花帆「梢ちゃ~ん!」梢「!?」 (88)

したらば投下分の修正版です

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梢「か、花帆さん…?その呼び方は…」

花帆「えっ!?どうして私の名前を知って……」

花帆「あ、もしかしてファンレター読んでくれてたんですか?!すごいすごい!梢ちゃんに認知されるなんて夢にも思わなかったよ~!」

梢「……花帆さん?」

花帆「そうだ!今度のFes×LIVEも絶対観ますね!東京から応援しています!」

梢「???」

梢(わけがわからないのだけれど…)

梢(どういうことなのかしら…これは……)

花帆「まさかまさか!念願の金沢旅行で憧れの梢ちゃんに会えちゃうなんて…!」

梢「旅行…?」

花帆「はい!1泊2日で遊びに来ているところなんです!」

花帆「あ、あの、失礼を承知でお願いがあるんですけど…いっしょに写真いいですか!?」

梢「え、ええ…私はかまわないわ」

花帆「ほんとですか!!やったー!!ありがとうございます!!」パァー

花帆「いきますよー?はいチーズ!」

パシャリ

梢(写真ならいつも二人で撮っている…わよね?)

梢(どうして仰々しくお願いなんてするのかしら)

花帆「あれ?」

花帆「そういえば梢ちゃん…プライベートではポニーテールじゃないんですね」

梢「えっ…?」

花帆「サイドに結んだ梢ちゃん…!貴重なレアショット手に入れちゃった~!妹たちに自慢しよーっと!」

梢「…待って!」

花帆「ひぃ!…やっぱり肖像権的にだめでしたか?」

梢「そ、そうじゃなくて…!私はいつもこの髪型なのだけれど」

花帆「そうなんですか?じゃあ配信のときだけポニーテールなんですね!」

梢「?????」

梢(話がまったく噛み合わないわ…)

梢(また慈が企んでいる…?でも花帆さんからは嘘をついているにおいは感じないし…)

梢(なにかしら…この違和感の正体は……)

梢「……あなた、本当に日野下花帆さん?」

花帆「えっ……ど、どうして私の苗字まで知ってるんですか…?」

花帆「ファンレターには名前しか書いてなかったよね…?ちょっと怖いです…」

梢(この反応…いつもの花帆さんそのもの…)

梢(しかし、この子は…私の知る花帆さんではないような…)

梢(どうなっているの…?もうちんぷんかんぷんだわ!)

梢(…とにかく、もっと詳しく状況を探る必要がありそうね)

梢「ねえ花帆さん?少し話がしたいのだけれど…ついてきてもらえないかしら」

花帆「え、いやです」

梢「!?」

花帆「実は私…よくない噂をすこーしばかり耳にしてまして…」

花帆「梢ちゃんは…その…DMでファンの子を誘っては食い漁ってるって…」

梢「でーえむ…?」

花帆「いや、私は信じてなんかいないですよ?ほんとです!」

花帆「梢ちゃんはとても誠実な人だと思っていました!ほんとに!!」

花帆「……ついさっきまでは」

梢「人聞きが悪いわね?!そんなことしないわ!」

花帆「…そうなんですか?」

梢「ほら、あそこのおでん屋さん!いっしょにお食事でもどう?」

花帆「おでんー!金沢に来たら最初に食べたかったんです!行きましょうー!」

花帆「えへへ~♪梢ちゃんとおでん食べられるなんて夢みたいですよ~」ハイ!ニタマゴデス!

梢「そ、そう…よかったわ」アリガトウ

梢(言動には違和感があるのだけれど…どこからどう見ても花帆さんなのよね)

梢(違いといえばバッグクロージャーの有無と…私との距離感…私への呼称…)

梢(正直、なにが起こったのかさっぱりだわ…)

梢「あなたは日野下花帆さん」

花帆「…はい」モグモグ

梢「私は乙宗梢」

花帆「禅問答…?」

梢(……なのだけれど)

梢(いま目の前にいる花帆さんは…私の知っている花帆さんとは別人だという考えが確信に変わってきたわ)

梢(そして、花帆さんが認識しているポニーテールの梢ちゃん……)

梢(これもまた…私とは別人よね…?)

梢(つまり、花帆さんと私……それぞれに似て非なる者が存在している…?)

花帆「いやー…まさか梢ちゃんに会えるなんてねぇ…奇跡としか思えないですよ…!」

梢「……」

梢(さまざまな推測がよぎる中…ぱっと思い浮かんだのは前に読んだ本のこと……)

梢(金沢を舞台にした小説で…主人公は自分が存在していない世界に迷い込み…そこで生まれてこなかったはずの姉と出会う……というあらすじね)

梢(フィクションにすがるのも我ながら馬鹿らしいと思うのだけれど…いま考えられる可能性はこんなものしか……)

花帆「…あの、梢ちゃん?」

梢「!ご、ごめんなさい…少し考えごとをしていて……なにかしら?」

花帆「あぅ、すみません……私ばっかり喋ってましたよね…迷惑でしたか…?」

梢「そんなことないわ!もっとあなたの話を聞かせて頂戴」

花帆「え、いいんですか…?」

梢「もちろんよ!花帆さん、金沢には旅行に来ていると言っていたけれど…今はどちらの学校に?」

花帆「えっと…東京です……スクールアイドルが有名な学校でして…」

梢「そう…金沢と比較できないほどの大都会ね」

花帆「あ、あはは…」

梢「東京の学校にいるのならどうやって私…」

梢「…いえ、乙宗梢のことを知ったのかしら?」

花帆「え?それはファンレターに書きましたよ」

梢「!?…そ、そうだったわね?でも改めてあなたの口から聞いてみたかったのよ!」

花帆「ああ、そういうことですね!」

花帆「私がスクールアイドルの動画にハマってる話をしたら妹たちがスクコネのことを教えてくれたんです」

花帆「いろんなスクールアイドルを観ているうちに蓮ノ空に辿り着き…そこで梢ちゃんに出会えたんです!まさに運命ですよ!」

梢「…ふふっ、私たちは赤い糸で結ばれているのかもしれないわね」

花帆「…?なんの話ですか?」

梢「な、なんでもないわ!」


梢(…間違いなさそうね)

梢(ここは私のいた世界とは別の……裏面世界)

梢(花帆さんが蓮ノ空を選ばなかった世界線なのね…)

梢(思えば…私が今朝"DXシロモ"を買いにお店へ出向いたときのこと…)

梢(ちょうど最後の一点が売り切れたとかで店員さんに平謝りされ…ショックで私は眩暈に襲われて……)

梢(……気づくと、商品棚には売り切れだったシロモがいて…店員さんは何事もなかったかのように営業スマイルでお会計をしてくれたわ)

梢(私がこの世界に迷い込んだのはきっとあのタイミングね…?)

梢(花帆さんが都会の学校に通い…私がポニーテールになり…DXシロモが売り切れなかった世界……)

梢「…ふふっ、あなたとも運命で結ばれているかも」ナデナデ

シロモ『PUIPUI』

花帆「あっ!カバンから顔を覗かせてるそれってまさか…噂の"DXシロモ"ですか?!」

梢「まあ!花帆さんも知っているの?!」

花帆「はい!金沢で売っているという噂を聞きつけたので旅行のついでに買うつもりだったんです!」

梢「あっ…ごめんなさい」

花帆「どうして謝るんですか…?」

梢「実はこの子が最後の一体だったの…それを私が……本当にごめんなさい…」

花帆「いえ、いいんです!梢ちゃんへのプレゼント用だったので無事に買えたならよかったです!」

花帆「それにしても梢ちゃん…モルカー大好きですよねー?普段とのギャップも相まってすっごくかわいいです!」

梢「モルカー…」

梢(こちらの世界の乙宗梢もモルカーに魅了されている…?やはりどの世界でも私は私なのね)

梢(……そういえば)

梢(裏面世界にも梢がいるなら…今どこにいるのかしら…?)

梢(こちら側の梢……花帆さんに合わせて"梢ちゃん"と呼びましょうか)

梢(梢ちゃんは今…この世界にいるのかしら?)

梢(あるいは私と入れ替わって私の世界に……)

花帆「金沢おでん!すっごくおいしかったです!ごちそうさまでしたー!」

梢「喜んでもらえてなによりだわ」

花帆「じゃあお会計を…」

梢「大丈夫よ!私が支払うから」

花帆「で、でも…」

梢「あなたを誘ったのは私よ?だからここは任せて頂戴」

花帆「梢ちゃん…!はいっ!」

店員「ありがとうございましたー!お会計は…」

梢「カードで」スッ

花帆「梢ちゃん…!カッコいい~!」

梢(なぜ裏面世界に迷い込んだのか…どうすれば帰れるのか…そして梢ちゃんの行方は……)

梢(まだまだわからないことばかりね…さて、どうしたものかしら…)

梢(…そうよ!寮の自室に行ってみましょう)

梢(もし梢ちゃんがこの世界にいるのなら…自室で待っていれば必ず会えるはず……)

店員「…あの、お客さま?こちらのカードはご利用いただけないみたいです」

梢「…えっ?」

梢「お、おかしいわね…前に来たときは使えたのだけれど…」

店員「いえ…?以前から変わっておりませんが…」

梢(ここにも世界の変化が…?確かにシロモを購入する際にもなぜかカード払いができなかったのよね…)

梢(仕方ないわ…ここは現金で……)

梢「……」

花帆「…梢ちゃん?」

梢「私のおこづかい全額…シロモにつぎ込んだのを失念していたわ…」

花帆「えっ」

梢「か、花帆さん……断腸の思いなのだけれど…」

梢「……お金…持っていないかしら……?」

花帆「梢ちゃん…」

マタノオコシヲー!

