名探偵 怜-Toki- (948)

・主人公は園城寺怜ちゃん。かわいい

・内容は咲の原作から大きく外れて探偵推理物っぽい感じの話

・キャラの独自解釈あり










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コナン系か金田一少年~系

かどっち系ですかね?

>>2両方読んでるけど、そんな感じっす

両方混ぜて某ゲームみたい殺戮ショーに

とある町の町はずれ。

寂れた、錆びついたその建物の目の前で一人の女の子が立ち尽くしていた。



「………………」



素直な感想が、たった一言口をつく。



「ボロい」


「…………」


「まあ、贅沢は言われへんか」




建てつけが最悪の扉を無理やり引っペがして潜り、さらにクモの巣を潜って中へ入る。

部屋全体埃まみれ、壁には風穴が空き、床は板が外れまくって踏み場が少なく、家具はぼろっちいソファが一つだけ。

窓と思しき場所はぽっかり枠が抜け落ちて、第二の玄関として使えそうなあり様。




「まず初仕事は掃除から…やな。あーあー先が思いやられるで」

「肉体労働はウチの専門やないんやけど」




持ってきた荷物を、まだ汚れがマシな所にまとめて

そして幼なじみが作ってくれた三角巾とエプロン、幼なじみに分けてもらった軍手をはめて、準備万端。




「ま、なんにせよ」


「こっから再スタートや」



【File 0:プロローグ】


「やばいやばいやばい。今月の食費マジやばい。やばすぎ笑えへん」

「自炊始めようとしたはええけど、全然できへん。練習すればすぐできるようになるって聞いたけど、ウチがやるとコスパが悪すぎる」

「おかげでこっちは今月大赤字や!りゅーかのやつ、次会ったら文句言うたるで…」



食費は月1万以内が目標や。今月残り二十日で財布の中には2000円やから…よし。1日100円でいけるな。

貯金?そんなんあるわけないやろ。むしろマイナスや、マイナス!!

でもへーきへーき。100円あれば、うまい棒11本も買えるで。朝3本昼5本夜3本でめっちゃ贅沢できるなあ。


「ってアホかぁ!!1カ月1万生活でも100パーありえへんやろ!!絶対もつわけないって!!ウチは蟻かなんかか?!」


「いやいやいやいや、ボケとる場合やないで。1日100円で残り二十日を乗り切る方法を真剣に考えな」


ああああ、どないしよ!どないしよ!!


あ、お見苦しいところをすんません。自己紹介が遅れました。ウチ、園城寺怜言います。

年齢秘密、性別は女、住所は登記がないんであらへんし、スリーサイズなんてしばらく測って辺から自分でも分からん。

ただ背中と腹の肉がくっつきつつあるから、前より痩せたかもしれん。

身長も縮んだかな?胸はないわ。ナイチチで悪かったなあ?

最近水と塩とうまい棒だけで生きとったからなあ…え?さっきのはネタじゃなかったんかって?

うまい棒舐めたらあかんで。たこ焼き味を1日11本喰ってみ。しばらく何も食べたくなくなるで。

栄養バランスが悪い?ただそれは飽きただけであって空腹には変わりない?

ウチの食生活にツッコミ入れる前に自分の食生活見直してみいやコラぁ!!

一日三十品目っちゅう厚労省の推奨基準満たしとるやつがどれだけおるっちゅうんや!?



っと、またやってしもた。カルシウム足りてへんのです、すんません。

というかカルシウム含めた栄養素全般足りてないの。

ああ、語尾がおかしくなってしもた。



「そろそろ依頼ほしいなあ…お腹すきすぎて頭おかしくなりそうや」



あ、言い忘れたけど、職業は『探偵』やってます。


依頼がないと、生活できへん……ああ、事務所がボロなのは文句言いません。

部屋に電気水道ガス通ってなくても我慢します。服がボロなのもかまいません。

ただ、ごはん食べないとさすがに死ぬんです。助けてください………ん?


『スープスパ専門店へようこそ どなたでもご自由に』


空腹の中町をさまよい歩いてると、とある看板がそこにあった。

す、スープスパ……やと?


「………なんやぁ?!この喰いもんわァ!?こんなキザったいもん、喰った内に入らへんわァ!!!!!!!!」



この喰い物も何も、完全に八つ当たりやった。

腹が減っての八つ当たり。看板直撃ホームラン、看板だけに。いや、デッドボールか?



「だいたいなあ、スパゲッティはスパゲッティ。スープはスープやろ!!まぜこぜにしてつまらんことすんなや!!」

「専門店やぁ?!おーおー市民権とったみたいに偉そうに。西地区の名物はお任せあれってか!!!」

「この気取った商品名、なんや知らんムカつく店構え、旨そうな食品サンプル、
 鼻を刺激するええ匂い…喧嘩売ってるんか?お?」



「……………」



「はぁ、はぁ、はぁ、ホンマに何をやっとるんやろ、余計、腹減る、やん………ん?」




『スープスパ専門店へようこそ どなたでもご自由に』





開店十周年記念日につきまして、只今のご時間帯はおひとり様につき一杯無料でスープスパを提供いたします




「……………」



「スープスパって最高の食べ物や。うまい棒とかいうトウモロコシ粉の副産物はクビで」



えーなになに?こんなにラッキーなことってあるん?

こんなにお洒落そうなお店でタダ飯してええの?

まさかこの開店記念日が今日じゃないっちゅうオチやないやろうな…おっ、ちゃんと今日やん。

やっぱりスープスパがナンバーワンや!市民権どころかワールドワイド級や。

三ツ星レストランに即刻認定…いや、今からユネスコの文化遺産として登録まであるな、間違いないわ。




「ふう。我ながら熱い手のひら返しや。しかし、気にしたら負け」

「ホンマにラッキーやなあ。こんなことってあるんか。天は我を見離さなかった。行くで」



ガチャン



「お、なかなかこ洒落た内そ――――――」




『う、ぅわあ!?』

『きゃあああ!!』


店内を見回して、感想を言い終える前に、悲鳴が、上がった。


普通の日常では、まず起こり得ない種の声。


一本道の店内に人が倒れている姿がはっきり見える。






その悲鳴は怜の耳に、そして何より空腹の腹に深く響いた


どうやら再び天は自分を見離したのだと


【File 1:心の鍵 前編】


怜ちゃん「あんまりごちゃごちゃ詳細を語る気はないで。プロローグやし」

     「店は入ったらこんな感じになってた↓」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
           ↑向きにカウンター

         ○|女B|○|○|女C|○          返却口
入怜 
口                                          調理場 店員             

                                            
         「  |  」「女A|男A」       トイレ    ドリンクバー    
           二人づつ座れるテーブル席

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
             

「ウチは喜びいさんでドアを開けて、一歩目踏み出した。その時ちょうど悲鳴が聞こえて」

「テーブル席の【女A】が倒れとった。その時店の中にはウチを除いて女A、B、C、男A、店員の五人いた」

「ウチは遠くからこの騒ぎを呆然と見てた。ショックで何も頭に入らんかった…」

「けど、覚えとる限り確かこんな感じの騒ぎやったように思う」



男A「う、ぅわあ!?女A、どうしたっ!?」

女C「きゃあああ!!」

女B「な、何が起こったの?」

店員「お客様、どうされましたか?! こ、これは…」

女B「ちょ、ちょっと。死んでるんじゃないの?!事件?!早く警察を!」

店員「はい!すぐにお呼びします。皆さんはここでお待ちください!」

男A「おいっ!救急車も頼む!!」

店員「分かりました、直ちに!!」



怜(そして、しばらくしたら警察がきた。ウチはずっとドアの前で突っ立っとった。見張りのつもりやった)

「刑事の弘世だ。関係者はここにいる六名か」

店員「そうでございます…」

怜(……美人やけど。見るからに真面目そうな刑事はんやな)

怜(事情聴取で分かったことはこんな感じや)



★事件関係者6名

男A……以下彼氏。女Aの恋人。店の常連らしい。今日も彼女とスープスパを食べに来てたって言うてた。

女A……以下彼女。【被害者】。同じく常連。死因は毒殺。死亡推定時刻はさっきだって聞いたで。

女B……以下女B。この店に来るのは初めてらしい。無料のポスターに釣られたんやろなあ。うまそうに食いおって。

女C……以下【宮永咲】。制服着てるからたぶん学生。本を読みに来てたらしい。

店員……以下店員。男。今の時間帯はこいつ一人らしい。人の良さそうな顔しとるわ。

怜………以下怜。ウチ。



★店内図

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
           ↑向きにカウンター
         ○|女B|○|○|咲|○         返却口

入怜 
口                                         調理場 店員             

                                            
         「  |  」「彼女(死亡)|彼氏」   トイレ ドリンクバー    
           二人づつ座れるテーブル席

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
             



菫「スープの中に毒物が仕込まれていたようだ」

咲「そ、そんな…」

彼氏「一体誰がそんなことを!」

菫「一通り話を聞き終わったので、詳細を聞かせてもらうが…店員よ。スープの中に毒物が入っていたのだが」

店員「わ、わ、私は…私はやってません。やってないとしか…本当に何も知りません」

菫「そうか。彼氏さんはどうだ。目の前で一緒に食べていたのだろう」

彼氏「お、俺がそんなことするわけない。彼女を殺すなんて…ありえないです」

菫「おい、店員。この店に監視カメラとかないのか?」

店員「ええ、ウチには設置してません。こんな物騒な事件が起こるなんて思ってもみなくて」

菫「こうして実際に起こっているがな…このままでは埒があかん。
目の前で見ていた彼氏。何か気がついたことはないのか」

彼氏「そう言われても…普通にいつもどおりのデートだったのに、なんで、彼女が…」

咲「な、なんて言ったらいいか…お気の毒です」

店員「お二人共お店に何度も足を運んでくださる常連で…とても仲の良いカップルだったのに」

女B「…ええ。今日も同じスープスパ食べてたわ。お気の毒に…」

怜「………」

彼氏「ううっ…彼女っ…」

菫「感傷に浸ってるところすまないが。他に思い出せることはないのか。些細なことでもいいんだ」

彼氏「他に、と言われましても…一緒に食べてたら、急に苦しみだして――――あ」

菫「何か思い出したのか?」

彼氏「――そうだ。粉チーズ」


菫「粉チーズ?」

怜(……)

彼氏「はい。この店のスープスパの食べ方で、途中からチーズをかけて味の変化を楽しむんですけど」

菫「そうなのか?店員?」

店員「ええ。ウチのとっておきの食べ方で…振りかけるタイプの缶で提供しております」

店員「一口目、アツアツのスープを。二口目、コシのあるスパを。
三口目、チーズをたっぷりかけてよく混ぜてお召し上がりください」

店員「あくまで食べ方の一例ですが」

彼氏「それをかけてから、彼女は倒れた…そうだ!思い出した。あの時」

彼氏「……そこの女が、粉チーズの缶を俺たちに渡してきたんだ」

咲「!」

彼氏「まさかお前が毒を入れたんじゃないだろうな?!」

咲「ち、違います!確かに彼女さんに粉チーズを手渡しましたけど、毒なんて入れてません!」

咲「渡したって言っても順番に使っただけですし」

咲「それに、私にこの粉チーズを渡してきたのは女Bさんです!」

女B「ちょ、ちょっとアンタ。私がやったとでも言いたいわけ?」

咲「そういうつもりは…」

菫「ちょ、ちょっと待て。被害者含めて三人ともその粉チーズを使ったってことか?しかも同時に、順番に」

店員「お客様が少ない時は、チーズ缶は一本しか出さないようにしてるので」

店員「商品を同時にお出しすると、そういうことも起こりうるかもしれません」

女B「親切心で回しただけなのに、失礼しちゃうわ」

怜「………」



★粉チーズの順番
女B→宮永咲→彼女(死亡)


菫「なるほどな。二口目まで無事でチーズをかけた後に倒れた、ということは…その中に毒物が入っていた可能性は高い」

菫「それなら犯人は命が無事で、なおかつ直前に毒を入れることが可能な人物に限られる。ということは」

彼氏「……」

女B「……」

咲「えっ…?」

菫「お前しかいないな。宮永咲、だったか」

咲「……!! 私、やってません!するはずがありません!今日初めて会った人…話してさえいない人を殺すなんて――」

菫「そう言いたいのも分かるがな。しかし状況証拠とはいえ、
   その示唆内容が決定的な場合は連行させてもらうことになっている」

怜「………」

咲「そんな…嘘、だよね?」

彼氏「……人殺し……この人殺し!!!」

咲「ち、ちがっ!」

彼氏「何が違うんだよ!!」

咲(ち、ちがっ、わたし、やってなっ……)

菫「宮永咲。殺人容疑の疑いでた――」




怜「うっ?!げ、げほっ、げほっ!」

※ここから視点が咲




菫「な、なんだ?!ええと、園城寺、どうした?!」

怜「へ、へいきです…ウチ、ちょっと体弱いもんで、長いこと立ってたんで…たちくらみが…」

咲「だ、大丈夫ですか?!」

怜「だ、大丈夫や。ちょっと寄りかかってもええ…?」

咲「え、ええっ!どうぞ!」

怜「ありがと」




大きく咳き込む音が聞こえたと思ったら、急にふらつき始めて。

確か園城寺さん、だったよね。珍しい苗字だと思いながら、私は体を貸してあげた。

すっかり私にくっついて息苦しそうにしてる園城寺さん……大丈夫かな。

こうして近くに立っていると、この人の心臓の音がよく聞こえる―――と思ったら自分の鼓動だ、これ。

あ、そうだった。私、人殺しと疑われてたんだっけ…

そんな大変な時に園城寺さんの体調を気遣っているなんて、私バカかなあ。

ううっ、これも学校休んじゃった罰、なのかな――――




怜「…さて。宮永咲さん」

咲「へっ?」



園城寺さんは体をさらに寄りかからせて、耳元まで口を近づけてきた



怜「いくら出せる?」


咲「はい?きゅっ、急に何を???」

怜「しっ、静かに。できるだけヒソヒソで。
  ウチの体調が良くなるまでは場が動かへん。割と大げさな演技しといたからな」

咲「え、演技?あれ演技だったんですか!?」

怜「だから小声で頼むって。この状況も長くはもたへんし」

咲「でもどうして演技なんて…」

怜「今御託はええから。いくら出せる?」

咲「いくらって…お金ですか?」

怜「そうや。この状況、ウチが助けたる」

咲「…………」



私みたいに頼りなくて、運動も苦手な人がこう言うと、「お前が言うな」と反感を買いそうだけど

こんな弱々しそうな女の人に何ができるの?と思っちゃった。

それにお金って言われても――――



咲「わ、私、手持ちあまりないです。おこづかいもあまり持ってません…」

怜「………」



あ、顔色曇った。けっこうあからさまに。


怜「……」

怜「じゃあ。なんかサービス券とか持ってへん?」

咲「サービス券、ですか?ここスープスパの無料券とか、ファミレスのランチサービス券とかなら、少しだけ…」

怜「………」



こういう時の相場とかよく分からないけど、そんなんじゃダメだよね。

ってなんでこの人に頼ろうとしてるんだろう。



咲「ご、ごめんなさい。ご期待に添えなくて」

怜「宮永さん」

咲「は、はい」

怜「約束やで」

咲「はい……えっ?」

怜「せやから、自分の無実証明したら、それもらうで」



あ、あれ?今、私この人に任せちゃったの?でも、どうせこのまま連れて行かれるんだ。

もうどうだっていいかな。なるように、なっちゃえば――

菫「おい…そろそろいいか園城寺。宮永を連れて行く」

怜「あ、すんません。すっかり良くなりました」

菫「それは良かった」

怜「それで一つ気になることがあるんや」

菫「なんだ。そういえばお前の証言は全く聞いてなかったな。
  とはいえ、お前が店に入った瞬間に事件は起こったんだろう」

怜「彼氏さんはなんでチーズかけへんかったん?」

彼氏「俺はチーズ好きじゃなくて…というか乳製品自体あまり食べないんです」

怜「へえ、それやのにこの店に来たん?」

彼氏「彼女が好きな店だったので…」

怜「さよか。すまんこと聞いたな。お、これがその粉チーズの缶やな。中は…」



気がついたら、押収(?)予定の粉チーズの缶を園城寺さんは調べてた。警察用語とかあまり分からないけど。

白手袋をはめて……あれは、ルーペ? 

そんなものを持ってるなんて一体何者なのかな。



菫「おい!!素人が何勝手に触ってるんだ!!」

怜「………」




     |: : : : : : : : : : : : : : :./ _//  }: }: : : : : : : :./ |: :|___}: : : : : : : : : : : |
     |: : : : : : : : : : : : : :./ // ` //|: : : : : : : /´ l:./    |/|:..: : : : : : : : :|
     |: : : : : : : : : : : : :./ /イ  〃 ,:ィ: : : :../  〃    ,ノ : : : : : : : : : :.|
     |: : : : : : : : :..:.ト、/___j!__,/__/ /: :../   /_,j!______  |【粉チーズ】
     |: : : : : : : : :..:i!〃つ。ノ.V/l|\-‐ ´    '´つ。ノ.V/l}㍉ |: : : : : : : : : ハ
    ,: : : : : : : : : :fヘヽ弋l(......)ツ           弋(......)lツ / ,:イ : : : : : : : : :.
.   【毒物】: : : : : : :| i  ¨¨¨¨¨           ¨¨¨¨¨  / |: : : : : : : : :い
    i.| : : : : : : : : :.|  ,  :.:.:.:.:.:.:          :.:.:.:.:.:.:.   ,  |: : : : : : :..:..| |i
    |ハ: : : : : : : : : |  ′:.:.:.:.:.:.:.:     '       :.:.:.:.:.:.:.  ′ノ: : : : : : : : :| ||
    || |: : : : : : : : :.\__j                   j_/: : : : : : : : :..:| ||
    || l: : : : : : : : : : : :.∧                  /: : : : : : : : : : : : , l|
【入れる順番】 :: : : : : : : : :个:..      ´  ̄ `      ..:个: : : : : : : : : : : : ゚ リ
       \}: : : : : : :.ト、: : : : >...         イ: : : : : :【アツアツのスープスパ】
         \: : : : い乂: : : :..:.| >  __  <│: :j: : : :./}: :/}: : : :/j/
          `ー―ヘ   ヽ}ィニ|           |ニヽ:ノ}ノ/_,イノ ィ
           __ -=ニニニニニノ           ∨ニニ=- __

                      【心の鍵】



菫「こら、返せ!!ったく…何を考えてるんだ」

怜「刑事さん」

菫「なんだ!お前らにもう用はないぞ!解散してよし!!」

怜「それはかなんなあ。せっかくやから、ウチの与太話聞いてってえな」

菫「何?」

怜「宮永咲が犯人じゃない可能性について」

彼氏「えっ!!」

女B「はっ?!」

菫「……なんだ?素人が探偵気取りか?そういうごっこ遊びは子供のうちに卒業しろと言われなかったのか」

怜「………」

咲「お、園城寺さん」




園城寺さんはちょっとの間、虚ろな、遠くを眺めるような目をしていました。

そして、瞳の色を取り戻したと思ったら、私の方を真っ直ぐ見るやいなや




怜「任せとき。この謎は――――ウチが解き放つ」




こう言ってのけて。いつのまにか探偵ごっこを始めてしまっていたのです。


とりあえず前編終わり…眠いので続きは明日以降

トリックとかは、コナンレベル。つじつまがあってればそれでいいのさ。怜が未来を見たりはしません。シ、シナイヨ。



ではおやすみなさい

正妻竜華の出番はあるのだろうか


中の人つながりでニート探偵思い出した

菫「持ってるんだろ、毒物!さっさと出せ!」

咲「それで出したら私の負け」

原作怜の一人称って一回を除いて私だった気がするけどまあ些細なことか
ともかくおっちゃんかわいい


>>5
巡り合ってはいけない二人だったね(ガッカリ)

>>31
次から普通に出てきますよ
今はプロローグみたいなもんなので

>>32
アリスほどではないけど、怜ちゃんだから体力面は仕方ないね

>>37
確認したらマジだった。しかし、ウチで書きます。おっちゃんが私とか言わへんやろ()



それじゃ後半


【File 1:心の鍵 後編】


菫「そうか。お前の脳内で勝手に存分にやる分には構わんが、こちらの仕事に手を出さないでくれよ」

怜「さよか。じゃあ存分に話せさせてもらうわ。毒物は水溶性のカプセルに仕込まれとった。
  それも熱に弱い奴や。鑑識に回せば分かるやろ」

菫「そうかもな。宮永はどこでそんなものを手に入れたんだろうな」

怜「普通水溶性のカプセル言うたらな…水に完全に溶けるのに10分以上かかるんや」
  
怜「けど、アツアツなスープなら話は別や。入れてから3分もすれば溶ける。溶ける前に食べ終わるいうことはない」

怜「一口目、スープをすすって、二口目、パスタ食うたら、三口目以降、毒入りスープスパで…ご臨終や」

菫「………それでどうした。宮永が犯人ということに変わりはない」

菫「宮永咲、お前を殺人容疑で逮捕す―――「待てやゴラぁ!!」」

菫「なっ、なんだその口の聞き方は!」

怜「……あっ。ま、間違えた。間違えました。待ってくれませんか。えっと、お腹がついて、イラついて、つい…出来心なんです」

菫「空腹で死にそうなあまり仕方なく万引きしてしまったホームレスみたいなことを言うな」

怜「………」



し、心配になってきた。逆に私の立場が悪くなったらどうしよう。

園城寺さん~~~~~~~!!!ううう、でもここまで来たらもう後には引けないよぉ。




怜「こほん。彼女さんを殺せたのは……宮永さんだけやない。むしろ宮永さんが殺すはずがない」

菫「……」

怜「彼女さんを殺したんは―――【女Bさん】。アンタや」

菫「!!」

彼氏「!?」

咲「えっ!!?」


女B「は、はぁ?!何言ってるの?意味分からないんだけど」

菫「探偵特有の推理というやつか?はっきりとした根拠はあるのか」

怜「……八割くらいはな」

菫「なんだその曖昧な数字。お前、もしそれが間違ってたら名誉毀損で訴えられかねんぞ」

女B「そうよ。というか訴えてやるわ。無実の私を犯人扱いして……許せない」

女B「だいたい、もし私がそのカプセル?かなんだか知らないけど入れたとしてさぁ」

女B「宮永さんの器に入ったら意味ないじゃん」

怜「入らへん」

女B「は?」

怜「入らへんように、一つアンタは仕掛けをしたんや」

女B「……」

怜「店員さん、確認やけどこの店のオススメな食べ方は、チーズたっぷりかけることやろ?
  お客さんはたくさんチーズ使うんよな?」

店員「は、はい。たっぷりかけられる方が多いと思います」

怜「そっか、ありがとな」

怜「で、この粉チーズは市販のやつや。この蓋には特徴がある」

菫「特徴?」

怜「それは――穴が二種類あることや」

菫「ああ…確かに、あるな」

怜「一方はカプセルが通る大きい半月型の穴、もう一方は通らん小さい丸い穴。好みによって入れる量を調節できる便利な蓋やな」

怜「これで女Bさんがカプセルを缶に仕込んでも、宮永さんが小さい方の穴を使えば器に入ることはないで」

女B「……ぷっ、あはははっははっはははは!!」

女B「な、なにそれ…超お腹痛い。そんなお粗末な推理初めて聞いたわ。
   もし宮永さんがたっぷりかけたいと思ってたらどうするの?
   というか、この店のオススメの食べ方はたっぷり目にかけることなんだけど」

女B「カプセルが入って、宮永さんが死んじゃうじゃない。それとも私は五割の確率に賭けたとでも言いたいわけ?」

女B「いや、五割以下の確率ね。この店の決まった食べ方なんだから、普通たくさんかけるわよ」

怜「その通りや。だから、アンタは宮永さんに言ったはずや。『小さい方の穴』使ってくださいって」


女B「……呆っれた。こんなひどい推理にこれ以上付き合ってられないわ。ねえ、宮永さん」

咲「は、はい」

女B「缶を渡すとき、私そんなこと言ったかしら?」

咲「言われて……………ないです。園城寺さん、そのとき別段不自然なやり取りはありませんでした」

怜「不自然なやり取りはなかったみたいやな」

女B「アンタねぇ。人を馬鹿にするのもいい加減に――――」

怜「けど、自然なやり取りはあったはずや」

咲「え?」

怜「『小さい方の穴使ってくださいね。大きい方使うと毒が入って死んじゃいますよ』
   なんて直接言うアホはおらへんよ。例えば」

怜「『ごめんね、私使いすぎちゃった』とか。『ちょっと残り少ないみたい』とか」

女B「!!」

咲「あっ……」




ええと……

確かに、言われたかもしれない…?どうだったっけ。




怜「粉チーズを順番に回したっちゅうことは、スープスパはほぼ同時にテーブルに来たはずや」

店員「確かに…同時にお出ししたと記憶しています」

怜「ということは粉チーズを使うタイミングも同じ。女Bさんが使って、宮永さんが使ったら
  すぐに彼女さんと彼氏さんに渡したはずや」

怜「宮永さんは思ったはずやで。『私の次にあと二人使う人がいる』
 『早く次に回してあげないと』『私が使いすぎちゃまずいな』」

怜「ってな」



そうだ、思い出した。あの時女Bさんに言われたこと―――



『ごめんね、私使いすぎちゃった』
       
『残り少ないけど、気にせず使ってね』
            
『出来立てにかけるのが美味しいから早めに回してあげてね』




思い出せばこんなにも、言われていた。自然な気遣いだったせいか、全く覚えてなかった。


女B「…………」

怜「なんでもないような女Bさんの一言二言に、知らず知らずのうちに宮永さんは行動を制限されとったわけや」

怜「量的にも時間的にも、精神的にも。まるで――」

怜「――心に、鍵をかけるみたいにな」

菫「…な、なるほど」




す、すごい。私が全然覚えてなかったことを、こうも的確に…

園城寺さん、本当に何者なんだろう。




女B「…お、面白い推理ね。で?それがどうしたの?」

怜「…」

女B「それは私にも犯行可能だったというだけで…私がやったという証拠にはならない」

女B「確かに宮永さんに缶を渡すときそういう風に声をかけたかもしれない」

女B「でもその気遣いっておかしなこと?園城寺さん、それはいくらなんでも穿った見方しすぎだと思わない?」

女B「そして、何より私がやったっていう物的証拠はない。全て憶測でしょ?」

菫「……どうなんだ、園城寺」

怜「証拠…か。せやな」




その時、テンポよく女Bさんを追い詰めていた園城寺さんの顔が、初めて曇りました。

実際、園城寺さんは事件の全容をずっと遠巻きから見てただけで、関係者とも言い難い立場だもん。

女Bさんを犯人と確定させる絶対的な証拠を持ってる方がおかしいよ。

むしろ少ない情報でここまで推理した園城寺さんがきっとすごいんだ。


怜「………」

女B「なによ、やっぱりないんじゃない!」

怜「なあアンタ、事情聴取の時にこの店に来るのは初めてや言うとったな」

女B「なに、それがなんだっていうのよ」

怜「もしこれが無計画殺人やなく…計画殺人やとしたら、犯人はこの店に来たことがある人や。刑事さん、そうやな?」

菫「あ、ああ。その可能性は高いことになるな。そのトリックを使ったとしたら、だが…」

女B「だから、何が言いたいわけ?来たことないって言ってるでしょ!!」

怜「―――言質とったで、じゃあ聞かせてもらうわ」

怜「アンタは、あの二人について『今日【も】同じスープスパ食べてたわ』って言うてたな?」

女B「はっ…?!」

怜「ふっ、しまった、ちゅう顔やな」

女B「あ、あれは…違う。その…」

怜「赤の他人のカップルの食べたもんを覚えとるなんて、普通はありえへん。
  あれはずっとこのカップルを付け回すくらいせんと出てこんセリフや」

女B「あ、あ……」

怜「その場の空気を読んだつもりやったんやろうけど、不用意な発言やったな」

菫「……女Bさん。何か反論はあるか。君は事情聴取の際に、嘘をついたのか?」

女B「ち、ちが、ちがっ、わたわたわたしっ」

彼氏「おい……お前がやったのかよ……!?」

女B「ち、違うの!本当なの、信じてよ!!あなたのタメなの!!あっ……」

怜「………」

菫「………」

咲「ほ、ほんとに、なの…?」

彼氏「マジ、なのかよ…」

菫「――――自白、か」

女B「うっ、ううううううう……」

女B「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁあ゛あ゛ぁぁあ゛ぁぁあ゛!!!!!」

菫「女B。殺人の容疑で、お前を逮捕する」



ガチャ



咲「………」

菫「……園城寺、礼は言わんぞ。だが、協力感謝する。宮永さん、疑ってすまなかったな」

怜「別にええよ。脳内妄想垂れ流しただけやからな。報酬は別にもらえるし、全く問題ないわ」

菫「ふん……可愛げのないやつだ」


咲「どうして?」

怜「ん?」

咲「どうして、殺したの?なんで?なんで殺しちゃうの?」

女B「……………」

彼氏「そうだ!!なんで俺の彼女を殺した!!マジでふざけんな、絶対許さねえ!!」

女B「…なんで?ああ、動機?あの女が、私の彼氏君を奪ったからよ」

彼氏「は!?ど、どういうことだよ。俺はお前のことなんて知らないぞ!」

女B「うん知ってるよ。知ってる。私はあなたのことならなんでも知ってるわ。
   だから今度は私のことをたっぷり教えてあげる…」

女B「あの女と一緒にいると彼氏君は腐っちゃう…だから私が、排除してあげたの……
   二人お気に入りのこの店で、殺してあげたのよ」

彼氏「お、おい!意味が分からねえぞ!」

女B「ずっと私はあなたを見てたわ。ずっとずっと好きだった。
   なのにそんなどこの馬の骨とも分からないような女と付き合い始めて」

女B「彼氏くん、間違いなく騙されてるんだなと思った……私が助けてあげなきゃ…助けて、助けて…そのためには…」

女B「【コロサナイトイケナカッタ】」

彼氏「ひいっ!!」

女B「そこで落ち込んだ彼氏君の所に現れて、私が慰めて…それからそれから……ふふっふふふっ」

彼氏「……なんだ、なんなんだ、コイツ……ううっ、こんな奴に、俺の彼女は……」

咲「……」



狂ってる、この人。

ストーカーだったんだ、彼氏さんの。それも純正の、本物の。

小説とかドラマでは見たことあるけど、本当にいるんだ。



怜「…………もう、解散にした方がええんちゃうん?さっさと連行してあげてや」

菫「ああ…皆さんご協力ありがとうございました。解散してくれ」

女B「ふふふふふふ、彼氏君…彼氏君……」

菫「いつまでブツブツ言ってるんだ!!さっさと着いてこい!!」


女Bさんは不気味な笑い声を最後まで絶やすことなく、そのままパトカーに吸いこまれて行きました。

彼氏さんは、生気を失った顔で…その場にしゃがみこんでしまいました。無理もありません。

店員さんは引き続き警察の事情聴取を受けています。何も悪いことしてないのに…

一番可哀想なのはこの人なんじゃないかと思います。

園城寺さんはすぐに私のところに来て、報酬を求めてきました。もちろん、すぐに渡しました。

そして、報酬を受け取るとあっという間にどこかに去って行きました。



なんとも釈然としない結末だったけれど、こうして事件は解決したのです。

そして私は………


【File 1:心の鍵 おまけ】


「はああああああ、うまい!!めちゃうまい!!」

「よ、よく食べますね。ええと」

「怜でええで。もぐもぐ~~♪」

「はい。怜さん」

怜「それで、宮永さんは食べへんの?」

咲「私は、スープスパでお腹いっぱいなんで…というより、さっきのことでもう胸がいっぱいというか」



いろいろ気になって、園城寺さんを追いかけちゃった…もう会えないかと思ったけど

もしかしたら渡したサービス券のファミレスにいるかもと思ってきてみたら…案の定ご飯食べてました。

それもありえないほどに豪快に大量に。

私が着いたころにはほとんどお皿は空だったけど、これ軽く3、4人前くらいはあるよ…?


怜「なるほどな。げぷ……はー食べた食べた~働いたあとのメシは最高やな」

咲「ふふっ、いい食べっぷりでした」

怜「さて、次は裏グランドメニュー行ってみるか…」

咲「え゛っ」

怜「なんて、冗談冗談!冗談やって!」

咲「で、ですよね。あはは……」



でも――

正直この勢いの怜さんならやりかねないと思いました、ごめんなさい。



怜「ウチならやりかねんと思った?」

咲「えっ?!声に出てました!?」

怜「いやいや、出てへんけど、顔に書いてあったで」

咲「うっ、ごめんなさい……えっと、ところで怜さんって…」

怜「ん?探偵やで?まだ開業してからそれほど経ってへんけど」

咲「あ、やっぱり…それでですね」

怜「事件について、もうちょい詳細語ってほしい、とか?」

咲「そ、そうなんです。いろいろ聞いてみたいことがあって…」

怜「ふんふん」

咲「それで、もしよければ…」

怜「なるほど、宮永さんの問題も解決してほしいってか」

咲「ええそのとおり…って、えええええええええええっ!?!!?」

咲「なんで、なんで分かるんですか?!」

怜「事件も終わったわけやし、落ち着いてーな。とりあえず食後のコーヒー飲まん?」

咲「あ、はいっ…」


怜「あったかいコーヒーが身にしみるなあ……ああ、ウチ生きてるんやなぁ……しみじみするわぁ」

咲「あはは…園城寺さんおおげさですよ。ところで…」

咲「よく分かりましたね。いろいろ、その」


あ、このコーヒー美味しいな。ちょっとランチサービス券渡したのもったいなかったくらい。


怜「そりゃ、わざわざご飯食べてるところまで来るんやから、何か聞きたいことがあるんやろうと思うんが自然やろ?」

咲「し、自然です」

怜「でも話聞いて終わりっちゅうことはないやろ。なんかウチに頼りたいことがあるんかな?思た。
  これは……まあ後で話すわ」

咲「はぁ…」

怜「でも、一刻を争う問題ではないんやな、安心したで」

咲「えっ?なんでそんなことが…?」

怜「コーヒー。ホンマに深刻やったら、のんびりコーヒー楽しむ気持ちなんて起きへんし。
  やばかったらすぐ相談したいもんや」

怜「それに飲んでる時、美味しいって感じの顔してたから、まだ他のことに気が回る余裕はあるんやろ」

咲「………」

怜「あまりのコーヒーの美味しさにウチに券渡したことちょっぴり後悔したりしてへんか~?……ふっ、なーんてな」



………敵わないなあ。本当に人のことをよく見てるというか。

この人に隠し事したり嘘を吐いたりするのは、私には絶対無理だ。


怜「ま、ありがたく報酬はいただいたで。残りのタダ飯券で今月はらくしょーやな。おおきに」

咲「こちらこそ、助けていただいてありがとうございました」

怜「いえいえ、ギブアンドテイクやし。宮永さんが券持ってなかったら引き受けるつもりなかったしな」

咲「そ、そうなんですか…もっててよかったあ。でも、探偵さんなら助けてくれてもいいんじゃ」

怜「こっちも仕事やさかい。生活かかってるしな、報酬なしには仕事せんで」

咲「………」



いい人、なんだよね。私の無実を証明してくれたわけだし。

でも助けてくれたというか、契約を履行したって感じの対応だなあ。まあいっか。



咲「それで…事件のことなんですけど…よく私が無実だって分かりましたね。店の玄関でずっと見てただけなのに」

怜「ああ、そのことな。さっきも言ったけど、宮永さんが犯人ってのはないやろなて思ってた」

咲「そ、それはどうして…」

怜「見たところ宮永さん制服やん。で、平日のこんな昼間にあんな店おって…自分サボリやろ?」

咲「うっ…」

怜「偶然見つけたこの店で、時間つぶしとった…今日は開店記念日で無料やしな。
  の割には人少ないけど。そんなとこちゃうの?」

怜「で、さっきの続きやけど…そのサボリ関連で学校でなんかあるんかな?思たんや。
  相談したいこともそれ絡みかなってな」



あ、当たってるよ…なんだか全部見透かすようなそんな目を園城寺さんはしてる気がする。

そういえば推理する前、ものすごく虚ろな目になってた気がしたけど、あれは…?


怜「そんな学生がなんとなく人を殺したりするかいな。
  そもそも粉チーズのトリックはここで粉チーズ使ってること知ってないとできへんし」

咲「……」

怜「フラフラこの店に入ってきたぽい宮永さんはまずシロやなと」

咲「な、なるほど」

怜「ま、ぶっちゃけ最初から女Bが怪しいと思ってたけどな」

咲「えっ?最初って?」

怜「いっちゃん始めや。彼女さんが倒れた時、『死んでる』とか『早く警察を』とか言ってた時点で違和感あったわ」

怜「真っ先に呼ぶべきは救急車やろ?宮永さんウチがここで急に倒れたらどないする?」

咲「す、すぐに救急車呼びます。それで、お店の人に警察を呼んでもらって…」

怜「それが普通やろなあ。あとは…初めてこの店に来たって言う割に妙に場慣れしてる雰囲気とか」

怜「怪しいとこだらけやったわな。親切心って言うなら、お店の人に新しいのもってきてもらえば良かったやん、とか」

咲「す、すごい…」

怜「どうも。ウチは病弱であんまり活発に動けんへん」

怜「せやから、代わりに人の心理とか行動を手掛かりに推理するんやで」

咲「えっ、病弱?あれは嘘じゃ」

怜「嘘やない。あんときは演技やったけど、本当に体弱いんや。
  それにここ数日ずーーっと栄養不足やったから、今日の依頼なかったら死ぬかもしらんと思ってたで」

咲「そうだった、んですね。だからあんなに演技がうまかったんだ」

怜「そういうこっちゃ。それにしても――」

怜「最後証拠求められたときは分かっとったけど焦ったで。ホンマに物的証拠は持ってなかった。
  あと、殺害動機も分からんかった。やから女Bが犯人と確信はしてたけど、根拠は八割言うたんや」

咲「よくそれから自白に持って行けましたね」

怜「あれは運が良かったな。ストーカーしてることを指摘できて、動揺を与えられたみたいやし。
  まあ運も実力の中っちゅうことで」

怜「でもあの女がストーカーってのは妙に納得したわ」

咲「納得?女Bさんがストーカーだと初めから疑ってたってことですか?」

怜「ちゃうちゃう。そうじゃなくて、宮永さんが粉チーズ回した後、
  彼女さんじゃなくて彼氏さんの方が先に使う可能性もあったやん?」

怜「そしたら愛する彼氏があの世行き…せやけど、そこはノープロブレムや。
  女Bさんは彼氏の好みを事細かに知っとったはずやからな、なにせホンマモンのストーカーや」

咲「あっ、そうか。だから安心してこのトリックが使えたんだ…」


咲「あのとき私がたくさんチーズかけてたら、死んでたかもしれないと考えるとゾッとします」

怜「大丈夫や、それはない。もしそうなってたら無理にでも止めたはずやで。だって容疑が確実に自分にかかるやん」

咲「た、確かに。じゃあかけちゃえば良かったかな…そうすれば疑われることもなかったのかな?」

怜「アホ。もし止められんかったら気づかずに宮永さんが死んでたんや。使わなくて正解や」

怜「ずっと、待とったんやろ。あのカップルと、
  気の弱い宮永さんみたいな罪をかぶせられそうな人が同時に店に来る瞬間を」

怜「あのカップルの思い出の店のあの席で」

怜「ず―――――――――っとな」

咲「……………」

怜「その条件が揃ったのがたまたま今日やったっちゅうだけや。じゃ、腹もいっぱいになったしそろそろウチは行くで」

咲「えっ?!!ま、待ってください。私の依頼…」

怜「申し訳ないけど、今日はちょっと疲れてもうて……寝たいんや。やから、はい」

咲「こ、これは?もしかして、名刺……あれ?違う?これは?」

怜「名刺なんて作る金、あらへん。住所もない。登記されてない古い建物やからな。
  だから地図や。さっき超特急で書いたさかい」

怜「今度またここに来てな。そこで相談聞くわ」

咲「は、はい!」

怜「それじゃ…ごきげんさん。つらいことあるかもしれへんけど、学校サボるんはもうやめにしとき」

怜「せやないと―――――ふっ、またこういうことに巻き込まれるかもしれへんで?」

怜「…ほなな」

咲「あ、あの!!」

怜「お礼はもうええて。さっきも言った通り、ギブ&テイ」

咲「い、いえ、そうじゃなくて」

怜「へ?」

咲「この地図、全然読めないんですけど…」



渡された紙を広げてみたら……子供のラクガキのような、動物の蛇のような

言われてみたら地図に見えなくもないような、なんと表現したら分からない絵(?)だった



咲「もしかして絵、苦手なんですか?」

怜「…………」



誇らしげな様子で席を立って、颯爽と去ろうとしていた園城寺さんの顔が

みるみるうちに真っ赤になっちゃった。




≪File 1:心の鍵 End≫


仮に絵がうまかったとして咲さんは・・・ここのは咲ちゃんかたどり着けるのか

>>55
迷子スキル+ポンコツ絵描き→あっ……()



とりあえず書きため分終わり

今回はここまでっす


またしばらくしたら2話投下できたらと思ってます

読んでくださった方どうもー



≪ネクスト怜ちゃん≫

「か・び・ん」




それでは


「相変わらず汚い事務所やなぁ…ちゃんと掃除しとるん?」

「ここはウチが来たときからこんなんやったんやで」




どうも、園城寺怜です。こんにちは、こんばんは、あるいはおはようございます。

宮永さんの事件を解決してからしばらく経ちました。皆さんいかがお過ごしでしょうか。

ウチはあれからファミレスとスープスパで日々耐え忍んでます。




「そないかもしれんへけど…」

「しれへんけど?」



しばらく生活に困らんこともあってしばらく休ましてもらってます。ウチ、病弱やから。

あ、ここでいう生活いうのは「ご飯」のことな。今月の食費はなんとかなるっちゅうだけの話。




「この事務所なんにもなさすぎやろ」

「細かいことやん……りゅーかはウチのお母さんか」




ちょうど今、幼なじみの竜華が事務所に遊びに来てくれてます。
















【File 2:名門の陰 前編】








竜華「アホ!家具とか当たり前にあるもんほとんどないやん!!電気も!ガスも!水道も通ってない!!」

怜「そんなことはこの家に住んどるウチがよく知っとるでぇ」

竜華「これでどないして生きていくんや!」

怜「心配せんでも、こうして生きとるでぇ」

竜華「さっきからその語尾やめ」

怜「はい。すんません」

竜華「まったく…怜は体弱いんやから、そういうとこもう少し気をつかうべきなんやで?」

怜「きーつけます」

竜華「あ、気をつける気ないやろ」

怜「滅相もない。気をつける気ありますよ」

竜華「あーもうきーきーうるさい。ヒステリーでも起こしたん?」

怜「どっちかというとりゅーかのが…」

竜華「ん?」

怜「うっ、そんなにいい笑顔みせんといてーな」

竜華「誰のせいやと思っとるん。こっちは心配しとるんやで!」

怜「わ、分かった、分かったて。できる限り健康に気を使いますって」

竜華「よろしい」

怜「ところでりゅーか?」

竜華「ん?」

怜「前に言われたから自炊しようとしたんやけど、コスパ悪すぎやろ。文句言おうと思っとたんや」

竜華「え?上手にやればかなり節約になるはずなんやけどな。どこがあかんかったん?」

竜華「ウチが言ったとおりにやった?」

怜「頑張ったで。まずは一週間分の食材をなけなしのお金でまとめて買って…なけなしのお金で買って」

竜華「二回言う必要あったん?それでどうなったん?………あっ、まさか」

怜「うん、そのまさかや」

竜華「……ごめん」

怜「いや……りゅーかは悪ないよ。ウチも八つ当たりしてごめんな」

竜華「全然ええよ。ウチもアホやったわ……事務所に冷蔵庫がないの、忘れとった。それじゃ自炊できるわけな――」

怜「え?冷蔵庫はあるよ?」

竜華「――いわな………え?だって電気通ってないのに」

怜「依頼がなくてしばらく暇やったし、自炊のこともあったし自作した」

竜華「う、う、う、嘘やろ?自作?冷蔵庫を!?」

怜「嘘やない。外にあるけどな。見る?」

竜華「み、見る!!」



りゅーかと一緒に外に出た。ウチの事務所は、町外れ中の町外れちゅうか、ほんまに辺鄙な場所にある。

けどその代わり自然環境は最高で、例えば事務所のすぐそばには綺麗な川がある。

そこの水はめっちゃうまい。水の良さとかよく分からんけど、うまいんや。




竜華「なんやこれ…」

怜「ここの川の水は割と冷たいさかい。ここを板でちょいちょいちょいと区切ってな…」

竜華「……」

怜「これで冷やす場所の出来上がり。そんで、酒屋さんがよく使うあの、ビールとかお酒が入っとるP箱を突っ込んだ」

怜「直接冷やしたら濡れてアカンから、スーパーから拝借したビニールに食材を入れて、P箱に入れる。これで完成や」

怜「一日にいっぺん水を入れ替えて冷たい水を維持するんも忘れずにな」

竜華「こ、これで腐らへんの?」

怜「一ヶ月とかは無理やけど、一週間なら楽勝やろ。少なくともあの事務所に置いとくよりはマシやで」

怜「天然の冷蔵庫や。無料で電気代もかからへん」

竜華「よくもまあ、こんなこと考えたもんや…」

怜「むかし夏にスイカを川で冷やしとったの思い出してな。スイカでできるなら、他の食べ物でもできるやろ」

怜「P箱はちゃんと酒屋さんにお願いしてもらったで!板はそこらへんに落ちてるのを拾ってきたけど、気にしない気にしない」

怜「ビニールはスーパーから多めにパクったけどええやろ。そこで買い物したわけやし」

竜華「アンタ体弱いくせに…なんというか、たくましいな」

怜「ふふん」

竜華「褒めるべきか分からんけど、すごいわ」



竜華「って、ちょっと待ちぃや。自炊があかんかった理由どこいったん?」

怜「ああ、その話な…」




確認したらまた事務所に戻ってきた。川の近くはちょっと肌寒いしな。自炊ストップしてから今は何も入れてないんやけど。

あの冷蔵庫タダやしええねんけど、一日一回、川の水を入れ替える作業がネックやねんな…案外力作業やし。




怜「単純にウチが料理できへんだけの話やで。大根切ってみたら、食べられる場所が一口しかなくてびっくりしたわ」

竜華「ウチもびっくりやわ…どういう切り方したらそうなるんや。アドバイスほとんど生かしてないやん」

怜「思いのほか不器用やったみたい」

竜華「相変わらずやなあ。怜は頭の回転はええのに、そういう作業はホンマにダメやね」

怜「冷蔵庫はできたんやけどなあ。あれは作るの楽しかったから頑張ったで」

竜華「自炊も同じ感じで頑張って欲しかった…」

竜華「まあ、しばらく宮永さんに報酬でもらった食事券があるんやろ?」

怜「その券が尽きる前に新しい依頼がないと、また生死の境をさまようことになるなぁ」

竜華「むちゃくちゃな生活しとるな怜……まるで中小企業の自転車操業を見とるみたいや」

竜華「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利が、国民にはあるっちゅうのに」

怜「せやな。竜華の言うことは最もや―――でも。権利ちゅうのは義務を果たして、ようやく主張できるもんやろ?」

竜華「……」

怜「ウチはこうして生きていくことを決めた。だからええんや」

竜華「決めたって、他に選択肢がなかっただ――――」

怜「竜華」

竜華「…………」

竜華「……怜、いつでもウチを頼るんやで」

怜「ありがと」

怜「もう頼っとる」


竜華「よっしゃ!辛気臭い話は終わり。怜、今日もお花持ってきたで!」

怜「えーまたお花持ってきたん?」



ちなみに、りゅーかは花屋を自営しとる。フラワーショップの店員さんちゅうやつや。

やからたまに余った花を事務所に持ってきてくれる。



竜華「ええやん、何もない事務所なんやし、ちょっと色を添えてやらんと」

怜「ウチは色気より食い気やな。断然花より団子派や」

竜華「怜らしいなあ。そういうと思って、もう一つ持ってきたで。今回はこっちがメインや」

怜「え?なになに?食べ物?」

竜華「違うわ。どんだけ飢えてんねん……でも、近いかもしれんな」

怜「…ウチにとってええモンなんやろ?それだけニヤニヤしとるってことは」

竜華「あ、そんな顔しとる?そうやで。これは金を、食べ物を生む話や、つまり―――」

竜華「―――『依頼』や」


名探偵怜-Toki- 情報ファイル これまでの登場人物1



【園城寺 怜(おんじょうじ とき)】 
職業:探偵 西地区の探偵

事情があって少しお金に執着がある。やや病弱。あまり活発には動けない。
基本的に手先は不器用で絵が壊滅的に下手くそ。頭の回転は非常に早い。

備考:人の心理を読み、言動の矛盾を考察しながら犯人を推測する。プロファイル型。推理も得意。

持ち物
手袋、ルーペ、手帳



【清水谷 竜華(しみずだに りゅうか)】 
職業:フラワーショップ店員(自営)

怜の幼なじみ1 
病弱な怜を心配している。よく世話を焼き、探偵業を助けてくれる。



【宮永 咲(みやなが さき)】
職業:学生

File1で初登場。殺人の容疑で誤認逮捕されるところを怜に助けられる。
何か悩みをもっているようだ。

ほとんど進んでもないのにここまで
眠いので続きは明日で…

気楽に見てもらえればと


おやすみなさいー


怜にネリーちゃんとか亦野さんが宿っとる・・・

セーラも出るよね?

乙です
竜華の職業がピッタリ過ぎる


怜「妙にもったいぶると思ったらそういうこと」

竜華「なんや、嬉しくないの?依頼やで?仕事や仕事!!」

怜「嬉しいよ。うれしゅーてかなん。あ、涙出そう。出る」

竜華「じゃあ一発泣いとく?頭を強めに叩くか、ほっぺをつねるか……」

怜「や、やめ!ごめんって!!そんなことしたらウチ死んでしまう」

竜華「冗談やって。からかってみただけや」

怜「なんや…脅かさんといてえな。ほんで、依頼は?」

竜華「実は依頼人がもうすぐここに来ることになってるさかい。じきに来ると思うで」

怜「りょうかい。じゃあ、それまでにおもてなしの準備せな」

竜華「多少のボロはしゃーないとして、お茶くらいは出さないかんな。お茶あるん?」

怜「ないわそんな高いもん。ついでにいうとポットもやかんもない。あ、お湯が準備できへんな。今気がついた」

怜「といっても、電気もガスもないからそもそもポットとかやかんとか関係なかったわ」

竜華「……」

怜「コップは一応あるよ。ウチのと、竜華にもらったやつが一つ…合計二つ」

竜華「……なあ、怜」

怜「ん?」

竜華「さすがに依頼人にはちゃんとしたもてなしをするべきやと思うで。いくらお金ないいうても限度があるで」

竜華「これで依頼人が気分害して、帰ってしもうたら損やろ?」

怜「……」

怜「そう、やな。この依頼でもしお金入ったら…最低限のもんは買うわ」

竜華「うん、ウチも一緒に買いに行ってあげるさかいな」

怜「ありがとりゅーか」


視点:竜華



怜には無精グセがある。めんどくさがりというか、大雑把というか…

体弱いから動きをセーブしたいのもあるんやろけど、それとは関係なく几帳面とは言い難い。

この事務所も始めに掃除したっきり、ほとんど手をつけてへん。リフォームが必要なレベルにもかかわらずや。

家具とか、壁紙とか、いわいるインテリアにもあまり興味ないみたいや。

外見にはあまりこだわらんといえば聞こえはええけど、女性らしさが皆無でちょっと心配やったりする。

せやからウチがこうしてたまに来て掃除を手伝ったり、
花を持ってきて少しでも見栄えを良くしたりしてフォローしてあげてる。

それと妙に凝り性なとこがあって、一度ハマったら止められへんタイプや。

自作の冷蔵庫もそうやし、推理とかもきっとそうやと思う。一度集中したら止められへん。

ウチらが子供の頃、一緒に一万ピースもある巨大ジグゾーパズルに挑戦したことがあった。

途中でウチは飽きて寝てしもたんやけど…夕方くらいにウチが目を覚ました時には、あの子は倒れとった。

完成した巨大パズルに、覆いかぶさるようにして。




「ここでいいのかしら」

「キャプテン、こんなボロっちいとこに本当に依頼するんですか?」

「でも、お友達の紹介だし…」




あの子について話しとる間に依頼人が来たみたいやな。




「竜華、来たん?外で声が聞こえる」

「うん。ちょうど来たみたいや。怜はそこで待っとき」




さて、怜、仕事頑張ってや。


そして、ドアを開けて依頼人さんが入ってきた。『開けて』というか、丁寧に『押して』って感じやな。

今にも壊れそうな木製のドアはなんというか、一周回って歴史的建造物の一部みたいな気がしてきた。

実際は全然ちゃうけど。



「こ、こんにちは」

怜「こんにちは。まあ座ってください」

「なにもないところだな。どこに座ればいいんだし?」

怜「そこのソファにかけてください」

「あ、ここね」

「きったないソファだな…こんなボロっちい事務所、見たことないぞ?」

「華菜。失礼よ」

「そうですけど…」

「それに私の大切な友人に紹介してもらったのだから。竜華さんにも失礼よ」

竜華「よく来てくれたなあ。美穂ちゃん」

美穂子「竜華さん。こんにちは」






【福路 美穂子(ふくじ みほこ)】

職業:学生
風越女子高校の部長。華道部。風越華道部は数百人を率いる名門。


怜「二人は友達なん?」

竜華「そやでー風越言うたらお嬢様学校やん?そのお嬢様学校の華道部の部長さんなんやで、美穂ちゃんは」

怜「なるほどな」

竜華「ホンマに分かっとる?」

怜「ごめん、まだ分かっとらんわ」

竜華「名門お嬢様学校の華道部部長いうたら、それはもう、すごい人いうことやで」

怜「そうなん?」



「はあ。まだキャプテンがどういう人か分かってないみたいだな!華菜ちゃんが説明してやるし!!」



私は美穂子ちゃんのことを美穂ちゃんて呼んでる。可愛いやろ?

ところで、となりにおるこの子は誰なんやろか。



怜「隣におる子は?」

美穂子「この子は部員の華菜よ。本当は一人で来るつもりだったんだけど、
   どうしてもついてくるって言って聞かないから…」

池田「風越女子は日本の伝統技芸を重んじる…芸能・華道・茶道・香道・盆栽、
   その他広くにわたって優秀な成績を収めてるし」

池田「その中でもキャプテンは華道部のトップ。伝統技芸の分野において国の将来を背負って立つお方なんだし!」

美穂子「か、華菜。それはいくらなんでも大げさよ」

池田「おおげさじゃないし!部で一番上手なキャプテンのお花は、
   風越の華道部の部室から学校の至るところにまで飾られてるんだし!!」

怜「ほおぉ、すごい人なんやなあ…申し遅れました。ウチ、竜華の友達の園城寺怜いいます。今後ともよきに…」

美穂子「福路美穂子と申します。こちらこそよろしくお願いします」



美穂ちゃんはにっこり笑って怜に応じた。やっぱりこの子はいい子やなあ。優しくて、上品で。

ウチもこんな人になりたいなあと思う。それにしても対応がちょっと現金やで、怜!




【池田 華菜(いけだ かな)】

職業:学生
風越女子高校の生徒。華道部レギュラー。美穂子を慕っている。



怜「二人はなんで知り合いなん?」

竜華「風越華道部はウチのお得意さんなんやで。毎週たくさんのお花を発注してくれるんや」

美穂子「毎週本当に助かってます。とても質のいいお花を入れてくれるので」

池田「確かに質は悪くないな。そこは認めてやるし」

怜「へえ。りゅーか上手にやっとるな。大口の取引先をいつのまにゲットしたんや」

竜華「ふふっ、一回お店に買いに来てくれて知りおうてな。それから世間話してたら仲良くなったんやで」

竜華「そのつながりで取引させてもらえることになったんや」

怜「これがコミュ力ちゅうやつか」

竜華「ウチも頑張っとるっちゅうことや!ちょっとお茶入れてくるでー」

怜「うん、頼むで」

怜(……あれ?お茶ないってさっき言ったはずやけど。まあええか)




怜「それで、依頼の件ですけど」

美穂子「………」

池田「キャプテン。代わりに私が話してもいいんですし?」

美穂子「い、いや私が話すから。ありがとう、華菜」

池田「それならいいですし」

美穂子「………」

美穂子「このことは世間には全く知られていません。なので口外しないと約束していただけますか?」

怜「守秘義務か。内容によるな」

美穂子「約束していただけないのなら、話せません」

怜「………」

怜「分かった。こっちも話してもらえへんのは困るさかい。誰にも言わんと約束します」

美穂子「ありがとうございます」

池田「絶対言うなし!!約束だし!!」


美穂子「それでは、話します。実は先日、ウチの部員が一人…亡くなりまして」

美穂子「しかも、華道部の部屋の一つの中でその方は見つかりました」

怜「亡くなったて、それは殺人事件?自殺?」

美穂子「今からお話します。私はその場に居合わせなかったので、正確には話せません…
    それに、あまり大きな声で言えることでもないんです」

怜「なるほどな」

池田「……おい。またお前分かってもいないのに適当なことを―――」

怜「―――名門。世間に知られていない。真実隠蔽」

怜「守秘義務。華道部部長。立場。建前。本音」

怜「こんな感じのキーワードで理解したらええの?」

池田「なっ!?」

美穂子「……そうです。竜華さんの言ったとおり、ですね」

怜「ええよ、続けて」

美穂子「それで、後日私は一枚の現場写真を手に入れました。
    現場の状況も、粘り強く警察の方に聞いてみて、最低限のことは聞き出せました」

怜「ふむふむ。つまりその真犯人を見つけて欲しいってこと?」

美穂子「し、真犯人というか…………真実というか……ええと……」

怜「…?」

美穂子「と、とにかく。私の大切なチームメイトが一人亡くなったのに、まるでなかったようなことにされてしまって…」

美穂子「それが、とても悔しくて。だからこうして園城寺さんに頼らせていただいてます」

怜「分かった。依頼内容はその事件を解き明かすこと。真実を見つけること、やな」

美穂子「はい…」

怜「百万」

美穂子「……えっ?」

怜「報酬や。これ以上まからへんで」

池田「……」

美穂子「……」




竜華「ただいま戻りました~……?」

交渉は進んどるやろか、なーんて考えながら戻ってきてみたらなんだかきまずい空気が流れとる。




竜華「み、皆さんお茶用意できたで~」

池田「ふ、ふざけるな!!」

竜華「っ!」


池田「学生にそんな大金払えるわけないだろ!!」



池田さんはえらい剣幕で怜に怒鳴りつけた。

百万とはえらいふっかけたなあ、怜。



池田「帰りましょう、キャプテン!!こんな汚らしいところから、早く!!」

怜「………」

美穂子「百万円、ですか」

怜「百万円」



池田さんの殺気をものともせずに、じっと座っとる。

美穂ちゃんの開いた方の目を見つめ続けてる。

そういえば、美穂ちゃんはずっと片方の眼をつぶったままや。なんでやろか。



美穂子「……分かりました。払います。どんなことをしてでも」

池田「キャプテン!」

美穂子「華菜、私は真実を知りたいの。これはお金の問題じゃないの。私の気持ちの問題」

美穂子「でも、真実を知るのにお金が必要だというのなら」

美穂子「払うしかないでしょ?」

池田「でも、よりによってこんな奴に……」

美穂子「こんな方?あったその日のうちに、その人の全てを分かった気になるのは良くないわ」

美穂子「華菜、お金のことなら心配しないで。大丈夫だから」

池田「…キャプテンがそう言うのなら。分かりましたし」

怜「契約成立やな。約束やで。反故は堪忍な」

池田「……華菜ちゃんは認めたわけじゃないからな。これで何も分からなかったらタダじゃおかないぞ」

怜「お手柔らかにお願いします」

池田「チッ…」

竜華「………」



実はウチ、お茶っ葉を買いにちょっと外に行っとった。さすがに水は失礼やしな。お湯もコンビニからもらってきてた。

けど、もうのんきにお茶を飲む雰囲気じゃなくなってるし、こっそりコップだけ置いておく。

お茶の点て方も会得してるであろう風越の二人やから、緊張しながら入れたけど
取り越し苦労やったみたい、悪い意味で。

依頼人の機嫌損ねてどうするんや、さっき注意したばっかりやんか。



まあ、でも。それでも。

怜なら、きっとなんとかしてくれる。頼んだで、怜。




怜「それじゃ写真。拝見します」


美穂子「これです、どうぞ」

怜「ん」




そうして美穂ちゃんは、一枚の写真を怜に渡した。ウチも一緒に見ていいんかな?

