P「怖い話大会?」 (63)

亜美「見慣れた会議室も、真っ暗だとチョー暗いね」

真美「ホントホント、全然違う場所みたいだよね」

春香「ご丁寧に机の上にロウソクも用意してあるし…」

真「準備万端って感じだね。まだ始まってないのに、少し怖くなってきたかも」

律子「なんで私までこんなくだらない集まりに…」ブツブツ

伊織「あら? もしかして、怖いのかしら?」

律子「まさか! 良いわ。こうなったら、とっておきの怖い話であんた達を震え上がらせてあげるんだから」

貴音「り、律子嬢! 後生ですからお手柔らかにお願いしますね?」

響「貴音は怖がりだなぁ。幽霊やらお化けなんて、居ないに決まってるぞ」

千早「そうかしら? えてして、そういう人の元に、物の怪の類はやってくるものよ?」

響「え…、千早、それ本当なのか? 実は自分、幽霊は居るかもしれないって常日頃から思ってるぞ」

美希「響は騙されやすいの。あふぅ、何でも良いけど、目が覚める話なら大歓迎って、美希は思うな」

あずさ「雪歩ちゃん。大丈夫? さっきからずっと震えているみたいだけど、そんなに怖いのなら、無理に参加しなくても…」

雪歩「だ、だだだ大丈夫、です。い、いざとなったらこのスコップで…」

やよい「幽霊さんを退治するんですか? うっうー! 凄いです雪歩さん!」

雪歩「ぁ、穴を掘って隠れていようかなー…って」

P「皆会議室に入ったな? それじゃあ始めようか」

\夏の終わりの怖い話大会/

春香「それじゃあ、早速だけど、私から話させてもらうね」

私って、よく転ぶでしょ?