梢「本当にごめんなさい……花帆さんに奢ってもらうだなんて…」

花帆「いいんです!あの梢ちゃんとおでん食べられたんですよ?!こんなの何億ptギフト送っても足りないくらい凄いことです!!」

花帆「梢ちゃんにダイレクト貢ぎできて私は幸せでした!だから気にしないでください!」

梢「…それでも先輩としての矜持が許してくれそうにないの」

梢「少し待っててもらえるかしら?ATM…というもので工面してくるわ」

花帆「あ…はい」


「……あれ……んー…どうして…」

「お願い…機械さん……カードを吐き出さないで…!」

「反芻してもあなたが苦しむだけよ…?!大人しく受け入れて頂戴…!!」


梢「……ごめんなさい、機械さんとは絶交したわ」

花帆「なにがあったんですか!?」

梢(元の世界のカードはどれも使えないみたいね…)

梢(これじゃあ帰りのバスの運賃すら……でもこれ以上…花帆さんを頼るわけには……)

梢「はあ……」

花帆「……」

花帆「梢ちゃん…このあと予定とかってありますか?」

梢「いえ?特にはないけれど」

花帆「!!だ、だったら…」



花帆「私ときょう一日……デートしてください!」

梢「!?」

梢「で、デートぉ…?!」

花帆「はい!」

梢「花帆さんと……私が…!?」

花帆「はいっ!!」

梢「……お誘いはうれしいのだけれど…」

梢(きっと私に引け目を感じさせないため…花帆さんなりの気遣いなのよね…?)

梢(だけど、金銭を払ってのデートというのはちょっと…世間体的にあまりよろしくないような…)

梢(それに私は……花帆さんの慕う梢ちゃんとは別人で……)

花帆「……ダメ…ですよね……あはは、私ったら思い上がっちゃって…恥ずかしいなあ…」

梢「!」

花帆「ちょっと優しくしてもらっただけで…仲良くなれたと勘違いするなんて……ほんと、バカだなあ…」

花帆「こんなだから…私は……」

梢「…待って!」

花帆「……梢…ちゃん…?」

梢「花帆さんは金沢に来るの……初めて…なのよね…?」

花帆「ええ、はい…」

梢「…だったら!私が金沢を案内するわ!」

梢「観光案内ならやましいことはないでしょう?」

花帆「!!……いいんですか…こんな私のために…」

梢「花帆さんだからこそよ!さ、行きましょう!」

花帆「……はいっ!!!」

梢(茶屋街で食べ歩き…神社仏閣を巡り…今は無き金沢城跡を望み…そして兼六園でまったりと話に花を咲かせる)

梢(行き当たりばったりな弾丸ツアー…なのに花帆さんは目をキラキラ輝かせて楽しんでくれた)

梢(交際費や交通費を支払ってもらうのは忍びなかったのだけれど……)

花帆「あ、あの……じゃあ…」

花帆「私の頭…なでてもらえませんか…?」

梢「頭…?」

花帆「はいっ!一回なでるたびに10円チャージされます!」

梢「…なるほど、これで支払えばいいのね」ナデナデ

花帆「えへへ~!最高のご褒美です!」

梢(私のほうがご褒美なのだけれど?????)

梢(別世界とはいえ…こんなにもかわいい花帆さんを目いっぱい愛られるなんて…!)

梢(…僥倖よっ!!!)フラワー!

オマタセシマシター

花帆「わぁぁ…!これがハントンライス…!!配信でいつもおいしそうだなぁ~って思ってたんです!」

梢「ここのお店のは特に絶品なの」

花帆「へー!よく来るんですか?」

梢「…ええ、まあ」

梢(花帆さんとふたりっきりで…ね)

花帆「はい、取り分けておきました!」ハントン!

梢「!?私も食べるの…?」

花帆「もちろん!私ひとりじゃ食べきれませんよ!」

梢「そうね…じゃあいっしょに食べましょうか」ナデナデ

花帆「はいっ!」

花帆「んんっ~♪」モシャモシャ

梢「…ふふっ」

花帆「ん?私の顔になにか付いてますか?」

梢「いえ…なんでもないわ」


梢(花帆さんは本の話や地元のこと…家族との思い出を饒舌に語ってくれた)

花帆「で、こんなことがあったんです!私ほんと感動しちゃって…あ、それから~……」

梢(それと、うっすら勘づいてはいたのだけれど…)

梢(この世界の花帆さんは…スクールアイドルをしていなかったわ)

梢(バスに乗り停留所を6駅…)

花帆「ここが県立図書館…!今日ぜったい来ようと思っていたんです!」

梢「あら、そうだったのね」

花帆「梢ちゃんが案内してくれる場所…ぜーんぶ私の好きなところです!なんでわかるんですか…?もしやエスパー?!」

梢(当然よね…私のよく知る花帆さんが好きな場所を選んでいるんだから)

梢(…ここまで過ごしてよくわかったわ…どちらの世界の花帆さんにも違いはない)

梢(あるのは環境の差だけで花帆さんらしい部分はすべて同じだもの)

花帆「わぁー…!すごい開放的で幻想的…!まるで本の中の世界ですね!」

梢「しーっ…ここは図書館よ?」

花帆「あっ、そうでした…」

梢「ふふ…さあ、本を見つけましょう」

梢(…ここに来た目的は観光案内だけではないわ)

梢(元の世界に帰る方法…)

梢(原因も解決法もなにもわかっていない現状…もしかしたら二度と帰れないかもしれないわ……)

梢(そうならないよう…なんとか手掛かりになりそうなものを探さないと…!)

梢「……うん、これがよさそうね」ペラッ

花帆「リゼロ…?梢ちゃんラノベ読むんだ…意外…」

梢「……」ペラペラペラッ

梢(ダメね、どれも参考にならないわ…)

梢(どうして異世界転生した主人公は元の世界へ帰りたいと思わないのかしら…?)

梢(あるいは、この主人公たちの思考回路が一般的で…帰ろうとしている私のほうが異端なの…?)

梢「わからないわ……ん?」

花帆「~♪」

梢「スクールアイドルの雑誌……花帆さんは本当にスクールアイドルが好きなのね」

花帆「はい!」

花帆「あ、今ちょうど去年のラブライブ決勝グループの特集ページ読んでるんですけど…」

梢「決勝、ねぇ…」

梢「全国各地の錚々たる強豪校が集うスクールアイドル最高峰の舞台……」

梢「今年こそみんなで…そのステージに立ってみせるわ」

花帆「……えっと、梢ちゃん…?」

梢「ん?なにかしら」

花帆「いや…びっくりしました…なんの冗談かと思いましたよ~」

梢「冗談…?」

花帆「またまた~!ほら、証拠ならこのページに載ってますからね」



『決勝進出 蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』

梢「!!?」

梢「……け、…けっっっっっ!?」

花帆「しーっ!ここ、図書館ですよ」

梢(な、なななんなのこれは…?!)

梢(決勝進出……?蓮ノ空が……?)

梢(何度見ても間違いない……私と綴理と慈…そして校名を冠したグループ名……)

梢「……ま、まさか…」

梢「こちらの世界の私たちは…ラブライブ決勝まで登り詰めた…というの…?」

花帆「世界…?」

梢「あ、いえ……その、去年の私たちは…決勝の舞台に立った…のね…?」

花帆「そうですよー!梢ちゃんが他2人を引っ張り…当時1年生だけで躍進を遂げたじゃないですか!」

花帆「私が蓮ノ空を知ったのもちょうどその時で…妹たちといっしょにライブで応援してたんです!」

梢「……」

梢(あまりに衝撃的な事実を知らされ…すべてが吹き飛んだわ…)

梢(あら?ここに来た目的はなんだったかしら…私のこころは上の空……)

梢(…そう…そうなのね)

梢(梢ちゃんは……うまくやれたのね…?)

梢(気づくと私たちはイオンの側にいた…どういった経路を辿ったのか覚えていないけど…)

花帆「ぜえ…ぜえ……遠かった…!」

梢「あそこに公園があるから少し休憩しましょうか」

花帆「……はいっ」

梢(黄昏時ね)

梢(梢ちゃんたちがラブライブ決勝に進めたという事実を知ってから…そわそわして落ち着かないわ……)

梢(月末に迫ったラブライブ地方予選……練習を遅らせるわけにはいかない…早く向こうの世界に戻らなきゃいけないのに……)

梢(ああ、焦燥だけが募る…私はどうすれば……)

ピタッ

梢「ひゃあっ!?」

花帆「えへへっ!梢ちゃんのレアな反応ゲットです!」

梢「か、花帆さん…」

花帆「はい、午後ティー買ってきました!梢ちゃんは紅茶好きですもんね?」

梢「え、ええ…ありがとう花帆さん」ナデナデ

花帆「いえいえ!滅相もないです!」

梢(甘々……まるでスリーズブーケのような飲料ね…)

梢(夕風が体を震わせる……花帆さん…もう少し隣に座ってもかまわないのだけれど…)

花帆「…今日は一日付き合ってくださり…ありがとうございました!」

花帆「私の人生の中で……一番幸せな時間でした!」

梢「……花帆さん」

花帆「はい?」



梢「どうしてそんな顔をしているの…?」

花帆「……えっ」

花帆「あ、あれ……おかしいなぁ…」

花帆「うまく笑えていたと思ったのに…」

梢「…」

花帆「あはは…やっぱり梢ちゃんはエスパーですね…?」

花帆「私のこと……なんでもお見通しだ…」

梢「…ねえ、花帆さん?」

梢「花帆さんとは今日が初対面で…まだ深い関係を築けていないのだけれど…」

梢「もし、私でよければ…あなたの悩みを聴かせてほしい」

花帆「……いや、でも……こんな話…」

梢「無理にとは言わないけれど…私は少しでも花帆さんの支えになりたいの」

花帆「あの、どうしてそこまで言ってくれるんですか…?」

梢「…あなたが好きだからよ」

花帆「そっか……って、ええぇっっっ!!?」

梢「!?ち、違うの…!花帆さんの人間性が好きってことよ…!?」

花帆「そ、そうですよね…びっくりしたぁ……」

花帆「……」

花帆「じゃあ……ちょっとだけ甘えさせてください」

梢「…ええ」

花帆「……その、今日は本当に楽しかったんです…憧れの梢ちゃんに会えて…いっしょに金沢デートできて…この感情は本物です…」

花帆「ただ……楽しかったあとに…ふと我に返っちゃって……なんで私…笑えてるんだろう…って」

花帆「いつもはこんなに笑ってたかな……こんなに楽しめてたっけ…」

花帆「私はどこで選択肢を間違えたんだろう…って」

梢「選択肢…」

花帆「私…ずっと長野の田舎で暮らしてて…だから都会には強い憧れがあったんです」

花帆「東京に行ったら…こんな私でも花咲けるかもって…そう本気で信じていたんです」

梢「でも…違った?」

花帆「はい…」

花帆「お上りさんな私は…街についていけず…同級生に気後れして……気づいたらひとりぼっちでした」

花帆「都会で花咲くどころか…劣等感ばかり刺激されて……」

花帆「大好きだったスクールアイドルの動画も…いつからか観るのもつらくなって……」

花帆「……学校…やめたいなぁ……って…」

梢「……そうだったのね」

梢(そんな気がしていたわ…花帆さんはそれらの話を意図的に避けていたから)

