男「最近、変な声が聞こえ過ぎて困るんだけど」(194)

放課後 教室

同級生「僕はお前のことが嫌いだ」

男「……」

同級生「それはなぜか、なんてことを言わなくても分かるだろう?」

男「……」

同級生「己の身分を弁えず、ただ本能のみで人生観を見定めている輩は…」

同級生「…畜生以下の存在だからだ」

男「…」

同級生「所で話は変わるけど、君は超能力を信じるかい? 僕は信じているんだ」

同級生「というか使えるんだ超能力をね…」

同級生「だから君に見せてあげよう。この僕の力というものを──」

同級生「──そしてどれだけ女ちゃん…黒姫…をどれだけ思っているかを、同時にね」

男(誰だコイツ…)

前作男「最近、変な声が聞こえ過ぎるんだけど」 - SSまとめ速報
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同級生「手始めに、ハッ!」バサリ!


クルッポー!


男「おおっ?」

同級生「フフン。どうだい? 今、君は僕がどうやって鳩を出したかわからないだろう」

男「…」

クルッポーポー!

同級生「これは僕が超能力者だからできることなんだ。まず手のひらにワープホールを作り上げ…」

男「なるほどなぁ。予め袖口に丸まって潜んでたんだな、大変だなぁお前も」

同級生「…なんだとっ?」

男「おいアンタ。誰かは知らねえけど、あんまり窮屈な思いさせるなよ鳩に」

同級生「いや、だからこれは超能力でワープホールを…」

男「えっ? 何?」

同級生「…ぐぬぬ」

同級生「い、いい気になるなよなっ!? これは…そう…これは! 小手調べだ!」

同級生「君が僕の嘘を見抜けるかという! そう! 君を試したかったんだよ!」

男「そうなのか」

同級生「そうともさっ! だ、だから……くそぅ……っ」ギリリ

男「つかさ。一つ聞きたいんだが」

同級生「…なんだよ」

男「アンタ急に俺の前に現れて、何なんだ一体?」

同級生「……」

男「…ちょっと、わけがわからないんだけど」

同級生「クックック、ハァーハッハッハ!!」

男「!?」ビクゥ

同級生「クク…どうやら君には〝適正〟が無いようだね…黒式の…」

男「く、黒式?」

同級生「ああ、この世に存在する数少ない──選ばれた存在さ」

同級生「高貴なる黒姫。その身内から放たれる《ブラック・ピュア》という因子…」

同級生「…その因子を自然に受信できる人間、それが黒式というものだ!!」

男「…お、おう」

同級生「これはもう確定だね。君には資格がないようだ、語らずとも我々黒式には…」

同級生「…阿吽の呼吸で伝わる意志が存在する」

男「意志…ですか」

同級生「そうとも。あの黒姫に仕え敬い、そして祭り上げるという……素晴らしい意志が」

同級生「だけども君は…ハァーァ。なにも感じないんだね、同じランクですらないなんて」

男「……は、はあ」

同級生「こうやって確かめることすら意味もないなんて。僕も早とちりをしてしまったよ…」

男「…それで、なんなんですかね」

同級生「いいよもう、君には語る資格はない」

男「はい?」

同級生「同じ黒式ではないのなら、争うこともない。競うこともない。そもそも各が違うんだよ」

男「……」

同級生「悪いことは言わない。これからはもう、黒姫に近づかないことだ」バサァ!

同級生「──君は望まれない人間なんだよ、世界にとってね」

スタスタ

男「…つまり」ガタリ

同級生「…うむ?」

男「意味がわからんが。つまり、お前はこういってるのか?」

男「俺は女に近づくべき人間じゃない、と」

同級生「…貴様、なにを黒姫の真名を…ッ!」

男「テメーみたいな真っ黒なマント羽織って、意味がわからんことくっちゃべってる奴が…」

男「正しいとでも、言ってんのか?」

同級生「ぶ、無礼だぞ!! 貴様ッ…この僕に向かって…!!」

男「──やっとわかったぜ…」ボソリ

同級生「っ…?」

男「なるほどな…アイツを独りぼっちにさせてたのはこれが原因か…」

同級生「…何を言っている」

男「はぁーまったく、運命ってのはいたずら好きって……アイツの言うとおりだぜ」


男「なぁお前、そんなこと言わないで聞かせろよ。お前の本音を語ってくれよ」

男「──俺はちゃんと聞いてやるぜ、だからな?」


男「俺と少し勝負してみようぜ」

ということで続編始まります
続きは土曜日の夜に!

ではではノシ

同級生「…勝負? はは、君は一体急に何を言い出すんだ」

男「んだよ。自信ないのか」

同級生「煽っても無駄だよ。言っただろう? 君と僕とでは価値が違うんだ。争うことすら無意味なほどにね」

男「……」

同級生「つまりは、動物と人間が勝負をすると同じことなんだ…」

同級生「わかるだろう? 君は動物から喧嘩を売られて、買うのかい? 買わないだろう、だってそれが───」

男「買うぞ」

同級生「なんだって?」


男「俺は動物に喧嘩売られたら、全力で挑んでやる」


同級生「君は馬鹿なのか?」

男「周りからはそう見えるかもな。けどさ、俺は何だって本気でやるつもりだ」

男「──お前みたいに中途半端に決めたりはしないからな」

同級生「ぼっ…僕の何処が中途半端だと言うんだッ!?」

男「色々だな」

同級生「テキトーなことを言うんじゃあない! 僕は選ばれた人間なんだッ! それを君は…ッ!」

男「今だって逃げてるじゃねーかよ、お前」

同級生「ッ…!?」

男「俺と勝負することを、黒式だかダークマターかしらねえけども、そうやって俺から逃げてんだろ?」

男「お前の想いは、女を思ってる気持ちは、そんな意味不明なことで言えなくなるほど──」

男「──ちゃっちなモンなのかよ」

同級生「…っ……ぐ……違う…ッ…!」

男「違わねえよ。お前はそんな人間だ」

同級生「違うと言っているだろうッ! ふざけたことを言ってるんじゃあない! ふざっ、ふざけるなっ!」ダンッ!

男「……」

同級生「僕の気持ちは僕のものだ! この力とはまさにッ……黒姫との絆だッ!」

同級生「力こそ想いだッ! だからこそ、僕の気持ちを貴様に話す必要など無い!」

同級生「黒式は全ての感情を──統一する、全ては、ひとつになるんだ……」ぐぐっ

同級生「だから…君はやっぱり許せないッ」ギリ

男「知らねえよ」

同級生「ああ、そうだろうなッ! 君は一般人であり、ただの無能力者の人間…ッ」

男「で?」

同級生「だから! だからこそ……僕の力で潰してやるッ」

男「……」

同級生「良いだろう、乗ってやろうじゃあないか。君のその挑戦、僕は乗っかってやる」

同級生「侮るなよ! この僕は黒式メンバーの中でも幹部クラスを凌駕するぞ…」

男「…素直じゃねえやつだな。けど、勝負を勝ってくれるならありがたいぜ」

男「いっちょやろうじゃねえか。おう、動物と人間様の勝負ってやつを」

男「──かかってこい、人間」

同級生「はぁ…すぅうう…ふぅ~~~~」

同級生「…この僕こそがこの世で誰よりも、黒姫のことを強く想っている」

バサァ!

同級生「──動物風情が僕に勝てると思うなよ」

男「……」

同級生「…それで? 勝負とは一体何をするんだい?」

男「特に決めてねーな。けど、何気なくおっ始めても平気だろ」

男「互いにどちらかが負けたと思ったら、勝ちになる感じでよ」

同級生「ふん。考え方が野蛮だね、もっと理性的に考えようじゃあないか」

同級生「──黒姫の好きなモノを言い合うってのはどうだい?」

男「好きなもの…?」

同級生「ああ、そうだよ。姫が好むものを1つずつ上げていくんだ。互いにね」

同級生「そして一人が言えなくなり、もう片方が言えた時。勝敗が決る」

男「正解がわからねーじゃねえか。本人でもここに呼ぶのかよ」

同級生「はぁ~」

男「…んだよ」

同級生「君は本当に本当に、思考が足りないね。まったく、ちょっとは考えようとは思わないのかな」

男「……」

同級生「黒式こと我々の仲間は全て──姫の好物系統を把握済みだよ」

同級生「好きな食べ物、好きな音楽、好きな場所、好きな番組、好きな教科──」

同級生「──可能な限りの全てを我々は知っているんだ」

男「…正直に言って気持ち悪いなお前ら」

同級生「う、うるさい!」

男「んで。だからどうすんだよ、結論を言えって結論を」

同級生「つまりは、こういうことだよ」ばさぁ!

男「!」


ガラリ!


「──同級生様。お待たせしました」
「──我々、ジャッチメン黒式三人組が必要とだということで」
「──今回はどのようなご用件でしょうか」


男「…なんだコイツらは」

同級生「よく来てくれたね、我が同胞たちよ」

同級生「彼らは我ら黒式の中でも優秀な力の持ち主だ。彼らに黒姫のことなら──」

同級生「──敵うものはいない、と恐れられるほどにね」

男「なんですかそれは……」

同級生「ふふん。これでなら大丈夫だろう? つまりは、彼らに僕らのジャッチをしてもらろうということだ」

男「いや、えっと、その……色々と突っ込みたいんだが」

同級生「勘ぐらなくてもいい。彼らは僕に対しても当然、平等に扱うよ」

同級生「仮にもし、仮にもしだ! 僕が間違った知識を披露するような事になれば…」

同級生「…彼らは、容赦なく正当なジャッチを下すだろう」

男「お、おお…?」

同級生「黒姫に関しての傲慢な存在は排除されるべき対象だからね」

同級生「だろう? 三人共?」


「はい。我々は平等なる存在」
「例え限界知らずと有名な同級生様であっても」
「我々は断固としてジャッチさせていただきます」

男「…は、はあ」

同級生「これで、そう、これで…舞台は整った」バサァ!

同級生「さぁいざ尋常に戦おうではないか──この僕と…」

男「……」

同級生「君が僕に言った数々の非礼極まりない言葉、のちの後悔し給え」

同級生「くっく…ハァーハッハッ…ハァ-ハッハッハッハッ!!」

「おお、同級生様がやるきです」
「我々も頑張りましょう」
「永劫なる黒姫様の名のもとに」

同級生「ハハハハハハハハ!!」

男「………」

男(やべぇ超帰りたくなってきた)

黒姫好物種類闘論 開始

同級生「さて。先手はどちらからかな?」

男「お前からでいい」

同級生「そうか、なら僕から行こう。まず一つ目──」

同級生「──黒姫は乗り物系では飛行機が一番好きだ」


「あたりです!」
「そう、黒姫は幼少期。引っ越しの移動の際に使用した飛行がいたく気に入っております」
「流石です…同級生様…」


男(そ、そうだったんだ…へぇー…)

同級生「ふふん。まぁこれは一般常識だね、なんといっても」

男「一般常識って使い方間違ってるだろ…」

同級生「わ、我々にとってはだ! いいから次は君の番だぞ!」ずびしっ

男「お、おお。俺の番な、えーっと…」

同級生「くっく。どうしたんだい? もしや君はひとつも言えないとでも──」

男「……うーん、あ! そうだ!」

男「あいつの好物はカレー…だったか?」


「なん…だと…?」
「あ、あたりです! しかも一番好物の食べモノ! こ、これはポイントが高い!」
「な、なんて人だ…黒姫のトップの好きな食べ物など…言い当てるなんて…」


同級生「……!」

男「えっ? い、いや! 前に食べてるところみたことあるし……えっ? すごいことなのっ?」

同級生「…仮にもしだ」

男「な、なんだよ」

同級生「この戦いが言える数ではないく、言えた名前の重要度であったのならば───」

同級生「──今この瞬間、僕の負けは決まっていた」

男「い、いやいやいや! だって好きな食べ物だぞ!? どっちかといえばお前のほうが…」

同級生「食べ物の好みなど、生きているうちに変わっていくものさ」

同級生「それがごく最近のもの、となれば尚更だ」

同級生「素直に言おう。僕は、カレーだということを知らなかった」

男「…お、おお」

同級生「まだ黒姫は──ずっとあんずパイが一番だと思っていた。しかし、ジャッチ三人組は絶対だ」


「我々でさえもトップシークレット情報でした」
「…これはすごい戦いになりそうだ」
「立ち会えたことに感謝いたします」


男「…大げさすぎるだろ!」

同級生「なめていたよ。君のことを、僕は正直舐めていた」

同級生「だが僕はその余裕を──今捨て去ることにした」

男「あ、あのよ? いや、まぁ、適当に戦ってもらってもあれだけども…」

同級生「………」ゴゴゴゴ


「本気だ…! この戦い、もしや…!」
「おおおっ! 武者震いをしてきましたぞ!」
「死人がでるやも…しれない…」


男「ええっ!?」

同級生「──……次に行こうか」

同級生「僕は絶対に負けない。彼女の好物、2つ目」

同級生「彼女は、動物が大好きだ」


「あたりです!」
「黒姫様は引っ越す以前、動物を買ってました!」
「おお! これは攻めてきましたね…!」

男「まぁそうだろうな。うん」

同級生「…なんだと?」

男「え? だってフツーにそうだろうって思ってたし」


「っ…!?」
「フツーだと…!?」
「こ、これは最重要候補の一つだというのに!?」


男「もういいだろそのノリっ!」

同級生「これは数の勝負だ。君がどれだけ重要度の高い情報を持ってたとしても…」

同級生「…言えなくなった時点で君の負けだ」

男「そ、そうだな」

同級生「さて、君の番だぞ」ばさぁ!

男(か、顔がこぇえ…なんだよ、急に雰囲気が変わりやがって…)

男「…じゃあそうだな、えっと」

男「アイツは散歩とかが、好きとか?」


「ほう。いい線ですね」
「あたりです。これはもう一般常識でしょう」
「ふむ。無難ですね」


男「やかましい! いちいち余計なこと言いすぎだろ!」

同級生「君たち。ジャッジの正確さは素晴らしいが──」

同級生「──余計な私語を入れるのはやめたまえ」


「っ……」
「す、すみません! つい興奮してしまい…!」
「わ、我々は正確なるジャッジに徹します!」


男「おお?」

同級生「すまない。彼らにも悪気はないんだ。ただ、僕もこの勝負…」

同級生「…本気で挑みたいのでね」

男「っ……へっ! いい顔してきたじゃねえか」

同級生「……」

男「──いいだろうよ、俺も! 絶対にお前には負けねーつもりいるからな」

男「かかってこいッ!」

男(もうごちゃごちゃ考えるのは…やめだやめ! もうコイツ等のノリの乗っかってやる!)

同級生「フン。次だ! 僕のターンッ!」

同級生「彼女はお姉さんが大好きだッ!」


「あたりです!!!」
「黒姫様は昔から血縁関係を大切に思っております!」
「流石です!」


男「じゃあ次ッ! 俺の───」


~~~
~~

黒姫好物種類闘論  三十四回目

男「はぁ…はぁ…っ」

同級生「くっ…ははっ…どうした? もう君は尽きてしまったかい…?」

男「ふ、ふざけるな…テメーはどうなんだよ…!」

同級生「フン。僕はまだまだ、余裕があるぐらいさ…!」

男「ハッ! どうだろうな、さっきはギリギリ絞りだすように言ってたじゃねーかよ…」

同級生「んだとぅ!? き、君こそ2個3個ぐらい怪しかっただろう…!?」

男「るせー!」

同級生「だが、僕は絶対に君には負けない! 僕は絶対に…ッ!」

男「…っ…俺だって負けるつもりはねぇよ」

同級生「じゃあ言い給え! 君の番だぞ!」すびしっ

男「……。俺のターン」

男「アイツは……アイツは、」

同級生「どうした…っ?」

男「…アイツは自由が大好きだ」

男「しがらみもなく、ただひたすらに走り回れる世界が好きだ」

男「もっといろんな事を見て、聞いて、そして感じる」

男「他の誰よりも貪欲に──自由を欲しがっている」


「ぐーぐー」
「むにゃむにゃ…」
「すぴー…」


男「…だろ、アイツってやつは」

同級生「……」

男「アイツは本当に凄いやつなんだ。色々と考え方がちょっと変わってるけどよ」

男「人とは違う魅力があるんだ」

同級生「……あたりだ、黒姫は昔からそうだったよ」

同級生「黒姫は、彼女は、小さい時から──興味心の塊だった」

同級生「ふふ、僕もよく振り回されていたよ……さて、次は僕の番だ」

男「…おう」

同級生「彼女は──強いものが大好きだ」

同級生「なんにでも立ち向かえる、そして頑固として己の意思を曲げない」

同級生「そんな強さを持ったものを、彼女は愛する」

男「あたりだな…ああ、アイツは強くなりたいって望んでる」

男「俺はアイツと出会って間もないけれど、それでも、なんとなくわかった」

同級生「ああ、そんな彼女の向上心を…僕は素晴らしいと思っている」

男「俺の番だな。アイツは──……本当に、ほんとーに変なものが好きだよな?」

同級生「……ああ、本当に、びっくりするぐらいに」

男「例えばキーホルダーなんだけどよ。滅茶苦茶ブサイクなやつ、ずっとかばんに付けてんだよ」

同級生「ああ、それかい。それは僕が以前、彼女にプレゼントしたものだよ」

男「へっ?」

同級生「心配するな。それもだいぶ前、彼女がこの街に引っ越す以前だからね」

同級生「彼女と別れる際に、渡したんだ。僕のことを忘れないでと…言うために」

男「お前って…」

同級生「ああ、彼女と昔、幼なじみだったんだ」

同級生「彼女の転校が決まるまで、ずっと遊んでいた。来る日も来る日も、ずっとずっと…」

男「……」

同級生「…その話はどうだっていいんだ。僕の話だ、黒姫とは関係はない」

男「…おう、じゃあ次はお前の番だな」

同級生「うん。次は僕の番だ──……彼女は」

同級生「彼女は人らしさを好んでいる…」

同級生「言ってしまえば昔らしさ。彼女の最大の魅力だった、本能に生きる様のような…」

同級生「そんな美しさを捨て去ってまで、彼女は、人間になろうと努力している」

男「……」

同級生「自由に生きることも、強さに憧れることも、人違ったものを愛することも」

同級生「すべて捨て去ってでも、人らしく生きるために」

男「……そう、見えるか?」

同級生「僕にはそう見える。だけど、決して無理をしているわけじゃあない!」がばぁ!

同級生「彼女はそれを心から望んでいるんだッ! 強くなる、頑張りたい、人として魅力的になりたいッ!」

同級生「全ては人らしくなるために! 今の自分を変えようとしている!」

男「……」

同級生「彼女はっ……それを一番、苦痛に思っていたはずなのに……だけど、今は違うんだ……」

同級生「昔は…彼女はまさに動物だった。裸足で野を駆けて、木々を飛び回り、なんだって食べていた」

同級生「だけど……この街に引っ越してきて、それが変わっていた」

同級生「彼女はッ! 今の自分に強く後悔を覚えていた! 変貌してしまった己に、強くっ…強くっ…」

同級生「どうして彼女がああまで変わってしまったのかは、僕は知るところじゃあない…」

同級生「色々とあったんだろう…彼女の家は厳格だからね…」

同級生「それであっても、そうであっても、彼女は……また昔の自分を取り戻そうとしていた」

同級生「夜中に歩きまわり、動物と触れ合って、また、自分の魅力を取り戻そうとしていた!」

ガタタッ!

同級生「だけどそこに君が現れたッ!」ガシッ

男「………」

同級生「君は一体彼女に何をした!? 彼女はまた、己の魅力を消し去ろうとしている!!」

同級生「意味がわからないけれど、彼女は首輪だってする! だけど、君はそれを止めようとしているだろう!?」

同級生「君は彼女に人間らしさを求めようとしているだろうッ!?」

男「…ああ」コクリ

同級生「なぜそんなことをするッ!? 彼女の素晴らしい魅力に気づいているだろう!? なのになぜだっ!?」

男「…駄目じゃねえか、そんなのは」

同級生「ッ…!」

男「当たり前のことだろ。人は人だ、動物じゃねえよ」

男「例えアイツの魅力が凄くても、アイツは人間だ。人間なら人間らしく、まともに生きるべきだ」


男「──アイツが好きだっていう時の顔、すっげーかわいいぞ」


同級生「…っ……」

男「どんな女でも、魅力に溢れた可愛いやつなんだよ。可愛くて、凄くて」

男「今のアイツは十分、今という自分を大切に思ってるはずだ。大好きだって、思ってるはずだ!」

同級生「それはなぜだ!! なぜ後悔しないとそう言える!」

男「俺がさせているからだよッ! この俺がアイツに望ませているからだ!」

男「俺が女に人間らしさを求める…なら! 俺もそれを大切に受け止めてやるんだよ!!」

男「変わろうと努力してんなら、おーよ! 俺は絶対に最後まで受けきってやるぜ!!」

同級生「ッ……うっ……くッ……!」

男「…だから求めんだ。動物じゃなくって、人間として可愛くなれって」

男「俺はそのほうがすっげー嬉しいぞって、な」

同級生「………」

すっ

同級生「……君は強いんだな」

男「…」

同級生「僕なら、彼女の魅力の強さに押し負けてしまうよ。彼女を変えようなんて、到底思えない」

同級生「だけど、君はそうさせてしまうんだね。彼女の自由を、違った方向に伸ばせられるんだ」

同級生「…そうか、そうだったんだな」

男「なぁ…お前」

同級生「なんだい」

男「お前ってどうして、こんな意味のわからん宗教団体みたいなのに…入ってんだよ」

同級生「ッ……うっ……くッ……!」

男「…だから求めんだ。動物じゃなくって、人間として可愛くなれって」

男「俺はそのほうがすっげー嬉しいぞって、な」

同級生「………」

すっ

同級生「……君は強いんだな」

男「…」

同級生「僕なら、彼女の魅力の強さに押し負けてしまうよ。彼女を変えようなんて、到底思えない」

同級生「だけど、君はそうさせてしまうんだね。彼女の自由を、違った方向に伸ばせられるんだ」

同級生「…そうか、そうだったんだな」

男「…」

同級生「…次は僕のターンだったな」

男「えっ? あ、そっか…おう」

男「まだ続けるってんなら、全然俺は──」

同級生「僕のターン」すっ


同級生「──女ちゃんは君のことが大好きだ」トンっ…


同級生「…彼女はこの世で一番、誰よりも、家族と同等に、それ以上にと言っていいぐらいに」

同級生「君のことを愛しているだろう。心から信じているだろう」

同級生「君という人間に関われたことを──強くありがたく思っているだろう」

同級生「これが、僕の答えだ」

男「──………」

男「おうっ! 当たりだバーカ!」

同級生「ああ、どうだい。次は君の番だよ」

男「いや、俺は言わねーよ。…言ったじゃねーか」

同級生「……」コクリ

男「──どちらかが負けだと思ってなら、負けだってな」

玄関前

同級生「──クックック……ハァーハッハッハ!! 復活! 超復活!!」ばさぁ!

男「お前なぁ…帰宅時にもそのマント羽織ってんのか」

同級生「えっ? あ、本当だ……ううっ……」ガサゴソ

男(天然かっ)

同級生「そ、そんな顔でみるんじゃあないっ! バカにしているだろうっ!」

男「…いやするよ、つか、本当に元気だなお前。さっきまで号泣してたのによ」

同級生「うわー! 言うなーっ! ばかーっ!」

男「うるせぇ…」

同級生「ぐ、だが見ておけ! いつだって我々黒式は! お前の行動を監視しているぞぉ!?」

男「…それのことなんだけどよ」

同級生「ん、なんだい?」

男「顔近いな、もっと離れろっ…その黒式ってやつ、なんでお前入ってんの?」

同級生「それは…」

男「お前、その団体がアイツに迷惑かかってんの…わかってるだろ?」

同級生「……」

男「だからアイツは悩んでた。ひとりぼっちで、ずっとずっと悩んでたんだぞ」

男「謙遜されて、除外されて、友達も一人もできなかった」

男「けどよ、今ならわかるけどさ…お前ならもっとうまく出来ただろ、一人でも」

同級生「いいや、無理だよ」

男「…なんでだよ」

同級生「僕は強くはないんだ。一人でも、彼女の問題を解消できることは無理だったと思う」

同級生「だからこそ、小さな僕はこうするしかなかった。黒式と呼ばれる団体に入り…」

同級生「…彼女を見守ることしかできなかった」

男「小さいって…お前、女のためにここまで追っかけてきたんじゃ…」

同級生「……」

男「…いや、なんでもねえ。聞き逃してくれ」

同級生「ありがとう。けどね──……世界は狭いんだ」

同級生「どうやっても足掻けないことってあるもんだよ。努力をさせてもらえないこともあるんだよ」

同級生「だから、僕はこうなんだ」

男「………」

同級生「では、これで。さらばだ、僕は僕でやることがたくさんある。君は、その……えっと……」

同級生「が、がんばれよっ! ……って、応援しておくから…うん…っ」テレテレ

男「なんで照れてるんだよ」

同級生「うるさいなっ! お、応援とかしたことないんだよ……ったく、口の減らないやつだな! ばーか! フン!」くるっ


ズンズン


男「……おい、ちょっと待ってくれ」

同級生「…まだ僕に何かようなのかい」ムッス

男「ああ、ちょっと最後に。俺もお前に──」

男「──応援、しておこうと思ってな」

同級生「応援…? はぁ? 君が一体僕に何を応援することがあるのかな」

男「いいから聞けって。やっぱお前ってちょっと女に似てるわ」

男「一本のこと考えたらまっすぐ突き進んで、すっげー諦めの悪くて、頑固者……幼なじみって言われてすぐ納得したぜ」

同級生「……。そうかい、それで?」

男「だから見せてやるよ。【世界】を──」

男「──どれだけ大きいか、その先になにがあるのか、どこまで広がっているのか───」


男「──世界は、広いぜ?」すっ



バサバサバサァ!!

──空に闇が舞い降りた。


同級生「えっ…」


そう思った。けれど違う、夕焼けに染まる空は以前として変わることはない。
だがそう思わせるほどの──大量のカラスが飛び回っていた。


同級生「なん、だって…」


空が消え、地面が消え、そして変わり気配に満ちた。
生き物の鼓動、視線、または匂いを充満させ、見慣れた景色が一変する。


あの人間の周りに──生が溢れかえっていた。


男「どーだ超能力者? …これがホンモノだ」


人間は笑った。数えきれない動物の闇の中で、ただ朗らかに笑う。


男「世界って広いだろ?」

人間の言葉に反応するかのように、動物たちが騒ぎ出す。
何重にも響き渡る声。思わず耳を塞ぐことも忘れて、僕は──


同級生「はっ……ははっ…」


笑った。格の違いに、己とは違いすぎる強さに。


同級生「僕を応援してくれるのか…?」


なぜだ。僕みたいな矮小な存在に、彼はどうして応援してくれる。


男「ちいさくねーよ。お前は弱くもねーし、カッコイイやつだって」

男「ただよ、ちいせー考え方は忘れた方がいいな。もっと多くのこと見ようぜ」

男「──お前は凄いやつなんだからよ」


明らかに、僕よりも凄いやつが、僕のことをすごいと言って。
誰が信じるだろうか。誰が受け止めるだろうか。

けれど、だけど、僕は

同級生「ばっ……ばっかやろー!!!」ダダダ


思わず堪え切れず走りだした。
地面がネズミたちで埋まってようが、数えきれない野良猫や野良犬に狭まれようが。


同級生「ふざ、ふざけるなぁーッ!」


気合で掻き散らす。声で遠ざける。全身全霊を持って、僕は──


同級生「僕だってなぁ!! 僕だってっ…! 僕だって!!」


──あの男に追い付きたい。


同級生「女ちゃんが大好きなんだよっ! もっといっぱい会話してっ! いっぱいいっぱいイチャイチャしたいんだよ!!」

同級生「なにが黒式だよ!! なにが選ばれた存在だっ! そんなのっ…そんなの!!」


目の前の人間に、敵うはずがない。

同級生「──だからァ…ッ!!」


僕は強くなりたい。
なによりも強く、この思いを出しきれるように、誰よりも最大最強に。


同級生「…ありがとう…応援してくれて…っ」


強くなりたいと、思い出させてくれて、ありがとう。


男「──いいってことだ、じゃあ頑張れよ」


同級生「っ……!」


同級生「──絶対…ぜったいっ……ずびびッ…ぐすっ!」

同級生「そのうち絶対に女ちゃんをうばってやっからなぁ─────!!!!」


僕は新たな世界に、今。

踏み込んでみせる。

私にはできた妹が居る。
それはそれはもう優秀で秀才で、勤勉な妹だ。

運動も素晴らしく、一度覚えたことを更なる段階で発揮することもできる。


なんて、なんて、自慢の妹なのだろう。


女姉「……」


──そう思えていた時期が、私のもあったのだ。


女姉「…もう覚えてないけどね」


当時のことを詳細に覚えてはいない。
ただ、そういったことを思えていた私も居たということは事実だ。


今の私はそれを《否定》したいのだけれど。

女姉「ふぅ、じゃあ今日も頑張りますかぁ」


私は変わることはない。
一生このまま、なにも変わることもないまま。

私は妹にとっての《最低の姉》で生き続けるのだろう。

それで、それで良いのだろう。

私はそれを望んでいるのだから。

妹もまた、それが私という姉なのだろうから。


女姉「よしっ!」


──私は今日もこの世界で生きる。

自宅

女姉「えっ? おつかい?」

女母「うん。そうなのぉ~……出来れば女姉ちゃんにやってもらえたらなぁって」

女姉「その、私、勉強が残ってるんだけど」

女母「あれ? そうなんだぁ、ごめんなさいねぇ」

女姉「…うん」コクリ

女母「じゃあ女ちゃんに頼もうかなぁ、女ちゃんも勉強中じゃないと良いんだけどねぇ」

女姉「……」

女姉「待って、お母さん。良いよ私が行くから」ガタ

女母「え、でも勉強中じゃあ…」

女姉「ううん、良いの大丈夫。さっき一区切りついたところだし」

女母「ほんと? わぁー助かるわぁ!」

女姉「じゃあメモ頂戴。すぐに買ってくるから」

~~~~

女姉「…安請け合いしちゃったかしら」トボトボ

女姉(まぁ一区切り出来ていたのは本当だし、ちょっと気分転換したかったのは事実だし)

女姉「別に平気だしね、うんうん」

すたすた

女姉「…私、何に言い訳してるんだろ」

女姉「あーもう、余計なことは考えないっ。ちゃっちゃと済ませて勉強の続きっと」

女姉(そういえば何を買ってくるんだっけ、メモ確認しておかなくちゃ)ガサゴソ

女姉「なになに…洗剤にたまご、そして掃除機──掃除機っ!?」

女姉「掃除機って……えっ? マジで言ってんのコレ?」

女姉「あー……普通に買ってこいと言ってそうよね、うちの母親だと……」

女姉「…とんだお使いになりそうね、これ」

デパート

女姉「洗剤は入れたし、たまごも買った。後はー……掃除機ね」

女姉(いや、ほんとに、掃除機って何よ)

女姉「家にある掃除機壊れてるのかしら、んなのいつの話なの…」


「おねえーちゃーん」


女姉「っ!」ビクゥ


「おねえちゃん! ねぇこれみて! かわいいよね!」
「わぁーほんとうだ! 猫さん! かわいー!」


女姉(…びっくりした。私のことじゃないのね)

女姉(小学生ぐらい? 姉妹で仲良く買い物かぁー……そういえば)

女姉(こっちに引っ越してくる前、あんな風に私も妹と買い物によく行ったっけ)

女姉「あの子は直ぐにいろんなところに歩いて行っちゃって、迷子になって…」

女姉「私がいつも探してた───」

女姉(──って、なに思い出に浸ってるのよ私ってば)フルフル

女姉「……」くる スタスタ


女姉(最近になって、よく妹との思い出を思い出すようになった)

女姉(…それはなぜか、なんて事を今更ながらきっかけを探すことも無い)

女姉(あの日、あの夜、あの公園で───)

女姉(──奇跡にも思える不思議な光景を見てから、ずっとずっと…)


あの娘が遠く離れていってしまうのだろうと、感じてしまった、あの日から。


同級生「あれ? お姉さんじゃないですか!」

女姉「きゃあっ!?」

同級生「お久しぶりです! わかりますか、僕ですよ僕!」

女姉「えっ? 誰……って、同級生くん!?」

同級生「はい! そうです!」

女姉「えーっ! わぁー大きくなったね~」

同級生「えへへ」

女姉「すっごい久しぶりねぇ。ほんっと、え、でもどうしてここに居るの?」

同級生「あ、実は僕この街の高校に受験したんですよ。だから今はこっち住まいなんです」

女姉「そうなの? 全然知らなかった…」

同級生「あはは。そうだろうなって思ってましたよ」

女姉「…じゃああの娘と一緒だったりするの?」

同級生「くろひ、ごほん! ええ、もちろん、女ちゃんと同じ高校です」

女姉「そうだったんだー……あの娘ってば何も言わないしさ」

同級生「あー多分ですけど、僕のこと気づいてないんじゃないですかね、きっと」

女姉「そんなわけないでしょ!」

同級生「…いえいえ」

女姉「あの娘は記憶力いいし…」

同級生「…僕が彼女の視界に映らないようにしたんです」

女姉「えっ?」

同級生「あーいやいや! なんでもないです! ただ、彼女も色々とあったみたいなので」

同級生「僕もまた時期をみてから話しかけようかなって思ってるんで」

女姉「そうなの? うーん、よくわからないけど…あの娘も喜ぶと思うよ、きっとさ」

同級生「はいっ!」

同級生「…そういえば何かお探し中ですか?」

女姉「あ。うん、えっと掃除機をちょっとね…」

同級生「掃除機? それはまたえらく大物を買うんですね」

女姉「…まぁ、うん、あはは」

同級生「じゃあこっちのコーナーですよ。案内します」

女姉「え、でも悪いし…」

同級生「全然平気です。だってほら、僕ここの店員ですし」

女姉「え? ほんとだ! バイトなの?」

同級生「そうなんです。最近初めまして、色々と自分を変えようかなって」

女姉「青春してるねー。でも、あんまり根気詰めてやると後々辛くなるよー?」

同級生「いやいや、ここは頑張らないと駄目なんですよ! じゃあこっちなので、ついてきてくださいね」

~~~

同級生「この辺とかがお勧めですよ。値段もリーズナブルですし、家庭用では群を抜いて売れてますから」

女姉「おー…非常にわかりやすいー…」

同級生「どうです? 今ならお得意様ってことで、割引を入れちゃいますよ?」

女姉「…商売上手ね、君」

同級生「これが売れれば僕の評価もうなぎのぼりなので!」

女姉「しかも正直者と来た! ……うーん、じゃあこれにしよっかな」

同級生「ありがとうございます!」

女姉「…なんだか同級生くん。雰囲気がらりと変わったわよね、昔と比べて」

同級生「えっ? あ、そうです…か?」

女姉「うん。もっと弱々しいっていうのかな、こう、いつも泣いてたイメージだったから」

同級生「あー確かに、そんな感じでしたね、僕って」

女姉「さっきも色々と変わりたいって行ってたけど、もしかして、好きな子でもできたのかな~?」

同級生「っ…!?」びくぅ

女姉「ん? 図星だった? ありゃりゃ、こりゃ青春真っ盛りだねぇ」

同級生「…あ、はい…」テレテレ

女姉「君が好きになるぐらいな娘だから、それはもう元気で頭もよくって」

女姉「可愛らしい感じの、それで……」

女姉「……あ、あれ? もしかしてだけど、うちの……」

同級生「おっお買い上げ有りがとうござまーすっ!」

ダダダダ!

女姉「……あー」

女姉(やっちゃったかしらコレって…)

~~~

女姉「色々とありがとう。助かっちゃったわ」

同級生「いえいえ。またうちのデパートをご贔屓にお願いします!」

女姉「うん。それと、さっきのことなんだけど……」

同級生「っ! えっと、このことは!」

女姉「うんうん! あの娘には秘密ってことよね?」

同級生「…ち、違います。言っても大丈夫ですよ」

女姉「…え?」

同級生「僕は、えっと、その……彼女に伝わっても大丈夫だと思ってます」

女姉「…どういうこと?」

同級生「そのうまく言えないんですけど、例え伝わったとしても──」


同級生「──彼女には今、大切なものがあるはずだから」


女姉「…君って」

同級生「こ、このことが伝わっても! 彼女はきっと押しのけるんだと思います!」

同級生「それぐらい強い精神力を持っているとわかってますので、彼女は、強いですし」

女姉「……」

同級生「出来れば僕の口から直接伝えたいですけど、お姉さんが言いたいのであれば僕が止める権利なんて…」

女姉「い、いやいや! 私だって好きに伝えたいわけじゃないから! 君が嫌なら言わないよ?」

同級生「ほ、本当ですか!? ありがとうございます…!」

女姉「…私をどんな下世話好き女だと思ってたのよ」

同級生「あはは。ごめんなさい」

女姉「だから心配しないで…その、私が言うのもなんだけど、頑張ってね」

同級生「もちろんです! 僕は負けるつもりはありません!」

女姉「…そっか。じゃあね、また」フリフリ

同級生「はいっ! お買い上げありがとうございまーす!」

~~~

女姉「…負けるつもりはない、か」

女姉(じゃああの子の周りの状況とか知ってる、感じなのかしら)

女姉「そうじゃなきゃあんな言い方にするわけないものね…」

女姉(…あの娘はほんっと罪づくりな女というか、なんていうか)

女姉「人をかき回すことに長けてるわねー……」

女姉「…掃除機重い」

ズシッ

女姉「…なんて買い物させるのかしら、あの母親は」



猫「にゃーん」



女姉「っ……ぎゃー!!?」

猫「にゃん?」

女姉「ね、ね、ね、猫ーぉっ!?」ズサササー!

女姉(ど、どどどどうしてここにっ!? このルートは野良猫居ないはずなのにっ!)

猫「ゴロロ」タシタシ

女姉「こっ……こないでっ! ばかっ! あっちいきなさいよっ!!」

猫「んにゃ?」ゴロリ

女姉「ひ、人懐っこいわね……じゃなくて! そんなお腹見せても撫でてあげないんだから! しっしっ!」

猫「グルルー……にゃん!」

シュタ!

女姉「いっ、ちょ、やめ、こっちくる───」バババ!



「──はい、そこまでだ変態デブ猫」

女姉「ふぇ?」

「ちょっとは考えろ。テメーのことを苦手な奴は居るんだぜ、いやほんとだ、嘘言ってねえだろ!」

女姉「…あ、あんた…」

「え? あ、うん。いやいや知り合いだろ! この前あったじゃん! ……え、あ、すんません!」


男「あ、あはは~ど、どうも! お久しぶりです……」


女姉「…っ……この前の変態男ッ!」

男「変態男ぉ!? なんすかそのネーミング!? …って、おい! 笑うなよ!!」

猫「ゴロゴロ~」

女姉「ひぃ…一人でブツブツ何か言ってる…っ」

男「待って! 違うんです、これはその色々と──あ、お前逃げるな!」

猫「にゃーん」シュタタタ

男「テメー! こらぁー!!」

男「ったく、覚えておけよ…今度しっぽをおもいっきり掴んでやっからな…」

女姉「っ」ソソクサ

男「あ、ちょっと待って!」

女姉「ひぃっ!?」

男「…ビビりすぎですって、いや、俺のせいだってのはわかってますけども」

女姉「な、なによ…私になんの用…っ?」

男「別に用があるってわけじゃあ……ただ困ってるようだったんで話しかけたっていうか」

女姉「………」

男「…えっと、その」

女姉「………」

男「あの? 大丈夫っすか? 急に黙って───」

女姉「ふぇ」

男「…ふぇ?」


「ぶえっくしっ!!!」

~~~

女姉「ほんっとごめんなさい!」ペコペコ

男「あはは~…そういえばネコアレルギーでしたね、そういえば」

女姉「おもいっきり顔面に…っ」

男「だ、大丈夫っす! 平気っすよこれぐらい!」

女姉「…ほんとに?」

男「まぁ悪いのはアイツですし。お姉さんには罪はない感じっすよ」

女姉「アイツ?」

男「あーあの猫。デブ猫、かわいい女の人見つけるとすぐ近寄るんすよ、ほんと変態猫で」

女姉「あ、うん…そうなんだ」

男「はい。……あれ? どうかしました?」

女姉(…天然か)

男「その全然気にしてないんで、まぁその、気にしないでくださいっす」

女姉「……うん」

男「……」

女姉「……」

男「………」ソワソワ

女姉「あのさ、君」

男「はいっ!?」

女姉「まえから気になってたんだけど、聞いてもいいかな」

男「…な、なんすか?」

女姉「……」じっ

男「お、おう…」

女姉「…うちの妹と付き合ってるの?」

男「っ……!?」

女姉「どうなの?」

男「えっ!? あっ、いえっ! その~……俺は、そう思ってるというか、えっと」

女姉「俺は?」

男「は、はいッ! ぶっちゃければ付き合ってますッ!」

女姉「なんでそんな挙動不審なワケ?」

男「へっ!? あーあのっ! その~……っ」

女姉「まさか無理矢理な感じで──」

男「それは違う!」

女姉「……」じっ

男「うぃっ!? す、すんません急に大声をあげて……あの、ごめんなさい……」

女姉「…はぁ~」

男「……ううっ……」ションボリ

女姉(これがあの時の彼? なんだか全然雰囲気が違うんだけど……)チラリ

男「……」

女姉(あの公園でイキナリ現れて、とんでもないことを言ってのけて)

女姉(──妹を焚き付けた張本人。それが、この男の子)

女姉「…ちょっと良いかしら」

男「な、なんでしょうか?」

女姉「これ」

男「…うぇ?」

女姉「重いから持ってくれない? 私の……アタシの家まで」

男「これを? …家まで?」

女姉「彼女の姉は大切にしてたほうがいいと思うけどなー」

男「やらせていただきます!」

~~~

男「…案外重いっすねこれ」

女姉「……」

男「よいしょっと…」

女姉「……」

男「…うん…」


すたすた


女姉(勢いで頼んじゃったけど、まぁいっか。この際だから色々と聞いてみようかしら)

男「……」

女姉「あのさ」チラリ

男「は、はいっ」

女姉「君ってあの子のどこか気に入ったの?」

男「ずいぶんと直球な質問っすね……」

女姉「答えられないの?」

男「…そんなこは無いですけど」

女姉「じゃあ教えてよ。お姉さんに、妹のどこか好きなのか。じっくり詳細に」

男「なんすかその羞恥プレイ!?」

女姉「駄目?」

男「…駄目じゃないっすけどね! あーもう、えっとっ」ガシガシ

男「……顔とか?」

女姉「怒るよ。女として」

男「ひぃー!? ご、ごめんなさい! 違うっす! えっと! えーっっと……」

女姉「………」

男「…その、やけに積極的だけど、ときおり見せる純粋さとか」

男「一生懸命頑張ろうとしているひたむきさが、すっげー好きっていうか……だぁーもうなんだこれ!」

女姉「うわー…よく堂々と言えるわねー……姉に向って」

男「ちょっとーぉ!?」

女姉「…くすくす」

男「ぐっ…からかわれてるのわかってましたけどもねっ!? 意地悪っすねほんと!!」

女姉「そういう姉だってことは知ってるでしょー? あの娘と付き合ってるなら、聞いてるはずじゃない」

男「わ、わかりませんよ! んなこと…!」

女姉「そお? じゃなくっても、あの時のことを覚えてるのなら──」

女姉「──わたしが、アタシが、どんな人間かってことはわかるんじゃない?」

男「…あの時のこと?」

女姉「公園」

男「…ああ、あの時」

女姉「…あの娘が逃げ出して、アタシがみつけて、それから君が現れた」

男「……」

女姉「色々とおかしいことがたくさんあったけど、今は聞かないでおいてあげる。けどね……」

女姉「……あの瞬間、妹は変わった」

男「……」

女姉「今までのことを沢山、妹は打ち明けた。自分が何をしたいのか、何を求めているのか」

女姉「……ああいったあの子を見るのはほんっと久しぶりだったわ」

男「昔って、引っ越す前のことっすか」

女姉「知ってたの? あの娘は言わないと思ってたけど」

男「あー……別のルートで知りました」

女姉「そう。だからね、君はすごいと思うよ」

男「俺が?」

女姉「うん。とってもすごいと思う。だって、あの妹を変えるんだから」

女姉「なんでもかんでも自分一人で抱え込むようになった妹に…」

女姉「…人には頼らない頑固者で、これと決めたら絶対にやろうとするあの娘に」

女姉「君は新しい道を差し出してあげたんだから」

男「…」

女姉「お姉さんは褒めてあげたいよ。君はかっこいいよってさ」

男「…お姉さんは知ってるんすね」

女姉「うん?」

男「アイツの事、女のことを、いろんな事知ってるんすね」

女姉「そりゃもちろん。だって、だって───」


──よく知らなければ、嫌うこともできないのだから。

よく知っているからこそ、身近にいるからこそ。
自分があの子の姉だからこそ、まっさきに彼女を嫌うことができた。

妬むことができた。己の愚かさを誰よりも大きく身に受けることができた。

いかにどれだけのことを達成しようとも。
それを上回ることを成し遂げられてしまったら、私は、何を誇ればいいのだろう。


女姉「…私はあの子の姉だから」


私にはそれがわからない。
妹が私よりも優秀で、私よりもうまく達せられる。


女姉「だから、ずっと見続けることになるのよね」


私がどれだけ馬鹿で愚者で、
実の妹を妬み続ける嫌な姉なのかを。


私はいつまでも───


「…だからアイツはお姉さんのことが大好きなんだ」


女姉「えっ?」

男「そうなんだろうって思います」

女姉「大好きって、なに、それ……そんなわけ」

男「えっ? だってまぁ直接言われたことないですけど、絶対お姉さんのこと大好きですよアイツ」

女姉「……」

男「なんすかその顔? …あれ? なんで信じてもらえない感じ?」

女姉「あ、アタシだよ? 君も知ってる通り、嫌な姉じゃん…だから」

男「…だから、なんなんですか?」


男「そういってくれる人って、周りにお姉さんだけじゃないっすか」


女姉「…あたし、だけ?」

男「ええ、アイツの事を根気よく更正させようとしたの。お姉さんでしょ?」

男「それでちゃんと変わった。色々と問題はあったけれど、でも、お姉さんはやり遂げたじゃないっすか」

男「──アイツを変えるってことを。人間らしくするってことを」

女姉「っ……でもあの娘は…!」

男「まぁ不満たっぷりでしたね、多分」

女姉「だったら嫌われて当然じゃない…っ」

男「あーそこっすよ、お姉さんが勘違いしてるの。アイツの場合だったら、嫌なことがあったらまず逃げ出しますよ」

女姉「逃げ出すって! そんな馬鹿なこと──……あー」

男「くっく。でしょ? 動物みたいな考えしてますからね、きっと何もかも捨てて逃げ出したんじゃないっすか?」

男「私は孤独で一人で生きてやる! って、でもそれをしなかった」

女姉「……」

男「アイツは不満を抱えてても、こんなの嫌だって思ってても、逃げ出さなかった」

男「──お姉さんのことが大好きだから。大好きな人から教えてもらうことを頑張って覚えようとした」

男「だから昔も今も、アイツは──女はずっとお姉さん事大好きだって思ってますって!」

女姉「大好きって……あたしのこを……」

男「…女って強い奴が大好きですよね」

女姉「あ、うん」

男「堂々と言える人を、アイツが嫌うはずがないんです。自分がどれだけ頑固者か知ってるから」

男「それを押しのけてでも、自分を変えようとする相手を、嫌いになるはずがないんです」

女姉「…………」

男「なんて語っちゃいましたけど、そんなことお姉さんならわかってたっすよね。すんません」ペコリ

女姉「……あたしは…」


強さなんてもの持っていない。
妬みや、嫉妬、そこから生まれる姉としての位置を使った──ただの自己満足。

あの子を自分色に染め抜くという、善とは程遠い、真っ黒な意思でしかなかった。

だから強さではない。
胸を張って口に出せる動機じゃない。勘違いだ、それを好きだと言われても。

妹に気に入られるものだったとしても、私は、あたしは──

 
 
───………にゃーん


女姉「…っ…!?」びくぅ

女姉(また猫が近くに…っ! どこにっ!?)


ぐいっ!


女姉「きゃあっ」


ポスン


女姉「…えっ?」



「──だからって俺、負けませんよ」

女姉「っ」ビクッ


声が響く。


「どれだけお姉さんが女に好かれていても」


その声は黒く、重たく、そして硬い。


「そしてお姉さんの思いが強くても、絶対に負けるつもりはありません」


人が持つ貪欲さがありありと発せられた──

──真っ黒な意思。


男「俺は女を……俺色に染めてみせます。俺好みの女にしてみせます」


目の前の彼は、あたしを引き寄せて腕を握る彼は。
惜しげも無く身のうちに秘める欲望を吐露させる。


動物にも似た支配欲。

女姉「…っ……」

男「俺はいつだって本気です。今のアイツは可愛くて、それから今の自分を好きになってほしい」

男「──それを変えようと思うんだったら、俺は本気であなたに立ち向かいますよ」


そして彼は笑う。
その笑みに見覚えがあった。あの時、あの公園で、大量の動物を引き連れて。

思うがままに全ての状況を打破した──あの時の笑みだった。

敵わないと、とっさに判断した。
あたしの欲望では、嫉妬程度の醜さでは彼には勝てないと思えた。

彼のような人としてどうかと思えるぐらいな必死さを抱えた醜さ相手には。

──強さとして負けて当然だと思えてしまった。

それと同時に、強さというものは。

女姉「…ぷっ、くふふっ」


こんな単純なことでいいのかと、ふと、気づいてしまった。

男「…なんで笑うんすか?」

女姉「くすくす。んーん、ちょっとおかしくって、あははっ」


彼は気づいているのだろうか。
その本気は自分勝手で醜い欲望の塊だということを。

こんなあたしと大差のない、むしろ自分よりも幾分酷いものだということを。


ああ、そうなのとか気づいてしまった。


人は自分勝手に動ける人間が強い。
他人の目を気にすることなく、他人がどう思ってようが気にすることもなく。


身勝手ながらも、それでも、ずっとずっと誰よりも───


──その人間のことを一番に思っているのだろうと。


女姉「…君はほんっと強いわ」

男「もちろんっすよ。負けるつもりはありません」

女姉「そうだろーね。必死だもん、めちゃくちゃヤバイぐらいにさ」

男「…う、うっす」

女姉「けどさ。君はいつまでも正しいってわけじゃないんだよ?」


だからこそ伝えておこう。

この彼が、私のように──今のあたしのように。
何時からか思いの形が変わってしまう前に。

誇りから、嫉妬へ。

同じ強さでありながら、そんな決定的な違いが生まれてしまう前に。


女姉「君は守ることだけを考えなさい。自分の周りの大切なことを…」

女姉「…変えようとするだけじゃなくって、自分が出来る限りでいいから」

女姉「──沢山の『声』を聞いてあげて」


そうすればあたしのような失敗をすることはないだろう。
一人で悩むことはなく、身勝手すぎてしまうこともなく。

 
 
 
 
 
 
 
───彼はきっと、妹の声を聞き逃すことはないだろう。

女姉「君がどれだけ妹のことを大好きかってことは、じゅーぶんわかったわ」

男「……」

女姉「けどね、ギラギラしすぎ。お姉さんちょっと心配なるから」

男「……。あー……」

女姉「ん、どうしたの?」

男「…すんません、いや、急に変なコト言い出しますけど…」

女姉「うん?」

男「最近、色々とあってすぐに熱くなっちゃうんすよ。今の俺って、やばかったでしょう? 今気づきました…」

女姉「うんうん。まさに野生に生きてるって感じだった」

男「おごごっ!」

女姉「そうやって妹にも迫ってる感じ?」

男「やめて! 違います! まだまだクリーンな関係ですッ!」

女姉「おやおや~? そりゃちょっとヘタレなんじゃないの~?」

男「うぇっ? …そう思います? やっぱりそうかー!」

女姉「男は大胆にいかないとねー」

男「そうか…なら今日こそ俺は…」


ズダダダダダ


女姉「ん?」

男「夜のお散歩の時に───」



女「てぇぇぇええええええええええええええええええいッ!!!」ゴス!!!



男「──ぐっはぁああああああああああああああああ!!!」ズシャアアアア

女姉「………」ポカーン

女「はぁ…はぁ…! な、なにしてるの…!!」

女姉「い、妹…?」


女「──お姉ちゃんに酷いことするなごうかんまっ!!!!」

女姉「──………」

女「って、あれ? 男くんなの?」

男「俺だよ!」ガバァ

女「え、じゃあ、あなたが…ごうかんま…?」

男「違う違う違う! ともかくおまえっ…またこんな野性っぽいことしやがって!!」

女「ひぅ…ごめんなさいご主人様…」

男「駄目ぇ! ここでその呼び方駄目! お姉さん聞いちゃってるから!」

女姉「……ふふっ」

男&女「??」

女姉「あはは! くすくすっ……ふふふっ」

女「どうしたの?」

男「お前が変なコト言うからだろ…」

女「変なことって何、ご主人様?」

男「わざとやってるだろお前!?」

女姉「な、なんでもない。ただね、ちょっと……ぶほっ!」

女「凄くウケてるの」グッ

男「お前この流れギャグにするつもりなの…? ハードル高すぎだからっ」

女姉「クスクス、じゃあ男くん」ポン

男「あ、はいっ?」

女姉「妹のこと──頼んだからね、ご主人様?」

男「………ウッス」

女「お姉ちゃん公認なの!」

男「やめて…こういう流れやめて…お願い…」

女姉「……」

私にはできた妹が居る。
それはそれはもう優秀で秀才で、勤勉な妹だ。

運動も素晴らしく、一度覚えたことを更なる段階で発揮することもできる。


なんて、なんて、自慢の妹なのだろう。

女姉「……」


──そう思えていた時期が、私のもあったのだ。


女姉「…もう覚えてないけどね」


当時のことを詳細に覚えてはいない。
ただ、そういったことを思えていた私も居たということは事実だ。


今の私はそれを《否定》したいのだけれど。


女「でも好き。ご主人様って呼ぶの」

男「お、おう……俺も呼ばれるのちょっと好きだけど……うん…」

女姉「…さて、あたしもカレシでもつくるっかなー」

私は変わることはない。
一生このまま、なにも変わることもないまま。

私は妹にとっての《最低の姉》で生き続けるのだろう。

それで、それで良いのだろう。

私はそれを望んでいるのだから。

妹もまた、それが私という姉なのだろうから。


女姉「よしっ!」


──私は今日もこの世界で生きる。

ということで終わりです。
この2つのお話は特別話という形で書きました。

次の最後までお付き合いしていただければ幸いです。


ではではノシ

男「……」プルプル

妹友「あっ! やっ! んんっ!」

男「…ここか?」スリスリ

妹友「だめっ…そこは、ちがっ」

男「なんだよ。じゃあこっちか」

妹友「…っ……」

男「正直になっちまえよ。お前の嘘なんて直ぐにわかっちまうんだぜ」

すっ

妹友「あっ…」

男「──ここ、なんだろ?」

妹友「ッ~~~~!!」ビクン


男「はーい。俺あがりなぁー!」パサリ

妹友「………」ズーン

男「あっはっは! また負けてやんの! よえーなぁ~」

妹「妹友ちゃん。これで何回目だっけ?」ガサガサ

妹友「…ななかいめ…」

妹「わーお」

男「もうそんな負けてんの? よくそんな弱さで俺に挑んできたな…ババ抜き…」

妹友「っ……お兄さんぐらいなら勝てると思ってたのに…!」

男「ぐらいってなんだ、オイ」

妹「もうトランプしまうよん。次はなにしよっか? なにしよっか?」

男「え? もう俺は寝たいんだけど…」

妹友「だ、だめです! もっとウチと勝負すっと!!」

妹「その挑戦……乗った!!」

男「俺の意見は…?」

フッフー! イヤッホー!

妹「ぎゃー!? なにすんだこのアホ兄貴ぃー! 一位独占がぁ~!」

男「テメー強すぎんだよッ! 見ないうちにやり込んでただろ!」

妹「くっくっく…今のあたしにかかれば、幾千通りのショートカットをこなせるのだヨ!」ピョイン

男「えぇぇええぇぇえぇえ!! なんだそれ!?」

妹「一般的なショートカットですわ!」

男「バクだろバク! ふっざけんな…っ」

妹友「え、えっ…みんなどこ…?」

男「オイ妹友! 後ろから来る奴、たたけ叩け!」

妹友「ふぇっ!? な、なん!? なんばいっちょるとっ!?」

男「周回差で来たキノピオだよ! なんかアイテム持ってるだろ!」

妹友「そげんこと急に…っ…えーい!」

妹「フーハッハッハ! このままダッシュで飛び越えて───」

ドガーン!

妹「──谷底に落ちたぁあああああああああああああああ!!!」

~~~

男「ぐぁー…久しぶりにゲームで熱くなっちまった…」コキッ

妹友「おっ、ほっ、とやーっ!」カチャカチャ

男「……。お前も諦めが悪いな」

妹友「えっ? それは、もちろんっ……わたし、ですから! ねっ!」

男「ふーん」

妹友「んんっ? おっ? きた? やったぁー! やったばい! 一位一位!」

男「おー」

妹友「えっへっへっ」どやっ

男「まぁそれでも、俺ら兄妹には勝てないだろうけども」

妹友「ぐっ…余計なこと言わないでください!」

男「……」

妹友「くそう…もっとアイテムを上手く使えばいいのかな…」

男「なんか久しぶりだな、こういうのって。突然だけど」

妹友「?」

男「お前がこっちに泊まりに来るの。小学生ぐらいだったか? それぐらいの時はしょっちゅう来てたけど」

妹友「あーそうですね、確かに」

妹友「…昔はよくこうやってお兄さんと、妹ちゃんと、夜中までゲームしてましたね」

男「おう」

妹友「何時からか…わからないですけど、いつの間にかそうじゃなくなって」

男「まぁしかたねーだろ。年頃だもんよ」

妹友「……」

男「しっかしまぁ、んぐぐっ……疲れたぜ。今何時だ?」

妹友「…お兄さん」

男「んぁー? なんだよ」

ぎゅっ

男「…え?」

妹友「……っ…」じっ

男「お、おい。ちょっと、なんだよ腕掴んで…」

妹友「今……二人っきり、ですよねっ」

男「お、おう?」

妹友「妹ちゃんは、お風呂に入ってて、しばらく……」ぎゅっ

妹友「……戻ってきません、よね?」

男「……」ゴクリ

妹友「……」じっ

男「…えっ? なに、それがどうしたっていう感じ?」

妹友「お兄さんっ」

がばぁ!

男「うわぁっ!?」


バタリ…

男「おっ、おまえっ!」

妹友「っ…っ…!」ドッドッドッド

男「ちょっと落ち着けって…! なにしてるのかわかってんのか…っ!?」

妹友「わ、わかってますよ……もう昔みたいに、子供じゃないんですっ」

妹友「気軽に泊まれることもなくなってっ…こうやってふたりきりで居る時も…!」

妹友「──正気でいられないっ……ぐらい、ドキドキしてて…」

ぎゅっ

妹友「ものすごくお兄さんに触れていたいから…ッ」

男「っ…」

妹友「わたしは──ウチは! もうお兄さんに思いを伝えてますッ…だから、だから…!」

男「…妹友」


廊下

妹(すっごいことなってる───!!)

妹(えっ? えぇぇええっ!? なんなんですか? これ、なんなんですかーっ!?)ドキドキ

妹「ヤバイヨヤバイヨ…」じっ

~~

妹友「ウチは…スキさえあればいつだって、お兄さんのことを奪うつもりでいるんです…っ」

妹友「お兄さんの気持ちなんて、思いなんて、全部全部! ウチで埋め尽くしてやるって…思ってます…」

妹友「だから…っ!! ───」ばっ

男「……」

妹友「──っ…!!」ビクッ

男「それで、なんだ?」

妹友「あ……えっと、その……」

男「俺の気持ちを、お前が、埋め尽くして──どうするんだ?」

妹友「……っ…ぇあ…」

男「…どうした言ってみろ」

妹友「うっ…な、なんでそげん…!」

妹友「そげん怖か顔すっと…?」

男「怖い? 俺が、今、怖い顔してるか?」

妹友「し、しとる………怒っとると…?」

男「…別に怒ってない。ただ、まじめに聞いてるだけだ」

男「本当にお前は俺の気持ちを──アイツを好きだって思いを、お前が、妹友が」

男「埋め尽くせるのかって、ただ、聞いてるだけだ」

妹友「っ……で、できる……」

男「ほんとにか?」

妹友「っ」びくっ

男「俺の本気を、本当にお前は乗り越えることができんのか?」

妹友「……それは…っ」

男「俺はいつだって本気だぜ。俺はお前のことを傷つけたくない、本当にそう思ってる。けどな──」

男「──俺の本気をちっせーもんだと思うなよ」

妹友「………」

男「例え、女の子に押し倒されても俺の気持ちは揺るがない」

男「俺は俺の想いを裏切ることはしない。ただ、やれることを全力でやるだけだ」

妹友「……ウチは!」

男「なんだ」

妹友「ウチは…そういったあんちゃんの所が…好きになったと」

妹友「ちゃらんぽらんじゃなくて、いつも真面目に物事を考えちょって…」

妹友「けれどすごか優しくって…だから、そばにいるといつも…心が落ち着くとよ」

男「……」

妹友「…でも」

妹友「今のあんちゃんは──違う、昔とはもう変わっとる…」

男「…変わった?」

妹友「うん…前までは、それでも沢山隙があったと…けど、今はもうなか…」

妹友「まるで獣みたいな感じすっと…」

男「…おう」

妹友「すっごい警戒心が強くて、付け入る所がないってぐらい…もう、昔のあんちゃんはおらん…とね」

男「……」

妹友「だから……ウチ、ウチはっ……ウチは……」

男「…ああ」

妹友「えーいっ」

ちゅっ!

男「んはぁっ!? お、おまっ! 今頬に…っ!?」

妹友「あんちゃんの思いがなんばいッ! んなもん知らん!」

男「知らんってお前…」

妹友「俺の本気ぃ? 知らん知らん知らぁぁあぁあああああんっ!!」ぐいっ

ちゅっちゅっ

男「ちょっとぉー!? おいっ!? ストップストップ!!」

妹友「はぁっ…はぁっ…やばか…めっちゃドキドキしとる…っ」

男「あ、あぶねぇ…もうちょっとでく、唇だったぞ!」

妹友「あんちゃんっ!!」

男「は、はいっ!」

妹友「──ウチもケモノになるばいっ…!」

男「な、なんてこと言うんだお前は…女の子だぞ!?」

妹友「知らんッ!」

男「知らんじゃーない! 女の子がそんなはしたない言葉を使うな!」

妹友「んーっ!!」グイッ

男「させるかっ」ババッ

妹友「ふんにゃッ」ゴス!

男「はぁ…はぁ…ば、馬鹿言うんじゃねーよ! お前は本当に諦めが悪いな!」

妹友「ふぇぇはにゃがいたい…」

男「ひとつ言わせろ! お前は…そこまでやって、俺に嫌われるとか考えねーのかよ…!」

妹友「……ううっ…グスッ…」

男「身勝手だって、自分勝手だって! 俺は…彼女が居るんだぞ…!」

妹友「っ……そげんことわかっちょるっ!!」

妹友「けど、けどけど!! 怖がってばっかりやったら何にもできんばい!!」

妹友「ここまでやったら嫌われるかもしれん! けど、自分の想いに嘘つくぐらいなら……っ!」

妹友「…まだ…嫌われる方がよかとよ…っ…」

妹友「諦めも…つかん……っ」ぐっ

男「…お前は、ほんとーによぉ…」

妹友「なんばい…っ」

男「……」

妹友「…うえぇっ…ひっぐ…ぐすっ! ずずずっ」

男「…わかった」

妹友「ふぇっ?」

男「お前の本気…しかと受け取った。じゃあ俺もガチの本気で立ち向かってやる」

妹友「…どゆこと?」

男「かかってこい、ってことだ。俺を──惚れさせるぐらいに」

妹友「………」

妹友「…ほんと?」

男「ああ、マジだぜ。俺は嘘はつかねーよ」

妹友「ばっ……ばーか!」

男「ええっ!? なんで罵倒される!?」

妹友「ばかばかばーか!」

男「う、うっせ!」

妹友「……でも、あんがと…うっぐす…」

男「…まぁ全然今の状態だと、俺、お前に惚れることないと思うけど」

妹友「なんでそんな希望潰すようなこというとぉ───!!?」

男「だって俺、めちゃくちゃ女のこと大好きだもん。ちょー好きだもん」

妹友「っ……うびゃぁああぁぁぁ…!!」

男「お、おい。そんなガチ泣きするなよ」


バタン!


