海岸
釣り師「……」
少女「……もぐもぐ」
釣り師「おい」
少女「お兄さん、良い餌使ってないね。もっとこう生きのいい餌にしたほうがいいよ?」
釣り師「それ、ルアーだ」
少女「―――あだだだ!!!口の裏に針が刺さった!!」
釣り師「お前、誰だよ!!」
少女「はえ?誰って……人魚ですけど、なにか?」
釣り師「……いいから、ルアー返せ」
少女「あがが……ふう……取れた。はい」
釣り師「涎と血が……きたねえ……」
少女「いやー。久々に陸にあがっちゃったなぁー」
釣り師「……なあ」
少女「ん?」
釣り師「人魚って言ったな?」
少女「はい」
釣り師「俺にはスクール水着を着た、中学生ぐらいにしかみえないが?」
少女「あっはっはっは。何を馬鹿な。こうやって胸のところに『にんぎょ』ってちゃんとかいてるでしょ?」
釣り師「……」
少女「それにしてもここはいつもかわんないなぁー。ま、一昨日も陸に上がったんですけど!」
釣り師「なんだ、こいつ」
少女「いや……やっぱ、陸は寒いですね!!」
釣り師「もう秋だからな」
少女「お兄さん、なにか暖かいものを」
釣り師「……お前、人間だろ?」
少女「人魚ですって」
釣り師「人魚っていったら、普通は下半身が魚じゃないのか?」
少女「あはははははは!!お兄さん、人魚童貞?」
釣り師「人類の大半はそうだろうな」
少女「人魚は人類です。だから、見た目は貴方達と変わりません」
釣り師「その水着は?」
少女「これは我々の民族衣装です」
釣り師「変わった民族だな」
少女「そんなことな……は……は……はっくしゅん!!―――あはー、はなみじゅーでだー」
釣り師「きたねえ……」
少女「お兄さん、ティッフちょーらい」
釣り師「ほらよ……」
少女「ありがほお……チーン!!」
釣り師「ほら、この上着貸してやる」
少女「マジで!?お兄さん、優しいね。どう?私が好きになったら、惚れる?」
釣り師「……で、なんでこんなところで泳いでたんだ?」
少女「えー?お姉ちゃんがコンビニでスルメ買ってこいって言うから、まあ、陸を目指してたんだけど」
釣り師「スルメ……」
少女「そこに私好みの餌が泳いでたから、パクって」
釣り師「お前ら、人魚なんだよな?」
少女「なんどいえば分ってくれるの?」
釣り師「魚とか海の生き物食ってんのか?」
少女「そこにしか食糧ないし」
釣り師「共食いじゃねーのか?」
少女「いや、人魚と魚は同胞じゃないよ?何言ってるの?」
釣り師「魚と会話できたりするんじゃないのか?」
少女「あはは。ラノベのよみすぎー」
釣り師「……」
少女「そんなの絵本の中だけだよー?」
釣り師「お前が人魚っていうのが本当に信じられないんだけど……証拠はあるのか?」
少女「証拠?」
釣り師「人魚ってことが一発で分かるものとかねーのか?」
少女「……ふふーん!!」
釣り師「なんだ、貧相な胸を張っても悲しいだけだぞ?」
少女「ちがっ!?ここ、ここ!!『にんぎょ』って書いてあるでしょ!?」
釣り師「書いただけだろ」
少女「もう……だから人間は嫌い……全然信じてくれないし」
釣り師「無理だろ」
少女「かわいいから!?」
釣り師「いや……かわいいけど」
少女「っと、こんなところで油を売ってる場合じゃなかった!!」
釣り師「どっか行くのか?」
少女「スルメ、買いに!!」
釣り師「車に気を付けてな」
少女「ありがとーお兄さん!ティッシュ、柔らかかったよ?」
釣り師「上着の礼を言えよ」
少女「おお、そうだった。はい、上着。あまり温かくならなかったのは内緒ね?」
釣り師「誰にだよ」
少女「じゃ、また運命が交錯したら会おうね~!!」
釣り師「ああ……」
少女「ばいば――――ふぎょ!?」
釣り師「あ、こけた」
少女「えーい!!こんなところに石を置いたやつはだれだー!!」
釣り師(元気そうだし、大丈夫か……さてと、釣りの続きでもすっか)
少女「犯人は波ですな!!」
―――数十分後
釣り師「釣れないな……ふわぁぁぁ」
釣り師「……」
少女「わたし、だーれだ!」
釣り師「なんで俺の顔を覗き込んでそれを言うんだ。普通は手で目を隠すだろ」
少女「おぉ。じゃあ、はい。―――だーれだ♪」
釣り師「おせーし、前から隠すな。うっとうしい」
少女「文句多いなぁ。人魚童貞め」
釣り師「お前が人魚なら、もう童貞じゃないな」
少女「ひ……私の処女が……これで30人目……くらいかな?」
釣り師「買い物は終わったのか?」
少女「うん!ばっちりだよ!」
釣り師「良かったな」
少女「ねえねえ、釣れてる?」
釣り師「見ての通りだ。まだ収穫ゼロ」
少女「そっか」
釣り師「ああ」
少女「~♪」
釣り師「……」
少女「つがるかいきょぉぉふゆげぇーしきぃぃ♪」
釣り師「おい」
少女「ん?」
釣り師「魚はやらないぞ?」
少女「えー!?なんでー!?!?」
釣り師「なんで、当然のように貰おうとしてるんだよ!?」
少女「だって、お兄さんに口の中、ズタズタにされたし」
釣り師「それは……まあ、悪かったけど」
少女「では、遠慮なく♪」
釣り師「隣で待つなよ!?」
少女「なんでー?いいじゃなーい」
釣り師「よくねーよ。早く帰れよ」
少女「ぶー」
釣り師「お姉さんが待ってるんじゃないのか?」
少女「へーきへーき。今、お姉ちゃんは爆睡してるから」
釣り師「もう朝だぞ?起こさなくてもいいのか?」
少女「今日は祝日だし」
釣り師「人魚の世界も祝日があるんだな」
少女「まあね」
釣り師「……お!?」
少女「竿が痙攣してますよ!?エロいですねー!!」
釣り師「どこ見ていってんだよ!?」
少女「うは」
釣り師「そ、それより今度こそ大物が!!」
少女「ふれーふれー!お兄さん!今晩のおかずはマグロの塩焼きがいいなー♪」
釣り師「手伝えよ!!」
釣り師「ふぬぬぬ……!!」
少女「うおー!!―――お兄さん!!あっちにサーファーがいますよ!!」
釣り師「お前、釣れても絶対に分け前はやらん」
少女「それは困る」
釣り師「なら、手伝え!!」
少女「はいはい。―――オーエス」
釣り師「袖を摘まむだけで手伝ってると言えるのか?」
少女「えー?」
釣り師「ほら、お前も竿を引け!」
少女「はいはい、人使いが荒いんだから……いや、まあ、人魚だし、ここは人魚使いと言ったほうが文法的に……」
釣り師「……」
少女「に、睨まないで……冗談、ですって……」
釣り師「早く」
少女「わかりましたよ。―――おりゃぁぁぁ!!」
釣り師「おし!もうちょいだ!!影が見えてきたぞ!!」
少女「カジキマグロをしょもぉぉぉぉ!!!」
釣り師「えぇぇぇい!!」
姉「ぬわーーー!!!」
釣り師「……」
少女「あー♪お姉ちゃんだー♪」
姉「いってー!!なんだこれ!?釣り針かよ!!ひっでー!!」
少女「お姉ちゃん、はい、スルメ♪」
姉「あがが……ふう……お、サンキュー」
少女「珍しいね、浅瀬まで来るなんて」
姉「いや、なんか寝ぼけてここまで流されちゃったよ」
少女「もう、お姉ちゃんはドジっ子なんだからぁ」
姉「おまえに言われたくないやい」
少女「あははは」
姉「あははは」
釣り師「―――さてと、今日は日が悪いな。帰ろう」
少女「あれ?帰るの?」
姉「誰?このおっさん」
釣り師「まだ20代だ!!」
少女「今日の食材屋さん」
姉「へえ。でかいの頼むわ」
釣り師「なんで、俺がお前らのために釣らなきゃいけないんだよ?」
姉「なんでって」
少女「さあ?」
釣り師「……で、あなたは?」
姉「私?―――どう?見て分かるでしょ?」
釣り師「分かるかよ」
姉「人魚です」
釣り師「俺にはビキニのエロい人にしか見えない」
姉「エロいって……どこみてんのよ!!エッチ!!」
釣り師「なんで尻を手で隠すんだ?普通、胸だろ」
姉「え?」
少女「ほらほら、人魚と人間はセックスアピールするとこが違うじゃない」
姉「ああ。そっか」
釣り師「何言ってんだよ」
姉「それより、はよはよ」
少女「おっきいの釣って♪釣って♪」
釣り師「うっせーな……」
姉「あ、じゃあ、このスルメあげるから」
釣り師「いらねーよ!!」
姉「おいしいのに……もぐもぐ……」
少女「ねー?……もぐもぐ」
釣り師「はぁ……少し待ってろ」
姉「いいよー……はい、あーん」
釣り師「……もぐもぐ……」
少女「今日はいいてんきだねー」
―――十数分後
姉「ふわぁぁぁ……」
少女「テトラポットのぼおってぇー♪」
釣り師「……一つ、聞いてもいいか?」
姉「スリーサイズは、上から84―――」
釣り師「違う」
少女「私はねー、74―――」
釣り師「いいから」
姉「違うの?男は訊きたがるってきいたけど?」
釣り師「いや、俺が訊きたいのは、本当に人魚なのかってこと」
少女「まだ、信じてないんですか?」
姉「なに?人魚童貞?私で卒業しちゃう?うふ」
釣り師「人魚童貞ってどうやったら卒業できるんだよ……」
少女「え……そ、それは……えっと……あの……うぅ……」
釣り師「そこで恥ずかしがるのな」
姉「なに?どうやったら信じるわけ?」
釣り師「なんか、話を聞いてたら俺の知っている人魚のイメージとはかけ離れてて、信じられないんだ」
少女「というと?」
釣り師「下半身が魚じゃないし……魚と話もできないんだろ?」
姉「なにこいつ?馬鹿?」
少女「お姉ちゃん、そんな本当のことをいっちゃだめだよ?」
姉「だってー」
釣り師「おい」
姉「じゃあ、海中素潜りでもやろっか?」
釣り師「ああ、それいいな」
少女「おおー」
姉「んじゃ、見てなさいよ……そりゃー!!!」
少女「がんばれー!!」
釣り師「まあ、十分ぐらい潜ってられたらほんも―――」
姉「―――ぷはぁ!!クラゲが山ほどいるからやめとく!!―――いた!!!刺された!!!」
少女「だ、だいじょうぶ?」
姉「いってー……最悪……責任とりなさいよ!!」
釣り師「なんで俺が!?」
姉「あんたのために飛び込んだんだから、当然でしょ?」
少女「そうだー!カジキマグロをとれー!」
姉「もしくはイワシだー」
釣り師「……もういいよ。黙って見ててくれ」
少女「あー?信じてないでしょー?」
姉「もういいよ。こいつは一生、人魚童貞決定ね。魔法使いになって賢者になればいいのよ」
釣り師「言ってろ」
少女「でも、そうなると暇だねー?」
姉「そうだなぁ……お!じゃあ、あれやるか」
少女「え?もしかして……あれですか?」
釣り師「……何やる気だ?」
姉「―――オォォォォォォ!!!」
人魚「どうかした?」
人魚「なになに!?」
人魚「おっはよー」
釣り師「うわぁぁ!!!海からいっぱいなんか出てきた!?!」
少女「みんなー、人魚衰弱やろうよー」
人魚「朝から元気だねー」
人魚「えー……いいよー!」
人魚「やったー!人魚衰弱だー」
釣り師「……人魚衰弱……?」
姉「じゃあ、みんな位置についてー」
人魚「「おー」」
釣り師「……?」
少女「よーい……ドン!」
釣り師「……」
姉「……(プカー」
少女「……(プカー」
人魚「「……(プカプカ」」
釣り師(水死体が浮かんでるようにしか見えんぞ……)
姉「…………」
少女「…………」
釣り師(静かになったし、まあ、これで釣りに集中できるな)
人魚「……ぷはぁ!!もうだめ!!」
人魚「―――はぁ……はぁ……苦しい……」
人魚「ぶはぁあぁ!!?きっつう……」
釣り師「……」
少女「ぷわぁ!?―――あーん、またお姉ちゃんがトップかぁ……」
姉「」
少女「あれ?お姉ちゃん?―――大変!!お姉ちゃんが溺れたー!!」
釣り師「あいつら、やっぱり普通の人間か」
少女「人工呼吸しないと!!」
人魚「あ、そこの人!」
釣り師「なんだよ?」
人魚「なんだじゃないっしょ。早くする!」
釣り師「はぁ?」
少女「お兄さん、お姉ちゃんを助けて欲しいの……」
釣り師「なんで俺が!?」
人魚「私たちは人間の男に人工呼吸してもらわないと……死ぬんです」
釣り師「嘘付け」
少女「本当だって!!お願い!!早くしないと死んじゃう!!」
姉「……」
釣り師「………」
姉「……」
釣り師「……脇腹、くすぐったらどうなるんだ?―――こちょこちょ」
姉「―――ぶっ!!あははははは!!!やめて!!わたし、そ、こ……よわいのぉ……!!」
釣り師「釣りの邪魔するな」
少女「ごめんなさーい……」
姉「みんな、ばいばーい」
人魚「うん」
人魚「またねー」
釣り師「海には戻っていくのか……」
少女「まだ、釣れないの?」
姉「早くしてよね」
釣り師「うっせえな。お前らが海中で騒ぐから魚が逃げたんじゃねーの?」
少女「マジ!?」
姉「そ、そうなの……ご、ごめんなさい……」
釣り師「い、いや……そこまで落ち込まなくても……」
少女「お姉ちゃん、少し大人しくしてよ?」
姉「そうね……」
釣り師「ず、ずいぶん物分かりがいいな……」
少女「……」
姉「……」
釣り師(なんか静かになると気味悪いな)
少女「……で……」
姉「……あ……そ……」
釣り師(……なんだ?)
少女「……やっぱり、言った方がいいよ」
姉「……そうね」
釣り師「……どうした?」
少女「あ、あの……お兄さん?」
釣り師「なんだよ?」
少女「……ここ、お魚、いないよ?」
釣り師「……」
姉「釣り場はもっと向こうだけど?」
釣り師「……なんで、それを先に言ってくれないんだ……」
少女「あ、なんかいるのかなって」
姉「私達も全ての海域を知ってるわけじゃないから、例外があるかもって思ってたんだけど」
少女「うん……今のお兄ちゃんの言葉で……やっぱりここにはお魚いないんだなーって」
姉「ごめんね?まあ、大物が二人も釣れたし、大漁じゃないの?」
釣り師「……帰る」
少女「えー!?場所、変えて続きやってよー」
姉「ハマチまだー?」
釣り師「もういいよ……」
少女「すっかり萎えちゃったみたい」
姉「ま、私たちも悪いけど……」
釣り師「……じゃあ、ちょっと話さないか?」
少女「え?なにについて?」
姉「引き潮?」
釣り師「違う……人魚について」
少女「はぇ?」
釣り師「人魚について話してみてくれないか?」
少女「どういうことですか?」
釣り師「いつまでも人魚童貞はやだかなら」
姉「ふーん……じゃあ、何から聞きたい?」
釣り師「そうだな……普段はどんな生活してんだ?」
少女「いつもは海中で寝起きしてるかなぁ?」
姉「まあ、人魚だしね」
釣り師「一日のスケジュールはどんな感じなんだ?」
少女「えーと……朝起きて、顔洗って、学校に行って、部活して、家に帰って、ご飯食べて、お風呂にはいって、寝る」
姉「まあ、そんな感じね」
釣り師「人間と変わんねえな。―――じゃあ、人間と違うところはないのか?」
少女「人間と違うところ……?」
姉「……エラ呼吸?」
少女「あはは、エラないよー」
姉「あ、そっか!」
釣り師「……そうだ。お前ら、どうやって呼吸してるんだ?」
少女「え?」
釣り師「エラ呼吸じゃないなら……どうやって……」
姉「うーん……考えたこともなかったなぁ……」
釣り師「え……?」
少女「多分、海のご加護とかじゃないかな?」
釣り師「あのなぁ……もっと生物学的な答えを……」
姉「いや……確かに人間と変わらないけど、人間じゃなくて人魚だから」
少女「そーそー」
釣り師「……からかってんのかよ」
少女「そんなことないよ」
姉「うんうん」
釣り師「……わかった。お前らの家を見せてくれないか?」
少女「え?い、家ですか……!?」
釣り師「ああ、海中に連れていってくれよ」
姉「息が続くの?」
釣り師「勿論、後日だ。色々準備してくる」
少女「だ、大丈夫なんですか……?」
釣り師「一応、ダイバーの資格もある」
姉「本気……?」
釣り師「なんだ、無理なのか?」
少女「い、いえ……貴方が行きたいというなら……構いません」
釣り師「なら、決定だな」
姉「ふう……まあ、いいか」
釣り師「じゃあ、一週間後のこの時間に来るから」
少女「わ、わかりました……」
姉「……」
釣り師「ちゃんと約束は守ってくれよ?」
少女「は、はい」
姉「はいはい」
釣り師「あ、少し待っててくれ」
少女「あ、はい」
姉「どこにいくの?」
釣り師「ちょっとな」
少女「―――お姉ちゃん……いいのかなぁ?」
姉「あの人、次第ね」
少女「……やだよ、私?」
姉「アンタが嫌なら私が……」
少女「お姉ちゃん!?」
姉「……仕方ないわ。それが私達の掟、でしょ?」
少女「……そうだけど」
姉「心配いらないわ。貴女が気にすることじゃない」
少女「うぅ……おねえちゃん……わたし……」
釣り師「おーい……って、どうかしたのか?」
姉「ううん。別に。それより何しに行ったの?」
釣り師「ほら。今日は何も釣れなかったからな」
少女「え……これ」
姉「いいの?」
釣り師「ああ。まあ、コンビニで買ってきた弁当とおにぎりだけど」
少女「えへへ……ありがとう!」
姉「ちゃんと温めてあるじゃない。気が効くわね」
釣り師「海中には電子レンジなんてなさそうだからな」
少女「ほぉ……」
釣り師「な、なんだよ……?」
少女「いえ……久しぶりだったんで」
釣り師「何が?」
少女「私のこと……ホテルに誘わない男性……」
釣り師「お前……大変だったんだな」
少女「なんでか鼻息荒い太った人に目をつけられてました、いつも」
釣り師「そういう服装だしな」
姉「その都度、私がその男を溺れさせたわけだけど」
釣り師「おいおい」
少女「これ、遠慮なしに頂きますね!」
釣り師「もっと、言い方があるだろ……まあ、いいけど」
姉「もう帰るの?」
釣り師「ああ。また、一週間後な」
少女「……」
姉「ええ。待ってるわ」
釣り師「じゃあ、また」
少女「……は、はい」
姉「ええ……」
釣り師(なんだ……?様子が違うな……)
釣り師(俺、なんか言ったか……?)
―――1週間後 海岸
少女「できたー!!」
姉「ぐしゃー」
少女「わーん!!!小石で築いたアンコールワットがぁー!!!」
釣り師「楽しそうだな……」
姉「おー」
少女「あ、おはようございます」
釣り師「ああ」
姉「にしても大荷物ね」
釣り師「命を繋ぐものだからな」
少女「お持ちしますよ」
釣り師「大丈夫か?結構重いぞ?」
少女「大丈夫―――ぐほぉ!?お、おもすぎ……!?」
姉「ばかねえ、私がもって―――ぬわーー!!脱臼する!!」
釣り師「もういいよ。早く行こう」
男「んじゃ、沖まで出るよ」
釣り師「お願いします」
少女「うぷ……船酔い、した」
釣り師「はえーよ」
姉「……おろろろ」
釣り師「……」
男「でも、娘さんたちはなにをしに?」
釣り師「ああ、二人は……」
少女「きにしないでくだ――――おろろろ」
男「まあ、いいけどね」
姉「はぁ……はぁ……」
釣り師「なんで船酔いなんてするんだ?」
姉「乗りなれてないからに決まってるでしょ?」
釣り師「……」
少女「うろろろろ!!」
休憩
後半に続く
―――沖
男「じゃあ、気を付けてな」
釣り師「はい。―――ふっ」
少女「おー……じゃあ、お姉ちゃん?」
姉「ええ、行きますか」
男「え?ちょっと、二人とも?」
少女「ここまでありがとうござましたー♪」
姉「またね?」
男「え……あ、あぶな―――」
少女「私は鳥になる!!」
姉「ドルフィンキック!!」
男「あ―――潜った……」
男「大丈夫かな……?」
―――海中
釣り師「(―――こっちだ)」
少女「なんですかー?」
姉「ぶくぶく言っててよくわかんないわよ。魚語でオッケーよ」
釣り師「……」
少女「よし、とりあえずこちらへ」
姉「引っ張っていってあげるわ」
釣り師「……」
少女「あー、みてください。私のゲロに魚がむらがってますよー」
姉「あらやだ。恥ずかしい」
釣り師「(そんな報告いらねーよ!!)」
少女「なんですか?ぶくぶく言っててよく分かりません」
姉「ぶくぶくー♪」
釣り師「(あとで犯してやろうか、こいつら)」
少女「ふんふふーん♪」
釣り師(でも……こいつらが人魚って信じるしかないみたいだな……)
姉「あ、魚だ。―――キャッチ&ディナー!!……もぐもぐ」
釣り師(手づかみできるのかよ……)
少女「あ、やっほー」
人魚「あれ?人間の男を連れて、どうかしたの?」
釣り師(この前の人魚か)
姉「こいつが私たちの家に連れて行けっていうのよ」
人魚「え!?ほんとに!?」
少女「う、うん……」
釣り師(なんだ……?)
人魚「そう……さよなら」
少女「うん」
姉「またね」
釣り師(今、こっちを悲しそうな目で見たな……何かあるのか?)
――人魚の里
少女「ここでーす」
釣り師「(ただの岩場じゃないか)」
姉「で、どっちの家に行きたいの?」
釣り師「(どういうことだ?)」
少女「それは……あの」
姉「私としては……妹じゃなくて私の家に来てほしいんだけど」
釣り師「(何かあるのか……?)」
姉「……」
少女「か、帰るなら、今のうちですよ……?」
釣り師「(はぁ?)」
姉「ダメよ。ここまで連れてきたらもう私達もこの人も引き返せないわ」
少女「……」
釣り師「(お、おい……なんだよ……?)」
姉「……いいから。決めて。どっちの家にいくの?」
釣り師「(いや、折角だから二人の家に……)」
少女「な……!?!?」
姉「本気で言ってるの!?」
釣り師「(あ、ああ)」
少女「お姉ちゃん……どうする?」
姉「前例がないこともないけど……」
釣り師「(なんだよ?言えよ)」
少女「分かりました……こちらへ」
姉「いいの?」
少女「……うん」
姉「じゃあ、もう何も言わないわ」
少女「ありがとう……」
釣り師「(なんだよ……・?)」
姉「いい?貴方はもう……逃げられないからね?」
釣り師「(なに……?)」
―――少女の家
少女「ど、どうぞ……」
釣り師「あ、ここ、空気がある……お邪魔します……」
姉「それじゃあ、また後でね」
少女「うん」
釣り師「……タンスとちゃぶ台はあるのか」
少女「あ、あの……」
釣り師「ん?」
少女「……ど、どうぞ」
釣り師「どうした?ちゃぶ台の上に寝るなんてお行儀悪いぞ?それともそれが人魚の作法か?」
少女「ち、違います……どうぞ」
釣り師「なにが?」
少女「…………人魚童貞……卒業、できますよ?」
釣り師「……は?」
少女「………きゃっ……そんなに見つめないでください……」
釣り師「……」
少女「……あ、七輪で焼きます?」
釣り師「いや、どういうことだ?」
少女「いえ……ここに来た人間は私達を食べないといけません」
釣り師「なんで?」
少女「なんでって、ここで生活するためですよ」
釣り師「いや……」
少女「人魚を食べることで人間も水中で呼吸が可能になるのです」
釣り師「はぁ」
少女「―――さぁ。どうぞ。この後はお姉ちゃんも食べるのでしょう!?」
釣り師「え?いや……」
少女「この変態!!早くしてよ!!―――もう、私は……魚嫁に行けません……」
釣り師「……」
少女「おしょうゆは戸棚にあります!マヨネーズは持参してください!!」
釣り師「……どうすりゃいいだよ」
少女「生が……おす、すめです……うぅ……ぐすっ……」
釣り師「ちょっと待て。俺はここに住む気なんてないぞ」
少女「ダメです」
釣り師「なにが?」
少女「ここの存在を知った以上は……地上には出れません」
釣り師「そういうことは先に言えよ!?」
少女「人魚の常識です!!」
釣り師「お前らの常識が人間に浸透してるとでも思ってんのか?!」
少女「はい!!」
釣り師「元気いいな」
少女「さあ……何も言わずに食べてください」
釣り師「……」
少女「頭からはちょっとやめてください。せめて手からお願いします」
釣り師「……パクッ」
少女「やぁはぁん……♪」
釣り師「……ちゅぱ……じゅる……」
少女「はぁん……♪おに、いさん……指ばっかり……あぁん♪」
釣り師「……」
少女「……あれ?やめるの?」
釣り師「いや、くえねーよ」
少女「えー?食べてくれないとこーまーるー」
釣り師「ちゃぶ台でジタバタすんな」
少女「折角、お淑やかにしてたのにー」
釣り師「いや。そんな演技されてもな」
少女「いいからくえー!!膝からくえー!!」
釣り師「こえーよ!!」
少女「でも、食べないと……私が長に怒られちゃう……」
釣り師「長?」
少女「この掟を決めた人だよ?」
釣り師「……ふーん」
少女「じゃあ、胸から?」
釣り師「……」
少女「お尻は……恥ずかしい……けど、お兄さんが……どうしてもっていうなら……うふ」
釣り師「……お尻って一番恥ずかしいところなのか?」
少女「きゃぁあ!?どこ触ってるの!?このスケベ!!」
釣り師「お前らの羞恥心がよくわからん」
少女「けだもの!!食べるなら指からにしてっていったのにぃ!!」
釣り師「悪かったよ……」
少女「ひーん……」
釣り師「……ちゅぱ……はむはむ……」
