澪「………」
秋山澪
彼女は自分の部屋で手鏡を片手に絶句していた
澪「はぁ…憂欝だ……」
そう思うのは仕方のない事だった
なにしろ軽音部員みんなと約束した露天風呂が明日に控えているのだ
澪「行きたくないよぉ…」
最初に気付いたのは小学校のお泊りキャンプの時
同級生と共に昼間の汗を洗い流す入浴時間
今も傍らに学校生活を満喫している幼馴染の股間を初めて見た時
私は自分のそれと比較し、違和感を感じた
大して気にもせず時は流れ
あの時感じた違和感が確信に変わったのは、
父親の秘密の雑誌を運悪く見つけてしまった時だ
卑猥な雑誌に載るその女性は顔を見ても明らかに私よりも年上の筈
この女性も、この女性も、そしてこの女性も……
彼女のこの時の感情は、卑猥な雑誌を初めてみた衝撃からくる高揚感でもなければ
こんな雑誌を購入しているであろう父親への嫌悪感でもなかった
澪「私の方が陰毛が濃い……」
卑猥なポーズをとるどの女性よりも、私の陰毛の量は勝っていた
その時悟った、私は人とは少し違う人間なんだと
恥ずかしさ極まりない感情と共に、深い絶望感が私を襲った
澪「どうしよう…このままじゃ…」
もちろん他人の前で裸に近い格好をする事は、今回が初めての体験じゃない
部活による合宿で、私の目の前をタオルも巻かず横切る親友たち
その親友たちの下半身を、見てはいけないと思いながらも、
私は無意識に目線を下ろしてしまう
その時私の面前に映るものは、なんの不自然さも感じられない
むしろ可愛げも見てとれる様な陰毛たち
特に可愛げのある黒髪の後輩のそれを見てしまった私は
心に深い傷を負い、バスタオルを1人体に巻きつけたまませっせと自分の体を洗い流す
見せてはいけない、見せるくらいなら死んだ方がマシだと自分に言い聞かせながら
澪「とりあえず処理はしておかないと」
使い古したカミソリと毛抜きピンセットを片手に、私はバスルームへと歩みを進める
先に断っておくが今からする行為は予防線だ
私の下半身は誰にも見せる訳にはいかない
露天風呂で起こる予想外な出来事
たとえば巻いていたタオルがはだけてしまった時とか
そういった場合に対する予防線なのだ
澪「………」ショリショリ……
湯の音が聞こえもしないバスルームに
ひたすら私の処理の音が響く……
………
紬「今から行く露天風呂ね、本当は一年前くらいから予約しないと入れないんだって♪」
唯律「すげー!」
梓「本当に大丈夫なんですか?そんなに高価な所…」
紬「うん、ちょうど招待されていたから♪」
唯「ありがとうムギちゃん!すっごく楽しみ~」
澪「そうだなっ!いつもありがとうムギ」
澪「………」
バス内で期待に目を輝かせている仲間たちとは裏腹に
私は気乗りがしない自分の本心を隠しながら、皆と話を合わせる
頭の中は浴場に到着した時の事
いかなる状況でも自分の陰毛を人の目に晒さない事
それを考える事で頭の中はいっぱいだった
「いらっしゃいませ、5名様で宜しいでしょうか?」
紬「はい、予約していた琴吹と申します」
「お話は伺っております、どうぞこちらへ」
律「すげー…超VIP待遇だよ」
唯「なんかお嬢様になった気分だね」
梓「私こんなの初めてです」
清潔感と高級感をこれでもない程感じられる受付場を後にする
どうやら個室が用意されてるらしい
1人旅でのホテルならどんなに気分が良い事か
そもそも私は共同で使う浴場というものが大嫌いだ
家のバスルームで事足りるじゃないか
なんで赤の他人の前で自分の裸体を見せつけなくてはならないのか
もっともそんな私の持論等、好意で誘ってくれたムギには口が裂けても言えない
すいません
のんびりいかしてください
律「すっごく広い…!ここ本当に5人部屋か?」
梓「宴会場みたいですね、それに和風な感じで本当に高そう…」
唯「見て見て!こんなにいっぱい露天風呂があるよ!」
紬「ふふふ、喜んでもらえて嬉しいわ♪」
澪「あ、あんまりはしゃぎすぎるなよー」
唯が見つけたガイドによると
大小20程の露天風呂が用意されている様だ
岩や檜や内風呂…
各露天風呂の温泉効果も様々らしい
律「よし、それじゃあ早速入りますか!」
唯「そうだねりっちゃん!」
澪「少しはゆっくりしたらどうだ?」
律「せっかく来てるんだからどんどん入らないともったいないよ!」
唯「そうだよ、ほらみんな行こう?」
澪「わ、私はまだいいよ…」
梓「私も…バスでの移動時間で少し疲れちゃいました」
紬「私も後で大丈夫、唯ちゃん達先に入ってきたらどうかしら?」
この二人が先走るのも想定の範囲内だ
今のところ私のシミュレーション通りに事は運んでいる
何も問題ない
入浴時間が短ければ短い程、私の隠すべきものは隠しやすくなる
紬「お茶、入ったわよ♪」
澪「ありがとうムギ」
梓「すみません、ここに来てまでこんな事させてしまって」
紬「ふふ、いいのよ♪」
三人で使うにはもの寂しさを感じるこの空間で
ゆったりとした時が流れる
紬「着替えよう?」
梓「そっか、やっぱりこういう場って浴衣ですよね」
紬「はい、澪ちゃんの分」
澪「ありがとう、ムギ」
二人を背に向けたまま私はあまり着る機会の無い浴衣を手に取る
下着姿になるのは心許した二人の前とはいえ恥ずかしいものだが、
お風呂に入るそれ程ではない
昔の女性は浴衣の下には何も着けなかったと耳にしたが、
小心者の私には到底理解できるものじゃない
律「これおいしい!なんて料理?」
唯「えっと、和風焦がしバターソースオマール海老だって」
梓「フルコースなんですね、どれもおいしい」
紬「そう?どんどん召し上がってね」
初めて口にする高級料理を、『おいしい』と思う事はなかった
ムギには申し訳ないが、心ここにあらずの状態なのだ
なぜならあの嫌な時間が、刻一刻と迫っているのだから
律と唯は昼間露天風呂に入ってきたのにも関わらず、またこの後入るようだ
私の気も知らず、高級露天風呂を満喫しているこの二人が羨ましい
その太い神経と薄い陰毛が本当に羨ましい
紬「みんな~」
律「ん?」
紬「みんなでお部屋空けちゃうから貴重品はこの中にいれてね」
唯「あ、そっか、お財布盗まれちゃったら大変だもんね」
梓「厳重な金庫、これなら安心ですね」
澪「みんな入れたみたいだな」
律「じゃあ鍵は私が責任を持って」
梓「ちょ…ちょっと、律先輩が鍵持つんですか?」
律「なにか問題でも?」
梓「正直不安です…お風呂の最中泳いだりしてるからどこかに落とすんじゃ…」
律「し、失礼な!私だって時と場所を考えるって!」
唯「じゃあ、澪ちゃんに持っててもらったらどう?」
梓「それなら安心です」
律「おのれ…」
紬「じゃあ澪ちゃん、お願いできる?」
澪「別にかまわないけど」
確かに律じゃ不安を感じる
ここからは自分の下半身の事で精一杯の戦いになるのだが、
みんなの貴重品が泥棒に合うのはまっぴらなので、引き受ける事にした
私はみんなの信頼を胸に、金庫の鍵を手首にきつく巻きつけた
律「唯、今度は違うところに入ってみようぜ」
唯「そうだね、でも熱いところは嫌だなぁ」
周囲のお客さん目も気にせず我先にと素っ裸になるこの二人
いくら周りが女性だけとはいえど、彼女達に羞恥心というものはないのだろうか?
呆れてしまうが、これでいい
律「じゃあ外で待ってるから」
唯「みんなで同じところに入ろう?」
梓「わかりました、転ばない様に気をつけてくださいよ?」
まず彼女達を行かせてしまえば、4つの眼がこの場から確実に消える事になる
あとは浴衣に着替えた時と同じように、二人に背を見せながら下着を脱げばいい
脱いでバスタオルをはおる途中、下半身を見られない様に細心の注意を払いながら
紬「澪ちゃん、なにしてるの?」
澪「え?なにって?」
紬「あのね澪ちゃん、ここの露天風呂タオル厳禁なの」
梓「…えっ」
澪「………」
一瞬ムギが何を言っているのか分からなかった
私より先に巻こうとしていたバスタオルの手を止め、梓が声を出して反応する
どうやら私と同じようにバスタオルを巻いて外に出ようとしていたらしい
やっぱり梓は私の味方だ、そんな思いが頭をかすめたが
そうもいってられない状況みたいだ
思えばさっき出て行った律も唯も素っ裸だった
その時に気付くべきだったのだ
私は地獄への一歩を既に踏み出していた事を
そして下着姿で私の前に立ち、容赦のない言葉を浴びせる金髪の親友が
今の私には悪魔の化身に思えた
紬「だからね、一糸纏わぬ姿で外に出なきゃダメなのよ?
そのバスタオルは後で体を拭くものなの」
澪「いや…でも……」
梓「………」
紬「マナーだから…お願い二人とも」
梓「わ、わかりました……」
ムギのその言葉を耳にした梓は観念したのか、バスタオルを元の位置に戻して
生まれたままの姿になる
いかにも規則や道徳といったものを重んじる梓らしい
私より年下なのに私よりも胆が据わっている
そんな梓を目の前に私は
澪「じゃあやっぱり後にしておこうかな」
紬「後でも同じよ澪ちゃん、タオルを巻くのは全面禁止なの」
澪「じゃあ今回は入るのやめておくよ」
紬「何しにきたの?!」
必死の抵抗を見せる
全裸のままみんなに陰毛を見られるだけ見られるなんて
私には死ねと言われているのと同義だ
梓「仕方ありませんよ澪先輩、早く脱いで行きましょう」
澪「………」
涙が溢れそれがこぼれ落ちるのを必死に我慢した
涙でかすれた梓の下半身をふっと見てみたが
そこに映る光景は私が小学生の時に通過していた光景だった
さっき恥ずかしがっていたのは一体何だったのか
もう誰も信じられない
私の味方なんて誰もいない
私が信じるは、私のみ
澪「うぅ…」
バスタオルを元の位置に戻し、両手を一杯に広げ、自身の股間を覆う
自分の手が大きい事に、これ程頼もしいと感じる機会はおそらくこの先ないだろう
チワワの散歩に行ってきます
保守ありがとうございます
律「遅いぞー、みんな」
梓「すみません、脱ぐのに手間どっちゃって…」
唯「それじゃあ全員揃ったところで」
律「ほお…」
澪「………」
私の幼馴染はまじまじと私の胸を凝視してくる
これほど彼女の頭にたんこぶを作ってやりたいと思う事は、初めての経験だ
しかし股間の前に置かれたこの両手の封印を解く訳にはいかない
律「よく育ってますなー」
唯「おやじ発言だよりっちゃん!」
胸を凝視される事など以前の私であれば、天地がひっくり返る程に恥ずかしかった筈
脱衣所での修羅場を潜り抜けた事で私は完全に覚醒していた
この際上半身の事等どうでもいい
私は体を背けてみんなから股間を凝視されない様にする
唯「硫黄温泉だって」
律「だから卵みたいな匂いなんだな」
梓「湯も白く濁ってますね、良い気持ち…」
紬「硫黄はね、血圧を下げる効果があるのよ
慢性の婦人病にも効果があるとか」
律「へー、そうなんだ…澪!」
唯「あはは、澪ちゃん相変わらずだね」
律「そんな隅っこにいないでこっちおいでよ」
澪「いい」
この白く濁った湯は天の助けかもしれない
これなら浸かっていればよっぽどの事が無い限りバレはしない
問題があるとすれば……
律「よし、体洗おうっと」
梓「私もそうします」
この瞬間だ
こればっかりは私の手でも防ぎようがない
髪や体を洗えばどうしても両手は無防備になる
ここさえ乗り切る事ができれば…
唯「けっこう周りのお客さんも入ってきたねー」
紬「一番混む時間帯だから…」
こんな事なら律達みたいに空いてる昼間入っておけばよかった
そうすればまだ入らないという行為が自然になったのに
しかし今それを考えたところでどうしようもない
律達だけじゃなく、周りの人達にも見られない様にゆっくり湯を出よう
そして洗い場に辿りつき、アレを手に入れれば…
澪「……よし」
唯「澪ちゃん、横いーい?」
澪「うわっ!?」
なにを好き好んで私の隣に座るんだこの子は
他に空いてる席はいっぱいあるのに
せっかく一番目立たない端を確保したっていうのに
それよりも、見られてないよね
見てないよね唯!
唯「あはは、澪ちゃんってば」
澪「!」
見られた…見てしまったか…この子は…
私の横に座る純朴な少女は私の股間を指差し、
無邪気な笑みを浮かべながら周りの注目を集めさせていた
唯の笑い声に誘われたのか、遠くに座っていた律と梓とムギ
それに周りにいたお客さんまで、私に向けて視線を合わせるのが分かった
唯、唯は純粋で可愛くて素直で本当に良い子だよ
私もそんな唯が大好きだよ
でもごめんね唯
この時ばっかりは唯を張り倒してやりたいと思ったよ
唯「桶をそんなところに置いてたらおかしいよお…あはは」
澪「!」
よ…良かった……
どうやら私の陰毛を見られた訳じゃなさそうだ
間一髪私の股間を守る木の桶が間に合った様だ
それを悟った瞬間私は安堵からか溜め息を発していた
なにはともあれ私は自分で瞬時に練った作戦の成功を見た
その達成感に自分ながら酔っていた
背後から聞こえるギャラリーの軽い笑い声
それさえ心地よく感じる程に
律「今日はこの変にしておく?」
唯「そうだね、あまり長く居すぎるとふやけちゃうしね」
紬「まだ明日も明後日もあるから♪」
梓「そうですね、ゆっくり満喫しましょう」
木の桶は素晴らしかった
まさかあんなに安心して髪を流せるとは思ってもいなかった
今後も体を洗う時はあの作戦でなんとかなりそうだ
澪「気持ちよかったな!本当に露天風呂って最高だな!」
律「あ、あぁ」
澪「特に最後に入ったお風呂の外観!風流があって良かった!」
律「脱衣所に戻った途端、元気を取り戻すな…」
安心のバスタオルに包まれる
ここまでくればもう安心だ
私の陰毛が濃くなければ何度でも来たいと、そう思った
それほどここの露天風呂は心地よいものだった
澪「それじゃあ電気消すぞ」
律「えー、もう寝るのー?」
梓「おやすみなさい」
紬「また明日♪」
唯「お布団良い気持ち~」
色々あったが私の陰毛は誰にも見られなかった
この調子であと数日、何事もなく過ごせる自信が湧いてきた
陰毛の事を考えずに私もこの旅行を楽しむ事ができるのかもしれない
そんな事を考えながらまぶたを閉じたが…
紬「澪ちゃん、澪ちゃん」
澪「ん……ん?」
紬「ごめんね起こしてしまって…」
澪「ム…ギ……どうかした?」
寝てからどれくらい経過していたのだろう
ムギが私を目覚めさせた
周りから聞こえてくるのは三人の寝息
優しいムギが私を起こすのだから大変な事なのだろうと思った
紬「実は携帯を金庫に入れたままで…お父さんにメールをしないといけないの
すっかり忘れちゃってて…金庫開けてもらってもいい?」
澪「あぁ、そんな事」
そういえば金庫の鍵は私が持っていたままだった
部屋に戻ってきてから開けるのを忘れていた
ムギが謝る事ないのに
それにしてもお父さんにメールしないといけないんだな
お嬢様も楽じゃないと感じた瞬間私に衝撃が走る
澪「鍵がない……」
紬「えっ」
澪「確かに…確かに手首に巻きつけた筈なのに…!」
紬「えっ…失くしちゃったって事…?」
私とした事があり得ない失態だ
みんなの貴重品を任されていたというのに
澪「どうしよう…どう…」
紬「心配ないわ澪ちゃん、フロントに予備がある筈だから
私もらってくるね?」
澪「待ってムギ!」
皆にあれ程信頼されて鍵を任されたんだ
いまさら失くしましたなんて言えない、言えっこない
明日みんなの顔見て話なんかできない
澪「この事は誰にも言わないで」
紬「えっでも…」
澪「まだお風呂場開いてるよね?多分お風呂場で落としちゃったと思うんだ
今から行って探してくるよ」
紬「確かにお風呂場はまだ開いてるわ、でもね澪ちゃん…」
澪「大丈夫、絶対見つけてくるから」
一回経験したんだ
もう陰毛対策は万全
それにこの時間であれば入浴者もそうは多くない筈
うまくいけば両手で股間を隠さずとも…という思惑があった
紬「ものすごく言いにくいんだけど…」
澪「なに?」
紬「この露天風呂ね?…夜間は全面混浴になるの」
澪「えっ」
今までのはまだ序章
私の戦いはどうやらここから始まるみたいだ
完
とりあえず終わりです
支援嬉しかったありがとうございます
需要があれば続き書きますけどどうかな?
了解です
遅筆で申し訳ない
ごはん食べてきます
遅くなりましたすみません
残してもらってありがとうございます
気長に楽しんでもらえれば幸いです
澪「じゃあムギ、行ってくるから」
紬「本当に?…きっとみんな許してくれるわよ」
澪「いや、ダメだ、私が納得できないんだ」
皆の信頼を裏切る訳にはいかない
ムギのその気持ちも有難いがこれは完全に私の失態だ
私がこんなんだったら誰が軽音部の人格者になりえるだろうか
これは自分との戦いでもある
澪「失礼しまーす……」
澪「………」
と意気込んではみたもののここは昼間とは大分変った露天風呂
見た感じ脱衣所には誰もいないみたいだが
いつ男が乱入してくるかも分からない危険な場所だ
澪「さて…と」
澪「………」
澪「脱ぐか」
ここまできたならもう後戻りはできない
緊張の糸が解れないまま、私は自身の衣類に手をかけ
生まれたままの姿になってゆく
最後にパンツを脱ぎ、棚に押し込んだその瞬間だった
最初は「○○やるはーwwwww」とか言ってたのに、
なんか盛り上がったら「みなさんありがとうございました」とか変わってるやつ
よくいるけど凄いキモいよね
ガラン
澪「!」
「おっ、ごめんよ」
澪「(男だ!男だ!!男だ!!!)」
「こんな時間に珍しいね」
澪「(おっぱい見られた!おっぱい見られた!!おっぱい見られたぁぁ!!!)」
頭の中はパニックになった
とっさにバスタオルで体を覆ったが、一歩遅かった
生まれて初めて父親以外の男性に自分の体を見られてしまったのだ
「露天風呂ってのは人気の無い静かな夜に浸かるってのが通の嗜み方さ
あんた若いのに分かってるねぇ、ん?どうした?怯えた顔して」
澪「い…いえ……おじさんがいきなり入ってきたので……」
「おじさんって、失礼な娘だな!れっきとした女性だっての」
澪「あっ」
本当だ、よく見れば胸もある
この人おじさんみたいなおばさんだ
声も男の人の声だったからすっかり錯覚してしまった
なにはともあれ男性に裸を見られた訳ではなかった
私はほっと方を撫でおろす
おばさん「あんたも静かな露天風呂は好きかい?」
澪「えっ、えぇまぁ…」
そうだよ、混浴と言っても男ばかりじゃない
女性だって普通にいるんだから
このおばさんと出会えた事で、ちょっとした安心感が芽生えた
おばさん「それじゃゆっくりしてくんだよ?」
澪「はい、ありがとうございます」
そうゆっくりもしてられない
できる事ならさっさと鍵を見つけて部屋に帰りたいのだ
脱衣所に残念ながら金庫の鍵は無い
私は昼間ここに来た記憶の糸を辿り、自分がどこに向かうべきか考察する
澪「まずは硫黄の露天風呂に入ったんだよな」
とりあえずそこに向かうべきか
昼間の事情と違い今回は上半身も隠す必要がある
股間を左手、胸は右腕を使い慎重に体を隠しながら前に進む
湯けむりが漂う足元に鍵は落ちていないか
周囲に男の気配は無いか
慎重に慎重に歩みを進める
澪「誰もいませんように………誰もいませんように………」
澪「…誰も………いない………よな?」
澪「………」
澪「…よし」
願いが通じてか昼間浸かった硫黄の湯には誰もいなかった
私は自分の記憶を頼りに、自分が関わったであろう箇所を入念に探索する
体を洗った洗い場の排水口に鍵は無いか
桶の中に入っていないか
「おっ、先客がいm」
澪「うわぁぁああぁぁぁあ!!」
ザブン!
「………」
澪「………」
今度こそ男だ
これは正真正銘の男だよ、まちがいない
緊張の糸を切らさず、周囲の気配を極限まで探っていた私は
眼鏡をかけた七三分けのおじさんの目線が私に届く前に、
露天風呂に浸かる事に成功した
澪「………」
「………」
入ってきた時は気さくな雰囲気をかもしだしていたそのおじさんは
なぜか私を見るなり、石の様におし黙り湯船に浸かる
おそらく私が原因だろう
これが長い沈黙の始まりだった
澪「………」
「………」
幸い今浸かっているのは硫黄の湯
白く濁ったこの温泉は私が湯船に浸かってさえいれば、おじさんに裸を見られる事はない
ただしこれには大きな問題がある
それは一切身動きがとれない事
このおじさんがいなくなるまで鍵の探索を再開できない事
澪「………」
「………」
澪「………」
「………」
おかしい…かれこれ二人で湯船を占領してから30分
どれだけ浸かっているつもりだこのおじさまは
もうそろそろ体を洗おうって気になってもいいんじゃないの?
そうしたらおじさんが目を瞑るであろう洗髪のタイミングを見計らって
とりあえず退散だ
他の心当たりのある場所へと退散だ
「ふぃーっと」
澪「?!」
「よっこらせ」
澪「(はっ?!)」
湯船から上がり近くの岩に腰を落ち着かせるおじさま
足のすねのあたりまではまだお湯に浸かったままだ
いや、体洗おうよ
そうしてくれないと私逃げれないから
「あっつい…あっつい…」
澪「(はっ!まさか…)」
この白々しい態度…
どうやら私が熱さに負けて湯船から上がる瞬間を待っているみたいだ
そこで私の裸をどれ見てやろうって訳ですか
「………」
澪「………」
へーそうですか
それなら負けるわけにはいかないな
あんたの根気と私の根気、どっちが強いか勝負だな
私の陰毛は、絶対に見せない
死んでも見せないから!