気になるけど、これはお仕事やしウチはかかわらんほうがええか…………でも気になるなあ。




美穂子「竜華さんも、ご覧になりますか?」

竜華「えっ?!ええのん?」

美穂子「そんな風にもじもじされると、なんだかこっちも気になってきちゃうわ」

竜華「うう、ごめんなさい…」

美穂子「でも、見て不快になるのは覚悟してね」

竜華「………」

竜華「大丈夫。ウチも怜の力になれるかもしれんし。お願いします」

怜「りゅーか、ウチの隣に来る?」

竜華「そうさせてもらうわ」




ウチそんなにそわそわしとったかなぁ。めっちゃ恥ずいわ。

怜もちょっと苦笑いしとったし。池田さんに至っては呆れ顔やった。仕方ないやろ、ウチだけ除け者は淋しいやん!

どれどれ、どんな写真なんか、怜の手元をそーっと、そーっと……




竜華「っ!」

怜「……」

美穂子「……」


部屋中引っ掻き回された形跡があって、ぐしゃぐしゃ。


机や椅子はひっくり返り、棚は引き出しが全部空いて備品が床に放り出されとる。


高そうな掛け軸はビリビリに破かれてしもうて、もはや見る影もない。


花瓶(?)も割れてしまって、破片が飛び散り、元々入っとった水で所々が濡れとる。


部屋にある窓は割られて、ガラスが窓の下に散らばっとる。外から入ったんやろうか。


ガラスってこんなに粉々になるんやなぁ。細かい砂みたいや。


そして――うつ伏せで部屋の真ん中に人が倒れとる。頭から…固まっとるけど、赤黒い……床は血まみれやった。


花瓶の破片には血がついとる。これで殴ったんやろか…



竜華「……っ、し、死んでる…んやんな…」



写真とはいえ、初めて死体を見てしもた。胃から食道に、何かがこみ上げてくるのをなんとか抑えた。



怜「りゅーか、みんでええよ」

竜華「だ、大丈夫。これくらいはへーきや…」

怜「これ、部員さん?」

美穂子「そうです。ウチのレギュラーの一人で…Aさんです」

怜「レギュラー?華道に試合あるん?」

美穂子「試合というか、コンクールです。全国華道コンクールがあって、それに作品を出せるメンバーは決まってます」

美穂子「この子はそのメンバーの一人でした」

怜「この部屋は?」

美穂子「レギュラー専用の部屋です。レギュラーは全員で6人いました。今は、その、5人ですけど…」

怜「そっか。じゃあこの事件に関して福路さんが知っとる限りの情報教えてくれる?」

美穂子「はい。事件が起こったのは一週間前。その時私は実は風邪で寝込んでしまっていてその場にいなかったんですけど」

美穂子「死因は…その、頭部強打による出血死だそうです」

怜「撲殺、な。この破片は…花瓶の?」

美穂子「ええ…もしかしたら、この…花瓶で」

怜「血ぃついとるな。その可能性はある」






★死因★
出血死(撲殺) 花瓶でか?


池田「ちなみに華菜ちゃんはお花の買い出しにいって学校にいなかったし。
   帰ってきたら警察がいてびっくりしたし。現場には入れなかったけどな」

怜「他のメンバーが学校におったってこと?」

美穂子「ええ……その日は自由活動の日で、私と華菜以外のレギュラーの4人がコンクールの準備をしてたの」

怜「…それじゃあ、容疑者はその中に?」

美穂子「……いえ、3人とも部室の方に居たと言っていたわ」

怜「第一発見者は?」

美穂子「警備の人、らしいわ…」

怜「そうか。キャプテンのアンタには知らされんかったん」

美穂子「体調を崩してる私には知らせない方がいいって、顧問が…そして、次の日に学校に来た時には、もう」




美穂ちゃんは、唇を噛み締めて悔しそうに言う。

そら辛いわ。当たり前や、大事にしとる後輩がこんなよう分からん形で命落とすなんて。

いや、形なんて関係あらへん。どんな形であれ、後輩が亡くなったりしたら美穂ちゃんはきっと悲しむやろう。




竜華「これ血がいっぱい出て…痛かったやろな…」

美穂子「……ええ。本当に、可哀想……それでね」

怜「それで?どうなったんや」

美穂子「部員の皆には、これは外部の人による犯行という説明がされたの。
    それで一週間前にその場で捜査は打ち切られたのよ」

怜「もみ消し、か。なんでそうなったんやろか」

美穂子「もしかしたら、もうすぐコンクールがあるからそのことが影響しているのかもしれないわ…」

池田「本当ならこんなところで油を売ってる暇はないんだし」




名門の事情…か。あんまり口出すつもりはないけど。アレやなぁ。

ウチの取引相手としては大口やし、ありがたいけどなんか複雑な気分になってきたわ。


美穂子「私もこんなことがあったのにコンクールだなんて、と言ったのだけれど…学校側が許してくれなかったわ…」

池田「キャプテンが出せば、入賞どころか最優秀は間違いなしだから…学校としては不参加は避けたいわけだし」

怜「不祥事で学校の名前に傷がつくことも避けたい、けど優秀な生徒の存在は誇示したい、ちゅうわけか…」

美穂子「……」

怜「…この写真のことは他の部員は知っとるん?」

美穂子「いいえ、私と華菜だけよ。これは私がわがままを言って手に入れたものだから。
    絶対に流出させないこと、コンクールには出ることを条件に…」

怜「実際にこの現場見た人は誰か他にいる?」

美穂子「ごめんなさい、分からないわ。でも私と華菜は見てないことは確かよ。レギュラーの残りの3人は……」

怜「見てる可能性はある?」

美穂子「……」




怜の質問に美穂ちゃんはちょっと口をつぐんだ。どうしたんやろか。

答えにくい質問やないと思うけど…




竜華「美穂ちゃん?」

美穂子「分からないわ。でも、3人はずっと部室にいたらしいから、それぞれアリバイがあるわ」

美穂子「現場を見たかどうかは直接聞いたわけじゃないから、分からないけど…
    ずっと部室に居たのなら、見てないと思うわ」

怜「さよか」




レギュラールームで起こったことやし、真っ先に容疑者になるんは仕方ないわな。

でも、三人とも部室にいたならお互いのアリバイを証明しあえる…それで他の華道部の部員は学校に来てないんやな。

……ん?あれ?


竜華「ね、ねえ。ちょっとええ?」

美穂子「竜華さん、なにかしら?」




ひどい現場の光景に思わずビビって吐きそうになってしまったけど、しばらくしたら見慣れてきて。

血がドバーっと出まくってるわけでもなのが幸いしたんと、写真やからまだ衝撃も薄いんってのはあるな。

それで、今のアリバイの話を聞いて思ったこと。




竜華「さっき美穂ちゃん、外部犯の犯行ということにされました、言うてたけど…」

竜華「今の話聞いたんと、写真見る限り外部犯の仕業ちゃうのん?
   これだけ部屋荒らされて、窓も割られて…その窓から外に逃げたんやないん?」

竜華「名門風越のレギュラー専用部屋なんて豪華やし、金目のもの狙ってたんと違うん?」

怜「………」

美穂子「そ、そうかしら。やっぱりそう思う?」

竜華「思うで、だってこんな部屋の状況やし…ね?怜」



怜の方を向いてみると…写真をじーっと見つめてた。いつもの弱々しい感じやない、真剣な眼差し……?

―――と思ったら、いつもどおりの目にもどっとった。あれ?ウチの気のせい?


怜「……」

美穂子「やっぱり外から入ってきた方とAさんが揉み合いになって…という可能性が高いのかしら?」

怜「確かに、そんな感じの写真やな」

美穂子「園城寺さんもそう思いますか」



怜は…美穂ちゃんの方を見て、写真を見て、それからもう一度美穂ちゃんの今度は眼を見て。



怜「そうかもしれんな」

美穂子「! そ、そうですか。分かりました。ありがとうございます」



美穂ちゃんはすごく安心した顔で、そう言う。当然かもしれん、身内を疑うのは、たぶん辛かったやろうしな。



怜「外部犯やったら、さすがにウチには無理や。情報集めようにも警察も手を出せんときた。お手上げや」

池田「……誰でも考えそうな結論を出すのが探偵の仕事なのか、知らなかったし」

池田「まさか金を取るなんて言わないだろうな?」

怜「反故は堪忍……と言いたいけど解決もしてない事件からはさすがに取れへんな」

池田「当たり前だろ!なに偉そうに言ってるんだ…ったく」

美穂子「…じゃあ、帰ろうかしら。竜華さん、紹介してくれてありがとう」

竜華「力になれなくてごめんな。またお花の注文ご贔屓に」

怜「すみませんでした」

池田「ふん、二度とこんなところこないぞ」

怜「池田さんもすまんかったな。あ、福路さん」

美穂子「何かしら?」

怜「せっかくこうしてお時間もいただいたわけですし、コンクール見に行こうと思います」

美穂子「本当?それは嬉しいわ。お花に興味を持ってもらえるなんて」

怜「実はウチも結構な花好きで…ボロい事務所やけど花だけは欠かさんようにしてるんです。心が明るくなるさかいな」



どの口が言うんや、どの口が。


美穂子「本当ね。ここにあるお花、とっても綺麗よ。園城寺さんセンスがあるわ」




あ、ウチ褒められた。って、なんで怜、アンタが照れとるんや!!

それ飾ったのウチやでウチ!!ここでそんな主張したら小物っぽいから言わへんけど!!



美穂子「暗い気持ちになっても、お花を見るだけで元気がもらえたりするものね」

池田「ウチの部員は皆花好きだからな。自分の子どものように大切にしようってキャプテンの教えだし」

美穂子「ええ、そうよ。そうすればお花にも私たちの想いが伝わって、綺麗な姿を見せてくれるのよ」

竜華「へえ…ウチも見習わんとなあ。お花を扱っとる人間として」

怜「他のレギュラーの方はどんな人なん?」

美穂子「うふふ、園城寺さんにも華道を布教しちゃおうかしら?コンクールのパンフレット欲しいかしら?」

怜「ぜひいただきます」

美穂子「これよ、どうぞ」

怜「全員着物なんや」

竜華「華道部なんやから普通やで?名門ならなおさらや」

怜「福路美穂子、池田華菜…吉留未春、深堀純代、文堂星夏……この五人な」

池田「ああ。皆ウチの精鋭だぞ。Aも、すごく上手だったんだけどな」

怜「吉留さんはどんな人?」

美穂子「努力家で、明るく真面目なタイプね。時々おっちょこちょいで可愛いところもあるけど、
    基本的にしっかりしてるわ」

美穂子「華菜と同級生で、仲もいいの」

怜「深堀さんは?」

美穂子「何事も堅実に物事をすすめるタイプで…お花もどっしりとした、重厚な感じにいつも仕上げるの」

美穂子「私にも真似できない生け方だと思うわ。お花を誰よりも大切にするし…
    って、生け方について話しても伝わらないわよね。ごめんなさい」

怜「いえいえ、全然ええですよ。文堂さんは?」

美穂子「この子はすごいのよ。まだ下級生なのにレギュラーに選ばれて…けど、本当は努力家よ」

美穂子「もっと自分に自信をもってくれたらいいのだけれど、まだ経験が浅いから仕方ないと思うわ」

竜華「勉強と実践はちゃうからね。若い子はこれからやん!」


怜「……これはあくまで参考というか、別になかったらええんやけど」

美穂子「?」

怜「この三人について何か気がついたこととか、何か変わったことがあったりする?」

美穂子「? いえ、特には…」

怜「事件の前後で何か変わったこととか」

池田「あ、そういえばみはるん、メガネやめてコンタクトにしたし」

美穂子「あ、そういえばそうね。少しでも気分を明るくするためにいめちぇん?をしたいって言ってたわ」

怜「……」

美穂子「事件後は、皆元気がなくてね…文堂さんはしばらく学校にこれなくて…ようやく昨日来てくれたのよ」

竜華「ショックがでかかったんやな…」

美穂子「Aさんも同じ下級生で、文堂さんとは同学年だったからきっとショックも大きかったのね…」

池田「ああ…いつもと変わらないのは深堀くらいなもんか。顔に出ないだけかもしれないけど」

美穂子「でも、あの子も苦しんでるわ。この間『事件のことは気にしてるの?』って話しかけてみたら…謝られたわ」

池田「まあ深堀は次のキャプテン候補だし、無理もないし…でも責任感じることはないと思うし」

怜「……最後に、Aさんはどんな人やったん?」

美穂子「文堂さんと同学年よ。なんというか、気の強い子だったわ」

池田「あいつは華道の才能の塊みたいなやつだったな…みんな羨ましがってたし、あの才能を。
   ちょっと口は悪いけど、華菜ちゃんには負けるし」





池田さん、それはどういう意味で言ったんやろ。

池田さんの方がずっと口が悪いって意味?池田さんの方が立場が上って意味?池田さんの方が口がうまいって意味?

聞いたら野暮な気もするし、亡くなった人の話やし、ウチは突っ込みたい気持ちを抑えて黙っとった。

池田さんは大胆に空気読まないタイプなんかなぁ。

いや、きっと場を和ませてくれようとしたんやろうな。きっと池田さんも悲しいはず。






★風越華道部レギュラー★
美穂子、池田、未春、純代、星夏、Aさん(死亡)


美穂子「皆仲が良くて…いい子達ばかりなの。だから、本当に胸が痛いわ…」

竜華「美穂ちゃん、美穂ちゃんは悪くないで。やから落ち込まんといてな」

美穂子「ありがとう、竜華さん」

怜「……」

美穂子「こんなところよ、園城寺さん。これ以上はちょっと思い当たらないわ」

怜「そうですか…それじゃあ、当日、楽しみにしときますね」

美穂子「ありがとう。では…そろそろ失礼するわね」

池田「あーあー時間の無駄だったし。キャプテン、帰って早くコンクールの打ち合わせをしましょうですし。それと……」



バタン



怜「……」

竜華「お疲れ。残念やったな。せっかくの依頼やったのに。
  なんというか、名門の裏を見た気がしたわ。これから見る目変わりそうや」

竜華「今日相談をうけんかったら、ウチも知らんかったわけやしな。風越には出入りしとる方やのに」

怜「……………」

竜華「なあ、怜……怜?」

怜「竜華、ひとつ聞きたいことがあるんやけど」

竜華「ん、何?」

怜「耳貸して」

竜華「ん?」

怜「ごにょごにょ……」

竜華「うん……………は?なんでそんなこと聞くん?」

怜「ええからええから。どんくらいかかるもん?」

竜華「えっと…」



なんでそんなことを聞くのか、ウチはさっぱり分からんかった。

とはいえ、ウチも女性やし多少の知識はある。やったことはないけど。

怜はそういうの興味なさそうやし知らんやろなあ。そもそも持ってないやろなあ。



竜華「4、5日くらいやない?長くて一週間くらいやろか」

怜「さよか…」

竜華「それがどうかしたん?」

怜「竜華」

竜華「え?」

怜「黙って」


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     |: : : : : : : : :..:.ト、/___j!__,/__/ /: :../   /_,j!______  |【アリバイ】
     |: : : : : : : : :..:i!〃つ。ノ.V/l|\-‐ ´    '´つ。ノ.V/l}㍉ |: : : : : : : : : ハ
    ,: : : : : : : : : :fヘヽ弋l(......)ツ           弋(......)lツ / ,:イ : : : : : : : : :.
.  【粉々】: : : : : : :| i  ¨¨¨¨¨           ¨¨¨¨¨  / |: : : : : : : : :い
    i.| : : : : : : : : :.|  ,  :.:.:.:.:.:.:          :.:.:.:.:.:.:.   ,  |: : : : : : :..:..| |i
    |ハ: : : : : : : : : |  ′:.:.:.:.:.:.:.:     '       :.:.:.:.:.:.:.  ′ノ: : : : : : : : :| ||
    || |: : : : : : : : :.\__j                   j_/: : : : : : : : :..:| ||
    || l: : : : : : : : : : : :.∧                  /: : : : : : : : : : : : , l|
【イメチェン】 :: : : : : : : : :个:..      ´  ̄ `      ..:个: : : : : : : : : : : : ゚ リ
       \}: : : : : : :.ト、: : : : >...         イ: : : : : :【本音と建前】
         \: : : : い乂: : : :..:.| >  __  <│: :j: : : :./}: :/}: : : :/j/
          `ー―ヘ   ヽ}ィニ|           |ニヽ:ノ}ノ/_,イノ ィ
           __ -=ニニニニニノ           ∨ニニ=- __

                      【花瓶】





と、怜? そ、その眼はさっきの――――――



怜「……」



怜はソファーにどさっと座り込んだ。虚ろな眼をしたと思ったら、その後はずっと閉じたままや。

疲れたんやろうか、話を聞くだけっていっても死体の写真を見て分析するわけやし…

仕事やもんな、疲れるはずや。お疲れ、怜。



竜華「なんか飲む?お茶入れ直すで」

怜「なあ、りゅーか」

竜華「何?」

怜「嘘と真実、どっちが好き?」

竜華「? 真実の方がいいに決まっとるやろ。いきなりどしたん、疲れた?」

怜「うん、疲れたなぁ…じゃあ聞き方を変えるわ。心地いい嘘と、聞きたくない真実を知るなら?」

竜華「…一気に選びづらなったわ。修飾語って恐ろしいな」

怜「…」

竜華「でも、心地いい嘘なんて、存在するんやろか?心地よくっても結局それは嘘なわけで…結局つらいんちゃう?」

竜華「ずっと嘘に気がつかんままなら幸せかもしれんけどな。でもいつか知ってしまったら、どうやろなあ」

怜「じゃあ真実を竜華は選ぶ?」

竜華「たぶん…そっちのが後悔せんと思うから、ウチならそうやな。聞きたくない真実を、選ぶと思うわ!」

怜「ふふっ、りゅーからしいな」

竜華「もう、どうしたん。禅問答みたいなこと聞いて」

怜「いや、ウチもりゅーかに習って後悔せん方を選ぼうと思って」

竜華「え?」

怜「竜華―――仕事なくなったらごめん」




え。

今、なんて。




怜「明日……明日もう一回ここに」

怜「福路さん呼んできて欲しい」



>>72
怜は一応不器用設定です()

>>73
次から出ますよ、咲キャラじわじわ出します

>>74
保育士と迷いました。なんとなく。キャラ設定は学生、社会人、バラバラです




というわけで、前編終わり
後編は明日いけたら投下します


犯人は予想つくでしょうか



では、おやすみなさいー








【File 2:名門の陰 後編】





美穂子「あ、あの…本日はどういった用件かしら」

美穂子「コンクールも近いの、できれば手短にお願いしたいわ」


昨日に続いて、美穂ちゃんを事務所にご招待。綺麗とはお世辞にも言えないこの場所にまたお呼びするとは思わなかった。

怜に頼まれたから…どうしても話したいことがあると言って、ウチがメールした。

ちょっと気が進まない風な返信やったけど、割と緊急な感じの文面で送ったからこうして来てくれたんやと思う。



怜「二日続けてきてもらってすいません。お茶でも」

美穂子「いえ、大丈夫よ」



昨日もお茶出してないけどな。さもお茶があるような言い方しとるけど、用意するのはウチやで?

まあそれはええんやけどな…それより怜の考えとることがさっぱり分からん。



怜「いえ。コンクールの準備は進んでます?」

美穂子「ええ。ちょうど今学校でレギュラー中心に動いてると思うわ。
    といっても、作品を出すのはレギュラーだけだから他のみんなは運営の手伝いとかだけど…」

怜「そっか。忙しいとこホンマすんません」

美穂子「あの、それで」

怜「今日ここに来てもらったのは他でもないんです」

美穂子「…?」

怜「ウチの推理を聞いてもらいたくて、ここに来てもらいました」

美穂子「すい、り…?」

怜「はい。気楽に聞いてください。それはもう」

怜「マヌケな探偵の世迷いごとを仕方なく聞いてあげる、くらいの気持ちで」

美穂子「…園城寺さんの意図は分からないけれど、お話があるというなら、きちんと聞くつもりよ」

美穂子「それにあなたの提示した金額も、もし解決してもらえらば払うつもりだったわ」

美穂子「探偵という仕事は、きちんとしたお仕事だと思うし…」

怜「……」

美穂子「あ、しゃべりすぎてしまってごめんなさい。人を見かけや役職だけで判断するの、私はあまり好きじゃなくて…」

怜「……アンタが、いい人やから」

美穂子「えっ?」

怜「いい人、やな。ウチもアンタみたいな先輩が欲しかったわ。コンクールでもきっと立派な成績収めるんやろな」

美穂子「そ、そんなこと…結果は誰にも分からないけど、気は抜かずに精一杯頑張るわ」


そうして美穂ちゃんは昨日みたいににっこり笑った。ホンマに人間できてるなあ。


怜「……じゃあ、言うで。福路さんがちゃんと聞くいうから、ちゃんと話す」

美穂子「え、ええ」

怜「この事件起こしたんは外部犯やない、内部犯や」



その時、美穂ちゃんの体全体がピクっと動いたような気がした。

一瞬のことやったからわかりづらいけど、いつも落ち着いた佇まいの子やから…その揺らぎが際立ったんやと思う。


美穂子「……あの、昨日外部の方の犯行と決着がついたのでは」

怜「ウチもそう思ってた…いや、できればそう思いたかった。でも―――」

怜「Aさんは殺されたんや、風越の部員に」

美穂子「ちょ、ちょっと待ってね…部員って、その時はレギュラーの子しか、いなかったわ」

美穂子「れ、れ、レギュラーの子の誰かが、これをしたって、言うの?」

怜「そうや」

美穂子「う、嘘よ。あの子たちの誰も、そんなことするはずがないわ」

竜華「そ、そうやで怜。だいたいあの時、全員にアリバイがあるんや。みんな部室にいたはずやろ?」

怜「……」

美穂子「あの日レギュラーしか部活に来てなかったから、疑いがかかるのは分かるわ。でも、全員がそう証言してるのよ」

美穂子「それならあの子たち意外、つまり外部犯の仕業と考えるのが自然じゃないかしら…?」

怜「そうやな…でも、そのアリバイが成立しない条件がある」

美穂子「…」

竜華「な、なんやそれ?」

怜「福路さんと池田さん覗いて、その日部活に来てたのは四人。
  Aさんが殺されて三人、第一発見者の警備員覗いたら事情聴取でアリバイを証言したのも三人」

竜華「それがどうかしたん?」

怜「他に誰も事情聴取受けてへんのやろ」

竜華「だ、だからそれが――――――え……えっ?」

怜「……」

竜華「えっ…まさか……いや、嘘やろ…?」

怜「吉留未春、深堀純代、文堂星夏」

怜「全員が全員――――――嘘つきや」



怜「三人が互いのアリバイを証明してる、一見全員無実。でも裏を返したら…全員が犯人って可能性がある」

怜「その三人のアリバイを、他に証明する人がいないんや。だからアリバイは……簡単に剥がれ落ちる」

美穂子「……………よ」

怜「だから――――」

美穂子「憶測よ!」

怜「!」



その時、ウチが見たこともないような剣幕で、美穂ちゃんが立ち上がった。

いつもつぶってる片目を見開いて、両手を広げて、全身で怜に訴える。

今にも泣き出しそうな、怒っているような、いろんな感情が混じった顔。

福路さんみたいな人間ができてる人の…こんなにも人間らしいというか

ある意味高校生らしい、むき出しの感情を目の当たりにするなんて。



美穂子「ありえないわ。あの写真を見たわよね。明らかに外部の犯行だって分かると思うわ」

美穂子「それに、写真を見ただけでイコールあの子達が犯人だなんておかしいわ。納得できないわ」

怜「……じゃあ、一個づつウチの考えを話す。ウチは現場を見てるわけやないから、
  本当にこれは憶測。福路さんの言うとおりや」

美穂子「……」

怜「やから、いくら怒ってもらってもええ。ウチを嫌ってもええ。せやから、最後まで聞いてください」




場がシーンとして、外から水の流れる音が聞こえる。

怜が作った天然冷蔵庫の箱に水が弾ける音が聞こえるくらい、静まり返ってた。

美穂ちゃんはしばらく怜を睨みつけてたけど、だいぶ落ち着いたみたいで、ソファに座ってくれた



美穂子「………どうぞ」

怜「まず、この写真のおかしいとこ言うで。まずこの掛け軸」

竜華「外部犯が破いたんやないの?」

怜「強盗が?こんな高そうなものを?」

竜華「あっ…」


確かにおかしい。そこまで気が回らんかった。真っ先に目に付くの金目のもの言うたらこれやのに…



怜「次、このガラス。こんなに粉々にする必要あるやろか?
  これわざわざ割ったあとに、足で踏み潰しでもせんとこうならん」

怜「なんでこんなことする必要があるんやろうか?」

竜華「……入ってきて、部屋の中動き回った間にこうなったとか」

怜「ガラス踏むたびに、音が鳴って気づかれる可能性が高なるのに、そんな迂闊なことせんとウチは思う」

竜華「……言われてみれば」

美穂子「じゃあ、どうだというんでしょうか。
    その写真のおかしなところと、あの子達が犯人であることとどう結びつくのかしら」

怜「……ここからは、ウチの完全な予想というか妄想。あの時、部屋で何が起こったのか」

美穂子「……」

怜「始めに、この部屋にはたぶん吉留さんと文堂さん、Aさんの三人がいた」

怜「そして…吉留さんとAさんが何らかの理由で揉み合いになった。その理由は分からへん」

怜「それで、もしかしたらAさんは弾みで吉留さんの首を絞めるか…暴力を吉留さんに振るったんとちゃうか」

怜「慌てた文堂さんは、部屋にある花瓶でAさんの頭を殴りつけた…。これが致命傷や」

竜華「ちょ、ちょいまち。あまりに展開が突飛すぎるやろ!?」

怜「二人は唖然としたやろな…少なくともその時は殺すつもりなんてなかったはず。
  この事件は衝動的なものやと予想する」

怜「そして―――たぶんもみ合ってる時にメガネが落ちたんやと思う。
  それで、割れてしもた。このままメガネを放置してたらまずい」

怜「そう考えてる途中に、席を外してた深堀さんが帰ってきたんや。そのときどういうやり取りがあったんかは分からん」

怜「けど、そこで三人はこの犯罪を隠すことに決めた」

美穂子「……」


怜「他に部員はおらんとはいえ、いつ警備が来るかも分からない…
  この殺人をもみ消してかつ吉留さんのメガネの破片をごまかすために」

怜「てっとり早い方法として、外部犯の仕業にしてしまおうと思いついた。
  そして部屋をめちゃくちゃにして、窓ガラスを破壊」

怜「その中にガラスを混ぜてしまえば、カモフラージュできるってな。
  それでも心配やった3人は、窓ガラスもろともさらに粉々に砕いた」

竜華「そ、そんな…それで、吉留さんはコンタクトに、ってこと?」

怜「コンクール前に、慣れないコンタクトにするのは合理的やない。
  だからそうせざるをえない理由があった。それでこの写真のガラスを見てもしかしたらと思ったんや」

美穂子「……」

怜「もう一つ指摘しとくで。直接手を下したんは文堂さんやと言うたけど…一応根拠はある」

竜華「……それは何?」

怜「―――返り血、や」

美穂子「……」

怜「華道部の活動は着物でやってたはずや。文堂さんは花瓶で殴ったときに大量の返り血を浴びたはずや」

怜「まさかその着物で部活に出るわけにいかへん。ましてやクリーニングに出せるはずもない。
  かといって、コンクール直前に着物の寸法を合わせる暇もない」

竜華「ちょ、ちょっと待って。じゃあ昨日ウチに聞いた、着物の血抜きって…」

怜「竜華が言うには、着物の血抜きは手作業でやってたら4、5日は最低はかかるらしいな。
  やから……それまで文堂さんは学校を休む羽目になったんや」

怜「体面上は、ショックを受けてるってことにしてな」

美穂子「……ち、違うわ…偶然よ。そんな寄せ集めの情報を無理やりつなげて…強引にあの子達を犯人にしようなんて……」

怜「……福路さん。もうええよ」


え?



怜「もう、疑ってもええよ。本当は、分かっとるんやろ。三人がやったって」

美穂子「……」

竜華「えっ、そんな…」

怜「疑いたくない、信じたい、あの子達はやってない。ずっとそう言いかせてきたんやろ…?」

美穂子「ち、ちが…私は……私は……」

竜華「美穂ちゃん、そうなん……?」

美穂子「……」

怜「竜華。この写真の一番不自然なところ、分かる?」

竜華「えっ、ま、まだあるん?」

怜「見てみ」




改めて…写真を見てみる。部屋中ひっくり返された机。椅子。開けっ放しの棚、床に散らばった備品。

掛け軸、花瓶とガラスと、たぶんやけどメガネの破片。所々濡れた床。血まみれのAさん。

分からへん、掛け軸と、この粉々のガラスがおかしいんは理解できたけど…まだあるっちゅうん?




竜華「…分からんわ、怜。何があるん?変なもの、何かある?」

怜「違う、逆や」

竜華「え?」

怜「変なものはもうない。そうじゃなくて、本来あるべきものがない」

美穂子「………」

竜華「……?」

怜「竜華なら、気がつかん?むしろ竜華こそ気がつくべきやと思う」




ウチこそ、気がつくべき……………………あっ


ああああああああああああああああああああっ?!!



怜「気がついた?」

竜華「……」

怜「竜華なら、言えばすぐ気がつくと思ったで」

竜華「お花が……お花がない」

怜「正解。花瓶があって、水が散らばってて、それでいて生けられてるはずの花がない」

怜「外部犯が花を持ち去る?わざわざ?まず、ありえへん。
  百歩譲って持ち去るにしても、凶器の花瓶とセットで持ち去るやろ」

美穂子「……」

怜「殴ったとき、返り血で花も血まみれになったはずや」

怜「それで、これは予想やけど……この花を持ち去ったのは、深堀さん、やないやろか」

怜「花を誰よりも大切にし、華道部としての責任を持っている、彼女なら……」

怜「罪を犯しても、血まみれの花なんてアンタに見せたくなかったんやないか。ましてやその花を生けたんが」

怜「自分が誰より尊敬する、キャプテンの生けた花やったんならな」



そういえば、池田さんが言ってた。学校のありとあらゆる所に美穂ちゃんの生けたお花があるって。

そうか、このレギュラールームの花も、美穂ちゃんが。あれ、じゃあ、もしかして…



竜華「美穂ちゃん……」

怜「たぶん、この写真を見てすぐ気がついたはずや、自分の生けた花がないことに」

怜「レギュラーの誰かが花を持ち去ったことに…そして、アリバイ証言を聞いて、三人がかばい合ってることに」

美穂子「……」

怜「そして今はアンタが三人をかばってる。いや、風越部員全体、ひいては学校をアンタはかばってる」

怜「レギュラーの三人が人殺しをしたとなると、これはもうとんでもないことや。
  間違いなく世間は大騒ぎや、マスコミも黙っとらん。一瞬で風越の名誉は地に落ちる」

怜「やから、黙っとったんや。自分を犠牲にして、自分の良心と引き換えに、風越の伝統ちゅうやつを」

竜華「………」

怜「以上、や。全部、憶測やけどな…」




美穂ちゃんは途中からずっと下を向いてた。でも、耳を塞いだりせず、最後まで怜の言うことを聞いてた。

膝の上に添えていた手が、力強い握りこぶしに変わって、そしてまた綺麗に整えられた。


美穂子「………私は、どうすればいいかしら」

怜「………」

美穂子「私、すぐ分かったの。深堀さんに謝られたとき……その顔を見て」

美穂子「この子達がやったんだなって。すぐ分かったわ。ずっと見てきたから」

美穂子「私が黙っていれば、いいんだって、それでずっと我慢してきたわ。
    このまま黙っていれば無事にコンクールにも出られる」

美穂子「先輩たちが守ってきた風越の伝統だって守られる。次の後輩たちに、そのまま…
    とは言えないかもしれないけど、引き継ぐことができる」

美穂子「ここで犯人を追及して、誰が得するのって。いいじゃない、これで丸く収まって…………でも」

美穂子「私は、弱かったわ。どうしても良心の呵責に耐えられなかった。無理だった。だから、誰かに相談したかった」

竜華「それで、ウチに…」

美穂子「ええ、そうよ。そこで外部犯の仕業ってはっきり言ってもらえれば…心が落ち着くと思った。
    昨日そう言ってもらえて、切り替えることができたの」

怜「………」

美穂子「でも――今、改めて真実を突きつけられて、私はどうしたらいいか分からない」

美穂子「正直なところ、逃げたくて仕方がないのよ……本当に、ダメなキャプテンね…」

竜華「……」

美穂子「後輩の前ではお金の問題じゃない、気持ちの問題。真実を知るためになら、なんでもする。
    そんなことを言っておきながら」

美穂子「心の底では、どうやってごまかすかばかり。こんなキャプテンだから、今回こんな―――」




「そんなことない!!」




そんなわけ、あるか。美穂ちゃんが、ダメなら、この世の大半がろくでなしや。



「…? 竜華さん?」

「そんなわけあるかい!美穂ちゃんは立派にキャプテン務めとった!」

「お花の注文するとき、いつもわざわざ店に見に来てた。そしてこう言っとったやんか!!」

「『みんなにお花を楽しんで欲しいから、できるだけこうして見に来るようにしてるのよ』って!」

「学校中にある生け花だって、美穂ちゃんが毎朝早起きして生けてる言うてたやん!!」

「『ひとりでも多くの人にお花を楽しんで欲しい、それで興味を持ってくれたら嬉しいわ』
  ってウチに笑いながら言ってくれたやろ!!」

「そんな美穂ちゃんが……ダメなキャプテンなわけ、あるか…そんなわけない!!」

「やから、そんなこと言わんといてな……」

「竜華、さん…」

「今回だって、美穂ちゃんは悪くない、悪くないんや。レギュラーの三人を責めろとは言わんで。
 美穂ちゃんがそんなことできん子なんは知っとる」
 
「でも、美穂ちゃんが苦しむことないやん。そうなったことは仕方ないし、今となっては誰のせいでもないんや」

「……」

「やから……後は、そうやな」



ウチには怜みたいに事件を解き明かすことはできん。できることと言ったら…

友人として、道を示してあげることくらいや。




「美穂ちゃんが後悔せん方を、選びや。黙っとくんも、三人にきちんと言うのも、選ぶのは、美穂ちゃんの自由や」

「せやから、美穂ちゃんが、納得できる道を」




チームメイトの為でもなく、伝統を守る為でもなく、学校の為でもなく。




「他でもない、自分自身のために」










【File 2:名門の陰 おまけ】









「すごいニュースになっとるな」

「そうやな…新聞もテレビもないから、りゅーかに教わるまでウチは知らんかったけどな」

「偉そうに言えることちゃうやろ…」





あれから、しばらく立ちました。美穂ちゃんの事件を怜が解決してから、次の日の朝、目に飛び込んできたのは

風越女子、女子生徒死亡のニュース。殺人事件ともなると、世間へのインパクトはすごいもんやった。

新聞一面トップは当然風越記事…場合によっては三、四面も風越の裏、陰といったタイトルがズラリや。

週刊誌も風越一色、どこで嗅ぎつけたんやろうな全く。

華道部は無期限活動停止。コンクールも参加中止になったみたいや。

レギュラー六人中四人がいなくなったら当然、やろな。

美穂ちゃんは風越の部長を引退した。責任をとって、という形を取ったみたいや。

美穂ちゃんは悪くないと思うけど、そういうもんなんやろなぁ。

ちなみにウチも華道部が活動を再開するまでの間、お得意先を失うことになって……

正直ちょっと苦しい。けど美穂ちゃんのほうがもっと大変と思うし、全然平気やで!



怜「残念やったな、コンクール」

竜華「せやな…」

怜「でも、ちゃんと言ったんやな」

竜華「うん。心地よい嘘やなくて……聞きたくない真実を、みんなに伝えたんやね」

怜「……勇気のいることやろな。ウチみたいに何も持ってない人間やなくて、
  名門風越の部長を務める、彼女がそういう決断するんは」

竜華「……」

竜華「でも、きっと美穂ちゃん後悔してないと思うで」

怜「そうやろか…」

竜華「そうやって。ほら、こんなメールが来てるで!」

怜「?」




from 美穂ちゃん

本文

こうかいしてません




怜「………なんか怖いんやけど」

竜華「あ、美穂ちゃんは機械音痴でな…これは『私が自分自身で選んだことですから、後悔してません。
   竜華さん、怜さんにもありがとうございましたとお伝えください』の意やで」

怜「う、嘘やろ?どこにそんなん書いとるんや」

竜華「ほんまやって、何回かやり取りする内に分かってきたんや」

怜「どういうことや……というか、あの人にも苦手なことあったんやな」

竜華「誰にだって得手不得手はあるやろ。怜だって絵下手くそやん」

怜「絵?なんのこと?むしろ得意なんやけど?」

竜華「ふふっ、認めたくないんやな」

怜「ふふん、絵くらいお茶の子さいさいやで。ウチの本気を知らんな?」

竜華「はいはい。それで美穂ちゃんやけど、華道自体は続けるらしいで。
   お花が好きやから、これからも触れていたいって…」

怜「そっか」




そう言って、怜は遠くを見た。今回の結果に、少し思うところがあるんかもしれん。

人の人生が、学校の運命が大きく変わるようなことやから、無理もない。

でも、美穂ちゃんにとってはもちろん…怜にとっても後悔のない選択やったとウチは思うで。


竜華「そういえば、報酬もらったん?」

怜「うん。とりあえず現金で100万、送られてきたで」

竜華「生で?!」

怜「生で」

竜華「うわぁ…やっぱり、お嬢様やなあ」

怜「でも、手紙がついとってこれまでのコンクールの賞金の貯金言うてたから
  自分で手に入れたお金みたいやで。親に出してもらうのは気が引けたんやろか」

竜華「美穂ちゃんなら、そうするかもなあ…ウチの生活費何日分やろ、あはは…」

怜「セーラが聞いたら発狂するで。まあ、ウチの方がよっぽど発狂するけどな」

竜華「その割には落ち着いとるやん、稼いだ当の本人さん?」

怜「まあ、自分じゃほとんど使えんしな。とりあえず今月の分の食費ちょっとと、あとは…」

竜華「……忘れてないやろね?」

怜「なんやっけ?」

竜華「約束したやろ!!最低限のもの買うって!」

怜「ああーー……そういえばそやった。じゃあしゃーない。五万を生活費に回すってことで」

竜華「じゃあ買い物行こか、今から行く?」

怜「うーん…今度セーラと行かへん?というか、いろいろ買うなら運ばなアカンやろ」

竜華「あー確かに。セーラに頼んだほうがええな。そうしよか」

怜「おっけー。じゃあそいういうことで。ちょっとすることあるさかい……」



いきなり怜は机に手帳を広げて…何するんやろか。


竜華「何するん?」

怜「いや、忘れんうちに事件まとめとくだけやで。宮永さんのときも書いたしな。今回も一応書いとく」

竜華「へえ…めんどくさがりの怜が、珍しいな。どういう風の吹き回し?」

怜「やるべきことはやるで、仕事やからな。報酬分は働くよ。それ以外は知らんけど」

竜華「そっか。じゃあ横でみとくわ」

怜「……見られたら書きにくいんやけど」

竜華「ええやん、どんな風に書くんか気になるし♪」

怜「……」



それから手帳に怜はいろいろ書き始めた。ふんふん…凶器とか、現場の状況とか書いていくんやな。

うわっ、やっぱ絵ヘタクソや! え?これ掛け軸?この四角いホットドックみたいなのが掛け軸???



怜「……りゅーか、なんか言いたいことあるん?」

竜華「べっつーにー?」

怜「………」



ふんふん、美穂ちゃんのデータ…風越部長、今は元部長…竜華の友人、おっ、ウチを入れるとはポイント高いな。

おおよその身長、体重、あれ、バストサイズって必要な情報?まあ、怜が書いとるんなら必要なんやろか。

そして被害者、犯人のデータ……あとは、人間関係?



竜華「人間関係って何書くん?」

怜「そのまんまの意味やで。例えばウチとりゅーかなら、幼なじみ、とかな」

竜華「あ、なるほど…この矢印は?」

怜「相手にどういう感情を抱いとるか、やな。これと他のデータを合わせて推理する」

竜華「へえ……事件の復習も忘れんのやね」

怜「後々役に立つかもしれんしな。まあ、今は依頼ないしすることないってのもあるけど」

竜華「ん?この矢印は…?」

怜「……憎しみや。吉留さんが、Aさんを殺したいくらいに思ってた。それを意味してる」

竜華「そこまで、思ってたんかなあ…実行したんは文堂さんなわけやろ?」

怜「全員Aさんに対してよく思ってなかったと思うよ」

竜華「でも美穂ちゃん、みんな仲良しって…」

怜「そうやな。でも本当にそうやろか」

竜華「どういうこと?」

怜「竜華も感じんかった?異様なほどの温度差を。福路さんの事件に対する思いと、池田さんのそれ」

竜華「あ…」


確かに、そう思った場面があった。切り替えが早いのかな、と思っとったけど…

そもそもあまり関心がなかった……?


怜「もちろん全員が険悪っちゅうわけやないやろうけど、Aさんは三人や池田さんに嫌われとった可能性は高い。
  福路さんはそれに気がつかんかったかもしれんけど」

竜華「もしそうやとして……なんで気がつかへんかったんやろ」

怜「さぁ…そこまではさすがに分からんな。そもそも今回の事件、ウチは現場見てないしな」

怜「他のレギュラーの喋ってるところも、顔すら見たことない。
  写真とほんのちょっとの情報だけを手がかりに推理したしな」

怜「まあ、体弱いウチにとってはそれが楽なんやけど…いろいろと決め手には欠けるなあ」

竜華「そうやな…」



ウチも考えてみる。なんでこうなってしまったんか。

どうやったら事件は起こらんかったんやろか……アカン、分からん。

分かったらウチも探偵になれるかな?ウチには無理そうやけど。



竜華「怜はどう考えるん?」

怜「そうやな…敢えて言うなら…福路さんは人の良いとこを見抜くのことにかけては天才的やけど」

怜「人の欠点や短所、悪意を見抜くのは苦手やったんやないかな」

竜華「確かに悪口を言ってるの聞いたことないけど…」

怜「あるいは知ってて目を背けるようにしてたとか、な。」

竜華「目を…」

怜「どちらにせよ、あの人自身は尊敬に値するすごい人なんは間違いない。
  後輩たちの心をガッチリ掴んどるんが池田さんを見ててよく分かったわ」

怜「でも―――後輩の人間関係を正しく見極める力や、変えようとする力はなかったんかもな」

竜華「……」

怜「組織における極端なカリスマは必ず弊害を生む。
  その人に頼りきっとる分、抜けてしまうと……全体がバラバラに崩れる」

怜「今回だって、福路さんがいない時に事件は起こってるしな。
  冗談じゃなくあの人が風邪を惹かんかったら事件は起こらんかったかもしれんで?」

竜華「そんな…」

怜「数百人を束ねる部活…不満がどっかから出て当然。それを福路さん一人で押さえこんだこと」

怜「学校の隠蔽体質。その他いろいろな要因があったと思うけど」

怜「『名門の陰』の部分を分散しきれず、福路さん一人に全部押し付けられた。
  いや、あの人なら進んで引き受けそうやから、押し付けられたいうんは正しくないかもしれへんけど」

怜「それによって生じた歪が修復できんほどに大きくなって――――――」

怜「福路さんの不在でついに爆発した。今回の事件の分析はこんなとこ」

竜華「なるほど…現場を見てきたみたいな意見………さすが怜」

怜「どうも。それじゃ書いてええ?」

竜華「ええよ。邪魔してごめんな」



怜が手帳に事件をまとめるのを眺めながら、いろいろと考えてみる。

今回の事件で、美穂ちゃんはいろんなものを失った。名門も部長としての地位も、もしかしたらエリートへの道も。

でも、きっと長い目で一番いい選択をしたんやと思う。自分で考えて考え抜いて、選んだ答えやと思う。

美穂ちゃんは確かに後輩を統率しきれんかもしきれんかったけど、部長はやめることになってしもたけど。

最後の最後に、ちゃんと部長としての仕事をした。自分の身を切って、後輩に、世間に示した。

名門の伝統、悪弊を打ち破って―――

――――正しくないことを、正しくないと言えるように。

――――正しいことを、正しいと言えるように。

美穂ちゃんの引退を最後に、風越の体質が変わってくれることを、ウチは切に願う。






「ときー」

「ん?」

「んーん。なんでもないよ、呼んだだけ」






そんでもって……美穂ちゃんとこれからも友達でいられたら、ええな。






≪File 2:名門の陰 End≫

ついでに

名探偵怜-Toki- 情報ファイル 怜の事務所と周辺 最新版


【園城寺怜 探偵事務所(仮)】



            窓
  ―――――――――――――――― 
 |                  (布団)|        |       |
 |         (椅子)         |        |       |
 |       <  机  >       |        |       |

 |                      |        |        |
 |                      |        |        |
 |                      |        |        |
 |         (ソファ)        |窓       |        |
 |                      |        |        |
 |                      |        |   川   |

 |                      |        |        |
 |                      |        |        |
 |                      |窓       |        |
 |                      |        |        |
 |                      |        |冷      |

 |                      |        |蔵      |
 |                      |        |庫      |
  ――――――――――――――――
            入口




電気ガス水道は通っていない。代わりにランプとマッチ、川。外に天然の冷蔵庫がある。
所々壁に穴があいていて風通しがとてもいい。床には穴が空いている場所がある。
無駄に花がかざってある。竜華におかげ。入口のドアは立て付けが悪く入りづらい。



怜のもちもの
手袋、ルーペ、手帳

家にあるアイテム
・机&椅子 ボロい。拾ってきた
・ランプ  この家唯一のあかり。もったいないのであまり使わない、そのため夜は基本的に真っ暗
・マッチ  ガスの代わり。しかし自炊をしないのでほとんど使うことはない
・ソファ  なけなしのお金で泣く泣く購入。しかし小さいので二人しか座れない
・布団   寝床。薄いせんべい布団で寝心地はよくない
・コップ  二つ。竜華がくれたのと拾ってきたのと
・花瓶   竜華がもってきたもの。花が度々入れ替わる。もちろん入れ替えるのは竜華

その他
・川    綺麗な水の流れる川。飲み水はここから調達。天然の冷蔵庫怜が自作した
・冷蔵庫  板で区切った場所に、P箱を突っ込んで作った冷蔵庫。一日に一度水を入れ替える 



とりあえず2章終わり

また続きそのうち書けたらいいなと思います

みてくれた人、ありがとう



≪ネクスト怜ちゃん≫

「く・じ」


それではまたー

のんびり考えてたらずいぶん経ってしまった
待ってくれる人がいたらごめんなさい

もうちょっと考えたら書くと思います

書く意思はあります
待ってくれてる人には申し訳ない

あと一週間ほどは仕事で手が離せないので、それが終わったら書きます

「怜、どの辺止めたらええんや?」

「どこでもいいよ。駐車した場所が、駐車場や」

「アバウトでええな。オーライ、竜華、後ろ頼むわ」

「はーい、任せとき!」



ギアがRに入り、ウチらを乗せた車はゆっくり下がり始める。

といっても、何も障害物はない。生い茂った雑草が障害と言えば障害やけど、トラックには敵わへんわな。

平気で押しつぶしてしまった。すまんな、ウチは車なんて持ってへんし、今しばらくは堪えてな。



「よっしゃ、ツイタデー」

「すまんな、ホンマに助かったわ」

「運転うまいのは本職の賜物やね」

「「せーの、さっすがセーラ」」

「おう、こういう仕事は任せとけや!」






【File3 当たりを引くな】



セーラ「ひっさしぶりやなあ、このボロい家。全然変わってないやん。こんなんで客来るんか?」

竜華「やから今日必要なもの少し買ったんやで。これはウチの進言やねん」

セーラ「ぷぷっ、ドヤ顔やめーや、わろてまうやろ」

竜華「ど、ドヤ顔なんてしてへんもん!これが私のふつーの顔です!」

セーラ「普段からドヤ顔とか、フラワーガールも大変やな」

竜華「フ、フラワーガール?ちょっとウチの仕事馬鹿にしとらん?」

セーラ「してま千円ー」

竜華「ぶちっ。セーラ、今日という今日は許さんで」

セーラ「おーおー、喧嘩か?売られた喧嘩は買うで?」

怜「………」

セーラ「ん?」

竜華「怜、どうしたん?」

怜「いや、二人共楽しそうやなって」

竜華「あ、分かる?」

セーラ「そりゃあ楽しいに決まっとるやろ。オレはこの3人で集まれるだけで楽しいわ」

竜華「なー」

セーラ「おう」

怜「……うん。なんだか時間が、ゆっくり流れてるみたいや」


怜「やっぱりええな、幼なじみって」

竜華「あれ?その言い方やと、ウチだけじゃもの足りんいうこと?」

セーラ「やっぱりオレがおらんと締まらんちゅうことやな……ふむ」

竜華「ううっ、怜、ひどい、ひどいで!」

セーラ「ふふん、竜華の存在なんて所詮そんなもんや!!」

怜「はいはい、せーの」



「「「なーんてな」」」



セーラ「…へへっ、揃ったな」

竜華「こんな茶番もいつぶりやろなあ」

怜「あれ、ウチに来たときいっつもやってるやん」

竜華「え、ここでマジレスやんの?」




でも…

本当に、この二人といると心が安らぐんや。


セーラ「さてさて、休憩したし、部屋の確認も済んだし、そろそろ運び込むか」

怜「そうやね」

竜華「怜は休んどってええよ。ウチとセーラでやるからね」

怜「いや、それは…ウチが使うもんやし」

セーラ「ええってええって。力仕事はオレの専売特許やしな」

竜華「セーラには他にできることがないんやし、気にせんとって」

セーラ「せやせや……って、それは酷過ぎへんか?!!」

竜華「さっきのお返しや、もちろん冗談♪」

セーラ「それならよかったわ。んじゃ怜はのんびりテレビ……はないんか」

怜「のんびり横になっとくわ。ありがとう」


それから、二人は外に出て行った。

実は今日は竜華とセーラで買い物に行っとった。

風越の事件を解決した報酬の一部を使って、
事務所に必要なものを買うのに使うって竜華と約束しとったから、その買い物や。

部屋の中には机と椅子(両方拾ってきたクソボロ)、ちっこいソファオンリーやったさかい、いるもんを補充や。

ウチは別に贅沢せんでも生活できるけど…竜華は許してくれへんかった。

でもよくよく考えてみたら5万円で買える家具は知れてるんよな。

竜華は何を買うか楽しみに考えてくれとったみたいやけど、ほとんど買えんかった。仕方ないな。

ウチがお金出す言うけど、丁重にお断りしといた。だって本当にいらへんし…必要なもんは、最低限あればええ。

結局ちっこいタンスとあとはティーセットだけになった。これで来た人にはお茶くらいは出せるな…


セーラ「……竜華」

竜華「ん?」

セーラ「調子はどうや」

竜華「まずまずやで。風越の取引なくなったからしんどいけど、へこたれられへんし」

セーラ「あの事件は…凄かった。オレの仕事場でもえらい話題に上がったで。あ、そっち持ってや」

竜華「了解……さすが名門、ちゅうとこか」

セーラ「なぁ…あの事件、本当に怜が解決したん?」

竜華「そうやで。あれ、まさか疑っとるん?」

セーラ「いやいや、疑ってへんで。怜ならやりそうやしな」

竜華「少ない情報でいっつも事件解決するからびっくりするわ。で、そっちは?」

セーラ「オレは変わらずや。ま、自分に向いた仕事やと思うで。体使う仕事がしっくりくるわ」

竜華「そやろな。あ、セーラちょっと傾いとるで。真っ直ぐ運ぼうや」

セーラ「おう」

セーラ「それで…最近様子はどんな感じや?」

竜華「変わっとらんよ。でも、あれから仕事はないみたいや。やっぱり知名度がないのは痛いな」

竜華「風越の事件を解決したのが怜って、世間には知られてないし…」

セーラ「そうか…もっと高い報酬の仕事とかあったらええなあ」

竜華「一回で100万ってかなりええ方やと思うけどな…」

セーラ「確かに。ちなみに残りの95万は?」

竜華「そっちは、いつもどおりやって」

セーラ「そうか」

竜華「うん…」



怜「お。二人ともおかえり」

セーラ「タンス持ってきたでーこれどこに置く?」

怜「そうやなあ…」

竜華「布団の近くでええんやない?めんどくさがりの怜やし、起きてすぐ着替えられる方がええやろ」

怜「よし、決定や」

セーラ「はやっ!」

竜華「んでティーセットは……タンスの上において埃かぶらんように布でもかけとけばオッケーや」

怜「あっさり決まったな。これで少しは普通の部屋らしく…」

竜華「どこがや!!まだ全然なってへんよ!普通の部屋が10としたら、これ0.1くらいやで!」

怜「えーそんなに?」

竜華「そもそも水道・電気。ガスがない時点で0点上げてもいいくらいなんやけど…」

怜「やからそれはなんとかなるって」

セーラ「オレとしてはテレビがないのは辛いな。楽しみがないと…仕事ばっかりはしんどいで」

怜「それもいらんって。だいたいテレビなら頭の中で流せばええやん」

セーラ「は?」

竜華「え?」

怜「こうして、目をつぶって…頭の中で楽しいことを考えるんやで…」

怜「美味しいケーキ…アトラクションいっぱいの遊園地……楽しい2時間サスペンスドラマ……」

怜「わくわく、ドキドキ、ハラハラ……頭の中やったら、なんだって作れるんや。人間って天才やと思うわ……ん?」

怜「二人共、なんで泣いてるん?」

セーラ「怜……お金、貯めて、、、、テレビ、買おうな。いや、オレが、買ったる」

竜華「うっ、ひっく……うん……ぐすっ……ぜ、ぜったいや……ぜったいこうたる……」

怜「………」



さすがに今のは冗談やったんやけど…

でも、こんな空気にしといて、今更「冗談やで」とは言えんなぁ。ちょっと罪悪感あるけど、黙っとこう。



怜「ふ、二人とも、お茶でも飲まん?せっかくティーセット買ってきたし」

セーラ「お、そうやな。竜華、オレたちがこんなんやったらいかんで!早速お茶の準備や!」

竜華「分かった!任せて、怜!美穂ちゃんが来た時は不発に終わったけど…今度は最高のお茶を入れてみせる!」

怜「う、うん。ありがとうな、二人とも」




―――――――――――――――――――――――――コポコポコポコポコポコポコポ




「「「いただきます」」」



怜「……うまい」

竜華「ふふ、せやろ?」

セーラ「味とかよう分からんけど、落ち着くわ」

セーラ「それ以上に…こういう休みの昼下がりって最高やなぁ」

怜「そうやね、なーんにも考えんでええ」

竜華「ほんまにね…」



セーラ「……」

竜華「……」

怜「……」


セーラ「………」

セーラ「そうや、オレお茶菓子持って来とったんや」

怜「食べ物?」

竜華「怜、その反応はどうなんや…」

セーラ「うまいお茶もあることやし、分けて食べようで。饅頭やし、お茶にも合うやろ」

竜華「気が利いとるね、セーラ。じゃあ早速――」

セーラ「あーあーストップ」

竜華「え?」

セーラ「ただ食べるだけじゃ面白くない…ちょっとゲームしようや」

竜華「ゲーム?」

セーラ「名づけて饅頭ロシアンルーレット、や!」

怜「饅頭…」

竜華「…ロシアンルーレット?」

セーラ「そうや。全部で6個の饅頭があるんやけど」

セーラ「この中に【あたり】が1つある。それを食べた人が負けや」



怜「ちなみに、当たりって?」

セーラ「………聞きたいか?」

竜華「い、一体何やのん?」

セーラ「練り唐辛子……しかも世界一辛いと言われたキャロライナ・リーパー……これを練りこんだやつや」

怜「キャロ…?? 聞いたことないな」

竜華「ウチも。ハバネロなら聞いたことあるで。それが世界一辛いんやないん?」

セーラ「食べ物の世界でも常にチャンピオンは目まぐるしく入れ替わる、ちゅうこっちゃ。
    ハバネロは今は全然たいしたことないレベルらしいで」

怜「へ~」

セーラ「じゃあそろそろ」

竜華「ちょ、ちょっと待って。これ食べたら、どうなるん?」

セーラ「……………………………………………………………………………………………………………………………………………

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」



怜「うわあ…沈痛な面持ちや………もしかして食べたんか」

セーラ「オレはもう二度と食べたくない。死んでもいやだ」

竜華「なんでそんな代物をウチらに食べさせようとしとるん?!」

セーラ「だって…みたいやん?親友(みちづれ)が悶絶しとるところ」

竜華「ウチの知っとるセーラはそんな器の小さな漢やなかった!漢らしいセーラはどこいったん?!」

セーラ「だってオレも女やしなぁ」

竜華「くぅっ、なんか上手く返されてムカつく!!」

セーラ「まーまーゲームやと思って」

竜華「そ、そういう問題やないって!食べたら絶対火吹くって!!」

セーラ「ちなみに問題の唐辛子の画像がこちら」


http://i.gzn.jp/img/2013/09/23/carolina-eaper-hottest-pepper/01.jpg



竜華「パス!絶対パス!!!!なんやこの自然界に存在しなさそうな色!怜もこんなんが入っとるんは嫌やろ?!」

怜「いや、ウチはやってもええで。お腹すいたし、その赤いのだって食べられんものやないんやろ?」

竜華「うっ、怜はそういう子やった……」

セーラ「それともなんや、竜華、なんかこの家で娯楽提供できるちゅうんか?」

竜華「娯楽?」

セーラ「そうや。この部屋で何か他にできることあるんか?」




ガラーーーーーーーーーーーーーーン




竜華「………」

セーラ「な?」

竜華「い、いや、別に普通にお喋りすれば―――」

セーラ「じゃあ」

竜華「な、何?耳打ち?」

セーラ『竜華、お前、怜の悶絶する顔、見たないか?』

竜華『!!!!!』

セーラ『いつもおとなしくて、ややクールな怜……これがあれば、その仮面が剥がれ落ちるのまったなしや』

セーラ『ちょっと涙目の怜、見たくない?』

竜華『な、涙目の……』

セーラ『「りゅ、りゅーか。たすけてぇ……」とか言うかもしれんで』

竜華『…………』

セーラ『んで、そのために………こうやって……』

怜「二人とも、なにこそこそ話ししとるん?」

セーラ『ええか?』

竜華「…………」

怜「竜華?」

竜華「しゃーない、セーラの遊びに付き合ったるわ」

セーラ「よっしゃ、決まり!」

竜華「よっしゃー絶対勝つで!!」

怜「お、おう…急にやる気になったな。竜華」

セーラ「ホンマヤナーナンデヤロナー」

怜「??」

セーラ「じゃ、細かいルール説明しよかー」


【キャロライナ・ルーレット】

・当たり(唐辛子入り)は6個中1個

・一つづつ順番に食べていく

・当たりを引いたらその時点で終了

・まんじゅうがなくなるまで続ける



怜「なくなるまで続けるんか…絶対誰かが当たりひくっちゅうこっちゃな」

セーラ「せやでー」

怜「なるほど、なかなかスリルありそうや……これって市販のやつなん?」

セーラ「市販やで。面白パーティセットみたいなやつの一つや」

竜華「も、悶絶パーティになるんちゃうん?」

怜「ん?ビビッとん、竜華?」

竜華「び、ビビッてへんし!!」

竜華(セーラと協力できるとなれば、ビビることないで……待っとき。目にもの言わせたるで。ふふふ、楽しみやなぁ)

セーラ「はい、じゃあジャンケンで順番決めるデー」

セーラ「勝った順から食べるってことにしよかー」


ジャンケン



竜華「チョキ」

怜「パー」

セーラ「グー」



アイコデ


竜華「パー」

怜「パー」

セーラ「チョキ」



セーラ「お、オレが最初やな。あとは二人でどっちが2番目か決めてな」

竜華「それじゃ、怜。いくで」

怜「……」


ジャンケン


怜「チョキ」

竜華「パー」



【食べる順番】

セーラ→怜→竜華


視点:竜華



怜「それで、その饅頭はどこにあるんや?」

セーラ「ああ、すまんすまん、肝心のブツを出すのを忘れとったわ。カバンに入れとるんや」

竜華「ブツ…」

セーラ「これやで。じゃあ、早速開けてっと……」

怜「全部で6個。この中に当たりが1つか…」

セーラ「それじゃ、まずはオレやな。んと~そうやなぁ」

怜「………」

セーラ「これにしよか…いや、これ……うーん」

竜華「えらい迷っとるな。まだ当たる確率は1/6やし豪快にいったらええやん」

セーラ「それもそうやな。せやったら、コレや」

セーラ「……いただきます」

怜「ごくり」

竜華「…怜、お腹すいたん?」

怜「買い物したから…ちょっとだけな」

セーラ「……うまい!いや、竜華の入れたお茶との相性ばっちりや!」  

怜「おーセーラきっちり外してきたなあ」

竜華「次は怜やで、おまちかねの饅頭やな?」

怜「願わくば普通の饅頭であってほしいなぁ。まあ当たってもええけど…うーんどれがええか」




怜が当たりを引く確率は1/5。これやったらいくら勘でも、当たり引かんと思うわ。

よっぽど運がなかったら別やけど…


怜「………もぐもぐ」

セーラ「ど、どないや?」

怜「さいっこーにうまい!!」



まあ、さすがにここで当たりは引かへんか。

構わんで……怜、アンタは次に確実に引くことになるんやから……!!



