アルミン「三角木馬のデットヒート」(1000)
朝、目が覚めると、横にベルトルトが寝ていた。
今日は休日で朝早くに起きる必要もなかったし、その気もなかった。
目覚めて一番にベルトルトを見たとき、僕は無視しようとも思ったが、彼の目は開いていたし、その手はしっかりと僕の尻を撫でていたので殴る事にした。
拳を振り上げて見せると、彼は怯えたような表情ですぐに僕の尻から手を引いたが、僕が手を納めるとまた嬉しそうに僕の尻を触ってきた。
僕は一度ため息をついてから布団から這い出て、まず歯を磨き、ロッシーニの『泥棒かささぎ』の序曲を口笛で吹きながらコーヒーをカップに淹れ、
それを飲みながら裏手の森へ行き、木に群がっていたクワガタを三匹捕まえてから相撲をさせ、最も強かったクワガタに『ハンセン』と名を付け、
そのハンセンにベルトルトの鼻を挟ませた。
ベルトルトの絶叫が部屋の隅々に響くのを待ってから、僕は窓の外を見た。
良い朝だ。
ベルトルトが気絶したので僕は寮を出た。
いい朝ではあるけど、いい気分ではなかった。
まだ朝食を食べていなかったし、寝ているうちに何かいたずらをされていたのかと思うと、自然と拳を握ってしまうような気分だった。
それでもハンセンは良く(本当に良く。恐らく巨人が現れた時のハンネスよりも)頑張ってくれたし、そのおかげでベルトルトは激痛を感じながら気絶した。
そう思うと僕の心は少しばかり軽くなった。休日に沈んだ気持ちでは居たくはない。誰もがそう思うように、僕もそう思っていた。
僕は朝食を食べに食堂へと向かった。
空の色は青く、羊の群れのような雲が草をはんでいるかのようにゆっくりと流れていた。
そこに朝見たベルトルトのにやけ顔が浮かんだので、僕は地面にツバを吐き、寮を振り返って中指を立てた。
「なにしてるんだ?」
後ろで僕を呼ぶ声がしたので振り向くと、コニーが立っていた。
小柄で、坊主で、坊主。それぐらいの特徴しかなかった。
それでもその坊主頭は、一言で言えば美しかった。何が美しいのかと聞かれても答えられない。カツオ。ただその言葉に尽きる。
「朝食を食べに食堂へ行こうとね」
「ああ、そうなのか」
「コニーは?」
「…実はよ、世界の秘密について知ってしまったんだ」
「そう」と答えて食堂へ向かおうとする僕の手を、彼は掴んだ。それもかなり力強く。僕はしまったと思った。
彼はマリア・シーナ・ローゼ三大壁内全てに響き渡る天下無双の馬鹿だった。
どのくらい馬鹿かというと、例えば世界を股に駆ける有名な指揮者のコンサートが開かれるとして、他の観客たちがそれぞれアルマーニのスーツやティファニーが宝石を売り込む為に有名デザイナーに仕立てさせたドレスなどを上品に着てくる中で、音楽とは体で感じるものだと言い張りながら全裸で会場に現れ、公演が終わった後に観客たちがブラボーと叫ぶ中で一人だけワッショイと叫び、さらにその後にコンサートの感想を聞けば、座席のクッションについての感想を延々と言うほどの馬鹿だった。
もちろんこれは例えで、彼はコンサートに行った事もないし行くつもりもないだろう。僕だってない。
とにかく彼は馬鹿で、しかもそれは僕ら常人の理解を遥かに超えていた。恐らく彼を理解できる人間は誰もいないだろう。できるとすればそいつも馬鹿だ。
僕は今すぐにでも朝食を食べに食堂へ向かいたい旨を、万の言葉を使って千の文を作り伝えようとしたが、まったく聞き入れてもらえなかったし、僕も疲れた。
つまり彼の良く解らない末法めいた世界の秘密とやらを聞かなければ、僕が朝食を食べる事は出来ないという事だった。
僕は口の中に虫をねじ込まれたような苦い表情をしながら、「世界の秘密って?」と言った。
「もしかしたらよ、壁の中には巨人がいるかもしれねぇんだ」
その一言で僕はすでに限界だった。
僕はすかさず財布を取り出し、二千円を彼の手に握らせ、勘弁してくれと言ってから、ライオンの折に入れられたウサイン・ボルトがするような見事なダッシュで彼を振り切った。
これ以上聞いていたら頭がおかしくなる。僕の意識の中でも特に深いところにある何かがそう警告していた。
食堂には賑やかな声が満ちていた。
休日の朝食時をちょっと過ぎた室内には、男女関わらず大勢の訓練兵が残っていて、それぞれが何かの話題について談笑していた。
僕は配膳所へ行き、決められた量のパンとスープを受け取ってから席についた。いつ見てもパンは一つだしスープは薄い。なめんなと思った。
しかしそれでも、それは僕らにとってはかけがえの無い朝食だった。辛い訓練兵団での生活の中で、楽しみと言えば食事とオナニーくらいだ。
どんなにパンが固く粗末なものでも、どんなにスープが薄く水を飲んだほうがましだと思っていても、食事は食事であったし、僕の腹を満たせるのは今の所はこれしかない。
僕は一度目をつむって、クリスタの裸を想像しながら食事をとれる事に感謝し、目を開けた。
パンがなかった。
一度深呼吸してから、忽然と消えたパンの事を僕は考えた。
パンが一人で消えるだろうか。そもそもそれはパンと呼べるのだろうか。僕の前から逃げるように消える。そこには明らかな意思を感じる。
例えばパンに意志があったとして、何故僕の前から消えたのか。食べられたくなかったからか、それとも他の理由があったのか。
食べられたくないという理由は、巨人を見たことがある僕には理解できる理由であったし、もっと言えば同情心すらも感じさせる。
しかしパンはパンである前に小麦であり、僕に食べられる以前に摘み取られ、臼でひかれ、焼かれている。死んでるんじゃないのか。
となるとパンというものに意志はなく、やはりただの食べ物であって僕の前から消える理由にはならない。というかどうやって動くのか。
僕の混乱した思考の横で、かすかな咀嚼音が聞こえた。
音の方に視線を移すと、僕の横にはサシャが座っていて、そして僕のパンを食べていた。
彼女はコンクリートできた像の様に無表情で、まるで深海魚が少し大きめの餌を時間をかけて飲み込んでいくように、僕のパンを貪っていた。
僕はサシャに食べられているパンを見ながら、彼は今どんな事を考えているのだろうと想像した。その隙にスープも飲まれた。
酷い気分だ。
雪山で遭難して、ようやく辿り着いた山小屋の備蓄食料が全て缶詰で、しかも缶切りが無く、なんとかこじ開けてみると『続きはwebで』と書かれた紙切れが入っていた時のような気分だった。
正直言ってサシャにはベルトルトとは比べ物にならないほどの怒りを感じたが、僕は黙っていた。女性に手を上げてはいけない。祖父の数少ないまともな教えだった。
僕は精一杯の作り笑顔を浮かべながら「僕の食事だったんだけどね」と言った。
サシャも笑顔になり、「おいしかったですよ」と返した。まさしく美少女という言葉が似合う笑顔だった。殴ろうかと思った。
サシャは立ち上がり「アディオス」とネイティブな発音で僕にあいさつをすると、ふらふらと人ごみの中へ消えていった。恐らく次の獲物を探すのだろう。
サシャのあいさつに僕は遠くメキシコの砂漠を感じながら、これからどうしようかと考え、サシャの食べた器を戻しに席を立った。
空腹すぎて空腹を感じなくなっていた。もう食事はどうでも良かったし、かといって何かすべき予定もなかった。
食器を戻し終え途方に暮れていると、誰かが僕を呼ぶ声がした。声の方を向いて見ると、それはクリスタだった。
整った顔立ちの中でもその大きな瞳は特に印象的で、僕が街で高級雑貨店の前を通った時に見かけた、目に二つの宝石をはめ込まれた出来の良い人形のようなルックスだった。あとエロ本でよく抜いた子に似ていた。
その完璧に近い造型の持ち主が、僕の事を笑顔で呼んでいた。
やれやれ、僕は射精した。
名前書き換えただけの盗作SSだろどうせ
設定が滅茶苦茶。あの世界にティファニーとかあるかよ
「やあ、クリスタ。どうしたんだい?」
そう僕が言うと、彼女は「暇そうだったから声をかけたの」と言った。僕は射精した。
「そうだね。とても暇だ」
「ねぇ、少し話さない?」
「ユミルはいないのかい?」
「ええ、何か用事があるみたいなの」
「そうなんだ。じゃあユミルが帰ってくるまで付き合うよ」
彼女は嬉しそうに「やったぁ」というと、僕を席へ誘ったし僕は射精していた。
僕は彼女に誘われるがまま、席についた。席に座るとき股間に湿った滑りを感じたが、僕は気にせず射精した。
「休日なのになんの予定もないのよ」
「僕もさ。休日に予定がある人の方が少ないと思うよ」
「そうなの?」
「多分。でも実際に僕たちは予定はないし、予定ができる気配もない。もし僕たちに予定があったとすれば、こんな風に二人で話す事なんてなかったよ」
そう言うと彼女は少し微笑んで「そうだね」と言った。もう射精は止まらなかった。
>>12
村上春樹から引用してる文や台詞、雰囲気等はありますが、ほぼ自作文です
あと設定については勘弁してください
ストーリーもオチも無いただの雑文です
「ねぇ、恋ってした事ある?」
クリスタのその言葉は唐突だった。
「いや、したことはない」
「なんで? もう私たちは恋をしてもおかしくない年頃でしょ?」
「そうかもしれない」と僕は言った。
「本当の事をいうと私もした事がないの。でもいつかはしてみたいわ。素敵だと思わない? 好きな人がいて、その人と一緒に居られるなんて」
僕は困っていた。童貞の僕にどんな返事が出来るというのか。そもそも何故僕にそんな話を振ったのか。
彼女の目は少しばかりの潤みがあって、頬はうっすらと紅潮していた。おや、これは…。
僕の心臓が力強く唸りを上げ始めていた。僕は童貞なりに考えた末、一つの結論に至っていた。
彼女は僕に恋をしている。間違いない。射精した。
「恋。それは人を変えると思うの。そう、まるでシンデレラのようにね。知ってる? シャルル・ペローの。グリムではない方よ」
「知っている。君には誰か好きな人がいるのかい?」
彼女は答えずに、僕をじっと見つめた。どこか物寂しげな表情は、12時を前に城を後にするシンデレラを想像させた。
そう、彼女はシンデレラだった。僕という王子の前で、本当の自分をさらけ出せないシンデレラ。恐らく、心の中では今すぐにでも僕が好きだと言いたいのだろう。
でも、もし言ってしまえば、友達同士というありきたりで平凡であるが故に安心できる距離感、魔法が解けてしまう。
彼女は恐れている。本当の自分をさらけ出し、魔法を解いてしまう事を。僕が彼女に対して恋愛感情というガラスの靴を持っているとも知らずに。
そう考えると鼻血も出るし精子も出た。困ったものです。
「聞きたいの?」と彼女は静かに言った。
「もちろん」
僕は出来るだけクールに鼻血を拭き、チンポジを直した。湿った音がする。問題はどこにもない。
「でも、言いたくないのなら僕はかまわない。言うか言わないかは君の自由だ。もちろん本心としては君の好きな人を聞いてみたい。ただそれが君にとって苦痛な事であるなら、僕はききたくはない」
彼女は辛そうに視線を僕から逸らし、ため息をついた。熱っぽい息だった。乙女の純情がそのまま彼女の肺からこぼれてきたような、そんなため息だった。
しばらくの間、沈黙があたりに下りた。しかしそれは冷たい沈黙ではなく、青春と温もりと栗の花の香りがする沈黙だった。
「言うわ」と長くもなく短くもない、良くも無ければ悪くもないcore i5、つまりミドルクラスの沈黙を破って彼女が言った。
「ユミル」
彼女はレズビアンだった。もうそれ以外いう事はない。
僕はホモセクシャルについては寛容な意見を持っていた。まず祖父がそうであったし、この104期にも何人か見受けられる。
同性を好きになる事の何がいけないのか、僕にはわからないし、またそれに明確な回答を出せる人も居ないだろう。
人の愛の形は人それぞれ違っていて然るべきとも思っているし、それを非常識だとか不潔だと一方的な意見で否定する事も冷静さに欠ける。
つまり言いたいのは、皆自由に恋愛し、セックスし、死ねばいいと思っている。
愛は美しく、恋は淡い。それが同性同士だとしても同じ事だ。男女が寄り添い生きていくのが美しいのと同じように、男同士、女同士でも美しいのだろう。
でもベルトルトのホモ野郎だけは駄目だ。次こそは手首を折る。
そして、僕の目の前にいるクリスタもその一人であっただけの話だ。彼女はユミルと結ばれ、共に生きて行きたいと思っている。僕じゃない。僕ではなかった。
「驚いた?」
「それなりにね」
「人に私がレズビアンだってカミングアウトしたのは初めてなの」
「何故僕に言おうと思ったんだい?」
「…特に」と彼女は言った。かなりそっけなく。本当にどうでもいいかのように。
結局の所、シンデレラは僕だった。クリスタは時計。12時しか指さない時計。僕が勝手に魔法にかかり、クリスタがトドメを刺す。何のことはない。
股間の辺りが重く湿り、独特の香りを周囲に放っていた。季節はずれの栗の花。一句できそうだ。
「でも、私はアルミンの事も好きよ」とクリスタは言った。
「ユミルの次くらいにかな?」
「ユミルとはちょっと違うのよ…」
「どんな風に?」
「彼女に対して感じる感情は、あなたに対してのものとは種類が違う。つまり……そうね、どんな風に言えばいいのかしら?」
「ろくでもないヘテロ・セクシャルである凡庸な僕らは、中々便利な表現を持っている」と僕は言った。
「そういう時はひとこと、『勃起する』と言えばいいんだ」
僕はそう言って席を立ち、パンツを取り替える為に寮へと歩き出した。
僕にはもう何も無かった。もう何年も人が住んでいない一軒家の庭先。草木がわがままに伸びたその中にある忘れ去られた井戸。その水も枯れ果てた井戸のように空っぽだった。股間が。
いつだってそうだ。欲しいと思ったものは遠くへ行き、いらないものだけ集まってくる。いつだってそうだ。
今日はここまで
マルコ・ボットの説教、あるいは彼の童貞について
食堂を抜ける途中、マルコが僕を手招きして呼び止めた。
僕はそれを無視して歩き続けたが捕まったので小手返しで投げ飛ばそうと思ったが祖父の教えを思い出しやめた。むやみに素人に合気道を使ってはならない。
「クリスタと何を話していたんだい?」と、僕の手を強く握り締めてマルコが言った。
一体どこから僕とクリスタを覗き見していたのか。彼のそういった周りの状況を把握する力は、一種の超能力に思えた。ただ一つ言える事は完全に使う方向を間違えているという事だ。おそらく彼は指揮官には向いていない。
「取り留めの無い会話。本当に普通の会話」
「嘘だね。君は失恋したんじゃないか?」
「そんな事はないよ。僕は急いでいるんだ。悪いけどまた今度にしてくれないか」
「いいかい。恋愛なんてものは一種の駆け引きと同じさ。追うから傷つくんだ。君が野うさぎを追う狐だったとしたら、君は本当に馬鹿な狐だ。自分より小さく素早い獲物を、藪を越え、朽木を抜け、ズタボロになりながら追いかけてるんだ。頭の良い狐はうさぎの通り道で待ち伏せする。頭を低く、風下に陣取って、そっと獲物が通るのを待つんだ。君にはそれが出来ていない。だから傷つくんだ」と彼は唐突に説教を始めた。
僕は何故説教されているのかわからなかった。それも呪文のような内容だ。サンスクリット語だと言われても、あるいは僕は信じたかもしれない。
彼も童貞で、僕とそう身分の変わる存在ではなかった。童貞に説教する童貞。ネズミを見て殺鼠剤を撒くミッキー。保健所の猫の檻の前でにやけるドラえもん。矛盾だらけだ。
ひとつ理解できたのは、彼が嬉しそうだという事だった。
恐らく僕とクリスタが会話している所を見た彼は、気が気ではなかったのだろう。僕が童貞を卒業するんじゃないのかと。
僕とマルコは童貞仲間だった。
訓練兵団に入った初日、僕は持ち込んだエロ本の大半をマルコに盗まれた。
僕は怒り、近くで寝ていたベルトルトを裸にし、局部をカメラで接写してから焼き増しして、マルコが盗んだエロ本の大半に貼り付けた。
その事が原因でベルトルトがホモセクシャルに目覚めたのだが、それと共にマルコとのある種の友情も始まった。
僕たちは互いエロ本を交換し、ストリップ劇場を梯子し、女体の秘密について語り合った。
「女体は神秘だ。でも一度触れてしまえば、その神秘性は永遠に失われてしまうだろう」とその頃のマルコはよく言っていた。
それが彼の本心でない事は明白だった。彼は隙があれば脱童貞に向けて行動していたし、そしてそれは悉く失敗していた。
やがて彼は全てを諦めたが、それでいて脱童貞への未練は燻り続けているという歪な存在になっていた。
一言で言えばセメントで固めれたさなぎだった。孵化したくても出来ない。飛びたくても飛べない。ただセックスだけはしたい。駄目童貞訓練兵団代表。
そんな彼が、僕の抜け駆けを許すはずはないだろう。
彼はじっと身を潜め、風下に陣取り、僕たちの会話を聞いていたに違いない。馬鹿な狐だと思った。
「本当に失恋なんてしていない」と僕は言った。
「嘘をつくな。君とクリスタは僕が見る限り、今までで一番良さそうな雰囲気だった。あれはもう付き合っていると言われても僕は信じてしまうような空気だった。僕が何度トライしても一度も辿り付かなかった世界観だった。そんな中で君は唐突に席を立った。どう考えてもあの状況で女性に対してするような態度じゃない。君はたぶん振られて、居づらくなって逃げたんだろう。そうなんだろう。違うか? いや、絶対そうだ。そうとしか考えられない」
長く、そして必要以上にくどい問い掛けにさすがの僕もイラっときていた。
マルコは必死だった。少なくとも僕にはそう見えた。こんなに必死なマルコを見たのは、彼がエロ本を教官に取り上げられそうになった時以来だった。
そのエロ本のタイトルは忘れたが、僕が見ても光るものを感じる内容だった。
マルコはそれを守るために、あえて教官を殴り、エロ本ごと営倉に入れられた。
二週間後にマルコが出てきた時、彼は煤けたそのエロ本を僕に貸してくれた。
僕はそのエロ本にコーヒーを零してしまい、証拠を隠滅するために燃やしたがバレて、しばらく彼と口をきかなかった。
それでも気がつくと僕とマルコは再び猥談で盛り上がり、互いにエロ本を貸し合っていた。そんな仲の友人だった。
僕はその友人に「そうだ。確かに僕は逃げた。でも振られてなんかいない」と言った。マジギレしながら。
そう、振られてはいない。ここだけは譲れなかった。
一度も告白なんてした事の無い、シャイな童貞の、レモンドロップのように小さいプライドだった。
「じゃあなぜ逃げたんだ」
「彼女がレズビアンだったからだ」
気がつくと僕たちの間には、アラスカの冬の夜のような重苦しい沈黙が横たわっていた。
暫くの沈黙の後、僕たちは何も言わず別れた。
童貞である僕たちにとって、クリスタがレズビアンであった事は衝撃だった。
僕も、恐らくマルコも、彼女で卒業したいと思っていたからだ。
しかし、それはもうかなわない夢だ。
レズビアンにとって性的対象は女性であり、僕らじゃない。僕がいかに立派なものを持っていても。
そう、つまりクリスタにとっての僕は、僕にとってのベルトルトのようなものだった。僕がいかに立派なものを持っていても。
僕がいかに立派なものを持っていても、性的対象外の相手とセックスするなんて事は出来ない。
それは世の常であり、捻じ曲げる事のできない普遍的な真理だ。僕がいかに立派なものを持っていても。
僕は再び寮を目指した。
立派なものを包むパンツも乾き始めている。
少し歩調を速めた。
とりあえずここまで
1973年のハードゲイ
寮に入ると、二人のゲイが僕の布団で寝ていた。
二人は缶詰のオイル・サーディンのような形に寝転がりながら、僕の尻についてクスクスと談笑していた。
やがて二人はモゾモゾと起き上がり、僕に「おう」や「やあ」と言ったありきたりなあいさつをしたので、中指を立てて笑って見せた。
「なにしてるんだ」と僕は言った。
「いつもの通りさ」
「お前の温もりを感じていたんだ」
「わかるだろ?」
「わからない」と僕は言った。
わかる訳がない。
朝食を食われ、好きな人がレズビアンで、童貞の友人に恋愛について説教され、ゲイが二人で僕の布団で寝ている。わかる訳がない。
ゲイの一人はベルトルトで、もう一人はライナーという名前だった。
ベルトルトはソフトゲイ、ライナーはハードゲイ。
ゲイにソフトもハードもあるものかと僕は思ったが、深くは考えなかった。まるでコンタクトレンズだ。
「朝食は?」とベルトルトが言った。
「食べてない」
「なんでだ?」
「サシャに食われた」
「慰めてあげようか?」
「殺すぞ」
定型文のように滑らかに、プログラムがあるように滞りなく、いつもの通りの会話だった。
そう、いつも通りだ。欲しいと思ったものは遠くへ行き、いらないものだけ集まってくる。全ていつも通りだ。
ベルトルトがゲイに目覚めたきっかけは僕にあった。
マルコへの仕返しの為に彼の局部を接写した時、快感を感じたと彼は言った。
反吐が出るほどいらない情報だったが、とにかく彼にとっては未知の快感だった。そう言っているからそうなのだろう。
それ以来、僕によく裸を見せようとしてきたので、大抵は絞め落とすか投げ飛ばして対応した。身に降りかかる火の粉は払え。祖父の教えだ。
ただし彼はソフトゲイであり、危険な男ではなかった。
むしろ黙っていれば人畜無害で気は優しく、良い友人になれると思えるほどだった。
ライナー・ブラウン。彼は違った。
生粋のハードゲイであった彼は、事あるごとに僕に殴ってくれと強要した。
そう聞いて僕は困った。殴れば喜ぶし、殴らなければ殴られるまでついて来る。もっと言えば殴ってもついて来たし、殴らなくてもついて来た。
彼が犬か、もしくは第三帝国の総統閣下を守る親衛隊の隊員であれば優秀な男だったと思う。
しかし彼はゲイだった。無敵のゲイだった。
もう一度になるが、僕は決して同性愛差別主義者ではなく、むしろ博愛精神に溢れた少年だ。
人は自由に恋愛し、キスし、一緒に料理を作り、ワインを飲み、イベリコ豚のローストポークでも貪りながらセックスでもしてろと思っている。豚野郎。
僕が関与しない範囲(僕の目の届かない範囲。目の届く範囲にいるレズカップルとヘテロカップルは好きではない。ゲイカップルはどうでもいい)であるなら、それはその人の自由であるからだ。
ただし、僕は差別主義者ではないがヘテロセクシャルであり、ホモセクシャルではなかった。
以前、数時間に渡ってその事を二人に説明した事がある。彼らは真剣に僕の話を聞いているようにしながら僕の尻を触っていた。
この二人の頭の中には『人類皆ホモ』と書かれたタングステン製の石碑が立っていて、その事が理解出来ていないようだった。
とにかく彼らは僕をホモだと勘違いしていて、そして僕をホモであるかのように扱っていた。
「僕はこれからある事をしなくちゃいけない。悪いけど寮から出ていってくれ」と僕は言った。
「ある事?」
ベルトルトが聞き返す。聞き返すな。
「そう、ある事。それを君たちに話すつもりもないし、話すべきでもない。とにかくさっさと出て行けホモ野郎」
「おいおい、酷い事言うなよ。俺達の仲だろ?」
ライナーはそう言って笑った。
もし僕がアロルディス・チャップマンであったなら、あるいは彼の顔面に169.1km/hの速球を投げてつけていたかもしれない。
「ある事ってなんだい?」とベルトルトが言った。
「いわない」と僕はきっぱりと言った。
「教えてくれ」とライナーは返した。
「いやだ」と僕はきっぱりと言った。
「ある事ってなんだい?」とベルトルトが言った。
「いわない」と僕はきっぱりと言った。
「教えてくれ」とライナーは返した。
「いやだ」と僕はきっぱりと言った。
「ある事ってなんだい?」とベルトルトが言った。
「いわない」と僕はきっぱりと言った。
「教えてくれ」とライナーは返した。
永遠を感じた。
「いやだ」と僕はきっぱりと言った。
「ある事ってなんだい?」とベルトルトが言った。
限界だった。
5年前に子供が噛んで吐いたペパーミントチューングガムが靴の裏にこびりついたようなしつこさだった。
僕が思うに、物事には限度というものがあるし、無いものはない。
線路は寂れた果ての集落で止まるし、川は栄えた港町で海になる。
しかし彼らには限度がなかった。ホモはせっかち。そしてしつこい。
僕は諦め、「これから着替えをする。クソ野郎」と丁寧に教えた。
彼らは目を輝かせ、粗末な椅子を倉庫から引っ張り出し、ポップコーンとコーラを用意して座った。
出て行く気など無い。
ライナーはボビー・ヴィーの「ラバー・ボール」を大声で歌い、ベルトルトはランプを点けたり消したりして場を盛り上げた。
寮は一瞬にして僕が行きなれたストリップ劇場へと様変わりした。
ただ一つ違うとすれば、脱ぐのは3~40歳の独特な後ろめたさを持つ女性ではなく、僕だという事だ。
845年は、序曲のないオーケストラの狂った指揮者による挑戦の年だった。
僕の住んでいたシガンシナという壁に囲まれた街は、ばかでかいクソ巨人(僕とマルコはアンドレ・ザ・ジャイアントと呼んでいた)によって滅茶苦茶にされた。
ここだけ聞けば出来の悪いアメリカの子供向け番組のオープニングのようだが、ヒーローは現れず、よくエロ本を買っていたお気に入りの本屋も潰れた。
幼馴染は母親を無くし、僕は集めたエロ本や写真集と祖父を失った。
巨人が現れた時、僕は幼馴染に必死に女性の乳房について語っていた。
彼は理解してくれず、そしてこれからも理解する事はないだろうと決定的に印象付けたのは、彼が巨人を見て「駆逐してやる」と呟いた時だった。
彼は巨人に恋をしていた。それも殺したいほどに。
その後、僕たちは訓練兵団へと入り、今日に至る。
なぜ僕が訓練兵団に入ったのかというと、単純に開拓地には同年代の女性が少なかったからだ。
はっきりと言う。僕には下心しかない。本当にそれしかない。
しかし、そんな僕に同年代の女性は興味がないらしく、集まってくるのは童貞をこじらせた馬鹿とゲイだけだった。
訓練兵団に入った当初、ベルトルトとライナーは毎日のように僕に告白してきたし、僕の気を惹くために自分たちは巨人だと嘘もついてきた。
僕は何度も断り、殴り、埋め、営倉にぶち込んだが、彼らはめげなかった。そこだけは評価できる。彼らは強い。雑草のように。
そんな二人と僕の関係は、一種の腐れ縁のようなものになっていた。
彼らは僕のことが好きだし、僕ももうそこまで拒絶しているわけでもない。するだけ無駄だ。
しかし僕は自分のセクシャルについてある程度厳格な線引きを持っていて、彼らに自分の性器を見せることだけは絶対に避けていた。
彼らの性器は頼んでもいないのによく見せられていたが、僕は本当に一度たりとも見せた事は無い。
もし僕が神であるならモーセに与えた十戒は十一戒になっていたと思うし、海なんか割らずに神の力で今すぐクリスタを僕の妻として娶り童貞を卒業するだろう。
そのくらい厳格な線を引いていた。
僕は訓練兵団に入った時にハゲ教官から「お前は何者だ」と聞かれた時ほどの大声で「出て行け」と36回怒鳴ったが、ライナーは「ビリー・ジーン」(それもサビ抜きで)を歌い出し、ベルトルトは檻の外に置かれたバナナが取れずに騒いでいる猿のように興奮していた。
僕はうんざりしながら般若心経を唱え、地獄にいる祖父の教えを破る事を心の中で謝罪し、二人を投げ飛ばした。10時4分の事だった。
彼らが気絶している隙に僕はズボンを下ろし、パンツを脱ぎ、新しいパンツ(ライム色のチェックのパンツ。祖父がくれた)を取り出し、それを履き、ライナーを蹴り、ズボンを履き、ライナーを蹴り、ライナーを蹴った。
そしてもう一度ライナーを蹴り、寝床の下で隠者マーリンのようにじっと瞑想をしているハンセンを拾い上げ、丁寧にベルトルトの顔に乗せた。
その後に僕はペリエを取り出し、氷を入れたグラスに注いでから口にふくんだ。
味の無い炭酸が舌の上で弾けると、ようやく一息ついた気分になったしそれをライナーに吐き付けた。
白目を剥いたライナーの鼻に炭酸水が流れ込んだのを確認してから、僕はベッドに腰掛け、まだ半分以上も残っているペリエをゆっくりと飲み始めた。
窓からルーベンスの絵の様に差し込んだ光が、気絶した二人を劇的に照らし出していた。
光の中で倒れたまま動かない二人は、祖国の為に無謀な戦いを挑み死んだ英雄のようにも、ただの馬鹿のようにも見えた。
恐らく後者だろう。彼らが英雄であるわけがない。これまでも、これからも。
今日は休日。
それもまだ始まったばかりだ。
気に食わない事だらけの休日なんて、これまでダースケースでダースが出来るほど経験してきたが今日は格別だと思った。
僕は自分の脱いだ、溶けたマシュマロのようにどろんとしたパンツを眺めながら、イカについて考えていた。
とりあえずここまで
ここまで読んでくれた人なら解ってもらえると思いますが、殆ど進撃関係ないです
そして村上春樹っぽいわけでもありません
ストーリーもオチもなんも考えてません
終わりも特に考えてません
ただ適当に地の文練習の為に書いているようなものなので、期待しないでください
レキシントンの幽霊がもし美少女であったならという僕の恋、愛、セックスとオナホールについての考察
オナホールについて語る。
9歳の時に僕はオナホールというものを初めて知った。844年という事になる。
その頃はまだ巨人の脅威というものは壁一枚隔てた向こう側の話で、人々は日々淡々と、まるで古いフランス映画のくだらなく長く盛り上がりも見せず最終的になんのオチも無い見終わった後に半ギレしながらAVをPS2にセットするような平和な毎日を送っていた。
それは祖父の持ち物で、いつも古ぼけた戸棚の中に仕舞われていた。
祖父はその当時すでにインポテンツであったし、そのオナホールは長い年月を戸棚の中で過ごすうちに日光に晒され、化粧箱の可愛らしい二次元美少女は溶けたべっこう飴のように黄色く変色していた。
僕はある日、好奇心から戸棚を開け、そのオナホールを手に取った。
箱を開けてみるとツンと鼻を刺す石油のような重たい臭いがした事を今でも覚えてる。
僕はオナホールを手に取り、西日が差し込む窓辺へと行き、眺めた。
そしてその年季が入ったオナホールに古代ローマ時代の出土品のような威厳と風格を感じ、圧倒された。
肉厚のボディは本当にどっしりと重く、激しい用途でも決して壊れる事のないように固いラバーで補強され、それでいて内側には柔らかいシリコンをふんだんに使い、ローションを使わずともある程度は快感を感じる事が出来ると思わせた。
使い手の事を良く理解した上での小さな気配りが積み重なり、ひとつの結晶となったのがこの一品だった。
しかし、僕はその芸術品を使わなかった。
ただ一言、中古だからだ。
それからすぐに僕はお小遣いを貯め、安く粗雑なオナホールを買った。
まだ精通前であったが、僕はその小さな貫通式オナホールをそれなりに楽しんだし、そのオナホールが裂けた時は朝から大泣きして祖父を困らせた。
僕は裂けたオナホールの為に、庭に小さな墓を作った。
数日後、その墓が暴かれていた。近所の悪ガキたちのしわざだった。
悪ガキたちはその事で僕をからかい馬鹿にしてきたが、僕の幼馴染たちが駆けつけてくるのを見て彼らは退散した。
僕は今でもそのオナホールの事を忘れない。
確かにコーヒーを買うとついてくる小さいティースプーンのように安っぽい物だったが、忘れる事はできない。
僕は恋愛もこういった側面を、あるいはもっているんじゃないかと思う。
ヤリマンの美女よりも処女のブス。
いや、ない。
美女の方がいい。
決まっている。
1964年に発表されたアメリカの心理学者マイク・デイヴィスの論文に「異性愛、同性愛における他者への性的倒錯の段階的実験」というものがある。
ゲイ二人に男性のヘテロセクシャルを一人、また女性も同じようにレズビアン二人に女性のヘテロセクシャルを一人、つまり男女それぞれの三人組を二つ作って3週間共同生活をさせるという実験だ。
それで何を見たいのかと言うと人の性的指向の変化、つまりは環境によって人はゲイになったりレズビアンになったりするのかという、中々パンチの効いた内容だった。
結論として言えば男性はゲイになり、女性はヘテロのままだった。
この実験は倫理的に問題があったらしく、数回程度の実験しか行われなかった為に十分なサンプルが取れず、結局なぜ男性だけがゲイとなったのかはわからなかった。
しかしその数回の実験のうち、ほぼ全てでヘテロ男性はゲイ的指向を示した。男性だけだ。
つまり僕も、ライナー、ベルトルトと3週間狭い一室で生活をともにすれば、ゲイになってしまうのかもしれない。
いや、ならない。
僕はマイク・デイヴィスなんてトランペットが上手そうな心理学者を知らないし、そもそもそんな実験はない。
僕の嘘だ。
とりあえずここまで
麻雀というものをご存知だろうか。
古くは中国で作られた四人用のテーブルゲームで、それなりの量の牌と呼ばれる四角い物を使い、それなりに考えながらそれなりに絵柄や数字をそろえてそれなりに遊ぶゲームである。
祖父からこの麻雀というゲームを九歳の時に教えてもらい、一時期はまった。
僕はこの麻雀を訓練兵団に持ち込み、いまや僕らの間では押しも押されぬメガヒットな暇つぶしゲームとなっている。
このゲームの特徴の一つに、対局を始めるには四人必要というものがある。
もちろんルールによっては三人、地雷麻雀なら二人、牌をいかに高く積めるかという孤高の遊び方では一人でもプレイできる。でも僕らの間では四人でプレイするのが一般的だ。
そしてこの四人のうち三人が手を組むと、恐るべき殺戮ゲームに変貌すると言う事を知る訓練兵はまだ少ない。
僕はライナー、ベルトルトと手を組み、ダズという訓練兵をよく嵌めた。
僕らは予備の牌を隠し持ち、ダズが親の時に限って彼の下家から順に二人が国士無双十三面待ちを張り、彼の捨て牌一打目でダブロン役満をぶちかまし、飛ばした。
そうなると彼は必ず「は…はは…、みんな死ぬんだ」と口走り、メソメソと泣くので、僕らは彼を慰め、立ち直った彼をまた飛ばした。
ダズの「は…はは…、みんな死ぬんだ」を聞くためだけに僕たちは飛ばし続けた。朝まで。
僕たちはもしかしたら彼のことが好きだったのかもしれない。
847年の事だ。
セックスについて考えるが恐らく何も語るべき事は無い。
僕はセックスをしたことがない。理由はただそれだけだ。
例えばカツ丼を食べた事がないのにカツ丼の美味しさについて語れる人はいない。
出来るとすればカツ丼に対して持っている印象を、ベラベラとくだらなく安っぽい表現で話すしかない。
僕は小学生が夏休み終了直前に書き上げた読書感想文のような事をセックスに対して言いたくはないし、言うつもりもない。
ただセックスはしたい。
願望でしか語れない事もある。
幸福な変態ストーカー、そしてミカサ・アッカーマンの登場
ベットに腰掛けてミジンコのフンほどにくだらない妄想をしているときに、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
ノックの音が聞こえたとき、僕はまだ巡るめく童貞の最高で最低な思考迷路の中にいて、その音が何なのかを理解するのにたっぷり10秒ほどかかった。
目の前でライナーとベルトルトはいまだに気絶していて、その近くに腰掛けじっと瞑想していた僕は、他の誰かから見れば二人の死の安らかな眠りを祈るバチカンかカンタベリーあたりの正統な修道士に見えただろう。
もちろん僕は二人の死の安息なんて祈らない。勝手に死ねばいい。
僕はベットからのそりと立ち上がり、空いたグラスを丁寧にライナーの額に乗せてからドアを開けた。
女が立っていた。
時刻は10時半を少し過ぎていた。
彼女の名前はミカサ・アッカーマンと言った。
簡潔に彼女と僕の関係を説明するなら、幼馴染という言葉でいいと思う。
ただし彼女の生い立ちについて少しばかりの注釈が必要で、両親を亡くしていた。
それで僕のもう一人の幼馴染の家に、なかば養女のような形で引き取られ、その後に僕と出会った。
僕たちは四方をベルリンの壁に囲まれたような風通しの悪すぎるシガンシナで、一緒に花を摘んだり水遊びをしたり悪ガキをぶちのめしてもらったりしながら育った。
彼女は珍しい東洋人の血をひいていて、顔立ちもそれにならったものだった。
黒く真っ直ぐな髪は若い画家が静寂を表現しようと黒い絵の具を細い筆で丁寧に何度も重ね塗りしたように美しく、涼しげな目は秋の夜を想像させた。
僕はこういった表現は女性にしかしない。なぜなら女性は美しいからだ。
例えばライナーを表現しろと言われればゴリラで済ませるし、ベルトルトと言われれば山、もしくは棒。マルコだったらソバカスでいい。
僕は常に一番効果的な表現を持って物事を説明するというポリシーを持っていた。決して男女差別じゃない。
そして僕の性的指向についてもひとつ注釈しておきたいと思う。
彼女に性欲が湧いた事は一度も無い。
いや、嘘だ。
とりあえずここまで
確かに出会ったころの彼女の印象は、物陰にひっそり生え、夜になるとその白い花びらを開く月見草のように可憐であったと思う。
でもその印象は本当に最初だけだ。マジで。
もしその頃の、彼女に対して性欲とは呼べないまでもささやかな恋心をもった僕をタイムマシンで拉致し今の彼女を見せたら、あるいは頭を丸めて仏門に入るかもしれない。
はっきりと言っておく。
この訓練兵団にまともな奴はほとんどいない。
一部のゲイとレズビアンを除いて、ひとり残らずクズか馬鹿か変態だ。
地獄の遊園地みたいな所だ。
「エレンは?」と彼女は起伏の無い独特の口調で言った。
「いない」
「うん、わかってる」
彼女はそう言いながら昼間に出社した役員のように部屋に入り、近くにあった机を解体して小さな祭壇を作り、僕がライナーの額に置いたグラスに日本酒を注ぎ、使い終わったコンドームみたいな歌を歌った。
聞くところによると縁結びの神に対する祝詞らしい。東洋の神秘だ。
そして幼馴染のベットに潜り込み、枕に顔を埋めながら10分間静止(死んだように。もしかしたらその間だけは本当に死んでいるのかもしれない)した後に跳ね起き、丁寧にベットメイキングをして痕跡を消し、幼馴染のタンスを開け、パン屋で昼食を選ぶようにパンツを盗み、ポケットにしまった。
彼女はV型8気筒エンジンのようにパワフルで、そしてフェラーリのように洗練された変態だった。僕ら庶民じゃ手が届かない。届きたくもない。
僕はそんな彼女の変態行為についてとくに疑問も持たず、二本目のペリエをボトルに口をつけて飲みながら眺めていた。
いつもの事だ。
朝目が覚めたら歯を磨く。
それと同じだった。
僕の元に戻ってきた彼女は、それなりに満足そうな表情でこう言った。
「アルミン、相談がある」
僕はなぜか人からよく相談を持ちかけられた。
それは深刻な悩みである時もあったし、羽毛で出来た車に轢かれたというようななんでもない内容の時もあった。
ただ大抵はライナーたちから性器を見て欲しいと言われたり、もう一人の幼馴染から巨人にラブレターを届けて欲しいと言われたり、チラシの裏に書いて七夕の夜に竹にでも飾ってニヤニヤしてろクズと言いたくなるようなものばかりだ。
僕はこのように、ときどき人から品のいいゴミ箱みたいに扱われる。投げ込まれるのはイカ臭いティッシュ。無念。
理由こそわからなかったけど、誰もが僕に対して、あるいはまた世界に対して懸命に何かを伝えたがっていた。
それは僕に、ダンボール箱にぎっちりと詰め込まれた猿の群れを想像させた。
僕はそういった猿たちを一匹ずつ箱から取り出しては丁寧に埃を払い、尻をパンと叩いて草原に放してやった。
彼らのその後の行方はわからない。きっと何処かでドングリでも齧りながら死滅してしまったのだろう。結局はそういう運命であったのだ。
それはまったくのところ、労多くして得る所の少ない作業であった。
思うに、「他人からクソみたいな相談を持ちかけられた人世界コンクール」が開かれていたら、僕はブッチギリで世界チャンピオンに選ばれていたことだろう。
そして景品にクリスタの処女が貰えるのなら嬉しいが、審査員がニヤつきながら僕にくれるのはベルトルトの処女なのだろう。
人から相談されやすいというのは、そのくらいどうでもいい僕の勲章だった。
僕はうんざりしながら「相談って?」と彼女に言った。
「フランツが猿になった」
何を言っているのかわからなかった。
「猿?」と僕は言った。
「猿」
「ミカサ、人が猿になる事はない。猿が人になることはあってもね。フランツが猿になったというなら、それは間違いだ」
「でもなった」
彼女はポケットから一枚パンツを取り出し、うっとりと眺めながら言った。
ライナーとベルトルトはいつの間にか気絶から覚めていて、僕の脱いだパンツで嬉しそうにキャッチボールをしていた。
ビチョビチョと湿った品の無い音が、彼らの投球に合わせてリズミカルに寮に響いてた。
僕は猿とは何かについて考えた。
フランツというのは、僕たちと同じ104期訓練兵団と呼ばれる主に馬鹿と変態とゲイとレズビアンしかいない腐った集団に所属する男性の訓練兵だ。
彼にはハンナという女性の恋人がいて、僕のもっとも嫌うリア充と呼ばれる人種でもある。
彼らが物陰でイチャイチャとセックスしているのを、僕とマルコは何度か見たことがあった。
それを見た僕たちはこの世で思いつく限りの悪態をついた後、泣いた。
そんな彼が猿になったと言われれば、いわゆる性欲を抑えきれずに理性が飛んだ状態の人間を猿と呼ぶ、暗喩のようにも思えた。
「ミカサ、猿というのはあの毛むくじゃらでキッキッキッキッと鳴く猿のこと?」
「そう」
そっちの猿かぁー。
「アルミン、予定はある?」と彼女はパンツをいじりながらニヤけつつ言った。
僕はライナーたちから自分のパンツを取り上げ、まずベルトルトに四の字固めを決め、その後にキレのある左フックでライナーの顎を打ち、脳震盪からくるスリップダウンを取りつつ言った。
「何も予定はない」
渡り鳥が抵当用資産を持たないのと同じように、僕も予定というものを持たない。持っているのはエロ本と、性欲と、情熱だけだ。
「ならついて来て欲しい」
僕はコーヒーに入れる砂糖ほどの沈黙のあと、「わかった」と言った。
基本的に僕は他人の頼みをきかない。
でも幼馴染と女性の頼みだけは聞くようにしていた。これは祖父の教えではない。僕自身が決めた事だ。
彼女は幼馴染であり、女性だった。聞かないわけはない。ゴリラと棒とソバカスとは違う。
彼女について寮を出ると、イカの匂いがたちこめた室内とは違い、死体安置所のように清潔で涼しい空気が僕の肺に流れ込んだ。
空はまるで鋭利な刃物で奥の方をえぐりとったように深くくっきりと晴れわたっていた。
休日をこんなゴミ溜め以下の部屋で過ごしたくはない。
僕は改めてそう思いながら、彼女と、僕の尻を触りながらついてくる二人のゲイと共に歩き出した。
確か10時50分より少し手前の時刻だったはずだ。
とりあえずここまで
猿の恋人
ハンナの隣には日本猿が座っていた。
彼女と猿は施設の片隅に作られた、訓練兵団の団長が王から貰い受けた補助金をどう使うかろくに議論する事もなく、ただ適当に散財した結果であるベンチに腰掛けていた。
この世の果てを眺めるように遠くを見つめるハンナの横で、猿は毛繕いに忙しそうだった。
ロンドンの免税店に積み上げられたカシミヤのセーターのような色をしたまだ若い猿だ。
人間にすればまだ十三、四歳といったところだろう。切ない歳だ。
ミカサは彼女と猿の前で立ち止まり、ポケットからパンツを取り出して汗を拭った。
そして一度パンツをじっと見つめた後、微笑んでからポケットに収め、「アルミンを連れてきた」と言った。
「やっぱりアルミンの尻はいいな」とライナーも言った。
「そうだね。故郷に連れて帰ろう」とベルトルトも言った。
僕は何も言わなかった。
何を言えばいいのかもわからなかった。
意味がわからないものというのは、世の中に溢れていると僕は思う。
例えば自作PC。
僕は子供の頃に自分のPCを持つ事が夢だった。エロサイトというものを見てみたかったからだ。
そこで僕は必死に小金を集めた。空き缶拾い、配達、靴磨き。僕に出来る仕事はなんでもこなした。
努力の末にようやくお金を溜め、ささやかなスペックのPCが組めるパーツを揃え、日系WinPCの発売するムック本を買い、その通りに組み立てる。
そして起動。
はい、BIOS画面が映りません。
いやな汗を拭いつつ、相談事を書き込む街の掲示板で聞いてみるがクズだの低脳だの全裸で組めだのと罵られ、ようやくCPUファンが刺さっていない事に気づく。
ほっとしながらファンのコネクタを4ピン端子に差し込む。
はい、静電気。
十数万のけして少なくは無いお金と、情報を集め続けた時間と、PCへの期待と情熱が一瞬で吹き飛ぶ。本当に。BTOにすれば良かったわクソが。
素直に言えば別に意味がわからないわけじゃなった。
ただ認めたくないだけだった。専門スレの煽りがわりと的を得ていた事を。
僕はハンナと猿を見てそれを思い出していたしこの回想は大して関係ねぇとも思っていた。
ハンナは安物のバイオリンみたいな声で「ありがとう」とミカサに言った。
彼女は相当なショックを受けているようで、旦那を落雷で亡くした若い未亡人のようにも見えた。
猿は毛繕いにようやくメドがついたようで、今度はハンナにバナナをねだって一本貰うと、嬉しそうに食べ始めた。
「アルミンのバナナも見たいな」とライナーは言った。
「そうだね。きっとバナナのようにフルーティーだろうね」とベルトルトも言った。
いつか殺そうと思った。
「見ての通り、フランツは猿になってしまったの」とハンナは言った。
僕は何も言えなかった。
確かに目の前にいるのは猿だ。でもそれがフランツだと言われると、何と言っていいのかわからなかった。
僕の知る限り、猿になった人間はいない。
もしフランツがその記念すべき猿になった人間第一号だとしたら、僕たちは彼を担ぎ上げて街を練り歩き、パレードでもしなければならない。
そして飛んでくるおひねりをかき集め、彼に数本バナナを買ってやり、残りは宴会の資金に回すと思う。
動物とは人間の側にいる限り上手く使われつづける儚い生き物なのだ。
ただその前に、僕はにひとつ確認しなければならない事があった。
僕は人間が猿になったという事をどうしても信じられなかった。
それは僕の小さな脳内にあるブロックで作られた常識と呼ばれる形を、一気に別の形に組みかえるような出来事だったからだ。
「本当にこの猿はフランツなの?」と僕はハンナに聞いてみた。
ハンナはバナナを頬張る猿をひとなでしてから「ええ」と答えた。
えー、マジでー?
「なんでフランツは猿に?」と僕は聞いた。
しかし僕の質問に返してくれたのはハンナではなく、ミカサだった。
「それがフランツの意志だったのかもしれない。彼はずっと猿になりたかったけれど、常識が彼を邪魔していた。でも突然その常識が崩れ猿になった。こういう事があっても何も不思議じゃない。ので、私は悪くない」
そう言った彼女は少しばかり居心地の悪そうな顔をしていた。
「フランツはミカサから貰った精力増強剤を飲んだの。そうしたら彼は苦しんで、私が心配して彼の手を握った時には猿になっていたわ」
ハンナは猿の口についたバナナの食べかすをとってやりながら、寂しげな口調で言った。
「精力増強剤だとよ。お盛んな事だな」とライナー。
「本当だね。僕も一粒欲しいよ」とベルトルト。
ミカサは遥か彼方の巨大な猫が居眠りしているような丘を眺めながら、「ペニー・レイン」を口笛で吹いていた。
こいつのせいじゃねーか。
「ミカサが原因じゃないか」と僕は言った。
「そうかもしれない。でも、必ずしもそうとは言えないとも思う。確かに私は昔グリシャさんから精力増強剤を盗…貰った。でもそれは私とエレンの初夜の為に使うものだった。しかしハンナは最近フランツとのセックスにマンネリしているという話をきいた。そこで私は親切心から猿の様に性欲が猛ると言われたこの薬を譲っただけ。決してエレンに使う前に毒味をさせたわけではない。ので、私は悪くない」
ミカサはふてくされていた。完全に逆ギレしている。
猿の様に性欲が猛る薬は、実際の所は猿になる薬だったようだ。
そんなものあるものかとも思ったが、あったからこうなっているのだろう。本当に世界は広い。
僕はミカサが言っていたもうひとりの幼馴染の父親であるグリシャという人物の事を、実はよく知らない。
ただ丸メガネをかけた、いかにもマッドサイエンティストな雰囲気をもった人物だったとは記憶している。
確かにその男なら人を猿にしてしまう薬を作ったとしても不思議ではない。そんな説得力のある風貌をしていた。
そして幼馴染の家には地下室があり、そこには僕も、ミカサも、幼馴染も、おそらくは妻さえも入ったことはなかった。
狂気じみた医者。誰も入った事のない地下室。そしてこの薬。
そのグリシャという男は根っからのド変態野郎だったのかもしれない。
夜な夜な地下室にこもり、人を猿にする研究を続け、そして昼間は何食わぬ顔で家族と接する。まるで三流作家が書いた怪奇小説だ。
そんな父親に育てられたのなら、ミカサともう一人の幼馴染のキチガイじみた性癖もうなずけると思った。
「フランツを人に戻したいの」
ハンナはそう言って、また猿をなでた。
「すまないけど僕には何もできない。僕はそんな薬があったなんて事を知らなかったし、もし知っていたとしても効果を打ち消す方法なんて考えつかない」
「じゃあフランツは…」
「もう猿として生きて行くしかない。とても可哀想だとは思うけど、本当にそれしかない」
僕の言葉を聞いたハンナは一筋涙を流し、猿にまたバナナを与えた。
まるで母親が子に愛を与えるような、美しい光景だと思った。
ミカサは完全に我関せずを決め込み口笛を吹き続け、ライナーは歌い、ベルトルトはピアノを弾いた。
曲目はシューベルトの『アヴェ・マリア』。それも珍しい事に男性による独唱だ。
優しくも哀愁を誘うピアノの旋律の上で、ライナーの深く力強い声が聞く者の激情を呼び起こし、ミカサの口笛はただ邪魔なだけだった。
陽だまりの中、クッチャクッチャとバナナを頬張る猿とその恋人。
古い名作映画のワンシーンのようだ。
「フランツ」と彼女は呟き、猿にキスをした。
猿は怪訝な表情を浮かべた後、吼えた。怒ったらしい。
僕はそんな悲劇的な一人と一匹を見ながら考えていた。
ハンナと猿が共に生きていく事は難しいだろう。
もちろん動物園であったり、サーカスであったり、ペットであったりと多種多様な形で猿と共に暮らしている人が大勢いる事も僕は知っている。
でも僕たちはまだ14、5歳の仕事も基盤も安定性もない子供だった。蜃気楼のような年代だ。
そんな彼女に猿一匹を養いながらここで生活を続けるのは、恐らく不可能だろう。
僕は暴れる猿をなだめる彼女に、「森へ帰そう」と言った。
別にフランツは森から来たわけじゃない。どこから来たかも知らないしどうでもいい。
でも猿は森で生きるべきだ。エロ本が暖簾をくぐった先の本棚で売られているように。
ハンナは僕の言葉を聞き、また涙を流した。
恐らく彼女にも、猿と共には生きていけない事がわかっていたのだろう。
彼女の心の中にはこれまでフランツと共に歩んだ様々な名残が走馬灯のように駆け巡っているのかもしれない。
セックス、コンドーム、そしてセックス…
しばらくしてから彼女は猿を抱きかかえ、僕に渡した。
猿は僕の腕の中で尻をかいた。僕の尻はゲイに撫でくりまわされていた。
僕はベンチから少し離れて、丁寧に猿についた埃を払い、尻をパンと叩いて草原に放してやった。
猿はビックリしたように一声鳴いて、赤い尻を振りながら草原を駆け抜け、やがて森の中に消えていった。
ハンナも、僕も、ライナーとベルトルトも、ミカサ以外は全員泣いていた。
僕は猿のその後を考えた。
どこかで群れに入れるならいいが、恐らくドングリでも齧りながら死ぬのだろう。
結局はそういう運命なのだ。人も、猿も。皆そうだ。
僕たちはしばらくの間、猿の消えていった森を眺め続けた。
ベルトルトは今度はギターを取り出し、そしてライナーは再び歌った。
ベン.E.キング、『スタンド・バイ・ミー』。
僕はこの曲の訳を読んだことがある。
夜が来て 周りが暗く 月の明かりしか見えなくなっても
僕は怖くない そう、怖くないのさ ただ君がそばにいれば
もし僕らの見上げている空が 崩壊して落ちてきても
山々が海まで崩れ落ちても 僕は泣かない 泣かないよ
そう、涙はこぼさない ただ君が 君がそばにいれば
素晴らしい歌詞だと思う。
そして森に消えた猿にも死ぬ前にそんな相手が見つかって欲しいと、僕は願わずにはいられなかった。
ミカサが思い出したようにポケットから薬の中和剤を取り出したのはそんな時だった。
それを見てライナーは豪快に噴き出し、その横でベルトルトが爽やかに笑い、ミカサはそよ風のように苦笑し、ハンナも可愛らしく笑みを浮かべた。
取り返しのつかない事もある。
笑うしかない。
とりあえずここまで
腐女子1979
女性とセックスをした事がない男性を指す広い意味での童貞は、世界が核兵器廃絶運動や夕食の献立といった悩ましい数々の問題をよそに、亀の卵のように毎年沢山産み出される。
多くの卵はキメの細かいベビーパウダーのような砂浜で大抵は踏まれ、狐に食べられ、海鳥についばまれ、生まれる事無く卵としての生涯を終える。それは幸せな事だ。
様々な要因、あるいは自己の諦めによって不運にも孵化し小亀となってしまったらもう後には戻れない。
海に帰るしかないのだ。
そして彼らが帰っていく海には何もない。
小魚もワカメもヤドカリも自分を産んだ母亀すらもいない。
あるのは数学の世界にしか存在しないような完璧なまでの海底と、暗く寒い深海特有の闇だけだ。
しかし子亀たちには何かが見えているのかもしれない。
エロ本、オナホール、アダルトビデオ、二次元美少女、そして妄想…
推察するにこんな所ではないかと思う。
広大な海面に降りしきる雨のような幻に彼らは夜な夜な白い夢を出し続け、一人で死ぬのだ。
僕は自分自身もそんな亀になりかけているんじゃないかと思い、怖くなった。
黄身がモゾモゾと動き出し、やがて皮膚や臓物や甲羅を形成し、殻を突き破ろうとしている亀になった自分を想像してみた。
きもい。
亀なんて股間の立派なゾウガメ一匹で十分だ。間に合っている。
しかしながら僕の卵は未だに食べらておらず、まだ孵化したくないと駄々をこねていたらやってきたのはゲイのゴリラとキリンだ。
彼らは数ある卵の中から僕を見つけ、尻をこねくりまわすように砂を払い、フライパンを暖めてスクランブルエッグか目玉焼きにして仲良く食べようとしている。
そんなバカゴリラとクソキリンよりも早く、僕は美人な狐や麗しい海鳥に見つけてもらって食べてもらわなくてはならない。
そう思いながら食堂の扉を開けたのは12時を少し過ぎた頃だった。
休日の昼食はとくに決まった時間はなく、12時から1時半までの間であればどんなタイミングでも食べられるようになっていた。
つまり12時から始まるロサンゼルス・レイカーズとシカゴ・ブルズの試合を観戦し、その後に恋人と軽いバードキスを3回繰り返しても充分間に合うように工夫されていた。
僕はコービー・ブライアントのプレイを間近で見たいとは思うがバードキスはしたくない。ディープキスがしたいんだ。
朝と同じように固く紙粘土のような味のするパンと、料理人が絶対に美味しいとは言わせないというポリシーを持って作ったスープを受け取ってから、僕は食堂を見渡した。
一人の女性が目に留まった。
彼女は長い黒髪を二つに束ねて、頭頂部をいやらしい亀のようにしながら、よだれを垂らして薄い本を読みふけっていた。
まずは彼女に話を聞こうと思い、変わらずついてくる二人のゲイと共に彼女の座るテーブルへと向かった。
「座ってもいいかい?」
僕がそう言うと、彼女は一瞬両肩を震わせてから発狂し、5秒後に落ち着きを取り戻して、どうぞ、と言った。
彼女の名前はミーナ・カロライナと言った。
外見を一言で言うなら髪の長いエマ・シーン中尉だ。彼女の頭頂部がそう言っている。
彼女は決して不細工などではなく、むしろ清楚で一般的には可愛いと呼べるルックスを持っていたが、生憎僕の恋愛対象外だった。
その理由は彼女のある種の独特な恋愛感によるものだ。
僕は彼女の了解を得て、彼女に対面するように座った。両隣にゲイも座った。それを見て彼女は微笑んだ。
「今日はどんなプレイをしてきたの?」
「悪いけど君のお眼鏡にかなうような事は何一つしていない。そしてこれからもするつもりはないよ」
僕がそういうと彼女は小さく、なんだ、と呟いてから、コーヒーを一口飲んだ。
彼女は腐りきっていた。骨の髄まで。
彼女は腐女子と呼ばれる、現代医学では根本的な治療法が確立されていない第一級の難病を患った幸薄の少女であった。
この腐女子という病は宇宙の謎やダーウィンのミッシングリングとった問題よりも遥かに難解な構造をしているようで、その実態を完全に把握する学者はいないと言われている。
主な症状としては男性を二人以上見ると彼らは恋愛関係にあるのではないかと妄想せずにはいられない脅迫観念症。
そして男性同士が仲良く話していると今夜のプレイについての相談に聞こえてしまう重度の幻聴だ。
彼女の視神経を通して見た世界は全ての男性が恋愛関係にあり、時に愛し合い、時に憎み合い、そしてそれらの結末は必ず激しいアナルセックスという地獄のような世界だ。
彼女の症状は年々悪化してきていて、昨年の冬からはついに女性に対しても同様の症状を見せるようになった。
僕とマルコはその話を聞くのが大好きで、クリスタとサシャのみだならな貝合わせの話や、クリスタとミカサが主従関係でハードSMをしながら互いに絶頂する話をよく鼻血を垂らしながら聞いた。
世間一般的に見れば彼女はもう回復する見込みのない、どんな名医でも裸足で逃げ出す可哀相な少女であったが、僕たちからすれば素晴らしい猥談製造機であり良い友人だった。
ただ気を抜くとライナーとベルトルトと僕の身の毛もよだつくらい濃いホモセックスの話を始めるので、そういう時は頭の亀にチョップを当てた。
そうするとFMラジオのチューニングを変えたかのように別の話を始めるので、好みの話が出るまで僕とマルコは亀にチョップし続けた。
恐らくはそれが原因で、彼女は最近になって幾分かではあるが普通の会話も出来るようになった。
僕とマルコはこれらの臨床例を論文としてまとめ、『腐女子におけるショック療法の有効性 頭部への打撃と角度について』というタイトルで学会に発表し、ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・メディカル・アソシエーションの表紙を飾った事もある。
その時の報奨金で僕は彼女がずっと欲しがっていたプレミア物のホモ同人を何冊か買ってあげた。
彼女は笑みを浮かべてクリスタが恥じらいながらも快感に勝てず自慰をしてしまった話を聞かせてくれた。
僕は一口パンを齧ってスープを飲み、彼女の持っていた本を眺めた。
表紙には目つきの悪い警官風の男がまだ幼さの残る少年を脱がし股間の警棒で公務執行妨害に対する私刑を始めようとしている絵が細いタッチで描かれていた。
一枚板で作られた広いテーブルの上にはそういった本たちが蟻塚のように積み上げられている。ちょっとしたコミケ二日目のようだ。
「『リヴァエレ密着24時 夜の危険な暴走行為』。凄いタイトルだね」と僕は言ってみた。
「そうでもないわ。よくある表紙だけの詐欺同人よ」
彼女は片腕で頬杖をついたままめんどくさそうにそう言って笑った。
「なにしろ暴走なんて一つもしていないの。私から言わせればお行儀の良い追突事故ね」
「追突事故?」
「そう、追突事故。虎の穴でホモ同人を買った帰りに信号が赤になって止まるとするでしょ。暇つぶしにウエスト・エンド・ガールズを鼻歌で歌っていると後ろから古いワーゲンがノロノロと追突してくるの。そして私が怒って車から出るより早く、向こうの運転手が飛び出してきて『怪我はないですか?』と聞いてくるのよ。こんなの何も暴走じゃないわ。私の車にジャンボジェットが5機くらい追突して初めて暴走と呼べるわね」
「玉突き事故だね」
「その通り。私が見たいのは派手な玉突き事故よ」
彼女は何度か確かめるように「玉突き」と繰り返してから、またコーヒーを飲んだ。
僕は調査兵団の兵長がジャンボジェットのような勢いで幼馴染の尻を穿っている光景を想像した。双方確実に死ぬ。そんなものが見たいのか。
もう一度飲んだスープは行儀の良い追突事故みたいな味がした。
「それで今日はどんな話を聞きに来たの? クリスタのハケ水車? それともペニバン無双?」
「ちがう」と僕は言ってから、「もうクリスタの猥談はいいんだ」と続けた。
「どうして?」
「彼女が本当にレズビアンだったからさ」
ミーナは一瞬肩を震わせてから発狂し、10秒後に正気に戻ってから「本当に?」と聞いた。
僕は肯いた。
「うん。今朝彼女からそう聞いた。彼女はユミルの事が好きで、男性には興味がないらしい」
ミーナはニヤけつつ、「そうなんだ」と言った。恐らく頭の中ではすでに新たな猥談が腐りきった思考の中で産声をあげているのだろう。
彼女はそういった数々の猥談を秋の熊のように溜め込んでいた。その気になれば、同性愛を題材とした官能小説で一財産稼げるかもしれない。そして稼いだお金でまたホモ同人を買いあさるのだろう。
放出と収束が彼女の脳内から滲み出ていた。まるで腐女子のブラックホールだと思った。
「だから僕は新たな恋人候補を探さなくちゃいけない。これは巨人を駆逐する事よりも優先しなくちゃいけない問題なんだ」
僕の乳首をいじりつづけていた二人のゲイはそれを聞き、「俺たちがいるだろ」とか「照れちゃって」と喚きはじめたので、拳を振り上げた。
彼らは静かに今日の株価について話しはじめた。
「知りたいのはヘテロ性愛の女性は誰かということなんだ。もうホモ性愛の女性に恋はしたくない」
彼女は「なるほど」と呟いた。
「何人かいるわ。でも、私も彼女たちの全てを知っているわけじゃない。財布に入れてあるコンドームに穴を開けられている事を知らない教官のようにね。そんな情報しかないけど、いいの?」
僕は「かまわない」と答えた。
「オーケー。私の知っている限りヘテロなのはアニ、そしてサシャ。あとヒッチって子もいたわね」そう言ってからすこし間を置いて「それと、多分ユミルも」と続けた。
「ユミルも?」
彼女は肯いた。
「ええ。彼女がレズビアンだという話は聞いたことがないわ。私が知らないだけで本当はそうなのかもしれないけど。クリスタと彼女は良い百合カップルになると思うんだけどね」
僕は「ふぅん」と炭酸の抜けたコーラのような返事をした。
もしユミルが本当にレズビアンでなければ、一本残った花屋のカーネーションのようにつつましいクリスタの恋は終わりを迎える。
それは僕にもう一度クリスタへのアタックチャンスをもたらす福音になるかもしれないと考えていた。
恋敗れたクリスタ。涙を流しながら訓練施設さ迷い歩き、やがて僕と彼女は出会う。僕はやさしく「一緒に市民プールにでもいかないか?」と誘う。
午前中から泳ぎ始め、昼はプールサイドで彼女の作ったエッグサンドイッチを一緒に食べ、良く冷えたセブンアップにストローを二本さして飲み、そして午後も少しばかり泳ぐ。
その後に彼女をカマロで寮まで送り、どちらから誘うわけでもなく空気の流れによって一緒に寝る。具体的かつ直接的に言うならセックスをする。性交と言ってもいいかもしれない。
目が覚めると窓からは畑から採ってきたように新鮮な朝日が差し込んでいて、裸のクリスタが隣から「あなたのって本当に立派なのね。私がレズだなんてもう忘れてしまったわ」とはにかみながら言う。
僕はクリスタの髪を少しなでて、サイドテーブルに置いたココアシガレットを一本とりだし齧る。
文句なし。完璧だ。精子でた。
僕は前かがみになりながら「あるいはいいかもしれない」と呟いた。
「何が?」
ミーナは怪訝な表情で僕を見ていた。
「恋が人を変えるのと同じように、恋の終わりも人を変えるということさ。そしてなによりも人は快楽に正直だ。ミネラルウォーターよりコカ・コーラを好むようにね」
「どういうこと? ますますよくわからないわ」
「僕の股間は2リットルペットボトルのコカ・コーラという事だよ」
そう言って僕は立ち上がり「また後でホモ同人を買ってくるよ」とミーナに言った。
彼女は微笑んで「玉突き事故のような奴を頼むわね」と言いながら冷めたコーヒーを啜った。
僕は親指を立てて返事をしてから、電話の配電盤について語り合いながらついてくる二人のゲイと共に彼女のテーブルを離れた。
とりあえずここまで
でくのぼうとツンデレ女
まずはユミルと呼ばれる女性について少し語る。
彼女もまた僕と同じゴミクズ訓練兵団の同期であり、ミーナが言うにはヘテロ性愛の女性だという事だ。それ以上の事は詳しく知らない。
外見について言えば背は高く、一般的にはスタイルが良いとされる体つきをしていた。
腕や腰まわりはすらりとしていて足も長く、原宿あたりを目的もなく漠然とうろついているおしゃれゾンビ達のアヴァンギャルドな服を着させて街を歩けば、フランスあたりのファッション雑誌、例えばエルなんかの5ページ目には載るかもしれない。そんなスレンダーな体型だった。
しかし僕は彼女の目つきが苦手だった。
切れ長で刃物のような鋭さを感じさせる彼女の目は、必殺仕事人が三味線の弦をビッてやってシュッてしたあとにギリリッてする時のアイキャッチを思わせた。
そして幼い頃に僕をいじめてきた悪ガキたちを思い出させるような、見る者を萎縮させる威圧感があった。
だから僕は彼女とあまり話した事がない。
でも今は勇気をふりしぼって彼女と話さなくてならない。クリスタとの燃えるようなセックスのために。
そう思いながら辺りを見まわしてみると、ユミルはすぐに見つかった。
彼女は食堂の隅でレモンティーを飲みながら、哲学者のように考え事をしているようだった。
「やあ、ここ座っていいかな?」
そう声をかけると、彼女は腹をすかせて機嫌の悪い蛇のように僕を睨みつけ「は?」と言った。
もうすでに怖い。股間のコカ・コーラから炭酸が抜けていく音が聞こえる。
「なんでこのテーブルに座るんだ? 他にもテーブルはあるだろ」
彼女はクリスタが側にいない時は常に機嫌が悪かった。
それは僕にハマの喧嘩屋、鈴木みのるを思い出させた。
とある解説者は彼がえべっさんと戦った試合(試合時間1秒。スリーパーホールド。世界一早く終わったプロレス試合と言われている)の際に、彼のことを「何に対しても怒っている」とか「弱い相手には徹底的に強い人」と評していた。
僕にとってユミルはみのるだ。
だからこれから彼女のことをミノルと呼ぶことにする。
僕は股間をやまねの赤ん坊のように小さくしながら、「すみません。お話があるんです」とミノルを刺激しないよう丁寧に言った。
彼女はしばらく僕を睨みつけたあと、両隣のゲイも同じように眺めて、「まぁいいよ」と言った。
僕は小さく「ありがとうございます」と呟いてから彼女の右斜め前に座った。
二人のゲイはいつもの調子で僕を挟むように座り、僕の乳首をいじりながらクスクスと笑いあっていた。
彼らが何を考えながら僕の尻を触り、乳首をいじり、ひょこひょこと子ガモのようについて来るのかはわからない。わかりたくない。
もしかしたらすでに多くの学者によってこの事は研究され尽くしていて、その手の学会ではゲイにそういった習性がある事は常識なのかもしれない。
しかしそれがいくら学術的に興味深い習性であったとしても、一般人の僕からすれば果てしなくうざったいだけだ。
でも今だけはその奇怪な習性に感謝していた。
彼らがいることで僕はある程度は落ち着いていられるし、茂みに潜む虎のようなミノルの威圧感も少し角がとれているように感じる事ができたからだ。
「で、用事ってなんだよ」
ミノルは後輩をいびる先輩そのものの口調でそう言った。
僕が少し涙目になったので、ベルトルトはポケットからハンカチを取り出して僕に渡し、ライナーはレモンドロップをくれた。
そのレモンドロップを口に入れてから、僕は彼女の目を見ずに「恋愛の相談があるんです」と言った。
「は? 恋愛?」
ミノルはミノルらしくない女性特有の高い声でそう聞き返した。
やはり彼女はユミルと呼んだほうがいいかもしれない。
「なんで私に恋愛相談なんてするんだ」
「僕なんかよりもそのような経験が豊富だと常々思っておりまして、一度お話を伺いたく失礼ながら声をかけさせていただいた次第です」
僕は地雷原を進む負傷兵のように恐る恐る言葉を続けた。
「そこでですね、ユミル嬢の恋愛観や好みなどをお聞きしたく思っておりまして」
「…好み?」
彼女は確かめるようにその言葉を呟き、頬をうっすらと赤らめた。
瞳は野原を飛びまわる蝶のようにフラフラと動きはじめ、花でも見つけたように一瞬定まっては、また規則性もなく動き出す。
それは少女のみせる微笑ましい恥じらいだった。
…あれ?
可愛くない?
ミノル可愛くない?
僕の心臓がハーレーエンジンのように三拍子で唸りを上げはじめていた。
ユミルのしぐさは恋する乙女そのものだった。
粗暴で、がさつで、およそ女性的とは言えない普段の彼女からは想像もできないようなザ・乙女チックアトモスフィアが醸し出されている。
やがて彼女はテーブルに視線を落として手を組み、なにかを耐え続けるように指を絡ませ続けた。
唇はきつく一の字に締めていて、そこからはときおり艶っぽい吐息が漏れている。
そして思い出したように一瞬こちらへ目を向けては、春の風のような溜息をついてまたそれを繰り返すのだ。
もう僕にはわかっている。
彼女はレズビアンなんかじゃない。
そしてパンクラスから復帰したベテランレスラーでもない。
彼女は僕に恋する乙女だ。
まず間違いないと思う。
股間のコーラに二酸化炭素が圧入されていく感覚を感じ、僕は入江を渡る夕暮れの風のようにクールな笑みを浮かべた。
モテすぎるというのも困ったものです。
そう思いながら彼女を見てみると、言われているほど不細工というわけでもないと僕は思った。
男性的なルックスはむしろ凛とした美しさを持っていると評しても良いし、なにより彼女の体つきは大人の成熟した魅力を持っていた。僕の見立てからするとDカップは固い。
そして普段の荒っぽい性格は、人には見せたくないこういった可愛らしい一面を隠すための努力とも考えられる。
つまり彼女は姉御肌のツンデレだという事だ。
悪くない。
あるいは悪くない。
僕は彼女の魅力に気づいてしまった。
そして僕に対する彼女の仄かな思慕にも気づいてしまった。
確かにクリスタは美しくて可愛いし、彼女に童貞を奪ってもらえたらどんなに幸せだろうかと今も変わらず思っている。
しかし僕は一途な女性の想いを無視できるほど非情な男でなかった。
この世にゴキブリの数ほど生息しているフェミニストの中でも際立ってフェミニンなアルミンなのが僕だった。
女性を泣かせるような事は絶対にしてはいけない。祖父もそう言っていたし僕もそう思っている。
これはもう彼女が僕の童貞を奪ってくれてもいいんじゃないかと、股間を春のモルダウ河のようにしながら僕は思っていた。
「どうしたんだい? 具合でも悪いのかな?」
僕は英国紳士がパーティーで悪酔いしてしまった淑女を気遣うような物腰で言ってみた。
彼女はすぐには返事をせず、しばらくモジモジと指を絡ませてから「そんなことない」とぶっきらぼうに返した。
おやおや、ずいぶんとしおらしいじゃないか。
僕は口の中のレモンドロップをカラリと転がしてから、もしこの瞬間に彼女にキスをして「どうだった、子猫ちゃん?」と聞いたら、彼女は怒っているとも恥ずかしがっているともとれる表情をしながら「レモンの味がした」と言うのだろうなと考えて射精した。
ファーストキスはレモンの味でした。
僕がそう言うのを聞いて血の涙を流すマルコの顔が浮かんだ。
彼は呪いの言葉を千ほど吐き捨て、「僕だってやればできるんだ」と怒鳴りながら風俗街へ行き、それなりに高額な料金を払って童貞を捨てようとするが、本番直前でビビッて勃起せずに泣きながら帰ってくるんだろう。
僕はそれを横目で見ながらユミルのツンデレをベッドの上で楽しみ続けるのだ。
とても心地いい優越感だ。
僕は少し声色を低くして、男らしさの中にも色気を感じさせるように「君には好きな人がいるんじゃないか?」と聞いてみた。
彼女はまるで注射をされた子供のように一瞬だけ全ての動きを止め、その熱っぽい視線を僕に向けた。
「なんでお前に言わなくちゃいけないんだよ」
精一杯強がったような口調だ。僕はまた静かに笑った。
「聞きたいからさ」
口の中でレモンドロップを転がしながらそう言った。淡いキスの味がする。
「もちろん言いたくないのなら無理には聞かない。でも僕は君の為にその恋を受け入れる事ができる」
「…受け入れるってのは、認めてくれるって事か?」
「あるいはそうかもしれない」
僕がそう言うと、彼女は一層その頬を赤く染めた。まるで冬の日没みたいに美しい色をしていた。
僕は沸き立つ期待を隠し、あくまでも大人に、品のいいドイツ・シェパードのように彼女の返事を待ち続けた。
精子がパンツを打つ。
そしてしばらくの間、僕達がいるテーブルに本当に静かな沈黙が腰を下ろした。
それはまったく疎ましいものではなく、ずっと昔に聞いた雨音のように体になじむ沈黙だった。
彼女は視線を手元に落とし続け、ときおり休止符のようにレモンティーを口に運んだ。
僕はただじっと彼女を勃起しながら見ていた。
やがて彼女は僕を見て、「本当に認めてくれるんだな」と聞いた。
少女が旅に出る時にするような、頼りなくも力強い決心を彼女の目から感じる事ができた。
僕は肯いた。
「もちろん」
レモンドロップは小さくなり、拡散し、希釈され、甘酸っぱい青春の味になって僕の口の中に広がっていた。
彼女は辛そうに何度か呻いた後、潤んだ瞳をそっと左へ運び、キャンパスに情熱の絵の具を一滴垂らしたかのようにポツリと言った。
「ベルトル…さんの事が好き」
ベルトルトはハナクソをほじっていた。
ライナーは爪を切っていた。
僕は飴を噛み砕いていた。
僕は全ての女性に知っておいてもらいたい事がいくつかある。
その一つが童貞に対する接し方だ。
虫は明かりがあったら近づかずにはいられない。犬は電柱を見たらおしっこせずにはいられない。それらと同じように童貞とは思わせぶりな態度をされたら恋をせずにはいられないのだ。
しかし多くの女性はそんな事お構い無しに、僕達童貞が命すらも落としかねない危険な行為を次々と繰り出してくる。
一つ例を挙げるなら「彼女いるんですかー」とか「えーモテそうなのにー」といった甘い言葉。
これを食らった童貞は家に帰った後で「あの子、もしかして僕の事…」と考えはじめる。
そうなったらもう終わりだ。その童貞は死神に魅入られている。
思惑が思惑を呼び、思考が堂々巡りを始めてしまい、もう何も手につかなくなる。一種の錯乱状態といってもいいかもしれない。
やがて夜も眠れず食べ物も喉を通らなくなり、一週間後には夏の終わりの蝉のように衰弱死する。
運よくそれを回避し、告白まで辿り着く勇気ある童貞もいるかもしれない。そいつも振られてショック死だ。
このように童貞には女性からそんな言葉をかけられたら死ぬ以外の道はない。これらの言葉は死の宣告なのだ。実際にトーマスという童貞もそうして死んだ。
もちろん「思い込みが激しすぎる」といった冷静で的確な大人の意見もあるだろう。
でもそれを童貞に言ってどうなるというのか。
そう思えないから童貞なんだろうが。
砂漠に水を撒くような言葉だ。
これはほんの一例だ。
僕は他にも実に様々な要因で多くの童貞仲間を失ってきた。
メール、ボディタッチ、そしてバレンタイン…
もう両手の指じゃ数え切れないほどだ。
そんな痛ましい童貞達の現状について世界はあまりにも無関心で、今日でもなお女性の童貞に対する意識はおそろしく低い。
僕はもう仲間が死んでいくのを見たくない。
だから女性からは絶対に声をかけないであげてほしい。
彼らは野うさぎのように臆病で、そしてピーターパンのようにピュアだから。
彼らが自らの意志で恋し、努力し、勇気をふりしぼって告白してきたら、言葉を選びつつ優しく振ってあげてほしい。
僕はそんな事を考えながら床にツバを吐いた。
ユミルは顔を熟れたピーマンみたいに真っ赤にしてからテーブルに突っ伏し、「あうう」とか「言っちゃった」とかボソボソ呻いていた。
僕はもう一度床にツバを吐いた。
もうどうでも良かった。
今の状況をまとめるとレズビアンのクリスタが好きなユミルが好きなゲイのベルトルトが好きな僕が好きな相手はレズビアンのクリスタ。
横光利一の『機械』を思わせる難解な文章だ。意味がわからない。
そして僕は他人の恋愛なんてまったく興味がない。猫の交尾でも眺めてたほうがましだ。勝手にやってろクソ野郎。
ユミルはもう後に引けなくなっているようだった。顔はますます紅潮し、頭にフライパンでも置いたらホットケーキでも作れるかもしれない。
彼女は息を次第に荒くし、「頑張れ私」とか「言っちゃうぞ」と何度か呪文のように唱えてから「ベルトルト! お前の事が好きだ! わ、わた、私と恋人になってくれ!」と大声で叫んだ。
彼女の想いがそのまま飛び出した魂の叫びだった。
ベルトルトはハナクソをほじりながら「え? やだよ。君は女じゃん」と、興味なさそうに返事をした。本当に興味がないんだと思う。
「そんな事言わずにさ…女もいいもんだぞ?」
涙目になりながらも彼女は粘り強く食い下がった。新聞屋の勧誘みたいだと思った。
ベルトルトはそれをハナクソをほじりながら「やだよ。女じゃん」と何度も退けた。鉄壁のディフェンスだった。
ユミルは僕に「お前からも言ってくれ」とか「認めたんだから説得しろよ」と助けを求めていた気もするが、聞こえないふりをしていたのでよく聞こえなかった。
必死に告白を続けるユミル。ぼんやりしながら「やだよ」と繰り返すベルトルト。
僕とライナーはそんな二人をハナクソをほじりながら眺め続けた。
やがてユミルは泣きながら筆ペンと短冊をとりだし、そこに短歌を書いてベルトルトへと渡した。
君恋ふる 涙の床に みちぬれば みをつくしとぞ 我はなりける
現代風に訳してみると「あなたの事を思って流した涙が寝床に満ちて、私はさながら澪標です」といった内容だった。
受け取ったベルトルトも負けじと短歌で答える。
飛鳥川 ふちは瀬になる 世なりとも 思ひそめてん 人は忘れじ
こちらも訳してみると「飛鳥川の深みが浅瀬になるように変わりやすい世の中であっても、僕は好きになった人を忘れる事はできない」という事だろう。どちらも良い歌だ。
ベルトルトはその短歌をユミルではなく、僕に渡した。僕は受け取った短冊を丁寧に折りたたんで、ベルトルトの鼻に詰めた。
それを見た彼女は泣き崩れた。想い人を取られた紫式部のようだった。
僕も少し俳人を気取りたくなって「やせ蛙 負けるなユミル これにあり」と言ってみた。筆ペンが飛んできて僕のおでこにコツンと当たった。
ライナーはその筆ペンを手に取り、短冊に「おっさんの 性欲目覚める バイアグラ たった四粒で 眠る暇なし」と書いた。
何の風刺にもなっていないがわりと良い歌だと思った。正岡子規あたりなら戯れに褒めてくれるかもしれない。
ライナーも満足そうに笑っていた。
とりあえずここまで
ユミルはしばらくの間泣き続けた。
歴史に残る見事な完封試合だった。無理もない。
少し可哀相になり、ライナーから飴をひとつもらって彼女へと渡した。
彼女はそれを受け取らずに、「ヨヨヨ」と漫画でしか聞いたことのないような声をあげてまた泣いた。
その時だった。
「ユミル、大丈夫?」
クリスタが食堂奥の人ごみから、獲物を見つけた狐のように飛び出してきた。
その顔は心配そうに眉尻を下げていたが、その裏にある歓喜の色を僕は感じ取っていた。
「…クリスタ」
ユミルは泣き腫れた目でクリスタを見てから、彼女の名前を呟いた。
ダラダラと流した涙と鼻水でユミルの顔は大洪水だった。よく見れば鼻の下あたりにノアの箱舟が浮いているのかもしれない。
クリスタはそんな彼女を抱きしめた。そして「振られたのね。可哀相なユミル…」と天使の声色で優しく語りかけた。
ユミルはまた盛大に泣いた。マーライオンみたいに泣いた。
クリスタはその涙や鼻水をハンカチで丁寧に拭いてやり「ユミルは何も失ってなんかいないわ」と言った。
「そう…なの?」
「そうよ。あなたには私がいる。ベルトルトなんかよりもあなたを幸せにすることができる。約束するわ」
ユミルはまた集中豪雨のように泣き出し、クリスタにしがみついた。
クリスタはユミルの頭をなで、ニヤリと口元を曲げてから携帯を取り出し、誰かに電話をかけはじめた。
はい… ええ… じゃ訓練兵団まで… ええ、そうです… 二人です、荷物はありません… はい、よろしくおねがいします…
その5分に黒いハイヤーが訓練施設の前にとまり、ユミルはクリスタに肩を抱かれながらそれに乗り込み、ホテル街の方角へ消えていった。
僕は小さくなっていくハイヤーを窓から眺めながら考えていた。
今から30分もしないうちに彼女達はホテルにチェックインし、ウェルカムドリンクを飲み、シャワーを浴びてベットに潜り込むのだろう。
そして彼女達は…。
鼻血が出た。
少しばかり涙も出た。
この肥溜め訓練兵団にレズカップルがまた一組誕生した瞬間だった。
そしてそれは僕の淡く清潔な恋の終わりを告げる鐘の音でもあった。今度こそ完全に息の根をとめられた。ラブ・イズ・オーバー。
ライナーは短冊を手に取り、短歌を書いて僕に渡した。
堀江こぐ 棚無し小舟 こぎかへり おなじ人にや 恋ひわたりなん
「小さな渡し舟が行ったり来たりするように、僕も繰り返し同じ人を思い続けるのだろうか」という内容だった。
僕は首を横に振った。
もともと叶わぬ恋だったのだ。
だってレズビアンじゃん。無理に決まってんだろ。
僕は椅子に深く座りなおし、左手首の時計を見た。
ミッキーマウスの指は1時を少し過ぎたあたりを指していた。
ミッキーの隣にはミニーマウスが描かれていて、二人は仲睦まじく寄り添いながら時計盤の上で微笑んでいる。悩みなんてなさそうに見えた。
僕は悩みだらけだ。
二人のゲイ、エロ本の隠し場所、オナホールを勝手に使った犯人探し… そして童貞。
僕はクリスタに童貞を奪ってもらいたかった。ユミルでも可。でも全てが閉ざされた。本当に全てだ。
彼女達へと続くいくつかの扉は、腕のいい溶接工によって蟻すらも通れないように塞がれてしまった。扉の向こうから聞こえていた音さえもなくなった。
しょうがないので僕は他の扉をあけようとするが、左右の扉にいるのはゲイだし、僕が入ってきたドアの先にはマルコがいる。僕にはそれがわかっていた。
明かりはあるが酷く弱々しい。壁を手でなでてみるとじっとりと濡れた感触がある。湿った空気に乗ってイカの匂いがする嫌な部屋だ。
ゲイと童貞に囲まれた部屋の中央に僕は腰を降ろし、もう一歩も動けないという風に足を投げ出した。
すると何かが手に当たった。
手探りでその周りを調べ、取っ手のようなものを見つけて引っ張り上げる。床が意地のない貝のように簡単に口をあけ、深い暗闇へと続く階段が現れた。
その一段目にいつ書かれたのかわからないほどぼやけた誰かの走り書きがあった。
「男も女も尽きる事はない。尽きるのはあなたの情熱だ。それが本当の童貞への入り口なのだ」
書かれていたのは祖父の言葉だった。
そう、異性への情熱が尽きた時、人は本当の意味で童貞になるんだ。僕は諦めない。諦めるものか。
僕がささやかな決意を胸に物思いから覚めると、僕の座っているテーブルの前に女が立っていた。
背は普通くらいで、緩やかなパーマのかかった茶色い髪を首元あたりで切りそろえている。
袖のないライトブルーのTシャツ着て、デニムのホットパンツを履いている。
そこから伸びた細い両足の先には子犬みたいに小さなブーツが並んでいた。
美人という顔立ちではなかったが、人が警戒心を抱きにくい特徴的なルックスだ。少なくとも僕にはそう感じた。
そして針で穴を開けられた風船の様にユルリとした彼女の表情は、男のだらしない性欲を刺激する淫靡な雰囲気をもっていた。
彼女と僕の間には1メートルくらいの距離しか開いていなかった。
「暇なの?」と女が僕に言った。
「暇だよ」と僕も言った。
「あんたに言ったんじゃないんだけど」
そう言って彼女はライナーを指差した。
「ねぇ、暇なら私にすこし付き合わない?」
僕にはもうわかっている。
こいつはビッチだ。死ね。
ビッチ・ビッチ・ビッチ
「付き合う?」
突然現れた女に誘われ、ライナーは戸惑ったように聞き返した。
「そう。あんたの体、中々いい感じだからさぁ」
女は当然の事のようにライナーの隣に座り、身を乗り出して彼に顔を寄せた。
「激しいのが好きなのよ」
女はライナーの耳元で囁いて、ニィと笑って見せた。
「激しいのだってさ。僕も好きだよ」
ベルトルトが爽やかに言った。
「そうだな。俺達もそろそろそういう事をしてもいいんじゃないかと思ってたんだ」
ライナーはそう言いながら僕を見た。見るな。
「へぇ、奥のあんたもしたいんだ? 三人でするのもいいかもねぇ」
今度はベルトルトへと身を乗り出して女が言った。
なぜか僕にはこない。
なぜだ?
身を乗り出した彼女の着ているTシャツの大きく開いた胸元から下着が見えた。ラメの入ったビビットピンクのブラジャーだ。
僕は少し前かがみになった。
「そう言えばあんたたちって成績上位者だったよね。へぇ、顔も良くて実力もあるなんてねぇ」
「ほう、俺達の魅力がわかるのか」
「見る目があるね。気に入ったよ」
「そりゃね。二人とも男らしいし」
「はは、男らしいだとよ」
「僕もかい? 嬉しいなぁ」
僕は甲子園球場で行われている阪神対巨人戦を、現地でただ一人の巨人側サポーターとして観戦している気分だった。
この疎外感はなんだ。
なぜ彼女は僕にだけ話をふらないのか。
隣のバカ二人よりもよっぽどスマートでユーモア溢れる会話が僕にはできる。
しかし彼女はここに僕がいないかのように全ての物事を進めていた。
どういうことだ?
「じゃあさぁ、今夜なんてどう?」
女はまたライナーに近寄り、彼の肩に胸を押し当てつつそう言った。
「もちろんそっちの…」
「ぼ」
「僕? ベルトルトだよ」
「そう、ベルトルト。あんたも来てよ」
女はAVのパッケージみたいに淫らな笑みを浮かべた。
ライナーに押しつけてはちきれそうになった胸の膨らみが、開いた胸元から顔を覗かせている。
僕は歯を食いしばりながら勃起した。
こいつは僕を完全に無視している。
そこらに転がっている犬のクソか何かと勘違いしているようだ。
それとも一定の身長以下の男性は漏れなく犬のクソに見えてしまう精神疾患でもあるのかもしれない。
僕は両の掌をぴたりと合わせ、ただひたすらに般若心経を唱え続けた。
世の中にはこういった棒状のものだったらナスだろうがスカイツリーだろうがとりあえず突っ込んでみようとするチャレンジ精神溢れる頭のおかしい女性がいる事を僕は知っていた。
そして性の乱れが叫ばれる現代社会の中でも乱れに乱れまくってもはや別次元の訓練兵団にも、そういった女性が何人かいるとは聞いている。
それらの女性に対して僕は否定的な意見は持っていない。
いわゆるビッチ、痴女といった類の女性(小鼻が左右に突き出た女性は性欲が強いらしい。AVで言っていた)はただ単に性欲が強いだけの存在であって、そういった呼び名は蔑称以外の何者でもないと考えている。
だから彼女達は恥じる事無く相手を見つけ、思い思いのプレイでそのドブ川の底からすくい上げたようなおぞましい性欲を発散させてくれればと思う。
しかしこの女は違う。
明らかに僕だけを性の対象として捉えていない。
そればかりか彼女の性欲のふるいからこぼれ落ちた人間を犬のクソのように扱っている。
これはビッチ、痴女といった以前の問題だ。
こんなに嫌な気持ちになったのは新品で買ったオナホールの穴に誰かの陰毛が付着していた時以来だ。
とにかく僕の気高いプライドは激しく傷つけられた。
僕はこの女を許しはしない。
絶対に性対象として認めさせてやる。
そんな事を考えながら僕は前歯でテーブルをガリガリやっていた。
「悪いな。俺達は夜に用事があるんだ」
ライナーは右腕に絡みついた女の手を優しくほどきながらそう言った。
「用事?」
「ああ。激しい用事だ」
「噴火のようにね」
それから二人のゲイはねっとりとした視線を僕に向け、僕の乳首に手を伸ばした。
それを見た女は信じられないといった表情で「あんたたち、ゲイだったの?」と聞いた。
「ああ。俺も、ベルトルトも。そして真ん中のこいつもゲイだ」
「だから君と夜を楽しむ事はできないんだ。悪いね」
女はしばらく呆然として、ライナーとベルトルトの顔を見比べていた。
「飽きれた。二人ともすっごくいい男なのに、もったいないなぁ」
「はは。そう言ってもらえるだけで十分さ」
「そうだね。でも僕達の心はアル」僕はベルトルトの言葉を遮って叫んだ「僕はゲイじゃない」
「僕はゲイじゃない。彼らは少し頭がおかしいんだ。だから僕のことをゲイだと思っている。まるでカモの雛が最初に見た犬を母鳥だと勘違いするようにね。わかるかい? とにかく彼らはいつもひょこひょこついて来ては僕にセクハラする。そんな頭のおかしい可哀相なゲイなんだよ」
僕の言葉を聞いたライナーとベルトルトがグワグワとカモのように騒ぎ始めたので、僕は拳を振り上げた。
彼らはビスケットについて静かに語り合いはじめた。
「君にはちゃんと知っておいてもらいたい。もう一度言うよ。僕はゲイじゃない」
僕はしっかりと彼女を見据え、まるで教授が出来の悪い学生に単位が足りていないことを理解させるようにゆっくりとした発音でそう言った。
彼女は僕の言葉を出来の悪い学生そのものの表情で聞いた後、「だから?」と言った。
「だから、僕は君と夜を楽しむ事ができる」
彼女の顔からふわりとした笑みが消え、しんと静まった泉のような表情になった。
暫くしてその泉にビール瓶のふたを放り込んだみたいに静かな波紋が彼女の顔に広がり、やがて暴風雨の夜のように乱れた。
彼女は笑っていた。
笑いすぎだろっていうくらい笑っていた。
「あんたが私と寝るって? 何言ってるの?」
「別に変なことは言っていない。僕は男で、君は女だ。僕達が互いに寝たいと思えば王政府にだって止められない」
「そういう事じゃないよ。だってあんた『童貞』でしょ?」
「ど、ど、ど、ど」
彼女の『童貞』という言葉は最初、フランス語のような響きをもって僕の耳から入り込み、やがて意味を伴って脳を激しく揺さぶった。
この女は僕に言ってはいけない言葉を言ってしまった。
この。クソ。ビッチ。
必ず股間の45口径46cm3連装砲塔で跡形もなく吹き飛ばしてやる。
「ど、どど、ど、童貞? 僕が童貞?」
「知らなかったの?」
「いや、知らなかった」
「馬鹿みたい。見ればわかるよ」と女は言った。
「あんたがどう言い訳するか知らないけど、あんたはとにかく童貞よ。完璧に。200パーセント」
彼女はニィと笑った。猫がいたずら事を考えついた時のような笑みだった。
僕は追い詰められた。
確かに僕は産まれて十余年、一度も女性とセックスした事がない血統書付きの童貞だ。
しかし認めるわけにはいかなかった。
こんな女の前で「はい、童貞です」なんて言ってしまえば、その話は光よりも速く訓練兵団の隅々まで知れ渡る。
それはこのハプニングバーみたいな組織の中において最下層民の烙印を押されるのと同じことだった。
僕達童貞はそれを避けるため、隠れキリシタンの如き忍耐と決意をもって童貞であるという事をひた隠してきた。
もちろん暴かれた人々もいる。たとえばサムエル。
彼は非童貞たちの猥談についていけなかった事から疑惑をかけられ、4日間に及ぶ拷問の末に「童貞だ」と自白した。
虚ろな目で男子寮に帰ってきた彼の後ろで、女性の訓練兵たちが口々に「きもい」とか「包茎野郎」と囁いていたのを僕は今でも忘れることができない。
「いや、やっぱりおかしい。だって僕は童貞なんかじゃない」
彼女は鼻で笑った。
「へぇ、じゃあ最後に寝たのはいつ? 誰と?」
「一昨日。バーの便所で酔いつぶれていた、指が4本しかない女と」
「信じられないね」
「信じる信じないにかかわらず、僕は童貞じゃないんだ」
まるで魔女裁判でも受けているような気分だ。
彼女はピンク色のブラを罪人にくべる炎のようにちらつかせ、僕に迫った。
僕は磔台のように股間をいきり立たせた。
「じゃあさ、女の感じる所を言ってみてよ」と、彼女は僕に耳元で囁いた。
「まず乳首。次に女性器に5cmほど人差し指を入れてフックのように曲げると当たる所。Gスポットと呼ばれている。それから首筋も多くの女性が弱い。その他はケース・バイ・ケース」
僕は即答した。
全て加藤鷹が教えてくれた事だ。朝に何度も復唱している。間違うはずはない。
彼女はまたニィと特徴的な笑みを浮かべた。
「それ全部AVからの知識だよね?」
血の気がひいた。
「よくいるんだよね。Gスポットとか言ってそこばかり攻めようとする童貞がねぇ」と言いながら、彼女は僕の股間へと手を伸ばした。
「あんたのここの大きさは?」
「新宿駅くらい」
「まさか。一両編成にしかみえないけど?」
彼女はそういいながら人差し指で、ツン、と僕のヴェスヴィオ山をつついた。噴火した。
それは地球が力を溜め込み、瞬間的に爆発させた神の怒りのような噴火だった。
火砕流が発生し、ポンペイ市は一瞬にして非常に完全に地中に埋まった。
ローマの軍人でもあった博物学者のガイウス・プリニウス・セクンドゥス(大プリニウス)は、ポンペイの市民を救出するために勇敢にも船で現地へと急行した。
しかし彼はローマの都に帰ってくる事はなかった。立ち込める硫化水素や二酸化硫黄といった死の風が、彼を歴代皇帝たちの元へと連れて行ってしまった。
その事は甥のガイウス・プリニウス・カエキリウス・セクンドゥス(小プリニウス)による当時の記述から窺い知る事ができる。
帝政ローマを揺るがしたこの大規模自然災害の裏に彼のような勇者がいた事を、僕達は忘れてはならない。
ローマの輝かしい栄光の逸話は2000年の時を経た今でも、僕達を当時の大理石と威厳に満ちた都へといざなってくれる。そして彼らの暗く陰鬱とした衰退への悲劇は、僕達に決定的な無常を教えてくれる。
『全ての道はローマに通ず』。17世紀、フランスの詩人ラ・フォンティーヌが書いた『寓話』の『裁判官と修道士と隠者』にある言葉だ。
これは実際にローマへと続いていた道だけを説いたのではなく、全ての物事、全ての現象、全ての始まりと終わりについて、ローマという一つの時代が体現してくれていると言っているように僕には思えてならない。
つまり僕は射精した。それは西ローマ帝国の進軍ように激しい射精だった。
「もしかしていっちゃったの?」
「まさか」
「匂ってるよ」
「栗の花さ」
「そんなのこの施設にないけど」
「あるんだよ。男の数だけね」
僕は股間にねっとりとした感触を感じ、口に泥水を流し込まれたような顔しながら言った。酷くアソコがかゆい。
両隣のゲイたちは犬のようにその匂いを察知して、僕の周りでジップロックを振り回してはその口を締め、なんとか匂いを保存しようと試行錯誤を繰り返していた。
女は僕の横でクスクスと笑った。
「やっぱりあんたは童貞だね」
僕は笑い顔の彼女を見て暫く黙り込んだ後、意を決して言った。
「オーケー、認めよう、僕は童貞だ。それも非常に完全に童貞だ」
「もう認めちゃうの? つまんないなぁ」
女はそう言ってまたニィと、いたずらっぽく笑った。
「まだ君の名前を聞いていなかったな」
僕がそういうと、彼女はそっけない態度で自分の名前を言った。
「ヒッチ」
「ビッチ?」
「違うよ、ヒッチ」
「ビッチ?」
「馬鹿にしてんの?」
「ファミリーネームはサノバかな」
そう言うと、彼女は顔を真っ赤にして僕を睨みつけた。
肩がワナワナと震えて、その振動でTシャツがずり下がり、きつい色をしたブラ紐が顔を覗かせる。
僕はそんな彼女を真正面から睨みかえして、勃起した。
「童貞の癖に生意気なこと言うんだね」
彼女は本当に犬のクソを眺めるような目つきで僕を見た。僕は一度大きく息を吸い込み、改めて彼女を睨みつけた。
「童貞の癖にだって? 君は何もわかってない。誰が好き好んで童貞であり続けようとするんだい? 捨てたくても捨てられない。失いたくても失わせてもらえない。まるで肌に縫い付けられたセーターのように、童貞ってやつはこびりついてるんだ」
僕はもうとまらなかった。このバカ女に、童貞の全てを教えてやる。
「なのに君達は童貞を馬鹿にし、蔑み、そしてセックスさえもしてはくれない。卒業試験のない大学みたいだ。僕はどうやって童貞を卒業すればいい? わかってる。僕がそんな事を泣きながら叫んだって、君達は笑うだけだ。童貞のことを犬のクソと勘違いしているからね。君はこれまでに寝た男たちも昔は童貞だった事すら知らないんだ。最後にひとつ言わせてくれ」
僕は大きく息を吸い込み、叫んだ。
「僕は・セックスがしたい・だけなんだ!」
そして僕はギターを手に取った。1965年製フェンダー・ジャガー、それもレフティハンドモデル。
僕はそのギターをクリーントーンで弾きながら歌い始めた。
「レイプ・ミー!」
それに合わせてライナーはドラムを叩き、ベルトルトはベースを弾きだした。
ギターの弦が僕のピッキングで強くかき乱され、絞め殺される馬のいななきのように唸りをあげる。
ライナーの叩くドラムはどこまでも攻撃的にリズムを刻み続け、ときおり入るハイハットが印象的に響き渡る。
そしてベルトルトのベースは影に隠れる事無く、あたかも自分が主役であるかのように自らのメロディーを主張し続けた。
僕達三人の演奏するニルヴァーナの『レイプ・ミー』は、高圧ポンプで血が送り込まれた心臓のように食堂全体を震わせた。
食堂中の全童貞達が泣いていた。
彼らは口々に「俺達の歌だ」とか「その通りだ」と叫び、歌い、童貞だらけの気持ち悪いウェーブを起こす。
僕はテーブルの上に飛び乗って叫び続ける。
髪を振り乱し、アンプを蹴飛ばし、ギターをテーブルに叩きつけ、中身が半分残っているハイネケンの缶を童貞達に投げつけながら、また叫んだ。
「レイプ・ミー!」
そうだ、僕はただセックスがしたいだけなんだ! 誰か僕をレイプしてくれ!
ライナーがここぞとばかりに尻を触ってきたのでギターで思いっきりぶん殴った。
ギターが軋み、弦が何本か弾け飛び、倒れたアンプがゲイの断末魔みたいに絶叫する。
僕達は今、高度に成長した資本主義社会の中で、オナニーのたびに消費されていくティッシュのような音楽ばかりを聴いてぬくぬくと生活しているリア充たちの為に歌っているんじゃない。
恋愛社会やスクールカーストの中で黒人奴隷のような扱いを受け続けてきた童貞達の為に歌っているんだ。
僕達の演奏を聴いていたビッチは「きも」と一言言い残し、食堂から出て行った。
他の訓練兵たちも次々と席を離れ、食堂は有象無象の童貞だらけの百鬼夜行みたいな状況だった。
演奏が終わった後に涙を流しながら集まってくる童貞達を、僕は人生で一番微妙な表情をしながら見ていた。
音楽の力なんてこんなものだ。狙った相手は理解しちゃくれない。
涙を流して「童貞最高」と叫ぶマルコに何故か無性に腹が立ったので、僕は手に持っていたハイネケンの缶を思いっきり投げつけた。
とりあえずここまで
補足
「レイプ・ミー」は実際は童貞の歌じゃありません
人生を肯定した反レイプソングを意図して作られた歌です
童貞達はネズミ捕りに詰め込まれたドブネズミのように僕の周りで蠢き、叫び続けた。
童貞! 万歳! 童貞! 万歳!
昔、ドブネズミのように美しくなりたいと言ったミュージシャンがいる。
なんでも写真には写らない何かがあるらしい。
そのドブネズミのように、彼らは美しいのだろうか?
僕は悲しい気持ちになった。
なぜ悲しくなったのかはわからない。
とにかく僕は一刻も早く、このゴキブリホイホイみたいな食堂の外に出たかった。
僕はテーブルを降り、童貞達が握手を求めて伸ばしてくる手をさらりとかわし、気絶したライナーを引きずりならついてくるベルトルトと共に食堂のドアを開けた。
童貞の熱気で吐き気のする食堂とは違い、眩暈がするほど新鮮な光と風が僕を包んでくれた。
時刻は2時の少し手前だったと思う。
気持ちよく晴れた空とは対照的に、僕のパンツは雨に濡れた犬のようにどんよりとしている。
そして僕のマッターホルンの表面に氷雪のように張り付くパンツの感触は、僕をたまらなく嫌な気分にさせた。
また変えなくちゃいけない。
もう二度目だ。
僕の休日はパンツを変えることで終わってしまうんじゃないか?
そう思って僕はげんなりとした。
しかし落ち込んでいてもしょうがない、とにかく履き替えようと寮に向けて一歩を踏み出した時、水音が聞こえた。
それは本当に些細な音で、雪解け水が小さな流れを作っているような音だった。
僕はなんとなく音のした方を向いてみた。
花壇に植えられたハゲ教官に、サシャが頭からジョウロで水をかけていた。
彼女は感情を持たないかのようにしんとした表情で、植えられた教官も同じく無表情だった。
かけられた水は綺麗に禿げ上がったハゲの頭から滑らかに流れ落ち、鼻や頬からパタパタと黒い腐葉土に落ちて、小さな雨音を響かせている。
日当たりの良い花壇に植えられた彼の頭はパンジーと朝顔に挟まれていて、アシカの水球チームに一人だけ人間が混じったかのような強烈な違和感を辺りに放っていた。
ベルトルトが「何が生えるんだろうね」と、その光景を見て笑いながら言った。
僕も少し笑いながら「髪じゃない事だけは確かだよ」と言った。
ソーセージをめぐる冒険
サシャは僕達に気づき、にっこりと笑いながら「こんにちは」と挨拶をしてきた。
「こんにちは」と、僕も返した。
「いい天気ですね」
「そうだね」
そう言葉を交わすと、彼女はジョウロを地面に置き、黄色い液体が入ったスポイトのようなものをポケットから取り出し、ハゲの首筋近くの土に刺した。
「それは?」
「植物用の栄養剤です」
「使うと何か違うの?」
彼女は考え込むように黙った後、「多分、味が」と言った。
「味?」
「ええ、ソーセージの」
彼女はそう言いいながら屈みこみ、ハゲのおでこについたてんとう虫を手ではらった。
強め目に叩かれたからか、ハゲの表情は少しだけ険しくなった。
てんとう虫は小さいヘリコプターのような音を立てて飛び、隣のパンジーへと着陸した。
「ソーセージ?」
「はい、ソーセージ」
彼女は林檎は林檎である、ファックはファックであるといった風に、なんの疑問もなく言っているようだった。
「ごめん、僕はよくわからない。どうして教官を花壇に植え、水や栄養剤を与える事がソーセージの味に繋がるんだい?」
「教官がそう言ったんです」
「何て?」
「丁寧に世話をしてくれれば、私のソーセージも大きくなるかもしれないと」
「ブラウス訓練兵! 言うな!」
僕達の会話を遮るように、ハゲが叫んだ。
「それは私達だけの秘密だと言ったはずだ!」
ハゲは青筋を立てて怒鳴った。
どうやら僕のような部外者には知られたくない秘密があるらしい。
僕の好奇心が回転ベッドからむくりと起き上がった。
「その事を詳しく聞かせてくれないか?」
「その事?」
「なんで教官が花壇に植えられて、君に世話をされながらソーセージを大きくしているかっていう事さ」
彼女は黙り込んで、とめ具が外れて天井から落ちてきたミラーボールみたいなハゲを見つめた。
どこか戸惑っているようだった。
ハゲは自宅が燃えているのを眺めるよな表情で彼女を見つめていた。
これは絶対に何かある。
僕のエロ本と他人の秘密には性器にのように敏感な第六感がそう言っていた。
「君にパンをあげよう。教えてくれるならね」
彼女はにこやかに「わかりました」と言ってハゲは絶叫した。
僕と彼女とゲイは土を払ってから花壇の縁に座り、僕は持っていたぬるいペリエを蓋をあけてから彼女に渡した。
彼女は健やかな農婦のように微笑み、ありがとうございますと言ってからペリエを受け取り、一口飲んだ。
「どこから話しましょうかね」
「始めからがいいな。映画も小説も始めからがいい」
「なぜですか?」
「一番力を入れているからだよ。エンディングよりもね」
彼女は感心したように何度か肯き、また一口ペリエを飲んだ。
「始まりは私が空腹にあえいでいた時の事です」
彼女はそう切り出した。
真昼の太陽が激しく僕達を照らし続け、ハゲの頭には小さな虹がかかっていた。
始まりは私が空腹にあえいでいた時の事です。
みなさんも知ってますよね。そう、私はいつも病的にお腹が空いています。
なぜそんなにお腹が空くのか、自分でもよくわかりません。
きっと前世で何かあったのでしょう。もしかしたら仲間の餌すらも奪ってしまう強欲な狼だったのかもしれません。
とにかく私の胃袋には何処かに穴が開いてるんじゃないかってくらいいくらでも入ります。
そしていくら食べても満ちる事はありません。自分でも不思議なくらいです。
あ、話が進んでませんね。ごめんなさい。
それで、今日の朝も軽く20人分の食事を取ったのですが、私の魔法のような胃袋はすぐに空っぽになってしまい、悲鳴を上げ始めました。
こうなったらすぐにでも胃に何かを入れないといけないんです。さもないとボンキングを起こしてしまうんですよ、私。
え? ボンキングですか?
ボンキングというのは乱暴に言えば車のガソリン切れと同じです。
具体的には血液中のブドウ糖が枯渇して、運動に必要なエネルギーが供給されなくなって力がでなくなったり、ひどい時には倒れて動けなくなっちゃうんです。
このボンキングはプロロードレーサーの人達も悩ませる問題なんですよ。
彼らは長い時には一日に100km近い距離を走行しなければなりません。国内ではどうなのかわかりませんが、ツール・ド・フランスなんかではよくある距離ですよね。
それも平坦な直線だけなら良いのですが、コースの中には一日で標高を2000m近くも登る辛く長い山道も、逆に自転車で時速100kmを超えるような猛スピードで下る坂道もあるんです。
彼らは山を越え谷を越え、林を抜けて草原を駆け抜け、朝から晩まで辛く厳しいコースを走り続けるんですよ。一ヶ月近くも。
信じられませんよね。これがロードレースが世界一過酷なスポーツだと言われている所以なんです。
そんな長時間肉体を酷使し続ける過酷なレースの中で、彼らはボンキングに陥ってしまう事があるんです。
一番きつい日には一日に2万キロカロリーも消費してしまうんですからね。無理もありません。
まあ普通はそうなる前にに背中のポケットから、高カロリービスケットやチョコレートなんかを取り出して食べるんですけどね。
そう、ロードレースって世界で唯一の食べながら行うスポーツでもあるんですよ。
あ、話が逸れちゃいましたね。すみません。
そこで私はボンキングを起こしてはマズイと思い、食糧庫に忍び込む事にしたんです。
もちろんいけない事だとは知っていますよ。
でも倒れるのも皆さんに迷惑がかかってしまいますし、今までも何度かパンやハムなんかをくすねた事があるので、今回もそうしようと思ったんです。
私は人目に触れないように周囲に気を配りながら食糧庫に近づき、注意に注意を重ねて食料庫の扉を開け、中に入りました。
ひんやりとした食糧庫の中には、ハムや果物といった私の食欲をくすぐる麗しい匂いが立ち込めていて、私はもう居ても立ってもいられずに食べ物を漁り始めたんです。
その時でした。
後ろから私の名前を叫ぶ恐ろしい声が聞こえたんです。
私が驚いて振り返ると、そこには教官が立っていました。
教官はあの地獄の番人のような鋭い目つきで私を睨みつけ、「何をしている、ブラウス訓練兵」と怒鳴りつけてきました。
私は驚きと恐怖ですくんでしまい、何も言葉を返せずに固まってしまいました。
ああ、またランニングさせられるのか。それとも営倉に放り込まれるかもしれない。いや、その前に殴られるかも。
私は自分に課せられる数々の罰則を想像してひどく落ち込み、少し目頭が熱くなりました。
すると教官は私の予想とは違って、その恐ろしい顔を優しく崩して言ったんです。
「腹が減っているのか」、と。
私は恐怖で声が出せなかったので、肯いて答えました。
教官は私の肯きを見てニヤニヤと笑った後、そうか、と言って私に近づいてきました。
そして私の肩に手を置きながら、「食糧庫に忍び込んだのは規則違反だ。お前には教官として罰を与えなくてはいけない。しかし、私は腹をすかした教え子にそのような事ができるほど鬼ではない。お前には特別に食料を与えよう」と言いました。
私は感動しました。
いつも恐ろしい形相で私達を叱りつけてくる教官と同じ人物だとは思えませんでした。
教官の顔は本当に優しく微笑んでいて、まるで父のようだとさえ思ったんです。
私はその笑顔で緊張がとけ、「では、ここにある食べ物を食べてもよろしいのですね」と、今度は期待に胸を弾ませながら言いました。
教官は微笑みながら首を横に振りました。
私は疑問に思いました。
食料を与えると言ったのに、ここにある食べ物はくれない。じゃあどこにある食べ物をくれるんだろう、と。
私はその疑問を、そのまま口に出して教官に言いました。
教官は私の言葉を聞いて、うんうんと何度か肯き、こう言ったんです。
「私は立派なソーセージを持っているんだ。それを食べさせてやる」と。
教官の言葉に、私は目を輝かせました。
ソーセージですよ、ソーセージ。
それは私の大好物でもあるんです。いえ、むしろ私達狩猟民族にとって、ソーセージはご馳走以外の何者でもありません。
私は父が越冬の度によく作っていた、少しきつめに燻製をしたソーセージが大好きでした。
ボイルしたそのソーセージを口に入れて優しく歯を立てると、パリッ、と音を立てて肉汁があふれ出し、豊かな肉の旨みや油が口の中に広がって、鼻からは燻製の香ばしい香りが抜けていくんです。
思い出しただけでも涎が出てきますね。
とにかく私はソーセージが大好物で、教官はソーセージを食べさせてくれるというんです。
それも立派なソーセージですよ。もしかしたら、私が今まで見たこともないような巨大なものかもしれません。
私はもう我慢できなくなって、「是非お願いします」と大きな声で教官に言いました。
教官は満足そうに笑いました。
そして、「うむ。いいだろう。たっぷり味わうといい」と言いながら、何故かベルトを外そうとしたんです。
私は少し疑問に思いましたが、ソーセージは今のような食糧難の世の中ではとても貴重な食べ物です。
恐らく誰にも取られないようにズボンの中に隠しているのだろうと思いながら、私も狩猟用のナイフを取り出したんです。
すると教官はベルトを外そうとしていた手を止めて、驚いたように言いました。
「何故ナイフを取り出した」、と。
何故と言われて、私も何故そんな事を言うのだろうと疑問に思いました。
ソーセージは普通、乾燥した硬い腸によって連なるように保存されていますよね。
それは手でもぎ取るには硬すぎるし、噛み切るのもあまりスマートとは言えません。
だから私は持っていたナイフを取り出しました。そして教官に「切り取る為です」とはっきりと言ったんです。
それを聞いた教官は何故か青ざめてしまって、ガタガタと震え始めてしまいました。
顔はそれまでのような優しさを感じるものではなくなり、まるで森を歩いていたら突然熊に出会ってしまったというような恐怖に満ちた表情をしていました。
私は一体何があったんだろうと少し疑問に思いましたが、お腹も減っていたし、なにより大好物のソーセージが食べられるという事だったので、構わず教官のベルトを外そうとしたんです。
すると教官は女性が出すような悲鳴を上げて、「ソーセージなんてない」と叫んだんです。
ないと言われても私だって困ります。
私はもうソーセージを食べる気持ちで一杯でしたし、さっきはあると言っていたのに突然なくなるなんて事ありえません。ですよね?
私は「嘘をつかないでください。さあ、出して」と教官を急かしました。
教官は何故か泣き出してしまい、「ないんだ。本当だ」とすがるような目つきで言ってきました。
そう言われても、私はこの目で本当にソーセージがない事を確認しないと納得できませんでした。
私は震える教官に構わず彼のベルトを外し、今度はズボンへと手をかけました。
「やめてくれ。やめてくれ」と、教官は何度も私に向かって叫びました。
あまりにも必死にそう言うので、私は本当に教官には何か事情があるのかと思いました。
だから教官のズボンから手を離し、「どうしたんですか?」と聞いてみました。
すると教官は乱れた息を整えながら、「私が悪かった。許してくれ」と言ったんです。
私は不思議に思いました。私が何を許すというのでしょうか。
むしろ許されないのは私です。
無断で食用庫に入り、勝手に食べ物を頂戴しようとしたんですよ。
そして教官はそんな私を許し、さらにソーセージをご馳走してくれる神様のような人です。
私は改めて教官の慈悲深い心に感謝し、彼のズボンへと手を伸ばしました。
すると教官は「本当に悪かったって。ごめんなさいって。勘弁してくれ」と泣きながら抵抗してきました。
私はそんな教官にですね…。恥ずかしながら、少しムッとしてしまったんです。
だってそうじゃないですか。
食べさせてくれると言ったのに、抵抗までして食べさせようとしないなんて。
大体、ソーセージが本当に無いのなら抵抗なんてしないはずです。
だから私は教官がソーセージを隠し持っていると確信して、ズボンのチャックを下ろしたんです。
教官はさっきより一層激しく抵抗してきました。
絶対に脱がさせまいといったふうに、力強く両手でズボンを押さこんでいたんです。
そんな教官を見て私も少し熱が入ってしまって、思わずナイフを彼の顔の前に突き出してしまいました。
すると教官は絶叫してうずくまり、今度は「助けてくれ」とか「死にたくない」と泣きながら命乞いを始めました。
私も少しやりすぎたと思い、反省しました。
だってあまりにも教官が可哀相でしたから。泣きながら土下座なんてされたら、ね。
でも私はソーセージを諦めきれませんでした。どうしてもこの口で頬張り、あのパリッという感触を味わいたかったんです。
私は「無いなんて嘘つかずに、早くソーセージを食べさせてください」と教官に言いました。
すると教官は戸惑うような表情をしてから、「いや、本当にソーセージなんてないんだ」と恐る恐るといった口調で呟きました。
「まだ嘘をつくんですか」と、私は怒鳴りました。
すると教官は「ひぃ」と小さく悲鳴を上げ、今度は「あることにはあるが、とてもお前が満足するようなものじゃない」と言ったんです。
おかしいですよね? アルミンもそう思いますよね? 最初と話が違うじゃないですか。
私はまた「立派なやつもっとるんやろ」と怒鳴りました。
あ、今のは地元の方言なんです。ふふ。
教官はまた小さく悲鳴を上げてですね、「すまない。小さくてすまない」と、まるで教会で懺悔しているかのように言うんです。
私は「嘘つくんやない。立派っていっとったやろ」と、ナイフを床に突き立ててまた怒鳴りました。
今思うと私も冷静じゃなかったんですね。
私が方言で喋る時は、大抵感情が高ぶっている時なんです。今回の場合は怒りですね。
うーん、思い出すとちょっと恥ずかしいです。あんなに怒鳴っちゃって。
話を続けますね。
するとですね、教官は「以前は立派だったんだ」と、力なく言うんですよ。
そして「しかし、この歳になるともう昔のようには」なんて言いながらメソメソと泣くんです。
私には教官の言っている事がよくわかりませんでした。
だってそうですよね? ソーセージが勝手に小さくなったり立派になったりするのでしょうか。
でも私には教官が嘘をついているようには見えませんでした。
教官は本当に心の底からそう言っているように感じたんです。彼がその時流していた涙が、とても潔白に見えたんですよ。
私は「小さくてすまない。歳には勝てんのだ」と泣きながら呟き続ける教官を見ながら考え、一つの結論に辿り着いたんです。
教官の持っているソーセージは私がまったくしらない新しい種類のソーセージで、それは大きくなったり小さくなったりする魔法のようなものなんじゃないのかって。
世の中には不思議な事が沢山あります。
巨人だって私達はほとんど理解できていないじゃないですか。
だから私が知らないだけで、そういったソーセージがあるのかもしれないと考えたんです。
え? そんなソーセージは存在しない?
そう考えるのは少し気が早いですよ、アルミン。話を続けますね。
とにかく私はそう思って、教官に聞いてみました。
「そのソーセージをまた立派にする事はできないんですか?」と。
うずくまっていた教官は涙でグショグショの顔を上げ、「立派にしたいのか?」と聞き返してきました。
ほら見てください。教官だってそう言ったんです。そのソーセージは立派な状態に戻せるんですよ。
小さいものを大きくできる。夢のようなソーセージです。これさえあれば食糧事情なんて全部解決ですよ。
私は朝からソーセージを頬張る事ができる食卓を想像しながら、「もちろんです。どうすればいいんですか?」と教官に聞きました。
教官は何故か恥ずかしそうに顔を俯かせ、「ブラウス訓練兵。私のような年老いた男になんと優しい言葉を」と言いながらまた泣き始めました。
そして暫く泣いた後、「丁寧に世話をしてくれれば、あるいは」と、今度は何故か期待した目で私を見ながら言いました。
世話。ソーセージの世話。私には最初、何の事だかさっぱりわかりませんでした。
ソーセージは食べ物です。世話をする必要なんてありません。
動物のように餌や水を与え、二日に一回はブラッシングして機嫌をとれという事なのでしょうか。
しかし相手は私が見たことも無いソーセージです。そういう方法でも不思議ではありません。
ただ私にはそのソーセージが、動物というよりは植物のようなものなんじゃないかという閃きがありました。
だってソーセージって肉の加工品じゃないですか。
肉にいくら餌を与えて撫でたって増えてはくれませんよ。
そんな事を地元で言ったら馬鹿になったと思われて親に心配されてしまいます。
でも植物は水をやり、雑草を抜き、虫を払いながら世話をしてやれば確実に増えてくれます。芋や小麦なんかもそうですよね。
私は教官の持っているソーセージはそういった作物と同じように、畑で作る事のできるソーセージなんじゃないかと思いました。
これは大変な事です。
普通ソーセージを作るためには羊がブタを一頭潰し、その腸に肉を詰めます。
羊やブタが成長して食肉に適した段階になるまで何年かかると思います? 3、4年はかかりますよ。
そこまで育てるのには膨大な量の餌をやり、適度に運動させ、病気にも気を遣わなくてはなりません。
それに今のように壁が壊されて土地が少ない状況では、羊やブタを育てるスペースを満足に用意することすら難しいんです。
しかし畑で作れるなら話は別です。
餌なんて必要ないですし運動だってさせなくてもいいです。
病気は少し気になりますが、教官は丈夫そうなのでなんとかなるでしょう。
それに作物は畜産物に比べて生産できる量が段違いです。つまり、芋や小麦のように大量にソーセージを作り出すことができるんです。
まさに夢。夢の食品。それが教官のソーセージなんですよ。
そう思った私はもう居ても立ってもいられなくなって教官を外へ引きずり出し、土を掘り、教官を入れてまた土を被せ、花壇に植えました。
え? 暴れなかったのかって?
ええ、抵抗してきましたね。だからロープで縛り上げてから運びました。
で、植え込みがひと段落ついたので水をあげていた所だったんです。
教官は何故か食糧庫での事を黙っていてくれと言ってきたので本当は言うつもりはありませんでしたが、食糧事情を解決できるこんな素晴らしい食品を黙っていろだなんて、教官は変な人ですよね。
これで私の話は終わりです。理解してもらえましたか?
僕は事の顛末を理解した。
このクソハゲ。何してんだこいつ。
とりあえずここまで
僕の目の前にいるハゲ野郎はレイプ野郎でもあったというわけだ。
レイプと呼ばれる犯罪について、僕はあまり語るべきことを持たないし、良い印象も持っていない。
薄い本でも使い古された題材ではあるが、生憎と僕の好みではなかった。
セックスとは欲求を満たす一種の征服行為としての側面を持っていると祖父は言っていた。
生物的に力の強い男性が女性を第二次大戦のポーランドのように蹂躙しようとする。これは性欲に根ざした本能的かつ根本的な欲求で、男であれば誰にでも備わっている狂気であると。
そしてレイプクソ野郎というのは、そういった狂気を恥ずかしげも無く晒す事のできる最低辺の人間の一種であると言っていた。
僕もその事について祖父に同意している。
力でねじ伏せ、無理矢理するセックスに何の価値があるのか僕にはわからない。
完全に童貞の勝手な妄想になってしまうが、セックスとは男女共に満たされた関係でなければ、快感や心的な満足感は得られないと思っている。
それらのないセックスなど、香りのないコーヒーと何も変わらない。ただの苦い泥水だ。
そう、有無を言わさず無理矢理突っ込む相手は穴が小さくて中々入らないオナホールだけ良いのだ。
しかしそういった小さめのオナホールは無理矢理入れると簡単に裂けてしまうので、しっかりとローションをつけて様子を見つつ入れることを僕はオススメする。
さもないとあなたがAmazonで買い付けたささやかなオナホールは、その役目を果たす前にシリコンの残骸へと変わってしまうだろう。
そうなったらもう指でフニフニして感触を楽しむくらいの事しかできないのだ。
僕は変態ハゲ野郎を睨みつけた。
セルゲイ・ラフマニノフみたいな深刻な顔をしたハゲは、表情と同じくらい深刻な沈黙を続けていた。
彼に対し、ベルトルトは珍しく怒っているようだった。
目を吊り上げ、顔を真っ赤にし、口の両端から僅かに泡を吹きながら、ヒステリックな中年女性のようにハゲを激しく非難した。
「このハゲ」
「レイプなんて最低だよ」
「馬鹿」
「ハゲ」
「何か言えよ」
「ハゲ」
「大体、アルミンの方が立派なソーセージを持っているに決まっているよ」
僕は必死の抵抗の末、ハゲの隣に植えられた。
この馬鹿ポニテについて少し話す。
彼女は中々魅力的な外見をしていた。
彼女の美しさを文章で表現するのは比較的簡単な作業である。三つのポイントを押さえすれば、そのだいたいの特性はカバーできるからである。
(a)可愛らしくて、(b)快活で、(c)コケティッシュ、ということだ。
彼女は健康的で素晴らしく均整のとれた体をしていて、全身からエネルギーが溢れているように見えた。
目はキラキラと輝き、温和な表情は見る者の心を春の陽だまりのように和やかにさせた。
そしてそこに、(d)食べ物にしか興味がない、という彼女の性格を足す事によって、彼女の女性としての魅力は直角に地に落ちる。
常に空腹であるため、その結果取り返しがつかなくなるまで食べ物を追い求めた美しい少女の常として、彼女は『食』という欲求に対してキチガイじみた思考や行動をよく取った。
例えば、僕が街で買ってきたきゅうりとハムのサンドイッチを食べようとしていた時の事だ。
サンドイッチを一口齧ろうとすると、矢が飛んできた。矢には紙がくくりつけてあって、開いてみると「アミーゴ」と書かれていた。
僕は構わず食べようとした。するとさっきより近い位置に矢が飛んできた。紙には「プリーズ」と書いてあった。
今になって思えば、友達なのだからそのサンドイッチをくれという意味なのだろう。僕は無視して食べようとした。矢がサンドイッチを射抜いた。紙には「フリーズ」と書いてあった。
僕は震える手でサンドイッチを置き、両手を頭の上に乗せて伏せた。彼女は物陰から笑顔で現れ、重機関銃で納屋をなぎ倒すような勢いでサンドイッチを平らげた。そういう女性なのだ。
この『食』に対する狂気じみた性格のせいで、彼女は僕の恋人候補から小選挙区・比例代表共に又吉イエス並みの得票率で落選していた。
もしかしたら狩猟民族とは皆こうなのかもしれない。山賊みたいなものだ。
「ここから出してくれ」
「駄目です」
「僕からはソーセージなんか取れやしない」
彼女は眉を寄せて、まるで斜めに傾いた額縁を眺めるみたいな目つきで僕を見ながら「いえ、取れますよ」と言った。
馬鹿特有の意味不明な確信とやる気を見せる彼女に、僕はげんなりとした。
彼女は捻挫した猫を眺める獣医のように真剣だった。本当に男からソーセージが取れると考えている。マジで頭おかしい。
ベルトルトは植えられた僕の頭を撫でながら「かわいい」とか「僕も頑張って世話するよ」とか言っていた。
僕は彼女にベルトルトも立派なソーセージを持っていると言った。
ベルトルトは泣きながら抵抗した末に僕の隣に植えられた。
のうのうと気絶しているライナーにも腹が立ったので、彼もクソでかいソーセージを持っていると言った。
ライナーは思いっきりぶん殴られて気絶から覚めた後、抵抗する間もなく縛り上げられてベルトルトの横に植えられた。
花壇に四つ並んだ頭を見て、彼女は嬉しそうに「収穫が楽しみです」と言った。
イラッとした僕は彼女にツバを吐きつけようとしたがやめた。女性に失礼な行為をしてはならない。祖父の教えだ。
だからベルトルトに吐き付けた。ライナーは遠い位置にいるし、ハゲもなんとなく違うと思ったのでベルトルトにした。それだけの理由だ。
彼女はそんな僕たちを見てまた嬉しそうに笑い、「夕方に来ますね」と言って去っていった。
サシャが去ってから暫くの間、僕は空を眺めたり、目の前を通り過ぎる蟻をカウントしたり、ライナーやベルトルトと尻取り(僕が尻取りと言うと二人は興奮した)をしたりして過ごした。
ハゲは目を閉じたままずっと黙っていた。
頭からは汗がふつふつと湧き、それが米粒程度の大きさになると急いでいる会社員のように地面へと滑り落ちていった。
ゲイ二人が僕に卑猥な言葉を言わせようと『ち』で終わる言葉ばかりで攻めてきたので、僕はベルトルトにツバを吐いてから尻取りを止め、彼に話しかけてみた。
「おいハゲ。なんでレイプなんかしようとしたんだ」
彼はゆっくりと目を開き、深く溜息をついた。その勢いで目の前をウロウロしていた蟻が一匹、花壇から下の地面へと落ちていった。
ハゲは弱々しい目をしていた。瞳はいつにも増して黒く、そして鈍く曇っていた。
そして二十秒だか三十秒だか一分だか、そのまま口をつぐんでいた。
僕はさすがに教官にタメ口はまずかったかな、でもクソ野郎だしなぁとか考えていると、彼はおもむろに口を開いた。
「してみたかったんだ」
「レイプを?」
「違う」、彼はまた目を閉じて言った。「セックスをだ」
彼は童貞だった。
いや、童貞を中年まで引きずった挙句、どうする事も出来ずにこじらせた哀れな男の成れの果てだった。
「私ほどの歳になるともう誰も相手をしてくれない」
ハゲは六畳間に吹くすきま風のように寂しく呟いた。
僕は肯いた。
「私は貴様らのような恋愛適齢期を逃しているのだ」
ハゲは静かに言葉を続けた。
「若い頃の私は、男と女がセックスするという事は雨が空から地面へ落ちるのと同じくらい自然な事だと考えていた。だから時が来れば私にも恋人ができ、セックスし、結婚できると思っていた。しかし私は浅はかだった。私の人生において、そのような時など一度も来なかった。本当に一度もだ。いや、調査兵団にいた頃に壁外調査へ出た事があるのだが、結構美人な巨人に追いかけられた事がある。もしかしたらそれが私のモテ期だったのかもしれない」
「でも巨人に性器はない」
僕の言葉にハゲは肯いた。
「その通りだ。いくら巨人にモテようがセックスできんのでは話にならん。とにかく私の青春時代は巨人に追い掛け回されて終わった。気がつくと私は中年と呼ばれるのに抵抗がない年齢になっていた。周りの同期たちは殆どが結婚するか死んでいた。そこでようやく理解したのだ。社会も恋愛も、本質は同じなのだと」
「一度レールから外れたら戻るのは難しい」
ハゲはまた肯いた。
「社会も恋愛もそういう事だ。おちこぼれが付け入る隙など殆どない」
「でも、世の中には熟年カップルというのもある。同じ年齢くらいの女性を探してみては?」
ハゲは否定するように首を振った。
「例え同年代だとしても、誰が好き好んで中年童貞の相手なんてするのかね? そういうのは互いに恋愛経験を積んだ者同士がやるものだ。私は恋愛においてルーキーなのだ」
ハゲは少しだけ笑った。十二月の雨に濡れた三本足の黒犬みたいに寂しげな笑いだった。
ハゲの話は打ちそびれた句読点のようにひそやかに、しかし止むことなく僕の心を揺さぶった。
それは最初、ある種の仲間意識のようなものを彼に感じたのではと思った。
しかし僕は他人に対して仲間意識を持つ事は殆どない。持とうにもここには馬鹿かクズか変態か童貞しかいない。持てるわけがないし持ちたくもない。
だからハゲに感じた感情、それは仲間意識などではないはずだ。
恐らく哀れみの一種なのだろう。童貞として生きた末路が、あまりにも醜く悲惨であったからだと思う。
しかし、だからといって彼の罪が軽くなるわけではない。強姦というのはそれが未遂だとしても、女性の人権を踏みにじった許されざる大罪だ。
ただこの強姦罪というのは少々おかしな点があって、男性に対する強姦罪というものはない。男性への場合は強制わいせつ罪という罪になるらしい。
本当におかしな話だ。例えば僕がライナーとベルトルトにレイプされたとして、お尻の処女を奪われてもそれは強制わいせつなのだ。
与えられる罰にも違いがあって、強姦の場合は3年以上20年以下の懲役、強制わいせつの場合は6ヶ月以上10年以下の懲役。このように強制わいせつは強姦の半分ほどの懲役しかない。
さらに言えば女性においてもアナルセックスのみの場合は強制わいせつか暴行罪らしい。そう、法的にアナルは軽視されているのだ。
そもそも女性器に男性器を入れるというのは、強姦の話を置いておけばごく自然な行為だ。お尻に男性器を入れる行為の方が数段ぶっ飛んでいる。
なのに刑罰的には強姦より軽いというのはいかがなものか。僕は常々そういった疑問を持っている。
こういった法律と事実の捻れのようなものは、恐らく思春期の子供部屋にあるエロ本のようにおびただしい数が潜んでいると思う。
僕たちは今一度法律というものを再確認し、議論する時期にあるのかもしれない。
アナルが強姦よりワンランク下という事はありえないのだ。絶対に。
「とにかく私は罪を犯した。それを償うために罰を受けねばならん」
ハゲは静かにそう言った。汗に混じって涙が一筋、頬から落ちていた。
「絶対に死刑」
裁判員のベルトルトは鼻息を荒くして叫んだ。
「俺も死刑が妥当だと思う」
ライナーもはっきりとした口調でそう言った。しかしこの二人はわいせつ物陳列罪の常習犯だ。いずれ訴えようと思う。
二人は僕へと視線をうつし、「裁判長、どうするんですか」と聞いてきた。
僕は裁判長としてこの哀れなハゲに罰を言い渡さなければならない。
僕は悩んだ。
強姦未遂というのはけして軽い罪じゃない。状況を加味し、これまでの判例に従えば懲役5年くらいが妥当なんじゃないかと思う。
しかしそれでいいのだろうか。強姦なんてしようとした畜生にも劣る性犯罪者が5年でのうのうと街を歩ける社会というのは、僕は間違っていると思う。
ただ、死刑というのもいささか過ぎた罰に思えた。なんと言っても彼はまだ入れてないのだ。しかも生涯で一度も入れたことがない。新品未使用のままプレミアもつかないヴィンテージ物となってしまったのだ。
そんな女も知らない彼を死刑台へと送り、死をもって罪を償わせるのはあまりにも惨い仕打ちに思えた。
僕は本気で考えてるようなオーラを出しながら長考しているふりをした後に、囁くようにハゲに告げた。
「無期懲役」
ハゲは「そうか」と言って、きつく目を閉じた。その目じりからはとめどなく涙が溢れていた。
ベルトルトとライナーは憤慨して騒いだ後、「上告します」と訴えた。
僕が「君達の裁判をはじめてもいいのなら受けよう」と言うと、彼らは静かにビートルズの『ラバーソウル』を歌い始めた。
僕は僕が下した判決が正しいのかはわからない。まず法律なんて詳しく知らない。六法全書は相手を殴りつける為にあるとさえ思っている。
でも、彼に死は重過ぎる。もっと素直に言えば生きてもらいたかった。
被告人にこのような感情を持ってしまった時点で、僕は裁判長失格なのかもしれない。
そもそも人が人の人生を死刑や懲役で制限する権利があるのだろうか。例え、国に認められた裁判官と罪人だとしてもだ。
もちろん秩序の為には誰かがしなければいけない役目であるとは理解している。だから僕は裁判長として彼の人生を制限した。
しかし、その重責は僕の両肩に重くのしかかった。僕が彼のこの後の人生を決めたのだ。他でもない。僕自身の意志によってだ。
僕は胃の中に墨汁でも注ぎ込まれたような不快な気分になった。
人を裁けるのは神だけだ。なぜなら神にとっては人の気持ちなど砂漠の砂粒のようにどうでも良いことだからだ。
そう、司法とは本質的には神の領域なのだ。許されないのはハゲではなく、人の身で神の真似事をしている僕なのかもしれない。
やるせない気分になりながら、僕は空を見上げた。
そう言えば僕たちは四人とも無期懲役のようなものだった。
あの馬鹿ポニテ。自由になったら絶対胸揉んでやるからな。
僕たちがこのアウシュビッツのような花壇から開放されたのは、それから2時間ばかり経ってからだった。
この花壇は食堂の出入り口からそれほど離れてはいなかったが、その先に主要な建物がない方向に位置していたので、その前を通り過ぎる者は野良猫を除くとまったくいなかった。
僕はサシャの胸をどう揉んでやるか算段を練りながら空を眺めていた。ハゲは俯きながら考え込むように黙ったままで、ゲイ二人は卑猥な言葉でずっと尻取りを続けていた。
そんな時、ジャンが現れた。彼は午前に見かけた時と変わらない様子でフラフラとさ迷い、それは聖遺物を捜し求める僧侶のようにも、はぐれたゾンビのようにも見えた。
僕が彼に向かって助けてくれと叫ぶと、彼は今にも消え入りそうな声で「任せろ」と言い、最後の力を振り絞るモグラのように土を掘り、僕たちを腐葉土の牢獄から解放してくれた。
彼はハゲも掘り出そうとしたが、その途中で眠るように気絶した。安らかな顔をしていた。
僕たちは棺を作り、彼をその中に入れ、三人でグレゴリオ聖歌を歌った。
「ジャンは幸せだったのかな」
ベルトルトが目元をハンカチで押さえながら言った。僕はわからないと答えた。
愛する人を追いかけ続け、そして僕たちを助けて彼は逝った。まとめればたったの一行にしかならない人生だ。
しかし、大抵の人間の人生だって短くまとめようと思えば一行ほどにしかならないのかもしれない。僕が思うに人生を語る上で重要なのは、仰々しくケバケバしい修飾語をふんだんに使う事ではない。少なく、シンプルな文体から滲み出る『何か』であるはずだ。彼の人生の一文からは何も滲み出てはいない。結局そんな人生だったのだ。
空は掃除機で吸い取った後のように澄んでいて、その中を白く尾の長い鳥が一羽、まるで神の使いのように南のほうへと消えていった。
死ぬにはよい日なのかもしれない。
今は彼の安息を祈る。
僕は未だに花壇に埋まっているハゲに、「そこから出ないのか」と聞いた。
彼は肯いた。
「私は罪を償わなければならない。私の人としての人生は終わった。後はブラウスの花として、自分の犯した罪を償いながら生きていく」
視線を地面に落とし、深く考え込んだ修行僧のようにそう言った。
しかし先ほどよりは幾分かではあるが穏やかな表情をしていた。
僕は「まさか本当に無期懲役?」と尋ねてみた。
彼は大きく肯いた。
「そうだ。私はもう花壇から出るつもりはない。教官としての私も、童貞としての私も、すべて花壇の向こう側の世界に捨て去ったつもりだ。私はこれから花として生きるのだ。この花壇において、最も誇らしい花となるのだ」
彼は元々皺だらけの顔を更に皺だらけにして笑った。死にかけの向日葵みたいだと思った。
彼は彼なりの罪の償い方を見つけたのだろう。それが傍から見ればどんなに無意味で馬鹿げたものであったとしても、彼自身が見つけた救済の道に違いなかった。
ぶっちゃけ花というより安政の大獄で岡田以蔵にでも斬られて川原に並べられた晒し首にしか見えなかったが、彼がそうしたいのだからそれでいいと思う。
「今度栄養剤でも持ってくるよ」
僕がそう言うと、彼は嬉しそうに「うむ」と返事をした。
気味の悪い花壇になったなぁと、僕はあらためて思った。
僕たちはジャンの入った棺を担ぎ、花壇を離れた。
中身の入った棺というのは、まるで異世界の物質に触れているかのような不思議な感触をしていた。
恐らくこれが死というものなのだろう。その重さはリアルでもあり、ファンタジーでもある。わかりやすいほどの非日常だ。
僕たちは施設から少し離れた丘に登った。丘の上は氷山の裏側みたいに静かだった。
そして遠くの壁までくっきりと望める見晴らしの良い場所に穴を掘り、その中に棺を置いた。
棺の上には花壇から摘んできたパンジーを乗せた。無機質な棺はパンジーを誇らしげに纏った。女王の王冠のように、とても似合っていると思った。
「何かお祈りの文句を言ってよ」
ベルトルトが言った。
「お祈り?」
「葬式だからな。お祈りはいる」ライナーもそう言った。
「気がつかなかった」と僕は言った。「実は手持ちがひとつもないんだ」
「なんだっていいんだよ」
「形式だけだ」
僕は精子でぐっちょりと濡れたパンツの位置を直しながら適当な文句を探した。
ゲイたちは心配そうに僕と棺を交互に眺めた。
「哲学の義務は」と僕はカントを引用した。「誤解によって生じた幻想を除去する事にある。 …ジャンよ土の下で安らかに眠れ」
「被せよう」
「え?」
「土だよ。ほら、スコップを持って」
僕たちはスコップを手に持ち、掘り返した土を元に戻し始めた。
三人とも無言だった。土を掬い、持ち上げ、穴に投げ入れる。僕たちはモダン・タイムスのようにその動作を淡々とこなした。
そして棺が土に隠れて見えなくなってから三人揃って右手で十字をきった。
「素晴らしいお祈りだったよ」と、ベルトルトが言った。
「お前が作ったのか?」と、ライナーも感心したように言った。
「もちろん」
僕たちはスコップをそのへんに放り投げてから腰を下ろし、丘の上に吹く心地よい風を感じながら、ついさっき埋めたばかりの黒い土を眺めた。濃い大地の匂いがした。
「良い奴だったね」とベルトルトが言った。彼の潤んだ瞳は太陽を反射し、スワロフスキービーズのように輝いていた。
「そうだね」と僕は答えた。
「誰だっていつかは死ぬ」、ライナーはそう呟いた。「ただ早いか遅いかだけの話だ。俺達にはジャンの人生が幸福であった事を祈る事しかできない」
遥か遠くを眺めるような目をしていた。故人を偲ぶのにはぴったりな目だった。
僕は小さく肯いた。
遠くから眺めた僕たちの姿はきっと品の良い記念碑のように見えたことだろう。
やがて黒い土が凍えた子猫のように震え始め、次に勢いよく盛り上がり、そこからジャンの顔が現れた。かなり必死な表情だった。
僕たちはそれをさもありなんといった表情で眺めた。
三人とも彼が生きている事を知っていた。
ちょっと葬式ごっこをしてみたかっただけだった。悪気はない。
とりあえずここまで
>>246
訂正
×僕が「君達の裁判をはじめてもいいのなら受けよう」と言うと、彼らは静かにビートルズの『ラバーソウル』を歌い始めた。
○僕が「君達の裁判をはじめてもいいのなら受けよう」と言うと、彼らは静かにビートルズの『ノーウェジアン・ウッド』を歌い始めた。
ラバーソウルはアルバム名でした
ジャンは春先の蛙みたいにのそのそと棺から這い出てようとした。
しかし常に疲労困憊の彼は棺に入り込んでくる土に足を取られてうまく抜け出せないようだった。
ライナーはもがき続ける彼の手を掴み、ぐいと引きけ上げた。育ちの悪いゴボウのような彼の体は、土からするりと引き抜かれた。
彼は掠れた笑顔でライナーに礼を言った。
彼はもともとこんなに優しい人間ではなかった。
訓練兵団に入った頃の彼は、たとえ機嫌の良さそうな時でもつっかかる口のきき方をした。そして何かと威圧的で、あまり友人にはなりたくないタイプの人間だった。
しかし1年もすると波に洗われて角がとれた丸石のように彼の性格は穏やかになった。
恐らくミカサの事で他人を茶化す余力がなくなったのだろう。あるいは前世からの宿命みたいに険しい恋から、他者との関わりについて何か悟ったのかもしれない。
そうなってからの彼は、僕たちが茶目っ気溢れるいたずらをしても笑って許してくれた。
だから僕は今の彼を人間的には好きだった。頭は悪いと思う。
僕たちは彼についた土や小石を丁寧に払ってやり、ペリエとレモンドロップを三つ渡した。
「朝から何も食ってなかったんだ」
彼は震える手でそれらを受け取り、飴をまとめて口に放り込んだ。
「こんな事して悪かったね」
「いいさ。おかげで飴を食えた」
彼は笑いながらペリエの蓋をあけて飲んだ。
「ミカサを見なかったか?」
「悪いけど見ていない。多分エレンの近くにいると思うんだけど」
彼は残念そうに軽く目を伏せ、「そのエレンが見つからねぇんだよ。朝からな」と言った。
それを聞いてベルトルトが泣き叫んだ。ライナーは神妙な面持ちで旧日本軍風のヘルメットを被り、ベルトルトに防空頭巾ともんぺを渡した。
僕の幼馴染は訓練兵団から風のように姿を消すことがあった。
そしてそれは二人のゲイにとって、蟻が象に挑みかかるように無謀な戦争への突入を意味していた。
ブレーキを持たないエレン・イェーガーと、ゲイの受難の年
僕たちはジャンと別れ、丘を下った。
ベルトルトはズボンをもんぺに履き替え、頭に防空頭巾を被り、風の音や木陰の揺らめきにオーバーリアクションを連発しつつ泣きながらついてきた。
ライナーはずっと匍匐前進をしていた。四式自動小銃を持ってはいたが物音がする度に撃ちまくっていたので、すでに弾は尽きていた。
訓練施設に着いたのは5時を少し過ぎていた。
もう夕食時となっていたが僕はパンツを取り替えたかったので、まずは寮に向かうことにした。
ゲイたちは互いに背中を合わせ、全周囲を警戒しながらついてきた。
その時だった。
百頭の怒れるクジラが一斉に唸ったようなサイレンが鳴り響いた。
ライナーとベルトルトは目を見開いて「来るぞ」と叫んだ後、死に物狂いで穴を掘った。
それはなかなか深く掘られた縦穴で、穴の底で横にも掘られ、ちょっとした防空壕みたいになった。
ベルトルトはその横穴の一番奥に潜り込み、中に蛍を放って明かりをとった後、サクマ式ドロップを舐めながら震えた。
ライナーは縦穴からそっと周囲を覗き、弾の入っていない銃を突き出して歩哨の役目を担った。
僕はそんな二人をハナクソをほじりながら眺めていた。
音がした。
バッファローの群れが水や草を求めて大移動しているような重低音と、何枚もの金属板が擦りあわされた甲高い音だった。
その二つが重なり合った奇妙な音は、まるで素人だけを集めて適当にやれと指示された管弦楽団の演奏みたいに聞こえた。
その音はしだいに大きくなり、地面を揺らすほどの轟音になった。
やがて100mくらい離れた馬小屋の裏から、平べったい亀のような戦車がのっそりと現れた。M1エイブラムス。言わずと知れたアメリカ軍の誇る主力戦車だ。
ライナーはそれを見て青ざめ、防空壕の奥へと引っ込んでいった。
敵前逃亡も今回ばかりはしょうがなかった。片や第二次大戦時の歩兵、片や最新鋭の戦車である。素手でヒグマと戦う方がまだ勝ち目があるだろう。
僕の前で戦車は唸りながら止まり、上面にあるマンホールの蓋みたいなハッチが開いて、そこから男が顔を出した。
「よう、アルミン」
「やあ、エレン。今度は戦車かい?」
「ああ、すげぇだろ」
彼は誇らしげに笑いながら砲弾を発射させた。世界中のドラマーが一斉にバスドラムのペダルを踏みつけたような爆音と共に倉庫が一つ消し飛んだ。
彼の名はエレン・イェーガーといった。
僕の幼馴染であり、この訓練兵団の中でもぶっちぎりで危険な男だ。
彼について語る。少し長くなるかもしれない。
10歳のエレンは生まれて初めて恋に落ちた。広大な平原を真っ直ぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。
それは行く手の形あるものを残らずなぎ倒し、片端から空に巻き上げ、理不尽に引きちぎり、完膚なきまでに叩きつぶした。
そして勢いをひとつまみのゆるめることなく大洋を吹きわたり、アンコールワットを無慈悲に崩し、インドの森を気の毒な一群の虎ごと熱で焼きつくし、ペルシャの砂漠の砂嵐となってどこかのエキゾチックな城塞都市をまるごとひとつ砂に埋もれさせてしまった。みごとに記念碑的な恋だった。
恋に落ちた相手はエレンより何十倍も体が大きくて性別はない。巨人と呼ばれる全裸のでかいおっさんだった。
巨人に恋する前の彼は、壁外の世界へ想いを馳せる年相応の子供らしさや腕白さをもった少年だった。
この世界に人生の選択肢がどれほど数多く存在しようとも、調査兵団に入って壁外を探検する以外に自分の進むべき道はない。
その決意はやる気を出した僕の性器のように硬く、妥協の余地のないものだった。彼という存在と、冒険的信念とのあいだには、陰毛一本入り込むすきまもなかった。
そして彼は巨人に出会った。本当に唐突な出会いだった。
アンドレ・ザ・ジャイアント(超大型巨人)が壁を蹴破り彼の母親が死んだ時、ほとんど反射的といっていいくらい素速く、彼は恋に落ちた。それは恐らく芸術的天啓に近いものであったにちがいない。だから相手が巨人であったということは、彼にとってまったく問題にはならなかったんだと思う。
それ以来、彼は巨人に対して巨大隕石の衝突のように激しい感情を持つようなった。街がめちゃくちゃになってからの数日間は、それ以外の感情は全てその隕石に吹き飛ばされてしまったようにさえ思えた。
その頃の彼の目は異様にぎょろぎょろとしていた。その視線は地獄の番犬のようにあたりをさまよい、たまに壁の向こうの空に定まっては、巨人を駆逐してやる、と呟いた。
僕はその頃、彼が巨人に抱いている感情は憎しみだと思っていた。
僕の予想は半分当たっていて、半分間違っていた。恐らくその時点で彼の感情を完璧に言い当てられる人間はいないと思う。
当たり前だ。巨人に恋する特殊性癖なんて見抜けるわけがない。僕が見抜けるのはAV女優が本気で感じているかどうかくらいだ。
僕が彼の恋に気がついたのは街が吹っ飛んでから1年、今からは3年ほど前になる。
その頃、僕はエレンとミカサと共に開拓地で畑を耕したり、たまにやってくる憲兵団の偉そうな態度をしたおっさんに腐った卵を投げつけて中指を立てたりしながら、うさぎ小屋のように小さくボロっちい一軒家に三人で暮らしていた。
彼が最初にした奇行は抱き枕だった。
ある日、彼は布でできた袋に絵を描いた。それはアンドレ(超大型巨人)の絵で、彼はポスターカラーやマジックペンなんかを使い、なかなか上手に描いた。
絵を描き上げると綿を袋に詰め、口を縫い合わせて枕としてこしらえた。そして殴り始めた。満面の笑みで殴り始めた。
僕は怖くなって般若心経を唱えた。ミカサは戸惑いながら彼を止めようとした。
しかし彼は止まらなかった。
表情は快楽を感じているようにとろんとしていて、頬は紅潮していた。
やがて渾身の鉄拳がアンドレ(超大型巨人)の顔面を打ち抜くと、彼は憑きものが落ちたみたいにあくびをして、枕を抱いて眠りはじめた。可愛らしい寝顔だった。
僕とミカサは彼の奇行ついて話し合った。
その時に僕たちが至った結論は、彼は母親を亡くした悲しみやストレスをあの日以来ずっと溜め込んでいて、それが爆発してしまったというものだった。
納得できる理由だと思う。彼は開拓地に来てからあの日の事についてあまり口になかったし、たまに危険な目つきで駆逐、駆逐と呟く以外はごく普通の少年に見えた。
しかしその平穏な表情の裏側で、母を失った寂しさや巨人に対しての怒りをシチューのようにかき混ぜてたとしても不思議ではないし、熱しすぎれば吹きこぼれるのも道理だった。
その日から僕たちは彼に、それまで以上に優しく接した。三人で均等に分けていた食べ物は多めに与えたし、畑仕事がない日は三人で街や綺麗な湖なんかに出かけるようにした。彼の誕生日には奮発して牛豚の合いびき肉を買った。そして彼の好物であるチーズハンバーグを作り、三人で食べた。
彼は少し照れくさそうだったが、なかなか楽しんでくれていたと思う。
次の奇行はフィギュアだった。
彼が最初の奇行を起こしてから一ヶ月ほどたっていた。
その一ヶ月間、彼は落ち着いていた。抱き枕を抱いて寝てはいたが、突然殴りつけるといった事はしなかった。
僕たちは彼への気遣いが彼の心を慰めたのだと思い、もうキチガイじみた奇行はしないだろうと安心していた。
その日、彼はいきなり紙粘土でブロディ(鎧の巨人)を作り始めた。出来上がったブロディ(鎧の巨人)のフィギュアは細部までこだわった造型で、堅い皮膚の間から見える筋肉の一筋までしっかりと作りこまれていた。
彼はそんなフィギュアを何体も作り、外に並べ、芝刈り機で刈り取りはじめた。
僕は怖くなって出羽三山にお守りを買いに行き、ミカサは「エレン、やめなさい。やめなさい」と芝刈り機を握る彼の手を必死に解こうとしていた。
しかし今回も彼は止まらなかった。
ブロディ(鎧の巨人)のフィギュアを最後の一体まで破壊すると、その破片を広い集め、水を加えてもう一度練り直し、大きなブロディ(鎧の巨人)のフィギュアを作り上げ、道に置き、水牛を連れてきて突進させ粉砕した。
彼は水牛の猛々しい突進で飛び散るブロディ(鎧の巨人)の破片を、まるで美しい花火の一輪を見るかのようにうっとりと眺めてからアンドレ(超大型巨人)の抱き枕と共に寝た。
僕とミカサは彼が深い眠りに入ったのを確認してから話し合った。
しかし前回のように結論は出なかった。
「育て方を間違えたのかもしれない」、彼女はこぼれ落ちる涙を彼のパンツで拭いながら言った。
僕は上手い返事が浮かばず、逃げるようにコーヒーを啜った。
時計の音だけが僕たちの沈黙を測る目盛りのように、静かに鳴り続けていた。
僕たちが彼の恋にようやく気づいたのは、それから二週間ばかり過ぎてからだった。
彼はその日、日用品を買い込むために朝早く街へと出かけていった。ミカサは朝食に使った食器を洗い、僕は新聞を読んでいた。ラジオからはナット・コール・キングの『イッツ・オンリー・ア・ペーパー・ムーン』が陽気に流れていた。
三面記事まで目を通した僕は、その当時に王政府が提唱していたウォールマリア奪還作戦を「スターリンが陽気なおじさんに見える」と批判してから新聞を閉じ、気晴らしにエロ本を読もうと本棚へ向かった。
僕がどれにしようかと迷いながら本棚を眺めていると、一冊のノートが目に留まった。それは洋物と巨乳物の間に、まるで平べったい影のように挟まっていた。
僕はそのノートを引っ張り出した。古くはないのだけれど、かなり使い込まれていた。
表紙は黒ずみ、角は擦り切れていて、側面から見てみるとページの束は緩やかに歪んでいた。持ち主がこのノートを何度も開き、書き込み、気に食わない箇所を消した後にまた書き込んでいる姿を、そういった傷みの一つ一つから地層のように読み取ることができた。
表紙の名前欄には見慣れた筆跡で小さく、イェーガー、とサインされていた。
僕はそれを持ってテーブルに戻り、ミカサを呼んだ。
「どうしたの?」と、ミカサは食器を洗っていた手をエプロンで拭きながら椅子に座った。
僕はノートをテーブルに置いて、「エレンの日記かもしれない」と言った。
彼女はテーブルに置かれたノートを横に生えた親知らずを確認している歯医者みたいに見つめた。
「見るべきかな?」
彼女は肯いた。「エレンの奇行について何かわかるかもしれないなら、見るべき」
僕も肯いた。彼を救う手がかりが掴めるのなら、彼の日記を盗み見るという破廉恥な行為をするべきだと考えていた。たとえ彼に嫌われる事になろうとも。
僕は表紙をめくった。速攻で後悔した。
ノートに書かれていたのは日記ではなく、詩だった。
詩は何篇にもわたってノートの最後のほうまで書かれ、2行程度の短いものもあれば、10ページにも及ぶ大作もあった。ひとつ例をあげてみる。
キミとオレは、きっとこの空で繋がってるよね? そう信じてるよ。
すぐ側にいるのに、なんでかな? 届かないの。 たった一枚の壁がめちゃ厚いの。
もうどうしよう。 キミのこと想いすぎて涙がでた。
オレは人間で、キミは巨人ってこと、わかってるのに、知ってるのに。
自分が止められないの。 好きすぎるの。
胸がぎゅってなる。 ドキッてする。 キュンとする。
それ、全部キミのせいだよ。
いつかこの気持ちを伝えてからぶっ殺してやるからな。チュ!
この世で一番見てはいけないものを見てしまった気がした。
僕はノートを閉じ、荒縄を張って結界を作り、その中にノートを置き、日本酒をふりかけ、四方に盛り塩をし、祈った。何に対しての祈りかはわからない。でもとにかく祈った。
彼女も青ざめながら跪き、縁結びの神に対する祝詞を歌いはじめた。
僕は僕で、彼女は彼女で必死だった。僕たちは何時間も祈り続けた。
やがてエレンが帰ってきた。
彼は邪教崇拝者のような僕たちを見て酷く動揺し、僕は彼の恋心を知って酷く動揺していた。ミカサはミカサで浮気を知った若奥様のように動揺していた。
彼はうろたえながら「何をしているんだ」と聞いてきた。
僕は答えずに般若心経を唱え続け、ミカサは「浮気は一回だけなら許せる。浮気は一回だけなら許せる」と何度も呟いた。
彼は結界の中にあるノートを見つけ、手に取り、「見たのか?」と訊ねてきた。
僕とミカサは恐る恐る「うん」と答えた。
彼は照れくさそうに「そうか」と呟き、「巨人に恋してるなんて、やっぱり変だよな? でも、どうしても忘れられないんだよ。あいつらの事がさ」と、頬を赤らめながら言った。
それは非常に完全に恋する少年だった。少女漫画であれば彼の後ろに花が咲き乱れているのかもしれない。そしてミカサはそれを毟るのだろう。
ミカサはたどたどしい言葉で彼の恋を懸命に阻止しようとした。
「私はかわいい。巨人なんかより凄くかわいい。ので、エレンの恋は間違っている。エレンは満足できる。私がいれば」
彼は首を横にふり、「満足できない」と言った。
彼女は「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」と巨人の雄たけびみたいに男泣きした。以来、彼女も巨人に対してキチガイじみた殺意をもっている。まあこっちは純粋な殺意だけど。
われわれが、人生で当面する憎しみの大半は、単に嫉妬か、あるいは辱かしめられた愛にほかならない。
――ヒルティ 「眠られぬ夜のために」
愛と憎しみとは、相反馳する心的作用の両極を意味するものではない。憎しみとは人間の愛の変じた一つの形式である。愛の反対は憎しみではない。愛の反対は愛しないことだ。
――有島武郎 「惜しみなく愛は奪ふ」
彼の恋とは多分こんな感じのことなのだろう。でも僕は童貞だからよくわからない。
とにかく事実として彼は巨人に恋をしていたし、巨人をぶっ殺したいとも思っていた。
彼の中にある愛と憎しみは、まるで炎天下に放置した箱詰めのチョコレートみたいにドロドロに溶け合い、それらは同一の感情として巨人に向けられていた。
何故そうなったのかはわからない。恐らく感情をかき混ぜて一つにするスイッチみたいなものがあって、母親の死がそれを押したのだと思う。
あるいは彼の人生で最も強烈であった感情をどのように整理していいかわからず、とりあえずしまいこんだ引き出しが恋愛に関する場所だったのかもしれない。ちょうどロリ巨乳の画像をロリフォルダと巨乳フォルダで悩んだ末に、お気に入りフォルダへ入れてしまうように。
僕とミカサは彼の奇行について理由を見つけることはできたが、解決はできなかった。それは今でも変わらないしもう諦めている。
彼はその後も発作的に奇行を繰り返し、その度に僕たちは祈ったり泣いたりした。
そしてその一年後、彼は巨人に会うために、ミカサは巨人を抹殺してエレンの気を引くために、僕は同年代の女性を求めて、僕たち幼馴染は仲良くゴミ箱のゴミをさらに集めたゴミ集積場みたいな訓練兵団に入団した。
彼はそこで自らを巨人だという二人のゲイと出会うことになる。
それはゲイたちにとって受難の始まりであった。
とりあえずここまで
テス
>>269
× そして勢いをひとつまみのゆるめることなく大洋を吹きわたり、
○ そして勢いをひとつまみもゆるめることなく大洋を吹きわたり、
>>272
× ラジオからはナット・コール・キングの
○ ラジオからはナット・キング・コールの
僕たちが訓練兵団に入団したのは、今からだいたい2年くらい前の事になる。
入団式でハゲから「貴様は何者だ」と怒鳴られた時、僕は無言で中指を立てた。
それを見た他の訓練兵はそうやって返答するものだと思ったらしく、ほぼ全員がハゲに対して中指を立てた。以来、訓練兵団の敬礼はファッキンサインだ。
その事から窺い知れるように、この組織には当初から低脳のゴミクズしかいないし、その性質は今でも変わっていない。
話を戻そう。そして、ここからは僕の話でもある。
以前にも話したと思うが、その頃の繊細で可憐かつ男らしい僕は、ゲイ二人につきまとわれるのを酷く不快に思っていた。
もちろん今だっていい気分はしない。ベルトルトはうざったいしライナーは汗臭い。
でもイギリスに住めば料理に文句を言わなくなるし、中国に住めば政治に文句を言わなくなる。そういうことだ。
彼らはシカトを続ける僕の気を引くために、自分達は巨人だと言ってきたことがある。頭の悪いたわけた嘘だ。
そして僕がエレンに、彼らの嘘を伝えたのだ。
エレンに伝えた理由はもちろん、ゲイたちのねちっこい求愛行動や不快ないたずらを辞めさせるためだ。
少し痛い目を見れば、彼らも僕から手を引くだろうと思っていた。
それらについて具体例を話す前に断っておきたいのだけれど、僕は酷く怒っていたし、今思えばいささか軽薄な行動をとってしまったと反省もしている。
ある日、ベルトルトが裸体に刺身を乗せて僕の布団に横たわり、「男体盛りだよ」と頬を染めながら言うのを見て、僕はマジギレした。
彼の股間に置かれていたマグロの頭に思いっきり踵落としを入れてからエレンの元へ向かい、ベルトルトはアンドレ(超大型巨人)であると伝えた。
彼は雷に打たれたように硬直し、目をギラギラとさせて「本当なのか?」と聞き返してきた。僕は何度も肯いた。
そして彼は消えた。
僕が彼に話しかけたは朝だったから、それから丸一日は姿を見せなかった。
翌朝、ベルトルトのベッドが寮ごと吹き飛んだ。深夜のうちにエレンがダイナマイトを仕掛けていたのだ。
僕たちはベルトルトのベッドから伸びた導火線に気づき、なんとか避難することができた。
ベルトルトはその日、泣きながら白装束に着替え、五条にある川原まで歩き、辞世の句を詠んだ。
君が為 尽くす心は 水の泡 消えにし後ぞ 澄み渡るべし
爆殺されるよりはと切腹の準備を始めるベルトルトを見て、さすがに可哀相に思い、僕はエレンにベルトルトの事は勘違いだったと伝えた。
彼は落胆しながら抱き枕を殴り、「そうか」と呟いた。
ライナーについてもほぼ同様だ。
ある日、ライナーが僕のタンスからパンツを取り出し、お尻のところに○を六つと△を一つ書き、さらに「ゲイ」と書き込んでから棒につけ、旗にして振り回していた。
恐らく前日に放送していた『七人の侍』を観て真似したくなったのだと思う。もちろん僕はマジギレした。
僕は祖父から貰った火縄銃(種子島)で旗を撃ち抜いてからエレンの元へ行き、彼はブロディ(鎧の巨人)であると伝えた。
エレンは天啓を授かった預言者のように硬直し、目を血走らせて笑った。
そして再び消えた。
翌朝、エレンはブルドーザーに乗って帰ってきて、そのまま寮を更地にした。
僕たちは重装歩兵の行軍みたいなブルドーザーの音に気づき、間一髪で避難することができた。
ライナーはその日、泣きながら施設の片隅に自分の墓を建て、古代ギリシャ文字でセイキロスをまねた墓碑銘を刻み、ハープを奏でて歌った。
私は墓石です。ライナーがここに建てました。決して死ぬことのない、とこしえの思い出の印にと。
生きている間は輝いていてください。思い悩んだりは決してしないでください。
人生はほんの束の間ですから。そして時間は奪っていくものですから。
彼の歌を聴いてそれなりに感動した僕は、エレンに勘違いであると伝えた。
彼は残念そうにフィギュアの首を捻じりながら、「そうか」と呟いた。
このようにして二人への疑惑は収まったのだが、なぜかエレンは彼らを気に入り、ゲイたちはエレンに対して怯えていた。
エレンは事あるごとに「本当は巨人なんじゃないか?」と彼らに聞き、その度に彼らはお金や食料を差し出して「違います」と否定した。
エレンが書いた巨人へのラブレターを彼らに下見してもらった時などは、ベルトルトは泡を吹いて倒れ、ライナーは白目を剥いたまま動かなくなった。
しかし、今回のように大暴れする事は殆どなかった。
今日の奇行には、きっと何か原因があるはずなのだ。
僕はそう思いながらエレンに話しかけた。
「なんで戦車なんか持ってきたんだい?」
エレンは笑いながら砲弾を発射させた。座学室のある建物が消し飛んだ。
「ライナーとベルトルトに俺の想いを受け取ってもらうためさ」
「でも二人は巨人じゃなかったはずだ」
「昨日、アルミンがそう言ったんじゃないか」
彼はキョトンとした顔をしながら機関銃を撃ちまくった。マルコの寮が、トムとジェリーにでてくるチーズみたいになった。
…あー、そうだった。
昨日の夜、ゲイどもが僕のベッドに棒を立て、ポールダンスをしながら僕に性器を見せてきたので、久しぶりにマジギレしたんだった。
僕は頭をかき、「君に謝らなくちゃいけない」と言った。「また僕の勘違いなんだ」
それを聞いて彼は目を丸くし、次に天を仰ぎ、絶望したように砲弾を発射させた。教官室が木っ端微塵になった。
「またか」
「うん。ごめんよ」
彼は溜息をつき、「この戦車、返してくるよ」と呟いて戦車の中に引っ込み、ハッチを閉めた。
やがて戦車はブロブロと音を立て始め、まるで年老いた闘牛のようにしょんぼりとしながら、何棟かの寮や教室やダズなんかを押し潰しつつ去っていった。
彼が去っていった後はあたり一面、焼け野原だった。
崩れ落ちた建物からは黒い煙があり、機関銃の弾痕は前衛的な曲の楽譜みたいに地面をえぐっていた。
そこに存在していた人々の生活や面影や歴史を、消しゴムで綺麗に消しさってしまったような光景だった。
ゲイたちは防空壕から這い出てきた。
そして変わり果てた訓練兵団を見て驚き、呆然とした。
「あんちゃん、なんもあらへんよ」、ベルトルトはライナーの袖を掴み、泣きながら言った。
ライナーは痛々しく荒れ果てた施設を見渡しながら「泣くんやない。わしらがおる。生きとるじゃろ」と言った。
「そうやね」
ベルトルトは涙を拭った。
「うち、もう泣かへん。あんちゃんとアルちゃんおったら、うち平気や」
ライナーはそれを聞いて微笑み、「偉い子や」と言ってベルトルトを抱きしめた。
「あんちゃん、苦しいで」
ベルトルトはライナーの抱擁を嫌がりながらも、どこか嬉しそうだった。
朕深ク世界ノ大勢ト帝國ノ現状トニ鑑ミ 非常ノ措置ヲ以テ時局ヲ收拾セムト欲シ…
彼らの足元にあるラジオからは玉音放送が流れていた。戦争は終わったのだ。
これが本当に兄と妹であれば、僕は涙をながしていたかもしれない。
しかし彼らはゲイだし、彼らが原因だし、何より妹の方が兄より背が高かった。
所詮はゴリラと棒の茶番劇だ。反吐が出る。
僕は地面にツバを吐き、奇跡的に戦禍を免れた寮に向けて歩き出した。
寮についた僕は、ゲイたちが茶番劇を続けているうちにパンツを取り替え、ベット脇にあるラジオのスイッチを入れた。
[スイッチON]
やあ、みんな今晩は、元気かな? 私は最高にご機嫌に元気だ。みんなにも半分わけてやるから調査兵団に入れ!
こちらはラジオR・C・E(リーコン・カープス・エルヴィン)、おなじみ「ポップス・テレフォン・リクエスト」の時間だ。
これから深夜までの素晴らしい日曜の夜に、イカしたポップ・チューンをガンガンかけるから調査兵団に入れ!
懐かしい曲、思い出の曲、楽しい曲、踊り出したくなる曲、うんざりする曲、吐き気のする曲、なんでもいい、どんどん電話してくれ。
電話番号はみな知っていると思が、間違えないようにしてくれよ。かけて損、受けて迷惑、間違い電話、少し字余り、調査兵団に入れ!
ところで5時の受付開始から30分、局の電話は一回も鳴ってない。 …どういうことなんだ? そんなに調査兵団が嫌いなのか?
今から君たちに命じる。指が折れるまで電話するんだ。そして調査兵団に入れ!
電話のケーブルだって象の足くらいある太いやつにしたんだ。だから気が狂うくらい電話してくれよ。いいね?
よーし。今日もうんざりするほど退屈な一日だったな。そんなものはご機嫌なロックを聴いて吹き飛ばそう。
素晴らしい音楽っていうのはそういうためにあるんだ。可愛い女の子と一緒だな。調査兵団も楽しいぞ。入れ。
オーケー、一曲目。これをただ黙って聴いてくれ。本当に良い曲だ。調査兵団に入りたくなっちまう。
ブルック・ベントン、「レイニー・ナイト・イン・ジョージア」
[スイッチOFF]
そうだった。
僕はロックのように可愛い恋人を探しているんだった。
花壇に埋められたり、葬式したり、戦争している場合じゃない。
僕にはあと一人、たった一人だけ、恋人候補がいるんだ。アニ・レオンハートだ。
調査兵団のエルヴィン団長。
大事な事を思い出させてくれて、ありがとう。
僕は電話をかけないし、調査兵団にも入りたくないけど。
僕は手に持っていたペリエを一気に飲み干し、ドアを開け、食堂へと急いだ。
時刻は5時半を少し過ぎた頃だったと思う。
とりあえずここまで
ローキック日和
「優しく愛して、甘く愛して
決して僕を放さないで
人生を満たしてくれた君をとても愛している
優しく愛して、まごころで愛して
夢はすべて叶えられた
愛しい人よ、愛しているよ
いつまでも変わらずに、優しく愛して
いつまでも愛して僕を心の中にいれておくれ
そこが僕の居場所だから
これからの歳月、僕は君のもの
時が終わるまで」
1956年、エルヴィス・プレスリーはこのように愛を歌った。
僕はこの歌になんの意見も持ち合わせてはいないのだけれど、僕の祖父は違ったようだ。
彼は巨人に殺される直前の数日間、よくこの曲を歌いながら大英図書館くらい膨大な量のAVやエロ本を整理していた。
それは久しぶりに会った古い友人達と握手をしているような風景だった。
実際にそうなのだろう。祖父を長年慰めてきたオカズたちは、彼のとって最も近しい友人だと言えなくもない。
祖父の横に積み上げられた違法建築みたいなエロ本の山のてっぺんでは、古ぼけた表紙の中で下着姿のAV女優が淫らな笑みを浮かべている。
このAV女優だってもうかれこれ四十に近いはずだ。
もちろんそうじゃないこともあり得るだろうけど、彼女だってもう胸だけが豊満なのではないだろうし、子供だっているかもしれない。
まだ熟女好きには需要があるのかもしれないけれど、昔ほど綺麗じゃない―――ということだ。
しかし本やビデオの中にいる彼女はもちろん歳をとらない。
祖父が古めかしいビデオデッキに彼女のAVを差し込めば、永遠に二十歳の彼女が淫靡な姿で僕や祖父の股間を刺激する。
そんな友人たちに積もった埃を丁寧に払っていく祖父に、エルヴィスの歌はオーダーメイドのスーツみたいに似合っていた。
愛とはそういうものなのかもしれない。
彼はエロ本やAVを性欲を満たす為だけの道具ではなく、まるで自身の一部であるかのように扱っていた。
僕はそんな祖父を誇りに思う。
その数日後、祖父はオカズたちを庇って死んだ。気の毒なことにオカズたちも祖父ごと巨人の足の裏で天に召された。
祖父の死に顔には春の夕暮れ時の月のようなほんのりとした笑みが浮かんでいた。
祖父が命をかけてオカズを愛したように、僕も女性を愛したい。そして童貞を卒業したい。いや、本当にしたい。マジでしたい。
そう思いながら僕が勢いよく食堂のドアを開けたのは、6時より少し前の事だ。
食堂は人で溢れかえっていて、それらはどうやらエレンの襲撃から逃げ延びてきた避難民らしかった。
彼らは煤けた顔を寄せ合い、互い互いに無事を喜びあっていた。
しかし中には不運にも犠牲になった人もいるようで、食堂の隅でささやかな葬儀が行われていた。
「誰の葬式だろうね」
ゴキブリみたいに湧いてきたベルトルトが左手で僕の尻を撫でながら言った。
「さあな、しかし可哀相になぁ」
ゴキブリみたいなライナーが右手で僕の尻を撫でながら言った。
「ダズじゃないかな」
「ああ」、ベルトルトは思い出したように言った。「轢かれていたね」
「そうか、ダズか」
僕達はしばらくそこに立ちすくんで、口を半分開けて、葬儀の様子を眺めた。
まっすぐ延ばせば月にだって届きそうなくらい長く深い沈黙だった。
ダズが入っている木製の棺はガタガタと震えていた。僕達はそれに気づかないフリをした。
「ところで」と、僕はゲイどもに訊ねた。
「君達はアニという人を知っているかな」
「アニ?」
「アニ?」
「アニ。アニ・レオンハート」
ゲイたちは顔を見合わせた。
「知っているはずだよ。君達が彼女と一緒にいる所を見たことがあるからね」
「ああ、まぁ」、ライナーは少しだけ表情を曇らせた。「知っていることは知っているが」
「アニに何か用があるのかい?」
ベルトルトもどこか決まりが悪そうに返した。
「ある」
「どんな?」
「恋人にしたい」
ライナーが吼えた。ベルトルトは泣いた。ダズの棺がいっそう激しく震えた。僕は気づかないフリをした。
「ダメだ」
「ダメじゃない」
「僕らがいるじゃないか」
「君達はいなくていい」
「嫌だ」
「嫌じゃない」
「僕らのことが嫌いになったの?」
「君達を好きになったことは一度たりともない」
「嘘だ」
「嘘じゃない」
「なんでアニなの?」
「もう僕には女性は彼女しかいない。僕の全てをかけて恋人になってもらう」
「無理だ」
「無理じゃない」
「いい加減にしてくれこのホモ野郎」
さすがの僕も青筋をたてて怒鳴った。
「もう何度目になるかわからないが、もう一度だけ言う。僕は・ゲイじゃ・ない」
「僕は・ゲイで・受け」
「違う」
「僕は・ゲイで・誘い受け」
「死ね」
僕は深いため息とともにツバを吐きすてた。ツバはリノリウムの床の上で弾けた。まるで風の強い日に運河の両岸に立って声を掛け合っているような気分だ。
まあこうなることはわかってはいたのだけれども、アニと面識のない僕にとってこの二人の協力は必要だった。もちろん考えなしにゲイどもを調子づかせたわけではない。馬鹿とハサミとこんにゃくは使いようなのだ。
僕は両耳に性器を突っ込まれたようなゲイどもに向けて、できるだけ神妙な顔つきをした。
「わかった」、ここで少しだけ間をあける。間は重要だ。ゲイどもが息をのむ。夕暮れ時のヤギみたいに目が輝いている。
「僕の言うとおりにしてくれたら何でもいう事を聞こう」
それを聞いた二人はそそくさとサッカー日本代表のユニフォームに着替え、互いの頬に日の丸を描き、テーブルを重ねてステージを作り、その上でベルトルトは馬鹿面でブブゼラを鳴らし、ライナーはカズダンスを一心不乱に踊った。
そして巨大なペニスを讃えるといった格好でビールのジョッキを掲げ、一気に飲み干し、山賊みたいに笑った。
もちろん僕は彼らとの約束を守る気などない。鵜は鵜飼のために存在するという、極めて単純な次元での話である。
「本当なんだな」
僕は肯いた。
「でも、君達がちゃんと僕とアニの仲を取り持つことが条件だ」
ふたりとも肯いた。
「ただ一つ、彼女と君を会わせる前に言っておかなきゃならないことがあるんだ」
ベルトルトが言った。
「なに?」
「彼女は言葉を話すことができない」
僕達の間には、ドラマーが振り下ろそうとしたスティックを宙でとめて一拍置くような暫定的とも言えそうなかんじの一瞬の沈黙があった。
「言葉が喋れない? なんで?」
僕が驚いてそう言うと、二人は曇り空から落ちてきた雨を追うようにすこしだけ視線を下げた。
「それは…なんていうかな、一言じゃ説明しづらいんだ」
「そうだな。まあ言うとすれば極度の引っ込み思案って事だ」
「引っ込み思案?」
「そう、引っ込み思案。ちょっと訳あってね、昔から誰かと話すのが凄く苦手だったんだ」
「それで言葉を話せなくなった?」
二人は肯いた。
「困ったな」
僕は頭をかいた。
言葉を喋ることができなくなる病気として、失語症と失声症がある。彼女の場合は心的な要因だから後者なのだろう。
そこまでは解るのだが、生憎それ以上の知識を持ち合わせてない。僕は座学の成績こそ良かったけれど、僕の知識は非常に限られたものだからだ。例えばオナホールについては語れるけれども、オナホールの作り方については何も語れないかもしれない。そういうことだ。
だから失声症の女性とどのように接して良いのかまるでわからない。世の中わからないことだらけだ。ビーバーがどうしてダムを作るのかさえ僕はわからない。
おかげで次の言葉が出てくるまで、僕はたっぷり10秒も考え込んでしまった。
「それじゃ僕が一方的に話し続けることになってしまうね」
一方的。一方的な会話。
僕はどちらかというと話す事が好きなほうだけど、童貞の悲しい性質として女性と長時間話した経験はほとんどない。
いや、よく考えると何時間も会話したことのある女性なんてミカサしかいない。
それもほとんどがエレンに関する内容だ。エレンの下着がどうとか、歯ブラシがどうとか、髪の毛の長さとか、親知らずの生え具合とか、精通についての意見とか、とにかく骨董品の鑑定士みたいに話す。
僕はそれに適度に相槌を打つだけだ。おかげで僕は相槌を打つのが得意になった。そしてそれが役に立ったことは一度もない。
そんなミカサとの会話が、アニとの会話で役に立つとは思えない。僕は少しずつ不安になってきた。
「いや、話すことはできるぞ」
ライナーが言った。
「言葉を話すことができないってだけだ」
「よくわからないな」
僕は首をかしげた。
「言葉を使わずに話をするってのは…つまりテレパシーでも送れるのかい? 猿の惑星にでてくる地底人みたいに」
「いい線いってるね」とベルトルトは言った。
「彼女は足を使って会話するんだ」
「足?」
「そう。例えば君が『こんにちは』という。すると彼女は君の左脹脛を蹴り返す」
「それが彼女の『こんにちは』って挨拶?」
「その通り」
彼は性器でも見せつけるようににっこりと微笑んだ。
「参ったね」
本当に参っていた。
「でも良い娘だよ」
「ああ。優しい娘だ」
「ふうん」と、僕はなんでもないように返した。
蹴って会話する。蹴りでいったい何がわかりあえるのだろう。
考えてみれば僕は彼女について何も知らない。
何度か見かけたことはあるけれど、それは彼女を観察するには距離が遠すぎたし、彼女が誰かと話しているのも見たことがなかった。
だからといって、蹴りで会話というのもいささか突飛すぎる。そもそも彼女はその限定された方法でしか会話できないだろうか。言葉を話せないのなら筆談やモールス信号なんて手段もある。
しかしテイク・ファイブが使用される楽器によって驚くほど表情を変え、また楽器は奏者によって最適に選択されるように、彼女が話したい、あるいは話すべきニュアンスというのは、筆談ではやわらかすぎるし、信号では硬すぎるのかもしれない。
ちょうどスパゲッティのアルデンテみたいに、蹴りこそが彼女にとって自身を語るのに丁度よい按配であったのかもしれない。
ありていに言えば彼女には彼女の事情があるし、僕には僕の事情があるということだ。蹴ることで会話ができるならそれでいいじゃないか。ミルコ・クロコップみたいなものだ。
それに愛で溢れた僕は一人で寂しそうにしている女性をほっておくことはできない。
マザー・テレサが言うに世界で一番恐ろしい病気は孤独であり、一方でチェーホフの言葉を借りれば男と交流しない女性は色褪せ、女性と交際しない男は阿呆になる。彼女をアホで童貞で捻くれ者で僕以外に友達がいないマルコのようにしてはならない。
つまり何が言いたいのかというと、孤独に蝕まれた彼女を救えるのは『僕』だけだということだ。
「話はわかった。つまり僕が話して彼女は蹴る。彼女が蹴ったら僕が話す。そういうことだね」
ベルトルトは肯いた。
「俺達は何をすればいいんだ?」
「僕を紹介してくれた後は死んでくれてもかまわない」
ライナーは笑いながら「お前を残して死ねるか」と言った。本当に死んでくれないかな。
「それじゃ君をアニに紹介するよ」
そう言ってベルトルトは僕の右手を握った。
次いでライナーが左手を握った。
両脇に背の高い男性が立つと、僕はとたんに惨めな気持ちになる。まるでロズウェル事件だ。
僕はゲイに引きずられる宇宙人について考えた。
もし、本当に宇宙人を捕まえていた二人の男がゲイだったとしたらどうなっていたのだろう。
もちろんどうにもならない。ゲイは二人いればそれで物事は完結する。宇宙人を牢屋か犬小屋にぶち込んだら二人でよろしくやるのだろう。いたってシンプルだ。
じゃあ宇宙人もゲイだったとしたら…。これはまずい。銀河系規模の三角関係。アクロス・ザ・ユニバース。
彼を取り合うCIAだかペンタゴンだかの男達に挟まれ、揺れ動く宇宙人の淡い心。そこに母星から元彼がやってきて…四角になった。
しかし偶数であればペアは二つできる。四人で二人組みを作れといわれて泣き出すぼっちはいない。ここにふたつのスペースゲイカップルが産まれた。宇宙の底に渦巻く虚無でさえ、彼らの愛を止めることはできない。
しかし事故現場に乗り込んできた黒塗りのリンカーンから降りたのは、ハードな男色家として恐れられる変態大統領だった。
宇宙人と男たちは、大統領の魔の手から逃れるためにエリア51に運び込まれたという宇宙船を目指す。こうして宇宙を股にかける愛の逃避行が始まった。
火星人の歯クソほどどうでもいい妄想だが、僕が言いたいのはバランスの重要性だ。ゲイは3人でも5人でもアンバランスである。
男女だってそうだ。男二人女一人でも良くないし、男一人に女百人だって夢はあるが愛があるかは疑問である。
しかしながらゲイとレズと変態とキチガイだけでスリラーのPVが撮れるこの訓練兵団では、ヘテロ性愛の男女比バランスはモグラの巣の上のお城みたいに密やかに崩壊していく。
それにここはもともと女性の方が少ないのだ。ぼーっとAVを眺めているうちにフリーなヘテロの女性がもういない、なんて致命的な状況になってもおかしくはない。
そこでさらに「まとも」なヘテロ性愛女性と条件を絞り込めば、これはもう今ですら絶望的だ。
つまりアニは僕にとって―――意思疎通に多少の問題があるとしても―――宇宙のどこかに人が住める星を見つけたくらい奇跡的な希望なんだと思う。
そんなわけで僕は必ずアニをものにすると心に決めつつ、宇宙人みたいにずるずると引きずられながら彼女の元へ向かうこととなった。
とりあえずここまで
本人?乗っ取り?
>>436
本人です
長い間保守していただいてすみません
ご迷惑をおかけしました
復活•••だと•••
誤爆
がやがやとうるさい食堂の中で、アニのいるテーブルだけは冷えた古い星のようにとても静かだった。
あまりに静かなので、ゲイたちに連れてこられなければ、僕は彼女を見つけるのにとても苦労したと思う。
もちろん彼女はそこにいるのだけれど、じっとしたまま動かない彼女は霧の中の月みたいに存在感がなかった。
ベルトルトは気持ち悪い汗びっしょりの手を僕から離すと、タイミングを取るように少しだけ息をのみ、それから「やあ」と声をかけた。
彼女は顔を上げ、二対の瞳をこちらへと向けた。
僕は息をのんだ。
彼女の髪は宝石を溶かした込んだようにキラキラとした金髪で、その前髪から覗く顔は上品な陶器のように白い。
そして空色の瞳は、じっと見ていると吸い込まれてしまいそうなくらい澄んでいた。
でも僕がもっとも気に入ったのは、彼女の小さな顔にはやや不釣合いなくらい高くそびえる鼻だった。
青い目をした金髪の美少女というだけであれば、僕はそれほど惹かれなかったかもしれない。
そんな女性は洋物のAVやエロ本に溢れている。確かに美人ではあるのだけれど、どれだけ長く見つめていても、目を離した瞬間にどんな顔だったか思い出せない―――というタイプの美しさだ。世の中にはそういった美しさというのも存在する。
しかしアニは違った。
その高い鼻がぼやけそうな彼女の美しさを、朝日が湖の縁を照らすようにくっきりと浮かび上がらせていた。
グッと来ていた。
えらいベッピンもいたもんだと思った。
魚雷を一発もらった戦艦の蒸気圧力管みたいに、僕の鼻息が音を立てて吹き出した。
そしてこんな美しい女性の事を一言も教えなかったゲイどもに無性に腹が立ったので、とりあえずライナーに一発入れておいた。
突然わき腹を殴られたライナーは少し驚いたようすだったが、「ふへっ」と気持ち悪い笑みを浮かべて喜んだので、次にベルトルトを殴った。
彼は「んあぁん」と艶っぽくうめき、殴られたわき腹を押さえた。
僕は満足した。
アニは僕達の顔を何度も不安そうに見比べていた。
それも僕に対しては突然家に入ってきたオーランド・ブルームでも見るように、緊張した視線を送ってくる。僕の股間も緊張しながら膨張する。
「驚かせて悪いな」
ライナーはにやけたまま彼女に言った。
「実はな、アルミンがお前と話をしたいって言うんでな」
彼女は僕を見た。彼女の目は一瞬凍りついたように見えた。
瞳がふっとその色を失い、静かな水面に木の葉が落ちた時のように微かに揺れた。
僕はあわてて口を開いた。
「大丈夫。君が言葉を話せないのは知っている。そして君のコミュニケーション方法についてもね」
彼女はライナーへ視線を移した。ライナーは笑みを浮かべて「ああ、それでもお前と話したいんだとよ」と言った。
それを聞いた彼女はおずおずと、まるで病気の犬の歯ぐきを点検するといったように不安げな表情で僕を見つめた。
僕はもう一度「大丈夫」と言った。
「こう見えても僕は丈夫なんだ。君の蹴りくらいなんてことないよ」
実際の所、僕は本当にそう思っていた。
ミカサの蹴りなら左足が消し飛ぶくらいは覚悟するが、目の前にいる華奢な女の子がミカサのようなアトミック・キックを繰り出せるとは思えない。
なに、軽い愛撫みたいなものさ。
僕はそう考えながら彼女に近づいた。
横から見た彼女も、何かしら非現実的な材料で作った精密な彫像みたいに美しかった。
でもその表情は硬く、まだ僕に対して「蹴り」をして良いものかと躊躇っているようだった。
それを見ていたベルトルトが言った。
「アニ、君は僕達以外ともコミュニケーションを取ることが必要だよ」
ライナーもそれに肯いた。
「ああ。それにな、アルミンほど良い男もそうはいない。俺が保証するぞ」
「僕も保証するよ」
「夜だって凄いんだぞ」
「獣だよ」
それから二人は、俺はガチムチのゴーグルマンで、僕がスジ筋のゴーゴーボーイで、なんてわけのわからぬ事をしゃべり続けていた。詳しい内容なんて知りたくもない。どうせ地獄でしか意味の通じない言葉なのだ。
彼女は暫くの間、居心地が悪そうに僕の顔を見たり、考え込むようにテーブルの木目を眺めたりしていたけど、やがて椅子を引き、立ち上がった。
その動きはほっそりとした冬の鳥のように滑らかで無駄な動きがなく、しんとした静けさに充ちていた。
彼女は僕より背が低かった。
身長差で自然と上目遣いになった彼女は、胸がはりさけてしまうくらい可愛らしかった。
おかげで僕の股間はブルジュ・ドバイのように立ち上がり、下層にアルマーニ・ホテル、中層にオフィス、124階に屋外展望台を備え、アラブのセレブでアラブの春みたいに活気づいている。
僕はコントロールの効かなくなった鼻息を必死に抑えながら、なんとか挨拶の文句を搾り出した。精液ではない。挨拶です。
「はじめまして、アニ」
僕の挨拶に、彼女はすこしだけ笑みを浮かべた。
ぎこちない微笑ではあったけれど、それは僕の息子を反抗期という難しい年頃にするのに十分な破壊力だった。
僕の息子は荒れ狂い、白い濁流をもってパンツを汚す。やれやれ、うちのきかん坊にも困ったものです。
その時、彼女が何をしているのか、僕はしっかりと理解することができなかった。
僕は彼女に釘付けだったし、射精の余韻は重たい鐘の音のように股間を震わせていたので、理解する余裕なんてなかったのだ。
ただ僕の視線の端で彼女の右足がスッと後ろに引かれ、膝を曲げながら滑らかに宙へ持ち上げられていくのを、夢みたいにふんわりとした気分で眺めていた。
彼女が蹴ろうとしているのだと僕が理解した時には、彼女の豹みたいにしなやかな右足は、すでに僕の左脹脛に深く食い込んでいた。
昔、というともう十年くらい前の話になるけど、僕が中学三年生だった頃の話をしようと思う。
その頃、ジャンプでは「DEATH NOTE」という漫画が連載されていて、僕はその漫画の熱心な読者だった。
もちろん僕以外にも沢山の人がその漫画を読んでいて、今思えばその頃がジャンプ最後の黄金時代だったような気もする。
で、その漫画にLという、すこぶる頭がよいのだけれど行動が奇抜で感情が読めない、一言でいえば典型的な天才キャラがいた。
中三という敏感な年頃だった僕は、Lの奇怪な仕草や癖、そして頭の回転の速さに強い憧れを抱いた。
僕はLのようになりたいと思い、次第にLを意識した行動を取るようになった。
僕は学校の廊下を猫背で歩くようになった。
髪もわざとボサボサにして、学ランの中に親父の白い肌着(後にLが着ていたのはロング・Tシャツだと知った)を着て、身だしなみを意識していない事を意識した。
授業も椅子の上で体育座りしながら受け、いきなりキョロキョロと辺りを見渡したり、ポケットから角砂糖を出して食ったり、携帯を摘むようにして弄ったりと、僕は自分が奇抜な天才であるように振舞った。
もちろん天才だから頭も良くなければいけない。
「昨日の授業でインドにある地下水路は」
「カレーズ」
こんな具合に、僕は頭が良いアピールをする為に当てられてもないのに即答したりもした。
ちなみに僕は社会ぐらいしか得意教科がなかったので、他の教科ではノートにわけのわからない用語や数式を書いて、ああそうか、とか、へーなるほど、とか言っていた。あとなんかカッコいいと思って記憶喪失になったふりもした。
そんな事もあって、僕は完全にクラスから浮きまくった。でも天才というのは凡人には理解できないもの、むしろその浮きっぷりが心地よいとさえ感じていた。
ちょうどその頃、僕には気になる人がいて、天才として調子に乗っていた僕は彼女にラブレターを書こうと思った。
それもただのラブレターなんかじゃ面白くない、もっと天才っぽいラブレターを送ろうと思って、得意の無意味な等式の左辺をローマ字にして、縦読みすると恋文になるという、DEATH NOTE丸パクリの方法を思いついた。
僕はそれを破いたノートにそれを書き、休み時間に彼女に渡した。
戸惑う彼女に、僕は口元だけを緩めながら「この数式、あなたにわかりますか?」と言った。
その時の彼女のひきつった表情を思い出す度に、僕は「しにがみ」とか言いながら死んでおくべきだったなって思う。
アニの蹴りはそんな感じの痛さだった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
僕は泣きながら床の上を転げまわった。
とりあえずここまで
僕は全ての女性に知っておいてもらいたい事がいくつかある。
その一つが童貞に対する接し方だ。
虫は明かりがあったら近づかずにはいられない。犬は電柱を見たらおしっこせずにはいられない。それらと同じように童貞とは思わせぶりな態度をされたら恋をせずにはいられないのだ。
しかし多くの女性はそんな事お構い無しに、僕達童貞が命すらも落としかねない危険な行為を次々と繰り出してくる。
一つ例を挙げるなら「彼女いるんですかー」とか「えーモテそうなのにー」といった甘い言葉。
これを食らった童貞は家に帰った後で「あの子、もしかして僕の事…」と考えはじめる。
そうなったらもう終わりだ。その童貞は死神に魅入られている。
思惑が思惑を呼び、思考が堂々巡りを始めてしまい、もう何も手につかなくなる。一種の錯乱状態といってもいいかもしれない。
やがて夜も眠れず食べ物も喉を通らなくなり、一週間後には夏の終わりの蝉のように衰弱死する。
運よくそれを回避し、告白まで辿り着く勇気ある童貞もいるかもしれない。そいつも振られてショック死だ。
このように童貞には女性からそんな言葉をかけられたら死ぬ以外の道はない。これらの言葉は死の宣告なのだ。実際にトーマスという童貞もそうして死んだ。
もちろん「思い込みが激しすぎる」といった冷静で的確な大人の意見もあるだろう。
でもそれを童貞に言ってどうなるというのか。
そう思えないから童貞なんだろうが。
砂漠に水を撒くような言葉だ。
これはほんの一例だ。
僕は他にも実に様々な要因で多くの童貞仲間を失ってきた。
メール、ボディタッチ、そしてバレンタイン…
もう両手の指じゃ数え切れないほどだ。
そんな痛ましい童貞達の現状について世界はあまりにも無関心で、今日でもなお女性の童貞に対する意識はおそろしく低い。
僕はもう仲間が死んでいくのを見たくない。
だから女性からは絶対に声をかけないであげてほしい。
彼らは野うさぎのように臆病で、そしてピーターパンのようにピュアだから。
彼らが自らの意志で恋し、努力し、勇気をふりしぼって告白してきたら、言葉を選びつつ優しく振ってあげてほしい。
僕はそんな事を考えながら床にツバを吐いた。
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せ |×| ̄\×\ よ
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話 は 聞 か せ て も ら っ た !
繋 ぎ は 私 に 任 せ ろ ! !
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┃ │ ス .│ ┃
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┃ │ の .│ ┃
┃ │ 続 │ ┃
┃ │ そ き .│ ┃
┃ │ の が │ ┃
┃ │ ふ 見 .│ ┃
┃ │ ざ れ .│ ┃
┃ │ ____ こ け る .│ ┃
┃ │ \. 金 ./ の た と │ ┃
┃ │ \/ 私 幻 思 │ ┃
┃ │. __ (ノ~) が 想 っ .│ ┃
┃ │ /(゚Д゚)\\ \ ぶ を て .│ ┃
┃ │ |( ´∀` )|/ / ち い │ ┃
┃ │. /××××./ /| 壊 る .│ ┃
┃ │. \.\×× / /. | す の │ ┃
┃ │. \二二二⌒)栗 | ! な .│ ┃
┃ │ /×|美|×\\. | ら .│ ┃
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\×リ×××| バッ | \__〃´ ̄ ̄ ̄ ヽ.. ノ ××× / (⌒) ___
<_/×□■ \ >>1が構想を \ |\ (__) ヽ ×ノ ミ .|×| (゚Д゚ )×\(⌒)
_/×/■□|×| 練っている間に \| \,.─~´ ̄ ̄ ̄ /×/ \ (゚∀゚ )× |×|
. (__/ |__) \ ∫\ /×/ \ \×××/ /
キンクリさんはどんどん \ \ (_ノ \ |××××|
進化していく・・・・・・。 \ \ \ ノ ××× /
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まず全裸になり
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自分の尻を両手でバンバン叩きながら白目をむき
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|×( ゚∀゚) ヘイヘイ
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l∪ノ /×,× l ノ
UJ' ヽ_,ヽ_UJ'
Σ ヽ \×ヽ
バン Y⌒Y ノ×ノ×,ノ
バン (_(__ヽ
人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人
Σ て
Σ びっくりするほどユートピア! て人__人_
Σ びっくりするほどユートピア! て
⌒Y⌒Y⌒Y) て
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\ \ \ ノ ××× /
\ \_________ _\ / /´ ̄(__)
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是非お試しを。
おまけ:片手バージョン
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/×( ゚Д゚) ( ⊂) ヘイヘイ
|×( ´∀`)_ゝ \
/ ××× ⌒ ×× )
/ ∧××××| ̄ ̄
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l∪ノ /×, ×× /
UJ' ヽ_,ヽ_,×|
Σ ヽ \×ヽ
バン Y⌒Y ノ×ノ×,ノ
バン (_(__ヽ
人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人
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Σ キンクリ出るほどユートピア! て人__人_
Σ キンクリ出るほどユートピア! て
⌒Y⌒Y⌒Y) て
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\|∫\ _,. - 、_,. - 、 \ ( ヘ) |××⊃
\ \______ _\< |.×× |
\ || ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | \.×..|
初 妄 / ,) ス え
心 想 L_ .______ _ヽ レ |
者 で / / \ ×\ / i の マ
ま 補 /. | ○┌┐ ○ | ××\ | ○┌ く 続 ジ
で え i | └┘ | × × | | └ ム,.き
だ な l > < × ×| > ) !?
よ い _ゝ / \ × |/ レ、⌒Y⌒ヽ
ね の 「 | | × |
l は ヽ l / \ .! × | / \
⌒レ'⌒ヽ厂 ̄ | 〈 _人__人ノ_ i く
人_,、ノL_,iノ! /!ヽ r─‐- 「 ダ L_ヽ r─‐- 、 u
ハ キ / / lト、 \ ヽ, -‐ ノ サ 了\ ヽ, -‐┤
ハ ャ { / ヽ,ト、ヽ/!`h) | |/! 「ヽ, `ー /)
ハ ハ ヽ/ r-、‐' // / |く イ > / / `'//
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<-<, (´∀`) ヽ !./´ン、
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ヽ___ゝ し'
と´ )
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/×( ゚Д゚) 本当にすまないという気持ちで…
|×( ´∀`) 胸がいっぱいなら…!
ハ××××\
/ 〉××× 〉 | どこであれ土下座ができる…!
\ \ ××| |
┌―)))――)))‐―┐ たとえそれが…
ヽ ̄工二二丁 ̄
〉 ヽ工工/ ;′∬ 肉焦がし… 骨焼く…
lヽ三三三∫三三\;'
h.ヽ三∬三三';.三三\';∫ 鉄板の上でもっ………!
└ヽ ヽ三,;'三三∬三;'三\'"
ヽ |__|烝烝烝烝烝烝|__|
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∩∩( ´∀` )∩∩ ディフェンスに定評のある
| ××× |
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∩∩ 必殺!キンクリウォール! V∩
(7ヌ) __ __ __ (/ /
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\. ××× /⌒×××.⌒ヽ.×××. /
(ミ ××× |ー┐××× / ̄| ×××ミ)
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|( ´∀` )| キングクリムゾン☆
∩×××∩
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|( ´∀` )| ふふ、いってみただけ♪
∩×××∩
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| ××× ノ ∫
と__)_) 旦
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| ××× ノ ∫
と__)_) 旦
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パンパン /×××_ノ⌒⌒⌒`~、_
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i{\\//\\//ハミメ二.´ \
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l \_j : ミ(OX__ノx(Oフ{:Ⅵ :|:./ _ : : ::/― ' ∠:>ヘ
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≫ キングクリムゾンッ!! ≪
≫ ≪
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と__)_) || ̄ ̄ ̄ ̄| |
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ノ キングクリムゾンッ!! `\×××× /´
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) | ××|×|ノ
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___ 三==---
/( ゚Д゚ )\ 三==--- |
| .( `∀´ ) | 三==--- ノ キングクリムゾンッ!!
〔 \× × × \ ==--- ヽ __
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ζ `<. × ×ヽ ` ==--- /'⌒⌒ `Y´
(.× 〔 ̄ ̄\×\三==---
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〔_ /×,/ .〕 ノ
|××(、/| ヽ キ ン グ ク リ ム ゾ ン ――― ッ ! !
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パーン ゚Д゚ )×\
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キンクリワッショイ!!
\\ キンクリワッショイ!! //
+ + \\ キンクリワッショイ!!/+
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ヽ×(×ノ .(×ヽ ノ )×)×)
(_)し' し(_) (_)_)
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(゚Д゚ )×\
(´∀` )×| 長男でーす 特技は進撃スレを飛ばす事
γ××××|
/l Tigers r×l
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(´∀` )×| 次男でーす 特技は放置スレを飛ばす事
γ××××|
/l Tigers r×l
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(゚Д゚ )×\
(´∀` )×| 三男でーす 特技は誰得スレを飛ばす事
γ××××|
/l Tigers r×l
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/(゚Д゚)\ /(゚Д゚)\l| ♪ (゚Д゚) \
♪ |( ´∀` )|三三) |( ´∀` )|.| ( ´∀` )と_) ))
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( 、, ,丿.∬ ││││
( ノ ∫ ___ ││││
ソ __ (゚Д゚ )×\_ └┴┴┘
∬∬ / (´∀` )×|
∬∬ ┌───|××××|─
▲◆■◆// ̄ ̄ ̄ ノ ××× ノ
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 ̄| ̄| ̄| | (_(__)
┌┬┬┐
( ∬ ∫ ∬ ││││
( )) ∫ __ υ └┴┴┘
( .ノ (゚Д゚ )\
ソ (´∀` )×|
∬∬ □━━━━⊂.××U×|
■●▲ ̄フ | ̄( ( ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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(ヽ_ ___ /)
((⊂ iつ _/( ゚Д゚ )\⊂ i つ))
/∠__| X(´∀`)X |_ゝ\
( ___、 × × × ,___ )
|× × × /´
|× × ×/
/l メイド・イン・ヘブンッ
/メナヾ// スレは加速するッ―!
(θ: : !iノヽ二> ‐-__ ___
/θ::;ノヽ `(シ-' 三 ニ ―━―  ̄
(゙:=-" : : : : ;;l _ = - 三 ━ ニ
`ー'^フ: : : :;;ノ ≡ _ ――  ̄ _
/:;/~ヽ:;〉 ─  ̄ ____ =
(_;ゝ
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/ハ☆ハ \
||(・∀・`)と.) このスレに突っ込ませられて!
ど、 r‐、 || て、て、て………
\ニし'ニ/フワフワ
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/ハ☆ハ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
||(*゚∀゚ )と.) < てんごくてんごくてんごく!
\ニし'ニ/
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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\∩∂/ハ)ヽ \¶ ゚∀゚¶< てんごくてんごくてんごく!
てんごく~~! >( ゚∀゚ )/ | / \__________
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/ハ☆ハ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
||(*゚∀゚ )と.) < ときは かそくする!
\ニし'ニ/
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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ∩(゚Д゚)`∩\×( ´∀`) < キンクリキンクリキンクリ!
キンクリ~~~~! >(´∀` ) / |×××| \__________
________/ |×××〈 |×××ノ
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 ̄ (___)
このSSまとめへのコメント
つまんね
死ね
面白いです
糞スレ
これ、完結させてほしかったなあ
才能の塊だった