唯「じょうもんせいかつ!」(526)

澪「駄目だっ!ぜんぜん駄目だ!!」

梓「…」

澪「なんだその"ただ弾いてる"だけの演奏は!?
  ぜんぜん何も伝わってこないよ!!」

律「お前も同類。」

澪「…」

さわ子「…飼いならされちゃった、からかしらね?」

唯「さわちゃん?」

さわ子「ハングリー精神、とでも言うのかしら?
    そういうのが枯渇してるのよ。」

さわ子「まあ、幼稚園の学芸会レベルならそれで十分でしょ。」

さわ子「ああ、でも幼稚園児はハングリー精神の塊よね。
    あんたたちと違って。」

唯「もしかしてさー、さわちゃんに馬鹿にされてる?」

律「もしかしなくてもだっつーの!」

澪「でも確かに先生の言うことも一理あるな…」

澪「私達、正直に言えば下り坂のど真ん中だよな。
  惰性も混じってきてる。」

澪「考えてみれば最初から音楽性なんてなかったし。
  いや、最初は興味からはじまっていいんだ、けどモチベーションの維持が…」

さわ子「見当違いよ澪ちゃん。」

澪「え…」

さわ子「もっと根本的な問題なの。」

さわ子「人としての、現代人に突きつけられた、ね。」

さわ子「飽くこと無い衝動を音楽へぶつけれる人はいることはいるわ。
    そういう人の多くがプロになっていくんでしょうから。」

さわ子「けれど、現代人の多くが、そういうエネルギーからますます遠ざかっているの。」

さわ子「飼いならされた、もうほとんど家畜よ。
    あんたら全員家畜よ!ドメスティックアニマルよっ!!」

紬「先生言いすぎです!!」

さわ子「おだまり!この資本主義の豚NO. in 桜ヶ丘高がぁっ!!」

紬「うっ…う…」

>>4
×豚NO.
○豚NO. 1

唯「ムギちゃん…」

紬「うぅぅ…」

唯「さわちゃん非道いよっ!!」

さわ子「だったらもっと煌きをみせなさいよ、あんたらのっ…」

さわ子「生きてるっていう…音楽やってるっていう輝きをよお!!」グワッ

律「輝きっつったって…」

さわ子「お膳立てのほんのハジメだけは智恵を貸してあげるわ。」

梓(ものすごく、嫌な予感がする…)

さわ子「文部科学省が進めている教育実験の一環なんだけどね…」

そして…

2009年夏 日本のどこかにある琴吹家所有の山地

さわ子「一同整列!」

唯「ほーい!」

澪「…」

律「スースーする…」

紬「♪」

梓「///」

さわ子「ばっちり着替えたようね。では…」

さわ子「これから一ヶ月間の…桜高軽音部による…」

さわ子「縄文時代的生活を開始します!」

梓「あ、あの先生…」

梓「この格好…どうにかできませんか…///」

さわ子「却下!」

律「ノースリーブに胸んあたりが大きく空いて…しかも短パンかよ!」

さわ子「縄文人がどんな衣服を身に着けてたのかはよくわかってないの。
    これはあくまで仮想の縄文衣よ。」
    
さわ子「実際、土偶の装飾とかを参考にするしかないしね。
    麻とは違った植物から糸を作って布を織っていたことはわかってるわ。」

梓「先生と澪先輩なんて、お、おっぱいが見え…///」

澪「言うなっ…///」

さわ子「悔しかったらこのぐらい育ってみなさい!」

紬「ぐふふ…」

唯「りっちゃんよかったね、私達ぜんぜんおっぱい無くて!」

律「ケッ!」

さわ子「で、この縄文生活を体験する目的をもう一度…」

さわ子「労働や愛情の対価として確保される生活ではなく、」

さわ子「自分たちで直接モノをとり、モノを加工し、この大自然の中を生きる。」

さわ子「そして、ミュージシャンとしての原動力を磨いてちょうだいっ!」

さわ子「…てわけ。」

紬「すごく楽しそう♪」

梓(生きて還れるかな…)

唯「あうあう(狩り行くべ)」

律「あー?(斧持った?)」

唯「うー」こくり

澪「あー!あうー(栗のクッキーうまいな!)」

紬「うー」こくり

こんなん想像して開いた

さわ子「で、さっそく支給品よ。」

・黒光りする石×20個
・哺乳類の骨?×10個
・紐のようなもの(長さ2mほど)×3本
・縄文土器のような素焼きの焼き物(御茶碗ほどの大きさ)×5個
・クーラーボックス?

>黒光りする石
黒曜石だね。

なかなか加工が難しいんだよね。動物の皮で包んで、上から石でゴン!

結構鋭いから気を付けてね、紬ちゃん。

唯「この黒い石ツヤツヤ光っててキレイだねえ!」

澪「黒曜石ですですよね?」

さわ子「そうよ、それで石器を作って頂戴。黒曜石は割れやすくて素人には加工が難しいから、
    大き目のを20個用意したわ。」

さわ子「その他の石器の材料は、その辺から石を拾って加工してね。」

律「その辺って…」

さわ子「次にそのひも。道具を結わえたり結びつけたりするのに使うの。
    なくなったらその辺の植物から、それか動物の腱から作れるわ。」

律「…」

さわ子「次に、その骨。"ある哺乳類"の骨よ。ふふふ…」ニッ

澪「ヒィッ!」

梓「なんの…骨ですか?」

さわ子「うふふふふ…秘密♪」ニヤニヤ

梓(猛烈に嫌な予感がします…)

さわ子「そして、食器として茶碗大の縄文土器を渡すわ。」

紬「せんせい、お料理の道具が無いようですけど…」

さわ子「それはね、とりあえずこのボックスの中に…」

ガチャ

律「ねんど?まさか…」

さわ子「そ、そのまさかよ。これは粘土保存用のボックス。
    なくなったら補充するから安心して。
    さすがに粘土を精製するのは時間が掛かるから。
    粘土を急速乾燥させる機械も用意したから、あまり時間をかけずに土器を作れるわ。」

律「なんかそういうとこだけズルだよなぁ。」

さわ子「いらないかしら?」

澪「馬鹿律!使いますっ!」    

さわ子「その他の土器は自分達でつくって頂戴。
    あと、石器や骨、木で調理器具を作ってね。」

さわ子「つまりは、最低限、煮炊きの土器を作らないと
    お料理はとことん制限されることになるわね。」

唯「すっごく楽しそう♪」

さわ子「あとは、私が必要だと判断すれば随時、いろんなアイテムを支給するわ。」
  

支援だよ

さわ子「あ、忘れるとこだった!」ゴソゴソ…

さわ子「はい、りっちゃんに渡しておくわね。」

・分厚い本

律「『縄文生活マニュアル 著・ネ○チャージモン』!?
   大丈夫かよこれ!?」 

さわ子「その本には縄文人として生きていく様々な智恵がつまってるわ。
    それを活用することができれば、死なずに一ヵ月後の最終日をむかえられるでしょ。」

さわ子「で、最後。さっきからみんなの視線のすぐ先にあるように、」
    この一ヶ月間を私達六人が暮らす…」

さわ子「竪穴式住居。」

梓「結構大きいですね…」

さわ子「公園のジャングルジム二つ分くらいの大きさがあるわ。
    中には炉ぐらいしか設備がないけど。」

唯「あれ?さわちゃんも一緒に『じょうもんせいかつ』するの?」

さわ子「文部科学省の教育実験だからね。監督者として私がつくわ。
    といっても、最低限のアドヴァイスをするだけよ。
    私の分のご飯はつくってもらうけど、私自身は…」

さわ子「何も手伝わないからっ!」

律「はいはい。つまりはニートin縄文時代ね。」

さわ子「ということで、はい、縄文生活スタート!」

律「いきなりかよっ!」

梓「はあ…で、とりあえずは何をすれば…」

唯「おひるね!」

律「DS!」

澪「この馬鹿どもがっ!!」

澪「まずは水場の確保と食料の調達、薪拾いだ!」

唯「おー!澪ちゃんくわしいねー!」

澪「水と食料は生きてくために一番大切だろ…」

律「で、誰がどの仕事をするよ?」

澪「そうだな…」

唯「じゃんけん!」

澪「それが一番か…」

じゃんけんの結果

澪、紬→水場の確保
律、唯→食糧確保
梓→薪拾い
さわ子→ビール

澪「私とムギが水場探し、律と唯が食料調達、梓が薪拾いだな。」

澪「ムギの家の所有とはいえ、この周辺以外は広い原生林らしいから…
  あまり遠くに行かないように。」

さわ子「基点となる竪穴式住居の周辺は四方数百メートルの開けた野ッ原に
    なっていて、現在は午前9時といったところね。」

唯「さわちゃん?」

さわ子「独り言よ♪」

澪「探索は概ね二時間でここまで戻ってこれるように…」

律「あ、あの、澪しゃん?」

澪「なんだ?」

律「部長が私なのになんでYOUが仕切って…」

澪「律、お前にできるか?」

律「…」

律「うっ、下克上、下克上だ…」

唯「りっちゃん…ヨシヨシ」

縄文時代の貝塚からは当時の人々の排泄の跡も発見されてます。
貝塚は今で言うゴミ捨て場です。
つまりそういうことです。

水場探索組

澪「うーん、具体的にどう行けば…音ぐらいしか手がかりないよな…」

紬(澪ちゃんと二人っきり…)

澪「このまましばらく歩いてみるか…」

紬(!)

澪「ムギ、お前の家のものなんだろ?なんか情報は…」

紬(あ、あと少しで澪ちゃんのち、ちくびが見え…)ハァハァ

澪「ムギ?」

紬「えっ!?あ、な、何かしら?」アセアセ

澪「どうかした?」

紬「なんでもない!なんでもないのよ…うふふ」

澪「?」

澪「ムギはこの辺の土地には詳しくないのか?」

紬「前に一度だけきたことがあるけれど…たぶんここからかなり離れているところだから。
  でも、水場は比較的多いはずよ。山葵田や日本名水に選ばれた湧き水がある土地なの。」

澪「そうか…やっぱり足で稼ぐしかないか。」

薪拾い・梓

梓「ふう…」

梓「いっぱい落ちてるな…」

梓「こんなに簡単な仕事引き受けちゃって、先輩たちに悪いことしたかも。」

梓「…」

梓「あ。」

梓「キレイな花がいっぱい!」

梓の前にはシロツメクサに似た野草が花を咲かせている群生地が広がっていた。
花の色は白ではなくうすく紫がかったピンク。
アカツメクサである。

梓「ちょっとくらいならいいよね?」

梓「ふふ…」

花を摘んで、何やら作り始める。
仕事そっちのけで。

食糧確保組

唯「たくさんどんぐりが落ちてるねえ♪」

律「この季節でも結構あるもんだな。」

律「…」

律「これを食うんだよな…」

唯「あっ!あれ、木にぶら下がってるやつ!見たことある!」

律「アケビだな。私でもわかる。
  確か種のまわりの柔らかいとこを食べるんだよな。」

唯「あっちに梨みたいのが生(な)ってる!」

律「へぇー結構あるもんだなぁ…」

唯「あっ!カラフルなキノコ!おいしそうっ!」

律「唯、多分それは毒キノコフラグだ…」

残留・さわ子

さわ子「へーこのブルゾンいいわねー」グビグビ(ビール)

さわ子「値段も手頃みたいだし」パリポリ(柿の種)

さわ子「こっちのもいいわねー」グビグビ(ビール)

さわ子「送料無料は三点以上のお買い上げ…」ポリポリ(背中を掻く)

さわ子「買っちゃうか…」グビグビ(ビール)

水場探索組

二人の目前の岩から緩く弧を描くように水が湧き出ている。

澪「意外と近いところに何箇所か見つかったな。
  ついでに渓流も発見したし。」

紬「お魚も泳いでたわね♪」

澪「ああ。でも、容器がこの茶碗しかないからな。
  土器を新しく作らないと持ち運びが不便だ…」

紬(それに…水浴びはできそうだけれど、シャワーは絶対無理よね…)

薪拾い・梓

梓「zzz…」スースー

梓「ん…」スースー

梓「にゅ…」スースー

梓「zzz…」スースー

食料調達組

唯「りっちゃん事件です!!」

律「どうした唯っ!?」

唯「もう持てないよぉ…」

律「バックが無いって不便だよなー。ここで切り上げるか…」

唯「んー…」

唯「あ!思いついたー!」

澪「帰りました。」

紬「ただいま。」

さわ子「あらお帰りー。」ヒック

澪「(酒臭っ!)昼間っから何やってるんですか!」

さわ子「いいじゃないの!やることないんだし。
    水汲んできたのね、ちょうどよかったわー!」

澪の手から水の入った土器を引っ手繰るさわ子。

澪「あ…」

さわ子「グビグビグビ…」

さわ子「ぷはーーー旨い!」

澪「な、何するんですか!?せっかく汲んできたのにっ!」

さわ子「無くなったらまた汲みにいけばいいじゃないの。」

澪「沸かさずに飲めるかどうかもわからないのに…」

さわ子「この辺の湧き水は生(き)のままで飲めるわよ?」

澪「…」

澪(疲れる…)

梓「ただいまです。よいしょっと…」

小さな体でよくこれほど、と思えるほどにたくさんの薪を運んできた梓。

紬「あずさちゃん、おかえりなさい。」

梓「お水汲んで来れたんですね?」

紬「ええ♪梓ちゃんもたくさん持ってきたわね。」

梓「たくさんというか…その辺りにいくらでもあるので探す必要がないです。」

唯「ただいまー!」

律「帰ったぞー」

梓「あ、おかえ…」

梓「えーーーーーーー!!!!!/////」

澪「ブーーーーーーーーーッッ!!!」(唾)

紬「ブーーーーーーーーーーー!!!」(鼻血)

梓「ちょ、な、なんでそんな…////」

唯「あ、これ、袋が無いからねー」

梓「なんでお二人とも上半身裸なんですかーー!?」

ちょっと席をはずします

再開します

律「上着の空いてるとこをうまく結んで、袋代わりにしたんだよ。」

澪「でも上半身裸になる必要は無いだろっ!!」

律「さわちゃんがこの生活中はブラ禁止にしたんだからしゃーないだろ。
  女しかいないんだしさ。」

紬「ハァハァハァハァハァ」

唯「ムギちゃんどうしたの?」

さわ子「唯ちゃん、ムギちゃんは…そう、ちょっとした病気なのよ…」

澪「とにかく、はやく上着を着ろっ!!」

~情報交換中~

律「近場に川もあるんか…これは釣りの道具を作らないとな!」

さわ子「狩猟の道具がないと動物性淡白が取れなくなるなるしね。
    まあ、蟹や川貝、虫もあることはあるだろうけど。」

澪「む、むしぃーー!?」

さわ子「今でも蜂の幼虫とか芋虫食べるじゃない。
    オーストラリアの先住民は芋虫食べるしアフリカじゃカブトムシ…」

澪「やめてやめてやめてぇぇーーー!!!」

>>63
○蜂の幼虫とかイナゴ
×蜂の幼虫とか芋虫

そして一同は唯と律が取ってきた食料の吟味を始める

梓「いろんなものが取れましたね…」

澪「梨みたいな果物、アケビ、キノコ何種類か、
  どんぐりは、ブナの実、クヌギの実、椎の実。
  あと、柿の実、紫色のビワみたいな形した…何の実だ?」

唯「その紫色の実ね、良い匂いがしたから食べれると思うよ♪」

澪「そんなので判断していいのか…」

律「でも、今肝心なのは、サバイバル物には避けて通れぬ…」

律「毒キノコの選別だっ!!」クワッ!

梓「王道ですね…」

澪「選別っていっても…」

さわ子「はじめに渡した本に、食べられる植物や菌類の見分け方が書いてあるわよ?」

律「そ、そうか、ならば…」ペラペラペラ

律「ここのページからか…」

律「何々…?『毒をもった植物を見分ける方法を伝授する前に
  君たちにアドバイスを行いたい。それは一度有毒な植物を口にしてみることだ。』」

律「『毒のある植物を口にすることで、君たちは自然の恐ろしさを知ると同時に…』」

律「大丈夫かよコレ…」

さわ子「あ、そこは、玄人というかネ○チャー人間になりたい人向けだから
    あんまり本気にしちゃ駄目よ。」

律「おいおい…」

律「ふむ…一応写真付きね。」ペラ

梓「あ、この白いシイタケみたいな奴…」

紬「『フクロツルタケ』?」

律「『フクロツルタケは神経系や内臓にものすごく効く毒キノコだ。
   一本食えば高い確率で極楽に行けるぞ!』」

澪「…」

※気になる人はグーグル先生画像検索に聞いてみてください

唯「えっと、こっちの赤茶色のキノコもやばそうだね。」

澪「それは『ベニテングタケ』だな。私でも知ってる有名な毒キノコだ。」

律「あとは…」ペラ

-五分経過-

律「結局毒キノコはこの二つだけか…」

澪「食べられるキノコは、シメジ、ヒラタケ、ナラタケ、ハツタケ…」

澪「うん、量的にも種類的にもまずまずだ。」

さわ子「はぁー…」

唯「さわちゃん?」

さわ子「不正解っ!!!」ガッ!

律「な、なんだってぇーーー!?」

澪「え、ど、どれなんですか!?」

さわ子「今回だけは智恵貸したげるわ。」

さわ子「そのシメジみたいなのの…これとこれ。
    この二つ以外は本物のシメジ、食べられる奴よ。」

唯「二つも混ざってたんだ。おいしそうなのに…」

さわ子「おいしそうも何も、これ『イッポンシメジ』よ。」

さわ子「死にはしないけど、シメジと似てるから中毒起こす人がけっこういるのよ。」

律「へー…」

澪「あとは無いんですね?」

さわ子「ええ、安心してちょうだい。」

唯「りっちゃんりっちゃん。あれあれ!」

律「おっアレか!ちょっとまってろ!」

そういうと近くの木陰にかけていく律。

梓「どうしたんですか?」

唯「えへへ♪」

律「おらっ!お前らよく見てみろっ!!」

澪「ん?…ん!?んんっ!!!」

梓「そ、それはまさしく…」

「「マツタケ様っ!!」」

さわ子「…」

梓「スゴイですスゴイです!」キラキラ

澪「マツタケまであるのか…さすが琴吹家所有だな!」

律「三年ぶりの…三年ぶりのマツタケ…」

紬(なんでそんなに喜ぶのかしら?)

澪「あ、でもこれもさっきのみたいに実は偽物、なんてことはないよな?」

さわ子「大丈夫よ、食べれるわ。」

律「ほら見ろ!」

さわ子(マツタケじゃなくて『マツタケモドキ』だけどね。)

-食事中-

律「この、ヤマナシだっけか、すっぱいな…」シャリシャリ

唯「この柿は渋くないよ!」

梓「紫色の実も酸味強いですけど、食べれないことはありませんね。」

さわ子「それは一応ビワの仲間よ。」シャリ

唯「でも、キノコはまだ食べれないね…」

律「洗ってから焼くなり煮るなりしないとなー」

律「さて、飯も食ったし、道具の作成に入りますか。」

唯「土器作りたい!」

律「釣り針作るか…」

澪「おまえら…まあ、いいか。石器を作らせてもらうよ。」

紬「唯ちゃんのお手伝いするわ♪」

梓「じゃ、じゃあ澪先輩の…」

さわ子「私は昼寝。」

律「『釣り針は鹿の骨・角かイノシシの牙・骨、木材などを加工して作る。』

律「『当然だが、現代の金属製の釣り針より大幅に大きくなってしまうことは
   否めない。』」

律「『黒曜石でできた厚手のナイフ状の石器と研磨用の大き目の石をしようする。
   また、この際、水に濡らして加工しやすいようにする必要がある。』」

律「あ、黒曜石の石器が必要なのか。私も澪を手伝うか…」

唯「できたー!『ドラえもん』!」

紬「上手上手!」

唯「でもムギちゃんのほうがずっと上手いよ?
  プロの人みたい。」

紬「お父さんが陶芸を趣味にしているから、時々手伝わせてもらってるの。」

唯「ふーん。」

澪「大き目の石で黒曜石の塊を砕く!」

キーン!

澪「石の工作台の上に砕いた塊を置いて、小型の石を使って成形する…」

キン…!キン…!

梓「けっこう鋭いですね…」

澪「扱うときは気をつけろよ?」

キン…!キン…!

梓「はい!」

澪「うん。形はこんなもんか。」

梓「太いかまぼこの切れ端みたいですね。」

澪「あの本によれば、包丁やナイフとして使うらしい。」

梓「へぇー」

律「おっ!良い感じにできてるじゃん!もらってくぞー」

ヒョイッ

澪「あっコラ!!」

梓「試作品第一号が…」

律「なになに…骨より角のほうが強度が強く成形しやすい…」

律「鹿の角なんてあったけか…」

ごそごそ

律「あ、一個だけあった。気付かなかったぜ。」

律「川魚用は一つの材料から小さめに作る。」

律「とりあえず2、3センチぐらいで切り出すか…」

シュコシュコ…

律「…」

シュコシュコ…

律「…」

シュコシュコ…

-10分後-

律「ストレスたまるわぁ…」

律「で、でけた…」

律「これを今度は大き目の石にこすり付けて三角形か長方形に…

中略

律「真ん中に穴を開け

中略

律「上辺を切り取り

中略

律「"かえし"の部分を作って、あとは細くなるよう、壊れないように磨く…

律「でけた!!」

律「正味3時間…長かった…長かったよ…」

唯「あーりっちゃん出来たんだー!」

律「おう!そういうお前らもたくさん…」

律「作りすぎじゃないか…?形もホンモノみたいに凝ってるし。」

紬「ちょっとこだわって見ました♪」

さわ子「国宝『火焔土器』と見まがうほどの…やるわねムギちゃん!」

澪「こっちも一通りできたぞ。」

律「ふんふん。さっきのナイフみたいなのと、やじりの先みたいなの?
  何に使うんだ?マンモスでも狩る気?」

澪「い、いつか役に起つかもしれないだろ!」

律「はいはい了解了解。」

さわ子「じゃあ、とりあえず粘土のほうを乾燥させないとね。」

バックから携帯電話を取り出すさわ子。

律「おいおい、こんな山の中で通じるのかよ…」

紬「衛星電話なのよ、それ。」

律「え?」

さわ子「あ、もしもし?『野焼き』前の乾燥をお願いしたんですけど…
    あと頼んでおいた海藻も…」

唯「野焼き??なんで海藻なの??」

梓「野焼きはようするに、火で土器を焼くってことですかね?」

斉藤「ただいま参りました。」

紬「斉藤!?」

斉藤「お嬢様、頑張っておいでで…
  (うぅ、琴吹家の令嬢ともあろうお方が古代人の格好を…)」

さわ子「そこにある土器の急速乾燥をお願いしますね。」

斉藤「かしこまりました。海藻はその原始住居の中でよろしいでしょうか?」

さわ子「はい、そちらに運んでいただければ…」

律「ワカメや昆布とその他諸々ねー。すっごい量だな。」

さわ子「この海藻があんたらの生命線になるかもよ?」

唯「さわちゃん、どういうこと?」

さわ子「まあ、明日の野焼き、土器の焼入れね、楽しみにしてて。」

さわ子「ってことで、これから大量の薪を集めてちょうだい。」

律「えー…」

さわ子「嫌ならいいのよ?これから先の生活、煮炊きの道具がないと
    食事はますます味気無くなるわねー。」

澪「そういうことだ、律。」

-そしてなんだかんだで夕暮れ時-

唯「つかへたよー…」

梓「薪の山ができましたね…」

さわ子「さて、夜も近づいてきたことだし、
    じゃあ火をおこしてちょうだいな。」

律「火をおこすって、まさか…原始人がよくやるみたいに
  木と木を擦って…」

さわ子「イエス!」

唯「わたし絶対ムリだよあんなの!!」

梓「そうですね、ここは律先輩かムギ先輩に…」

律「こら梓っ!!」

結局は火おこし担当は律と紬ということになった。

律「はっはっ…はっはっ…」

シュコシュコシュコシュコシュコ…

律「…」

シュコシュコシュコシュコシュコ…

律「あームリ!100パー無理!!」

唯「すごいよムギちゃん!もう煙が出てきたよっ!」

律「え!?」

紬「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュ

梓「あっ!ほんのり赤く輝いてきましたよ!」

澪「よし!木屑をくべろ!息を吹きかけて火を大きくするんだ!」

律「…」






律「わたし無駄骨じゃん。」

-竪穴式住居内-

澪「よし!良い感じに燃えてきたぞ!」

唯「なんかさ、ドキドキするような雰囲気♪」

紬「浅い穴の上にお家を建てたているのね。」

梓「だから竪穴式住居って言うんでしょうか?
  それに床も、木を並べた上に毛皮が敷いてあって、結構快適です。」

さわ子「木というか、"すのこ"に近いものよ。
    掛け布団として端っこに人数分の毛皮があるから自由に使ってちょうだいね。」

律「なぁ、はやくメシにしようや…」

唯「うんうん!さっそく取ってきたキノコを…」

律「この茶碗土器で煮る。」

唯&律「…」どよーん…

梓「大き目のキノコは木串にして焼いたほうがいいですかね?」

紬「うふふ、"おままごと"みたいで楽しいわ♪」

律「まさに命を賭けた"おままごと"だぜ…」

唯「…」ムシャムシャ

澪「…」シャリシャリ

律「…」

唯「味がない…」

律「…」

唯「しょうゆがほしいよ…塩がほしい…」

律「言うな唯…」

梓「縄文時代の人たちは、こんな味気ない、というか
  塩気無い生活をおくってたんですかね?」

澪「いや、海水を煮詰めれば塩ができるだろ?
  そうやって作ってたんじゃないか?」

さわ子「残念ながら違うわ。海水を蒸発させて塩を作る方法は、
    縄文時代の本当の末期か弥生時代ごろに考え出されたの。
    それまでは、別の方法で作られていたのよ。」

さわ子「あと、塩ではないけれど、ナンプラーに近いものを作っていた可能性もあるみたい。」

梓「そうだったんですか…」

唯「私達これからずっと塩無しなの!?」

さわ子「大丈夫よ、唯ちゃん。明日、縄文時代の塩の作り方を教えるわ。」

女子が五名+1集まれば姦しい。
食事のあと、唯たちは時間も忘れておしゃべりを楽しんだ。
そして就寝。火は消さずに規模を小さくする。獣避けのためだ。
晩夏といっても、森林の中では気温はそれほど高くなく、快適なぐらい。

シャッシャ…シャシャッ…

ホー…ホー…

ウ…ウヴ…ウ…

梓(眠れない…)

シャシャッ…シャ…

梓(さっきから…動物の鳴き声?)

真っ暗ではないけれど光源の明るさは、ぼんやりとした橙。
となりに寝ている者の顔の判別もつかないほど。

グホッ…グホッ…

ジッ…ジッ…ジッ…

梓(…)

ヴヴ…ヴヴヴ…

シャー…アッコサン…シャー

梓(怖いよぉ…)

梓(…)

ホー…ホー…ホー…

シュッ…シュッ…シュッ…

梓(おしっこしたい…)

ヴーヴー

梓(でも…一人じゃ…)

梓(!)

梓(先輩について来てもらって…)

梓は起き上がると、隣に寝ているはずの澪に近づく。

梓(あれ?いない…)

澪の寝床はもぬけの殻。

梓(えっと…)

周りを見回す梓。

梓(あ…)

一点に向けて視線を凝らす。
律に抱きつくような形で澪が寝息を立てている。
実は澪も梓のように、『原初的な恐怖』を感じて、律の寝床に潜り込んだわけ。
あの怖がりの澪を寝付かせる…親友の特権なのだろうか?

梓(起こすの気がひける…)

梓(仕方ない、頼りないけど…)

(せんぱい…)

唯(ん…)

(ゆいせんぱい…)

唯「んー?だ、れ?」

梓(すいません、唯先輩…)

小声で唯に話しかける梓。

唯「あず…にゃん?」

梓(すいません、声をもう少し小さく…)

唯(うん。)

唯(どうしたの?)

梓(…)

梓(実は…)

-野外-

唯「あはは♪あずにゃん、ひとりでおしっこ行くの怖かったんだ!」

梓「うぅ…(恥ずかしい…)」

唯「まー仕方ないよね♪」

梓「そういう唯先輩はどうなんですか!?こわくないんですか!?」

唯「そりゃーこわいけどさー、みんながいっしょだし、それに。」

唯「今はあずにゃんがとなりにいるしね♪」ニコッ

梓(!)

梓(この人は…臭いせりふを堂々と…////)

-野外-

梓「このへんなら、竪穴住居にも聞こえないかな。」

唯「聞こえないって、何が?」

梓「もう!///」

梓「おと…です、音!」

唯「音?」

梓「用足してる時の音です!」

唯「あー、なっとく!」

唯「みんな寝てるから聞こえないんじゃないの?」

梓「それでも気にするんです!!」

梓「唯先輩も両方の耳押さえて、音を聞かないようにしてください。」

唯「なんで?女の子同士なのに?」

梓「私は気にするんですっ!!」

チョロ…チョロ…

梓「先輩!聞こえてないですよね!?」

チョロ…チョロチョロチョロチョロ…

唯「うん!ぜんぜん聞こえてないよー!」

チョロチョロチョロチョロ…

梓「ほんとに聞こえてないですよね!?」

チョロチョロ…

唯「ぜーんぜん聞こえないよー!」

梓(あれ…?)

それから二人はすぐに、竪穴住居にもどった。

梓(せんぱい、ありがとうございました。)

唯(いーってことよ!)

唯(ねぇ、あずにゃん。)

梓(はい?)

唯(いつでもさ、困ったことがあったら、
  遠慮しないで言ってちょうだい。ね?)

梓(!)

梓(はい!)

梓(…)

梓(せんぱい…)

唯(なーに?)

梓(…)

唯(んー?)

梓(み、澪せんぱいみたいに…)

梓(唯先輩の寝床に入って寝ちゃ…駄目ですか?)

唯(!)

唯(もちろんOK!!)キラッ

梓(失礼します…)

唯(あずにゃんあったかーい!)ギュッ

梓(せ、せんぱい…///)

唯(えへへ、素敵な抱き枕を見つけたよ♪)

梓(…///)

唯(おやすみ、あずにゃん。)

梓(はい、おやすみなさい。)






紬(暗視機能付ビデオカメラとICレコーダー持って来るんだったわっ!!)ギリギリ

紬は一晩中寝床を涙で濡らしたのだった。

そして翌日。

竪穴住居から少し離れた、広場のような場所

斉藤「この辺りに土器を並べておけばいいんですね?」

さわ子「はいお願いします。」

さわ子「あんたたち、野焼きの準備に入るわよ。
    薪は2m×5mぐらいの長方形状に並べて重ねるようにね。
    あ、それと別に竪穴住居の炉ぐらいに薪山をつくって。」

律「了解。」

長方形の薪山、そのとなりの小山にそれぞれ火をつける。

さわ子「両方とも"おきり"を作ることが目的だから
    均等に火が通るように工夫すること!」

律(さわちゃん手伝わないとか言ってたわりには陣頭指揮執ってるよな?)

澪(まあ、熱しやすい人だからな。)

数時間後

さわ子「よし、良い感じ!」

さわ子「"おきり"の上に土器を並べるわ。」

唯「よいしょっと…」

さわ子「丁寧に扱いなさいよ!」

数十分後

さわ子「今度は土器を横にするわ。
    このときも壊さないように気をつけるのよ!」

律「はいはい。」

澪「先生、横にしてから焼き上げて完成ですか?」

さわ子「いいえ、今はいわば"仮焼き"よ。
    乾燥の仕上げと、本焼きをするときに
    土器が壊れないようにするためのプロセスなの。」

唯「へー。結構凝ってるんだね。」

さらに数十分後

さわ子「よし、こんなもんか…じゃあ本焼きに移ります!」

さわ子「横にしてある土器をもう一回立てるわ。」

さわ子「土器の間と上に均等になるように薪を並べて!」

さわ子「並べたら薪山に点火。それであとは数十分具合をみながら薪を加えていくこと。
    良い感じになったら、木の棒をつかって土器をまた倒す。
    本焼きの目安時間は合計40分!」

そして本焼き終了

さわ子「おーけい!後は一時間以上冷まして完成よ!」

唯「さわちゃん、こっちの小さいほうの"おきり"は使わないの?」

さわ子「忘れるとこだったわ!小山のほうは形を崩して平べったくして。
    その上に海藻を並べておきます。」

さわ子「海藻を灰にするのが目的だから、灰状になったら取り除いて
    新しい海藻を足していってちょうだい。」

さわ子「昆布とかワカメはほんの少量だけ、大部分はその杉の木の葉っぱみたいな海藻、
    『ホンダワラ』を使うように!」

一時間半後

さわ子「そろそろいいかしら。」

さわ子「とりあえず完成!」

唯「やっふーー!!」

紬「努力の成果です!」

澪「さっそく取り出しますよ?」

さわ子「ええ。まだ熱いかもしれないから気を付けてね!」

さわ子「ふんふん…ほとんど割れてないわね。
    はじめてにしてはかなりラッキーたわ。」

唯「あー!ドラえもんの首がもげてるー!!」

さわ子「そんな分厚い土人形じゃ、そりゃ壊れるわよ…」

唯「うっ…うう…ドラちゃん…」

さわ子「灰になった海藻は、その大きな土器に入れて持ち帰りましょう。
    ほかの土器はもう少しだけ温度が下がるのを待ってから、
    水場で洗ってきてちょうだい。」

軽音部の面々は土器の洗浄までの工程を終えると
竪穴住居にもどってきた。

さわ子「さて、私が積極的に指導するのはここまで。」

さわ子「あとはあんたらで勝手にやんなさいな。」

唯「さわちゃん、ありがとーね!」

さわ子「感謝の気持ちがあるなら、早くおいしいもの食べさせてちょうだい。」

あずさ「先生、この海藻の灰はどうするんですか?」

さわ子「ああ、それは石を使って粉状にするの。
    そうすれば『灰塩』の完成よ。」

律「灰塩ぉ?食べられんの?」

さわ子「そのホンダワラの灰を口に含んでみなさいな。」

律「あ、うん…」モグ…

律「ん?ん…」

律「しょっぱ苦い!!」

さわ子「まあ、現代の製塩されたやつを前提としちゃ駄目よ。
    その苦味もなかなか味のがあっていいじゃない。」

さて、その日の午後。唯と律は近場の渓流に釣りに出かけた。
澪と梓は食料採集、紬は灰塩作りである。

律「よし、唯はこれを使え!」

唯「何これ?槍?」

律「『ヤス』って言うらしい。
  それで魚を突いて捕まえるんだとさ。」

律「釣り針とは別に、鹿の角と木の棒で作ってみたんよ。」

唯「ふーん。」

-渓流-

律「さて、捕まえといたミミズを釣り針にぶっさして…」

律「うおっ!針が太めだからか、ちぎれちゃうな…」

唯「ミミズが真っ二つ…ウッ…」

律「よし!今度は上手くいった!」

律「さて、釣りますか…」

唯「おう!」

律「糸たらして…」

ポチャン

律「糸が2mってのも短すぎだよなぁ…
  さわちゃんいお願いして長いやつもらわないと。」

バシャバシャッ!

律「こら!魚が寄ってこないだろ!」

唯「冷たくて気持ちいーー!!」

一時間後

律「駄目だ、ぜんぜんかからねー…」

唯「魚がすばしっこくて刺さらないよ…」

律(まー素人の腕じゃ不可能だよな。)

-さらに一時間後-

律「カイン…!カイン!」

唯「…セシル!す、すまん…俺は何という事を…」

律「操られていたんだ…仕方ないさ。」

唯「しかし…意識はあったのだ。俺はローザを…」

-さらに30分後-

唯「zzz…」

律「唯は遊びつかれて寝ちまったし。」

律「今日はあきらめ…」

ピクッ

律「ぬ!?」

律「かかった!!」

ピキピキ…

律「よ、よし!リールを巻いて…」

律「ってリール付いて無いじゃん!」

ピキキキ…

律「素直に引き上げればいいのか!?」

律「そいっ!」

律「てりゃぁっ!!」

律「ゲットだぜ!!」

唯「ん~?ふぁあ…」

律「唯!やった!つり上げたぞ!」

唯「あっ!すごーい!なんていう魚なの?」

律「うーん、アマゴだな、これは。」

唯「へー!よく知ってるね!」

律「父さんや聡と一緒に時々釣りに行くんだ。
  だから自然とおぼえたっつーわけ。」

唯「ただいまー!」

澪「ああ、おかえり。」

律「見ろ!3匹も釣り上げたぞ!
  アマゴが2匹、イワナが一匹だ!」

梓「すごいですね…大きさは20cmぐらい?」

律「アマゴは15cmに20cmぐらい、イワナも15cmぐらいか…
  アマゴはもっと大きくなるから、この辺にもでっかい奴がいるかもな。」

さわ子「りっちゃんやるわねぇ。で、一番大きい奴を食べる権利は
    当然私にあるわけよね?」

律「なんだよその理屈!!」

さわ子「土器を完成させることができたのは私がいたからでしょ?」

律「ぐっ…」

さわ子「それにまた釣ってくれば良いんだし。」

こうして縄文二日目も過ぎてゆく…

三日目

さわ子「はい、糸の追加よ。あと、竹もサービスでつけとくわ。
    この辺には生えてないしね。」

澪「ありがとうございます!」

さわ子「それで細工物を作るなり弓を作るなりしてちょうだい。」

四日目

律「木と蔓を使って魚用の仕掛けを作ってみた。」

澪「こっちも弓矢が完成したよ。」

唯「矢はどんぐらい飛ぶの?」

澪「威力がでるのは、10mちょっとまでってとこかな。」

五日目

律「ちょっと離れたとこに地層の断面があるんだけど、
  そこで、こんなもん見つけた。」

紬「石油臭いわ…」

唯「黒くてベトベトしてるね?」

律「ジモ○御大によると、これはタールみたいだ。
  石器と木を連結してあるトコに塗ると、
  その部分の強度をあげることができるんだって。」

六日目

唯「いっひひひひひひひひ!!!」

紬「唯ちゃんどうしちゃったの!?」

梓「笑い茸を食べたそうです。」

律「ベタベタだなおい…」

さわ子「そのうち直るだろうからほっときなさい。」

そして七日目…

澪「よいしょっと。水汲んできたぞー!」

唯「おかえりー!澪ちゃん、あーん。」

澪「あーん。」モグ

澪「すっぱ!」

唯「『ざくろ』だよー。」

澪「そうなのか?この森はほんとになんでもあるんだな…」

律「あー、みんな、ちょっといいか?」

唯「どったのー?」

律「とりあえず、家の中に入ってくれ。相談したいことがあるんだ。」

-竪穴住居内-

律「これを見てくれ。」

唯「こっこれはっ…!?」

澪「クサッ」

紬「何かしら?」

梓「…」

さわ子「どうみてもウンコでしょ。」

律「ああ、ウンコだ。」

澪「おい律…」

律「まあ、待て澪。当然これは私のウンコではない。」

澪「お前のだったら絶交モノだ!」

律「ジモ○大先生によれば、イノシシの糞らしい。」

紬「イノシシ?」

律「ああ。で、私なりに大先生の理論のもと
  このウンコを研究してみたんだが…」

律「どうやら、これが排泄されてから、
  まだ2、3時間しか経ってないらしい。」

律「大先生は糞の状態でイノシシの体長・体調の把握や行動予測まで
  可能らしいんだが、私にはここまで推測するのが限界だった。」

澪「いったいこんなものどこで…」

律「あたしらが利用してる水場あるだろ?
  そこからさらに20分ほど進んだ場所だ。」

律「で、このほかにも、別の場所2箇所でイノシシの糞が確認された。
  ここにあるやつよりも古いもので、同一の固体のものかはわからない。
  けれど、私が見つけた糞は、すべて同一の固体のものだと私は考えたい。」

梓「あの…律先輩の意図がまったくつかめません…」

律「あずさ、まあ聞いてくれ。」

律「ここで私は一つの提案をしたい。」

律「それは…」

律「この糞をしたイノシシを狩る!」

「「「「!!!!!!!」」」」

さわ子「はぁー…」

澪「律、正気…か?」

律「ああ。」

澪「日本中で年間何人の人間が、イノシシに襲われて
  怪我してるとおもってるんだ?」

澪「私らに太刀打ちできる相手じゃないだろう?」

律「あきらめたらそこで試合終了です。」

澪「私は真剣なんだぞ!!」

律「はい死んだ!澪のミュージシャン魂は今死んだ!!」

澪「ブチ」

メシと買い物にいってきます。
ここまでで、このSS全体の五分の三ぐらいになります。

ありがとうございます。
再開します。

澪「先生!このデコッパチになんか言ってやてください!」

さわ子「うーん…りっちゃん?」

律「おうよ!」

さわ子「勝手にやりなさい。」

澪「せんせい!!」

さわ子「ったく…」

さわ子(澪ちゃん、たしかにイノシシに遭遇してもあんたらじゃ
    傷一つ付けることはできないでしょうね。)

さわ子(逆に大怪我負うわ。)

さわ子(譬えるなら、dq6で本物のムドーに貧弱なレベルで挑むのと同じ。)

さわ子(ちょっと怖い目見たほうが今後のためよ。)

澪(でも怪我とか…)

さわ子(そんときはあんたが上手く誘導して、皆を逃走させなさい。)

澪(そ、そんな無責任な…)

さわ子「そういうことでがんばってねー。」

澪「おっ鬼!!」

こうして唯たちは無謀にもイノシシ狩りを行うことになった。
ここでイノシシ狩りに臨む唯たちの装備を見てみよう。

唯「ドキドキするねー!」
 ・右手→鹿角のヤス
 ・左手→なし
 ・頭→なし
 ・上半身→縄文人の服
 ・下半身→縄文人の半ズボン
 ・その他→小型の投槍
      憂のまもり(憂から渡されたお守り)
      イグサのポシェット(イグサを編んで作ったポシェット、食料入り)  

澪(果たしてどう逃げれば良いか…)
 ・右手→なし
 ・左手→竹製の弓
 ・頭→なし
 ・上半身→縄文人の服
 ・下半身→縄文人の半ズボン
 ・その他→黒曜石の矢×10
      黒曜石の石包丁
      イグサの矢筒(イグサを編んで作った矢筒)  

>>200
×・右手→なし
 ・左手→竹製の弓

○・右手→竹製の弓
 ・左手→なし

律(狩りで私がリーダーシップをとって澪から軽音部の主導権を…)
 ・右手→石製のハンドアックス(石の部分は20cm×4cm×2cm)
 ・左手→なし
 ・頭→なし
 ・上半身→縄文人の服
 ・下半身→縄文人の半ズボン
 ・その他→イグサのポシェット(食料・修理器具・小型石器入り)
      小型の投槍  

紬「ふんふんんふーん♪」
 ・右手→黒曜石の大型槍
 ・左手→黒曜石の大型槍
 ・頭→なし
 ・上半身→縄文人の服
 ・下半身→縄文人の半ズボン
 ・その他→ハンドアックス(律のものと同じ)×2
      大型縄文土器のバックパック(蔓をつかって背に背負えるようにしたもの
      中身には食料、総量10kg)
      たくあん眉毛  

梓(や、やってやれないです…)
 ・右手→小型の投槍
 ・左手→なし
 ・頭→なし
 ・上半身→縄文人の服
 ・下半身→縄文人の半ズボン
 ・その他→いぐさのポシェット(食料・つぶて石入り)
      竹製の水筒×2

※つぶて石…投げて対象に打撃を与える石ころ。  

さっそく原生林奥へと足を踏み入れる一行

律「あっ、いつもの湧き水についたな。
  水分補給しとくか。」

澪「水筒は二つしかないし、ここを拠点にするか、
  遠くの水場を探すか…」

律「どうにかなるだろ、まー。」

澪「な!?適当すぎるぞお前!!」

澪「はぁ…本当に…
  あ、みんな、体を動かして大量に汗をかくかもしれないし、
  灰塩を食べて水を十分にとっておけよ。」

唯「おーけい!」

こうしてさらに奥へと進む一行。

澪(帰り道をちゃんと覚えておかないと…
  でも方向感覚がぜんぜんつかめない…)

律(ぜーんぜん、出て来ねえなあ…)

梓「ムギ先輩、そんなにもって重くないんですか?」

紬「もっと持てるわよー?」 

このあと、ほぼ半日、一行は歩き回ることになる。
糞や足跡、イノシシが地面を掘り返したと見られるあとは見つかったが、
イノシシ自体に遭遇することは無かった。

一行には、間延びした倦怠感が現れ始めていた。
そのときである!

唯「あっ!あそこっ!」

律「どうした唯?」

唯「なんか、変な動物がいるよ!!」

律「なにっ!?」

律(よし、こっからは声を抑えていくぞ!)

律(鳥だよな…少し大きめだ…)

紬(あれは…雉(きじ)よ!)

律(キジか…まあシシ鍋じゃなく焼き鳥にランクダウンしとくか…)

律(よし!目標前方2時の方向のキジ!
  フォーメーショーンDだ!)

唯(ふぉーめーしょん?そんなのあったっけ??)

律(こういうのは気分なんだよ気分!それで士気が上がるんだって!!)

キジ「アホー」※こんな鳴き方はしません

梓(変な鳴声ですね…それに、狩るのはちょっと可哀想…)

律(梓、変なヒューマニズムに惑わされるな!)

律(澪、後方から援護を頼む。
  唯、私とギリギリまで近づいて投槍でしとめるぞ。)

澪(りょ、了解…)

唯(らじゃー!)

紬(ドキドキ)

律(ギリギリまで近づけ…でも近づきすぎたら感づかれるから、あんまり近づくな…)

唯(え!?ど、どっちなの!?)

律(カンだカン!自分の感性を信じるんだ!)

ジリジリ…

キジ「アホーアホー」

律「いまだ唯!」

唯「応(おう)!」

律「はぁぁーー!」

唯「えいっ!!」

キジから8mほどの距離から投槍を投げる!

キジ「アホー」

そして全く命中しない!

律「あ、あり??」

唯「ハズしたぁーー!!」

紬(投槍は弓矢よりも狙いがつけられないのね。
  あと、飛んでいくスピードでも劣ってる…これじゃ威力も…
  鳥、というか素早い動物を狩るには不向きだわ。)

律「くっ…み、みお頼む!」

澪「ああ!」

矢をつがえ、弓を引き絞る澪。

澪(!)

ヒュン!

澪が放った矢はキジのほんの少し側面をかすめて外れる。

澪「くっ…」

キジ「アンタラバカー」

パサパサッツ…パサッ…

キジは優雅に空中へ舞い上がると、唯達の頭上を軽く旋回して
どこかへ飛んでいってしまった。

律「くっそ!ああくっそー!!」

地団駄を踏んで悔しがる律。

梓(でも、殺さなくて、ほんとによかった…)

紬「あ、あのねりっちゃん…」

律「あっ!?なんだ!?」グワッ

紬「ヒッ!な、なんでもないわ…」

澪「攻撃の連携がぜんぜん取れてないな。
  それに武器の選択も間違ってた。」

律「ああ!そう!そうだよな!くそっ…」

唯(りっちゃん荒れてるね…)

紬(アレがはじまっちゃったのかしら?)

それから小一時間周囲を探索したが、いかなる動物にも遭遇することは無かった。
唯たちは協議の上、途中で新しく見つけた湧水の近くまで引き返し、
そこで一晩明かすことに決めたのだった。

パッ…パチッ…

闇の中、かがり火がうごめき煌く。

律「…」

律は口数少ないまま、食事をそうそうに切り上げ、
横になって目を瞑る。

唯「クッキーおいしいね♪」モグモグ

梓「はい…」

梓は曖昧に相槌を打つ。
唯は食料として持ってきたどんぐりクッキー(灰塩味)を
大そう気に入っているようだ。

澪「ふぅ…」

澪は時々、律の方に視線をやりながら、弓の"つる"の調整をしている。

紬(りっちゃん、それにみんなも…疲れがたまってるのかな…)

紬は、ぼんやりと、皆の方を心配そうに見やる。

始めた頃は、非日常の中に突然入り込んだ日常感覚、が生まれた。
しかし時間が経つにつれ、この二つは溶け合い、
まったく別の、はじめて経験する感覚へと、唯達を晒す。
彼女達も身をもって、それを覚えはじめている。

こうしてまた一日、日が過ぎていった。

次の日、目を覚ますと唯たちは竪穴住居へと帰路を取る。
大体一時間半ほどかかるだろうか?
澪がかろうじて方向と目印を覚えていたため、何とか帰りつけそうだ。
律は今日もほとど喋らない。
いや、他の皆も。

唯「ふぁーー…」

紬「眠いの、唯ちゃん?」

唯「んーちょっとねー。」

ドン!!!

唯「!!??」

澪「な、なんだ…!?」

それは突然に訪れる。背後で大きな音がする。
重量のある何かが、何かに衝突したかのような…

背後5mほどの木陰に、唯達が追い求めていた動物がいた。

律「いの…シシ!?」

梓(よりによって…皆さんのテンションが最悪なときに…)

イノシシ「フ…フー…」

イノシシは唯達に気付くと体躯を彼女達のほうに向ける。
本来なら臆病な動物のはず。何かに気がたっているのだろうか?

梓「こっち向いて…に、にじり寄って…きます!?」

澪「くっ…に、逃げ…」

律「いーや狩る!!」

澪「ば、馬鹿っ!!昨日のキジとは違うんだぞ!?」

イノシシはゆっくり、ゆっくりと、相撲取りのように寄りきり進み、
体躯を前方に屈める。

紬「来るわっ!!」

律「澪!怖いなら指くわえてみてろ!!唯、投槍用意!!」

唯「うん!」

イノシシ「フーーーーー!!!」

ドッドッドッ!!!

イノシシが突進し始める。
標的は…梓!

梓「あっ…!?」

律「早いっ!!」

紬「あぶないっ!!」

紬は覆いかぶさるようにして、梓をイノシシから庇う。

ドンッ!!!

イノシシはその横を突進し、そのまま別の大木に衝突する。

律「!?」

梓「あ…あ…」

梓「ハッ!ムギ先輩大丈夫ですか!?」

梓は紬のほうに顔を向ける。
紬はすでに、槍を構えて起ち上がっている。

紬「ぜんぜん!」ニコッ!

梓「よかった…!」ジワ

律「動かない!?死んだか…」

澪「いや、気を抜くな!!」

律「!」

律「ああ!ゆい、あいつに目掛けて槍を投げるぞ!
  澪も頼む!」

唯「うん…!」

澪「ああ!」

紬(やっぱり…投槍は弓矢に比べて有効な武器じゃないんだ…)

唯「あずにゃんを睨んでるみたい!!」

梓「ヒッ…」

紬「また来るわ!」

律「澪、距離をとってあたし等の背後から狙え!ムギ、お前の長槍一本貸せ!」

紬「うん!」

紬は律のすぐ目前へ槍を放る。
律はすぐさま片手で掴みあげる。

イノシシは再び唯達に向いはじめる。
いや、おそらくは梓に向って、だ。

澪はイノシシの側面に再び矢を射掛ける。

ヒュン!

わき腹に突き刺さりはしたがイノシシは動きを止めず、再び前かがみに。

澪「く、頑丈…」

律「あきらめるな!何度も射掛けろ!!」

律「ムギ!イノシシ挟んであたしの反対側にいけ!両側から仕掛ける!
  唯は梓を庇いつつ逃げて引き付けろ!」

唯「うん!」

イノシシが突進する。

律「やぁぁーー!!!」

律の長槍がイノシシの首の辺りを傷つけ、反動で律は背後に倒れる。
長槍は突き刺さりこそしなかったが、イノシシの動きを止めた。

紬(今!!)

紬は一直線にイノシシに突進する。

紬「はぁぁっ!!!!」

ズっ!ググ…

紬(嫌な…感触…)

紬の長槍はイノシシの下腹深く突き刺さる。

イノシシ「フーーーーーーーーーーー!!!!」

苦しげな声をあげ、打ち倒れるイノシシ。

律「や、やたっ!!」

澪「律、ムギ!怪我ないか!?」

律の背後から澪が声をかける。

律「大丈夫だ!」

紬「私も!」

澪は律に近づこうとするが、
その刹那―

イノシシはゆっくりと起き上がる。
そして律のほうへ…
最後の力で、律を道連れにしようとするかのように。

律「あっ…」

律とイノシシの距離で今突撃されれば…

律「や、ばっ…」

澪「くっそーー!!!」

ヒュン!

澪はすぐさま弓を引き絞り射掛ける。
が、澪の放った矢は外れてしまった、ように見え…

?「…」

ヒュン!

外れたように見えた矢は、なぜかイノシシの眉間から深々と突き立っていた。
ゆっくりと、横臥するように倒れるイノシシ。

律「あ、あぶ、あぶなか…」

澪「りつーーー!!」

澪は背後から律を抱きしめる。

澪「よ、よかっだ…よかっだぁーー!!」ヒッヒック…

律「へへっ…////」

紬(心のビデオカメラ起動開始。高画質モードon)ハァハァ





少し離れた木陰

?「たく、世話をやかせてくれるわね…」

そして一行は、蔓と木の棒でイノシシを縛り上げると、
梓を除いた四人がかりで背負い、竪穴住居へと帰路についたのだった。

けれど…逆さまに木に括り付けられ、
次第に体温を失っていくイノシシを、横目に見て…

梓「…」

梓(気が落ち着いてみたら、やっぱり、生き物を殺すのって…)

梓(それに、なんだかわからないけれど、このイノシシ、
  何かに取り憑かれてるようだった…)

-竪穴住居-

律「ただいまー!」

澪「重かった…百キロ近くあるぞコイツ…」

唯「さわちゃん!見てーーーー!!」

さわ子「あー?何よ昼間ッから…ヒック」

梓「またお酒飲んでる…」

唯「イノシシつかえまえたよー!」

さわ子「へーやったわね!どらどら…」

さわ子「…」

さわ子(ふむ、コイツは…やっぱりね。)

さわ子「まずまずの大きさね!お昼ごはん食べたら解体しましょうか!」

梓「か、かいたい!?」

さわ子「肉片にしないと食べられないでしょうが…」

梓「う…」

-そして解体準備開始-

さわ子「穴を掘って、それに木組みを立てて、
    イノシシを吊るす土台を作りましょう。」

唯「はーい!」

さわ子「コイツの重みに耐えれるのを作らないといけないから
    太くて頑丈なやつを持ってくるのよ。」

-土台作成中-

さわ子「よし、吊るし上げまで完了!」

さわ子「えっとりっちゃんは確か、イノシシの解体を見たことあるって言ってたわね?」

律「うん、田舎のじいちゃんちに行った時に何回かね。」

さわ子「解体プロセスもわかってる?」

律「もち!」

さわ子「じゃ、りっちゃんは補助お願いね。
    あんたらの腕じゃ無理だろうから私がメインでやります。」

※澪は解体が怖いので竪穴住居に退散しました。
 イノシシ狩りに参加しといてなんですが。

律(ずっと気になってたんだけど、
  なんで先生はこの手のことに詳しいんだ?)

紬(サバイバル好きの彼氏でも居たのかしら?)

さわ子「んっ!?なんか言った!!??」

律「な、なーにもー…」

紬「言ってないです…」アセアセ

梓「…」ガクガク

さわ子「あずさちゃん、怖いなら、
    澪ちゃんみたいに竪穴住居に帰ってて良いのよ?」

梓「だ、大丈夫です…」

さわ子「じゃ、はじめますか。
    まず、イノシシのお尻の穴に布を入れておきます。」

唯「なんでー?」

律「ウンコで肉が汚れることがあるからなんだってさ。」

唯「ほー。」

律「あ、その前に。」

イノシシに向って手を合わせる律。

さわ子「ずいぶんと信心なことじゃない。」

律「じいちゃんに、こうしろって言われてるんだ。」

そして、さわ子と律は石包丁でイノシシの皮を剥いでいく。

梓「ぅ…」ガクガク

唯「…」

紬「…」

さわ子(この子たちよく頑張ってるわね…)

さわ子(さて…)

-皮剥ぎ完了-

梓「ヒ…ヒ…」ガクガクガク

唯「…」ガクガク

唯と梓は身を寄せ合って震えている。

紬「あんまり脂肪がついてないですね?」

紬はもう慣れたようだ。

さわ子「まあ、そりゃそうよ。夏場だもの。
    冬篭り前が一番おいしいんでしょうけど。」

律「でもその割には、コイツお腹がでっぷりしてない?」

さわ子(フフ…)

さわ子「じゃ、りっちゃん、はじめの一刀はまかせるわ。
    下半身のこの辺、一番膨らんでるとこに
    切れ込みを入れてちょうだい。」

律「あれ?先に頭は落とさないの??」

梓「ア、アタマ、オト…」ガクガクガクガク

さわ子「今日は特別工程よ。」

律は言われるまま、皮膚に切り込みを入れていく。

律「あー!石器じゃ難しいな…」

さわ子「そう?この黒曜石の切れ味も中々のものよ。」

律は10cm程度の切れ込みを入れる。
イノシシの内臓が傍目にもよくわかる。

梓「…」ガクガクガクガクカ

唯「…」ガクガクガク

さわ子「さて、あななたち、もっと近寄ってきなさい。」

そう言うとさわ子は、内臓のうちの、ひときわ大きな袋のようなものに
切れ込みを入れ始める。

律「!?」

さわ子(りっちゃんは気付いたかしら?)

紬「それ、胃ですか?」

さわ子「こんなとこに胃なんてあるわけ無いでしょう。」

律「さ、さわちゃん、そ、れ…」

さわ子が入れた切れ込みから赤紫色のような物体が見える。

律「あ…」

さわ子「これ、何だと思う?」

梓「…」ガクガクガクガク

唯「え?え…?」

さわ子「これはね、イノシシの子宮、このなかに入っている赤紫の物体は…」

さわ子「イノシシの胎児よ。」

梓「え…」

梓はまじまじと赤紫の物体を凝視する。

そして、意識を手放した。

梓「…」

梓「ん…」

「!」

梓「んん…」

「あずにゃん!」

梓「ゆ、い、せんぱい?」

唯「よかった!あずにゃん!!やっと目をさましたよー!」ギュ

梓「あ…」

梓「わたし、気を失って…」

唯「うん、もう夜だよ。」

梓「他のみなさんは?」

唯「外で火をおこしてご飯食べてる。」

梓「ご、はん…」

フラッシュバックするように、梓はイノシシの解体の場面を思い出す。

梓「あ、あ、」

唯「あ、あずにゃ…」

梓「あああーーーーーーーー!!!」

澪「どうしたんだっ!!」

澪たちが飛び込んでくる。

梓「うあああああーーーーーーーー!!!」

律「あ、ずさ…」

さわ子「やっぱりね…」

梓「ひどいっっ!!ひどすぎるよ!!!残酷だよ!!!!!」

梓「せんせい!!!せんぱい!!!」

梓「最低です!!!!!!!」

梓「あの子、もう少ししたら生まれてこれたかもしれなかった…
  なのに…なのに!!!」

澪「先生!!いくらなんでもやりすぎですよ!!
  梓にも…生き物の解体なんて耐えられるはず無かったんだ!」

何を見て梓が気を失ったかについては、澪には伏せられている。

さわ子「たしかに、そうかもね。やりすぎだわ。」

律「肉食べてるのに、解体工程に文句言うやつはどうのこうのって、
  よく言うけど…」

律「さわちゃんはやり過ぎた。それに、事前に私に断っとくべきだった。」

さわ子「そうしたら、りっちゃんは私を止めた?」

律「ああ。」

さわ子「はぁ…」

さわ子「私もC・W・ニコルの真似したり、
    偽善者/偽悪者ぶるつもりはないんだけどね…」

澪「結果も、多分、動機も…両方最悪ですよ!とくに結果!!梓には、やっぱり…!」

梓「…」プル…プル…

唯「あず、にゃん??」

梓「もう…」

梓「もういやああああああーーーー!!!!!」

梓は竪穴住居を飛び出す。

澪「あずさっ!!」

唯「大丈夫!!私にまかせて!!」

梓「さ…さ…」

梓「酸だああああああーーーー!!!!!」

ごめんなさい

さわ子「梓ちゃんは唯ちゃんに任せて、わたしは食事に戻るわ。」

澪「先生!!どれだけ無神経なんですか!?」

さわ子「じゃあ、あのイノシシの骨の前で、泣きながらひたすら
    許しを乞えっていいたいの?」

澪「な…!?」

さわ子「今日調理したものは内臓。土の中に埋めた部位と違って、
    早く食べないと傷んでしまうわ。」※

澪「話にならない…!」

※土中に埋めて熟成を促す過程

澪「だいたい、律もムギも、解体工程見ておいて、
  よくも肉を口に出来たなっ!」

紬「…」

律「なっ!?お前だって食べてたじゃないか!!」

澪「わ、わたしは…!」

さわ子「先に戻ってるわよ。」

そういうとさわ子は、火のほうへと戻っていく。

紬「…」

紬も無言でさわ子に続く。

澪「ムギ…!?」

さわ子「…」モグモグ

紬「…」ヨリヨリ

さわ子「…」ゴクゴクゴク

さわ子は猪の内臓の煮物をビールで流し込むように食べている。
紬は時々、煮物を口にしながら、植物の繊維のようなもの―
イラクサを縒(よ)る作業を行っている。

紬「先生、ビールを飲むペースが早くなってますよ。」ヨリヨリ

さわ子「余計なお世話。」モグモグ

さわ子「ムギちゃんもなに作ってんのよ?」

紬「これですか?ジ○ンちゃんの本に書いてあったんです。
  この縄文生活でも、楽器を作って演奏ができないかなって思って。」

さわ子「弦…ね。」

紬「ええ。それに、あの子の毛皮も骨も牙も腱も楽器の材料にできますし。」

さわ子「そう…」

紬(楽器を作って、演奏ができるようになれば、みんなも…)

澪「…」

律「ふぅ…」

律と澪が戻ってくる。
律は無言で自分の土器茶碗を手に取ると、煮物を口にし始める。
澪は、煮炊き用の大型土器―臓物の煮物が入っている―を少見つめた後、
黙って土器茶碗を手に取り、律にならう。

―とある湧水の側―

チョロチョロチョロチョロ…

湧水の流れる音。

ジー…ジー…ジー…

ホー…ホー…

生き物の鳴き声。

梓「ぅ…ぅ゛ぅ…」

そして少女の、啜り泣く声。

梓は湧水のほとりで泣いていた。

梓「…」ヒック

周りは暗く、誰もいない。
けれど。

「あずにゃん。」

梓「!」

梓「ゆい、せんぱい?」ヒック

唯「隣り、座っていい?」

梓「…」

梓「はい…」

唯は梓の隣に座る。

唯は、梓の背に右手を伸ばし、梓の頭を自分の頬によせる。
唯は何も口にしなかった。
梓も同じく。

ただ、時間と人間以外の出す音のみが、ゆっくりと背後を流れてゆき。

どのくらいたっただろうか?
ふと、唯の目にほんのりとした灯りが目に入る。
黄金のような淡い翠のような、うっすらとした輝き。

唯「あれ?」

梓「せんぱい?」

梓「どうしたん…です、か?」

唯「あれ見て。」

唯は輝きのほうを指差す。

梓「なん、だろう…?」

湧水からは小さな小川が流れ出しており、
唯の見つけた輝きはその小川の流れの先にある。

唯「…」

唯「あずにゃん、いってみよう?」

梓「え?」

唯たちは小川を下る。
下るにつれ、灯りが散在するように輝いているのがわかる。
そして、それは小さな光が群れ集まって、舞うように、輝いているのがわかる。

梓「あ…」

そして唯と梓は、光の大群のすぐ目の前まで近づく。

唯「ホタル、だね。」

梓「はい。」

無数のホタルが淡く輝くながら飛び交っている。

梓「キレイ…」

唯「うん。」

唯「…」

梓「…」

梓「せんぱい?」

唯「うん?」

梓「ホタルは輝き始めたら、すぐに、死んでしまうんですよね?」

唯「そうなんだ?」

梓「はい。」

それから二人は言葉を交わさずに、ホタルの群れの中、
その輝きをぼんやりと、見つめていた。

―竪穴住居前―

梓「ただいま…です…」

澪「おかえり。」

梓「はい…」

紬「梓ちゃんお腹すいたでしょう?果物を絞ったジュースとクッキーがあるから。」

梓「あ、あの、せんせい、せんぱい、いきなり飛び出してすいませんでした…」

律「いいんだよ…、いいんだ。」

さわ子「ええ…」

さわ子(私も謝…)

さわ子(いえ、まだね。)


さわ子(最後の…)

