬉しく思ってる。これは、紛れも無い私の本心よ」

 そう言ったほむらは、微かに笑みを作っていた。

「ほむらちゃん……」

「暁美さん……」


「ここで、永久にサヨナラじゃないわ。
 生きていれば……きっとまた会う事でしょう。その日を、心待ちにしている。だから、あえてこう言わせて貰うわ。

 また、会いましょう」


 ほむらは、そう伝えた。

「……約束だよ。
 もう一度、この見滝原に来るって。絶対に、破っちゃ駄目だからね」

 まどかは、そう言いながら、右手を差し出した。

「ええ……。約束する。
 絶対に忘れないわ」

 ほむらも、その右手をギュッと握りしめた。


 マミは、一度咳払いをしてから、改まった様子で言葉を出した。

「そんな、約束した早々に、こんな提案を出すのも変だけど……。
 折角だから、家でお茶でも飲んでからでも良いんじゃないかしら?
 集まるまでに、まだ時間は有るでしょう?」

 一度断りを入れてから、そう提案したが。

「……そうね。
 それは、次に来た時の楽しみにしておくわ。
 お茶をご馳走になる。その約束で……ね」

 そう言いながら、ほむらは傾きかけた太陽を見上げた。



 夕暮れ時。
 あすみは、一人で見滝原の郊外に来ている。

 辿り着いた先は、見滝原霊園。
 あすみは、母の眠るこの場所へ来たのだ。

 神名家の墓。そう刻印のされた墓石に向かい両手を合わせる。

(お母さん……一度も来なくて、ごめんなさい)

 合掌し、頭を下げる。故人への冥福を祈る為。

(新しい家は、私にとっては最悪だったよ。何もかもが嫌だったから、何も考えないで飛び出した。
 だけど……私の新しい居場所を見つけたよ。

 きっと、お母さんが生きていたら、反対するような場所だけど……そこは私には掛け替えの無い居場所だから。
 だから……今日のお墓詣りが最初で最後。

 お母さん……どうかあすみの我儘を許してください……)

 長い合掌を終え、あすみはゆっくりと立ち上がった。



 後ろを振り返り、あすみは物陰に隠れる魔法少女を見つめながら、一言声を掛けた。

「こそこそ隠れてないで、出てきなよ」

「……バレてしまったのです」

 そう言いながら姿を見せたのは、なぎさだった。

「何の用なの?」

 突き放す様な態度で、あすみはなぎさを睨みつける。

「用って程では無いです。ただ、貴女の姿を見かけたから、興味本位で追いかけてきただけなのです」

 なぎさは悪びれる様子も無い。空気も読まないで、屈託の無い笑みを見せていた。

「……あっそ」

 あすみは、無表情のまま。

「それにしても、先祖のお墓参りに来るなんて、立派なんですね」

「私は元々見滝原生まれだからね。
 去年お母さんが亡くなってから、一回もお墓参りしてなかったし……」

「……そうだったのですか」

 その言葉に、なぎさは言葉を見失っていた。


「それに……もう二度と来る事はないしね」

 あすみは、そう言い切った。

「……どうしてですか?」

「簡単だよ。
 私の見つけた居場所は、お母さんに顔向け出来る様な場所じゃないからだよ」

「……そんなのおかいしいです」

 なぎさの表情は、俄かに曇り始めた。

「ほむらさんやすずかは、見滝原の魔法少女達とは絶対に違う部類の魔法少女だよ。
 その人達に着いていく私も、間違いなくあんたとは違う部類の魔法少女。
 だから、あなたと私は解り合える事は無いよ」

 あすみは、冷たく言い放った。
 同じ小学生。加えて立場を見ても、あすみとなぎさは良く似た立ち位置だ。しかし、その着いていくべき指針の方向は、真逆と言っても差支えない。


「……あの人たちは、あなたの仲間じゃないのですか?
 一緒に魔獣と戦う魔法少女のチームじゃ無いのですか?」

 なぎさは、早口で言葉を次々に出していた。尻上がりに語尾も強まっていく。

「仲間とかチームとかだったら、あの人たちは私が死んだときに泣いてくれる筈。
 だけど、それは有り得ない事だよ……。死んだら死んだ奴が悪い。それが、私達なんだから」

「そんなの間違ってます!!」

「……合っているか間違っているかなんて事は、どうでも良いんだよ。
 だけど、ほむらさん達は私を必要としてくれている。それだけで十分……」

 なぎさの言葉をかわすように、あすみは淡々とした態度だった。


「……今、解りました。
 私は、あなたの事が嫌いです」

 なぎさは、断言した。

「奇遇だね。
 私も、あんたみたいな奴は大嫌いだよ……」

 あすみもそう言葉を告げる。
 
 そのまま、二人は真逆の方向に歩き始めた。目も合わせず、言葉もかわす事も無く。
 あすみとなぎさは、水と油だった。

 もっとも、その出会いや共に歩む仲間が違って居れば、その関係は定かでは無い。対極に位置する良く似た二人が、解り合えるはずが無いのだ。




 同じ頃。

 プレイアデス聖団の面々は未だに眠りこけている中、ミチルだけは先に起きていた。
 クタクタの体に鞭を入れて、晩御飯の準備を始めていたが……。

(凄い筋肉痛……)

 やはり、一晩走り回った上で戦うと、相当な疲労が蓄積していた。

(……疲れてる時は、やっぱり炭水化物とビタミン。イチゴリゾットにしよう!!)

