モバマスSSです。
書き溜めたものの投下になります。
ありすと由愛のお話です。
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由愛「……そうですか、残念です」
ありす「って、なんで成宮さんが残念そうにしてるんですかっ」
モバP「だって共演者だから」
ありす「そういうことは早く言ってください!」
由愛「あの、興味ないなら無理しなくても、いいです」
ありす「す、すみません。興味ないというわけではなくて、ただ、絵なんて図工の授業でちょっとしか描いたことなくて……」
由愛「そ、それならわたしが一緒に……」
ありす「それでは成宮さんの迷惑に――」
由愛「な、なりません。それより絵を描く人が増えるなら、うれしいかなって」
ありす「………」
モバP「決まりだな。というわけで、詳しいスケジュールは後日立てるから、ひとまず二人でいろいろ話してみたらいい」
ありす「……っ!?(私、ハメられましたかっ!?)」
由愛「………」
ありす「………(は、話せって言われても)」
由愛「あ、あの」
ありす「は、はい。なんでしょうか?」
由愛「よろしくお願い、します」
ありす「こ、こちらこそ。あ、あの成宮さん」
由愛「は、はいっ」
ありす「あの、そんな怯え腰にならなくても……」
由愛「ご、ごめんなさい。橘さんとはあまり話したことなくて……うぅ」
ありす「(話しづらいです。スケッチブックで顔を隠すようにしてて……)私ってそんな怖いですか?」
由愛「そ、そうじゃないんですけど……知らない人と話すの、苦手で」
ありす「誰だってそうだと思いますよ。私だって成宮さんと話してる今だってドキドキしてますから」
由愛「そ、そうは見えないです。橘さん……すごいです」
ありす「私はすごくなんかないです。ところで成宮さんに教えていただきたいことがあるんです」
由愛「何でしょうか? その、私が答えられることですか?」
ありす「というか、プロデューサーに聞いても分からないでしょうから。写生について教えてください」
由愛「写生、ですか?」(キョトン
ありす「そうです。まあ、タブレットあるので自分で調べてもいいんですけど」
由愛「私なんて、教えられるほどの知識とか持ってないですし……」
ありす「実践しないと分からないこともあると思うので、先輩にその辺りは聞きながら学べればと思ったんですけど」
由愛「せ、先輩ですか!?」
ありす「年上じゃないですか。この業界に入ったのも、成宮さんが先ですし」
由愛「………」
ありす「成宮さん?」
由愛「P、Pさん、大変ですっ。私先輩になっちゃってました!」(パタパタ
ありす「……先行き不安で仕方ありません」
モバP「ありす、何見てるんだ?」
ありす「成宮さんに教えてほしいとお願いしましたが、何も知らないよりはいいと思いまして調べ物中です」
モバP「ありすはその辺りしっかりしてるよな。偉い偉い」
ありす「……頭を撫でるのはやめてください」
モバP「はっはっは、ありすは甘え慣れてないなぁ。もっと甘えてくれてもいいんだぞ」
ありす「考えておきます。……プロデューサーは仕事しないんですか?」
モバP「一息ついてるところ。二人の仕事の詳細も煮詰まってきたしな」
ありす「そうですか」
モバP「なんて興味なさそうに言いながら、手元のカバンにはしっかりと買いそろえた写生の道具が」
ありす「っ!?」
モバP「あっはっは、楽しみにしているようで何よりだ。そうそう、由愛がさっき来たから連れてくるよ。じゃあなー、ゆっくりしてけよー」
ありす「人が悪すぎますよ、もう!」
ありす「ときどきあの人は私のこと担当アイドルじゃなくて単なるおもちゃとしてしか見てないんじゃないかって思ってしまいます」
由愛「そ、そんなことはないと思います。だってPさんは優しいので」
ありす「そんなこと言われなくても知って……って、成宮さん!?」
由愛「は、はいっ!?」
ありす「ど、どうしてここに!?」
由愛「Pさんにここで待ってろって言われたので……」
ありす「あ、あの人は……」
由愛「あの、橘さん。この前言っていたことなんですけど」
ありす「この前?」
由愛「その、私が先生になって橘さんに教えるって」
ありす「ああ、その件ですか」
由愛「ちょうど今日、時間ができたので……Pさんにも聞いたら、橘さんは今日空いてるって聞いて、それで」
ありす「(あの人、仕事だけはできますからね。プロデューサーなのに女心知らずなのはどうかと思いますが)お願いできますか?」
由愛「こちらこそ。そ、その、ちゃんと教えられるか不安ですけど」
ありす「成宮さんなら大丈夫ですよ。成宮さんの描いた絵、私は好きですよ」
由愛「え、ええっ!? いつ見たんですかぁ!?」
ありす「この前のライブツアー中に描いていたらしい絵、プロデューサーがいいだろーって写メで回してました」
由愛「P、Pさーん!?」
ありす「(ああ、やっぱり無許可だったんですね。あの人らしいです)」
由愛「うぅ、Pさんもママのようになってきました」
ありす「お母さんにもやられたことが?」
由愛「悪気ないのは分かってるんですけど……」
ありす「子の心、親知らず、ですよね」
由愛「そ、そうです。その通りですっ」
モバP「逆に、親は親心子知らず、なんて思ってたりするもんだぞ」
由愛「P、Pさん!? いつからそこにっ!?」
モバP「今さっきだよ」
由愛「あ、あの、さっきのこと、ママには……」
モバP「大丈夫、由愛が本当は優しい子だって知ってるから」(なでなで
由愛「あ、あぅ……は、恥ずかしいです」
モバP「あっはっは、由愛はかわいいなぁ、ホント。親御さんには感謝しないと」
ありす「で、プロデューサーは何しに来たんですか?」(じー
モバP「ああ、そうそう。由愛がカバン忘れて言ったから持ってきたんだ。で、ありすも撫でてほしかったり?」
ありす「な、何言ってるんですか、あなたは。そんなわけありませんっ」
由愛「あ、さっき事務所に来たとき――」
モバP「これからありすと絵を描くんだろ? 楽しみにしてるよ」
由愛「あ、はい。……あ、あの、また見てもらえますか?」
モバP「俺でよければ。ありすもがんばれよー」
ありす「どうせがんばっても下手ですよ。初めてなんですから」
モバP「がんばったなら結果はついてくるさ。っと、もうこんな時間か。ちょっと事務所から誰もいなくなるけど、このままで平気かな?」
ありす「ちひろさんはどうしたんですか? そういえば今日見ませんが」
モバP「新商品についてって言ってたなぁ。一日外出の予定だな。ちょっとの間、二人で留守番よろしくな」
由愛「あ、あの、始めますか?」
ありす「……そうですね。あの人のことは忘れてしまいましょう」
由愛「た、橘さん、それはちょっとひどすぎでは……」
ありす「もし聞かれていても、あの人はこれくらいでは堪えませんよ」由愛「あ、あはは……」
ありす「それでは、準備できたのでお願いします」
由愛「こちらこそお願いします。えっと、写生って何かっていうのは……道具揃えてもらえているので説明は大丈夫そうですね」
ありす「はい。それくらいは事前に調べておきました。俳句とかも写生って定義にはいるそうですね」
由愛「そ、そうなんですか。……私、水彩画が好きだから、ママがそれなら写生ってことにして……ごめんなさい、そこまで知りませんでした」
ありす「わ、私も調べただけですから気を落とさないでくださいっ。私も調べるまで絵のことだと思ってたんですから!」
由愛「まずはりんごを描いてみようと思って持ってきました」
ありす「定番ですね」
由愛「そう、なんでしょうか?」
ありす「よく本とかで見るのがりんごとかその辺りな気がしたので」
由愛「橘さんって物知りですね」
ありす「べ、別に気になったことはそのままにしておけないだけです。そ、それより、早く描いてみましょう」
由愛「そうですね。じゃあ、十分くらいでまずは見たままの通りに描いてみましょう」
ありす「はい。……」(ちら
由愛「……~♪」(スッスッ
ありす「(軽快ですね。迷いがないです。慣れた手つきです)……むぅ」
由愛「……~♪」
ありす「(やっぱり成宮さんと同じようにいかないですね)」
由愛「ふぅ……そろそろ十分経ちますけど、どうでしょうか?」
ありす「そう、ですね。これ以上根詰めても質は上がらないと思います」
由愛「………」
ありす「どうしたんですか?」
由愛「そういえば、こうして絵を見せ合うのって初めてな気がして……」
ありす「学校とかで展示されるじゃないですか」
由愛「じ、授業で描くのと個人的に描くのじゃ違うんですっ」
ありす「あー……提出用と、ノートの落書き、みたいなものでしょうか?」
由愛「あ、そんな感じです」
ありす「とはいえ、私のだけだとどうなのか全く分からないので見せてもらえた方がいいんですが」
由愛「あぅ……そうですよね。でも、やっぱり見てもらうのは恥ずかしいです」
ありす「それを言ったら下手な私は全く見せられないんですが、見てもらわないと始まらないので、お願いします」
由愛「……わぁ、キレイです。うまいですっ、橘さん、本当に初めてなんですか?」
ありす「も、もちろんです。というか、指摘いただかないと上手くなれないのでいただけると助かるんですけど」
由愛「う、うーん、指摘なんてしたことなくて難しいです。……輪郭はしっかり縁取れてますし、しいて言わせてもらうと、影をもう少し光の差し込み方を意識するとよかったかもしれないです」
ありす「影、ですか」
由愛「はい。この場だと、電球があるので、そこからどうやって影ができているのかって思えば……」
ありす「確かに違和感ありますね。次は気をつけます」
由愛「その、参考になるのか不安ですけど、これ……私の絵です。橘さんが見せてくれたのに、私が見せないなんて先生として、情けないですしっ」
ありす「わぁっ……すごいですっ。これ、とにかく、私のより、なんて言うか……語彙が乏しくて上手く言えないのがもどかしいですけど、本物みたいです!」
由愛「い、色も付けてないのに本物は言い過ぎです……」(てれてれ
ありす「これ、事務所に飾りませんか?」
由愛「ええっ!? こ、こんなもの飾っても雰囲気壊すだけですよ!」
ありす「そんなことないと思いますけど」
由愛「た、橘さんも自分の作品が飾られることになったら恥ずかしいと思うはずですっ!」
ありす「……先ほどの発言は取り消します」
由愛「橘さん、上手かったので次は何に挑戦しましょうか」
ありす「あ、あの、あまり難しい物は……」
由愛「でも、Pさんからお留守番任されてしまいましたし……」
ありす「それなら事務所を描いてみるなんてどうですか?」
由愛「! いいアイデアですっ。こうして見ると、いろいろ発見できそうです」
ありす「そうですね。特に誰もいない事務所なんて見たことなかったです」
由愛「いつもPさんかちひろさんがいましたよね」
ありす「朝一から夜遅くまで……いつ寝てるのかっていうくらいだそうですね」
由愛「ふふっ」
ありす「……なんですか?」
由愛「いえ、Pさんに聞いたとおり、橘さんって優しいんですね」
ありす「……意味分からないこと言わないでください」
由愛「じゃあ、ここのソファから見た風景を描きましょう」
ありす「時々アドバイスいただいてもいいですか?」
由愛「はい、一緒に描きましょうっ」
ありす「とはいえ、りんご一つと事務所全体……いきなりスケールアップし過ぎな気もしなくありませんね」
由愛「今日一日だと描き上げられそうにないですね」
ありす「まあ、一日でレッスン終了というのも味気ないですし。成宮さんさえよければ、今後も教えていただけたらと思うんですけど」
由愛「こちらこそ。えへへ、一緒にお絵かきしてくれる人ができてうれしいです」
ありす「荒木さんなら絵描けるじゃないですか」
由愛「……その、いつも忙しそうで、声をかけるのが」
ありす「あー……いつも目の下に隈作ってますしね。何をそんなになってまでしているのかと」
由愛「知ってます?」
ありす「私にはまだ早いと諭されました」
由愛「そういえば」(かきかき
ありす「なんですか?」(かきかき
由愛「橘さんの名前、ありすって言うんですよね」
ありす「……それが何か?」(ピタッ
由愛「いえ、かわいいなぁって思って」
ありす「そうですか? 私はイヤなんですけど」
由愛「どうしてですか?」
ありす「だって、ありすですよ? 不思議の国のアリス」
由愛「ああ。童話ですか」
ありす「おかげで「日本人じゃない」なんて言われたりしましたよ」
由愛「ええっ!? こんなにかわいいのにですか?」
ありす「……あの、かわいいのは関係ないかと」
ありす「成宮さんは名前、どうなんですか?」
由愛「私ですか?」
ありす「正直、ゆめって最初は読めませんでしたよ」
由愛「あ、そうですね。初めての人にはゆあって呼ばれることもありました」
ありす「……私もそうだと思ってました。それで、ちょっと読みづらい名前を付けられたことには何も思わないんですか?」
由愛「うーん……私はすてきな名前をありがとう、って思ってたくらいなので」
ありす「そうですか」
由愛「橘さんのママも、きっとかわいい名前だって思ってつけてくれたと思います」
ありす「否定はしませんけどね」
由愛「橘さんにピッタリだと思います」
ありす「そうですか。……どの辺りが、そう思うんですか?」
由愛「えっと……まず、見た目だと思います。さらりと長い髪、うらやましいです」
ありす「それは成宮さんも伸ばせば……」
由愛「私は……長いよりも短いほうが似合うらしいので。自分でもちょっと長いのは……イメージわかないんです」
ありす「そんなものですか?」
由愛「自分の髪型が変わるの、イメージできますか?」
ありす「……無理ですね。物心ついた頃からこの長さでしたし」
由愛「そう、ですよね。他には、その冷静な雰囲気とのミスマッチなところとか」
ありす「合ってないってことじゃないですか」
由愛「あ、あの……そうじゃなくて、Pさんも言ってたんですけど、その冷静さの中に見える……名前に見合ったかわいさがチャームポイントですって」
ありす「普通にしてればかわいくないってことですか?」
由愛「う、うーん? ……私はかっこいいなぁ、とか思ったりしました」
ありす「かっこいい、ですか」
由愛「もちろん、橘さんかわいいんですけど、ラジオで聞く橘さんの声やテレビに映る橘さんは、堂々としてたので」
ありす「緊張で強ばっていただけだと思いますよ」
由愛「それも含めて…すごいですよ、橘さんは。そう見えなかったんですから」
ありす「そうですか」
由愛「はい。ありすってかわいい名前に負けてないんですから」
ありす「イヤに思うくらいには自分の中ではコンプレックスなんですけどね」
由愛「でも、Pさんは呼んでますよね?」
ありす「プロデューサーは言っても聞かない人ですから。あ、成宮さん、ここなんですけど、もうちょっと細かく描いた方がいいでしょうか?」
由愛「私は……これくらいでもいいと思います。周りとディテールがそろわなくなっちゃいますし」
ありす「ちなみに成宮さんはどれくらい描き込んで……るんで………(上手すぎます)」
由愛「きゃっ、い、いきなりのぞき込まないでくださいっ」
ありす「……今からプロデューサーに頼んでやっぱりなかったことにしてもらいたいですね」
由愛「ええーっ!?」
由愛「び、びっくりしました」
ありす「すみませんでした。冗談です。仕事をすっぽかすことなんてしませんよ」
由愛「そ、それよりも、絵を嫌いになったんじゃないかって思ってしまって……」
ありす「そ、それはありません。その……描くのもイヤではないな、と思ったので」
由愛「えへへ……それならよかったです」
ありす「……まあ、考えておかなくもないです」
由愛「え?」
ありす「……整理がついたら、言います」
由愛「えっと……はいっ」
ありす「分かってないですよね、今の反応」
由愛「あぅ……ごめんなさい」
ありす「いつか、自分でも名前を受け入れられるようになったら、そのときは……その、名前で呼んでください」
由愛「あっ……はいっ♪」
ありす「さ、さあ! 明日からまた忙しくなりますし、今日描けるところまで描いてしまいましょう!」
由愛「そうですね。がんばりましょう」
おしまい。
おまけ
モバP「すっかり遅くなっちゃったな。二人はまだいるかな……? あ、いたいた。二人とも――」
由愛・ありす「「すぅ……すぅ……」」
モバP「起こすのはかわいそうか。家に電話しておくか。……これは、二人が描いてる絵か? ……事務所、か。こうして見るといいもんだな。とと、電話電話。あ、成宮さんですか? はい、CGプロダクションの――」
本当におしまい
おまけ含めて以上になります。
短文・拙作でしたが、お楽しみいただけたなら何よりです。
お読みいただきありがとうございました。
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