京子「ごらく部が監視されている」【完全版】 (265)

*長編注意・地の文あり注意・一部キャラ崩壊注意*

*本当に長いので読むときは気をつけてください*

*基本的に途中のレスへの返事はできないと思いますのでご了承ください*

*原作のネタバレ要素は特にありません*

*作品のジャンルは冒険恋愛ギャグミステリーです*

**前回投稿した無印版の序盤の方で「殺す」や「死ね」といったセリフが誤って「ピー」となっていた点を修正しています。
  それ以外の変更点はほぼありません。初めてこの作品をお読みになる方は無印版よりもこちらの完全版の方をご覧下さい。
  この度は読者の皆様方に大変ご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。

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【第1部】

<第1章>

ある日の放課後 ごらく部部室

京子「あー、最近暇だなー。何か面白いことでもないかな?」

結衣「面白いことなんてそうそうないよなー」

いつものように部室でダラダラしていると、

ガラッ

ちなつ「遅くなりましたー」

京子「おっ、ちなちゅ~~!!」

ちなつ「ちなちゅ言うな」スイッ

軽い身のこなしで京子のボディータッチを避けるちなつ。

ちなつ「結衣先輩、今からお茶淹れますからね♪」

結衣「あぁ、ありがとう」

あかり「ちなつちゃん、スルースキルうまくなったねぇ」

京子「あかり、いたんだ」

あかり「ひどいよ京子ちゃん!」アッカリーン

いつものようにちなつがお茶の準備をしていると、ある事に気づく。

ちなつ「あれっ?」

結衣「どうしたのちなつちゃん?」

ちなつ「この棚の内側に変な黒いものが付いてるんですけど・・・」

京子「どれどれ・・・って、これはまさか!?」

棚に取り付けられていたテープをはがし、その黒いものを棚から出してみる。

京子「やっぱり、これは盗聴器だ!」

あかり「えぇぇ~~、なんでそんなものがここに!?」

結衣「おいっ、こっちにも似たようなものがあったぞ」

結衣が指さした物、それは小型カメラだった。ふすまの板の隙間に設置されていて、簡単には気づかない。
ちょうどごらく部の部屋の中が枠に入るような角度で設置されていた。

結衣「どうしてこんなものが・・・」

京子「他にもまだあるかもしれない!探してみよう!」

30分後、畳の上には盗聴器3つと小型カメラ3つが並べられて置かれていた。

京子「まさかこんなに仕掛けられているとは・・・」

呆然とした表情の京子。あかりは気を失いかけていた。

ちなつ「何か怖いです、きゃー結衣センパイ!」ダキッ

ここぞとばかりに?結衣に抱きつくちなつ。

結衣「ちなつちゃん、よしよし。しかしいったい誰がこんなことを・・・」

京子「考えたって分かるわけないだろ。とりあえず今日はもう帰ろうぜ」

京子「ほらっ、仕掛けられていたカメラとかは回収できたんだし、心配無いよ」

あかり「そのカメラや盗聴器はどうするの?」

結衣「証拠品として私が預かっておくよ」

京子「てかっ、あかり気がついたんだ」

あかり「始めから気絶してないよぉ!」

ひとまず今日は部活を終了して家に帰ることにした。

各々が自宅についた頃、もし七森中のある場所の前を通りかかる人がいたならば、
次のような会話が聞けたであろう。

???「カメラを仕掛けたのがバレてしまったわ」

???「でも今日までの映像はバッチリ撮れましたね!」

???「明日からは他の方法を使わないとダメですわね」

???「そうやなぁ」

???「・・・」

一方こちらは京子の部屋である。

京子「ごらく部にカメラを仕掛けるなんて一体誰が、何の目的で・・・」

京子「ダメだ、考えても分からない、今日はもう寝よう!」

あかりの部屋では・・・

あかり「うーん、それにしても人の生活をこっそりのぞき見たりするのって最低だよねぇ」

あかね「何か言ったかしら」

あかり「あっお姉ちゃん!ううん、別に何でも無いよ」

あかね「そう・・・。もう9時半よ、早く寝なさい」

あかり「うん、おやすみ・・・」

翌日の学校

向日葵「へぇ、そんなことがあったんですの」

あかり「そうなんだよ~」

ちなつ「私と結衣先輩のあんなことやこんなことを見ようとしてたに違いないよ、きっと」

あかり「そうなのかなぁ・・・(苦笑)」

あかり「向日葵ちゃん、何か心当たりある?」

向日葵「そうですわねぇ。特にこれといって無いですわ」

あかり「そうだよねぇ」

ちなつ「櫻子ちゃんは?」

櫻子「えっ!?」

櫻子「あっごめん、何の話?」

ちなつ「ごらく部の部室に盗聴器やカメラが仕掛けられてたんだけど心当たりある?」

向日葵「まったく、人の話を聞いてなかったんですの?」

櫻子「あっ、ええと・・・、な、無いよ、全然ない!心当たりなんかない!」

そう言うと櫻子は急いで教室から出て行ってしまった。

向日葵「あっ、ちょっと待ちなさい、櫻子!」

向日葵も後を追って教室から出て行った。

あかり「どうしたんだろ、櫻子ちゃん」

ちなつ「なんかさ、私たちがこの話を始めてからずっと様子がおかしかったよね」

あかり「まさか、櫻子ちゃんが犯人!?」

ちなつ「どうだろ、櫻子ちゃんがあんなことするかな?」

でもちなつは気づいていた。向日葵が部屋から出ていくとき、明らかに焦っていたことに。

その日の放課後、ごらく部

京子「結局手がかりなしかぁ」

ちなつ「京子先輩も誰かに聞いてみたんですか?」

京子「うん、綾乃に聞いてみたんだけど・・・」

京子『なぁ~綾乃、ごらく部にカメラ仕掛けたのってもしかして綾乃?』

綾乃『な!な、何言ってるのよ、そんなことあるわけないないナイアガラよ!』

結衣『ぶほっ』

京子「てな感じで・・・」

ちなつ「いきなりそんな聞き方はないんじゃ・・・」

結衣「・・・」

京子「そっちは何か情報あった?」

そこでちなつはさっきあった出来事を話した。

京子「うーん、ちょっと怪しいなぁ」

あかり「京子ちゃんもそう思う?」

京子「あかり、いたんだ」

あかり「ずっといたよ!」

結衣「・・・」

ちなつ「結衣先輩、どうしたんですか?ずっと黙ってますけど」

結衣「ん、あぁ何でもないよ」

京子「もし何かあったら言えよ」

結衣「ああ」

あかり「結衣ちゃんにはいたんだって言わないんだねっ!」アッカリーン

ちなつ「あかりちゃん・・・」

結局、この話はそれで終わりとなった。何の手がかりもない状況でこれ以上はどうしようもなかったのだ。
謎は残ったが、仕方ない。

<第2章>

それ以降特に怪しいことも起こらず時が経ち、みんなの記憶からこの事件のことがアッカリーンされ始めた頃・・・

京子「あー、最近暇だなー。何か面白いことでもないかな?」

結衣「面白いことなんてそうそうないよなー」

いつものように部室でダラダラしていると、

京子「ん、何だあれ?」

仰向けに寝ていた京子がふと天井に小さな穴が開いているのを見つけた。

今までだったら特になんとも思わなかっただろうが、あんな事が前にあったもんだから気になった。

机に登って恐る恐る覗いてみると・・・

京子「何か空間があるぞ!」

結衣「おい、京子どけ!」

結衣はそう言って机に登るやいなや天井の板を壊し始めた。

ちなつ「結衣先輩何してるんですか!?」

あかり「危ないよ、結衣ちゃん!」

皆が止めるのも構わずたまたま部室に置いてあった斧で天井を壊す結衣。

ついに人が一人通れるほどの大きな穴があいた。結衣はすぐによじ登る。

京子「どうだ結衣、何かあったか~?」

結衣「人がいた形跡がある!」

しばらくして結衣が降りてきた。

どうやら何者かが天井裏に作られたこのスペースに潜んでごらく部を監視していたらしい。

そう言って空になったあんぱんの袋と牛乳パックをみんなに見せた。

天井裏に捨てられていたという。まるで刑事が容疑者を尾行するときのようだ。

京子「私たち何かの容疑者になってたりするのかな・・・?」

ちなつ「そんな訳ないじゃないですか、私たちは被害者ですよ!」

あかり「それにしても結衣ちゃんすごいね~」

結衣「・・・」

京子「結衣。どしたの?」

結衣「どしたのじゃねーよ!何でそんなに呑気でいられるんだよ!
   私たちあの事件の後もずっと監視されてたってことだろ!
   考えてもみろ!数日間得体の知れない奴にずっと見られてたんだぞ!
   これで落ち着いていられるかよ!」

京子「結衣、ちょっと落ち着いて」

ちなつ「そうですよ結衣先輩!私今からお茶淹れますんでそれ飲んで落ち着いてください!」

あかり「結衣ちゃん、どうしちゃったの・・・」アタフタ

数分後

京子「どう、落ち着いた?」

結衣「あぁ、ごめん取り乱したりして」

結衣「・・・」

結衣「そうだみんな、これどう思う?」

そう言って結衣が取り出したのは、青っぽい色をした髪の毛だった。

あかり「これがどうかしたの?」

結衣「実はさっき天井裏を調べてる時に見つけたんだ」

京子「えっ、じゃあ犯人のって事じゃん!」

結衣「うん、その可能性が高いよね。それで聞きたいんだけどこの髪の毛の色の子に心当たりある?」

ちなつ「えっと、それってもしかして・・・」

ちなつはあかりの方を見た。あかりにはちなつの言わんとしていることが理解できた。

それはつまり・・・

あかり「向日葵ちゃん」

京子「えっ、向日葵ちゃんって古谷さんの事?あの生徒会の?」

結衣「そういえばあの娘髪の色青っぽかったなぁ」

京子「じゃあ古谷さんが犯人って事!?」

あかり「そういうことになっちゃうのかなぁ」

ちなつ「向日葵ちゃんが天井裏からごらく部を覗き見してるなんて想像するだけで怖いんですけど」

あかり「でも確かに向日葵ちゃんなら天井裏を改造する事くらい簡単にできるかも」

京子「あかり、それってどういうことだ?」

あかり「えっとね、向日葵ちゃんって2級建築士の資格を持ってるんだって」

京子「えっ、まだ中学生なのに?」

ちなつ「そうなんですよ。何かあまりにも才能があるから飛び級でもらったらしいですよ。
    休日には家屋の設計とかやってるんですって」

あかり「この前は『絶対に1級建築士になってやりますわ!』って意気込んでたよぉ」

京子「へぇ、古谷さんってすごいんだな」

結衣「でも待って、他にも怪しい人がいる」

京子「だれ!?」

結衣「前から気になってたんだけどさ、ほら、前にカメラが見つかったとき京子、綾乃に聞いてただろ」

京子『なぁ~綾乃、ごらく部にカメラ仕掛けたのってもしかして綾乃?』

結衣「って。そしたら綾乃は」

綾乃『な!な、何言ってるのよ、そんなことあるわけないないナイアガラよ!』

結衣「って答えてたよね」

京子「それがどうかしたのか?」

結衣「何か引っかかるんだよ。綾乃はあの時初めてカメラのことを知ったわけだろ。
   それにしては返事がさぁ。まるで前から知ってたかのような反応だよね」

ちなつ「確かにそうですね。本当に初めて聞いたのなら、カメラ?何の事?って感じになりそうですよね」

ちなつ「さすが結衣先輩です!キャー(≧∇≦*)、尊敬します~!」

あかり「すごいね結衣ちゃん!」

しばらく間があって、

ちなつ「そうなってくるとやっぱり櫻子ちゃんも怪しいですよね。
    あの時の反応もおかしかったし、それを見た向日葵ちゃんの様子も。
    なんか櫻子ちゃんのせいでバレそうになったから慌ててたようにも見えましたし・・・」

京子「つまり疑わしいのは綾乃、古谷さん、大室さんの3人ってことだね」

結衣「3人とも生徒会だな」

京子「ハッ、まさか、これは生徒会による陰謀なのでは!?」

あかり「そんなまさか・・・」

結衣「・・・」

<第3章>

それからもごらく部の活動は続いた。いつどこから見られているかわからないという恐怖はあったが、
彼女らには活動を止めるという選択肢はなかったのだ。

しかし警備を厳重にし、警戒を怠らないようにした。ごらく部の建物の入口にはセキュリティロックがかけられ、
中に入るにはカードを差し込み、暗証番号を入力して指紋を認証しなければならなくなった。

カードを持っているのはあかり、京子、結衣、ちなつの4人。暗証番号を知っているのもその4人だけ。
指紋もその4人の指紋だけが登録されていた。

また建物の周りには鉄条網が張られ、さらに監視カメラが大量に取り付けられ、
赤外線レーダーで侵入者を感知できるようにした。

4人以外の人が少しでも接近すればレーダーが感知しそれを知らせるとともに、
侵入者をレーザー光線で気絶させることができる。

ごらく部はさながら要塞のようであった。

いつしかごらく部は「七森中の化け物屋敷」と生徒たちに呼ばれるようになった。

そんなある日の放課後

京子「結衣~、部活行こうぜ」

結衣「悪い、先に行っててくれ。ちょっと用事があるんだ」

京子「用事って?」

結衣「大した用事じゃない。多分すぐに終わるよ」

そう言って結衣は教室を出ていった。

京子は用事とは何のことだろうと気になって後を付けようかとも考えたが、
「幼馴染でもプライベートは大切だよね~」と思ったのでそのまま部活に行くことにした。

その日結局結衣は部活に来なかった。

次の日

向日葵「おほほほ、そうですわね赤座さん」

あかり「だよねーー!」

櫻子「あかりちゃんの話面白いー!」

放課後の教室で楽しそうに語らい合う3人の女の子。その様子を片目で見ながらちなつは思っていた。

ちなつ(あかりちゃん、最近向日葵ちゃんと櫻子ちゃんとすごく仲良くしてるよね・・・。
    前よりもはるかに仲良くなってる。何かあったのかな?
    あの2人はごらく部を盗撮した犯人かもしれないのによく仲良くできるよねー)

現にあかりはごらく部に来る回数が減っていた。3日に1回くらいは休む。

その時は何をしているのかというと、どうやら生徒会に出入りしているらしい。

ちなつ(盗撮事件の容疑者密集地帯である生徒会にホイホイ出入りするなんて、
    あかりちゃんは一体何を考えているの?)

今日もひとりでごらく部に行こうと思って教室を出ようとすると、

あかり「あっ、ちょっと待ってよちなつちゃん!あかりと一緒に行こっ!」

ちなつ「えっ?う、うん・・・」

あかり「向日葵ちゃん、櫻子ちゃんまたね~~!」

向日葵「また明日ですわ」

櫻子「バイバイあかりちゃーん」

こうして2人でごらく部に向かった。

ちなつ「あかりちゃん最近あの2人と仲いいよね」

あかり「そうかな~?ちなつちゃんはあんまりお話してないよね」

ちなつ(だって犯人かもしれないのよ!)

その日のごらく部では

京子「結衣~、昨日は何してたんだよ、結局部活来なかったじゃんか」

ちなつ「そうですよ!私寂しかったんですよ!」

結衣「ごめん、大したことじゃないから気にしないで」

京子「むむむ、何か怪しいな・・・。なにか隠してるだろ?」

結衣「隠してるわけ無いだろっ!」

京子「ふーん、まぁいいや。それより今日は何しよっか?」

あの一件以降、警備を厳重にしたのが功を奏したのか事件は一度も起こらず、
ごらく部は平和な時を過ごしていた。

京子「ちなつちゃーん!」ダキッ

ちなつ「わっΣ(゚д゚;)、ちょっとやめてください京子先輩っ!」

ちなつ「助けてください結衣センパイ~」

結衣「おいこら」

あかり「あはは、また元の日常に戻ってよかったねぇ」

京子「あかり、いたんだ」

あかり「・・・」

ちなつ(あれっ?いつものように言い返さないのかな?)

その時だった。

ナモリナモリナモリナモリナモリナモリナモリナモリーーーー

警報ベルが高らかに鳴り響いた。誰か侵入者がいることを意味している。

こんなことは初めてだった。

京子「誰だ!」

結衣「落ち着け!たぶん侵入者は今頃レーザー光線で気絶しているはずだ。
   赤外線レーダーを切ってから侵入者を確保しに行こう」

レーダーを切らなければ自分たちも巻き添えをくらってしまうからである。結衣はレーダーを切った。

結衣「あかりとちなつちゃんはここで待ってて。行くぞ京子!」

結衣と京子はドタドタと出て行った。しばらくして、彼女らが連れてきたのは気絶した櫻子だった。

ちなつ「櫻子ちゃん!どうして・・・?」

結衣「どうしても何もあるか!やっぱりコイツが犯人だったんだ!」

結衣は台所に向かうとバケツいっぱいに水を汲んで帰ってきた。

そしてなんと櫻子の顔に思いっきり水をぶちまけたではないか。

あかり「ちょっと結衣ちゃん何してるのぉ」

結衣「目覚めさせて白状させてやる」

ちなつ「結衣先輩、怖いです・・・」ガクブル

すると、ゲホゲホッと咳き込みながら櫻子が意識を取り戻した。

結衣「おいっ、どういうことだ。やっぱりお前が今までの事件の犯人だったのか?」

櫻子「え、えーーっと、何の事かなぁ(笑)」

結衣「とぼけたって無駄だぞ。白状しないのならこうしてやる!」

バシーーン

周りの3人には一瞬何が起きたのか分からなかった。

あの結衣が櫻子のほっぺたを引っぱたいたのだ。

櫻子「いたーい!またほっぺた引っぱたかれた!」

ちなつ(また?)

京子「ちょ、結衣やりすぎだって」

結衣「こうでもしないと喋らないだろ」

結衣「もう1回いくぞっ!」

櫻子「あぁぁ、待って!分かった!話すよ!全部話すからやめて!」

櫻子はついに観念したらしい。櫻子が事件について話し始めた次の瞬間!

ビュッ グサッ

あかり「えっ・・・」

気が付いたら櫻子は倒れていた。矢が突き刺さった胸から大量の血を流しながら。

すぐに救急車が呼ばれたが時すでに遅し。櫻子は帰らぬ人となってしまった。

その日の夜、結衣の家で緊急会議が開かれた。

あかり「櫻子ちゃん・・・」グスッ

結衣「まず状況を整理しよう。大室さんは建物の外から放たれた弓矢で心臓を一突きでほぼ即死」

京子「まさに『櫻子のハートにドッキューン!』になっちゃったな」

ちなつ「京子先輩それ笑えませんから」

ちなつ「部室の壁に小さな隙間がありました。たぶんそこから狙ったのだろうと思います」

京子「これはプロによるものだな。あんな小さな隙間を通して大室さんの心臓に1発で命中させるなんて
   常人にはとてもできない」

結衣「犯人は弓矢の扱いにひどく長けている者ということか・・・」

ちなつ「ん、あれそういえば・・・」

結衣「どうしたのちなつちゃん?」

ちなつ「七森中って1年生の体育の授業で弓道をやるじゃないですか」

あかり「!」

そう、七森中では1年生の1学期に弓道、2学期に馬術、3学期にフェンシングをするのである。

京子「そういえば私らも去年やったな~。あれは大変だった」

ちなつ「で、その授業のとき初めてやる人が多いからみんな悪戦苦闘してたんですが、
    一人だけ抜群に上手な人がいたんです」

結衣「それは・・・?」

ちなつ「向日葵ちゃんです」

ちなつ「向日葵ちゃん、あまりにも上手いから先生にプロになれるよと言われたくらいなんですよ。
    櫻子ちゃんには『おっぱいが大きいくせになんでそんなに上手いんだよ!』って言われてましたけど。
    ねっ、あかりちゃん?」

あかり「えっ、うんそうだね・・・」

ちなつ「?」

結衣「ということは大室さんを殺したのは古谷さんということに・・・」

京子「でもあの2人ってすごく仲良かったんじゃなかったっけ?」

ちなつ「そうですよね。向日葵ちゃんが櫻子ちゃんを殺すなんて考えられないんですが・・・」

結衣「いや、そんなの分からないよ。あのとき大室さん事件の事話そうとしてたでしょ。
   だから口封じのために殺されたのかもしれない。いや、恐らくそうだ」

京子「なるほど、大室さんと古谷さんがグルで、真相がバラされそうになったから口を封じたってことか。
   全く恐ろしいことするねぇ」

ちなつ「でも向日葵ちゃんはどうやって部室に近づけたんでしょうか?
    ちょっとでも近づけばレーダーが感知すると思いますけど」

結衣「あぁ、それは私たちが櫻子ちゃんを確保するときにレーダーのスイッチを切ったでしょ。
   その隙に中に侵入したんだと思う」

結衣「あの後監視カメラの映像を調べてみたけど誰も映ってなかったんだ。
   たぶんカメラに映らないように移動したんだろう。カメラは何台もあるのに。
   向日葵ちゃんはなかなかのやり手だね」

結衣「とにかく私らは気を引き締めてかからないといけない。
   相手は秘密を守るためならたとえ味方でも平気で殺すような奴だ」

結衣「明日からも気を付けよう」

あかり「・・・」

<第4章>

翌日、櫻子の葬式が行われた。その会場で、

向日葵「あぁぁ、櫻子!どうして、どうして!うぅぅぅ」グスッ

結衣(なんだあいつは、自分が殺したくせに。今までの事からあいつが犯人に決まっているのに、
   決定的な証拠がない。ちょっと話しかけてみようか)

結衣「古谷さん・・・」

綾乃「ちょっと船見さん、今は話しかけないであげて」

結衣「あ、綾乃っ?うん、分かった」

結衣(チッ、綾乃のやつめ)

場面は変わって次の日の放課後である。

京子「結衣~、部活行こうぜ」

結衣「悪い、先に行っててくれ。ちょっと用事があるんだ」

京子「また~?今度はすぐ終わるのか~?」

結衣「すぐ終われたらいいけど」

そう言って結衣は急いで教室から出て行った。

京子は結衣を少し怪しく思ったが特に気にしないことにした。

結衣は今日も部活に来なかった。

次の日、京子が登校してくると学校が少し騒がしい。

京子「おはよう綾乃、何かあったの?」

綾乃「あぁおはよう歳納京子。実は昨日から千歳が行方不明なのよ」

京子「えっ、千歳が!?」

綾乃「放課後一緒に生徒会の仕事をしてたんだけど、ちょっと目を離した隙にいなくなってしまったの」

京子「千歳は子供かっ」

綾乃「先に家に帰ったんだろうと思ってたんだけど、昨日は家にも帰ってないみたいで」

綾乃「あと、生徒会室の近くで千歳の物と思われる血痕を発見したわ」

京子「それはたぶん鼻血だろ。いつもの事だ」

綾乃「そうよね、いつもの事よね」

綾乃「それと、今朝下足箱を調べたら外履きがあったの」

京子「てことはまだ校内にいる可能性が高いってことか」

綾乃「ええ、だから今日は千歳の捜索をするわ。授業には出られないからよろしく」

京子「私も手伝うよ。千歳が心配だし」

綾乃「あなたは授業に出たくないだけでしょ。大丈夫よ、私が探すから。心配はノンノンノートルダムよ!」

京子「ちぇ~~」

結衣「・・・」

綾乃は放課後になるまで必死に千歳を探したが、結局見つからなかったようだ。

向日葵「おほほほほ、面白いですわね、赤座さん」

あかり「そう?ありがとう!」えへへ

ちなつ(櫻子ちゃんが殺されてからますます仲良くなったよね、あの2人)

ちなつ(ていうかマジであり得ないんですけど、なんで殺人鬼とあんなに楽しそうに話せるの?
    なんか2人とも私の方をチラチラ見てくるし。私が会話に入れてないことを気にしてるのかな?
    そんなの大きなお世話よ!私は殺人鬼と話したくないから。部活先に1人で行こうっと)

ちなつは教室を出てごらく部の部室に向けて歩き始めた。

ちなつ(それに私には結衣センパイがいるし♪あぁ、結衣センパイ!昨日は部活に来てなかったから
    今日は1日ぶりに先輩に会える!)

ちなつはもう部室の近くにまで来ていた。

ちなつ(結衣センパイもう来てるかなぁ?今日は先輩とあんなことやこんなこと・・・」

ドゴッ

それはあまりに一瞬の出来事だった。ちなつは薄れゆく意識の中でぼんやりとだが確認した。
笑いながら自分を引きずっていく青色の髪の女の子を。

京子「今日はあかりもちなつちゃんも来ないね」

結衣「そうだな」

京子「昨日は結衣も来なかったし、なかなか4人が集まらないね」

京子「って昨日結衣何してたんだよ。また部活来なかったじゃないか」

結衣「何でも無いよ」

京子「何でも無い事ないだろ。やっぱり何か隠してる?」

結衣「隠してねぇよ」

京子「またまたそんなこと言って~。水臭いよ結衣。教えてくれたっていいだろ~」すりすり

結衣「何でも無いって言ってるだろ!」バンッ

京子「えっ、結衣・・・。どうしたの?そんな、うぅ」

結衣「はっ!いや、ごめん違うんだ。本当に京子が知らなくていい事だから。だから泣くな、な?」

京子「うん、うん、うぅぅぅ、結衣~~!」ダキッ

結衣「よしよし」なでなで

次の日、学校の騒ぎはさらに大きくなっていた。

ちなつが行方不明になったのだ。

噂を聞いた京子と結衣はすぐにあかりの教室に駆け付ける。

京子「あかり、ちなつちゃんが行方不明になったっていうのは本当か!?」

あかり「うん、そうみたい。昨日の夜家に帰ってこなかったんだって。学校にもいないし」

結衣「ちなつちゃんを最後に見たのはいつ?」

あかり「昨日の放課後あかりが向日葵ちゃんとお話ししてたら勝手にどこか行っちゃったよ。
    たぶんごらく部に行ったんじゃないかなぁ」

京子「いや、昨日ちなつちゃんは来なかったぞ」

あかり「えっそうなの?」

結衣「ってことは教室からごらく部に向かう途中で何かがあったってことだな」

向日葵「池田先輩に続いて吉川さんまで・・・。心配ですわ」

結衣(こいつがやったんじゃないだろうな・・・)

京子「それはそうとあかり最近部活来ないよな。どうしたんだ?」

あかり「あ、えーっとそれは・・・」

向日葵「赤座さんには生徒会の仕事を手伝ってもらっていますの。赤座さんは物分かりが良くて助かりますわ。
    櫻子とは大違い」

京子(死んだ人の悪口を言うのはやめた方が・・・)

あかり「そ、そうなんだよぉ。生徒会の仕事は楽しいよぉ」

結衣「・・・」

その日の昼休み、京子と結衣が教室でドミノ倒しをして遊んでいると、

綾乃「大変よ!歳納京子ーー!」ガラッ

バタバタバッターーン

京子「どうしたんだよ綾乃、いきなりっ。まだ途中だったのにドミノ全部倒れちゃっただろ!」

綾乃「今そんなことはどうでもいいのよ!千歳が見つかったわ!」

京子・結衣「!」

3人は荷物もドミノもそのままで急いで千歳のもとへ。

何と千歳は今は使われていない古い倉庫の奥に閉じ込められていた。

全身はぐるぐる巻きに縛り付けられ、口には猿ぐつわ。完全に身動きが取れない状態だった。
さらに全身には多数の殴られた痕。

千歳はすぐに赤座あかね記念病院に搬送され、入院することになった。
幸い命に別状はなかったが、出血がひどいのと、ほぼ丸2日間何も食べていなかったので極度に衰弱していた。
綾乃・結衣・京子の3人は千歳に付きっきりで看病した。

その甲斐があったのだろうか、数時間後、千歳は意識を取り戻したのだが・・・

京子「記憶喪失?」

綾乃「ええ。事件前後の記憶が全くないみたい。困ったわねぇ。犯人が誰か分かると思ったのに」

京子「まぁ、しょうがないよね。命があっただけでも良かったと思わなくちゃ。
   お医者さんも生きているのが奇跡だと言ってたくらい重症だったんだし」

綾乃「そうね、本当によかったわ・・・うぅぅ」グスッ

京子「綾乃・・・」

結衣「・・・」

次の日の放課後

結衣「綾乃、今日も千歳のお見舞いに行くの?」

綾乃「もちろんよ!1日でも早く良くなってほしいもの。今日は古谷さんも連れて行くわ」

結衣「じゃあさ、千歳の病状に変化があったらすぐに教えてね。たとえば記憶が戻ったとかさ」

綾乃「分かったわ」

綾乃を見送った後、

京子「じゃあ結衣、始めよっか」

結衣「ああ」

2人は何を始めようというのだろう。昨日途中で綾乃に破壊されたドミノの続きか?

いや、そうではない。2人にはやらなければいけないことがあるのだ。それはちなつの捜索である。

昨日の千歳の発見やらなんやらですっかり忘れてしまっていたのだが、
そういえばちなつが行方不明だったということに京子が今朝気付いたのである。

京子「でも一体どこを探せばいいんだろう?」

結衣「大丈夫、大体の見当はついている」

そう言って結衣が向かった先は生徒会室だった。

京子「ここは・・・生徒会室?」

結衣「あぁそうだ。よし、入るぞ」

ギィィ

中は真っ暗だった。人は誰もいない。所々に置いてあるたくさんの変な装置。
規則的に鳴り響いている怪しい機械音。京子は改めて生徒会室という所は不気味な場所だと思った。

だが、七森中の生徒に言わせればあの要塞と化したごらく部の方がよっぽど不気味である。

そして数分後

結衣「この掃除用具入れが怪しいな」

京子「うん・・・」

結衣「開けるぞ!」ガコッ

京子・結衣「!」

そこには、変わり果てた姿のちなつが・・・

京子「ちなつちゃん!なんでこんな事に!」

結衣「遅かったか・・・」

しばらくして救急車が到着、赤座あかね記念病院に運ばれたがもう既に死亡して2日近くたっていた。

京子「2日ってことはちなつちゃんはいなくなったその日に殺されたって事だな」

無数の殴られた跡や刺された跡が全身にあったが、それが直接の死因ではない。
直接の原因は毒物によるものだった。注射器で毒を注射され、それによって死に至った模様。
ちなつの右腕には注射器で刺された跡があった。

京子「ひどい、いったい誰がこんな事を・・・」

結衣「京子、あの後少し調べてみたんだが、どうも古谷さんは弱冠13歳にして
   看護師免許を持っているらしい。注射器の扱いに関してはプロのようだ」

京子「古谷さんって何でもできるんだな。尊敬するよ」

結衣「だが、それだけでは証拠にならない。死体が生徒会室に有ったという事実も状況証拠になりそうだが、
   やはりまだ足りないな。古谷さんが犯人なのはもはや明らかなんだけど」

京子「生徒会室でちなつちゃんの体内から発見されたものと同じ毒が見つかれば決定的な証拠になるんじゃ!?」

結衣「そう思って調べたんだが全く見つからなかった。古谷さんは相当のプロだ。
   そう簡単には隙を見せない。私たちのような一般人では歯が立たないかもしれないな」

京子(結衣もそこそこすごいと思うけどなぁ)

結衣「よし、思い切って聞いてみるか」

京子「へっ?聞くって?」

結衣「古谷さんに聞いてみるんだよ。もちろん『お前が犯人か』なんて聞き方はしないさ。
   『ちなつちゃんの死体が生徒会室に有ったけど何か知ってる?』こう聞くんだ。
   そしてうまく誘導して古谷さんの失言を誘えばいい」

結衣はこの方法は結構良いのではないかと思った。だがその考えは甘かった。そんなに簡単にいくわけがない。

いざ勢い勇んで向日葵に突撃したはいいが、何のためらいも無くスラスラと受け答える向日葵に圧倒され、
さらに彼女はペラペラと屁理屈を並べ立てて結衣を犯人に仕立て上げようとしてきたのだから
もう疲労困憊疲弊して向日葵に別れを告げて京子のところに戻るしかなかった。

結衣「あの娘は天才だ。全く末恐ろしい」

<第5章>

結局今回も事件の真相が明らかにされることはなく、数日が経過。

その間結衣は度々身の危険を感じるようになっていた。

学校では身の回りの物がよく無くなり、机には多数の落書き。
上履きの中に大量の画鋲が入れられていたこともあった。
さらには結衣が一人暮らしをしているマンションの郵便受けに猫の死骸が入れられていたことも。
またある日には、放課後部室で食べていたおはぎの中に針が入っていて、危うく怪我をするところだった。

また京子が最近前より綾乃と仲良くなっているのが結衣には気にいらない。

綾乃は親友の千歳が重傷になり、京子は大好きなちなつを亡くし、共に傷心している中で慰めあうことで
前より関係が深くなっていったらしい。

どうやら2人は放課後によく千歳のお見舞いに行っているようだ。
結衣も行かないかと誘われたのだが面倒臭いから断ってしまった。
もっとも、千歳の容態は綾乃に連絡させて逐一チェックはしていたのだが。

だが、千歳のお見舞いという名目であの2人が長い時間一緒にいることを考えると
胸が張り裂けそうな思いだった。

数々のいじめに逢いただでさえ情緒不安定になっている結衣は、
昼休みに京子が綾乃と楽しそうに話しているのを見かけるとパニックになり、
ついに放課後部室で京子に暴力をふるうようになった。

結衣「京子!おまえはっ、どうして!」バシッ バシッ

京子「やめて結衣!どうして暴力なんかふるうの!?」

結衣「お前がっ!綾乃なんかと仲良くするから!」バシッ

京子「だって!綾乃は千歳が重傷で苦しいんだよ!だから私が慰めてあげないと!」

結衣「私の事はどうでもいいのか!」バシッ

京子「えっ!?」

そこで結衣は今まで数多くの嫌がらせを受けてきたことを初めて京子に告白した。

京子に心配かけまいとして今までずっと黙っていたのだ。

京子「そんな、結衣・・・。なんで今まで黙ってたんだよ!」

結衣「だって・・・、京子に辛い思いさせたくないだろ!
   ただでさえちなつちゃんが死んで辛い思いをしてるのに!」

京子「言ってくれない方が辛いよ!」

結衣「!」

京子「ちなつちゃんが殺されて、この上結衣まで私の前からいなくなったら・・・
   もう私生きていけない!」グスッ

結衣「京子・・・」

京子「だから、何かあったら何でも言って!2人でこの試練を乗り越えていこうよ!」

結衣「京子・・・、京子~~~~!」ダキッ

京子「よしよし結衣、辛かったね。これからは綾乃よりも結衣を優先するから。
   だから泣かないで。この京子様が絶対に結衣を守ってあげるからね」

結衣「うわぁぁぁん!」

結衣は京子の胸の中でいつまでも泣き続けた。

こうしてまた一段と仲を深めた2人。数十分後結衣がようやく泣き止んで顔を上げると京子は笑っていた。

2人はそのまま夕暮れの中を手をつないで下校した。結衣は幸せだった。

・・・・・・

???「お聞きになられましたか?つまりはこういう事ですわ」

???「・・・」

いろいろあって疲れ切って帰宅した結衣。だがまだ眠るわけにはいかない。彼女にはやるべきことがあるのだ。

結衣は真っ暗な部屋の中でパソコンの前に座って何やらぶつぶつつぶやいている。

結衣「さてと、ライフル協会のホームページにアクセスしてっと」カタカタッ

結衣「えーっと、あったあった。『ライフル所持許可者一覧』、これだな」カチッ

ライフルなどというやたら物騒な言葉を口にしているが結衣はいったい何をしているのだろうか?