男「うぇ?」

妹「…あたしは今、カンドーしております」パチパチ

妹友「ふぇ…?」

男(めんどくさいのが来た…)

妹「頑張って妹友ちゃん! あたし、めっちゃ応援してるよ!!」

妹友「うぇえええっ…ありがとぉぉお…っ」

妹「うん…うん…」ホロリ

男「あの、えっと…」

妹「さぁ今日はあたしの部屋でお眠り…」ススッ

妹友「ひっぐ…えっぐ…」

男「あの~」

妹「お兄ちゃん」

男「お、おう」

妹「…なんであれ、あたしはお兄ちゃんのこと信じてるから」

妹「良い答え。見つけるんだよ?」

男「…おう」

妹「……」じっ

男「…まだ、なにかあんのか?」

妹「んーん。ただちょっとね、思ったことがあってさ」

妹「結局、それって先送りにしてるだけだよねって」

男「…!」

妹「あはは。お兄ちゃん、昔と変わったね」

妹「真面目で、強くて、わがままで──優しかった」

妹「けどさ。優しすぎるってのも、強すぎるってのも、わがまますぎるってことも」

妹「…どーかなって思うよ?」

パタン

男「………」

男「……ぐぁー」ドタリ

男「なんつぅか、うん」

男「……俺の妹だな、ほんっと」

次の日 放課後 帰宅路

男「ふぁ~…ねみぃ」

男(結局あれから寝れなかったしな…アイツ等は、休みだったみたいだし)

男「帰って寝るかぁ…」

『随分と眠たそうじゃねえか。なぁガキ』

男「…お前か」

猫『がっはは。なんだなんだぁ。もしや嬢ちゃんとお楽しみだったやつか?』

男「ちげーよ変態猫。ただ単に寝不足だ」

猫『んだよ。夢のない話だな』

男「るせっ」

猫『くっく。それで嬢ちゃんとは…イイカンジになってきたんだろーな?』

男「……ま、まぁちょっとは?」

猫『けっこーなこった。ガハハ! こりゃ子供もすぐだなぁ』

男「…すぐ下の話に持って行くよな」

猫『こちとら野生なんだよ。子孫繁栄、だったか? そりゃ一番に考えるのが当たり前だぜ?』

男「ほうですかぁ…ふわぁー」

猫『おい、聞いてんのか。これだからゆとりは…』

男「……なぁ、猫」

猫『どした』

男「俺って、変わったか?」

猫『はぁ? なんだよ急に…なに、元からイマイチだよガキの顔は』

男「んなことじゃねぇよ。そうじゃなくって、性格とかだよ」

猫『性格って…猫のおれ様にきいてどうするんだおまえ…』

男「い、いいだろ! こんなこと聞く相手なんてそうそういねぇし…」

猫『ほう。とうとうガキもおれ様を先輩として敬う気になったのか、ガハハ!』

男「…もういい。帰る」

猫『んな怒るなって。聞いてやるって、なんだなんだ、性格だったか? おーそうだな…』

猫『確かにガキは変わったな。色々と大変だったろうしよ、そりゃ性格も変わるだろ』

男「…やっぱ変わったのか、俺って」

猫『まぁな。けどまぁー心配しなくたっていいんじゃねーの?』

男「そうか?」

猫『それが人間様って奴だろうよ。変わってなんぼ、最初から最後まで同じ奴ってのはいねーだろ』

猫『嬢ちゃんが良い例えじゃねーか。昔と今、変わり様がわかりやすいだろうに』

男「…まぁな」

猫『だからよ、何を悩んでっかしらねーけども』

猫『──このおれ様よりジカンとやらが長いんだ、頑張って考えな』

男「……結局丸投げじゃねぇか!」

猫『おっ? そうだったか、くっく』

男「んだよ…これなら犬にでも相談しとけばよかったぜ」

猫『……。ああ、そうか』

男「ん、どうした?」

猫『ガキは知らなかったのか。そーかそーか、まぁしかたねえ事だよな』

男「な、なんだよ。どうした急に…?」

猫『いやいや、今更になってだけどよ、まぁ忘れがちになってたけども』

猫『やっぱおれらと人間様ってのは、ちげーんだなって』

男「変な言い方するなって。はっきり言えよ、どうした?」

猫『あの犬なら死んだよ』

男「………え」

猫『ずいぶんと前に、死んじまったよ。あの飼い犬はよ』

~~~~

男「はぁっ! はぁっはぁっ! はぁっ…!」

ダッダッダッダ

男「おいっ……おいおいっ…嘘だろ……!」

ダダ!

男「──おい犬! 居るんだろっ!!」

男「おいって、その小屋の中にいるんだろって!!」

男「はぁ…はぁ……っ」

男「くっ…」

ピンポーン

男「っ…っっ……」

ガチャ

爺「…どなたかな?」

男「あ、あのっ! その……」

爺「うん?」

男「えっと、この家で飼われていたペットの…ゴールデンレトリバーが居たと思うんですけど…」

爺「…ああ、君が噂の」

男「えっ?」

爺「近所で噂になってたよ。いつも、私の五郎と何か喋ってるとね」

男「お、おっ…ごめんなさい! すみません!」ペコペコ

爺「あーいえいえ、せめてるわけじゃないんだよ。それに、五郎も嬉しそうにしてたからね」

男「…あ、えっと、その」

爺「あがっていくかい?」

男「あ…はい…」

~~~

爺「すまないねぇ。お茶でいいかな」

男「ど、どうもっ」

爺「…いつか君とお話がしたいと思っていたんだよ。タイミングが悪くて、君と鉢合わせにならなかったからね」

男「…俺の方こそ、その、勝手に」

爺「あはは。良いんだ、さっきも言ったけれど…五郎は喜んでいたからね」すっ…

男「あ…」

男(写真、がある──これって……)

爺「若いだろう? まだ五郎が現役だった頃だよ」

男「…はい」

爺「コイツは凄く頭のいい子でね。何時も何かを考えてる…ような」

爺「まるで私達人間よりも、多くのことを考えてる…そんな頭のいい子だった」

男「……」コクリ

男「…アイツは、すっげーいろんな事を知ってました」

男「それに俺は助けてもらって、色々と教えてもらったりして…」

爺「…君はもしや五郎の声が聞こえていたのかい?」

男「えっ!? あ、いや~……えっと、あははっ」

爺「ふふ、羨ましいね。私も五郎の声を聞いてみたいものだった」

男「……」

爺「私はね、よく旅にいったんだ」

爺「多くの世界を見て回ったよ。そして、そこに何時も五郎を連れて行った」

爺「地球で最初に太陽が出る場所で、五郎と一緒に空を見上げた」

爺「…とても寒い国で、一緒に抱き合って暖をとった」

爺「砂漠が広がる土地で、同じ水を飲みあった…」

爺「…五郎は私の家族だったんだ」

爺「ずっと、私達は一緒だった。同じ時間を共に過ごしてきた」

男「…はい」

爺「けれど、それはもう…終わったんだ」

男「…っ……」

爺「…五郎はね」

男「あ、はいっ」

爺「五郎は最後の最後。何かを心配していたようだったよ」

男「心配…ですか?」

爺「ああ、残り少ない時間のなかで…ずっと同じ方向を見続けていた」

爺「それは多分。今になって思えば、庭のほうだったと思うんだ」

男「っ……」

爺「そうだね。君がいつも五郎と会話していた場所だった」

男「…アイツ…」

爺「…私は何があったのかは知らないよ。けれど、私から一つ君に言わせてくれないかな?」

男「は、はい」

爺「ありがとう。五郎の話し相手になってくれて、私は本当に感謝している」

男「そんな…俺は、ただ…」

爺「もう残り少ないと思っていた寿命が、なぜか伸びていた気がするんだよ」

爺「…それはきっと、君のおかげだ」

コトリ

爺「──きっと五郎もそう言ってくれるはずだよ」

男「っ……そう、ですかね……」

爺「うん」ニコリ


~~~~


男「……」

男「…馬鹿野郎…くそっくそくそ!」

男(なんでだよッ…なんで俺は気づかなかったんだ…!)

男(アイツがもう残り少ないってもっと早くに気づいてれば…)

男「……俺は最後の言葉ぐらい、聞いてやれたっていうのにッ」

ギリリ

男「あの人にだって…あの人に伝えたい言葉だって、俺が伝えられたっていうのに…ッ」

男「馬鹿野郎ッ…」


「あ。男くん」


男「…えっ」

女「やっほー」

男「お前…どうしてここに」

女「おさんぽ中なの」コクリ

男「…あ、ああ。そうなのか」

女「…どうしたの?」

男「ん。あ、えっと…その…知ってるか?」

女「うん?」

男「ここの近所に居る、すっげー老犬のゴールデンレトリバーが居るんだが…お前、餌あげてただろ?」

女「あげてたの」

男「…そいつ、死んだってさ」

女「………」

男「俺、知らなくってさ。さっき確認してきてよ…」

女「私、知ってたよ?」

男「……えっ?」

女「そのペットさんが死んじゃってたこと。ずっと前から知ってたの」

男「ぇ、嘘だろ、知ってたのか?」

女「うん」コクリ

男「じゃ、じゃあ…お前っ…俺がアイツに相談してたのも、知ってただろ…?」

女「前に聞いたの」

男「ちょ、ちょっと待て!」

女「…」

男「待て、待ってくれ…お前、もしかして、だけど」

男「…死んじゃう前に、直前とか、生きてるうちにアイツと会ってたり、しないよな?」

女「……」

男「どうなんだよ…?」

女「うん。会ってるの、それに亡くなる前日にも会ってる」

女「──私は最後まで会い続けてたよ」

男「どういうことだよ…?」

女「そういうことなの」

男「なん、なんでだよ!? なんで俺に言わなかったんだ!?」

女「…」

男「お、おい…っ! お前、アイツが死ぬってわかってて、なのにっ!」

女「言ってどうするの」


女「──動物はいつか絶対に死ぬんだよ?」


男「…お前…」

女「どうして死ぬってことを、男君は重要視するの?」

女「私はわからない。そうやって訪れる終わりを、男君はどうするつもりなの?」

女「──ずっと抱え込んで、悩み続けるつもりなの?」

男「お前…どうしたんだ、えっ? 急に変なこというなよ……」

女「私は私だよ、男くん──これが『私』だよ」

男「意味がわかんねーよッ! お前…いいかッ!? 死んだらもう会話もできねーんだぞ!?」

女「……」

男「重要視するに決まってんだろ! 当たり前じゃねぇ、ちゃんと大事なことじゃねえか!!」

女「違うよ。大切なことだけど、男君みたいに抱え込むことじゃない」

男「はぁッ!? 抱え込むってなんだよ!!」

女「そういうことなんだよ」

男「お前…なんにもわかっちゃいねーな!! なんだ、まだ自分は動物だとかいうのかよ!?」

男「人間は動物じゃねーんだよ! 死んで当然なんて思わねーのが普通なんだよ!!」

男「テメーの常識を俺に押し付けんなよッ! まだ変わってねーのかお前はっ!?」

女「…男君」

男「なんだよっ!?」

女「えいっ」


バチン!


男「っ──……!」

女「…今、私はあなたの手を噛んだ。悪いペット」

男「………」

女「だから、オシマイ」シュルシュル

チャリ…

女「──ご主人様とペットは終わり」パチン

男「なに…いって…」

女「私は自由になった。本当の意味で、うん、自由な──私になったね」

男「おい…ちゃんと、説明しろって…! なんだよ…っ?」

女「……」じっ

男「おいって…おいって! 女!!」

女「…あのね」



女「──動物は人間じゃないんだよ」



男「…何を…っ」

女「そのままの意味なの。それに、男君がさっき言ってくれたこと」

女「まるまる男君が受け止めるべきことだって、思う」

男「俺が…俺が受け止めるべき…?」

女「うん。あなたは優しすぎるから、強くてかっこよくて、真面目だから」

女「──ちゃんと答えを見つけるべきだよ、きっとね」

男「答え……?」

女「だから、さようならだよ」

スタタ

女「これでさようなら、だよ」

男「お、おいっ……さよならって…お前…!」

女「バイバイ」

たたたっ

男「ちょ、待てって! オイ! 待ってくれ───」

男「──足速いなっ! どんなスピードだよ!?」

男「お、おおっ……うっ……」

男「んだよッ…何なんだよ! 意味がわかんねーよッ!」

男「俺が受け止めるべきって…なんだよ…っ」

自宅 

男「……」

男「……振られたのか、俺って」

男(意味がわからないまま、よくわからないまま、アイツに振られたってことか)

男「俺が悪いのか…ちげーだろ、そうじゃねーだろ」

男(俺は悪くねぇだろ…全然、アイツが意味がわからないこというからだろ…)

『にんげんさーん!』

男「…ん」

ネズミ『こんばんわだよ!』

男「…お前か、どうした」

ネズミ『わわっ! にんげんさん! すっごい顔色してるんだよ! だいじょうぶ…?』

男「……だいじょうぶじゃない…」

ネズミ『どうしたんだよ? どうしちゃったんだよ…?』ソワソワ

男「…なぁピーナッツ」

ネズミ『うん?』

男「…お前の仲間、前に死んじゃったろ?」

ネズミ『半分こになって死んじゃったよ!』

男「…それってすごい悲しいことだよな、絶対に忘れちゃいけないことだよな」

ネズミ『え? そうでもないことだよ? しょっチューあることだよ?』

男「……………………」

ネズミ『だってボクたち仲間はすぐに死んじゃうんだよ! だから悲しんでたってしかたないんだよ!』

ネズミ『にんげんさんにんげんさん。にんげんさんは、やさしいんだね!』

男「……ふつうのコトだろ」

ネズミ『うーうん! 人間さんはボクたちいっぱいいるのに、全部のこと心配してくれてるんだよ!』

男「……」

ネズミ『ボクたちはそんなニンゲンさんのこと大好きだよ! うふふっ!』

男「…別に感謝してもらわなくてもいい、俺にとっては普通だしよ」

ネズミ『そうなんだよ? すっげーだよ!』

男「……もう寝る。お前はもう小屋に戻っとけ」

ネズミ『はーいだよー!』シュタタ

男「……。なんだよ、やっぱりネズミだな…」

男(死んでも当然なんてよ。仲間が死ぬってことだぞ…あーくそッ)

男「何が悪いかさっぱりすぎる……もう寝るか」

パチン

男「……明日、女とちゃんと会話してみるか」

~~~~


ジジジッ

『やーい』
『こっちに餌があるぞー』『うわ!』『どうする?』
『どっちだ!』『雌だ雌だ!』『ニンゲンがきたー!』『おいおいふざけんなって』
『おれはこっちだなー』『にゃんちゅう!』『おなかいすいた』『子供はどうした』『どっちにいこうか』
『今何時?』『めっちゃ汗書いた』『これからどうする』『ゴクゴク』『寒いよぉ』『暑いよぉ』『いやどっちだよ』『わからん』
『おれしぬのかな』『やべーベトベト!』『団子美味しい』『もえてる』『つめきってよー』『駐車はいやだー』『つぶれるつぶれる!』
『かわいい』『なつかしいなーこれ』『お願いだ』『むっちゃおいしい』『とんでもないなこれって』『これからしようぜ』『いきたいいきたい!』
『触れるな!』『かなり見やすいな』『すぐに向かうって』『奇跡だなこれってどうするよ』『お前…死ぬのか』『バルス!』『三十秒でしたくしな!』


男「ぐっ……」キィィイイン


『明日に本気出す』『えっちしたわ!』『焼けてるねぇ』『あれ毛切った?』『お金持ちになりたい』『おなかへったぜ』『タバコの火をつけた』
『変な匂いするけど』『吹いて吹いて!』『うぁー!だめだこれー!』『なにがおこったんだ!?』『パンツがみたい』『彼女がほしいです』『もう書くことがない』
『大変だなぁコレ』『もうやめたい』『テキトーすぎる』『バーンおいしいれふ』『あたまがぼんやりする』『つぇーえっへっへっへwwww』『あ。うんこしよう』『おなかいたいぜ!』
『やだやめろ』『まだ死にたくない!』『生きる』『私だ』『そうかお前だったのか』『神々の遊び』『もうなんだこれ』『はんこってどんな味なのかな』『しらん!』『ぺろぺろ!』『ぐへへ!』
『ひかりがみえる』『もうちかいのだろう』『コレ意味あんの?』『誰も読まないだろ』『仕方ない。やっちまったもんは仕方ない』『でぁー!バーンナッコゥ!』『ウァウァウァウァ…』『キャーン!』


男「うぐッ───っはぁッ!?」ガバァ!

