憂「かまいたちの夜」(362)

唯「はぁ~るばる~きたぜはあっこだてー♪」

私は今、お姉ちゃんと一緒にスキー場へきている。
目の前は一面にそびえ立つ白銀世界。その根本に、私達がお世話になるペンションが見えていた。

ここで、一つ訂正。

憂「お姉ちゃん、ここは函館じゃなければ北海道ですらない、長野県だよ」

唯「いやー雪景色を前にしたらつい言いたくなっちゃって」

なるほどさすがお姉ちゃんの言うことには説得力がある。たった今より、雪原は全て函館市に帰属することになるだろう。

唯「ふいーやっとペンションについたね」

憂「荷物置いたら早速スキーに繰り出しちゃおっか」

言いながらがちゃり、と戸を開けると、からんからん、と鈴が鳴る。その音をきっかけに、

「やあ、いらっしゃい。ご予約のお名前は?」

とオーナーらしき人が奥から姿を見せた。

憂「平沢です。平沢……唯で予約したんだっけお姉ちゃん?」

いきなり自分に話を振られたせいか、少し驚きを見せるお姉ちゃん。

唯「えっそうなの?商店街の福引きで当たったんだから商店街の名前で予約入ってるのかと思ってた」

「あっはっは、平沢憂さんのお名前で予約をいただいてるみたいだよ」

予約の名前まで商店街は面倒見てないよ、と言おうとするのを遮るように笑い声が響く。なんだ、自分の名前で予約してたのか。

「そっちのヘアピンを付けてるのが姉の唯ちゃん、ポニーテールが妹の憂ちゃんだね、……よし覚えたよ。ようこそ、ペンション『シュプール』へ!」

憂「はい、お世話になります!」
唯「よろしくお願いしまーす!」

私達はきれいに揃ってお辞儀をした。こういう何気ないところでも息が合っちゃうのは、やはり類い稀なる姉妹愛のおかげだろう。

かまいたちもけいおんも見てないけど頑張れよ

「透ったら、かわいい女の子の名前を覚えるのだけは得意なんだから」

お辞儀をしている間に奥から新たに女の人が現れていた。なかなか美人と言ってよさそうな顔立ちをしている。
透と呼ばれたオーナーらしき人は、女の人の急な登場で……というよりその言葉を発した顔が不敵に微笑むのを見て、明らかに同様している。

透「いやぁっ、そのっ、ほ、ほら、お客さんの顔と名前を覚えるのは大事じゃないか、真理もそう思わないかい?」

真理さんはその不敵な笑みを崩さない。

真理「ええそう思うわ。じゃあ昨夜泊まって今朝帰った、ロングコートの男性の名前は何だったかしら?」

透「えぇと……あ、あんまり社交的じゃない人だったからな、はは……」

田中だっけ

目が泳ぎまくりの透さんを尻目に、真理さんはこちらに向き直り、軽く礼をした。

真理「ようこそシュプールへ。私はここのオーナーの琴吹真理よ、よろしくね」

透「あっあぁ僕もオーナーでね、こほん。琴吹透です、よろしく」

そう言って透さんも頭を少し下げた。なるほどやはり透さんはオーナーで、真理さんと二人合わせてオーナー夫妻ということらしい。
……いや、そんなことより。

憂「あの、琴吹って、あの琴吹グループの方なんですか?」

唯「てことはムギちゃんの親戚?」

珍しい苗字だしほぼ間違いないだろう。質問を投げかけられた透さん……ではなく真理さんがにこやかに回答する。

真理「もしかして、紬ちゃんのお友達かしら。紬ちゃんはね、私の再従兄弟の叔母の従姉妹の甥の……いや再従兄弟の叔母の従姉妹の姪の……?いや再従兄弟の叔父の……?」

透「真理、とりあえず親戚が琴吹グループの社長って情報が伝わればいいと思うよ」

冷静に透さんが突っ込む。見た目に似合わず真理さんには天然な一面もあるのかもしれない。
意外性という点ではもう一つあるけれど、それを指摘するのは野暮というものだろう。

唯「あれっ?真理さんが琴吹家の人ってことは、透さんは婿養子?」

あぁ、純粋過ぎるよお姉ちゃん。気になったことは聞きたいんだよね。

真里をしんりと読んでしまった、はず

期待

透「そ、そういうことになるね。シュプールの所有権がブツブツ……ああそれよりっ!」

話を逸らしたげに、何か思い出した顔をして言う。

透「紬ちゃんも今夜ここに泊まるみたいだよ」

なんだって?そんな偶然がまさか、そう思いお姉ちゃんに目をやると、同じく私に顔を向けていた。

唯「偶然ってあるもんだねぇ~。ムギちゃんは一人で泊まりに来てるんですか?」

この問いに対する答えは後ろから聞こえてきた。

「いいえ、友達を三人連れてるわ」

犯人はムギ
間違いない

予想外の方向から聞こえた声に振り向くと、そこには見慣れたメンバーが揃っていた。

唯「ムギちゃん!それに、澪ちゃんりっちゃん!そしてあずにゃ~ん!」

梓「ちょっ、いきなり抱きつかないでくださいっ」

猫まっしぐらという勢いで、梓ちゃんの華奢な体はお姉ちゃんの腕に抱えこまれることとなった。いや梓ちゃんのほうが猫っぽいから猫まっしぐらという表現はややこしいので何か別の表現を――ま、そんなことはどうでもいいや。
それより、せっかくの姉妹水いらず旅行が成り立たないであろうことを残念に思う。

律「おっすー唯、憂ちゃん」
澪「こんなとこで合うなんて奇遇だな」

こうなったものは仕方ない、軽音部のみなさんと旅行に来たと思って楽しむほかないだろう。ただ。

憂「みなさん、こんにちは。今日はどうしてこちらに?」

一応聞いておきたい。なぜ軽音部が揃っているのにお姉ちゃんがその輪に加わっていないのか。

あずにゃんが犯人か。

>>12
そんなの猿でも分かるわ

律「軽音部のみんなでどっか泊まりがけの旅行でも行こうぜってなっただけさ。てか唯、なんで断ったのかと思ったら憂ちゃんと旅行かよー、言ってくれたら憂ちゃん込みでプラン立てたのに」

え、お姉ちゃんは軽音部の旅行を蹴って私との旅行に……?

唯「てへへ、なんか言いにくくって。ムギちゃんのお世話にばっかりなるわけにもいかないしね」

少し照れ気味のお姉ちゃん、もしかして二人きりの旅行を大切にしてくれたのかな。ありがとうお姉ちゃん!

>>4,11
NGIDに追加しときました

>>14,15
なんで俺が答えなきゃならないんだよ、アホ

紬「あらあら、憂ちゃん一人増えるくらいかまわないのに」

唯「ま、私達は福引きで当たった旅行だから結局自腹は切ってないんだけど」

ふんす、と胸を張るお姉ちゃん。別に威張るところじゃないよ。

澪「福引きで旅行が当たるなんて、さすが憂ちゃんは日頃の行いがいいな」

唯「澪ちゃん私はー?」

律「いやあさすが憂ちゃん素晴らしい」
紬「いつも家事も勉強も頑張ってるものね」
梓「マイナス要素を乗り越えるほどの素晴らしさ」

唯「みんなひどいっ」

みんなひどいっ。

透「あの~盛り上がってるとこ悪いんだけど」

あはは、とみんなが笑う中、申し訳なさそうに透さんが口を挟んできた。

透「とりあえずみんな、チェックイン手続き済ませてもらっていいかな?」

真理「立ち話もしんどいだろうし、荷物置いてからそこの談話室に集合するといいんじゃない?」

そう言った真理さんが指差したのは、二階へ続く階段付近の、テーブルとソファーが置いてあるだけのスペースだった。談話室というより、談話スペースといった感じだ。

律「それもそうか。じゃあみんな、荷物置いたらスキーの準備してそこに集合な」

澪「透さん、みんなの部屋割りはどうなってますか?」

透さんは待ってましたとばかりにシュプールの見取り図を取り出す。

透「紬ちゃん達四人はここからここまでの四部屋、唯ちゃんと憂ちゃんはこことここの二部屋だよ。まあ自由に入れ替えてくれてかまわないけどね」

差し出された見取り図はペンション二階のもので、階段を登った地点から左右に廊下が伸びている。左手前三部屋のうち手前から二部屋が私達の、その向かい側奥から四部屋が紬さん達の部屋だそうだ。奥から四部屋目だけは階段より右になる。

階段隣の部屋を私が引き受け、お姉ちゃんがその隣、向かい側奥から順に紬さん、律さん、澪さん、そして梓ちゃんと決まり、それぞれ自室へ荷物を置きに向かった。

憂選手無双シナリオか

スキーに明け暮れ、日も暮れ始めた頃、激しくなってきた雪から逃れるように、私達はシュプールに戻った。
からんからん、と扉を開けると、ちょうどそこには真理さんがいた。

真理「みんな揃ってのお帰りね。もうすぐ夕飯ができるから、着替えたら食堂にいらっしゃい」

はーい、と声が揃う。言われたとおりみんな自室へ戻り、一旦談話室に集合してから食堂へと向かうことにした。

唯「いやあ憂はスキー上手だったねぇ。私なんて、何回雪だるまになりかけたことか」

階段を登りながらお姉ちゃんが言う。律さんと澪さんは先々行ってもう部屋に入ったようだが、私達がのんびり話しながら歩いているせいで、後ろの梓ちゃんと紬さんは歯痒い思いをしてるかもしれない。

憂「でもお姉ちゃんだって終わりのほうは滑れるようになってたじゃない。じゃあ、またあとでね」

唯「うんばいばーい。」

お互い自分の部屋の前に立って挨拶を交わし、同時にドアを開け、同時に閉めた。
時計は午後6時半ほどを指していた。

たん、たん、たん。着替えを終えた私が階段を降りると、そこには既に四人の姿があった。一人足りない。

澪「お、きたきた。あとはムギだけだな」

すると律さんが思い出したように口を開いた。

律「あームギならさっきメールが来てさ、なんかお腹壊したみたいで、トイレに篭るからあとで軽い食事だけ用意してほしいってよ」

お嬢様育ちの体に雪山は冷え過ぎたのだろうか。紬さんには悪いと思いながらも、空腹には勝てないので、ぞろぞろと食堂へ向かった。

食堂は、丸いテーブルが並び、テーブルを挟んで二人ずつ座れるようになっている。私はもちろんお姉ちゃんと同じテーブルにつき、澪さんと律さんも同様に、梓ちゃんが余る格好で着席した。
私達の他にお客さんはほぼおらず、端のほうに眼鏡の女性が一人座っているだけ……ってあれは。

憂「ねぇお姉ちゃん、あの人もしかして」

唯「あっ和ちゃんだー!やっほー!」

お姉ちゃんの呼び掛けで初めてこちらに気付いた様子で和さんが振り向く。軽音部のみなさんも驚いたように和さんのほうに顔を向けた。

和「あら唯に憂じゃない。それに軽音部の面々も。また合宿?」

だとしたら私がいることの説明がつきませんよ。

唯「私と憂は福引きで当たった二人旅の最中だよ、みんなとは偶然一緒になったの」

和「そういえば福引きが当たったとか言ってたわね。他のみんなは?」

律「軽音部旅行として唯も誘ったんだけど、日程が合わないって残念ながら四人で来たら、この展開さ。ああムギは体調悪くて自分の部屋にいるけど」

澪「それより、和はどうしてここに?一人なのか?」

律「まさか彼氏と一緒なのか~?」

おぉもしそうだとしたらそれは初耳だ。が、和さんのことだからそんなことはないのだろう。

和「一人よ。ここの料理が美味しいから食べに来たの。一昨年に家族で来て以来毎年来てるわ」

梓「じゃあ今から出てくる料理にも期待できますね」

この会話を聞いていたかのようなタイミングで、真理さんが台車に料理を乗せて運んできた。

真理「あら、みんなは和ちゃんとも知り合いだったの?」

澪「はい、同じ高校に通ってるんです」

透「お客さんが女子高生ばかりになるのも珍しいけれど、さらに知り合い同士だなんて特別珍しいね」

いつの間に現れたのか、真理さんの後ろからエプロン姿の透さん。

律「あれ、透さんがエプロンしてるってことは、この料理、透さんが作ったの?」

透「そうだよ、意外かい?」

確かに意外。しかもついさっき和さんが美味しいと褒めたのだから余計にだ。

真理「料理の腕だけは一流シェフに鍛えられてるから期待していいわよ。さぁ、冷めないうちに召し上がれ」

和さんに加え真理さんのお墨まで付いたとあれば、さぞ美味しいのだろう。

いただきまーす。

>>9
ウケると思った?笑えねーよカス

財布はすぐ人殺すよね
ほんとどうしようもねえな

死ぬのはかまいたち側で頼むな
あいつら死ぬのが仕事だから

なんかお前のことリアルに知ってるかもしれん

そこらの料理屋より美味しい食事を平らげた私達は、ひとまず自室でお風呂などを済ませてから、談話室に集まることにした。透さんと真理さんもその間に片付けを済ませて、おしゃべりに加わってくれるようだ。

憂「お風呂済ませたらまずお姉ちゃんの部屋に行くね。」

唯「うん。私が先だったら憂の部屋に行くよ」

そう言って、私達は同時にドアを閉めた。
他の五人も各自部屋に戻る音が聞こえる。ちなみに和さんの部屋はお姉ちゃんの隣らしい。
ふと時計に目をやると、時刻は8時を過ぎた頃となっていた。

こんこん。濡れた髪にパジャマ姿でお姉ちゃんの部屋をノックする。ドアは間髪いれずにがちゃり、と開いた。

唯「やっほー、ちょうど憂の部屋に行こうと思ってたとこだよ。じゃあ下行こっか」

こうして私達は階段を下った。

談話室には既に律さん、澪さん、梓ちゃん和さん、そして透さんに真理さんが揃っていた。が、会話が盛り上がっている様子はなく、むしろ嫌な雰囲気が漂っていた。

憂「あの、みなさん……何かあったんですか?」

私の問い掛けに澪さんがびくっと一瞬体を震わせる。よく見るとさっきからずっと、俯いて小刻みに震えているようにも見える。
短い静寂を打ち破ったのは、律さんだった。

律「さっき部屋に帰ったら、入ってすぐのとこにこんな紙が落ちてたんだ」

そう言って差し出された紙には、赤い筆ペンのようなもので、こう書かれていた。


コワイ オモイヲ サセヨウ
アイテハ ダレデモ イイ
シンデ シマッテモ イイ
ナグルモ ケルモ サスモ ジユウ
アラタナ イケニエニ カンパイ


私とお姉ちゃんは同時に読み終わると、揃って律さんを見た。

律「こんなイタズラしたのは唯か?憂ちゃんじゃなさそうだし」

唯「ふぇっ?知らないよこんなの」

もちろん私も知らない。

安価出さねえの?

梓「私の感想としては、澪先輩を怖がらせるために律さんがしたものだと」

律「だったら澪の部屋に直接置くさ。ま、結局私がここで澪に披露してるんだから、疑いは晴れないだろうけど」

確かに一番ありえそうな展開ではある。じゃあそういうことで、と納得したいこの空気は、和さんによって乱される。

和「ところで、ムギはほんとにここに来てるのよね?私はまだ姿を見てないのに、そんなもの見せられたら……」

あえて言葉を濁した様子で、中空を目が泳いでいた。
その濁した言葉を拾い上げるように、透さんが口を開く。

透「ちょっと心配だね、探してみよう。みんなは自分の部屋を見てきて、僕と真理は食堂とか一階を探すから」

初代の話って2の人物達の創作なんだよな…すげえ萎えた

唯「えっ、えっ、あれ?」

お姉ちゃんは、何が何だかわからないといった様子。

唯「ムギちゃん自分の部屋にいるんじゃないの?」

これに答えたのは真理さんだった。

真理「じゃあ透は一人で一階を見回ってきて。私はマスターキーを取ってから、紬ちゃんの部屋をノックしてみるわ」

透「わかった。それじゃあみんな、行動開始だ。」

透さんが食堂へ向かって歩いていく。和さんと梓ちゃんが階段を登るのを追うように、私とお姉ちゃんも談話室を離れる。

律「澪ー、いつまでも俯いてても仕方ないだろ、追いてくぞー」

そう言うと、律さんは私達を追い抜くように階段を一段飛ばしで駆け上がっていった。残された澪さんが心配になったが、一応腰を上げようとしていたので、そのまま階段を登りきることにした。
二階に上がった先では、既に他の三人が自室に入っていた。私達二人も、お互いの安全を確かめるように目を合わせてから、それぞれのドアを開けた。

部屋の中、ベッドの下、クローゼットの中。次々と部屋の中を調べてみたが、紬さんの姿はなかった。そもそも鍵をかけていたのだから当たり前だとも思いつつ、最後に浴槽を確認しようとしたときだった。

ガダッガダゴダガダッゴトガタバンッ

部屋の外、階段の方向から聞こえた音に、心臓が飛び出る思いがした。何があったのか、ドアを開けて外を確認していいのか。
迷った末、私はドアを開け外へ出た。

憂「梓ちゃん……?」

階段手前に梓ちゃんの姿があった。しかし私の声が聞こえなかったのか、梓ちゃんは階段下を見据えたまま固まっている。

憂「どうしたの?何を見――」

梓ちゃんの目線の先を確認した瞬間、今度は心臓が止まる思いがした。
そこには、手足があらぬ方向に曲がり、血まみれになった紬さんが横たわっていたのだ。

むぎさーん!!

