神父「また死んだんですか勇者様」 (159)

勇者「すみません……なぜかここに来て急に敵が強くなっちゃって」

神父「今回あの世に逝かれたのは、戦士様と僧侶様と魔法使い様ですね。お悔やみ申し上げます。
   しかし勇者様は今回も無事でしたね」

勇者「運がいいのもあったと思うんですけどなにより、パーティがボク思いで。今回は戦士が敵のメラゾーマから僕を庇ってくれたんですよ」

神父「その前は僧侶様が勇者様を庇ったとか言ってましたね……それでは死体の方を拝見させていただきますよ」

勇者「あ、こちらになります」

神父「棺桶に一つにまとめちゃったんですか」

勇者「いやあ、さすがに一人で三つ分の棺桶を持つのはなかなかつらいんで……今回全体的にグロいんですけど、まあなんとか頼みます」

神父「それでは失礼……って、おうぇえぇえぇ! くせえええっ!」 

勇者「あ、すみません。今回実はかなり奥地まで侵入しててそれで戻るのに時間たっちゃいまして……」

神父「いやいや! どれぐらい時間たってんですかこれ!?」

勇者「さあ? なにぶん生きるのに必死だったもんで。大変だったんですよお!
   魔物はもうそこら中にうじゃうじゃいるし、アイテムも底を尽きるし、途中棺桶忘れたことに気づいて取りに戻るハメになるし」

神父「仲間を忘れて来たってことは、できれば聞きたくなかったですね」

勇者「しかし意外なのは僕ら勇者パーティでも死体で街に帰ってくるハメになってるのに、あまりそういうのを見ないんですよね」

神父「そりゃあここのところ魔物が急に凶暴化しましたからね、隣街に行こうなんて思うのはあなた方と切羽詰まった行商人ぐらいですよ」

勇者「そうですかね」

神父「そうですよ、なによりこの街から次の街までの距離って異様に長いですからね」

勇者「まあとりあえず仲間を頼みますよ。ええっとお金は全財産の半額でしたね。あはは、まーたお金なくなっちゃったよ」

神父「おやおやら今回はこんなに。毎度すみませんねえ、まあこれはあくまで喜捨として我々はいただいてるので」

勇者「わかってますよ。お金払って死んだ人間が生き返るのなんて僕らだけの特権ですからね。
   それで、時間はどれぐらいかかりそうですか? 空いてる時間は一人で修行行くんで」

神父「死なないでくださいよー、ちょっとわかりかねますなあ。戦士様なんかはメラゾーマ浴びちゃってるんでしょ?」

勇者「見事なウェルダンに仕上がってるますね」

神父「これから教会のもので死体の状態の確認しますので、そうですね、一日ぐらいあればなんとか復活できると思いますよ」

勇者「じゃあまた明日来ますわ」

神父「わかりました、じゃあ神のご加護あらんことを~」

…………………………………………………………


神父「シスター、先ほど勇者様が来られました」


尼僧「はあ……またですか神父様?」

神父「あらら、そんな顔をしちゃって。勇者様がこの街を訪れた当初は彼が来るたびに嬉しそうだったじゃありませんか」

尼僧「まあたしかに。最初は勇者様はそこそこイケメンだったし、わたくしにも優しかったし……」

尼僧「でも今じゃあなんかもう不気味な人ですよ、わたくしコワイですわ」

神父「不気味?」

尼僧「不気味でしょアレは! なんでも勇者様一行はここまでなんとか一度も死なずに来られたらしいじゃないですか。
   でもこの街の付近にある洞穴のダンジョンで初めてパーティの一人が死んだんですよ。神父様も覚えてますよね?」

神父「覚えていますよ。大号泣で『じんぶざまああああぁ』って死体抱えてこの教会に飛び込んで来ましたからね。
   あの時ちょうどミサをやってて空気が凍りつきましたね、本当に空気読んでほしいですよねー」

尼僧「それはともかく、あの時は勇者様はまだパーティが死んだことにすごく心を痛めていたじゃありませんか?」

神父「そうですね」

尼僧「ところが半年もたって今ではどうですか? この前なんて魔法使いさんの死体、首チョンパされてましたし!
   それなのに勇者様は『まーた死んじゃいましたよーあははは』とか、言って首だけなぜか手で持ってくるしもうね……」

神父「あはははたしかに」

尼僧「戦士様の死体を普通に引きずって持って帰って来たこともありましたよね?」

神父「そういえばシスターはあの時ショックのあまり失神してしまいましたね、いやあ、あのときは大変でしたよ、あはは」

尼僧「笑い事じゃありませんわ! 信徒の勉強会の時に押しかけられたせいでもうみんなパニックになってましたわ。
   勇者様にはTPOというものがないのかしら」

神父「そのあとに棺桶を買わせたのはたしかシスターでしたね」

尼僧「死体引きずるよりはマシだと思ったもので。でもあの人は渋々って感じで買って来ましたよ! わたくしの気遣いをなんだと思ってるのかしら!」

神父「まあまあ落ち着いて。彼が来たおかげで、うちの教会の信徒は面白いぐらい増えているわけですから」

神父(しかもシスターが買わせた棺桶は、ラストダンジョン手前の街でしか購入できない超高級装備を一式揃えられるぐらいの額はしますからねえ。
   我が教会も潤うというものですわ、うはははは)

神父「まあこうして話している間にも、皆様の死体の腐敗は進みますし、早めに作業に取り掛かりましょう」

尼僧「うぅ~、ヤダなあ」

神父「これも立派な神に仕える者の仕事ですよ。とりあえず場所を移動しましょう」


……………………………………………………


尼僧「おぎゃああああぁぁっ!?」

神父「シスター、驚くのは仕方ありませんがもう少し気品のあるシャウトをおねがいしますよ」

尼僧「そ、そんなのムリですよ! な、ななななんですかこれは!?」

神父「これはおそらく戦士様の死体でしょうが……ウェルダンっていうか、もはや単なる丸焼きですね」

尼僧「半分以上が灰になってるじゃないですか!? ていうかくせええええっ!!」

神父「だから下品ですよ、まあたしかに凄まじい異臭ですけど。ニオイはあとの二人の死体からのようですね」

尼僧「ここら一帯の地域は温暖湿潤気候ですから死体の腐敗も早いんでしょうけど。あと魔物の攻撃、これ毒系のものだったのかも……」

尼僧「どうするんですか? いかに神のご加護と言っても僧侶と魔法使い様はともかく戦士様は……」

神父「ふぅーふぅー」

尼僧「ちょいまちっ! なに戦士様だった灰に息ふぅふぅしてるんですか!?」

神父「触っても大丈夫かという実験ですけど……これは迂闊に触ったらそれだけでぼろぼろと崩れてしまいますねえ」

尼僧「今までにも何回か死体の損傷が凄かったことはありますが、今回はさすがに……」

神父「少し手段を考えます。シスター、あなたは使徒職の方へ行ってもらって大丈夫ですよ」

尼僧「はあ……まあわたくしもこんな死体といつまでもいたくはないので神父様がそうおっしゃられるのなら……」

神父「大丈夫ですよ、この私にまかせなさい」

尼僧「あ、そういえば最近あるうわさを耳にしたんですが」

神父「なんですか?」

尼僧「なんでも突然街に黒いローブをかぶった人間なんだか幽霊なんだかわからない、何かが街に現れるそうです」

神父「そんなうわさが街で流れてるんですか、ふうむ」

尼僧「まあうわさなんでなんとも言えませんが、この前信者の方も見たとか聞いたもので」

神父「わかりました、頭の片隅らへんで覚えておきます。
   あ、シスター。出かけるついでに街のお医者様を呼んできてもらっていいですか?」

尼僧「神父様、また腰が痛いのですか?」

神父「ええ、立ち仕事が最近キツくてキツくて」

尼僧「まだまだ若いくせに何をおっしゃってるんですか。はい、じゃあ呼んできますね」

神父「おねがいしまーす」

尼僧「さてっと、とりあえずお医者様を呼んできてそれから……」

女性「すみません」

尼僧「あ、はい? どうしました?」

女性「神父様はいらっしゃいますか?」

尼僧「ええ、中にいらっしゃいますけど。あ、でも今はちょっと取り込み中でして……」

女性「ああ、大丈夫よ。いるのならそれでいいの」

尼僧「はあ……」

女性「そうなのよ。
   ……それにしても来るたびにこの教会は立派になってる気がするわ」

尼僧「そうですか? まあ勇者様が来られるまでは、ひどい有様でしたからね」

女性「勇者のおかげねえ、よくわからないけどよかったわね。ありがと」

尼僧「えっと……じゃあ、わたし、行きますね」

女性「ええ」

尼僧(赤いローブをかぶってて顔が見えなかったけど、なんとなく美人そうだったな。
   そういえば例の幽霊のうわさでもローブをかぶってるとか……あ、でもアレは黒色か)

………………

神父「ふぅーむ、さてお医者さんが来るまでのこの空いている時間。どうしようかなあ……」

女性「おい、来たぞ」

神父「ぬおぁあっ!?」

女性「驚きすぎたろう、キサマ」

神父「そりゃあ驚きますよ。ここは私しか知らない地下部屋でして。
   その部屋に一人でいる時に突然背後から声をかけられたら誰だって驚きます。
   いいですか? まず入る前に、扉をノックして部屋に入る旨を伝えるのがマナーというものですよ」

女性「キサマら人間のルールなど知らんわ」

神父「それもそうですね。
   それで、なんの御用ですか魔王様?」

魔王「勇者の様子を見に来たついでにキサマに会いに来たのだ」

神父「ほお、私に会いに来てくださったんですか?」

魔王「勘違いするな。キサマに会いにきたのは例のものをもらうためだ」

神父「わかっていますよ。今のは冗談なんで睨まないでください」

魔王「しかしこの部屋に充満している異臭はなんだ、鼻がひん曲がりそうだ」

神父「ああ、そこの死体ですよ」

魔王「この死体は……もしや勇者の仲間か?」

神父「まあ……そうですね」

魔王「見事消し炭になっているな。この火力は私の側近の術だな」

神父「さすがは魔王様の側近。えげつない威力ですね」

魔王「なにを言う神父。キサマが提案したのではないか。私に、私の側近や城の警備に回している連中をこの街の付近に配置しろと」

神父「そのとおりなんですけどね」

魔王「ふっ、しかしやはり勇者など取るに足らぬ存在だな。キサマら人間はあたかも勇者とやらを救世主や最後の寄る辺などと言って信奉しているようだが。
   お仲間がこうもあっさりやられているのを見る限り、とても私の敵に成り得るとは思えん」

神父「どうやらそのようですね、いやはやさすがすべての魔物の頂点に君臨されるお方です」

魔王「彼我の差はあまりに大きい。懸念することもない。勇者とやらも少しはこの私を楽しませてくれると思ったが。
   だいたい自ら勇者と名乗ること自体片腹痛いわ、この魔王を倒して勇者を名乗るならともかく……この魔王を倒す、などありえないが」

神父「まあそうでしょうね」

神父(……この魔王と話しているところを見られたら私の人生は終わりだな)

半年前


尼僧「神父様~、雨漏りがひどいんですけどなんとかなりませんかね?」

神父「そんなこと言われても、屋根を修築するようなお金はこの教会にはありませんからねえ」

尼僧「言ってみただけです。この教会にお金がないことぐらいわたくしも知っていますわ。下手したら潰されるかもしれませんからね、ここ」

神父「……潰されることはありませんが、信者の数の減少もそうですが学校の経営なども一緒に傾いていますからね。主よ、私の人生がヤバイです……はあ」

尼僧「弱音を吐かないでくださいまし。わたくしまで気が滅入ります。
   あ、そういえば近々勇者様とその御一行がこの街を訪れるという話を聞いたんですが、本当なのでしょうか?」

神父「それは本当ですかシスター!?」

尼僧「ええ、なんでも三日ほど前に隣町を抜けたらしくて。なに急にテンションあげてるんですか」

神父「だって彼らが来ればそれだけで、勇者様を見に行こうと他所から観光客が来るわけですよ。
   しかも、神のご加護を受けるために勇者様は間違いなく教会に契約に来るわけですからね。
   それだけで教会を訪れる人間は、かなりのものになるでしょう」

尼僧「なるほど、しかし、だとしてもそれが信徒につながるとは限りませんよね」

神父「まあそれはそうなんですけど」

尼僧「とりあえずわたくし、出かけてきますので」

神父「はい、お仕事に励んできて下さ~い」

……………………………………

神父「いや、しかしこれはビッグチャンス! 理想は勇者様一行の誰かが死んで、教会で復活するということですが……」

?「おい」

神父「いや、しかしそこまではさすがに望めないか……だいたい今のところ勇者様たちは未だに死を体験していないと言うし」

?「おい人間。キサマこの魔王である私を無視すると言うのか?」

神父「へ?」

魔王「凡愚め、この私の声を無視するとなかなかどうしていい度胸をしているな」

神父「うわああぁっ!? な、な、なんですかあなたは!? ていうか背後からいきなり声をかけないでくださいよっ!?
   初対面の人にはきちんと正面から挨拶しないといけないんですよ!」

魔王「キサマら人間のマナーなど知らん。そもそもこの魔王に人間の常識を当てはめようとするとはなんと無礼な!」

神父「マオウ? なにを言ってらっしゃるんですか、あなたのような見目麗しい女性がそんな魔王だなんて……」

魔王「たしかにこの見た目ではわからんか……なら、これでどうだ?」

神父「あれ? なんだか急に寒くなってきたような……」

神父「……なっ、なななななんですかこれは!? 雨で濡れた床が……次々凍ってく!?」

魔王「あと五秒ほど待っておれ。この建物の中を完全に氷付にしてやろう」

神父「きょ、教会があっという間に氷付に……ううぅっ、さむっ!」

魔王「本来の力の千分の一もこの姿だと出せぬようだな……まあいいか。キサマもこれで私が魔王であるとわかっただろう?」

神父「ええっと、まあ……」

魔王「どうした、怖気付いたか?」

神父(うーん、なんかすごいのはわかるんですけど、魔法使いでもこういうことできるからなあ……)

神父「あのー、とりあえずどうしてまた魔王様がこんな今にも潰れそうな教会に?」

魔王「キサマの質問に答える義理はない、が、私はこう見えて意外と慈悲深い。あるものを探している、それだけ言っておこう。いや、まて……」

神父「なんですか?」

魔王「この街には古くからの伝承があるそうだな。それについてなにか知らぬか?」

神父「…………いいえ、大変遺憾ながら存じておりません」

魔王「まあだろうな、キサマはいかにもグズでマヌケと言った顔をしている。せっかくだ殺してやろう」

神父「えええぇー! なんですかその軽い殺人予告は!?」

魔王「いや、実は勇者とやらに私が己が魔術で開発したペットをけしかけたんだが、意外にもやられてしまってね。
   そういえばその腹いせをまだしていないなあ、と思い出したところでちょうど目の前に、殺しやすそうなグズがいるもんだからいいかな、と思って」

神父「かるいっ! 仮にもここは命のありかであり神を敬う場所なんですよ! もっと発言には気をつけてください!
   ていうかそんなことどうでもいいから殺さないでください!」

魔王「キサマら人間の拝み奉る神のことなど、どうでもいいが……そうだな。
   正直キサマの生殺与奪などどうでもいいからな、なにかこの私が気にいるようなものを出してみろ。そうしたら助けてやらないこともない」

神父「ではこれどうぞ!」

魔王「キサマ、自分の生き死にがかかっているのに一瞬だったな。熟考したほうがいいかもしれんぞ?」

神父「いや、だって三秒後にはなんかまた考えを変えて、やっぱり殺そう、とか言い出しそうなんですもん」

魔王「実は三十秒経過していたらそのつもりだった、懸命な判断だ神父」

神父「お褒めに預かり恐縮です」

魔王「それで、これはいったいこのビンはなんだ? 中に入ってるのは?」

神父「ええっとですね、ああ、これはうちの国では非常に高級とされるある山の麓の水を……ええっと、なんかこう難しくてややこしい手順を踏んでですね。
   まあ、とにかくおいしい聖水なんですよ、ええ」

魔王「なんといういい加減な説明だ。だが、逆に興味をもった、いいだろう。飲んでやろう」

神父「ああ、ありがとうございます! おおっ! 主よ、少しだけ私の寿命が伸びました!」

魔王「んっ…………なんだ、いたって普通の水のようだが。まさか本当にただの水ではあるまいな、神父?」

 

神父「まさかそんなわけはないのですが……どうですか?」

魔王「……まさかこの私を愚弄しているのか、神父」

神父「そ、そんなっ! 私のような人間が魔王様を愚弄するなど……とんでもない!」

魔王「ならばこの水はなんだ、こんな真水などいつでもどこでも飲める……いや、なんだこの感じは?」

神父「ああよかった、ようやくその水の効能が現れたんですね……」

魔王「な、なんだこの全身を行きかう全能感のようなものは……! 身体をめぐる血が沸騰しているような、それでいて気分はあまりに清々しい!」

神父「魔王様にお気に召したようでしたら幸いです」

魔王「神父、いったいこの水はなんだ?」

神父「私も正確にはわからないんですが、我が国の教会本部の技術の粋を集めて作られたもので、お体に絶大な効果があるとか……」

魔王「これは素晴らしい。探し物ついでに腹いせに来たつもりが、思わぬものに巡りあえた。神父、この水はまだあるのか?」

神父「はい、あと一本だけ。もちろん魔王様にさしあげます。ちなみにこの水なんですか一ヶ月に数本こちらの教会に届けられます。
   もしよろしければ、これから届くものも魔王様に斡旋しましょうか?」

魔王「ほう……それで、その代わりにキサマを生かせと?」

神父「まあできれば、そういう取り引きをしてもらえるとありがたいですね。もともとその水はこの教会に届けられるものでして。
   私が死ねばおそらくここに代わりの人間が来ることはないでしょうから、十中八九教会は潰れます」

魔王「ふむ……私はあまり考えるのが得意ではないが、とりあえずキサマを生かしておけばいいのだな?」
   
神父「ええ、そうすればなんとか数本は毎月この水を確保できるかと思います」

魔王「いや、だが、だったらこの水の製造元へ行ったほうがいいのか?」

神父「その製造元は実は我々もわからないのです。なにせこの水は非常に高価なものでして、それゆえに製造元だけでなく製造方法までもが知られていないんです」

魔王「ほう……やはり難しいことはわからんがあの水に感謝しろ。特別にキサマを信用してやる」

神父「ありがたやありがたやー」

神父(なんとかこの場は切り抜けましたが、しかしこれはなかなか危険な状況。いや、この状況と勇者様が来るのを利用して……」

神父「あの、もしよろしければ私の図々しいお願いを聞いてもらえませんか」

魔王「キサマは神父というわりにずいぶんとがっついてくるな。命があるだけでも儲け物のはずなのに、いいだろう。
   ためしに言ってみよ、面白い提案を期待しているぞ」

神父「魔王様は勇者様相手にずいぶんと腹を立てていたそうですね?」

魔王「ふむ、そのとおりだがそれがどうした?」

神父「もしよろしければ、魔王様がいい感じに気持ちよくストレス解消をできる手段を考えましてね」

魔王「ストレス解消か、神父よ。キサマには私が抱えた憤怒の感情を解消する手段はあるのか?」

神父「たいした話ではございません。魔王様の腕の立つ部下を何人か、次の街へ続くコースに配置して欲しいのです」

魔王「意図がよくわからんな、いったいそんなことをしてどうなる?」

神父「これは私の予想なのですが、おそらく実力のあるヒトたちはほとんど魔王様のお側に置かれているのでは?」

魔王「当たり前だろう。自分の身を守るためにいる部下が弱くては話にならん。
   それに弱い魔物だと、私が本来の姿である状態でそばにいると、それだけで死ぬ可能性があるからな」

神父「なるほど、さすがは魔王様でございます」

魔王「私たちの世界はとにかく弱肉強食だからな。弱いヤツは強いヤツに土地を奪われどんどん辺境に追いやられて行く。
   強いヤツは強いヤツどうしでつるみコミュニティを築いていく」

神父「ははあ、なるほど。つまりこの先の街へ行こうと思うと我々人間は苦労する、と」

魔王「私たち魔物の集落が増えてくるからな。逆にキサマら人間どもは住みづらいだろうな。
   しかし、我々魔物の地の近くに暮らす人間はその分、屈強だと聞くがな」

神父「そこは人間とは逆なのですね」

魔王「それで? 私の側近をこの街から次の街までの街道や洞穴とかに配置しろと言ったな、それがどうなるのだ?」

神父「おそらくなんですが勇者様はですね、これまで順当に弱い魔物たちを倒して、経験を積んで徐々に強い魔物を倒せるようになっていたと思うんですよ」

魔王「まあ、そうだろうな」

神父「ですがここに来て急激に倒すべき魔物が強くなったら、おそらく対応できないと思うんですよ」

魔王「理にはかなっているな、だがそれでどうなるんだ?」

神父「つまり、あなたを討伐に来た勇者様一行はこの街から出られなくなるということですよ。
   おそらくあなた様の側近相手に無惨に殺されるその光景を見るだけでも良いストレスの解消になるのでは?」

魔王「なるほど、たしかにまあ多少の暇つぶしにはなるし気もまぎれるか。いいだろう、それも実践してやる」

神父「いやあ、本当にすみませんねえ」

魔王「しかしだ、神父。その行為が人間であるキサマらの首をむしろしめる結果になると思うのだが」

神父「まあ大きな規模で見たらそうかもしれません。しかし、小さな規模で考えればそうでもありませんよ、少なくともこの教会にとっては」

魔王「どういうことだ?」

神父「あなた方が勇者様を一回でもいいのであの世に連れて行ってくれるとですね、我が協会で復活させることができるんですよ」

魔王「なに、人間は蘇生の技術を持っているのか?」

神父「人間が、というか神のご加護を受けた勇者様とそのお腹様のみですが」

神父(しまった……まさか魔王がこのことを知らないとは。もしかしたら気が変わってこの教会を破壊しようとか言い出すんじゃ……)

魔王「まあいいか。雑魚が何度生き死にを繰り返したところで、なにか変わるわけでもないしな」

神父「よかったあ、教会を潰すなんて言われたらどうしようかと思いました」

魔王「やっぱり潰す……冗談だ、そんな顔をするな。あの水が飲めなくなるのはイヤだからな、話を続けろ」

神父「……話を続けさせてもらいますよ。教会が死んだ勇者様たちを復活させる、その事実を街の人が知る。
   このことが知れ渡ればいっきにこの教会の信者も増えるでしょう」

魔王「なるほど、奇跡をエサに信徒を増やそうというわけか」

神父「ええ、今うちの教会は大ピンチなんですよ。一応ニュースペーパーとかでも時々宣伝したりしてるんですけどね。
   最近は宣伝してもほとんど信者の増加には繋がらなくて、本当に困ってました」

魔王「キサマも大変なのだな」

神父「ですから、魔王様には感謝しても感謝しきれませんよ」

魔王「まさかこの魔王が人間に感謝される日が来るとはな……」

神父「この教会の立て直しが成功した際には、例の水をより購入することもできるかもしれません……いいえ、私の命にかけてしてみましょう」

魔王「それは実に魅力的だな、期待しよう」

神父「ええ、是非」

魔王「私とお前は一時的とは言え、一蓮托生というわけだ、よろしく頼むぞ神父」

神父「こちらこそ、魔王様」

………………………………


神父(まあそういうわけで、勇者一行とこの魔王の部下を利用して教会の立て直しは見事に成功した。
   信者の数も増えたし、寄付金や経営していた学校や病院施設も順調)

魔王「ふふふっ、やはりこの水はうまいな。喉だけではない、心の渇きまでをも潤してくれる。
   我慢しようと思ったがせっかくなので、城に戻るまでの間にもう一杯いただいておこう」

神父「魔王様、すみませんがそろそろお帰りになってもらってもいいですか? このあと約束があるもので」

魔王「なんだ、ここのところは少しは弾む会話もできるようになったというのに……まあいいか。
   それで、次はいつに来ればいい? 斡旋してくれる水も増えてるがしかし、私はもっと飲みたいのだ」

神父「そうですね、次の水の入荷に関してはまだ目度がたってませんね。とりあえず一週間後でよろしいですか?」

魔王「ふむ、わかった。ではまた来よう」

神父「お待ちしております」

………………

神父「ふぅー、帰りましたか。やはりあのヒトといると疲れるなあ……最近になってようやく魔王の真の目的がわかってきましたが……」

?「おい、入るぞ」

神父「あ、はい、どうぞ……お待ちしていましたよ、お医者様」

医者「……このヤクザ神父が、また誰か死んだのか。この部屋のクソくせえニオイは?」

神父「あちらの死体のニオイになりますね」

医者「どれどれ……チッ、これはなかなかやべーな。戦士は炎かなんかにやられたみてーで、おいおい。
   こっちの嬢ちゃんは見事な毒にかかっちまってんじゃねーか」

神父「ひどい死体でしょう? これを復活させるにはさすがに神様だけでは無理だと思いまして……今日もお医者様を呼んだわけですよ」

  
医者「……魔法や教会の発展とともにすっかり仕事をなくした俺に仕事をよこしてくれる数少ないアンタはある意味神様だ、俺にとってはだが」

神父「神に仕える私が神だなんてとんでもない」

医者「そうだな、お前は真の神からは間違いなく罰せられるぜ。そうだろ、神父さんよお?」

神父「……まあ、そうかもしれませんね」

医者「そんなことはどうでもいいか、そんで、コイツらの身体に限りなく近い死体を俺が選んでやりゃあいいんだろ?」

神父「ええ。地下の保管所へ案内しますよ」

保管所

医者「おいおい、またずいぶんと死体をこさえてんじゃねえか」

神父「最近はここらいったいの魔物が急激に強くなりましたからね。そのおかげで旅の自称腕利きが挑んでは死体に変わっていくわけです」

医者「そいつらを引き取ってこうしてここで保管しておくわけだ」

神父「保管の仕事はお医者様、あなたの仕事ですけどね。まあ他にも死体の入手ルートはいくつかありますが」

医者「初めて神父さん、アンタに死体の保管について聞かれたときは驚いたよ。どこの世界に死体を保管したいなんて言う神父がいるんだか」

神父「神の技にも限界がありますからね、復活させることが不可能なくらいボロボロの死体には新しい身体を与えるしかないでしょう」

医者「発言だけ聞いてると、神父でもなんでもねえよアンタ」

医者「まあ死体を単純に凍らせるっていうのは悪くはないアイディアだったんだがな、神父さん。
   しかしそれにはどうしても問題がついてくる。褥瘡や筋肉の硬直と言った問題だ」

神父「専門的なことは私にはまるでわかりません。そこはあなたにお任せしますよ」

医者「さすがに似たような身体を、と言っても無理があるがこんな感じで四肢がバラバラで保管されてると多少は身体の選別も楽でいいな」

神父「似たような死体なんてそうありませんからね。
   せめて似たような身体のパーツ、ならなんとかなるかもっと思って四肢をバラバラにして保管することにしたんですが」

医者「俺とアンタは間違いなく地獄行きだ」

神父「私が地獄に行って世界が平和になるのならそれでいいんですよ」

医者「なに格好つけてやがんだ、自分の利益しか考えていないくせに」

神父「なにをおっしゃいますか、私は常に世界の平和について思考をめぐらせているんですよ」

医者「教会と自分の利益だけではないと、そういうわけだな」

神父「ええ。私は聖職者ですから」

医者「ケッ、そこまで開き直れたら人生楽しいだろうな。まあ、とりあえずコイツらと似たような身体のパーツを探すから待っていろ。
   ただ、戦士の顔はどうするよ、ってアンタに言っても仕方ないか」

神父「おねがいしますよ、お医者様。あ、そうそう、部屋の隅にある水は飲んじゃダメですよ?」

医者「こんな死体しかない部屋で口にものを含みたくなんてねえよ」

神父「それは安心です。気をつけてくださいね、その水、人が飲むと一発であの世行きなんで」

………………………………


戦士「おえぇ……気持ち悪って、ここは……」

魔法使い「……あ、あたしたち生きてる?」

僧侶「どうやらそうみたいですけど……」

神父「ああ、よかった。皆様は無事、神によって生き返ることに成功しました。どうか、神への感謝を忘れずに」

戦士「あ、ああ……そうだな。思い出したよ、オレ死んだんだったな。確か火をくらって」

僧侶「なんだか戦士様の顔がかなり歪んでるように見えるのですが」

戦士「え? まじ?」

魔法使い「でも、何回か前に死んだ時も顔変わったみたいな話したよ」

戦士「まあ、オレってばしょっちゅう前線で戦うから、どうしても顔面とか身体とかありとあらゆるところに傷を受けるからな」

僧侶「戦士様はもう少しご自身の身体を労ったほうがいいかと……」

戦士「まあな。でもなんか死ぬ度に身体の調子が変わっちまうしなあ。なんだか生き返る度に別人に成り代わっているみたいだ、心機一転ってやつか?」

魔法使い「ちがうんじゃない? あ、でもあたしも身体の調子が変だな。なんか前まですごい、暑がりだったのに今じゃあ末端冷え性になっちゃってるしね」

僧侶「はあ……わたくしはよくわかりませんが」

魔法使い「あと身体の関節とかも最初動きづらかったりするしね」

戦士「まあ本来死んでたこと考えたら全然いいんだけどな」

神父「そうですよ、みなさん。命あってのものだねですからね」

僧侶「あの、神父さま。お世話になりました」

神父「いえいえ、教会神父として当然の務めをしたまでです」

魔法使い「できればその務めとをさせないようにしたいんだけどねー」

神父「本当にそのとおりですね。世界の平和は皆様の双肩にかかっております。がんばってください」

戦士「とりあえず勇者んとこに行こうぜ。ありがとな、神父さん」

神父(自分の死にすら疑問を持てなくなったらおしまいだな……彼らを見てるとついついそう思ってしまいますね)

……………………


尼僧「神父さま、無事彼らの復活は終わったのですか?」

神父「ええ、今回はさすがに骨が折れましたけどね」

尼僧「……そうですか」

神父「おや、なぜか浮かない顔をしますね?」

尼僧「復活しても結局また死んでこの教会にあの人たちが来ることを思うと、素直に喜べませんよ」

神父「しかし、それは人類にとって必要な死であるんです」

尼僧「そうかもしれません。でもわたくしには人の命を弄んでいるような、そんな神への冒涜的な行為に思えてならないんです」

神父「……なるほど。あなたの言うことは正しいと思います、私は」

尼僧「だったら……」

神父「やめますか? この延々と続く生き死にのやり取りを終わらせてしまいますか? でもそうしたら彼らは死に人類の希望は消えることになりますよ」

尼僧「……」

神父「世の中には間違ったことが正しいことに打ち勝つ瞬間がある、いや、むしろほとんどそんなことばかりです」

尼僧「詭弁です、そんなの」

神父「そうです。詭弁です。でもそんな詭弁が正論にすり替わるのが世の中というものなのです」

尼僧「……わかりました」

尼僧「そういえば神父さま、最近はこの街に伝わる伝承についての話を信者の方に聞くこともなくなりましたよね?」

神父「ああ、それはもういいんですよ」

尼僧「それならいいんですが。あ、それとまた、ローブを来た女の人が街に突然現れた話を聞いたんですけど」

神父「……またそんなうわさが流れているんですか。ひょっとしたら本当にそんなことが、いやいやまさか……」

尼僧「まあうわさにしては最近ちょっと、流れすぎかなあと思ったんですけど……」

魔法使い「し、神父さまああぁ!」

神父「のおわあぁっ!? な、なんですか、またみなさんお揃いで!?」

戦士「た、大変なんだ神父さん! ゆ、勇者のやつがっ!」

尼僧「まさか戦士様が担いでいらっしゃるのは……」

僧侶「ゆ、ゆゆゆ勇者様は……敵の毒を浴びた状態で戦い続けたらしく、その無理がたたって……」

尼僧「全身が緑色に変色してるのはそのせいなのね」

神父「……なにげに勇者様が死ぬのは初めてかもしれませんね」

尼僧「なに呑気なことを言ってるんですか、神父さま!」

神父「失礼、早急に手を打ちましょう。誰かこの街のお医者様を呼んできてもらっていいですか?」

戦士「医者が必要なのか? わかった、急いで呼んでくる!」

………………………………………


尼僧「皆様には外に出てもらいましたが、いったいどうするんですか? 魔法使い様の力や僧侶の癒しの魔法を使うなどしたほうが……」

神父「……いやあ、これ見てくださいよ。ヤバすぎますよ」

勇者「」

尼僧「この人完璧に死んでるはずなんですよね? それなのに緑色に変色した身体がブクブク泡立ってるんですが……うわあ」

神父「これは相当な手練れの毒魔法ですね」

尼僧「も、燃やしたほうがいいんじゃないですか? ここにいるわたくしたちまで危険な気が……」

神父「私もそうしたいんですけど、それはもちろんダメですよ」

戦士「わりいっ! 遅くなったな、医者のおっさん連れてきたぜ!」

医者「まったくこんな時間になんなんだ、いきなり……」

神父「これはすみません、お医者様。実はあなたにお頼みしたいことがあって……シスター、あなたもここから出て寮へ戻りなさい。
   他のものにも今日は入ってくるなと伝えてください」

尼僧「神父様、大丈夫なんですか? わたくしにもなにかできることがあるなら……」

神父「大丈夫、早くここから出てください。あなたに、万が一のことが起こっては困ります」

尼僧「……わかりました。神父様、どうかご無事で」

神父「はい、まかせてください」

………………………………………………

医者「まったく……で、この毒付にされちまっている勇者さんをどうすんだよ」

神父「それはいつも通り似たような身体を取り替えて……いや、それなら」

医者「なんだ、いったい。いつも通りにやりゃいいだろ」

神父「いいえ、少し待ってもらえませんか。なにか浮かびそうなんです」

医者「なにが?」

神父「世界を平和にする方法が、ですよ」

………………………………

神父「すみませんが、今回は本当にイレギュラーな事態ですから何日間かかかる可能性があります」

戦士「そ、そんなにヤバイのか勇者は!?」

僧侶「勇者様はどうなってしまいますの?」

神父「安心してください、必ず彼を助け出してみせますので。神に誓って」

魔法使い「ていうかこんなことになったのもアンタのせいでしょ!?」

戦士「はあ!? オレのせいだっていうのかよ!?」

魔法使い「アンタが普段、勇者に盾にされたりオトリにされたりしてムカついてるからって今回は勇者をわざと盾したんじゃない!」

戦士「だってムカついたんだからしゃあねーだろ! だいたいあいつだって普段やってんだからいいじゃねーか!」

僧侶「二人とも落ち着いてくださいまし! こんなことで争っても仕方ありません!」

魔法使い「……たくっ、少しは時と場合ってもんを考えなさいよ」

戦士「うるせ、バーカ!」

僧侶「あ、あの……神父様、本当にわたくしたちの勇者様は大丈夫なんですよね?」

戦士「おう、そうだ! あいつがいなきゃ世界は救えねえよ!」

神父「必ず彼を、勇者様を救いますから……シスター、あとは頼みましたよ」

尼僧「わかりました、神父様、お気をつけて」

神父「……はい」

……………………………………


医者「で、これから勇者の復活のための準備をするって言ってたが……なんで出かける準備をしてるんだ?」

神父「朝までには戻りますよ」

医者「どこへ行く気だ?」

神父「洞穴です」

医者「アンタ、正気で言ってんのか?」

神父「もちろん、正気も正気ですよ」

医者「こんなことはわざわざ言う必要ないことだろうが、この街から次の街までのルートは強い魔物がうじゃうじゃいるんだぞ。
   もし、アンタが洞穴にある毒消しの秘薬を取りに行こうとしているならやめたほうがいい。アンタのようなただの神父が行ったところで……」

神父「……仮にですよ、お医者さん」

神父「この教会がなくなったらどうなりますか?」

医者「なんだ突然、どういう意味だ? 教会がなくなったらどうなるかって……そりゃあ、勇者たちが復活できなくなるだろうな」

神父「そうです、正解です。つまりこの世界において教会というのはなくてはならない存在なのです」

医者「たしかに勇者がいるおかげで教会はかなりの権力を握ってはいる。聖職者の扱いだって他の職よりもはるかにいい。
   だがそれがどうした? 俺に対する自慢か?」

神父「まさか、そんなわけないでしょう。
   勇者様を何度も復活させられる教会がなくなる、これは人類にとって勇者をなくすことと同義だとは言わなくても近いものだと思いませんか?」

医者「つまりなんだ?」

神父「神父はそんな教会を守る重責を負っているということです」

医者「やっぱりよくわかんねーよ」

神父「私が留守の間、教会には誰もいれないでください。一応シスターには言ってありますが」

医者「おう」

神父「それから地下の本棚の赤い背表紙の本に目を通してもらっていいですか?」

医者「注文の多い神父だ、まあいい、なにか面白そうなニオイがする。やっておいてやるよ」

神父「ありがとうございます……それでは行ってきます」

医者「……留守番はまかせておけ」

二日後


魔王「……神父。おい、神父はいるか! 悪いが喉が渇いて仕方が無いのだ、水を……水をくれ!
   いや、ないのかもしれないがそれでもいい! いや、だめなのか? ああ、よくわからないが水、水、水がほしい!」

神父「これはこれは魔王様ではありませんか」

魔王「神父よ!」

神父「はい」

魔王「水があるのだろう? ないのか…………いな、あるよな? 私の水の渇き……ちがう、喉の渇きを……なんとかしてくれないか? 気がおかしくなりそうだ……」

神父「そうですねえ、あることをしてもらえたら、水についてはなんとかしましょう」

魔王(身体が暑い、いや、熱い? あつい厚い熱いアツい……喉が渇いて…………視界が明滅して……神父よ、水を…………っ!)

魔王「なにをすればいいんだ、私はああぁっ!?」

神父「なに、難しい話ではありませんよ。ただ、ある人と闘っていただきだけなのです」

魔王「タタカイ……?」

神父「ええ、その人と闘って勝ったらあなたに大量の水をあげましょう」

魔王「どいつだ……どいつ…………コロすっ、殺してやるぞ……!」

魔王(水を飲まないと……身体が水を欲している…………)

神父「あなたの相手はこの方ですよ、魔王様。それではおねがいします勇者様」

勇者「…………お前が魔王か」

魔王「……勇者、だと……キサマが勇者? ……ふっ、まあいい。キサマのような雑魚瞬殺してやる……!」

神父「二人とも存分に楽しんでください、勇者様、魔王様」

…………………………………………

魔王「……がはっ!」

勇者「……ハァハァ、勝負ありだ魔王。ボクの、勝ちだ……!」

魔王「なぜだっ……なぜっ…………なぜ格下の勇者ごときにこの私が…………ヤツの剣がなぜわ、ワタしの、ムネを突き、ツキサしてイる……?」

魔王(アたマが……かち、わ、れそう……シカイ、明滅して……からダ中が…………フットうする……っああ
水が……水を……水水水水水水水水水水水水水水水水水水水水水水水水水……)

魔王「あああぁ……み、ず……」

魔王「」

勇者「か、勝ったのか……?」

神父「おめでとうございます、勇者様。あなたの勝ちです」

勇者「信じられない、ボクがあの魔王を倒したなんて……」

神父「信じられないかもしれませんが、これは夢でもなんでもありません。事実です、あなたのおかげで世界は救われたのです」

勇者「ぼ、ボクが……」

ザワザワ

戦士「おい! なんかすげー物音が立て続けにしたがいったいなんだ!?」

尼僧「神父様無事ですか……っ!」

僧侶「……きゃああああああっ! し、神父様逃げて!」

魔法使い「あ、あれは……!?」

兵士「魔物だ! おそらく相当に強い魔物だ、全隊員、魔法を打ち込め!」

魔法使い「あたしも応援する、いくよっ!」

戦士「こんなときに勇者はなにやってやがんだ!」

僧侶「今はあの魔物を倒すのが先決です、わたくしたちも続きましょう」

尼僧「神父様逃げてください!」

勇者「みんな、なにを言ってるんだ? 魔王ならボクが倒したし、それにそこに倒れてるじゃないか……!」

神父「……」

兵士「魔法、一斉発射!」

戦士「オレの全力の攻撃をお見舞いしてやる!」

魔法使い「僧侶、バックアップおねがい!」

僧侶「了解しました!」

勇者「や、やめ…………!」


全員の攻撃が一斉に勇者に直撃した。

四日後


医者「……よお」

神父「おやおやこれは、お医者様ではありませんか。実にいいタイミングで来られましたね」

医者「……しっかしひでえな」

神父「ああ、この教会のことですか? たしかに魔王と勇者様の争いの結果教会の中はボロボロですよ。
   まだまだ修築作業も始められませんですしね、せっかくあんなにキレイにしたのに……」

医者「ちげえよ」

神父「ちがう? なにがですか?」

医者「俺がひどいって言ったのは教会じゃない、アンタ自身だ」

神父「はて? なんのことでしょうか?」

医者「おいおい、今さらオレ相手にとぼけてどうするんだ」

神父「はあ……まあたしかにあなたと私は共犯者の間柄らしいですからね。実際今回もあなたのおかげで助かりましたよ」

医者「見事に犯罪の片棒を担がされたわけだ。まあ今に始まった話じゃないが」

神父「いやあ、巻き込んでしまって申し訳ありません」

医者「しかしよく思いついたよなあ。勇者を復活させるために使う身体を魔物から流用しようとするなんてな」

神父「いいアイディアだったでしょう?」

神父「本来ならそんなことをしなくても勇者様は復活できましたし、なにより『剣』が彼の手元にあった時点で魔王には勝てたかもしれません」

医者「おい、ちょっと待て」

神父「なんですか?」

医者「剣ってなんだ?」

神父「魔王を唯一倒せると言われている剣であり、同時に勇者しか扱えないという伝説の剣です」

医者「いつの間にそんなものを……」

神父「わりと最近ですよ。そもそも魔王がこの街に来た本来の理由はその剣を破壊するためだったんですからね。
   まあ、いつの間にか水に執着していたみたいですが……」

医者「魔王を水で釣ったと聞いたときは驚いたが……あの水は相当危険な代物のようだな」

神父「国の教会本部から支給されてるものでして、人間は飲めば間違いなく数秒で死にますし、魔物も低レベルのものなら同じ道を辿るでしょう」

医者「だが、魔王には極上の麻薬となったわけだ」

神父「ええ、見事にね。そもそもこの水が対上級クラスの魔物及び魔王のためのものですからね」

医者「なるほど、アンタが言ってたことがようやくわかったよ。勇者と教会は同価値だと言っていたが、その教会を守るための措置としてあらかじめ国から支給されたものだったわけだ」

神父「ええ、正解です」

医者「さすがに魔王を倒すことはできないみたいだが、それでも効果は絶大みたいだな」

神父「最後は完璧に中毒になっていましたからね」

医者「で、いつの間に見つけて来たのか知らないが、例の剣を死んで復活した勇者に持たせたわけだ。
   だが、はじめからその剣を勇者に持たせてやればよかったんじゃないか?」

神父「それがそんなうまい話はないみたいでしてね、あの剣は勇者様がある一定以上の修練を積まないとダメみたいでしてね」

医者「……まさかとは思うがその剣を使えるようにするために魔王の側近やら強い魔物やらをこの街の近くにまで呼び寄せたのか?」

神父「そうなんですよ……と言いたいところなんですが、残念ながらそんなことはありません。
   教会の発展のためという目的しかありませんでしたし、剣の存在も魔王と出会ったあとに知りましたしね」

医者「なるほどな。だが、半年間ここでくすぶっていた結果強くなったわけだろ、勇者は?」

神父「どうなんでしょうね、教会に来る回数じたいは全然変わりませんでしたし……まあだからこそ、毒を浴びて勇者様が死なれたときに思いついたんですけどね」

医者「……魔物の身体を一部流用してレベルの底上げを図ったってことか?」

神父「結果は魔王殺しは大成功……まあ、その代わりに勇者様の尊い命はなくなってしまったわけですが。あれは想定外でした」

医者「想定外? 嘘をつけよ、確信犯だろ」

神父「あ、バレちゃいますか?」

医者「当たり前だろ。だいたいアンタが洞穴から持ち帰った魔物のパーツを選ぶときに、なぜか全身つけられる箇所を聞いて来たりしてたしな。
   その上、勇者復活のときには席を外せと言ったりな」

神父「さすがはお医者様、優れた観察眼と考察力をお持ちのようで」

医者「勇者の魂を、ほとんど魔物の身体のパーツに代替えした身体に移して復活させた時点でなあ、バレバレだっつーの。
   しかもアンタ、普通に勇者が攻撃されるときに庇ってないし、結局勇者の死体は魔物の死体として兵士たちに処理させたんだろ?」

神父「まあ利き腕以外は全部魔物の身体にしちゃってますからね、どちらにしようアレは勇者様であって勇者様ではありませんよ」

医者「毒消しのための秘薬を手に入れるために街に出たと思えば、例の水と人型のモンスターを詰めた棺桶をいくつか引きずってくるしな」

神父「いやあ、犯罪者の気持ちがわかりかけていますよ。お医者様は意外にも探偵に向いているかもしれませんね」

医者「ふざけんな」

医者「結果として魔物の見た目をした勇者は、あとから駆けつけた連中全員に攻撃されたわけだ」

神父「みなさんもおっちょこちょいですよねー。もう少し勇者様の話を聞いてあげればよかったのに……」

医者「アンタが言うな」

神父「あはは、ごもっともです」

医者「アンタの証言によって、勇者と魔王は同士討ちで死んだ、神父さん、アンタの証言によって事実は捻じ曲げられた」

神父「しかも魔王の死により、勇者様の神の加護も消え、蘇生も不可能になりましたからね」

医者「そこまでも計算済みってわけか」

神父「それは買いかぶりですよ、行き当たりばったりの行動の結果がたまたまこうなっただけですよ。
   本当にたまたまなんですよ? だって勇者様が復活して剣を渡した段階で魔王が来なかったとしますよ?」

医者「なるほど、それで顔でも洗うからって言って便所にでも行きゃあ、まあたしかにその時点で勇者はパニックに陥って展開は変わってたかもな」

神父「そうですよ」

医者「ふん、どーだかなあ。どうにも腑に落ちないがまあいいとしよう」

神父「世の中には納得の行くことのほうが少ないんですよ」

医者「で、その行き当たりばったりは結果としてアンタの教会を伝説の地に昇華させたわけだ」

神父「これまた運がいいのか悪いのか……私の教会は勇者様が魔王を討伐した地となり、さらに勇者様が生き耐えた場所となりました」

医者「勇者の死体はないが、勇者のみが扱える剣があの場所に残っていたから……そうなったわけだ」

神父「まあなんて言うか、色々私に都合のいいようにことが運びましたよね」

神父「まあなにはともあれ、これで私の教会はさらに信者が集まることでしょう」

医者「どんなカルト宗教よりもアンタがやる宗教のほうが恐ろしく思えるな」

神父「そんなあ、やめてくださいよ。私の穴だらけの策にたまたま運と神が味方してくださっただけの結果なんですから」

医者「まあそういうことにしておいてやるよ」

神父「じゃあそういうことにしておいてください」

医者「ひとつ質問いいか?」

神父「なんですか? あなたと私は共犯者です、いくらでも答えますよ」

医者「アンタは勇者の死を望んでいたのか?」

神父「はて、質問の意味がよくわからないんですが……」

医者「いや、今回のアンタの一連の行動はすべて勇者を痛めつけるための行動に思えてならないんだ」

神父「……」

医者「魔王の手から逃れるため、というのが念頭にあったのだろうがそれでも気づけば神父さん、アンタの行いの結末は勇者の死というものになっている」

神父「……まあ、そうですねえ。本音を言ってしまえば気に入らないですね」

医者「やはり、か」

神父「昔から私、キライだったんですよ、勇者どいうものが。
   キライになった理由は昔読んだあるおとぎ話なんですよ」

医者「おとぎ話?」

神父「ええ。この世界は勇者と魔王のために作られたというくだらないおとぎ話ですよ」

神父「この世界は勇者と魔王のために生まれ、世界はこの二人を中心に回っているっていうね」

医者「そのおとぎ話のせいで、お前は勇者をキライになったっていうのか?」

神父「まるで私たちは彼らのために生きている、と言われたようでしてね。子ども心ながらに腹が立って、今なお引きずってしまっていたみたいです。
   勇者も魔王も死んだあとにこんなことを言うのも変な話ですけど、別にこんなことまでする必要はなかったかもしれないですね」

医者「本当に今さらだな」

神父「あはは、本当ですよね」

医者(本当にただの神父とは思えないんだが ……ん?)

医者「……なにか騒がしくないか?」

神父「これは……」

?「神父、かくごおおおおおおっ!」

医者「なっ……魔物!? あの頑丈な教会の扉をぶち破るなんて……それになんて大きさだ、三メートルは余裕であるぞ……!」

医者(いや、そもそもなぜあの巨体がこの街にあっさり侵入できた? 今は四日前のことで街の入り口だけでも警備兵も数多くいるはずなのに……!)

神父「あれは、おそらく魔王の側近ですね……何度か見たことがあります」

医者「呑気なことを言ってる場合か! 逃げるぞ!」

側近「魔王様をクスリで籠絡し挙句、命を奪ったキサマを我はゆるさんっっっっ!」


魔王の側近の巨大な剣が神父に振り落とされる。
同時に衝撃波が起こり、視界がゼロになる。

医者「神父っ!」

側近「ハハハハハッ、どうだ神父!? 我が主から貰い受けた剣の力は!?」

神父「いやあすごい威力ですねえ、ねえお医者様?」

医者「あ、あぁ……短剣であの巨大な剣を受け止めている……?」

側近「ば、バカなっ……! なぜたかが神父が我の剣を!?」

神父「私、神父なんですよ。神父は教会を守るという責任を背負っているんです。しかも今やこの教会は勇者様と魔王様の伝説をも背負っている。
   それに比べたらですよ、それに比べればまるでこんな剣重くないです、ねっ!」

医者(なっ……あの短剣で巨大な剣を弾き返しただけでなく、そのまま魔物の胸に突き刺した……?)

側近「がはあぁっ!! バカな、なんだこの熱さは……胸があぁ……胸があついぃっ!」

医者「神父の短剣が刺さった胸から火が出て……」

側近「ハァハァ……あああぁぁあぁああっっ! なんだこの炎はああああぁっ……あついぃ! あついいいいいっ」

神父「いやあ、またもや偶然にも魔王様の側近を倒しちゃいましたねえ」

医者「し、神父さん、アンタは何者なんだ?」

神父「そこで丸焼きになってる魔物もあなたも言っていた通りです。私は単なる神父です」

医者「そんなバカな、単なる神父がこんな戦闘をできるなんて……」

神父「神父だからですよ」

医者「どういうことだ?」

神父「前にもお話したでしょう? 教会がなければ勇者は復活できない、と。魔物たちが勇者を危険分子と判断したとき、死からの復活を可能とする教会を潰そうとするかもしれない。
   つまり今みたいに教会に魔物たちが侵入されたときに私たちは、対応できなければならないんですよ」

医者「じゃあアンタたちは……」

神父「勇者様と契約を交わすことになっている教会には常に、ある程度の戦闘力保持者がエージェントとして国から派遣されてるんですよ」

神父「ちなみにここに来た当初の勇者様ぐらいなら、片手一本で倒せたでしょうね」

医者「……なるほどな。アンタが勇者を嫌う理由が少し理解できた気がしたよ」

神父「そうですか」

医者「だが……」

神父「気になることでもあるんですか?」

医者「この魔物はいったいどうやって街に侵入したんだ? 街のあちらこちらに兵士たちがいたというのに……」

神父「ああ、そのことですか。それならいたって簡単なことですよ」

医者「と、言うと?」

神父「魔王がここに来るときに常に空間転移の魔方陣を使っていたんです。それを使ってここまで来たんですよ」

医者「街の中にそんなものがあったのか!?」

神父「ええ、そうみたいですね」

医者「それなら誰かが気づくだろ、常識的に考えて」

神父「はい、だからけっこう市民から気づかれていましたよ。ほら、うわさになっていたでしょう? ローブを着た幽霊が現れる、みたいな。
   魔王もめんどくさがりだったのか、もしくは人間だからとなめていたのかずっと魔王城につながるはずの魔方陣をそのままにしていたみたいです」

医者「ああ、たしかにそれは耳にしていたがまさか、そんな真実が隠されているとは……ああっ!」

神父「どうしました?」

医者「いやいや、ようやくわかった。アンタが勇者を復活させてすぐに魔王と闘わせる方法をな……結果はちがったみたいだが」

神父「行き当たりばったりだって言っているのになあ」

神父「さて、だいたいの謎解きは終わったみたいですし、そろそろ私は仕事に向かいます」

医者「そうか……これから忙しくなりそうだな」

神父「おそらく、まだまだやることもありますからね。お医者様は……?」

医者「オレは、だな……」

神父「これは失礼しました、医者であるあなたは医者であるがゆえに仕事がないんでしたね。もはや私が仕事を斡旋することもありませんし」

医者「そうだな……」

神父「だとしたらあなたには最早存在価値すらないわけですか

医者「なんだと……!」

神父「そして私の今回の一連の行動とその理由を知っているのはあなただけだ。つまり、逆を言えばあなたを殺せば……わかりますよね?」

医者「お前まさか……!?」

神父「…………なんて言うのは冗談です。私はこんなんでも一応神の遣いです。むやみやたらに殺すのは主義じゃありませんし、なにより私の正義に反してしまいます」

医者「……」

神父「おそらく今後この教会はさらに規模を広げるでしょう、つまりこの教会が着手する事業も増えていくわけです」

医者「……一体何が言いたい?」

神父「個人的に教会経営の病院というのはなかなかイイのではないかと思います。さらにそこに勤めるのはきちんと身体のことを理解し、きちんとした腕を持つ医者がいい」

医者「アンタ……」

神父「魔方による病の治療は、色々と不確定要素が多いらしいです。ならばより確実な医療こそが、私の教会の病院にふさわしい……頼みましたよ、お医者様」

医者「神父さん……」

医者「その……ありがとう」

神父「例には及びません。私はあなたに感謝してもし尽くせないほどのことをしてもらいました。
    これからも頑張っていきましょう!」

…………………………………………

神父(甘いエサとそれを出すタイミングを熟知することこそが、人を操るポイントなのかもしれませんねー)

尼僧「あ、神父様。こんなところにいたんですか?」

神父「どうしました、シスター?」

尼僧「せっかくなんで、もし時間があるなら新しくできた喫茶店行きませんか? 
   なんでも今だけオープン記念でドリンク一杯につきシフォンケーキがつくらしいですよ」

神父「おおっ! もちろん行きますよ! 時間はありますし、なくても作っちゃいますよ!」

尼僧「神父様ったら甘いもの好きですもんね。それじゃあ行きましょうか」

神父「はい、ぜひ~」

神父(なにより甘いエサの味を知ることこそが、肝要なのかもしれませんね)

尼僧「……これからわたくしたちの教会も大変になってくんでしょうね、今まで以上に」

神父「そうですね、つまり私たちはさらに働かなければりません。
   勇者様もこんな形に終わったとは言え、私たち人類を救ってくれました」

尼僧「あのわたくし、気になってたんですけど勇者様は本当に死んでしまったのでしょうか? というよりなにか重大なミスをしてしまっているような気がして……」

神父(……ほう)

尼僧「わたくし、あの時一瞬だけあの魔物の右腕の部分が人の手に見えたもので……もちろんそういうタイプの魔物かもしれませんが。
   もしかしたらって可能性を考えると……それにあの勇者様の剣はいつ手に入れたんでしょうか?」

神父「……」

尼僧「少なくとも勇者様が毒でやられたときにはあのような剣はもっていなかったのに……誰かが勇者様に渡したのでしょうか?」

神父「シスター」

尼僧「あ、すみません、つい自分の世界に入っちゃったみたいで」

神父「とりあえず今は喫茶店ですよ! 私、もうお腹すいて死にそうなんですよ」

尼僧「……神父様はもう少し緊迫感を持ってくださいまし! そんなんだから他のシスターや信者の方にもダメ人間扱いされるんですよ?」

神父「あはは、申し訳ないです。いやあ、私は行き当たりばったり神父なんで。シスターがいないと困ってしまいますよ」

尼僧「もうっ……」

神父「まあまあ、今はあまり考えすぎないようにしましょう。シスターも私たちもどうせこれから大変な目にあうわけですし」

尼僧「……頼みますよ、神父様」

神父「は~い、わかってま~す。さあレッツゴーです」

尼僧「ふふっ、もうホントにわかってるのかしら」

神父(いいえ、まだあなたの扱いに関してはわかりかねますね。こういう身近な何気ない存在から足もとをすくわれるといいますしね。
   場合によっては……然るべき処置を取らなければならないでしょうね)



お わ り

この神父のように行き当たりばったりな話になってしまった……
読んでくれた人ありがとう

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