芳佳「運転の練習するよー!」リーネ「うん!」ペリーヌ「はいはい」 (166)

芳佳「まずはエンジンを回して……。――行くよ、みんな!!

リーネ「がんばって、芳佳ちゃん!」

ペリーヌ「みなさん。事故が起こったときのために、どこかにつかまっておいてくださいね」

ルッキーニ「わかったー!」

エイラ「サーニャは私につかっておけば問題ないぞ」

サーニャ「ありがとう、エイラ。そうするわ」

芳佳「発進!!」

リーネ「きゃー。芳佳ちゃーん」

芳佳「今日もロンドンまでいこー。ぶーんっ」

ペリーヌ「宮藤さん! もう少し速度をおさえなさい! 同乗者が多いんですのよ!?」


エーリカ「宮藤たちが今乗っているジープってさ、故障車で動かないやつだろ? なにやってるの、あれ」

シャーリー「イメージトレーニングだってさ。運転の」

リーネ「地図によると、ここは急勾配だから気をつけないとダメだよ」

芳佳「うんっ」

エイラ「うわぁっ」

サーニャ「きゃっ」

エイラ「あぁ、ゴメン、サーニャ。今、急カーブの遠心力が強くて」

サーニャ「大丈夫よ。でも、エイラもどこかに掴まっておいたほうがいいわ」

エイラ「そーだな。宮藤の運転は雑だからな」

芳佳「ひどーい。これでも頑張ってるんですよー」

ルッキーニ「うじゅー!!」

ペリーヌ「きゃぁ!? な、なんですか!! いきなり!!」

ルッキーニ「えんしんりょくがー」

ペリーヌ「今、カーブは通りすぎましたでしょ!!」


美緒「……なんだあれは?」

ミーナ「エイラさんたちが車の運転ができるようになりたいって言っていたから、その練習じゃないかしら?」

美緒「練習か、あれが?」

芳佳「はい、到着っ」

リーネ「無事についたねっ」

ペリーヌ「無事? 髪が乱れて仕方がありませんでしたけど?」

ルッキーニ「芳佳、へたっぴー」

芳佳「えぇー!?」

エイラ「そうだな。宮藤はハンドルを無駄に大きく動かしてるし、アクセルペダルは踏みっぱなしだし、ブレーキかけようともしないし」

ペリーヌ「実際に走っていればみなさんと心中ですわね」

芳佳「はぁ……」

リーネ「元気だして、芳佳ちゃん。まだ始めたばかりだし」

サーニャ「うん。上手くなるために練習しているんだから」

芳佳「そ、そうだね。うん。がんばるよ!!」

リーネ「その調子だよ、芳佳ちゃん」

エイラ「次は私が運転するぞ」

ルッキーニ「にひぃ。それじゃあ、あたしは助手席ー」

エイラ「待てよ。助手席はサーニャだろ」

エイラ「サーニャ、見てみろ。一番星だ」

サーニャ「ホント……。キレイね」

エイラ「サーニャのほうがキレイだけどな」キリッ

サーニャ「も、もう……エイラ……」

エイラ「サーニャ……」

ルッキーニ「エイラ、空見たりサーニャみたり、前全然むいてないじゃん」

ペリーヌ「死にますわよ!!」

エイラ「はぁー? なに言ってんだ。私は未来を先読みできるんだ。事故なんて起こさない」

芳佳「でも、さっきからアクセルも踏んでませんし」

リーネ「エンジンをかける作業も忘れてますよ?」

エイラ「……」

サーニャ「エイラ、これだと走らないわ」

エイラ「わ、わかってるって。冗談だ」

ペリーヌ「早く発進してくださいな」

エイラ「みてろよ。サーニャも惚れ直す私のドライビングテクニックを」

ルッキーニ「ぶぃーん!!」

リーネ「ルッキーニちゃん、前見えてる?」

ルッキーニ「ぜんぜん、みえない」

ペリーヌ「そもそもペダルまで足が届いていませんわよ」

ルッキーニ「ギリギリとどくって」

芳佳「でも、ペダルを踏もうと思うとルッキーニちゃんの顔が外からじゃ見えなくなるような」

エイラ「どれどれ……。うわぁー。ホントだ。無人の車が走ってるみたいだゾ」

サーニャ「ちょっと、怖いかも」

ルッキーニ「ぶー! 本人が見えてるからいーの!」

芳佳「そうかなぁ……」

ペリーヌ「おそろしいですわね……」

リーネ「あはは」

バルクホルン「お前たち、何を故障車で遊んでいる!!」

エイラ「げ、大尉」

バルクホルン「全員、すぐに降りろ!!」

バルクホルン「宮藤やルッキーニはともかく、ペリーヌまで何をしているんだ。全く」

ルッキーニ「うじゅ」

芳佳「ともかくってなんですか!?」

ペリーヌ「これは……その……」

エイラ「大尉。これは私がみんなを誘ったんだ」

バルクホルン「エイラが?」

エイラ「みんなでほら、大型トラックとか運転できるようになれば、買出しとかも楽になるだろ?」

バルクホルン「運転技能を磨くことはいいが、今のはどうみても運転ごっこにしか見えないぞ」

サーニャ「あの、ただ訓練するだけじゃ面白くないと思って……私が……考えたんですけど……」

バルクホルン「そもそも練習にならんだろう。実際に動かしてみなければ」

芳佳「だって、ミーナ中佐が危ないからダメだって」

バルクホルン「だからって動かない車で練習か」

リーネ「シャーリーさんはしないよりは全然いいって言ってくれました」

バルクホルン「……」

エイラ「大尉。別に軍規に違反してるわけじゃないし、いいだろ?」

バルクホルン「――シャーリー!!」

シャーリー「んあ?」

バルクホルン「何をしている」

シャーリー「なにって、ユニットのセッティングだけど」

バルクホルン「お前が宮藤たちにイメージトレーニングをするよう勧めたそうだな」

シャーリー「ああ。そうだ。まぁ、私が言う前からみんなで楽しそうにハンドル動かしてたけど」

バルクホルン「ならば、しっかり指導してやれ。あれでは遊んでいると思われる」

シャーリー「指導っていわれてもな」

バルクホルン「ギアスティックのことも分かっていなさそうだったぞ」

シャーリー「マジ?」

バルクホルン「あれでは路上には永久に出せない」

シャーリー「それぐらいサーニャが知ってると思ったんだけどなぁ」

バルクホルン「いいから、見て来い」

シャーリー「はいはい」

バルクホルン「全く。どうかしている」

ペリーヌ「いいですか? 運転中はサイドミラーもしっかり確認するんですのよ」

リーネ「わ、わかりました」

芳佳「リーネちゃん、肩の力抜こう。リラックス、リラックス」

エイラ「実際に走るわけじゃないんだ。気張らずにいけ」

リーネ「は、はい」

ペリーヌ「では、出発」

リーネ「出発!」グッ

ルッキーニ「リーネ、それじゃあ踏み込みすぎじゃない?」

リーネ「え!? そ、そう!?」

サーニャ「急発進して私たち、後ろに倒れると思う」

エイラ「なにぃ? そうなのか? ――うわぁー」

芳佳「ぐぇ」

エイラ「お。大丈夫か、宮藤?」

芳佳「エイラさん、急にもたれ掛ってこないでくださいよぉ。びっくりするじゃないですか」

エイラ「だって、ほら、急発進は慣性の法則が働くからさぁ」

シャーリー「随分と楽しそうだな、お前たち」

芳佳「あ、シャーリーさん」

シャーリー「練習、捗ってるか?」

ペリーヌ「無論ですわ。このわたくしがいるのですから」

エイラ「私もだ。何も問題ないぞ」

リーネ「い、今、サイドミラーの重要性を教えてもらっていて」

シャーリー「ふぅん」

ルッキーニ「シャーリーも私が運転する車でドライブにつれていってあげるからね!」

シャーリー「そりゃ、楽しみだな」

ルッキーニ「でしょ?」

サーニャ「あの、やっぱりこの練習はダメですか?」

シャーリー「いやいや、注意しにきたわけじゃないから。続けてくれ」

サーニャ「よかった……」

ペリーヌ「ほら、リーネさん。最初から始めますわよ」

リーネ「は、はい!」

リーネ「前、よし。うしろ、よし。右、よし。左、よし。前、よし。全部、よし!」キョロキョロ