 適当な理屈で、自分の一番食べたい物を作る事にした。ある意味、炊事係りの特権と言える。

 大量のイチゴを冷蔵庫から取り出し、一升の米を水で研ぐ。
 シャカシャカと米を研いでいる間、ミチルは昨晩の奇妙なやり取りをふと思い出した。

(……暁美ほむらは、カンナに何を言ったんだろう?)

 魔力と魔力がぶつかり合った、直後にカンナは大人しく引き下がった事が、妙に気になっていた。


(彼女だったら、間違いなく刃向う人間は始末する……。
 それに、カンナもあれだけ粘れば、そんな簡単に引き下がる訳が無いし……そう易々と大人しく従う訳が無い。
 暁美ほむらは……まだ何かを隠してる筈。

 この世界を壊す為に……?)

 壊すと言う、キーワードがミチルの脳裏に引っ掛かった。

(壊す……世界を壊す?
 どうやって……?)

 米を研ぐ手が止まった。

(……彼女は世界を壊すと言ってた。でも、具体的に何をどう壊すとは言ってない……。
 どうするつもりなの?
 仮にも、世界を壊すなんてそんなに簡単に出来る事なの?)

 ミチルは、考え出してから初めて気が付いた。

(その壊す事が、本音なのか嘘なのか……。
 何よりも、彼女自身の言ってた目的は……曖昧な部分しか言っていない……)

 ほむらの行動と言動に、ミチルは違和感を覚えた。

「……まだ、終わってないか」

 ポツリと言葉が零れた時。米を研いだ水は、真っ白に濁っていた。



 太陽は姿を隠し、街は夜の闇に染まる頃。
 さやかの家に泊めて貰ったすずかと沙々は、結局夕方になってからやっと目覚めた。暗くなった頃に出発する二人を、さやかと杏子とゆまは見送る様だ。

「すまんかったな。わざわざ泊めてもろうて」

 すずかは、さやかに礼を述べた。

「おう。気にすんな」

 にもかかわらず、そう言ったのは杏子だ。

「……ここは、あたしの家だからね」

 さやかは、即座に突っ込みを入れた。

「ま、あたしらは流浪の魔法少女や。同じ街に長く居るべきやない。
 しゃーけど、また縁が有れば会うかもしれんし。
 ま、武器が欲しいんやったら、何時でもウエルカムやで」

