「本日付けで禍特隊に配属されることになった式波・アスカ・ラングレーよ」
「第3新東京市の独立愚連隊にようこそ」
禍威獣特設対策室の班長である葛城ミサトがおどけた口調で歓迎するとアスカは顔を顰めて胡散臭くそうに他のメンバーを見渡した。
「それで、あたしのバディはどいつ?」
「ぼ、僕だけど……」
「ふうん。じゃ、アンタは今日から奴隷ね」
「や、やだよ!」
「うるさい! 黙って言うこと聞きなさい!」
おずおずと手を挙げたひ弱な青年に詰め寄ると、アスカは頭の先からつま先まで検分した後に奴隷認定した。憤慨する彼に訊ねる。
「アンタ、名前は?」
「シンジだよ……碇シンジ」
「碇? それじゃあ、アンタが……」
「そう。彼が碇室長のひとり息子」
ミサトがそう告げるとアスカは顔を歪めて。
「親の七光りってわけね」
「僕だって好きでやってるわけじゃ……」
「はあ!? 人型決戦兵器に乗って禍威獣と戦えることを誇りに思えないなんて、恥を知りなさい!」
現在、人類は絶滅の危機に瀕している。
禍威獣と呼ばれる生物が次々と外宇宙から襲来し町を壊し暮らしを踏み躙る。地獄絵図。
「このあたしが配属されたからにはもう使徒の好きにはさせないわ!」
「使徒じゃなくて禍威獣だよ」
「チッ! 細かい奴ね! さっさと人型決戦兵器のところまで案内しなさいよ!」
そんな脅威に対抗するべく禍威獣特設対策室は設立され、日夜禍威獣の脅威に目を光らせ人々の安全と平和な日常生活を守っていた。
人型決戦兵器、エヴァンゲリオンによって。
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「あれが……ウルトラマン」
「エヴァだよ」
赤城リツコ博士に案内されて決戦兵器が安置されているゲージに着くや否やアスカはウルトラマンと口にした。すかさず訂正するも。
「どこに目つけてんのよ! どこからどう見てもウルトラマンでしょうが!」
「そもそもウルトラマンってなにさ」
「ウルトラマンはウルトラマンよ!」
説明になってない。本当にエリートなのだろうか。協調性も無さそうだし。と、シンジが不安になっていると前触れもなくアスカは。
「何ぼさっとしてんのよ七光り。乗るわよ」
「え? ダ、ダメだよ! そんな勝手に!」
「そろそろ使徒が来る気がするのよね」
なんだそれは。混乱するシンジであったが。
「大変です赤城博士! 大気圏に突入する大質量物体を感知! 降着予測地点はここ、第3新東京市です!」
駆け込んできた伊吹マヤが禍威獣襲来を報告。
「噂をすれば、ね。ミサト」
「ええ、備えあれば憂いなし。私の好きな言葉よ」
「初耳だけど」
「というわけでアスカ、シンジくん。エヴァーに乗ってちょっち禍威獣をやっつけてきてくんない?」
「ええっ!? こんなタイミングよく!?」
「だから言ったでしょ! 行くわよ七光り!」
「ま、まだ心の準備が……!」
「いいから来なさい!」
駄々を捏ねるシンジの首根っこを掴んでアスカが引きずっていく様子を尻目に、ミサトは室長に連絡を取り、最終確認をしていた。
「構いませんね、碇室長」
「ああ。夕飯を作って待っている」
子煩悩な父親の発言に緩みそうになる頬を引き締めて、ミサトは「頑張って」と呟いた。
「なによアンタ、震えてんの?」
エントリープラグに乗り込みL.C.L.が充填されていく。複座式のコクピットの前の座席に座り砲手を担当するシンジは震えていた。
「アスカはエヴァに乗るのが怖くないの?」
「はあ? なによ、今更。アンタばかぁ?」
いきなりアスカ呼ばわりされてカチンと来たもののこんなんでも自分のバディなので寛大なアスカは許してやることにした。ふん。感謝しなさいよね。
「大丈夫よ」
「だ、たけど、相手はあの禍威獣だよ!?」
「……アンタは何も心配することはないわ」
遥か空の星がひどく輝いて見えた。真っ赤。
満天の星空の特異点。真っ赤に焼かれた大質量の禍威獣が降ってくる。それはまるでこの世の終わりようで。唇を噛んでこう諭した。
「バカシンジは、このあたしが守るもの」
「アスカ……」
『禍威獣、来ます!』
ようやく芽生えた信頼関係。少なくともシンジはアスカを信じようと思えた。そして次は自分が信頼を勝ち取る番だ。覚悟を決めた。
『目標のATフィールドが変質! 落下予測地点の修正座標を送信します!』
「なによ! 予想よりも速いじゃない!?」
「とにかく急ごう!」
「わかってる! 舌噛むんじゃないわよ!」
音速を超えて疾走する、エヴァンゲリオン。
長く短い旅をゆく。恐怖に身を竦めながら。
震える指先に力を込め。アスカに導かれて。
「ドンピシャ!」
「アスカ! 受け止めて!」
「あたしに命令しないで!」
滑り込みセーフで落下地点に到着。
命令なんて必要ない。当然じゃないの。
秩序を乱す者と戦うこと。それが使命だ。
頭上に迫り来る禍威獣に向けて決戦兵器が両手を掲げる。長くは持たない。一瞬の攻防。
ズ ズ ン ッ ! !
「うぐっ!? 痛~~~っ!!」
「アスカ! 大丈夫!?」
「いいからさっさと撃ちなさい!!」
両腕の内部構造が破断して堪らず悲鳴をあげるアスカ。早く撃たないと。しかしなかなか狙いが定まらない。焦る。逃げたい。でも。
「逃げちゃダメだ……逃げちゃダメだ……!」
「くぅ……シンジ……早く……!」
「逃げちゃダメだ……!!」
気が遠くなりそうな刹那。光線を発射する。
「外した!?」
「バカ! もっとちゃんと狙いなさい!」
禍威獣のコアを掠めて大気をプラズマ化させるスペシウム133の閃光。外してしまった。
やっぱりダメだ。自分には出来ない。でも。
「シンジ! アンタはグズでノロマで無責任な七光りだけど! あたしのバディでしょ!?」
アスカは必死に駄目なシンジを守っている。
「アンタがやらなくて、誰がやるのよ!?」
「ッ!?」
シンジの両眼が、蒼く染まる。M87の輝き。
「アスカ、君が望むなら……僕は!!」
ウルトラマンにでもなんでもなれると思う。
『目標、完全に沈黙!』
『シンジくん、アスカ。お疲れ様』
『よくやったなシンジ。今日はすき焼きだ』
次弾命中。状況終了。父さんがウザかった。
「ふん。なによ、やれば出来るじゃないの」
「全部アスカのおかげだよ」
「今日のところは花を持たせてあげる」
なんだ、意外と優しいじゃんと思っているとアスカは恥ずかしそうに、こう耳打ちした。
「気張ったら、ちょっと出ちゃったわ」
「フハッ!」
フハッを持たせたアスカはやれやれと呟く。
「今度からはオムツ必須ね」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
姿見えなくとも、遥か鼻先でぷんと香った。
高笑いするシンジの顔の横に差し出される手のひらに触れて、遅ればせながら握手する。
恐る恐る握ると強く握り返し応えてくれた。
【脱糞の瞬間、手のひら、重ねて】
FIN
>>1レス目の禍特隊は禍特対の間違いです
確認不足で申し訳ありませんでした
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