仁奈「もう夏が終わりやがります」 (21)

※モバマスSSです

モバP「あっづい…」

夏です。だいたい夏の終わりごろです

容赦なく照りつける太陽、火傷しそうなくらい熱いアスファルト、どこからともなく聞こえるセミの声、もう暦的には夏が終わるのにこれらの勢いが収まる様子が感じられません

滝のように汗を流す彼にあまり汗をかいていない羊のキグルミを着た少女が心配そうにしています

仁奈「だいじょうぶでごぜーますか?」

P「…俺としてはなんで仁奈のほうが暑くないんだと聞きたいんだけどね」

仁奈「んっふっふ…おねーさんたちが仁奈のキグルミをパワーアップしてくれやがったのです!」

胸を張ってそう答えた彼女を見て彼は「それはすごいな」と答えましたが、その少しあとに「…俺も暑さに強い社会人キグルミがほしいな」と漏らしたのを彼女は聞いていました

しばらく「暑いな」「暑そうでごぜーますね」と掛け合いながら先導する彼女に引っ張られて彼も背筋だけは伸ばして暑さに負けそうになりながらついていきます



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およそ20回目くらいの掛け合いをしたとき、彼は思い出したように彼女に質問しました。

P「そういえば「ちょっとついてきてくだせー!」って出てきたけど、どこに行くんだ?」

仁奈「…それはついてからのお楽しみってやつですよ」

P「さいで」

仁奈「そういえば今日はオフなのにどうして事務所に来やがったですか?」

P「厳密には事務所からでてきた仁奈にひっぱられてきたからまだ事務所には行ってないんだけどな。ってかその言い方はなんか傷つくなぁ…」

P「まぁ、なんでかって言うならせっかくの休みなんだしアイドルがレッスンしてるのを見るかーってな。普段ちゃんと見れないし」

仁奈「そのこころは?」

P「アイドルたちがレッスンすると汗をかくだろ、そんで今の季節は薄着になりがち、つまり汗で服が肌に張り付いてボディラインが丸見えのアイドルが見れる!と思って急いできた」

仁奈「…」

P「ほかの季節だとジャージとかで阻まれるからな…いってぇ!?」

黙っていたらもっと危ない発言が飛んできそうだと思った彼女はとなりに立つ不審者の手の甲をつねりました


何度かつねったり足を踏んだりしてじゃれあいながら2人は歩き続け、あるお店の前で足を止めました

そのお店は、周りの店と比べて外装がけばけばしいというかカラフルというか目に優しくない色で構成されていて、彼の目をつかれさせました

対して彼女は外装に負けないくらい目を輝かせて鼻息を荒くしています

P「…着いてからのお楽しみってここか?」

仁奈「違いますがここにもきたかったでごぜーます!」

仁奈「前におねーさんが「ここはかわいーのたくさんあるにぃ☆」って教えてくれやがったので!」

P「ふーん、きらりが…そうだな、たしかにきらり好みの店っぽい」

仁奈「まだまだ時間はあるので早く入るですよ!」

P「はいはい」

彼女は彼の手を強く握り、彼も応えるように軽く手を握り返してから2人で店内へ向かいます

そしてお店に入った2人は口を揃えて言います

P「ここは天国だ…」

仁奈「天国でごぜーますよここは!」

お店の中は猛暑の外と比べて冷房がよく効いていて涼しく、たくさんの可愛らしい小物や衣服にキグルミが並べられていました

仁奈「P!P!ちょっとあのキグルミをとってくだせー!」

P「はいはい」

仁奈「むふー♪」

キグルミを受け取りはねながら堪能してる彼女を横目に彼は彼で店内を見回します

P「ここは…いわゆるファンシーショップってやつか?」

P「でも、ファンシーショップにキグルミなんてあるのか…うーん…」

P「ま、深く考えてもしゃーない。きらりの勧めた店なら悪いこたないだろ」

と、1人でゴチていました


ひとしきりキグルミを堪能した彼女は惜しげにキグルミを彼に差し出すと、キグルミを元の場所に戻してくれと言いました

P「うん?買わなくていいのか?」

仁奈「仁奈はこれを買えるくらいのお金を持ってちゃだめでごぜーます…」

P「あーうん、確かに。まだ仁奈は小さいから大金持つのは危なっかしい」

仁奈「うぅ…」

そう言ってうなだれる彼女の頭を優しく撫でた彼は同じように優しい声で彼女に言います

P「なので、大金持てる大人な俺がこのキグルミを仁奈にプレゼントしよう」

仁奈「買ってくれやがるんですか!」

P「そうだ!今日は俺の誕生日だしな!」

仁奈「…?どうして今日誕生日だから仁奈に買ってくれやがるんです?」

P「誕生日ってだけでめでたいだろ?それが誰であろうと」

P「で、今日は俺がめでたい日だから仁奈にめでたさおすそわけだ!」

P「つかまぁさっさとキグルミ買うぞ!」

仁奈「なんかよくわからねーですけどありがとーごぜーますー!」

彼女はぽひぽひ跳ねて喜びました

彼もキグルミを意気揚々とレジに持って行きましたが、思ったよりの出費で彼の笑顔が固まりました

そうして、涼しい店内から出て彼はまたため息をはきました

P「あっづい…」

仁奈「仁奈もちょっと暑くなってらかやがりました…」

P「このキグルミも防暑処理されると良いな、この…とかげ?のキグルミ」

仁奈「それはバジリスクのキグルミでごぜーますよ!」

仁奈「バジリスクのキグルミを着たら水の上を走れるようになります!」

P「なにそれスゴい」


P「そんで、これからどうするんだ?」
 
仁奈「あそこに行くですよ!」

そう言って彼女は小さな手で行き先をまっすぐ指さしました
 
彼が彼女が指したところを目線で追って答えます
 
P「デパート?」
 
仁奈「そうです!さっさと行きやがりますよ!」

P「おい、ちょっと待てって」
 
走り出した彼女を追って彼も小走りで追いかけました
 
走っている途中で「男性が大きなぬいぐるみを持って少女を追いかけている」とのことでおまわりさんに捕まりそうになりましたがなんとかなりました

そして2人はデパートに無事着きました。そしてさきほどのファンシーショップに入ったときと同じように

P「寒い…」
 
仁奈「寒いです…」

天国…ではなくその逆に地獄に来た罪人みたいになっていました

デパートまで走って汗だくになった状態で冷房の効いたところに来たのだから当然です

仁奈「プロデューサー、このお店に向かってくだせー」

彼女はキグルミのポケットからメモを取り出して彼に差し出しました

彼はしゃがみこんで彼女のメモを見せてもらうと、暑くないはずなのに汗をかきはじめました

P「仁奈、このメモ誰からもらった?」

仁奈「美嘉おねーさんたちでごぜーます」

P「あいつらか…」

そう言って彼の手から落ちたメモには「雫ちゃんや早苗さんでもつけれる水着見繕ってね♪もちろんアタシたちの分もだよ→」と書かれていました

 
彼が落としたメモを拾ったと同時に、ポケットから黒電話が鳴る音が流れました
 
彼は、ポケットからケータイを取り出すと画面を見て一息ついてから電話に出ます

P「はい、もしもし」

??『プロデューサー?そろそろデパート着いたころだと思うけどメモ見てくれた?』

P「ちょうど今見たところだ。ちなみに丁重にお断る」

??『あはは!まーそういうと思ってたよ!』

電話の相手をしているので彼にほっとかれた彼女は「だれでごぜーますか?」と彼の裾を引っ張りながら聞きます

彼は口の動きで「み」「か」と彼女に教えたつもりでしたが彼女には「い」「あ」としか伝わりませんでした

美嘉『もしもーし?』

P「おぉ、すまない。なんだっけ?」

美嘉『もう!水着は冗談だから飲み物買ってきてって話だよ』

P「そうだっけか、てか事務所の近くのコンビニとかでいいだろ」

美嘉『今日は女子寮の前でBBQやるからたくさんほしいの!』

P「…あー、肉とか買えるものも買って持っていくよ。じゃーな」

彼は返事を聞く前に通話を切りました。そして、視線を落としながら語ります

P「今日は俺の誕生日ってーの教えてないからあいつらが知るわけない」

P「でも、今日に限って俺を差し置いてBBQとかへこむなー…」

P「仁奈もそう思うだろ……って、仁奈?」

彼の愚痴を聞いていると思った彼女は彼のそばにおらず、彼は虚空に愚痴を漏らしているだけでした

彼はそんな自分の置かれた状況を理解してため息をついて肩を落としました。が、

P「それよか仁奈が迷子になってるじゃないか!」

すぐさま気を取り直してデパートの中を迷惑にならない程度の速さで駆け始めました


結果、彼と彼女はわりとすぐに合流できました

彼が彼女を追っている途中でティンときた女の子を見つけたのですかさずスカウトしようとしたところ不審者扱いされて騒ぎになっているところを彼女が見つけたので大事にならず彼は助けられました

P「それにしても、電話している間にどこ行ってたんだ?」

仁奈「もうしわけねーです。かさねてもうしわけねーです…」

P「謝るほどじゃないさ、すぐ見つけてくれたし」

仁奈「仁奈のときもあんな感じでごぜーましたがプロデューサーはいつかくさいごはんを食わされますよ?」

P「それだけは勘弁願いたいな…」

仁奈「それで、その大荷物はなんでごぜーますか?よかったらおしえてくだせー」

P「あぁ、聞いてくれよ。美嘉が俺をいじめたんだ」

仁奈「プロデューサーはいつもだれかにいじめられてるですよ」

P「…そうだったな。今日に限った話じゃないな」

P「まぁこの荷物を持って歩いて帰る気はないのでタクシー使うか」

仁奈「それはごーせいでごぜーます!ふとっぱら!」

仁奈「それで日頃運動不足のプロデューサーはビールばらになるですよ」

P「今日の仁奈はなんだかけっこうトゲがあるな!?」

仁奈「きのせーです」


2人とたくさんの荷物を載せたタクシーが事務所の前に着き、タクシーから降りた彼がぶすくれながら言いました

P「車の中で話したとおり、俺は機嫌が良くないので荷物を渡したら即帰る」

タクシーに乗ってる間、ずうっと彼が不機嫌だったのにあてられたのか彼女もまたぶすくれています

仁奈「仁奈の時はめでたい気持ちをおすそ分けと言ってやがりましたが先にめでたいことされてるとプロデューサーは機嫌が悪くなりやがるんですね」

P「うっ…」

仁奈「なんというか、それはとても大人気ねーです」

自分よりひとまわり以上ちいさな子にそんなことを言われ、彼はぐうの音も出ませんでした

そんな彼の様子を見た彼女は「でも」と切り出します

仁奈「そんな大人気ないプロデューサーに仁奈は感謝してるですよ」

仁奈「今日だってキグルミ買ってくれやがりましたし、たくさんキグルミのあるお仕事をやらせてくれやがりました」

仁奈「だから、これは仁奈の気持ちです。受け取ってくだせー!」

そういって彼女はキグルミの中からきれいに包装された箱を取り出して彼に渡しました

P「これは?」

仁奈「さっきデパートでプロデューサーが電話してる間に買ってきたですよ」

P「開けていい?」

仁奈「どーぞどーぞ!」

あまりのことに対応しきれてない彼はもたもたときれいに包装をはがし始めました

それが彼女にとってあまりに歯がゆかったので、事務所の扉を開けて

仁奈「早く事務所に入るですよ!」

そう言って彼を突き飛ばしました

無防備だった彼は急な膝カックンに耐えられるわけがなく、面白いようにバランスを崩して事務所の中に転がり込みました

彼が事務所に倒れ込んで、起き上がろうとすると自分の周りを囲まれていることに気づきます

そして周りを囲む彼がよく知る面々の手にクラッカーが握られているのを確認して――

ぱーんぱぱんぱーん

「「「プロデューサー!誕生日おめでとう!!」」」

さきほどまでの自分はアホだったなと彼は思いました


そのあと、日が暮れ始めたのでさっさと事務所を閉めて彼や彼女たちは女子寮へ向かいました

そのさい彼が「誕生日教えてないはずだけど?」と聞きましたが、誰からともなく「履歴書見せてもらった」「ちひろさんから教えてもらった」などなどプライバシーの欠片もないセリフの数々に彼は大きなため息をつくことしかできませんでした

しばらくぎゃいぎゃいと大所帯で移動し、道中でファンに見つかったり逃げたりして女子寮の前までつくとすでにほかのアイドルがBBQの用意をしていました

彼がそれを手伝おうとしましたが「あほう!主役はゆっくりしとけ!」と一喝されてしまい、彼は手持ち無沙汰になりました…ということはなくアイドルたちから運動靴だったりカブトムシだったり杏ちゃんだったりたくさんのプレゼントをもらっててんてこ舞いでした

そうこうしてるあいだにBBQの用意ができたのでみんなで食べ始めます

彼が買ってきた食材があっという間になくなって、一度買い出しに出かけることになりました

誰が買いに行くかで少しもめましたがじゃんけんで負けた2人が行くという案で落ち着き、彼と彼女が負けたので2人は近場のスーパーに行くことになりました

彼と彼女がスーパーに向かって歩いているとき、突然彼が言いました

P「仁奈、なんか元気ないけどどうした?」

仁奈「そ、そんなことないですよ!どーしたでごぜーますかプロデューサー?」

いきなりそんなこと言われた彼女は驚いて早口に返事をします

P「いやー…ねぇ、なんとなくというか仁奈元気無さそうだなーって思っただけ」

仁奈「…」

それを聞いて彼女は黙ってしまいます。返事がなかったので彼は

P「元気ならいいけどなんかあったら俺にでも誰でもいいから話してくれなー」

と言って、となりに彼女がいないことに気づいて後ろを見てぎょっとしました

キグルミのすそをにぎりしめて立っている彼女の目が今にも泣きそうになっていたからです

彼と視線があった彼女は震えた声で思いをこぼします

仁奈「P、仁奈はアイドルできていやがりますか?」


P「…」

仁奈「今日、2人でおでかけしやがりました」

仁奈「とても楽しかったですよ」

仁奈「でも、街中を歩いても誰も仁奈を仁奈だと気づいてくれなかったですよ」

仁奈「さっきだってみんなで歩いてるときにファンのやつらに見つかりやがりましたが」

仁奈「それは仁奈を見つけたんじゃなくてほかのおねーさんたちを見つけたんです…」

仁奈「ぜーたくかもしれねーですけど、仁奈は悲しかったんですよ…」

P「…大丈夫だ」

仁奈「なにがだいじょうぶなんでごぜーますか!」

仁奈「仁奈は早く一人前のアイドルになりたいですよ!」

P「…」

仁奈「そしてPに恩返しがしたい!たくさんのおねーさんやアイドルを支えるPのお荷物にならないようになりたいです!」

仁奈「だけど今日なんて仁奈よりPのほうが目立ってたでごぜーますよ!」

仁奈「早くアイドルになりたいよぉ…」

P「仁奈」

仁奈「…なんでごぜーますか?」

P「仁奈はまだ一人前じゃないけどちゃんとアイドルできてるよ」

仁奈「ほんとでごぜーますか?」

P「ほんとさ、今日行ったファンシーショップでキグルミ買ったよな?」

仁奈「?…はい」

P「会計の時に思ったより高くて俺は焦ったんだが「仁奈ちゃんにきてもらえるなら」って店の人が安くしてくれたんだぞ」

仁奈「…」

P「デパートでだって仁奈がいなくなったときだって近くにいた人が「仁奈ちゃんあっちいったよ」って教えてくれた」

P「まぁ、途中でティンときた子がいてスカウトしようとしたのはごめんな」

P「そんでまぁ、仁奈は知らないかもしれないけど仁奈のファンは確かにいるんだよ」

仁奈「…うん」


彼の話が終わり、彼女が泣き止んだころに彼のケータイに食料催促の電話がきて2人はあわててスーパーに向かいました

急いで買い物を済ませてスーパーを出ると、すっかり外は暗くなってました

P「いい具合に暗いからBBQ終わったら花火できそうだな」

仁奈「仁奈はねずみ花火やりてーです」

P「気をつけてやるんだぞ」

P「夏の最後の思い出にやけどとかシャレにならんからな」

仁奈「もう夏が終わりやがりますね」

彼が「そうだなぁ、残暑がきびしそうだけど」と言おうとしましたが彼女が「でも」と続けます

仁奈「もう夏は終わりやがりますが、仁奈はまだまだおわらねーですよ!」

仁奈「P!さっきわたした仁奈のプレゼントもっていやがりますか!」

「そういえばあったな」と彼がポケットから小さな箱を取り出すと、彼女がそれを奪いました

P「おいおい、それどうするんだ?」

仁奈「これはPへのプレゼントの予定でしたがぼっしゅーです!」

P「えええぇぇぇ!?」

仁奈「でも、誕生日プレゼントをもらえないPがかわいそうなので違うものをあげます!」

P「ほう?」

仁奈「Pへの誕生日プレゼントは今日生まれ変わった仁奈です!」

仁奈「大事にトップアイドルまでそだててくだせー!」

大きく胸を張ってそう言い切られた彼は驚いた顔をして、それから嬉しそうな顔になりました

P「あぁ!仁奈が途中で嫌だといってもひっぱってやらぁ!」

仁奈「そしたらまずは早く花火やりに帰りやがりますよ!」

P「しゃーおらー!」


おしまい


P「そういやあの誕生日プレゼントほんとうに没収なの?」

仁奈「いや、あげるでごぜーますよ」

P「ほんとか!ありがとう!……イカの形したタイピン?」

仁奈「サメとまよいやがりましたがイカにしたですよ!」

P「…おう!ありがとう!」


こんどこそおしまい


おつかれさまでしたー

html依頼出してきマース

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