億泰「学園都市…っスかァ?」(369)

立つかな?

歩く合法ロリ、完全幼女宣言、果ては不老不死の実験体とまで噂されている童顔教師、月詠小萌がパンパンと手を叩きの生徒たちの視線をひきつけた。


子萌「はーい! みんな注目ですよー! 今から転校生を紹介するですよー!」

上条「…転校生?」

子萌「はいですよ。 短期特別留学生というちょっと複雑な事情をもってる子ですけど仲良くするですよー」

土御門「て…転校生っ!? きた…きたぜいきたぜい! ついにうちらにもラブコメの機会が巡ってきたぜい!」

青ピ「ぉぉぉ… 神はおったでカミやん! 塩ラーメンプレイのシャドートレーニングを重ねてきた甲斐があるっちゅーもんや!」

上条「…あーキミタチ。 なんで相手が女の子だって決めつけているのかね?」

土御門「フッフッフ甘いぜいカミやん。 こんな半端な時期に転校してくるっていえば儚げな美少女って相場が決まってるんだぜい!」

青ピ「なーにボクァ落下型ヒロインから始まり義姉義妹義母(中略)獣耳娘までカバーできる包容力があるんや! 転校生は渡さんで!」

上条「まったく…上条さんはキミタチの前向きすぎる思考についていけませんよ」

子萌「静かにするですよー! じゃあ虹村ちゃーん! 入ってきてくださいですよー」


子萌の言葉と共にガラリと戸が開く。
その瞬間、教室は水を打ったように静まり返った。

 
?「…先生よォ~ その虹村ちゃんってのは勘弁してほしいんだけどよォ~」

居心地が悪そうにポリポリと頭をかきながら入ってきたのは身長180cmはあるだろう大男。
明らかに改造してる短ランとボンタン、ツーブロックの髪型、短く手入れされた眉毛。
どこぞのスキルアウトのリーダーだと言われればそう信じてしまいそうになるほどガラの悪い男が立っていた。

上条「か、上条さんの目玉が確かならばあれは儚げな美少女と対局に位置する部類だと…」ボソボソ

土御門「お、おかしいぜい…宇宙の法則が乱れてるとしか思えんぜい…」ボソボソ

青ピ「嘘やろ……さすがのわいもあそこまではカバーできへんよ…」ボソボソ

子萌「そこの3人はそろそろ黙りやがれですよー。 えーと、席は上条ちゃんの隣が空いてますねー」

億泰「よっ ちっとの間だけだろうがまぁよろしくなァ~」

上条「は、ハヒィ…」ガクブル

億泰(承太郎さんの頼みだから引き受けちまったが…なんつーか思ったよりも気マズイもんだなァ~)


とおるるるるる...とおるるるるるるる

億泰『もしもしィ~… あ!承太郎さんっスか? はぁ~…学園都市…っスかァ?』

承太郎『あぁ。 本来なら自分で行くところなのだが、そういうわけにもいかなくてな』

億泰『ハァ…何でまたそんなとこに用事があるんスか? あと、オレは何をすりゃァいいんスか?』

承太郎『結論から言おう。学園都市はスタンド使いを量産している可能性がある』

億泰『…吉良の親父みてーにッスか?』

承太郎『そうだ。 学園都市は表向きは“記録術”や“暗記術”を開発している巨大都市だと言われている』

承太郎『だが裏では“超能力”を開発する機関と呼ばれている。 君にはその超能力がスタンドと関係があるかどうか確かめてほしい』

億泰『……“スタンド使いは惹かれ合う”ってやつスか?』

承太郎『あぁ。 だが、そこまで緊張する必要もない。 事前に得た情報から推測して9分9厘スタンドとは関係ない別種の力だ』

億泰『え~っと。 や、別に構わねーッスけどォ…何でオレなんスか? 正直オレなんかより承太郎さん自身が行ったほうがいいと思うんスけど…』

承太郎『その疑問は最もだ。 実は学園都市とSPW財団は医療面において相互協力を前提とした技術提携の関係が結ばれている』

承太郎『俺や仗助はクソジジ…ジョースター家の血が流れているため、少々厄介なことになりそうでな』


承太郎『それとだ…これは少々気に障るかもしれん。 公式には身寄りがいない君が最も自然に学園都市に入り込めるというも理由の一つだ』

億泰『なるほど…まぁ~確かにそう言われるとそうッスねぇ~』

承太郎『能力的には康一君のエコーズが最も適しているんだが、彼は夏期講習があるとのことで断られてしまってな…』

億泰『あぁ~… 聞いた話によると“あの”由花子つきっきりの個人授業らしいっスねぇ~ 康一も不幸ッスよまったく…』

承太郎『…なるほどな。 さて、それでだ。 引き受けてくれるか? 気が進まないなら断ってくれても構わないが』

億泰『大丈夫ッスよ! 他ならぬ承太郎さんの頼みじゃないっスか! ……ところで旅費とか生活費ってのは』

承太郎『あぁ、もちろん金銭的な負担は全額こちらがもとう』

億泰『ま、まじッスか! 任せてくださいッス!』

承太郎『そうか。 すまないな。 それと少々荒っぽい集団もいるとの情報も入ってきている。 くれぐれも気をつけてくれ』

億泰『了解ッス! なーにドロ船に乗ったつもりでドーンと構えててくださいッス!』

承太郎『……やれやれだ。 不安になるようなことを言うんじゃあないぜ億泰…』

子萌 「はーい。 今日の授業はここまでですよー。 夏休みが近いからって浮かれていかがわしい場所へ行ったりしちゃダメダメですよー」

億泰(や、やっべええ!!! 全ッ然わかんねえ……こっちの学生はこんぐらい出来て当然っつーのかぁ!?)

億泰(まじいぜこいつぁ… 仕方ねえ…隣の奴に聞くとするかぁ…)

億泰「なぁ…確か上条っつったよなァ~? ここんとこが判んねえからよぉ~教えてほしいんだけどよぉ~」

上条「えええっ!? お、俺ですかぁ!?」

億泰「あぁ。 どうやらよぉ~… オレが通ってたガッコとは随分やってるとこが違うみてーでよぉ~」

上条「え、えーと……スイマセン…俺もワカンナイッス」ダラダラ

億泰「…」

上条「…」ダラダラ

億泰「だよなぁ~? 普通わっかんねえよなぁ~?」

上条「で、ですよねー! 何言ってるか判んないデスヨネー!」

ピシィッ! ガシィッ! グッッ! グッッ!

億泰・上条「ウハ……ウハハハハハハハハハ!!」

熱いハンドサインを交わし、馬鹿笑いをあげる二人。
後にクラスメイトたちはこう語った。
クラスの三バカが四バカへとランクアップした決定的瞬間であったと。

子萌「とと。 忘れるとこでしたー。 虹村ちゃんはちょっと残ってくださいですよー」

億泰「げげぇっ! まさか…転校初日から居残りっスかぁ~!?」

上条「うわ…ご愁傷さまデス…」

子萌「居残りは居残りですけど勉強じゃないですよー? あ、上条ちゃんには居残りの代わりに特別課題があるので安心するですよー」

上条「うげっ!」

子萌「虹村ちゃんは今から “システムスキャン”ですよー」

億泰「…“身体検査”ぁ~?」

子萌「そうですよー。 これは虹村ちゃんの適性を査定する大事な検査なんですよー」

■検査室

子萌「むむむ。 “身体検査”はぴくりとも反応しないですねー…」

億泰「へぇ~ こんなんで“超能力”っつーやつが判るんすかぁ~…」

子萌「そうですよー。 どうやら虹村ちゃんは残念ですけど無能力者、いわゆるレベル0というカテゴリに当てはまっちゃいますねー」

億泰「…無能力者ッスか?」

子萌「あ! でもでもAIM拡散力場の数値はとっても高いですよー …AIM拡散力場の数値“だけ”ですけど」

億泰「“えーあいえむ”? 何スかそりゃあ?」

子萌「AIM拡散力場というのはですねー 誰しもが無自覚に発している微弱な力のフィールドのことなのですー」

億泰「…つまりどういうことなんスか?」

子萌「えっとですね、 だから落ち込むのはまだ早いってことですよー」

億泰「いやぁ…別に落ち込んでるっつーわけじゃあねーんスけどねぇー」

子萌「その意気です! 学園都市の学生さんの6割は無能力者ですし、“開発”を続ければ虹村ちゃんにもそのうち能力が発現するかもですよ?」

億泰(……スプーンなんざぁスタンド出しゃあ一捻りだけどよぉ~…承太郎さんに言われてっからなァ~)