ペリーヌ「いいですわ」

リーネ「エンジン、始動します」

シャーリー「なぁ」

リーネ「な、なんですか!?」

シャーリー「前方後方の確認はいいんだけど、エンジンをかけたあとにやったほうがいいんじゃないか? エンジンかけるまでに状況は変わるし」

エイラ「言われてみればそうだな。おい、ペリーヌ、バカじゃないのか?」

ペリーヌ「なんですって!? 誰も注意してくれなかったくせにぃ!!」

芳佳「まぁまぁ、ペリーヌさん」

ペリーヌ「……ふんっ。もういいですわ!」

ルッキーニ「ペリーヌがすねたぁ」

リーネ「ペ、ペリーヌさん、困ります! 教えてください!!」

サーニャ「あの仲良くしましょう……」

シャーリー「あたし、余計なこといったか?」

芳佳「そ、そんなことないですよ!! シャーリーさんも教えてくれてありがとうございます!!」

ペリーヌ「ふんっ」

芳佳「ペリーヌさん、機嫌なおしてくださいよぉ」

ルッキーニ「キャンディ、たべりゅー?」

ペリーヌ「結構ですっ!」

サーニャ「エイラ、謝って」

エイラ「でも……」

サーニャ「エイラ」

エイラ「わかったよぉ。――ペリーヌ、悪かったな。お前はバカじゃないぞ、間が抜けていただけで」

ペリーヌ「謝るなら言葉ぐらい選んでください!!!」

シャーリー「はいはい。ストップ。やめろって。よく狭い車内でケンカできるな」

サーニャ「エイラとペリーヌさん、仲がいいから」

ペリーヌ「だ、だれが!! こんな他人の気持ちを一切考えない人のことなんてだいだいだい、だいきらいですわ!!」

エイラ「はぁー? 私だってお前のことなんてだいっきらいだかんなぁ!」

サーニャ「ご覧の通りです」

シャーリー「うん。そうだな。よし、ペリーヌ。あたしが助手席に座るから、お前はエイラの隣にでもいけ」

シャーリー「いいか、リーネ。まずはエンジンをかけて、ライトをつけろ」

リーネ「ライト? まだお昼の設定なんですけど」

シャーリー「ライトが点灯するかどうか、出発前に確認しておくのは重要だ。昼でも霧が出てくるようなことがあったら大変だろ?」

リーネ「あぁ。そうですね」

シャーリー「まずはそこからだ」

リーネ「わかりました」

ペリーヌ「ガルルルル!!」

エイラ「ベーッ!」

芳佳「やめましょうよぉ」

ルッキーニ「うるさーい」

サーニャ「エイラ、だめよ。ケンカするなら、車から降りないと」

芳佳「そういう問題なの!?」

エイラ「上等だ! 降りろ!!」

ペリーヌ「のぞむところですわ!」

シャーリー「おい。お前たちもあたしの話聞いててくれよ。全員に話してるんだからさ」

シャーリー「そっちがアクセル。こっちがブレーキ。これはクラッチペダル」

リーネ「は、はい」

シャーリー「で、クラッチを踏みながらシフトレバーを操作する。これがニュートラルで、1速、2速って感じだ」

リーネ「はいっ」

シャーリー「リーネ、理解してから返事してるか?」

リーネ「……すいません」

シャーリー「だよな。、とりあえず動かしてみてくれ」

リーネ「わかりました!」ガチャガチャ

シャーリー「うんうん。そんな感じだ」

芳佳「それしないとどうなるんですか?」

エイラ「車が爆発する」

芳佳「えぇー!? 私、今まで触ってもいませんでしたよー!?」

シャーリー「エイラ、嘘をいうな」

ペリーヌ「これは重要なものでしたの? てっきり、バックをするときのみに使用するものかと」

シャーリー「そっからの説明もしないとダメか……」

美緒「ん?」

シャーリー「いいかー? それじゃあ、テストするぞ。これは?」

ルッキーニ「アクセル!」

シャーリー「正解。えらいぞ、ルッキーニ」

ルッキーニ「えへへー」

芳佳「ペリーヌさん、これはなんでしたっけ?」

ペリーヌ「それは……えーと……バンパーという部位ですわ」

エイラ「ワイパーを動かすところは熟知したぞ!!」カチッカチッ

サーニャ「あ、動いてる」

ルッキーニ「うじゅー……そうじされりゅー……」

リーネ「ルッキーニちゃん!! ワイパーのところに顔をもっていったら危ないよ!!」

シャーリー「あはは。変な顔だなー」

美緒「シャーリー」

シャーリー「あ、え? 少佐?」

美緒「ちょっとこい」

美緒「もう少しどうにかならんか? あれでは訓練指導には到底見えないぞ。私は賑やかでいいと思うが、ミーナが見たらどう言うかわからん」

シャーリー「いや、真面目に教えてたら、ルッキーニとサーニャが寝始めて。それにつられてエイラと宮藤も」

美緒「なんだと?」

シャーリー「だから、もうああいう風に楽しくやらないといつまで経っても運転なんてできないかなぁって」

美緒「やる気がないならやめるように言ったほうがいいぞ」

シャーリー「いや、そんなことはないと思うんだけど……」


芳佳「リーネちゃん! もう一度、ギアチェンジ練習してみようよ!」

リーネ「うん! こうして! こうして! こう!」ガチャガチャ

エイラ「おぉ! リーネ!! ニュートラルから3速まで動かすのはやくなったなぁ」

ペリーヌ「リーネさん、油断しないように。こなれて来たときが一番危険ですのよ?」

リーネ「はい!」ガチャガチャ

芳佳「リーネちゃん、ギアチェンジ上手ぅー!」


美緒「……あれでか?」

シャーリー「本人たちは真剣なんですよ」

美緒「こら!! お前たち!!」

ルッキーニ「うきゃぁ!?」

サーニャ「あ……え? ね、ねてません……ねてませんから……」オロオロ

エイラ「少佐!! サーニャは夜間哨戒の疲れで!!」

美緒「何故こんなときに運転を学びたいのかは知らんが、習うならきちんと指導官の話をきけ!!!」

芳佳「す、すいません!!」

リーネ「ごめんなさい!!」

ペリーヌ「しょ、少佐……あの、わたくしは、真面目にシャーリー大尉の話をきいていました……」

エイラ「お前、自分だけずるいぞ」

ペリーヌ「だ、だって、本当のことですもの!!」

美緒「同罪だ、バカモノ!!」

ペリーヌ「ひぃ!」

美緒「シャーリーも教えたくて教えているわけではないんだぞ」

芳佳「え……」

シャーリー「いや!! 少佐!! あたしも教えたくて教えてますから!!」

エイラ「なんだ……。シャーリーには迷惑をかけていたのか……」

サーニャ「ごめんなさい……」

ルッキーニ「うぇぇぇん! シャーリーにきらわれたぁぁぁ……!!」

シャーリー「そんなわけないだろ!! あたしの話をきけよ!!」

美緒「違うのか? バルクホルンに言われて渋々付き合っているとハルトマンから聞いたが」

シャーリー「なんでそうなるんだ……。ハルトマンの勘違いですから」

美緒「そ、そうか。悪かったな」

芳佳「シャーリーさん……ご迷惑なら……無理には……」

リーネ「ごめんなさい。今までありがとうございました」

ペリーヌ「大尉……申し訳ありませんでした」

シャーリー「だから! ひとつも迷惑なんて思ってないって!!」

芳佳「でも……」

シャーリー「少佐」

美緒「ん?」

シャーリー「誤解を招く発言をしたんですから、それなりの罪滅ぼしはあってもいいですよねぇ?」

エーリカ「あぁー。だるぅー」

バルクホルン「何をあれしきの訓練で嘆くことがある。それでもカールスラント軍人か」

エーリカ「だってさぁ」

ミーナ「二人ともお疲れ様」

バルクホルン「ミーナか。疲れなければ訓練の意味がないからな」

エーリカ「おなかすいたぁ……。今日は宮藤がごはんつくってくれるんだよねぇ」

バルクホルン「急ぐぞ!!」

ミーナ「待って。ダメなの」

バルクホルン「ダメとはなんだ?」

ミーナ「向こう」

エーリカ「え?」


美緒「宮藤!! 後方確認はどうした!!!」

芳佳「すいません!! 忘れました!!」

美緒「確認一つ怠ったれば、むちうちになるかもしれんのだぞ!! そのときはどうするつもりだ!!」

芳佳「魔法でなんとかしますっ!!」

美緒「そういう問題ではない!!! ルッキーニと代われ!!」

芳佳「は、はい!!」

ルッキーニ「うじゅ……」

美緒「では、発進しろ」

ルッキーニ「うぅ……」

美緒「ここで右に曲がるぞ。そのときはどうする?」

ルッキーニ「ハンドルを右に」グイッ

美緒「ルッキーニ!! 曲がるときは30m手前、車線変更なら3秒前に方向指示器だろう!!」

ルッキーニ「うにゃぁ……ごめんなさい……」

美緒「やり直し!!」

エイラ「少佐は怖いなぁ」

シャーリー「運転中は常にいろんなところを見ていられる余裕をもっていたほうがいいかな。一箇所だけを見ていると、車っていうのは勝手に見ている方向へ進むんだ」

リーネ「はい」

サーニャ「シャーリーさんは優しい」

ミーナ「――みんなぁ。食事の時間だけど、どうするのー?」

美緒「む。もうそんな時間か」

シャーリー「今日はここまでにするか」

ペリーヌ「あ、あの、まだわたくし、少佐にご指導のほど賜りたく……」

エーリカ「ごはんまだぁー!!」

芳佳「そうだ!! 私が食事作らなきゃいけないのに!!」

リーネ「芳佳ちゃん、私も手伝うよ」

サーニャ「私も」

芳佳「ありがとう! それじゃあ急ごう!!」

エイラ「あ、サーニャ! 私もやる!」

サーニャ「うん。一緒にやりましょう、エイラ」

エーリカ「ごはん! ごはーん!!」

ミーナ「はいはい。見っとも無いわよ」

バルクホルン「子どもか」

ミーナ「それで坂本少佐。みんなの運転技能のほどはどう?」

美緒「上々だ。だが、外で運転させるにはもう少し時間が要るだろうな」

ペリーヌ「特にルッキーニさんなんて、技術以前の問題ですわね」

ルッキーニ「牛乳のむ! それでシャーリーみたいにおっきくなる!!」

ペリーヌ「あらあら。無駄な努力ではなくて?」

ルッキーニ「ペリーヌは、ぺったんこじゃん。飲んだほうがいいよ」

ペリーヌ「誰が胸の話をしていますか!!!」

シャーリー「ルッキーニは多分、ハンドルを握らせても天性のものがあるから問題ないと思うけどなぁ」

バルクホルン「道路にも規律があるのだぞ。センスだけ走れるのはサーキット内ぐらいだろう」

シャーリー「ま、そうなんだけどさ」

美緒「シャーリー。頼みたいことがあるのだが」

シャーリー「え? なんですか?」

美緒「あのジープ、至急修理してくれないか」

シャーリー「いいですけど」

美緒「頼む」

シャーリー「これをかぁ」

エーリカ「これ結構ハデに壊れてるんだっけ? スピード狂な人が走りすぎて」

シャーリー「違うぞ。元々いろんなところが弱っていて、あたしが乗ったら帰りに黒煙を噴いただけだ」

バルクホルン「ならば直せ」

シャーリー「分かってるって」

ミーナ「美緒。修理するのは結構だけど、宮藤さんたちに運転させないでね」

美緒「運転しなければつかめないこともある」

ミーナ「そうだけど」

シャーリー「大丈夫。運転するときはあたしか少佐が隣に座りますから」

美緒「それに滑走路を往復させるだけだ。危険もないにもないだろう」

ミーナ「でも、勢い余って海に落ちたり……」

美緒「はっはっは。そうだな、もしものときはバルクホルンに正面から車をとめてもらうか」

バルクホルン「なに!?」

エーリカ「……うん。バッチリだね」

シャーリー「お前、そういうの似合うなぁ」

バルクホルン「何を言ってる!! いくら私でも走ってくる車を正面から止めるなど無理に決まっているだろう!!」

美緒「はっはっは。冗談だ、バルクホルン。心配するな。私とシャーリーがついているのだからな」

大浴場

ルッキーニ「ハンドルを右に! 方向指示器、だす!」

サーニャ「逆よ」

ルッキーニ「そっか! ハンドルを左に! 方向指示器、つかう!」

エイラ「お前、わざとだろ」

ペリーヌ「ふぅ……それにしても、車の運転があれほど複雑だったとは……」

芳佳「意外と覚えること多いよね」

リーネ「うん。そうだね」

エイラ「でも、たのしいぞ」

芳佳「それはそうですけど」

エイラ「それに、全員で運転できるようになりたいだろ?」

芳佳「はいっ。それは勿論です」

ペリーヌ「わたくしは別に。後学のために学んでいるだけですわ」

ルッキーニ「ペリーヌ、にひぃ」

ペリーヌ「な、なんですか! それ以外の理由なんて、ございませんでしょ!!」

別の日

シャーリー「ふんふーんふーん」カチャカチャ

美緒「えー。シャーリーは見ての通り車両の修理に取り掛かったため、今日からは私とハルトマンが教官となる!!」

エーリカ「どうもどうも」

芳佳「よろしくおねがいします!!」

ペリーヌ「で、では、あの……この前の続きから……」

美緒「実技班と座学班に分ける。実技班はハルトマンから講義を60分受けろ。座学班は私のもとで運転時の規則について学んでもらう」

リーネ「了解」

エーリカ「それじゃあ、えーと、宮藤ぃ、ルッキーニぃ、サーにゃんは私のところにおいでー」

ルッキーニ「わーいっ」

芳佳「まってくださーい」

サーニャ「まってー」

エーリカ「はやくしないとエーリカがにげちゃうぞー」

リーネ(いいなぁ……芳佳ちゃん……)

美緒「では、始めるぞ!!! 時間は限られている!!! よーく聞くように!!!」

エーリカ「アクセル踏み込んで、ちょっと動かしてみて」

芳佳「は、はい」グイッ

エーリカ「そうそう。いいぞ、宮藤ぃ」

芳佳「ありがとうございます」

エーリカ「こうして動かすとまた違うだろ? ハンドルの感触なんて動かしてみないと絶対に分からないし」

芳佳「ですね!」

エーリカ「よし。宮藤はかわいいから合格!」

芳佳「ありがとうございます!」

エーリカ「これで全員かわいいから合格だね。おめでとう」

サーニャ「はい」

ルッキーニ「やったー」

芳佳「あの。ハルトマンさん。もう少し、その、車を運転してもいいですか?」

エーリカ「え? 二人もやりたい?」

サーニャ「はい、できれば」

ルッキーニ「やりたーい!!」

滑走路

バルクホルン「67……68……69……」グッグッ

エーリカ「ゴー! ルッキーニ!」

ルッキーニ「うにゃー!」

バルクホルン「ん?」

芳佳「あ、バルクホルンさーん! トレーニング中にすいません!!」

バルクホルン「……あの車、ルッキーニが乗っているのか?」

サーニャ「はい。外からは見えませんけど」

バルクホルン「ここにいては走行訓練の邪魔になるか」

芳佳「すいません。バルクホルンがいるとは思わなくて」

バルクホルン「いや、構わない。私は向こうにいる」

サーニャ「ごめんなさい」

エーリカ「ルッキーニ! 右折!」

ルッキーニ「ハンドルを右ぃ!」グイッ

エーリカ「方向指示器わすれてる。かわいいけど、不合格っ」

>>55
芳佳「すいません。バルクホルンがいるとは思わなくて」

芳佳「すいません。バルクホルンさんがいるとは思わなくて」

休憩

エーリカ「サーニャ。もっとアクセル踏んでもいいよ」

サーニャ「は、はい」

エーリカ「サーニャは陸軍で運転習わなかったのか?」

サーニャ「一応は習いました。でも、こうして実際に運転したことはありませんでした」

エーリカ「ふぅーん。そっか。よし、もっと速度だそう」

サーニャ「わかりました」グッ

エーリカ「もっと!」

サーニャ「はい!」グッ!!

エーリカ「よし! クラッチ&シフトチェンジ!!」

サーニャ「え!? は、はい!!」ガチャガチャ

エーリカ「ぅわぁ!?」

サーニャ「きゃぁ!?」

エーリカ「……バックに入れたら危ないね。かわいいけど、不合格だっ」


芳佳「あぁ……サーニャちゃん……大丈夫かなぁ……」

ルッキーニ「サーニャもダメじゃん」

バルクホルン「……何をしているんだ。あんな運転ではいつか海に転落するぞ」

シャーリー「そうかぁ? いいと思うけどなぁ」

バルクホルン「将来的には大型トラックも運転したいと言っていたが、あれではいつになるか」

シャーリー「そんなこと言ってるけど……いや、なんでもない」

バルクホルン「運転しない私に批判をする資格はないということか?」

シャーリー「そういうことじゃ……。お、宮藤が乗り込んだな」

バルクホルン「……」

エーリカ「いいか、宮藤。少し速度をあげて、ギアチェンジだ」

芳佳「わかりました!」

エーリカ「ゴー! 宮藤!」

芳佳「でやぁー!!」

エーリカ「……宮藤、エンストした。かわいい不合格だ」

芳佳「はい」

シャーリー「あーあ……」

バルクホルン「車など、乗れなくとも問題ないだろうに。何を必死になっている」

美緒「それでは本日の講義ここまで!! これより飛行訓練にはいるぞ!!」

芳佳「了解!」

エイラ「うぇー。つかれた」

リーネ「そうですね……」

美緒「ハルトマン、すまなかったな。こんなことを頼んで」

エーリカ「別に。こっちも楽しかったよ」

美緒「どうだ、見込みはあるか?」

エーリカ「そうだねぇ。宮藤、リーネ、ペリーヌ、サーニャは並。ルッキーニとエイラは技術だけ高いけど、ルール守ってくれないから町にいったら事故起こすね。周りが」

美緒「エイラとルッキーニは徹底的にその辺を叩き込むしかないか」

エーリカ「それさえできれば、一流レーサーにもなれるよ」

美緒「はっはっはっは。そうか」

バルクホルン「ふぅ……」

エーリカ「あ、トゥルーデも一緒に運転学んでみるー?」

バルクホルン「答えがわかっていて質問するのは悪趣味だぞ、ハルトマン」

エーリカ「一応訊いただけじゃん」

美緒「シャーリー、修理のほうはどうだ?」

シャーリー「明日には直ると思いますよ。試乗してみないと何ともいえませんけど」

美緒「よし。これが直れば実技訓練に時間を使えるようになるな」

芳佳「坂本さーん!! 準備できましたー!!」

リーネ「いつでもいけまーす!!」

美緒「よし!! ついてこい!!」

シャーリー「いってらっしゃーい」

エイラ「シャーリー」

シャーリー「なんだ?」

エイラ「これ直ったら、自由に乗っていいのか?」

シャーリー「それは無理じゃないか?」

エイラ「でも、中尉には乗るだけなら天才的って言われたぞ」

シャーリー「それ、色々危ないってことだろ? やめとけ」

エイラ「でも私は早く……!!」

サーニャ「エイラ、焦っちゃダメよ。ゆっくり慣れて行こう」

ペリーヌ「はぁ……。とはいえ、先が見えない気もしますわね。エイラさんじゃなくても焦りたくもなりますわ」

エイラ「だよな」

シャーリー「それで事故が起きたらどうするんだ。宮藤の魔法だって万能じゃないぞ」

ペリーヌ「それはわかっていますが」

バルクホルン「全くだな」

サーニャ「バルクホルンさん」

バルクホルン「お前たち、何をそんなに急いているんだ。運転などゆっくり練習していけばいいはずだ」

ペリーヌ「わたくしは……後学のために……」

エイラ「なんのためって……なぁ、サーニャ?」

サーニャ「うん……」

バルクホルン「……どうやら下らない目的のようだな」

ペリーヌ「うぅ……」

バルクホルン「学ぶのはいいことだが、怪我だけはするな。いいな」

エイラ「あ、ありがとう、大尉」

バルクホルン「ふんっ」

美緒「――よし。ここまでにするか」

芳佳「はいっ。ありがとうございます」

リーネ「つかれたぁ……」

美緒「運転するだけでも何かと体力を消耗するからな。無理はするなよ」

リーネ「はい。気をつけます」

芳佳「リーネちゃん、お風呂いこうよ」

リーネ「そうだね。もう汗で服がくっついて……」

芳佳「……ぴったりくっついてるね」

リーネ「うん。きもちわるいよぉ」

芳佳「すごい……」

リーネ「なにが?」

芳佳「あ、ううん!! なんでもないの!!」

バルクホルン「……」

芳佳「あれ、バルクホルンさんだ」

リーネ「何してるんだろう……? 車を眺めてるみたいだけど……」

バルクホルン「私も運転できれば……いつでも……」

芳佳「バルクホルンさんっ」

バルクホルン「ん? 宮藤、リーネ。訓練終わりか」

リーネ「はい。これシャーリーさんが修理していたやつですよね。直ったんですか?」

バルクホルン「いや、まだ完璧ではないようだ」

芳佳「あのぉ、なにしてたんですか?」

バルクホルン「なんでもない。考え事をしていただけだ」

芳佳「そうですか」

バルクホルン「……」

リーネ「バルクホルン大尉、えっと、一緒にお風呂……どうですか?」

バルクホルン「なに?」

リーネ「あ、いえ! その、よければ……でいいんですけど……」

バルクホルン「宮藤は?」

芳佳「一緒に行きます」

バルクホルン「そうか。では、三人で行くか」

別の日

ルッキーニ「よぉーし!! 今日もうんてんしゅるー!!」

芳佳「おー!!」

美緒「シャーリー、修理はどうなった?」

シャーリー「バッチリです。ただ、古い型なんであまり無理はできませんね」

美緒「無理をさせるのはどこかのスピードマニアくらいだろう」

シャーリー「……すいません」

美緒「別に怒ってなどいない。シャーリーはリーネ、エイラ、ペリーヌを頼む」

シャーリー「了解!」

ペリーヌ「あ……そんな……」

シャーリー「残念だったなぁ。ペリーヌ? ほら、こっちこいよ。少佐みたいにしごいてやるから」

ペリーヌ「シャーリー大尉は少し優しすぎますわ」

シャーリー「そうか?」

ミーナ「あら、今日も運転するの?」

シャーリー「中佐。ええ、まぁ。こういうことは体に覚えさせたほうが絶対にいいんで」

美緒「おぉ。ミーナ。ミーナも教官をしてみるか?」

ミーナ「私はいいわ。それよりも坂本少佐? 随分とみんなが腕を上げてきたという話だけど」

美緒「うむ。あと数時間ほど練習すれば路上に出ても問題はないように思う」

ミーナ「路上ね……」

美緒「不安か?」

ミーナ「私の目が届かないところにみんながいけるようになると思うと不安にだってなるわ」

美緒「はっはっはっは。子離れできない母親のようだな」

ミーナ「そういう少佐は放任主義な父親のようね」

ルッキーニ「おぉー、それじゃあ、あたしのパパとママだぁー」

ミーナ「え……!?」

美緒「そうなるか」

シャーリー「すげー若い親だなぁ」

ミーナ「こ、こら!! からかわないで!!!」

美緒「はっはっはっは。9人の子がいるようには到底みえんなぁ」

ミーナ「美緒まで!! やめて!!」

ルッキーニ「ママー!!」ギュゥゥ

ミーナ「やめなさい!! ルッキーニさん!!!」

シャーリー「あれ、満更でもない感じですか?」

美緒「ミーナはああいうのに弱いようだな」

ルッキーニ「にひひぃ」スリスリ

ミーナ「怒りますよ!!」

美緒「いいじゃないか。仲睦まじくて」

シャーリー「うん。いいんじゃないか?」

ミーナ「見てないでたすけなさい!! もう、たすけてぇ……」

エイラ「シャーリー、まだかぁー。もうペリーヌがエンジンかけちゃったぞー」

ペリーヌ「エイラさんがかけたんでしょう!?」

エイラ「あぁ? お前が早くしろって顔で訴えたからだろ?」

ペリーヌ「そんな顔してませんわ!! ね!? リーネさん!!」

リーネ「……ノーコメントで」

シャーリー「悪い悪い。すぐに始めよう」

滑走路

シャーリー「よし。それじゃ、もう少し速度を出して、いつもどおりにギアをかえて」

ペリーヌ「はい」ガチャ

シャーリー「あの停止線でとまってくれ」

ペリーヌ「了解」

シャーリー「――おーし。ペリーヌ、合格っ。よくできましたー」ナデナデ

ペリーヌ「んっ。こ、この程度は……別に……。って!! ルッキーニさんのように扱わないでくださいな!!」

シャーリー「やっぱり飲み込みが早いな。優秀だよ、お前たち」

リーネ「シャーリーさんや坂本少佐の教え方が上手かったから」

エイラ「だな」

ペリーヌ「……まぁ、一理はありますわね」

シャーリー「サンキュ。それじゃあ、もう一度エイラが運転するか」

エイラ「わかった。まかせろぉ」

シャーリー「えーと……お? あそこにバルクホルンがいるな。丁度いいから、バルクホルンの傍まで行って停車してみるか」

エイラ「了解! いくぞぉ……」グンッ!

バルクホルン「95……96……97……98……99……」グッグッ

バルクホルン「――ん?」


エイラ「ドリフトだぁ」ギュルルル!!

リーネ「きゃぁぁ!!!」

ペリーヌ「お、おや、おやめなさーい!!!」

エイラ「そして、停車」キキッ

リーネ「あふぅ!?」

ペリーヌ「ふぎゅ!?」

エイラ「決まったな」キリッ

シャーリー「……」

エイラ「どうだった?」

ペリーヌ「こ、こんなの……ダメに決まっているじゃ……ありませんの……シャーリー大尉……不合格を……」

シャーリー「エイラ……」

エイラ「ダ、ダメか?」

シャーリー「すっげぇぇな!! お前!! これはあたしも負けてられないぞ!! というか、エイラ、今度レースしよう!! レース!!」

エイラ「いいぞ。師弟対決だな」

シャーリー「おーし。まけないぞぉ」

バルクホルン「――降りろ。リベリアン」

シャーリー「え?」

リーネ「バルクホルンさん?」

バルクホルン「降りろ」

シャーリー「はいはい。――よっと。で、なんだよ?」

バルクホルン「今のようなことをお前は教えているのか?」

シャーリー「え。いや、あれはエイラの才能だけど」

バルクホルン「あのような危険運転を講習中にさせるのか」

シャーリー「だから……」

エイラ「大尉? どうした?」

バルクホルン「今のような行為をさせるなら、私はこの訓練を認めるわけにはいかなくなる」

ペリーヌ「そ、そんな!」

シャーリー「待てよ。今のはタイヤを滑らせても大きな危険はなかったんだって。エイラにはそれだけの技術もあったしな。さっきのを宮藤やリーネがやろうとしたら止めたさ」

バルクホルン「シャーリー、本気で言っているのか?」

シャーリー「いや……」

バルクホルン「そうか。信じた私が愚かだったか」

シャーリー「あ、まて」

エイラ「大尉、どこいくんだ?」

リーネ「あの、バルクホルンさん」

バルクホルン「ミーナに進言してくる。これ以上、危険運転をさせないためにも訓練の即時中止をするようにとな」

エイラ「まってくれぇ!」

シャーリー「わ、悪かった! もうしないし、させないから!!」

バルクホルン「知らん」

ペリーヌ「あの、もうしわけありません!! エイラさんにはわたくしとリーネさんからきつくいっておきますので!!」

リーネ「ごめんなさい!!」

エイラ「かんべんしてくれぇ」

バルクホルン「……」

シャーリー「頼む、バルクホルン。もう二度としないって」

バルクホルン「だが――」

ルッキーニ「――うにゃぁー!!!!」ギュルルルル!!!!

バルクホルン「……!?」

芳佳「ルッキーニちゃぁぁぁん!!! やめてぇぇぇ!!!!」

サーニャ「せかい……が……まわる……」

ルッキーニ「フィニッシュ!!!」キキッ!!!

シャーリー「おい!! ルッキーニ!!」

ルッキーニ「シャーリー!」

シャーリー「お前!! すごすぎるだろ!! こんな短期間によくもここまで成長したなぁ!!」

ルッキーニ「でっしょー」

芳佳「うぅ……」

サーニャ「きも……ち……わる……ぃ……」

芳佳「サーニャちゃん!? 大丈夫!?」

サーニャ「だ……め……で……る……」

芳佳「サーニャちゃん!! しっかりして!!」

エイラ「サーニャ、大丈夫か?」

サーニャ「ごめんね……エイラ……ありがとう……」

エイラ「気にすんなって」

美緒「3時間ほどバケツを持っていろ」

ルッキーニ「うぇぇぇぇん!!! なんでぇぇぇ!!!」

美緒「当たり前だ!!! 私の許可なく車を動かすなと言っただろう!!!」

ルッキーニ「だって……エイラが……かっちょいい運転してたからぁ……」

エイラ「私の所為にすんなぁー」

バルクホルン「お前も持て、エイラ」

エイラ「えぇぇ……」

バルクホルン「反省しろ。でなければ、訓練は……」

エイラ「わ、わかった!! もつって!!」

バルクホルン「それでいい。あとは……シャーリー?」

シャーリー「はい! もう持ってます!!」

バルクホルン「よし」

美緒「今日の講習は終了だな」

ペリーヌ「そうですか……」

芳佳「仕方ないね」

リーネ「うん。物足りないけど」

サーニャ「ふぅー……ふぅー……」

ペリーヌ「サ、サーニャさん!? 顔が真っ白ですわよ!?」

サーニャ「もと……からです……」

ペリーヌ「宮藤さん!! サーニャさんを運びますわよ!!」

芳佳「わかりました!!」

サーニャ「うぅ……ぅ……くちのなかが……すっぱい……の……」

ペリーヌ「サーニャさん!! 自分に負けてはいけませんわ!!」

芳佳「すぐに治療してあげるから!!」

リーネ「がんばってー!!」

バルクホルン「少佐、これは問題だ。このままではいつか大事故を起こすかもしれないぞ」

美緒「そうだな……。一考せねばならないか」

エイラ「宮藤ぃー!! サーニャをたのむぞー!!!」

芳佳「分かってます!!!」

エイラ「サーニャ……」

シャーリー「しかし、危なかったなぁ。あのまま禁止なんてなってたら、お前たち車の運転もさせてもらえなくなるところだったぞ」

ルッキーニ「エイラがわるいんだよぉ」

エイラ「だから、私の所為にすんなぁー」

シャーリー「うーん。でも、確かに初心者が暴走するってことはよくあるしなぁ」

エイラ「教官が危ないって思ったらブレーキ踏めばいいんじゃないか?」

ルッキーニ「おぉ!」

シャーリー「助手席から足を伸ばすのか? 危ないって感じてからじゃ間に合わないだろ」

エイラ「そうか」

シャーリー「あ。そうか。助手席にもブレーキがあればいいんじゃないか?」

エイラ「それ、できるのか?」

シャーリー「ちょっと弄ればできるだろ。よし、罰が終わったら早速取り付けてみるかー」

ルッキーニ「シャーリー、すごーい!!」

バルクホルン「……」

エーリカ「トゥルーデ、なに車みてるの?」

バルクホルン「いや」

ミーナ「そろそろロンドンのほうまで行きたいんじゃない?」

エーリカ「なるほど、クリスか」

バルクホルン「そんなことはない。数日前もハルトマンと共に行って来たばかりだ」

エーリカ「数日前って60日以上前だろ?」

ミーナ「悪いわね。私たちも気軽に連れて行ってあげたいのだけど」

バルクホルン「分かっている。時間が取れるときだけでいい」

エーリカ「だから、私がいつでもいってあげるのにさぁ」

バルクホルン「お前が頻繁に基地を離れるわけにはいかないだろう。いい加減にエースであるという自覚を持て」

ミーナ「トゥルーデ、頼ってもいいのよ? 短時間なら問題ないし」

バルクホルン「いいんだ。いつネウロイの襲撃があるのか分からないからな」

エーリカ「無理しちゃってさぁ」

バルクホルン「無理などしていない。さ、私たちも訓練に行くぞ」

別の日

シャーリー「できたー!! 少佐ぁ!! やりましたー!!」

美緒「これか……」

シャーリー「助手席にもブレーキをつけたんで、万が一のときはこれで無理やり止めればいい」

美緒「やるな、シャーリー」

シャーリー「でしょう?」

美緒「どうだ、ミーナ? これなら公道へ出ても安心だろう」

ミーナ「そうね……。ちゃんと機能するの?」

シャーリー「問題ないです」

ミーナ「それなら構わないわ」

エイラ「ついに外にいけるのか!?」

ペリーヌ「いいのですか!?」

美緒「この補助ブレーキがあるからな」

芳佳「やったね! リーネちゃん!!」

リーネ「うん。これで本格的な練習ができるね!」

滑走路

エーリカ「あ、みてみて。トゥルーデ。みんなが出て行くみたい」

バルクホルン「……」

芳佳「あ! バルクホルンさーん!! ハルトマンさーん!! いってきまーす!!!」

エーリカ「おー。気をつけろよー」

リーネ「はーい!!」

バルクホルン「下らん」

エーリカ「そうかな。いいことだと思うけど」

バルクホルン「敵襲があったらどうするんだ。あんなことをしていては出撃時に時間を無駄に食うことになるんだぞ」

エーリカ「はいはい。宮藤たちが公道にでるのが心配なんだろ。わかってるわかってる」

バルクホルン「誰がそんなことを言った!!!」


エイラ「サーニャ、補助ブレーキがあるならサーニャと二人でも練習できそうだな」

サーニャ「ダメよ、エイラ」

シャーリー「そうだぞ。補助ブレーキは飽くまでも補助だ。過信するなよ」

エイラ「えー?」

食堂

ペリーヌ「……」

芳佳「……はぁ」

リーネ「つかれたね」

ミーナ「あらあら。どうしたの、みんな。随分と表情が暗いけど」

ペリーヌ「街のほうで練習したのですが……」

芳佳「ペリーヌさん、すっごく危なかったよね。交差点で曲がる度にエンストしちゃって」

ペリーヌ「なにをおっしゃいます!! 宮藤さんだって坂道発進ができずに下がっていったではありませんの!! 補助ブレーキがなれけば後続車と接触事故をおこしていましたわよ!」

芳佳「はい。そうです……」

リーネ「私も何度もエンスト……させちゃったから……」

ミーナ「みんな、苦労したのね」

ルッキーニ「うじゅ……街中で走るの窮屈だよね」

エイラ「どうして信号なんてあるんだ。いらないだろ。なぁ、サーニャ?」

サーニャ「信号はいるわ」

エイラ「ダナ。信号は大事ダナ」

ミーナ「みんな、一人で運転できるようになったらどこに行きたいの?」

芳佳「それは……」

エイラ「こら、宮藤」

芳佳「あぁ、そっか」

ミーナ「なに? 秘密なの?」

エイラ「軍事機密だ」

ミーナ「隊長命令よ。白状しなさい」

ペリーヌ「実は――」

ミーナ「うふふ。嘘よ。言わなくていいわ」

リーネ「ありがとうございます」

ミーナ「想像はつくもの」

サーニャ「え……?」

ミーナ「そうねぇ……バルクホルン大尉が関係しているんじゃないかしら?」

芳佳「なんでわかるんですか!?」

エイラ「おい、宮藤ぃ!! 何喋ってるんだぁ、こらぁ!! 怒るぞぉ!!」

芳佳「怒りながら怒るぞなんていわないでくださいよぉ!」

エイラ「おまえぇ……!!」

ペリーヌ「宮藤さんにしてはよくもったほうですわ」

リーネ「芳佳ちゃん……」

ミーナ「そう。やっぱりね」

サーニャ「どこで気がついたんですか?」

ミーナ「最近、バルクホルン大尉はよく車を眺めているでしょ? それであなたたちの誰かが様子が変だと気づいていてもおかしくはないもの」

ペリーヌ「一番最初に気がついたのはエイラさんで……」

芳佳「えー? 私はペリーヌさんから聞いたのに」

リーネ「殆ど同じタイミングで気がついたんですよね」

エイラ「まぁ、な……」

サーニャ「どうしてだろうってみんなで話していたら、芳佳ちゃんが……」

芳佳「きっとクリスさんに会いたいんじゃないかって思って」

ミーナ「それで一斉に運転の訓練を?」

芳佳「はい。みんなが運転できれば、バルクホルンさんも気軽にロンドンまでいけるじゃないですか」

ルッキーニ「にひぃ。みーんなでロンドンまでドライブもいいけどねー」

エイラ「わ、私はあれだぞ。あくまでも大尉の件はついでで、本来の目的はサーニャとのドライブだから」

サーニャ「そうね。私もよ、エイラ」

エイラ「だ、だよな。だよなぁ」

ミーナ「リーネさんもペリーヌさんも同じ理由で?」

リーネ「はい。私たちにできることって、こういうことしかないですから」

ペリーヌ「後学のために運転技術を磨いているわけですわ。軍人たるもの、大型車ぐらい操れないでは恥ずかしいですもの」

ルッキーニ「ペリーヌはエンストする癖直さないとね」

ペリーヌ「ルッキーニさんだって無理な追い抜きをしようとして危うく対向車と衝突しそうになったのが幾度となくあったでしょう!?」

ルッキーニ「だって、前の車が遅いんだもん」

サーニャ「エイラも同じよね。カーチェイスだーって言いながら蛇行運転始めるし」

エイラ「まぁ、しっかりシャーリーに怒られてけどな」

芳佳「私、あんなに怒ったシャーリーさん、初めて見ましたよぉ」

ミーナ「……」

ルッキーニ「あれ? どったの? 中佐?」

ミーナ「……そう。みんな、ありがとう」

芳佳「そんなぁ。だって、バルクホルンさんにお世話になってるのは私たちですから」

リーネ「いつか恩返ししたいって考えてましたから」

ミーナ「なら、私や坂本少佐、ハルトマン中尉、シャーリーさんにもなにかあると考えていいのかしら?」

芳佳「それは……」

ペリーヌ「ええと……」

リーネ「あぅ……」

ミーナ「ごめんなさい。意地悪言ったわね。いいのよ。まずはバルクホルン大尉からね?」

ペリーヌ「中佐にも必ずなにかこう……はいっ!!」

ミーナ「楽しみにしているわ。それじゃあ、失礼するわ」

芳佳「――リ、リーネちゃん!! どうしよう……なにも考えてなかったよぉ」

リーネ「ケーキとか……ダメかな……」

エイラ「お前ら、しっかり考えろよなぁ」

サーニャ「エイラ、みんなで考えないと」

エイラ「そうダナ。みんなで考えないといけないんダナ」

廊下

ミーナ(まさか、みんながトゥルーデのために……ふふっ……。少し羨ましいわね)