 すずかは、年頃の少女らしいニコッとした笑みを見せた。

「……ま、仕方ないから私も着いて行ってあげますよ」

 ちょっと憮然としながら、沙々はすずかにそう言った。



「ほーやな。その言葉、姐さんの前で言って貰うで?」

「げっ……」

 すずかの一言に、沙々は明らかに嫌そうな顔をしていた。

「……ま、精々くたばらねー様にな」

 杏子は、見送りの言葉を告げる。

「アンタ達は、殺しても死ななさそうだけどね」

 さやかも、そう言葉を添えた。

「バイバイ、おねーちゃんたち」

 ゆまは、そう言いながら両手を振るう。

「……簡単にはくたばれへんよ。簡単にはな……」

 そう返答しながら、すずかはクルリと振り返る。不意に、曇り気味の表情を見せながら。

「それは、こっちの台詞ですから。では……」

 皮肉を言いつつ、沙々も振り返った。
 そして、一度も後ろを向く事も無く、二人は足を進めていく。


 二人の後ろ姿が見えなくなると、杏子は溜息を混ぜながらポツリと呟いた。

「……行っちまったか」

「台風みたいな連中だね」

 さやかは、彼女達の印象を、台風と例えた。

「ただ、アイツらが居なけりゃ、アタシらは間違いなく死んでた。
 それだけは、間違いない……」

「……だね」

 杏子の意見に、さやかは同意した。

「また、会えるのかな?」

 ゆまは、二人を見上げながらそう聞いた。

「さーな……。
 それが解るのは、悪魔だけだ」

 杏子がそう答えると、さやかの首は縦に振られていた。


 某所。
 戦いに敗れた、ヒュアデス。ただ、ほむらの意向で命までは取られていない。五人とも、見滝原を離れ、元々の根城に身を移していた。

 敗戦の将は、多くを語らず。カンナは、一人部屋に籠っている。決して、ふて腐れている訳では無い。

 ただ、ほむらの言っていた一言が、グルグルと頭を駆け巡っていた。

「入りますよ?」

 そう言いながら部屋に入って来たのは、織莉子だった。もっとも、声を掛けた時点で部屋の中に入っているが。

「……何の用だ?」

 カンナは、織莉子の事に見向きもしない。呆然と天井を見つめている。

「ふて腐れてるのですか?」

 織莉子は、カンナの様子がおかしいと感じていた。

「違うね。ちょっとした考え事だ」

 カンナはそう答えたが、はた目にはふて腐れてる様にしか見えない。


「暁美ほむらに逆襲でもお考えで?」

「……いいや」

 織莉子の言葉に、カンナは首を横に振るう。
 そして、カンナは言葉を続けた。

「私は……暁美ほむらに賭けて見ようと思う」

「……どういうおつもり?」

 織莉子は、カンナの意見に喰い付いた。

「……あの女は、まだ手の内を出していない。
 私達の性格も、大概悪いが……あの女はそれ以上にえげつない事を考えている」

(……あんな女や貴女の様な人と、一緒にしないで欲しいわ)

 内心で織莉子はそう突っ込んだ。

「何にせよ、あの暁美ほむら達の動向からは、目を離さない方が良い」

 カンナの言葉に、何かを感じたのか。織莉子の目付きは、不意に鋭く尖っていた。


「あの女は、本当に暁美ほむらなのですか?」

「……どういう意味だ?」

 織莉子の言葉に、カンナは疑問を問いかける。

「私の予知で見た光景……。
 世界を破滅させる、空を舞う魔法少女の姿。
 確かに、その姿は暁美ほむらでしたが……昨晩の暁美ほむらと風貌や雰囲気が違っていた……。
 厳密に何処がどう違うとは、言い切れませんが……」

 今一つ煮え切らない織莉子の言葉だが、カンナはその言葉を聞くや否や、口元をニッとさせていた。

「……まだ終わっていないな。
 むしろ、始まりかもしれない……」

 カンナは、そう断言した。


「……世界の破滅へ、ですか?」

 織莉子の一言に、カンナはコクリと頷いた。


「……どの道、私達も後に引ける訳が無いんだ」

 そう言いながら、部屋に入って来たのは、ユウリ。

「私は織莉子の言葉を信じるだけさ。二人とも考えは同じだったら、私達も同じさ」

 キリカはそう言葉を投げ、二人をジッと見つめる。

「一緒に居れば、退屈しませんよねぇ?
 やる事に、変わりは何もないんでしょ?」

 あやせは、ニヤニヤと笑みを作りながら、そう述べた。

 三人とも、カンナと織莉子の対話を、しっかりと盗み聞きしていた。

「……ま、聞かれた以上は隠せるものじゃない。
 だが……我々にとっての正念場はここからだ」

 カンナは、四人に向けそう言い付ける。

 再び、ヒュアデスと暁美ほむらは会いまみえる。
 その時は必ず来ると、カンナは感じていた。


 駅に向かい、すずかと沙々は歩いていく。
 大通りにぶつかる交差点のコンビニの前に、丁度ほむらとあすみが待ち構えて居た。

「……待ってたわよ」

 ほむらは、二人をジッと見つめる。

「姐さん……。
 ミキとサクラに挨拶はしなくても良いんですか?」

 すずかは、そう聞いた。

「……別に平気よ。
 きっと、また会う事になるわ」

 ほむらは、確信めいた様に言う。

「……そうでっか」

 すずかは、素っ気ない返答を出した。

「それと、どうせ沙々の事だから、仕方なく着いてくるとか言ってたんでしょ?」

「…………ソンナコトイッテマセンヨ?」

 ほむらはニヤニヤしながら、沙々を見た。当然、沙々の目はキョロキョロと泳いでいる。


「ほむらさん。次は何処の街に行きますか?」

「そうね……。
 とりあえず、都心の方かしらね……」

 あすみの問いに、ほむらはそう答えた。

「折角やし、大阪まで飛びません?」

 すずかの希望は、関西まで遠征の様だ。

「……電車代が無いわ」

 資金面から、ほむらは即決の却下を言い渡す。

「私は、何処でも良いんですけどね……」

 沙々は、特に希望が無い。

「……私も特に」

 あすみも、同じくだ。

「ま、ほな東京方面を目指しますか」

 すずかは、ほむらの提案に乗る。

「ええ……行きましょう」

 ほむらの一言を皮切りに、四人は駅に向かって歩き始めた。


 見滝原を離れ、次の目的地に進むほむら達。
 一つの戦いが終わった所で、彼女達は次に向かうのみ。流浪の魔法少女に戻る道は無い。

 ただし。
 破滅へのカウントダウンが、既に始まっている事は、まだ誰も知らない。


次回から終盤戦。

あの娘が参上します。

ヒュー!

乙!
QBの存在感の薄さ

いよいよ、終盤です。

では、続き投下します。

15.オワリヘノハジマリ


 見滝原の激闘から、約二ヶ月が過ぎた。


 敗戦の苦汁を舐めさせられたヒュアデスだが、水面下では活動を繰り返していた。もっとも、配下に置いていた魔法少女達とは離散し、規模は幹部の五人だけと、随分と縮小しているが。

 その幹部の三人。ユウリ、キリカ、あやせは、昼下がりの街で買い物の帰りの途中だ。

「……買い出しさせられるなんて、ツイてないわねぇ」

 あやせは、溜息を吐き出しながらぼやいた。

「仕方ないんじゃないか? ババ抜きで負けたんだから」

 キリカは淡々とした様子だ。
 この三人が買い出しさせられた理由は、トランプに負けたのが原因の様だが。

「そう言えば、ユウリはどうしてババ抜きしなかったの?」

 あやせは、そう聞いた。

「自分から、買い物に行くって言ってたっけ?」

 キリカも、あやせの疑問に追従した。


 ユウリだけは、ババ抜きに参加していなかった模様である。

「……お前らアホか。
 予知魔法持ちと、それをコピー出来る魔法少女を相手にして、どうすればトランプに勝てるんだ?」

 ユウリは、絶対に勝てない勝負と踏んで、あえて参加しなかったのである。

「……なるほど」

 あやせとキリカは、納得した様だ。

「何で気がつかないんだよ……」

 ユウリは呆れた様子で、二人を眺めた。


「……!?」

 不意に、あやせの目付きが鋭利に尖る。

「どうした?」

 ただならぬ雰囲気を醸し出すあやせに、ユウリはそう聞いた。

「ちょっと、これ持ってて!!」

 あやせは、手に持っていた買い物袋をユウリへ強引に渡すと、大急ぎで裏路地へと駆けていく。

「お、おい!!」

 両手の塞がったユウリは、言われるがまま受け取るだけ。
 もうあやせの姿は、塀の影へ消えていた。

「……なんなんだよ、あいつは」

 キリカは、唖然としながら、あやせの向かった方向を見つめる。

「仕方ないから、後を追いかけるか……」

 ユウリも、呆れ気味に同じ方向を見ていた。
 渋々ながら、二人はあやせの寄り道に付き合う事にした。



 唐突に離脱したあやせは、急ぎ足で路地裏を進む。

(……すっごい魔法少女みーつけた)

 あやせは、ある魔法少女の影を見つけ、その姿を追いかけていたのだ。

(あんな綺麗で……面白い形のソウルジェムなんて見た事無い……)

 その目的は、ピックジェムズ。
 あやせは、一度はさやかにこれでもかとボロ雑巾にされた物の、実際は懲りていなかったのだ。

 角を曲がり、ようやく標的の魔法少女の後ろ姿を捕えた。
 漆黒のドレスを身に纏い、長く綺麗な黒い髪。さほど身長は高くないし、体格もかなり細い。

「……そこの黒い魔法少女さん?」

 あやせに声を掛けられ、その魔法少女は足を止める。ただし、あやせの方は見向きもしない。

「……何かしら?」

 冷淡な声で、一言だけ返答する。


「貴女って……とっても珍しい形のソウルジェムしてるよねぇ」

「……」

 あやせの問いに、少女は何も答えない。

「それに、色も綺麗だし……そんな形のジェム何て、滅多に見える物じゃないのよねぇ……。
 だから……」

 あやせは、魔法少女の姿に変身し、こう言った。

「貴女の魂……私に頂戴♪」

 その言葉に、少女はこう答えた。

「……取れるものなら、取ってみれば良いんじゃない?」

 少女は大胆不敵にも、後ろ姿を見せたままで。

「へぇ……」

 ふてぶてしい態度と一言に、あやせの頭に一気に血が上った。

「だったら……遠慮しないから!!」

 一気に地面を蹴り、少女とあやせの間合いは、一気にゼロになる。
 白と黒。オセロの様な配色の魔法少女同士のバトルが、始まる……。

 筈だった。


 キリカとユウリは、あやせの姿を追いかけたのだが、案の定見失っていた。

「何処に行ったんだよ……」

 身勝手な行動をされ、ユウリの機嫌は斜めに傾いていた。

「……もうほっといて、先に帰ろうよ」

 キリカは、どうでも良さそうに、そう提案する。

「そうだな……」

 と、ユウリもその案に乗った矢先だ。

 ドン、と突如爆発音が鳴り響いた。二人とも、反射的に周囲を見渡す。

「何だ……?」

 ユウリは、爆発音が聞こえた方向に目を向ける。

「……あっちだよね」

 キリカの視線も、同じ向きを見ている。
 二人は、目先の曲がり角へ急ぎ足で向かう。

 路地を曲がると、俄かには信じられない光景が広がっていた。


「……!?」

 地面に仰向けに倒れるあやせ。体中が傷つき、白いドレスは血の赤い模様を作り上げている有り様。
 黒い衣装を身に付けた魔法少女は、動く事が出来ないほど叩きのめされたあやせを見下ろしている。

