都城王土「ほう…学園都市か。 なるほどこの俺を迎えるに相応しい」(1000)

学園都市。
それは総人口230万、最先端の科学技術が研究・運用された独立国家にも相当する巨大都市の通称のことだ。
そしてこの都市には隠された裏の顔がある。
外部から隔離されたこの都市では“超能力開発”が学校のカリキュラムに組み込まれており、230万の人口の実に8割を占める学生たちが日々《能力の開発》に取り組んでいるのだ。

そんな学園都市に、前代未聞のとんでもない転校生がやってきたことから物語は始まる。

幾つもの厳重なセキュリティチェックが終了し、外部と学園都市を繋げている門《ゲート》が開いた。
それは新たな人間がこの学園都市に足を踏み入れたことを意味する。
眼前に広がるは外部より二十年は進んでいる科学技術の粋を凝らした街並み。
初めてこの学園都市を目にする者は誰しもその様を見て息を呑み、目を凝らし、己の常識を再構築する。
だが、この男は違った。


「ほう…ここが学園都市か。 なるほどこの俺を迎えるに相応しい巨大な都市であるようだな」


鷹揚に微笑みながら“悪くはない、満足だ”と言わんばかりの感想を呟く男。

その男は“異様”な風貌をしていた。
生まれつきであろう金髪はまるで重力に反発するかのように天を向き、整った面立ちの中心には煌々と光を放つ紅眼。
その男は全身から“威容”を周囲に振りまいていた。

男の名は都城王土。
“とある”事情を抱え、在籍していた“とある”学園よりこの地にきた。
生まれながらにして王者の気質を持つ王土が腕組みをして学園都市を見渡す。
その背に弾むような声がかかる。

「えへへ☆ 随分とご機嫌だね、王土」


声の主は王土の一歩後ろ、従者のように付き従っているちいさな影が発したものだった。

男子の制服を着込んではいるが、その愛くるしい顔は少年なのか少女なのか。
大きな籠を背負った子供のような風体は、ある意味では都城王土よりも謎めいていると言ってもいいのかもしれない。

影の名は行橋未造。
都城王土に心酔し都城王土に依存し都城王土に付き従う唯一にして無二の忠臣である。

そんな行橋をちらりと横目で一瞥する王土。

「ふん、お前のほうがよほど機嫌がいいように見えるがな。 それよりもだ、“仮面”はどうした?」

「えへへへっ 意地悪な事を言わないでよ王土 “ボクはお前の側にいるならば仮面をつけなくてもいい”ことくらい知っているだろ?」

「あぁ、そういえばそうだったな。 なに、別段他意はないのだ。 気にするな」

不可解な言葉を交わしながらも都城王土と行橋未造が歩き出す。

「ね、王土? まずはどうするのさ?」

前を歩く王土の背にそう疑問を発する未造。
そんな未造の問に振り返ることもなく王土が応える。

「そうだな。 ともあれまずはこの都市の理事長とやらと会うのが最も手っ取り早いだろうさ」

言葉と共に手の内にある一枚の紙をヒラヒラと振る王土。
厳重に封印された封筒にはそっけなくただ一言、こう書かれていた。


[推薦状]


と。

■学園都市・路上


「うひゃあ! 見て見て初春! チョー美味しそう!」

嬉しそうな少女の声。
その声の主は佐天涙子という。
ついさっき露店で買った特盛りのクレープの大きさに驚き、目を輝かせて親友に声をかけたのだが。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよー 佐天さーん…」

返ってきたのは親友の苦渋に満ちた声だった。

「もー まだ迷ってんの?」

その声を聞いて呆れながら振り返る佐天涙子。
そこにはクレープ屋の看板にある見本のクレープを見比べながら迷いに迷っている少女がもう一人。
頭に特徴的な花飾りをした少女の名は初春飾利という。

「そんな必死になって選ばなくてもいーじゃん、また来ればさー」

そう言いながら垂れだしてきたアイスクリームをぺろりと舐める佐天涙子。

「それはそうなんですけど… どっちも美味しそうで…」

飴玉を転がすような甘ったるい声で可愛らしい悩みを口にする初春飾利だった。

「じゃあさじゃあさ、両方食べればいーんじゃない? ダイエット大変かもだけどね」

「わっ! 何を言うんですか佐天さん! ヒドイですよー」

親友をからかう佐天涙子とふざけながらも怒ったふりをする初春飾利。
この少女たちは、その他愛も無いやりとりに夢中になりすぎていた。
周りのことに全く気を払ってはいなかったのだ。

段々と街が静かになっていく。
彼の姿を見た学生は誰に言われるでもなく道を開け、彼の行く手を遮らないように。
ドラム缶という通称で呼ばれている清掃ロボは彼の歩む先にゴミがひとつも落ちないように。
動植物は声を潜め、彼の機嫌を損ねないように。


人も動植物も果ては機械に到るまでが“彼”を尊重し敬っていた。


周囲の異常に気付いていないのはもはや佐天涙子と初春飾利のみだった。

「まま、たーっぷり悩めばいーじゃん? 私はもう我慢出来ないしー。 おっさきー♪」

クレープ屋の前でいまだにうんうん唸ってる初春にそう言い残し佐天涙子がムガッ!と大口を開けた時だった。



「お前たちここの学生と見る。 普通なる俺がお前たちに質問をしてくれよう。 謹んで答えることを許すぞ」


「…ふぁい?」

今まさにクレープにかぶりつかんと大口を開けたままで佐天涙子が振り返る。

そこに立っていたのは金髪紅眼の男。

「第七学区とやらが何処にあるのか俺に教えてよい」

佐天涙子は“一般的”な中学生である。
それでも。 彼女の周りには色々な人間がいて、それなりに人間は見てきている。
学園都市最強クラスの能力者や強力な能力をもった風紀委員、果ては一万人の頭脳を束ねた反則的な科学者まで彼女は目にしてきた。

だが、だけど、だからといって、“こんなこれ”を目の当たりにするのは…あまりにも初めての経験だった。
今の気持ちを喩えるならば…アフリカの草原ではしゃいでいた小鹿の目の前に獅子が現れたようなものである。

大口を開けたまま硬直してしまった佐天涙子を見て、獅子のような男が眉をひそめる。

「おいお前、俺に見惚れるのはしょうがないとしてだ。 そのままでは手に持っている菓子がこぼれるぞ?」

「…ふぇっ?」

言われてようやく、佐天涙子は気付いた。
知らず知らずのうちに手に力が入りクレープを握りつぶしてしまいそうだったのだ。

「うわわ!」

溢れそうなクレープを慌てて口で受け止める佐天涙子。
小さな口の周りを生クリームとアイスクリームでベタベタにしながら、佐天涙子は混乱の極地にあった。
このままでは男の問に答えることはできない。 かといって口からクレープを離せば制服が生クリームでトッピングされてしまう。
堂々巡りの思考で頭がこんがらがってきた佐天涙子の窮地を救ったのは軽やかな声。

「なるほどねー☆ ここは第六学区なんだってさ。 第七学区はあっちの方だってさ、王土」

男の袖をクイクイと引っ張りながら繁華街の向こうを指差す小さな影。
幼女のようなちいさな指先を目でおう獅子のような男がフンと鼻をならす。

「む、そうか。 邪魔をしたな娘」

目を白黒させ固まったままの佐天涙子に向かい事もなげにそう言うと男が踵を返し、目的の地である第七学区に歩いて行く。
もはやこちらを一瞥もしようとしないその後姿を呆気にとられたまま見送るしかできない佐天涙子。

そんな佐天に向かい小さな影が振り返った。

「えへ! 驚かせてごめんねー “王”を引退したと言ってもさ、なんせやっぱりあいつときたら生まれながらにして“王”なんだよ☆」

そう意味が分からないことを口にすると、小さな子供が男の後を追う。
気がつけば、いつの間にか街は喧騒を取り戻していた。

残されたのはクレープに口をとられたまま硬直したままの佐天涙子一人だけ。

「…ど、どゆこと?」

もごもごと口の中のクレープを飲み込んで、ようやく佐天涙子はそう呟いた。

疑問しか残らない。

何故自分はあの男の前であそこまで緊張したのか?
何故男と子供は知っているはずの第七学区の場所を問うたのか?

考えれば考えるほど疑問は膨らんでいく。

出口のない思考の迷路をグルグルと走りだした佐天涙子を止めたのは、ほがらかな親友の声だった。


「お、おまたせしました佐天さーん!」

クレープを手にした初春飾利がほんわかした笑いを浮かべながらこちらに向かって小走りで近寄ってくる。

「結局ですねー 二つのクレープをひとつにしちゃいましたー」

佐天涙子の持つクレープよりも巨大なそれを手に持って初春飾利がエッへンと胸をはる。

「見てください! 店長さんいわく! これこそ超弩級のジャンボ王様パフェなのですって…佐天さん口の周りベタベタですよー?」

「え? あ、うん 大きいね それに美味しそう」

ダイエットは明日から頑張ります!と顔に書いた親友の笑顔をみてそっけなく佐天涙子はそう呟いた。

この調子では先程の男にも全く気がついていないのだろう。
鈍感にも程がある親友に言われるがまま口元を拭きながら佐天涙子はおかしいやら呆れるやら。
頭の花飾りを揺らしながら巨大なパフェをちびちびとかじっている初春飾利を見て佐天涙子は、ふとぼんやりと呟いた。

「超弩級の王様……ねぇ」

ふと頭の中に浮かんだ途方も無い想像。

それを何故か笑いとばすことができないまま、とりあえず佐天涙子は手の中のパフェを平らげようと心に決めた。

■窓のないビル

その部屋には窓が無い。ドアも階段もエレベーターも無い。
そんな棺桶のような巨大な空間の中央にあるのは円筒状の装置がひとつ。
ゴポリという音とともに大きな泡が揺らめく水槽の中には『人間』がいた。

『人間』の名はアレイスター・クロウリー。
学園都市総括理事長であり世界最高の科学者としての側面と世界最大の魔術師という側面をもつ測定のできない『人間』である。
まるでホルマリン漬けのように水の中に浮かびながらアレイスターが言葉を口にした。

「ふむ――そんなにおかしなことかね?」

答えが判っている疑問をわざわざ口にして問うたのは彼なりの試験。
その試験を受けるのは金髪グラサンの少年、土御門元春である。

「あぁ。 充分おかしいさ。 おまえの興味をひく人間だと? 信じれられるものか」

吐き捨てるようにそう答える土御門だが、アレイスターはそんな彼の無礼な口調の答えを気にすること無く、さらなる試験を口にした。

「――そのように見えるか。 あぁ、そういえばおまえは私の目的を知っているのだったな」

「はっ 知るものか。 知りたくもない」

問われ、間髪入れずそう気丈に言い返す土御門だったが気がつけばシャツがじっとりと嫌な汗で濡れていた。
今の試験は正解をしてはならない致死性の問。
もしも答えてしまえば、自分はどうなっているのか想像もしたくない。

そんな土御門を見て満足気に目を細めるアレイスター。
ようやく土御門を試すことに満足したアレイスターがゆっくりと口を開いた。

「箱庭学園――名称くらいは聞いたことがあるだろう? 学園都市と相互の技術提供をしている小さな学園のことだ」

小さな学園、などとアレイスターは口にしたがそれは学園都市全体と比べればの話。
全学年10クラス以上ある巨大なマンモス校に匹敵する規模の学園は学園都市にすらない。

「今からおよそ百年前、試験管計画という名のもとにその学園は端を発した。
 数十の財団、国家の軍部に到るまでその根を張り、狂信的にひとつの目的を追い求める老人たちの集団が前身だ」

「老人たちの目的は『人為的に天才を作り出す』こと。 完全な人間を“造り出す”ことなど不可能だというのに、よくもまぁやることだ」

それはアレイスターが追い求めている一つの可能性に酷似していた。

“神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの”。 通称SYSTEM。

“人間”を超え、“完全”となることでそこへ到達できる者を生み出すのが学園都市統括理事長、アレイスターのプランの一つならば。
“人間”を極め、“完全”となることが箱庭学園理事長、不知火袴の目的なのだ。

「あの老人の理念など、もとより私は興味がないのだが…」

口の端に笑みを浮かべながらアレイスターは話を続ける。

「だが――とはいえそれは老人たちの理念であり、そこに集う者には関係の無いことだ」

今自分が聞いていることの重大さに緊張しきった土御門を見てアレイスターが言葉を投げかけた。

「土御門元春――おまえにも心当たりがあるのではないのか? 異常な能力を持つ者の周りには何故か異常が集うということを」

そうアレイスターに問われ言葉を返すことができない土御門。
確かに、アレイスターのいう通りなのだ。
土御門元春の親友である“あの男”の周りでは何故か様々な事件が巻き起こり、多種多様な人間が導かれるようにしてやってきている。

「つまりだ… 個人への興味ではなく、現象として興味があるということか?」

乾ききった唇を無理やり動かしてそうアレイスターに問う土御門。
その土御門の問を聞いて、ほんの僅かな肯定の意をアレイスターが示した。

「まぁ――そのようなものだ。 不安に思うのならば見ておくのもこのままここに留まり見ていっても構わないが。 どのような決断をとるかね?」

試すように、そう問われ土御門元春は苦虫を噛み潰したように顔を歪める。

「ッ… いいさ。 ここで逃げ帰ったところで何にもならん。 見届けさせてもらおう」

そして、土御門は広く暗い部屋に広がる闇の中にその姿を消した。

■第七学区・路上

人通りの少ない路地裏に一人の小柄な少女が立っていた。

長い赤毛を整った顔立ちの後ろで二つに結び、金属製のベルトをひっかけた際どいミニスカートから伸び出る足はスラリと細く白い。
薄いピンク色のさらしのような布で胸を隠しブレザーを引っかけただけの扇情的な上半身は純情な少年ならば直視することもできないくらいの色気を放っている。

少女の名は結標淡希という。

結標淡希は自分がもつ能力である『座標移動《ムーブポイント》』の強力さを買われ、ひとつの仕事を請け負っていた。
その仕事とは、窓のないビルの内部へVIPを案内するという空間転移能力を持つ者にしかできない仕事。

だが。 今その結標淡希は整った顔立ちを苦しそうに歪ませ、その顔色は青く、今にも倒れそうだった。。
突如、内臓に素手を突っ込まれて掻き回されたような酷く強烈な嘔吐感。

(うっぷ……ッ!)

胃酸が喉を焼くも、辛うじて喉元で吐き気をこらえ表面上は事なきを得る。
今、絶え間なく襲ってくる不快感は彼女自身の能力によるものだ。

結標淡希は過去に自分の能力『座標移動《ムーブポイント》』の制御を誤って事故に巻き込まれている。

転移座標の計算ミスにより片足が壁にめり込み、 それを不用意に引き抜いてしまったことで密着していた足の皮膚が削り取られるという大怪我を負った。
それ以来、彼女は自らの身体を転移させることにトラウマを感じるようになり、転移をすれば体調を狂わせるほどの頭痛と吐き気に襲われるようになってしまったのだ。

(くそ… 仕方ないとはいえ。 こんな目に遭うだなんて)

そう心中で毒づく結標淡希。
この仕事はただ要人を送り込むだけではない。

“万に一つも失敗があってはならない”と固く言われ、結標淡希は常に要人と共に座標移動しなければいけない。

往復二回の座標移動。
たったそれだけで彼女の精神と肉体が大きく悲鳴をあげるというのに、今日は最悪だった。

今さっき彼女の仕事用の端末が音を鳴らした。
それはつまり新たなVIPがここにくるということ。

つい数十分前、金髪グラサンの男を送り届けたばかりだというのに、更に座標移動をしろということだ。

(ちっ…ビニール袋でも持ってくればよかった)

今もまだ、胸の中ではぐるぐるとヘドロのような悪寒が渦巻いている。
次にまた座標移動をすればほぼ確実に嘔吐してしまうということを彼女は自覚をしていた。

(ただでさえ最近は忙しくなってきたっていうのにさ)

そう胸の内で苛立ちを吐きながらも結標淡希は無表情の仮面をかぶり、指定の場所に立つ。
もっとも…死にそうな顔をしてそこで蹲っていても誰も気にはしないだろう。

今まで結標淡希は色々な人間を内部へと送り届けてきた。
如何にもな風体をした老人やら香水の匂いを撒き散らす赤い髪の神父やら金髪サングラスの高校生やら。

だが、その誰もが彼女の顔を見ようともしない。

…その気持ちは判らなくもない。

今から出向く先はこの学園都市を統べる統括理事会理事長の部屋。
案内人などに気を掛ける余裕があるほどの場所ではないの重々承知している。
結標淡希だってあの部屋に長居などしたくないし、そんなことは考えたくもない。

だが、こちらを見ようともしない訪問者をただ無言で送り届け、迎えに行くという行動の繰り返しは結標淡希の心にしこりのような感情を残していった。
まるで自分がただ人を運ぶ機械にでもなったような。

(…ッ! だから私はここにいるんだ)

そう自分に言い聞かせ、“目的”を胸の中で反芻することで彼女は自らを鼓舞する。
そんな時だった。

朗々たる声が彼女にかけられたのだ。


「ふむ、どうやらここのようだな。 となれば案内人というのはおまえのことか」


「…え?」

振り向いた視界の先に立つ金髪の男を見て結標淡希は言葉を失った。

ふてぶてしいという言葉すら生温い。
尊大という言葉を体現したかのようなその男を見て、思わず結標淡希は後退りそうになった。

「あ…はい…」

呟くようにそう結標淡希は返事をするも、その金髪の男は自らが投げかけた問に対する答えなどはまるで興味がないようで。
紅い眼をチロリと動かすと、いまだ胸の内では不快感が渦巻いている結標淡希を一瞥し、こう言った。

「確かにこの俺を案内するという大任を負ったのだ。 緊張するのも無理からぬことではあるが、そう塞ぎこんだ顔をされるのは気に食わんな」

「…ッ?」

ズバリとそう言いきられ、言葉を失う結標淡希。

無表情の仮面には自信があった。
この仕事をしていて、今まで誰も彼女のことを気遣ったりなどしなかったのだから結標淡希が動揺するのも当然だろう。

男の一言で暴風雨にもみくちゃにされる小舟のように思考と吐き気が絡みあいだし、結標淡希は更なる頭痛に襲われだした。
そんな結標淡希を見て男は寛大に笑った。

「なに、そこまで緊張せずともよいぞ」

ヒラヒラと偉そうに手を振って苦笑する金髪の男。


「『楽にするが良い《ラクニスルガイイ》』」


そう命令するかのような言葉を男が口にした瞬間だった。
フッと、まるで肩の荷が下りたかのように結標淡希のざわついていた臓腑が、荒れ狂っていた頭痛が、嘘のように静かに収まったのだ。

キョトンと狐につままれたように目をぱちくりとする結標淡希。
だが、そんな結標淡希を見ても金髪の男は特に気にする素振りも見せない。

「さて、この俺をいったいいつまでここに立たせているつもりなのだ? 案内人ならば案内をしなければ何も始まりはしないだろうが」

「あっ、ハイ えっと、二名様ですね? ではすみませんがそちらに立ってもらってもいいでしょうか?」

思わず自然とへりくだった物言いをしてしまい、尚且つそれが自然と自分の口から出てしまうことに内心驚きながら結標淡希は軍用懐中電灯を取り出した。
結標淡希に言われるがまま指定の場所に立った金髪の男の隣に付き従う小さな影が立つ。

「えへへ☆ 都城王土ともあろう男が随分と丸くなったんだね ボク驚いちゃったよ」

そう言って笑う小さな子供に向かって都城王土と呼ばれた男がフンと鼻を鳴らした。

「丸くなった? 違うぞ行橋。 俺は常に成長をしている、ただそれだけのことだ」

不敵に笑う金髪紅眼の男と従者のような子供のアンバランスな組み合わせに結標淡希は思わず意識をそらされそうになるも、気を取り直して軍用懐中電灯のスイッチを入れる。

「いきます」

人造の光を振って、結標淡希は二人の人間と共に『座標移動《ムーブポイント》』を行使した。


数秒後、そこには結標淡希がひとりポツンと立っていた。

それは何事も無くVIPを窓のないビルへ送り届けることが終わったということを意味する。

だというのに、結標淡希はぼんやりとそこに立ったままだった。

「都城…王土…」

窓のないビルを見上げながらポツリと呟く。

自分を座標移動したというのに、嘔吐感も無ければ頭痛も無い。

ふと、自分の胸のうちで小さな灯火のような欲求が生まれたということに結標淡希は気が付いた。

だが、それがいったい何を欲しているのかということまでは判らず結標淡希はただ先程の男が窓のないビルより無事に帰ってくることをぼんやりと祈ることしかできなかった。

■窓のないビル

「ようこそ学園都市へ」

まるで感情のこもっていないその言葉。
赤い水に浸された円筒の容器の中に浮かぶ人間を見て都城王土は僅かに眉を曇らせた。

「…流石の俺もこんな様を見るのは初めてだ。 随分と驚かせてくれるものだな」

腕組みをしたままそう言い放つ都城王土。
その態度、姿勢からは微塵たりとも怖気付いた様子がない。

「訳あってここから出ることが叶わん身でね。 気にしないでくれ」

コポリと口の端から小さな泡を零しながらアレイスターが薄く笑う。

「既に話は箱庭学園の理事長から聞いている。 そうだな、さしあたって長点上機学園に君は転校し在籍することとなるが――」

それよりも、と言葉を続けるアレイスター・クロウリー。

「君をここに呼んだのには理由があるのだよ。 ひとつ、聞かなければならないことがあってね」

「…なんだ? 俺が許す。 言ってみるがいい」

無礼にも程がすぎる尊大な態度の都城王土だが、それをアレイスターは咎めること無く問を発した。

「君はいったい何を求めて何がしたいのか? ということだ」

アレイスターのその問いかけを聞いて都城王土はつまらなさそうに鼻を鳴らした。

「ふん、愚問だな」

「――」

都城王土の返事を聞いて僅かに目を細める世界最高最強の魔術師。

だが、それでも都城王土は怯まない。
朗々と問に対して言の葉を返す。

「『俺』。 いつだってそれが俺の唯一の行動原理だ 俺は俺として俺を支配する手掛かりを求めているだけにすぎん」

「ふむ。 そうか。 君は君のためにここに来たと」

「その通りだ。」

そう頷く都城王土を見てアレイスターがゆっくりと瞼をつむった。

「――なるほど。 なに、先程も言ったとおり聞きたいことはそれだけだ。 質問があるのならば聞くが?」

「くだらん。 俺に問いてほしいならばそれなりの態度で言うべきだろうが」

そう言って踵を返す都城王土。

そんな都城王土の背にアレイスターの試すような声がかかった。

「あぁ――そうだな。 言い忘れていたよ」

普通なる王土くん
マジ良キャラ

禁書8巻の時間軸で
残骸を巡る事件が起きるか否かって感じか

先に口を開いたのは金髪紅眼の男、都城王土。


「おいおまえ。 誰を見ているのだ。 この道は俺が歩む道だぞ? それ、判ったなら疾く道をあけるがいい」


それを聞いた白髪紅眼の男、一方通行がニマリと笑う。


「あァ!? 悪ィがご覧のとおり怪我人でなァ? …テメエが道を開けやがれ」


お互い決して譲りはしない。
ビリビリと周囲の空気が震え出した。

ややあって、一方通行が気怠そうに溜息を突きながら。
手に持っていたコンビニ袋をガシャリと道の脇に放り投げた。


「まっ、どかねェなら仕方ねえよなァ? ンじゃまァ…テメエでいいからよォ。 ちーっとリハビリに…付き合ってくれよなァァァ!?」


そう言って喉元に手を伸ばし。

“チョーカー”のスイッチを入れ。

軽く足元の小石を蹴り飛ばしたのだ。

そういえば美琴って王土っぽいことやってたけど、やろうとすれば触らなくても行橋っぽいこともできるんだよな
便利だな・・・

>>158
その汎用性の高さが
『第三位・御坂美琴』の『真骨頂』だから

>>146
その様子だと大丈夫かもな。

>>147
さらっと教えとく

王土
指先から電磁波を発するが強力。指先からと言わず全身から出ている気がしないでもない。
その余りに強力な電磁波は地球や人間の電磁波に干渉する事が出来る。
地球の電磁波に干渉すれば斥力と引力を操作する事が出来、壁の垂直歩行や物言わぬ器械を宙に浮かす事が出来る。
もしかすると人すらも宙に浮かす事が出来るかもしれない。
人間の電磁波に干渉するという事は人間の体内に流れる体内電気に少なからず影響を与え、行橋が言う「言葉の重み」と称する王土の言葉で人の体躯を操作する事が出来る。体躯を操作するといっても、遠距離での話で洗脳はではない。
とは言っても手で頭に触れると電気信号の塊とも言うべき脳に重大な影響を与える事が出来、時間さえかければ洗脳する事も出来る。
かつての王土は自身を支配する自己洗脳が出来なかった。

>>164
王土くんの電磁波は引力斥力とは関係ないよ

筐体潰したり、降らせたりしていたのは
材質に鉄が多くて操りやすかったから

ここでも披露した王土くんの壁立ちとか
行橋のアレは
異常性質と無関係ってんだからデビルぱねぇ

正しくは『理不尽な徴税』なので
あんまり連呼されるとそろそろ恥ずかしいです

>>157
そう。
一方通行《アクセラレータ》がベクトル操作をしたならば、それは小指の先にすらみたない小石ですら立派な兇器。
石礫はまるで弾丸のような速度で都城王土の顔面に向かい一直線に飛来する。

が。

都城王土はそれを見て、まるで児戯であると言わんばかりに嘲笑った。

「ハッ! そんなもので俺をどうにかするつもりか? この俺に向かって何たる無礼よ!」

その言葉と共にパン!という破裂音が響いた。
パラパラと細かな砂が都城王土の平手に舞い落ちる。

都城王土は。

肉を裂き骨を砕く弾丸と化した小石を、只一発の平手で以て粉微塵に粉砕したのだ。
都城王土の頬がニヤリと釣り上がる。

「…行橋。 どうやら中々楽しめそうだ。 手を出すなよ?」

そう従者に告げて、都城王土がゆっくりと歩き出す。
全身から噴出する凄まじい気迫は常人ならば失神してもおかしくないほどの圧力ではあるが。

けれども、一方通行が。
学園都市最強の超能力者が。
その気迫に呑まれる筈もない。

.
「あァ~… なんつったかなァ? ナントカ…テーピングでも使ってんのかァ? まっどうでもいいわなァ? 関係ねェンだしよォ?」

ぐちゃりと顔を歪ませながら。
ゆっくりと誘うように円の軌道をとりながら一方通行が都城王土を誘う。

向かう先にあるものは倒壊し瓦礫の置き場と化したビルの跡地だった。

そう。
今現在、紅い双眸をもつ二人の男が立つ場所は再開発地区であり、ここは一方通行にとっては無尽蔵の弾丸が転がっている兵器庫といってもいい。

辺りに転がるは鉄骨、土塊、アスファルト、ガラスなどの無機物という名の兇器。
そして、その中心に立った一方通行は酷く楽しそうにその顔を歪ませた。

「さァーてとォ! ンじゃまァせいぜい“楽しンで”くれよなァ!!」

哂いながら一方通行が拳を振り上げる。
振り下ろす先にあるのはねじ曲がれひしゃげた鉄骨。

ガコンとすぐ側にある鉄骨を拳で軽く叩いただけだったのだが。
数百キロはあるだろう鉄骨がピンポン玉のようにはじけ飛んだ。

当然、鉄の兇器が向かうに立つは都城王土である。
しかし、それでも尚都城王土は笑いを絶やさない。

「クハッ! おい、なんだそれは? 温すぎるわ!!」

その言葉と共に凄まじ勢いで豪脚が放たれた。

ダンプカーが正面衝突したかのような轟音と共に鉄骨の塊が明後日の方に吹き飛び、アスファルトに刺さる。

それをチロリと視線の先で追って、一方通行が歪んだ笑みをして話しかけた。

「…おォ! “中々楽しめそう”じゃねえかァ?」

歪んだ笑みをもって白髪紅眼の一方通行が歪んだ笑みを浮かべる金髪紅眼の都城王土を馬鹿にする。
だが、一方通行の言葉を聞いて都城王土がフゥと小さな溜息を吐いた。

「おい。 この俺に向かって何たる口の聞き方だ。 いい加減に頭が高いことをわきまえろ」

そう言って。
都城王土がゆっくりと一言一句はっきりと。
告げた。


「 平 伏 せ 《 ヒ レ フ セ 》 」


瞬間、一方通行の身体がまるで引きずられるように大地に吸い寄せられたのだ。

「ガッ!?」

ガチンと音を立てて地面に顎をぶつけ、痛みに悶絶する一方通行。

「…おいおい。 たいして痛くもなかろうが? わずかに唇が切れただけで涙ぐんで痛がるとは随分と情けないのではないか?」

ククク、と馬鹿にしたような笑いをこぼす都城王土にピクリとも動けない一方通行が毒を吐く。

「うっせェ! 涙ぐんでねェよ別に痛がってるわけでもねェよ! 二度と味わわねえと決めてた土の味に驚いただけだっつーの!」

そう罵りながら必死になって解析をせんと演算を開始した一方通行だが、その頭脳をもってしても今現在自分の身に起きている現象が全くもって不可解だった。

反射膜は“問題なく稼動”している。
彼にとって“有害”な情報は現在進行のまま全て遮断しているはずなのだ。
だからこそ、この事態は不可解であり不可能であり不思議。

「…ッ!? こりゃまたいったいぜンたいどーゆーわけだァ!? テメエ何をしやがったァ!!」

地面に張り付いたかのように動かない己の手足を呪いながら一方通行が吠える。
そして、それに返事をしたのは従者である行橋未造だった。

「えへへ! なに言ってんのさ? そんなこと相手に教えるわけないじゃん☆」

そんな行橋未造の言葉を遮ったのは他ならぬ都城王土の言葉。

「フン! いいぞ教えてやれ行橋」

「あァ!??」

戦闘において自らの能力をバラすなど、本来は有り得ないことだろう。
そう訝しがる一方通行に向かってニヤリと笑った都城王土が両の手を広げる。

「俺を誰だと思っているのだ? 俺に隠さねばならん自己など“無い”」

そう言うと都城王土は地面に張り付いたままの一方通行でも見えるように右手を掲げた。

パチッ!と小さな音を立てて火花が立つ。

かけがえのない唯一人、唯一の絶対者を見て行橋未造が軽く肩をすくめる。
もとよりこの男の考えることなど、もとより理解の範疇の外にあるのだ。


「まったくしょうがないなぁ☆ これこそ都城王土の真骨頂そのいち! あいつは“人の心を操ることができる”のさ」


そう、行橋未造はとんでもないことを口にした。
その言葉を補足するように、手の内でパチパチと火花を散らせながら都城王土が口を開いた。


「より正確に言えば“電磁波”を発し対象の駆動系に干渉するのだがな」


そう。

それが都城王土の異常性《アブノーマル》。
行橋未造風に言えば都城王土の真骨頂そのいち。

『王の言葉』

電磁波を発し対象の駆動系に干渉すること。
それを都城王土は恐ろしいことに対象の意志すらも無視して支配してしまうのだ。
もちろん、人間の身体には超極小の電気信号が流れていることくらいは一方通行も知っている。

だからこそ、一方通行は気付かない、気付けない。
…否。
気付いたとしても対処の仕様がないのだ。

・・・
・・


人間の身体には“すべからく”活動電位とよばれる電気信号が流れている。

脳内の電気信号をミクロな視点で見れば細胞一つ一つに活動電位と名付けられたそれの総称は電気パルスという。

“そして”一つ一つの細胞の電気パルスを個別にいくら調べても“具体的に価値のある情報”が含まれていること“ない”。

そう。 電気パルスを単体で観測しても、それは有害でも無害でもなく、ましてや偽装でもない。

無害である電気パルスが幾千幾万幾億と対象に集中し、組成することでようやく『王の言葉』が完成し実行されるのだ。

つまりそれは“有害”か“無害”かというホワイトリスト方式で反射を設定している一方通行には防ぎようがないということ。

…勿論、それでも反射膜が無効だというわけではない。

『王の言葉』を防ぎたいのならばありとあらゆる外部情報を反射すればよいだけである。

だが、それは諸刃の剣どころの騒ぎではない。

電磁波は音にも光にも空気にも存在している以上、それら全てを反射するということは“生存に必要最低限な情報”すらも反射しなければならないということと同義なのだ。


・・
・・・

学園都市最強がガチ喧嘩を売りましたが
動機は『道を譲らなかったから』です

136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/04(土) 13:35:27.61 ID:nzd3m9OlP
>>133
アーカードの時には何も言わなかったけどさ
正直見損なったぞ

はっきり立てる宣言しておいて肩透かしってのはほんの遊びであっても不誠実すぎるだろうよ
これ以上はもう何も言わんが

そう訥々と説明をする都城王土だったが、それを静かに聞いていた一方通行の顔が大きく歪んだ。

忘れてはならない。

学園都市最強の超能力者ということは。
つまり学園都市最高の演算能力を持つ者だということをだ。


「…カカッ! そりゃまたゴテーネーにどうもォ!!」


平伏したまま、一方通行が笑う、哂う、ワラウ。

「けどよォ…失敗だったなァ? それさえ判りゃあ… 打つ手は幾らだってあンだよォ!」

途端、滑るように一方通行が宙に跳ね上がった。

「確かになァ! 有害でも無害でもない電気パルスをいちいち反射なンざできやしねェが!
 だったらその命令とやらを上書きすりゃあいいだけじゃねェかァ!!!」

「…ほぅ!」

動けるはずがない一方通行を見て心底感心したという声をあげる都城王土。

それも当然である。
種明かしをされて何時までも蹲っているほど一方通行は愚鈍ではない。

彼がしたことは重力のベクトルの反射である。
それは意志に反した彼の身体などとは全くもって関係がない。
故に、『王の言葉』は、一方通行の細胞は、動き出した手足から命令が中断されたと判断し無効化されたのだ。

明らかな解釈ミスだが
作者の解釈ということで納得せざるを得ない訳だよ

>>202
待って待って
それ見るたびに胸が痛みます
非はどっちかといえば俺にあるんだからやめてー

もうそれに対しては>>159できちんとしたレスしてるんだし
スルーしたほうがいいんじゃね

>>204
気になる
kwsk突っ込んでくれたら嬉しいかも
>>206
うい

>>203
トンと月光を背にして立つ一方通行。
凶悪に歪んでいるその顔に浮かぶのは抑えようのない殺意といってもいいほどの闘争心が浮かんでいる。

その殺意は元をたどれば彼の出生に関係しているのは言うまでもない。

幼い時分ならば誰しもが持つ純粋な殺意。
それは友人や家族と喧嘩をしていくうちに消え去るはずなのだ。

だが迫害され、隔離され、たった独りで幼少時を過ごしてしまった一方通行にとって、いまだそれは胸のうちに息づいている。

そしてそれは都城王土とて同様。
敵には微塵足りとも容赦をしないその激しき気性は胸のうちで燃え盛っている。

「ふむ… “約束”を破ってしまったか。 まぁ悪事を働いている…というわけでもないし仕方あるまいな」

一方通行に対してゆっくりと一歩を踏み出す都城王土。

「この俺は“攻撃を受ける理由がない”から“避ける必要がない”などと言うほど人間が出来ておらん」

ミシリと音をたてて拳を握る都城王土。

「さて? 俺の言葉を克服したからと言ってそれがどうした? 勘違いするなよ? 言葉の重みなど俺にとっては必殺技でもなければ真骨頂でもない」

視線の先には楽しそうに笑っている一方通行。

「荒っぽい手段はとりたくないが…言葉が成立しない以上それもやむなしだな」


その言葉を2ラウンド目のゴングと捉えた一方通行が、兇器の雨を暴風のように操りだした。

戦場の最前線ですらここまで酷くはないのだろう。
身の回りにある無数の瓦礫を弾雨と化し、都城王土に叩きつける一方通行。

そして、都城王土はそれに一歩も退こうとせずに真正面から立ち向かっていた。

「ぬんッ!」

烈火の如く気迫と共に吹き飛んできたコンクリートの塊を殴り壊した都城王土にかかったのは一方通行の愉しげな笑い声。

「ギャハハッ!! どうしたどうしたァ! 荒っぽい手段とやらはまだなンかよォ!! いつになったらこっちに届くんだァ!?」

そう、一方通行の言葉のとおり、都城王土は次第に押されている。
凶器もいらぬ鋼鉄の如き四肢にて、身に迫る全ての飛来物を叩き落とすもそれが限界。

一歩足りとも前に進めない。
むしろその身に未だ傷ひとつ無いことが異常ではあるのだが。

「ふむ… どうやらこのままでは俺でも無理なようだな」

そう言いながら、トンと都城王土の足が地を蹴った。

一蹴りで数十メートル後方にさがる。
そこには巻き添えを喰らわない遮蔽物の影に隠れた行橋未造がいた。

「…王土?」

突然隣に降り立った都城王土の意図が掴めず、不安げな声をあげる行橋未造。
そう。
行橋未造にとって都城王土が苦戦している姿など初めてなのだ。

動揺している視線をその紅い双眸で受け止めて。
都城王土はこう言った。

「どうした行橋よ? その不安げな顔は。 言ったはずだぞ? お前は俺の偉大さと強大さだけに感動しておけば良いのだ」

そう言葉を続けながら、都城王土は行橋未造の服の中、柔らかい素肌をものともせず無造作にその手を突っ込んだのだ。

「えと… 王土? いったい何をしてるのさ…?」

モゾモゾと服の中をまさぐるように動く都城王土の手の動きを当然と受け止めながら。
それでも彼の考えが判らず不思議そうな声をあげる行橋未造。

そしてようやく意図に気が付いて叫ぶ。

「ッ! ダメだよ王土ッ!!」

慌てて服の上から都城王土の手を止めようとするも時は既に遅かった。
ぐらりと行橋未造の視界が霞み、揺れる。

「なん…で…王土…」

シューシューと行橋未造が背負った鞄から聞こえる小さな排気音とともに覗いているのは小さな管。
そこから吹き出されている気体の正体は即効性の催眠ガスである。

コトリと意識を失った行橋未造を見下ろして、都城王土が静かに呟いた。


「行橋よ。 俺が褒めてやる。 仮面をつけていないのは正解だったぞ」

禁書の原作みたいな
反射できると思ったら何でも反射できる
でも魔術はよくわかんないけど反射できない
みたいな解釈はわけわかんないから
これでいいと思う

深い深い眠りについた行橋未造を一瞥すると、都城王土は一方通行に振り返る。
追撃が出来たはずだというのにただ静かにそれを見ていた一方通行の肩がゆっくりと振るえ、そして我慢が出来なくなったかのように都城王土を高らかに笑い飛ばした。

「ギャハハハハhハハッ! ンだそりゃァ! お涙ちょうだいってかァ?」

安い三文芝居を見たかのように、まるで“自虐”のように声を張り上げる一方通行。
だが、それを聞いた都城王土は揺らぎもしない。

「ハッ! 俺が同情を誘うだと? そのようなこと天地が逆転してもあり得んな。 なに、俺が行橋を眠らせたのは、ただ単に俺の都合でな」

ゴキリと首を回しながら都城王土が笑う。
そんな都城王土を見て一方通行が眉をひそめた。

「……あァ!? ついに恐怖のあまり頭がイッちまったかァ!?」

しかしその問はお返しとばかりに笑い飛ばされる。

「クハハッ! なに、こうもやられっぱなしの防戦一方などという展開は俺の性にあわんのでな」

その言葉と共にぎしりと拳を握りしめる王土。
それを見て面白そうに一方通行が吠えた。

「なァに考えてンだァ? だいたいテメーは俺に近づくことも出来やしねェじゃねえかァ!」

「当然だろう。 流石の俺でも無傷で貴様のもとに辿りつけるとは思わんよ」

そう言われ、フムと頷く都城王土を見て一方通行が本当に。
とても楽しそうに笑いながら、まるで目の前の男を認めるように試すように両の手を振り上げる。

「クカカカカッ!……面白ェ 面白ェよテメエ さァてテメエは何回死ねば俺のもとに辿りつけるんだァ!?」

ベクトル反射により無数の瓦礫や小石が凄まじい速度で飛来する。

目前に迫るそれは喩えるならば銃口を無数に並べたショットガンのよう。
無数の凶弾に正面から相対した都城王土は微塵も躊躇うことなく飛び込んでいった。

小石を弾き飛ばし、砂利を叩き落とし、鉄材を蹴り飛ばす様はまさに獅子奮迅という言葉が相応しい。

だが。
それでもなお一方通行の放った嵐のような弾幕は凶暴で獰猛で分厚かったのだ。

「ぬっ!?」

小さな小さな小石の欠片が都城王土の爪先を撃った。
そして、その機を逃さんとばかりに暴風雨が都城王土を蹂躙する。

グシャグシャと耳を塞ぎたくなるような人体の破壊音。
脇腹に鉄材がめり込み、首筋を小石がえぐりとり、砂利が肉に食い込んでいく。

だがしかし、それでも都城王土は止まらない。

数瞬か数秒か数分か。
時間という概念すら置き去りにしたような刹那の刻。

都城王土は、その身体に降り注ぐ凄まじい破壊と引換に。
ついに。ようやく。念願の。

一方通行の目の前、数メートルに辿り着いた。

それはつまり都城王土の拳が届く射程圏内ということである。

.

「どら、待たせたな。 これより退屈はさせんぞ?」


ボタボタとおびただしい血を垂らしながら、それすら些事であると言わんばかりに都城王土が笑った。

「はァ~… よくもまァそのザマで生きていられるもんだわなァ?」

心底感心したというふうに目を見開くは一方通行である。
それは、目前に立つ満身創痍の金色の男に対する彼なりの賛辞であった。
そして都城王土はそんな賛辞を当然と受け止めて返事をする。

「俺が行くと決めて俺が行くのだ。 あれしきの妨害など問題にならん。 避けれないのならばそのまま突き進むまでのことよ」

そう言って尊大に笑う都城王土。
だが、それを聞いた一方通行は何処か苦しそうに決定的で残酷な事実を言い放った。

「…けどよォ 忘れてねェか? オマエの拳は俺には届かねェんだよ」

そうなのだ。
例え一方通行の暴虐の化身のような嵐を抜けようと。
その先にあるのはベクトル反射という無敵の盾。

どれほどの犠牲を払ったとしても、ただの拳でこの堅牢な要塞は破れはしない。

>>216
魔術はよくわからんからベクトル操作に手間がかかる
ダークマターはフィルターを騙すからベクトル操作出来ない

木原神拳と比べたら
殊更おかしいとは思わんが

砲撃もいわんやと言わんばかりのその拳が“直撃”すれば、それこそ一方通行の身体など一瞬の痛みを感じる間もなく生体活動を停止するだろう。
だが、それは反射膜を超えたらという有り得ない話である。

「確かによォ大層な威力だわなァ …けどそンなこたァ関係ねェ。
 オマエが俺に触れでもしたらよォ …全身の血管と内臓が根こそぎ破裂して死ぬぜェ?」

そして、さらにもう一つ。

「テメエは“アイツ”じゃあねえ そこンとこァとっくのとうに確認済みだ」

“アイツ”とは誰のことかなど都城王土は判らない。
だが、目前に立つ白髪紅眼の男の言っていることは事実なのだろうと都城王土は理解した。

「…ふむ。 つまりだ。 おまえは何が言いたい?」

そう促し、先を問う都城王土に一方通行は静かに答える。

「あァ テメエは死ぬ思いをしてここまで辿りつきゃしたが… ザンネンなことにここが行き止まりなンだわ」

しかし、それを聞いた都城王土はとても楽しそうに笑った。

「…行き止まりだと? 面白いことを言うな」

ゆっくりと拳を握り締め

「生憎、俺はどこぞの生徒会長みたいに武術に聡いわけではない。 だから俺はただ俺の気の向くままに全力で貴様を殴るとしよう」

弓矢のように振り上げたその拳を見て、一方通行は吐き捨てるようにこう言った。

「……馬鹿だなテメエは」

.

「ぬんっ!!!!」

裂帛の気合と共に都城王土の握りしめた拳が一方通行の顔面めがけて繰り出された。
人智を超えた速度と威力はもはや武術などが及ぶ域ではない。
それはまさしく一撃必殺の兇器である。

だが…その拳が一方通行に届くことは無かった。

薄皮一枚の反射膜。

けれど、その薄皮一枚の反射膜こそが一方通行を学園都市最強の能力者たらしめている原点なのだから。


「ぐっ!?」


くぐもった呻き声と共に拳を放ったその姿勢のまま全身から血を吹き出す都城王土。
パシャリと軽い音をたてて吹出した血が一方通行の服に飛び散る。

「…ホント 馬鹿だなァテメエは 言ったよなァ? 俺に触れれば死んじまうってよォ?」

どこか寂しそうな口調でそうポツリと呟く一方通行。
チラリと横目で意識を失ったまま倒れている子供を見る。
何故金髪の男があの子供を眠らせたのかなど、今更判るわけもない。

先程までの胸の高揚感は既にどす黒い感情に変わり、一方通行の胸の中心に鎮座していた。

.
「…チッ 意地なんざはらずに逃げ出しゃあよかったのによォ…」

そう呟くと踵を返す一方通行。

「服…汚れちまったなァ このまま帰りゃあのガキがギャーギャーうるせえンだろうが…」

けれど今はそんな事もどうだっていい。
服が血で汚れたならばまた買えばいい。
それよりも胸に渦巻く重圧感から逃れることのほうが先決だ。
まるで逃げるようにこの場を去ろうとして。 一方通行の足が止まった。

“何故服に血が付着している?”

薄皮一枚の反射膜は一方通行の全身を覆っているのだ。
つまりそれが意味することを一言でいうならば。

“シャツに血液が付着することなどありえない”

何も考えること無く、何も考えられず、一方通行は己の胸に付着した血液を払った。
腕の動きにあわせて、血液がピチャリと地面に落ちる。
そして…赤い血が付着していたはずのシャツはシミひとつない普段の姿を取り戻していた。

シャツに血が付いているわけでもない。 

金髪紅眼の男の血液という残滓が逆らうように“反射膜”の表面に付着している?

その時だった。

意味が判らず硬直しきった一方通行の背に朗々たる声がかかったのだ。

.

「 『 待 て 《 マ テ 》』」


「俺をおいて一体何処に行くつもりなのだ?」


「……ンだとォ!?」


動けない、振り向けない。 指先ひとつすらピクリとも動かない。

知っている。
一方通行は知っている。
さっきのは『王の言葉』

声の主は金髪紅眼の自分によく似た“馬鹿野郎”に間違いない。

ベクトルを反射し動くことも忘れ、立ち尽くしたままの一方通行にやれやれ、といった独り言が風に乗って届いた。

「ふむ、“攻撃がヒットする瞬間に回復する”か。 俺にしては不安ではあったがどうやら“再現”はできたようだな」

「……よォ? どういうことだァ? 教えやがれよなァ」

背を向けたまま、何故か親しげとも取れる調子で。 一方通行がそう背後に立っているであろう男に声をかけた。
そんな問いかけを聞いて。
フン!と耳にたこができるほどの笑い声と共に男は言った。

「あぁ…そういえば言ってなかったか。 俺の身体は筋肉、骨格、神経はもとより循環器、呼吸器、血液に到るまで改造されているようなものでな」

――ここで少し二人の少女の事を説明をしなければならないだろう。
箱庭学園特待生2年13組の二人の異常者《アブノーマル》。

名瀬夭歌と古賀いたみという少女のことだ。


名瀬夭歌。
少女の名は偽名である。
真の名は黒神くじら。
その姓が示すとおり箱庭学園生徒会長黒神めだかの親族であり。
そして、名瀬夭歌は人体を生物学的に改造するというただ一点においては完璧超人と呼ばれる黒神めだかですら及ばない域に達しているのだ。


古賀いたみ
そんな名瀬夭歌と出会ったのが古賀いたみという少女だった。
常人であり、一般人であり、平凡な人生を過ごしてきた彼女はそのありふれた人生を変えるため、あえて己の身体を実験台として名瀬夭歌に捧げた。
“異常”に対する“異常”な憧れだけが“異常”なただの女の子。
だが、だからこそ古賀いたみは名瀬夭歌の非人道的という言葉すら生温い人体改造を耐え切ることができたのだ。


その古賀いたみの身体スペックは、途方も無いハイスペックである。
彼女は箱庭学園生徒会長黒神めだかを“圧倒”した。

亜音速で動き、100kgの鉄球が頭頂部に直撃してもケロリとし、果ては箱庭学園そのものを引きずる膂力を発揮することができる黒神めだかを“圧倒”したのだ。

例えそれが人格を失い空っぽのままの黒神めだかであろうとも、その事実は揺らぎない。
ましてやその時の古賀いたみは“ガス欠状態”の身体のままだったのだから本来のスペックなど想像するだに馬鹿馬鹿しい。


そして…都城王土はその古賀いたみの異常《アブノーマル》を“強制的に取り立てた”のだ。

それは、都城王土の特異性《アブノーマル》であり。

それは、黒神めだかですら不可能なことである。

無尽蔵の電力《アブノーマル》、『創帝《クリエイト》』という名の異常《アブノーマル》をもつ都城王土だけが掴むことの出来る答え。


ならば、出来ない訳がない。

目の前にいる白髪紅眼の男は先程、『王の言葉』をベクトルでねじ伏せたのだ。

ならばそれは必然。

ベクトルの反射を異常《アブノーマル》でもって強引に力尽くでねじ伏せることくらい、都城王土に出来ないわけがない。

都城王土はベクトル反射で裏返っていく血液を血管を内臓を上書きするように、“己”の意志でもって“己”の回復力で無理やり塗りつぶしたのだ。


「さっきキサマはこう言っていたな? ここが行き止まりだと」


紅い煙が都城王土の身体から湧き立っていた。
それは破壊と再生の繰り返しで極限まで酷使された細胞が発火寸前まで熱をもち、付着している血液を次々と蒸発させたものだ。


「確かに…過去の俺は王道を踏み間違えた。 行き止まったのだ」


都城王土の胸に飛来するは己が手を地につけて己が非を認めたときのことである。

.

「だが」


それでもこの男は、都城王土は立ち止まらない。


「今の俺が進むは“王道”ではない。 “覇道”だ。 ならば俺の“覇道”に行き止まりなどあるわけがなかろう」


こいつの馬鹿さ加減はどこかのヒーロー気取りの三下かよ、と一方通行は思いながら可笑しそうに笑った。

「ハッ! そいつァ随分とまァ大層な道だなァおい!」

そう背で返事をして。

ようやく一方通行は気付いた。
いつの間にか身体に自由が戻っていたのことに。

「おいテメエ… 何考えてやがンだァ?」

ゆっくりと、振り向きながら一方通行がギョロリと都城王土を見据える。
その視線を受けて都城王土はゆっくりと拳をかざした。


「言ったはずだろう?  俺の“覇道”に行き止まりなどないのだ」

つまりそれが意味することは。

ダメだ、発熱してる俺の頭じゃなんで反射を突破できるかの理論がわからない
その上、物量じゃ超えられない反射を物量で超えてるように見えて余計に混乱してる
誰か説明頼むよお願い

まるで焼き直しのように再度拳を振りかざす都城王土。


「貴様が俺の“覇道”の行き止まりというならばだ。 俺はそれを正面から突破して粉砕して圧潰して押し通るまでのこと」


つまり、それは先程の展開を再度繰り返すということ。

「今の俺をさっきまでの俺と思うなよ? 俺は常に進化しているのだ。 もはや俺ですら今の俺がどこまでいけるか定かではないのだ」

笑いながら都城王土が拳をギシリと握る。
どれほど威力があろうとも反射膜が破られるはずがない。

「カカカカッ! 上ッ等じゃねェかァ!!!」

だというのに、一方通行は心地良い爽快感を感じていた。

首筋からは小さな電子音が聞こえる。
その音が意味することはとっくのとうに判っている。

そう、バッテリー切れだ。

脳の演算機能を外部に頼っている一方通行はチョーカー型の補助演算装置のバッテリーが切れれば、反射どころか歩くことすらままならなくなるだろう。

この男と戦闘を始めて何分たったのだろうか。
3分? 5分? 10分?
もしかすると数秒も残っていないのかもしれない


だが、それでも一方通行は退かない。

>>244
俺の考えっていうかこのSS上では

>>196
一方通行の反射膜はザルのように網目のはいったもの。
有害と判定される物質は網目を通れず反射される。
無害と判定される物質は網目を通って一方に届く。

で、王土の電磁波は、単体では効果がないし無害だから一方に届く。
なぜ無害かというと電気パルスとして幾つにも分割されている電磁波だから。
けど無害なパルスが対象に届いて合体すると初めて脳が命令と誤認する。

>>230
反転しようとする血流やら細胞やらを、異常回復力で正常な状態に無理やり戻している。
反射膜にくっついていたのは異常回復力の名残りと凄み的なナニカ

おk?

>>249
もう一方通行は。
アクセラレータは負けるわけにはいかない。

決して負けるわけにはいかないのだ。

脳裏にちらつくのは絶対に守ると決めた少女の影。
その少女と。 そして己に誓うように一方通行が静かに自らの非力さを認める。

「チッ…確かにこのザマじゃあ学園都市最強は返上だわなァ…」

だが、数瞬後、それは反転。
凄まじい気迫と共に一方通行が吠えた。


「けどよォ…それでも俺はあのガキの前じ…ゃ最強を名乗り続けることに決めてんだよォォ!!!!」


目の前の男が全てを押しつぶすというならば。
ならば自分は全てを跳ね返すだけのこと。

もはや侮りはしない。
この男の拳が届かないなどとは思っていない。
例外ならば既に味わっている。
敗北ならば既に経験している。


「…なるほど。 その気迫ならばわざわざ“俺の言葉”を解く必要など無かったな」

一方通行を見て感心したように都城王土がそう呟いた。

.

「名乗れ。 そして覚えておけ。 俺が、俺こそが都城王土だ」

相手を侮っている笑みではない。ただ己の好敵手に対してそう都城王土が自分の名を告げた。
それを聞いて、立ち向かっていた一方通行は満面の笑みを浮かべる。

「カカカッ! 一方通行《アクセラレータ》って呼んでくれよなァ! 王ォォォォ土くゥゥゥン!!!」

それを聞いて都城王土が満足そうに頷いた。

「なるほど。 いい気概だ。 どれ…歯を食いしばれよ“一方通行《アクセラレータ》”。 俺の拳が貴様の心の臓腑に届けばそれで全ての終わりだぞ?」

ギシリと神鉄のように固く固く拳を握りしめる都城王土。


「敬意を持って貴様の全てを簒奪してやるからありがたく思え」


それに相対した一方通行は両の手を広げ、大地を踏みしめる。


「いいぜェ…… 俺を打ち破るっつーなら…俺から全てを奪うっつーなら…」


先程まで浮かべていた歪な笑みではない。 まるで子供のように目を光らせて一方通行が吼えた。


「今俺がァ!テメエのその思い上がった幻想をブチ壊してやンよォ!!!」

>>257
お互いの目の奥に光るのは既に憎しみや怒りなどといったものではない。
ただ相手を打倒し、己が上であると示すことに躍起になった子供のような自己顕示欲。
そう。言うなればこれは規模こそ違えど子供の喧嘩なのだ。

そして都城王土と一方通行は楽しそうに、心底楽しそうに吼えた。


「その意気や良しッッッ! 往くぞッッッ!!!!」


「上ッ等だコラァァァ! 来いよォォォォ!!!!」


魂を震わせて都城王土と一方通行が己をぶつけあわんと全力を込める。


最強の盾があるのならば、当然最強の矛もあるだろう。
果たして都城王土の拳が最強の矛なのかすらも判らない。
ましてやこれは矛盾であり、なればどちらが勝つかなど推測するのも意味が無い。

しかし、それでも確かなことが一つある。

この一撃が交差すれば、確実にどちらかが死ぬ。
それは絶対の事実であり、誰にも違えることのできない真実なのだ。

絶対致死、一撃必倒、絶対必殺の威力をもった都城王土の力。
接触致死、瞬間必倒、完全必殺の威力をもった一方通行の力。


それは、その力は、その喧嘩は。


「イヤだよ王土ッ! ボクを置き去りにして一体何を考えているのさっ!!」


「絶対ダメッー!ってミサカはミサカは涙で顔をグシャグシャにしながら貴方に訴える!!」


突如乱入してきた二つの小さな影に阻まれ、不発に終わった。
小さな身体である。

拳を握り締めた都城王土の前に立つ小さな影の名は行橋未造。
己の存在意義であり、己の生きる意味を教えてくれた男を止めるため。

両の手を広げた一方通行の前に立つ小さな影の名は打ち止め《ラストオーダー》。
己を救いあげ、己を見殺しにはしないと言ってくれた男を止めるため。

けれど。
その小さな手は。震える身体は。涙で潤んだその瞳は。
紅い双眸を持つ男達の喧嘩を中断するに充分な力を持っていたのだ。

「…行橋」

「…クソガキ」

ポツリとそう呟いて。
今にも破裂しそうなほどに膨らみ、張り詰めた風船がしぼむように男達の気迫が急速に薄れていった。


都城王土は問う。

「…どうやって目覚めたのだ?」

「えへ…えへへ… ボクは王土のことを一番判っているんだ。 催眠ガスを使われそうになったとき、手の中にこれを握りこんでいたのさ」

厚手の手袋を取り、その小さな掌を都城王土に見せつける行橋未造。
その手の上には鋭利に尖った鉄骨の欠片が自身の血に塗れて乗っていた。

「喜界島さんとの一戦を参考にしてね☆ 催眠ガスを克服するには古典的だけどやっぱり痛みが一番みたいだ☆」


一方通行は問う。

「…何で来やがった」

「何でも何も! あなたの代理演算を補っているのは私達なんだからね! あなたの身体に走った痛みという異常を感知してミサカはミサカは病院を抜けだしてきたの!」

よく見れば少女の服はシャワーを浴びたように汗で濡れ、ゼエゼエと荒い息は未だに収まってはいない。
そう、一方通行は都城王土の言葉に引きずられ顎を地面にぶつけた記憶がある。
ただそれだけで、一人夜道を走って一方通行をこの少女は探し回ったのだ。

都城王土と一方通行はどちらともなくフゥとちいさな息を吐いた。

「…おい一方通行《アクセラレータ》 おまえはどうするのだ?」

「…チッ まァ、確かにィ? もうそんな空気じゃあねェなァ…」

戦意を根元ごと引きぬかれたようなこの感覚。
それは自分だけではなく、目の前に立つ紅眼の男も感じているのだと思い紅眼の男は苦笑した。


こうなるとさっきまでの勢いが逆に気恥ずかしく紅眼の男達が静まりかえった中、小さな裁定者達はお互い勝手に自己紹介をはじめていた。


「ウチの一方通行が迷惑をかけてごめんなさいってミサカはミサカは真摯に謝ってみる」

「えへへ☆ 気にしなくてもいいよ。 王土だってきっと途中から楽しんでいたんだしね!」

「あ、それはウチの一方通行もきっと楽しんでいたとミサカはミサカは確信してる!」

「えへへ! まぁ判らなくもないかな? ボクらは自分に似た奴が好きすぎるんだからね☆」

「確かに似てるかも…ってミサカはミサカはこっそり横目で観察しながら同意したり!」

「あ、それとさ。 君、面白いね☆ ボクこんな人は初めて見たよ あ、でも王土ならもしかしてアクセスできるかもしれないなぁ…」

「ふえ? それっていったいどういうことなの?ってミサカはミサカは疑問を発してみる」

「えへへ☆ 秘密だよ☆」

可愛らしい声をあげて活発な情報交換を続ける二人を見て、金髪紅眼と白髪紅眼の男は静かに顔を見合わせる。

「…ハッ かったりィ… おらクソガキ! 帰ンぞ!」

これ以上この場の空気に耐え切れないと言わんばかりに声を張り上げたのは白髪紅眼の一方通行だった。

「ぶー!何それ何それ!せっかく心配してきたっていうのにその態度は何事?ってミサカはミサカは猛烈に抗議する!」

そう口では文句を言いながらも一方通行の隣に立つ打ち止めは朗らかな笑顔を浮かべていた。
あ、そう言えばプリンはプリンはー?とせがむ打ち止めが絶望する答えを口にしながらゆっくりと杖をついてその場を去ろうとする一方通行。
その時、都城王土の声がその背に静かにかかる。

「…おい、一方通行《アクセラレータ》」

「あン?」

そう言って振り向く一方通行に向かって都城王土がクイと顎で地面を指し示した。

「忘れ物だぞ?」

地面に転がってるのは缶コーヒーがつまったコンビニ袋。
だがそれを見て一方通行はハンと鼻をならす。

「…いらね どっかの馬鹿とやりあったおかげで充分目が覚めちまったンでなァ 欲しけりゃあくれてやンよ ってテメエ手握るンじゃあねェ!」

「まぁまぁ 気恥ずかしいのは分かるけど夜道は危ないんだからね?ってミサカはミサカは場合によっては言語能力を没収するといった選択肢をちらつかせながら強引に手をひいてあげる」

ふざけんなァァァ!と憤慨しながらも逆らうことのできない一方通行は杖をつきながら少女に手を引かれて今度こそ振り返ること無く闇の中に消えていった。

行橋起きてたんなら受信しちゃうんじゃないの?

残されたのは都城王土と行橋未造である。
と、未だ催眠ガスの残滓が残っているのか足元が覚束ない行橋未造の身体がフラリと揺れた。
それを見た都城王土が小さく溜息をつく。

「…行橋。 眠いのならば俺が背負ってやってもよいが?」

「わ! ホント? えへへ☆」

そう間延びした声で言うと子猫のように都城王土の背によじ登る行橋未造。
都城王土にとって行橋未造の体重など小鳥が止まっているような感触である。
故にそれ以上特に何も気にすることもなく、都城王土は路上に転がっているコンビニ袋を見ていた。

試しに背中にむかって声をかけてみるが。

「…行橋」

スッポリと背に収まって目を細めている行橋未造は彼が言わんとすることを察したのだろう。

「うーん… ボク苦いの嫌いだし」

そっけなくそう言うと眠気に襲われたのか、小さなあくびをして都城王土の背中の上で小さな寝息を立てだした。

「だろうな。 さて、これから修道女のところに行くのはさすがの俺でも面倒であるな。 なに、今日は充分楽しめたのだ」

そう言って行橋未造を起こさないように静かに都城王土が歩き出す。

「なに。 中々に面白い。 随分と刺激に満ちている街ではないか。 なぁ行橋?」

背でスヤスヤと眠っている行橋からの返事はないが、それでも都城王土は満足気に闇の中に姿を消した。

休憩休憩
やっぱり当然保守いらず

>>288
まぁお約束っていうか、最後の瞬間のちょっと前に起きたって感じで捉えてくらしあ

そもそも古賀ちゃんの「異常性」は
「異常駆動」と「狂人的な回復力」と言う『昭和ライダー』化

ベクトル変換に対しては
訓練すれば何でもできる『昭和仮面ライダー(かいぞうにんげん)』が
対応できないわけがないと考えれば…

>>291
■???

中年の男が大声で問いかける。

「何故君達に能力があるのか! 何故君達にチカラがあるのか! 不思議に思わないのか!」

据えた煙草の匂いを振りまきながら[M000]というコードネームを持つ中年の男は大袈裟に両手を広げる。

「もしかしたらだ! 君達はチカラを持つ必要など無かったのかもしれない!」

静かにそれを聞いているのは10人近くの少年少女。

「この計画が達成すれば! この悲願にさえ到達すれば! 君達はその“憎らしいチカラ”に怯えなくてすむんだ!」

その台詞に自ら酔ったようにして[M000]は更に大声を張り上げる。

「そう! 君達は誰かを傷つけることに怯えなくてもいい!」

そう言って懐から一枚の写真を取り出した。
そこに映っているのは宇宙空間とおぼしき場所に浮かんでいる機械の破片。

「これだ! この[残骸《レムナント》]さえあれば! これさえ我等が手にすれば!」

そこまで言って[M000]は言葉を切ってグルリと部屋を見渡す。
そこには己を見つめる若く真っ直ぐで情熱的な視線。

ブルリと快感で背筋を震わせ、[M000]は続きの言葉を口にした。

「判るかね諸君! 君達の悩みは! 解決したも同然なのだ!!!」

少年少女たちの間に広がっていく羨望と感謝と熱意を肌で感じとり、[M000]は満足そうに頷いた。

「そしてだ! 君達は感謝しなければならない! この計画に無くてはならない“大能力者”!」

そう言って[M000]は机の隅に座っていた少女に向かって声をかける。

「[A001]! 君には期待している! 君も“普通”になりたいだろう? 我等と同じく“正常”になりたいのだろう?」

その言葉と同時に[A001]と呼ばれた少女が立ち上がり、頷いた。

それを見て、[M000]は感動したように大きな声を張り上げる。

「これは君がいなければ不可能な任務だ! 君と!私と!君達は! 共に等しく“仲間”なのだ!」

さざ波のように感動がその空間を支配していくのを感じながら[M000]は叫んだ。

「さぁ! 諸君! 時は来た! 今こそ奮起の時なのだ!」

その言葉と共に万雷の拍手が沸き起こる。
少年少女たちの中には涙ぐんでいるものまでいた。
そして、[A001]と呼ばれた少女は。
どのような障害があろうとも、任務を遂行しようと決意の光をその瞳に宿らせていた。

■風紀委員第一七七支部

「[キャリーケース]の強盗事件…ですの?」

訝しげなその声の主は白井黒子。

「そうなんですよー。 犯人は地下に向かって逃走したみたいなんですけど…
 何故か信号機の配電ミスが相次いで警備員《アンチスキル》は身動きがとれない状況らしいですー」

紅茶の本をデスクの横に置きながらそう初春飾利が答えた。

「はぁ… なんだかきな臭そうな匂いが漂ってきますのね…」

そう言われてパァッと初春飾利の顔が輝いた。

「あ! じゃあ紅茶でも淹れましょうか? いいにおいですよー! 美味しいですよー?」

はちきれんばかりの笑顔を浮かべる初春飾利だったが。

「…お断りですの。 なんで貴方は犯人ほっぽらかしてアフタヌーンティーに勤しもうと思えるんですの?」

付箋がいくつもついた紅茶の本をちらりと横目で見ながら白井黒子が呆れたようにそう告げた。
ガーン!とした顔をするのも束の間、すぐに気を取りなおした初春飾利が不思議そうな声を出す。

「うう、今度こそ100点のお茶を出せると思ってたのに… あ、でも白井さん? つまりそれって…」

恐る恐るそう問いを発する初春飾利に白井黒子は薄っぺらな鞄を持って出口に向かいつつこう言った。

「ええ。 今回はお邪魔な金髪の殿方もいらっしゃいませんし? 私一人ならば地下だろうがどこだろうが関係ありませんもの」

■地下街出口・裏路地

「ふぅ…どうってことはありませんわね」

パンパンと埃を払いながらそう白井黒子が呟いた。
地面には黒いスーツに身を包んだ男が10人近く倒れている。

今更言うまでもないだろうが、白井黒子の能力は『空間移動《テレポート》』である。
点と点をつなぐ慣性を無視した三次元の軌道だけでも脅威だというのに。
更にああ見えて有事では頼りになる初春飾利のナビゲーションをもってすればキャリーケースを抱えて逃げようとする強盗犯を補足することなど朝飯前だった。

(ま、朝飯前というか午後の紅茶前といったほうが正しいのかもしれませんが?)

そう心中で呟きながら白井黒子はこちらに向かっているという警備員《アンチスキル》を手持ち無沙汰のまま待っていた。
如何に『空間移動《テレポート》』を使えるといえど、こうまで人数が多いと動くことは出来ない。
この場を離れれば、意識を取り戻したスーツの男達が逃げ出すかもしれないのだ。

.
(そういえば…最近随分とお姉さまがそっけないですの…いったいどうなさったんでしょう…)

そんなことをぼんやりと考えていた時である。
突如肩口に突き刺さったのは鋭い痛み。
更には自らが浮遊している感覚が白井黒子を襲う。

「ッ!?」

完全に油断していたこともあり、受身も取ることが出来ずにペチャン!と痛々しい音を立てて白井黒子が仰向けに倒れた。
肩に刺さり、激痛の元であると主張しているのはワイン抜きだった。

「…これは…随分と趣味の悪い成金みたいですわね」

そう毒づきながらゆっくりと白井黒子が起き上がる。

そこには。

クスクスと笑う少女が[キャリーケース]に座っていた。
肩にかかった赤毛を鬱陶しそうに背中に払いながら。


「初めまして。 風紀委員《ジャッジメント》の白井黒子さん」


本来は年相応の可愛らしい声だろうが、今は随分と意地の悪そうな声がそう言った。

■長点上機学園・放課後

「…すまないけども。 もう一度言ってくれないかしら?」

呆然とした口調でウェーブ髪の少女が今聴いたことの内容の確認を求める。

「うんいいよ! えーっとね、昨日の夜ね、王土とイッポーツーコーって人が戦闘《バトル》したんだ☆」

「……」

ハキハキと元気よく面白そうにそう答えた小柄な同級生の言葉を聞いて、布束砥信は今度こそ幻聴の類ではないのだということを理解した。

「suppose 勘違いとかその辺のスキルアウトっていうわけでは…無いようね…」

この小さな同級生が嘘を言っているとは思えない。
だが、信じられるだろうか?

一方通行。
それは学園都市最強の超能力者であり、“妹達”を一万人も殺した実験計画の中心人物であるのだ。

そのような男と都城王土が相対して戦闘をした?
それならば当然の帰結としてあそこの席、都城王土の席には不在の主を慰めるように白い花瓶が鎮座していなければならない筈なのだが。

その席には金髪紅眼の男が退屈そうに腕組みをしていた。

「thought 何を考えているか判らないだなんて、初めて見た時から理解はしていたつもりだけど…まさかここまでとはね」

どこぞのホラービデオに出てくる幽霊のようにバサリと前髪を顔の前に垂らしてそう布束砥信が呟いた。
その時、布束砥信の机の側に立っていた行橋未造に都城王土の声がかかる。

「さて行橋よ。 そろそろ日も暮れてきたところだ。 今日こそ俺の寛大さをあの修道女達に示してやらんとな」

尊大にそう言って笑う都城王土の元にトテトテと行橋未造が駆け寄っていく。

「えへへ! そうだったね! ボクもう忘れちゃいそうだったよ☆」

仔犬のようにまとわりつく行橋に向かって鷹揚に都城王土が笑う。

「おいおい まったく仕方のない奴だなおまえは」

「えへへ☆ そう言うなよ王土! なにせボクは王土に付き従うんだから、王土が要らないと決めたことをいちいち進言するはずないじゃないか☆」

そう言ってピョンと両足を揃えて行橋未造が布束砥信に振り返った。

「それじゃ布束さん! また明日ねー!」

「え、ええ… よい放課後を…」

そう言ってプラプラと力なく手を振る布束砥信に向かって、何かを思い出したように都城王土も振り返った。

「む、そうだ布束よ。 おまえの案内、悪くはなかったぞ」

「え? あ、ええ… それは良かったわ…」

そうぎごちなく答えることしかできなかった布束砥信だが、その返答で満足したのだろう。
うむ、と頷いて都城王土は行橋未造を引き連れて長点上機学園を後にした。

彼等が向かう先。
それはツンツン頭の少年と銀髪シスターの元である。

先日、彼等と接触したときにぶちまけたコロッケの代わりとなるであろう“ソレ”を持って都城王土と行橋未造は学園都市を歩く。
もちろん、彼等の住所はとっくに行橋未造が端末から“聞き出している”

一人教室に残っているのは布束砥信。

もはや布束砥信にとって彼等は核弾頭のスイッチにも等しい存在である。
彼等が動けば面倒な事件が巻き起こる気がしてならない。

「naturally 出来るならば私は無関係でいたいのだけれど…」

だが、布束砥信のその儚い願いは叶えられることがなく。
その小さな希望は数時間後には容易く打ち破られる。

[残骸]とよばれる物を中心として、都城王土、上条当麻、一方通行、御坂美琴という4人少年少女達がが巻き起こす事件に布束砥信も巻き込まれることとなるのだ。

禁書よく知らなくても楽しめてる

■常盤台中学学生寮・御坂美琴と白井黒子の部屋・バスルーム

カチャンという乾いた音が響き、そして噛み殺しきれなかった悲鳴が白井黒子の口から漏れる。

「あ…グッ…!?」

ひどく弱々しい声と共に大量の血液がバスルームの床を伝い排水口に流れていった。

(っ… まさかここまでとは… 完敗ですわ…)

先程の音の正体はワイン抜きや黒子の持ち物である鉄矢が硬質タイルの上に落ちたときの音。
それは裏路地で対峙した赤毛の少女に笑みをもって己の身体に打ち込まれたということ。

そう、彼女もまた移動系の能力を持っていた。
いわば同族との戦闘は、一方的に。 白井黒子の身体にのみ夥しい傷と出血を残して幕を閉じた。

雑菌が入らないよう身につけていた服は全て能力で排除した。
そして今、白井黒子はその白く細い身体を血に濡らし痛みに悶えていた。

右肩、左脇腹、右太もも、右ふくらはぎ。

(唯一の救いは鉄矢やコルク抜きといったところでしょうか…)

出血は未だ続いており、その幼くも艶めかしい身体を熱い血が汚しているにも関わらず、ふと白井黒子はそう思う。

傷は深いが、それでも傷の面積に限って言えば非常に小さい。
時間が経って傷がふさがればそれほど目立ちはしないだろう。

白井黒子は中学生という若き身でありながらそんな悲しいことを当たり前のように考えてしまう。

.
(…けれど。 今はそんな事はどうでもいいんですの)

痛みと熱に浮かされながらも少女はゆっくりと立ち上がる。
たったそれだけの動作で新たに鮮血吹き出して白井黒子の身体を濡らした。
薄い胸をゆっくりと伝い、細く引き締まったウエストを滑り、太股の内側を通ってタイルにポタリと音を立てる。

だけれども。今の白井黒子はそんな事は気にしていられない。
今、彼女の脳裏をグルグルと駆け巡るのは赤毛の少女がペラペラと口した言葉である。


【[レムナント]って言っても判らないわよね? [樹形図の設計者《ツリーダイアグラム》]と言えばさすがに判るでしょう?】

【そうよ。 壊れて尚、莫大な可能性を秘めたスーパーコンピュータの演算中枢】

【あらあら。蚊帳の外って顔ね? 『御坂美琴』があんなに必死になっていたというのに】

【ふぅん… そう『御坂美琴』は貴方に何も言ってないの。 噂通り理想論者で甘い考えをしてるみたいね】


本来なら。

このような事態になった以上、風紀委員《ジャッジメント》の出る幕はない。
素直に大人に、警備員《アンチスキル》に任せるべき話だ。

だが。
“あの人”の名を聞いてしまった以上、そういうわけにはいかないのだ。

.
“御坂美琴”

そう。
確かに、あの赤毛の少女はその名を口にしたのだ。
ならば、ここで自分勝手に痛がって悶えている場合ではない。

白井黒子はここ最近、御坂美琴がやけに気落ちしているのに気が付いていた。
だというのに、それ以上追求をしようとはしなかった。
いくらなんでもプライバシーにまで踏み込むつもりは無いと勝手に自分だけで線引きをして。

その結果がこれだ。
赤毛の少女が言っていたことの内容は悔しいことにいまだ全貌をつかめていない。
しかし、それでもたったひとつ判っていることがある。

このままではお姉様が。 “御坂美琴”が悲しむ事態が巻き起こる。
痛みにひきつり弱音を上げそうになる自分の身体を、ただ意志の力でもって奮い起こす。

手早く傷の処置をして、包帯を巻いて。
下着をつけて。シャツを羽織って。予備の制服に袖を通して。

白井黒子は携帯電話で頼りになる後輩へ連絡をしながら宙へと消えた。


…そして。
白井黒子が『空間移動《テレポート》』をしてから5分程経過しただろうか?

カチャリとバスルームの扉が開く。
そこに立つショートカットの少女はバスルームに篭った鉄臭い匂いに、僅かに血液が付着したままの鏡を見てギリ!と奥歯を噛み締めた。

■とあるマンション

『次回!超機動少女カナミン第13話!
 「えっ? 堕天使エロメイド姿でママチャリダンシング(立ちこぎ)?」
 あなたのハートに、ドラゴォン☆ブレス!』


聞いているこっちが恥ずかしくなるほどのロリータボイスと共にジャジャン!と派手な音をたててTVアニメ[超機動少女カナミン]が終わった。
アニメは番組間のCMが終わるまでがアニメなんだよ!と言いたげにテレビの前でフンフンと鼻息を鳴らしているのは銀髪のシスター。

彼女の名は禁書目録《インデックス》という。
10万3000冊の魔導書という恐ろしい書庫をその頭脳に収めている少女なのだが…
転がり込んだ先の少年の部屋で日がな一日ゴロゴロモグモグといった自堕落な日常を送っていたりする。

そんなインデックスがテレビを見たまま気の抜けまくった声をあげる。

「とうまーとうまー! お腹へったんだよ?」

それを聞いてガクリと肩を落とすのはツンツン頭の少年だった。

少年の名は上条当麻。
その右手に『幻想殺し《イマジンブレイカー》』という測定不能の恐ろしい力をもっているはずのなのだが…
今は周囲の状況に振り回されては貧乏くじを掴んでしまうという何とも可哀想な日常を送っていたりする。

「インデックスさん…よくもまぁヌケヌケとそんなことを言いやがってこんちくしょう!」

上条当麻が肩を落としているのには理由がある。
月一回の超特売セールで一週間分のコロッケを買いだめしたのも束の間、それを一口も口にしないままインデックスがそれらすべてを路上にぶちまけてしまったのだ。

あぁ、不幸だなー…と呟きたくなったが。
ふと上条当麻は思い出す。

脳裏に浮かぶのはインデックスが突っ込んだ男。
金髪紅眼の見るからに偉そうで怖そうな男だった。

「まぁいつもの上条さんならあそこで100%絡まれてるはずですし? 多少は運が良くなってきたってことなのかね? …てゆうかそう思わなければやってられませんよ」

涙ぐましくそう自分に言い聞かせながら冷蔵庫をパカリとあける。
そこにはモヤシが所狭しと並んでいたが、そりゃもう全然嬉しくなんかはない。

「わーい…モヤシがいっぱいで上条さんはもう何も考えたくありませんよ…」

ドラゴンボールの仙豆とかあればいいのになぁ…なんて現実逃避をする上条当麻。
その時、心底驚きました!と言わんばかりの同居人の声がかかった。

「とうまー! とうまー!!」

「…なんの御用でせうかインデックスさん。 お願いですから叫んでカロリー消費しないでくださいってば」

しかし、そんな上条当麻の文句はもとよりこの少女に届くはずもないのだ。

「そんなの些細なことなんだよ! いいからこっちに来るんだよ!」

そう言われハイハイと重たい腰をあげる上条当麻。
向かう先は可愛らしくも子憎たらしい破天荒な同居人の元である。

この時間帯はさるさんくらいそうだし寝るおっおおおお
落ちたらGEPに移行するから保守は要らんですぜ

テレポートした物体は、転移点の物体を除外して転位する

転移先が壁だと体が壁に埋まる。
脆く薄いガラスを柱に転移させれば柱はガラスを圧壊すると共に切断されたの如くズレ落ちる

テレポーター同士の闘いに殺意が絡むとその戦闘は一瞬で終わるのだ。
幸いにも今回のテレポーターは歳が歳故に殺意は微塵も無いが

殺意を持った純粋な戦闘において、テレポーター程殺傷能力と移動力に長けた能力者はそうそういないだろう。

何せ、影から対象を確認したら心臓や脳に異物を転位させれば良いのだから。

そして…空間移動の上位能力が、座標移動。

空間移動はその手に触れなければ転移出来ないが、座標移動は範囲内の物体の座標を移動させる事が出来る…

一応誰かまとめててくれよ

>>347

殺傷能力
転移能力(反射幕を無視して体内の心臓に異物)>(血流)ベクトル操作>>超電磁砲の攻撃力
転移させる以前の座標移動をも反射で阻害出来たら知らね

移動能力
転移能力(連続転移)>ベクトル操作(大跳躍から大気のベクトル操作で一時的飛行)>加速系能力>>王土の壁歩き

防御能力
ベクトル操作(常時反射)>転位能力(見てから自身転位で回避)>肉体再生(即回復)

再生能力
肉体再生>肉体強化>ベクトル操作(で細胞再生を促す)

なんのまとめを求めてたのかは知らね

過負荷は『異常』ではなく『性質』だって事が判ったからな
自然性質である以上『幻想殺し』でも消せないって言うおかしな状態

「厨二」

上条さん大ピンチだな
あいつらにゃ説教も効かないぞ多分

>>377
人間として『異能』であるなら球磨川vs上条さんは『先手必勝』だったんだが
球磨川の『大嘘憑き』はただの個人性質で内容的には『普通』だと
ノーマライズリキッドでばれた瞬間に球磨川>越えられない壁>上条さん
になっちまったから困る

>>380
球磨川は死んでも復活できるからあいつを倒そうとしたら
反物質を60~70Kg持ってきて光の粒のレベルにまで分解しないといけないのかな

反物質を精製できる現在生きている能力者って学園都市には居なかったと思うが
だとしたら球磨川が箱庭出た後マイナス引き連れてやってきたら面倒な事になりそう

>>383
死の『原因』があるならたとえ粉微塵にしても
原子レベルに分解しても再生できるのが一応『大嘘憑き』のシステム

ただ、そこまで本当に出来るかは勿論西尾の手に掛かってるが

ジョジョ×禁書だとどっちも無双を始めるからな
たいていケリがついてもそのままベジータ化するし

このままだと都城さん無価値だよな
演算能力高いから
能力開発受けたら上位に食い込むと期待をされてるのかな
あーでも
肉体再生Lv5相当と
肉体強化Lv5相当と
精神操作Lv4相当?と
念動力Lv2くらい?
を持ってるんだよね
それとも肉体強化や肉体再生はそれ単体で一方通行に通用しないとLv5相当と言えないかな?

>>405
考えてみれば軍隊相手にしても
「平伏せ《ヒレフセ》」で
戦闘機も戦車もぺちゃんこになるし
人間も大方堕ちるんだからレベル5の定義範囲内だよな

>>414
禁書世界のテレポーターは
移動先座標の物体を消滅させてから物体を送り込んでる

>>418
契約者にも同じような能力者居たよな

この子レズなん?

VIPのクロスSS()に言うのはアレだが、設定がしっちゃかめっちゃかになってるのが多いな
学園都市にダース単位で来てるアーカードとか何で来れてるんだよ
部下の管理すら出来てないインテグラはどんだけ無能な馬鹿なんだよって言う

そりゃ勿論後者だが
ここにあるのは10割がアーカードが学園都市で暴れてるだけじゃねぇか
それの何が面白いのか詳しく教えてくれ

ああ、殺す覚悟()って言うあれか
いい加減に殺伐した戦闘してりゃ無条件で偉いとか思ってるアホって減らないもんかなぁ

インデックスさんマジインデックスwww

http://may.2chan.net/b/res/24843079.htm

http://may.2chan.net/b/res/24843079.htm

http://may.2chan.net/b/res/24843079.htm

無念 Name としあき 10/12/05(日)14:43:12 No.24849183 del
>アーカードが無双するだけの何が面白いってんだ?
あっちで出来が良いと語られてるのでも
アーカードがローマ正教の騎士を皆殺しでござった
アンデルセンが勝手に領域侵犯して部下殺したのを怒ってたのが原作漫画のインテグラだけど
そのSSじゃアーカードの勝手な行動を黙認してんだぜ?
何でこうも蹂躙SSってのがなくならないんだか

http://may.2chan.net/b/res/24843079.htm

無念 Name としあき 10/12/05(日)15:19:59 No.24853487 del
じゃあVIPSSの感想でも

>都城王土「ほう…学園都市か。 なるほどこの俺を迎えるに相応しい」
VIPのめだかと禁書のクロス

良い点
・台本形式じゃなく地の文がそこそこしっかりしている

悪い点
・一通と王土の戦闘理由が滅茶苦茶
 道を歩いてる王土を見付けてとか狂犬通り越してますが
 作者は8巻を読んでるはずなのになんでこんな事やったのか
・無害の物でも必要最低限の物しか透過してない一通に何で明らかに異常な電磁波が通るんだ?
・何で王土が殴れry
・風紀委員になるには書類審査と適性試験あったはずだが…

http://may.2chan.net/b/res/24843079.htm

いつもどおり悲惨すぎる上条さん

焼肉用のプレートの電源だか火だか切り忘れ
帰ってきた頃にはプレートのうえの肉が炭になり、残りの肉も猫に食われていたりして。

>>496
まさかの家全焼

突然の来訪者が持ってきた知らせが歓迎される類のものではないというのはその表情を見れば判る。

だがそれでもインデックスは彼女を突き返したりはしない。

今は効力がないとはいえ、こう見えても“歩く教会”をその身につけているシスターなのだ。

そして。この少年はそこに困っている人がいれば何があっても助けに行くのだ。
ならば、彼の思いを後押ししよう。
そう決めてインデックスは口を開いた。

「…止めても無駄なんだよね? 私は邪魔かもしれないし… 一緒に行きたいけどここでとーまの帰りを待つことにするんだよ…」

美しく優しく微笑むインデックスのその言葉を聞いて。

「悪い…インデックス…」

ただ謝ることしか出来ない上条当麻が返事をする。

…この際、インデックスの箸がホカホカと湯気を立てる焼き立ての松坂牛肉をまとめて束ねているのは見なかったことにしよう。

上条当麻は立ち上がり、ただ一言。
その顔にとてもかっこいい笑顔を浮かべて

「…信じてるからな? インデックス?」

それだけ言い残して上条当麻は駈け出した。

そういえば単行本六巻だか七巻だかに行橋と嘔吐さんが一緒に温泉入ってる絵がなかったようなあったような
ゴクリ

プラスシックスの見せ場と能力解説はいつになるんだ。

ギリギリ説明つきそうなのは素手で鉄球溶かした人くらいじゃね。江迎ちゃんの能力の親戚みたいな。
髪伸ばした人もまあいいか。毛髪にまで神経通ってて運動可能・成長自在ってくらいじゃもう驚かないよ。
腕貫通された人はどうだ、身体の細胞が元からグズグズなのかね。
弾丸食った人はなんだろうな。解らんわ。

まあ今からどんなビックリでも大嘘憑きには及ばなそうだ。あれもう出る漫画間違えてるよ。
今更どんな理屈で説明されても無理だろう。因果律に干渉とかなんなんだよ。

>>508
裏表紙でな
その裏の雲仙姉g(ry

>>510
ボス格っぽい二人(名前忘れた)なんて能力すら出せずに・・・

>>502
■学園都市・総合ビル

【貴女、ただその[組織]とやらに言い様に“使われているだけ”じゃないんですの?】

その白井黒子の言葉を聞いて、ピシリと音を立てて結標淡希の仮面にヒビが走る。

「…あは、あははは! 随分とまぁ想像力がたくましいのね! たったあれっぽっちの話でよくもそんな妄想ができるものだわ!」

そう言って笑おうとする結標淡希だが、明らかに印象が違っていた。
先程までの彼女ではなく、まるで中身が空っぽの操り人形のような顔をして笑みを作っている。
そんな結標淡希を見て。
やはりそうでしたのね、と心の中で呟きながらも白井黒子は結標淡希の仮面に切れ込みをいれる。

「妄想なら手慣れたものですけども… けれどこれはまず間違い無いですわよ」

白井黒子にそう言われ。
結標淡希は言葉を荒くする。

「…なにが! ねぇなにがよ? 私が言ったことは全て事実! どれ一つとして間違ってはいないわ!!」

白井黒子は望んでいないとでも言いたげに顔を歪め、しかし言葉のナイフを握った手は無慈悲に結標淡希の心を切り開く。

「…先程。 言ってましたわよね? [残骸]があれば“チカラ”を持たなくてもすむ…と」

「ッ! そうよ! その通り! [残骸]があればこの忌まわしい“チカラ”と別れることが出来るの! そう、出来るのよ!!」

まるで自らに言い聞かせるように繰り返す結標淡希に白井黒子が淡々と言葉を投げた。

「……“どうやって”…ですの?」

.
「――ッ!?」

グッと音を立てて言葉に詰まる結標淡希。

“どうやって?”

そんなことは知らない。
いくら“大能力者”の結標淡希とはいえ科学的な専門分野のことまでは判らない。
ただ、そう言われて。
それを信じたのだ。

そして、思い出したのは具体的な計画を立案した[M000]の言葉。

「…確かに。 具体的な方法までは門外漢ですもの。
 私は知らない。 けどね、[残骸]があれば“能力”を持つのが“人間”だけではないということが判るかもしれないのよ!」

けれど、それは答えにすらなっていない。
まるで子供の言い訳のようなそれを聞いて白井黒子は苦笑する。

「…ですから。 それが判ったところで“どうなる”っていうんですの?」

ポロポロと音を立てて結標淡希の仮面から破片が落ちる。

「ど、どうなるって… だから! 判らない人ね! “能力”を持てるのが“人間”以外じゃないってことが判れば!」

「…そのお話は先ほど覗いましたわ。 で、“それ”と“これ”にどんな関係があるっていうんですの?」

ビシリ!と音を立てて結標淡希の仮面に亀裂が入る。

「か、関係? 関係…は…」

ぐるぐると結標淡希の頭の中で白井黒子の言葉が回る。
繋がらない。
繋がらないのだ。

“例え”[残骸]が能力を有する可能性があったとして。
“例え”そして[残骸]が能力を有したとして。
“例え”人間以外が能力を有する可能性があったとして。
“例え”そして能力者が“能力”を無くす可能性があったとして。

それを結んでいる筈の糸を辿ってみればプッツリと途切れている。

そして結標淡希はようやく気付いた。
自分がただ“操られていた”だけのことに。
主役のつもりだった自分がその実舞台の上でただ踊らされていただけのことに。

「…は」

バリバリと音を立てて結標淡希の仮面が砕けていく。

「ァ…ァ…アア…ああああああああっっっ!!!」

そして結標淡希は耐え切れず悲鳴のような叫び声をあげた。

■学園都市・大通り

学生が溢れる繁華街を上条当麻が走る。
ネオンが栄える大通りを御坂妹が走る。
しかし、上条当麻の隣で並走する御坂妹は息も絶え絶えといった様子で、それでもなんとか遅れまいと手足を動かしているだけだった。

「おいっ! 大丈夫か?」

今にも倒れそうな御坂妹に向かってそう声をかける上条当麻。

「だ、大丈夫ですが…こうやって話しながら走るのは少々厳しいです、とミサカは空元気を振り絞って返事をします」

蚊の鳴くような声でそう返事をする御坂妹がチラリと横を見る。
そこには。

何故か並走している行橋未造がいた。

「…あの?、とミサカは理解が出来ず疑念の声をあげます」

思わずそう問いかけてしまう御坂妹に返事をしたのは行橋未造だった。

「えへへ! 気にしない気にしない☆ ちょっとだけボク気になっちゃってさ☆」

小柄な身体のどこにそんな俊敏性が眠っていたのかと驚くほど機敏な動きで行橋未造がそのあどけない顔で微笑む。

.
「ふむ。 まぁ別段俺は特に興味もないのだが。 行橋の望みならば俺が聞いてやるのも吝かではない」

そして、行橋未造の後ろにはひどく退屈そうな顔の都城王土がいた。

「えへへ☆ そう言いながら王土は一緒に来てくれるんだよね!」

「ふん。 しょうがなくだ。 まぁ俺の夕餉を中断されたのは些か不愉快ではあるがな」

そう言って都城王土が悠々と大地を蹴る。
悠々とは言えその速度は4人の中でも一番速い。
ともすれば懸命に走る上条当麻をあわよくば追い抜きそうなほどの余力を示していた。

そのまま学園都市の繁華街を4人の男女が疾風のように駆け抜ける。

けれど、御坂妹の身体は既に限界だったのだ。
不意に足がもつれ、転びそうになる御坂妹。

「おわっと! 危ね!」

思わず倒れかかった御坂妹の身体を上条当麻が抱き抱えるようにして支える。

「…すいません。 ですが大丈夫です。まだ走れます、とミサカは足に力をいれてみます」

上条当麻の中で力ない微笑みを浮かべる御坂妹。
そして、また走るために立ち上がろうとする。
だが、生まれたての子鹿のように足を震わせるがその様は誰がどう見ても無謀だった。

「いいから休んどけって。 あ、でも俺達だけで向かう…っていうわけにもいかないよなぁ」

ゼエゼエと青い顔をしてその場に座り込んでしまった御坂妹を見て上条当麻は頭をかく。

「いえ、ミサカを置いて先に行ってください。場所はここから3ブロック先にある総合ビルです、とミサカは懇願します」

そう言って、目的であろうビルの名前を細かく口にする御坂妹。
だが置いていけと言われ、はいそうですかと言えるほど上条当麻は冷静に物事を考えない。。
今にも過呼吸やら心臓麻痺やらを起こしそうな御坂妹をこの場にたった一人置いていけるはずがない。

その時だった。


「おい、上条とやら。 何だか知らんがその厄介事とやらを片付ければいいのだな?」


上条当麻の背に堂々とした男の声がかかる。

「いやまぁ、それはそうなんだけど… でもコイツをここに置き去りにしていくわけには」

そう背を向けたまま思わずタメ口で都城王土に返事をする上条当麻だったが。


「ふむ。 ならばおまえはその女を看病していろ。 俺の夕餉の邪魔をしたのだ。 これは俺への無礼である」


「…はぁ?」

振り返ると、そこには腕組みをして紅い双眸を光らせる都城王土と“何故か”白い仮面でその顔を隠している行橋未造が立っていた。

白い仮面をかぶってこちらを見上げる行橋未造に向かって都城王土が声をかける。

「そういうわけだ。 いいな行橋?」

「えへへ! 任せてよ☆ ボクは戦闘タイプじゃないし、それに王土の決定に意義をたてることなんてないんだからね☆」

仮面の下では可愛らしい笑顔を浮かべているだろうと行橋未造に向かって都城王土が満足そうに頷いた。

「よし。 それでこそ俺の行橋だ」

ニヤリとそう笑った都城王土に上条当麻の慌てた声がかかる。

「お、おい! 都城先輩! あんた転校生だろ? 場所は判るのか?」

その言葉を聞いて都城王土は振り返らずにこう言った。

「おいおい。 上条。 おまえは誰にものを言っているのだ? 心配いらん。 とはいえ…布束の案内がこうも役に立つとは思わなかったがな」

そう言うと都城王土の足が大地を蹴った。


ドン!と、まるで爆薬が破裂したかのような音と共に都城王土の姿があっという間に消える。

「……うそぉ?」

踏み込んだ足の形でそのままえぐられたアスファルトを見て思わず上条当麻はそう呟くも。
その腕の中にいる御坂妹は懐かしいその言葉を聞いて耐え切れずにポツリとこう呟いた。

「聞き間違えるはずもありません。 布束…それはもしかして、とミサカは淡い期待と懐かしい思いを口にします」

かっこいい敵キャラか。悪魔将軍がベスト3に食い込むとみた

■学園都市・総合ビル

「ガッ…あ…あああああああああああっっ!!!」

両手で頭を抱え結標淡希は絶叫する。

壊された。
白井黒子に自らの信じるものを壊された。

考えてみればおかしな話だ。
例え[残骸]があったところでそれがどうして能力を消せることに繋がるのだろう。

でも…そんな事は関係なかった。
むしろ判っていてもその希望にすがりたかったのだ。

彼女は、結標淡希は自らのトラウマを思い出す。

“恐ろしいチカラ”
“危険なチカラ”
“迫害されるチカラ”
“嫌われるチカラ”

気がつけばその感情は結標淡希の心に決して消えない傷となって残っていたのだ。
座標転移を失敗した時もそうだった。
ふと、演算中にそんなことを考えてしまって。

気がつけば足がコンクリートの中に埋まっていた。
慌てて足を引き抜いたらベリィッ!という耳を塞ぎたくなる音と共に、足の皮膚がベロリと垂れ下がったのだ。

誰もいない静かなはずのビルの中で轟音が巻き起こる。

コンクリートがテーブルが椅子が食器が。
ナイフがフォークが鉄骨がスピーカーが。

ありとあらゆるものが空中で浮遊し、衝突し、弾け飛んでいるのだ。

それは結標淡希の能力『座標移動《ムーブポイント》』が暴走していることを意味する。


制御できない能力すらもそのままにして、結標淡希は未だテーブルの下で身動きがとれないままの白井黒子に向き直る。
ただ殺すのならば簡単だ。
このままそっとしゃがみこんで、その細い首筋に鋭利な刃物を突き立てればいい。
いや、もはや何もいらない。
ただ首を締めるだけでも白井黒子は抵抗出来ないだろう。

だが違う。そんなことを結標淡希は望んでいない。

結標淡希は“心”を壊されたのだ。
結標淡希は“心”を破られたのだ。
結標淡希は“心”を破壊されたのだ。

ならばやり返す。

この正義面した風紀委員の心を壊して破って破壊しなければ気が済まない。

「あはっ! あははっ! ねぇ見てよ白井さん! この光景を! この有様を!」

自らの傷口をさらけだすようにして結標淡希は両の手を広げる。
演者も脚本も不出来な舞台の上で主役が一生懸命踊るように手を広げる。

「ほら! 私たちはこんな“チカラ”を持っているの! 貴女なら判るでしょ! こんな恐ろしい“チカラ”を持っているのよ!!」

耳を塞ぎたくなるような破壊音の中で。 結標淡希は白井黒子の返事など待ちはしない。

「ねぇわかる白井さん!? 貴女の大切な“御坂美琴”は! 私よりもヒドイのよ! 軍隊を相手にして! それでも全員殺してしまうほどなの!」

白井黒子は返事をしない。
ただ無言の視線で以てそれの代わりとする。

「言ってたわよね? 貴女は“超電磁砲”の思い描く未来を守りたいって! でも… それがなに!?」

結標淡希が吠える。

「私も! 私の“仲間”にも! 思い描く未来があって! それを守りたいの!!!」

喉から血が出るように、万感を込めて結標淡希が訴える。

「ねぇなんで! なんで邪魔をするの!? 私達は別に“超能力者”になりたいわけじゃない! ただ“普通”になりたいだけなのに!」


【[A001]! 君には期待している! 君も“普通”になりたいだろう? 我等と同じく“正常”になりたいのだろう?】


そう。
結標淡希はただ“普通”の女の子になりたいのだ。

白井黒子は答えない。
ただ黙して赤毛の少女の悲痛な叫びを聞くだけだ。

「ねぇ白井さん! 貴女は知らないかもしれないけれど! 私は! 私達は“超電磁砲”と闘ったの!
 作りかけのビルで! 学園都市の最強の能力者! “超電磁砲”を相手にして! そしてその時! …あの子達はこう言ったのよ!!」

ジワリと結標淡希の瞳に涙が浮かぶ。

「後は任せた… ただ一言、たった一言、それだけを口にして! 恐怖で震える唇を無理やり笑みの形にして!」

あぁ…そうか。
あれはそういう意味だったのか。
白井黒子はその現場を目にしていた。

零れ落ちそうな涙をその目尻に震わせながら結標淡希は泣き叫ぶ。

「あの子達はただそれだけで! 自分の思い描く未来を守るために! 最強の電撃使い《エレクトロマスター》に立ち向かったの!」

それはどれほどに恐ろしかったのだろうか。
相手が本気になれば、いとも容易く殺される。
けれど、それでも彼等は命を賭けて結標淡希に未来を託したのだ。

だから結標淡希は退けない。
例えこの道の先が漆黒の崖で断たれていたとしても、ただ突き進むしかないのだ。

結標淡希は己の全てを白井黒子に叩きつける。

「ねぇ! 貴方に否定できるの!? 超電磁砲の思い描く未来を守ろうとする貴方と! 私達の未来を守ろうとするあの子達はどこが違うって言うの!」

白黒「うるせぇこのズベ公が!しね!」

白井黒子は歯噛みをする。
まだ叩いて殴って刺しあう血みどろな戦いのほうがよかった。
そう、まだ闘いは終わっていない。
これは命よりも重い矜持《プライド》を賭けた闘いなのだ。

「…えぇ。 思い当たるふしはそれこそいくつもありますわ」

白井黒子の脳裏には様々な記憶が映り出す。

風紀委員に憧れて。
手柄を欲した自分の独断専行で大事な先輩…固法美偉を傷つけた。

幻想御手《レベルアッパー》。
それは彼女の友人でもある一人の少女を巻き込んで膨れ上がり。
最終的には一万人の無能力者の怨念となって学園都市の危機を招いた。
けれど…その事件を引き起こした一人の女性はただただ己の教え子達を救いたかっただけなのだ。

「否定なんて…出来るわけがありませんの」

ゆっくりと白井黒子は首だけを動かして、視線だけで射殺さんとばかりに結標淡希を睨みつける。

「ですけども…否定が出来ないからといって肯定する気もありませんのよ?」

意志の力だけで白井黒子は結標淡希に立ち向かう。
生殺与奪の権を握られていても決して退けない。

そして。
この闘いは。
元となる根幹、想いの源が仮初と自覚してしまった結標淡希が勝てるはずもなかったのだ。

自分の能力のはずなのに。
敗北した結標淡希を騒ぎ立て嘲笑うように騒音を立てながら『座標移動《ムーブポイント》』は暴走を続ける。

「…なによ。 …なんなのよ! なんでそんな顔ができるのよっ!?」

積み重なったテーブルに組み敷かれたままの白井黒子が放つ視線に気圧されて後ずさる。
もう既にそれは闘いではない。
結標淡希が口にするのはただの泣き言だった。

「私は! 私達は! 望んで“バケモノ”になりたかったわけじゃない!」

無念の涙が頬から一粒流れる。

「こんな厄介な能力をもった私達を! いったいどこの誰が肯定できるっていうのよ!!!」

能力者は忌避される。
強大な力をもつ故に。
理解が出来ない存在故に。

「人間より優秀な存在なんて! いくらでもいると思わない? 貴方がそれを思わないならそれはただの傲慢《エゴイズム》じゃないの!!」

一度涙が流れば止める術など持ちはしない。
ボロボロと涙を流しながらも必死になって結標淡希は抵抗する。
今ここで折れてしまえば生命を賭けた“仲間”に合わせる顔がない。

だから。

結標淡希は魂を振り絞るようにしてその想いを願いを希望をただそのまま吐き出した。

もはや形振りを構っている余裕もなく。
裸の上半身が顕になっていることに気付く余裕もなく。
結標淡希は涙でグシャグシャになった顔のまま。

「ねぇ白井さん! 答えてよ! 私も! 貴方も! 能力者なんて結局ただの“バケモノ”じゃない!」

そう。
能力に憧れて違法な手段に手を伸ばす少年少女がいるように。
能力を嫌がって違法な手段に手を伸ばす少年少女もたくさんいるのだ。

それはまるで人を踏み潰さないように怯えながら歩く怪獣。
内から広がる罪悪感と嫌悪感、外から降り注ぐ冷酷な視線と心無い罵倒。


結標淡希はそれらすべての少年少女たちの想いを代弁するかのように白井黒子に叩きつけた。


「手枷をつけられ! 足枷をつけられて! 人を殺さないように怯える“バケモノ”を!
 いったいどこの誰が“人間”だなんて認めてくれるっていうのよ!!!」

嵐のように荒れ狂い暴走していた結標淡希の『座標移動《ムーブポイント》』が不意に凪のように静まりかえったビルの中で。



「 俺 《 オ レ 》 だ 」



威風堂々、泰然自若、大胆不敵な。 悠然と、高らかに、朗々と結標淡希の願いを肯定する声が響いた。

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      \  ヽ    i  |     /   /     /
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                                  -‐
  ー
 __          俺 《 オ レ 》 だ            --
     二          / ̄\           = 二
   ̄            | ^o^ |                 ̄
    -‐           \_/                ‐-

    /

            /               ヽ      \
    /                    丶     \
   /   /    /      |   i,      丶     \
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>>554 絶対に誰か貼ると思ったわwwww

このスレはメダカの売り上げに貢献するだろ。マジで

>>550
その声の主は荒れ狂ったビルの床をまるで気にすることなく闊歩する。
そう、なぜか彼の進む道には障害物となるものが一つもないのだ。

金髪紅眼の獅子のような男。

その男に少女たちは見覚えがある。

「アンタ…」

「貴方は…」

そうポツリと白井黒子が、結標淡希が呟く。
しかし。
その男、都城王土はそんな言葉など気にする風もなく少女たちの視線を惹きつけたままただ堂々と歩く。

そして少女たちの眼前に立ち。 腕組みをして。 そこでようやく白井黒子と結標淡希の顔に紅い双眸を走らせた。

「ほぅ…どこの芋虫かと思えば白黒ではないか。 またよりにもよって随分と珍妙な格好をしているものだな」

笑うようにただそれだけ声をかけて。
チロリと血よりも紅い瞳でもって結標淡希の瞳を貫いた。

「…ヒッ!?」

思わずそう悲鳴を口からこぼした結標淡希を検分するように見定めてから。

「む、何処かで見た顔かと思えば案内人の娘か」

ふむ…と笑いながら都城王土が口元に手をやった。

レイプ展開クルーーー!?

その瞳にはどこか愉快気な試すような光が浮かんでいる。

「さて…娘よ? さっきは何とも情けない事を言っていたな?」

都城王土がそう口を開いた。
結標淡希はただ何も考えられず、続く言葉を待っていることしか出来ない。

そんな結標淡希を見て都城王土はこう言った。

「“正常”? “異常”? “能力”? “無能力”? 関係あるかそんなもの。 “人間”はどこまでいっても“人間”のままに決まってるだろうが」

ハッ!と結標淡希の積年の悩みを笑い飛ばすようにして都城王土はそう言ったのだ。

もはや仮面がどうのといった話ではない。
都城王土は仮面の奥に隠されたその柔らかで儚いガラスのような結標淡希の心すら諸とも粉砕してもおかしくない。
ポツリと結標淡希は砕け散った仮面の破片を掻き集めて防衛を試みる。

「…うるさい」

だが。

「“バケモノ”だと? ふん、調子にのるなよ娘? 胸のうちに“過負荷[マイナス]の因果律”を抱える“あの女”くらいまでになってようやく“バケモノ”だろう」

そう。
都城王土は一度“触れている”のだ。

『大嘘憑き《オールフィクション》』という在り得ぬ“異常”を持つ男。

そしてその男に“一人の女”が関わって。

『完成《ジ・エンド》』という他人の“異常”を完成させることが出来る“その女”は。
それを無意識のまま自らの胸の奥深くに固く固く鍵をかけ、鎖を巻きつけて封印したのだ。

“その女”はそれに絶対に触らないように、決してその鍵を開けないように気を付けていたが。
その奥底に都城王土は“触れたのだ”。

空前絶後の悪意と善意をごちゃまぜた、そもそもの本人ですらその能力を使いこなせていない、何とも馬鹿らしく何とも非常識で何とも嘘くさいそれに“触れてしまったのだ”。

だがしかし。

都城王土はここにいる。

気が狂うこともなく、恐怖におののくこともなく、絶望に身を焦がすこともなく。
己の意志でもって己の脚でもって己の存在を己の意義を己自身が決めてここにいる。

果たして…それを一体何処の誰が真似できるだろうか?
触れたとたん腐り落ちる悪意と虚無と害意と殺意と虚偽に触れて尚、己を見失わないということが。

そう。
ありとあらゆる“マイナス”のそれに触れても尚、都城王土は自らを失っていない。


故に、都城王土は己に絶対の自信を持って、己こそが己の超えるべき己だと確信し、結標淡希を否定する言葉を謳うことができるのだ。

その絶対的な自信は…否。 “絶対”の自信は結標淡希にとって眩しすぎる。
だから否定をするのだ。
しなければ何もかもの一切合切結標淡希の全てが崩れていってしまう。

「…うるさいって」

だがその否定は都城王土にとって何の意味も持たない。

「怪物だと? 己の能力が恐ろしいだと? クハッ! 世迷い事を吐かすなよ娘」

都城王土は全てを笑う。
結標淡希の悩みなぞちっぽけであると言って笑う。

「……うるさいって言ってるじゃない!!」

懸命に抵抗しながらようやく結標淡希は気が付いた。

この男と初めて会ったときに感じた胸に生まれた小さな灯火のような欲求は。
この太陽のような眩しい男に憧れて、自分もそうなりたいという願いだったのだ。

結標淡希は己が手に握っている軍用の懐中電灯を、人造の光を見て。
金髪紅眼の男、都城王土というが発する太陽のような天然の光を見て。

羨ましくてそれこそ気が狂いそうだった。

そして仮面の奥底、結標淡希の魂を都城王土が決定的な言葉でもって粉砕した。

「己が未来を守るのに力が必要ならばそれこそ悩む必要などなかろうが。 全力も果たさぬまま未来を守りたいなど…甘ったれにも程がある!」

木っ端微塵に粉砕された。
仮面だけではない。その奥底までもだ。
結標淡希は自分に振りかかる責任を無意識に“能力”という言葉に転嫁していた。
自らの願いを他人に押し付けて同意をしてもらおうという知らず知らずのうちに企んでいた。

だがそれら全ては都城王土の辛辣な言葉でもって完全に打ち砕かれた。

暗がりに向かって人造の光を照らして満足していた結標淡希。
その顔を強引に掴んで、その背で輝いている太陽に直視させたのだ。

あまりにも眩しすぎて。
そしてそれが彼女の限界だった。


「いや……いや…あァ…アアああああアアアあああっっっっ!!!!!」


両手で頭を抱え、結標淡希は仰け反って絶叫する。
ブチブチと音を立てて赤毛が一房その手に残る。
それを見た結標淡希は醜いものを見たような顔をして、それを地面に投げ捨てる。

自分に対する絶対の自信とそれにともなう傲慢《エゴイズム》、自分が自分であるという矜持《プライド》

そのどれもが結標淡希が無意識に求めていたもので。
そしてそのどれもが結標淡希が手にしていないもの。

結局…彼女は他人の思想を自分の夢として偽ることでしか自分を保てなかったのだ。

そして…結標淡希は逃走した。

大魔王からは逃げられないんだぜ?

震える手で[キャリーケース]を[残骸]をその手に掴んで、結標淡希は軍用の懐中電灯すら放り投げて逃げ出した。

そして同時にギシリと空気が歪む。

それは結標淡希の能力『座標移動《ムーブポイント》』が暴走し、引き起こしたものだ。
そもそも“能力”とは『自分だけの現実《パーソナルリアリティ》』が根幹であり。
結標淡希はここから逃げ出したいと切にそう願ったのだ。

ならばそれも当然のこと。
『座標移動《ムーブポイント》』は己の主人の望みを叶えるために、限界まで力を振り絞りその願いを実現した。

間もなく結標淡希の最大値、4520kgもの重圧が空間を超えて襲いかかってくるだろう。

しかし都城王土はそんなことを知るわけがなく消えた結標淡希をフンと鼻で笑った。

「なんともまぁせっかちな娘だ。 この俺がまだ話している途中だと言うのにな」

そんな都城王土を見て、テーブルに押し潰されたままの白井黒子は気が付いた。
同じ空間移動系の能力者である。

肌にピリピリと感じる空気が歪むようなこの感触は間違いなく空間移動攻撃で、間違いなく最大級だろう。

結標淡希の登録データを思い出して白井黒子は絶望した。
4520kgの重量が一気にこのフロアに襲い掛かれば建物全てが倒壊する。

せめてこの男だけでも逃げてもらわなくては。 そう思って白井黒子が青ざめて叫ぶ。

「何をぼんやりしてますの? まだ幾分余裕はあるはずですの! さっさとここから離れてくださいまし!」

必死になって懇願するような声をあげる白井黒子。

今ここで助けてくれなんてことは口が裂けても言えない。

白井黒子の上に積み重なっているテーブルは重くガッチリと組合っているのだ。
モタモタしていれば二人揃って圧死だろう。

だが都城王土は腕組みをしたまま動こうとはしなかった。

「ッ! 都城さん! 貴方に言っているんですのよ! 危険ですの!!!!」

その白井黒子の言葉と同時にグワリと空間が歪んだ。

泣きそうな顔で白井黒子は理解してしまった。
あぁ…もう間に合わない。
時間切れだ。
巻き込んでしまう。 巻き込んでしまった。
無理だ。 

もう絶対に無理だ。

空間が歪み、転移してくる物体に押し潰されるように建物の崩壊が始まって。
天井の瓦礫が地響きを立てて落ちてようやく。

都城王土が白井黒子に向かって口を開いた。


「おい白黒。 俺に指図するな」


降り注ぐ瓦礫は等しく都城王土と白井黒子に向かって落下してくる中、都城王土は腕組みをしたまま。
“己が配下”に命令を下す。

.

「 耐 え ろ 《 タ エ ロ 》 」


次の瞬間、白井黒子のその細い首筋にめり込まんとした瓦礫が音を立てて弾け飛んだ。

「……これ…は…?」

白井黒子は目に飛び込んできた光景を見て言葉を失う。

それはありとあらゆる金属が、金属を含んだ全存在が盾となり柱となり壁となりその圧倒的な残骸を食い止めている姿だった。
物言わぬ金属が命ある兵士のように、忠臣となって都城王土の命に従っていたのだ。

もし、彼等に意志があるのならばきっとこう言っただろう。
王の命に従うことこそが本望であるならば、例えこの身が砕け、千切れ、引き裂かれ、最後の一欠片になろうとも遵守するのだ!…と。

そして都城王土は。

その身体から悲鳴をあげてつつも己を守る金属の配下を一瞥すらしなかった。

自らがくだした命令について間違いを認めることはあっても。 後悔なぞは決してしないのだ。
いや、してはならない。 それは彼を信じるものへの裏切りである。

だから…都城王土は無関心ともいえる態度でただこう一言呟くのみだった。


「フン とは言えこれほどの重量ではそう長く耐えきることもできんか」

王土「世界(ザ・ワールド)」ッッッ!!

そう何事もあらんと言わんばかりに言葉を口にして、ゆっくりとと白井黒子の側まで歩み寄る都城王土。

「どら、いい加減その格好を見続けるのはもう飽きた。 どうせおまえもだろう白黒? 俺が手伝ってやるから気にするな」

そう言って都城王土は白井黒子の上に山のように積み重なったテーブルをただの一蹴りで吹き飛ばした。
直接テーブルがその身体に触ることはなかったものの、衝撃の振動で傷が刺激されて白井黒子の顔が痛みに歪む。

しかし都城王土はそれも気にせず白井黒子の腕を掴むとグイと乱暴に引き上げた。

ロマンチックな持ち方では決して無い。
空のワイン瓶を掲げるようなその扱い方に、白井黒子が思わず嫌味を口にする。

「都城さん? …前々から思ってたのですけど …レディの扱いがちょっと乱暴すぎるのではなくて?」

そんな白井黒子の憎まれ口を聞いてクツクツと都城王土が笑った。

「ハッ どの口でレディなどというか。 それだけ軽口が叩けるのだ。 問題はなかろう」

とはいえ、事態は未だ悪化の一途を辿っている。
未だ演算は出来そうもなく、都城王土の造った柱のような盾もあと少しで超重量に圧し負けるだろう。

だから白井黒子はこれで充分と言わんばかりに微笑んで

「ありがとうございますの。 けれどもう結構ですのよ? 貴方一人でどうぞお逃げなさってくださいな」

淑女の見本のような美しい一礼で以て“殿方”の退出を促した。

だがしかし。 それでも都城王土は動かない。

「何…で…?」

“御坂美琴”は自分のことを“大バカ”といったが。
冗談ではない。
目の前にいるこの大胆不敵な金髪紅眼の男こそが“大莫迦者”だ。

このままでは、ふたり仲良く死んでしまうだけ。
だから白井黒子は意味が判らず、混乱した頭で都城王土に訴える。
先程の淑女だどうだのはもう知ったことか。

「何でですの!? 私達はただの他人でしょう!? お人好しにも程がありますの!!」

そんな白井黒子の言葉を聞いて面白そうに都城王土が頬を歪めた。

「お人好しだと? 違うぞ白黒。 お人好しというのはだな」

その時、都城王土の言葉に合わせたように雷鳴を伴う圧倒的な破壊力が床から天井へと突き抜けた。

白井黒子は知っている。
この雷鳴の唸りと共に疾るものが何であるか。
この風穴を開けたのは。
ゲコ太というマスコットキャラクターの貯金箱に入っている何の変哲もないゲームセンターのメダルだ。
そしてそれはその子供らしいファンシーな趣味をもつ少女を白井黒子は知っている。
忘れるはずもない。

「こんだけ風通しを良くしてやりゃあ、まだ間に合うでしょ」

その声を聞いた瞬間。 嬉しさのあまり白井黒子の眼から涙がこぼれた。

.
「悔しいけど私の出番はここまで。後はアンタに任せるわ」

そう言って少女は。 “超電磁砲”は。 御坂美琴はバトンタッチする。

その言葉を聞いて、確かにバトンを受け取ったと言わんばかりに駈け出したのはツンツン頭の少年だった。

白井黒子はその少年にも見覚えがある。
上条当麻。 
白井黒子は知るよしもないが、『幻想殺し《イマジンブレイカー》』という異能を殺す異能をもつ少年だ。

右の拳を岩のように固く握りしめて少年が駆ける。
その姿を見て都城王土が面白そうに笑った。


「そら お人好しとはああいった輩のことを言うのだ」


その都城王土の言葉を全身で体現し肯定するように、少年が走り、跳び、異能の中心点に迫る。
眼前に迫る超重量の瓦礫が迫っても上条当麻は微塵も恐怖を見せはしない。

質量4520kgの巨重をまとめて押し返さんと。
歯を食いしばった少年が、上条当麻がその拳を空間に叩きつけた。
凄まじい轟音と共に見えざる何かを殴り飛ばした上条当麻を見て都城王土は満足そうに笑う。

「なるほどいい拳だ。 さすがの俺も感服したぞ」

そして、たわんだ空間はまるで少年の気迫に押し負けたように自らの使命を完遂することなく。
幻想は打ち飛ばされて消し飛ばされて、殺された。

ちょっと誤字が酷くなったんで休憩保守いらず

お疲れ様!

おっと別スレで遊んでいる名前を消し忘れた。
王土強すぎだろwwめだか倒してこいww

都城王土のその姿が消えるまでその場に立ってただ見送ることだけに務めていた行橋未造がようやく振り向いた。
そしてこちらを見つめていたままの御坂美琴に向かってトテトテと歩み寄る。

「はいこれ! ケータイ電話ありがとね☆」

そう言ってファンシーな携帯電話を御坂美琴に差し出す行橋未造。
だが、御坂美琴は都城王土と行橋未造の掛け合いがまるでラブシーンのように見えてしまいポーッと頬を染めていた。

「……え!? あ、あぁ別にいいわよ? でも君、携帯電話持ってないの?」

ようやく我に帰り、そう言いながら屈んで行橋未造の頭を撫でようとした御坂美琴だったが。
その手が頭に触れるよりも早く、行橋未造の身体がクルンと宙に浮いてから放った回転蹴りがポコンと御坂美琴の胴体にヒットする。

「お、おぅふ!?」

行橋未造にとっては手加減も手加減、軽ーい一撃ではあったのだが。
それでも御坂美琴は脇腹を抑えてヨヨヨと崩れそうになる。

「……ち、ちょっとアンタ! いきなり蹴っちゃダメでしょ!」

思わずそう子供をたしなめる口調で行橋未造を怒った御坂美琴だが。

「コラー☆ タメ口はダメじゃないか! ボクはこう見えて高校三年生なんだからね! 長幼の序はちゃんと守りましょー☆」

えっへんと胸をはる行橋未造のそのセリフを聞いてぽかんと口を開ける。
なーんかこの台詞聞き覚えあるわー、と思いながらも御坂美琴は仕方なく渋々と言い直した。

「…い、いきなり蹴るのはお止しになってください?」

オッケー☆と言って頷く小さな子供を見て、御坂美琴は疲れたような溜息を吐くしかなかった。

>>650
■学園都市・大通り

夜も更けたとはいえ、まだ深夜という訳でもない。
だというのに少女が歩く道にはおかしなことに誰もいなかった。
人も獣も、それこそ警備ロボや清掃ロボも。
点々と道路の脇に佇む街灯が放つ冷たい光だけがアスファルトを照らしている。

それはまるでこれから赤毛の少女に襲いかかる寒々しくて救いのない未来を示唆しているようだ。

「……う…ぐっ」

嘔吐が喉に込み上げて、我慢できず道端に胃の内容物をぶちまけようとするがそれすら叶わない。
吐けば少しはスッキリするかもしれないのに、何も入っていない胃から搾り出された胃酸はただ喉を焼くだけだった。

ツ…と唇から銀露のように一筋の液体が流れ落ちるが、それにすら気付くことが出来ず。
結標淡希は幽鬼のような表情でただ歩くだけの逃走を再開した。
ゼッゼッと瀕死の重症をおったように息を短く吐きながら結標淡希は彷徨う。

重症だ。
身体ではない。
心が魂が割れて砕けて粉砕されたのだ。

(……なに、を… これから…わたしは…なにをすれば…)

ガンガンと割れ鐘のように響く頭痛は過去最大級をそのたび更新している。
きっとそのうち頭蓋骨が耐え切れずに内部から破裂してしまうんじゃないかと結標淡希は思った。

足がもつれ、何も無い道の上で無様に転び、裸の上半身にひっかけただけのブレザーがずるりと肩から垂れさがる。
蛍光灯がそのきめこまやかな白い肌を、美しい胸を照らすが、それすら結標淡希はどうでもよかった。

結標淡希は完璧に徹底的に完膚無きまでに壊されたのだ。

結標淡希の使命をあの風紀委員に完全に壊された。
結標淡希の本質をあの金髪の男に完璧に言い当てられた。

そして結標淡希の有様は都城王土という男に完膚無きまでに粉砕されたのだ。

結標淡希は自分が只の傀儡で只の演者で只の子供であったことを自覚してしまった。

だがそれでも結標淡希は歩みを止めない。

結標淡希の心には微かな拠り所がまだあるのだ。
それはまるで今にも潰えそうで消えかけそうな蝋燭の炎のように頼りないものであったが。

“仲間”

そう、結標淡希には”
結標淡希には共に行動をして“超電磁砲”に立ち向かった“仲間”がいる。
そして間違い無く彼等は捕縛されているだろう。

ならば“仲間”を救わなければ。
ただそれだけを胸にして結標淡希は棒切れのように感触のない足を交互に動かしていた。

(…そうだ…連絡…連絡をしなきゃ…)

もはや[残骸]があっても能力が無くなる訳は無いと結標淡希は理解している。

けれど、この[残骸]を[組織]が手にすれば。
きっとこれを切り札として学園都市と交渉できる。

そして、うまく話を進めることが出来たのならば、きっと捕らえられている“仲間”を解放することが出来る。

聞いているだけで都合のいい夢物語だと笑いたくなるその儚い希望だけが今の結標淡希の行動原理だ。
結標淡希は震える手でブレザーのポケットから小さな無線機を取り出して短縮ナンバーを押した。

もうこれ以上は何も望まない。
せめて…せめて“仲間”だけは救わせてほしい。
泣きつかれた顔で結標淡希は心の底からそう願いながら最後の希望を託す。

「…こちら…[A001]より[M000]へ。 …[A001]より[M000]へ」

返事はない。
結標淡希の願いは無機質なノイズ音が冷酷に撥ね付ける。

「こちら[A001]より[M000]へ。 ・・・ッ! ねぇ! 聞こえてるんでしょ! 何とか言ってよっ!!」

残酷な現実への感情をそのまま無線機に向かって叩きつける結標淡希。
握りしめた無線機がミシミシと音を立てて。

そして、ようやく無線機が応答を返してきた。

『[A001] 貴様何処にいる!? キャリーバッグは何処にある!? [残骸]は無事なんだろうな!!』

随分と苛立ちが混じっているがそれは幾度も耳にした[M000]の声である。
届いた、と結標淡希は泣きそうな顔でもって[組織]に、[科学結社]にすがりつく。

「[A001]より[M000]。 [残骸]は手元にある。 それよりも“同士”が、“仲間”が捕らえられた。
 こちらの“能力”は使用不可能。 これより回収を それと同時に“仲間”の解放を前提とした学園都市への交渉を願いたい」

そう、結標淡希の手元には彼女の能力の導となる軍用懐中電灯が無い。
あの金色の男と相対して錯乱して逃走するときに放り投げてしまったのだ。

結標淡希は今“チカラ”を使うことが出来ない。
“普通”の少女となった結標淡希が頼れるものは、頼りない己と頼りない[組織]だけだ。

けれど。
そんな結標淡希の願いは土足で踏み躙られた。

『黙れ! ちくしょう! 何のために貴様等“バケモノ”を使ってやったのか判ってるのか!?』

彼女の砕けきった魂に。
唾を吐いて糞便をなすりこむように[M000]は罵倒する。

枯れ果てたはずなのに、泣きつくしたはずなのに。
再び結標淡希の瞳に涙が浮かぶ。

「…なん…で…? なんで…そんなこと言うの? …やめて ……やめてよぉ」

涙ながらでそう訴えることしかできない結標淡希。
声の主、[M000]が言い放った砂糖のように甘くて親よりも優しい言葉だった。

【そう! 君達は誰かを傷つけることに怯えなくてもいい!】

【君と!私と!君達は! 共に等しく“仲間”なのだ!】

これが“仲間”への仕打ちなのだろうか?

傷つき、羽をもがれ、びっこをひいて歩くことしか出来ない結標淡希。
けれどそんな能力者は[組織]にとって[科学結社]にとって[M000]にとって無用の長物以外の何者でもなかったのだ。

無線機の向こうからは情報が錯綜しているのだろう。
何事かを問われて、それに怒鳴るように返事をする[M000]の声が漏れ聞こてきた。

『あ!? 先発部隊? 馬鹿か貴様! そんなものは放っておけ! 今は[残骸]の回収が最優先だ!!』

そして同時にブレーキ音のような悲鳴が無線機のスピーカーにハウリングを起こした。

『クソックソッ! ちくしょう!! 警備員《アンチスキル》の動きが早すぎだ! …まさか [A001]! 貴様裏切ったのか!?』

そんな事を言われても結標淡希は知らない。
知るわけがない。
だから、結標淡希は訴える。
届いてくれと訴える。

「知らない… 知らないわよそんな事… ねぇ…お願い。 お願いだから“私”を…“私達”を助けてよ…」

返ってきたのは…・・・[M000]の罵声だった。

『うるさい黙れっ! あぁそうだ! 先発部隊なぞ無視しろ! ちっいいか[A001]! 今から向かってやるからそこを動くなよ!
 [残骸]だけは死んでも守れ! お前ら“バケモノ”の代わりはいくらでもいるが[残骸]の代わりはないんだからな!!』

そう[M000]は罵声を浴びせ指示を押し付けて。
そしてブチンと無線機が音を立て、通話が終了したことを結標淡希に突きつける。

諸とも切り捨てられた。
自分も。 “仲間”も。 儚い“望み”も。
全ては結標淡希が今引きずっている[残骸]に劣るものであると判断された。

最後の希望が砕かれて、それを支えにしていた足がもう限界だとでもいうように立ち続けることを放棄する。
ペタンと座り込んで、結標淡希はうつろな笑い声をあげた。

「・・・は・・・あは・・・…あはは…」

また言われた。

“バケモノ”

それが嫌で、”それを無くしてくれると言っていた[組織]すら彼女を認めはしなかった。
結標淡希からすればよっぽど組織のほうが“バケモノ”だ。
命を手駒として扱い、失敗をすれば切り捨てられた。

ボロボロと涙を流しながら結標淡希は自分の肩に両腕を巻きつける。
そうでもしなければ自分が消えてしまいそうで。
絶望で死んでしまいそうで。

「いやだ… いやだよぉ… なんで…なんでこうなったのよぉ……」

だから、結標淡希は涙でぐしゃぐしゃになってただその場に蹲り泣くことしかできなかった。

■学園都市・総合ビル前

そこには和やかな雰囲気の少年少女達がいた。
上条当麻、御坂美琴、白井黒子、行橋未造の4人は一つ所に集まって今後どうするかという相談をしていたのだ。

「あ、そういや… 都城先輩は何処行ったんだ?」

愛しのお姉様の胸元に飛び込んでスリスリ頬ずっている白井黒子に若干ヒきながらそう上条当麻が行橋未造に問いかける。

「王土? 王土なら話の続きをしにいったんだよ☆」

そう言ってエヘヘと笑う行橋未造。

確かに都城王土は言った。


【なんともまぁせっかちな娘だ。 この俺がまだ話している途中だと言うのにな】


そう、都城王土が話すと決めて話をしたのならば、それを終わらせるのは都城王土でなければならない。
第三者の都合でそれを中断などということは決して許されない。

行橋未造の言う「話の続き」がなんであるか察した白井黒子はガバと振り向いた。

「待ってくださいですの! 私も向かいますの!」

白井黒子は、あの赤毛の少女の気持ちが判る。
それは能力を持つものならば誰しもがその胸に秘めている想いなのだ。
だから白井黒子は赤毛の少女を止めたい。

あの赤毛の少女の慟哭のような願いを白井黒子は肯定出来ないけれど、それでも理解は出来る。

彼女は。
結標淡希という名の少女は。

ほんの少し、ほんのちょっとだけ道を歩み間違えただけなのだ。
人は人と繋がって自分を認識する。

白井黒子は御坂美琴と出会わなければ。
御坂美琴は上条当麻と出会わなければ。

それこそ御坂美琴や白井黒子が能力を呪い“チカラ”を呪っていてもおかしくはない。

今にも走り出しそうな白井黒子だったが、その肩を優しくショートカットの少女が押し留める。

「事情は聞いたから大体わかるけどさ。 …アンタもうボロボロじゃない」

御坂美琴はそう言いながら白井黒子の身体を案ずる。
放っておけばこの後輩はどんな傷を負ったとしても信念を貫こうとするだろう。

「心配ご無用ですのお姉様! 黒子はもう大丈夫ですの! 演算も今ならば恐らく出来るでしょうし…何より放ってはおけませんの!」

この細い身体のどこにそんな意志が眠っているのだろうと御坂美琴は思う。
実は白井黒子のその信念は“お姉様”がいるからこそなのだが、それに気付かない御坂美琴は苦笑いをするしかない。

しょうがない、そんなら私も付き合うか、と御坂美琴が思った時だった。

「んー… でもね☆ それちょっと無理かも☆」

白い仮面をつけた行橋未造が笑った。

「えっと… そりゃまたいったいぜんたいどゆことですか?」

唐突にそんな事を言った行橋未造に上条当麻が不思議そうな声をかける。
そんな上条当麻に向かって行橋未造はひいふうみいよと指を折って。

「えへへ☆ あと30秒もすれば判るんだけどまぁいいか。
 防弾仕様のバンが5台。 内部には銃火器で武装した人間が平均5人ってところかな?」

それは警備員《アンチスキル》ではない。
彼等は装甲車を使っているのだ。
それが意味することを何となく理解しながら上条当麻が問う。

「…それって …つまり」

そんな上条当麻に向かって行橋未造がエヘヘと笑って答えた。

「うん☆ 白井さんが言ってた[組織]ってゆーのじゃない? ボクはよく分からないけどさ、多分それだよ☆」

何故こんなことを知っているのか。
それは行橋未造の“異常”、『狭き門《ラビットラビリンス》』に起因する。

行橋未造は“人の心を読む”ことが出来る。
厳密に言えば“思考を読む”といったほうが正しいだろう。

人間の体内外から漏れ出る電磁波をその皮膚で“受信”するのだ。
そしてそれはその実、人間相手に使うよりも適した相手がいる。

機械だ。
ノイズが混じりやすい人間の思考よりも電磁波の塊である精密機械を相手取る時のほうが行橋未造はその“異常”を発揮できる。
いうなればそれこそが行橋未造の真骨頂である。

そう。
行橋未造は電磁波の塊で精密機械である“携帯電話”を御坂美琴に借りていた。

ならば出来る。
学園都市に通じている端末からありとあらゆる情報をその目にすることが出来る。

御坂美琴が電子の世界に“侵入”をすることができるのならば。
行橋未造は電子の世界で“閲覧”をすることができるのだ。

行橋未造と同じことを“超電磁砲”である御坂美琴が出来るのか?
否、それは不可能である。

以前、御坂美琴に向かってそのようなことを聞いた子供がいた。
電話のように遠方にいる相手と“意思の疎通”が出来るのか?という疑問に御坂美琴は笑って無理だと答えた。
脳波の波形が近似しているならばともかくとして。
“意思の疎通”どころか相手の居場所すら判るわけがないと。

だが、例外は存在する。
それは都城王土の“異常”である『創帝《クリエイト》』にも同じことが言える。

『異常《アブノーマル》』は大抵の場合たった一点のみに絞られて特化していると言われている。

都城王土も行橋未造も“超電磁砲”のような大出力の電力を体外に放射したり、バリアーのように電磁波を貼れるわけではない。

けれど…学園都市風に言うならばだ。

御坂美琴は“汎用型”で応用のきく『電撃使い《エレクトロマスター》』と呼ぶならば。
都城王土と行橋未造は“超特化型”の限定的な『電撃使い《エレクトロマスター》』と呼ぶべきが相応しい。

もっとも…都城王土ともう一人の“生徒会長”に限ってはそれすら例外ではあるのだが。

胸に広がるその怒りを代弁したどころか利子をつけたような徹底的なその破壊を見て結標淡希は静かに息を吐いた。
自分ではあのような恐怖を与えることなど決して出来ないだろう。
都城王土と一方通行という規格外の存在が自分の敵とならなくて本当に良かったと結標淡希は思う。

そして、当の本人達は。

「む…さすがに死んだか? おまえはどう思うのだ一方通行《アクセラレータ》?」

その凄まじい破壊の後を見ながら何故かのんびり話していた。

「まァ…学園都市製の車使ってんならだが、運がよけりゃァギリギリ生きてんじゃねェのォ?」

息のあった連携プレイの感想戦をするように声を掛け合うその姿が面白くて結標淡希はクスリと笑う。
その小さな笑い声を聞いて、金髪紅眼の男と白髪紅眼の男が同時に振り向いた。
クスクスと笑う結標淡希を見て、その笑いの原因を察した一方通行がガリガリと頭をかく。

「…あァーだりィ。 つーかよォ別にアレがどうなろうと知ったこっちゃねェわァ」

そう言って一方通行が踵を返して。

「おい…“王土ォ”。 まずはテメエは殺すのは後回しにしてやンよ。
 まずはヒーロー気取りの“三下”をブッ殺して…… で、そン次がテメエだ。 忘れンじゃあねェぞォ?」

背を向けたままそれだけ言って一方通行はゆっくりと杖をついてその場より去っていく。
その背に向かって都城王土が面白そうに言葉をかけた。

「覚えておいてやるぞ一方通行《アクセラレータ》。 何、なるべく早く来いよ? 俺が強くなりすぎる前にな」

それを聞いた一方通行はくだらねェ、と言わんばかりに後ろ手を振って。
そして不規則な杖の音を響かせながら去っていった。

見て…ここは魔界都市とは大違いね うむ…我々は何か忘れていたようだ 愚かな人間共にもまだこのようなやつがいたのか
大佐!見つけました!雷の刀を!

でかしたぞピニョ

ピーピー



ふふふ(笑)魔界都市から遥々きたものよね大佐さん(笑)クスクス(笑)

貴様!

あら(笑)私を忘れたわけじゃあるまいね大佐さん(笑)雷の刀は渡さないわよ(笑)

毎回毎回邪魔をしやがって

あらあら宝を見つけてくれる発見器ルパンのようね

フジコー(笑)フジコー(笑)

>>844
闇の中で尚、自らを主張するように白く、白い、白い一方通行がその場から姿を消して、10秒ほど経った頃だろうか。

ようやくすべてが終わったと理解して緊張がとけ、結標淡希は小さく長い溜息を吐いた。
そして、こっそりと隣に立っている都城王土を見上げる。

そういえば何故この金色の男はここにいるのだろうか?
この金髪紅眼の男は[残骸]なんてどうでもいいはず。

そんな結標淡希の心中で生まれた疑問に気がついたように都城王土がニヤリと笑う。

「おい、そんな顔をするなよ結標淡希。 俺の話はまだ終わっておらんのだからな」

そう。
都城王土の話はまだ終っていない。
だから都城王土はここにいる。
不思議そうな顔をした結標淡希の正面に立って、都城王土は朗々と謳いかけた。


「結標淡希よ。 世界は平凡だと思うか? 未来は退屈だと感じるか? 現実は残酷だと悲しむか?」


都城王土はそう問うが返事を望んでいるわけではない。
ただ都城王土は己の信じる己の真実を高らかに謳いあげるだけだ。


「安心しろ。俺がこの世にいる以上、世界は劇的で未来は薔薇色で現実は刺激的だ。 なんせこの俺が中心なのだからな」


.

ニヤリと都城王土は笑ってその指先を結標淡希の胸におく。
トクントクンと鼓動を続けている結標淡希の心の臓の響きを感じて都城王土は笑うのだ。


「貴様達の夢はすなわち俺の所有物でもあるのだ。 その夢、その身で以て叶わぬのなら、全てを俺に献上しろ。
 俺の気が向いたら俺が叶えてやってもよい。 なに、叶えるかどうかは俺が決めるがな」


それは傲慢で不遜で傲然で大胆不敵で泰然自若な宣言だったけど。
だけどそれは結標淡希の心の奥底、ひび割れていた魂を優しく暖めてくれた。

でも甘えるわけにはいかない。
結標淡希はまだ最後まで抗っていない。
胸に灯ったこの夢を。希望を。信念を。
自分一人で叶えたいのなら、都城王土に依存してはダメなのだ。
だから結標淡希は万感の思いを込めて礼を言う。


「…ありがと。 …でもさ。 …アンタに…都城王土に私の夢を献上するのは最後の最後にするね」


そうだ、結標淡希には共に視線をくぐりぬけた戦友がいる。
“あの子達”を結標淡希は絶対に見捨てない。


「だってさ、まだ私には。 まだ私のことを信じて待ってくれている“仲間”がいるんだし」


そう言ってゆっくりと大輪の白い花が咲くような笑みを見せる結標淡希はとてもとても美しかった。

その笑顔を見て、都城王土は感心したように小さく呟いた。

「…ふむ」

それだけ言ってただこちらを見つめる都城王土の視線に何故か胸が高鳴ってしまい慌てて結標淡希は問い返す。

「な…なに? …なによ?」

もしかして自分は変なことを言ってしまったのだろうか?
いやそんなはずはない。
でもそれならばどうして都城王土はニヤニヤと笑っているのだ?

混乱して立ち尽くしたままの結標淡希に向かって都城王土は笑いながら賛辞を述べる。


「なに。 中々いい気概だと思ってな。 涙だの鼻水だので笑いたくなるような酷い顔をしているが…
 まぁ俺の視界に存在することを許してやってもよいということよ」


そう言って都城王土は呵々と笑って。
更にもう一言意地悪そうに付け加えた。


「それとだ。 まだ成長途中のようだが。 だがまぁその身をもってこの俺を楽しませようというその心がけを褒めてやろうと思ってな」


「……え゛?」

そう言われて。
やっとようやくついに結標淡希は今の状況に気がついたのだ。

ブレザーがずり落ちてるなどいうレベルではない。
その白くきめこまやかな肌を、ふっくらとした女性らしい胸を盛大にまろびだしていて。
スカートなんてもう本来の機能を失い、布のベルトかと言いたくなるようだ。
しかも。
しかもしかも“心臓の直上”に都城王土の指先が触れている。

心臓の直上っていうことは“それはつまり都城王土が結標淡希のその瑞々しい果実のような胸に手をあてがっている”ということだ。

瞬間、結標淡希の頭が沸騰する。
顔どころではなく耳たぶやら首筋やらも真っ赤になって結標淡希はバババッ!と距離をとって抗議した。

「ちょっ!?ちょっと! 見ないでよ! ていうか気がついたらさっさと言いなさいよ! そもそも男なら服くらい貸しなさいよ!」

だが、そんな文句も都城王土にとっては意味が無い。


「なに、そう謙遜するでないぞ。 俺は高千穂君や雲仙二年生のように巨乳だ貧乳だので区別はせん。
 例え凹凸の感触がいささか不満だったとしてもそれはそれでまた一興というものだ」


ウムウムとそう頷く都城王土。
そして、肌を赤く上気させた結標淡希を見て片目をつむりながら面白そうに気付いたことを口にする。


「結標淡希よ。 おまえ随分と面白いぞ。 赤毛で赤い頬で赤い首筋で赤い肌とは芸が凝ってるな。
 ならもういっそのこと結標“赤希”にでも改名したらどうだ?」


もうそれが結標淡希の限界だった。

「…ッ! バ、バカッ! アンタバカじゃないの!? もうアンタなに言ってるのよぉぉぉぉ!!!」

結標淡希はなんか不出来な体育座りのような珍妙なポーズをとりながら一生懸命、都城王土に文句を言う。

ある意味もはや全身急所だらけで動くとも出来ない。
立てば上半身の胸とか下半身の下着が丸見えで、座ってもやっぱり上半身の胸とか下半身の下着が丸見えなのだ。

服を貸してよ! 断る。 貸してったら貸してよ! 断固として断る。 などといった文字におこすのも馬鹿らしい口喧嘩が数分続く。

で、やっぱり結標淡希は都城王土から服を剥ぎ取ることが出来なかった。
まぁある意味それは当然だろう。
北風と太陽だって旅人の服を剥ぎ取るのは太陽だし、ましてや太陽のような都城王土が服を剥ぎ取られるのをよしとする訳がない。

結局。
結標淡希は『座標移動《ムーブポイント》』を使って、そこらに平伏したままの黒いスーツを来た男達から服を徴収することにした。
さすがにシャツを着るのはどこか気持ちが悪くて、素肌の上に黒いジャケットを羽織り、ウエストがぶかぶかなズボンを履くことにして。


「ッ!? だから見ないでってば!!!」


いそいそと着替えようとする結標淡希を都城王土は当然のように面白そうに笑って見ていた。
女子の着替えを見て、目を伏せるとか明後日の方向を向くとかいったデリカシーが都城王土にあるわけはない。


『座標移動《ムーブポイント》』で服を剥ぎ取ることが出来たのだ。
ならそれを応用して服を着ればいいのに結標淡希はそんなことにも気付かない程恥ずかしくて。

結標淡希は真っ赤になりながら都城王土が“見守る”なかで生着替えをお披露目することになってしまったのだ。

きっとそこに行橋未造がいたら少しだけ頬を膨らませながら

『王土はそんなんだからフラれちゃうんだよ!』

なんて類のことを言っていたかもしれないけれど、残念ながら行橋未造はここにはいない。


そしてようやく着替えが終わって、ずり落ちるズボンを片手で抑えながら結標淡希が自分を取り戻す。

その時、都城王土が不意に顎で“ソレ”を指し示しながら問いかけた。

「おい結標淡希。 そう言えばだ。 アレはどうする?」

乙女の一大事である生着替えを一部始終見ていたことなどもう忘れたかのようなその口調。
何だかこれ以上文句を言うのも馬鹿らしく、肩を落としながら結標淡希が言われたままに“ソレ”を見た。

そこには。 [キャリーケース]が[残骸]が転がっていた。

何の役にも立たないそれ。
むしろ[組織]の[M000]の残り香のように思えて結標淡希は鼻にシワを寄せる。

例え今自分がこれを奪って逃げたとしても、学園都市と交渉する術はない。
そしてそんなことをしたら、また白い死神がやってくるだろう。
よく考えてみると、きっと一方通行《アクセラレータ》は結標淡希が言うだろう答えを予見して、都城王土がするだろうことを確信していたから去ったのだろう。

だから結標淡希はいらないという。
そんなものは必要ないという。

“仲間”は自分の手で救うのだ。
泥水をすすって、苦痛に塗れて、後悔の念に苛まれてもそれが結標淡希の責任なのだから。

.

「“ソレ”は私の間違い。 …だからさ。 アンタに頼んでもいいかな?」


それを聞いて、都城王土はクハハッ!と笑った。


「よく言った。 ならばそれは俺が請け負ってやろう。 なに、気にせんでもよい。 これは俺の気まぐれだ」


それと同時にフワリと[残骸]が宙に浮く。
[残骸]は超高気密性の各種宇宙線対策すら施してあるスペースシャトルの外装よりも硬い近代科学の金属結晶で守られている。

だが、だからといってそれがどうした?
所詮そんな結晶も太陽に突っ込んでしまえば等しく燃え尽きるだけなのだ。

当然、都城王土にとってそれの破壊など赤子の手をひねるよりも容易い。
さらに別段、都城王土は言葉を口にしなければ『創帝《クリエイト》』が使えないわけではない。
ましてやいちいちそんなことに口を開くのも面倒だ。

だから。

宙に浮いた[残骸]は無言の都城王土と無言の結標淡希が見つめる中で、何の前触れもなくただ呆気無く粉砕され四散した。


例えるならそれは特大の満塁ホームランを目の前で見たように爽快で。
木っ端微塵となった[残骸]はまるで過去の惨めな自分の“残骸”のように結標淡希は見えて。
結標淡希はゆっくりと大きく息を吐いて、過去の哀れな自分に別れを告げる。

そして…それが意味することは。
もうそろそろ舞台の幕が降りるということ。
豪華絢爛、華麗奔放、大盤振る舞いな、どんな夢よりも刺激的な一夜限りの大舞台の終りを告げるブザーのように。
遠方からは警備員《アンチスキル》の乗る装甲車のサイレンが響いてくる。

だから結標淡希は別れを告げる。

「…最後までありがと。 でもね、ここからは私の一人舞台なの。 だからさ。 …アンタはもう行きなよ」

そう静かに、けれどその瞳に信念の炎を燃やして結標淡希はそう別れの言葉を告げる。

「………」

都城王土はそれを聞いて何も言わず。 ただ黙して静かに結標淡希の続きを促す。

「あと少しで警備員《アンチスキル》がここに来る」

そう言って結標淡希は叱られた悪戯っ子のように少し笑う。

「私は[組織]の一員で。 風紀委員《ジャッジメント》を思いっきり痛ぶって。 ビルをぶち壊したんだ」

結標淡希は過去の愚かな自分がしでかした行為の責任をとると決めたのだ。

「だから私はここに残る。 そして全部話して、罰を受ける」

結標淡希は迷わないし、もう逃げない。

「このまま逃げ出したらそれこそ“仲間”を裏切っちゃうことになるしね」

だから結標淡希は都城王土に別れを告げるのだ。

そして都城王土はそれを止めない。
止める気もない。

ただ鷹揚に頷いて結標淡希を肯定するだけだ。

「なるほど、いい意地の張り具合だな結標淡希。 ならば俺も安心しておまえにこの場を譲ってやろう」

相も変わらず最後の最後まで我を突き通す都城王土を見て、結標淡希は面白そうに眩しそうに羨ましそうにクスリと笑う。

「…ね。 普通、こーゆー時はさ。 俺もここに残る!とか。 また会おう!とか言うべきなんじゃないの?」

そう言って笑う結標淡希を見て、都城王土も笑う。

「おいおい。 なんだよ結標淡希。 俺にそんなことを言って欲しかったのか?」

だけど、そんな言葉は都城王土が口にすべき言葉でないのは判っている。
だから結標淡希は満面の笑みを浮かべて、こう答えるのだ。

「フフッ…全然! そんなのアンタには似合わないよね」

そして、トンッと軽く大地を蹴って。 
太陽のように巨大な男に別れを告げる。

「じゃあね“王土”。 私は忘れないよ。 都城王土という男を。 絶対に絶対に忘れないからね」

その言葉と共にゆっくりとカーテンが降りる。 舞台のどん帳が降りていく。
もうこれで終わりだ。
長い長い舞台が今この瞬間、完全に完璧に十全に終りを告げたのだ。

けれど…実はまだもう少しだけ。 カーテンコールが残っている。

■翌日・とある病院

学園都市どころか世界で5本の指には入るだろうと言われている名医がいる病院の待合室。

なんとそこにはほっぺたに真っ赤なモミジを貼りつけて泣きそうな顔をしている上条当麻が!
そしてその隣に座っているのはツヤツヤとした幸せそうな顔のインデックスが!

昨夜の一戦は終わってからが大変だった。
急行した警備員《アンチスキル》に昏倒した男達の素性を事細かく説明するも信じてもらえそうになく。
どうしようと顔を見合わせた上条当麻達を救ったのは鉄装綴里だった。

御坂美琴と白井黒子の二人の少女と関わったことのあるメガネの警備員《アンチスキル》は事情をすべて聞いてくれて。
隊長の黄泉川先輩とは別行動をとっているので後日またお話を聞かせてもらうと思いますけど、と笑いながら信じてくれた。
そしてようやく4人の少年少女達は解放されたのだ。

で、上条当麻は傷を負った白井黒子のお見舞いに来たのだけれど。
運悪く不幸にも結果的に偶然白井黒子の着替えを覗いてしまうこととなり、まぁそれは当然ながら猛烈なビンタを喰らって部屋から閉めだされているのだ。

「あぁ…不幸だぁ…」

ボソリと呟く上条当麻を見てインデックスがポンポンと慰めるように肩を叩く。

「気落ちしちゃダメだよとーま? 諦めなければ道は開けるっていうのはどの宗教でもどの世界でも共通なんだよ?」

それを聞いて上条当麻は、この暴食シスターが…、とプルプル身体を震わせる。

最高級の特選和牛が3キログラム。
さすがに幾ら何でもインデックスは全部食べはしなかったけれども。
半分の1.5キロは平らげて、しかも残りの半分は生焼けだか黒焦げだか良くわからない状況で保存されていたのだ。

こ…これはいったいどういうことですかインデックスさん?と聞いてみれば。
ごめんね…とーまの為に一番美味しい状態で保存してあげたかったんだよ?と殊勝に言われてはそれ以上責めることもできない。

だから上条当麻のお腹は今日もモヤシでいっぱいだ。
そんなモヤシ臭い気がしなくもない溜め息を吐いたその時だった。


「おいおい、なんだ上条。 俺が来たというのにその腑抜けた顔は何事だ」


自信満々の男の声が病院の待合室に響く。

「え? …あ、都城…先輩?」

病院と都城王土という組み合わせがまるっきり似合わなくて、思わずそう問い返す上条当麻だが。

「うむ。 俺だ」

そう言って頷く金髪紅眼の男などこの世に二人といまい。

「なに。 正直なところ退屈でな。 いい暇潰しになりそうだから俺が来てやったのだ」

そう言って何が可笑しいのかクククと笑う都城王土の隣には当然行橋未造がいる。

「えへへ☆ 昔の王土なら『俺じゃなくておまえが来い』とでも言いそうだけどね☆」

そう言って行橋未造が可愛らしく笑った。
当然仮面はつけていない。
都城王土が隣にいるなら行橋未造は仮面で己を隠す必要がないのだ。

.
「クハハ 言っただろう行橋? 俺は常に進化して俺の限界を超えているからこその俺なのだ」

そう言って、都城王土が白井黒子の病室のドアをガラリと開けた。
その自信に満ちた動きを上条当麻は止めることも出来ず。

上条当麻は“下着姿”の白井黒子を目撃してしまい、退出を強制的に促されたけど。
体を拭いて着替えるのならそりゃ当然“下着も外さなけりゃ”ならないわけで。

つまり、都城王土の目の前には上半身裸の白井黒子がそこにいたのだ。

「…なっ!? なななななっっ!!!?」

上条当麻の耳には素っ頓狂な声が届く。
あぁご愁傷さまです…都城先輩、と上条当麻は心のなかで念仏を唱えるけれど。


「…おい白黒。 幾ら何でもその胸は薄すぎるだろうが。 前か後ろか判らんぞ? もう少し成長しろよ」


お茶でも飲んでいたら確実に吹き出していただろうすんごい無礼な言葉を都城王土は口にしたのだ。

「くぁwせdrftgyふじk!!!!!!!」

悲鳴をあげながらバッグやら携帯やら鉄矢やら枕やらゲコ太ストラップやら(この時は病室の中にいたもう一人の少女が悲鳴をあげた)で都城王土を攻撃する白井黒子だが。
それらすべてを都城王土は苦も無くヒョイヒョイと躱しながら笑う。

「なに、それだけ騒げるなら問題あるまい。 あぁ白黒よ。 おまえ“も”牛乳を飲むがいいぞ」

そう言うと都城王土は、もう用はすんだと言わんばかりに背を向けて白井黒子の病室から退出をしたのだ。

そんな都城王土を見てインデックスはポカンと口を開けたままの上条当麻の袖を引っ張った。

「…ね、とーま? 女の子の着替えを見て文句を言えちゃうってどうゆうことなの? なんだかわたしには全然判んないんだよ?」

「いやいやそんなの上条さんが判るわけないじゃありませんか…」

凄すぎませんかこの先輩? なんかもう着替え姿が気に食わなかったら逆に叱りつけそうな感じですよ?、と上条当麻は思っていたら。

「えへへ☆ そんなことはない…とは言い切れないけど多分ダイジョーブだと思うよ☆」

何故か行橋未造が上条当麻の心の声に返事をする。

「…ん? あれ今俺口に出してた?」

不思議そうに眉をひそめる上条当麻だが、それに返事はなく。
それどころかさらに不可解なことを行橋未造は口にした。

「ねっ! それよりさ。 あのゴーグルをかけた女の子。 えっと…御坂妹さん?だっけ?
 あの娘のとこに行くのはもうちょっと“待っててあげて”よね☆」

そう言って行橋未造は可愛らしいイタズラを仕掛けた子供のように笑ったのだ。

「は、はぁ…? 了解ですよ?」

時間は有り余っているし、どうせそこらに散乱した白井黒子の私物も自分が拾うんだろうし。
だから上条当麻はよく判らないけどもとりあえず生返事を返しておいた。
そう。 これは都城王土も知らない。
行橋未造が自分で決めて自分で誘導して自分でセッティングした“二人の少女”の再会なのだ。
だから誰にも邪魔してほしくはない。
道化師はロマンチックな出会いの時間を演出することだって得意なのだ。

■とある病院・特別集中治療室

その病室にはベッドがなく、代わりにSF映画に出てきそうなカプセルがあった。
その中心でフワフワと浮かんでいるのは御坂妹だった。
絶対安静状態だというのに学園都市を駆け巡り、更には戦闘をしたせいで、今御坂妹はここから出ることが出来ない。

瞳を閉じてビスクドールのように液体の中に浮かんでいる御坂妹だが、側にある心電図からはしっかりとした鼓動を示すモニターがあった。

そしてその前には一人の少女が立っていた。

「最初は嫌がらせか冗談かと思っていたけれど…」

小さい呟きと共に強化ガラスの向こうにいる御坂妹の頬に触れるようにして手を伸ばす。
ウェーブ髪の少女の名前は布束砥信。

深い眠りについているのだろうか?
御坂妹はまぶたを閉じたまま液体に揺られている。

布束砥信は昨夜の事を思い出す。
自室にいたら突然携帯電話に謎のメールが飛び込んできたのだ。

宛先不明なだけでも怪しいというのに、文面は更に怪しかった。

【[残骸《レムナント》]?とかいうので“妹達《シスターズ》”のピンチ?かもしれないんだ☆ 暇だったらこっちにおいでよ☆】

たったそれだけの簡易なメッセージと添付された地図。
けれど気がつけば布束砥信は居ても立ってもいられず自室を飛び出したのだ。

言われるがままに走ってみれば。
そこには確かに情報通り、謎の黒服達が倒れ伏している。

惨状の中、それでも誰一人死んでいないその様を見て[学習装置《テスタメント》]を監修した布束砥信は確信を深めた。

“彼女”は“妹達”は決して人の命を軽々しく扱わない。
命令ならばともかく、“彼女達”は己の意志で人を殺そうとは望んでいない。

そして更にはもう一つ。
この針の穴を通すような精密射撃は間違いない。
きっと絶対恐らく“彼女”だ。

だから布束砥信は追った。
逃げ出そうとする黒服の男を。
絶対にもう[実験]は再開させないしさせるつもりもない。

そして、今。
布束砥信はここにいる。
再び舞い込んできた謎のメールを信じてやってきたのだ。

「indeed あれが誰の仕業だろうと構いはしないわ …だってこんなに嬉しいんですもの」

そう言ってもう一度強化ガラスを撫でると布束砥信はその場より去る。
きっと“彼女”は自分のことを恨んでいるし、もしかしたら忘れているのかもしれない。

けれどそれでもいい。
自分は縁の下で支えるだけでいい。
きっと“妹達”には大事な人がもういるはずだ。

そう思って布束砥信は姿を消して、けれどそれを待っていたかのようにパチリと“彼女”が液体の中で目を開いたのだ。

.
「フッフッフ…甘いですね、とミサカは狸寝入りの上達っぷりを自画自賛します」

液体の中で御坂妹はにんまりと笑う。
けれどもその笑みはすぐに終わる。
液体をかき分けて、ゆっくりと布束砥信が触れた場所に手を当てた。

どれほど言葉をかけたかった。
どれほど感謝を伝えたかったか。
どれほど笑顔を見たかったか。
私は“妹達”はこんなに成長したのだと、どれほど言いたかったか。

だって布束砥信はある意味で親のような人なのだ。
今の自分達は布束砥信がいたからここにいるのだ。

けれどそれは伝えるのは今じゃない。
薄暗い部屋の中で、液体の中で浮かんでいる今じゃない。

布束砥信と会うのならば、それこそ“太陽”の日差しの下で出会うのが一番だろう。
だからここは我慢して、グッと言葉を飲み込んで、知らないフリをした。

どうやって声をかけてやりましょうか?と御坂妹はミサカネットワークで案を募集する。
スカートめくり! 後ろから目隠し! パンをくわえて曲がり角! 途端、大盛況に盛り上がる“妹達”による脳内会議。

そういえばあの金髪の男性と小さな子供は誰なんでしょう?ふと御坂妹はそう思う。
カッコイイのでは? 正直怖いです。 ちっちゃいお子さんがお気に入りです。 そんな思いを聞きつけてあっという間に脱線しだす会話は布束砥信の望む年相応の少女そのもの。

「どちらにしろ…きっとあの方達は敵ではないはずです、とミサカはそう思います」

そう呟いた御坂妹の意見には1万の“妹達”による満場一致の肯定が返ってきた。

■とある病院・個室

「あァ~…だりィ。 …よォそういやァヨミカワはどこ行ってンだァ?」

心底気怠そうな声がどうでもいいようにそう問を投げかける。
当然、この特徴的な声の主は一方通行《アクセラレータ》である。
そんな一方通行に返ってきたのは子供をたしなめるような打ち止め《ラストオーダー》の声だった。

「あ、今ネットワークを駆使して劇的な出会いを検索してるからあなたの相手はちょっと無理かもってミサカはミサカは言ってみる」

ヒクヒクと一方通行の頬が引き攣る。

「…あァァァ!? おいこらクソガキィィ!? 逆だろうがそりゃァ!!!」

同時に枕をぶん投げる音やキャイキャイとはしゃぐ音が響きだして。
そのうちようやくじゃれあうのに疲れたのだろうか、打ち止めがその問に答えだした。

「もぉーしょうがないなぁ。 ヨミカワは[科学結社]の連中から話を聞き出すために今も警備員《アンチスキル》本部にこもってるんだよ、とミサカはミサカは教えてあげる」

目の下にクマをつくってお肌の年齢がやばかったかも、とどうでもいい情報も一緒に伝えてくるがそれは無視。

「はァーン。 で、なァーンでそれがこんなに時間かかってるンだァ?」

なんとなく予測はつくけどそれでも一方通行は問いかける。

「んーとね。 まず[科学結社]のリーダーがとんでもない重症で話を聞き出すだけで一苦労なんだって、ってミサカはミサカはあなたの疑問に答えてあげる」

ゴミクズの癖に随分としぶといもンだなァと笑いそうになって、ふと打ち止めの言葉が気になった。

「…“まず”? つーこたァまだ他にもあるのかよ」

そう問う一方通行に打ち止めがコクンと頷いて、[残骸]の事件の本質を説明した。

「ヨミカワが言うには、[科学結社]の目的は要するに[残骸]に“超能力”を宿して学園都市に対抗したかったんだって、ってミサカはミサカはそのままあなたにお伝えしてみる」

そう、結局のところそれが[科学結社]の[組織]の[M000]の目的だった。
とどのつまりは“チカラ”への対抗手段を欲していただけだった。

[残骸]に“チカラ”を押しこめば絶対に制御ができる。
機械に意志はないのだから、“バケモノ”なんかよりも簡単に制御できる。
そうすれば学園都市にだけデカイ顔はさせない。

自分で手を汚す覚悟もない癖に“チカラ”だけを欲していた連中が[科学結社]と名乗っていたのだ。

「カッ! …くだらねェ」

どうでもいいと笑いながらゴロリと一方通行は布団に横になる。
結局はあいつらの自業自得だったっつーことだろ、と一方通行は笑う。

求めるならば奪われることもあるという“人間”の。 否、“生物”のルールを忘れたんだから同情の余地はない。

「つゥーかよォ… 退屈すぎてたまンねェよ。 おいクソガキ、なンか面白いことやってみろやァ」

そんな無理難題を打ち止めに一方通行が押し付けて。
それに返ってきたのはやっぱりタイミングのよすぎる“アイツ”の声だった。


「クハハ! 丁度良かったな一方通行《アクセラレータ》。 喜べ。 俺が来たのだ。 退屈なぞはさせんぞ」

堂々と怖じることも遠慮することもなく部屋に入ってきたのは都城王土である。

「……ンだよ。まァた“王土”かよ 随分とまァ、テメェも暇してンだなァ?」

そう言ってベッドに寝転がったまま挑発するように笑う一方通行。
けれどそれを聞いて都城王土も楽しそうに笑う。

「クハッ! こんな昼日中からベッドに寝転がってるおまえ言われたくはないわ」

それを聞いて一方通行がガバとベッドからその身体をおこす。

「あァ!? うっせェよコラァ! 別に好きでこうしてンじゃねェンだよォ!」

そしてポンポンと罵詈雑言と挑発が飛び交う中。
行橋未造と打ち止めはニコニコとその様を見ていた。

「あの一方通行があんなに楽しそうなのは初めて見たかもってミサカはミサカは親のような気持ちになって頷いてみる」

そう言って打ち止めが笑って。

「えへへ☆ そういえば高千穂君も言ってたなぁ。 『俺より強い奴がいるだけで嬉しい』ってね☆」

そう言って行橋未造が笑った。
しかし、ふと打ち止めがその言葉に気になって聞いてみることにした。

「あれ?ちょっと待って?この場合強い方ってどっちなの?ってミサカはミサカは答えを確信してるけども一応聞いてみる」

そう打ち止めに問われて。

「エヘヘ☆ おかしなことを言わないでよ。 そんなの当然決まってるじゃないか☆」

行橋未造が間髪いれずにそう答えて。
気がつけば行橋未造と打ち止めはメラメラと燃え盛って対立していた。

「そりゃまぁ?あなたの金髪さんも強いかもしれないけど?でもウチの一方通行のほうが絶対強いから、ってミサカはミサカは言い切ってみる!」

そう打ち止めが一方通行最強説を推せば。

「エヘヘ☆ そんな訳ないじゃないか☆ 王土は絶対者なんだから王土のほうが強いに決まってるよ☆」

行橋未造は都城王土絶対者説を推す。

そんな感じでガチンと額をぶつけて己が信じている人の強いところやカッコイイところを言い合ってるその姿を見て。

当の本人達の熱はそりゃもう完全に冷めていた。

今の議論の内容は一緒に何回お風呂に入ったのか?という議題になっていて、それがどうして強いのかという結論になるのかお互い判らぬまま言い争う。

「エヘヘ! お風呂に入るときにバスタオル巻いてるの? それならボクの勝ちだよ? だってボクは王土にならどこを見られても構わないんだからね☆」

えっへんと勝ち誇る行橋未造に打ち止めが懸命に抗議する。

「ち、違うから!あれは一線を超えるときはロマンチックなムードでって決めてるから巻いてただけであって!
 ミサカもミサカも別にどこを見られても構わないんだから!」

じゃあもう今からお風呂に入るから見ててよね!とか言い出しそうな打ち止めを見て一方通行がため息をつく。

「…おいコラなにコッパズカシイこと言ってンだァ? クソガキは黙ってろ」

その言葉と同時に打ち止めの顔面を枕で抑えつける一方通行。
ぷぎゅ!といった鼻声と共にバタバタと暴れる打ち止めの耳元で一方通行が叱る。

「おいコラテメェ。 これ以上変なこと言ったらよォ… マジもマジ、大マジで怒ンぞォ!?」

そう言われ、ようやく暴れるのをやめて打ち止めはコクンと枕と共に頷いた。

「チッ… 判りゃあいーンだよ判りゃあな」

そう言っておとなしくなった打ち止めの顔面から枕を放し、自分の枕と打ち止めの間にヨダレの橋ができてるのを見た一方通行がゲッ!と呻いて。
行橋未造も行橋未造で都城王土にたしなめられていた。

「おい行橋よ。 いい加減にしろ。 俺の従者であるおまえが俺と共に風呂にはいることなど何の自慢にもならんだろうが」

凄まじい理論でそう都城王土が行橋未造を叱れば。

「う、うん…ごめんね王土」

行橋未造はショボンとした顔で何故か謝る。
この場に第三者がいればそれこそ全力でもってブッ飛ばされるだろうそんな騒動も収まって。
ようやく、改めて一方通行と都城王土が対峙した。

「…で? 一体何しにきやがったンだァ“王土ォ”?」

そう問われて都城王土がようやくここに来た目的を口にする。


.
「なに、この俺は施しなど受けんのだ。 覚えているか“一方通行《アクセラレータ》”?」


【おい、一方通行《アクセラレータ》 忘れ物だぞ?】

地面に転がってるのは缶コーヒーがつまったコンビニ袋。

【…いらね どっかの馬鹿とやりあったおかげで充分目が覚めちまったンでなァ 欲しけりゃあくれてやンよ】


つまりはたったそれだけの理由だった。
都城王土が行橋未造の籠のようなリュックから“ソレ”を取り出して、ドン!とサイドテーブルに置く。

けれど“ソレ”は缶コーヒーではない。
都城王土はニヤリと口を歪めてこう言った。

「俺が見るに、どうもおまえは生っちろい。 きっとカルシウムが足りてないのだ」

何せちょっとばかり唇が切れただけで涙ぐむのだからな、と都城王土は意地が悪そうに笑う。

サイドテーブルに置かれているのは牛乳だった。
愛飲家は多く、どこぞの巨乳でメガネな風紀委員《ジャッジメント》もそれを飲むのは欠かさない。

一方通行はテーブルに置かれた“ムサシノ牛乳”を見て、プルプルと肩を震わせて。

「テメェこら“王土”ォォッッ!! 今ここでぶっ殺すぞコラァァァァ!!」

枕をぶん投げて都城王土を追い返した。

なんでコテつけたん?

■とある病院・個室

「おお怖い怖い。 何もあんなに怒る必要もないだろうが。 なぁ行橋?」

そう笑いながら都城王土が歩く。

「エヘヘ☆ あれはまぁ怒ってもしょうがないと思うよ☆」

トテトテと都城王土の後ろを歩きながら面白そうに行橋未造が笑う。

結局、一方通行は完全にへそを曲げてもう話そうともしなかった。
けれど“ムサシノ牛乳”を投げつけなかったところを見れば、きっと今日か明日にでも飲むのだろう。

ならばまぁそれでもよいか、と都城王土は思った。

そんな都城王土の後ろに付いていく行橋未造はふと思った。
今、都城王土は何処に向かっているのだ?
もう都城王土は都城王土と関わった人間全員と話をして触れ合ったはずだ。

ここにいる人間を行橋未造は見たことがない。
そして都城王土はある病室の前に立ち止まり自分の部屋のように遠慮なくその中に足を踏み入れながらこう言ったのだ。


    「この俺が来てやったのだ。 まさか忘れたなどとは言わせんぞ?」


【じゃあね“王土”。 私は忘れないよ。 都城王土という男を。 絶対に絶対に忘れないからね】


そこには苦笑をして都城王土を迎える結標淡希がいた。

これで完全に終わりだぁぁぁ



>>926-929
ミス
何故かgoogleIMEからマイクロソフトIMEになってそのまま書き込んじまっただけ。
予測変換にtab使ってるんだよう

え、このスレで終わりって意味じゃなく>>931で終わりってこと?

>>935
その通りですはい。
とりあえず[残骸]編に関してはまぁこんな終わり方がいちばんキレイかなと。


いつ書けるかわかんないけど嘘予告でいいなら1レスいっとくかい?

○予告!(未定)

大覇星祭。
それは学園都市で行われる超大規模な体育祭の名称である。
能力を駆使した学生達の熱血バトル!
燃える魔球や凍る魔球、消える魔球は当たり前。

そして優勝候補の長点上機学園は今年も絶対の自信をもっていた。
なんせよりにもよって今年は三人の強力な男女がいる。

知略の布束砥信。 肝略の行橋未造。 そして絶対者の都城王土が率いる長点上機学園!

それに立ち向かうは上条当麻率いるとある高校、更には御坂美琴率いる常盤台中学が!
佐天涙子や初春飾利が率いる柵川中学だって黙っちゃいない!

更には一方通行がこっそり覗きに来てたり。
御坂妹が布束砥信と劇的な再会を虎視眈々と狙っていたり。
チアガール姿のインデックスを見て行橋未造が対抗心を燃やしたり!

それだけでも大変なのに、今度は魔術側も関わってくるから上条当麻は超大変。
「刺突杭剣」と呼ばれる聖人を殺す霊装を巡って都市に潜入したシスターと運び屋とのバトル!

そしてやっぱり当然ながらそれを知った都城王土は黙っちゃいない。
俺の知らないところで俺が知らないことをするなとばかりに事態に関わったからもうやばい!!

次回!

 「ねぇねぇなんで結標淡希さんはお弁当を2つ用意してるんですか?」

予定は未定!

あと数十レスだしどうせなら何か意見とかくれたらうれしいかも。

意見なら内容に関しては別に何でもいいす。

>>1
原作尊重とかそこらへんどう考えてんの?

あと億康とアーカード以外で書いてきたSSあるなら教えて

次が年跨ぐかどうかだけ教えてほしい

めだかボックス、禁書両作品で好きなおっぱいを教えて欲しい
何人でも構わない

>>972
一応これでも最大限の尊重はしてるつもりす。
ただどうしても来訪って形のクロスだと、パワーバランス的に来訪者が強くなっちゃうんだよね。
やってきて即死亡即敗北ってつまらないし、それだとクロスする意味が無い気がするす。

億泰禁書、アーカード禁書以外のSSは
VIPに限って言えば、DIOvsアーカード。 佐天とサガット。 禁書と承太郎。 くらいだと思う。
あと外部で咲とアカギ。

タイトルはもうどれも全部覚えていないんでネット上から消えてるかもしれん。

>>973
ぶっちゃけ余裕で年越すと思う。
この展開を細部まで詰めて考えるだけで1週間くらいかかったし。大覇星祭とか何人出てくるんだよwwwww
しかも億泰の書きなおしとかアーカードさんのエピローグとかあるわけでもうあれだ。
察して。

>>974
禁書でいうなら長点上機学園の制服をきた布束一択。
めだかは…鍋島? あいつらおっぱい風船だからあんま好きなのはないす

一方さんが長点上機に入学するのはいつだっけ?

億泰
http://2syokan.blog.shinobi.jp/Entry/984/

アーカード
http://2syokan.blog.shinobi.jp/Entry/997/

サガット
http://punpunpun.blog107.fc2.com/blog-entry-1890.html

DIO×アーカード
http://slpy.blog65.fc2.com/blog-entry-2015.html

製作速報とかでスレ建てだけでも告知が欲しいです先生
このスレみたいに雑談で潰れそうなときも誘導できるし
そういうのはお嫌いですかえ?

>>976
SSだから15巻くらいじゃなかったっけ?

>>978
うんやっぱ昔の文章読むとめちゃくちゃ恥ずかしいね

>>980
把握把握
あお都城のSSはGEPで予告したよ!よ!
億泰とか旦那もGEPに立てるときは告知するよ!よ!

>>981
そうか、このSSには関係してこないんだな・・・

作品一つ書くのにどれくらいかけてる?後めだかと禁書の中で何の能力が一番好きか教えてください

>>982
えーと俺が勘違いしてた。
これは8巻の焼き直し改変クロスで一通が長点に入学するのは13巻くらい。

でSSっていうの多分勘違いしてるかも。
サイドストーリーとかの略であって俺が書いたこれとは全く関係ないよ。

『サwガwッwトwww』

>>983
VIPに立てるときは短編以外基本的にその場のノリで書くから何とも・・・
おまかな粗筋と見せ場の文、あとは冒頭の文は大体先に作ってたりはする。
でも行数調整とか意見レスや突っ込みレスとか見たりして改変してるから結局あんま意味が無いwwwwww
これは100KBくらい書きためあったけど、殆どが手をくわえ直してる。だから余計に「てにをは」が酷いっていう。

能力は…実はよく把握してないですサーセンwwwwww
神々の黄昏は便利そうだ

>>985
マジおまえサガット様馬鹿にしたら前キャンデヨッだけでフルボッコすんぞ

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