もこっち「私が黒木神拳の伝承者、黒木智子です。」 (27)

―201X年、世界は喪女の炎に包まれた。
女子力は枯れ、コミュ力は裂けあらゆるビッチは絶滅したかに見えた。
しかし、リア充は死に絶えてはいなかった。―



荒野を一人歩く少年、黒木智貴。
その足取りは重く、今にも倒れそうである。

智貴「み・・・水・・・」 ドサッ

優「た、大変!人が!」

智貴が目を覚ますと、そこはお洒落な雰囲気が漂う、ドトールコーヒーの店内を思わせる村であった。

智貴「・・・ここは?」

優「良かった、目が覚めたんですね・・・どうぞ、モカフェラペチーノです。」

智貴「あ、ありがとうございます(水でいいんだけどな・・・)」 ゴクッゴクッ

優「ここはビッチの村です。どうぞ、ゆっくりしていって下さい。」

きーちゃん「優姉ちゃん、この人は?」

優「!! きーちゃん!危ないから家から出ちゃダメって言ったでしょ!」

きーちゃん「ご、ごめんなさい・・・。」

しょげた様子で引っ込んで行く少女。

智貴「・・・何かあったんですか?」

優「最近、小さい子供、特に姉弟が誘拐される事件が相次いでいるんです・・・。なんでも、喪女の頭領が主犯だとか・・・。」

智貴「非道な・・・。」

優「噂によれば"クイーン"と呼ばれる喪女らしいのですが・・・。」

智貴「ク、クイーンっ!?」

優「な、何か心当たりでも?」

智貴「い、いえ、なんでもありません・・・。」

その夜、智貴はお洒落なコーヒーとケーキを食べ、リア充臭の染み付いたダブルベッドで一夜を過ごした。

翌朝。

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

つんざくようなビッチの悲鳴で目を覚ます智貴。
サッカー部出身のリア充だからこそ成せる独特のフットワークで駆けつける。
彼のポジションはフォワードであった。

智貴「大丈夫ですか!?」

そこにはうずくまって震える優と、きーちゃんを担いでいる喪女がいた。

小宮山「ヒャッハァー!!ここは通さねえぜ成瀬さん!」

優「こみちゃん、や、やめて・・・!」

便所飯(カロリーメイトチーズ味)の空き箱を構えた小宮山が吼える。

小宮山「ビッチは消毒だァーーー!!」

間一髪で駆けつける智貴。
ラノベの主人公レベルのリア充だからこそ成せる芸当である。

智貴「やめろ!そこまでだ!」

小宮山「あァーん・・・?」

智貴を睨み付けた喪女であったが、見る見る内に顔が真っ赤に染まって行く。

小宮山「ひ、ひィ!智貴君!?」

その場で腰を抜かす小宮山。

小宮山「おひィィイイイイ!!!」

絶叫とともに四つん這いのまま猛スピードで逃げて行く小宮山。
後には慌てて落とした眼鏡だけが残された。

優「き、きーちゃんが・・・!」

落ちていた眼鏡を拾う智貴。

智貴「ぬぅぅぅ・・・・!!」 パリンッ!!

握り締めた眼鏡が勢い良く割れる。

智貴「クイーン!待っていろ・・・!」

単身、喪女の頭領・クイーンのもとへ歩を進めるのであった。

小宮山の足跡を追っていくと、そこには巨大な建物が。
看板には『ぼっち亭』と書いてある。
建物の周辺に『純国産牛』のノボリが並んでいることから、牛丼屋だろうか?

智貴「なんだ、ここは・・・」

智貴が恐る恐る近づくと、そこには異様な光景が広がっていた。
ガラス張りの店内には大量の個室が並び、そこには特盛りの牛丼を泣きながら食べる少女達の姿があった。
少女達は皆、一点を凝視している。
視線の先、牛丼屋の正面に、これまた大量の仮説トイレが並んでいた。

智貴「トイレ・・・?」

耳を澄ますと、トイレの中から男の子の呻き声が聞こえてきた。
仮説トイレの正面には小窓が付いており、男の子達が中で食事を摂っているのが見える。
異様さを感じた智貴は、すぐさま牛丼屋に飛び込んだ。

泣きながら牛丼を頬張る少女に声をかける智貴。
智貴「君たち、これは一体・・・?」

少女A「うっ・・・ぐすっ・・・私達、弟が便所飯してるのを無理矢理見せられてるんです・・・。」

少女B「それを肴に最高の贅沢をするのが姉の義務だって、クイーンが・・・うう・・・。」

少女C「最高の贅沢って言う割りにコレ、和牛じゃないよう!硬いよう!うえーん!」

智貴「・・・。」

バターン!!

突如、逆側の扉から誰かが店内に入ってきた。
智貴より年上だろうか?今時の女子高生といった風貌の女の子である。

ネモ「皆、助けにきたよ!!」

女の子の拘束を外そうとしているネモ。
しかし、瞬く間に彼女を取り囲むように、ワラワラと喪女が沸いてきた。

ネモ「やめなさい!離しなさいよ!」

???「リ、リア充、は、爆ぜるべひ。」

店の奥から喪女特有のダークネス・ヴォイスが響いてきた。

ネモを取り押さえた喪女達が一斉に叫び始める。

喪女「クイーン!クイーン!」

店の奥からクイーンと呼ばれた喪女が姿を現した。

クイーンは喪女達に取り押さえられているネモの眼前に近づくと、一際豪華な椅子に腰掛けた。
そして暫く俯いたあと、おもむろに口を開いた。

クイーン「わ、わ、わたしの名前を言ってみろ!」

一瞬の沈黙、後、回答。

ネモ「く、黒木さん、だよね・・・?」

クイーン「・・・下の名前、も・・・ぃ、ぃってみろ」

ネモ「え!?え!?・・・。」

今度は、長い沈黙。
焦るネモ、呆然としている智貴、何故か赤面して汗だくなクイーン。

静寂を、ネモの一言が破る。

ネモ「ト、トモヨちゃん?」

クイーンのデカい目がみるみる内に充血していく。

クイーン「ぎ、ぎ、ぎ・・・」 プルプル

事態を察したのか、構える手下の喪女達。

クイーン「ギルティィィィィ!!」

クイーンが親指で首を掻っ切るポーズを取る。
喪女に引きずられ、店の奥へと消えて行くネモ。

ネモ「いやああああ!!」

ビッチの泣き声は虚しくも喪女の虚数空間へと呑まれていくのであった。

呆然としていた智貴が我を取り戻し、クイーンに詰め寄る。

智貴「おい、何してんだよお前・・・。」

クイーン「て、テメエ!いつもいつも余裕ぶった態度とりやがって!何が『おい、何してんだよお前・・・。』だ!」

先ほどまで豪華な椅子に深く腰掛けていたクイーンだったが、よほどエキサイトしたのか中腰になっている。

クイーン「姉より優れた弟など存在しねえ!!」

怒号とともに飛び掛るクイーン。

しかし、やたらと豪華な椅子から飛び掛るには彼女の運動神経も、身長も、どちらも不足していた。
女子力さえも・・・。

ドンガラガッシャーン!!

派手な音を立てて足を踏み外し、盛大にこけるクイーン()
その勢いで牛丼の鍋が倒れ、クイーンの身体にアツアツの牛丼が盛られることとなった。
そこにはクイーンの仮面を奪われ、唯の雑魚喪女と化したもこっちが居た。

もこっち「あづうううううううううううううううううう!!!!!!!!!!」

激しくのたうつもこっち。

もこっち「あづいいいいい!!!オエ”エ”エ”エ”エ”!!」 ゲロゲロゲロ・・・

少し背が高い椅子から降りることすらままならず、熱すぎて吐くという謎の虚弱体質。
誰もがこの哀れな喪女を見捨てたとしたら、彼女は一人で生きて行けるのだろうか?
否、決して見捨てない弟がここには居たのだ。

智貴「アホやってないで、さっさと帰るぞ。」

そこには、もこっちに掛かった牛丼と汚物をオシボリで拭う智貴の姿があった。

智子「う・・・うん、帰る・・・。」

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