梢(そうよね…?都会暮らしが充実しているなら自然と話題に挙がるわよね…)

花帆「雑草の私が都会で輝くなんて…どだい無理な話だったんです…」

花帆「この名前も…嫌いです……太陽の下の花だなんて…私は軒下の雑草なのに……だれにも名乗りたくないくらい大嫌い…」

花帆「あぅ、すみません…こんなジメジメした気持ちを大好きな梢ちゃんにぶつけちゃって…」

梢「……」

梢「あなたの名前を初めて聞いたとき…こう思ったわ」

梢「なんて素敵な名前なのかしら…!ってね」

花帆「!」

梢「花帆…日野下花帆……親御さんがあなたを大事に想っているのがよく伝わってくる…かわいくてきれいなお名前」

梢「…この名は、あなたにこそ相応しいわ」

花帆「そんな…私なんか……」

梢「花帆さんが思わなくても私が思い続けるわ」

花帆「っ…」

花帆「……あの、梢ちゃん…ずっと疑問が晴れなかったんですけど……どうして私の苗字を…?」

梢「んー…そうねぇ…」



梢「……実は私、別世界から来たの」

花帆「別世界…?」

梢「その世界ではね?花帆さんは蓮ノ空に入学しているの」

花帆「えっ!私が…?」

梢「私のライブを観て感銘を受けた花帆さんは…なんとスクールアイドルになる道を選んだわ」

花帆「ええっ!?」

梢「ユニットはもちろんスリーズブーケ…!私とふたりで練習にライブに大忙しの日々よ!」

花帆「そ、そんな世界が……!」



花帆「……あったらよかったんですけどね…あはは」

花帆「こんな私にスクールアイドルなんて…無理ですから……気を遣わせてしまいすみません…」

花帆「でも、もしそんな夢物語があったら…今みたいにお話できる関係だったらいいなあって…不遜ながら憧れちゃいます…」

花帆「……なんて、絶対あり得ないですけど」

梢「花帆さん…」

梢(例えば、この花帆さんを蓮ノ空に編入させ…スクールアイドルクラブに迎え入れたとしたら…)

梢(さやかさんや瑠璃乃さんともすぐに打ち解け…綴理や慈にかわいがられ……満開の笑顔を取り戻せるかもしれない)

梢(でも、それじゃダメよね…?)

梢(たとえ環境のせいだとしても…それを言い訳にしたら逃げる口実を探すだけの人生になってしまう…)

梢「この世界の花帆さんには…自分の選択を信じてほしい…」ブツブツ

梢「今ある環境で花咲いて…そして、もっと自分の名前に誇りを持ってほしい…!」

花帆「え…?えっと…」

梢「花帆さん!ちょっとだけ待ってて頂戴…!すぐに戻るわ!!」

花帆「うわ、梢ちゃん…!?」


「……はい…ステージの使用許可を…」

「突然のことで申し訳ありません……ですが、なにとぞ…」

「…え、本当ですか!?ありがとうございます…!」


梢「ぜえ…ぜえ……」

花帆「こ、梢ちゃん…?」

梢「花帆さん……明日もまだ…金沢にいるのかしら…」

花帆「は、はい…いますけど…」

梢「そう!よかった…!確認するのを忘れていたから…」

花帆「あの……」

梢「…花帆さん」

梢「明日……イオン前の特設広場でライブを行うことになったわ…!だから…ぜひ観に来て頂戴…!」

花帆「へーそうなんですか……」

花帆「…えっ?ら、ライブぅ!!?」

梢「蓮ノ空の6……いや、5人でライブをするわ」

梢「だから…あなたに来てほしいの…!」

花帆「ええ…ちょっと急すぎてびっくりしてます…」

梢「そうそう、予定が変更になる可能性もあるからそのときは連絡するわね」

花帆「…連絡ってどうやって?」

梢「あっ…そうね?お互いの連絡先を交換しておきましょうか」

花帆「っ!?こ、梢ちゃんの連絡先…!」ゴクリ

梢「えーっと、スマホを……ん…んー?」

梢「あれ……おかしいわね…機械さんが動かないわ…」ポチポチ

花帆「バッテリー切れですかね?あ、充電器どうぞ」

梢「ありがとう…!これで機械さんも機嫌を直してくれるはず……」ポチポチ

花帆「……電源つきませんね」

梢(もしかしてカードと同じで…こちらの世界では使えなくなっている…?)

梢「……と、とにかく明日の午後4時…!この場所に来てもらえないかしら…!!」

梢「花帆さんのためだけに…最高のパフォーマンスを披露するわ…!!」

花帆「…はいっ!絶対に観に行きます!」

梢「ふふ、ありがとう」ナデナデ

『蓮ノ空女学院前~…蓮ノ空女学院前~……お荷物、お忘れないようお降りください~…』

梢(結局、元の世界への帰り方はわからずじまいね…)

梢(案外なにもしなくても自然と戻れるものなのかしら…?)

梢(でも、できれば…明日のライブが終わるまでこの世界にいさせて頂戴…)

梢「さて…これからどうしようかしら」

梢「明日のライブ、独断で決めちゃったけれど…クラブのだれにも相談してないのよねぇ…」

梢(…そもそもスマホが使えないから連絡しようにもできなかったのだけれど)

梢「綴理はきっとノリノリで…瑠璃乃さんは驚きつつも食いついてくれそうね」

梢「慈とさやかさんは少し怒るでしょうけど…文句を言いながらも協力してくれるのよね」

梢(急遽決めたライブだもの…時間がないわ…)

梢(ステージの設営…照明に音響の準備…それと曲の振り付けも確認しなくちゃ……大忙しになるわね)

梢(ともあれ、まずはみんなにライブのことを伝えましょう…!話はそこからよ!)

梢(この時間帯ならみんな食堂に集まっているはず…)

梢「……?」キョロキョロ

梢(おかしいわね…?どこにも見当たらないわ…)

梢(もう夕食は食べ終えたのかしら…?だったらお風呂場か…自室を順番に回っていって……)

綴理「ししゃもの名産地~」フラフラ

梢「!」

梢(綴理…!ナイスタイミングよ!)

梢(そうだわ!綴理からみんなに連絡してもらえば部屋を回る手間を省けるわ!)

梢(明日のライブのことも含め…理解を得られるよう説明しないと……)

梢「ねえ綴理…!あの、実は明日……」



綴理「あ、こずちゃん…髪型かわいいね」

梢「!?」

梢「つ、綴理…?なんなの…その呼び方は…」

綴理「んー?ボクはいつも通りに呼んだよ」

梢「いつも…通り…?」

綴理「うん、こずちゃん……あれ?それ以外の呼び方なんてあったっけ?」

綴理「こずきち…こずのすけ…こずがわら……うん、やっぱりこずちゃんがしっくりくる」

梢「そ、そうね…そうだったわ…綴理はいつも私をそう呼んでいたわね…?」

梢(突然のことに面食らってしまったけれど…そこまで驚くことでもなかったわね…ええ、想定内よ)

梢(この世界の梢ちゃんはポニーテールで…蓮ノ空を決勝まで導いたんだもの…周囲との関係性も変わっているはずだわ)


綴理「明日、ライブか……急だね?でもやろっか」

梢「ありがとう…!あ、ついでにライブのことを他のメンバーにも伝えてもらえないかしら…?」

綴理「こずちゃんから言わなくていいの?ボクは鶴じゃないよ」

梢「鶴…?……私のスマホ、訳あって使えない状況なのよ」

綴理「ああ…また壊したんだ……うん、わかった伝えておくよ」ポチポチ

梢「それと、明日は朝6時に部室に集合ね?これも伝えておいて頂戴」

綴理「えっ、無理だ…ボクに早起きを期待しないでくれ」

梢「さやかさんに手伝ってもらってでも起きなさい!…いいわね?」

綴理「なんでさやちゃん…?ああ、うん、わかった……LINE送信!」ポチッ

梢(これでクラブのみんなへの連絡は済んだわね…)

梢(私の恣意によるライブに出演してもらうんだから…みんなには明日ちゃんとお礼を言わないとね)

ガチャ

梢(私の部屋……鍵は元の世界と同じ型みたいで助かったわ)

梢(物の配置やインテリアに差はあれど…この雰囲気は私のものね)

梢(で、梢ちゃん当人は不在……やはり向こうの世界に飛ばされていると考えてよさそうね)

梢(今ごろ、梢ちゃんは私の部屋でくつろいでいるのかしら?…なんだか変な気分ね…お互い様なのだけれど)

梢(教科書…ノート……すごい、私の字とまったく同じ…)

梢(梢ちゃんもここで勉強してたのね…で、少し疲れたらこうやって身体を伸ばして……)ノビー

ガンッ

梢「痛っ…!」

梢(な、なにっ?!机の下に…四角い箱が…)

梢(私の部屋には存在していないものね…)

梢(錠がついている…梢ちゃんの宝物箱なのかしら…?)

梢(鍵さえあれば開けられるけど……他人様のものを物色するのはやめておきましょう…他人といっても同じ梢なのだけれど)

梢「……」

梢(元の世界のみんなは今頃どうしているかしら…)

梢(いなくなった私のことを心配していたり……)

梢(…いえ、私と同じように梢ちゃんが私を演じてくれているはずだわ)

梢(…私の不在を心配されないのも少し寂しいのだけれど……行方不明扱いよりはずっとマシよね)

梢(ライブが終わって花帆さんとお別れしたら…本腰を入れて帰る手立てを探らないとね…!)

梢(さて、明日も早いしそろそろ寝ましょう)

梢「……ん?」

梢(ベッドの真上…天井に貼り紙が……なにかの模様…?)

梢(いや、これは……書き殴られた文字…………)










『優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝努力努力努力努力努力努力努力努力努力優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝優勝』

梢「きゃあああああっっっ!!?!?」

梢「なっ…なんなの……これ…!」

梢(朝起きたら…真っ先に目に飛び込んでくる位置に…)

梢(こんな…呪詛みたいな文字の羅列が…!)

梢「だれかの悪戯…ではないわよね」

梢「これは……私の字…」

梢「……」

梢(こちらの世界の花帆さんと過ごしてみて…両世界の人物に本質的差異はないと思っていた…)

梢(私と梢ちゃんは変わらない存在だと…勝手に思い込んでいた…)

梢(でも…)

梢(も、もしかすると…梢ちゃんは……)

梢「…」ウトウト

梢(結局…ほとんど眠れなかったわ…)

梢(だって…あの貼り紙に見下されながら安眠できるわけないじゃない…!)

梢(部室に来たはいいものの…まだ30分あるわね)

梢(少しだけ仮眠を……)

ガチャ

綴理「おお、こずちゃんは今日も早いねぇ」

梢「お、おはよう……綴理ぃ…!?」

綴理「おはよう、鳩が鳩サブレを食べたような顔であいさつされるのは初めてだ」

梢「あ、あなた…よく早起きできたわね…?」

綴理「さやちゃんに起こしてーって頼んだからね…いつもは6時半に起きるから…ちょっと眠い…」フアァー

梢「あの綴理が……普段から早起きを…!?」

梢「天変地異でも起きない限りありえないわ…!そんな、まさか…!?」

綴理「ボクなんなの」

梢「…ところで、さやかさんは?」

綴理「お弁当鋭意製作中…楽しみだね」

梢「そ、そう…」

綴理「あ、忘れるところだった…」ゴソゴソ

梢「…?」

綴理「はい、これ」

梢「歌詞ノート…綴理が書いたの?」

綴理「うん、今回もけっこう自信作」

梢「ふーむ……流石のセンスね…」ペラペラッ

梢「……」

梢「え?これってDOLLCHESTRA用の楽曲よね…?」

綴理「そうだよ」

梢「それをなぜ私に見せたのかしら…?」

綴理「なぜになぜ…?キミがなにを言っているのかさっぱり理解できない」

梢「だから……どうして別ユニットの私に歌詞を見せたのか…と訊いているの!」

綴理「……?さっきからこずちゃんはなにを言っているんだ」



綴理「キミとボクで…DOLLCHESTRAじゃないか」

梢「……はい?」

梢「……私が?」

綴理「DOLLCHESTRA」

梢「あなたも?」

綴理「DOLLCHESTRA」

梢「ふたりで?」

綴理「DOLLCHESTRA」

梢「どうなっているの…」

梢(花帆さんがいないからユニット構成が変動しているのは当然だけれど…)

梢(私がDOLLCHESTRA…?綴理とユニット…?ミスマッチな気がしてならないわ…)

梢(…いえ、私じゃなく梢ちゃんの話だったわね……彼女は存外クールな女の子なのかもしれないわ)

梢「そ、それじゃあ…さやかさんはどのユニットに?」

綴理「こずちゃん昨日からずっと変…こずちゃんがユニットを決めたのにね」

梢(え…?どうして私がユニット決めに関わっているの…)

綴理「さやちゃんはね…スリーズブーケだよ」

梢「なっ…!?」

梢(さやかさんがあの浮かれポンチな曲を…?まったく想像できないわ…)

綴理「あ、噂をすればおいしそうな香り……さやちゃんだ」

ガチャ
タタタタタッ!!
…ピョン!

さやか「梢さん~~~???」ムギューーー

梢「さ、さやかさん!?」

さやか「髪型変えたんですね?かわいいですぅ~!筋肉つきました?たくましいですぅ~!新しい香水ですか?とろけちゃいそうですぅ~!」スリスリーズ

梢「!!?!?」

さやか「ライブのことは綴理さんから聞きました!同じユニットとしていっしょにがんばりましょうね???」

梢「え、ええ…」

梢(この子……本当にさやかさんなの?!)

梢(ツインテールをかわいらしいリボンで装飾して…犬みたいにじゃれついてくるのだけれど…!!)

梢(裏面世界だと…綴理ではなく梢ちゃんに懐いているのかしら…)

さやか「」パッ

さやか「綴理さん~~~???」ムギューーー

綴理「よしよし、いい子だ」ナデナデ

さやか「くぅ~ん?」スリスリーズ

梢「あっ……」

梢(だれにでも甘えているのね……いえ、別に寂しくなんてないのだけれど…)

梢「……ん?同じユニット…?」

さやか「えっ!?ひどいですよぉ梢さん~!わたしとの関係を消さないでくださいよぉ~~~!!!」



さやか「わたしたち…一生スリーズブーケの誓いをした仲じゃないですかぁ???」アンナコトヤ…コンナコトモ…?

梢「なんてこと…」

さやか「今日も腕によりをかけてお弁当?いっぱい作っちゃいましたぁ~!みなさんで食べましょうね???」

綴理「わーい、ありがとうさやちゃん」

さやか「うへへ!先輩方3人の胃袋はしっかり掴んじゃいますよ?」キュルルン?

梢(一挙手一投足すべてが愛くるしいのだけれど…これならスリーズブーケの曲も歌えそうね…?)

梢(いや…問題はそこじゃないのよ……)

梢「どうして私は…2つのユニットを掛け持ちしているの…!?」

綴理「自問自答?」

梢「そもそも!蓮ノ空のユニットは先輩と後輩で組むのが伝統でしょう?!」

梢「どうして私と綴理が……まさかあなた…留年して…」

綴理「2年の夕霧綴理だよー」

梢「そうよね…?綴理は同級生よね…」

綴理「でもボクはこずちゃんの後輩だよー」

梢「はい…?あなた、なにを言って……」

ガチャ

慈「……あ、みんなおはよ~」

梢「慈…!」

さやか「慈さん~~~???」ムギューーー

慈「うわわ!…お、おはようさやかちゃん!毎回激しいね…」

梢(慈は…特に変化はなさそうね?)

梢(いえ、それより…先に確認すべきことがあるわ…)

梢「……慈!」

慈「えっ!な、なに…?」ビクッ

梢「一応訊いておくのだけれど…私はみらくらパーク!じゃないわよね…?」

慈「…はあ?みらくらは私とるりちゃんのふたりなんだけどー?」

梢「そう…!よかったわ…」

慈「な、なに…?今日の梢なんかおかしい…髪型も変わってるし…」

綴理「昨日からだよ~」

梢(前代未聞のユニット掛け持ち…)

梢(恐らくこちらでも乙宗梢が部長なのよね…いったいなにを考えていたの…?)

梢(梢ちゃんは……スクールアイドルクラブをどうするつもりだったのかしら…?)

慈「……あ、そうそう!あの、ライブの件なんだけど」

梢「ええ、急で申し訳ないのだけれどみんなに協力してほしいの…慈にも、ね」

慈「はいはい、わかりましたー…梢が言うならやるよ」

梢「ありがとう、助かるわ…!」

梢(…残るは瑠璃乃さんだけね)

ガチャ

瑠璃乃「うーっす」

梢(来たわ…!)

瑠璃乃「いやー、こんな朝早くからsummonsとかきついっすわー」

さやか「もーもー瑠璃乃さん!遅刻ですよ」

瑠璃乃「えー?今日は3分前に来たじゃん~」

さやか「1年生は15分前までに着席しておくものですぅ~!」

綴理「まあまあ、るりちゃんも早起きなんだから許してあげて」

さやか「はいぃ~?綴理さんが言うならその通り!3分も15分も変わりませんもんね!」

瑠璃乃「あはは、切り替えはや」

慈「あ……るりちゃん…おはよう」

瑠璃乃「ん、おはー」

慈「あ、うん…」

梢「……」

梢(なにかしら…この気まずい空気感……)

梢(去年決勝に行って…そして花帆さんがいないだけで…ここまで様変わりするものなの…?)

瑠璃乃「…それよりこずエッティ」

梢「こずエッティ!?」

瑠璃乃「ライブやるならもっと早く言ってほしいんですけど~!さすがに前日はきついって!」

梢「そ、そうよね…私の勝手な都合に巻き込んでしまってごめんなさい」

梢「みんなもそうだけれど……無理強いはしないわ…もし参加できないならそれでも……」

瑠璃乃「え、やりますけども?」

梢「えっ」

瑠璃乃「こずエッティの言うことは絶対だしょ?」

瑠璃乃「ほら、スクールアイドルクラブ=こずエッティみたいなとこあるし!」

梢「瑠璃乃さん…?それってどういう……」



「乙宗部長!!おはざあああああっっっす!!!」

梢「!?」

梢「なに…?!扉の前に人だかりが……」

「むっ、認められなかった!もう一度ぉ!!……乙宗部長!!おはざあああああっっっす!!!」

「おはざあああああっっっす!!!」

梢「ちょっと…!だれなのあの人たち!?」

綴理「こずちゃんが認めないと一生挨拶し続けるよ」

梢「認める…?」

「もっと声を出せぇ!!……乙宗部長!!おはざあああああっっっす!!!」

「おはざあああああっっっす!!!」

梢「……は、花丸よ!」

「!!部長が認めてくださった…!よしっ、私たちは自主練だー!!」

「おおーっ!!」

梢「……なんだったのかしら…あの人たち…」

慈「いや、梢…それはちょっとひどくない?」

慈「あの2軍の子たちをかき集めたの…梢なのに」

梢「なっ……スクールアイドルに2軍制!?ど、どうして私は…そんなことを……」

慈「優勝のため…でしょ?」

梢「優勝…」

さやか「はい?今年は絶対優勝!!…ですからね!」

綴理「こずちゃんに従っていればなんだってできるし…ラブライブも優勝だ」

瑠璃乃「頼みましたぜ!こずエッティ!」

梢「……」

梢(部活動が始まってものの数分だけれど…ひとつ、わかったことがあるわ…)

梢(このクラブは……異常よ…!!)

梢(そして、それを指揮しているのは…裏面世界の私……)

梢(梢ちゃん……あなたはいったい何者なの…!?)

梢「……みんな、集まってくれて本当にありがとう」

綴理「こずちゃんが頭を下げた…!」

さやか「つむじもくるくるでかわいいです?」キュピルーン

梢(やりづらい…)

梢「おほん……とにかく、ライブまで時間がないわ」

梢「これから全員で振りを合わせて…お昼までにはセトリを一通り完成させるつもりよ!」

慈「…ところで、なんで突然ライブやるって話になったの?」

梢「花帆さ……いえ、とあるファンの子のためなの」

梢「昨日たまたま出会った子で…いっしょに過ごす中でどうしてもライブを見てもらいたくなって…」

慈「うわ、またファンのこと食い漁ってる!」

梢「違うわ?!私はそんなこと……」

梢(いえ…これは梢ちゃんの問題ね)

梢(梢ちゃんは私とは違って…やましいことをたくさんしていたみたいね…)

梢「ライブの準備を始める前に…念のため訊いておくわね」

梢「2軍…の方たちは普段からステージに上がっているのかしら?」

瑠璃乃「え、なにそのkidding?うけるー」

梢「…?私はまじめに質問したのだけれど」

慈「2軍は私たち1軍の裏方であり…実際は部費増額の頭数でしかない……だからライブには絶対に出さない」

梢「!?部員を金策として利用するなんてひどいわ…!だれがそんなことを……」

慈「梢でしょ!」

梢「ああ、そうよね!?部長の私が言ったのよね!」

慈「はあ…?やっぱ今日の梢…どこか変だよ…」

さやか「変なところもかわいいです?」キュルルン

梢(私のよく知るメンバーがこっちの世界での1軍なのね…)

梢(そして、梢ちゃんはスクールアイドルに憧れを持つ2軍の子たちをいいように利用している…と)

梢(……)

梢(私は、梢ちゃんのことを……許せないかもしれない)

綴理「こずちゃん、曲はなにやるの?」

梢「そうねぇ、絶対に歌いたい曲がひとつ……それ以外は集まってから話し合おうと思っていたの」

梢「みんな、なにかやってみたい曲はあるかしら?」

4人「……」

梢「……」

梢「み、みんな…?どうして反応がないのかしら…」

慈「いや…私たちに訊かれても…ねえ?」

綴理「ボクたちは鶴じゃないよ」

梢「鶴…?昨日から気になっていたけどなんなのよそれは」

綴理「このクラブでは、こずちゃんの言が絶対…」

綴理「いつもこずちゃんがすべてを決め…ボクたちを導いてくれる」

さやか「梢さんの言うことは常に正解ですから!梢さんに従っていれば確実にラブライブ優勝できちゃいます!!」

瑠璃乃「そそ!だからるりたちが考える必要nothing!」

梢「これは…」

梢(みんな…自分の意思がないわ……まるで機械さんとお話している気分よ…)

梢(なにからなにまで部長任せ…だれも意見を主張しないなんて…)

梢(梢ちゃんにカリスマ性があるとも解釈できるけど……こと部活動においては致命的な欠陥としか思えないわ)

梢(これで本当に…ラブライブ優勝なんてできるのかしら…?)

梢「…とりあえずセトリ案をいくつか書き出してみたわ…この中から選びましょう」

綴理「おおー」パチパチ

梢「構成はユニット曲をそれぞれ1曲ずつ…全体曲を1曲で……」

瑠璃乃「…え、なにこれ?」

さやか「あの、知らない曲しかないです…」

梢「!?」

慈「何曲かはわかるけど歌ったことないなー」

梢「……待って、それはおかしいわ…」

梢「ここに書き出したのは……蓮ノ空の伝統曲ばかりなのよ?!」

さやか「なるほど、伝統曲なんてあるんですね!初めて知りましたぁ~?」

梢「ど、どういうこと…?」

梢「だって…代々受け継がれてきたこの曲たちを…あなたたちが知らないなんて……」

綴理「またこずちゃんおかしくなっちゃった…記憶喪失?」

慈「去年、伝統曲はすべて捨て…流行に合わせた曲で勝負するって宣言したのは梢だからね」

梢「……!!」

梢(まさか…!)

バンッ!

梢「……ない」

梢「ない…ない、ない、ない……ないっ…!」

梢「蓮ノ空の……先輩方から繋いできた伝統の衣装が…どこにも…」

慈「ねえ、いつまでそのボケ続けるの…?」

さやか「ふざけてる梢さんもきゃわわです?」

梢(スクールアイドルノート…見当たらない……先輩からもらったはずのアクセサリー類も失くなっているわ…)

梢(私の紅茶セットは完備されているのに…かけがえのない物だけがすべて消え去っている……)

綴理「お、調べたら先代のライブ映像が出てきた」

慈「これ見ないとさすがの私も踊れないなー」

梢(まさか…スクールアイドルクラブの伝統が…まるまる失くなっているだなんて……)

梢(…!)

梢(そういえば、梢ちゃんの部屋…!あそこに見たことのない箱が置いてあったわ!!)

梢(部室からは物が消え、梢ちゃんの自室には増えている……これはきっと関連があるはずよ)

梢「少し席を外すわ!みんな、動画を見て振り付けを確認していて頂戴!」

「5人ならこんな感じかな?」「なにこのフリ~うける」

梢(大丈夫かしら…)

ガチャ

梢「ぜえ…ぜえ…」

梢(梢ちゃんの部屋…机の下……)

梢(この謎の箱を開けるには…鍵が必要…)

梢(鍵は恐らく…部屋のどこかにあるはずよ)

梢「机…化粧台…ベッド…冷蔵庫…ゴミ箱……」ガサゴソ

梢「……ない…」

梢(いえ、落ち着くのよ私…!)

梢(梢ちゃんは私なのだから…私を基準に考えればわかるはず…)

梢(私なら、鍵をどこに隠す…?)

梢(人には見せたくない物をしまった箱…それを閉じた鍵……)

梢(そうねぇ……私なら、自分しか見ることのない場所に隠すかしら)

梢「…で、それはどこ!?」

梢(普段から持ち歩いているとは思えないわ…でも、これだけ室内を探して見つからないなんて…)

梢(……私には、梢ちゃんがわからないわ)

梢(はあ、衣装のことは諦めましょう…今は練習が最優先ね)タタタ

梢(ただでさえ時間がないのだから…せめて1曲だけでも仕上げてもらわないと…!)

~♪

梢「……」

梢「嘘、でしょ…」


綴理「あ、こずちゃんおかえり~」

慈「とりあえず歌詞と振り付けフルコピしたけど…これでよかった?」

梢「ちょっと…これって……」

梢「さ、さやかさんと瑠璃乃さんは…今日初めて聴いたのよね…?!」

さやか「はい!でもなんだか物足りないですね~?梢さんが選んだ曲だからライブで盛り上がり間違いなしですけど?」

瑠璃乃「いやー、こんなのちょろいっすわー」

梢(たった数分で…歌詞も振り付けも、フォーメーションまで完璧に再現するなんて…!!)

梢(これが、裏面世界のスクールアイドルクラブ…!)

梢(私の世界より…はるかにレベルが高いわ……)

綴理「どうだった?ボクたちのフォーメーションダンス」

梢「……だ、だめよ」

慈「えっ!なんで!?完全再現できてたじゃん」

梢「…だめだからよ」

慈「意味わかんないんだけど…?」

梢(この子たちを指導しているのは…梢ちゃん…)

梢(確かに優秀なのは事実よ……でも、この子たちの能力の高さを認めたら…梢ちゃんを認めることになってしまうわけで…)

梢(……え?)

梢(私は、梢ちゃんを否定しようとしている…?)

慈「あ、るりちゃん…私のスマホ取ってくれない?」

瑠璃乃「なんで?ちょっと歩けば自分で取れるよね」

慈「あ、うん……そうだよね…ごめん」

綴理「ここのフリは袈裟斬り…こっちは昇龍拳…」

さやか「綴理さんの髪の毛さらさらで気持ちいいですぅ~?はぁ~いいにおい???」

梢(自分の意思は持たず決断はすべて部長任せ…)

梢(部内の関係性はあまり芳しくはないように思える…)

梢(……でも、強い)

梢(このメンバーなら間違いなく…ラブライブ優勝を狙えるわ)

梢「ふぅ…少し休憩にしましょうか」

瑠璃乃「なんか古い曲って逆に新しくね?」

さやか「なに言ってるんですかー?あ、でも楽しいのはわかります!」

梢(伝統を捨てたスクールアイドルクラブ…)

梢(そのおかげで強くなれたのだとしたら…私が今までやってきたことは……)

梢「……ん?この紙、なにかしら」

さやか「それですかぁ?さっき梢さんがいない間に連絡があったんです」

梢「えーっと…」

梢「『本日のライブは予定より30分前倒し』……え?」

梢「ど、どういうことなの…?」

慈「なんか担当者との間ですれ違いがどうたらこうたらで…ライブの時間を前にズラしてほしいって」

梢「そう、あいわかったわ……それはともかく…どうして早く教えてくれなかったの?!」

さやか「えー?訊かれなかったですし…ごめんなさい?」キャピルーン

梢「さやかさんだけじゃないわ…!他のみんなも……」

梢(いえ、この子たちを責めても仕方ないわ…)

梢(悪いのは…部長として部員を厳しくまとめてられていない梢ちゃんなのだから)

梢(そうよ…梢ちゃんは間違っているのよ……)

慈「んー!着いたー!」

綴理「ここが今日のステージだね?」

梢「ええ」

梢(イオン前の広場……昨日ぶりね)

瑠璃乃「こずエッティ、2軍たち連れて来なくてよかったんすかー?裏方は任せればいいのに」

梢「いいの、準備はすべて自分たちでやりましょう」

瑠璃乃「うへー…だるー」

さやか「重労働する梢さんも汗のにおいがして好きですよ?」

梢(みんな覚えがよくて練習に時間を要さなかったわ)

梢(ライブの準備は滞りなく進んでいる…)

梢(…問題は、花帆さんにライブ時間の変更を訂正できていないことよ!)

梢(どうして昨日…連絡先を紙に書いてもらわなかったのかしら…後悔しても仕方ないのだけれど)

梢(花帆さんは4時に開始すると思っているから…恐らくここに来るのは15分前……3時45分ね)

梢(その時間帯に"あの曲"を披露できるよう…細かい調整が必要かもしれないわね)

綴理「ライブ、初披露の曲ばかりで楽しみ…!」ワクワク

梢「ねえ?いつもライブ前に掛け声をしていたかしら…?」

慈「いやー?今まで一回もしたことないけど」

梢「そう…寂しいわね」

さやか「梢さんが1~8を小声で呟いたあと『9!』って大声で叫んでるくらいですかねー?」

梢(なにやってるのよ梢ちゃん…)

梢「…じゃあ、今日だけの特別バージョンをやってみましょう」

瑠璃乃「いや、別にいいっす」

さやか「梢さんの提案を無視するんですかっ!!許せませんっ!!」

瑠璃乃「あーもうわかったって!はい、みんなDo your best!」

綴理「どゅーゆあべす!」

さやか「綴理さんがやるなら…どゅーゆあべす!!」

慈「…掛け声、無理にやんなくてもいいんじゃない?」

梢「…そうね」

コココンコンコンコントーザイ コココンコンコンコントーザイ

梢「…」

梢(3時45分…いよいよね)


「キャー!綴理ちゃーん!」

「さやちゃんかわいー!」

「めぐみー!うおおおおーーー!!」

「ロリロリー!あ、違った!るりるりー!」

梢「みなさん…本日は私たちのライブを観に来てくださりありがとうございます」

慈「ねえ見て!ほぼゲリラライブなのにすごい数のお客さん…!みんなめぐちゃんのために来てくれたんだよねー?」

綴理「大半はイオンのお客さんだと思われる」

慈「ちょっと綴理~!」

アハハハハ

梢「えー、名残惜しいですけども…次が最後の曲に……」

梢(……あれ?)

梢(花帆さんが…いない……!)

慈「…梢?」

梢「だめ、よ…」

梢「これは花帆さんのためのライブなのに…当の花帆さんに観てもらえないなんて……」

さやか「梢さん…大丈夫ですか?」

瑠璃乃「さっきからなんかぶつぶつ言ってるけど」

「えーなに?」「トラブルー?」「部長しっかりしなよ」

綴理「ああ、お客さんが…」

梢(そうよ……そもそも15分前には来るという前提から間違っていたのよ…)

梢(4時までには必ず来てくれるはず…でも撤収の時間も踏まえると10分前には切り上げなくちゃいけないわ…)

梢(……)

慈「梢…?」

綴理「こずちゃん…?」

梢「……本日4時からはこのステージで…お笑いショーを開催するそうです」

梢「なので、撤収に10分はかかることを考慮したら…次が最後の曲になります……」

「どうした部長?」「トークはいいから早く曲やってよー」

梢「だけど…」

梢「みんな……4時ギリギリまで歌うわよ!」

梢「セットは3分で片づける……そうしたらあと10分は使えるわ!」

慈「うっそ…本気でやるの?」

梢「当然よ!」

綴理「でも、もう準備してた曲ないよ…?」

梢(…私が好きなものは梢ちゃんも好き…それなら……)

梢「…みんな!音源はないけどアカペラで踊るわよ!私についてこれるわよね?!」

瑠璃乃「やば!アドリブで曲増やすとか超イカれてんじゃん!」

慈「…うんうん!いつもの梢が戻ってきたー!」

さやか「はい!やりましょう?」

綴理「ボクたちはこずちゃんについていくよ」

梢「……さあ、いくわよ!!」


No トメナーイデー アナタカラーアツクナレー

梢(曲が…終わってしまう…)

「綴理ちゃんー!」

「めぐー!結婚してくれー!」

梢(花帆さん…)

「さやかちゃんー!」

「るりちゃん天使ー!」

梢(花帆さん…どこ…?)

梢(3時53分…)

梢(これ以上は伸ばせない…次が本当のラストね)

梢(このライブを観てもらい…少しでも前を向いて歩けるよう…応援したかったのだけれど…)

梢(結局、私は…)

梢(花帆さんのために、なにもできなかった……)










花帆「梢ちゃ~ん!」

梢「!!」

梢(花帆さん…!)

梢「……それでは次が最後の曲です…聴いてください」

梢「Dream Believers」

イーッショニー ミターインダー

梢(花帆さん…)

キーエナイー ドリームアイビリーブ

梢(これは私たちからあなたへの…応援歌よ…!)



「なにこの曲ー?また新しいやつ?」

「たしか蓮ノ空の伝統曲だったと思うよ」

「…ん?」

「なんか…フォーメーションおかしくない?」

「うん…なんだろう…」

「1人分……不自然にスペースが空いてるというか…」

花帆「……っ!!」

ワアアアアアア…

慈「すご……ほんとに3分で撤収した…!」

梢「ぜえ…ぜえ……さすがに疲れたわ…」

梢「…みんな、ライブお疲れ様!労いの言葉をかけたいのだけれど…私には真っ先に会いたい人がいるの…!」

綴理「……うん、行ってこい」

梢「……ええ!」


梢「花帆さん…!花帆さんー!」

梢「嘘…もう帰っちゃったの…?!」

梢「……」

梢「私の想い……届いた、かしら…」


梢「はあ…」トボトボ

綴理「あ、おかえり~」

梢「ただいま…探したけれど結局彼女には会えなかったわ…」

綴理「そっか…残念だね」

さやか「梢さん?」ヒョコ

梢「…なにかしら」

さやか「さっき、梢さん宛のファンレターもらっちゃいました!今度はちゃんとお渡ししますね~?」

梢「ファンレター…?」

『梢ちゃんへ』

『今日はライブにお誘いしてくださり、ありがとうございました!』

『ライブの感動そのままに、超速筆でこのお手紙を書いております。』

『直接会って感想を伝えたかったですけど…昨日のデートが満足すぎたのでこれ以上は私、死んでしまいます!なのでお手紙で失礼します!』

『Dream Believers…!古い動画で知ってはいたんですけど、まさか梢ちゃんが歌う姿を観られるとは…!』

『初めてスクールアイドルの動画を観た時と同じくらい心が震えました…!梢ちゃんが私に観せたかった理由もわかった気がします…たぶん!』

『こんな私でも、一歩踏み出せる勇気をもらえたような、背中を押してもらえたような…そんな気がしてます!歌の力はすごいですね!』

『それと、ライブ中にちょっと不思議な感覚になりました。不自然に空いたフォーメーションに…なんだか私の影が見えた気がして…。』

『どう考えても気のせいですけど…私がスクールアイドルになって梢ちゃんとユニットを組む…梢ちゃんが話していた夢物語を私も見てみたくなりました!(不遜ですけど夢の中なので許してください)』

『こんなにも楽しい金沢旅行になるとは思っていませんでした!私にとって一生忘れることのない思い出になるはずです!』

『梢ちゃん!大好き!!ずっと推し続けるよ!!!』


『かほより』

『蓮ノ空女学院前~…蓮ノ空女学院前~……お荷物、お忘れないようお降りください~…』

梢「……」

梢(職員室で鍵を借り…部室へ…)

梢「……やっぱりここだったのね」

梢(鍵の隠し場所…)

梢(私しか見ることのない安全な場所といえば…ここしかないわね)



梢(……紅茶の缶、蓋の裏側)

梢(鍵は…ずっと部室に隠してあったのね)

梢(ずっと近くに…)

カチャ

梢(…もし鍵が開かなかったらどうしようかと思ったけれど…開いてくれてよかったわ)

梢「……」

梢(箱の中には……ノートと、手紙が数束)

梢「!このノートは……スクールアイドルノート…!」

梢(部室から持ち出していたのね…)

梢(中身はかなり書き込んでいるわ……どうやら私物化していたみたい)

梢(鍵を掛けてまで隠したかったノート…)

梢(彼女はここに…なにを残したのかしら…?)

ペラッ

『スクールアイドルクラブへの入部から一週間が経った。私も少しずつ、部の活動に慣れてきた頃だと思う。』

『私と慈、そして沙知先輩。』

『この三人が蓮ノ空を代表するスクールアイドルであり、今年のラブライブ決勝でスポットライトを浴びることになる。』

『加入前、部員が一人しかいないと知った時は多少の不安を覚えたが、大丈夫。第一回大会の優勝グループは三人……ちょうど今の私たちと同じ人数なのだから!』

『私はここ蓮ノ空で、スクールアイドルになり、ラブライブ優勝を掴み取る!それだけが私の目標だ。』

『そう語ると、沙知先輩はにこにこと笑って首肯してくれたが、慈には引かれてしまった。どうやら彼女とは目的が違うらしい。でもいずれ理解してくれるはずだ。』

『絶対に、この夢を叶えてみせる。』

『私は優勝しなければならないから。』

『また慈と口論になった。』

『悪いのは練習をサボっていた慈なのに、沙知先輩はどっちつかずの態度で宥めるばかり。』

『もっと厳しく叱ってくれるようお願いしたが、いつものようにへらへら笑って聞き入れてくれなかった。』

『何故練習をサボるのか?何故サボった人間に折檻しないのか?理解できない。』

『この二人は、本当にラブライブを目指す気があるのだろうか?』

『全国のスクールアイドルたちが努力して努力して努力を重ねて、それでも手が届かない究極の高み……それがラブライブ。』

『なのに、蓮ノ空はこの為体……。かつての栄華はとうに消え去り、ぬるま湯に浸かる毎日……今のままでは予選突破も危うい。』

『これからはもっと真面目に練習に励み、スクールアイドルとしての自覚を胸に刻みつけてもらう必要がある。』

『毎日ランニング20kmに筋トレ1時間。加えてダンスや歌の練習を最低でも5時間。』

『これくらいのメニューは軽々とこなせるようになって欲しい。ラブライブに挑戦するなら、これ以上の努力が絶対条件なのだから。』

『このままでは駄目だ。私がこのクラブを変えなくてはならない。』

『総ては優勝のために。』

『伝統なんてくだらない。』

『……私がそう口にすると、初めて沙知先輩の顔から笑顔が消えた。初めて人間らしさが垣間見えた。』

『先輩に悪いとは思わない。これは紛れもない事実だから。』

『伝統に拘り続けた結果が今のスクールアイドルクラブなのだ。古びた衣装に化石のような曲たち。たった一人になってまで守る価値があるとは到底思えなかった。』

『このままでは時代錯誤のタイムトラベラーと世間から嘲笑を浴びるのは必至。総てを捨て去らなければスクールアイドルクラブに未来はないだろう。』

『隣で聞いていた慈。いつもの調子はどこへやら、狼狽えまごつき怯えている。』

『沙知先輩は口を硬く結び、低い視線をさらに落としていた。』

『……私は心の何処かで、先輩からの反論を期待していた。スクールアイドルに対する熱い自論をぜひ拝聴してみたかった。しかし何も返ってこなかった。』

『そう、事勿れ主義の沙知先輩は本音を語らない人だった。私たちに腹の内を見せたことなど一度もなかった。だからなのか、先輩はクラブのためと謳い、理由も告げず去ってしまった。』

『まあいい、先輩がいなくても大丈夫。むしろ私がクラブを直々に支配できるのなら願ったり叶ったりだ。』

『その件があって以来、慈は私に口応えしつつも従順になった。彼女の過去に何があったかは知らないが、練習を頑張ってくれるようになったのはいいことだ。』

『だが、まだ足りない。やはり人数は少し補填しておきたいのが本音だ。残念ながら私と慈だけでは満足のいくパフォーマンスができない。』

『せめて、あと一人……センターで輝く逸材を見つけたい。そうすれば蓮ノ空がラブライブ優勝する未来も見えてくるはず……。』

『優勝のためなら犠牲も厭わない。それだけの覚悟はできている。』

『一年生だけになったスクールアイドルクラブは、そのフットワークの軽さを活かし種々の学校と合同ライブを行なった。』

『その中で見つけた一等星──それが彼女だった。』

『夕霧綴理はスクールアイドルではなかったが、余興として披露したその圧巻のパフォーマンスは見る者を釘付けにした。』

『欲しい、と思った。』

『彼女がスクールアイドルクラブに入ってくれれば、ラブライブへ一歩前進……いや、百歩は進められる!そう確信させてくれた。』

『慈に頼んで夕霧綴理に関する夥しい数の情報を集めた。そして彼女の心象を読み解き、彼女を口説いた。』

『綴理は幼少期から、その類稀なるダンスの才能を見出され、天才と呼ばれ育ってきた。高校も推薦で決まったらしい。』

『だが天才であるが故に孤独だった。そこにつけ込めれば彼女の心を動かせると思い、「仲間」という単語を餌にしてみたところ案外あっさりと食いついた。』

『見事、引き抜きに成功した。夕霧綴理は蓮ノ空へと転入してくれたのだ。』

『私は確実に優勝へと近づいている。』

『綴理が加わり、スクールアイドルクラブは再び三人になった。』

『絶対的エースの元、練習量を増やし、着実に強くなっていることを実感する日々だ。』

『部内の空気も少しだけ良くなった気がする。……主に綴理が掻き回すからなのだが。』

『綴理は少し不思議な子だった。表現が独特というか、思考そのものが常人離れしている。』

『例えば、私たちのことを「先輩」と呼んでくる。彼女曰く「ボクは編入したから」……とのこと。』

『綴理と同級生であることには変わらないので、先輩呼びを辞めるよう"先輩禁止令"を発令した。』

『来年から施行するつもりだったが、早い分には問題ない。これが憧れの先輩禁止……!後頭部のポニーテールも上機嫌だ。』

『それと、綴理は他者との交流に飢えているようで、軽く応対するだけで満足気な表情を浮かべる。』

『なるほど。彼女の心を満たしていればうまく飼い慣らせるかもしれない。この時代の寵児だけは何があっても手放さない。』

『蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブは伝統という足枷を外し、最強のセンターを抱え、非の打ち所がない盤石のグループに成長した。』

『優勝はもう目の前だ。』

『どうしてなのか未だに解らない。』

『慈も綴理も、いつも以上に最高のパフォーマンスを披露できたはずだ。』

『これは決して贔屓目などではなく、蓮ノ空が最強だった。』

『それでも負けた。ラブライブ決勝、その栄光の舞台で優勝を逃した。』

『判らない。解らない。私たちには何が足りない……?』

『圧倒的表現力を誇る綴理。ファンサービスや広報に特化した慈。二人は本当によくやってくれた。』

『足りないのは、私だ。』

『私のせいで負けた。』

『まただ。逃げても逃げてもこうなってしまう。』

『私が至らなかった。不甲斐なかった。』

『優勝しなければならないのに。私のせいで優勝できなかった。』



『私にできることはなんだろう?』

『来年度、強い新入生を勧誘してメンバー補強をする。……いや、今からでもいい。部員集めが優先だ。』

『そうだ、プロのスポーツチームのように二軍を作ろう。とにかく部員を集めて部費を増やし、衣装も曲もセットも絢爛豪華そのものにする!』

『このクラブを変える。私にできるのはそれしかない。』

『来年こそ……絶対にラブライブで優勝する!』

『優勝だけが、乙宗梢の存在価値なのだから。』

『新入生の中に即戦力になり得る逸材を見つけた。』

『一年の村野さやかさん。慈情報によれば、彼女は元フィギュアスケート選手だったようだ。』

『高い身体能力に、かわいらしいルックス。一軍入りを確約した勧誘でなんとかスクールアイドルクラブに引き込むことができた。』

『加入後に話を聞いたところ、さやかさんには姉がいて、そちらもフィギュアで活躍しているそう。』

『トッププレイヤーの姉。そんな雲の上の存在と比較され続けたさやかさん。』

『夢破れ、これまで培ってきたもの総てを擲ち、頑張ることを諦めてしまったとか。』

『……自分と重なる点が多く、私はいつしかこの子の面倒を見たいと思うようになった。』

『ユニットは廃止する方向で進めていたが、さやかさんとユニットを組みたかったので特別に復活させた。』

『私たちはスリーズブーケ。綴理と慈もそれぞれ誰かとユニットを組むのだろうか……?とりあえず暫定として、私が三ユニット全部に入っておこう。』

『慈に身体のことを心配されたが、大丈夫と応えておいた。人より劣っている私は、人一倍頑張らなくてはならないのだから。』

『新メンバーと共に、また優勝への道を走り出そう。』

『慈の推薦で、新たな部員が増えた。』

『一年の大沢瑠璃乃さん。彼女も入部前から一軍入りできるだけの能力を携えていた。』

『カリフォルニア帰りの転入生とのことで、陽気な性格と英語混じりの話術ですぐに部員と打ち解けた。』

『ただ、彼女を見ていると去年の沙知先輩を思い出す。おべっかで上辺だけの人間……そんな印象だ。』

『推薦した慈とは幼馴染らしいのに、距離を取って壁を作って不干渉。慈が時折、人間関係に怯えを見せるのは、どうやら瑠璃乃さんとのトラウマが関係しているらしい。』

『部長として、部員同士の軋轢を取り除くことはできるかもしれない。しかし、どうでもいい。』

『私の目的は優勝のみ。部員の揉め事は管轄外だ。』

『瑠璃乃さんも、表面上はうまくやってくれている。活動に支障がないなら期待の新人と銘打って活躍してもらおう。』

『ラブライブの予選が迫っている。今年はこの五人で望むことになるだろう。』

『蓮ノ空に死角はない、去年よりも強くなった。今年こそは必ず優勝できると断言できる。』

『漸く、夢見た栄冠を手にすることができる……!』

『優勝!』


『優勝。』



『優勝。』




『優勝。』











『…………。』

『優勝して、私は何を得るのだろうか。』

『優勝した後、私には何が残るのだろうか。』

『私のスクールアイドル活動はずっと、優勝するためだけにあった。』

『それがもうすぐ終わろうとしている。』

『優勝したら、私はスクールアイドルを続けていくのだろうか。』

『…………。』

『私は優勝しなくてはならない。』

『それなのに、優勝したくないと願う私がいる。』

『自家撞着の板挟みが私を押し潰す。』



『私は何故、スクールアイドルになりたかったのだろう。』

『自室の机に向かい、これまでの私を回顧する。脳裏にさまざまな記憶が蘇る。』

『今の私は、思い描いていたスクールアイドル像とは遠く掛け離れてしまった。』

『嗚呼、そうだ。思えば私にはファンがほとんどいなかった。』

『意図的に作らなかった、裏方に徹していた。……そんな言い訳をしてきたが、実際は単に人気がなかったのだ。』

『理由はよく解る。私は応援してくれている方たちに一瞥もしたことがないからだ。』

『ファン対応は慈の担当、というのもまた稚拙な言い訳。私は他者からの評価を恐れていたのかもしれない。』

『グループ、ユニット単位で応援してもらえればそれで充分。そう思っていた。』

『……そんな私に初めてファンレターを送ってくれたのが、一歳下の女子高生だった。』

『かほさん。』

『とてもかわいらしくて、素敵な名前の女の子だ。』

『かほさんは私に、たくさんの初めてをくれた。』

『初めてのファンレター。初めての応援。初めての喜び。(或いは私の人生が無味乾燥すぎるのかもしれない。)』

『彼女はライブの度に手紙を送ってくれている。返信はできないが、かほさんからの手紙は私の宝物だ。』

『上京して都会の学校に通っているそうだが、文面を見た限りでは、あまり学校生活を楽しんでいるようには感じられない。』

『何か人間関係や一人暮らしのことで悩みがあるのだろうか?ラブライブで上京した際には直接会いに行って話を聞いてあげたい。』

『……そう言うと、慈から苦言を呈されてしまった。ファンに手を出すのはよくないとのこと。どうやら勧誘や引き抜きのせいで、他校の生徒が私の悪評を立てているらしい。私は気にしていないが。』

