おりこ「私達も」かずみ「叛逆したい!」まどか「誰……?」(133)

ひとつの願いとひきかえに、魔獣と戦う運命を背負う、魔法少女達のいる世界。
「円環の理」が見守る世界で、2人の魔法少女が消滅した。

 1人の名前は、和紗ミチル。
 1人の名前は、呉キリカ。

「円環の理」、それは――
希望を失った魔法少女は存在さえ許されない、残酷な掟。

~プロローグ・おりこサイド1~
キリカ「メーデー!メーデェー!」

キリカ「事態は切迫!グリーフシードは……少ないっ!少なすぎるっ!」

  ほんの数粒ほどのグリーフシードを持ち、魔法少女 呉キリカは走る。

キリカ「! 瘴気……」

キリカ(――チャンスだ。魔獣の数によっては、大量のグリーフシードが手に入る。)

キリカ(そしたら、織莉子も喜ぶぞ……ふふふ……!)

  キリカは変身し、瘴気の発生源へと急行した。だがそこで見たのは、異様な光景だった。

キリカ(なんだ、これ……魔獣が、魔獣を攻撃してる……)

  魔獣が魔獣に向かってレーザーを発射し、レーザーを受けた魔獣は消滅していく。

キリカ(魔獣にも機嫌の良し悪しがあるのかね……あっ、グリーフシードが落ちている!)

 地面に粒状のグリーフシードが落ちているのを見つけたキリカは、レーザーの雨の中に飛び込んでいった。

???「ダメですよぉ、それ、私のです。」

  グリーフシードを拾おうとしたキリカの手を、杖のような何かが弾いた。

キリカ「キミは……」

ピエロ姿の魔法少女「見ての通り、あなたと同じ魔法少女ですぅ」

~プロローグ・おりこサイド2~
キリカ「くそっ……やられた……!まさか、あんな能力を持った魔法少女がいたなんて……」

キリカ(魔獣だけじゃなく人間まで操れる「操作」の魔法を持つ魔法少女……)

  あのピエロ姿の魔法少女は、どうやら魔獣を操作し、自滅させることでグリーフシードを得ていたらしい。

  そして魔法少女に出遭ったら、その魔法少女を操り、グリーフシードを横取りしていた。

キリカ(自分で自分に攻撃するって、けっこう痛いモンなんだねぇ……)

キリカ(あの魔法少女は何とか撃退できたけど、減っちゃったなぁ……グリーフシード……)

  キリカの体のあちこちには、鋭い爪の痕が残されている。手に持っているグリーフシードは1つだけだ。

キリカ(こんな有様じゃ、織莉子のところに帰れないじゃないかぁ……しかも……)

  先程の戦いでの消耗により、キリカのソウルジェムはすっかり濁っていた。

キリカ(しかたない、とりあえずは……)

~プロローグ・おりこサイド3~
キリカ「ただいまっ!織莉子ーっ!」

織莉子「おかえりなさい、キリカ。……大丈夫だった?」

キリカ「大丈夫って、何が?それよりこの臭い、今日はスコーンかい?」

織莉子「その様子では大丈夫そうね。ケガもなさそうで、何よりだわ。」

織莉子「私、貴方のこと心配なの。ごめんなさいね、毎回……」

キリカ「謝らないでよ!私は、キミの力になれればそれでいいんだ。」

キリカ「それに、戦闘が得意な私がグリーフシードの調達役を担うのは、当然の事じゃないか!」

織莉子「足手まといね、私。せめて、予知の魔法が安定すればいいのだけれど……」

キリカ「何を言ってるんだい?キミには素晴らしい役割があるじゃないか!」

織莉子「?」

キリカ「キミの淹れた紅茶、最っ高だよ!!」

  織莉子の淹れた紅茶を飲み、キリカは満面の笑みでそう言った。

キリカ「もちろん、このスコーンも……」

  キリカの手から、スコーンが落ちた。

~プロローグ・おりこサイド4~
織莉子「キリカ……?どうしたの?」

キリカ「いや、なんでもないよ……それより、グリーフシードを……」

  キリカが懐を探ると、グリーフシードではなくソウルジェムが落ちてきた。

キリカ「――!?」

織莉子「キリカ、それは……」

  キリカのジェムは、濁りきっていた。

キリカ(どうして……まだ余裕はあったはず……そうか!)

  ――しかたない、とりあえずは……傷を治すか。織莉子は心配性だからなー。

キリカ(あの時使った、回復魔法……!)

織莉子「グリーフシードは全て貴方が使いなさい!このままじゃ……」

キリカ「足りないよ、多分。1粒しかないからね……」

織莉子「そんな……!」

キリカ「あ、コレ……本当にこうなるのか。あっけない幕切れだったなー」

  キリカの指先が、透けていた。

~プロローグ・おりこサイド5~
織莉子「キリカ……」

  ――希望を求めた因果がこの世に呪いをもたらす前に、魔法少女は消え去るしかない。
  織莉子の脳内を、この言葉がよぎった。

織莉子「そんな……いや!!キリカ!!」

キリカ「泣かないでくれよ、私は幸せだったんだ……だけど……」

キリカ「たとえ絶望して、呪いをばらまく事になってでも、私はキミのそばにいたかった……」

キリカ「織莉子ぉ……私は、消えたくない……生きていたいよ……!」

織莉子「キリカ……!」

  そして、キリカは消えた。
  あまりにもあっけない最期だった。

~プロローグ・かずみサイド1~
かずみ「――リーミティ・エステールニ!!」

  強い光が魔獣を払い、グリーフシードが落ちてくる。

海香「今日の収穫は……少ないわね。七人で分けるにはとてもじゃないけど足りないわ」

  ここは見滝原から少し離れた町、あすなろ。
  この町を拠点に七人の魔法少女が活動している。
  七人は「プレイアデス聖団」と名乗っていた。

サキ「取り分は、かずみが優先だな。かずみは威力の高い魔法を連発している分、消費も多い」

かずみ「いいよ、私はまだ余裕があるから。里美とみらいに回してよ……辛そうにしてるから」

みらい「えっ……ボ、ボクはいいよ!別にボクのジェムは……」

かずみ「ほら。今回のグリーフシードは、みらいと里美のね!」

里美「ありがとう……ごめんね、ミチルちゃん……」

  そしてみらいと里美はかずみからグリーフシードを受け取り、自分のジェムを浄化する。

かずみ「ほらっ、次行くよ!みんなの分のグリーフシード、集めないと!」

サキ「あ、ああ……」

ニコ(『みんなの分』か……一番グリーフシードを必要としてるのは、君なんだけどね。)

  七人の中で一番濁っていたのは、かずみのソウルジェムだった。

~プロローグ・かずみサイド2~
かずみ「はぁ……今日も、楽しかった……」

  プレイアデス聖団で恒例となっている魔獣退治後の食事会。かずみはその後片付けをしていた。

かずみ「でも、本当にこれでよかったのかな……」

かずみ(みんな、それぞれに絶望を抱えてて……私はキュゥベェとみんなを契約させて、絶望から救い出した)

かずみ(でも、ソウルジェムが濁りきる前に、魔法少女は消えるしかない)

  ソウルジェムはたやすく濁ってしまう。
  魔獣との戦闘は、死と隣りあわせだ。

かずみ(それって、みんなに新しい絶望を与えただけじゃないのかな?私が……)

  いずれ来る消滅か、それとも死か。

かずみ(考えないようにしなくちゃ。今日は楽しかった、みんなに会えてよかった、それでいい……)

かずみ(それに……できる限りの罪ほろぼしは、してるつもりだから……)

  今日は大量のグリーフシードを得たが、かずみのジェムは濁ったままだ。
  かずみは自分のジェムの浄化を後回しにしていた。

  そして、その時は訪れた。

~プロローグ・かずみサイド3~
かずみ「今日は魔獣が多いね、何発撃っても足りない……リーミティ・エステールニ!」

ニコ「無理に撃つな、かずみ!出力がかなり落ちている!君のソウルジェムは限界だ!」

サキ「そうだ、私達がサポートする!ここはいったん退くんだ、ミチル!」

かずみ「だけど、サキのソウルジェムだって、濁って……」

サキ「君ほどじゃない!さっさと後方に下がるんだ!」

かずみ「う、うん……」

海香「カオル、とどめはお願いね!」

カオル「わかった……パラ・ディ・キャノーネ!!」

  光球が炸裂し、魔獣は消滅した。

カオル「見たかミチル、これが『力』の牧カオルの実力……ミチル!?」

里美「しっかりして!ミチルちゃん!」

  ミチルが、地面に倒れていた。

~プロローグ・かずみサイド4~
かずみ「みん……な……」

サキ「しゃべるな、ミチル!はやくソウルジェムを浄化しないと!」

かずみ「みんな……ごめん……ね……」

  かずみの身体は、消滅しかけていた。

かずみ「絶望する前に……魔法少女は……消え去るしかない……」

海香「そうよ、だからグリーフシードを使って、ソウルジェムを浄化するの!早く!」

かずみ「……ねえ、海香。私、人を助けて、みんなに希望を与える魔法少女に憧れてたの。」

かずみ「だから、みんなを助けて、契約させた……それが、希望を与えることになると思ったから……」

かずみ「でも私、分からなくなったの。願いを叶えて、魔法少女になることが……本当に、希望なのかな?」

かずみ「新しい絶望を、生み出すだけじゃないのかなって……」

カオル「ミチル、それは違う!みらい、早くグリーフシードを、かずみに!」

みらい「うん……でも……」

  みらいは、グリーフシードを渡せなかった。

かずみ「みんな、ごめんなさい……ごめん……なさい……」

  そして、かずみは消滅した。

~プロローグ・かずみサイド5~
カオル「何で、ミチルにグリーフシードを渡さなかったんだ……答えろ、みらいっ!!」

みらい「………………」

海香「やめて、カオル。そんなことをしても何にもならないわ」

里美「そうよ。ミチルちゃんだって……きっと、望んでない」

カオル「くっ……!」

  ミチルが消滅して数日がたった。
  6人となったプレイアデス聖団は御崎邸で塞ぎこんでいた。

みらい「意味がないと思ったんだ」

みらい「ミチルは、魔法少女そのものに希望が持てなくなってた……だから、意味がないって……」

カオル「どうして!!」

みらい「だって、消えるしかないんだ!希望を失って、絶望した魔法少女は!呪いを生み出す前に!!」

カオル「そんなの……!」

海香「それが『円環の理』よ。理不尽な事にね……」

  海香は目を閉じた。

~プロローグ・かずみサイド6~
サキ「ミチルに助けられる前、私達は絶望の中にいた。そして魔法で、それを救われた……」

サキ「絶望を乗り越えたんだ、私達は。魔法の力を借りて」

サキ「この力は、絶望を乗り越えるためのものじゃないのか?なぜ絶望する前に、消えなければいけないんだ!」

QB「……『円環の理』に腹を立てる魔法少女なんて、珍しいね」

  いつの間にか、どこからかキュゥベェが入ってきた。

海香「腹を立ててなんていないわ。ただ、理不尽な事を理不尽だと言ったまでよ」

QB「そうかい?ボクには『円環の理』を否定しているように聞こえた」

海香「……貴方には、面白くない話でしょうね」

QB「そうでもないよ。『円環の理』はシステムを作った僕達でさえ意図していない存在なんだ」

QB「抗ってみるのもひとつの手かもしれないよ?上手くいけば魔法少女システムはもっと良くなるかもしれない」

QB「君達のミチルが帰ってくるなんてことも、あるかもしれないね」

海香「『円環の理』を否定し、破戒する……そんなコト、できるのかしら……」

サキ「私は……ミチルを取り戻せるならば、それに賭けたい」

~本編~
織莉子「ここが、あすなろ……ずいぶん遠くまで来てしまったわ」

  織莉子は自分のソウルジェムを見た。かなり濁っている。

織莉子(見滝原や風見野では、他の魔法少女と接触する恐れがある……余計な衝突は避けたいわ)

織莉子(キリカがいてくれたら、簡単なのに……いえ、考えてもしかたないわ、行きましょう)

  不安と恐怖を溜息と共に吐き出し、織莉子は瘴気の発生源に向かった。

少女「パパ、ママ……!どうしちゃったの!?早く逃げようよ!」

  魔獣の群の中で、緑髪の少女が懸命に両親の腕を引く。
  だが、彼らは虚ろな目で何処かを見つめていた。

織莉子(あの子の両親、瘴気にあてられたんだわ……こうなった以上、もう……)

少女「おねえちゃん、誰?」

織莉子「今はそれどころじゃないわ。ご両親を置いて、とにかく逃げなさい!」

少女「で、でも……きゃあっ!」

  だが少女の行方を遮るように、魔獣がレーザーを飛ばす。

織莉子「くっ……こうなったら、絶対私から離れないで!あなたを守るから!」

  織莉子は変身した。

織莉子「グローリーコメット!」

  織莉子は魔法を放った。だが魔獣にはあまり効果が無いようである。

織莉子(やっぱり、ジェムが濁った状態では出力が弱過ぎる!)

  雨のように、魔獣のレーザーが降り注ぐ。

織莉子(――守らなきゃ。)

  大切なあの子は救えなかった。せめてこの子は。
  織莉子は少女を抱きしめた。

???「……ラ・ベスティアっ!」

  織莉子の視界をぬいぐるみが覆う。

???「ピエトラディ・トゥオーノ!」

  続いて、激しい轟音。その大きな音に、織莉子は目を開ける。

織莉子「ぬいぐるみ……?」

  織莉子の目の前にテディベアが落ちてきた。
  どうやらこれがレーザーを防いだらしい。

カオル「大丈夫か!?」

  織莉子の前には、6人の魔法少女――
  プレイアデス聖団が立っていた。

カオル「2人ともケガはないみたいだな……よかった!」

海香「あなたのソウルジェム、濁ってるわ。これを使って」

織莉子「ありがとう……」

  海香は織莉子にグリーフシードを手渡す。

織莉子「貴方達は、この街の魔法少女なのね?」

サキ「ああ。我々は『プレイアデス聖団』。この……6人で活動している」

ニコ「『貴方達は』ってことは、君はこの街の魔法少女じゃないのかい?」

織莉子「ええ、見滝原から。グリーフシードの取り合いを避けてここまで来たのだけれど」

ニコ「そう、なら、残念でした」

里美「後ろの子も、魔法少女なの?」

  先程の緑髪の少女は、織莉子の陰に隠れていた。

織莉子「いいえ、この子は……」

少女「この子じゃない、ゆま。千歳ゆまだよ」

里美「ゆまちゃん……ここには、1人で?」

ゆま「ひとりじゃない……パパが帰ってきたから、みんなでひさしぶりにおでかけして……」

  ゆまはちらりと両親の方を見る。

ゆま「パパとママ……だいじょうぶ、だよね?」

織莉子「もうダメよ」

カオル「おい……いくら何でも、そんな言い方……!」

織莉子「早いうちに事実を知っておいた方がこの子のためだわ」

  織莉子は、まっすぐゆまを見つめる。

織莉子「いい?あなたのパパとママは、もうずっとあのままよ。ずーっと」

織莉子「パパとママの事は、もういないと思ったほうがいいわ」

ゆま「そんな……ゆま、どうすれば……」

  ゆまは悲しそうにうつむく。

織莉子「とりあえず警察に連絡して、この子の身内を探しましょう。それまで……」

  ゆまが、織莉子の服の裾をつかんだ。

ゆま「ゆま、おねえちゃんといっしょにいたい……ダメ、かな?」

織莉子「……そう。別にいいわ」

里美(ひどい人だと思ってたけど……優しい人、なのかしら?)

