京太郎「なんだよチクショーまたラスかよ!!」
京太郎「毎回クソ配牌とクソヅモなのは何でなんだよ!! リーチかけても全然和了れねえし!」
京太郎「何で俺んときは最後まで流れるクセに相手がリーチすると一発でツモんだよおおお!!」
京太郎「もうやだこのゲーム!! 帰る!!! 帰るもん!!!」
和「須賀くん、いい加減奇声上げるの止めてください。うるさいですよ」
京太郎「うぅ……和ぁ……」
和「またラスとったんですか? コレで何度目ですか」
京太郎「多分……二桁超える……」
和「……いくらなんでも下手過ぎでしょう……」
京太郎「うぅ……俺の何が悪いんだよ……やっぱ運なのかよ……」
和「ああもう、ウジウジしないでください。男の子でしょう?」
京太郎「男だって泣きたい時はあるさ……」グスッ
和「……はぁ……」
和(しょうが無いなぁ……)スッ
カチッ
カチッ....カチッ....
京太郎「……」
カチッ....カチッ....
京太郎「……?」
和「……」カチッ...カチッ...
京太郎「……何してんだ? 和」
和「牌譜見てるんです。 須賀くんの対局の」カチッ
ロンッ
京太郎「あっ! それ! 俺が親ッパネ振った時の!」
和「見ればわかりますから」
京太郎「せっかくジュンチャン三色見えてたのにー!! あークソ! クソぉおおお!!!」
和「……」カチッ...カチッ....
ツモッ
京太郎「あ、それ!! せっかくトイトイ張ったのにダマでツモられたやつ!! マジ死ねよ和了ったやつ!!」
和「……」カチッ...カチッ...
カチッ....
ロンッ
京太郎「あーこれも!!せっかくのホンイツがこいつのせいでパーだよチクショウ!!」
和「……」カチッ
カチッ...
ロンッ
京太郎「とか思ってたらチンイツ振り込むっていうよぉ!! 俺なんかしたか!? なぁ!!」
和「……」カチッ
京太郎「………」
和「……」カチッ
京太郎「なあ和。 もしかして俺、うるさい?」
和「言わないとわかりませんか?」
京太郎「……お茶淹れてきます……」シュン...
和「……」
カチッ...カチッ....
和「……」カチッ
― 4位 SUGA・KY -8,200 ―
和「………」
京太郎「お茶です……」コトッ
和「あ、どうも」スッ
京太郎「……」
和「ズズッ……」
京太郎「………」
和「……ズズッ……」
京太郎「………あの……」
和「…………ズズッ………」
京太郎「……あの……和さん……」
和「今お茶飲んでるんですが」
京太郎「は、はい、すいません……」
和「……ふぅ……」コトッ...
京太郎「……あ、お茶片付けま」
和「須賀くん」
京太郎「ひっ。 あ、は、はいっ」
和「結論から言います」
京太郎「は……はいっ」
和「あなたは下手です」
京太郎「おふっ」
和「まず、基礎がなってません」
京太郎「がはっ」
和「ドの付く程の初心者丸出しです」
京太郎「うぼぁっ」
和「お茶おかわり」スッ
京太郎「あ、はい」
京太郎「……そんなに酷かったか」
和「ええ。 正直、見てて苦痛でした」
京太郎「そ、そんなにか……」
和「……すいません、少し言い過ぎました」
和「見てて思ったのは、牌効率と捨て牌読みがなってないかな、と」
京太郎「牌効率と捨て牌読みねぇ」
和「須賀くん、好きな役は何ですか?」
京太郎「え? なんだ急に」
和「当ててみせますよ。 タンヤオ、三色、トイトイ、染め。 でしょう」
京太郎「え、凄い。 何でわかったんだ?」
和「さっきの打ち方がそれらの役しか狙ってないってわかるからですよ。あからさま過ぎます」
京太郎「そんなにか」
和「バレバレを超えてスケスケのレベルです」
京太郎「マジかよ。エロいな」
和「ホント、エロエロですよ」
和「ごほん」
和「まぁとにかく、須賀くんの悪いところは最初から決め打ちしているところですね」
京太郎「決め打ちは駄目か」
和「一概には言えませんが、普通は色々な役を視野に入れながら打っていくものです」
京太郎「うーむ」
和「それと、今あげた4つの役は鳴いた場合基本相手にバレやすい役です」
京太郎「そうなのか?」
和「そりゃそうです。鳴いた牌、及びメンツの種類がシンプルですから」
和「タンヤオは2~8までのいずれか。染めは一色ですし、トイトイは刻子だけ。三色は2色も鳴いたら確定ですし」
京太郎「確かに」
和「かと言って鳴かずにタンヤオ以外のこれらの役を作るのは難しいですからね」
