ライナー「人類の緩慢な滅亡」(7)

東に薄くたなびく雲が暁に染まり、夜の残滓を駆逐していく。

男子寮の室内ではわずかに寝息が聞こえるのみで、毎朝の喧噪は遠い世界のことのように思える。

「…………ッ!」

突然、一人の青年が目を見開き、激しく上体を起こした。

ひどく粘つく汗が全身に吹き出ていた。

夢を見たのだ。

あの日。

破壊された巨大な扉から、人類を喰らうことのみを目的とした醜悪な生き物が大量に壁の内へと入り込んだ。

人類はただ逃げ惑い、補食されるだけの脆弱な存在へと成り下がった。

男も女も老人も赤子も。

地獄。

陳腐な表現ながらも、これほどぴたりと当てはまる言葉も無いだろう。

当時はまだ全身に幼さを残していた青年は、ただ呆然と見つめるしか無かった。

これほどのものだったとは。

地獄の光景は彼の中で嵐に姿を変え、今も尚荒れ狂っている。


嵐を抑えようと、彼は潜り込んだ訓練所で兵士に徹しようとした。

しかし戦士である彼と兵士である彼との乖離は、ますます彼自身を苦しめることになるだけだった。

「…ライナー?」

隣で眠る長身の青年が、わずかに目を開いて上体を起こした青年に声を掛けた。

「いや、ちょっと早くに目が覚めちまっただけだ。まだ寝てて良いぞ」

寝ぼけていただけなのか、そう声を掛けると長身の青年はまたすぐに寝息を立て始めた。

首を手で拭う。

べたつく汗がひどく不快だった。

せめて顔だけでも洗って来よう。

青年は周りを起こさぬよう気を遣い、静かに自室を後にした。

廊下を歩きながら、青年は思う。

もう二度とあんな地獄を見たくない。

率直な感想だった。

次に青年が引き起こすであろう地獄には、彼が3年間共に過ごして来た友人達が呑み込まれるであろうことは確実だった。

任務だから、と割り切るには余りに深く関わりすぎた。余りに深く情を持ちすぎた。

かと言って任務を放棄する訳にはいかない。

故郷に帰る。

ただその一事だけを支えに、共に静かだが激しい闘いに身を投じて来た仲間がいるのだ。

かけがえの無い同郷の者達。

彼らを裏切ることなど青年に出来るはずも無かった。

そんなことを考えるのすら恐ろしかった。


早暁の風は冷気を含み、青年の体を斬るように吹き抜けた。

小さな桶に満たした水に、指を差し入れる。

その時だった。彼の脳裏にある一事が閃いたのは。

それは正に天啓。

地獄を見、今尚心中の地獄に灼かれている彼が悲鳴の代わりに絞り出した智慧。

だが、それはただ苦肉の策と言うには余りにも彼自身を犠牲とするものだった。

水に沈む手を見つめながら、青年は呟いた。


ライナー「全人類がホモか腐女子になればその内勝手に滅ぶんじゃね?」

ライナー「…俺あったま良くね?」


こんな感じでライナーが鬼神の如く活躍するお話が読みたいです。

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