織莉子「じゃあ、行きましょうか」

  織莉子はプレイアデス聖団に背を向ける。

織莉子「最後に、ひとつだけいいかしら」

織莉子「貴方達がやろうとしている事……多分、うまくいかないわ」

聖団「!?」

  織莉子は、予知していた。

海香「……どうぞ」

織莉子「ありがとう。わざわざお茶まで用意してもらってしまって」

サキ「立ち話もなんだしな」

  プレイアデス聖団と織莉子、そしてゆまは御崎邸に来ていた。

サキ「それで、先程言ったのはどういう事だ?」

織莉子「どういう事……って?」

サキ「私達が何をしようとしたか知っているのか?どうやって知った?」

織莉子「ええ。私は予知の魔法を持っている。だから、たまたま見えてしまった……」

織莉子「何度も何度も死者の蘇生に挑戦し、失敗する貴方達を……」

サキ「ミチルは死んでない!」

みらい「サキ……」

ニコ「確かに、死んではない。導かれた……円環の理に」

海香「だから私達はミチル……私達の仲間を、魔法を使って蘇生させようとしている」

海香「現段階で、魔法で肉体を生成し、命を作り出す事には成功したわ。でも……」

織莉子「足りないモノがあるのよね、決定的な」

織莉子「生命を維持し、制御する力がない。生まれても、すぐに死んでしまう……違うかしら?」

ニコ「色々なエネルギーを試してはいるんだけどね。魔獣の力に、グリーフシードに……」

ニコ「他の魔法少女の、ソウルジェム」

織莉子「と、いうことは『魔法少女狩り(ピック・ジェムズ)』は、そのために?」

カオル「お見通しなんだな、何でも」

織莉子「何でもじゃないわ。たまたま見えただけよ……」

織莉子(何でも見れたら良かったのに……ね)

  そうすれば、キリカは消えなかったかもしれない。

海香「そうね、何でもではないわ。私達がジェムを狩る目的は、別にあるもの」

聖団「!?」

織莉子「それは、私に話してもいいことなのかしら?」

海香「ええ、私はそう判断したわ」

里美「で、でも……ついさっき、会ったばかりの人でしょう?そんな大事なこと……」

サキ「私も反対だ。海香……根拠を、聞かせてほしい」

海香「ええ。まず、全て私の推測に過ぎないけど……」

海香「貴方には、パートナーがいた。違うかしら?」

織莉子「いたわ。大切な友達だった……お察しの通り、円環の理に導かれてしまったけれど」

カオル「そうだったのか……」

サキ「なるほど。戦闘を避けてここまで来たわりには私達の事を知らなかったし、魔獣との戦闘も不慣れなようだった」

サキ「戦闘やグリーフシードの確保は誰かに任せていた……今日、あすなろに来るまでは、というワケか」

ニコ「そして、その『誰か』は……」

織莉子「………………………」

  ここで、初めて織莉子は辛そうな表情を見せた。

里美「そうなの。あなたも……あんな辛い思いを……」

  里美の目には涙が浮かんでいた。

カオル「もう泣くんじゃない……里美」

里美「でも、死んじゃったのに……もう、いないのに……死体も、形見も、何も残ってないんだもの……」

里美「だからみんなも、ミチルちゃんを生き返らせたいと思ったんでしょ?」

サキ「ああ、そうだ……」

織莉子「もう私達に残っているのは……記憶だけ」

  織莉子は紅茶に砂糖を入れる。

ゆま「わあ……」

ニコ「おじょうちゃん、ずいぶん甘いのスキなんだね。トーニョービョーになるよ?」

織莉子「……違いないわ」

  砂糖を3つ。ジャムを3杯。
  隣で見ていて覚えた、変な飲み方。

織莉子「ゴホッ」

織莉子(あ、あま……いつもこんなの飲んでたの!?あの子は)

サキ「同じ悲しみを背負っているから。それが私達の計画を、彼女に伝える根拠ということか?海香」

海香「それは根拠を支える、ひとつの柱に過ぎないわ。私は……」

海香「彼女を『プレイアデス聖団』の7人目として、迎え入れたいと思っているの」

  織莉子は、驚かなかった。予知していたかのように。

カオル「冗談だろ海香!?会ったばかりの、名前も知らないヤツを仲間になんて……」

海香「冗談じゃないわ。私達だって、会ったばかりのミチルに契約を勧められて、聖団を結成したじゃない」

カオル「ソレとコレとは……」

織莉子「他意は無いとはとはいえ、私は貴方達について色々情報を得すぎてしまった」

織莉子「ならば、仲間に引き入れてしまおうという訳かしら?」

海香「それもある。それに、貴方の予知魔法があれば、グリーフシードを効率的に探せる」

織莉子「アテにできるほど正確ではないわよ。無差別だし、グリーフシードもかなり消耗するわ」

海香「だけど……」

  海香は何か言おうとしたが、それは言葉にならなかった。

みらい「どうしちゃったの、海香?おかしいよ。そんなに焦って……」

みらい「第一、プレイアデス聖団はボク達とミチルの7人だけに決まってるよ!これからもずっと!」

サキ「確かに海香の言う事は正しい。私は、彼女を7人目とする事に異論はないが……」

サキ「海香。君はどうして……どうしてそんなに焦っている?」

海香「私……?そんなに、焦っているかしら……」

  海香は気付いていなかった。

里美「ねえ、海香ちゃん。海香ちゃんも、もしかして耐えられなかったんじゃない……?」

里美「6人しかいない、プレイアデス聖団に……」

海香「そうね……私、だから焦って7人目を……」

  堰を切ったように海香の目から涙が溢れ出す。
  それを見た他の聖団のメンバーも涙を流していた。
  ミチルの抜けた穴は大きかった。

織莉子(キリカ……)

  キリカの抜けた穴も、また。

織莉子「いいかしら」

  織莉子は立ち上がる。

織莉子「星座の七姉妹(プレイアデス)ではなく、その異母姉妹(ヒュアデス)で構わない。だから……」

織莉子「私を、あなた達の仲間に加えてもらえるかしら?」

海香「……いいの?」

織莉子「ええ。私にとってメリットしかない提案だもの。断る理由がないわ」

織莉子「私は1人ではグリーフシードの確保が難しい。やはり私にはパートナーが必要」

織莉子「そして私も、キリカに……円環の理に導かれた友達に、帰ってきてほしい。方法があるのなら、知りたい」

織莉子「だから貴方達に協力したいの」

サキ「なるほど……分かった。不安定なものとはいえ、君の能力は必要だ。私は歓迎しよう」

みらい「サキが言うなら、しかたないか……でも、ミチルが帰ってくるまでだからね!」

ニコ「生き返らせないといけない人数が増えちゃったね。まあ、いいけど」

カオル「まあ、1人じゃグリーフシードも集められないようなヤツを、ほっとくこともできないし……」

里美「賑やかな方が楽しいわ。きっとミチルちゃんなら、そう言ったと思うの」

海香「ここで会えたのも、きっとミチルの導きがあったからだわ。共に戦いましょう……円環の理と」

  海香はにこやかに笑い、織莉子に握手を求める。
  織莉子はその手を握った。

織莉子「円環の理と戦うって……どういう事?」

サキ「ああ。希望が絶望に変わる前に、魔法少女は消滅する。それが『円環の理』だ」

サキ「その理不尽なシステムをを破戒し、絶望した魔法少女を連れ戻す」

サキ「そして、希望を失った魔法少女の行く先が消滅だという、この残酷な現状を変えてみせる」

サキ「それが今の私達の目的だ」

織莉子「なら、ソウルジェムを集めていたのは……」

海香「私達は円環の理を穢れきったソウルジェムソウルジェム、つまり負の感情エネルギーの塊を糧としている存在だと仮定した」

織莉子「魔法少女システムに寄生する、寄生虫のようなものね」

ニコ「そう。だからエサを減らせば、死ぬんじゃないかって思ってさ。微々たるものだけど確実ではある」

織莉子「でも……世界中の穢れたソウルジェムを集めるなんて、できっこないわ」

サキ「そう。だから私達はミチルの蘇生計画も同時に進めている」

サキ「失われた魔法少女が戻ってくる……例外を作り出せば、システムは瓦解するかもしれない」

織莉子「……円環の理への『叛逆』」

  織莉子は、ぽつりとつぶやいた。

カオル「ただいまー!グリーフシードとってきたぞ、おりこ!」

織莉子「お帰りなさい。料理はもうできてるから、ご自由にどうぞ」

ゆま「ゆまも手伝ったんだよ!すごいでしょ!」

里美「えらいわね、ゆまちゃん。ゆまちゃんとおりこちゃんのおかげで、私達頑張れるわ」

ゆま「えへへー」

  あれから数日が経ち、織莉子はすっかり聖団の一員となっていた。

海香「今日のメニューは?」

織莉子「アラビアータよ。それから、付け合せに冷やしトマトとモッツァレラチーズ、お肉のトマト煮……」

ニコ「……今日は、トマト記念日か何かなのかな?」

織莉子「トマトが安売りしてるのが『見えた』から、つい……」

サキ「相変わらず、便利なんだかそうでないんだか分からない能力だな」

  不安定ながらも織莉子の予知は役立っているようだ。
  聖団はテーブルを囲み、織莉子の料理を頬張った。

海香「しかし、貴方が料理がしたいなんて言い出すとは思わなかったわ。そういうことする人に見えなかったから」

織莉子「現状、私が聖団のお荷物になっているのは事実だわ。何らかの役割を果たさないといけないと思ったの」

カオル「ミチルがいなくなってから、する人がいなかったからな……うん、やっぱり手作りの料理はいいな」

里美「それにしてもずいぶん上手くなったわねぇ、おりこちゃんの料理」

ゆま「ずっと練習してたもんね。ゆまも協力したんだよ!」

みらい「まあね。最初に、パウンドケーキと紅茶が出てきたときはビックリしたけど」

織莉子「わ、忘れて頂戴。それは……」

サキ「その後きちんと料理の勉強をしたんだからいいじゃないか」

サキ「特にこのアラビアータ、絶品だ。どこで習ったんだ?」

織莉子「それは……」

織莉子「!」

  また、何かが『見えた』。

  織莉子は驚いたような顔で、ニコをじっと見つめる。

ニコ「何か?」

織莉子「いえ……一瞬、貴方……が見えたような気がして……」

ニコ「へえ。どこで?何してた?」

織莉子「ここの近くよ。金髪のツインテールの人と話してたわ。何だか、険悪な雰囲気で……」

ニコ「ふーん」

織莉子「あの人、どこかで……そうだ、私がアラビアータを習った人よ」

織莉子「トマトを買う時、どんな料理にしたらいいか悩んでたの。そしたら声をかけられて」

織莉子「『夕飯のレシピにお悩みなら、このユウリ様が魔法の料理を伝授してあげよう!』って……」

カオル「うさんくさいな……」

織莉子「ええ。私も適当にあしらって帰ろうと思っていたのだけど……」

ゆま「だ、だって、気になったんだもん……魔法みたいにおいしい『マギカ・アラビアータ』って……」

織莉子「落ち着いて。誰も貴方を責めていないわ。あそこで私が断っていたら、これは作れなかったんだもの」

織莉子「これができたのは貴方のおかげよ。ありがとう」

ゆま「う、うん!ゆま、役に立てたよね!」

サキ「ああ、とってもな」

  サキはアラビアータを平らげる。

海香「金髪、ツインテール……ユウリ様……マギカ……マギカ・アラビアータ……魔法の……」

里美「海香ちゃん?どうしたの?」

カオル「何か思いついたのか?」

海香「思い出したわ、コレよ、コレ!」

  そして海香は、1冊の雑誌を皆に見せた。

カオル「え、何?『天才中学生、奇跡の対談!作家・御崎海香&料理研究家・飛鳥ユウリ』?」

ニコ「海香って、こういう取材嫌いじゃなかったかい?どういう心境の変化なのかな?」

みらい「『天才』かあ……」

  一同は、海香の雑誌を覗き込む。

海香「私の事はどうでもいいの!こっちよこっち、『飛鳥ユウリ』の方!」

  海香は写真の金髪ツインテールの人物を指差す。

織莉子「この人だわ。有名人だったのね」

ゆま「りょうり……けんきゅうか?」

織莉子「そう。美味しい料理を作る人よ。『マギカ・アラビアータ』が絶品な訳だわ」

サキ「しかし……そんな有名人が、なぜニコと話していた?もしかして、知り合いなのか?」

ニコ「いや、知らないよ?……少なくとも、『私』は」

サキ「そうか。それなら、なぜ……?」

海香「もしかしたら、この飛鳥ユウリも、私達と同じ魔法少女なのかもしれないわね」

海香「私みたいに『プロになるチャンスが欲しい』って願いでキュゥべぇと契約したんじゃないかしら」

里美「じゃあ……険悪な雰囲気になってたのは、グリーフシードの取り合いとかなのかしら?」

織莉子「見えたのは一瞬だけだったから、会話の内容までは分からなかったわ」

サキ「いずれにせよ、警戒はしておいたほうがいいな」

ニコ「そうだね。警戒するに越したことはない」

カオル「……しかし、残念だな。ニコがそのユウリと友達なら、頼めばサインでももらえるかなと思ったのに」

ニコ「『私』に、トモダチはいないよ……聖団の皆以外は」

ニコ「捨てたんだ」

  ニコの最後の小さな呟きは、他の人間には聞こえなかった。

ユウリ「この記事、けっこう評判みたいだな……嬉しいねぇ」

  飛鳥ユウリは雑誌をめくり、対談の記事を見ていた。

ユウリ「よかったな……『ユウリ』」

  ユウリは、首に下げたスプーンにそっと触れる。

ユウリ「さて、グリーフシードを狩りに行くとするか!願いを叶えた代償は果たさないとな!」

ニコ「ちょっといいかい?」

  突然黒い魔法少女服をまとったニコがユウリの背後に現れた。

ユウリ「アタシに何か?」

ニコ「君に頼みがあってね。『プレイアデス聖団』のことは、知っているだろう?」

ユウリ「ああ……『魔法少女狩りのプレイアデス』か。1度きりだけど、会った事があるよ」

ニコ「彼らには、個人的に思うところがあってね。復讐をしたいんだ」

ニコ「協力、してくれるかい?」

ユウリ「はぁ?何でそんなコトアタシに頼むワケ?」

ユウリ「魔法少女狩りを泳がせておくのはキケンだとは思うけど、アタシ別にアイツらに恨みなんてないし」

ユウリ「むしろ、感謝してるかもしれない。大事な友達の最期を、一緒に看取ってくれたから」

ニコ「大事な友達……『ユウリ』のコトかい?」

ユウリ「!? アンタ、何でそれを知って……!」

ニコ「私の力は『接続(コネクト)』。君のアタマの中を覗き見て、君の魔法を盗む、そんな力さ」

ニコ「協力が得られないならいいよ。もう君の意思は関係ないからね。それじゃ」

ニコ「せいぜい勝手に使わせてもらうよ、君の魔法」

ユウリ「おいっ、ちょっと待て……!」

  そして、ニコはユウリの目の前から消えた。

  ――勝手に使わせてもらうよ。
  その言葉が、ユウリの頭の中で何度も響いていた。

カオル「ただいま、おりこ!グリーフシードは……」

織莉子「お帰りなさい。料理、出来てるわよ」

里美「あら?ゆまちゃんは、今日はどうしたの?」

織莉子「今日は連れて来ていないわ。見えたの。今日取ってきたのは、グリーフシードではなくて……」

サキ「ああ、これだ」

ニコ「コレも頼むよ」

  サキとニコは、織莉子に濁ったソウルジェムとボンベのようなものを渡す。

織莉子「いつも通り、これは『レイトウコ』ね。皆は先に食事をしていて」

海香「話が早くて助かるわ。ソウルジェムの濁っている魔法少女が見えたら、また教えてちょうだい」

織莉子「ええ」

  織莉子の表情が、険しくなった。
  穢れたソウルジェムとボンベを持ち、織莉子は家の外に出た。

  御崎邸の近くにあるテディベア博物館。
  この地下に『レイトウコ』はある。

織莉子(ずいぶんたまったわね……えっと、ソウルジェムはこの魔方陣の上に……)