その後、お姉ちゃんや律さん、和さんも部屋から現れ、私達の異変の原因に目をやり、同じように凍り付いた。階段下の向こうで、真理さんも同じである様子が見える。

律「み……澪っ!澪は大丈夫か!」

突然叫びだした律さんは、後方の澪さんの部屋のドアを叩き、ノブを握った。ノブはあっさりと回り、勢いよく開けられたドアから、律さんは駆け足で部屋に飛び込んだ。

律「澪、大丈夫なんだな。部屋の外に出れるか?大きな音がしてびっくりしたよな。ちょっと外には見るのが辛いものがあるけど、みんなと一緒にいよう。な?」

独り言のように律さんの声ばかりが聞こえたあと、律さんの肩を借りるようにして、澪さんが泣きながら部屋から出てきた。その顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。

犯人どころかろくなセリフもなしに死んでた

透「なんてことだ……」

真理さんの後ろに透さんが現れていた。透さんはそのまま紬さんに近付くと、その手首を取り、指を当て、……首を振った。

唯「そんなの嘘だよっ!」

今度はお姉ちゃんが叫ぶ。

唯「ムギちゃんが死んじゃうわけないじゃん!透さん早く救急車呼んでよっ!」

言いながら紬さんのもとへ駆け降りていく。そして透さんが掴んでいるのと逆の手を両手で包むと、静かに泣きだした。

唯「ムギちゃんが死ぬわけないじゃんかぁ……」

お姉ちゃんの側にいたくて階段を降り始めると、それに続いて和さんも、律さんと澪さんも、そして梓ちゃんも降りてきた。
透さんは道を空けるように立ち上がり、受付カウンターのほうへ歩いていく。電話をかけるのだろう。

律「澪、あんまり見ないほうがいい、そこのソファーに座っとこう」

澪さんは談話室のソファーに導かれ、和さんもそれに続く。私もお姉ちゃんの肩を抱くと、ソファーへ連れていった。梓ちゃんは真理さんと一緒に階段脇に立っている。

透「もしもし、警察ですか――」

透さんが電話している声が聞こえた。救急車ではなく警察を呼んでいるらしい。

真理「シーツ、取ってくるわね。このままじゃかわいそうだから。」

そう言って奥へ消えていく真理さん。一人で行かせてよかったのだろうか。

お姉ちゃんと澪さんが啜り泣く音と、外の強風が吹きすさぶ音が建物を支配した。

となると犯人は梓しかいない

透「だめだった」

真理さんが持ってきたシーツを紬さんにかけているその横に立ち、透さんが言う。

透「吹雪で電話線が切れたみたいだ。うんともすんとも言わない」

電話をかける声がぱったりと聞こえなくなったのはそういうことだったのか。
透さんは続けて妙なことを言い出す。

透「ねぇ真理、昨日泊まった男の人はほんとに帰ったんだよね?」

真理「田中さんのこと?チェックアウトの手続きしたのは透じゃない」

透「そうなんだけど、そのとき荷物を持ってなくて、手続きしてから荷物まとめて帰りますとか言ってたからさ」

真理「田中さんの部屋の清掃はちゃんとしたわよ。そりゃあ確かに、帰るところは見てないけれど」

律「ちょ、ちょっと待って」

二人の会話に律さんが割って入る。

律「その口ぶりだと透さん、その田中って人が実はまだここにいて、私の部屋に手紙を残したり、ムギを……殺したって言うんですか?」

透さんは冷静に返事する。

透「そんな可能性もあるなと思っただけさ。ちょうど律ちゃんの部屋に泊まってたのが田中さんだし」

律「嫌だ聞きたくない!勘弁してください!」

律さんは目を力一杯つぶり、澪さんと体を寄せ合いながらぶるぶると震えている。あの手紙は本当に律さんの仕業ではないようだ。強がってはいたが、相当怖かっただろう。

アニメでは探偵役になりたがってたムギはいつになったらそれができるんだろうな
犯人か被害者ばかりで不憫だぜ

唯「ね、ねぇ、携帯で警察に電話したらいいんじゃない?」

せっかくのお姉ちゃんの提案だが、採用されることはない。

透「残念だけど、ここは圏外なんだ。だから外と連絡をとるには、吹雪がやんでから車を出すしかない」

雪はスキーをやめる頃に激しくなり始めていたが、窓からちらりと外を見ると、風の轟音にも納得できる勢いで舞い狂っていた。

犯人は憂

透「でも、もし不審者がいたとしても、このままみんなで一緒にいたら手出しはできないさ。だからそんな悲観的にならずに――」

梓「悲観的になるな?無茶言わないでください!」

突然梓ちゃんが声を荒げる。

梓「人が一人死んでるんですよ!?しかも、大好きな先輩が……いいです、私は部屋に篭ります」

真理「え、ちょ、ちょっと!」

唯「あずにゃん、危ないよー」

真理さんやお姉ちゃんの静止も聞かず、梓ちゃんは階段を登る。

透「でもまあ、ちゃんと鍵さえかけていれば大丈夫、かな」

あまり安心感を得られないフォローが入り、建物は再び泣き声と風の音で満たされた。

だってムギが一番殺しそうだし
死んでもあんまり他のメンバーがショック受けなさそうだし

泣き声が落ち着いてきた頃、私は思考を巡らせる。紬さんが殺された状況について、だ。
階段のほうから聞こえた大きな音。死体の位置を考えると、あれは紬さんが階段を転げ落ちる音に間違いないだろう。であれば、紬さんはうっかり足を滑らせたか、誰かに突き落とされたことになる。
そして、音がしてドアを開けたら、梓ちゃんが階段前にいた。まさか梓ちゃんが犯人なのだろうか。いやそんなまさか、私はなんてことを考えてるんだ。

憂「あの、みなさん聞いてください――」

誰かに否定してもらいたい一心で、私は先の思考を話した。だが。

和「もしそうなら、犯人が一人で部屋に篭ってるわけだから安心できるわね」

和さんは梓ちゃんとの関係が一番薄いせいか、私が口にできないことをはっきり口にした。

唯「そんな、あずにゃんが、そんなまさか……」

律「なんで梓がムギを……」

真理「音がしてすぐにドアを開けて梓ちゃんしかいなかったなら、田中さんなんてやっぱりいないのかも……」

みんなが私の発言に同意する中、しかし一人だけ異を唱える人がいた。

透「今ここに梓ちゃんがいないわけだけど、梓ちゃんと憂ちゃんが実は逆だったとしたらどうだろう?」

しばらくこの発言の意味を理解することができなかった。そんな様子を察してか、思いもよらない言葉が続けられる。

透「本当は憂ちゃんが紬ちゃんを突き落とし、その音に驚いた梓ちゃんがドアを開けて、階段前の憂ちゃんを発見したのかもしれない」

1. 初恋ばれんたいん スペシャル
2. エーベルージュ
3. センチメンタルグラフティ2
4. Canvas 百合奈・瑠璃子先輩のSS
5. ファーランド サーガ1、2
6. MinDeaD BlooD
SS誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって

憂「な、なんてことを言うんですか!」

そんなわけがないことは私が一番よくわかっている。だが逆に言えば、私しかわかりえないのだ。

律「私がドアを開けたときは、既に梓と憂ちゃんが階段前に揃ってたな。ちなみに、唯が出てきてドアを閉めたところだった」

和「私は律よりあとに出てきたけれど……唯が憂達の次にドアを開けたのよね?」

私は救いを求める目でお姉ちゃんを見た。

唯「そ、そんなこと言われても、私も憂とあずにゃんが揃ってるとこしか見てないから――」

澪「もうやめてくれっ!」

澪さんは立ち上がっていた。その目からは涙が流れ続けている。

澪「みんなが疑い合うなんて、もう嫌だ!……私も部屋に帰る」

律さんも立ち上がり、階段に向かって歩いていく澪さんを呼びとめる。

律「澪、待て!二階には梓がいるし、ここでみんな一緒にいれば――」

澪「こないでくれっ!」

澪さんはそのまま階段を駆け上がっていってしまった。

律「くそっ、なんでだよ……。」

力なく腰を落とした律さんはそれ以上何も言わなかった。

これ何時くらいに終わるの?

澪さんが去ってから、律さんは階段の上をじっと眺めていた。おそらく、梓ちゃんが澪さんの部屋へ行く瞬間を逃すまいとしているのだろう。
他のみんなはといえば、真理さんが入れてくれた紅茶を飲みながら、俯いているばかりだった。いや、時折私に対し視線が送られているのも感じる。犯人だと疑われているのはやはり気分が悪く、透さんに嫌悪感を抱かずにはいられない。
だが、私は同じことを梓ちゃんにしてしまったのだ。それも、本人がいないときに――

唯「和ちゃん、どうしたの?」

お姉ちゃんが驚いたのは、和さんが立ち上がり、階段へ向かったからだ。

和「お手洗いに行くだけよ。それと、眼鏡拭きをとってこようと思って」

律「でも二階には梓が……」

その言葉を聞くと、和さんは律さんの前に立ち、ぱしっ、と平手打ちをした。

真理が階段下でピエロになって悲鳴あげた

この場にいる全員が面をくらったように和さんを見る。

和「あんた部長でしょ?信じてあげなさいよ。私はあの子を信じてる」

憂「で、でも私がさっき梓ちゃんを疑い始めたとき、和さんが最初に賛同したのに……」

和「透さんが言ったことを私も言おうと思ったのよ。そんなこと言ったら憂、あんたも疑われるのよってね」

和さんは続ける。

和「でも憂のことは信じてる。憂だけじゃない、私はみんなを信じてる。じゃないと朝までどう過ごすつもり?それじゃ、行ってくるから」

異議を認めない雰囲気で信じ合うことの大切さを説き、和さんは自室へ行ってしまった。どうして私は梓ちゃんを疑い、みんなが梓ちゃんを疑うようなことを言ってしまったのだろう。

そんな反省をする私の横で、律さんが舌打ちをする。

律「和のやつ、私達を信じてるだって?よく言うぜ」

唯「りっちゃん、どういうこと?信じてもらえてるならいいことなのに」

私と同じ疑問をお姉ちゃんが言う。

律「私達の中に犯人がいないとしたら、犯人は田中ってやつだろ?なら一人でうろつくなんて、怖くてできないはずだ」

それは、確かにそうかもしれない。

律「和の考えは、重複ありで次の三通りだろう。一つ、憂ちゃんが犯人でここにいるから自分は安全。一つ、梓が犯人だが私が階段上を監視してるから安心。そしてあと一つ」

透「和ちゃんが犯人だから当然自分は安全、ってことか」

律「そゆことです」

まーた、分断工作か

>>33
働こうぜ

>>48
文系は一生作者の気持ちでも考えてろよ
実はオレもスクリプトでしたってオチか。笑えるだろ?

透さんだけならまだしも、律さんまでもがついに和さんのことまで疑いだしたのか。和さんが犯人だとしたら、いったいどうやって紬さんを突き落とし、直後自分の部屋から出てきたというのだろう。
もう理屈ではない。ただ、疑心暗鬼に陥っているだけだ。

真理「紅茶、煎れ直してくるわね」

嫌な空気を壊すような提案を、みんな受け入れた。

透「一人で大丈夫かい?」

真理「大丈夫よ、今までだってそうだったでしょ?」

真理さんは意味深な一言を残して奥へ消えていった。

憂「透さん、さっき真理さんが言った『今まで』って、何かあったんですか?」

ちょうど和さんが戻ってきて席についたところで、透さんが答える。

透「いや別に何ってわけじゃないよ、……前にも殺人事件に遭遇したことがあるだけさ。それも、連続殺人――」


キャアァーーーッ


唯「あずにゃん!」

律「澪っ!」

突如二階から響いた誰のものとも知れない悲鳴に、お姉ちゃんと律さんが飛び出した。私も慌ててお姉ちゃんを追い、和さんと透さんもそれに続く。
階段を登ると、お姉ちゃんは右の梓ちゃんの部屋、律さんは左の澪さんの部屋のドアを叩く。
私はお姉ちゃんと一緒に、梓ちゃんの部屋のドアを開け、中へ入る。その直前、律さんが和さんとともに澪さんの部屋へ入るのが見えた。透さんは階段を登ったところで足を止めている。

唯「あずにゃんどこにいるの!?」

憂「梓ちゃん、いるなら出てきてー」

先程の悲鳴は、どちらかと言えば澪さんより梓ちゃんのものに聞こえた。だから心配ではあるものの、もし紬さんを突き落としたのが梓ちゃんだとしたら、悲鳴を聞いた人を手にかけるための罠かもしれない。
……結局私は梓ちゃんを疑っていることに気付き、少し胸が苦しい。

透「二人とも、こっちに来てくれないか」

梓ちゃんの部屋の中を漁る私達に、ドアのところから透さんが呼びかけてきた。

透「澪ちゃんが、死んでるんだ」

聞きたくない報告とともに。

かまいたちで完結したSSみたことないから頑張れ

私達は、遅れて到着した真理さんと合流して、澪さんの部屋に入った。そこにいたのは、入口で立ち尽くす和さんと、ベッドの上に座った梓ちゃん、部屋の中央で泣きじゃくる律さん、そして、部屋の中央から吊り下がった澪さんだった。

唯「あずにゃん……の無事を喜びたいんだけど、どういうこと?」

お姉ちゃんの言葉に梓ちゃんはびくり、と体を竦み上がらせる。

梓「わ、わわ私にも何がなんだか――」

律「とぼけるなっ!」

律さんの怒声に、梓ちゃんの小さな体がさらに小さくなる。

律「澪が首を吊ってる横にお前がいたんだ、何も知らないわけないだろうが!どうせムギを殺したのもお前なんだろ!」

梓「し……知りませんっ!」

梓ちゃんはベッドから飛び降りると、座り込んで反応の遅れた律さんの横を抜け、あっけに取られた私達の間をすり抜け、部屋の外へ飛び出し、追跡されまいとドアを叩き閉めた。

律「逃げるのかっ!……うぅ、澪ぉ」

和「二人きりにしてあげましょう。一旦談話室へ」

和さんの言葉に促され、みんな部屋を出ようとする。が。

律「お前か?」

この発言の真意が汲み取れず、全員の足が止まった。

律「和、お前がトイレに行った直後に梓が悲鳴をあげたんだ。ただの偶然か?」

和「偶然に決まってるじゃない。人を疑うのもいい加減にして」

真理「律ちゃんも和ちゃんも落ち着いて。……あら、これは?」

二人の間に入った真理さんが、机の上の紙を手にとった。何か書かれているらしく、その文面を読み上げる。

犯人は紬
最初に死んでたのは菫












だったら駄作

かまいたち見たことないけど面白い

真理「私がムギを殺しました、死んで償いきれるものではありませんが、これしか思いつきませんでした。家族、友達のみんな、さようなら。秋山澪」

律「嘘だっ!」

律さんが真理さんの手から紙を引ったくる。しかしその紙は、しばし律さんに読まれたあと、二つに破られた。

律「……それみろ、こんな字、澪の筆跡じゃない!みんな、出ていくんならさっさと出てけ!」

透「仕方ない、出ようか。律ちゃんも気をつけて、あと変な気を起こさないように」

私達は澪さんの部屋のドアを閉めると、階段を降りて再び談話室に移動した。

りっちゃん…

>>71
原作内で似てるなんて描写はないし身長もスタイルも全然違うからそれはないだろwww
そして眉g(ry

唯「澪ちゃんとりっちゃんは幼なじみなんです」

談話室に来てから場を支配していた静寂を破り、お姉ちゃんが唐突に語り始めた。二人の間柄を知らない透さんと真理さんに説明しているのだろう。

唯「だから軽音部の中でも特別仲が良くて、私と和ちゃんも幼なじみで、和ちゃんが死んじゃったことを想像したら、うぅ~」

泣きだしてしまったお姉ちゃんを抱き寄せる。透さん達は、いきなりこんな話をされてうまく反応できずにいる。

真理「これ以上悲しい思いをしないために、これ以上被害者を増やさないために、みんな離れ離れにならないようにしましょう」

透「ちょっと待って真理、じゃああの遺書は偽物だってことかい?」

>>75
髪の毛の色も違うしな

おんおんら

菫って誰や

遺書。人生の中で無縁だと思っていた単語が、澪さんの死を意識させる。

真理「なんだかわざと筆跡を崩して書いてるみたいだったわ。澪ちゃんの筆跡は知らないけど、普段からあんな字を書いてる人はいないと思う。」

和「澪の字はわりと綺麗なほうだから、律の言ってたように、澪が書いたものじゃないかもしれない――」

そこまで言って何かに気づいたように言葉に詰まる。私と同じことを思っているのだろう。

透「澪ちゃんは誰かに殺されたんだ。多分、紬ちゃんを殺したのと同じ奴に」

唯「じゃ、じゃあ、あずにゃんとりっちゃんが危ないってこと?」

憂「梓ちゃんはどこに行ったかわかんないけど、とりあえず律さんのとこに行きましょう!」

私が立ち上がると、次いで立ち上がったのはお姉ちゃんだけだった。

透「そう、だね。うん行こう」

言いながら透さんが立ち、真理さん、和さんと続く。私への疑いが晴れていないため、私の言葉で動くのを避けているようだ。
信じてくれるのはお姉ちゃんだけ、私が信じれるのもお姉ちゃんだけだ。

こんこん、と真理さんが澪さんの部屋をノックする。そのままノブに手をかけたが、開きはしないようだ。

真理「律ちゃん、中にいるの?やっぱり律ちゃんも含めてみんな一緒にいたほうがいいと思うの」

透「だからもしよかったら開けてくれないかな」

しばし沈黙があった後、ドアの向こうから声が聞こえてきた。泣きはらしたせいか、少し声が歪んで聞こえる。

律「……悪いんですけど、もう少しだけこのままいさせてください。……そこに和もいますか?」

和「えぇいるわ。どうしたの?」

和さん本人が応える。

律「……さっきはごめん」

和「いいわよ、取り乱しても仕方なかったもの」

どうやら律さんは、澪さんの部屋にいる間にだいぶ落ち着いたようだ。

律「……梓はいないのか?」

唯「あずにゃんはあれからどこ行ったかわかんないままだよ」

律「……悪いけどみんなで手分けして探してきてくれないか?あ、くれませんか?梓にも謝りたいんです」

唯「合点だよりっちゃん隊長!……あずにゃんのことも心配だしね」

確かに梓ちゃんのことは心配だ。だが、梓ちゃんが人二人を殺した犯人の可能性は色濃く残っているのだ。

憂「手分けして、といっても一人では行動しないほうがいいですよね」

透「僕は一人でいいよ。だから、あとの4人で二人組を作ってくれないか」

憂「じゃあ私はお姉ちゃんと組みます」

この提案に、特に異論は出なかった。どうせ私と組みたがるのはお姉ちゃんだけだろうから、あとの三人がどう組もうが関係なかった。

透「真理、マスターキーを渡してくれないか?犯人がいそうな二階の各部屋は僕が受け持つ。唯ちゃん達の部屋にも入るけど……いいかな?」

こんな事態になってまで、部屋の散らかり具合を恥ずかしがるはずもなかった。

真理「一人で大丈夫?」

透「大丈夫、あそこの掃除用具入れからモップをとってきてから捜索開始するさ」

そう言ってマスターキーを受け取ると、透さんは私達の部屋があるのとは逆方向へ廊下を進む。空き部屋からチェックするらしい。
私達女四人もそれぞれの捜索範囲を決め、階段を降り、梓ちゃん捜しを始めた。

田中と田井中って似てるよな

私とお姉ちゃんに割り当てられたのは、受付や食堂、それに隣接する厨房など、ある程度勝手がわかるところだった。あとの二人が管理人室などを担当している。

唯「あずにゃ~ん、かくれんぼはもう終わりにしようよ~」

受付カウンターの下や書類棚の脇など、小さな体が入れそうなスペースは全て確認し、食堂へ移動する。お姉ちゃんは何も気にしていないだろうが、二人合わせて死角ができないように気を配り、咄嗟の事態に備えている。

唯「食いしん坊のあずにゃんは食堂にいるの?それとも厨房?」

どちらにもいないほうがいいのでは、などという思考が浮かび、すぐさま掻き消すように首を振る。私はまだ友達を疑っている、それが心苦しかった。
そして同時に頭に浮かんだのは、梓ちゃんも既に殺されているのでは、という不吉なものだった。

結局食堂にも厨房にも梓ちゃんの姿はなかった。

面白い

憂「どうしよっか、とりあえず真理さん達と合流する?」

唯「そだねー。確か和ちゃん達、ここから奥に行ったよね?」

そうだよ、と返事をしてその廊下を進む。
廊下沿いには管理人室を含む経営陣用の部屋が並び、突き当たって右が外へと続く裏口、左が紅茶を煎れたりする簡単なキッチンになっている。途中の部屋は全て鍵がかかっていたので、私達はキッチンに入ることにした。

