宮藤「部隊長の酷く不機嫌な一日」 (20)

執務室

ミーナ「ふぅー。これで最後ね」

ミーナ(今日は随分と早く終わったわね。書類が少なくて助かったわ)

ミーナ「よっと」ドカッ

ミーナ(行儀は悪いけど、このままちょっとだけ寝ようかしら。どうせこの時間はみんな訓練や任務だし……)

芳佳「しつれいし――」

ミーナ「あぁー……鳥は自由でいいわね……」

芳佳「……」

リーネ「芳佳ちゃん、ミーナ中佐は?」

芳佳「机に両足乗せて、天井を仰いでる……」

リーネ「え?そんなわけ……あ、ホントだ……」

芳佳「ミーナ中佐、どうしたのかなぁ。お仕事もしてないみたいだし」

リーネ「き、機嫌、悪いのかも。芳佳ちゃん、あ、あとにしようよ」

通路

美緒「よっと」

ルッキーニ「うにゃぁ」

美緒「気持ちよさそうに寝ているな」

ルッキーニ「あれ?少佐?」

美緒「起きたか?すまんが勝手に抱きかかえさせてもらったぞ。幾らなんでも廊下で眠られては困るからな」

ルッキーニ「ありがとー」

美緒「先に謝罪をしろ。こういうことでミーナの疲労が蓄積させてしまうのだぞ」

ルッキーニ「あーい」

美緒「……シャーリーの奴、実は苦労しているのではないか?」

リーネ「さ、坂本少佐」

美緒「おぉ。頼んだものはどうだった?」

芳佳「すいません。ミーナ中佐が怖くて、部屋にも入れませんでした」

美緒「どういうことだ?」

ルッキーニ「しょうさぁ~」スリスリ

執務室

ミーナ(午後は何をしようかしら……)

美緒「ミーナ、入るぞ?」

ミーナ「え?どうぞ」

美緒「……何かあったか?」

ミーナ「いえ、別に。どうかしたの?」

美緒「何もないならいいが。宮藤とリーネが様子がおかしいと言っていてな」

ミーナ「あら、心配してくれてるの。うれしいわね。でも、私はいつも通りよ」

美緒「なんだ。あいつらの勘違いか。はっはっは」

ミーナ「そうだ。美緒、午後の時間を持て余してたところで――」

美緒「ミーナ。こちらの書類が今朝届いた。頼む」ドサッ

ミーナ「え……」

美緒「では、私も宮藤たちの訓練があるからもういく」

ミーナ「……」

ミーナ「はぁーぁ……」

格納庫

芳佳「本当ですってば。ミーナ中佐が机に足を乗せて、天井を仰ぎ見てたんです」

バルクホルン「長い付き合いだが、ミーナがそんなことをしているところは見たことがないぞ。ハルトマンはどうだ?」

エーリカ「私もないなー。勘違いじゃないの?」

リーネ「いえ。はっきりと見ました」

バルクホルン「疲労が溜まっているのか?」

エーリカ「最近、出撃にも恵まれてないしねー」

バルクホルン「それは少佐が決めていることだろう。それにミーナが真っ先に前線へと出ることもない」ナデナデ

芳佳「あうぅ」

エーリカ「宮藤がいるから?」

バルクホルン「誰もそんなことは言っていない」

リーネ「あのぉ、ストレスが溜まっているならなんとかできないでしょうか」

バルクホルン「そうは言ってもな」

美緒「その必要はないぞ。ミーナは普段通りだったからな」

芳佳「坂本さん。それ本当ですか?」

美緒「若干疲れているようではあったが、いつものことだ」

バルクホルン「少佐がそういうなら間違いないだろう。この話はお終いだ」

エーリカ「にんむ、にんむー」

リーネ「そうなのかな?」

芳佳「坂本さんが言っているぐらいだし、そうなんじゃないかな」

リーネ「そうだといいんだけど」

美緒「宮藤、リーネ。60秒で準備をしろ。すぐに飛行訓練に入るぞ」

芳佳「はいっ」

リーネ「了解」

美緒「宮藤もリーネもよく見ている。そういう面ではルッキーニの1割ほどでいいから肩の力を抜いてもらいたいところだな」

シャーリー「あれー?いないなー?」

美緒「ルッキーニなら部屋だ」

シャーリー「え?ああ、わかりました」

美緒「廊下では寝るなと言っておけ」

シャーリー「はぁーい」

通路

シャーリー「ふんふんふふふーん……♪」

ミーナ「――ルッキーニさん!!」

シャーリー「お?あっちか。おーい、ルッキ――」

ルッキーニ「あぁぁん!!」

ミーナ「早く起きなさい!!」

ルッキーニ「うぇぇん!!」

ミーナ「起きなさい!!」

シャーリー「中佐?あのー」

ミーナ「シャーリー大尉。はい、これ」

ルッキーニ「うにゃぁ……」

シャーリー「あ、あぁ。はい」

ミーナ「もう!!」

シャーリー「なんか、怒ってたな。何したんだよ?」

ルッキーニ「寝てただけだよぉ」

シャーリー「寝てただけであんな風に怒るか?」

ルッキーニ「ホントだってー」

シャーリー「人目につかないところで寝たほうがいいんじゃないか?」

ルッキーニ「そうしゅる」

シャーリー「それよりさ。さっきサーニャがケーキを作ったらしいんだけど、食べに行かないか?」

ルッキーニ「ケーキぃ!?いくいくー!!」

シャーリー「よーし!!いくぞー!!」

ルッキーニ「おぉー!!」

シャーリー「あと暇そうなやつは……」

ルッキーニ「ケーキだぁー」

ペリーヌ「……お二人とも」

シャーリー「ん?なんだ?」

ペリーヌ「訓練はどうしましたの?」

シャーリー「そんなのあとあとー」

ペリーヌ「少佐と中佐に報告しますわよ」

執務室

ミーナ「……」カリカリ

ミーナ「もう……」ドカッ

ミーナ「ちょっと休憩しましょう」

ミーナ(私も訓練したいわ……教官もいいわね……。リーネさんは鍛え甲斐がありそうだし)

ミーナ「あぁー……外に出たい……」

エーリカ「ミーナ――」

ミーナ「空を飛びたいわ……」

エーリカ「……」

バルクホルン「ハルトマン、どうした?」

エーリカ「ミーナが病んでるよ」

バルクホルン「何をバカな――」

ミーナ「サーニャさんのフリーガーハマー、乱射したいわね……あれ、気持ちよさそう……」

エーリカ「どうする?」

バルクホルン「下手に声をかければどうなるかわからない。退こう。だがこれは戦術的撤退だ」

食堂

サーニャ「どうぞ」

ルッキーニ「いっただきまぁーす」

エイラ「なんでお前らまでくるんだよぉ。これはサーニャが私のために作ってくれんだぞ」

シャーリー「いいだろー。サーニャが誘ってくれたんだから」

サーニャ「そうよ、エイラ。みんなで食べたほうが楽しいわ」

エイラ「私はサーニャと二人きりのほうが楽しいのに」

ペリーヌ「あら……おいしい……」

シャーリー「サーニャ、これ全員の分あるのか?」

サーニャ「はい。数はそろえました。でも、みなさんが食べてくれるかどうかは……」

ルッキーニ「それじゃあ、余ったらおかわりしてもいいの!?ぃやったぁ!!」

エイラ「おい、こらぁ。何勝手なこといってんだぁ!!」

シャーリー「サーニャ、今すぐこれ中佐のところまで差し入れに行ってくれないか?」

サーニャ「はい。わかりました」

シャーリー「サンキュ。悪いね」

通路

サーニャ「……」

エーリカ「おー!サーにゃーん!!」テテテッ

サーニャ「あ、ハルトマンさ――」

エーリカ「おいしそー!!いただきー!!」パクッ

サーニャ「あ」

エーリカ「おいひぃー

通路

サーニャ「……」

エーリカ「おー!サーにゃーん!!」テテテッ

サーニャ「あ、ハルトマンさ――」

エーリカ「おいしそー!!いただきー!!」パクッ

サーニャ「あ」

エーリカ「おいひぃー!!ご馳走さまー」

サーニャ「どうも」

バルクホルン「サーニャ、どうかしたのか?」

サーニャ「いえ。ケーキを作ったのでみなさんに食べてもらおうと思って」

エーリカ「えー?そうなのー?ありがとー」

バルクホルン「3時のティータイムにはまだ早いが、構わないか」

サーニャ「食堂にありますから、どうぞ」

エーリカ「わーい」

バルクホルン「すまないな、サーニャ。厚意に甘えさせてもらおう」

食堂

シャーリー「中佐はやっぱり不機嫌なのか?」

バルクホルン「やっぱりとはどういうことだ?」

シャーリー「あぁ、ルッキーニに対しての叱り方がいつもと違うような気がしてさ」

バルクホルン「どう違ったんだ?」

シャーリー「なんていうかなぁ、ヒステリックな感じかな。いつもは怖い中にも優しさがあっただろ?少なくとも私はそう感じてたけど」

バルクホルン「ミーナも隊長として辛いこともあるだろうし、それを私たちに見せないようにしているはずだ。知らないところで様々なものを抱えていてもおかしくはないが」

ルッキーニ「サーニャ!!おかわりぃ!!」

エーリカ「わたしもー」

エイラ「わたしもだー!!」

サーニャ「ええと……あの……」

バルクホルン「お前たち。宮藤とリーネの分もあることを忘れるな」

ルッキーニ「でもでもぉ」

シャーリー「こーら、ルッキーニ」

ルッキーニ「うじゅ……」

格納庫

美緒「宮藤はまだ若干速度にムラがあるな。それを無くせば合格点をやってもいい」

芳佳「は、はい」

美緒「リーネは訓練での成果を実践で反映できれば文句なしだ。精進するように」

リーネ「わかりましたっ」

美緒「質問がなければ解散だ」

芳佳「あ、質問いいですか?」

美緒「どうした?」

芳佳「ミーナ中佐のことなんですけど」

リーネ「ずっと気になってるんです。あれはやっぱりおかしいなって」

美緒「両足を机に乗せていたという件か?ストレッチでもしていたのではないのか」

芳佳「とてもそんな風には見えませんでしたよ」

リーネ「はい」

美緒「分かった。もう一度様子を見に行こう。全く、お前たちは心配性だな」

芳佳「だ、だって……あのミーナ中佐があんなことしてるなんて……」

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