人の身なれば剣鬼たること叶わずとかそんな話やってみる(1)


 秋も深まり、日の落ちた林は肌寒い。
 木々の間を伸びる石段を上がっていくとさらに冷えてくる気がする。
 身体にひんやりとまとわりつく空気が、意識を細く鋭く削り取っていった。

 木の枝の間に見え隠れする空には尖った月。
 ふと振り返ると、赤く焼けた西の地平。

 じっと見た。視線がその果てに届くのを待つようにじっと目を凝らした。
 遠くひらいた距離を越えて、時の壁を越えて、見えるものがある。そんな気がする。
 川の水を踏み散らし駆けていく自分と、並んで走る背の高い――

 日の残滓に目が痛くなった頃、彼は目を行く手に戻した。
 胸の奥、そして左手に下げた刀が妙に重い。

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