『一方通行のやり取りだったが、かほさんの自筆の文を読んでいるだけで彼女の人柄まで伝わってくるようだ。』

『字を追う毎に、彼女に惹かれていく。頭の中で彼女の姿が鮮明になっていく。』

『いつからか脳内かほさんは息をし始め、生き始めた。愛くるしい笑顔で歌い、かわいらしくその場でくるくると踊っている。』

『彼女を勧誘して、彼女とユニットを組めたら……。そんなことを夢想してしまう。』

『仮定の話なんて意味がないのに、もしもばかり考えてしまう。』

『もし、かほさんが蓮ノ空に来ていたら……。』

『かほさんはスクールアイドルが大好きだから、きっとうちのクラブに入部してくれるはず。』

『もし、かほさんが私とユニットを組みたいと言ってくれたら……。』

『そんなの……私が死んでしまう。』

『彼女を引き抜くことも考えた。でも、すぐに考え直した。』

『……かほさんにだけは、失望されたくなかった。』

『もしも…………もし……。』

『…………。』

『もし……私がお稽古をサボらず……あの時、辛くても逃げ出さず、頑張っていれば…………。』

『私は……もっと自分の選択に自信を持てていたのだろうか。』

『もしも……。』

『……もし、私がスクールアイドルになる決意をしたあの頃……逃げずに、家族と話し合っていれば…………何か変わったのだろうか。』

『優勝することでしか自らの正当性を認められない、今のような悲惨な生き方をしなくて済んだのだろうか。』

『…………。』

『私には、何も解らない。』

『判らない。』

『どこで選択肢を間違えたのかすらも。』

『多くの人を巻き込んで、ここまで登り詰めてきた。』

『ラブライブ優勝は、手を伸ばせば届く距離にある。』

『それなのに、私はまた逃げ出そうとしている。』

『嗚呼……。』





『この世界から消え去りたい。』

梢「……」

梢(私は…この世界のことを水面に映った裏側だと思っていた…)

梢(けれど…本当はどちらも同じ面だったのかもしれないわ)

梢(最初から、表も裏もなかった…)

梢(2人の私……それはどちらも乙宗梢)

梢(梢ちゃんと私は同じ存在…あるのは環境の違いだけ)

梢(私がこちらの世界に生まれていたら…きっと梢ちゃんと同じ道を歩んでいた)

梢(彼女の苦悩は…私には計り知れない……そればかりは梢ちゃんにしかわからないことだから)

梢(……)

梢(梢ちゃんは今、私がいた世界にいるはず…)

梢(6人のスクールアイドルクラブを見て…花帆さんに会って……)

梢(梢ちゃんは…なにを思ったのかしら)

カキカキ…

『花丸よ!』


梢(私にできるのは…これくらい)

梢(私はあなたを認める……梢ちゃんが間違っていないことは…乙宗梢が保証するわ)

梢(あなたはあなたのやり方でスクールアイドルクラブを導き……優勝へと邁進してきた)

梢(クラブのみんなも…あなたに絶大の信頼を置いている)

梢(私は正直…あなたが羨ましいと思った)

梢(納得できないことや許せない点もあるにはあるのだけれど…)

梢(あなたには人を育てる才能がある…他人を見る観察力がある…)

梢(私に足りないものを…あなたは持っている)

梢(……でも、花帆さんの隣に立つ権利を持っている私の勝ちね)フフン


梢(先ほど花帆さんにもらったファンレターも箱の中に入れておきましょう)

梢(……そうそう、この子も)

シロモ『PUIPUI?』

梢「あなたはこちらの世界で購入した物だから…私が持っているべきではないわ」

梢(いつ元の世界に帰れるのかわからないから…)

梢(DXシロモは、梢ちゃんの机の上に置いて……)

グラァ…

梢「!?」

梢(眩暈…が……)

梢「……」

梢「……」

梢(気づくと、机の上に置いたシロモはいなくなっていて…)

梢(梢ちゃんの箱も消え……ベッド上の呪詛も祓われていた…)

梢「スマホ……使える…!」

梢「ということは……」

ゲツカースイモクキンドーニッチ♪

梢(!…花帆さんからのLINEだわ)


『センパイ!今どこですか!?』

『早く部室に来てください!待ってます!』


梢「……」

梢「戻ってきたのね…!」

梢(部室に来たのだけれど…)

ガチャ

梢「え、真っ暗…?」

梢「照明のスイッチを…」ポチッ



パァーン!

梢「!?」

花帆「梢センパイ!」

5人「お誕生日おめでとー!!」

梢「あ、あなたたち…!」

慈「どう、びっくりしたー?みんなでサプライズー!」

瑠璃乃「って、びっくりしすぎて固まっちゃってる!?」

さやか「すみません、騙すようなことをしてしまい…きっと梢先輩は喜んでくれるだろうと思い企画したんです…」

梢「いえ…そうじゃなくて……」

綴理「こず…ポニテ戻しちゃったんだね?かわいかったのに」

花帆「でもやっぱりその髪型が一番似合います!」

梢「ありがとう…いえ、そうじゃなくて……」

梢「今日は10月24日…よね?」

花帆「はいっ!」

梢「私の誕生日は6月15日なのだけれど…」

5人「……」

綴理「……めぐ」

慈「うぇえ!?いや、ほら、みんなも今日が梢の誕生日って認識してたでしょ?」

瑠璃乃「た、確かに…!ルリ思うどころかみんな思ってたよ…!」

さやか「だれかの誕生日と勘違いしていたのかもしれませんね…」

花帆「ど、どうしよ~!せっかく誕生日プレゼント用意したのにー!」

梢「プレゼント…?」

花帆「はい…この子なんですけど……あ、ラッピング剥がしちゃって大丈夫です」

ベリベリベリ

シロモ『PUIPUI』

梢「まあ!」

花帆「昨日この"DXシロモ"を買いに行ったんですけど…なんと一体しか残ってなかったんですよ!まさに奇跡でした!」

花帆「もしバスを一本乗り遅れてたら買えなかったかも…!センパイのために買ったので、誕生日じゃないけどもらってください!」

梢「うれしいわ…!」



梢「ありがとう、花帆さん♪」ナデナデ

花帆「こっ、梢センパイ!?」

梢「あっ…」ツイクセデ…

花帆「センパイに頭撫でられちゃった…えへへ」

慈「ほらそこー!部室でイチャイチャしないー!」

瑠璃乃「スリーズブーケも仲良いねぇ~」

綴理「さや、撫でて」

さやか「ええ!?感化されたんですか?もう…」ナデナデ

ワイワイ! ギャーギャー!


梢「……」

梢(私の身の回りに起きること…それらはすべて運命なのかもしれないわね…)

梢(花帆さんと出会うのも……あなたと巡り会うのも)

梢「ふふっ…………ただいま」

シロモ『PUIPUI』

終わり

おまけ1
~裏面世界AFTER~

「ねえねえ!昨日アレの配信みたー?」

「マジやばかったよねー」

「あ、帰りにアレ食べてかないー?」

「食べたーい!でも金持ってないわー」

「うわ、これすごくない?みてみて」

「やばー」

花帆「…………」ポチポチ

花帆(ぼっちだと思われたくなくて…とりあえずスマホ触ってるふりしてるけど……)

花帆(…なんか、虚しい)

花帆(梢ちゃんに背中を押してもらったはずなのに…まるで変わってない……)

花帆(なにやってるんだろ私…)

花帆(はあ……金沢旅行、楽しかったなあ…)

花帆(まさか梢ちゃんに会えてお喋りできたなんて…今でも夢なんじゃないかって思っちゃうもん…)

花帆(しかも、1日デートまで…!)

花帆(私、死ぬのかな…?運使い果たしたから今後一生おみくじ大凶かも…!?)

花帆(そういえば…)

花帆(せっかく梢ちゃんと長い時間を過ごせたのに…全然写真撮れなかったなあ…)

花帆(ああああ!もっといっぱい撮っておくべきだったよね!?私ってほんとバカ…)

花帆(…あ、一枚だけ2ショットのやつがあった)

花帆(出会えた興奮と勢いで撮ってもらったんだよね…あの時だけは私の行動力すごかったなあ…)

花帆(梢ちゃん、ポニテのイメージが強かったけど…サイドに結ぶのも全然アリ…むしろ神……)



「ねえねえ!それって梢ちゃんだよね?」

花帆「ぴゃあっ!?」

「あっ、ごめん!急に話しかけたらそりゃびっくりだよね…」

花帆「あ、いえ……大丈夫だから」

「それよりさあ…その写真、よく見せて!」

花帆「え…はい」

「うわぁ~…!すごっ!よく2ショット撮らせてくれたね!?」

「しかも髪型ちがうぅ~!かわいすぎかよ!おい!」

花帆「あ、あの…」スマホカエシテ…

「ねえ!あなたもスクールアイドル好きなの?」

花帆「…はい、一応」

「じゃあさ!私と友達になろうよ!」

花帆「!?」

花帆「と、友達って…私なんかと…?」

「いや~、私はスクールアイドル全般好きなんだけどさー」

「スクールアイドル好き=この学校のグループ推しってことになるからちょいと話しにくかったんだよねー」

花帆「ああ…そうだよね?この学校、スクールアイドルが有名で…」

「じゃあ私たち、友達ってことで!」

花帆「えっ…」マダナニモイッテナイ…

「あ、ねえねえ!まだ訊いてなかったけどさ」

「あなた、名前は?」

花帆(名前…)

花帆(……)

花帆「わ、私は……」



『…この名は、あなたにこそ相応しいわ』

花帆「!」



花帆「…日野下花帆だよ!」

おまけ2
~裏面世界の住人(初期設定)~

梢 スリーズブーケ、DOLLCHESTRA
ポニーテール。部長。先輩禁止。去年のラブライブ決勝まで導いた立役者。
──音楽で結果を出せず逃げ場を求めるように。
──親に反発しスクールアイドルになる道を選んだ。
綴理 DOLLCHESTRA
名前2文字+ちゃん付け。気持ちの表現を意識する。
──幼少期から特異な才能を認められてきた。
──梢の引き抜きで蓮ノ空への編入を選んだ。
慈 みらくらパーク!
自己肯定感が低い。表裏が激しい。人から好かれたいのに人が怖い。他人に必要とされる理想の自分であり続ける。
──瑠璃乃に捨てられたと思い込む。
──自分を認めてもらうために芸能界の道を選んだ。
さやか スリーズブーケ
年上好き。無気力。燻る気持ちを見て見ぬ振りする。意志がなく他人に流されやすい。
──トッププレイヤーの姉と比較されるように。
──フィギュアに伸び悩み、諦めることを選んだ。
瑠璃乃 みらくらパーク!
誰とでも上辺で仲良し。特定の人と親しくなりすぎないよう距離を離すことで自分を守る。
──親に裏切られ人間不信に。
──依存する慈と距離を置くために留学を選んだ。
花帆 合唱部
東京の音楽科に通う。ぼっち。雑草。家族に見栄を張る。
──病弱だった頃にスクールアイドルを知る。
──蓮ノ空ではなく東京への進学を選んだ。

以上です

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