京太郎「じゃあどうすりゃいいのさ」
和「ですから、これらの役だけに決め打たず、もっと幅広く役を受け入れやすい様に打っていくのがいいんですよ」
京太郎「ふむ」
京太郎「うげぇー!また一巡目で国士振り込んだあああ!!」
和「須賀くんはもう役は全て覚えていますよね?」
京太郎「点数計算はサッパリだけど、流石に役はな」
京太郎「でも……どう打てばいいのかわからなくてなぁ」
和「ふむ」
京太郎「和はどう打ってるんだ?」
和「私ですか? さっき言ったとおりですよ。受け入れを広くしながら打つ様に」
京太郎「だからそこがよくわかんないんだ。どう打てば受け入れが広くなるのか……」
和「……ふむ」
和「わかりました。 では打ちながら説明しましょうか」
京太郎「おっ、そりゃいい」
和「……なにしてるんですか?」
京太郎「俺の膝の上が空いてるぜ?」ポンッ
和「いいから椅子持ってこい」
京太郎「あ、はい、すいませんでした」
カチッ
和「……1位と2位が0の3位2回、4位が21回……」
京太郎「どうよ」
和「どうしようもないですね」
京太郎「辛辣ぅ!」
和「まずは門前、つまり鳴かずに打つことが重要です」カチッ
京太郎「鳴きは禁止か?」
和「そこまでは言いませんが、基本門前が好ましいですね」カチッ
和「現代麻雀だと一発に裏ドラ有りとリーチした時のメリットが高いですから」カチッ
京太郎「無いルールもあるのか?」
和「競技麻雀だとそうですね。一発、裏ドラ、槓ドラ、赤ドラなし。 運の要素を切り捨ててます」カチッ
京太郎「ほぇぇ」
和「私はむしろそっちのルールのほうが好きですけどね」カチッ
和「……っと」
和「須賀くん、問題です。 ここは何を切ったらいいですか?」
京太郎「ん?」
北家 ドラ4m 6巡目
245m3455679p334s ツモ5p
京太郎「むっ……むぅ」
和「始まったばかりなので点数の変動なしです」
京太郎「タンピンを目指すなら……浮いてる9pでいいんじゃないか?」
和「まぁそれも正解です」
京太郎「ということは、和なら何を切るんだ?」
和「私ならこれですね」
カチッ
打:2m
京太郎「2m? 9pを残すのか?」
和「ええ、8pのツモを考慮すると4-7pの受けが残る分こちらのほうが効率はいいです」
京太郎「でもそうなると234の三色は切り捨てに……、あっ」
和「345が残りますね。 もちろん3sが雀頭になってもいいし、鳴いてもテンパイの早い。有効牌の多い選択ですよ」
京太郎「ふぅん」
和「ドラ表示牌が3mということもありますし、さいあく三色が崩れてもタンピンでリーチもいいです」
京太郎「見るのは役だけじゃないんだな」
和「私が見ているのは結局は麻雀の基本ですからね」カチッ
京太郎「麻雀の基本?」
和「なるべく早く、高く、そしてリーチをかけてツモりやすい手を作ることです」
京太郎「メンタンピンでツモ和了りが基本か」
和「まぁ、打ち方は個人と状況次第でいくらでも変わりますけどね」カチッ
京太郎「おっ」
リーチッ
和「ふふっ」
おうどん食べてくる
京太郎「うげぇー!またカン四連続からのスーカンツで責任払いだあああ!!」
京太郎「見事メンタンピンでツモ和了り。流石は和」
和「三色も裏ドラも乗りませんでしたけどね。 出だしは好調でした」カチッ
ロンッ
和「えっ?」 京太郎「はっ?」
ホンイツ、トン、ハク。 ハネマン。
和「………」 京太郎「………」
京太郎「せっかくの満ツモが……」
和「こ、こういう時もあります! ていうか3巡目でこれは読めませんよ普通!」カチッ
京太郎「……やっぱり俺って呪われてるんじゃ……」
和「ま、まだ始まったばかりです! 頑張ってここから逆転しましょう!」カチッ
京太郎「……もう死にたい……」
和「もう! 落ち込みすぎです!!」カチッ
あ、やべ。
ホンイツ、トン、ハク、ドラ1。 ハネマン。
に訂正。
和「んっ……」カチッ
和「須賀くん」
京太郎「はいはい。 問題?」
和「この手牌なら何を切ります?」
東2局 西家 5巡目
ドラ9m 持ち点 2,0700
346789m5p444599s ツモ3s
京太郎「ハネ直くらった後だしなぁ。孤立牌だし5p切ればイーシャンテン……」
京太郎「あ、いやでも基本はタンピンだし……4s雀頭に9s切りとか?」
和「どちらも不正解ではありませんね」
京太郎「……じゃあ和なら?」
和「私は……」
カチッ
打:4s
京太郎「えっ、4s切り? せっかくの暗刻なのに切っちゃうのか?」
和「今回の場合、ドラが9mですからタンヤオに固執する必要はありません」
和「門前を前提とするなら受け入れが多いのは4s切りですね」
和「上手く孤立牌の5pにくっつけば345の三色が見れますし3445sは34sと45sのリャンメンと見る方がいいと思います」
京太郎「でも9mは邪魔じゃないか? ドラとは言え持ってても最終的に切っちゃうようだったら……」
和「ああいえ、この4s打は三色だけじゃなくもう一つの役も見てるんですよ」カチッ
京太郎「? ピンフ三色ドラ1以外に何か……?」
京太郎「……あっ、もしかして……」
和「はい、一気通貫も見てます。シャンテン数なら一通も345の三色も同じですからね」
京太郎「ほぇぇ」
和「跳満を直撃したわけですし、狙うならより高いほうがいいですからね」カチッ
京太郎「なるほどなぁ。 おっ」
ロンッ
京太郎「おーっ、すげえ」
和「よしっ」グッ
和「なんとかトップのままオーラスまで来れましたね」
京太郎「こ、これを勝てば初のトップに……この俺が……!」ガタガタ
和「打ってるの私ですけどね」
リーチッ
和「むっ」 京太郎「うげっ」
和「親リーが入っちゃいましたね」
京太郎「振り込んだらまたラスに……う、うわぁぁ……」ガタガタ
和「落ち着いてください。 要は振らなきゃいいんです」
京太郎「簡単に言うなよ! それができたらこんなに4位取ってねえよ!」
和「あ、す、すいません」
京太郎「ハァッ……ハァッ……」
和(息荒げてまで……)
和「……まぁちょうどいい機会ですし、今度は捨て牌読みをしましょうか」
京太郎「ハァッ……おっ……お願いしまっ……ハァッ……ハァッ……」
和「…………」
和「まずは須賀くん、跨ぎスジと裏スジという言葉は知ってますか?」
京太郎「マンスジなら知ってるけど」
和「帰っていいですか?」
京太郎「冗談っす」
京太郎「それってアレだろ? メンツ構成時に出来る余剰牌のスジ、のことだっけ?」
和「そうです。それぞれの意味は知ってますか?」
京太郎「んっと、裏スジが334とかからの3で……」
和「え?」
京太郎「跨ぎスジが235からの5、だよな?」
和「ぎゃ、逆です逆! 裏スジと跨ぎスジの意味を履き違えてますよ!」
京太郎「え?マジで!?」
和「裏スジと跨ぎスジを逆に覚えてたんじゃ放銃率もそりゃ高くなりますよ……」
京太郎「あ、だーから俺、敵リーチにボンボン振り込んでたのか!! なるほど!!」
京太郎「通ると思った牌全部当たったからな! なーんだ逆だったのか!! 流石は和だ!!」
和「……どうも……」
和「とまぁ誤解が解けたようで再確認しますが」
和「235からの5切りの1-4待ち、568からの8切りでの4-7待ちなど。これらを裏スジと言います」
京太郎「ふんふむ」
和「そして334からの3切りでの2-5待ち、677からの7切りでの5-8待ちなど。これらを跨ぎスジと言います」
京太郎「よくよく考えれば名前の意味のまんまだな」
和「ホント、なんで気づかなかったんですかレベルですよ」
和「基本的に序盤で切られた中張牌……つまりは2~8の牌は裏スジがあり」
和「終盤、及びリーチ宣言牌などは跨ぎスジが多い傾向があります」
京太郎「ほぉ」
和「勿論、これはあくまで傾向なだけであって必ずしもそうだといえるわけではありませんからね?」
京太郎「了解っす。 ……ふむ」
京太郎「……序盤は跨ぎ……リーチは裏……」
和「いや、だから逆です逆」
京太郎「……あれ? ハイ、和先生ッ」バッ
和「どうぞ、須賀くん」
京太郎「数牌の場合はわかりますが、字牌切りリーチの場合はどうなんですか?」
和「ふむ。 良い所に気が付きましたね、須賀くん」
和「一般に字牌切りリーチをする人には次の3つの傾向があります」
京太郎「個人レベルの問題かぁ」
和「1つは、完全安牌を抱える傾向の人の場合」
和「例えば須賀くん、この手牌であなたは何を切りますか?」
京太郎「んっ」
566888m67p11s67s北 ツモ8p
京太郎「こんなの北一択だろ。 イーシャンテンで受け入れも多いのに何処切るんだよ」
和「そうですね。 しかしこの状態から6mを打つ人も少なくは無いんですよ」
京太郎「へ?」
和「理由を説明しましょう」
また訂正。