  レイトウコは、プレイアデス聖団が狩った濁ったソウルジェムの置き場所だ。

織莉子(体はこっち、と……)

  織莉子がボンベを機械にセットすると、円筒形の水槽に少女が出現した。

織莉子(私達がこんなことしてるって、あの子にバレたら大変ね)

織莉子(でも、これで……この魔法少女達は、消えずにいられる……希望を失っても……)

織莉子「待っていて」

  織莉子はレイトウコを見渡した。
  ここには魔法少女が眠る水槽が無数に存在する。

織莉子(いつか、絶望しても、存在を許されるようになるまで)

織莉子(円環の理を破戒するまで)

里美「ゆまちゃんがいないと、何だか寂しいわね……」

サキ「ああ。いつもよく働いてくれているからな」

  織莉子がレイトウコにいる頃、聖団のメンバーは織莉子の料理を食べていた。

みらい「そういえばさ……あの子、いつまでここにいるのかな」

海香「おりこが警察に連絡して、身内を探してもらっているそうだけど……まだ見つかっていないみたいね」

カオル「でもさ、ゆまの親って、ロクでもないヤツらみたいじゃないか。その親戚なんかに預けたところで……」

  ゆまの体には、無数のあざややけどがある。
  本人は語らないが、虐待があったのだろう。

カオル「だったら、おりこと一緒にいた方がさ……あたし達もいるし、ゆまも寂しくないだろ」

ニコ「どうだろう。何かムリしてるように見えなくもないけどね……あの子」

ニコ「ヘンにほっといたら……取り返しのつかないコトを、してしまうかもしれない」

サキ「確かにあの子は私達の役に立とうと必死になっているように見える。もっと子供らしくしていてもいいのに」

里美「もしかしたら、ゆまちゃんのご両親の育て方に関係しているのかもしれないわ」

ニコ「ソレはきっと、私達が立ち入っていい領域じゃないだろうね。あの子が自分から話してくれない限りは」

里美「そうね。でも、心配だわ。おりこちゃんはゆまちゃんにお留守番させてるって言ったけど……」

カオル「ちゃんと見てないといけないな。『星座の七姉妹』ではないけど……あの子もあたし達の『妹』だ」

みらい「………………………」

サキ「末っ子じゃなくなって、不満か?」

みらい「ちっ、ちがうっ!ただ……今日はおりこに、早めに帰ってもらったほうがいいかなって」

サキ「そうだな。私もそれに賛成だ」

みらい「それに末っ子はボクじゃなくて、『ミチル』になるでしょ?」

みらい「円環の理から戻って来て、もう1度プレイアデス聖団に入る……ボク達のミチルに」

ゆま(おりこ、おそいな……)

  久しぶりの留守番で、ゆまは寂しげに座っていた。

ゆま(ごはん、作ってくれてる……おやつもある……がっこうから帰ってきて、疲れてたのに……)

ゆま(ゆまも魔法少女だったら、おりこのためにグリーフシードとってこれたのかな……)

ゆま(『キリカ』みたいに……)

  キリカの話を、織莉子はたまにしかしない。
  だがどれほど大事な存在かゆまにも分かっていた。

ゆま(でもおりこは、魔法少女だけにはなるなって言ってた)

ゆま(ゆまはどうやったら、おりこの役に立てるのかな……役立たずって、言われないのかな……)

  ゆまの胸が、ざわつく。

ゆま(役立たずは、やだ……もしおりこも、ゆまのこと役立たずって、いらないって、言ったら……)

  トラウマが蘇る。

ゆま(ゆまは……何も出来ない、役立たず……だから、いらない……?)

  誰も、答えない。
  織莉子の家には、誰もいない。

織莉子「ごめんなさい、ゆまさん。遅くなってしまって……」

織莉子「ゆまさん?」

  家の中には誰もいない。
  テーブルの上には紙が置かれていた。

  ――ごめんなさい。
  紙には、そうとだけ書かれていた。

ゆま(……これから、どうしよう)

ゆま(でも、もう、これからは、だれにもメイワクかけない。おりこにも、プレイアデスのみんなにも……)

ゆま(そしたら、役立たずって言われなくなるよね)

  暗くなりかけた道を、ゆまはとぼとぼ歩く。

ゆま(あれ?あの子……あの子も、家出かな?)

  遠くに、地面に絵を描いて遊んでいる男の子がいた。
  見た目からするに、ゆまよりもだいぶ幼い。

タツヤ「みて!まどか、まどか!」

知久「また、『まどか』かー……タツヤは大好きなんだね、まどかのこと」

ゆま(なーんだ……パパが一緒かぁ)

知久「……ん?君、どうしたんだい?ママとはぐれちゃったのかな?」

ゆま「ひえっ!ま、まいごじゃないもん!ゆまはこれから、1人でがんばるって決めたんだから!」

知久「そっか、えらいね。でもきっと、おうちの人心配してるんじゃないかなー……」

詢子「知久。その子、どうしたんだ?」

知久「この子、迷子みたいなんだ。お家の人が探してるかもしれない」

ゆま「ゆまは迷子じゃない!パパもママも死んじゃった!おうちの人なんていないもん!」

ゆま「おうちの人……なんか……」

  ――ゆまさん!

  ふと、ゆまは織莉子の事を思い出した。
  バラの香りがする織莉子の家の事を。

ゆま「うっ……ぐすっ……」

ゆま「おりこ……」

知久「やっぱり僕、この辺りを探してくるよ。その間この子のこと、見ててくれないかな?」

詢子「分かった。よーし、じゃあお嬢ちゃん、私と一緒に遊ぼう!この棒で、タツヤといっしょにお絵描きだ!」

ゆま「うん!」

  タツヤが、地面に2つ結びの女の子を描く。

ゆま「ゆまのこと、描いてくれたの?」

タツヤ「ううん、まどか」

ゆま「……まどか?」

詢子「タツヤのお友達なんだ。私は知らないけど。どんな子なんだろうなあ……まどかって」

  詢子はタツヤの絵を真似て「まどか」を地面に描く。

詢子「もしかしたら、お嬢ちゃんみたいな感じかもな」

ゆま「ゆま?」

詢子「そうそう。髪型同じだし。そうだ、パパとママがいないなら……よかったら、ウチに来てもいいぞ」

ゆま「………………………」

知久「――ママ!見つかったよ!」

織莉子「ゆまさん!」

  織莉子が慌ててゆまに駆け寄る。

知久「君の事、ずっと必死で探していたんだよ。ダメじゃないか、お姉さんを心配させちゃ」

ゆま「おりこ……ごめんなさい」

織莉子「謝らなくていいわ。どうして、こんな事したの?1人きりで、何とかなると思ったの?」

ゆま「で、でも、ゆま……みんなにメイワクかけたくなくて」

織莉子「迷惑だなんて思ってないわ。少なくとも、私は」

織莉子「母は幼い頃に死に……父は自殺し、私はあの広い家に、たった1人きりになってしまった」

織莉子「キリカと友達になれて、1人ではなくなったと思ったけれど、キリカも、すぐに……」

織莉子「家に帰れば貴方がいる。晴れた日に散歩に行けば、隣を貴方が歩いてくれる」

織莉子「それだけでいいの、私は……」

  織莉子のまぶたに、ほんの少し涙が浮かぶ。

ゆま「じゃあ……ゆまは、役立たずじゃない……?」

織莉子「役に立っているわ、とってもね」

  織莉子はゆまの額に、優しく自分の額を当てた。

織莉子「本当にありがとうございました。すみません、ご迷惑をかけてしまって……」

知久「大した事はしてませんよ。よければまたタツヤと遊んであげてください」

知久「一人っ子なので、遊び相手がいなくて」

ゆま「ねえ、おばさん」

詢子「おばっ……って……な、何かな?お嬢ちゃん」

ゆま「『ウチに来てもいい』って言ったのって……ゆまが『まどか』に似てるから?」

詢子「! い、いや……お嬢ちゃんが、とっても可愛いからさ」

ゆま「……そっか。じゃあ、またね!帰ろ、おりこ!」

織莉子「? ええ……」

ゆま(ゆまと……『まどか』……)

  詢子の一瞬の動揺を、ゆまは見逃していなかった。

織莉子(さっきの『まどか』って……円環の理の?まさか、何でも結び付けて考えすぎだわ)

織莉子(キュゥべぇがあんな事を言うから……)

  ゆまを寝かし付けた織莉子は、プレイアデス聖団と話し合った事を思い出していた。


ニコ「また、ソウルジェムを狩って来たワケだけど……終わりが見えないねぇ、コレ」

海香「でも私達は、行動するしかないわ。円環の理について何も分かってないのだから」

みらい「ねえ、海香。円環の理って……そもそも、どういうモノなのかな?生き物?システム?」

サキ「今後のためにも、考えてみてもいいかもしれないな。何か新しいアプローチができるかもしれない」

カオル「海香は『魔法少女システムに寄生し、穢れたソウルジェムをエサにする存在』って言ったよな」

海香「キュゥべぇは円環の理の原理を知らないそうだから、イレギュラーな存在と考えるのが妥当でしょうね」

海香「だから、魔法少女システムを解明すれば何か分かると思って……魔獣の事を調べてみた」

  海香は変身し、手に持った本を開いた。

織莉子「魔獣について調べて、どんな事が分かったの?」

海香「魔獣は、グリーフシードを集めるという使命を背負っている。『世界の歪みを正すため』」

織莉子「世界の、歪み……?」

海香「ええ。魔獣の攻撃から、そこに込められた意思を読み取ったの。それが『イクス・フィーレ』、私の魔法よ」

織莉子「魔獣は、歪みを正すために存在している……?それは魔法少女システムが、最初から歪んでいるという事?」

ニコ「遊びならともかく、宇宙の存亡が掛かってるのに、最初から歪んだシステムを作るようなバカはいないでしょ」

サキ「あの合理的なインキュベーターが、それをするとは思えない」

織莉子「じゃあ……後から歪んだ?」

海香「そう考えるのが自然ね。恐らくは、円環の理が寄生した事によって。でも、だからどうしたって話だけど」

織莉子「そう。でも、そう考えると、おかしいわ」

海香「!?」

  ずっと堂々巡りだった海香の思考に、風穴が穿たれた。

海香「確かに……現行の魔法少女システムは『魔獣』とそれを倒す『魔法少女』によって構成されている」

海香「でも、魔獣が現れたのは『円環の理』の出現後……それならば……」

織莉子「それ以前の魔法少女の敵は、魔獣ではなかった」

織莉子「そしてその『かつての敵』は、円環の理が出現した後に消えた」

海香「まさか『かつての敵』は……そんな、そんな事があるって言うの!?」

織莉子「そう考えるのが妥当よ。ずっと合理的なシステムになるわ」

海香「たしかに……インキュベーターなら……」

みらい「あの、ちょっと……いいかな?」

  海香と織莉子の間を、みらいが遮る。

海香「何?」

みらい「二人だけで、分かったみたいな顔しないでほしいな。サキが困ってるよ?」

サキ「みらい!いや、ちがうんだ、私は……分かっているぞ」

カオル「ちゃんとついていけてるから。どうぞ、続けてくれ!」

  サキとカオルの額には、不自然な汗が浮かんでいる。

里美「あの、おりこちゃん、海香ちゃん。説明してくれないかしら?……みんなのために」

  里美はサキとカオルを見て、少しはにかみながら笑った。

織莉子「そうね、結論から言いましょう。円環の理は、ある存在を食らう為に生まれた」

織莉子「穢れたソウルジェムから生まれる『魔法少女の敵』を……」

ニコ「円環の理が生まれる前、希望を失った魔法少女は、魔法少女の敵になってたってコトだね」

ニコ「そして、今の魔獣のように魔法少女の手で殺された。そういうシステムだった」

里美「そんな……ひどい……」

ニコ「で、ソレを救うために立ち上がったのが、我らが仇敵、円環の理サマってワケか」

サキ「それが真の『魔法少女システム』なのか……インキュベーターめ……」

??「呼んだかい?」

  聞き慣れた声が、部屋の入り口から聞こえて来た。

カオル「インキュ……ベーター……」

QB「玄関が開きっぱなしだったからね。興味深い話が聞こえたから、失礼させてもらったよ」

海香「興味深い……貴方にもそんな感情があったのね」

QB「まあね。君達の言ってるシステム、前から思ってたけど、効率的にエネルギーが回収できそうだ」

QB「できる事なら、そういう風にバージョンアップしたいね」

カオル「ふざけるな!!そんな、仲間同士で殺し合いさせるようなマネなんか……」

みらい「でもボクは、そっちの方がいいかもしれない」

カオル「みらい?お前、何言って……」

みらい「もしサキや、他の皆のソウルジェムが濁って絶望しても、記憶以外の『何か』が残るから……」

サキ「みらい……」

QB「しかし、君達が考察してその結論に至ったという事は……」

QB「『彼女』の言う事も夢物語じゃないかもしれないね」

里美「彼女?そう言えばキュゥべぇちゃん、『前から思ってた』って……」

QB「君達と同じような事を言っている魔法少女がいるのさ」

QB「かつて魔法少女システムは、『魔法少女』と『魔女』によって構成されていた」

QB「魔法少女を生み出した希望が失われ絶望に変わる時、魔法少女は魔女になる」

QB「そしてその魔女は、別の魔法少女という新たな希望に倒される。そしてその魔法少女もまた……」

QB「そこで『まどか』という魔法少女が現れ、全ての絶望を浄化する円環の理となった、ってね」

サキ「誰だ?」

QB「え?」

サキ「その話を、誰から聞いたのだと言っている!」

QB「『ほむら』……見滝原の魔法少女、暁美 ほむらさ」

ゆま「おりこ……おはよ……」

織莉子「もう起きてきたのね。今日は小学校は休みだから、もうすこしゆっくり寝ても……」

ゆま「きのうは……勝手に出ていって、ごめんなさい……」

織莉子「いいのよ、もう、気にしていないわ。でも……もう、勝手にいなくなったりしないで」

織莉子「どうしても外に出たい場合は、どこに行くか書いて、家に鍵を掛けてから出ること」

織莉子「そして、絶対に……この家に帰ってきて。暗くなる前にね。約束よ」

ゆま「うん……」

織莉子「約束が守れるなら、この話はおしまいね。それで、話は変わるけど……」

  優しかった織莉子の眼差しが、急に鋭くなる。

織莉子「『まどか』って人、知ってる?」

ゆま「まどかはタツヤのお友達だよ。ゆまは会ったことないけど、絵でなら見たことある」

織莉子「そう、なら……『ほむら』って人は?」

ゆま「聞いた事ない……ごめんなさい、おりこ……」

織莉子「いいのよ、貴方は謝らなくて。それじゃあ、もう行かなくちゃいけないから」

ゆま「がっこう?それとも、魔法少女のおしごと?プレイアデスのみんなもいっしょ?」

織莉子「学校の後で魔法少女の仕事をするから、両方かしら。その後みんなで……」

織莉子「そうだ。今日は見滝原で仕事をするから、いつもより早く帰れるかもしれないわ!」

ゆま「ホント!?じゃあ、ゆまいい子にして待ってる!」

織莉子「ええ、それじゃあ、行ってくるわね」

  誰かに「行ってきます」という喜び。
  その喜びを感じる余裕もなく、織莉子は玄関を出る。

織莉子(『暁美 ほむら』……何としても、探し出すわ)

ゆま「えっと……『こうえんに、いって、きます』……と」

  織莉子が出発したしばらく後、ゆまも美国邸を出発した。

ゆま(昨日は確か、この辺りにいたから……今日も、もしかしたら……いた!)

ゆま「タツヤ!」

  公園で遊んでいるタツヤに向かって、ゆまは走り出した。

タツヤ「あー!えっと、えっと」

ゆま「ゆまだよ!」

タツヤ「ゆうまぁー!」

ゆま「ちがうよー、ゆまだよ。ゆ・ま!ゆうまじゃないよ!」

知久「ははは、ゆまちゃんは、タツヤのお姉さんみたいだねー。本当に……」

  ――まろか、まろか!
  ――まろかじゃないのタッくん。ま・ど・か!

知久(『まどか』か……どうしてこんなに懐かしい気持ちになるんだろう……)

ゆま「ねえ、タツヤ」

  知久のスキを伺い、ゆまがタツヤに耳打ちする。

ゆま「『まどか』って、どんな人?」

ゆま(結局、まどかがどんな人なのか、分からなかったな……)

ゆま(ざんねん……おりこの役に立てると思ったのに……)

  昼下がりの道を、ゆまはとぼとぼ歩いていた。

ゆま(あれ?あの人、確かプレイアデスの……)

  その時、ゆまは向こうから歩いてくるニコに気付いた。
  制服のような服を着て、キュゥべぇを連れている。

ゆま「ニコ!キュゥべぇ!見滝原のおしごと、おわったの?おりこは?」

QB「見滝原の仕事?何だか、僕が聞いていた予定とずいぶん違うな」

ニコ「君なんかに、ホントのことなんて言わないさ。見滝原のお仕事なら、これからだよ」

ゆま「そっか……がんばってね!」

ニコ「ありがとう。おじょうちゃんに会えたおかげで、仕事もはかどるよ」

ゆま「……ううん、ゆまは何も知らないよ!バイバイ、ニコ!」

ニコ「わかった。気をつけてね、暗い夜道と悪い魔女……なんてね」

ゆま「うん!暗くなる前に帰るから、だいじょうぶ!」

  ゆまはニコとは別の方向に走り出す。
  ゆまのうなじから、ケーブルのようなものが伸びていた。

QB「待って、ゆま!君に話があるんだ」

ゆま「ニコに、ついて行かなくて良かったの?」

QB「ニコ?……ああ、たまたま見かけたから、彼女と行動を共にしていただけさ」

QB「少女達はよく群れるからねえ。魔法少女と共にいれば効率良く魔法少女候補も探せるのさ」

ゆま「ふ、ふーん?」

QB「彼女の友人にも何人か僕が見える人がいたけど、どうもいい返事が得られないんだ」

QB「でも、今日は君に会えて良かったよ。君と話そうとすると、いつも周りに止められたからね」

ゆま「ゆまに会えて……よかった?」

QB「そりゃそうさ!ここまで高い魔力係数を観測したのは、僕も初めてなんだ」

QB「君には、凄い魔法少女になれる才能があるんだよ!」

QB「君はもしかしたらプレイアデスの誰よりも、ひょっとしたら織莉子より強くなるかもしれない」

ゆま「ホント?そうしたらゆま、みんなの役に……」

QB「役に立てるなんてモンじゃない、みんな、君抜きで戦うなんて考えられないくらいになるよ」

  ゆまの目が、きらきらと輝く。

ゆま「そっか……ゆまでも、役に立てるんだ。だったら、待ってるだけじゃダメだよね……」

ゆま(おりこ、ごめんなさい……ゆまはやっぱり……)

ゆま「ねえ、キュゥべぇ。ゆまも魔法少女に」

QB「――うわぁっ!!」

  その時、大きな袋が空から降ってきて、キュゥべえの上に落ちた。

??「オイ。いいかげんにしろよ……見境ないな……」

  少女は溜息をつきながらキュゥべえに落とした袋を拾い上げる。
  そしてその赤い瞳で、ゆまを睨みつけた。

杏子「やめとけ。魔法少女なんて」

ゆま「どうして?何でゆまだけ、魔法少女になっちゃダメなの?」

ゆま「ゆまはただ、みんなががんばってるから、お手伝いしたいだけだよ……」

  ゆまは不服そうに杏子を見上げる。

杏子「そいつらはアンタを魔法少女にするためにがんばってるワケじゃないだろ?」

ゆま「そう……だけど……」

  むしろ、ゆまが魔法少女になる事に頑なに反対している。

ゆま「イヤだよ……役立たずなんて……待ってるだけなんて……」

杏子「その『みんな』ってのは、手伝わなかったり、役に立たないヤツは、殴ったりするようなヤツなのか?」

ゆま「……!」

  かつてはそうだった。

  でも、今は。

ゆま「ちがう……」

  ゆまの目から、涙がぼろぼろ零れ落ちた。

杏子「お、おい。泣くなって」

ゆま「でも、ゆま、なんにもできないのは……やだよぉ……」

杏子「ったくもー、ホラ!コレ好きなだけやるから!泣き止め、な?」

  杏子が持っていた袋から、大量のお菓子を出す。

杏子「でもな、誰かの役に立ちたいから魔法少女になりたいって言うなら、止めた方がいいぞ」

杏子「願いを叶える事で、その『誰か』は離れていってしまうかもしれない……それでもいいか?」

  ゆまは、黙って首を横に振った。

杏子「なら、もう魔法少女になりたいなんて言うんじゃないぞ」

  杏子は、優しげにゆまに微笑みかけた。

杏子「絶望したく、ないならな……」

QB「困るよ、杏子。僕の仕事の邪魔をされちゃ」

杏子「何がジャマだ。あたしは真実を言ったまでだよ」

QB「まあ、そういう事例があるのは事実だけどね。自分の体験だけで断定されても困るなあ」

QB「とりあえず、今の状態のゆまに契約を申し出ても効果は無さそうだね。失礼するよ」

杏子「そうしてくれ。二度とこの子に近づくんじゃねーぞ」

QB「それは約束できないな。ゆまはとても素晴らしい魔法少女の素体なんだ」

QB「『まどか』が実在していたら、こんな少女だったんじゃないかって思うくらいにね」

  そう言うとキュゥべぇは、どこかへ去っていった。

ゆま「行っちゃった……」

杏子「なんだ。魔法少女になれなくて、残念だったか?言っておくけどな……」

ゆま「知ってるよ。絶望すると消えちゃうんだよね、魔法少女って」

杏子「お前、何でそれを……」

ゆま「さっき言ってた『みんな』ってね、魔法少女なんだ。仲間が、いなくなっちゃったんだって」

ゆま「おりこが言ってた。私のせいでキリカがいなくなったって。だからキリカを連れて帰るって」

杏子「連れて、帰るだと……」

杏子「あるのか、方法が!?円環の理に導かれたヤツを連れ戻す方法が!」

杏子「消えちまったヤツが、帰ってくる方法が……!!」

ゆま「ご、ごめんなさいっ!」

  杏子は思い切りゆまの肩をつかんだ。
  その剣幕に怯えたゆまはきつく目を閉じる。

ゆま「ごめんなさい……たたかないで……」

  ゆまは、震えていた。

杏子「ゴメン、悪い……ちょっと必死になりすぎた」

杏子「あたしもね、仲間がいたのさ。ソイツも円環の理に導かれて、どっかへ行っちまった」

杏子「戻ってくる方法が分かるなら、ちょっと知りたかっただけなんだ」

ゆま「そっか……」

杏子「……さっきアンタ、待ってるだけで何も出来ないって言ったよな」

杏子「でも、待ってくれる誰かがいるって、嬉しいことだよ。自信持って待ってたらいいのさ」

ゆま「う、うん。分かった!えっと、えっと……」

杏子「杏子。佐倉 杏子さ」

  ――仲間が、いなくなっちゃったんだって。だから、連れて帰るんだって。

杏子「そんな事がな……簡単に出来たら、苦労しないんだ、よっ!!」

  渾身の一撃を、杏子は魔獣に叩きつける。

杏子「チッ……グリーフシードはこれだけか、しけてんなぁ……」

マミ「佐倉さん。あの……今の一撃は、ちょっとやり過ぎだったんじゃないかしら?」

杏子「思いっきりぶちかましたい気分だったのさ。ホラ、アンタの取り分だ」

  杏子はマミにグリーフシードを投げてよこすと、足早にその場を去ろうとする。

マミ「佐倉さん」

杏子「何だよ……まだ用か?」

マミ「無理はしないで……気をつけて」

杏子「気をつけるって、何に?」

マミ「そ、それは、あ、あれよ。最近『魔法少女狩り』が出るらしいって……後、まだまだ夜は冷えるし……」

杏子「はいはい……それだけか?それなら、あたしはもう行くぞ」

マミ「あ……」

  杏子は去った。
  さやかが消えてから、一週間が経っていた。

  マミと別れた後、杏子はビルの屋上から景色を見ていた。

杏子(円環の理に導かれたら、どうなっちまうんだろうな……)

  杏子は、まだ濁りの残るソウルジェムを眺める。

杏子「なあ、さやか……今どうしてる?さすがに、もう泣き止んだか?」

  杏子は双眼鏡を取り出し、レンズ越しに空を見上げた。

杏子「こんなコトしてる場合じゃないか。さて……今日はもう魔獣は狩りつくしたかな……」

杏子(ん?何だありゃ、こんな時間に何を……って、それはあたしも同じか)

  杏子は双眼鏡で町を見渡す。
  その時、双眼鏡で同じようにこちらを見ているポニーテールの少女が見えた。

杏子「!?」

  その時、その少女はにやりと笑った。

  そして杏子の視界から消えた。

杏子(今のは一体……)

??「あはっ、見つけちゃったー」

杏子「!」

  杏子が振り返ると、先程のポニーテールの少女が立っていた。

杏子「お前……何者だ?」

ポニテ少女「私?私は双樹あやせ。あなたの名前は……」

  あやせは杏子のソウルジェムを凝視する。

あやせ「やっぱりやめとこ。でも貴方には、お近づきのしるしに、いいもの見せてあげるね」

  少女が腕を上げると、大量のソウルジェムが降ってきた。

杏子「コレは……」

あやせ「キレイだよね。だって生命の輝きだもん!私、ソウルジェム集めてるんだあ……」

あやせ「貴方のソウルジェムも、いいかなあなんて思ってたんだけどね」

杏子「くっ……コイツがマミの言ってた『魔法少女狩り』かよ……!」

  杏子は変身し、槍を握った。

あやせ「ちょっと待って!」

杏子「は?」

あやせ「あなたが言ってるのは『魔法少女狩りのプレイアデス』でしょ?一緒にしないで!」

杏子「魔法少女狩りの……プレイアデス……?」

あやせ「そ、あすなろを拠点とする『プレイアデス聖団』。この人達もソウルジェムを集めてるの」

あやせ「敵に回したくないからあすなろを避けてここまで来たんだけど、最近見滝原をウロついてるみたいで」

杏子「随分と事情通なんだな、アンタ」

あやせ「別にい。見滝原周辺にいる魔法少女には、キュゥべぇが知らせてたみたいよ?」

杏子「えっ……そう、だったのか……」

杏子(最近ずっとイライラしてて、キュゥべぇの話なんてまともに聞いてなかったからな……)

  正確には、さやかを失ってから。

あやせ「なんかベテランっぽいけど……そういう情報収集は、ちゃんとした方がいいんじゃないかな?」

杏子「うるせえよ」

杏子「そういやアンタ、あたしのソウルジェムはどうしたんだよ、欲しいんじゃなかったのか」

あやせ「いいの。私は、薄汚れたソウルジェムばっかり集める変わり者のプレイアデスとは違うんだから」

あやせ「私が欲しいのは一点の曇りも無いソウルジェム。残念だけど、貴方は不合格かなー」

杏子「……へっ、そりゃ良かったぜ」

あやせ「でもその紅色は素敵。気に入っちゃった。また来るから、その時までにキレイにしておいてね☆」

杏子「フン、誰が……」

あやせ「だってそうしないと死んじゃうでしょ?あなた、死にたいの?」

杏子「……!」

  図星をつかれたように、杏子の目が大きく見開かれる。

杏子(どうなんだろうな……)

  あやせが去った後、杏子はソウルジェムを光に透かして見た。
  ほんの少し濁っていた。

マミ「最近の佐倉さん、やっぱりおかしいわ……美樹さんがいなくなって、自暴自棄になってるとしか……」

ほむら「それを、私ではなく佐倉杏子本人に直接言ってはどうかしら」

マミ「もう!暁美さんったら」

  杏子と別れた後、マミはほむらと出会い、話をしていた。
  話題は杏子の事だ。

ほむら「あれは佐倉杏子の問題よ。私達にどうこうできる事ではないわ」

マミ「それはそうだけど、心配だわ……佐倉さんのソウルジェムは、もう限界に近いと思うの」

ほむら「だから。そう思うなら、なおさら佐倉杏子に直接言いなさい。貴方が心配だって」

ほむら「貴方は、そうやって気を遣って自分の思う事を隠してしまうから……人に言った方がいいと思うわ」

マミ「はぁ……貴方って、ほんとに不思議な人ね……予知魔法もないのに、未来の事が全部見えてるみたい」

ほむら「そんなことはないわ……買いかぶりすぎよ。私にだって知らない事はあるし、思い悩む事もあるわ」

マミ「何か、悩み事でもあるの?」

ほむら「ええ、まあ……考えても分からない事、と言うべきかしらね……」

  ――円環の理について調べている魔法少女がいるんだ。
  ――『プレイアデス聖団』。『魔法少女狩りのプレイアデス』さ。

ほむら(まどかに何かするつもり?プレイアデス聖団……!)