それからまた、日が過ぎていく。
軽音部の面々も、表面上はしこりを残すことなく、和気藹々とやっているように見えた。
そして、縄文生活開始から、ちょうど三週間後。

紬「できた!できたわ!!」

律「へー上手いもんだな…」

さわ子「ウクレレみたいな形してるわね。」

紬は、木片や猪の骨、イラクサを組み合わせて、
ウクレレに似た楽器を二つ作り上げていた。

紬「本当はもう一個つくりたかったんだけど、時間がね…」

唯「いいよいいよ!澪ちゃんとあずにゃんが使ってちょうだい。」

梓「いいんですか??」

唯「うん!私はボーカルだけでいくから。」

澪「なんかそれも悪いな…」

紬「あ…」

律「ムギ、どうした?」

紬「完成はしたんだけど、イラクサを全部つかっちゃったの。
  イラクサで作るとすぐ弦が切れちゃうから、もう少し予備の弦が欲しいなって。」

唯「じゃあ、私がとってくるよ!」

紬「いいの?」

唯「うん。水場の近くに生えてたよね?
  今日は私がお水汲む係だし、そのついでに。」

紬「ありがとう、お願いするわ♪」

―湧水のほとり―

唯「よいしょっと。」

唯「お水も汲んだし。イラクサもたくさんとったし!」

唯「…」

唯「あ、採りすぎちゃった…」

唯「持てるかな…」

?「持ちますよ?」

唯「え、ありがとう!」

声のした方へ振り向く唯。

唯「!!」

唯「な、なんで…」

唯「なんで君がここにいる…の!?」

その日、日没間近になっても唯は帰ってこなかった。

―竪穴住居―

律「おい!どうだ??見つかったか!?」

梓「どこにもいません…」

紬「唯ちゃん…」

澪「立ち寄りそうなところはあらかた探したんだが…」

律「キレイな蝶を見つけて、で、追いかけて、
  そのまま迷子になったとか…?」

梓「ありそうだから怖いです…」

さわ子「まだ見つからないの?」

律「ああ…って、さわちゃんも探すの手伝えよ!
  緊急事態なんだぞ!?」

さわ子「ええ…」

さわ子(そろそろ来るかしらね。)

そのときである。

紬「あ、あれ!!なに!?」

律「どうしたムギ!?」

紬「あっち!変な灯りが近づいてくるわ!!」

澪「炎…??」

澪「たいまつか!!」

さわ子(やっと来たようね。)

たいまつを持った何者かが、竪穴住居に近づいてくる。

澪「近づいてくる!?」

律「斉藤さんか?」

紬「たいまつを使うわけがないし、そんな悪ふざけだって…」

紬「あ!」

紬「先生!何か知ってますね!?」

さわ子「ぜーんぜん。」

梓(知ってる目です…)

そして、その人物は律たちから5mほど離れて歩みを止める。
律たちと非常に親しい人物であった。

律「あっ!!」

澪「えっ!?」

紬「なんでここにいるの…」

梓「それに…その格好…」

「「「「憂(ちゃん)!!!」」」」

律たちの目前に現れたのは憂であった。
しかし奇妙なのはその格好である。

長袖の、白いローブのような服を着込み、その上から黒色の、
美しい光沢を放つ鎧を着込んでいる。おそらくは木製で漆を塗ったもの。
剣道の胴を厚手かつ縦に引き伸ばしたような形をしている
いわゆるブレストアーマーの一種か。
よく見れば表面に、凹凸上の幾何学文様が彫りこまれている。

腰にはいびつな形の、銅色にかがやく剣を二本、両腰に佩き、
背中には鎧と同じ色、光沢の縦長の盾を背負っている。
そして首からは、緑色のガラス管を糸にとおした首飾り。

憂「みなさんをお迎えに上がりました。」

律「!!」ゾクッ

憂「唯のいるところまで…」

憂の声は底知れず冷たく、
その目からは何の感情も読み取れない。

梓「うい…」

梓の問いかけに対し、憂は何も答えない。

憂「さあ、こちらへ。」

憂は、なおも促す。

律(なんかすげーやばい雰囲気だぞ…)

梓(でもついていかないことには…)

澪「憂ちゃん、唯はいったいどこにいるんだ?」

憂「…」

一瞬、間が空き、憂は答える。

憂「"わがきみ"の御許(おもと)にいます。」

澪「わが…きみ?」

憂に先導される形で律たちは先に進む。

律「憂ちゃん、そこまでどんぐらいかかるんだ?」

憂は答えない。

律(すっごくやりづらい…)

澪「先生もついてくるんですね?」

さわ子「ま、私のことは気にしないように。」

かなり歩いただろうか?一時間以上。
律たちは少し開けた、小高い丘のような場所に出た。

紬「あれ!あそこ!」

そこには何棟かの木製の住居らしきものがあった。
粗末な社(やしろ)とでもいったような形をしている。

梓「どっかで見たことがありますね…」

澪「高床式の建物だな。」

紬「弥生時代に現れたっていう?」

澪「ああ。」

そして一行は高床式の住居群でも、一際大きいものの前に到着する。
中はかがり火でかなり明るく、何人かの人間がいるようだ。

憂「この中です。」

律「わかった…」

律「入るぞ。」

梓「ゴクリ」

澪(あ、鼠返し。)

一同は階段をのぼり、中へと入っていく。

「久しぶりね、みんな。」

そこには、軽音部の面々となじみのある人間が、
"あぐら"をかいて座っていた。

紬「あっ!!」

律「聡!」

梓「純ちゃん!」

澪「そして…和、か。」

和「そういうこと。まあ気楽にして。」

和が一番奥に座り、和の両側から二列、入り口に伸びるような形で
他の三人が座っている。
皆、憂と似たような白い服を着ているが武装はしていない。

和だけは、さらにもう一枚、ノースリーブの紫色の服を着込んでいる。
装飾も和のみ、憂たちと同じ首飾りに加え、ヒスイの勾玉の首飾りをかけ、
頭には、金色の、金銅製とおもわれる冠をかぶっている。

憂はそのまま和の斜め前あたりに着座する。
いつのまにか、表情はいつものニコニコ顔だ。

律「で、唯、お前も…」

和の隣りには唯が正座で座っており、
木製の茶碗片手にご飯をかきこんでいる。おかずは焼き魚のみ。

唯「はぐはぐはぐはぐはぐ…」

梓(ゆいせんぱい…お米たべてる…)ゴクリ

唯「あっいらっしゃーい♪」

律「いらっしゃーい♪じゃないだろ!!」

唯「イラクサが持てなくて困ってたらね、聡君が運ぶの手伝ってくれたんだ。」

聡「いやぁ…そんな!!手伝いのうちにも入りませんて…あはは////」

律「この愚弟が…」

聡「ねーちゃん、その格好すっごく似合ってるよ。
  ねーちゃんの野性味が出てるってゆーか…」

律「な・ん・だ・とぉーー!!?」

和「まあまあ、二人とも。姉弟喧嘩は家に帰ってからにして。」

律「くっ…」

澪「それにしてもさっきの憂ちゃん、すごく怖かったぞ。」

憂「え、そ、そんなにですか?」アセアセ

和「少し脅しをかけとけっていったのよ、憂には。」

澪「脅し?」

澪「そうだ!なんで、和たちがここにいるんだ?」

和「そうね。澪、私たちの格好と、この住処、
  今の憂の武装を見てどう思う?」

澪「すごく…弥生人の格好だよな?」

和「まあそうね、一部古墳時代のものも混ざっているけれど。」

和「あんたたちの縄文生活。」

和「その"ラスト"は、始まる前から決定済みなの。」

律「そうなのか、さわちゃん!?」

さわ子「イエス!」

和「で、私たちは、条件付きで『弥生人』になることを承諾したの。」

澪「条件?」

和「うすうす感づいてる人もいるでしょうけど…」

和「簡単に言えば、『縄文人vs弥生人』よ。」

紬「縄文人と弥生人が戦うってこと?」

和「そういうこと。」

和「今から三日後、太陽が南中した瞬間に、」

和「私たちはあんたらに襲い掛かるわ。」

律「は??」

和「さわ子先生、弥生時代の戦争で捕虜になった人間は
  どういう末路をたどったんでしょうか?」

さわ子「捕虜として返還されなきゃ、まあ、かなり酷い末路をたどった可能性が高いわね。
    魏志倭人伝だと中国皇帝に、生口と呼ばれる人間が献上されたそうだから…」

さわ子「生口=奴隷かどうかはわからないけれど、まあ、他の国に献上されるのと
    同レベルの扱いは受けたでしょうね。」

和「そして、勝ったほうには勝者の権利が与えられる。」

その瞬間、律は聡が澪と唯に視線を送ったことに気付いた。
梓は、憂がとろん、とした目で唯を見ていることに気付いた。

和(唯たちが勝つほうが望ましいけれど、こちらが勝ったとしたら
  この子達の暴走は私が食い止めないと。)

和にはわざと敗れるという考えはない。
それは生徒会役員としてのプライドが許さないのだ。

また、そんなルールを設けないという考えも、さわ子の頭の中にはない。

澪「ちょっと待て!お前ら金属製の武器持ってるだろ!?」

憂「銃刀法に引っかかるんで、刃はついてません。
  安心してください。」

澪「いやいやいや…」

さわ子「みんな!」

さわ子「私たちの先祖もまた、太古の昔から延々と続いてきた
    生活圏を求めての民族間闘争を生き抜いてきたのよ。」

さわ子「弥生人と縄文人を民族的人種的に区別することは
    あまり意味が無いと思うけど…」

さわ子「かつて…『土ぐも』や『まつろわぬひとびと』とされた集団が
    いたことも確か。」

さわ子「彼らの思いを身をもって知りなさい!」

律「いや意味わからんから!!」

和「ということで、三日後にまた会いましょう。」







純「私、一言もしゃべってない…」

律「たく!」

梓「すっごく不安です…」

さわ子「あ、みんな。」

さわ子「一応安全を考えてね、矢や投槍みたいな飛び道具は全部
    これから用意するものと交換してもらうわ。」

律「はぁ…?」

さわ子「さきっぽが、朱肉と同じ塗料をしみこませた布を
    何十にも巻いたものになってて…」

さわ子「その塗料が付いた部分が負傷したとみなされるわ。
    死亡判断は、審判側がするけど。」

さわ子「斉藤さんたちの協力のもとね。」

紬「斉藤…」

さわ子「白兵戦の勝ち負け判定も、審判に委ねられてるわ。」

さわ子「そして一度負ければ、復活はなし。」

唯「むずかしそう…」

唯「それにさ、憂が使ってたような武器や鎧を、
  あっちは持ってるんでしょ?」

唯「勝ち目無いじゃん。」

澪「まあ、そうだよなぁ…」

梓「あの、例えばなんですけど…」

梓「今から何千年も前に縄文生活を送っていた人たちは
  鎧とか金属の武器もった人たちに、どうやって抵抗したんですかね?」

澪「抵抗したっていっても、すげなく殺されたか捕らえられるたかだろうな。」

律「いや。」

律「縄文生活をしていた人たちの中には、
  上手に抵抗した人たちもいたかもよ?」

紬「アテがあるの?」

律「○モン大先生は、文明の利器をもたずに大自然のなかで敵戦力と
  渡りあう方法についても書いておられるんだ。」

唯「ほんとう!?」

澪「それはあの人だからこそできるんだろ…私たちじゃ…」

さわ子「あ、ブービートラップとかはだめよ?
    縄文時代の人が考え付くはずないでしょ?」

律「わかってるって!」

律「私たちは、今日まで、短い時間だけど、培った縄文生活の智恵が…」

律「たぶん…ある!」

澪「多分じゃ意味ないだろ…」

律「とにかくだ!やってやれないことはない!
  今日明日で出来る限りの準備をするぞ!」

こうして残りの二日間は、万全を期するための準備に費やされたのだった。





三日後、縄文生活24日目

憂「太陽が南中しました。」

和「了解。」

聡「和さん!はやくいきましょう!」

憂「聡君、和さん、じゃなくて『わがきみ』だよ!
 (聡君の下心は重々承知なんだから!)」

和「呼称なんてどうでもいいけれど…」

和「これより、"土ぐも"たちを討ちに行きます。
  各自装備の最終確認。」

憂(お姉ちゃん…まっててね!)
  右手→青銅製七支刀
  左手→青銅製七支刀
  頭→なし
  胴体→木の鎧/弥生人の服
  足→わらじ 
  その他→唯の写真
      管玉の首飾り
      木製の大盾

純(あの人を必ず倒す…)
  右手→なし
  左手→弥生人の弓
  頭→なし
  胴体→木の鎧/弥生人の服
  足→わらじ 
  その他→矢×10
      管玉の首飾り
      木製の大盾 
      青銅の小剣

聡(勝者の権利!勝者の権利!勝者の権利!)
  右手→青銅の鉾
  左手→木製の大盾
  頭→なし
  胴体→木の鎧/弥生人の服
  足→わらじ 
  その他→管玉の首飾り

和(この子たち…すさまじい欲望のオーラね…)
  右手→鉄剣
  左手→赤漆の大盾
  頭→金銅のかんむり
  胴体→赤漆の鎧/弥生人の服/紫衣
  足→わらじ 
  その他→管玉の首飾り
      ヒスイの勾玉
      眼鏡

―竪穴住居―

和「当然ながら、いないわね。」

憂「竪穴式住居の中は空っぽです。土器も道具もありません。」

和「さて、これから探すのは骨が折れるわね。」

聡「遠くに逃げて、時間切れ狙ってるんじゃないすか?」

和「いえ、それはないわね。あの律が許すはず無いもの。」

和「無謀だけれど、勝ちをねらってくるわ。」

和「二人ずつに分かれて、移動しましょう。
  この辺の半径5km内には、2箇所、飲用可能な水場があるらしいから
  それぞれのチームが、その水場の周辺を押さえる。」

和「あと、各チームごと、水筒と、食料を入れる携帯容器を忘れ…」

ヒュン!ヒュン!ヒュン!