「……貴女達は、この魔法少女の仲間かしら?」

 ユウリとキリカに対し、少女はそう聞いた。
 二人の方向は、興味が無いとばかりに見向きもしない。長い髪に隠れた、その表情はまだ見えない。

(……こいつ何者だ!?)

 静かだが、少女の言葉にキリカは威圧される。少女から放たれる、異常な威圧感に圧倒されていた。

(……この女はヤバすぎる。強いとか弱いとかのレベルじゃない……)

 ユウリも一発で見抜いていた。この魔法少女は、全ての桁が違う事。
 ネコがライオンに勝てると思う訳が無い。軽乗用車とF1が競争出来る筈が無い。
 それ位、格が違う。


 二人とも、手荷物を投げ捨て、その手にソウルジェムを召喚。

「……どの道、こいつからは逃げられないな」

 ユウリは覚悟を決めて、魔法少女に変身。

「だろうね……」

 キリカも腹を括って、魔法少女に変身。
 二人の少女は光に包まれる。

 絶対に逃げられないし、確実に勝てない。しかし、それでも挑む。それしか方法が無いのだ。

「……フフ」

 黒い魔法少女は、ゆっくりと二人の方へ振り向いた。

 深紅の瞳と視線が交錯した瞬間。

「……な……何でお前がここに居る!?」

 ユウリは、目を見開きながら、声を張り上げていた。


 ヒュアデスの隠れ家に、キリカ、ユウリ、あやせの三人は運び込まれた。
 三人ともちょっとした回復魔法ではどうにもならない程、怪我の具合は酷く意識は無い。おまけにソウルジェムは、半分以上どす黒く濁っている。

「……帰りが遅いとは思ったが、まさかこんな羽目になっているとはね」

 そう呟いたカンナの面持ちは固い。

「……治療魔法は出来ないのですか?」

 織莉子は、苛立ちが隠せないのか。語尾が若干強まっている。

「残念ながら、接続先が無ければ私ではどうする事も出来ない。
 あらゆる魔法と接続しコピーできる反面、接続先が無ければ魔法は使えない。コネクトの唯一の欠点が、ここで出てしまっているのさ……」

「……」

 カンナにそう言われ、織莉子は無言で立ち上がった。


 そして、何も言葉を出さず、ドアに向かい足を踏み出した。

「……何処に行くつもりだ」

 カンナも釣られて、立ち上がっていた。

「……キリカの敵を討ちます」

 織莉子の静かな一言には、怒りが混ざっている。

「勝手な真似は許さんぞ……」

 カンナは、織莉子の肩を掴み制止させる。

「……離しなさい。
 仲間が……。ましてやキリカが、こんな酷い目に合っているのに……ジッとしていられる訳が無いでしょう!!」

 織莉子は肩が震える程、怒り狂っていた。

「落ち着け……」

 カンナの目付きが鋭く尖った。

「……」

 織莉子は何も反応しない。

「敵を討つなとは言っていない……頭を冷やせと言ってるんだ。この三人を、ここまで一方的に叩きのめす事が出来るか?
 そんな芸当、私でも貴様でも不可能だ。それを出来る魔法少女を相手にして、貴様だけで真面に戦える訳が無いだろう。
 少し考えれば解る事だ……」


「ならば、どうしろと言うのですか……」

「……こういう異常事態なれば、確実にあの女の影が見える。
 暁美ほむらのな……」

 カンナには、その確信が合った。

「……暁美ほむらに会うと?」

「いや……。恐らく会うだけでは、済まないだろうな」

 カンナの言葉に、織莉子は表情を強張らせていた。


≪……二人とも。聞いてくれ≫

 カンナと織莉子にテレパシーで、言葉が飛び込んでくる。
 発信者はユウリだ。

「……ユウリ!?
 意識が戻ったのか!?」

 カンナと織莉子は、慌ててユウリの周囲に駆け寄った。
 うっすらと目を開き、カンナと織莉子を見る。まだ喋れないのか、メッセージはテレパシーで送られる。


「……貴女達を襲撃したのは一体、誰なんですか!?」

 織莉子は、開口一番に聞きただす。

≪……暁美ほむらだ。
 あやせの馬鹿が、絡んだらあの様……。私達も、結局この通りって訳だ……≫

「……やはりな」

 カンナの直感は的中していた。

「……許さないわ。あの女は……必ず殺す」

 織莉子の怒りは、頂点に達する。

≪……ただ、一つだけ気になる事が有る。
 あの姿は暁美ほむらだったが……前に戦った時と恰好が明らかに違ってた……。
 それに、アイツのソウルジェムは左手に付いていた筈だが……左手には何も無かったんだ……≫

