モノクマ「おいしい希望のいただきかた」 (495)




ネタバレネタバレアンドネタバレ



メインキャラの存在自体がネタバレだったり1、ゼロ、2、IF、ダンガンロンパ関連作品何もかものネタバレがあると思ってください。
モノクマは出ません。あの人にスレタイで台詞を言わせるとネタバレになるかもしれないので代わりです。







SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1381929045






江ノ島「おいしい希望のいただきかた」





このSSは
苗木「じょうずな絶望とのつきあいかた」
苗木「じょうずな絶望とのつきあいかた」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1377533328/)
とかいうSSの蛇足です。
初SSということで張り切って、丁度1スレ使い切るように妄想短編を投下し続ける、1と2のキャラを出す、安価を使わないことを目標にした結果クッソ長くなりました。
一話ずつ絞り出したものなので一気に読むのはおすすめしません。


ダラダラ長い前スレを読みたくない人のためのダラダラ長い設定メモ


・平和な希望ヶ峰学園での苗木クンと江ノ島さんの話。

・江ノ島さんが苗木クンに執着してるおかげで世界が平和(苗木クンは絶望的事件に巻き込まれまくり何度も死にかけるも次々運良く解決。結果、超高校級の希望と呼ばれることに)。

・属性交換装置で江ノ島さんが希望に満ちた泣き虫になり苗木クンが絶望に染まった毒舌家になることがあった。

・色々あって苗木クンと江ノ島さんが恋人に(それまで苗木クンが絶望しかけたり死にかけたり)。

・男より 女にモテる 残姉ちゃん

・七海さんは松田左右田不二咲製のアンドロイド。人格を生み出した不二咲さんをお父さんと呼ぶ。

・他が相手にならないためいつも狛枝クンとギャンブルで遊ぶセレスさん(勝率五割)。仲良しというかなんか一緒にいる。

・超高校級の弟子ハジメ

・不二咲さんの性別=ちーたんが希望ヶ峰学園の共通認識。

・西園寺さんにビッグバンはなかった。

・2のメンバーはみんな77期ということにしてます。

・最終回にてゼロ組以外の77期と78期は合同でジャバウォック島旅行へ行ったので、一応全員顔見知り。

・苗木クンが江ノ島さんのパンツの代わりに得たスキル
  ↓
絶望キャッチャー
 絶望に対して有効。希望をもって絶望の予測、理解、受容を行うことができる。


わけわかんないでしょうができるだけ質問には答えようと思います。
アイデアそんな無いので要望もできるだけ拾おうと思います。

前スレで吐き出し尽くしたのと忙しいのとで前より更新遅くなります。あと苗ノ島以外の話が多くなると思います。ただ追加エピソードを羅列するだけの予定なので前以上に話に連続性がないと思います。




「うぷぷぷぷぷ」


「やっぱり苗木って最高ね!」




苗木「ええと……」


苗木「なんか……ごめん……?」


江ノ島「ま、今日の苗木がツイてないのは知ってるしねー」


苗木「せっかくデートに誘ったのに……」ガクッ


江ノ島「まーまー!そんなに落ち込むことないって!」バシバシ

江ノ島「苗木縮こまると余計ちっちゃく見えるよ?」


苗木「……なんで今日に限ってこんなツイてないんだろ」

江ノ島「アタシとしては楽しいからいいけどね!なーんも起きない方がつまんないよ」

苗木「ボクは普通のデートがしたかったんだけど」

苗木「……まあ江ノ島さんが楽しいならいっか」

江ノ島「そりゃあもう!」


江ノ島「予想外のことばっか起きるし苗木の困り果てた顔が見放題だし楽しくて仕方ないってー!」ヘヘヘ


苗木「……これから先もできそうにないな、普通のデート」ハァ

江ノ島「ほらほらいいのかなー?彼氏が彼女の前でため息ばっか吐いててさ!」

苗木「う……ごめん」


江ノ島「それよりどうしよっか?しりとりでもする?」

苗木「しりとり?うーん……」


江ノ島「はいじゃあ苗木から!」


苗木「……りんご」

江ノ島「獄中死」

苗木「……」


苗木「……竹刀」

江ノ島「溢血」

苗木「……積み木」

江ノ島「飢死」

苗木「……鹿」

江ノ島「過労死」


苗木「……ねえ、しりとりはやめにしない?」

江ノ島「そうねー。飽きたし」


苗木「もう普通に話してればいいんじゃない?」

江ノ島「おっけー!二人の将来について語り合おっか!」


江ノ島「子どもの名前は何にする?何人欲しい?」

苗木「えっ、気が早いんじゃないかな……?」

江ノ島「アタシとしては苗木みたいなカワイイ男の子が欲しいなー!」

江ノ島「名前は“じゅんこ”から取って“詢”ってのはどうよー?ほらこの字“まこと”とも読めるんだよ?」スラスラ

苗木「い、意外とまともなネーミングだね」


江ノ島「女の子はー……“まこ”でいっか」

苗木「そっちは随分適当だね!?」


江ノ島「ああ……!なんて希望に満ちた話題……!心臓が締め付けられて血反吐が出そう……!」


江ノ島「というかアタシ達の子どもってどんなんが生まれるんだろうね?希望と絶望の子ってさ」

苗木「それは……どうなんだろうね」


江ノ島「それを知るためにも……」
苗木「しょ、将来の話の次は過去でも振り返ってみようか!」


江ノ島「えー唐突かつ強引な話題転換」

苗木「ま、まあいいじゃない」


江ノ島「……まいっか。過去って言うには最近だけどさ、面白かったわよねー!この前の旅行!」

苗木「え……?う、うん」


苗木「帰りの飛行機のハイジャック犯は気の毒だったけどね」

江ノ島「自業自得じゃーん!むしろあれだけの超高校級を相手にしてあの程度で済んだことを感謝すべきよねー」

苗木「まあ……死ぬ覚悟はしてたみたいだけど」

江ノ島「あんなの全然半端だってー!覚悟ってのは苗木くらい強いのじゃないと意味ないもんね」


苗木「ボクは死ぬ覚悟なんかしてないよ?」

江ノ島「苗木はその死なない覚悟が強いってことよー!」

苗木「ええと……ありがとう?」

江ノ島「脱出ゲームの時とかさ、もーあの時の苗木はほんっとかっこよかったよ!あまりの絶望に脳内麻薬がドバドバよー!」

苗木「……あの時はキミの絶望に飲まれかかったよ」


江ノ島「うんうん、もう少しで苗木の貞操を奪えたのになー」


苗木「ほんと、何考えてんの……」

苗木(……)

苗木(……危なかったよな……実際)


江ノ島「でも!」ズイッ

苗木「な、何?」



江ノ島「正式に恋人になった今なら堂々と苗木を頂けるってわけだ!」



苗木「え……」

苗木「……江ノ島さん?」ゾ


江ノ島「苗木ったらあの旅行で告白し返してくれた後もなーんもさせてくれなかったしね」

苗木「い、いやだからそういうことはその……結婚してから……」

江ノ島「えー苗木いつの時代の人間よー?」


江ノ島「愛を確かめ合う行為じゃん!苗木はアタシのこと愛してないの?」

苗木「あ、愛してるよ……!」カァァ


江ノ島「じゃあ……いいよね?」スッ



苗木「……待って」


江ノ島「何?」

苗木「あの……さ」

江ノ島「何よもー!苗木いい加減ヘタレ過ぎじゃなーい?」




苗木「……その、隠し持ってるナイフ捨ててもらえるかな?」



江ノ島「……」


江ノ島「ちぇーやっぱバレた」ポイッ カチャン

江ノ島「いつから気づいてたのよ?」

苗木「……今日会った時から」

江ノ島「へー!苗木よくナイフ忍ばせた人とデートできるね!」

苗木「何他人事みたいに言ってんのさ……」

苗木「……キミが何かしようとするタイミングはなんとなく予測できるんだよ」


江ノ島「ったく苗木ったら告白以来かわいくなくなっちゃってー!」

江ノ島「あれからなんでもかんでも見透かされてる気がする!もしかして今日のアタシの下着の色までスケスケ!?」ハァハァ

苗木「いや下着の色とかそんなのは知らないけど……」

苗木「絶望(キミ)を受け止められるだけの希望に辿り着けたってことかな」

江ノ島「ふーん……でもさ」


江ノ島「ほんとに、こんなんといつまでも一緒にいられるの?自分に殺意を向けてくるような女とさ」


苗木「……大丈夫だよ」



苗木「だってそれキミの愛情表現でしょ?」



江ノ島「……」


苗木「殺されるつもりはないけどさ、心配しなくても離れてったりしないって」ハハ


苗木「……ほんと、キミは寂しがりやなんだから」


江ノ島「そんな心配、してるわけじゃないっての」

江ノ島「……勝手に勘違いしてばっかみたい」

苗木「そっか、ごめんごめん」フフッ



江ノ島「……苗木」ポスッ

苗木「何?」


江ノ島「やっぱり好き」ギュ

苗木「……うん」


江ノ島「苗木を殺したい」

苗木「うん」


江ノ島「苗木を絶望させたい」

苗木「うん」


江ノ島「どうすればいいかな?」

苗木「ボクを……絶望させようとすればいいよ」


江ノ島「家族とか友達とか皆殺しにしちゃうかもよ?」

苗木「それは困るなぁ」

江ノ島「あとは自殺とかさ」

苗木「それはもっと困るよ」

江ノ島「苗木はどうする?」

苗木「誓いのキスしたでしょ。あの誓いを貫くだけだよ」


苗木「ボクはキミから全てを守るし、全てからキミを守る」


江ノ島「できるかな?」

苗木「やるよ」


苗木「そのための希望なんだからさ!」


江ノ島「うんっ……!」ギュ

苗木「……」ナデナデ

苗木(……やっぱり寂しがりやじゃないか)


江ノ島「苗木」

苗木「何?」



江ノ島「ちゅーして!」ン



苗木「ええと、口に……?」カァ

江ノ島「当たり前じゃーん!」


江ノ島「いくらヘタレ彼氏な苗木でもキスくらいならできるでしょー?」

苗木「うん……」スッ



チュ



苗木「……ん」


苗木「んむっ!?」


江ノ島「んぅぅー」チュウウウウウ


苗木「んーっ!んーっ!」ジタバタ


江ノ島「んぷ」チュプ

苗木「!?」



バタバタ

グラグラ


○●


「くそっ、原因も解らず止まるなんて……頼む左右田!お前だけが頼りだ!」

左右田「任せてください!オレが今ちゃちゃーっと……ん?」

「どうした?」

左右田「あーいや……」



左右田「止まった観覧車のてっぺんのとこ……なんかすげー揺れてないっすか?」



EXTRA CASE1 閉廷

次回、何も考えてません。
>>3で書いた通り質問や要望はできるだけ拾おうと思います。自分でなんか思いついたらそれ書くかもしれませんが。

そういえば前スレのロシアンでずっと気になってたんだけど苗木って5発入りのやつ一発撃ったあとリロ描写なかったのはもういっこ同じのを用意してたから?
それとも省略?

>>36
省略したと思ってください。お願いします。
苗木クンがかっこよくシリンダー回す描写を突っ込み忘れてました。
あれ本物だったら苗木クン死にますね。

すみません、許してください。


罪木「うぅ……」

罪木「ふゆぅ……」ソワソワ


戦刃「罪木さん……?」


罪木「ひゃっ、ひゃいぃ!」ビクゥ

戦刃「ごめん……待たせちゃった……?」


罪木「そそそそんなこと!戦刃さん時間ぴったりじゃないですかぁ!全然待っていませんよ……?」

戦刃「そ、そう……?それなら、よかった」

罪木「えへへ……」


罪木(戦刃さんと二人でおでかけできるなんて夢みたい……!)ホワワン


罪木「えへへへへへ」

戦刃「罪木さん……?」


罪木「はっ!?す、すいませぇん!私ったらぼーっとして……!」

罪木「こんなだからいつもドジばっかの役立たずなんですよねすいませぇん……!」


戦刃「罪木さんは役立たずなんかじゃないよ……」


戦刃「盾子ちゃんと苗木君を助けてくれたし……」

戦刃「保健委員としてみんなの役に立ってるよ……?」

罪木「う、うぅ……!」


罪木「ありがとうございますぅ……!」


罪木「……私、戦刃さんに励まされてばかりですね……」

戦刃「……私はほんとのこと言っただけだけど」


罪木「きょ、今日は!わ、わわ私ががんばります!」

戦刃「え……?」



罪木「罪木の恩返しです!」



戦刃「そ、そう……」

罪木「はいぃ……!」

戦刃(……よくわかんないなぁ……)


罪木「それにしても……」チラッ

戦刃「……?」

罪木「今日の戦刃さん……一段と素敵ですねぇ……」エヘヘヘ

戦刃「そう……?服、盾子ちゃんが見立ててくれたんだけど……」


(江ノ島「は?おでかけ?女子と?」)

(江ノ島「もーほんっとお姉ちゃんったら残念ね!そんなに残念ロードを突っ走りたいなら手伝ってあげるよ!」)


戦刃「……」


戦刃「男の子みたいじゃないかな……?これ」


罪木「むしろそれがい……ええと……ものすごく素晴らしくオシャレで決まってますよぉ……!」グッ

戦刃「あ、ありがと……」

戦刃(やっぱり盾子ちゃんはすごいな……オシャレって難しい)

罪木(ありがとうございます江ノ島さん……!)ハァァン


戦刃「……罪木さんこそ私服、似合ってるね。水色のワンピース……かわいい」

罪木「ふえぇっ!?」

罪木「あ…あああ…ありがとうございますぅ……!」

罪木(勇気を出して新しいの買いに行って良かったぁ……!)


罪木(ああ……!神様……!私はこんなに幸せで良いのでしょうか……!)ホワワ


戦刃「罪木さん……今日はどこへ行くの?」

罪木「へ……?」

戦刃「よく考えたら行き先とか、聞いてなかったから……」

罪木「そ、それはですねぇ……あの……」

戦刃「……?」

罪木「……笑わないで、くれますか?」

戦刃「……笑わないことなら、笑うことより得意だから大丈夫」

罪木「そ、そのぉ……今日は」


罪木「ぴ、ピクニックに……行こうかと……」


戦刃「……」


罪木「や、やっぱり変ですかね……?」

罪木「私、おでかけのお誘いするのに必死で中身を考えていなかったんですぅ……馬鹿ですよね……」

罪木「それで、一生懸命考えたんですけど……お友達とのおでかけで普通はどこに行くのかとか、戦刃さんが行きたい場所とか」

罪木「でも、考えたり調べたりするほど、どんどんよく解んなくなってって……」

罪木「最終的に……憧れというか、幸せそうな感じがする、ピクニックに……」ジワッ

罪木「ごめんなさぃぃ……!こちらからお誘いしたのに、私、私ぃ……!」ウルウル


戦刃「……なんで謝るの……?ピクニック、素敵だと思うけど……」


罪木「ほ、ほんとですかぁ……!?」グス

戦刃「……その、一生懸命考えてくれてありがと……」


戦刃「泣かないで……」スッ

罪木「ひゃあぅ!?」

罪木(い、いいい戦刃さんが私の涙を拭ってくださった……ゆ、ゆゆ指でっ!?)

戦刃「ご、ごめんなさい。ハンカチの方がいいよね……」ゴソゴソ

罪木「ふゆぅぅぅ……!戦刃さぁんっ!」ギュッ

戦刃「罪木さん……!?」

罪木「私っ……戦刃さんとお友達になれて本当に……本当によかったですぅぅぅ!!」ウエエエン

戦刃「……私も」

戦刃「これで涙拭いて……?」スッ

罪木「ありがとうございますぅぅぅ!!」ビエエエン



……


罪木「ごめんなさい……」ショボン

戦刃「謝らなくていいよ……?」


罪木「……また励まされちゃいました。今日は私が頑張るって言ったのに……言ったそばから……」

罪木「うぅ……ハンカチまでお借りして汚らしい体液をなすりつけてしまって……!」


罪木「このハンカチは消毒殺菌滅菌してお返し致しますので……!」ズーン


戦刃(……真っ白になって帰ってきそう)


罪木「ちゃあんと抹殺しないとぉ……!罪菌の毒性は強いですからねぇ……!」……アハハハハ……


戦刃(よく解らないけれど今日の罪木さんなんかすごい不安定……)

戦刃(ムードを盛り上げるのなんて私にはうまくできないし……一か八かの下手な強行突破を試みるよりここは話を進めよう)ウン

戦刃「ピクニックってどこでするの……?」

罪木「……はっ!あ、はいぃ!ここからちょっと遠いところの公園です!」

罪木「バスに乗って行くんですけれどぉ……お金持ってきてます?」

罪木「あ!いえ!なくても大丈夫ですよ!?私が全額負担致しますのでぇ!」

戦刃「ちゃんとあるから大丈夫……」

罪木「でもよく考えたら私がお誘いしたんですから私が払うべきなのかも……」


戦刃「……罪木さん……」


罪木「は、はい。何でしょう……?」

戦刃「小泉さんが言ってたんだけど……友達っていうのは対等な利害関係じゃなきゃダメなんだって」

罪木「え……?」

戦刃「……ええと……利害関係っていうのは……物をあげたり、貰ったりだけじゃなくて……遊んで楽しかったり、できることをしてあげたりで……」

戦刃「……とにかく、友達はそんな利害関係が対等じゃなきゃいけないんだって……」

罪木「対等……」

戦刃「……私もよく解ってないんだけど、でも……」


戦刃「罪木さんばっかり、がんばり過ぎなくていいんだと思う……」


罪木「……」ポー

罪木「は……はいぃ」ポワー


罪木「私、なんだかあたふたし過ぎでしたねぇ……」

罪木「隣にお友達がいてくれてるのに…」エヘヘ


戦刃(罪木さん落ち着いたみたいでよかった……)


戦刃「バスだよね……行こう……?」

罪木「はいぃ!」


戦刃「ピクニック、楽しみ」フフッ


罪木「!!……はわぁ……!」ポー

罪木(あんまり見られない戦刃さんの笑顔……なんて素敵な……!)


罪木「はあぁ……!」

罪木(神様本当に……私はこんな幸せでいいのでしょうか……?)


○●


「……」

「……」



「「気にいらねー!」」



西園寺「!?」バッ

江ノ島「きゃっ!ハモっちゃった!」キャピルン

西園寺「なっ……あんた!」

江ノ島「奇遇じゃーん西園寺センパイ!」


西園寺「なんであんたがここにいんの!」

江ノ島「聞きたい?聞きたい?」

西園寺「やっぱいい!ウザい!キモい!今すぐ消えろーっ!」

江ノ島「やだ西園寺センパイったら毒舌カワイイ!ほらたかいたかーい!」ヒョイ

西園寺「やーめーろー!放せこの変態女ーっ!」ジタバタ

江ノ島「はい」ポイッ

西園寺「わっ!?」

ドサッ

西園寺「いったーい……!畜生……いつか絶対に復讐してやる!」ギロッ

江ノ島「アタシがなんでここにいるのかって言うとー」

西園寺「こいつ……!」


江ノ島「今日は苗木がいないからお姉ちゃんとひと暴れしようと思ったのよ。どうせなんかやろうとしたら“偶然”苗木に遭遇して止められるだろうけど」

西園寺「はぁ……?」
西園寺(偶然……?)

江ノ島「そしたらなんとあのお姉ちゃんが!このアタシの誘いを!友達と約束があるからとかのたまって断りやがったのよ!むっかー!」

西園寺「プークスクス。飼い犬に手を噛まれるなんてざまあないね。そのまま破傷風で死ねば良かったのに」

江ノ島「しかし!もう殆どむかつきと苛立ちで構成されるその絶望をたっぷりと噛み締めた上で!」

江ノ島「なんとアタシはお姉ちゃんのおでかけを止めるどころか応援することにしたのです!やだ盾子ちゃんったらマジエンジェル!」

西園寺「エンジェルと対極にいる女が何言ってんのかねー」イラ

江ノ島「ま、ぶっちゃけ面白そうだから服見立ててやったりしたんだけどー」

西園寺「……いつも通りのイカれた快楽主義じゃんか」


江ノ島「とまぁ、せっかく協力してあげたんだし?どんなおでかけになるのかなーってお姉ちゃんを尾けたらー」

江ノ島「同様に罪木さんに誘いを断られた西園寺さんと遭遇したというわけです」クイッ

西園寺「は、はぁ!?わたしがいつあのゲロブタを誘ったっての!?」

江ノ島「いやーいつもゲロブタゲロブタって罵ってるけどほんとは気になってしょうがないってツンデレの鏡よねー西園寺センパイ」

西園寺「何わけわかんないこと言ってんだ!」

江ノ島「でもツンが強過ぎたみたいね。ツンツンツンツンって感じでさー。もっとデレなきゃー!」


江ノ島「だーから、せっかくデレた時にお姉ちゃんにかっさらわれるんだって!」


西園寺「……わたしはあんなブタ、どうでもいいもん」


江ノ島「ほんとかなー?」ピラ

西園寺「……?」


江ノ島「日本舞踊公演チケット。演目『近江のお兼』」


西園寺「!?」


江ノ島「西園寺センパイがどうでもいい人を日舞公演に誘うかなー?」ピラピラ

西園寺「な、なんでそのチケットを!」

江ノ島「西園寺センパイが誘い断られてゴミ箱にチケット突っ込むとこ見ちゃった♪」キャッ

西園寺「な、ななななな……!キモいキモいキモいよーっ!」ワァァン

江ノ島「しっかしこの演目……『晒女』とはねー」

江ノ島「強い女性が描かれるこの演目で何を伝えたかったのかなー?」


西園寺「……たまたまただでチケット手に入って、演目が晒女だったってだけだっつーの!」

江ノ島「でも罪木センパイに断られたら捨てちゃうんだ?」

江ノ島「自分の誘い断って何してるのか気になって尾けちゃうんだ?」

西園寺「……もうなんなんだよあんたは!何が言いたいのさ!?」


江ノ島「あ!二人とも行っちゃうよほらー!」グイッ


西園寺「は、放せ!わたしは別に……!」ヨタ

江ノ島「早く早く早くー!」グイグイッ

西園寺「わああ!放せーっ!」


○●


バス停


罪木「あ、あれぇ……!?あれぇ……!?」

戦刃「どうしたの……?」

罪木「ここ……バスもっと来ると思ってたんですけど……二時間に一本しかこないみたいなんですぅ!!」サーッ

罪木「何度も確認したのに……!どうして……どうしてぇ……!」アワワワ

戦刃「落ち着いて……大丈夫だよ……?」

罪木「はっ……!はいぃ……!」ドキ


戦刃「次のバス丁度二時間後……」ジッ

罪木「……」ズーン


戦刃「公園……歩いていける?」

罪木「ええと……少し遠いですけど……行けないこともないっていうかぁ……」

戦刃「じゃあ……歩いていこ」

罪木「でもぉ……あの、いいんですかぁ……?」

戦刃「公園に着くまでが……ピクニック……ってことで」

罪木「……は、はいっ!」


戦刃「Damn the torpedoes, full speed ahead!」


罪木「えっ!?えと……?」

戦刃「じゃあ……全速前進」


○●


江ノ島「いやーシンプルな作戦ほどうまくいくね」ペリペリ

西園寺「あんた偽の時刻表上から貼ってたの!?」

江ノ島「だーってここのバス人全然乗らないから一緒に乗り込んだらバレバレなのよ」

江ノ島「こうして徒歩にシフトさせれば尾け易いっしょー?」

西園寺「……あんた罪木が考えた行き先知ってたの?」

江ノ島「いんやー?でも待ち合わせ場所はお姉ちゃんから聞いたからこのバスを利用する可能性は予想できるじゃん?」

西園寺「それでわざわざ偽時刻表を……?」

江ノ島「こういうちょっとした悪戯が人生を楽しくする秘訣よねー!」

西園寺「なんて傍迷惑な奴……」


○●


戦刃「……」スタスタスタスタ

罪木「ひぅ……!」トットトット


戦刃「……」ザッザッザッザッ

罪木「……はぅ……!」トテトテトテトテ


罪木「あのぉ……!戦刃さぁん……!」フゥ ハァ

戦刃「……どうしたの?」ピタ

罪木「あの、そのぉ……!できればもう少しだけ、歩く速さを落として頂けないでしょうかぁ……?」ハァ ハァ


戦刃「……ごめんなさい……!」

戦刃「最近は人と歩くのに慣れたと思ったんだけど……。長い距離だと無意識のうちに……」

罪木「いえ……!おかげでもう少しで着きますし……のろい私に合わせろという方が図々しいですよねすみませぇん!」

戦刃「悪いのは私の方だから……」


戦刃「ちゃんと罪木さんの隣を歩くよ……」ズイッ

罪木「はわぁ!」

戦刃「ど、どうしたの……?」ビクッ

罪木「い、いえ!なんでもありません……」
罪木(戦刃さん、近過ぎる気が……でも……)


罪木「……いいですよね!」エヘヘ


○●


西園寺「よくねえよ!」イライラ

西園寺「近いだろ!明らかにさ!」

西園寺「あのゲロブタ何デレッデレして……」


西園寺「!」ハッ

江ノ島「……」ニヤニヤ


西園寺「なっ、何見てんだテメーコラ!やんのかコラ!」

江ノ島「キャラ違うよー?西園寺センパーイ」

西園寺「うっさい!」


江ノ島「それにしてもあの残念軍人パーソナルスペース狂ってんのかねー。男子とはやたら距離とるし極端過ぎんのよ」

西園寺「……単にその気があるだけなんじゃないの?」チッ

江ノ島「西園寺センパイみたいに?」

西園寺「わたしは性倒錯者じゃないっ!」

江ノ島「……むくろ姉さんも別に同性愛者じゃないですけれど……間違いなく……」ジメジメ

西園寺「なんで言い切れるのかなぁ?……うちのクラスの女子みんなと仲良いし、あやし過ぎるんだけど?」

江ノ島「なんでだろうねー?ところで、江ノ島盾子ちゃんに訊きました苗木誠きゅんのキュンとくるところベスト10、聞きたい?」

西園寺「いらないっての!なんでいきなりあんたの色ボケ話聞かなきゃならないんだよ!」


西園寺「苗木おにぃとか話に関係な……」

西園寺「……」

西園寺「……まさか、あんた……」

江ノ島「……」ニッ

江ノ島「西園寺センパイもさ、欲しいものがあるなら早めに素直になった方がいいんじゃない?」

西園寺「……何、言って……」

江ノ島「ほら行くよ?お姉ちゃん達見失っちゃうって」


○●


公園


戦刃「……着いたね」

罪木「着きましたねぇ……」フゥ

戦刃「……綺麗だね」

罪木「はい!それに静かで……私の好きなところなんですぅ……」エヘヘ

戦刃「うん……いいところだと思う」

戦刃(また、罪木さんのことが少し解った……気がする)


戦刃「……一休みしようか」

罪木「はい!ええとぉ……」ゴソゴソ

戦刃「……?」


罪木「あの、持ってきたんですぅ……ビニールシートと、お、お、お弁当をぉ……」


戦刃「お弁当……罪木さんが作ったの……?」

罪木「は、はい……」

戦刃「すごい……!」キラキラ

罪木「いえ……そんな、お口に合うかどうか……!」カァ

戦刃「ピクニックみたい……!」

罪木「あ、あのぅ……実はピクニックなんですようこれ、一応……」


バサッ


戦刃「ふう……」

罪木「こうして芝生にシート敷いて座るとよりピクニックっぽいですねぇ……」

戦刃「そうだね……」


戦刃「……」キュゥゥゥ


戦刃「お弁当……食べてもいい?」

罪木「あ、はいぃ!これ、戦刃さんのお弁当ですぅ!」スッ

パカッ

戦刃「おいしそう……」ジュル

罪木「そ、そうですかね……えへへ」カァァ


戦刃「……」

戦刃「……箸、もらえる……?」

罪木「あ、あれ……?」ゴソゴソ

戦刃「……忘れちゃった……?」

罪木「いえ!あ、あるんですけど……!」


罪木「そのぉ、一膳しかなくて……!」


戦刃「……そうなんだ、じゃあ……」

罪木(こっ、ここここの展開はぁぁ……!)アワワワワ


戦刃「……私、手で食べるね」


罪木「……あれ?」


罪木(あれあれあれあれあれ?)


戦刃「……いただきま」

罪木「だっ、ダメですよう!人の手には百種以上の細菌が……!」アセアセ

戦刃「……そうだった。ウェットティッシュで消毒しないと……」フキフキ

罪木(なんで持ってるんですかぁ……!私も持ってますけども……)ガーン

戦刃「……いただきま」

罪木「あ、あのぅ!」


戦刃「……何?」

罪木「やっぱり、戦刃さんのお手を汚させるわけにはいきませんし……!」

罪木「こ、こここ、この一膳の箸で……」グルグル

戦刃「……?」



罪木「た、たた食べさせ合いっこするというのはどどどどうでしょうかぁぁ!?」グルグルグルグル



戦刃「……」

戦刃「なるほど……!」ポン

罪木「はい!」


戦刃「……あれ?でも、それならその箸で代わり番こに食べればいいだけじゃない……?」

罪木(……あ。確かにそうですね)


罪木「え、ええと、そ、それだと、一人が食べてる間、もう一人が暇になってしまうかなぁと……思ったり……思わなかったり……」アワアワアワアワ

罪木(我ながらなんて滅茶苦茶な……!明らかにおかしい私欲に溺れ過ぎました引かれる嫌われる疎まれるごめんなさいぃぃぃ)ジワッ


戦刃「……そっか」


罪木「へ?」

戦刃「……流石、罪木さん。私、頭あんまりよくないから思い至らなかった」

罪木「いえ、そんな……え?」

戦刃「どっちから食べさせる……?」


罪木(……神様、これ、現実ですか?)


罪木「わ、私から、食べさせて、差し上げますぅ……」

戦刃「じゃあその卵焼き……いいかな」

罪木「ひゃい……!」

戦刃「……あーん」アグ


罪木「ふゆぅ……!」ドキドキドキドキ

罪木(手、手が震えて……このままじゃ戦刃さんの口の中を血だらけにしてしまいますぅ……!)カタカタカタカタ

罪木(というか、過呼吸で気を失うかも……)ハァ ハァ クラ

罪木(しっかりしなさい罪木……!深呼吸……深呼吸……)スーハースーハー

戦刃(まだかな……?)アングリ


罪木「あ、あああああ、あーん……!」スッ

戦刃「あむ、んぐ」モグ

戦刃「……」モグモグ

罪木「ど、どうでしょうか……!?」

戦刃「……」ゴクッ


戦刃「ばかうま」


罪木「ばっ……はぇ?」

戦刃「おいしい……しあわせ」ポー

罪木「ほんとですかぁ!?」


罪木「私、どうしても栄養価が気になって薄味になる傾向がありまして……味薄くないですか?病院食みたいじゃないですか?」

戦刃「……全然。すごくおいしいよ……?食べてみれば?箸貸して……」

罪木「は、はい……!」ドキ


罪木「あ、あぁぁん!」ハァハァ


戦刃「……あーん」スッ

罪木「あむぅ……!」モグ

罪木「んむ……んぐ」モグモグ

戦刃「ほら……おいしいでしょ?」

罪木「あ、あはは、そうかも、しれませんね!お褒めに預かり光栄ですぅ……!」エヘヘヘヘ


罪木(正直味なんてよく解りませんでしたけど、一生懸命作ってよかった……!)

戦刃「もっと食べたいなぁ……。次はその唐揚げ食べさせて……?」

罪木「はい……!」パァァァァ


罪木(……神様、これ、現実ですか?)


○●


西園寺「何やってんの?あいつら何やってんの?」

西園寺「女同士で何食べさせ合ってんだキモいキモいキモいキモい!」ワアアアン

江ノ島「まあまあ落ち着いて落ち着いてー。お姉ちゃん耳良いからあんまり騒ぐと見つかるよ?」モグモグ

西園寺「何食ってんだ!」

江ノ島「サンドイッチ。ピクニックにはやっぱこれよねー!」

江ノ島「食べさせ合いっこする?」

西園寺「するか!」

江ノ島「そう言わずあーん!」ズッ

西園寺「もごっ!んぐぅ……!」


江ノ島「しっかし箸一膳しか持ってこないなんて罪木さんやるぅー。苗木とのデートでやってやろうかな」

江ノ島「お姉ちゃんはバカ極まってんなー。あそこまでだったかなー。流石にちょっとイラッとしちゃうなー」


○●


戦刃「……ごちそうさま。おいしかった」

罪木「お粗末様でしたぁ」

戦刃「……ご飯も食べたし、何しよう?」

罪木「え?ええと……」

罪木(どうしよ、なんにも考えてない……!)


戦刃「……このまま座ってぼーっとしてるのもいいかなぁ」


罪木「え……?」

戦刃「なんでだろうね……?今はそんな気分なんだ……」


戦刃「普段は銃の解体組み立て作業とか、射撃訓練とか、やらないと落ち着かないのに……」


戦刃「もしかして、これが平和ってものなのかな……」


罪木「そうですねぇ……平和ですね」

戦刃「そっか……」

戦刃「……今まで平和のために戦うって人を何人も見てきたけど全然ピンとこなかった」

戦刃「でも、これが平和なら……これを大切に思う気持ち、ちょっと解るかもしれない」

罪木「戦刃さん……」

戦刃「罪木さんのおかげだよ……ありがとう」


○●


江ノ島「なーにが平和だよあのボケボケ軍人」

江ノ島「ほんっと絶望と縁遠い残念さよねーお姉ちゃんは」

西園寺「……こんだけ妹に残念残念言われる姉も珍しいだろうね」ハァ

江ノ島「苗木のおかげで残念さの方向性がおかしくなっちゃったなー」

江ノ島「もうさ、ちょっとやそっとじゃ絶望しないかもねあれは」

西園寺「絶望ねぇ……」

江ノ島「つーわけで、そろそろさー」



江ノ島「めちゃくちゃにしてやろっか?」



西園寺「……はぁ?」

江ノ島「ただ尾け回して見てるだけってのも飽きたしねー」

西園寺「あんた、何する気?」


江ノ島「最近爆弾にハマっててさー!苗木を攻略するために結構がんばってんのよねー」

江ノ島「もう超高校級の爆弾魔でも名乗ろうかしらん、って勢いで!」

西園寺「ちょっと悪ふざけは大概にしなよあんた……!」


江ノ島「アタシは絶望のためなら何でもするよ?」


西園寺「!!」ゾクッ


西園寺「……仕掛けたの?この公園に」

江ノ島「だとしたらどうする?」


西園寺「あんたやっぱり罪木が行こうとする場所知ってたってこと……?」

江ノ島「使うバスが予想できたら行く場所も予想できるっしょそりゃあさー」スチャッ

西園寺「!」
西園寺(ケータイ……!これが起爆装置!?)


西園寺「つみ、むぐ……!」


江ノ島「しゃべっちゃやーあよ!」ググ

西園寺「んむー!」ムグ

江ノ島「だーいじょぶだってー!あの位置なら死にはしないからさー多分!」

西園寺「んー!んんー!」ムググ

江ノ島「でも暴れたら手が滑って適当に片っ端から爆破しちゃうかも」

西園寺「……!」サーッ


江ノ島「西園寺センパイもこんな平穏で幸福なデートもどきぶっ壊してやりたいでしょ?」

西園寺「……」ジロ

江ノ島「手に入れたいものはさ、徹底的に絶望に引きずり込んで支配してあげなきゃー!ね?」


江ノ島「コツを教えてあげる」


西園寺「……!」ゾゾゾ



江ノ島「そんじゃ張り切って……」



バラバラバラバラバラ……



江ノ島「いきま……?」


バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ


江ノ島「……」


江ノ島「……ヘリ?」

西園寺「ぷはっ!やばいよこっち来る!」タッ



ドシャァァァァァァァアン



江ノ島「……あたた。超吹っ飛ばされたんですけど……。パンツ見えた?」

西園寺「うう……なにこれ……なんなのこれ……!」ヨロ


江ノ島「ん……?ぎゃー!ケータイが真っ二つ!?」



シュウウウウ……

ガコッ



苗木「き、奇跡だ……!どうにか……不時着できた……」ズル……


西園寺「苗木おにぃ!?」

江ノ島「なぜヘリ?なぜ血まみれ?その引きずってるおっさん誰よ!?」


苗木「江ノ島さんに西園寺さん……!?二人ともケガしなかった?」ヨロ

西園寺「血達磨が人の心配してる場合じゃないでしょ!きゅ、救急車!」ピピピッ


江ノ島「ねーねーマジで何があったのよ?」

江ノ島「妹ちゃんの買い物に付き合うって言ってたのになんでこんなことになってんのかなー?」

苗木「確かに買い物してたんだけど……」


苗木「妹と……他のデパートの客の数人がテロリストっぽい人達の人質にされてビルに連れ込まれて……」


苗木「夢中で妹を追ってたらそのビルが封鎖される前に忍び込めちゃったんだよ」

江ノ島「テロリストと一緒に閉じ込められたの?」

苗木「うん……警察はなかなか踏み込めなくて、一人でがんばってるうちに意外とテロリストの数を減らせてさ」

苗木「階段から転げ落ちたり……味方の弾に当たったり……ほとんどが自滅みたいな感じだったけど」

江ノ島「うわ、この前のハイジャック犯と同じじゃん。どうなってんのアンタの運」

苗木「最終的に人質を解放できたんだけど……最後に残った敵のリーダーがヘリで逃げて警察に突入されたビルを丸ごと爆破しようとしてたから止めようと追っかけて……」

苗木「ヘリの中でそいつに必死にしがみついてたら頭ぶって気絶したんだよ」

西園寺「げっ、じゃあそこのおっさんって……テロリストのリーダー!?」

苗木「うん……。何か縛るものないかな?」

江ノ島「ワイヤーならあるよ?はい」

苗木「……なんでハンドバッグからワイヤーが一束出てくるのかは訊かないでおくね。今回は」

西園寺(苗木おにぃ……テロ事件に巻き込まれて、最終的に偶然江ノ島の凶行を止めたってこと?)

西園寺(……途轍もなくツイてない苗木おにぃが超高校級の幸運って肩書きである理由がちょっと解ったよ……)



戦刃「盾子ちゃん、西園寺さん……苗木君……!?」

罪木「あ、あわわわわわ苗木さぁん!なんで血だらけなんですかぁ!」

苗木「戦刃さんと罪木さんもいたの……?よかった」フラ

苗木「罪木さんできれば応急手当てしてもらえないかな……ちょっと、やばいかもしらなくてさ」ハハ

罪木「は、はいぃぃ!」


ユラ……


テロリスト「うがあああああ!」ガバッ



西園寺「ひっ!」

苗木「しまった!西園寺さん!」



ヒュッ ドゴッ


テロリスト「……」ガクッ

戦刃「……ふう」

苗木「流石、学園最強……助かったよ戦刃さん」

戦刃「素手なら大神さんの方が強いよ……?」

江ノ島「そういうコマいことは問題じゃないんだって」

戦刃「そっか……。苗木君ワイヤー貸して……私が縛っとく……」

苗木「うん……はい」スッ

罪木「苗木さん、手当てするので動かないでくださいね……!」ゴソゴソ

苗木「よろしく頼むよ……」ゼェ ゼェ


江ノ島「こんなとこで死なないよね?アタシ的には別にそれもアリだけど」

苗木「……大丈夫だって」

苗木「キミを残して死んだら世界がメチャクチャになっちゃいそうだし。死ぬに死ねないよ」ハハ



ピーポーピーポー



江ノ島「あ、救急車とかケーサツ来た。“Let it snow! Let it snow! Let it snow!”でも流す?」

苗木「……ボクは死にぞこないのNY市警じゃないよ……」


罪木「できることはしました……あとはお任せします……」

江ノ島「じゃあアタシ苗木に付き添ってくから!彼女として!」

江ノ島「それではみなさんさようならー!」


……


西園寺「……あのバカップルのおかげで大変な目に遭ったよ」

罪木「あのぅ……西園寺さんはなぜここに……?今日は日本舞踊の公演を見に行くはずじゃあ……?」

罪木「私がお断りしたら最初から小泉さんを誘うつもりだったって……言ってましたよね……?」

西園寺「わー!もう!うっさいゲロブタ!」

罪木「ひぃ!す、すみませぇん!」


戦刃「待って、西園寺さん……。罪木さんはブタじゃないって前言ってたよ」

西園寺「誰がよ?」

戦刃「罪木さんが」

西園寺「何言ってんのこの人……」

罪木「ブタ談義はやめましょうよぉ!」ウエエン


西園寺「はぁ……もう疲れた。帰る。戦刃おねぇおんぶして」

戦刃「いいよ……おいでおいで」スッ

西園寺「素直だけどなんかムカつくなぁ……」ポスッ

罪木「はわぁ、迷いゼロな戦刃さんも素敵ですぅ……」


戦刃「……発進」スタスタ

西園寺「……」

西園寺「……戦刃おねぇ」

戦刃「……何?」


西園寺「その、さっきは助けてくれて……ありがと」ボソ


戦刃「……どういたしまして」

罪木「はわぁ……」ジッ

西園寺「……何見てんだゲロブタ!」

罪木「ひいぃ、すみませぇん!」

西園寺「助けられて礼を言うのがそんなにおかしいかー!」

罪木「な、何も言ってないじゃないですかぁ」ヒィィ

西園寺「しょうがないでしょ!体面上礼を欠いたら西園寺の名がすたるんだよ!」

罪木「だから何も言ってませんよう!」ウエエン

戦刃「……二人とも落ち着いて。平和平和」

西園寺「……平和、ねぇ」フン


西園寺「……戦刃おねぇに訊きたいことがあんだけど」

戦刃「……何?」


西園寺「苗木おにぃ妹にとられて腹立たないの?」 


戦刃「え……!?え……!?」

西園寺「いや苗木おにぃ好きなんでしょ?」

戦刃「え、ええと……そう、かなぁ?」

西園寺「ヘッタクソな誤魔化し方だなぁ」ハァー

西園寺「江ノ島のやつ知ってて苗木を寝取ったんでしょ?」

罪木「ね、ねとっ……!?」ハワワ

西園寺「ムカつかないの?」


戦刃「……なんでムカつくの?」

西園寺「はぁ?」


戦刃「……好きな二人が恋人同士になるのはムカつくことじゃないと思うけど」

戦刃「……むしろ嬉しい」


西園寺「……変なやつ」


戦刃「それに……」



戦刃「盾子ちゃんと結婚したら苗木君が弟になるし……!」



西園寺「は?」


戦刃「好きな人が家族になる……とても喜ばしいことだよね……!」

戦刃「それに、子どもが生まれたら……!盾子ちゃんと苗木君の血を引く子なんて絶対かわいいよ……!」

西園寺(あっ、この人マジで残念な人だ)

罪木「解ります……!」

西園寺「え?」


罪木「そういえばiPS細胞というので同性の間にも子どもが」

西園寺「うわあああ!もうやだお前ら残念過ぎて頭おかしくなりそう!黙ってろーっ!」


EXTRA CASE2 閉廷

むくろ姉さんはこのまま突っ走らせて良いのでしょうか。
次回、未定です。


ブツッ……


ザザッ

ザザザザザ


苗木『……ーん……』


苗木『ほんとに貰ってよかったのかなぁ……これ』

苗木『……いや、電話したらくれるって言ってたしいいよな』



苗木『モノクマとモノミ……だっけ?』


苗木『江ノ島さんが自分で作ったみたいだけど……すごい出来だよな』

苗木『ぬいぐるみも作れるなんて流石超高校級のギャル……なのか?』

苗木『でもボク男だしぬいぐるみ貰ってもこっぱずかしいんだけどなぁ……』


苗木『……こんな傑作をスゴロクのためだけに作って手放すなんて、キミ達の生みの親は変わってるよな』ヒョイ


苗木『……そもそもあのセクハラスゴロクはおかしいって!恥ずかしくて死にそうだったよ!』


苗木『キスしたり……!ハグしたり……!』カァァァァァ

苗木『朝日奈さんにはキスマークだらけの顔見られてひっぱたかれるし……!』


苗木『あーもう!明日から朝日奈さんと顔合わせるの気まずいじゃないか!』ドサッ バタバタ


苗木『……』

苗木『最後のマスに書かれてた、あれ……』


苗木『……『これからも絶望をよろしく』、か』


苗木『なんだろ、あれをめくった時の江ノ島さんの表情……』

苗木『いつも通り目は絶望しか見えてなくて、眉は自信満々で、口元は楽しそうで、なのに……』



苗木『なんでちょっと不安そうに見えたんだろ』



苗木『……』


苗木『……何ボクぬいぐるみに向かって話してんだよ……』
 

苗木『……寝よ』




ザザザザザ



苗木『ただいま。モノミ、モノクマ』

苗木『……今日も江ノ島さんに振り回されてきたよ』

苗木『江ノ島さんの傍で絶望に目を向けるって約束だけど……』

苗木『江ノ島さんの傍にいるほど、どんどんよく解らなくなってくよ……』

苗木『こっちが困るほど嬉しそうにするし……今日だって強引に人の膝を枕にして寝ちゃったんだよ?気持ち悪いのがイイんだってさ』

苗木『その割に気持ちよさそうにスースー寝息立てちゃって』

苗木『……寝言でボクのこと呼んでたな』

苗木『……』



苗木『……寝てればただただかわいいのに』ボソッ


苗木『……』

苗木『……いつの間にか話しかけるのが習慣になっちゃったな』

苗木『恥ずかしいけど別に誰が見てるわけでもないしいいよね』



ザザザザザ



苗木『……』

苗木『やっぱり舞園さんはすごいな……久しぶりにテレビで看たけどオーラが伝わってくるというか……流石超高校級のアイドル』

苗木『最近アイドルオーラがぐっと濃くなった気がする』

苗木『……』


苗木『……ものーくろーむなこーいがー♪』


苗木『……やっぱボクが歌うとなんか変だなぁ』


苗木『ちーぎれーたーつーばさぬーぎーすてーてー♪おもうまーまーにー♪』


苗木『……うん、やっぱり十八番のが歌いやすいな』


ヴーッ ヴーッ


苗木『メール……?舞園さんか』


苗木『……』

苗木『……『久々に番組見てくださってありがとうございます』、って……』

苗木『なんで見たの知ってんの!?』ゾクッ


苗木『……なんでみてるってわかったの、と……送信』

苗木『……』

ヴーッ ヴーッ

苗木『はやっ!?』

苗木『……『エスパーですから!』。うん……そうくると思ったよ』


ヴーッ ヴーッ


苗木『またメール!?』


苗木『……江ノ島さんか……』

苗木『……『次の番組にアタシ出るからチャンネルはそのまま!』……』


苗木『この学園エスパーだらけなの!?』



『この後、カリスマギャル江ノ島盾子がぶっちゃけトーク連発!マジヤバ!』


苗木『……マジヤバ』


……


『……では、本日のゲストの江ノ島盾子ちゃんです。はりきってどうぞー』


『いえーい!な[ピーッ]ー!見てるー?愛してるよーっ!』


『ちょっ、盾子ちゃ、はりきり過ぎじゃね!?誰だ[ピーッ]ぎって!?』


苗木『いきなり何やってんだこの人!?』


『なえ[ピーッ]っていうのはアタシの大好きなダーリンですっ!』

『その[ピーッ]えぎさんってのはー、一般の方すか?バンビっすか?ん、あれ?ま、いいや』


苗木『なんだよこの編集!?ちゃんと被せてよ意味ないよこれ!』


『そりゃもう一般的過ぎるほどに一般人っすよー!ちょーカワイイですよ写メ見ます?』

『じゃ、拝見いたしやす』


苗木『何してんだよ江ノ島さんっ!』


『あれまあ、確かにカワイイ。弟にしたいタイプー!』

『マジで弟にしたいのよねー!実はお姉ちゃんって呼ばせようとがんばってんですけど、なっかなかうまくいかなくてー』


苗木『この前スゴロクで散々呼ばせてたでしょ……!』


『んで、その苗木[ピーッ]とはどこまで?』

『ABC飛んでZまで♪』

『マジ!?マジンガー!?』


苗木『……』


苗木『……』スッ


プルルルルル……プルルルルル……


苗木『もしもし!?江ノ島さん何してくれてんの!メチャクチャ過ぎだよ!!』


苗木『違うよ『メチャクチャ好きだよ』じゃなくて『メチャクチャ過ぎだよ』って言ったんだよ!そもそもイントネーションが全然……聞いてる!?もしもし!?もしもし!?』



『……Zってのは絶望のZでー……!』

『ZETSUBOU!?』



ザザザザザ



苗木『あれから速攻で特定されたみたいで、手紙が殺到してるよ……』

苗木『というか、江ノ島さんを幸せにしてくれって祝福する手紙ばっかで脅迫めいたものが一通も来てないのがびっくりだ……』

苗木『あの性格と振る舞いでこのファンの善良さはなんなんだろ……』

苗木『……』

苗木『一通だけモノクローム・アンサーの歌詞だけが震えた字で書かれた謎の手紙が混じってたけど……』

苗木『一体誰がどういう意図で送ってきたのか見当もつかないな』


ザザザザザ



苗木『江ノ島さんと関わってるうちに身の回りに不可解なことが増え過ぎだよ……』

苗木『……なんか一日記憶が飛んでることあったし』

苗木『クラスのみんなに変な目で見られたけど一体ボクは何をしたんだ……?』

苗木『記憶飛んでるってよく考えなくてもヤバいよな……誰もちゃんと教えてくれないし』

苗木『……覚えてるんだったら教えてよ』ヒョイ



苗木『……なんであの時江ノ島さんは泣いてたんだよ』



苗木『……』


苗木『……そういえば、舞園さんがなぜか首輪の好みを訊いてきたな』

苗木『首輪の好みって……急に訊かれても』

苗木『……犬でも飼うのかな。この寮ってペットOKだっけ?』


ザザザザザ


苗木『ただいま……』

苗木『大変だったよ……キミらの生みの親の看病は』

苗木『あんな変態じみたこともう御免だよ……』

苗木『というか、死にそうにしてたのに翌朝全快って江ノ島さんすごい回復力だよね』

苗木『……そういえば一応女子の部屋に泊まったんだよな……ボク』

苗木『朝にシャワーも借りて……』



苗木『……ああああ!色々恥ずかしくなってきた!』



苗木『いつもいつも抱きついてくるしその度に胸が当たるしいい匂いがするし!隙あらばキスしようとしてくるし!この前なんか耳甘噛みされたんだよ!?』

苗木『あんな血も凍るほど可愛くて殺人的にスタイルがいい子にいつもいつもセクハラまがいのことされ続けて理性が崩壊しそうだよ!』

苗木『引きずり込まれる……このままじゃ……』ウウッ



苗木『……でも薄皮一枚隔てた中身の、大きな絶望を今ははっきりと感じる』


苗木『ずっと、見てきたから』


苗木『誰にも理解されない絶望……理解されないことで更なる絶望が生まれる……』

苗木『……』

苗木『……やっぱり寂し過ぎるよ』


苗木『離れようとしたら裾掴んだり……眠ってもずっとボクの手を握ってたり……』

苗木『……』


苗木『向き合うって、決めたんだ。とことん向き合ってやる』



ザザザザザ



苗木『……』

苗木『……』

苗木『……全快したはずなのに、体が震えるよ……』


苗木『……とんでもない絶望だった』


苗木『ボクの死、自分の死……江ノ島さんは本当に絶望を求めている……』

苗木『あの部屋は絶望の棺桶だった』


苗木『でも……ボクも、江ノ島さんも生きてる……!』

苗木『江ノ島さんの絶望が強大でも、それに負けない希望を持っていればいいんだ!』


苗木『……』


苗木『……今日は……一緒に眠ってくれる?モノクマ、モノミ……』ギュッ


苗木『……抱えていけるさ。絶望も、希望も……』ギュ



ザザザザザ



苗木『ただいま!一週間ぶりだね』



苗木『旅行中に……江ノ島さんに告白したよ』


苗木『ボクは……江ノ島さんのこと好きだったんだね』ハハ


苗木『ボクを好きって言う江ノ島さんが……ボクを嫌いって言う江ノ島さんが……』


苗木『……』


苗木『ほんとに恋人に……なったんだよな』

苗木『とりあえず……』




苗木『今度、遊園地にでも行かない?江ノ島さん』




……


ガチャチャ



江ノ島「行くーっ!!」バーン



苗木「やっぱりぬいぐるみに盗聴器仕込んでたんだね……」ハァ

江ノ島「盗聴器だけじゃないもーん!カメラも仕込んでたもーん!」エッヘン

苗木「威張ることじゃないよ!」


江ノ島「苗木がモノクマとモノミに話しかけたりしてた映像音声はちゃんととっておいてあるよん!やったね!」

苗木「うわ、やっぱり……」

江ノ島「ディスクに焼いて販売したら売れるかな?」

苗木「売れる訳ないし叩き割るよ一つ残らず」


江ノ島「つーかいつ気づいたのよ?」

苗木「……さっきだよ」

苗木「気づいたというか、部屋に帰ってきてモノクマとモノミを見た瞬間キミに見られてる感じがしたんだ」

江ノ島「……苗木、ジャバウォック公園絶叫告白事件以来なんか超人化してない?ジャバウォック島で悪の秘密結社に捕まったりしちゃった?」

苗木「……キミに対する勘はよく働くようになったかもね」

江ノ島「むしろ今までよく気づかなかったわよねー!今までの苗木の鈍感さの方が異常かもね!」

苗木「まあそれは……そうかも」


江ノ島「それよりそれよりっ!」

苗木「……何?」

江ノ島「もっかい誘って欲しいなー!今度は目の前でちゃーんとさ!」

苗木「……」



苗木「……こ、今度……一緒に遊園地行きませんか?」カァ



江ノ島「きゃはーっ!行くーっ!行きます!行っちゃいます!」ギューッ

苗木「え、えのしまさ……くるし……」バタバタ


江ノ島「ついに苗木の方からデートのお誘いされちったー!すっごいよーこれすっごい!」

江ノ島「もしかして今日はこのまま【ベッドイン】かなーっ!?」

苗木「それは違うよ!」バッ


苗木「というか江ノ島さん勝手に合い鍵作ったでしょ!部屋鍵かかってたのに!」

江ノ島「かってぇこと言うなよオレら恋人なんだからよぉ!」ズギャーン

苗木「恋人は免罪符にはならないし、なる前から作ってたでしょ絶対!」


江ノ島「しょーがないじゃん。苗木を攫ったり、モノクマモノミのカメラ盗聴器送信機のバッテリー交換したりするのに必要だったし」


苗木「なんでこんな無法者を好きになったんだろ……」ズーン

江ノ島「それがぁ、恋ってもんよー!すてき!」キャピルン


苗木「はぁ……。とりあえず、ぬいぐるみの機器外してよ……」

江ノ島「えー」

苗木「えー、じゃないよ。江ノ島さんに監視される生活続ける気ないから!」

江ノ島「毎日楽しみにしてたのに仕方ないなー。じゃ、オペを開始しますか」スチャ

苗木「……なんでメス持ってんの……」



苗木(モノクマ、モノミ……)


苗木(……おつかれ)


EXTRA CASE3 閉廷

遅くなってすみません。
供給がなくて山も落ちもない苗ノ島の話ばかり浮かびます。

次回は多分
クリスマスの話
七人の盾子ちゃん攻略ゲームの話
セレスと狛枝の話

のどれかです。




「うぷぷぷぷ」


「世の人間どもよ!聖人の誕生よりも私様の絶望を崇めなさい!狂ったように崇め続けなさい!」



「メリーエノシマス!」



苗木「……さむ」

苗木「遅いな、江ノ島さん」

苗木「……いつものことだけど」



江ノ島「なーえぎ!」ポフッ



苗木「っ!」

江ノ島「ふふーん、待ったー?」ギュウ

苗木「……待った」

江ノ島「そこは『ボクも今来たとこ』って言うとこっしょー!」


苗木「……キミは毎度毎度遅刻してくるんだから」

江ノ島「女子との待ち合わせってのはさ、そういうもんだって!」ポンポン

苗木「もう……今日ぐらい時間通り来なよ」



苗木「クリスマスイブなんだからさ」



江ノ島「クリスマスイブなんだから許してよね!」

苗木「何さそれ」プフッ


江ノ島「それよりほら、行こ!今日はまず買い物!付き合ってくれるんでしょ!」スッ

苗木「……うん」ギュ

江ノ島「はぁん……苗木の手、あったかい」ギュ

苗木「……キミの手は冷たいよ」

江ノ島「イヤ?」

苗木「……いやじゃない」


江ノ島「うぷぷ、肌を重ねるうちにアタシの身体の温度が馴染んできたみたいね!」

苗木「なんか、妙な言い回しだなぁ……」



江ノ島「……さてと!」


江ノ島「行くぜジングルオールザウェーイ!」ズギャーン


苗木「うわ、ちょっと!」ヨタ


○●


江ノ島「……さて、次はー」


苗木「ま、まだ買うの?」ウンショ


江ノ島「今日はカワイイ荷物持ちがいるからねー!」ブンブン

苗木「……っ、ちょっと、ボク荷物持ってんだからっ!」ワワッ


苗木「……というか、これ以上増えると片手じゃ持てないよ」

江ノ島「なら両手で持てばいいんじゃん?」

苗木「キミがこの手離したら両手で持つよ」

江ノ島「ダメー!それダメー!」


苗木「じゃあどうしろってのさ」

江ノ島「手の一本くらい愛の力で生やしてよ」

苗木「愛の力で化け物に!?無茶言わないでよ!」

江ノ島「愛の力が足りないならチュー入してあげよっか?ハイ、ちゅーにぅー!」チュ

苗木「ちょ、ちょっといきなり……!恥ずかしいって!」カァ

江ノ島「なーに言ってんの今日イブよ?そっこら中でイチャイチャチューチューグチュグチュやってるって!」

苗木「なんかおかしな擬音が……」

江ノ島「で?どう?生えそう?」

苗木「生えないよ!そんな突然変異起きないよ!」


江ノ島「なんてこと……!人間風情が私様に愛が足りないと!?」ドドン

苗木「人間には三本目の手生やすことなんて無理なんだって……!」

江ノ島「……困りました……すごくすごく困りました……これでは手を繋げません……」ジメジメ

苗木「買い物をもうこのくらいでやめとけばいいんじゃないかな……?」

江ノ島「……やはり、もっと愛の力を……」

苗木「量の問題じゃないから!」

江ノ島「質の問題!?じゃ、じゃあ……」モジモジ
苗木「もういいよ!どんなこと言い出すか想像ついたよ!」


苗木「とにかく、手は生やさない方向で……」

江ノ島「検討します」クイッ


江ノ島「んじゃあさ!買うもの厳選するから苗木が選んでよ!アタシに似合うやつ!」

苗木「ボクのセンスが超高校級のギャルの眼鏡に適うとは思えないんだけど……」

江ノ島「別に苗木のファッションセンスになんか期待してないって」

江ノ島「苗木がアタシに似合うと思うものが欲しいんだからさー!」

苗木「……そういうことなら」

江ノ島「うぷぷ、よろしくねー!アタシもここで苗木に似合うの探してあげる!」

苗木「……ここ、女性向けしかないよね?」

江ノ島「今時レディース着る男子なんて珍しくないってー!」

苗木「そうなの……?」

江ノ島「目指せ不二咲千尋たん!」

苗木「完全に女装させるつもりだよね!?」


○●


江ノ島「はー買った買った!」

江ノ島「苗木早く早くー!」グイグイ


苗木「お、おも……!」ドッサリ


苗木「こんな大荷物じゃ電車乗れないよっ……!」

江ノ島「そういえば苗木クンどっか連れてってくれるんだっけー?たーのーしーみぃー!」キャピルン

苗木「……その前にキミの部屋にこの大量の買い物持ってくよ」

江ノ島「駅のロッカーに突っ込んどけば?」

苗木「入る訳ないでしょ!こんなにいっぱい!」

江ノ島「クリスマス仕様の学園にも飽きたってのに……しょうがないなー」


○●


苗木「やっぱりすごいよね……学園の装飾。ただ派手なだけじゃないっていうか」

江ノ島「超高校級の芸術家どもがいるしねー。そいつらの軽いお遊びみたいなもんよ」

苗木「軽いお遊び……ね」ハハ


苗木「そういえば、みんなはどうしてるんだろ」

江ノ島「お姉ちゃんは77期女子のパーティーに連行されたよ。今夜危ないんじゃない?」

苗木「えっ……何が?」


江ノ島「貞操が」


苗木「……“女子のセンパイ達”だよね?」

江ノ島「男子だったら玉潰して終わりよ」


苗木「え、えーと……」


苗木「確か、舞園さんはクリスマスライブだったかな!大変だよねアイドルって!」

江ノ島「そうねー。アイドルって大変ねー」

苗木(江ノ島さんって舞園さんへの興味薄過ぎじゃないかな……)


苗木「江ノ島さんは仕事なかったの?モデル業とかテレビとか」

江ノ島「クリスマスイベントやら生放送に出てくれってオファーはあったよ、いっぱい」

苗木「えっ……」

江ノ島「彼氏とデートするんで働かねーっすって全部断っちゃった!」テヘ

苗木「大丈夫なの!?そんな姿勢で……!」

江ノ島「どーとでもなるってー!業界なんてちょろいちょろい」

苗木(努力で今の地位を築いた舞園さんと真逆だよな……)

苗木(まあ……絶望だからこそなんでもできるんだろうけど)ハァ


江ノ島「これも苗木への愛故よー!アタシって尽くす女ね!」

苗木「そう……なのかな……」

江ノ島「苗木も罪な男よねー!業界の宝を一人占めなんて!」

苗木(あれ?なんかボクのせいみたいになってない?ボクのせいなのか!?)


苗木「……他の人の予定は知ってる?」

江ノ島「不二咲は七海と過ごすらしいよ」

苗木「七海さんは77期のパーティーに出ないんだね」

江ノ島「オンラインゲームのクリスマスイベントが重なって大変みたいよ?」

苗木「……まさか全部やろうとしてるの七海さん……!?」


江ノ島「この前ゲーム大会の賞金注ぎ込んでPCとか買ってたしそうなんじゃない?」

苗木「流石ゲーマー……」

江ノ島「セレスもそんなとこじゃない?クリスマスのギャンブルイベントって結構ありそうだし」

苗木「クリスマスはギャンブラーも稼ぎ時かぁ……」

江ノ島「そういや霧切は知らな……」

苗木「どうしたの?」

江ノ島「噂をすれば霧切」スッ


霧切「……」スタスタ


苗木「ほんとだ」

江ノ島「おーい!霧切ー!クリぼっちの霧切ちゃーん!」

苗木「なっ、江ノ島さん!」


霧切「……江ノ島さん、苗木君。クリ……何?」

江ノ島「クリぼっ」ムグ
苗木「なんでもないよ!……それより、ええと、これからどっか行くところ?」

霧切「……」



霧切「……天狼星を見に」


苗木「天狼星……?」

霧切「……この時期になると思い出すから」

苗木「な、何を……?」

霧切「……」

霧切「……ごめんなさい、もう行かないと」

霧切「江ノ島さん、お誕生日おめでとう。これ、好きに使って」

江ノ島「んんー?何よこれ?」


霧切「……紹介状よ。トリプルゼロクラスへの」


江ノ島「わけわかんないんですけどー」

霧切「あなたならDSCくらい知ってるでしょうに」

江ノ島「……タダになんの?」

霧切「なる訳ないでしょう」

江ノ島「ちぇー!どうせバカ高いんじゃん!」

霧切「本来なら見ることも話すことも出来ない相手よ」

江ノ島「いいのかなーアタシにそんな人紹介して?」

霧切「……私は信じるわ。伝説の探偵の力を」


江ノ島「……あっそ。んじゃありがたく頂いとくね」

霧切「それじゃあね、江ノ島さん、苗木君」スタスタ


苗木「き、霧切さん!?」

江ノ島「なるほどなるほど、下手なゼロ持ちやダブルゼロクラスじゃ危険だからゼロ3つというわけだね……霧切さんの意図は……これは面白いプレゼントを貰ったよ」ゴゴゴゴゴ

苗木「……何の話してたのかさっぱりだよ。結局なんなのそれ」

江ノ島「苗木は知らなくて結構!それよりー……!」


江ノ島「霧切に先を越されちゃったねー?」


苗木「うっ……」

江ノ島「まさか、今日という日がただの聖人復活ショーの前日としか思ってないわけじゃないわよねー?」

苗木「……解ってるよ、ちゃんと」


苗木「先に荷物部屋に置かせて。……その後、持ってくるから」


○●


ガチャ


苗木「……おまたせ」

江ノ島「待った待ってた待ちくたびれた!早く早くー!」

苗木(ムードも何もないなぁ……タイミングがおかしくなったよ)



苗木「……お誕生日おめでとう!江ノ島さん」スッ



江ノ島「この箱の形状と重さは……」ンー

苗木「中身分析しなくていいから開けてみてよ」

江ノ島「開けた瞬間BOMB!だったらどうしよー!絶望する間もないわね!」

苗木「そんなことボクがするわけないでしょ!」


江ノ島「苗木ったらいつもアタシを絶望させてくれるから期待しちゃうわよねー!」シュル

苗木「……なんか、ハードル高いなぁ」


パカ


江ノ島「……ん?コレって……」ヒョイ



江ノ島「アタシが作った……モノミ?」


苗木「……を参考にしてボクが作った……ウサミ、だよ」


江ノ島「ウサミ、ね」

苗木「キミはモノクマを絶望の象徴にしてるからさ、モノミはきっと希望の象徴として作ったんだろうなって思ったんだ」


江ノ島「うぷぷ」

江ノ島「その通り!ボクこそが絶望のシンボル、モノミが希望のシンボルなのだー!」ウププ


苗木「……うん。キミにはその今持ってるモノクマがあるからモノミを作ってプレゼントしようと思ったんだけど……」

苗木「全く同じ物作るのもどうかと思って、ボクなりにちょっと改変したんだ」


江ノ島「苗木の希望アレンジでしかも手作りか。なるほどねー。見てると胸がムカつくわけだ」ウンウン



江ノ島「これは……想像以上にクるね……!」グルグルグルグル



苗木「江ノ島さん……?」

江ノ島「あっりがとー苗木ーっ!苗木だと思って大切にするよーっ!」ムギュ

苗木「むぐっ……!ボクだと思ってって……!一日と持たずにズタズタにされそうなんだけどっ!?」

江ノ島「希望のシンボルとしてウサミをくれたんでしょ?希望=苗木なんだからウサミは苗木の分身じゃーん?」

苗木「やっぱり一日と持たずにボロボロにっ……!?」

江ノ島「大丈夫大丈夫!ほんとに大切にしちゃうから!」



江ノ島「苗木が指に絆創膏巻いてまで一生懸命作ったアレンジ以外アタシの作ったモノミと遜色ないレベルのぬいぐるみなんて苗木の目の前で八つ裂きにして串刺しにして蜂の巣にして灰にしてその灰を苗木に飲ませたいけどーっ……!」



江ノ島「……大切にしてあげる」



江ノ島「苗木が後生大事に絶望なんかを抱えてるみたいに、アタシもウサミを持っててあげるよ」ギュ


苗木「……」

苗木「……そっか」




江ノ島「そうだ!これからどっか連れてってくれるのよねー!?早く行こ!」ポイッ

苗木「ちょっと大切にしてくれるんだよね!?言ったそばから放り投げないでよっ!」


○●


ガタンゴトン……ガタンゴトン……


江ノ島「ワックワクのドッキドキ♪やりたい放題やってもいいすか♪」

苗木「江ノ島さん」

江ノ島「くう……何ー?」

苗木「次で降りるよ」

江ノ島「うぷぷー、どこ行くんだろ楽しみー!」

苗木「とっくに予想ついてるんじゃないの?」

江ノ島「思考停止してるから大丈夫!」

苗木(なんだそれ……)

苗木「……まあいいや、降りたらちょっと歩くからね」

江ノ島「はいはーい!……空気読まずに噛みついてー♪引っ掻き回してうぷぷのぷ♪……」


○●


江ノ島「……苗木まだー?」

苗木「もうちょっと……って江ノ島さん目瞑ってたの!?危ないよ!」

江ノ島「手繋いでるし平気平気ー!」


江ノ島「それより、降りてから結構歩いた気がするけど?ちょっとじゃないじゃん!」

苗木「え?そうかな?でも、もう着くよ……ほら、ここ」


江ノ島「ん」パチ


○●


「はーい!今開けるね!」パタパタ

ガチャ

「もう遅いよパーティーの準備とっくに……」



江ノ島「どうもー♪」フリフリ



「……」


苗木「……元気だったか?あ、こっちは……」


「お父さぁぁぁん!お母さぁぁぁん!お兄ちゃんが彼女連れてきたぁぁぁ!!」ドタバタ


苗木「……」

江ノ島「……」


○●


苗木父「いやいや娘がとんだご無礼を」ハハハ

苗木母「こまる、驚くのは解るけれどあなたいい加減落ち着きなさい」


こまる「うう……しつれいしました……」


苗木「……改めて紹介するね、ボクの妹のこまると、父さんと母さん」

江ノ島「よろしくお願いしまーす!」

苗木「この子は江ノ島盾子。ボクの……彼女の」カァ


こまる「え、えええ江ノ島盾子ぉ!?」


苗木母「さん」

こまる「江ノ島盾子……さん」


こまる「江ノ島盾子……さんって、あのカリスマギャルの江ノ島盾子さんですか!?」キラキラ

江ノ島「イエス!アイアム!」ビシー


こまる「すごい!お兄ちゃんすごいよ!」

こまる「超高校級のギャルがお兄ちゃんなんかと付き合う確率なんて晴れの日に雷が直撃する確率より低いのに!お兄ちゃんって本物の超高校級の幸運だったんだね!」

苗木「お前なぁ……!」


江ノ島「確かにアタシも最初はその気はなかったのよね……」

苗木「……江ノ島さん?」


江ノ島「でも苗木が来る日も来る日も熱烈なアプローチを続けてきて……!」

江ノ島「彼の求愛が『もうこれストーカーじゃね』ってレベルの境界をギリギリ踏み越えるか越えないかいや越えたなってところで心が彼に傾いてしまいました!」

苗木「ちょっと江ノ島さん!?なんかおかしいよその話!」

こまる「お兄ちゃんがそんな情熱を秘めてたなんて!ただのぼんやりしたお兄ちゃんだと思ってたのに!でもストーカーのような陰湿な存在になる根暗さはあるのではと思ってました!」

苗木「お前そんなこと思ってたの!?」



苗木母「誠もこまるも静かになさい」



こまる「はい」

苗木「はぁ……」


苗木父「まあ、誠が恋人連れてくること自体が驚きだよ」


苗木父「……江ノ島盾子さん」

江ノ島「はいっ!」

苗木父「なるほど、誠がやられるのも解るよ。月並みな台詞だけど若い頃の母さんにそっくりだ」

江ノ島「やだそんなー!」



苗木父「特にその、さめた目が」ハハ



江ノ島「……」

苗木「……」


苗木父「いやー母さんは昔、血も凍るほど綺麗で、でも態度も冷たくてね。まるで雪女みたいな」 

苗木母「お父さん?」

苗木父「え……?」



江ノ島「……」

苗木「……」



苗木父「……あー、ええと、その」


苗木父「まあ、何はともあれ苗木家クリスマスパーティーにようこそ」

苗木父「といってもいつもよりちょっと豪華な料理とケーキを食べるだけだがね」ハハ


江ノ島「恐れ入りますお義父さまお義母さまっ!」ペコリ


苗木父「ははは、お義父さまか。悪くないなぁ」

苗木母「……」グニッ

苗木父「いてっ」

こまる「ねえもう食べていいー?」



○●


まことの部屋


ガチャ


苗木「はぁ……さっぱりした」

江ノ島「お帰りー!」

苗木「江ノ島さん大人しくしてた?」

江ノ島「エロ本探してた」

苗木「勝手にガサ入れしないでくれる!?」


江ノ島「それにしても苗木の家族は面白いわね!」

苗木「割と普通……だと思うんだけどなぁ」

江ノ島「特に妹ちゃん!」

苗木「こまるか……あいつ騒がしいからなぁ」

江ノ島「苗木って妹より身長低いのね!超ウケる!」ウププププ

苗木「大きなお世話だよ!」


江ノ島「まあまあ!おかげでパジャマがアタシでも着られるし!」

苗木「……江ノ島さん着替え持ってきてるよね?」

江ノ島「マジかよバレバレかよ!」ズギャーン

苗木「気分でひとの妹の服着ないでよ……」

江ノ島「いいじゃん。妹ちゃんと仲良くなった証よー!」

江ノ島「一緒にお風呂入ったし!」

苗木「あいつも断れよな……頭痛くなってきたよ」

江ノ島「いい子よねーあの子、お義姉ちゃんって呼んでくれるしさー!」

苗木「仲良くっていうか洗脳しようとしてない!?」


江ノ島「というかさ、なんで今日アタシを連れてくることにしたわけ?」

苗木「……キミ熱出した時に言ってたでしょ?ボクの家族に会いに行きたいって」

苗木「……嫌だった?」

江ノ島「全然。というか中々面白いサプライズだったよ」

江ノ島「苗木は『クリスマスイブは恋人と二人きりで過ごさなきゃ』って幻想に取り付かれてると思ってたし」

苗木「この通りうちはクリスマスは家族でパーティーするからさ、キミを歓迎するのに丁度いいと思ったんだ」

江ノ島「ふーん……それでアタシを連れてきたわけね」



江ノ島「家族殺されるかもしれないのに」



苗木「……」


苗木「させないって言ってるでしょ、いつも」

江ノ島「隙だらけだったけど?」

苗木「キミのことは予想できるから、大丈夫だって確信があったんだ。それに……」

江ノ島「それに?」



苗木「今日はクリスマスイブだから」



江ノ島「……ぷ」

江ノ島「あっははははは何よそれーっ!」


江ノ島「はははは、はぁ……はぁ……おかしー……」


苗木「……」


江ノ島「……」


苗木「……」

江ノ島「……」


苗木「……あの、江ノ島さん?」
江ノ島「苗木」


苗木「……」

苗木「……何?」



江ノ島「せっかくの聖夜なんだからさ」


苗木「……うん」




江ノ島「……手繋いで寝よっか!」 




苗木「えっ……?」

江ノ島「ダメ?」

苗木「いや、いいけど……」

江ノ島「何よー?もしかして苗木、なんか期待しちゃってた?」

苗木「いや!そんなことは……!」

江ノ島「うぷぷ聖夜が初夜になんなくて残念でしたー!苗木のえっちー!」

苗木「違うってば!」


江ノ島「そりゃアタシも苗木と熱い夜を過ごしたいんだけどもさー」

江ノ島「飽きとはまた違う……満腹?今はお腹いっぱいなのよねー」

苗木「満腹……?」

江ノ島「そ。希望性絶望でさ」

苗木「……」


江ノ島「だーかーら!」グイッ

苗木「っ!?」


ドサッ


苗木「っ……江ノ島さ」


チュッ……


苗木「んむっ!?」



江ノ島「っぷは……これで勘弁してあげる!」フフン



苗木「……」

苗木「……うん」フフッ


江ノ島「んー?何よその笑いは!」

苗木「いや……ごめん」

苗木「江ノ島さん、かわいいなって思って」ハハ

江ノ島「当然よー!アタシはいつでもかわいい!」


苗木「……かわいいじゃ済まない時が結構あるけどね」

江ノ島「スーパーかわいいもんね!」

苗木「そういうことじゃないよ……」

江ノ島「じゃあどういうことかなー?」

苗木「……もう、いいや」


苗木「江ノ島さんはスーパーかわいいよ」ギュ


江ノ島「苗木の手、あったかい」ギュ


苗木「……キミの手は冷たいよ」


江ノ島「イヤ?」


苗木「……」

苗木「いやじゃない」



江ノ島「ぷくく……あっはははは!」


江ノ島「はぁ、はぁーっ……もうダメ寝よ寝よ!布団布団……!」

バサ

苗木「……あ、電気」モゾ

江ノ島「てやっ」ポイッ

ボンッ パチッ

苗木「……ティッシュ箱投げつけて電気消す人初めて見たよ」

江ノ島「精進したまえ苗木クン」

苗木「もう……」


江ノ島「ふぁああ……おやすみ苗木」

苗木「おやすみ、江ノ島さん」



……



苗木(……江ノ島さんは本当に何もしてこなかった)


苗木(ただ静かに、何事もなく聖夜は更けていき、ボクらは眠りに落ちていった)



苗木(絶望と希望の温度差が縮まるのを、手に感じながら)



○●


苗木「……ん……」

苗木「……さむ……」

苗木「……」


苗木「……さむ!?」バッ


苗木「!!?」

苗木(な、なんでパンツ一丁なんだボク!?)


苗木「江ノ島さんっ!!」


江ノ島「んー?何よ……」ファーア……


苗木「っ!!」プイッ


苗木「え、江ノ島さんなんでズボン履いてないの!?」

江ノ島「知らないわよ……きっと暑かったのよ」ファァ

苗木「わけわかんないよ!」


江ノ島「じゃあ【苗木が襲ってきた】んでしょ。ほら、苗木の方が涼しそうなかっこしてるし」

苗木「それは違うよ!!」


江ノ島「性なる夜だったし」

苗木「わけわかんないよ!!」


苗木「江ノ島さん……こんなことして何が……」


ガチャ


こまる「お兄ちゃんお義姉ちゃん!朝だよクリスマスだよ!起きて起きてー!」バーン



苗木「……」

江ノ島「zzz」


こまる「……」



こまる「あっ、ふーん……」




こまる「そうだよね恋人だもんねクリスマスだもんねお兄ちゃんだって男だもんねお義姉ちゃんだって女だもんねむしろお兄ちゃんとお義姉ちゃんの愛の巣に軽々しく踏み込むのが悪いよねなんてバカなんだろう苗木こまる……」ソロソロ


苗木「こ、こまる……」

こまる「ごめんなさぁぁぁぁい!!」


バタンッ バタバタバタ……


苗木「……」

江ノ島「zzz……」



江ノ島「……むにゃ……うぷぷ……」



EXTRA CASE4 閉廷

絶望姉妹おめでとうございました。
苗木妹は絶望少女出るまで書かない予定でしたが、妹だけでなくおかしな苗木家を書いてしまいました。

次回は多分変速回です。

サンタクロースさんに苗ノ島をお願いして寝ます。


プルルルルル

プルルルルル


「んぁ……?」


プルルルルル

プルルルルル


「誰だよこんな時間に……」


プルルルルル

プルルルルル


「あーもう……」


プルルルルル

ピッ



日向「……もしもし?」



Φ


日向「眠い……」


日向(昨日長電話に付き合ったせいで睡眠時間が……クソ、恨むぞ左右田)

日向(まあでも今日は珍しく放課後に予定ないし、ゆっくり休むとするか)

日向「寮に直帰、と……ん?」


舞園「あ!日向さん!」


日向「舞園!?なんでこんなところに」

舞園「日向さんに用がありまして……会いに来ちゃいました!」

日向「用……?何の用で会いに来ちゃったんだよ」

日向「あ!この前撮ったダンスにおかしなとこでもあったか?」

舞園「いえ、この前の日向さんは完璧でしたよ!もういつでもデビュー出来るんじゃないですか?」

日向「いやデビューはしないけど……超高校級のアイドルにそう言われるとお世辞でも嬉しいな」

日向「で?用ってなんだよ」

舞園「ここじゃ難なので……場所を変えませんか?」

日向(嫌な予感がする……)

日向「……解った。行こう」


Φ


喫茶店



舞園「略奪愛ってどう思います?」
日向「やめとけ」



舞園「やだ日向さん、早いですよ?否定が」

日向「やめとけって……」ガタ

舞園「人の話は最後まで聞きましょう?」

日向「……」


日向「話って……苗木のことだろどうせ」

舞園「そうですよね。日向さんも私と苗木君がお似合いだと思いますよね?」

日向「そんなこと言ってねえよ!」

舞園「あれ?私の話イコール苗木君のことだと結びつくってことはそういうことなんじゃないんですか?」

日向「どういうことだよ!どんな思考回路してんだよ!」


舞園「ぶっちゃけ苗木君には清楚な女の子が似合うと思いませんか?」

日向「自分で清楚な女の子とか言うなよ」

日向「というか江ノ島が清楚じゃないって言ってるみたいで感じ悪いぞ」

舞園「そう聞こえるのは日向さんがそう思ってるからなんじゃないですか?」

日向「いや確かに江ノ島は清楚って感じとは違うけどさ……それを売りにしてる奴でもないし。あいつ」

舞園「そうですね。アイドルっぽくもあり、女優さんっぽくもあり、芸人さんっぽくもあり……」


舞園「総合すると魔女ですね」

日向「アイドル、女優、芸人以外に何がぶち込まれたのか教えてくれ」


日向「アイドルといえば……お前全然変装らしい変装してないけど大丈夫なのかよ?」

舞園「大丈夫ですよ。オーラの放出を絶ってますから。今のところ私はパンピーさん以下の存在感のはずです」

日向「オーラの放出ってお前一体何者だよ!」

舞園「エスパーです」

日向「……」

舞園「エスパーです」カッ

日向「解った解った!解ったから目見開いて凝視すんのやめろ!怖い!」

日向(セレスかよ……!)


舞園「面白いですね、日向さんって」クスクス

日向「お前なぁ……おちょくるだけなら帰るぞ」

舞園「まあまあ……いずれ日向さんにも教えてあげますから。オーラの操り方」

日向「それ、アイドルの技術なのかよ?」

舞園「エスパーです」

日向「そうか……」


舞園「話を戻しますけど」

日向「そうしてくれ」


舞園「ええと、日向さんが私の略奪愛に協力してくれるということで……」

日向「お前にとって話を戻すってのは過去を改竄するってことなのか?舞園」


舞園「まあそういうことにしておきましょうよ」マアマア

日向「流されるか!なんでお前の略奪愛の片棒担がされることになってんだよ!」

舞園「やだ日向さん片棒担ぐだなんて……まるで悪いことするみたいでドキドキしちゃうじゃないですか!」

日向「悪いことなんだよ!恋人かっさらうのは!」

舞園「仕方ありませんね。それも愛ですから!」

日向「頼むから昼ドラに俺を巻き込むのはやめてくれー」

舞園「残念ながら財布のステーキやタワシのコロッケは私の得意料理ではないので……」

日向「何が残念なんだ何が」


舞園「それでどうしましょうか?江ノ島さん手強いんですよね」

日向「何勝手に話進めてんだよ!」

舞園「ああ見えて隙が全然無いんですよ」

日向「……」

日向「……隙だらけに見えるけどな」

舞園「乗ってきましたね日向さん。そして今いやらしいことを考えましたね」

日向「考えてねーよ!」

舞園「あの胸元とか短いスカートとか思い浮かべましたよね?エスパーだから解ります」

日向「なあ、お前は一体どうしたいんだ?俺は一体どうしたらいいんだ?」



舞園「話を戻しますけど」

日向「ちゃんと戻せよ?絶対だぞ」


舞園「日向さんがいやらしいことを考えていたせいで脱線したので話を戻しますけど」

日向「なんでわざわざ釘を刺すんだよ!」


舞園「そこで日向さんが江ノ島さんを落とす作戦なんですが……」

日向「舞園ー、戻ってない戻ってない。聞いてねーよそんな話は!」


舞園「なんですか日向さん。もしかして居眠りしてたんですか?仕方がないんだからもうっ」コラッ

日向「授業で板書写し損なった奴みたいに扱うのやめろ!その幻の授業内容を知ってんのはお前だけなんだよ!」

舞園「江ノ島さんはドMでドSなので……色々あれしてください。鞭とか」

日向「舞園ー。舞園頼む説明してくれー。俺が居眠りしてた授業の」

舞園「なんですか日向さん!やっぱり居眠りしてたんですか?仕方がないんだからもうっ!」メッ

日向(こいつのこのキャラ底浅いな)


舞園「苗木君と江ノ島さんを引き離すために日向君が江ノ島さんとくっついちゃえ作戦ですよ!」

日向「くっついちゃえじゃねーよ!俺の意思は無視かよ!」

舞園「いいじゃないですか。いやらしいことを考えるくらいには異性として見てるってことですよ」

日向「その前提が間違ってるんだよ!」

舞園「好きなんでしょう江ノ島さんがー?私知ってますよー?」

日向「小学生レベルなんだよ!煽り方が!」

舞園「好きなんですよ日向さんは江ノ島さんが。日向さんは江ノ島さんが好きなんです。日向さんは江ノ島さんが好き日向さん江ノ島さん好き……」

日向「……俺は……江ノ島が……?」ボー



日向「やめろ……!」グニッ

舞園「ごめんなひゃいほっへひゃいひゃいでふ……!」


日向「ったく……!」パッ

舞園「日向さん段々怖いもの知らずになってきましたね。その意気です!」ヒリヒリ

日向「どの意気だ!やらないぞそのくっついちゃえ作戦は!」

舞園「ダメですか?」

日向「ダメだろ。あらゆる意味で」

舞園「理由を聞きましょうか」フゥ

日向「なんでちょっと偉そうなんだよ……」


日向「俺は江ノ島のこと好きなわけじゃない。そもそも成功しない。以上。そんだけだ。終わり」

舞園「……」



舞園「私は終里さんじゃありませんけど……大丈夫ですか?日向さん」

日向「大丈夫か問いたいのはこっちだ!お前大丈夫かホント!」


舞園「まあ確かにくっついちゃえ作戦は望み薄かもしれませんね。日向さんには荷が重いですね」

日向(こいつに言われるとむかつくな……)

舞園「となると……」

日向「江ノ島に姑息な手を使おうとしたって適いっこないっての。それより自分を苗木にアピールする方向でいけよ。アイドルだろ?」

舞園「普段それがどれだけ虚しく空振りに終わっているか知ってますか……?」ドヨン

日向(うわ、アイドルが出していいオーラじゃない)


日向「それでも……お前は苗木のことが好きで頑張ってたんだろ?今までの自分を今更裏切るのか?」

舞園「今までの自分……」

日向「トップアイドル舞園さやかとしてぶつかるのがお前のベストだろ。そのベストを尽くさなきゃどんな未来であれ後悔するんじゃないのか?」

舞園「ベストを尽くさなきゃ後悔する……」

舞園「そうですよね!未来で後悔しないように……ベストを尽くします!」

舞園「大体、私清純派アイドルですしね!」

日向「自分で清純派とか言うなよ」ハハ……


舞園「というわけでどんなアピールならぐっと来るか考えるのを手伝ってください」

日向「長かったな。ここに来るまで」

舞園「でも実際行き詰まってますよ……?苗木君が江ノ島さんと付き合い出す前までは脈ありな感じだったのに……」

日向「まあ付き合うとなれば一途になるだろうしな、あいつなら」

舞園「苗木君は誠実ですからね」

日向「だよな……」

舞園「はい……」

日向「……」

舞園「……」



舞園「どうするんですかぁっ!」

日向「お、落ち着けって……」


舞園「江ノ島さんは滅茶苦茶だし苗木君は誠実だし最悪のカップルですよ!」

日向(ベストカップルなんじゃ……)

舞園「うう……ベストカップルじゃないですか……」

日向(お前もそう思うのかよ)


舞園「と、とにかく何か!アピール手段思いつきませんか?」

日向「うーん……そうだ。舞園はアイドルなわけだしさ、自分のライブの招待券とか送ったらどうだ?」


舞園「それはダメですね……」

日向「な、なんでだよ?」


舞園「苗木君は私のファンだからです」


日向「ファン……?」

舞園「はい」

日向「ならなおのこといい手だと思うんだけどな……というかファンなら簡単に落とせるんじゃないか?」

舞園「違うんですよ……苗木君はあくまでファンなんです」


舞園「アイドルの私を応援してくれるのであって、恋愛感情とはズレた感情を抱いてるんです」

日向「ファンってのはアイドルに恋してるようなもんだと思ってたけど違うんだな」

舞園「微妙に違うんですよ……。だからさっき日向さんが提案したやり方をすれば苗木君はただのファンとしてライブに来るだけです」

日向「参ったな……アイドルとしての立場は使わずアイドルとしての魅力を生かすのか……」


舞園「やっぱり……多少強引にでもデートに……」

日向「デートとか言って誘ったら苗木なら絶対行かないだろうな」

舞園「はい。ですから別の口実をでっち上げます」


日向「遊びに誘うとかじゃ駄目なのか?」

舞園「二人きりで遊びに行こうと誘うとやんわり断られます」

日向「さすが、苗木……」

舞園「一緒に買い物に行ったくらいですね……最近は」

日向「いいじゃないか。買い物デートってのもあるし」

舞園「苗木君は真面目に買い物に付き合ってくれましたよ。それで、終わりです」

日向「ちょっと待て!なんか、なかったのか!?」

舞園「何もありませんよ何も……」フフフフフ

日向(段々本気で可哀想になってきたな……)


舞園「それで、どんなアピールならぐっと来るでしょうか?」

日向「答えづらいな……」

舞園「頼みますよ!助けると思って」

日向「うーん……場面を絞ってくれよ。急に言われても思いつかない」

舞園「じゃあ……授業中は?」

日向「授業中……?普通に授業に集中してるから女子なんて見てないぞ?」

舞園「ほんとですか?」ジイッ

日向「なんだその懐疑の目は」


舞園「前の席の女子のうなじを食い入るように見つめてるんじゃないですか?」

日向「俺がいつうなじフェチになったんだよ!」

舞園「男性を落とすなら涙とうなじと言いますからね」

日向「聞いたことねーよそんな言葉!」

日向「そう思うんならポニーテールなりツインテールなりしてみりゃいいだろ……」

舞園「……!」

日向(それだ!みたいな顔してる……)


舞園「日向さん!ツインテールですよツインテール!」

日向「はぁ……?」

舞園「ほら、江ノ島さんツインテールじゃないですか!」

日向「まあそうだけど……」

舞園「えーと……輪ゴム輪ゴム……」ゴソゴソ

日向「ヘアゴム持ってないのかよ?」

舞園「はい……私いつも髪も性格も真っ直ぐですから……あった!」


日向「輪ゴムも普通持ち歩かないけどな」

舞園「クラスで輪ゴム戦争が勃発しまして……」ググッ パチ

日向(小学校かよ……)

日向「……誰が勝ったんだ?」

舞園「女子です」グッ パチ

日向「……」


舞園「……できました!どうですか?」

日向「おお!結構似合ってるぞ」

日向(あざとさが半端じゃないけどな……)

舞園「そうですか?これなら苗木君のハートをズッキュンできるでしょうか?」ズッキュン

日向(なんでキャラまであざとくなってるんだよ!)

日向「どうなるかは解らないけど、次苗木を誘った時にその髪型で行けばインパクトあると思うぞ」

舞園「そうですね!やってみます!」

日向「おう、がんばれよ!」

舞園「それで、別の場面ですけれど……」

日向「まだ続けるのかよ!」


Φ


舞園「ありがとうございました!今日考えた作戦でがんばってみますね!」ニコニコ

日向「ああ、絶対に俺の名前は出さないでくれよな!」

舞園「やたらそこ念押ししますね」

日向「当たり前だろ……円満なカップルの邪魔する手伝いしたことになるんだから……」

日向(江ノ島に目付けられたら嫌だな……何されるか解らない……)

舞園「どうせ私はお邪魔虫ですよー……」

日向(……でも、舞園に協力したいと思ったのも事実だし……共謀者として腹くくるしかないか……)


日向「今更だけど、なんで俺なんかに相談したんだ?苗木と会うことあんまりないぞ俺」

舞園「うーん、なんででしょうね……?」


舞園「苗木君以外周りにまともな男子がいないからでしょうか……」ハハ……

日向「あぁー……」


舞園「……でも、日向さんに相談してよかったです。私ほんとに感謝してますよ?」

日向「大したこと考えられなかったけどな」

舞園「そんなことないですよ!男はツインテールで絡め取れという言葉には感銘を受けました!」

日向「してないぞ、そんな狂った表現は」


……


舞園「じゃ、ここで……また次のレッスンでお会いしましょう!」クルッ

日向「ああ、またな」


舞園「日向さんの恋、応援しますよ!」

日向「え……?」


舞園「では!」タッ


日向「……」

日向「……俺の恋……?」

日向「……」


日向「ダメだ、眠い……。帰って一眠りしよう……」


「あー!」


日向「ん?」


朝日奈「日向先輩だー!おっす!」


日向「朝日奈……」

日向(舞園がいなくなってすぐエンカウントか……)

朝日奈「あれ?なんか疲れてる?」

日向「ああ、ちょっとな」

朝日奈「ダメだよ元気出していかないと!」

日向「お前はいつも元気だな」

日向(バイタリティの差がきつい……)


朝日奈「私は元気の秘訣を知ってるもんねー!何か解る?」フフン

日向「……ドーナツだろ?」

朝日奈「ええっ!?なんで解ったの!?」

日向「いっつもドーナツドーナツ言ってるだろお前!」

朝日奈「普段の言動から推理するとはやりますなー!」

日向「あのなぁ……」


朝日奈「日向先輩もあの甘くてふわっふわな幸せを味わえば元気出るよ!」

日向「いや俺はただの寝不足と精神的疲労で」

朝日奈「私おいしいドーナツ屋知ってるんだー!これから丁度行くとこだったから日向先輩も行こうよ!」

日向「あのな朝日奈」

朝日奈「ドーナツ屋まで競争ね!よーい、どん!」ダッ

日向「おい、待っ……!俺そのドーナツ屋知らな……待てってば!」ダッ


Φ


日向「うう……」トボトボ


日向「気持ち悪い……」


日向(人の口にドーナツ詰め込むなよなぁ……)ウッ

日向(早く帰ろう……!)



戦刃「……あ」

日向「あ」


戦刃「……日向君……こんにちは」

日向「お、おう……戦刃。何してるんだ?」

戦刃「暇だったから……ジャグリングしてた」

日向(暇だからジャグリングって……いやそれより……)

日向「お、お前が持ってるそれ……!」


戦刃「グルカナイフだけど……教えなかったっけ……?」


日向(ひええええ!)


日向「指がなくなるぞ!そんなもんで遊んでたら!」

戦刃「……」



戦刃「……それ、どんなマジック……?」

日向「ちょん切れるってことだよ!指が!」


戦刃「……?」



戦刃「こんなことで指は切れないよ……?……もしかして日向君ってハサミとか使う時毎回指を切るの……?」

日向「……そうだなすまん。俺が間違ってた」


戦刃「……」

戦刃「日向君……もしかして……」

日向「まあ、万が一ってことがあるからな。俺も一応心配して」



戦刃「【やってみたかった】……?これ……」

日向「……」プツッ



日向「それは違うぞ!!」ドカーン



Φ


プルルルルル

プルルルルル


日向「……」


プルルルルル

プルルルルル


日向「……」


プルルルルル

プルルルルル


日向「……」


プルルルルル

ピッ

日向「……もしもし?」

日向「……桑田か。ああ……ああ……そうか、相談か」


日向「今度にしてくれ頼む悪いなそれじゃ」


プツッ


日向「はぁ……」


プルルルルル

プルルルルル


日向「またかよ!」


ピッ


日向「もしもし?だから相談なら今度に……」



日向「え?あ、七海か?」



日向「い、いや別に?全然」


日向「……今からか?どのサーバーだ?」


日向「……解った。ああ、大丈夫だ」



日向「……すぐインするから待っててくれ」



EXTRA CASE5 閉廷

別の話が全然書き上がる気配がなくこの話書いたため遅れました。すみません。

次回は未定です。決まったら予告だけしにくるかもしれません。

七海は此処では実在してるんだっけ?
おつおつ。

>>289
このSSでは七海さんは不二咲・左右田・松田製のアンドロイドです。
前のSSのCASE6で触れてます。

復活していたんですね
明日か明後日の夜に上げます
誰も希望していないでしょうが葉隠クンのお話です



葉隠「はぁー……」


苗木「……」


葉隠「はぁぁぁぁぁ……」


苗木「……」


葉隠「はあぁぁぁぁぁぁ……」


苗木「……どうしたの?葉隠クン。そんな溜め息吐いて」


葉隠「おー!苗木っち、聞こえてたかー。聞かれちまってたかー!」

苗木(近くであんなわざとらしい大きな溜め息されたらイヤでも聞こえるよ……)

葉隠「や、実はさ……」

苗木(お金絡みのことだろうな……知らんぷりしたかった)

葉隠「俺、今金がねーんだよ……危機的状況だべ」

苗木(やっぱり……)


葉隠「頼む!金貸してくれ!」

苗木「前貸したお金返してくれたらね」

葉隠「は?前……?何の話だ……?」

苗木「……」ガタッ

葉隠「わ、解った解った!解ったべ!今度まとめて返すから!な!」

苗木「……今度っていつ?」

葉隠「え?あー……出世払いで……」

苗木「ええっ!?遅いよ!五年は後じゃない!」


葉隠「頼むこのとーり!」

苗木「嫌だよ!大体、何にそんなにお金が要るの?」


葉隠「掘り出しもんのルーンカードを発見したんだべ!これがすげーのよ!シャーマンの遺骨にルーン文字が刻んであって」


苗木「……さよなら」ガタッ

葉隠「お別れ!?」


苗木「大体葉隠クンの占いにそんなオカルトグッズ要らないじゃないか!」

葉隠「オカルトとは失礼だべ!いいか苗木っち、ルーンにはな」
苗木「なんでもいいけど!その蒐集癖どうにかした方がいいよ」


葉隠「うぐぐ……でもコレだけはどうしても欲しいんだべ……」

苗木「だったら占いの仕事して稼いで買いなよ」

葉隠「それができたらそうしてんべ!けども、ここんとこ客足がめっきり減っちまって……」


苗木「三割しか当たらないのに値段が法外だからだよ……」

葉隠「三割しかってなんだべ!三割も当たんだぞ!三割打者って考えりゃ相当なもんだべ!?」



江ノ島「じゃあさ!」ヒョコッ



苗木「わっ!?」

葉隠「うおっ!?」

江ノ島「きゃっ!?」キャピルン



苗木「……なんで江ノ島さんが驚いてんの……」

江ノ島「いやホラ、アタシったら空気読めるもんだからー!読めちゃう女だからさぁー!」

苗木「読めても読まないでしょいつも!」


葉隠「急に現れんのやめろよな!心臓に悪いべ……!」

江ノ島「光あるところ影あり、希望あるところ絶望あり、苗木あるところ江ノ島あり……ってね!」バチコーン☆


葉隠「……で?なんだ?『じゃあ』って」

江ノ島「話を伺ったところ経営難でお困りのようですね」クイッ

葉隠「経営難っつーか……まあ」

江ノ島「そこで私から一つ提案が」

葉隠「な、なんだべ!?言っとくけど江ノ島っちからは金は借りんぞ!?」

苗木(一応借りたらまずい相手は解ってるんだ……)


江ノ島「誰がオメェに金なんか貸すかよ!」ズギャーン

江ノ島「ヤギのエサにした方がましだっつのバァーカ!」

葉隠「だったらなんだべ……」


江ノ島「みんなの葉隠クンの評価ってぇー……“クズ”じゃん?」キャピルン

葉隠「だったらなんだべ!」

苗木(葉隠クン半泣きだ……)


江ノ島「そこでさ……そんなマリアナ海溝の底より低い評価にある葉隠クンが集客をするにはそれなりのことをしなくてはならないと思うんだよね」ゴゴゴゴゴ

苗木「それなりのこと?」


江ノ島「そっ!つまり……」



江ノ島「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!来る者拒まず片っ端から占いまくる超高校級の占いサービス!康比呂の部屋・希望ヶ峰の泉~アンタ死ぬわよ!~はじまりはじまりー!」



葉隠「……」

葉隠「……は?」


江ノ島「ありゃ?解んない?」

葉隠「全然解らんぞ……?具体的に何をすりゃいいんだ?」

苗木「まさか……」

江ノ島「苗木クンにはボクの言いたいことが解ったみたいだね!やっぱコレ、以心伝心ってやつかしらーん?」ウププ


苗木「……タダで占うってこと?」


葉隠「はぁ!?」

江ノ島「ピンポンピンポーン!いえーい苗木、ハイタッチハイタッチ!」ヘイヘイ

葉隠「いや何言ってんだ!?金ねーのに金取らずに占ってどーすんだべ!アンタ死ぬわよって俺が死ぬってことか!?」


江ノ島「だからさぁー……アンタのマントル層より下に位置する評価でお客さんを呼び込むにはさ、無料ってふれ込みでとにかく占いまくるしかないんだって。期間限定で」

江ノ島「そしたらその内の三割はリピーターになってくれるかもでしょ?」


葉隠「け、けど……だったら、値段下げれば……」

江ノ島「ダメダメ、タダじゃないと。とにかく一人でも多く占うんだって。当たんのは三割ぽっちなんだから」

江ノ島「それに、アンタに一円も払いたくないって人間がどんだけいると思ってんの?」

苗木(酷い言われようだ……)


葉隠「せ、せめて一万ぐらい取ってもいいべ……?」

江ノ島「はぁー?んなこと言ってるとマジにアンタ野垂れ死ぬわよ?ゼロよゼロ」

葉隠「せ、千円……」

江ノ島「ゼロ」

葉隠「ひゃく」

江ノ島「ゼロ」

葉隠「じゅ」

江ノ島「ゼロ」

葉隠「い」
江ノ島「ゼロ」


葉隠「解ったべ!一日だ!一日だけその、康比呂のなんとかってのやったろうじゃねーか!完全た、たたただでっ……!」

苗木(タダって言葉口にするのも嫌なんだ……)

江ノ島「よろしい……!よく言ったわ人間!占い部屋は私様が手ずから用意して差し上げましょう……!」ドドン

苗木「……」


○●


康比呂の部屋(以下略)


葉隠「流石は江ノ島っち……!けっこーいい感じじゃねーか!元が教室って解んねーレベルだべ!」

葉隠「さあ、がんばんべー!」


……


……


葉隠「Zzz」グゴー


ガララッ



澪田「こんちはーっす!」



葉隠「!?っうおっ客っ!?」バタバタ

澪田「……今寝てたっすよね?もしかして閑古鳥ちゃんが鳴いてんすか?鳴きまくってんすか?」


葉隠「んなわけねーべ!もう、お客さんだらけでうっはうはだべ!一銭も入らんけど!」

澪田「っすよねー!超高校級の占い師がタダで占うってのにお客さんが来ないわけねーっすよね!」

葉隠「モチロンだべ!さっきはちっと少ない時間で鋭気を養ってただけだべ!」ハハハ


葉隠「……んで?澪田先輩は何占って欲しいんだ?」

澪田「ありゃ?わかんねーっすか?」

葉隠「や、かっこもいつもと変わらんし全然解らん」

澪田「なんか想像と違うっすねー……」ウーン

澪田「占い師ならホラ、『アナタ、人間関係でお悩みですね?』『きゃー、なんでわかったんすか!?』ってな感じでお客さんの悩みを当てにいかないと」


葉隠「あー……澪田先輩は人間関係でお悩みなんか?」


澪田「やだなー康比呂ちゃん。唯吹に悩みなんてあるわけないじゃないっすかー!」エヘヘ

葉隠「そっかそっか!うし!帰ってくれ」


澪田「!?」ガーン

葉隠「何、驚愕してんだ!マジ何しに来たんだオメー!」

澪田「遊びに来たんすよ!」ムッキー

葉隠「なんでキレてんだ!こっちがキレたいっての!ここはお遊戯部屋じゃねーんだよ!」


澪田「あっ、そうだ!」

葉隠「ん?」

澪田「あ、和一ちゃんのことじゃないっすよ?今のはふと思いついたことがあった時の『そうだ』で……」フフフ

葉隠「わーってるっての!で、なんだべ?」


澪田「唯吹も占ってほしいことあったっす!」


葉隠「今思いついたんだろ」

澪田「さっすが唯吹!」エッヘン

葉隠(来る前に考えとけっての……)


葉隠(にしても……)

葉隠「まともな相談とは思えん……」ボソ

澪田「ん?なんか言ったっすか?」

葉隠「……なんでもねえべ」


澪田「唯吹がまともな考え事を持ち得ぬクレイジーサイコパスとは心外っす!」

葉隠「聞こえてんじゃねーか!」


澪田「唯吹は耳超良いっすからね。聞き逃すわけねーっす」

葉隠「『なんか言ったっすか』はなんだったんだぁ!?」

澪田「最近のトレンドじゃないすかー!言ってみたかっただけっす!」


澪田「……ん?あれ?何の話してたんだっけ?」ハテ

葉隠(頭は悪そうだべこの先輩……)


澪田「……そうだ!」

澪田「あ、今の『そうだ』は」

葉隠「解った解った解ったべ!マイブームなんか!?それ!」


葉隠「……んで?なんだべ?」

澪田「近々の唯吹のライブがあるんすけどー……」

葉隠「そのライブをどんなんにしたらええか占って欲しいんか?」

澪田「ライブパフォーマンスはちゃーんと唯吹が考えるっすよ!プロっすから!」

葉隠「……じゃあなんだべ……?」

澪田「やっぱライブって……生での表現じゃないっすか?そこまでの経験がもろに反映されるわけっすよ!」


葉隠「んん……?よう解らんべ……」

澪田「んー、まあ、ともかくっすよ。ライブを爆発的なものにするためにも、なんと言うか、こう……劇的な体験がしたいわけっすよ!」

葉隠「劇的な体験なぁ……」

澪田「そういうミラクルを体験するにはどうしたらいいっすかね?」

葉隠「……占ってみっか」

澪田「よろしくっすー!」




葉隠「ぐぐぐ……!」

澪田「およ?」



葉隠「うぐぐ……ぐおおおおおおお!」ウガァァァ

澪田「ヒイイッ!」ビクゥ



葉隠「……来たべ!!」ペカーン

澪田「き、来たってなんすか!?悪霊か何かっすか!?」


葉隠「澪田先輩……六日後の午前二時に、この棟の屋上に来るべ!」フフン

澪田「ココの屋上に?一体どんな体験ができるんすか?まっ、まさかUFO!?」

葉隠「そんな生易しいもんじゃねえべ……!」



葉隠「そこに飛来するんは……コウモリ男だべ!」


澪田「ぎょええええ!?コッココココウモリ男ぉぉぉ!?」ガクガク


葉隠「だべ!それも一人じゃねえぞ!四人来るべ!」

澪田「四人も来るんすか!?バンド組めるじゃないっすかぁ!?」

葉隠「澪田先輩が屋上に楽器を揃えとけば一緒に演奏できるべ!」

澪田「コウモリ男バンドwith唯吹……!やべーす。鼻血出そーっす……!」

葉隠「コウモリ男達との衝撃的音楽体験を経た澪田先輩は音楽史に革命を起こすこと間違いナシだべ!」

澪田「うっひゃあああ!こうしちゃいられねーっす!コウモリ男さん達を迎える準備しないと!」ガタッ


澪田「六日後の午前二時っすよね!?」

葉隠「ん?あれ……?えーと……や、五日後の午前三時だべ」

澪田「あれれ?そうだったっすか?メモメモ……」ゴソゴソ

葉隠「慌て過ぎだべ」ハハハ


澪田「……それじゃ康比呂ちゃんもがんばるっす!」ガラッ

葉隠「グッドラックだべ!」


バダンッ ダダダダダ……


葉隠「……」


葉隠「や、ちっとも羨ましくねえぞ。ほんとんとこ言うとUFOのがすげーハズだべ、うん」


○●


葉隠「……」ピコピコ


ガララッ


葉隠「!」ササッ



辺古山「失礼する」

九頭龍「ジャマすんぞ」



葉隠「お、おー!九頭龍先輩に辺古山先輩!」

九頭龍「……テメー今ゲームやってたろ?」


葉隠「い、いやー?なんのことだべ?」

九頭龍「コイツすっとぼけやがって……!客がいないならいないで堂々としてりゃいいのによ」

葉隠「い、いるべ!断続的にドバーっと来っから……今丁度その谷間なだけだって!」


九頭龍「テメーな」

辺古山「ぼっちゃん」


九頭龍「……解ったよ。本題に入るぜ」

葉隠「本題?」

九頭龍「占い師だろうが。テメーはよ」



葉隠「ちょっ、ちょちょちょ、ちょっと待ってほしいべ!」


葉隠「占うっつっても、俺はその、お薬を横流ししてんのがどいつかとか、どこそこの組のシマが狙い目だとか……そういうんは占えんべ!」

葉隠「あと占いが当たんなくても指だの腹だの切ったりできねーぞ!当社は責任は負いかねますってやつだもんでぇ!」

九頭龍「堅気に指ツメさせたり腹捌かせたりするかよ……。やりてーってんなら別だけどな」

葉隠「だからやらねーって!」


辺古山「ぼっちゃん、また話が」

九頭龍「……テメーに占って欲しいのは、オレの妹について、だ」

葉隠「妹……?九頭龍先輩、妹いたんか?」

九頭龍「ああ。うるせーのが一人な」


九頭龍「“超高校級の妹”だ」


葉隠「な、なんだそりゃ?」


九頭龍「だよなぁ……。ま、それぐらい完璧なまでに妹な妹なんだが」

九頭龍「……そいつがな、“超高校級の妹”として希望ヶ峰に選ばれたのはマジなんだ」

葉隠「……はー、希望ヶ峰は相変わらずわけわから……ん?」

葉隠「ってことは77期か78期……だよな?78期は俺らんクラスだし、77期にそんな超高校級がいたんか?聞いたことねーぞ?」

葉隠「あ、でも、九頭龍先輩の更に先輩って線も……」


九頭龍「どれもハズレだな」

辺古山「お嬢は希望ヶ峰入学を保留なさったんだ」


葉隠「……なんでだ?」


九頭龍「嫌な予感がするから、だとさ」


葉隠「嫌な予感って……そんだけでか?」

九頭龍「訳解んねえだろ?けど実際あいつの勘はよく当たるんだよ」

葉隠「けども、勘で入学を保留って……希望ヶ峰だぞ?普通多少の不安があっても即入学だべ」

九頭龍「まあな。希望ヶ峰に行きゃそれだけで将来が約束されたようなもんだしな」

九頭龍「けど、あいつは……結局入学を蹴るつもりらしいんだ」

葉隠「はあ!?どんだけ嫌な予感してんだよ……」


九頭龍「と、まあそういうわけでだ……」


九頭龍「ペコが心配してる」

辺古山「ぼっちゃんの憂慮を察したまでですよ」


九頭龍「おま……!オレはあいつのことなんか気にしてねーよ!好きに……生きりゃいい」

辺古山「片意地ばかり張っていると損をしますよ」

九頭龍「意地なんか張ってねーよ!」

九頭龍「……」

九頭龍「まあ、ただ……こんなこと、オレが望むのもおこがましいかもしんねーが……」

九頭龍「できることなら、このままあいつには堅気の道を歩んでほしいと思ってる」

九頭龍「希望ヶ峰を蹴るってんなら、超高校級の妹って才能に縛られずに済むだろうしな」


九頭龍「超高校級の妹って才能を背負うっつーことはオレに縛られることでもあるしよ……」

辺古山「しかし普通に考えるのならば希望ヶ峰に入ればお嬢の未来は安泰」

葉隠「……要は妹ちゃんの進路相談か?危ねえ話ではないけどもこれはこれでプレッシャー感じるべ……」

九頭龍「別にテメーの占いが希望ヶ峰行きを吉としたところであいつを無理矢理希望ヶ峰に入れさせたりしねーよ」

辺古山「こちらが気をつけるべきことを気をつけるだけだ」

葉隠「……まあ、占ってみるべ」



葉隠「……ふぬっ!」カッ



葉隠「ぬ……ぐ……ぐ……ぐ!」ガクガク

九頭龍「お、おいおい大丈夫か?」


葉隠「…………ぬっ!」ペカーン


辺古山「……」

九頭龍「……」

葉隠「……」


辺古山「……今ので占えたのか……?」

葉隠「ああ……インスピレーションが来たべ」

九頭龍「ほんとかよ……」


葉隠「妹ちゃんは希望ヶ峰に来なけりゃ平穏な未来が待っとると出たべ!いやーよかったよかった!」

辺古山「希望ヶ峰に入学なさったらどうなる?」

葉隠「入学しねーんだろ?じゃあもういいじゃねーか」ハハハ

九頭龍「コイツなんか怪しいぞ……。答えろ。入学したらどうなんだ?」

葉隠「言わんと駄目か……?」

辺古山「早く答えて貰おうか」スチャ

葉隠「解った!解ったから竹刀から手ぇ離して!」ヒィ


葉隠「怒らんで聞いて欲しいんだが……」

九頭龍「なんなんだ一体……!」



葉隠「妹ちゃんは希望ヶ峰に入ったら殺されるべ」



九頭龍「殺……される……?」 

葉隠「ああ……妹ちゃんの勘は当たってたってわけだ」


辺古山「誰に……誰にだ!?」

葉隠「そ、そこまでは解らんべ」

九頭龍「テメー適当こいてんじゃねーだろうな!?」

辺古山「本当にちゃんと占ったのか?」

九頭龍「あいつが殺されるなんてそんな万に一つも」


葉隠「うるせええええええ!」


九頭龍「!?」


葉隠「当たるかどうかは解んねーけどな、占いで出た内容について嘘語ることはねーぞ!俺は!」


葉隠「九頭龍先輩の妹は希望ヶ峰に来ちゃいかん!どのタイミングで入学しても誰かに殺される!これが俺の占いだべ!以上!終わり!」

葉隠「んで……こいつはあくまで占いだべ!当たるかは知らん!その上でどう使うかはオメーら次第だ」


九頭龍「……そうだな。悪かった」

辺古山「済まない。お嬢のこととなると……」

葉隠「ま、ええけど……」


九頭龍「……どっちにしろあいつは希望ヶ峰には来ねえんだ。希望ヶ峰に入ったら、なんて話、どうでもいいわな」

辺古山「ぼっちゃん……本当に認めるのですか?お嬢が希望ヶ峰入学を蹴るのを」

九頭龍「あいつが決めることだろ。オレにナシつける必要ねーっての」


九頭龍「んじゃ、行くわ。この占いは胸に納めとく。ペコ、行くぞ」

辺古山「……申し訳ありませんぼっちゃん。部屋の外で少々お待ち頂けないでしょうか?」

九頭龍「あ?」

辺古山「……実は個人的に占って貰いたいことが」

葉隠「え?」

九頭龍「そうなのか?じゃあ葉隠、よろしく頼むぜ」ガラッ



葉隠「なんだ……?個人的に相談したいことって」

辺古山「それはだな……」



辺古山「ぼっちゃんの身長についてなんだが……」

葉隠「俺でなしに牛乳に相談しろ」


○●


葉隠「牛乳嫌いとか知らねーっての……」


ガララッ……


葉隠「ただのわがままじゃねーか!」ブンッ

ガシャーン


葉隠「うっし、すとらい……ってうおあぁぁぁ!」ズテーン



斑井「……お前今水晶玉でボウリングしてたろ?」



葉隠「あ、ええと……お客様でしょうか……?」

斑井「ああ、お客様だよ」ジロ

葉隠(なんだこの人……!ちっと怖過ぎんだけど!)ビクビク


斑井「そんなビビることねーだろ」

葉隠「いや……知らん顔だからちっとびっくりしただけだべ……」

葉隠「あれ?待てよ……?どっかで……」ジッ


斑井「……」


葉隠「思い出したぞ!希望ヶ峰武闘会で戦刃っちにぶっ飛ばされた斑井って人だべ!」


斑井「……あーそうだよ。あれは俺の実力不足だがな……」

斑井「最近なんかツイてねーんだよ。占い師ならなんとかしろ」


葉隠「つっても占いだかんな……外れることもあっからあしからず」

斑井「百発百中じゃねーのか。お前それでも超高校級かよ」

葉隠「嫌なら帰りゃいいべ!」ワッ

斑井「うわっ……なんで泣いてんだよ」

葉隠「聞き飽きる程聞いた台詞でも心に来る時があんだよ!」


葉隠「ちきしょうめ……!俺の占いがもっと当たりゃあこんなただ働きしなくて済むってのに……!」グヌヌ

斑井「ま、希望ヶ峰武闘会以来俺の“超高校級のボディーガード”の看板も地に落ちたしな……気持ちは解らなくもねー」

葉隠「解ってくれるか先輩!金くれ!」

斑井「金の話じゃねーよプライドの話だ!お前にはなかったみたいだがよぉ!」


葉隠「んだよ……」

斑井「お前……もう、いいからとっとと占えよ」


葉隠「つっても何占やええんだ?『ツイてねー』言われてもどうすりゃいいか解らん」

葉隠「問題をもうちっと具体的にして欲しいべ」


斑井「あー、なんだ……最近兄弟仲がかつてないレベルで悪くてな」

葉隠「それツキ関係ねーじゃんか!」

斑井「まあな」ベー

葉隠「……てか兄弟いんのか?斑井先輩」

斑井「ああ……あ!似てねーのがな?」

葉隠「いや似てる似てないは別にどうでもええけど……どんなことで喧嘩すんだ?」


斑井「例えば兄弟みんな集まってる時に好きな映画は何かって話が始まったとする」

葉隠「なんかいっぱいいるみたいな言い方だな」

斑井「いっぱいいんだよ。似てねーけどな?」

葉隠「そこやたら押すんだな」


斑井「以前は誰が挙げる映画も全員が名作だと賛同してたはずだ」

葉隠「みんな好みが一致してたわけか」


斑井「けど最近になって意見が合わなくなってな……」



(五式「ばーか!四式は頭がいかれてんのか?」)

(三式「やっぱ男ならドンパチやんないとな!『コマンドー』は最高だぜ!」)

(四式「フル装備シュワルツェネッガーを俺に見せるな!あの軍人女に蹴り飛ばされたのを思い出すだろ!」)

(五式「ありゃドンパチやり過ぎだ加減ってもんがあんだろ。『レオン』が一番に決まってる」)

(一式「『ホーム・アローン』こそ真のエンターテイメントだろうが」)

(六式「……『シックス・センス』……」)

(七式「そんな辛気くせーもんのどこがおもしれーんだよ。つーかお前ら洋画ばっか挙げやがって。『七人の侍』見ろ」)

(八式「その七人のって俺がハブられたみたいで不愉快だ。『スパイダーパニック』見てーなー」)

(二式「『プリキュアオールスターズ』」)




斑井「……気付いたらヒートアップして殴り合いの八人デスマッチだ」

葉隠「オメーらアホなんか?」

斑井「昔は『がんばれ!ベアーズ』でまとまってたのによ……!」

葉隠「オメーらアホなんか?」


斑井「ともかく、兄弟の足並みが揃わねーとやべえんだよ。色々と」

葉隠「まあ、いつもいつも殴り合いってのはキツいな……」


葉隠(つうか超高校級のボディーガードと殴りあえる兄弟って……)


斑井「どうすりゃこの状況が好転するか教えてくれ」

葉隠「……占うべ」



葉隠「……ぬっ!」

斑井「ぬ?」



葉隠「ぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬっ…………がぁ!」カッ


斑井「……」


葉隠「解ったべ……!」

斑井「ほんとかよ……?」



葉隠「兄弟でトーナメント戦をやると吉だべ!」


斑井「は?」

葉隠「序列を決めりゃあ喧嘩も起きんくなるべ!」

斑井「そういうのはなー……」

葉隠「定期的にやりゃいつか戦刃っちにリベンジする実戦訓練にもなるべ」

斑井(……)



(「全選手入場!!」)

(「ルールの無いケンカがしたいからボディーガード(用心棒)になったのだ!!プロのケンカを見せてやる!!斑井一式!!」)
×8



斑井「……盛り上がらねー……!」ボソッ


葉隠「ん?」

斑井「なんでもねーよ。つーかそれが占いの結果なのかよ?」

葉隠「まあ……他にもよく解らんもんも見えたけども」

斑井「何が見えたんだ?」


葉隠「なんか、八人に分身した斑井先輩がまとめて戦刃っちにぶちのめされるのが見えたべ」


斑井「……」


葉隠「流石に分身ってのはよう解らんな……」

斑井「……」

葉隠「……斑井先輩?」

斑井「……漏らすなよ?今日のこと全部」


葉隠「そりゃ相談者のプライバシーは当然守るけども……突然なんだべ?」

斑井「いいから……解ったな?」ギロ

葉隠「は、はい!」


斑井「全然関係ねー話だが……俺の好物は、ウニだ。味だけじゃなく、かち割って中身ほじくり出して食う工程も好きでな」ニイッ

葉隠「……」サーッ


斑井「じゃあな」ガララッ


○●


「舞園ちゃんとオレの未来を占ってくれ」

「無だべ」


「こ、この主人公がどうなるか占いなさいよぉ……!」

「小説世界にのめり込み過ぎておかしくなったんか?それオメーの作品だろ?」


「この漫画がいつ連載再開するのか教えてくだされ!」

「作者がゲームに飽きて贔屓球団が優勝したら再開するべ。向こう二十年はねーな」


「ぼくが将来どれほどビッグになってるか占ってくれるかい?」

「ビッグなトンカツになっとるべ」


「これから振る賽の目が半か丁か占って下さい。当たったら百万支払いましょう。外したら百万支払って下さい。よろしくて?」

「よろしくねーわ!相談って形で自分のフィールドに引きずり込むんじゃねーべ!」


「あのう、ここどこですかぁ?あなた誰ですか?」

「こっちが訊きたいべ」


「その不潔な身なりなんとかしたらどうかなー?かっこいいと思ってんのか知らないけどさぁ。あと喋り方も変だし。キャラ付け?滑ってるよウニタワシー」

「あの、いつまで俺は罵倒され続けんだ……?」


「ソニアさんとオレの未来を占ってくれ」

「無だべ」


○●


葉隠「はーっ、つっかれた……やっと閉店だべ」



苗木「お疲れさま、葉隠クン」

江ノ島「お疲れちゃーん」



葉隠「苗木っちに江ノ島っち……俺を労いに来てくれたんか?」 

江ノ島「んなわけないでしょ」

苗木「え?」

葉隠「……意見の相違があるみたいだべ」


江ノ島「まだ店じまいまで三分あんだろぉが!オレらは客だよ客!」ズギャーン

葉隠「ええー……もう勘弁してくれよ!」

苗木「江ノ島さん、片づけに来たんじゃないの?」

江ノ島「せっかくだし占って貰わなきゃ!こーんなステキな部屋用意したのに割に合わないじゃん!」


葉隠「……もういいべ。とっとと終わりにしてえし、はよ占って欲しいこと言えって」

江ノ島「やったー!じゃあじゃあー……んー、どうしよっかなー!どうしよっか苗木!?」

苗木「ボクに訊かなくても……もう何占ってもらうか決まってるんでしょ?それでいいよ」

江ノ島「そう?そんじゃいつかの疑問を解消しよー!」



江ノ島「アタシ達の子どもがどんなか占って!」



葉隠「……もう子づくりに励んでんのかオメーら」

苗木「そ、それは違うよ!単なる疑問だから!」

江ノ島「そんな……!認知してくれるって言ったじゃん苗木っ!」

苗木「そんなこと言ってないよ!」

葉隠「最低過ぎるべ苗木っち……」

苗木「いや、今のはとぼけたわけじゃなくてそんな話自体してないってことで……!」

苗木「というか、子づくりだのなんだのって……まだそういうことはしてないよボクらっ!!」カァァァ

江ノ島「まだ?じゃあしたいの?いつしてくれんの?」ズイッ


苗木「い……いつか」

江ノ島「あー!あー!最悪のお返事しちゃったね苗木ー!その“いつか”、“今”にしてあげよっかー?」

苗木「勘弁してよ!」


葉隠「いい加減にしろオメーら!文字通りの痴話喧嘩繰り広げてんじゃねーぞ!」


苗木「ほ、ほら、占ってもらうんでしょ?時間なくなっちゃうよ?」

江ノ島「今日はこのぐらいにしといてやるか。じゃ、葉隠、さっさとやっちゃってー」

葉隠「オメーらの子どもがどんなか、だな?んじゃ、いくべ」



葉隠「……ががががが!」ガクガク

苗木「!?」


葉隠「ぎぎぎぎぎ!」

苗木「は、葉隠クン……!?」


葉隠「ぐぐぐぐぐ!」

江ノ島「げげげげげ」

苗木「江ノ島さん!?」


葉隠「ごごごごご!!」

苗木「飛んだ!?」



葉隠「……見えたべ」

苗木「ほ、ほんとに?」

江ノ島「悪魔憑きにしか見えなかったなー」



葉隠「江ノ島っち達の子は男女の双子だべ」


苗木「双子?江ノ島さんと戦刃さんみたいな?」

江ノ島「お姉ちゃんみたいなのだったら残念だなぁ」


葉隠「二人とも希望ヶ峰に入学するべ」

苗木「それは……すごいな」

江ノ島「才能は?」


葉隠「女子の方は“超高校級の幸運”で、男子の方は“超高校級の探偵”だべ」


江ノ島「……霧切と浮気するの?アタシ」

苗木「いや、霧切さん女の子だから……」



葉隠「女子の方は神に愛されてるとしか言いようがねーほどツイてて傲岸不遜な性格だべ」


江ノ島「うわー、ヤな奴」

苗木「いや、ボクらの子だからね?」


葉隠「男子の方は、探偵の宿命か望んでかは知らんが、死の影を歩み続けるべ。性格はよう解らん。靄がかかっとってはっきり見えん」


苗木「……」

江ノ島「……へーえ」


葉隠「……こんなとこだな」

江ノ島「ええーっ!もうおしまーい!?」

葉隠「ええーってなんだべ!十分過ぎる程の情報量だったろ!」

苗木(まあ、葉隠クンの占いにしては)

江ノ島「もっとなんかないのー!?捻り出しなさいよー!」

葉隠「んなこと言われてもだな……あ」

江ノ島「ん?」

葉隠「そういやまだ言っとらんことが」

苗木「……何?」



葉隠「女子の方はファザコンで、男子の方はシスコンだべ」


○●


江ノ島「子どもがファザコンとシスコンでしかも二人ともアタシのことは苦手だなんて……絶望的ぃ!」


江ノ島「……とも素直に絶望できないなー葉隠の占いじゃ」

江ノ島「ま、その不完全燃焼な分は……こいつで……っと」ガサゴソ


江ノ島「ちゃらららっちゃらーん!とーうーちょーうーきー!」ウププ

江ノ島「ボクが葉隠クンなんかのために善意であんな部屋用意するわけないってのにね!かれはじつにばかだな」


江ノ島「では、さいせーい!」カチッ


ザザザザ……



ブツッ……



ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛

『あなたに送った脅迫状……炙り文字で「I love you.」……だけどあなたには届かない……!』ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛

江ノ島「ぎゃー!」ドンガラガッシャーン


『丑の刻参りの藁人形……私を見て笑ってる……!けらけらけらけら笑ってる……!』ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛


江ノ島(これは……苗木にプレゼントした澪田唯吹『君にも届け!』初回無修正版……通称呪音盤(ネクロディスク)!)

江ノ島「苗木にやられたぁー!」


ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛


江ノ島「せっかくみんなの占い聞いた後、漏洩させて葉隠の信用にトドメを刺してやろうと思ったのに絶望的ぃーっ!」


『届け……届け……この思い……!君にも届け……この思い……!』ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛


江ノ島「あっ……あっ……!イイかもっ……!」


○●


『今回お越し頂いたのは今や世界的アーティスト、澪田唯吹さんです』

パチパチパチパチ

澪田『よろしくお願いします』

『えー、リリース直後から世界中のヒットチャートを総嘗めにし、まさに音楽界を震撼させた新作ですが……』

『コウモリ男との出会いからインスピレーションを得たとか?』

澪田『はい。彼らとの出逢いがこの曲を誕生させました』

『コウモリ男とはどのような……いえ、どのようにお話を?』

澪田『私は彼らと音楽で語り合いました。そこに言葉は要りません』

『なるほど……。彼らの音楽とはどのようなものでしたか?』

澪田『彼らの音楽は……陳腐な言葉になってしまいますが、まさに音楽を越えた音楽でした。彼らのもたらした音楽体験は私にとって未知のものであり、人生で最も衝撃的な時間でした』

澪田『ダメですね……言葉で言い表すのは難しいです』

『では、その奇跡体験から生まれたという曲で表現して頂きましょう。澪田唯吹さんで“GO!強魔”』


EXTRA CASE6 閉廷

葉隠クンの話というか、葉隠クンに占ってもらう人の話みたいになってしまいました。
次回はほぼ二次創作というか、ほぼ創作みたいな話なのでスルーして頂いても構いません。




話しかけられた。



「キミって雪女みたいだよね」



第一声が妖怪扱いだった。



○●



「……」


話しかけると彼女は、またお前かとぼくを一瞥した。
ぼくは気にせず続ける。


「うん、やっぱり雪女がしっくりくるよ。ゾッとするほど綺麗だし肌は白いし、おまけにぼくを見る目も冷たいし」


「……」


彼女は言葉を返す代わりに大きく嘆息を吐いた。
冬の空気に触れ白く濁った吐息は彼女をより一層雪女めいて見せた。


「その凍り付きそうな溜め息も素敵だよ」


思ったままに美しさを讃えると黒々とした瞳がじろりとぼくを睨めつけた。


「……なぜ、わたしに関わるの?」

「なぜって……こんな美人誰がほっとくのさ」


「あなた以外の全員よ」


そういえばみんな彼女を避けている気がした。


「ぼくはほっとかないなぁ。これからも」


幸運は自分の手で掴むものだ、というのがぼくの持論だ。彼女との邂逅はまさに幸運の入口のように思えた。一目惚れだった。
この出会いを、幸運を、見逃す気はなかった。

返ってきた言葉は、



「……死にたいの?」



思いの外物騒なものだった。


○●


本来、出入り禁止の校舎屋上にぼくはいた。通じるドアには鍵がかかっているが、横の窓の鍵は壊れている。教えてくれたのは目の前の人物だった。


「おまえのことは好きだから、言っとく」


転校してきたばかりのぼくにとって、数少ない友人がそんな風に切り出した。


「いきなり大胆な告白だなぁ。悪いけどぼくにそういう趣味はないよ」

「バカ。まじめに聞け」


見ればいつになく神妙な顔をしている。


「なんなの、一体」


今までの自分を省みてみたが、この友人から説教を食らわなくてはならない理由を絞ることはできなかった。


「いい加減、あれにかかずらうのはやめた方がいい」

「え?」

「あの女だよ」


絞れた。


「ああ、あの子?何、狙ってるの?」


「あいつはな」


友人はぼくの軽口を無視して始めた。


「……あいつが」


「関わった人間が死んでる、とか?」


半ばふざけた調子で言葉を継いでやると、友人は眉をひそめた。
当たりのようだ。そんな馬鹿な。


友人は溜め息と共に続けた。


「お前みたいにな、あいつと仲良くしようとした奴がクラスに二人いた」

「その二人が?」 


「ああ。二人とも死んだ」


目の前の友人は吐き捨てるように言った。


「死因は?」

「一人目は女子で投身自殺。二人目は男子。急病で死んだ」


「ふうん……」


顎を撫でながら情報を咀嚼する。


「ここが立ち入り禁止になった理由はな。“一人目”が“とんだ”からだ。こっからな」


友人は自分が寄りかかっている柵を指で叩いた。


「……出来過ぎじゃない?」


他に返す言葉が浮かばなかった。


「転入したクラスにいる美少女が過去の人死にに関わってて、死神のように忌避されてるなんてさ。ベタ過ぎる。衝撃の真実を期待しちゃうよね」


「その死は女が巧妙なトリックを使って行った殺人でしたってオチか?」

「と、見せかけて、真に殺人を行った人物は別にいましたってオチだよ」

「バカじゃねえの」


友人は、反吐が出る、と言いながら顔を引きつらせた。実際、吐きそうな表情で、ドン引きというやつだった。


「……とにかくな」


固まったのをほぐすように顔を揉みながら、友人は絞り出した。


「あいつが殺したとか、別のやつが殺したとか、そんなもんはどうだっていいんだよ。なんにしろ、あいつに関わらない方がいい。だろ?」

「それか真相に辿り着くか、だね」

「お前な」

「大丈夫だって。なんとかなる」


ぼくは友人の肩をぽんと叩いて笑ってみせた。


「ぼくはツイてるから」


○●


彼女と関わった人間が死ぬ。

死んだ生徒についてぼくは自分なりに調べてみた。

二人目の死者である男子生徒は、彼女との関わりが浅かったうちに死んだようであまり情報がなかった。丁度今のぼくのように、彼女に関心があり積極的に話しかけていたらしい。友人の言った通り、死因は急病。急性白血病で入院したが状態が悪く、そのまま死んだ。

一人目の女子生徒は身投げした現場である校舎の屋上に頻繁に出入りしていたらしい。そこから夜景や星空を眺めるのを気に入っていたそうだ。死んだのも下校時刻を過ぎた日の沈んだ時間だった。
はっきり言って、この一人目は自殺かどうか怪しいと思った。
遺書が発見されなかったのだ。それなのになぜ自殺とされたのかというと、その死体に無数のリストカット痕がみられたという理由からだった。

調べてはみたが、結局のところ、探偵でもないぼくがいくら調べてみたところで大した情報を手に入れることはできなかった。

一人目が死んだ状況についてはとんでもないことが解ったが。


「というわけでさ、付き合わない?」

「意味が解らない」


放課後、図書室にいた彼女に直球を投げた。


「きみのことが知りたいんだ。どうしても」

「……」


黙してもいつも通り。彼女の顔には何の感情も描かれない。
しかし、やがていつかのように溜息をひとつ吐き、


「そんなに知りたいのなら教えてあげる」


赤い唇を動かして言った。



「わたしは厄病神よ」



疫病神。


「……友達が死んだから?」

「友達じゃない。一方的に話しかけてきた人よ。あなたみたいにね」

「きみが不運を呼び込んだ、と?」

「わたしに関われば、あなたも同じように死ぬ」


ここまで感情を排した調子で言われると絶対のルールのように思えてくる。


「なら」


ぼくは財布から百円玉を取り出した。


「運試し、してみない?」


「運試し?」

「そう。運試し」


ぼくは百円玉の数字の書いてある面を彼女に向けて言った。


「裏が出たら、ぼくはもう、きみに一切関わらない」


桜の面を見せる。


「表が出たら付き合って」


「……」


黙り込む彼女だったが、血の気のない顔には僅かな波立ちもなかった。
やっぱり無理があったか。


「……早く」


不意に、唇を小さく動かして彼女が発声した。


「え?」

「早く投げて、コイン」


彼女は細く白い指で百円玉を差した。


「いいの?」

「……」


今度は目で、早くしろ、と訴えてくる。
了承の沈黙、らしい。


親指の爪に百円玉を乗せる。



「いくよ」


硬貨が、弾かれ、震え、回り、宙を舞った。


図書室の天井の高さ、その僅か下を頂点に、落ちる。
ぼくの突き出した拳に吸い寄せられるように。


目で追うのではなく感覚で瞬間を捉え、左手で右手の甲に百円玉を抑えた。


「どうかな?」


覆う左手をそっと離し、コインを開帳する。


「どうする?」


右拳には白銅の桜が咲いていた。


「手でも繋ぐ?」



○●


あのコイントスからひと月、彼女とは果たして恋人同士と言っていいのかどうか、なんとも微妙な関係が続いた。
どこへ行こうと、何をしようと、彼女は嫌がることも喜ぶこともなかった。

今日もぼくらはデートと言っていいのかどうか、なんとも微妙なデートに出かけていた。

この縮まらない距離は、真実を知ることで埋まるのだろうか。


「訊いてもいいかな」


意を決し、彼女に問いかける。


「……何?」

「投身自殺したっていう女子生徒のこと」

「……」



「現場にいたんだよね?きみ」



黒く冷たい瞳がこちらを向く。


「刑事ごっこでもする気?」

「いや、きみが何かしたわけじゃないのは知ってるよ。だって……」


完全下校時刻にも関わらず、彼女はその時学校にいたらしい。
だが彼女は確実に何もしていない。



「きみの目の前に“落ちて”きたんでしょ?そのクラスメート」



うなづいたのか、うつむいたのか、彼女が下を向いた。
しかし、すぐに顔を上げ、問いかけてくる。


「目の前でヒトがひしゃげ潰れる様を、詳しく聞きたいの?」


白い顔に表情はないが、語調には嘲るような色がある。


「もちろん、そういうわけじゃないよ」


空を見上げた。
いい天気だね、とはとても言えない曇り空だ。僅かな雲間から今にも人が落ちてくるような気がした。


「ほんとに自分の意思で“とんだ”のかな、って思うんだよ。その女子生徒さ」


風が吹いた。

死んだ女子生徒は彼女と関わっていたからといっていじめに遇っていたわけでもなかったらしい。
ぼくはと言うと、クラスメートに彼女と同じくらい距離を置かれている。いじめとは違うかもしれないが。


「それで?」


彼女は乱れた髪を手櫛に梳いた。


「きみ、何か見てるでしょ?」


「……」


唇についた髪一本、人差し指でのけながら、彼女は言葉を紡ぎ出す。


「一つ、誰にも言っていない、わたしだけが知っていることがある」


微笑んだ、気がした。


「あなたは信じることができる?」


○⚫︎


夜の学校に忍び込むのは簡単だった。
門を飛び越え、鍵の壊れた箇所を通り抜け、ぼくは街の灯を校舎の屋上から眺めていた。

この時間、この場所で人が死んだ。
ここに来ることはある意味で多いに意義がある。

屋上は暗かった。
ただ暗いのではない。こびりついた絶望が、どろどろした重苦しい暗黒へ融解している気がした。差し込む月光は上辺に貼ってあるだけの薄っぺらい膜のようだ。屋上という器いっぱいに闇が満ちている。ここから溢れた覆水が世界を夜に染めるのではないだろうか。
こうして柵に寄りかかり下を覗き込んでいると流し出されてしまいそうだ。

そんな満杯の暗闇に溶け込み、背に忍び寄る影の正体をぼくは知っていた。



「今度は押さないでね」



振り返らずに声をかけた。
背後の気配が足を止める。


「……って怪談あるよね。ほら、生まれ変わりものっていうのかな」


ぼくは振り返った。



彼女に関わるな、と忠告してきた友人が立っていた。



「何か解るかもしれないってさ、ぼくが今日この時間ここに来ようって誘ったけど、きみは断ったよね?一人で行けよ、って。どうして来たの?」

「……脅かしに来てやったんだよ」


「ぼくを落としたかった?」


「……馬鹿なこと言うなよ」


「聞いたんだ、彼女から。きみが死んだ女子生徒を突き落とすのを見たって」


ぼくの言葉に、一瞬、友人の顔が固まった。


「……お前な、そもそもあいつがあの現場に居たのが怪しいと思わねえの?おかしいだろ、目の前に丁度よく人が落ちてくるなんてよ」


「墜落死した子と待ち合わせしてたからだよ。彼女の、友達だったんだから」

「友達?あいつに?笑わせるなよ」


友人が口の端を歪めて笑むのを無視して続ける。


「その子は彼女がやってくるのを屋上から見つけて柵から身を乗り出した。その時に……」


きみが。

ぼくは友人を見据えた。


「生徒が地面に衝突する瞬間を見たのは彼女だけじゃない。完全下校時刻過ぎに、彼女が学校に居るのを訝って声をかけようとした先生もなんだよ。彼女の目の前で生徒が潰れるところを見た先生がいたからこそ、彼女は何もしていないとされたんだ。下にいる彼女が、屋上にいる人をどうにかできるわけないからね」


「おれを見たって、何を証拠にあれの言うことなんて信じてんだ?」


「ぼくはね、ミステリー小説の探偵役になりたいわけじゃない。証拠を突きつけて、自首を迫りたいわけじゃないんだ。証拠なんてないし、いらない。ぼくはただ彼女を信じることにしただけ。そして、ぼくがきみに言いたいことはたったひとつ」


ぼくはそこで息を吸った。


「ぼくを殺そうとするのをやめて」


まっすぐに友人を見て、命乞いをした。



友人は頭をかいた。


「ああ、いや、やっぱりダメだな、お前」


かきむしった。


「殺さなきゃな」


まやかしの月光が友人の取り出したナイフを光らせた。
青白い幻燈が狂気に憑かれた顔を這っている。闇が注ぎこまれたような瞳と目が合う。


「なんで」

「なんで、じゃねえよ。お前は禁忌を破ったから死ぬんだよ!」

「何が禁忌だよ。きみが二人目の病死を利用して流布したでたらめだろ!」


「馬鹿だな。あいつも死ぬべくして死んだ!あれは誰も摘んではいけない花だ。遠くから眺めるべきものだ。誰も触れてはいけない。触れさせない。そう思っていた。捕まるのを恐れず一人目を突き落としたがな、おれは二人目の死でやっと気づいた。あれは美しいだけでなく毒を持ってたんだ。おれが流布したルールはでたらめじゃない、本物の禁忌なんだよ」


友人は恍惚とした笑みを顔に貼り付けて語った。
この友人も、彼女の魅力に中てられた一人なのか。


「だったらぼくのこともその毒とやらで死ぬのを待てばいいじゃないか」

「ダメだ。お前はダメだ。お前は罰が下るのが遅すぎる」


ナイフの柄が軋る。


「もう、待てないんだよ!」


刃をまっすぐにこちらに向け、友人が地を蹴った。


その瞬間、切先の輝きだけが世界の中心だった。


死ぬのか、ぼくは。

迫り来る死を前にどうにか遮蔽物を置こうと、ぼくは瞼を下ろした。



「……」



ながい、無明と静寂。
ぼくはもう死んだのか?
目を閉じたまま、無の世界に放り込まれてしまったのか?
確かめるために、目を開けなくては。



からん、と乾いた金属音が響いた。



ぱっと目を開き現実へ帰還する。生きている。



「かはっ……はっ……!」


友人は息を荒くしてうつ伏せに倒れていた。腕一本分ほど離れたところにナイフが転がっている。


「くそ……なんで、いま……?なんで、おれが……?」


コンクリートの床を引っ掻きながら、息を荒げ、もがく。


「はっ……はっ……はっ……」


溺れているかのように必死に酸素を吸おうと吸息を繰り返している。


「お、おい!」


ぼくはかけよって友人の顔を見た。


彼の顔には血の気も、希望も一切なかった。


先ほどの爛々とした狂気は一片も残っていない。何もかもが真っ白い月光に奪い尽くされたようだった。


「……はっ……はっ……」


息が弱くなっていく。


なんだ、これ。

何が起きてるんだ。


「どうしたんだよ!」

「……は……あ……」

「おい!」

「あ……」


友人の目はもはやどこも見ていない。

死、しか見えていなかった。



「さむい」



たったそれだけ言い遺し、彼は動かなくなった。

友人の命が、終わった。


身投げした“一人目”。
友人が殺した。

病死した“二人目”。
手遅れの重病。

今、友人が死んだ。

なぜ?

死と死と死。

目の前で起こった死に理解が追いつかない。

ぐちゃぐちゃの頭の中を整理する前に、その声は冷たく響いた。




「突然死、か。一番退屈なパターンね」





彼女が、立っていた。
周囲が一気に冷え込んだ気がした。


「なんで、きみが……?」


彼女はぼくの言葉を無視し、得体の知れない寒気を携えて歩いてくる。彼女の一歩一歩にぱきぱきと霜が降りていくかのようだ。

ぼくは今まで“何”に関わっていたのだろうか。
目の前のものが人間とはとても思えない。

彼女はぼくのすぐ横まで来ると歩みを止めた。
冷や汗が吹き出す。腹部にかつてないほどのむかつきを感じる。
凍りつくぼくの存在を欠片も気に留めず、彼女は友人の顔を覗き込んだ。


「いい顔ね。何もかも全てを失った表情……」


彼女は目を細め、口の端を僅かに上げた。


笑っている。


「あの様子だと……不整脈の急性心疾患というところかしら。死に方は本当に退屈」


「見てた……の?」


震える声を絞り出すと彼女の顔がぐるりとこちらに向いた。


「当たり前でしょう?」



息がかかりそうなほど近くに、彼女の白い顔がある。一息で凍死させられそうだ。
彼女の瞳を真近で直視し、腹のむかつきに滅多刺しにされているかのような苦痛が加わった。
呻きが漏れる。吐き気がする。
もしかしたら本当は友人に刺されたのではないか。腹に震える手をやる。外傷はなかった。
死後の世界は何もない真っ暗闇だと言う人間がいるが、彼女の瞳はまさにその死後の世界の覗き穴のようだった。
頭で見てはいけないと思っても目をそらせない。彼女の眼球に空いた穴の向こう側に釘付けにされている。


「わたしに苦しみを捧げるために生きていた家畜なんだから、見届けてあげないと。好き嫌いせず、残さず食べましょうって、ね」


彼女は楽しそうに、歌うように話す。見たことがない姿だった。


「彼は……どうして」


どうして、死んだ?


「解ってるんじゃない?」


彼女が薄く微笑んだ。


「きみと、関わったから……?」

「そう。こいつはね、わたしに深入りし過ぎたの。結局は安全な距離をとれていなかった」

「きみは、本当に、関わる人に不運をもたらすっていうの?」


凄まじい寒気、それと反対に熱いほどの腹の痛みやむかつき、吐き気。さまざまな耐え難い感覚に歯ががちがちと鳴るのを抑え、どうにかやりとりをしようとする。


「不運、ね」


彼女は友人の手を見ながら呟いた。地を掻きぼろぼろになった指と爪をひとつひとつ確認しているようだった。


「わたしが本当に、単純に、人に不運をもたらすのなら、あなたはあのコイントスに失敗していたんじゃない?」

「……」


「いくらイカサマとはいえ、ね」


嘘だろ。


「気づいてたの……?」

「練習すればコイントスで好きな面を出せることくらい知ってたわ。がんばったのね」


彼女は心底つまらなそうに吐き捨てた。


「まあ、あのコイントスの結果が本当に不運でなかったかどうかはすぐに解るとして……わたしと関わった人間にもたらされるものは、もっと具体的な不運よ。そうね……」


人差し指を赤い唇に当て、笑いかけてくる。


「人間の主な苦しみは生老病死と言われているけれど、わたしはその四つの苦しみのうちの二つをもたらします。それは一体なんでしょう?」


「生、老、病、死……?」


まさか……


「まさか……!」



「言ったでしょう?“厄病神”だって」




厄病神。
本当に、文字通りの意味で、厄病神だというのか。


「だって……そんな……あり得ない!そもそも“一人目”は殺されてる。病死じゃないじゃないか!」


「あれはこいつが勝手なことをしてくれたからよ。せっかく、大事に、仲良くしていたのに」


彼女は友人の死体を睥睨して言った。


「とはいえ、可笑しいわよね。遺書もないのにリストカットの傷痕で自殺と断定するなんて。世の中は馬鹿ばかりなのかしら。リストカットは多くの場合、気持ちいいからやるのにね」


「気持ちいい……?」


「そうよ。手首を切るとね、脳内麻薬が分泌されるの。だから少なくとも切る時は気持ちいいのよ。リストカットをやめられない愚かしい人達は中毒者というわけ。あの子もその一人だった。わたしにとっては面白いケースで、お気に入りだったんだけど」

「どういう……こと」


気持ちの悪い汗が顎を伝って落ちた。


「あの子が発病したのはね、精神疾患だったの。どう見ても神経性無食欲症(アノレキシア)でね。骨と皮だけになって、栄養失調で死ぬか、ショック死するか……本当に楽しみだったのに!」


彼女は夜空を仰いだ。
いつのまにか空には厚い雲が敷かれ、星も月も見えない。


「わたしは彼女の友達であり、恋人であり、母であり、姉だった。彼女の求める愛を全て与えてあげた。あそこまでしてあげたのは彼女だけだったのよ?もっと骨の髄まで彼女の苦しみを味わいたかった!」


「……なんで……彼が殺したことを黙ってたの?」

「……そんなことは決まってるでしょう。わたしに関与した以上、こいつの死もできる限り見届けないと。獄中死では困るのよ」

「きみは、ほんとに僅かでも関わった人全てが死ぬと思ってるの?そんなの……」

「偶然かもしれない、って?まだ信じたくないのね。自分が死ぬって。……ああ、そうだ」


不意に彼女がくすり、と笑った。
底知れない不気味さに怖気が走る。



「あなた、わたしのことが知りたいって言ってたわよね?教えてあげる。わたしのこと」



聞いては、いけない気がした。



「ねえ、偶然だと思う?」


ゆらゆらと、足元がひずんでいくような感覚が襲ってくる。



「わたしを生んですぐ母親が衰弱死したのも父親が肺癌で死んだのも祖父母が揃って脳溢血で死んだのもロリコン養父が肝硬変で死んだのも火事で散り散りになった同じ孤児院の関係者で健康に生きている人間が一人としていないのも……」



背後から、



「ねえ」



無数の屍が、



「偶然だと思う?」



手を伸ばしてきた。



「い、いやだ……!いや」


言い切る前にずっと抑え込んでいた痛みと吐き気が一気立ち上ってきた。

背を丸め、咳き込みながら嘔吐した。


鉄の味がする。


「……は?」


ぼくの口から吐き出されたのは、血だった。

暗くても屋上の床にぶち撒けられた鮮やかな赤が解る。モノクロの映像で赤だけが着色されているかのようだ。
これは血だ。ぼくの、血だ。


「あ……あ、あ……」


「あなたもここで死ぬみたいね」


彼女がこともなげに言った。
死神の宣告だった。


「吐血するということは、急性胃潰瘍かしら?血の色を見るに本当にここで終わりのようね」


腹部が熱せられた鉄串で抉られているように痛む。
鉄と胃液の混ざり合った味と匂いが拍車をかけ、吐き気が止まらない。
また、血の塊を吐き出し、ぼくは倒れた。


「はあっ……かはっ……」


涙で彼女の姿が歪む。
滲んだ景色が更に暗くなる。世界から色がなくなっていく。

痛みがよく解らなくなってきた。

さむい。

全身が冷水に浸かっているようだ。
息がまともにできない。酸素が欲しい。


「ぼ、ぼく、は……」


喉につまる血を吐き捨てながら問う。
もう立つこともできない。
自分の吐き出した血にまみれながら、彼女に這い寄る。
力が入らない。


さむい。


それでもぼくは、最期の言葉を絞り出した。



「……ぼくは、きみがすきだった」



「そう。わたしはどうでもよかったわ」



血と共に生命を吐き出し、



ぼくは、全てを手放した。



○●


「ねえ、聞いてる?」


ぼんやりと、前の死者の最期を思い出していた。目の前の愚か者がなんとなく似ているからだ。
こいつもあんな風に死ぬのだろうか。


「いえ、全く」


正直に答えた。

前回は客観的に見て異様な死に方になり過ぎた。
わたしにとっては、ただ二人の男子生徒が急性疾患で突然死しただけでも、世間から見れば二人の男子生徒が学校の屋上でそれぞれ別の病で死んでいたというのは余りにも不可思議だった。

なぜ二人が曰く付きの屋上にいたのか。
なぜ揃って突然死したのか。
なぜナイフが落ちていたのか。

世の中は安心するために理由を求めたがる。答えなどないことがあるとも知らずに。

ここまでやると、わたしにとってうるさい輩が少なからず増える。そいつらに死んでもらってもいいが、全員が静かになるまで時間がかかる。
仕方がないので、しばらくはおとなしくする……つまりは誰とも関わらないことにした。


それなのに、


「ほんとしょうがないなぁ、キミは。だからさ、キミがもし本当に雪女だったら打ち明けてくれないかな。ボクにこっそりと」


新たな死にたがりが、一人。
下校時にいつも、一緒に帰ろう、とつきまとってくる。


「残念ながらわたしは雪女ではないわ」

「ふうん、そっか。人間か」


残念がる彼に正体を教えてやることにした。


「厄病神よ」


「厄病神?ああ、キミの周りの人が死んでるってやつ?」


知ってるのにつきまとってくるのか。


「あなたも死ぬんじゃない?わたしに関わったら」

「死ぬ?ボクが?なんで?」


彼が不思議そうな顔でこちらを見てきた。


「あなたは自分だけは死なないとでも思っているの?」

「死んだのはツイてない人達でしょ?その点ボクは大丈夫だよ」


ツイてない人達。
こいつの片付け方はどこか異様に感じた。

そして、この男は自信たっぷりに言った。




「ボクは幸運の王様だから」




愚かさ極まった虚妄としか思えない台詞だが、他の誰かが言うのと彼が言うのとでは何かが違う気がした。


「……あなたは、“幸運”ってなんだと思う?」


意図せずそんな質問が漏れた。
ずっと、誰かに訊きたかったのかもしれない。


「そんなの決まってるでしょ」


彼は答えた。



「幸運ってのは“どうしようもない力”さ。努力でも才能でも逆らいようのない力だよ」



力。
どうしようもない、力。


「よく『幸運は自分の力で掴むもの』とか『努力する者のもとへやってくる』とか言う人がいるけどさ、そんなのは“持たざる者”の哀れな願望でしかないんだよ。幸運ってのはどうしようもないんだから。でもボクは、希望を成就する幸運を持ってる」


呆れるほどに傲慢な考えを述べていく。
こいつは自分が滅茶苦茶なことを言ってる自覚はあるのだろうか。


「だからさ、希望ヶ峰学園の“超高校級の幸運”に選ばれると思ってたんだけど、なぜか結局選ばれなかった。まあ、特に希望ヶ峰に入りたいと思ったわけじゃないけど、なんでだろって考えてたんだ。でもやっと解った」


目を爛々と輝かせて彼は言った。


「ボクが超高校級の幸運に当選しなかったのは、キミと出会うためだったんだよ!」

「気色悪い」

「ええっ!?渾身の告白だったのに!」


プロポーズとは関係なく、こいつには薄ら寒さを感じる。

絶対的な、幸運への自信。


「あなたがそれほどの幸運児だと言うのなら、それを証明して」


「証明?……あ、じゃあさ」


彼はごそごそとポケットを探り、百円玉を取り出した。



「これで、表が出たら付き合ってよ」

「……」



それでさ、と百円玉の数字の刻まれた面をこちらに向けた。


「裏が出たら……」

「もうわたしに関わらないで」


これで、“同じ”だ。


「解った」


彼は驚くほどあっさり了承した。



「それじゃ、いくよっと」


百円玉が、弾かれた。


硬貨は回転しながら宙に昇る。
頂点に達すると青空を背景に静止したように感じた。

落ちる。

彼はそれを拳に抑えるどころか、硬貨の抜け落ちた空をずっと見ていた。


硬貨が地を跳ね、金属音が響いた。


二度、三度、地面を跳ね踊ると、ふらふら回りだす。


やがて踊り疲れたように、ぱたりと倒れた。


彼はそれに目をやることなく言った。



「じゃ、末長くよろしく」



白銅の桜が、咲いていた。


○●


「どうしたんだい?」


「……昔のことを思い出して」


「おいおい、いよいよおばあ……いてっ!」


「あなたは昔から変わらないわね」


「……キミは攻撃的になったね」


「仕方ないでしょう?あなたはいつまで経っても風邪ひとつ引かないんだもの」


「ボクは幸運の王様だからね」


「中流家庭の王様?」


「金だの権威だのには興味なかったからなぁ。昔っから」


「謙虚な王様だこと」


「そうでもないさ。愉快な毎日に刺激的な愛……ボクはこの世界の中心だ」


「……本当に、あなたは変わらない」


「キミが懐古するなんて珍しいな」



「……誠とその恋人の子と会ったら、ふと、ね」



「いや、びっくりしたよほんと。あの子、キミそっくりだったからね」



「誠は、あの子を抱えられるかしら」


「体格差がなぁ」


「そういう意味じゃないわよ」


「冗談だよ。まあ、なるようになるさ。なにせ“超高校級の幸運”だ」


「……どうなるか、楽しみね」


「そうだね」



「……」


「……」



「……こまるが恋人連れてきたらいやだなぁ」

「そろそろ覚悟を決めた方がいいんじゃない?お父さん」


PRECEDENT 了

ところどころ文が消えて即席で書いたため、おかしいところがあったらすみません。

次回はまた地の文のない台本形式に戻ります。

申し訳ないですが更新に時間かかりそうです
来週あたりを目標に書きます

苗木母のエピソードがドン引きな内容だったので軽いノリのを予定してます

すんごい今更なんですけど、前回の苗木父のエピソードって

一人称「ボク」が苗木父で、
一人称「ぼく」が二人目の犠牲者の男子生徒

なんですか?

>>425
多分それで合ってます
一人称「ぼく」二人称「きみ」なのが最後の犠牲者で、一人称「ボク」二人称「キミ」なのが苗木父です



苗木「……あのさ、江ノ島さん」


江ノ島「なにー!?」


苗木「キミ、釣りをしたいって言ったよね?だから海に来たんだよね?」


江ノ島「えー!?なにー!?聞こえなーい!」


苗木「キミっ……ああもうっ!」


江ノ島「はー!?」



苗木「なんでボクらクルーザー乗ってんのっ!?」



ブロロロロロロロ

ゴオオオオオオオオオオオ

ザバババババババ


バタンッ……


江ノ島「そりゃ釣りするためよ。誰も投げ釣りだなんて言ってないじゃーん」

苗木「船釣りだなんて聞いてないよ!」


江ノ島「苗木クンそんくらいのことでプンプンしちゃってどうしたのぉー?もしかして昨日サメ映画見ちゃった?」キャピルン

苗木「投げ釣りと船釣りじゃ大違いなんだよボクにとっては!」

江ノ島「苗木神経質になり過ぎー!船や飛行機乗る度にイベント起こしてくれるほどカミサマも暇じゃないってばー!」

苗木「だといいけど……。大体江ノ島さんほんとに船動かせるの?今は自動操舵にしてるけど」

江ノ島「モウマンタイモウマンタイ。アタシ船舶免許持ってるしホラ」ピラ



ふなのりめんきょ

なまえ ♡じゅんこちゃん♥︎
おたんじょうび クリスマスイブ!
すきなふね うちゅうせんかんヤマト
すきなひと ★なえぎクン☆



苗木「お遊戯の時間に作ったのかな?」


江ノ島「見て見てちゃんとラミネート加工してあんのよコレー!年少さんには作れまい!」エッヘン

苗木「ああ……これは……マズい……」サーッ

江ノ島「心配すんなって!必要なのは紙切れじゃねぇ!スキルだ!」ズギャーン

苗木「そうだね。ならすぐ操舵室に行って、針路を今と逆の方角に変えてくれるかな」

江ノ島「え、やだ」

苗木「お願いだから!」



グラッ


グワングワン


苗木「うわっ!!」トトッ

ドッ

江ノ島「やーん!」

ドサッ

苗木「ご、ごめん……」

江ノ島「押し倒されちゃったー!苗木だいたーん!」

苗木「ちょ、ちが……ていうか何このすごい揺れ……!?」バッ


……ガチャ


ブオオオオオオオオオオオオオオ

ザァァァァァアアアアアアアアアア

ゴロゴロゴロピシャーン


バタンッ……



苗木「……」

江ノ島「どしたの苗木頭抱えて」


○●


……ザザーン……ザザーン……


苗木「う……」


江ノ島「あ、起きたー!お寝坊さんなんだからー!」


苗木「うっ……っつーっ……!頭が……!」

苗木(そうか、嵐に飲み込まれて……!)


苗木「……ここは?」ヨロ


江ノ島「島」ガチャ


ザザーン……

ザザーン……


苗木「……」

苗木「……嘘だろ……?」


○●


苗木「クルーザーごと打ち上げられたのは幸いだったね……」

江ノ島「ブッ壊れちゃったけどねー。それなりに高かったのになーこれ」

苗木(ほんとに江ノ島さん個人のなんだこの船……)

苗木「……救難信号は?」

江ノ島「期待しない方がいいかな」

苗木「ケータイも当然通じないし……なんであれ助けを待つしかないか。この島で」


ザザーン……

ザザーン……


苗木「……ここ、人は?」

江ノ島「苗木ー……もう勘付いてんでしょ?」

苗木「だよね……」ハハ……

江ノ島「今回のシチュエーションは無人島サバイバルのようです。早いところ腹、もしくは首を括りましょう」クイッ

苗木「後者はないよ、うん」

江ノ島「でしょうなー。んで?どーすんのよ?」

苗木「生き延びるためにできることを考えよう。……まずは使える物のチェックかな」

江ノ島「あいさー!じゃ、クルーザーの中の物調べよっか!」


苗木「……」

江ノ島「んん?なによ?アタシの顔にフジツボでも付いてる?」

苗木「……なんだか素直だね。もっと全力で状況を絶望に転がそうとすると思ったけど」

江ノ島「だってこの程度大した絶望でもないじゃん。包丁入れる気も起きないわよ」

苗木「そっか……」

江ノ島「それより、これからのいつ終わるとも知れない苗木とのバカンスを思うともう……!よ、ヨダレが……!」ダラダラ

苗木「とんだバカンスだなぁ……」


江ノ島「苗木も似たような経験したことあるだろうし飽きたでしょ?」

苗木「……キミのせいなんでしょ……?」

江ノ島「さあ……?一体何のことだか全くもって存じ上げないね」ゴゴゴゴゴ

苗木「まったく……」

苗木(……今は江ノ島さんが……恋人がいる……一人で漂流した時とは違う)


江ノ島「さーあ!せっかくだから楽しもーう!ワクワク!ワクワク!」


苗木(……良くも、悪くも)


○●


苗木「食料は?」

江ノ島「缶詰各種発見しました!」ビシッ

苗木「どれくらい持ちそう?」

江ノ島「頑張って一週間ってとこかなー。味はおそらくマズイ」

苗木「味に文句は言わないけど、一週間かぁ……でも、とりあえずの食料はできたね」

江ノ島「そうね。後は缶切りが見つかるのを祈るのみね!」

苗木「……ないの?」

江ノ島「どうだろ?」

苗木「うん……祈ってる場合じゃないね。後で一緒に探そうね」


苗木「釣竿があるのは助かったね。本来釣りしに来たから当然だけど」

江ノ島「それ、苗木が持参したやつよね。釣りすんの?苗木」

苗木「ボク個人ではそんなに……。これは父さんの」

江ノ島「へー!お義父さまの!」

苗木「……なんか食い付きいいね」

江ノ島「おっと、釣りだけに?」

苗木「あのね……」

江ノ島「お義父さまはやるのに苗木はそんなやんないの?」

苗木「うーん……たまに連れてかれるけど、父さんはなぜかバカスカ釣れてボクはいっつもボウズだから」

江ノ島「ふーん……ふんふんふんふんなるほどねー」


苗木「何が、なるほど?」

江ノ島「いや、別にー?」

苗木「……」

江ノ島「じゃあアタシが釣り係ね!」

苗木「え?」

江ノ島「だって苗木さんに任せたところで釣果ゼロじゃないじゃないですか……無為な時間を過ごすだけですよ……?」ジメジメ

苗木「うう、否定できない……じゃあ釣りは任せるよ」


江ノ島「苗木は何すんの?」

苗木「そうだなぁ……船が流されないようにしてから食べられるもの探そうかな」

江ノ島「ならアンカーワイヤー使えば?」

苗木「そうだね。奥の丈夫そうな木にくくりつけとくよ」

江ノ島「そのあと探検?」

苗木「探検っていうか……」

江ノ島「苗木だけズルい!アタシも行くからね!」

苗木「江ノ島さん釣りするんでしょ?」

江ノ島「船固定するまでね」

苗木「……そんなに遠くにはいかないからね。近くに食べれそうなものないか探すだけだからね」


江ノ島「わーっかってるって!りょーかいりょーかい!」ゴソゴソ

苗木「ちょっと、なんで服脱ぎだすの!?」


江ノ島「ざーんねんでしたー!下は水着でーす!」バーン


苗木「……キミほんとに釣りするつもりあったの?」

江ノ島「少なくとも今は釣る気満々よ?」


○●


苗木「あぁ暑い……疲れた……これで船が流されることはないかな」フゥ


苗木「江ノ島さん釣りの方はどう?」

江ノ島「苗木!見て見ていっぱい釣れた!」

苗木「へえこの短時間のうちによく……わああ!!」バシャーン

江ノ島「あらら、また派手なリアクションだねぇ」ウププ

苗木「江ノ島さん……一体どうやってこのグロテスクな生物達を釣ったの?」


ビクビク
ビッチビッチ
ウネウネ


江ノ島「え?普通に苗木のお義父さまの釣竿で」


苗木「……食べられるのかなコレ……」

江ノ島「さあ?じゃあとりあえずコイツ食べてみる?」

苗木「江ノ島さん……それ、この中でボクが唯一何なのか解る魚なんだけど……」


プクー


苗木「フグだよね?どう見ても」


江ノ島「平気平気アタシフグ食べたことあるし!」

苗木「どこが平気!?どう平気!?毒!ど!く!テトロドキシンッ!」

江ノ島「完成形を見てんだからさ、それと似たような感じになるように捌きゃいいわけじゃん!楽勝楽勝!」

苗木「やめて。キミならできるかもしれないけどやめて」


江ノ島「ちぇー。ま、いっか。それより島の探検!早く行こ!」

苗木「……そのかっこで行ったら虫の餌食になるよ」

江ノ島「あーそっか。じゃ、ちょっと待ってて」タタッ


……


江ノ島「おまたせ!」ジャーン

苗木「どっから持ってきたのその迷彩服!?」

江ノ島「クルーザーに決まってんじゃん。お姉ちゃんにプレゼントされたけど着る気が一切起きなかったもんだからクルーザーにぶち込んでたのよ」


苗木「戦刃さんのプレゼントか……」

江ノ島「こんなん着て街歩けないけど探検にはぴったりよね!」

苗木(戦刃さんの私服は江ノ島さんが選んであげてるらしいけど、戦刃さんがこういうのを普段着として選ぶセンスだからか……)


江ノ島「んじゃレッツゴー!蛇とか出るかなー?」

苗木「……ボクは出ないように祈るよ」

江ノ島「えー?これから食料探すってのにそれが出ないよう祈るってどーゆーことよ?」

苗木「……獲るの?蛇」


○●


ガサッ……ガサッ……


苗木「……あの、多分だけど江ノ島さん……」

江ノ島「んー?」

苗木「あのさ……」

江ノ島「一体何事です人間?はっきりと申してみよ」ドドン



苗木「……ボクら迷ってると思うんだけどどうだろう?」



江ノ島「ん。そうね!」

苗木「そうねじゃないよ!こんな密林の中で迷うってやばいよ!だから引き返そうって言ったじゃないか!」

江ノ島「だーって草ばっかじゃん苗木が採ってんの!肉を獲らずに帰れるかっての!アタシが草食系に見えんの!?」

苗木「草食系とか肉食系とかそういう次元じゃないでしょ江ノ島さんは!というかそういうの関係ないし!」

江ノ島「お肉が食べたい……ないなら苗木を食べる……」グルル

苗木「そ、それは勘弁して……!」

江ノ島「なら、性的に……」グルグルグルグル

苗木「カニバリズムもエロティシズムもやめて!」



ガサガサガサッ……


苗木「ん?」

江ノ島「およ?」


ガサッ



虎「グルルルルル……」ヌッ



苗木「……」

苗木「……は?」


江ノ島「あらま肉食系」



虎「グァオオオオオオオオ!!」バッ



苗木「嘘でしょ!?」



江ノ島「きゃっ☆」


ボグッ


虎「……グゥッ……」ドシャッ



苗木「……嘘でしょ?」


苗木(い、石で……)

苗木「……人間の無限の可能性を垣間見たよ」

江ノ島「絶望の底知れなさ、でしょ」ポイッ

苗木「よくこんなことが……」

江ノ島「人間より遥かに単純な行動パターンなんだから楽勝よー!それよりホラ、肉ゲット!」

苗木「虎の肉って食べれるの……?」

江ノ島「食べれないことはないっしょ。好き嫌いせず食べないと!苗木ここが無人島だって忘れてない?」

苗木「それはそうだけど……どうやって持って帰るの?というかどうやって帰るの?」

江ノ島「ここで食べりゃいいじゃん。ライターとナイフ持ってるし」スチャ

苗木「えぇ……」

江ノ島「さあさあいくよん!虎の解体ショーなんて滅多に見れないよー?」


○●


パチパチ……


苗木「……」

苗木(ほんとに捌くとは……)


江ノ島「苗木食べないの?おいしいよ?」ハグハグ

苗木「う、うん」

苗木(せっかく江ノ島さんが用意してくれたんだし……)アムッ

江ノ島「ね?おいしいでしょー?」ニコ


苗木「うん……そうだね……」グニャア

苗木(マズいぃ……!!固さはともかく独特の臭みと酸味がきつ過ぎるっ!……捌いてたとこ思い出すし気持ち悪くなってきた……!)ウググ

江ノ島「うーん、その割にはあんまり食が進んでないけど?おいしいよね?アタシが獲って捌いて焼いてあげたお肉はさ?」ジッ

苗木「うっ……」

江ノ島「無人島じゃ肉は貴重だしねー?」


苗木「……ああああ!おいしいなあああ!」ガツガツ

江ノ島「いい食べっぷりじゃん苗木ー!どんどん食べていいよ!なにせ虎一頭丸々あるんだからさ!じゃんじゃん焼いてあげるね!」

苗木「うぐぐっ……!」

江ノ島(ああもうっ……たまんなーい!)ダラダラ


○●


苗木(吐きそう……)ウエッ

苗木「森の出口も見つからないし……」ヨロヨロ

江ノ島「だーいじょぶだってー!川辿れば海に出るんだから!」

苗木「川……?」

江ノ島「近くにあるはずよ?」

苗木「なんでそんなことが……ん……!?確かに川のせせらぎが聞こえる……!」


ガサッガサッ……


……ザアアアアアアアアアアアアアアアアア


苗木「か、川だ……!江ノ島さんずっと川の音が聞こえてたの?」

江ノ島「んなわけないじゃん。虎が濡れてたからよ」


苗木「気づかなかった……。とりあえず、この川を下ってけば海に出られるね」

江ノ島「アタシ達が流れ着いたとことは違う場所だろうけどねー」

苗木「でも行くしかないよね。森にずっといるのも危険だし……」


ザアアアアアアアアアアアアアア


苗木「それにしても流れが早い川だなぁ……浅瀬がないけど虎はどこで水を浴びたんだろ」

江ノ島「あそこじゃない?」スッ

苗木「え?ど」



ドンッ



苗木「こ……?」フワッ


江ノ島「……」ニッ


苗木(や……!やられ)



ザッパーン



苗木「ごぼがぼごぼ!」バシャバシャ


ザアアアアアアアアアアア


苗木(流れが急過ぎて泳げない!流される!)


苗木「ぷはっ!江ノ島さぁぁぁん!」バシャッ



江ノ島「ごめんね!せっかく二人っきりの無人島ってシチュエーションだけど台無しにしたくてしょうがなかったの!影ながら絶望してる!」バイバーイ



苗木「えのしまさあぁぁぁ…… ザアアアアアアアア



江ノ島「……あらら見えなくなっちゃった。ま!獅子は谷に仔を落とすって言うし恋人を川に突き落とすのもアリよね!」

クルッ

江ノ島「さーて船戻ろっと!森にも飽きたしね!」

江ノ島(苗木クンにはヌルいでしょ?しばらく三食寝床が確保されてる状況なんてさぁ)ウププ


○●


ゴポゴポゴポ……


苗木「……」



苗木「……!」ゴパァ


ゴポゴポ

ザパァ



苗木「ぶはぁ!!げほっ!ごほっ!」バシャ



苗木「岸っ……!岸!」バシャバシャ


バチャ
バタ
バタ


苗木「た、助かった……!」ゲホゲホ

ドサッ……

苗木「はぁ……はぁ……」ゼェゼェ


苗木(久しぶりにやられた……!)


苗木「まったく……!とんでもないよ……!江ノ島さんは……!」


苗木(漂流したことといい突き落とされたことといい、勘が働かなかった……乗り越えられる絶望だからか?それとも勘が鈍ったのか?)

苗木「……しっかりしないと……!」


苗木(どこだここ……?だいぶ流されたみたいだ)

苗木「落ち着け……!落ち着け……!」

苗木(……まずは川を下ろう。海岸沿いに島を回ればクルーザーの場所に辿り着けるはず)

苗木(……江ノ島さんだってそこにいる)

苗木(目が覚めた。江ノ島さんが帰り道を思い出せないはずがない)


苗木「ほんっと仕方ないなぁ……!」


○●


ザクッ……ザクッ……


苗木「海に出たのはいいものの……」フラフラ


苗木(どんだけ大きいのこの島……!もう2日歩いてんのにボクらが流れ着いたところに着かない……)

苗木「きゅ、休憩……」ドサッ

苗木(草しか食べてないから力が入らない……人間って道具がないとここまで無力なのか)ボー


苗木(飲み水がもうない……いざとなったら海水でも飲まないと死ぬ……)

苗木「暑い……もうちょっと日陰行こ……」ヨロ



ガサガサッ



苗木「!?」

苗木(茂みの方から物音が……!まさかまた虎!?)




ガサッ……



苗木「!!」


「……あれ?」


苗木「き、キミは……!」



狛枝「苗木クン?」



……


狛枝「いやあこんなところで会うなんて奇遇だね!」

苗木「奇遇過ぎるよ……狛枝クンどうしてこんなところに?」

狛枝「色々あってね……パラシュートでこの島に降り立ったんだ」

苗木(どういう状況……)


狛枝「それからもう一月くらいこの島にいるんだけど」


苗木「結構長いんだ……それで腰布一枚なんだね」


狛枝「あはは、どう?無人島生活者っぽくない?」

苗木(そんなニコニコしながら言われても……)

苗木「風邪引かないの?それ」

狛枝「慣れれば平気だよ。余計なものを着るのが煩わしいくらいさ!」

苗木「そう……」

苗木(帰れても露出狂として捕まりそうだな……)


狛枝「苗木クンはどうしたの?」カチッガチッ

苗木「まあ……ボクも色々あってさ」

狛枝「ふーっ!ふーっ!」

ボッ

……パチパチ……


狛枝「……彼女のせい……だろ?隠さなくてもいいのに」フフ……

苗木「……火起こしものすごい手慣れてるね」


苗木「……いや、まあ彼女に川に突き落とされたせいではぐれたんだけどね」

狛枝「恋人って一体なんなのか考えさせられるね」

苗木「無事だからいいんだけどさ」

狛枝「キミもなかなか常軌を逸してるよね」ハハ


苗木「そういえば狛枝クンの捜索願が学校の掲示板に貼られてたの思い出したよ」

狛枝「そっか。でもボクがいなくなったところで誰も気にしてなかったでしょ?……兎食べる?」スッ

苗木「……ありがとう。いや、まあ気にしてる人はしてたよ」

苗木(キミの代わりにギャンブラーの餌食になった人が)


狛枝「ボクなんかが才能ある人の心的エネルギーを少しでも無駄にさせたと思うと胸が痛いよ」

苗木「……キミは相変わらずだな」

狛枝「ボクが漂流するなんてよくあることだからね。いちいち心配してたらキリがないし」

苗木(……心配してる人はいなかったけど)

狛枝「無人島で暮らすことも初めての経験じゃないしね。……足りる?イモムシ獲ってこようか?」

苗木「いや、いいよ。すごいなキミは色々と」


狛枝「それより苗木クンはこれからどうするの?」

苗木「どうするって……江ノ島さんのところへ行くけど」

狛枝「彼女のところへ行ってどうするの?」

苗木「どうするって……」

狛枝「自分を川に突き落とした人間のところへ行きたがるなんて正気とは思えないよ。少なくともこの無人島で生き残ろうと思うなら彼女といるのは得策じゃないでしょ」

苗木「まあ……確かにそうかもしれないけどさ。彼女に危ない思いをさせられるのはいつものことだし」

狛枝「その感覚が理解できないんだよね。ボクは自分の幸運の高低を知ってるから危なそうなものは避けるようになってる。けどキミは自分から危険を隣に置いてる」

苗木「うーん……」



苗木「しょうがないよ。好きだから」ハハ


狛枝「……」


苗木「それに前に言ったでしょ?絶望は寂しがりやだって。だから迎えに行ってあげないと」

狛枝「……」


狛枝「ボクは……やっぱり絶望を許容はできない」

苗木「……」

狛枝「人は希望をもって絶望のない世界を目指すべきだと思う」

苗木「……そんな世界はあり得ないよ」


狛枝「そうかな。少なくとも彼女を排除するのがその一歩だと思うな」


苗木「あのさ……まあいいや、約束は守ってね」ハァ

狛枝「もちろん。だからキミが彼女のところに行くとしてもボクは手伝うことは一切できない。彼女に近づけば殺意しか湧かないし」

苗木「……そっか」

狛枝「悪いね」

苗木「絶望と向き合うのは大変だけどさ、キミにもそれができる日が来ることを祈るよ。キミが本当に、本当の希望を求めるなら、さ」スクッ

狛枝「……」

苗木「ごちそうさま」ザッ


○●


ザッ……ザッ……


苗木「ほんと……どんだけ大きいんだこの島……!」ヨタヨタ


苗木「もうそろそろ日が落ちるし、今日はここで……ん?」

苗木(あれは……!)


苗木「クルーザー!」ダッ


ザッザッザッザッザ




江ノ島「……」



苗木(クルーザーの上に立ってる……!)

苗木「江ノ島さーん!」ザッザッザ


江ノ島「……!苗木!」ピョン


苗木「江ノ島さん!」

江ノ島「苗木ーっ!」バッ

ムギュッ

苗木「うわっ!」


ドシャッ


江ノ島「苗木遅過ぎ!寂しかったんだからー!」ギュー

苗木「うぎゅぅっ……!しぬ!しぬ!えのしまさ……!」バタバタ


江ノ島「この抱き心地……やっぱさいっこーね!」ギュグググ

苗木「ぐるじっ……!……ちょっ!さりげなく首に手をかけないでよ!」ガバッ

江ノ島「ありゃ、まだ結構力残ってたのね。元気そうで何より!」チッ

苗木「今……舌打ちが聞こえたんだけど……」ゼェハァ

江ノ島「これくらいの殺意は許してよー!待ってたんだから、ずっと。ずーっとクルーザーの上に突っ立って日が落ちてくのを眺めてさ」

苗木「すごくヒロインっぽい台詞だけど、そもそもボクを川に突き落としたせいでしょ……」

江ノ島「でも苗木はアタシの側に帰ってきてくれるもんね!」

苗木「……そうだよ。側にいる。いちいちこんなことして確かめなくてもいいんだよ」

江ノ島「生きてる実感がないって人に生きてますよって言ったところで大した意味ないでしょ?本人は自傷行為とか犯罪行為をしなきゃ生きてる実感を持てないってのに。ほら、それとおんなじよ」

苗木「江ノ島さんはいっつも解るような解らないような話で煙に巻くよね」ハァ


江ノ島「あ、見て見て苗木!」

苗木「ん?」


江ノ島「ほら、沈むよ。太陽」


苗木「ほんとだ……海が真っ赤……」

苗木(夕陽ってきれいだけど少し寂しい気持ちになるよな……江ノ島さんはこれを独りで見てたのか)


江ノ島「苗木と見たかったんだ。なんでもない落日だけどさ、この離れ小島で見ると世界の終わりって感じがして絶望的じゃない?」


苗木「……だったらボクもキミと日の出が見たいな」

江ノ島「西側のここからじゃ見えないもんねー。残念でした」ベー

苗木「だよね。残念」フ



江ノ島「あーあ!そろそろ帰ろっかー!」


苗木「……え?帰れるの?」

江ノ島「帰れるんじゃない?」


苗木「ほんとは動くの!?船!」

江ノ島「船はきっちり壊れてるわよ?」

苗木「じゃあどういう……」

江ノ島「救助がそろそろ来ると思うからさ」

苗木「え?なんで解るの?」

江ノ島「なぜってそりゃ救難信号出してあるし」

苗木「え!?出せてたの!?」


江ノ島「出してないなんて言ってないじゃん」

苗木「でも期待するなって……!」


江ノ島「あのクルーザーの救難信号は特殊でさ、この世界でただ一人しかキャッチできないのよ」

苗木「まさか……」



ブロロロロロロロロロロロロロロロロ



江ノ島「ナイスタイミング」




戦刃「盾子ちゃああああああああん!!」



○●


ブロロロロロロロロロロロ


江ノ島「おっそいのよ!このアタシに何日原始人みたいな生活させるつもりよ?」

戦刃「ご、ごめんなさい……でも、せめて位置特定をもっと簡単にできるようにしてくれたら私も……」

江ノ島「お姉ちゃんさぁ、アタシへの愛が足りないんじゃないの?アタシだったらもっとパパッと来れるよ?」

戦刃「……それは、盾子ちゃんが暗号化した信号だし盾子ちゃんの方が頭がいいから」

江ノ島「え?なに?聞こえなーい」

戦刃「……」


江ノ島「はぁ……もういいから急いでよね。苗木も船乗るなりコロッと寝ちゃったし」


苗木「……」スー スー


戦刃「……ふらふらしながら船に乗ってすぐ気絶するみたいに眠ったね……」

江ノ島「こら、あんまり隙だらけだと海に放り込んじゃうぞー」ツンツン

苗木「ん、んう……」スー スー


○●



ザザーン……

ザザーン……



狛枝「また日は昇る……」


狛枝「うん、いい朝だ。希望の朝だね!」


EXTRA CASE7 閉廷

すごい遅くなってすみませんでした
次回はこまるちゃんのお話です

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年10月31日 (金) 21:58:14   ID: Dp2z0Ne5

まだああ!!!!

2 :  SS好きの774さん   2015年02月01日 (日) 19:15:02   ID: ijvckuTv

残姉ちゃん可愛すぎる

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