実は結衣は数日前にライフル協会の「射撃教習」に参加したのだ。
この教習を受けると数日後に結果が発表され、合格ならライフルを所持できるようになる。

でもなぜそんな事を?そう思うかもしれない。

先ほども言ったように結衣は最近身の危険を感じていた。嫌がらせは日に日に激しさを増している。
しかも相手はあの向日葵だ。いつ殺されるか分かったもんじゃない。

そこで護身用にライフルを手に入れることにしたのだ。
何でもアメリカでは護身用として一般家庭に銃が備え付けられているのも珍しくないというではないか。

そこでこの前ライフル協会の教習を受けに行き、今日がその合格発表の日なのだ。
合格者の名前が一覧となってホームページに掲載されるというから見てみたのだが・・・

結衣「五十音順か。『ふ』の項目は・・・」

ライフル所持許可者 一覧

『ふ』・・・・・
   ・・・・・
   フグ田マスオ
   二木佳奈多
   船見結衣
   冬海愛衣
   古谷向日葵
   ・・・・・
『へ』・・・・・
   ・・・・・
『ほ』・・・・・

結衣「や、やったー!合格したぞ!これでライフルが手に入る!もう怖いもの無しだ!」

結衣はあまりにもうれしかったので自分以外の他の名前には一瞥もくれずにホームページを閉じてしまった。

そしてそのまま布団に飛び込み、数秒後には夢の中だった。


そうこうしている間にも千歳はみるみる回復し、ついに退院の日がやってきた。

赤座あかね記念病院 1階エントランス

京子「退院おめでとう!千歳」

千歳「みんなホンマに今までありがとうなぁ」

綾乃「何言ってんのよ。当然のことをしたまでよ」

結衣「まだ記憶は戻ってないんだって?」

千歳「そうやねん。ウチが襲われた時の記憶がなぁ、でも一時よりはましになったで」

結衣「というと?」

千歳「病院で気づいたときはホンマに何も思い出されへんかってんけど、
   最近になってぼんやりとやけど思い出せてきたような気がするねん」

結衣「そうなんだ・・・」

綾乃「お医者さんはね、無理に思い出さなくて良いって言ってくださってるんだけど、
   千歳は思い出したいみたい。絶対に犯人を捕まえてやるんですって」

綾乃「退院したのもね、容態が回復したからってのもあるんだけど、
   普段の生活に戻れば記憶を取り戻せるかもしれないって千歳がお医者さんを説得したから
   ってのもあるのよ」

京子「千歳はすごいな!」

千歳「いやいや、こんなに良くなれたのはみんなのおかげやよ。
   明日からは学校に行けるから、またよろしくなぁ」

京子「もちろんだ!」

綾乃「ふふふ」

結衣「・・・」

翌日、学校にて

綾乃「えっ、生徒会の仕事?」

千歳「ウチがずっと休んでたからたまってるやろ?今日から早速取り掛からんと」

綾乃「まだ無理しなくていいのよ。今は早く家に帰って休みなさい」

千歳「でも・・・」

綾乃「心配はノンノンノートルダムよ!私と古谷さんがいるから安心しなさい」

結衣(それは安心できないなぁ)

千歳「うん、分かったわぁ」

こうして千歳は今日は大事を取って授業が終わって早々帰宅することになった。

千歳「また明日なぁ」

京子「おう!」

綾乃「また明日ね、千歳」

『また明日』普段何気なく使うこの言葉。彼女たちがこの言葉の持つ意味を深く痛感することになろうとは、
ある一人を除いて誰一人として思っていなかった。

そう、彼女たちはまた明日千歳に会うことはなかったのである。

いや、厳密に言えば会っているのかもしれない。

ただの肉の塊と化した姿をいつもの千歳と認識できればの話だが。

綾乃「そんなぁぁ!せっかく良くなったのに!千歳~~!あぁぁぁぁ!」

京子「綾乃・・・」

昨晩公園で千歳の遺体が発見された。綾乃たちと別れた後1回家に帰った千歳は、
ちょっと出かけてくると言って家を出たきり帰ってこなかった。

彼女は出かける前に何やら手紙のようなものを2枚見ていたと双子の妹である千鶴は証言している。
その手紙で公園に呼び出されて殺害されたのではないかと推測された。

手紙の差出人は定かではない。千歳の遺体からも彼女の部屋からもそれらしき物は見つからなかった。

千歳の死亡で綾乃は錯乱状態に陥り、次の日の学校を休んだ。

その翌日は登校してきたのだが・・・

京子「綾乃、大丈夫?」

綾乃「罰金バッキンガム、罰金、罰金、バッキンガム、罰金バッキンガム、バッキンガム 罰金・・・」ブツブツ

向日葵「杉浦先輩、昨日からずっとこんな感じらしいですの。
    池田先輩の死がよっぽどショックだったんですわね・・・
    でもそれにしたって聞くに堪えないダジャレを延々聞かされるこっちの身にもなってほしいですわ」

京子「綾乃、しっかりしろ!」バンッ

京子が机をたたくと綾乃はわずかに反応を見せた。

綾乃「はっ!あれ、えーっと歳納京子・・・?」

京子「しっかりしろよ綾乃!綾乃らしくないぞ」

綾乃「でも、千歳が、千歳が・・・。私・・・、うぅぅ」

京子「そんなこと言ったってもう千歳は帰ってこないんだ!私たちが千歳の分まで
   精一杯生きなくちゃいけないんだよ」

向日葵「歳納先輩、顔に似合わずいい事言いますわ」

綾乃「えぇ、そうよね。私たちが頑張らなくては天国にいる千歳に怒られてしまうわ」

向日葵「地獄かもしれませんの」

京子「そうだよ、綾乃。私もついてるから、な?」

綾乃「と、歳納京子~~!ありがとう!うぅ、えぐ、うぅぅ」ダキッ

京子「よしよし」

結衣「・・・」

その日の放課後

綾乃「と、歳納京子!生徒会のお仕事に行ってくるわ。もう泣いてても仕方ないものね」

京子「うん、それでこそ綾乃だよ」ニコッ

綾乃「なっ!///」

綾乃は急いで教室から出て行った。

しばらくして、

京子「じゃあ結衣、部活行こっか」

結衣「ああ」

テクテクテク

結衣「・・・」

京子(千歳が退院したころから結衣の様子がどうもおかしいんだよなぁ。
   ま、結衣は前からおかしかったけど)

そんな事を考えながらごらく部に向かって歩いていると、何やら焦げ臭い。

京子(ん?なんだこのにおい・・・。何かが燃えているような・・・。はっ!まさか、まさかな・・・)

だが京子の予想は的中する。

京子と結衣が駆け付けた時にはごらく部はもう火の海だった。

京子「た、大変だ!早く消防車を!」

数時間後、火は消し止められたが、ごらく部の建物はもはや原形をとどめないほどに全焼していた。

京子「なんでっ、なんでっ!どうしてこんな目にばかり合わなくちゃいけないんだよ!
   大室さんにちなつちゃん、千歳まで殺されて、おまけにごらく部まで・・・
   いったい私たちが何をしたっていうんだよ!」

ガラッ

綾乃「歳納京子、船見さん!ごらく部が全焼したってのは本当なの!?」

京子「あ、綾乃~~!」ダキッ

綾乃「わっ、ちょっと歳納京子っ!///」

結衣「!」

京子「ねぇ、私たちこのままみんな殺されちゃうのかな?嫌だよ、嫌だよ、そんなの!」

綾乃「大丈夫よ、大丈夫に決まってるじゃない!心配はノンノン―――」

結衣「おい京子!」ガタッ

京子「えっ、結衣・・・」

結衣「いつまで綾乃なんかと抱き合ってるんだよ!前した約束は忘れたのか!?」

綾乃(最後まで言わせてくれなかったわ・・・)

京子「ごめん結衣。ごらく部が全焼して悲しいのは結衣も同じだよな。
   悪かった、自分ばっかり綾乃に抱きついて・・・。ほら、結衣も綾乃に抱きついていいよ」

結衣「いや、そういう事じゃないだろ」

京子「え?」

結衣「ああもういい!とにかく京子はこっちに来い。綾乃は京子に近づくな!」

綾乃「ちょっと船見さん、近づくなは言い過ぎなんじゃ―――」

結衣「黙れ放火魔!」

綾乃「ヒッ!」ビクッ

京子「放火魔?・・・ってどういう事?」

結衣「消防の人に聞いたんだがこの事件は放火の疑いがあるそうだ。
   何でも灯油が撒かれた跡があるらしい。」

結衣「つまり綾乃!お前がやったんだろ!」

綾乃「何でそうなるのよ!私がそんな事するわけ無いじゃない!」

結衣「綾乃は前からごらく部を目の敵にしていたよね。何かあればすぐに部室に来てさ。
   ごらく部を潰したかったんじゃない?」

綾乃「そ、そんな事あるわけ・・・」

結衣「さらにだ。今ごらく部を潰せば行き場を失った京子を自分の物にできるとか思ったんでしょ?
   ショックで落ち込んでる京子を上手く慰めたりしてね。ほらね、動機は十分だ」

綾乃「ではちょっとお聞きしますけど出火場所はどこなのかしら?」

結衣「私たちがいつも使っていた部屋だよ。部屋の真ん中に大量の灯油が撒かれてたんだってさ」

綾乃「だとしたら私には無理よ!私はカードも持ってないし暗証番号も知らないし
   指紋も認証されてないからあのレーダーを潜り抜けて部屋の中に入る事なんて絶対にできないわ!」

結衣「うっ、確かに・・・。でも何らかの方法を使って・・・」

綾乃「さらにもう1つお聞きしますけど出火時刻はいつごろなのかしら?」

結衣「確か4時頃って言ってたな。ちょうど私が京子と教室を出る少し前から燃え始めたらしい」

綾乃「ならなおさら私には無理よ!その時間は生徒会室で古谷さんと仕事をしていたわ。
   古谷さんがそう証言してくれるはずよ」

京子「アリバイってやつか!」

結衣「うぐっ、くそ・・・。そんな馬鹿な・・・」

綾乃「分かったでしょ。私は犯人じゃないわ。変な言いがかりはよしてちょうだい」

綾乃「ほら歳納京子、そんな無茶苦茶な事を言う人なんかと一緒にいないで私の所に来なさい」

結衣「何言ってるんだ綾乃!京子、こっちに来るんだ!」

京子「えっ、えっ?」アタフタ

綾乃「歳納京子!こっちよ!」

結衣「京子!こっちだって!」

京子「えっ、えっ?」アタフタ

綾乃「歳納京子!」

結衣「京子!」

京子「あー、ごめん。今日は先に1人で帰るよ。じゃ、じゃあねー」

京子は逃げるように教室から去って行った。

後に残された結衣と綾乃。気まずい空気が流れる。

結衣「もう綾乃なんか大っ嫌いだ!絶対に謎を解いて綾乃が放火魔だってことを証明してやる!」

綾乃「えぇそうですか!私も船見さんなんか大っ嫌いよ!もう顔も見たくないわ!」

<第6章>

それからというもの、結衣と綾乃の関係は最悪になった。

廊下ですれ違えばにらみ合い、教室の中でも悪口の応酬。

結衣が廊下で綾乃に唾を吐きかければ、綾乃も負けじと授業中に結衣に向かって消しゴムを投げつける。

休み時間にも、結衣が後ろから綾乃のお尻を蹴り上げれば、綾乃も負けじと結衣の顔面にパンチをお見舞いする。

体育の時間にも、結衣がドッジボールで綾乃の顔面ばかりを狙えば、
綾乃も負けじとソフトボールでランナーの結衣に向かって思いっきりボールを投げつける。

昼食の時間にも、結衣が綾乃の制服にカレーをぶっかければ、綾乃も負けじと結衣に頭から牛乳をぶっかける。

理科の実験中にも、結衣が綾乃に塩酸をぶっかければ、綾乃も負けじと結衣に硫酸をぶっかける。

結衣が綾乃の着替えているところを盗撮してネットに流せば、
綾乃も負けじと結衣のトイレ中の姿を盗撮してネットに流出させる。

結衣が「いつもいつもくだらないダジャレばかり言いやがって!全然面白くないんだよ!
お前なんか死んでしまえ!」と言えば、
綾乃も負けじと「船見さんこそいつもいつもゲームばかりで体に悪いんじゃないの?
あなたなんかゲームのやりすぎで頭おかしくなって自殺すればいいのよ!」と言い返す。

結衣が「死ねっ!」と言うと、綾乃も「死ねっ!」と言う。

そのやり取りの様子はいつかのACジャパンのCMを思い起こさせた。

そうこうしているうちに時は流れ、ある日の放課後のこと。

京子「結衣~、もういい加減綾乃と仲直りしろよ」

結衣「できるわけないだろ!綾乃が放火魔だってことを証明しなくちゃいけないんだ」

京子「でも綾乃はごらく部の部屋に入れないし、アリバイだってあるんだろ?
   どう考えても無理じゃないか」

結衣「何かトリックを使ったに違いない。それがいったい何なのか・・・。なあ、京子も考えてくれよ」

京子「考えるって言ってもなぁ・・・」

京子と結衣が腕組みをして事件の謎について考えていると、学校がなんだか騒がしくなってきた。

京子「ん、何だ?何かあったのか?」

結衣「行ってみよう」

騒ぎのする方に行ってみると、プールの前に人だかりができている。

人込みをかき分けて前に出ると、何とそこには・・・

結衣「あ、あれは!」

京子「綾乃!」

プールサイドに綾乃が寝かされていて、誰かが必死に蘇生を試みていた。

だがもう無理だと分かったらしい、こちらの方を向いて首を横に振った。

京子「そんな、綾乃まで・・・」

後で聞いた話によると、プール掃除をしていた作業員がプールの底に沈んでいる綾乃を発見したらしい。
急いですくいあげたがもう手遅れだったようだ。

綾乃の体内からは睡眠薬を飲まされた痕跡が見つかり、さらに全身に重石がくくりつけられていた。
恐らく睡眠薬で眠らされたあと、全身に重石を付けられてプールに放り込まれたのだろう。
目が覚めても重石のせいで起き上がれず、そのまま溺死してしまったのだと推定された。

翌日の学校では

教師「あー、知ってる人もいるかもしれないが昨日うちのクラスの杉浦の水死体が見つかった。
   この前も池田が殺されたばかりだし、最近人殺しが流行ってるからみんなも気をつけろよー。
   それじゃ、授業始めるぞー」

生徒1(聞いた~?杉浦さん殺されたんだって。絶対犯人は船見さんだよね)ひそひそ

生徒2(うんうん絶対そうだよ!すごく仲悪かったもんね~)ひそひそ

京子「おい、お前ら!黙って聞いてれば好き勝手言いやがって!結衣が人殺しなんかするわけないだろっ!」

生徒1「どうだか~。船見さんって基本無口で暗いから何考えてるのか分かんないんだよね~」

生徒2「そうそう、何か怖いよね!」

生徒1「この前だって理科の実験中に杉浦さんに塩酸ぶっかけてたもんね~。
    あんなのほとんどもう殺人未遂じゃない?」

生徒2「そうだよ!あ~怖い怖いっ!これくらいにしとかないと私たちまで殺されちゃうかもよ?」

エー、キャーキャー

京子「くっ、こいつら・・・(怒)」

結衣「もういいよ京子。私は大丈夫だから」

結衣は大丈夫だと言ったが、実際は結構きつかった。

クラスだけでなく全校生徒から疑いの目で見られ、非難中傷にさらされるようになった。

また前から続いていた嫌がらせがますます酷くなり、
結衣は耐えかねてしばしば学校を休むようになってしまったのだ。

京子「ハァ~~」

向日葵「歳納先輩どうかなさいましたの?すっかり元気が無いじゃありませんか。
    あの馬鹿みたいに元気だった歳納先輩はどこに行ってしまわれたのですか?」

京子「あぁ、古谷さんか。いやね、最近結衣の奴がなかなか学校に来なくなっちゃって・・・」

向日葵「そうだったんですの、それは大変ですわね。
    歳納先輩にとって船見先輩は三度の飯よりも大切な物ですものね。」

京子「そうなんだよ~。結衣、明日は学校来てくれるかな・・・?」

向日葵(ツッコミも無しですか。これは結構重症みたいですわね・・・)

向日葵「もし船見先輩が学校に来たら教えてくださりません?いろいろとお話がしたいですわ」

京子「うん、分かったよ、ありがとう古谷さん。ところで古谷さんは元気そうだね。
   会長以外の生徒会メンバーが全員殺されてしまったというのに」

向日葵「わたくしなら大丈夫ですわ。わたくし、元気とおっぱいだけが取り柄ですの」

京子「そうだったんだ、それは初耳だよ」

そんなある日、久しぶりに結衣が登校してきた。

京子「結衣、大丈夫?」

結衣「ああ、何とか。今日は学校に来たよ。ずっと休んでるわけにもいかないしな」

京子からの連絡を受けて2年の教室にやってきた向日葵。

結衣「やあ古谷さん。京子から聞いてるよ。生徒会副会長になったんだって?」

向日葵「ええそうなんですの。今まで副会長だった杉浦先輩もお亡くなりになられましたし、
    私しか代わりの人がいなかったのですわ」

向日葵「それはそうとどうやら船見先輩についての悪い噂が学校中に広まっているみたいですわね。
    わたくし、ずっと船見先輩のこと心配してましたのよ」

結衣「そうだったの?ありがとう古谷さん」

向日葵「何かあったらいつでも言ってくださいね。生徒会副会長であるわたくし古谷向日葵が
    生徒会の権力を振りかざしてなんでもやって差し上げますわ」

結衣「うぅぅぅ、えぐっ、ひっく」グスッ

向日葵「あぁ、どうしたんですの!?突然泣き出すなんて、わたくし何か悪い事でも・・・?」

結衣「いや違うんだ。嬉しいんだよ。学校では京子以外誰も私と話してくれないし、
   みんなに避けられるし陰口も言われるし・・・。
   でも古谷さんはこんな私に優しく声をかけてくれる。本当にありがとう」

向日葵「当たり前じゃないですの。わたくしは生徒会副会長ですのよ、困っている生徒の味方ですわ」

その日の帰り道

京子「結衣と一緒に帰るのも久しぶりだな~」

結衣「そうだな~」

夕焼け空の中を自宅に向かって歩く京子と結衣。

本当は向日葵にも一緒に帰らないかと誘おうと思ったのだが、
生徒会の仕事が山程あるようだったので諦めた。

よくよく考えれば向日葵は今やたった一人で生徒会の仕事をやり繰りしているのだ。

仲間がみんな殺されてしまったショックもあるだろうに、そんな様子など微塵も見せずに
ひたむきに頑張る姿に人々は感銘を覚え、向日葵こそ生徒会長にふさわしいと思うようになっていった。

そんな状況を現生徒会長はどう思っているのだろうか?

実は現生徒会長松本りせは今、赤座あかね記念病院に長期入院しているのである。

それは一体なぜなのか、話は数日前、これら一連の事件が始まる前に遡る。

ある日の生徒会室でのこと

りせ『・・・』

向日葵『前から思ってたんですが、会長の声が小さいのは何かの病気だと思いますの。
    一回赤座あかね記念病院で診てもらってはいかがですか?』

りせ『・・・』

綾乃『え?そんな必要はない?古谷さん、会長はこう言っておられるわ』

向日葵『いえ、そういう慢心が大事を引き起こすんです。絶対に一度見てもらうべきですわ』

こうして向日葵は有無を言わさず会長を病院に連れて行き、医者の診断を受けさせた。

すると喉の難病にかかっていることが分かり、入院して手術を受けることになったのであるが・・・。

綾乃『失敗した!?』

向日葵『ええ、それに失敗した際の措置もうまくいかなかったようで、一時生死の境を彷徨ったそうですわ』

その後なんとか容態は安定したものの日常生活を送れるまでには回復せず、
長期入院することになってしまったのだ。

その間に一連の事件が起こり、生き残っているのは会長と向日葵だけになった。

だが会長はこんな状態なので、現在生徒会は実質向日葵だけで運営しているのである。

それにもともと七森中の生徒の中には、声が小さいくせに生徒会長を務めているりせに対して
不満を持っているものも多く、今回の事をきっかけに向日葵を生徒会長に推す者も多く現れた。

向日葵は謙虚なので、『私が生徒会長だなんて今の会長さんに対して失礼ですわ』と言って
頑なに拒んでいたが、それでも向日葵の人気は上昇するばかりだった。

京子「それにしても古谷さんって本当にすごいよな~。何でもできるし、努力家だし、
   メンタルも強いし、人望も厚い。こりゃ次期生徒会長は決まったな」

結衣「そうだな・・・」

結衣は久々に京子と一緒に帰れる喜びを噛み締めていた。

そして、前に部室で喧嘩した日のことを思い出していた。

結衣「あの日も、こんな夕暮れの中を京子と二人で帰ったんだったな・・・」

京子「ん、何か言った?」

結衣「な、何でも無いよ!」

京子「ねぇ結衣、明日もこうやって一緒に帰りたいな」

結衣「えっ?」

京子「結衣がいない間、帰り道はずっと一人で・・・。寂しかった」

結衣「・・・」

京子「だからさ、明日も学校、来て欲しいな」

結衣「・・・」
   
結衣「分かった、絶対行く。もう逃げたりなんかしない!クラスメイトにいじめられたからって何だ!
   たとえ全校生徒から嫌われたって構わない!私には京子がいる!私は京子に会いにいくんだ!」

京子「結衣・・・」

二人の少女は抱き合った。お互いの気持ちを確認し合いながら。

たとえどれだけ酷いいじめを受けていようが、この瞬間があるだけで結衣は幸せだった。

結衣「京子・・・」

京子「結衣・・・」

2つの唇が接近する。間もなく唇が重なり合おうとしたその時

ブロロロロロ―――

結衣「はっ!危ない京子!」ドッ

京子「うわっ!」ドサッ

結衣「くっ!」

ブロロロロロ―――

車が走り去っていく。結衣と京子は間一髪難をまぬがれた。轢かれずに済んだのだ。

京子「いたた・・・。サンキュー結衣。それにしても何なんだあの車は。酔っぱらいか?」

結衣「あの車、私たちを狙っていたような気がする」

京子「何だって、じゃあ・・・」

結衣「うん、今までの事件と何か関係があるかもしれないな」

轢かれそうになった事よりもせっかくのキスを邪魔された事のほうが腹立たしかったが、
キスの件は結局うやむやになり今日はそのまま解散することになった。

<第7章>

次の日の帰り道

結衣「で?」

京子「ふふーん」ニコニコ

結衣「なんで私のマンションにまでついて来てるんだよ」

京子「だってー、私たちまた襲われるかもしれないだろ。特に結衣は一人暮らしだし、
   何かと危険じゃん?だから今日は私が自宅警備員になってあげようと思って」

結衣「それ意味違ってるぞ。ていうかただ私の家に泊まりたいだけだろ」

京子「えへへ、まあ良いじゃん良いじゃん」

結衣「たく・・・」

なんだかんだ言いながらも嬉しい結衣。

ゲーム(スーパーなもりRPG)をしたり、トランプ(なもり並べ)で遊んだり、
一緒に夕食のなもりラーメン(インスタント・50円)を作ったり、
時には歌(なもなりなももも大事件・現在廃盤)を歌ってみたり、TARITARI。

2人で過ごす時間はあっという間に過ぎていく。

京子「ふぅ~、食った食った」

結衣「ごちそうさまでした」

京子「結衣~、ラムレーズンある?」

結衣「ちゃんとあるよ。待ってて、今取ってくるから」

ラムレーズンを取りに行く結衣の後ろ姿を見ながら、
結衣が元気になって本当に良かったと安心する京子。

結衣にとってもだが、京子にとってもこうして2人で一緒にいられる時間が至福の時なのである。

京子(いつまでもこの時間が続けば良いのにな・・・)

だが、世の中そんなに甘くはない。向日葵だって甘くはない。

ダダダダダダダ パリーンパリーン

京子「うわっ、何だ!?」

結衣「何の音だ!?」

バシュッ

京子「うっ!」

台所からリビングに急いで戻ってきた結衣が見た光景は、悲惨の一言だった。

窓ガラスが大量に割られ、今も銃撃されている。そして床には、大量の血を流した京子の姿が。

結衣「京子!」

京子のもとに駆けつける結衣。

京子「結衣・・・」

結衣「と、とにかく台所に避難だ!あそこに隠れば弾は当たらない!」

京子を連れて逃げる最中結衣の肩にも銃弾が直撃する。

結衣「くっ!」

それでもなんとか台所の下のスペースに逃げ込んだ。まだ銃撃は止まない。

結衣「あ、そうだ!確かここにライフルを隠していたんだ!あったぞこれだ!」

そう、あのライフルである。あの後合格した結衣は無事にライフルを手に入れ、
もしもの時のために台所に隠しておいたのである。

結衣「これで応戦しよう!」

台所の隙間から狙いを定める。奴は隣のビルから銃撃しているに違いない、そう睨んだ結衣は
銃口を窓の外、隣のビルに向けた。そして、

ダダダダダダダ

銃口を目まぐるしく動かしながら乱射していると、何者かの悲鳴が聞こえた。命中したのだ。

敵の銃撃が止む。こちらも止める。さっきまでとはうって変わって静かになる。

???「全く、痛いですわ」

そんな声が微かに聞こえた。だが次の瞬間から再び敵の銃撃が再開。結衣も慌てて応戦する。

だが今度は敵の方も物陰に隠れながら撃ってきているのだろう、なかなか当たらない。

その状態のまましばらく撃ち合っていると、あたりが騒がしくなってきた。

こんな夜にライフルの撃ち合いだなんて近所迷惑だとマンションの住人が結衣の部屋に怒鳴りに来る。

住人「ちょっと船見さん!こんな夜にうるさいですわよ!ライフルの撃ち合いをするのでしたら
   もっと静かにやってくださらない!?」

さらにはパトカーや救急車の音も聞こえてきた。誰かが通報したのだろう。

パトカーの音が聞こえてくるやいなや、隣のビルから

???「チッ、もうサツが来やがったですわ」

という声が聞こえると同時に銃撃もピタリと止んだ。もう攻撃してくる気配はない。

結衣「助かったのか・・・?ふぅ良かった。はっ、そういえば京子は!?」

京子の方を振り返るとぐったりとしている。血はなおもどくどくと流れ続ける。

結衣は駆けつけた救助隊の人に事情を話し、すぐさま病院へ。

赤座あかね記念病院 401号室

結衣「・・・」

あれから京子の緊急手術が行われた。手術は丸一晩かかった。
弾の一部が内臓にまで達していたらしい。なんとか一命は取り留めたが予断を許さない状況が続く。

ちなみに結衣も肩に銃弾をくらっていたが、こちらは軽傷で済んだ。

結衣「京子・・・。お願いだから目を覚ましてくれよ・・・」

目の前のベッドに横たわる幼馴染。事件から丸一日たってもまだ目を覚まさない。

いわゆる「意識不明の重体」の状態である。

今日結衣は学校には行かずに一日中京子の眠るベッドのそばに座っていた。
京子が目を覚ますまでいつまでもそうしているつもりだった。

結衣は手に持っている物を京子の顔の前に持っていって見せる。

結衣「ほら、おまえが撃たれる前に食べようとしていたラムレーズンだぞ。
   おまえが欲しいって言ったから持ってきてやったんだぞ。
   た、頼むから目を覚ましていつものように『うめー!』って言いながら食べてくれよ、京子・・・!」

昼頃に警察の人がやってきた。

どうやら警察が隣のビルに突入した時には既に犯人は逃走した後だったという。
手がかりも無く、捜査は難航しているらしい。

結衣の家からライフルが見つかったのでどうしてこんな物を持っているのかと聞かれたのだが、
学校の理科の先生がくれたと言って適当にごまかした。

警察の人は後でその先生を事情聴取しなければと言いながら帰っていった。

その後ある人物がお見舞いにやってきた。その人物とは・・・

向日葵「船見先輩!歳納先輩が銃で撃たれたと聞きましたが大丈夫ですの!?」

結衣「ああ古谷さんか。大丈夫・・・、とは言えないかな。一命は取り留めたみたいだけど」

向日葵「歳納先輩、意識戻らないんですか?」

結衣「うん、昨日からずっとなんだ。あれっ、古谷さんその右腕の包帯どうしたの?」

向日葵「これですか?実は昨日右腕が脱臼してしまいまして。
    おっぱいが大きすぎて腕に負担がかかっていたのだと思いますわ。
    今は包帯で固定しているんですの」

結衣「・・・」

包帯は赤く滲んでいる。果たして脱臼でそこまで血が出たりするのだろうか?

結衣「古谷さんわざわざ来てくれてありがとう。また京子が目を覚ましたら連絡するよ」

向日葵「分かりましたわ。それでは失礼します」

向日葵はそそくさと帰っていった。

結衣「・・・」

すっかり夜も更けて、外は真っ暗に。結衣と京子のいるここ401号室も真っ暗だ。

光といえば窓から差し込む月明かりだけ。そんな部屋の中で結衣は一人考え込んでいる。

結衣(今までの事件・・・。犯人は多分あの人だろう。だが証拠が無い。
   それにまだはっきりと分からない点もある。どうする・・・?何かいい方法は・・・?)

結衣(・・・)

結衣(待てよ、これなら・・・。多少危険だが、やってみるしかない。
   上手くいけばこれで事件を全て終わらせることができるぞ!)

病院からこっそり抜け出した結衣。しばらくして大きな荷物を持って戻ってきた。

・・・・・・

結衣(よし、これで準備はOKだ!)

ちらりと京子に目をやる。

結衣(京子、待ってろ!必ず犯人を捕まえてやるからな!)

時刻は深夜1時をまわった頃。うとうとしていた結衣は突然の異常事態によって現実の世界に引き戻された。

病院が停電したのだ。

ナモリナモリナモリナモリナモリナモリナモリナモリーーーー

異常を知らせる警報ベルが病院中に鳴り響く。
そんな中、停電で真っ暗になった病院の廊下を何者かが歩く音。
その音は401号室の前で止まった。401号室の扉が開く。

ダダダダダダダ パリーンパリーン

昨日と同じライフルの音。一通り撃ち終わるととたんに静かになる。何者かが部屋の中に入ってくる。

スタ、スタ、スタ

???「何だ、船見先輩はいないじゃないですの。弾が勿体無かったですわ」

???「さて、歳納先輩は・・・。ぐっすり眠っておられるようですわね」

???「さようなら、先輩」カチャ

バキューン

???「・・・」

???「・・・?」

???「おかしいですわね、血が全然飛び散らない」

その人物が布団をめくると・・・!

???「何ですのこれ!?歳納先輩に似せた人形・・・」

結衣「そこまでだ!」

???「!」

結衣「引っかかったな!京子は隣の402号室に移してあるんだよ。君が今日襲いに来るだろうと踏んでね!」

???「・・・」

結衣「もう逃げられないぞ!さあ正体を明かせ!といっても薄々の見当はついてるけどな!」

バキューン

結衣「なっ!」

なんと奴は結衣に向かって発泡してきたのだ。辛うじて命中はしなかったが、
結衣がひるんでいる隙に奴は窓から飛び降りて逃げてしまった。

結衣「なんて奴だ!ここは4階だぞ!」

だが結衣は焦らない。401号室からある物を回収すると隣の部屋に戻る。

結衣「ふふふ、これさえあればもうこっちの物だ!」

結衣は軽く笑みを浮かべながら京子の所に戻ってきた。そして愕然とした。

さっきまでこのベッドで寝ていたはずの京子の姿がどこにも無かったのである。

翌朝、病院近くの雑木林の中で京子の遺体が発見された。頭をライフルで撃ち抜かれていて即死だった。

だが結衣にはどうしても納得がいかない。

結衣(おかしい・・・。あの時私は奴が401号室に入った後で隣の部屋を出た。
   部屋を出た時京子は確かにベッドにいた。あの後で奴が京子を連れ去る暇なんか無かったはずだ。
   どうしてあんな短い間に京子はいなくなってしまったのだろうか・・・?)

だがそんな事を考えていても仕方がない。もう京子は帰ってこないのだ。
だからこそ結衣には他にやるべき事があった。犯人を捕まえるのである。
幸いにも証拠はもう手に入れてある。結衣はついに決断した。

結衣(京子・・・、ごめんな、守ってやれなくて。でも安心して、今から京子のかたきを取りに行ってくるから)

結衣は証拠を持って学校内を目的地に向かって歩き始めた。
歩きながら、今までの事件の事が走馬灯のように浮かんでは消えていく。

結衣(走馬灯だって?はは、まるで私がもうすぐ死ぬみたいじゃないか・・・)

そんな事を思って少し笑った。

そうしているうちに目的地に到着した。来る者全てを怯えさせるような威圧感を持った黒い大きな扉。
存在自体が不気味で、負のオーラが部屋から溢れ出ているような空間。

今まで何度も出入りしてきたその場所、そう、生徒会室である。

【第1部・完】

【第2部】

<第8章>

結衣「失礼しまーす」ガチャ

向日葵「あら、船見先輩じゃないですの。どうかされたのですか?」

結衣「ああ、古谷さんにちょっと用があってね」

向日葵「わたくしにですか?いったい何の・・・?」

結衣「ねぇ、その足の怪我はどうしたの?」

向日葵「これですか?昨日新体操の練習中に鉄棒から落ちてしまいまして。
    船見先輩もご存知でしょう?わたくし、次のオリンピックに出る予定なんですの」

結衣「それは知ってるよ。古谷さんめちゃくちゃ上手いんだってね。
   でもその怪我は本当にそれが理由なの?」

向日葵「何が言いたいんですの?」

結衣「昨日病院の4階から飛び降りた時の怪我なんじゃない?」

向日葵「すみませんですわ、わたくし少々日本語が不自由でして」

結衣「今までさんざん日本語で会話しておいて今更そんな言い訳が通用するとでも思ってるのかな?
   あとその右腕の包帯も2日前の夜ライフルで撃ち合った時の怪我でしょ。
   私の撃った弾が当たったんだよね」

向日葵「ライフルだなんてそんな物騒な物、ピュアなわたくしには分かりませんわ」

結衣「あのさぁいい加減とぼけないでくれる?古谷さんの今までの悪事、もう5割くらいお見通しなんだよ!」

向日葵「何だ、たったの5割ですの。100割お見通せてからまたお越し下さいな。
    わたくし今忙しいんですのよ、会長が昨晩お亡くなりになられたので」

そう、生徒会長松本りせは昨晩赤座あかね記念病院で帰らぬ人となってしまったのだ。

りせは喉の手術の失敗により呼吸器系、特に気管が損傷を受けたせいで
自力で呼吸ができなくなってしまっていた。

なので常に人工呼吸器を装着していたのだが、昨日京子が襲われた際の停電で器械が止まり、
呼吸困難に陥って窒息死してしまったのである。

結衣「そういえばそうだったな。京子が死んだから注意がそっちにばかり行ってたが、
   京子の死の裏で地味に会長も死んでたんだな。
   てかっ、死ぬ時にまで影が薄いなんてまるで・・・」

結衣はなにかもの凄く大きな殺気を感じてそれ以上は言えなかった。

向日葵「という訳でわたくしは生徒会の引継ぎ作業などいろいろやることがあるのでこれで失礼しますわ」

そう言うと向日葵は生徒会室の奥にある自動ドアの向こうへと消えていった。

結衣「あっ、ちょっと待て!」

自動ドアがもう閉まるという直前。結衣は狭い隙間からなんとか中に滑り込むことに成功した。

結衣(ふぅ~、体が細くて助かったよ。古谷さんだったら胸が邪魔で通れなかっただろうな)

向日葵だったらガラス戸が胸の谷間に挟まってしまっただろう。

と言っても結衣もそんなに小さい方では無いのだが。

向日葵「ちょっと何ですの?船見先輩もしつこいですわねぇ。
    証拠も無いのに私を犯人と決め付けるなんて・・・」

結衣「証拠ならあるさ」

向日葵「えっ?」

結衣は持ってきた荷物を出した。袋を開けると中から出てきたのは・・・

向日葵「カメラ、ですわね・・・?」

結衣「うん、このカメラに見覚えない?」

向日葵「!」

結衣「あ、気づいたんだ」

向日葵「いえ、何の事かわたくしさっぱり・・・」

結衣「とぼけても無駄だよ。そう、これは古谷さんがごらく部に仕掛けた盗撮カメラさ」

向日葵「・・・」

結衣「見つけた時まだ使えたからね。色々と利用させてもらったよ」

――――――――――

京子『ほらっ、仕掛けられていたカメラとかは回収できたんだし、心配無いよ』

あかり『そのカメラや盗聴器はどうするの?』

結衣『証拠品として私が預かっておくよ』

――――――――――

結衣「それでね、今から見せるのは昨日の映像なんだけど・・・」

カチっ ザッザザー ザザッザザザザッケローニ

――――――――――

ダダダダダダダ パリーンパリーン

スタ、スタ、スタ

???『何だ、船見先輩はいないじゃないですの。弾が勿体無かったですわ』

???『さて、歳納先輩は・・・。ぐっすり眠っておられるようですわね』

???『さようなら、先輩』カチャ

バキューン

――――――――――

カチっ

結衣「これ、どう見ても古谷さんだよね。」

向日葵「・・・」

結衣「昨日の昼、古谷さんが京子のお見舞いに来たのは京子の病室の位置と様子を確認するためでしょ。
   私は今晩にも古谷さんが京子を殺しに来ると思った。だから京子を401号室から隣の部屋に移して、
   401号室には京子の人形とこの盗撮カメラを仕掛けておいたんだ」