突然和たちに矢が降り注ぐ。

聡「うおっ!?」

憂「奇襲ですっ!和さん!」

和「落ち着いて!各自盾を構え十字に密集!」

和たち四人は、"+"の形をとるように互いの背をあわせると
大盾を構え矢に備える。

ヒュン!ヒュン!

和(矢は竪穴住居の背面からのみ向ってくる…)

和(木陰に隠れているのは、律、澪、紬の三人だけ…
  唯と梓がいない…なんか企んでるわね)

和「全員盾構え!聡君と憂、竪穴住居の方向!背中合わせ!私と鈴木さんは逆方向!
  住居から遠ざかるわよ!」

二人ずつ背中合わせになる形で矢の攻撃から離れていく。

和「もう10m後退!木陰に退避!」

一方の縄文側

律「あいつら離れてくな…」

澪「木陰に逃げる気か…」

律「とにかくだ、あいつらをバラバラにして集団戦法を
  とらせないようにしないと…」

すいません、少し眠ります。

ありがとうございます。
再開します
あと少しで終わりです。

和たちは、目指す木々の背後へ退避する。

和(さて、今度はまったく別の方向から矢が飛んでくるわよ。)

憂(さっきいたのは律さんたちだから…お姉ちゃんと梓ちゃんが?)

和(ええ。見え見えの陽動作戦だけれど…
  こちらも乗ってあげようじゃない。)

憂(大丈夫ですか?)

和(二人が決して離れず、突飛な行動を取らなければね。)

和(それにこっちの弱点…)

和(人数が一人少ない、飛び道具を鈴木さんしか持って居ない。
  地の利に全く弱い。装備がやや重い。)

和(これを忘れない事。)

和(対して、あっちはゲリラ戦法をとってくるでしょう。)

和(あんたたち、絶対に惑わされちゃ駄目よ。)

憂純聡(はい!)

聡(!)

聡(見っけ!)

聡(和さん、あっちに唯さんと梓さんが!)

和(了解。じゃあ打ち合わせ通り、二人組みに分かれるわ。)

和(私と鈴木さん、憂と聡君。)

和(私たちは唯と梓を追いかけるから、憂たちは律たちのほうを。
  陽動に乗ったふりをしながら慎重にね。)

憂純聡(はい!)

和(それと、聡君、憂の言うことに従うこと、勝手な行動をとらないこと。
  いいわね?)

聡(任してください!!)

憂(大丈夫かな?すごく心配…)

律「お、和たちが二手に分かれたな。」

紬「こっちには憂ちゃんと聡君がくるみたい。」

澪「よし!律、口笛信号頼む!」

律「おうよ!」

ピュイーピュイッピュピュ…

和「ん?」

純「真鍋先輩?」

和「口笛?なんかの暗号ね…」

純「何のです?」

和「さあ…推測するだけ時間の無駄。律たちに向うわよ。」

>>391
×和「さあ…推測するだけ時間の無駄。律たちに向うわよ。」

○和「さあ…推測するだけ時間の無駄。唯と梓に向うわよ。」

唯「あっ!これは…」

梓「『深き森の乙女たち』作戦始動の合図です!」

唯「そだね!じゃあ、私はムギちゃんと交換で、
  りっちゃんたちのほうに行くから…」

唯「あずにゃん、がんばろうね♪」ギュ

梓「はっ、はいっ…////」

澪「ムギ、唯とチェンジだ!あっちに気取られないようにな。」

紬「わかったわ♪」

紬は律と澪から離れていく。

律「唯と合流したら例の地点まで誘い込んで…」

澪「ほ、ほんとうにやるのか?////」

律「ああ。お前と唯の演技力にかかってるぞ!」

澪「がんばってみる…////」

梓聡組

ヒュンヒュン!

聡「うわっ!?」

憂「危ないよっ!上半身は前も後も鎧で守られてるけど下半身は…」

聡「大丈夫ッす。でも、憂さんも
  澪姉の弓裁きには気をつけたほうがいいっす。」

憂「弓道経験者なんだよね?」

聡「そうーっす。高校入ってからはやってないみたいですけど…」

聡「中学の頃の澪姉の弓道着姿…すっごく凛々しかったっす/////」ニタア

憂「…」イラッ

憂「聡君、最近気になってたんだけどね?」

聡「はい?」

憂「なんで律さんたちと一緒にウチに遊びに来るの?」

聡「え、いや、唯さんがいつでも来なよーっていってくれたから…////」

憂(お姉ちゃん、弟ほしがってたから…)

憂「チッ…」

聡「え?今舌打ちしませんでした??」

憂「気のせいだよ。それより、気をぬかないで!」

和純組

純「真鍋先輩。」

和「何かしら?」

純「なんで、憂と聡君、先輩と私なんですか?」

和「ああ。それはね…」

和「…」

和「一番最適な選択だからよ。」

純「?」

和(憂と聡君のペアも心配…
  けれど一番の不確定要素は鈴木さんなのよね。)

和「ん?」

純「どうしました?」

和「…紬?」

和「紬が加わってるわ…」

和「これは…」

さらに紬と梓を追う和達

和「紬が加わっても、矢の攻撃の数は変わってない。」

和「唯の姿が見えなくなった…」

純「もしかしてハメられてますか?」

和「そうかもね。けれど、私達の作戦は単純明快。
  慎重に時間をかけて、ゆっくりと追い込むだけだから。」

和「猟犬のようにね。」

唯律澪組

律「よし、このへんで私が足止めするから、
  お前らは所定の位置にいけ!」

澪「わ、わかった…////」

唯「おー♪」



憂聡組

ヒュン!

聡「ねーちゃんwww下手くそ!!!」プゲラ

ヒュン!

憂「確かに。律さんには悪いけど。」

ヒュン!

憂(おねいちゃんと澪さんの姿が消えた…)

憂(…)

聡「あっ!ねーちゃんが逃げますよ!」

憂(100パーセント、罠だね。どうしようか…)

聡「憂さん!ねーちゃんが!!」

憂「わかってる!今考え事してるの!!」

憂(行ってみるかな。もしもの時は…)

憂(聡君に囮になってもらえばいいよね?)

憂「聡君?この先は絶対何かの罠だから、警戒を怠らないようにね!」

聡「だーいじょうぶですって!!」

憂い聡は歩みを進め、そして木漏れ日の差す、ほんの少し開けた場所に出る。
そこは、天然の花畑であった。
白、ピンク、赤、明るく色鮮やかな花たちが咲き乱れている。

そして、その一角には、かなりの大きさのある巨岩がそびえ―
唯と澪は、その巨岩の前に佇んでいた。

聡「!!!!」

憂「あ、あ、ああ…」

唯はシロツメクサで作られた首飾りを二重にかけ、頭には、
桃色のキク科の花―コスモスに似ている―で編まれた花冠をつけ、
巨岩の前の花畑の中、仰向けで目を閉じている。両手は組んで、胸の上。

澪はアカツメクサ―桃色をしたシロツメクサの仲間―の首飾りをかけ、
唯の花冠とは色違い、白色の花冠をかぶり、巨岩にもたれかかっている。
手には、小さな弦楽器を持っている。紬が梓と澪に作ったものだ。

唯と澪へ向って、やさしく、そしてやわらかく、木漏れ日が差し込む。
聡と憂には、まるで、彼女達二人が、ニュンフかミューズかのように映る。

聡「澪ねえ…唯さん…/////」

憂「おねいちゃん…おねい…ちゃん…
  綺麗だよぉ…かわいいよぉ…////」

憂も聡も、腑抜けた、何かに酔っているかのような表情。
フラフラと、唯達のほうへ近づいていく。

そのとき。

澪「♪~♪~」

澪は弦楽器を奏でながら歌い始める。
聞いた者にはわかるだろうけれど、"エンヤ(Enya)"の、
ゆったりとしたバラード。

聡「き…れい…だ…////」

憂「あ、あうぅぅ…/////」

二人は唯たちから5mほどの距離をとって、唯達に魅入られたまま、
一歩も動けない。


律(案の定だ、やつら骨抜きになってる…www)

律(当分は釘付けにできるな。そのまま『森の乙女』を観察してろw)

律(さて、いざ…)

律(ムギたちのところへっ!!)

和純組

和「あっちに竪穴住居が見えてきたわね…」

和「円周状に引き付けられて、戻ってきたってこと…」

純「これはいよいよ怪しいですね?」

和「ええ。」

ヒュン!

突然、和たちに向って、へっぴりな放射線を描いて、
矢が射掛けられる。

紬(りっちゃんが来てくれたみたい。梓ちゃん、"ときのこえ"あげて…)

紬(一気に襲い掛かるわよ!!)

梓 (はい!!)


「「いやぁぁぁーーーーーー!!」」

和「来たわね…!敵から距離をとって!私を弓矢で援護!」

純「はい!」

紬は黒曜石の長槍を、梓はそれを小型にしたものを持って襲い掛かる。

律「わたしもさんじょぉぉぉ!!!」

紬と同じ黒曜石の槍を手に、律も和たちに踊りかかる。

和「!?」

和「接近が早い!?鈴木さん!弓放棄!短剣と盾で迎え撃て!」

純「はい!」

律「和はほっとけ!鈴木さんをまず狙え!」

紬梓「はい!」

純「ぐッ…」

純に対して律たち三人が殺到する。

和「今助けるわっ!」

純「まけ…」

梓「!?」

純「負けてたまるかァァぁーーー!!!」

梓「きゃあーーっ!!」

純は盾を突き出して梓に体当たりする。
梓はバランスを崩し、地面に倒れてしまう。

純「今こそ…活躍のときっ!!!」

律「なにぃっ!?」

純「そう…」

純「私は、けいおん!レギュラーメンバーとなり…」

純「秋山先輩や梓の人気を抜いてみせるっ!!」クワッ!!

紬「ものすごいプレッシャーよ…!」

梓「いたた…それが…純が参加した理由!?」

梓はまだ起き上がれない。

純「そうだよ!全ては私の人気のためっ!!
  さあ、かかってきてっ!!」

純の小柄な体をうまく大盾が隠している。
そして、30cmほどの青銅製小剣を振るう。
一方、純に集中する攻撃を和が緩和する。

梓「純…結構強いです!!」

律「盾がやっかいだ!」

紬「囲い込んで盾が使えないようにしましょう!」

純「みんなの中で私だけがっ!戦う理由があるっ!!」

律「ちっちぇーくせに手ごわいなっ!」

和(ものすごい鈴木さんの猛攻だけれど…冷静さをもう失ってる)

和(逃走を考えておいたほうが無難ね…)

すいませんさるってました

梓(あれ?)

梓は気付く。
時々盾から純の足がはみ出ることがあるのだ。

梓「…」

梓は槍を下段にかまえ、純に足払いをかける。

梓「えい。」

純「あっ…」

トテ。
足を払われて、しりもちをつく純。

和(ここまでね…この場を逃げ切ることを最優先にする!)

和は目前にいる紬に盾ごと突撃する。

和「はっ!」

紬「んっ!」

そして、唐突に盾を手放す。

紬「きゃっ…」

当然紬は、前方に倒れ落ちる。

和「鈴木さんごめんねっ!!」ダッ

律「あっ和の奴逃げやがった!!」

和は盾を拾おうともせず、
すみやかにその場から離脱していく。

純「ころしてっ!!さあころして!!」

純は剣と盾を手放し、大の字に寝転がる。

さわ子「あー戦意喪失かしら?」

律「さわちゃんいたのかよ!?」

純「でも…けいおん!レギュラーメンバーになる意欲は喪失してませんから!」

さわ子「はいはい。鈴木純、捕虜になったため失格、と。」

梓「純…」

純「梓、私を笑いに来た?」

梓「ううん、違う。」

梓は純の片手を取る。

純「あずさ?」

純「純があきらめない限り絶対…」

梓「頑張れば…テーマソングもキャラグッズも出せるよ!」

梓「ねっ!」ニコッ

純「あずさ…」ウルッ

紬「ちょっと感動しちゃった…」ウルウル

律「そ、そうか…」

そして律たちはさわ子に純を引き渡した。

梓「せんぱい!あそこに和さんが被ってた冠が落ちてます!」

律「お、ほんとだ!」

律は冠を拾い上げる。

律「すげー!ホンモノの金かよ!」

紬「金銅製よたぶん。五円玉と同じ材料ね。」

律「…」ポイッ

梓「あっ、あっちには勾玉の首飾りです!」

律「どうゆーこった??」

紬「あそこにも!」

紬が指を指す。
その先には和の着けていた赤漆の鎧まで放置されている。

律「??この先には布の服まで落ちてるってことか?」

和の身に着けていたものが一直線を描く形で、
数十m間隔に放棄されていたことになる。

紬「この鎧だけでも結構重いしかさばるから、身のこなしを優先して
  どこかに逃げたとか…」

律「まあ、その可能性が高いかもな。」

紬「盾と鎧は回収されないように、このまま持っていきましょう。」




律「よし、和のことは一先ず置いといて、トラップに引っかかってる
  聡と憂ちゃんに奇襲をかけるぞ!」

梓「はい!」

紬「うん!」

和(…)

和は鎧の落ちていたすぐそば、腰ほどの高さの
草が生い茂る場所に身を潜めていた。

和(私には感づいていないみたいね。)

和(…)

和(律たちをこっそり追っていけば…)

一方。

澪「♪~」ゴホッ

唯「♪~♪~」

澪に加えて、唯も弦楽器を手に取り、ともにうたっている。
憂と聡は、唯達のすぐ目の前、体育座りをしながら二人の演奏に聞き入っている、
というかすっかり骨抜きにされてしまっている。

聡「/////」ポー

憂「オネイ…チャン…////」

澪(ちょっと喉が辛くなってきたな…)

唯「♪~♪~」

唯「!」

唯が何かに気付く。

唯「みおちゃん!りっちゃんたちがきたよぉー!」

澪「本当か!?」

憂「あっ!?」

澪「唯っ迂闊だぞ!憂ちゃんが正気に戻ったみたいだ!」

唯「えっ?えっ??」

憂「こんなお馬鹿な手に引っかかるなんて…デモオネイチャンカワイイ////」

憂「ハッ…いけないいけないっ!!」

聡「/////」ポー

憂「聡君正気に戻ってっ!」

バシイッ!バシッバシッ!
憂は聡の頬を数回強くひっぱたく。

聡「い、いたひ…」

憂「武器をもって立ち上がって!
  すぐに退却するよ!」

聡「!!?」

澪「唯、"ヤス"を取れ!」

唯「らじゃーっ!」

澪が巨岩の隙間から何かを取り出し唯に投げ渡す。
唯愛用のヤスだ。続いて澪も黒曜石製の長槍を取り上げる。

聡「おわっ!?」

次の瞬間には、澪と唯の武器は聡の首筋を捕らえていた。

聡「あっ…」

さわ子「はーい。実戦だったら頚動脈切断されてるわ。
    聡君、戦死。」

唯「さわちゃん!?」

さわ子「私のことは気にしないでねー」

憂「クッ…役立たず!!」

聡「えっオレっすか!?オレのことっすか!!
  憂さんだってさっきまで…」

憂「うるさいよっ///」

憂「先生!?死者の武器をとっても大丈夫ですか!?」

さわ子「ええ、いいわよぉ。」

憂は聡の右手から銅鉾を奪い取る。

聡「あっ…」

右手に銅鉾、左手に七支刀をもって唯たちから距離をとる。
更に背中にはあの大盾を背負っている。

律「みおー!ゆいーー!!」

梓「到着です!」

紬(唯ちゃんと澪ちゃん妖精さんみたい////)ハァハァ

憂「ふふ…ウフフ、律さんたちまできたってことは
  和さんもやられたようですね?」

律「ああ!和は私らが倒した!」

梓「えっなムググ」

紬は梓の口を片手で封じる。

憂「?」

憂「まあいいです。」

憂「そうだよね、白兵戦では長い武器のほうが有利だし。
  律さんたちは長槍、おねいちゃんが銛(もり)か…」

律「よし、澪と梓は弓をとれっ!!」

憂「そうはいきません。」

憂はとっさに駆け出し…

梓との間合いを詰める。

梓「えっ…」

ほんの一瞬の後には
梓の両首筋には左右から銅鉾と七支刀が突きつけられていた。

さわ子「はい、あずさちゃん死亡。」

梓「そんな、あっさり…」

憂「梓ちゃんたちも迂闊に近づきすぎだったよ?」クスッ

憂「さて、次いきます。」

律「かっ囲め!!」

澪以外の三人が憂に襲い掛かる。

憂は銅鉾を薙いで律と唯を後方に退散させ、
七支刀の枝の一つで紬の槍を受け止める。

律「あっぶねえええ!」

唯「憂本気だ…」

紬「憂ちゃん!?」

憂「七支刀は単なる祭具ってわけでもないみたいですよ。防御に向いた、
  たくさん枝のある十手(じって)みたいな。」

憂はそのまま、黒曜石と木棒を連結している部分で力を込める。

パキッ!

黒曜石の部分は根元から折れる。

紬「あっ…」

憂「それでもう、ただの棒です。」

律「みお、何してるんだ!?早く射掛けろ!」

澪「あ、ああ!!」

憂は七支刀を腰帯に差し込むと、すばやく背中から大盾を抜き取り、
左手に構える。

ヒュン!

澪の矢は正確に憂を捕らえてたが、大盾に弾かれ落ちる。

澪「失敗かっ!?」

律「澪っ!お前がもっと早く…!!」


和「みお、ごめん。」

澪「え?」

後方から和の声が聞こえ、澪は背中に硬い物が物体の感触を覚える。
和の鉄剣が澪の背中に押し当てられていた。

さわ子「はい澪ちゃん、背面から切りつけられ脊椎損傷。
    戦闘不能、よって失格。」

澪「ひ、ひきょうな…」

和「お互い様よ。」

憂「和さん!?失格になったんじゃ!?」

和「それはあんたが欺かれてたの…」

憂「////」カァッ

澪「まさか、和が…私までだまされたぞ!!」

律「ahahaha!!」

澪「ごまかすなっ!」

和「さてと。」

和は唯の前に出る。

和「律たちの話に聞き耳立ててたけど、
  さしずめ森のセイレーンってとこね。やるじゃないの唯。」

唯「和ちゃんも近所のオバちゃんワンピース着てるみたいだよ!」

和「はぁー…あんたの感覚にはいつも脱帽させられるわ。」

和「いくわよ。」

唯「うん!」



律「いいのか憂ちゃん、和といっしょに唯を叩かなくて?」

憂「私がおねいちゃんに二対一で向っていくような、
  そんな真似ができると思いますか?」

憂「律さんと紬さんはどうぞご自由に♪」ニコッ

律「さーすが憂ちゃん、うちの愚弟にも爪の垢せんじて
  飲ましてやりたいよ。」

律「じゃ、遠慮なくっ!!」

紬「いくわっ!!」

聡「いやー皆さんよくやるよなー。」

澪「おい聡、お前の、さっきのアレはいったいなんなんだ?」

聡「え、いや、あは、あははっは!!/////」

梓「決着はどうなるんでしょうか?」

さわ子「勝負はいつもほんの一瞬よ。どんなに強い人間であっても、
    必ず常勝とは限らないわ。まして凡人なら、ね。」

純「憂は間違いなく魔人ですね…」

そう、勝負は一瞬。

和「くっ…」

唯「ぬぅ…」

さわ子「きわどいけれど、唯ちゃんの勝ちね。」

唯「やったーーー!!」

和「ふふ、負けたわ。」ニコ

律「憂ちゃんどうする?和が負けたぞ?」

紬「さぁ…」

憂「私一人でも、勝てる自身はありますけど…」

憂「"わがきみ"が敗れたので降伏します。」

紬「えっ、いいの?」

憂「いいんです♪王手をかけられれば、
  竜王が残っていても意味ないでしょう?」ニコッ

唯「じゃあ私達の勝ちだね!」

和「そういうことよ。」

律「よしっ!」

紬「もうちょっと活躍したかったな♪」

―そして、勝者の権利が執行される―

和「さ、あんたたちは、わたしたちに何を望むの?」

紬「せいどれムグッ」

律「ムギのことは気にしなくていいから。
  唯、お前に任せる。」

紬「ムグムグ…」

澪「私も唯に任せる。こっちは途中退場だしな。」

梓「わ、わたしも…」

唯「じゃあ、和ちゃんたち…」

和「…」

唯「残った一週間を私達と一緒に…」

唯「『じょうもんせいかつ』楽しもう♪」

和「ふ、あははは!唯らしいわね。ええ、従います。」

唯「よーしきまりっ!」

さわ子「決まったところで、今日は熟成させといた
    イノシシを食べましょうか。」

和「それは、楽しみですね♪」

梓「わ、わたしは遠慮します…」

唯「そうだ♪ムギちゃんが楽器作ってくれたんだよ!」

憂「さっき弾いてた奴だよね?」

唯「うん!」

紬「太鼓や木琴みたいなのも作ってあるから、
  今日は私達の演奏を聴いてね。」

憂「楽しみです!ね、純ちゃん!」

純「うん!(こ、これは、わたしもレギュラーメンバー入りってこと!?)」








聡「…」ソローリ

律「おい、聡。」

律「どこ行く気だ?」

聡「ちょ、ちょっとトイレ…」

律「言っておくが、お前への勝者の権利は
  姉であるこの私が譲ってもらった。」

澪「聡可哀想に…」

聡「い、いったい、なにがはじまるんでしょうか???」アセッ

律「…」ニタア

聡「澪姉ぇっ!!た、たすけ…」

澪「お前の死に水はとってやるからな…」


いやぁぁっぁぁぁっぁぁ-----------!!!!!


そして数ヵ月後、軽音部部室

唯「みんな、来たよー!」

律「ちーっす!」

紬「いま、紅茶入れるわね?」

澪「…」

梓「…」ドヨーン

唯「澪ちゃん、あずにゃん、どうしたの?」

澪「この雑誌、見てくれ…」

律「何々…」

『戦国時代に自衛隊がタイムスリップするなら…
 女子高生が縄文時代に居たっていいじゃない!
 熱血美人教師監修による実録ドキュメント―』

『じょうもんせいかつ!』

『Now On Sale!!』

唯「えっ、えっ!?」

律「ちょっくら職員室まで行ってくるか、なあ?」

澪「…」

梓「…」

黙って立ち上がる澪と梓。

紬「熱血美人教師ってだれかしら?」

おしまい!!

後半ぐだぐだですいませんでした。
保守支援ありがとうございました。
では、おやすみなさい

追加 >>489の同日

グツグツグツ…

和「そう、そんなことがあったの…」

律「私がもっと早く気付いてればよかったんだけど…」

和「無神経、という評価しかできませんね、先生。」

さわ子「ごめんなさい…」

梓「せんせい、もういいですから…」

さわ子「あずさちゃんごめんねっ!!」ギュギュ

梓「…」

梓「離してください。」

さわ子「ごめん。」

律「あずさ抱きしめは唯の特権だしな。」

人間イス(律がすわっている)「ゴクリ…」

律「椅子がつばを飲み込むな。」

人間イス(ねーちゃん後で覚えてろ…)

さわ子「りっちゃんたちが持ってきたときには、わかってたんだけど、」

さわ子「ショック的教育効果に期待しようと…」

和「安易過ぎですね。」

澪「浅はかです。梓の傷は計り知れないんですから!」

さわ子「ごめんなさい…」

梓「…」

和「もう少し言わせてもらえば、最近よく耳にする…」

和「エコテロリストに非常に似た思考だと思いますよ。」

唯「エコエコアザラク??」

和「エコテロリスト。捕鯨反対、動物虐待反対ということを掲げて、」

和「この理想を実現するために
  テロリストまがいの手を使う人たちのことよ。」

律「その人たちは動物を大切にして、命奪わないようにってんだろ?
  さわちゃんとぜんぜんちがうじゃん。」

和「そうね…強いてまとめれば、二点。」

和「一つは結果を重んじるあまり、手段に無関心なとこ。
  エコテロリストなんかは裁判官の判決の執行と同じように
  自分たちの使う手段を考えているような気さえするわ。」

さわ子「…」

和「もう一つは、精神的基盤や行動方針といったものを作り出していく方法、
  つまり考えを進めていく方法。」

和「"生命を大切に"という信念は大切なことだけど、」

和「この信念から、さらに様々な基盤や方針を作り出していく途中で
  歪みや不自然さが作り出されていくと思うの。」

和「幅広い考えや知恵を考えてもみないで、自分の考えだけを磨きあげる。
  ようするに、理論や信条にとらわれ過ぎて…」

和「常識、コモンセンスを軽視してるのよ。」

唯「???????」???????

憂「おねいちゃん、あとで解説してあげるね♪」

唯「うん、お願い!」

さわ子「教師として失格の炊印を押されたようなもんね…」シュン

和「あずさの何分の一かぐらいのトラウマにしかなりませんよ。」

和「あとは、先生と梓のことなので、これくらいにしておきます。」

さわ子「ほんとうに、ごめんね、あずさちゃん…」

梓「本当にもう大丈夫ですから…」

和(あとは時間と本人達の係わり合い方次第かしら。)

軽音部のみなさん、SSよんでくれた人、すみませんでした…
今度こそ、失礼します。

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