ドミニカ「星を見に行こう、ジェーン」 (16)

――――――――――504基地

タンクトップ姿の大将がそんなことを言ったのは、食事の後。

マルチナ少尉と、ルチアナ曹長が“何となく”の夜間哨戒任務に出かけ

他の隊員が自室に戻り、体を休めている時のことだった。


ジェーン「星、ですか?」

ドミニカ「そうだ、星だ」


それまで大将は、M1917リボルバーのシリンダーをカチャカチャと回していたり

書き連ねられた字で真っ黒な書類を流し読みしていた私を、チューインガムを噛みながら眺めていたのだ。

それなのに、前触れのない、突然の、星を見に行こうというお誘い。

……いきなり、なんてのは、もう慣れっこなのだけれど。


ジェーン「……良いですよ」

ドミニカ「よし」


特に拒否する理由もなかったので、私はそんな彼女の誘いを快く受けいれた。

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大将は、薄手のシャツに腕を通し、私の手を引いて

月の光だけが照らす、うすぐらい基地の廊下を歩いていく。

こつ、こつと、私と大将の二つの足音だけが無機質に響く。

どこに向かうのだろう? どこで夜空を見るのだろう?

とボーっと考えていると、私たちはハンガーに到着した。


ジェーン「ストライカーを使うんですか?」

ドミニカ「いや」


私の質問にNOと答えると、大将は外にとまっているキューベルワーゲンを指さした。


ジェーン「えっ、アレを使うんですか?」

ドミニカ「あぁ、そうだ」

大将は、ポケットから鍵を取り出して、私に見せる。

私が、“許可を取らないとダメですよ”と言おうとしていたことが分かっていたかのように。


ドミニカ「竹井には許可をもらった」

ジェーン「そうでしたか」

ドミニカ「本当はストライカーを使いたかったんだが」
    「タンデム用の」

ジェーン「うちにはないですもんね」


キューベルワーゲンに乗り込み、エンジンをかける。

ブロロン、と力強い音を立てると、彼女は、私たちを乗せて動き出した。

上を見上げれば、既に星空が広がっている。

それなのに、車で移動するのには、彼女なりに訳があるのだろう。

そう思って、私はその点に関しては何も言わないことにした。

私たちは、彼女に時折荒々しく揺らされながら

ジープよりも乗り心地はいいだとか

しかしジープの方が優れているだとか

今日の竹井大尉の料理は美味しかったとか

ぽつりぽつりと他愛のない話を交わしていく。

どちらかが知っていて、どちらかが知らない話はほとんどないから

2人きりの時に特別話すことはそれほど多くないのだ。


ドミニカ「着いたぞ」


明日の晩御飯のメニューはアクアパッツァだろうか、と話し始めたころ

私たちは目的地へとたどり着いた。

そこは、小高い丘で、先には小さな家が数件

さらにその先には微かに海が見えるような、見晴らしの良い場所だった。

大将がエンジンを止めると、そこらじゅうから虫の鳴く声が聞こえた。

ジェーン「見晴らしの良い場所ですね」
     「いつ見つけたんですか?」

ドミニカ「2日前に哨戒任務があっただろう」
    「その時に見つけたんだ」


哨戒任務は、こういった素敵な場所を見つけるためにやるのではないのですよ。

と、言おうと思ったけれど、野暮なことだと思い口をつぐむ。


ドミニカ「ほら、見てみろ、ジェーン」

ドミニカ「綺麗な星空だ」


大将に言われて、空を仰ぐと

幾千、幾万もの宝石がちりばめられたかのような

美しい星空がひろがっていた。

出発する際、基地で何気なく眺めた時よりも

星は明るく輝いていて、ミルキーウェイもはっきりと流れていた。

目の前の世界の広大さと、自分のちっぽけさをまざまざと感じさせられ

私は言葉を失った。

大将は、ゆっくりとこちらを向く。

それに合わせて、私も彼女に目を向ける。


ドミニカ「私がここにお前を連れてきたかった理由が分かったろう」

ジェーン「……はい」

ドミニカ「だが、今日という日を選んだ理由がまだ分からないはずだ」

ジェーン「今日でなければならないんですか?」

ドミニカ「あぁ。 ……明日でも明後日でも大丈夫かもしれないが」
    「今日が一番都合が良い」

ドミニカ「しばらく、見ていたら分かる」


そう言うと、また彼女は、夜空に目線を戻した。

私も同じく、夜空を眺める。

声はしなくなり、虫の奏でるメロディだけが響く。


ジェーン「……――あっ」


と、夜空に一筋の光が流れていく。

星屑の川を横切るように流れた光は、私の一瞬発した音よりも、はやく消えて行った。


ドミニカ「見えたか?」

ジェーン「流れ星」

ドミニカ「あぁ」


一粒流れた光がきっかけとなったかのように

いくつもの明るい粒が、夜空を走り抜けていく。

そのたびに私の胸は高鳴って、目は釘付けになっていく。

ドミニカ「……今日は、ペルセウス座流星群が観測される日だそうだ」

ジェーン「……流星群」

ドミニカ「ラジオでやっていたんだ」

ドミニカ「星の見える場所を見つけたから、ちょうどいいタイミングだと思って」
    「お前をここに連れてきた」


私たちは、出会ってから

いつも、同じ時間を過ごして

同じ痛みを、悲しみを、喜びを、幸せを感じながら生きている。

今日、この場所にいることも、

きっと、彼女が時や気持ちを共有したいと思ったからなのだ。

私にとって大将は、なくてはならない存在だけれど

大将にとっての私も、なくてはならない存在なのだと言われているような気がして

とても、嬉しかった。



「なあ、ジェーン」

「はい、なんですか、大将」

「流れ星は、どこへおちるのだろうか」

「……どこへ」

「太平洋におちるのだろうか」

「地中海かもしれません」

「アルプスの頂上」

「アダムスの頂上?」

「賑やかな町におちるのかもしれない」

「静かな森の深くかもしれませんね」

「そうだな」





「……もし」

「はい」

「もし」
「お前が流れ星だとしたら」

「……はい」

「ジェーン、お前はどこにおちたい?」

「……私は」
「……私は、貴女の、胸の中におちたいです」

「……」

「大将は」

「……」
「私も同じだ、ジェーン」




「どんなにこの世界が広くても」

「どんなにお前が小さくても」

「必ず見つけ出して、その胸へ飛び込んでいくよ」


「はい」


「愛してる、ジェーン」


「はい」

「私も――」


星の降る夜

私の唇には

キスが、おちた


<FIN>

念願のドミジェン書きまスター。
地の文考えんのめんどくセイ。
結京とエイラーニャと渚静とその他いろいろとで悩みました。

ドミジェン増えてホシい。
さようなら。

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