人狼「とある狐の物語」 (39)
人狼ゲームで狐の儚さと孤独さに泣いた
そんな哀しい狐に捧げるおとぎ話です
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おれは狐だ。
人間ならば30歳くらいか。
野生にしては長く生きている方だろう。
親兄弟ふくめ、仲間を見たことはない。
物心ついたときから一匹狐だった。
こういうのを"孤独"と言うらしいが、もう慣れているし、むしろ快適だ。
おれのねぐらは小高い丘の上。
やわらかい草に覆われ、適度に低木や木陰をつくる木が生えていて、
清らかな湧き水もある。
四方八方の見晴もとても良い、快適かつ安全な住まいだ。
夏は丘を吹き抜ける風が気持ちよく、冬は雪など積もってそれなりに面白い。
飯となる小動物や昆虫も潤沢で気に入っている。・・・といってもここしか知らないが。
ここから下を見おろすと、南側には小さな村が見える。
印象的な鉄塔が立っていて、20人足らずの人間が暮らす素朴な村だ。
羊やヤギなどの家畜、そして俺の大好きなトリを飼い、日々自給自足している。
冬場に飯に困るとちょくちょく失敬しているが、まああれだけいるんだから許してくれ。
丘を挟んで反対の北側には、昼なお暗い森が広がっている。
こちらにも獲物はいるが、正直近寄りたくはない。
同じ肉食いではあるがもっと獰猛で危険な奴ら・・・狼が棲みついているからだ。
・・・加えてこいつらとはちょっとした因縁がある。
今は4匹だが家族なのか赤の他人なのかは知らない。
どいつもこいつも闇夜のように真っ黒な体と
血のように(きっと本当に何かの血に違いない)真っ赤な口、
月光のように冷たく光る琥珀色の目を持っている。
大きな群れをつくらないのはそれぞれの個体が強いからなのだろう。
なかでもひときわデカイのがボスだろうが、おれの2倍はありそうだ。
さわらぬ神に祟りなし、近寄らないに越したことはない。
森の中には新鮮な肉が走り回っているので滅多にこちらに出てくることはないが、
やはり冬場など獲物に不足すると村にいる家畜を襲いに行くことがある。
村には"狩人"と呼ばれる獣殺しに長けた人間が待ち構えているが、
常日頃から狩りで鍛えている奴らの連携はなかなかたいしたもので、
3回に1回くらいは家畜を奪うことに成功していた。
狼どもの襲撃に乗じてトリをいただくこともあり、こっちとしても悪くはなかった。
・・・・そうだ、最初に"ずっと孤独"といったが、ガキのころ、人間どもが
おれを受け入れていた時があった。
肉食いで野生の狐という生き物が受け入れられていた理由、
それはきっとおれの見た目のせいだ。
狼とは対照的に、俺の体は積もったばかりの雪のようにまっしろだ。
成長したいまではこんな剣呑ななりだが、ガキのころはきっと冬の野兎さながらの
かわいらしい姿だったのだろう、人間から見れば。
自分で見たことはないが、この目は夕焼け空の色をしているらしい。
大人も子供もおれを"ヴァイス"と呼び、おれの姿を見るたびに微笑んで
食い物をくれたり体を撫でたり耳の後ろを掻いてくれたりしたものだ。
自由と、食い物と、安全と、あとうまく言えないが"何か気持ち良いもの"が
全て揃っていた、まるで奇跡のような日々。
あんな日々が長く続くわけはなかった、と今のおれならわかる。
あの頃のおれは、食い物の礼ってわけじゃないが、おれなりに何か返そうとしていた。
体を触られるのは気持ちいいばかりじゃなかったが、多少痛くても我慢した。
(人間のガキどもはおれのしっぽが大好きでよく取り合いになっていたものだ)
抱き上げられて四足が地から浮いた肝の冷える状況でもしばらくは耐えた。
ガキどもが俺にやろうと親に隠しておいたらしい、ちょっと痛んでる肉でも喜んで食ってやった。
狼が家畜を襲おうとすれば、ガキだったおれは番犬のように遠吠えして知らせてやった。
あのときには狼はまだ8匹もいたが、おれの知らせで待ち構えていた狩人によって
そのうち3匹が仕留められた。
狼どもの怒りは当然ながら激烈で、おれは何度も襲撃されたが、丘のあちこちに開いた洞穴や
入り組んだ立木、早く走るには邪魔になる低木が小さなおれの逃亡を助けてくれた。
図体はでかいがその動きは小さなおれにとってはドタドタとのろまな巨人のようで、
逃げきるのはわりとたやすかった。
ある夜、村からねぐらに戻るときに、茂みから一匹の雷鳥が飛び出してきた。
大喜びで飛びかかり首根っこを口にくわえる。
そいつがあんまり暴れるので、おれは押さえるのに必死で周囲への警戒が薄れ、
気づいた時には5匹の狼に囲まれていた。
足が竦んで動けないおれを余裕の笑みで眺めながら、ジリジリと、
油断も隙もなく囲みを縮めてくる狼。
まさに絶対絶滅。
死を覚悟して目を閉じたその時、すぐ横で轟音が響いた。
なにが起きたのか、恐る恐る開けた目にうつったのは、
血にまみれて倒れた一匹の狼と逃げ去る四匹の狼、
そして獣を殺す不思議な棒を構えた人間の姿。
「xxxxxx?!」
おそらくおれに無事かと呼びかけたのだろう人間に振り向きもせず、
雷鳥も忘れて一心不乱に住処へ逃げ帰る。
安全な寝床でガタガタと震えながら、九死に一生を得たこと、
人間に助けられたのだということを思い返す。
人間が、おれを、助けてくれた。
痛いような、痒いような、気持ち悪いような、笑ってるのに泣いてるような、
おかしな気分になった、という「記憶」はある。
だが今のおれにはその時の感情はもう思い出せない。
あのとき感じた気分がどういうものだったのか、もうわからない。
今日はここまで
携帯で打ったら変な変換されてました
×絶体絶滅 → ○絶体絶命
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