しっかり気を付けているつもりなんだけど、それでも何故か転んじゃうんだよね

でも、転んでも怪我一つしないっていうのが、何ていうか、ちょっとした自慢だったの

まぁ、もう自慢することは出来ないんだけどね…

最近にしては珍しく二日もお休みを貰った日があったんだけど

私、纏まった時間が出来たらマンガ喫茶に行こうと思ってたんだ

二日もお休みがあるんだから、この機会に、一日中マンガに囲まれて過ごそうと思って

近くのマンガ喫茶に足を運んだのね

気になってたマンガを読んだり、パソコンで面白いマンガを調べたり

そうこうしている間に、時間はあっという間に過ぎていった

もうそろそろ帰ろうかな、なんて思いながら背の高い本棚の前でマンガを物色してたの

上段にあるマンガを見るために、見上げながら歩いていたんだけど

気が付いたら私は尻もちを衝いてた

地面が無くなっちゃったんじゃないかって思ったくらいだった

何が起きたか分からなくって、辺りをキョロキョロ見渡したの

誰かに見られてると恥ずかしいしね、あはは…

そこで私は気づいた

私の手に付着していた、糸を引く、ヌルヌルした液体に…

その時は怖いっていうより、気持ち悪いっていう思いの方が強かったと思う

四つん這いになりながら、必死にその液体から離れようとした

そうして手を片方動かした瞬間

私の足首を、誰かが握ったの

そりゃもう、口から心臓が飛び出るんじゃないかってくらいビックリしたよ

しかも、その手は力を込めて私の体を引っ張るの

滑る床のせいもあって、私の体は簡単に引っ張られていった

このまま引っ張られ続けて、どこかに連れていかれるんじゃないかって

怖くて怖くて、必死になって叫んだ

「誰か、助けてー!」って

私の声に気づいたお客さんと店員さんがすぐに駆けつけて来たんだけど

でも、その時にはもう、私の足首を掴んでいた手は消えてたの

床に残るヌメヌメした液体と、足首に刻まれた、血の滲む五つの爪痕が

今のが夢でも、気のせいでもない

ってことを証明してた


春香「はい! 私の話はおしまい。どうだった?」

伊織「へ、へぇ…、結構レベル高いんじゃないかしら…」

P「今の本当にあったことなのか? 足に傷は残ってないか?」

春香「足の傷はすっかり治りましたけど、ヌルヌルしたものがちょっと苦手に…、あはは」

亜美「可哀想に、はるるんはもうヌルヌルローション相撲が出来ない体になっちゃったんだね」

律子「アイドルにそんな仕事は来ないわよ!」

真「たまにマンガ喫茶に行く僕からしたら、春香の話、ぞっとしないね」

真「じゃあ、次は僕が話そうかな。春香の後だとちょっと怖さに欠けるかもだけど」

ライブが間近に迫ったある日の事だったはずだよ

気合を入れてレッスンしていたせいもあって、その日は帰りが少し遅くなったんだ

いつもなら会社帰りのサラリーマンが大勢通る、大通りから一つ外れた筋も

その時間だと、人っ子一人いないような暗い路地裏に変化してた

いつもの景色が少し変化するだけで、人の心は恐怖を感じるんだなって思ったよ

そんな心境が現れたのか、いつもより少し早いペースでその道を進んでたんだ

でも、やっぱり少し怖くてさ、近くの角を曲がって、大通りに出ようって思ったんだよ

その時はもう早歩きっていうか、軽いジョギングみたいな速度で進んでいたんだけど

そのせいもあって、曲がった先に佇む人に、僕は気づかなかった

幸い、ぶつかった僕も、ぶつかられた相手の人も少しよろめいただけで済んでさ

「ごめんなんさい、大丈夫でしたか?」

そう謝る僕に対して、相手は思いがけない一言を返してきた

「あの、菊池 真さんですよね?」

こういっちゃなんだけどさ、僕は人の容姿を見て差別するような人間じゃないと思ってる

だけど、僕はこう思ってしまったんだ

この人には、関わらない方が良いってね

真っ赤に充血した目に、人の皮膚くらいなら簡単に引き裂いてしまいそうな尖った爪

それに、彼女の喉から出た声は、まるで潰されたカエルのようにしわがれた声だった

不気味だったよ

一刻も早くその場から立ち去りたくて、「急いでいますので」って言って駆け出そうとしたんだ

でも、そうはさせて貰えなかった

「握手だけでもお願いします」

彼女はそう言った。さっきと同じような声で

あの時の僕の手はきっとびしょ濡れだっただろうね

手だけじゃない、額も、背中も、足裏まで汗を掻いてたと思うよ

なんにせよ、手早く握手を済ませた僕はその場を急いで後にした

それ以来、その道は通ってない

いくらサラリーマンが何人も通っていたとしても、どうしても行く気になれないんだ

最後に、どうしても不思議なことが一つあってさ

その時の僕は、ファンに見つかって握手やサインをせがまれるのが嫌だったから変装してたんだよ

フリフリのワンピースに可愛い帽子、メガネまでつけてさ

後にも先にも、その変装を見破ったのは彼女だけなんだ

どうして僕だってわかったんだろう

不思議だよね

真「はい、僕の話はこれでおしまい。どうだった?」

やよい「怖いって言うより、何だかとっても不気味なお話ですね」

真美「はるるんとは何だかヘクトルが違う怖さだねー」

千早「それを言うならベクトルよ真美。でも、確かにそうね。春香は直接的だけれど、真のは何だか心に来る怖さだわ」

伊織「不思議な話、ね。なら次は私が行こうかしら。私の話もどちらかといえば不思議よりなのよ」

いつだったかしら、もう確かな日付は覚えてないけど

私の隣にジャンバルジャンが居たときだっていうのは覚えているわ

そう、ジャンバルジャンと一緒に、屋敷の庭を散歩していた時のことだったはずよ

まだ日は高くて、幽霊なんかが出る状況とは真反対の時刻だった

照り付ける日光が鬱陶しくて、ジャンバルジャンと一緒に木が生い茂る森の中に入っていったの

もちろん、水瀬家の敷地内よ?

森の中は薄暗くて、お昼だっていうのに、少し肌寒いとすら感じたわ

名前の分からない野鳥の声を聞きながら、ジャンバルジャンと一緒に散歩しているとね

近くの草むらが音を立てて揺れるのよ

ガサガサと音を立てて、私の通った道を辿るように、何度も何度も

私が止まるとその音も止まる

後ろを振り返ってみても、草むらに何が居るかは分からなかった

次第に恐怖心が大きくなって

綺麗だと思っていた野鳥の声すらも、化け物が出しているうめき声に聞こえたわ

とにかくその時は森を出ることしか頭になくて

ジャンバルジャンを抱きしめるようにして出口へと進んでいった

勝手知ったる水瀬家の庭だから、幸運にもすぐに出ることが出来たんだけどね

森を抜けて、太陽の光を全身に浴びると、どっと汗が噴出してきたわ

そこで安堵した私は、後ろを振り返ったのよ

そしたら確かに見えたわ、草むらの影からこちらをじっと見つめる赤い瞳が…

その瞳がどんな生物のものなのかは分からないけど

猫か何かだと、私は思っているわ

いえ、それ以外の可能性は、考えたくないの

後日談になるんだけど

その森ね、無くすことにしたのよ

もう入る気にもなれなかったし、あの事件以降、ジャンバルジャンも何故かあの森には近づくのを拒むようになったから

新堂が言うには、あの森を解体するにあたって、色んな生物が出てきたらしいわ

そこで私は新堂に訊いてみたの

「その動物の中に、赤い瞳をした猫は居なかったかしら?」って

答えはNOだった。

赤い目の生き物は何も居なかったって、新堂は言うの

確かに私はみたんだけどね

伊織「とまぁこんな話よ。あまり怖くなかったかしら?」

美希「真君と同じで、不気味な話なの。その森には一体何が居たのかな?」

伊織「さあね。もう考えないようにしてるわ」

あずさ「うふふ、やっぱり、ネコさんでも迷いこんだんじゃないかしら?」

あずさ「不気味な話が続いたし、次は私が怖い話をしようかしら」

私って、よく迷子になって律子さんやプロデューサーさんに迷惑をかけるでしょう?

春香ちゃんと一緒で、治そうとは思っているんだけど、何故か治らないよね

でも、道に迷うのにも条件があってね

私の知っている道を歩いていると、知らない道についてしまうの

逆に、知らない道を歩いてると、あ、この道見たことがあるわ。ってなるのよ

だから、私が道に迷うときは

知っている道→知らない道→知っている道→知らない道

っていう風に、交互に現れるの

でも、その日は違った

短大時代の友達と会った日の帰り道のことだったわ

電車を降りて歩いてしばらくすると、見たこともない場所に居たの

こんなこと言うのおかしいかもしれないけど、私もそんなことには慣れっこだから

知らない道をずんずんと歩いていったの

いずれ知っている道に出るだろうって

五分歩いて、少しおかしいな

十分歩いて、これはおかしい

十五分歩いて、私は歩くのを止めた

どうしても、知っている道に出ないの

景色は確かに変わっていたから、同じところをグルグル回っているわけじゃない

でも、見たこともない景色だから、私は自分がどこに居るかは分からないのよ

誰かに電話をしようかとも思ったけれど、おいそれと電話を掛けていいような時間でもない

諦めて、私はもう少し歩くことにしたわ

通行人が居れば、その人に道を訊こうと思ったの

さらに五分ほど歩いた頃かしら、一人の男の人が前から歩いて来たわ

「すみません。少し、道をお聞きしたいのですが…」

愛想笑いをしながら話掛けたんだけど、男の人は無視して歩いていってしまった

こんな時間だもの、急いでいるんだわ

そう思うことにしてさらに歩いていると、今度はスーツ姿の女の人が歩いて来たの

「すみません。少し、道をお聞きしたいのですが…」

その女の人も、私を無視して歩いていってしまったわ

どちらの人も、私を一瞥することもなく歩いていってしまったのがとても印象に残ってる

もしかしたら、私はあの人たちに見えていないんじゃないか

そんな突拍子もないことを考えたわ

いい加減歩き続けるのも疲れてきて、近くにあったガードレールに腰掛けて少し休むことにしたの

空を見上げながら、やっぱり、迷惑かもしれないけど電話をしようって決めて、携帯を取り出そうとしたのね

でも、結局、電話をすることは出来なかった

いつの間にか私の前に、全身真っ黒の服に身を包んだ女性が立っていたの

悲鳴が出そうになるのは何とか堪えたんだけど、変わりに携帯を落としてしまったのね

それを拾おうと屈むと、不意に女性が喋りかけてきたの

「出口まで案内しますので、私についてきてください」

それだけ言うと、彼女は私に背を向けて歩き出した

彼女について行くかどうか少し迷ったけど、他に頼れるものの無かった私は、結局それに従うことにしたの

非常にゆっくりとした速度で彼女は歩いていたわ

私ね、最初に喋りかけたとき以来言葉を話さない彼女をじっと観察していて、気付いたの

その人、何故かサンダルだったのよ

黒い帽子に黒いワンピースで、しっかりとした衣装とは裏腹に、何故かサンダル

変な格好だな、って思ったわ

彼女は少しも止まることなく歩いていくんだけど

いつまでたっても、私の知っている道に出ないの

何回か話しかけても無視されるし、でも、しょうがないからついて行ったわ

それからさらに少し歩いていると

今度は急に携帯電話が鳴り出したの、物音一つ無い空間で急に鳴り出したものだから

まるでサイレン見たいに鳴り響いたわ

そしたら前に歩いていた彼女が急に振り返って言うのよ

「その電話に出るんじゃない!」

若い女性とは思えない声だったわ

喉の奥底から搾り出したような、女性にはとても似つかわしくない声

年老いた老婆を思わせる声だった

一歩後ずさって携帯の画面を見ると、さっきまで一緒に居た友人の名前が表示されいていたのよ

どちらを信じるかなんて、言うまでも無いことよね?

私はその電話を受けて、女性に背を向けて走り出したの

後ろからは私を追いかける足音がはっきりと聞こえていたわ

ベタンベタンっていう、サンダルの立てる音が

回りも見えないくらいに必死になって走って

「助けて! 助けて!」

って、電話に向かって言いながら走ったの

どれくらい走ったかは覚えてないけど、翌日筋肉痛になるくらいには走ったわね

で、気付くとサンダルの立てる音は聞こえなくなっていた

私ね、恐る恐る振り返ってみたの、そしたら、もうそこには誰も居なかった

肩で息をしながら胸を撫で下ろすと、今度は私の肩に誰かの手が触れた

もう我慢しきれなくなって、大声で叫んだわ

立ってることも出来なくなって、その場にしゃがみこんで終いには泣き出して

今思い返すと凄く恥かしいわね…、うふふ

結局、私の肩に手を置いたのは近くの交番に居た警官だったの

パトロールしていたところに、私が走っているのが見えたから、心配して様子を見に来てくれたらしいわ

いつの間にか、走っているうちに見覚えのある場所へと辿り着いていたのよ

その後、警察の人に事情を話して自宅まで送ってもらって、この話はお終い

あずさ「皆も、知らない人についていっちゃ駄目よ?」

律子「ちょ、ちょっとあずささん! そんな感想で終わらせていい話じゃないでしょうコレは!」

春香「そうですよ! そのままついていっていたらどうなってたか…」

律子「これからは毎日私が送りますから、一人で帰らないで下さいね! いいですか?」

あずさ「でも、それじゃあ律子さんに迷惑が…」

律子「い・い・で・す・ね?」

あずさ「はい…」

やよい「何だか、あずささんがお母さんに怒られてる長介みたいで可愛いです」

やよい「えっと、次は私がお話ししていいですか?」

大きなヌイグルミだったり、綺麗なアクセサリだったり、色々なものを貰うと思うんですけど

プロデューサーがチェックしてくれるので、危ないものは私を含め、皆さんの手には渡らないようになっているんです

そんなチェックを潜り抜けた物の中に

シンプルなんですけど、何故か心引かれる靴があったんです

履きやすいし、毎日使っても壊れないくらい丈夫そうでしたから、私、その靴をもらってとっても嬉しかったんです

おめかししして出かける時なんかは違う靴を履きますけど、近くのスーパーや

ちょっとお買い物に行くときなんかはファンの人から貰ったその靴を履いていたんですね

でも、その靴を履いた日は、必ず決まって、同じ夢をみるんです

最初は靴のせいだって気付かなかったんですけど

五回六回って夢を見るたびに気付いたんです

で、その夢が少し変わっていて

その夢の中だと、私は真っ暗な空間に居るんです

どこかに立っているのかもしれないし、もしかしたらどこかを飛んでいるのかもしれません

最初はそれだけだったんです

ただ真っ暗な夢、目が覚めると背中がじとーっと濡れるような、悪夢とも言えない夢だったんです

それがその夢を三回ほど見た頃からでした

最初は同じように真っ暗な場所でじっとしてるんですけど

次第に、誰かが近づいてくる音がするんです

ペタ、ペタって

その頃から、目が覚めると心臓がドキドキして、風邪を引いたときみたいに汗を掻いているんですよ

服を着替えなくちゃいけないくらいで…

それからもう少し同じ夢を見続けるんですけど

私、さらに気付いてしまったんです

ペタ、ペタっていう音が夢を見るたびに大きくなっているっていうことに

そして、近づいてくる音が大きくなるに連れて、お魚さんの匂いも強くなっていることに

もうそれからは夢を見るのが怖くなって、寝たくないなって、思うようになったんです

でも、寝ないとお仕事でミスしてプロデューサーに迷惑をかけてしまうからって

無理やりにでも寝ることにしていました

真っ暗な夢を見ては起きて

お魚の匂いを嗅いでは起きて

ある日、最初に言ったように、例の靴を履くと怖い夢を見るということに気付いた日の前日です

私はその日も例の靴を履いていましたから

やっぱり、怖い夢をみました

その日が怖い夢を見た最後の日です

真っ暗な場所で、もうすぐ近くまで来てるんじゃって思うほど大きな

ペタ、ペタっていう音と

お魚さんの匂いがする中で

今度は私の首筋に風が当たったんです

「もう一度履けば届くよ」

飛び起きた私の体はやっぱりびしょ濡れで、首筋にはまだ風のあたる感触が残っていました

その日からもう真っ暗な夢は見ていません

ファンの人には悪いですけど、靴はゴミの日に捨てたんです

やよい「これで終わりなんですけど、どうでしたか?」

響「やよいが一時期眠そうだったのはこれが原因だったのか?」

やよい「そうなんです。あの時は眠るのが怖くて…」

千早「大丈夫よ高槻さん。今度何かあったら私が守ってあげるわ」

やよい「うっうー! ありがとうございます! 千早さん」

千早「なら、次は私の話を聞いてもらえるかしら」

私が引越したのは、この場に居る全員が知っていると思うけれど

どうして私が引っ越すことになったのかを知っているのは春香だけのはずよ

今日は、どうして私が引っ越すことになったのかを話したいと思うわ

これも周知だと思うけれど、私は一人で暮らしている

たまに春香が来たりはするけれど、そうでないときは私の部屋に誰かが来るなんて事は殆どなかったの

最近は違うけれど、あの頃は、部屋なんて寝に帰るくらいのものだった

だから掃除も最低限くらいのものしかしなかったのね

それでも対して困ることはなかったのだけど

ある日、私がお風呂に入っているときのことよ

配水管に何かが詰まっていることに気付いたの

元々、あまり掃除をしない場所だったから、髪の毛でも詰まっているのだろうと思ったわ

蓋を開けてみると、案の定、長い髪の毛が絡まっていた

さっさと髪の毛を処理しようと、ゴム手袋を着けて髪の毛を持ち上げたんだけど

その時に、何か青臭い匂いがしたのね

説明が難しいのだけれど、海っぽいというか、そんな匂い

とにかく、長く嗅いでいたいとは思わない匂いだったわ

その後は何事も無く、元通りに水が流れるようになったの

三日後、お風呂に入っていると、また水が流れにくくなっているのに気付いた

この前掃除したばかりなのにどうしてだろうと思いながら排水溝の蓋を開けると

長い髪の毛が絡まっていた

私と同じような長さだったし、私のものだろうって思いながら再び処理したわ

そのときにも、同じようにあの匂いがしたの

それからさらに三日後、また排水溝が髪の毛で埋め尽くされていた

さらにその三日後も、そのまた三日後も

私の髪の毛の量は別段変化することはないのに、ただ排水溝だけに髪の毛がびっしり絡まっているの

怖くなって春香に相談したら

「なら、私の家においでよ」

そう言って、私を三日間泊まらせてくれた

三日後、一人で帰るのが怖くなった私は、同じように春香に相談してついてきてもらうことにしたの

部屋の扉を開けて、真っ先に浴室へと向かったのだけれど

やっぱり、排水溝には髪の毛が絡まっていた

恐ろしくなった私は、飛び出すように部屋を出て

再び、春香の家へ厄介になったわ

引越し先が決まるまでね

千早「どうだったかしら? あまり怖くなかったかしらね」

真「いやいや、充分怖いよ! もう変なことは起こってないの?」

千早「えぇ、あれからは何事もなく過ごしているわ」

春香「確か、一週間ほど私の家に泊まったんだったよね。あの時以来、千早ちゃんとの仲が深まった気がするよ」

美希「みんな結構クオリティ高いの。少し短いけど、次は美希の番ね」

もういつのことだったか忘れたけど、人通りの少ない道を通ってたときのことなの

美希の前に、人が歩いてたの

その日は雨が降ってたから、美希はピンク色の傘を差して歩いていたはずなの

それでね、ふと下を見ると、不自然な足跡があることに気付いたんだ

ナメクジが通った跡みたいにテカテカ光ってて

その上を歩こうとすると滑りそうになるの

変なのーって思いながら進んでると

テカテカ光る足跡は、前に居る人の後ろに出来るっていうのに気付いたの

ナメクジ人間現るなのっ! って思いながらその人を追い越そうとしたときにね

真っ黒の傘から見えた口がニヤーって笑って

響の歯より尖ったドラキュラみたいな歯が見えたの

あれ多分ナメクジじゃなくてドラキュラだったって美希思うな

美希「終わりなの」

律子「終わりなの!?」

亜美「ミキミキらしいって言えば」

真美「らしいけどねー」

響「難易度が下がったところで自分がいくさー」

自分、家族の皆とよく散歩するから色んな場所を歩くんだけど

その中に一箇所、誰と行っても家族が吠える場所があるんだよね

イヌ美はもちろん、コケ麿と行った時なんかは朝だったせいで

コケ麿の鳴き声で近くの人たちが皆起きちゃって大変だったんだけど

そのことは今関係ないから置いておくね

でさ、皆が皆その場所で吠えるたり警戒したりするからさ

自分、気になって一人でその場所に行ってみたんだよ

何かあるのかなーって思って

そんで、行ってみたんだけど、その日は何も見つけられなくて

結局、皆が何にそんなに警戒してるのか分からなかったんだ

自分には見えない何かが有るんだろうと思って

それからは極力、散歩のときにその道を通らないようにしてるんだけどさ

いつだったかな、仕事の帰りに、その道を一人で通ったんだよ

いつもは朝にその道を通るから分からなかったんだけど

夜通ったおかげで、その道がなんで皆に嫌われるのか分かったんだ

最初は黒いゴミ袋から水が漏れてるんだと思ったんだけど、違ってさ

その道の端っこ、サンダル履いた髪の長いお婆さんが座り込んでさ

ぶつぶつと、猫に魚をあげながら向かって話し込んでるんだよ

「もうちょっとだったのに」とか

「どこに行った」とか

断片的な声が聞こえてきてさ

いやぁ、なんていうか

幽霊とかお化けよりも、人が一番怖いよね

響「っていう話なんだけど、どう?」

律子「どうってあんた…、どうなのよ?」

春香「ま、まぁ、今日の怪談に落ちがついたってことで…」

千早「そうね。もうそろそろいい時間だし、お開きにしましょうか」

亜美「えーっ!?」

真美「亜美と真美がまだだよー!」

あずさ「二人の話はなんだか夜が眠れなくなるくらい怖そうね」

律子「ほら、文句言わない。雪歩と貴音があまりの怖さに白目剥いてるんだから」

真「これ以上聞かせると片時も僕を放さなくなりそうだよ」

雪歩「まっままま真ちゃーん。皆の話が怖すぎるよぉ!」ギュー

響「そうだな。貴音ももういっぱいいっぱいみたいだし」

貴音「……」

貴音(みなは気付いていないのですか…?)

伊織「やよいは眠気に負けそうよ」

やよい「…だい、じょーぶ、だよ…Zz」

P「よーし、それじゃ皆、帰りは車で近くまで送るから、下にある車まで行ってくれ」

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P「それじゃ後は貴音だけだな」

貴音「…はい」

P「おっと、ここら辺で大丈夫か?」キキッ

貴音「…はい」

P「? 大丈夫か? 元気がないみたいだけど…」

貴音「ご心配なさらず。明日になれば元に戻っていると思います」

P「そうか。まぁ、貴音がそういうなら…」

貴音「えぇ、それではあなた様、また明日、事務所でお会いしましょう」

P「あぁ、また明日な」

ブロロロロー

貴音「……」

みなの話には、共通点がありすぎます

まずは春香の話

ヌルヌルした液体に、尖ったな爪を持った何か

次に真の話

尖った爪に、赤い目をした、しわがれた声の女性

続いて伊織の話

赤い目をした何か

あずさの話には

老婆を思わせる声の、黒い装束に身を包んだサンダルを履いた女性

やよいの話では

サンダルを履いた魚を思わせる匂いのする何かが出てきました

千早の話は

長い髪と、青臭く海を思わせる匂いが

美希の話ですと

ナメクジが這った後のテカテカ光る滑る液体と、長い歯でしたね

最後に、決定的なのが響の話しです

ゴミ袋と見間違えるほど黒く、そして老婆を思わせる声に

生魚の匂いと、液体、そしてサンダル

推測でしかありませんが、双海姉妹の話にも、共通点が見出せるのでしょう

この不自然すぎる共通点に、誰も気付かなかったのでしょうか?

いえ、ただ単に、わたくしの考えすぎなのかもしれませんね。

そう思っていた矢先です

わたくしの後ろから

ペタ、ペタという足音が聞こえ始めたのは

間違いなく、それはサンダルが立てる音です

それと同時に、生魚を思わせる悪臭も立ち昇ってきました

心拍数が上がり、呼吸の間隔も短くなっているのが自分でも分かりました

恐怖で動けないわたくしへと、足音は一歩一歩確かに近づいてくる音が聞こえます

肩が、脚が、震えています

瞳からはとめようも無く涙が溢れてきます

急に、足音が止まりました

わたくしの真後ろまで来たのでしょう

首筋に生暖かい風が当たり、鳥肌が立ったのがわかりました

そして、涙で滲む視界の隅で、何かがヌっと現れたのです

見ると、鋭利な爪が五本、わたくしの肩を掴んでいるではありませんか

後ろの相手は力を込め、わたくしの体を無理やりに回転させました

わたくしの視界には先ほどの話に出てきた女性が笑っています

続いて、鋭い八重歯を見せながら、赤い瞳でわたくしを見つめ

聞くに堪えない声で言ったのです

「やっと一人、捕まえた」

おわり

ご閲覧ありがとうございました
真の名前は今後気をつけます

予想よりも短くなったし
律子と亜美真美の話も作れば良かったですね

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