怜「いけてる饅頭やなあ~~セーラありがとうな、こんなにうまいもんお土産にもらえるウチは幸せや」

セーラ「そーかそーか、それは持ってきた甲斐があるで。でも、勝負の途中なんは忘れんといてなー」

竜華「む~怜、ウチがお花上げた時とえらい反応違わへん?」

怜「だってウチは花より団子やし。前も言ったやん」

竜華「むぬぬぬぬ」

怜「ほら、竜華の番や」  



【残り4つ】


竜華「……じゃあ、ウチはこれにする」

セーラ「お茶、入れるでー」

竜華「ありがと。それじゃあ、いただきます」



もぐもぐ…あ、ホンマや、美味しい。

やや薄めの皮に、たっぷり餡子が入ってる。

餡子の甘さは控えめで、ちょっぴり皮が甘くていい感じにバランスが取れとる。

パーティ用とは思えん完成度…どっかの和菓子職人さんが作ったんやろうか。

もしそうならロシアンルーレットに使われたりして、ちょっと可哀想や。

でも、今回は絶対怜を負かしたるんや!



怜「………?」

セーラ「怜、どうかしたか?」

怜「いや、なんでも」

竜華「ふふん、どうや!怜、あんたには負けへんで」

怜「熱くなっとるな、竜華。これで一周したんか」

セーラ「そうやな。これであと残り3つやから…」

セーラ「結末は3つや。オレが食べるか、怜が食べるか」

怜「それか、竜華が食べるか、か」



【残り3つ】


セーラ「それじゃあ…オレの番や」



ここまでくると、当たりの確率も1/3。さすがにセーラも緊張してるように見える。

一見、そう見える。けど、違う。

ふふふふふ、言わずもがなやけど、ウチとセーラはグルや。

ネタばらしをしとくと、実はセーラはどの饅頭が当たりか最初から知っとった。

始めに迷っとるフリをして、どれが当たりかさりげなく教えてくれたんや。

これと…とある手品で、ウチは絶対食べることはない。




セーラ「さすがに1/3は緊張するで……もう食べたくないしなぁ」




一周目の時も思ったけど、なかなかいい演技するなぁ。

お仕事そっち系でも良かったんやないかな、セーラ。ないか。




セーラ「……セーフ!よっしゃ、オレは一抜けたで!」

怜「うわぁ。セーラさすがに強運やな。これで2分の1で当たり……きっついなぁ」

竜華「ふふっ、怜。予言するで。怜はここで絶対当たりを引く」

怜「……そう言われると、是が非でも引きたくなくなるな。別に食べても良かったのに」

竜華「ふふ、食べてしまってええんよ?遠慮なく食べて、発狂してしまってええんよ?」

怜「うーん…」

セーラ「怜VS竜華、これは見ものやなー」




セーラ、自分が終わったからって高みの見物しとる。

ま、ウチが負けることないからええけどな。むしろ助かったし、これで怜に勝てるんや。

ふふふ、早く食べて悶えるんや、怜!




【残り2つ】


視点:怜



怜「………」

セーラ「…怜、悩んどるんか?」

怜「まぁ」

竜華「もしセーフやったら無条件でウチが食べることになるんやなぁ。まあ、ありえへんけどな♪」

怜「……」



なんなんや?この竜華の自信は…?まるでホンマに自分の勝利を確信しとるみたいな

最初はあんなに嫌がっとったのに、不自然や。絶対なんかある。

といっても、これは竜華が先に選ぶんやなくて、先にウチが選ぶ勝負…

饅頭やってセーラが用意したものやし、順番だってジャンケンで決めたし、

例え二人がグルやったとしても、セーラが当たりをあらかじめ知っとったとしても、

竜華にウチが選ぶ饅頭まで操作ができるわけが…




セーラ「怜?」

怜「あ、ごめん。あとちょっとだけ待ってな」

竜華「もう、早く選んでやー」

怜「そんなに言うなら、竜華が先に選んでもええよ?やることは一緒やしな」

竜華「えっ、そ、そ、それはやめとく…だ、だって、順番は怜やし。そういうゲームやん!」

怜「…」




今の反応……ちょっと不自然に思ったセーラの行動…

そういえばジャンケンの時……ああ


なるほどな



視点:セーラ



セーラ「じゃあ、怜さん、どうぞ!」

竜華「最後の選択やで!」

怜「……じゃあ、これで」




そして、怜は一つの饅頭を指差した。

だいぶ時間がかかったみたいやけど、決まったみたいやな。




怜「………」

セーラ「…怜?はよ、食べーや。もう焦らされるんも限界やで」

竜華「せやで!往生際が悪いで、怜!」

怜「………ふーーーっ」




そして、怜は大きく息を吐いた。

いつになく怜が緊張してるようで…目の奥に、オレはなんだかえも言えぬ不気味さを感じた。

悪戯心ちゅうか、なんというか…とにかく、嫌な予感がした。


怜「二人に聞くで。今ウチはこの饅頭を選んだ。指さしただけやけど」

セーラ「お、おう?」
                    
怜「で、もう一つの饅頭がある。【これは仮にウチがセーフやったとき竜華が食べる予定の饅頭】やな?」

竜華「そうやけど、それがどうかしたん?」

怜「つまり……」



怜「こういうことや」




次の瞬間、怜は―――――

―――饅頭を竜華の口に突っ込んだ。



竜華「え、ちょ、ふがっ!?」

怜「はい、咀嚼!」

セーラ「えっ?!お、おい!!?!!?」

竜華「………………………」



怜が、竜華に

無理やり饅頭を食べさせてもーた。



竜華「あ……が……ぎゃ……$♪¥●&%」



や、やばい、これは…



竜華「「◎△$♪×¥●&%#?「◎△$♪×¥●&%#?「◎△$♪×¥●&%#?「◎△$♪×¥●&%#?「◎△$♪×¥●&%#?「◎△$♪×¥●&%#?

「◎△$♪×¥●&%#?「◎△$♪×¥●&%#?「◎△$♪×¥●&%#?「◎△$♪×¥●&%#?「◎△$♪×¥●&%#?「◎△$♪×¥●&%#?「◎△$

♪×¥●&%#?「◎△$♪×¥●&%#?「◎△$♪×¥●&%#?「◎△$♪×¥●&%#?「◎△$♪×¥●&%#?「◎△$♪×¥●&%#?「◎△$♪×¥

●&%#?「◎△$♪×¥●&%#?「◎△$♪×¥●&%#?「◎△$♪×¥●&%#??!?????!!!!!!!!!?!?!?!??!?!?」



怜「りゅ、竜華!?」



竜華「ひ、ひぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
みずうううううううううううううう、水うううううううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




セーラ「怜!!!いますぐ、いますぐ水持ってくるんや!!」

怜「う、ウチに水道ないの知っとるやろ!」

セーラ「げっ、そうやった!って、竜華がおらん!?」

怜「ど、どこに…あ、もしかして」





その後…怜と外に出た。そしたら、竜華は家のそばの川に顔を突っ込んどった。


視点:竜華



竜華「………………」

セーラ「だ、大丈夫か?」

竜華「ひろいめに、おうたれ……」

怜「悪かったな、水がなくて処置が遅れたばっかりに」

竜華「……ほういうことやないやろ!!とひ!」

セーラ「そ、そうやで、怜。最後のあれは、ルール違反やないか?」

怜「なんか問題あった?」

セーラ「も、問題やろ!だって、順番に食べるってルールやったんやし」

怜「……そうやな、それは申し訳なかったわ。でも実質ウチの勝ちやんな?」

竜華「へ?」

怜「だって、竜華が食べたのは当たり。やったら、【ウチが選んで食べるはずやった饅頭】はセーフやったっちゅうことやん」

セーラ「……」

竜華「……」

怜「さーて、これがウチが食べるやつやな、セーフのはずやし問題はないな。いただきま―」

竜華「ふ、ふとっぷ!」

怜「ん?」

怜「どしたん、竜華。なんで止めるん?」

竜華「……」

セーラ「……竜華、降参や。悔しいけど、完敗や」

竜華「ほうやね…」

怜「……ふふ。正直あとちょっとでやられるとこやったけどな」

怜「でも、二人とも詰が甘かったな」



セーラ「……じゃあ、名探偵怜先生の推理を聞かせてーな。どうやって当たりを回避するに至ったんや?」

竜華「たひかに…いはははは」

セーラ「…竜華、しばらく喋らんほうがいいで。その辛さはオレもよく知っとる」

竜華「わはった」

怜「え?セーラが仕掛け人やろ。もう分かっとるんやないん?説明必要?」

セーラ「説明してくれ、頼む」

竜華「……?」



セーラ…?

どうしたんや、らしくない。

そこまで、怜の説明が聞きたいんか?



怜「うーん、そこまで言うなら」

怜「まず、最後の残り二つの饅頭やけど…あれは両方当たり、やろ?」

セーラ「そうや、よう分かったな」

セーラ「6個中当たりは1つ言うたけど…ホンマは2つや。最後に残った2つ」

怜「やっぱりそうなんやな。最後の一個食べんで正解やったわ」

セーラ「それであの回避方法を咄嗟に取れるあたり…怜はやっぱ賢いなって思うわ」

怜「どうも」

セーラ「でも、なんで二つとも当たりって分かったんや?」

怜「……竜華が不自然過ぎた」

竜華「う、うひ?」

怜「始めにあれ?って思ったのは…一回目に竜華が引いたときや。
  なんの迷いもなくひとつの饅頭に手を伸ばしたのを見て…」

怜「おかしいなと思った」

怜「自信がありすぎたんや。セーラやったらまだ分かるけどな」

怜「セーラはこのゲームの提案者やし、饅頭持参者やし、どれが当たり入りか把握しとってもおかしくないと思う」

怜「二度と食べたくないって言っときながらゲーム提案するんやしな。
  自分が絶対勝つ自信がなかったら参加したくないやろ」

セーラ「バレバレやったな、そこは」

怜「本来怯えとるはずの竜華が自信満々で
 余裕しゃくしゃくのはずのセーラが慎重に饅頭選んでた…これはもう怪しいと思うわな」

セーラ「それはこっちも分かっとったで。グルってバレとるのも承知の上やった」

セーラ「というか最初のヒソヒソ話で絶対怜なら感づくしな」

怜「……」

セーラ「せやけど…順番はジャンケンで決めた、当たりだって2つあったんやで?」

セーラ「もし今回の順番がセーラ→怜→竜華やったからよかったものの」

セーラ「もしセーラ→竜華→怜やったら…最後の二つになったとき、竜華が当たり引くことになるやん?」

セーラ「それはオレらにとって不都合や。だって怜に当たり引かせたいわけやしな。これはどう説明するんや?」



怜「じゃあ、今回セーラたちがどういう計画を立ててたか」

怜「その過程で説明することにするわ」

セーラ「…」

怜「まず前提条件から。目的はウチに当たりを引かせること」

怜「次。セーラはどれが当たりの饅頭かを知っとった。そして…竜華とセーラはグルやった」

怜「で、この前提条件を踏まえた上で、絶対に満たさなアカン条件があった」

セーラ「…それはなんや」

怜「それは、セーラが一番最初に饅頭を食べる人になることや」

竜華「!」

怜「セーラが一番始めに選択することで…どれが当たりかを竜華に教えることができる。示し方はなんでもいい」

怜「始めに選ぼうとしたやつ、とか、選んだ饅頭の右にあるやつ、とか…事前のヒソヒソ話でなんとでもなるやろ」

セーラ「……」

怜「その上で、次はジャンケンで細工した」

怜「セーラが必ず竜華に勝つように手を決めておけば…三人の勝敗は必ずあいこになるか、セーラが一位勝ち抜けになる」

怜「実際手はこうやったやろ。必ずセーラが竜華に勝つように仕組まれとる」




一回目

竜華:チョキ 怜:パー セーラ:グー

二回目

竜華:パー 怜;パー セーラ:チョキ




自分が出したてならともかく、全員の手まで

よう、覚えとるな…相変わらずの記憶力…怜…



セーラ「…でも、それでオレが一番最初になったとして…残りはどうにもならんやろ?」

セーラ「怜が勝つか、竜華が勝つか…そんなん分からへん」

セーラ「そうなると、さっき言った順番の件で不都合が起こるやん」

怜「いいんや別に、順番はどっちでも」

竜華「…」

怜「大事なんはセーラが一番始めに引いて、竜華に当たりを教えてあげることや」

怜「最悪なんは竜華が最初に引くことや。これはもうどうにもならんしな。しょっぱなから当たり引いたらアウツやし」

怜「それで……最後は、その不都合の解消法やけど…これもとある違和感から気がついた」

怜「……タイミングがおかしかった」

セーラ「タイミング?」

怜「そうや。饅頭を出すタイミング。遅すぎや。なんでジャンケンのあとに出した?」

セーラ「!」

怜「セーラの性格なら…何より先に出しそうなもんや。まるでジャンケンが終わってから…いや」

怜「食べる順番を決めてから、箱を取り出したかったみたいな―――」

セーラ「あー、もう、もうええわ」


怜「…」

セーラ「降参、降参や。ホンマにすごいな、怜」

セーラ「確かに、もうひと箱、饅頭のセットがオレのカバンの中にある。これは当たりが1個のバージョンな」

セーラ「もし食べる順番がセーラ→竜華→怜に決まったら当たりが1個のバージョンを取り出して、
    最後の一個を怜に引かせることで当たりを直撃」

セーラ「セーラ→怜→竜華に決まったら当たりが2個のバージョンを取り出して、今回みたいに進める」

セーラ「残りが2つとも当たりやったとしても…怜が食べてしまえばその時点でゲームは終了。
    竜華の番は来ないから問題ない」

セーラ「って、言いたいんやろ?まあ、今回は怜が上手く竜華に食べさせたけどな」

怜「その通りや」

竜華「ばへばへやっはんやね…」

セーラ「いや、バレてるんはわかってたで。でも、ここまで読まれてるとは思わんかったし」

セーラ「まさか竜華が食べることになるとは思わんかった。
    しかも怜の言ってることには筋が通ってるから、文句も言えへん」

怜「……」

怜「でも…セーラ、ようこんなん考えたな。わざわざ二箱用意してきたってことは…」

怜「ハナっからこのゲームする予定やったちゅうわけや」

怜「なんでこんなことしたん?」

セーラ「……」

野暮かもしれんが、ジャンケン怜とセーラが勝つパターンもあるよね

>>162
ある。すばらしい指摘やで。ただ、セーラの頭(>>1)の頭にはこれが限界だったんだ


セーラ「理由は…二つや」

怜「…」

セーラ「一つ目は…というか、これがメインでもう一個の理由はどうでもええんや」

セーラ「怜がどういう風に仕事するんか見たかった、それだけや」

セーラ「風越の事件解いたのが怜って竜華から聞いて…ホンマにびっくりしたわ。ホンマに探偵やってるんやって」

セーラ「怜が探偵始めるって聞いたとき、冗談やと思った。何言うてるんや、って」



あ、ウチもや。

ウチも、そう思った。最初探偵始めるって聞いたとき、ものすごくびっくりしたのを今でも覚えてる。



セーラ「探偵なんて仕事で、ホンマに食っていけるんか、オレは甚だ疑問やった。 
    ただでさえ怜は…いや、これは今はええか」

セーラ「とにかく怜は今のままで大丈夫なんか、それが知りたかった。やから、怜の頭を…試せるような問題を考えて」

セーラ「怜に推理してもらおうと思った。本番の事件には程遠いけど、擬似的に再現できたらええな、と思ってな」

怜「……」

セーラ「怜が賢いのは昔から知っとったけど…頭がいいのと、仕事ができるんはちゃうやろ?」

セーラ「それで、今回こういうゲームを仕掛けてみたんや。竜華には突然で悪かったけどな」

セーラ「事前に竜華に言わんかったのは…怜に対するヒントのつもりやったけど…もしかしたら怜はいらんかったかもな」

怜「……」

セーラ「い、以上」

怜「……」

竜華「……」

セーラ「……な、なんか言えや!」









怜「セーラ、ウチはセーラのことが大好きやで」

竜華「うひも」

セーラ「な、なっ?!」




セーラ「な、なんや急に!なんでいきなり、そんな、小っ恥ずかしいこと言うんやっ…」

怜「要するに、心配してくれとったんやな」

セーラ「……」

怜「それで、あんな手の込んだ仕掛けまで作って…」

怜「いろいろ考えてくれたんやな。どうやったらウチに推理してもらえるようなゲームが作れるかって」

怜「ありがとうな、セーラ」

セーラ「…当然やろ、アホ」

怜「ウチは…大丈夫や。なんとか、やっていけてる。竜華も助けてくれるし、セーラもおる」

怜「それにまだ始まったばかりや。それを投げ出したくない。頑張るって決めたから」

セーラ「…カッコイイな、お前。さすが怜。これはお世辞でも悪ノリでもなく、ホンマにそう思うで」

怜「おおきに、セーラ」

セーラ「おうっ!」

怜「…で、一つだけええ?探偵としてのウチを知りたいみたいやし、指摘しとくな」

セーラ「え?」

怜「ジャンケン…今回は上手くいったけど、ウチがセーラに勝ってしまったら勝ったらどうするつもりやったん?」

セーラ「え?」

竜華「あ」

怜「………」

セーラ「……」

竜華「……」


怜「ええと……」

怜「……え、ええ方法を教えるで。万が一、怜→セーラ→竜華になったときは、
当たり饅頭3つのセットを用意しとけばええんや」

怜「そうすれば、一週目で三人とも回避したあと、二週目トップのウチが当たり直撃する」

怜「これで完璧や。これが【詰め】ってやつやな」

セーラ「……」

竜華「……」

怜「……」





怜「あ、あるいはな。順番を決めるのもロシアンルーレットでやるんや。それなら絶対セーラが最初になるやろ」

セーラ「……」

竜華「……」

怜「……」





セーラ「……探偵って、すごいわ。正直舐めとった。事件を解決するのはものすごい大変なことやろうけど…」

セーラ「作ることすら、ウチにはできへん……」

竜華「へーら……うへをむいて、あふこうね」

怜「なんか、ごめん…」





どんまい、セーラ。でも、ウチも気づいてなかったで。

ここまで考えただけ、頑張ったと思う。けっこう楽しかったしな、おかげで口はすごく痛いけど…


「あ、はなしのほしをおってわふいんやけど…」(話の腰を折って悪いんやけど)

「どうした、竜華?」

「どうしたん、竜華」

「へーらのにほめのりゆうって、はに?」(セーラの二個目の理由って、何?)

「あ、そうやった!セーラ、もう一個の理由は何?」

「……」

「……そ、それは言わんで。言いたくないし、秘密や!」

「えー気になるやん。教えてや、セーラー」

「い、言わん!言わんったら言わへんで!」

「ええやん~教えてやーーー」



その時、セーラの赤い顔を見て、なんとなく分かった。

二つ目の理由は…きっとウチと一緒なんやって。

涙目な顔が見たかったかどうかは分からんけど…怜の困り顔や驚いた顔をセーラも見てみたかったに違いない。

きっとこれ以上恥ずかしいんは耐えれんで言わんかったんやろうけど、ウチにはモロバレやで?

やってウチと考えとることが似てるもん、そりゃバレるわ。



「りゅ、竜華、何ニヤついとんのや!?」

「ひやついてまへんけどー?」

「ま、待てや!!」

「まひまへーん」

「二人とも、室内で鬼ごっこは堪忍な…」



怜の可愛い顔は見れんかったけど

セーラの珍しい照れ顔が見れた。




それだけでも、ある意味『当たり』は引けたんかもな――――





≪File 3:当たりを引くな End≫


名探偵怜-Toki- 情報ファイル これまでの登場人物2

【江口セーラ】 職業:運送業(トラック)
怜の幼なじみ2 力持ち。竜華と怜とは腐れ縁。考えることは苦手。







三章終わり。今回は事件じゃなくて、幼なじみ三人の絡みのみでした

「ロシアンルーレット」を「くじ」と呼んでいいか謎だけど…いいよね



>>162
指摘本当感謝
さも知ってました的に本編展開させてるけど、最後の方書き直してごまかしてます




次回のトリック考えてないので、ネクスト怜ちゃんはちょっとおやすみです



見てくれた人、ありがとう
次はちょっと舞台作って事件書きたいと思ってます
では、おやすみなさいー

ちょっと時間できて書いたので、少しつづき




真っ暗な静かな部屋に、耳をつく不快な音が響き渡る。


音が鳴り止むと、「それ」を確認して、ふと我に帰った。


きっと、もう動くことはない。いや、私がそうしたんだ。




本当はこんなこと、したくなかった



いけないことだって、分かってた



でも――      



それでも――



どうしても――



――――――どうしても、許せなかった






【File4 温泉宿にて】






「あ~なーにもすることがない。暇やなぁ」



こんにちは、園城寺怜です。只今ちょうど一二時を回ったところ、お昼の時間や。

朝ごはんも食べてないし、そのくせ昼も作る気が起きへん。というか、ウチにそんなスキルはない。



「外の冷蔵庫に、なんか食べられるもん入ってたっけ…でも、出るのめんどいしなあ」



「……………」


しゃーないか。水も切れてきたし

ちょっくら、頑張りますか。



ウチには電気・ガス・水道のライフラインがない。なくても平気って言ってたけど、それにはちゃんと理由がある。



まず電気。電気は電灯はないけど、ランプがある。このランプに、マッチで火を灯すことで十分に夜は明るくなる。

朝と昼は明るいから当然必要ないし、何の問題もない。テレビ、電話、パソコン、洗濯機とかの電気製品使えんだけや。

そもそも電気製品持ってないけどな…なかなか値が張るから、軽々には買えん。必需品でもないし、買わん。



次、ガス。マッチがあるから火はある。何の問題もない。ただし、やかんとかはないし、フライパンもない。

というか調理器具は包丁くらいしかない。これでよく自炊しようと思ったわ。今考えると恐ろしい。



最後、水道。外に綺麗な川があるし平気。この中で最も問題がない。

飲み水は数本ある二リットルペットボトルに川の水を汲んできて、部屋に置いておく。

これをコップについで、飲む。市販のものと違って殺菌とかしてないから、日持ちはせんけど、一人やったら十分や。

ウチにとって川の存在は重要や。買ったもんは手作りの冷蔵庫に入れられるし、洗濯もそこでする。

お風呂はさすがにアレやから…たまに竜華の家で貸してもらったり、銭湯に行ったりする。




こんなところやけど、意外となんとかなるもんや。



「よいしょ……これでええな」


冷蔵庫の水を入れ替えて、ペットボトルの水を補充した。

これがウチにとってはなかなかの重労働で…やっぱり体より頭を使って推理でもしとる方がよっぽど楽や。

もしお金持ちやったら、お手伝いさんとか雇いたいなぁ。





「さて…」


ソファもたれて、買っておいたバナナに、かじりつく。

バナナってええよな。安いし、うまいし、栄養価高いし、何より食べるんに手間がかからん。

なかなか優秀な食品やと思う。すばらしい。




「福路さんの依頼があって、良かったなあ……うまい棒だけの食生活の時より、だいぶマシやで。そういえば…」



依頼と言えば…宮永さん。



「元気やろか…あれから事務所にこんなあ。どしたんやろか」




その時、バン、っという音がして、誰かが入ってきた。


「まいどー」

「なんや、セーラか」

セーラ「怜、おるかー?邪魔するでー」

怜「いません。邪魔するなら帰ってー」

セーラ「おるやんけ!ほら、竜華から手紙やで」

怜「お、手紙?」




事務所内に電話がないこともあって、竜華とはいつも手紙でやりとりしとる。

セーラはトラックの運送業をやっとって、手紙をわざわざウチまで運んでくれるんや。

竜華がウチに連絡したいときは、直接ウチに来るか、手紙をセーラに渡して、ウチに届けてもらう。

めんどいやろうに…セーラにはホンマに感謝やな。




セーラ「いつもありがとな、セーラ」

怜「それはウチがいうセリフやで?でもありがとう」

セーラ「ええってええって、それで返事は今する?伝えとくで」

怜「待って、中身を確認するさかいな」



セーラ「なんやって?」

怜「えーと…なになに」

『泉が、バイト先で旅館の宿泊券をもらったらしいんやけど』

『「自分は予定があっていけません、だから先輩方にあげます。三枚分あるんで、行ってきてください!」やって!』

『怜、一緒に行こうや!セーラも今これ見とるよな?セーラとウチと怜の3人で一緒に行こ!』

セーラ「おお、マジか。泉、よくやった!プチ旅行やん!」

怜「温泉かぁ……」

セーラ「やばいやばい、テンション上がってきたわ!絶対行く!」

セーラ「それいつや?!」

怜「んーと、この日からこの日の……二泊三日やな」

セーラ「その日は……げっ」

怜「?」



セーラ「仕事や……くっ、オレも怜や竜華みたいな自営業やったら!」

怜「ホンマか、残念やな。ちゃんとお土産買ってくるで」

セーラ「おう…仕方ないな。じゃあ、怜。お金もかからんことやし、竜華とゆっくり羽を伸ばしてこい!」

怜「ありがとう、そうするわ」

セーラ「もし事件があったら解決してきてもええからな」

怜「のんびり温泉旅行しとるときにそれは嫌やなぁ…ま、報酬次第で考えてもええけど」

セーラ「怜らしい返事やな。じゃあ、そろそろオレは仕事に戻るわ」

怜「気をつけてな」

セーラ「おう、ちゃんとメシくえよー!」




バタン


怜「……」

怜「……旅館のご飯って……うまそうやな…」

怜「アカン、楽しみになってきた」



そういうことで、ウチと竜華の二人は西地区の外れにある、温泉宿に行くことになった。

ウチの住んどるところは西地区やけど、他にもいくつか地区がある。

西地区の隣にくっついてる「東地区」、北に山を越えると「北地区」、海を挟んで南側にある島「南地区」

西地区だけでもかなり広くて、いろんな場所がある。栄えた町もあれば、今回の旅行先のような辺鄙な田舎もある。





竜華「というわけで、着いたで、怜!」

怜「ここが松実館やな」

竜華「ウチはここに来るん初めてや。怜も?」

怜「そうやで。この辺はあんま来たことないしな」

竜華「そうか、じゃあ行こか!二泊三日の温泉旅行、スタートや!」

短いですが、今日はここまでー
いままでより少しだけ長めの予定




名探偵怜-Toki- 情報ファイル  怜の住むセカイ


「西地区」「東地区」「北地区」「南地区」の4つに分かれている
西地区と東地区は横で隣合わせ、北地区は東地区の大きな山の北側にある。
南地区は島になっていて西地区から船で渡る必要がある。

日本列島の北海道、北陸が「北地区」
     関東から中部が「東地区」
     中部から関西が「西地区」
     四国から九州が「南地区」

と考えると分かりやすい。 

怜は西地区に住んでいる。
咲の高校や風越高校も西地区に存在する。




読んでくれた人、どうも
では、おやすみなさい

乙です。
舟久保さんも出してくれると嬉しいです。

これは泉が犯人の可能性が微レ存

>>190
そのうち出すでよ もうしばらく後のファイルになるかもやけど

>>191
今回は泉は出ません(犯人ではないとは言ってない)



ちょっとつづき


《初日 夕方 松実館・玄関》



「ようこそ、松実旅館へ」

「ようこそなのです!!」

竜華「こんにちはー予約していた清水谷です」

怜「ほえ~広いなあ」

「私、女将の松実と申します…ようこそ、お越しくださいました」

「玄ちゃん、お客様のお荷物をお部屋に運んでくれる?それとご案内もお願い」

「おまかせあれ!!お荷物、お預かりしますねっ!」

竜華「ウチのはそこまで重くないしええよ。こっちの子の持ってくれる?」

怜「あ、ええの?」

「かしこまりました!」



ウチの荷物も大したことないんやけど、竜華が気を使ってくれたし、お言葉に甘えることにするわ。

この二人、ずいぶん若いなあ……しかも一人はここの女将さんなんや。びっくりや。


「こちらが当館自慢のお部屋です!」

怜「おー」

竜華「綺麗なお部屋!」



建物自体はけっこう古かったけど、中は掃除が行き届いとる。

ウチの事務所とは大違いやなあ。よっぽど汚くなかったら気にならん質やから、掃除しようと思わんし。



竜華「ふふっ、怜。ええやろ、綺麗なお部屋って」

怜「まあ、せやね」

竜華「これを機に、怜も頑張ってみよ?」

怜「う~ん……」



ウチはこう思うんや。もし自分で掃除がきちんとできるんなら、こういう場所に来る価値がなくなると…

これはさすがに屁理屈やろか。



「お二人共、本日は松実館にようこそなのです!」

「あと2時間くらいでお夕飯ができますので!その間に温泉に入っていただければと思います!」

「もちろん、夕食後に入ってくださっても構いません!」


竜華「怜、どうする?」

怜「どっちでもええよ。竜華に合わせるわ」

竜華「え?そう?じゃあ…」

怜「夕食後のお風呂はつらない?」

竜華「って、どっちでもええんやないんかい!」

怜「ごめんごめん、じゃあこうしよや」

怜「今からお風呂に行く→夕飯→セーラのお土産を買う」

怜「これでええやろ?」

竜華「ふんふん、怜にしてはちゃんと考えとるな、そうしよか!」


「かしこまりました!」

「ちなみに、お二人は食べ物の好みとか、好き嫌いはありますか?リクエストがあればその通りにお作りいたします!」


怜「うーん、ウチはなんでも食べるで」

竜華「ウチもかまん。おまかせで」


「承知しました!」

「それじゃあ、お二人はがお土産を買ってる間に、おふとんを敷かせていただくのです…いただきます!」


竜華「はい、お願いしますー」

怜「おおきに」


「それでは、失礼します!」

「あ、言い忘れたのですが、浴場にタオルはないので、お部屋のを持って行ってください!」



竜華「よし、それじゃあさっそくお風呂行こっ!」

怜「せやな。それにしても……この女将さんと女中さんめっちゃ若くない?」

竜華「それ思ったわ。ウチらと同じか…さっきの子なんか年下やったりして」

怜「同じくらいの子に敬語使われるんはなんかむず痒いな…」

竜華「確かに…よし、後であったら話に行こ!仲良くなれるかもしれんへん」

怜「せやな」

竜華「もしかしたら、ウチのお花買ってもらえるかもしれんしな!旅館にだってお花は必要やし!」

怜「………竜華、抜け目ないな」

竜華「お客様を増やすためには、こういう営業努力が大事なんやで!」

怜「なるほど…参考になります」


《大浴場 脱衣所》



竜華「ほうほう…地下○○メートルから湧き出る天然温泉がどうのこうの…」

怜「露天風呂もあるな」

竜華「温泉の醍醐味やね!それにしても、お客さん少ないな?」

怜「まるで貸切みたいやなぁ」



脱衣所だけじゃなくて、旅館全体にお客さんはあまりおらんかった。

もちろん平日いうんはあるんやろうけど、それにしても旅館の規模に対して、お客さんが少なすぎる。

そんな印象を、ウチは受けた。




怜「お、体重計や」

怜「どれどれ……」



ロクな食生活してないから…やっぱり。

たったの○○キロや…体脂肪率は……うわっ、ウチの体脂肪率低すぎ?



竜華「……」


怜「あ、竜華も乗る?」

竜華「う、ウチはええよ」

怜「え?なんで?」

竜華「え、だって…自分の体重とか見たくないし…身体測定でもあるまいし」

怜「別にええやん。ほら、ドスっと、のりーや」

竜華「『ドスっ』て、その効果音絶対おかしいやろ!?ウチのことどういう目で見とるん?!」

怜「この体重計は100キロまで大丈夫みたいやし、なんとかなるやろ」

竜華「とーーーーーーーきーーーーーーーー??」

怜「う、うそうそ。でも、竜華スタイルええし、なんも恥ずかしがることないやん」

竜華「そ、そうかな…?」

怜「そうそう。胸もおっきいし、腰くびれとるし、ふともも柔らかくて、まるで霜降り肉みたいやし」

竜華「最後!最後おかしい!!」

怜「ウチが食べ物の比喩で褒めるんやで?最高の評価や」

竜華「……なぜか納得してしまうウチがいる…」

怜「それじゃあウチは先にはいっとくでー」


怜「おおー広い広い。かけ湯して…っと」

怜「それにしても、やっぱり竜華胸でかいなあ…久しぶりに見たけど、あれは兵器や」



あんなんあったら、肩こるやろうなあ。

胸が小さいの気にしとる人多いけど…全然ウチは気にならん。

あっても邪魔やろうし、ウチやったら間違いなく持て余すしな。



怜「………」



ペタペタ



怜「………」



ムニムニ

まさかの30kg台・・・?



竜華「怜?何しとるん?」

怜「な、なんも」

竜華「じゃあ、入ろ!」

怜「りょうかいー」



―――――――――――――――――――――――



それから、竜華と温泉を楽しんだ。


普段行く銭湯は混んでるし、お風呂も一種類しかないから疲れを癒すっていうよりは、
ただ体を清潔にするために行くって感じやったけど


今日は時間いっぱい、のんびりつかることができた。


途中途中サウナに行ったり(怜には危ないいうて、途中で止められた)


水風呂に入ったりして、バリエーションも楽しめた。


そして最後の仕上げに、露天風呂に行くことした。



竜華「うわ~~いい眺めやなぁ…」

怜「ホンマ……夕日が沈みかけとる」

竜華「あっちが怜の事務所がある方やない?」

怜「そうやな。あ、海。遠くに見えるんが南地区や」

竜華「あーーーー仕事の疲れが癒されるーーーーーーーーーーー」

怜「せやな~~~最近ウチはニートやけど、癒されるわーーーー」

竜華「いずみにかんしゃやな~~今度お礼せなアカンな~~~~~」

怜「ホンマやで~~」




あまりの気持ちよさに、露天風呂で20分近く過ごしてしまった。

だって、しゃーない。体はぽかぽか、頭から上はひんやりした空気、このコンビネーションがたまらんのや。

この組み合わせ、言うなれば…こたつに入っとると、アイス食べたくなる、アレや。

とにかく、逆相性のものを組み合わせると、ロクなことにならん、いい意味で。




竜華「セーラも来れたら良かったなあ……ふにゅ……」

怜「残念やけど……ちゃんとお土産買っていこ……そうすれば、だいじょぶだいじょぶ………」



お風呂を出たあと、部屋に戻ると夕食が用意されていて、案内の子が給仕してくれた。

早速それをウチは、ものすごい勢いで平らげ―――ようとしたら竜華に止められた。

はしたないからやめなさいって。それで、竜華と品の良い食べ方をやらを練習した。

途中で耐え切れんなって、投げ出して普通に食べた。やっぱ好きなように食べたほうが美味い。




《玄関前 おみやげコーナー》


怜「もう、もう入らへん…」

竜華「美味しかったなー海の幸、山の幸盛りだくさんの懐石料理やったな」

怜「竜華の食べ方はお嬢様みたいやな…ウチには受け付けん」

竜華「そんなことないで?あくまで女らしい食べ方して欲しいだけや。
   ご飯を牛丼食べてるみたいに掻き込むんはちょっと見てられへん」

怜「そんなん言われても、美味しいんやし、どんどん食べたいやん」

竜華「いや、でもな…」

怜「それに竜華だって、最後の方はがっつり食べよったやん」

竜華「うっ、だって…怜があんまり美味しそうに食べるから、ウチもいいかなって…」

怜「ほれみぃ」

竜華「美穂ちゃんみたいにはいかへんなぁ。でも、近づけるように頑張ろ!」



「ふふっ、気に入っていただけましたか?」

ここまで、つづきは夜にでも


>>200
38kg、体脂肪率8%

これくらいやと思ってください
なお、かのイチロー選手の体脂肪率は6%前後のもよう



竜華「あ、女将さん」


竜華とだべってたら、女将さんが話しかけてきた。

女将さんはやっぱり着物なんやな。


怜「美味しかったです、ホンマに」

「気に入っていただけたようで、嬉しいです」

竜華「ホンマに美味しかったです。ここの料理長がいたら、お礼を言いたいなあ」

怜「また営業モード?」

竜華「ち、違うで!これは純粋にお礼を言いたいだけや!」

「お二人はずいぶんとお若いですね。学生さんですか?」

竜華「いえ、二人とも働いてます」



ウチは…働いとるって言えるか微妙やけどな。フリーターより不安定な仕事やし。



「そうなんですね。もしかしたら私と同い年くらいと思いまして…
 あ、失礼しました。お客様にプライベートなことを伺って」

竜華「ええよええよ、実はウチらは○○歳やけど……女将さんは?」

「あ、私と同じですね…」

竜華「ホンマ?!じゃあもうウチらのことお客様って思わんでええよ!気楽に接してーな」

「え、で、でも…」

竜華「な、えーよな、怜?」

怜「え、あ、うん。ええよ」



うーん、やっぱウチにはこういうの向いてないっぽいな。竜華はすごい。

ついていけへん。交渉とか、頭使うやつやったらなんとかいけそうなんやけど…


竜華「ウチ、清水谷竜華!名前なんていうん?」

「私は…松実宥と申します」

竜華「宥ちゃんね!申しますとか、固いって、普通でええんよ?」

宥「わっ、わわっ…ほんとうにいいの…?」

竜華「うんうん、その方がこっちも気楽やし。怜もさっきそう言っとったしな。敬語はやりづらいって」

怜「そうやね。あ、ウチは園城寺怜って言います。松実さん」

宥「ご、ご丁寧にどうも…私は松実宥です。よろしくね」

竜華「怜、アンタが敬語になってどうするんや」

怜「ウチには敬語でもタメ語でもどっちでもええよ。どっちにしろ気軽に接してくれてええで」

宥「……」

竜華「?」

怜「どうかした?」

宥「あ、ありがとう…お仕事中に、気を抜くことないから…慣れなくて」

竜華「分かるで。大変よな、働くんは」

宥「今日は少し力を抜いて仕事ができそう……あ、二人とも、くつろげてる?」

竜華「そりゃもう、堪能してるでーここであと三日も過ごせるなんて、最高や」

怜「竜華、おみやげ買わへんの?」

宥「あ、おみやげ買いに来たんだね…」

竜華「うん、一人友達でこれんかった子がおって、その子のな。宥ちゃん、なんかオススメある?」

竜華「あ、ウチのことは『竜華』って呼んでなー」



宥「じゃ、じゃあ竜華ちゃん。オススメは、松実館特製の、『松実たまご』だよ」

竜華「ほ~それはお茶菓子?」

宥「どちらかというと洋菓子だから、お茶には合わないかも…和菓子のほうがいい?」

竜華「全然!じゃあその松実たまごにしよか、怜、ええ?」

怜「うん、かまへんよ。いくら?」

竜華「ええって、ウチが出すから。大した額やないし」

怜「額は関係ないで、出すったら出す」


出す必要のあるお金と、ウチが出すと決めたお金は、例えいくらであっても、出す。


竜華「…分かった、割り勘な。じゃあこれ、代金です」

宥「ありがとう~」

竜華「いえいえ、ところで…この旅館、人少ないね?今は従業員さん、お休みしとるん?」

宥「……」



その時、松実さんの顔色が突然曇った。

その表情は…答えづらいことを、単刀直入に聞かれたみたいな

そんな感じの顔やった。



竜華「ご、ごめんな。ウチ聞いたらいかんこと聞いたかな…?」



宥「いや、そういうわけじゃないよ…ただ」

怜「?」

宥「従業員は…さっきの女中の子がいるでしょ?」

竜華「うん、あの子も若いなあ」

宥「あの子は私の妹で…玄ちゃんって言うの」

竜華「へえ、玄ちゃんかぁ」



珍しい名前やなあ。ウチが言えた義理やないけど…

竜華も割と珍しい方やと思うけど、怜はなかなかおらんしな。



宥「その子と、私の……二人だけなんだ」

竜華「…え?」

怜「………」


竜華「えっと…親御さんは…?」

宥「お母さんは…私たちが小さい頃に、病気で死んじゃって…」

宥「お父さんは……もう、今時こんな旅館を経営する意味はないって言って…出稼ぎに行ってるの」

宥「お父さんと音信不通なわけじゃないんだけど、旅館経営を続けてる私たちを…よく思ってないないみたい」

怜「……」

竜華「え、じゃあさっきの料理作ったのって…」

宥「玄ちゃんだよ。あの子、すごく料理上手なの」

竜華「それは驚いたわ…料亭に出てきてもおかしない料理を、あの子が…」

怜「ねえ、聞いてもええ?」

宥「なに?」

怜「……こんなでっかい旅館を二人で回すんは不可能やと思うけど…どうやってやりくりしとん?」

宥「昔は、たくさん人が来てくれてて、従業員さんもいっぱい雇ってたんだ…けど」

宥「お母さんが死んじゃってから…お父さんが出稼ぎに行くようになって…
  女将を私が引き継いだけど、うまくいかなくて…」

宥「それで従業員さんも、やめちゃったの。今は、だいぶ私も慣れたし、やっていけると思うんだけど」

宥「もう今更、従業員さんたちも帰ってこないと思うし…」

怜「それで、完全予約制にして、一日に受け入れる人数決めて、規模を民宿並みに縮小しとるわけやな」

宥「えっ?」

怜「でもPRも一応頑張っとんやな。お試しでこの旅館に来てもらえるよう、招待券を配るとかして」

宥「な、な、な……な、なんでしってるの??????」


怜「いや、この規模の旅館やったら大浴場にタオルは十分に置かれとるもんやけど…
  わざわざ部屋のタオル持っていくように言われたし。完全予約制ならタオル置く必要ないしな」

怜「料理も個人の好みを聞いて、丁寧に作っとったしな。客の人数が多かったらなかなかそういうことはできんやろうし」

怜「招待券は…だってウチらがそれで泊まりに来とるしな。これは別に推理でもなんでもないで」

怜「けど、お風呂とか、料理とか、部屋とか…旅館の『命』の部分だけは手を抜いてないのはすごいなと思ったで」

怜「これなら、規模を縮小して営業すれば全然問題な―――」



宥「……………」



竜華(………と、とき)

怜(な、なに?)

竜華(いきなり怜が畳み掛けるから、宥ちゃんびびっとるやん!ポカーーーーンってしとるで!)

怜(あ、まずかったかな…?)

竜華(そりゃびっくりするやろ、怜、今まで静かにしとったのに急にまくし立てたら!)

怜(そ、そっか。どうしよ)

竜華(とにかく、謝り!わけわからんこと言ってごめんなさいって!)

怜(いや、内容自体は的を射てると思うんやけど…)

竜華(なにつべこべ言っとるんや!ほら、はよ!)



宥「す………す、すごい」

竜華「へ?」

怜「え?」



宥「園城寺さん、すっごくあたまいいんだね。私、びっくりしちゃったよ」

竜華「……」

怜(な、なんか関心しとるみたいやけど…)

竜華(この子がええ子で助かったな、怜)

宥「そうなの、この旅館大きいから、維持費がすごくて」

宥「おもてなしには、自信があるの。規模を縮小すれば、きっと黒字になると思うの…
  でも、縮小するのにもお金がいるし…そんな元手もうちにはないし」

宥「だから、どうすればいいか分からなくて…もう、お父さんの言うように、畳んだ方がいいんじゃないかって」

宥「最近は思うんだ。あとね…」



「それはダメなのです!!」



宥「あ、玄ちゃん…」

玄「それは、ダメだよ、おねえちゃん。お母さんが残してくれた、この旅館を」

玄「私たちで守らなきゃ」


宥「玄ちゃん…」

怜「旅館を守る…?」

宥「い、いや、二人とも気にしないで」

竜華「あなたが玄ちゃんやな、ウチは清水谷竜華、こっちの子が園城寺怜。よろしくな」

玄「清水谷さんに、園城寺さんですね。私は松実玄と申します」

玄「あ、お二人共ご飯はおいしかったですか?私の自信作なのです!」

怜「うまかったで、うますぎでお腹痛くなるほど食べてしもうた」

玄「本当ですか?それは料理人冥利につきるのです、えっへん」

宥「……玄ちゃん、お布団の準備できた?」

玄「あ、まだでした。じゃあ、行ってくるね、おねえちゃん」

玄「お客様も、ゆっくりしていってくださいね!」



――――――――――――



竜華「玄ちゃん、元気で、可愛い子やわぁ」

怜「それで料理もできるって、ポイント高いなあ」

宥「………」

竜華「宥ちゃん、どうしたん?暗い顔して」

宥「……な、なんでもないよ」

宥「私、ゴミを捨てに行ってくるね。二人とも、お話してくれてありがとう」

竜華「ちょっとしたことやったら手伝うで、ウチにできることある?」

宥「ううん、大丈夫だよ。ありがとう」



そして、松実さん(お姉さん)の方は…厨房の方へと消えていった。

その背中は、少しだけ寂しそうやった。


《初日 就寝前》


竜華「さて、そろそろ寝よか。疲れも取れたし、お腹もいっぱいやし…今日はゆっくり寝られそうやな」

怜「………」

竜華「怜、何やっとるのん?」

怜「手帳に今日のこと書いとこ思ってな」

竜華「別に事件が起きとるわけやないのに?」

怜「いや…一応、な。竜華を見習って、こういうのが大事なんやろ?」

竜華「そうそう、分かっとるやん!ただウチは出会った人はしっかり頭にインプットされるから、メモせんけどな」

竜華「怜だって記憶力ええやん」

怜「そうかな?そうは思わんけど…」



怜「ところで…松実さんって、寒がりなんやろか」

竜華「松実さんってどっちの?」

怜「ああ、姉の方や。宥さんの方」

竜華「そうは思わんかったけど…なんで?」

怜「いや、着物が…厚いな、て思って。福路さんにもらったコンクールのポスターの中の人って…みんな着物来てたやん?」

怜「それに比べて…なんか厚着しとるように見えたんや。着物下に、ごっつう重ね着しとる感じ」

竜華「言われてみれば…」

怜「全然暑くない、むしろクーラーがあってもいいこの気温で…着物は相当暑いやろ?」

怜「できれば切る量減らしたいのに、増やしとったから、もしかしたらそうなんかと思ってな」



竜華「なるほど…確かに玄ちゃんはそこまで厚着じゃなかったし、怜の言うとおりかも」

竜華「それよりウチは、宥ちゃんがちょっと寂しそうやったことの方が気になるなあ」

怜「…確かにな。でも、ウチらにどうこうできることやないで」

竜華「なあ、怜。ここの旅館、規模を縮小したら、うまくいきそうなんやろ?」

竜華「やったらここを売っぱらって、小さな民宿立て直したらええんやない?」

怜「……」

竜華「そうすれば、二人でも十分やっていけると思うし」

怜「……」

竜華「怜?」

怜「…そうやな」



まったくもって、竜華の言うとおり。やったら、なんでそうしないのか。

そうしたくない理由が…どっかにあるからやろうな。



怜「じゃあ、寝る?」

竜華「せやなー怜、体の調子は?」

怜「良好やで。竜華もおるし、大丈夫や」

竜華「さよか、おやすみ」

怜「うん、また明日」



大音量が、頭の中に鳴り響く

ぐっすりと皆が眠っている中…自分だけが目を覚ました

今日はここまでです

これで四章は三分の一くらい


読んでくれた人、ありがとう、ではまたー

乙ー
現行の咲ssで一番好きだよー

トラック免許って21歳からだったよね
つまり大阪トリオはそのくらいか

学生もいるから年齢とか時系列はばらばらなのかね

>>218
ありがとう、気楽に見ていただければ

>>220>>222
年齢は割とバラバラ、時系列は原作から乖離してるのでないに等しいです



つづきですよー



《二日目 朝》 

視点:竜華




玄「お二人共、よく眠れましたか?おはようございます!」

竜華「おはよう玄ちゃんー眠れたでー」

怜「………」

玄「あはは…園城寺さんはまだ眠そうですね?」

怜「朝は……あんま得意やない……ん?この匂いは…」

玄「朝ごはん作ったので、持ってきました」



次の瞬間、怜はすぐ食事場所に移動しとった。移動音は『ササッ』って感じ。

いつもの怜ではありえんほど早い動きやったで。まるで別人や。



怜「待ってました」

竜華「食べる前に目が覚めたら世話ないな」

怜「もしかしたら、ウチ匂いだけで生きていけるかも」

竜華「アホ」

玄「今お味噌汁とごはん、よそいますね~」



ほっかほかのご飯は、炊きたてなんかツヤツヤしとる

あったか~いお味噌汁からは湯気が立ち上って、味噌のええ香りが鼻腔を刺激する

それに加えて、焼き鮭、納豆、のり、お漬物といった、基本的な和食のメニューを玄ちゃんは準備してくれた



玄「ご飯は、新米を使ってます!つきたて、炊き出ちの一番美味しいご飯です」

玄「味噌汁の具は、ネギと油揚げです!ネギはシャキシャキ、
  油揚げは噛み締めるほどにじゅわ~って口いっぱいに味わいが広がります」

玄「焼き鮭は、北地区から仕入れたものを、丁寧に焼き上げました。
  適度な塩加減がたまらない一品です。皮をパリパリに焼き上げてるので、ジューシーな身との対比が抜群!」

玄「納豆とのりは違いますけど、お漬物はうちで作ってるものです。塩がいい感じになじんで、ご飯に合わせると最高ですよ!」

玄「どうぞ、お召し上がりください!」



怜「……ごくりんちょ」

竜華「お、おいしそう…今の説明聞いて、二倍おいしそうや」

玄「では、外で待機してるので、ご飯のおかわり、その他何かあればお申し付けください!」


怜「いただきます!」

竜華「い、いただきます」


あ、アカン。怜の気持ちも分かってしまう…至って普通のメニューやのに

使っとる素材がええんやろうか、玄ちゃんの説明が上手なんやろうか。

もう、ウチもたまらずにがっついてしもうた。


怜「おかわひ!」

竜華「う、ウチもごはんおかわりください!」

玄「かしこまりました~」



脂の乗った鮭に、塩加減が最高のおつけものに

ほっかほかのごはんがいくらでもすすむすすむ。



玄「うふふ、気に入ってくれて嬉しいなあ」

怜「あ、アカン。こんなに幸せな朝ごはん、久しぶりすぎて…どれくらい食べたらいいか分からん」

竜華「あんまり食べ過ぎると、このあと動けへんで? まあ、今回はばかりは気持ち分かるけど」



あっという間に、二人で平らげてしまった。不覚、ウチとしたことが。



怜「ごちそうさまでした!」

竜華「お、美味しかった~…」

玄「えへへ、お褒めに預かりまして、嬉しいです!」


竜華「お腹パンパンや」

怜「竜華、このあとどうする?」

竜華「そうやなあ…」

玄「近くに海があるので、散歩してはいかがですか?」

竜華「お散歩かぁ…そうしよか」

怜「今、この旅館ウチらだけの貸切なん?」

玄「いえ、もうひと組、お客様がいらっしゃいます」

竜華「あ、そうなんや」

玄「部活の合宿で、うちの旅館を使ってくださってるんです」

怜「合宿?」

玄「はいっ!劔谷高校の、茶道部の方々です」

竜華「け、けんたにィ!?」

玄「えっ、えっ?」

怜「竜華、どしたん?」

竜華「どうしたも、こうしたもないで!劔谷ちゅうたら、風越に並ぶ名門、西地区御三家の一つやないか!」

竜華「西地区でも有名なお嬢様高校の一つや!!
   学校がすごくお金持ちで、生徒も金持ちで…とにかくウチらでは手の届かんような存在なんや」

怜「そ、そうなんや。竜華、やけにそういうの詳しいな?」

竜華「アホ、西地区に住んどるんやったらそんなん常識や!」

怜「ちなみに御三家って、あとどこ?」

竜華「阿知賀女子学院や。風越・阿知賀・劔谷…西地区のお嬢様学校、通称御三家」

竜華「それぞれ特色があって、なかでも劔谷はトップクラスの金持ち学校や」

怜「なるほどな。また一つ賢くなったわ」

玄「私、阿知賀に通ってましたよ。おねえちゃんも、阿知賀の卒業生です」

怜「へ~二人とも、すごいなあ」

竜華「へ~そうなんや、玄ちゃんが……」



え?



