志摩子「最近、祐巳さんの視線が気になる」 (43)
由乃「聞いてよ、祐巳さん!」
祐巳「いつになく真剣な顔してどうしたの?」
由乃「いつになくって、百面相の祐巳さんにそういうこと言われたく……って、そうじゃないでせう、祐巳さん!」
祐巳「は、はあ……」
由乃「とにかく聞いて欲しい話があるのよ!」
祐巳「それはいいんだけどわざわざこんなところに呼び出したってことは人に聞かれたくない話なんでしょう?」
由乃「そうよ!こんなこと祐巳さんにしか相談できないわ!令ちゃんにだって言えることじゃないわ!」
祐巳「由乃さん」
由乃「なによ?どうしたの?」
祐巳「内緒話って、もう少し小さい声でするものじゃない?」
由乃「うっ……確かに私、ちょっと興奮しているかもしれないけど、話の腰を折らないでよ
もしかして聞きたくないわけ?」ジトー
祐巳「そういうわけじゃないけど……。由乃さんがあんまり真剣なんで緊張しちゃって」
由乃「それだけ一大事ってことでしょ!!」
祐巳「それでどうしたの?」ゴクリ
由乃「いい?落ち着いて聞いてよ」
祐巳「わかった」ドキドキドキドキ
由乃「驚くだろうけど気絶なんかしちゃダメよ」
祐巳「うん」ドキドキドキ
由乃「準備はいい?」
祐巳「平気」ドキドキ
由乃「本当に?」
祐巳「うん」ドキ
由乃「本当に本当?」
祐巳「……由乃さん」ジトー
由乃「あはは……。だって祐巳さんの真面目な顔っておもしろいんだもん。ついからかいたくなっちゃって」
祐巳「も~、由乃さんのいじわる」プンプン
由乃「ごめん。ごめん。ちゃんと話すから。ね?祐巳さん」
由乃「も~、しょうがないなあ。由乃さんは」
由乃「それで話っていうのは志摩子さ……あっ!」
志摩子「由乃さん!こんなところにいたのね」ハアハア
由乃「志摩子さん、どうして?」
志摩子「どうしてって……みんな探していたのよ。ロサフェティダ(令ちゃん)も凄く心配していらして」
由乃「やだなあ、ちょっと祐巳さんとお話してただけよ。ね?祐巳さん」
志摩子「祐巳さんって……。由乃さん、あなた」
由乃「ちょっといなくなっただけで心配するなんて令ちゃんたら。これじゃあ、内緒話もできないじゃない。ねえ、祐巳さん」
志摩子「………」
由乃「あれ?志摩子さんどうかした?」
志摩子「………」
由乃「急に黙っちゃって。どうかしたのかしら。祐巳さんはどう思う?」
志摩子「……めて」
由乃「え?」
志摩子「やめて!祐巳さんは……祐巳さんはもう!」
志摩子「いないのよ!祐巳さんはもういないの……」
由乃「なに言ってるの?志摩子さん。意味がわからない。祐巳さんなら、ほら、ここに」
志摩子「やめてって言ってるじゃない!」
バチーン(平手の音)
志摩子「あ」
(頬をおさえながら)由乃「祐巳さんは……祐巳さんはここに……ここに……」
(言いさして由乃、泣き崩れる)
志摩子「泣かないで。泣かないでよ、由乃さん。私だって……私だって」
―――
――
―
その日もいつも通り山百合会の仕事を終えて、校門のところでバスに乗る祐巳さんと祥子様を、私は乃梨子と見送った。
それから本当はいけないのだれけど乃梨子と寄り道をしてから家に帰ると玄関の前に青い顔をした父がいた。
父から祐巳さんの死を聞かされた。
乗ったバスが事故にあったと言うのだ。
「祥子。聞いているのか?しっかりしなさい」
父の顔が遠くに見える。
私はいつの間にか地面に座り込んでいた。
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