少女「ぉぉっほ♪」
釣り師「……」
少女「あ、ぅ……おにいさん……わ、たし……はぁん♪……もう……ぁ……♪」
釣り師「……何もしてないけど?」
少女「……」
釣り師「……よし。とりあえず、その長にあってみるか」
少女「えー?!なんでー!?」
釣り師「俺はここに住む気なんてない」
少女「えー!?楽しいのにぃ……」
釣り師「……それに……」
少女「?」
釣り師「と、とにかく……長のところに案内してくれ」
少女「本当に会うんですか……?」
釣り師「なんだ、やばいのか?」
少女「い、いえ……やばいと言えば……まあ、そうですけど」
釣り師「会えるなら会いたいんだけど」
少女「わ、わかりました……」
釣り師「頼む」
少女(はぁ……どうなるんだろう……)
―――長の家
釣り師「―――ごめんください」
長「はぁい?」
釣り師「ぶっ?!!」
長「あら、良い男じゃないの」
少女「もう、長。裸でいるのはやめてください」
長「人魚が服を着なきゃいけないなんてルールはないはずよ?」
少女「それは長が勝手にルールを変えたからじゃないですか!!」
長「私は長よ?―――股は広げても許される」
釣り師「わぁあああああ!!!!!」
少女「男の人の前でなにやってるんですか!!!」
長「なによ?あなた……人魚童貞?」
釣り師「いつになったら人魚童貞から卒業できるだよ……」
少女「とりあえず、股を閉じてください!!」
長「はいはい……うっさいわね」
長「で、何用?」
釣り師「……」
少女「あの……お兄さん?何か、言わないと」
釣り師「正直……直視できない」
少女「……」
長「なに?結婚するの?じゃあ、早く食べちゃいな」
釣り師「い、いや……その、俺はここに住むつもりはないんです!」
長「あらま。どうしてぇ?ここは地上のように汗水流して働かなくていいわよぉ?」
釣り師「……それなりに地上の生活が気に入ってます」
少女「そうだったんだぁ」
釣り師「……」
長「ふーん。で、どうしたいわけ?」
釣り師「地上に帰ります」
長「そう……じゃあ、帰れば?」
釣り師「いいんですか!?」
長「くぱぁ」
釣り師「ぶっふぅ!?!」
少女「長!!」
長「冗談よ」
釣り師「冗談じゃないよ……股、広げんなよ」
長「いいわよ。別に。帰りたきゃ帰りなさい」
釣り師「でも……掟では……帰れないんじゃあ?」
長「え?今、変えたわ」
釣り師「……」
長「帰りたいっていう男は貴方が初めてだったからねえ。先代のルールを今、変えたの」
釣り師「初めて……?」
長「ええ。ここに来た男はみーんな、人魚に惚れこんじゃうからね。貴方は違うんでしょ?」
釣り師「あ、えっと……」
少女「……?」
長「む……」
釣り師「……この子と一緒に地上へ行きたいんですが」
少女「えぇ!?」
長「そう来たか……」
釣り師「ダメ、ですか?」
長「うーん……」
少女「もう!やだなぁー!!なんの冗談!?」
釣り師「俺は真剣だ」
少女「うぐ……」
長「そんなちんちくりんでいいわけ?」
少女「酷い!?」
釣り師「構いません」
少女「フォローなーし!?」
長「……」
釣り師「……やはり、ダメですか?」
長「一つだけ……約束を守ってくれる?」
釣り師「……はい」
長「―――必ず、その子を幸せにすること」
釣り師「はい……します」
長「浮気は絶対にダメよ?」
釣り師「はい」
長「さて……あなたは、どうなの?」
少女「はぅぅ……」
釣り師「……ダメか?」
少女「あ、あの……私でいいの?」
釣り師「勿論だ……」
少女「わた、しの……どこが……好き?」
釣り師「……俺、スク水が似合う女の子が好きなんだ」
少女「……」
釣り師「……正直、一目ぼれだった」
少女「服……だけ?」
釣り師「……全部好きだ」
少女「……」
長「さあ、どうするの?」
少女「えと……じゃあ、あの……お友達、から……ま、まだ、お互いのことよくわかってませんし……」
釣り師「ああ……でも、すぐに恋人にしてみせるよ」
少女「あ……は、はい……期待、してます……」
釣り師「ありがとう」
少女「おぉ……そ、そんな……」
長「ふふ……よかったわねえ。まあ、地上の生活は大変だろうけど。頑張るのよ?」
少女「は、はい……!!」
釣り師「ありがとうございました!」
長「お幸せにね?」
釣り師「じゃあ、行こうか」
少女「う、うん……ふ、ふつつかな人魚ですが……どうぞ、よろしく……ね?」
―――姉の家
姉「さてと……胸には生クリームももったし……乳首にはイチゴものせた」
姉「お腹の上には刺し身ものせた……」
姉「股にはお酒も注いだ」
姉「もてなす準備は完璧ね」
姉「これが我が一族に伝わる秘伝……その名も『人魚盛り』!!」
姉「さあ、いつでも来なさい……」
姉「あの子のあとだから体力を消耗しているかもしれない……でも!!この腕にある牛肉でスタミナ回復も万全!!」
姉「ふふ……ついに私も人並みの幸せを手にするときがきた……」
姉「あはははは!!さあ、いつでもかもーん!!私達の王子様!!」
姉「……はっくしゅん!!!」
姉「にしても、この格好はひえるわねー……ずず……」
姉「早く来ないかしら」
―――海岸
男「―――はーい、着いたよ」
釣り師「どうも」
少女「ありがとうございました」
男「いいってことよ。心配したんだぜ?」
釣り師「あはは」
少女「ごめんなさい」
男「……にしても、なにか忘れてないか?」
釣り師「え?」
少女「いえ?」
男「そうか?……なんか欠けてるような気がするんだけど……おっちゃんも歳だな……」
釣り師「それでは、これで」
男「あ、ああ」
少女「じゃあ、えっと……」
釣り師「これからは俺の家で住もう……さ、帰ろう」
―――数週間後 釣り師 自宅
少女「あさですよー!!」
釣り師「あ、ああ……」
少女「ほらほらー……ん」
釣り師「ん!?」
少女「えへへ、はい。目が覚めた?」
釣り師「すっげー覚めた……もう一回、キスしてくれる?」
少女「だーめ!―――夜、まで……お、お預けだもん……」
釣り師「そうか……じゃあ、頑張ってくるよ」
少女「はい!」
釣り師「あ、そうだ。今週末、久しぶりに釣りに行こうと思うんだけど、一緒に行くか?」
少女「あ、うん!いくいくー!!」
釣り師「よし、じゃあ行こうな。夜中に出発するから、覚悟しとけ?」
少女「はーい♪やったー!久しぶりのデートッ♪デートッ♪」
釣り師「はは……さてと、朝ごはんにするか」
―――週末 海岸
釣り師「ここに来るのも久しぶりだな」
少女「うん……」
釣り師「君を釣ることができて良かったよ」
少女「私も……貴方に釣られて良かった」
釣り師「……ん」
少女「ん……ふふ」
釣り師「あはは……ちゃんと結婚しような?」
少女「はい……喜んで……」
釣り師「あ……リールが……!!」
少女「おお!すごい引きだ!!カジキマグロの予感!!」
釣り師「よし。引くぞ!!」
少女「おー♪」
釣り師「ぬおぉぉぉぉぉ……!!―――どりゃぁぁ!!!」
姉「―――ぬわーーー!!!!やっとみつけたぞぉぉぉぉ!!!!!きさまらぁぁぁ!!!!」
少女「お姉ちゃん!?!?」
釣り師「わ、忘れてた……」
姉「あがががが……ふん!!―――はぁ……はぁ……また、釣りあげてくれてありがとう……」
釣り師「あ、えと……」
姉「……してよ」
少女「え?」
姉「私とも結婚してよぉぉ!!長からきいたぞぉぉ!!妹ばかりずるいじゃん!!うわーん!!!」
釣り師「あぁぁ……泣いちゃった……」
少女「お姉ちゃん……」
姉「ひっく……えぐっ……わ、たしっだって……結婚……したもん……ぐすっ……」
釣り師「あー……」
少女「お姉ちゃん……じゃあ、三人一緒になろうよ」
釣り師「おい!?」
姉「え……?いい、の?」
少女「うん!私はいいよ!お兄さんも、いいよね?」
姉「……」
釣り師「……」
姉「やったー!!」
釣り師「何もいってねえよ!?」
少女「これからは一緒だね、お姉ちゃん!」
姉「うん!よろしくぅ」
釣り師「……はぁ……」
少女「お兄さん……」
姉「あなた……」
釣り師「……こりゃ……確かに大物を釣り上げたなぁ……」
少女「さ、釣りの続きしよ♪続き♪」
姉「イワシ、ゲットだー♪」
釣り師「はいはい……じゃあ、がんばるわ……」
人魚姉妹「「がんばってね♪」」
おしまい。
魚だからぶっかけが好きなんだろうな
みんな朝から乙でした
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません