ライナー「教室に残されたもの」(48)
暗いお話。そして短いです。
少し書き方を変えてみたかった。
ネタバレあり。
書き溜めちょっとしかない。
「ライナー、君は戦士なんだよ」
そう、あいつは言った。
解散式の夜のことだった。
エレンとジャンがいつものように喧嘩した後、俺は同期の仲間たちと「あいつら最後まで本当飽きねえよなあ」なんて談笑していた。
すると、どこか焦ったような顔をしたベルトルトが近づいてきて俺の耳元でぽつりと
「解散式後、馬小屋の裏に来て」
と言い残し、足早に去っていった。
その様子にどこか不信感を抱きながらも、あいつが人気のない所に俺を呼び出すなんてよっぽどのことがあるのだろうと思った。
…まさか恋愛相談とか?もしかしてアニに告白するとかか?
あいつもついに決心したのか…。俺は嬉しいぞ。うん。
言われた通り、解散式後馬小屋の裏に向かうと、すでにあいつは待っていた。
あいつの顔を見る限り、もしかして俺に恋愛相談でもしてくるんじゃないのか、という馬鹿げた予想は大きく外れていたようだ。
あいつは真っ黒な、光のない瞳で俺を見つめ、君は戦士だ、と告げた。
最初は全く訳がわからなかった。
何言ってんだこいつ、と。
戦士?何のことだ。俺にはさっぱりわからん。
俺たちは兵士だ。壁を守り、人類の為に働く兵士だ。
そういった感情が表に出ていたのだろう。あいつは酷く苦しそうに顔を歪め、そして俺に言った。
ベルトルト「君は、戦士だ。忘れたのか?」
だからなんの事だよ。お前の言ってることさっきからわかんねえよ。
ライナー「なあ、戦士って何のことだ。お前疲れてんのか?」
疲れすぎて変な事でも口走ってしまっているんだろう。なあ、もう休めよ。
ベルトルト「それは僕の台詞だ。ああ、もう何回目だろうね」
そう、溜息をついた。
何回目?
こんな会話今までしたことあったか?
ベルトルト「ねえ、君は忘れたの?僕と君とアニの3人で」
ベルトルト「故郷に帰るんだろう?」
…ああ、忘れていた。
こんな大事な事なのに、忘れてしまっていたんだ、今まで。
戦士の輪郭が薄れて、兵士の輪郭が濃くなっていた。
その曖昧に混ざり合った境界線を今、
ベルトルト「…思い出したようだね」
呆然としていた俺を見てあいつはそう言い放った。
ベルトルト「あんなに楽しそうにみんなと話しているから、また忘れてしまってるんじゃないかと思ったらやっぱりだ」
ライナー「…ああ、すまん。どうかしていたみたいだ」
ベルトルト「そんなんじゃ困るよ本当に。僕は心配で気が気じゃない」
ライナー「…悪かったよ」
ベルトルト「ねえ、明日なんだよ?ライナー。僕らは明日」
ベルトルト「また壁を壊すんだから」
そう、明日だ。
俺たちは明日また壁を壊すんだ。
故郷に帰る為に。
ベルトルト「君は彼らと深く関わりすぎだよ。何度も注意したのに」
ベルトルト「…忘れてしまっている」
ライナー「…すまん」
ベルトルト「ライナー、覚悟を決めるんだ。僕らは明日壁を壊す。そして」
人類を滅ぼすんだよ。
乾いた表情でそう言って、あいつはその場を後にした。
その場に1人取り残された俺は、しばらく動くことができなかった。
ライナー「…すまん…」
一旦ここまで。
いつもの人かな
続き待ってるよ
楽しみ
話し合いを終え寮に戻り、就寝時間になっても眠れなかった。
ベルトルト、アニの事。故郷の事。兵士として過ごした日々。明日殺してしまう仲間の事。
無意識に忘れようとしていた現実、そして抱いていた幻想。
正気になって向かい合うと、頭がおかしくなりそうでとても眠れない。
この場に居るのが苦痛で仕方がない。
明日殺してしまう人間の幸せそうな寝顔ばかり転がっている。
胃の中がぐるぐる回る。吐き気がする。
ライナー「…う」
駄目だ。この部屋から出よう。
部屋から出てふらふらと歩きだす。
どうしよう、どこに行こうか。
…とりあえず外にでも出たら気分も少しましになるだろうか。
そう思い、外に続く扉を目指した。
階段を下り食堂前に差し掛かった時、前方に伸びる暗い廊下の奥から小さな灯りと、ひそひそ話す2人の声が聞こえてきた。
なんだ?俺の他にも起きてる奴居るのか。
「…でも、本当に大丈夫なんですかねえ」
「いいんだよ!どうせ俺たちはもうあの教室に戻ることはねえし、教官に会うこともほとんどなくなる」
「見つかったとしても、笑いながら許してくれんだろ」
「青春だねーっつって」
「ですかね…まあ座学の教官ならそう言ってくれると思いますけど、もしキース教官に見つかったら…」
「…憲兵団にまで乗り込んでくるかもな…」
「考えたくありません…」
だんだんと灯りが近づき、声の主があの2人だとわかる。
ライナー「…コニ―とサシャか?」
コニ―「うわっ!」
サシャ「ひっ!」
話し込んでいる所にいきなり声をかけたので、相当驚かせたらしい。
まるで幽霊を見てしまったかのような反応が返ってきた。
コニ―「…なんだライナーかよ!びっくりさせんなよ!」
サシャ「ああああすいませんもうしませんんん」
コニ―「何をだ!食糧泥棒をか!?」
サシャ「それは違いますうううう」
コニ―「いややめろよ!」
ライナー「その…驚かせてすまん」
いつもの2人の、いつものやりとり。
お前ら本当に仲いいよな。楽しそうだな。
そんなやりとりも明日で出来なくなるんだけどな。
ライナー「…お前ら、こんな夜中に何してんだ」
コニ―「それはお前もだろ…まあ、ちょっとな」
ライナー「秘密という事か…ほーお…」
サシャ「うわあすごくニヤニヤしてる…」
コニ―「きめえ」
ライナー「傷つくじゃねえか」
サシャ「なんだかライナーが変な勘違いしてるような気がします」
コニ―「…俺は馬鹿だからわかんねえって言っとく」
ライナー「なんかそれ便利だなお前…まあ冗談だよ」
あれ、俺なんでこいつらと普通に喋っちまってるんだ。
もう関わるなってベルトルトに言われたばっかりなのに。
コニ―「ったくよー…何してたかは秘密っちゃ秘密なんだけど…別にライナーになら」
サシャ「教えてもいいですかね!」
コニ―「だよな!絶対告げ口とかしないだろライナーは」
ライナー「…は?」
サシャ「ですね!」
コニ―「よしライナー、お前に見せてやるよ!こっち来い!」
サシャ「行きましょう行きましょう!」
ライナー「ちょ、おい!」
2人はにこにこ笑いながら俺の腕をぐいぐい引っ張って来た道を戻る。
ああ、なんだこれ。声かけなきゃよかった。
連れてこられたのは、座学の際いつも使っている教室だった。
誰もいない教室というのは少し不気味だ。
こいつら一体ここで何やってたんだよ。
ライナー「…で?何を見せてくれるんだって?」
コニ―「まあまあ、まずは探してみろよ!」
サシャ「教室の隅から隅まで!」
ライナー「…ったく」
呆れながらも言われた通り教室の中を探し回る。
何があるのか分からないまま物を探すというのはなかなか難しい。
黒板、机の下、窓など一通り見て回ったが、あいつらが言う「見せたいもの」は見つからなかった。
ライナー「おい、見つかんねえぞ。どこにあるんだよ」
コニ―「甘いなライナー…隅から隅までってサシャが言ったろ」
サシャ「ちなみにヒントは机の上です」
コニ―「それほとんど答え言ったようなもんだぞお前…」
ライナー「…教室の隅にある机の上だな」
コニ―「あ」
サシャ「あ」
ライナー「…はは」
とりあえずここまで。
雰囲気がいい きたい
再開。
>>27
もったいなきお言葉!
推測に基づいて、隅にある机を万遍なく調べていく。
「それ」があったのは、いつもコニ―が座っている廊下側の隅っこの席だった。
刃物か何かで彫った後、ご丁寧に目立つよう白いペンを流し込まれたその落書き(最早落書きと言っていいのかわからないが)を見た後、一瞬眩暈がした。
なんでこんなもん。コニ―、サシャ、お前らさあ。
馬鹿野郎が。
ライナー「…なんでこんなの今見ちまうんだよ」
その落書きを指でなぞると、指の先が熱を持ったような気がした。
指から全身に広がり、つま先から頭の中まで、
ライナー「…熱い」
恐る恐るもう1度なぞってみたら、まるで指を沸騰しそうな湯に浸けている感覚に襲われた。
こんな言葉、見たくなかった。
お前らのこと殺すんだぞ。俺は。故郷に帰る為にベルトルトとアニ以外を捨てて行く。
裏切って、欺いて、死体を踏みつけて。
本当はそんなことしたくない。殺したくなんてない。
こんなはずじゃなかったんだ。
そんなこと思ったってもう遅い。戻ることはできない。
やるしかない。
コニ―「どうだ?いいだろこれ!頑張って彫ったんだぜ」
サシャ「コニ―が思いついたんですよ」
コニ―「へっへー」
サシャ「教官に見つかるのは怖いですけど、せっかくだから何か残したかったんです」
コニ―「ガキっぽいかもしれねえけど」
サシャ「この落書きに、私たちの願いを込めました」
2人の純粋な笑顔を見ていられなかった。
何も知らない笑顔。
馬鹿みたいに笑いやがって。何も知らずによ。
心臓が痛い。
よく聞く「心臓を掴まれた感覚」というのは、こういうものなんだろうか。
ふと気付くと、温かいものが頬を伝っていた。
止めようにも止められない。
コニ―「お、おい!どうしたんだよライナー!」
サシャ「まさか泣くほど感動したんですか!?」
ライナー「…そう、だな」
感動?そんなわけない。
じゃあなんだ。なんだこの感情は。
わからねえ。
もうわかんねえんだよ。
…駄目だ。2人とこれ以上この場に居たくない。
ライナー「…すまん。少し1人にしてくれないか」
コニ―「お、おう」
サシャ「わかりました…大丈夫ですか?」
ライナー「ああ、大丈夫だ。大丈夫。すまん」
ライナー「ありがとう」
2人は頷き、心配そうに俺を見ながら教室を後にした。
コニ―「…どうしたんだろうなライナー」
サシャ「わかりませんね…感動したから泣いた、って訳じゃなさそうでしたし」
コニ―「うーん…」
サシャ「…泣き顔なんて初めて見ました」
コニ―「俺もだよ。だから今すげえ動揺してるぞ」
サシャ「私もです…。…理由はわからないですけど」
サシャ「ライナーの笑顔が見れないのは、辛いですね」
残された俺は椅子に座り、その落書きの上に突っ伏して泣いた。
彫られた文字の上に涙が落ちて染みてゆく。
これ、消えねえかな。消えねえよな。彫ってるもんな。
俺たちの身体みたいに再生しねえかな。
…しねえな。何考えてんだ。
指先の熱が消えない。
そして、
ライナー「…重い」
ああ、コニ―とサシャの落書きの言葉は今何よりも重く俺にのしかかっている。
どれぐらいその場に突っ伏して泣いていたのだろうか。
ふと教室の時計を見ると、午前3時を少し回ったところだった。
もうそろそろ戻らないと、あの吐き気がする部屋に。
そして戻らなければ。
何に?
どこに?
駄目だ、思い出せ。決して忘れるな。
可哀想ぶるんじゃねえ。
涙で濡れた顔を擦りながら、俺は教室を後にした。
俺は明日また、でかい過ちを犯す。
「ミカサ、ライナー、ベルトルト、アニ、エレン、ジャン、マルコ、クリスタ、ユミル、アルミン
他のみんなも!104期生はみんな仲間だ!
絶対に死ぬんじゃねえぞ! コニ―、サシャ」
終わりです。
変なとこあるし暗くて申し訳ない。
読んでくれた人ありがとう。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません