赤沢「榊原少年の事件簿」(72)

――咲谷記念館。

勅使河原「おい、サカキ。俺たちを食堂に集めて一体何しようって言うんだ?」

榊原「……犯人が分かったんだ」

望月「犯人…? 犯人って何の犯人?」

榊原「決まってるだろう、望月。3年3組の呪いにかこつけて4か月も人を殺し続けた真犯人さ」

赤沢「なっ、ちょっと待って!? 榊原君はコレを人が起こした事件だっていうの!?」

榊原「その通りだよ、赤沢さん」

見崎「……」

風見「誰だ…、誰がゆかりを殺したんだッ!!」

榊原「落ちついて、風見君」

見崎「馬鹿馬鹿しい…、これは呪いだよ榊原君。未咲の死から始まった呪い」

小椋(ミサキ…?)

榊原「呪いなんかじゃないよ見崎。まず、最初の事件…と言っていいのか」

榊原「桜木さんが殺害された現場で二つの物が見つかってたんだ」

赤沢「二つの物?」

榊原「一つは階段の手すりについていた【何かをこすった細い傷跡】」

望月「何かって?」

榊原「頑丈で見えにくい…恐らくは、ピアノ線だと思う」

勅使河原「なんでそんなの物が…」

榊原「常識的に考えて、転んだ拍子で傘が開き先端が上を向いて喉に刺さるなんて考えられるかな?」

赤沢「考えられないわ。…けど、だからこその呪い」

榊原「違うよ。そんなオカルトなんて存在しなかった。あったのは明確な殺意だけ」

榊原「犯人はあの階段の足場に水をこぼして滑りやすくし、ピアノ線をガイドロープにして確実に傘が喉に突き刺さる罠を仕掛けていたんだ」

風見「なんだって!!?」

見崎「そんなにうまくいくとは思えない」

見崎「それにあの時、桜木さんが帰ろうとしたのは桜木さんのお母さんが事故に遭ったからで偶然にすぎないよ」

榊原「うん。犯人にとっても、うまくいったのは偶然だったんだと思う」

見崎「なら」

榊原「ただ、犯人は少しくらいならうまくいかなくても大丈夫なように細工していたんだ」

榊原「現場から見つかった二つ目は傘の先端に塗られていた【血液凝固阻止剤】」

榊原「これは文字通り、血が固まりにくくする薬だ。多少狙いがずれても、確実に出血多量で死に至るように、ね」

風見「ゆかりは…、運が悪かっただけなのか…?」

風見「運悪く、お母さんが事故に遭ってしまって、それで急いで病院に向かおうと……」

榊原「……風見君。実は桜木さんのお母さんが乗っていた車のブレーキに細工がされていたのが見つかってるんだ」

風見「まさか!」

榊原「その階段を偶然使おうとした人間を狙った無差別殺人じゃないんだよ」

榊原「桜木ゆかりさんはその命を狙われていたんだ」

水野「じゃあ、次の犠牲者だった姉貴も…!」

榊原「…病院のエレベーターのケーブル、及び安全装置から火薬が検出されてる」

水野「よくも…、よくも姉貴を…!」ギリギリ

勅使河原「その次の犠牲者は…高林。だがあいつは」

榊原「高林君の死因は心臓発作だ。それも僕と望月の見ている前で死んだ」

望月「じゃあ高林君の死は偶然…」

榊原「いや、必然だった」

望月「!!」

榊原「検死の結果、高林君の胃からコカインとカプセルが見つかっている」

榊原「高林君がいつも飲んでいた薬がすり替えられていたんだろう」

望月「そんなことが…!」

見崎「どうして榊原君はそのことを知ってるの?」

榊原「警察関係者とは少し縁があってね…」

三神「榊原君はあの名探偵だった三神理津子さんの一人息子なの」

勅使河原「夜見北にその人ありと謡われた、あの!?」

赤沢「確か、先生はその人の妹でしたよね? ということは」

怜子「ええ、黙ってたけど、私は榊原君の叔母で一緒に暮らしてるわ」

榊原「僕自身も東京でいくつか事件を解決しててね。警察にもそれなりに信頼されてるんだ」

小椋「次は……久保寺先生」

榊原「久保寺先生は疑いようもなく自殺だよ」

榊原「ただ、受け持っているクラスの生徒が次々に死んでいった気苦労は計り知れない」

榊原「久保寺先生の死は自殺だったけど、自殺にまで追い込まれたのはやはり犯人のせいと言っても過言じゃないと思うよ」

見崎「……次は? 次の《呪い》の犠牲者は中尾君だったよね」

勅使河原「昔の3組の生徒で呪いを止めたって話について松永さんに話を聞くために海に行って」

赤沢「そこでスライスされた。けど中尾は家で転んで頭を打っていてそれが原因だって」

榊原「ただ、その検死を行ったのは夜見山の病院じゃなく市外のとある病院だった」

榊原「その病院の検死を担当した人間が虚偽の診断書を作ったんだ」