バルクホルン「……ミーナ」

ミーナ「トゥ、トゥルーデ!? もしかして……今の話……」

バルクホルン「ああ……聞いてしまった……」

ミーナ「そう」

バルクホルン「ミーナ。どうすればいい?」

ミーナ「なにが?」

バルクホルン「……」

ミーナ「ちょっと? 大丈夫?」

バルクホルン「ダメだ……顔の筋肉が勝手に……うごいて……。今私はどんな顔をしている……?」

ミーナ「えっと……」

美緒「おぉ、ミーナ。探したぞ。実は――」

バルクホルン「しょう……さ……」

美緒「おぉ!? ど、どうした? 泣き笑いか、バルクホルン?」

ブリーフィングルーム

バルクホルン「ふふっ……ふっ……」

シャーリー「バルクホルンのやつ、どうしたんだ?」

ミーナ「色々あったのよ」

エーリカ「それで、呼び出してなにかあるわけ?」

美緒「ああ。ハルトマンも今後、乗る可能性があるから伝えておきたくてな。補助ブレーキについてだ」

エーリカ「それがどうしたの?」

シャーリー「これ、ダメだったんだ」

ミーナ「ダメってどういうこと? ブレーキとして役目を果たせていないってこと?」

美緒「いや、そうではない。ただ急造品であるが故か、すぐにブレーキの効きが甘くなってしまうようでな」

シャーリー「ルッキーニやエイラの暴走、あとは宮藤やペリーヌが失敗するたびに補助ブレーキを使っていたからかもしれないけど」

エーリカ「大丈夫だったのか?」

シャーリー「今日はなんとか。すぐに改良を加えるつもりだけど、みんなの上達が遅れるとそのうち……」

ミーナ「補助ブレーキが効かない事態になって、事故が起きる」

美緒「それを伝えておきたくてな。まぁ、ブレーキを使わなければいいのだが」

格納庫

ペリーヌ「……よし」

エイラ「なにやってんだ?」

ペリーヌ「な……!? な、なんでもありませんわ!!」

サーニャ「ペリーヌさん……もしかして……」

エイラ「いけないんだぞ。勝手に乗っちゃ」

ペリーヌ「わかっていますわ。ですが……今日の実技であのような醜態を坂本少佐だけでなく、宮藤さんにまで……」

ペリーヌ「あんなのわたくしのプライドが許しませんわ」

エイラ「……」

サーニャ「エイラ?」

エイラ「サーニャ、宮藤たちも呼んでこよう」

サーニャ「でも……」

エイラ「30分ぐらいならばれないって。やろう」

ペリーヌ「エイラさん」

エイラ「お前だけ上達しようなんてダメだ。全員で上手くなるんだ。いいな?」

ブリーフィングルーム

バルクホルン「――今の話は本当か?」

エーリカ「トゥルーデ、気持ち悪い顔になってるぞ」

バルクホルン「今の話は本当なのか?」

シャーリー「そうだよ。それがどうした?」

バルクホルン「どうしたもこうしたもあるか、今すぐ改良を加えろ。何かがあってからでは遅い」

美緒「落ち着け、バルクホルン。直ちに影響がでるものではない」

バルクホルン「少佐!! ならば問う!! 明日、そのブレーキが効かなくなったらどうするんだ!?」

美緒「む……」

バルクホルン「また宮藤が坂道発進で失敗するかもしれない。ルッキーニやエイラが暴走してしまうかもしれない。そんなとき、ブレーキが機能不全を起こしたらどうする!?」

エーリカ「あー。もうだめだね。こうなったらトゥルーデはしつこいよ」

美緒「バルクホルンの言うことは正しいな。シャーリー、今すぐ取り掛かれるか?」

シャーリー「まぁ、工具や部品を揃えないといけないけど、やれないことはないかなぁ」

バルクホルン「そうか!! では、いくぞ!!! 私も協力する!! いそげぇ!!!」

シャーリー「どこいくんだよ!!」

滑走路

リーネ「あの……怒られますよ?」

エイラ「大丈夫だって。ブレーキだって二つもあるんだぞぉ」

芳佳「でも、過信しちゃいけないって」

エイラ「一日でも早く、大尉をロンドンに乗せていけるようになりたくないのか?」

ペリーヌ「それは……」

芳佳「そうですけどぉ」

エイラ「私たちは公道に出たんだ。ここでの練習なら私たちだけでもできるだろ」

ルッキーニ「そうだね! やろうよ、みんなぁ! それでそれで、みんなをロンドンまで連れていってあげよーよ!!」

芳佳「……そうだね。ちょっとぐらいなら、大丈夫だよね」

ペリーヌ「リーネさん、どうされますか?」

リーネ「やります! 私だってみんなの役にたちたいですから」

サーニャ「……わたしも」

エイラ「よし。決まりだな。私とサーニャは同じ車な。二人きりにさせろ」

芳佳「はい。じゃ、私とリーネちゃん、ペリーヌさん、ルッキーニちゃんで一緒に走ろう!」

エイラ「――よし。サーニャ、まずは私からな」

サーニャ「ええ」

エイラ「……見ろ、サーニャ。一番星がキレイだ」

サーニャ「ホントね」

エイラ「ま、サーニャのほうが何倍もキレイだけどな」キリッ

サーニャ「も、もう……やめて……」

エイラ「サーニャ……」

サーニャ「エイラ……」


ペリーヌ「……なにをやっているのやら、あの二人は」

芳佳「いいじゃないですか。誰から運転する?」

ルッキーニ「はいはいはいはい!!」

リーネ「ルッキーニちゃんは十分上手いんじゃ……」

ルッキーニ「えぇー!?」

ペリーヌ「まぁ、誰からでもいいですわよ。ルッキーニさんの課題はきちんと速度を一定に保ったまま、コースからはみ出ないように走行することですからね」

ルッキーニ「にひぃ! 了解!!」

食堂

エーリカ「あれ? みんないないなー」

ミーナ「どこに言ったのかしら……。明日からの運転技能訓練についても説明しておきたいのに」

美緒「いたか?」

ミーナ「いいえ」

美緒「そうか。大浴場のほうにもいなかった」

エーリカ「……」

ミーナ「どうしたの?」

エーリカ「ミーナは一応、みんなの部屋を調べてみてよ。私はちょっと心当たりを探ってみるから」

美緒「おい!! ハルトマン!!」

ミーナ「とりあえず、各部屋を回ってみるわね」

美緒「分かった」

ミーナ「どこに行ったのかしら……」

美緒「……なんだ、この胸騒ぎは」

美緒「まさか……。いや、だが……行ってみるか……」

シャーリーの部屋

バルクホルン「早くしろ」

シャーリー「待てよ。色々と揃えるものがあるんだから」

バルクホルン「遅いぞ。お前は速さだけが取り柄のはずだ」

シャーリー「だけってなんだ!!」

ミーナ「二人とも」

バルクホルン「どうした?」

ミーナ「宮藤さんたちがどこにもいないのだけど、見かけなかった?」

バルクホルン「いや」

シャーリー「みてないなぁー。風呂じゃないのか?」

ミーナ「いいえ」

バルクホルン「……」

エーリカ「――トゥルーデ!! 大変だ!!」

バルクホルン「どうした!!」

エーリカ「滑走路でジープが二台走ってる!! 多分、宮藤たちだ!!」

滑走路

ルッキーニ「うにゃぁにゃぁ」

芳佳「やっぱり、ルッキーニちゃんは運転上手いね」

ルッキーニ「ありがと、よしかぁ」

ペリーヌ「ルッキーニさん、そろそろ代わってくださらない?」

ルッキーニ「えぇー、もうちょっとだけぇ」

リーネ「ほら、あまり時間もないし……」

ルッキーニ「うじゅぅ。それじゃ、次は誰?」

ペリーヌ「わたくしですわ」

ルッキーニ「それじゃ、交代ね」

ペリーヌ「――ふぅ。宮藤さん、補助ブレーキ係よろしくお願いしますわね」

芳佳「はい! 任せてください!!」

ペリーヌ「では、行きますわよ!!」グンッ!!

リーネ「ペリーヌさんはよくエンストしちゃうから、減速時に注意してくださいね」

芳佳「エイラさんとサーニャちゃんはなにしてるのかなぁ……」

エイラ「サーニャぁ……」

サーニャ「んっ……エイラ、そろそろ運転しましょう」

エイラ「ダナ。忘れてた」

サーニャ「がんばってね」

エイラ「分かってる。――いくぞ!!」グンッ!!

サーニャ「エイラ、すこし飛ばしすぎよ」

エイラ「大丈夫。ここでの走行は慣れているしな」

サーニャ「そうだけど」

エイラ「いざとなったら、サーニャがブレーキ踏んでくれ」

サーニャ「わかったわ」

エイラ「よーし、いくぞー」


ルッキーニ「ペリーヌ、エイラにまけてるよ」

ペリーヌ「勝ち負けではありませんわ」

リーネ「うん。ゆっくり運転しましょう」

芳佳「安全第一ですからね」

ペリーヌ「では、まずはギアをあげて……」ガチャガチャ

芳佳「それで曲がるときに減速してクラッチを踏んでギアを……」

ペリーヌ「わかっています!! お静かに!!」

リーネ「リラックスですよ」

ルッキーニ「頑張れ、ペリーヌぅ」


美緒「――お前たちぃ!!! 何をしている!!! 車から降りろぉ!!!!」


ペリーヌ「ひっ!?」グッ!!!

ルッキーニ「うにゃぁぁ!?」

リーネ「きゃぁ!?」

芳佳「ぺ、ペリーヌさん!! 速度落として!!」

ペリーヌ「え!? え!? でも……!!」オロオロ

エイラ「ペリーヌ!! そっちは海だぞ!! 減速しろってー!!」

サーニャ「あぶない……!」

美緒「どちらでもいい!! ブレーキをふめ!!! 海に突っ込むぞ!!!」

ペリーヌ「あ……あぁ……!!」グッ!!

ルッキーニ「それクラッチぃ!」

芳佳「ふっ!!」グッ!!

リーネ「え……? とまらない……」

芳佳「どうして……ブレーキがきかない……!!」グッグッ

ルッキーニ「うにゃぁぁ!!!」

リーネ「落ちる――!!」

シャーリー「――いけぇぇ!!!」ブゥン!!!

バルクホルン「うおぉぉぉ!!!!」

エイラ「なんだ!?」

サーニャ「バルクホルンさんが……!」

バルクホルン「――こい!!」ダンッ

芳佳「バルクホルンさん!? にげてぇぇ!!!」

リーネ「ぶつかります!!」

バルクホルン「止めてやる!!! 私がブレーキだぁぁぁぁ!!!!!」ガンッ!!!!

バルクホルン「ぬおおぉぉぉ!!!!」ズズズズ!!!!

芳佳「バルクホルンさん!!」

バルクホルン「早く降りろ!!」

ルッキーニ「うにゃぁ!! 飛び降りよう!!」

リーネ「でも……このままじゃ……!! バルクホルン大尉が……!!」

バルクホルン「早くしろ!!!」

ペリーヌ「リーネさん!! はやく!!」

リーネ「は、はい!!」

芳佳「やぁっ!!」

バルクホルン「よし……!」

美緒「バルクホルン!! 離脱しろ!! もう十分だ!!!」

バルクホルン「勢いがとまらない……んだ……!!」

ミーナ「――フラウ!! 車の側面に魔法を叩きつけて!!!」

シャーリー「急げ!! ハルトマン!!」

エーリカ「分かってるってー!! シュトゥルム!!!」

美緒「この大馬鹿者達がぁ!!!!」

芳佳「ごめんなさい……」

ペリーヌ「……もうしわけありません」

美緒「あれだけ勝手なことはするなと言っただろうが!!!」

リーネ「はい……」

ルッキーニ「ごめんなさい……」

美緒「命令も満足に聞けない者など、足手まといなだけだ!!!」

エイラ「……」

サーニャ「……」

バルクホルン「少佐。待ってくれ」

美緒「止めるな!!」

ミーナ「美緒」

美緒「……」

バルクホルン「何故、少佐の言うことを守れなかった?」

エイラ「それは……あの……少しでも練習がしたくて……さぁ……」

バルクホルン「どうしてそこまで上手くなろうとしている?」

エイラ「それは……あの……サーニャと……ドライブがしたくて……」

バルクホルン「そうか。サーニャもそうなのか?」

サーニャ「……あの……」

バルクホルン「宮藤は?」

芳佳「……」

バルクホルン「いえないのか?」

芳佳「……」

バルクホルン「言っておくが、お前たちの運転する車でロンドンに行きたくなどない」

ルッキーニ「あにゃ!?」

リーネ「ど、どうして……」

バルクホルン「お前たちの考えていることなど、手に取るように分かる。考えが浅はかだからな」

ペリーヌ「そ、そうでしたか……」

シャーリー「ははーん。そういうことか」

エーリカ「ふぅん。いいねぇ、トゥルーデ」

芳佳「あ、あの……」

バルクホルン「少佐。これはもう運転は禁止させるしかないな」

美緒「そうだな」

エイラ「ま、まってくれ!!」

バルクホルン「シャーリーもいいな?」

シャーリー「そうだなぁ……」

ルッキーニ「えぇー!? シャーリー!!」

シャーリー「ルッキーニたちが悪い」

ルッキーニ「うぇぇぇん!!」

芳佳「ま、待ってください!! あの!! もう少しで……バルクホルンさんをロンドンにつれていけるんです……!!」

バルクホルン「これだけの騒ぎを起こしておいてよく言う」

美緒「宮藤、リーネ、ペリーヌ、ルッキーニ、エイラ、サーニャ。お前たちは車両運転厳禁とする」

ペリーヌ「そ、それは……」

バルクホルン「当然の措置だ。お前たちにはもう二度とハンドルは握らせない」

リーネ「ごめ……んなさい……」

エイラ「……終わったなぁ」

サーニャ「うん」

ペリーヌ「わたくしが……変な気をおこなければ……こんなことには……」

エイラ「いや、あのとき私がペリーヌをとめていれば……」

サーニャ「エイラ。自分を責めないで」

リーネ「……」

芳佳「私たちが悪いんだもんね」

ルッキーニ「うぇぇぇぇん!! せっかく、街までいけるようになったのにぃぃぃ!!!」


エーリカ「あーあ。落ち込んでるよぉ? いいのかぁ?」

シャーリー「ま、仕方ないな。今回ばかりは」

ミーナ「ふふ。いいの、トゥルーデ? かわいい妹たちが頑張ってくれたのに、厳しい判断を下して」

バルクホルン「厳しくなどない。これ以上、運転などさせられないだろう」

美緒「そうだな。危険すぎる」

バルクホルン「それにだ、私のために事故を起こすようなことでもあってみろ。私は首を吊るかもしれない」

エーリカ「確かに。今のトゥルーデなら吊りそう」

食堂

ミーナ「トゥルーデ、飲み物は?」

バルクホルン「頂こう」

ミーナ「はい」

バルクホルン「……宮藤たちは?」

ミーナ「さぁ。もう寝たんじゃないかしら?」

バルクホルン「そうか」

ミーナ「ふふ。少し後悔してる?」

バルクホルン「何をバカな。運転を禁じたことで宮藤たちの命が守れるんだ。そのためなら恨まれても構わない」

ミーナ「そう」

エーリカ「トゥルーデのくせにかっこいいなぁ」

ミーナ「あら、トゥルーデはいつもかっこいいわよね?」

バルクホルン「ふんっ」

エーリカ「てれちゃってー」プニップニッ

バルクホルン「にゃみぇりょ」

廊下

美緒「ん?」


芳佳「いこっ」

リーネ「うんっ」


美緒「……?」

ミーナ「――あら、美緒?」

バルクホルン「少佐も喉が渇いたのか?」

エーリカ「お水ならすぐにだせるよー」

美緒「お前たちか。何を話していた?」

ミーナ「……いーえ。別に」

エーリカ「にひぃ。何もはなしてないよー」

美緒「ふっ。そうか。ならばいい」

バルクホルン「なんだ? どうした?」

美緒「気にするな。聞かれも困らないことなら、問題はない。それだけの話だ、バルクホルン」

別の日 食堂

シャーリー「んー? すんげー甘い香りが……」

ルッキーニ「おいしぃー!!」

リーネ「ダメだよ!! ルッキーニちゃん!!」

芳佳「あぁー!! もー!! それはダメー!!」

エイラ「まじゅめにやりぇふぉふぁー」

サーニャ「エイラ、口がモゴモゴしてるけど」

芳佳「あー!! エイラさん!! なにしてるんですかぁー!!」

ルッキーニ「こっちもおいしぃー!!」

リーネ「ダメー!! それはホントにだめー!!!」

シャーリー「……」

バルクホルン「何をしている?」

シャーリー「ん? 見張りを自主的にな」

バルクホルン「何が見張りだ。通せ」

シャーリー「ダメ」

バルクホルン「おまえな……!!」

シャーリー「迂回しろ」

バルクホルン「おのれ!!」

芳佳「誰かいるんですか!?」

シャーリー「あ、バレた」

リーネ「シャーリーさん!! バルクホルン大尉……!!」

ペリーヌ「宮藤さん……たまご……を……あ」

バルクホルン「お前たち、何をしているんだ」

ルッキーニ「うじゅ……」

エイラ「どうすんだぁ?」

サーニャ「どうしよう」

芳佳「今、ケーキを作っていました!!」

ペリーヌ「宮藤さん!!」

バルクホルン「ケーキ? 何のためにだ?」

リーネ「い、いつでも私たちのことを守ってくれている……お礼にです……」

バルクホルン「何を言っている」

ルッキーニ「いつもありがとー!!」

エイラ「その……大尉だけじゃなくて、シャーリーにも色々と心配させてるんだなぁって……」

シャーリー「へぇ……」

サーニャ「私たちがこうしていられるのは、バルクホルンさんたちがいてくれるからなんだって、今回のことではっきりとわかりましたから」

バルクホルン「そうか」

ペリーヌ「あの! ロンドンにはそのご一緒することはできませんが、せめて……これぐらいのことはしないと……あの……」

芳佳「シャーリーさん、バルクホルンさん。いつもありがとうございます!!」

エイラ「ありがとう」

シャーリー「……」

バルクホルン「……知らん。別に私はお前たちのことなど守っていない。軍人たるもの自分の身は自分で守るべきだ」

リーネ「わかっています。だからこそ、守ってくれていることに感謝を……」

バルクホルン「必要ない。私は軍人として当たり前のことをしてきただけだ。話は終わりか。ならば、もう行く」

ペリーヌ「あぁ!! 大尉!!」

シャーリー「おいおい。ケーキぐらい受け取ってやればいいのに……」

格納庫

バルクホルン「……」

エーリカ「おーい、トゥルーデぇ。宮藤たちがケーキ配ってるぞー。食堂いこー」

バルクホルン「……ハル、と……まんか……」

エーリカ「げ……。どうしたの? 笑ってるのか泣いてるのかはっきりしろ」

バルクホルン「顔の筋肉が言うことを聞かなくてな」

エーリカ「なら、仕方ないか」

バルクホルン「それより、頼みたいことがある」

エーリカ「なんだい?」

バルホルン「ミーナにも頼むつもりだが、その、私がクリスに会いたくなったら付き合ってくれるか?」

エーリカ「最初からいいよって言ってるじゃん」

バルクホルン「すまないな」

エーリカ「溜めちゃうとまた宮藤たちがジープに乗ろうとするかもしれないもんね」

バルクホルン「その通りだ。これからは遠慮はしないことにする」

エーリカ「うぇ。なんか別のことでも遠慮しなくなりそうだなぁ。ま、トゥルーデの我侭なら、なんでも聞いてあげるけどね」

食堂

ペリーヌ「バルクホルン大尉のケーキだけ、余ってしまいましたわね」

芳佳「どうしよう」

ルッキーニ「たべりゅぅ?」

エイラ「そうだな。もったいないし」

サーニャ「でも――」

バルクホルン「わ、わかった!! 自分の足で行くから引っ張るなぁ!!!」

エーリカ「はやくするっ!」

ペリーヌ「大尉!」

バルクホルン「……」

芳佳「あ、あの……」

バルクホルン「……いらない」

リーネ「え……」

バルクホルン「そんなには、いらない。だから、みんなでケーキを食べよう……と思っている」

芳佳「はいっ!! 今、切り分けますね!!」

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