「……!?」

 ユウリのメッセージに、カンナはピンと来る物が有った。

「……ユウリ。その情報は大いに役に立つぞ。
 今は、ゆっくり休んでいろ……」

 カンナは、ニヤリとほくそ笑んだ。そして、織莉子に向け、こう言った。

「貴様の見た予知は……当たっていたな」

 織莉子は、何も答えないで、カンナをジッと見つめるだけだった。


 同日、東京。
 この国で最も人口の密集した都市。故に、人の呪いの象徴、魔獣の出現率は高い。

 ほむら達は、見滝原から離れた後、順番に東京まで流れてきた。
 魔法少女不在の縄張りで、深夜の魔獣退治。

 ただ、今宵の魔獣は、何かが違っていた。

――キャハハハ……

 魔獣は笑っていた。
 風貌も、今まで見てきた魔獣と明らかに違う。
 今までの魔獣は、厳つく男性的な形だったのに対し、この魔獣は丸っこく女性的な形。尚且つ、気味の悪さの中に、妖艶な雰囲気を醸し出す。そんな、風貌だった。

「何やねん……この魔獣は」

 すずかは、笑う魔獣に戦慄を覚えた。

(……なんだこれ!?)

 沙々も、その不気味さに怖気づいていた。

「……」

 あすみは、無言で魔獣を睨むが。

「……貴女達は下がってなさい」

 ほむらは、そう言い放って戦陣に躍り出た。


「……ほむらさん?」

 あすみは、ほむらを見るが、その当人は魔獣以外を全く見ていない。

(……姐さん)

 すずかは、ほむらの様子が明らかに違っている事を直感した。
 一言で言い表せば、怒っている。

 そして、ほむらは紫の弓を構え、狙いを魔獣に定める。

 弓を射り、紫の矢は魔獣を胴体を、ズドン、と撃ち抜いた。

――……アハハハ!?

 魔獣の動きが停止した。
 ほむらは、追撃とばかりに数発の矢を撃ち込み、魔獣を追い詰めていく。

――キャハ……キャハハ……。


 笑い声は次第にか細くなり、成すすべなく攻撃を受ける事しか出来ない。

「……」

 ほむらは、止めとばかりに、最後の一投を射る。

 ドン、と魔獣の体を一本の弓矢が真っ直ぐ貫いた。
 魔獣の体は、霧が晴れる様に、消滅していく。

「……」

 その光景を、ほむらはただ見つめるだけだった。


 皆、ほむらの周囲に駆け寄るが、明らかに様子がおかしい事は感じていた。

「……何やねん、このグリーフシード?」

 地面転がり落ちたグリーフシードを拾い上げ、すずかはマジマジと凝視する。

「随分と大きいですね……。形も丸いし……」

 沙々も、珍しい形のグリーフシードに、目を丸くしていた。

「……それは、私が預かるわ」

 ほむらは、そう言いながら右手を差し出す。

「……そうでっか」

 すずかは、そのグリーフシードをほむらの右手に乗せる。
 ほむらは、何も言わないまま、それを盾に突っ込んだ。

「……ほむらさん?」

 あすみはそう声を掛けるが、ほむらは首を横に振るう。

 しかし、ほむらは完全にキレていた。怒りを抑えきれないから、何も喋れなかったのだ。


 無言のまま、自動販売機に近づいていくと、ガン、と空き缶を入れるゴミ箱を蹴っ飛ばす。カランカラン、と空き缶が道路に転がって行く。
 滅多に感情を表に出す事の無い、ほむらが物に八つ当たりしているのだ。

「……あ、姐さん?」

 その光景には、すずかも、あすみも、沙々も、冷や汗を垂らす程だった。

(……アイツ)

 ほむらは、奥歯を噛み締め、目を細めていた。


 大きく深呼吸。
 酸素を取り入れ、二酸化炭素を吐き出す。

「ごめんなさいね……。ちょっと、頭にきたのよ」

 ほむらは、落ち着きを取り戻した。


「……何に怒ってるんですか?」

 沙々は、恐る恐る聞きただす。

「……内緒。まだ、言えないわ」

 ほむらは、少し笑いながらそう伝える。

(ほむらさん……全然、目が笑ってない)