男「んだよッ──これ、頭のなかでッ───」

キィイイイイン

男「沢山の声がっ……きこ、ぐっ…!?」

男(まさかコレ全部……動物の声か? 俺の耳が拾っちまってるのか…?)

『あははー!』『いひひー!』

男「うるせぇっ……うるさいっ…!」

バサァ!

男「ぐぅうっ…!」ぎゅぅっ

男(今までこんなことなかったのにッ…どうして急に…!)

男「うるせぇっ! うるせぇって言ってんだろ!!」

~~~~

~~

三日後 中央公園

男「…………」

鳥『やほー』『どうする?』『なにしよっかー』

男「………」ジジッ

男「……」チラリ


女の子「ねぇおeutpawtpgaojup今日はなにしてgaiegapeap」
父親「そうだなぁu53oiu5quoして遊ぶ503509283502かぁ」


男「…くっく、あはは」

男「んだよこれ、あはは、んだよこれは…っ」

男(一体どうなっちまったんだ? よくわかんねぇよ…わかんねぇ、もう…)

男「───………」



視界が黒く染まっていく。

男「…何処までがニンゲンで」


心のはしに消えることなくあったような重要なものが。
一気に溶かされて、支えを無くしてしまうかのような。

──消失感。


男「何処までが動物の声だったっけ?」


新たに生まれるのは生に満ち溢れた、重圧的な強さ。
ニンゲンが持つ本来の生命そのものが、とたんに溢れかえる。


男「くっく…ガハハ…にひひ」


世界の基準がひっくり返った。
己が見る景色が小さく歪なものに見えてくる。


「ワンワン!」「カーカー!」「にゃおーん!」


──世界はこんなにも生命で溢れかえっているのだ。

男「よぉ。お前ら…よく来たな」

なら、なぜ俺はニンゲンでいる?
言葉を話すだけで、二足歩行なだけであって。

なんらコイツらと変わりない。
優しくするべきだ、ニンゲンと変わりない愛を持って接するべきだ。


「きゃあ!? おとうさ5280350299助teu5908028305896-itowp」


世界はもっと大きく見るべきだ。ニンゲンはニンゲンだけじゃなく、
動物と多大な共存を図るべきだ。なのにそれをしない、言葉を聞けないからだ。


男「………」


視界が黒く染まっていく。
視界が黒く黒く、染まって、行く。


男「…もう何がなんだか」


「───そこまでぇーだぁ!!!」

男「……?」

「な、なんていう力だ…以前よりましているじゃあないか…おいキミィ! なにやってる!」

男「…よく聞こえない、なんだ? 誰だお前?」

「はぁっ!? なんて失礼なやつだっ……ここ最近の体たらくっぷりを叱りに来ようと思えば!」


同級生「貴様は僕という好敵手の顔すらお忘れてしまっているのか!」


男「……なんだ、お前か」

同級生「そうだ! フフン、どうだい? なんともまぁかっこ良く現れたものだろう?」

男「……」

同級生「ま。ずっと君のことを監視してただけなんだけどね、それはいい───」

同級生「──おい。なにやってるんだ超能力者、君は己の能力の維持もできないのかい」

男「…うるせぇな、黙ってろ」

同級生「ひっ! ちょ、動物たちをボクに向けるな! こ、怖いだろ…」

男「…なんのようだよ」

同級生「なんの用にも、君。人を傷つけるな」

男「はぁ? 何言って…」

同級生「ちゃんと周りを見るんだ。それは、君がやっていることだぞ」

男「……」


女の子「痛い…」


男「…っ……な、えっ…?」

同級生「ふぅ、やっと正気に戻ったかい? 君が大量に動物を呼んだせいで、公園中が大騒動だ」

男「…これ…俺が…?」

同級生「君の仕業とはバレてない、安心し給え。まぁボクは直ぐに君だとわかったけどね」

男「……」

同級生「なぁ、君。ちょっといいか──おい、本当に大丈夫かい?」

男「……」

同級生「どうしたんだい…? 具合でも悪い──」

男「うっぷ、おろろろろろろろろろ」

同級生「えっ」


「ぎゃああああああああああああ」


~~~

同級生「ほんっとにもー君ってやつは…!」ジャバジャバ

男「す、すまん。いや、マジですまん…」

同級生「とっさにマントで防御しなかったらどうなっていたか…っ」

男「……すまん」

同級生「……。それで、どうしたんだ」

男「え…」

同級生「わかってるよ。最近、君と女ちゃん……なにかあったんだろう?」

男「……そっか、知ってんのか」

同級生「勘違いするなよ」

男「…なにが?」

同級生「僕はもう黒式じゃあないからな。ただの一人の、ストーカーだ」

男「…なんもかわってねーぞ、それ」

同級生「十分な進歩さ。僕にとってはね」

男「……」

同級生「それで、君は一体なにをどうしたんだい」

男「…別に、なんにもねぇよ」

同級生「あんなにも女ちゃんから避けられてるのに?」

男「っ……」

同級生「ここ三日間。君から話しかけようとして、全部無視されているだろう」

男「…俺がなんにもわかっちゃいねーってさ」

同級生「どういうことだい?」

男「俺もわかんねぇよ。ただ、そう言われただけだ。そして俺が反論しただけ」

同級生「ふむ。なるほどね」

男「…なんだよ」

同級生「そりゃ君が悪いな」

男「お前…」

同級生「おっと、怒るなよ。僕だって適当に答えてるわけじゃあないからな」

同級生「──ただね、僕の意見としては……」

同級生「…君は強すぎるんじゃあ無いのかな?」

男「…意味がわからん」

同級生「いいから聞くんだ。僕はね、そんな君の強さに…正直嫉妬を覚えるよ」

同級生「けど、そんな強さに──いつまでも正しさはついてこないと思う」

男「正しさ…?」

同級生「ああ、そうだよ。君は自分がやりたいようにやってきたのだろうけども」

同級生「──本当にそれは、自分だけの強さだったのかい?」

男「………」

同級生「僕らはまだ子供だよ。そんな子供が正しいなんて、言い切れないさ」

同級生「そして君も同じだ。子供であって、まだまだ尻の青いガキなんだよ」

同級生「…もしや君はどこかで、履き違えてるのかもしれないね。自分というものを」

男「俺が…どこかで間違ったとでも…?」

同級生「調子に乗ってしまった、が正しいかもしれない」

男「……」

同級生「だけど、僕はそんな君の応援で──本気で頑張ろうと思えた」

男「…おう」

同級生「多分、君の強さはホンモノだ。けれど、それ以上に求める必要はないと思うよ」

同級生「だからこそ、女ちゃんは言ったんだよ──今の君を否定する言葉ね」

男「……わかんねぇよ」

同級生「そうかい。なら、頑張って考えるんだ」

男「……」

同級生「だから僕からも言っておくよ。今、さっきまでの君を見てから言わせてもらうよ」

同級生「──あんまり調子に乗ってると、僕が女ちゃんをさらっちゃうぞって、ね」

男「…肝に銘じておく」

同級生「うむ! では、……これで」

くるっ

同級生「…応援してるよ」

たったった…

男「…おう」

~~~~~

男「調子に乗ってる、か」

男(ここ最近と色々あって、まぁ、自分が頑張ったことは確かであって…)

男(…それを無意識に身勝手に捉えてた、のか?)

男(俺の強さってのは…自分一人の強さじゃない…)

男「でも、それでも女の言ってることは……納得出来ない」

男「納得なんて、できやしない」


「……あ、お兄さん」


男「……うぉ」

妹友「こんばんわ」ペコリ

男「お、おう。どうした、こんなところで」

妹友「待ってました。お兄さんのこと」

男「…俺のことを?」

妹友「ええ、だからずっと…ここで待ってたんです」

男「なんか用事?」

妹友「…きたんです…」ボソ

男「え? すまんもう一度言ってくれ」

妹友「奪いに来たんです」


妹友「──本気でお兄さんのこと、奪いに来ました」


男「──………」

妹友「……」

男「今、ってお前……知ってるだろ、当然」

妹友「もちろんです。お兄さん、女さんと…別れてますよね」

男「ま、まだ決まったわけじゃねえよ」

妹友「でも付き合っては居ない。ですよね?」

男「…おう」

妹友「なら今しかないはずです。私にできることは、やれることは、今しかないんです」

男「……」

妹友「なりふりなんて構って居られないんです。私は……ウチはやらなきゃ駄目なんです」

男「妹友…」

妹友「あんちゃん。ウチ、好き」

男「っ…」

妹友「…こげんこと言われても、あんちゃんは揺るがんかもしれん。やけど」

妹友「ウチは絶対にあんちゃんを……夢中にさせてみせるけん」

妹友「やからっ……やから、どうかウチと付き合ってくださいっ」

男「……」

妹友「…っ……」

男「──……すまん妹友、今の俺にはちゃんと答えられない」

妹友「……」

男「今は色々、と…複雑な感じでよ、もっときちんとお前のことを…」

妹友「……───」ぐいっ

男「むぐっ?!」

妹友「…なんで答えてくれんと…っ」

男「お前今口に……っ」

妹友「どーしてちゃんと答えてくれんとね!? う、ウチちゃんと本気だったんよ!?」

男「だっ…だからよ!? 俺だって応えたいけど! でも、今の俺だと…!」

妹友「ばっ…ばーか! ばかばかばかばか!」

男「な、なんだよ……」

妹友「ばか! なんで、あんでそんな優しくすっとね?!」

男「っ……」

妹友「ずっと、ずっとずっとそうだったばい! あんちゃんはウチのことばーっか考えとって!」

妹友「優しくして、もっともっと邪険に扱ってもよかとに! なのにっ……ウチの気持ちばかり考えて…っ」

男「…それは…」

妹友「そんなんやったらッ…ウチ、ずっと…甘えたくなるとよっ……ぐすっ」

妹友「まだ先があるって、ウチにも未来があるって…思っちゃう…やろ…!」

ボス!

妹友「…ばーかっ…優しすぎっと…!」

男「…っ…そう、か」

妹友「やからっ…ぐじゅっ、やけん! もうっちゃんと決めんば…っ」

男「……」

妹友「……ウチも満足できんから…」

男「……おう」

妹友「ぐすっ……答えを、聞かせてよあんちゃん」

男「……」

妹友「ちゃんと、きちんと、後先に──違う答えが出てこないほどに……」

妹友「……ちゃんと返事ちょうだい」

男「…俺は」

男「俺は、ダメだ。お前とは付き合えない」

妹友「っ…めちゃくちゃ、え、えええ、えっちなことしてもよかよ!?」

男「うぐぅ!? だ、だめ! いや、違う! そうであってもだ!」

妹友「ううっ…じゃあ、もっとえっちなこと……?」

男「違う! そうじゃねえだろ…違うって、妹友」


男「──俺は女が好きなんだ。だからお前とは付き合えない」


妹友「…っ…」

男「だから無理なんだ。お前の気持ちは受け取れない」

妹友「…このあとに、色々と言い訳出てこん?」

男「はっきり言う。もう、お前を──異性としてみない、多分、兄妹か何かと見るつもりだ」

妹友「!…それひどすぎやなかと!?」

男「ああ、酷くて結構だ……けど、本心だ」

妹友「ううっ…いやいや! そんなのいや!」

男「…ダメだ、俺は無理だ」

妹友「うっぐぅっ……びぇああああああっ!!」

男「………」

妹友「ひっぐ……えっぐ……そ、そうか……そうなんやね……」

男「ああ」

妹友「…あんちゃん…」

男「…なんだ?」

妹友「めっちゃ顔赤いけど、大丈夫…?」

男「えっ? …顔赤い?」

妹友「うん、ぐしゅっ……無理、しとるやろ?」

男「……ちょっと?」

妹友「いや、相当よ…ずずっ…あんちゃん、そっか…っはぁ~」

妹友「ちゃんと答えて、くれたんやね」

男「…おう」

妹友「もう優しいあんちゃんじゃない、のよね」

男「おう」

妹友「えいっ」ぐいっ

男「──……やめろ」

ぐっ

妹友「…やっと本気で止めてくれた」

男「……あ…おう…」

妹友「いくらウチでも、本気であんちゃんに止められたら……できんもん、キス」

男「……」

妹友「もう、おしまい」ぱっ

男「…ありがとな」

妹友「ん? ああ、女さんのこと? そうだね、あの人はもう──立派な人だもんね」

男「いや、違くて」

妹友「……」

男「…そうじゃないな、おう、確かに女のことで助かったよ」

妹友「…うんっ」

男「だからその、また──泊まりに来いよ」

妹友「…うん」

男「じゃあ……行ってくる。ちゃんと、行ってくる」

妹友「いってらっしゃい。お兄さん」

男「…またな」

たったった

妹友「………」フリフリ

妹友「…バイバイ、あんちゃん」



~~~~


男(俺は──優しすぎたのだろうか)

男(自分じゃわからない。けれど、妹友は本気で俺を怒ってた)

男(優しすぎると。ああ、そうかもしれない。俺は確かに──アイツを困らせてたから)

男(俺が…俺がそうさせたと言っても間違いじゃない。アイツを俺が変えてしまったんだ)

男「本当に…なんで今、気づくかね俺って…」

『そりゃお前。ガキがガキだからだよ』

男「っ……」

猫『そうじゃなきゃそーならねーだろ。なぁ?』

男「…聞いてたのか」

猫『だから独り言は大きく言うなっての。丸聞こえだぜ』

男「……」

猫『この際だ。おう、言っておいてやるよ、全部な』

男「…全部?」

猫『ああ、そうだぜ。これから嬢ちゃんのところ行くんだろ? だったら───』

猫『──最後におれ様から助言ってやつをくれてやるよ』

男「っはぁ~……」

猫『おっ? なんだどうした?』

男「…いいよ、聞いてやるって。なんだ助言ってのは」

猫『くっく。ほんっとガキは──変なやつだよな』

男「……」

猫『怒るなって。お前はな、多分、ほんとーによく頑張ってるよ』

猫『嬢ちゃんの問題も、あのツンデレ嬢ちゃんも、それに──あのマント野郎の時も』

猫『ガキは努力してた。おっちゃん、それは認めてやってもいい。マジでだ』

男「…含みのある言い方だな」

猫『もちろんだぜ。なぁガキ? どうしておれ様がずっと、おまえのことガキって呼んでるか知ってるか?』

男「…しらねえな」

猫『ガハハ。だろーな、言わなかったもんよ。じゃあこの際だから言っておくぜ?』

猫『──テメーはいつまでおれ様たちの【声】を聞いてんだ?』

男「……」

猫『ずっと思ってたぜ。ガキはどうして…動物の声を聞こえ続けてんのかって』

猫『なんらかのきっかけはあったんだろうよ。けども、お前は今でも聞こえ続けてる』

猫『まるでお伽話みたいに、まるで超能力者みたいに、ガキは──子供の妄想みたいなモンを持ち続けてる』

猫『そろそろ大人になれよ。ガキ』

男「俺は…」

猫『あん?』

男「俺は…もう大人のつもりだ」

猫『おいおい──くっく、ほんっとどうしようもねぇーな』

猫『本気でガキだなおまえ。いいか? 言っておくぜ世間もしらねーガキんちょ』

猫『大人は大人だとは言わねーよ。なるべくしてなるんだぜ』

猫『自分がなりたいと思ってなるんじゃねーよ。背伸びすんなガキのくせに』

男「…ボコスカ言いすぎだろ、泣くぞゴラ」

猫『おう泣いちまえ。泣かせるつもりで言ってるからな』

猫『なぁガキ。そろそろ──こんな夢から覚めようぜ』

男「覚めるって…」

猫『お前は慣れ過ぎなんだよ。この状況に、慣れ過ぎちまってる』

猫『だから一向に覚めようとしない。声が聞こえ続けて、おまえは──もっと深い夢を見ちまう』

猫『危険だぜ。おれ様とガキは、違うんだぜ。ああ、本当にな……』

男「俺とおまえは……違う」

猫『にんげん様はよ、強すぎちゃ生きづらいぞ』

男「…おう」

猫『ニンゲン様ってのは、優しすぎても困らせるだけだぜ』

男「…」コクリ

猫『動物とニンゲン様はちげーんだ。なのに、お前はガキだから、すぐに一緒に考えちまうんだ』

猫『だからおれ様は、おまえを頑張ったと褒めはするけども』

猫『──すげーと尊敬する気持ちは一切ないね。これっぽっちもな』

男「…俺は子供のままなのか」

猫『そうだな。ガキはガキのまんまだ』

男「俺は…どうしたら良いんだよ?」

猫『そりゃ、あれじゃね? わかんだろ? おっちゃんに言わせんなよ』

男「……」

猫『さて、ここまでだぜ』

男「…猫」

猫『おれ様はここまでだ。もう、ガキに言うことは何も無し、だ』

男「俺は……」

猫『バッチリ決めてこい。おっちゃんは、ずっと嬢ちゃんの幸せを一番に考えてるんだぜ』

男「…ああ、そうだったぜ。お前はそんな猫だったな」

猫『おうよ!』

男「…行ってくる」

猫『おう。頑張ってこい、ガキ』

男「それ!」

猫『んぁ?』

男「…色々と終わった時、もう! 二度と! …ガキと言わせねえからな」

猫『……』

男「わかったな!?」

猫『がっはっはっはっはっ! いーだろいーだろ! じゃあガキ!』

猫『綺麗さっぱり終わらせてきてやったら、おう! ガキって呼ばないでやるよ!』

男「…吠え面かかせてやるぞ」

猫『おーう! 行って来い、おっちゃんはいつもどーり餌場巡りだ』

男「…ふんッ」

猫『……くっく、頑張ってきな』

中央公園 夜

男「……」

スタ

男「…すまんな、こんな時間に呼び出して」くる…

女「電話きたから」

男「そっか。じゃあ聞いて、くれるか。考えてきたんだ、色々と」

女「うん」コクリ

男「……俺は」

男「俺は──多分だけど、きっと動物になりかけてた…じゃないかと思う」

男「自覚すらなかったな。だけど、今日一日で──分からせてもらった」

男「馬鹿みたいな俺、っていうものを」

女「……」

男「…俺って最近、うざくなかった?」

女「……」

男「どう?」

女「ウザイ、かも?」

男「…おぅ…正直言われると傷つくんだな…」

女「そう」

男「…でも俺もそう思う。今だからこそ、そう思えてる」

男「自分を見失いかけてた。なんかこう…自分が自分でなくなりかけてた」

男「本心で、本気で立ち向かってたのに……何故か俺らしくなくなってた」

男「まるで──」

女「人間らしくない」

男「──……そう、それだ」

男「単純に言えば、自分の意見と勢いが……強すぎるとか」

男「後は…他人の意見を尊重しすぎて、優しすぎる、とか」

女「でもそれが男くん」

男「ああ、そうだよな。それが俺なんだよ、けど……俺過ぎるだろ」

女「…うん」

男「俺は人間だ。そうやって馬鹿正直に生きれる筈がない」

男「…傷つくこともある、やめたくなることもある、抱えきれないこともある」

男「俺が俺らしく生き続けるなんて──それこそ、子供の理想みたいなもんだ」

男「実現できるわけがない。そんなの、人として間違ってる」

女「…だから?」

男「だから…お前は知って欲しかったんだろ、今回のことで」

男「あの犬の死んじまったことで……俺に知って欲しかった」

男「──あれは寿命としての、動物の真っ当なことなんだと」

男「人間とは違う。動物の死はありふれてるんだ、いえば……ネズミのように」

男「俺は……もしかしたらあの犬が死んだ時、立ち会えてたとしたら…」

男「……ちょっとやばかったかもしれん、うん、つか立ち直れなかったかもな」

女「……」

男「俺は真面目過ぎるんだ。犬の死を、家族の死と同等に──抱え込んじまうかもしれなかった」

女「…そんなことキリがない」

男「だろうな。俺ら人間と動物じゃ、生きる時間が違いすぎる。きりがねぇよな」

女「うん」コクリ

男「だから──だから、言わせてくれ。女」

女「なに」

男「お前に言いたいんだ。あの時のことで、俺はお前に……謝りたい」

男「──すまん、俺が間違っていた」すっ

男「そうだよな……そうなんだよ」

女「うん。人間は動物じゃない」

男「そう。動物は人間でもない」


男「俺らは──人間なんだ」

女「……」

男「…そのことを言いたかったんだ」

女「そう」

男「だからその、えっと、だな…」

女「うん?」

男「…ごめん、許してください」ペコリ

女「……」

男「本当にごめん!」

女「私はね。もう人間なんだよ」

男「…おう」

女「もう首輪もしないし、動物になりたいって思わないの」

女「だってそうなるように──あなたに変えてもらったんだもん」

男「…」コクリ

女「だから、私と一緒にそばにいて」

男「え…」

女「…私は人間だから。あなたと一緒で、人間なの」

男「……」

ぎゅっ

女「ずっとずっと側にいて…」

男「女…」

女「だめ?」

男「…だめ、なんかじゃない。俺は居たい、お前の側に」

女「人間として?」

男「人間として、だ」

女「…うんっ」

男「……」ぎゅっ

女「…じゃあ最後に」トテテッ

男「お、おい」

女「これもオシマイにするの」

チャリ

男「お前…それまだ持ってたのか」

女「うん。だって初めて男君がつけてくれた…首輪だったから」

男「…変な記念を作るなよ」

女「大事なことだよ?」

男「…まぁな。それで最後にってなんだ?」

女「うん」カチャ

女「あなたに──最後の『私』を送るの」

男「最後の、って」


女「───わぅうううううううううんっ!」

男「! なんだよ急に犬のモノマネなんて」

女「わんわぅーん!」


ジジジ!


男「っ……! なんだッ?」


女「──『我は犬なり。それ以上でも以下でもない』」


男「…え、これって…!?」


女「──『人間、我はもうすぐこと尽きるのだろう。我が身体のことだ、一番理解している』」

女「──『もう人間に助言することも、甘い菓子を食べさせてもらうことも無いだろう』」

女「──『しかし、我はこの言葉を人間に残しておく。このおなごに、全てを預けておく』」

女「──『心して聞け、人間』」


女「──『多大な世界。零れた雫。慣れゆえの武器』」

男「…っ……」


「『そのようなものは全て──幻想だ』」

「『あってないようなものなのだ。そうと断言することもできぬのだ』」

「『しかしそれは──悪ではない。そして正義でもないのだ』」

「『全ては捉えようによって著しく変わる。人間、囚われるのではないぞ』」


「『──世界はお主の《世界》でしか無いのだから』」


女「わぅん!」

男「…これ、は……お前…どうして…」

女「覚えたの。必死にお犬さんが私に…多分、話しかけてきてたから」

男「今のはアイツの…言葉なのか?」

女「うん──そうだよ、最後に残した言葉…あなたにね」

男「っ……俺は…俺は、アイツに……何度も何度も助けてもらってばっかりでッ」

女「…うん」

男「もっと話してやればよかった、なのに…俺は…しっかりできなかったから…っ」ぎゅっ

女「大丈夫。お犬さんはちゃんとわかってるの」ナデナデ

男「ああっ…すまん、ごめん……ありがとう…っ」

女「……」

男「ちゃんと…大人になるぞ、俺はぁ…!」

女「うんっ」

男「ううっ…ぐすッ…」ボロボロ

~~~~~~

猫「にゃーん」

男「…んだよ、また来たのか」

猫「ゴロゴロ」

男「ったくよぉ」ナデナデ


あれから数日が経った。
怒涛の一日と呼べる日から数日。はっきり言って、なにも解決はしていない。


男「…まぁな、当たり前だろ」


ただ自分の考えに踏ん切りをつけただけだ。
それについで周りも順当に直っていくのも、更に時間がかかることだろう。

特に妹友のついては、気まずくならないよう気をつけている。
妹にバレてしまっているし、どうなったかはいずれ説明することになるのが辛い。

全部俺のせいなのだから仕方ない。

のだが、

男「……」


もっと大きな問題というべきことは、このことだろう。


猫「にゃん」

男「…おう」


──動物の声が聞こえなくなったということだ。

すでに聞こえなくなって数日と立っているため、
ある程度聞こえない生活にも随分、慣れてきた。

はじめは聞こえないのが普通だったはずなのに、
今では聞こえない生活に不便すら感じてしまっている。

慣れというものは怖い。


男「つかもう登校時間だから、すまんな」すっ


けれど、これでよかったのだろう。

動物の声が聞こえないことが、当たり前であって。
人が動物と会話できないのが、当たり前なのだ。

男「ん? おーい、女~!」

それが人間。
それが俺という人間なんだ。


だけど今までの自分を否定するわけじゃない。
数ヶ月と続いた──この不思議なチカラで、

自分はどれだけの成長が出来ただろうか。

そしてどれだけ大切なものを見つけることが出来ただろう。


男「おはようさん。じゃあ今日も行くか───」

 





『──がんばったじゃねーか、人間様よ!』

男「──ッ………」くるっ

猫「……」

男「お前…」

猫「にゃーんっ」シュタタ

男「………」

女「どうしたの?」

男「…いや、なんでもない。ただ──」



───最近、変な声が聞こただけだ。

てな感じで終わりです
長らく続きましたがこれにて

次はラッキースケベで女の子と世界を救う話の続きでも書きます。


ではではノシ

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