杉浦「じゃ、じゃあ中尾の本当の死因は」

榊原「うん、間違いなくスライスだよ」

榊原「そもそもの発端となった松永さん、彼も犯人が用意したエキストラの一人だったんだ」

勅使河原「は? どういうことだよ、サカキ!」

榊原「松永さんが昔、呪いを止めたってのは真っ赤なウソだったってことだよ」

榊原「松永さんは借金で苦しんでいたんだ。そんな彼に犯人は取引を持ちかけた」

榊原「望月の家で呪いを止めたと呟かせ、まんまと僕等をあの海へと誘いだした」

榊原「昼過ぎに強風が吹くのも有名な浜。さらに中尾君の性格を考えれば」

望月「飛ばされたボールを一人追いかけたところをクルーザーでスライスするのは簡単だった…」

榊原「クルーザーに乗ってた人たちもお金で用意されたエキストラ」

榊原「彼らも借金か何かで苦しんでたんだと思うよ」

杉浦「じゃあ、松永さんが残したあのテープも?」

勅使河原「えっ? なんで杉浦がそのことを…!?」

杉浦「あっ…、ごめんなさい。偶然立ち聞きしちゃって」

榊原「あのテープは最後の仕掛けだったんだ。僕等に殺し合いをさせるための」

小椋「ひっ…! こ、殺し合い!?」

猿田「そのテープって何が録音されていたぞな?」

榊原「【死者を死に帰せ】」

王子「えっ?」

榊原「クラスに紛れ込んだ死者を見つけ出し、そいつを殺せば呪いは収まる、そういう内容だった」

金木「なっ…! このタイミングでそんなこと聞かされたら……」

榊原「疑心暗鬼に陥り、自分が生き残るためにその死者を見つけ出し殺そうとする」

松井「杏子…私怖い」ブルブル

榊原「そんなことさせないよ。…母さんの名にかけてね!」

小椋「じゃあ…、兄貴も綾野も……」

榊原「…うん」

榊原「まず、小椋さんの家に建設機械が突っ込みお兄さんが死んだ事件」

榊原「機械を乗せた車両の運転手が毎日あの時間にあの場所にあの車両を停めているのを調べていた犯人は」

榊原「運転手が煙草を買っている間にこっそりとサイドブレーキを下ろした」

榊原「結果、建設機械を乗せた車両は小椋さんの家に突っ込みお兄さんが……」

見崎「証拠は見つかってるの…? ただの憶測にしか聞こえないんだけど」

榊原「小椋さんの家に突っ込んだ車両の中から夜見北の制服のボタンが見つかってるんだ」

赤沢「えっ…? ちょっと待ってよ、榊原君。犯人ってまさかうちの学校の生徒なの!?」

榊原「うん…、残念だけど」

風見「早く…早く教えてくれ! 誰がゆかりを殺した犯人なんだ!」

榊原「その前に、最後の事件。綾野さんの一家が崖から車で転落した事件」

杉浦「落石がフロントガラスを直撃して、それに驚いて運転を誤ったって聞いてるけど」

榊原「その落石、実は車には当ってなかったんだ」

杉浦「えっ?」

榊原「車と道路から、僅かに絵具が検出されてるんだ」

榊原「綾野さんが転校するのを知った犯人は慌てただろうね」

榊原「気付いた時には綿密な殺人計画を考えている暇なんてなかった」

榊原「だから一か八かで石を投げるつもりだったんだろうけど…」

榊原「あの日は天気予報がはずれ、突然雨が降り出した」

赤沢「雨…絵具…、まさか!」

榊原「そう、犯人は綾野さんの家族が乗っている車に向かって絵具をぶちまけたんだ」

榊原「石を投げるのに比べ、液体ならほぼ確実に車に命中する」

榊原「綾野さんのお父さんは絵具でフロントガラスを遮られ運転を誤り、家族そろって転落死」

榊原「犯行に使った絵具は雨で洗い流されて証拠隠滅は完璧…というつもりだったみたいだけど」

榊原「さすがに思い付きの犯行だっただけに、絵具は僅かに残ってしまっていたんだ」

榊原「これが3年3組で行われた事件の真相だよ」

榊原「そしてこの事件の犯人は…!」

勅使河原「……!」

望月「……!」

風見「……!」

赤沢「……!」

杉浦「……!」

見崎「……!」

怜子「……!」

榊原「あなたです!」カッ

勅使河原「なっ…、マジかよ!?」

赤沢「嘘でしょ…?」

見崎「榊原君、冗談だよね…?」

榊原「……いや、冗談なんかじゃないよ」

杉浦「まさか、そんな…」

風見「お前がゆかりを…!」

榊原「見崎、君がこの事件の犯人だ」

望月「!!」

怜子「!!」

見崎「……」

見崎「どうして、そう思うの?」

榊原「犯行が君にしかできなかったっていうのと、……君にしか動機がなかったから」

見崎「動機? 呪いで死んだ人たちに、私が個人的に怨みを持ってたっていうの?」

榊原「さっき教えてくれたよね、藤岡未咲のこと……」

見崎「…!」

杉浦「藤岡未咲…? 確かどこかで……」

榊原「数年前にあった小学生強姦事件の被害者だよ」

杉浦「そうよ…、同じ小学校の子が被害にあったって噂で…。確かその子の名前が藤岡未咲」

榊原「見崎は藤岡未咲の双子の姉妹だって。それで全てが繋がったよ」

赤沢「双子の姉妹!?」

榊原「状況証拠だけ見れば見崎が犯人に間違いない」

榊原「けど、これだけの事件だ。犯人は被害者たちに強い恨みを持っていないとおかしい…」

勅使河原「つまり殺された奴らはその強姦事件の加害者で、見崎はその双子の怨みを晴らそうとしたって言うのか?」

勅使河原「いや、怨みってのはおかしいよな。別に死んだわけじゃないんだろ? その藤岡未咲って子は」

榊原「いや、死んでるんだ」

勅使河原「!?」

榊原「藤岡未咲は今年の4月に病気で亡くなってるんだ」

榊原「藤岡未咲は3年3組の生徒、見崎鳴の双子だからもし呪いなんてものがあるなら」

榊原「今年の4月から始まってたのかもしれないけど」

榊原「これは呪いなんかじゃない…、殺人事件だ!」

榊原「テストを終え、誰より早く教室を出ている必要があった桜木さんの事件」

榊原「病院に行く機会がなければ起こせない水野君のお姉さんの事件」

榊原「体育をさぼらなければ行えない高林君の薬のすり替え」

榊原「最後に、普段から絵具を持ち歩いている美術部にしか行えない綾野さん一家の事件」

榊原「どれも君が犯人だと示してるんだ、見崎!」

見崎「……よくわかったね」

風見「!!」

風見「お前が…お前がゆかりをー!」

勅使河原「ばっ、やめろ風見!」ガシッ

風見「離せ、勅使河原!」

見崎「これは正統な報いよ、私はあの子たちを許さない」

見崎「未咲が亡くなる数日前に言っていたわ。病気が良くなったら必ずあいつらに復讐してやるって」

見崎「桜木さんは援助交際をしていたグループの一人で、未咲をあの男…久保寺に売った張本人よ」

風見「なん、だって…?」

見崎「私が殺した女の子たちは援助交際していたグループのメンバー」

見崎「男の子たちは未咲を犯した憎い奴ら」

見崎「水野君のお姉さんがグループを作り、小椋さんのお兄さんが顧客を集めていた」

水野「姉貴がそんなことを…!?」

小椋「馬鹿兄貴…ッ」

見崎「ちぇっ、転校生がこんな名探偵だったなんてね。もう警察は呼んでるのかな?」

榊原「…うん、もうすぐくると思うよ」

見崎「そっか…」


金木「……くせに」

松井「杏ちゃん…?」

金木「あんただってそのグループの一人だったくせに!!」

松井「きょ、杏ちゃん!?」

見崎「…ワカメ」

赤沢「それ、どういうこと?」

金木「援助交際してたグループにはあと二人…あたしとそいつもいたのよ!」

杉浦「は? 何よそれ」

金木「自分だってグループの一人だったのに仲間を殺したわけ!?」

金木「じゃあ、私も殺すつもりだったの!? そうなんでしょ!?」

見崎「……」

榊原「まだ言ってない事件が一つだけ残ってたね…」

見崎「!」

望月「えっ? 今年、災厄で亡くなったって言われてた人はこれで全部じゃ…」

榊原「見崎、その眼帯外してもらっていいかな」

見崎「……」スルッ

赤沢「義眼…?」

榊原「その左目、触れてもいいかい?」

見崎「…やめて」

榊原「じゃあ、左目を30秒開け続けてくれないか」

見崎「どうしてそんなことしなきゃいけないの?」

榊原「……できないの?」

見崎「する必要を感じないだけ」

榊原「違う。できないんだ」

見崎「……」

榊原「その左目は、義眼じゃない。ただのカラーコンタクト、そうでしょ?」

見崎「……どこで気付いたの?」クスッ

金木「えっ…、まさか…!」

見崎?「私は見崎鳴じゃない」

勅使河原「おいおいおい、どういうことだよこれ」

未咲「私の名前は藤岡未咲。金木さえ黙ってれば…なんて思ったけど」

未咲「恒一君、私が未咲だって気付いてたんだ?」フフッ

寝る。

http://www.youtube.com/watch?v=sg77oI5Qw6Y&feature=relmfu

赤沢「悲しい事件だったわね…」

榊原「うん…、僕がもっと早くに犯人がミサキだって気づいていれば…」

赤沢「みんなが死ななくてすんだ? それとも…、見崎さんが人を殺さずにすんだ?」

榊原「…その、両方だよ」



【夜見北中学3年3組の呪い殺人事件/終】

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