唯「和ちゃん達い――いやああぁぁぁっ!」

ドアを開けたお姉ちゃんが私に飛び付く。その拍子に一旦閉まってしまったドアを、もう一度開けなければならないだろうか。お姉ちゃんを恐怖させた根源を、見なくてはいけないだろうか。
私達は固まったまま、しばらく動けずにいた。

透「唯ちゃん!憂ちゃん!」

突然の呼び掛けに心臓が跳ね上がる。透さんが廊下の向こうから走ってやってきていた。お姉ちゃんの悲鳴が聞こえたのだろう。

透「いったい何があったんだい?二人とも無事なようだけど」

唯「あ……あ……ま……」

お姉ちゃんは指をぶるぶると震わせながらキッチンのドアを指差す。そんなお姉ちゃんを一歩下がらせ、モップを強く握り締めた透さんがドアを開けた。

透「――真理?真理っ!」

ドアはそのまま開け放たれ、透さんをキッチンへ招き入れるとともに、私の視界におぞましい光景を見せつけた。

そこには、喉から血を噴き出して倒れる真理さんの姿があった。

きゃああっ――さすがに私も悲鳴をあげてしまった。紬さんのときは事故のようにも見えたし、澪さんは自殺に見えた。だが、今回は違う。明らかな殺意のもとに、人が殺されているのだ。

律「唯っ、憂ちゃんっ、大丈夫か!?」

後方から律さんが走り寄ってきた。私達の悲鳴を聞いて、部屋から出てきたらしい。律さんはキッチンの中の様子――透さんが血濡れの真理さんを抱きかかえている――を確認すると、私達二人の手を取り、逃げるように走りだした。

唯「り、りっちゃん、どう、したの?」

息を切らしながらお姉ちゃんが聞く。私達は既に談話室まで戻ってきた。

律「どうしたって、透さんが真理さんを殺した現場だろ!?あんなとこいたら……」

どうやらあの光景を見て思い過ごしをしているようだ。

憂「違うんです、私とお姉ちゃんがキッチンのドアを開けたら真理さんが倒れてて、透さんはお姉ちゃんの声を聞いてあとから来たんです」

律「そ、そうだったのか……悪いことしちゃったな。あ、そういえば梓は?あと和もだ。真理さんと一緒だったんだろ?」

私とお姉ちゃんは顔を見合わせ、律さんのほうに向き直ってから首を振った。

憂「梓ちゃんは見つかってなくて、和さんの姿も見てな――」

ずる……ずる……ずる……。何かを引きずるような音が、キッチンへ続く廊下から聞こえてくる。お姉ちゃんは涙目で私の左腕ににしがみつき、律さんもその左隣で恐怖を感じた顔をしながら、廊下から現れたその姿を見た。

透「やあ、三人ともお揃いで。ところで、ちょっと聞きたいんだけれど」

言葉と同時に、引きずられていたものが前に差し出される。腕も首もだらりと下がった真理さんだった。
お姉ちゃんが私の腕を掴む力が強くなる。

透「真理を殺したのは君達のうちの誰かかい?和ちゃんかとも思ったけど、キッチン奥の浴室で同じように死んでいたからさ」

左腕に上半身を抱えられて引きずられた真理さんは、足に擦り傷のようなものを負っていたが、今となってはどうでもいいことだった。真理さんを引きずるのとは逆の、透さんの右腕は、握り締めたモップを振り上げ、私の眼前で、振り下ろした。

つづきはよ

ドガァっ、と響いた音は、私の右を掠めたモップがテーブルを砕く音だった。私の左腕がお姉ちゃんに引っ張られ、お姉ちゃんの体は律さんに引っ張られていた。

律「逃げるぞっ!」

律さんに導かれるまま私達は階段を駆け上がり、階段から最も近い私の部屋に入った。恐怖のせいか足元が冷え切ってしまっている。
鍵をかちゃり、とかけ一息つきかけたが、相手はマスターキーを持っていることを思い出した。

憂「バリケード、つくらなきゃ」

私の一言で、三人の力を合わせてテーブルを動かし始めた。早くしないと、気持ちばかりが焦る。そんなときだった。


キャアァーーーッ

>>5
つまんなさすぎ
そうやってすぐ記号化するなよ

>>16,32
なにそれ。てか聞いてねーし。

部屋の外からの悲鳴。

唯「あずにゃんっ!」

テーブル運びの作業を放り出し、お姉ちゃんがドアを開け、外へ出る。私と律さんはテーブルの負荷が急に強まったことに反射的対応がとれず、走りだしたお姉ちゃんを止めることができなかった。

律「あの野郎っ!憂ちゃんはこのままここで待っとけ、いいな!」

危険を省みないお姉ちゃんの行動に腹を立てつつ、自らも同じことをしようとしている。止めなくては。

憂「律さん危ないですよ!」

律「うるさいほっとけるかっ!」

かくして、私は自分の部屋に一人取り残されることになった。

ドアの向こうからがたごとと物音が聞こえる。私は部屋の隅で震えるしかできなかった。これは言うなれば、お姉ちゃんや、梓ちゃん、律さんを見捨てた行為だ。
正体不明の殺人鬼に恐怖しつつ、こんな私のことも殺してくれたら、などと考えてしまう。

ふと気付くと、物音が止んでいた。お姉ちゃんは、みんなは、いったいどうなってしまったのだろう。
震える足をなだめすかし、私はドアのところまで移動し、それを開いた。

外を覗くと真っ先に見える梓ちゃんの部屋のドア。それよりこちら側、階段の正面で、律さんに馬乗りになるお姉ちゃん。その手には、血がべっとりついた包丁が握られていた。

唯「憂……ごめんね。お姉ちゃん、人殺しになっちゃった」

それだけ言うと、お姉ちゃんは包丁の刃先を自分の胸に向け――

憂「お姉ちゃんっ!」

――突き刺した。

なぜ。
なぜだ。
なぜなのか。
なぜお姉ちゃんが死ななければならないのか。
律さんを、みんなを、殺してしまったからなのか。
ならば、なぜみんなを殺してしまったのか。
そもそも、みんなを殺したのは、お姉ちゃんなのだろうか。
私はずっとお姉ちゃんと一緒にいたはずだった。
これからもずっと、一緒にいるはずだった。
お姉ちゃんがみんなを殺したはずがない。
誰かが生き残っていて、そいつこそが犯人だ。

そこまで考え、お姉ちゃんの胸から包丁を受け取ると、生き残りを捜しに歩きだした。

おもしろい

>>33
なんか書き込み内容が進化してないか?

>>84
鬼女だー!

梓ちゃんの部屋を開ける。透さんと、彼に連れてこられた真理さんが、仲良く倒れている。透さんは前頭部と特に背中から大量に出血しており、もはや息はしていなかった。だが念のため、二人とも心臓のあたりを狙って、包丁を刺しておいた。
透さんからマスターキーを預かり、次の部屋へと向かう。

澪さんの部屋へやってきた。ドアを開けると、身を切り裂くような冷気が流れ出る。見ると、窓が開け放たれ、カーテンがばたばたと暴れていた。律さんが開けて出てきたのだろうか。
律さんの仕業らしきことがもう一つ。吊り下がっていたはずの澪さんの体が、ベッドに横たえられていた。こちらも息はしていなかったが、心臓を包丁で突いておく。

部屋を出ると、お姉ちゃんの下になった律さんの生死を確認する。やはり死んでいたが、一応とどめを刺してから階段を降りる。
階段を降りたところには、シーツのかかった紬さんに折り重なるように、梓ちゃんが妙なポーズで倒れていた。どちらも息がないのを確認し、さらにそれを確実にしてからキッチンへ向かう。

キッチンには誰もいなかったが、用があるのはその奥にあるらしい浴室だった。がちゃり、とその戸を開くと、透さんが言っていたとおり、首から多量に出血した和さんの姿があった。
生き残っている犯人候補の最後までもが死んでいたため、その苛立ちから出血箇所を十も二十も増やした。

私はお姉ちゃんのもとへ戻っていた。
お姉ちゃんが犯人であるはずがない、つまりお姉ちゃん以外の生き残りが犯人である。しかし他に生き残りは一人もいなかった。
この矛盾した問いに、私は唯一の答えを見出だした。

憂「お姉ちゃん、すぐ行くからね」

包丁を逆手に持ち、最後の生き残りを突き刺した。


 終 ~そして誰もいなくなった~

つまり自分か…乙

え?そんな…

律「……梓はいないのか?」

唯「あずにゃんはあれからどこ行ったかわかんないままだよ」

律「……悪いけどみんなで手分けして探してきてくれないか?あ、くれませんか?梓にも謝りたいんです」

唯「合点だよりっちゃん隊長!……あずにゃんのことも心配だしね」

確かに梓ちゃんのことは心配だ。だが、梓ちゃんが人二人を殺した犯人の可能性は色濃く残っているのだ。

憂「手分けして、といっても一人では行動しないほうがいいですよね」

透「僕は一人でいいよ。だから、あとの4人で二人組を作ってくれないか」

憂「じゃあ私は真理さんと組みます」

この提案に、特に異論は出なかった。真理さんならシュプールの勝手をよく知っていて、捜索活動も捗るだろう。

もやもやさまぁず

透「真理、マスターキーを渡してくれないか?犯人がいそうな二階の各部屋は僕が受け持つ。唯ちゃん達の部屋にも入るけど……いいかな?」

こんな事態になってまで、部屋の散らかり具合を恥ずかしがるはずもなかった。

真理「一人で大丈夫?」

透「大丈夫、あそこの掃除用具入れからモップをとってきてから捜索開始するさ」

そう言ってマスターキーを受け取ると、透さんは私達の部屋があるのとは逆方向へ廊下を進む。空き部屋からチェックするらしい。
私達女四人もそれぞれの捜索範囲を決め、階段を降り、梓ちゃん捜しを始めた。

私と真理さんに割り当てられたのは、案の定管理人室など、客だけでは勝手がわからない範囲になった。あとの二人が受付や食堂、それに隣接する厨房などを担当している。

真理「私、あっちのキッチンとかバスルームを見てくるから、そこのベッドルームや物置を調べてもらっていい?」

そう言って鍵を渡してくる真理さん。言いなりになってよいものか一瞬悩んだが、結局すんなり受け入れた。

部屋が並ぶ廊下を進む真理さんを尻目に、私は一つ目の部屋に鍵を挿し、ドアを開けた。

憂「梓ちゃーん、いるのー……?」

返事はない。電気をつけ、部屋の中を一通り見る。やはりいない。
私はその部屋を後にし、次の部屋に取り掛かった。

微妙につまらん

こわい

分岐ギター!!

どさっ

二番目の部屋から出てきたとき、キッチンのほうから妙な音が聞こえた。真理さんが何かを落としただけかもしれないとも思ったが、なんだか胸騒ぎがした。
私はキッチンへと足を向けた。

憂「真理さーん、どうかしまし――」

キッチンのドアを開けた私の目に飛び込んできたには、喉から血を噴き出して倒れる真理さんの姿だった。

悲鳴をあげそうになった。紬さんのときは事故のようにも見えたし、澪さんは自殺に見えた。だが、今回は違う。明らかな殺意のもとに、人が殺されているのだ。
それでも悲鳴をあげなかったのは、キッチンに隣接するバスルームで、水を使っているらしき音を聞いたからだ。誰かが――おそらく真理さんを殺した人物が――そこにいる。

面白い

幸か不幸か、ここはキッチンだ。私は自らの身を守るべく、包丁を探した。だが、見つかったのは果物ナイフくらいなもので、包丁はなかなか見つからない。
――不意に気配を感じ、恐る恐る振り向いた。

「探し物はなんですか?」

そこには、澪さんのスキーウェアを着込んだ人物がいた。スキーウェアには、真理さんのものであろう鮮血がところどころに散っていた。

「見つけにくいものですか?」

憂「あ……あ……」

さらには、私の探していた包丁、それを右手に握り締めていた。考えてみれば、真理さんは首を切られていたのだ、包丁は犯人が持っていて当然だった。

「見られたからには、仕方ないかな」

その人物がこちらに近寄る。せめてさっき見つけた果物ナイフを確保していれば、少しは応戦できたかも……いや、腰が抜けてろくに動けないんじゃあ結果は同じだっただろう。それほど、その人の普段からは想像もつかない威圧感を受けていた。

「じゃあ、ばいばい」

右手に握られた包丁は、私の顔へ急速に接近し、顔より少し下、喉へと深く突き刺さった。

お姉ちゃんには手を出さないで――言葉にならず、喉から血がごぼごぼと溢れるだけだった。

それから少しだけ、私の意識はあった。犯人が顔についた血をバスルームで洗い流す様子、そして……。


 終 血まみれのスキーウェア

土田舎さんが犯人

律「……梓はいないのか?」

唯「あずにゃんはあれからどこ行ったかわかんないままだよ」

律「……悪いけどみんなで手分けして探してきてくれないか?あ、くれませんか?梓にも謝りたいんです」

唯「合点だよりっちゃん隊長!……あずにゃんのことも心配だしね」

確かに梓ちゃんのことは心配だ。だが、梓ちゃんが人二人を殺した犯人の可能性は色濃く残っているのだ。

憂「手分けして、といっても一人では行動しないほうがいいですよね」

透「僕は一人でいいよ。だから、あとの4人で二人組を作ってくれないか」

憂「じゃあ私は和さんと組みます」

この提案に、特に異論は出なかった。私のことを信じてくれると言った和さんを、私も信じることにしよう。

いや…おもしろいわ

バットエンド多いなww
そろそろハッピーエンド欲しいわ

透「真理、マスターキーを渡してくれないか?犯人がいそうな二階の各部屋は僕が受け持つ。唯ちゃん達の部屋にも入るけど……いいかな?」

こんな事態になってまで、部屋の散らかり具合を恥ずかしがるはずもなかった。

真理「一人で大丈夫?」

透「大丈夫、あそこの掃除用具入れからモップをとってきてから捜索開始するさ」

そう言ってマスターキーを受け取ると、透さんは私達の部屋があるのとは逆方向へ廊下を進む。空き部屋からチェックするらしい。
私達女四人もそれぞれの捜索範囲を決め、階段を降り、梓ちゃん捜しを始めた。

私と和さんに割り当てられたのは、受付や食堂、それに隣接する厨房など、ある程度勝手がわかるところだった。あとの二人が管理人室などを担当している。

憂「梓ちゃ~ん、かくれんぼはもう終わりにしようよ~」

受付カウンターの下や書類棚の脇など、小さな体が入れそうなスペースは全て確認し、食堂へ移動する。和さんも周りに注意しているらしく、二人合わせて死角ができないように気を配り、咄嗟の事態に備えている。

和「もしかして食堂にいるのかしら?それとも厨房?どちらにしろ随分食いしん坊ね」

どちらにもいないほうがいいのでは、などという思考が浮かび、すぐさま掻き消すように首を振る。私はまだ友達を疑っている、それが心苦しかった。
そして同時に頭に浮かんだのは、梓ちゃんも既に殺されているのでは、という不吉なものだった。

結局食堂にも厨房にも梓ちゃんの姿はなかった。

和「ねぇ、憂」

食堂を出ようとしたところで、突然話しかけられた。

和「あなたはこの事件、どう思う?私達が探す彼女こそが犯人だと思ってるのかしら」

憂「それは……」

思っていないと言えば嘘になる。だが、梓ちゃん犯人説を肯定するほどでもない。
正直に今の気持ちを言うことにしよう。

憂「全く疑ってないわけじゃないですけど、でも梓ちゃんがそんなことするはずがないし、どちらとも言えません」

和「……そう」

和さんはなんとも言いがたい表情で、目線を逸らした。

逆に和さんは、今回の事件についてどう思ってるんだろう。聞いてみることにした。

和「そうね……あの二人を殺すほどの動機を持った人がいるとは思えない」

憂「それってどういう――」

イヤアアァァァッ!

突如響き渡る悲鳴。私にはその声の主がわかった。お姉ちゃんだ。

憂「お姉ちゃんっ!」
和「唯っ!」

私達は食堂を飛び出し、お姉ちゃん達が捜索活動をしているはずの廊下に面した部屋のドアを、片っ端から調べていった。そのどれもに鍵がかかっており、行き着いた従業員用キッチンの入口で、へたり込むお姉ちゃんを見つけた。

透「唯ちゃん!憂ちゃん!和ちゃん!」

突然の呼び掛けに心臓が跳ね上がる。透さんが廊下の向こうから走ってやってきていた。お姉ちゃんの悲鳴が聞こえたのだろう。

透「いったい何があったんだい?三人とも無事なようだけど」

唯「あ……あ……ま……」

お姉ちゃんは指をぶるぶると震わせながらキッチンのドアを指差す。そんなお姉ちゃんを一歩下がらせ、モップを強く握り締めた透さんがドアを開けた。

透「――真理?真理っ!」

ドアはそのまま開け放たれ、透さんをキッチンへ招き入れるとともに、私の視界におぞましい光景を見せつけた。

そこには、喉から血を噴き出して倒れる真理さんの姿があった。

それは論点のすり替えだよダーリン

きゃああっ――さすがに私も悲鳴をあげてしまった。紬さんのときは事故のようにも見えたし、澪さんは自殺に見えた。だが、今回は違う。明らかな殺意のもとに、人が殺されているのだ。


律「唯っ、和っ、憂ちゃんっ、大丈夫か!?」

後方から律さんが走り寄ってきた。私達の悲鳴を聞いて、部屋から出てきたらしい。律さんはキッチンの中の様子――透さんが血濡れの真理さんを抱きかかえている――を確認すると、私達に向かって声をかけた。

律「まだ犯人が近くに潜んでるかもしれない。唯と憂ちゃんはあっちを探してきてくれ、私と和でこっちを探す」

和「ちょ、ちょっと!」

言うが早いか、律さんは和さんの手を引いてキッチンに入って行った。私達にはさっき調べたばかりの食堂や厨房を探せということらしい。まあ、死体から離れられるのは精神衛生上ありがたい。

保守

お姉ちゃんと二人で食堂をざっくり探したが、人の気配はやはりない。続いて厨房に入ったところで、先ほどは気にも留めなかった包丁が目についた。切る食材ごとに包丁を変えているのか、一本だけではない。

憂「護身用に、一応持っとこっか」

包丁を二本手にとり、一本をお姉ちゃんに渡す。お互い包丁を持ったままうろうろする経験など当然ないので、いやに緊張する。

唯「りっちゃん達大丈夫かな……」

憂「キッチンのほうに戻ってみよっか」

結局武器を入手しに来ただけのような形になったが、私達は厨房、食堂をあとにした。

犯人は…

キッチンに向かう廊下に差し掛かったとき、異変に気付いた。ドアの向こうから、血濡れの手が伸びていたのだ。

唯「りっちゃん!和ちゃん!」

お姉ちゃんが駆け出す。慌てて私もついて行く。
お姉ちゃんがドアを全開にすると、倒れていたのは律さんだった。頭から血を流しているが、まだ動いている、生きているのだ。
そしてその向こうで、透さんがモップを振り上げていた。

唯「危ないっ!」

透さんが律さん目掛けてモップを振り下ろす。だがそれより早くお姉ちゃんが透さんへ突進し、透さんともども倒れ込む。

唯「あ……あ……」

お姉ちゃんが起き上がり、呆然とした顔で一点を見つめる。その目線を追うと、透さんの胸から包丁の柄が生えていた。

しえしえ

唯「わ、私……人をこ、殺しちゃった……。っ!」

お姉ちゃんは急に険しく表情を変え、透さんの胸から包丁を引き抜く。傷口からはごぼっという音とともに血が溢れ出た。

唯「憂……ごめんね。お姉ちゃん、人殺しになっちゃった」

それだけ言うと、お姉ちゃんは包丁の刃先を自分の胸に向け――

憂「お姉ちゃんっ!」
律「や……め……」

――突き刺した。

なんという既知感

嘘だ。
お姉ちゃんが、死んでしまった。
嘘だ。嘘だ。嘘だ嘘だうそだウソダ――

律「あの……馬鹿……」

律さんの声で正気に戻る。そうだ和さんは――そう思って部屋の中を眺めると、部屋の隅で、血にまみれて横たわっていた。

憂「律さん、何があったんですか」

律「透さんが……真理さんを殺したのはお前かって……襲ってきて……」

憂「和さんは透さんに殺されたってことですか」

律「和は……私の盾に……いや、私、が…」

憂「……律さん?」

それ以上、律さんが言葉を発することはなかった。

後ろで微かに物音がした。とっさに振り向くと、そこにいたのはスキーのストックを持った梓ちゃんだった。

憂「大変だよ……みんな、みんな死んじゃって……うぅ」

涙がこぼれた。律さんまでもが死んだとき、私はこの建物に一人になったのではと思ったが、まだ梓ちゃんが生きていてくれたのだ。

梓「この……」

梓ちゃんが口を開く。反射的に顔を上げる。

梓「人殺し!」

ストックが私の喉に突き刺さる。

梓「どうして!こんな凄惨な事件になるはずじゃなかったはずなのに!」

梓ちゃんは泣いていた。その涙と発言の意図を掴むには、私には時間がなさ過ぎた。


 終 ~梓にストックで~

しえ

律「さっき部屋に帰ったら、入ってすぐのとこにこんな紙が落ちてたんだ」

そう言って差し出された紙には、赤い筆ペンのようなもので、こう書かれていた。


コワイ オモイヲ サセヨウ
アイテハ ダレデモ イイ
シンデ シマッテモ イイ
ナグルモ ケルモ サスモ ジユウ
アラタナ イケニエニ カンパイ


私とお姉ちゃんは同時に読み終わると、揃って律さんを見た。

律「こんなイタズラしたのは唯か?憂ちゃんじゃなさそうだし」

唯「ふぇっ?知らないよこんなの」

もちろん私も知らない。だが、どういうことかはわかった。

ダレてきたな・・・
もういいや

梓「私の感想としては、澪先輩を怖がらせるために律さんがしたものだと」

律「だったら澪の部屋に直接置くさ。ま、結局私がここで澪に披露してるんだから、疑いは晴れないだろうけど」

確かに一番ありえそうな展開ではある。しかし律さんは本当に何も知らなそうなので、この紙を仕掛けた人物は一人に特定される。

和「ところで、ムギはほんとにここに来てるのよね?私はまだ姿を見てないのに、そんなもの見せられたら……」

憂「心配いりません。紬さんはきっと無事です」

みんなの視線が一気に集まる。数秒沈黙の後、和さんが口を開いた。

和「どういうことなの?この紙を誰が置いたかわかるの?」

飽きてきた

終ばかりじゃなく完も見たいです

しえん

律「まさか、意外にも憂ちゃんが?」

憂「私はそんなことしませんよ。それより律さん」

私に言葉を返され、律さんの体が一瞬強張る。

律「な、なんだよ、私じゃないって言ってるだろ」

憂「その点は信じてますよ。ただ、携帯を見せてもらっていいですか?待受画面だけでいいので」

律「なんでそんなことしなきゃいけないのさ。携帯圏外だから部屋に置きっぱなんだけど」

この発言により、私の思考が間違っていないことが確認された。

梓「憂、さっきからどうしたの?ムギ先輩はほんとに無事なの?」

いや、俺は読んでるぞ

かまいたちの夜は知らないけど面白いな

メールがきた…圏外…

今北

私は梓ちゃんの言葉を聞かず、話を続けることにする。この注目を浴びる感じが、なんとも気持ちいいので長引かせたいのだ。

憂「圏外なのは私の携帯だけじゃないんですね。でも、律さんさっき言いましたよね?――紬さんからメールで連絡がきた、って」

律「あっ……!」

律さんがしまった、といった顔を一瞬見せた。

憂「圏外なのにメールで連絡をとれるはずがありません。では、どうやって連絡をとったのか。そして、何故嘘をついたのか」

律「あのぉー憂しゃん。そりゃ確かに私はムギとグルになって澪を驚かそうとしたけど、あの紙は全く……」

憂「あぁもうそれも私が言いたかったのに!」

全てわかってますよ感を出したかったのに、途中で自白が入ると複雑な気分になる。

憂「そうです、律さんは紬さんと一緒に澪さんを驚かす計画を立てていたのです」

微妙になってきた

澪「おい、律ぅ?」

律「ご、ごめんって」

外野の声は気にしない。

憂「その計画ではおそらく、律さんが姿をくらまし、紬さんが不安を煽るという形だったんでしょう。そして、姿を隠している間も連絡を取るために、トランシーバーか何かを用意していた。」

律「おっしゃるとおり」

唯「でもりっちゃんはここにいるよ?」

お姉ちゃんの合いの手はばっちりだ。

憂「そう、この計画は紬さんによって変更されたんです。紬さん自身が身を隠し、律さんまでをも不安がらせるというように」

みんな納得したようなしてないような顔をしている。またもや和さんが口を開く。

和「確かにその可能性もあるけれど、もし違ったらムギが危ないんじゃない?」

透「そうだね、どっちにしろみんなで捜したほうが……」

憂「ですから、その必要はありません」

和「憂、あんたね……」

和さんが呆れたような目をしている。しかし私が次に発した言葉により、その目は色を変えるはずだ。

憂「紬さんの居場所は、その手紙に書いてあるんです。暗号として」

唯「あんごー?」

しえ

なるほど
原作香山さんの死亡スポットか

憂「そう。みなさん、その紙の二文字目を、縦に読んでみてください」

私の言葉に、律さんが持つ紙をみんなが覗き込んだ。


コワイ
アイテハ
シンデ
ナグルモ
アラタナ


透「ワ・イ・ン・グ・ラ、――ワイン蔵か!」

憂「そうです。透さん、このペンションにあるワイン蔵へ案内してください」

透「あ、あぁ。そこの地下室に続く階段からいけるよ。けど、鍵がかかってるはずだ」

ムギはこんな悪趣味なことはしない

ムギちゃんしなんといて

憂「鍵がかかってるから入れない。それは、ここが見知らぬペンションならそうかもしれませんね」

真理「もしかして紬ちゃん……」

真理さんは気付いたようだ。他にも何人かがはっとした表情を浮かべている。

憂「ここは琴吹グループのペンションです。ならば、紬さんは地下室へ向かう鍵を、管理人室から、あるいは事前に合い鍵を、手に入れることはできるはずです」

「ご名答よ」

談話室の集まりの外から聞こえた。声のしたほうを向くと、おそらく地下室へ続くのであろうドアから、紬さんが姿を現していた。

紬「一応トランシーバーを取りに戻ろうとしたら、憂ちゃんが推理を展開してたもんだからドアの向こうで聞いてたの。さすが憂ちゃんの洞察力はすごいわね」

律「ムギ、心配させるようなことするなよー」

律さんがほっとした様子で声をかけた。

紬「あら、最初に澪ちゃんに心配させようとしたのは誰だったかしら?」

律「そりゃまぁ、その、悪かったけど」

澪「全く……ま、ムギが無事でなによりだ」

これにて一件落着、というやつだ。ただ、せっかく考えたイタズラ計画を、勝手な判断で無駄にしてしまったのは申し訳ない気もする。
その点を一応謝ろうかと思い紬さんのほうを見ると、逆にあちらが口を開いた。

臭い死ね

これは完?

紬「それにしても憂ちゃんすごいわ。まるで探偵さんみたい」

私が、探偵……?

律「確かにな。私がメール云々言ったのが嘘だって気付けるあたり、してやられた感じだ」

澪「暗号をさらっと読み取っちゃうあたりもすごいよ、私は紙を見るのも嫌だったのに」

梓「澪先輩は怖がりですからね。でも私だって多少怖かったのに、憂は落ち着いてた」

和「ムギの計画は狂ったみたいだけど、いいもの見せてもらったわ」

真理「そうね、透なんかよりよっぽど頭が冴えてるんじゃない?」

透「そこで僕を引き合いに出さないでよ。でも、そうかもしれない」

みんなが口々に私を褒める。なんだか、本当に探偵としての素質がある気すらしてきてしまう。
だが、肝心のお姉ちゃんがまだ何も言ってくれてないのが気になった。

憂「あの、お、お姉ちゃんはどう思う……かな?」

お姉ちゃんははっとした様子で、目を輝かせてこう言った。

唯「すごいよ憂!憂にこんな才能があるなんて知らなかった!ねぇ、帰ったら私を助手として雇ってください!」

じょ、助手!?

紬「憂ちゃんが探偵事務所を開設するのなら、私も資金援助させてもらうわ」

ハッピー終か

私が、お姉ちゃんを助手にして、探偵になる……。
なんとも楽しそうな話じゃないか!

憂「やってやるです!」

梓「よく言った憂、やっちまえー」


それからシュプールの中は、私の開業決心を祝う宴会場となり、朝まで飲めや歌えやの騒ぎとなった。
シュプールから帰ったら、私の新しい人生が始まる。それはまた、別のお話…………。


 完 ~大団円~

その探偵役をやりたがってるムギがSSだとこんな役ばかりな理不尽

んっ?

透さんの言葉に従い、部屋の中を隅々まで調べてみたが、ムギ先輩の姿はなかった。そもそも鍵をかけていたのだから当たり前だとも思いつつ、外に出ようとしたときだった。

ガダッガダゴダガダッゴトガタバンッ

部屋の外、階段の方向から聞こえた音に、心臓が飛び出る思いがした。私は慌ててドアを開け、外へ出た。

梓「あっ、み……」

澪先輩が部屋に入るのが一瞬見えた。今の物音で私のように出てくるのならわかるが、逆に入っていったのが気になり、澪さんの部屋へ歩み寄る。
その途中で階段の下に目をやった瞬間、体が固まってしまった。みんなで捜したムギ先輩が、手足を妙な方向に曲げたまま、ぴくりとも動かずそこにいたのだ。

犯人は?

フム。で、殺人事件の犯人は?

>>133
やっと人間か、マジでこいつらキモいよな

憂「ひっ……」

気付かないうちに、憂が隣で同じように階段下を覗き込んでいた。
その後、唯先輩や律先輩、和さんも部屋から現れ、私達の異変の原因に目をやり、同じように凍り付いた。階段下の向こうで、真理さんも同じである様子が見える。

律「み……澪っ!澪は大丈夫か!」

突然叫びだした律先輩は、後方の澪先輩の部屋のドアを叩き、ノブを握った。ノブはあっさりと回り、勢いよく開けられたドアから、律先輩は駆け足で部屋に飛び込んだ。

律「澪、大丈夫なんだな。部屋の外に出れるか?大きな音がしてびっくりしたよな。ちょっと外には見るのが辛いものがあるけど、みんなと一緒にいよう。な?」

独り言のように律先輩の声ばかりが聞こえたあと、律先輩の肩を借りるようにして、澪先輩が泣きながら部屋から出てきた。その顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。
大きな音がしただけであんなに泣くだろうか。音の原因が、ムギ先輩の転落する音だと知っていたんじゃないだろうか。

しえ

>>140
伸びないかなぁ

透「なんてことだ……」

真理さんの後ろに透さんが現れていた。透さんはそのままムギ先輩に近付くと、その手首を取り、指を当て、……首を振った。

唯「そんなの嘘だよっ!」

今度は唯先輩が叫ぶ。

唯「ムギちゃんが死んじゃうわけないじゃん!透さん早く救急車呼んでよっ!」

言いながらムギ先輩のもとへ駆け降りていく。そして透さんが掴んでいるのと逆の手を両手で包むと、静かに泣きだした。

唯「ムギちゃんが死ぬわけないじゃんかぁ……」

憂が唯先輩のもとへと階段を降り始めると、それに続いて和さんも、律先輩と澪先輩も降りていく。なんとなく澪先輩の前を歩きたくなかった私は、最後に降りていった。

透さんは道を空けるように立ち上がり、受付カウンターのほうへ歩いていく。電話をかけるのだろう。

律「澪、あんまり見ないほうがいい、そこのソファーに座っとこう」

澪先輩は談話室のソファーに導かれ、和さんもそれに続く。憂は唯先輩の肩を抱き、ソファーへ連れていった。私は澪先輩と距離を保っていたくて、真理さんと一緒に階段脇に立っている。

透「もしもし、警察ですか――」

透さんが電話している声が聞こえた。救急車ではなく警察を呼んでいるらしい。

真理「シーツ、取ってくるわね。このままじゃかわいそうだから。」

そう言って奥へ消えていく真理さん。透さん共々なんだか落ち着いているようにも見える。

唯先輩と澪先輩が啜り泣く音と、外の強風が吹きすさぶ音が建物を支配した。

支援

透「だめだった」

真理さんが持ってきたシーツをムギ先輩にかけているその横に立ち、透さんが言う。

透「吹雪で電話線が切れたみたいだ。うんともすんとも言わない」

電話をかける声がぱったりと聞こえなくなったのはそういうことだったのか。
透さんは続けて妙なことを言い出す。

透「ねぇ真理、昨日泊まった男の人はほんとに帰ったんだよね?」

真理「田中さんのこと?チェックアウトの手続きしたのは透じゃない」

透「そうなんだけど、そのとき荷物を持ってなくて、手続きしてから荷物まとめて帰りますとか言ってたからさ」

真理「田中さんの部屋の清掃はちゃんとしたわよ。そりゃあ確かに、帰るところは見てないけれど」

律「ちょ、ちょっと待って」

二人の会話に律先輩が割って入る。

律「その口ぶりだと透さん、その田中って人が実はまだここにいて、私の部屋に手紙を残したり、ムギを……殺したって言うんですか?」

透さんは冷静に返事する。

透「そんな可能性もあるなと思っただけさ。ちょうど律ちゃんの部屋に泊まってたのが田中さんだし」

律「嫌だ聞きたくない!勘弁してください!」

律先輩は目を力一杯つぶり、澪先輩と体を寄せ合いながらぶるぶると震えている。あの手紙は本当に律先輩の仕業ではないようだ。強がってはいたが、相当怖かっただろう。

唯「ね、ねぇ、携帯で警察に電話したらいいんじゃない?」

せっかくの唯先輩の提案だが、採用されることはない。

透「残念だけど、ここは圏外なんだ。だから外と連絡をとるには、吹雪がやんでから車を出すしかない」

雪はスキーをやめる頃に激しくなり始めていたが、窓からちらりと外を見ると、風の轟音にも納得できる勢いで舞い狂っていた。

透「でも、もし不審者がいたとしても、このままみんなで一緒にいたら手出しはできないさ。だからそんな悲観的にならずに――」

梓「悲観的になるな?無茶言わないでください!」

思わず声を荒げてしまう。

梓「人が一人死んでるんですよ!?しかも、大好きな先輩が……」

大好きな澪先輩が、ムギ先輩を突き落としたのかもしれないのだ。

梓「いいです、私は部屋に篭ります」

少し冷静になって考えてみたかった。

真理「え、ちょ、ちょっと!」

唯「あずにゃん、危ないよー」

真理さんや唯先輩の静止も聞かず、私は階段を登った。

階段を登った私は、自分の部屋には戻らず、澪先輩の部屋の前にいた。真実を確かめるべく、二人きりで話をするためだ。
だが、いつ澪先輩が部屋に戻ってくるかもわからないし、そもそも一人で戻ってくることはないんじゃないか。そんなことを考えていると、階下から話し声が聞こえてきた。

憂「あの、みなさん聞いてください――」

憂の声だった。

憂「階段のほうから聞こえた大きな音は死体の位置からしても、紬さんが階段を転げ落ちた音だと思うんです。だったら、紬さんはうっかり足を滑らせたか、誰かに突き落とされたことになりますよね」

まさか憂は、澪先輩がムギ先輩を突き落としたと、みんなの前で言うつもりなのだろうか。止めに入るべきか悩んでいると、信じられない言葉が続いた。

憂「音がしてわりとすぐにドアを開けたら、梓ちゃんが階段前にいたんです。だから梓ちゃんが……なんて思っちゃったんですけど、ま、まさかそんなわけないですよね」

憂は、何を言っているのだろう。私が犯人……?

和「もしそうなら、犯人が一人で部屋に篭ってるわけだから安心できるわね」

和さんまでもが同意してしまった。そして同意の輪は広がっていく。

唯「そんな、あずにゃんが、そんなまさか……」

律「なんで梓がムギを……」

真理「音がしてすぐにドアを開けて梓ちゃんしかいなかったなら、田中さんなんてやっぱりいないのかも……」

みんなが憂の発言に同意する中、しかし一人だけ異を唱える人がいた。

透「今ここに梓ちゃんがいないわけだけど、梓ちゃんと憂ちゃんが実は逆だったとしたらどうだろう?」

しばらくこの発言の意味を理解することができなかった。そんな様子が下でも繰り広げられたのか、透さんが言葉が続ける。

透「本当は憂ちゃんが紬ちゃんを突き落とし、その音に驚いた梓ちゃんがドアを開けて、階段前の憂ちゃんを発見したのかもしれない」

憂「な、なんてことを言うんですか!」

そんなわけがないことは私が一番よくわかっている。だが逆に言えば、私しかわかりえないのだ。

律「私がドアを開けたときは、既に梓と憂ちゃんが階段前に揃ってたな。ちなみに、唯が出てきてドアを閉めたところだった」

和「私は律よりあとに出てきたけれど……唯が憂達の次にドアを開けたのよね?」

唯「そ、そんなこと言われても、私も憂とあずにゃんが揃ってるとこしか見てないから――」

澪「もうやめてくれっ!」

澪先輩が叫ぶ。

澪「みんなが疑い合うなんて、もう嫌だ!……私も部屋に帰る」

律「澪、待て!二階には梓がいるし、ここでみんな一緒にいれば――」

澪「こないでくれっ!」

澪先輩はそのまま階段を駆け上がってきた。

澪「え……梓?」

梓「澪先輩、部屋で少しお話しませんか?」

私の提案に、澪先輩はおどおどしながらもドアを開け、自分の部屋に招き入れてくれた。私に容疑がかかってしまった以上、もし真犯人が澪先輩であれば、本人の口からそうであることを言ってほしい。

澪「梓、お茶でも飲むか?」

梓「わざわざありがとうございます、いただきますね」

部屋に入るなり澪先輩が煎れてくれた(備え付けのティーバッグだが)お茶を受け取り、ベッドに腰かけてからふーふーと冷まして飲みながら話し始める。

梓「あの、澪先輩……ムギ先輩が落ちた音がしたあと、普通なら部屋から飛び出すと思うんですが、どうして部屋に入っていったんですか?」

澪先輩は、手を震わせながらお茶を飲み、目線を合わせずに答えた。

澪「やっぱり見られてたんだな……。梓は、なんでだと思う?」

あずにゃん……

梓「それは……澪先輩が、ムギ先輩を突き落として逃げたんだと思いました」

迷った末、正直に答えた。
澪先輩はその答えを想像していた様子で続ける。

澪「そうだよな。その考えは……合ってるんだ」

ティーカップに落としていた目線を上げ、澪先輩を見る。まさか、本当に……?

澪「ただ、信じてもらえないかもしれないけど、ムギに対する明確な殺意があったわけじゃないんだ」

私はお茶を飲んで頷き、話を促す。

澪「あの紙を見て正体不明の人物に恐怖するあまり、部屋の前で後ろから階段を登る人の気配を感じたとき、その姿も確認せずに突き飛ばしてしまったんだ」

>>31
≪高難度≫G★2水滸猟

私はその光景を想像した。怖がりの澪先輩が、ドアの前に立ち後方の気配に身を震わす様子。目を固く閉じたまま、振り向きざまに手を伸ばしてムギ先輩を突き飛ばす様子。
そこまではうまく想像できたのだが、部屋に入る様子がうまく想像できない。いやそれだけではない、今目の前にいる澪先輩の顔もよく視認できず、あ……意識が……。

澪「私より睡眠薬は効きやすいみたいだな……いや、私が常用してるから耐性ついただけ、かな。」

薄れていく意識の中、澪さんの声が頭に響く。

澪「ごめんな梓、お前が疑われるようになっちゃって。ちゃんと自白の手紙は遺すから許してくれ。……はは、手が震えてうまく書けな――」

私は、その後の澪先輩の行動を止める術を持たなかった。

ふむ

――頭が重い。目を覚ました最初の感想だった。澪先輩の言葉からして、睡眠薬を飲まされたらしい。
そうだ澪先輩は、と思って顔をあげた途端、恐怖で顔が引き攣った。

キャアァーーーッ

反射的に叫ぶ。澪先輩が、部屋の中央で首を吊っているのだ。下ろしてあげようと思うが、体がすくんで動かない。
外からは、どたばたと複数人が階段を登る音が聞こえる。そしてドアが、ノックもなく開かれた。

律「澪っ!大丈……夫、か……?」

勢いよく律先輩が入ってきた、かと思うと澪先輩を見た瞬間その勢いは消え去り、虚ろな足取りで澪先輩のもとへ近寄る。そしてそのまま、泣き崩れた。
あとから和さんと透さんも現れ、透さんは一旦部屋を出ると唯先輩や憂、そして真理さんを連れて戻ってきた。

唯「あずにゃん……の無事を喜びたいんだけど、どういうこと?」

唯先輩の言葉に思わずびくり、と体を竦み上がらせる。

梓「わ、わわ私にも何がなんだか――」

律「とぼけるなっ!」

律先輩の怒声に、余計縮こまってしまう。

律「澪が首を吊ってる横にお前がいたんだ、何も知らないわけないだろうが!どうせムギを殺したのもお前なんだろ!」

梓「し……知りませんっ!」

一刻も早くこの場から逃げたかった。ベッドから飛び降りると、座り込んで反応の遅れた律先輩の横を抜け、あっけに取られている唯先輩達の間をすり抜け、部屋の外へ飛び出し、追跡されまいとドアを叩き閉めた。

あずにゃん娘姫路城…

>>162
はいはい、よかったですね

その場に立ち尽くしたまま、先の行動を振り返って反省をする。あれでは完全に犯人ではないか。さっきは頭がぼーっとしていたが、今なら澪先輩が遺書を書いていることも思い出している。それを見つけてみんなに説明すれば解決ではないか。

律「嘘だっ!」

律先輩の怒声が響く。いったい何が嘘なんだろう。

律「……それみろ、こんな字、澪の筆跡じゃない!みんな、出ていくんならさっさと出てけ!」

唖然とした。律先輩は、澪先輩の直筆を判断することができていないのだ。何故か。きっと澪先輩の手が震え過ぎて、普段の筆跡と掛け離れてしまったのだろう。それに加え、律先輩が冷静な判断力を欠いているせいもある。

透「仕方ない、出ようか。律ちゃんも気をつけて、あと変な気を起こさないように」

この言葉を聞き、私は逃げるように自分の部屋へ戻った。今、みんなの中では、私が二人ともを殺したことになっているのだ。

一人部屋の中で座り込む。これからいったいどうすればいいのだろう。正直に真相を話したところで、信じてもらえるとは思いがたい。
そんなことを考えていると、がらがら、と窓の開かれる音がした。驚いて窓のほうを見たが、どうやらこの部屋からした音ではないらしい。
隣の澪先輩の部屋で、律先輩が窓を開けたのだろうか。吹雪の中で何故、という思いで外を覗くと、雪の上にどさり、とスキーウェアが落とされた。

梓「あれって……」

見覚えがあるそれは、澪先輩のものだった。澪先輩のスキーウェアはむくりと起き上がると、裏口のほうへ歩いていく。中に入っているのは律先輩に見えた。

こんこん、ノックの音が聞こえる。しかしそれもこの部屋ではなく、隣の澪先輩の部屋のようだ。

りっちゃん……

真理「――ちゃん、――いるの?――」

律先輩が部屋にいないことへの反応が気になり、壁に耳を当てて会話を聞くことにする。

透「だからもしよかったら開けてくれないかな」

しばしの沈黙。

律「……悪いんですけど、もう少しだけこのままいさせてください」

何故か律先輩の声が聞こえた。だがおかしい、妙に声が歪んでいるのだ。まるで、トランシーバーか何かを通したように。
VOXタイプという、音声を認識してONになるトランシーバーがあると聞いたことがある。

律「……そこに和もいますか?」

和「えぇいるわ。どうしたの?」

ドアの向こうにいるみんなは、まさか律先輩が部屋にいないとは知らないせいか、歪んだ声を気にも止めず会話する。

律「……さっきはごめん」

和「いいわよ、取り乱しても仕方なかったもの」

律先輩は、怖いほどに落ち着いている。私には、何かを決意したようにも聞こえた。

律「……梓はいないのか?」

唯「あずにゃんはあれからどこ行ったかわかんないままだよ」

律「……悪いけどみんなで手分けして探してきてくれないか?あ、くれませんか?梓にも謝りたいんです」

謝ってもらえるなら嬉しい。が、この落ち着き払った様子がどうにも不安を煽る。私はもう少し部屋に篭ることに決めた。

唯「合点だよりっちゃん隊長!……あずにゃんのことも心配だしね」

憂「手分けして、といっても一人では行動しないほうがいいですよね」

透「僕は一人でいいよ。だから、唯ちゃんと憂ちゃん、真理と和ちゃんの組み合わせで動こうか」

憂「わかりました」

ふええ……

透「真理、マスターキーを渡してくれないか?犯人がいそうな二階の各部屋は僕が受け持つ。唯ちゃん達の部屋にも入るけど……いいかな?」

真理「一人で大丈夫?」

透「大丈夫、あそこの掃除用具入れからモップをとってきてから捜索開始するさ」

ぱたぱたと廊下を歩く音がする。透さんが掃除用具入れへ向かったらしい。続いてどたばたと階段をみんなが降りる音がした。
さっき窓の外から見たのが律さんだとしたら、一階で鉢合わせるんじゃないだろうか。

こんこん、私の部屋がノックされる。返事をせずにいるとがちゃがちゃと鍵の差し込まれる音がして、ドアが開けられた。

透「梓……ちゃん……?」

透さんが無意識のうちにモップを構えたのがわかってしまう。やはり、犯人だと思われているのだ。

梓「信じてもらえるかわかりませんが、少し話を聞いてもらえますか?」

迷うそぶりを見せたあと、モップを下ろしながら透さんが答える。

透「わかった、聞くよ」

私は、澪先輩がしてくれた話を透さんにした。

透「君の言うとおりだとすると、澪ちゃんの死は本当に自殺だったのか」

梓「そうです。犯人扱いされてる私の言うことを、どこまで信じてもらえてるかわかりませんが」

透「充分ありえる話だと思って聞いてるよ」

この言い方からすると、まだあくまで一つの仮説程度にしか信用されていないらしい。

梓「その程度でもいいです。あとそれから、私が澪先輩の部屋を出てここに戻ってからなんですが――」


イヤアァァァッ

突如響いた悲鳴。私には唯先輩の声に聞こえた。

透「ごめん続きはあとで!見に行ってくる!」

梓「あっ、なら私も……」

透さんは私を置いて行ってしまった。多分、私以外にも疑ってる人がいて、その人が事件を起こしたと思って焦っているのだろう。
考えてみれば、最初の妙な紙については、私も何の説明もつけれていない。あの紙を書いたのが誰で、何が目的なのか、透さんが戻るまで考えることにした。


キャアァーーッ!


再び聞こえた悲鳴。今度は憂のような気がする。私はこのままじっとしていていいのだろうか。
この問いの答えより、先の紙についての答えを探すことに決めた。

あの紙がムギ先輩のイタズラだったのだと確信したとき、部屋のドアが開けられた。透さんだ。

梓「どうでし……っ!きっ、キャアァーーーッ」

私が叫んだのは、透さんの抱える真理さんが、喉から血を流しているからだけではない。その透さんが、不気味な笑みを携えているせいもあった。

透「どうしたんだい?真理を殺したのは君なのかい?」

そんなわけはない、私はずっとここにいたのだ。だが、今の透さんは、どう見ても話が通じるようには見えない。

唯「あずにゃんっ!」

唯先輩は、部屋に入ってくるなり透さんに睨まれ、少し怖じけづく。しかしそれは一瞬で、再び気合いを入れて言う。

唯「あずにゃんに手を出さないで!」

もしかして、唯先輩は私のことを疑っていないのだろうか。そう思うと、こんな状況なのに少し安堵してしまう。

透「やっぱり唯ちゃんかい?なら、死んで償ってほしいんだけど」

透さんが振り下ろしたモップを、唯先輩はなんとか避ける。真理さんを抱えているせいでふらつく透さんの隙を見て、唯先輩は洗面所のコップを投げつけた。コップは透さんの額に命中し、破片で切れたのか、血が流れだした。

透の分際で…

律「唯っ!大丈夫かっ!」

次は律先輩が現れた。律先輩は部屋の奥に私の姿を見ると、唯先輩と透さんをすり抜けてきて、私の手を取り走り出した。こんなとこにいたら危ない、ということだろうか。

部屋を出ると、律先輩が呟いた。

律「疑わしきは、罰せよ」

なんのことかわからず律先輩を見ようとしたとき、私は腹部が熱くなるのを感じた。見ると、私のお腹から、包丁の柄が生えていた。

梓「律……先輩……?」

律「澪を殺した犯人は、私が必ず殺すって決めたんだ。人違いがあったとしても、な」

包丁が抜かれたと思えば、私の体は宙に浮いていた。階段のほうへ突き飛ばされていたのだ。
体のあちこちを打ち付ける。もはやどこが痛いのか、わからなかった。

律「安心しろ、唯は私が助ける」

階段下で、ムギ先輩の上に被さった。もう、動くこともできない。

数分経ったであろうとき、私の耳に、最期の言葉が届いた。

唯「大切な人への復讐が許されるなら、私もしていいよね、りっちゃん?」


 終 ~大切な人のため~

以上で本編は終わりです

あとはサブシナリオをつらつらと

よくできてるね

カマい達の夜に期待

憂「だめだよ憂ぃ、こんなところでぇ」

憂「何言ってるのお姉ちゃん、奴の目を欺くためにカップルのふりしなきゃいけないんだから」

憂「そ、そりゃ尾行中は自然に振る舞わなきゃいけないけど」

憂「だからお姉ちゃん、目を閉じて……」

憂「う、うん。優しくしてね……」

憂「お姉ちゃん……」

唯「うーいー、たっだいまー!」

慌ててヘアピンを外して後ろ髪を結う。

憂「お、おかえりお姉ちゃん!」

どうやら気付かれずに済んだようだ。

4ヶ月前、シュプールで紬さんの産み出した謎を解いた私は、みんなの勧めるがままに探偵事務所を開いた。現役美少女女子高生が探偵をやっているということでテレビで取り上げられたりもし、依頼者はわりと来たほうだと自負している。だが――

唯「あのさー憂、自分で自分を美少女って言うのはどうなのかな。あ、いやもちろん憂がかわいいのは間違いじゃないんだけど」

憂「もうっ、私の心の声を読まないでよ。カギカッコに囲まれてないイコール発声していないなんだから、お姉ちゃんにはわからないはずなの!」

唯「あはは、ごめんごめん」

ここで少し思考を巡らす。もしお姉ちゃんが私の心を読めるなら、冒頭の一人芝居もお姉ちゃんにはばれているのだろうか。いやそんなまさか――

唯「私は何も聞いてないし知らないから安心していいよ」

なるほど、なら安心だ。これ以上は気にしないようにしよう。

唯「ところで憂、またお客さんが来てるんだけど……」

そうだ話が逸れてしまったが、依頼者はこうやって来るものの、未だに一件も解決したことがないのだ。……この言い方は誤解を招くので言い直すと、一件もまともに取り合ったことがないのだ。

憂「どんな依頼?おもしろそう?」

唯「んーとね、彼女が浮気してるんじゃないかってことでその調査を……」

憂「却下。つまらなさそう」

私のもとに来る依頼は、こういった浮気調査や、迷子犬探しなどばかりなのだ。私は、もっと深い謎を、スリル満点の中で、解決したいのだ。

唯「シュプールでも特にスリルなんてなかったけどね」

もう突っ込まないよ、お姉ちゃん。

唯「というか依頼を最後まで聞いてよ、まだ全然本題じゃないんだから。不謹慎だけど、スリリングでサスペンスなミステリアスな事件の匂いもするよ」

憂「そこまで言うなら……続きを話して」

唯「えとね、依頼者さんが浮気調査を自分でしようとしたらしいの。その過程であるとき彼女の家を訪れると、鍵が空いてたんだって」

それで浮気の現場に出くわした、とでも言うのだろうか。

唯「そうじゃなくて、彼女の姿がなかったんだって。不思議に思いながらも、また鍵開けっぱで留守にするのは悪いから帰りを待ってたら、いつの間にか家が火事になってたんだって!」

火事?誰もいないはずの家から?

唯「ミステリアスな雰囲気でてきた?あとは依頼者さん本人から聞いてね」

憂「わかったよ、遅くなっちゃったけど通してあげて」

唯「は~い」

良い返事の手本のような返事をし、お姉ちゃんは部屋を出ていった。
お姉ちゃんが帰ってくるまで、さっき聞いた話を思い返す。火事の原因として真っ先に思い付いたのは、浮気相手による放火だ。浮気相手が依頼者のことを知り、彼女を恨んだというわけだ。

唯「どうぞ、こちらです」

お姉ちゃんがドアを開けた。その向こうからお姉ちゃんに案内されて入ってきたのは、なんとも体格が良く、顎髭も雄々しい、熊のような男の人だった。

「初めまして、ミキモトです」

そう言って渡された名刺には、美樹本洋介、と書かれていた。フリーのカメラマンらしい。そして今更だが、私の手元に返す名刺がないことを後悔した。

美樹本「女子高生探偵の君を選んだのは、僕の彼女と歳が近いし同性だから、写真を見せることに抵抗が少ないからなんだ」

憂「写真ですか?」

美樹本「そう。助手の子から話は聞いたと思うけど、彼女の家に無断で入っちゃってね。そこで何か浮気の証拠はないかと写真を撮ってきたんだ。今は火事の原因の手がかりはないか、って目で見るようになったけど」

彼女の部屋とはいえ、無断で人の部屋を撮影するのはあまり感心できなかった。

美樹本「この火事があってから、彼女は僕が放火したと疑って聞かなくてね。でも当然僕はやっていない。だから、火事の原因を、そして放火なら放火犯を、君に突き止めてもらいたいんだ」

美樹本さんはそう言うと、机の上に写真を数枚広げた。

憂「とりあえず、それぞれの写真について、間取りや用途と合わせて教えてください」

美樹本「オーケー。じゃあまず玄関から――」

美樹本さんの話を要約すると、写真の説明はそれぞれこうなる。


1、玄関

家の北側に位置する。
かわいいパンプスやブーツがいくつか並ぶ。男物の靴は美樹本さんのもの以外ない。
靴箱の上にはずらりとぬいぐるみが整列させられており、大事にされているのが伝わる。

2、寝室

家の北東側に位置する。
少し梯子を登るタイプのシングルベッドが一つ置いてあり、その下は収納スペースとなっているが、何が入っているのかまではわからない。
ベッドサイドにはすっきりとしたテーブルと座布団が備えられ、暗くしてからも手元だけを照らす電気スタンドが置いてある。

3、客間

家の南東側に位置する。
客間と美樹本さんは紹介したが、床に新聞紙が散らばっているなど、ただの生活スペースに見える。
窓際に無造作に鎮座する金魚鉢には金魚が一匹泳いでおり、その目線の先、部屋の側面には引き出しのぴったり閉じたタンスがあった。

4、リビング

家の南および南西部を占める。
大きな薄型テレビの正面にソファーがあり、普段ここでくつろいでいる様が想像できる。
ソファーの後ろに据え置かれた食卓には、各種調味料や金魚の餌がきれいに揃っていた。

美樹本「次は、見てわかるだろうけどキッチンの写真――」

憂「もう充分です。」

えっ、という顔でお姉ちゃんと美樹本さんが私を見る。

美樹本「もう火事の原因がわかったのかい?」

憂「えぇ。火事の原因は、これです」

そう言いながら、勿体振りつつ、私は一つの写真を指差した。

唯「客間、だね」

美樹本「これがいったいなんなんだ?」

憂「その写真一枚では判断しかねました。ですが、他の写真と合わせて考えると、一つの答えが導き出されるのです」

美樹本「となると、君がもう充分と言ったタイミングからして、リビングか」

私は、少し迷った末に頷き、続ける。

支援

憂「リビングは特に重要です。見てください、ここに金魚の餌が置いてあります」

二人は写真を覗き込んで確認すると、私に向き直る。

憂「ですが、肝心の金魚は客間にいます。これでは不便極まりないと思いませんか?」

美樹本「それはまぁ、そうだろうけど……ならわざわざ餌か金魚を移動させたってことか?」

憂「移動させたのは金魚鉢のほうです。」

美樹本「なぜそう言える?」

憂「客間は他の写真と比べ、金魚鉢以外にも不自然な点があるからです」

この言葉に美樹本さんは改めて写真を覗き込むが、私の言う不自然な点がわからない様子で顔を上げる。

しえ

釜井達の夜

憂「家の中は全体的に整理整頓されています。しかし、この部屋は新聞紙が散らばり、金魚鉢も無理矢理そこに置いたようです」

再度写真を見た美樹本さんが、今度は頷く。

美樹本「確かに彼女は、普段から仕事場なんかもきれいに片付けているタイプだ」

唯「でも、新聞紙を散らかした部屋に金魚鉢を置いたのはなんで?」

お姉ちゃん、助手なのに普通に疑問ぶちまけないでよ。かわいいから許すけど。
私は二人の注目を浴びるように、無言で人差し指を立て、顔の横まで上げた。この感覚が、気持ちいい。

憂「放火の時限装置を作るためです」

美樹本「……なんだって?」

憂「窓は南から日光を取り込んでいて、その日光は金魚鉢に注がれます。すると、金魚鉢によって日光は屈折し、焦点に集光されます。その焦点に、燃えやすい新聞紙があったらどうなりますか?」

美樹本「発火する……そういうことか!」

唯「で、でもなんで自分の家に放火装置なんか……」

ここからは推理というより、私の推測と言っていい。

憂「美樹本さんは彼女の浮気を疑ってらしたんですよね?おそらく浮気は事実、いや向こうが本命だったんでしょう。彼女は自分の二股を疑いだした美樹本さんをうっとうしく思いはじめたんです」

美樹本さんが眉間に皺を寄せる。

憂「そこで彼女は美樹本さんを泳がせ、自分の家を物色させることにしたんです。そしてそのとき、火事を起こすことに」

美樹本さんの顔が怖い。私を睨まれても困る。

憂「美樹本さんが火事に巻き込まれたら自分は自由になりますし、そうでなければ現状のように美樹本さんを放火犯に仕立て上げ、縁を切ることができます。それに、金品を持ち出しておけば、大した損失もなく火災保険で金銭面でも得できます」

美樹本「信じがたい話だが……ありがとう、少し話してみることにするよ。彼女と、それに、警察とね」

話が一段落し、美樹本さんは所定のお金を払って帰っていった。

後日何気なく新聞を読んでいると、自宅に放火して火災保険を騙し取ったOLの話題が載っていた。もしかして美樹本さんの一件じゃないか、と思いOLの名前を見ると、渡瀬可奈子さん……しまった、美樹本さんの彼女の名前を聞いていなかった。
その記事を頭から全て読んだが、美樹本さんの名前はなく、当然平沢探偵事務所の名前もなかった。せっかく私が解決した事件第一号かもしれないというのに、あんまりではないか!

憂「うぅ~お姉ちゃーん、私のことが載ってないよー」

憂「よしよしかわいそうな憂。今日はいっぱい慰めてあげるからね」

憂「えっ慰めるって、いったい何をするの」

憂「うふふっ、それはまだ内緒だよ。痛くないようにするからね」

憂「うん、お姉ちゃん……」

唯「ただいまー」

私はヘアピンを外し、後ろ髪を結った。


 終 ~憂の探偵物語~

>>2
お前のレスだけ文字化けして読めん

>>26,125
かっこいい

憂が痛い子になっとるwwwww

>>230
最後の一人芝居ワロタ

唯「はぁ~るばる~きたぜはあっこだてー♪」

私は今、お姉ちゃんと一緒にスキー場へきている。
目の前は一面にそびえ立つ白銀世界。その根本に、私達がお世話になるペンションが見えていた。

ここで、一つ訂正。

憂「お姉ちゃん、ここは函館じゃなければ北海道ですらない、長野県だよ」

唯「いやー雪景色を前にしたらつい言いたくなっちゃって」

お姉ちゃんの言うこととはいえ、さすがに無理がある。それとも実は北海道に行きたかったのだろうか。長野のスキー場しか当たらない商店街の福引きには、帰ったら苦情を入れなければ。

唯「ふいーやっとペンションについたね」

憂「荷物置いたら早速スキーに繰り出しちゃおっか」

言いながらがちゃり、と戸を開けると、からんからん、と鈴が鳴る。その音をきっかけに、

「やあ、いらっしゃい。ご予約のお名前は?」

とオーナーらしき人が奥から姿を見せた。

憂「平沢です。平沢……唯で予約したんだっけお姉ちゃん?」

いきなり自分に話を振られたせいか、少し驚きを見せるお姉ちゃん。

唯「えっそうなの?商店街の福引きで当たったんだから商店街の名前で予約入ってるのかと思ってた」

「あっはっは、平沢憂さんのお名前で予約をいただいてるみたいだよ」

予約の名前まで商店街は面倒見てないよ、と言おうとするのを遮るように笑い声が響く。なんだ、自分の名前で予約してたのか。

「そっちのヘアピンを付けてるのが姉の唯ちゃん、ポニーテールが妹の憂ちゃんだね、……ポニーテールが憂ちゃん。よし覚えたよ。ようこそ、ペンション『シュプール』へ!」

憂「はい、お世話になります!」
唯「よろしくお願いしまーす!」

私達はきれいに揃ってお辞儀をした。こういう何気ないところでも息が合っちゃうのは、やはり類い稀なる姉妹愛のおかげだろう。

「透ったら、かわいい女の子の名前を覚えるのだけは得意なんだから」

お辞儀をしている間に奥から新たに女の人が現れていた。なかなか美人と言ってよさそうな顔立ちをしている。
透と呼ばれたオーナーらしき人は、女の人の急な登場で……というよりその言葉を発した顔が不敵に微笑むのを見て、明らかに同様している。

透「いやぁっ、そのっ、ほ、ほら、お客さんの顔と名前を覚えるのは大事じゃないか、真理もそう思わないかい?」

真理さんはその不敵な笑みを崩さない。

真理「ええそう思うわ。じゃあ昨夜泊まって今朝帰った、ピンク色ポニーテールの女の子の名前は何だったかしら?」

透「三浦さん」

きりっとした顔でそう答えた直後、はっとした様子で慌てだした。

透「あ、べ、別にかわいいから覚えていたわけじゃあな、ない、よ」

さてどっちだ
幽霊かオカマか

目が泳ぎまくりの透さんを尻目に、真理さんはこちらに向き直り、軽く礼をした。

真理「ようこそシュプールへ。私はここのオーナーの琴吹真理よ、よろしくね」

透「あっあぁ僕もオーナーでね、こほん。琴吹透です、よろしく」

そう言って透さんも頭を少し下げた。なるほどやはり透さんはオーナーで、真理さんと二人合わせてオーナー夫妻ということらしい。
……いや、そんなことより。

憂「あの、琴吹って、あの琴吹グループの方なんですか?」

唯「てことはムギちゃんの親戚?」

>>95
ここまで堂々と無知を晒す度胸はないわぁ

>>96
発狂してるし

珍しい苗字だしほぼ間違いないだろう。質問を投げかけられた透さん……ではなく真理さんがにこやかに回答する。

真理「もしかして、紬ちゃんのお友達かしら。紬ちゃんは、私の遠い親戚に当たるのもちろん琴吹グループの社長もね」

透「確か真理の、再従兄弟の叔母の従姉妹の甥の……いや再従兄弟の叔母の従姉妹の姪の……?いや再従兄弟の叔父の……?」

真理「私さえ覚えてないことを無理に言わなくていいの」

冷静に真理さんが突っ込む。見た目どおり透さんには天然な一面があるのかもしれない。
逆に意外性という点で気になることはあるけれど、それを指摘するのは野暮というものだろう。

唯「あれっ?真理さんが琴吹家の人ってことは、透さんは婿養子?」

あぁ、純粋過ぎるよお姉ちゃん。気になったことは聞きたいんだよね。

不思議のペンション編に期待

>>36
何この見にくい文章

>>117
ちょっと黙ってろよ

透「そ、そういうことになるね。シュプールの所有権がブツブツ……ああそれよりっ!」

話を逸らしたげに、何か思い出した顔をして言う。

透「紬ちゃんも今夜ここに泊まるみたいだよ」

なんだって?そんな偶然がまさか、そう思いお姉ちゃんに目をやると、同じく私に顔を向けていた。

唯「偶然ってあるもんだねぇ~。ムギちゃんは一人で泊まりに来てるんですか?」

この問いに対する答えは後ろから聞こえてきた。

「いいえ、友達を三人連れてるわ」

予想外の方向から聞こえた声に振り向くと、そこには見慣れたメンバーが揃っていた。

唯「ムギちゃん!それに、澪ちゃんりっちゃん!そしてあずにゃ~ん!」

梓「ちょっ、いきなり抱きつかないでくださいっ」

猫まっしぐらという勢いで、梓ちゃんの華奢な体はお姉ちゃんの腕に抱えこまれることとなった。いや梓ちゃんのほうが猫っぽいから猫まっしぐらという表現はややこしいので何か別の表現を――ま、そんなことはどうでもいいや。
それより、せっかくの姉妹水いらず旅行が成り立たないであろうことを残念に思う。

律「おっすー唯、憂ちゃん」
澪「こんなとこで合うなんて奇遇だな」

こうなったものは仕方ない、軽音部のみなさんと旅行に来たと思って楽しむほかないだろう。ただ。

憂「みなさん、こんにちは。今日はどうしてこちらに?」

一応聞いておきたい。なぜ軽音部が揃っているのにお姉ちゃんがその輪に加わっていないのか。

律「軽音部のみんなでどっか泊まりがけの旅行でも行こうぜってなっただけさ。てか唯、なんで断ったのかと思ったら憂ちゃんと旅行かよー、言ってくれたら憂ちゃん込みでプラン立てたのに」

え、お姉ちゃんは軽音部の旅行を蹴って私との旅行に……?

唯「てへへ、なんか言いにくくって。ムギちゃんのお世話にばっかりなるわけにもいかないしね」

少し照れ気味のお姉ちゃん、もしかして二人きりの旅行を大切にしてくれたのかな。ありがとうお姉ちゃん!

紬「あらあら、憂ちゃん一人増えるくらいかまわないのに」

唯「ま、私達は福引きで当たった旅行だから結局自腹は切ってないんだけど」

ふんす、と胸を張るお姉ちゃん。別に威張るところじゃないよ。

澪「福引きで旅行が当たるなんて、さすが憂ちゃんは日頃の行いがいいな」

唯「澪ちゃん私はー?」

律「いやあさすが憂ちゃん素晴らしい」
紬「いつも家事も勉強も頑張ってるものね」
梓「マイナス要素を乗り越えるほどの素晴らしさ」

唯「みんなひどいっ」

みんなひどいっ。

透「あの~盛り上がってるとこ悪いんだけど」

あはは、とみんなが笑う中、申し訳なさそうに透さんが口を挟んできた。

透「とりあえずみんな、チェックイン手続き済ませてもらっていいかな?」

真理「立ち話もしんどいだろうし、荷物置いてからそこの談話室に集合するといいんじゃない?」

そう言った真理さんが指差したのは、二階へ続く階段付近の、テーブルとソファーが置いてあるだけのスペースだった。談話室というより、談話スペースといった感じだ。

律「それもそうか。じゃあみんな、荷物置いたらスキーの準備してそこに集合な」

澪「透さん、みんなの部屋割りはどうなってますか?」

透さんは待ってましたとばかりにシュプールの見取り図を取り出す。

透「紬ちゃん達四人はここからここまでの四部屋、唯ちゃんと憂ちゃんはこことここの二部屋だよ。まあ自由に入れ替えてくれてかまわないけどね」

差し出された見取り図はペンション二階のもので、階段を登った地点から左右に廊下が伸びている。左手前三部屋のうち手前から二部屋が私達の、その向かい側奥から四部屋が紬さん達の部屋だそうだ。奥から四部屋目だけは階段より右になる。

階段隣の部屋を私が引き受け、お姉ちゃんがその隣、向かい側奥から順に紬さん、律さん、澪さん、そして梓ちゃんと決まり、それぞれ自室へ荷物を置きに向かった。

スキーに明け暮れ、日も暮れ始めた頃、激しくなってきた雪から逃れるように、私達はシュプールに戻った。
からんからん、と扉を開けると、ちょうどそこには真理さんがいた。

真理「みんな揃ってのお帰りね。もうすぐ夕飯ができるから、着替えたら食堂にいらっしゃい」

はーい、と声が揃う。言われたとおりみんな自室へ戻り、一旦談話室に集合してから食堂へと向かうことにした。

唯「いやあ憂はスキー上手だったねぇ。私なんて、何回雪だるまになりかけたことか」

階段を登りながらお姉ちゃんが言う。律さんと澪さんは先々行ってもう部屋に入ったようだが、私達がのんびり話しながら歩いているせいで、後ろの梓ちゃんと紬さんは歯痒い思いをしてるかもしれない。

憂「でもお姉ちゃんだって終わりのほうは滑れるようになってたじゃない。じゃあ、またあとでね」

唯「うんばいばーい。」

お互い自分の部屋の前に立って挨拶を交わし、同時にドアを開け、同時に閉めた。
時計は午後6時半ほどを指していた。

>>205
おお、なんか怒られたし。これもスクリプトだよね。。

本当にスクリプトの見分けがつかん

たん、たん、たん。着替えを終えた私が階段を降りると、そこには既に四人の姿があった。一人足りない。

澪「お、きたきた。あとはムギだけだな」

すると律さんが思い出したように口を開いた。

律「あームギならさっき話したんだけど、なんかお腹壊したみたいで、トイレに篭るからあとで軽い食事だけ用意してほしいってよ」

お嬢様育ちの体に雪山は冷え過ぎたのだろうか。紬さんには悪いと思いながらも、空腹には勝てないので、ぞろぞろと食堂へ向かった。

しえ

食堂は、丸いテーブルが並び、テーブルを挟んで二人ずつ座れるようになっている。私はもちろんお姉ちゃんと同じテーブルにつき、澪さんと律さんも同様に、梓ちゃんが余る格好で着席した。
私達の他にお客さんはほぼおらず、端のほうに家族連れが一組座っているだけ……ってあれは。

憂「ねぇお姉ちゃん、あの人達もしかして」

唯「家族団欒って感じだね」

お姉ちゃんの言うとおり、そこにはいかにもスポーツマンといった体格の男性と、女子高生のようなそれでいておばさんのような年齢不詳の女性と、小学生らしき子供が座っていた。男女二人の横顔を見る限りでは、どちらもまあまあのレベルの顔立ちである。

ういかわいい

ただ、私が気になったのはその仲睦まじさではなく、食事を運んできた真理さんと親密そうに話している点だ。

憂「常連さんかなあ」

唯「知り合いっぽいよね」

そんなことを言っているうちに、真理さんはまた奥へ引っ込んでしまった。話し相手が去って周囲に注意が向くようになったのか、男性がこちらの視線に気付き、顔をこちらに向けた。
じろじろ見ていたことが申し訳なくなり咄嗟に目線を逸らす。が、視界の端に映る男性の顔はまだこちらを見据えている。その視線の先を追うように、女性もこちらを向いた。
その直後だった。

パーン!

>>18
年齢と身長と体重は?

>>31
どうでちゅか

何かが破裂するような音が辺りに響く。音のしたほう、先程の家族のあたりを見ると、男性の顔は斜め後ろを向き、女性は中腰になり片手をテーブルについて片手を横に振り切っていた。一言で表せば、女性が男性にビンタした。

「またポニーテールの女の子に見とれてたの!?最っ低っ!」

「ご、誤解だよ、信じてくれ」

「気分悪い。私達は部屋に戻るけど、あなたはしばらく来ないでね」

女性はそう言い残し、子供を連れて立ち去っていった。言われてみると、あの女性の髪型も私と同じポニーテールだった。そして、残された男性の髪型もポニーテールと言えなくもない。

私達の料理を運んできた真理さんが男性に話しかける。

真理「俊夫さん、相変わらずみどりさんの尻に敷かれてるんですか?」

俊夫「いや、そんなことは、まぁ、ある、かな?はは……」

俊夫さんと呼ばれた男性は、照れ笑いを浮かべながら、食事の続きを食べ始めた。
私達のテーブルにも、おそらくそれと同じ料理が並べられる。

唯「わあ美味しそう、いただきまーす!」

憂「いただきます」

お姉ちゃんと同時に料理に手をつけてから気付いたが、澪さん達の配膳はまだ終わっていなかった。ごめんなさい。

食事を終えた私達は、透さんと真理さんを交えて談話室でおしゃべりを楽しんだ。途中で紬さんも加わり、真理さん特製のサンドイッチをつまんでいた。ちなみに俊夫さんは部屋に戻るに戻れずまだ食堂にいる。
私の心の隅のほうでは、俊夫さんとみどりさんの二人は大丈夫なのだろうかと気になっていたが、わざわざ口には出さなかった。が、わざわざ口に出す者もいる。

唯「そういえば、真理さんはさっきのお客さんと知り合いなの?」

相変わらずお姉ちゃんは、気になったことは聞いてしまう人間のようだ。といっても、ビンタについてとやかく言うわけではなさそうだが。

真理「俊夫さんとみどりさん?あの二人はね、まだ私の叔父がこのペンションを経営していた頃に、ここでアルバイトをしていたの」

透「もう何年前の話になるかな。僕らがシュプールに来て初めて会ってから三日月島で再開して、夏美さんの供養までが一年で、それからみどりさんの服役期間が……えぇと、何年だったかな」

服役?みどりさんは刑務所に入っていたということだろうか。

真理「余計なこと言わなくていいの。そんなことより、みんなバンドを組んでるのよね、どんな曲やってるの?」

律「ずばり!オリジナルでカッチョイイのをやってます」

真理さんがうまく話を逸らした。よりによってその話にされると、私は会話に入れないんだけどなあ。

ぽっぽ。ぽっぽ。談話室の鳩時計が11回鳴く。気付かないうちに随分時間が経っていた。
俊夫さんが階段を通るところを見ていないが、まだ食堂にいるのだろうか。よっぽど恐妻家らしい。

真理「今日はもうお開きにしましょうか」

真理さんの一言をきっかけにみんな立ち上がり、順番に階段を登っていく。真理さんは透さんに向けてさらに、

真理「ここは私が片付けとくから、俊夫さんの様子を見てきて」

と言っていた。気になっていたのは私だけではなかったらしい。

透さんが食堂に向かうのを尻目に、私達は階段を上り、各自部屋へ戻った。

こんこん。お風呂に入ろうとパジャマを用意したところで、ドアがノックされた。お姉ちゃんだろうか。

憂「はーい」

鍵を開けると、ドアノブを回すまでもなく、外側からドアが開かれた。そこにいたのは、お姉ちゃんではない。

憂「えと、みどりさん……でしたっけ」

みどりさんは私の問いに答えることなくずいっと部屋に入り、後ろ手にドアを閉める。その表情からは威圧感が漂い、思わず後ずさりしてしまう。

憂「あの、何かご用でしょうか……?」

みどりさんがまた一歩足を踏み出し、つられて私は一歩下がる。それでも距離は少し縮まっていて、さらに顔を突き出され、ついのけ反ってしまう。

みどり「あんた」

ついにみどりさんの口が開かれる。

みどり「私の旦那に色目使ったでしょう」

……えっ。

憂「ご、誤解です!そんなつもりはなくて、ただちょっと見てただけで、す、すみません!」

おそらく私に非はない。だが時として、自分が悪くなくても謝らねばならぬこともあるのが人生だ。

みどり「ふざけないで。私のプライドがどれだけ傷付いたかわかってるの?」

もちろんわかりません。なんて言えるはずもない。ただひたすらに頭を下げる。

憂「以後気をつけますので、申し訳ありませんでした」

みどり「いいや納得いかない」

怒りの表情を浮かべ、みどりさんは続ける。

みどり「あの人なんかより私のほうがよっぽどいいポニーテールしてるじゃない!」

……はっ?