結衣「君はまんまと罠にはまってくれたよ。逃げられても大丈夫。カメラを仕掛けている事までは気づかない。
   古谷さんは自分の盗撮がバレないようにカメラを小さく精巧に作ってたみたいだけど、
   まさか自分のカメラで自分の犯行現場が盗撮されるなんて夢にも思わなかっただろうね」

結衣「どう?これでもう言い逃れはできないでしょ」

向日葵「・・・」

向日葵「・・・おほ」

向日葵「おほ、おほほほほほほほほほ」

向日葵「全く、してやられましたわ。さすが船見先輩ですわね、
    前からこの人は一味違うなと思っていましたが、なかなかやりますわ」

結衣「古谷さんに褒められるなんて光栄だね」

向日葵「いえいえそんな。わたくし、これから船見先輩のことを
    津田美波様とお呼びしてもよろしいかしら?」

結衣「何でだよ」

向日葵「あまりお気に召しませんか、では今まで通り船見先輩と呼ばせていただきますわ」

そう言うと向日葵は机に向かい、紅茶をカップに注ぎ始めた。

結衣「おい待てっ。まだ話は終わってないぞ。君がやった犯罪はまだまだたくさんあるんだ。
   くつろいでいる場合じゃないぞ」

向日葵「まあまあそう言いなさらないで。紅茶でも飲みながら語らおうではありませんか」

結衣「やけに優雅だな。自分の立場が分かっているのか?」

向日葵「こちら、船見先輩の分ですわよ」コトっ

結衣「飲む訳無いじゃないか。どうせ毒か睡眠薬でも入ってるんだろう?」

向日葵「どうでしょうねぇ」クスッ

結衣「否定しないのかよ」

向日葵「それで?話の続きというのは何ですの?」

結衣「そんなの決まってるだろ。君の起こした一連の連続殺人事件についてだ」

結衣「まず君はごらく部を盗撮した。あの頃はまだ警備も厳重ではなかったから
   侵入しようと思えば誰でも出来ただろう。君は部室に誰もいない隙を狙って侵入しカメラを仕掛けた。
   だが運悪く私たちにカメラが見つかってしまった」

向日葵「本当に運が悪かったですわ。全部取り上げられてしまいましたものね。
    あれ全部合わせるとかなりの値段になるんですのよ」

結衣「そこで君は部室の天井裏を改造してそこに張り込み、小さな覗き穴からごらく部を監視する事にした。
   だがこれも見つかってしまう。そうそうその天井裏にこんな物があったんだよ」

そう言って結衣はあの青い髪の毛を取り出した。

結衣「これ、古谷さんのだよね」

向日葵「わたくしとした事がこんな証拠を残すなんて・・・」

結衣「さて、ところでこの事件、古谷さん1人だけで行ったものじゃないよね」

向日葵「どういう事かしら」

結衣「最初の事件のあとちなつちゃんが大室さんに事件のことを聞いたらもの凄く慌ててたって言ってたよ。
   大室さんも犯人グループの一味だね」

向日葵「ええ、あのバカはすぐああやって怪しまれるような行動をとるんですの。
    あの後でほっぺたを引っぱたいてやりましたわ。櫻子に犯罪は向いてませんわね、
    あんなんじゃすぐにバレてしまいます」

結衣「それで私が大室さんを引っぱたいた時にまたやられたって言ってたのか。
   というか犯罪に向き過ぎている君の方がおかしいだろう」

向日葵「ありがとうございますですわ」

結衣「褒めてないんだよ。それと綾乃、千歳の2人も共犯者だな」

向日葵「それはなぜですの?」

結衣「まず綾乃は京子に事件の事を聞かれた時の返答がおかしかった。京子から初めてカメラのことを
   聞いたのにまるで前から知っているかのような返答だった」

向日葵「でもそれだけで犯人と決め付けるのはどうなんですの?櫻子もそうですが、
    聞かれた時の様子や返事がおかしいだけでは確実ではないでしょう?」

結衣「そうだよね。でも疑わしいことは事実だ。そして怪しい人はみんな生徒会の人間だ。
   だから私は生徒会室に盗撮カメラを仕掛けることにした」

向日葵「な、なんですって・・・!」

――――――――――

京子『つまり疑わしいのは綾乃、古谷さん、大室さんの3人ってことだね』

結衣『3人とも生徒会だな』

京子『ハッ、まさか、これは生徒会による陰謀なのでは!?』

あかり『そんなまさか・・・』

結衣『・・・』
   
――――――――――

生徒会という組織が怪しいと睨んだ結衣は、最初の事件の時に回収したカメラを逆に利用してやろうと考えた。

結衣が放課後京子に「用事」があると言ってごらく部に行かなかったことが2度ある。

1度目は、天井裏発見事件から数日後の放課後。この時結衣はこっそり生徒会室に忍び込み、
カメラをセットしたのである。その日結局部活に行けなかったのは、
生徒会室から人がいなくなるのを待っていたら下校時刻ギリギリになってしまったからだ。

そして2度目は櫻子の葬式が行われた次の日の放課後。この時に結衣はカメラを回収したのだ。

そして見てみると・・・

結衣「古谷さん、大室さん、綾乃、千歳の4人の会話が映っていた。
   そして分かったんだ。4人全員が一連の事件の犯人だって事がね」

向日葵「なるほど、そんなカメラが仕掛けられていたなんてちっとも気づきませんでしたわ」

結衣「そこで私は生徒会の連中と戦うことに決めた。生徒会の陰謀を暴こうと思ってね。
   京子や他のみんなには心配かけるといけないからずっと黙ってたんだ」

あの頃から結衣の様子が時々おかしかったのはそのためだったのである。

向日葵「・・・」

結衣「少し前に話を戻す。天井裏発見事件以降ごらく部は警備が厳重にされて要塞になってしまった。
   これでは監視ができない。どうしようかと思って古谷さんと大室さんが偵察に行ったら
   大室さんがレーダーに引っかかってしまう」

向日葵「ええそうですわ。あのバカは本当に・・・」

結衣「そこで君はレーダーが切れている隙を見計らって部室に接近し、
   今まさに真実を吐かされようとしていた大室さんを口封じのために弓矢で殺害した」

向日葵「なかなか綺麗に命中しましたわ」

結衣「次に君は部活に向かっていたちなつちゃんを殴るか何かで気絶させ、
   生徒会室に運んで暴行を加えてから薬を注射して毒殺した」

あの時放課後教室にいたちなつを向日葵がチラチラ見ていたのはちなつが会話に入れていないことを
気にしていたのでは無く、ちなつを殺すタイミングを伺っていたのである。

結衣「次は綾乃だ。綾乃を殺すのは簡単だっただろう。
   睡眠薬入りの飲み物を飲ませて眠らせ、体中に重石をくくりつけてプールに突き落とせば終了だ。
   あとは勝手に死んでくれる」

向日葵「・・・」

結衣「そして、そして君は京子にまで手を出した!私と京子を帰り道に轢き殺そうとしたのは
   古谷さんだよね」

向日葵「ええ、あの車はわたくしが運転してましたの。もう少しで轢き殺せたのに惜しかったですわ」

結衣「中学1年生が車を運転して良いと思ってるのか!」バンッ

向日葵「怒る所はそこじゃないと思いますの。わたくし、8歳の時に免許を取ったんですのよ」

結衣「そうなんだ、すごいね。今度古谷さんの運転でみんなでドライブに行こうよ」

向日葵「いいですわね、どこが良いですか?黒部ダムですか?」

結衣「良いね!兼六園とかも良いんじゃない?」

向日葵「・・・」

結衣「と、とにかく、私たちを殺し損なった古谷さんは私のマンションを襲撃した。
   京子が泊まりに来てたことは知ってたのか?」

向日葵「もちろんですわ。わたくしずっとあなたがた2人を尾行してましたから」

結衣「君は隣のビルに立てこもり、私の部屋めがけてライフルを乱射した。
   でも私の反撃に遭って右腕を負傷。まさか私がライフルを持っているなんて君も知らなかっただろう」

向日葵「知ってましたわ。ライフル所持許可者一覧にあなたの名前がありましたから」

結衣「何っ!?古谷さんもあの教習を受けてたのか。私は全く気付かなかったが」

向日葵「わたくしの名前もありましたわよ」

結衣「気がつかなかった・・・。あの時はテンションが上がってて他の名前はあまり見なかったからな・・・」

向日葵「そんなんだからバカと言われるんですのよ。ゲームのやりすぎなんじゃないですの?」

結衣「うるさいっ。そういう古谷さんはどうなんだ。ゲームはやらないのか?」

向日葵「わたくしですか?基本あまりしませんけど・・・。
    でもこの前は『なもリビオン』っていうゲームにはまりましたわ」

結衣「うわ、結構ガチなゲームじゃないか。古谷さんはゲーマーだったのか」

向日葵「船見先輩ほどではありませんわ。いろんな都市を巡って人を殺しまくるのが愉快で仕方ないんですの」

結衣「」

結衣「はっ!ってそんな話はどうでもいいんだ。君はその後パトカーのサイレンの音が聞こえてくると
   銃撃を止め逃亡した」

向日葵「あんな所でサツに捕まるわけにはいかないんですの」

結衣「そして君は京子が赤座あかね記念病院に入院したことを知る。あとはさっき話した通りだ。
   今思えば会長の死も計画の内だったんじゃないか?」

向日葵「ええそうですわ。今会長が謎の死を遂げてわたくしが生徒会長になればさすがに
    わたくしを怪しむ者も出てくるでしょう?ですから歳納先輩の事件の巻き添えで
    死んだ事にすれば不幸な事故ということでみんなの目をごまかすことができますの。
    わたくしとしても一度に2人殺せるのでまさに文字通り一石二鳥ですわ」

結衣「会長を入院させたのも・・・?」

向日葵「もちろんわたくしの計画の内ですわよ。会長は元々ごらく部を盗撮することについて
    乗り気じゃなくてむしろ反対しておられましたの。こんな人は計画の邪魔なので
    喉の病気をでっち上げて入院してもらうことにしましたわ」

結衣「手術が失敗したのも・・・?」

向日葵「あれはわたくしが医者を買収したんですの。手術するふりをしながら気管を傷つけてやってくれって。
    結果的に人工呼吸器無しでは生きられない体になってくださったので、こっちとしても
    殺しやすくて助かりましたわ」

結衣「」

結衣「古谷さん、君は狂ってるよ」

向日葵「船見先輩には言われたく無いですわ」

結衣「だが残念だったね。そうやって欲張るから犯行現場を盗撮されちゃったんだよ」

そう言って結衣は先ほどのカメラを見せる。

結衣「この映像がれっきとした証拠だ。これを警察に持っていけば古谷さんは捕まる。
   そして死刑だ」

向日葵「ですがその映像だけだと昨日の事件しか立件できないのではないかしら」

結衣「ふふふ、実は今までの会話を全部ここに録音しておいたのだよ」

結衣は制服のポケットからボイスレコーダーを取り出した。

向日葵「さすが船見先輩。恐れ入りましたわ。まさに名探偵船見結衣ですわね」

結衣「そうなると古谷さんは殺人鬼古谷向日葵かな?」

向日葵「殺人鬼だなんていやらしい」

結衣「どの辺りがいやらしいんだ・・・」

向日葵「ところで船見先輩は今までの事を他の人に話されたりはしたんですの?」

結衣「まだ誰にも話してないよ」

向日葵「ということは真実を知る者は船見結衣ただ一人・・・。
    証拠もここにある・・・」ブツブツ

結衣「おい、まさか・・・」

向日葵「つまりここで船見先輩を殺して証拠も隠滅すればわたくしが捕まる事は無いということですわね!」

結衣「くっ!そうはさせるか!」

結衣は走り出した。生徒会室から逃げるために。

だがガラス張りの自動ドアが行く手を阻む。どうあがいても開かない。

向日葵「そのドアはロックしましたから開きませんわよ」

向日葵が近づいてくる。結衣はありったけの力を振り絞ってガラス戸に体当りした。

ガラスが粉々に砕け散る。これが火事場の馬鹿力というやつなのだろう。

結衣は急いで隣の部屋に。最初に入ってきたその部屋は先程とはうって変わって真っ暗だった。

暗がりの中扉を探す。

結衣「あった、あれだ!」

隙間から光が差し込んでいる。あの扉を開ければそこはもう廊下だ。

廊下に出たらすぐに職員室へ全速力で走る。職員室まで行けばもうこっちの物だ。

そんな事を考えながら扉へと急ぐ。

結衣「くそっ、暗くて移動しにくい・・・」

向日葵「ふーなーみーせーんーぱーいー」

結衣「ヒィ!捕まってたまるか!」

ようやく扉の前に着いた。向日葵との距離はまだ離れている。

結衣「良かった、これでもう大丈―――」

ドゴッ





結局、生徒会室の扉が開けられることは無かった。

<第9章>

結衣「・・・」

結衣「ん、うう、ここは・・・?」

向日葵「気がついたんですのね。おはようございますですわ」

そこはさっきまで向日葵と話していた部屋だった。結衣がぶち破ったはずの自動ドアが元通りになっている。

気づくと全身をロープでぐるぐる巻きにされていた。

結衣「おいっ、何だこれは!ロープをほどけ!」

向日葵「ほどけと言われてほどくバカがどこにいるんですの」

向日葵は優雅に紅茶を飲んでいる。

向日葵「さて、話の続きをしましょう。まだ途中だったんですのよ。なのにあなたがいきなり
    逃げ出したりするから・・・」

結衣「証拠はどこへやった?」

向日葵「あのカメラとボイスレコーダーなら焼却炉に入れておきましたわ。
    今頃は灰となって埋もれているでしょう」

結衣「私をどうするつもりだ?」

向日葵「真実を知られたからには生かしておくことはできませんの。
    といっても船見先輩はどのみち殺す予定でしたけれども。
    そっちからのこのこと生徒会室にやって来てくださって感謝致しますわ」

結衣「くそっ!」

向日葵「ところで先ほどの船見先輩の推理、なかなかお見事でしたが何箇所か曖昧な所がありましたわよ」

結衣「・・・」

向日葵「まず、あなたはまるで今までの殺人の全てが私が犯人であるかの様におっしゃいましたが、
    それは誤りです。確かに、ほとんどの人はわたくしが殺しましたわ。でもたった一人、
    わたくしが殺したのでは無い人がいますの」

結衣「えっと、どういう事かな?」

向日葵「とぼけたって無駄ですわよ。船見先輩が一番よく分かっているはずです。
    ではわたくしから申し上げましょうか」

向日葵「池田先輩を殺害したのは船見先輩、あなたですね」

結衣「!」

結衣「はは、何を言っているのかな、古谷さんは・・・」

向日葵「しらばっくれていられるのも今の内ですわよ。まあいいですわ。
    池田千歳殺害事件の全容をお話しましょう」

結衣「・・・」

向日葵「池田先輩が行方不明になった時、わたくしと杉浦先輩は今後の計画について
    生徒会室で話し合ってましたの。櫻子が残念にもお亡くなりになられたので、
    色々と計画の変更があったんですわ」

結衣(大室さんを殺したのはお前だろう・・・)ボソボソ

向日葵「何かおっしゃいましたか?」ギロ

結衣「何でもありません!」

向日葵「その時、話が誰かに聞かれてはまずいので池田先輩を見張りにつけていたんですの。
    ところが気づくと池田先輩はいなくなってしまった」

向日葵「そこでさっきの船見先輩のお話です。あなたは櫻子の葬式があった日の翌日に生徒会室に仕掛けた
    カメラを回収しに行ったと言った。そして池田先輩がいなくなったのも
    櫻子の葬式の日の翌日。これが何を意味するか分かりますか?」

結衣「さあな。私はバカだから分からん」

向日葵「やっとバカだと認めましたわね。そんなバカにも分かるように説明致しますわ。
    つまり、カメラを回収しに行った船見先輩は運悪く見張り役の池田先輩に見つかった。
    慌てたあなたは池田先輩を殴るか何かして気絶させて、今は使われていない古い倉庫に
    運び込んだ。そして殴る蹴るの暴行を加えてロープで縛り、監禁したということですわ」

向日葵「そのまま放置しておけばいずれ死ぬと思っていたのでしょう。ところが池田先輩は
    生きて発見された。これはまずい。自分がやったことがバレてしまう。
    何とかして口を封じなければ」

結衣「私の声を真似るのはよせ」

向日葵「だが幸いにも池田先輩は記憶喪失になっていた。とは言っても油断はできない。
    いつ記憶が戻るか分からないからだ」

結衣「地の文みたいな喋り方はやめろ」

千歳が見つかってから、結衣が千歳の容態をしばしば気にしていたのはそういう訳だったのだ。

――――――――――

結衣『綾乃、今日も千歳のお見舞いに行くの?』

綾乃『もちろんよ!1日でも早く良くなってほしいもの。今日は古谷さんも連れて行くわ』

結衣『じゃあさ、千歳の病状に変化があったらすぐに教えてね。たとえば記憶が戻ったとかさ』

綾乃『分かったわ』

――――――――――

そういえば結衣はやたらと千歳の記憶の事を気にかけていた。千歳が退院した時も結衣は
千歳に記憶の事をしつこく聞いている。そして・・・

向日葵「少しづつ池田先輩の記憶が戻ってきていることを知った船見先輩は、
    完全に記憶が戻る前に池田先輩を殺害することにしたんですの。
    そして手紙で公園に呼び出して殺したんですわ」

結衣「ちょっと待て。今までの話は全部妄想だ。私がやったなんて証拠はあるのか?」

向日葵「ありますわよ」

そう言って向日葵は1枚の紙を取り出した。

結衣「それは・・・」

向日葵「これは例の手紙ですわ」

手紙にはこう書いてある。

――――――――――

千歳へ

千歳の記憶が完全に戻る良い方法を思いついた。

千歳を襲った犯人のことも分かるかもしれない。

今日の夜8時頃公園に来て欲しい。

犯人にバレるといけないからこの事は誰にも言わないこと。

それからこの手紙も持参するように。

                    結衣

――――――――――

向日葵「池田先輩は記憶を取り戻したがっていました。こんな手紙をもらったら
    何の疑いも持たずにすぐに公園に行ったでしょうね」

結衣「そんな、バカな・・・」

向日葵「さあ、これが証拠ですわ!流石にもう言い逃れはできませんわね」

結衣「古谷さんがその手紙を持っているわけが無い!だってそれは千歳を殺したあとに
   奪って処分したはず!」

向日葵「ついに自白しましたわね」

結衣「あっ」

向日葵「おほほ、わたくしが何の対策もしていないとでも思いますの?
    池田先輩の双子の妹さん、千鶴さんの証言を覚えておられますか?」

結衣「えーっと、たしか千歳は出かける前に手紙のようなものを2枚見ていた・・・、って2枚!?
   そんな、私は1枚しか出してないぞ!」

向日葵「もう1枚はわたくしが出したんですの」

向日葵はもう1枚の手紙を取り出した。

――――――――――

千歳へ 追伸

犯人に盗まれても良いように、さっきの手紙をコピーしておくこと。

元の手紙とコピーした手紙は別々の所に入れて持ってくること。

この手紙は途中の道で捨てておくように

                       結衣

――――――――――

向日葵「船見先輩は池田先輩を殺害したあと、手紙を見つけて処分してこれで証拠は消えたと
    思ったんでしょうが、実はまだもう1枚残ってたんですの。
    それを船見先輩が立ち去った後でわたくしが回収したんですわ」

結衣「なんということだ・・・」

結衣「じゃ、じゃあ、私が手紙を出したのも知ってたのか?」

向日葵「ええ。わたくしは初めから船見先輩が怪しいと睨んでいたんですの。それであなたの行動を
    監視していたら池田先輩の家に手紙を入れるのを目撃したので、先ほどの手紙を入れたんですわ」

結衣「なら何で私が千歳を殺すのをとめなかったんだ。仲間だったんだろ?」

向日葵「櫻子が亡くなられたあたりから、我々のやり方に反対するようになってきて。
    そもそも池田先輩は見張り役といった雑用しかできなくて邪魔だったんですの。
    その見張り役でも船見先輩ごときにやられる体たらく。おまけに記憶喪失。
    はっきり言って足でまといでしたわ」

結衣「・・・」

向日葵「でも私が手を出すと杉浦先輩に怒られるに決まっています。それで船見先輩に
    代わりに殺してもらおうと思ったんですわ。それに・・・」

結衣「それに・・・?」

向日葵「船見先輩、今日あなたはどうして生徒会室にのこのことやってきたんですか?
    証拠があるなら先に警察に言えば良かったですのに」

結衣「そ、それは・・・」

向日葵「できなかったんですわよね。だって、詳しく調べられたら自分も捕まってしまいますものね」

結衣「うっ・・・」

向日葵「それが狙いだったんですわ。自分も殺人を犯している後ろめたさから警察に相談
    できなくさせるために池田先輩を殺すのをとめなかったんですの」

結衣の様子が時々おかしかったのは千歳を殺した為でもあったのである。

向日葵「でも証拠はしっかりもらいましたわよ。いざって時にあなたをこれで脅迫できますからね」

向日葵はそう言って例の手紙をヒラヒラとさせる。

結衣「はは、古谷さん。君は本当に悪魔のような人だね」

向日葵「ありがとうございますですわ」

結衣「だから褒めてないんだよ」

長話をしていたので時間は刻一刻と過ぎていく。

窓の外にはきれいな夕焼けが広がっていた。

向日葵「ところで船見先輩、池田先輩殺害事件の他にもう1つ解けてない事件がありますわよ」

結衣「ごらく部の放火事件のことか」

向日葵「わたくしも杉浦先輩もあんな要塞みたいなごらく部の中に入ることはできませんわ。
    わたくしたちに犯行は不可能です」

結衣「そうなんだよ。それがさっぱり分からない。一体どんなトリックを使ったんだ・・・?」

向日葵「・・・」

向日葵「船見先輩、考え方が根本的に間違ってますわ。別に何かのトリックを使ったわけではありませんの」

結衣「で、でもっ、じゃあどうやって中に・・・?」

向日葵「一人だけいるじゃありませんか。カードも持っていて、暗証番号も知っていて、
    指紋も認証されていて、自由にごらく部の中に入れる人が」

結衣「えっ?そ、それって・・・まさか・・・」

自動ドアが開く音。結衣は縛られた状態のまま慌ててそちらの方を向く。

暗闇から誰かが歩いてくる。次第に夕焼けに照らされて輪郭がはっきりとしてくる。

数秒後、結衣の目の前には見慣れた顔があった。

あかり「久しぶり、結衣ちゃん。元気そうで安心したよー」

<第10章>

結衣「元気そうだって?これのどこが元気そうなんだよ?」

縛られたまま床に転がる結衣。そんな結衣を見下すように立っているあかり。

彼女の表情はいつもの笑顔のままだ。

結衣「あかり、生きてたのか・・・」

あかり「?」

向日葵「これでお分かりになられましたわね」

結衣「ああ分かったよ。でもなぜだ?どうしてあかりがごらく部に放火なんて・・・?」

あかり「・・・」

あかりは笑みを浮かべたまま黙って結衣を見つめている。

向日葵「それを話すならこの事件の全容を始めからお話ししたほうが早いでしょう」

結衣「そんなことバラしちゃって良いのか?」

向日葵「いいんですわ。どうせ船見先輩はすぐ後でバラされるんですから」

結衣「」

外が次第に暗くなっていく。向日葵は今までの事件の全容を話し始めた。事件の動機、真相、真実。

それらがついに明かされる時が来たのだ。

向日葵「そもそもわたくし達生徒会役員がごらく部を盗撮したのは何故かお分かりになられますか?」

結衣「さあな、そんなこと知りたくもない」

向日葵「何週間か前のことですわ」

――――――――――

向日葵『赤座さん、最近部活に行ってないみたいですけどどうしたんですの?』

櫻子『そうだよ!何か元気もないし、大丈夫、あかりちゃん?』

あかり『えっとね、うん、あんまり行きたくないんだぁ』

櫻子『えっ!どうして!何かあったの!?』

あかり『うーん、その・・・』

向日葵『赤座さん、何か悩みがあるのでしたら何でも言ってくださいな。
    わたくし達が力になってあげますわよ』

櫻子『そうだよあかりちゃん!何でも言って!』

あかり『ありがとう、向日葵ちゃん、櫻子ちゃん。あのね・・・』

あかりはキョロキョロと教室を見回した。やがてちなつがいない事を確認すると、

あかり『最近はごらく部に行ってもずっと無視されるんだぁ。いつも3人が楽しそうに遊んでて、
    あかりは見てるだけ。たまに話しかけると居たんだって言われるし・・・」

向日葵『赤座さん・・・』

櫻子『あかりちゃん・・・』

あかりは話し続ける。

影が薄いだの存在感が無いだの言われて馬鹿にされてきたこと。

帰るときはもたもたしていると置いていかれてしまうので急いで帰る用意をしないといけないこと。

部の雰囲気が悪くなるのは嫌だから笑って耐えていたこと。

アニメスタッフからもひどい扱いを受けたこと。

お姉ちゃんが救いようの無い変態だということ。

そういう事とは一切関係なしに京子の事がただ生理的に無理だということ。

さらにあかりは恐るべき出来事を話し始めた。

あかり『あのね、この前ごらく部のみんなで海に行ったんだけど・・・』

櫻子『海~!?良いなぁ~!』

向日葵『ちょっと櫻子!真面目に聞きなさい』

あかり『京子ちゃんが突然スイカ割りやろうぜーって言いだしてさ。
    でもスイカが無くて・・・。そしたら京子ちゃんが・・・』

――――――――――

京子『じゃあ代わりにあかり割りやろうぜー』

ちなつ『あかり割り・・・って何ですか?』

京子『スイカの代わりにあかりを目印にして割るんだよ。首から下を砂に埋めて、
   頭だけ出してそれを割るの』

あかり『え?』

ちなつ『わぁぁ~、面白そうですね!』

結衣『おいおい、あかりなんか割って食べてもおいしくないぞ』

京子『まあまあ、やってみようぜ!』

結衣『しょうがないなぁ・・・』

あかり『あ、あの・・・』

京子『よし、じゃああかりを砂の中に埋めるんだ!』

3人はあかりの手足をロープで縛ると、身動きの取れなくなったあかりを頭だけ出して砂の中に埋めた。

あかり『ちょっと、やめてよー!だ、出してー!』ジタバタ

京子『ほらほら暴れるな、おまえはスイカなんだぞ』

あかり『うぅぅぅ、苦しい・・・』ゲホゲホ

ちなつ『ちょっと京子先輩、お団子付いてるスイカなんか見たことないですよ!(笑)』

京子『おおそうだな、切っちゃうか』

そう言うと京子は持っていたカッターナイフであかりのお団子を2つとも切断してしまった。

あかり『あかりのお団子、お団子がぁぁ!』

ちなつ『あかりちゃんノリ悪いよ』ギロ

あかり『う、うぅぅぅ・・・』グスングスン

京子『よーし、じゃあまずは私からだ!』

京子は目隠しをすると、長い木の棒を持ってスタート位置に立つ。

ちなつ『あかり割り、スタート!』

フラフラと歩く京子。その京子を手助けする結衣とちなつ。

京子『あかり、あかりはどこかな~?』

ちなつ『京子先輩もう少し左です!』

京子『こ、こうか・・・?』

結衣『違う、もうちょっと右!』

あかり『やめてよ京子ちゃん・・・、来ないで、来ないで・・・』ガクブル

京子はだんだんとあかりの所に近づいてくる。やがて・・・

ちなつ『そこです、京子先輩!』

京子『お、ここか!』

あかり『やめてーーー!』

ブンッ バコッ

あかり『ぎゃあああああ、痛い、痛いぃぃぃぃ!!』ジタバタ

京子『割れたか!?』

京子は目隠しを外す。

京子『なんだ、まだ割れてないじゃん。あかりのくせに硬いなー』

バコッ、ボコッ、バコッ、ボコッ、バキッ

京子『全然割れないなー』ブンブンブン

あかり『やめてやめてやめて!!痛い、痛い、痛いいいいいい!!頭が割れるーー!』

結衣『あかり、今すごい目立ってるぞ!良かったな!』

ちなつ『あかりちゃん、輝いてます!』

あかり『ううぅぅ、グスッ、も、もう嫌だよ、こ、こんなの・・・!』ポロポロ

京子『うおりゃーーーー』ブンブンブン

バキッ、ボゴッ、ドゴッ、グシャッ

あかり『』

京子『あれ、気絶しちゃった?』

ちなつ『もぉー、だらしないですね、あかりちゃんは』

結衣『しょうがないなぁ、ホテルの部屋まで運んでやるか』

京子『気絶しやがって、あかりつまんねー』

ちなつ『結衣先輩、あかりちゃんなんか放っといて3人で泳ぎましょうよ!』

結衣『それもそうだな!』

3人はそのまま目の前に広がる広大な海に向かって駆け出していった。西日が眩しかった。

――――――――――

あかり『――――っていう事があって・・・』

櫻子『うわ・・・』

向日葵『最低、ですわね・・・』

櫻子『なんか、さっきの話聞いて私ちなつちゃんと友達続けられる自信が無くなった・・・』

向日葵『わたくしもですわ、吉川さんのこと激しく軽蔑しますわ。同じクラスにこんな人がいるなんて、
    考えただけでもめまいがしますわね』

櫻子『私、先輩2人のことも苦手になっちゃったかも・・・』

向日葵『当然ですわ。許せるわけ無いでしょう。もう殺すしかありませんわね』

あかり『え?』

向日葵『い、いや、何でもありませんわ、おほほ』

櫻子『それであかりちゃん無事だったの!?』

あかり『う、うん。京子ちゃんたちには忘れられちゃったんだけど、他の観光客の人が助けてくれて・・・。
    それで病院に運ばれたんだけど、大事には至らなかったから駆けつけてくれたお姉ちゃんと一緒に
    家に帰ったんだよぉ』

向日葵『そうだったんですの・・・。大事に至らなくて本当に良かったですわ』

櫻子『お団子は大丈夫だったの?』

あかり『あぁ、あれは大量生産されてるから大丈夫だよ。また新しいの買えば良いし』

向日葵(赤座さんのお団子って大量生産されてたんですの、知らなかったですわ・・・)

櫻子『それにしてもあの3人本当に酷いね』

あかり『今までは笑ってごまかしてたけど、ずっと辛かったんだよぉ・・・』グスッ

向日葵『さぞかし辛かったですわね・・・』

向日葵があかりの背中をさすってあげる。

あかり『もう、あんな部活行きたくないよ』

櫻子『それでいいよあかりちゃん!私前から思ってたんだけどごらく部のみんなって
   あかりちゃんの扱いが酷いよ!こんなに良い子なのにさ!』

あかり『櫻子ちゃん、ありがとう』

向日葵『でもこのまま放っておく訳にはいきませんわね。これはれっきとしたいじめです。
    生徒会役員としてしっかり取り締まらないといけませんわ』

あかり『取り締まるってどうやって・・・?』

向日葵『そうですわねぇ、ちょっと赤座さんはここで待っててくださりません?
    わたくし今から櫻子と2人で話をしてきますので』

あかり『うん、分かったよぉ』

向日葵は櫻子を連れて廊下に出ると、人気がない場所に移動した。そして櫻子に計画を話し始める。

向日葵『とりあえず実態を確かめないといけませんわね。ごらく部にカメラを仕掛けて
    いじめの様子を盗撮するんですの』

櫻子『盗撮って犯罪じゃないのかー!』

向日葵『黙りなさい櫻子。私の計画に逆らう人は容赦なく殺しますわ』

櫻子『しょうがないなー』

向日葵『それでこの計画のことは赤座さんには内緒にしておきたいんですの』

櫻子『どうしてだよ!』

向日葵『この計画のためには赤座さんには悪いですがまたごらく部に顔を出してもらって、
    普段通りに過ごしてもらう必要があります。なのにカメラが仕掛けられているって
    知ってたらどうしても意識してしまいますでしょう?』

櫻子『それもそうだなー』

向日葵『大丈夫ですわ、いずれ赤座さんにはカメラのことをお伝えしますし、
    証拠が固まり次第、生徒会が機動隊を派遣してあの3人を拘束することにしますので』

あかりの所に戻ってきた2人。

向日葵『赤座さん、辛いとは思いますがしばらく部活に顔を出して頂けません?
    いつも通りに過ごしてもらえれば良いので。でも安心してくださいな、
    我々生徒会がしっかり赤座さんをお守りするのでお任せください』

あかり『うん、分かったよぉ』

櫻子『あかりちゃん、私も協力するぞ!』

あかり『ありがとう、櫻子ちゃん、向日葵ちゃん』

――――――――――

向日葵「それで生徒会役員によるごらく部監視作戦が始まったんですわ。この計画を話したときの
    杉浦先輩のセリフをお聞かせしましょう。
   『と、ととと歳納京子を盗撮、歳納京子を盗撮・・・ハァハァ』」

結衣「なるほどな、そういうことだったのか」

向日葵「なるほどな、ではありませんわ。赤座さんはずっと苦しんでましたのよ」

結衣「苦しんでるなんて知らなかった。あれはその場のノリで・・・」

向日葵「その場のノリといえば許されるんですか?見苦しいですわね」

結衣「わ、私は何も悪くない!あかりをいじりだしたのは京子が最初だ!京子が悪いんだ!」

向日葵「アッカリーンという言葉を作ったのは船見先輩だと聞きましたが」

結衣「そ、それは・・・」

向日葵「赤座さん言ってましたわよ。船見先輩が一番無視してくるって」

結衣「・・・」

結衣「ところで、あかりはいつカメラのことを知ったんだ?」

向日葵「天井裏の隠しスペースが発見された後くらいでしたわ。もう証拠も集まったので良いだろうと」

結衣「そうか、あの頃からあかりがごらく部に来なくなったり、
   生徒会に出入りしてるらしいって噂が流れ出したのはそういうわけだったのか。
   そういえばちなつちゃんがあかりが古谷さんや大室さんとすごく仲良くなったって
   言ってたのもあの頃だったな」

こうして無事(途中でカメラが見つかるトラブルはあったが)ごらく部の盗撮に成功した
向日葵ら幹部はごらく部に機動隊を派遣する手配を進めていた。

ところがそんな矢先、ごらく部が要塞化してしまい、機動隊の突入が不可能になってしまう。

そこで一人づつ殺害する計画に変え、まず隙だらけのちなつを殺害。
その後千歳が死んだことで京子と綾乃の仲が急接近。
それを快く思っていない結衣を見てチャンスだと思った向日葵は・・・

結衣「それでごらく部を燃やしたのか」
    
あかり「ごめんね結衣ちゃん。あの場所には辛い思い出しかないから」

結衣「くっ」

向日葵「まあ放火を指示したのはわたくしですけどね♪」

向日葵の計画はこうだった。

唯一ごらく部内に入れるあかりに命令してごらく部を放火。
そうすることで結衣と綾乃の仲を悪化させる。
次に綾乃を殺害。だれもが結衣が怪しいと思うだろう。それが狙いだった。

結衣「仲間でも簡単に殺すんだな」

向日葵「意見の不一致ですわ。わたくしが歳納先輩も殺すべきだと主張すると杉浦先輩は
    頑なに反対しますの。だからもう死んでもらうしかないでしょう?」

結衣「君はもっと柔軟な頭を持ったほうがいいと思うな」

向日葵「うるせーですわ」

こうして学校中から疑いの目で見られ、いじめられるようになった結衣。
向日葵はそんな結衣を慰めるふりをしながら京子と結衣に接近し、京子を殺すタイミングを伺う。

そしてライフルを手に入れると同時についに結衣のマンションを襲撃したのだった。

結衣「全く・・・。君の計画性の高さにはほとほと呆れるよ。
   古谷さんが犯罪のプロなのは認める。だがその能力をもっと別の事に使うべきじゃないかな」

向日葵「何で上から目線なんですの?余計なお世話ですわ」

結衣「もしかして私をいじめてた奴らも古谷さんの仲間なのか?」

向日葵「仲間というか雇われ兵ですわね。お金をあげて船見先輩をいじめるように頼んだんですの」

結衣「あかりが最近ごらく部に来なくなったのも私たちのせいってことか」

向日葵「ええそうですわ。前も言いましたが赤座さんには生徒会の仕事を手伝ってもらってましたの。
    赤座さん、わたくしと一緒の方がごらく部より楽しいって言ってくださったんですのよ」

向日葵「赤座さんはもう完全にわたくしの味方ですわ。ごらく部を放火して欲しいと頼んだら
    あっさりと引き受けてくださいましたし」

結衣「・・・」

向日葵「ところで船見先輩はどうして物語の途中から赤座さんのことを忘れられたんですか?
    歳納先輩との会話の中にも全然出てこなくなったじゃないですの」

結衣「物語とか言うなよ。ってか会話って、盗み聞きしてたのか!?」

向日葵「そんな悪趣味なことはしませんわ。これをご覧なさい」

向日葵が取り出したのは結衣の通学カバンだった。

さっき結衣が気絶していた間に奪っておいたのだ。

向日葵はカバンの内ポケットの中から小型の機械を取り出す。

向日葵「さて問題です。これは何でしょう?」

結衣「盗聴器だな。こっちの方がよっぽど悪趣味じゃないか」

向日葵「大正解ですわ。船見先輩ときたら、全然気づかないんですもの。おほほ」

結衣「いつ仕掛けたんだ?」

向日葵「池田先輩が倉庫で発見されたときのことを覚えてらっしゃいますか?
    船見先輩と歳納先輩が教室でドミノ倒しをしていた時ですわ」

結衣「ああ覚えてるよ。たしか綾乃が走ってきたから全部倒れちゃったんだったな」

向日葵「その後どうなさいましたか?」

結衣「えっと、急いでたからドミノも荷物もそのままにして千歳の所へ・・・、ってまさかその時に?」

向日葵「もちろんですわ。いろいろと聞かせてもらいましたわよ。船見先輩と歳納先輩の
    ドロドロした関係とか」

そう言うと向日葵は盗聴器を再生させる。

――――――――――

京子『ちなつちゃんが殺されて、この上結衣まで私の前からいなくなったら・・・
   もう私生きていけない!』グスッ

結衣『京子・・・』

京子『だから、何かあったら何でも言って!2人でこの試練を乗り越えていこうよ!』

結衣『京子・・・、京子~~~~!』ダキッ

京子『よしよし結衣、辛かったね。これからは綾乃よりも結衣を優先するから。
   だから泣かないで。この京子様が絶対に結衣を守ってあげるからね』

結衣『うわぁぁぁん!』

――――――――――

向日葵「はっきり言ってキモいですわ」

結衣「」

向日葵「まあそれはこの際置いておきましょう。それより問題なのはこの会話の中に
    赤座さんの名前が一度も出てこないことですわ。2人でってどういうことですの?
    赤座さんは友達じゃなかったんですか?」

結衣「いや、違うんだ・・・」

向日葵「何が違うんですの?赤座さん、これを聞いて悲しんでおられましたわよ」

――――――――――

向日葵『お聞きになられましたか?つまりはこういう事ですわ』

あかり『・・・』

――――――――――

結衣「実は、あかりはもう死んだと思っていて・・・」

向日葵「は?」

結衣「短い間に次々人が殺されただろ!だからてっきりあかりも死んだものと思い込んでたんだよ!」

向日葵「あの時点ではまだ櫻子と吉川さんしか殺されてませんでしたが」

結衣「ぐっ・・・。しょうがないだろ!ただでさえあかりは存在感がないんだから!」

あかり「酷いよ結衣ちゃん!」

向日葵「最低ですわね、いや人間のクズですわね」

結衣「はっ、5人も殺した人にクズなんて言われたくないね」

向日葵「今から6人になりますわ」

<第11章>

向日葵は窓の外に目をやる。もう外は真っ暗だ。とっくに下校時刻も過ぎてしまっている。

向日葵「さあもういい加減長話はいいでしょう。視聴者も飽きてしまうでしょうし」

結衣「視聴者ってなんだよ」

向日葵「真相もだいたい語り終えましたし、ではパパッと船見先輩を殺しますか」

結衣「軽っ」

向日葵「どうやって殺そっかな~♪」

結衣「ふっ、まさか私の命もここまでとはな。こんな腐れおっぱいに殺される日が来るなんて」

向日葵「は?今なんて?」

結衣「腐れおっぱいと言ったんだ!中1のくせにそんなでかい胸しやがって、腐敗してんじゃねーの?」

向日葵「殺されるとなったら急に開き直りましたわ。あなたそんなキャラじゃ無かったでしょう」

結衣「黙れ!どうせ殺されるんだ!言いたいこと言ってやらぁ!」

あかり「結衣ちゃん怖いよぉ・・・」

結衣「ったくそれにしても何がゆるゆりだ!もはや全然ゆるく無いじゃないか!」

向日葵「そんなの最初から分かってた事でしょう?このSSのタイトルを見なさいな。
    どう見てもゆるくないじゃないですの」

結衣「私は京子とゆりゆりしていればそれで良かったんだ!なんでこんな目に・・・」

向日葵「あなたが悪いんじゃないですの。赤座さんをいじめたりするから・・・」

あかり「そうだよ結衣ちゃん。あかり、毎日夜ベッドで泣いてたんだよ?
    みんなに馬鹿にされて、不憫な子とか言われて、あかり辛かったんだから・・・!」

結衣「あぁもううるさいな・・・。そういうのマジうざい」

向日葵「ちょっと船見先輩なんてことを!」

結衣「あ?もう1回言ってやろうか?あかり、お前うざいんだよ。被害者ぶりやがって。
   何の特徴もないくせに偉そうだよな。マジで前から大嫌いだったんだよ。
   頼むから死んでくれないかな?」

向日葵「船見先輩、それ以上言うと富山湾に沈めますわよ!」

結衣「沈めれるもんなら沈めてみやがれこの胸部メタボ!」

あかり「そんな、結衣ちゃん・・・。酷い、酷いよ・・・。ううう、えぐ、ひっく」ポロポロ

結衣「ほらほらそういうとこ。何可愛い子アピールしちゃってんの?」

あかり「そんなつもりじゃ・・・」グスッ

結衣「あかりのそういうとこが嫌いなんだ。部室で遊んでる時もみんなで遊びに行った時も
   ずっとイライラしてたんだぞ!あかりの存在がうざくてうざくて・・・」

向日葵「よかったですわね赤座さん!船見先輩にとっては存在感抜群みたいですわよ!」

結衣「どれだけプラス思考なんだよこのアマ」

向日葵「いい加減黙りなさいですわ」ボゴッ

結衣「ぐはぁぁぁぁぁぁ!」

向日葵にお腹を蹴り上げられて痛みに悶絶する結衣。

縛り付けられているのでお腹をさすってやることもできない。

じたばたする結衣を尻目に向日葵はあかりのもとに駆け寄る。

向日葵「大丈夫ですか赤座さん?」

あかり「うぅ、向日葵ちゃーん!」ダキッ

向日葵「え、ちょっと赤座さん!?///」

あかり「結衣ちゃんが、結衣ちゃんが、あかりのことそんな風に思ってたなんて・・・!」

向日葵「よしよし。大丈夫ですわ赤座さん。わたくしがついていますから。
    今から憎っき船見先輩を地獄へ連れて行ってあげましょうね」

再び結衣の所へ戻る向日葵。

ようやく痛みが引いてきてぐったりとしている結衣のお腹を再度蹴り上げる。

結衣「ぐはぁぁぁ!まただーー」

向日葵「もう許しませんわ。あなたにはとっておきの殺し方を用意してあげますの。
    しばらく待っててくださいな」

そう言うと向日葵は今までとは別の自動ドアの向こうに消えていった。

結衣(あっちにも自動ドアがあったのか。それに向こうにももう1つドアがある。
って事はこの部屋の出入り口は全部で3箇所だな)

何やら考え込む結衣。あかりはまだ泣き止まない。

しばらくして向日葵が戻ってきた。

向日葵「これでOKですわ。準備に少し時間がかかるのでこの部屋で待っておきましょう」

結衣「準備って何の準備なんだ?」

向日葵「後のお楽しみですわ」

刻々と時間は過ぎていく。今は何時だろう?

そう思って辺りを見回したのだが残念ながら結衣の場所からは時計が見えない。

あかりと向日葵はクッキーを食べ、紅茶を飲みながら雑談に花を咲かせている。

結衣(くそー、早く逃げ出さないと。7時から見たい番組があるんだ。あれを見ないと死んでしまう)

結衣「なぁ、あかり」ボソボソ

あかり「何?」

結衣「あのドアはどこに繋がってるんだ?」

そう言って結衣が指さしたのは部屋の端にひっそりと存在する赤いドアである。
最初の部屋とつながっているドア、先程向日葵が消えていった部屋へのドアとは違う、3つ目のドアだ。

あかり「そんなの知らないよ」プイ

結衣(ちっ、この役立たずめ)

向日葵「それにしても本当に見損ないましたわ、船見先輩」

結衣「あ?」

向日葵「船見先輩が赤座さんの事をそんな風に思っていたなんて・・・。
    さっきのは本心なんですの?」

結衣「ああそうだ。実を言うとそもそも私にとってごらく部は京子と2人っきりで
   ゆりゆりするための場所だったんだ。なのに京子があかりも入部させるとか言うから・・・」

向日葵「そういえば原作1巻の最初で赤座さんが入部したとき、
    『騒がしいのは京子一人で充分なのに・・・』って言ってましたわね」

結衣「1巻ってなんの事だよ」

向日葵「なるほど、最初から赤座さんの入部を嫌がってたんですね・・・」

結衣「そんな事より今何時?」

向日葵「8時前ですが」

結衣「何だって!?見たい番組が終わっちゃうじゃないか!どうしてくれるんだ!」ジタバタ

向日葵「ほんと目障りですわ」ドゴッ

結衣「うっ!」

向日葵が結衣の首を力いっぱい踏みつけると、結衣は一瞬で気を失った。

あかり「・・ぃちゃん・・、結衣・・ん、結・・ちゃん!」

結衣(ん?あかりの声・・・。そっか、今までのは全部夢だったんだ。
   これからまたいつもの学校生活が始まるんだな・・・。平和な日常が・・・)

あかり「結衣ちゃん起きて!」

結衣「え?」

結衣の目に飛び込んできたのは、自室のテレビでも、ごらく部の茶室でも無く、
さっきまでいた生徒会室の不気味な天井だった。

結衣(はは、そりゃそうか。夢なわけがないよな・・・)

向日葵「ったく、いつまで寝てるんですの?まあいいですわ、準備も出来たようですし。
    さあ運びますわよ、赤座さんそっち側お願いしますわ」

あかり「分かったよぉ」

気づくと担架の上に乗せられている。向日葵とあかりが片方づつを持ち、結衣を運ぶ。

そして結衣はなにより驚くべきことに気がついた。

結衣「おい、ちょっと待て!なんで私裸なんだよ!?」

向日葵「気絶している間に脱がせたんですの。もちろんロープは一旦ほどいて、
    服を脱がせてからもう1回縛りましたから安心してくださいな」

結衣「何を安心しろと言うんだ」

向日葵「おほほ、真っ裸で全身をロープで縛り付けられている船見先輩、なんだかエロいですわ」

結衣「・・・」

あかり「結衣ちゃんって結構ジャングルなんだねぇ」

結衣「おいあかり、何見てんだ!?」

そうやって楽しくおしゃべりしながら、3人は例の自動ドアの中に入っていく。

結衣「どこへ連れて行く気だ?」

向日葵はそれには答えない。ドアの向こうはただひたすら階段が続いていた。

下り階段である。暗闇の中をゆっくりと降りていく。

担架を持ちながらなので一段降りるのも一苦労だ。それゆえ時間がかかる。

いつまでたっても底には到着しない。まるで地の底まで続いているかのようだ。

結衣は生徒会室の中にこんな場所があったなんてと内心びっくりしていた。

結衣(生徒会という組織は前から怪しいと思っていたが、学校内にこんな階段を作るとは
   やはり狂ってやがる)

かなり長い時間歩いただろうか。ようやく扉にたどり着いた。向日葵が暗証番号を入力すると扉が開く。

向日葵「さあ、着きましたわよ」

中はものすごく暑い。熱気がこもっている。その原因は中央に置かれている熱湯風呂だった。

結衣「ここは一体なんなんだ?」

向日葵「生徒会の地下室ですわ。この部屋は七森中の校舎が立っている所のちょうど真下にあるんですのよ。
    もともとは戦時中に掘られた防空壕なんですの。富山大空襲の時なんかは多くの人が
    ここに避難したみたいですわね」

結衣「戦争は良くないよな」

向日葵「わたくしたちが言えた口ではありませんけどね」

向日葵「そして戦後七森中の生徒会長になった人が、この場所を改装して生徒会の監禁施設にしたんですの。
    生徒会に逆らう生徒を片っ端から捉えてここに監禁して、残酷な拷問が繰り返されたそうですわ」

結衣「なんと」

向日葵「そうして今の代まで引き継がれているというわけですのよ。わたくしも生徒会に入った時に
    初めてこの話を杉浦先輩から聞いたときは驚きましたわ。この話を知っているのは
    生徒会役員だけですの。教職員だって知りませんわ」

結衣「まさか生徒会にそんな秘密があったなんて・・・」

向日葵「驚いたでしょう?」

結衣「ああ。だがその熱湯風呂は何なんだ?」

向日葵「ああこれですか?今から船見先輩はこの中に入っていただきますの」

結衣「は?」

向日葵「は?じゃありませんわ。そのために準備したんですのよ」

結衣「準備ってこの熱湯風呂のことだったのか?」

向日葵「ええそうですわ。こんな大きな浴槽に熱湯を溜めるのには時間がかかりますでしょう?
    だからさっきの部屋で待ってましたの」

結衣「そういう事だったのか」

向日葵「でも安心してくださいですわ。杉浦先輩のように溺死させるなんてことはありませんから。
    わたくし人を殺すときは全員違う方法で殺すと決めてますの。死因が被らないように
    するんですのよ。それがわたくしのモットーですわ」

結衣「狂気の沙汰じゃないか」

櫻子は弓矢、ちなつは毒殺、綾乃は溺死、りせは窒息死、京子は銃殺。

なるほど、向日葵の言うように確かに全員殺し方が異なっている。

千歳を殺したのは結衣だからノーカウントだ。

あかり「向日葵ちゃん、もうあかり疲れたよぉ」

向日葵とあかりはずっと結衣の乗った担架を持ち続けていたのだ。

向日葵「あらそうですわね。では船見先輩を熱湯に投げ入れますわよ」

向日葵とあかりは担架を熱湯風呂の近くまで近づけた。

結衣「おい、本当にやるつもりか!?やめろ、やめてくれ!なぁあかり、頼む助けてくれ!」

あかりは無言のまま、結衣と目を合わせようともしない。

向日葵「この期に及んで赤座さんに助けを求めるなんて、哀れにも程がありますわ」

向日葵「行きますわよ、赤座さん!せーのっ!」

向日葵とあかりは担架を熱湯に向けて思いっきり傾けた。

結衣は縛られた状態のままなすすべもなく担架からずり落ち、

ザブーン

結衣「あ、熱い!熱い!! 熱い!!!ぎゃぁぁぁ!」バシャバシャ

向日葵「赤座さん離れなさい!」

熱湯がかからないよう距離を取る。

結衣「熱い、死ぬ!死んじゃうーーーー!」バシャバシャ

向日葵とあかりは熱湯がかかってもいいように防護服を装着した。

結衣「ぐああああああああ!!」

向日葵「おほほほ、いい気味ですわ。その熱湯は約90度ですの。
    絶対温度で言えば約363Kですわね」

結衣「絶対温度で言わなくていいから助けてくれ~!!うっ、ゲホゲホ!」

向日葵「本当に最高ですわ。赤座さんとわたくしは勝利者ですわね。
    あ~カツカレーが食べたいですわ」

結衣「あっぷあっぷ、カツ丼じゃないのかよ!ゲホゲホ」

向日葵「カツ丼はあのお椀の形がわたくしの大きなおっぱいを連想させるので恥ずかしくなってしまいますの」

結衣「うわ、こいつ自慢しだしたぞ。ゲホゲホ」

結衣はロープできつく縛られているため熱湯風呂から抜け出すなんてことは不可能だった。

結衣「熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!うわぁぁぁぁぁぁぁ!」ジューーーー

結衣「うっ、うぅぅ」ブクブク

さっきまで盛んに暴れていた結衣がとたんにおとなしくなる。

向日葵「はっ!」

あかりと一緒にクッキーを食べながら結衣の様子を見ていた向日葵は急いで結衣を熱湯風呂から引きずり出す。

向日葵「しっかりしなさい船見先輩!」パチン

向日葵が結衣の頬っぺたを引っぱたくと結衣は意識を取り戻す。

結衣「え、古谷さんどうして・・・?」

向日葵「あなた溺死しそうになってましたわよ。危なかったですわ。
    このままだと杉浦先輩と同じ死因になるところでした」

結衣「もうそれでいい。それでいいから私を殺してくれ・・・」

向日葵「そうはいきませんわ。みんなが同じ死に方だと面白くないじゃないですの」

そう言うと向日葵は再び結衣を熱湯風呂に突き落とした。

結衣「ぐわあああああ、熱い、熱いよーーー!!」

そして向日葵は防護服を着たまま熱湯風呂に入ると結衣のお尻と頭を持って熱湯の中に無理やり押し込んだ。

結衣「ぐはぁぁごぼぼぼぼ、ぶくぶくぶくぶく」

10秒ほど経つと今度は結衣の頭を熱湯から引き出させる。

結衣「うぐっ、ゲホゲホ、ゴホッ」

向日葵「おほほほほ、溺死はさせませんわよ!」

そして再び頭を無理やり熱湯に押し込む。それを何度も何度も繰り返した。

見る見る内に結衣の皮膚はただれ、顔はうつろになり、力を失っていく。

結衣「あつい、あついよー。うぅぅぅぅ、ゲホゲホ」

向日葵「おほほほほ。笑われればいいと思いますわ」

結衣「あぁぁ、死ぬ前に・・・、ゲホッ、一度でいいから・・・、ゲホッ、
   北陸新幹線に乗ってみたかった・・・・・・」

向日葵「おほほほほほほ」

結衣「」

そしてついに、結衣のすべての動きがストップした。向日葵が結衣を熱湯風呂から引き上げる。

結衣の胸元に耳を近づける。心臓の音は聞こえない。

向日葵「ふぅーー。ようやく死にましたわね。死因は全身火傷によるショック死ってところかしら。
    また新しい死因を作れて良かったですわ」

結衣の全身は焼けただれ、内蔵が見えている箇所もあった。
顔も変形していてもはや原型をとどめていない。

知り合いが見てもまさかこれが結衣だとは気づかないだろうと思うまでに結衣の死体は無残な姿だった。

あかり「向日葵ちゃん、この結衣ちゃんの死体どうするの?」

向日葵「そうですわね・・・。今日はもう疲れましたしとりあえずそこの冷凍庫の中にでも入れておきましょう。
    それよりもう夜も遅いですわ。早く帰らないと親御さんが心配なさいますわよ。
    今日はもう帰りましょう」

あかり「そうだね。あかりいろいろあって疲れちゃった」フアァァ

向日葵「ふふ、赤座さん可愛いですわね。さあ、一緒に帰りましょう」

あかり「うん!」

向日葵とあかりは結衣の死体を近くにあった冷凍庫の中に放り込み、地下室を出てロックした。

そして、あの長い階段を今度は登り始める。

向日葵「赤座さん、足元が暗いから気を付けてくださいですわ」

あかり「うん分かった。向日葵ちゃん優しいねぇ」

向日葵「なっ!そ、そんな事ないですわよ・・・///」

無事地上に戻ってきた2人。生徒会室を施錠し、何事もなかったかのように学校から出る。

途中昇降口の所で教員に見つかり、こんな時間まで何をしているのだと聞かれたが、
生徒会の仕事だというとあっさり通してくれた。生徒会の権力は絶大なのである。

帰り道

向日葵「それにしても今日は長い1日でしたわ」

あかり「もう9時半だよぉ。あかりいつも9時に寝てるから、すごく眠い」

向日葵「夕食もまだでしたわね。お腹はすいてますの?」

あかり「ずっと向日葵ちゃんが作ってくれたクッキーを食べてたからそんなにすいてないよぉ。
    向日葵ちゃんのクッキーすごく美味しいね!」

向日葵「え?そ、そんなこと無いですわ・・・///」カァッ

向日葵(赤座さんに褒められましたわよ・・・!///)

向日葵「そういえば大丈夫でしたか赤座さん?船見先輩が死ぬところなんか見て気分が悪くなったり
    しませんでしたの?」

あかり「平気だよ。あかりの事あんな悪く言う奴なんか死んで当然だよ」

向日葵「ふふ、そうですわね」

交差点に出る。ここからはあかりと向日葵の家は別方向だ。

向日葵「では、わたくしはこちらですので」

あかり「うん、バイバイ向日葵ちゃん!」

向日葵「また明日ですわ、おやすみなさい」

あかり「あっ、そうだ!」

向日葵「どうしたんですの?」

あかり「あかりすっかり忘れてたんだけど今日京子ちゃんのお通夜があったんだよね」

向日葵「そうだったんですの?でももう9時半ですから終わってるでしょう」

あかり「そうだよね、明日は葬式があるんだけどどうする?行ってみる?」

向日葵「そうですわねぇ、面白そうですから行ってみましょうか」

あかり「じゃあまた明日、葬式会場で!」

向日葵「おやすみなさいですわ」

あかり「おやすみ~~☆」

???「・・・」

<第12章>

翌日 京子の葬式会場

わいわいがやがや

向日葵「赤座さーん、こっちですわ~」

あかり「向日葵ちゃんおはよう、すごい人だね」

向日葵「本当に賑わってますわね。赤座さんご覧なさい、マスコミ関係者が大勢来てますわよ」

あかり「本当だ~、すご~い!」

向日葵の言うとおり、会場は多くのマスコミ関係者で溢れていた。
中には海の向こうからはるばるやってきたイギリスのBBCやアメリカのABCのTVスタッフまでいた。

あかりが他の一角を見てみると、カメラを持った人たちが一箇所に集まって写真を撮っている。

あかり「ねえねえあの人たちは何やってるの?」

向日葵「あの人たちはミラクるんのコスプレをしている人を撮影してるんですの」

あかり「そっか~、京子ちゃんミラクるん好きだったもんね~」

さらにあかりが辺りを見回すと、何やら長い行列が出来ている場所が。

あかり「あの行列は?」

向日葵「えーっと、あそこで生前の歳納先輩が描いたミラクるんの同人誌の販売をやっているみたいですわ」

京子の葬式のパンフレットを見ながら答える向日葵。

あかり「そうなんだ!向日葵ちゃん、買いに行っても良い?」

向日葵「良いですわよ。はぐれるといけませんから一緒に行きましょう」

人ごみをかいくぐりながら行列までたどり着き、並んで待っていると何やら会場の入口が騒がしくなってきた。

向日葵「富山県知事が到着したみたいですわ」

知事は殺到するマスコミ陣をかわしながらVIPルームに入っていった。

あかり「知事まで来るなんて、京子ちゃんはすごいんだなぁ」

やがて無事に同人誌を買い終わった2人。

あかり「葬式の途中で読もーっと」

向日葵「そうだ赤座さん、記念撮影しましょうよ!」

そう言うと向日葵はあかりを連れて「歳納家葬儀式場」と書かれた看板の前へ。

そして近くにいる人にカメラを渡し、写真を撮ってもらった。

観光客「じゃあ撮りますよー、はい、チーズ!」パシャ

写真を撮り終わると、またメイン会場に戻ってくる。

メイン会場ではミラクるんのアニメ主題歌が流れていた。

あかり「ねえ向日葵ちゃん、さっきから気になってたんだけど向日葵ちゃんが持ってるその紙、なに?」

向日葵「これですか?この葬式のパンフレットですわ。式のスケジュールやどこでどんなイベントをやってるか
    とか色々書いてあるんですのよ」

あかり「見せて見せて!」

あかりはパンフレットを手に入れた!

あかり「へぇ~、あっちのホールで『劇場版ミラクるん7』の完成試写会をやってるんだって~。
    行ってみたいなぁ~」

向日葵「でももうすぐ葬式のメインステージが始まりますわよ、また今度にしましょう」

あかり「そうだね~」

葬儀中

僧侶たちによるパフォーマンスが終わった後、会場では県知事が熱弁をふるっていた。

富山県知事「偉大なる歳納京子殿の死は富山県にとって、・・・うんたらかんたら」

あかり(ふわあぁぁ、眠いなぁ。知事の話っていつも長いんだよね。買った同人誌も読み終わっちゃったし、
    暇だなぁ・・・)

あかりがふと隣に座っている向日葵に目をやると、何やら一心に携帯をいじくっている。

あかり「向日葵ちゃん何してるの?」

向日葵「暇なのでブログを更新してるんですの」

あかり「向日葵ちゃんブログやってたんだ、見せて~!」

向日葵「良いですわよ、はい」

向日葵の今日のブログはタイトルが「歳納先輩の葬式に行ってきました~♪」となっていて、
さっき撮ったあかりと向日葵の2ショット写真がUPされていた。

あかり「この写真、よく撮れてるね!」

向日葵「赤座さんの笑顔、素敵ですわ」

そして以下のように本文が続いていた。

「今日は歳納先輩の葬式に行ってきました!赤座さんと一緒に同人誌を買ったり、記念撮影をしたり、
 とっても楽しかったです!もっと赤座さんと一緒にいたいな~♪」

あかり「えっ、一緒にって・・・」

向日葵(はっ、しまったですわ!)

向日葵はあかりの手から携帯をひったくる。

向日葵「ふ、深い意味はありませんの、気にしないでくださいですわ///」

あかり「ううん、あかり嬉しいよ、ありがとう」ニコ

向日葵の顔は真っ赤だった。

その後特に死人も出ることなく無事に葬式は終了。

しかしまだ時間があったので、会場をいろいろ回って遊んだ。

向日葵「誰も死なずに無事に葬式が終わって良かったですわね」

あかり「本当だねー」

そして帰りにアニメイト富山店に寄ってウィンドウショッピングをしてから家路についた。

向日葵「今日は本当に楽しかったですわ」

あかり「あかりも楽しかったよ~」

向日葵「それでは、また明日、学校でお会いしましょう」

あかり「うん、バイバーイ!」

向日葵「帰り道には気を付けてくださいね。家に帰るまでが葬式ですわよ」

あかり「うん、分かったよぉ」

向日葵は幸せであった。

翌日の学校 あかりの教室

あかり「向日葵ちゃんおはよう~!」

向日葵「おはようございますですわ、赤座さん。昨日はよく眠れましたの?」

あかり「もうぐっすりだよぉ。よっぽど疲れてたみたい」

向日葵「そう、良かったですわね」

わいわいがやがや

ガラッ

教師「はーい静かに~。朝のホームルームを始めるぞ~」

教師「えー、2日前から2年の船見が行方不明みたいだ~。何か知っている人がいたら
   先生まで言うように~。それにしても最近は殺人が流行ってるな~。
   うちのクラスでも2人殺されたし、2年のあるクラスでは3人も殺されたらしい。
   みんなも気をつけろよ~」

生徒たち「えー、またなのー!船見先輩までー?って船見先輩ってだれ~?」ざわざわ

あかり「・・・」

授業中

教師「えー、脊髄とは脊柱管の中にある柔らかい白色の器官であり、長い円柱状でその太さは
   小指ほどである。上は環椎と後頭骨との境で延髄に移行し、下は第1~2腰椎の高さで・・・」

あかり(ふわぁぁ。解剖学の授業は退屈だよぉ。でも向日葵ちゃんはすごく熱心にノートとってるねぇ)

トントン

あかり(ねえねえ向日葵ちゃん)ボソボソ

向日葵(何ですの?今授業中ですわよ)

あかり(今日の放課後あかりの家に来ない?)

向日葵(えっ、どうしたんですの急に?)

あかり(あかり前から向日葵ちゃんと家で遊びたかったんだぁ。良いでしょ?)

向日葵「もちろんですわ!」ガタッ

あかり「わっ」

教師「おい古谷、うるさいぞ。死にたいのか」

向日葵「今のわたくしの頭の中は授業の邪魔をして申し訳ないという気持ちでいっぱいですわ」

教師「分かれば良いんだ。君は真面目に授業を受けてくれているからな。今のは大目に見てあげよう」

向日葵「今のわたくしの頭の中はあなたの寛大さへの感謝の気持ちでいっぱいですわ」

教師「では授業に戻るぞ。この図は脳幹の内部を表したものであるが、ここで重要なのは神経核で・・・」

向日葵(キャー、赤座さんの家に招待されてしまいましたわ///向日葵ちゃん大勝利ー!)

そして待ちに待った放課後がやってきた。

あかりと向日葵は一緒に下校し、そのままあかりの家まで直行する。

あかり「着いたよー。さあ上がって上がって」

向日葵「お邪魔しますですわ」

あかり「あっそうだ、靴は玄関で脱いでね」

向日葵「わたくし帰国子女じゃありませんの」

あかり「あれ、まだ誰も帰って来てないみたい」

向日葵(何ですとぉぉぉぉ!ということは、ということは、赤座さんと2人っきり・・・!?)

あかりの部屋に到着。

あかり「ちょっと待っててね、お菓子とか飲み物用意してくるから」

向日葵「お構いなく」

あかりは部屋から出ていった。すると次の瞬間!

向日葵「ああああ、これが赤座さんの部屋、なんて可愛らしいんですの!」

ベッドに飛び込み、布団のにおいを嗅ぐ。

向日葵「あぁぁ、赤座さんの香り・・・。最高ですわ・・・」

次にベッドから降りてクローゼットを漁る。

向日葵「赤座さんの下着、下着はどこにあるんですの?ハァハァ」

あかり「何してるの、向日葵ちゃん?」

向日葵「」

あかり「えーーっと、なにか探し物?」

向日葵「え、ええそうですわ!おかしいですわねー、どこにも無いなー(棒)」

あかり「そうなんだ、見つかるといいね!」ニコ

向日葵(怪しまれてないみたい、良かったですわ・・・)

その後、あかりが持ってきたお菓子を食べながら、2人は至福の時を過ごした。

たくさんおしゃべりもした。最近見たテレビ番組のこと、好きな芸能人のこと、クラスメイトのこと、
生徒会活動のこと、お互いの家族のこと、北朝鮮情勢のこと。話は尽きない。

あかり「向日葵ちゃん今日の解剖学の授業すごく真面目に受けてたよね。あかりは眠かったよぉ」

向日葵「当たり前ですわ。解剖学の内容は人を殺すときに役立ちますからね」

向日葵「ところで赤座さん、そのベッドふかふかで寝心地良さそうですわ」

あかり「そうだよぉ。あかりのお気に入りなんだぁ」

そう言ってあかりはベッドの上に座って布団を抱きかかえる。

あかり「このベッドね、特別な低反発マットレスを使っててとっても快適なんだよぉ」

向日葵「それは良いですわね」

あかり「あかりね、中学生になってから全身に疲れがたまって・・・。肩こりも酷いし・・・。
    それでお姉ちゃんに相談したらこれを買ってくれたの」

向日葵「分かりますわ。やっぱり中学生にもなると体中にガタが来ますわよね。
    わたくしもなかなか疲れが取れなくて・・・」

あかり「向日葵ちゃんも乗ってみて!すごく気持ちいいから!」

向日葵「ではお言葉に甘えて・・・」

そう言うと向日葵はベッドの上に乗ってあかりの隣に座る。

あかり「ね?ふかふかでしょ~?」

向日葵「あら本当。これはなかなか・・・」

あたかも初めて乗ったかのように振舞っているが、実はさっきあかりがいない隙に
ベッドに乗って匂いを嗅いでいるのである。

あかり「向日葵ちゃんも買ってみたら?」

向日葵「買わなくてもここで赤座さんと2人で寝ればいいんじゃないですの?」

あかり「え?」

向日葵「や、やっぱり、わたくしなんかと2人で寝るのは、い、嫌ですの・・・?」

あかり「そ、そんなこと無いよ!急に言われたからビックリしただけ・・・」

向日葵「そう、良かったですわ。では早速2人で寝ることにしましょう」

あかり「ちょ、ちょっと待ってよ!まだ夕方だし、それに・・・」

向日葵「そんな事どうでもいいではありませんか」ガバッ

あかり「キャッ!」

向日葵があかりを無理やり寝かせようとしたため、
あかりが倒れて向日葵に押し倒されているような状態になった。

向日葵「ハアハア、、赤座さんって本当に可愛い・・・。もう我慢できませんわ・・・」

あかり「ちょっと向日葵ちゃん、怖いよ・・・」

向日葵があかりの首筋をなぞる。

向日葵「綺麗な肌、なんて美しいんでしょう」

あかり「あっ、んん!や、やめて・・・」

向日葵「赤座さん!」ダキッ

あかり「わあ!」

向日葵があかりを思いっきり抱きしめる。

向日葵「赤座さん可愛いですわ~~~!」

あかり「ちょっと向日葵ちゃんやめて~!」ドタバタ

あかりは京子にいつも抱き寄られていたちなつの気持ちが分かったような気がした。

向日葵「赤座さん赤座さん赤座さん赤座さん赤座さん~~~!」

あかり「う~~~、向日葵ちゃん、苦しいよ~~」ジタバタ

向日葵「良いではないかー良いではないかー」

あかね「あかりー、ちょっといいかしら?」ガチャ

向日葵「え?」

あかね「」

あかり「あ、お姉ちゃん帰ってたんだ。お帰り~」

あかね「・・・」

向日葵は必死に遺書の内容を考えていた。

向日葵(まず最初はやっぱり両親への感謝の言葉ですわね・・・。
    『お父さまお母さま今まで(おっぱいを)育ててくださってありがとうございました。
     不幸な事故で先立つことをお許し下さい』っと。
    それから楓にも一言残しておくべきですわ・・・)

あかね「あら向日葵ちゃん遊びに来てたの~?楽しそうねぇ」

向日葵(え?)

あかり「お姉ちゃん向日葵ちゃんのこと知ってるの?」

あかね「ええ、ちょっとね」

向日葵「お、お邪魔してますわ、おほほほ」

あかね「そう、ゆっくりしていってね!」

あかり「ところでお姉ちゃん、何か用事?」

あかね「ああそうそう、今日の夕食の事なんだけどハンバーグとカレーどっちがいいかしら?」

あかり「あかりハンバーグがいいなぁ!」

あかね「分かったわ、ハンバーグにするわね」バタン

あかねは部屋から出ていった。静まりかえる部屋。気まずい空気が流れる。

向日葵「えーっと、その・・・」

あかり「向日葵ちゃんってそういう人だったんだね。あかりなんかがっかりしちゃった」

向日葵「本当に申し訳ないですわ・・・」

あかり「言い訳なんて聞きたくないよ。今日はもう帰ってくれないかな?」

向日葵「分かりましたわ・・・」

向日葵は申し訳なさそうにあかりの家から帰っていった。

しばらくして

あかり「ちょっと言い過ぎちゃったかなぁ・・・。向日葵ちゃんも悪気があってしたんじゃないと思うし・・・。
    で、でも、あかりの貞操を脅かそうとするなんていくら向日葵ちゃんだって許せないよ!
    向日葵ちゃん落ち込んじゃってるかなぁ・・・。うぅ、明日学校で気まずいよぉ」

<第13章>

一方その頃・・・

西垣先生宅

警察「ご協力ありがとうございました」

奈々「ああどうも」

バタン

奈々「ったく船見のやつ・・・、なんで私からライフルをもらったなんて言ったんだ。
   私はそんなことした覚えは全く無いぞ。おかげで毎日警察が事情聴取にやって来る。
   たまったもんじゃない。それにしても・・・」

奈々「松本、松本、松本・・・。なあなんで死んでしまったんだ、私を置いて!うぅぅぅぅ」

ピンポーン

奈々「ん、誰だ?また警察か?」

奈々は重い腰を上げて玄関までやって来た。

ガチャ ドアを開ける

奈々「き、君は・・・」

それから1時間後、薄暗い公園のブランコに一人の少女が物悲しそうに座っていた。向日葵である。

向日葵(はぁぁ、やってしまいましたわ。赤座さんに嫌われてしまいましたわね・・・。
    わたくしどうしたらいいんですの?赤座さん赤座さん赤座さん・・・)

向日葵(それに良く考えたらこの作品は「ゆるゆり」っていうタイトルですのに
    わたくし一人がガチってしまったら原作者に失礼じゃないですの。
    はぁ、もっと原作通りにしなければならないですわね・・・)

その時、向日葵は長年の勘で自分を狙う暗殺者の気配を察知!

向日葵がブランコから飛び降りると次の瞬間、振り下ろされたナイフがブランコの鎖を切断していた。

???「あら、素早いのね、向日葵ちゃん」

向日葵「だ、誰ですの・・・?」

向日葵と何者かは薄暗い公園の中で対峙する。ただでさえ辺りは暗いうえに、
その人物は黒マントを羽織っているため誰なのかは分からない。
でも向日葵には、この人物が自分を殺そうとしているということは容易に理解できた。

???「向日葵ちゃん、残念だけど死んでもらうわ!」グワッ

向日葵「くっ!」

相手はナイフを持って向日葵に襲い掛かってくる。これは勝ち目がないと踏んだ向日葵は逃げ出した。
オリンピック選手並みのスピードで逃走する。これにはさすがの暗殺者も追いつけない。
向日葵は追っ手を撒いて無事帰宅することに成功した。

向日葵(はぁはぁはぁはぁ、なんとか助かりましたわ・・・。でもさっきの人は一体誰だったんでしょうか?)

楓「お姉ちゃんどうしたの?そんなに息切れして」

向日葵「ああ楓、お姉ちゃんは大丈夫よ。だから心配しなくて良いですわ」

ピンポーン

向日葵が家に到着してから数十分後、古谷家のチャイムが鳴った。

向日葵(こんな時間に誰ですの?)

ガチャ

???「こんばんはー、ご注文のピザをお届けに上がりましたー!」

向日葵「ピザ?わたくしピザなんか頼んでないのですが」

???「そうね、これは冥土の土産よ!」

そう言うとその人物はピザを向日葵の顔面にぶちまけた。まるでパイ投げのようだ。

向日葵「もう~、これじゃピザ投げじゃないですの、ピザがもったいないですわ」

そう言い終わる前に向日葵はその人物がナイフを持って自分に襲いかかろうとしていることに気づいた。

向日葵「危ないですわ!」

軽い身のこなしで相手の攻撃を避けると、ナイフを持った方の手首に強烈なチョップを食らわせてやる。

???「ぐはぁぁ」カランカラン

相手がナイフを落とす。向日葵は即座にそのナイフを拾い上げる。

向日葵「おほほ、形勢逆転ですわね」

???「うふふ、そんな顔面ピザまみれの顔で意気込まれても迫力に欠けるわねぇ」

向日葵「早く正体を現しなさいですわ!」

???「おっとそうはいかないの、とりあえず今は逃げさせてもらうわ」ダダっ

向日葵「あっ、こら待ちなさい!」

向日葵が外に出ると犯人はもう宅配用のバイクで走り去った後だった。

その日の夜、布団に入った向日葵は恐怖で震えていた。

向日葵「ああああ、どうしましょう・・・。わたくし確実に命を狙われてますわ。
    そんな、一体どうして・・・。わたくし人に恨まれるような事をした覚えはないですのに。
    か弱いわたくしですから、次に襲われたら絶対に殺されてしまいますわ。
    一体どうしたらいいんでしょう・・・」ブルブル

翌日の学校

あかりは向日葵に会ったらどうしようかと考えてビクビクして教室に入ったが、当の向日葵は欠席であった。

あかり(向日葵ちゃん学校、お休みしてるんだ・・・。やっぱり昨日のあれのせいだよね。
    あかりが酷いこと言ったから落ち込んじゃったんだよ、きっと・・・)

あかり(・・・)

あかり(で、でも、元はと言えば向日葵ちゃんが悪いんだし、あかりは知らないもん)プイッ

しかしそんな向日葵のことなんかすぐに頭の中から消し飛んでしまうような重大ニュースを、
朝のホームルームで担任の口から聞かされることになる。

教師「えー、昨日の夜この学校の理科教師の西垣先生の遺体が発見された」

生徒たち「え~~!?西垣先生まで殺されちゃったの~~!?」ざわざわ

あかり(そんな・・・、西垣先生まで!)

教師「静かに!昨日の夕方警察が訪れた時には確かに生きていたらしい。
   その後近所の住人が先生の家から叫び声がするのを聞いてな。
   怪しく思って家に入ってみると先生がナイフで刺されて死んでいたということだ」

あかり(ナイフで・・・?)

教師「先生は心臓を刺されていたという。それもここを刺せば一瞬で殺せるという急所をピンポイントで
   刺されていて、即死だったようだ。住人は叫び声を聞いてから1時間後くらいに駆けつけたみたいだが、
   その時家の鍵は開いていた。あと、部屋の中がめちゃくちゃに荒らされていたらしい」

あかり(部屋が荒らされていた・・・?)

教師「警察は物盗りの可能性を視野に捜査を進めているらしいが、君たちの中にも
   何か知っている人、気づいたことがある人などがいれば私にどんどん教えてくれよー。
   では授業をはじめるぞー」

あかり(先生、事件の内容をペラペラと生徒に話しすぎだよぉ)

その日の休み時間、あかりがトイレの帰りに生徒会室の近くに立ち寄ると、
後ろ姿が向日葵によく似ている人物を見かけた。

あかり(あれ、あれってもしかして向日葵ちゃん?いや、でも向日葵ちゃんは今日はお休みしているはず。
    こんな所にいるわけないよね・・・)

あかりがそんなことを考えているとその人物は生徒会室の中に入って行く。

あかり(でも一応確かめよっと)

あかりは生徒会室の前まで歩いて行き、中に入る。しかし生徒会室の中には誰もいない。

あかり(そりゃそうだよね、向日葵ちゃんが学校にいるわけないよ。
    あかりの見間違いだったんだねぇ)

あかりはそのまま教室に帰った。

その日の午後の授業中

教師「えー、犯罪者にはいろんな性格の人がいますが、犯罪者の精神分析をするにあたって
   次のような視点から見ることができ・・・」

あかり(ふわぁぁ。犯罪心理学の授業は退屈だよぉ。それにあかりまだ子供だから犯罪とか分かんないし)

あかりがウトウトしかけていると、突然教室の扉が開き、

教師B「先生、ちょっと来てください!大変です!」

教師「あー、何だ?しょうがないなー、じゃあ先生はちょっと行ってくるからその間自習な」

生徒たち「やったー、自習だー!」

喜ぶ生徒たち。もちろん真面目に自習する生徒などほとんどいない。
みんな思い思いに友達とおしゃべりしたりしている。

そんな中であかりは一人胸騒ぎを覚えていた。

あかり(どうしたんだろう、何かあったのかな・・・?心配だよぉ)

そんなあかりの不安は的中する。

しばらくして先生が帰ってきた。

教師「えーっと、実はこのクラスの古谷が自殺しているのが発見されたそうだー。
   よって今日の授業はこれで終了で早期下校とするぞー」

あかり(え!?)

生徒たち「わーい、早く家に帰れるぞー!」

大はしゃぎの生徒たち。いつもより早く学校が終わったので嬉しいのだろう。だがあかりは違った。

帰りのホームルームが終わり他の生徒たちがぞろぞろと帰り出す中、あかりは担任のもとへ。

あかり「先生、あの、向日葵ちゃんはどこで自殺してたんですか?」

教師「誰だい君は?あー、よく見たら赤座か。あんまり部外者には口外しないでくれって
   言われてるんだけどねぇ」

あかり(今朝は西垣先生の事件のことペラペラ喋ってたのに・・・)

あかり「そこをどうかお願いします、教えてください!」ペコリ

教師「しょうがないなー、公園だよ公園。この学校の近くの」

あかり「分かりました、ありがとうございます!」ペコリ

あかりは急いで学校を飛び出した。もちろん向かう先はその公園である。

あかりは公園にたどり着いた。その公園は何週間か前に千歳が殺された公園であった。

もうすでに運ばれてしまったのだろうか、向日葵の遺体は見当たらない。
だが警察による現場検証が行われていて、周りにも近所の人と思われる人たちが数人集まっている。

近所の人たちが何やら話している。

近所の人A「こんな所で自殺するなんて本当に何考えてるんでしょうねぇ」

近所の人B「前はここで殺人もあったでしょう、怖いわー」

あかり(やっぱり本当なんだ、ここで、ここで向日葵ちゃんは自殺しちゃったんだ・・・。
    どうして、どうして・・・)

しばらくして、自宅に帰ってきたあかり。ドサッとベッドに倒れこむ。

あの後いろいろ調べたところによると、今日の昼過ぎ、公園を通りかかった近所の人が倒れている人を発見。
すぐに駆けつけたがもう手遅れだったようだ。そして何より驚くべきことは、
その死体は全身がただれて目も当てられない状況だったということである。

全身に大量の塩酸や硫酸がかけられており、体中が焼けただれてしまっていた。
皮膚はえぐられ、顔面も変形していたためにパッと見ただけでは向日葵だとは分からない。

だが遺体の周辺に向日葵の生徒手帳と運転免許証が落ちており、さらにちょうど向日葵が
当日の朝から行方不明になっていたこと、遺体の形や大きさが女子中学生のそれに似ていること、
そして向日葵のブログに遺書と思われる内容の書き込みが更新されていたことにより
向日葵の自殺だと断定された。

遺書(ブログ)には両親に対して「お姉ちゃんの分も成長して立派な大人になってください」と
書かれていて、楓に対しては「今まで(おっぱいを)育ててくださって本当にありがとうございました」と
書かれていた。相手と内容が逆なような気もするが、そこは向日葵の最期の渾身のギャグのつもりなのだろう。
遺書にはあと他に遺産相続のことなどいろいろ書いてあったが、
肝心の自殺の理由など詳しいことは一切書かれていなかった。

だが、彼女の実の妹である楓の証言によると、向日葵は自殺する前の日の夜、何かにとても怯えていたという。
「命を狙われている」とか「殺される」とかブツブツ呟いていたのを楓が耳にしている。
それゆえ向日葵は何者かに命を狙われており、その恐怖のあまり自殺してしまったのだろうと考えられた。

そして、自殺に使われた塩酸と硫酸だが、これらは七森中学の理科室から盗み出されたものであるということが
判明した。自殺する当日に盗み出されたらしい。前日の夜に理科教師の西垣先生が何者かに殺されてしまったため
理科室の警備がおろそかになっていて、侵入するのはたやすいことだっただろう。

あかり(そっか・・・、向日葵ちゃんは今日学校に来てたんだ・・・。
    じゃあやっぱりあかりが見かけたのは本当に向日葵ちゃんだったんだね)

あかり(向日葵ちゃん・・・。どうして自殺しちゃったの?やっぱりあかりのせい?
    昨日冷たくしちゃったから?でも「命を狙われている」とか「殺される」って
    どういうことだろう?あかりが殺しに来るとでも思ってたのかな?
    さすがのあかりでもそんなことしないよー。でも昨日の向日葵ちゃんは確かにちょっと変だったし。
    うーん、分かんないよぉ)

あかりがベッドの上で考え込んでいると、突然ドアが開いた。

あかね「あかり!」

あかり「お姉ちゃん、どうしたの?」

あかね「あかり、もうこんな物騒な所に住むのはやめましょう。
    お姉ちゃんね、大学辞めて東京の会社に就職が決まったからあかりも私と一緒に
    東京に行くわよ!」

あかり「えっ、どういう事?」

あかね「明日の朝には出発するから、今晩中に荷物をまとめておいてね。はいこれダンボール」

あかねはあかりに大量のダンボールを渡すと戸惑うあかりを置いて部屋から出ていった。

こうして赤座姉妹は翌朝無事に富山県を脱出して東京へ向けて出発し、
そして2人は東京で末永く幸せに暮らしましたとさ。

めでたしめでたし

おしまい・・・・・

・・・・・・・・?









向日葵「そんなに簡単に物語を終わらすわけにはいきませんわ」

【第2部・完】

【第3部】

<第14章>

赤座姉妹は無事東京に到着した。早速あかねが新しい家にあかりを案内する。

あかね「ここが今日から私たちが住む新しい家よ」

あかり「うわー、すごーい!たかーい!」

それは六本木の近くの超高層マンションであった。

鍵を使ってエントランスホールに入る。中はとても豪華だ。管理人と思われる人がいる。
エレベーターに乗る。あかねは36と書かれたボタンを押した。あかりたちの家は36階にあるのだ。
エレベーターがどんどん上昇していく。あかりは耳がキーンとなるのを感じた。36階に到着。
ホテルのような廊下を歩きながら自分たちの部屋に向かう。

ガチャ

あかね「着いたわよー」

あかり「わあー!」

中は3LDKの広くてとても豪華な部屋だった。リビングの窓から東京の景色が一望できる。

あかり「すごくきれいだね、ホテルみたい!あかりこんな所に住めるなんて夢みたいだよぉ。
    お姉ちゃん、ありがとう!」

あかねは鼻血が出そうになるのを抑えながら、

あかね「あらあら、あかりにそんなに喜んでもらえてお姉ちゃん嬉しいわ」

あかり「あかりの部屋はどれ?」

あかね「この部屋よ。もうすぐしたら荷物が届くから、それまで待っていましょうか」

あかりが自分の部屋から窓の外を眺めると、少し離れたところに同じような高いマンションが建っていた。

あかり(ふえぇぇ、あっちにも高いマンションがあるよ、すごいなぁ)

あかね(周りのものに興味深々なあかりかわいいわ)

あかね「そうそう、あかりの転校の手続きは済ませてあるから、明日から早速新しい学校に通うのよ」

あかり「えっ、もう明日から!?うぅぅ、大丈夫かなぁ、あかり緊張しちゃう・・・」

あかね「大丈夫よ、心配しなくていいわ」

そしてついに新しい学校に行く時がやってきた。

学校への行き道が分からないだろうということで学校まであかねが案内してくれる。

あかね「着いたわ、ここがあかりが今日から通う学校よ」

看板には「私立八森中学校」と書いてある。

あかり「は、はちもり・・・?」

あかね「これは『やもり』って読むのよ」

あかり「そうなんだぁ、なんだか爬虫類みたいな名前の学校だね!」

教師「失礼ですが赤座さんでしょうか?」

あかね「ああはい。この子があかりです。今日からよろしくお願いします」ペコリ

教師「まあこの子が赤座あかりさんね。すごく可愛らしいわ。さあ赤座さん、私と一緒に行きましょう」

あかり「はい!じゃあねー、お姉ちゃん!」

あかね「またねあかり、授業が終わったら迎えに来てあげるからね」

教師の案内で教室の前までやってきたあかり。

あかり「1-B・・・」

教師「ここが赤座さんのクラスですわ」

ガラッ わいわいがやがや

教師「はーい静かに~。今日は最初に転校生を紹介しますわよ~。ほら入って、赤座さん」

あかり「あ、はい」

教師「えー、この子が転校生の赤座さんですの。じゃあ赤座さん、自己紹介してくださいですわ」

あかり「あ、はい。えーっと・・・はっ!」

――――――――――

あかり『みんなのハートにどっきゅーん!はじめまして、赤座あかりだぴょん♪』

みんな『・・・』

――――――――――

あかり(いや、ダメ。ゼッタイ。あんな黒歴史二度と作らないんだから!)

あかり「は、はじめまして。この学校に転校してきた赤座あかりって言います。
    これから皆さんよろしくお願いしますっ!」ペコリ

生徒A「わぁー、かわいいー!」

生徒B「お人形さんみたーい!」

生徒C「お団子チョー似合ってる~!」

生徒D「影薄そうー!」

パチパチパチパチ

教室は大拍手に包まれた。

あかり(やった、大成功!)

休み時間

生徒A「ねえねえ赤座さんってどこから転校してきたの?」

あかり「富山県だよぉ」

生徒A「へぇ~、すごいなぁ~」

生徒B「富山県のどこ~?」

生徒C「富山県ってどこ~?」

生徒D「富山でも影が薄いんだから人が多い東京じゃ存在感皆無だよね~」

あかり(あかりの席の周りにこんなにたくさんの人が!もしかしてあかり、今すごい目立ってる!?)

生徒A「赤座さんはどうして東京に転校してきたの?」

あかり「お姉ちゃんが東京の会社に入って、それで・・・」

生徒A「へえ~、お姉ちゃんいるんだ!私一人っ子だから羨ましいなぁ~」

生徒B「お姉ちゃんってどんな人~?」

生徒C「お姉ちゃんって何~?」

生徒D「どうしてお姉ちゃんは影薄くないのに赤座さんは存在感無いの~?」

あかり(あかり、今存在感抜群だよぉ~。転校生ってこんなにすごいんだなぁ)

あかり「はいはーい、みんな、質問は一人ずつ順番に。あかりは一人しかいないぞ~」

あかり(転校生、最高!)

その日の帰り道

あかね「あかり、新しい学校はどうだった?」

あかり「すごく楽しかったよ!あのね、あかりの席の周りにみんな寄ってきて、あかりが中心で
    人気者だったんだよぉ!」

あかね「あらあら、それは良かったわね。でもあの生徒Dは早めに始末しなければならないわね」

あかり「え?始末?」

あかね「ごめんなさい、何でも無いわ。気にしなくていいわよ」

そんな何気ない会話を続けながら家に帰ってきた。あかりが自分の部屋を開けると、ベッドや机などが
キレイに配置されている。

あかね「あかりが学校に行っている間に荷物を整理しておいたわよ」

あかり「ありがとうお姉ちゃん!」

あかりはお姉ちゃんの部屋はどんな感じなのかなと思って見に行こうとしたが、
ドアには「お姉ちゃん以外立ち入り禁止」と書かれている上に鍵がかかっていて入れない。

あかり(もうあかりのパンツや抱き枕はセッティング済みってことだね)

あかね「あかり~、何してるの~?夕食ができたわよ~」

あかり「あ、うん。今行くよぉ」

夕食中

あかり「おいしいなぁ」もぐもぐ

あかね(あぁぁ、ごはんを美味しそうに食べるあかりかわいいわ)

あかり(またお姉ちゃんが変態な目であかりのこと見てるよ・・・)チラッ

あかり「ねえあの窓の向こうに見える高層ビル群はどこ?」

あかね「あっちは新宿の方ね、でもそれがどうしたの?」

あかり「いや、別に・・・」

あかり(お姉ちゃんの視線をあかりからそらさせたかっただけだよぉ)

あかね「ねぇ、この家気に入ってくれた?」

あかり「うん、あかりこの家だーい好き!」

あかね「そう、それは良かったわ。でも2人で住むには少し広いかもしれないわねぇ」

3LDKなので部屋が3つあるのだが、1つはあかりの部屋で、もう1つはあかねの部屋である。

あかり「余ってる部屋が1つあるけど何に使うの?」

あかね「応接室に使おうかなって思ったんだけどよくよく考えたらこの家を訪れる人なんて
    そんなにいないわね。だから私とあかりの共同部屋にするつもりよ。
    ダブルベッドを買ってあかりと一緒に寝るの、最高でしょう?」

あかり(うわー、もう隠す気ないのかな、この人。軽く引いちゃうよぉ)

そんなこんなで数日が経過。あかりも徐々に東京での生活にも慣れてきた。

その間特に変わったことは起きていない。強いて言えば生徒Dが何者かに殺されたことぐらいだろうか。
生徒Dはとある朝学校に行こうと東京都港区にある自宅マンションを出たところを
何者かに刃物で刺されて死亡した。警察は通り魔殺人として捜査しているが犯人の行方は掴めていない。

一方のあかりであるが、東京での生活にも慣れ、変態のお姉ちゃんと一緒に幸せな毎日を送っていたが、
心の中では気にかかることがあった。

あかり(向日葵ちゃん・・・。向日葵ちゃんは追い詰められて自殺までしちゃったのに、
    あかりがこんな幸せな暮らしをしてて良いのかな・・・)

確かに、向日葵に襲われた直後のあかりはとても怒っていた。許せないと思った。
だが、向日葵が自殺し、東京に来て時が経つにつれてあかりの心境も次第に変化していったのである。

あかり(あかりの処女を無理やり奪おうとしたのは許されないよ、でも・・・。
    前は向日葵ちゃんのこと嫌いって思ったけど、今は違う・・・、
    こう、なんて言ったらいいんだろう・・・。すごくモヤモヤする、なに、この気持ち?
    向日葵ちゃん・・・。あかり、こんな気持ちになるの初めてだよぉ)

休日になるとあかりはあかねに東京のいろんな所に連れて行ってもらった。

渋谷では大量の服を買ってもらい、とてもうれしかった。
秋葉原では頭のどこかの線が切れて暴走するあかねを抑えるのに必死だった。
桜田門にある警視庁に行った時にあかりが冗談で「出頭しに来たの?」と聞いたら
あかねが汗だくになったことなど今でも鮮明に覚えている。

他にも銀座・お台場・汐留・テレビ東京・小笠原諸島など東京のいろんな観光地を巡り、
あかりはとても楽しかった。・・・のだが、あかりは時々こう思うのだ。

あかり(向日葵ちゃんと一緒に来たかったな・・・)

しかしその度にこうも思うのである。

あかり(ってあかり何考えてるの!?ダメダメ、向日葵ちゃんのことなんか忘れよう!
    それにお姉ちゃんに失礼だよっ)

しかし、忘れようとすればするほど向日葵のことが頭から離れなくなるのである。

あかりはしばしば向日葵のブログをチェックするようになっていた。
更新されていないかどうか確かめるのである。だが、もちろん更新されているわけが無い。

その日の夜もあかりは自分の部屋で向日葵のブログを見ていた。

あかり(今日も更新されてないか・・・。当然だよね、向日葵ちゃんもう死んじゃったんだもん。
    あかり何してるんだろう・・・。毎日向日葵ちゃんのことばっかり考えて・・・)

ブログの最新記事は例の「遺書」のままであった。あかりは画面をスクロールさせて下へ移動する。

遺書の前の記事はこれも例の「歳納先輩の葬式に行ってきました~♪」の記事だ。

京子の葬式会場で撮ったあかりと向日葵の2ショット写真がUPされている。

あかり(そういえば、向日葵ちゃんと一緒に京子ちゃんの葬式に行ったんだったね・・・。
    楽しかったなぁ)

写真を見ながら回想にふけるあかり。向日葵とのいろんな思い出を思い出していた。

一緒に京子の葬式に行った時のことはもちろん、帰りにアニメイト富山店に寄って
ウィンドウショッピングをしたこと、あかりの家で一緒にお菓子を食べながら
たくさんおしゃべりしたこと、夕暮れの中一緒に学校から帰ったこと、
一緒に結衣を熱湯風呂に突き落として殺したこと、すべてが大切な思い出である。

そして・・・

あかり(そうだよ、向日葵ちゃんはあかりのことを助けてくれた、あかりをごらく部の
    魔の手から救ってくれた、存在感の無かったあかりにたくさんの出番をくれた。
    いつもあかりのことを一番に考えてくれて、いつもあかりのために行動してくれた。
    あかりが困ったとき、苦しんでいるときに味方になってくれて、
    いつもあかりのことを守ってくれてたんだ!)

あかり(優しくて、強くてかっこよくて、誰からも愛される向日葵ちゃん。
    自分の命を危険に晒してでもあかりのために頑張ってくれる向日葵ちゃん)
    
あかり(なのに、なのに・・・。あかりはそんな向日葵ちゃんに冷たくしちゃった。
    酷いこと言っちゃった。向日葵ちゃんを落ち込ませるようなことしちゃった。
    それで、うぅぅ、それで向日葵ちゃんは自殺しちゃって・・・)

あかり(全部、あかりのせいだ。あかりのせいなんだ・・・。あかり、最低だ。
    私、最低な人間だ)

あかりはふと、ブログの記事の本文に目をやった。

「今日は歳納先輩の葬式に行ってきました!赤座さんと一緒に同人誌を買ったり、記念撮影をしたり、
 とっても楽しかったです!もっと赤座さんと一緒にいたいな~♪」

この最後の文を見た途端、あかりの目から大粒の涙があふれてきた。

あかり「うぅぅ、向日葵ちゃん、ゲホッ、向日葵ちゃん、ううぅぅぅ、グスッ」ポロポロ

夜の超高層マンション、その高層階の部屋で一人泣きじゃくる女の子。

あかり「向日葵ちゃん、ううううう、グスッ、エグっ、ヒック」ポロポロ

そしてあかりはようやく気づいた。自分の気持ちに。この心のモヤモヤの正体がやっと分かった。

あかり「そっか、そうだったんだ・・・。あかり、向日葵ちゃんのこと、好きなんだ」

<第15章>

あかね「ねえあかり、今度の週末はどこに行きたい?」

あかり「うーん、えっとね・・・」

あかりはその時たまたま放送されていたテレビ番組に目が止まった。

リポーター「今日もスカイツリーは大変な賑わいです!近くに店を構える人に話を・・・」

リポーターと思われる人が東京スカイツリーの紹介をしている。

あかり「あかり、スカイツリーに行きたいなぁ」

あかね「そういえばまだ行ってなかったわね。じゃあ今度の土曜日に行きましょうか」

あかり「わぁいスカイツリー、あかりスカイツリー大好き」

そして、スカイツリーに行く日の前日、金曜日の夜がやってきた。

あかね「あかり、明日は朝早いわよ。もう寝なさい」

あかり「うん、おやすみお姉ちゃん」

午後9時。あかりはベッドに入る。

明日はスカイツリーに行くというのに、あかりの心は晴れない。

あかり(向日葵ちゃん・・・)

数日前にやっと自分の気持ちに気づいたあかり。
だが今頃気づいてももう手遅れなのだということはあかり自身が一番よく分かっていた。

あかり(向日葵ちゃん、会いたいよぉ。また前みたいに一緒に遊びたいよぉ。
    でももう無理なんだよね、あかりのせいで・・・、あかりのせいで死んじゃったから・・・。
    向日葵ちゃん、ごめんね・・・。うぅぅぅ)ポロポロ

しばらくするとあかりの泣き声は聞こえなくなった。泣き寝入りしてしまったようだ。

あかり(あれ?)

あかりはふと目が覚めた。眠い目をこすりながら今は何時だろうと思って時計を見てみると
午前2時を回った頃である。

あかり(こんな時間に目が覚めるなんて珍しいなぁ)

まだボーッとしていたが喉の渇きを覚えたのでキッチンにお茶を飲みに行くことにした。

部屋を出てリビングに向かう途中、ふとあかねの部屋を見てみるとドアの隙間から光が差し込んでいる。

部屋の中からあかねの喘ぎ声が聞こえてくる。

あかね(お姉ちゃんまたやってるんだ・・・。あかりのパンツとか抱き枕とか使ってるんだろうなぁ)

あかりは特に気にしない。いつものことだからだ。

キッチンに着いてお茶を飲み終えると、部屋に帰ってくる。

あかり(ふわあぁ、眠いよぉ。早く寝よおっと)

あかりがベッドに入ろうとしたとき、なぜか部屋のカーテンが開いていることに気がついた。
カーテンを閉めようと思って窓に近づく。窓からは例の向かいの高層マンションが見える。
もう午前2時だというのにまだ明かりがついている部屋もちらほらあった。

あかり(まだ起きている人も結構いるんだなぁ)

あかりがそんなことを思っていると、何やら動くものが見えた。
向かいのマンションのちょうどあかりと同じくらいの高さ、36階くらいだろうか、にある部屋に、
何やら動く物体が見える。

なんだかとても気になったあかりはじっと目を凝らしてその物体を見つめる。
やがて、目が慣れてきてその物体の正体が何か分かったとき、あかりは驚きで心臓が止まりそうになった。

あかり(向日葵ちゃんだ)

なんと、あの向日葵がこちらに向かって手を振っているのだ。それも満面の笑みを浮かべながら。
あかりは恐怖で倒れそうになった。だがなんとかベッドに飛び込むと、数秒後には夢の中に逃げ込んでいた。

あかね「あかり、朝よ~。起きなさ~い」

あかり「むにゃむにゃ、ふえぇぇ?」

次にあかりが目覚めた時はもう朝だった。ダイニングからテレビの音がする。
もう朝食も用意されているのだろう。

あかり(もう朝か・・・。はっ、そういえば!)

あかりは窓に駆け寄った。窓の外の高層マンションを見つめる。
昨日の夜(と言っても今日だが)に向日葵らしき人物が手を振っていた部屋を見てみたが、
誰も見えない。

あかり(あの時は眠くてボーッとしてたから、見間違えちゃったのかなぁ。
    だって向日葵ちゃんが生きているはず無いし。あかりが寝る時向日葵ちゃんのこと
    ばっかり考えてたから向日葵ちゃんがいるように見えただけだよ、きっと。
    それとも全部夢だったのかなぁ?)

あかりは考え込みながらダイニングにやってきた。

あかね「おはようあかり。どうかしたの、難しい顔して」

あかり「ううん何でもないよ、おはようお姉ちゃん」

あかり(昨日の夜はお楽しみだったねぇ)ニコ

あかね「?」

朝食を食べながらテレビの天気予報を見ていたあかねが言う。

あかね「今日は昼ごろから雨が降るみたいね。早めにスカイツリーに行きましょう」

あかり「うん、そうだね」

こうして2人はスカイツリーにやってきた。家を出た頃には既に空は曇っていたが、
電車でスカイツリーに向かっている間にもどんどん空の灰色は濃くなっていき、
スカイツリーに到着した時にはポツポツと雨が降り出していた。

あかり「わぁいスカイツリー、あかりスカイツリー大好き」

あかね「でも雨が降ってきちゃったわねぇ」

早速エレベーターに乗って天望デッキへ。休日ということもありとてもたくさんの人で賑わっている。
2人は人ごみをかき分けながらようやく窓の近くまで来た。

あかり「うひゃー、高いよぉー」

あかね「素晴らしい景色ね。雨が降っているのが少し残念だけど、まあ仕方ないわ」

この頃には雨はもう本降りになっていた。

天望デッキには店やレストランがたくさんあった。

あかり「ねえお姉ちゃん、あっちの方見てきて良い?」

あかね「良いわよ。お姉ちゃんここで待ってるから。人が多いから迷子にならないように気をつけるのよ」

あかり「もう、お姉ちゃん、あかりはもう中学1年生だよぉ。子供扱いしないでよぉ!」プンプン

あかね「うふふ、ごめんなさい」

あかりは歩いて行った。その後ろ姿を見ながら、

あかね(うふふ、スカイツリーでもやっぱりあかりはかわいいわ)

あかねにとってはスカイツリーから眺める東京の景色よりもあかりの方がよっぽど素敵だった。

あかね「あかりも大きくなったわねぇ」

向日葵「本当にその通りですわ」

あかねは目にも止まらぬ速さで振り返った。

向日葵「おほほ、お久しぶりですわね、あかねさん」

あかねは心臓が止まりそうになった。自分の目の前に、ここにいるはずのない人物が立っているのだから。
だがあかねはなんとか気合いで自分の心臓を動かし続ける。

あかね「ど、どうして・・・。あなたは数日前に富山で自殺したはず・・・。
    こんな所にいるはずがないわ!」

向日葵「あかねさん、わたくしを見くびってもらっては困りますわ。わたくしがそう簡単に死ぬわけない
    じゃないですの」

あかね「で、でも、あなたの遺体は確かにあの公園で見つかったじゃないの!」

向日葵「あの遺体はわたくしの遺体ではありませんわ」

あかね「なんですって!?じゃあ一体誰の遺体だって言うのよ!」

向日葵「まだ分からないんですの?しょうがないですわねぇ、お教えしてあげましょう」









向日葵「あの遺体は船見先輩の遺体ですわ」

スカイツリーの展望台で「遺体、遺体!」などと連呼するものだから周りの観光客は何事かと
思って2人の方を見ていたが、そんなことはお構いなしに2人は話を続ける。

あかね「船見さんの遺体ですって・・・?一体どういうことなの?」

向日葵「生徒会の地下室で船見先輩を殺した後、その遺体を近くの冷凍庫の中に入れて保管していたんですの。
    その遺体を当日の朝に持ち出して、理科室から盗んだ塩酸や硫酸をかけて公園に放置して
    おいたんですわ。もともと船見先輩の遺体は全身がただれていて誰なのか判別不能になってましたが、
    塩酸や硫酸をかけることでさらにそれをカモフラージュしたんですのよ」

――――――――――

あかり『向日葵ちゃん、この結衣ちゃんの死体どうするの?』

向日葵『そうですわね・・・。今日はもう疲れましたしとりあえずそこの冷凍庫の中にでも入れておきましょう。
    それよりもう夜も遅いですわ。早く帰らないと親御さんが心配なさいますわよ。
    今日はもう帰りましょう』

あかり『そうだね。あかりいろいろあって疲れちゃった』フアァァ

向日葵『ふふ、赤座さん可愛いですわね。さあ、一緒に帰りましょう』

あかり『うん!』

向日葵とあかりは結衣の死体を近くにあった冷凍庫の中に放り込み、地下室を出てロックした。

――――――――――

向日葵「あとついでに遺体の周りに私の生徒手帳と運転免許証を置いて、ブログに遺書を書けば
    これで完成ですわ。わたくしも同じタイミングで姿をくらませましたし、誰がどう見てもわたくしの
    自殺だと思うでしょうね」

あかね「でも、船見さんが死んだのは公園で遺体が発見される3日も前よね。
    それだけタイムラグがあれば警察が気づくんじゃないかしら?」

向日葵「だから私は船見先輩を殺してすぐに遺体を冷凍庫に入れたんですの。
    あと胃の内容物から死亡日時を割り出されないように解剖して小細工したりと
    他にも色々やりましたわ。結構大変だったんですのよ。でもおかげであの遺体を
    まさに見つかったその日に死んだものだと見せかけることに成功しましたわ。
    わたくしの手にかかれば警察を騙すことなど朝飯前ですの」

あかね「そういえばあかりが言ってたわ、向日葵ちゃんは解剖学の授業が好きだって」

向日葵「ええその通りですわ。解剖学の授業はこういう時にとても役に立つんですのよ」

あかね「ところでどうして遺体発見場所をあの公園にしたのかしら?」

向日葵「そんなの簡単なことですわ。あの公園は船見先輩に殺された池田先輩の遺体が発見された公園です。
    なら船見先輩も同じ場所で遺体となって発見されるべきだと考えたんですの。
    わたくしの粋な計らいですわ」

あかね「なるほどね、すっかり騙されてしまったわ。あなた、人を欺くことにかけては天才ね」

向日葵「ありがとうございますですわ」

あかね「別に褒めてないわよ」

あかね「それにしても最近の若い子はブログに遺書を書くのね~。
    本当に最近の子は進んでるわ~」

向日葵「あかねさんだってまだ若いじゃないですの」

あかね「あらそうかしら、うふふふふ」

雨はますます激しくなり、辺りは昼だというのに薄暗い。
そんな中地上350メートルの高さでにらみ合う2人。

あかねはこの頃にはもう落ち着きを取り戻していた。軽く笑みを浮かべながら向日葵を見つめている。
だがその目は笑ってはいなかった。

あかね「ところでこのSS、スレタイと内容がもはや全然関係無くなってるわよ」

向日葵「そんなの今更ですわ。スレタイ主の歳納先輩なんてもうかなり長い間登場してないじゃないですの」

あかね「あなたが殺したんじゃないの」

向日葵「でもあかねさんも協力してくださいましたわよね?その節はどうもお世話になりましたですわ」

協力とは一体何のことを言っているのだろうか?かなり前の話になるが、向日葵が赤座あかね記念病院を
襲撃したとき、実は向日葵と一緒にあかねも襲撃に加わっていたのである。

あの日結衣は夜にも向日葵が襲撃しに来るだろうと睨んで、京子を元いた401号室から402号室に移し、
401号室に隠しカメラを仕掛けた。やがて結衣の予想通りに向日葵が病院を襲撃。
401号室に入っていったのを見ると自分も402号室から出て、
京子を撃ったつもりが人形だったと慌てている向日葵の前に現れた。
その後向日葵には逃げられてしまったが、設置していたカメラを回収する。

このカメラを持って明日向日葵の所を訪れ、言い逃れができなくなった向日葵が
ペラペラと自供するように仕向けてその音声をボイスレコーダーに録音、
そしてその証拠を持って警察に駆け込むという計画であった。

自分も千歳を殺しているから、結衣は警察に相談できないなどと向日葵は言っていた。
それは確かにその通りで、結衣もそのことに関しては悩んでいたのだが、
自分が向日葵の悪事を暴いて真相を突き止めることでなんとか刑を軽くしてもらおうと
考えていたのである。

従ってカメラを回収して401号室を出た時点では物事は結衣の計画通りに進んでいた。
結衣もこれで向日葵を逮捕できる、一連の事件をようやく終わらせることができると
高鳴る胸を抑えることができなかったに違いない。

ところが、そんな希望を抱いて402号室に戻ってきた結衣を待っていたのは絶望の一言であった。

向日葵「『京子がいない!』さぞかし船見先輩は愕然とされたでしょうね。
    さっきまでそこに寝ていたはずの歳納先輩がどこにもいないんですもの。
    おほほほほ、愉快ですわ」

あかね「船見さんの計画はなかなか見事なものだと思うけど、ちょっと詰めが甘いわね。
    歳納さんを一人にしたらこうなることくらい分かりそうなものなのに」

向日葵が401号室に入っていったとき、実は少し後ろであかねが待機していたのである。
あかねは結衣が402号室から出てきて401号室に入っていくのを目撃。その瞬間、
結衣の計画を理解した。そして、結衣が401号室で得意げに向日葵と会話している隙に
402号室に侵入して京子を盗み出したのだった。

向日葵「あの時は本当に助かりましたですわ」

あかね「あの時だけじゃないはずよ」

そう、向日葵はもう一度あかねに助けられたことがあった。
それは結衣が生徒会室から逃げ出そうとした時である。

結衣が暗闇の生徒会室の中を移動しなんとか扉の前に着いた時、隠れていたあかねが
結衣の頭を殴って気絶させたのだ。

あかね「もしあの時私があそこに隠れていなかったらあなた今頃警察だったわよ」

向日葵「あの時は本当にありがとうございましたですわ」

あかね「ですわですわうるさいわね」

ところで、あかねはどのような経緯で向日葵の協力をすることになったのだろうか?
話は向日葵と櫻子があかりの話を聞いて、ごらく部の監視作戦を立てようとしていた頃まで遡る。

ある日のこと、生徒会メンバーが生徒会室でごらく部の監視作戦について話し合っていると、

コンコン

櫻子『誰か来たみたいですよ』

綾乃『みんな、この作戦のことは絶対に外に漏らしちゃダメよ。はーい、入っていいわよー』

ガチャ

あかね『生徒会室はここかしら』

綾乃『失礼ですがどちら様ですか?見たところこの学校の生徒じゃないようなんですが・・・』

あかね『あら失礼、私は赤座あかね。1年の赤座あかりの姉よ』

綾乃『あ、赤座さんのお姉様でしたの。それで、生徒会室に何か用ですか?』

あかね『あのね、突然なんだけどごらく部の監視作戦に私も参加させてくれないかしら?』

綾乃『えっ、どうしてそのことを・・・』

あかね『そんな細かいことはどうでもいいじゃないの。ね、私も参加させてくれるわよね?』

あかねの顔は笑っていたが、綾乃はもし頼みを断れば瞬時に殺されるのではないかと思うくらいの
強い威圧感を感じた。

綾乃『分かりました。オブザーバーとして参加を許可します』

あかね『話が早いじゃない。うふふ、嬉しいわ。みんな、よろしくね』

あとであかねが綾乃らに話したところによると、最近あかりの元気がなく、
何か悩んでいるように見えるのだという。あかねが「元気ないわね、何かあったの?」と聞いても
あかりは「何もないよ~」と笑うばかりで何も教えてくれない。そこで学校、特にごらく部で何か
あるのではないかと考えて今回の監視作戦の噂を聞き、参加させてもらうことにしたらしい。

あかね『あかりを思う気持ちはお互い変わらないわ。共に頑張りましょうね』

向日葵『まあ、私と櫻子以外の方々は別のことに関心がお有りのようですが』

綾乃『待ってなさい、歳納京子!あなたのいろんな所を・・・、ハァハァ』

千歳『あかん、想像したら鼻血が止まらへん!』ブシャー

櫻子『あはは(苦笑)』

こうしてあかねが仲間になった!とは言ってもオブザーバーなのであまり表に姿を現すことはなく、
こっそり4人の協力をしたり、裏で計画を立てたりといわゆる影で糸を引くタイプの役割であった。
そのため結衣たちもあかねが事件に関わっていることに全く気付かなかったのである。

ちなみに物語の最初の最初に登場したこの場面であるが、この最後の???の人物の正体はあかねだったのだ。

――――――――――

???『カメラを仕掛けたのがバレてしまったわ』

???『でも今日までの映像はバッチリ撮れましたね!』

???『明日からは他の方法を使わないとダメですわね』

???『そうやなぁ』

???『・・・』    

――――――――――

向日葵「ところでわたくし、一つ気になる点がございますの」

あかね「何かしら?」

向日葵「ごらく部の放火事件のことですわ。あれはわたくしが赤座さんに指示してやらせたものですけど、
    どうも腑に落ちないんですわ」

あかね「・・・」

向日葵「あんなに心優しい赤座さんがいくら辛い思い出しか無いごらく部とは言えあんないとも簡単に
    火を放つなんてこと出来るでしょうか?赤座さんは自分がやったと言っておられましたが
    本当は違うのではないかと・・・」

あかね「何が言いたいのかしら」

向日葵「つまり、あの時ごらく部を放火したのはあかねさん、あなただったのではないかと言ってるんですの」

あかね「うふふ、もう隠していてもしょうがないわね。ええそうよ、私がやったの」

向日葵「やはりそうでしたか。赤座さんはお手伝いをしただけですね?」

あかね「あかりしかごらく部には入れないもの。さすがの私でもあの要塞を突破するのは不可能だわ」

向日葵「なるほど。赤座さんにドアを開けてもらい、そして赤座さんが中に入って赤外線レーダーの
    スイッチを切る。櫻子が殺された時に船見先輩がそうしたように。これであかねさんが
    自由にごらく部に出入りできるようになったというわけですわね」

あかね「それで私が中に入って火をつけたの。あかりは見てるだけだったわ」

向日葵「赤座さんに頼まれたんですか?」

あかね「ええ。『向日葵ちゃんにごらく部を放火するよう指示されたんだけど、
    怖いからお姉ちゃんが代わりにやって~』って言われて。
    放火も簡単に出来ないなんてあかりもやっぱりまだまだ子供ねぇ」

向日葵「おほほ、それが赤座さんの魅力だと思いますわ」

あかね「でもあかりは私が犯人だということは誰にも言わなかったようだけど」

向日葵「そうですわ。あかねさんをかばってそうしたのかただ単に放火を自分の手柄にしたかっただけなのか
    どちらかは分かりませんけどね。でもおかげでわたくしも最近まで気づきませんでしたわ」

さて、生徒会メンバーと共に行動するようになったあかねだが、次第にこんなことを考えるようになっていた。

あかね(見たところ、他の3人は雑魚ね。でもあの向日葵ちゃんという子はなかなか侮れないわ。
    今は味方だけどのちのち要注意人物になりそうね)

一方の向日葵も、

向日葵(どうやらあかねさんはかなりのやり手のようですわ。今は頼りになりますが敵に回したら
    恐ろしいでしょうね)

だが2人の心配は現実のものとなる。船見結衣殺害後2人は敵対することになる。
彼女らは最初からこうなる運命だったのだ。

あかね(最近の向日葵ちゃん、ちょっとあかりに接近しすぎじゃないかしら)

そう思ったあかねは2人を監視した。船見結衣を殺害後一緒に下校する2人を後ろから付けていた。
こんな会話が聞こえてくる。

――――――――――

向日葵『それにしても今日は長い1日でしたわ』

あかり『もう9時半だよぉ。あかりいつも9時に寝てるから、すごく眠い』

向日葵『夕食もまだでしたわね。お腹はすいてますの?』

あかり『ずっと向日葵ちゃんが作ってくれたクッキーを食べてたからそんなにすいてないよぉ。
    向日葵ちゃんのクッキーすごく美味しいね!』

向日葵『え?そ、そんなこと無いですわ・・・///』カァッ

向日葵(赤座さんに褒められましたわよ・・・!///)

向日葵『そういえば大丈夫でしたか赤座さん?船見先輩が死ぬところなんか見て気分が悪くなったり
    しませんでしたの?』

あかり『平気だよ。あかりの事あんな悪く言う奴なんか死んで当然だよ』

向日葵『ふふ、そうですわね』

向日葵『では、わたくしはこちらですので』

あかり『うん、バイバイ向日葵ちゃん!』

向日葵『また明日ですわ、おやすみなさい』

あかり『あっ、そうだ!』

向日葵『どうしたんですの?』

あかり『あかりすっかり忘れてたんだけど今日京子ちゃんのお通夜があったんだよね』

向日葵『そうだったんですの?でももう9時半ですから終わってるでしょう』

あかり『そうだよね、明日は葬式があるんだけどどうする?行ってみる?』

向日葵『そうですわねぇ、面白そうですから行ってみましょうか』

あかり『じゃあまた明日、葬式会場で!』

向日葵『おやすみなさいですわ』

あかり『おやすみ~~☆』

???『・・・』

――――――――――

ちなみに最後の???はあかねである。

あかね(えっ、ちょっと待って意味が分からないわ。なんであの2人あんなに仲良くなってるの?
    それにもう既に一緒に葬式にまで行く間柄になってたなんて!あああ、病める時も健やかなる時も
    あかりのことを第一に考えて生きてきた私の人生って一体・・・)

あかね(待ちなさい、落ち着くのよあかね!まずは深呼吸よ!)

スゥ ハァ スゥ ハァ スゥ スゥ スゥ スゥ スゥ スゥ スゥ スゥ スゥ

あかね(ふぅ、落ち着いたわ。とりあえず様子を見ましょう。向日葵ちゃんの処罰はそれからでも
    遅くないわ)

だがその2日後、大学から帰ってきたあかねはとんでもない光景を目にすることになる。

ガチャ

あかね『ただいまー。あら?』

あかね『こ、これは!あの悪名高き犯罪界のナポレオン古谷向日葵の靴じゃないの!?』

あかね『どうせ無理矢理あかりの部屋に押しかけていったのね!これは姉として
    様子を見に行かねば!』

そこであかねは夕食のメニューをハンバーグかカレー、どちらが良いか聞きに行くという名目で
あかりの部屋を覗くことにした。

あかり『う~~~、向日葵ちゃん、苦しいよ~~』ジタバタ

向日葵『良いではないかー良いではないかー』

あかね『あかりー、ちょっといいかしら?』ガチャ

向日葵『え?』

あかね『』

中略

あかり『ところでお姉ちゃん、何か用事?』

あかね『ああそうそう、今日の夕食の事なんだけどハンバーグとカレーどっちがいいかしら?』

あかり『あかりハンバーグがいいなぁ!』

あかね『分かったわ、ハンバーグにするわね』バタン

テクテク

あかね(あれは一体どういうこと?ベッドの上で抱き合うなんて!
    まさかお通夜で一夜を共にして、葬式で親睦を深めたっていうの!?
    って確かお通夜には行ってなかったわよね)

あかね(でもああああ、こんなことなら私も付いていけば良かったわ。
    ミラクるんには興味ないし、歳納さんの葬式なんて行くだけ無駄だと思って行かなかった私のバカ!)

台所にやってきたあかね。夕食のハンバーグの準備をしようとひき肉を冷蔵庫から取り出す。

取り出したひき肉をじっと見つめながら、

あかね『・・・』

あかね『向日葵ちゃんの肉をハンバーグの具材にしたいわ・・・』ボソッ

あかね(は!危ない危ない私ったら何を考えてるの!?マジキチSSの見すぎよ、
    このSSはマジキチじゃないのに私が狂ってどうするのよ!)

あかね(ダメダメ、落ち着くのよあかね!実数を数えるのよ!)

あかね(えーっと、0、0.1?0.00000・・・)

あかね(って実数なんて数えられるわけないじゃない!ああ私完全にパニクってるわ・・・)

その時、廊下を誰かが歩く音が聞こえた。

あかね(だれかしら?)

見てみると向日葵がトボトボと玄関に歩いていく。そして例の靴を履いて帰っていった。

あかね(向日葵ちゃんもう帰っちゃったのね。何かあったのかしら)

あかね(まあ良いわ、それよりあの子、中学になってから初めてあかりと知り合ったくせに
    あかりとあんなにイチャイチャするなんて実に生意気ね。私のほうがあかりと
    はるかにながーーーーーーーいお付き合いがあるのよ、京都銀行よ!)

しばらくして

あかね(うふふ、残念だわ向日葵ちゃん。あなたとは良きパートナーになれると思ったのに。
    でも仕方ないわよね。だって、6人もの人を殺した殺人鬼にあかりを任せられるわけ無いもの)

あかね(さようなら向日葵ちゃん。私の手であなたをあなたが殺した先輩達の元へ届けてあげるわ)ニコ

向日葵「それで、わたくしを襲ったというわけですのね」

あかね「ええそうよ。まあ案の定あなたは手強かったけどね。まさかあんな速いスピードで逃げられる
    とは思ってなかったわ」

向日葵「おほほ、あの時のピザ、おいしかったですわよ」

あかね「あれ食べたの!?」

向日葵「自分にかかった分も床に散らばった分も全部食べましたわ。もったいないですもの」

あかね「随分エコロジーな子ね。それはそうとあなたを襲った犯人が私だって気付いてたのね」

向日葵「あの夜冷静になって考えたらすぐに気付きましたわ。わたくしにあんなことする人なんて
    あなた以外に考えられないですもの」

あかね「それで自殺を装って雲隠れしたと」

向日葵「あなたの攻撃から逃れるためですの。そして隙を狙ってあなたを殺そうと思ってましたのに
    まさか東京に行ってしまうなんて驚きましたわ」

あかね「私もよ。これで邪魔者もいなくなって東京であかりと2人で同棲ラブラブ生活を送れると思ったのに、
    まさか向日葵ちゃんが生きてたなんて驚いたわ」

向日葵「なんなら今わたくしを殺しても良いんですのよ」

あかね「え?」

向日葵「だってわたくしを殺したいと思ってらっしゃったんでしょう?
    じゃあ今が絶好のチャンスじゃないですの」

あかね「うふふ、さすがの私もこのスカイツリーの展望台のど真ん中で
    殺人を犯すほど馬鹿じゃないわ。それに・・・」

向日葵「それに・・・?」

あかね「気が変わったのよ。あなたは法で裁かれるべきだと思うの。あなたの数々の悪事、
    世に知られるべきだわ」

向日葵「あかねさんだって相当の悪事を働いてますわ。ごらく部の盗撮への協力、
    ごらく部への不法侵入と放火、歳納先輩殺害への協力、船見先輩への暴力、
    わたくしに対する2度の殺害未遂、そして生徒Dの殺害。
    これだけの罪が揃っていればかなりの刑になるんじゃないですの?」

あかね「あなたの悪事に比べればまだマシよ。医者の買収、ごらく部の盗撮、
    ごらく部への不法侵入と屋根裏改造、大室さんの殺害、吉川さんへの暴行及び殺害、
    船見さんの盗聴、同級生の買収と船見さんへのいじめの指示、ごらく部の放火の指示、
    杉浦さんの殺害、歳納さんと船見さんへのひき逃げ未遂、船見さん宅へのライフル乱射、
    赤座あかね記念病院への襲撃、松本会長の殺害、歳納さんの殺害、
    船見さんの生徒会室監禁と暴行及び殺害及び死体遺棄、あかりへの強姦未遂、
    理科室への不法侵入、そして偽の自殺による警察の捜査のかく乱。
    ざっと数えてもこれくらいあるわ。これはもうどう考えても死刑よね」

向日葵「おほほ、残念でしたわね。わたくしまだ13歳ですから、死刑にならないどころか
    逮捕すらされませんわよ。おほほほほ」

あかね「そんなこと言ってられるのも今のうちよ。見てなさい、私が13歳でも死刑になるように
    日本の法律を変えてあげるわ。あなたは日本で最初の女子中学生死刑囚になるのよ。
    最近は可愛すぎる○○っていうのが流行ってるけど、あなたはさしずめ
    可愛すぎる死刑囚ってところかしら」

向日葵「ありがとうございますですわ」

あかね「だから別に褒めてないわよ。あなたが死刑囚デビューしたら、芸能界に入ってタレント活動を
    始めれば良いと思うわ。可愛すぎる死刑囚としてたちまち大ブレイクするわよ、きっと。
    でもある日突然予告も無く強制引退させられてしまうけどね」

向日葵「さて、くだらない無駄話はこの辺にして、わたくしはそろそろ帰ることにしますわ」

あかね「ちょっと待ちなさいよ、あかりには会っていかないの?」

向日葵「わたくしは、まだ赤座さんに会うわけにはいかないんですの」

あかね「じゃあここに何しに来たのよ」

向日葵「わたくしはエンターテイナーなんですの。わたくしの顔を見た時のあかねさんの
    驚きに満ちた表情、最高でしたわ。それでは」

向日葵はあかねに背を向けると人ごみの中へ歩いていく。

あかね「ちょっと、まだ話が―――」

あかり「どうしたの、お姉ちゃん?」

あかね「あかり!?な、何でもないわよ。こんな長い間どこに行ってたの?」

あかり「あのね、すごく優しい女の人がね、あかりにいろいろ買ってくれたり
    レストランでご馳走してくれたりしたんだよぉ」

あかね「そうなの!?じゃあその人にお礼をしなくちゃならないわね」

あかり「あっ、でももう帰るって言ってたから多分もうここにはいないんじゃないかなぁ」

あかね「え、じゃあお礼ができないじゃない。どうしましょう・・・」

あかり「お姉ちゃんさっき誰に話しかけてたの?」

あかね「えっ、はっ!」

あかねはさっき向日葵が歩いて行った方に目を向けた。だが向日葵はもう人ごみの中に紛れてしまい、
見つけることはできなかった。

あかり「お姉ちゃん・・・?」

あかね「あぁ、何でもないわ。お姉ちゃんの独り言よ、だから気にしないで」

あかり「う、うん」

あかねは窓の外へ目を向ける。まだ外は大粒の雨が降っており、止む気配はない。

あかね「それにしても困ったわねぇ、良くしてもらったのにお返しもできないなんて。
    一体どこの誰なのかしら・・・」

・・・・・・

向日葵「はい、これがショップ代とレストラン代、そしてプラス言っていた報酬ですわ」

女性「ありがとうございます」

向日葵「こちらこそ、わたくしがあかねさんと話している間、赤座さんを引き止めて
    おいてくださって助かりましたわ。突然見ず知らずのわたくしにこんなこと頼まれて
    びっくりしたと思いますが本当にありがとうございましたですわ」ニコ

女性「いえいえ。あかりちゃん、すごくかわいかったです。私も楽しかったですよ」

向日葵「それは良かったですわ」ニコ

<第16章>

それから数日が経った。あかりはもう完全に東京での生活に馴染んでいた。

家ではお姉ちゃんに優しくされ、学校ではクラスの人気者。
休み時間のたびにあかりの席の周りに仲の良いクラスメイトたちが集まって話をする。

あかり「それでね、この前あかりがねー」

生徒A「えー、すごーい!」

生徒B「あかりちゃん面白いー」

生徒C「わぁー!」

わいわいがやがや

あかり(あかり、毎日ものすごく目立ってるよぉ。えへへ~)

また、数日前には

生徒A「ねえねえあかりちゃん。あかりちゃんって前の学校では何か部活とかやってたの?」

あかり「えっとね、ごらく部っていうのに入ってたよ」

生徒B「ごらく部?それってどんな部活なの?」

あかり「現代の様々な娯楽(amusement)の種類とその特徴、近現代における娯楽の発展、
    西洋と東洋での娯楽の差異、娯楽が人間社会に及ぼした影響などについて
    研究して定期的に学会で発表したりする部活だよぉ」

生徒C「へぇ、なんだか難しそうなことをやってるんだねぇ」

生徒A「ってことはあかりちゃんは文化系なのかな?スポーツには興味ある?」

あかり「へ?スポーツ?」

生徒B「実は私たち3人全員テニス部に入ってるのよ。それでもし良かったら
   あかりちゃんも入ってみないかなーって思って」

あかり「テニスかぁ~。なんだか面白そうだね、うん、あかりやってみるよ!」

生徒C「わぁぁー、あかりちゃんが入ってくれたよー!」

生徒A「ありがとうあかりちゃん!じゃあ早速今日の放課後からやってみない?」

あかり「うん!」

放課後

生徒A「す、すごい・・・。あかりちゃん、本当にテニス未経験なんだよね?」

あかり「そうだよぉ」

放課後テニスコートであかりにテニスの基本を一から教えていた3人は、
あかりの飲み込みがとても早くラリーやサーブをさせても非常に上手かったので
試しにシングルスの試合をしたところ、全員があかりに負けてしまった。

生徒B「私たちだって中学に入学してからまだ半年近くしかテニスやってないけど、
   それでもまさか今日始めたばかりのあかりちゃんに負けるなんて思わなかったよー」

生徒C「こりゃすごい人が入部してくれたね」

あかり「そんな、たまたまだよぉ」アセアセ

こうしてあかりはテニス部に入部し、毎日放課後友達とテニスの練習をするようになり、
ますます充実した毎日を過ごすようになった。

クラスではみんなと仲良くお喋りし、部活ではみんなと共に青春の汗を流す。
そのどちらでもあかりが常にみんなの中心なのだ。これこそがあかりの理想としていた学園生活であった。

あかりは幸せな毎日を送っているように見えた。確かに、東京での生活はとても楽しいものだった。
・・・のだが、時が経つにつれてあかりの心境は徐々に変化していく。

向日葵のことを思う気持ちは前と変わらない。だがそれに加えて故郷富山を思う気持ちが
日に日に膨らんでいくのである。富山の大自然、自分が生まれ育った街、アニメイト富山店。
そんな光景が夜寝るときに目をつむるとあかりの脳裏に浮かび上がってくる。

あかり(オラ、富山の田舎に帰りたいべ)

あかりはそんなことを思うようになっていた。

そんなある日のこと

あかり「でねー、この前見たテレビ番組で・・・」

生徒A「あ、それ私も見た!すっごく面白かったよね!」

わいわいがやがや

ガラッ

教師「はーい静かにー。今日は転校生を紹介しますわ。さあ、入って」

あかり(転校生?)

次の瞬間、あかりは我が目を疑った。先生に連れられて入ってきたのは・・・

教師「じゃあ自己紹介してちょうだい」

向日葵「初めましてですわ、みなさん」

あかり「・・・」

あかりの驚きなど気にも留めずに彼女は話し続ける。

向日葵「わたくし、富山県から転校してきた古谷向日葵という者なんですの。
    特技は買収ですわ。ではみなさん、これからよろしく」

向日葵はあかりからはやや離れた席に座った。

生徒B「あかりちゃん、また転校生だね」

あかり「う、うん・・・」

休み時間、向日葵の周りには早速大勢の人が集まっている。

向日葵「ここにあるのは『ですの』ーと『ですの』ー!」

デスノートを手に持ちながらくだらないダジャレを言って場を盛り上げている向日葵。

そんな向日葵を片目で見ながら、あかりは思っていた。

あかり(一体どういうことなの・・・?だって向日葵ちゃんは死んだはず!
    もしかしてあの向日葵ちゃんは偽者・・・?いや、あのくだらなさは
    絶対に向日葵ちゃんだ。でも、どうして・・・)

生徒A「あかりちゃん、あの古谷さんって子、富山県から転校してきたみたいだけど
   もしかしてあかりちゃんの知り合い?」

あかり「え、えーっと・・・。う、ううん、知らない子だよぉ」

あかり(うぅぅ、思わず知らない子って答えちゃったよぉ。でも向日葵ちゃん、
    あかりのこと絶対に気付いてるはずなのにわざとこっち見ないようにしてるっていうか・・・。
    話しかけづらいなぁ、どうしよー)

その時、チラチラと向日葵の方を見ていたあかりは偶然向日葵と目が合ってしまう。

あかり「あっ///」

慌てて目をそらす。何故かとても恥ずかしい気持ちになった。

結局その日は一度も向日葵と会話することができず、放課後に。あかりはいつものように
友達と一緒にテニス部へ向かう。

あかり(結局向日葵ちゃんとお話できなかった・・・)

テニスの練習中もあかりはどこか上の空。

生徒A「あかりちゃんボールボール!」

あかり「えっ、うわ!」

ボールはあかりの脇をかすめて後ろへと転がっていく。

あかり「ごめんごめん」タタタ

生徒A「あかりちゃんがミスするなんて珍しいね」

生徒B「あかりちゃんどうしたの?今日なんだかずっとボーっとしてるよ」

あかり「な、何でもないよぉ。えへへ」

あかりは複雑な気持ちだった。

あかり(あかり、向日葵ちゃんとずっと会いたいって思ってた。でももうそれは叶わぬ夢だとも思ってた。
    だから向日葵ちゃんが生きてて、こうしてまた再会できたのは嬉しい、嬉しいんだけど・・・。
    なんか恥ずかしいっていうか気まずいんだよね。あかり、どうしたらいいんだろう・・・)

部活の帰り、あかり達4人は校舎の中を昇降口に向けて歩いていた。

生徒A「今日は帰りにカラオケ寄ってかない?」

生徒B「いいねいいねそうしよう」

生徒C「カラオケだー、わふーー!」

あかり「・・・」

あかり(とりあえず、家に帰ったらお姉ちゃんに今日の事を話してみよう!)

昇降口にやってきた。あかりが下足箱を開けると、何やら手紙のようなものが入っている。

あかり(何だろうこれ?)

取り出して他の3人に見られないようこっそり読んでみる。手紙にはこう書いてあった。

赤座さんへ

大事なお話がありますので一人で校舎の屋上に来てくださいませんか?

                            古谷向日葵

あかり(ひ、向日葵ちゃん!?)

あかり(ど、どうしよう!?行ったほうがいいのかな、いや絶対そうだよね)

生徒A「あかりちゃん、何してるの?行くよー」

あかり「ごめんみんな!あかりちょっと用事できちゃったから先に帰っててっ」タタタ

みんな「?」

あかりは走った。この手紙がいつ入れられたのかは分からない。
もしかしたら向日葵はもう帰ってしまっているかもしれない。しかしそんなことは関係なかった。

信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題ではないのだ。
あかりはもっと恐ろしく大きいものの為に走っていた。

あかりの心臓はバクバクであった。全速力で走っているからか?
いや、それ以上に向日葵のことを思うと心臓の鼓動が高鳴るのを抑えることはできなかった。
あかりは好きな人からラブレターをもらった女の子の気持ちが分かったような気がした。

校舎の窓から夕陽が差し込んでいる。まだ陽は沈まぬ。あかりは走った。テニスで疲れた
体に鞭打ちながら、最後の死力を尽くして走った。その走りはかのメロスも驚く程の走りであった。

走れアカリウス!ヒマワリウスが君を待っているぞ!あかりはただひたすら走った。
階段を上った。屋上へ通じるドアが見えてきた。そしてあかりは疾風の如く屋上に突入した。

向日葵はそこにいた。

あかり「ハァハァハァハァハァ×50」

夕焼けが広がっている。とても綺麗だ。向日葵がこちらに向かって歩いてくるが、逆光になっていて
表情は見えづらい。

向日葵「お久しぶりですわ、赤座さん」

あかり「向日葵ちゃん、久しぶりだね」

あかりの息切れはもう収まっていた。顔も落ち着いている。赤座家の血が流れている証拠だろう。

すると次の瞬間、向日葵がジャンピング土下座をした。

向日葵「赤座さん、本当にごめんなさいですわ!」

あかり「へ?急にどうしたの?」

向日葵「あ、あの時、赤座さんの部屋のベッドの上でわたくし、
    赤座さんにとんでもないことを・・・。うぅぅ」ポロポロ

あかり「あぁあれのこと?気にしないで向日葵ちゃん。あかりもう気にしてないから」

向日葵「ほ、本当ですの・・・?」ポロポロ

あかり「本当だよぉ。だから泣かないで。あかりの方こそあの時向日葵ちゃんに酷いこと言っちゃってごめんね」

向日葵「うぅぅ、良かったですわ・・・」ポロポロ

向日葵は逆ジャンピング土下座で立ち上がった。もう泣いてはいない。

あかり「それより、あかりは向日葵ちゃんが生きていてくれて嬉しいよぉ。
    うぅ、あかり、向日葵ちゃんのこともう死んだと思ってた・・・、から・・・。グスッ」ポロポロ

向日葵「ああ、今度は赤座さんが泣いちゃって。大丈夫ですわよ、わたくしがそんな簡単に
    死ぬわけないじゃないですの。たかが弓矢1本で死んだ櫻子とは違いますわ」

あかり「で、でも公園で向日葵ちゃんの遺体が見つかって・・・」

向日葵「あれは船見先輩の遺体ですわ。一緒に冷凍庫の中に入れたでしょう?
    ってこの話、視聴者には2回目ですわね」

あかり「視聴者って?」

向日葵「こっちの話ですわ。それでその船見先輩の遺体を冷凍庫から出して公園に置いたんですの。
    わたくしの自殺に見せかけるためにね」

あかり「へぇ~、そうだったんだぁ」

向日葵「その後はわたくしの姿が見つかるといけませんので変装した上で偽名を使って
    ホテルを転々としておりましたの。そしたら赤座さんが東京に引っ越したって聞いて・・・。
    それで東京まで追っかけてきたんですわ」

あかり「あかりのためにわざわざ東京まで来てくれたんだね。ありがとう、向日葵ちゃん」ニコ

向日葵「な!?ほ、褒めてもおっぱいしか出ませんわよ///」

あかりはもうとっくに泣き止んでいた。だが今度は向日葵と面と向かって話をしていることに
恥ずかしさを覚え、少し目をそらしながら話を続ける。

あかり「えっと、てことはもしかしてあの夜あかりが見た向日葵ちゃんって・・・」

向日葵「ええ、わたくしですわ。赤座さんが六本木の近くのマンションの36階に住んでいるという情報
    を掴んだんですの。そこでわたくしは近くの別のマンションの36階の部屋を買って
    そこから赤座さんの部屋に向かって手を振ってたんですのよ」

あかり「あかり、すごくびっくりしちゃったよぉ。向日葵ちゃんが化けて出てきたのかと思った」

向日葵「おほほ、驚かせてしまって申し訳なかったですわ」

あかり「それで、どうして今日この学校に転校してきたの?」

向日葵「その話はなぜわたくしが自殺をでっち上げて姿をくらまさなければならなかったかということと
    関係があるんですの。赤座さん、なぜだと思います?」

あかり「うーん、分かんないよぉ」

向日葵「実はわたくし、あかねさんに命を狙われてたんですの」

あかり「えー、お姉ちゃんに!?」

向日葵「2度も襲われましたわ。かろうじて無事でしたけど。でもいずれ殺されると思い、
    自殺したふりをしてあかねさんの目をごまかしたんですの」

あかり「そうだったんだ・・・。向日葵ちゃんを殺そうとするなんてお姉ちゃん最低だよぉ」

向日葵「おまけに救いようのない変態ですしね。確か赤座さんが言ってたんでしたわよね」

あかり「そうだよ。いつもあかりのこと変態な目で見てくるし、夜はあかりのパンツ使って
    ○○○○(禁則事項です)してるんだよ~」

向日葵「もう末期ですわね」

あかり「でもそれと今日の転校と何の関係があるの?」

向日葵は声のトーンを上げる。

向日葵「赤座さん、聞いて驚かないでください。実はわたくし、赤座さんを連れ戻しに来たんですの!」

あかり「つ、連れ戻し・・・?」

向日葵「赤座さん、わたくしと一緒に富山に帰りませんか?」

あかり「えっ、富山・・・?」

向日葵「富山に帰ってわたくしと2人で暮らすんですの。さっきも言ったようにあなたのお姉さん、
    あかねさんはCIAにもマークされる超危険人物ですわ。そんな人と一緒に東京で暮らすよりも
    わたくしと富山で平和に暮らすべきだと思いますの」

あかり「・・・」

向日葵「それに赤座さん、本当は富山に帰りたいと思ってるんじゃないですの?」

あかり「えっ、どうしてそれを・・・」

向日葵「お団子を見れば分かりますわ。形が富山県の形になってますもの」

あかり「えっ、うそー!?」

あかりは慌ててお団子を手で隠す。

向日葵「ほら、赤座さんだって本当は帰りたいんじゃないですの。
    いくら隠したってお団子は正直ですわよ」

あかり「うぅぅぅ」

向日葵「わたくしと一緒に帰りましょう赤座さん。あなたが13年間過ごした街があなたを待ってますわ」

あかり「でも、急にそんなこと言われても・・・」

向日葵「分かりましたわ。では今すぐに決断しろとは言いません。2、3日あげますから
    その間にじっくり考えてくださいな」

あかり「うん、分かったよぉ」

向日葵「まあ2、3日考えたところで結果は同じことになるだろうと思いますが」

あかり「ねえ、向日葵ちゃんのこと、お姉ちゃんに話してもいい?」

向日葵「別に構いませんわ。あかねさんはわたくしが生きていることはもう知っておられますから」

あかり「えっ!?どうして?」

向日葵「この前スカイツリーでばったり会ったんですの。それで少しの間でしたけど
    仲良くお話しましたわ」

あかり「そうだったんだ、ってあの時スカイツリーにいたんだ!?会いたかったよぉ」

向日葵「会えなくて申し訳なかったですわ」

あかり「別にいいよ。今日こうして再会できたんだし。じゃああかりは今日家に帰ったら
    お姉ちゃんにこの事相談してみるね」

向日葵「それはやめた方がいいですわ!」

あかり「どうして?」

向日葵「あかねさんのことですからどうせ反対するに決まってますわ。それより自分一人で
    考えて決めるべきですの。これは赤座さんの問題です。あかねさんは関係ありませんわ」

あかり「で、でも・・・」

向日葵「どうするか決まってから言えば良いじゃありませんか。それからでも遅くありませんわ」

あかり「そうかな・・・?」

向日葵「そうですの」

あかり「向日葵ちゃんがそこまで言うならそうするよぉ。あかり、自分で考えてみる!」

向日葵「それが良いですわ。良い返事、期待してますわよ」

その後あかりは向日葵と別れて家に帰ってきた。

あかね「遅かったわねあかり。もう夕食出来てるわよ。今日のメニューはオムライスよ」

あかり「わぁいオムライス、あかりオムライス大好き」

夕食中

あかね「ところで今日は帰ってくるのがいつもより遅かったけどどうしたの?」

あかり「あ、えっと、部活のみんなでカラオケに行ってたんだ」

あかね「何だそうだったの。カラオケ良いわねぇ」

あかり「そうそう、今日あかりのクラスに向日葵ちゃんが転校してきたんだよぉ」

あかねの動きが止まる。

あかね「どういう事かしら・・・」

あかり「どういう事も何も言葉の通りだよ。今朝担任の先生が転校生を連れてきたと思ったら
    それが向日葵ちゃんだったの。あかり、すごくビックリしちゃった」

あかね「本当なの・・・?」

あかり「本当だよ。それよりお姉ちゃん顔が堀江由衣さんみたいになってるけど大丈夫?」

あかね「えっ、あぁ大丈夫よ。それで向日葵ちゃんとは何かお話したの?」

あかり「特にこれといっては・・・」

あかね「そうなの。それにしてもへぇ~、そう、向日葵ちゃんがねぇ」

夕食を食べ終わったあかりは自分の部屋に戻ってきた。そのままベッドの上で横になる。

あかり(はぁぁ、今日は色々大変な日だったなぁ。向日葵ちゃんが生きていたのにはすごくビックリしたけど、
    今は・・・、すごく嬉しい!なんか、今頃になってようやく実感が湧いてきたよぉ)

あかりはベッドの上を転げ回る。この喜びを抑えきれないのだ。

あかり(向日葵ちゃん向日葵ちゃん向日葵ちゃん!)

しばらくしてようやく我に返ったあかり。

あかり(そうだ、どうするか考えないと・・・)

あかり(・・・)

口の中にはさっき食べたオムライスの味がほんのり残っている。

あかり(オムライス、美味しかったなぁ。富山に帰っちゃったらお姉ちゃんが作るオムライスが
    食べられなくなるのか・・・。でも・・・)

故郷富山の光景が思い出される。また、そこで暮らした日々も。
今は亡き京子や結衣と共に遊んだ毎日。ただひたすらに純粋に夢を追いかけていた少女時代。
とても懐かしい思い出。

実際には東京に来てからまだ1ヶ月も経っていなかったが
あかりにはもう何年も前のことのように感じられた。

あかり「もう友達もみんな死んじまって、わし一人になってもうた。ああ、若い頃は良かったのう」

なんてふざけている場合ではない。あかりは考えを元に戻す。

あかり(うん、やっぱりあかり、富山に帰りたい・・・。また、あの頃のように過ごしたいよぉ。
    なんかみんな色々ごちゃごちゃっと知らないうちにあれよあれよという間に死んじゃったけど。
    京子ちゃん、結衣ちゃん、櫻子ちゃん、杉浦先輩、池田先輩・・・。
    あれ、なんかもう1人いたような気がするけど、影が薄くて分かんないなぁ。
    この作品でも登場シーン少ないし)

あかり(で、でも、今のあかりには向日葵ちゃんがいる!向日葵ちゃんと一緒にまた富山で
    幸せな生活を・・・。えへへ)

自然と頬が緩みそうになる。だが次の瞬間にはまた物憂げな表情に変わる。

あかり(だけど、今の生活もすっごく楽しいし・・・。学校では人気者、友達もたくさんできたし、
    テニスも楽しいし、毎日が充実してるんだよぉ。それにお姉ちゃんのこともあるし。
    どっちかなんて選べないよ。うーん、あかりどうしたらいいんだろう・・・)

そんなことを考えているうちにあかりは眠ってしまった。よっぽど疲れていたのだろう。
あのメロスのような走りは中学1年生のか弱い女の子には少しばかりハードすぎたのだ。
あかりはそのまま翌朝までぐっすり眠った。

<第17章>

あかね「あかり朝よ~、起きなさ~い」

あかり「え、朝?」

眠たい目をこすりながら起き上がるあかり。窓からは明かりが差し込んでいる。

あかり「そっかぁ、昨日あのまま寝ちゃったんだ・・・」

ダイニングにやってきたあかり。部屋には明かりがついている。

あかね「おはようあかり。朝食が出来てるわ」

朝食中

あかね「あかり、向日葵ちゃんには気をつけなさい。あの子はあらぬ妄言を吐くからね。
    騙されちゃダメよ。なるべく関わらないことね」

あかり「う、うん・・・」もぐもぐ

数分後、あかりは学校に向かって歩いていた。

あかり(うぅぅ、結局昨日の夜は決まらなかったよぉ。それに、夜寝る前と朝起きた後とで
    感情が変わることってあるよね。それのせいでまた自分の気持ちが分かんなくなっちゃった)

物思いにふけりながら学校に到着。

生徒A「おっはよー、あかりちゃん!」

あかり「あっ、おはよう生徒A」ニコ

生徒B「おはよう!」

生徒C「ヒャッホー!」シュタ

あかり「みんなもおはよー」ニコ

生徒A「あかりちゃん昨日はどうしたの?用事があるって言ってたけど」

あかり「何でもないよ!あかりは大丈夫だから気にしないで」

生徒A「そう?なら良かった!昨日のあかりちゃん様子が変だったからみんな心配してたんだよー」

あかり(あかりのこと、心配してくれてたんだ・・・)

生徒B「それでね、昨日カラオケでこいつがさー」

生徒C「ちょっと、それ言わないって約束だったじゃんかー!」

生徒B「まあまあ」

生徒A「いいじゃんいいじゃん」

あかり「え、なになにー?」

生徒B「マイクを飲み込もうとしたら喉のところでつっかえちゃってさ、もう大騒ぎ」

生徒A「それで慌てて店員さんに取ってもらったんだー。ほんともう、ププ、クスクス」

あかり「何それおもしろーい!あかりも見たかったな~!」

生徒C「もう~、しょうがないだろ、私の喉小さいんだから~」

アハハハハ あかり達4人はもう大笑い。あかりはこの時がすごく好きだった。

生徒A「でもあかりちゃんがいたらもっと盛り上がっただろうな~。今度は一緒に行こうね!」

生徒B・C「そうだよー!」

あかり「み、みんな・・・。うん、ありがとう!」

ガラッ

教師「はーい、朝のホームルーム始めますわよー」

授業中 あかりの脳内

――――――――――

生徒A『でもあかりちゃんがいたらもっと盛り上がっただろうな~。今度は一緒に行こうね!』

――――――――――

あかり(えへへ、嬉しかったなぁ、あの言葉。あかりが昨日カラオケに行けなかったことを気遣って
    言ってくれたんだね。あかりは幸せ者だよぉ。
    京子ちゃんや結衣ちゃんだったら多分言ってくれなかっただろうねぇ)

だが、あかりの心の中はモヤモヤしたままだ。

あかり(確かに今の生活は最高だし、毎日がとても充実してる。ここ東京での新生活は毎日が楽しくて幸せ。
    ・・・のはずなんだけど、何だろう何かが違うっていうか何かが足りないっていうか・・・。
    なんだかすごくモヤモヤするよぉ)

あかりはちらりと向日葵の方を見た。向日葵は熱心に授業を聞いている。今日は向日葵とは一度も話していない。
それは昨日向日葵が、決断するまでは話しかけないで欲しいとあかりに言ったからだ。

向日葵のことをじっと見つめながら考え込んでいたあかりはあることに気がついた。

あかり(そうだ、この感じ、なんか既視感があるなって思ったら、七森中ではあかりの前の席が
    向日葵ちゃんだったからいつも授業中は向日葵ちゃんの背中が見えてたんだ。
    七森中かー、懐かしいなぁ・・・)

あかり(・・・)

あかり(・・・)

あかり(・・・)

あかり(そっか、分かった・・・。何が違ってて何が足りないのか・・・。
    そうだよ、今の生活に足りないのは・・・)

その日の昼休み、あかりは向日葵を屋上に呼び出した。

向日葵「何ですの、屋上に呼び出したりなんかして。決闘の申し出ですか?」

あかり「向日葵ちゃん分かってて言ってるでしょ。あかり、ついに決めんたんだよぉ!」

向日葵「そうですか、意外と早かったですわね。もう少し時間がかかると思ってましたわ」

あかり「向日葵ちゃん!」

向日葵「何でしょう?」

あかり「あのね、あかり、向日葵ちゃんと富山に帰ることにした!」

向日葵「ファイナルアンサー?」

あかり「えっ?ファ、ファイナルアンサー!」

向日葵「・・・」

向日葵「お、おほほほほ、わたくしを選んでくれたというわけですわね。正解ですの。
    まあ初めからこういう結果になることは分かってましたけど、それでも嬉しいですわ」

あかり(うぅ、なんかうざい)

向日葵「それでどうしてわたくしと富山に帰る茨の道を選んだんですの?」

あかり「あかりね、やっと気づいたんだ。今の生活は確かにすごく楽しくて幸せだけど、
    何か違う、何か足りないってずっと思ってて、その足りない物が何かってことに
    ようやく気づいたんだ。それでますます富山に帰りたいって思うようになったの。
    そ、それに・・・」

あかりは向日葵から目をそらす。

向日葵「?」

向日葵「それに、何ですの?」

あかり「ひ、向日葵ちゃんと一緒なら帰ってあげても、良いかなーって・・・」ボソボソ

向日葵「声が小さくて聞こえませんわよ。向日葵ちゃんと一緒なら・・・?」

あかり「な、何でもないよ!///あかりはただ富山に帰りたいだけであって、べべべ別に向日葵ちゃんと
    一緒だからとかそういう理由はこれっぽっちもないんだからっ!///」かぁぁ

向日葵「そ、そうですの・・・?」

あかり「うぅぅぅ」

向日葵「まあ良いですわ。それで足りない物っていうのは何なんですの?」

あかり「えっ?そ、それは・・・、秘密だよぉ」

向日葵「なんだ秘密ですの?気になりますわねぇ。ところでこの事はもうあかねさんには話しましたか?」

あかり「まだだけど」

向日葵「じゃあ今日帰ったらお伝えしてくださいな。2日後に出発しますので
    そのつもりで荷物とかも準備しておいて欲しいんですの」

あかり「2日後!?ずいぶん早いんだねぇ。うん、伝えておくよ」

向日葵「さて、そうと決まれば赤座さん、まずやらなければならないことがありますわ」

あかり「へ?」

向日葵「えー突然ですが、わたくし古谷向日葵と赤座さんは富山県に引越しすることになりました。
    なのでみなさんとは今日でお別れですの。2日間だけでしたけど楽しかったですわ」

生徒A・B・C「えーーー!!?」ガタッ

その日の帰りのホームルーム、向日葵とあかりは教室の前に出てクラスメイトに転校の報告をした。

向日葵「記念にデスノートを置いていくのでみなさん自由に使ってくださいな。
    ほら、赤座さんも何か」

あかり「えっと、急でビックリしたかもしれないけど、あかりは元いた学校に帰ります。
    短い間でしたがみなさん今まで本当にありがとうございました」ペコリ

ホームルーム終了後、あかりの席の周りに例の3人組が集結する。

生徒A「ちょっとあかりちゃん、転校ってどういうこと!?」

あかり「あ、えっとね、その・・・」

あかり(なんて説明したらいいんだろう)

あかり「あのね、前は家の事情でこっちに来たんだけど、またちょっと家の事情で富山に
    戻らなくちゃならなくなって、それで・・・」

生徒A「そっか、家の事情かー。じゃあしょうがないよねー」

生徒B「・・・」

生徒C「いつ富山に行くの?」

あかり「2日後の予定だよ」

生徒C「2日後!?もうすぐじゃん!」

生徒A「ねえ、私提案があるんだけど。明日学校休みだよね、だからみんなでカラオケに行かない?」

生徒B「カラオケ?」

生徒A「そう!この前はあかりちゃんいなかったし、今回はあかりちゃんの送別会も兼ねて!」

生徒B「いいねいいね、そうしよう!」

生徒C「またカラオケだー、わふーー!」

生徒B「今度はマイク飲み込まないでよ」

生徒C「分かってるよー!」

あかり「みんな、ありがとう!」

向日葵「カラオケですかー、面白そうですわねぇ」ニョローン

みんな「わ!」

あかり「ちょっと向日葵ちゃん、背後霊みたいな登場の仕方はやめてよ、心臓に悪い」

向日葵「もしよろしければわたくしも参加させていただきたいのですが」

生徒A「もちろんいいよ!えーっと、古谷さんだっけ?」

向日葵「わたくしのことは向日葵ちゃんと呼んでくださって結構ですわ」

こうして明日5人でカラオケに行くことになった。その後あかりはテニス部に行って
顧問や他の部活仲間たちに別れを言ってからすぐに下校することに。
引越しのための荷物整理などをしなければならないからだ。

生徒A・B・C「じゃあまた明日ねー!」

あかり「また明日ー!」

あかりは笑顔で帰宅した。自分の決断に後悔はなかった。

その日の夜

あかり「お姉ちゃんちょっと良い?」

あかね「あらあかり、どうしたの?」

あかり「あのね、実はあかり、向日葵ちゃんと一緒に富山に帰ることになったんだよぉ!」

一瞬あかねの顔がムンクの叫びのようになったのは気のせいだろうか。

あかり「お姉ちゃん?」

あかね「ごめんなさいあかり。実はお姉ちゃんの耳はね、都合の悪いことは
    聞こえにくくなるようにできてるの。だからもう1回言ってちょうだい」

あかり「うん。あのね、あかりは向日葵ちゃんと一緒に富山に帰ります」

あかね「・・・」

あかり「・・・」

あかね「一体どういうことなのかしら・・・」

あかり「学校で向日葵ちゃんがね、一緒に富山に帰ろうって誘ってくれたんだ。
    それでね、あかりも色々悩んだんだけど、やっぱりそうしようって思ったの」

あかね「あかり、お姉ちゃん言ったわよね。あの子はあらぬ妄言を吐くから関わらない方がいいって」

あかり「でも、あかりは向日葵ちゃんと一緒に富山に帰りたいんだよぉ!」

あかね「!」

あかねの体はワナワナと震えている。

あかね「あかりは今の生活が不満なのかしら・・・?私と2人っきりの生活が嫌だと・・・?」

あかり「別に不満はないよ。でもね、なんか違うなって思うの。それに、向日葵ちゃんから聞いたんだけど、
    お姉ちゃん向日葵ちゃんを2回も殺そうとしたんだってね」

あかね「何を言っているの!?そんなのはあの子の妄想よ!私がそんなことするわけないじゃない!」

あかり「そんなの信じられないよぉ。あかり、お姉ちゃんのこと見損なっちゃったなぁ」

あかね「あああああかり、どどどどどうしたって言うの!?おおおお落ち着きなさい!」

あかり「落ちつくのはお姉ちゃんの方だよ。とにかく、あかりはもう決めたんだからっ!
    明後日には東京を出るからね」

あかね「あああああそんな・・・、冗談よね、お願いだから冗談だと言って!あぁぁぁ!」ポロポロ

泣き崩れるあかねを置いてあかりは自室へと帰っていく。

あかね「あぁぁぁぁ神様!あかりが反抗期です!どうしたらいいのでしょう!」ポロポロ

あかねはそのままひたすらに泣き続けた。この世の終わりかと思える程の大きく絶望のこもった声で泣いた。
あかりはそのあかねの泣き声を子守唄にして眠りにつく。

そして彼女はその後一晩中泣き続けた。あまりにも泣き続けたために涙が床にあふれて染み込み、
下の階で雨漏りを発生させて下の階の住人から苦情が来たほどだった。

あかねがいた部屋では床上浸水が発生し、床に置いて充電していた携帯が水没するなど多数の被害が出た。
また、あかねの体内からはどんどん水分が抜けていったため体内の水分量は朝方には体重の40%近くにまで
減少し、通常であれば死の一歩手前という危険な状態になっていた。
だが幸いにもあかねは赤座家の人間だったため、これくらいのことではなんともなかったのだが。

翌日、あかりがカラオケに行こうとしていると、

あかね「あかり、ちょっといいかしら?」

あかり「あ、お姉ちゃん。なに?」

あかね「あのね、お姉ちゃん昨日一晩中考えたんだけど、あかりが富山に帰りたいって言うのなら
    その気持ちを尊重してあげないといけないと思うの」

あかり「うん」

あかね「それでね、お姉ちゃんも一緒に富山に帰ることにするわ。そうすればまた2人で一緒に住めるものね」

あかり「え、でもお姉ちゃん会社は・・・」

あかね「そんなの、富山から通えばいいだけじゃない」

あかり「そうだけど・・・」

あかね「大丈夫よ。私にとっては毎日片道4時間かけて通勤することよりあかりがいない
    毎日を過ごすことのほうがよっぽど辛いの」

あかり「・・・」

あかり(そっか、そうだよね・・・)

あかり「うん、分かったよぉ。じゃあ明日一緒に富山に帰ろうね、お姉ちゃん!」

あかり「じゃあ行ってきまーす!」ガチャ バタン

てくてく

あかり(やっぱりお姉ちゃん、頭いいなぁ。そうだよ、お姉ちゃんも一緒に富山に帰ればいいんだよぉ。
    そしたらまた向日葵ちゃんとお姉ちゃんと3人で平和に暮らせるし、これが最善の道だよねぇ)

そしてその日5人はカラオケで思う存分楽しんだ。現在では廃盤となっているなもなりなももも大事件を始め
たくさんの曲を歌って盛り上がった。

そんなカラオケの最中、あかりは向日葵を廊下に呼び出した。

向日葵「何ですの、今いいところでしたのに。また決闘の申し出ですか?」

あかり「もういいよそれは。あのね、お姉ちゃんに富山に帰ること言ったんだけど、そしたら
    お姉ちゃんも一緒に帰るって」

向日葵「は?」

あかり「いや、だからお姉ちゃんも一緒に3人で帰るってことになったの」

向日葵「いやいやちょっと待ってくださいな。あかねさんは東京に会社があるんですわよね。
    お仕事はどうするんですの?」

あかり「なんか富山から通うみたい」

向日葵「毎日が旅行じゃないですの。そんなことしてたら身が持ちませんわ」

あかり「うん、あかりもそう思ったんだけど大丈夫だって。あかりがいない生活の方が辛いんだって
    言ってた」

向日葵「そりゃそうかもしれませんが・・・。でもまあ、仕事8時間、通勤8時間、睡眠8時間と
    1日がきれいに3分割されて健康的そうではありますわね」

あかり「そうでしょ?それにあかりとしてもやっぱりお姉ちゃんがいてくれた方が嬉しいから、
    その方がいいかなって」

向日葵「・・・」

あかり「向日葵ちゃん?」

向日葵「えっ、あぁ分かりましたわ。じゃあ明日の朝あかねさんと一緒に東京駅に来てくださいな。
    わたくしがお待ちしておりますので。そして3人で富山に帰りましょう」

あかり「うん!」

向日葵「・・・」

<第18章>

そして翌日 東京駅

あかね「えーっと、上越新幹線のホームはどこかしら・・・」

あかり「ここに来た時に一回通ったよね?」

あかね「うるさいわね」

生徒A・B・C「あかりちゃーん!」たたた

あかり「みんな!来てくれたんだ!」

生徒A「当然だよー」

あかね「あら、あかりのお友達?私はあかりの姉のあかねよ」

生徒B「あかりちゃんのお姉さんですか、はじめまして。私は生徒Bです」

生徒C「あかりちゃんによく似てますねー!」

あかね「あらそうかしら?嬉しいわ、うふふ」

生徒A「こんなに仲良くなったのに、こんなにすぐにまた転校しちゃうなんてさみしいよー」

あかり「ごめんね、みんな・・・」

生徒C「あーあ、せっかくウチの学校に期待の大型新人が現れたと思ったのになぁ」

生徒B「まあまあ」

生徒C「あかりちゃんだったら八森中テニス部のスーパースター間違いなしだったよ!
   Yamori of starだよ!」

生徒B「それだったら星のヤモリになるじゃん。星のカービィみたいだね」

あかり「あかり、富山帰ってもテニス続けるよ!」

生徒A「本当!?」

あかり「うん、だってせっかくみんなに色々教えてもらったんだし、やめたらもったいないよぉ」

生徒C「やったー!じゃああかりちゃん、全国大会でまた会おうね!」

あかり「うん!」ニコ

向日葵「あらあらこんな所にいたんですの。みなさんお揃いのようで」

あかり「あ、向日葵ちゃん!」

あかね「ちょうど良かったわ、上越新幹線のホームはどこなの?」

向日葵「上越新幹線はあっちですわ。でもそれよりあかねさん、大変なことが起きたんですの。
    ちょっとこっちに来てくれませんか?」

そう言うと向日葵はあかねを連れて上越新幹線のホームとは反対の方向へ歩いて行った。

その場に残される4人。

生徒A「それにしてもあかりちゃんはいいよねー」

あかり「え?」

生徒A「だってさー、わざわざ東京まで連れ戻しに来てくれる彼女さんがいるんだもんね、羨ましいなー」

あかり「えっ!?か、彼女、ってどういう事!?///」

生徒B「実はみんなで話してたんだよ。向日葵ちゃんがあかりちゃんと同じ富山から転校してきて、
   それからたった3日後に2人揃って富山に帰るなんてなんか変だなーって。
   向日葵ちゃんって、あかりちゃんを追いかけて東京に来てくれたんだよね?」

あかり「ち、違うよ、そんなんじゃ・・・///」

生徒C「あかりちゃん、顔赤いよ?」

あかり「ちょっともう~~、からかわないでよぉ~!」

アハハハハ

一方のあかねと向日葵

あかね「ちょっとどこへ連れてくのよ。こっちは新幹線とは逆の方じゃない」

向日葵「ところであかねさん、本当に富山から東京まで毎日通うつもりなんですの?」

あかね「ええそうよ、愛の力に不可能はないわ」

向日葵「あかねさんの職場は確か東京駅の近くでしたっけ?」

あかね「何で知ってるのよ。そうよ、日本橋にあるの」

向日葵「そうそう日本橋でしたわね。わたくしあかねさんが日本橋で働いてるって知ったとき
    最初大阪の日本橋のことかと思いましたわ。だってあかねさんのことですから
    てっきり日本橋のメイド喫茶かなんかで働いているのかと」

大阪の日本橋というのは大阪市浪速区にあり、西の秋葉原と呼ばれる電気街、オタク街のことである。

あかね「あなたふざけてるの?私のこと何だと思ってるのよ」

向日葵「え?へ、変態?」

あかね「そんなキョトンとした顔で答えないでよ。ってかそれより大変なことって何なの?」

向日葵「ああそうでしたわ。大変なんですの!」

そう言って急いで階段を上る向日葵。あかねも後を追う。ホームに出た。

向日葵「あれを見てくださいですわ!」

向日葵が指差す先には電車が停車している。

あかね「電車がどうかしたの?」

向日葵「車内に黒いバッグが見えるでしょう?実はあれ赤座さんの下着が入ったバッグなんですの!
    わたくしが置き忘れてしまって・・・」

あかね「ちょっとどういうことなのよ!?」

アナウンス「5番線、ドアが閉まります。ご注意ください」

向日葵「あかねさん、早くバッグを!」

あかね「分かったわ!あかりーーー!」ダッ

あかねは車内に飛び込んだ。朝ラッシュの時間と重なったためか車内は非常に混雑している。
あかねは人ごみをかき分けながらバッグの所へ向かう。

あかね(あかりの下着、あかりの下着、ハァハァ)

そしてなんとかバッグの所にたどり着いた。すかさずバッグを抱きかかえる。

あかね(無事で良かったわ、あかり!)ギュッ

その時、ドアが閉まり電車が動き出す。

あかね(えっ、そんな、うそ!?)

電車はみるみる東京駅のホームから離れていく。

あかねが慌てて窓の外を見ると向日葵が笑いながらこっちに向かって手を振っていた。

あかね「ちょっとここから出しなさいよーー!」

乗客たち「ざわざわざわ」

周りの乗客たちがざわつく。それもそうだ。いきなり発車間際の列車に飛び込んできて
人混みを無理矢理押しのけて進み怪しげな黒いバッグを抱きかかえたかと思うとおもむろに
ここから出せと叫びだしたのだ。誰がどう見ても不審者だと思うだろう。

あかね(はっ!)

あかねは急に恥ずかしくなって顔をうつむける。

あかね(ダメよこんな所で大声出しちゃ。周りのお客さんに迷惑じゃない!)

ガタンゴトン ガタンゴトン

アナウンス「次は、有楽町、有楽町~」

あかね(はぁ~、完全に向日葵ちゃんにハメられてしまったわね。でもまあいいわ、あかりの大事な下着は
    無事に守れたんだし。とりあえず、次の駅で降りて急いで東京駅に戻るわよ!)

その時あかねは今自分が抱きかかえているバッグが妙にゴツゴツしていることに気がついた。

あかね(変ねぇ、この中にはあかりの下着が入っているはずなのに・・・)

疑問に思ったあかねはバッグを少し開けてみる。中を覗き込むと・・・

あかね(何なのよこれ!下着なんて入ってないじゃない!)

中にはなにやら箱のようなものが見える。なんだろうと思ってバッグをさらに開けてみた。

あかね(えっ・・・)

バッグの中に入っている箱にはタイマーが取り付けられていた。表示されている赤色の数字が
刻一刻と減っていく。

あかね(嘘でしょ、これって・・・)

あかり「あ、向日葵ちゃん帰ってきた!もうー、遅いよー!」

向日葵「お待たせして申し訳なかったですわ。さあ新幹線のホームに行きますわよ」

あかり「あれ、お姉ちゃんは?」

向日葵「あかねさんは何か用事を思い出したみたいでどこかへ行ってしまいましたの。
    後から来るそうですわ」

あかり「ふーん、そうなんだぁ」

上越新幹線 ホーム

生徒A「あかりちゃん、また会おうね!絶対だよ!」

あかり「うん、もちろんだよぉ」

生徒B「私たちも絶対富山に遊びに行くから、あかりちゃんもまた東京に来てね!」

生徒C「絶対メールするからね!」

あかり「みんな・・・、ありがとう!」

生徒A「向日葵ちゃんもまたね!」

向日葵「ええ。昨日のカラオケは楽しかったですわ。また5人でカラオケに行きましょうね」

あかり「うん!」

アナウンス「20番線から、Maxとき309号新潟行きが、発車いたします」

向日葵「ほら赤座さん、発射しますわよ」

あかり「向日葵ちゃん漢字間違ってるよぉ」

アハハハハハ

あかり「じゃあみんな、またね!」

生徒A・B・C「またねーー!」

ドアが閉まり、新幹線が発車する。ホームが、そしてその上の3人の姿がどんどん遠ざかっていく。

あかりと向日葵は座席に移動する。指定席を予約してあるのだ。

向日葵「赤座さんは良いお友達を持ちましたわね」

あかり「うん、みんなすごく優しい」

向日葵「ごらく部の歳納先輩と船見先輩とは大違いですわ。
    あと1人いたような気もしますが多分気のせいでしょう」

あかりと向日葵は窓側で向かい合って座る。あかりは窓の外を見た。東京の街並みが広がっている。
あかりは自分が住んでいたマンションが見えるかなと思って探してみたが見つからなかった。

あかり(いよいよ東京ともお別れだね。短い間だったけど楽しかったな)

数分後、あかりがかばんの中から取り出したのは、

あかり「わぁいお弁当、あかりお弁当大好き。新幹線とかの電車の中で食べるお弁当って
    いつもよりおいしく感じるよね!」

朝はドタバタしていて朝食が食べられなかったので東京駅で駅弁を買っておいたのだ。

向日葵「電車に揺られ、移りゆく外の景色を眺めながら食べるお弁当は格別ですわ」

あかり「おいしいよぉ!」ぱくぱく

さらに数分後、弁当を食べ終わった2人。

あかり「ふぅ~、おいしかったよぉ」

向日葵「余は満足じゃ」

あかり「ねえ向日葵ちゃん」

向日葵「何ですの?」

あかり「西垣先生を殺したのって向日葵ちゃんだよね?」

向日葵「なっ!?」

あかり「ね、そうでしょ?」

向日葵「ちょっと急に何ですの!?絶対今そんな空気じゃないですわよね!?」

あかり「空気とかどうでもいいからさ。そうなんでしょ?」

向日葵「・・・」

あかり「答えないってことはやっぱりそうなんだ」

向日葵「どうしてわたくしだって思ったんですの?」

あかり「えっとね・・・」

あかりは自信満々に語り始める。

あかり「西垣先生が殺された日の翌朝のホームルームで担任の先生が事件の状況を詳しく
    説明してくれたんだよ。確か向日葵ちゃんはその日学校をお休みしてたと思うけど」

向日葵「学校を休んだどころかわたくしが自殺した日ですわよ、その日」

あかり「それでね、あかりその先生の話を基に色々推理してみたんだけど・・・」

向日葵「続けたまえ」

あかり「調べてみたら西垣先生が殺された時刻って向日葵ちゃんがあかりの家から出て行った
    少し後ぐらいなんだって。それに楓ちゃんの証言によると向日葵ちゃんが家に帰ってきたのは
    あかりの家を出てから1時間ちょっと経ってかららしいんだ。つまり、向日葵ちゃんの行動には
    1時間空白の時間があるわけ。そしてその時間に西垣先生は殺された。
    これはちょっと怪しいよね。だって犯行時刻にアリバイがないんだもん」

向日葵「それはまあ確かにそうですわね」

あかり「それから先生はナイフで心臓を刺されて死んでいたらしいんだけど、急所をピンポイントで
    刺されていて即死だったんだって。これ聞いたときあれって思ったんだ。ここを刺せば一瞬で殺せる
    場所なんて素人には分かるはずないし、たとえ分かったとしても実際にその場所をナイフで刺して
    相手を即死させるなんてよほどのプロじゃないとできないよね」

向日葵「・・・」

あかり「それでこれは向日葵ちゃんの犯行かなってその時思ったんだ。
    向日葵ちゃんならこれくらい簡単だよね。それに解剖学が好きな向日葵ちゃんなら
    急所も知ってるだろうし」

向日葵「もしかしてわたくしを必殺仕事人か何かだと思ってます?」

あかり「それに凶器がナイフで刺殺ってのもポイントだったんだよ。向日葵ちゃん、
    まだナイフでの殺害はやったこと無かったよね?」

向日葵「そうですわねぇ、櫻子に始まり今まで何人か殺してきましたが、刺殺はまだありませんわ」

あかり「それだよ!向日葵ちゃん確か前言ってたよね。人を殺すときは全員違う方法で殺すことにしてるって。
    今回の事件はそれにも一致するんだよぉ。だからあかりは向日葵ちゃんが犯人なんじゃないかって
    思ったの。どう?あかりの推理」

向日葵「へ、それで終わりなんですの?」

あかり「えっ、う、うん・・・」

向日葵「・・・」

あかり「・・・」

向日葵「お、おほほほほ。あなたなかなかやりますわね。お名前は何と言うんですの?」

あかり「見た目はロリ、頭脳は大人、その名は、名探偵あかり!」

向日葵「うーん、ひねりがないですわね、30点!」

あかり「えぇぇぇーーーーーー!」

向日葵「ていうかそもそもその推理では不十分ですわよ。その推理では確かにわたくしが怪しい
    ことには変わりはありませんがわたくしが犯人だという決定的な証拠が無いじゃないですの」

あかり「えっ、証拠?」

向日葵「そうですわ。まあ赤座さんにしてはなかなか良く出来た推理でしたが。それで30点あげましたの。
    でもまだわたくしの足元にも及びませんわね」

あかり(うぅぅ、やっぱりうざいこの人)

向日葵「それで動機は何なんですの?」

あかり「動機?」

向日葵「わたくしが西垣先生を殺した理由ですわ。さすがのわたくしも何の理由も無く
    人を無差別に殺すような殺人鬼ではないですの。だからわたくしが犯人だというのなら
    わたくしが西垣先生を殺さなければならない理由があるって事です。
    それが分からなければ完璧な推理とは言えませんわ」

あかり「そっか、そうだよね・・・。やっぱりあかりもまだまだだなぁ・・・」

向日葵「でもまあ10年前に比べれば成長したと思いますけど」

あかり「それで、動機って何なの!?」

あかりは急に身を乗り出す。

向日葵「ど、どうしたんですの急に!?」

あかり「向日葵ちゃんが西垣先生を殺した理由だよぉ!あかりすごく気になる!」

向日葵「わたくしが西垣先生を殺した理由ですか・・・?えーっと、それはちょっと
    赤座さんには教えられないんですの。申し訳ないですけど秘密ですわ」

あかり「えぇー、いいじゃんそれくらい、教えてよぉー!」

向日葵「秘密なものは秘密なんですの!さあ、もうこの話は終わりにしてベイブレードでもして
    遊びましょう!ムシキングでもいいですわよ」

向日葵はかばんの中からベイブレードとムシキングカードを取り出した。

あかり「わあぁぁ、ベイブレードにムシキングだー!懐かしいなぁ」

こうして2人はしばしそれらのおもちゃに夢中になった。あまりに熱中しすぎたためか、
その後あかりは連日の疲れも重なって次第にウトウトし始め、ついに眠ってしまった。

向日葵「あらあら、赤座さんが眠ってしまいましたわ」

向日葵(寝ている赤座さんもかわいいですわ・・・)

向日葵(・・・)

向日葵(わたくしが西垣先生を殺した理由・・・、ですか。そんなの教えられるわけないじゃないですの。
    だって・・・)

向日葵はかばんからイヤホンを取り出すと耳に装着した。イヤホンからはニュースが流れている。
アナウンサーの声が聞こえてくる。

アナウンサー「速報です!先ほど午前8時20分ごろ、JR山手線の東京‐有楽町駅間において
       車内で爆発が発生し女性1人が死亡、数人が重軽傷を負った模様です!
       周りにいた乗客の証言によると、死亡した女性が抱えていた黒色のバッグが
       突然爆発したとのことで、警察では無差別テロとして捜査を始めました。
       また、死亡した女性は遺体の損傷が激しく、まだ身元は判明しておりません」

向日葵(あの日わたくしは赤座さんにレイプまがいのことをしている所をあかねさんに見られてしまいました。
    あの時は助かりましたが、わたくしには分かっていましたわ。いずれあかねさんがわたくしを
    殺しに来るって事が。あかねさんは強敵です。今まで殺してきた他の人たちとは
    訳が違いますわ。なのでわたくしはあかねさんに対抗するための強力な武器の必要性を感じていました)

向日葵(そこで思いついたのが西垣先生ですの。彼女はいつも人類の為にならない実験を
    繰り返しており、またその度に爆発を起こすという、あかねさんと共にCIAにマークされている
    超危険人物の1人ですわ。それでわたくしが注目したのは彼女の『爆発』という点ですの)

――――――――――

西垣先生宅

警察『ご協力ありがとうございました』

奈々『ああどうも』

バタン

奈々『ったく船見のやつ・・・、なんで私からライフルをもらったなんて言ったんだ。
   私はそんなことした覚えは全く無いぞ。おかげで毎日警察が事情聴取にやって来る。
   たまったもんじゃない。それにしても・・・』

奈々『松本、松本、松本・・・。なあなんで死んでしまったんだ、私を置いて!うぅぅぅぅ』

ピンポーン

奈々『ん、誰だ?また警察か?』

奈々は重い腰を上げて玄関までやって来た。

ガチャ ドアを開ける

奈々『き、君は・・・』

向日葵『こんばんはですわ、西垣先生』

奈々『古谷じゃないか。どうしたんだこんな時間に?』

向日葵『先生にちょっとお尋ねしたいことがありまして。お邪魔してもいいですか?』

奈々『別に構わないが・・・』

奈々の部屋に入る向日葵。

奈々『それで、聞きたいことって何なんだ?』

向日葵『西垣先生は会長がお亡くなりになられてどう思ってるんですの?』

奈々『それを聞きに来たのか・・・?ああ、とても悲しいよ。
   何で私を置いて先に死んでしまったんだって・・・』

向日葵『もし会長と今から会えるのなら会いたいですか?』

奈々『そりゃ会いたいさ。だがそんなのどう考えても無理だろう』

向日葵『無理じゃありませんわ。今死ねば地獄で会長と再会できますわよ』

奈々『えっ?』

向日葵『だからわたくしにお任せくださーーーい!!』

奈々『ぎゃ、ぎゃあああああああ!』

ブスッ

向日葵『わたくしからのドリームジャンボ宝くじですわーーー!』

奈々『』

向日葵の前に転がる奈々の遺体。

向日葵『ふぅ、あっけなかったですわね。まだ櫻子を殺した時の方が難しかったですわ。さて・・・』

向日葵は奈々の家の中を物色していく。手当たり次第に物を漁る。何かを探しているようだ。

向日葵(何か爆発物、爆発物は・・・、っと)

そう、彼女は爆発物を探しているのだ。いつも爆発を起こしている西垣先生のことだから
きっと家の中に大量の爆発物を隠し持っているだろうと考えたのだ。

しかし1時間後

向日葵(無い、無い、無い!爆発物なんてどこにもないじゃないですの!おそらくそう言った類のものは
    全て学校の理科室にあるってことですわね。これでは西垣先生を殺した意味がなかったですわ。
    あかねさんに対抗するために爆発物が必要ですのに、どうしましょう・・・)

その時向日葵は何者かが奈々の家に近づいてきていることに気がついた。

向日葵(やべえですわ!ずらかりますわよ!)

そして向日葵は奈々の家から逃走した。その後で近所の住人が到着し、奈々の遺体と荒らされた部屋を
発見したのである。

ちなみに、奈々がドアを開けた時の反応『き、君は・・・』もヒントになっていて、この反応から、
相手が奈々の知っている人物、それも学校の生徒である可能性が高いことが分かるのである。

さて、奈々の家から抜け出した向日葵は公園のブランコに物悲しげに座り考え事をしていた。
奈々の家にお目当ての物がなかったので意気消沈し、これからどうしようかと考えていたのだ。

この後の展開は読者も知っている通りであろう。あかねに2度にわたって襲われた向日葵は命の危険を感じ、
自殺を偽装することを思いつく。常人であれば普通そんなことは思いつかないのだが、それを完璧に
やり遂げてしまう所が向日葵らしい。

翌朝、学校に忍び込んだ向日葵は生徒会の地下室から冷凍庫に入れて放置しておいた結衣の遺体を取り出す。
そして理科室に侵入し大量の塩酸と硫酸を奪うとそれを結衣の遺体にぶっかけ、
さらに色々小細工をしてから公園に放置した。これで偽装の完成だ。

また、理科室に侵入した際に奈々の実験場所から過酸化アセトンを始め多くの爆薬をゲット。
昨日奈々を殺しておいたことがここで役に立った。そして向日葵はそれら爆薬を上手く改良して
爆発物を完成させることに成功したのである。

向日葵(西垣先生、どうして過酸化アセトンなんか持ってるんですの。
    さすがCIAが東アジアで最も警戒すべき人物の一人と認めただけのことはありますわね。
    でもおかげでやっと爆発物を手に入れられましたわ。もうこれであかねさんも怖くありませんわね)

自殺の偽装と共に姿を消した向日葵は隙を狙ってあかねを爆発物で殺そうと考えていたのだが、
なんとあかねはあかりを連れて東京へ行ってしまう。慌てた向日葵は自らも東京へ向かい、
あかねを殺すタイミングをじっと伺っていた。そして今回の事件が発生したのである。

――――――――――

向日葵(それにしても、あかねさんも馬鹿ですわね。あんな所に赤座さんの下着が入ったバッグなんて
    あるわけないじゃないですの。そんなこと、ちょっと考えれば分かりそうなものですのに。
    あかねさんは確かに優秀ですが、赤座さんの事となると途端に周りが見えなくなるという
    致命的な欠点があります。まあわたくしとしてはその性質のおかげで楽に殺せたので
    ありがたかったですけど)

向日葵(そういえばあかねさん、スカイツリーでお会いしたときわたくしの過去の悪事を
    列挙しておられましたわね。今ではそれらに加えて西垣先生の殺害、爆発物の製造・所持及び使用、
    そしてあかねさんの殺害がプラスされますわ)

向日葵はあかりの顔をちらりと見た。あかりはぐっすりと眠っている。

向日葵(赤座さんには申し訳ないことをしましたが、仕方なかったんですの。
    だってわたくしが殺さなければわたくしが殺されてましたから。
    殺るか殺られるかの世界なんですわ、このSSは。ていうかわたくし、
    要注意人物を2人も殺したんですからCIAから表彰されても良いと思いますわ・・・)

電車に揺られながらそんなことを考えている内に向日葵もだんだんウトウトしてきて、
ついにあかりと一緒に眠ってしまった。

イヤホンからはまだニュースが流れている。

アナウンサー「たった今、死亡した女性の身元が判明しました。死亡したのは東京都港区に住む
       会社員、赤座あかねさん19歳で―――」

あかり「むにゃむにゃ、ふえぇぇ?」

数分後、あかりが目を覚ますと目の前の席で向日葵が幸せそうな顔で眠っている。

あかり「あれっ、あかり寝ちゃってたんだ・・・。そうだ、確かベイブレードで疲れて・・・」

あかりは今どの辺りだろうと思って窓の外の景色を見てみたが、全く分からない。

あかり「のどかだなぁ」

東京では見られなかった景色。あかりはなんだか懐かしさを感じた。

視線を向日葵に戻す。

あかり(いつもは恥ずかしくてなかなか向日葵ちゃんのこと直視できないけど、今ならっ!)

向日葵が寝ているのを良い事に向日葵の全身を舐め回すように見るあかり。

あかり(はぁー、やっぱり向日葵ちゃんかわいいなぁ)

あかり(・・・)

あかり(向日葵ちゃんって、あかりのことどう思ってるんだろう・・・。
    どうせあかりのことなんかなんとも思ってないんだろうな)

あかりはなんだかとても悲しくなってきた。

あかり(向日葵ちゃん、好きだよぉ)

言えない。こんなに近くにいるのに、言えない。こんなに好きなのに、この想いを伝えられない。

もう二度と会えないと思っていた。でも今やこんなに近くにいる。自分のすぐ目の前で眠っている。

手を伸ばせば届きそうな距離。だけど・・・

あかり(やっぱりあかりには無理だよぉ。何も言えない。金メダルを取った時の某水泳選手も
    こんな気持ちだったのかな・・・)

あかりの目には涙が溢れてくる。

あかり(わっ、ダメ!)

あかりは慌ててあくびをするふりをして涙をごまかした。誰も見ていないのに何やってるんだろうと
おかしくなって少し笑った。

あかり(あかり、何やってるんだろう・・・。欲張りすぎなんだよね、きっと。
    もう会えないと思ってたのに、今こうして一緒にいられるだけで幸せなんだよ。
    だから、つ、つつつ付き合いたい、なんて思わないで、今のままで良いんだ、今のままで・・・。
    今まで通り友達として仲良くできれば、それでいいよ。
    だ、だって、向日葵ちゃんがあかりのこと好きになってくれるわけ無いんだから・・・)

あかり(う、うぅぅぅぅ)ポロポロ

あかりの目からは大粒の涙がこぼれてくる。今度はさすがにあくびではごまかせそうにない。

あかりは泣き顔を隠すために、かばんを抱きかかえてそこに顔をうずめる。

そしてそのまま息を押し殺して泣いている内にまた眠ってしまった。

<第19章>

こうしてあかりと向日葵、それぞれの想いが交錯する中、2人は無事に富山に帰ってきた。

懐かしの地富山!思い出の地富山!彼女らがこの地を旅立ってからもうかれこれ1ヶ月もの月日が
流れていた。

あかり「わあぁぁ~、懐かしいなぁ!駅前はあまり変わってないね~」

向日葵「そうですわね。あそこの店、覚えてますわ。まだ潰れてなかったんですのね」

あかり「あかりよくあの店行ったんだよぉ。まだあったんだ~」

久々の富山に大はしゃぎの2人。

だが、そんな2人に待ち受けていたものはまるで正反対だった。

楓「お姉ちゃん、生きてて良かった~」グスッ

向日葵「ああ楓!お姉ちゃんはここにいますわ、だから大丈夫ですのよ」ダキッ

奇跡の再会を喜び合う古谷姉妹。感動の瞬間であった。喜びの涙が頬を伝わる。

すぐそばであかりも泣いていた。だがその涙は喜びの涙ではなかった。

あかり「お、お姉ちゃん・・・。うぅ、グス、な、なんで死んじゃったの・・・?」ポロポロ

富山に帰ってきてから姉あかねの死を知らされたあかり。悲しみの涙が止まらない。

向日葵「赤座さん・・・」

向日葵があかりの傍に寄ってくる。

あかり「お姉ちゃん・・・。ううううう、グスッ、エグっ」ポロポロ

あかりを優しく抱きしめる向日葵。

向日葵「赤座さん、大丈夫ですわ。わたくしが付いているじゃないですの。わたくしは
    赤座さんを一人にしたりはしませんわ。だから安心してください」

あかり「うぅぅ、向日葵ちゃん!うわぁぁぁん!」

あかりは向日葵の腕の中でいつまでも泣き続けた。

その後すぐ、向日葵は富山県警に連行された。1ヶ月前に自殺したはずの人間が突然現れたため
事情聴取するためだ。

警察官「君は本当に古谷向日葵か?」

向日葵「そうに決まってるじゃないですの。あなたの目は節穴ですか?」

警察官「だが君は1ヶ月前に自殺したはずでは・・・」

向日葵「そんな訳ありませんわ。もしかして記憶障害なのでは?」

警察官「公園で君の遺体が発見されたんだぞ?」

向日葵「なんですって!?それはわたくしの遺体ではありませんわ!あー恐ろしやー」

警察官「あれが君の遺体でないのなら君は今まで何をしてたんだね。
    君は戸籍上はもう死亡したことになってるんだが」

向日葵「戸籍上で死んでるからって現実で死んでるとは限りませんわ。代表的な例としてイエス・キリストが
    いますわね。実はわたくし、何者かに命を狙われていたんですの」

警察官「なに!?命を狙われていただと?」

向日葵「ええ。夜の公園にいたら突然ナイフで襲われたり、またある時にはわたくしの家に
    ピザを持って乱入してきたこともありますわ」

警察官「それはそれは・・・」

向日葵「それでわたくし怖くなって・・・。なので姿を消して東京に逃げてたんですの。
    1ヶ月経ってもう大丈夫かなと思ったので帰ってきたんですわ」

警察官「なるほどそういうことだったのか。だがじゃああの公園で見つかった遺体は誰なんだ?」

向日葵「わたくしに聞かれましても・・・」

警察官「遺体の近くに君の生徒手帳と運転免許証が落ちていたんだが」

向日葵「実はそれ、知らないうちに誰かに盗まれてしまったんですの」

警察官「ってことはその盗んだ奴が置いたってことか。それと君のブログに遺書が更新されていたが
    あれはどういうことだ?」

向日葵「あっ、それはですね・・・」

向日葵はかばんの中からノートパソコンを取り出す。

向日葵「わたくしがブログを書くときは基本的にこのノートパソコンを使うんですが、
    実はこのパソコン、遠隔操作ウイルスに感染していたことが分かったんですの」

警察官「何だって!?」

向日葵「おそらく何者かがこのウイルスを使ってわたくしのブログに勝手に遺書を書き込んだのだと
    思われます」

警察官「それは本当なのか?」

向日葵「調べたいのなら調べなさいな」

そう言ってパソコンを警察官に渡す。

数分後

警察官「君の言ってたことは本当だった。パソコンからウイルスが発見されたよ」

向日葵「当然ですわ」

向日葵(こんなこともあろうかとあらかじめ自分でウイルスを作って自分のパソコンに
    感染させておいて良かったですわ)

警察官「ということはあの遺体は君ではなかったということか。何者かが何者かを殺害して
    その遺体を君に見せかけて公園に置いたということだ」

向日葵「そうなりますわね」

警察官「それにしても君も大変だったねぇ。わざわざ東京にまで逃げるなんて」

向日葵「同情するなら選挙権をくださいな」

警察官「しかし君は中学1年生にしては随分しっかりしているな。どうだい、将来警察官になってみないかね?」

向日葵「良いですわね。わたくしの天職ですわ」

警察官「じゃあ遅くまで引き留めて悪かった。今日は事情聴取にご協力頂きありがとう。
    おかげで重要な証言がいくつか聞けたよ」

向日葵「こちらこそ。おかげさまで警察の捜査がどれくらい進んでいるのかが分かって助かりましたの」

警察官「だがまだ君の命を狙っている者がこの近くに潜んでいるかもしれないから気をつけてくれたまえ。
    またその人物は今までの連続殺人事件の犯人と同一人物の可能性がある」

向日葵「ええ、気をつけますわ。連続殺人だなんてまぁ恐ろしい」

こうして向日葵の事情聴取は終わった。協力してくれたお礼として警察から大量のお菓子をもらって、
向日葵は警察署を後にする。

向日葵(おほほほ、わたくしの手にかかれば警察を騙すなんて猿を木から落とすより簡単ですわ)

ちなみにその後、警察が公園で発見された遺体をもう一度詳しく調べたところ、その遺体は
もう1ヶ月以上も前から行方不明になっていた船見結衣であることが判明した。
非常に珍しい死体だったので記念に警察署に展示して残してあったのだ。

さて、向日葵が警察署から外に出ると

あかり「あっ、向日葵ちゃん!」たたた

向日葵「赤座さん!?どうしてここに?」

あかり「向日葵ちゃんが心配で外で待ってたの。逮捕されちゃったんじゃないかと思って・・・。
    うぅぅ、無事でよかったよぉ。グスッ」ポロポロ

向日葵「ああ、何も泣く事ないじゃないですの!」

あかり「うん、ごめんね。あかり、弱いから・・・」ポロポロ

あかり(今日のあかり、泣いてばっかりだな・・・)

向日葵「大丈夫ですわ!事情聴取なんて楽しいものですのよ。わたくしにとってはカラオケみたいなものですわ」

あかり「そ、そうなの・・・?」

向日葵「はい、お菓子をあげますわ。お礼に警察の方がくれたんですの。まあわたくしは
    選挙権の方が欲しいと言ったんですけどね」

あかり「ありがとう・・・」

向日葵(赤座さん、元気がないですわね・・・)

あかり「ねえ」

向日葵「何でしょう?」

あかり「カツ丼は・・・?」

向日葵「は?」

あかり「ほら、よく刑事ドラマとかで警察の人がカツ丼をおごってくれたりするシーンがあるから、
    向日葵ちゃんはどうだったのかなーって思って」

向日葵「そうですわね、食べましたわよ」

あかり「え、本当!?」

向日葵「ええ。ただおごってはくれませんでしたけどね。今こそドラマの再現をすべきだと思って
    カツ丼を頼んだんですが自腹でしたわ」

あかり「そうなんだ、へぇ~~」

向日葵(赤座さんが本当に元気がないのか怪しくなってきましたわ・・・)

向日葵「ただあのカツ丼は事情聴取されている場面で食べるからこそ意味があるんですの。
    取り調べ中に食べるカツ丼の味はまた格別ですわ。あんな美味しいカツ丼を
    食べたのは何年ぶりでしょう」

あかり(向日葵ちゃんってドMなのかな・・・。それともただ強がってるだけ?)

あかり「でもさ、前カツ丼は向日葵ちゃんの大きなおっぱいを連想させてしまうから恥ずかしいって
    言ってなかったっけ?」

――――――――――

向日葵『本当に最高ですわ。赤座さんとわたくしは勝利者ですわね。
    あ~カツカレーが食べたいですわ』

結衣『あっぷあっぷ、カツ丼じゃないのかよ!ゲホゲホ』

向日葵『カツ丼はあのお椀の形がわたくしの大きなおっぱいを連想させるので恥ずかしくなってしまいますの』

結衣『うわ、こいつ自慢しだしたぞ。ゲホゲホ』

――――――――――

向日葵「あぁ、それならもうとっくに克服しましたわ」

あかり「そっか、良かったね!」

向日葵「さあ帰りますわよ、赤座さん」

あかり「うん!」

こうして2人は帰路についた。

翌朝

あかり「向日葵ちゃん、おはよー!」

向日葵「おはようございますですわ、赤座さん。その様子だともうすっかり元気になったみたいですわね」

あかり「あかりね、いつまでも泣いてばかりじゃいけないって思ったんだ。
    だからもうこれからは泣かない!もっと前向きに生きなくちゃ」

向日葵「さすが赤座さんですわ」

あかり「えへへ~」

あかりと向日葵は学校へと向かう。今日から早速七森中に復帰することになったのだ。

教室の前に立って懐かしのクラスメイト達に挨拶をする2人。

向日葵「恥ずかしながら帰って参りました」

あかり「もぉ~、向日葵ちゃん、それじゃ旧日本軍の人だよぉ」

アハハハハ

あかり「えっと、みんなまたよろしくね!」

あかりと向日葵は歓迎をもって迎え入れられた。2人が話す東京の土産話をみんなが聞きたがる。
2人は一躍クラスの人気者になった。

あかりも新しい友達がたくさん出来た。あかりの話は面白く、人を惹きつける才能があった。
これらは八森中での生活で培われたものだった。

休み時間になるとまたあの頃のようにあかりの席の周りにはたくさんの人が集まって
あかりを中心に話が盛り上がる。またあかりは七森中でもテニス部に入って大活躍。
期待の新人テニサーとしてその力を大いに発揮した。

もうあかりのことを影が薄いだの存在感が無いだの言う者は誰もいない。
あかりは遂に理想の学園生活を手に入れたのだ。

さて、1ヶ月前にあかりと向日葵が東京へと旅立ってしまって以降、七森中は危機的状況に陥っていた。
というのも、ただでさえその時点で生徒会メンバーのほとんどが死亡していたのに、
その上さらに実質1人で生徒会を運営していた向日葵と、お手伝いのあかりの2人が共に
七森中を去ってしまったため生徒会メンバーは0人となり、
七森中生徒会が機能を停止してしまったからである。

もともとこの七森中学校という所は、強大な権力を持つ生徒会の管理のもとで
平和が維持されてきた学校であった。結衣が連れて行かれた生徒会の地下室も、
生徒会に逆らう者、風紀を乱す者などを監禁・拷問するための施設としてその一翼を担っていた。

ところがその生徒会が機能を停止してしまったため、校内の平和は崩壊し、七森中は内乱状態に
なってしまう。ホッブズが述べた「万人の万人に対する闘争」が実現してしまったのだ。

向日葵とあかりがいない1ヶ月間、七森中では相次いで戦争が勃発した。
特に酷かったのはクラス間の対立だ。2年2組の生徒が2年3組の教室に手榴弾を投げ込んだかと思うと、
1年1組の給食に毒が入れられ、その報復に生徒が3年3組の担任を人質に取るなど
完全に無法地帯となっていた。

その為あかりと向日葵が帰ってきたことは戦争に苦しむ生徒達にはまさに奇跡のような出来事であった。
2人は早速生徒会を立て直して機能させると権限を強化し、生徒会親衛隊(SS)を組織して
校内の治安を回復させることに成功する。そして次々と新たな校則を作って管理体制を敷き、
強力な管理国家ならぬ管理学校を築き上げた。

新たに作られた校則には、教室に手榴弾を投げ込んだら退学、給食に毒を入れたら退学、
教師を人質にとったら退学といったごくありふれたものから、学校の図書室で借りた本を延滞したら退学、
女子トイレや女子更衣室で他の生徒を盗撮するのは良いが、その映像を1週間以内にネット上の
所定の場所にUPしなかった場合は退学、校長の頭髪状態について少しでも言及したら処刑といった
非常に厳しいものまであった。

そのような強力な管理体制のおかげで七森中に再び平和が戻ってきた。一部の生徒の中には
生徒会や向日葵のことを「独裁者」だの「恐怖政治」だの言う者もいたが、そういう者たちは
一人残らずSSによって生徒会の地下室に拉致され、しばらくして戻ってきた時には
生徒会への忠誠を誓うようになっていた。

人々はあかりと向日葵のことを「七森中に舞い戻ってきた天使」と呼び、神や英雄のように
崇め奉るようになる。こうしてどんどん地位を高めていき、そして遂にりせの死亡以来
空席となっていた生徒会長に向日葵が選ばれたのである。ちなみにあかりは副会長だ。

生徒会室

あかり「向日葵ちゃん、生徒会長就任おめでとー!」パンパカパーン

向日葵「赤座さんこそ、副会長就任おめでとうございますですの」

あかり「ありがとう、えへへ~」

向日葵「中学1年生にして生徒会長ですか・・・。副会長の座を櫻子と争っていた時代が嘘のようですわね」

あかり「テニス部との両立になるけど、あかり頑張るね!」

向日葵「赤座さんならきっとできると信じてますわ」

あかり「それで、どうしてあかりを生徒会室に呼んだの?」

あかりは本来今日はテニス部に行く予定だったのだが、向日葵に生徒会室に来るよう言われて
急遽やって来たのだ。

向日葵「実は赤座さんに見せたいものがあるんですの」

あかり「見せたいもの?」

向日葵はそう言うと隣の部屋に入っていく。あかりも付いて行く。向日葵は赤いドアの前に立った。

向日葵「このドアの向こう側にあるんですの。赤座さん、まだこの中には入ったこと無かったですわよね」

あかり「う、うん」

あかり(はっ、このドアって確かあの時結衣ちゃんが気にしてたドアだ!)

――――――――――

結衣『なぁ、あかり』ボソボソ

あかり『何?』

結衣『あのドアはどこに繋がってるんだ?』

そう言って結衣が指さしたのは部屋の端にひっそりと存在する赤いドアである。
最初の部屋とつながっているドア、先程向日葵が消えていった部屋へのドアとは違う、3つ目のドアだ。

あかり『そんなの知らないよ』プイ

結衣(ちっ、この役立たずめ)

――――――――――

向日葵「わたくしが中に入るので付いてきてくださいな」

2人はドアを開けて中に入った。中は延々と階段が続いている。もう一つのドアの先は生徒会の地下室へと続く
下り階段だったが、こっちは上り階段だ。2人はひたすら階段を上り続ける。
まるで天の果てまで続いているかのようだ。あかりは改めて生徒会という所の偉大さを知った。

やがて一つの扉にたどり着いた。向日葵が暗証番号を入力すると扉が開く。

向日葵「到着しましたわ」

あかり「わぁぁぁ~~!」

扉の向こうはとても豪華な部屋だった。壁は全面ガラス張りで、窓からは富山の景色を一望できる。
大きなソファーに特大テレビ。棚の上には彫刻品や観葉植物、巨大水槽などが置かれてある。
まるで高層ビルの最上階にある社長室のような豪華さだ。
あの生徒会の地下室とは全く正反対の部屋にあかりはとても驚いた。

向日葵「どうです?素晴らしいでしょう」

あかり「うん、すごいね!でも、ここは一体どこなの?」

向日葵「生徒会のスイートルームですわ。七森中の屋上の一角に全面ガラス張りの塔が建ってる場所が
    あるでしょう?」

あかり「うん、知ってるよ。あれなんだろうって思ってたんだ」

向日葵「その塔の最上階がここなんですの。この場所は生徒会役員の中でも会長や副会長といった
    最高クラスの幹部しか入れない場所で、彼女たちが仕事をする場所でもありますの」

あかり「じゃあ杉浦先輩とかもここを使ってたってこと?」

向日葵「ええ。今は亡き杉浦先輩はこの場所をとても気に入られておりましたわ。もともとこの場所は
    下の生徒会室が反乱軍に占拠された時に役員が逃げ込んで拠点とするための場所として
    1955年に当時の生徒会長によって作られた場所なんですけどね」

あかり「へぇ~、そんな場所があるなんて知らなかったな~」

向日葵「知らなくて当然ですわ。この場所の存在は生徒会役員しか知りませんの。教職員だって知りませんわ。
    それにこのスイートルームへは先程わたくしたちが通ってきた階段を通らなければ
    入れませんし、壁は全面ガラス張りで中から外は見えても外から中は一切見えないように
    なってるんですの。いわゆるマジックミラーってやつですわね。おかげで今まで誰にも
    存在を気づかれませんでしたわ」

あかり「じゃああかりが今日ここに呼ばれたのって・・・」

向日葵「赤座さんは本日めでたく副会長になられましたのでここを紹介するためですわ。
    これからは自由に出入りして構いませんわよ」

あかり「やったー!学校内に他の人が知らない秘密の場所があるなんて最高だよぉ。
    あかり、そういう学園生活に憧れてたんだぁ」

向日葵「おほほ、良かったですわね」

あかり「ねぇ、いろいろ見て良い?」

向日葵「良いですわよ」

豪華な部屋の中を興味津々に見て回るあかり。水槽の中の魚たちに笑顔を見せるあかり。
ガラス張りの窓から夕暮れの富山の景色を眺めるあかり。そんなあかりを向日葵は複雑な顔で眺めていた。

向日葵「・・・」

彼女は一体何を思っているのだろうか?

そして・・・

向日葵「赤座さん」

あかり「へ?」

向日葵「実は、今日赤座さんをお呼びしたのはこのスイートルームを紹介するためだけではなかったんですの。
    大事な話があるんですが、構いませんか?」

あかり「うん」

向日葵の顔は若干赤い。射し込む夕陽のせいだろうか。大きく深呼吸すると、彼女は話し始めた。

向日葵「最初わたくしがごらく部を監視したのは赤座さんを守るためでした。ごらく部の魔の手から赤座さんを
    救い出すために、例の3人の赤座さんに対する行動を見張るためでした。杉浦先輩のように
    不純な動機を持つ者もいましたが、少なくともわたくしはその事以外考えていませんでしたわ」

あかり「・・・」

向日葵「しかしわたくしの気持ちも次第に変わっていきました。監視を続けていく内に、
    赤座さんのかわいさの虜になってしまいましたの」

あかり「えっ?」

向日葵「今まであまり気にしていなかった赤座さん。ところが監視をするようになって、
    毎日赤座さんの姿を見るようになって、初めて赤座さんの魅力に気づいたんですわ」

あかり(どういう事?何言ってんのこの人?)

向日葵「いつしか赤座さんの姿を盗撮することが監視の目的に変わっていました。それでも
    赤座さんをごらく部から救い出すことに成功し、生徒会に来てくれるようになって
    本当に嬉しかったですわ。赤座さんと過ごす時間が増えるにつれて、ますますこの気持ちは
    大きくなっていきましたの」

あかり「・・・」

向日葵「それからの日々は幸せでしたわ。船見先輩を一緒に殺したことも忘れられない思い出ですわね。
    わたくし、今まで人を殺すときはいつも一人でしたので、(病院を襲撃したときはあかねさんも
    一緒でしたが)なので誰かと一緒に殺人を行うことがこんなに素晴らしいんだってことに
    その時初めて気づいたんですのよ。思えばあれがわたくしと赤座さんの初めての共同作業
    だったのかもしれませんね」

あかり(何て返せばいいのか・・・)

向日葵「歳納先輩の葬式に行ったことも、赤座さんの家で一緒に遊んだこともどれも最高の思い出ですわ。
    そうしている内にますますわたくしの思いも膨らんでいきました。ところがどっこい、
    なんということでしょう!赤座さんが東京へ行ってしまい離れ離れになってしまいました」

あかり(自分に酔ってるのかな・・・?)

向日葵「赤座さんに会えない日々は本当に辛かったですわ。でもおかげで自分の気持ちを再確認できましたの。
    そしてようやく再会でき、今こうして2人は一緒にいます」

あかり「・・・」

向日葵「赤座さん、もうわたくし、この気持ちを抑えることはできませんの。また離れ離れになりたくない、
    もう別れたくない。だからこそ、伝えなければならないことがあります」

あかり「・・・」

向日葵「わたくし、赤座さんのことが好きです!付き合ってください!」ペコリ

その瞬間、太陽(あかり)が地平線の彼方に沈んだ。

暗闇に包まれるスイートルーム。わずかな光はあるがお互いの表情が確認できるほどではない。

誰も何も言わない。暗闇と沈黙が辺りを支配していた。

あかり「・・・」

向日葵「・・・」

最初に口を開いたのは向日葵だ。

向日葵「あ、赤座さん・・・?」

返事はない。あかりの顔も見えない。だが、しばらくして目が慣れてくると初めて向日葵は気がついた。

あかりが泣いていることに。

向日葵「ちょ、ちょっと赤座さん!?どうしたんですの!?」

あかり「うぅ、グスッ、うぅぅぅ」ポロポロ

向日葵「何かわたくし傷つけるようなことでも・・・」

あかり「ううん、違うの。嬉しいんだよぉ、向日葵ちゃんが好きって言ってくれて。
    向日葵ちゃんがあかりのこと好きになってくれるわけ無いと思ってたから・・・」

向日葵「そんな訳ないじゃないですの!どうしてそんなこと思ったんですか?」

あかり「だ、だって、向日葵ちゃん変人だし・・・」

向日葵「それは認めますがそれとわたくしが赤座さんを好きにならないのとは関係ないでしょう」

あかり「うん、そうだよね。あかり、バカだなぁ・・・」

向日葵「・・・」

あかり「えっと、実はあかりも向日葵ちゃんのことずっと好きだったんだぁ」

向日葵「えっ、本当ですの!?」

あかり「うん。でもどうせ無理だと思って諦めてたんだけど・・・」

向日葵「そんな、赤座さんがわたくしのこと・・・。玉砕覚悟で告白したのに・・・。
    うぅぅ、信じられませんわ~!」ポロポロ

向日葵の目からも涙がこぼれる。

あかり「あかりも夢みたいだよぉ~。向日葵ちゃん!」ダキッ

向日葵「赤座さん!」ダキッ

2人「うわぁぁぁん!」

2人は泣きながら抱き合った。数々の試練を乗り越えついに結ばれたのだ。これで泣かない方がおかしいだろう。
これまでに色々な事があった。多くの命も失われた。たくさんの人の命を犠牲にしながら、
時にはすれ違ったり、時には離れ離れになったりしながらも、ようやく2人は結ばれた。
第1章からここまで本当に長かった。お互いが共に片思いだと思っていた。だが最終的に
2人の心は1つになったのだ。

溢れ出る想いをどう表現していいか分からない。ただそれは涙となって2人の体の外に表れていた。

あかり(もう泣かないって決めたのにな・・・)

だがあかりは知っていた。これは今までのような悲しみの涙ではなく、喜びの涙だということに。

真っ暗なスイートルームの中で、2人はいつまでもいつまでも泣き続けた。

それから数日が経った。富山県警内では閉塞感が漂っていた。

一連の連続殺人事件の謎が全く解けないのである。数多くの事件が複雑に絡み合っている上に
手がかりも少ない。おまけに関係者が次々と殺されてしまったため余計に謎は深まるばかり。

一応捜査本部は設置したのだが、解決の糸口すら見つけられずもはや機能していなかった。
犯人も分からなければトリックも分からない。捜査は全く進展せず。
富山県始まって以来の大事件と言われたこの連続殺人に警察は疲弊していた。

そしてついには捜査本部長が「やーめたっ!」と言って家に引きこもるようになってしまい
事実上捜査本部は崩壊した。こうして富山県警はこの事件の捜査を打ち切ることになる。
記者会見で代理の捜査本部長が「遺族の方々には申し訳ないですが、我々には無理です」と
はっきり言い切ったことは記憶に新しい。この言葉はその年の流行語大賞に選ばれた。

向日葵はもし警察の捜査が自分に及びそうになれば、捜査本部長あるいはその側近を買収して
自分に捜査の手が及ばないようにさせようと考えていたのだが、警察側が勝手に自滅したため
その必要がなくて済んだ。

こうして9人+モブ1人の計10人もの命が失われた連続殺人事件は
21世紀最大の未解決事件として幕を閉じたのである。

<第20章(エピローグ)>

向日葵「おーほっほっほっほ!笑いが止まりませんわ」

あかり「向日葵ちゃん、どうしたの?」

向日葵「何でもありませんわ。こっちの話ですわよ」

あかり「ふーん」

向日葵「ところでプロローグは無いのにエピローグはあるってどうなんですの?」

あかり「まあまあ」

今あかりと向日葵は結衣が昔住んでいた部屋にいる。なぜそんな所にいるかって?
実は結衣の死後この部屋は空き部屋になっていたのだ。それもそのはず、住人が謎の死を遂げた上、
部屋中にライフルで打たれた跡がある部屋に入居する物好きなどそういない。
そこで2人はその部屋をリニューアルして綺麗にして、そこで同棲生活を始めたのである。

先日無事に結ばれた2人。学校ではずっと一緒にいられるが、さすがに夜家に帰ると一緒にはいられない。
それに耐えられなくなった2人は、結衣の部屋で2人っきりの同棲生活を始めることにしたのだ。

同棲生活は幸せそのものであった。朝起きても夜寝るときもいつも一緒。学校でも一緒だから
2人はほぼ24時間ずっと一緒に行動していた。愛し合う2人にとってこれほど幸せなことはない。

今日もいつものように学校から帰ってきて、夕食後にリビングでくつろぐ2人。

あかりがふと向日葵の方を見ると、何やら一心に携帯をいじくっている。

あかり「向日葵ちゃん、何してるのぉ?」

向日葵「ブログを更新してるんですのよ」

あかりは携帯を覗き込む。ブログのタイトルは「赤座さんとの同棲生活♪」となっていて、
以下のように本文が続いていた。

「少し前から赤座さんと同棲生活を始めました。ずっと赤座さんと一緒にいられてとても幸せです!
 今日は出血大サービスということで特別に赤座さんとのラブラブ写真をいっぱい載せちゃいま~す♪」

そして本文の下に今まで2人で撮った写真がたくさんUPされていた。

あかり「もぅ~、向日葵ちゃんったら~」

向日葵「良いじゃないですの。わたくしたちが付き合っていることはもう周知の事実なんですし」

完全にバカップルである。京子の葬式の時にも似たようなシチュエーションがあったが、
あの時のような気まずさはもう無い。

あかりの心は感動でいっぱいだった。東京にいた時に毎晩見ていた向日葵のブログ。
「遺書」の記事のままでずっと止まっていたブログ。もう二度と更新されることはないと思っていた。
でも、今こうして新しい記事が作られている。あかりにとってこんなに嬉しいことはなかった。

ブログのタイトルの所を見ていてあかりはふと思った。

あかり「そういえばこのSSのタイトル、もう完全に意味を成してないよね」

向日葵「それ、スカイツリーであかねさんにも言われましたわ。さすが姉妹ですわね、
    考えることは一緒ですわ」

あかり「そうかなぁ」

向日葵「でも本当にわたくしもそう思いますわ。歳納先輩なんて早々に死んでしまったんですから、
    京子『ごらく部が監視されている』ではなくて、向日葵『ごらく部を監視している』に
    すべきだと思いますの」

あかり(それもちょっと違うような・・・。それだとスレタイだけで犯人が分かっちゃうよぉ)

向日葵「それかやっぱり主人公は赤座さんなんですからせめて、あかり『ごらく部が監視されている』に
    したほうがいいですわねぇ」

あかり(今、向日葵ちゃん、あかりのこと主人公って言ってくれた!ってそりゃそうだよ、
    だって主人公はあかりなんだもん。当然だよね~)ニコニコ

向日葵「赤座さん、どうかしたんですの?」

あかり「別に~、何でもないよ~」ニコニコ

向日葵「?」

あかり(まぁ、向日葵ちゃんのこういう所が好きなんだけどね!)

向日葵「ところで、富山の生活にも慣れましたか?」

あかり「うん、もうバッチリ!東京での生活も楽しかったけど、やっぱりあかりには富山が一番!
    とっても落ち着くし、富山は最高だよぉ」

向日葵「おほほ、良かったですわね」

あかり「うん!」

向日葵「それで、赤座さんがわたくしと一緒に富山に帰ることを決めた時に言っていた
    足りない物っていうのは結局何なんですの?」

――――――――――

あかり『あかりね、やっと気づいたんだ。今の生活は確かにすごく楽しくて幸せだけど、
    何か違う、何か足りないってずっと思ってて、その足りない物が何かってことに
    ようやく気づいたんだ。それでますます富山に帰りたいって思うようになったの。
    そ、それに・・・』

――――――――――

あかり「えっと、それは・・・。前秘密って言ったよね?」

向日葵「お願いします教えてください!わたくし、気になります!」

あかり「うーん、まっ、今なら言ってもいいかな。分かった、教えてあげる」

向日葵「ありがたき幸せ~」

あかり「えっとね、あの時のあかりに足りなかったのは・・・」

向日葵「足りなかったのは・・・?」

あかり「『ゆるゆり』だよぉ」

向日葵「ゆ、ゆる、ゆり・・・?って何ですのそれ?新作のエロゲのタイトルですか?」

あかり「そんな訳無いでしょ。あかりに足りない物なんだと思ってるの?
    てか向日葵ちゃん分かってて言ってるよね?」

向日葵「それで、一体どういう事なんですの?」

あかり「あのね、東京での生活は確かにすごく楽しくて幸せだったんだけど、何か違うなって思ってたんだ。
    で、ある日授業中に向日葵ちゃんの姿を見てたら七森中で過ごした懐かしい日々が思い出されて・・・。
    それでようやくその正体に気づいたの」

向日葵「で、それがその、えっと、ゆるゆ、ゆり・・・?なんでしたっけ?」

あかり「『ゆるゆり』だよ!絶対わざとでしょ。向日葵ちゃん自分がその作品に出てる自覚ある?」

向日葵「申し訳なかったですわ。いつかゆるゆりが広辞苑に載るようになるといいですわね」

あかり「あかりの東京での生活は全然ゆるゆりじゃなかったんだ。ゆるくもなければゆりでもない。
    テニスに汗を流す少女って感じでどっちかというと青春スポ根系になってたんだよぉ」

向日葵「はぁ」

あかり「だからね、これは何か違うなって思ったんだ。やっぱりあかりには富山で、七森中で、
    みんなとゆるくゆりゆりしている方が似合ってるんだよぉ。また富山であの頃のような
    日常に戻りたい、そう思って富山に帰ることにしたの」

向日葵「確かに原作通りにすることは大切ですものね」

あかり「それにね、さっきはみんなとって言ったけど、本当はあかり、向日葵ちゃんとゆるゆりしたくて!
    足りない物っていうのはそれだったんだよぉ」

向日葵「赤座さん・・・」

あかり「えへへ~」

向日葵「赤座さん!」ダキッ

抱きしめ合う2人。もう2人の恋はとめられない。

これからもあかりと向日葵は末永く幸せにゆるゆりしていくだろう。

それが彼女たちの望んだ道だからだ。

向日葵「赤座さん、今から一緒にお風呂に入りませんか?」

あかり「さっきゆるゆりって言ったでしょ~。それじゃガチになっちゃうよ~」

向日葵「はい?わたくしはただ一緒にお風呂に入ろうと言っただけなんですが。
    はっ、もしや赤座さん、さては・・・」

あかり「ちょ、ちょっともう~、向日葵ちゃ~ん、からかわないでよぉ~!」

向日葵「おほほほほ」

あかり「えへへ~」

向日葵「赤座さん」

あかり「なあに?」

向日葵「大好きですわ」

あかり「あかりも」

向日葵「これからもずっと赤座さんのことだけを愛していきますわ。もう二度と赤座さんを一人にはさせません。
    どんなことがあっても守っていきますわ」

あかり「あかり、嬉しい。向日葵ちゃん、ありがとう」

向日葵「わたくしの方こそお礼を言うべきですの。ありがとうございます、赤座さん」

あかり「これからもずっと一緒だよ!」

向日葵「ええ、ずっと一緒ですわ」

あかり「向日葵ちゃん」

あかり「大好き!」

今度こそ本当に おしまい

【第3部・完】

HAPPY END!!

あとがき

こんなに長い話を最後まで読んでくださってありがとうございました。

この話を読んで少しでも楽しんでいただければ幸いです。

すべての真相が分かった上でもう一度最初から読み直してみるとまた新たな発見があるかもしれませんね。

また今度SSを書く機会があればその時はよろしくお願いします。

それでは

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