1つは、完全安牌を抱える傾向の人の場合
↓
1つは、少しでも待ちを読みにくくしたい人の場合
和「先ほど言った跨ぎスジと裏スジの話は覚えてますね?」
京太郎「ん、ああ。 序盤が裏スジのリーチが跨ぎスジ、だろ?」
和「そうです。 それを踏まえた上でこの手牌を見てみましょう」
566888m67p1167s北 ツモ8p
和「この手から北を打った次巡、8sを引いたとすると……」
566888m678p1167s ツモ8s
京太郎「まぁ、6m切りでリーチじゃないか?」
和「それが妥当ですね。でもその場合このリーチの6mは典型的な跨ぎスジ4-7,5-8m待ちというのが解りやすいんです」
京太郎「あ、そっか」
和「しかしここで6mを先に打ってみましょう」
56888m678p1167s ツモ8s
京太郎「この場合で北切りリーチなら……」
和「直前に6mは切られてますが跨ぎスジとしては取りづらくなりますよね」
京太郎「確かに……これなら6mの裏スジっぽいかも……」
和「このように、少しでも相手に待ちを悟られにくくする為に字牌を最後まで残すタイプがあります」
京太郎「でもコレって牌効率で言えば6m切りの方がいいよな?」
和「そうですね。 でも、捨て牌に迷彩を入れる場合はセオリーとは外れた打ち方をしなくちゃなりませんからね」
和「今回のこの字牌切りリーチは『ツモ和了りしやすくする』というよりは『出和了りを期待する』打ち方に入るかもしれません」
京太郎「ふぅむ」
和「では続いて字牌切りリーチの2つ目の場合」
和「ハッキリ言ってコッチの傾向が1つ目より多いかもしれませんね」
京太郎「というと?」
和「チートイツや国士無双、及び単騎待ちをテンパイした場合です」
和「まぁ、国士無双をテンパイしてリーチにいく人は滅多にいませんけどね」
京太郎「そもそも俺、国士張ったこと無いぞ」
和「というわけで機会の多い単騎待ちとチートイツを考えて行きましょう」
京太郎「チートイなぁ……あれは待ちが読めない役だよな」
和「そもそも単騎待ちというのは一番セオリーに属さない待ちですからね、読むのは難しいです」
和「というか、正直に言うと単騎待ちを読むのは不可能です」
京太郎「えっ」
和「麻雀の性質上、単騎待ち自体があまりリーズナブルとは言えませんからね。 そんなわけで単騎待ちは読めません」
京太郎「じゃあどうすんだ?」
和「まずはチートイツの読みからなんですが、これは有名な説が2つあります」
和「1つ目。 捨て牌に法則性の無いシュンツ系のターツ落としが多い時はチートイツ」
和「まぁ、これはなんとなく解るんじゃないですか?」
京太郎「チートイ狙ってる時に変にシュンツのターツ出来たら困るしなぁ」
和「とは言え、チートイは偶発性の高い役です。 最初からチートイ狙いで打つ人はあまりいないと思いますけどね」
和「続いて2つ目。序盤より後半の方がヤオチュウ牌の捨て牌が多い場合はチートイツ」
京太郎「……そうなのか?」
和「一応単騎待ちは3枚しか和了り牌が無いわけですから、少しでも和了りやすくするためにヤオチュウ牌を手に持って置く傾向はあるとは思いますけど」
和「正直これについてはあまり信憑性があるとは思えませんね。国士無双の可能性もあるわけですし」
和「とまぁチートイツも含め、単騎待ちは『出和了りを狙う』傾向のほうが高いです」
和「だから場に2、3枚切れてる字牌よりもまだ見えていない字牌や老頭牌で待つ方が多いってことですね」
京太郎「字牌の後出しは別の字牌、老頭牌へ待ちを変化したからってわけか」
京太郎「……それだったらダマでもいいんじゃ?」
和「確かにダマのほうが和了る確率は高いですね。 でも単騎待ちは必ずしもダマで行けるとは限りませんから」
京太郎「役なしの場合とか……点数を見て?」
和「そうですね。 凧と麻雀、あがってなんぼですから」
京太郎「じじ臭えこと言うなぁ」
和「お黙り」
和「そして字牌切りリーチする人の3つ目。 完全安牌をテンパイするまで抱えるタイプです」
京太郎「完全安牌?」
和「他家に必ず通る牌のことですね。 字牌なんかはよく完全安牌になりますよ」
京太郎「それって必要無くないか? なんで持っておくのさ」
和「まぁ、言わば『保険』ですね」
京太郎「保険?」
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