黒井「961プロの天海春香だ」 (1000)


高木が事務所を設立した時から調査部を派遣し

何人のアイドルが所属し、どのようなアイドルがいるか

そして、どこからならば崩れるのかを調べさせ

その中の中心となりやすいアイドルも容易に調べがついた

私としては、その調査結果にはあまり期待はできんが

なぁに、失敗なら調査部も合わせて切り捨てればいいだけのこと。

最近になって男のプロデューサーを雇い

多少は名も知られるようになってきたところだし、頃合だろうと考えた私は

図に乗り始めた765プロを罠に嵌め

一人のアイドルを奪い取った

調査部が彼女こそ中心になり得ると名指ししたアイドル

考えに耽る私の邪魔をするように扉をノックし

そいつは自分の名前を言った

「天海、春香です」

「……ふん。入れ」

765プロの弱小事務所の中心になり得るアイドル

どれほどのものか、見せてもらおうではないか

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1385018896


写真を見た時点で弱小とはいえ、こんなやつが

アイドル事務所の中心人物になることなど不可能だと

私は思っていた

「えっと……よろしくお願いします」

「……………」

だが、それは少々見直すべきだったのかもしれない

アイドル、天海春香は笑っているのだ

緊張で強張っているのかもしれないが

この女は、自分の大好きだといった事務所から引き剥がした私に対して

笑顔でよろしくと言い放った

その他者となった者を即座に切り捨てられる精神は

賞賛に値すると言えるだろう


「あの、黒井社長?」

「ふん。お前はどうしてここに来ることになったのかを理解していないのか?」

「理解はしてます。前から961プロには気をつけろと話は聞いていましたから」

「……なら、なぜそうも平然としていられる?」

私に対して

怒りや憎しみや恨みなどの感情は一切感じられない

天海春香は一体何を考えている……?

「事務所は違っても、みんなとは仲間だからです」

「くっくっく……何を言うかと思えば」

所詮、弱小プロの人間

仲良しこよし、切り捨てたわけでもなく

切り捨てられずに、信頼やら友情やらとのたまう訳か

まぁいい

「天海春香。お前にはこのオーディションを受けて貰う」

そう告げて差し出した資料を見た天海春香は

やはり、顔を顰めた


「………………」

「どうした? さっきまでの笑顔はどこへ消えたのだ?」

「……私に、765プロを潰せってことですか?」

「当然だ。お前を引き抜いたのだってそのためなのだからな」

天海春香の苦悶の表情こそ、私が期待していたものだ

こいつはただ765プロを潰すためだけの存在

それ以上でも以下でもない

「まずは765プロのアイドル如月千早と同じオーディションを受け、如月千早を蹴落とせ」

「っ……私が不合格になったら?」

「ふん。そうなった時はそうなった時だ。だが、手を抜いてもすぐに判る。その場合は……」

天海春香は私の顔を見るだけの気力はあるらしい

いや、見るだけじゃなく睨んでいるな……くっくっく。だが所詮小娘だ

「765プロ側に問題が行くだろうなぁ? なにせ、お前は元765プロなのだからな」

「……解りました。千早ちゃんと真剣勝負します」


「ほう?」

「これは歌番組だから。千早ちゃんだって本気で来ます。たとえ私が相手でも」

「……………」

「黒井社長、私頑張りますね!」

天海春香は、笑った

なぜ笑えた?

切り捨てられない仲間を蹴落とせと指示したはずだ

それに苦しみ、悩んだはずだ

なのになぜ、お前は笑ったのだ!

「黒井社長、私が765プロからいなくなっても、765プロは潰れたりしませんから」

「……そんなことはついでだ。お前が潰すのだ」

「いえ、それも無理です。みんなはそんなに弱くないですから」

天海春香の目はなんだ

私を憐れんでいるとでも言うのか?

ふざけるなよ、凡人アイドルの分際で

「もういい、さっさと出て行け」

「失礼します」


「なぜだ、なぜこんなにも苛立たせる!」

振り払った腕に当たった資料が飛散し

部屋が散らかっていく

だが、知ったことではない

あの天海春香の目

気に入らん、気に食わん!

「真剣勝負などさせるものかッ」

天海春香の手で無理矢理にでも

如月千早だけでなく、765プロの全員を突き落とさせてやるッ

突き落とさせる……?

