このSSは
岡部「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
の続編です。
このSSに興味を持たれた中でまだ前作をご覧になられてない方は先にそちらからご覧になることをおすすめします。
大した時間も掛からずに読み終わられることかと思いますです。
~ブラウン管工房前・ベンチ~
岡部〈18457回目〉「……」ズーン…
紅莉栖〈5050回目〉「……」ズーン…
鈴羽「店長、お疲れー」ガラッ ピシャッ
鈴羽「…ってあれ? 君たちこんなところで何してるのさ?」
岡部「……今日のパーティーの買い出しだ…」
鈴羽「買い出しって…もうそろそろパーティーが始まる時間じゃあ…」
紅莉栖「……ああ…もうそんな時間か…宅配のピザがあるからダイジョーブイ☆」ビシッ…
鈴羽「…二人ともホントに大丈夫? なんだか目がヘン…」ジー
鈴羽「……ッ!? ……!!」
鈴羽「…………」
鈴羽「……そうか。そういうことか…」
岡部「……鈴羽? どうかしたのか?」
鈴羽「…いや、何でもないよ」ニコッ
岡部「…ならいいが」
鈴羽「ところで岡部倫太郎、ちょっと携帯を貸して貰えないかな? あたしの携帯さっき充電が切れちゃってさ」
岡部「ああ、ほら」スッ
鈴羽「ありがとう」パシ
岡部「構わん」
鈴羽「…ありがとう二人とも。ごめんね」ニッコリ
岡部・紅莉栖「?」
鈴羽「じゃ、あたしは一足先にラボに行くよ」タタタタタ カンカンカンカン…
紅莉栖「…なんで私まで礼を言われたんだろう」
岡部「…さぁ」
………
カンカンカンカン タタタタタ…
岡部「ん? ああ、まゆりか。一体どうし…」
まゆり「オカリーン!!! 紅莉栖ちゃーん!!! 喧嘩なんてしちゃダメなのです!!!」タタタタタ
ダル「ポカリ派とアクエリ派で喧嘩だなんて大人気ないおー」ドタドタ
岡部「はあ? 一体何の話だ?」キョトン
まゆり「え? だってスズさんがね、オカリンと紅莉栖ちゃんが殴り合いの喧嘩してるから止めるの手伝って、って…」
ダル「まぁ僕はダカラ派な訳だが?」
紅莉栖「いや、別に私たち喧嘩なんてしてないわよ?」
まゆり「えー? そうなの?」
岡部「…なぁ、鈴羽はどこだ?」
ダル「どこって…あれ? 付いてきてたと思ったのに」キョロキョロ
紅莉栖「…まさか…」
岡部「…気付いたのか!!」ガタン!! タタタタタ…
紅莉栖「あ、待って!!」ガタン!! タタタタタ…
~ラボ入口前~
岡部「おい鈴羽!! 開けろッ!!」ガチャガチャ
岡部「…駄目だ…!! 施錠されてる…!!」ガチャガチャ
紅莉栖「カギは無いの!?」
岡部「机の上だ…!!」
紅莉栖「…阿万音さん!! 開けて!!」ドンドンドンドン
岡部「開けろよ鈴羽ああああああああああああ!!!!!」ドンドンドンドン
紅莉栖「…どうして!? まさか全部気付いたっていうの!?」ドンドンドンドン
岡部「…それしか考えられん…! 俺の携帯を持って行ったのも多分それだ…!」ドンドンドンドン
紅莉栖「…岡部のDメールを打ち消すため…?」
岡部「正確にはあの日の俺の尾行を阻止するため、だ…! 俺にDメールを送ってタイムトラベルを成功させる気なんだよ…!」
バチバチバチバチバチバチバチバチ
紅莉栖「!? 放電現象…!!」
岡部「…なぁ、開けてくれよ鈴羽…。他にも方法はあるはずなんだ…」
ピロリロリン♪ ピロリロリン♪
紅莉栖「メール!? こんなときに誰が…!!」パカッ
紅莉栖「…知らないアドレス…?」
岡部「!! 鈴羽のアドレスだ! 貸してくれ!」ピッ
[From:****** さよなら]
紅莉栖「……!!」
岡部「……止めろ…止めてくれよ…」
岡部「鈴羽ああああああああああああああああああああああ!!!!!」
グ二ョォォォオォォォォォオォォオォォォオォン
………
岡部「……ッ」フラッ…
紅莉栖「……ッ」フラッ…
岡部(…リーディングシュタイナーが発動した…。ということはつまり、鈴羽のタイムトラベルが成功して世界線が変わったんだ)
岡部(…世界線が変わったということは世界が再構成されたということ)
岡部(つまり、ここは鈴羽とラボメンのみんなの思い出も紅莉栖の何度ものタイムリープもすべて無かったことにされた世界線なんだ)
岡部(…鈴羽、紅莉栖。すまない。ありがとう。俺はお前たちの意志を継ぐ)
岡部(無かったことにされた全ての想いも、俺だけは決して忘れない…!)グスッ
岡部「…っと紅莉栖、大丈夫か?」ゴシゴシ
紅莉栖「平気…とは言えないけど大丈夫よ。岡部は?」
岡部「俺も同じようなものだ。リーディングシュタイナーが発動したのは久し振…」
岡部「……んっ?」
岡部(…待て待て待て待て。 ついつい今までのタイムリープ時と同じように接してしまったが…)
紅莉栖「ん? どうしたの岡…」
紅莉栖「……あれっ? …マシンを使ってないのにタイムリープした…?」
岡部「……」
紅莉栖「…いや違う、時間は巻き戻ってない…ということは…えーと…えー…」コンラン
岡部「……まさか…リーディングシュタイナー?」
紅莉栖「…え?」
岡部・紅莉栖「……何イイイイイィィィィッッッッ!!!??」ガーン!!
岡部「な、なぜお前にもリーディングシュタイナーが発現しているのだ!?」
紅莉栖「それは分からないけど…少なくとも今まで繰り返してきたタイムリープが原因なのは間違いないと思う」
岡部「…それはそうだろうな。時間遡行やごく僅かな世界線移動を『主体的に』何度も経験したため、とでもいったところか?」
紅莉栖「そんな感じでしょうね…。タイムリープが私の体――恐らく脳でしょうけど、に何らかの変化…あるいは順応? をもたらしたとでも考えるのが妥当じゃないかしら」
岡部「リーディングシュタイナーに関わる何らかの部位に、か…。もしそうだとするとこの力は誰でも持ち得るということになるな」
紅莉栖「理論上はそうなんだと思う。リーディングシュタイナーが超能力の類ではない以上、何らかの物理的な観測は可能のはずよ」
岡部「つまり…理論上はある特定の人物に故意にリーディングシュタイナーを持たせるようなこともできる、ということだな」
紅莉栖「そうなるわね。ただリーディングシュタイナーを持たせるのはとても難しい事だろうし、そうじゃなくても絶対にしない方がいいと思う」
岡部「分かっている。危険が伴うかも知れないし、そもそも記憶の引き継ぎがあると変化後の世界線で何かと不自由するからな。この場合は記憶の上書きと言うべきか」
紅莉栖「ええ。…それより、今考えるべきなのは…」ゴクリ
岡部「…この世界線でまゆりがどうなるか、だな…」ゴクリ
………
~ラボ~
チクタクチクタク…
岡部「……」
チクタクチクタク…
紅莉栖「……」
チクタクチクタク…カチッ
岡部「…午前0時…8月14日だ…」
まゆり「zzz…」
紅莉栖「…まゆりが…生きてる…」
岡部「…はぁー…」ズルズルー
紅莉栖「……」グスッ
岡部「…やっと、か…」
紅莉栖「……」グスグス
岡部「……」フゥー…
岡部「…永かったな…」
~翌日~
ドンチャンドンチャン
岡部「ハッハッハ!! いやぁーハッハッハ!! 良かったな助手よ!! いやぁ良かった!!」ギャハハハ
紅莉栖「いやぁホントホント!! 何日振りの志村どうぶつ園かしらゲハハハハ!!」ブハハハ
まゆり「二人ともテンション高いねー♪ ケーキ買ってきて良かったのです♪」
ダル「テンション高すぎんだろ常考…ってこいつら酒飲んでんじゃねーか!!」
紅莉栖「何よー? いいじゃない酒くらい! ほら、そのロウソクふーってしていいから! ふーって!」グハハハ
ダル「いやだってこれスピリタス…」
岡部「ハッハー!! 細かいことを気にするなダル!! 何せ今日はめでた
ガチャン!
ラウンダーA「t
岡部「エルボー!!」ドゴッ!
ラウンダーA「ぐっ!?」ドサッ
岡部「袈裟蹴り!!」バキ!
ラウンダーB「ぶっ!?」ドサッ
岡部「アンクルホールドォォォ!!」ギリギリギリギリ
萌郁「いだだだだだだだだ!!!!」ジタバタ
岡部「これ借りるぞ!! 使え紅莉栖ッ!!」ブンッ
紅莉栖「Five‐seveN!? いい銃じゃない!!」タタタタ パシッ
ダル「え? 何これ」
岡部「次来るぞッ!!」ギリギリギリギリ
紅莉栖「分かってるッ!!」チャキッ
ラウンダーC「両t
紅莉栖「右足!!」ダァン!!
ラウンダーC「ぐあっ!?」ドサッ
紅莉栖「右腕!!」ダァン!!
ラウンダーD「ぎあっ!?」ドサッ
紅莉栖「左腕ッッッ!!」ダァン!!
ラウンダーE「ごあっ!?」ドサッ
岡部(こいつら…ラウンダーか!! 装備やフォーメーションが変わっている!?)ギリギリギリギリ
萌郁「…ッ!! …ッ!!」ピクピク
紅莉栖「次が来る!! まゆり!! 橋田!! シャワールームに逃げなさい!!」
ダル「え? …あ、分かったお!!」タタタタ コンッ
ガシャーン!
ダル(あ、酒の瓶が…ってそんなの気にしてる場合じゃねぇ!!)タタタタ
まゆり「ケーキ持って行かなきゃ…」ヒョイッ
岡部「まゆり!! 早くしろッ!!」ギリギリギリギリ
まゆり「あ、うん! 分かっt」タタタタ
ズルッ ステーン
紅莉栖「あ、ロウソクの火が酒に…」
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ
岡部・紅莉栖「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
紅莉栖〈5928回目〉「岡部!! まゆりが階段から落ちた!!」
岡部〈19335回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
岡部〈20319回目〉「ああっ!? まゆりが酒を一気飲みした!!」
紅莉栖〈6912回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
紅莉栖〈7669回目〉「おぎゃああああ人工衛星が落ちてきたああああ!!!!」ドゴーン!!
岡部〈21076回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
カエデ「ひいいいいいいい危ないいいいいいいい!!!!」キキイイイイイー ドガァン!!
紅莉栖〈8622回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「わぁー!! 万里の長城ってこんなに長いんだねーえへh」ツルッ ヒュウウウウウン
岡部〈23809回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「わぁー!! スフィンクスってこんなに迫力があr」ガラガラー プチッ
紅莉栖〈11253回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
岡部〈25092回目〉「……ッ」ズキンズキン
紅莉栖〈11685回目〉「……ッ」ズキンズキン
岡部「…クソッ!! 駄目だ!! 何も変わっていない!!」バンッ!
紅莉栖「……」
岡部「もう駅でまゆりを倒すしか…!!」
紅莉栖「落ち着きなさい岡部!! 勇気と無謀を混同しないで!! まゆりの死が1日伸びただけでもかなりの収穫なのよ!?」
岡部「…だが結局まゆりは助からなかった!!」
紅莉栖「…待って! そうだ、よく考えて岡部! 確かに今まゆりが助かる可能性はゼロに近いかも知れない。だけど阿万音さんの言葉を思い出して」
岡部「…鈴羽の言葉?」
紅莉栖「そう。阿万音さんは『IBN5100が手に入る世界線へ行けばまゆりと未来の世界が助かる』と言ってたわよね?」
岡部「ああ…」
紅莉栖「さらに、阿万音さんがDメールを取り消したことでまゆりの死は丸1日先送りになった。これがどういうことか分かる?」
岡部「…まさか…」
紅莉栖「ええ。これはあくまで今思い付いた仮説だけど…もしあのDメールの打ち消しが『まゆりが13日の午後8時に死ぬ可能性』まで打ち消していたのだとしたら」
紅莉栖「そして阿万音さんの言葉が、『IBN5100を手に入れる事』ではなく『IBN5100のある世界線へ近付く事』がカギなのだという意味だったのだとしたら」
岡部「…!! そうか!! だとしたらこれまでに送ったDメールを一つ一つ打ち消していけば…!!」
紅莉栖「そう。まゆりの死とディストピアの構築の可能性がより低い世界線へ近付いていくことになる…!」
岡部「なるほど、つまりIBN5100それ自体には意味は無いということか! さすがだな紅莉栖!!」
紅莉栖「この仮説が間違っていなければ、だけどね。それよりもしその線で行くならまずどのDメールを打ち消すべきか、それを考えないと」
岡部「確実なのは新しいDメールから順番に消していくパターンだな」
紅莉栖「まぁそれが無難ね。となると一番新しいDメールを送ったのは…」
岡部「…フェイリス! フェイリス・ニャンニャンだ!」
………
~UPX前~
紅莉栖『――そういうわけで私はラボで24時間待機してるから』
岡部「分かった。じゃあ切るぞ」ピッ
岡部(…ダルによれば、フェイリスは今日UPXで雷ネットの大会の決勝戦に出場するらしい)
岡部(またいつでも電話レンジの操作ができるように紅莉栖にはラボに待機してもらっている)
岡部(あとはフェイリスを見つけてDメールの内容を知り、それを打ち消すだけなのだが…)
岡部(…人が多過ぎてフェイリスがどこに居るのか分からんぞ。フェイリスの執事に聞いても要領を得なかったし…)ウーム
岡部(…誰かに聞こう。あの黒い二人組でいいか)スタスタ
岡部「すみません。お聞きしたいことがあるのですが」
4℃「あん?」
岡部「雷ネットチャンピオンのフェイリスさんが今どちらにいらっしゃるかご存知ですか?」
4℃「……」スック
岡部(ん?)
4℃「ふんッ!!」ブンッ!
スカッ
4℃「…あれ? 外れた?」
岡部「やれやれ、随分なご挨拶だな」ザッ…
4℃「へ?」
手下「…はああああッ!!? 4℃さんの頭突きを避けやがったッ!?」
岡部「お前は要らん。少し寝てろ」ヒュオンッ!! メッギイイイイッ!!!
4℃「ごっあああああああああああああ!!!??」ドサッ
手下「4℃さああああああああああああん!!!??」(踵落とし!?)ガーン!!
岡部「やり過ぎたか? …まぁいいか。おいそこの貴様」
手下「ひいっ!?」ビクッ
岡部「俺は別に喧嘩をしに来た訳では無い。ただフェイリスの居場所が知りたいだけなのだ」
手下「は、はひぃ…」ガクガク
岡部「そういう訳でフェイリスの居場所を知っていたら教えて欲しいのだが」
手下「し、しりりりりりりり」ガクガクガクガク
フェイリス「あ、凶真ー!!」タタタタタ
岡部「フェイリス! 探したぞ!」
フェイリス「こんなところで何して…ってこいつらヴァイラルアタッカーズ!! 決勝戦でフェイリスに卑怯な手を使って勝ったとんでもない奴らなのニャ!!」ムスー
岡部「卑怯な手? そうなのか?」
手下「はひっ!? え、あの…はい…やりました…」シュン…
岡部「まったく情けない奴らだな…。今からでも遅くない、運営に謝罪しに行くぞ。俺も一緒に謝ってやるから」
手下「う…はい…ごめんなさい…」シューン…
4℃「」ピクピク
………
フェイリス「――すごいニャ凶真!! フェイリスは繰り上げ優勝だしヴァイラルは改心したしでもう最高ニャーン!!」ダキッ!!
岡部「んなっ!? ままま待つのだフェイリス!! 一旦離れろ!!」グイッ
フェイリス「えー? 凶真のいじわるー」ブスー
岡部「そ、そうだ。そもそも今日はお前に訊きたいことがあってここに来たのだった」
フェイリス「聞きたいこと? 一体何なのニャ?」
岡部「…お前は自分が送ったDメールの内容を覚えているか?」
フェイリス「ニャニャ? Dメールって何かニャ?」
岡部(…やはり覚えていない、か)
岡部「詳しい説明は後でする。腹が減っただろう? とりあえず飯でも食いに行こう」
………
~ラーメン屋前~
フェイリス「凶真! 凶真! ここで食べたいニャ!」
岡部「ここか? …懐かしいな。昔はここにメイクイーンニャンニャンがあったのだが…」シミジミ
フェイリス「ニャニャ? 何で凶真がメイクイーンの事知ってるのニャ?」キョトン
岡部「な!? お前メイクイーンを知っているのか!?」
フェイリス「知ってるも何も、メイクイーンはフェイリスがここに作ろうとしてたメイドカフェの名前なのニャ。結局パパに反対されて…無かった…ことに…」フラッ…
岡部「!? 大丈夫かフェイリス!!」タタタタ
フェイリス「だ…大丈夫…」ガクンッ
フェイリス(あ…膝が…)
キュイイイイイイイイイイイイイイ
『――おかえりニャさいませご主人様!』
『フェリスちゃんトゥットルー♪』
『凶真、時間を川の流れに例えるのはおかしいのニャ』
『G・B・A・C・K!! G-BACK!!』
『みんなに幸せを届けるネコ耳メイドの使命ニャ!』
『過去にメールを送れるマシンを作ったお。主に僕が』
『凶真、できればDメールの中身は秘密にしときたいのニャ――』
イイイイイイイイイイイイイイ…
岡部「…フェイリス?」
フェイリス「…思い出した…。全部、全部思い出した…!」
………
~フェイリス宅~
紅莉栖『――準備完了。いつでも送れるわよ』バチバチバチバチ
岡部「…本当にいいんだな、留未穂」
フェイリス「…うん。マユシィだって大事な友達だもん、助けたいよ」
岡部「……」
フェイリス「ホントはね、パパが居ない世界なんて嫌だよ。だけど私ももう夢から醒めなきゃ。パパが生きてるこの世界は仮初めに過ぎないんだ」グスッ
岡部「フェイリス…」
フェイリス「…そのメールを送って。そしてマユシィを、世界を救って」ポロポロ
岡部「…ああ」ピッ
フェイリス「…ねぇ。世界線が変わっても、私は凶真のこと覚えていられるのかな」ポロポロ
岡部「…ああ。きっと覚えてるさ」ウルッ
フェイリス「…嘘付き。ありがとう、さよなら。私の王子様――」ニコッ
グ二ョォォォオォォォォォオォォオォォォオォン
………
~ラボ~
岡部「……ッ」フラッ
岡部(…リーディングシュタイナーが発動した…)
岡部「……」フゥー…
紅莉栖「岡部、お疲れ様」スタスタ
岡部「紅莉栖か。フェイリスは?」
紅莉栖「隣でまゆりと話してるわよ。さっき確認してみたけど…やっぱり前の世界線の記憶は無くなってるみたいね」
岡部「そうか…」
紅莉栖「…さて、気を取り直しましょう」
岡部「…ああ、だな。分かった」
紅莉栖「さっきのDメールで確かに世界線が変わった。これでまゆりの生存率はさらに上がったはずよ」
岡部「とりあえずしばらくまゆりの様子を見てみるか?」
紅莉栖「確かにデッドラインの見極めはするべきだけど…その前に、さらに生存率を押し上げる方法も考えておきたい」
岡部「生存率を上げる方法、か。一度試して失敗したものはやはり駄目なんだろうな…」
紅莉栖「確かに信頼はできないわね。とはいえ他に方法はあるのかしら? たいていの場所には逃げてみたし…」ウーン…
岡部「この際誰かに相談でもするか? ダルなんか適任だろう」
紅莉栖「確かにあの妄想力は目を見張るものがあるけど…『二次元の世界に逃げれば万事解決だお!』とか言い出しそうね」フフ
岡部「…二次元? …そうか!! その手があったんだ!!」
紅莉栖「…岡部?」
岡部「…なぜ今まで考え付かなかったんだ…!!」
紅莉栖「…どうしたの岡部? まさか『絵の中に入るガジェットを作るのだーフゥーハハハー!!』とか言い出す気じゃないでしょうね?」ヤレヤレ
岡部「そうではない! いいか紅莉栖、よく考えてみろ。今まで俺たちが行った逃亡先はすべて東西南北右左に縛られた二次元方向にあるものだけだったんだ」
紅莉栖「…まさか…!!」
岡部「…そうだ。二次元方向が駄目なら三次元方向へ、つまり横が駄目なら上へ逃げれば良いだけだ!!」
紅莉栖「…正気?」
岡部「正気だ!! さぁ、宇宙に逃げるぞ紅莉栖ッ!!」
紅莉栖「……ちょ、待ちなさいよ!! さすがにそれは突飛過ぎるというか…まずお金が足りない!!」
岡部「金は株でいくらでも作れる」
紅莉栖「…! でも、宇宙へ行く技術も知識も…」
岡部「タイムリープして勉強と研究を繰り返せばいい。現に俺はそうしてきた。…ま、お前の研究者魂が既に枯れ果ててしまったというのなら話は別だがな」
紅莉栖「」ピクッ
岡部「お前が反対なら仕方無い。考え直すとしよう」
紅莉栖「…は。はは。ははははははッ!!! 言ってくれるじゃない岡部ッ!!」ダンッ!!
岡部「おや? お前は地球外逃亡に反対なのだろう?」ニヤニヤ
紅莉栖「大賛成に決まってる!! 私は研究大好き女!! それは死んでも変わらないッ!!!」
岡部「うむ!! それでこそ紅莉栖だ!!」
………
紅莉栖〈14028回目〉「これ見て岡部! 太陽電池が完成した! エネルギー変換効率が70%を超してる…って何それ?」
岡部〈27435回目〉「ラジコンヘリだ」
………
紅莉栖〈15714回目〉「ちょっと見て岡部! 新型エンジンが完成した! ガソリン1ℓで軽自動車が300km走る…って何それ?」
岡部〈29121回目〉「小型飛行機だ」
………
紅莉栖〈18357回目〉「ねぇ見て岡部! 熱防護システムが完成した! 耐熱温度は2500℃オーバー…って何それ?」
岡部〈31764回目〉「人工衛星だ」
………
紅莉栖〈19625回目〉「ほら見て岡部! 宇宙服が完成した! 重量を65kgに抑えることに成功…って何それ?」
岡部〈33032回目〉「宇宙船だ」
………
紅莉栖〈22003回目〉「あれ見て岡部! 地中船が完成した! 地上からメソスフェアまで自由に移動可能…って何それ?」
岡部〈35410回目〉「潜水艦だ」
………
紅莉栖〈24566回目〉「見て見て岡部! 転送装置(ワープマシン)が完成した! 玄関開けたら2分でSERN…って何それ?」
岡部〈37973回目〉「反物質だ」
………
ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
岡部〈40407回目〉「……ッ」ズキンズキン
紅莉栖〈27000回目〉「……ッ」ズキンズキン
岡部「…ふは。ふはは。フゥーハハハ!! 今度こそ完璧だ!! ついに未来ガジェット1349号『ぐんぐんワープくん』の設計が完成したぞ!!!」フハハハ
紅莉栖「何かとトラブルに見舞われそうな名前だな。とにかくあとは材料を集めて組み立てをするだけね! 設計は図に書き起こしたほうがいいかしら?」
岡部「必要無い!! すべて頭に入っている!!」
紅莉栖「それなら大丈夫ね!! 宇宙空間だけでなく深海や地中への進行をも可能にした脅威の未来ガジェット!! 燃費も異様に良いし完成が楽しみだわ!!」フハハハ
岡部「その機能もさることながら、最も恐ろしいのは材料さえあれば2日足らずで完成してしまう所だな」ウンウン
紅莉栖「飛行機能がある上にワープ機能で移動時間の短縮もできるしね。まぁ今はまだ一度に4万km弱の距離しかワープできないけど」
岡部「二重扉なので安全面でも問題無し! 真空や高温、高水圧にも難無く耐えられる宇宙服も搭載! さぁ紅莉栖!! さっさとマシンを完成させてまゆりを乗せるぞ!!」
………
まゆり「あー! 三葉虫の化石だー! ちょっと拾ってくるねオカリン!」パカッ パカッ
ガシッ グイグイー ガラガラー プチッ
岡部〈43221回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「マリアナ海溝って深いんだねー♪ ちょっと水着でひと泳ぎしてくるよーえへへー♪」パカッ パカッ
クシャリ
紅莉栖〈32685回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「わー見て見て! でっかいサメがいるよー! ちょっと触ってくr」パカッ パカッ
ガブリ
岡部〈49228回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「宇宙遊泳って楽しいねー♪ あ! 見て紅莉栖ちゃん! おっきなデブリがこっちに飛んd」フヨフヨ
ドゴーン
紅莉栖〈39147回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「わー! この宇宙服って小型ジェットが付いてるんだー♪ じゃあ太陽捕まえてくるねオカリン!」ゴオオオオオー…
ジュウウウウウウウウウウ
岡部〈55714回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「わぁー!! 見て見て!! 宇宙ひもがあるよ紅莉栖ちゃん! ヘルメットが邪魔ではっきりと見えないy」ヌギヌギ
ウックルシッ
紅莉栖〈45319回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
岡部〈61399回目〉「はぁッ…はぁッ…」
紅莉栖〈47992回目〉「はぁッ…はぁッ…」
岡部「くっそ!! 何故だ!! 何故助からない!!」
紅莉栖「『ぐんぐんワープくん』に欠陥は無いはず。…もう次のDメールを消すしかないみたいね」
~メイクイーンニャンニャン~
フェイリス「こちらアイスコーヒーですニャご主人様!」コトン
岡部「……まさかこんな展開になるとはな。助けてくれ紅莉栖…」グデー
紅莉栖「漆原さんのDメールの内容は分かってるからあとはポケベルの番号を調べるだけの簡単なお仕事だと思ったんだけど…」チューチュー
岡部「まさかルカ子とデートをすることになるとは思わなかった…」
紅莉栖「たったの数日間でしょ? 楽しませてあげなさいよ」チューチュー
岡部「とは言っても紅莉栖、俺にはそういう経験が全くないのだ。一体何をすればいいのか…」ウーン…
紅莉栖「自信付けたいなら今からおフロ屋さんに行って童貞卒業してきたら?」チューチュー ジュルルー…
岡部「そんな怖いことできるか!! コーヒーはブラックでも発想はヴァージンだな紅莉栖!!」
紅莉栖「ぶッ!? …何よ処女で悪い!? だからわざわざこんなデートマニュアル本まで買ってきたんでしょ!!」バサッ!
岡部「…なんだか悲しくなってきたな。醜い争いはやめよう紅莉栖…」ドヨーン…
紅莉栖「…ええ…」ドヨーン…
岡部「…しかしそんなマニュアルが本当に役に立つのか? 装丁からして古臭さ全開なのだが」
紅莉栖「さぁ…とりあえず平積みしてあったのを買ってきたんだけど」ペラペラペラペラ
岡部・紅莉栖「……」ペラペラペラペラ ヨミヨミ
岡部・紅莉栖「…これは無いな…」パタン…
紅莉栖「もう行き当たりばったりでいいじゃない。今のあんたに怖いものなんて無いでしょ?」
岡部「注射は死ぬほど怖いぞ」
紅莉栖「そういうこと言ってるんじゃないっつーの! ったく、こうなったら私が遠くからずっと見ておきましょうか? 何かあったら随時サポートするから」
岡部「そうしてくれると助かるが…さすがにバレないか?」
紅莉栖「その点は心配しないで! この未来ガジェット1350号『ピーピング・シタイナー』を使えば3km離れた地点までなら手に取るように分かるのよ!」ババーン
岡部「いつの間にそんなガラクタ双眼鏡を作ったのだ? しかし俺もお前も『ぐんぐんワープくん』の経験のおかげでやたら製作速度が上がったな」
紅莉栖「ガラクタ言うな! ま、こんな物があってもまずは岡部が頑張らなきゃ意味無いんですけどねー」
岡部「…結局俺はどうすればいいんだ…」ハァー…
フェイリス「ニャニャ? 凶真デートするのかニャ?」ヒョコッ
岡部「え? ああ、一応な」
フェイリス「ニャーン!? 相手は誰なのニャ!? もしかしてマユシィ!? それともこの子だったりするのかニャ!?」ワクワク
紅莉栖「い、いや私じゃないわよ!? まゆりの友達!」
フェイリス「ほほう…女子高生に手を出すとはさすが凶真ニャ…!! それで何をそんなに悩んでるのかニャン?」
岡部「何をすれば楽しませてやれるのかが全く分からないのだ…」
フェイリス「そんなの簡単ニャ! 凶真はただ凶真らしくしていればいいのニャ!」
岡部「俺らしく、か?」
紅莉栖「…そうね。変に考えてもドツボに嵌まるだけかも知れない。あの子が惚れたのは普段の岡部なんだもの。デートでも普段の岡部のままでいればいいのよ」
フェイリス「その通り! とっとと未成年淫行でとっ捕まってくるのニャ凶真ー!」
岡部「なるほど! 普段の俺のままでいいのだな! 助言感謝するぞフェイリス!」
………
岡部「ふははは立ち去れチンピラ共めが!!」シュババババ
チンピラ共「ぐあああああああああああああ!!!!」ドサドサドサッ
ルカ子「すごいです岡部さん!」キラキラ
………
女「彼氏が車に轢かれた!! 誰か助けてください!!」ビエーン!!
岡部「不用意に動かすな! 俺が応急処置をするからお前は救急車を呼べ! ルカ子は今すぐハサミとライターを買ってくるんだ!」
ルカ子「すごいです岡部さん!!」キラキラ
………
岡部「ふははは立ち去れヤー公共めが!!」シュババババ
ヤー公共「ぐああああああああああああ!!!!」ドサドサドサッ
ルカ子「すごいです岡部さん!!!」キラキラキラキラキラ
………
フランス人「Parce que j'ai faim, veuillez l'aider.」ペラペラ
岡部「Mangez une pizza; un adipeux.」ペラペラ
ルカ子「すごいです岡部さん!!!!」キラキラキラキラキラ
………
岡部「ふははは立ち去れポリ公共めが!!」シュババババ
ポリ公共「ぐあああああああああああああ!!!!」ドサドサドサッ
ルカ子「すごいです岡部さん!!!!!」キラキラキラキラキラキラ
………
岡部「――以上の証拠から奥さん、犯人はあなたしか考えられないんですよ!!」ビシィッ!
奥さん「……ふふ。やっぱり悪いことはできないわね…」ガクリ…
ルカ子「すごいです岡部さん!!!!!!」キラキラキラキラキラキラ
………
~柳林神社~
ルカ子「ボク…本当は男の子に戻りたくなんか無いです…男の子に戻ったら…この気持ちを封印しないといけなくなるから…」ポロポロ
岡部「……」
ルカ子「…ねぇ岡部さん。ボクが男の子になっても覚えていてくれますか?」ポロポロ
岡部「…ああ」
ルカ子「女の子だったボクのこと、覚えていてくれますか?」ポロポロ
岡部「…ああ」ウルッ
ルカ子「ありがとうございます。…さよなら、ボクの好きな人――」ピッ
グ二ョォォォオォォォォォオォォオォォォオォン
………
~ラボ~
紅莉栖「――お疲れ様。結局私がサポートするまでも無かったわね」
岡部「…ああ、だな」
紅莉栖「今度こそまゆりが助かるといいんだけど…」
岡部「…念には念を入れよう。まだ生存率を上げる方法はあるはずだ」
紅莉栖「…2次元方向への逃亡は失敗で、3次元方向への逃亡もやはり失敗だった。となると残されたのは…」
岡部「4次元方向への逃亡」
紅莉栖「……『タイムリープマシン(改)』と『ぐんぐんワープくん』の技術を応用・改良すれば不可能ではなさそうね」
岡部「だな! 時間を移動するマシンを作るぞ紅莉栖!!」
………
………
岡部〈80647回目〉「…ふは。ふははははは。フゥーハハハハ!! 遂に完成したぞ!! 未来ガジェット1777号『轢き逃げ霊柩車(イビルデロリアン)』!!」
紅莉栖〈67240回目〉「もう少し名前は何とかならんかったのか? まぁとにかく完成ね!」
岡部「過去方向へはもちろん未来方向への跳躍も可能となった究極の未来ガジェット!! 」
紅莉栖「さらにワープくんの全機能を改良して付け加えたことで跳躍後の世界でも自由な移動が可能になっている!! …恐ろしい出来ね」
岡部「これにまゆりを乗せて逃げれば…ミッションコンプリートだ!!」
………
まゆり「わぁー! プテラノドンだよー♪ あ、こっちに来r」
ガシッ バッサバッサ アレー?
岡部〈84375回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「見て見て紅莉栖ちゃん! カルタゴ軍もローマ軍もかっこいいね! さっきからすごい数の矢だよーえへh」
ヒューン サクッ
紅莉栖〈74797回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「ねぇねぇオカリン! あそこで戦ってるおじさんって張飛さんじゃないかな? あ、こっちに来t」
ウオオオオオオ!! スパーン
岡部〈92921回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「あー見て見て! 十字軍がいっぱいいるよ! すごいねーえへh」
ドドドドドドド ブスリ
紅莉栖〈82928回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「ほら見てオカリン! 五稜郭で戦争してるよ! 土方さんどこにいるのかなー!?」キョロキョロ
パァン ドサッ
岡部〈100629回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「わー見て紅莉栖ちゃん! ライト兄弟が飛行機を飛ばしてるよ! あ、こっちに来t」
ヒューン… ドガァァァン プチッ
紅莉栖〈91430回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「レジスタンス? よく分からないけど秘密基地みたいでカッコいいね! それにしてもあのおじさんダルくんにちょっと似てr」
ラウンダーニココガバレタゾー!! ミサイルガクルゾニゲロー!! チュドオオオオオオオン!!
岡部〈108026回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「あーすごーい!! 青い宇宙人がテレビで歌ってるよ!! 車も空を飛んでてびっくりなのでs」
キキイイイイイイー!! ドガアアアアン!!
紅莉栖〈99078回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「わぁー!! 地球が大爆発したよ!! 星にも寿命ってあるんだねー♪ 暑さでだんだん宇宙服が蒸れてきたよーえへh」ヌギヌギ
ウックルシッ
岡部〈116703回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
~ラボ~
ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
岡部〈119999回目〉「はぁーッ…はぁーッ…」
紅莉栖〈106592回目〉「はぁーッ…はぁーッ…」
岡部「…クッソ!! 何でだよ!! 何で何度繰り返しても助からないんだ!!」ダンッ!!
紅莉栖「気持ちは分かるけど落ち着いて岡部。これからどうするかを考えないと」
岡部「…少なくとも時間を超えるのは無駄なようだな」
紅莉栖「そうね。たとえマシンでデッドラインの時間を越えても、結局しばらくするとまゆりは死んでしまった」
岡部「…何故だ? デッドラインの時刻さえ回避すればいいのではなかったのか…?」
紅莉栖「…それは『所属』の問題なんじゃないかしら」
岡部「『所属』?」
紅莉栖「まゆり――この場合は具体的な個物としてのまゆり、とでも言った方がいいのかも知れないけれど――は『今この時間を生きている人間』。それは分かるわね?」
岡部「ああ。当然だろう」
紅莉栖「これを『この世界線の時間に所属している状態』と捉えたとしたら。例えまゆりが過去や未来へ行っても、まゆりの中に『今この時間』が生き続けているとしたら」
岡部「…なるほど。『まゆりの中の時間』が一定の時刻に達した時、『その時居る時間』に関わらずまゆりは死んでしまうということか」
紅莉栖「そういうこと。イメージ的には体内時計…いや、いっそのこと時限爆弾のようなものをイメージした方が分かり易いかも知れない」
岡部「過去や未来への逃亡はまゆりの生存率を上げる上では何の意味も為さない、ということか。…生存率を上昇させるためには」
紅莉栖「最後のDメールを打ち消すしかない」
岡部「…桐生萌郁。かつて俺が閃光の指圧師(シャイニングフィンガー)と呼んだ女のDメール…!」
………
~萌郁のアパート前~
岡部「――じ、自殺?」
警官「そう自殺。アパートの自室で首吊ってたんだ。ちなみに事件性は皆無だよ」
岡部「…そう、ですか」
警官「遺体は総合病院の方にあるから、良かったら会いに行ってあげてね」
岡部「……」
………
~ラボ~
岡部〈120000回目〉「――と言う訳だ」カタカタカタカタ
紅莉栖〈106593回目〉「帰ってくるなり『タイムリープするぞ!』なんて言い出すから何事かと思ったら…なるほどね。そういうことはタイムリープする前に言いなさいよ」
岡部「先にある程度前準備をしておこうと思ったのでな」カタカタカタカタ
紅莉栖「前準備? さっきからやってるネットサーフィンのこと?」
岡部「ネットサーフィンでは無い…っとやっと見つけたぞ。紅莉栖、お前これ扱えるか?」
紅莉栖「どれどれ……ってはぁあ!? 一体何するつもりなのよ岡部!? よく見たらここ思いっきり違法サイトじゃない!!」
岡部「ただの通販サイトだ。そんなことより俺はこれを扱えるかと聞いているのだ紅莉栖よ」
紅莉栖「まぁ扱えないことは無いけど…ホントに何する気なの?」
岡部「扱えるのなら問題無い!! では只今よりッ!! 『地這う世界蛇』作戦(オペレーション・ヨルムンガンド)の開始を宣言するッ!!」ババーン
紅莉栖「いやちょっ待っ…ちゃんと説明しろ!!」
………
紅莉栖「なるほどね。…別に岡部だけでもなんとかなるんじゃない?」
岡部「念には念を入れておきたいのでな。下衆な考えかも知れないが、最後の手段として脅迫という方法も用意しておくべきだ」
紅莉栖「…それで? 私はどうすればいいの?」
岡部「明日の朝3時過ぎ、渋谷のとある雑居ビルに行って売人からこれを受け取ってもらう。金は既に振り込んであるから大丈夫だ」
紅莉栖「でもこれを一人で運ぶのはちょっと…」
岡部「そう言うと思ってダルとフェイリスの協力を取り付けておいた」
紅莉栖「なっ…橋田とフェイリスさんまで巻き込むの!? 冗談でしょ!?」
岡部「心配するな。確かに法に触れはする。が、決して逮捕されるようなことが無いように手は打ってある。それに二人ともノリノリだしな」
紅莉栖「……」
岡部「とにかくその後はただこれを持ってラボへ帰ってくればいい。そして、完全に日が落ちてから本格的な行動を開始する」
紅莉栖「日が落ちたらどこに行けばいいんだ?」
岡部「その辺りはお前に任せる」
紅莉栖「…随分とクレイジーな保険ね。構わないけど」
岡部「…出来ればお前がこれを使うことなく終わって欲しいんだがな」
………
~萌郁のアパート前~
岡部「――日が落ちたか。…ではこれより作戦行動を開始する!! 聞こえるかダル!!」
ダル『携帯だから聞こえて当然だお。んで、結局僕はここでエロゲしてればいいの?』
岡部「そうだ。ただし携帯は繋ぎっぱなしにしておいてくれ。俺が指示を出したらすぐにDメールを送る準備をするんだぞ」
ダル『え? そしたらエロゲのボイス聞けないじゃん。@ちゃんしながら待っとくお』
岡部「何でもいい。とにかく頼んだぞ」
~萌郁の部屋~
萌郁「FB…FB…なんで返信してくれないの…?」
ガチャッ!!
岡部「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!!」ダダダダダ…
萌郁「Fび
岡部「男女平等ドロップキック!!!!」ゴッギイイイイイィィィィ!!!
萌郁「めっごああああああああああああああああ!!!??」メギョッ ドサッ
岡部(…あった!! 萌郁の携帯!!)
岡部「ダル!! 今からDメールを送る!! 準備しろ!!」
ダル『早っ! まぁ了解』
岡部(携帯電話は買い替えるな…っと。文面はこんな感じでいいか)カチカチカチカチ
ダル『放電現象始まったおー』バチバチバチバチ
岡部「これで…終わりだ!!」ピッ
岡部「……」
萌郁「」ピクピク
岡部「……」
岡部「…あれ? なぁダル、本当にマシンを起動したのか?」
ダル『してたって。電話越しにバチバチ聞こえたっしょ?』
岡部「…何故だ!? 何故リーディングシュタイナーが発動しない!?」
ダル『リーディングシュタイナーってあれ? なんかオカリンだけ世界の変化が分かるみたいなやつだっけ?』
岡部「そうだ!! 萌郁の携帯の機種変を止めるメールを送ったから世界線が変わるはずなんだ!! それなのに…」ハッ
岡部「…いや待て違うッ!! そうか、この携帯は…!! こいつ機種変なんかしてないんだ!!」
ダル『え? どゆこと?』
岡部「ふざけやがって!! こいつ俺たちの目を盗んでメールの内容を変えてやがったんだ!!」
ダル『ちょ、なんか知らんけど落ち着けってオカリン。携帯見てホントのメールの内容を調べれば済む話っしょ?』
岡部「…そうだな。少し取り乱した」
ダル『一応データはマイクロSDにコピーするなり移すなりしたほうがいいなのだぜー』
岡部「分かった。…それにしてもホントのDメール、か…。どこにあるんだ…」カチッ カチカチカチカチ
岡部「…あった!! これか!! …なるほどな。こいつDメールで先回りしてIBN5100を盗んでいたのか…」
岡部「…ダル!! マシンを起動しろ!!」
ダル『…オッケー。もう送れるぜオカリン』バチバチバチバチ
岡部「神社には行くな、それは罠だ…っと。送信!」ピッ
岡部「……」
ダル『……』
岡部「……」
ダル『…どう?』
岡部「…駄目だ」
岡部(…クソッ!! 一体どうなってるんだ!? こいつ未来から来たメールを信用しなかったと言うのか!?)
岡部(…いや違う。それなら初めのDメールを送っても過去は変わらなかったはずだ。…何かあるはずなんだ、何か…)
岡部(…携帯からこれ以上の情報を引き出すのは無理そうだな。どこを見ても『FB』とのどうでもいいメールしか…)ピッピッピッピッ…
岡部(…いや、待てよ…?)
萌郁「う…」
岡部「……起きたか萌郁。空気が悪いな、窓を開けるぞ」ガラッ
萌郁「…携帯!! 携帯返して!!」
岡部「ほら」ブンッ
萌郁「ッ!!」バッ パシッ
萌郁「…え? え…? …メールが…消えてる…!!」カチカチカチカチ
岡部「ああ。メールデータならこのマイクロSDの中だ」スッ
萌郁「!! 返してッ!!」
岡部「構わん。ただし条件がある」
萌郁「条件…?」
岡部「お前が知っているFBに関する情報をすべて寄越せ」
萌郁「…!?」
岡部「言わなければこのデータは破壊する」
萌郁「!? 止めてッ!!」
岡部(…やはり、か。こいつが真に依存しているのは携帯電話ではなく、FB)
岡部(つまりFBの居場所を突き止めて携帯を奪い、その携帯からこいつにDメールを送れば…)
萌郁「…言、えない…!」
岡部「…ではカードはどうするのだ?」
萌郁「…返して貰う…!」
岡部「どうやって?」
萌郁「…ッ!!」タタタッ バッ ジャキンッ
岡部(…ブローニングハイパワー。部屋に銃を隠していたか。まぁ想定済みだ)
萌郁「返してくれないなら、撃つ…!!」グッ…
岡部「萌郁、銃を構えるときは両腕を真っ直ぐ伸ばせ。反動で顔の骨が砕けるぞ」
萌郁「…返せッ…!!」
岡部「…やれやれだな。まるで聞いていない」
萌郁「おかべえええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」グッ
ガァァァン!!
岡部「…うむ」
萌郁「…づあッ!?」(な――!? 銃が砕け――)
萌郁(…!! 窓が開いて…まさか…!!)バッ
ガァァァン!!
萌郁「ッ゛!? …あ゛ッ…」ガクンッ…
岡部「ハートショット。相変わらず見事な腕前だな紅莉栖」
~約2.6km南東/某ビル屋上~
フェイリス「ニャオーン! よく見える双眼鏡だニャ!」
紅莉栖「寝転がると砂が付いて嫌ね。フェイリスさんチェック」
フェイリス「ハートショット、ヒット。膝から崩れ落ち一時止まる」
紅莉栖「オーケー」
フェイリス「見事な狙撃テク…待って。左手に持っていた携帯が緩衝に。軽度の負傷、貫通せず」
紅莉栖「オーケー」チャキッ
フェイリス「ヘッドショット、エイム」
紅莉栖「ファイア」カキンッ
ダーン!!
キンッ コンッ コロロロー…
~萌郁のアパート~
萌郁「……!!」ガクガク
ガギィン!! パリンッ
萌郁「ッ!! 眼鏡が…!!」ガクガクガクガク
岡部「今のは最終警告だ。情報を寄越さないなら次は当てる。…言え」
萌郁「…ッ…!!」ガクガクガクガク
岡部「言えッッ!!!」
萌郁「…わ、私にも、分からない…!」ガクガクガクガク
岡部「…どういうことだ。分かるように話せ。まずFBとは何者だ?」
萌郁「…え、FBは…私のお母さん…」ガクガクガクガク
そろそろさるさん回復したかな…
………
岡部「――なるほどな。つまりお前はFBに会った事はおろか、電話で話した事すら無いという訳か」
萌郁「……」コクン
岡部「…なぜメール以外のコンタクトを取ろうとしないんだ?」
萌郁「…会ったら、幻滅されちゃう…」
岡部「……分かった。もういいぞ。これは返す」ポイッ
萌郁「!」バッ パシッ
岡部「携帯と眼鏡については悪かったな。これで買い直せ」ポスッ
萌郁「…こんなに、要らない」
岡部「いいから取っておけ。さっきも話したことだが…お前はあと数日も経たないうちに死ぬ。これは誰にも止められないこの世界線での決定事項だ」
萌郁「……」
岡部「その金で最後に好きなことをするといい」
萌郁「…岡部君は、これから何をするの…?」
岡部「FBを探す。時間はいくらでもあるからな。ゼロから手掛かりを見つけ出す」
萌郁「……」
こうやってゴリ押しで解決させるのは嫌いじゃないぜ
岡部「もしもし」
ダル『おうオカリン。次は何?』
岡部「これで『地這う世界蛇』作戦は終了だ。もう休んでいいぞ」
ダル『分かったお。…つーか結局あのフルメタルジャケット撃ったん?』
岡部「三発だけな。もちろん人死にや重傷者は出してない」
ダル『出してたらドン引きじゃ済まないだろ常考!!』
岡部「そうだ、紅莉栖たちにも作戦終了を伝えておいてくれ微笑みダル」
ダル『あ? とにかくオーキードーキー』
岡部「今日はお前のおかげで助かった。では切るぞ」プツッ
………
~ラボ~
岡部「――という訳だ」
紅莉栖「なるほどね。それで見張りはいつ始めるの?」
岡部「もちろん今からだ」
紅莉栖「…『シタイナー』使う?」
岡部「いや、必要無い。ロッカーのすぐそばで張り込みをする」
紅莉栖「オーケー。私は何をすればいい?」
岡部「とりあえずはラボに待機だ。もしFBの携帯を手に入れたらDメールの送信を、携帯の入手に失敗したらタイムリープをするからそのつもりでいてくれ」
~大ビル前・コインロッカー付近~
岡部(…もう朝か)
岡部(昨日の夜からずっと張り込みをしていたが一向に現れる気配が無い)
岡部(ロッカーにIBN5100が入っているのは確かなようなのだが…)
ガサッ
岡部「ッ!!」バッ
萌郁「!?」ビクッ
岡部「…なんだ萌郁か。何をしている?」
萌郁「…これ」スッ
岡部「ん? …牛乳とあんパンか。差し入れか?」
萌郁「……」コクン
岡部「…そうか。有り難く貰っておこう」ガサッ
萌郁「…あの、岡部君」
岡部「何だ」
萌郁「…私も、手伝う。最期にFBに会いたい」
岡部「…邪魔だけはするなよ」
………
岡部「……来ないな」
萌郁「……」コクン
岡部「なぁ萌郁、もう取りに来ないなんてことは…」
ガラガラガラガラー
岡部(!! 誰か来た!!)
ガチャガチャ ガタン ガラガラー
岡部(IBNを持って行った…! あれがFBか!? …いや、萌郁はFBは女だと言っていたな)
萌郁「岡部君…!」
岡部「ああ! とにかくあの男を尾行するぞ!」ダッ
………
~電車の中~
岡部(あいつ、電車に乗ってどこまで行く気だ?)
ガコー
萌郁「…あ、降りる」
岡部「ああ、俺たちも降り…」
岡部(…いや待て。歩き方が微妙に変わった? まるで体が軽くなったような…)
岡部「…! …降りるな萌郁。IBNはまた電車の中だ」
萌郁「え?」
岡部「恐らく尾行を警戒して誰かに受け渡しを…」
萌郁「…あ、あの人」
岡部「…あった。次の運び手はあの女だな…!」
………
~秋葉原駅前~
岡部(…どういうことだ? 結局この駅に戻ってきたぞ…)
萌郁「…見て。あの人、白い車に近付いてる」
岡部(…ん? あの車どこかで…)
萌郁「…誰か車から出てくる」
ガチャッ
岡部「な――」
萌郁「?」
岡部(ミスターブラウン!? どういうことだ!? まさかSERNと繋がっているとでも言うのか!?)
岡部(…いや落ち着け。今はIBN5100の追跡の方が先だ!!)ピッピッピッ…
プルルルルル… ガチャッ
紅莉栖『はろー』
岡部「紅莉栖!! 『轢き逃げ霊柩車』で今すぐ駅前に来てくれ!!」
紅莉栖『猶予は?』
岡部「30秒!」
紅莉栖『待ってなさい』
………
キキイイイィィィィー バタン
紅莉栖「お待たせ」
岡部「乗るぞ萌郁」
萌郁「……」ギッ
岡部「あの白い車を少し距離を開けて追ってくれ」ギッ バタン
紅莉栖「了解。ところで岡部、あれ店長の車でしょ? 一体何が起きてるのか説明してくれる?」
岡部「ああ…」
ブロロロロー…
………
~天王寺家前~
岡部「――結局IBN5100はこの家の前でラウンダーに引き渡され、そのまま飛行機でフランスに送られた」
紅莉栖「…そしてFBの正体は分からず仕舞い、か。困ったわね」
萌郁「……」
紅莉栖「IBNが着くころに『轢き逃げ霊柩車』でフランスに跳ぶ?」
岡部「…それは後からだ。とりあえずミスターブラウンの所へ行こう。少しでもいい、情報を引き出すんだ」
~天王寺家~
岡部「――今日俺たちがここへ来たのはお聞きしたいことがあったからです」
天王寺「なんだ? 聞きたいことって」
岡部「…先刻あなたはこの家の前で、ラウンダーの連中にIBN5100の引き渡しをしましたよね?」
天王寺「!! ……」
岡部「…まぁいい、単刀直入に聞きましょう。あなたは、FBという人物について何かご存知ですか?」
天王寺「……」
萌郁「……」
紅莉栖「……」
天王寺「……」フゥー…
さるよけ支援
天王寺「…おめえは裏切ったのかM4?」
岡部「…!!」
萌郁「…な…んで…!? そのコードネームは、私とFBしか…」
天王寺「…フェルディナントブラウン、って知ってるか?」
岡部「…カール・フェルディナント・ブラウン。ブラウン管の発明者。…そういうことか…!」
天王寺「ああ」ジャキンッ
萌郁(銃!?)
紅莉栖「蹴って!!」
岡部「らあッ!!」バシィン!! ゴトンッ
天王寺「!? ってえな…」ザッ
紅莉栖「っの…!」ダッ
岡部「バカ待て――!!」
天王寺「遅ぇよ!」ガッ!
紅莉栖「く――」(襟首を掴まれ――)
ズダァン!!!
紅莉栖「ッぶ!?」(叩き付け…!! 鼻が…ッ!!)メギッ…
岡部(襟首を下に引っ張って顔を床に叩き付ける、か。初めて見たぞ!)タタタタッ
天王寺「寝とけ」ヒュッ…
岡部(踏み付け!!)「させるかッ!!!」ビュオンッ!!
天王寺「うお!?」バッ
ズパァァァン!!
いや止めろよオカリン
ザッ…
天王寺「……!!」ビリビリ…
岡部「……」(…良し。紅莉栖から離れさせた)
天王寺「…細いくせに意外といい蹴り持ってんじゃねぇか。力の乗せ方が異様に上手ぇ。基盤はコマンドサンボか?」
岡部「ほとんど原型は残っていませんがね。あなたは?」
天王寺「よく言えば自己流だな。よく言って自己流か?」
岡部「要は勘ですね。喧嘩慣れしているのか」
天王寺「まぁそうだ。馬鹿正直に突っ込んでくる軽い奴はただ襟首を引っ張って叩き付ければいいだろ、だとかそういうのが何となく浮かんでくる」
岡部「なるほど。野生型というやつですね」
紅莉栖「…ッ…!!」ドクドク…
岡部「下がって血を止めてろ。もうじき終わる」
紅莉栖「…任せたわよ…」タタッ…
萌郁「…あの、ハンカチ」スッ
紅莉栖「…ありがとう…」ピトッ
天王寺「…もうじき終わる、か。随分余裕だな?」スッ
岡部「はい。なにせあなたは既に攻略済みですからね」スッ
天王寺「既に? 何を…」
岡部「……」ヒュッ!
天王寺(避ける…までもない遠い前蹴り。このタイミングで牽制か?)
岡部「……」
天王寺(来ないならこっちから…)
岡部「……」ストン…
天王寺(…あ? 岡部が沈ん――)
岡部「ふッ!!」ダッ!!
バシィン!!
天王寺「なあッ!?」(この距離から足を捕りに!?)グラッ…
ズダァン!!
天王寺「ぐッ…!!」(…そうか! さっきの前蹴りは距離を測って…)
岡部「これで…!!」ヒュバッ!
天王寺(マウント!? 速――)
岡部「終わりだッ!!」ゴギィン!!
天王寺「がッ……ッ!!!」(掌底で…顎を…!!)
岡部「ははははははははははははッッッッッ!!!!!」ゴギンゴギンゴギンゴギンゴギィィィン!!
………
天王寺(……ん…)
天王寺「…ッづ!!」ズギン
岡部「気が付きましたか」
天王寺(…縛られてる。そりゃそうか)ギシギシ
天王寺「…岡部、俺は何分寝てた?」
岡部「2分ほどです」
天王寺「そうか。…しかしまさかお前にここまで一方的にやられるとは情けねぇ。師は誰だ?」
岡部「…橋田鈴さんです」
天王寺「…何だよ。お前鈴さんと知り合いだったのかよ」
岡部「はい。俺は『バイト戦士』というあだ名で呼んでいました」
天王寺「…バイト戦士って…まさか――!! …岡部…お前…デタラメ…言ってんじゃ…」
岡部「…鈴羽の、MTB」
天王寺「……ああ、ああ。そうか、なるほどな…。全く、何で今まで気付かなかったんだか…」
岡部「……」
天王寺「…なぁ岡部。俺は鈴さんの恩を仇で返したのか?」
岡部「…それはこれから決まる事です」
天王寺「……」
岡部「ただ俺たちがこうしてここに来たのは鈴羽の意志もあってのことです。だから、もしあなたが俺たちに協力してくださるならとても嬉しい」
天王寺「…分かった。何をすればいい?」
岡部「俺と紅莉栖の望みはあなたの携帯を借りる事だけです」
天王寺「携帯なら右ポケットに入ってる。好きに使え」
岡部「ありがとうございます」ゴソゴソ
天王寺「それだけか?」
岡部「…あとは、萌郁に本当のことを話してやってください」
萌郁「……!」
天王寺「分かったよ。…おいM4」
萌郁「……」
天王寺「…今まで悪かったな。俺がFBだ」
………
岡部「――萌郁、もういいのか?」
萌郁「…うん。…ごめんなさい」
岡部「何がだ?」
萌郁「私は、別の世界線で、あなたの大切な仲間を殺したんでしょ? それなのに、ここまでしてもらって…」
岡部「…気にするな。もう赦すさ」
萌郁「…岡部君と、天王寺さんに会えて、よかった」
天王寺「…そうか」
紅莉栖「岡部、放電現象始まったそうよ」
岡部「分かった。…ところでミスターブラウン、娘さんは今どこに?」
天王寺「綯か? あいつは今お仕置きで納屋に閉じ込めてある。昨日部屋でナイフ遊びしてやがったのを見つけてな」
岡部「…てっきりあなたは娘を溺愛しているのかと思っていましたが」
天王寺「だからこそだよ。知ってるか岡部? 可愛いからってガキ甘やかす奴はな、本当はそいつのことを喋るペット程度にしか思って無ぇんだよ」
岡部「…なるほど。勉強になります――」ピッ
グ二ョォォォオォォォォォオォォオォォォオォン
………
岡部〈〉「……ッ」ズキンズキン
紅莉栖〈〉「……ッ」ズキンズキン
岡部「…ふは。ふはは。フゥーハハハ!! ついに、ついにすべてのDメールを打ち消した!!」フハハハ
紅莉栖「私の仮説が正しければこれでまゆりは助かるはず…!!」フハハハ
岡部「これで…これで本当に終わりなのだな…」ニコッ
紅莉栖「ええ。きっとね」ニコッ
………
岡部「……ッ」ズキンズキン
紅莉栖「……ッ」ズキンズキン
岡部「…ふは。ふはは。フゥーハハハ!! ついに、ついにすべてのDメールを打ち消した!!」フハハハ
紅莉栖「私の仮説が正しければこれでまゆりは助かるはず…!!」フハハハ
岡部「これで…これで本当に終わりなのだな…」ニコッ
紅莉栖「ええ。きっとね」ニコッ
………
~ラボ~
ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
岡部〈〉「はぁーッ…!! はぁーッ…!!」ズキンズキン
紅莉栖〈〉「はぁーッ…!! はぁーッ…!!」ズキンズキン
岡部「…何でだ!? 何でだよ!! ここはIBN5100がある世界線のはずだろッ!?」
紅莉栖「…きっとまだ何かあるのよ。考えてみるしかない…!」
岡部「…そうか、そうだよな…! いい加減取り乱すのはやめよう…! まだ何かある、か…!」
紅莉栖「初めから考え直してみましょう。まず阿万音さんは何と言っていたかしら…」
岡部「えーと…確か『IBN5100が手に入る世界線へ行けばまゆりと未来の世界が助かる』だったか…?」
紅莉栖「…ッ!? 待って!! もしかして…!!」
岡部「…何か分かったのか!?」
紅莉栖「……私たちはこれまで『IBN5100が手に入る世界線へ近付くこと』を目的としてきた訳だけど…もしそれが間違いだったとしたら?」
岡部「…つまり、もしお前の仮説が間違っていたとしたら、か?」
紅莉栖「ええ。もし阿万音さんの言葉が『IBN5100に近付くこと』ではなく…」
紅莉栖「…『IBN5100を使うこと』によって目的が達成されるのだ、ということを意味していたのだとしたら…」
岡部「そうか…! …いや待て、だとしてもIBN5100を使う場面なんて存在するのか? …というかそもそも俺は何のためにIBN5100を手に入れたんだったっけ?」
紅莉栖「…えーと、それは確か…」
岡部「……あ」
紅莉栖「……そうか」
岡部・紅莉栖「…SERNのデータベース内の解読不能エリア!!」
岡部「…ダル!! 紅莉栖!!」
ダル「ん? なんぞ?」
岡部「今からSERNのデータベースにハッキングしたらどれくらい時間がかかる?」
ダル「それなら3時間もあれb」
紅莉栖「1時間あれば十分よ」
岡部「30分でやってくれ!」
紅莉栖「任せて」カタカタカタカタ
ダル「(´・ω・`)……」
………
紅莉栖(これが以前見ることのできなかったデータか…)カチッ
ダル(た、たった25分で…)ズーン…
紅莉栖(えーと…中身は…)
紅莉栖「…あ!? …おかっ、岡部ッ!! これ見て!!」
岡部「…これは…!!」
紅莉栖「これって…あんたが偶然送ったっていうDメールよね?」
岡部「ああ、間違いない。…しかし何故ここに?」
紅莉栖「…恐らく俗に言うエシュロンかそれに近いものがあるんじゃないかしら」
岡部「そしてエシュロンに傍受されたこのメールをSERNの関係者が見て、この送信時刻と受信時刻のおかしさに気付いた、か。なるほどな」
紅莉栖「さらにそこからDメール、さらにはDメールを送る何らかの装置がラボに存在することに気付かれ、ここは襲撃されることになる…とでもいったところでしょうね」
岡部「…いや待ってくれ。それでは鈴羽がIBN5100を手に入れようとしていた理由はどうなるんだ? まさかこのデータを見るためだけではないだろう?」
紅莉栖「それはもちろん、このデータを消すためよ。それしか考えられない」
岡部「いや、今更消しても何の意味も…」ハッ
紅莉栖「気付いた?」
岡部「…そういうことか…! SERNの連中がこのメールに気が付くのはもっと先のことなのだな!」
紅莉栖「恐らくそうなんでしょうね。未来のSERNが、最初に電話レンジを手に入れた世界線から過去へDメールを送りラウンダーにここを襲撃させた」
岡部「そこまでして電話レンジ(仮)を手に入れようとしたということは、つまりあれこそがSERNのタイムマシン完成の鍵だったということか」
紅莉栖「ええ。つまり逆を返せば、このメールデータさえ消せばSERNがDメールの存在に気付くことは無くなり、結果タイムマシン研究は頓挫することになる」
岡部「そうすると結果ラボへの襲撃は行われず、よって電話レンジは奪われずディストピアが構築されることも無くなり…」
紅莉栖「…まゆりが死ぬことも、無くなる…!!」
ダル「(´;ω;`)オイテケボリダオ」
岡部「……」フゥー…
紅莉栖「…やっと、ここまで来たのね…」
岡部「…さぁ、とっととメールデータを消そう。その時こそが俺たちの真の勝利の瞬間だ!!」
紅莉栖「ディストピアの構築されない世界かぁ。どんな世界線なのかしら? 何か大幅に変わってたりするのかな」
岡部「ははは! お前はアホの子だな紅莉栖! このメールを消しても一番初めの世界線に戻るだけだぞ!」
紅莉栖「一番初めっていうとあれよね? 確かあんたが偶然このメール…を…送って…」
岡部「ああ。その通り…」
岡部「……」
岡部「…あれ?」
岡部(…待て。ちょっと待て――!! 最初の世界線というのはつまり俺が偶然このメールをDメールとして送った世界線で…)
岡部(…それで、俺がこのメールを送った理由は…ラジ館で…)
岡部「…紅、莉栖」
紅莉栖「…な、何? 早くメールを削除しないと…」
岡部「…いや…ハッキングは一旦中止にしよう…」
紅莉栖「…そ、そうね。それもいいかも」プツンッ
岡部「…すまん。少し出掛けてくる」
ダル「(´;ω;`)カエッテネヨウ」
岡部「C-アシスタント、か…。ふむ。シンプルながらも中々想像を駆り立てられるネーミングセンスだな」
岡部「しかし、アシスタントとは何だ? 助手よ、お前まさか漫画家志望か?」
紅莉栖「そんなわけあるか」
岡部「隠さなくていいぞ、助手よ~。なんだ、PNはアレか? クリ腐ティーネ山田か?」
紅莉栖「違うって言ってんでしょ! というか、そのネタいつまで引っ張ってんのよ!」
岡部「フゥーッハッハッハ! まぁ助手の趣味など、この際どうでもいい! 今こそ全てを俺に曝け出す時!
見せてみろ!『C-アシスタント』による、お前の能力とやらを!」
紅莉栖「はぁ? ないわよ、そんなもん」
岡部「え?」
ごめん。誤爆した
………
~秋葉原・某ビル屋上~
岡部(…やはりここなら誰も来ないな。きょう偶然見付けた、俺を含めラボメンの誰にも縁もゆかりもない場所だ)
岡部(立ち入り禁止の立札があった気がするが知ったことじゃない。俺は一人になりたいのだ)
岡部(ラボを出て何日くらい経ったっけ? 携帯電話の電源を切りっ放しにしているせいで時間も分からん)
岡部(…まぁ時間なんて今はどうでもいい。まゆりが死ぬまでにはまだ時間があるはずだ…)
岡部「はぁー…」ゴロゴロ
岡部「……」
岡部(…紅莉栖が、)
岡部(紅莉栖が死なない世界線では、まゆりが死ぬ)
岡部(まゆりが死なない世界線では、紅莉栖が死んでいる)
岡部(…ふざけてやがる。本当にふざけてやがる)
岡部(二者択一。紅莉栖かまゆり、俺は必ずどちらかを見捨てなければならない。…今時三流の糞漫画の中ですら滅多に見かけないようなシチュエーション)
岡部(…頭の隅では分かっている。『紅莉栖の命』か、『まゆりの命とディストピアの構築されない未来』か)
岡部(そんなもの天秤に掛けるまでも無い。俺は後者を取るべきだ。俺は後者を取らなければならない)
岡部(ここまで踏みにじってきた想いを無駄にしてはいけないんだ。そんなこと分かっている)
岡部(分かっているのに…)
グ二ョォォォオォォォォォオォォオォォォオォン
岡部「…ッ!?」クラッ
岡部(…リ、リーディングシュタイナーが発動した!?)
ガチャッ
紅莉栖「そんなとこで寝転んでると白衣が汚れるわよ」スタスタ
岡部「紅莉栖!? なんでここが…」
岡部「…ああ。そういうことか」
紅莉栖〈106601回目〉「そういうこと。探した、本当に…」
岡部「…すまんな。それで、何故俺をそんなに探し回ったんだ?」
紅莉栖「岡部とゆっくり話がしたかったから。…隣座っていい?」
岡部「…ああ」
紅莉栖「……」トスッ
紅莉栖「…ねぇ岡部、もう分かってるでしょ?」
岡部「……何をだ」
紅莉栖「とぼけたって無意味。私とあんたの付き合いがどれだけ長いと思ってるのよ」
岡部「…だよな…」
紅莉栖「…起き上がりなさい岡部。ちゃんとこっちを見て」
岡部「……」ムクッ
紅莉栖「…これは二者択一じゃない。あんたにも、私にも選択肢は無いの」
岡部「……」
紅莉栖「どちらを取るかなんて問題じゃない。あんたと私は、絶対に世界を改変しなければならない」
岡部「…そしてそのためにお前は死ななければならない、か」
紅莉栖「…ええ。そうよ」
岡部「そんなこと…できるかよ…!!」スック
紅莉栖「…岡部?」
岡部「…俺は…諦めない…!!」
紅莉栖「…ねぇ岡部」
岡部「黙れ!! 俺は諦めない!! この世界線でもまゆりを救う方法はあるはずだ!! あるはずなんだよ!! 無くちゃいけないんだ!!」タタタタタ…
紅莉栖「おかっ…待てこのバカ!!」
~ラボ~
ガチャッ
岡部「はあッ…!! はあッ…!!」バタンッ
岡部「…げッほ!! …はあッ…!!」ゼェゼェ
岡部(…俺は…繰り返す…!!)
岡部「パソコンは…付きっ放しか。丁度いい…!」
岡部(…そうさ! 俺は繰り返すんだ!)カチッ
岡部(まゆりも紅莉栖も死なない未来を選び取るために、何度でも俺は繰り返すんだ!)カタカタカタカタ
岡部(まだ試みてない方法を! まだ見付けてない可能性を! まだ足りていない鍛錬を! 俺は繰り返――)
ガシイッ!!
紅莉栖「――こ、の……!!」グイッ…
岡部(…あれ? 浮い…)フワッ…
紅莉栖「ゴミ虫があああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!!」ズドオオオオオオン!!!! ミシッ!!
岡部「…ごッ…あああああああああああああああああ!!!??」(一本背負い!?)ズキズキ ジタバタ
紅莉栖「…初めて岡部から一本取った」
岡部「…なにをするのだ紅莉栖…」ズキズキ
紅莉栖「路上で柔道はマジヤバい。覚えときなさい」
岡部「いやここフローリング…いだだッ!?」ムクッ ズキンッ
紅莉栖「…大丈夫?」
岡部「…肩甲骨にヒビが入ったかも知れん」
紅莉栖「じゃあそのまま横になってなさい」
岡部「……」ゴロン
紅莉栖「……ねぇ岡部、タイムリープしようとするのは逃げよ。何の解決にもならない」
紅莉栖「この世界線ではまゆりが死なない可能性は万に一つも無いの。ゼロなのよ」
岡部「……」
紅莉栖「…ありがとう。私のためにここまで苦しんでくれて。だけど、もう充分」
紅莉栖「…岡部、あんたが世界を変えて。あんたが私を殺して」
岡部「……」
紅莉栖「せめて、岡部にやって欲しい」
岡部「…お前は納得しているのか?」
紅莉栖「まさか。だけど何度も言ってるでしょ? これは二者択一なんかじゃないって」
岡部「…そう、か…。……」
岡部「……結局俺は」
紅莉栖「……」
岡部「結局俺は、お前に『殺してもいい』と言って欲しかっただかなのかも知れないな」
紅莉栖「…そうかもね。それでいい。その方がいい」
岡部「…紅莉栖、俺がやる。俺がDメールを消す」
紅莉栖「…ありがとう。お願い」
………
紅莉栖「――これでよし。あとはエンターキーを叩くだけよ」
岡部「分かった」
岡部「……」
岡部「…なぁ紅莉栖」
紅莉栖「何?」
岡部「俺は、お前が好きだ」
紅莉栖「知ってる」
岡部「お前は?」
紅莉栖「知ってるでしょ?」
岡部「ああ。知ってる」
紅莉栖「…ねぇ岡部、最期のお願い。手、繋いでもいい?」
岡部「ああ」スッ
紅莉栖「…うん。ありがとう」ギュッ
岡部「……」ギュッ
紅莉栖「…ほら、早くエンターキーを押して」
岡部「ああ」スッ…
カチッ
紅莉栖「さよなら。…私も、岡部のことが――」
グ二ョォォォオォォォォォオォォオォォォオォン
………
岡部「…ッ」フラッ
岡部(……)
岡部(…紅莉栖の手の柔らかい感触が、消えた)
岡部(…最後の世界改変が、終わった)
まゆり「オカリン? そんなとこに突っ立ってどうかしたの?」
岡部「…いや? 何でもない。そうだまゆり、ラボメンナンバー004は誰なのか知ってるか?」
まゆり「え? うーん…004なんて居なかったと思うけどなぁ…」
岡部「そうだよな。004なんて居るわけないよな」
まゆり「?」
岡部「……」
ダル「…ん? オカリンどっか行くん?」
岡部「…ああ。少し泣く」
ダル「はあ?」
――あれから早くも10日が経った。すぐ其処にあるのに手が届かなかった日々が、今ではまるで荒波のように押し寄せてくる。
結局電話レンジ(仮)は分解して捨てた。あれは愚かだった俺たちが造り上げた偶然の産物。本来あってはならないもの。
時を支配する狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真が死んだように、電話レンジにもまた死んで貰わねばならないのだ。
永遠に思えた、ひどく長かったこの8月もそろそろ終わりを告げようとしている。
…なぁ、これで良かったんだろ紅莉栖?
世界は再構成された。世界はきっと救われて、まゆりは何事も無かったかのように今日も唐揚げを頬張っている。
少しだけ時間の流れが緩やかになったこのラボで、今日も俺は紅莉
プルルルル… プルルルル…
プルルルル プルルルル ガチャッ
ダル「はいもしもし。…え? 父さん? 僕が? 君の? …何言ってんの?」
ダル「…は? 岡部倫太郎に代われ? …なぁオカリン、謎の女がオカリンに代われってさ」スッ
パシッ
岡部「…誰だ」
謎の女『お願い! 今すぐラジ館の屋上に来て!』
岡部「だから誰だよ?」
謎の女『あたしは2036年から来た、そこにいる橋田至の娘。名前は、阿万音鈴羽』
岡部「…ちょっと待て…! …鈴羽が何でここにいるんだ!?」
………
~ラジオ会館・屋上~
ガチャンッ!!
岡部「はあッ…! はあッ…!」ゼェゼェ
岡部(…嘘…だろ…?)
岡部「…タイムマシンだと!?」
まゆり「わー! すごーい!」
ダル「うお!? 何これ!?」
ヌッ
鈴羽「……」
岡部(鈴羽…!!)
鈴羽「…君が岡部倫太郎?」
岡部「…そうだが…」
岡部(…そうか、この鈴羽は鈴羽でも俺の知っている鈴羽では無いのだな)
岡部「…それより鈴羽、その迷彩服はなんだ? そもそも何故この時代に…」
鈴羽「それについては今から説明するよオカリンおじさん」
岡部(…お、オカリンおじさん!?)
まゆり「おじさんなのー!?」
鈴羽「あたしが2036年からここに来たのは、おじさんに未来を変えてもらうため」
岡部「…未来を、変える? …どういうことだ!?」
鈴羽「…この世界線では、未来に第三次世界大戦が起きるんだ」
岡部「だ、第三次世界大戦だと!? そんな…!!」
鈴羽「だからあたしと一緒にタイムマシンに乗って、世界線を変えて欲しい。未知の世界線に到達して欲しい」
岡部「…未知の…世界線?」
鈴羽「そう。良くも悪くも何が起こるかまったく未知の世界線。通称『シュタインズゲート』」
岡部「『シュタインズゲート』…!!」
ダル「しゅ、シュタインズゲート!? オカリンの妄想じゃなかったん!? つーかまず2036年から来たってマジ? 釣りじゃなくて?」
鈴羽「父さんは黙ってて!!」
ダル「父さん…だと…!?」ホホウ…
岡部「…説明を続けてくれ」
鈴羽「あたしも父さんから聞いた話だから詳しくは分からないんだけど…とにかく『シュタインズゲート』に到達するにはオカリンおじさんの協力が不可欠なの」
岡部「SERNはどうなっているんだ?」
鈴羽「SERN? 何それ?」
岡部(…なるほど。やはりDメールの存在に気付かなかったことでSERNはタイムマシンの開発に失敗したのか)
岡部「何でもない。…それで? その未来を変えることで俺にはどんなメリットがあるというのだ?」
鈴羽「…第三次世界大戦勃発の原因を辿っていくと、2010年に発表されたとある文書に行き着く」
岡部「…?」
鈴羽「この年に学会に発表されたその文書、『中鉢論文』によってタイムトラベルの可能性が示唆されたことが第三次世界大戦のきっかけなんだ」
岡部「中鉢、って…」
鈴羽「ドクター中鉢。本名は牧瀬章一」
岡部「牧瀬!? まさか…!!」
鈴羽「そう。牧瀬紅莉栖の実父」
岡部「…!!」
鈴羽「この『中鉢論文』がきっかけで各先進国でタイムマシン開発は過熱し、やがてそれは50億人を死に至らしめる大戦争にまで発展した」
鈴羽「…そして、この大戦が勃発するか否かは、牧瀬紅莉栖の命に掛かっている」
岡部「…それって、もしかして」
鈴羽「そう。言い換えれば牧瀬紅莉栖の死を回避すれば第三次世界大戦は起こらなくなる」
岡部「…救えるのか、紅莉栖を」
鈴羽「…可能性は限りなく低い」
岡部「…そうか。そうかそうか。そうかそうかそうか…!!」
鈴羽「…おじさん?」
岡部「…ふはっ。ふはは、ふはははは。…フゥーハハハハハハッ!!!!」
鈴羽「!?」ビクッ
岡部「『可能性は限りなく低い』だと!? 上出来だ!! ゼロでないならば問題無い!!」
岡部「世界がどうなろうがどうでもいい!! だが鈴羽、俺はひょっとすると紅莉栖を救えるかも知れないんだろう!?」
鈴羽「…うん。そうだよ」
岡部「いいさ、例え僅かでも紅莉栖を救える可能性があるというのなら…ゴミ虫のように抗ってやるよ!!」
鈴羽「…もしあたしと一緒に過去に行ってくれるのなら、この手を取ってオカリンおじさん」スッ
岡部「はははははッッッ!!! いいだろう!! 過去へ行くぞ鈴羽ッ!!」スッ
ガシイッ!!
グイッ
岡部「うおっとと…?」スカッ
鈴羽「…?」スカッ
まゆり「……」
岡部「何をするのだまゆり? 急に引っ張ると危ないだろう」
まゆり「…まゆしいは馬鹿だから今の話はちんぷんかんぷんだったけど…オカリンは今から危ないことをしようとしてるんだよね?」
岡部「…ああ。だが心配は…」
まゆり「まゆしいは、オカリンに行って欲しくないのです…」
岡部「…まゆり?」
まゆり「このまま行かせたら、そのままオカリンが帰ってこないような気がするから。だから…」
鈴羽「…椎名まゆり、オカリンおじさんは世界を救うために必要な」
まゆり「だからオカリンが行こうとするのを止めないのなら、まゆしいは全力で止めるよ」
岡部「ッ!?」ゾワッ
岡部「…ッ…!!」(…とにかくまゆりと距離を…ッ!!)バッ ザザザッ
鈴羽「!?」(おじさんが臨戦態勢に入った!? …とにかくあたしも離れよう…!!)ザッ ザザッ
まゆり「……」
岡部「…まゆり、マシンの前からどいてくれ」
まゆり「……」
鈴羽(…マシンのすぐ前に椎名まゆり。そして椎名まゆりから見て12時方向におじさん、3時方向にあたし。距離はそれぞれ10メートル弱、か。…この構図はマズい)
鈴羽(椎名まゆりをかわして二人ともがマシンに乗り込むのは実質不可能。…つまり、椎名まゆりを無力化するしかない…)
鈴羽(…無力化? できるのか? 2010年とはいえ…『あの』椎名まゆりを相手に…!?)
鈴羽(…いや、やるしか…!!)
鈴羽「…椎名まゆり、そこからどいて」チャキンッ
岡部(銃!?)「おい止せ!!」
まゆり「…撃つの?」
鈴羽「…君がそこからどかないならね」スッ…
まゆり「……」ニッコリ
岡部「止せ鈴羽ッ…!!」
鈴羽「……!」グッ…
岡部「殺されるぞッ!!」
鈴羽「ッ!!」ダァン!!
チッ
まゆり「…服に掠って左袖が少し破けちゃったよー♪ えへへー♪」
鈴羽(…違う…!! これは威嚇射撃、当たるはずなんて無かった…!! 今のは掠ったんじゃない…!!)カタカタ
鈴羽(…椎名まゆりは…わざと弾を掠らせに行った…!!)カタカタ
まゆり「やられたからにはお仕置きなのです♪」ダッ!!
鈴羽(来、る――!!)「…うあああああああああああああああああああああああ!!!!!」ダンダンダンダンダン!!!!!
チュンッ チュインッ
まゆり「……」タンッ タタッ
鈴羽「そんな…!!」(当たらない!! 距離が詰められる!! 懐に入られ――)ダンダンダンダン!!!!!!
まゆり「銃口の向きさえ見てれば結構簡単だよ?」バシィンッ!!
鈴羽「づッ!!」(銃を真上に弾かれ…!!)
まゆり「ごめんね?」スウッ…
鈴羽(大振りのテレフォンパンチ――!! 避けなきゃ――!!)
まゆり「トゥットゥルー♪」ヒュッ…
岡部「右に跳べええええええええッッッッ!!!!!」
鈴羽「ッ!!!」バッ
ヂッ! ビュオオオオオオオオオ…!!!!
ゴロゴロゴロゴロ…
鈴羽「……はあーッ!! はあーッ!!」ズザザザザー
鈴羽(死ぬかと思った…死ぬかと思った!! もし後ろに避けていたらアウトだった…!!)ガクガクガクガク
まゆり「外れちゃったよー♪ いいアドバイスだったねオカリン♪」ヒュゥゥン パシッ
鈴羽(!! 銃を取られた…!!)
岡部「鈴羽ッ!!」タタタタタッ
鈴羽「お、おじさんっ!!」タタタッ
岡部「大丈夫か!?」ガシッ
鈴羽「…うん。拳が掠って肩口が破けたくらい…だけど、椎名まゆりに銃を…」ガクガク
まゆり「大丈夫だよ♪ まゆしいは銃は使えないのです」メキッ…バキ…
岡部「…素手で分解(バラ)してやがる」
鈴羽「…流石だね…」(まるで、星屑を握り潰すかのような…!!)
岡部「…鈴羽、いま『流石』と言ったか? まゆりは未来ではどうなっているんだ?」
鈴羽「…彼女は、第三次世界大戦の英雄」
岡部「…何だと?」
鈴羽「まるで焼き菓子を割るように全てをその手で砕き潰す蒼き怪物」
まゆり「……」メギ…パギィッ…
鈴羽「“クッキーモンスター”椎名まゆり」
岡部「…何だよそれ…!!」
まゆり「……」ポイッ ガラガラガラ…
鈴羽「彼女は銃器に頼ることなく異常なまでの戦果を挙げた人間として全世界から恐れられてるんだ。いくらおじさんでも敵わない。何か戦わずにここを切り抜ける方法を…」
岡部「…いや、俺が倒す」
鈴羽「…え?」
まゆり「…闘る気なのかなオカリン?」
岡部「……」
鈴羽「おじさん!? 無茶だよ!!」
岡部「できるさ。殺さずに止める。意志を折る。希望の種をここで潰させはしない…!!」
まゆり「……」パキポキ
鈴羽「駄目だよ!! 勝てっこない!!」
岡部(集中しろ…!! 神経を研ぎ澄ませ…!!)フゥー…
まゆり「Too true―― Mad, your seed is death――(全く嘆かわしい事だ――狂科学者よ、君の希望は此処で潰える――)」
鈴羽(…二人とも本気だ…! …もうあたしの出る幕は無い。下がろう…!)ザザザッ…
岡部「……」スッ…
まゆり「……」
まゆり「……」ザカッ
鈴羽(…!? 何なのあの構え…!? 両手足を地面に付けてまるで蜘蛛…いや、むしろゴキブリのような…)
岡部「…来い」
まゆり「……」ググッ…
まゆり「……トゥットゥルー!!!!」ヒュオオンッ!!!!
鈴羽(なッ!? 速――!?)
岡部(低空タックル――!! 受け流すッ!!!)
岡部「…らああああああああッッッ!!!」ズパァン!!
まゆり「!! ……」ダンッ ズザザザー
鈴羽(何だ今の――速過ぎて見えなかった――!!)ゾワッ…
まゆり「一撃で終わらせるつもりだったのに…この技を見切られたのは初めてだよ♪」
岡部「…伊達に400回も殺されかけていないのでな」ニヤッ
まゆり「下手をするとまゆしいも軽くヒネられてしまいそうなのです。久々に本気を出せそうだよーえへへー」ユラァ…
タタンッ!!
岡部(来る!)バッ
まゆり「…ッふ!!」タタンッ ドウッ!!
岡部「うおおッ!?」(突きが鋭い!!)ヂッ!
まゆり「らッ!!」ビュオンッ!!
岡部「ッと!!」(一旦離れて体勢を整え直そう…!!)ザザザッ
まゆり「……」
鈴羽(おじさん凄い…! 回避が速い!!)
岡部「……」(なるほど、あいつも基本的なスタイルはヒットアンドアウェイか…)フゥー…
岡部(…それにしても相変わらず化け物染みた強さだな。その体躯からは想像できない脅威的な身体能力もさることながら、まゆりの真に恐ろしいのは『見抜く力』を持っているところだ)
岡部(いとも簡単に銃を分解したり、かつての俺を400回に渡って一撃で沈めたり…まゆりは人やモノの『弱い点』を本能的に理解している)
岡部(あらゆる事物にどうしても生まれてしまう脆い繋ぎ目。意識の死角。力の集中点。そういった部分をあいつは瞬時に察知してしまうのだ)
岡部(驚異的な身体能力を、脅威的な戦闘センスによって余すことなく使いこなせる天性の壊し屋。それがあの能天気な幼馴染み、椎名まゆりという人間だ…!!)
岡部「……」ジリッ
まゆり「…来ないのかなオカリン?」
岡部「…はッ! いいだろう…!!」タンッ! タタタッ…
岡部「…ッらあ!! ふんッ!!」ヒュンッ!! ビュオ!!
まゆり(ミドルキックした右脚を軸に左踵蹴り…)「いい蹴りだけど…決定力に欠けるね」サッ パシイッ
岡部(打撃が…入らんな…!! 避けられるかガードされるかのどちらかだ…!!)ザッ ドウンッ!!
まゆり「降参したほうがいいと思うな。諦めも肝心だよオカリン」タタッ バシィンッ!!
岡部(…まゆりが『回避行動を取っている』ということはつまり『攻撃に当たりたくない』ということ。言い換えればまともに攻撃が入れば倒しようはあるということだ)
岡部(…だがその肝心の攻撃がまともに入らない。そもそもまともに貰えばヤバいというのは俺も同じ。むしろ向こうの攻撃力が馬鹿げている分俺の方がずっとキツいくらいだ)
岡部(頭部に貰えば戦闘不能。体に貰えば戦闘不能。手足に貰えば機動力が落ち次の一撃で戦闘不能…)
岡部「…本当に…困ったもんだ!!」ザッ グオンッ!!
まゆり「後ろ回し蹴りなんて当たらないよ」タンッ タタンッ
岡部(しまった焦り過ぎた!! 早く下が――)
まゆり「大振りな攻撃は命取りだよオカリン!!」ヒュゴッ…
岡部「ッ!!」(来る!!)バッ!!
ズァンッ!!!
岡部「…お゛ッ…!!!」(…正拳突きが左脇腹をかすめた…だけ…!! なのに何なんだこの抉られるような激痛は…!!)ズギンッズギンッ
岡部(…ッぐ…早く体勢を立て直せ…!!)グラッ
まゆり「これで終わりにしよっかオカリン」タタタタッ
岡部(決めに来やがった!? 急げ!! 回避を――)カクンッ
岡部(…嘘だろ…? 膝が…ッ!!)ヨロッ…
まゆり「我慢してね」ヒュオッ…
岡部(終わっ――)
天王寺《襟首を引っ張って叩き付ければいいだろ》
岡部「――ッ!!」ガシイッ!!
まゆり「…え?」
岡部「ッら゛ああああッッッ!!」グイィッ!!
ズダァァァン!!!
まゆり「ッぶァ!!」(鼻…がッ…!!)ミシッ…
タンッ タタタンッ!!
岡部「…はあーーッ!! はあーーッ!!」(き、距離を取れたッ…!!)ゼェーゼェー
岡部(…出来た!! 出来た出来た出来た!! 店長の技が!! …何で!?)
まゆり「……!!」ドクドク…
岡部(何故一度しか見ていない技を使えるのだ俺は!? いやそ、れより初めて攻撃に成功し…)
まゆり「…く…はは……おああああああッッッ!!!!」タタタタッ!!
岡部(…やはり速い!! どうすれば…!!)
まゆり「オカリンッッ!!!!!」ビュオッ!!
鈴羽《じゃあこんなのはどう!?》
岡部「…らあッ!!」ヒュオンッ!! バキイッ!!
まゆり「…っか…!!」(可変蹴りッ…!? …離れなきゃ…!!)ザザッ
岡部(…まただ…!! また使ったことが無いはずの技を使えた…!!)
まゆり「…まだ奥の手を隠してたなんて…すごいねオカリン」
岡部(奥の手? …いや、これはそういうものではなく…)
岡部「…そうか。そうかそうかそうか…!! ふは…ふははははッッ!!!」
まゆり「…?」
岡部(…思ってはいた。以前から武術の習得だけはいやに早いなと思ってはいたんだ)
岡部(違和感。その正体は)
岡部(『イメージを直結する』力)
岡部(目で見たもの、体で感じたことを直接フィードバックする力)
岡部(理屈として噛み砕いて反復練習によって体に覚え込ませる作業を必要としない、曖昧なイメージをそのままに体が勝手に正解を選択してくれる力)
岡部(リーディングシュタイナーによって本来は未修得の技をいきなり獲得したかのようにさえ見える、そんな力)
岡部(それは、フィジカルには恵まれなかったこの俺に秘められていた…)
岡部(この俺に秘められていた、唯一絶対の武才ッッッ!!!!!)
岡部「…さあ来いまゆりッ!! まだ始まったばかりだぞッ!!」
まゆり「…分かってるよオカリン!!」ダダダッ
岡部「来い――!!」
まゆり「おおおおお……ッッッ!!!!」ヒュウッ…
フブキ《円の動きはすべてを受け流す――!!》
岡部「…るあ゛あッ!!」パシィン!!
まゆり「ッ!!」
ルカパパ《鳳凰院くん、カポエイラって知ってるかな?》
岡部「ふんッ!!」メキイッ!!
まゆり「ッぐ!!」(なんてトリッキーな蹴り…ッ!!)ヨロッ
黒木《小便は済ませたか? 神様にお祈りは?》
岡部「るあ゛ッ!!」ドゴッ!!
まゆり「ッぶ!?」
カエデ《困った時のバックブロー、だよ》
岡部「はッ!!」メギッ!!
まゆり「づッ…!!」(この流れはマズい…!!)
フェイリスパパ《ははは、私の浴びせ蹴りは効いたかい?》
岡部「どらあああッ!!!!」ゴギイッ!!
まゆり「ごあッ…!!」(さっきから的確に急所をッ…!!)
まゆり「…ッの!!!!」ズドムッッ!!!!
岡部「お゛ッ…ご…!!」(…ヤバい…ッ!! 腹部にモロに蹴りを…!! 血が…!!)ドザザザザー ゲボッ
岡部(…いや違う!! これは…吐瀉物(ゲロ)だ!!)ビシャッ ビチャビチャッ ググ…
まゆり(…っと。一気に大技を貰い過ぎたかな。血がなかなか止まらないよ)フラッ… ダンッ
岡部(まゆりの蹴りは確かに入った!! それでこの程度の威力…まゆりはかなり消耗している!!)ペッ
まゆり(…お互いに、限界が近い…!!)フゥー…
岡部(今度まともな一撃を貰えば、今度こそ血を吐くことになるだろう…!!)
まゆり(だから…次で決める!!!)ググ…
岡部(叩き込む!!! 総てを!!!)ググ…
岡部「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッ!!!!!」タタタタタッ!!
まゆり「うあああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!」タタタタタッ!!
岡部「…ッどうだまゆりッ!! 今の気分はッ!!!」タタタッ
まゆり「最ッ高!!!」タタタッ
岡部「奇遇だなッ!!!」タタッ
まゆり「…づッあああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!」メッギイイイイ!!!!!
岡部「ぐッ…!!」ゴブッ
まゆり(…入った!! お腹に重いアッパー!! これで止ま――)
岡部「…ぶッ…!!!」ビチャッ ガシイッ!!
まゆり(耐えた!? くそ、掴まれ――)
紅莉栖《路上で柔道はマジヤバい。覚えときなさい》
岡部「……これで……終わりだ……!!」ビチャビチャ グオッ…
まゆり(…え? 浮い――)フワッ…
岡部「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」ズドオオオオオオオオオオン!!!!!!!!
まゆり「……か………ッッ!!!! ふ………」メギイイイイイイイッ!!!
まゆり「…ッ…!! ……」
まゆり「……」ガクンッ…
まゆり「……」
岡部「……」
岡部「……勝った」
岡部「……はは。ははは…」
岡部「まゆりを……気絶(お)とした……俺が勝ったんだ……」
岡部「……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
『――あらら、そんなに泣いてどうしたんだいまゆり?』
『ひっく…ひっく…おばあちゃん…』
『何だい? 泣かずに言ってご覧?』
『…あのね? さっきね? まゆしいがすなばであそんでたらね?』
『うん、うん』
『…しょ…ぐすっ…しょうがくせいのひとたちがね? まゆしいのすなやまをこわしてね?』
『うん、うん』
『それでないてたらね? おかりんがたすけにきてくれてね?』
『うん』
『しょうがくせいをやっつけようとして、やっつけられちゃった…』
『それでおかりん君はどうしたんだい?』
『いっしょににげてね? どろだんごなげてまたにげてね? いっしょにかえってきた』
『おかりん君は泣いた?』
『ううん。でもまゆしいはおかりんがいたかったからまたないた…』
『それで、まゆりはおかりん君を見てどう思った?』
『かっこいいなっておもって、おかりんがいたかったらやだなっておもった』
『そうかそうか。おかりん君に危険な目に遭って欲しくないって思ったんだね』
『きけん? まゆしいはおかりんをまもれたらいいなっておもったよ』
『なるほど。護りたい、か。…強くなりたいのかいまゆり?』
『…うん』
『辛い道のりかも知れないよ。それでもいいのかい?』
『いい』
『そうか。…分かった、いいだろう――』
まさかのばあちゃん…
岡部「――まゆり? 大丈夫か?」
まゆり「…オカリン」
岡部「良かった。なかなか起きないから心配した」
まゆり「…夢を、見てたよ」
岡部「体は、痛くないか?」
まゆり「肩甲骨が割れたかも知れないよー♪ えへへー♪」
岡部「えへへーって…」
鈴羽「…うん。これで二人とも応急処置は終わったよ。救急箱を持ってきておいて良かった」
岡部「…まゆり、救急車を呼んだ方がいいか? 鼻の負傷も軽くは無さそうだ」
まゆり「…大丈夫だよオカリン。足へのダメージはそんなに無いからね、いざとなったら歩いて病院まで行けば大丈夫なのです♪」
岡部「…そうか。じゃあここで寝てるか?」
まゆり「そうしようかなー♪」
岡部「…じゃあ、そろそろ行こう鈴羽」
鈴羽「うん。…それよりさっきおじさんに頼まれたものは買ってきたけど…本当にあれだけでいいの?」
岡部「ああ。十分だ。…ではまゆり、行ってくる。少しだけ待っててくれ」
まゆり「…ねぇオカリン」
岡部「…何だ?」
まゆり「…頑張ってね。まゆしいはここで応援してるから」
岡部「…ああ!」
ダル「……」
ダル「…え? 何これ」
ダルぇ…
………
~タイムマシン内部~
鈴羽「――それにしても凄い戦いだったね。おじさん怪我は大丈夫なの?」
岡部「ああ。外傷はそこまで無いからな。内臓にはダメージが溜まっているだろうが寝れば治る」
鈴羽「そんな原始人みたいな…まあとにかく作動させるよ。ハッチ閉めるね」カチッ ウィーン…
鈴羽「…あ、そうだおじさん! 携帯出して!」
岡部「携帯か? ほら」スッ
鈴羽「混線を防ぐためにこれは置いて行かなきゃ…って壊れてるじゃん。やっぱり返すよ」スッ
岡部「ああ、さっきの戦いの時に壊れたのか。まあこれが終われば新しいのに買い替えるさ」パシ
鈴羽「さて、じゃあシートベルトを締めて」
岡部「分かった。…ところで鈴羽、このマシンの性能について聞いておきたいのだが」
鈴羽「えっと、まずこれはおじさんと父さんが造り上げたマシンだよ。過去へも未来へも行けるマシン」
岡部「なるほど、未来の俺たちが…」
鈴羽「…そしてこれは一番重要な事なんだけど、燃料の関係でチャンスは2回しかない。それくらいかな」
岡部「…2回失敗すれば終わり、か。構わん、1回で成功させてやる」
鈴羽「お、自信有りって感じだね。ところでCDは何がいい?」スチャッ
岡部「ブルーハーツにしてくれ」
鈴羽「分かった。っとその前にクーラー付けなきゃ」カチッ ブオオオオー
岡部「お、冷蔵庫があるではないか。ドクぺ貰うぞ」プシッ
鈴羽「そうそう、向こうに着くまでの時間は数分だよ。遠心力を相殺する装置が積まれてるからGに苦しめられることも無いはず」パカッ カチッ ウィーン… キュルルルルルー
岡部「分かった。ただ座っていればいいんだな。…では鈴羽、そろそろ出してくれ」ゴキュゴキュ
鈴羽「オーキードーキー!! じゃあそろそろ行くよ!!」ピピピピピピッ ピッ
キュイイイイイイイン… プンッ
快適になってるwwww
~ラジオ会館・屋上~
ウィーン… プシュー…
岡部「…着いたか」ノソッ
鈴羽「だね」ノソッ
岡部「しかしこんなギリギリの時刻に着いて大丈夫なのか? 講演会が始まる直前ではないか」
鈴羽「直前じゃないと騒ぎになってマズいんだよ。おじさんこそスタンガンとハンマーだけで大丈夫なの?」
岡部「ああ。大丈夫だ」
鈴羽「ふーん…? とにかく何か考えがあるんならいいや。改めてこのミッションについて説明するね。目的は牧瀬紅莉栖の死の回避」
岡部「ああ」
鈴羽「おじさんは牧瀬紅莉栖をマーク、殺されるのを阻止して。あたしはおじさんのサポートに回る。終わったらタイムマシン前に集合ね」
岡部「分かった。では状況開始だ。まずはあのドアノブを壊すぞ」スチャッ
鈴羽「なるほどね。そのためのハンマーか」
ガンッゴンッゴンッバキイッ!!
岡部(…たったの4回か。俺にも『壊れるやり方』と『壊れないやり方』がなんとなく分かってきたな…)
鈴羽「…そろそろ人が来るね。おじさんは隠れてて。あたしが囮になる」
岡部「分かった!」ギイィ…
鈴羽「あ、ハンマーは置いていったほうがいい! それだけで警戒されるよ!」
岡部「ああ! 任せたぞ!」ゴトッ タタタタタ…
鈴羽「自分との接触だけは絶対に避けてねー!! 深刻なタイムパラドックスが発生するかもしれないからー!!」
………
~ラジオ会館・7階~
ナンダ…コレ…? ハーイキケンデース! タチイラナイデクダサーイ!!
岡部「…はぁ…! はぁ…!」
岡部(…間一髪だったな。真っ先に階段を上ってきたのはたぶん『俺』だ)
岡部(さて、ここからどうする。動き過ぎるのもマズいと思って7階で止まっては見たが――)
岡部(…ん? あれは…雷ネットのガチャポンか)
岡部(そういえばまゆりの奴、あの時ここで当てたレアアイテムの『メタルうーぱ』を無くした、とか言ってしょげてたな)
岡部(…ちょうど財布は持ってる。どれ、ぶちのめした詫びににひとつくらい買っていってやるか)チャリッ ガションッ
コロンッ
岡部「お、メタルうーぱ。…なんだ、全然珍しくなどないではないか」
まゆり「あー! 雷ネットだー!」
岡部「ッ!!」(まゆりだ!! ということは俺も居る!! とりあえずここは離れよう!!)タタタタタ…
~ラジオ会館・4階~
岡部(…危なかった…!! …ったく馬鹿か俺は!! 今は無駄なことをしている時間などないと言うのに!!)ゼェゼェ
岡部(…さて、これからどうする――)
紅莉栖「あの、お聞きしたいことがあるんですけど」
岡部「ッ!?」
紅莉栖「あなた、さっきこのビルの屋上から降りてきましたよね?」
岡部「…紅莉…栖…ッ!!」
岡部(…もう会えないと…思っていたのに…)ウルッ
紅莉栖「…私あなたと面識ありました?」
岡部「…いや」
岡部(…そうだ、落ち着け。俺とこの紅莉栖は初対面だということを忘れるな)
紅莉栖〈0回目〉「…とにかく! さっき屋上で妙な音がしたし、ビルも揺れたように感じたんですけど一体何が――」
岡部「…紅莉栖」ガシッ
紅莉栖「ひっ!? 」ビクッ
岡部「俺はお前を絶対に助ける。じゃあな」タタタタタ…
紅莉栖「…え? ……あ、待って!」
~ラジオ会館・8階~
岡部(…ここだ。ここで紅莉栖は殺されていた)
岡部(いつ誰が来るかは分からないが…とにかく段ボールの陰にでも隠れておこう)
岡部(……)
岡部(……)ブルッ
岡部(…恐れるな。すべては俺の思惑通りに行くに決まっているさ)
岡部(…俺を、俺自身を、信じろ――!!)
………
パチパチパチ…
岡部(――発表会が終わったか。ということはそろそろ…)
カツン カツン カツン カツン
岡部(…来た!! 誰だ!?)
紅莉栖「……」カツン カツン…
岡部(…紅莉栖!? まさか先に紅莉栖が来るとは…)
紅莉栖「……」ガサガサ
紅莉栖「……」ニコッ
岡部(…何だあの封筒? そういえば初めて会った時にも持っていたな…)
岡部(…とにかく、作戦の再確認だ。紅莉栖を殺す犯人は恐らく刃物を持っている。そこでこのスタンガンの出番だ)
岡部(犯人が確定したところで、正確には刃物を持っている人物が現れたところでここから飛び出し、犯人にスタンガンを当て気絶させる…!! 単純だが完璧だ!!)
カツン カツン カツン カツン
岡部(…来た。二人目だ!)
ピタ…
岡部(…誰だ?)チラリ
紅莉栖「…話がある」
中鉢「……」
岡部(…ドクター中鉢。紅莉栖の実の父親。やはりこの男なのか…?)
中鉢「…それはなんだ?」
紅莉栖「パパがタイムマシンの発表会をするって聞いて、それで私も論文を書いてきたの。よかったら見て」
岡部(…論文? タイムマシンの発表会をすると聞いて? まさか…!)
中鉢「……」ペラペラペラペラ…
中鉢「……ふむ。これは私が預かっておく」
紅莉栖「…え? ど、どういう…」
中鉢「お前はアメリカに帰れ。二度と顔を見せるな」
紅莉栖「…!! …論文を、盗むの?」
岡部(…間違いない!! 『中鉢論文』の正体は…紅莉栖のタイムマシン理論だ!! そしてあの論文がドクター中鉢のものとして発表されたということはつまり…)
中鉢「何だと…?」
バチィンッ!!
紅莉栖「っ…!」ジンジン
中鉢「この…!」ガシッ ギリギリギリギリ
紅莉栖「!? …ぅ…!!」ジタバタ
岡部(首絞め!? …もう間違いない! 紅莉栖を殺したのは中鉢だ!)
中鉢「お前に私の気持ちが分かるか!! なぜお前はそんなにも優秀なのだ!!」ギリギリギリギリ
紅莉栖「ぁ……!!」ジタバタ…
岡部(…いや待て!! まだ奴は刃物を出していない!! ここで飛び出すのは早計――)
中鉢「私はお前が憎い…存在そのものが疎ましいのだ!!」ギリギリギリギリ
紅莉栖「……っ!!」ガクガク…
岡部(――くそ、これ以上見てられるか!!)
岡部「止めろッ!!!!」バッ
中鉢「ん? …お前、さっきの…!!」パッ
紅莉栖「…ごッほ!! げほっげほごほげほっ!!」ゲホゲホ
岡部「さっき? …ああ、あの下らん発表会のことか」
中鉢「く…下らんだとッ!? …許さん…許さんぞガキ共ッ!!」パチンッ
岡部(折り畳みナイフ…!! 確定だ!! あとはスタンガンでこいつを気絶させれば…!!)
岡部「…ははは、来いよ中鉢…!!」スッ
中鉢「ス…スタンガン!?」ビクッ
岡部「俺がこいつで…お前をブチ殺してやるッ!!」カチッ!!
シーン
中鉢「……」
紅莉栖「……」
岡部「……」
岡部「…あれ…」カチッ カチカチッ
岡部(…ででで電池が入ってないだと!? 鈴羽の奴肝心なものを忘れやがって!! それともわざわざ電池も買ってこいとは言わなかったからか!?)ブンッ ガシャンッ
中鉢「…なんだ何もしないのか? はひひ、ではお望み通りお前を…!!」ジリッ…
岡部(…来るか…!!)ジリッ…
紅莉栖「!! パパ止めてッ!!」
中鉢「うるさいッ!! …そうだ!! まずはお前から殺してやろう紅莉栖!!」
紅莉栖「!? ひっ…!! こ、来ないで…!!」ガクガク
岡部(…考えろ俺ッ!! まだ何かあるはずだ最後の一手がッ!! とにかく何でもいいから奴を止めろッ!!)タタタタタッ
中鉢「死ねぇぇぇッ!!!」ダダダダダ
紅莉栖「嫌あああああああああああああ!!!!!!」
岡部「止めろおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッ!!!!!」タタタタタッ!!
中鉢「ん?」ピタッ
岡部(…ッ!! そうか見つけたッ!! 最後の一手ッ!!)タタタタタタ… ザカッ!!
中鉢(…何だあの虫のような構え!? 一体何を――!?)ギョッ
岡部(最後の一手ってのは――俺自身がスタンガンになる事だ――!!)ググッ ヒュオオオンッ!!!!
中鉢「な――」(速――)
紅莉栖「パパ危ないッッ!!!」バッ
岡部「蜚蠊(ゴキブリ)タックルッッッッ!!!!!」メギメギメゴボゴバギィィィィィッッッ!!!!!!
紅莉栖「ゲッボアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!??」ボギボギバギィィィッ!!
ドヒュウウウウウ!! ゴガンッ!! ゴギンッ ドゴンッ ズザザザザー…
紅莉栖「」ゲボッ ゴボゴボボッ ピクピク
中鉢「」
岡部「紅莉栖ッ!? なぜ中鉢を庇うような真似を…!!」ズザザザー
紅莉栖「」ピチャッ コポコポ ピクピク
岡部「…待て。…吐血?」
岡部(…そうか!! これだ!! よく考えれば『血の海の中に倒れている紅莉栖』はこの日の俺が既に観測しているんだ!!)
岡部(…『俺と俺が出会ってはいけない』ように…『紅莉栖は血の海の中で倒れていなければならない』!!)
岡部「…紅莉栖ッ!! 吐けッ!! もっと血を吐くんだッ!!」ブンブン
紅莉栖「」ガボッ ゴポポポッ
中鉢「…ッ!! …ッ!!」ガクガク パクパク
岡部「紅莉栖!! もっと!! もっとだ!!」ブンブン
紅莉栖「」ゴボッ ビシャッ
岡部「ほら! もう少し!!」ブンブン
紅莉栖「」コヒュー コヒュー ピクピク
岡部「くそっ…!! 血が足りない…!!」
やはりこのオカリン。頭はいいが色々おかしい
中鉢「あ…!! あ…!!」ガクガク カランッ
岡部「ん? …そうか、まだお前が居るじゃないか…!!」
中鉢「!? ひ…ひっ…!!」ガクガクガクガク
岡部「血を…寄越せ…!!」ユラァ…
中鉢「ひぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!」パシッ ダダダダダ…
岡部「…ふん。それでもしっかり論文を盗んでいくとはな。本当に救えん奴だ」
鈴羽「オカリンおじさん!!」タタタタタ
岡部「鈴羽!! よく来てくれた!!」
鈴羽「うわ!? 大丈夫なのこれ!? 一応救急箱は持ってきたけど…」
岡部「大丈夫だ。ちゃんと『壊れないやり方』を使った」
鈴羽「え? これおじさんの仕業?」
岡部「そんなことより鈴羽、救急箱の中に輸血用の血か何か入ってないか?」
鈴羽「いや、無いけど…どうして?」
岡部「俺が観測した『血の海』はこの血の海よりももっと大きかったのだ。もう少し血を増やさないと…」
鈴羽「あそこに赤いペンキならあるよ。あれじゃだめなの?」
岡部「駄目だ。俺はあの時の血の匂いを『今でもはっきりと覚えている』。ペンキや血糊ではなく本物の血でないと…」
鈴羽「なるほど…」
鈴羽「あ、じゃあさ…」ゴソゴソ
岡部「何だ?」
鈴羽「これ使おうよ! 注射器!」スチャッ
岡部「…えっ?」
鈴羽「さぁおじさん! 腕出して!」
岡部「ば…止せ鈴羽ッ!!!! 俺は注射は死ぬほど苦手で」
鈴羽「ふん」プス
岡部「あああああああああああああああああああああああああああ――――!!!!!!」
>岡部「血を…寄越せ…!!」
Mad以外の形容ができないッ…
~タイムマシン内部~
鈴羽「…おじさん大丈夫?」
岡部「ああ…なんとか…」フラフラ
鈴羽「じゃあ早く座って。オカリンおじさんが元居た日に帰ろう」カチッ ウィーン…
岡部「…なぁ鈴羽…俺は確かに紅莉栖は救えたと思うが…第三次世界大戦を防ぐことは出来たのか…?」ストンッ フラフラ
鈴羽「…どうだろうね」
岡部「紅莉栖が書いた『中鉢論文』は中鉢が持って行ってしまった…。もしかすると失敗したのかも…」フラフラ
鈴羽「…分からないけどきっと大丈夫。あたしは牧瀬紅莉栖の生存がカギになる事しか知らないからね。このあとで牧瀬紅莉栖がドクター中鉢を糾弾したりするんじゃないかな」
岡部「ああ…なるほど…」フラッフラッ
鈴羽「…あんまり喋らない方がいいよおじさん。横になってて」
岡部「そうする…」ゴロン
鈴羽「…もしこの作戦が成功して『シュタインズゲート』に到達していたなら…あたしは消える。因果が成立しなくなるからね」
岡部「…消える?」
鈴羽「ああ、死ぬわけじゃないよ? きっとあたしは2036年の『シュタインズゲート』で、父さんと母さんの子として幸せに過ごしてる」
岡部「…そうか…」
鈴羽「…『シュタインズゲート』では何があるか分からない。数日後におじさんは死ぬかも知れない。牧瀬紅莉栖も死ぬかも知れない」
岡部「……」
鈴羽「それに第三次世界大戦が起きるかも知れないし、SERNってとこに世界が支配されるかも知れない。両方起きたりするかも知れないし」
岡部「…それでも、構わん」
鈴羽「…うん。じゃあ行こう」
岡部「ああ…」
鈴羽「そうだ、今のうちにお礼を言っておくよ。本当にありがとうオカリンおじさん。さようなら。…きっと7年後に会おうね」
岡部「…ああ…」
鈴羽「さてと…」ピピピピピピッ
岡部「鈴…羽…」
鈴羽「何?」ピッ
岡部「エル・プサイ・コングルゥ」
鈴羽「エル・プサイ・コングルゥ」
キュイイイイイイイン… プンッ
>岡部「…それでも、構わん」
岡部「俺がその世界を変えてやるッ…!!」
――こうして、俺たちは『シュタインズゲート』に到達した。
戦闘におけるダメージや肉体的・精神的な疲労は思っていたよりも大きなものだったらしく、俺はラジ館の屋上に帰り着くとすぐに高熱を出して倒れ、そのまま5日間寝込んだ。
療養中、家まで見舞いに来てくれたたまゆりとダルが持ってきた週刊誌の記事によって、俺は中鉢がロシアに亡命したことを知った。
その記事によれば例の論文は事故によって綺麗に燃えてしまったそうだ。ラッキーというか滅茶苦茶というか…。とにかく中鉢が学会に相手にされることはもう無いだろう。
またダルとまゆりに「最近ラジ館で殺人事件は起きていないか」と聞いたが、二人とも首を横に振った。秋葉原周辺では殺人どころか死亡事故すら起きていないらしい。
これで紅莉栖の生存はいよいよ確実なものになった。俺は最初の自分を、世界を騙すことが出来たのだ。
そうして、8月が終わって、9月になって、退院して――
――そして今日は、9月13日。俺の体感ではまったくそんな事は無いのだけれど、最初にまゆりが死んだ8月13日からちょうど1ヶ月後でもある。
つまりは俺がエンターキーを押した、この世界線においては彼女のリーディングシュタイナーが発動したはずのあの日はとうに過ぎていて。
それでも、牧瀬紅莉栖がこのラボを訪れてくれることは無かった。
ラ・ヨーダ・スタッセッラはフェイリス専用呪文だぞおまいら忘れるなよ
~ラボ~
ダル「――リン。オカリン? 聞いてる?」
岡部「…ん? 何だ?」
ダル「聞いてねーのかお。さっきからメイクイーンの2号店ができるってフェイリスたんから聞いたんだって言ってんじゃん?」
岡部「済まんな。少し考え事をしていた」
ダル「ロダン乙」
岡部「もう少しマシな突っ込みは無かったのか? しかしまさかメイクイーンが2号店を出すとはな。場所はどこなのだ?」
ダル「中央通り沿いだってお」
岡部「フェイリスの奴…また権力を乱用したに違いないな…」ハァ…
ダル「またアキバに萌え系ショップ増えたしね。流石僕のフェイリスたん!」
岡部「そうだダル。萌えで思い出したが例のコスプレイベントの写真の現像終わったらしいぞ」
ダル「お、マジで?」
岡部「ああ。まゆりが今日ラボに持ってくるそうだ」
ダル「るか氏のコスプレかぁ。僕あの日用事で行けなかったんだよね」
岡部「いやあ、なかなかのものだったぞ。老若男女が寄ってたかっての大騒ぎだった」
ダル「まさかのリアル男の娘だもんなぁ。そりゃ人気出て当然だお」
岡部「ファンクラブまで出来ているくらいだからな。一度ルカ子の名前でググってみるといい」
ダル「マジ!? ファンクラブまであんの!? そのうちテレビにでも出るんじゃね?」
岡部「冗談抜きで本当にそうなるかもな」
ダル「テレビと言えば最近またブラウン管の調子が悪いんだよね。オカリン下まで修理に持ってってお」
岡部「だが断る! あんな重いもの運んでたまるか! お前が運べ」
ダル「デブはみんな力持ちだなんて思うなよ? つーかオカリン最近筋トレしてるから丁度いいじゃん」
岡部「それとこれとは別だ! お前がブラウン管工房に行ってこい! 小動物も居るんだ、ロリコンのお前大歓喜だろう?」
ダル「YESロリコン、NOタッチだお! ロリ専門じゃないし。そういやブラウン管工房って最近バイトのお姉さん入ったよね。桐生氏だっけ」
岡部「ああ、萌郁か。あいつもラボメンだ」
ダル「オカリンマジ何なん? 厨二病のくせに女の子の知り合い多過ぎだろ常考!」
岡部「厨二病は余計だ! そもそもあいつとはレトロパソコン探しを手伝ってやった程度の仲でしかないぞ」
ダル「オカリンマジ紳士。結局見つかったん?」
岡部「いや? それにもう二度と手伝わん」
ダル「ちっちぇーっす! 狂気のマッドサイエンティストちっちぇーっす!」
岡部「やかましい! 探しても無いものは無いのだ! そもそもあいつはもう編プロのバイトを辞めてるからな。万が一見つけても教える必要は無いぞ」
ダル「そもそも何探してたか詳しく知らんから無問題。つーか桐生氏はどういう経緯で工房のバイトになったん?」
岡部「小動物が怪我していたのを介抱して家まで付いていってやったらしい。それで無職だと言うので店長が雇ってやることになったそうだ」
ダル「ふーん。あの店はバイト居ても意味ない気もするけどね」
岡部「本人たちがいいならいいんじゃないか? 俺たちには関係のないことだ」
ダル「だね。とにかくこれでフェイリスたんにルカ氏に桐生氏の3人が加入。もうラボメンが6人か」
岡部「夏休みのころの2倍だな」
ダル「メイクイーン2号店ができたらラボメン全員で完成記念パーティーとかしたいけど…」
岡部「残念ながらそれは無理だろうな」
ダル「ですよねー。来月からだっけオカリンのアメリカ留学」
岡部「ああ」
どこまでオカリンは能力を放出したんだ>留学
ダル「ヴィクトル・コンドリア大学だっけ。いつの間にそんなことになったんだよオカリン」
岡部「コンドリア大の名誉教授が東京に講演に来ている、という情報をネットで調べてな。自ら売り込みに行ったのだ」
ダル「え? それマジ?」
岡部「マジだ。講演の質疑応答の時に教授を徹底論破してみせたらいたく気に入られた」
ダル「で、その後で声掛けられたん?」
岡部「ああ。控え室に呼ばれて軽く世間話をしていたらそのままトントン拍子に留学の話が進んだ」
ダル「そ、そんな簡単に行くもんなん? 世間話とやらの内容が恐ろしくて聞けないお」
岡部「行ったのだから仕方が無い。まだ本決まりではないが、俺はアメリカに渡るつもりでいる」
ダル「お、おう…! 割とマジでパネェっすオカリン」スゲェ
岡部「ふはは!! 褒めても何も出んぞ!!」フハハハ
ダル「でもやっぱりちょっと寂しくなる罠。なんだかんだでここオカリンのラボだし」
岡部「…お前がそういうことを言うとは思わなかった」
助手に会いにアメリカ留学か
ダル「僕どんだけ評価低いんだよ。つーか僕だけじゃなくてまゆ氏なんかもやっぱり寂しいんだろうと思うなのだぜ。応援してるよとは言ってたけどさ」
岡部「ラボについてはこれからお前がリーダー(仮)だ」
ダル「オーキードーキー」
岡部「まゆりについても心配は要らないさ。あいつはあれでとても強い子だ。…むしろ、俺の方が重荷になっていたのかもな」
ダル「重荷って。…にしてもこれからどうなるんだろうね。オカリンもまゆ氏も、それから僕もこのラボも他のこともさ」
岡部「さぁな。だが案外何とかなるもんだと思うぞ?」
ダル「そんなもんなんかなぁ」
岡部「そんなもんだ」
そう、きっとそんなもんなのだ。
>>449
むしろすれ違いフラg
紅莉栖は今もどこかで生きていて――恐らくは今頃アメリカの地で研究に勤しんでいるのだろうが――それでいてこのラボには来ていない。
その理由は分からない。単純にここに来たくないだけなのか、或いは何らかの理由でリーディングシュタイナーを失ったのか。
後者だとすれば『リーディングシュタイナーを持つ紅莉栖』の意識が『紅莉栖が死んでいる世界線』へと移動したことで行き場を無くして消えてしまった、などといったところか?
あえて探すことはしなかった。とにかく、彼女が今も生きていることに変わりはないのだ。
そして俺は紅莉栖が好きで、今更この気持ちを封印することなど到底できないと分かっていて、おまけにすぐにでも彼女に会いたくて仕方がないと来ている。
そんな俺がすべきことはたった一つで、だからそのために俺は行動を起こした。これはたったそれだけの話だ。
昔の俺なら、あれこれと理由を見付け出して彼女を諦めようとしていたのかも知れない。
だが生憎今の俺は、掛け違えたボタンだけ外しても何も変わらないことを知っている。俺はずっとここで夢だけを見て何もしないほどドジでは無いのだ。
生きているのなら、ゼロでないならば問題無い。彼女とはせいぜい離れて2万キロ。手が届かないのならば追い付けばいいだけの話なのだ。
まゆり「開けるね?」
と、ラボの入口の扉越しにまゆりの声が聞こえた。
なぜわざわざ了解を取るのだろう、と少し考えてすぐに思い付く。ダルの言っているように、まゆりは俺に対してなんとなく遠慮をしてしまっているのかも知れない。
あいつはあれで時々変に鋭いことがあるからな。俺の微妙な変化だとか、そういうものを感じ取っているのかも。そして、それの邪魔をしないように変に気を使っているのかも。
空気を読もうとするなんておおよそまゆりらしくないな。苦笑しながらゆらりとソファから立ち上がる。ここはこの俺が直々に扉を開けてやろう。
…なぁ紅莉栖。扉を開けるまで未来は分からない。扉を開けたって未来は分からない。
それでも俺は進まなければならないし、進むべきだし、進みたい。だから進む。
そんなことを考えている俺を、果たして君は受け入れてくれるのだろうか。
今まで無くしたものとこれから君が見るもの、それらをすべて取り換えた今ならば俺たちは変わっていけるのだろうか…
俺は玄関の扉を決然と見据えると、強く地面を踏み締めながらゆっくりと歩き出した――
おわり
=エピローグ=
~病院~
紅莉栖「…ここ…は…?」
看護師「…え?」
紅莉栖「ここ…どこ…?」
看護師「ま、牧瀬さん!? 意識が戻って…!?」アタフタ
紅莉栖「岡…いづッ!?」ズキッ
看護師「あ! 動いちゃダメです!」ワタワタ
紅莉栖「…ったた…! …あの、ここは…?」ズキズキ
看護師「あ、あのですね! ここは病院で、それで、お母様がさっきまでいらっしゃって、えっと…と、とにかく先生呼んできます! 寝ててくださいね!」タタタタタ…
紅莉栖(…生きてる。何でだろう? 確かにエンターキーは押されたはずなのに)ポスッ
紅莉栖(……)
紅莉栖(汚い天井だなぁ)
その後、担当の先生とママがそれぞれ大慌てでやってきた。
ママは私が意識不明のまま入院しているという知らせを受けてアメリカから飛んできたらしい。近くのホテルに宿を取って私の看病をしてくれていたそうだ。
状況がほとんど掴めなかった私は呆れるほどたくさんの質問をしたが、彼らは嫌な顔一つせずそれらに答えてくれた。
私がこの病院に運ばれたのは7月28日。目を覚ましたのは8月末日だったので、丸々1ヶ月も目を覚まさなかったことになる。
28日、私は内臓に大きなダメージを受けた状態で血の海の中に倒れているところを発見され、ここに緊急搬送された。
犯人は不明。ただ警察がその血の海を調べたところ、私のものとは別にもう一種類、私とは血縁関係にない何者かの血液が混じっていたそうだ。
また現場にはパパの指紋が付着したナイフが落ちていた。そしてそのパパは最近ロシアに亡命をしたらしい。
テレビで彼は「タイムトラベルの可能性を示唆する私の論文が燃えてしまった」などと訴えていたそうだ。
この世界線――発表会が中止にならない世界線では、私はパパにタイムトラベルについて書き上げた論文を見せに行っているはずなので、つまりはそういうことなのだろう。
これ以上パパの暴走を黙って見過ごす訳にはいかない。もし彼がまた何かとんでもないことをしようとするならば、私が全力で止める。
とにかく、こうしてなんとか私は生きているらしい。
そして、あの日ラジ館に居て、私と血縁関係に無く、死ぬはずだった私を何らかの方法で救うことのできそうな人なんて、私にはたった一人しか思い付かない。
……あの言葉、最後まで届かなかっただろうなぁ。
早く動けるようにになって、彼に会いたい。そして、そして――
――そして今日は、9月13日。
~タクシー内~
紅莉栖「――じゃあ柳林神社までお願いします」
タクシーの運転手「柳林神社ね」ブロロロロー…
紅莉栖「……」
タクシーの運転手「…お姉ちゃん、今日退院だったの?」
紅莉栖「え? …ああ、今日は外出許可が取れたんです。松葉杖さえあればあちこち動き回れる程度には良くなってきてるんですけどね」
タクシーの運転手「ふーん。じゃあこれから何かいい事でもあるの?」
紅莉栖「…もしかして顔に出てたりします?」
タクシーの運転手「出てる出てる。俺くらいのベテランになるとね、お客さんが何考えてるかがなんとなーく分かったりするんだよ。凄いでしょ」
紅莉栖「ええ。お仕事お好きなんですね」
タクシーの運転手「そりゃあ好きじゃないとこんなに長くやってらんないよー」
紅莉栖「お仕事が嫌になったりすることなんか、無いんですか?」
タクシーの運転手「そりゃあるよ。お客さんが困った人だったり、逆にちっともお客さんが捕まらなかったり。あと嫌な夢を見た時とかね」
紅莉栖「嫌な夢、ですか」
タクシーの運転手「人を轢いちゃったり後ろに乗せたお客さんが銃で撃たれたりする夢。馬鹿げてるけどすごいリアルでさ、そういう夢を見た日はやる気無くなっちゃうんだよ」
紅莉栖「……」
タクシーの運転手「ま、それでも結局俺は人を乗せるけどね。何が起こるか分からないからこそ楽しいんだと思うよ? 何事もさ」
紅莉栖「…そういうの、いいですね」ニコッ
………
~柳林神社~
ブロロロロ…
紅莉栖(…よいしょ、っと)カツンッ カツンッ
紅莉栖(…階段の上り下りも一苦労だな。早く松葉杖無しで歩けるようにならないと…)カツンッ カツンッ
紅莉栖(…あ、居た。掃除してる)
カツンッ カツンッ
紅莉栖「こんにちは」カツンッ カツンッ
ルカ子「え? あ、こんにちは」
紅莉栖「初めまして」ニコッ
ルカ子「? 初めまして」
紅莉栖(…やっぱり何も覚えていない。分かってはいたことだけど、というか元々そうとしか考えられなかったけれどこれで確定した)
紅莉栖(やはり確かに世界線は移動し、なおかつ私は命を救われたんだ)
ルカ子「…あの、お怪我されてるんですか?」
紅莉栖「ええ。内臓が少し傷付いてるのよ」
ルカ子「ええっ!? だ、大丈夫なんですか!?」アタフタ
紅莉栖「大丈夫よ。だってほら、今だって自由に歩き回れてるでしょ?」
ルカ子「で、でも…! …ち、父を呼んできます! 父に祈祷をしてもらいますからっ!」タタタタタ…
紅莉栖「え? いやだから大丈…行っちゃった」
………
~メイクイーンニャンニャン~
カランカラーン
紅莉栖(…つ、疲れた…。あのタクシーに待って貰ってればよかった)
フェイリス「お帰りニャさいませご主人様~!」
紅莉栖「こんにちは」
フェイリス「…ニャニャ? もしかしてご主人様お怪我してるのかニャ?」
紅莉栖「ええ。内臓をちょっとだけね」
フェイリス「ニャ、ニャンだってー!? そんなご主人様にはフェイリス特製猫まんま(無添加)をサービスしちゃうのニャー!! ささ、こちらの席にどうぞなのニャ」
紅莉栖(相変わらずだなぁ。…なんか安心しちゃった)
………
~ブラウン管工房前~
紅莉栖(…ついに、来た)
紅莉栖(ついに、ラボの前まで来た)
紅莉栖(…か、帰ろうかな。…いやいや! 何ビビってんだ私!)ブンブン
紅莉栖(…あれ? 工房の中に居るのって…)
紅莉栖(…桐生さん!? 何で!?)
紅莉栖(……まぁいいか。私が口を出す事じゃない。3人ともあんなに楽しそうなんだからいいじゃない)
紅莉栖(それより…)
紅莉栖(…そろそろ、行きますか)
紅莉栖(…階段、登れるかな…)
コロンッ
紅莉栖「…ん?」(何か足に…)
まゆり「あー! まゆしいのメタルうーぱ落ちちゃった…」タタタタ ヒョイッ
紅莉栖「…まゆり!」
まゆり「え? …えっと、どこかで会ったことあるのかな?」キョトン
紅莉栖「あ、いや…はじめまして。私の名前は牧瀬紅莉栖。よろしくね」
まゆり「椎名まゆりだよーえへへー♪ 紅莉栖ちゃんって呼んでいいかな?」
紅莉栖「もちろんよ、まゆりさん」
まゆり達とは、また一から始める。
まゆりに支えてもらいながら、ラボへと続く階段を少しずつ上っていく。
かつん。かつん。何度通ったか分からないこの階段を、本当に少しずつ上っていく。
不意に、思い出す。
ひどく遠回りをした思い出を。あなたと私が紡いだ想い出を。
本当に、いろいろなことがあった。
――ついに、入口のドアの目の前までやって来てしまった。
途端に、驚くほどさまざまな悪い想像が頭の中を駆け巡り始める。悪趣味なシミュレーションが幾度も繰り返されていく…
大きく、深呼吸をする。
…心配するのはもう止めよう。心配したって今更どうにもなりはしない。だから、そもそも心配する必要なんて無いんだ。きっと大丈夫。
そう、私たちはきっと大丈夫。
まゆり「開けるね?」
笑顔でドアノブを指差すまゆりに、無言で頷き返した。
…ねぇ岡部。過去を紐解けばいろんな事柄が、私たちの前にあったと思う。
けれどこの先は素晴らしい日々だけが残っているような、そんな気がする。
それでも、本当の事は分からない。
それでも、あなたの事だけは近くに感じていたい。
だから、まずは挨拶代わりに皮肉の一つでもぶつけてやろう。
そして、最後まで言えなかったこの言葉を今度こそ伝えよう。
……私も、岡部のことが大好き!!
心臓がピンポン球のように跳ね始める。世界が色鮮やかに再構成されていく。
見慣れたそのドアノブに、今、まゆりが手を伸ばす――
完
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おわったああああああああああああああああああああああああああああああ
ここまで見てくださった方、本当にありがとうございました。
好きなものや好きな要素を可能な限り詰め込んでやりたい放題できたのでもう満足。
さるさん6回も食らったときはもう駄目かと思ったけど私は元気です。
こんな時間まですみませんでした。
ではおやすみなさい。
t
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