――承太郎『わざわざ言うこともないだろうが…スタンドは出来るだけ使わないほうがいいだろうな』

――億泰『なんかよく判んないっすけど…そーゆーもんなんスかぁ?』

――承太郎『そうだ。 スタンドの能力は人智を超えた部分が多々ある。 スタンドが悪用されればどんな悲劇が起きるかくらい想像はつくだろう?』

――億泰『…確かにその通りっスね…じゃあスタンドは出さないっつー方向でいいんスか?』

――承太郎『あぁ。 危険が迫っていたりするならば話は別だが、そうでないならば控えてくれ』


子萌「はいっ! というわけで今日はこれで全部終わりなのです! お疲れ様なのですよー」

億泰「っつーことはもう帰ってもいいんスか?」

子萌「はいですよー。 ちょっと遅くなったですけど変なトコロに行っちゃダメダメですよー」

億泰「りょーかいッス。 んじゃあお疲れさまっしたァ~」

億泰が退出してから数分後。
ものすごい勢いでジャージ姿の教員が飛び込んできた。

黄泉川「転校生はまだいるかじゃん!」

子萌「わわ! ノックくらいしてほしいですよー? 虹村ちゃんなら今しがた帰ったところなのですー」

黄泉川「ちいっ。 ひと足遅かったじゃんよ。 …あ、これシステムスキャンの結果じゃん?」

黄泉川「なになに? 身長178cm体重80kg…い~い身体してるじゃんよ」

子萌「…えーと。 いったいぜんたい何の用ですかー?」

黄泉川「とと。 忘れてたじゃんよ。 この虹村億泰って少年。 ちょいと訳ありじゃん」

子萌「…訳ありって何の話です?」

黄泉川「私もさっき知ったばっかりだけど説明するじゃん。 この少年、実は・・・・・・」

■第七区立柵川中学校・校門前

佐天「うーいーはーるぅーん!」バサァッ

初春「ひゃああ! 何すんですか佐天さんっ!!」

佐天「なーに挨拶挨拶。 今日は淡い黄色の水玉かー」

初春「男子もいる往来で挨拶代わりにスカートをめくらないでくださいぃぃ…」

佐天「まぁまぁ。それはそれ、これはこれ。 ところで今から暇かい?」

初春「まったくもぉ… 今日はもう学校も終わりましたしジャッジメントのほうに顔を出そうかなーって思ってますけど…」

佐天「おぉ! ちょうどよかった。 ちょっと寄り道してサーティスリーに付き合わない?」

初春「サーティスリーって佐天気に入りのアイスクリーム屋さんですよね?」

佐天「そうそう。 あそこのストロベリー&チョコチップが美味しくて美味しくて!」

初春「…ちょっとだけですよ?」

佐天「わーい! あそこのアイスクリームをなめながら下校するのが最近の私の生きる目的といってもいいくらいだね!」

初春「左天さん…それはいくらなんでも大袈裟ですよぉー」

店主「ほい兄ちゃん! ストロベリー&チョコチップお待ち!」

億泰「ほほ~ こいつぁなかなかウマイじゃねぇかよぉ~」

店主「あったりめえだ! それに兄ちゃんラッキーだぜ? なんせその種類は今日“最後の一本”だからな」

億泰「マジかよぉ~ ツイてんなぁ~オレ。 気に入ったぜぇ~」



初春「さ、佐天さん」

佐天「うわぁ…凄ぉ…いかにもなヤンキーがアイスなめてる…」

初春「甘党の不良って初めて見たかもです…」

佐天「んー…どうしよっか?」

初春「ど、どうします?」

佐天「どうするも何も…ここまで来たんだから行くっきゃないよねー…」

初春「でも…あんな怖そうな人がいるんですよ?」

佐天「…いくらヤンキーだってこんな人通りの多いとこで絡んできたりしないんじゃない?」

佐天「それにほら、もしも絡まれたら初春がパンツ見せて時を止めればいいんだし!」

初春「む、無理ですぅ! 私のパンツにそんな力はありませんっ! ていうか何で私のパンツ見せることが前提なんですかぁ!?」

佐天「だいじょぶだいじょぶ! なんとかなるって! おじさーん! ストロベリー&チョコチップを二つくださーい!」

店主「へい!らっしゃい! と言いたいとこだが…すまねえな嬢ちゃん。 そいつは今丁度この兄ちゃんの分で売り切れちまったわ」


佐天「え゛」


佐天「ええええぇぇっ!? そ、そんなぁ…」

初春「左天さんの目が虚ろにっ! しかも何やらブツブツ呟いていますっ! …って、そんなにショックなんですか? 」

佐天「だって…今日は朝からここのアイス食べるのを楽しみにして過ごしてきたんだもん…」

億泰「…わかるぜェ~その気持ちはよォ~。 俺が宇宙人だったらよかったんだけどなぁ~」ペロペロ

佐天「ぅぅぅ…ヤンキーに慰められた…しかも私のアイスを美味しそうになめながらっ…」

初春「さ、さささ佐天さんっ!? 何を口走ってるんですかっ!? す、すいませんっ! 悪気は無いんですぅ!」

億泰「あん? あぁ別にオレぁ気にしてねぇよぉ~」ペロペロ

佐天「あぁ…どんどん私のストロベリー&チョコチップが減っていく…」

初春「あわわわ…左天さん! 気を確かに! あれは左天さんのアイスじゃないですよ!?」

億泰「残念だったなぁ~ けどほら明日また来りゃあいいんじゃねぇかぁ~?」パリパリ

佐天「そうそう…ここのコーンはクッキーが混じってるからアイスと一緒に齧ると絶品なんだよなぁ…ウフフ」

初春「左天さんのSAN値がガリガリ下がっていってます! おっおじさーん! 黒糖ミルクとミントチョコチップを大至急お願いしますっ!」

店主「ほいきた! お待ちっ!」

初春「あ、ありがとうございますっ! ほら左天さん行きますよっ!」

佐天「うぅ…さよなら私の一日…シクシク…」

初春「佐天さぁーん…自分で歩いてくださいよぉー」ズルズル


初春に引き摺られていく佐天を見物しながらアイスの最後の一口を口の中に放り込む億泰。

億泰「……どこの街にも変なヤツラがいるもんだなぁ~ さぁ~て…オレもいい加減帰るとすっかぁ~」

そう言ってコーンの包み紙をゴミ箱に放り込みのんびりと歩き出す億泰。
ブラブラと周りを見物しながら10分ほど歩いただろうか。 
人垣に阻まれ進むことが出来なくなってしまう。

億泰「…なんだぁ? なんかのコンサートでもやってんのかぁ~?」

その長身を活かし群集の頭の上からヒョイと覗き込む億泰。
周りの人々の視線を追った瞬間。
凄まじい爆音と炎が一軒の商店から吹き出す。
遅れて聞こえる周囲の人間の悲鳴。

億泰「なっ…なんだとぉ~!?」

群集「うわ…ほんとに爆発しやがった」ヒソヒソ
群集「“グラビトン”だっけ? 僕さっきまであの店にいたんだ」ヒソヒソ
群集「まだ中にジャッジメントがいたはずなのに…大丈夫かな」ヒソヒソ
群集「一週間前からだよなぁ…まだ爆弾魔は捕まってないのか」ヒソヒソ
群集「ジャッジメントやアンチスキルはいったい何やってるのよ」ヒソヒソ


億泰「……ば、爆弾魔だぁ…!?」

群衆の中で立ち尽くす億泰。
甲高いサイレン音と共に到着する消防車や救急車。
赤いランプに照らされた億泰の顔はひどく険しかった。



■翌日・学校

教室の空気は張り詰めた糸のように緊張していた。
その空気は昨日転校してきた男、虹村億泰が元凶。
声を掛けるのも躊躇うほど険しい顔をしている彼に話しかけようとする生徒はいない。
…教室の片隅でヒソヒソと作戦会議をしている“三バカ”を除いて。

土御門「上ヤーン…ただでさえ怖そうな転校生がさらに怖い顔してるぜい」

青ピ「この空気…耐え切れんよ。 上ヤン何とかしてやー」

上条「いやいやいや…いくら上条さんでも遠慮したいことや勘弁したいことというのがありましてですね…」

土御門「そいつはわかるけどにゃー。 このままじゃ転校生あっちゅー間にクラスで孤立しちまうぜい?」

青ピ「そうやそうや! 昨日あんだけ打ち解けてたやないか! 今こそ上ヤンが役に立つ時やで!」

上条「ふ…不幸だ…ここ数日の上条さんは不幸ランクトップ3に入るくらい不幸ですよまったく…」

ヘンテコシスター、ビリビリ中学生と朝まで追いかけっこ、さらにはコワモテ転校生ですか…と呟きながら億泰に近づく上条。
ゴクリとクラスメイトの誰もが固唾を飲んで上条の背中を追っていた。

上条「え、えーと…虹村サン?」

億泰「…上条か。 ワリィーけどよぉ~…今はちーっとばかし放っておいてほしいんだよなぁ~」

上条「そりゃそうかも知れないけど…ほらやっぱりそんな顔してたら…」

億泰「なぁ上条よぉ~ …オレはよ。 “放っておいてくれ”って言ってんだぜぇ~?」

滲み出る怒りを隠そうともせずにそう言い放つ億泰。
転校生の荒々しい物言いに教室内の空気がさらに冷たくなるが、上条当麻の心は逆に熱を帯びていた。

上条「……昨日言ってただろ? ダチになれるかもしれねえって。 いったい何をそんなに悩んでんだよ?」

億泰「……」

上条「なぁ…話してみろよ! それとも…俺なんかじゃあ話すのだってバカらしいってことなのかよ?」

億泰「…」

億泰「……爆弾魔って知ってっか?」

上条「爆弾魔? …ここ最近騒がれてる連続虚空爆破事件、“グラビトン”のことだろ?」

億泰「……オレぁよぉ~…その事件を昨日眼の前で見ちまってよぉ…」

上条「……そっか」

億泰「オレァよ…許せねーんだよ……ンなことしてる“クソヤロー”がよぉっ!」

上条「…だったら」

億泰「…あぁ?」

上条「だったら…今日からだ。 一緒に学園都市を見回るってのは…どうだよ?」

億泰「上条…テメー…」

上条「なんでそんなにイラついてるのか俺には判んねえよ。 けど…何もしないよりはマシだろ?」

億泰「……そうか…そうだよなァ! オレァ何をグチグチ悩んでたんだ! ありがとよ上条ォ!」

上条「気にすんなよ! ダチ…だろ?」

億泰「ったくよぉ……オレァ最初ただの馬鹿だと思ってたぜぇ?」

上条「ええ? ちょ、ちょっとそれは否定できませんよワタクシ!?」

ヒリヒリした緊張感が薄まっていく教室。
億泰と上条の様子を伺っていた生徒たちが人知れず安堵の溜息をついたのとほぼ同時に教室のドアが開く。
教室に入ってきたのは担任の子萌だけではなく黄泉川も一緒だった。

子萌「はいはーい! みんな席につくですよー! HRのはじまりですー」

淡々と消化されていく日常に組み込まれたHR。
ただ、その日常の中にひとつの異物があった。
それは教室のドアに寄りかかっている体育教諭の黄泉川という存在。
不可解な疑問を生徒たちの頭の中に残したまま今日一日の授業が終わるはず…だった。 

子萌「えーとですねー。 昨日の今日で悪いんですけども虹村ちゃん居残りですー」

億泰「…な、何だとォ!?」

ガタンと大きな音とともに立ち上がったのは名指しで指名された億泰だった。
その姿をチラリと見た黄泉川が誰にも気づかれないような小さな囁きをもらしていた。

黄泉川「へぇ~ …データだけじゃ確信もてなかったけど、やっぱいいガタイしてるじゃん」

子萌「ちょ、ちょっと虹村ちゃん! 座ってくださいですー! いったいどうしたっていうんですー?」

立ち上がったまま座ろうとしない億泰。
子萌の言葉を無視するどころか、逆に堂々と拒否の意思を口にした。

億泰「先生よォ…わりぃーけどよぉ~…今日のオレぁ“チンタラ”カードめくったりしてる暇はねーんだよ…」

フワフワとした子萌の声で緩んでいた空気が、億泰のドスの利いた声で引き絞られた弦のように一気に張り詰める。

黄泉川「へぇ~…いいじゃんいいじゃん。 いっちょまえに吠えるじゃんよ」

それまで教室のドアに寄りかかっていた黄泉川が面白そうに笑いながら、億泰に向かい歩み始めた。
眼を決して逸らさぬまま億泰の眼前、吐息がかかるくらいの距離まで近付く黄泉川。
数センチ動けば唇が触れ合うくらいまで接近したままで、ジッと睨み合う二人。
教室内はまるで零下の世界のように冷え切っていた。

黄泉川「…アンタなかなかいい“ガン”飛ばすじゃん? ところで…さっき言ったことをさ。 “もう一回言ってみやがれ”…じゃん?」

愛の言葉を囁くように億泰の耳元で挑発めいた言葉を呟く黄泉川。
そんじょそこらのスキルアウト崩れなら足が震え出すほど迫力のある“ガン”を飛ばしながら…である。
しかし、そんな視線を当然のように受け止める億泰。

億泰「…何度でも言ってやろうじゃねーか… “今日のオレぁチンタラしてる暇はねぇーんだ”  判ったか? センセェよぉ~…」

それは数秒か数十秒か数分か。
見ているだけで胃が痛くなるような緊張感は突如として黄泉川の笑い声でかき消された。
バンバンと億泰の肩を叩きながら心底愉快そうに口を開く黄泉川。

黄泉川「やるじゃんアンタ! 見た目だけじゃなくて肝も相当立派じゃん!」

億泰「あぁ~? いったいどーゆー“ツモリ”だよ先生よぉ~?」

カラカラと笑いながら肩を組もうとしてくる黄泉川の腕を払いのけながら怪訝そうな顔をする億泰。

黄泉川「 アンタの眼に“覚悟と決意”が見えたじゃん。 そんな想いを秘めた奴を無理やり引き留めるほどバカじゃないじゃん」

億泰「…ってーことはよぉ?」

子萌「まったく…しょうがないですねー。 何があるのかは知りませんけど、今日は見過ごしてあげますです…」

黄泉川「まっ、つまりはそういうことじゃん。 判ったらさっさと座ってHRの続きをするじゃん?」

子萌「でもでも! 次こそは絶対居残りなのですよー? これは虹村ちゃんの学園生活に大きく関わることなのですよー?」

億泰「…スマネーな…恩に着るぜ」

我を張り通した億泰が、二人の教師に感謝と謝罪の言葉を告げて椅子に座りなおした。
そこかしこで大きな溜息が吐き出されていく。
何故か上機嫌そうな黄泉川がポキポキと首を鳴らしながら教室を出て行く。

と、ドアに手をかけたまま黄泉川が振り返った。

黄泉川「あんた気に入ったじゃん。 これからは“溜まったら”いつでもあたしを呼び出してくれて構わないじゃん。 直々に“ガス抜き”してやるじゃん」

バチィっと。 
ウインク付きで捨て台詞を残して去っていく黄泉川。
鼻歌を廊下に響かせながら足音が遠ざかっていく。

黄泉川(あいつ…何奴じゃん? ただの学生じゃないのは確かだけど、底がまったく見えないなんて初めてじゃん)


残された生徒と教師はキョトンとしたまま口々に呟いていた。


億泰「…なんだぁ~? “ガス抜き”ィ? 何の話してんだあのセンセーはよぉ~?」

子萌「あうう…今のが理事会に知られでもしたら何て答えればいいんですー?」

上条「し、心臓麻痺が起きるかと思った…」

青ピ「ゆ、許さへん…ほ、放課後の個人授業なんて絶対許さへんでぇぇぇ……」

土御門「どうやら…面白そうな匂いがするぜい~」

何を言われたのか理解できずキョトンとする億泰。
同僚教師の問題発言に頭を抱える担任の子萌。
真横で発せられていたプレッシャーに耐え切れず、口から白い霊体チックな何かを吐いている上条。
真意を理解できず羨ましそうに歯噛みする青ピ。
興味深そうに億泰を見つめる土御門。


ともあれ、上条に案内されながら億泰は放課後の学園都市を見回ることとなった。

■学園都市第七学区・セブンスミスト

女性服が陳列されている若者向けの洋服店からはしゃぐような声が聞こえてきた。


佐天「見て見て初春! 夏物新入荷だって! 水着見よう水着!」

初春「うーん。 実は私、去年の水着でも構わないんですけど…」

佐天「はぁ…まったく最近の初春はすっかり女を捨ててるなぁ…」

初春「捨ててませんってば!」

佐天「ありゃ怒った? メンゴメンゴ。 あ、そーいえば御坂さんは何を探しに?」

御坂「ん、私? 私はパジャマを捜しに来てるんだよねー」

初春「パジャマですか? 確かパジャマならあっちの方にあったと…」

御坂「あ、そうなの? それじゃあ、私ちょっと探してくるねー」

初春「はーい 私達もすぐに行きますのでー」

佐天「うひゃあ! 初春見てこれ! スッゴイの見つけた!」

初春「うわ…もうこれ殆ど裸じゃないですか…」

佐天が持ってきたのは黒紫色の紐のような水着、いわゆるマイクロビキニというものだった。
布地の面積は極わずか。 キワどすぎる水着を手にしたまま佐天がふざけだす。

佐天「こんなマイクロビキニ着る人ってほんとにいるのかねー…そうだ! 試しに初春穿いてみたら?」

初春「む、無理です無理無理! 佐天さんが穿けばいいじゃないですか!」

佐天「えー? 私じゃ似合い過ぎちゃって逆に恥ずかしいよ~ …なんてね♪」

初春「いくらなんでもそれは無理がありますよ佐天さ…ん…」

マイクロビキニを服の上から身体にあて、クネクネとしなをつくりながらふざける佐天。
苦笑いでその様を見ていた初春だったが、佐天の後ろに視線を動かした途端、慌てだす。

初春「さ、佐天さん… あの…もうそこら辺にしておいたほうが…」

佐天「えー? なになに初春ー? あまりのセクシーさに見惚れちゃったー?」

初春「いえ…そういうわけではなく…あの…後ろに…」

佐天「後ろ? …なるほど御坂さんね? 甘いぞ初春ぅー。 女同士なんだし別に恥ずかしいことなんてないじゃん!」

初春「い、いえ…ですから…そうじゃないんですぅぅぅ…」

佐天「御坂さーん! どーですこれー? 似合いますぅ?」

後ろに立っているであろう御坂の笑いをとるためにグラビア女優さながらのポーズをとりながら後ろを振り向く佐天涙子。
その瞬間、佐天涙子の体感時間は間違いなく止まっていた。

見覚えのある“ヤンキー”が呆れたような顔をして目の前には立っていたのだ。

佐天「……え゛」

億泰「……」

ウッフン♥という擬音が似合いそうな態勢のまま硬直する佐天。
オロオロと事の成り行きを見守ることしかできない初春。

なんとも言えない沈黙を破ったのは投げかけられた質問へのバカ正直な感想だった。

億泰「…あ~。 そのよぉ~。 何だ。 まだ…ちょーっとばかしオメーには早えんじゃあねぇーかなぁ~」

佐天「―――――ッ? ―――――ッ!?」

胸と腰に当てていた紐のようなマイクロビキニを慌てて後ろ手に隠す佐天。
その顔はリンゴのように真っ赤になっていた。

佐天「え? あんた昨日? え? ど、どーゆーこと? チョコ&ストロベリーの?」

混乱のあまりろくに喋ることもできない佐天の問に間延びし声のまま答える億泰。

億泰「あー…そうだよな。 やっぱオメー昨日アイスクリーム屋で騒いでた奴だよなぁ~?」

佐天「…………な」

億泰「な?」

何かを呟いている佐天だったが声が小さく思わず聞き返す億泰。
そんな億泰の鼓膜を大衝撃が襲う。

佐天「な! な! ななななんで!? なんでアンタみたいなヤンキーがここに!?」

億泰「おわっ! えっと…あれだ。 ダチが子供を案内するっつーからよぉ~ その付き合いでなぁ~」

佐天「なんでよぉぉ! なんでアンタみたいなヤンキーがこんなとこに来るのよっぉぉ!」

億泰「だから言っただろうが…付き合いだってよぉ~」

佐天「…ていうかそんなことより見た? 見たよね? 見られたぁぁぁ……」

初春「さ、左天さん! 気をしっかり!」

初春にガクガクと肩を揺すられるがまま泣き笑いのような顔でブツブツと何かを呟くままの佐天。
そんな声を掛けるのも阻まれる微妙な空気の三人の間に小さな闖入者が飛び込んできた。

幼女「わーい! フーキイインのおねーちゃんだー!」

初春「あら? あなたは昨日のバッグを無くした――」

初春に飛びつくツインテールの少女。
その後ろにはやれやれといった顔の上条当麻がいた。

上条「お待たせー …ってあれ? お邪魔でしたり?」

億泰「…いや、別にそーゆーわけでもねーんだけどよぉ…」

佐天「呪われてる…あたし絶対呪われてるぅ…シクシク」

訳が分からず頭を掻く億泰。
マイクロビキニをあてたお色気ポーズを思わぬ他人に見られたショックから回復できない佐天。
少女に抱きつかれたまま、どうすることもできずに立ち尽くす初春。
と、少女が初春の袖を引っ張り耳打ちしだした。

幼女「あのね……おねーちゃん? わたし……」ゴニョゴニョ

初春「……わかりました。 佐天さん? ちょっとお花を摘みに行きませんか?」

佐天「なによう…これ以上花を増やしてどうするつもりなのよう…」グチグチ

初春「私の頭の花飾りの話じゃありませんってば! いいから行きますよ!」

ズルズルと初春に引き摺られていく佐天。

億泰・上条「……はぁ~~」

残された上条と億泰が同時に大きなため息をつく。

億泰「何だよ上条ぉ……タメ息なんてつきやがって随分と疲れてるみてーじゃねーか…」

上条「いやいや…虹村サンこそ…」

億泰・上条「……はぁ~~」

再度ため息が重なり顔を見合わせる二人の男。
そこにまた新たな少女が一人。

御坂「なーに大きなため息なんてついてんのよ?」

上条「げっ…ビリビリ…」

御坂「なーにが『げっ…ビリビリ』よ! いいわ! さっきはあの子がいたから遠慮してたけど今こそ決着つけてやってもいいのよ?」

上条「勘弁してくれよ…ったく」

億泰「よぉ~上条ぉ~。 知り合いかぁ~?」

上条「ん? ま、まぁ知り合いっていうかなんて言うか…」

御坂「…何? アンタまた不良に絡まれてんの? 私がチャッチャっと追っ払ってあげよっか?」

上条「え? い、いや不良じゃあないっていうかなんて言うか…」

億泰・御坂「ハッキリしやがれっ(しなさいっ)!!」

上条「は、ハイィィィ…」

億泰と御坂の二人に同時に叱られシュンとなる上条。

上条「ゴ、ゴホン。 気を取り直して…えーっとですね。 こいつは常盤台中学の…」


咳払いをしながら両者の紹介をはじめようとした上条だったが、それは鋭い声で遮られることとなった。

初春「大変です御坂さんっ!! 爆弾がこの店に仕掛けられているって! ついさっき白井さ…ジャッジメントから連絡がっ!!」

ぜいぜいと息を切らしながらこちらに駆け寄ってくるのは初春と佐天の二人。

御坂「何ですって!? この店が標的??」

初春「そうみたいです! すいませんが避難誘導に協力をお願いします!」

御坂「わかったわ! 私は店員にこのことを説明してくる!」

上条「なぁ…あの子はどうしたんだ?」

佐天「…っ! 慌てちゃって忘れてました! きっとまだトイレです! あたし、あの子を連れてきますね!」

御坂と佐天が各々の目的のために駆け出す。
初春、億泰、上条の三人がその場に残された。

初春「そういうわけですので一刻もはやく避難をお願いします!」

億泰「…ワリィーがよぉ~ そいつは聞けねぇーなぁ~」

呟きと共に歩き出そうとした億泰。
だがその歩みは両手を広げた初春によって防がれた。

億泰「……なんだぁオイ? テメーまさかとは思うけどよぉ~…“邪魔”するつもりじゃあねぇーだろうなぁ~?」

震え上がるような声と共に億泰が初春を脅しつける。
ビクリと身体を震わせる初春。
だが、それでも初春はその場を一歩も動こうとはしなかった。

初春「…ダメですっ!」

億泰「…んだとコラァ~!?」

初春「わ、私はっ! 学園都市の治安維持機関第一七七支部に所属している“風紀委員”の初春飾利ですっ!」

生まれたての子鹿のように震える初春の細い足。
億泰の発する“凄み”に潰れそうになりながら、それでも言葉を続ける。

初春「私には! “ジャッジメント”には…この街の平和と皆の生活を守るという信念があるんですっ!!」

億泰「…」

初春「だからっ! ここは通しませんっ! お願いですから避難してください!」

立ち塞がる初春の“強さ”に驚く億泰、そして訪れる僅かな沈黙。
しかし、その束の間の静寂は軽快な着信音のメロディで破られた。

飯喰ってきま
多分保守レスなくても間に合うくらいに戻ってくるだろうから放っといてくれ

初春「白井さん? あ、えっとハイ! もしもし!」

黒子『初春っ! 無事ですのっ!?』

耳をつんざくような大声に思わず携帯電話を耳から離す初春。

初春『えーとですね、もう避難勧告が回っているので後3分も掛からずに避難は完了すると――』

黒子『初春ッ! 聞きなさい! 初春ッ!!』

初春『は、はい!? 何ですか?』

黒子『犯人の真の狙いが判りましたの! 犯人の狙いは観測地点周辺にいるジャッジメント!』

初春『…え?』

黒子『今回のターゲットは“あなた”なのですのよ初春ッ!!』


黒子の言っている言葉の意味が即座に理解できず立ち尽くす初春。
そこに御坂、さらには佐天と手を繋いだ少女がやってきた。

御坂「お店の人たちに避難のこと言ってきたわよ。 他にやることってあるの?」

佐天「ごめんごめんっ! この子探し出すのに手間取っちゃって」

そう言いながらも少女が無事でホッとした表情を浮かべる佐天。
呆然としている初春に向かい少女が腕に抱えていた“人形”を差し出した。

少女「おねーちゃーん! これね、メガネかけたおにーちゃんがわたしてって」

初春「えっ…」

黒子『初春っ! 衛星が重力子の爆発的加速を観測したですのっ! 速やかに現場から退避なさいっ!』

白井黒子の切羽詰まった叫び。
だが既に初春は携帯電話を持っていない。
少女が持っている人形をひったくり、後方に放り投げていたからだ。

初春「佐天さんっ! 皆さんっ! 逃げてくださいっ!」

佐天「う、初春? どうしたのよ!?」

少女を庇うように懐に抱いたまま初春は叫ぶ。


初春「逃げて佐天さんっ!! あれですっ! あの人形が爆弾なんですっ!!!」

初春の叫びを聞いたと同時に蛍光灯が割れた。
それは学園都市最強の“電撃使い"御坂美琴より発生する静電気によるもの。
パチパチと帯電した空気が弾け、音を鳴らす。

御坂(間に合わないならっ! レールガンで爆弾ごと吹き飛ばすだけよっ!!!)

スカートのポケットから一枚のコインを取り出す。
失敗する要素のないただの動作のはずだった。
だが、実際は指から逃げるように零れ落ちていくコインの感触。

御坂(マズッ!?)

澄んだ音をたてて床に転がるコイン。

ミシミシと音を立てて内側に潰れていく人形。
もう二枚目のコインを取り出す猶予もないほどに小さくなっている。


御坂(間に合わな――)

初春飾利はただ腕の中の少女をきつく抱きしめていた。
この至近距離で爆発すれば生きている保証などどこにもない。

もしかしたなら。
このまま走ればただの怪我で済むかもしれない。

しかしそれはこの少女を見捨てて逃げることと同義。

幼い頃の記憶。
銃を突きつけられ、人質に取られ、ただ足を引っ張ることしかできなかった嫌な記憶が蘇る。
しかし、今は違う。
この身を呈することが出来れば幼い命を救えるかもしれない。

初春(黒子さん…固法先輩…今度は私の番です)

胸の内でそう呟いてから、初春飾利は瞼を固く閉じその“時”をただひたすら待った。

佐天涙子は動くことができなかった。
間延びした感覚の中、ひとつだけ判ったこと。
それは見知らぬ少女を抱えたままギュッと目を瞑っている友人が死を覚悟しているということ。

佐天(なんでっ…!?)

友人のピンチになにも出来ない自分がひどく悔しかった。

佐天(私に力が…“能力”さえあれば…)

佐天涙子の自分に対する怒り。 
それは不甲斐なさが死の恐怖を上回るほどだった。

佐天(…なに?)

そんな佐天涙子の視界の端を二つの黒い影が横切った。

上条当麻は何も考えていなかった。
ただ理不尽な暴力が許せなかった。
ならば“それ”を打ち消し、殺すだけ。
爆発による二次災害まで彼の“右手”は対処はできない。
しかし、そんなことは上条当麻にとってどうでもいいことだった。

目の前でミシミシと歪んでいく人形の形をした爆弾。

上条(間に合えっ!!!)

あと一歩。
たった一歩前に進めば、自分の後ろに居る友人たちは守れる。
だが、その一歩を踏むことはできなかった。
引き戻されたような衝撃が上条を襲う。

上条「!? なっ!?」

襟首を掴んでいるのは転校生の虹村億泰。

億泰「テメーはさがってな…こいつはオレがやるっっ!!!」

そう言って上条を後方に腕力だけで放り投げる億泰。

上条「ばっ! 億泰――――ッ!」

億泰の信じ難い行動に思わず叫ぶ上条当麻。



爆発する瞬間に発する白い閃光がその場にいる全員の目を灼いた。

――1秒
――3秒
――5秒

何も。
何も起こらなかった。

呆気にとられる面々。
静まりかえった店内に小さな声が響き渡る。

黒子『なんですの!? 重力子“グラビトン”の反応…完全に消失!?』

黒子『いったい何が……そうだ初春っ! 無事ですのっ? 初春ッ!?』

目をつむったままの初春の耳に届いたのは床に落ちた携帯から漏れ聞こえる黒子の呼びかけ。

佐天「……ふ、不発?」

恐る恐る口を開く佐天涙子。
問われた初春も当然ながら頭をひねるのみだった。

上条「おっおい億泰!…どこ行くんだよっ!」

突如として入り口に走りだした億泰は上条の問に答えぬまま、その場より走り去る。

その背中を訝しげな瞳で見つめるは超電磁砲の二つ名をもつ御坂美琴だった。

御坂(……あいつ。 何したってゆうの?)

■学園都市第七学区・路上

学生「なっ! 何でだっ!!」

ビルの物陰より様子を伺っていた一人の学生が悔しそうに叫ぶ。
学生の名は介旅初矢。
量子変速“シンクロトロン”の能力を持ち、単独で連続爆破事件を起こした今回の首謀者である。

介旅「クソッ! クソッ! クッソオオオオオ!!!!」

介旅「完璧だったはずだ! 何故だっ!!」

視線の先には避難した学生たちの注目を集めている大型量販店。
計算ではとっくに大爆発を起こしていなければならないというのに、今だ何の変哲もないのだ。

地団駄を踏む介旅の目に一人の男が映った。
セブンスミストより飛び出てきたのはガラの悪い大柄な男だった。

介旅「クソッ! 何でああいう“ゴミ”に限って生き残るんだっ! ゴキブリかよクソッ!」

苛立を隠そうともせずそう毒づいた介旅の耳に信じられない言葉が響いた。


?「“テメー”が爆弾魔だな… “見つけた”ぜコラァーッ!!!」

佐天さんだったり左天さんだったり

介旅「なっ!?」

男の怒号を聞いた瞬間、嫌な汗が流れた。
恐ろしいということは見なくとも判った。
猛獣の鳴き声を兎の鳴き声と聞き間違える生き物はいない。
じっとりトラウマが脳内に浮かび上がってくる。
殴られ、蹴られ、金を毟られる嫌な思い出が喉のすぐそこまでこみ上げている。

逃げたい。 逃げないと。 はやく逃げなきゃ!

介旅はそう結論づけ、路地裏に駆け込み逃避を謀った。

■路地裏

介旅「チクショウッ! 」

足元の缶を蹴り上げる。

介旅「無能なジャッジメントはなんであんなDQNを放置してるんだよぉっ! あいつらこそ社会の癌じゃないかっ」

介旅「クソッ! クソッ! クソッ!」

足元の缶にひたすら八つ当たりしながら歩みを進める介旅。

そのうちのひとつの缶が足の甲にクリーンヒット。

乾いた軽い音を立てながら転がっていくのをなんとなく目で追ってしまう。

コロコロと転がった缶は10メートル程先の革靴の先っぽにカツンと弾かれ止まった。

介旅「え?」

裏道のような汚い路地裏を自分以外の誰かが通るとは思わなかった介旅は硬直。

グシャリ、と踏み潰される缶。

?「…よぉ~ “見つけた”ぜ? テメェだな…?」

そこに立っているのは先程の大声を出していた不良だった。

介旅「な、な、な、何でっっっ!?」

?「何でもなにもよぉ~ テメェーが犯人だってのは変わり様ねーんだから別に知ったこっちゃねぇーぜぇー?」

介旅「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 僕にはさっぱりです!」

?「オイオイ…てめぇーンな事もわかんねえのよぉ~? 頭脳がマヌケかぁ~?」

介旅「なっ! キ、キミみたいな社会不適合者にマヌケなんて言われる筋合いはないっ!」

?「どぉーだかなぁ~? 怪しいもんだぜ? あんなチンケな爆弾なんかで人を殺せるだなんて思ってる大マヌケヤローだしなぁ~?」

介旅「あっあれは! 起爆すれば1フロア丸ごと燃やし尽くせるほどの高威力なんだっ!! バカにするなっ!!!」

?「い-や違うね。 やっぱりテメェは救いようのない大マヌケのバカヤローっつーのは間違いねぇーなぁ~?」 

介旅「………はっ!?」

介旅「ま、ままま待ってくれ! ほ、ほんの出来心なんだっ!」

少しでも距離をとろうと後ずさるも、壁に阻まれて逃げることも出来なくなってしまう。

?「…出来心でよぉ~ビル吹き飛ばしていいんなら…オレもテメーを出来心でぶちのめしてもいいってことだよなぁ~?」

それと同時に生身の拳で介旅を殴りつける億泰。

介旅「ぶへぇっ!」

一撃で腰が砕け、ゴミの上に倒れる介旅。
その介旅の襟を億泰が掴み、引きずり上げる。

?「立ちなっ!! テメーにはよぉ~…この億泰さんがキッチリ落とし前つけてやンよぉッッ!」

そういってさらに殴りつけようと右の拳を振り上げた億泰の動きが止まる。

介旅「あ、あの……これで勘弁してください…」

泣き笑いのような顔で何かを億泰に差し出す介旅。

介旅の手の内にあるもの。

それはキシキシと音を立てて縮小しているアルミ缶だった。

介旅「ヒ…ヒヒヒッ! 死ね! おまえみたいなクズは死んじまえばいいんだっ!!!!」

狂ったように笑いながら介旅が哂う。

介旅の掌の上で圧潰していくアルミ缶。
それをチラと一瞥した億泰は怯えもせず鼻で笑った。

億泰「…ハンッ」

介旅「なっ! なにがおかしいっ! お前みたいなDQN崩れの社会不適合者にはこんな簡単なことも理解できないっていうのかっ!!」

億泰「テメェーによ…“ひとつ”いいこと教えてやるよ…いい気になってよぉ~勝ち誇る奴ってのは大抵負けるってことをなぁ~」

その言葉と同時に介旅の掌の上にあったアルミ缶が“消えた”

介旅「ま、まさか能力者っ!?」

億泰「…もしもテメーがよぉ~…1人でも誰か殺してたっつーんなら“削り”とってたのは缶だけじゃあすまなかったぜぇ?」

その億泰の言葉を理解しようとせずに、さらに落ちている缶を拾おうとする介旅。
しかし、その行動は億泰の素拳を顔面に叩き込まれることによって阻まれた。

介旅「みぎゃっ!」

ボタボタと鼻血を垂らしながら介旅がゴミ袋の上に沈んでいく。
倒れる最中、カシャンと小さな音をたててへし曲がったメガネが介旅の足元に転がり落ちる。

億泰「……」

何かを想うように深く沈んだ億泰。 
だが、感傷に浸る間もなく新たな声が億泰にかかる。


黒子「ジャッジメントですの!」

億泰「…なんだぁ~?」

後ろからかかった声に振り向く億泰。
そこにはツインテールの少女が腕章を見せるようにして立っていた

億泰「…なぁ、今ジャッジメントっつったよなぁ~? さっきもんなこと聞いたような気ぃすんだけどなぁ…」

ブツブツと何かを思い出そうと呟く億泰。
そんな億泰に注意をはらいながら周囲を見聞する黒子。
鼻血を出しながら倒れている気弱そうな少年、散乱した周囲の惨状、一人無傷の不良。

治安維持の組織として“風紀委員”としての職務をまっとうする黒子。

黒子「そこの殿方? 申し訳ないですけど暴行及び器物損壊の“疑い”で拘束させていただきますの!」

億泰「…な、なんだとぉ~!?」

黒子「まったく…セブンスミストまでの近道を選んだらこんな現場に出くわすだなんて本当にツイてないですの…」

そう言いながら億泰にずんずんと近寄る黒子。

億泰「オ、オレかぁ!?」

慌てる億泰だが、黒子はその言葉に答えようとしないまま億泰の“横”を通り抜けた。

黒子「そこのあなた? 意識はありますの?」

黒子がしゃがみ込んだ先にいるのは鼻血を垂らしながら倒れている介旅だった。

>>148
チョコラータ
簡単に言うと対象が高いとろから降りると相手は死ぬ!

億泰「オイッ! バカヤロォ! そいつはなぁ!」

慌てた億泰が黒子の肩に手をかけようとするが、何かに足が引っ掛かったようにぴくりとも動かない。

億泰「な…なにぃーー!?」

足元に視線をやった億泰は驚愕。

いつの間にか自分の靴が鉄か何かの杭で地面に“固定”されていたのだ!

億泰「テ、テメェ! “今”何しやがった!?」

黒子「あら、無理に動くと狙いがずれて危険ですのよ?」

横目で億泰を油断なく見据えながら黒子が答える。

介旅「……う、うぅ…」


黒子「気が付きましたのね? 今、最寄の“警備員”の詰所から人をよこしてもらってる最中ですので少々お待ちなすって」

ぼんやりとした介旅の視線が億泰の視線と交わった瞬間、介旅の顔が真っ青になった。
突然ガタガタと震えだした介旅の容態に驚く黒子。

黒子「ちょ、ちょっと! どうしたんですの!?」

億泰「おいっ! 気ぃ許してんじゃあねぇーぜっ!!」

億泰の叫びも届かず。

黒子「…え? メガネですの? …あ、ありましたわ…ちょっと曲がってますけど」

ぼそぼそと何事かを頼み込まれた黒子が介旅に落ちていたメガネを差し出す。


――ひとつ。 黒子は大きなミスを犯していた。

メガネのフレームに使われている成分がアルミだということを失念していたのだ。

強い弱いはない。

黒子「…え?」

目の前でペキリと軽快な音をたててフレームがひん曲がる。

介旅「キヒッ…キヒヒヒヒッ!」

介旅の瞳には、恨みと悪意がこもった色しか映っていなかった。

億泰「このスカタンがッ! だから言ったじゃねえかぁっ! そいつぁ爆弾だッつーンだよぉ!!」

ペキリペキリ。

まるで無数に折りたためる新聞のように小さくなっていく金属の塊。

黒子は珍しくひどく焦っていた。

黒子(うっかりしてましたわ! これが爆弾!? ならばすぐに逃げないと…)

黒子(ダメですわ “ジャッジメント”の私が一般市民を置いて逃げ出すわけにはいきませんわ!)

黒子(私を挟んで殿方たちがいらっしゃるから触れてのテレポートはよくて一回が限度…)

黒子(爆弾魔を残す? ダメですわ! かと言って一般の男性を置いていくこともありえません!)

黒子(…ならばこの爆弾“そのもの”をテレポートさせるしか!)

黒子(…触れる? いつ爆発するかもわからない爆弾に? 手を伸ばした瞬間に起爆するかもしれないのに!?)

いいSSを読むには、3つの『O』が必要なんだなあ………!

ああ…1つ目はな……話の腰を「おらない」だ。2つ目はスレを「おとさない」…
そして3つ目は、作者に「乙をする」…。

いいだろ?読み手の、3つの『O』だ

それは一瞬の躊躇。
しかし、今回の場合はその躊躇が明暗をわけた。
爆弾と化したメガネに触れてテレポートをさせようと手を伸ばした瞬間。


白井黒子の視界は闇に閉ざされた。


目の前で爆弾が爆発するのを防ぐことが出来なかったのならば、ここは何処か考える必要もないはずだった。
暗闇に包まれたまま、率直な感想を呟く黒子。

黒子「…思ったよりも温かくて硬いのですね。 それと…この匂いは男性向けのオーデコロン? ちょっと古臭いんじゃないかと思うんですのよ?」

やっぱりお姉さまのようなほのかに香る甘~い匂いこそが至高ですわ!などと感傷に浸っていた黒子の頭上から声が響いた。

?「トホホ… マジかよ…ったくよぉ~~~」

あら?天からの御使いにしては随分と野太い声ですのね?
やっぱり天使といえばお姉さまみたいな透明感のある若々しい声でこそふさわしいですわ!などと妄想に浸かりだす黒子。

?「オレの靴『バリー』だぜぇ~? しかも仗助のより高い3万の奴買ったっつーのによぉ~…」

まさか…と黒子が顔を上げるよりも早く目の前を覆っていた黒い壁が動いた。

黒子「な、なあっ!?」

絶句する黒子。

そこにいたのはさっき文字通り足元を釘付けにしたはずのスキルアウトのような風体の男。
黒いものの正体はその男が身につけていた学生服。
視界は闇に閉ざされたわけではなく、ただ目の前いっぱいにその学生服が広がっていただけのこと。

黒子(つ、つまり…私こと白井黒子はいつの間にか?気がつかぬうちに?殿方の腕の中にいたということですの!?)

黒子「くぁ、くぁwせdrtgyふ」

言葉にならない叫びが喉から出かかったところで、ようやく忘れてはならないことに気づく黒子。

黒子(ちょ、ちょっーと待つですの!! そういえば爆弾は? 爆弾魔は!?)

だが、そんな疑問も次の瞬間解決された。
耳に飛び込んできたのは投げやりな罵倒が混じった笑い声。

介旅「ハッ! いい気分だろうさ! 僕が何をやったってねじ伏せられてバカにされるっ!」

介旅「力のある奴はいつだってそうだ! 」

介旅「でもこれからは新しい世界が来るんだ! 僕が僕を救うんだ!」

介旅「僕を救わなかったオマエラも! ジャッジメントも! 教師も! 親も! 何もかも死んじまえばいいんだ!」

黒子(なんて醜い言い訳ですの…)

頬を張り飛ばしてやろうとした黒子だったが、自然と足が止まった。
目の前の男からナニカが聞こえた。
ぷっつーん☆ と、なにかとても大変なナニカが“切れる”音が聞こえたからだ。

億泰「オイ……“テメー今なんつった”?」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

介旅「フヘッ…フヘヘヘッ! なんだよ! おまえなんかなぁ! おまえなんか! こ、怖くないぞ!」

億泰「んなこたぁよぉ…どーでもいーんだよぉ…もう一ペンさっきのセリフ言ってみろよ」

介旅「ヒヒッ いいさ! オマエも! 風紀委員も! 教師だって! 親だって! 無能なこの街の奴らは全員死んじまえばいいって言ったんだ!」

そう億泰を指さした介旅の指が紙風船を押しつぶしたかのように“グシャリ”と潰れた。

介旅「痛っ!?」

かろうじて繋がっているといった指を冷静に観察する風紀委員の黒子。

黒子(やはり能力者…どうやら一般的な“念動能力”サイコキネシス…レベルは3あるかないかといった所ですわね)

人体の一部が潰れるなどといった場面も仕事柄見慣れている黒子。
今はもう冷静に目の前に立つ学ランを着たガラの悪い男の能力分析をしていた。

介旅「痛っ! 痛っ!? ヒャ、ヒャハッ!!」

億泰「テメーによぉ…わかんのかよ…」

指が潰されて悶える介旅を見下ろしたまま呟くように億泰が漏らす。
酷く落ち込んだように見えるテンションのままボソボソと言葉を並べていく。

億泰「テメーによぉ…わかんのかって………………聞いてんだよこのスッタコがぁぁぁっっ!」

長い沈黙が続いたかと思いきや、突如反転したかのように吠える億泰。

億泰「テメェーはッ! 俺の“兄貴”をっ! “親父”をっ! “重ちー”をっ! “鈴美さん”をバカにしたっ!」

それは小学生の頃から“風紀委員”をやっていた黒子ですら声をかけるのに戸惑いを覚えるほどの純粋な怒りの感情。

黒子(…この殿方…いったい!?)

億泰「許さねえ…許さねえぜテメェーッ!」

言葉と共に振るわれる億泰自身の拳や蹴り。

そのどれもは容易く介旅の肉体に吸い込まれていく。

億泰「――ッ!! テメェはなぁーに寝てんだコラァ!」

気絶した介旅を無理やり引きずり起こそうとした億泰だったが、その腕は白井黒子によって抑えられた。

黒子「…ここまでですわ。 これ以上は正当防衛という形では目溢しできませんの」

億泰「ワリィーけどよぉー…そいつぁ無理な相談ってやつだよなぁ~…」

黒子「どうしても?」

億泰「収まるわきゃあねーだろがっ! コイツはなぁっ! 自分の親をよぉ…無能って言いやがったっ!」

億泰「それだけじゃあねえっ! 自分より大きな力にねじ伏せられてもよぉ…それでも誇りを失わなかった京兆兄貴をっ! 重ちーをバカにしやがったっ!」

黒子「……貴方の気持ちはわからなくもないですの。 私だって似たような思い出がありますもの」

ふと胸をよぎる思いを心の奥底にしまい込んで言葉を続ける黒子。

黒子「けれど…これ以上あの容疑者を傷めつけるというのなら…“風紀委員”は見過ごすことができませんの」

鉄芯に触れながら構えをとる黒子。
もとよりレベル4の“空間移動”をもつ白井黒子の戦闘能力と利便性は計り知れないものがある。
戦闘になれば相手を瞬時に無力化出来る自信が黒子にはあった。

だが。

億泰「テメェーー…ほんとに“わかんねえ”のか?」

想像を超えた相手の言葉。
いったい何のことか判らないまま、聞き返す。

黒子「…あら。 そうやって焦らすのはあまり趣味がいいとはいえないですわよ? 何のことですの?」

億泰「焦らすも何もよぉ~…“今”テメェーの目の前に何が“見えてる”かって聞いてんだ」

そう問われるも何も変化を感じ取れない黒子は眉をひそめる。

黒子「…何かの誘導尋問? 時間稼ぎかなにかですの? そうでないなのなら、教えてくれると嬉しいですの」

億泰「……」

黒子「……」

険しい顔をしたまま睨み合う両名。
しかし、それも数秒で終わった。

億泰「…チッ」

舌打ちと共に介旅の側を離れる億泰。
あそこまで激昂していたのでは制止など無意味、てっきり戦闘になるとばかり覚悟していた黒子は予想外の態度に大きく驚いた。

>>150
そりゃグリーンデイだろ…

黒子「あ、あら? 意外と紳士ですのね。 私はもう校外での戦闘活動についての始末書を書くつもりでいましたよ?」

思わず嫌味を口にしてしまう黒子。
しかし、そんな黒子の言葉にも特に気にすることもなく気の抜けた声で億泰が答える

億泰「別によぉ~ オレァ女だからって差別するつもりはねぇーんだけどよぉ…」

億泰「わざわざ“見え”ねぇ奴とやりあうのも“どうか”ってぇー思うんだよなぁ~…」

黒子「?」

億泰の呟きがいまいち理解できないまま黒子が携帯を取り出し、“警備員”本部へと連絡をとる。

黒子『あ、もしもし? 私“風紀委員”第一七七支部の白井黒子ですの。 例の爆弾魔の容疑者を捕まえましたので移送をお願いしますの』

黒子『…ええ。 抵抗したため無力化して……。  えぇ…セブンスミストの件にについては…って! ちょっと貴方っ! 待つんですの!』

携帯電話に向かって話し続けている黒子。
その姿を何時までも眺めている気などあるわけもなく、億泰は路地裏から出るためにさっさと歩き出した。
後ろから制止の声が聞こえてきたが、わざわざその言葉を聞く道理もないと億泰は大通りへ足を踏み入れた。
色とりどりにざわめく学生に紛れ、ただボンヤリと空を見上げる億泰。
10分ほどその場に立ち尽くしていた億泰に聞き覚えのある声が届いた。

ああ、宇宙人やエニグマにやったように
拳を目の前に近づけたのか

上条「やーっと見つけたましたよまったく!」

億泰「よぉ……上条じゃねえか」

上条「『よぉ……上条じゃねえか』じゃないぜ虹村! ニュース見たか?」

億泰「…ニュース?」

上条「大ニュースだぜ! さっき速報ニュースで爆弾魔の容疑者が捕まったって発表してたんだ!」

億泰「あぁ… まぁ、そーだろーなぁー…」

上条「あれ? 意外とお耳が早いようで…いや、それよりどうしたんだ? 随分と気落ちしてないか?」

億泰「…気落ちってゆーかよぉ~ オレがした“選択”は本当に正しかったのかって気になってよぉ~…」

上条「…選択?」

やべっwwwww
チョコラータとセッコがごっちゃになってたwwwwww

…地面が溶けたチョコみたいだからか?

>>240
エニグマって見えなかったっけ?

やべぇ
ちょっと思い出せないから4部見ながら読むわ

億泰「…オレはよォ…あの時…あのまま突っ走ることもできたんだけどよぉ…ブレーキ、かけちまった…」

上条「……」

億泰「オレ頭悪いからよぉ…どっちが正解だったのか判んなくてよぉ…」

上条「…決まってるじゃねえか」

億泰「…どういうことだよ上条?」

上条「そんなになってまで選んだんだろ? だったら選んだ方が正解に決まってるじゃねえか!」

億泰「…けどよぉ~」

上条「正解じゃないならこれから正解にすればいいんだ! 今更グチグチ悩んだって仕方ねえだろ!」

億泰「まぁ…今さら悩むことじゃあねえってのは確かかもしれねえなぁ~」

呟きとともに肩の屈伸をする億泰。

億泰「もともとオレァ考え込むことって得意じゃあねぇーんだよなぁ~」

上条「奇遇ですな、俺もですよ」

そう言って顔を見合わせ笑う上条と億泰。

上条「おっとっと。 忘れるとこだった。 そういや伝言を預かってきてるんだった」

億泰「…伝言だぁ~?」

. ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 こうじゃあないか?

上条「ほら、虹村はあのとき一人で行っちまっただろ? 残された奴らに是非とも伝言をと言われましてな…」

何故かげっそりした笑いを顔に貼り付けながら胸のポケットから折りたたまれたノートの一枚を取り出す上条。

上条「これ、どうする? このまま読み上げちまっていいのか?」

億泰「ん~ まぁメンドーだしなぁ~ 頼んじまってもいいなら頼むぜぇ~」

上条「オッケー。 んじゃあ行くぞ? えーっと。 こわいほうのおにーちゃんえ。 あんまりひとりでおそとにでるとわたしみたいにまいごになるからちゅーいしましょう」

億泰「…はぁぁ~!?」

上条「こ、これはあれだな! あのちっちゃい子からのメッセージだ。 ほら子供って無邪気ですし!」

アハハと乾いた声で笑いながら慌てて次の文章を読み上げる上条。

上条「次行こう次! なになに。 上条さんから転校生という話は聞きました。 ですが今後有事の際はこれからジャッジメントや警備員に従って避難するようにしてください。 初春飾利」

億泰「…」

上条「あ、あの頭に花載っけてた子だな! ちょ、ちょっとね折り合いがアレだったかもとは見てて思いましたよ?」

ウンウンと頷きなら手紙をめくる上条

どうしたいんだコイツ等はwwwwwwwwwwwwww

上条「ウ、ウオッホン! えー…………あんた何者? 御坂美琴」

億泰「…そいつってよぉ~ オメーと話していた奴かぁ~?」

上条「え? あ、ハイ! ソウデスヨ!」

上条(ビリビリィ…今度会ったら覚えてろよぉ!)

上条「最後いきますよー? えーと……。 ストロベリー&チョコチップを奢りで。 そうしたら私のビキニを見たことを忘れてやってもよい。  佐天涙子」

億泰「……なんつーかよぉ」

上条「……え、はい?」

億泰「これ…伝言っつー程のもんでもねぇーよなぁ~?」

上条「まぁ…でもほらアレですよ! 映画やドラマとかだと大体こういった何気ない手紙が伏線だったり次回の内容を示唆してたりするんですよ!」

億泰「…そこんところはわかんなくもねぇ~けどよぉ~」

上条「そんなことより爆弾魔事件も終わったんだし! 景気付けにブワーッと豪遊しようじゃないですか! あんまお金ないしファミレスとかで!」

億泰「…ファミレスっつーのがショボイっつーのが難点だけどよぉ~ まっ! 付き合うぜぇ~?」


そう言って上条と億泰は学園都市の喧騒の中に紛れていった。
この日を境に二人の少年は別々の道を歩むこととなった。
上条当麻は突如転がり込んできた銀髪の少女を救うために奔走をはじめる。
そして虹村億泰は“幻想御手”という謎のドラッグが起こす事件に巻き込まれることとなる。
(終)

とりあえず爆弾編終わり
なんとか二期始まるまでにこの設定のままLVUP編か、日常ダラダラ編やるつもり。
んでは

     __,,. -=┬┬;、
   /爻爻爻ヽ;;;. -- 、〃、|\_人_人_人

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   `ト 、''‐-‐'´ /    トV    l /
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そういや、黄泉川?って人は何を伝えたかったんだろう

>>287
しかもそれと別に宝くじ266万もあるからな

>>289
266万ももらってたっけ?

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