えっ

みどり「そりゃあ確かにあんたのポニーテールは完璧だし、ポニーテールに引かれるのもわかる。でもなんで私じゃなくあの人なのよ!」

ちょっと待ってほしい、わけがわからない。だがみどりさんはちょっとも待ってくれない。

みどり「ねぇ、私のポニーテールも素敵でしょ?触ってもいいから、あなたのも触らせて」

そう言いながら手を伸ばすみどりさん。嫌だ、怖い、誰か助けて。

私の心の声に呼応するように、がちゃりとドアが開かれた。あぁ神よ、救いの手を差し延べてくれたんですね。入ってきたのはそう、……俊夫さんと透さんだった。なんで。

俊夫「みどり、どうしてここに……?」

みどりさんはじろりと俊夫さんを睨み返す。

みどり「あなたこそ、なんでここに来たのよ」

透「いや、その、決して憂ちゃんのポニーテールを二人で拝みにきた、なんてわけでは……」

完全にばらしちゃってるし。てかなんですかその理由は。

当然みどりさんの剣幕は余計に激しくなる。

みどり「私というものがありながら!てか透くんはなんで!」

透「ま、真理にポニーテールにしてくれなんて頼めなくて……」

そんなにポニーテールが好きならなぜポニーテールでない人を好きになったのか。

俊夫「みどりだって、俺というものがありながらその子に浮気しに来たんだろう?俺はそれを止めに来たんだ」

みどりさんと私は同性です。てか止めに来たとか絶対嘘ですよね。

みどり「そんなあからさまな嘘言わないで。ねぇ憂ちゃん、こんな人達ほっといて、私と一緒にイ・イ・コ・ト、しましょ?」

女同士のイイコトなんてごめんです。

俊夫「そんなこと断じて許さん。憂ちゃん、俺とポニーテールを絡め合おう」

みどりさんとそんなことしてるんですか?

透「二人とも結婚してるし、憂ちゃんは僕に髪を触らせてよ」

あなたも結婚してるでしょう。

みどり「さあ」
俊夫「憂ちゃん」
透「僕に」

も、もう……

憂「勘弁してくださーいっ!!」



澪「二人ともおはよう、唯に、……あれ?」

朝、律さんとともに起きてきた澪さんが、談話室に腰かけている私達姉妹に声をかけてきた。

律「ゆ、唯が二人!?……なわけねーか」

唯「私は一人に決まってるじゃん」

律「いやそりゃそうなんだけど……」

律さんが私を、主に頭部をしげしげと眺める。澪さんは私とお姉ちゃんを交互に見比べている。

紬「あら、みんな揃ってるのね」

続いて、紬さんが梓ちゃんとともに階段を下りてきた。梓ちゃんは私を見るなり、少し驚いた様子で口を開く。

梓「憂、なんであんた、髪も結わずにヘアピンつけちゃったりしてるの?」

憂「はは、まあ色々と……」


 終 ~俺も私も、ポニーテール萌えなんだ~

ポニーテールなら仕方ないな

このムギは本当に下痢してたのか

はい!次!

唯「はぁ~るばる~きたぜはあっこだてー♪」

私は今、お姉ちゃんと一緒にスキー場へきている。
目の前は一面にそびえ立つ白銀世界。その根本に、私達がお世話になるペンションが見えていた。

ここで、一つ訂正。

憂「お姉ちゃん、ここは函館じゃなければ北海道ですらない、長野県だよ」

唯「いやー雪景色を前にしたらつい言いたくなっちゃって」

はっとした。私は、なんてダメな妹なんだろう。お姉ちゃんがせっかくいい気分で歌っているところに水を差すような発言。死んで償えるのなら死んでしまいたいが、余計にお姉ちゃんが悲しむだろうから、他の償い方を探さなければ。

ういwwww

唯「ふいーやっとペンションについたね」

憂「荷物置いたら早速スキーに繰り出しちゃおっか」

言いながらがちゃり、と戸を開けると、からんからん、と鈴が鳴る。その音をきっかけに、

「やあ、いらっしゃい。ご予約のお名前は?」

とオーナーらしき人が奥から姿を見せた。

憂「平沢です。平沢……唯で予約したんだっけお姉ちゃん?」

いきなり自分に話を振られたせいか、少し驚きを見せるお姉ちゃん。

唯「えっそうなの?商店街の福引きで当たったんだから商店街の名前で予約入ってるのかと思ってた」

「あっはっは、平沢憂さんのお名前で予約をいただいてるみたいだよ」

予約の名前まで商店街は面倒見てないよ、と言おうとするのを遮るように笑い声が響く。なんだ、自分の名前で予約してたのか。
それより、このオーナーらしき男の、お姉ちゃんを馬鹿にしたような笑い方に、思わず舌打ちをしたくなる。

「そっちのヘアピンを付けてるのが姉の唯ちゃん、ポニーテールが妹の憂ちゃんだね、……よし覚えたよ。ようこそ、ペンション『シュプール』へ!」

憂「はい、お世話になります」
唯「よろしくお願いしまーす!」

私達はきれいに揃ってお辞儀をした。こういう何気ないところでも息が合っちゃうのは、やはり類い稀なる姉妹愛のおかげだろう。お姉ちゃん大好き。

「透ったら、かわいい女の子の名前を覚えるのだけは得意なんだから」

お辞儀をしている間に奥から新たに女の人が現れていた。なかなか美人と言ってよさそうな顔立ちをしている。
透と呼ばれたオーナーらしき人は、女の人の急な登場で……というよりその言葉を発した顔が不敵に微笑むのを見て、明らかに同様している。

透「いやぁっ、そのっ、ほ、ほら、お客さんの顔と名前を覚えるのは大事じゃないか、真理もそう思わないかい?」

真理さんはその不敵な笑みを崩さない。

真理「ええそう思うわ。じゃあ昨夜泊まって今朝帰った、眼鏡の女性の名前は何だったかしら?」

透「えぇと、山口じゃなくて山本でもなくて……あんまりタイプじゃない人だったからな……あっ、えっ、じゃなくて!その!」

目が泳ぎまくりの透さんを尻目に、真理さんはこちらに向き直り、軽く礼をした。

真理「ようこそシュプールへ。私はここのオーナーの琴吹真理よ、よろしくね」

透「あっあぁ僕もオーナーでね、こほん。琴吹透です、よろしく」

そう言って透さんも頭を少し下げた。なるほどやはり透さんはオーナーで、真理さんと二人合わせてオーナー夫妻ということらしい。
……いや、そんなことより。

憂「あの、琴吹って、あの琴吹グループの方なんですか?」

唯「てことはムギちゃんの親戚?」

珍しい苗字だしほぼ間違いないだろう。質問を投げかけられた透さん……ではなく真理さんがにこやかに回答する。

真理「もしかして、紬ちゃんのお友達かしら。紬ちゃんはね、私の遠い親戚なの。」

透「僕も真理も間柄を覚えてないほど遠ーい親戚だけどね」

まさかこんなところで知り合いの親戚に会うとは、世の中なんて意外と狭いものだ。
意外性という点ではもう一つあるけれど、それを指摘するのは野暮というものだろう。

唯「あれっ?真理さんが琴吹家の人ってことは、透さんは婿養子?」

あぁ、純粋過ぎるよお姉ちゃん。気になったことは聞きたいんだよね。でもそんなお姉ちゃんも好きだよ。

透「そ、そういうことになるね。シュプールの所有権がブツブツ……ああそれよりっ!」

話を逸らしたげに、何か思い出した顔をして言う。

透「紬ちゃんも今夜ここに泊まるみたいだよ」

なんだって?そんな偶然がまさか、そう思いお姉ちゃんに目をやると、同じく私に顔を向けていた。

唯「偶然ってあるもんだねぇ~。ムギちゃんは一人で泊まりに来てるんですか?」

この問いに対し、真理さんは宿泊者名簿を見るでもなく、私達の後方を見ながら言い放った。

真理「いいえ、友達を三人連れてるわ」

真理さんの視線が気になり振り向くと、そこには見慣れたメンバーが揃っていた。

唯「ムギちゃん!それに、澪ちゃんりっちゃん!そしてあずにゃ~ん!」

梓「ちょっ、いきなり抱きつかないでくださいっ」

猫まっしぐらという勢いで、梓ちゃんの華奢な体はお姉ちゃんの腕に抱えこまれることとなった。いや梓ちゃんのほうが猫っぽいから猫まっしぐらという表現はややこしいので何か別の表現を――ま、そんなことはどうでもいいや。
それより、せっかくの姉妹水いらず旅行が成り立たないであろうことを残念に思う。ファック。

律「お、おう、唯に憂ちゃんじゃないか」
澪「こ、こんなとこで合うなんて、き、奇遇だな」

こうなったものは仕方ない、軽音部のみなさんと旅行に来たと思って楽しむほかないだろう。ただ。

憂「みなさん、こんにちは。今日はどうしてこちらに?」

一応聞いておきたい。なぜ軽音部が揃っているのにお姉ちゃんがその輪に加わっていないのか。

梓「それはその、えっと……」

梓ちゃんを初めとする全員が、ちらちらとお互いの顔を確認する。数秒後、律さんに視線が集中し、煽られるように口を開いた。

律「そ、そう!軽音部のみんなでどっか泊まりがけの旅行でも行こうぜってなったんだけど、唯は憂ちゃんと旅行だって言ってたろ?だから声もかけなかったんだ、うん」

唯「そっかー、迷惑かけてごめんね」

憂「でも他の日程にしてくれてもよかったんじゃ……」

私の発言に、律さんは明後日の方向を見ながら答える。

律「そ、それがだな、シュプールの都合上今日じゃなきゃだめでさー、ね、透さん?」

透「別にうちは……」

律「ねっ!透さん!」

透「あっ、ああ」

怪しい。律さんの慌てぶりといい透さんとのやりとりといい、まるでお姉ちゃんを省いて旅行を計画したみたいじゃないか。

紬「唯ちゃん達もシュプールに旅行だったんなら、憂ちゃんも加えて6人招待されてもよかったわね」

唯「ま、私達は福引きで当たった旅行だから結局自腹は切ってないんだけど」

ふんす、と胸を張るお姉ちゃん。別に威張るところじゃないよ。

澪「福引きで旅行が当たるなんて、さすが憂ちゃんは日頃の行いがいいな」

唯「澪ちゃん私はー?」

律「いやあさすが憂ちゃん素晴らしい」
紬「いつも家事も勉強も頑張ってるものね」
梓「マイナス要素を乗り越えるほどの素晴らしさ」

唯「みんなひどいっ」

みんなひどいっ。あまりにもお姉ちゃんを小馬鹿にしすぎじゃあないか。それでいてへらへらと笑って……何がおかしいのか。

「まいどー、邪魔するでー」

突然玄関から聞こえた陽気な関西弁に目をやると、そこには恰幅のいい中年男性が来たところだった。その頭は禿げ上がり、気休め程度の髪が寂しそうにある程度である。

透「どうも香山さん、お久しぶりです」

香山「あかんな透くん、そこは『邪魔するんやったら帰ってー』て言うてくれんと。そしたら『あいよー』言うてからノリツッコミするとこやのに」

香山と呼ばれた中年男性はわははと笑いながら自らの中にあったネタを口にする。それ、面白いですか?

憂ちゃんにハンフリーボガートを気取る俺の出番はまだですか?

>>208
バカなの?てか本気でバカなの?

律「香山さんっていうと、もしかして……」

律さんはそう口にしてから、はっと気がついたようにお姉ちゃんのほうに目をやる。

香山「もしかしてあんたらが放課後テータイムっちゅうバンドか?ひぃふぅみぃ……なんや数が多いみたいやけど」

律「そ、その話はまた後でじっくりと。と、透さん、部屋割りはどうなってます?」

何やら香山さんを知っている風な律さん。慌てて部屋割りの話に移行したのも、何かを隠しているようにしか見えない。

しかし透さんは何も気にしてない様子で、待ってましたとばかりにシュプールの見取り図を取り出す。

透「紬ちゃん達四人はここからここまでの四部屋、唯ちゃんと憂ちゃんはこことここの二部屋だよ。まあ自由に入れ替えてくれてかまわないけどね。香山さんは一番奥のここでお願いします」

差し出された見取り図はペンション二階のもので、階段を登った地点から左右に廊下が伸びている。左手前三部屋のうち手前から二部屋が私達の、その向かい側奥から四部屋が紬さん達の部屋だそうだ。奥から四部屋目だけは階段より右になる。

階段隣の部屋をお姉ちゃんが引き受け、私がその隣――つまり香山さんの隣――、向かい側奥から順に紬さん、律さん、澪さん、そして梓ちゃんと決まり、それぞれ自室へ荷物を置きに向かった。

こんこん。ドアをノックする音が聞こえる。しかしそれは私の部屋ではないようだ。
どこかでがちゃり、とドアの開く音とともに、陽気な関西弁が響く。香山さんの部屋だ。

香山「おー早速来たか。ま、立ち話もなんやし入ったらええわ」

透さんか真理さんが訪ねてきたのだろう。そう思ったが、聞こえてきたのは意外な――予想していないといえば嘘になるが――声だった。

律「失礼します」

今日会ってから常に挙動不審な律さんが、いったい香山さんと何の話をするというのか。悪いとは思いながらも、壁に耳を当てて会話を聞くことにした。

香山「どや、こないだ言うたデビューの話、考えてくれたか?」

デビュー?そういえば香山さんは放課後ティータイムを知っていたが、私が無知なだけで音楽業界の有名人だったりするのだろうか。

梓「もう一度だけ、条件を確認させてください」

梓ちゃんの声だ。もしかすると、お姉ちゃんを除く放課後ティータイムが勢揃いしているのかもしれない。
なら何故お姉ちゃんが除かれているのか。それは、すぐに明らかになった。

梓「澪先輩がボーカルで、唯先輩には辞めてもらうことが条件なんですよね?」

……なんだって?

香山「名前は覚えとらんけど、平沢っちゅう子や。有名な占い師に聞いたら、その子が歌ってると売れないし言いよるからな、占い師だけに」

香山さんの馬鹿げた笑いが聞こえる。

澪「作詞作曲も自分達でできるんですよね。ただ、唯……平沢唯が参加できないだけで」

香山「そうや。君らは君らのやりたいようにやったらえぇ。わしが責任持って売り出したるさかいな」

梓「素晴らしい条件ですね、考えるまでもないです」

え――梓ちゃんは何を言ってるんだろう。

澪「同感です」
紬「わざわざこんなところに来て話すこともありませんでしたね」
律「満場一致、です。香山さん」

みんな、何を言ってるんだろう。お姉ちゃんがいなくても、デビューできればいい、そんな人達だったんだろうか。

こんこん。ノックの音で我に帰る。

唯「うーいー、スキー行こうよー」

お姉ちゃんだ。私は壁から顔を離すと、慌ててスキーの準備をしてドアを開けた。そしてそのまま、満面の笑みを浮かべるお姉ちゃんと一緒に、雪山へと出発した。

唯「あっ、あずにゃーん、他三にーん、やっほー」

何滑りかして再びリフトで山頂に登ると、お姉ちゃんを除く軽音部が揃っていた。

律「他三人ってなんだ、私達は梓のついでかよ」

唯「ごめんごめん。でもみんな私達を置いてスキー行っちゃうんだもん」

頬を膨らませて怒るお姉ちゃん。まさかみんなが、先にスキーに行ったのではなく香山さんの部屋にいたとは、思いもしないだろう。

澪「ま、まあこうやって合流できたんだし、楽しく滑ろうじゃないか。な?」

その後は澪さんの言葉どおり、みんなでスキーを満喫した。
……ようにお姉ちゃんの目には写っただろう。今日のお姉ちゃんは騙されてばかりだ。

憂「律さん、どっちが早く滑れるか勝負しませんか?」

律「へっ、私?」

いざ滑り出さんとしたところに話しかけられ、きょとん、とした様子で聞き返してくる。

憂「はい、一番運動神経がよさそうなので」

この私の一言に、律さんはあっさりと上機嫌になった。

律「ふふふ、さすが憂ちゃんお目が高い。絶対負けないからなー!澪、スタートの合図を頼む」

澪「はいはい、二人とも気をつけてな。……よーい、どん!」

即席スターターの合図とともに、私達は滑り出した。

誰か撒いた血ってかwwwwwwww

私の視界に律さんの姿はない。なぜか。答えは簡単で、私が律さんより前を滑っているからだ。既にここの雪質にも慣れている分、私のほうが有利なのは明らかだ。

憂「悔しかったら追い付いてくださいよー」

律「なにくそ!引き離されてはいないんだ、もうすぐ逆転してやるからな!」

私は律さんと一定の距離を保って滑っている。あまりに離れ過ぎては意味がないのだ。
あらかじめ滑った地点を思い起こしながら、ある地点に辿り着いた瞬間、私は軽いミスを犯し減速した。

律「ひゃっはー隙あり!憂ちゃんさよならー!」

私を追い抜いた律さんは、私のほうへ振り向いて喋りながら少しの間滑り続け、

律「はっはっはっ……う、うああぁぁぁっ!」

崖の向こうへと飛翔していった。

憂「み、澪さぁん……うぐっ、ひぐっ」

なだらかなゲレンデに一人戻ってきた私は、澪さんを探し出し――紬さんでも梓ちゃんでもよかったが――話しかけた。

澪「憂ちゃん、いったいどうした?」

憂「ううっ、律さんが、律さんがぁ……」

澪「律?律がどうしたんだ!」

憂「つ、着いて来てください」

先ほど律さんが飛び立った崖へ、今度は澪さんを連れて行った。
そして

憂「律さん、ここから落ちちゃって……あそこ、覗いて見てください」

澪「なんてことだ。どれ……うわっ、あっ、あーっ!」

澪さんが律さんのところへ行けるようアシストした。

しえ

あとは簡単だった。紬さんも、梓ちゃんも、澪さんを突き落としたのと全く同じ手順を踏み、みんな仲良く崖下に並ばせてあげた。もっとも、落ちたみんなは雪に埋もれたので、本当に並んでいるのかは知らないが。

憂「お姉ちゃん、そろそろ帰ろっか」

唯「あっ憂、もぅーどこにいたの?いつの間にかみんなもいないし、一人で寂しかったんだから」

その点は本当に申し訳なかったと思ってる。

憂「ごめんね。てかみんないないの?」

唯「滑ってるうちに迷子になっちゃったみたい」

憂「律さん私に負けてから『みんなと特訓して見返してやるからな!』って言ってたから、こっそり練習中かもね」

言ってない言ってない。

唯「もしかしたらシュプールに帰ってるかもね、私達も帰ろっか」

憂「うん!」

こうして私達は、シュプールへの帰路についた。空は、これから吹雪いてもおかしくない様子だった。

かまいたち祭り

からんからん。シュプールの玄関を開くと、透さんが受付から顔を出した。

透「やあおかえり。もうすぐ夕食だから、着替えたら食堂においで」

唯「わーい」

憂「料理は真理さんが作るんですか?」

当たり前だと言われそうな何気ない問いに、意外な答えが返ってきた。

透「と、思うだろ?実は、僕が作るんだ」

どや顔で両手を腰に当てる透さん。

憂「へぇー意外です。見学してもいいですか?お姉ちゃんもどう?」

透「どうぞどうぞ。といっても、下ごしらえは既に終わっちゃってるけどね」

唯「憂が行くなら私も行くー」

こうして、私とお姉ちゃんは、着替えたあと厨房に集合することになった。

憂「失礼しまーす」
唯「ん~良い匂いー、つまみ食いしちゃいたくなるね」

キッチンにやってきた私達の鼻に届いたのは、なんとも美味しそうなビーフストロガノフの匂いだった。

真理「たっぷりあるし、少し味見するくらいならいいのよ」

憂「サラダも美味しそう。これ、あとは盛り付けるだけですか?」

透「そうだね、手伝ってくれるのかい?」

憂「そんなつもりじゃなかったですけど……じゃあお手伝いしまーす」

真理さんからお皿を受け取り、サラダを盛り付けていく。お姉ちゃんのは特別たくさん盛っちゃおう。

真理「お待たせしましたー」

既に食堂で席についていた香山さんに私達が合流してすぐ、真理さんが前菜のサラダを運んできた。

香山「なんや、その子のだけやけに多ないか?」

お姉ちゃんのお皿を見て言う。

真理「手伝ってくれたサービスです。さ、皆さん召し上がれ」

唯「いただきます。……あずにゃん達まだ帰ってないのかな」

憂「みたいだね。うん、サラダ美味しい!」

真理「すぐにメインも持ってくるわね」

そう言うと、真理さんは厨房へと消えていった。

とりあえず落ち着け笑っていたドラえもん昨日も地球破壊爆弾が炸裂していたそれと便座カバーが炸裂していたそれと
ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタと戦うつもりならばお前は誰だって聞いてんだ

真理「お待たせ、ビーフストロガノフです」

言葉どおり、真理さんはすぐに次の料理を運んできた。

唯「あわわ、まだサラダいっぱい残ってるのに」

憂「私が盛り過ぎたからだね、ごめんお姉ちゃん。私もビーフストロガノフ食べずにお姉ちゃんを待ってるよ」

お姉ちゃんは急いで食べているようだが、それでも特盛サラダはすぐにはなくならず、なかなか主菜に踏み込めない。
結局、私達がビーフストロガノフに手を出せたのは、香山さんがデザートを食べている頃だった。

みたいから、2時くらいまで落ちませんように…

カチャーン

食器の落ちる音。見ると、香山さんが食後に飲んでいたコーヒーのカップを足元に落とし、口を抑えて苦しそうにしている。

香山「うぐっ……ご……がっ……」

そしてそのままどさり、と椅子から倒れ落ちた。

私達のデザートを運んできた真理さんが、血相を変えて香山さんのもとへ走り寄る。

真理「かっ香山さん!どうしたんですか!?」

真理さんの呼び掛けに答えることはなく、びくびくと痙攣を繰り返したその体は、ついに動かなくなった。

デザート待ちぼうけをくらっている私達も、そんなことは言ってられず、香山さんのもとへ近寄る。

唯「し、死んじゃったの……?」

異変を察した透さんが厨房から現れ、香山さんの喉元に指を当てる。

透「そう、みたい、だね。真理、警察と救急に連絡をお願いしていいかい?」

真理「わかったわ」

そう言うと、真理さんは食堂から駆け出して行った。

憂スゲー



翌朝やってきた警察に状況説明と称した取り調べをしばらく受け、私達二人は解放された。このときお姉ちゃんは、律さん達が戻っていないことを訴え、別個捜索隊が派遣されることとなった。

ちなみに、香山さんの死因は、タバコの誤飲による中毒死だそうだ。コーヒードリッパー上方の棚に保管しておいたタバコの吸い殻が、何かの拍子に落下したらしい。

憂「まったく、そんなとこに吸い殻を保管するなんて、ちゃんちゃらおかしいね」

お姉ちゃんはと言えば、シュプールから帰ってきて三日後に、軽音部の仲間が遺体――集団で吹雪の中遭難し、前方不注意で崖から落下したとの見方が有力――で発見されたと聞き、以来塞ぎ込んでしまっている。

憂「このままじゃお姉ちゃん出席日数足りなくて留年しちゃうよ」

憂「そうなれば同じ学年だね、嬉しいな」


 終 ~歪んだ姉妹愛~

これけいおんメンバーも透明なのかまいたちメンバーだけ透明なのか

こんこん。ノックの音で我に帰る。

唯「うーいー、スキー行こうよー」

お姉ちゃんだ。私は壁から顔を離すと、慌ててスキーの準備をした。だが、このままスキーになんて行く気分にはとてもなれない。
ドアを開けると、お姉ちゃんを尻目に隣の、香山さんの部屋の前に立ち、ノブに手をかける。

唯「う、憂、そこは香山さんの部屋だよ」

鍵がかかっていないことを確認すると、意を決してノブを回し、ドアを開いた。

憂「梓ちゃん!みなさん!さっきの話はいったいどういうことですか!?」

突然の乱入者に、部屋にいた5人全員がしばし固まる。
最初に口を開いたのは香山さんだった。

香山「なんや、急に入ってきて。もしかして人の話盗み聞きしとったんちゃうやろな?」

そう言われると少し心苦しいところがある。

梓「憂、そうなの?」

律「たはっ、参ったな」

何が参った、だ。問い詰めようと口を動かす瞬間、後ろからお姉ちゃんが姿を見せた。

唯「ねぇ憂ったら、いったいどうし――あれっみんな?」

よくよく考えれば、お姉ちゃんは自分がハブにされていたことに気付かないほうがよかったのかもしれない。ついカッとなって、そこまで気が回らなかった。
今からでも誤魔化せないか思案していると、それを妨げるように律さんが話し始めた。

律「唯もいるのか……知られたくなかったんだけどな。みんな、もう話しちゃっても仕方ないよな?」

澪さん、紬さん、梓ちゃんが顔を見合わせ、頷く。それを確認した律さんが、お姉ちゃんと微妙に視線を合わせないまま喋り出す。

律「実はな、唯。お前を除いたHTTでデビューしないかって提案されててだな……」

律さんの目が、にっこり笑ってお姉ちゃんを見た。

律「断っちゃった」

ここに来て憂選手無双か
しかも完全犯罪

ことわった……?断った!?さっき壁越しに聞いてたときはそんなこと一言も……。

律「今日ここに来たのも、香山さんとデビューについて話をするためだったんだけどな。やっぱ、私達は唯と一緒じゃなきゃ嫌だ。」

お姉ちゃんはぽかんとした顔で聞いていたが、急にキッと目付きを変えた。

唯「そんなのダメだよ!せっかくデビューするチャンスなんだよ!?それなのに――」

澪「そう言うと思った!」

澪さんが声を上げる。

澪「唯ならそう言うと思った。だから内緒にしてたんだよ」

唯「でも……」

梓「唯先輩、私達の夢はただデビューすることじゃないんです。きっかり5人揃ってデビューしたいんです」

紬「だから、香山さんになんとか唯ちゃんも一緒にデビューできないか頼もうと思ってたんだけど……」

紬さんがちらりと香山さんを伺う。

香山「君らの友情が固いのはわかった」

律「じゃあ!」

全員の目が期待の色に染まる。

だが、その期待が叶うことはなかった。

香山「わかったけどやな、ビコターケ丸亜?っちゅう占い師の言うことには背けへんのや。なんせ、あいつのおかげで無事夏美は成仏できたんやしな」

天井を虚ろに見上げる香山さん。もしかしたら変な宗教に入っているのかもしれない。

香山「そういうことやから、今回の話はなかったことにしとくれ。あとはシュプールでの旅行を楽しんだらええわ。料理も美味いしな」

唯「みんな……ごめんね」

梓「いいんですよ。さぁ!香山さんの言うとおり旅行を楽しみましょう!」

梓ちゃんの声掛けに、みんなが呼応する。

おーっ!



シュプールへの旅行から数ヶ月。お姉ちゃんが雑誌のとあるページを見せてきた。

唯「ねぇ憂、これ見てよ」

そこには、『香山誠一プロデュース!KYM48のCDを買うと、お好み焼き半額券が付いてくる!』という字が躍っていた。

憂「香山誠一って……シュプールで会ったあの人だよね」

お姉ちゃんが曖昧そうに頷く。

憂「『責任持って売り出したる』なんて言ってたけど、こんな売り出され方するなら断って正解だったね」

唯「いやまあそんなことより……」

お姉ちゃんが私の手を取り訴えかける。

唯「お好み焼き食べたいなぁ……なんて、ね」

憂「え……。うん、よし任せて!今晩はお好み焼き作るよ!」

こんなにも純粋なお姉ちゃんが、汚い手法で売り出されることがなくなり、本当によかったと思うのだった。


 終 ~愛しの純粋お姉ちゃん~

憂「軽音部の皆さんまでシュプールに泊まるだなんて予想外だけど……」

憂「お、お姉ちゃんとの、ふ、二人きりの旅行!」ハァハァ

憂「人は旅先では大胆になるって言うし」ハァハァ

憂「今日こそは!ししし姉妹の一線を越えちゃったり!?しちゃったり!?」ハァハァハァハァ

憂「きゃー、しちゃったりって何をー、きゃー」バタバタ

憂「……いざ、出陣!」キリッ

ガチャッ
憂「えっとお姉ちゃんの部屋はっと」

憂「すぐ隣だし、間違うわけないね」

憂「よ、よし、行くぞ……」ゴクリ

コンコン
憂「お姉ちゃーん」ドキドキ

憂「……」ドキドキ

憂「……いないのかな」

wktk

憂「誰かの部屋に遊びに行ってるのかな」

憂「許せん!私のお姉ちゃんを独占するのは誰だ!」

憂「お姉ちゃんのことだから、やっぱり一番可能性が高いのは……」

憂「……梓ちゃん、だよね」

憂「えぇい気後れしてる場合じゃない」

憂「いざ、取り返さん」

コンコン
憂「梓ちゃん?憂だけどー」

ガチャッ
梓「どうしたの?もうすぐ日付も変わろうかって時間に」

憂「あれっ一人?」

梓「当たり前じゃん。この部屋に幽霊がいるなんて言わないでよ?」

憂「あ、あはは、怖がるかなーなんて」

梓「少し怖いからもうやめて。あっそういえば一人といえばさ」

憂「何?」

梓「憂って一人でしたことある?」

憂「ななな何言ってるの梓ちゃん!」カァッ

梓「そんな焦ることないじゃん、それとも怖くてしたことないとか?」

憂「こっ怖いとかじゃないけどっ」

梓「ほぉ~じゃあしたことあるんだね?」

憂「……」コクッ

梓「へぇーほんとにしたことあるんだ、私なんかとは違うね」

憂「あ、梓ちゃんは一人でしたことないの……?」

梓「やり方は知ってるけど、どうしても怖くてさ」

梓「ねぇ、してみた感想どう?」

憂「どうって、言われても」カアァー

梓「ちゃんといた?」

憂(いた?イった、かな)

憂「う、うん、まあ……」

梓「そりゃそうだよね、いなかったら怖過ぎるよ」

憂「え、いなかったら……?」

梓「一人かくれんぼしたからってぬいぐるみが勝手に動き回れるわけないもんね」

憂「一人かくれんぼ……えっ、あ、はは、そうだね……はは」

なん…だ…お?

憂「梓ちゃんの部屋にお姉ちゃんはいなかった」

憂「それどころか無駄に恥をかかされてしまった」

憂「まあ私が勘違いしてたことに気付いてなかったみたいでまだよかった」

憂「さて、お姉ちゃんはどこにいるのかな……」

憂「とりあえず、順番に梓ちゃんの隣の澪さんの部屋に行こうかな」

コンコン
憂「澪さん?憂ですけどー」

ガチャッ
澪「やあ憂ちゃん。こんな時間にどうしたんだ?」

憂「あの、お姉ちゃん来てませんか?」

澪「唯?さあ、見てないけど」

憂「そうですか……」

澪「……あのさ、憂ちゃん」

憂「はい?」

澪「いきなりなんだけど、その……迷惑じゃなければ……私の、しょ、処女さっ、もらってくれないかな?」

憂「……はいぃっ!?」

おもしろい

澪「軽音部のみんなに頼んだら茶化されそうだからさ、真面目な憂ちゃんなら感想もちゃんと教えてくれるかなって」

憂「こっ困ります!急にそんなこと言われても!」カアァッ

澪「そうか……そうだよね……」シュン

憂(澪さんが処女コンプレックスを持ってたなんて)

澪「どうしても、だめ?」ウルウル

憂(反則的にかわいい上目遣い!)

憂(……考えてみれば、私の処女が奪われるわけでもないし、私が困ることはないのかも)

憂(むしろ、お姉ちゃんとするときのいい練習になるかもしれない)

憂「そこまで言うなら……」

澪「ほ、本当?」パアァッ

憂「は、はい」

憂(澪さん嬉しそうだなあ)

澪「じゃあすぐ取ってくるからちょっと待ってて」タタタッ

憂(取ってくる?まさか、お、大人のおもちゃ……)

澪「お待たせ、はい」

憂「……本、ですか?」

澪「私の処女作、その名も『魔法少女隊ミオーズ』だ。読んだらまた感想教えてほしいな」

憂「処女さっ……!あ、はは、わかりました、……はは」

憂「澪さんの部屋にお姉ちゃんはいなかった」

憂「それどころか無駄に恥をかかされてしまった」

憂「まあ私が勘違いしてたことに気付いてなかったみたいでまだよかった」

憂「さっきもこんなこと言ってたような……」

憂「さて、お姉ちゃんはどこにいるのかな……」

憂「とりあえず、順番に澪さんの隣の律さんの部屋に行こうかな」

コンコン
憂「律さん?憂ですけどー」

ガチャッ
律「やあ憂ちゃん。日付も変わったっていうのにどうしたんだ?」

憂「あの、お姉ちゃん来てませんか?」

律「唯?さあ、見てないけど」

憂「そうですか……」

律「……なあ、憂ちゃん」

憂「はい?」

律「私と一緒に、イケナイコト、しちゃわないか?」

ムギだけガチの変態の予感

ピンクの栞ですねわかります

憂「イ、イケナイコト……」カアァッ

律「そう、イケナイコト」

憂(騙されるな憂。梓ちゃんや澪さん相手に恥をかいたばかりじゃないか。何のことかしっかり確認しないと)

憂「それって、その、気持ち良くなっちゃったりすること、ですよね……?」

律「そうそう、憂ちゃんわかってんじゃーん」

憂(うわーこれ勘違いじゃないよ、本当にイケナイコトだよ、イケナイけどイケちゃうよ)

律「憂ちゃん確保ー!」ダキッ

憂「はわっ!?」

律「さあこっちへおいでー」

憂(まずいまずいまずいまずい)バタバタ

律「ほんとはみんなと一緒にパーっとやりたかったんだけど、言い出すタイミングがなくてさ」

憂(乱交!?いやそれより襲われてる、私襲われてるよ!)バタバタ

律「暴れるなよー。……それとも、やっぱ嫌なのか?」キラキラ

憂(反則的にかわいい上目遣い!)

憂(律さんって、カチューシャ外してもらったらちょっとだけお姉ちゃんに似てるんだよね)

憂(自分の処女さえ守れたら、お姉ちゃんとするときのいい練習になるかもしれない)

憂「そこまで言うなら、ちょ、ちょっとだけ……」

律「ほ、本当?」パアァッ

憂「は、はい」

憂(律さん嬉しそうだなあ)

律「じゃあすぐ取ってくるからちょっと待ってて」タタタッ

憂(取ってくる?まさか、お、大人のおもちゃ……)

律「お待たせ、はい」

憂「……缶チューハイ、ですか?」

律「瓶ビールなんて持って来れないからな。ま、未成年には缶チューのほうが美味しいさ」

憂「イケナイコト……!あ、はは、飲みましょうか、……はは」

憂「ひっく、律さんの部屋にお姉ちゃんはいなかった」

憂「それどころか無駄に恥をかかされてしまった、うぃっく」

憂「まあ私が勘違いしてたことに気付いてなかったみたいでまだよかった」

憂「さっきもこんなこと言ってたような……うえっ」

憂「さて、お姉ちゃんはどこにいるのかな……」

憂「ま、残った紬さんの部屋にいるでしょ、うへへ」

コンコン
憂「紬さん?憂ですけどー」

憂「……」ウトウト

憂「はっ、いかんいかん」

コンコン
憂「紬さーん」

ガチャッ
紬「あら憂ちゃん。もう寝かけてたから遅くなってごめんなさいね、どうしたの?」

憂「あの、お姉ちゃん来てませんか?」

紬「唯ちゃん?さあ、見てないけど」

憂「そうれすか……」

紬「……ねぇ、憂ちゃん」

憂「ふぁい?」

紬「私と一緒に寝ない?」

憂「……ふぁい?」

>>342
ゆとり怖すぎ

紬「私、友達の兄弟姉妹と仲良くするのが夢だったのー!」

憂(寝るってあれだよね、性的な意味だよね)ボーッ

紬「憂ちゃんなんだか顔赤くない?まさか熱でもあるの?」

憂(仲良くする……夫婦の営みのことを仲良しって言ったりするよね)ボーッ

紬「大変、早くベッドに入って暖かくして寝ましょ」グイグイ

憂(ああベッドに連れ込まれちゃってるよ私……)

憂「……ぐぅ」スヤスヤ

唯「小腹が空いたからって作ってもらったサンドイッチ美味しかったなー」ホクホク

唯「それにしても、憂は私の部屋に来るって言ってたのに全然来ないな……」

唯「もうちょっとだけ起きて待っとこうかな」

唯「でも寒いからベッドの中で」ゴソゴソ

唯「……ちょっと目をつぶるだけ。憂を待ってるから寝はしないよ」

唯「……ぐぅ」スヤスヤ


 完 ~ちょっとHなかまいたちの夜~

以上で全編終わりになります
ありがとうございました

>>348

おつだ

えーと、次頑張れ

おもしろかった
乙でした

>>347
今北乙

ま、まあ乙・・・

糞つまんなかったけどポニテの話と最後だけは評価する

乙でした!!

完走乙!
憂は和にはタメ口だったよな

乙!かま2版もちょっと見てみたかった

つまんなかったけど頑張りは認める

>>358
他の人がいるときは敬語
二人きり、あるいは唯だけの時だけため口

だからこそモノローグまで「和さん」なのが違和感だった

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