「クックック……そうだ。突き落とさせればいい」

本人の意思など無視していいのだ

本人がどうあろうと知ったことではない

あいつは私の駒でしかないのだから

どう扱おうと……私の勝手ではないか


移籍させてから数日

レッスン担当者によれば

天海春香は一生懸命すぎるほどにレッスンをしているとのことだった

「……意外でもなんでもない」

移籍当日から

私に対して何の恨み言もなく

それどころか笑顔さえ見せるようなアイドルだからだ

しかし、それよりも驚くべきは

調査報告にあった通り、何もない所で転ぶというのが現実だったことだ

何をふざけたことをとは思ったが

「今日はすでに2回……か」

壊れるのは構わないが

勝手に転んで怪我で終了などという無様な終わりだけは許せない

しかし、これもまた驚くことだが

天海春香は幾度となく転んでも、怪我はしなかった


「あっ、黒井社長。お疲れ様です?」

「なぜそこで疑問になったのだ」

「いえ、高木社長はあまり見なかったけど、黒井社長はよく見るから……えへへっ」

「……………」

つまり、

高木よりも私が暇だと言いたいのか?

やつは弱小事務所の社長

一方で私は大企業の社長

ならば、事務所を守ることに必死な高木が忙しく

そんなことを気にする必要もない私が空いた時間を多く持つのは当然だ

しかし、それは気に食わん

「お前には如月千早を潰して貰わなければいけないのでな。実力の程を知らねばいけないのだよ」

「あはは……千早ちゃんにはちょっと敵わないと思いますよ?」

相も変わらず、天海春香は笑った


同じオーディションで競い合えること

それが嬉しいのだと天海春香はレッスンの担当に話したらしい

競い合えなどとは言っていない

蹴落とせといったはずだ

なのになぜか、天海春香は好意的に解釈する

忌々しいことだが

これに関しては私が何を言っても無駄なのかもしれない

なにせ調査部曰く

【春香ちゃんには皮肉とかは無意味かと思います】

らしいからな

……何が春香ちゃんだ。あの馬鹿め

いつの間にそんな呼び方をする仲になりおったのだ

「黒井社長?」

「なんだ、まだ用があるのか?」


私の問いに答えを返すよりも先に

天海春香は自分のカバンを漁り、小包を取り出した

「なんなのだ。懐柔するつもりか? 生憎だが、私は――」

「違いますよ。クッキーです。黒井社長にはまだあげてなかったなーって」

「……なんだと?」

「えへへっ、手作りです」

そういう問題ではない

いや、別に問題ではないが。

それで他の部所の奴らは天海春香に懐柔されたわけか

「要らないんですか?」

「私は甘いものは好かん」

「微糖ですよ?」

「……ふん。貰っておいてやる」

どうあっても渡されるとすぐに理解した私は

とりあえず受け取り、社長室へと戻った


中断

黒井の口調が不安定


正直に評価をするなら

実に好みの味わいだ

大方、私を最後に回したのはわざとで

周りから色々と情報を集めたのだろうな

小賢しい真似をするアイドルだな……全くもって理解ができん

しかし、なるほど

「弱小プロでも餌付けをしていたのならば……不可能ではないか」

調査部が中心になり得るといったのは

恐らくそういうことだろう

仲間だなんだと言いながら

蓋を開けてみれば

金をばら撒いた富豪のそばに貧民共が群がるごとく

天海春香のクッキーという餌に、虫が集っていただけなのだろうな

「……まぁ良い。今は天海春香は我が961の人間だ」

さぁ、集って来るがいい虫ども

全て叩き潰してやろうではないか!


しばらくしてから改めて天海春香のプロフィールを見た私は

階下の経理課にいる責任者を呼び出した

「し、失礼します」

「ふむ、楽にして構わん」

別にこの女が不正をしたわけでもなければ

他の職員が不正をしたわけでもない

それ以前に、私の会社で不正をしたならば

わざわざ呼び出したりせず、全職員の前で

その勇気を称えてやってもいいくらいだ

もちろん……全額返済をさせるが。

「呼び出したのは他でもない、天海春香についてだ」

「春香ちゃ……天海さんですか?」

……やはりここも抑えられているか

いや、不正がないなら別に構わん

あとあと駒に出来るかもしれんしな


「天海春香の地元からここまでの定期券を発行しろ」

「え?」

「学割だとかどうとかは無視でかまわん」

「良いんですか?」

「元765プロとはいえ、我が961の一員になったのだ。それ相応のもてなしをしてやらねばなるまい」

私の言葉に対して

経理責任者は嬉しそうに笑うが

そんなもの方便に決まっているではないか

向こうが私に対し、クッキーなどというちっぽけな餌を撒くなら

私は金をばら撒いてやろう。というだけだ

そこに恩義を感じ従順になるなら良し

そうならなくとも、自分の手が届かない金額での返しをされれば

二度と、あんな真似はしないはずだ

「最大期間のものでいい、やっておけ」

「は、はい」

経理責任者は駆け足で去っていく

これで、天海春香への牽制は完了だ


そう思ったのは私の思い過ごしだったらしい

翌朝、ノックもせずに天海春香は社長室に駆け込んできた

「黒井社長!」

「朝から騒々しいとは思わないか? 天海春香」

「とぼけないでください、なんですかこれ!」

机を叩くようにして置かれたのは

昨日手配させた通勤用定期券だった

「何か不満でもあるのかね?」

「大アリですよ。こんなの受け取れません!」

「なるほど、そう来るのか」

「え?」

ここで受け取らずに

自分が常にあんな小賢しい真似をできる立場にしておきたいというわけか

だが、最初に仕掛けたお前の負けなのだよ


「昨日、クッキーを貰ったお礼だ。ぜひ受け取ってくれたまえ」

「え、でも」

「それ以前に、有望な社員の援助は惜しまないのが私なのだよ。天海春香」

「えへへっ、有望ですか~?」

……おい待て

こいつは馬鹿なのか?

私が言うのだから

当然、765プロを潰すためのコマとしてという意味に決まっているではないか

なのに何故照れる、何故喜ぶ

そうか、そういえば、お前に皮肉は無意味だったな

「ごほん。とにかくそれは受け取れ。作った以上は使って貰わなければ逆に迷惑なのだ」

「うっ……ずるいじゃないですか。予め言ってくれないなんて卑怯ですよ!」


やはり馬鹿か

馬鹿だから皮肉さえ無意味なのか

「お前だって言わなかったのではなかったか?」

「そ、それは……ほら。女の子からのプレゼントってサプライズが良くないですか?」

「……知るわけないだろう。そんなこと」

ちょっと照れくさそうにもじもじと

思春期の女子学生……だったかそういえば

くそっ、乱される

「あ、それでどうでした? 美味しかったですか?」

「食べられたものではない」

「えっ……ど、どんなとこがダメでした?」

面倒くさい

なんだこいつは

なんなのだ高木ぃっ!

「知らん。定期の話が終わったのならさっさとレッスンに行け!」

「っ……次は美味しいって言わせますからね!」

捨て台詞を吐いて、天海春香は去っていく

……待て

待て、天海春香

今なんと言った!?

くそっ、乗せられたのかっ!?


結局、私は天海春香を追うのは止めた

追ったら追ったで絶対に面倒なことになるだろう

それに、触らぬ神に祟りなしとも言うからな

「しかし……」

なんなのだ天海春香というアイドルは

怒りも恨みも憎しみもない

常に笑っているし、765プロを潰すためのレッスンにでさえ積極的だ

思わずデスクに肘をつき頭を抱えてしまう

予想外だ

いや、そもそも予想できるような人間ではなかったということか

「如月千早を負けにせず、勝たせるべきなのか?」

自分の考えに穴があるようで不安しかない

もしも少しでも穴があれば、天海春香はそこを突き破って逃げていく

そんな気がしてならなかった


気分転換をするために、外へと出かける

やはり、天海春香ではなく、星井美希にするべきだったのでは? と

街中を黄金色に見せる太陽光を見て、後悔してしまう

天海春香を奪うまでは

別に失敗でも良い。次があるなどと考えていたが

どうやら、ことはそう簡単ではなかったようだ

計画は早くも修正が必要になりそうで

それをすると、奴らを付け上がらせることになる

本当ならば天海春香を今すぐ解雇したいが

表向きでは資金提供と人員提供という合法な手段をとったばかりに

そんなことも出来はしない……?

ベンチに座る私に降り注ぐ太陽を遮る男の影

「貴方は……黒井社長。ですね」

「……誰かと思えば、765プロのプロデューサーではないか」


「聞きましたよ。千早がでるオーディションに春香を出すそうですね」

「これはこれは、耳が早いではないか」

「……いや、春香からメールが」

くそっ!

天海春香ぁっ!

天海春香のふざけた態度ですっかり抜けてしまっていたのか……

外部との連絡は絶つよう命じねばならんな

「勝てると思ってるんですか?」

「おやぁ? 天海春香の力を信じたりはしないのかね?」

「信じてますよ。当然、千早の力も。だから無理だと言ってるんです」

「………………」

「春香は確かに伸びます。でも、基礎に差がある以上、今回のオーディションでは勝てません」


「ほう、では天海春香が勝ったらどうする?」

「どうもしませんよ。俺達は――」

「プロデューサーがそうでも、はたして地力の差を認識していた如月千早はどうなるのかねぇ?」

「……それが納得いく判定であれば、千早も受け入れるはずです」

この男……

私に不正をするな。そう言っているつもりなのか

「天海春香はお前たちを潰すつもりらしいぞ」

「そうでしょうか」

「なに?」

「春香は貴方が思うほど、簡単に捕まえられる子じゃないですよ」

プロデューサーは私を見つめ、私はプロデューサーを見つめる睨み合い

だがこの男は動じることなく、言い放つ

「春香を甘く見てると痛い目を見ますよ。春香にとって、事務所の壁なんていうものは存在してないですからね」

プロデューサーは意味のありそうな笑みを浮かべると

営業があるので。と、去っていく

甘く見ていると痛い目を見るだと? なぜ引き渡す際に言わんのだ

それよりも。天海春香に勝たせるか、負けさせるか

どちらにすべきか決めなければいかんのだが……見逃すか。それとも……


今日はここまでにします

即興にて少しずつ投下していく予定です

きっとクイーンランゴスt『そこに跪いて!』ミorz

くっ

ナイト(knight)の可能性もある

仲間のために自らが傷を被うが関係なく前進し続けるから

アニマス見る限りチェスにそんな深い造詣無いからな

>>263
あくまでチェスの駒に例えるならの話ですよ

・・・ここまで引き込まれたSSは初めてかも・・・

黒井素直になれよ!
さもないとフリフリのエプロンつけてクッキーつくらせるぞ

>>267
くっ!そんなクロちゃんを少しでも見てみたいと思っちまった

>>268
http://ozcircle.net/_uploader/161300779
見たいとな?


>>270
思わず保存しちゃったじゃないか!どうしてくれるwwww



春香の私を見てくださいってもう完全に告白じゃないですかー

バンバンバンバンバンバンバン
バン     バンバンバン
バン (∩`・ω・) バンバン
 _/_ミつ/ ̄ ̄ ̄/
   \/___/ ̄ ̄


  バン   はよ
バン (∩`・ω・) バン はよ
  / ミつ/ ̄ ̄ ̄/
  ̄ ̄\/___/

    ; '  ;
     \,( ⌒;;)
     (;;(:;⌒)/
    (;.(⌒ ,;))'
 (´・ω((:,( ,;;),
 ( ⊃ ⊃/ ̄ ̄ ̄/
  ̄ ̄\/___/ ̄ ̄

       /\
      / /|
     ∴\/ /
     ゜∵|/
  (ノ・ω・)ノ
  /  /
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ジュピターも黒ちゃんも元々好きだった
アニマスは黒ちゃんの扱い酷い言われるが高木社長たちが「根は悪いやつじゃない」「純粋すぎる」「やり方を間違えただけだ」みたいに言ってたし
あれはあれでいい味出してた気がするんだよね…
P.Kのジュピターでさらに好きになったのだよ
この作品終わってほしくないな最近のアイマスSSの中で一番のお気に入りなんだよね

悪徳なら春香よりやよいに72か吹き込みそう
春香は何を言われても「私は黒井さんを信じてますから」って言いそうだし
やよいなら「黒井社長にこれ以上迷惑かけたら」とか色々考えちゃいそう

悪徳「はーはっはっは! あっしの勝ちですぜ旦那
   天海春香を抱かせてくれるなら誤報ということに出来ますがね……どうしやす?」

>>863

黒井「代わりに私を好きにしろ!!」

冬馬「おっさん…それなら…俺も手伝うぜ。」

御手洗「あはは、何も相談してくれないなんて、黒ちゃん水臭ーい。」

伊集院「チャオ☆」

黒井「みんな…」

悪徳「これがゆうじょうぱわーか。」

>>863-864にすべてもってかれた

春香もやよいも返したら黒ちゃんどうするつもりなのかな

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