P「王子様を辞めたいって?」 (36)

真「はい」

P「……一応聞くが、どうしてだ」

真「もう、王子様扱いされるのはイヤなんです」

P「また随分と贅沢な悩みもあったもんだな」

真「マジメに聞いてください!」

P「別に、茶化してるわけじゃないさ。ただ、そこまで嫌がる理由が俺には分からん」

真「……プロデューサーにも話したと思いますけど、ボクは女の子らしくなりたくてアイドルになったんです」

真「なのに、もらえる仕事はどれも『真王子』ばかり求められて……」

P「全然女の子らしくなれない。それが不満、ってことか」

P「……なぁ、真。お前、自分が何言ってるか分かってんのか?」

真「小娘が生意気な口を利くな、って言いたいんですか」

P「そこまで言うつもりはないがな。まぁ、そんなところだ」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1377948839

P「この前のライブ以降、確かに仕事は増えた。スケジュールの都合が合わなくて、断るものが出てくるくらいにな」

真「だったら、その中に真王子じゃない仕事もあるはずですよね」

P「まぁな。全部断ったが」

真「なっ……!」

P「なんだ、そんなに意外だったか?」

真「じゃあ……『真王子』はプロデューサーが意図的に作ったってことですか」

P「最初からってわけじゃないけどな。もちろん、今後の展開もしっかり考え――」

真「……もういいです。レッスン場、行ってきます」

P「そうかい。あー、真。明後日の仕事、行きませんは通らないからな」

真「……行ってきます」

P「ふー……」

律子「ワザとですか?」

P「なんのことだか」

律子「……まぁ、プロデューサー殿の方針に口出しする気はありませんけど」

律子「早めに終わらせてくださいね。周りの子にも影響ありますから」

P「ん……そうだな」

P「それじゃ、俺も出てくるわ」

律子「通りそうですか?」

P「五分五分ってとこだな。まぁ、先方は話の通じる人だし、やってみるさ」

真(原因がプロデューサーにあったなんて)

真(使えるものは何でも使う、それがあの人の方針だと知ってはいたけど……)

真(――くそっ!)

春香「ちょ、ちょっと真!? 早いってば、待っ……うわぁ!」

真「! ご、ごめん。大丈夫、春香?」

春香「アイタタ……うん、なんとか」

真「そっか、ごめんね……」

春香「……ねぇ、真。何かあった?」

真「えっ? い、いや特にないけど。……どうして?」

春香「あ、うん。なんとなく、なんだけどね。何か考え事してるみたいだったから」

真「春香……」

春香「ああ、でも、言いたくないことだったら無理に言わなくても、うん」

真「……春香は優しいね」

真「よく気がつくし、すぐ気付けないくらい細やかな配慮もしてくれるし」

春香「そ、そんなこと///」

真「持ってきてくれるお菓子も美味しいし、料理も出来るし」

真「やっぱり、ボクなんかよりも春香みたいな子のほうが……」

春香「……真?」

真「春香。ボクのこと、どう思う?」

春香「えっ? どう、って言われても……」

真「……回りくどいのは苦手だから、ハッキリ言うね。ボクの売り出し方、真王子について、どう思う?」

春香「真王子? うーん、売り出し方とかよく分からないけど」

春香「私は、真らしいと思うよ」

真「ボク、らしい?」

春香「うん。だって、うちの事務所で真以外に王子様として売り出せそうな人って、いないでしょ?」

真「……じゃあ、ボクは消去法で王子様にされたってこと?」

春香「えっ!? そ、そういうことじゃなくて、えっとね」

真「いや……ごめん春香。ボク、ちょっと疲れてるみたいだ。少し横になってくるね」

春香「あっ、真」


春香「……ずっと、気にしてたのかな」

春香「いつも、努力してるんだよね」

春香「この前、教えてもらった少女マンガは……ともかく」

春香「……よしっ」



春香「戻りましたー」

律子「おかえり、春香。あら、真は?」

春香「体調が良くないみたいで、レッスン終わったらそのまま帰りました」

律子「そう……。まぁ、今日は直帰でも大丈夫だったから良いんだけど。心配ね」

春香「あの、律子さん。プロデューサーさんは?」

律子「プロデューサーなら外で打ち合わせ中よ。そろそろ戻ってくる頃じゃないかしら」

P「戻ったぞー」

律子「噂をすれば、ね」

P「ん、何の話だ?」

春香「あの、プロデューサーさん。お話したいことがあるんですけど、いいですか?」

P「話? ……分かった、荷物置いてくるから、会議室で待っててくれ」

P「それで、話って?」

春香「真のことです」

P「まぁ、そうだろうな」

春香「今日は2人でダンスレッスンだったんですけど、ずっと考え込んでたみたいで」

春香「……何か、あったんですか?」

P「朝にちょっとな。だが、春香が気にするようなことじゃない」

春香「気になりますよ! ……真に聞かれたんです、真王子についてどう思う、って」

春香「私、あまり深く考えずに答えちゃって。それが真を傷つけたみたいで」

春香「真……辛そうでした」

P「……なんて答えたんだ?」

春香「真らしいって、真以外に出来る人はいないって……」

P「ふむ、まぁ間違ってはいないな」

春香「でも、真が女の子らしくなりたいってこと、知ってたのに。私……」

P「……なぁ、春香。お前も真もアイドルだよな?」

春香「えっ? そ、そうですけど、プロデューサーさん、一体なにを」

P「じゃあ、そんな春香に一つ問題」


P「アイドルを形作っているものって、何だと思う?」



真(なんだろう、体が動かないわけじゃないのに)

真(……明日、ちゃんと春香に謝らないと)

真(イラついて、他人に当たるなんて。はぁ……)

 PiPiPi

真「ん、メール?」

真「あ、春香からだ。えっと……」

真「……!」

真「そっか……そうだよね」

真「ありがとう、春香」


 PiPiPi

真「今度は着信、って……」

真「……」

 Pi

真「……もしもし」

P『真、今大丈夫か?』

真「大丈夫ですけど。……釘でも刺す気ですか?」

P『お前はそこまで聞き分けも頭も悪くないだろ。それより、明日のことだ』

真「明日って、映画の吹き替えオーディションのことですか」

P『そうだ。当初の予定では、ヒロインを支える若い騎士役だったんだが』

真「もしかして、配役の変更とか」

P『いや、騎士役は変わらない。ただ、もう一つ役を選べるようになった』

真「もう一つ?」

P『姫役、つまりヒロインだ』

真「!」

P『ただし、選べるのはどちらか一つだけ。さらに言うと、騎士役は先方の希望でもあったから、ほぼ内定状態だ』

P『それに対して、ヒロインは完全に実力勝負。ハッキリ言って、お前が勝ち取る確立は低い』

真「……」

P『ヒロインがやりたければ、それでも構わない。だが、ヒロインがダメだったら騎士役に、なんてことは出来ないからな』

真「分かってます。……少し、考えさせてください」

P『……まぁ、オーディションの時に先方に伝えてくれれば、それで構わない』

P『そういうわけだから、よく考えてくれ。それじゃ』

 Pi

真「……ボクが、お姫様」


律子「勝ち取る可能性が低い、なんて本当は思っていませんよね」

P「盗み聞きなんて、あまり良い趣味とはいえないな」

律子「プロデューサー殿の声が大きいんですよ。それより、良いんですか?」

P「なに――」

律子「この期に及んで、「何が」は通じませんから」

P「……問題はないだろう。俺としてはトコトン煮詰めたいんだけどな」

律子「焦げ付くくらいなら、火を止めて盛り付ける、ですか」

P「……まぁ、な」

律子「……それがプロデューサー殿の判断なら、私が口出しすることはありませんね」

P「これでも学習してるんでな」

律子「そうですね……さって、それじゃ行ってきます。今日はもう事務所に戻らないので、鍵お願いしますね」

P「ああ、分かった」

P「……」


真(日課のジョギングもしたし、朝ごはんもちゃんと食べた)

真(台本もしっかり読み込んできたし、体調は万全)

審査員「えーと、菊地さんはヒロインと騎士のどちらか、ということでしたが」

真「はい、ボクは……」

真(春香、律子、それとプロデューサー)

真(ボクは、ボクの夢は……)

真「――で、お願いします」

審査員「分かりました。それではp.21、宰相の追手から逃れるシーンを、お願いします」

真「はい!」


律子「それで、どうなったんですか?」

P「まだ聞いてない」

律子「えっ?」

P「いや、聞いたんだけどな、「記者会見までのお楽しみ」とか言って、教えてくれなかった」

律子「……一応、役は貰えてるみたいですね」

P「そうだと思うが……お、そろそろ始まるな」

律子「それにしても、担当プロデューサーがテレビの前に居るって、どうなんですか」

P「仲直りする条件らしい。代わりに、小鳥さんに行ってもらってるし、なんとかなるだろ」

律子「色々とおかしい気もしますけどね……あ、始まった」

P「おっ、さて真は、と……!?」

律子「あら、これは……」

司会『続きまして、ヒロインに仕える若き騎士の吹き替えを担当する、菊地真さんです』

真『吹き替えは初めての経験なので緊張しますが、期待に応えられるよう頑張ります!』

司会『はい、ありがとうございます。さて、続きまして……』

P「これは……」

律子「どうやら、火をつけちゃったみたいですね」

P「……そうみたいだな」


真「ただいま戻りましたー」

律子「おかえり、真。プロデューサー、待ってるわよ」

真「ん、分かった」

春香「真!」

真「春香……この前は、ごめんね」

春香「いいんだよ、そんなこと。……それより、決めたんだね」

真「うん。春香のおかげだよ」

春香「えへへ。でも、それは私じゃなくて――」

律子「ほーら真、急いだ急いだ」

真「えっ、あっ、そうだね。ごめん春香、また後でね!」

春香「あ、うん」

春香「……律子さん?」

律子「今はそういうことにしときなさい、ね?」

春香「……はいっ」


真「失礼します」

P「おう、まぁ座れ」

P「……さて、それで?」

真「なんですか?」

P「……聞きたいことは幾つかある、まぁ一つずつ片付けていくか」

P「まず、何で俺に選んだ役を伝えなかった?」

真「プロデューサーを驚かせたかったので」

P「だから会見にも付いてこさせなかったってことか」

P「次に行く前に……俺を驚かせるって言ったな」

真「言いましたね」

P「何で真が騎士の役を選んだら、俺が驚くんだ?」

真「プロデューサーは、ボクを焚きつけてヒロイン役を取らせようとしていたんですよね?」

真「だから、騎士の役を選んだと知ったら驚くと思ったんですけど」

P「……なるほどな」

P「じゃあ、最後の質問だ。何で、騎士役を選んだ」

真「だから、言ったじゃないですか、プロデューサーの」

P「俺の思惑に乗りたくない、それだけでは理由として不十分だ」

真「……」

P「ヒロインを勝ち取ったら、お前の望む女の子らしい仕事は確実に増える」

P「流れが出来ちまえば後は簡単、その流れを作る絶好の機会だったんだぞ」

真「……そうかもしれません。でも、それは今じゃない、ですよね?」

P「……律子か」

真「それに、春香にも言われたんです」

真「ボクたち、アイドルってどういう存在なのか」

真「だから、ボクはまだ王子様のままでいい」

P「本当に、それでいいんだな」

真「はい。お姫様には自分の力でなります」

真「吠え面をかかせてあげますから、覚悟してくださいね、プロデューサー?」

P「……それはいいが、そのセリフ、外では絶対に使うなよ」



――P「アイドルを形作っているものって、何だと思う?」


――春香「形作っているもの、ですか?」

――春香「うーん、プロデューサーさん、とか」

――P「一因ではあるが、それが全てではないな」

――春香「それじゃあ、テレビ局の人とか、出版社の人とか……あと、レッスンコーチとか」

――春香「あっ、それにファンの人たちも!」

――P「そうだな。まぁ、ファンという答えが一番近いかもな」

――P「アイドルは、ファンがいて初めて成り立つ」

――P「つまり、受け手側の認識によるところが大きいんだ」

――P「看板娘っているだろ? 彼女達はアイドルじゃない一般の人だ。だが、その店に通う客にとって、看板娘はアイドルそのものなんだ」

――P「逆に、いくらアイドルだと主張しても、『世間』がそれを認めなければアイドルとしてやっていけない」

――春香「確かに……」

――P「真がどうしたいのか、俺だって分かっているつもりだよ」

――春香「……そう、ですよね。時間とらせちゃってすみません。私、今日はもう帰りますね」

――P「そうか。気をつけてな」

――春香「はい」



P「ふぅ……」

律子「お疲れ様です」

P「……楽しそうだな」

律子「そうですか?」

P「春香が動くのは分かってたが、律子は想定外だった」

律子「真にも選択権がないと、不公平ですから」

P「……悪かったよ」

律子「もういいです、それは何度も聞きましたから」

律子「それよりも、これからの真のこと、ちゃんと考えてあげてくださいね」

P「ああ、そうだな。それにしても、吠え面かかせる、ねぇ」

律子「出来ないと思ってます?」

P「さぁな。まぁ、アカデミー主演女優賞でも取ったらな」

律子「取ったら、なんです?」

P「……律子、何か企んでないか?」

律子「そんなことより、真がアカデミー主演女優賞取ったら、何をしてあげるんですか」

P「そうだな、夜景の見える超高級レストランでのディナーをご馳走してやるよ」

律子「……ちょっと安くないですか?」

P「お前な……おっと、もう時間だ。行ってくる」

律子「はーい……ふふ、随分余裕みたいだけど、どうなるかしらね」

律子「とりあえず、真に教えておきましょうか」


おわり



おまけ


「アカデミー主演女優賞受賞、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「それでは、お話を伺っていこうと思います。まず、この喜びを誰に伝えたいですか?」

「そうですね、やはり私を育ててくれた両親に。それと、昔の仲間にも直接会って話をしたいですね」

「なるほど。アカデミー主演女優賞にはこだわりがあるとお聞きしたのですが、なにか理由があるのですか?」

「ええ、ある人との約束……いえ、賭けみたいなものでしょうか」

「賭け、ですか」

「そうです。そして、見事私が勝ちを収めました。ふふ、あの人の吠え面が目に浮かぶよう」

「えっ……と」

「あら、失礼しました。さっきのところはカットでお願いします」

「は、はい。では次に……」

(ふふ、私は受賞できましたよ、だから……)

(ボクとの約束、ちゃんと守ってくださいね、プロデューサー)


今度こそ終わり

以上です

そういえば、真の誕生日もあったね
乗り遅れた感がすごいけど見逃してやってくだせい

真おめでとう!

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom