アメリカ人「列車より徒歩の方が速いだろ」 (13)

ひとつ、君とぼくとどちらが先に着くか考えてみようじゃないか。
距離は30マイル、汽車賃は90セント。
これはほとんど一日分の給料だよね。
ぼくはこの鉄道路線で働いていた工夫の給料が一日60セントだったころのことをおぼえているからね。

さて、ぼくはいま徒歩で出発し、夜になる前に目的地に着く。
以前に、その速さで一週間ぶっつづけに旅をしたことがあるんだ。

君はそのあいだ汽車賃をかせぎ、明日か、ひょっとすると今夜あたりそこへ着く。
うまいぐあいに仕事が見つかればの話だけれど。
つまり徒歩で行くかわりに、君はほとんど一日中ここで働いていることになるわけさ。

だからたとえ鉄道が世界を一周していても、やっぱりぼくのほうが君よりも先へ先へと進むことになると思うよ。
おまけに、その地方を見物するというような経験を積む段になると、とても君なんかとつきあっているわけにはいかないね。

乗車賃をかせいだ者、つまりそれだけ長生きした者が、やがて乗車できることは間違いないが、
たぶんそのころには、旅をしようなどという元気も意欲もすっかり失せているだろう。

人生の価値が最低となる老年期に、あやふやな自由を楽しもうと、人生の最良の時期を金儲けに費やすひとびとを見ていると、
まずインドへ出かけていってひと財産つくり、それからイギリスに戻って詩人の生活を送ろうとした、あるイギリス人のことを思い出す。
もっとましな時間の使い方があったんじゃないかな。

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