サキ「暁美ほむらは、見つからなかったな」

里美「キュゥべぇちゃんに頼んで、会わせてもらえないかしら?」

ニコ「ダメだと思うよ。自分で言うのも何だけど、私達は『魔法少女狩りのプレイアデス』だからね」

ニコ「そんな物騒なのに会おうとするモノズキな魔法少女なんていないよ」

海香「見滝原でピック・ジェムズを続けながら、地道に探すしかないってコトね」

  プレイアデス聖団は、見滝原を拠点に活動するようになっていた。
  目的はもちろん暁美ほむらの捜索だ。

織莉子「ご飯を食べていたら、遅い時間になってしまったわね。今夜は泊まっていく?」

織莉子「まあ、安全性は保障しかねるわ。時々投石もあるくらいだもの」

海香「その辺りは、魔法でどうとでもなるけど……いいの?家の人とか」

織莉子「この家には、私とゆまさんだけよ」

海香「あ……ごめんなさい……」

織莉子「いいの。いつか貴方達にも話すわ。そうね……キリカが帰ってきた後にでも」

ニコ「秘密暴露大会か、いいね。でも、やるならもっと……ロケーションにこだわりたいかな」

ニコ「グレートキャニオンで、プレイアデス星団とヒュアデス星団を見ながら、とかさ」

織莉子「そうね、いいわ。素敵ね……」

織莉子(隣の部屋から、人の声がする……こんなの、久しぶり……)

  プレイアデス聖団を家に泊めた織莉子は、自分の部屋で眠りにつこうとしていた。

ゆま「おりこ……まだ、寝られないの?」

織莉子「そうね。少しだけ嬉しくて、興奮してるのかも」

ゆま「嬉しい?」

織莉子「ええ。本当は私、ずっと夜が怖くて……今でも、夜に大きな物音がすると」

  その時、ガラスの激しく割れる音がした。

織莉子「――いけない!」

ゆま「おりこ!?」

  織莉子は、慌てて部屋を飛び出した。

海香「今の音……一体何?投石なんかじゃなかったわ!」

カオル「分からない!今すぐ確かめないと……おいおりこ!どこに行くんだ!?」

  織莉子は部屋を出て音の発生源を確かめようとしたカオルと海香とすれ違う。
  織莉子は見当違いの方角に走り去っていた。

サキ「大丈夫か、皆!」

みらい「うん、平気だよサキ!」

里美「ゆまちゃんも大丈夫みたい!」

ゆま「うん……ゆまは大丈夫だけど、おりこは……」

カオル「とにかく、何があったか見に行こう!ゆまもアタシ達について来い!」

  カオル達は割れた音の記憶を頼りに、窓の割れた部屋に駆け込んだ。

海香「貴方は……」

??「プレイ、アデス……か……?」

  割れたガラスの向こうには、魔法少女が立っていた。

カオル「誰だ、お前は!?」

??「飛鳥ユウリだ。プレイアデス、ここはキケンだ……」

ユウリ「ヤツはアタシの魔法を盗んで、アンタ達をまとめて殺そうとしてる……だから、早く……」

  ユウリが振り返ったのと、窓から何かが侵入してきたのは、同時だった。

みらい「危ない、サキ!」

  みらいは素早く変身し、牛のような形の何かをなぎ払う。

ユウリ「気をつけろ……アイツ、アタシの魔力のありったけを使いやがった……数は相当だ……」

ユウリ「『コルノ・フォルテ』……魔力で出来た雄牛を召喚する……アタシの魔法だ」

  ガラスの向こうから、無数の雄牛がなだれ込んできた。

カオル「くそっ……!ゆま、奥に逃げろ!」

ゆま「う……うん!」

  聖団は変身し、なだれ込む雄牛を押し止める。

里美「ねえ、皆!ニコちゃんが、どこにもいないわ!!」

サキ「――なんだと!?」

  サキは辺りを見回す。確かにニコの姿がなかった。

織莉子「ハァ、ハァ……」

  織莉子は勢い良くある部屋のドアを開けた。

ニコ「おり……こ……?どうして、ココに……」

  ニコは何者かに首を締め上げられていた。
  織莉子に気付き、力なく手を伸ばす。

??「ちっ、ジャマが入ったか。もう少しだったのに」

??「でもアンタ、何でこっちに来たの?さっきのはブラフだって見抜かれたかな?それとも……」

織莉子「私、妙な癖があるの。トラウマとも言うべきかしら」

織莉子「この部屋は、昔お父様が使っていた部屋なの。お父様はここで自殺した。私は助けられなかった」

織莉子「だから夜に大きな音がすると、ついこの部屋に駆けつけてしまうのよ……今でもね」

織莉子「それよりも、貴方は誰?」

織莉子「何故ニコさんを襲ったの?」

  織莉子は激しく詰め寄る。

織莉子「そして何故――ニコさんと同じ顔をしているの!?」

  ニコの首を締め上げていた黒服の魔法少女。
  彼女は、ニコと瓜二つだった。

サキ「コレで全部倒したか……一体誰が、何のためにこんな事を……」

カオル「それよりニコはどこだ?こんな騒ぎになっても、ここに来ないなんて……」

海香「目的は、ニコだったのね。この雄牛は、私達をここに集めるためのオトリ……」

サキ「早くニコを助けに向かおう!ユウリは……」

里美「私に任せて!みんなは早く、ニコちゃんの所へ!」

カオル「分かった!頼んだぞ、里美!」

  里美以外の聖団は、ニコのいる部屋に向かった。

里美「ユウリちゃん……」

ユウリ「お前、プレイアデスの……いいのか、行かなくて……」

  ユウリは魔力を失い、床に倒れこんでいた。
  里美はユウリの傍にそっと屈みこみ、目の端に涙を浮かべ、微笑みかけた。

ユウリ「私の傍に、いる必要なんて無い……私は、もうすぐ消える……」

里美「いいえ、私にはする事があるの。ユウリちゃん、貴方の願いって叶った?」

ユウリ「まだだ……『ユウリの夢を引き継ぐ』、それが私の願いだった……のに……」

里美「諦めないで。私達は、ソウルジェムを浄化することは出来ないけど……」

里美「ジェムと身体を分離することで、これ以上穢れるのを食い止めることは出来るわ」

ユウリ「だが……それは……」

里美「ええ。ずっと眠り続ける事になるわ」

里美「でも信じて、私達は今、ソウルジェムが穢れても消えずにすむ方法を探しているの」

里美「それが見つかった時……あなたは目覚めるわ。願いを叶える事が出来るの」

ユウリ「そうか、なら……頼んだぞ」

  ユウリは、静かに微笑んだ。

里美「トッコ・デル・マーレ」

  ユウリのソウルジェムが消え、里美の掌の上に現れた。

里美「そう言えば……私がこの魔法を使ったのは、初めてだったわね」

里美「強いわね、みんなは。いつもこんなコトに耐えてきたんだもの」

  里美はユウリのまぶたを閉ざす。

里美「ユウリちゃん……いえ、本当の名前は、違うのかしら……おやすみ……なさい……」

  ユウリの遺体の前で、里美は声を上げて泣いた。


 ――貴方が、魔法少女にしてくれるって言う妖精?プレイアデス聖団って人達から話を聞いたの

 ――ええ。ユウリ……私の大事な友達、魔法少女だったんだけどね、私の目の前で消えちゃったんだ

 ――その時プレイアデス聖団の人達が傍にいてね。魔法少女について、少しだけ教えてくれた

 ――ユウリは多分、私の病気が治るように願ったんだと思う。分かるよ、だって、友達だもん

 ――でも、そのせいでユウリ、もう2度と料理が出来なくなっちゃった……こんなのってないよ

 ――やっと少しずつ名前が売れて、本格的にプロになれるかもってところで……

 ――プレイアデス聖団の人達には止められてるけど……お願い、妖精さん。私を、飛鳥ユウリにして

 ――ユウリの夢の続きを、私が叶えたいの

サキ「大丈夫か、ニコ!」

織莉子「サキさん!ニコさんなら何とか無事よ、だけど……」

ニコ「……っ……うぅ……」

カオル「ニコ……ど、どうしたんだ?」

  ニコが織莉子に支えられ、号泣しながら部屋から出てくる。
  今まで見た事の無い表情に、聖団のメンバーは戸惑っていた。

織莉子「ニコさんが、何者かに襲われたの……あと少し遅かったら、危なかったわ」

海香「やっぱり、アレはオトリだったのね……目的はニコだった」

カオル「クソっ!あたし達が、ニコを1人にしたばっかりに……!」

海香「過ぎたことを悔やんでも仕方がない。ニコが無事ならそれでいいわ。それで、犯人は?」

織莉子「一瞬のスキをついて、ニコさんが確保したわ。強力な拘束だから、しばらく動けないはず」

織莉子「まだ、この部屋の中にいるんだけど……それが……」

サキ「入らせてもらうぞ」

サキ「!?」

  サキは、犯人がいた部屋の中に入るなり絶句した。
  そこには、ニコと同じ顔の黒服の魔法少女がいた。

サキ「ニコ……?いや、でも……ニコは、ここにいるし……」

海香「他人の空似とは思えないわ……身内にしても似過ぎている……本人にしか……」

みらい「でも、衣裳が違うよ。コイツはニコじゃない……誰?」

ニコ「『私』さ」

  ニコは泣くのを止め、キッパリとこう言った。

ニコ「こうなった以上、隠せないね……全てを話すよ」

ニコ「私はね、ヒトゴロシなんだよ」

  聖団は全員織莉子の家のリビングに集まり、ニコの話を聞いていた。

ニコ「まあ、事故なんだけどね。でも私はその原因の一端だった。そして一人だけ生き残った」

ニコ「私は事故の哀れな被害者であり、生き永らえてしまったヒトゴロシでもあるというワケさ」

ニコ「私には、二つの道があった。一つは哀れな被害者として救済される道」

ニコ「そしてヒトゴロシとして、罪を贖い続ける道だ」

ニコ「被害者として生きれば、私は『人を殺した』と言う事実に苛まれ、救われないだろう」

ニコ「しかしヒトゴロシとして生きれば、私の救済を願ってくれる人を裏切ってしまう」

ニコ「だから私は『救済される自分』を作った。贖う罪も無い、フツーの少女だ」

ニコ「その子に私は、自分の本名、家族、友達、幸せの全てを譲り……私はヒトゴロシになった」

織莉子「それで、『ニコ』になった」

ニコ「そ。私のエゴって言われたらオシマイだけどね、私はあの子に幸せになってほしかった」

ニコ「まさか私を恨んで、憎んで、殺すために、魔法少女になってるなんてさ……」

ニコ「バカだよ……そんなコトしなくったって、普通に幸せになればいいじゃないかぁ……」

  ニコは俯き、大粒の涙をこぼした。

ゆま「カオルが、逃げろって言ってたけど……もういい、かな……?」

  辺りが静かになった後、奥にいたゆまがそろりと出て来た。

ゆま(みんなどこだろ……あ、あの部屋かな……?)

  ゆまはわずかに扉の開いた部屋に向かい、中をそっと覗く。

ゆま「!?」

??「やあ。ママとはぐれちゃった?……おじょうちゃん」

  そこには、拘束された黒服の魔法少女がいた。

ゆま「あなたは……えっと、ニコ……」

??「その名前で呼ばないでほしいなあ。私の名前は『聖 カンナ』っていうんだ」

ゆま「カンナ……?」

カンナ「そ。『ニコの予備』さ。私はニコが魔法で作ったヒトモドキなんだよ」

ゆま「ヒトモドキ?」

カンナ「そう、ニコの願いが生み出した、魔力で作られたまがい物の人間さ」

カンナ「魔法で色々見たから、君のコトも知っているよ。ゆま……だよね?一度会ったコトがある」

ゆま「あっ!あの時……」

  見滝原で出会った、制服姿のニコ。
  いつもと違う雰囲気だった。

カンナ「何故か君が気になってしまってね……君の目を通じて、君のコトも色々見せてもらった」

カンナ「飛鳥ユウリを協力者に選んだコトと言い、惹かれあうのかもしれないね」

カンナ「同じ『ニセモノ』同士ね」

ゆま「ニセ……モノ……?」

カンナ「そうさ。『今の』飛鳥ユウリの本名は杏里あいり。魔法で飛鳥ユウリのフリをしたニセモノだ」

カンナ「そして私もニセモノ」

カンナ「『聖カンナ』は良くも悪くも、事故の記憶を中核として成り立った人物だ」

カンナ「その記憶が無い『聖カンナ』なんて有り得ない、ただのニセモノ、ただの『If』だ」

カンナ「Ifの自分を、自分が作った世界の中に住まわせる……まるで人形遊びみたい」

カンナ「私はずっと、ニコのお人形として遊ばれてたのさ」

ゆま「いふ……人形遊びのお人形……」

カンナ「そうさ。他人事みたいに言ってるけどさ、君だってそうなんじゃないかなあ?」

ゆま「え?」

カンナ「私が思うに、ゆま、君は…… 『まどかのIf』だ」

ゆま「ゆまが……まどかの、お人形……?」

  ゆまは目を見開き、ゆっくりと後ずさりする。

カンナ「まあコレは君達の話を盗み聞いて、私が勝手に考えたコトだから。おとぎ話と思って聞いて」

カンナ「むかしむかし、『まどか』というとてつもない魔法少女の才能を持った少女がいました」

カンナ「『まどか』は魔法少女が魔女になるコトを悲しく思い、それをなくすため魔法少女になりました」

カンナ「そして『円環の理』になりました。まどかのおかげで魔女はいなくなりました」

カンナ「でもそれは大切なパパとママ、兄弟や友達と永遠にさよならするコトでもありました」

ゆま「悲しい、お話だね……」

カンナ「ココまではね。ココから先がムカツク話だ」

カンナ「『まどか』は、自分が『円環の理』にならなければ、どうなっただろうと考えました」

カンナ「自分がどんな大人になるか、恋はするのか、このまま友達とずっと一緒にいられたなら……」

カンナ「でも『まどか』はどうするコトもできません。もう人間ではないのですから」

カンナ「そこで『まどか』は魔法で自分そっくりのお人形を作り、この世に放ちました」

カンナ「自分の代わりに友達を作り、大人になり、恋をしてもらおうと思いました」

カンナ「それがあなたです……千歳 ゆま」

ゆま「ゆまは……ゆま、は……」

カンナ「まあ、全部私の妄想って言われたら、それでオシマイだけど」

カンナ「心当たり、たくさんあるんじゃないかい?」

  ――まろか、まろか!
  ――まどかじゃないよ、ゆまだよ、タツヤ!

  ――ウチに来てもいいって言ったのって、ゆまがまどかに似てるから?

  ――すごい才能だよ。まどかが実在していたら、こんな少女なんじゃ……

ゆま「ちがう……!ゆまは、まどかとは、関係ない……!」

カンナ「そうかな。案外どこかから見てるかもよ?」

  ゆまは怯えたように、辺りを見回す。

ゆま(まどか……円環の理……どこかに、いるの?)

織莉子「根拠のない妄想で、子供をからかわないで頂戴」

  織莉子は部屋に入り、カンナを睨みつけてゆまの肩にそっと手を添えた。

織莉子「みっともないわね。唯一無二の存在になれない劣等感からの八つ当たりに、子供を巻き込んで」

カンナ「なに?偉そうに言わないでくれるかな、人間風情が」

織莉子「もう人間じゃないわ、私は魔法少女よ。唯一無二の存在でもないし、ね」

織莉子「少しだけ貴方達の話を聞いたわ。私もお人形だったの。お父様が死んだ時、思い知らされたわ」

織莉子「私の世界は全てお父様が用意したものだった……それを知ったのは、全てが崩れ去った時」

織莉子「だから貴方の気持ち、分からなくもないの」

カンナ「偽善者が……」

織莉子「そうよ、だから私はお願いをしに来たの。貴方が唯一無二の存在になれるチャンスにもなる」

カンナ「……何?」

織莉子「貴方の魔法、『接続(コネクト)』って言うのよね、人に接続する魔法」

カンナ「そうだよ。憎い憎いニコの最期をこの目で見たかったのさ。でもやっぱりこの手で殺したくてね」

織莉子「人にコネクト出来るなら……『モノ』に接続する事は、可能かしら?」

織莉子「例えば穢れたソウルジェムにコネクトし、円環の理に喰らわせ、円環の理に接続させる」

織莉子「そして円環の理を引きずり出し、白日の下に晒しだす」

カンナ「プレイアデスに協力しろと?」

織莉子「貴方の気が進まないなら別にいいわ。その場合、ずっとここに閉じ込めておく事になるけど」

カンナ「ソイツは穏やかな話じゃないね、まるで脅迫だ。まあ……いいけどさ」

カンナ「周到に準備して、不意をついてもダメだったんだ。同じコトをしても上手くいきそうにない」

カンナ「だったらこの『ホンモノ』への憎しみは、ニコへの復讐じゃなくて、まどかへの復讐で果たすよ」

織莉子「それじゃあ……」

カンナ「でもカン違いしないで。私は、魔法で人間のニセモノを作ろうとするような勝手な集団とつるみたくない」

カンナ「必要になった時だけ呼ぶ、そういうスタンスでヨロシク」

織莉子「分かったわ。なら、拘束を解いてあげるから……ニコさんを呼んでくるわね」

  しばらくしてニコが部屋に入ってきた。
  同じ顔の二人が、向かい合った。

ニコ「やあ。久しぶり……って、言えばいいのかな」

カンナ「アンタを殺すのは諦めたよ。でも私とアンタはまだ繋がってる。アンタの死に様はしっかり見届けるよ」

ニコ「それはそれは、ご親切にどうも。じゃ拘束外させてもらうよ」

ニコ「この拘束具はね、魔力に反応するよう作ったんだ。君は本当に魔法少女になったんだね」

カンナ「ああ。アンタが憎い。その一心でこの力をもらった。アンタの死に様見たくてね」

ニコ「そうかい。お互い、バカなコトをしたね……」

ニコ「君が全てを知って私を憎んだのは、君が、家族、友達……全てを愛おしく思っていたからだ」

ニコ「その愛おしく思う気持ちは……紛れなく君だけのもの、『ホンモノ』だと私は思うよ」

カンナ「その言葉……魔法少女になる前に、聞きたかった……遅かったな……」

  カンナは微笑む。だが目にはかすかに涙が浮かんでいた。

カンナ「さて、拘束も解けたし帰らせてもらうよ。私はアンタと違って帰る場所がある」

ニコ「どうぞどうぞ。あそこはもう君の家だ。でも……」

カンナ「分かっている。プレイアデス聖団へ協力すると約束する」

カンナ「でもそれはアンタ達のためじゃない。そこのオチビさん……私の、ただ一人の同胞のためさ」

  カンナはゆまに微笑みかけ、その場から消えた。

ニコ「そういうワケで、あの黒服の……カンナが協力してくれるコトになりました」

サキ「ニワカには信じがたいんだが……ニコ本人がそう言うなら、まあ、信じていいだろう」

海香「魔法少女狩りやミチルの蘇生と違って、円環の理にダイレクトに攻撃する方法……」

海香「それが可能なら今すぐにでも決行したいところだけど、いつになりそう?」

  明くる朝、聖団は美国邸のリビングに集まり朝食を取っていた。

織莉子「とりあえず連絡を取るために、ニコさんの携帯電話のアドレスを教えたけれど……」

ニコ「メールが来てるよ。ちょっと拘束具の影響が思ったより強いから、明日にならないとダメだって」

ニコ「おや、偶然」

カオル「どうしたんだ?ニコ」

ニコ「いやいや、ココに表示されてるカンナのメールアドレス」

海香「Hyades(ヒュアデス)……」

  ――プレイアデスでダメなら、ヒュアデスで構わない。
  ――私を貴方達の仲間にしてもらえるかしら?

織莉子「こうなる事は、必然だったのかもしれないわね……」

ニコ「円環の理に導かれて?」

織莉子「さあ、それは分からないけれど……とりあえず、今日も精を出しますか、魔法少女狩りに」

杏子「ちくしょう……ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!」

  杏子はまた魔獣に攻撃を叩きつける。
  力の調節はおろか精度まで失った、ただのエネルギーの放出だ。

マミ「佐倉さん!それ以上はキケンよ、もうやめて!」

杏子「クソッ……何で当たらないんだよ!」

マミ「佐倉さん……ねえ、どうしちゃったの!?」

  あやせと接触し、杏子の戦い方はさらに自暴自棄になっていた。

マミ「佐倉さん!」

  マミが、杏子の正面に回り込んだ。

杏子「マミ……」

マミ「あなたはもう戦わないで。私がやるわ……ティロ・フィナーレ!」

  杏子をかばうように、マミが魔獣に攻撃する。
  あっという間に魔獣は全滅した。

マミ「分からないわよ。でも私は、あなたにいなくなられるなんて嫌よ」

マミ「私だって……辛いの。美樹さんがいなくなって……佐倉さんまでいなくなったら……」

  マミの目から涙がぽろぽろ零れる。

杏子「お、おい!泣くなってば」

マミ「そりゃ泣くわよ。そんな命を削るみたいな戦い方、私の前でされたら泣くわよ」

マミ「美樹さんの時も薄々気付いていたわ。でも踏み込めなくて目を背けてしまった」

マミ「だから……だから佐倉さんは……」

  必死なマミを見て、杏子はふっと微笑んだ。

杏子「優しいね。あたし、マミみたいな魔法少女になりたかった」

杏子「でも、なれない……あたしの願いはもう叶わない、なのに、いつか消える運命だけが残ってる」

杏子「あたしは、何のために魔法少女になったんだろう?いつか……消えるため?」

杏子「今まで考えないようにしてた、でも……さやかが消えて、それが目の前に突きつけられた」

杏子「戦う意味、生きる理由……あたしにはもう、全部、分からない」

マミ「!?」

  マミは気付いた。杏子のソウルジェムが、真っ黒だった。

マミ「戦う意味?生きる理由?私が貴方を必要としている、それじゃいけないの?」

杏子「そうだな。そういう理由で戦っても……良かったかもしれない……」

杏子「ホントあたし、自分のことしか見れてないよな。だからマミが心配してるのにも気付けなかったし」

杏子「二度と叶わない願いなんて……してしまったのかもな……」

マミ「何で過去形なのよ!今からでも十分間に合うじゃない!」

マミ「そうだ、私みたいな魔法少女になりたいなら、私の弟子になればいいわ!」

マミ「ずっと二人で一緒にいて、正義のために魔獣を倒す、素敵でしょ?」

杏子「あはは……いいな、それ……」

杏子「でも……」

  濁っていたソウルジェムは、どんどん穢れていく。

??「――トッコ・デル・マーレ」

  何処かから、凛とした声が聞こえた。

  杏子の胸から、ソウルジェムが消えた。
  杏子はそのまま地面に崩れ落ちる。

マミ「貴方達、まさか……『魔法少女狩りのプレイアデス』……」

  マミが振り返った先にはプレイアデス聖団がいた。
  織莉子が杏子のソウルジェムを持っている。

織莉子「無駄な抵抗は止めた方がいいわ。多勢に無勢よ」

織莉子「私達の目的は、あくまで限界に達したソウルジェムの回収。無駄な争いは避けたいの」

織莉子「ニコさん、体の方も回収を……」

  織莉子はニコの方を見る。
  だが聖団のメンバーは何やら小さな声で話し合っていた。

織莉子「あの黄色の髪の魔法少女が、どうかしたの?」

サキ「ああ、間違いない。黄色の巻き髪、マスケット銃……彼女だ」

マミ「貴方達……私を、知っているの?」

サキ「そう身構えないでくれ。君は、和紗ミチルという少女を覚えているか?短い黒髪の少女だ」

サキ「君に命を助けられたらしい……覚えて、いないか?」

マミ「さあ……申し訳ないけど、覚えていないわ……」

サキ「それほど、多くの人間を助けているのか。君は素晴らしい魔法少女だな」

織莉子「ミチルさんの命の恩人なのね……」

海香「ええ。だから私達にとっても恩人であり……大事な人、になるのかしら」

マミ「じゃあその恩、今返してくれるかしら?佐倉さんのソウルジェムを返しなさい」

織莉子「あら……随分図々しい恩人なのね。残念だけど、今すぐには返せないわ」

サキ「私達は消滅寸前の魔法少女を保護している。消滅の危機を回避しないことには返せない」

マミ「グリーフシードをかき集めて、ジェムを浄化すれば……返してくれるってこと?」

カオル「そうだ。本来こんなコトはしないんだが……まあコレで、恩は返したってコトで」

織莉子「期限は明日まで。場所は……そうね、ココにしましょう。待っているわ」

ニコ「カラダだけ置いていってもジャマになるだろうし、一応持っていくよ」

  織莉子はマミに手紙のようなものを投げてよこす。
  そしてプレイアデス聖団は杏子を抱え、その場を後にした。

ほむら(『魔法少女狩りのプレイアデス』……一体、何をしようとしているのかしら?)

ほむら(とりあえず、見滝原を捜索してはいるけれど……考えたら私、会ってどうするつもりなのかしら)

ほむら(もしかしたら私……自分以外にまどかの事を知ってる人に、会いたいだけなのかもしれない)

  薄れるまどかの記憶が、ほむらを駆り立てる。
  気付けばほむらは見滝原中を回っていた。

ほむら(あら?あそこにいるのは……巴さん?)

  遠くでマミが、魔獣に取り囲まれているのが見えた。

ほむら(巴マミとはいえ、一人で対処するには多過ぎるわね……加勢しましょう)

  ほむらは矢を放つ。

マミ「今の光……暁美さん、かしら?」

ほむら「巴さん!加勢するわ!」

  ほむらはマミの傍に降り立つ。
  互いに背中を預け、息の合った連携で魔獣を殲滅した。

ほむら「ずいぶん無茶な戦い方をするのね……いつもの貴方なら、まず応援を呼んでいたはずなのに」

マミ「グリーフシードが……どうしても、ほしかったの……できるだけたくさん……」

マミ「佐倉さんのジェムが、真っ黒になって……プレイアデスに……」

  マミは声を殺して泣く。

ほむら「落ち着いて。それで……どうしてグリーフシードを?」

マミ「向こうに条件を出されたの。明日までにグリーフシードを持ってくれば、佐倉さんを解放するって」

ほむら「なら、杏子は大丈夫ね。これだけグリーフシードがあればあっという間に浄化できるわ」

ほむら「そう。それと巴さん……」

ほむら「グリーフシードをプレイアデスに届けに行くのに……私も同行して、いいかしら」

サキ「とりあえず、明日の段取りを確認しようか」

  美国邸に戻ったプレイアデス聖団は、いつものように話し合いをしていた。

海香「明日は土曜……カンナは直接テディベア博物館まで来てくれるそうよ」

カオル「考えたら、待ち合わせも案内もいらないのか。何てったって盗み見してたんだから」

海香「コレが増幅の魔法陣。ソウルジェムの穢れを抑える魔法を解除した後、直ちに所定の位置につくこと」

ニコ「並び順間違えないでね。そうしないと出力が落ちるから」

海香「そしてカンナが全てのソウルジェムにコネクトし、私達はカンナの魔力を増幅、負担を引き受ける」

サキ「ココ、カンナがまずコネクトしてから魔法を解除した方が良くないか?」

里美「でもカンナちゃんの負担を抑えるためには、コネクトは後に使った方がいいと思うわ」

海香「どちらも一理あるわね。けど……ソウルジェムの数も多いし、コネクトは最初にしましょう」

サキ「それで、おりこ……君はどうするんだ?」

織莉子「私はここにいて、恩人達を丁重にもてなすわ。案内も出してしまったし」

サキ「そうだな。もし明朝になっても彼らが来なかった場合、君も博物館に……」

織莉子「いえ、必要ないわ。恩人は必ずここにやって来る」

ニコ「見えたんだね。久々に、役に立つのが」

織莉子「ええ。恩人はやってくるわ。暁美ほむらと一緒に」

カオル「暁美ほむらも……?そ、それで?どうなるんだ?」

織莉子「そうね……私と彼女は、戦う事になる」

カオル「暁美ほむらと戦うだって?恩人も含めると二対一じゃないか、大丈夫なのか?」

ニコ「ソコの赤い魔法少女を引き渡せば、三対一になるよ」

サキ「余計悪くなっているじゃないか。それならおりこ、誰かここに残そうか?」

サキ「魔法陣の配置を少し変えれば、魔力の増強は五人で出来る。その分をおりこの援護に……」

織莉子「結構よ。まだ、ハッキリとは分からないけど……暁美ほむらは、円環の理の守護者」

織莉子「私達がやろうとする事が全て知れたら、レイトウコにすっ飛んでいくでしょうね」

海香「おりこ……貴方……一人で、足止めするつもりなの……」

織莉子「キリカが戻ってくるかもしれない……そのためなら、私は何だってしてみせるわ」

織莉子「貴方達だって、ミチルさんを連れ戻すために、何だってしてきたでしょう?」

サキ「ああ。だが……」

織莉子「それより、そろそろ夕飯の時間ね。今日も家で何か食べていく?」

海香「ちょっと待って。おりこ……今日は、私に作らせて」

  海香は鞄からボロボロの日記帳を取り出し言った。

織莉子「構わないけど……何を作るの?」

海香「――イチゴリゾット」

海香「お米は……イタリアのカロナーリ……白ワイン、チーズ、タマネギ……」

  台所で、海香は日記帳と格闘していた。

織莉子「海香さんって、料理をするのね。なんか……ちょっと以外」

カオル「めったにしないけどな。普段はミチル任せだった」

カオル「小説書いてて煮詰まった時に、ストレス発散でガーッと作るんだ。怖いぞ、それは」

織莉子「へえ……じゃあ今は、煮詰まってるのかしら」

カオル「ツノが出てないから違うな。どうしても作りたかったんじゃないか」

織莉子「イチゴリゾットを?」

サキ「ああ。アレは……私達にとって、特別な料理なんだ」

みらい「ミチルが初めて出会った時にふるまってくれたんだ。『特別な日はイチゴリゾット』だって」

サキ「私達にとってイチゴリゾットは、仲間が出来た日の思い出が詰まった料理という訳だ」

織莉子「なるほど。ミチルさんが帰ってくる事を願って、イチゴリゾットと」

みらい「……ニブイねキミ。サキはね、キミも仲間だって言いたいの!」

織莉子「えっ……」

里美「そうよ、おりこちゃん。私達のコネクトのために、足止めを買ってくれるんですもの」

里美「ありがとう、おりこちゃん……たった一人に任せて、ごめんなさいね」

里美「だから、約束して。キリカちゃんとミチルちゃんが帰って来た時は……あなたも一緒よ」

織莉子「うん……」

カオル「約束だ、おりこ!」

  おりこ達は、互いに指切りを交し合う。

海香「さて、あとは二十分ほど煮込むだけね……って、何してるの貴方達」

ニコ「やあ。海香もおりことするといいよ、指きりげんまん。明日の成功を願って、ね」

  ちなみに明日の成功を願って作られた海香のイチゴリゾットは、若干コゲ臭かった。

ほむら「本当に、ここでいいの?ものすごい家だけど」

マミ「白い魔法少女がこの場所を指定してきたの。いずれにせよここに行くしかないわ」

  ほむらとマミは美国邸の前に来ていた。
  渡された手紙の地図には確かにこの家を指している。

ほむら「室内……しかも相手の領域だから、最大限に警戒した方が良さそうね」

マミ「魔力に反応するトラップがあるかもしれないわ……リボンで中を探りましょうか」

ほむら「誰か来るわ!」

  その時、玄関のドアが開いた。
  ほむらとマミは即座に身構える。

ゆま「……あれ?お姉ちゃん達、だれ?」

ほむら「え?貴方が、プレイアデスなの?」

ゆま「あっ、おりこのお客さんだね!入って!」

マミ(何者かしら、この子……プレイアデス聖団の中にはいなかったわよね)

  ほむらとマミはゆまに案内されるままに、敷地内へと入る。

ゆま「じゃあ、ゆまは行くね!タツヤが待ってるから!」

マミ「ちょっと、こんな時間に、どこに行くの?」

ゆま「おりこがね、お客さんが来るから、今日はタツヤの家に泊めてもらいなさいって」

ゆま「もうすぐタツヤのお父さんが迎えに来るんだ」

ほむら「そう。用事、ちょっと長くなるかもしれないから、ゆっくりしていくといいわ」

マミ「ちょ、ちょっと……暁美さん!」

  敷地内をずんずん進んでいくほむらを、マミが追う。

ゆま「?」

  その背中を、ゆまはじっと見つめていた。

織莉子「あら、来てくれたのね。暁美ほむらさんも一緒に」

ほむら「薄々思ってたけど、やはり貴方なのね……美国織莉子」

マミ「二人……知り合いなの?」

織莉子「キュゥべぇに話を聞いたの。それに私、予知の魔法を持ってるから」

ほむら「私は初めて会ったわ。『ここでは』ね」

マミ「『ここでは』?それってどういう事なの?」

織莉子「私も気になるわ。立ち話もなんだし、中で紅茶でも飲みながらお話しましょう」

ほむら「そういう気分じゃないの。グリーフシードは持って来たわ。佐倉杏子を返しなさい」

織莉子「せっかちなのね。ほら……あの赤い魔法少女は、ここにいるわ」

  織莉子はボトルを二人に見せる。
  中には小さくなった杏子の体が入っていた。

マミ「こ、これは……佐倉さん、なの……?」

織莉子「特殊な技術で体だけ別にして保存してあるわ。いつでも復活できるようにね」

織莉子「そして、こっちがソウルジェム。先にこちらを浄化して頂戴」

マミ「え、ええ……」

  マミは差し出された赤いソウルジェムにグリーフシードをかざす。
  汚れが消え、元の真紅の輝きを取り戻した。

織莉子「キレイになったわね。それじゃあ、はい。返すわ」

  織莉子がボトルのフタを開けると、中から杏子が出てきた。

杏子「あれ……?あたし、確か……」

  杏子が、目を開けた。

マミ「佐倉さん!よかった、本当に良かった……」

  マミが、復活した杏子に駆け寄る。

杏子「マミ……どうして?あたしは、円環の理に導かれて……」

ほむら「そうなる前に貴方は、魔法少女狩りにあったのよ。それを私達が救出した」

ほむら「感謝なさい、巴マミは、貴方のためにグリーフシードを集めたのよ」

杏子「何でアンタにそんなコト言われなきゃなんねーんだ……まあいいやマミ、ありがと」

マミ「あなたが無事ならそれでいいの!お礼は、私の弟子になった後でしてくれればいいわ」

杏子「はぁ?何でそんな話になってんだよ!」

織莉子「……ふふふ」

  その時、織莉子は急に笑った。

ほむら「美国織莉子……何がおかしいのかしら?」

織莉子「もし、キリカが帰ってきたらこんな感じになるのかしらと思っただけよ」

織莉子「円環の理に導かれたキリカと、また会えたなら……」

杏子「なっ……!そんなことできんのかよ!」

ほむら「落ち着きなさい、杏子。そんな事はありえないわ」

ほむら「仮に連れ戻せる方法があるとして、そうして何になるの?美樹さやかに何度も現実を突きつけるの?」

ほむら「円環の理、それは絶望の救済。そこから現実に連れ戻して、また絶望させるなんて……」

織莉子「生きてさえいれば、絶望は乗り越えられる」

ほむら「生きていればね。でも……魔法少女は違うわ!魔女になってしまう!乗り越える事なんて出来ない!」

織莉子「それでも『何か』が残るわ。その絶望は、新たな希望の種になるかもしれない」

ほむら「あの魔法少女システムを、肯定すると言うの?貴方は」

ほむら「貴方はいつも、私と反対の事を言うわ。『ここではない場所』で会った時も……」

杏子「ほむら、落ち着くのはお前のほうだろーが」

マミ「暁美さん……『ここではない所』ってどこなの?貴方はやっぱり、何かを知っているのね?」

ほむら「私は弓と翼を手にする前、時間操作の魔法を使っていた。美国織莉子とは過去で会ったわ」

ほむら「今とは繋がらない別の過去、別の時間軸……まどかが世界を変える前の世界でね」

ほむら「そこで貴方は『まどかを殺す』と言った。私は『まどかを守る』と言った。そして戦った」

織莉子「あら、さすが別の時間軸の私ね。今と同じような事を言っているわ」

ほむら「何ですって……!?」

織莉子「私の目的は、円環の理の破戒。それによる『円環の理に導かれた』魔法少女の救済」

ほむら「絶望にまみれた魔法少女を現実に放り出す事が、救済だなんて思えないわ」

織莉子「なら、ソウルジェムも魔法少女の存在も全て無かった事にするのが、救済だと?」

織莉子「残された方の痛みは、貴方にも分かるでしょう?消える方は、きっと、もっと痛い……」

ほむら「まどかは微笑んでいたわ。やはり貴方は、私と対立する事しか言わないのね」

織莉子「そう……運命なのかもしれないわね。私と貴方は、いつだって向かう合うように立っている」

ほむら「戦うべき、運命……!」

  ほむらと織莉子が変身したのは、同時だった。

杏子「おいほむら!何やってんだよ!マミ、止めるぞ!」

マミ「止められないと思うわ……きっとあの二人は、決着がつくまで止めない」

マミ「それに私も、佐倉さんを連れて大人しく帰ろうとは思ってなかったわ」

マミ「彼女は『魔法少女狩りのプレイアデス』。正義の魔法少女として見過ごせない相手でしょ?」

杏子「ああ……分かったよ、もう!あたしはマミの弟子なんだろ?」

  マミと杏子も、ほむらに続いて変身する。

織莉子「参考までに聞いてもいいかしら」

織莉子「私、ここではないどこかで貴方と戦ったのよね?勝敗はどうだったの?」

ほむら「貴方は、負けたわ。でも……まどかを殺した」

織莉子「目的は達成していたのね。それなら十分だわ、今回も安心ね」

ほむら「そんな事はさせない……!」

織莉子「私もよ。何としても、ここで貴方を止めてみせるわ」

  織莉子の周辺に、無数の水晶球が出現した。

織莉子「オラクルレイ!!」

  水晶玉から、一斉にレーザーが放たれた。

ほむら「なっ……!数が、多すぎる……」

  ほむらは矢を放つが、相殺するには僅かに及ばない。

マミ「暁美さん、下がって!」

  マミが無数のマスケット銃を出現させ、一斉放射する。

マミ「こういう戦いは得意なのよ。暁美さんはその弓で、白い魔法少女本体を狙って頂戴!」

ほむら「分かったわ」

杏子「あたしは斬り込むよ。注意を逸らせるし、上手くいったら仕留められる」

  三人はそれぞれ、自分のスタイルを生かし織莉子に攻撃する。

織莉子(接近戦に持ち込まれたらまずいわ。とにかく撃って撃って撃ちまくる!)

  織莉子は懐からグリーフシードを取り出す。

織莉子(皆が取ってきたグリーフシード……私も、頑張らなくちゃ……)

織莉子(お願い皆……絶対に、成功させて……!)

  当日の朝が来た。
  聖団とカンナはテディベア博物館の前に集合していた。

カンナ「ソウルジェムには全てコネクトしたよ。ホントにコレ、全部使うつもりなの?」

サキ「ああ。やるからには出来る限りの事をしたいからな」

ニコ「接続するソウルジェムの数は多い方がいいと思ってね。その方が引きずり出しやすそう」

海香「はいはい、ムダ口叩かないの。所定の位置につく」

カオル「分かった、分かった」

里美「そういえば、海香ちゃん。おりこちゃんから連絡はあったの?」

海香「まだ、何も無いわ……」

サキ「じゃあまだ戦っているか、もしかしたら……」

ニコ「もし最悪の事態になったとしても、おりこがこの場所を漏らすコトはない。大丈夫さ」

海香「ええ。私達はとりあえず、コネクトを成功させるコトだけを考えましょう」

里美「おりこちゃん……大丈夫、よね……」

サキ「おいおい里美、そんな風に集中を欠いていてはダメだろう」

みらい「そうそう。しっかりしなよ!」

里美「え、ええ……」

カンナ「おりこは大丈夫さ」

聖団「え?」

カンナ「物腰、たたずまいで分かる。彼女は強い魔法少女さ。そう簡単にはヤられないよ」

里美「そ、そうよね……うん。おりこちゃんは今でも頑張ってるんだもの。私もしっかりしなきゃ」

サキ「その意気だ」

サキ「さあ……始めよう」

  ケーブルが繋がったままの穢れたソウルジェムが、一つ消えた。

  その日の朝、ゆまは、鹿目家の一室で目を覚ました。

ゆま「ふぁ……おはよう……」

知久「おはようゆまちゃん。夕べはもしかして、よく眠れなかっのたかな?」

ゆま「あ、その……ごめんなさい……」

知久「いいよ。ちょっと緊張しちゃったんだね。じゃあご飯を食べて、早く家に帰ろうか」

ゆま(全然眠れなかった……おりこもちゃんと寝られたのかな……)

  ゆまは織莉子が気がかりで、一睡も出来なかった。

知久「ゆまちゃん。朝ごはんできてるけど、食べるかい?」

ゆま「あっ……うん!」

  ゆまは服を着替え、鹿目家のリビングに向かった。

ゆま(ゆま、ここにいていいのかな?だけどおりこはお客さんがくるから帰ってきちゃダメって)

ゆま(きっと危ないコトをしてるんだ。だからゆまにお泊りさせたんだ)

ゆま(ゆまにも、いい加減分かってきちゃった。皆はいつも、危ない時に「逃げろ」って言うから)

ゆま(でも、このままゆまは何もしないの?役立たずなの?)

ゆま(ううん、ゆまは、役立たずじゃない。役に、立てるのに……)

  ――君はもしかしたらプレイアデスの誰よりも、織莉子より強くなれるかもしれない

ゆま「ゆまは……できる、のに……」

  ゆまは、ぎゅっと拳を握り締める。

知久「ゆまちゃん?着替え、終わった?一人で出来る?」

ゆま「!」

ゆま「ごっ……ごめんなさいっ!」

  ゆまは鹿目家を飛び出した。

ほむら「終わりよ、美国織莉子」

杏子「こうなったら動けねーだろ、動くと死ぬぞ」

  織莉子は地面に倒れこんでいた。
  首には杏子の槍が突きつけられている。

織莉子「時間稼ぎには、なったかしら……」

ほむら「!?」

織莉子「計画通りなら、カンナさんがコネクトを開始して……そろそろ一時間が経つわ」

織莉子「全てのソウルジェムは円環の理の元に届けられ、コネクトされる」

織莉子「まどかは、引きずり出されるわ……」

マミ「何を言っているのかは分からないけれど、無駄な抵抗はお止めなさいな」

マミ「貴方は無差別に魔法少女を狩る危険な存在……温情は無いと思いなさい」

杏子「シッポ丸めて逃げりゃいいのに、意地張るんだもんな。そうまでして何がしたいんだか」

杏子「ここまで来て武器を収める気がないなら、しかたねーよ、な!」

  杏子は、槍を振るった。

??「おりこー!」

  何処かから、聞き覚えのある声がした。

ほむら「貴方……駄目じゃないの、戻ってきたら」

織莉子「ゆまさん……どうして……逃げて、はやく……」

  ゆまが、織莉子の方めがけて走ってきていた。

杏子「お前、確かあの時の……何でここにいるんだよ。とっとと消えな」

ゆま「やだ!おりこは、ゆまが一緒にいればそれでいいって言ってた!だから一緒にいるの!」

織莉子「そうね……でもこの状況は、今の貴方にはどうする事も出来ない」

ゆま「できるよ」

QB「彼女は冷静で賢い子だね。もし君に万が一の事があれば、君の治癒を願うつもりだったらしい」

QB「それで、ここに来るまで僕と契約しなかったんだ」

  ゆまの傍らには、キュゥべぇがいた。

織莉子「そんな……ゆまさん……」

ゆま「おりこ、ゆま、今まで、役立たずになるのがずっと怖かった」

ゆま「役立たずはぶたれるから、怒られるから……」

杏子「バカ、そんなんで魔法少女になるな!」

織莉子「そうよ、ゆまさん!それに貴方は役立たずじゃない、とてもいい子よ!」

織莉子「仮に役立たずでもぶったりなんかしない、役に立ついい子になんてならなくていいのよ」

織莉子「貴方は、貴方のなりたい貴方になればいいわ……」

ゆま「うん。だからゆま、魔法少女になるんだっ」

織莉子「……!」

ゆま「おりこは、キリカがいなくてずっと悲しそうにしてた。プレイアデスのみんなも……」

ゆま「ゆまは、そんなみんなを笑顔にする人になりたい。だからゆまは契約するの」

QB「素晴らしいよ。さあ、ゆま……君の願いを、教えてくれるかな?」

ゆま「ゆまの願い……」

  ――まどかは、魔女をなくすために魔法少女になりました

  ――1人ではなくなったと思っていたけど、キリカもすぐに……

  ――いつかミチルが戻ってきたら……

  ゆまは目を閉じ、様々な事を思い返す。
  カンナの言葉、織莉子の言葉、プレイアデス聖団の言葉。

織莉子「ゆまさん……魔法少女になったら、戦い続けなければいけないのよ?」

織莉子「それにいつか、貴方も消えてしまう。ミチルさんや、キリカのように……」

ゆま「ありがと、でも……『いつか』は『いま』じゃない。だから、だいじょうぶ」

ゆま「願い、きまったよっ。キュゥべぇ」

  ゆまはキュゥべぇに向かって、にっこり微笑んだ。

ゆま「――ゆまを、魔女にして」

ほむら「なっ……!?あなた、自分が何をしているか分かっているの?」」

ほむら「あなたは、自ら絶望しようとしているのよ?人間ではない何かになろうとしているの!」

QB「魔女って……ほむらやプレイアデスが話していた『魔法少女の成れの果て』の事かい?」

ゆま「うん。円環の理の敵なんだよね?」

ゆま「だからゆまは、魔女になる。円環の理をたおせるような魔女になりたいんだ」

ゆま「そして、円環の理から……魔法少女を、取り返してほしいの!」

ほむら「キュゥべぇ、そんな願いは叶えてはいけないわ!」

織莉子「円環の理の破戒は、私達がすればいい事なの!ゆまさんが何かする必要は無いのよ!」

QB「少女を契約させ魔法少女にするのが、僕の使命だ。願いを叶えない訳にはいかないよ」

QB「千歳ゆま……君の願いは、エントロピーを凌駕した」

  その時、あすなろの上空が、白く光った。

カンナ「あ、はは……あはははっ!円環の理って重いね!想像以上だ!」

海香「空間にヒビが入っているわ……あの裂け目の向こうに円環の理がいるのかしら……」

カオル「すごい光だ……まぶしい……」

サキ「私達は、とんでもない事をしようとしているのかもしれないな……」

  空に向かってカンナのケーブルが延びている。
  ケーブルの先は、真っ白に光り輝く空間の裂け目。

みらい「あの向こうに、ミチルがいるのか……」

里美「カンナちゃん、大丈夫?」

カンナ「心配ないよ、むしろ、どんどん力が沸いてくる!ホンモノに近づいていると思えばね!」

ニコ「ホンモノでもゾクゾクするよ……もう間近だ……」

  カンナが更にケーブルを引くと空間の裂け目が広がった。
  裂け目の向こうに夜空のような風景が見える。

カンナ「どうする?ココまで来れば、もう攻撃できそうだけど?」

海香「いえ、ギリギリまで引っ張りましょう。完全に引きずり出すまで……頑張れる?」

カンナ「OK!」

  裂け目が更に広がり、美しい夜空が出現した。

QB「さあ、ゆま。君のソウルジェムだ……受け取ってごらん」

QB「もっとも、仮説が正しければ、君のソウルジェムはすぐにグリーフシードに」

ほむら「!?」

  ほむらが何度も見た、悪夢のような光景。
  ソウルジェムが真っ黒になり、割れ、そして……

ゆま「グゥッ……グォゥ、グォォォォォ――!!」

  丸いグリーフシードが誕生し、ゆまは犬のような怪物になった。
  辺りはカラフルな結界に彩られ、人形のような使い魔が踊る。

織莉子「ゆまさん……ゆまさんっ!」

ほむら「よく見なさい美国織莉子、これが魔女よ!まどかが否定し、貴方達が望んだ世界よ!」

マミ「あのバケモノは……一体、何なの?魔法少女があんなモノになるの?」

杏子「ちくしょう!魔法少女の方がまだマシだろ!あんなモノになるなんて……!」

犬の魔女「zettai turete kaettekuruyo――!!」

  ゆまであった怪物は、空に向かって何か言うように吠えた。
  そのままかつてのゆまは、高速で何処かへ飛んでいった。

ほむら「あれは……!」

  ゆまが向かっていった先は、空間の裂け目の向こうの満天の星空だった。

カンナ「ぐっ……はぁ、はぁ……」

海香(まずいわね……カンナのソウルジェムがかなり濁っている……私達も……)

サキ「もう一息だ……皆、最期の一押し、いくぞ!」

全員「おうっ!!」

  最後の力を、ケーブルに込める。
  裂け目は大きく広がり、穴となった。

カンナ「ははっ……やった、な……」

サキ「あれが……円環の理、なのか……私達は勝ったのか?」

海香「いえ、私達はここに連れてきただけよ……あの、バケモノを」

ニコ「ああ、でも……美しいね……天使みたいだ……」

  空間の穴から、白く輝くシルエットがゆっくり落ちてくる。
  それは、翼を生やした女神のように見えた。

カオル「攻撃……しなくちゃ、アレを……」

みらい「そんなのムチャだよ……もう、みんな、動けないよ……」

里美「ねえ、見てみんな……アレ……何かしら?」

  二つの影が、白いシルエットに向かって飛んで来る。

ニコ「鳥じゃなさそうだ。もしかしたら……ヒーローかもね」

海香「ヒーロー?」

ニコ「そうさ。魔法少女がピンチの時に助けてくれる……ヒーローだよ」

ほむら(あの、空間の裂け目……白い光は……)

  空間の裂け目からゆっくり降りてくる、白い服の少女。
  体は無数の「コネクト」によるケーブルに絡め取られていた。

  明るい桃色の髪が、風になびく。

ほむら「まどか……!」

  ずっと会いたかった、最高の友達がそこにいた。

ほむら(再会を喜びたいところだけど……あの犬の魔女、まどかを倒すつもりだわ!)

ほむら(あの魔女を倒してしまわないと、まどかが危ない!)

  元はゆまだった犬の魔女は、まどかに向かって飛んでいた。

犬の魔女「グルルゥ……ガウッ!!」

  犬の魔女は、まどかに飛びかかった。

ほむら「……まどか!」

  ほむらの叫びを聞いても、まどかは動じない。
  静かに微笑んで、ゆまに矢を放つ。
  矢で貫かれた犬の魔女はゆまの姿に戻り、落ちていった。

ほむら(いけない、あの子が……)

  ほむらはとっさに下を見る。

まどか「……あの子なら、大丈夫」

ほむら「え?」


カオル「よかったぁ~間に合った……どうにか受け止められたよ」

サキ「いや、しかし、何でいきなりゆまが落ちてきたんだ?」

  ゆまは、プレイアデス聖団に救出された。

ほむら「あの子は……消えてしまうのね……あなたのいる、この世界の向こうに……」

  まどかは、首を横に振った。

まどか「ううん。『この世界に魔女はいない』。でも『夢も希望も魔法もある』」

まどか「だからあの子の願いは、少しだけ叶ってるはずだよ」

ほむら「まどか……私は、その……どうしよう、言いたい事がいっぱいありすぎて……」

  ほむらの目から、涙が零れ落ちる。

ほむら「でも、とりあえず……会えてよかった……」

まどか「うん。私もだよ。ありえないはずの事が、たくさん起きたんだね……驚いちゃった」

ほむら「また、あの世界に帰らなくてはいけないのね……」

まどか「うん。私は本来そういう存在なんだ。そうなっちゃった……」

ほむら「私はまた、一人になる……見守ってくれるとは言っても、側にいないなんて寂しいわ」

まどか「大丈夫。ほむらちゃんはもう……一人じゃないよ」

ほむら「え?」

まどか「私の事を覚えているの……もう、ほむらちゃんだけじゃないでしょ?」

  目覚めたゆまは、ずっと自分のソウルジェムと空を見上げていた。

ゆま「ゆまには全然似てなかったなー……『まどか』って」

織莉子「ゆまさん!ゆまさん、よかった……」

ゆま「おりこ……大げさだよ……」

  織莉子とゆまとプレイアデス聖団は、御崎邸で再会を果たした。

織莉子「もうあんな無茶な契約はしないで頂戴。魔女になる、だなんて……」

サキ「まさか、ゆまが契約するなんてな……」

里美「まあ、また仲間が増えたわ。ミチルちゃんも喜ぶわよ。八人になっちゃったけど」

ニコ「でもヘンだね。『魔女になる』って契約したのに、今、魔女じゃないじゃないか」

海香「そうね、でもソウルジェムは残ってる。ソウルジェムは願いの対価なのに」

ゆま「んー……多分それは、なんとなくなんだけど……」

  その時、玄関の扉を叩く音がした。

??「アレ?何で鍵閉まってるのかな……おーい!カオル、海香!」

??「いやー、助かったよ。何せいきなり右も左も分からない所に放り出されてさ」

??「お腹も空くし……ホント、キミに会えて良かった!キミは命の恩人だよ!」

??「分かった。じゃ、私の自慢のイチゴリゾット作ってあげる。グランマ直伝の味なの」

  聞き覚えのある声が玄関から聞こえてくる。
  ゆま以外の全員、部屋を飛び出していた。

一同「――お帰りなさい!!」

ミチル「……え?」

キリカ「な、なに?何で織莉子が?」

  玄関先にいたのは、消えたはずの、ミチルとキリカだった。

~エピローグ1~

キリカ「なるほど。つまり私達がこの世に戻ってこれたのは、そこのチビさんのおかげ、と」

ゆま「チビさんじゃないよ、ゆまって言うの!」

  織莉子と聖団は、空港のロビーに来ていた。
  目的地は、アメリカだ。

キリカ「やーだねっ、君は私から織莉子の『唯一の友達』の座を奪った不届き者だからね!」

織莉子「もう……二人とも、飛行機の中では静かにしてよ?」

海香「『魔女』はこの世界では認められない存在……だから円環の理は、少しゆまの願いを書き換えた」

海香「その結果、円環の理に導かれた……ミチルとキリカが帰ってきた」

ニコ「それはいいんだけどさ。以前私が冗談で言ったコトが、まさか実現するとは思わなかったよ」

カオル「ああ……『グランドキャニオンで秘密暴露大会』のコト?」

~エピローグ2~
サキ「商店街の福引が当たったから、良い機会だと思ってな。」

サキ「織莉子達はミチルの事を知らないだろう?私達はキリカの事を知らない。親睦を深めるべきだと思ったんだ」

キリカ「私は別に、おりこがいればそれでいいしぃ……」

みらい「ボクだってサキがいればそれでいいよ。キミとの親睦はオマケなんだからね、オ、マ、ケ!」

キリカ「気が合うねえ私達。よし織莉子、飛行機がアメリカに着いたら別行動しよう!」

ミチル「コラコラ!みんな、ケンカしないの!」

ミチル「ほらコレ、お昼にしようと思ってたんだけど飛行機は持ち込み禁止だから、みんなで食べよ!」

  ミチルはカバンの中から、小さなサンドイッチを取り出す。
  皆はそれを食べ、小さな諍いはあっという間に収まった。

織莉子「これがウワサのミチルさんの料理ね……凄いわ、プロみたい」

ミチル「えへへ……そうだ、今度レシピ教えてあげよっか?」

キリカ「うー、おりこぉ……たまにはケーキも作ってくれよー?」

織莉子「はいはい」

~エピローグ3~
サキ「ミチルとキリカが帰ってきて、私達が円環の理のために戦う理由は無くなった」

サキ「だが、希望を失った魔法少女の行く先が消滅というシステムには、納得いかない……」

海香「だから私達は戦い続ける。これからも、魔法少女を連れ戻す方法を探し続けるわ」

ミチル「ねぇ、みんな。この遠慮のカタマリ、どうする?」

カオル「あたしだ!」ゆま「ゆまだよ!」キリカ「私のだ!」みらい「ボクのだよ!」

  ミチルがそう言うや否や、サンドイッチ最後の一つの争奪戦が始まる。

ニコ「あはは……いいね、平和で。全員そろうってのは、やっぱりいいモンだ」

里美「全員……でも、あの日、一番頑張ってくれた人は……ここにはいないわ」

織莉子「彼女は来ないわよ。必要な時だけに呼ぶ、それが条件だったから……」

カンナ「呼んだ?」

  織莉子達の前に、荷物を持ったカンナが現れた。

カンナ「ニコから連絡あってね。タダでグランドキャニオンに行けるって聞いたから」

サキ「よし、それじゃ……行こうか。星を見に。お互いに、色々な話をしに……」

全員「――グランドキャニオンへ!」
 ~END~

~おまけ~
ゆま「ねえ、見てタツヤ!ゆまもまどか、描けるようになったんだ」

タツヤ「まどかー」

知久「ゆまちゃんも……まどかを、知ってるのかい?」

ゆま「うん。やさしそうで……少し、寂しそうな目をした、おねえさんだよっ」

  そしてゆまとタツヤは、地面にまどかの絵を描き始める。

??「すてき……女神さま……?」

  銀髪の少女がやって来て、ゆまの絵をじっと見つめる。

ゆま「ううん、これはまどかだよ。よかったら描いてあげる。えっと……」

なぎさ「私の名前は、なぎさ……百江なぎさ」


ほむら(色々な人に、まどかの存在が伝わっていく……プレイアデスのおかげね)

  ほむらは少し離れた所で、タツヤ達が遊ぶのを見守っていた。

ほむら(でも私はまどかに会いたいわ……会って、あの時言葉に出来なかった事、伝えたい……)

ほむら(まどか……どうすればもう一度、会えるのかしら……)

このSSはこれで完結です。
初のSSで登場人物が二十人以上とは、我ながら無茶をしたと思います。

機会があればまた、別のSSでお会いしたいと思います。

見てくださった方、ありがとうございました。叛逆観に行きたいです。

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