 ちょっと怒っているレベルでは無い事は、あすみでも解る。

「……明日の始発で、見滝原に行くわよ」

 ほむらは、そう指示を出す。

「……始発でっか?」

 すずかは、間髪入れず聞き直す。

「そうよ……。
 もう、時間が無いわ……」

 ほむらは、星の見えない都会の濁った空を見上げた。



 翌日。
 本日は日曜日なので、当然学校は休日となる。

 まどかの部屋にさやかと杏子が訪ねてきたのだが、本日は遊びにきた訳では無い。
 日曜なら、勉強から解放された学生なら嬉しい筈だが、三人ともその顔付きは険しい。
 何故なら。

「……昨日の魔獣は、魔獣じゃ無かったよ。
 ……魔女が蘇ってた」

 さやかは、開口一番にまどかに伝えた。

「……」

 まどかは、無言で頷いただけだ。
 伊達に、元女神と言う訳では無い。昨晩の異常事態を察知していたのだ。

「……昨日のパトロールは、アタシとさやかだけだったから良かったけどな。
 一応、ほむらからこの世界の事情を聞いてるし」

 杏子はそう言った。

「……アイツはあたし達に嘘を吐いてたんだ。
 最初から、利用するつもりで騙してたんだ……」

 さやかは、肩を震わせている。


「……解んない。
 だけど……ほむらちゃんが魔女を蘇らせる様な事をするなんて思えない……」

 まどかは、さやかの意見を否定する。

「……まどか。アンタ、この期に及んで、アイツの味方するの?」

 意見を否定されたさやかは、まどかを鋭い視線を送る。

「……生憎だけど、アタシもまどかと同じ意見だ」

「杏子まで、アイツの肩を持つ訳?」

「まぁ、落ち着いて聞け。こういう時に感情的になり過ぎるのは、さやかの悪い癖だ」

「……」

 納得がいかないのか、さやかは憮然とした表情だ。

「……悪魔の方のアイツが言ってた事を思い出してみろ。
 キュゥべぇが魔法少女を生み出す理由は、宇宙のエネルギーを生み出すって事だ。言い換えれば、暁美ほむらが魔女を蘇らせる事に、何のメリットも無いって事になる。
 つまり、魔女の蘇る状態が出来るのは……何かしらの異常事態が発生したって考えられねーか?」


「……それ本気で言ってんの?」

「意見の一つだよ。ま、アタシ自身の推測ってだけだ」

「……あたしは、アイツが世界を破滅させるために、魔女を利用してるって思う。
 その為に……アイツは円環の理を乗っ取ったんだ。
 やっぱり……あの時確実に殺しておくべきだったんだ」

 さやかと杏子の意見は、真っ向から割れていた。

「……まどかは、どう思う?」

 杏子は、あえてまどかに意見を振った。

「……ほむらちゃんが何をしようとしてるのかは、私には解んない……。
 だけど……」


「ほんなもん、当人に直接聞けばええんやないか?」

 まどかの言葉を遮断する様に、癖のある関西弁が、部屋に響いた。
 その声の主を探す様に、三人とも部屋の中を見渡す。


「……って、魔法を解除せんと、見えんわな」

 そう言われ、三人とも壁にもたれるすずかの姿を、見つけ出した。

「お久しぶりやな。ミキはんにサクラはん。
 それと、初めましてやな。鹿目まどかさん」

「安藤すずか……。
 アイツのパシリが、何の用事なんだよ」

 さやかは、食って掛かる様に、強い言葉で牽制した。

「いいから、落ち着けよ。今は冷静にしねーと、話になんねーだろ……」

 杏子はさやかの肩を抑え、なだめる様にそう言った。

「……姐さんの言うてた通りやな。
 ミキはんに関しては、怒りまくっとるから気をつけとけって……」

 すずかは、ポーカーフェイスを保ちながらさやかを見ている。


「お前の魔法は、ステルスだったな……。そりゃ、忍び込むのも簡単だろうな。
 んで、何時の間に見滝原に来たんだよ?」

 杏子はすずかに聞きただす。

「今日の始発で、見滝原に来たんや。お蔭で、寝不足やで……」

「それは知らん。ただ……お前が来てるって事は、暁美ほむらも来てるんだな?」

「そーやで。
 そんで、アタシは姐さんから伝言を頼まれとる訳や」

 すずかは、ワンテンポ置いてから、改めて要件を言い出す。

「……巴マミ、美樹さやか、佐倉杏子、鹿目まどか。この四名に協力を要請したい。
 今夜十時。見滝原の外れに有るスクラップ場で待つ。
 アタシからの伝言は、これだけや」

「……そうかい」

 すずかの言葉に、杏子は素っ気なく答えた。


「解った……」

 さやかは、大人しく聞き入れた。ここで、すずかと話をしても意味が無いと悟ったのだろう。

「……一つだけ聞いても良いかな?」

 まどかは改まった様子で、すずかに聞きただす。

「何でっか?」

「今の話、聞いてたの?」

「当然聞いとるよ。何のこっちゃか、訳解らんけどな」

 すずかは、きっぱりと言った。

「そっか……すずかちゃんだったよね?」

「……?」

 不意にまどかに名を呼ばれ、すずかは首を傾げた。

「ほむらちゃんに伝えておいて欲しいな。
 約束を守ってくれたね……って」

 まどかは、笑みを見せていた

「……オーケー。伝えときますわ」

 すずかは、そう言いながら、頭をペコリと下げた。
 そして、すずかは部屋から立ち去って行く。その瞬間には、すでに視認が出来なくなっていた。


 そして、夜。

 郊外のスクラップ場。人の気配はゼロ。動物の気配が数匹で、虫の鳴き声だけが響く。
 車の残骸だけが立ち並ぶ場に、魔法少女達は集まってくる予定だが。

 ほむらは、事務所の屋根に腰を掛けて、呼び出した魔法少女達を待つ。
 その下に待機するのは、すずか、あすみ、沙々の三名。
 皆、何も言わない。今は、呼び出した魔法少女達を待つのみ。

「……来たわね」

 真っ先に魔法少女の気配を察知したのは、やはりほむらだった。

「チャオ。悪魔さん」
 一番先に到着したのは、プレイアデス聖団の和紗ミチル。社交辞令の挨拶だが、ミチルに笑顔は無い。
 今回はチームの参戦では無い。あくまで、ミチル個人の参加である。


「……お久しぶりね」

 ほむらは、ミチルを見下ろす。

「……今日呼び出したのは、この世界をどうするつもりで呼び出したのかな?」

 ミチルはほむらを見上げて、そう聞いた。

「それは、全員が集まってから話すわ。
 参加する意思は、貴女達に任せるけれどね」

 ほむらは、そう言った。その腹の内に隠れた考えは、ミチルには読み取れない。

 そして、次にやって来たのは。

「どうせ呼び出すなら、もっとマシな場所を指定しろよな」

 佐倉杏子。

「……一体、何のつもりなの?」

 巴マミ。

「……アンタに聞きたい事が山ほどあるんだけど。覚悟は出来てる?」

 美樹さやか。

「……久しぶりだね。ほむらちゃん」

 そして、鹿目まどか。
 見滝原の主力の魔法少女と、元女神が到着。


「……」

 さやかは、ほむらを無言で睨みつける。

「そんなに、睨まないでくれる?
 大丈夫よ……全員集まってから、全てを話すわ」

 ほむらも、睨む様にさやかを見つめた。

「……まだ、誰か来るのか?」

 杏子は、間髪入れず聞きただした。

「ええ。貴女達も、良く知ってるわ……」

 そう、ほむらは答えた。


 最後にスクラップ場に足を踏み入れたのは。

「クックック……随分と知った顔ばかりだな」

 聖カンナ。

「……どうやら、訳有りの魔法少女ばかりの様ですね」
 更に、美国織莉子。
 つい二か月前に敵だった魔法少女が、この場に現れたのだ。


「……暁美さん。貴女は、何のつもりで私達を集めているのかしら?」

 ほむらの不審な企みに、マミの表情は険しく曇る。

「……そうね。全員集まった所で、アイツも呼びましょう。
 出てきなさい……キュゥべぇ」

 ほむらの言葉と同時に、一台のスクラップ車両の屋根の上に、白い個体が姿を見せる。

「僕まで呼び出すなんて……この集まりは何のつもりだい?
 君は一体何を考えているんだ?」

 キュゥべぇは、集まった魔法少女達を順番に見定めていく。

「……全員集まった所で、事の次第を話さなければいけないわ。
 今の世界の現状も、私自身の“本当”の計画もね」

 そう言って、ほむらは地面に降り立った。


本日はここまで。

次回は……頑張って書いてからと、身も蓋も無い事を言っておきます。

世界を破滅てww
さやかちゃんまた馬鹿になっちゃったかww


投下する前に読み直したほうがいいぞ

相変わらずのマミさんの情弱ぶり


さやかちゃんは感性で判断するタイプだから仕方ない

安藤すずか

ゴメン、誤爆した。

ほっ

乙~
しばらく来ないうちに進んでた

読んでもらってた方には申し訳ないですが
仕事の都合でこれ以上の続行は無理と判断したのでここで切ります

申し訳ないです


エター乙
そういやなぎさってh普通の人間に戻って、魔法少女とも魔女とも関係がなくなったらしいぜ

わけわかめでおわりかー
1番いやな終わりかただわ
うみねこのなく頃に思い出したわー
あれも風呂敷畳んでくんないかなー

残念だなぁ…
謎は謎のまま

ログとっとくぞ
再開できるようなら頼む


物流は今後きつそうやね、頑張って

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2018年11月07日 (水) 21:36:14   ID: nydza7sN

ボチボチと書こうとした結果、エターなったわけか。残念。

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