亜美真美父「娘はアイドル!」 (14)



(…こちらスネーク、娘の部屋への潜入に成功した)

(んっふっふ…毎度毎度、私が騙され引っ掛かりケチョンケチョンにされてるとばかり思っては行かんぞ娘たちよ…)

(ふふふっ…この日の為に奮発した某大統領のマスクを装着…布団を剥ぎ取りイエスウィーキャーンッと言って叩き起こす…くくく、我ながら恐ろしい考えよのぅ…)

(それでは…!)

「イエースウィーキャー…ん?居ない」

(どこだ…どこに居る、マイドーターズ)

「「トラストミー!!!!!」」

「ぬぉぉぉっ!」


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「んっふっふ~、パパが真美達に悪戯で勝とうなんて、10年早いんだYO!」

「まだまだ詰めが甘いのぅ、父上殿」

「く~や~し~い~っ!」

娘たちが、腰を抜かした私を見下ろして得意げに笑っている。

悔しいな…!

「くっ、覚えておけ!」

「三下悪役の捨て台詞だよーそれー」


「あなた!何朝っぱらから遊んでるんです!今日は高橋さんのオペでしょう!」

「あー、そうだったそうだった」

私の愛する妻は、元患者。

ここに至るまでは長い長い道のりが。

「早く朝食済ませちゃってください」

はい、分かりました。

そうこうしているうちに、娘達がリビングに降りてきた。

「ママー、おっはー」

「よーございまーす」

「ちゃんと挨拶はする!」

「「おはようございます、お母さん」」

「宜しい」

うむ、我が妻ながら素晴らしい鬼軍曹振りだ。

「何か?」

おっと危ない、こちらに飛び火する前にご飯を食べよう。



「さあいっぱい、たべよおーよ、はやおーきでっきたご褒美♪」

「ほら皆で食べようよ♪」

「お昼まで、持つよう♪」

「早起きでもないしご褒美も出ない!早く食べなさい!」

「「「はーい」」」



さて、何を隠そう、私のかわいい可愛い娘たち。
亜美、真美は何と、765プロダクションという事務所でアイドルをしているのだ!


んっふっふ…驚いたかね?

勿論、その活躍は余すところなくチェックしているのだ!


「おっ!亜美がテレビに出てる!」

「あのー、双海先生?そろそろ回診のお時間」

「あー、待って、もうチョイ、あっ!いおりんも出てる!あずささーん!」

「双海先生…?」

後ろで、遺伝子レベルで警戒感がアップする声が聞こえる。

「わーお、看護師長の若林クン、何時からそこに居たんだい?」

「冗談言ってないで仕事しなさい!」

「わーい師長が怒った―、にっげろーぃ」

「あ、こら待て!」




しかし私は、この医療法人十勝会の敏腕外科医師なのだ。

オペだってちょちょちょい本気のイマジネーション。


(あっ!しまった切り過ぎちった…ん?)


「ねえねえ善哉先生、こんな所にポリープあった?」

「え?!ちょッと待ってください…あれ?こんな所に…?」

「取っとこうか、悪性だったら何だから」

「え、ええ…そうしましょう」

「先生、よく見つけましたね」

「いやいや、そんな気がしてたんだよ」

(結果オーライ…か…)


この様に…まあ、そういう事も…いや、毎回じゃないんだよ?!



「いやー、ほらみて、テレビに出てるアイドルの子、うちの娘なんですよ」

「双海先生、それは聞きましたから」

「いやー、我が娘とは言え本当にかわいい!」

「だから先生?」

「ん?」

「…双海先生!」

「うおう若林君、何だい」

「何だいじゃない!急患です!善哉先生と香崎先生が今対応してますけど、現在出血多量、意識混濁、手が付けられません」

「分かった、直ぐ行く」


医者に定時は無い。
急患が来れば無論、全力全開で対応する。
命がかかっているこの職業、私は誇りを持ってやっている。
そりゃあそうだ、自分の仕事にすら誇りを持てないなんて、悲しいじゃないか。
それには、それ相応の仕事をする必要もあるが。

何はともあれ、私の他、数名の医師達により、患者は一命を取り留めた。

時計は、既に夜の10時を回っていた。




「…先生、お疲れ様です、脈拍安定しました」

心電図を見ていた新米の医師が、ほっとした様子で報告してきた。

「ん…ふぃーっ、ご家族に連絡してくれ、とりあえずは大丈夫だと。しばらくはICUだが、意識が戻れば通常病棟に行けると」

「はいっ!」

看護師たちも笑っているが、まだまだ片付けやら事後処置も残っている。
その辺りの指示も、私はテキパキとすませる!
ふふふ…敏腕は術後の処置もパーペキに出来てこそなのだよ。
あれ?俺ってナルシストっぽい?

「双海先生がまだ残っていて助かりました」

「はははっ…善哉君、ま、あてにしてもらって良いよ、わはははははっ」

「先生、後はボクが片付けますから、先に上がってください」

「え、良いのか?」

「ええ、先生は、家に帰れば可愛い娘さんと嫁さんがいるんですから」

「おう、本当にかわいいぞ、見る?」

「散々見たから良いです」

「そうか、勿体無いなぁ…」



「只今…」

病院からは1時間。
すでに時計は12時を回っている。
極力物音を立てないようにして玄関を閉める。

「…もう寝てるのか」

「誰が寝てるですって」

リビングに入った途端、愛する妻の声が聞こえて来たので思い切り驚いた。

「お疲れ様です、ご飯、出来てるわよ」

「そんな、待たなくていいっていつも言ってるじゃないか」

いそいそと食事の支度を始めた様子を見ていると、用意するのは2人分。
俺の帰りを待っていたらしい。

「亜美と真美、今日はロケで泊まりなんですって…一人じゃ寂しいですもの」

…可愛いところもあるじゃないか。


「何か?」

「いや、別に」

「変な人…」

「ありがとうございます」

「褒めてないわよ」

妻が、呆れたように笑う。
こういう笑い顔、俺は嫌いじゃないよ。

「ははっ…そうか、亜美と真美はいないのか」

道理で静かなはずだった。
この時間でも起きていれば悪戯仕掛けに来るのだが…
居ないのではしょうがない。
ちょっと寂しい。


「ふふっ…」

「ふふふっ…」

「私ね、あの時、これで死ぬんだ、と思ってたの」

「…」

「でも、あなたが手術の前、必ず助けて見せますって言ってくれたよね」

「後でその話を先輩にしたらめっちゃ怒られたけどな」

「後でいろいろ問題になるから?でも、私にはそれが希望の光だった…手術の成功確立は40%、決して高い数字じゃなかったし…麻酔からさめて、あなたの顔が見えたときには、私は嬉しくて」

「俺、手術が成功したら、プロポーズするって決めてたからな」

「…子供だって、産めるかどうか分からなかった、あなたは無理をしないで、って言ってくれたよね」

「…子供は欲しい、だけどお前が死んだら…」

「でも、私は産みたかった…双子だって分かったとき、嬉しいのと、怖いのとで私は押しつぶされそうだった。でもあなたは私を支えてくれた」

「…」

「…私は、本当に感謝してる、あなたと、子供達に。私に生きる喜びを教えてくれた…」

「…馬鹿、飯のときにそんな話するなよ、飯食えないじゃん…」

「ふふっ、ごめんなさい、突然ね、ありがとうって言いなさいって聞こえた気がしたから…」

「…俺も、同じだよ」

「…」

「ありがとう。愛してるよ」

愛しの妻が、涙を流しながら俯いている。
馬鹿だなぁ、折角の晩飯時に泣く奴がいるかよ。
まったく、料理がしょっぱくなっちゃうよ。
ほら、飯食って風呂は入んないとさ、明日も早いんだから。

でも、俺の本心は言ったとおりだよ。
お前と亜美と真美のお陰で、俺はすっごく幸せなんだ。

これからも、幸せに暮らしていけると、良いなぁ…
そんなことを思いつつ、今日も終わる。
明日からも、きっと楽しくて幸せな生活が送れる。
それを願いながら。



投稿順間違えた…
こっちが>10です



「…あの子達も、すっかり売れっ子だから」

「…いっつも、おなか出して寝てたような娘が、いまや押しも押されぬトップアイドル、か」

溜息と共に、そう呟くと妻は心配そうにこちらの顔を覗き込んでくる。

「どうしたの?急に」

「…寂しい」

幼稚な感想だけど、実際そうだから仕方ない。

「…そうね」

「…でも嬉しい。あの二人は、自分のやりたい事をやりたい様にやってる。楽しそうで何よりだ」

「医者にするって言ってたわよ、あの子達が生まれたとき」

「あの子達が、どの道を選ぶかはあの子達が決めればいい、二人が一緒の道に進む必要もないと思ってる。医者の娘だからって医者にならなきゃいけないんじゃ、そんなツマラナイ人生は無いと思う」

「…」

「…何?」

妻が、きょとんとして俺を見ている。

「いや、あなたがあんまりまともな事を言うから」

「普段まともじゃないみたいじゃん!」

「半分くらいはね」

「そうか…」

ちょっとショック。
いや、予想通りというべきか。

「…でも、亜美、真美も幸せよ、あなたみたいなお父さん、そうそう居ないわよ?」

「だろぅ?そうだろぅ?もっと褒めて褒めて!」

「調子に乗らない」

「はい」

「…あなた達のお陰で、私も幸せよ」

「馬鹿だなぁ、俺のほうが幸せだよ」

「私のほうが幸せ」

「俺のほうが」

「…」

「…」

目を合わせたまま、動きが止まる。
先に動いた方が負け。
いや、そういうゲームじゃない。


終わり


10と11は入れ替えて読んでもらえると嬉しいなぁ…

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