ニノ「ジャファルに会いにいく」 (254)

レベッカ「本当に、行っちゃうんだね…」

ニノ「うん、もう決めたことだから」

リキア同盟フェレ領。

そのはずれの小村で、二人の若夫人が語らっている。

二人は村一番の大木のふもとにおり、その枝々には青々しい若葉が萌えていた。

緑の眩しい朝であった。

レベッカ「そっか…寂しくなるよ」

ニノ「あたしもだよ…。ごめんね、レベッカにも、ウィルさんやダーツさんにもたくさんお世話になったのに、結局あたしは何も返せない」

レベッカ「そんなことないわよ。ニノがいてくれて、賑やかで楽しかったわ」

ニノ「レベッカ…」

レベッカ「それとね、ニノ。たまには顔を見せに戻ってきてね。親友と長く会えないのは辛いわ」

ニノ「もう…レベッカったら。わかってるよ、全部終わったら、ルウとレイと、ジャファルとここに帰ってくる!」

レベッカ「よろしい!」ニコッ

ニノ「ふふ、ちゃんとお手紙も書くから。心配しないで?」

レベッカ「ならいいのよ」

レベッカ「ところで…ルウとレイも連れていくの?まだ生まれたばかりなのに」

レベッカ「私で良ければ預かるよ?」

ニノ「流石にそこまで迷惑はかけられないよ」

ニノ「それに、このふたりにもジャファルに会ってほしいから」

レベッカ「愛しの彼を繋ぎ止めるためね?」

ニノ「そんな感じっ!」

レベッカ「まあニノったらずいぶん強かになったのね」

ニノ「これでも黒い牙のソーニャの娘だからねー!」

レベッカ「あら怖い!」

堪らずふたりは吹き出した。

二人の朗らかな笑い声は、燕と共に風に乗り、どこまでも吹き抜けるようだった。

ファイヤーエンブレム?

>>6
わざとだろお前wwwwそうだよ

ニノ「えへへ。やっぱりレベッカといるのは楽しいなあ」

ニノ「でもごめんね、レベッカ。あたしこれ以上ここにいたら決心が鈍っちゃう」

ニノ「だからもう…行くね?」

レベッカ「うん、気を付けて…」

ニノ「ありがとう…」

小さな背中が、さらに小さな影をふたつ連れてレベッカから遠ざかろうとした時、

レベッカ「待って!!」

レベッカ「ニノ…これ、持っていって?お弁当…作ったから。」

ニノ「レベッカ…」

レベッカ「木の実と、干し肉と、焼き菓子と…ニノの好きな物、たくさん入れておいたから」

ニノ「レベッカ、お母さんみたい」クスクス

茶化すニノに、今度はレベッカは真面目な表情で応じる。

レベッカ「ニノ、絶対に帰ってきてね。約束よ?」

ニノ「…うん。約束する」

ニノ「じゃあ、今度こそ行くね」

そう言うなり、ニノは何かを振り払うように歩き出した。

やがて十分な距離をあけてから振り返り、

ニノ「バイバイ!レベッカ!」

全力で手をふった。
あらん限りの声を絞り出した。
はずなのに、なぜだか声量が出ず、やけに湿った声になってしまった。

レベッカ「絶対に帰ってきなさいよーー!!」

応じる声もみっともない鼻声だったので、思わずニノは吹き出してしまう。

そしてその微笑みの中、

「大好きだよ、レベッカ」

呟いて、ニノは歩き出す。

旅路は長い…。

ベルン王国南部。

月のない暗い夜道を、いくつかのたいまつの火が揺れている。

そのたいまつの主、ベルン王国南方司令部に勤めているこの高級文官はその帰路にあった。

文官「まったく、近頃はすっかり日が短くなりおって。このわしが暴賊にでも襲われたらどうするというのだ。のう?」

ベルン兵「はっまことにその通りであります」

護衛についている数人の兵卒のうち一人が事務的に答える。

護衛にこれだけの兵をつけながら暴賊ごときに怯えるとは、護衛している自分達に失礼ではないのか。

大体、定時の内に自分の仕事も終えられない自らの無能が悪いのだ。

その分だけ帰りの遅れる自分達の身にもなってくれ。

護衛達は思うのだが、口にできるはずもない。

この愚痴は結局この後酒場で男たちの肴となり、やがては翌日の(二日酔いによる)頭痛の種となるのである。

しかし、頭痛の種ならばこの高級文官も抱えている。

この男はいわゆる大蔵省についているのだが、最近財政状況がよろしくない。

一年前、国王が現在のゼフィール王になってからというもの、中央からはしきりに軍事力を増強するように圧力がかかって来ている。

それによってただでさえ財政状況は苦しいのに、さらに(彼にとっては)暗愚なる彼の主人ナーシェン卿は、卿個人の恨みによって、黒い牙なる暗殺者集団の残党狩りに多大な懸賞金をかけている。

おお、聖女よ、ならば私が増税を主張したとて仕方がないではあるまいか!

天を仰ぎたくなるのである。

ナーシェン卿は狡猾で、さも増税案は一部の文官が勝手に主張を通したことであるように民衆に吹聴してしまった。

そうせざるを得ないようにしたのは卿であり、また卿自信も増税案に賛成であったのに、だ。

こうして、彼は晴れて天下の嫌われ者の一員に名を連ねてしまったのである。

頭痛は、絶えない。

結局、その立場その立場に立ってみなければ分からない悩みという物は存在し、その意味で頭痛の種を持たない者などいないのかも知れない。

さて、そんな種達が歩いていると、どうにも胡散臭い男が正面から近づいてくる。

男はその手にぶら下げているたいまつ以外は真っ黒であり、それと対照的に銀色の長髪だけが不気味に光っていた。

文官「何者だ、貴様は」

??「さぁねぇ。俺だって知りたいくらいさ」

文官の威圧感あふれる問いに、しかし男は飄々と応える。

??「俺自身が何者か?さっぱりわからないのさ」

レスさんくす
心折れそうだったw

??「あんただってそうだろ?肩書きだって借り物だし、思想や主義だって出来合いの物を選択してるだけだ」

??「じゃあそうした周りに影響を受けてできた物を取っ払った時、あんたに何が残る?何があんたなんだ」

??「分からないだろ?そういうモンなのさ。人間を一言で表す事なんてできやしない。だろ?」

狂人に出会ってしまったのかも知れない。

一行がそう思い、構わず歩を進めようとすると

??「でもまあ、俺とあんたの関係に限っていうなら」

男は短刀を取り出すと言った。


??「あんたの敵だ」

瞬間、弾かれたようにベルン兵達が銀髪の男の周囲を取り囲む。

流石に軍事大国ベルンの兵だけあってその練度は高い。

一切の隙なく構えている彼らの殺気はそれだけで切れるようであった。

しかし銀髪の男は余裕を崩さない。その態度が気に食わない文官は、立場を理解させようと言い放った。

文官「喜べ。ぬしが何者かいま決定した。わがベルンの捕虜となり、想像を絶する拷問の末哀れに殺される惨めな男だ!」

??「解ってねえな」

??「哀れなのはあんただ」

次の瞬間、たいまつを持ったベルン兵達が次々とうめき声をあげながら倒れ始めた。

仲間がいたか!

一行が悟った時にはもう遅い。

気づけば銀髪の男もたいまつを消して、ベルン兵の持つたいまつの灯りを頼りに攻撃しているようだ。

戦闘が繰り広げられる中、文官は我に返るのに幾ばくかの時を必要とした。

が、我に返ると彼の行動は実に早かった。

戦う護衛達を置き去りに、脱兎のごとく逃げ出したのである。

こうした人種の逃げ足の早さという物は呆れを通り越して見事ですらある。

実際、このような強かさがなければそのような立場には長くとどまれないのであろう。

が、この度の襲撃者は彼を逃がしてくれるほど甘くはなかった。

が、この度の襲撃者は彼を逃がしてくれるほど甘くはなかった。

彼は背中に鈍い痛みを感じると、その場に倒れ込んでしまった。

どうやら襲撃者たちに蹴られたようである。

??「逃げんなよ。あんたが標的なんだから」

文官「き、貴様らは何なのだ!一体なぜわしを襲う!?」

??「芸がないねえ。そんなに俺のことが知りたいのかい?そんな事をするヒマがあるなら、命乞いでもした方がよっぽど建設的だと思うんだが…」

??「ま、そんなに知りたいなら教えてやる。俺は義賊団【黒い牙】の一員だ。民衆に仇なす輩に牙の裁きを下しにきた。」

文官「くっ黒い牙だと!?バカな、奴らはもはや散り散りになって賞金稼ぎから追われる身のはず…!」

??「残念だったな。黒い牙は復活した。その理念の実現のために」

銀髪の男とは別の声がする。

恐らく仲間であろう。

??「おっ、片づいたかい、相棒?」

??「ああ、あとはこいつだけだ」

??「そんじゃま、やるか【死神】」

死神?「ああ、任せろ【疾風】」

ふたりは文官に向き直る。

疾風?「祈りな、その位の時間はやる。今までの自らの悪事を悔い改めながら…眠れ」

そして、文官の意識は途絶えた。

ーーー
ーー

疾風?「流石に見事な手際だな、ジャファル」

ジャファル「あんたの寸劇もな、ラガルト」

ラガルト「ああ、俺が何者か?ってやつな。やめてくれよ、恥ずかったんだぜ、あれ」

ジャファル「ふっ、だろうな」

ラガルト「……本当にお前さん、人間臭くなったな。あの子のおかげか?」

ジャファル「ああ…ニノがオレを人間にしてくれた。ニノがいなかったら、オレは…」

ラガルト「ああ、すまねえ、それは分かってるからいちいちそれ始めないでくれ」

ジャファル「……」

ラガルト「まあしかし、これで俺たちは後には引けなくなった。ナーシェンを倒すか、俺たちがやられるか、どちらかひとつだ」

ジャファル「そうだな。だがオレも負けられない。ニノと、もう一度暮らすために…」

ラガルト「ああ、がんばろうぜ。あ、そういやニノとはもうやったって話だが、具合はどうだったんだい?」

ジャファル「……」

リキア同盟アラフェン領・郊外

そこにニノはいた。

アラフェンといえばオスティアに次ぐリキア同盟第二の城塞都市だが、その郊外ともなればやはり閑散としている。

そこの寂しげな丘の上に、小さな孤児院があった。

ニノのかつての仲間であるルセアの孤児院だ。

ニノはこのルセアを訪ねて来たのである。

ニノ「お久しぶりです、ルセアさん」

ルセア「ニノさん!と連れているのはお子さんですか?よくいらっしゃいました。どうぞ中へ」

ルセアは変わらない丁寧さでニノを孤児院の中へ入るよう促した。

実に5年ぶりである。

ルセア「それで、相談というのは?」

ニノ「はい、実は…この子達を預かってほしいんです」

ニノのこの発言には、流石のルセアも狼狽した。

ルセア「それは…一体なぜです?ここは孤児院です。その子達にはあなたという親がいるではありませんか」

ニノ「あたしはこれからジャファルに会いに旅しようと思うんですけど、それにこの子達を連れて行くのは危険なんです」

ルセア「危険…というと、黒い牙の残党狩りのことですか?」

ニノ「はい。最初はレベッカに預けようとも思ったんですけど、ラガルトさんが長く暮らした場所に置いていくのは危険だって」

ルセア「そうですか…それでここにしようと思ったのですね」

ルセア「しかし…」

それでもルセアは賛同しかねた。

まず倫理的な理由として、子どもには出来るだけ実親の下で育ってほしいということ。

ルセアも出来るだけ実の子どもであるように接してはいるが、それでもやはり孤児院で育った子というものは、実親がいないということをコンプレックスに感じてしまらしい。

また、何をしても絶対に自分の味方でいてくれる親の不在とは、その子の青春時代において子供らしく振る舞えないことを意味する。

これは現代でいうアダルト・チルドレンと呼ばれる症例で、そうした子供は成長しても他人への甘え方が分からない、人間関係においていらない気遣いをしてしまい、かえって軋轢を生んでしまう等の悩みを抱える傾向にある。

また、現実的な問題として、ただでさえ多い子どもの数が増えるのはルセアにとって負担になるという事。

ルセアはこれまで孤児を無制限に受け入れてきたが、エリミーヌ教団からの援助にも限度があり、近々孤児の受け入れを一旦取り止めようかと考えていた矢先のニノの訪問だったのである。

そのため、

ルセア「ニノさん、本当に悪いんですがこの話は…」

ルセアは悪いとは思いつつも、断ろうとした。

ニノ「ルセアさん」


ニノ「お願いします」

しかし、ニノに遮られてしまう。

しかもニノはかつての気弱さからは考えられない程の気迫でルセアを見つめている。

ニノ「お願いします。ルセアさん。あたし、何年かかっても必ずこの子達を迎えに来ます。だからどうか」

ルセア(……子を守らんとする心は、あなたをここまで強くさせたのですね…)

ついに、ルセアは折れざるを得なかった。

ルセア「分かりました、預かりましょう」

ニノ「本当ですか!?」

ルセア「ただし、必ず迎えに来ること。親の愛を受けられない辛さは、あなたが一番よく理解しているはずです」

ニノ「ありがとうございます!ルセアさんも大変なの分かってるのにあたし無理言っちゃって…」

ルセア「今更ふたりくらいどうってことありませんよ」

ルセア「それとニノさん、あなたも無理しないでくださいね」

ニノ「あたし…ですか?」

ルセア「はい。あなたはとても思い詰めているように見えます。そして聖職者といて情けない事に、私はあなたをなんと諭せばよいのか分かりません」

ルセア「だから、これを」

ルセアが差し出したのはエリミーヌ教の聖書だった。

ニノ「…あたし、光魔法は使えませんよ?」

ルセア「違いますよ。これは魔道書じゃない。ただの聖書です。ただの、と言っては聖女さまからお叱りを受けるかもしれませんが」

ルセア「私は辛い時、よくこの聖書を読んだものです。すると、不思議と心にゆとりができてきて、今まで見えなかったものが見えてくるのです」

ルセア「ニノさん、私は未熟な事にあなたに掛ける言葉を知りません。ですがその本を読むことで、ひょっとしたらエリミーヌ様が道を示してくれるかもしれないですよ」

ニノ「ルセアさん…ありがとうございます。ふふ、なんだかあたし、お礼を言ってばっかりですね」

ルセア「いいのですよ、それが聖職者の務めですから」

ルセア「それとニノさん。具体的に行くあてはあるのですか?」

ニノ「はい。ラガルトさんが、ジャファルはいまベルンの封印の神殿にいるって言ってましたから、そこに行こうかと」

ルセア「ベルンまで!遠いですね…。お気を付けて」

ニノ「はい。あとルセアさん。最後にもうひとつだけ、お願いしてもいいですか?」

ルセア「もちろん」

ニノ「このファイアーの書を預かって欲しいんです。それで、ルウとレイが魔法に興味を持ったら、この本をあげてください」

ニノ(裏表紙に縫い付けたお守りと一緒に…)

ルセア「はい、確かに」

ルセア「ではニノさん、また会える日を楽しみにしています」

ニノ「はい。必ず、また来ますから…」


結局、ニノが再びこの孤児院を訪れることはなかった…。

再び、舞台はベルンへ移る。

ニノが探しているこのジャファルという男は、半年ほど前からラガルトという野盗崩れと行動を共にしている。

このふたりは共に【黒い牙】という組織に身を置いていた事にその共通点を持つが、それはつまり共通の悩みを持つ事にもなる。

すなわち、【黒い牙】の残党狩りの件である。

ベルンのナーシェン卿がその首に高額の懸賞金をかけているせいで、各国の賞金稼ぎが血眼になって彼らを探しているのだ。

その勢いはまさに草の根を掻き分けるほどのもので、すでに何名かが首を取られている。

といっても、それがこの両名の命を直接脅かしているわけではない。

ジャファルはかつて【黒い牙】最強の名を欲しいままにしただけあって、単独で凡庸な賞金稼ぎ達に遅れを取ることは考えられない。

またラガルトも、ジャファルほどの戦闘力はないものの数々の修羅場をくぐって来ただけあって、同じく彼単独なら討ち取られることは考え難い。

支援さんくす

もっとも、ラガルトの戦い方は彼曰く臆病者のそれらしいが。

その臆病者の戦いが出来ること自体がひとつの強さであるはずなのだが、彼の過剰な自重心はそれを認めない。

それはその臆病者の戦いが彼の恋人を殺してしまったことに起因すると語る者もいるが、正確ではない。

元来、結果というものは一つの原因から導かれるのではなく、様々な遠因が絡まり合ってそれを形成することになる。

この場合、ラガルトの自重癖という結果は恋人の件ひとつだけで突発的に形成されたのではなく、彼の人生における諸々の経験が遠因となっていると考えるべきだろう。

彼の人生の暗さが伺える。

話を戻すと、そんなふたりの【黒い牙】残党狩りに対する悩みとは、当然保身ではない。

黒い牙の残党の身を案じているのだ。

ラガルトは黒い牙への思い入れが強いだけあって、つい最近まで黒い牙の残党に道を示したり、死んだ仲間を弔ったりしていた。

その墓場は、封印の神殿のそばにあるという。

またジャファルは、黒い牙の残党というよりはニノと子供たちに危害が及ぶ事を恐れている。

ために、彼はニノの元を去ったのだ。

さて、彼らの企みだ。

彼らは黒い牙残党狩りそのものをなくそうとしている。

そのためには、【黒い牙】の復活を演出するのが最も合理的だという結論に達した。

かつて【黒い牙】は冷徹な暗殺集団として知られていた。

【黒い牙】に目をつけられた者はもはや逃れられないとされ、その実力は大国ベルンですら無視できなかったほどである。

その威信を取り戻せば、もはや賞金稼ぎごときに狙われる事もなくなる。

ラガルト「だから、俺たちは要人暗殺を繰り返してるってわけだ」

ヒース「なるほどな。それがあんた達の狙いか」

このヒースというベルンの脱走兵もジャファル達のかつての仲間である。

【黒い牙】復活の噂を聞きつけて訪ねてきたのだ。

ジャファル「よくこの場所がわかったな」

ヒース「いや、俺も昔の【黒い牙】本拠地をそのまま根城にしてるとは思わなかったぞ」

ヒース「手がかりでもあれば上々程度に思ってたんだが…」

ラガルト「大正解ってわけだ。まあ、この場所は【黒い牙】と真正面からやり合った奴らしか知らないからな。それで生きてるのは俺たちぐらいのもんだ」

ヒース「俺がお前達を売るかもな?」

ラガルト「お前さんだって首に懸賞金がかかってるじゃないか」

ヒース「まあ…そうなんだが」

ジャファル「どちらかといえば、お前はオレ達と行動を共にしたいんじゃないか?そのために探していたんだろう」

ヒース「…その通りだ。俺も仲間に入れてくれたらありがたい」

ラガルト「俺たちとしても大陸最強の竜騎士が仲間になるのは心強いが、あんたはそれでいいのかい?義を重んじるあんたがコソ泥なんて」

ヒース「コソ泥じゃないだろう。あんた達が殺してるのはどいつも民衆を苦しめる官吏ばかりだ。そこには確かに、大衆のためという理念を感じた」

ジャファル「ラガルトと決めたんだ。再建する【黒い牙】は冷徹な暗殺集団になる前の、義賊団にしようと」

ヒース「そういう信念に殉じることこそ、騎士の本懐。俺の求めていた戦いだ」

ラガルト「水を指すようで悪いが、あくまでそういう外観を作ろうって話だ。俺たちの目的はあくまで残党狩りを止めさせる事だからな」

ラガルト「今まで始末した奴らも、どちらかと言えば【牙】の復活をアピールしやすい様にたまたま世間で注目されてた人物を殺っただけだからな。かなり打算的だぜ?」

ヒース「打算といばオレも半分はそうだ。大陸最強の暗殺集団がバックにいれば心強い」

ラガルト「いつかとは逆だな。なかなかあんたも柔らかくなった」

ヒース「で?計画の進捗状況はどうなんだ」

ジャファル「そうだな…まず計画の全体像を話そう」

すまんウンコしてくる
俺切れ痔といぼ痔の合併症だから2~30分かかるかもわからん

俺なんかがおこがましいが見てる人いたら保守お願いします

保守ありがとう!
本当に痛かった…

ジャファル「第一段階として世間に【黒い牙】復活をアピールする。これは要人を暗殺しつつ、その護衛数人を生かしておくことで達成されるはずだ。オレ達は暗殺する時に【黒い牙】を名乗っているから、あとは生かしておいた護衛が広めてくれる」

ラガルト「お前さんにまでその噂は届いてるんだから、首尾は上々だな」

ヒース「…引っかかる物いいだな」

ジャファル「第二段階として、【黒い牙】の首に懸賞金をかけた張本人ナーシェン卿の抹殺。新生【黒い牙】の威信を高めるのにこれほどの手はないだろう」

ジャファル「【黒い牙】に敵対した者の末路を端的に示すことができる」

ヒース「確かに、ベルンの有力貴族を屠れるとなれば本物だな」

ラガルト「ただ、これに関してはまだ様子見だ。新生【黒い牙】はあくまで義賊団で通したい。そのためには、ナーシェン卿自ら大々的に敵対してくれないとならないからな」

ラガルト「まあ、いざとなれば噂でもでっち上げて強行するし、ナーシェン卿本人が自己掲示欲の強い人柄だから心配ないとは思うが」

ヒース「なるほどな。では次の相手はベルンの正規騎士団か」

ラガルト「そうなるな。逃亡兵のあんたには辛いだろう。降りてもいいんだぜ?」

ヒース「いや、やらせてくれ。こんなに心が奮ったのは久しぶりなんだ」

ラガルト「そんならまあ、よろしくな」

こうしてヒースを加えた三人はナーシェンと対するべく計画を練っていく…。

ーーエトルリア王国・王都アクレイア


ニノ(落ち着かないなあ…)

ニノはかつての縁故を頼って、現魔道軍将エルクを訪ねにきた。

しかし、ただの旅人の身分でエトルリア王国の三軍将が一角たるエルクに取り次がれるはずもなく、王宮に入る事もできずに門前払いをくらってしまう。

ニノと言えばわかると何度言っても相手にしてもらえず、途方に暮れているとエルクの師匠、前魔道軍将のパントが偶然騒ぎを聞きつけ、エルクに取り次いでくれたのだった。

そして、現在に至る。

ニノ(あたしがエルクさんの知り合いだってわかった途端、手のひらを返したようにあの門番さん達の態度が変わったなあ)

ニノ(ちょっと可笑しかった。…でも、やっぱり肩書きって重要なんだね)

ニノ(知り合いにも会いにくくなるなんて)

ニノ(……暇だなあ)

ニノはいま、アクレイアの有名な宿屋に泊まっている。

エルクはいま多忙で、時間が取れるのは3日後という話なので、エルクの従者が手配してくれたのだった。

ニノが泊まっている部屋はとても豪華で、広さもニノの家の居間の2倍以上ある。

そんな待遇にニノは落ち着かず、そわそわ部屋を往復している。

最初はニノもせっかくエトルリアまで来たので、観光して回ろうと思った。

しかしいざ街中に出てみると、街の様相も行き交う人も華やかで、とても自分が場違いな気がしてくるのである。

また街の風景も、全体的に青いのだ。石造りの建物に、用水路。木々は時々標識のようにぽつねんとあるのみだ。

また、街並みが直線的である。整然と整備された街道の横に、規則正しく建物と脇道とが収まっている。

ニノ(迷路みたいだ…)

フェレの片田舎では、風景は全体的に緑がかっていて、道も整備されておらず蛇行している。

そんな街並みに慣れたニノにとって、この街は息苦しく、またちょっぴりの劣等感を抱かせるものだった。

結局、ニノは街中にいることに耐えられず宿に戻ってしまった。

ニノ(こんな事なら、なにか本でも買ってくれば良かった)

ニノは手持ち無沙汰なのである。

が、やがてある事に気づく。

ニノ(あ、聖書…)

ルセアから聖書を貰った事を思い出し、暇つぶしになればと読んでみる事にした。

ニノ(著者…ナーガ。聞いたことないなあ。ヘンな名前)

ニノ(なになに…?)

ニノ(『創世記』神は7日間で世界を創り…ほんとかなあ)

ニノ(楽園に男と女を住まわせたが…蛇の誘惑で…人間の堕落)

ニノ(『最初の殺人』黒豹のアベルと、猛牛のカインの物語…。へええ)

ニノ(『ノアの方舟』あ、あたしこれ知ってる)

ーーーー
ーーー

結局ニノはこの3日間、聖書を読んで過ごした。

ニノ(聖書、面白かったなあ)

ニノ(汝自身を愛するが如く汝の隣人を愛せ、とかいい文)

ニノ(あたしは、どれぐらいジャファルを愛せてたんだろう…)

エルクと面会の時間になった。

呼び出されたのはこれまた豪華な食事処(ニノの語彙である)だった。

エルク「久しぶりだね、ニノ。息災でなにより」

ニノ「うん、エルクさんも!」

エルクは昔とは違い、身につけている衣服から雰囲気まで優雅になっていた。

ニノ曰く、「服の継ぎ目とか袖に金色のモヤモヤがあって、全体的にしっとりした服」といった所である。

エルク「それで、僕に相談っていうのは?」

ニノ「うん…。あのね、エルクさんは昔あたしに、とんでもない魔法の才能があるって言ってくれたよね?」

エルク「ああ、言った。確かに君の魔法の才能はとんでもない。まさに魔法を使うために生まれてきたような、それほどの物だよ」

ニノ「それなんだけど…あたし、魔法を使ってエトルリアでお仕事できないかな?」

エルク「エトルリアで…?僕の魔道軍に入りたいってことかい?」

ニノ「ううん、違くて。その、魔法の研究職、みたいな」

エルク「研究職…。それは、難しいだろうね」

ニノ「え…?なんでっ!?」

エルク「エトルリアは貴族社会だからさ。魔法を含む、学問とは貴族が研究するもので、庶民は関わるべきでない、というのが一般論だ」

エルク「それに、適性の問題もある。ニノ、君の才能はホンモノだけど、学会では通用しないだろう。なぜなら、アウトプットする能力に欠けるからだ」

エルク「前に君は、僕に言ったね。魔法を使う時は、精霊が力を貸してくれると。それは僕がそうだったように多くの者は理解できない感覚だ」

エルク「魔道研究とは、魔法を体系的に整理して、理論的に説明することに主眼を置いている」

エルク「君は確かに魔法の実用という点については、この国のあらゆる研究職はおろか、魔道軍においてすら一日の長があるだろう」

エルク「だけどその研究となれば、君は視点を一般人のそれまで落としてもう一度勉強し直さないといけない」

エルク「しかも、なまじ魔法を感覚的に理解できているだけに、その作業は他の人より困難だ」

ニノ「そ、そんな…」

エルク「君がその才能を如何なく発揮できる場所があるとすれば、それはむしろ魔道軍だ」

ニノ「でも、あたしもう殺しはしたくないよ…」

エルク「…そうだろうね。それに、もともとエトルリアの士官はすべて貴族だ。有事の際は民間からも徴兵するが、それらは使い捨ての兵だからね」

エルク「僕としても君にそうなって欲しくはない」

ニノ「そうなんだ…。でも、それじゃあエトルリアはいざという時、ひとつとなって戦えるの?」

エルク「それは僕も感じている。憂慮すべきエトルリアの問題だよ」

エルク「民衆としては政治も戦争も、すべて貴族の問題だ。そんな民衆を有事になってようやく徴兵して、果たしてその士気はどれほどのものなのか…」

ニノ「…そうだよね。やっぱり庶民からも能力さえあれば軍役に就かせた方がいいんじゃないかなあ」

エルク「僕からも進言してるんだけどね…。議会は徹底した貴族主義だ。まずは彼らの意識をどうにかしないとどうしようもないね。まあ、あの石頭達には何を言ってもムダだろうけど」

ニノ「そっか…。あれ?エルクさんも貴族じゃないよね?」

エルク「ああ、ひとつだけあるんだよ。庶民も士官になれる道が」

ニノ「それって…?」

エルク「魔道軍将からの推薦さ。エトルリア三軍将には自分の後任を推薦できる権利がある。それを議会が承認して、課された課題をクリアーすれば、すべてをすっ飛ばして魔道軍将さ」

エルク「僕はパント先生に推薦されて魔道軍将となったんだ」

ニノ「そ、それじゃあエルクさんが推薦してくれればあたしも!?」

エルク「魔道軍将からの推薦さ。エトルリア三軍将には自分の後任を推薦できる権利がある。それを議会が承認して、課された課題をクリアーすれば、すべてをすっ飛ばして魔道軍将さ」

エルク「僕はパント先生に推薦されて魔道軍将となったんだ」

ニノ「そ、それじゃあエルクさんが推薦してくれればあたしも!?」

エルク「いや…すまない、僕の推薦権はもう使ってしまった」

ニノ「そっか…。きっと、優秀な人なんだね」

エルク「…セシリアという女性なんだけどね。正直、魔法の才能は凡庸だ。ニノはおろか僕にも及ばない」

ニノ「エルクさんは、どうしてその人を?」

エルク「質問を返すようで悪いけど、ニノは一軍の将たる人物の条件って何だと思う?」

ID変わったけど>>1です

ニノ「将軍の?うーん、やっぱりエリウッド様みたいな人?」

エルク「うん、彼の大きな器と、カリスマ性も間違いなく必要な条件だ」

エルク「でも僕はネルガルとの戦いを通して、今のエトルリアにより必要なのは軍師殿の様な知略謀略だと考えた」

ニノ「それがセシリアさんには備わってるってこと?」

エルク「ああ。彼女は魔法分野は当然として、軍事方面の教養も豊かだ。それにエトルリアの貴族には珍しく、物を現実的に考えることができる」

この時のセシリアさん20歳くらいか

エルク「まあ、今はまだ見習いの身分だけどね。でも僕は彼女を育てる事が、いま僕がエトルリアに出来る最大の事だと信じている」

実際、セシリアはこの15年後のベルン動乱において、
・ロイのオスティア保護要請に迅速に応じる
・エトルリアのクーデターを事前に察知し反クーデター派を組織、またギネヴィアを保護し、ロイ将軍率いる援軍が到着するまで戦線を維持する
など、その用兵面での功績は大きい。

エルクの人選は正しかったと言える。

エルク「だからすまない、ニノ。僕はどうやら力にはなれないようだ」

ニノ「ううん。エルクさんも忙しいのに、相談に乗ってくれてありがとう!久々に会えて楽しかったよ」

エルク「…しかし、ジャファルの奴はひどいな。君を置いて行くなんて」

エルクはここですぐに後悔する。

今のは余りに不注意な発言だったと。

このニノという女性は自分に自身がないせいで、必要以上に自分を責めるクセがある。

今の発言は彼女の心を傷つけるのに十分だったに違いない。

この意地悪な発言はエルクの中の彼自身が意識していないほど軽微な嫉妬心がさせた物だが、彼女の返答はエルクの想像とは違っていた。

ニノ「ううん、ジャファルはきっと、あたしの為を思って姿を消したの。ジャファルがそうせざるを得ない程なんだから、よっぽどの事情だったんだと思うけど」

ニノ「だからあたしは、ちっともジャファルの事を酷いなんて思わないよ!」

エルク「そう、か…」

エルク(君はそこまで彼のことを信頼しているんだね…)

エルク(まるで、人間ごっこだ)

ニノとジャファルが結ばれたという話を聞いた時、エルクはこう思った。

エルク(親からの愛情を知らないふたりが身を寄せ合って、互いを愛す。共依存だな。そんなの、本当の夫婦じゃない)

きっと、少しの間離れれば互いを信じられなくなるくらいの脆いものだろう。

かつてはそう蔑んだのに。

目の前のニノは、今も強くジャファルを信頼している。

目の前のニノは、今も強くジャファルを信頼している。

エルク(失礼だったな。今の君たちは間違いなく人間だ)

従者「エルク様。お時間です」

エルク「そうか、わかった。ごめん、ニノ。今日はこれで。君の仕事に関しては力になれなかったけど、他の事なら力になれるかもしれない。何かあったら気軽に訪ねてきてくれ」

ニノ「うん、ありがとう!エルクさん!」

エルク「それじゃあ行こうか、セシリア」

従者「はい。エルク様」

ーーベルン王国

この日、ナーシェン卿は精鋭竜騎士団と共に出撃しなければならなかった。

それは数日前、【黒い牙】からの挑戦状が届いたことに起因する。

その挑戦状は、ベルンーリキア同盟フェレ領との国境の山、そのふもとで待つ。という旨の物だった。

期日は一月の余裕があったが、向こうの指定する場所に行くという事は、往々にして待ち伏せあるいは罠が仕掛けられていると見るのが通常だ。

当初、彼はこれに応じるつもりはなかった。

自らリスクを侵さずとも、傭兵や賞金稼ぎ達に情報を流せば十分と判断したからである。

しかし、事態は彼を戦場へと駆り立てる。

彼の治める領地を始め、ベルン全土に「ナーシェン卿、黒い牙討伐のために立つ」という噂が流布され始めたのだ。

当然、これは【黒い牙】が流した噂だろう。

これでナーシェン卿は【黒い牙】の挑戦を受けなければ、その体裁を保つ事ができなくなった。

【黒い牙】はいわば体裁面でナーシェン卿の逃げ道を塞いだのだ。

ために、ナーシェン卿はその対応に追われた。

しかし、その作業は困難を極めた。

さるさん食らった…

まず敵の規模が分からない。

恐らく少数であろうが、かつての【黒い牙】は一国の軍事力にも相当する程の兵力はあった。

いくら壊滅したとはいえ、その残党をかき集めれば一個中隊程度の数は見るべきかも知れない。

また、兵種も謎だ。

万一、弓兵とりわけシューター等の兵準備があるならば、竜騎士団は使えない。

とにかく何かしらの情報を得られればと、指定の場所に何度か斥候を出したが、生きて帰る者はなかった。

しかしこの斥候が帰って来なかった事で、逆に判明したことがいくつかある。

ひとつは、やはり侮り難い敵であるということ。

いまひとつは、シューターは設置されていないだろうということ。

シューターはその弱点として、撃ち手がいる以上、見晴らしの良い場所に設置しなければならないという事があげられる。

つまり予想戦場の周囲の小高い丘など、設置される場所の目星をつけるのは簡単であり、斥候たちには真っ先にそこを調べるよう言い含めた。

そしてシューターの存在が認められればすぐ帰還し、ないようなら深く探れとの命に対して、彼らはその死を持って答えた。

ナーシェン(シューターを持たない強敵には、やはり精鋭の竜騎士団で突っ込むに限る)

ナーシェン(それに、こちらにも手がないわけではないからねえ。クックックッ!)

ラガルト「いよいよ明日だな」

ジャファル「…ああ」

ラガルト「なんだよ、緊張してるのか?」

ジャファル「それは、そうだ。こんな穴だらけの作戦は初めてだからな」

ラガルト「そう言うなよ。教養のない俺たちがない頭を絞って考えたんだぜ?」

実際この作戦は、この新生【黒い牙】にとっては苦肉の策だった。

【黒い牙】の復活をアピールできたまでは良かったが、そのためにナーシェンがより身辺に気を遣う様になり、このふたりでも暗殺が難しくなってしまったのである。

このナーシェンの保身策は、功名心よりも自己愛の方が勝るというナーシェンの本質を表しており、ふたりはここを読み違えた。

そのため、どうにかナーシェンを引きずり出さなければならなくなり、結果のこの度の作戦だ。

ラガルト「だがいざとなれば逃げればいい。ナーシェンには逃げれない事情があるが、俺たちにはないんだぜ?」

ジャファル「確かにな。オレたちは逃げた後で、あのベルン竜騎士団でも仕留め損なった、と噂を流せばむしろ名はあがる」

ラガルト「そうだそうだ。お前も負け組の戦いが分かってきたねえ」

ジャファル「なんにしても、まずはこの晩ヒースが上手くやってくれるかだな」

ラガルト「そうだな…」

明朝。
ナーシェン卿はいよいよ指定の場所へと赴こうと行軍していた。

ところで飛竜部隊は通常、指揮官が先頭となって行軍する。

そのためナーシェン卿は気付く事が出来なかった。

彼が引き連れている部隊が三分の二程に減ってしまっていることに…。

これはヒースの仕業である。

彼が行った工作とは単純に、飛行中隊長に成り代わり、一個中隊丸々別の場所へ誘導してしまおうというものだった。

ベルンの脱走兵である彼は、ベルン竜騎士団の行軍方法を知り尽くしている。

ベルン竜騎士団は行軍の際かなりの間隔を空けて縦列に進むため、前の人物が道を違えれば後に続く者はそれに釣られてしまう。

ここを利用し、ヒースは夜の内に中隊長を害した後、その中隊長に粉して一個中隊をまんまと別の場所へ誘導することに成功した。

滑稽な事にナーシェン卿がその事に気付いたのは、ジャファル達の待ち構える場所のすぐ手前で陣を構えようとした段階であった。

ラガルト「ヒースのやつ、上手くやったみたいだな。ずいぶん敵さんうろたえてるぜ」

ジャファル「後はオレたちだな」

ラガルト「くれぐれもムリするなよ?やばいと思ったら逃げてこい」

ジャファル「お前もな」

ラガルト「いや、退路を確保する俺が逃げちゃだめだろう」

さて、この二人の作戦である。

無謀なことにこの二人は、たった二人でベルン竜騎士団の二個中隊を相手にしようとしている。

といっても、勝算がない訳ではない。

まずジャファルが単独で竜騎士団に当たる。

その間、ラガルトはすぐ背後の山中の森に潜み、伏兵を探る。

もし伏兵がいた場合は戦闘を挑み、すぐ逃げて予め張っておいた罠に誘導し始末する。

伏兵がない場合や、伏兵を始末したら狼煙を上げてジャファルに合図する。

ジャファルは狼煙を確認したら、これ以上は危険と判断したタイミングで森に退避する。

ナーシェン達が追ってくるようなら今度は二人で迎撃し、追ってこないなら今回はここまでだ。

ナーシェンを始末できれば上出来だし、始末できずとも相手に圧力はかけられる。

そういう算段であった。

ウィルの出番はまだですか

ナーシェン「【黒い牙】とやら。わざわざ私を呼び出したんだ。正々堂々と姿を見せたらどうだい?」

ラガルト「お呼びだぜ、ジャファル」

ジャファル「ああ。少々下品なコールだが応じてやろう」

ラガルト(……昔のコイツだったら絶対こんな事言わなかっただろうな)

>>190
出す鴨

ジャファル「オレが、【黒い牙】現首領・ジャファルだ。ナーシェン。オレ達の仲間に危害を加えたお前に、【牙】の裁きを下しに来た。覚悟してもらおう」

ナーシェン「ほう。首領直々の登場とは。痛みいるねえ。しかし、新しい首領はよほど人望がないようだ。部下の一人もいないとはねえ」

ジャファル「貴様ごときオレ一人で十分だからだ」

ナーシェン「ふん、ぬかせ。それは私のセリフだよ」

ナーシェン「貴様ごときには私の美技を魅せるまでもない。おいっ!お前たち!あいつを始末しろ!始末できたら金塊でもなんでもくれてやるっ!」

ジャファル「…本当に下品だな」

竜騎士団が一斉に飛び立ち、ジャファルも剣の柄に手をかけた。

ラガルト「始まったか。さて」

ラガルトも働かねばならない。

指定した平地の背後にこれだけの森林、すなわち死角がある以上、向こうとしても伏兵を警戒しているはずだ。

当然、同時進行でこちらにも兵力を割くことが予想される。

ラガルト(ま、歩兵くらいなら俺でもやれる。ましてや入念に罠を張らせてもらったからな)

しかし、ラガルトはこの後想定外の敵と刃を交えなければならなくなる。

ジャファルの周りには、渦を描いて竜騎士が飛んでいる。

もうジャファルが包囲されてからしばらく経つが、未だ両者は刃を交えていない。

これほど数で圧倒しておきながら、竜騎士団が攻めあぐねているのはやはりジャファルの殺気の凄まじさ故だろう。

死神とまで恐れられたジャファルの実力を、彼らは同じ武人として敏感に感じとっている。

だがジャファルも涼しい顔をしているが、実際は攻め手がない。相手が空を飛んでいては当たり前ではあるが。

結局、ジャファルは相手が攻撃するため下降してきた時に合わせてカウンターするしか手がないのである。

つまり竜騎士団側が攻撃した時が、戦闘の開始を合図することになる。

ジャファルの気は、時を重ねる毎に萎えるどころか充実してきている。

これ以上攻撃しないのは逆にこちらが不利と見た若い竜騎士は、思い切ってジャファルの死角から突撃した。

これが、この戦闘の実質的な開始である。

竜騎士は攻撃の際、飛竜の圧倒的な質量を頼りに槍は脇に挟んだまま固定して、半ば体当たりのように攻撃する。

そのため槍は当たらずとも、飛竜の体当たりで大抵の敵は粉砕されてしまう。

これこそが竜騎士の攻撃力の源である。

ジャファルはまずこれを躱さなければならない。

急接近する竜騎士をジャファルは鋭く察知すると、すぐそちらの方向に向き直る。

だがジャファルは動かない。

竜騎士は突っ込む。

もうすでに槍を伸ばせば届く距離に達したが、まだ彼は槍を伸ばさない。

まだ十分ではない。敵に腰と腰がくっつくほど接近してから、一気に穿つ!

その時、死んだように動かなかったジャファルが動いた。

ふたつの短刀を器用に回転させると(何故かジャファルの姿が左右にブレた様に見えた)、前傾姿勢で一気に飛びかかる。

瞬間、ジャファルの姿が消え、竜騎士の前後の急所から真っ赤な噴水があがった。

騎手がいなくなり、飛竜は上昇すべき地点が分からずに地面に突っ込んでしまった。

痙攣し、そして動かなくなった飛竜の傍らにいつの間にかジャファルがいる。

漸く、止まった時間が動き出した様に思われた。

まさに瞬殺である。

ベルン竜騎士団に少なくない動揺が走った。

やべえまたさるさんだ

ラガルト「おいおい、これはどーゆー運命のイタズラなんだい?」

ラガルトは森林で伏兵を探っていると、会うはずないであろう人物と遭遇してしまった。

それも、敵として。

イサドラ「それは…、こちらのセリフです。あなたは新生【黒い牙】の一員なのですか」

ラガルト「…ああ。そうだ。俺は【牙】の仲間を救うため、再び剣を取った」

イサドラ「そう、ですか。私は主君エリウッド様より、ベルンのナーシェン卿と協力して【黒い牙】の残党を討伐するよう命じられました。」

サル野郎回避のためID変わってます

これこそがナーシェン卿の秘策だった。

正面の平地には自ら赴き、背後の森林に潜んでいるであろう伏兵にはフェレ騎士団を当たらせる。

ベルン国内には体裁のため援軍を要請できないが、隣国フェレであれば問題ない。

さらに、フェレ侯エリウッドの父エルバートが【黒い牙】に暗殺されたのは有名な話だ。

その仇敵を討つのに、エリウッドにも「協力させてやる」という形ならば体裁は保てる。

また、エリウッドにとっても美味い話であった。

大賢者アトスの予言通りならベルンに注意しなければならないが、最近ベルンは秘密主義的になって来ている。

少しでもベルンについて多くの情報が欲しいが、密偵達も深く探れないでいた。

そこに来てナーシェン卿からの援軍要請である。

まったく公正な理由でベルン内に立ち入るまたとない機会だ。

つまりこの時イサドラに課せられた命とは、表向きには【黒い牙】討伐、真の命はベルンの動向を探ることだ。

イサドラ「ラガルト殿。大きな声では言えませんが、私達の真の命は【黒い牙】討伐にはありません」

イサドラ「どうか、剣を収めてください。ナーシェン卿の前でなければ大丈夫です」

ラガルト「あんたは…この先に進んでナーシェン卿の前に出れば【黒い牙】討伐に加担しなくちゃいけないのかい?」

イサドラ「その通りです。あなたには酷なようですが、あなただけなら見逃せます。どうか、ご英断を」

ラガルト「すまない、そいつはムリな相談だ。あんた方をこの先に行かせる訳にはいかない」

イサドラ「…どうあっても、その決断は揺ぎませんか」

ラガルト「なめるな。俺は【黒い牙】。【牙】は仲間を、見捨てない」

ジャファルに、焦燥の色が見え始めた。

大陸最強を誇る竜騎士団を相手に、これだけ戦えるだけでも十分に人知を超えていると言えるが、やはり彼も人間だ。

息が荒くなっている。

既に彼の周りには地を這う竜が20頭以上いるが、未だ彼を包囲する飛竜は一個中隊ほどもある。

チラチラと森林を見るも、まだ「安全・逃げてこい」の狼煙は上がらない。

これだけの時間上がらないということは、伏兵と会っただけでなく、恐らく苦戦しているのだろう。

だがジャファルに出来ることは、ラガルトを信じて戦うことのみだ。

再び暗殺者の顔に戻ったジャファルは、既に真っ赤に染まった短刀を光らせた。

ラガルト(くそっ!こっちに来やがれよ!)

ラガルトは焦っていた。

イサドラ率いるフェレ騎士団は、ラガルトの誘いに乗らずに一路ジャファル達が戦闘を繰り広げている平地へと向かっている。

ラガルト(罠があることを読んで誘いに乗らないのか?いや、あの感じは違うな…)

ラガルト(とにかく、いまあいつらに竜騎士団と合流されちゃおしまいだ)

ラガルト(こうなりゃこの身ひとつで…)

イサドラ「何のつもりですか?流石のあなたも、たった一人でこの人数のフェレ騎士団とやり合うのは無謀だと思いますが」

ラガルト「まあ、見せてやるよ。汚い戦い方ってやつを…」

イサドラ「また剣の柄に細工でもするおつもりですか?」

ラガルト「さあ。あるいはそうかもな…」

そう言ってラガルトは近くのたいまつに火をつけた。

ジャファルがずっと待っていたものが見えた。

山からの狼煙…。

しかし、それを見たジャファルの顔には絶望が浮かんでいた。

黄色の狼煙、すなわち「緊急事態・こっちに来るな」

この場合は、なり振り構わず適当な場所に逃げ、後に【黒い牙】本拠地で落ち合うという算段だった


が、いまのジャファルにそれだけの体力は残されていない。

自分のことだけによく分かる。

ラガルト『お前は弱くなった。最強の暗殺者だったお前に、致命的な弱みができた』

ジャファル(…そうだな。オレは弱くなった。守るべき者の存在が、オレを追い詰めた)

ジャファル(だが、後悔はない。オレはニノと出会えて、オレになった)

ジャファル(ああ、ニノ。オレはお前が好きだ。たまらなく好きだ。お前はオレの感情そのものだから…)

ジャファル(だから、お前だけはどうか生きてくれ…)

ジャファルは、遠くのナーシェンを睨んだ。

ジャファルという存在すべてを研ぎ澄ませたような鋭く、美しい殺気だった。

ーーベルン王国・封印の神殿近辺

ニノ「はい、このお花です。お願いしまーす」

ニノは愛想よく花屋にゴールドを手渡すと、目の前の山道に目をやった。

ニノ「懐かしいなあ…」

ニノがこの神殿の周囲に来るのは二度目だ。

ニノ(5年前…ううん、そろそろ6年になるのか)

ニノが旅立ってから早くも季節は一巡しようとしていた。

山々の山頂は白くコーティングされている。

ニノ(ローブ着てても寒いなあ)

ニノは小さく凍えながら、ラガルトとの待合せ場所に急いだ。

ラガルト「よう、ニノ!久しぶりだな。美人になった」

ニノ「ラガルトおじ、ラガルトさん!久しぶり!なんだかラガルトさんの挨拶セインさんみたい」

ラガルト「う、それは傷つくな」

ラガルト「それとニノ、ラガルトおじさんって言いかけたろ」

ニノ「んー気のせいだよ」

ラガルト「まあいいんだけどよ…」

ニノ「それで、ラガルトさん。ジャファルは?」

ラガルト「ああ…。ついて来な」

ニノはラガルトに連れられてかなりの時間歩いた。

辿り着いたのは封印の神殿のすぐ近くだ。

その頃には夕暮れ時になっていた。

ニノ「ラガルトさん…。ここは」

ラガルト「【牙】の仲間の墓だ。俺がつくった」

ニノ「……」

ラガルト「あいつらが生きてたって証拠を残してやりたくてね」

ラガルト「これはリーダス兄弟。これはウハイだな。そんでこれがヤンじいだ」

ニノ「ラガルトさん」

ラガルト「ああ。そんでこれが…ジャファルのだ」

ニノ「…うん。うん」

ラガルト「ニノ…。本当に、すまなかった…!あいつを殺したのは俺だ。俺の弱さがあいつを殺した」

ラガルト「何となじってくれてもいい。すまない…。すまなかった」

ニノ「ラガルトさん。いいの。ありがとう…。あたしとジャファルのために泣いてくれて」

ラガルト「……」

ニノ「ラガルトさん。ジャファルの最期は…どうだったの」

ラガルト「あいつは…あいつは立派だった。最期は敵の飛竜を踏み台に、ナーシェンに飛び掛かって、刺し違えて死んだ」

ラガルト「あいつは自分の死を悟ってもなおお前を守ろうとした。最高の男だ」

ニノ「そっか…。うん。ジャファル…」

ニノ「あとね、ラガルトさん。ありがとう。ジャファルを守ってくれて」

ニノ(イサドラさんが言ってた。ジャファルの死体を持ち去ろうとしたベルン兵に飛び掛かって、死に物狂いで取り返したって…)

ラガルト「…!ニノ。…俺は席を外してる。ジャファルに…声をかけてやってくれ」

ニノ「…うん」

ニノ「ジャファル。ジャファル」

ニノ「久しぶり。これ、お花だよ。ベルンでも評判の花屋なんだから」

ニノ「ジャファル。ありがとう。あたし達を守ろうと戦ってくれて。ありがとう。あたしを愛してくれて」

ニノ「あたしは幸せだよ。ジャファルと会えて、子どもをもうけて…家庭を…作れて」

ニノ「お、覚えてる?ジャファルに…レイが懐かなくて…ジャファルが落ち込んでたら…ルウがジャファルにいい子いい子して…」

ニノ「ジャファル…声をあげて泣いてたね…」

ニノ「他にも…レベッカ達と外でお食事したり…楽しかったねえ…本当に、楽しかったよお」

ニノ「だめだね、あたし。全然弱いままだ。ジャファルを…安心させたかったのに」

ニノ「あたしね、がんばるよ。まだお仕事はみつからないけど、必ずルウとレイを養えるくらい立派になって、ふたりを連れてここに戻るから。だから…安心して?…ジャファル」

ーーー
ーー

ラガルト「もういいのかい?」

ニノ「うん。覚悟は決まったから」

ラガルト「そうかい。じゃあ、ニノの墓はあいつの隣に作っておくから」

ラガルト「だから…安心しろよ」

ニノ「…うん」

ラガルト「何か困った事があったら、必ず俺に相談するんだぞ」

ニノ「…うん」

ラガルト「じゃあ、いくか」

ーーー
ーー

とあるベルンの宿屋

そこにはラガルトとニノ、それにかつての仲間カナスがいた。

カナス「ニノさん。本当にいいんですね」

ニノ「はい。お願いします」

カナス「あなたのモルフを作るということは、あなたの生命力、エーギルを貰うということ」

カナス「どんな後遺症が残るかも分かりません」

ニノ「いいんです。まっとうな人間になってルウとレイを迎えに行くには、これしかないから…」

カナス「そうですか…。覚悟は固いのですね。では、準備にとりかかります。半刻後、またこの部屋に来てください」

ーーナーシェンは、ジャファルによって倒された。

だが、【黒い牙】の残党狩りは今も続いている。

「ナーシェン」の名を襲名した彼の子が、今もその首を親の仇として狙っているからだ。

このナーシェンJr.(便宜上こう呼称する)はいわゆるベルン動乱の際、三竜将の一角だった人物だ。

ナーシェンJr.はよく狡猾一辺倒で政治的・軍事的手腕はまるで素人のそれだと酷評されているが、そうとも言い切れない。

実際彼は黒い牙の残党狩りには懸賞金をかけていない。

代わりにベルン軍への士官を約束している。

これは賞金稼ぎ達にとっても一時の賞金より、軍事大国ベルンに仕えられる方が生涯安泰でありありがたい。

また、軍事力を強化せよという中央からの圧力にも、懸賞金は出せないという大蔵省の要請にも応える事が出来る。

一石二鳥の政策だ。

ナーシェンJr.の話はともかく、未だニノは追われる身なのである。

ジャファルの死を伝えに来たラガルトと相談し、結果決めたのは、「ニノ」を殺してしまおうという事だった。

闇魔導師カナスならば、モルフの技術を利用してニノという外観をもった肉人形を作れるだろう、という話になり、事実カナスは可能だという。

ただしそれには、多少ニノの生命力・エーギルを吸う必要があるらしい。

だが、それで死ぬことはないとも言っている。

こうして「ニノ」を殺し、ナーシェンJr.に差し出しておいて、ニノは全く新しい人生を始めるのが目的だ。

ニノはこの一年、「ニノ」である内に会っておきたい人物や、職探しをしながらここベルンを目指していた。

「ニノ」を黒い牙の墓場へ葬るために…。

カナス「では、始めます」

ニノ「カナスさん。その前に」

カナス「はい、何でしょう」

ニノ「あたし達、血の繋がりがあるかも知れないんですよね」

ニノ「どうか…ルウとレイを気にかけてやってください」

カナス「なるほど…。はい、機会があれば」

ニノ「あと、このお守り…。ふたりに会う事があったらお願いします」

カナス「確かに」

カナスはそのお守りを自分のリザイアの書に貼り付けた。

このリザイアの書は、紆余曲折を経て彼の息子ヒュウの手に渡り、最終的に盗むという形でレイが手に入れることとなる。

カナス「では…いきます」

ーーこうして、ニノという人物の生涯は終わった。

ニノの首は、本人の希望によって賞金稼ぎに売られた。

そのゴールドでラガルトは今も、【黒い牙】の墓守りをしているという…。

もう少しだけ後日談にお付き合い願いたい。

ーーエトルリア王国・エリミーヌ教会

シスター「…司祭!ソーニャ司祭!」

ソーニャ「はい。何ですか?」

シスター「死とはなんですか?教典には詳しく載っていません」

ソーニャ「死とは、永遠ですよ」

シスター「永遠…?」

ソーニャ「はい。死した人間は、その所業や思いと共に、永遠にこの現世にあります。残された者とともに」

ソーニャ「だからシスター、摘み食いはいけませんよ?その所業もまた永遠です」

シスター「なっなぜそれを?」

ソーニャ「聖女とあなたの口元の食べカスが教えてくれますよ」

このソーニャという司祭は、15年ほど前からこの教会にいる。

記憶喪失だそうだが、何故か目覚めた時聖書を持っていたため、教会の門を叩いたのだそうだ。

身元の知れない者は通常の倍ほど修行しなければならないため、つい先日司祭になったばかりだ。

何故か突然、リキア同盟のアラフェンへ行きたがり、来週からその旅にでる事になっている。

このソーニャという女性、当然お察しとは思うがニノである。

なぜ彼女が新しい人生を始めるにあたって、忌み嫌っていた育ての母親の名前を使ったのかは分からない。

結局ネルガルの人形でしかなかった彼女を哀れんで、自分とともに新たな人生を歩んで欲しいと願ったか、はたまた別の理由があるのかもしれない。

元より、結果とはひとつの原因から導かれないものだ。

ともあれ彼女はルウとレイを迎えるため修行を積み、ついに念願叶ったのだった。

だが時はエレブ歴999年。

この年はベルン動乱の始まりの年だった。

結局ソーニャがアラフェンに着いたころには、ルセアの修道院もルウもレイも跡形もなくベルン兵に蹂躙された後だった。

しかし彼女はリキア同盟軍に従軍した緑の髪の少年の話を聞く。

彼女の狂喜ぶりは計り知れない。

リキア同盟軍を訪ねようとも思ったが、その行軍は素早く、エーギルを吸われた後遺症で体の弱くなっていたニノはそれに追い付く事はできなかった。

エトルリアに帰った彼女は、教徒たちに民衆がひとつになる大切さを説いた。

それは、予想外の効果を発揮する事となる。

後に、ロイ率いるリキア同盟軍がエトルリア王都アクレイアの奪還戦に挑んだ際、ナーシェンJr.は当初市街地戦を計画していた。

しかし、その計画は頓挫することになる。

エリミーヌ教徒の一斉蜂起のためだ。

この事態の功労者は、一般的に最高司祭ヨーデルにあるとされている。

だが、これは正確ではないだろう。

エルクが指摘していたように、エトルリア王国民は政治に無関心であった。

そんな彼らがここまで感情的になったのは、民衆がひとつになる大切さを説いたソーニャ司祭のおかげである。

確かにヨーデルはダムを決壊させるという役割を果たしたが、王国民感情という水をダムに溜めたのはソーニャである。

結果は、ひとつの原因からは導かれないのだ。

結局、ナーシェンはニノ達に城内戦を強いられ、ロイ達(つまりルウ・レイ達も含む)に討ち取られた。

ジャファルがそれを望んだかは分からないが、彼の家族が彼の仇を取ったのだ。

ルウ・レイの双子はファイアーとリザイアの書を持っていたが、それにはそれぞれ「ニノ」のお守りが挟んであったという…。

結局、ソーニャが息子達と再会できたかは分かっていない。

ーーー
ーー

ウィル「レベッカー!おーいレベッカ!」

レベッカ「なあに?ウィル?そんなに何度も呼ばなくても聞こえてるわよ」

ウィル「お前宛てに手紙なんだけどよ、差出人がソーニャだって!恐ええよなー!」

レベッカ「失礼な!私の15年来のペンフレンドなんだから」

ウィル「そうなのか?初めて知ったぞ…」

レベッカ「言う必要がなかったから」

ウィル「なんか冷てえ!」

レベッカ「あ、今度うちに遊びに来るって!」

ウィル「え、俺そいつ知らないんだけど…」

レベッカ「大丈夫!ウィルもよく知ってる人よ」

ウィル「そうなのか?」

レベッカ「見れば思い出すわよ」

レベッカ「さてと!焼き菓子の準備しとかなくちゃ。三人分だと買わないと足りないかしら…?」

おしまいです

見てくれた方、支援・保守くれた方ありがとうございました

僕は頭の腰痛が痛いのでもう寝ます
おやすみ~(*・∀・)ノ゛

やすな「殺し屋なんかやってたらいつかこういう目にあうんだよ!」

ソーニャ「私は軍隊となんか相手にしないぞ」

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