黒川あかね「私は無敵だと思う?」星野愛久愛海「…………もういいだろう」 (11)

"誰もが信じて崇めてる
まさに最強で無敵のアイドル
弱点なんて見当たらない
一番星を宿している"

YOASOBI - 【アイドル】

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「太陽みたいな笑顔。完璧なパフォーマンス。まるで無敵に思える言動」

星野 愛久愛海(アクアマリン)
端正な顔立ちと冷たい印象を抱かせるその名の通りアクアマリンの瞳を持つ男の子。
言動もクールで尚且つ、感じの良い演技もこなせる器用な役者。それでいて、優しい。

そんな彼はアイドルが好きらしい。
かつて一世を風靡し、ドーム公演間近に命を落とした伝説的なアイドル、アイ。
彼女こそ、星野アクアマリンの推しの子。

「ねえ、アクア」
「ん?」
「私はアイさんみたいに見える?」
「っ!?」

そんな星野アクアマリンと現在、私は付き合っている。もっとも、仕事の延長線上のお付き合いだけど。それでも彼はキョドリつつ。

「……まあ、見えなくもない、かな」

こうしてクールな彼が顔を真っ赤にしていることこそが自分の演技力を裏付ける証拠であり、ドキドキしてるアクアには申し訳ないけれど安心する。

「私の笑顔は太陽みたい?」
「……ああ」
「私のパフォーマンスは完璧?」
「……ああ」
「私は無敵だと思う?」
「…………もういいだろう」

よくない。この演技は結構疲れるんだから。

「これでも私、努力してるんだけどな~?」

アイさんになりきって迫ると彼は顔を背け。

「別に、アイになりきる必要なんて……」
「えーだって、こうでもしないとさぁ……」

とびきりの太陽みたいな笑顔で追い詰める。

「アクア、キスしてくれないじゃない?」
「っ!?」

回り込んで覗いた彼の顔は愕然としていた。

「あれ?」
「な、なんだよ……」

その反応に疑問を抱いて素に戻って訊ねる。

「アクア、アイさんが好きなんでしょ?」
「なんだよ、改まって……」
「それなのにキスしたいって思わないの?」

するとアクアは目を泳がせながら説明する。

「いや、推しとキスしたいは別だから……」

推しの子は恋愛対象じゃない。そうなんだ。

「あっ! じゃあじゃあ!」
「またアイみたいな顔して……なんだよ?」
「アイさんから産まれたい、とか?」
「ぶっ!?」

拙いドルヲタ知識からもっとも過激な願望をアイの演技をしながら口にするとアクアは見たことないくらいに取り乱して咳き込んだ。

「ごっふぉっ! げっふん! な、何だよそれ」
「あはは~! 図星だ~アクアキモーい!」
「勘弁してくれよ……」

キスしてくれなかった罰を与えて溜飲を下げる私に彼は辟易として肩を落とす。アクアの男の子だから特殊な趣味のひとつやふたつくらいあるのが普通で私は気にしない。でも。

「ねえ、アクア……それだけ推しのアイドルの真似をされて不快じゃない、かな……?」
「……は?」
「だって、アイさんはもう……」

伝説的なアイドル、アイはもう居ない。
熱狂的なファンに刺されてこの世を去った。
どれだけ会いたくても、もう会えない。

そんな存在を真似するのは不謹慎だろうか。

「アクアが嫌がるなら私は……」
「そんなことはないよ」
「でも……」
「あかねのトレースは完璧だ。それだけの完成度で真似るのは相当な努力をした筈だ。だから……別に不快な気持ちにはならないよ」

それは優しさだろうか。未練なのだろうか。

「これでもずっと役者の勉強してたからね」

テレビの中で、スクリーンで、YouTubeで。
尊敬する役者の見る人を惹きつける魅力的な仕草はどこでも盗める。演技の勉強の一環。

「アクアだって、もしも女の子に生まれてたら、きっとアイさんを目指してたんじゃないかな?」
「いや、俺には無理だよ……」
「そうかな?」
「ああ……『俺には』な」

そう断言するアクアには未練を感じない。
もしかしたら新しい推しの子が居るのかも。
とはいえ、最推しなのはアイさんらしく。

「ごめん。ちょっとお手洗いに……」
「ダメだ」

アクアは私がお手洗いに行くのを拒んだ。

「アクア……漏れそうなんだけど」
「アイドルは漏れそうにはならない」
「はあ……これだからドルヲタは」
「なんか言ったか?」

アイドルはトイレに行かないと信じている。

「じゃあ、どうすればいいの?」
「アイの真似をやめろ」
「やめなかったら?」
「トイレにはいかせない」

ふとこのままだとどうなるのか気になった。

「……あかね」
「……なによ」
「もう限界なんじゃないのか?」
「うう~~~~うるさい!」

あれから数十分。私は粘った。もう限界だ。

「今日こそはアクアに認めさせるの!」

アイドルだってトイレに行くという事実を。

「俺は絶対認めないからな」
「いーえ! 認めざるを得ないんだから!」
「やれるもんならやってみろ」

アクアは私を舐めている。思い知らせよう。

「あっ……ふぁっ」
「へ?」

ポタポタと雫が滴り、アクアは愕然として。

「そ、そんな……馬鹿な……アイドルが、お、おお、おしっこなんてする筈が……!?」
「ふふふ……現実を見なさい、アクア」
「現、実……? こんな、こんな現実なんて」

実はペットボトルの水を溢しただけだけど。
私の迫真の演技ですっかり騙されたアクアはまるでこの世の終わりのような顔をして。

「こ、こんな現実! 俺は認めない!!」
「え? ちょっ!? アクア!?」
「ふんっ!」

ぶりゅっ!!

「きゃあっ!?」
「フハッ!」

ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅぅ~っ!

「きゃあああああああああああっ!?!!」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

私の推しの子は、現実を拒否して脱糞した。

「まったく……」
「申し訳なかった……」

事が終わり彼はすっかり意気消沈している。

「発狂して脱糞するドルヲタなんて……」
「くっ……俺としたことがマナー違反を……」

たしかにマナー違反だけど、まあそれでも。

「でもそのくらい『推し』ってことよね?」
「へ?」
「漏らすくらい好きなんでしょ?」
「ああ……愛してる」

1番欲しかった言葉を貰ったから、赦そう。

「それにしても、さすがだな」
「え? なにが?」
「あんなことがあっても漏らさないとは」

心底感心した様子のファンに太陽の笑顔で。

「ふふっ! 最強で無敵のアイドルだもん!」

いつまでも彼の『推しの子』でいたいから。


【推しのう○こ】


FIN

推しの子、アニメ盛り上がってますね!
あかねが覚醒して目が離せないです!
興味ある方は是非、ご覧になってください!

それでは、またの機会に!

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