須賀を鶴賀に放り込む (201)


闘牌描写はナシ。
淡々と部の様子の予定。



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桜の花が散りまして。

風の匂いが変わる頃。

通学路をのそりと歩く金髪の男が一人。

遅刻を危ぶむ時間でもなく、校門をさらりとくぐる。

門には鶴賀の二文字がある。


須賀京太郎は麻雀をよくは知らない。

全国、あるいは世界的に流行していることは知っている。

それに部活として盛んであることも知っている。

しかし、ロンだのツモだのは聞いたことがあるが、ルールとなるとさっぱりである。

端的に言って須賀京太郎は麻雀そのものにあまり興味を持ってはいなかった。




入学式を終え、クラスメイトとの顔合わせも済んだ。

次に考慮するのは部活のことである。

運動部にしようか文化部にしようか。

クラスメイトたちもちょろちょろとそういった話を始めている。

須賀京太郎が中学生だったころ、鶴賀の名前は部活関連ではあまり聞いたことがなかった。

全ての学校がなんらかの部活で名を馳せるなんてことはありえない。

運動部なんかは特定の学校がやたらめったら強いなんてことはざらにある。

だから鶴賀学園という学校は部活が強い学校ではないのだろう、と須賀は思っていた。

その事実は、高校から新しく部活を始めようと考えている一年生にとっては魅力的なものだった。

楽しくやる部活、というのも間違いなく高校生活の過ごし方の一つである。


各部活がチラシを配ったり、新入生に声をかけている様子が目に映る。

見学や仮入部の期間である。

メジャーなものからマイナーなものまで様々だ。

なるほど高校になると登山部なんてものもあるのか、と須賀は驚く。

さすが長野、と言ってもいいものだろうか。

いや入らないけど。入らないけど。




部活見学の期間が始まって二週間。

もう入部届けを出す時期が近づいてきた。

入る部活を決めているやつはもう提出している。

須賀京太郎もいろんな部活を見てきた。

どの部活も良いと思える点はあった。先輩方も優しい。

しかし、なにかひとつ決定打に欠けるような気がしていた。

そのひとつとは何か、と問われたところで答えられるようなものでもないが。

裏返せば、どの部活に入ってもきっと楽しい高校生活を送れるとも取れる。

でも部活に入るきっかけなんてそんなもんかもな、とも思う。

もうそれなりに仲良くなったクラスメイトと軽口を叩きながらそう思う。

そんな放課後だった。


がらり、と須賀のいるPCルームの戸が開いた。




開いた戸の先には美人が立っていた。

なんと形容すればいいのだろう。ひやりとした? 違う。凛とした、だ。

須賀は自分の頭が導き出した修飾に満足しながら、その凛とした美人を見る。

あの登場の仕方だ。きっとなにかある。

そういうちょっと下品な興味を持って、須賀含むPCルームにいた者は戸のほうを見つめる。

一拍おいて、美人が口を開く。



のちに 「加治木ゆみ乱入事件」 と呼ばれるその騒動に、須賀京太郎は居合わせた。



事件の内容は語られない。当人から口止めがされているのだ。

ただわずかながら感想を述べるとすれば、星組だの月組だのいうあの有名な歌劇団ってあんな感じだろうか、というものである。

その乱入事件の目的はもちろん須賀京太郎ではなく。

どこから現れたのか黒髪の女の子が美人の傍でうれしそうに涙を流していたというのがどうやら事件の終わりだったらしい。




「よし、そうと決まれば善は急げ、だよな」

須賀京太郎は事件の起きたPCルームから麻雀部の部室を目指して歩き始める。

事件のあまりの唐突さに放心している間にどうやら当事者たちはさっさと行ってしまったらしい。

部室の位置は新入生のしおりで確認できる。

階段を上がり、廊下を進み、普段は使われていない教室の前にたどりつく。

なんだか中から楽しそうな声が聞こえる。

さっきのアレが成功したからなのだろうか。

女子のきゃあきゃあと騒ぐ声がとぎれなく続く。

自分が入るとこの空気を壊してしまいそうな気もする。

それでも、と須賀は思う。

こちらだって決心してきたのだ。

きっかけは何、と聞かれたらものすごく困るけれど。

それでも須賀京太郎の手は、麻雀部の戸へと向かっていた。





とんとん、と戸を叩く。

戸を引きながら、失礼します、と頭を下げる。

「やあ、珍しいな。来客かー?」

わはは、と小柄な女の子が笑う。

「あ、あのっ!今日はこちらに入部させていただきたく馳せ参じましたっ!」

須賀の声に部室の女子たちが目を見合わせる。

もともと鶴賀学園麻雀部は部員の人数が足りていない。

女子が三人と、男子がゼロである。

実は女子の方は一人だけ都合がついているのだが、そんなこと外部の人間は知らない。

そこではなく、男子の麻雀部員がいないことが彼女たちの戸惑いの原因である。

「あー、君、見ての通り私たちの部には男子がいないのだが……」

「構いません!」

かくして鶴賀学園麻雀部唯一の男子、須賀京太郎の入部が決定した。




半ば勢いで入部を決めた須賀は、改めて部室を見まわす。

部員は三人だろうか。

先ほどPCルームに来た凛とした美人。

目がくりっとおおきく毛先にすこしクセのある小柄な女の子。

切れ長の目に片側の前髪を垂らしたポニーテールの女の子。

あれ、さっき涙を流していた黒髪の女の子は……

「同じ日に入部とは妙な縁かもしれないっすね」

ぽん、と肩を叩かれる。

「ああ、よろしくな。俺、須賀京太郎ってんだ」

隣にいたのに気付かなかったことに少し申し訳なさを感じながら挨拶を返す。

「たった今自己紹介を終えたばかりなのだが、まあいい。須賀君も来たことだし」

「そうだなゆみちん。別に減るもんじゃないし、めでたいからな」





「それでは私から。蒲原智美だ。よろしくなー。部長をやっているぞー」

なるほど、部長さんだったのか。

「加治木ゆみ。三年生だ」

さっきの事件もあわせて加治木先輩の名前は忘れられないだろう。

「津山睦月です。二年生です。よろしく」

ということは二年生は一人なのだろうか。

「私は東横桃子っす。一年生っすよ」

口癖なのだろうか。特徴的だな。

須賀京太郎は頭を下げる。入室したときより深く。それこそ規律の厳しい運動部がそうするように。

「一年、須賀京太郎です!よろしくお願いします!」





「それで、須賀君はどれくらい打てるんだ?」

「いえ、打てないです。せいぜい名前知ってるくらいです」

須賀は正直に話す。見栄をはってもしょうがない。

「ふむ。初心者か。なんにせよ興味をもってくれたのはうれしいことだな」

「じゃあ今日は須賀くんに麻雀を教えるぞー」

わはは、とさらりと言ってのける。

「えっ、いいんですか?」

大きな目をした部長は卓の方に向かいながら言う。

「覚えることはけっこうあるしなー。何よりわからなかったらつまらないだろー?」

須賀以外の四人の部員はもうそのつもりで動き始めている。

素人に対しては当たり前の行動なのかもしれないが、それでもやっぱり、うれしかった。




素人・須賀のための麻雀教室は基礎的な部分から始まった。

まず牌には種類が四つあること。すなわち萬子、索子、筒子、字牌である。

その四つのどれかしらで面子というものを作る。

面子には、順子と刻子という二種類がある。

順子は五六七のように数字の階段を指し、刻子は三三三のように三つ揃えたものを指す。

その面子を四つと雀頭 (これは同じ牌を二つ揃える) が出来ればアガリ、というわけである。

その完成形の難易度に応じて点数が変わる、というのが須賀の理解できた範囲であった。

これ以上の細かいことは口だけだと混乱するから実戦を見たほうがよい、というのは加治木先輩の弁であった。

それなら教えるのが上手なゆみちんのを見たらいい、というのは蒲原部長の弁であった。

ちなみに津山先輩もそれにはうなずいていた。

東横さんはむずかしい顔をしている。どうしてだろうか。

須賀京太郎はこれから初めて目の前で麻雀を見ることになる。

漠然と、面白そうだなという期待を彼は持っていた。




席決め、親決めを経て山から手牌を作っていく。

先輩方が逐一説明してはくれるもののサイコロの目のあたりで須賀の頭はパンクした。

須賀はそんな細かいルールより目の前の麻雀に集中することに決めた。

手牌を見やすいように整理する。これを理牌というらしい。加治木先輩が教えてくれる。

先ほど決めた親からツモを始める。

山からツモり、必要なら手に入れ、不必要なものを切る。

基本的には麻雀はこの流れで進行していく。

徹頭徹尾そんなに気楽なものであるわけがないのだが。

卓についている四人を見てみると、他人の捨て牌をきちんと確認している。

巡目が進むにつれてそれぞれの考える時間が少し長くなったように須賀は感じていた。

加治木先輩に尋ねると、捨て牌から相手の手を考えているのだと言う。

手牌と捨て牌のあいだにどんな関連性があるのか須賀にはまだわからなかったが、なぜか納得はいった。






次第に空気がぴしりと引き締まっていく。

単純な話だ。やる以上は勝ちたい。負けたくない。

相手の待っている牌を避け、自分の手を完成させる。

必然、情報源となる河から考える。

押してもいいのか。それとも引くべき手なのか。

須賀京太郎は四人の考えている内容こそ理解はしていないものの、四人がそれぞれ考えているという事実を受け止めていた。

ふつりと小さな感情が起きた。

「それっすよ!タンピンドラ1で3900っす!」

東横桃子が声を上げる。

蒲原部長から点棒をもらってうきうきしている。

「それじゃあ東二局いくっすよー」

そういえば麻雀というのはこの一連の流れを何回やるのだろう。須賀は本当に何も知らなかった。




「とまあ、これが麻雀というゲームの流れになるな」

東風戦、これは親が一人一度まわることを指す、を終え加治木先輩が口を開く。

「すごいですよね。自分の手のこと考えながら相手の捨て牌見て考えて……、って」

須賀は思っていたことを素直に口に出す。

「うん。まあ、慣れみたいなものもあると思うよ」

津山先輩が返す。

慣れであんな作業を当たり前のようにこなせるのか、と小さな感情がうねりを増す。

「自分の手が思い通りになったとしても相手がいるから難しいんだよなー」

そうだ。さっきの対局中にも何度も渋い表情を見た。

できる限りの知恵を絞ってなお、運という要素に振り回される。

「そこで工夫を利かせるのが麻雀の面白いところだと思うっす!」

須賀京太郎は東風戦を一度見ただけではあるが、ひとつの確信を得た。

麻雀は、面白い。

技術と運と二つを揃えてはじめて勝負になるのだ。

それまで麻雀に興味のなかった男は、たった数十分で麻雀に強い興味を抱いた。




そのあと、麻雀部員たちは東風戦と東南戦の違いを教え、現在は東南戦、半荘が主流であることや

ポンとチーの鳴きを教えた。

「そうだな……。須賀君、パソコンは持っているか?」

本当に教えてくれるのは加治木先輩で決定したらしい。

「はい。パソコンならありますよ」

「それなら家に帰ったあとネットで役を調べてみてくれ」

「役、ですか」

「ああ。かなりの数があるから覚えきるのは難しいだろうが、目は通しておいたほうがいい」

「それが終わったら符計算とかも覚えないとなー」

フケイサン? まったく耳慣れない言葉もまだまだあるものだ。

それから半荘四回戦を見学し、須賀京太郎の初の麻雀部としての活動は終わりとなった。

明日から女子部員がもう一人増える、と部長が言っていたがそんなことよりは宿題が頭を占めていた。

役やルールを覚えれば卓につけるのだろう。同じ土俵に立てるのだろう。

須賀は、純粋に部員と卓を囲んでみたかった。



おしまい。
続きはのんびり。
妹尾さんには悪いことをしてしまった。

シロ「ちょいタンマ」

小蒔「Zzz…」

漫「ウチかてそろそろ爆発するはずやし」

辻垣内「面白い奴が出てきたようだな」

むっきー「」


(アカン)

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