夜神月「765プロ?」 (79)
海砂「うん。聞いたことない? 竜宮小町とか」
月「ああ……そういえば粧裕が好きだって言ってたかな。それがどうかしたのか?」
海砂「ミサね、その事務所の子達と結構仲良いんだ。仕事で一緒になること多くて」
月「ふーん?」
海砂「うん。でね、その……ちょっと考えたんだけど」
月「?」
~1週間後~
高木「……というわけで、ぎっくり腰で入院した彼に代わって、一時的にうちのプロデューサーを務めてくれることになった夜神月君だ」
月「夜神月です。宜しくお願いします」
アイドル一同「よろしくお願いします!」
高木「諸君、この月君は凄いぞ~。なんと現役の東大生だ!」
アイドル一同「東大生!?」
高木「しかもお父さんは警察庁の刑事局長を務められており、月君自身も将来は警察庁に入るべく勉強中の身なのだ! どうだね? 凄いだろう!」
月「いや、まあ……そんなに大層に言うほどのことでもないですよ」
高木「はっはっは! そう謙遜しなくてもいいだろう!」
月「ははは……」
月(……まさか、こんなにあっさり上手くいくとはな……)
~一週間前~
月「考え?」
海砂「うん。あのね、ライト……前に『ミサと会うことが目立たないよう、せめて他の女の子とも沢山会うようにする』って言ってたよね」
月「ああ……言った」
海砂「ミサ、ライトが他の女の子と会うなんてすごく嫌だったけど」
月「…………」
海砂「でも、ふと気付いたの。もしライトが会っても、そういう関係になりようがない子とだったら、別に会ってもいいなって」
月「まさかそれが……」
海砂「そう。765プロの子達ってこと」
月「……まあ確かに、アイドルの子達ならそういう類の事は相当警戒してるだろうけど……」
海砂「でしょ? だから……」
月「でもそれなら尚更、一般人に過ぎない僕と会ったりできないだろ。仮にミサの紹介だったとしても」
海砂「ふっふっふ~。それがなんとかなるんだって!」
月「?」
月(ミサが言うには、765プロのプロデューサーがぎっくり腰で入院してしまったため、一時的に代理のプロデューサーを探しているとの事だった)
月(しかし竜宮小町が売れてきているとはいえ、まだまだ弱小規模の事務所。すぐに本職のプロデューサーを他事務所から回してもらえるようなツテもなく、どうしたものかと困り果てていた)
月(そこに、765プロのアイドル達と親交のあるミサの紹介で、僕がプロデューサー代理として765プロに入る)
月(そしてプロデューサーとしての立場からアイドル達との接点を持つ)
月(一度そのような形で接点が持てれば、本来のプロデューサーが復帰してお役御免となった後でも、アイドル達と会ったりするのはそこまで不自然なことではなくなる)
月(何よりミサとも、765プロのアイドルと共演する仕事を通じて知り合ったという形を取ることができる)
月(そうすれば、いずれLに僕とミサとのつながりを知られた場合でも、十分合理的な説明をすることができる)
月(そのうえ、そのような形を取っておけば、今後はミサと会うときにも765プロの事務所を使うことができるようになる)
月(つまり仕事上の打ち合わせという名目で、堂々とLを殺すための密談ができるというわけだ)
月(Lがまだ僕とミサとの接点に気付いていない現状においては、これはかなり有効なカモフラージュになる……!)
???「……夜神さん? 夜神さん?」
月「え? あ、何?」
???「もう、人が自己紹介してるときにぼーっとしないで下さいよ~」
月「あ、ああ……ごめん。えっと……」
???「じゃあもう一度自己紹介しますね! 私は天海春香と言います! よろしくお願いします!」
月「ああ、よろしく……天海さん」
春香「春香、でいいですよ?」
月「じゃあ、春香さん」
春香「呼び捨ての方が……」
月「……よろしく、春香」
春香「はいっ!」
月(天海春香、か……。特にこれといった特徴も無さそうな子だが、最近はこんな子でもアイドルになれるんだな)
春香「? 何か言いました?」
月「いや、何も……」
春香「言いたいことがあったら、何でも言ってくださいね! 今は夜神さんが私達のプロデューサーなんですから!」
月「……ああ、分かってるよ」
???「じゃあ臨時のプロデューサーさん! 次はミキの番なの!」
月「ミキね。はいよろしく」
美希「もー! ちゃんと聞いてほしいのー!」
月「……はいはい。じゃあ、どうぞ」
美希「えっとね、ミキは星井美希っていうの。今中3で……あ、胸結構おっきいよ」
月「うん、わかった。よろしく、美希」
美希「……なんかリアクションに乏しいの」
月「……君は僕に何を求めているんだ」
美希「ハニーのときはもうちょっと……まあ、いいや。よろしくなの」
月(星井美希……中学生にしてはかなり大人びた外見だな。まあ、だからどうということもないが……)
月(ただ、天海春香よりは遥かにアイドルっぽい見た目ではあるな。こいつは後々利用できるかもしれない)
千早「如月千早と言います。よろしくお願いします」
月「ああ、こちらこそ宜しく」
千早「…………」
月「…………」
千早「? あの……何か?」
月「え? ああ、いや……別に何も」
千早「?」
月(先の二人の印象があったから、てっきりまだ何か続くのかと思ってしまった)
月(この子は普通……というか、かなり大人しい印象だな。暗いと言ってもいいくらいだ)
月(この子もあんまりアイドルって感じには見えないな)
やよい「うっうー! 高槻やよいです! よろしくお願いしまーす!」
月「ああ、宜しく」
やよい「夜神プロデューサー! はいたーっち!」
月「え?」
やよい「え?」
月「……?」
やよい「は、はいたーっ……」
月「あ、ああ……た、たっち」パンッ
やよい「いぇいっ!」
月「…………」
やよい「えへへ……これからプロデュース、よろしくお願いしまーす!」
月「あ、ああ……」
月(高槻やよい……かなりパワー、というか勢いがあるな……)
月(しかしこの純真無垢さ……上手く丸め込むことができれば良い駒になるかもしれない)
真「ボクの名前は菊地真です! フリフリの可愛い衣装とかいっぱい着れるお仕事、ジャンジャン獲ってきて下さいね!」
月「まあ、善処するよ」
雪歩「………あ、あの、よ、よろしくお願いしますぅ……」
月「……何でそんなに遠いところから?」
真美「双海真美だよ→ 兄ちゃんイケメンだね→」
月「……どうも」
響「自分、我那覇響だぞ! 自分完璧だから、大船に乗った気でいていいよ!」
月「そうか、助かるよ」
貴音「四条貴音と申します。以後、何卒宜しくお願い致します」
月「ご丁寧に、どうも」
月(……そんな感じで、結局この日は挨拶だけで終わってしまった)
月(菊地真は正義心が強く、また自分の芯をしっかり持っている印象を受けた。利用価値という点では微妙)
月(萩原雪歩は臆病な性格ゆえに騙しやすそうではあるが……男性恐怖症というのはネックだな)
月(双海真美は……ちょっと幼すぎるな。あまり期待はできそうにない)
月(我那覇響は能天気そうに見えるが、同時に野生の鋭さのようなものも感じられる。要警戒だ)
月(四条貴音……こいつは一番危険な雰囲気を感じだ。Lに似ている何かを感じる)
月(なお、このほかに竜宮小町がいるが……僕がプロデュースを担当するわけではないのでとりあえず考慮しなくていいだろう)
~同日夜・月の部屋~
月「…………」
リューク「ククッ。お疲れのようだな、ライト」
月「まあね」
リューク「でも良かったじゃないか。これでミサとも堂々と会って話せるし、カモフラージュに他のアイドルとも行動を共にできる」
月「そうだな……今のところは問題ない。ただ……」
リューク「ただ?」
月「せっかくできたパイプだ。どうせなら、何か利用できないかと思ってね」
リューク「ククッ。あのアイドル達にも人殺しをさせる気かよ」
月「流石にそこまでは考えていないが……しかし、いずれLの捜査の手が伸びてきたときに口裏を合わせてもらうくらいの信頼関係を築いておく必要はあるだろう」
リューク「ああ、そういうことね」
月(だとすれば、とりあえずあの中の誰かと親密な関係に……)
月(さて、誰にするか……)
~翌日~
高木「では早速、今日から本格的にプロデュース業を始めてもらうわけだが……最初に誰のプロデュースをしたいか、希望はあるかね?」
月「そうですね……」チラッ
春香「?」
月「では、春香のプロデュースをさせて下さい」
春香「! わ、私ですか?」
月「ああ。いいかな?」
春香「そ、それはもちろん! あの、えっと、よろしくお願いします!」
高木「ふむ。まあ最終的には全員のプロデュースをしてもらうことになるが……まだ初めだからね。ではとりあえずは春香くんから担当してくれたまえ」
月「はい」
春香「な、なんか緊張するな……はは」
月(天海春香……こいつはこの中で一番『普通』だった)
月(こいつ自身が特に利用できる器とは思えないが、『普通』だからこそ、他のどのアイドルとも適切な距離感を保っているように見えた)
月(つまり……こいつと親密になることができれば、他の全員とも容易く距離を縮められるはず)
春香「? どうしたんですか? 怖い顔して」
月「え? ああ……何でもないよ。じゃあ、始めようか」
春香「はい」
月「今日はまずA社に行ってCMの打ち合わせ。それから駅前の商店街で今日発売の携帯電話のキャンペーン……」
春香「! わ、私のスケジュールって教えてましたっけ?」
月「いや、そこに書いてあったから」クイッ
春香「それで覚えてたんですか? すごい……流石は東大生ですね!」
月「そんな大したことでもないだろ」
月(……やっぱりすごく『普通』だな……)
~同日・夜~
月「じゃあ今日はこのへんで。お疲れ様」
春香「お疲れ様でした! ……って、夜神さんはまだ帰らないんですか?」
月「いや、僕も帰るよ。明日の資料も全部まとめておいたしね」
春香「今日ずっと私と一緒にいたのに、いつの間に……」
月「春香が仕事してる間とか、結構時間あったからね」
春香「……ははっ。やっぱりすごいな……」
月「……?」
春香「あ、えっと……それなら、途中まで一緒に帰りませんか? 確か最寄駅同じでしたよね?」
月「ああ……いいけど」
~事務所からの帰路~
春香「夜神さんって……本当にすごいですよね」
月「今日はそればっかりだな」
春香「いや、なんていうか……本当に、やっぱり私なんかとは住む世界が違うなーって……」
月「それは言う立場が逆だろ。春香はアイドルなんだから」
春香「でも私なんて……未だに全然売れてないし」
月「それは……」
春香「今日のお仕事だって、ローカル局でしか放映されないCMと、小さな商店街でのキャンペーンガール……」
月「…………」
春香「こんな仕事しかしてないのにアイドルだなんて……ははっ。笑っちゃいますよ」
月「……笑うなよ」
春香「えっ?」
月「どんなに小さな仕事だろうと、その仕事に関わっている人は皆真剣にやってるんだ」
春香「あ、そ、そうですよね……ごめんなさい。私ったら」
月「いや……僕の方こそ悪かった」
春香「…………」
月「…………」
春香「……あ、じゃあ私こっち方面の電車なので……」
月「あ、ああ……また明日」
春香「はい。お休みなさい」
月「…………」
~同日夜・月の部屋~
月「…………」
リューク「ククッ。今日はなかなか珍しいものを見れたな」
月「…………」
リューク「まさかお前の口から、あんな台詞が聞けるとは」
月「……こっちを信用させるための方便だよ」
リューク「ククッ。まあ、そうなんだろうけどよ」
月「…………」
月(天海春香は本当に『普通』だ……)
月(僕の高校のときのクラスで言うと……あそこらへんのグループに入ってそうな感じか)
月(特に大人しいわけではないが、決して派手ではないグループ)
月(そのまま普通の大学に行き、普通の会社に入り、普通の男と普通に結婚しそうな……)
月(そんな子が何故、アイドルに……)
リューク「……ところでライト。今日の分の裁きは良いのか?」
月「え? ああ……リューク代わりにやっといてくれよ。僕は今考えるのに忙しい」
リューク「……あのなライト。俺はお前の手助けは……」
月「冗談だよ。ミサにメールしてさせておくよ。いざというときのために、何枚か切り取ったページを渡してあるから」ピッピッ
リューク「…………」
月「さて……と」
~翌日~
千早「春香がアイドルをしている理由、ですか?」
月「ああ。何かあるのかなって」
千早「何かっていうか……それはまあ、あると思いますが……でも、何故?」
月「えっ?」
千早「何故……そんなことを?」
月「……僕はまだ、皆のプロデューサーとなって日が浅いからね。少しでも早く皆のことを知っておこうと思って」
千早「……そうですか」
月(まだかなり警戒している感じだな……)
千早「まあ、あくまでも私の推測ですけれど」
月「ああ」
千早「春香は多分……夢を与えたいんだと思います」
月「夢を?」
千早「はい。自分のステージを観に来てくれる人達に、自分の歌を聴いてくれる人達に……夢を、与えたいんだと」
月「……なんか、普通だな」
千早「そうでしょうか?」
月「だって、そもそもアイドルってそういうものだろう?」
千早「それはまあ……そうかもしれませんけど」
月「それじゃあまるで、アイドルをしたいからアイドルをしている、みたいな……」
千早「? どうかしましたか?」
月「……いや、何でもない。さて、お喋りはこのへんにして次の仕事先に行こう」
千早「はい」
月「アイドルをしたいからアイドルをしている……か」
美希「あ! プロデューサー!」
月「ん? ああ……美希か。どうした? ていうか今、レッスン中じゃないのか?」
美希「今日はね、先生が風邪でお休みだったから自主練になったの」
月「じゃあ自主練しとかなきゃ駄目じゃないか」
美希「いいのいいの。ちょっとはやったから」
月「ちょっとって……お前な」
美希「そういうプロデューサーこそ、何考えてたの?」
月「いや、別に……ああ、美希」
美希「?」
月「美希は、何でアイドルやってるんだ?」
美希「? 何でって……うーん、あんま考えたことなかったけど……」
月「ないのかよ」
美希「でもあえていうなら……キラキラしたいからかな?」
月「キラキラ?」
美希「そ。キラキラ輝くステージで、めいっぱいキラキラ輝くの。それって多分、すっごく楽しいことなんだって思うな」
月「…………」
美希「? どうかしたの?」
月「いや、別に……」
月(キラキラ、か……それもまた、アイドルそのものだよな……)
リューク「キラがプロデュースするアイドルがキラキラ……ククッ」
月「…………」
月(悪い人間のいない、心の優しい人間だけの世界……)
月(それが僕の目指す、理想の新世界……)
月(そうだ。僕はその目的のために、キラとして裁きをしているんだ)
月(決して、人を殺すこと自体を目的としてやっているわけではない)
月(…………)
月(そのために、僕は……)
月(…………)
―――765プロのプロデューサーを代理で務めるようになってから、早1ヶ月が過ぎた。
―――僕は竜宮小町以外のアイドル全員を担当していたが、その中でも一番多く話をしたのは、やはり春香だった。
春香「夜神さん! お帰りですか?」
月「ああ」
春香「じゃあ駅まで一緒に行きましょう!」
月「もういつものお約束になったな」
春香「本当ですね。あはは」
月「…………」
月「……なあ、春香」
春香「はい?」
月「春香は何で、アイドルやってるんだ?」
春香「もう、またその話ですか?」
月「いいだろ、別に」
春香「いいですけど……どうせ私はいつもと同じことしか言いませんよ?」
月「……皆に夢を与えたいから、か」
春香「はい!」
月「……いつか、千早が言ってたことは当たってたんだな」
春香「? 何か言いました?」
月「いや、何でもない」
春香「まあでも、今の私が与えられていることなんて、まだほとんど無いんですけどね……」
月「そんなことないだろ。今でも確実に、春香から夢をもらっている人はいる」
春香「そうだと……いいんですけどね」
月「いるさ。ファンレターだって来てるだろ」
春香「それは……はい」
月「春香は今できることをやってる。それでいいじゃないか」
春香「……はい!」
月「…………」
春香「それじゃあ、今日はこのへんで」
月「ああ、お休み」
月(…………)
月(今できることをやってる……か)
月「……ん? ミサからメールが来てる」
月「……『今すぐ会いたい』?」
月「……何言ってるんだ。どうせ明日、事務所での打ち合わせで――……」
海砂「…………」
月「……ミサ」
海砂「……ライト、もうミサとは会ってくれないんだね」
月「……会ってるじゃないか。事務所でしょっちゅう」
海砂「春香ちゃんとは、一緒に帰ってるのに?」
月「!」
月「それは……仕事で」
海砂「一緒に帰るのは仕事じゃないよね」
月「……プロデューサーが担当アイドルの身の安全に配慮するのは当然だろう」
海砂「身の安全?」
月「ああ、そうだ。夜の帰り道は物騒だし、世間的にはキラだっているんだから……」
海砂「……キラの裁きは、もう2週間以上も止まったままなのに?」
月「……え?」
海砂「……やっぱり、確認もしてなかったんだね」
月「ミサ、どういう……」
海砂「キラの裁きは、もうここんとこずっとしてないよ」
月「何で……」
海砂「ライトが、ミサのことを見てくれなくなったから」
月「…………」
海砂「……春香ちゃんの方ばっかり、見るようになったから」
月「それは……」
海砂「否定できるの?」
月「……ミサが思ってるような感情は無いよ」
海砂「…………」
月「……ミサ。僕は……」
海砂「……聞きたくない」
月「えっ」
海砂「……聞きたくないよ。どうせもうキラやめるとか言い出すんでしょ?」
月「…………」
海砂「……ちぇっ。やっぱり765を紹介したのは失敗だったかあ」
月「…………」
海砂「あの子達ならどうこうなることもないと思って高をくくってたけど……見通しが甘かったかな」
月「…………」
海砂「まあ、いいや。こうなった以上は仕方ないね」
月「!? 仕方ないって……まさか」
海砂「うん」
月「…………」
海砂「……やめろって言わないんだ?」
月「…………」
海砂「ああ、そっか、レムがいるもんね」
レム「…………」
海砂「ミサがやらなくても、レムなら……ミサの望むことをしてくれる」
月「…………」
海砂「ミサが頼みさえすれば、レムが春香ちゃんを……」
月「…………」
海砂「……なんてね」
月「……えっ」
海砂「ライト。預けてたデスノート、返してくれる?」
月「……?」
海砂「大丈夫だよ。別に何もしないから。というか、何かするつもりなら今持ってるページでできるんだし」
月「……分かった」スッ
海砂「ありがとう」
月「……どうする気だ? ミサ……」
ミサ「ねぇ、ライト。ライトも今持ってる? 自分のデスノート」
月「? ああ、持ってる……けど」
ミサ「そう。良かった」
月「ミサ?」
ミサ「…………」
~死神界~
リューク「あーあ。またつまんねー日々に逆戻りだぜ」
レム「そうやって愚痴を言う割には、毎日欠かさず人間界を見てるじゃないか」
リューク「……まあ一応、ノートを渡した人間の最期を見届けないといけないっていう掟があるからな」
レム「その掟は、ノートを死神に返した人間にまで適用されるのかい?」
リューク「…………知らね」
レム「……ククッ」
リューク「……真似すんなよ」
レム「これは失礼」
P「月君、じゃあこの資料明日までに整理しといてくれ」
月「もう昨日やっておきました」
P「え、あ……そ、そうか。えっとじゃあ、来週のプレゼンの資料を……」
月「それも先週のうちにやっておきました。社長もチェック済みです」
P「そ……そうか」
美希「あはっ。ハニーったら、もうプロデューサーに追い抜かれちゃってるカンジなの」
P「ぐっ……そ、そんなことは……ない、とは言い切れないのが辛い……」
美希「でも大丈夫。そんなハニーもミキは大好きなの!」
P「あ、ありがとう美希……。美希だけが俺の心のオアシスだよ」
月「……先輩、いちゃつくなら外でやってもらえません?」
P「な、なんだよぅ……少しくらいいいだろ? 元はと言えば、君が俺の居ない間に俺の仕事全部取っちゃったから……」
月「そんなこと言われましても」
美希「ハニー。もう泣かないの」
P「泣いてないよ畜生! うわああああん!」
春香「夜神さん! 只今戻りました!」
月「お帰り春香。じゃあ早速だけど、これから撮影があるからロケ現場に行こう」
春香「はい!」
バタバタ……
P「……ああ春香、今ではすっかり月君の担当アイドルに……」
美希「むぅー。ハニーはミキのプロデュースだけじゃ不満なの?」
P「そ、そんなことないぞ! 美希のプロデューサーはずっと俺だからな!」
美希「えへへ……ミキは、ハニーのその言葉だけでいくらでも頑張れちゃうの♪」
P「は、ははは……」
春香「……そういえば、今日の撮影って、ミサさんと一緒なんですよね……」
月「なんだ? 嫌なのか?」
春香「いや、嫌ってわけじゃないんですけど……なんか最近、妙にライバル視されてるというか」
月「いいじゃないか。他事務所のアイドルは皆ライバルみたいなものだろ」
春香「いや、なんか、そういうのと違うっていうか……」
月「?」
月「よし、到着」
春香「あっ……」
月「ミサ」
海砂「……こんにちは。春香ちゃん。……と、夜神プロデューサー」
月「……ああ、こんにちは。今日は宜しく」
春香「……ど、どうも」
海砂「……春香ちゃん」
春香「は、はい」
海砂「……負けないからね」
春香「は……はい……」
月「……ミサ……」
―――あの日までの僕は、ただなんとなく毎日を過ごしていた。
―――ミサからの紹介で始めた765プロのプロデューサー業も、単なるアルバイト感覚でやっていただけだった。
―――でもあの日……いや、それまでから、僕の中に確かに息づいていた想いはあった。
―――今できることを、やるということ。
―――それは多分、一ヶ月ほどの間、春香をはじめとした765プロのアイドル達と接する中で、感じていたこと。
―――その漠然とした想いが、確固たる信念のようなものに変わったのが、あの日だった。
―――それがどうしてあの日だったのかは……何故だかよく思い出せないけれど。
―――ミサもまた、あの日を境に変わったという。
―――小細工抜きで、アイドルとして真剣に生きていくと、そう決めた日なんだという。
―――その『小細工』とやらが何なのかは、当のミサ自身にもよく分からないようだけど。
―――ただ目下、その矛先は春香に向けられているようで……こっちの理由は、いくら聞いても教えてはもらえない。
春香「ありがとうございました!」
月「春香、お疲れ様。すごく良かった」
春香「本当ですか! えへへ……」
海砂「…………」
月「でも、ミサに比べたらまだ演技に粗が目立つかな」
春香「あ~やっぱり……」
海砂「ほ、ホント!? ライト」
月「ああ、やっぱりミサは凄いよ」
海砂「えへへ……春香ちゃんもまだまだね♪」
春香「むぅ……」
月「まあ、こうやってお互いに切磋琢磨していけばいいさ。二人ともお腹空いたろ。打ち上げも兼ねてご飯でも行こうか」
海砂「行くーっ!」
春香「い……いいんですか?」
月「ああ、たまにはね。でも喧嘩はするなよ」
海砂「あはは、喧嘩なんてしないって。ミサと春香ちゃんは正々堂々としたライバル同士なんだから。ね? 春香ちゃん」
春香「? よ、よく分かんないですけど……はい」
月「よし、じゃあ行こうか」
海砂「ライトの奢り?」
月「春香の分はね」
海砂「何それずるい!」
月「流石に他の事務所のアイドルの分まで経費で落とせないだろ」
海砂「けち!」
月「冗談だよ……僕が出すって」
春香「あはは」
―――僕は、今できることをやっている。
―――遠い未来のためではなく、今の自分自身のために。
了
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