竜華「ええええええええええええええええええええええっ!?!?!??!!!?」



怜「りゅーか、うるさいで」

竜華「あっ…ご、ごめん。ちょっとびっくりしてしもうた…いや、美穂ちゃんでお嬢様の子に慣れとるつもりやったけど」

竜華「またまた会うとは思わんかって…ごめんね、玄ちゃん」

玄「いえ!もう私は行ってませんので!」

竜華「え?」

玄「やめました!」

怜「………」

竜華「な、なんで?阿知賀って、いい学校やのに!」

玄「……」

怜「……」

玄「……私には、旅館の方が大事だから」

竜華「……りょかん?」

玄「はっ!そろそろもうひと組のお客様にも、朝ごはんをお出ししないと」

玄「それでは、お二人共!失礼しました!」




玄ちゃんはそういうと、食器をてきぱきと片付けて、部屋を出て行ってしもうた


怜「……」

竜華「…宥ちゃんも、玄ちゃんも、なんかこの松実館に対して」

怜「思うところがあるみたいやな」

竜華「……怜、散歩しよか」

怜「そうやな。腹ごなし、しよう」



―――――――――――――――――――――――



ウチらは、海岸線をのんびりと歩く

ちょうど朝凪の時間で、無風やから、朝にしては、ちょっぴり暑かった



竜華「ときは、どう思う?」

怜「どうって…今んとこようわからんなあ」

竜華「いつもみたいに、少ない情報で推理するとどうなるん?」

怜「…………」


怜は、ちょと目をつぶって考え出した


怜「………あー」

竜華「なんか、分かった?!」

怜「ごめん…ちょっと、休んでええ?」

竜華「あっ、ちょっと疲れた…?ちょっと暑いしな。休む?」

怜「うん…最近調子良かったんやけどな…」

竜華「……」

怜「頭と体、同時に使うと…アカンみたいや」

竜華「それじゃあ、そこの木陰で休も?膝枕したる」

怜「久しぶりやな、膝枕……頼むわ」


竜華「ちょっと、ここでのんびりしよか」

怜「………えと、考えたことやけど…」

怜「松実(姉)さんは…たぶんやけど…玄ちゃんの将来を心配しとって…」

怜「そのために、旅館を畳んだ方が、いいと思っとるんやないやろか…」

竜華「……」

怜「でも、松実(妹)さんは、そうは思ってなくて……旅館を守りたい、て思ってるんやろなあ」

竜華「確かに、お母さんが残してくれた、言うとったしなあ」

竜華「阿知賀女子をやめるなんて、よっぽどのことやろうし…」

怜「……」




「それでは、午前の稽古を始めます。皆さん、準備はいいですか」

「もう嫌でー」

「友香ちゃん、今日で最後だから頑張ろうよ」

「二人とも、よく頑張ったよもー」

「うん…長かった合宿も、あと少しで終わりだね…」

竜華「ん?あれは…?」

怜「外で、着物着とるなんて珍しい」

竜華「もしかして…劔谷の人たちやったりして!ここ旅館から近いし!」

竜華「怜、だいぶ良くなった?」

怜「うん」

竜華「じゃあ、ちょっと話しかけに行こ!」

怜「…ええけど。稽古始めるって言ってたで。合宿中やろし、邪魔になるんちゃう?」

竜華「そうかも…いやいや、ちょっとくらい大丈夫!もしかしたら今日で帰ってしまうかもしれんし、チャンスは逃さんで!」

竜華「すいませーん!」




「ん…?どちらさまでしょうか」

「あ、この人旅館にいた人だ」

竜華「あ、あの…私、松実館に泊まってる、清水谷竜華って言います。お邪魔だったらごめんなさい」

竜華「もしかしたら、劔谷高校の方々だったりしますか…?」

「ええ。私たちは劔谷高校、茶道部一同です。私は部長の、古塚梢といいます」


【古塚 梢(ふるづかこずえ)】
劔谷高校茶道部 部長、最上級生。



竜華「や、やっぱり!」



「今日は、天気もいいから、外でミーティングする予定だったんだよ、気にしなくて大丈夫だよー」

【椿野 美幸(もーちゃん)(つばきのみゆき)】
茶道部部員、最上級生。もーちゃん


梢「ほら、みなさんも、自己紹介してください」




「私は、依藤 澄子…よろしく」

【依藤 澄子(よりふじ すみこ)】
茶道部部員、おとなしい。学年は真ん中。




「森垣友香でーー」

【森垣友香(もりがき ゆうか)】
茶道部部員、下級生ながら副部長。帰国子女。でーちゃん




「私は、安福莉子っていいます。よろしくお願いします」

【安福 莉子(やすふく りこ)】
下級生。見かけによらず意外としっかりもの。






【学年】
古塚部長=もーちゃん>依藤澄子>でーちゃん=莉子ちゃん


竜華「ウチは清水谷竜華、こっちは園城寺怜でウチの友達です」

怜「どうも」

梢「お二人は旅行ですか?」

竜華「そうです、プチ旅行みたいな感じです」

美幸「いいね、私たちなんて合宿で、もう4日もこの旅館にいるんだよもー」

友香「もう疲れたんでー」

莉子「友香、全然知らない人の前で、あまりそういうことは…」

澄子「でも、ちょっと疲れたね…今日で最後だし、頑張ろうね」

竜華「皆さんは、今日で帰られるんですか?」

梢「今日で合宿四日目で最終日です。でも、帰るのは明日ですので、もう一泊していきます」

竜華「そ、そうですか」

怜「……竜華、なにもじもじしとるん?」

竜華「だ、だって…劔谷の人達と話せると思ってなくて…ドキドキするやん」

美幸「えへへ、そんな風に言われるとこっちも恥ずかしいよもー」

竜華「茶道部って、やっぱりお茶を点てる活動がメインなんですか?」

美幸「うん、そうだよ。もちろんそれだけじゃなくて、お茶の歴史を勉強したり、お茶に合うお菓子を研究したり」

竜華「礼儀作法とか厳しそうやなあ…」

梢「飲むだけなら、そうでもないですけどね。点てるとなると、大変です」

竜華「そうなんですね。本格的なお茶は、飲んだことないな…」

美幸「そうだ、もしよかったら、お二人ともお茶飲むー?夜はフリーだし」

竜華「ええっ!?ええの? いや、いいんですか!?」

美幸「今から稽古あるから、それが終わったらみんな暇だし。梢ちゃん、いいよね?」

梢「そうですね。いろんな人に茶道を体験していただけるのは、嬉しいことです。
  良かったら、夕飯の後にでも、うちのお部屋にいらしてください」


友香「えー着物着る時間が長くなる……正座も長くなるし、しんどいでー」

莉子「友香ちゃん、せっかく興味もってもらってるんだから…そんなこといっちゃダメだよ」

友香「やる気、起きない……」

美幸「グチグチ言いすぎだよもー」

梢「それでは、今からミーティングですので…また夜に」

竜華「やったぁ!ありがとうございます!」


―――――――――――――――――――――――――――――


怜「竜華、よかったな」

竜華「ちょっと強引やったけど…よかった!」

竜華「お茶の入れ方も勉強したかってん、参考にさせてもらうで!」

竜華「あ、風越にお花を入れとる実績をアピールすれば、もしかして劔谷でも使ってもらえるかも…?」

怜「はぁ…せわしないな、竜華は…」


それから、ちょっとだけまた歩いて、部屋に戻ってきた

お昼ご飯はお部屋じゃなくて、旅館の食堂で食べることになった



玄「はい、ご注文どうぞ!」

竜華「ええと、この松実セットAください」

玄「Aセットですね!」

怜「こ、これってどれ頼んでもええのん?」

玄「はい!」

怜「じゃ、じゃあ松実スペシャル、ご飯は大盛り…いや特盛で」

怜「スペシャルの中の目玉焼きは、できれば半熟が嬉しいです」

怜「それと、それと……食後のデザートは…」

竜華「怜、ここぞとばかりに頼むなあ」

怜「当たり前や、泉の気遣いを無駄にはできんで!」

竜華「呆れた…物は言いようやなぁ」



玄「はい、お待たせしましたっ、Aセットと、スペシャルセットです!」

宥「玄ちゃん、劔谷の人たちはお部屋で食べるって…全員Bセットで」

玄「分かった作ってくるね!」




竜華「宥ちゃん、お疲れさま」

宥「うん、二人とも、ゆっくり食べてね」

怜「いただきまーす」

宥「……」

竜華「……?宥ちゃん、どうかした?玄ちゃんの方見て」

宥「い、いや…なんでもないの」

竜華「妹さんが心配?」

宥「え、いやっ…………」

竜華「良かったら、ウチらが話聞くで…?」

怜「……」

宥「……」



宥ちゃんはしばらく黙ってたけど

ウチらのことを信頼してくれたんか…話して始めてくれた。



宥「実は…私たち姉妹は、阿知賀女子学院に通ってたの」

竜華「さっき玄ちゃんが言ってたな」

宥「あ、そうなんだ…じゃあ聞いてるかもしれないけど…玄ちゃんは途中でやめちゃったの」

竜華「それは、なんで…?」

宥「それは、旅館を守るため、だったの」

怜「……」

宥「私が高校に通ってる間は…従業員さんも何人かいたから、なんとかなってたんだけど…」

宥「私が卒業して、女将になってから、お父さんは出稼ぎに行き始めて、経営がうまくいかなくなったの」

宥「その時から従業員さんが少なくなってきて…」

宥「そ、それでね………」

宥「……っ……ひっく………くろちゃん、わたしのせいで、わたしがうまくできなかったから……」

宥「こうこう、やめちゃったよぉ……!」

竜華「宥ちゃん…」



話してるうちに、つらくなってきたんか、宥ちゃんは泣き始めた

きっと、これまで溜め込んできたんやろう

玄ちゃんが高校やめたことに、責任感じ取ったんやな



宥「くろちゃん、お料理もできて、気遣いもできてね、すごく、すごくいい子なの…!」

宥「だから、だからね……ひっく……ずっとこんなところにいるの、もったいないの」

宥「もっと、外の世界を、見てきてほしい」

宥「いろんなこと、体験してきてほしい……でも嫌なんだって…」

宥「お母さんが残してくれた、この旅館を潰したくないって……」



竜華「…そういうことやったんか」

怜「…」



宥「………泣いちゃって、ごめんねぇ…」

竜華「気にせんでええ、今まで辛かったな」

宥「でも、おねえちゃんの私がしっかりしてなきゃ、ダメだよね…」

宥「玄ちゃんも頑張ってるし、私もやらなきゃ。これ、誰にも言わないでね…玄ちゃんにも、秘密にしてね」

宥「お話聞いてくれて、ありがとう。私、仕事にもどるね」

竜華「うん、話してくれて、ありがとう。無理はしたらアカンで…」




怜「………」

竜華「怜、アンタは聞いとるだけやったな。まさかずっとご飯食べよるとは思わんかった」

怜「せっかく美味しく作ってくれたもんを、冷ましてしまうのもどうかと思ってな」

怜「それに、ちゃんと話は聞いてたよ。ウチもなんか昔を思い出したわ」

竜華「……」



怜「さて、夕飯まで部屋でのんびりしよや」

竜華「そうやね…」



ウチらにできることは

この旅館の良さを、いろんな人に宣伝してあげることくらいやろか。

本当に、それだけやろうか…ほかにもっと、できることはないんかなぁ。



それから、部屋でテレビ見て、のんびりして、備え付けのトランプで遊んだりして

圧倒言う間に夕方になった。お風呂にまた一緒に怜と入って

それからまた、玄ちゃんが夕飯を持ってきてくれて、昨日と同じように食べた。





怜「ふう、ごちそうさまでした」

竜華「美味しかったな」

玄「ふふっ、こんなに美味しそうに食べてくれる人も、珍しいです」

怜「ホンマ?こんなん毎日食べられたら幸せやろうけどなぁ」

竜華「うんうん、玄ちゃんと結婚する人は幸せやな!」

玄「えへへ…それほどでも! お布団は、いつお敷きしたらいいですか?」

竜華「そうやなぁ…このあと、実は劔谷の人とお茶会するや。その間にお願いしてええ?」

玄「そうなんですね、分かりました!では、失礼しますね」


そして、お茶会の時間が近づいてきた。

宥ちゃんと玄ちゃんのことは心配やけど…今は、こっちを楽しまなな。

せっかくの機会やし!




竜華「ねえねえ、そろそろ劔谷のお部屋に行ってええと思う?」

怜「夕飯後、って言ってたし、ええんやない?」

竜華「よし、じゃあ行こ!」

怜「……ウチも行かなダメ?」

竜華「何言っとるんや、当たり前やろ!こんな機会、滅多にないで!それに一人やとさすがに行きづらいわ」

怜「それもそうやけど…」

竜華「ねっ、お願い、怜!」

怜「わかったわかった、行く行く。行くから引っ張らんといてーな」



《二日目 夜 劔谷部屋》



梢「ようこそ、お待ちしていました」

美幸「待ってたよもー」

澄子「いらっしゃい…」

莉子「ほら、友香ちゃん。シャキっとして」

友香「うぅ…わかったでー」



部屋に入ると…五人が正座して横に並んで歓迎してくれた。

見たことのない道具とか、たくさんあって、わくわくする。

部屋は抹茶の匂いで満たされて、鼻いっぱいに濃密な香りが広がってきて…



竜華「す、すごい…」

怜「これ、抹茶の匂い…?ええ香りやな」

梢「…お茶の前に、少し道具の説明など致しましょうか?」

竜華「お、お願いします!」


梢「分かりました…清水谷さんたちから見て、右側から…」

梢「水差し、茶器、茶杓…それから、茶筅、茶巾です」



それから部長さんは、それぞれの用途を丁寧に説明してくれた。

ウチはみんなに合わせて正座して話を聞いて…怜も頑張って正座しとった。えらいで、怜!



竜華「この…布はなんですか?朱色の」

梢「これは帛紗(ふくさ)です。道具を扱うとき、直接触る前に…こうした布を使って清めます」

梢「相手の道具を拝見するときも、直接触っては失礼なので…これを使います」

梢「女性は朱色、男性は紫のものを使うことが多いみたいですね」

竜華「へえ、勉強になります…あ、これは?」

梢「これはですね…」



――――――――――――――――――――――



梢「……となります」

竜華「なるほど!」

梢「ウチの部員は全員…こうした道具を家に備えています。学校で稽古して、家で稽古して…の繰り返しですね」

竜華「こんな高そうな道具が家に……しかも、それなり場所がないとできへんやろし…お金持ちやなあ」

美幸「茶道って、意外と道具が多いんだよね!
   礼儀作法も各動作もいちいち細かいから…みんなが思ってるより大変なんだよもー」

怜「そ、そうみたいですね」



美幸「それじゃあ、そろそろ」

友香「も……」

莉子「あっ、友香ちゃん!」

友香「も、もう限界でー!!」

竜華「?」



声の方に目を移してみると、森垣さんの正座が崩壊していた

ウチもまだ平気やのに…茶道部で正座が我慢できへんって、大丈夫なんやろか?



友香「わ、私は足崩してますんで、続けてくださいー」

莉子「ゆ、ゆうかちゃん…お客様が来てるんだよ?もう少し頑張って?」

友香「もう、無理でー!」

美幸「あらら…またやっちゃったよもー…」

梢「構いません、崩していてください。お客様に対して失礼の無いように」

梢「では、続けます」

美幸「今日は私がお茶の当番なんだー」

竜華「当番?」

美幸「うん、毎日の夜稽古で、一人当番を決めるんだーその人が全員に、お茶を振舞うの」

美幸「それで、その礼儀作法やお茶の感想を言う、って感じ」

竜華「なるほどなーじゃあ美幸ちゃんがいれてくれるんやね」

美幸「み、みゆきちゃんなんて…いきなり恥ずかしいよもー…じゃ、じゃあ点てるね」


美幸ちゃんは、正座して、目をつぶる。


茶具の前で一呼吸すると、目を開け、動作に入った。


正面の釜からお湯を取り出し、茶碗に入れる。


茶杓を袱紗で清めて、抹茶を茶碗に入れ、茶筅で泡立てる。


その動作の一つ一つが流れるように滑らかで、ウチはおもわず息を飲んでしまった。



竜華「す、すご…」

美幸「点ちました…それでは」


美幸ちゃんは、それをウチの前に置いた


竜華「そ、それじゃあいただきます」

梢「待ってください」

竜華「え?」

梢「ここから、いろいろ必要な礼法があります。それを……説明します」

竜華「わ、分かりました」

怜(お、お茶一つでここまでするんや……ウチには無理無理無理や…正座の時点で、既に限界が…)



―――――――――――――――――――――――――――――



竜華「お、お先に失礼します」

怜「……」

梢「そこで、無視してはいけません。どうぞ、と一言添えて」

怜「ど、どうぞ」

竜華「いただきます」

梢「そこは『お点前頂戴いたします』」

竜華「お、お点前頂戴致します…」

梢「飲む前に、茶碗を回すんですけど、この時は…………」


梢「……以上です」

竜華「ご、ごちそうさまでした」

怜「ごちそうさまでした………」

美幸「いえ、お粗末さまでした」



梢「正座、もう崩しても構いませんよ」

竜華「は、はぃ」

怜「…………………………」



怜、見るからにぐったりしとる。普段でもガサツな方やのに、こんなきっちりした礼儀作法や。

拒否反応が出てもおかしくないわな。ウチにもまだまだハードル高いな、と思ったし…



美幸「お疲れ様だよもー。どう、けっこう大変だったでしょ?」

竜華「はい…でも、美幸ちゃんのお茶、美味しかったです!」

美幸「そうだと嬉しいなーあ、お茶菓子もあるよ、食べていくー?」

梢「美幸…まだ終わっていませんよ。私たちの分を、点ててください」

美幸「そうだった…二人とも、ゆっくりしててね!」



怜「これが…茶道てやつか…風越の福路さんとかは、こういうことを日常的に…?嘘やろ…?」

竜華「怜、すごい顔になっとるで…でも、そうやな、ホンマにすごいなぁ、これを毎日は、慣れんとちょっと…」

怜「……でも、お茶は美味しかった。きちんと点てたお茶って美味しいんやな」

竜華「せやなーでも礼儀作法含めての茶道やろうからな…難しいね」



美幸「部長、どうぞ…」

梢「お点前頂戴致します……」



あ、もうできたんや…早速部長さんに振舞っとる



梢「……美幸」

美幸「な、何かな?」

梢「少し、味に偏りがあります。茶葉に偏りがあるかもしれません」

梢「茶器の中身を、かき混ぜてみてください。うまく配合されてないかもしれません」

美幸「わ、わかったよもー」



竜華「あれはどういうことやろか」

怜「さあ…」



莉子「この合宿で使ってる茶葉は、いろんなものをブレンドしてるんです」

莉子「いろんなブレンドをこの合宿で試してみて…」

莉子「その配合がうまくいってなかったんだと思います。いろんなブレンドに挑戦できるのも、合宿の醍醐味なんです」

怜「なるほど」

竜華「…怜、さっき飲んだときそんな感じした?」

怜「全然」

竜華「だよね…全然ウチも分からへんかったわ…」



――――――――――――――――――――――――――――



美幸「これで、全員分できたね」

梢「それでは…清水谷さん、園城寺さん。これから皆で美幸のお茶を批評します」

梢「ですので、もうお二人はお帰りください…長くなりますし」

竜華「分かりました。茶道部の皆さん、今日は本当にありがとうございました」

怜「ありがとう、ございました」

梢「いえ、私たちも楽しかったです…」

美幸「二人とも、また来てよもー」

澄子「おやすみなさい…」

莉子「ほら、友香ちゃん、最後くらいしゃんとする!」

友香「お、お疲れでー」


《二日目 夜 自室》



怜「竜華……もうダメ」

竜華「…ウチもちょっと疲れた。茶道舐めとったわ」

怜「……まだちょっと足が痺れるなあ」



部屋に戻って、ウチら二人は布団にダイブした。

慣れんことすると、やっぱり疲れるんやなぁ。

あ、部屋が綺麗になっとる…布団と一緒に、部屋の掃除もしてくれたんやな。




竜華「そうや、もう一回お風呂行かへん?」

怜「え?」

竜華「ご飯からけっこう時間経っとるし、お腹も大丈夫やろ?寝る間にひとっ風呂浴びてから寝ようや!」


《大浴場》



竜華「あれ…誰かおる」

怜「誰?」



劔谷の人たちは批評会中やから…入っとるのは



玄「あっ」

竜華「玄ちゃんもお風呂?」

玄「はいっ!やっぱりこの大浴場が好きなので!おねえちゃんも私も、毎日入ってるんですよ」

バイーン

怜「………」

竜華「そっか、一緒に入る?」

玄「えっと、いいんですか?」

怜「ええよ。ウチ疲れとるから、あまり相手はできんと思うけど…」

竜華「怜は大抵黙っとるやん」

怜「ツッコミ鋭いな…」



夕飯前に入ったばっかりやったから、体は軽く流すだけにして、すぐに湯船に浸かる。

玄ちゃんとウチらはいろんな話をした。話を聞いてると、玄ちゃんは、この松実館が大好きなんが分かった。

お仕事の話、すっごく楽しそうにするんやもん。



玄「えへへ、お料理の練習、頑張って…いろんなお客さんに好評いただいてるんですよ!」

竜華「うんうん、いい腕しとるよな、ホンマ。怜に教えてやってほしいくらいや」

怜「……」

玄「あ、私の話ばかりでごめんなさい…お二人は仕事してるんですか?」

竜華「うん、ウチはフラワーショップの店員、お花さんってやつや!」

玄「うわー、素敵ですね!お花のお姉さん、ですね!」

怜「フラワーガールっちゅうやつやな」

竜華「怜は黙っとき!」

玄「ウチにもお花飾りたいんですけど…予算が厳しくて、あんまり飾れないんですよねー」

竜華「そ、そっかー」

怜「……」

玄「ところで、園城寺さんは何やってるんですか?」

怜「え?ウチ?」

玄「はい!」

怜「ウチは…」

竜華「……」



怜が職業聞かれてるところ、初めて見た。

なんて答えるんやろうか……ちょ、ちょっと興味ある!





怜「ウチは……」









ウ、ウチは……?












怜「ウチは、探偵やってます」

竜華「って普通に答えるんかーーーーい!」



竜華「思いのほか普通に答えて拍子抜けや…」

怜「何を期待しとったんや…」

玄「えっと、た、たんてい?たんていって、あの探偵ですか?ドラマとかに出てくる……」

怜「そうやで。迷い犬調査、浮気調査、諜報係、などなどなんでも受け付けるで。ただ、お金はちゃんと払ってな」

玄「ほ、ほんものの探偵さん………うわぁ……」

玄「……」




竜華(なあ、怜…)

怜(今度はなんや)

竜華(いや、探偵っていう職業をを馬鹿にするつもりは毛頭ないんやけど…)

竜華(探偵ってやっぱり一般的な職業やないし…言ったら警戒されても、おかしくないやん。良かったん?)

怜(そうかもしれんな……まあ、別にどう思われようと、ええよ)

怜(それで一歩引いて見られたり、軽蔑されたりしたら、それはそれっちゅうことで)

竜華(怜…)

玄「か、か……」

怜(分かってほしい人に分かってもらえれば、それでウチは――――――――)



玄「か、かっこいい……」

怜(――――――ウチはそれでええ…………ん?)



怜「………え?」

竜華「い、今なんて?」



玄「す、すっごくかっこいいです!!!!!探偵といえば……アレですよね、アレ!」

玄「世間から孤立した場所を舞台に、事件に遭遇して、謎を解いて、真犯人を推理して……そして捕まえる!」

玄「『犯人は、お前だ!』『真実は、いつも一つ!』『謎は全て解けた!』『諦めたら、事件は迷宮入りなんだ!』」

玄「正義の味方でみんなの味方で………すっごく素敵です!うわーうわー、おねえちゃん、すごいお客さんが来たよ!」

玄「そういう仕事してる人、本当にいるんだ……かっこいいなあ!!」

玄「憧れちゃいます、お風呂出たら、ぜひサイン書いてくださいっ!!!」




怜「……」

竜華「……」

怜(………なあ、竜華)

竜華(なんや)

怜(この流れ、さっきもなかった?)

竜華(さすが姉妹やな。良かったな、怜。この子たちが本当にええ子で)



興奮冷めやらぬ玄ちゃんは、怜に探偵の話をせがみ始めた。

今までどんな事件に出会ったんですか?!

それで、どうやって解決したんですか?!

どんなトリックでしたか!?なんでその犯人さんが怪しいと思ったんですか?!

などなど、怜は怒涛の質問攻めにビビっとった。




玄「そ、それでそれで?!」

怜「あ、えっと……スープスパの事件は、粉チーズの蓋がトリックのミソやったんや」

玄「な、なんですと!? その発想はなかったなあ…よく気がつきましたね!」

怜「しかも女Bさんの動機が恐ろしくてな…ホンマもんのストーカーっておるんやで。松実さんも気をつけてな?」

玄「ストーカー…怖いなあ、もしそんな人が現れたら、園城寺さんに依頼します!」

怜「しゃーないな。事案1件につにつき10万で承るわ」

玄「ええっ、知り合いからもお金取るの?!」

怜「ふふ、当然や、当然」




怜も初めは困惑しとったけど、だんだんと慣れてきて…

今までの事件を語り始めた。途中途中、玄ちゃんの質問が出てきて、それにも丁寧に解説して…

なんや、怜もけっこうノリノリやん。楽しそうに話しよって。

それだけこの子が……ええ子なんやろうな。



そういえば…宥ちゃんは、この子の将来を心配しとった。

この子は、どう思っとるんやろ…聞いてみても、いいやろうか。

もしかしたら外の世界に目を向けさせてあげられるかもしれん。

宥ちゃんは、それを望んどったんやし…




竜華「ねえ、玄ちゃん?」

玄「は、はいっ。なんでしょうか?」

竜華「玄ちゃんは、なりたいものとかあるん?」

玄「え…?」

竜華「あるやろ、将来の夢とか、やりたいこと、とか…」

玄「……」

玄「わ、私は…松実館の女中として、この旅館をおねえちゃんとやっていきたいです…」

怜「…」

竜華「で、でも…この旅館、採算取れてへんて聞いたで…?やっていくのはしんどいんやないん?」

竜華「このまま、続けても…未来はないんやないんか?」



玄「……」

竜華「た、例えば…今の旅館を売って…規模を縮小したら、余った土地の分のお金が入るやろ…?」

竜華「そのお金を使って小さな民宿を立てるとか…」

玄「……この旅館じゃないとダメなんです」

怜「…」

竜華「いや、でもこのままじゃ――」

玄「――分かってます。でも…この旅館が…お母さんが私たちに残してくれた、唯一のものなのです」

玄「ここだけは、潰したくない!ここを売っちゃたら……お母さんが、本当にいなくなっちゃう――」

怜「……」

竜華「い、いやでも!! 玄ちゃんのお姉さんは玄ちゃんに外の―――「ええんやない?」」



玄「えっ?」

怜「やりたいことを、やったらええよ。後悔せんようにな」

怜「あと、ご飯もおおきに。また次、この旅館ウチは使いたいと思うで。頑張ってな」

玄「あ、ありがとう、ございます……」

竜華「……」

怜「ま、どっちにしろ、このままじゃ潰れるかもしれへんけどな」

玄「!」

竜華「と、怜!アンタどういうつもり――」

怜「じゃあ、ウチは出るで。お先に」




玄「……」

竜華「く、玄ちゃん。怜の言ったことは気にせんでいいからね?」

玄「は、はい…」

竜華「……」

竜華「……う、ウチもお先に失礼するわ」

玄「ええ……ごゆっくり」




――――――――――――――――――――――――――




竜華「怜…どういうつもりや」

怜「何がや?」

竜華「何がって……あんな言い方無いやろ!!」

怜「……」

竜華「ウチらは…宥ちゃんのために、玄ちゃんを諭してあげて…」

怜「それで?」



竜華「え?」

怜「諭して、それからどうするっていうんや」

竜華「さ、諭してあげて…今後の松実館について、宥ちゃんともっと話し合うように言ってあげたりとか」

怜「そんなこと、あのお姉さんがやってないと思うん?」

竜華「それは…」

怜「妹さんは、根本的に勘違いしとる…それに、自分で気づいてもらわんと」

竜華「勘違い?」

怜「そうや。これは外部のウチらが諭して解決できる問題やない。竜華、お節介もほどほどにしときや」




怜はウチの目を見て、低い声でそう言うた。

諌めるような、牽制するような口調で。




怜「それに竜華。さっき。松実姉さんがウチらに打ち明けてくれたこと、妹さんに言おうとしたやろ」

竜華「……」

怜「そういう言葉は、松実姉さん本人の口から言わな意味ないと、ウチは思う」

竜華「………」

怜「……竜華に悪気がないのは知っとるよ。少し、言い方が悪かった…ごめん」

竜華「いや、ウチもごめん…怒鳴ったりして…」



《二日目 就寝前》



「温泉に入って、疲れも取れたことやし…そろそろ寝よっか」

「せやな」

「……なぁ、怜」

「何?」

「いや、さっきの続きやけど…」

「……」

「……」




部屋の照明を落として、布団に入る。

外は静かで、月の光がカーテンの合間から軽く差し込んでくる。

その光が枕から足元にかけて、ウチらを切り裂いて、わずかばかりの視界を生み出した。




「勘違いって、どういう意味?」

「……」

「確かに、今のままじゃ、旅館はにっちもさっちもいかんかもしれんけど…
 玄ちゃんのお母さんが残してくれたものを守りたいって想う気持ちは」

「自然なことやと、ウチは思うで」

「……そうやな」

「やったら」

「残してくれたもんは…それだけなんやろか」




怜は、ぼそっと何か呟いたみたいやけど

小さすぎて、耳に入ってこんかった




「今なんて?」

「……なんでもないわ。寝る」

「おやすみ、竜華」

「うん……おやすみ、怜」




こうして怜との温泉旅行、二日目が終了した。

旅行は二泊三日、明日の昼前にはウチらはここを去る。




怜の本心は分からんけど、松実館がなくなるのは、やっぱり淋しい。

帰ったら、いっぱいいっぱい友達やお客さんに宣伝しようと、思う。



店の前にパンフレットを置いたりとか、ポスターを貼ったりとか…やりようはいくらでもあるはずや

よし、頑張ろう、他にもきっといろいろできることが…




そうこういろいろアイデアを練っているうちに

ウチは眠りについとった。
























眠りについて、どれくらい経った頃やったかは分からん

ウチは怜の声で、目を覚ました

時計を見ると、夜の3時を回っとった




「なぁ、りゅうか…」

「んー……なぁに、とき…」

「いや、なんか……変な音がして」

「むにゅ……おと?」

「うん。今は聞こえんけど…さっき、なんか変な音が聞こえたような気がして」

「……気のせいやない?どんな音やったん」

「んー…微かにしか聞こえんかったから分からんけど…なんか、うぃーんって音…?」

「なんやそれ…夢でも見たんやない?」

「そうかなぁ…確かに聞こえた気がするんやけど。なんかどっかで聞いたことある音やったような…」

「……もしかして、怜。トイレに行きたいん?」

「は?」

「ははーん、分かった。怖くて一人では行けへんのやな。そんな回りくどい頼み方せんでも着いて行ったるって!」

「ち、違うって!!」

「可愛いとこもあるやん、怜!」

「違うって言っとるやろ!」



それから、怜はブツブツ、違う違う言って…布団に潜り込んだ。

頭まで布団かぶって丸まって…ちょっと拗ねてもうたみたいや。いじめすぎたかな?

まあ、たまにはええやろ。饅頭の時の分を、今見れたってことで♪




それから、さっきのを怜の反応を思い出して、ニヤニヤして…眠気が少しづつ強くなってきて…

再び、眠りについとった。

今日はここまでです


二日目が終わっていよいよ三日目

これで二泊三日の温泉旅行も終わりですね(棒読み)



読んでくれた人、どうも
それでは、おやすみなさいー

果たして誰が被害者になるのか、それが楽しみです

>>271
泉ちゃんの可能性があるで(棒)


つづき


《三日目 朝》


竜華「ん~よく寝たなぁ」

怜「おはよう」

竜華「おはよう、怜。今日でまたいつもの日常に戻ると考えると、寂しいなあ」

怜「せやなぁ」



朝食は、また玄ちゃんが運んできてくれた。

メニューは昨日の朝食と少しづつ変わっとって

例えば、お味噌汁の具であったり、魚の種類であったり……デザートにはコーヒーゼリーがついとった。



玄「……」

怜「……」

怜「味噌汁のおかわりください」

玄「あ、はい…おつぎしますね」

怜「ごはんも半分、もらってええ?」

玄「はい、半分ですね」



昨日のことがあっても、怜は遠慮せずにおかわりをする。

玄ちゃんは…ちょっと元気がないみたいや。 



そして、旅館での最後の食事を終えて、ウチと怜は荷物をまとめ始めた。



怜「おみやげ、ウチのカバンの中に入りきらへん…」

竜華「じゃあこっちに入れとくわ」

怜「ここを何時くらいに出たらええの?」

竜華「あと…2時間くらいは居っていいみたいやけど」

怜「営業は、せんでええの?」

竜華「……そんな気にはならへんな」



余裕があったら、無償でお花を提供したいぐらいや

今ウチも苦しいから、そうも出来んのがもどかしい。



竜華「怜、出る前にちょっと女将さんに挨拶していこうや」

怜「そうやな。お世話になったし…ウチも行くわ」


部屋を出て、ロビーの方に行くと…宥ちゃんがおった。

受話器を手にもって…ちょうどお話が終わったみたいや

なんか、少し様子がおかしいように見えた。



宥「あ、二人とも…」

竜華「おはよう宥ちゃん。どうかしたん?」

宥「劔谷の方々が朝食の時間なのに誰も起きてないみたいで……玄ちゃんがノックしても、無反応だったから」

宥「それで電話してるの」

怜「合宿の最終日言っとったし、夜更かししたんやない?打ち上げでもやったとか」

竜華「でもそうやったら、もっとウチらの部屋にもその音が聞こえてくると思うんやけど…特に聞こえんかったで?」




ウチらの部屋と、劔谷の人たちの部屋は…部屋を一つ挟んで、二つ隣にある。

大きな声で騒いどれば、聞こえてくる距離や。



宥「劔谷の人たちは、すごく真面目で、必ず毎日同じ時間に起きてるみたいなの……だから、変だなって」

竜華「そうなんや。電話してもでんって、なんかおかしいな」

怜「……」


怜「……なんか、嫌な予感する」

竜華「え?」

怜「松実のお姉さん、部屋の鍵は?」

宥「一応予備のものが、あるけど……」

怜「それで開けて確認した方がええと思う」

竜華「え、でも普通に寝とったらどうするん?起こしたら悪いやん」

怜「これが鍵やな」

竜華「って、怜?」



怜は鍵を受け取ると、早足で部屋にある方向へ向かっていった。

ウチと宥ちゃんは、思い出したかのように、その後ろを着いていく。



怜「ここやな」

竜華「……ええんかなぁ」

宥「えっと……じゃあ、開けるのは私がやるね。二人が責任持つことないから」

宥「あ、あれ……部屋、鍵、開いてる…?」




そして、ウチらは――――――――部屋に入った。



結論から言うと、劔谷の人はみんなぐっすり眠っとった。

きっと合宿の疲れが溜まっとったんやろうなあ。



竜華「みんな、ぐっすりやね……」

宥「でも、何もなくてよかったぁ……
  もう少し、寝かせておいてあげよう。朝ごはんの時間を玄ちゃんに言ってずらしてもらって……」

怜「……」

竜華「怜の直感はハズレやな。まあ、ハズレて何よりや」

怜「……それなら、ええんやけど」


「ん……?」


すると、寝ていたうちの一人が、ゆっくりと体を起こし始めた。


「んーっ……朝……? あれ……」

「すごく、あたま……いたいよもー……」


あれは……美幸ちゃんやな。椿野美幸ちゃん。『もー』ってのが口癖の、可愛らしい子や。


「なんで、こんなにあたまいたいんだろ……はれ?」


美幸「皆さん、お揃いで……どうしたんですか?あ、あれ?まだみんな寝てる」


宥「ごめんなさい、朝食時間になっても皆さんが起きてこないので……それで、電話もかけたんですけど」

宥「失礼とは思ったんですけど、入らせていただきました」

美幸「わ、あ、あれっ!?もうこんな時間!?なんでみんなぐっすりなの、もー!!」

美幸「ごめんなさい!すぐに用意します!ほら、みんな起きて起きて!!」



そして、美幸ちゃんはみんなを起こし始めた。

体をゆすったり、ほっぺをつねったり……そういえばまつげを触ったら人はすぐに起きるって言うけどホンマやろか。



梢「おはよう、ございます……あれ、頭が痛い、どうしたんでしょうか……」

澄子「……いま何時?」

莉子「んー……ごめんなさい、美幸先輩……あたま痛い……お酒飲んだみたいな痛さだよ……」

澄子「普段飲んでるみたいな発言は避けたほうが……でも、私も頭痛い…」


美幸「みんな、朝ごはんだよ!もう10時になるよ、早く目を覚ますんだよもー!」

美幸「ほら、友香ちゃんも起きて!」


竜華「ウチらはもう退散したほうがええな。じゃあ、失礼します」

怜「……」

宥「それでは、朝食は30分後には用意しますので、それまでのんびりしていてくださいね」

美幸「も、申し訳ないよもー ありがとうございます。起きないなぁ友香ちゃん……あれ?」



美幸「なんか友香ちゃん、顔色、真っ白……え、何この斑点……体も、つ、つめたい?」

怜「!」

美幸「え………えっ……なに、なにこれ……?」

怜「ちょ、ちょっとのいて!」

美幸「あっ」

竜華「な、何?怜、どうかしたん?!」



怜は、森垣さん……その子の胸部に耳を当てて……

手首を触った。脈を取ってるみたいや。



怜「………」

美幸「え? え? えっ???」

怜「…………息がない」

莉子「!?」

梢「う、嘘でしょう……?」

宥「そ、そんな」



森垣さんはまるで普通に寝ているように、布団に静かに横たわる。


青白い顔に紫の斑点を浮かべ、口はだらしなく空いてしまっている。眼は暗く濁り、光が消えている。


昨日まで動いてた人が、普通に話していた人が、今日はもう動かない。


人の命の儚さを、その少女はその身に体現していた。



怜「竜華!警察!早く!」

竜華「わ、分かった!!!!!!!」



急いでウチは警察に連絡した。ひと呼吸おいて、110。松実館の場所と、事件現場の状況を手早く告げた。



そして部屋に戻ると……そこは、驚きと悲しみと、失意に満ち溢れとった。

安福さんは森垣さんの体を、必死に揺らしながら、『目を開けて』『なんで』、と泣き叫ぶ。

部長さんは顔を真っ青にしてうなだれとる。

美幸ちゃんと、依藤さんは、呆然として何も考えられんみたいや。



ウチにもいったい、何がなんやら……訳がわからん。なんでこんなことに、なったんや。


竜華「怜…ウチ、なんて声をかけたらええか……」

怜「……」

宥「ど、どうしよう。うちの旅館で、人が……」

竜華「とりあえず、もうすぐ警察の人が来るから、事情聴取受けて……それから、考えよ。な、宥ちゃん?」

宥「う、うん……」



怜「……」

竜華「怜、どしたんや…森垣さんの顔をじっと見て」

怜「いや……」

竜華「こんなときに、落ち着いてられる怜は流石やな」

玄「あれ、皆さんお揃いでどうしたんですか?」

竜華「玄ちゃん……」


一旦部屋の外に出て、玄ちゃんにも事情を説明した。

聞いてるうちに、玄ちゃんの顔はどんどん真っ青になっていった。


玄「そ、そんな……ほんとうなんですか?」

竜華「うん……」

宥「こんなときにあれだけど、玄ちゃん。朝ごはんの準備は、遅らせていいから……」

玄「あ、おねえちゃん……分かった」

竜華「あ、あれ?怜は?」

宥「あのそれが……まだお部屋の中にいるみたいで……」

竜華「へっ?」



怜「………」


部屋に戻ってみると、怜が部屋中をうろついとった。

劔谷の人たちは咎めるでもなく、怜と森垣さんを交互に眺めとった。声を掛ける気力もないみたいや。


竜華「ちょ、ちょっと怜?なにしとるん」

怜「見とるんや」

竜華「見とるって、何を?」

怜「耳貸して」

竜華「?」


竜華『それで、何を?』

怜『この部屋と、この人たち』

竜華「なんで……?」

怜『証拠隠滅されたら、適わんからな』

竜華『ちょ、それどういう意味? まさか、怜……』

怜『あくまで可能性の話をしとるだけや。あの顔…チアノーゼを起こした後の斑点がある……たぶん窒息死や』

怜『たぶんあれは――――――殺人や。誰かに殺されたんや』

竜華『う、うそっ』

怜『その可能性がある限り、あの中に犯人がおらんとも限らん。
  やったら、ウチがここを離れたら……残っとる証拠を隠滅される恐れがある』

竜華『そ、そんな』

怜『竜華は、松実姉妹を見張っとって』

竜華『あの二人まで疑うん?!』

怜『……可能性のはなしや、言うとるやろ。極論言うと、ウチは竜華だって疑うで』

竜華『……』

怜『さすがに今のは冗談やけどな……とにかく、警察が来るまでの辛抱や。頼むで』

竜華『うん……分かった』


しばらくすると、警察と鑑識が来た。

そしてウチらは事情聴取を受けることになった。

事情聴取を受けるなんて、割とまっとうに生きとったウチには初めてのことやった。



「刑事の弘世だ。今から事情聴取をさせてもら………ん?」

怜「あっ」

菫「…………またお前か」

怜「お久しぶりです、弘世刑事」

竜華「えっ、二人知り合い?」

怜「スープスパのアレの時の刑事さんがこの人や」

竜華「ホンマか、偶然の再会やね」

菫「お前とまた一緒とは……どういう縁だろうな。まさかまだ探偵ごっこを続けてるのか?」

怜「ごっこ遊びは子供の時に卒業しましたよ」



あれ、もしそうやとしたら、前回の事件は怜のおかげで解決できて……

怜は、弘世さんの手柄に一役買ったことになるんやろうか。

刑事さん、怜を認めたくないんかなぁ。お株を奪われるみたいな感じがして、面白くないとか。




菫「被害者は森垣友香、茶道部の下級生。死因は、窒息。死亡推定時刻は昨夜午前3時過ぎ」

菫「死亡場所は…おそらくこの部屋か」

菫「……部屋の鍵は閉まっていたのか?」

宥「い、いえ、鍵は開いてました…皆さんが起きてこなくて…それで私が部屋を開けたので、間違いないです」


菫「そうか。しかし、森垣さんが移動した形跡はない。この部屋で死亡した可能性は高いな」

美幸「信じられないよ、友香ちゃんが……」

莉子「うっ、ぐすっ……」

菫「胸中察するが……昨晩の様子を聞かせてくれないか」

梢「それじゃあ……部長の私から、説明させていただきます」

菫「頼む」

梢「昨晩、夜稽古が終わったあと……いつもどおりの就寝時間になって、私たちは寝ました」

菫「夜稽古とは?」

梢「合宿のメニューの一つです。一人当番を決めて、その人が全員にお茶を振舞います」

梢「そして担当者の礼儀作法やお茶の感想を言い合う場です」

菫「ふむ」

梢「それを終えて……いつもどおり寝ました」



菫「それは何時くらいのことだ?」

梢「……確か、0時だったと思います。合宿では規則正しい生活をするように決めてますので」

梢「ここ4日間ずっと0時が就寝時間でした」

菫「それで、起きたらこうなっていたと?」

梢「そうです……」

菫「何か気がついたことないのか。昨日までと今日で、違うこととか」

美幸「気がついたこと……あ、今日起きたらですけど、少し頭が痛かったです」

菫「頭痛か」

梢「私もです」

菫「何?もしかして、他の二人も、か?」

澄子「ええ……私も」

莉子「なんだか、体が重かったです」

怜「………」

美幸「しかも普段は全員で同じ時間に起きるし、目覚ましもかけてるんですけど……今日は誰も起きなかったんですよね」

澄子「確かに、おかしい……」



怜「もしかして、睡眠薬でも飲んだんやないですか?」

梢「えっ、まさか……」

菫「お前、もうごっこ遊びは卒業したんじゃないのか」

怜「すんません」

菫「まったく……」

怜「でも、鑑識いるんですから、念のため調べたほうがええんとちゃいますか?」

菫「……はぁ。言われなくても、するさ。睡眠薬を摂取する経路といえば食事か」

玄「……」

菫「調理場は調べさせてもらう」

玄「は、はい」

怜「あと、この人らたち、茶道部なんですよ」

菫「……何が言いたい?」

怜「飲む、と言ったら。と思っただけです。独り言です」

菫「………古塚さん、茶葉や茶具を調べさせてもらってもいいか?」

梢「え、ええ。構いません」

菫「他に、気が付いたことはないか。なんでもいい」

梢「あの……」

菫「何か思い当たったか?」

梢「先ほど女将さんは部屋の鍵が開いているとおっしゃってましたが……寝る前に、私たちは確かに閉めました」

美幸「そ、そうだよね。毎晩閉めてから寝てたし、間違いないよ」


菫「ほぅ……ということは?」

菫「誰かが鍵を開けたのか。その鍵の場所を把握しているのは、旅館の従業員……か」

宥「……」

玄「……」

竜華「ちょ、ちょっと。何が言いたいんですか?」

菫「女将と女中なら、いつでも好きに部屋に入れると言ってるだけだ。睡眠薬も飲ませていれば、気づかれることもない」

竜華「……ッ!」

怜「落ち着いて、竜華。まだ事情聴取は終わってないで」

竜華「……」

菫「二人は、昨晩は?」

宥「私は……お部屋の皆さんが寝静まったら、寝るようにしています。昨晩は2時頃には寝ました」

玄「私は朝食の仕込みが終わったら寝ます。昨日は2時半頃に寝ました」

菫「なるほど。園城寺と、そちらの…清水谷さんは?」

怜「ウチらは、1時くらいには寝たと思います。特に変わったことはしてません」

菫「そうか、分かった。とりあえず事情聴取を終わる」

菫「今から旅館全体の調査を行う。それまで劔谷の人たちは、別途用意した部屋に」

菫「松実姉妹と園城寺たちは各自部屋で待機していてくれ」


《三日目 自室》



竜華「大変なことに、なってしもたな……」

怜「せやな」

竜華「これって、殺人事件なん?」

怜「ウチはそう思う」

竜華「……ねえ、怜。まさか宥ちゃん、玄ちゃんじゃないよな…?」

怜「どうやろな。今んとこ怪しまれとるけど」




怜は、頭を掻きながら、手帳にいろいろ書き込んどる。

さっきの事情聴取をまとめとるみたいや。



竜華「う、ウチは信じる。あのふたりは……絶対そんなこと、せんって」

怜「………」

竜華「怜はそう思わんの?」

怜「そんなことせんと信じたいよ。けど、犯行が可能やったんは、今のところあの二人や」

竜華「怜!!」

怜「今のところ言うとるやろ。劔谷の人らは、おそらく全員強烈な睡眠薬飲まされとる」

怜「せやなかったら、全員が全員、10時間も起きへんわけないしな」

竜華「……」

怜「ただ……」

竜華「?」

怜「松実さんたちは、犯行に及んだ可能性は低いと、ウチは踏んどる」



竜華「そ、それはなんで?」

怜「『鍵』や。犯行に及んだあと……鍵を開けっ放しにして立ち去るとは思えん」

竜華「あっ…」

怜「管理しておる立場を利用して犯行に及ぶなら……きちんと鍵を閉めると思う。もしかしたら劔谷の誰かが」

怜「松実姉妹に罪を被せるために、わざと鍵を開けっ放しにした可能性もある」

竜華「な、なるほど」

怜「もしそうやとして、劔谷の誰かが犯人やとして」

竜華「そうやとして?」

怜「どうやって睡眠薬を回避したんか。それが分からん。回避して、どうやって、夜中に犯行に及んだか」

竜華「ふむふむ」

怜「あと、最大の謎が残っとる」

竜華「それは?」

怜「殺し方」

竜華「殺し方……確か窒息死やろ?」

怜「それは鑑識で調べた結果からも間違いない。竜華、あの死体見た?」

竜華「死体って……いや、あんまりまじまじとは見てへんけど」

怜「あの死体……綺麗すぎるんや」


竜華「どういうこと?」

怜「首を絞めたりした後がない」

怜「窒息言うたら、絞殺や、水死や、気道にものが詰まって死ぬパターンとかいろいろいあるけど」

怜「喉に何かが詰まった様子はなかったし、体も全体的に綺麗やった、暴れた様子もない」

怜「いくらキツい睡眠薬を飲まされとっても……窒息しそうになったら、起きるはずなんや」

竜華「無抵抗のまま、死を受け入れたとか」

怜「…………」

怜「どちらにせよ、凶器も見当たらんし、分からんことだらけや」



怜は、手帳にいろいろ書き込みながら、頭を捻る。

この子が事件を解こうとする姿、美穂ちゃんのときぶりやな………ん?


竜華「ねえ、怜。今回報酬ないで?やのに働くん?」

怜「……」



すると、怜の手の動きがぴたっと止まった。



怜「普段やったら―――無償では絶対動かん。でも」

怜「松実館に来れたんは、泉のおかげやけど、元を辿れば……松実姉妹のおかげや」

怜「今回の旅行代として、二人の疑いを晴らす、くらいのことは、しようと思った」

怜「それだけや。あの二人が犯人の可能性もあるけどな」



竜華「ふ~ん……」

怜「な、なんや、ニヤニヤして」

竜華「いやいや、園城寺さんも人の子なんやなと思て」

怜「竜華こそ、ウチをなんやと思っとんや……」

竜華「現ナマ以外では動かんタイプやと思っとったわ」

怜「どんなタイプやねん……ま、間違ってないけど」




怜「どちらにしろ、今回こうした事件があったんや。この旅館の未来は、今度こそなくなってしもうたかもな……」

竜華「……」

怜「……ちょっと、聞き込みに出てくるわ。さすがに情報が足りなさすぎる」

竜華「ウチも行くよ。怜だけじゃ心配や」

怜「ありがと。じゃあ、通訳頼むわ」

竜華「えっ? みんなと言語レベルでの隔たりがあるんっ?!」





園城寺怜、清水谷竜華―――――調査、開始。

今日はここまで


4章、書けば書くほど長くなってますが……あと、3回分投下くらいで終わると思います


見てくれた人、ありがとう
それでは、おやすみなさいー

見落としがちだけど、剣谷ってみんなかわいいんだよね

佐藤さんかわいい

>>303
やってしまいましたなぁ

つづき


いきなり劔谷の人たちに会いに行くんは気が引けたから、まず松実姉妹の部屋に来た。



怜「あの、松実姉さん、妹さん…少しお話聞いてもええですか?」

玄「お話、ですか?」

宥「何かな? もしかして……二人も、私たちがやったって思ってたり……?」



そういうと、宥ちゃんは悲しそうに俯いた。

そんな悲しそうな顔せんといて! ああっ、泣かんといてっ! うるうるせんといてっ!!



竜華「ちゃ、ちゃうちゃう! 宥ちゃんには言ってなかったけど、実は怜は探偵なんや!」

宥「えっ、探偵……?」

怜「うん」

竜華「やから、安心して。二人の無実は絶対晴らすから」

宥「探偵……本当にそんな職業あるんだ。あっ、失礼なこと言っちゃたね。ごめんね」

怜「ええよ、ところで二人とも、なんか気が付いたことない?」

玄「うーん……私は、特にないかな……ごめんなさい」

宥「気がついたこと? あっ、そういえば」

怜「なんか、あった?」

宥「昨日、2時くらいに寝たんだけどね……それから1時間くらいしてからどこかから音が聞こえてきて」

宥「目を覚ましちゃったの……あれは、なんだったのかな」



怜「……」


音?あれ、昨日、怜も言っとったけど

あれはただの物音じゃなかったん…?


怜「それ、どんな音やったか分かる?」

宥「どこかで聞いたことのあるような音だったんだけど、そのとき眠くてすぐ寝ちゃって……思い出せないや」

怜「一時間後ってことは、3時くらいか」

宥「ごめんね、私に分かるのは、これくらいだよ」

怜「いや、ありがとう。助かったわ」



―――――――――――――――――――――――――――



怜「次は劔谷のみんなやな」

竜華「うん。でも、行きづらいな…」

怜「……」

菫「お前ら、何をやってる?」

竜華「あっ、刑事さん……」

菫「容疑者は各自部屋に待機だと言ったはずだが?」

怜「……」

竜華「あ、あのっ、ウチら……」

菫「先ほどごっこ遊びはやめたと言ってなかったか」

怜「……」



菫「ごっこ遊びじゃないということは……お前、まさか本気で調査してるのか」

怜「……」

菫「……」



二人は、対峙して一歩も動かん。

少し、緊張した空気が漂っとる。けど、怜は刑事さんから目をそらす気配はなかった。



菫「前回のことで、味を占めたのかもしれないが……もうやめておけ」

怜「……」

菫「余計なことはするな。捜査の邪魔だ」

怜「……分かりました」


そう言うと、弘世刑事は立ち去った。意外と厳しくは言われんかったけど。

普通は捜査の邪魔って思うわな。仕方ない。




怜「さて、劔谷部屋いくで」

竜華「刑事さんのことまるで無視?! 注意を受けてこの間、わずか5秒足らず!?」

怜「え?無視なんてしてないで」

竜華「だって、聞き込みはもうやめろって」

怜「そんなこと一言も言われてない。ただ『余計なことするな』って言われただけや」

怜「今からやることは、余計なことやなことやなくて、必要なこと。従って邪魔にもならへん」

怜「以上、行くで」

竜華「清々しいほどの屁理屈や……



怜「こんにちは、少し、お話聞いてもええですか?」

梢「園城寺さん」

美幸「二人とも……」

莉子「お話……?さっき、したよ……もう、私……私……」

澄子「莉子……」




劔谷の人たちは……さっきよりはだいぶ回復したみたいやけど、見るからにまいっとった。

突然部員の一人が死んでもうたら……そうなるんも、無理ない。

特に、同級生やった安福さんは、かなりショックを受けとるみたいや。



怜「あの」

莉子「もう、話すことなんかない!出て行って!」

竜華「……」




アカン…ここで話し続けることは、火に油を注ぐようなもんや。

冷静な人に、絞らんと。比較的冷静なんは




竜華(怜、冷静な人に絞ったほうがええで)

怜(せやな)

竜華(差し当たっては……)


梢「それで、私たちですか」

美幸「あははー……そこまで、冷静ってわけじゃないんだけどな」

怜「それで、少し聞きたいことがあるんです」

梢「なんですか?先ほどお話できることは、警察の方にお話したと思いますが……」

美幸「そうだね。他に話せること、あるかな」

怜「じゃあ……この合宿のメニューについて、とか」

梢「メニューですか?午前はミーティングとお茶菓子の研究をして、午後から全員で礼儀作法の確認を行います」

梢「夜は、先ほど話したとおり、毎日夜稽古を行いました」

怜「毎日同じ時間に起床、就寝しとるって聞いたんですけど、きっちりしてますね」

梢「そうですね、生活のリズムをきちんと作ることで……長い稽古にも耐えられるようになりますからね」

怜「なるほど。どうしてこの場所で合宿を?」

美幸「うちが合宿するときはいつもこの旅館を使わせてもらってるんだよ。同じ場所ならいろいろ勝手も分かるしね」

梢「近くて、人が少ないのも理由の一部ですね」



お客さんが少ないのを、いいと思ってきてくれる人も、おるんやな。

確かにこの広さで人が少ないと、合宿とかには最適なんかもしれん。



怜「あ、今は道具はお部屋にないんですね」

美幸「検査するって、警察の人に持って行かれちゃった」

梢「ですが、茶具は稽古終了時に毎回洗うので……」

美幸「睡眠薬入ってたとしても、分からないけどね……」

美幸「ああもう、睡眠薬が入ってたとか考えるの、恐ろしくて考えたくないよもー」

怜「でも、全員が起きれへんかったいうことは……やっぱり飲んでた可能性ある?」

梢「……そうかもしれませんね。いつも全員で7時に起きるので」

美幸「確かに、おかしいよね。梢ちゃんが作ってくれたメニュー通りにこなしてきたから、起きてると思うんだけど」

梢「誰が、入れたのでしょうか。やはり、女将さんたちが……? そうだとしたら、なぜ?」

美幸「うーん、友香ちゃんを殺したのも……? 」

竜華「で、でも夜稽古で飲んだお茶の中に、睡眠薬が入ってた可能性もあるんやない?」

梢「もしそうなら……あなた方も飲んでるはずですが」

竜華「あっ」

美幸「そうだよね、同じ茶具と同じお茶っ葉で飲んだんだから」

怜「……」

梢「他に何かありますか?できれば、気落ちした後輩を、元気づけてあげたいのですが……」

美幸「そうだね。莉子が、特に心配だよ……」



これ以上詮索するのは、悪いかな。

冷静に見える二人とはいえ、悲しみを必死で堪えとるはずや。



竜華「怜、もうこれ以上は」

怜「最後に、ひとつだけ」



怜はこれを聞かずには帰れない、と感じ取れるような強い口調で、言った。



怜「被害者だった森垣さんは……どんな方でしたか?」

梢「…」

美幸「…」



この質問は、二人も胸にくるものがあったみたいで

少しの間をおいてから……部長さんが沈黙を破ってくれた。



梢「……そうですね」

梢「少し、変わった方、という表現が適切でしょうか」

怜「変わった……?」



美幸「そうだね、あの子は帰国子女ってこともあって、割と奔放な性格って感じ」

美幸「言いたいことははっきり言うし、自分のやりたいことは我慢しない子だね」

竜華「お嬢様っぽくない感じ?」

美幸「まあ、うちの学校には珍しいタイプだね」

梢「ええ。お二人も見たと思いますが、正座が苦手で……稽古中も度々足を崩します」

竜華「ウチより正座ができんのには、ちょっとびっくりした」

美幸「そうだよね、我慢するように言ってるんだけど、普段から全然直そうとしないかったんだよもー」

梢「確かに茶道でああした動作は、認められるものではありません」

梢「……ですが、それも一つの個性です。どちらが馴染むべきか……私たちも考えなくてはなりません」

美幸「そうなんだよね…あの子、作法は無茶苦茶だけど、点てるお茶はすごくて」

梢「……私より上手なことも、多々あります」

怜「……」


美幸「それで、OGから副部長に任命されたんだ、次期部長候補だったんだよ……」

竜華「ええっ?! あの子がっ?!」

梢「ええ、そうです」

竜華「ちょ、ちょ待って? 学年は一番下やろ?
   次期部長は、古塚さんと美幸ちゃんの一個下の、依藤さんになるんじゃ……?」

梢「関係ありません、うちの部長は代々指名制ですから……例え2年生であろうと部長になることはあります」

竜華「そう、なんやな。実力主義ってやつか。すごい世界や……」

梢「こんなところでしょうか。よろしいですか」

怜「はい。おおきに、失礼します」




――――――――――――――――――――――――――




それから部屋に戻ってきて、怜は、早速手帳を…開いて…あれ?


怜「……」

竜華「あ、あれ? 怜? どうしたん? 手帳に書かへんの? 推理せんの?」

怜「す、する…ちょ、ちょっと待って……」

竜華「もしかして、体、つらいん?」

怜「ちょっとな……昨日から、時々…でも、聞き込み中に、発作起きんでよかった……ふぅ……」



よく考えてみれば…慰安旅行とはいえ、それがたったの三日間とはいえ……怜は外で活動しとったんや。

ある意味、身体は不慣れなことをしとる……その疲れが溜まっとっても、おかしくない。



竜華「だ、大丈夫? 布団片付けられてしもたし、膝枕しよか?」

怜「うん、お願い……」



怜は、ウチの膝に頭を乗っけて……しばらくすると寝息をたて始めた。

少し、無茶させすぎたやろか。これでも、前よりはずっと良くなったんやけどな。



竜華「暇や。どうしよか……」


竜華「……怜が起きるまで、待っとくか」





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――






あの人、いろいろ嗅ぎまわって……面倒だ


このままだと、トリックがバレてしまう可能性は―――――いや。


絶対、見つからない。大丈夫だ。分かるはずがない。



そして、警察と鑑識による捜査は一旦終わり、ウチらは再び集められた。

今度はその調査を踏まえての、二回目の取り調べっちゅうことになる。

ただ……怜は、まだ目を覚まさんから、心配やけど部屋に置いてきた。



菫「……劔谷の人から預かった茶具、茶葉からは睡眠薬は検出されなかった」

菫「そして――食堂から、睡眠薬が入ったビンが出てきた」

玄「!?」

宥「えっ、う、うそ!」

菫「……この調査結果と、劔谷の部屋の鍵が空いていたという点を考えると」

菫「二人が、重要参考人……いや」

菫「犯人である可能性が高い」

玄「す、睡眠薬なんて私知りません!」

宥「そうです、玄ちゃんはそんなことしません!」

菫「だがな。どうやって証明する。お前らが犯人でないと」

菫「部屋には鍵がかかっていて、園城寺と清水谷は入れない」

菫「睡眠薬は茶具や茶葉から検出されず……食堂にそのビンがあった。劔谷の人たちは、おそらくシロだ」

菫「何か、反論はあるか」



ウチは、沸々と怒りが湧いてきた。

玄ちゃんが、誰よりも旅館を、お客様を大切にする玄ちゃんが

食事に睡眠薬を入れる? 絶対、ない!



竜華「この子らは、絶対そんなことせん!」

菫「……それは、反論と言わん。私情が入った、ただのお前の個人的見解だ」

竜華「っ!」



「あるでぇ……反論やったら」



菫「何?」

竜華「怜!」



休んどったはずの怜は……軽くふらついて、この場に現れた。

倒れそうな体をなんとか持ち直して、言葉を続けた。



怜「反論や……耳かっぽじって、よく聞けや、アホ」

菫「……貴様、いい度胸だな」

怜「度胸? せやな。昔から、心臓は人一倍弱いから、胸の鼓動には敏感やで」



菫「……」

怜「睡眠薬を、わざわざ……食堂に置いとく理由はなんや。部屋の鍵をわざわざ開けっ放ししとく理由はなんや」

菫「理由なぞ裁判で散々吐いてもらえばいい。そんなものは必要ない」

怜「そして、この事件の凶器は……特定したんか。どうやって、森垣さんは殺されたんや」

菫「それは……現在特定中だ」

怜「それが分からんのやったら……勝手に、犯人、決め付けるん……やめーや」

菫「……じゃあ聞くが。この二人が犯人じゃないとして、誰が犯人だと?」

菫「そしてその犯人は、睡眠薬をどうやって劔谷の人たちに飲ませた?」

怜「……」

菫「分からないだろう。だったら、状況証拠の多い方を選ぶまでだ」

菫「悪いが、身柄を確保させてもらうぞ」





怜は、それに対して何も言い返せんかった。

この旅館での全体の捜査が終わったら、宥ちゃんと玄ちゃんの身柄を確保されることが決まった。

それまで、二人は荷物の整理だけ行うことを許された。



《三日目 自室》


視点:怜



最後、なんも言い返せんかった。よくもまあ、偉そうに切り出せたもんやな。

結局あの状況を変えられんかった。相変わらず身体の調子は悪いし、最悪や。何やっとるんや、ウチは。




竜華「怜……」

怜「こういう時に、もっと元気やったら」

怜「たくさん、捜査できたのにな……」

竜華「珍しく、弱気やん」

怜「人間やもの。とっきー。」

竜華「アホ、こんなときにふざけよって……」

怜「……」




ここまできたら……絶対ウチが暴いたる。

体が動かんのやったら、頭を回せ。

脳みそ、酷使するんや。それしか、ウチには取り柄なんてないんや。



考える。分からないことは、三つ。

どうやって睡眠薬を飲ませたのか。

どうやって、犯人は睡眠薬を回避したのか。

そして、どうやって森垣さんを殺したんか、その凶器は何か。



だめや……痕跡が、全くない。

情報が少なすぎて、どうにもならん。



「あ、あの……」


竜華「あっ……玄ちゃん」


玄「これ……ご飯、少しですけど……作りました。園城寺さん、体調がよくないみたいなので」

玄「栄養補給しないと、倒れちゃいます。良かったらどうぞ」


竜華「こんなときに……」

怜「……おおきに」

玄「いえ。整理する荷物もあまりないですし……作る時間はさすがになかったので、インスタントですけど」


それでも、ありがたい。頭を回すんにも、栄養がいる。

ありがたく、いただくで。



竜華「玄ちゃん、ありがとう」

玄「いえ……お湯はそこにポットがあるので、使ってください」

怜「……」

玄「それと……もうこの部屋の布団は洗濯しちゃいましたから、新しいの出しますね」

玄「良かったら、それでもう少し休んでいってください」

竜華「予備あるん?」

玄「はい、昔はお客さんがたくさん来てたので、いっぱいあります」

玄「盛況過ぎて、布団が足りなくなることもよくあったんです。だから……」


そう言って、妹さんは部屋の押し入れを開けた


玄「ほら、ここにたくさん、入ってるんですよ」

竜華「……? それ、布団なん?」


目に飛び込んできたのは、板のようなプラスチックををぺしゃんこにしたような物体

それが積み重なって、地層みたいになっとった


玄「ほら、こうして圧縮すれば、三倍くらいは入るんですよ!」

玄「もう……使う人、いないんですけどね」


竜華「あーこれ便利よなーウチも昔、オカンが使っとったわ」

怜「…………えっ?」



えっ―――――――――いや―――――え?

じゃあ、あの時ウチが聞いたんは―――――



竜華「怜、どうかしたん?」

怜「ね、ねえねえ、妹さん」

玄「なんでしょうか」

怜「さっき盛況やった頃は、布団が足りんなったことも、よくあったって言っとったな?」

玄「はい。多い時は、予備を含めても足りなくて……」

怜「じゃあ……ごにょごにょ……」

玄「えっ? そうですよ。もちろんです」

怜「もう一個だけ。えっとな………」

怜『――――――』

玄「えっと……確かに、誰でも使えるようにしてます」

玄「基本的に、私たちの仕事ですけど……」



ああ、なるほど

道理で、見つからんわけや。体も、綺麗なままなわけや



怜「ありがとう、妹さん……助かった」

玄「?? じゃ、じゃあ……私は失礼しますね」



――――――――――――――――――――――――――――――



竜華「怜、まさかなんか分かったん?」

怜「まあな……」

竜華「ほ、ホンマにっ!?」

怜「………」



でも、まだ……睡眠薬の謎が解けてない。

犯人の目星も、全くつかへん……一歩前進したとはいえ、これじゃ……



竜華「一歩前進してよかったな!」

竜華「じゃあ怜、玄ちゃんが持ってきてくれたご飯、食べようや。栄養つけんと頭回らんで?」

怜「あ……そうやな」



竜華「インスタント味噌汁か~玄ちゃんの手作りお味噌汁が恋しいなー」

怜「せやな……」

竜華「ほら、お湯入れたで。よくかき混ぜてな」

怜「うん」

竜華「インスタントって便利やな……味は落ちるけど、やっぱり忙しい時はありがたいわな」

竜華「今回は、こんな形で役に立っとるのが、悲しいけど……」

怜「……」



スプーンで、味噌汁をゆっくりとかき混ぜる。

さすがに旅館だけあって、使っとる陶器も高そうやな。

そんな目利きはないけど、なんとなくそんな気がする。



竜華「混ざった?」

怜「うん。いただきます」

竜華「ふふ、そこは『お点前頂戴いたします』やろ?」

怜「もう、やめてーな」

怜「普通の食事まで、茶道の礼儀作法は勘べ……」


あ、あれ?これ、どっかで――――


怜「……」

竜華「怜? 急に黙って、どうしたん?」



あの時、確か……あの人……


     |: : : : : : : : : : : : : : :./ _//  }: }: : : : : : : :./ |: :|___}: : : : : : : : : : : |
     |: : : : : : : : : : : : : :./ // ` //|: : : : : : : /´ l:./     |/|:..: : : : : : : : :|
     |: : : : : : : : : : : : :./ /イ  〃 ,:ィ: : : :../  〃    ,ノ : : : : : : : : : :.|
     |: : : : : : : : :..:.ト、/___j!__,/__/ /: :../   /_,j!______  |【綺麗な死体】
     |: : : : : : : : :..:i!〃つ。ノ.V/l|\-‐ ´    '´つ。ノ.V/l}㍉ |: : : : : : : : : ハ
    ,: : : : : : : : : :fヘヽ弋l(......)ツ           弋(......)lツ / ,:イ : : : : : : : : :.
.  【聞こえた音】:: :| i  ¨¨¨¨¨           ¨¨¨¨¨  / |: : : : : : : : :
    i.| : : : : : : : : :.|  ,  :.:.:.:.:.:.:          :.:.:.:.:.:.:.   ,  |: : : : : : :..:..| |i
    |ハ: : : : : : : : : |  ′:.:.:.:.:.:.:.:     '       :.:.:.:.:.:.:.  ′ノ: : : : : : : : :| ||
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    || l: : : : : : : : : : : :.∧                  /: : : : : : : : : : : : , l|
【スケジュール】 :: : : : : :个:..      ´  ̄ `      ..:个: : : : : : : : : : : : ゚ リ
       \}: : : : : : :.ト、: : : : >...         イ: : : : : :【使い慣れた旅館】
         \: : : : い乂: : : :..:.| >  __  <│: :j: : : :./}: :/}: : : :/j/
          `ー―ヘ   ヽ}ィニ|           |ニヽ:ノ}ノ/_,イノ ィ
           __ -=ニニニニニノ           ∨ニニ=- __

                    【夜稽古】



怜「……そうか。あのスケジュールも、全部そういうことか」

竜華「えっ、急になんやの?」

怜「いや……感心しとんや。よう思いつくなって」

怜「とにかく、お待たせ竜華。体調も戻ってきた。しばらくはもちそうや」

竜華「も、もしかして?」

怜「せや……全部分かったで。今回の事件も――――ウチが解き放つ」

今日はここまでー


思ったんですけど、こういう長いやつより今までの1~3章までの短いやつの方がいいですか?
この章は少なくとも長編ですが


次回から解決編です
一応これまで出た内容である程度は推理できるようにしました(現実に適用できるとは言ってない)


読んでくれた人ありがとう
では、おやすみなさいー

今日は更新無理っぽいので、明日やります

明日完結予定っす

なるほど、これくらいなら大丈夫って感じですね


つづき




視点:竜華



菫「捜査は終わった。松実姉妹、連行させてもらうぞ」



ロビーに出てきたら……ちょうど二人が連れて行かれるところやった。

ギリギリのタイミングで、間に合った!



玄「おねえちゃん……」

宥「玄ちゃん、大丈夫だよ。私がついてるからね……」

菫「さあ、行くぞ」

怜「ちょい、待って」

菫「はぁ……今度は、なんだ」

怜「その二人を連れて行くの、待ってください」

菫「……お前、いいかげんにしろよ」



怜「でも、待ってほしいんです」

菫「また推理を聞け、と言うんじゃないんだろうな」

怜「……」

菫「私にも許容できるリミットというものがある。いいか、おとなしく警察に任せておけ」

菫「だいたい、こんなことをしてお前に何の得があると言うんだ」

怜「……」

怜「手柄は……全部、弘世刑事のもんです」

菫「何?」

怜「だから、今回だけ、お願いします」

菫「手柄……だと。まさか、お前」

怜「犯人、分かりました」

菫「……本当なのか」

怜「はい」

菫「しかしだな……それが間違いという可能性もある。前回とは、違う。容疑者も多い」

菫「不確定要素もたくさんある。それなのに、お前は――」

怜「確信、あります。今度は100%」


怜の真剣さに、動かされたどうかは分からんけど

弘世刑事はそれを聞いて、そこに立ち尽くした。

それから、すぐのことやった。



菫「……それで」

怜「え?」

菫「どうしろと、言うんだ」

怜「あっ……ぜ、全員を集めてください。それと、一つ――」

怜「―――お願いがあるんです」



《三日目 午後1時 劔谷部屋》



菫(私は……甘い人間だろうか)

菫(本当に捜査から排除したければ、取り調べの時点で、もっとキツく注意することもできた――でも、しなかった)

菫(正直、手柄なんてどうでもいい……前回、鮮やかに事件を解いた園城寺の姿が……今でも目に焼き付いている)

菫(もしかしたら、などと考えてる馬鹿な自分がいる)

菫(しかし、あのお願いの意味が分からない。何に使う気だ?)




梢「この集まりは……何でしょうか」

美幸「うーん、また取り調べかな? もう答えることないよもー……」

莉子「……」

澄子「そろそろ、私たちも帰って……今回のことを、報告しなきゃいけない……」

澄子「私が、しっかりしなきゃ……」



劔谷の人らは、安福さんを除いて、だいぶ落ち着きを取り戻したみたいで

依藤さんは、なんだか決意したような顔をしとった。

そっか、今回の事件で次期部長は、依藤さんになるかもしれへんな。



怜「えっと……集まってもらったのは、他でもありません」



怜「今回の事件の、真相を話したくて……この場に集まってもらいました」

美幸「しんそう……? それはどういうこと?」

梢「先ほど、全ての決着がついたように思いましたが……」

怜「それは……真犯人が仕掛けた、ワナです」

美幸「ええっ?!」

澄子「……」

怜「森垣さんを殺した犯人は……この中にいます」

莉子「……女将さんと、女中さんのどちらかが……友香ちゃんを殺したって……」

莉子「……それで、終わったんじゃ、ないんですか……」


安福さんは、恨めしそうに、宥ちゃんと玄ちゃんを見た

だいぶ、精神が不安定になっとるみたいやな……



怜「いえ、違います。犯人は」



怜「劔谷女子高校の皆さんの中にいます」



怜は、ひと呼吸おいて、そう言い切った。



梢「……園城寺さん、それは本気で言ってるんですか」

美幸「そ、そうだよ。私たちの中に、そんなことする人はいないよ!」

莉子「冗談じゃ、済まないよ。適当なこと言ったら、私許さない……」

澄子「………」

怜「じゃあ、はっきり言うわ。森垣さんを殺して……松実姉妹に罪を被せようとしたんは……」




怜は、4人のうちの一人を、指さした



怜「アンタや―――――古塚梢」


梢「………」



美幸「はぁああああっ!?」

美幸「ちょ、ちょ、ちょっと待って! そんなわけないよ! なんで梢ちゃんがそんなことを!」

莉子「部長が……?」

澄子「……」


梢「園城寺さん、どういうことでしょうか」

梢「いろいろと、誤解をされてるようですが……私も、そういう風に名指して貶められると、気分がよくありません」

怜「いや、アンタは……口調は清楚で大人しいけど、とんでもない女や」

梢「……そこまで言われると、流石に私も黙っていられませんね」

梢「いいでしょう、話を聞かせてください」



怜「……まず、ウチがアンタに疑いをもったのは、本当に些細なことからやった」

梢「……」

怜「それは、これや」


怜は、とある固形物を古塚さんに出して見せた


梢「それは……インスタント味噌汁ですか」

怜「そうや」

梢「意味が分かりません…… 一体それから、どういう知見を得たというのでしょう」

怜「竜華、ポット持ってきて」

竜華「分かった」

怜「こうやって、お湯を注いで……っと」

梢「……」

怜「はい、どうぞ」

梢「……これを食せ、と?」

怜「でも、このままじゃ美味しないな。これでかき混ぜてや」

梢「……」


言われるがままに、古塚さんはスプーンを受け取って……回し始め――


怜「ストップ!」


梢「?」

怜「今の状態……透明なお湯の中に、味噌が沈んどるやろ」

梢「そうですけど……それが?」

怜「ええよ、混ぜて」

梢「……」


不審そうな顔をしながら、古塚さんはかき混ぜる。

やってることは、ただのインスタント味噌汁の作成や。


怜「これでインスタント味噌汁のできあがり」

梢「……これが何か?」

怜「あんたは、これを利用したんや」

梢「どういう……ことでしょうか」



怜「あの夜稽古のことや。これを利用して、アンタは自分以外の全員に睡眠薬を飲ませたんや」

梢「……」

美幸「ちょ、ちょっとちょっと! あの時お茶を点てたのは私だよ?!」

美幸「自分が犯人だなんて、全く言うつもりはないけど……それでも、梢ちゃんは茶具に触ってすらいないんだよ!」

美幸「流石にその推理は無理があるんじゃないかと思うよもー」

怜「誰が点てたかは、重要やない。だって、最初から茶器の中に睡眠薬は入っとったんやから」

美幸「いやいや! もしそうだったら、梢ちゃんは飲んでるし、当然園城寺さんたちだって飲んでることになるよ?」

怜「……それは、ちょっとした言葉の魔法と」

怜「睡眠薬の仕込み方で簡単にクリアできる」

梢「……」

美幸「ど、どういうこと?」

怜「茶道って、茶器から茶葉を取るとき……一番上から、取るやろ?」

美幸「えっ、まあ意識もしてないから、自然とそうなってると思うけど」

怜「やから、最初は睡眠薬は茶器の奥底にあったんや。茶葉に埋もれてな」

梢「……」



※茶器…茶の湯において用いられる、抹茶が入っている容器のこと
    茶杓(匙)で茶器にある抹茶を掬って、茶碗に入れる



怜「あらすじはこうや。まず、古塚さんは、遅効性の強烈な睡眠薬を茶器の底に仕込んだ」

怜「そして、椿野さんはまずウチと竜華にお茶を点てて……」

怜「それから、古塚さんに点てた。この時点で、睡眠薬は誰も飲んでない」

美幸「確かに、そうだったね。でも、その後も私は続けて点てたよ?」

怜「稽古で、いつもやってることかもしれんし、意識がいかんかもしれんけど……」

怜「椿野さん、自分が茶器の中身をかき混ぜたの、覚えてない?」

怜「さっきのインスタント味噌汁みたいに」

美幸「………あっ」



『茶器の中身を、かき混ぜてみてください。うまく配合されてないかもしれません』



美幸「……」

怜「この時や。底にあった睡眠薬が……上にある茶葉と混ざり合って」

怜「全体が睡眠薬入りの茶葉になったんは」

梢「……」

怜「もしかして、夜稽古で一番に味見するのは、必ず古塚さんって決まっとったんやない?」

澄子「そ、そうでした……確かに……」

怜「部長やったら、最初に確かめて、いろいろアドバイスをするいう名目で……自然に飲む順番を最初に持っていける」



怜「合宿中は、茶葉のブレンドに挑戦する場って言うとったな。それを、古塚さんは利用したんや」

怜「自分の部長っちゅう立場と、練習メニューをうまく利用して……
  極めて自然な流れで、自分だけ睡眠薬を回避することに成功したんや」

怜「そして、犯行が終わったあと……自分も睡眠薬を飲んで、眠ればええ」

美幸「そ、そんな……梢ちゃん、嘘だよね……?」

梢「……美幸、落ち着いてください」

梢「園城寺さん」

梢「なんという、流れるような推理でしょうか。驚きです。
  確かに、それなら私だけ睡眠薬を回避することも可能でしょう」

梢「それで、皆が強い睡眠薬で眠っている中……私だけが活動できた。すなわち、友香を殺すことができた」

梢「綺麗に筋が通っています……」

梢「ですが。まだ最大の謎が残ってますよ」

怜「……」

梢「仮に園城寺さんの言ったとおりに、私が睡眠薬を仕込んだとして……」

梢「どのようにして友香を殺すことができたんでしょうか。刑事さんによれば……」

梢「どうやって殺したのか、皆目検討もつかない窒息死だそうです」

梢「死体になんの痕もない、暴れた形跡もない。しかし、確かに殺されている」

梢「それでいて、凶器も見つかっていない……」

梢「そんな殺し方が、あるんでしょうか」

怜「―――――ある。」

梢「!」

怜「しかも、凶器は、綺麗に消してな。今から説明したるわ」



実はウチも怜の仕事ぶりを、こうして人前で見るのは初めて。事件になると、本当によう喋る子や。


そんな中、ふと周囲を見渡すと……玄ちゃんが怜の方をじっと見つめとることに気がついた。


探偵の話を、目を輝かせて聞いとったからな。きっと、興味があるんやろう。


現に、今だって……あれだけ元気がなかったのに、昨日までの目のキラキラが復活しとる。



梢「随分と自信がおありみたいですが…もしその条件で窒息死させることができるなら……」

梢「友香を、水に沈めて溺死させる、くらいのものです。そんなこと、できるわけが―――」

怜「そう、古塚さんの言うとおり」

怜「アンタは友香さんを、溺れさせたんや」

梢「……」

菫「睡眠薬のトリックは分かったが…なんだ溺れさせるって。水なんかないぞ、この部屋には」

怜「あくまで溺れさせるいうても、それは比喩や……水は使わん」

怜「松実のお姉さん」

宥「は、はい」

怜「ちょっと、あるもの持ってきてほしいんやけど」

宥「なんですか?」

怜「――――や。お願い」

宥「わ、分かりました……」


梢「……」

菫「これは……掃除機?」

怜「そうや。これを使って、アンタは森垣さんを、窒息死させた」

菫「……おい、まさかこれを口元に当てて吸引して、呼吸できなくするとか言うんじゃないんだろうな」

怜「ハズレや。流石にそれじゃ、人は殺せんな……凶器は……ここや」


そして、怜は……部屋にある押し入れを勢いよく開けた。


菫「これは……布団、だな。ぺしゃんこになってるが」

怜「そうや、昔はこの旅館はお客さんが多くて……こうして各部屋に予備の布団を置いとったらしいで」

菫「布団で相手を押しつぶして……圧死させた、とかか?」

怜「まさか。そんなんじゃ、致命傷には至らん。だいたい、それやと圧死や」

怜「いるんは袋の方や」

梢「……」

怜「この圧縮袋……今は小さく見えるけど、空気を入れると……ほらっ」



怜は、圧縮袋に空気を取り込んだ。すると、みるみるうちに膨らんで

布団はもとのサイズに戻った。


怜「この圧縮袋が、凶器や」

梢「……」

怜「アンタは、皆が睡眠薬でぐっすり眠っとる中……
 押し入れにあるこの圧縮袋を出して、空気を抜いて布団を取り出した」

怜「そして、空になったこの袋に森垣さんを入れて、チャックを閉める」

怜「……掃除機をセットして、空気を抜く。するとどうなるか」

怜「袋は、森垣さんの全身に……ピッタリと張り付く。もちろん、顔にもな」

怜「それで、鼻や口をピッタリと塞がれた森垣さんは、まもなく窒息死した」

怜「体中に袋が密着して、身動きも取れんかったやろうな」

菫「な、なんと、おそろしい……」

怜「ホンマにな。恐らく、森垣さんはあまりの苦しさに目を覚ましたはずや」

怜「せやけど、ギチギチに固められて指一本動かせへんまま……苦しんで、死んでいった」

怜「狭い空間に閉じ込められて……真空の海のようなもんや。ただし、もがくことも許されへん」

宥「もしかして私があの夜に聞いた音って……」

怜「そうや。部屋を隔てとるさかい、小さくなって気がつかんかったけど」

怜「あの聴き慣れた音は、掃除機の吸引音やったんやな」

怜「茶道部は、毎年この旅館で合宿をしとるようやったから、3年生のアンタは」

怜「押入れの中の圧縮袋の存在を、知っとったはずやで」


梢「……」

梢「これこそ、奇想天外。驚きました。確かにそれなら身体に傷をつけることはない。しかし、そのトリック……」

梢「掃除機が必須のようですが、私たちの部屋にはそんなものありません」

怜「簡単なことや、松実館のを使ったんや。掃除機はロビーの前にあって、誰でも使えるらしいからな」

梢「しかし、松実さん方が起きていたらどうするのですか。
 いつ起きてくるかも分からないリスクは、冒せないと思うのですが」

怜「そこも、アンタは部長という立場を利用して、クリアしようとした」

梢「……」

怜「犯行を4泊5日の合宿の最後の夜に決行したのには、ちゃんと理由がある」

怜「それは、最終日までに松実姉妹の行動パターンを掴むためや」

竜華「行動パターン?」

怜「松実姉妹が夜は何時に寝るか、大体の時間を確認する。これは最終日に少しでも見つかるリスクを減らすため」

梢「ちょっと待ってください。毎日、松実さん方の動向を確認していたのでは……
  他の劔谷の皆さんに怪しまれてしまいます」

梢「夜こっそりロビーに出て行く姿を見られてしまったらどうするのですか」

怜「ところがどっこい、大丈夫やねんな」

梢「なぜ?」

怜「アンタは、それまでの夜稽古の全ての茶葉に、睡眠薬を入れとったんやから」

美幸「えええええええええええっ?!」


美幸「そ、それはないって!私たちみんな、どこも身体に異常なんてなかったよ? 毎朝、普通に起きてたよ!」

怜「入れた、と言っても……昨日アンタたちが飲まされたほどやない。飲めば、安眠できるレベルの量や」

梢「……」

怜「それを利用して、アンタは毎日 部員たちをぐっすり寝かせることに成功した」

怜「しかし、それは安眠できるレベルであって、大きな物音が起きたら起きるレベルやさかい」

怜「自分も睡眠薬を飲んどるとはいえ、多少の音を流せば、なんとか起きることができる」

怜「それを利用して、自分だけ起きられるようにしたんや」

怜「携帯の目覚ましにイヤホン繋いで、自分だけに大音量を流すとかな」

美幸「そ、そんな。そんなの憶測だよ!」

怜「じゃあ、聞くけどな。古塚さん以外で、今回の合宿中、寝てる途中に目が覚めた人、おる?」

美幸「い、いや私は毎日ぐっすりだったけど」

澄子「私も……」

莉子「私も、そうだった」


怜「やっぱりな……そして」

怜「ここで、古塚さんが合宿に課した、『規則正しい生活』が生きてくる」

怜「毎日の寝る時間と起きる時間を固定しとくことで、
  自分がぐっすり眠っとるのは当たり前や、いう意識を植え付けることができるんや」 

怜「きちんと規則正しい生活をしていれば、睡眠の質は上がる。それ自体は、普通のことやからな」

梢「……」

怜「自分の立場を最大限に利用して、違和感のなく犯行の手はずを整え……」

怜「最終日には、これまでと打って変わって大量の睡眠薬をさっき言った方法で仕込んで」

怜「松実姉妹が就寝するタイミングを見計らって、犯行に及んだ」

怜「そして余った睡眠薬入りの茶葉をトイレに流して証拠を隠滅して」

怜「松実姉妹に罪を被せるために別途用意しておいた睡眠薬入のビンを食堂に置いて」

怜「部屋の鍵をわざとかけずに、自分も睡眠薬を煽って寝る」

怜「そして――トリックに使った、凶器は、松実館のいつもどおりの場所に、『姿を消す』」



梢「………」


怜「以上や。これが、今回の事件の……全貌や」



睡眠薬のトリック、殺害方法、凶器のありか――――

全てに筋は通っているように聞こえた。しかし、それでも

まだ、古塚さんは観念せえへんかった。



梢「……証拠は?」

怜「……」

梢「今までのお話……とても興味深かったです。実は、劔谷高校には古典・ミステリー研究会というのもあります」

梢「そちらで参照できるほどに、面白いトリック、殺(あや)め方だったように思います」

梢「ですが、それを私がやったという証拠は、どこにあるのでしょうか」


怜「証拠なら、あるで」

梢「……」

怜「アンタはこの部屋にある、圧縮袋を使ったはずや。その時、一旦中にある布団を取り出して」

怜「森垣さんを殺害するのに使ってから、また布団を戻すのに使っとる」

怜「作業しとる間に、圧縮袋の中に……例えば、髪の毛を落としとったりしてな」

梢「……」

怜「この一番下にあるやつの……中にとかな!」



怜は一番下にある布団(圧縮袋付き)を引っ張り出して

空気を抜いて、中身を取り出した

そしてルーペを取り出して、布団を調べ始めて……



怜「……あったで」

梢「……」



怜は、細い、紫の髪の毛を指で挟んで

古塚さんに突きつけた



怜「これ……この色、アンタの髪の毛やな。DNA鑑定すれば、すぐ分かるで」

怜「普通にこの部屋で生活しとった人の髪の毛が、この圧縮袋の内部にあるはずがない」

怜「―――チェックメイトや」


決定的な証拠を、怜に突きつけられて

古塚さんは、一言も発しなくなった。

眼鏡の奥の瞳に、諦めの色が映っとるのが、はっきりと分かる。

それでも、一言も発しない。いや、発せへんのかもしれん。




怜「黙ってないで、なんか言ったらどうや」

梢「……」

菫「古塚、どうなんだ」

梢「……」

菫「黙ってても、分からな――「なんで……?」」



美幸「え、えっと……莉子?」

莉子「なんで、なんで?」

莉子「部長、なんでですか?」

莉子「ねえ……なんで? なんで殺したの?」

梢「……」



森垣さんと一番、中が良かったであろう……安福さんが、古塚さんに問い詰める。

その顔には、はっきりと怒りの色が見受けられた。




莉子「……………黙ってないで、なんか喋れよッ!!!」


梢「……いけないことだって分かってました」

莉子「は?」

梢「本当はこんなこと、したくなかった」

莉子「そんなこと、聞いてるんじゃ―――「でも!」」




梢「それでも、どうしても……どうしても、許せませんでした」



怜「……」

竜華「どういう、ことやの?」

梢「……私は、あの子が次期部長というのだけは……」

梢「どうしても、認められませんでした」



澄子「……」

竜華「まさか、古塚さん、森垣さんの……礼儀作法のことを言うとるん?」

梢「……」

竜華「で、でも、古塚さん言うとったやん!」

竜華「あれも一つの個性やって」

竜華「自分たちが、そっちに馴染んでいくべきやって……考えていくべきなんは、そっちやって」

竜華「あれは、嘘やったん……?」



梢「私は……これまでどおりの正しい伝統を受け継いでくれそうな」

梢「澄子に次期部長になってほしいと思ってました」

澄子「!」

梢「しかし……うちの部長は上からの指名制……私に指名権はありません」

梢「ですから、それは諦めていました。それに……昨晩言ったことだって、嘘ではありません」

梢「実力は、十分にありましたから、最低限の礼儀作法を身につければ……引き継いでよいと、思ってました」

莉子「じゃあ、なんで!」

梢「……以前に、OGが定例会で……私たちの部活を見に来た時のことです」

梢「その定例会は、一年で最も重要な定例会で……次期部長を、OGの方々が見繕う場でもあるのです」

美幸「定例会が、どうかしたの……?」

梢「その定例会で、お茶の実力を高く評価されて……友香が次期部長の座、すなわち副部長に推薦されました」

美幸「そうだったね、あの時、特別上手に友香ちゃん、点ててたからね。正座も、あの時は頑張ってたし……」

梢「その日、定例会が終わったあと、私は友香を呼び出しました」

梢「そこで、いろいろと次期部長としての心得を教えようと思ったからです。しかし―――――」



『急に呼び出しって、どうかしたんでー?』

『友香、これであなたは次期部長です』

『それに備えて……いろいろあなたに言っておかなければなりません、まず―――』

『あーそういうの、私無理なんでー』

『……あなたがそういう性分なのは、重々承知です。それでも、あなたは』

『だいたい、茶道って才能だと思うでー だって一個上の澄子は、私の足元にも及ばないんでー?』

『友香、言葉が過ぎます。それに、年上を呼び捨てするのは、感心しません。やめるように、いつも――』

『あー部長は澄子に次の部長やってほしいんで?』

『……』

『適当に言ってみたら、図星で? 澄子は部長のお気に入りってやつかー』

『今はそんな話をしているのでは――』



『なんかカンに触るな、そういうの。あんな、ただおとなしくて、私より学年が一つ上なだけの人を贔屓して』

『私にはそうやって、いろいろと文句付けるんでー?』

『ゆ、友香。そういうつもりでは』

『ムカついた。前から、澄子のやつ、うじうじして気に食わなかったけど
 来年一年間ずっと、澄子には、卒業するまで雑用やってもらうでー』

『なっ?!』

『ふふっ、その顔、傑作でー 部長のこと、いつもウザイと思ってたんでー』

『……』

『正座もしない、着物も着ない……【新しい】劔谷の茶道部、作らせてもらうでー』

『か、考え直してください。今からでも』

『私は、下級生だから、二年間は……ずっと部長させてもらえるんで?』

『――その間に部長のお気に入りは、日の目を見ることなく』

『部長が大切にしてきたこの場所も―――』






『私が、全部、私好みに変えておくんでー』





梢「最後に吐き捨てるように、そう言って……あの子は、立ち去りました」

美幸「そんなことが……友香、そんな子だったの……?」

莉子「う、うそだ。友香がそんなこと言うはずが……」

澄子「……」

梢「……澄子、あなたは知っていたでしょう、あの子の本性を」

澄子「……」

梢「あなたが、本当は部長をやりたがっていたのも、知ってました」

澄子「!」

梢「だから、尚更許せなかった。あなたに、惨めな思いをさせたくなかった」

梢「そして……何より、私が三年間大事にしてきたあの場所が……」




梢「――――あんな人に、台無しにされてしまうなんて、耐えられなかったッ!」



大人しく丁寧な口調を続けてきた古塚さんが、初めて語気を強くした。

心の底に溜め込んできた思いを、一気に放出したみたいやった。



菫「……古塚、梢。お前を殺人容疑の疑いで―――逮捕する」

梢「……」


弘世さんは、手錠を古塚さんにかけた。


美幸「……梢ちゃん」

梢「美幸、あなたとの三年間は、楽しかったです」


莉子「……」

梢「莉子、ごめんなさい。しばらく部活はできなくなるでしょう」

梢「でも、あなたにはまだ未来がある……活動を再開したとき……立派な先輩になってくださいね」

梢「私のような先輩にだけは、ならないように」


澄子「……部長」

梢「……」


古塚さんは、依藤さんには一言もかけずに……代わりに、深く深く頭を下げた

それが終わると、背中を向けて――弘世さんと一緒に、部屋を出て行った。


それから、古塚さんはパトカーに乗り込んだ。

すると、なぜか弘世さんが降りてきて……こちらに歩いてきた。



菫「園城寺」

怜「?」


刑事さんは警察手帳に何か書き始めて

そのページをちぎって、怜に手渡した。


菫「……」

怜「なんです、これ」

菫「いらんなら、捨てろ。何かあれば、一度くらいは対応してやる」

怜「……」

菫「なんだかんだまた世話になってしまったからな……不本意だが」

菫「じゃあな。礼は言わんぞ。だが……」

菫「協力、感謝する。では」


事件は、解決した。

劔谷女子の人たちは……学校に報告するために、帰りの準備をして、急いで帰ったみたいや。

残った三人とも、この幕切れにショックを隠しきれない様子で、声を掛けるのもためらわれた。

ウチらとも、そのままお別れとなった。



怜「……」

竜華「お疲れ、怜」

怜「……」

竜華「と、怜?」



その時、どさっという音が聞こえた。

視界から、怜が急にいなくなる。床にうつ伏せに倒れとるのが、すぐに分かった。



竜華「と、怜!!!」


宥「熱、引いた……?」

竜華「うーん……まだ、高いな」



怜は、その後一気に体調を崩した。

事件が無事解決して、気が抜けたんやろう。

よくなるまで、この部屋を貸してもらえることになった。

本当に、ありがたいわ。



玄「あの、おかゆでも作りましょうか……?」

竜華「まだ寝とるみたいやから、ええよ。ありがとうな」


竜華「ふふ、二人とも、良かったな。ウチは絶対二人は犯人じゃないと信じとったけどな」

宥「園城寺さんには、たくさんお礼言わなきゃね」

玄「……」

竜華「あっ、何か手伝うことある? もうウチも暇やし、なんかやるでー」

宥「えっと、園城寺さんの看病は……?」

竜華「こうして、一旦寝てしまえば大丈夫やで。小さい頃から怜とは一緒やし、少しくらいなら大丈夫や」

宥「そう、じゃあ、ちょっとお願いしてもいいかな……?」


視点:玄



宥「玄ちゃんは、少し休む……?」

玄「じゃあ、私は……園城寺さんのお部屋にいるね」

宥「うん、分かった」


―――――――――――――――――――――――――――――――



玄「園城寺さん、起きないなぁ。さっきも体調良くなかったみたいだし……大丈夫かな?」



おねえちゃんと、清水谷さんがお部屋を出て行ってから

私は園城寺さんの看病をしていた。

と言っても、頭に乗せてるタオルを替えてるだけだけどね。


玄「それにしても、さっきはかっこよかったなぁ」

玄「生で、事件解決するの、初めて見ちゃったったよ……不謹慎だけどドキドキしちゃった」

玄「『犯人は……あなたです!』 『ふふっ、証拠ならありますよ? 』 どやっ」


うーん、こんな感じかな?

マネしてみたけど……誰にも聞かれてないよね??


怜「ん…?」

玄「あっ、あっ、園城寺さん!」

怜「あれ……? 妹さん、ウチは……?」

玄「あ、あの今の聞いてっ……」

怜「?」

玄「いえいえ、なんでもないんですっ!」



聞かれてなくてよかったよぉ……


玄「事件が解決したあと、園城寺さん倒れちゃったんですよ」

怜「ホンマか……相変わらず、ダメやなぁ」


『相変わらず』……? どういう意味かな?


玄「目を覚まして良かったです。あっ、園城寺さん、さっきはありがとうございました」

怜「いえいえ、報酬の代わりはもらったし当然やで」


報酬?代わり?どういう意味だろ。さっきから何を言ってるのか、よく分からないや


怜「とりあえず、事件解決してよかったな。でも、アンタらにとっては災難やったな……色々と」


ああ、そうだった……今回の事件で

ますますお客さんは、来なくなっちゃうんだ

園城寺さんの活躍に、感動してる場合じゃないんだ


この場所がなくなるのは、絶対、絶対に嫌だ

なんとかして、守らないと。どんなことをしても、私は、守る



怜「……」

玄「……」

怜「……あー、タオルがずりおちてしもた」

玄「あ、今乗せますね……冷やすので、ちょっと待ってください」


それから、しばらく園城寺さんの看病をした。

その間も、ずっとこの旅館のことを考えちゃって……きっと、それが顔に出てたのかな。

園城寺さんに、見抜かれちゃったみたい。




怜「妹さん」

玄「は、はい?」

怜「元気ないな」

玄「……」

怜「なんでか、当てたろか?」

玄「……」

怜「ここが、なくなるんが怖いか?」


玄「……」

怜「お母さんが、残してくれたこの旅館が、なくなるんが怖いか?」

怜「でも、今回の事件で、こんどこそアカンな」



この人は、何を私に聞くんだろう。何を言うんだろう。

私にとって、この旅館は……小さい頃から、ずっとずっと住んできた場所。

大好きなお母さんと、一緒に暮らしてきた場所なんだよ?

そんなの――――そんなの――――



玄「あ、当たり前に、決まってるじゃないですかっ!」

玄「この場所が……私がお母さんとつながってる、唯一の場所なんだよっ?!」

玄「なのに……なんでそんな意地悪、言うんですか!」

玄「こういうことが起これば、お客さんは来なくなる……」

玄「そんなこと、私が一番よく知ってます! あなたより、ずっと!!」

玄「何も知らないくせに……勝手なこと、言わないでっ!」


玄「はぁ……はぁ……」

怜「……」

玄「……ここは、私の、命みたいなものです……何にだって、替えられない……」

怜「それで、高校までやめたんか」

玄「ここがなくなるくらいなら……私は死んだほうがマシですっ!」

怜「ほうか…」




怜「ウチは、これ以上アンタらの問題に関わるつもりはなかった」

玄「はい?」

怜「せやけど……」



園城寺さんは、立ち上がった。


立ち上がって、私の前に、心もとない足取りでやってきて




「流石に、今のは聞き捨てならんで」




次の瞬間、気持ちのいい程の快音が私の脳を揺らした。


一瞬過ぎて、何が起こったのか分からなかったけれど


右頬が、少しづつ痛み始めて――――平手打ちをされたのだと分かった。


「い……い、痛っ……何するんですか!」

「松実妹……いや、松実玄。目ぇ、覚ませや」

「な、何を急に……」

「いいか、はっきり言うたるわ―――こんな旅館クソくらえや」

「今すぐ潰れてしまえって、ウチは思うとる」

「っ!!」


血流が全て上向きになり、頭がカッとなるのが分かった。

気がついたら勝手に手が動いて。私は園城寺さんの顔を、拳で殴りつけていた。


「はーーーっ、はーーっ、はーっ……」

「……ぺっ、思ったより、力あるな、松実玄……」

「ふざけないで……もう一度……もう一度言ってみろ! 絶対に許さないから!」

「……何度でも、言うたるわ……こんな旅館、潰れてまえ」

「またっ……!!」


私は、また園城寺さんの顔を殴りつけた。怒りが、収まらなかった。

『潰れてしまえ』この言葉が私の頭の中を反響して……その度に怒りがこみ上げ、私は何度も、彼女を殴りつけた。


「………」

「はぁっ、はあっ……」


園城寺さんの顔は、軽く腫れていた。病人にしてはいけないことだと分かってる。

でも、体がいうことをきかなかった。


「殴って、満足したか……?」

「……」

「なぁ……妹さん……」

「なんですか。もう、私は……あなたの顔も、見たくないです」

「お母さんは……こんなこと、望んどると思うんか……」

「当たり前です」

「確かに、借金でもして……死ぬ気で働けば……潰れずに済むかもしれんけどな……それでも、家計は火の車や」

「……」

「松実館は、潰れへんかもしれん。でもな――――――」

「―――――代わりに、アンタの未来が全部潰れるんや」

「っ…」

「それを、ホンマに、アンタのお母さんは……望んどったんか」


「そ、それは……」

「将来を嘱望されるような人をいっぱい出しとる、ええ高校に行かせてもらって……ええ友達も出来とったやろ」

「それを捨ててまで……ここは守るべき場所なんか。大切な場所なんか」

「ここがなくなったら―――アンタは死ぬんか!」

「で、でもっ」

「ほらっ、手ェ、貸せ!」

「えっ、ちょっと、何を…」


園城寺さんは、私の手を握って、自分の胸に押し当てた。

服の上から……微かな、動きが手に伝わってくる。


「聞こえるやろ……心臓の音」

「ウチはな、弱い人間や。脆い人間や」

「アンタにちょっとドつかれただけで、もう死にそうになっとる、とんでもない雑魚や」

「それでもな――――――生きとるんや」

「……」

「……今度は、自分の胸に、手を当ててみぃや」


園城寺さんに言われて……私は、胸に手を当ててみる。

トクントクンと、ゆっくりと。自分の手に、暖かいその鼓動

そうだ、確かに、私は生きてる。心臓の音が、聞こえる――――――


「アンタのお母さんが、アンタに残してくれたんはな……旅館やない。旅館を守る使命でもない」

「そのカラダや。アンタが今、手に感じとる……その音や」

「!!」

「それを、勘違いしたら、アカンのちゃうんか」

「……」

「お母さんは……アンタに、好きなように」

「もっと自由に、生きてほしいんやないんか」

「………」

「でも、お母さんが……天国のお母さんが、もし」

「そう、思ってなかったら? もし、旅館を守ってほしいと、思ってたら――」

「そんなこと、あるはずがない」

「……どうして、そう言い切れるの」

「そんなん――――考えんでも分かる」





『アンタと、アンタのお姉さんのオカンや』

『自分の幸せやない。娘の幸せを一番に考える』

『そんな人に、決まっとる』



ねぇ、お母さん……私、無理してたのかな。

この人の言うとおりだと思う?


私はこの旅館が、本当に大好き。お母さんが、大好き。

でも、おねえちゃんも、出稼ぎに行ってるお父さんのことだって、大好き。

阿知賀の友達だって、みんな大好きだった。


大事なものは、たくさんあった。でも、それを全部……旅館一つのために、諦めてきた。

その方が、お母さんに喜んでもらえると思ってた。


でも―――違うのかな。私の、自己満足だったのかな。


ねえ、お母さん、私は自分のやりたいことを、自由にやったほうがいいですか?

その方が、お母さんも―――――――嬉しいですか?



「………声張り上げて、疲れた」

「えっ?」

「寝させてーな」

「あっ、は、はい……」

「………ごめんな、ひどいこと言って」

「あ、あの私こそ、顔を殴ったりして……あ、あれ?」



………寝てる。すやすやだ。

全く、私、人生で初めて本気で人を叩いちゃったよ。

でも、園城寺さんの気持ち、すごく伝わってきた。



うん、私は間違ってた。もうこれからは、過去じゃなくて……

未来に生きる。自分のやりたいことをやる。

したいこと、やりたいこと――――――やってみたいこと。



「お母さん……私、決めたよ」


後日談、園城寺探偵事務所にて。

視点は、私、江口セーラでお届けします。

帰ってきた怜と竜華に、今おみやげ話を聞かせてもらってる途中です。

もちろん、本物のお土産もあるで。松実たまご、なかなかいけるやん!



怜「――と、いうわけや」

セーラ「ほえっー」

怜「たいへんやったで、ホンマ」

セーラ「それで、そんなに顔が腫れとるんか」

竜華「もう……あの玄ちゃんを怒らせるとか、よっぽどやで」

竜華「しかも怜! アンタウチにお節介やくな言うといてから……なにちゃっかり自分だけ説教しとん?!」

怜「いやぁ……ついカッとなって」

竜華「つい、やあるかい、もう……心配したんやからね、部屋に戻ってきたら、怜が顔腫らして寝込んどるんやもん」

怜「ごめんって。な?」

竜華「もう……」

セーラ「でも、ホンマに事件に遭遇するとはな。ウチの予言が当たってしまったようやな」

怜「セーラが余計なこと言うからや」

セーラ「いやいや、怜がきっと事件体質なんや。よかったやん、探偵としては、ラッキーな体質やと思うで」

竜華「えっ、じゃあウチらが怜と旅行したら……毎回こんなんやの?!」

怜「いやいや、流石にないって」

セーラ「それにしても……風越にしろ、今回にしろお嬢様学校はこういう宿命でも背負っとるんやろか?」

竜華「さぁ……でも、今回もすごいニュースになったなぁ」



そうなんや。風越のときもすごかったけど、劔谷もときも、世間の反応はすごかった。

メディアは劔谷茶道部殺人事件として、特設番組を企画する始末や。

前の風越事件のこともあって、お嬢様学校への注目が、以前よりも高まってきとるみたいや。




竜華「劔谷の子らの今後も、心配やけど……」

竜華「松実館が、やっぱりウチは一番心配やなぁ」

怜「……」

竜華「もし、続けるんなら……風評被害には、負けんといてほしいな」

セーラ「じゃあ、次はオレも含めて、5人でいこや! 泉と、フナQも含めて!」

竜華「それ、ナイスアイデアや! 五人もおったら、いろんなゲームできるしな。楽しみ!」


セーラ「あ、怜。ちょっとええ?」

怜「ん、なに?」

セーラ「話聞いててな? 一つ疑問に思ったことがあるんや」

セーラ「最後の証拠を提示するときに……怜、押入れから一番下の圧縮袋を取ってきたやん?」

セーラ「他にもたくさん袋はあったわけで……どうして古塚さんがそれを使ったと分かった?」

怜「いや、犯罪心理的に一番下に隠したんかなと思って、それを取っただけやで」

セーラ「なんや勘か」

竜華「でも、良かったね。偶然正解で……しかも、髪の毛だって、入ってなかったかもしれんしな」

竜華「そう考えると、今回はラッキーやったね。
   古塚さんが髪の毛のことまで考えて、回収しとったらどうにもならんかったし」

セーラ「竜華の言うとおりや。今回は、名探偵も運に頼らざるをえんかったな」

怜「ふふっ、セーラも竜華も甘いなあ」

竜華「えっ?」

怜「大丈夫や、その点は心配ない」

セーラ「なんでや? 絶対髪の毛がついとる保証なんてないやろ」

怜「だって、髪の毛は予めウチが準備しとったんやもん」

竜華「は、はぁ?!」

セーラ「なんやそれ!?」


竜華「で、でも劔谷のお部屋に、いつ入ったん? そんな時間なかったやろ?」

怜「確かに、ウチは倒れとったし、髪の毛を入手する時間はなかった……けど」

怜「『似た色の髪の毛』やったら、手に入れる機会はあった」

竜華「それって……あ、まさか?!」

怜「分かった? そうや。弘世刑事の髪の色は……古塚さんのそれに一番近かったさかい。一本拝借して」

怜「ポケットに、な」

怜「これだけ細いもんや。よほど目を凝らして見んと分からんし」

竜華「あの時のお願いってそれかいな! 二人でこそこそして、何をやっとるんかと思うたわ」

怜「こうやって用意しとけば、見つからんかったときでも、ビビらせることができるしな」

怜「今回は、探してみたら実際に古塚さんの髪の毛が見つかったさかい、役に立たんかったけど」

怜「なかったらこれを突きつけて、『あったで』って言う作戦やった」

怜「で、もし違う圧縮袋を使っとったらそれはそれで『そ、そんな! 私が使ったのはそれじゃない』とか」

怜「ボロ出してくれるかな、って思ってな」

セーラ「はっへー……なんというか、怜。せこいな、お前! でもすごいぞ!」

怜「ふふん、もっと言ってーな」

竜華「誇るところなんやろか……でも、そのあたりの狡猾さが、探偵には必要なんかなぁ」

怜「せやで。勝てば官軍や、こういうんはな」


セーラ「まあ事件はあったけど解決したわけやし、一応は羽伸ばせたんやな。よかったわ」

竜華「泉に今度なんか奢ったらなアカンな……よし、エネルギーもチャージできたし、仕事頑張ろ!」

セーラ「せやな。じゃ、そろそろオレは行くわ!」

竜華「ウチも今日はお暇するわー 怜、またね。身体には気をつけてな」

怜「二人とも、またな。気をつけてなー」



「セーラ。ウチまで送ってや」

「嫌って言ったら?」

「……なんでそんないじわるするん? セーラ、ウチのこときらい?」

「うそうそ、嘘やって。竜華はからかうとおもろいなぁ」

「むぅー! またセーラは、アホ!」



バタン




怜「……」

怜「……さて。今日はすることもないし……」

怜「早めに寝ようかな」

怜「いや、ちょっとだけ、部屋の掃除してみよか……どうせ三日坊主やろうけど」



コンコン


怜「? 誰やろ。もしかして、忘れ物やろか」



怜「二人とも、忘れ―――――――――――――は?」



「どうも、園城寺さん!」



怜「………えっと。きっと目の錯覚やな」

怜「疲れとるんや。やっぱり今日はさっさと寝よ」

怜「おやすみ、おやすみ」


「もう、ひどいです! 錯覚じゃないですよ!!」


怜「……どういうことや、松実妹」


玄「園城寺さん、私、やりたいことが、決まりました!」


怜「……」





 “私も、園城寺さんみたいな、名探偵になりたいです”










≪File 4 温泉宿にて End≫


4章はこれでおしまいです

長くなったけど、読んでくれた人ありがとう


次回は、玄ちゃーの弟子入り話か何かです

次はいつ投下できるか分かりませんが、できれば長く続けたいと思ってます。
咲キャラを全部出し切るまでは、話が書けそうなので。



では、おやすみなさいー

新道寺のメンバーには犯人いて欲しくないなー。

質問ですけど、服部平次ポジ(というよりは工藤バーーーローーポジ)や怪盗キッドポジのキャラ出す予定ありますか?

>>400
自分が好きな咲キャラが、そうなるのはアレだよね
剣谷も好きなんですが……申し訳ないけど、配役になってもらいました

>>404
全部は決めてません。出すかも不明
確定してる配役もあるけど



く、玄ちゃんはほら、旅館の手伝いしてたからさ……

最近なかなか時間がとれなくて、書けてませんごめんなさい

待ってくださる方がいれば、もうしばしお待ちを


今でも、たまにドキドキするんだ



あの時の言葉を

あの時の表情を

あの時の頬の痛みを

あの時の気持ちを思い出して


そのたびに、胸がざわついて、ほっぺたが熱くなって、あたまがくらくらして



たまらない気持ちに、なるんだ



この人みたいに、なりたいって――――








【File 5 松実玄の入門試験】







「うわー先輩の家、ホンマに相変わらず。けっこう、久しぶりや」

「連絡なしに来たから驚くやろか。さて、着いた」




はい、こんにちは。ウチが誰か分かります?

ヒント? せやなあ……園城寺先輩と、江口先輩と、清水谷先輩と、舟久保先輩。

この4人を挙げれば、もうウチが何者か分かるやんな。

え、分からんって冗談やろ? またまた、騙されんでー

ウチはな……おっと、自分語りしとる間に、ドアの前まで来てしもうた。

とりあえず、ウチのことはみんな知っとると信じて、話を進めようと思う。

よし、行くで。



「どうもー 先輩、お久しぶりで―――――ー」




『だから、ウチは弟子は取らんって!』

『そこをなんとか! お願いしますのです!!』




あ、あれ? これはもしかしてもしかして

お取り込み中のところに来てもしもたとかいうアレやろか。


玄「だーかーら!! 園城寺さんの弟子にしてくださいって!」

怜「せーやーかーら!! アカン言うとるやろ!」




それにしても……久しぶりに来てみれば、相変わらずのあばら家

こんなところに住めるのは、微生物か昆虫くらいのもんやと思っとったけど

園城寺先輩はなんだかんだ住み続けとる。

すごいなあ、ウチには無理や。



……あれ、この物言いは、園城寺先輩を微生物、あるいは昆虫扱いしてることになる?

めっちゃ失礼やった。反省反省。



玄「お願いします、そこをなんとか!」

怜「なんともならんって!」



あれ、新しいタンス……それにこれはティーセット。

園城寺先輩は買いそうにないし、これは清水谷先輩が買ったんやろうなぁ。



玄「私が探偵になるように、さりげなく誘導してくれたじゃないですか!」

怜「ウチはそんなこと、した覚えない!!」


あ、そろそろ助け舟を出したほうがええかな……

なんか園城寺先輩、困っとるみたいやし。



「あーーあーー……… 園城寺先輩、お邪魔します~」

「ええと、これは一体どういう……」



怜「はぁ、はぁ……アンタもしつこいな……お? なんや、泉やん。久しぶり」

泉「ご無沙汰してますー 園城寺先輩」

怜「この間の宿泊券、おおきにな。久しぶりに羽伸ばさせてもろたわ」

泉「いえいえー貰いもんですから。喜んでいただけて何よりです」



ウチは、いくつかバイトを掛け持ちしとって

その関係でたまにいろんな貰いもんをする。今回は旅館の宿泊券やったわけや。

とりあえず、今日はここまでで
久しぶりに書いたので、あんまり進まなかった

待っててくれた人がいたら、ありがとう。
では続きはまた明日に。


泉「ところで、いったいどうしはったんです?」

怜「どうしたもこうしたもないで、この子、ウチに弟子入りする言うてきかんのや」

泉「弟子入り……? 園城寺先輩にですか?」

玄「はい! 初めまして、私、松実玄といいます。園城寺さんの後輩さんですか?」

泉「ええ、そうです、二条泉です。はじめまして。えっと……すいません、ウチも状況が掴めてなくて」

玄「あ、そうですよね! 私から説明します!!」

泉「あ、はい。お願いしてええですか」



そして、この子がいろいろと事情を説明してくれた



今回松実館で起きた事件のこと

それを園城寺先輩が鮮やかに解決したこと

その姿に憧れて、自分も探偵になりたいと思ったこと

それはもう、熱く熱く語ってくれた。


玄「あの時の園城寺さん、本当にかっこよかったんです!」

玄「それは、それはもう……例えて言うなら、ええと……ヒーロー! そう、ヒーローです!」

泉「園城寺先輩は女やから、ヒロインちゃう?」

玄「はっ、そうでした!」

怜「ヒーローには、英雄って意味と、神話とかの男主人公の意味があるさかい、前者の意味やろ」

泉「ああ、なるほど。さすが園城寺先輩」

玄「なるほど! さすが園城寺さん、いや、師匠!」

怜「いえいえ、それほどでも……って、なに勝手に師匠呼ばわりしとるんや!」

玄「お願いします、師匠! なんでもしますから!」

怜「いやいやいや……え、なんでも?」

泉「ちょいちょいちょ。先輩、ちょろすぎですって」

怜「じょ、冗談や。とにかく、弟子は取らへん。だいたい、アンタに何ができるんや? なんにも経験ないやろ」

玄「ええと、ええと……ほ、ほら! 掃除できますよ! 料理できますよ! 可愛いですよ!?」

怜「確かに、最初の二つは折り紙つきなのは認めるけどな……って、最後のは自分で言うことやないやろ!」



いや、確かにこの子、めっちゃ可愛い。美人と可愛いの中間からの美人寄りで

なおかつ黒髪ストレート、スタイルもええ。あ、なんかムカついてきた。

しかも、松実館の子で、料理も掃除もできるとか……

ちょっとグーパンチで殴ってええかな? 冗談やけど


怜「松実妹、何度も言うけどな、ウチは弟子は取らへん」

玄「こんなにお願いしてるのに……そんなぁ……」

怜「……」

玄「あの、園城寺さん……どうしても、ダメですか?」

怜「ダメや」

玄「……本当に、私にできることなら、なんでもします」

怜「そういう問題やない、帰ってーな」

玄「お金もいりません。一生懸命働きます……」

怜「いや、せやから……」

玄「お願いします、このまま帰ったら、おねえちゃんに、何て言ったらいいか分からないよぉ……ううっ……」

怜「………」


段々と、園城寺先輩も可哀想になってきたのか

キツく跳ね除けることはしなくなった。けど、こんな良さそうな子、弟子にしたら最高やと思うけどなあ

園城寺先輩のことやから、理由があるんやろか。

とか考えてると、園城寺先輩がこっちにやってきた。ん、メモ?



『へるぷみー』


……かなり困っとる感じですやん。見てたら分かりますよ。

仕方ない、ウチにできそうなことは――――よし



泉「ええと、じゃあ、こういうのはどうです?」

泉「このまま妹さんをお返ししても、妹さんも納得せえへんと思うんです」

泉「そこで、試験をやるっていうのは」

怜「試験?」

泉「ええ、妹さんは先輩の弟子になりたいんでしょう? せやったら、弟子になるための試験を課すんです」

泉「それに合格すれば弟子入り、落ちたら綺麗さっぱり諦めてもらうってことで、どうです?」

怜「……」

玄「わ、私受けます!!」

怜「え?」

玄「やります、どんな試験でも受けます!!」

怜「い、いやまだやると決めたわけや――」

泉「でも、さっきの妹さんの話を聞いた限りでは、ですけど」

泉「妹さんに影響を与えた先輩にも、ちょっと責任あるんやないですか」

怜「……」

玄「あ、あの……」

怜「なに?」

玄「園城寺さんに、もっと自由に生きたらいいんじゃないか、って言われて
  自分の本当にやりたいことを真剣に考えたんです」

玄「それで、園城寺さんみたいになりたいって」

玄「そう、思ったんです」

怜「………」


園城寺先輩は、しばらく腕を組んで考え事をする仕草をして

ついには頭を抱えて、しゃがみこんでしもた。

どうやら、先輩にとって、計算外のことやったみたいや。

しばらくして、先輩は立ち上がった。

先輩は、嬉しいような、泣きたいような、なんとも言えない、顔を一瞬見せて

また、いつもの顔に戻った。



怜「分かった。入門試験、受けてもらって」

怜「それでダメなら、すっぱり諦めるって約束してな?」

玄「あ、ありがとうございますっ! はい、分かりました、お約束します!!」


泉「それじゃあ、試験問題作らないけなませんね」

玄「そ、そうですよね。じゃあ、私は今日はこれで――」

怜「待って」

玄「は、はい。なんでしょうか」

怜「もう内容は考えた」

泉「は、はやっ」

怜「ウチが【騙された】と思ったら、合格。ダメなら、不合格。期限は三日。以上」

泉「な、なんですか、その試験……」

怜「何か質問ある?」

玄「ええと……何をやってもいいんですか?」

怜「ええよ。何をしてもええ。任せる」

玄「分かりました。頑張ります!!」

怜「それじゃあ……今が夕方の5時やから、1時間作戦タイム使ってええよ。竜華やセーラも呼んでええ」

怜「6時から開始で、三日後の夕方6時までな。それじゃ」

怜「始め」



【入門試験、開始 残り時間:三日と1時間】

今日はここまでー

おやすみなさい

>>405 がさりげなく採用されててワロタ

>>446
クロちゃん可愛いからね、仕方ないね


つづき


それからすぐに、携帯で清水谷先輩と江口先輩を呼んだ

事務所の中はそこそこの広さとはいえ、5人も入れば、だいぶ狭苦しく感じる。


竜華「うわ~ホンマに玄ちゃんやん! 元気にしてた??」

玄「はいっ、おかげさまで! わざわざ来てくださって、ありがとうございます!」

セーラ「ほうほう、こいつがあの松実妹か。礼儀正しそうな子やん」

玄「ええと、あなたは……」

セーラ「江口セーラや。セーラでええよ、よろしくな。怜と竜華とは幼馴染や」

玄「セーラ……なんだか、かっこいい名前ですね!」

セーラ「そっ、そうか? なんかそう言われるとむず痒いな……」

竜華「しっかし、泉に呼ばれてきてみれば……まさか、こんなことになっとるとは」

泉「ウチが試験を提案したんですよ。さすがでしょう?」

竜華「さっすが泉!」

セーラ「泉、さすがやなあ」

泉「でしょう! 流石でしょう! 先輩方もそう思われますか??」

竜華「さっ、玄ちゃん。早速一緒に対策考えようか。試験問題教えてーな」

セーラ「よう分からんけど、オレも協力はするで、ええ子そうやし」


あ、あれー? 先輩方、無視ですかー?


スルーされたのはちょっぴり淋しいけど、ウジウジしてても仕方ないから、先輩方に状況説明。。

ウチに説明しきれん所は、妹さんに補足してもろた。



泉「……と、いうわけなんです」

玄「園城寺さんを、騙す……そんなことできるんでしょうか」

竜華「なーんや、そんなんでええの?」

玄「えっ?」

竜華「要するに、怜をうまいことだまくらかして、参った! って言わせればええんやろ? 楽勝やん」

玄「ほ、本当ですか?? 私にもできますか??」

竜華「できるできる、怜は確かに賢いけど、弱点もいっぱいあるし、ちょろいもんやで!」

玄「さっすが清水谷さん、頼りになります!」

竜華「へへん、まかしときーや!」

セーラ「……」

竜華「ええか、いくつか方法があるけど、まずな―――」

玄「ふむふむ……」



妹さんと、清水谷先輩は、二人で作戦会議タイムに突入した。

ソファに座って――遠巻きには楽しそうにおしゃべりしよるようにしか見えへんなぁ。

ところで、さっきから少し気になることが。


泉「あの……江口先輩」

セーラ「……」

泉「江口先輩?」

セーラ「あっ? あ、ああ。どうした、泉」

泉「いや、さっきから腕を組んで、棒立ちしてるんで……もしかして、お疲れでしたか?」

泉「だとしたら、急にお呼びしてすんませんでした」

セーラ「ちゃうちゃう、全然そんなんやないわ。ただ――」

泉「?」

セーラ「怜も、どういうつもりなんやろかと思って」

泉「え?」

セーラ「怜のやつ、あの子を受からせる気、ないやろ」



江口先輩は、ウチの方を向かずにそう言い切った。

少しの迷いもない、それでいて、澄んだ声色やった。


竜華「……よっし、だいぶまとまったな!」

玄「はいっ!」

竜華「これだけ案を考えたんやし、もうあとはやるだけやな。今日は帰って、ゆっくり休んでええんやない?」

玄「えっと、一応期限もあるし、今からやったほうが……」

竜華「大丈夫やって、そもそも人を騙すなんて、一瞬のことやろ? 三日も必要ないって」

竜華「今日はうちに泊まりーや! 松実館まで帰るのは、時間かかるやろ?」

竜華「そしてまた、事務所に来て、作戦を実行しよ!」

玄「いいんですか?! 泊まりたいです! ぜひ泊まらせて欲しいのです!」

竜華「よっしゃー、じゃあ、行こうか! セーラ、送ってくれへん?」

セーラ「あのなぁ、オレは運送屋やないで?」

竜華「いやいや、運送屋やん」

セーラ「オレは荷物の運送屋はしとるけど、タクシーやないって意味や。ま、連れて行くけどな」

竜華「セーラのそういうところ、大好きやで~」

セーラ「へーへー。お乗りくださいませ、お嬢様ー」


セーラ「泉も乗っていくか?」

泉「あっ……えっと」


どうしよか。久しぶりに来たし、まだ園城寺先輩とお話したいような


セーラ「また明日も、オレと竜華は来るで。そんときに、泉も来る? 乗せるで」

泉「ホンマですか? じゃあ、お願いします」

セーラ「任せろ。じゃあ、怜。またなー」

怜「うん」

泉「先輩、お体に気をつけてください」

怜「ありがと」

竜華「ふふん、怜! 明日は首を洗って待っとくんやで! ハバネロロシアンルーレットの借り、返すさかい!」

怜「キャロライナ・リーパやで」

竜華「どっちでもええわ! ほら、いこ玄ちゃん」

玄「はいっ 園城寺さん、失礼します」

怜「ん」


園城寺先輩は、帰りの挨拶の間、ずっと下を向いとった。



【残り時間:二日】


《清水谷家》 視点:竜華  



竜華「玄ちゃん、狭いところやけどゆっくりしていってな~」

玄「はい! とっても可愛いお部屋ですね! しかも、お店と繋がってて……いっつも綺麗なお花が見られて、すごいです!!」

竜華「そんなことないよ~ 玄ちゃんはかわいいなあ~」

竜華「まあ、座ってーな」

玄「失礼します!」

竜華「かしこまらんでええよ、ウチらはもう友達やさかい」

竜華「あ、そういえば、いろいろと聞きたいことがあったんやった。まず、なんで怜の事務所の場所が分かったん?」

玄「ああ、園城寺さんに、風越の事件のお話をしてもらったんですけど、その時の福路さんとう方が出てきて」

玄「その方なら、園城寺さんのおうちをご存知かと思いまして」

玄「それで、風越女子に行って、福路さんにお会いして、直接伺いました!」

竜華「なるほど、美穂ちゃんな……えっ? まさか、飛びこみで高校行ったん?」

玄「はい!」

竜華「ほ、ほんまか……玄ちゃん、行動力あるなあ」

玄「えへへ、それほどでも!」


いや、謙遜してるけど、なかなかできんことやで?

よほどの想いで、今回来たんやろうなあ……この子のために、ウチが出来ることを少しでもしてあげよ!


竜華「お姉さんは、今回のことなんて?」

玄「『玄ちゃんがやりたいことが見つかって、おねえちゃんは嬉しいよ。頑張って!』」

玄「と言ってくれました。おねえちゃんは、応援してくれてるのです」

竜華「ほうか、旅館は大丈夫なん?」

玄「松実館は……これは、おねえちゃんとも話し合ったんですけど……」

竜華「うんうん」


玄ちゃんは、ウチが用意したお水を、一口飲んで

それから続けた。


玄「売却することにしました」

竜華「ええっ?! ホンマに?!」

玄「あっ、売却といっても……旅館をやめるわけじゃないです。今のところを売って、場所を変えて」

玄「もっと規模を小さくして、新しい旅館を、おねえちゃんが始めるのです」

竜華「なるほど、そういうことか」

玄「はい! もともと、私のわがままであの場所でやってきたから……なので、あとは私の気持ち一つだったみたいです」

竜華「そっかあ。でも、楽しみやね。新しいところできたら、絶対行くさかいな!」

玄「ありがとうございます!」

竜華「よっしゃ、もうウチが気になってたことは聞けたから」

竜華「今日は、パジャマパーティーや!」

玄「ぱじゃま、ぱーてぃ?」

竜華「パジャマを来て、お菓子を食べながら、夜話するんやで!」

竜華「女の子同士のお泊まりといったら、コレやろ!!」

玄「な、なにそれ……楽しそうなのです!」

竜華「やろやろ、せやろ? それじゃあ、準備をして、パーティに突入や!」

玄「おーー!!」


それから、玄ちゃんと夜遅くまでおしゃべりした

玄ちゃんのお友達の話、家族の話、旅館での小話とか

いろいろな話を聞かせてくれた。

玄ちゃんは、おしゃべりが得意というよりは、むしろ聞き上手な子で

普段から旅館でお客様のお話を聞く立場やったから、慣れとるんやと思う。


そうした事情もあって、こうしてじっくりと話を聞いてもらうのは、久しぶりやったみたいで

夢中になって話してくれた。あまりに楽しそうに話すから、こっちも釣られて笑顔になってしもた。




そして、眠気の限界がくるまでたーーーっぷりお話して

それからお布団を隣り合わせに敷いて、寝た。

今日はここまで

展開遅いのがデフォですまんな
ちょっとづつ、毎日更新目指して頑張ります

なんか提案とか希望あったら、言ってくれればなんも言わず勝手に採用してることがあるので、ご自由にどうぞ
(採用するとは言ってない)

では、おやすみなさい

乙です。時折触れられる怜の背景が気になるな
ただ細かいところ揚げ足取るようで申し訳ないんだけど一人称は

セーラ…オレ→俺(純くんは「オレ」)
泉…ウチ→私

だと思うのです

>>459
泉は、確かに『私』でしたね、直しとくよー
セーラも、確かに俺の方がしっくりくるので、次から変えます

すばらな指摘サンキューやで


つづき

あ、これ忘れてた



【二条 泉(にじょう いずみ)】   

職業:学生 バイト先 遊園地、旅行会社などなど
怜の後輩1 少しおっちょこちょいで、負けん気が強い。でも基本的に、いい子。怜の独特の考え方に惹かれている。


《翌日 @事務所》 視点:泉


昨晩は、妹さんは清水谷先輩の家にお泊りしたみたいや

私は江口先輩に送ってもらったあと、夜のバイトのシフトに入った。

昨日は夜遅くまで入ったから、ちょっぴり眠いなぁ……


今、事務所には江口先輩、清水谷先輩、妹さん、ウチと昨日のメンツが再び揃った。

さて、どうなるんやろか。



セーラ「怜、おはようさん」

怜「おはよう、セーラ」

玄「おはようございます、園城寺さん!」

怜「うん。おはよう。竜華もおはよ」



清水谷先輩は、それには答えず、園城寺先輩ににっこり笑ってみせた。

妹さんを引っ張って、少し距離を取る。宣戦布告のつもりやろか。



竜華(玄ちゃん、こっちきて!)

玄(はい!)

竜華(そろそろ、やろか! 昨日打ち合わせた通りに!)

玄(分かりましたのです!)


怜「いただきます」

セーラ「怜、バナナ?」

怜「せやで。ウチのマイフェイバリットフードや。昼前やけど、食べたくなってな」

泉「へぇ~ そうやったんですね。」

怜「事務所で暮らし始めてからやけどな。いかに栄養価があって、手軽に食べられて、そこそこうまいか」

怜「これがウチの判断基準やさかい。バナナはどれも満たしとる、『完全食』や」

泉「本来の『完全食』の意味と違う気もしますけど……でも、確かにイケてる食べ物ですよね」

怜「泉はいっつも、朝、何食べるん?」

泉「そうですねー バイトがあるときは、賄いが出るんで、食べないこともありますよ。飲食店のときはですけど」

泉「暇なときは、家にあるもんです。ご飯でもパンでも、なんでも」

怜「ふーん。自分で作るん?」

泉「たまには。今朝はおにぎり自分で作って食べました」

怜「さよか。自分で作るって、すごいな」

セーラ「同意するわ。俺はコンビニメシが多いな。というか、作ったことないわ」



先輩方と、なんということもない、世間話。

チラチラと、清水谷先輩と妹さんの方を見ながらやったけど。

園城寺先輩は、試験のことはまるで忘れてるみたいに、気にしてなさそうやった


泉「あ、電話……ちょっとバイト先からみたいです。失礼します」

セーラ「おう。泉も大変やな」

泉「いえ……あ、もしもし?」



セーラ「さて、どうなることやら……」

怜「セーラ」

セーラ「どした?」

怜「ちょっと耳貸して」

セーラ「おっ、なんやなんや。俺にもなんか協力して欲しいんか?」

怜「まあ、ちょっとだけ。ほんの一瞬でいいから………ごにょごにょ」

セーラ「? それだけでええんか? 別にええけど」

怜「うん。それでええ」

セーラ「なんだかんだ、一応は考えとるんやな」

怜「まあ、ウチも――」

怜「―――全力には、全力で返したいからな」


電話は、バイトのシフトの変更のお願いやった。

こういうことが、頻繁にある。こういうバイト先では、人員が不足しとったりすることが多い。

私はけっこうなバイト好きやから、私みたいな人材は便利やろうなあ。

まあ、代わりにいろんなチケットタダでもらえたりするし、そのへんはギブアンドテイクってことで。


あ、清水谷先輩が動いた。


竜華「とーきっ!♪」

怜「ん?」

竜華「ほら、これ! 玄ちゃんから、プレゼントやって!」

怜「プレゼント?」

玄「は、はい! 園城寺さんに、お会いしに行くのに、なんの手土産もなしにというのは、おねえちゃんが失礼だって」



なんやこれ……清水谷先輩、不自然なくらいニコニコして

いかにも、って感じや。怪しい。


怜「そうかぁ。悪いなあ」

玄「どうぞ。あ、そういえば、前回の松実たまごはいかがでしたか?」

怜「なかなかうまかったで、な、セーラ」

セーラ「おう! お礼言い忘れとった、ありがとな!」

玄「いえいえ!」

怜「じゃあ、これは外の冷蔵庫に入れとくわ」

玄「!」

竜華「えっと……今食べへん?」

怜「さっきバナナ食べたしなぁ。別にいつ食べてもええやろ? もうウチのもんやし」

玄「あ、はい……」

怜「ありがとな、妹さん。ん~~~ なんかバナナ食べたら眠くなってきたわ」


いやいや、まだお昼前ですよ? 先輩


セーラ「じゃあ、俺が川に突っ込んどいたろか?」

怜「頼むわ、セーラ。ありがと」

玄「っ、えっと、園城寺さん! 肩でも揉みましょうか?」

怜「えっ? そんなに凝ってないけど……松実館の秘伝の技とかあるの?」

玄「あっ、ありますあります! おまかせあれ!」

怜「じゃあ、お願いするわ。よいしょ」



園城寺先輩はソファに腰掛けた。

ちなみに、ウチはあんまり肩は凝らん。清水谷先輩は、たまに肩凝るって言いはってた。

なんでやろなあ? 理由? 知らん。

園城寺先輩も、野性的な生活しとるし、そんなに凝ってなさそう。


怜「誰か、爪切り持ってない?」

泉「あ、持ってますよ。バイト、そういう身だしなみのことは厳しいんで、持ち運んでます」

怜「ちょっと貸してくれへん? 指の爪切りとうてな」


園城寺先輩に、爪切りを渡した。

清水谷先輩は、再びニヤニヤしとる。またなんか企んどるんかな。


怜「ごめん、お待たせ。お願いします」

玄「は、はい……はい!」


園城寺先輩は、爪を切り始めた。

妹さんは……普通に、肩を揉み始めた。あれ? なんもせんの?


怜「ああ~~気持ちええわあ」

玄「そ、そうですか?」

怜「うんうん。松実妹の手は、神の手やなぁ~~」

玄「えへへ、喜んでいただけて、何よりです!」

竜華「……」


清水谷先輩が、苦虫を噛み潰したような顔をしとる。

作戦会議に加わってない私には、何がなんだか……


セーラ「ただいま。お、なんやなんやマッサージか」

怜「ありがと、セーラ。そうやで~ 最高や、なんかウチ、本格的に眠くなってきた」

怜「松実妹のおかげやなぁ。ちょっと、ウチ寝るわ」

竜華「ちょ、ちょっと。怜! 怜が寝たら、玄ちゃんの試験にならんやん!」

怜「ああ、別にいつ起こしてくれても構わんで。何してもええって、言ったやろ?」

竜華「……」

玄「……」

怜「じゃあ、失礼して……ありがとな、松実妹」


園城寺先輩は、目をこすりながら、布団を敷き始めた。

そして……ホンマに横になってしまった。タオルを顔にかけとるけど

あれは、アイマスク替りやろか。



セーラ「怜、昼メシはええんか?」

怜「うん、ウチはええ」

セーラ「……」


江口先輩は、少し間を置いて、園城寺先輩にこう言った。


セーラ「じゃあ、俺らでメシ食ってきていいか? 外で」

怜「ええよ。いってらっしゃい」



《試験二日目 @レストラン》



竜華「ううううううう、悔しい! 怜め、あんなんずるいやん!!」

セーラ「別に、ずるくはないと思うけどな」

玄「思ったより、難しいです……全然、そんな感じにならないのです」



事務所からレストランへ向かう間は、一言も発して無かった清水谷先輩やったけど

レストランに着くやいなや、きぃーー、と言わんばかりに悔しがった。


セーラ「まあ、俺はこうなると思っとったわ」

竜華「マジで?? なんでそう思うんや、セーラ」

セーラ「竜華は、怜の性格や習慣をよく知っとるさかい……それを踏まえれば、騙すのは簡単思ったんやろ?」

竜華「そうや。でも、あんな対応されたら、どうしようもないやん!」

セーラ「せやな。完全に玄関で止められてる、って感じやなあ」

泉「あのぉ……すいません、私だけ、まったく先輩方の言ってることが理解できてないようで」

泉「どういうことです? ずるい? 玄関? こうなるって、どうなるって思ったんですか?」

セーラ「ああ、すまんな。んーと、俺は説明あんまり上手くないけど……」

セーラ「今回は、中立に近い俺が進行したほうがいいか」

泉「お願いします」

セーラ「まず、お土産やけど、あの中には、何が入っとったん?」

竜華「おもちゃの虫をいっぱい入れとったんや、名づけて、『開けてビックリ、なんだこのお土産は作戦』!」



作戦名、長いなあ……清水谷先輩らしいというか、なんというか

なるほど、それであの場で開けて欲しかったわけか。


竜華「怜は食べ物には弱いやん? せやから、絶対食いつくと思ったのに……」

玄「私もです……あれだけ、私のご飯を美味しそうに食べてくれたから、お土産なら、と思ったのです」

竜華「ぶっちゃけ、あそこで終わる思ったよなぁ」

玄「はい」

泉「それで、次の肩もみは?」

竜華「あれは、『肩を揉むとみせかけて……後ろから、盛大にくすぐってやろう、作戦』! や」

セーラ「あ、なんや作戦名やったんや。えらい長いな」



江口先輩に全面同意、最近の小説やライトノベルのタイトルにありそうな感じ。

私なら……そうやな、肩もみ奇襲大作戦、とか? 名付けるのって、意外とむずいな。


竜華「そうすれば、肩を揉んでくれると期待しとったのに、くすぐられて、騙された~となるわけや」

泉「でも、妹さん、最後まで普通に肩揉んでましたやん? なんでです?」

玄「えっと、それは……園城寺さんが爪を切り始めたからです」

泉「あ、そういえば」

玄「あれで、急にくすぐったりしたら、その、手元が狂って、怪我しちゃうかなと思って……」

竜華「うう、タイミング悪いなあ。お昼前やのにバナナを食べてみたり、切らなくてもいいタイミングで爪を切ってみたり」

竜華「ウチらが立てた作戦は、完璧やったのに……」

セーラ「……」

泉「それで玄関、ってことですね。そもそも、驚かせたり、くすぐったりと、その段階にすら行ってない」

泉「水際対策みたいなもんでしょうか……せっかく立てた作戦も、水の泡ですね」

竜華「せやから、悔しいんや! きぃーーーー!!」

泉「江口先輩はこれを予想しとったんですか?」

セーラ「まぁ……怜が意図的にバナナを食べたり、爪を切ったりしたかは分からんけど」

セーラ「これはかなり難しい試験やとは思うで」

竜華「なんで?」

セーラ「いや、だって……例えば、竜華。詐欺師だと分かってる相手から、何かを買ったり、契約したりするか?」

竜華「するわけないやん」

セーラ「じゃあ、怜だって、妹さんや竜華から買うわけないわな」

竜華「あっ……」


セーラ「竜華は、俺らが怜の性格を知り尽くしてるからこそ、簡単に騙せると思ったみたいやけど」

セーラ「それは、あまりに考えが単純過ぎると思うで。向こうは【こっちが騙しに来ることを分かってる】んや」

竜華「ううっ、確かに……考えが、浅かったかも……」

竜華「しかもそれをセーラに指摘されるなんて……」

セーラ「竜華、一週間、車で送るのなしの刑」

竜華「い、いやぁぁぁぁぁ! それだけ、それだけはぁ!!」

泉「どんだけ歩きたくないんですか」

竜華「だって、家までけっこう距離あるもん!」

玄「…………」

竜華「あっ、ごめんね、玄ちゃん。ウチらの話になってしもて」

玄「いえ……でも、みなさんのお話を聞いて、やっぱり簡単には、いかないんだなって」

竜華「……ごめん。ウチが時間を無駄に使わせてしもた。本当にごめんな……」

玄「いえ! 昨日はとても楽しかったです! 昨日の時間は、私にとって無駄な時間なんかじゃありません!!」

竜華「く、くろちゃん……」

セーラ「おいおい、この子めっちゃええ子やん。俺もこんな後輩欲しかったわ」

泉「江口先輩、私の前でそういうこと言わんといてください。泣きますよ?」

セーラ「すまんすまん、泉はかわいい後輩やけど、ショートカットやん? ロング枠が欲しかったんや」

泉「なんか江口先輩、口が上手くなりましたよね……もっと前は口下手だったような」

セーラ「仕事してるとな。余計なリップサービスが身につくちゅうわけや」

泉「やっぱりリップサービスなんやないですか! しかも余計って!」

竜華「まあまあ。とりあえず、次の手を考えな……どうしよか」

玄「……」


竜華「セーラ、なんかいい考えない?」

セーラ「……俺は、人を騙したり、貶めたりするんは嫌いや。作戦立案には、俺は手を貸さん」

セーラ「俺に言えることは……松実妹」

玄「は、はい」

セーラ「お前は、怜の弟子になりたいんか? それとも、怜に認められたいんか?」

玄「え、えっと……どういう意味ですか?」

セーラ「そのまんまの意味や。怜に嫌がられようが、嫌われようが、怜の下で働きたいんか?」

玄「それは……嫌です」

セーラ「もし俺なら……弟子として心から受け入れてもらえるように、頑張るわ」

セーラ「そうやないと、一緒に働く、甲斐がないからな」

玄「私も……園城寺さんに、ちゃんと認められたい。認められた上で、いろいろ教わりたいです!」

竜華「……」

セーラ「やったら、竜華。俺らのすべきことはなんや?」

竜華「……玄ちゃんが、自分の力で、怜に認められるよう……サポートしてあげること、か」

セーラ「そうやな。温かく見守ろうや」

竜華「よし、玄ちゃん。あとは、自分でいろいろ考えて、精一杯、怜にぶつかってき!」

玄「はい! ありがとうございます」


竜華「よっしゃーそうと決まったら、注文しますか! お腹も空いてきたことやし!」

泉「あ、やっとですか」

セーラ「竜華、お前は優しい奴やと、オレは知ってるで。せやから、元気出せや」

竜華「う、うっさいわ!ばかばか、セーラのあほ!」

泉「すいません、これとこれと、あとこれ……」

セーラ「えらい注文するな、泉」

泉「だって、先輩方にご馳走してもらえる、またとない機会ですし」

セーラ「……泉、容赦ないな」

竜華「ホンマやで」

玄「えっと……」

泉「あ、妹さんは、ええですよ。さすがに、年下にご馳走してもらうつもりはないんで」

玄「あの、二条さん、おいくつですか?」

泉「○○歳ですけど」

玄「……私、二条さんより年上ですね」

泉「え゛っ」

セーラ「……」

竜華「……」

玄「……」



やってもうた。完全に、年下やと思ってた……

だ、だって、だって! なんか、私にも礼儀正しかったし、年下やと思うやん!

空気が凍りついとる。この空気を打開するには―――


泉「じ、実は、昨日バイトの給料日だったんですよ。だから、良かったら皆さんの分、奢らせてください!」


う、うわー! 何言っとるんや、ウチは!

ここで3人分奢るとか、さすがにきついって!


セーラ「おおおお、泉かっくいー!」

竜華「太っ腹~!」


先輩方、そこは後輩に奢らせるなんて、できへん、って止めるとこでしょう

止めて、妹さん止めて!


玄「後輩の子にご馳走してもらうのも悪いし……」


よし、ナイス!


泉「や、やっぱr――「大丈夫、大丈夫!」」

泉「へ?」

竜華「泉はバイトマニアやから!」

セーラ「せやで、下手したら、俺らより稼いどる月もあるくらいや。3人分の昼メシくらい、ちょろいもんやで」

セーラ「な?」

泉「うっ、い、いやっ、その………ま、まかしといてください!」

玄「本当に? じゃあ、ごちそうになっちゃおうかな……もし、足りなかったら、言ってね?」

泉「はい……」



うわぁぁぁぁぁん! 余計なことを言ったばっかりに! なんでや!!

うううぅぅぅぅぅぅ、この出費は、高くつくで……とほほ


食事を終えて、再び事務所に戻った。

私が奢るとなって、清水谷先輩や江口先輩は、ここぞとばかりに―――

とまではいかないまでも、いつもより少し高いものを頼んどった。

妹さんは、気を遣って、一番安いランチを注文してくれた。天使や、天使。


《二日目 @事務所》


そして、事務所に帰ってからというもの……妹さんの試行錯誤は続いた。




①宝くじが当たったと、嘘を付いてみる

玄「園城寺さん、園城寺さん!!」

怜「どうしたん?」

玄「実は、私、宝くじ当たったんですよ!!」

怜「えっ、宝くじって今の時期やっとるん?」

玄「はいっ、そうなんです!」

怜「なるほどなるほど、そのお金で何を買うん?」

玄「え、えっと、えっと……新しく旅館を今度立てるんですけど、その資金にしようかと……」

怜「おっ、あの旅館は潰すんやな。そういえば前は潰れてしまえ、とかひどいこと言ったな。あれはすまんかった」

玄「いえいえ、気にしてません!」

怜「あの時のパンチは効いたなあ」

玄「わ、忘れてください、あのことは!!」

怜「ふふふ、分かった分かった」



玄(あ、あれれ? 宝くじが当たった、って嘘で驚かせるはずだったのに)

玄(いつの間にか、旅館の話とすり替わちゃったよぉ)




泉「極めて自然に、流されてますね」

セーラ「話題をそらすのうまいな。松実妹の話を遮るでもなく、かと言って間に受けるでもなく……」

泉「後半には会話の主導権持って行かれてますし」

竜華「怜のやつ、玄ちゃんの何が気に入らんっていうん??」

泉「先輩、どうどう」

セーラ「まあ、まだ始まったばかりやし、見守ろうや」

竜華「セーラがそう言うなら……」


②錯視で騙してみる


玄「園城寺さん、この絵を見てください!!」

http://trend-japon.com/wp-content/uploads/2013/11/trick4.gif



怜「ん? これは有名な錯視か。真ん中のサイズが、実は同じってやつやな」

玄「えっ、そ、そうなんです。よく分かりましたね」

怜「うん、こういうの好きやさかい」



玄(あ、頭がいい人って、こういうのもすぐ分かっちゃうんだ)

玄(この手の方法は、たぶん園城寺さんには通用しないかな……)


③怜の興味のある話題に持っていき、嘘をついてみる


玄「園城寺さんの好きなものはなんですか?」

怜「食べ物やな。食べてる時が、一番幸せや」

玄「前、私が作ったご飯も、美味しそうに食べてくれましたよね」

怜「あれはホンマに美味しかったからな。改めてごちそうさん」

玄「あの、園城寺さんには言ってなかったんですけど……」

怜「?」

玄「初日の夜の会席料理に出てきたお肉」

怜「あれかぁ、あのお肉美味しかったで!」

玄「実は、ワニのお肉だったんです!!」

怜「ま、マジで?! ホンマに?!」


竜華(よっしゃ、よっしゃ!! ついに、ついに食いつきおった!!)

セーラ(やったな、ここで暴露や!)

泉(騙されましたね、園城寺先輩!!)


玄「ふふーん、園城寺さん、騙されま――「いやぁ」

怜「本当に、美味しかったで。ワニの肉って、あんなに美味しいんやな」

玄「い、いや、園城寺さん、そうじゃなくて、実はですね!」

怜「ウチはあんなに美味しいもんがあるとは、知らんかった。初めてワニの肉を食べられたのが、松実館で良かったわ」

玄「……」

怜「ありがとな、松実妹。ウチは幸せもんや」

玄「っ………」

玄「よ……喜んでもらえて……何よりです……」


妹さんは、暗い顔をして、トボトボと歩いてウチらのところに戻ってきた。

なんだか、悲しそうな顔をしとる。



竜華「く、玄ちゃん! どしたん!? あのまま暴露すれば、試験合格やったのに!」

玄「竜華さん……」

セーラ「ホンマにな。どうしてそうせんかった。怜に気を遣うとるんか?」

玄「……」

竜華「玄ちゃん、怜に気を遣ってたら、いつまで経っても合格できへんで!!」

玄「そう、ですよね……ただ」

泉「ただ、なんです?」

玄「あんなに嬉しそうな園城寺さんの顔は、事務所に来てから、初めて見ました」

玄「本当に、私が作ったご飯を、気に入ってくれてたんだなって。そう思うと、言葉が出ませんでした……」

竜華「いやいや、それはそうかもしれへんけどな、そんなこと言うてたらキリないで?」

セーラ「……」

泉「とにかく……このままやと、マズイですね。ここは、勝負に出たほうがええんとちゃいますか」

泉「時間が経てば経つほど、不利になる試験やと思うんで」

玄「そうですね……思い切っていってみます!」


④とんでもない嘘をついてみる


玄(普通のやり方じゃ、まったく園城寺さんには通用しない……)

玄(唯一、園城寺さんの気が緩む、食べ物のお話では……できれば、騙したくない)

玄(よし、ここは、思い切って……おねえちゃん、ごめんね。今だけ、一回だけ。)



玄「園城寺さん!」

怜「今度はどしたん??」

玄「実は、さっきお父さんから電話があって……おねえちゃんが倒れちゃったんです!!」

玄「申し訳ないんですけど、試験は中断させてください!! お願いします!!」

怜「……」


離れたところから、私らはこの様子を伺っとった。

妹さん、ついに思い切った嘘に出た。これも、華麗に流されるかと思ったら

園城寺先輩の反応が、これまでとはだいぶ違っとった。




怜「ダウト」

玄「えっ、だ、だうと?」

怜「ダウト。『私はあなたを疑ってます』って意味や」

怜「松実妹……アンタならな。本当に、お姉さんが倒れたりしたら」

怜「ウチらに構うことなく、この事務所を飛び出していくやろう。アンタはそういう子や」

怜「やから、ダウト。それは嘘やな?」

玄「はい……」

怜「そろそろ6時や。試験終了まで、あと一日や」

怜「もうあまり時間もないさかい。これから、ウチは騙そうとしに来とるな、って思ったら」

怜「『ダウト』っていう。これを言ったら、『騙そうとしてるの分かってますよ』、のサインや。ええな?」

玄「分かりました……」



【残り時間:一日】


それからも、妹さんは諦めんかった。

あの手この手を考えて、園城寺先輩にアプローチをしていった。

でも、その度に『ダウト』と先輩は追い返した。

遮二無二に、『ダウト』と言うわけじゃなく、きちんと妹さんの話を聞いた上で、言っとったけど

それを差し引いても、この試験は、江口先輩が言ったように、難易度極悪や。

私には無理そうや……いや、ウチだけやない。ここにいる誰がこの試験をクリアできるやろうか。


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―――




怜「ダウト。さすがにそれは無理があるで、松実妹」

玄「うううううう、またダメだったよぉ……」



あれから、何度『ダウト』と、聞いたやろうか。

その度に、妹さんは、凹んで、また考えて、立ち直って、園城寺先輩に立ち向かっていった。

この子は、ただ可愛いだけやないな。ここまでやられても、諦めんあたり、けっこう根性のある子や。

気がついたら、外は真っ暗。ボロボロの壁の隙間から、月の光が部屋に細い糸みたいになって差し込んできとった。


玄「すいません、ちょっと顔洗ってきていいですか……?」

怜「ご自由に。外に綺麗な川が流れとるで」

玄「はい、では失礼して……」



竜華「………」

セーラ「お、おい、竜華?」


妹さんは、顔を洗いに、外へ出ていった。

出て行くと同時に、清水谷先輩が、立ち上がる。

もう見てられん、といった感じの清水谷先輩。

一方の園城寺先輩は、すまし顔でソファーに座っとった。


竜華「もう……もう我慢の限界や。怜!!」

怜「なんや?」

竜華「アンタ、いい加減にしぃや!! こんな試験、無効や、無効!!」

竜華「ここ3時間くらいはずっと『ダウト』ばっかり……玄ちゃんが何やってもそれやん!」

竜華「なんで、そんな意地悪するん? あんなに一生懸命な子をどうして受け入れんの? 何が気に入らんの?!」

怜「……試験のルール通りにやっとるだけや。合格したら、弟子にする」

怜「アカンかったら、きっぱり諦めてもらう。初めにそういう約束をしたはずや」

竜華「質問に答えて、怜!」

怜「……」

竜華「怜!」

セーラ「竜華、落ち着け。熱くなりすぎや」

竜華「だって!!」

怜「……」


玄「あの……どうしたんですか?」

竜華「あっ、玄ちゃん……おかえり。なんでもないんよ。顔洗って、さっぱりした?」

玄「えへへ、眠くなってきちゃいました……でもっ、まだまだ頑張ります!」

竜華「っ、そうや、怜! あんた手本見せえや!」

泉「なるほど、手本ですか」

竜華「そうや、弟子に要求するくらいやから、怜やったらできるんやろ!」

玄「ちょ、ちょっと見てみたいかも……」

竜華「ほら、玄ちゃんもこう言っとるで。やってみいや!」

怜「……それはできん相談やな。見せられへん、見せたら、答え丸写しされるやん」

玄「あ、あはは……やっぱり、そうですよね」

怜「……そうやな。手本は見せられんけど、ヒントなら出してもええよ」

玄「ほ、本当ですかっ?!」

怜「こうやってやるんや。分かった?」

竜華「は?」

玄「えっ……?」

セーラ「……」

泉「……」


玄「えっと、あの……今のは……」

怜「嘘や。今、【ヒントを教えてもらえる】って思ったやろ?」

玄「…っ」

怜「騙された、って思った?」

玄「……思い、ました……」

怜「ええか、こうやってやるんや。人の弱みにつけこんでな」




誰もが、言葉を失った。

清水谷先輩も、江口先輩も、そして私も。

妹さんは、もう、顔を真っ青にしとった。

自分が、こんなにもあっさり騙されたことに対する、絶望感に違いない。


怜「竜華」

竜華「な、なんや!」

怜「なんで午前中、ウチがあんなにあっさり松実妹の作戦を躱し続けられたか分かる?」

竜華「な、なんか理由があるっていうん?」

怜「簡単なことや。昨日、松実妹が竜華の家に泊まるって聞いてな」

怜「盗聴器を、竜華の背中にくっつけておいたんや。全部作戦は筒抜けやったで」

竜華「う、うそ!」

怜「嘘やない。昨日は、遅くまで盛り上がっとったなぁ。松実館の件も、一段落して良かったな。安心したで」

竜華「と、怜、アンタな……ひ、卑怯や! 卑怯やで! 盗聴器なんて、反則や!!」

怜「う、そ」

竜華「………は? ど、どういうこと?」

怜「冗談や。ウチに盗聴器買うお金があるかいな」

竜華「え、じゃ、じゃあなんで、パジャマパーティのことや、松実館取り壊しのことも知っとるんや?!」

怜「パジャマパーティなんて一言も言ってないで。松実館のことだって、詳しくは聞いてなかった」

怜「ただ、竜華なら、松実妹と遅くまでおしゃべりしてそうやし」

怜「旅館の件が片付かんままに、松実妹はここに来へんとアタリをつけて、適当こいただけや」

竜華「……っ、な、なしや! 今のはなしやろ!」

怜「なしやない。騙すなんて、ほんの一瞬のことや。竜華が言ってたことやで?」

竜華「ぐっ……」


怜「あれ、泉」

泉「な、なんです?」

怜「さっきは気がつかんかったけど……こっちの角度から見たら、顎の下にご飯粒付いとるで」

怜「今朝おにぎり食べた時に、付いたんちゃう?」

泉「わ、私は騙されませんからね! そうやって、私のことも騙すつもりでしょう?!」

セーラ「いや、泉。ホンマに付いとるで、ほら、鏡」

泉「ま、マジですかっ?! なんでもっと早く言ってくれへんのです! 恥ずかしい……」

泉「あれ、付いてない……やっぱり付いてないやないですか!!」

怜「と、まあ」

怜「手本はこんなもんでええ?」

泉「えっ、えええええええっ!?」

玄「…………」

泉「江口先輩、園城寺先輩に乗っかったんですか? ウチを引っ掛けたんですか?!」

セーラ「そうや。今朝、怜に言われたんや。まさかこのタイミングで来るとは思わんかったけどな」

泉「くっ、まさか、江口先輩も仕掛け人とは……さすがに予想外でした」

玄「す、すごいや……」

怜「ええか、相手の弱みや、不安、欲望につけこんで騙すこと」

怜「そして、人の使い方。人は当事者や一番近い人の言うことは、素直に信じないくせに」

怜「なぜか第三者の言うことは、あっさり信じたりする。
  または、多人数に指摘されると、自分が間違ってるんやないか、という気を起こす」

怜「今、二つ教えたで。他にいくらでも騙す方法はある」

玄「……」

怜「……探偵は、こうやって、人をだまくらかして、人の悪い側面を白日のもとに晒そうとする、えげつない仕事や」

怜「そういう、仕事や。松実妹が思ってる仕事と、違うと思うで」

玄「……」


その後の、事務所は、本当に居心地が悪かった。

清水谷先輩は完全に拗ねてしまって、園城寺先輩と口をきかんし、江口先輩も腕を組んだまま、動かへん。

私も私で、騙されたのが悔しいんと、この空気に当てられてるのとで、何もする気が起きへんかった。

妹さんは、園城寺先輩へのアプローチをやめて、考えこんどるようやった。

日が落ちてしまって、電気もないから、ランプの小さな明かりだけでは薄暗く、益々みんなの気分は沈むばかり。


怜「…………………………………」

竜華「………………………………」

セーラ「……………………………」

玄「…………………………………」


……………………………空気、重っ!!




誰か、誰か、助けてください!


この真っ暗な世界に(電気がないから、比喩やなかったりするんやけど)、一筋の光を!!


その時―――ギィィィィという音とともに

本当に、一筋の光が、ドアから差し込んできた。

懐中電灯の光やった。



「ふわぁ、こんなに時間がかかると思わなかった……懐中電灯持ってきておいてよかったよ」

「もしもし、こんばんは……うわぁ、暗いなあ」



光明、前途の見えない第三世界に、光明の兆し!

この期、逃す手なし!


泉「! は、はい! どなたですか?!」

「私は、みやながさきと言います。園城寺さんはいらっしゃいますか?」

泉「いるいる、いますよ! どうしはったんですか?」

咲「ええと、お話があってきました。でも、なんだかお取り込み中みたいですね……」

怜「あっ、宮永さんや。久しぶり」

咲「園城寺さん! お会いしたかったです!」

怜「待っとったんやで。なんであのあとすぐに来んへんかったん? 」

咲「だって、あの地図じゃ……ふふっ」

怜「ど、どういう意味や!」

咲「なんでもないですよ。思い出し笑いです」

怜「くっ……ウチの自信作を笑うとは……まあええ。どしたん。依頼?」

咲「ええと……相談に来たんですけど、また日を改めたほうが良さそう、ですね」

怜「んー、そやな。また明後日以降に来てくれるか。それとも、急な案件?」

咲「いえ、大丈夫です、では、また後日に――――」

泉「ちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

咲「!?」


ミヤナガか、なんだか知らんけど……逃がさへん!!

悪いけど、この最悪の雰囲気を変えるために、利用させてもらうで!!




泉「せっかく! せっかく来てくださったんです!!!」

泉「ええと………ええと、ええと……皆で、宮永さんも、入れて」

泉「夜ご飯食べに行きましょう!!!」

咲「わぁ、いいですね。園城寺さんと久しぶりに話したかったし、ぜひ」


怜「…………」

セーラ「……」

竜華「…………」

玄「…………」



肝心のウチのメンツの食い付きが悪い。というか、ノーレスポンス、無反応。

かくなる上は―――――――――――――――――――



泉「む、無論、私のおごりで!! 後輩のお願いですよ、先輩方、拒否権はないですからね!」



――――――最後のは余計やった。またやってしもた。あちゃーーーーー………

とりあえず今日はここまで

これで半分くらいです。もう少し短く収めたいんですけど、無理でした


口調とかの指摘は歓迎です。
原作もアニメも見たけど、だいぶ忘れてしまったので


では、おやすみなさいー




毎日更新するつもりだったんだけど
昨日は寝落ちで、今日の夜は予定入ったので

次は、金曜の夜になりそうです。

寝落ちしそうですが、少しだけ、更新


つづき


《夕食 @スープスパのお店》


怜「ここに来るのも久しぶりやなぁ」

咲「あれ、もうサービス券使っちゃったんですか?」

怜「とっくにな。値段的にサービス券なしには、行けへんよ」

咲「私は、あの事件があってから、一度も行ってませんでした。なんだか怖くて」

怜「まあ、宮永さんにとってはいい思い出の場所じゃないしな」

泉「あれ、ここって、二人が出会った場所なんですか?」

怜「そうやな、ウチの、いっちゃん最初の事件は、ここで解決した」

玄「えっ、ええっ? もしかして、このお店って、あの粉チーズのトリックのお店ですかっ?!!」

怜「せやで。ほら、これが例のブツや」

玄「ほ、本当だ! 確かに、穴が、二種類……うわああ、本当に、本当だ!!」

竜華「ふふっ、玄ちゃん、目がキラキラしとるな」

セーラ「おう。俺もここ来るの初めてやけど、いい匂いやなあ。楽しみや」

怜「せやろ。オススメのお店やで」

竜華「あっ、これが粉チーズ……これには毒入ってないよな?」

泉「やめてくださいよ、もう」

竜華「あはは、冗談やって!」



宮永さんの加入で、ようやくいい雰囲気が戻ってきた。よかった。

私、頑張ったで。褒めてもらいたいくらいや。

せやのに、4人分奢るんか……ああ、今月のバイト代が、消し飛んでゆく―――


「いらしゃいませ。園城寺さん、お久しぶりですね」

怜「おっ、店員さん。ご無沙汰。ウチはいつもので」

「はい、分かりました」

玄「な、なんだかかっこいい……」

竜華「ふふっ、なんか、似合わんな、怜。何が、【いつもの】や?」

怜「え、ええやん! どういう意味や竜華!!」

竜華「んー? なんでも~?」

咲「店員さん、私のこと覚えてます……?」

「もちろん。あの時は本当に災難でしたね」

咲「あはは、園城寺さんがいなかったら、どうなってたことか……学校サボってた私も悪いんですけどね」

玄「あっ、あのあの! 店員さん! ここで起こった事件、どんな感じでしたか?!」

セーラ「妹さん、それは蒸し返したら悪いんとちゃうか?」

玄「あっ、そうですよね……すいませんでした」

「いえいえ、いいですよ。園城寺さんは、ウチで起こった事件を鮮やかに解決してくれました」

「それはもう、鮮やかに。刑事さん、目を丸くしてましたからね」

怜「そうやったんか、それは見てなかったわ」


「それで、殺人事件があって、お客様が減ると思うでしょう?」

咲「確かに……でも、けっこうお客さん入ってますね」

「そうなんですよ、あの事件のあと、一時的に客足は減ったんですけど」

「園城寺さんが、何度も来てくださって、あまりに美味しそうに食べるもんだから」

「なんだか、評判になっちゃって。それから、また客足は元に戻ったんです。むしろ少し増えたかもしれません」

竜華「なんと……怜の食い意地が、世間の役に立ってる、やと……?」

怜「ふふん」

「それで、たまにこちらでもサービスさせてもらってるんですよ」

泉「そうやったんですね。あれ、じゃあ園城寺先輩、自分の勘定は――――」
  
泉「―――ごめんなさい、冗談です、泣きそうな顔せんといてください。私に払わせてください」

「改めて、本当にありがとうございました」

怜「全然やで。欲を言えば、もっとサービス券ほしい」

竜華「こらっ、怜!!」

怜「冗談やのに……」

「ふふっ、またウチで事件が起こったら、検討させてください」


店員さんのジョークに、どっと、笑いが起こった。

皆が、今日一番の笑顔をしとった。ああ、やっぱりなんだかんだこのメンツは楽しい。


玄「………」

泉「妹さん、どしたんです? 黙ってしまって」

玄「ふーむ、なるほどなるほど。やっぱり……………うん。うん!」

泉「??」

セーラ「注文ええですか? 俺は、このペペロンチーノスープで」

咲「あっ、私もそれで」

泉「ええと……私はジェノベーゼスープで」

竜華「ウチは大盛りカルボナーラ、半熟卵乗せで。あと、スープとサラダもセットでつけてください」

泉「し、清水谷先輩……なんか、多くないですか?」

竜華「だって、後輩の方にご馳走してもらえる、またとない機会ですし」

泉「うっ、改めて言われてみると、なんと腹立たしいセリフ!」

玄「ええと、じゃあ私は、トマトと茄子のス―――」

竜華「! す、ストップ。玄ちゃん、それは、それはやめよ?」

セーラ「そ、そうや。それはなしで。ほら、この和風明太子うまそうやん?」


妹さんが、注文しようとしたら

清水谷先輩と、江口先輩が、なぜか、それを制した。


玄「?? どうしてですか? これ、美味しくないんですか?」

咲「前、それ食べましたけど、美味しかったですよ」

竜華「と、とにかく! ウチが和風明太子、味見したいから、玄ちゃんお願い! な?」

セーラ「もし美味しくなかったら、俺のカルボナーラも、分けるさかい、頼む!」

玄「えっと……そこまでおっしゃるなら、じゃあ、これにします!」

竜華「ふぅ……」

セーラ「はぁ……」

咲「??」


ああ、そうか。そういえば、そうやったな。

園城寺先輩は、アレやった。まだ、克服、してないんやな―――――――


スープスパの帰り道、今が試験の真っ最中ということも忘れて、みんなでのんびり歩いて帰る。

宮永さんは、園城寺先輩と二人で、事件の思い出について話しながら、先頭を歩いて

残りの四人は、その後ろを静かに着いていった。


玄「美味しかったです! 泉さん、ごちそうさまでした!」

泉「いえいえ……お気に、なさらず……」

竜華「はい、泉。お代」

セーラ「ほら、俺からも。さすがに後輩に払わすほど、野暮なことはせんで」

泉「せ、先輩方!!」

竜華「なーんて」

セーラ「な!」

泉「えっ、ええっ?!」

竜華「人の欲望につけこんで騙す――」

セーラ「――いやぁ、言われてみれば、確かに簡単かもな!」

泉「せっ……」

泉「先輩方、あんまりですよ!! 私、こんなに、こんなに頑張ったのにっ…………!!!!!!!」


ほんまに、ほんまにあんまりや!

私、みんなのためを思って……頑張ったのに!

あんまりな仕打ちや!! ひどすぎる!!

ううっ、悲しくて、ちょっと涙が出てきてしもうた……


泉「ぐすっ……あんまり、あんまりです……」

竜華「ごめんごめん。泣かんといてえな。泉、ありがとうな。ホンマに、助かった」

セーラ「ああ。空気を変えてくれて、サンキュー。これ、昼の分も入っとるさかい」


清水谷先輩と、江口先輩は、昼食代、夕食代合わせて払ってくれた。

しかも……あれ、少し多い?


泉「あ、あの……ちょっと、二食分くらい多いですよ。超過分、お返しします」

竜華「泉の、昼の分はウチで」

セーラ「泉の、夜の分は俺」

竜華・セーラ「「先輩として、当然やろ?」」

泉「せ、先輩方……!!」


やばい、何この二人。滅茶苦茶かっこええ。

ちょっと、鳥肌立ってしもた。


玄「えっと、私も……『さすがに、年下にご馳走してもらうつもりはないんで』」

玄「あれ、こうだったっかな……?」

泉「や、やめてください! 自分が恥ずかしい……妹さんの分は、ホンマにごちそうしますから」

玄「うふふ、冗談だよ、泉ちゃん。ありがとうね。あ、泉ちゃんって呼んでいいかな?」

泉「それはもう、お好きに呼んでもらえれば……」

玄「ふふっ、いーずみちゃん!! 可愛いのです~~」

泉「ちょ、急に抱きつかんといてくださいよ」

玄「えへへ、泉ちゃんは、細くて、可愛いなぁ、羨ましい!」

泉「………」


褒められてるんか、貶されてるんか……いや、この人なら、前者か。


玄「私のことは、玄ちゃん、って呼んでね!」

泉「えっと、それは呼びにくいんで……普通に、松実先輩で」

玄「えーーいいんだよ、ほら、玄ちゃんって!」

泉「か、勘弁してくださいよ~~」


再度、園城寺先輩の事務所に集合。

今日はもう遅いから、帰ることになった。


竜華「玄ちゃん、どうする? 今日もまたウチに泊まってええよ?」

セーラ「俺んちでもええで」

怜「別にウチに泊まってもええんやで?」

竜華「怜のとこは、アカン。布団もないところに、玄ちゃんを置いておけん!」

怜「………」

泉「あーそれなら、私の家でもええですよ。今日は、両親いないんで、広いですし」

泉「江口先輩と清水谷先輩は、明日から仕事でしょう? 私は明日は休日でお休みですし」

竜華「あっ、そうか……明日から仕事か。けど! 玄ちゃんの試験を見届けるために、明日は休みにするで!」

セーラ「竜華……それは、明日竜華の花を買いに行こうと思っとる人に、悪いんちゃうか?」

竜華「むむむ……確かに、風越の取引がまだ復活してないし、店を閉める余裕はないし……」

セーラ「泉に任せてええか? 朝迎えに行って、怜の事務所に送るわ」

泉「はい、ええですよ。送り迎え、お願いします」

玄「セーラさん、お願いします」

セーラ「じゃあ、そういうことでなー」

咲「すいません、今日はご一緒させてもらって……楽しかったです」

怜「こちらこそ、ただの思い出話になってもうて……ロクに応対できんくてすまんかったな」

泉「宮永さん、ホンマにありがとうございましたっ!!」

咲「う、うん、どういたしまして? なのかな。私、何もした覚えないけど……」

泉「ええんです、感謝されとってください!」

咲「は、はぁ……」

セーラ「満足に自己紹介もできんかったし、また今度やな。宮永さん、またなー」

竜華「おやすみ~」

玄「おやすみなさい!」

咲「はい、みなさん、おやすみなさい」

咲「じゃあ、園城寺さん、また」

怜「うん。おやすみ。またね」

今日はこのへんで……たぶん、あと投稿3回分くらいかな


おやすみなさいー


《二日目 夜 @泉家》


泉「どうぞ、上がってください」

玄「お邪魔します、泉ちゃん!」

泉「いえいえ、大したもてなしもできませんけど、寝泊りくらいはできると思うんで」

玄「それだけで、嬉しいよ! ありがとうね!」



清水谷先輩は、松実先輩を楽しませるために、いろいろとやったみたいけど

私は、そういうのよく分からんし、特別に用意はせんかった。

疲れもあったし、もう夜も遅かったから、交互にお風呂に入って

すぐに寝る準備をした。


泉「すいません、なんの楽しみも提供できなくて……昨日は清水谷先輩と、楽しかったでしょう?」

玄「はい、パジャマパーティ、すっごく楽しかったです!」

泉「清水谷先輩は、面倒見ええからなぁ」

玄「でも、今日もとても、楽しいよ? 泉ちゃんとお話できて、嬉しいよ!」

泉「そ、そうですか? そんなことないですよ」

玄「ううん、そんなことあるよ! やっぱり、園城寺さんの言うとおり……
  こうして外の世界に出てみれば、いろんな人に会えるんだなって」

玄「改めて、思ったよ。待ってるだけじゃ、ダメなんだって」



こんな短い間に、園城寺先輩は、松実先輩に影響を与えてるんやなぁ

私も、その気持ちはよく分かる。


泉「園城寺先輩って、面白いんですよ。知ってます?」

玄「面白い……?」

泉「ええ。ウチは、中学の時に先輩方と知り合ったんですけど……そうですね、軽く説明しときますね」

泉「園城寺先輩は、中学校の時に、清水谷先輩と、江口先輩とで部活を作ったんです」

泉「当時、私らの中学校で部活が正式に認可されるには、最低、メンバーが5人は必要だったんですけど」

泉「あと一人が足りなくて、それで偶然私が声をかけられて、名前だけ貸した、いうわけです」

玄「なるほど、なるほど~ ちなみに、なんの部活?」

泉「心理学を研究する部活ですよ。私は、そういうのはあまり詳しくはなかったんですけど」

泉「ほら、園城寺先輩は、そういう系、堪能ですやん?」

玄「確かに! なんであんなに頭がいいんだろう……」

泉「血を継いどるんかもしれませんね。それで、話を戻すと、私は、当初活動にまったく興味はなくて」

泉「本当に名前だけ貸しとったんですよ。ところが、途中から放課後に、部室に入り浸るようになった」

玄「それは、なんで?」

泉「先輩方が、魅力的やったからです。清水谷先輩、江口先輩、そして園城寺先輩。みんな、私の大好きな先輩です」

玄「それは、分かる気がするなぁ……みんな、いい人たちだよね」

泉「でしょう。その中でも、園城寺先輩のものの考え方が、私は好きでした。好きというか、なんというか、面白いんです」

玄「例えば?」

泉「そうですね、例えば……こういう話がありました」


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泉『先輩、何してはるんですか?』

怜『んー教科書読んでる』

泉『これは……道徳の、ですか?』

怜『なあ、泉。道徳って、なんやと思う』

泉『道徳ですか? 急になんです?』

怜『いや、小学校の頃、道徳の時間ってあったやん? 必ず毎週あったやん。あれって結局なんやったんやろな、って』

怜『泉はどう思う?』

泉『えっと、人として、踏み外してはいけない、【道】的なもんですかね?』

泉『人を殺してはいけない、とか、悪口を言ってはいけない、とか』

怜『そうか。確かに、その通りやな』

泉『でも、それを教えるとなると、けっこう難しいですね。どう説明してええか分かりません』

怜『んー………じゃあ、この筆箱の中にあるもんを使って、ウチに道徳を伝授してみてや』

泉『えっ』

怜『どうやったら、その人に道徳が備わっとるか、すぐに分かると思う?』

泉『ええと……鉛筆、消しゴム、はさみ、赤ペン、マジック、のり……うーん』



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泉「それで、どうなったと思います?」

玄「えっと……分かりません。忘れてきた人に、消しゴムを半分分けてあげる、とか……」

泉「あっ、私がその時に園城寺先輩に答えた解答と同じですよ。私も『持ってない人に、貸してあげる』って答えたんですよ」

玄「それじゃダメなの?」

泉「それはただの親切や、って言うんですよ。道徳じゃないって」


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怜『ウチならこうする。はい、これ受け取って』

泉『えっと、はさみですか?』

怜『そうや。まず一旦、受け取ったハサミを机に置いてみて』

泉『はぁ……』

怜『それで、またウチに渡してや』

泉『はい……』

怜『確かに受け取ったで。ありがとう』

泉『えっと、これがなんなんですか』

怜『だから、これが道徳や』



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玄「意味がわからないよ……どういうこと?」

泉「園城寺先輩が言うにはこうです」


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怜『今、ウチは自然とはさみの刃先を持って、泉に渡した。
  別に、お願いされたわけでもない。人が困ってるから、そうしたわけでもない』

怜『そして、泉もウチに渡すとき、自然と刃先をもって渡してくれた』

泉『いやいや、そんなん当たり前ですやん。刃先を相手に向けて渡すなんて、失礼ですし』

怜『やから、それが【道徳】なんや。人に迷惑かけていけないという気持ちが、本質的に身体に染み付いとる状態―――』

怜『それが、【道徳が備わっとる】という。だって、思わん? もし自分が怪我したくなかったら、取っ手の方を持って』

怜『刃先の方を相手に向けて渡したほうが、自分には安全やん。でも、人はそうしない。そうしない人が多い』

怜『これは、親切とかやない。何も考えずに、できる。なぜなら、そういう風に、道徳的に教育されてきたからや』

怜『もしそれが備わってなくて、人が自分のためだけに行動するとしたら……その時には』

怜『ハサミの受け渡しだけで、怪我する人が続出するやろう――――――』



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泉「って」

玄「………」

泉「は? って感じでしょう? 私も、最初何を言ってるんや、と思ったんです」

泉「でも、繰り返し聞いてるうちに……あ、言われてみればそうかもって思う瞬間があるんですよね」

玄「えっと、つまり、ハサミが道徳で、道徳がハサミで……??」

泉「すいません、ちょっと難しかったですね。ウチも完全には理解できてないことなんで、偉そうに言えません」

泉「ただ……道徳をハサミを結びつけるなんて、私にとっては、斬新な目線やったんです」

泉「園城寺先輩は、こんな感じで『その発想はなかった』って話を、いつもしてくれはるんです」

泉「私もけっこう、こういう風変わりな発想が嫌いやなくて、なんか園城寺先輩の考え方に病みつきになってしもて」

泉「それで、いつからか、放課後、自分から園城寺先輩たちの部活に毎日行くようになりました」

玄「なるほど……」

泉「もっと、いろいろあるんですよ。聞きたいですか?」

玄「き、聞きたい! 園城寺さんのお話、泉ちゃんのお話をもっと聞かせて!!」

泉「分かりました! パジャマパーティとは言わんでも、せっかくやし、女子トークしましょうか!!」


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泉「って、いう、話もあったんですよ。面白いでしょう?」

玄「うん、確かに、面白いなぁ……今まで、考えたこともなかったことばっかりだよ」

泉「あっ、すいません。ちょっと夢中になって話しすぎたかもしれません……」

玄「全然! 泉ちゃんのお話、すっごく面白かったよ!」

泉「ありがとうございます……ホンマに、優しいですね、松実先輩」

玄「そ、そんなことないよ!」

泉「私も、園城寺先輩がなんで弟子入りに反対してるのか、分からないです……私が、お姉さんに欲しいくらいですよ」

玄「え、えへへ。そうかな?」

泉「そうです。松実先輩みたいな人、本当は弟子に欲しいはずですよ。せやから」

泉「たぶん、なんか理由があると思います。先輩も、理由もなく、意地悪とかはせんと思うんで」

玄「……そう、だよね。ただ、いろいろ試してて思ったよ。明日になっても、たぶん私には」

玄「あの人は、騙せそうにないかも……」



松実先輩は、力なくそう言った。

でも、落ち込んでるというよりは、若干悟ってるような感じで

適当なことを言って慰めるのは、なんだか違うと思った。


泉「……すいません、ちょっと否定できないです。私にも、できる気しませんし……」

玄「……」

泉「……」

玄「はぁ、どうしたらいいのかなぁ……やっぱり、落とすために、試験をしてるのかなぁ……」

泉「……」

玄「でもね……今日、宮永さんに出会って、スープスパのお店に行って思ったことがあるんだ」

泉「それは、なんですか?」

玄「園城寺さんは……探偵は、人を騙して……えっと、細かいセリフは忘れちゃったけど」

玄「とにかく、あまり私の想像してる仕事じゃない、って言ってたよね」

泉「そうですね……」

玄「もちろん、そういう側面もあるかもしれないけど、少なくともあそこの店員さんや、宮永さんは……」

玄「そんな風に思ってないと思うんだ。すっごく園城寺さんに、感謝してるように見えた」

玄「だから、園城寺さんは、人を幸せにする仕事をしてるって、私は思うんだ。初めは、探偵はただの憧れだったけど」

玄「今は、本当にやってみたい、って思うよ」

泉「……なるほど」

玄「あ、そういえばもう一つ気になることがあったんだ。なんで、今日、竜華さんとセーラさんは私の注文を遮ったのかな?」

泉「ああ……」


玄「何かあるの?」

泉「えっと、ですね。園城寺先輩は、トマトが苦手なんですよ」

玄「トマトが……? あれ、でも園城寺さん、前に聞いたときは、嫌いな食べ物はないって言ってたよ?」

泉「ええと、昔、普通にトマト食べてるのは見たことあるんです」

泉「だから、私にも、分からないんです。実は、園城寺先輩が中学を卒業してから、その――――」

泉「―――本当にいろいろあって。私も忙しくなって、なかなかお会いする機会がなかったもので」
 
泉「だから、ここ数年の間に苦手になったみたいなんです」

玄「そうなんだ。でも、あの園城寺さんに嫌いな食べ物があるなんて、意外だなあ………」

玄「あ、あれ? でも、食べるのは私だよ? なんで私が注文するのもダメなの?」

泉「それもよく……ただ、清水谷先輩と、江口先輩に、園城寺先輩にはトマトを食べさせるのも、
  見せるのもやめてくれ言われてるんです」

泉「ものすごい苦手なことは知ってますけど、詳しい事情は分からないです」

玄「うーん、生理的にダメ、ってことかな……?」

泉「どうなんでしょうか、先輩方に聞いてみたらどうです?」

玄「そうだね……………………はっ!」


その時、松実先輩の顔がいかにも『閃いた!』って感じの顔になった。

なんやろうか、音にすると、『ピコーン』っていう、よくあるタイプの閃き音。


玄「……………」

泉「あの、松実先輩……?」

玄「あ、ごめんね。ちょっと考え事してて」

泉「なんか、思いついたんですか?」

玄「えっ、私そんな顔してたかな?」

泉「思いっきりしてましたよ。先輩、分かり易いですね」

玄「ううっ、恥かしいや……でも、ちょっと、明日試してみたいことができたんだ!」

泉「ホンマですか。ウチと話してて、閃いてもらえたなんて……なんか嬉しいです」

玄「そうだよ! これで成功したら、泉ちゃんのおかげ!!」

泉「えへ、えへへ……ありがとうございます」

泉「試験は、明日の夜6時まですから……頑張ってください。なんもできませんけど、応援してます」

玄「ありがとう、泉ちゃん」

泉「じゃあ、そろそろ寝ましょうか……おやすみなさい」

玄「おやすみ、泉ちゃん」



明かりを落として、真っ暗なお部屋に。

目をつぶって、心地よい快楽の世界に進もうとする。

松実先輩のさっきの閃きが、なんだか気になって、なかなか意識が落ちなかった。

今日はここまでっす

なかなか進まず

では、また明日

書き溜め終わったので、今日完結させますよーぅ


少々、長くなります


つづき


《試験三日目 @事務所》



怜「おはよう。松実妹、期限は今日は6時までな」

玄「はい!」

怜「元気やな。昨日は泉の家、楽しかった?」

泉「園城寺先輩の話、たくさんしときましたよ」

怜「なんや、ウチの話って……恥ずかしいから、やめてーな」

玄「すっごく楽しかったです! ますます園城寺さんの弟子になりたいと思いました!」

怜「………」

怜「それじゃ、自由にしていいよ。いつでもどうぞ」

玄「あ、園城寺さん!」

怜「ん?」

玄「お昼ご飯は、どうしますか?」

怜「そうやな。残りのバナナ食べようかな」

玄「あの……良かったら、私が作ります!」

怜「……マジで? マジで言ってんの?! 作ってくれんの?!」

泉「先輩、落ち着いて」

怜「あっ、ごめん……つい、興奮してしもた……」

玄「はい! お時間もありますし、作ります!」

怜「でも、ウチには調理器具ないで?」

玄「ええと、何がありますか?」

怜「なんもない。包丁くらいはあるけど、皿はない。あるんは、ティーセットの小皿くらいや」

怜「ガスもないから、そもそも調理できん」

玄「……えっと、じゃあ、泉ちゃんの家を使わせてもらっていい?」

泉「いいですけど、歩きやと、遠くないですか?」

玄「大丈夫だよ、少しくらいなら」


《試験三日目 @再び泉家》


泉「えっと、こんなことしてる暇あるんですか?」

玄「暇つぶしじゃないよ! これで、園城寺さんを騙すの!」

泉「えっ? 一体何を作るつもりですか?」

玄「まあまあ! 近くにスーパーあったよね。買い物してくるから、待ってて!」



松実先輩は、家を飛び出していった。

10分とも経たないうちに、帰ってきた。



泉「早かったですね」

玄「うん、作るもの決めてたから!」

泉「えっと、もしかして……昨日、あれからずっと考えてたとか」

玄「そうだよ、だから、少し眠いかなー えへへ」

玄「よし、泉ちゃんはせっかくの休日だし、休んでて! できたら、味見してほしいな!」

泉「あの、お手伝いしますよ」

玄「えっと……見られるのは恥ずかしいから、できたら持って行くから待ってて!」

泉「分かりました。それならお部屋で待っときますね」


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―――――――――
―――――――
―――――
―――

―――
―――――
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部屋に戻って、ゆっくりしとったら

気がついたら、私は眠ってしまっとった。

日頃の、バイトの疲れが溜まっとったんやろうと思う。

先輩の声で、私は目を覚ました。


玄「できたよ~ お待たせ! 朝ごはん、食べてなかったもんね」

玄「これを食べて、目を覚まして!」

泉「すいません、わざわざ……いただきます」



これは、トーストサンドとスープとチャーハンと………あとは、唐揚げ?

朝から、なかなかのボリュームやなぁ。


玄「えへへ、自信作だよ……どうぞ!」


先輩、すっごい、ニコニコしとる。


泉「いただきます」


まずは、トーストサンド。一口噛むと……これは、なんだろう、よくわからない、甘い汁?

それにチーズのまろやかさと、濃厚な味わいのハムと、スパイシーなソースと

それ全部にさっきの甘い汁が合わさって、絶妙なハーモニー。



泉「め、滅茶苦茶うまいです」

玄「本当? ありがとう!」

玄「次は、スープ飲んでみて! それが終わったら、チャーハン、次は唐揚げ、デザートもあるからね!」

泉「これだけ美味しかったら、私全部食べてしまいますよ」

玄「いいよ! 私は、作ってる時に味見したから、お腹いっぱい! 泉ちゃん、好きなだけ食べて!」

泉「はいっ!」



それから、すごい勢いで、全部を平らげてしもた。

あまりの美味しさに、息をつく暇が無かった。園城寺先輩のテンションがあそこまで上がるのも頷けるわ。


泉「ごちそうさまでした!」

玄「お粗末さまでした~ 美味しかった?」

泉「最高です! こんなに美味しいご飯、食べたことないです!」

玄「そっかぁ、最高の褒め言葉だよ!」

泉「これなら、園城寺先輩も喜びますよ!」

玄「うんうん、そう言えてもらえて嬉しいなぁ」

玄「……ところで、泉ちゃん。トマトの味はした? 今出した全部の料理に入れてるの」

泉「ええええええっ?! ホンマですか?!」

玄「うん。トーストサンドには、果肉を潰して、トマトソースを作って、スパイシーなソースとの二重のソースにして」

玄「スープは、ミネストローネだったんだけど、食感が残らないよう、トマトをミキサーにかけて液状にして入れて」

玄「チャーハンは、ちょっとひと工夫しててね。お米を炊くときのお汁に、トマトの果汁を入れてるの」

玄「だから、トマトは入ってないんだけど、お米は、トマト風味になってる」

玄「唐揚げは、トマトのフライだよ? 分からなかった?」

泉「えっ?! 確かに、肉やないな、とは思いましたけど……あれトマトですか?」

玄「うん。チーズと、大葉で巻いて、フライにしてるから……少し、わかりにくかったかな」

玄「デザートは野菜のシャーベット。これも、にんじんが7割、トマト3割にしたから、これも分かりにくいと思う」

泉「な、なるほど……全然分かりませんでした。トマトって、こんなに美味しいんですね」

玄「……よし、自信が湧いてきたよ!」

泉「えっと……これを、園城寺先輩に?」

玄「うん。トマトは、本当はすっごく美味しいってこと、園城寺さんにも知ってほしいんだ」

泉「………」


ええんやろか。清水谷先輩と、江口先輩には、キツく止められとるけど

これだけ美味しくて、トマトが入っとるって分からんかったら

大丈夫やろうか……?

それに、これやったら、園城寺先輩も、騙せるかもしれん。


泉「うん、ええと思います。出してみてください」




【残り時間:6時間】


《試験三日目 @事務所》 視点:玄



園城寺さんに、驚いてもらえて、それでいて喜んでもらえそうなお料理ができた。

これを、出せば、きっとトマトの美味しさを、分かってもらえて……うん、きっと大丈夫!

泉ちゃんも、遠いのにお料理を運ぶのを手伝ってくれて……本当に、優しい子!




怜「まさか、また松実妹の料理が食べられるとはな~」

玄「そこまで楽しみにしてもらえるなんて、嬉しいです。では、早速……」

泉「あ、並べるの手伝いますよ」




トーストサンド、スープ、チャーハン、からあげを園城寺さんの前に並べる。

冷凍庫がないから、シャーベットは諦めた。でも、これでも十分トマトの魅力を楽しんでもらえるよね!


玄「どうぞ、召し上がれ!」

怜「……」

怜「いただきます」



園城寺さんは、トーストサンドを、かじって

スープを飲んで……チャーハンを平らげて……ものすごいスピードで食べてくれた。



怜「ふんふん。なるほど、なるほど……」



泉(夢中になって、食べてくれとる、みたいですね!)

玄(うん!)



そして、唐揚げも食べ尽くして……お皿は、綺麗に、片付いた。

園城寺さんは、優しい笑顔で、私に手を合わせた。



怜「ごちそうさまでした!」

玄「お粗末さまでした~ 美味しかったですか?!」

怜「うん、ありがとう、な。最高、やったよ」



やった、やった! これで、トマトが入ってることを、言って……驚かせれば……!


怜「そういえば……デザートは、ないん?」

玄「あ、冷凍庫がないって聞いて……それで、持ってこなかったんです」

怜「もったいないな、ちょっとくらい、溶けてもええから、持ってきてや」

泉「あっ、じゃあ私が取ってきます」

玄「いえいえ、私が行きます」

泉「えっと……」

怜「ウチは、玄ちゃんに、持ってきてほしいな。だってこの料理の、責任者やし」

泉「そうですね。じゃあ、松実先輩、少し遠いですけど……よろしくお願いします」

玄「はい、行ってきます!!」



――――バタン


視点:泉



「…………………」

「園城寺先輩、あれだけあったのに、全部食べましたね。分かりますよ、私も味見させてもらったんですけど――」

「いずみ、ええか、ついてくるな」

「えっ?」




次の瞬間、園城寺先輩は口を手で押さえて、外に飛び出した。

低い、唸るような、絞り出すような声やった。

表情も、何かをこらえてるような、感じやった。

ふとソファーに目を向けると、園城寺先輩の座ってたところは、大量の汗で、びしょびしょやった。





「これは……これは、ただごとやない、園城寺先輩!!!!!」



園城寺先輩の異変に、私も思わず外に飛び出した。

すぐに、見つかった。家のそばの、川にいた。



「おえっ、げええええ、げえええ、げえええっ」


「げほっ………げえ……うえっ…………はぁ、はぁ……」



壮絶な、光景やった。

滝のごとく、ものすごい勢いで、先輩の口から、吐き出されていく。

自分も食べたもんやから、すぐに分かった。

トーストサンド、スープ、チャーハン、唐揚げ。

さっき食べたものを、全て垂れ流して、綺麗な水を濁していく。

消化されかけとるとはいえ、その体積は、夥しくて、川の流れが、一瞬ではそれを運びきれないほどやった。


「せ、先輩……」


「……ついてくるなって、いったはずやろ」


「っ、せ、先輩……」


「………」


「ご、ごめんなさい! 先輩が、ここまで、トマトが食べられへんなんて、思ってなくて……」


「……」


「あ、あの」


「松実妹には、言うな」


「いや、でも――って、いや、そんなこと言っとる場合ちゃいますやろ! 先輩、横になった方がいいですって!」


「…………」


玄「シャーベット、持ってきました!!」

泉「あっ、松実先輩……実は、園城寺先輩、体調崩してしまって……」

玄「えっ……?」

怜「ちょっと、夢中になって、食べ過ぎた、みたいや……動かんくせに、メシだけ、は食うから……自業自得、やな」

玄「………」



その言い訳はちょっと、苦しい。

なぜかと言うと、松実先輩のご飯を食べた直後と、吐いたあとで

あまりに、園城寺先輩の様子が変わっとるからや。

今の園城寺先輩は、顔色は最悪で、目の焦点も定まってない、声も少し震えとる。

汗も、できるだけ拭き取りはしたけど、びっしょり。

これで、気がつかんほうが、おかしい。


怜「おい、松実妹。なんや、その顔は。なんか、勘違い、しとるみたいや、けどな」

怜「アンタのご飯、は、関係、ないで。ちょっと調子にのって、食べ過ぎただけ、や」

玄「園城寺さんは……………」

玄「園城寺さんは、あれだけ人の心理を読むのが上手なのに、こういうときに、嘘をつくのが下手ですね」

怜「………」

玄「……っ、本当に、私のご飯が関係ないなら!! 今すぐ、このシャーベット、食べてください!!!」

玄「ほらっ、早く!!」

怜「………」

玄「ほら、口、開けてください!!」

泉「松実先輩、もうやめてください!!」



私は、松実先輩を背中から羽交い締めにして、押さえつける。

シャーベットを乗せたスプーンが、その反動で床に落ちた。

元々綺麗じゃない床に、トマトと人参の赤色が染み込んで、さらに汚くなった。


玄「だって!! なんで、美味しいなんて、無理して、嘘をついて、言うんですか!!」

玄「ううっ、私は、園城寺さんに………ただ、美味しいって言って欲しかっただけで……それで」

玄「トマトの美味しさを知ってもらって……それで、驚かせようって……」

怜「……」

玄「どうして、トマト、ダメなんですか……?」

怜「……」

玄「私には、言えませんか……?」

泉「あの、私も……知りたいです。清水谷先輩と、江口先輩は、詳しく教えてくれなくて……」

怜「………」


怜「……トマトは、血の味がする」

玄「……えっ?」

怜「前……好き嫌いは、ないかって、松実妹……ウチに、聞いたやろ?」

玄「はい……そのとき、特にないと」

怜「ウチはトマトを、食べ物やと、思ってない」

玄「な、なんでですか? こんなに、美味しいのに!」

怜「知っとるよ。昔は好きやったし」



少し時間が経ったからか、だいぶ、園城寺先輩の顔色がマシになってきた。

良くなったとは、言い難いけど……少なくとも、声のトーンは元に戻ってきた。


怜「ウチは体弱いけど……泉、ウチが入院しとったんは知っとるな?」

泉「あ、はい、もちろん……」

玄「入院……?」

怜「今は、それは置いといて。その間、何回も血を吐いた。多い時は、洗面器に、一杯くらい」

玄「うっ、うそ……」

怜「苦しかった。何度も死にたくなった。ホンマに、辛かった」

玄「それと、トマトとどういう関係が……?」

怜「似とるんや。あのどろっとした感じと……血反吐の、それが」

玄「……」

怜「食感だけやない……色も、同じや。一度似とる思うと……もう、味も似とるような気がしてきてな」

怜「そう思ってから、食べられなくなった。今では匂いもダメやし、見るだけで、吐き気がする」

怜「一種のアレルギーみたいもんやな」

玄「……」

泉「……」

玄「それなら……どうして……どうして食べたんですか」

怜「………」

玄「お土産を、開けなかった時みたいに……適当に誤魔化して、食べなければよかったじゃないですか!!」

玄「なんで!!」



松実先輩は、園城寺先輩を睨みつけた。

睨みつけると言っても、敵意のあるそれやない。

心配する気持ちと、自分の情けなさとが入り混じった、訴えかけやった。



「なんでやろな。どうしてやろな」



「お腹が空いてたってのはもちろんあるし」



「せっかく作ってくれて、わざわざ手間かけて持ってきてくれたモンに、手をつけんのも、どうかと思ったんかな」



「それとも――――――」



「前に食べた松実妹のメシが、あまりにうまかったから」



「もしかしたら、いけると思ったんかもな。大嫌いなトマトでも」



「でもやっぱり、アカンな。体が、拒否反応を起こすわ。松実妹、あんたのせいやないで」



「ウチが、勝手に期待しただけや」


園城寺先輩はそういうと、ちょっと外の空気を吸ってくると言って

事務所を出ていった。すきま風が吹き込んできて、窓は壊れとるから

空気は常に、綺麗なはず。換気は、別に必要ない。

先輩なりに気を遣ったのかもしれんかった。


「………」

「えっと、あの……」


どうしよう、なんて声をかけたら――――


「………くる」

「えっ?」

「だから、作る。園城寺さんが、食べられる、トマト料理。」

「えっ、本気ですかっ?!」

「本気だよ。もう、試験とか関係ないや」

「これでも、私は料理人だよ。園城寺さんは、私に、少しでも期待してくれた。嫌いなトマトを、克服できるかもって」

「私の料理なら、食べられるって」

「なのに、失望させた。裏切った」

「い、いや。園城寺先輩は、松実先輩は悪くないって―――「これは、私のプライドの問題」

「自分の一番得意なことも、ままならないまま―――」

「――――園城寺さんに、認められたくない。合格だなんて、認められたくない。だから、作る」

「最高の、トマト料理を」


松実先輩は、決意の篭った目で、そう言った。

すごい、決断やと思う。自分の試験中に、人のために、何かをしようっちゅうんやから………けど。

せやけど。


泉「松実先輩、ホンマにそれでええんですか?」

玄「どういう意味?」

泉「やから……先輩の気持ちはどうなるんです? ここで、園城寺先輩のために、料理を作ったとして」

泉「試験は終わりますやん。せっかくのチャンスなんですよ? 園城寺先輩の元で、学びたいんやなかったんですか」

泉「それで、ええんですか?」

玄「………」

泉「あれだけ、一生懸命やってきて、それが報われんのは……私は、なんだか悔しいです」

玄「でも、私は――「せやから!!」」

泉「せやから、提案があります」

玄「………」

泉「今は、13時。試験終了まで、残り5時間です」

泉「この5時間は……料理を作るにしても、試験の一環として、合格を目指して、やる」

泉「終わったら、あとは好きにしていい。これでどうでしょうか」

玄「……」


後輩風情が、先輩の人生に関わることに意見するのはどうかと思うけど

言わずにはいられへんかった。し、失礼やったかな――――――――――


泉「あ、あの……」

玄「うん、分かった!! 確かに、泉ちゃんの言うとおり!」

玄「私、園城寺さんと仕事がしたい! でも、トマトも食べられるようになってほしい!」

玄「だから、両方頑張ってみるね。えへへ、ちょっと私、欲張りかなぁ」

泉「そ、そんなことないです! やりましょう! 私もお手伝いしますし、一緒に頑張りましょう!」

玄「ありがとう!」

泉「えっと、名づけて、プロジェクト―――」

泉「『試験に合格しつつ、園城寺先輩のトマト嫌いを、克服しよう、作戦!!』で!」


あ、清水谷先輩の、ネーミングセンスが移ってしもうた。



【残り時間:5時間】


《@泉家》 視点:玄



泉ちゃんにお願いして、またキッチンを借りることにした。

私の料理人としてのプライドが、私を突き動かすんだよ!!

園城寺さんが、食べられるトマト料理―――絶対、絶対作るよ!!





玄「……とは言ったものの、全然わからないよーーー!」

泉「先輩、諦めるん、早すぎません?!」

玄「だって、だって! さっき作ったのだって、十分トマト嫌いの人向けに配慮して、作った料理なのに」

玄「それでも、ダメだったんだもん……」

泉「うーん、確かに、私も絶対アレなら大丈夫やと思いました」

玄「だよね! だよね! これで、しかも試験に合格する料理を作るなんて、ハードルが高すぎるよぉ」

泉「そうですね、どうしたもんでしょうか」

玄「うーん……」

泉「うーん……」


玄「………」

泉「………」


玄「……………」

泉「……………」


玄「………………………」

泉「………………………あの」



玄「はい、泉ちゃん! 何か思いついたっ?!」

泉「いや、この沈黙がなんか気まずかったんで。特には、なんも……」

玄「そ、そっか……」

泉「ごめんなさい……私、あんまり頭も良くないですし……」

玄「い、いやいや! 私の試験だし、私が考えなきゃ、だよ! 泉ちゃんは、なんにも悪くないからね!」



本当に、泉ちゃんは何も悪くない。なのに、いやな気持ちにさせちゃった。

昨晩は泊めてもらって、キッチンまで使わせてくれたのに、私は何をやってるんだろう。

よし、集中集中。集中しよう…………でも、何に集中したらいいのかも、分からないよ。

こういうとき、園城寺さんなら、どう考えるんだろう――――


泉「……あっ」

玄「どうかした?」

泉「いや、今思い出したんですけど、そういえば昔、園城寺先輩の話に、こういう話がありました」

泉「『ダイエットをしてる人に、ケーキを食べさせるには、どうしたらいいか』」

玄「ダイエットをしてる人に、ケーキ……?」

泉「はい。食べたくない人に、いかに食べさせるかって話を昔、先輩がしてくれて」

玄「それって……もしかして、今私がやろうとしてることに、近い??」

泉「はい。なので、もしかしたら参考になるかなと思って」

玄「なるなる! まさに、今の私に、一番必要なお話だよ!」

玄「それで、園城寺さんはなんて? どうやって、食べさせるって言ってた?」

泉「そうですね……松実先輩はどうやったら、食べさせられると思いますか?」

玄「私? 私なら……ケーキの美味しいところを、一生懸命説明して、食べてもらうよ!」

玄「こんなに、ケーキって美味しいんだから、我慢する必要はないって!」

玄「無理なダイエットも、身体によくないしね!」

泉「なるほど」

玄「大正解かなっ!?」

泉「私もそんな感じなことを答えたら、大正解ならぬ、大不正解と言われました」

玄「ええっ? そんな!!」


泉「それだと、相手はむしろ、反発して我慢する傾向にあるみたいです」

玄「そ、そうなんだ……」

泉「この時に園城寺先輩がしてくれた、おかしなお話が、一つあります」

玄「えっ、どんなの?」

泉「ダイエットをしてる人が、ケーキを、食べるのを我慢している」

泉「それを見ていた私はこう言った」

泉「『このケーキのほんのひとかけらは、ほぼゼロカロリー』」

泉「『だから、それを合わせた一口も、ほぼゼロカロリー』」

泉「『だったら、一口を合わせたケーキ一個も、ほぼゼロカロリー』」

泉「『だから、食べても太らない。大丈夫だよ』って」

玄「な、なるほど。言われてみれば、正しいかも。そうか、ケーキはゼロカロリーだったんだね」

泉「…………」

玄「あ、あれ? でも、この話は正しいのかな? じゃあなんで人は太るんだろ……」

泉「……なんというか、松実先輩は、真っ白ですね」

玄「え?」


泉「いえいえ……なんでも、ないです。この話のおかしなところ、わかりますか?」

玄「んー……さっぱり! どこか変なところ、あるかな?」

玄「なんとなく、私なら騙されちゃいそうだよ」

泉「まあ、ほぼ全部間違ってるんですけど。この話の肝は、先輩曰くここです」

泉「『ケーキを食べても、太らない』という元の命題から」

泉「『ゼロカロリーなら、太らない』に論点をずらしてるところ、らしいです」

玄「は、はぁ……」

泉「ケーキを食べても太らないと言われたって、そんなのどう考えても納得できない」

泉「でも、ゼロカロリーなら太らないと言われたら、『あれ、そうなのかな』と思ってしまう」

玄「な、なるほど……今、私が混乱したのも」

泉「まさに、そういうことですね」

泉「えっと、それから、ここから園城寺先輩が導き出した教訓は…………あ、あれ?」

玄「どうしたの?」

泉「なんか続きをド忘れてしまいました……すんません」

玄「えっ、こんな大事なところで!!」

泉「すんません、学校には、園城寺先輩の語録ノートがあるんですけど」

玄「そんなのがあるの?」

泉「私が勝手に残してるだけですけどね。でも、学校に行く時間は、なさそうですし……」

玄「うーん、なんかヒントをもらえたような、そうでないような……」

泉「中途半端でごめんなさい」

玄「ううん、ありがとう。やっぱり、園城寺さんに納得してもらえるまで……諦めちゃ、ダメだよね」

玄「私、頑張るよっ!! よし、ファイト、オーー!!」

泉「お、おー!」


視点:泉


それから、再び松実先輩の試行錯誤が始まった。

トマトの食感を消す工夫、味を変える工夫。色を見せない工夫。

いろんな方法を使いながら、トマト料理を作っていった。

その度に、私が味見&コメントをして、また松実先輩が改良していく。

そうしてるうちに、あっという間に3時間がすぎて

残り、試験終了まで、2時間を切った。


玄「………腕が、上がらないや」

泉「も、もう食べられません……」


松実先輩は、ぶっ続けて料理を作り続けて、疲れ果ててしまって

私の方は、散々に、飽きるほど、プロ並みの料理を食べて、あまりの贅沢に体がおかしくなりそうや。


玄「うー……疲れたよぉ……」

泉「美味しかったです……ごちそうさまです……」

玄「私、頑張ったよ……」

泉「そうですね……」


玄「もう、これなら大丈夫かな? これだけやったら、園城寺さんも食べられそうかな……?」

泉「うーん……」


私には、それが分からん。だって、私は、トマト普通に食べられるし

松実先輩の料理、めっちゃ美味しいし。

ただ――――園城寺先輩が、食べられるか、それは……。


泉「………」

玄「……ダメ、かな……」

泉「……」

玄「……やっぱり、無理かな」

泉「あ、諦めちゃダメですよ!」

玄「諦めてないよ。でも、無理な気がしてきたんだ。あれだけ、泉ちゃんに啖呵を切っておいて」

玄「ちょっと、情けないけど……でも、もう思いつかないや――――」




松実先輩は、悲しそうに私から目を背けた。

私も、もうどうフォローしていいか分からなくなってきた。

不可能なことは、所詮不可能で

どんなことでも頑張ればなんとかなる、っちゅうんは理想論。

そんな負け犬の考え方が、頭の中に生まれつつあった。


玄「………っ」

泉「だ、大丈夫ですか? ちょっと、ふらついてますやん」

玄「えへへ……昨日も、メニュー考えてて、あんまり寝てないから」

泉「お疲れが溜まっとるんですよ。リフレッシュがてら、何か飲みますか?」

玄「えっと……」

泉「ウチにあるの出しますよ。なんか飲んだほうがええと思います。ジュースでええですか?」

玄「ありがとう、泉ちゃん」




紙パックのジュースを開けて、コップに注ぐ。

よく冷えていて、これで少しは目も覚めるかも知れない。

日もだいぶ傾いてきていて、タイムリミットはちょうどそれが沈んだ頃だろうか。



玄「いただきます」


飲む前に、きちんと手を洗うあたり、松実先輩はさすが旅館の娘やなと思った。

疲れていても、そういうところはちゃんとする。

飲む動作も、なんとなくおしとやかで、それでいて気取らない。

私のバイト先のメンツとは、大違いや。


玄「………甘くて美味しいね」

泉「え、酸っぱくないですか? 目が覚めると思って、グレープフルーツジュースにしたんですけど」

玄「あ、そうなんだ。味覚がおかしくなってるのかな…………」



松実先輩は、自分で自分の頭をポカっ、と軽く小突いて

ペチペチ、とほっぺを両手で叩いた。

そして。少しぼーーーっとしとったと思ったら

―――――――――突然、立ち上がった。



玄「……??……えっと…………っ、あっ、あっ!! ああっ!!!!」

泉「せ、先輩!?」

玄「思いついた! 思いついたよ!! いい方法!!!」

玄「ありがとう、泉ちゃん!!」


《@事務所》 視点:泉 【残り時間:1時間】



怜「おっ……おかえり」

玄「はい、園城寺さん。ただいま戻りましたっ!」

怜「まだまだ元気いっぱいやなあ。体力のないウチとしては、羨ましいわ」

玄「えへへ、それほどでも!」



あの後、松実先輩にお願いされて、買い物に走った。

ご飯の材料、ガムテープ、紙、その他いろいろ、スーパーにはないものを買うために、ホームセンターにも行った。

そして、超特急で準備をして……今は、料理は事務所の外にある。

こんなに用意して、一体全体何をするつもりやろうか。


怜「こういうことは、わざわざ言う事やないけど……あと1時間やで」

怜「今んとこ、ダメや。このままなら約束通り、諦めてもらう」

玄「はい、分かってます!!」

怜「……えらく、素直やな。もう諦めたん?」

玄「えへへ、どうでしょうか!」

怜「…………」

玄「あのっ、確認なんですけど、園城寺さんって、他に食べられないものはありますか?」

怜「ないよ。ウチの生きがいの一つは、食べることやさかい。トマトは、例外や」

玄「なるほどなるほど、かしこまりましたっ!」

怜「…………」



園城寺先輩は、ものすごく訝しげな顔をして、松実先輩を観察しとる。

早くも、疑いの眼差しマックスや。大丈夫やろか。



玄「じゃあ、泉ちゃん! ちょっと、手伝ってくれる?」

泉「分かりました」

玄「えっとね、まずこれを――――――」


視点:怜


なんか、企んどるみたいやけど……もう何も出来へんやろ。

松実妹、けっこう頑張ったな。予想以上に、ウチにアプローチをかけてきた。特に、ワニの肉のくだりは惜しかった。

あそこで、ウチは……松実妹、アンタを試した。良心を殺して、相手を欺けるかどうかを

でも、予想通りに、ウチを騙せんかった。せやから、もうあの時点でほとんど試験は終わったようなもんやった。

あの子は、旅館の子や。人を、喜ばせるために、もてなすために生きてきた子。

だから、誰かを欺いたり、欺かれたりと、人の悪意と常に戦い続けなあかん探偵には、絶対向いてない。

そんな仕事をして、幸せになれるはずがない。だから、絶対、認められへん。



ところが、昼は予想外やった。まさか、料理で攻めて来るとは、思わんかった。

人を喜ばせると同時に、人を騙そうとするなんて、そういう発想はウチにはなかった。だから、びっくりした。



それにしても本当に久しぶりにトマト食べたけど

やっぱり、気持ち、悪い。時間だいぶたった今でも、吐き気が少し残っとる。

松実妹の料理でもアカンとなると……たぶん、ウチは一生食べられるように、ならんやろなぁ―――――


玄「はいっ、それじゃあそれじゃあ、そろそろご飯にしましょう!」

怜「……は?」

玄「ですから、そろそろお腹も空いてきたことですし……お夕食に、しましょうなのです!」

怜「………別に、ええけど。でも、トマトは、できればやめてほしい」

玄「もちろんなのです! お夕食は、園城寺先輩の嫌いなものは、入ってませんよ!」

怜「………」



なんや、ホンマに諦めたんか。

それとも、入ってないって言っといて、実は入ってましたーのパターンか。

まあ、どっちにしても、少しでもトマトが入ってたら、体が反応するさかい、分かるけどな。

気にせんとこ。あと1時間やし。最後まで、付き合ったるわ。



玄「それじゃあ、少々お待ちくださいなのです!!」



―――
―――――
―――――――
―――――――――
―――――――――――
―――――――――――――
―――――――――――――――



それから、30分くらいたったか。あれから料理は運ばれてこんかった。

一体、何をしとるんやろか……試験終了まで、もう時間はほとんどない。

どういうつもりや??


玄「……はい、泉ちゃん!」

泉「ええですかっ?!」

玄「そろそろ、だよ! お願いします!」

怜「??」


松実妹が声をかけたら、泉が外から出てきた。


泉「はいっ、ステーキです!」

怜「す、ステーキ?」

玄「はいっ、外で七輪と炭火で焼いてきました。ちょっぴりレアに仕上げてきました!」

怜「………」

玄「あっ、その前に、食前酒をどうぞ」

怜「……ありがとう」


何が来ると思ったら、まさかのステーキで拍子抜け。

普通に美味しそうやん……いただきます。


玄「どうですかっ?」

怜「………うまい」

玄「えへへ、実はこれ、カバの肉なんですよ!」

怜「ダウト」

玄「えへへ……バレちゃいました。普通に、牛さんのお肉です」


松実妹は、ペロっと舌を出してみせた。

その仕草、ちょっとあざといけど、可愛いな……ウチには、まったく似合わん。

竜華がやったら、可愛いやろうし、セーラは似合わんけど、ギャップで可愛い気がする。

可愛いって、きっとお得なんやろなぁ。いろいろとサービスとかしてもらえそうやし。



【残り時間:30分】


ステーキを食べ終わったら、次は酢豚、そしてカツオのたたきがきた。

一つ一つの量は少なかったから、全部食べきることができた。

間に、何度か口直しのお酒が入ったのもあって、無理なく食べられた。

そして、ふと時間を見ると、残り時間は15分を切っとった。


怜「めっちゃうまかったわ。ごちそうさん、松実妹」

玄「いえいえ」

怜「………なんか、体が熱くなってきたわ。ちょっと、ぼーっとする……料理のせいか?」

怜「それに、濃いメニューばっかりやな。好きやけど」

玄「それじゃあ……最後の、メニューです!」

怜「お、デザートかいな」

玄「いえ……違います」

玄「これからが、本日の、メインディッシュです」


これは―――――――――


怜「えっと、ハム? メインが?」

玄「はいっ! ハムはハムでも、生ハムです! 生ハムサラダ!」

怜「また、味の濃い……塩辛いやつやん。松実妹、もう一回、口直しのお酒かなんか、くれる?」

怜「一旦、口の中、スッキリさせたいわ」

玄「はいっ、お断りします!」

怜「………なんやと?」

玄「ですから、お断りですっ!!」

怜「………」


―――この子と出会ってから、まだ日が浅いけど

初めて、お願いを拒否された。つまり、ここが勝負ってことか。

ええやろ、そのまま食べたるわ。時間もあと少しやし。



怜「いただきます」

玄「………………」


んん……もぐもぐ。普通の生ハムや、美味しい。


玄「どうですか?」

怜「うまいよ、でも―――――」

玄「―――ずーっと、お肉ばっかり食べてたら、飽きちゃいますよね」

怜「……その通りやな。お腹がいっぱいというより、胸がいっぱいや」

玄「じゃあ、少し特別な調味料をかけますね」


松実妹は、そう言うと、ビンを取り出して、ハムの上に少しだけ垂らした。


怜「これは?」

玄「食べてからの、お楽しみです」

怜「…………」



………これは、油……か?

ドロッとして、それでいて黄金色のソレや。

こんなんかけたら、ますます濃くなるやん―――――



怜「……うーん、あんまり変わらんなあ。むしろ、油ぎってしもうた」

玄「じゃあ、次は、これをかけます」

怜「これでも、あんまり……」

玄「じゃあ、これを」



松実妹は、ウチが文句を言うたびに、どんどん新しいビンを持ってきて

ハムの上に垂らしていった。だんだんと、油の濃度が下がっていって

下がっていくたびに、ドレッシングみたいな、さっぱりした味に変わっていった。

そして、ついにはちょうどいい濃度に到達した。10回以上はビンを取り替えたやろか。


怜「うん! これなら、食べやすいな。いけるいける!」

玄「本当ですか?」

怜「ホンマや。ステーキとか、酢豚とか濃いもんばっかりやったから、さっぱりしたもんは、ちょうどええ」

玄「えへへ、やった!」

玄「園城寺さん――――――トマト、食べてますよ」

怜「…………えっ?」

玄「こちら………メインディッシュ」

玄「生ハムサラダ、オリーブオイルと、トマトのドレッシング添え、でございます」

怜「………う、う、嘘や! ありえへん、だって、か、身体が反応してない!!」

怜「そ、それに、全然トマトの味なんかせえへん! 絶対嘘や!! それに、こんなにトマトが美味しいわけない!!」

玄「嘘じゃないです、しっかり、ドレッシングにはトマト入ってますよ」

怜「う、嘘や……絶対、入ってない………なんで……」

玄「……さて。園城寺さん」

怜「な、なんや!」

玄「6時まで、あと5分ですけど……もう、私は、試験なんてどうだっていいんです」

玄「園城寺さんに、トマトを、克服してほしい。そのために、今日の残りの時間を使いました」

泉「ちょ、ちょっと、松実先輩! 約束が違うやないですか!」

泉「せめて試験時間内は、最後まで試験をやりきるって!!」

玄「……もう、いいの。やっぱり、二つのことを同時にするのは、私にはできない」

玄「それに、これは私が決めたことだから……園城寺さん」

怜「………」

玄「だから、トマト……こんどは、ドレッシングじゃなくて、きちんとした、形のあるトマト」

玄「これを、食べて欲しいんです」

怜「……」

玄「信じて、ください。絶対、食べられます」

怜「……………」


泉の方を、チラッと見てみる。すごく、心配そうにこっちを見とった。

松実妹の方を見ると、すぐにウチと目があった。

ウチが目線をそらそうとしても、常にウチと目を合わせようとする。

ものすごく、真剣なのが分かった。

せやから――――――ウチも、腹を決めた。



怜「分かった。食べる。」

玄「あ、ありがとうございますっ!!」

玄「じゃあ、これが本当のラスト……トマト、まるごと煮込みです!」

怜「ま、まるごと………」



まるごとと聞いて、体がびくついた。

一体、どんな代物なんや、考えるだけでも恐ろしい――



玄「……ほら、園城寺さん、口を開けてください」

怜「…………」

玄「大丈夫です。今度こそ、自信があります!!」

怜「……………ぁ、ぁー……」


ものすごい、トマトの匂いが立ち上がってきた。直接鍋を見るのが怖くて、見てられん。

頭が、くらくらする。松実妹のもつスプーンが、近づいてくる。

ウチは、寸前で怖なって、ギュッと目をつぶってしもた。

口の中に、柔らかい感触――――――――――



怜「……あ、あれ?」

玄「えへへ……美味しい?」

怜「お、美味しい。というか、めっちゃ辛い……あれ、なんで?」

玄「えへへ、これはトマトの煮込みじゃなくて……ナスを唐辛子で煮たものですよ」

怜「……ま、松実妹、ウチを――――はっ?!」


ま、まさか、時間―――――


【現在時刻:午後5時59分】





玄「ふふっ、園城寺さん」


玄「こうやってやるんですよね! 人の弱みにつけこんで!!」


その日の、夜。園城寺事務所。

清水谷先輩、江口先輩たちが、お仕事上がって、事務所に来てくれた。

もちろん松実先輩と、園城寺先輩もおる。視点は、私こと二条泉からお送りします。



竜華「はっはーん! 怜、かっこわるーーーぅ!! あれだけえらそうなこと言っとったくせに」

竜華「最後の最後で、玄ちゃんに騙されとるやん!! やーいやーい!!」

怜「くっ……」

セーラ「でも、おめでとう。松実妹。これで晴れて、怜に弟子入りやな」

玄「みなさんのご協力のおかげです!」

泉「ホンマに、良かったです」

セーラ「怜も、トマト食べられたんやな。嘘かと思ったけど、その顔見たら……ホンマみたいやな」

怜「……」

玄「特に、泉ちゃんにはお世話になったよ。今回合格できたのは、泉ちゃんのおかげ!!」

泉「い、いえいえっ、私なんて全然……」

玄「本当だよっ、泉ちゃんが、ジュースを飲ませてくれたから、だよ!」

泉「ジュース……ですか?」



ジュースっていったら、あのグレープフルーツジュースのことやろか。

あれで、一体何を思いついたんか、気になる。


セーラ「どういうことや?」

竜華「ウチらは仕事やったし、そのへん詳しく知りたいな!」

玄「そうですね……まず、今回、全てのきっかけを作ったくれたのは、さっきも言ったとおり、ジュースです」

玄「今まで、私は―――いかに、美味しいトマト料理を作るか、ばかり考えてました」

竜華「ふんふん」

セーラ「それじゃ、アカンのか?」

玄「それで、お昼ご飯のときは失敗しました。園城寺さんに、本当に悪いことをしました」

怜「………」

玄「それで、もっと美味しいトマト料理じゃないと、園城寺さんに食べてもらえないと思って」

玄「いろいろメニューを考えてたんです。でも、思いつかなくって……」

泉「ホンマに、たくさん作りましたね」

玄「ね。それで、もう疲れ果てちゃって……その時に、グレープフルーツジュースを飲んだんです」

玄「私は始め、オレンジジュースかと思ったんです。すごく甘かったんです」

セーラ「あー……もしかして、ものすごく疲れとって、酸味すら、甘味に感じた、とか?」

玄「それです、はい!」

セーラ「俺も、仕事終わりにそういう経験あるから、分かるわ」

玄「それで、その時、気がついたんです」

玄「『美味しいトマト料理を作るんじゃなくて、トマトをおいしく食べてもらえる工夫をすべきだった』んだって」

竜華「どういうこと?」


玄「私は、とにかくどんどん作って、一番おいしくできたものを園城寺さんに食べてもらおうと思ってました……でも」

玄「食べるのは、私じゃなくて、園城寺さんなんですよね」

玄「園城寺さんがお腹がすいてたら、きっとすごく美味しく感じてくれるし、
  体の調子が悪かったら、いくら美味しい料理でも食べたいとは思わないし、食べても美味しいとは感じない」

玄「疲れてるときには、酸っぱいものだって、甘く感じることがある。だったら」

玄「相手の状態に合わせて、作らなきゃだめだって、思ったんです」

怜「……それで、あんなに肉食わせたん?」

玄「そうです。あれだけ食べたら、どうしてもさっぱりしたものが、食べたくなる。口をさっぱりさせるのに、トマトは最適です」

玄「それとあと、他にもいくつか、工夫しました」

怜「……酒、か」

玄「正解です。さすが、園城寺さん」

玄「園城寺さんの、判断力を少しでも鈍らせるために……食前酒を食事ごとに、挟みました」

玄「普通のよりも、少し強いものです。これで、鼻や舌の感覚が、鈍くなって、受け入れやすくなると思って」

怜「なるほど、しかし……なぜか、ウチはあの時は気がつけんかった。なんでやろ」

玄「竜華さん、セーラさん、この事務所に入って、何か気がつきませんでしたか?」

竜華「ウチはすぐに思ったのは、この事務所、なんかいつもよりちょっと変な匂いがするってこと、くらいやろか」

竜華「建物がボロいから、どっか腐ったんかと思ったけど……違うん?」

セーラ「確かに、少し変わった匂いやな。これはなんや?」


玄「お香です。この事務所に来てから……30分の間は、園城寺さんに料理を出さない時間があったのを覚えてますか?」

怜「あったな」

玄「あの時に……少しづつ、少しづつ、酒粕のお香を焚いたんです」

玄「気づかれないように、ゆっくり、ゆっくり……それで、園城寺さんは30分後には、少し酔っていたと思います」

怜「なるほどな……それで、少し強い酒を間に挟まれても、気がつけんかったんか。体も熱かったんか」

玄「味が濃い目のメニューばかりにしたのにも理由があります。あれだけ濃いものを食べてたら、
  強いお酒でも、口がさっぱりさせられますよね!」

セーラ「ああ、喉が乾いとるときは、牛乳でも、喉が潤う気がする、みたいな感じか?」

玄「そうだと思います!」

竜華「玄ちゃんすごいなぁ……あ、やから事務所の外に、たくさん紙が貼ってあったんやね」

怜「紙?」

竜華「この事務所はボロやから、穴がたくさん空いとる」

竜華「せっかくお香焚いても、外に逃げるやん。やから、穴を纸とガムテープで防いどったんや」

泉「それは、私がやらせてもらいました」

怜「……」

竜華「怜、今回はホンマにお手上げか??」

怜「松実妹、確かに、ウチの感覚はお香とか、お酒で鈍っとった……でも」

竜華「あっ、怜、無視した!!」

怜「ウチはアレルギー並みに、トマトが大嫌いや。少し入っとっただけで、分かる」

怜「いくら鈍っとったとは言え、気がつけんとは思えん。なぜウチは、生ハムを食べたとき、気がつけんかった」

怜「あのドレッシングには、トマトがちゃんと入っとったんやろ?」

玄「ええ、入ってました。ちゃんと」

怜「けど、うまかったし、体も大丈夫やった。なぜや」


玄「……それには、二つ理由があります」

玄「一つ目は、事前に園城寺さんの舌を、トマトに慣らしておいたことです」

怜「なんやと?」

玄「園城寺さん、言ってましたよね。トマトは、血の味がするって……だから」

玄「レアステーキと、カツオのたたきを出しました。口の中は、自然と血の味でいっぱいだったはずです」

玄「特に、カツオを食べたあとのお口直しを、私がダメと言ったので……
  そのままの状態で、生ハムサラダを食べることになったんです」

怜「……酢豚は?」

玄「食感です。ドロッとした食感は、トマトのと、似てるかなって」

怜「………」

玄「あとは、出し方の工夫をしてみました。これは、実は園城寺さんのお話を参考にさせていただきました」

怜「ウチの?」

泉「あっ、それはたぶん、ケーキの話です。『ダイエットをしてる人に、ケーキを食べさせるには、どうしたらいいか』」

怜「ああ……昔、そんな話をしたかもしれんな」


玄「あれを聞いて、その時は思いつかなかったんですけど……料理を作ってるとき、思いついたんです」

玄「最初は、ほぼ100パーセントオリーブオイルのドレッシングでだそう」

玄「すると、園城寺さんは濃い食べ物に飽きてきた頃だから、もっとさっぱりしたのがいいと言う」

玄「だから、ほんの少しトマトを混ぜたものをだそう」

玄「けど、それでも園城寺さんにとって、まだまだ脂っこい。だから、さらにもうほんの少しトマトを混ぜたものをだそう」

玄「これを繰り返して……ちょっとづつ、ちょっとづつトマトの分量を増やして、
  園城寺さんが気がつかないようにしたんです」

泉「ケーキひとかけらはゼロカロリー、だからケーキ一つもゼロカロリー」

泉「これを応用して、トマト一個を食べさせるには、まずはトマトひとかけらから」

玄「うん、その通りだよ、大正解!!」

泉「あのドレッシングのビンを用意するんが、大変でした……ちょっとづつ中身も違いますし」

セーラ「はえ~~よく思いついたな。竜華より全然賢いやん」

竜華「ホンマやな、セーラよりずーーーーーーっと頭ええな」

セーラ「なんやと?」

竜華「やるんか?」

怜「はい、そこ喧嘩しない。ちなみに、最後のは? なんで茄子と唐辛子やのに、トマトの香りがしたん?」

玄「それは、鍋の下にトマトのお香を仕組んでいたからです。持ってきた時に、香るようにセットしておきました」

玄「一旦匂いを嗅げば、もうほとんど中身を見なくてもトマトだと思ってくれる……そう思ったので!」

怜「なるほどな……じゃあ、松実妹、最後の質問や」

玄「はいっ!」


怜「こうして人を騙してみて――――どんな気分や?」

セーラ「……怜、お前、その言い方はどうなんや。自分でそういう試験を課しておいて」

怜「セーラ、黙っといて。それにまだウチは、合格なんて一言も言ってない」

竜華「っ、騙したら、合格って言ったやん! 怜、アンタ約束破る気?!」

怜「………」



事務所内に、再び緊張が走る。

江口先輩と清水谷先輩の指摘もどこ吹く風で、園城寺先輩は松実先輩ににじり寄った。



玄「……あまり、気持ちはよくないです。好んで嘘を付く人なんて、いないと思います」

玄「でも、私は今回、園城寺さんにトマトを克服してもらいながら」

玄「それでいて、園城寺さんに弟子にしてもらえるように、頑張りました」

怜「そうか。でも、ウチは完全にトマトを克服できたわけやない。もちろんドレッシングに入っとるのは食べられたから」

怜「確かに、ものすごい進歩や。でも、松実妹、あの時、最後に無理にでもトマトを食べさせることもできたはずや」

怜「だいぶ、ウチの感覚も鈍っとったしな。もしかしたら、普通に食べられとったかもしれんで?」

怜「なのに、アンタは自分の合格を優先した。それについては、どう思う?」

玄「園城寺さんの感覚を、鈍らせておいて……それでいて、最高の料理を食べてもらおうだなんて」

玄「そもそも、料理人として、間違ってます。だから、今回は――――」

玄「園城寺さんに、トマトを食べてもらえるきっかけを作りつつ……自分も合格する!!」

玄「そういう、欲張りな道を選びました。それ以上でも、それ以下でもないです」

怜「……………」



園城寺先輩は、黙り込んだ。黙り込んで、目を閉じた。



そして、目を閉じたまま、言った。


「そんなお人好しやと―――――ホンマにいつか、死ぬかもな」

「えっ?」

「それでも………やる? ウチは、もうさっき騙された。これは認める。約束も、守る」

「!!」

「だから、合格かどうかは、松実妹が決めてや」

「や、やります! やらせてくださいっ!!」

「……即答か。早いな。ホンマにええの?」

「はいっ!!」

「………ウチ、狭くて汚いで。給料だって、満足に払えへん。きっと、色々な面で苦労するで」

「狭くても、大丈夫です! お給料も、一生懸命働いて、依頼が増えるように頑張ります!!」

「そ、それに園城寺さんのご飯も、私が作ります!!」

「……………分かった。そこまで言うなら」




園城寺先輩は、松実先輩の方に右手を差し出した。


「ありがとう。これからよろしゅうな」


「こっ、こちらこそ、ご迷惑をお掛けすると思いますけど、よろしくお願いしますっ!!」



松実先輩は、握手にとびっきりの笑顔で答えた。

嬉しさを全身でアピールして、何度も飛び跳ねとった。

握手に至っては、右手じゃ飽き足らず、両手で先輩の右手を包み込んで、頬ずりまでしとった。

園城寺先輩は、ものすごく照れくさそうだった。

それでいて、とても、とても、嬉しそうだった。


私は、そんな先輩の顔を見て、こう思った。

本当は、一人で仕事をしとるのが、すごく寂しかったんじゃないかと。

同年代で探偵の仕事をしとる人なんで、滅多におらん。

そんな中で、自分と同じ仕事を望んで、しかも自分に弟子入りしたいなんて言う子がいたら

それはもう、可愛くて、可愛くて仕方なかったに違いない。



でも、探偵は、きっと思っている以上に大変な仕事で

本人の幸せを考えると、なかなか素直に喜べなかったんやろう。

園城寺先輩は、もしかしたら、松実先輩を弟子にする気は、なかったのかもしれん。

けど、どんなに厳しい試験を課されても、厳しい言葉を投げかけられても

決して松実先輩は諦めなかった。そして、きちんと成果を出した。

そういった松実先輩のひたむきさが、園城寺先輩の気持ちを、変えてしまったのだろう。


「さて、じゃあ……とりあえず、最初の仕事、決めたで」

「なんでしょうか!」

「ふふっ、事務所の換気や。なんだかんだ、穴だらけの事務所の方が落ち着くさかい。紙を剥がす」

「じゃあ、一緒にやろうか、松実妹―――いや、この呼び方は、もうやめるわ」



「一緒にやろか、玄」




≪File 5 松実玄の入門試験 End≫


「さて、じゃあ……とりあえず、最初の仕事、決めたで」

「なんでしょうか!」

「ふふっ、事務所の換気や。なんだかんだ、穴だらけの事務所の方が落ち着くさかい。紙を剥がす」

「じゃあ、一緒にやろうか、松実妹―――いや、この呼び方は、もうやめるわ」



「一緒にやろか、玄」




≪File 5 松実玄の入門試験 End≫

5章はここまで

こんなに長く書くつもりはなかったんだ……
もう終わったことは仕方ないね。


次の話はまったく決めてないっす
要望があれば、勝手に拾います


では、また。
待ってくれてた人、読んでくれた人ありがとうございました。

倒叙形式なのも見てみたいかも

いろんなアイデアありがとう
宮守の嫌な話とか、阿知賀の子供たちの話をかくって発想はなかったです
それもいずれ書こうかな

>>605 この形式で書くのは、話もキャラも決めてますよー
     いつになるやら分からんけど……


とりあえず、次の話の候補をなんとなく考えた

1霧島巫女伝説殺人事件
2荒川病院殺人事件
3玄ちゃんと怜の探偵力アップトレーニング(ほのぼの)
4怜と玄ちゃんが銭湯にいく回(事件が起こらないとは言ってない)
5鶴賀高校の事件(まだ具体案なし)

どれもいずれは書きたいし、組み合わせて書く事も考えられるので一例でどうなるか不明なんですが

一応、アンケートみたいなのとってみようか……
このスレを読んでくれてる方が、どれくらいいるか分かりませんが


一番読んでみたいものの数字を書いてもらえると嬉しいです







コメントありがとう
1と2と4が多いですね。特に2

ストーリーの都合上、順番前後したり間挟んだりしますけど、参考にさせてもらいます

意見は随時募集中っす

では、またそのうちに


宮守はシロがライバル探偵か超知能犯である方がしっくりきそう。

モノクルつけてるから塞さんが怪盗っぽいと思った(小並感)

>>620 すばらなアイデアですね
ライバルは誰にするか決めてるんだけど、まだ悩んでます

>>621
怪盗サッエ ゴロが悪い(確信)


熊倉さんという案もありますね



つづき


「園城寺さん! 園城寺さん!!」

「分かった、分かったから……袖、引っ張らんといてーな」

「ここは、こんな感じででどうですかっ?」

「んー……ええんちゃう?」

「ここはっ?」

「うん、いいと思うよ」

「この割れた窓は危ないので、いっそ全部割っちゃうのはどうでしょうか!」

「それで、ベニヤ板で塞いじゃうとか!!」

「ええんとちゃいますか」

「よっし、園城寺さんの許可も取れたことなので」

「じゃあ、始めます!」










【File 6 銭湯とフルーツ牛乳】










園城寺さんの下で仕事を始めてから、早くも一週間が経ちました。

ここの生活は……うん、やっぱりちょっとまだ慣れないかも。

生まれて初めての、電気もガスも、水道もない生活。

お姉ちゃんにそのことを言ったら、『こたつ、持っていく?』って言われちゃった。

電気ないのに、おねえちゃんたら、ちょっぴりオマヌケさん。

でも、確かに、冬はすっごく寒いのかも。


ちょっと不便に感じることも多いけれど

贅沢言っちゃいけないね! それに、これはこれで、けっこう楽しいんだ!


玄「そう、例えば水道!」

怜「誰に向かって言っとるんや……」

玄「お水は、川の水を私が汲んでくることになりました。園城寺さんが今までやっていた仕事です!」

怜「うん、すごく助かっとるで」

玄「このお水は、すごく美味しい! 私が言うんだから、間違いありません!」

玄「それにしても、天然の冷蔵庫を作ってるなんて、さすがですね、園城寺さん」

怜「まあ、食材(バナナ)買いだめしとけば時間の節約になるし。そのためにも、冷蔵庫は必要やったんや」

玄「次、電気! これはどうしようもありません!」

怜「すまんな」

玄「ただ、夜はちょっと怖いので、いざというときのために、懐中電灯を持ってきたよ!」

怜「これで夜も安心や」


玄「最後、ガス! 園城寺さんの料理を作るために、家から、ガスコンロ、フライパン、お鍋、お皿」

玄「などなどの、最低限必要な調理器具をもってきたよ!」

怜「ガスコンロって、画期的やな。いつでもどこでも、火が使えるなんて……なんというエポックメーキング」

玄「ちなみに、布団は、松実館に大量に余ってたので、それを持ってきました」

玄「慣れたら、けっこうここも静かで、いい場所ですね。よく眠れます」

怜「せやろ? ここは、悪く言えば未開の地、よく言えば避暑地や」

玄「ひ、避暑地とは、ずいぶん盛りましたね……そして、今は」

玄「この事務所を、住みやすく改造してるところです!!」

怜「別にええのに……今のままで十分やん」

玄「せっかくなので、やれることをさせてくださいっ!」

怜「………まあ、任せるわ。あんまり、弄りすぎんといてな。できれば、やる前に声かけて」

玄「はいっ、もちろんです!!」



そんなこんなで、私は、元気にやってます。

まだ、依頼は来てなくて、今は雑用ばっかりだけど

園城寺さんと一緒に、仕事ができるだけで、とても楽しいです。


怜「玄。これ、今日の分」

玄「あ、はい……」

怜「10分以内」

玄「わ、分かりましたぁ……ううっ、今日こそ!!」



園城寺さんは、一緒に住んでみればこれはもう、よく分かるんだけど

すっごく適当で、大雑把な人。几帳面の正反対の人。

出したものは出しっぱなしで片付けないし、字も汚くて読みにくい。

中でも、絵は――――ううん、誰にでも得意不得意はあるよね。

起きる時間も、寝る時間もバラバラで、いつも私が起こすんだけど、二度寝することもしばしば。

でも、ご飯ができたら、鼻が利くのか、起こさなくても起きてくれる。ある意味、分かりやすい人でもあるのかな?

なんというか……こういう言い方が正しいか分からないけど、気ままに生きてる猫みたい。


怜「今まで、時間内に解けたことないさかいな。頑張って」

玄「はいっ!」

怜「それじゃ、スタート」



というわけで、園城寺さんは超がつくほどの適当人間なんだけど

やっぱりすっごく頭はよくって……その度に、自分はまだまだなんだと思う。



あと、これは弟子になってから分かったんだけど、園城寺さんは意外と面倒見がよくって

私が、探偵としてやっていけるように、きちんと指導してくれる。

そして今渡されたのは、その一環で、私の毎日のトレーニングのひとつ。

『一日一題、思考トレーニング』というもの。

これは、園城寺さんが私に何か問題を出して、私が時間以内に解く、というもの。

これを毎日やってるんだ。よし、今日こそ時間内に、解くぞ!!


<今日の課題>

一回だけ使えるジャンケンの必勝法を考えて。

そんで、ウチに試して、勝ってみて。

ただし、ひとつの手でグーチョキパー3つとも表現するんは禁止。後出しも禁止、したら即負け。







玄「…………」




こっ、こっ―――――

こんなの、無理だよぉぉぉぉ!!!!!

園城寺さん、いっつもこんな、難しい問題ばっかり出すんだよ!!

しかも、これを10分以内なんて、無理に決まってるよ!!

本当に、すっごく、いじわる!!




怜「どしたん? もう課題は始まってるで~~?」



園城寺さん、すっごくにやにやして……うう、悔しい!!

絶対、解く!! 必勝法、見つける!!

負けないもん!!

とりあえず、今日はここまで、また明日。


玄ちゃんには、頑張って10分と言わず一日考えてもらいましょう


では、おやすみなさいー

後だしで負けなら後だしさせればいいんじゃないの(屁理屈)

飲み会に巻き込まれたので
ちょっと、今日は更新できないです

すまない


実はバナナはお湯にしばらくつけとくと甘味が増して長持ちする

>>642
逆に腐りそうなんですが……そうなんですかね


つづき


―――――――――――――――
―――――――――――――
―――――――――――
―――――――――
―――――――
―――――
―――
―  






玄「ううっ……」

怜「はい、10分。できた?」

玄「………ダメでした」

怜「そっか。それは、残念やな、これで一週間連続で、課題クリア、ならずや」

玄「…………」



10分間、必死に考えたけど。

健闘も虚しく、成果は得られなかった。

だって、私が思いつきそうな『後出し』や『一手三種出し』を最初っから禁じてるんだもん。

というか、じゃんけんで必勝だなんて、そんな方法、あるわけないよ!! ぷんぷん!!


玄「園城寺さん………ちゃんと答えはあるんですか」

怜「さぁ」

玄「むむむ……やっぱりないんだ!!」

怜「そうやなぁ……とりあえず、勝負しよか。やってみてから、判断してや」

玄「望むところなのです!」

怜「その前に、確認。後出ししたら、負けで、一手三種出しは、なしな」

玄「分かってますよ!」


そんなの、確認されなくても分かってるもん!!


怜「いくで、じゃーんーけーん、ホィッ!!」

玄「えいっ!!………えっ?」



園城寺さんの手は、グー。

私の手は、パー。

手では、勝ってる。だけど――――――


怜「おっ、玄。ちょっと出すの遅いんちゃうか?」

怜「今のは――――――後出しや。確かに、手は玄の勝ちやけど」

怜「後出しやたら、そら勝てるわなぁ……玄の反則で、ウチの勝ちや」



園城寺さんは、『ジャンケン、ホイ』の掛け声のスピードを

前半の『ジャンケン』のところをゆっくり言っておきながら

『ホイ』のところで加速させて、手を私より先に出した。

結果的に―――私が、後出ししたみたいになっちゃった。


玄「ず、ずるいです、そんなの!!」

怜「なんかウチ、変なことした?」

玄「だって、最後の最後で、掛け声を加速させるなんて!!」

怜「あれ、そうやったかな? ちょっと、気合が入りすぎて、そうなったんかもな。でも、わざとやないで」

玄「そ、そんな言い分通らないです! 卑怯です!!」

怜「あれれ、おかしいなぁ……ルール違反をしたのは玄やのに、なんでこんなにウチが責められなあかんの……?」

玄「うっ……そ、それは」

怜「はぁ…………仕方ないな、こういうミスもあることやし、
  三回勝負にしよや。三回勝負で、先に二勝した方が勝ちっていうのはどう?」

玄「さ、三回勝負ですか。それなら……」

怜「―――でも、それだけやとウチは納得できんなぁ。だって、今のやって本来はウチの勝ちなんや」

怜「なかったことにして、またタダでやり直すんは、ちょっと納得いかへん」

怜「せやから、今の勝負の一勝分のアドバンテージをウチがもらう」

怜「その代わり、三回勝負にして、そっちにもチャンスをあげる」

怜「それでどないやろ」

玄「しょ、しょうがないですね。それなら……」

怜「……とまあ。これで、はじめの一回は、確実に勝てる」

怜「これが、ウチが考えつく」

怜「一回だけ使えるジャンケンの必勝法や」

玄「………」


私は、息を飲んだ。

ジャンケンの必勝法だなんて、そんな方法、あるわけないと思ってたけど

実際にこう言われると、もしかしたら、一定数の人は園城寺さんの提案を飲んでくれるかもしれない。

すなわち、最初の一回だけ使えるジャンケンの必勝法は―――――ちゃんとある。

それを、私の目の前で実践してくれた。


怜「他にも方法はあるで。はい、じゃーんけーん――――」


決着がつくその瞬間、園城寺さんは私に飴玉を投げた。

私は、反射的にそれをキャッチしてしまう。


怜「ほいっ」

玄「あっ……」


園城寺さんの手は、パー。

飴玉を握り締めた私の手は、グー。


怜「とまあ、こういう感じで相手に出す手を強制させるってのもありやな」

玄「なるほど……」

怜「一回だけなら、意外となんとかなるもんやで」

玄「べ、勉強になるのです」


私が、全く考えもつかないような発想を、平気で二つも、三つも考えつく。

これが、園城寺さん。

やっぱり、すごい!!


怜「今回ウチが気をつけたのは、いかに提案を飲ませるか、それ一本や」

玄「提案を、飲ませる……」

怜「相手に無理やりあと出しさせるなんて、普通に考えてせこい手や。相手が、この結果に」

怜「『なるほど、私が後出ししたのが悪いです。私の負けですね』」

怜「と、言うと思う?」

玄「そ、それは……ないと思います。私だって、納得できませんでした」

怜「せやろ。やから、とりあえず勝負が決した、その後が大事」

怜「今回の場合は、『提案』や。提案をするとき、何が大事が分かる?」

玄「えっと……」


提案、って相手にお願いをすること、だよね?

うーん、相手が、怒らないようにお話するとかかな。

でも、さっき園城寺さんがやったのは、そういうことじゃないような……


怜「譲歩することや」

玄「譲歩……」

怜「ええか。相手に提案するときは、必ず譲歩せないかん」

怜「引き際や。要求したいことがあった時に、一方的に提案しても、向こう側は絶対頷くことはない」

怜「やから、こっちが先に引く。もしくは引くフリをする。とにかく、ちょっと隙を見せることや」

玄「ふんふん……」

怜「それでいて、大事なところは、必ず取る。この場合で言うと、目的は『ジャンケンの一回目の勝利』や」

怜「そのために、うまいこと相手を誘導する。相手が、公平感を感じることが大事」

怜「たとえ――――その実態が公平じゃなかったとしてもな」

玄「な、なるほど………勉強になります」

怜「おっけー?」

玄「おっけーです!」

怜「さて、じゃあ次は、今回の課題に関して、どういう風に、考えたらよかったかに移ろか」

玄「お願いします!」



怜「玄は、この10分、どう考えたん?」

玄「えっと、どうやったら、相手が出す手を読めるかな、とか」

玄「確実に相手を倒す手は、ないのかな、とか……」

怜「……全然アカンな」

玄「ううっ……」

怜「ええか。そもそも論として……ジャンケンって、なんでこんなに広まったんや」

玄「え?」

怜「ジャンケンは、単純なゲームやけど……知らん人はおらん」

怜「決着を付ける方法として、これほどポピュラーなゲームはないってくらい、広まっとるやろ?」

玄「た、確かに……あれ、なんで?」

怜「なんでや思う?」

玄「……えっと、うーん…………決着が、すぐつくから……とかですか?」

怜「正解。それは、重要なファクターやな。トランプとかのカードゲームみたいに時間もかからんし」

怜「かけっことか、的あてみたいな、体力的・技術的要素もない」

怜「要するに、簡単なんや。誰でもできて、すぐ結果が出る。だから、こんなに広まった」

玄「なるほど……」


怜「もう一つの理由は、公平なこと」

怜「グー⇒チョキ⇒パー⇒グーと、それぞれの手は、一つに負けて、一つに勝つ」

怜「単純やけど、基本的に不正はできん。公平に、勝負ができる」

玄「そうですね。園城寺さんの言うとおりだと思います」

怜「うん。やったら、今回の課題って……不可能やんな?」

玄「……………」

玄「…………そんなの、一番初めに思いましたよっ!!! こんなの不可能やって!!」


あっ、園城寺さんの言葉が、ちょっと移っちゃった。

でも、そんなこと、最初から気がついてたんもん!!

園城寺さんのばかばか!!


怜「そうやな。【ジャンケンとは、そもそも公平で必勝法は存在しないゲーム。だからここまで広まっている】」

怜「【だったら、ルールの外で、必勝法を探すしかない、それも相手が納得できるように】」

怜「こういう、考えは浮かばんかった……?」

玄「あっ……」

怜「これに気がつけたら、ウチのつけた条件に目が行く」


《ただし、ひとつの手でグーチョキパー3つとも表現するんは禁止。後出しも禁止、したら即負け》


怜「この部分で、ピンとくる人はくる。わざわざ条件付けとるんや」

怜「ここを見て、『なるほど、逆にこれ以外のことはなんでもしていいんだ』『そうか、これを利用してやろう』」

怜「こう思わんとアカン」

玄「……」

怜「《後出しも禁止、したら即負け》」

怜「逆に言うと、後出しさせることができれば、相手がどんな手を出そうが、即勝ち」

怜「あとは、相手が納得できるよう、『提案』の技術を使う」

怜「解き方の手順……というか、思考回路は、こんな感じであってほしい」

玄「………………はぁぁぁ……」

怜「どしたん?」

玄「いや、もうなんか、私って全然ダメだなって……こういう考え方が、まるでできないです」

怜「アホ」

玄「ふにゅっ」


園城寺さんは、私のほっぺたをつねった。

そして、ぷにぷにぷにぷに………なんだか、気持ちいい―――じゃなくって!!


「な、なんれすか!?」

「できひんから―――ーやるんやろ」


園城寺さんは、ほっぺから手を離すと、しみじみとした表情でそう言った。


「ま、これはセーラの受け売りやけどな」

「できんから、やる。勝てそうにない、せやから、頑張る」

「ふふっ、ウチの大好きな言葉やで」

「………!!!」


できないから、頑張る……そうか、きっと始めっからできる人なんていないよね。

お料理だって、初めは私も下手くそだったもん。

きっと、いつか私も、できるようになるよね!


「はいっ、頑張りますっ!!」

「ありがとうございました、師匠!!」


怜「……さて、今日は『提案』の基礎について教えたで。この一週間で、いろいろ教えたな。けっこう頭に入った?」

玄「はいっ、もうノートがメモでいっぱいです!!」

怜「ほうか。これから、きっと役に立つさかい……覚えとくとええよ」

怜「特に、玄は優しいから。気をつけてな」

玄「は、はい………??」


私のことを優しいって、よく園城寺さんは言うけど

私自身は、自分のことが優しいと、特別に思ったことはない。

だから、こうして優しいから、気をつけろと言われても、あんまりピンとこないんだよね……


怜「さて、今日もやることは終わったし……どうする? 休む?」

玄「あの……今日は、お風呂に入りたいです」

怜「さよか。じゃあ行こか」

玄「はいっ」




私は、ここでの生活にほとんど不満はない。

けれど、ひとつだけどうしても、我慢できないことがあるんだ。

それは、お風呂。

事務所にはお風呂が付いてないので、体をきれいにしたい時に、どうしても困っちゃう。

園城寺さんは、毎日入らなくても平気みたいだけど

私は、毎日松実館の大浴場に浸かってたから、どうしてもお風呂に入りたい!!

――――と、いうことで、たまに、近くにある銭湯に連れて行ってもらうんだ。




怜「よし、タオルもったし、行こか。忘れもんない?」

玄「ないです!!」

怜「よっしゃ、じゃあ――――さぎのもりに出発や」

今日はここまで

>>637に指摘されて、ちょっと焦った。でも、これ以上思いつかないからね、仕方ないね



次から、お風呂回(意味深)

それでは、おやすみなさいー



>>643
40~60℃程度のお湯に約一時間浸けると茶色の斑点ができにくくなる
一週間は余裕で綺麗なままよ

ウイーンじゃんけんもいけるんじゃないか。
あれは後出しならぬ替え出しだろう

玄「ウィーンじゃんけんじゃんけんぽん」

玄「うぃーーーーーーん」



かわいい

>>662
それは知らなかった。後から、スレ内で使うかもありがとう

>>664
動画を見てみた………この発想はなかった


>>666

《@銭湯への道すがら》

玄「園城寺さん、園城寺さん! 一つ必勝法思いつきました!!」

怜「おっ、ほんまか」

玄「いきますよ、ジャンケン、ポン」 グー

怜「ほい」パー

怜「なんや、駄目やん…………ん?」

玄「うぃーーーーーーーーん あれあれ不思議!! なんとなんと……グーがチョキに大変身!!」

怜「……」

玄「えっへん、これだと、後出しじゃないですね!! 名づけて、ウィーン必勝法!!」

怜「………………」グー

玄「あっ、園城寺さんダメですよ!」

怜「同じことやっただけやん」

玄「やるときは、うぃーーーーーーーんって言わないと!!」

怜「そこかい」



つづき


《@銭湯 さぎのもり》 視点:怜


怜「着いた。今日はなかなか蒸し暑いな。出たあとのアレが楽しみや」

玄「はい、そうですね!」

怜「それじゃ、遅ならんうちに入ってまおう」



西地区にある銭湯、さぎのもり。

玄は事務所に越してきてから、愚痴の一つも漏らさへんけど

お風呂にはどうしても入りたい言うから、ここに連れてくるようになった。

一人で行くのは寂しい、一緒に行こうってせがまれるから、だいたいウチも一緒に行く。

それで、ウチも結果的にここの常連みたいになってもうた。

ウチはお風呂よりも、むしろ湯上り後のフルーツ牛乳が楽しみやったりするんやけどな。にやり。


玄「あれっ、いつもの番頭さんいませんね」

怜「うーん、確かに。お客さんも全然おらんな」

玄「でも、もう開店時間は過ぎてますね」

怜「じゃあ、先に入って、後からお金払お。常連やし、許してくれるやろ」

玄「そうですね、そうしましょう!」



今日は浴場に全然人がおらん。

ウチにとって、これはかなりありがたい。

あんまり、体を見られるんは―――――――嫌やから。


玄「えへへっ、おーふろっ、今日のおふろはなーにっかなっ……おっ、今日は牛乳風呂っ!!」

怜「おーミルキー」



これは、日替わり風呂。毎日、何かしら変わったお風呂になる。

前来た時は、ローヤルなんとかやった。

ここは、銭湯の割には、けっこう設備が整っとる気がするな。

もちろん、普通の大浴場もある。


玄「ざぶーんっ!! 園城寺さん、ほら、気持ちいいですよ!!」

怜「おうおう、ちょっと待ってな。せっかく来たから、体洗うさかい」

玄「あっ、そうでした。洗わなきゃ」

怜「旅館の子とは思えへんなぁ」

玄「前はおうちのお風呂に、好きな時に、好きなように入れたので……人がいないお風呂を見ると、つい」

怜「なるほど、言い分に筋は通っとるな」

玄「えへへ、それほどでも!」


玄とウチは、二つくらい席を離して、体を洗い始めた。

シャンプーもリンスも石鹸も、全部あるのはありがたいな。銭湯によっては、置いてなかったりするし。



玄「わわっ、シャンプーが目に入っちゃった……あたたたたた……」

怜「大丈夫?」

玄「はいっ、あれ……園城寺さん、洗わないんですか?」

怜「座ったはいいけど、なんかめんどくさくなって」

玄「ええっ?!」

怜「まあ、さすがにお金払っとるし洗う…………洗………………いや…………………やっぱ洗お。もったいない」

玄「けっこう迷ってた?!」

怜「玄、シャンプーとって」

玄「目の前にあるじゃないですか!!」

怜「んー、なんか人がいると頼ってまうわ」

玄「もう……」


のろのろとした動作で髪の毛を洗い終わって、身体に取り掛かる。

髪を洗うんは、そんなに嫌いやないけど

体を洗うんは、好きやない。単純に、染みて痛いから。



玄「ところで、園城寺さん………つかぬことを伺いますが」

怜「なんや、改まって」

玄「おもちは………おもちは、好きですか?」

怜「餅? 大好きやで」

玄「ほ、本当ですかっ?!」

怜「うん。竜華が持ってきてくれるお餅は、うまいで」

玄「りゅ、竜華さんが持ってくる?! つまり、本人の、ってことですよねっ!?」

怜「?? えっと、うん。本人が持ってきてくれるで」

玄「それを、食べちゃうんだ………うわぁ、大人だなぁ……」

怜「別に、普通やろ。餅くらい。子供のころから、セーラともよく食べてたで」

玄「せ、セーラさんもっ?! 子供の頃からっ?!」

怜「うん。きな粉につけたり、黒蜜をかけたりとかな」

玄「きな粉に黒蜜?!」

怜「うん」


いつにないテンションで、食いついてきた。

なんで餅なんかで興奮しとるんやろうか。


玄「………ふぅーーーむ、なるほど、なるほど…………」

玄「園城寺さんも、けっこうお好きなんですね。味付けまでするんなんて、まにあっく……」

怜「??」


気のせいか、微妙に話が噛み合ってないような……

まあ、ええか。


玄「終わりましたか?」

怜「終わったで」

玄「それじゃあ、園城寺さん! 湯船に入って、100まで数えましょう!」

玄「肩まで、浸かりましょうね!!」

怜「せやな」



二人で、並んでお風呂へ。

ふと水面と玄の身体の境界の部分をみると

二つの膨らみが、ぷかぷかと浮かんどった。

なんというか、格差やなぁ。別に、気にしてないけど。


玄「いーち、にーぃ、さーん…………あっ、そういえば、園城寺さん」

怜「ん?」

玄「なんで銭湯には富士山の絵が描かれてるんですか?」

怜「100まで数えるんやなかったん……たぶん、縁起がええからやろ」

玄「うちは温泉ですけど、描いてないんですよね」

玄「縁起をよくするために、うちの旅館にもそういう絵があったほうがいいのかな……?」

怜「んーー いらんのちゃう?」

玄「どうしてですか?」

怜「銭湯は、体をきれいにするための場所や。浴槽も古くて、汚いところが多い」

怜「だから、そんな場所にせめて華やかなもんがあったらいいと思って」

怜「きっと描いてあるんやないかな。言葉を選ばんのやったら、『掃き溜めに鶴』的な感じやろ?」

怜「でも、温泉は、温泉自体に、価値があるやん」

怜「単純に体を綺麗にするだけやなくて、いろんな種類のお風呂もあるし」

怜「アミューズメント的な要素があるやん。浴槽だって豪華で立派やろ」
  
怜「やから、絵はなくても十分楽しめる」

玄「あ~~ そういうことだったんですね」

怜「ま、考え方のひとつやけど……ほら、41、42……」

玄「えっ、私に説明してくれながら、数えてたんですかっ?!」

怜「せやで。ほら、ウチも数えるから、一緒に数えよや」

玄「わわっ、46、47、48、49………」


…………96、97、98、99、100!!



怜「よし、出よか」

玄「はいっ」


身体が、ポカポカしてあったかい。

さすがに、一〇〇までつかると、体の芯まで温まるなぁ。


玄「えへへ、一緒に入ると、あったかいですねっ!」

怜「………せやな」


まぁ―――――芯まで温かい理由は、それだけじゃないかもな。


出て、さっと身支度を整えて、脱衣所を出る。

さぁ、今の身体の状態で、さいっこうにうまいのが……冷えたフルーツ牛乳や!

よっしゃー、テンション上がってきたでーーー



玄「そうだ、お金も払わないといけなかったんだ」

怜「あっ、番頭さん戻ってきとるで。すいませーん」

「あれ、お客さんが………ま、いいか。お二人ですか」

怜「あれ、今日はいつもの人と違うんやな。すんません、先に入らせてもらいました」

「なるほど、そういうことか……構いませんよ」

怜「これ、お代、二名分で。あと、フルーツ牛乳ください。玄は何がええ?」

怜「普通の牛乳、コーヒー牛乳もあるよ。あとは…………聞いとる?」


玄からの反応が全くない。

不思議に思って、ふと、玄の方をみると……口をあんぐり開けて、番頭の方を見とる。

番頭で、番頭も、驚いた顔をしとった。



玄「あっ、あらたちゃんっ?!」

灼「く、玄……なんでここにいるの」

玄「灼ちゃんこそ、なんでこんなところに!!」

灼「私は……ただの、バイト」




【鷺森 灼(さぎもり あらた)】
阿知賀女子学院の卒業生。実家のエンターテインメント業(小規模)を継ぐ。
普段は、実家で働いている。

今日は、ここまで

あらたそ、個人的に大好きなキャラです
怜に似てるのもポイント高いっす


それでは、おやすみなさいー


視点:玄


玄「バイトって……わざわざ、家からここに? なんでこんなに遠いところに?」

灼「バイトって言っても……実家の手伝い。だから、遠くても関係ない」

玄「あっ、なるほどなるほど~~そうだったんだね」

灼「……というか、気付かなかった? 銭湯の名前で」

玄「ああっ、そういえばっ! 灼ちゃんの苗字、そうだったね!」

灼「まあ、無理もないとおも……ひらがなだし、『さぎ【の】もり』になってるし」

灼「だいだい、私のこと、苗字で読んでる人いなかったし……」

玄「確かに……でも、久しぶりっ! 会えて嬉しいなぁ」

灼「玄こそ、元気みたいでよかった。旅館の事件、こっちでも有名になってたから」

灼「その………心配、してたよ」

玄「ありがとう! でも、今は上手くやってるから、安心してね!!」

灼「そう、なら……いい。えっと、フルーツ牛乳と、なんだっけ?」

玄「じゃあ、私はコーヒー牛乳で!」


園城寺さんは、湯上り後にはフルーツ牛乳だって譲らないけど

私は、絶対コーヒー牛乳がいい!

受付に人がいない=いつもと違う+探偵=事件の予感


灼「ええと……ごめんなさい、フルーツ牛乳は冷えてるんだけど、コーヒー牛乳はまだで……」

玄「ええっ」

灼「普通の牛乳も、冷えてる。牛乳とフルーツ牛乳なら、すぐ出せるよ、玄」

玄「うーん………そうだなあ………」

怜「待ったらええやん。飲みたいの、飲みーや」

玄「そうですね! じゃあ、コーヒー牛乳が冷えるのを待ちます!」

灼「分かった。それなら先にお会計を………二つで、二〇〇円」

怜「一〇〇〇円でええ?」

灼「はい。ちょっと待ってください………」


灼ちゃんは、新しい小銭のパックを開けた。

一〇〇円玉が、いっぱい! あれだけあれば、お金持ちだね!!


灼「すいません、八〇〇円のお返しです」

玄「園城寺さん、いつもありがとうございますっ!」

怜「今回だけやで」

玄「はいっ!!」



えへへ……園城寺さんは、ここで飲み物を買うとき、毎回、「今回だけ」、って言っておきながら

いっつもごちそうしてくれるんだよね。嬉しいなぁ。ふふっ。




灼「玄、あと5分くらいしたら、あそこの冷蔵庫から、取って」

玄「えへへ、ありがとう灼ちゃん。園城寺さんは、先に飲んでてくださいね!」

怜「それじゃ遠慮なく」


園城寺さんは、いつものスタイル、腰に、手を当てて、ぐいっと―――

――――――ごくごくごくごくごっくん。


少し経って、私の分を取り出す

ふたを、開けて……ああ、このパカっって感じがいいんだよね。

牛乳びんの、ふたって、なんだか懐かしいや。

私も、ごっくん!!


怜「うん、やっぱりうまいっ!」

玄「湯上りの、コレは、最高ですね!」

怜「ほんまにな~ここのは、格別うまい気がするわ」

灼「……そんなに、美味しそうにフルーツ牛乳飲む人、初めて見た……」

怜「よく言われます」

玄「あ、灼ちゃんにも紹介するね。この人は私のお師匠さんで、園城寺さんって言うんだよ」

灼「師匠……? あ、私、鷺森です。玄とは高校のクラスメイトでした」

怜「ってことは……なんやっけ、阿知賀?」

灼「そうです」

怜「またお嬢様かいな……どうしてこう、ウチが出会うのはお嬢様ばっかりなんやろなぁ」

灼「?」

怜「いえ、なんでも」



そういえば、園城寺さんは、どこの高校に通ってたんだろう。

竜華さんからも、セーラさんからも、そういう話は聞いたことないや。

よし、今度聞いてみよう!


灼「ところで……玄は、今、何やってるの」

玄「私? 私はね、園城寺さんの見習いで、弟子なんだよ!」

灼「そうだったんだ。旅館は、やめたんだね」

玄「お姉ちゃんに任せてるんだよっ!」

灼「なるほど……弟子ってことは、何かの技術職とか?」

玄「技術……うーん、頭は使うかな」

灼「?? 具体的に、何……?」

玄「じゃじゃーん、なんと探偵です!!」

灼「……ぷっ、玄は相変わらずだね。ドラマに影響されちゃった……?」

怜「………」

玄「あー、灼ちゃん、冗談だと思ってるでしょ!」

灼「だって、急にそんな変なこと言うから………ん?」


苦笑いだった灼ちゃんの顔が、真面目な表情に変わった。


灼「……ちょっと、待って……玄」

玄「な、何かな」

灼「今言ったのって、冗談じゃないの?」

玄「えっと……その……」


あれ、言ったらまずかった、のかな?


灼「あの、園城寺さんは、どんな仕事されてるんですか」

怜「ウチ。ウチは、探偵やってます」

灼「探、偵………」

怜「そうです」

灼「………」


灼ちゃんはあからさまに、変な目で園城寺さんの方を見始めた。

少なくとも、お客さんに向ける目じゃなかった。


灼「玄……ちょっとこっち来て」

玄「……? なぁに?」

灼「いいから」


灼『どういうこと? なんで……こんなことになってるの?』

玄『えっと……』

灼『学校を勝手にやめて、仕事漬けになって………と思ったら、それをやめて、今度は探偵見習い?』

玄『……』

灼『穏乃や憧が、どれだけ心配したか……分かってるよね』

玄『……分かってるよ、あの時はごめんね』

灼『それで、何? また、変なことやって……みんなに心配かけるんだ』

玄『ち、違うよ! 私、今度はちゃんと考えて! みんなの、気持ちも、分かって―――』

灼『分かってないよ。玄は、いい子だから、いい子だけど―――――――っ』


灼ちゃんは、口をつぐんだ。

これ以上言ったら、私が傷つくと思ったのかな。

でも、なんだか言い足りないようにも見えた。


灼『………ごめん、私が口出しすることじゃないかもしれない。でも』

灼『玄のことを、思ってる人がたくさんいる』

灼『それだけは、知っておいて』

玄『………』


玄「園城寺さん……お待たせしました」

怜「おー、おかえり」

灼「……」

怜「……」


さっきまでの和やかな雰囲気はどこにやら

微妙な、なんとも言えない空気になっちゃった。

園城寺さんには、今のことなんと言ったらいいか分からないし

灼ちゃんは、園城寺さんのことを睨んでるし……ううっ、灼ちゃんって、こんな顔怖かったっけ。


それから―――――――1分くらい、間があったかな。

園城寺さんが、灼ちゃんに話しかけてくれた。



怜「ところで、鷺森さん」

灼「………………………なに」

怜「今日は、大変やったみたいやな」

灼「……はい?」

怜「いやーこんな忙しい時間帯に、ここまでお客さんがおらんなんて珍しいさかい」

怜「なんかあったんかな、思って」

灼「……別に、そういう日もある」

怜「そうか」

灼「……」

怜「そういえば……さっき、なんでここにおらんかったん?」

灼「……一体、なに? あなたには、関係のないことだとおも……」

怜「張り紙の一つもせずに、どうしたんかな思て。まるで、開店直後に、急用で外に出ざるをえんくなって」

怜「思ったより、時間がかかってしまったみたいな」


灼「……」

怜「銀行に行っとった?」

灼「!!」

怜「やっぱりか。さっき、お釣りを受け取るときに、新しい小銭を出すんを見て……そうじゃないかと思ったわ」

玄「銀行に……?」

怜「鷺森さんは、バイトとして、ここに入って……開店の準備をしとった。
  ところが、いざ開店となってレジを確認すると、お釣りの小銭が全然なかった」

怜「これはまずいと思った鷺森さんは、すぐに銀行に走った。ここから銀行はすぐやし、
  少し店を開けるくらいなら大丈夫やと思ったんやろ」

怜「ところが、思ったより人が並んどったか、何かのせいで、大幅に遅くなった」

怜「そこに、ウチらが来たんや」

灼「……」

怜「コーヒー牛乳とかも、帰ってきてから慌ててセットしたんやろ。やから、十分に冷えてなかった」

灼「………」

玄「そ、そうなの? 灼ちゃん」

灼「………」


灼ちゃんは、ちょっぴりびっくりしてるようで

なんだかムスっとした顔。

でも、ちゃんとお話してくれた。


灼「……そう、だよ。確かに、お釣りがなくて、銀行に走った。コーヒー牛乳のことも、そう」

灼「まだ、ここのバイトは慣れてないから……それで、手際も悪かった。レジは、もっと早く見ておくべきだった」

怜「不慣れやと仕方ないわな。そういうこともある」

灼「……」

怜「まあ、お客さんがおらんのは、偶然か。それか、番頭さんがおらんくて、入らんかっただけかもな」

灼「……」


灼「……でも、ひとつ違う。お客さんがいなかったのは」

怜「ん?」

灼「単純に、開店がまだだから」

玄「えっ? 私たちがいたときは、もう開店時間過ぎてたよ?」

灼「今日は、急に体調を崩したおじいちゃんの代わりに、私が番頭入ったんだけど」

灼「私も、急に言われたから、準備ができなくて……いつもより開店時間を遅らせた」

玄「えっ、じゃあ」

灼「そもそも、開店時間は……あ、今ちょうど開店時間」

玄「……」

怜「……」

灼「一応、張り紙はしてた。ほら、外のそこ」


灼ちゃんに言われて、外の看板を見てみる。

あっ、確かに……私たちが来る方向からは、ちょっと見えにくいけど

確かに貼ってある。うわぁ、気がつかなかったよ……


玄「み、見てなかったよ」

怜「それは、気がつかんかった。最後、適当なことを言って、すまんかったな」

灼「………………」

玄「あ、あの……灼ちゃん。園城寺さんは、その……こう見えて、すごくいい人なんだよ」

怜「…………」



あれ、園城寺さん、ちょっと複雑そうな顔してる……なんでだろ。

灼ちゃんは、灼ちゃんで、黙ったまま、なんにも言わない。

これは私の直感なんだけど………このままここに三人でいるのは、まずい気がする。

よし、さりげなく、さりげなく帰れるように―――――


「そ、それじゃ、園城寺さん、そろそろ帰り―――――――「ねぇ」」

「……なんや?」

「探偵って……………探偵ってさ、頭いいんだよね」

「さぁ、どうやろな」

「……前、この銭湯で、出したクイズがあるんだけど」

「クイズ?」

「そう。当たった人は、フルーツ牛乳を一本……タダでもらえるイベント」

「定期的にやってて……お客さんからの、評判もいい」

「ほう、そんなんがあったんか。知らんかったわ」

「毎日はやらないから、知らない人もいる……それで」

「3つ、問題を出す。あなたは、探偵という職業で、頭がいい……らしい。だから……」

「……解いてみてほしい」

「…………」

「…………」


園城寺さんは、すぐには答えずに

飲み干したフルーツ牛乳のビンをひっくり返して、自分も上を向く。

最後の一滴が、落ちてくるのを待ってるみたい。


そして、ビンが完全に空になるのを確認してから、灼ちゃんに向き直った。


「……それは、依頼?」

「え?」

「依頼で、解いてくれってこと? それなら、解く。ただし、報酬はもらうで」


灼ちゃんは言われた瞬間は、ぽかんとした顔をしてたけど

私より、ずっと頭がいいからかな

園城寺さんの意図することを、すぐに理解したみたい。


「………そういう、スタンスなんだ」


あくまで和やかに話を進めようとしてくれていた灼ちゃん。

その灼ちゃんの不信感が、一気に膨れ上がるのを感じた。


「私が、玄の友達と、知ってて」


灼ちゃんは、園城寺さんの瞳を――――――


「そういう態度、取るんだ」


―――――キッっと睨みつけた。

今日はここまでです

>>683
ここで事件が起こったら、温泉で事件二回目になるからね、仕方ないね。
なごやかに()クイズタイムで

ではおやすみなさいー


灼「いいよ、払う……ただし、こっちも条件を付けさせてほしい」

怜「何?」

灼「三つ出して、全部正解できなかったら……玄と金輪際、関わらないで」

怜「…………」

玄「ちょ、ちょっとちょっと! 灼ちゃん、さすがにストップだよ!!」

玄「灼ちゃん、いくらなんでも、それは!!」

灼「玄は黙ってて!!」

玄「ひぅっ! ご、ごめんなさいっ!」

灼「園城寺さん、いいですか」

怜「……ええよ、ただし、そっちが条件つけてきたんや。報酬は、条件分上乗せさせてもらうで」

灼「っ!!! さっきから、お金お金……ますます―――」

怜「―――気に入らない、か?」

灼「………」


怜「アンタ一応働いとるんやろ? 本来一〇万のところを」

怜「条件上乗せ分で……そうやな。六〇万で」

灼「六〇万?!」

怜「そうや。嫌なら、やめてもええで」

灼「ちっ…………分かった」

怜「ただ、玄の件と報酬の件は別や。やから、問題一問解けたら、一問に付き、二〇万な。三問解けたら、六〇万もらう」

灼「……まるで、全部解けるのが当たり前みたいな言い方」

怜「別に、そんなつもりはないで。六〇万を均等に振ったら、そうなった」

灼「………」

怜「………」

玄「………」


ふ、二人がにらみ合ってる……特に、灼ちゃんは、すっごく不快そうな顔。

やっぱり嫌な予感的中だよ!!

わーもう!! なんでこんなことになっちゃうのっ!!

園城寺さん、確かに前、知り合いでもお金取るって言ってたけど

何もこのタイミングで言わなくても……あれじゃあ、喧嘩売ってるのも同然だよ、もう!!

灼ちゃんも灼ちゃんで、ひどいよ!!

あんなに難しい試験突破して、せっかく園城寺さんの弟子になれたのに

園城寺さんを信用してないわけじゃないけど、やっぱり不安だよぅ。

やっぱり、ここは私がガツンと言わなきゃ。



玄「園城寺さん! 灼ちゃん!」

怜「玄」

灼「玄」

玄「うっ……」

怜「なんや?」

灼「なに」

玄「ええと……ええと…………………………………なんでもないです……」

怜「さよか」

灼「そっか。なら……始める。その前に、店は臨時で閉めてくる」

怜「分かった」


ちゃ、チャンス! 灼ちゃんが園城寺さんから離れた隙に―――!



「園城寺さん! こんな馬鹿げたことやめてください!!」

「馬鹿げた……?」

「そうです、灼ちゃんは私の大切な友達だし……それに、私、園城寺さんの弟子、やめるのは嫌です」

「お金のことだって、どうでもいいじゃないですか。また、他の依頼を探せば、なんとかなるのです!」


私がそういった時、園城寺さんの身体がピクっと動いた気がした。


「………どうでも――――どうでも、ええやと?」

「そうです! 喧嘩は、よくありません!」

「……どこが馬鹿げてるんや。金がもらえるんや。仕事をして、報酬をもらうんや」

「お、園城寺さん……?」

「もういっぺん聞くで。何がどうでもええんや」



こんなに、怖い園城寺さんの顔

初めて見た―――――――ー



「答えて」

「あ、あの……」


灼「準備できた。これでお客さんは入ってこれないから、大丈夫」

玄「あっ……」



怜「……とにかく、ウチは手に入れた依頼を全力でこなすだけや」

怜「玄。大人しく見とってや」

玄「…………」



 *


灼「じゃあ……一つ目」

灼「あなたも知ってるように、このお店には湯上がり後に、何か飲む人が多い」

怜「……」

灼「中でも、牛乳系が三つ。普通の牛乳、コーヒー牛乳。そしてフルーツ牛乳」

灼「これを、人気順に並び替えて」


人気順って……つまり、売れてる順番ってことだよね。

なるほどなるほど――――――――――――って!


玄「そんなの、分かるわけないよ!!」

灼「だから、これはクイズと言った」

玄「いや、そうだけど……灼ちゃん、この問題はなしにしよう?」

玄「さすがにこの店の売れ行きは、園城寺さんもに分からないよ」

灼「そんなの、知らない。そっちが了承した」

灼「依頼なら、解くって」

玄「でも……」

怜「その通り。玄、口出しは無用やで」

玄「………」


園城寺さんはそう言うけど……私の今後もかかってるんだから

やっぱり言わずにはいられないよぅ。


灼「あと一分。考えても、時間の無――――「コーヒー牛乳、牛乳、フルーツ牛乳」」

灼「は……?」

怜「コーヒー牛乳、牛乳、フルーツ牛乳」

玄「お、園城寺さんっ! もう少し、考えたほうが!!」

灼「……」

玄「あ、あれ?」

怜「正解か?」

灼「……」



悩むことなく、言いよどむこともなく、園城寺さんは答えた。

灼ちゃんの顔見ると、どうやら正解みたい。

でも、いったいなんで分かったのかな―――?


灼「……的確に当てるなんてありえな………っ、まさか」

怜「そのまさかや」



灼ちゃんは、店の奥に走った。

そして……持ってきたのは、資料?

過去クイズ正解者一覧……ってことは、もしかしてっ!!



灼「園城寺、怜……まさか、これ」

怜「うちの名前は【れい】やない。【とき】や」

灼「っ、そんなの、どっちだっていい!!」

灼「うちのクイズ、知らないとか言ってたくせに……嘘つき」

怜「あれれ、そうやったかなぁ」

灼「……最低。依頼人に、嘘つくなんて」

怜「言うタイミングを、逃しただけや。しかも、それは依頼を受ける前のことや」

怜「依頼人には、嘘をついてないで」

灼「……屁理屈、ばっかり」



そっか、事前に答えを知ってたんだ。

だから、あんなに平然としてたんだね。


怜「それと、一応言っとくけどな。もし事前に答え知らなかったとしても」

怜「ウチはさっきの順番で解答しとったで」

灼「……なにそれ。後からは、なんとでも言える」

怜「ホンマやで。ちゃんと、根拠はある」

灼「……」

怜「まず、一番人気のないフルーツ牛乳」

怜「ウチはフルーツ牛乳派やから、信じられんけど……これが一番売れてないのはすぐ分かった」

玄「なんでですか?」

怜「そんなの簡単や。だって、クイズの商品がフルーツ牛乳なんやで?」

怜「真っ先に、売れてないんやな、と判断できるやろ」

灼「……!!」

怜「この銭湯、そんなに経済的に余裕があるわけやなさそうやし」

怜「タダで提供するにしたって、売れ筋の商品はもったいなくて出せへん」

怜「やから売れ残りのフルーツ牛乳を、レクリエーションついでにタダで提供したろ、思ったんやろ」


玄「な、なるほど……でも、残りの二つは?」

怜「今日ウチらが風呂上がった後に注文したら、コーヒー牛乳だけ冷えてなかったやん」

怜「深い事情までは分からんけど……冷えてない=よく出てる って証拠やん」

怜「だから、一番売れてるのはコーヒー牛乳」

怜「せやから、さっきの答えになる」

灼「………」

怜「まぁ、今説明したことが、必ず合ってる保証はない……けど」

怜「少なくとも、当てずっぽうっちゅうことは、ない」

灼「……ちっ」

怜「さて、あと二問やな。忠告やけど、ここのクイズは基本的に通用せんで」

灼「あなたに言われなくても……分かってる」

怜「むしろ良かったな。今ので気がついて」

灼「今ここで……あなた用の問題を、考える」

怜「お待ちしてます」

灼「………」





 *


灼「じゃあ……二問目。私が考えた問題。あなたと私の、共通点は?」

灼「制限時間、一分」

怜「羽ばたくこと」

灼「っ」

怜「あと一問」

灼「ぐっ……」



えっ、えっ、何、どういうこと?

今のやり取り、早すぎて全然わからなかったよ!!

とにかく、解けたの?!

よく分からないけど、さすが園城寺さんだ!!



灼「………少し、あなたを見くびってたみたい」

怜「ほうか」

灼「ちょっと……考える」

怜「どうぞ。報酬分は、働くで」

灼「…………」


 *



それから、灼ちゃんはまた店の奥に

最後の問題を考えに行った。

園城寺さんが、あまりにあっさり解いたから

一筋縄じゃ行かないと思ったんだよね、きっと。

私なんて、三日考えて、ようやく園城寺さんに勝てたんだもん……無理もないよ。



怜「………」

玄「………」



き、気まずい。さっきの園城寺さんの、怖い顔が忘れられないや。

私、何かおかしなこと、言ったのかな……



灼「おまたせ」

怜「お、来たか」

灼「……これが、最後。前の二つは解かれちゃったけど」

灼「これが解けなかったら……分かってる?」

怜「分かっとる。約束は、守る」

灼「ふん……どうだか」


灼「じゃあ、三問目」

灼「これは……おばあちゃんが、昔してくれたクイズ」

怜「……」

灼「『悪』にあって、『正義』にない」

灼「『必然』にあって、『偶然』にない」

怜「あるなしクイズ?」

灼「せっかち……最後まで聞いてほし」

灼「『情報』にあって、『媒体』にない」

灼「『恭順』にあって、『反抗』にない」


灼ちゃん、難しい感じばっかり使ってて、分かりにくいなぁ。

全部、反対の意味の言葉かな?


灼「それじゃあ……『人間』はどっち?」


怜「………」

玄「お、園城寺さん……」



すらすらと二問目まで解いてた園城寺さん

ここで初めて、考える仕草を見せた。

私も一応考えてみる。いわゆる、あるなしクイズだよね。

昔、友達に出されたことがある。




そのときは……

キャベツにあって、レタスにない。

鉛筆にあって、消しゴムにない。

トイレットペーパーにあって、ティッシュペーパーにない。

じゃあ、電話はどっち、だったような。

確か、答えは……あれ、答えを忘れちゃった。また憧ちゃんに聞いてみよう!




怜「これ、制限時間は?」

灼「10分」

怜「10分な。分かった」


焦ったような顔は全く見せない、園城寺さんだったけど

すぐに答えないってことは、ちょっと難しいんだよね。

灼ちゃんに聞こえないように、そっと話しかけてみる。



玄『園城寺さん、難しそうですか?』

怜『……』

玄『あ、邪魔しちゃったら、ごめんなさいなのです』

怜『もう、解けとるよ』

玄『えっ?! ほ、本当ですかっ?!』

怜『うん』

玄『よかったぁ……』

怜『……ただ』

玄『? 何か、あるんですか?』

怜『いや……』



“なんでもないよ”

“玄は、大船に乗ったつもりで、見とったらええ”



そう、言ってくれた。

今日はここまで

次の更新でこのfileは終了っす

更新が、飛び飛びになってすまんな


では、また明日にでも

さて、終わらせますよー

つづき


 *



灼「……5分経った」

灼「答えを、聞かせて」

怜「………」


園城寺さんは、口をすぐには開かなかった。

何かを、言いたそうな顔していたけど、私には分からなかった。


怜「『人間』は……『なし』の側」

灼「………」

怜「どうなんや」

灼「……正解。おめでとう」

灼「あなたは、やっぱりそう答えると、思った」



灼ちゃんは……少し、勝ち誇ったような顔をしていた。

園城寺さんは、クイズには正解したみたいだけど

試合に勝って、勝負に負けたみたいな―――そんな顔をしてるような気がした。


怜「三問正解やな。約束通り、六〇万もらうで」

灼「お金は、これ。カード。五〇万くらい入ってる」

灼「足りない分は……ここの、銭湯に、一〇万円分、いくらでも来ていい」

灼「それでいい? ダメっていうなら、ちゃんと現金で払う」

怜「それで、ええ。その一〇万、玄と割ってもいい?」

灼「いい。おじいちゃんに言っとく」

怜「……」

灼「玄は、この人の下で勉強したいんだね」

玄「う、うん」

灼「ちょっと、分かった。この人は、玄にないものを持ってるね」

灼「園城寺さん」

灼「あなたのことは、全然信用できない」

怜「………」

灼「あなたは、すごく頭がいい人間」

灼「それは、分かった」

玄「あ、灼ちゃん」

灼「……そろそろ、お店を開けたいので」

怜「……」

灼「それじゃあ、玄」

灼「またね」

玄「う、うん……」

灼「いつでも、ウチに来ていいからね。玄」

玄「………」

怜「それじゃ、帰るで」

玄「そ、そうですね。またね、灼ちゃん」







「……………ねぇ」


帰ろうとした、その瞬間

灼ちゃんは、私たちを呼び止めた。

いや、私たちというより

園城寺さんに、声をかけるためだった。



「園城寺さん……私に、言いたいこと、ないの」

「どういう意味や」

「分かってるくせに」

「……………」

「……ないよ。失礼します。貴重な依頼、どうもありがとう」

「………」


 *


《@事務所》



帰り道、まったく園城寺さんとの会話はないまま

事務所にたどり着いた。

今日は蒸し暑かったけど、太陽さんはお休み中で

曇さんいっぱい、湿度がむんむんのお天気。

だから、夜は星や月は見えなくて、真っ暗だった。



着くやいなや、園城寺さんは、どさっと布団に倒れ込んだ。

疲れを取るために、お風呂に行ったはずなのに

あの依頼で、逆に疲れちゃったみたい。


怜「……」

玄「あの、お疲れさまです」

怜「うん、お疲れ」

玄「……」

怜「……」

玄「えっと、良かったですね! 依頼、無事完了できて!」

怜「せやな」

玄「うっ……ええとええと、私も、園城寺さんの弟子をやめなくて済みます!」

怜「おー」

玄「ううっ……」


これこそ、生返事っていう感じの、生返事。

でも、ここで……ここでめげないよ、私!


玄「園城寺さん!」

怜「ん」

玄「……その、最後の問題は……あれ、なんだったんですか?」

怜「そのまんま、あるなしクイズやで」

玄「えっと……」


解説を、お願いしたいな、なんて―――


怜「解説?」

玄「あっ、そ、そうです!」

怜「ある方にあるのは、『心』」

玄「こころ……?」

怜「そうや。悪、必、情、恭……全てに、心が入っとる。漢字のことやで」

玄「……あっ、ああ!! なるほど、なるほどっ!!」


怜「分かった?」

玄「はいっ、すっきりしました!」

怜「そうか、それはよかった」



なるほど、私には、全然分からなかったなぁ。

そもそも『きょうじゅん』って言われて、漢字が思い浮かばなかったもん。

あれあれ、もしかして、そういう知識のなさって……これからの探偵業に響くんじゃ?!

ガビーーーーン!! でも、とにかく園城寺さんが無事に三問とも、解いてくれてよかった!



怜「ただ……最後のは、なかなか面白いクイズやったな」

玄「最後のですか?」

怜「そうや。皮肉が効いてて」

玄「皮肉……?」


怜「そうやで。よく考えてみ。あんな簡単なクイズを……ウチが解けないと、鷺森さんが思うやろか」

玄「あ……確かに。時間をかけて考えたにしては、普通の問題でした」


私は、わからなかったけど……しょぼん。


玄「じゃあ、なんで灼ちゃんは、あんな問題を?」

怜「ウチを……試したんやろ」

玄「試した……?」

怜「………」

玄「どういう意味ですか」

怜「玄、たまには自分で考えーや」

玄「はうっ……そうですよね……頑張るのです」

怜「……ヒントやあげるから、考え」

玄「本当ですかっ? って、この流れは、どこかで見たことありますっ!」

怜「いやいや、もう入門試験みたいなことはせんよ」


怜「あの三問目のクイズを……そのままの意味で取る。それがヒント」

玄「そのまま?」

怜「そのまま」


えーと、そのままってことは……原文通りってこと?



『悪』にあって、『正義』にない

『必然』にあって、『偶然』にない

『情報』にあって、『媒体』にない

『恭順』にあって、『反抗』にない



それじゃあ……『人間』はどっち?


玄「うーん……うーん……」

怜「……ちょっと、ヒントの出し方が悪かった。そのままって言うのは、最後の分岐にたどり着いたときに」

怜「そのままの意味で捉えるってことやで」

玄「……すいません、ますます意味が分からないのです」

怜「んんー……つまり、こういうことや」

怜「左側にある漢字には『心』の部位がある」

怜「それじゃあ、『人間』はどっちですか?」

玄「あっ、もしかして……」

怜「分かった? クイズで言えば、人間に『心』の部位はない。これは漢字からみた場合」

怜「でも、人間には、確かに『心』は持ってる。これは嬉しいとか、悲しいとか、そういう感情の面からみた場合」

玄「ええと……つまり?」

怜「分かってなかったんか……まあ、ええ」

怜「要するに、鷺森さんは、ウチにこう聞いたんや」


【あんたは、人間をなんやと思ってるんですか】

【人間には、心があるんと違うんですか】


怜「ってな。いやぁ、痛烈に皮肉がきいとるな」

玄「……」


怜「たぶん……このクイズを、かっこよく解答したらこうなる」


《クイズなんて関係ない。人間には、それはもう、温かい心っちゅうもんがある》

《だから、正解は『あり』の側や! 文句あるか!!》


怜「そうすれば、『おお、人間味に溢れた、熱い人やな』と思われるやろ」

玄「……もしかして、最後に悩んでたのって」

怜「そうやで。どっちで答えようか思ってたんや。ほんの、ほんのちょっとだけな」

玄「そうだったんですね。それじゃあ……それじゃあ」

怜「なんで、『なし』で答えたか?」

怜「そんなん、決まっとるやろ。100%正解なのは、間違いなく漢字の意味でとった答えや」

怜「かっこよく解答して、それは違うって言われたら、終いや」

玄「……」

怜「そんなことをして、一円も得せえへん。当然や」

怜「ただ……鷺森さんは気持ちよかったやろなぁ。顔がそう言っとったで」

怜「『あんたは、やっぱり心のない、冷たい人間なんだ』って」

怜「家訓で、そういうんがあるんかもな。『人間の心が、一番大事』とか」

怜「おばあちゃんが、出してくれたクイズって言ってたからな」

玄「………」


あの短い間に、それだけの心のやり取りがあったなんて

私には、全然分からなかった。それが、少し悔しかった。


そして今、園城寺さんは全然平気そうに見えるけど

けど、きっと少なからず園城寺さんは傷ついていて――――――



「園城寺さん……」

「玄、なんやそのツラは。勘違いしたらあかんで」

「人間には、心がある。そんなこと、知っとるわ」

「ウチは、体が弱い。活発に動けん分、人の心理とか行動みたいな、些細なを手掛かりを頼りに推理するんや」

「ちゃんと、分かっとるつもりや」

「それにこうして依頼金はゲットした。誰に、どう思われようが関係ない」



私だって、分かってる。園城寺さんほど、しっかり人のことを見てる人を、私は知らない。

私のことを、あんなに一生懸命考えてくれて、こうして今ここに導いてくれた人。

だから、園城寺さんが、人に馬鹿にされるのは、私はいやだ。

だから、園城寺さんのことを、もっと知りたいと、私は思う。



「……あの」

「何?」

「今日、怒っていたことは………」

「………ああ。そういえば、そうやったな。」

「私、何が悪いことしましたか?」

「………大丈夫、ウチも悪かった。気にせんとって」

「………」

「ただ、これだけは言っとくで」

「金は、命そのものや」


私は、困惑した。

あまりのストレートな表現に、何も言葉が出てこなかった。

これ以上この人のことを知ろうとするならば、とんでもない覚悟をしなきゃいけない。

そう、直感的に分かった。


「……ごめん、なんでもない」


今の園城寺さんの顔をみると、これ以上何も聞けなかった。

私にできることは……当たり障りのない、対応で

このまま、お茶を濁すことだった。


「あの…………あの。お疲れでしょうし、そろそろ寝ますか」

「うん……そうする」

「お金は、いつ取りに行きますか?」

「今度、銀行に行こ」

「はい。灼ちゃんには、申し訳ないですけど……せっかくお金がたくさんはいったんですし」

「………」

「ええと、園城寺さんはこういう生活が好きだと思いますけど、もっとモノがいろいろあると、便利で楽しいと思うので」

「よければ、いろいろ買いましょう」

「……そうやな」

「…………」

「……玄、もう寝てええかな」

「あっ、はい!」

「うん……おやすみ、玄」

「おやすみなさい」


ランプの灯りが、妙に眩しい。

事務所に入ってくるすきま風の音が、いつもより耳につく。

口をゆすぎそこねたせいで、フルーツ牛乳の後味が、喉に絡みついて、気持ち悪い。



天井を、じっと見つめる。

そっと、手を伸ばす。

無意識に、そのやけ跡を指で辿り、線で結ぶ。

子供の頃に、やったような遊び。

あの時期も、よくやっていた遊び。

最近は、ずっとしていなかった。



隣から、寝息が聞こえてきた。

長く、美しい黒髪を横目に

自分も眠りにつきたいと、目を閉じた。




≪File 6 銭湯とフルーツ牛乳 End≫

File6はここまでっす

あらたそは、大好きなキャラです(念押し)


【次回予告】

突然、体調を崩した怜。念の為に、荒川病院で検査をすることに。

しかし……そこには、奇妙な患者たちと、以前怜がいた頃とは違った、病院の空気。

そして、なぜかデータを取りに来ていた、船Q。

一体、この病院に、何が起こったのか?


次回、名探偵 怜-Toki-

ファイル7 ―荒川病院殺人事件―



玄「ネクストくろちゃん」

玄「い・た・い・の・さ」

玄「なのです!」フンス


ついでに、ファイル6で没にしたあるなしクイズ


『朝』にあって『昼』にない

『ボーリング』にあって