「おっ、ここの湯くせーよw」
「まじだ、ここの湯浸かんのかよ」
「あたりめーだよ、せっかくだから浸かってこうぜ」
澪「?」
「おっ、まじかよ!女いるしw」
「まじで!うわぁー超カワイイし!まじハンパねぇんだけどw」
「めっさテンション上がんなぁ!おいw」
最悪なパターンだ
私が最も苦手とする人種だよ
本当に関わりたくない
「どこから来たの?ねぇ1人?」
澪「いや、あはは…」
「すっごいカワイイねキミ」
身の危険をかつてない程感じた私は焦った
どうするべきか、全裸でもいいから一目散に脱衣所へ…
見られたとしてもたった3人だけだし
「おいシゲさんや、ここの湯みてぇだよ」
「ほほ、おなごがおるわ」
「課長、来て良かったですね」
「残念ね、私キミみたいなカワイイ子に興味はな・い・の」チュ
澪「………」
いつのまにか周りを囲っている
どこを見ても男男男
もう限界が近づいてきてるのに現状は最悪だ
かれこれもう1時間は浸かったままだというのに
澪「(…ん?…まって底にあるこの感触…)」
澪「(か…鍵だ!…間違いない!金庫の鍵だっ!)」
極限まで追い詰められた状態での救いの手
あとは自分の部屋に戻るのみなのだが
何重にも囲まれたこの包囲網を突破するのは至難の業だ
澪「(もう我慢の限界が……見られてもいっか…このままじゃ倒れてしまう…)」
澪「………」スクッ
「おぉ!」
おばさん「ちょっと待ちな」
澪「あれっ…あなたは…」
おばさん「ちょっとおいで、もうのぼせてるんじゃないのかい?」
澪「えっ、あぁ…」
おばさん「ほら、さっさと上がりな、私が見えない様に盾になってやるから」
澪「えっ」
ザブ
「おい、見えねーぞババァ!どけやこらぁ!」
おばさん「うるせぇ!ヒヨっこ共!!男同士仲良くやってろや!!」
「………」
澪「す…すみませんでした……助けてもらっちゃって…」
おばさん「いいのよ、たまたま通りかかってね、見てらんなかったから」
澪「おばさん…私……初めて見ました」
おばさん「なにを?」
豪快に男性を一括したその姿に
私は女性としての憧れを抱いた
私の理想とする女性の姿がそこにはあったのだ
澪「自分より陰毛が濃い女の人をです」
おばさん「ほぉ、そうかい、どれちょっと見せてみな」
澪「あっ…えっ…?」
豪快に男性を一括したその姿に
私は女性としての憧れを抱いた
私の理想とする女性の姿がそこにはあったのだ
おばさん「立派なモンだ」
澪「私…少し自信が持てた気がします、今までは自分の陰毛が濃い事を悩んでました
だけどさっきのおばさんの姿をみたらそんな些細な事どうでも良くなってしまって…」
おばさん「そうさね、陰毛の濃い女性は胆ったまの備わった立派な女性だ
いつかアンタもこうなれる日が来るさ」
澪「本当ですか?私みたいな小心者でもおばさんみたいに…」
おばさん「ああ、あんたはきっとなれる」
………
澪「おーい、次はあそこの湯に入ってみないか?」
律「おぉ!いいなそれ」
唯「まだ入ってなかったよね」
梓「………」
梓「なんか澪先輩、たくましくなりましたね
最初はあんなに恥ずかしがってたのに……」
紬「きっかけがあったのよ、きっと」
梓「なにか知ってるんですか?ムギ先輩」
紬「いいえ、なにも♪」
あぁもうだめだ…
ものすごく疲れました
最後までつきあってくれてありがとうございました
澪「なんで私の陰毛はこんなに濃いんだろう…」
律「どぉうりゃぁぁぁああああ!!!!」
ブチブチッ
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