男「親父が小学生の女の子を家に連れ込んできた」(293)

男「あーよくねた」

父「―――今日からここで住むんだ」

男(親父……?帰ってきてんのか)

少女「すてきっ!!」

男「……?!」

父「そうか。気に入ってくれてよかった」

男「おい!!親父!!」

父「おお!!な、なんだ起きてたのか……!!」

男「その子、なんだよ!!どこから攫ってきたんだ!!!」

父「この子は……その……」

少女「初めましてお兄ちゃん。今日から妹になる者です」

男「え……?」

父「あ、ああ、そう。そういうこと」

男「妹って……」

少女「実は私、孤児で。ずっと施設で生活していたんです」

男「そ、そう」

父「な、なかよくしてやってくれ」

男「……」

少女「パパ、私の部屋は?」

父「二階にある。おい、案内してやってくれ。お前の部屋の隣にある空き部屋だ」

男「俺が?」

少女「よろしく、おにいちゃん」

男「……いいけど」

少女「やった」

空き部屋

少女「へー、ここが私の部屋になるんだー」

男「……ねえ」

少女「なぁに?」

男「俺、親父から君が来るなんて一切聞いてないんだけど」

少女「正式な手続きはまだみたいだから、話してなかっただけじゃない?」

男「それでも……」

少女「私がここに住むのは一ヵ月後だから。4月からはよろしくね?」

男「……」

少女「あれ?私じゃ不満?」

男「君こそ、ずっと施設にいたわりには社交的っていうか」

少女「お兄ちゃんは私に優しくしてくれるって一目でわかったから」

男「そ、そう……」

少女「いっぱい甘えさせてね、お兄ちゃん?」

夕方

少女「それじゃあ、またね」

男「う、うん」

父「じゃあ、この子を送ってくるよ」

男「親父、帰ってきたら話があるから」

父「わかってる」

男「……」

少女「お兄ちゃん」

男「なに?」

少女「だーいすきっ」

男「……」

少女「バイバーイ」

父「じゃあ、留守番頼むな」

男「なんだよ。一体……」

夜 居間

男「……」

父「……今日、話そうと思ってたんだ」

男「いきなりすぎるだろ!!」

父「その……すまん」

男「あの子、いつから引き取ろうと思ってたんだ?」

父「一年前ぐらいから」

男「なんでそのときに相談してくれなかったんだよ!!」

父「いや、言えなかったんだ。というか、どういえば納得してくれるかわかんなくて……」

男「あのなぁ!!そんなんだから母さんにも逃げられるんだよ!!」

父「こ、このことはちゃんと母さんにも報告してるし、大丈夫」

男「そういうことはいってない!!」

父「すまん。……でもあの子、結構可愛いだろ?」

男「……」

父「すまん……」

男「で、引き取るって、法律的に大丈夫なのか?」

父「その辺りはちゃんとできてる」

男「……」

父「本当だ!!」

男「もういい」

父「嫌なら、母さんのところに引き取ってもらうことになってる」

男「……なら、それでいいじゃん」

父「で、でも、私が引き取りたいんだ!!」

男「……ロリコン」

父「おぅ!?」

男「好きにしろよ。俺は面倒みないからな」

父「も、もちろんだ。全部、私が面倒を見るし、お前にこれ以上迷惑はかけない」

男「ふん」

父「……すまん」

一ヵ月後 4月上旬

少女「ただいまー!!」

父「はは」

少女「えへへ。パパ、部屋にいってきてもいい?」

父「ああ、いいよ。まだ荷物の整理ができてないけどな」

少女「それなら大丈夫」

男「……」スタスタ

少女「あ、お兄ちゃん。今日からよろしくね」

男「うん……」

少女「ねえねえ、お兄ちゃん。私の部屋の整理手伝ってくれない?」

男「え?なんで?」

少女「ほらほら、はやくぅ」ギュゥゥ

男「おい……」

父「……うんうん。仲良くなってくれるとうれしいなぁ」

少女の部屋

男「……」

少女「これは下着だから見ちゃだめだよー?」

男「見ないよ」

少女「でも、ちょっとだけなら……うふっ」

男「……」ゴソゴソ

少女「むー」

男「……ん?これは?」

少女「あ、それ、大事な人形なの」

男「随分と汚れてるけど……」

少女「えへへ。昔からずっと持ってるの」

男「ふーん」

少女「みてみてー。お兄ちゃん、私のパンツー」

男「……」

少女「……あれ?」

男「こんなもんか」

少女「ありがと、お兄ちゃん。お礼にお風呂、一緒にはいってあげるね」

男「……じゃあ、部屋に戻る」

少女「お兄ちゃんのお部屋みせてー」

男「なんで?」

少女「いいでしょ?」

男「いや」

少女「おねがい」

男「……」

少女「妹には優しくするべきだと思うの」

男「……妹面すんな」

少女「えー?」

男「ふん」

少女「まあ、無理やり見に行くんだけどね」トコトコ

男「あ、おい!!」

自室

少女「ここがお兄ちゃんの部屋かー」

男「……」

少女「一人っ子って感じね」

男「なんだよ。なんか文句あるのか」

少女「ふーん……ん?この写真……」

男「もういいだろ。出て行ってくれ」

少女「やだー」

男「あのなぁ……」

少女「なに?」

男「この際、はっきり言っておくけど。俺は君の面倒なんてみない」

少女「ガビーン」

男「……」

少女「お姉ちゃん派?」

男「うるさい」

少女「なら、お姉ちゃんらしく振舞ってあげるのに」

男「おい」

少女「ほーら、女の体を教えてあげるよー」チラッ

男「でてけ!!」

少女「はーい」トコトコ

男「全く……何がお姉ちゃんらしくだよ」

少女「お兄ちゃんっ」

男「ん?」

少女「あいらびゅー」

男「……」

少女「私が必要になったらいつでも呼んでね」

男「早くでてけ」

少女「うん」

男「はぁ……」

男「なんなんだ……あの子……」

夜 居間

男「……ん?」

少女「よっと……」ジュージュー

男「なにやってんだ?」

父「今日は娘が手料理を振舞ってくれるって」

男「料理できんのか……?」

父「ああ。施設で練習していたみたいだ」

男「……」

少女「もうちょっとでできるからねー」

父「おーぅ」

少女「パパー、ビールのおかわりいるー?」

父「いるいるー」

少女「今、もっていくねー」

男「……新しい母さんじゃないよな?」

父「ぶっ!!お、おまえ!!なんてことをいうだ!!ばかもん!!」

少女「はーい。召し上がれ」

男「……いただきます」

父「いただきます」

少女「……」ニコニコ

男「……」モグモグ

少女「どう、お兄ちゃん?美味しい?」

男「まぁまぁ」

少女「やったー!!」

父「うまいなー。すごいじゃないか」

少女「まぁ、施設ではあまりできることがなかったから、これぐらいはね」

父「そっかー」

男「……」

少女「ん?どうかした?」

男「いや……別に」

少女「……」

少女「らんらーん」ジャブジャブ

父「いやー、家事もできる娘はいいなぁー」

男「悪かったな。息子で」

父「別にそういう意味で言ったわけじゃないぞ」

男「ふん……」

父「いやぁ、こうしていられるのが嬉しくてなぁ」

男「……」

父「どうした?」

男「別に」

父「……お前が気にするのも分かるが」

男「何も気にしてない」

父「……」

少女「はい。洗い物終わり。お兄ちゃん、一緒にお風呂はいろっか?」

男「一人で入れ!!」

少女「ひ、ひどい……」

自室

男(明日の講義は……)

トントン

男「はい?」

少女「おにいちゃーん」ソーッ

男「なんだよ?」

少女「みてみてー。ランドセル」

男「……」

少女「どう?かわいい?」フリフリ

男「うんうん」

少女「見てないし」

男「もう子供は寝る時間だろ」

少女「そっかー。一緒に寝る?」

男「おやすみ」

少女「ちぇ……」

翌朝

男「ん……?」

少女「お兄ちゃん、あさですよー」

男「なんだよ……?」

少女「お兄ちゃんを起こす妹。健気でかわいくなーい?」

男「……」

少女「うっふん」

男「大学、午後からだから」

少女「早起きは三文のとくだよー」ユサユサ

男「……」

少女「朝ごはんはお兄ちゃんの大好きな納豆とキノコのお味噌汁だよー?」

男「なに……?」

少女「ほらほら、早くおきて」

男「ったく……仕方ないな……」

少女「えへへ。一緒にいこーね」ギュゥゥ

父「じゃあ、行って来る」

少女「気をつけてね、パパ」

父「ああ」

男「いってらっしゃい」

父「お前も、頼むぞ」

男「は?」

少女「お兄ちゃん、学校まで一緒に行ってくれるんでしょ?」

男「はぁ?!」

父「すまん。言い忘れてた」

男「ふざけんな!!」

少女「いえーい。お兄ちゃんと登校だぁ」

男「な……!!」

父「案内してやってくれよ」

男「……くそ」

少女「やった」

通学路

少女「ふんふーん」

男「……」

少女「そっかー。この辺りに小学校が」

男「……そういえば、何歳になるの?」

少女「お兄ちゃんとは10歳違い」

男(てことは……6年生……か?)

少女「お兄ちゃん?」

男「なんだ?」

少女「私のこと……嫌い?」

男「嫌いっていうか……」

少女「やっぱり、妹よりお姉ちゃんのほうがよかったの……?」

男「そういう……わけじゃ……」

少女「姉側のシスコンだー」

男「だまれ!!」

少女「あの部屋にあった写真、お姉ちゃんでしょ?今でも好きだったり?」

男「……親父になにを聞いたかしらないけど、別になんでもない」

少女「私のこと、お姉ちゃんって呼んでもよくってよ?」

男「ただの変態じゃねーか」

少女「よくってよー」

男「じゃあな、ここでいいだろ?」

少女「あぁん。教室まできてよー」

男「なんでだよ!!」

少女「今日は私だけの父兄参観ってことで」

男「ふざけんな」ペシッ

少女「いたっ」

男「……じゃあな」

少女「うん。ありがとう、お兄ちゃん」

男「ふん……」

少女「……」

大学構内 カフェテリア

男「―――てことが春休み中にあってさ」

友「いいなー!!義理の妹、最高じゃん!!」

男「いや……なんか戸惑うだけなんだけど」

友「でも、料理もできて可愛くて……それに血が繋がってない……」

男「……」

友「くぅー!!!その妹、くれ!!」

男「親父に言え」

友「しかし、お前のことをお兄さんと呼ばなくちゃならないのか……」

男「気持ち悪いこというな」

友「俺にはクソデブの姉しかいねーから、本当に羨ましいぜぇ」

男「そっちのほうがいいじゃねーか」

友「姉なんてダメダメ。ほんとに第二の母親って感じで、萌えない」

男「しるか」

夜 自宅

男「ただいまー」

少女「おっかえり、お兄ちゃん」

男「また、飯つくってるのか?」

少女「イエース。トンカツだよー。カツどんにしてもよし、そのままご飯と食べてもよし」

男「ふーん」

少女「あと30分ぐらいで出来上がるからね」

男「わかった」

少女「ほらほら、手洗い、うがいはちゃんとしないと、春先に風邪を引く人って意外と多いし」

男「うるさいな」

少女「ダーメ。ちゃんとすること」

男「なんでそんな上からなんだ」

少女「だって、お兄ちゃんはこういう方が好きなんでしょ?」

男「年下にされたら腹が立つ」

少女「むずかしいなぁ」

父「うんうん……うまいなぁー!!」

少女「パパ、はい。ビール」

父「ありがとぅ!こんな娘がもてて、私はしあわせだぁー」ギュゥゥ

少女「調子にのらないで」バシッ

父「……すまん」

男「なあ」

少女「なぁに?」

男「親父と仲がいいけど、施設で出会ったときからそんな感じなのか?」

少女「まさか。初めは誰、このハゲたおっさんは?って感じだったよ」

父「なにぃ?!」

少女「いやだって……」

父「それもそうか……」

少女「でも、話をしているうちにだんだんと仲良くなったの」

父「三ヶ月はかかったな」

男「そんなに引き取りたかったのか?」

父「なんだ。その不審者を見るような眼差しは!!」

男「そりゃあ、まぁ、世間的にはアウトだし」

少女「まぁまぁ。私はここに来れて良かったと思ってるよ?」

男「え?」

少女「お兄ちゃんに会えたから」

男「……」

父「……おかわりくれ!!」

少女「はぁーい。ちょっとまってくださいねー」パタパタ

男「親父……」

父「な、なんだ……?」

男「あいつに俺のこともベラベラ喋ったみたいだな?」

父「いや、だって……現在の家庭の様子は伝えないと、ダメだろ?」

男「そうかもしれないけど。姉ちゃんがいたことまで喋ることはないだろ」

父「何か問題でも?」

男「なんか知らないけど、姉を気取ろうとしてんだよ!!」

父「そうか」

男「俺は……」

父「分かってる。お姉ちゃんのことをずっと引き摺っているは」

男「……」

父「すまん」

男「……ごちそうさま」

父「おい」

少女「あれ。もういらないの?」

男「……美味しかった」

少女「そっか。ありがと。また、作るね」

男「……」スタスタ

少女「どうかしたの、パパ?」

父「昔のこと思い出したんだろう」

少女「昔のこと……」

自室

男「……姉ちゃん」

男(もう10年か……)

男(親父と買い物にでかけて……そのとき、交通事故で……)

男「はぁ……」

男(確かにシスコンかもな……)

トントン

男「はい」

少女「おにーちゃーん?」

男「なんだよ」

少女「むふふ……」

男「……?」

少女「添い寝してあげようか?」

男「いらん」

少女「まぁまぁ」

男「まぁまぁじゃねえ」

少女「今日は私がお姉ちゃんになってあげるよー」

男「……」

少女「さ、たっぷり甘えなさい」

男「いい加減にしろ。君を姉とは思えないし、妹としても認めてない」

少女「なんと……」

男「もう出て行ってくれ」

少女「そんなぁ。おにいちゃぁん。いいことしよーよ」

男「……」

少女「女の秘密、おしえて、あ げ る」

男「でてけ」

少女「じゃあ、お風呂一緒にはいる?」

男「出てけ」

少女「もう……お兄ちゃんのわからずやー」

男「お前は妹がどういうのかちゃんと勉強したほうがいい」

少女「うそ?ここに来る前にいっぱいライトノベルで勉強したよ?」

男「俺はそういう妹は欲しくない」

少女「姉気取りの妹がほしいんじゃないの?」

男「気持ち悪い」

少女「うそー?」

男「ホント」

少女「難しいとしごろだねー」

男「……」

少女「わかりましたー。戻ります」

男「そうしてくれ」

少女「じゃ、お兄ちゃん。だーいすき」

男「はいはい」

少女「ほんとに大好きだからー」

男「おやすみ」

少女「おやすみー」

数日後 自宅

少女「今日は休日だぞー。どこかに連れて行って欲しいなぁ?」

父「うんうん」

男「……」

少女「パパー、家族でどこかにいこー?」

父「どこがいい?」

少女「富士急」

男「……」

父「そうか。じゃあ、デパートに行こう」

少女「おー!」

父「お前も行くか?」

男「今日は用事があるから」

少女「どうせ、エッチな妄想にふけるんでしょ?」

男「おまえ……!!」

父「よさないか」

少女「いいじゃない!!ここ数日、殆ど喋ってくれないんだもん!!」

男「俺はなぁ……!!」

少女「なによぉ!!」

父「こらこら」

男「とにかく、用事があるから」

少女「嘘つきー。お兄ちゃん、用事があるなんて嘘嘘ー」

男「ぐっ……」

父「なぁ、一度ぐらいいいじゃないか」

男「……」

少女「お兄ちゃんがいかないなら、私もいかないっ!」

男「なら、行かないでいいじゃん」

少女「そういうこじゃないでしょー?」

父「午前中だけでも。な?」

男「……はぁ」

少女「やった」

デパート

父「結構、込んでるなぁ」

少女「ほんとだねぇ」

男(なにやってんだか……)

少女「お兄ちゃん、手繋いでおこうね」ギュッ

男「なんで?」

少女「迷子になったら、困るじゃない?」

男「そうだな」

少女「えへへ」

父「どこから見る?」

少女「服をみたいなー」

父「服か。よし」

少女「いえーい」

男「はぁ……」

少女「これかわいー」

父「そうだなぁ」

少女「最近の流行って良くわかんないけど……。似合えばいいよねー」

父「うんうん」

男「……」

男(時間かかりそうだし本屋にでもいっとくか)

男「……」スタスタ

少女「―――ねえ、お兄ちゃん、これどう思う?」

少女「って、あれ?おにーちゃん?おにーちゃーん?」

父「なんだ、どこいったんだ?」

少女「……本屋」

父「え?」

少女「ちょっと呼んでくる」

父「あ、おい」

少女「パパはそこで待ってて」

本屋

男「新刊は……」

少女「まだ名探偵コナン集めてるの?」

男「おぉ?!―――なんだ、服選びは終わったのか?」

少女「お兄ちゃん!!」

男「静かにしろよ!!」

少女「妹の服選びに協力してくれてもいいんじゃないの?」

男「……」

少女「……」

男「別にいいだろ」

少女「ホント、落ち着きがないんだから」

男「なんで出会って数日の君にそんなことを言われなきゃならないんだ!!」

少女「もういいですー!!その代わりここにいて!!」

男「はいはい」

男(……そういえば、よくわかったな。俺がここにいること)

男(俺が漫画好きとか親父から聞いたのか……?)

男「まぁ、どうでもいいか」

男(お、これ面白そう)

男「……」

男(妹モノか……ちょっとなぁ……)

男「他には……」

少女「どーん」

男「おぉ?!」

少女「買ったよ。早く、いこ。パパも待ってるし」

男「あ、ああ」

少女「全く」

男「お前、なんでそんな姉気取りなんだよ」

少女「お兄ちゃんは姉萌え」

男「違う」

少女「うそだー」

レストラン

少女「どれにするー?」

父「そうだなぁー」

男「……」

少女「ねえねえ、お兄ちゃんはどれにするー?」

男「なんでもいいけど」

少女「またまたー。ブロッコリーが嫌いなくせに」

男「もう食える!!」

少女「あ、そうなの?」

父「マジか」

男「それぐらい伝えとけよ!!」

父「いやー。そんなの知らんし」

男「全く」

少女「へー。食べられるようになったんだ、すごいねー」

男「上から目線やめろ」

少女「おなかいっぱい」

父「じゃあ、帰るか」

少女「お手洗いはいいの?」

男「別にいい」

少女「そっか。でも、途中で行きたいっていってもしらないよー?」

男「……やめろ」

少女「なに?」

男「いい加減にしろ」

少女「え?」

父「おい」

男「姉ちゃんは10年前に死んだ。俺はそのときに割り切ったんだ」

少女「……」

男「これ以上、姉を気取るなら本当に怒る」

少女「……ごめんなさい」

父「おい、やめないか」

自室

男「……」

男(本当に姉ちゃんみたいなこといいやがって……)

男(親父も細かいことまで伝えすぎだろ……)

トントン

男「はい?」

少女「おにーちゃん?」

男「なんだよ」

少女「あの、今までごめんね」

男「……」

少女「よかれと思って……」

男「余計な気遣いだからいいよ」

少女「こ、これからちゃんと妹らしく振舞うから!!」

男「……うん」

少女「……それじゃあ、またね」

夜 居間

少女「おにいちゃーん、たべさせてー」スリスリ

男「自分で食えるだろ」

少女「あーん」

男「……」

父「パパがたべさせてあげるよー。ほーら」

少女「……さがってろ」

父「……すまん」

少女「おにいちゃぁん……あーん」

男「……」

少女「じゃあ、私が食べさせてあげるね?はい、あーん」

男「それが君のいう妹らしさか」

少女「可愛いでしょ?うっふん」

男「鬱陶しい」

少女「えぇ……!?」

男「……」

少女「うぅ……」

父「……」

男「普通にしてろよ」

少女「それじゃあ……また、怒られそうで……」

男「え?」

少女「なんでもない」

父「ふむ……」

男「なんだよ?」

父「やっぱり、このまま黙っていてもギクシャクするだけだな」

少女「パパ!!」

男「は?」

父「やっぱり無理があったんだよ」

少女「でも……!!」

男「何の話だよ?」

父「実はな……」

男「なんだよ」

少女「パパ……」

父「信じられない話だと思うが……実は……この子……」

男「……」

父「お前の姉だ」

男「……は?」

父「お前はきっと混乱するだけだろうから、黙っていようって思っていたんだが」

男「何言ってんだ?」

少女「……」

男「親父、頭でも打ったのか?」

父「本当だ。この子は10年前に交通事故にあった、お前の姉だ」

男「いやいや」

父「……本当だからな」

男「どうしたんだよ?酔ったのか?」

父「10年前のあの日、お前の姉は信号無視の車に轢かれ、死んだ」

男「おい」

父「と思われた」

男「え?」

父「実は生きていたんだ。意識が戻らないと診断されたがな」

男「……」

父「そのとき、医者は脳移植を薦めてきた」

男「脳移植……?」

少女「……」

男「それって……」

父「そして手術を行った……。しかし、失敗だった。そこでお前の姉は本当に死んだ」

男「まてよ!あの時、葬式だってしたし!!火葬もしたぞ?!」

少女「もう一度、脳移植をしたの」

男「は?」

父「医者は娘の脳だけを冷凍保存していた。10年後なら脳死者の脳を蘇らせることもできるかもしれないと思ったらしい」

男「そんなこと……!!」

父「私も最初は医者を問いただした。向こうは医学進歩のために協力してほしいといってきたんだ」

男「じゃあ、姉ちゃんの脳だけが別の場所にあったのか?」

父「そういうことだ」

男「……で、最近になって移植したのか」

父「一年前、実験のために娘の脳を使ったらしい。脳死した少女にな」

少女「で、見事に蘇ったの」

男「……」

父「そして少女が目を覚ますと、生前の記憶を持っていた。私の娘のだが」

男「よくわかんないけど」

父「私も良く分からない」

少女「つまり、えっと……別の子の体だけど、私はあなたのお姉ちゃんなの」

男「10年前のままか?」

少女「そのつもり。自分の状況を把握するのにすごく時間がかかったけど」

男「いやいや。なんの冗談だよ」

父「とにかくそういうことだ」

少女「信じられないと思うけど」

男「……」

父「というわけで、これから仲良く……」

男「そんなこと信じられるわけないだろ」

父「だが、現実にこうして」

男「だけど……」

父「本当のことだ……」

男「な……」

少女「……」

男「部屋に戻る……」

父「だが、これでどうして私がこの子を引き取りたかった分かってくれたはずだ」

男「……」

少女「あの……」

男「一人してくれ」

自室

男「脳死……移植……」カタカタ

男(人格が変わることがある……?記憶が引き継がれる……?)

男(全部、オカルトじゃないか)

男(脳移植してそんなことありえないだろ)

男「……」

男(でも、確かに俺の好きな物を知っていたり、嫌いな物まで……)

男(じゃあ……そうなのか……?)

男(あれが姉ちゃん……?)

男「……そんなバカな、こと」

男「……」

男「……よし」

男(確かめよう)

少女の部屋

男「……」トントン

少女「はーい?」ガチャ

男「ちょっと、いいか?」

少女「いいよ」

男「……」

少女「なに?」

男「君は本当に姉なのか?」

少女「うん」

男「俺が小学1年のとき、姉ちゃんといった夏祭りで買ったものは?」

少女「えーと、たこやき……たこやき……たこやき。なんかたこやきばっかり買ってたね」

男「……じゃあ、初めて姉ちゃんと遊んだテレビゲームは?」

少女「ドカポン。それでケンカして一週間ぐらい口きかなかったね」

男「最後に二人でお風呂に入ったのはいつ?」

少女「私が死ぬ翌日まで」

男「……」

少女「信じられた?」

男「……本当、なんだな?」

少女「うん」

男「ごめん。全然信じられない」

少女「だろうね。私も全然信じられなかったよ」

男「姉ちゃん……」

少女「大きくなったね……」

男「……」

少女「さぁ、胸に飛び込んできていいよ?」

男「それは……遠慮しとく」

少女「そっか」

男「なぁ……辛くないの?」

少女「でも、体が変わっただけで。年齢はほぼ一緒だし。まぁ、若干若返ったけど」

男「……」

少女「私が死ぬ翌日まで」

少女「私が死ぬ前日まで」

少女「今まで寂しかったでしょ?」

男「まぁ」

少女「でも、これからはこの姉であり妹でもある私がいるから寂しくないよ」

男「そうだな」

少女「ふふ……お兄ちゃんって呼んだほうがいい?それとも……」

男「呼びやすいほうでいい」

少女「じゃあ、お兄ちゃんにしとくね」

男「……」

少女「あ、気持ち悪いって思ったでしょー?」

男「いや、まぁ……別に」

少女「お姉ちゃんにお兄ちゃんって呼んでもらえるなんて、あんたぐらいじゃないかなー?このこのー」

男「うぜえ……」

男(でも……なんだ……?)

男(どうしても信じられない……)

男(姉ちゃんは……)

少女「どうしたの?難しい顔して」

男「いや、なんでもない。じゃあ、俺はそろそろ戻る」

少女「まってよー。もっと昔のことを話そうよー」

男「昔のことって」

少女「ほらほら、あんたが小学校三年生のとき怖い映画みてオネショしちゃったときとかー」

男「おい!!それやめろよ!!」

少女「ぷふふ。恥ずかしいよねー」

男「姉ちゃんだって、小学校にあがるまでオネショしてたんだろ!!」

少女「ぶふっ!?」

男「それぐらいは知ってるからな」

少女「わすれろー!!」

男「……あと、俺の漫画全部捨てたときもあったよな」

少女「まー、あれはあんたが全部悪いんだけどね」

男「そうだっけ?」

少女「そうだよー」

自室

男「……」

男「……」トゥルルル

『はい、もしもし?』

男「母さん?」

『あら、どうしたの?』

男「親父から、孤児を引き取った話知ってるよな?」

『勿論。それがどうかしたの?』

男「その孤児が姉ちゃんの人格だって話は聞いてる?」

『ええ。それも聞いたわ』

男「それ、本当の話なのか?」

『どういうこと?』

男「俺、その話が全然信じられないんだけど……」

『私もその子と話して色々なことを聞いたけど、全部知ってたわよ?』

男「……」

翌朝 居間

父「それじゃあ、行ってくるよ」

少女「行ってらっしゃい、パパー」

父「行ってきます」ニヨニヨ

少女「うふふ」

男「……」

少女「どうしたの?おかわりいる?」

男「姉ちゃん」

少女「なぁに?」

男「……ごめん。なんでもない」

少女「なにー?気持ち悪いなぁー」

男「……それじゃあ、大学に行ってくる」

少女「一緒に出ようよ」

男「今日は朝一であるから」

少女「そっか。うん、行ってらっしゃい」

大学構内 カフェテリア

友「義妹ちゃんとはよろしくやってるのかぁ!?」

男「……なぁ」

友「なんだ?」

男「人間って他人に成りすますことができるもんか?」

友「はぁ?」

男「どうおもう?」

友「なんだよ、突然?」

男「例えば。俺がお前に成りすまして、お前の姉にバレないように生活ができると思うか?」

友「顔でわかるだろ」

男「顔とか関係ない。記憶をそっくりもらっていたら、できるとおもうか?」

友「そりゃ、俺と姉しか知らないことまで知ってるならできるんじゃないか?」

男「親も騙せると思うか?」

友「お前……どうしたんだ?」

男「はっきりいって、気持ち悪い」

友「何が?」

男「妹が」

友「ブサイクなの?」

男「いや。可愛い」

友「じゃあ、なんで」

男「俺の知らないことまで知ってる」

友「はい?」

男「漫画を捨てられた記憶にないのに、妹は知っていた」

友「なにいってんの?」

男「わかんねえ」

友「なんだよー?怖いぞ、お前」

男「俺だって怖い」

友「ちょっと、落ち着けよ。詳しい話聞かせてくれ」

男「実は―――」

友「脳移植で記憶が他の子に……?」

男「そう」

友「……いやー。それは信じられないな」

男「だろ?」

友「そもそも、その医者もおかしい。百歩譲って脳を冷凍保存しようとしたにしろ、そんなもん親父さんに一報入れるだろ」

男「……」

友「それにそんな女の子が目を覚ましたら、ニュースになるはずだ。医学会が公に発表しない理由がないし」

男「そうだな」

友「マスコミだってそんな話きいたら取材するだろうし」

男「じゃあ……あいつ、誰だ?」

友「姉の記憶があるけど、別人なんじゃないの?」

男「それって赤の他人ってことか?」

友「少なくともお前の亡くなった姉ではないんじゃないと思うけど、俺は」

男「なんだよ……それ……」

友「親父さんに詳しい話を聞いたほうがよくないか?」

夜 居間

少女「よっと。じゃあ、お風呂に入ってこようかな」

父「一緒に―――」

少女「あ?」

父「すまん……」

少女「ふんふーん」トコトコ

父「娘は反抗期か……」

男「親父」

父「ん?」

男「あの子、本当に姉ちゃんなのか?」

父「勿論だ。どうしてそんな嘘を吐く必要がある?」

男「脳移植って本当にしたのか?」

父「え?」

男「親父、やっぱり信じられない。あの子は姉ちゃんじゃない気がする」

父「なにを……」

男「俺と姉ちゃんがよく遊んでたのは知ってるだろ?」

父「そりゃ、お前はお姉ちゃんっ子だったからな。私が心配するぐらいに」

男「だからさ、姉ちゃんのことならなんでも知っているつもりなんだ」

父「……」

男「仕草も口調も遊び道具も」

父「それがどうした?」

男「殆ど一緒だけど違和感がある」

父「違和感なんて……」

男「親父も色々、アイツに質問したんだよな?」

父「そりゃあする。本当に自分の娘なのか確かめるためにな」

男「親父と姉ちゃんしか知らないことも知ってたか?」

父「ああ。昔、運動会で二人三脚することになってこっそり二人だけで練習したこともしっていた」

男「……なあ、親父。ちょっとアイツに聞いて欲しいことがあるんだけど」

父「なにをだ?」

男「誰も経験したことがないこと」

父「なんでそんなことを?」

男「だって」

父「母さんも一緒に確認したんだ。間違いようがないだろう」

男「でも!!昔のことを覚えすぎてるし!!」

父「おい」

男「……悪い」

父「どうしたんだ?」

男「部屋に戻る」

父「分かった」

男「……」

男(そうだな。考えてみれば、こんな嘘をつく理由がない)

男(いくらなんでも考えすぎだよな)

男「……」

男「はぁ……」

少女の部屋

男「……」ガチャ

男(最低だとは思うけど)

男(アイツの私物になにか……)ゴソゴソ

男(いや。昔の物なんて殆ど捨てられてるよな)

男(引越しもしたし、思い出の品なんて……)

男「……あ」

男「この人形……」

男「そうだ。これ……なんだ?」

男「姉ちゃん、こんなの持ってなかっただろ……」

男「この汚れた人形……親父に見せてみれば―――」

ガチャ

男「……!!」

少女「なにしてるの?」

男「え……と……」

少女「なに?」

男「……姉ちゃん、この人形いつからもってた?」

少女「さぁ?それ、ずっと前から持ってたから」

男「俺、こんなの見たことないぞ」

少女「……それは、あれだよ。あんたに見せたことがないだけで」

男「あんなにずっと一緒にいて、見たことがない姉ちゃん私物なんて……」

少女「返して」

男「お前、誰だ?」

少女「は?私はあんたの姉で、この家の長女だって」

男「脳移植されて、そんな体になってるんだよな?」

少女「そうだよ?まだ信じてないの?」

男「正直」

少女「じゃあ、なんでも質問して。あんたと私にしかわからないことも覚えてるから」

男「教えてもらったの間違いじゃないよな?」

少女「……誰に?」

男「それは……」

少女「誰に教えてもらったっていうの?」

男「わから……ない、けど」

少女「……」

男「とにかく、お前は姉ちゃんじゃない……」

少女「まだいうの、お兄ちゃん?」

男「だって……」

少女「あんたが5歳のとき、初めて食べたポテトチップスはうすしお味で、その味にびっくりしておもしろい顔になってたね」

男「……」

少女「あんたが6歳のとき、初めてランドセルをみて、頭を中に突っ込んでたね」

男「知らない。なんだそれ」

少女「それはあんたが覚えてないだけだって。私は覚えてるよ?」

男「……」

少女「お兄ちゃん?顔が怖いよ?」

男「勝手に入って悪かった。部屋に戻るよ……」

自室

男(誰だ……アイツ……)

男(姉ちゃんじゃない……絶対に違う……)

男(そうだ……!!)

男「……」トゥルル

『もしもし?』

男「母さん!!」

『どうかしたの?』

男「病院とか覚えてるか?」

『病院?』

男「姉ちゃんが手術したって病院」

『県立病院だけど』

男「なんて先生が執刀したんだ?」

『えっと……確か……』

男「県立病院……執刀医の名前で検索したら……」カタカタ

男「そうだ……思い出してきた」

男(あのとき母さんに連れられてあの県立病院にいった)

男(俺は脳移植なんて話は一切聞かなかった)

男(当時は姉ちゃんが亡くなったことがショックで他のことにまで気が回らなかったけど……今は違う)

男(親父……脳移植手術なんていつしたんだよ……)

男「いた……!!こいつか……」

男「脳医学の権威……?」

男「10年前とは立場が違うのか……?」

男「こいつに話を聞かないと」

男「でも、簡単に会えるかな?」

男「……」

男「とにかく会ってみないとわからないな」

男(俺の姉ちゃんはどこにいったんだよ……)

翌日 大学構内

男「で、どうにかしてその医者と会えないかなって」

友「アポとれば?」

男「電話したら、いける?」

友「とりあえずやってみろよ」

男「そうだな……」

友「……」

男「バイト面接の電話より緊張する」

友「へたれめ」

男「……」ピッ

男「……」トゥルルル

友「……」

男「もしもし、あの。是非、お会いしたい人がいるんですけど」

友「……」

夜 自室

男「……」

トントン

男「は、はい?」

少女「お兄ちゃん、ご飯できたよ」

男「ああ、今行く」

少女「……どうかした?」

男「え?」

少女「昨日から変だよ?」

男「別になにも」

少女「私はここの長女で、貴方の姉」

男「……」

少女「それは事実だから」

男「分かってるよ」

少女「……」

翌朝 大学病院

男「はぁー……」

友「なんで俺まで」

男「暇だったろ?」

友「別にいいけど」

看護師「お待たせしました。こちらにどうぞ」

男「あ、はい」

友「美人だなぁー」

男「はいはい」

看護師「こちらの部屋でお待ちください」

男「わかりました」

友「ありがとうございます」

看護師「それでは、失礼します」

男「どんな奴だろう……」

友「女医さんなんだろ?美人かなー?」

女医「お待たせしました」

男「あ、どうも」

友「(すっげー、美人)」

男「(だまれ)」

女医「……それでお話とは?」

男「あの一年前に脳移植手術された経験がありますよね?県立病院で」

女医「ええ。私の初めての脳移植だったから」

男「俺の姉でした」

女医「なるほど。でも、あれは手術ミスではありません」

男「それは分かってます。問題はそのあとです」

女医「……」

男「最近、俺の姉が蘇りました。どういうことでしょうか?」

女医「脳移植したら、不思議な現象がおこった。それだけ」

友「でも、そんなのオカルトじゃあ」

女医「人体のことは殆ど分かっていない。まだまだ謎があるのです。という答えではダメですか?」

男「納得できません」

女医「体は別物だけど、中身は貴方のお姉さん。確かに最初は困惑されるでしょうが……」

友「あの!」

女医「なんですか?」

友「どうしてそのことを公に発表しないんですか?」

女医「プライバシー保護のためです」

友「違います」

女医「え?」

友「冷凍保存した脳を移植したら意識が戻ったってところです」

女医「だから……」

友「それってすごいことだと思うんですよ。でも、ニュースにもなってないし、BMJとかランセットにも記載されてませんでした」

男「なんだそれ?」

友「医学雑誌」

女医「日本での施術なのでそういった雑誌には載りません」

友「そんなわけないでしょうに」

男「載らないってことは……」

友「医学会では発表できないことをしたんじゃないですか?」

女医「そろそろ診察が始まりますので、これで」

男「待ってください!!今、俺の家に姉ちゃんの記憶を持ってるのかどうかよくわからない奴がいるんです!!」

女医「……」

男「そいつが誰なのか教えてください」

女医「貴方のお姉さん」

男「そんなわけ!!」

女医「では、訊ねます。貴方の両親に来てもらい、いくつかの記憶がきちんと共有できているか確認してもらいました」

男「それは、教えただけじゃ」

女医「誰が?どのようにして?」

男「それは……」

女医「それでは失礼します」

男「……くそ」

友「……」

病院内 ロビー

男「はぁ……もうなんだよ……」

友「なぁ?」

男「なんだ?」

友「お前も良く知らない記憶まで持ってるんだよな、義妹さん」

男「そう」

友「でも、カマをかけたら記憶にないことも「ある」って言ったんだよな」

男「漫画を全部捨てられた経験なんてないからな」

友「姉の記憶をそっくり貰ってたら、そんなこと言わないよな?」

男「そうだろうな。姉ちゃんの記憶をそのまま持ってるなら、そんなの記憶にないって言うだろうし」

友「……あとお前の見たことのない人形を持ってたんだよな?」

男「ああ。あれだけは見た事がなかった。しかも姉ちゃんが大事にしてたやつなら、絶対に見てる」

友「……」

男「誰なんだ……あいつ……」

友「思ったんだけど。義妹さんを姉か別人かで考えるから混乱するんじゃないか?」

男「どういうこと?」

友「例えばだけど、義妹さんには二種類以上の人格があるとか」

男「は?」

友「例えばな。例えば。俺とお前が合体したとするだろ?」

男「気持ち悪いぞ」

友「まあ、聞けよ。で、体は全くの別人になった。その状態で、どちらかの家族にあう」

男「……」

友「家族は本人確認のために思い出を共有できているか訊ねる」

男「……それって」

友「どっちの記憶も持ってるから家族は本人だって思う、だろ?」

男「そんなの本人が一番混乱するだろ」

友「そういう可能性もあるんじゃないかなーって、思っただけ」

男(いや……実際、混乱してたのか……?親父の顔を最初は思い出せなかったみたいだし……)

友「あの女医さんがなんかしたのは間違いないと思うけどなぁ」

男「……」

駅 ホーム

友「俺も気になるからちょっと女医さんのこと調べてみる」

男「いいのか?」

友「なんか面白いじゃん」

男「お前がいてくれて助かった」

友「なんのなんの」

男「でも、これからどうしたらいいと思う?」

友「そうだなぁ。義妹さんに色々聞いてみたらどうだ?」

男「色々?」

友「どんどん記憶にあることないことぶつけてみろ。なんか分かってくるかもしれない」

男「分かった」

友「じゃあな」

男「ありがとう」

男(色々か……)

夜 少女の部屋

男「……」トントン

少女「はーい?」ガチャ

男「よう」

少女「どうしたの?お兄ちゃん?」

男「少し話そうかなーって」

少女「私は貴方の姉で、ここの長女だよ……?」

男「それは分かってる」

少女「ほんとに?」

男「うん」

少女「ならいいけど」

男(色々……よし)

男「姉さん、俺が卒園するときどんな服着てたか覚えてる?」

少女「確か、紺色のスーツに赤いネクタイをしてたかな」

男「はは……よく覚えてるなぁ」

少女「お姉ちゃんだもん」

男「じゃあ、そのあとお寿司を食べに行ったよな?」

少女「えっと、行った行った」

男「なに食べたっけ?」

少女「たまごとエビと……」

男「あれ、マクドナルドだっけ?」

少女「え?えっと……ううん、お寿司であってる」

男「そっか」

少女「でも、マクドナルドも美味しかったよね」

男「……ああ。うん」

少女「えへへ。またいこっか?」

男「うん、行きたいな。そういえばデパートの屋上とかも小さいときはよく連れて行ってもらったよな」

少女「うん。そこでよくたこやき食べたよね」

男「……え?姉ちゃん、何言ってんだ?たこやきは夏祭りに買っただけで、デパートではいつもソフトクリームだっただろ?」

少女「え?そ、そうだっけ?ううん……でも、確か……いつもたこやき食べてたよ……?」

男「ソフトクリームだって。覚えてないの?」

少女「ちょっと待って。確かにソフトクリームも食べてたよ……?でも、貴方とはいつもたこやきだった」

男「……そっか」

少女「もう。びっくりさせないで」

男「……じゃあ、そのあと観覧車に乗ったのも勿論覚えてるよな?」

少女「貴方と観覧車……?」

男「うん」

少女「乗った……」

男「誰と?」

少女「誰って……」

男「誰と乗ったの?あのデパート観覧車も屋上にお店もないけど」

少女「は!?」

男「この前、一緒にデパートいったとき確認しなかったの?」

少女「ま、まって……記憶が混乱してるみたい」

男「そう……」

少女「私は……観覧車にも乗ったし……たこやきも食べたし……ソフトクリームも食べた……」

男「姉ちゃん、いっぱいしてるな。でも、俺はそんなにしてない」

少女「私は貴方の姉で、ここの長女でしょ?」

男「……姉ちゃん、もしかしてそれ……」

少女「そうでしょ?」

男「俺に言ってたんじゃなくて、自分に言い聞かせてたのか……?」

少女「貴方とは毎日お風呂に入ってた」

男「うん」

少女「初めて遊んだゲームはドカポン……」

男「うん」

少女「あれ……ドンキーコングでも遊んだよね?」

男「それは知らない」

少女「私はここの長女。パパの顔も知ってる。ママの顔も知ってる。貴方の顔も知ってる……」

男「姉ちゃん」

少女「私は貴方の姉……お姉ちゃんなんだから……」

少女「あれ……違うの……?私じゃないの……?」

男「おい……」

少女「ううん。私、私は私……。ここの長女で姉……そう……」

男「大丈夫か?」

少女「お姉ちゃんの長女……末っ子じゃない……私にお兄ちゃんなんていない……」

男「あ……」

少女「ううん。お兄ちゃんはいた……いたから、弟の貴方にも抵抗なくお兄ちゃんって呼べた」

男「……」

少女「あれ……あれれ……?なに……なんで……こんなにいっぱい、思い出があるんだろう……?」

男「あの……」

少女「おにいちゃん……私……おねえちゃんだよね……?」

男「それは……分からない……」

少女「えぇ……?なんで……?私のお兄ちゃんのくせに……弟のくせに……」

男「えっと……」

少女「ごめんなさい……もう寝るから……出て行って……」

男「悪い。君は俺の姉ちゃんだよ。間違いない」

少女「……ほんと?」

男「俺との思い出とか親父の思い出、いっぱいあるんだろ?」

少女「あるよ……あるよ……」

男「なら、俺の姉ちゃんだ」

少女「そっか……そうだよね……うん……」

男「おやすみ」

少女「おやすみ、お兄ちゃん」

男「……」

男(やっぱり姉ちゃんじゃない)

男(それどころか一人の人間でもないぞ)

男(これ、親父に言うべきか……?)

男(……いや、ダメだ。問い詰ることになったら、大変なことになる)

男「……」

男(俺もあの女医のこと調べてみよう……)

自室

男「……」カタカタ

ピリリリ

男「もしもし?」

友『よう。なんか進展あったか?』

男「とりあえず姉ちゃんじゃないことははっきりした」

友『問い詰めたのか?』

男「おかげでパニックになった」

友『やっぱり』

男「なんかわかったのか?」

友『あの女医。そうとうマッドみたいだ』

男「え?」

友『まず、あの人の卒論がエグい』

男「なにをテーマにしたんだ?」

友『二種類以上の記憶野接合で発生する人体への影響について、だ』

男「なんだそれ?」

友『勿論、問題になってこれは研究テーマとしては認められなかったみたいだ』

男「いや、なんだよ、そのテーマ」

友『要は脳移植じゃなくて、脳の結合を試みたんだろうな』

男「脳の結合!?」

友『お前、見たことないか?頭がくっついて生まれた双子とか』

男「ある」

友『弟が握ったものを兄が感じとったり、兄が見たものを弟が記憶したりしてるらしい』

男「それで?」

友『あの女医さんはそんな脳を人工的に作ろうとしたかったみたいだ。幾人もの脳を一つにしたら、様々な知識や経験が一気に手に入るかもしれないからな』

男「じゃあ、今うちにいるのは……」

友『そのプロトタイプかもしれない』

男「……」

友『一時期、脳死者の脳をかき集めてたらしいし、間違いないと思う』

男「なんだよ……それ……」

友『俺から言わせたら、正直化け物だと思う』

男「これからどうすればいいんだ……?」

友『そうだよな。義妹さんが何なのか分かったところで、どうしようもないよな』

男「……もう一回、話にいこう」

友『え?』

男「とにかく、このことを話そう」

友『否定されて終わるぞ』

男「でも……」

友『なら、義妹さんも連れて行ったらどうだ?もうパニック障害みたいなの起こってるんだろ?』

男「ああ」

友『アンタの実験は失敗だーって言うしかないかもな』

男「一緒に行ってくれるか?」

友『じゃあ、義妹さん紹介してくれ』

男「化け物なのに?」

友『可愛いは正義なんだぜ』

数日後 駅

少女「お兄ちゃん、今日はどこ行くの?」

男「ちょっとな」

少女「ふーん」

男(変に刺激しなけりゃ、普通だ。きっと姉ちゃんの記憶を引っ張り出して自我を保ってるんだろうな)

友「おーい」

男「おそいぞ」

友「悪い悪い。―――こんにちは、噂をきいてるよ」

少女「だ、だれ……?」

男「俺の友達。いい奴だけど、近づいちゃダメだ」

少女「わ、わかった……」

友「ひでー」

男「……行くか」

友「おう」

少女「……?」

病院 面談室

看護師「では、こちらでお待ちください」

男「はい」

少女「ねえ、ここ……」

男「覚えてるのか?」

少女「うん……私、ずっとここにいたから」

友「そっか。一年ぐらいいたんだっけ?」

少女「うん。多分」

友「なんかされた?」

少女「良く覚えてない」

男「覚えてないほうがいいと思う」

友「だな」

少女「なんの話?」

女医「―――お待たせしました」

男「こんにちは」

少女「先生、久しぶりー」

女医「……何か?」

男「この子に見覚えはありますよね?」

女医「当然です。私が脳移植を―――」

男「違う」

女医「……」

友「卒論、読みました。すごいですね」

女医「貴方、医学生だったのですか?」

友「いえ。普通に文系です」

女医「じゃあ、理解なんてできなかったのでは?」

友「いやー、貴女の卒論はすごいですよ。だって、医学とか全然しらない俺でも、アンタの脳がいかれるのは理解できましたから」

女医「……私の崇高な研究を三流大学生が読み解けるわけありません」

男「読み解けなくてもいい。あんたは異常。それが分かれば十分だ」

女医「……」

少女「お兄ちゃん……?」

女医「……何がいいたいのですか?」

男「俺の姉ちゃんの脳だけじゃなくて、何人の脳を弄ったんだ?」

女医「モルモットの死骸をいちいち数える研究員がいると思いますか?」

男「……!!!」ガタッ

友「おい!!」

少女「え……?え……?」

友「……貴女、脳の結合の研究ずっと続けてきたんですか?」

女医「小学生のときに思いついたことだから、もう30年近いかもしれません」

男「なんでこんなことができるんだ……?」

女医「人間は脳を全て使うことができない」

男「は?」

女医「体重のたった2%の重さしかない脳を人間は殆ど使うことができない。本来なら一瞬だけ見たものでも長期記憶として保持できるのに」

友「……」

女医「私はどうしたら100%脳を使えるか、考えました。そして行き着いた結果が、脳の結合なのです」

少女「先生……?」

女医「人はそれぞれよく使う部位が違うというのはわかっていました」

女医「なら、その人たちの脳のいいところを結合してしまえば、完璧な脳が出来上がりますよね?」

男「アンタ……」

友「じゃあ……記憶野だけを結合させたわけじゃないんですか?」

女医「それはただの通過点にすぎませんでした。文字通り、全ての脳を結合してこそ私の研究は完成する」

女医「彼女には記念すべき1作目の脳を提供したに過ぎません。記憶野が発達したのも、研究途中での副産物です」

少女「ど、どういうことですか……?」

女医「貴女は完璧な人間というわけです」

友「完璧って……」

女医「記憶にすぐれ、思考力も、インパルスも……全部、人間の頂点です」

男「お前……」

友「この子は誰なんですか?被験者ってことですか?」

女医「この子の肉体は孤児でした。私は結婚もしているので簡単に養子縁組が成立しました」

男「な……!?」

友「養子を弄ったのか……?」

女医「そのあとで元の親が来た。それだけの話です」

男「親父か……!!」

友「なんのためにコイツの親父さんを?」

女医「貴方のお姉さんの記憶が一番強かったのですよ。主人格といってもいいかもしれません」

少女「先生……なにを……?」

女医「だから貴方の親御さんに引き取ってもらいました。結合した脳はちゃんと機能し、意識まで保っていたのですから」

男「……」

女医「しかし、ここまで貴方が来たということは違和感を覚えたのでしょうね」

男「ああ……」

女医「所詮は試作品でしたか。そのうちボロがでるとは思っていました」

友「アンタなぁ……」

女医「それで、用件はなんでしょうか?その子を引き取って欲しいという相談でしょうか?」

男「……」

友「……」

少女「なに……なんなの……?おにいちゃん……どういうこと……?」

男「元に戻せ」

女医「え?元に?冗談でしょう?」

男「おまえ!!」グッ

女医「くっ……!」

友「やめろ!!」

少女「やめてお兄ちゃん!!」

男「元に戻せ。この子を元に戻せよ!!」

女医「ふっ。これだから文系は。偉大な進歩を倫理観だけで排斥しようとするんですね」

男「なんだと……!!」

女医「彼女は人類の可能性。進化した人間。新人類」

友「……」

少女「せんせい……」

女医「私ならきっとヒトを導ける。そう。進化という希望に」

男「……アンタの奇天烈な文言はどうでもいい。とにかくこの子を元に戻せ」

女医「いいのですか?お姉さんが完全にこの世から死んでしまうということですよ?」

少女「死ぬ……?」

男「……っ」

女医「そんなこと無理ですよね?だって、彼女は間違いなく貴方の姉でもあるのですから」

友「それは……」

女医「それに彼女を元に戻すことは不可能です。―――だって、その子の脳どこかにいっちゃいましたから」

男「……!!」ガタッ

女医「……?!」

友「やめろって」ガシッ

男「離せ……」

友「義妹さんが泣きそうだぞ?」

少女「おにい、ちゃん……」

女医「もういいですか?診察の時間ですので」

友「待ってください。―――ふざけんな!!」ドガッ!

女医「ぎっ……!??」

男「お前……!?」

友「元に戻せ」

女医「だ、だれかー!!たすけてー!!!」

男「おい!!やばいって!!」

少女「うぅ……」

友「元に戻せよ……!!」

女医「だれかー!!!」

看護師「ど、どうされ―――ひっ!?」

女医「警備員を!!あと警察!!」

看護師「は、はい!!」

男「おい!!逃げるぞ!!」

友「元に戻せ」

女医「だ、だから……もう脳が―――」

友「このやろ!!」ドガッ!

女医「ぐっ!?」

警備員「―――やめろ!!!」

警備員「くっ……!!4番だ!!応援を頼む」

友「はなせ!!くそがぁ!!」

女医「はぁ……はぁ……」

男「……」

少女「お、おにいちゃん……」

男「……帰ったら全部話す」

少女「え……?」

男「……」スタスタ

女医「な……!?」

警備員「君……!?」

男「元に戻せよ!!」ドガッ!!

女医「ぎゃぁ!?」

男「このやろう!!!」

少女「お兄ちゃん!!やめてー!!!」

警備員「取り押さえろ!!はやく!!」

警察署 取調室

警官「―――それであの女医さんを殴ったの?」

男「そうです」

警官「……」

男「俺、反省はしてません」

警官「立派な傷害罪だけど」

男「はい」

警官「……君のお友達も同じ事をいっているそうだ」

男「だと思います」

警官「どうしたいの?」

男「裁判してください」

警官「そりゃなるだろうけど」

男「そこで今、話したこと全部いいます。それでどうなるか分からないけど、誰かに知って欲しいから」

警官「……そう」

男「お願いします」

自宅

男「ただいま」

父「……」

男「親父、ごめん」

父「おかえり」

男「姉ちゃんは?」

父「もう寝た」

男「話したい事があるんだ」

父「なんでも聞く」

男「怒らないのか?」

父「話をきいてから決める」

男「あっそ」

父「とりあえず風呂はいってこい」

男「うん」

父「―――なるほど」

男「……」

父「その話、どうするんだ?」

男「とりあえず俺の友達が色んなところにリークしてみるって」

父「それであの医者を追放できても」

男「うん。何の意味もないだろうな」

父「どうするんだ?」

男「どうしたらいい?」

父「私に聞くな」

男「そうだよなぁ」

父「お前はあの子をどうしたい?」

男「……」

父「このままでいいのか?」

男「とりあえず、妹の寝顔でもみてくる」

父「そうか」

ガチャ……

男「……」

少女「……おにいちゃん?」

男「ただいま」

少女「おかえり」

男「……今から全部話す」

少女「うん」

男「……でも、先にこれだけは言っとくな。君は俺の姉であり、妹だ」

少女「そうなの……?」

男「ああ。それは間違いない」

少女「そっか……よかった……」

男「……」

少女「最近、もしかしたら私はお兄ちゃんのお姉ちゃんじゃないかもって思ってて……」

男「そんなことない」

少女「ありがとう……」

翌日

男「じゃあ、行って来る」

少女「お兄ちゃん……」

男「すぐ戻ってくるから」

少女「私は……」

男「俺の妹で姉」

少女「……」

男「それさえ分かってればいいから」

少女「うん」

父「いくぞ」

男「おう」

少女「お兄ちゃん!!」

男「ん?」

少女「大好きだから!!」

男「俺も」

数週間後 居間

『すいません。非人道的な研究を長年続けていたことに対して何か』

女医『何もありません』

『例の裁判で貴女の研究が公にされて医学会では―――』

男「おはよう」

父「おはよう」

男「またこのニュースか」

父「無断で脳死者から脳を摘出していたこともあったらしいからな」

男「いい薬だ」

父「じゃあ、そろそろ行って来る」

男「行ってらっしゃい」

『数多くの人命を奪ったことに対してなにか』

女医『私は人間の進化のために―――』

男「俺もそろそろ行くかな」

大学構内

友「よっ」

男「謹慎やっととけたな」

友「ま、あれだけのことして退学にならなかったのはラッキーだな」

男「まぁな」

友「で、義妹さんは?」

男「まだ」

友「また、弄くられてるんじゃないだろうな?」

男「しばらく入院して様子を見るってだけだし。俺、毎日見舞いにいってるけど、変わった様子はねえよ」

友「本当か?」

男「ただ、一個だけ。脳への負担が大きいらしい。長くは生きられないだろうって」

友「また脳移植するのか?」

男「いいや。それは多分、アイツが一番嫌がるだろうし」

友「俺たちのやったこと意味あったのか?」

男「あの女医の研究が潰せただけでも意味はあったんじゃないか?」

病院

男「よー」

少女「お兄ちゃん」

男「もうすぐ退院できるんだってな」

少女「うん」

男「よかったな」

少女「またお兄ちゃんと一緒に過ごせるね」

男「俺も姉ちゃんがいないと寂しいな」

少女「もう、甘えん坊なんだから」

男「帰ったら何する?」

少女「たこやき一緒に食べたいな」

男「それいいな」

少女「うん。あの夏祭りで食べたたこやき、美味しかったもんね」

男「そうだね、姉ちゃん」

少女「えへへ」

少女「……ねえ?」

男「どうした?」

少女「一緒に観覧車に乗ったの、私のお兄ちゃんだった」

男「……」

少女「とっても背が高くて……大好きだった」

男「また乗りたい?」

少女「お兄ちゃんと乗りたいな」

男「観覧車も乗ろうな」

少女「うん……。あとね」

男「なんだ?」

少女「あの人形……。私がお母さんにもらったやつみたい」

男「お母さん?」

少女「うん……。一緒にいれないからって、あれをくれたの」

男「そうなんだ。姉ちゃんは愛されてるな」

少女「色んな人に優しくされたけど、私はお兄ちゃんが一番好きだよ?」

男「俺も大好きだよ」

少女「ありがとう……」

男「なんだ、眠いのか?」

少女「うん」

男「姉ちゃん?」

少女「んー?」

男「またゲームしような?」

少女「うん」

男「おやすみ……」

少女「うん……」

男「……」

少女「……」

┌┴┐┌┴┐┌┴┐ -┼-  ̄Tフ ̄Tフ __ / /

  _ノ   _ノ   _ノ ヽ/|    ノ    ノ       。。
       /\___/ヽ
    /ノヽ       ヽ、
    / ⌒''ヽ,,,)ii(,,,r'''''' :::ヘ
    | ン(○),ン <、(○)<::|  |`ヽ、
    |  `⌒,,ノ(、_, )ヽ⌒´ ::l  |::::ヽl  
.   ヽ ヽ il´トェェェイ`li r ;/  .|:::::i |
   /ヽ  !l |,r-r-| l!   /ヽ  |:::::l |
  /  |^|ヽ、 `ニニ´一/|^|`,r-|:「 ̄

  /   | .|           | .| ,U(ニ 、)ヽ
 /    | .|           | .|人(_(ニ、ノノ

数ヵ月後 自宅

少女「おにいちゃーん!!あーさー!!」

男「分かってるよ……うっせーなぁ」

少女「なにぉ!?ちゃんと起こしてるんだから文句いうな!!」

男「はいはい」

父「遅刻するぞ、どっちも」

少女「ほら、早く食べる!!」

男「入院してたほうが大人しくて可愛かったのに」

少女「あーん?」

父「こらこら。やめろ」

父(もう少しだけこの光景を見ておきたいな……。姿は違えど、この二人は……)


弟「姉ちゃんは口うるさいんだよ!!それぐらい言われなくてもわかってるって!!」

姉「弟のくせに生意気!!もう朝ごはん作ってあげないんだからね!!」



FIN

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